第二次聖杯戦争㉑〜不敗のライスメキア
●キリング・フィールド
ある名を持つ猟書家がいた。
その拳は生命である者であれば何者も勝つことは出来ないと言わしめられた。
神々であろうと尽く打ち破る。
その拳は大地を割り、蹴撃は海を割る。投げ放つ一閃は空すら割る。
『|闇の大穴《キリング・フィールド》』は漆黒の闇に『人類の過去から未来の全てが混ざったような街並み』を呈していた。
その中央に座すのは『閻魔王』――もしくは『生と死を分かつもの』。
「……二つの三日月、銀色の雨の時代」
紡がれる言葉は嘗ての戦いを示していただろうか。
「……久しく、久しく忘れていた」
忘却に在りて、その感慨はいかなるものを去来させただろうか。
「……吾人は既に『骸の海』なれば、戯れに世界に染み出すもまた必定か」
時は過去に排出される。
過去に歪むのが定めであるというのならば、進む時によって生み出される圧力もまた、あらゆるものを歪めていくだろう。
故に。
「『アズマ』よ、その名は未だ『不敗』を象るか」
告げる言葉と共に閻魔王『生と死を分かつもの』の懐から一体のオブリビオンが現れる。
目元を覆う眼帯。
傷だらけの体躯。
空手家を思わせる着衣。
だが、それらのどれもが些細なことであることを相対する者は知るだろう。考えうる限り、徒手空拳で神々を屠ることのできる存在は、その名を持つ者しかいなかった。
練り上げられている。
磨き上げられている。
おおよそ人間というものの可能性、それらを圧縮したかのような肉体の極地。
しかし、かつて猟書家『アズマ』と呼ばれていたオブリビオンは閻魔王『生と死をわかつもの』の問いかけに答えることはなかった。
『不死の怪物』すら殺しうる可能性を持った拳。
その拳が握り締められる音が響く。
「……――戦うことが怖くはないのか」
嘗て問いかけられた言葉であった。『アズマ』の名を持つ者は、そう問いかけた。
「吾人はあらゆる時に顕現しうる、世界の宿敵がひとり。それは即ち」
「あんたにとってそれは戦いの連続であり、また同時に戦いという言葉で語られるものですらないということか」
「かつて吾人の眼前には『生の世界』が、背後には『死の世界』が広がっていた。いまや吾人の前では万物が渾然となり、時すらも未来に流れるとは限らない」
『アズマ』よ、と告げる言葉は短く。
しかし、『アズマ』と呼ばれた猟書家は眼帯で覆われた奥にある両目……いや、眼球なき眼窩にユーベルコードの輝きを持って満たす。
「……」
彼が振り返った先にあったのは、転移してきた猟兵達の姿。
嘗てそうであったように。
流麗にして精緻たる構えを取る。
殺気すらなく。されど、幻視するだろう。気を抜いた瞬間に己は拳によって貫かれているであろうという明確な未来を。
此処よりは死地。
そして、いつかのように『アズマ』は告げるのだ。
「……――殺す。おまえたちは殺す。此処で殺す。一切合切、殺す」
●第二次聖杯戦争
グリモアベースに集まってきた猟兵たちを迎えたのはナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)であった。
「お集まり頂きありがとうございます。シルバーレイン世界、かつて金沢大学の工学部が存在していたという小立野は、今や恐るべき『闇の大穴』へと姿を変えています。その中心に座すのは謎めいたオブリビオン『生と死を分かつもの』……」
彼女の瞳が爛々と輝いていた。
語る言葉の端々にあるのは恐れであったのかもしれない。
震える唇が語るのは、それだけ謎のオブリビオン『生と死を分かつもの』が強大な存在であることを示していた。
「閻魔王とも呼ばれる『生と死を分かつもの』は、このキリング・フィールドに入った者だけを自動的に攻撃し、此処を制圧するまで倒しても……トドメを刺せるかどうかすら不明です。そして、『生と死を分かつもの』が消えても、街並みは元に戻らぬのです」
今や小立野は、『人類の過去から未来の全てが混ざったような街並み』をしている。それが何故戻らないのかは不明である。
さらに言えば、彼女が怯えるように唇を震わせているのは、殊更に強大なオブリビオンである『生と死を分かつもの』だけではなく、かつて『アズマ』と呼ばれたオブリビオンを召喚し、二体同時に猟兵たちに襲いかかってくるという予知が原因だった。
「『生と死を分かつもの』も召喚されたオブリビオン『アズマ』もユーベルコードの先制攻撃を放ってきます」
『アズマ』は、その五体そのものをユーベルコードにまで昇華させた存在である。
その拳は命中した箇所を破壊し、体勢を崩されてはより致命的な箇所を穿つ。
その蹴撃は神速の速度を持ち、あらゆるものを裁ち切る。
その投げは後の先であり、先の先を征くものである。
「この二体のオブリビオンを同時に相手取らねばならぬことは、間違いなく脅威でしょう。ですが……」
やらねばならないことに変わりはない。
ナイアルテの瞳は爛々と輝き続けている。だが、どうしようもない不安に揺れ続けている。
危険なのはいつもと変わらないことだ。
誰もが傷つかないという選択肢はない。
あるのは、確実な命懸けの戦いという事実のみ。
神々の雷鳴、魔法の如き拳、世界を分かつ一撃、罪過を穿つ、知られざる証、善悪は知らしめる、均衡あれば消えゆく、その名は――いずれも過去に語られる『アズマ』。
しかし、ナイアルテは知っている。
過去に『不敗』を象るのだとしても、続く未来に残るものではないのだと。
その象られる名は常に刹那の中にある。那由多に続くものではないからこそ、人はあらゆる可能性を乗り越えていくことができる。
「……不変たるものなどないように。皆さんならば、これらを越えて征くことができると私は信じています」
その言葉とともにナイアルテは猟兵たちを送り出すのであった――。
海鶴
マスターの海鶴です。
※これは1章構成の『第二次聖杯戦争』の戦争シナリオとなります。
シルバーレイン世界、金沢大学工学部が存在した小立野に突如として現れた『|闇の大穴《キリング・フィールド》』。
その中央に座す謎のオブリビオン閻魔王『生と死を分かつもの』と、その懐から取り出されたオブリビオン、猟書家『アズマ』という二体の強力な敵を同時に相手取るシナリオになります。
どちらのオブリビオンも『ユーベルコードの先制攻撃を放ってきます』!
猟書家『アズマ』に関しましては、シナリオ『それは不敗を象る名』を参考にしてください。(https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=29643)
タグ『神月円明』にも紐付けされています。
●使用ユーベルコード
POW:決別拳……【拳】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD:瞬断脚……【神速の蹴り】が命中した対象を切断する。
WIZ:捨身投……【自身に近接攻撃】を向けた対象に、【投げ技によるカウンター】でダメージを与える。命中率が高い。
プレイングボーナス………閻魔王と召喚オブリビオンの「先制ユーベルコード」に、両方とも対処する。
それでは『第二次聖杯戦争』、閻魔王『生と死を分かつもの』と召喚された『アズマ』に立ち向かう皆さんの死と隣り合わせの青春の続き、その物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
第1章 ボス戦
『生と死を分かつもの』
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POW : テンタクル・ボーダー
戦場全体に【無数の触手】を発生させる。レベル分後まで、敵は【死の境界たる触手】の攻撃を、味方は【生の境界たる触手】の回復を受け続ける。
SPD : キリングホール
レベルm半径内に【『死』の渦】を放ち、命中した敵から【生命力】を奪う。範囲内が暗闇なら威力3倍。
WIZ : 閻魔浄玻璃鏡
対象への質問と共に、【無数の触手の中】から【浄玻璃鏡】を召喚する。満足な答えを得るまで、浄玻璃鏡は対象を【裁きの光】で攻撃する。
イラスト:佐渡芽せつこ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
天御鏡・百々
これはなんとも悍ましきオブリビオンか
斯様な者をこの世に存在させてはならぬ
疾く骸の海へと送り還さねば
浄玻璃鏡――同じ鏡なれどあちらの方が神格は上であろうか
しかし伝承通りなればその本質は生前の行動を映すこと
単なる攻撃であれば我(本体の神鏡)での反射も不可能ではないはずだ
アズマも脅威なれど
近接の反撃狙いならば、こちらから近接攻撃を仕掛けねばひとまずは大丈夫か?
もし攻撃を受けたならば神通力の障壁(オーラ防御)で凌ぐとしよう
初手を受けきったら『天神の威光』を発動だ
我が神の力を借り、閻魔王を討伐するぞ
天之浄魔弓から、破魔の力を乗せた光の矢で射抜いてくれる!!
蠢く闇のような姿。
その悍ましき姿に天御鏡・百々(その身に映すは真実と未来・f01640)は思わず口元を覆う。
閻魔王『生と死を分かつもの』の姿は、見る者にとって忌避感を抱かせるものであったことだろう。その威容から発せられるのはユーベルコードの輝き。
触手がすだれのように蠢き、その内部より現れるのは一つの鏡。
閻魔浄玻璃鏡――それは善悪の見極めに使う鏡であり、また放たれる光は百々へと襲いかかる。
「浄玻璃鏡――!」
百々は鏡のヤドリガミである。
善悪を見極めるという光の煌きの中にありて、百々は己の破魔の神鏡として、己の存在を確固たるものにする。
「善悪の彼岸にありて、何を思う器物。人の姿を模し、人の営みに溶け込み、さりとて、その姿と器に満ちる生命でもって何をなさんとする」
『生と死を分かつもの』の言葉が響き渡る。
ヤドリガミである己を認識している。
放たれる光線の中を百々は飛ぶように躱しながら、光を己が本体の神鏡でもって反射する。光は、百々の躰を、人としての身体を灼くであろう。
痛みが走る。
「同じ鏡なれどあちらの方が神格は上か……だが、しかし」
光線は単なる攻撃だ。
ユーベルコードであるが、百々は光であれば反射が可能である。しかし、それをさせぬとばかりに光の中を神速の踏み込みでもって『アズマ』が飛び込んでくる。
まるで弾丸そのものであった。
「……」
言葉はない。
されど、その手が百々に伸びている。掴みかかろうとしているのだろう。それを翻りながら、神通力の障壁で凌ぐように己の身体を覆う。
「――……! これを砕くか!」
苦もなく、というように神通力の障壁さえ、『アズマ』の拳は叩き割りながら百々に迫る。
神鏡としての身より放たれる浄玻璃鏡の光を反射した光線が『アズマ』を吹き飛ばす。
初手をしのぎきったと、百々は理解するだろう。
二体のオブリビオン。
そのいずれもが強敵と呼ぶにふさわしい存在。
気を抜いては、即座に己がやられると理解できる。それほどまでに『生と死を分かつもの』の存在は不気味だった。
この街を飲み込む光景。
人の歴史。その過去から未来に至る全てを綯い交ぜにしたかのような街並み。これを生み出したのが『生と死を分かつもの』であるというのならば。
「斯様な者をこの世に存在させてはならぬ」
百々の瞳がユーベルコードに輝いた瞬間、彼女の主神とのつながりが強固なものへと変わっていく。
百々の能力の全てが膨れ上がる。
「我が神よ、その御力を分け与えたまえ」
天神の威光(テンジンノイコウ)満ちる百々の内なる輝きは、光線の光さえも上回るように照らす。
その光の中を突き進む『アズマ』を百々は破魔の力を乗せた光の矢が居抜き、大地へと縫い止める。
「光を手繰るか。光と闇は、闇があればこそ。そして光がればこそ。相互に保管し合うもの。片方だけで存在できず、どちらかが欠けたれば、それ自体の意味をなくすもの。猟兵、お前もそうであろう」
「我が映すは人の営み。人の姿。人の思い。それは業もあるだろう。だが、我が神は、その御力をこそ遍くものに照らすようにともたらしてくださる。ならば……汝は此処に居てはならぬ」
疾く骸の海に送り還さねばならない。
宙を舞う百々の姿は光に見いて。
引き絞る弓の弦がきしむ音を響かせる。載せられた破魔の力は、彼女の内より溢れ出して、その放つ矢は光速に至る。
風を切る音さえ後ろから聞こえるほどの矢の一撃。
それが『生と死を分かつもの』の威容に降り注ぎ、その触手を尽く穿ち、大地に縫い止めるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
アルトリウス・セレスタイト
閻魔を名乗るとは大層なことだ
状況は『天光』で逐一把握
先制含む守りは煌皇にて
纏う十一の原理を無限に廻し害ある全てを世界の外へ破棄
要らぬ余波は『無現』にて消去
全行程必要魔力は『超克』で骸の海すら超えた“世界の外”から常時供給
原理の守りが万全ならずとも一時稼げばそれで無問題
魔眼・封絶で拘束
行動と能力発露を封じる魔眼故、捕らえればユーベルコードも霧散する
無論召喚物も蜃気楼と消えよう
『天光』にて逃すことなく捉え、『刻真』の無限加速で即座に、召喚物含む全敵個体同時拘束
閻魔王を捕らえれば召喚物は消えると見るが念は入れておく
以降は適宜封じつつ打撃で攻勢
狙いは閻魔。アズマが邪魔ならそちらを先に
『討滅』の破壊の原理を乗せ『天冥』にて「命中させて」放つ
万象一切に終わりを刻む破壊の原理に例外はない
生も死も諸共に終わっておけ
○真の姿
僅か裂けた空間の向こう、果てなく続く透明な“全なる空虚”がその本質
『闇の大穴』――『キリング・フィールド』はまるで『人の過去から未来まで全てを混ぜたような』様相を呈している。
街中に溢れるそれは、どれもが混ざりあって、いずれも戻ることはない。
例え、閻魔王『生と死を分かつもの』を打倒せしめたのだとしてもだ。
「閻魔を名乗るとは大層なことだ」
アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)は戦場にありて、その瞳で見つめる。
巨大な体躯。
触手蠢き、まるで簾のようにその顔を隠しながらも突き抜けるような眼光。
あらゆる点において、そのユーベルコードは強力であったことだろう。
触手の奥から飛び出した浄玻璃鏡から放たれる光線は、戦場を埋め尽くす。
「吾人にとって、そう呼ばれているだけという意味以上のものはあるまい。嘗ては吾人の前に生が、後ろに死があったように。過去に成った時点で吾人もまた性質を変えるものであるがゆえに」
「過去がにじむか」
「それもまた必定なり。滅びを得るのならば過去となる。過去となるには滅びが必要である。『今』のままで、というのならば、それは吾人にとって、脅威ではないだろう」
原理によって己に害あるものを破棄し続けるアルトリウス。
彼の原理の光は、全て世界の外から供給されている。
その原理の守りは万全であろう。
光線満ちる戦場にあっても、それは変わらぬことであった。
「……」
しかし、その原理に踏み込む者がいる。
『アズマ』と呼ばれるオブリビオン。
徒手空拳で飛び込んでくる腕が、アルトリウスに害あるものを世界の外に破棄してもなお、害意となって迫る。
「先制するか、この俺に」
光線も、『アズマ』の伸びる手も、どれもが一手において己より先に放たれている。
原理の守りは万全。
それを砕く者がいることをアルトリウスは知っている。
「一時稼げばそれで無問題――淀め」
魔眼・封絶(マガン・フウゼツ)。
ユーベルコードによって、己の心眼でもって捉えるは、二体のオブリビオン。
『生と死を分かつもの』と『アズマ』。
そのいずれも世界の根源から直に存在を捉える原理の魔眼の力からは逃れ得ることはできない。
一切の行為を禁じ能力発露を封じることにより、彼らの動きを止める。
「……捉えれば消えると思ったが」
アルトリウスは『アズマ』の姿を捉える。
『生と死を分かつもの』が懐から取り出しオブリビオン。ならば、それは力の発露を封じれば消えるものと思っていたが、そのまま戦場に残っている。
「存在していたということを消すことはできない。歪めることはできても、塵一つ残さぬということはできない。『今』に在るということは、逃れ得ぬ過去と未来との狭間にあるということ」
「……」
アルトリウスの踏み込みに『アズマ』が踏み込む。
魔眼による行為の禁じる力は、確かに能力発露を封じている。
けれど、それは一時的に封じるに過ぎない。
「『討滅』の破壊の原理。『天冥』にて」
原理の淡青の光が満ちる。放たれる打撃の一撃が『アズマ』の拳とぶつかってひしゃげる。
いや、ひしゃげたのは『アズマ』の拳だけだった。
破壊の原理によって彼の拳は砕かれ、骨が砕け、血潮が走る。
だが、それでも振るう拳の一撃はアルトリウスの頬をかすめたことだろう。
「……戦うことが恐ろしくはないのだな」
「そんなことを考えている暇などない。そして、万象一切に終わりを刻む破壊の原理に例外はない」
叩き込まれる拳の一撃が『アズマ』の身体を吹き飛ばし、光線満ちる戦場をアルトリウスは切り裂くようにして進む。
此方の動きを閻魔王『生と死を分かつもの』は見ているだけだった。
それはともすれば『学んでいる』ような素振りを見せているようでもあったことだろう。
「その『学び』に意味はない」
「そうかもしれない。吾人にとって、それは過去にあるもの故に。だが」
生命の埒外、猟兵を見て学ぶところがあるのかもしれない。
けれど、その様子に構う暇もなければ、アルトリウスは関心も保たなかったことだろう。
己の存在を看破しようとするものが居る。
だが、とアルトリウスはオーバーロードの輝きの中に己の真の姿を晒す。
僅か裂けた空間の向こう。
はて無く続く透明な“全なる空虚”が、その本質であると語られるのならば、それが己であることをアルトリウスは自覚している。
「……意味はない。吾人にとっても。他の何者に対しても」
「なら、生と死も諸共に終わっておけ」
超克の先にあるの己の姿。
それを認め、アルトリウスは淡青の光の原理を指先に集める。
満ちる光は全なる空虚の中に溶けて消えていく。
けれど、それは空虚であるがゆえに全てであるというのならば、立ち消えることはなく。また同時に溶け込むこともない。
其処に在るという存在証明だけで十分。
「どうあろうと、壊す。オブリビオンである以上、例外はない」
アルトリウスの指先から溶けた光が、殴打によって放たれ『生と死を分かつもの』の巨体にユーベルコードの輝きと成って叩き込まれる。
その輝きに揺らぎ、傾ぐ巨体。
『闇の大穴』――『キリング・フィールド』にありて、その明滅する光は、猟兵とオブリビオンの苛烈なる戦いの一幕であることを知らしめるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
村崎・ゆかり
アズマか。彼女がグリモアベースを離れてまで倒しに出向いた宿敵だったわね。
それはあたしが立ち会えなかった時のこと。胸の底にその相対のことが澱のように溜まってたけど、晴らす機会を与えてくれて感謝するわ、閻魔王!
「式神使い」で偶神兵装『鎧装豪腕』顕現。アズマの拳打も絡む触手も「盾受け」で全部引き受けてね。
邪魔なものは何もない! これこそあたしに相応しい戦場!
「全力魔法」切断の「属性攻撃」「範囲攻撃」「衝撃波」「斬撃波」「道術」で風吼陣!
的は大きいほど当たりやすい。特大の大剣も混ぜてあげたから、遠慮なく一杯喰らいなさい。
アズマが竜巻を抜けてくるようなら、薙刀でお相手するわ。
殺戮領域、終わりにさせる!
『生と死を分かつもの』。
閻魔王とも呼ばれた異形の体躯。
その異様より溢れるようにして大地に広がっていくのは闇色をした触手であった。それは境界を引くもの。
「吾人の存在こそが『生と死を分かつもの』。故に、吾人は立つ。ここに立ちて、その境界を示す。されど過去に歪む結果は変質。吾人を知る猟兵もおるのであろうが、しかして、それは正しき認識であるとは言えぬであろう」
溢れる触手が次々と猟兵たちに襲いかかる。
敵には死の境界による痛烈なる打撃。
味方には生の境界たる回復。
こと、今回に限って言えば『生と死を分かつもの』の隣に立つのは猟書家『アズマ』。
徒手空拳の男は、その眼帯に覆われた眼窩をユーベルコードの輝きでもって満たす。
「……」
言葉はなく。
されど、拳もまた雄弁に語ることはない。在るのは殺意のみ。
「『アズマ』か」
村崎・ゆかり(“紫蘭”/黒鴉遣い・f01658)は小さく呟く。
猟兵にとって倒さねばならぬオブリビオンというものが在る。その敵の出現を止めるには、宿縁めいたものを手繰るしかない。
「……その名はすでに意味がない」
ゆかりのつぶやきに『アズマ』は答える。
瞬間、彼女の眼前にあったのは『アズマ』の拳であった。
吹き荒れる暴風のような唸りを上げる拳。
炸裂する一撃にゆかりは『鎧装豪腕』でもってとっさに受け止める。
宙に浮かぶ『鎧装豪腕』がひしゃげ、それ諸共ゆかりは吹き飛ばされる。さらに迫る触手が『鎧装豪腕』の装甲を引き剥がすように振り下ろされ、ゆかりは体勢整える。
彼女の胸のうちにあったのは、『アズマ』を打倒する瞬間に立ち会う事ができなかったという悔恨。
それは澱のように胸に溜まっていたものだった。
過去は変えられない。
決定したことは覆らない。
「だから、過去は排出されていく。『今』は前に進んでいく」
「それもわからぬことだ。時が逆巻くことはないと誰が言ったのだ。この光景を見よ」
閻魔王『生と死をわかつもの』が告げる。
触手が示すは『人類の過去から未来の全てが混ざったような街並み』。時すら未来に流れるとは限らないという言葉を証明するようでもあった。
「なんだというのよ、それが。今あたしにとって重要なのは、この澱を晴らす機会を与えてくれたっていうことよ! 閻魔王!」
感謝してもいいとさえゆかりは言うだろう。
手にした薙刀の柄が触手の一撃で持って歪む。
けれど、ゆかりの瞳はユーベルコードに輝く。
ここならば、と彼女は吠えるように詠唱を紡ぐ。
「古の絶陣の一を、我ここに呼び覚まさん。天上までも響き渡る破壊の風よ。その身に宿せし無限の剣刃により触れるもの悉くを裁断せよ。疾!」
放たれるのは無数の刀剣をはらむ暴風圏。
風吼陣(フウコウジン)は無数の刀剣と共に『生と死を分かつもの』と『アズマ』を巻き込んで凄まじい刀剣の斬撃満ちる嵐へと落とすのだ。
「……刀剣」
「ええ、邪魔なものはなにもない! これこそあたしにふさわしい戦場!」
『生と死を分かつもの』の巨体ならば、嵐の中の刀剣は外れることはないだろう。
巨体故に迫る斬撃を躱すこともできない。
乱れ放たれる斬撃は無数の触手を切り裂き、その肉片を嵐の中に落としていく。
「……」
だが、そこから飛び出すものがあった。
無数の傷を刻まれながらも、血潮を撒き散らしながら『アズマ』が、その拳をゆかりに振るう。
一撃の重さは言うまでもない。
大地がえぐられるほどの衝撃。
受け止めた薙刀の柄がさらに歪む。けれど、それでもゆかりは薙刀を振るうだろう。
「『殺戮領域』、終わりにさせる!」
振るった斬撃が『アズマ』を切り裂き、吹き飛ばしながらゆかりは走る。
せまりくる触手は刀剣の嵐さえ突破してきているのだ。
これを切り払い、ゆかりは己の瞳をさらに輝かせる。閻魔王『生と死を分かつもの』がこの『キリング・フィールド』から出ていくつもりはないのだとしても。
そして、倒しきれるものではないのだとしても。
それでも僅かでも後に繋がるように、その柄の歪む薙刀の一閃で持って『生と死を分かつもの』の巨体を切り裂くのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
深山・樹
僕が生まれる前にこんなのが世界を壊そうとしてたなんて
倒されたはずなのに戻って来てまた壊そうとするなんて
許せない
一人で来た。大事な妹をこんなのの前に立たせたくない
あの子が大人になるまで僕が守るんだ
あの子の未来を奪おうとする奴なんて絶対に絶対に許さない
あいつらはもう死んだ者
どれだけ強くても僕を殺そうとしても
だったら!どれだけぶざまでもいい!
転がって避けて逃げて
先制攻撃を躱しきる
血なんてどんだけ出てもいい!
あいつらに僕を殺そうとする意志があればそれで!
絶対に勝てる!
UCの聖葬メイデンを使う
「生きてる僕を殺そうとした報い!受けたら良い!」
殺意が高い程絶対苦しむはず
僕はただこれを維持したらいい
終りまで!
「僕が生まれる前にこんなのが世界を壊そうとしてたなんて」
震える声があった。
幼き能力者は。いや、猟兵である深山・樹(処刑人・f37164)は『闇の大穴』――『キリング・フィールド』の中央に座す巨大なオブリビオン、閻魔王『生と死を分かつもの』の威容を見上げていた。
溢れるようにして巨躯からは触手が溢れ出し、生と死の境界線を引くようにうごめいている。
彼の目の前には死が横たわっている。
この線を越えては死ぬと理解できてしまう。
かつて、銀誓館学園の能力者達は、この脅威を打倒した。
どれほどの恐怖であっただろうか。どれほどの不安があっただろうか。
けれどしかし、と思う。
どれほどの勇気があればこれを乗り越えることができたのだろうか。
だから、樹の心は既に決まっていた。
不安よりも、恐怖よりも、何より勇気よりも上回る気持ちがあった。
「許せない」
ただその一点が彼を境界線の向こうに踏み込ませる。
「恐れを抱いてなお前に進むか」
『生と死を分かつもの』の声が響き渡るのと同時に触手が樹へと放たれる。死の世界。そう思わせるほどの膨大な数の触手が樹を打ち殺さんと迫っている。
転がるように、跳ねるようにして樹は触手の迫る一撃一撃を躱す。
ぶざまだと言われるかもしれない。
逃げる。
臆病だと言われるかもしれない。恐れは消えない。胸の奥底でまだ燻るみたいに樹の心の中をかき回している。
けれど、それでも迫る触手を躱す。
その様子をもう一体のオブリビオン『アズマ』は見ていた。
「……」
涙は出ない。恐ろしさはあったけれど、それでも。許せないという気持ちの先にあるものを樹は幻視しただろう。
妹のことを。
本当の妹ではない。あの子。
本当ならば一人で戦いに赴くことなんてなかったのかもしれない。
「……――戦うのが恐ろしいか」
樹の眼前に瞬時に踏み込んでいる『アズマ』の姿があった。怖気が走るほどの重圧。振るい上げられる拳を捉えることができたのは偶然であったのかもしれない。
大気を震わせるほどの拳の唸り。
空を切る音が、雷鳴のように響く。即ちそれは音速を超えているということだ。
打ち込まれた拳を樹は転がるようにして躱す。打ち込まれた拳の衝撃波が身を打つ。痛みが走る。
「恐ろしくとも、戦う理由は何だ」
「あの子が大人になるまで僕が守るんだ。あの子の未来を奪おうとする奴なんて絶対に許さない」
樹の瞳が『アズマ』を『生と死を分かつもの』を睨めつける。
彼らはオブリビオンだ。
己より強いことは明白だ。力が及ばないことなんてわかっている。きっと自分は殺されてしまうだろうとさえ思った。
けれど、それでも。
「人は殺されてしまうかも知れないが、負けるようには出来ていない」
『アズマ』の声が響いた。
樹は己の身を打つ触手の一撃と、『アズマ』の拳が放った衝撃波に打ちのめされる。血が吹き出す。
けれど、それでも樹は立ち上がる。
己に意志があるように『生と死を分かつもの』が自分を排除せんとする意思があるのならば。
その瞳がユーベルコードに輝く。
「絶対に勝てる!」
自分に言い聞かせるように。
それこそ、虚勢であったのかもしれない。けれど、それでも彼の心の中には意思がある。
「生きてる僕を殺そうとした報い! 受けたら良い!」
それは戦場にルールを刻むユーベルコード。
生物を傷つけることなかれという宣誓。
それは『生と死を分かつもの』、そして『アズマ』にとって既に違反したルールだった。
「確かに僕はお前たちを殺せないかもしれない。けれど、僕は、僕達は負けはしないぞ!」
「そのとおりだ」
言葉が響く。
それに樹は顔を上げる。下げてはならない。目を伏せてもならない。痛みがどれだけ樹の身体を走って、その膝をおろうとするのだとしても。
この戦いは自分ひとりで立ち向かっているのではない。
ならばこそ、紡ぐのだ。終わりまで、決して閉じることのない瞳が見つめる限り、オブリビオンの身を苛み続けるのは、聖葬メイデン。
閉じる音が響き渡り、樹は決して戦いから目を背けぬまま、その終わりを見届けようとするのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
鈴鹿・小春
不死さえ殺す不敗を象ったような猟書家…強い!
でもあの生と死を分かつものについたのなら不敗さえも倒すよ!
意識集中し限界突破した瞬間思考力でアズマの攻撃の起こりを見切る。
まともに蹴り受けたら切断されるだろうから呪詛限界まで帯びさせた鮫剣で上手く受け流して回避。
死の渦は結界術で光属性と破魔の力混ぜこんだ障壁展開して防ぎつつ回避するね。
戦う事が怖いか?当然だよ!
でもそれ以上に皆がいなくなるのが怖いから戦うんだ!
UC起動、アズマと閻魔王を真正面に見据え盾剣を構える。
神速の蹴りも死の渦も、必ず杉田君と共に防ぎ受け流して刃を叩き込む!
体温も生命力も纏めて奪う呪剣、たっぷり味わってね!
※アドリブ絡み等お任せ
鋼鉄の檻の如きユーベルコードを食い破るようにして二体のオブリビオンが這い出す。
一体は巨躯。
閻魔王『生と死を分かつもの』。
全身を覆うは触手。その触手の全てから放たれるのは『死の渦』。
膨れ上がる死の気配に、猟兵達は怖気が走る思いであったことだろう。
『闇の大穴』――『キリング・フィールド』の名は、言葉通りであった。此処は生と死の境界線。
目の前に立つ巨躯、『生と死を分かつもの』が居る以上、どうしようもなく生命が危険にさらされる。
渦巻く死は、鈴鹿・小春(万彩の剣・f36941)に迫る。
しかし、それ以上に小春を脅かすものがあった。
それはあらゆるものを切断せしめる神速の蹴撃。
もう一体のオブリビオン『アズマ』の放つ蹴撃が音速すらも超えるような速度で放たれ、小春は呪詛を限界まで帯びさせた鮫剣で受け流す。
いや、呪詛すら切り裂く蹴撃は小春の背後にあった『人類の過去から未来の全てが混ざった街並み』を切り裂いた。
「不死さえ殺す不敗を象ったような猟書家……強い!」
「それに意味はない」
『アズマ』の蹴撃が再び放たれる。
意識を集中させる。
せまりくる死の渦。
そして、蹴撃。
事の起こり。まともに受けられない。しかし、死の渦が放たれている。回避する場所は限られている。
手にした鮫剣の呪詛すら切り裂く一撃をいなすことができても、その後に迫る死の渦に飲み込まれてしまう。
選ばなければならなかった。
どちらかを受け切らなければならなかった。覚悟はすでに決まっていた。
「でもあの『生と死を分かつもの』についたのなら――」
光と破魔の力を混ぜた障壁を展開する。死の渦を受け止める。削れる、と理解した瞬間、『アズマ』の蹴撃が障壁すら切り裂いて飛び込んでくる。
速い。けれど。
「不敗さえも倒すよ!」
振るう鮫剣の一撃が『アズマ』を押し止める。振り払うように小春は、その声を張り上げる。
「戦うのが怖くはないのか」
その問いかけ。
「意味のない問いかけだ。過去に成れば、過去は歪むのと同じように。連続する戦いのさなかにこそ、重圧は満ちていく。風化した名であれど」
『生と死を分かつもの』の言葉が響く。
小春はそれを遮る。
「当然だよ!」
恐ろしさを感じないことなど無い。
あの死と隣り合わせの青春の日々は、いつもそうだった。死ぬかも知れない。明日死ぬかも知れないし、次の瞬間には倒れているかもしれない。
自分が死んだという実感すら感じられないだろう。
悔恨も、後悔も、不安も、恐怖も。
全てが己の心の中に在る。けれど、と小春は思うのだ。自分たちがあの青春の日々に如何にして戦ったのか、その理由を。
「でもそれ以上にみんながいなくなるのが怖いから戦うんだ!」
煌めくユーベルコードの光が、それを示している。
手にした呪剣を触媒に変形させた氷で背をも覆う盾剣を構える。現れるのはスカルロード。
「『杉田』君、合わせて!」
氷の盾が神速の蹴りを防ぎ切る。切断できない。
「絶対零度……」
「ああ、そのとおりさ! 体温も生命力も纏めて奪う呪剣さ!」
死の渦すら防ぎきった盾よりスカルロードが走る。手にした死神の大鎌が『アズマ』の胸を切り裂き、さらに小春は盾剣の一閃を『生と死を分かつもの』へと叩き込む。
触手がさせぬと迫っても、それを切り裂く。
「たっぷり味わってね!」
滅びても、また滲み出すというのならば、何度でもこれを打ち倒すのみだと小春は、裂帛の気合を咆哮に変えて、その一撃を『生と死を分かつもの』の巨躯に叩き込むのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
紫・藍
戦うことが怖くはないのか、でっすかー。
藍ちゃんくんにとっては、戦うことも歌うこともお洒落をすることも全部、全部、“藍すること”なのでっす。
世界に、何よりも自分自身に胸を張る藍ちゃんくんであり続けることなのでっす!
戦うことだけが特別ではないのでっす!
何もかもが特別で、そのどれもが藍ちゃんくんなのでっす!
アズマのおにいさんが不敗かどうかも、かつての、そして今回の、敗北の時にこそ分かるのではないでっしょうかー?
おにいさん。おにいさんは敗けて尚、自分自身に誇れましたかー?
返答は以上なのでっす!
投げ?
歌は投げれないので!
というわけで歌うのでっす!
藍ちゃんくんをどうかその全てで感じてくださいなのです!
戦うことへの恐ろしさというものがあるのならば、目の前の巨大なオブリビオン、閻魔王『生と死を分かつもの』はきっと恐ろしい存在であったことだろう。
『人類の過去から未来の全てが混ざった街並み』の中にありて、蠢く触手。
煌めくユーベルコードの数々。
そのいずれもが必殺の威力を持っていてしてもなお、彼らは存在し続けている。
「過去は存在し続ける。時が未来に進むのならば、過去とは轍そのものであるがゆえに。故に罪ありきというほかない」
『生と死を分かつもの』の言葉が響き渡る。
簾の如き触手の中から飛び出すのは浄玻璃鏡。
その光線が戦場を埋め尽くしていくだろう。
さらには、もう一体のオブリビオン『アズマ』が迫る。
「戦うことが怖くはないのか、でっすかー」
彼の問いかけに紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)は笑う。
その歯を見せた笑いは、『アズマ』にとって奇異なるものに映っただろうか。おぞけ走るほどの存在が居て、そしてなお迫る姿がある。
己の拳も、蹴撃も、あらゆるものを砕いて壊す。
生命を喪うことこそが、生命にとって最も遠ざけなければならないものであったというのならば、彼らの存在はやはり恐ろしいものであったからだ。
けれど。
「藍ちゃんくんにとっては、戦うことも歌うこともお洒落をすることも全部、全部、“藍すること”なのでっす」
迫る手がある。
どんな障壁も意味をなさない五体。
『アズマ』は答えなかった。
また『生と死を分かつもの』も答えなかった。
藍の言葉は、歌うようであったからだ。
「世界に、なにより自分自身に胸を張る藍ちゃんくんで在り続けることなのでっす! 戦うことだけが特別なのではないのでっす!」
「特別など求めてはいない。そこに意味はない」
「『アズマ』のおにいさんが不敗化どうかも、かつての、そして今回の、敗北の時にこそわかるのではないでっしょうかー?」
繋ぐ言葉を前に迫る拳の一撃が歌とぶつかってかき消される。
雷鳴の如き拳。
それは空気の壁を撃ち抜く音であったことだろう。それほどまでの力を持ってして、なお戦うことが怖くないのかと問いかけるのは、彼自身がそれを恐ろしいことであると思っているからだろう。
不敗が途切れることを恐れるのではなく。
戦う事自体を厭う心があるのならば。
「おにいさん。おにいさんは敗けてなお、自分自身に誇れましたかー?」
それは過去の化身たる『アズマ』の動きを止めるのに値したかも知れない。過去である以上、死した者である。
死してなお不敗を象る名として残されたのならば、その死に意味はあったのかもしれない。
「以上なのでっす!」
藍は、その歌声をユーベルコードに昇華させる。
青空の如く澄んだ歌声が響き渡る。
藍テール(アイチャンクン・アオゾラステーッジ)――それは心なき者にすら感情を呼び起こす魂の歌。
あらゆる異常も超常も吹き飛ばす歌。
迫る光線の一撃も、拳の一撃も、なにかも藍には関係のないことだった。
自分ができることは歌うことだけだ。
歌うことは自分自身の全てをさらけ出すことと同じであったから。
「藍ちゃんくんをどうか、その全てで感じてくださいなのでっす!」
歌を響かせること。
世界に示すこと。
己の存在は此処にあるということ。
嘗て敗れても、今から敗れるのだとしても、それでも人の歩みが轍となって残るのならば、世界に響く歌は何処に居ても続いていくと藍は確信するのだ――。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友
第三『侵す者』武の天才
一人称:わし 豪快古風
武器:黒燭炎
なるほど、あの男であるか。懐かしいの!
では、参ろう。
早業で四天霊障の封印を解き、それを攻性結界とする。
まあ触手は吹き飛ばされようが、アズマには一旦割られるかの…それが狙いでもあるが。
一度、その拳は当たったのだからな。
わしはわしで、UCのせた黒燭炎を突いていこう。
避けようとするであろうが…実はの、四天霊障の封印解いた関係で、割れても集まって勝手に暴れとるのよ。
制御なんぞしとらんからな。一応『わしら』の敵に攻撃するようになっとるが。
アズマは気配でわかろうが。それで軌道はわかりやすくなる。
そこへ、一撃をな!
その男の名を知っている。
今はもう語られることのない名前。
しかし、その名を猟兵である馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)は知っている。
『アズマ』。
徒手空拳で神々すら鏖殺せしめる力を持つ者。
五体凄まじきもの。
「なるほど、あの男であるか。懐かしいの!」
四悪霊の一柱である『侵す者』は、武の天才として血沸くような思いであった。己の肉体が踊るようであった。
強者と相まみえることに喜びを見出す。
武に生きて、武に死んだ者であるからこそ解かることであったのかもしれない。
「では、参ろう」
己達、四悪霊を束ねる霊障の封印を解く。
溢れ出す呪詛が結界となってせまりくる触手を防ぐ。けれど、その強烈なる一撃は結界をきしませるだろう。
「死してなお、武にこだわるか。肉体という枷から解き放たれてなお、その身は鍛錬を望むか。絶え間なき練磨は、ただの贖罪にもならぬとしりながら」
『生と死を分かつもの』の言葉が響く。
だが、『侵す者』の瞳が見ていたのは、己に迫る『アズマ』の拳であった。
振るう拳は等に音速を越えていく。
ただ拳を振るうだけで雷鳴が響き渡るかのように、その拳は結界を撃ち抜く。
「割られるかの……だが、それが狙いであるよ」
撃ち抜かれる拳。
悪霊たる身体を切り裂くような拳の一撃は、『侵す者』の胴を撃ち抜いていた。
一度、その拳を受けている。
重たく、鋭く、速く、鮮烈なる一撃。
見事な一撃であると知っている。ならばこそ、『侵す者』は笑う。
武に生きた者であるからこそ、その拳は。
「――恐れに満ちておるな、相変わらず」
「そういうあんたは恐れていないようだな」
撃ち抜いた拳が引き抜けぬことを『アズマ』は怪訝には思わなかった。
これくらいはやると思っていたのかも知れない。その背後から迫る触手。その波のような攻撃に『侵す者』はしかして笑う。
「確かに割れておる。わしの、いや、わしらの呪詛は、暴れ狂っておる。それは制御できるものではないがゆえに……」
自らを巻き込んだ呪詛の嵐。
そのさなかに煌めく輝きがある。
ユーベルコードの輝き。その輝きが満ちるのは、手にした槍の切っ先。『アズマ』にはわかっていたことだ。
己の身を捨てることができる者にこそ、宿るものがあると。
だが、引くことはできない。
打ち込んだ拳は、呪詛に絡まり、至近距離で槍の一撃が己と『生と死を分かつもの』を狙っていることを理解したからだ。
避けられない。
「一つのところに力を込めると……ただそれだけでいいのよ」
振るい上げられるもう片方の拳。
だが、もう遅い。
放つ一撃は、四天境地・『狼』(シテンキョウチ・オオカミ)。
あらゆる敵を喰らう狼の顎の如き一撃が『アズマ』の肩を貫きながら『生と死を分かつもの』へと解き放たれる。
その光条の如き槍の一撃は、『アズマ』を吹き飛ばし『生と死を分かつもの』を穿つのだ。
「懐かしさを覚えるほどに、お主の武は鮮烈であった。いや、武であるというものではなかったのかもしれないな。人間の五体の極地。それは武の礎。されど」
その名はもう二度と響かせはしないと槍を構える。
己がもう名を名乗らぬように。
『侵す者』としてあるように。
かつて武の天才と呼ばれた者は、響かずとも消えゆく名を惜しむこと無く、一撃を叩き込むのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
御影・しおん
あら、初めまして?お久しぶり?うふふ、一体どっちだったかしら?
少なくとも「御影しおん」と「生と死を分かつもの」は初対面なのだけれど
境界線を多重に引き、それで隔てた領域を異界と成しその異界そのものを障壁とするわ
おまけに異界内での距離感を狂わせ、彼我の実距離を離す事で時間を稼ぐわ
……障壁や結界は殺せても、距離や空間そのものはまだ殺せないんじゃなくて?
所詮は時間稼ぎ、けれど……準備は整ったわ
UCを発動、軌跡を残しながら飛び交う淡い光を無数に放ち、描いた軌跡を境界線と成し、彼らを囲む、何重にも。
あとはその境界線……生と死の境に手を加え、彼らの居る領域を「死」の側へと寄せていくだけね
死の渦が溢れている。
『闇の大穴』――『キリング・フィールド』において閻魔王『生と死を分かつもの』の放つユーベルコードは尋常ならざる力の奔流となって猟兵たちに迫っていた。
多重に境界線を引いた、御影・しおん(Unknown・f27977)は優雅に一礼するように『生と死を分かつもの』と相対する。
隔てた領域は己の異界。
世界に異なる世界を生み出すのならば、それ即ち境界線。
「あら、はじめまして? お久しぶり? うふふ一体どっちだったかしら?」
境界を引くものと、境界の上に立つもの。
その言葉は正しく。
また同時に誤っていた。
正誤が混在するのがオブリビオンと猟兵の間柄である。今まさにこの瞬間には正しくとも数瞬の間には過ちに落ちる。されど、誤ちが正しさに転じることもまた存在しうる揺らぎとしてある。
だからこそ、しおんは微笑むのだ。
「少なくとも『御影しおん』と『生と死を分かつもの』は初対面なのだけれど」
「意味のない問いかけだ。過去よりにじみ、過去に変質し、過去に歪んだ吾人。だからこそ、この場にあることもまた必定である」
放たれる死の渦はいつまでたってもしおんに届かない。
それもそのはずだろう。
彼女が引いた境界線は異界として存在しているのならば、その内部に入り込んだ時点で彼我の距離を引き伸ばされ続けるものである。
しかし、例外があることもまたしおんは理解していたことだろう。
神殺しさえやってのける五体。
『アズマ』。
踏み込んできている。
境界線であろうと異界であろうと、そこに踏み込むことに何ひとつの恐れすら抱かぬ存在。
「あら……障壁や結界は殺せても、距離や空間そのものはまだ殺せないんじゃなくて?」
「距離や空間に意味はない。俺にとって己の拳を振るう相手が居る。それだけで十分だ」
踏み込んでくる。
神速の踏み込みは、あらゆる距離的な概念を覆すようにしおんに迫るように『アズマ』の蹴撃が、それすら切り裂いて距離を詰めてくるのだ。
恐るべき五体。
人間の可能性というものがあるのならば、きっと人間は『アズマ』にすらいつかは至るのかもしれない。
そう思わせるほどの練り上げられたものをしおんは感じながら、しかし微笑む。
「所詮は時間稼ぎ、けれど……準備は整ったわ」
彼女に必要だったのは無数の淡い光によって軌跡でもって『アズマ』と『生と死を分かつもの』を取り囲むこと。
そのための時間を稼ぐことこそが肝要であったのだ。
「うふふ……やろうと思えば、こういう事も出来るのよ? 境界操作の零『生と死を弄ぶモノ』(ボーダー・オブ・デス)」
『死と消滅』へと近づけさせる力が『生と死を分かつもの』、『アズマ』に迫る。
それは囲いを切り裂くのだとしても無意味であった。
描いた軌跡は境界線。
境界線に立つ者である『生と死を分かつもの』は逃れるかもしれないが、何重にも取り囲む軌跡はそれすら逃さない。
削り、切り裂く。
しおんの引く境界線は、オブリビオンという存在そのものを切り裂く。
「あとは貴方達を、その場にあるという領域を『死』の側へと寄せていくだけね」
それはしおんにとって容易いことだった。
此処には己だけではないからだ。
たとえ、『生と死を分かつもの』が境界線の上に立つのだとしても、囲う限り逃れることはできない。
他の猟兵がいる。
かつて『生と死を分かつもの』を打倒した銀誓館学園の能力者達が居たように。
一度滅びたものが滅びぬ道理などないというように、しおんのユーベルコードに輝く瞳は、彼らを見つめ続けるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
ステラ・タタリクス
生と死をわかつもの……
残念ながらジャックに|エイル様《主人様》はそちらにいない、と断言されてしまいましたので
メイドたる私がそちらに行くわけにはいかないのです
アズマ様、ナイアルテ様に縁ある者とて容赦しません
生と死をわかつもの、アズマ様、共に攻撃は実体があるもの
ならば『ニゲル・プラティヌム』を使った
【スクロペトゥム・フォルマ】で迎撃しましょう!
触手を弾丸で叩き落し
拳を含めた私への直接的打撃は銃で受け流しましょう
「あまり体術は得意ではありませんが!」
懐に踏み込めたなら
肘や蹴りも使いながら間を確保しましょう
ダンスを踊る相手はエイル様だけにしたいのですが?
仕方ありませんね
一曲踊らせていただきましょうか!
閻魔王『生と死を分かつもの』。
彼は境界線の上にたつ者。
しかし、すでに過去となり変質しているのならば、嘗てとは異なる者であったことだろう。
けれど、ステラ・タタリクス(紫苑・f33899)は頭を振る。
「残念ながら『ジャック・マキシマム』に|『エイル』様《主人様》はそちらにいない、と断言されてしまいましたので」
彼女にとって、それだけが唯一であったことだろう。
それ以外は全て些事であったのかもしれない。
それほどまでに思うものがあるのならば、何かに惑わされることはないだろう。蠢くように触手が放たれる。
闇色の触手は凄まじく、また同時に迫る『アズマ』の拳は雷鳴を轟かせるように鋭いものであった。
手にした二丁拳銃を構える。
引き金を引き、放たれる銃弾が触手を穿つのではなく、弾いて攻撃の軌跡をそらす。
「メイドたる私がそちらに行くわけには行かないのです」
「生命の埒外。求めるものがあるのならば、吾人とは相容れぬ。『主人』が過去になっていないことを喜ぶか。それともぬか喜びしたか」
『生と死を分かつもの』の言葉はステラにとって意味を為していなかった。
何処に居ても、どんな存在になっていたとしても、ステラにとって、それは掛け替えのないものであったからだ。
言葉を弄して侮蔑されるのだとしても。
それでもステラにとっての唯一が在る限り、『生と死を分かつもの』の存在は恐怖に値しないとステラは己の手にした二丁拳銃を構え、せまりくる『アズマ』の拳を受け流す。
「そのためなら恐ろしくもないと」
「ええ、そのとおりです。例え、あなたが縁ある者だとしても、容赦しません」
拳を受け流した銃身が歪む。
衝撃波がステラを打ち、その身を吹き飛ばす。
「あまり体術は得意ではありませんが!」
だが、それでも己の『主人』ならば踏み込むだろう。
どんな状況にあっても、己が前に進むことをやめない。誰かを前に立たせることも、誰かが己の代わりに傷つくことも厭うものであるからこそ、前に進む。
困難も、険しい道のりも、その道を征くことこそが正しいことであるのならば。
「前に踏み込みましょう」
ステラは踏み込む。
『主人』と同じように、その険しい道を征く。
『主人』は己を前にゆかせないだろう。ならば、己はその背を追うのだ。
煌めくユーベルコードの輝きがステラの力を底上げする。
肘、蹴り、銃撃、あらゆる手段でもって『アズマ』を圧倒する。防御は捨てた。攻撃も捨てた。
あるのは、ただ一つ。
『アズマ』という存在を此処で少しでも多く、そして長く釘付けにして削ぎ落とすこと。
それはまるで舞踏を嗜むかのような攻防であった。
『アズマ』とステラの一進一退たる銃撃と打撃は、他の追随を許さぬかのようであった。
「ダンスを踊る相手はは『エイル』様だけにしたいのですが?」
「知ったことではない。俺のな」
「仕方ありませんね」
ステラは嘆息する。息が切れる。
体に痛みが走る。どうしようもないほどに肺が圧迫されていく。だというのに『アズマ』は息切れ一つしていない。
この間にも攻防は続く。
激しく打ち合う音。
けれど、この歩みが自らの求めるものに近づいていくのならば、ステラは止まらない。止まってはならないのだ。
「もう一曲踊らせて頂きましょうか!」
刻むリズムは激しく、速く。
ステラは、舞い踊るように『アズマ』と『生と死を分かつもの』を翻弄し、その力を削ぎ落としていくのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
メンカル・プルモーサ
(飛行式箒【リントブルム】に騎乗)
…あのアズマかぁ……近接攻撃はしないからカウンターはないとしても厄介だな…
…閻羅王からの質問(何聞かれるかは興味持ってた)は適当に答えつつ裁きの光を空中機動で回避…
…飛んでればアズマは無視できる……って言うほど甘くはないよね…
…触手を足場にこっちに飛びかかってくるのは判ってたから…
…遅発連動術式【クロノス】による術式による拘束罠を空中に幾つも設置…
…触手やアズマの動きを封じるとしよう…
…これで時間を稼いで重奏強化術式【エコー】を多重起動…威力を高めた【尽きる事なき暴食の大火】を発動…
…全てを喰らう白い炎でアズマと生と死を分かつものを燃やすとするよ…
空より猟兵とオブリビオン、閻魔王『生と死を分かつ』の戦いをメンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)は見下ろす。
彼女が腰掛けた飛行式箒『リンドブルム』は『闇の大穴』の直上を飛ぶ。
戦いは熾烈を極めていた。
いずれの猟兵達のユーベルコードも『生と死を分かつもの』や『アズマ』を消耗させている。
このまま押し切れる、とも思えただろ。
けれど、『生と死を分かつもの』はこの戦場を制圧してもトドメをさせないだろうというのがグリモアの予知の見解であった。
それほどまでに巨大であり、また同時にかつての能力者であった猟兵達の知る所であった。
「ただでさえ強力なオブリビオン……それに加えて……あの『アズマ』かぁ……」
メンカルは近接攻撃をしないゆえにカウンターはない。
けれど、厄介である。
あの五体そのものがユーベルコードに昇華した存在なのだ。如何なる手を使ってくるかもわからない。
しかし、そんな彼女を襲うのは『生と死を分かつもの』の放ったユーベルコード。
浄玻璃鏡から放たれる光線と共に『生と死を分かつもの』は問いかける。
「時すら未来に進むとは限らない。ならば、何処に『今』は進むのだと考える」
その言葉にメンカルは光線を躱しながら考える。
そう、時は逆巻くことはない。
時は前に進んでいく。過去を排出し、前に前に進んでいく。
オブリビオンが存在している事自体が世界の破滅を齎すというのならば、停滞こそが『今』を圧縮し、世界の外側に亀裂を走らせる。
「『今』はわからない」
それがメンカルの答えであった。
何処に進むかも知れない未知なる道。それを知りたいと思うからこそ、己は居るのだ。ならば、その答えは己また知らぬ未知。
知らぬことを知るということ。
「それは賢しい答えだな」
満足したのかどうかはわからない。けれど、メンカルは己に迫る重圧を感じ取り、その視線を『アズマ』に向ける。
空に在りて一時も安心することはできなかった。
『アズマ』は触手すらも足場にしてくる。
「……それは、わかっていたことだよ」
遅発連動術式『クロノス』によって発動した罠が『アズマ』の五体を縛る。
いくつも設置していた罠の術式は彼の動きを止める。しかし、それすら引きちぎるようにして『アズマ』の拳がふるわれる。
砕け散る罠術式。
「……相変わらず、尋常じゃないな……けど」
メンカルは時間を稼いだ。
彼女の掲げた手のひらにあるのは、如何なる存在をも燃料にする白色の炎。
「……尽きる事なき暴食の大火(グラトニー・フレイム)」
放たれる白色炎は、あらゆるものを燃やす。
触手も、何もかもだ。
例え、『生と死を分かつもの』が如何なる強大な存在であったとしても、その炎はどんなものでも燃やす。
燃え移り、つながり、膨れ上がっていく
彼らを取り囲むようにして炎が満ちていく。
「……この炎からは何者も逃れることはできない……一体どんなことを聞いてくるのかと思っていたけれど」
メンカルにとって『生と死を分かつもの』の問いかけは意義あるものであったことだろうか。
時は何処に進むかわからない。
未来に進むとも限らず、また破滅に進むとも限らない。
それを決めることができるのは『過去の化身』ではない。今を生きる人が存在してこそ、世界の有り様は決めることができる。
「……だから私達は世界の悲鳴に応える」
滅びたくないと願うものが居る限り、その願いはきっと自分たちに届く。
故に、『生と死を分かつもの』の問いかけは無意味であるとメンカルは揺らめく白色の炎が隔てる空に在りて、彼らを見下ろすのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
戒道・蔵乃祐
閻魔王は過去の幻影を骸の海から呼び覚ますが同時に
標無き英雄を彼方より招き寄せる
両者の性質を備えた貴方が現れるのも必定であったか
◆アタラクシア
此処には結果しか存在しないが故に不確定要素の揺らぎも無い
閻魔王は嘗ての能力者達に打倒され
悪神殺しは自己矛盾で狂い果てた末に討たれた
0と1の狭間に鎖された、残酷なまでに美しい世界の虜囚
此度は僕達があなた方を殺します
キリングホールの暗闇に|敢えて飲まれる《闇に紛れる》ことで「瞬断脚」をグラップル+ジャストガードで掴み
限界突破で生命力を焼却して『死』を凌駕
アズマを渦に巻き込むことで無力化し
閻魔王へは魂の内より迸る破魔+浄化属性の電撃+念動力を除霊+気絶攻撃で投擲
猟書家『アズマ』は、その穿たれた肉体を気に留めた様子もなく白色炎満ちる戦場にありて、その拳を振るう。
ただ拳を振るうだけで雷鳴の如き音を響かせる。
踏み込み足さばきは神速。
蹴撃は取り囲む炎すら寸断せしめ、迫る猟兵へと至る。
「閻魔王は過去の幻影を骸の海から呼び覚ますが、同時に標無き英雄を彼方より招き寄せる」
戒道・蔵乃祐(荒法師・f09466)は呟く。
閻魔王『生と死を分かつもの』。
生と死の境界線に立つ異形。その存在は今や過去に歪んでいる。
「吾人は、もはやあらゆる時に顕現しうる存在。世界の敵。ならば」
吹き荒れる死の渦。
それは『闇の大穴』という戦場にありて、未だ一歩も動かぬ『生と死を分かつもの』より放たれ、その猛威を振るう力の象徴でもあった。
生きとし生けるもの全ても、死した過去の化身も。
何もかも意のままにすることのできる力。それだけの存在なのだ。
だが、『アズマ』は『過去の化身』でありまた『英雄』と呼ばれるに値する性質を持ち得たもの。
ならば、と蔵乃祐は、『アズマ』が此処にあるのはある意味必定であったと理解する。
「俺の名に意味はない」
踏み込んでくる『アズマ』の蹴撃は鋭い。
けれど、これを躱すことは恐らく己にはできないだろうと蔵乃祐は落ち着き払った頭で考えていた。
刹那に満たぬ時間。
されど、己の心は未だ不動。揺れ動くことすらない。
迫り死の渦に触れてしまえば、己は死ぬだろう。さりとて、目の前に迫る襲撃を受けても絶命するだろう。
迫る死の気配。
されど、蔵乃祐はたじろがなかった。
「0と1の狭間に鎖された、残酷なまでに美しい世界の虜囚。此度は僕達があなた方を殺します」
構える。
いや、踏み込む。『闇の大穴』。目の前は暗闇に閉ざされている。
けれど、わかるのだ。
これは人生の縮図と一緒だ。
僅かな先の未来が見えるのだとしても、それより更に先、そのもっと先は己達には見えない。
どれだけ未来にある己達の姿をさらけ出されるのだとしても、其処に至る道程が見えぬのならば、暗闇と同じ。
しかし、その暗闇を照らすことができるのが、人の理性であり、本能的な恐怖や不安を乗り越えた先に手に入れる事のできる勇気というものである。
その勇気が照らす未来があるのならば。
「これが明鏡止水に至る不動心の極地」
蔵乃祐は暗闇の中で手を伸ばした。
そっと手を差し伸べるかのように、手を伸ばしたのだ。その指先に触れるものがあった。
「……此処には結果しか存在しないがゆえに、不確定要素の揺らぎもない」
嘗て閻魔王は能力者たちに打倒された。
神殺したる人間の可能性の極地もまた、打倒された。
それが揺るぎない結果である。
過去の化身となった時点で、それは決定づけられたものであるのならば。
蔵乃祐は己の指先に触れたものを掴む。
「燃やすか、生命を」
「ええ、燃やしますとも。己の中に脈々と流れるものを感じ取れる。ならば、これを燃やしてこそ、生命の煌きというもの!」
蔵乃祐が掴んだのは『アズマ』の蹴撃であった。
迫る死の渦の気配。
そこに『アズマ』諸共叩き込み、巻き込ませることによって更に飛ぶ。
己の魂より迸るものがある。
雷撃となって迸るは、己の魂。
投擲される一撃は『生と死を分かつもの』へと至る槍のように解き放たれ、その蠢く巨体を揺らがせるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!
キミは…|"神殺し"《ゴッドキラー》アズマ!
いやちょっと違うかな?
そうたしか…|”神喰らい”《ゴッドスレイヤー》アズマ!
こっちの方がそれっぽい?
いやいやこだわりっていうのは大事だよ
命の輝き、価値っていうのはね…
どれだけくだらないものに命を賭けられるかで決まるのさ!
世界の命運とか、こどもたちの未来とか、つまらないプライドとか、そんなくだらないものものに…
キミたちはそうじゃなかったのかい?
ま、いいや!
【第六感】任せの回避で当たらなければどうということはない理論からのー!
ぜんぶまとめて『神パンチ』でドーーーーンッ!!
さあもっともっとくだらないもののにためにがんばろーっ!
猟兵達のユーベルコードが『闇の大穴』に煌めく。
閻魔王『生と死を分かつもの』の巨体が揺らぎながら、しかし放たれる触手がまるで境界線を引くように迸る。
圧倒的な物量。
そして、同時に五体を穿たれながらも、その身を燃やすようにして『アズマ』が走る。
二体の強力なオブリビオンを相手取らねばならない戦場。
それはしかし、ロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)にとっては、シンプルそのものに思えたことだろう。
「キミは……|“神殺し”《ゴッドキラー》『アズマ』!」
いや、ちょっと違うかな? とロニは跳ねるようにしながら触手の波を躱し、迫る『アズマ』の顔を見る。
どっちだっけ、|“神喰らい”《ゴッドスレイヤー》『アズマ』だっけ? と首を傾げてみせる。こっちのほうがそれっぽい気もする! と彼は思ったが、対する『アズマ』は呼び名に対して興味を示しては居なかった。
「その名に意味はない」
「いやいやこだわりっていうのは大事だよ」
ロニに迫る雷鳴の如き拳の一撃。
音速に至る証明。
ただの拳が、それほどまでに鍛え上げられているのは、人間の可能性というものを示すものであったかもしれない。
それが生命の輝き。
価値あるものであるというのならば、ロニは笑う。
「何を笑う。何を思って、何に笑う」
「いや、生命の価値っていうのはね……」
ふるわれる拳の一撃を受け止める。
これがユーベルコードにまで昇華した拳。身を駆け抜ける衝撃は受け流してもロニの体内で暴れ狂い、その内部をずたずたに引き裂かんばかりの威力となって背後へと衝撃が走る。
「どれだけくだらないものに生命を賭けられるかで決まるのさ!」
ロニは叫ぶ。
己の中にある基準。
それは彼にとってはくだらないものであると同時に己の生命と同等のものである。
「世界の命運とか、こどもたちの未来とか、つまらないプライドとか、そんなくだらないものに……」
それに生命を賭ける。
そうしてこそ得られるものがある。
目の前にいる『アズマ』もそうではなかったのか。せまりくる触手の一撃も、拳の一撃も、ロニの肉体を破壊しても壊せぬものがあると知らしめる。
その瞳がユーベルコードに輝いている。
「ま、いいや!」
走る。
ただ只管に走る。受けた一撃の痛みも、どうってことはない。もう二度と当たらなければいいのだというようにロニは触手を蹴って、飛び跳ね、『アズマ』の一撃を躱して空へと舞い上がる。
振るい上げた拳が煌めく。
「ぜんぶまとめて神パンチ(カミパンチ)でド――ンッ!!」
もっと世界はシンプルでいいのだ。
だって、自分がくだらないって思うことは、誰かの大切なことでもあるのだから。
だから、自分が掛け替えのないものを持っていなくっても。
誰かの何かを守るために頑張ることができるのならば。
放たれる拳。
それは拳にして拳ではないユーベルコードの煌めき。
「さあもっともっとくだらないもののためにがんばろーっ!」
保たざるからこそ、持つことのできるもの。
それを示すようにロニの拳は『アズマ』と『生と死を分かつもの』へと叩き込まれるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
リーヴァルディ・カーライル
…お前も『骸の海』を自認するのね、混沌氏『鴻鈞道人』と同じように…。
…まあ、お前達がどのような存在で、どんな願いがあったとしても私には関係ない
…この世界に生きる人々の為に、お前を討つ。それが猟兵としての私の使命よ
「代行者の羈束・時間王の鏡」により敵に異なる未来の残像を暗視させて捕縛し、
一瞬でも敵の動きが乱れた隙に「写し身の呪詛」の残像と入れ換わる早業で攻撃を受け流しながら離脱しUCを発動
…残念、外れよ。お前達が視覚だけで私を感知しているなんて、最初から思っていないわ
魔力を溜めた670体の火球型呪文生物を空中機動の早業で乱れ撃ち、
消滅するまで延々と爆発し続ける限界突破した火属性攻撃を行う
「……お前も『骸の海』を自認するのね、混沌氏『鴻鈞道人』と同じように……」
閻魔王『生と死を分かつもの』は、吾人と、言った。
それは嘗て猟兵達の目の前に現れた『骸の海そのもの』を自称する存在と同じであった。
過去の化身。
オブリビオンは骸の海より滲み出てくる。
世界に停滞をもたらし、世界を破滅に導くもの。
そして、己達は、そんなオブリビオンを滅ぼす存在。猟兵である。
「そのとおりである。吾人はすでに過去。滲み出るのは必定。そして、如何なる時間にも現れる者でもある」
故に世界の宿敵の一人。
その言葉にリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は己の胸に言葉が浮かぶのを感じたことだろう。
灰は灰に。塵は塵に。
過去が己の前に立つことを許さない。
そう。
「……お前達がどのような存在で、どんな願いがあったとしても私には関係ない……」
善悪を見極める浄玻璃鏡の煌めきが放たれ、光線がリーヴァルディに迸る。
迫る光線は苛烈。
戦場を埋め尽くさんばかりの膨大な熱量となって彼女を襲うだろう。だが、それでも光の中を迫る影があった。
人の姿。
巨体たる『生と死を分かつもの』とは異なる只人の影。
五体は人間の可能性の極地。この光線乱れ放たれる戦場にあってなお、踏み込みに恐れはなく。
「そのとおりだ。意味はない。俺には、そんなものはない。だから」
伸ばされる手は、あらゆる障壁も結界も意味をなさない。
五体すべてを持ってユーベルコードにまで昇華した力は、神すら殺してみせるものであった。
『アズマ』。その名を持つものがリーヴァルディに迫る。
しかし、それは偽り。
いや、違う。異なる未来の残像。
リーヴァルディである。真である。しかし、それは異なる未来の可能性というなの虚ろ。
掴みかかり、手応えを感じるのだとしても、それは『今』のリーヴァルディを害するものではない。
光線もそうだ。
リーヴァルディの齎す残像は僅かな隙を生み出す。
乱れ、とも取れただろう。
「……ええ、この世界に生きる人々のために、お前を討つ。それが猟兵としての私の使命よ」
ただそれだけでいいのだ。
理由はそれだけで。
『アズマ』が掴みかかった残像とリーヴァルディは入れ替わりながら、神速の踏み込みを躱し続ける。
「名に意味はない。その内包したものにこそ意味がある。猟兵。結局の所、滅ぼし合うことしか己達にはできない。この名を越えていけ。その言葉に内在するものが真であるのならば」
リーヴァルディはわかっていた。
敵が、己を視覚でしか捉えているわけがないのだと。
だからこそ、あの残像は彼らを欺く。
ただそれだけで倒すことのできる相手ではないと解っていたのだ。
だからこそ、貯めていた。
膨れ上がる魔力。
限界を超えた許容量。
全てはこのためにこそ配された布石。
「……呪文疑似生命付与、多重化」
生み出されるは呪文生物|『火球』《ファイアボール》。
生み出されたのは七百にいたろう家というほどの膨大な数の火球たち。一撃で消滅するが、しかし、その苛烈なる炎はあらゆる闇を祓う。
闇を照らすのが光ならば、祓うのが炎である。
悪しきものも、淀むものも、全て炎によって浄化せしめるものであるのならば。
「……吸血鬼狩りの業・乱魔の型(カーライル)……お前たちが滅びるまえ放ち続けるのみよ……」
リーヴァルディは『闇の大穴』を睥睨しながら、迫る触手も、『アズマ』さも火球の群れに飲み込ませる。
どれだけ『生と死を分かつもの』が強大な存在であったのだとしても。
「それは世界のためか、人のためか」
『生と死を分かつもの』の言葉が炎の向こう側から聞こえる。
その言葉にリーヴァルディは応える。
「……滅ぼしきれぬというのだとしても、今を生きる人々の『現在』を脅かすというのならば……それを討つのが私の使命。それを違えることなどないのよ……」
惑わされることなどない。
結局の所、それは言葉でしか無いというようにリーヴァルディは、過去を灰に帰さしめるように『闇の大穴』を己のユーベルコードの煌めきで持って照らし、これを討つのだった――。
大成功
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