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痕跡を求めて

#アルダワ魔法学園 #猟書家の侵攻 #猟書家 #魔女猫グリマルキン #竜騎士

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●架空の竜
「突然だけど、歴史モノは好きなほうかい? 私はねー、どれも広く浅くいけるクチさ」
 何十とあるどの世界にも、|現在《いま》に至るまで紡がれてきた歴史があり、それに日々思いを馳せる人々は少なくないだろう。
 なんでこんな話を始めたかと言うと、今回の事件にちょっとばかり関係があるからさ――デボラ・ネビュラ(魔女・f30329)がグリモアに触れると、周囲の景色は蒸気機械ひしめくアルダワのモノに変わる。
「アルダワで人気がある|時代《の》は、やっぱり大魔王を死闘の末|地下迷宮《ダンジョン》に封じ込めた前後の話。やれその時誰が活躍したとか、どの竜が力を貸してくれたとか、酒の肴にやんややんやと語りあったりするもんさ」
 猟兵がそう言う風に語られるようになるのは、きっともう少し先の話だろう。胡散臭く笑いながら、デボラは話を続けた。
「前置きはもう少し続くよ。で、人気のある時代の話となると、プロアマ問わず山のように積み上がった史料をひっくり返して、或いは世界中に散逸する資料を脇目も振らず蒐集して、結果どんどん研究は進んでいく訳だけど、その過程で実在したんだかしてないんだかよくよくはっきりしない|竜《ヤツ》が出てきたんだ」
 名を幻竜――既出の歴史書にその単語が出てくることすら極稀だったので、当時活躍した何れかの竜の別名か、誰かの記憶違い・誤字の類か、それとも当時の|創作物《フィクション》に出てきた架空の|登場人物《キャラクター》が史料に紛れ込んでしまったか……幻の名を冠する竜は、それこそ本当に存在していないだろうと言うのが長年の主流な意見だった。
「けど大魔王が斃れたことで状況が変わってね。例えばほら、旧校舎とかその先の迷宮大図書館とかさ。それまで危険で近づけなかったエリアでも史料を漁れるようになった結果研究が大いに捗って――一匹のケットシーが、遂に幻竜の存在を証明するに至ったんだ」
 別に誰が証明しなくても、確かにそれは過去確実にあった筈の、当たり前の|事実《モノ》なのに――。時が経てば経つほど|現在《いま》から|過去《むかし》の|痕跡《事柄》を探るのは困難になっていく。
「新説やら新事実やらが出てくるたびに|現代《いま》を生きる私たちは新たな過去に翻弄される……って、いやごめん話が逸れてきた」
 つまり本題は……くだんの幻竜が、猟書家・魔女猫グリマルキンに目をつけられたという事だとデボラは続ける。
「魔導蒸気文明災魔化の為、竜達へ|大魔王の仮面《マスク》を被せ、強制的にその片棒を担がせようとするってのが彼女のやり口だ。勿論看過できるもんじゃない。なので君たちには幻竜からの|救難信号《ドラゴンロア》を受け取った唯一の竜騎士であり――幻竜の存在を再発見したケットシー…名前をハイネと言ったかな。彼と協力して、魔女猫の目論見を台無しにしてほしいんだ」
 竜騎士ハイネ。自称・本業は考古学者で、竜言語を学ぶために竜騎士をやるようになったのだという。
「竜騎士をやる前は精霊術士、さらにその前はガジェッティアと、自分の|知的探求《趣味と実益》の為なら何でも貪欲に吸収できる矢鱈と器用なヤツだ。ユーベルコードは使えないが、|技能《スキル》的には割とマジで何でもできる変人なので、キミ達の足を引っ張ることは無いだろう」

 幻竜が居ると目される場所は、竜神山脈でもとりわけ霧の深い領域の、そのどこか。この霧が実に厄介でね、とデボラは難しい顔をする。
「幻を見せてくる上に、どう言う理屈かこの霧の中じゃ常日頃自分が一番得意としてる技能が満足に発揮できなくなる。全く使えなくなるわけじゃないけれど、まぁ……平時の実力の十分の一も出せればいい方だろう。一番の得手を封じられるのは、中々息苦しいものがあるかもしれないね」
 封じられるのはあくまで素の、普段使いしている技能のみ。『スキルマスター』や『オール・ワークス!』など、ユーベルコードを使用して一時的に増強・獲得した|技能《モノ》は霧の影響を受けずに行使出来ると言う。
「けど、全員が全員そう言うのを持ってるわけじゃないからね。例に挙げたUCは、霧の中を進むのに絶対必要な|要素《モノ》じゃなく、あくまで攻略法の一つに過ぎないよ。どんな手段を使っても、グリマルキンと幻竜を見つけ出す事が出来ればまずはそれでオッケーさ。数歩先に何があるかわからない位深い霧が立ち込めている場所だけど、ハイネ、と言うか竜騎士なら幻竜の居場所を探知できる筈だ」
 霧が見せる幻については現状何とも言えないが、恐らく『鬼なり蛇なりが出て来て進路を阻む』類の物だろう。現地で確認して対策を練る時間は有ると思うから、そこの所はなんだかいい感じに頑張って欲しい。割と放り投げ気味に、しかし|猟兵《キミ》達ならば必ずや突破できるだろうと激励しつつ、デボラは自身のグリモアを翳した。

 うっすらと、だんだん、深く、濃密に。白い霧が、周囲を景色を侵していく。

「魔女猫グリマルキン……その記録や功績は今に殆ど伝えられていないけれど……遥か昔、|地下迷宮《ダンジョン》が成立する以前に大魔王……災魔に抗っていた人物だ。彼女の扱う魔術の大半は既に忘れ去られてしまった|レトロな《古い》モノだけど、決して|ロートルな《旧い》モノでは無いよ。油断はしないように、ね」


長谷部兼光
 割と何でも俄かな方です。

●目的
 ・霧を踏破し、
 ・魔女猫グリマルキンを撃破する。
 (二章構成)

 ・プレイングボーナス(全章共通)……竜騎士の助力を得る/ドラゴンを鼓舞する。

●竜騎士ハイネ
 灰色のケットシー。昔はやんちゃをしていたらしい。
 様々な技能を習得しているが、ユーべールコードは扱えない。

●技能封じの霧
 一章進行中のみ、最もレベルの高い技能(同率の物がある場合はその全て)の数値が十分の一になります。

●備考
 ・プレイングの受付は、各章とも冒頭文追加後からになります。
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第1章 冒険 『竜神山脈を踏破せよ』

POW   :    火竜の如き力で踏破する/熱意を持って竜騎士に協力を求める

SPD   :    風竜の如き俊敏さで踏破する/巧みな言葉で竜騎士に協力させる

WIZ   :    賢竜の如き智慧で踏破する/竜騎士に協力することの利を説く

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●白昼霧
 気が付けば、吹き抜けるのは酷く冷たい異界の風。足元に意識をやると|新雪《ゆき》を踏みしめる感覚があった。
 けれども此処は既に深い|闇《きり》の中。吐いた息の色も、一面に広がっているであろう雪景色も、天地の区別すらあやふやに、一緒くたのまっさらで、ただ、到着位置からすぐ近くに聳え立つ草臥れた大きな枯れ木のみが、霧の中で唯一違う色だった。
「おや……来てくれたんだね|猟兵《イェーガー》。君たちの活躍は先輩や後輩達から聞いてるよ」
 枯れ木の幹のその根元、傷だらけの|竜騎士《灰猫》がぐったりと寝そべったまま猟兵達に会釈をした。
「いやいや、何としても幻竜さんを助けたいって、気合だけあったって何ともならないね。居ても立っても居られず先行した結果がこれだもの」
 でも結果的には良かったのかもしれない。君達にこの霧について伝えることが出来るんだから。ハイネは小さな体を起こして幹に寄りかかり、そしてとある方向へ、指をさす。
「そっちへ数歩、進んでごらん……いいかい、本当に数歩だけだよ。状況を確認したらすぐにこっちに戻って来るんだ」
 ハイネの示すまま、猟兵は歩を進める。
 
 一歩。闇を恐れずに。

 三歩。辺りはただしん、と。

 五歩。脅威の気配は未だ無く。

 そして七歩刻んだその刹那。何の前触れ一つなく。何もかもがおかしくなった。
 ……周囲は深い霧の中。数歩先の風景はおろか天地の境すら判然としない、それに変わりは無い筈なのに。
 ――猟兵達の瞳には、千とも万ともつかない無数の災魔と、それを従える全ての形態の大魔王達が映っていた。

「……馬鹿馬鹿しい光景だったろう。こんな理不尽なことが現実にあるもんか。察しの通り、幻だよ。迷宮から災魔が溢れ出てきたわけでも無いし、君達が倒した大魔王が一斉に蘇った訳でもない……この霧が悪さをしてるんだ」
 けれどもどうやら受けるダメージは現実らしい。火傷、切り傷、打撲痕、ハイネは枯れ木の元へ戻って来た猟兵達に、自らが負ったそれを見せた。
 もう大分おれの|世界知識《アタマ》と|情報収集《ハナ》が効かなくなっちゃってる状態で話を進めるけれど、と、そうハイネは前置きし、
「……これは幻竜さんの能力の一端だったと思う。グリマルキンの支配に抗う過程で無差別的に暴走しちゃってるんだ。こっちを阻んでいる点でぱっと見向こうに益がある状態だけど、偶然そうなっただけで、彼女が意図してやった訳じゃない筈だ……幻竜さんの|叫び《こえ》が、まだ|竜騎士《おれ》の耳に届き続けているからね」
 大きな荷物に無造作手を突っ込んで、瓶に詰まった回復薬の封を開け、片方を飲み干しながらもう片方を頭から浴びると、ハイネはゆっくり立ち上がる。所作や外見から、傷は完全に癒えているらしいことが窺えた。
「幻をどれだけ相手にしたって無意味だよ。おれも少し相手をしてみたけれど、倒した端から湧いて出てくるし、そもそも大魔王の幻影達に至っては倒せるかどうかすらわからない。けど困ったことに、幻竜さんの叫び声は|現実《ここ》じゃなくて、幻の内のずっとずっと奥から聞こえるんだ」
 だとすると。無限に立ちはだかる|無意味《災魔》と|徒労《大魔王》を掻き分けて、幻竜と魔女猫の元まで突っ切るしかないのだろう。だが|霧《まぼろし》の『内』に居るというのなら、突っ切って、辿り着いたところで、普段の調子が出ないまま、宿敵と幻影達を相手取る、その不利な状況は変わるまい。
「それなら大丈夫。何を隠そう『秘密兵器』を持ってきたからね。これを使えば少なくとも五分の状況までは持っていける、と思う。まぁ、流石にもっとグリマルキンの近くまで行かないと使いものにならないけど」
 言って、ハイネは呪文入りの布地に包まれた|秘密兵器《それ》を猟兵達に見せる。全貌は解らないが、その全長をハイネの背丈と比較するに、恐らくはケットシー用の槍か杖の類だろう。
「回復薬もそうだけど、おれに出来る|技能《コト》があるなら遠慮せずに言って欲しい。幸か不幸か全員が同時に寸分違わず同じ|幻《ゆめ》を見るんなら、各々の連携に支障は出ない筈――さあ、そろそろ行こう。迂回出来る路は無い。悪夢の中へ一直線だ」

 ……枯れ木より、猟兵達が八歩目を踏み出すと、大魔王達を筆頭に、無数の幻影が怒涛の如く押し寄せる。
 辿るべき叫びの終点は悪夢の中心。
 得手を封じられているに等しい状態で果たして――魔女猫の元までたどり着けるだろうか。
神崎・伽耶
にゃんこだわ、にゃんこ。
寒いのにお疲れさまね、本能に抗ってるの立派だわ~。
ね、撫でてもいい?

あたしの勘(追跡)は仕事してくんないけど、
ハイネちゃんには、ゴールがわかるのよね?
羅針盤が無事なら、それでいけるわ!

つまり。
悪夢だろうが何だろうが、突っ切っちゃえばいいんでしょ。
誰か、お姉さんの後ろに乗ってみる?
運転したければ、ハンドル貸すわよ1

敵のフィールドで真っ正直に戦うこともないわよね。
霧も気が滅入るし、塗り替えちゃいましょ。
降れ降れ、銀の飴~♪

ハイネちゃんを守りながら、どかすかバイクで突進♪
群がる敵を、なぎ払い。
たまには自分から吹き飛んで。

あめちゃん効果は2時間しか保たないから、急がないとね!



 前後左右に上と下。何れを見ても数歩先すら判らぬ深い霧。にもかかわらず迫り来る|災魔《幻影》の|軍勢《かたち》ははっきりと。笑ってしまう位に戦場の最前列。これからかち合うだろう困難と、幻竜の身を案じてか、竜騎士ハイネは酷く険しい|表情《かお》をする。
 ……ので、神崎・伽耶(トラブルシーカー・ギリギリス・f12535)は取り敢えず、背後からハイネの両耳をむにっと引っ張ってみた。
「にゃんこだわ、にゃんこー」
「にゃにゃ!?」
 全く想定していなかったのだろう、気取っていた割に、吃驚した声は中々愛嬌があった。
 いきなり何をするのかと、体を反らして逆さになったハイネの瞳が訴えてくるが、伽耶はそんな抗議をどこ吹く風と軽くいなし、『まずはゆっくり|深呼吸《リラックス》』と、|悪童《いたずらっ子》さながらの笑みを返す。
 そんな伽耶の|言いくるめ《口車》に一理あると思ったか、瞳を瞑り、灰猫は数度の深呼吸。繰り返すうちに少しばかり、緊張が解れた様だった。
「カッコイイ毛並みを逆立てて、寒いのにお疲れさまね、本能に抗ってるの立派だわ~」
「寒さには|適応し《慣れ》ている方だけど、やっぱり暖かい所が恋しくなるよ。万事上手く終わったら、ゆっくり温泉に浸かるのもいいかもね。良い所を知ってるんだ」
「この世界の温泉、ね。あたしも良さそうな所一つ知ってるわ……ね、撫でてもいい?」
 などと言いつつ許可を取る前から撫でくり回す。特段拒否はされなかったので、それはもう、頬に喉にむにむにと。
 ……しかしここは霧の中。じゃれついている間にも、幻影の足は決して止まらず、
「堪能しているところ悪いけれど、もうすぐそこまで|敵《幻》が……」
「あ、それなら大丈夫。何故かって言うと――」
 むにむにしている最中に、落ちてくるのは敵の影。|刃《殺意》が閃くその寸前、けれども伽耶は普段の調子で腰莢に手を伸ばし、引き抜いたばす停で幻を殴打する。
『案内板ガメリ込ムヨー』
『メッチャ痛イ奴ダヨー』
「――ね?」
 喋るばす停はさておいて、得物越しに伝わる殴打の感触は酷く生々しく、解っていても|現実《本当》に本物の災魔を屠ったのではないかと錯覚してしまう。
 ……否。刃を受ければ実際に傷がつくのなら、錯覚も何もない。重要なのは、『侮れない』と言う事実のみ。
 |怨鎧《災魔》の幻影は地に伏し消失するが、そのすぐ近く、何の前触れも無く即座|無数の代わり《おかわり》が現れて――なるほど、これは確かにキリがない。
「あたしの|追跡《勘》は仕事してくんないけど、ハイネちゃんには……ゴールがわかるのよね?」
「勿論。正確には竜騎士なら誰でもわかる筈だよ」
「オッケー! 羅針盤が無事なら、それでいけるわ!」
 有無も言わさずハイネを背負い込むと、エブリロードバイクに火を入れて、ついでに彼の大荷物を後部へ括り付ける。
「……つまり。悪夢だろうが何だろうが、突っ切っちゃえばいいんでしょ?」
 |帽子《キャップ》のゴーグルを眼に|装着《おろ》し、不敵な顔でアクセルへ手をかけた。
 エンジンは轟と唸りを上げ、追突事故も上等で霧の中を突き進む。何処まで行っても変わり映えのしない|幻《けしき》に|霧《やみ》が広がるばかりだが、頬を打つ風とハイネの|案内《ナビ》が目標に近づいていることを教えてくれた。
「やっぱりバイクは良いよね。おれも若いころはエンジンから自作したバイクで峠をぶいぶい攻めてたっけなぁ……」
「それは随分やんちゃして、って……若いころ? ハイネちゃん今何歳?」
「四捨五入して二十歳。一応来月まではそんな感じだよ?」
「つまり二十四歳と十一か月? あれ? 同い年? 見た目で全然わかんなかったわー」
 苦笑しつつ、運転が得意ならと、伽耶は背中伝いに前へと来るようハイネを呼んだ。
「ちょっとの間、お願いね?」
「了解。昔取った杵柄だ」
 轢いても尽きぬ幻を些か辟易し始めた頃合いに、伽耶はバイクの操縦をハイネへ任せると、魔法鞄から|武器《鞭とヨーヨー》を取り出し、思いのまま薙ぎ払い、暴れさせ、強引に進路をこじ開ける。
 最近闘った騎士の怨鎧。いつか倒した記憶のあるニキシー管の巨人たち。未だ見えたことも無かった未知の災魔の群れ。剣を振るい、|鏡《こて》で弾き、上手い調子で進めている手応えはあったが、それでも向かってくる数が数だ。|傷《ダメージ》は免れない。
 荷物の中に回復薬はまだまだあるよ、ハイネはそう心配してくれたが、今はそれを飲み干す間すら惜しい。故に、伽耶はゴーグルに撥ねた雪を払い落とすと、改めて周囲を見回した。
「敵のフィールドで真っ正直に戦うこともないわよね。霧も気が滅入るし、塗り替えちゃいましょ」
 直後。
 白い色しか無かった|戦場《霧》に、飴色の靄が混じる。
「降れ降れ、銀の飴~♪」
 無味無臭だった空間に、甘い|香り《いろ》がついていく。まるで意思を持つように、靄は四方へ拡散し、幻達を絡め取ると、不可視の攻撃でその動きを鈍らせ、反対に味方の傷を癒し――。

(「……?」)
 ――一瞬。何かしらの違和感を覚えた。呼び出した靄が霧に馴染む直前、つまり、|靄《現実》に包まれ|霧《幻》から切り離されたほんの数秒、何か……。
「!! 出てきた。大魔王だ!」
 ハイネの声に、伽耶の意識は『幻』の中へと引き戻される。黄金の巨体。複数の貌――大魔王の第一形態『アウルム・アンティーカ』。違和感は、これの前兆だろうか。
 考えを巡らせる暇も無く、|幻《大魔王》が背負う無数の砲口から放たれる無尽の重魔導弾。ハイネが懸命にアクセルをふかすが、どれだけ打って潰そうが、進路を塞ぐ幻は後から後から湧き続け――|味方《幻》をすら呑み込みながら、圧倒的な光芒が、伽耶達へ迫る。
「だったらここは――最終手段ね!」
 かちり、と伽耶は意を決し古典的な形状のスイッチを叩く。刹那バイクは破滅的な|衝撃音《ねいろ》と共に自ら吹っ飛んで、乗り物としてはあり得ない軌道を宙に描き、寸前魔王の砲撃を回避する。
 ……文字通りの最終手段だったので、着地の事などは特に|考えていなかった《忘れていた》が、驚愕と混乱の雄たけびを上げながらそれでもハンドルを離さなかったハイネが最終的になんとかしてくれた。気力と根性とガッツと勇気が凄い。でもさすがに少々の休憩は必要だろう。
 ハイネと運転を交代した伽耶は、再びエブリロードバイクを走らせる。致命的な|故障《トラブル》は無い。そう言う風に『自爆』させたのだ。

「さて、と……あめちゃん効果は2時間しか保たないから、急がないとね!」
 ゴーグル越しに黒の瞳が笑い、霧を突っ切るバイクは異次元亜空間を纏う。
 探すまでも無くトラブルが押し寄せてくるこの状況……|探索者《シーカー》としては望む所だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エスタシュ・ロックドア
【骸と羅刹】
火の次は力か……参った
あン時よりフリントが重い気がするぜ
はらわたは快調なんで振り回せるっちゃ振り回せるが

お前、いま胃袋に吐けるモン胃液以外にあんのか?

シンディーちゃんに【騎乗】【運転】
椋を後ろに載せて
あー、アナウンスがありマス
シンディーちゃんは本来安定巡航タイプを戦闘用に改造しててな
戦闘時の出力はそりゃもうピーキーな訳よ
いつもはそのじゃじゃ馬状態のシンディーちゃんを、
俺のイカしたライディングテクと【怪力】で捻じ伏せながら操縦してたんだよな
ハイ、怪力抜き・テクニックのみで戦場を駆けるので戦闘してるヒマがありマセン
そこんとこよろしくな

『ゴッドスピードライド』発動
【ダッシュ】で駆け抜けるぜ
俺は基本回避に専念
戦闘は任せたぜ相棒

うるせぇペーパードライバーみてぇに言うな


六島・椋
【骸と羅刹】
|骨《かれ》らと繋がる手がこんなにも鈍るとは
違和感がひどくて吐きそうだ
エチケット袋をお持ちの羅刹ライダーはいらっしゃいませんか

怪我をさせてはいけないので、
|骨《かれ》らは今回留守を頼もう

エスタの後ろに乗って突っ切る――前に、ハイネとやら
君がやりあった災魔やら何やらのことを教えてくれ
正確にはどういう姿をしていたか
人か、何かの複合体か、それ以外か
複合体なら何の生物に近しいか

今回はあいつペーパードアだからな
障害物はナイフを持たせたシャドウズに『解体』させる
倒しきらずとも最低限通れる道を作れればいい
ハイネから聞いた話と己の目で見た情報・『医術』知識から骨格を推測
脆いところをぶち抜いていこう



 深い霧を断つように。巨大な鉄の塊が、膂力のままに幾体かの|幻影《災魔》を纏めて叩き潰す。獲物を仕留めた感触は、果たして夢か幻か。雪が爆ぜ、後に残るのは|燧石《フリント》が大地を刻んだ痕跡のみ。
 地にめり込んだ愛刀を、力を籠めて引き戻し、エスタシュ・ロックドア(大鴉・f01818)は嘆息した。
 肩に担いだフリントの重さから、|怪力《腕》が駄目になっている事を嫌と言う程痛感する。去年の夏頃は、|浮遊大陸《しま》すら叩き割れる程の|骨大剣《超重量》を無理くり振り回していたというのに――。今の状況とはまさしく天と地だ。
「火の次は力か……参ったなこりゃあ……」
 ふと、雨降る|中華街《カクリヨ》を思い出す。あの日よりもフリントが重く感じるのは、残念ながら幻ではないのだろう。
 あの時と同じようにコンディションは万全に程遠いが、それでも現状|地獄《はらわた》が快調な分まだマシで、|雑魚を払う《振り回す》程度の余力ならば如何にかあるのは自分の筋肉を誉めてやりたい……力はいつもの十分の一だが。

「……ふう。|骨《かれ》らと繋がる手がこんなにも鈍るとは……」
 六島・椋(ナチュラルボーンラヴァー・f01816)が零した溜息も、霧に紛れて行方は知れず。何時もは器用に骨を繰る指先も、今回ばかりはナイフを弄び、放り投げられた鋭利な刃が、|幻影《災魔》達を貫いてゆく。
 けれども百発百中とはいかず、八割当たればいい方か。
 戦闘の間隙、焦茶の瞳で自身の指を見つめる。泥濘に捕らわれている様な指先の鈍さ。何をするにも微調整が効かない。人形遣いとしては致命的だ。率直に言って、気色が悪い。こんな状態では|骨《かれ》らと一緒に戦えない。怪我をさせてしまうかもしれないし、断腸の思いで、留守を任せるしかないだろう。
「全く。違和感がひどくて吐きそうだ……エチケット袋をお持ちの羅刹ライダーはいらっしゃいませんかー」
 抜き放った藤切で、どこか懐かしくも思えた|不良《ヤンキー》達を角材諸共散らしつつ、すぐ近くに居るであろうエスタシュを呼んだ。
「ああ? あるっちゃあるが……お前、いま胃袋に吐けるモン胃液以外にあんのか?」
 何時もの|軽口《ツッコミ》と同時、深い霧の前方に、|形状《カタチ》を変えた燧石の姿がちらりと見えた。
「そうだな……。うん。万国旗とかなら、頑張れば、何とか」
「いやそれは絶対呑み込んどけよこんな場面で吐き出していい|宴会芸《もん》じゃねぇんだわそれ」
 そんなジョークを吐いてる|余裕《ヒマ》があるんなら、今んところは無事ってことで良いんだな? と、確認ついでにエスタシュは、周囲の幻影を神通力で吹き飛ばす。
「そっちこそ。弱音は全部吐き出し終えたか」
 無銘の|短剣《ダガー》の一閃で、幻影の群れを攪乱しつつ一息に、椋はエスタシュまでの距離を詰める。
「そりゃ勿論。情け無ぇ|顔《ツラ》でシンディーちゃんの運転は出来ねぇからな!」
 霧に響く指笛に、答えを返すのは|シンディーちゃん《バイク》の轟音。エスタシュは無人爆走するシンディーちゃんに飛び乗って、ダガーの|反射《ひかり》を目印に、留まる事無く椋を回収する。

「一つ、いいか」
「……あん?」
 がたがたと揺れるシンディーちゃんの後部に収まった椋は、幻影の追撃を退けつつぽつりと一言、
「何か普段より乗り心地悪いんだが」
 飾り気も無くぶっちゃけた。それに対してエスタシュは、|大袈裟な《わざとらしい》くらいにこやかに、朗らかな調子で、
「アー、あー、業務連絡、業務連絡ー。ここで|業務連絡《アナウンス》がありマス」
「業務連絡。このタイミングでか」
「あのなー。シンディーちゃんは本来安定巡航タイプを戦闘用に改造しててな」
「それはなんとなく知ってる」
「戦闘時の出力はそりゃもうピーキーな訳よ」
 右に煽られ左に揺れて、シンディーちゃんの弾ける様な|激走《躍動》は止まらない。
「いつもはそのじゃじゃ馬状態のシンディーちゃんを、俺のイカしたライディングテクと『怪力』で捻じ伏せながら操縦してたんだよな」
 ハンドルが跳ね、駆体が飛んだ。座席上は最早ロデオの様相だ。エスタシュは自身とフリントの全体重を使って、全力で|シンディーちゃん《じゃじゃ馬》を抑え込む。
「ハイ、見ての通り怪力抜き・テクニックのみで戦場を駆けるので戦闘してるヒマがありマセン! じゃ、そう言う訳で、そこんとこよろしくな!!」
 がくんとスリップしかけたその瞬間、迫る災魔《ニキシー菅》の拳撃を、間一髪で躱しつつ、エスタシュは滅多に零さない安堵の息を吐いた。皮肉にも此処から先、エスタシュにとって最大の|乗り越えるべき壁《ライバル》は大魔王よりシンディーちゃんだった。
「成程。概ね理解した。が、その上でもう一つ良いか」
「おう」
「事後承諾が過ぎるだろ」
 車体が大きく傾いた状況を逆に利用して、椋は本来届かない位置に居た幻影へ|刀《藤切》の一太刀を見舞う。
「うん。悪ぃ。それじゃあ如何する? 降りるか?」
「まさか。だが、勢い余って地獄までは案内してくれるなよ」
 ああ、戦闘は任せたぜ相棒、と、エスタシュが笑って返してくるのなら、そう心配は無いだろう。|速度《足》は彼に任せていい。それなら自分は、|手勢《うで》を増やすとしよう。
 ……椋の|姿形《からだ》から黒い靄が滲みだす。滲み続ける靄は一瞬体を包み込み、そして九体の人のかたちに別れると――。

「ん……」
「……? 椋、どうした?」
 椋の動揺を察知したか、怪訝そうな声色で、エスタシュが声をかける。
「いや……何でもない、と思う」
 靄に包まれ、|霧《幻》から切り離されたその一瞬、『ここに在ってはならないようなモノが在る様な』、そんな違和感を覚えたが――霧の奥へと進むほどに、立ちはだかる幻影の密度はより色濃くなってゆく。今は気にしていられない。まずは突っ切ることを考える。
「……ハイネとやら。君がやりあった災魔やら何やらのことを教えてくれ」
 黒い靄のみならず、俄か霧に混じり始めた飴色の靄の発生源を辿ると、エスタシュの|シンディーちゃん《バイク》は先行する伽耶の|エブリロードバイク《バイク》に追い付き、|一時《いっとき》並走する。
「正確には、どういう姿をしていたか」
 人か、何かの複合体か、それ以外か。
 複合体なら何の生物に近しいか。
 付け加えるなら、この|幻影《災魔》犇めく霧の中で、最も厄介だったのは誰か――と。椋は伽耶の背中にしがみ付くハイネに尋ねた。
「ええとね……一番面倒だったのは、八割位人型で、手先が何と言うかドリルっぽくて、枝分かれしてる首に顔が4つで何かエゴイスティックな奴かな……」
 それはまた。随分とユニークな奴が居たものだ。実物を見たことが無いから、言葉だけではその容貌を想像しきれなかったが、シンディーちゃんと格闘していたエスタシュは何かしら、覚えがあるようだった。
「あー……あいつか」
「何だ、エスタ。覚えがあるのか」
「魔王戦争の時にちょっとな。仕様も無い奴だったが……ほら、噂をすればだ」
 エスタシュの倦んだ声音を遮るように、それは何の前触れも無く、進路上に現れた。その姿は、ハイネの説明に会った通り……。
「確かに八割人型、手先がドリルのようにとんがって、枝分かれしている四つの顔はどれもエゴイスティック……だな」
 そうとしか説明しようがないのだから仕様がない。
「だろ?」
「ちなみにエスタ。参考までに訊きたいが、戦争の時、こいつをどう料理したんだ」
「蜘蛛の巣切って燃やしてぶん殴った」
「平常運転過ぎて参考にならないじゃないか」
「そりゃ|万全《平常運転》の時に戦ったからな」
 ともあれ、エスタシュの手が塞がっているのなら、自分がやるより他にない。此処までさんざん幻影を相手にしてきた感触から、恐らくは幻のくせに律儀にも、骨格や急所まで再現していると考えていい。だとすると、蓄えてきた医術の知識とその応用は、問題なく通用するはずだ。
 いびつに嗤う四つの顔の|幻影《怪人》が、見るも悍ましい拷問器具の数々を生み出して、此方に迫ってくる。それでもエスタシュはアクセルを緩めない。これくらいならどうにでもなるだろうと、きっと|笑って《信頼して》居るのだろう。今回はあいつペーパードアのくせに、とは言わないでおくことにする。
 刃を携えた|靄達《シャドウズ》が、四つの顔へと立ち向かう。四つ顔は拷問器具を振り回し、幾つかの靄を霧散させるが、幻を生み出し続ける霧と同様に、シャドウズもまた椋が健在ならば消失することは無い。滲む靄はすぐさま次の影を補充し、後は数の暴力だ。
 人の形をした靄は、霧散と収束を繰り返した果てに四つ顔まで辿り着くと、枝分かれした怪人の|首根《急所》を掴み、高めた医術の赴くままに、幻影への|解体《オペ》を開始する。
 やがて怪人が数十の|部品《パーツ》に分割された頃合いに、新たな四つ顔が進路を阻み――ここから先は、千日手か。
 けれど確かに進めているのなら、それでいい。倒しきらずともシンディーちゃんが通れるだけの、最低限通れる道を作れれば上等だ。不安定な駆体の上で立ち上がり、靄達を援護するように、全方位へと容赦なくナイフをばら撒いた。

「――よう、椋。大活躍してるところちょいと悪いが、こっから先はどっかにしっかり掴まっててくれ」
 言って、シンディーちゃんを宥めながら疾走するエスタシュの青の瞳に飛び込んできたのは――|レオ・レガリス《第二形態》と|セレブラム・オルクス《第三形態》、二体の大魔王。
 幻とはいえこいつぁ豪勢な歓迎で、等と皮肉を口遊んでる暇もあるまい。性分ではないが、ここは|回避《逃げ》の一手だろう。
 此方の都合などお構いなしに、レガリスの腕部が全てを喰らう魔獣に変じ、オルクスの身体が呪詛を孕んでぐつぐつと溶解し始める。
「……振り落とされんなよ!」
「了解。しかし振り切れるか、ペーパードア」
「振り切りるんだよ! あと人の事ペーパードライバーみてぇに言うな!」
「あっ、すまん。今回はそういうの言わないつもりだったのに。悪かったなペーパードライバー」
「ペーパードアだ! ……って違ぇロックドアじゃねぇか!」
 エスタシュはシンディーちゃんを最速の形に変形させ、自身とバイクを黒縄荊蔓で無理矢理に縛り付ける。この形態は謂わばシンディーちゃんの真の姿。今はこうでもしないと、|乗客《椋》どころか自分まで吹き飛んでしまうだろう。
 呪詛を帯びた肉塊を捕食しながら、魔獣の顎がこちらに迫る。大きな顎に喰らわれながら、半溶解した肉塊が周囲に呪詛をまき散らす。これが|偽物《幻》だったとしても、まともに喰らってはいけないと一目でわかる醜悪さ。

 ――より速く。より高く。
 魔王の襲撃潜り抜け、最高潮に暴れ回るシンディーちゃんを|ギリギリのライン《力と技》で御しながら、エスタシュはそれでもアクセル全開に、先の見えない霧の中を駆け抜けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クーナ・セラフィン
…幻の竜も魔女も遠い、忘れ去られかけた昔話ってとこは同じかも。
でも幻竜は生きてて支配しようとする魔女猫はオブリビオン。
なら騎士として、魔女猫に引導を渡さないとね。

ハイネさんに同行して突破…の前にちょっと背負ったり抱えられるか確認。
結構動ける方だとは思うけどほら、空を跳ねたりは厳しいかもだし。
霧の中は一気に駆け抜ける。
止まったら多分ジリ貧、ならスタミナ続く限りダッシュで。
瞬間思考力と集中力で霧の中の道を見出し即決でルート取り、地形も利用して災魔達を振り切っちゃおう。
所々でハイネさんに声の方向こっちで合ってるかも確認しつつね。
どうしても邪魔な敵は革命剣で斬りつけ爆発のルーン記述した符で怯ませるようにして横や上をすり抜け。
大魔王軍団の幻に追い詰められたり道が途切れた場所で詰まった時はUC起動。
怪力でハイネさん連れて連続空中ジャンプで突破するね。
…大魔王第四形態、あの中の魔女の誰かが魔女猫に縁があったのかも。
考古学者として何かそれっぽいお話知らないかにゃーとか振ってみたり。

※アドリブ絡み等お任せ



 無明の迷霧に乱れ舞うのは六華混じりの花吹雪。銀槍一閃、見知った|青白い視線《ひかり》を潜り抜け、クーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)は、消えゆく|幻影《タイプライター》を置き去りに、全速力で駆け抜ける。
 どこかで見た|災魔《モノ》、見知らぬ|幻影《モノ》、何もかもが道を塞いでくるのなら――それら全てに区別はつけず、それら全てに符を投げた。瞬刻、符に刻んだルーンは輝き、連鎖的に引き起こした爆発が、新たな道を拓く。しかし拓いた道の数歩後ろに、再び幻影が出現した感覚があった。
 所詮は幻影。その実力は本物の災魔達には及ばない。しかし厄介なのは夢幻に沸き続けるその数だ。お陰でハイネを含む先行した|猟兵《なかま》達と分断されてしまったが……だからと言って立ち止まっても居られない。
 ――新雪の上に残るバイクのタイヤ痕。この|悪夢《ゆめ》の中で、しかし、仲間達が刻んだ痕跡だけは現実だ。ヴァン・フルールを銀竜に戻し、代わりに|革命剣《オラクル》を携える。幻竜の位置まではわからずとも、ヴァン・フルールが|竜騎士の槍《ドラゴンランス》であるならば、|竜騎士《ハイネ》を探す助けになるかもしれない。
(「実在を疑われた幻の竜。迷宮が出来上がるよりもさらに前の時代の、古の魔女。忘れ去られかけた昔話達――か」)
 宝石人形に刃を突き立て、クーナは瞬間、思考する。見てくれだけならロマンチックな取り合わせであろうが、魔女猫が幻竜の力を完全掌握した場合、待っているのは確実な大惨事だ。
 |死者《オブリビオン》が望むのは世界の破滅。今を生きている幻竜を、魔女猫の好きにさせるわけには行かない。
 ……クーナは密か覚悟を抱く。グリマルキンの出現は今回で丁度十度目。恐らくはミスター・グースとの決戦の時も近い。
 ならば今騎士として為すべき事は。
 ――魔女猫に、引導を。
 『宿縁』。その理屈はわからない。だが自分には――それが出来る気がした。

 吹き飛ばし、切り払い、集中し、すり抜け、やり過ごし、全力疾走。
 乱立するニキシー菅を足場に跳躍し、スタミナが切れかけるほんの直前、クーナはようやくハイネ達との合流を果たす。
 エスタシュの|シンディーちゃん《バイク》の隅に暫くちょこんと腰を掛け、差し出された回復薬を飲み干し、息を整える。
 霧の中を疾走する二機のバイク。つい先ほどまでと比べて幻影の密度も徐々に薄くなり始め、『景色は全然変わらないけれど、恐らくゴールはもうすぐだ』。伽耶の背に居るハイネはそう言った。
 その前に、少し訊きたいことがあるのだけれど。短い休息を取り終えたクーナが、ハイネに声をかけようとした刹那、霧の内から、一際異様な|幻影《かげ》が二体。
 ……|モルトゥス・ドミヌス《第五形態》と|ウームー・ダブルートゥ《最終形態》。
「……ハイネさん。飛んだりとか、跳ねたりとか、そう言うの得意なほうだったりするかにゃー?」
 具体的に訊きたかったのは|こっちの方《飛べるか否か》では無かったのだが。とりあえず雰囲気的なものを和ませようと語尾ににゃーがついてしまった。
「ええとね……!?」

 どん、と。

 二匹のケットシーのやり取りなど完全に無視をして、大地が大きく抉れた。
 吹き飛ばされる猟兵達。ひとところに居るよりは、一旦散開した方が良いかもしれない。
 大まかな終点を全員に伝え、自前の竜化させたドラゴンランスにしがみ付くハイネ。最終形態が呼び出した第一形態の、無暗に打ち出される砲撃をやり過ごし、クーナは彼と行動を共にする。
「……こんな感じかな」
 言いながら、見た目機械仕掛けのドラゴンが、爪先でハイネを引っ掴んで運んでいる。霧に踏み込む前に用意していたあの大荷物は、『秘密兵器』以外、先ほどの攻撃で落としてしまったらしい。
 こうなってしまうと単なるケットシーの成人男子だ。怪力に任せて運べない重量では無いだろう。
 仲間達の身を案じつつ、大魔王の気配を感じない今のうちに距離を稼ぎたい。ハイネの|案内《ナビ》の元に進路を微調整、まばらな幻影たちを縫うように躱し、只管に疾走する。
 その道すがら、クーナは先程訊きたかった事柄――魔女猫について何か知らないかと、ハイネに問うた。が、ハイネは申し訳なさそうに首を横に振る。
「残念だけど、彼女に関してはおれも専門外だ。アルダワの学者の大半は、彼女がオブリビオンとして蘇ったからこそ、彼女の功績と、失われてしまった魔術の事を思い出した。忘れ去られていたんだ。けど――」
「けど?」
「『蒸気幽霊の先輩』は『知ってるようで知らなくてでもやっぱりちょっと知ってる』って言ってた」
 ……確かに。時間の経過が忘却の原因だとすると、現代よりも古い時代の人間――現役でかつて大魔王と戦っていた蒸気幽霊達なら、知っている|存在《ひと》が居ても不思議ではないのかもしれない。
 ――無いのかもしれないが、何だその胡乱な言い回し。
 ……否。こういう言い回しをする『蒸気幽霊』の『先輩』に、クーナは覚えがある気がした。もしかして変なものが変な所で変な風につながっているのか。
「おれの専門は、どちらかと言えばこの霧のことかな」
 終点が近いからか、少し頭が冴えてきた。そう呟いて、ハイネは説明を続ける。
「幻竜さんには、人の記憶を読み、幻を見せる能力がある……あった筈。だからこの幻も誰かの記憶が大本になっている。それこそ――」
「……魔女猫グリマルキンの記憶?」
 猟兵達の到着を待たず、ハイネが強引に進軍しようとしたその時から、霧の中身はこうなっていた。
 霧の中に飛び込んだ猟兵達のそれでは無く、ハイネのそれでも無いのなら、答えはひとつしかない。クーナのその言葉に、ハイネは強く頷いた。
「防衛本能的に、幻竜さんはグリマルキンの|一番触れてほしくない記憶《トラウマ》を再現したんだ。災魔の種類と数を脚色してね」

「だとすると……」
 不意に、クーナは思い至る。
「この幻の中じゃ……」
 総毛立つような悪寒がする。悪意と悲劇の塊が、すぐ近くで形を成そうとしている。
「そのトラウマと一番強く結びついている|大魔王《ヤツ》が、この幻の中で一番厄介だったりするんじゃないかな……?」
 革命剣を構える。ずるりと、眼前の霧から出てきたのは、|ラクリマ・セクスアリス《第四形態》。多くの『魔女』を取り込んだ醜悪な怪人。その幻影。

 ――慕っていた人々がその身を挺しても、魔法使いの猫が抵抗しても力は全く及ばず、魔女は食べられてしまいました。

「……そうか。もしかして。あの中の誰かが……」
 同情はする。だが既に大魔王は打倒され、総ては過去の出来事だ。終わってしまった、もう覆せない人生模様。進むしか、無い。
 祝福されぬ子供達を切り裂いて、革命剣は血路を開く。刃から伝わる感触がひどく固い。符を爆ぜさせても効きが悪い。にもかかわらず、魔女の胎は次から次へと獣人たちを産み落とす。真っ当に相手をすれば時間だけが過ぎていく。目的はあくまで霧の奥に辿り着くことだ。相手をしても仕様がない。
 ――けれども少しだけ腹が立った。クーナはハイネを強引に掴んで跳躍し、空を跳ぶ。終点へ至る道は第四形態の背後。無意味な消耗を避けるなら、迂回するのがベストだろう。しかしクーナは迷いなく、真正面の一直線に空を駆け、|獣人《バッタ》の群れを掻き分けて、すれ違いざま魔王の顔面に一太刀見舞ってやった。
 相手は幻。傷つけることに意味など無い。だからここまで。クーナはあえて空を跳ねず真っ逆さまに落ちていく。
 
 落ち行く先は谷の底。後は地を這い堅実に。藍の瞳に決意を湛え、ハイネを抱えて終点へと急ぐのみ。


●霧の奥で輝くもの
 深くて真白い霧の最奥。幻影は途絶え、其処に在るのは猟書家・魔女猫グリマルキン。
 ……そのはずだ。だが何かがおかしい。白い闇の中で反響する戦闘音。幾多の攻防。渦巻く光。異質な気配。幻ならぬ何かと何かが既に争っている。
「――来たね。でも猟兵。でもちょっと待っててほしいにゃ。なに、すぐにカタはつく」
 グリマルキンの声がした。ヴェール越しに、光が煌めく。直後、圧倒的な光の奔流に吹き飛ばされたモノが、猟兵達の足元に転がる。
 それこそが、猟兵が霧の中で抱いた違和感の根源だった
「『エリクシル』。私の手から『何としてでも幻竜を取り戻したい』と、そう強く願ったヤツがいるね。こいつらが侵略しに来てる|竜神山脈《この場所》で、迂闊にも」
 魔女猫がそう話している間にも、よろよろと立ち上がるエリクシル。|猟兵《こちら》には目もくれず、願いをいびつに成就させるため、再びグリマルキンへと襲い掛かる。
「けど。所詮は大魔王の完全下位互換品にゃ。しょーじき気に食わない要素しかないし、お前さんたちとっても邪魔だろう? だから……」
 グリマルキンはただ一瞥、
「『砕けろ』」
 そしてたった一言の|力ある言葉《呪詛》で、エリクシルを完全に粉砕した。

「――少しだけ。昔話をしようか。|猟兵《イェーガー》
 きらきらと、宝石の破片が舞い落ちる中で――魔女猫は語る。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『魔女猫グリマルキン』

POW   :    不完全なる終焉視
【疑似的な『魔女』の予知能力により】対象の攻撃を予想し、回避する。
SPD   :    遺失魔術『フライハイ』
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【魔女より賜った大切な杖】から【無数の魔力の矢】を放つ。
WIZ   :    魚霊群の回遊
【空を舞う無数の鬼火纏う魚】の霊を召喚する。これは【鬼火の勢いを増した突撃】や【鬼火の延焼による精神汚染】で攻撃する能力を持つ。

イラスト:いぬひろ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠クーナ・セラフィンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●瞳の見えない場所で
※次回冒頭文更新三月八日(水)予定
 昔、昔のお話です。
 あるところに一人の魔女がおりました。『魔女』という恐ろしげな呼ばれ方をされながら、けれども彼女は|おっとりとした性格《善良》で、やさしく、多くの人々に慕われていました。
 とある一匹のケットシーも、その人を慕っていたひとりで、特に魔術に興味を持って、その人の教えを受けながらどんどん一人前の魔法使いとして成長していきました。
 ……平和で、穏やかで、幸福な時間でした。
 しかしそんな時間も長くは続きません。『魔女』の噂を聞きつけて、恐ろしき大魔王がやってきたのです。
 終焉は、何もかも唐突でした。どれだけの人間が懸命に立ち向かっても、ケットシーがどれだけ必死に抗っても全く及ばず……最早、ただひたすらに願い、祈ることしかできません。
「――そう。無知で無力だった猫は願ってしまったのです。|生命体《ひと》の希望を糧とする大魔王の前で。『私はどうなっても良いから、魔女様だけは生きていて欲しい』、と」
 そして大魔王は魔女を喰らい、|ラクリマ・セクスアリス《自ら》の血肉の一部とするという、最悪なかたちでケットシーの願いをかなえてしまったのでした。

「……何より腹立たしいのは。その時の願いがまだ生きているから、私は|猟書家《オブリビオン》に成り果てて、こんな遥か未来の悍ましい景色を見せつけられてるんじゃないかって疑念を捨てきれないことにゃ」
「悍ましい光景?」
 昔語りを聞き終えたハイネが魔女猫に問う。
「その後の私は、どこぞの世界から押し付けられた|大魔王《災厄》を打倒するために右往左往した人生だったけど――実際、大魔王を倒してくれた|お前さん《猟兵》たちには感謝しているよ。けどね」
 災魔と大魔王のみならず、|歯車のきしむ音と蒸気の煙《魔導蒸気文明》は魔女様の魔法まで見えないところに追いやってしまった。それだけは許せない。そう語る魔女猫の口調には、明確な怒りがあった。
「だからって!」
 現状に怒りがあるのはハイネもまた同様で、一息跳躍し、問答無用と自らの竜槍で魔女猫の右眼から脳天を貫く。が、魔女猫は頭部に風穴を開けたままにやりと笑い、
「全く、|猫《ヒト》が話してるって言うのにせっかちにゃー。まぁ、今時のケットシーにしては筋が良い方だと思うけど」
「生きてる……!?」
「普通に致命傷だよ。ただ、死に至るまでの時間をずうっと|遅延《ディレイ》させてるだけの話にゃ」
 ユーベルコードの無いお前じゃあ私を倒すことは出来ないね。穴が開いていたはずの魔女猫の頭部はいつの間にか、傷そのものを拒絶したかのように、完全な状態に戻っていた。
「人の希望を喰らう大魔王を、願いなんて決して抱くことのない無機質な|迷宮《牢獄》に閉じ込める。正直大魔王を打ち倒そうとしてた私にはなかった|発想《アプローチ》にゃ。けどこっちも間違っていたと思わない。何故なら――賢竜オアニーヴが死してなお縛られるしかなかった仮面を、私は自在に操れる」
 魔女猫が杖を翳したと同時、深い霧の内より大魔王の仮面が現れる。しかし竜の姿は何処にも。そこに在るのは仮面だけ。
 ……いや。
「竜神山脈に横たわるこの霧そのものが、ひとを惑わす形持たずの|幻竜《りゅう》の身体。いやはや。探し当てるのに苦労したにゃ」
 得意げに嘲笑う魔女猫。自身の力ではどうにも出来ないと理解したハイネはただ、拳を握り。
「……どうしてそんなに竜ばかりを突け狙う? 彼らがお前に何をしたって言うんだ?」
「――。……。何もしてないよ。何も、ね。ただ、私は、世界を助けて見せましたと偉そうに踏ん反り返ってるこいつらが、心底気に入らないだけにゃ」

「成程。だったら……!」
 今がその時と意を決し、ハイネは『必殺兵器』の封印を解く。呪布より姿を現したそれは、|獣奏器《楽器》の様な、|武器《槍》のような、猫の身長に比して長大の――。
「稀なる精霊たちが協力し、異端のガジェッティア達が改造に改造を施した対魔女猫用秘密兵器――奇槍|最凄気威闘《モスキイト》! これで――!」
 瞬間。槍が奏でた不可思議な旋律を耳にしたグリマルキンは顔を歪め……霧が震えた。仮面をかぶせられた幻竜が、強く魔女猫に抗っている。
「にゃんと、まさかこの音、こっちの魔力だけを搔き乱し……っ!」
 通常ならば、『秘密兵器』の旋律すら、魔女猫に及ぶ道理は無い。だが魔女猫が幻竜の制御に魔力を割いているが故、生じたその間隙に旋律が流れ込み、搔き乱し、幻竜がより強く足掻き、藻掻く。だが幻竜の制御を手放すという選択肢はあり得ない。蒸気の機械の産物に、膝を折るわけには行かないからだ。
 景色が変わる。僅か支配を逃れた|幻竜《霧》の意思が、猟兵達への技能の枷を取り外し、絶望に立ち向かうための幻を作り出す。再び魔女猫の記憶読み取って作り出されたそれらは、災魔でも、大魔王でも、|絶望《トラウマ》でも無く……。ただ、幾千の希望だった。
「……『あの時』まで、一緒に魔女さまを慕っていた友人《なかま》達。『あの時』から、一緒に大魔王と戦った英雄《なかま》たち。今はもう私だけが覚えている、蒸気の彼方に消えてしまった人々……幻竜め。トラウマの次は泣き落としか。これに相対する私こそがこの|幻《ゆめ》の中じゃ大魔王って、そういうことだろう?」
「魔女猫グリマルキン。生涯を大魔王を打ち破る為の魔術の研究、研鑽に捧げ、その発展に尽力したケットシーの英雄。お前だって、こっち側だったのに」
 ハイネのその言葉に、しかし魔女猫は自嘲するような笑みを浮かべ、
「けれど、私が真に遺したかった|魔女様の魔法《モノ》は、結局その事如くが失われてしまった。だから――」
 魔女猫は帽子から一冊の本を取り出す。
「死んで私が得たものは、たった一冊きりの|侵略蔵書《雑誌》だけ。ま、何の思い入れも無い分雑に扱えるのは利点だけどにゃ」
 魔女猫が帽子をひっくり返すと、何処に入っていたのか、『一冊きり』の侵略蔵書が無数に吐き出され……霧の空に乱舞する。

「――猫は忘れない。けれども|同僚《マロリー》が見つけ出せていないのなら、私の記した|恩人記念碑《それ》は、とっくに崩れ果ててしまったんだろう」
 どこか寂しそうな表情で、故に。と。魔女猫は杖を振るう。

「大魔王の仮面を繰り、竜を従え、魔女様の魔法を以て魔導蒸気文明を滅ぼす。この世界を代償に二度と消えない痕跡を――たとえそれが、魔女様の意思に反するものだとしても……!」
六島・椋
【骸と羅刹】
死してなお残るもの、残らぬもの
自分も何も思わないわけじゃないが
それはそれ、こちらも仕事でな

おーおー景気よく大炎上。気持ちはわかる
自分も今テンションが高い。指先の感覚が戻っているのもあるが
あの魚。骨が見える

さて存分に|骨《かれ》らと共に暴れる……といきたいが
こいつはあったほうがいいだろうな
仕事だ、藤切

引き続きバイクに乗ったまま【破魔】で斬る
霊であろうと「魚」であれば
八割位人型で手先がドリルっぽく枝分かれしてる首に顔が4つで何かエゴイスティックな奴よりは|解体《さば》くのは容易だろう
あれはあれで興味があるが

おい君の馬鹿力であの仮面ベリッと行けたりしないのか
可能なら【破魔】で援護しとこう


エスタシュ・ロックドア
【骸と羅刹】

|過去《オブリビオン》になっちまったお前に、
この世界の選択を今更どうこうできる道理は微塵もねぇよ
それにな、幻竜にとってのハイネみてぇに、
このさき思い出してくれるかもしれねぇ奴ごとぶっ飛ばすつもりか?

今度はおしとやかに頼むぜシンディーちゃん
引き続き【騎乗】【運転】
椋とタンデム
いやホント骨にゃ目敏いなお前

『群青業火』発動
ブルーフレアドレスに点火
シンディーちゃんごと火炎弾になりながら戦場を【ダッシュ】で駆けまわる
もちろん椋を燃やさねぇ様に敵以外に延焼はなし
魚霊の攻撃は【火炎耐性】【呪詛耐性】【狂気耐性】で耐えて、
【カウンター】で焼き返してやる

仮面か、閃いた
敵に突っ込んで体当たりで攻撃
もちろんUCで回避されるがそのまま突っ切る
顎があんなら歯ぁ食いしばってくれや幻竜
フリントを【怪力】で仮面に振り当てて【吹き飛ばし】を図るぜ



 奇妙で、どこか懐かしさを感じさせる旋律が、椋の耳朶を打つ。
 気ままに揺蕩う無数の怪魚がぼう、とその身に炎を燈す度、|戦場《霧》は魔女猫の意のまま蝕まれ……しかし脅威に膝は折るまいと、|戦士《幻影》達が立ち向かう。恐らくは、生前の魔女猫がそうであったように。
 消えては現れ、現れてはまた消えて、両者ともにその繰り返し。幻影と幽霊の闘争は何処まで行っても一進一退の千日手。ならばこそ、ここに勝利と言う名の風穴を穿つのは猟兵の役目だろう。
 幻影達への援護も兼ねて、空に目掛けナイフを放った。鋭利な刃の切っ先は、魚霊の群れの小さな隙間を素通りし、さらにその奥、侵略蔵書の一冊を射貫く。さながら絶命したように、ぽとりと落ちる本一冊。無数のうちの一つを|破壊《こわ》したところで魔女猫には何の痛痒も無かろうが――重要なのはそこじゃない。椋は改めて、己の指先を確かめた。
「随分と慎重だな、椋。指の感覚はもう戻ってるんだろ?」
 すぐ近くにいたエスタシュが、|フリント片手《片手間》に魚霊達を払いながら椋にそう訊いた。
「|骨《かれ》らに不格好な動きはさせられない。念には念をだ。そういうエスタは――」
 |怪力《ちから》ずく、振り抜かれた鉄塊剣が、一拍遅れて|強風《かぜ》をよぶ。煽りを受けた後ろの方で、ハイネが一瞬飛んでいた。
「まぁ……訊くまでも無いな。|平常運転《元気》そうで何よりだ」
「おう。バイク乗りは体が資本だからな。いつまでも鈍ってるわけには行かねぇさ……ところで椋よ、快気次いでにもう一つ、気になることがあるんだが」
 言って、エスタシュはむず痒いような、記憶の奥底に何かが引っかかっている様な、怪訝な|表情《かお》を椋に向けた。
「さっきから流れてるこの|旋律《おと》。何かこう……云い知れない|既視感《デジャヴ》をめいたモン覚えるんだが……お前は何か知ってるか?」
 奇妙な旋律。不可思議な旋律。
 いや。この響きはメロディと言うよりも、むしろ獣の鳴き声に近い気がする。エスタシュがそう自分の所感を語ると、椋は『……ああ、そうか』と一人納得した仕草を見せる。
「エスタはあの時確か耳を塞いでいたからな。気付かないのも無理は無い」
「……耳を塞ぐ? 俺が? そんな事あったか?」
「あったろう。だからこれはほら、あの時と同じ――」

『どぅんぱ』
『どぅんどぅんぱ』

「|精霊《カピバラ》達のボイスパーカッションだが」

「――なんでだよ!?」
 何たるシリアスブレイカー。そりゃ魔女猫だって具合を崩すだろう。エスタシュは割と初めてグリマルキンに同情した。
「あの時聴かなかったメロディが巡り巡って今ここに。伏線回収、だな」
 そんな伏線の回収のされ方があってたまるか。誰か早急に解説してほしい。
『だったら俺が解説するにゃー』
 いきなり誰かと思ったら、唐突にハイネの持つ槍が喋りだした。何だこれ。
「この声……血斗死威のミケ総長か。懐かしいな」
 全く|真剣《シリアス》な調子で椋が話しを進めようとしている。
「|録音機能《オーディオコメンタリー》だね」
 極々普通にハイネがそう答えたが、何で秘密兵器にそんな物がついてるのか。
『来たるべき日に備え、俺達血斗死威は蒸気幽霊先輩のアドバイスの元、カピバラ先輩達とコラボして、猟兵先輩たちの交戦データを元に休日返上で対魔女猫用秘密兵器を組み上げて、|初代総長《ハイネパイセン》に託したんだにゃー』
 しかし、頓珍漢な展開から繰り出された|解説《アンサー》は、そこそこに真っ当なものだった。
『突っ張ってても俺達一匹のケットシー。魔女猫には、ちょっと思うところあるんだニャ。だから猟兵の先輩たち。猟書家だか何だか知らにゃーけど、彼女の凶行を止めて欲しいにゃ。それはきっと、|猟兵《センパイ》達にしかできないことだから――俺たちの魂託したニャー! 以上! 録音トラック1終わり! 夜露死苦にゃ!」
『ふぁいふぁい!』
『ぱかぱか』

「……だとさ。あの滅茶苦茶やってた後輩達も、中々|立派《ビッグ》になったもんだ――どうするエスタ」
「……どうするって? そりゃ決まってる。あいつらの兄貴分として、格好の悪い真似は出来ねぇよ!」
 全く同感だ、と、二人は頷いて、魔女猫の元へ征くために、エスタシュはシンディーちゃんを呼び――。

 ――寄せようとしたその刹那、エスタシュの視界が歪む。
 何が起こったか、状況を確認しようとしたエスタシュの眼前に在ったのは――椋でもなく、ハイネでも無く、倒すべき魔女猫・グリマルキン。
「自分の意思に関係なく無理矢理彼方に『召喚』される。なんて、今の世の中じゃありふれた話だろう?」
 二人の気配はない。魔女猫の言う通り、自分だけが強制的に移動させられたのだろう。そう理解した瞬間、魔女猫の杖先に収束するのは魔術の光。
 ……ここは退くか。いいや恐らく追い付かれてしまうだろう。
「|過去《オブリビオン》になっちまったお前に、この世界の選択を今更どうこうできる道理は微塵もねぇよ」
 ならば、とエスタシュは前進し、全身の傷跡から炎を噴き上げる。群青色の羅刹の猛襲に、魔女猫はしかし『視えて』いるのだろう。にやりと笑い、魔術の|照準《ひかり》は揺るがない。
 ――上等だ。
「……それにな。幻竜にとってのハイネみてぇに、この先思い出してくれるかもしれねぇ奴が出てくるかもしれねぇ。その可能性ごとぶっ飛ばすつもりか?」
「今更だニャ。そんな未来が永劫『視え』はしないから……私はこの世界に見切りをつけた」
「そうかい!」
 拳を強く握りしめ、割けた手のひらから更なる業火が滲む。見えていようが関係ない、ダメージ覚悟で勢い拳を突き出した瞬間――。
 影も無く、合図も無く、業火より、『視界』の外から|白骨《オボロ》が現れて、こちらに合わせ同時に魔女猫を殴り抜く。
「こんな風に。視えていた未来なんてすぐに変わる。簡単に見切りをつけてしまうのは、勿体ないと思うがな」
 群青の炎に照らされて、オボロの影がゆらゆらと、大小濃淡形を変える。白骨を操る椋の肩には、小さな|白骨《ネコ》が留まっていた。
「……確かに。常日頃から『そう』してるお前さんたちが言うと説得力あるにゃー……けれども、|終焉《おわり》を覆すなんて、私にはずっとずっと縁の薄い話。それが出来ていたのなら、きっと|猟書家《こう》はなっていない」
 魔女猫が杖を翳すと、そのその先端から幾重もの蜘蛛糸が放たれ、オボロと椋を繋ぐ操り糸を絡め取る。
 かくんと、|意図《糸》の鈍った白骨が力無く項垂れた。
「ひでぇな。こんがらがってら。良し、ちょっと待ってろよ」
 群青業火が蜘蛛の糸のみを焼き尽くし、オボロは再びかたかたと動き出す。オボロ自体に傷は見られないが、魔女猫の姿は既になく、即ち仕切り直しを強要されたのだ。接近戦を不利と見て、得意な間合いに誘い込むつもりだろう。
「そうはさせねぇ。思惑ごとぶっちぎってやる。そんな訳だから、今度はおしとやかに頼むぜシンディーちゃん」
 今度こそ、エスタシュは駆け寄って来たシンディーちゃんに跨って、|ブルーフレアドレス《エンジン》に|群青業火《火》を入れる。
 ごう、と噴き出した業火はエンジンのみならず、エスタシュごとシンディーちゃんの躯体全てを包み込む。
「おーおー。景気よく大炎上。まぁ、気持ちはわかる。実を言うと自分も今テンションが高い」
 指先の感覚は確りと。椋の感情を糸伝いに証明するように、オボロは腕を組んで高笑い。そして何より、と勿体ぶるように息を溜め、
「あの魚。骨が見える」
「おう。知ってた。いやホント骨にゃ目敏いなお前」
 そんなやり取りもいつもの話。青い炎が、椋を決して燃やさないのもまた、そうだ。

 炎に包まれたシンディーちゃんが、二人を乗せて鬼火の満ちる戦場を駆け抜ける。
 淑やかに、荒々しく、|業火《ひかり》と轟音《おと》で着飾って、|自由奔放《縦横無尽》に疾走するその姿は怪魚の死線を寄せ集め、行き先全てが大渋滞。
「作戦は?」
「|耐性《気合》で耐えて返り討ち」
「了解」
 押し寄せる鬼火は|肉体《にく》を焼き|精神《こころ》を壊すもの。だったら先に壊せばいい。眼を開き、歯を食いしばり、エスタシュはアクセル全開魚群に突っ込んで無理矢理に、鬼火たちを焼き尽くす。
 ダメージの渦の中での大暴れの大立ち回り。ならば自分も見ているだけにはいかないと、椋は十の指に繋がる骨格人形達を解き放つ。人骨が撃ち、蝙蝠が飛翔し、鷲獅子が切り裂き、そして、それらを繰りながら、椋本人は刀を引いて、
「仕事だ、藤切」
 破魔の力を帯びた刃が、魚霊達を両断する。
 怪魚。魚霊。何のことは無い。どんな二つ名が在ろうとも、それが見知った形なら|解体《さばく》のは容易だろう。
 難度で言えば、八割位人型で手先がドリルっぽく枝分かれしてる首に顔が4つで何かエゴイスティックな奴の方がよっぽど上だった。
 ……あれはあれでかなり興味深かったが。結局幻だったのが少々惜しい。

「興味深いと言えば、おい、君の馬鹿力であの仮面ベリッと行けたりしないのか」
「……仮面か、閃いた」
 渦の中を散々にのた打ち回ってやったお陰で、手薄になった敵地から、蔵書と鬼火の内に隠れて居たグリマルキンの姿を捉える。
 こちらの音と光は隠しようも無く、故に魔女猫には『視えて』いるのだろう。それを証明するように、侵略蔵書たちが無数の|碧水晶の石板《モノリス》を乱立し始める。だが構うものか。
 石板より迸る光。加速・減速・左傾・右傾、エスタシュはそれらを掻い潜り、魔女猫目掛けて突撃するが、やはりグリマルキンは全てを見越していたようにシンディーちゃんの射線から逃れ――。
「死してなお残るもの、残らぬもの。自分も何も思わないわけじゃないが――」
 しかし蜘蛛の糸の如く、骨格人形達は逃さない。サカズキ達が退路を塞ぎ、オボロが引き寄せ、ハガネが据えるのは、藤切の必殺圏内。
「――それはそれ、こちらも仕事でな」
 惑いなく。破魔の刃に|骨《かれ》らへの愛を乗せて、椋はグリマルキンを真二つに断ち切った。
 この霧の中で初めて感じた現実の肉と骨の感触。だが後ろを振り向けば、切り捨てたはずのグリマルキンはまるきり無傷で、すぐさま此方へ魔法を繰りだそうとしている。
 不死身か。いや。これまで|猟兵《なかま》達が九度倒しているのなら、今回も倒しきれるはずだ。ならばまずは――。

「顎があんなら歯ぁ食いしばってくれや幻竜!」
 最高速度のシンディーちゃんのその上で、エスタシュは|怪力《全力》の赴くまま思い切り、幻竜の顔を覆う仮面にフリントを叩き当てる。鈍い音。伝わる感触。手ごたえはあった。
 しかし仮面は吹き飛ばず、外れたのは目論見と――魔女猫の幻竜への支配率。
 精霊が謡い、|戦士《幻影》達が活気づき、魚霊がじわりと圧され出す。

 ――勝利への風穴は、確かに。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神崎・伽耶
おおぅ、ケモノの槍の超振動!
そういや、竜の咆哮には付随効果があるって研究結果もあったかしらん?(訝し顔)
流石はハイネちゃん、良い仕事だわ~。

さてと、飴ちゃん効果も切れたことだし、本気出していくわよ!
ハイネちゃんにアイコンタクト、フルスロットルで、魔女猫ちゃんに突撃!
速度じゃ勝てないけど、咄嗟の対応なら負けないわよ~?
ユーベルコード、解放!

不幸な魚霊たち(珍味かっこ仮)はあとで回収するとして。
アナタ、立派なネコちゃんだったみたいね。
ほら、あたしの幸運がうなぎ登りよ!

魔力の矢を、小手で全て跳ね返しながら。
狂気に呑まれた方がいっそ幸せかも、って思ったんだけど。
所詮は旅人の戯言、なのかもね?



 |言語《こえ》ならぬ幻竜の咆哮が、霧の戦場を震わせる。
 それに呼応するように、剣が閃き、魔術が爆ぜ、弓矢が飛んで、幻の英雄たちの抵抗は、より激しさを増してゆく。
 いくら似姿《かたち》だけと言え、かつての知己たちと刃を交えなければならぬこの状況……果たして魔女の猫の瞳には、どのように映っているのだろう。
「そういや、竜の咆哮には付随効果があるって研究結果もあったかしらん?」
 それともやっぱり違ったかしら、と帽子越し、胡乱な調子の頭を叩いて伽耶は怪訝な顔をする。それでもこんな状況で、眠気なり食い気なりを覚えるのは、特段気抜けてる訳で無く、緊張してる訳でなく、極々普通の、|自然体《いつもどおり》の証だろう。
 ハイネから貰った|携行食《ゆずのゆべし》を頬張りつつ。駄目になっていた勘も、ようやく戻ってきた。
「あったりなかったり、そこの所は竜によるね。幻竜さんの呼び声は……幸運とともにやってくる、なんて聞いたことあるよ」
 傍で槍を掲げ続けるハイネが、伽耶の疑問に答えた。
「それは、声にそう言う|『効果』《バフ》があるってこと?」
「効果ってよりは……どちらかと言えばジンクスに近いんじゃないかな」
「ジンクスかぁ。良いんじゃない? そう言うの。何だかご利益ありそうな……拝み倒したら、こっそり金運とか上がってくれたりしないかしら?」
 それは流石に如何だろう、いやもしかするとあり得るのかも……? とハイネは学者の顔を覗かせて、生真面目唸って考える。激闘の合間、幻影達の奮闘で、少しだけ、楽にできる時間があった。
 それもそろそろ終わらせて、伽耶は残りのゆべしを口中に放り込むと、止めていたばす停を回収し、停めていたエブリロードバイクに火を入れる。
『休憩時間ガ終ワッタヨー』
『栄養補給ハ大事ダヨー』
 相変わらずばす停が何か喋っている。コイツはどうあっても煮ても焼いても食えないばす停だが、彼(……?)の食べ物に対するコメントには、何故だか妙に一定の含蓄がある気がした。何故だか。
「さ、それじゃ魔女猫退治を続けましょ。ハイネちゃんもまた後ろにどう?」
 言って、バイクの|座席《うしろ》を叩いたが、しかしここから先は足手まといになるかもしれないと、ハイネは首を横に振り、自身の懐からとあるモノを取り出した。
「それは……笛?」
 犬笛に近しいその形状。どこかで見たことあるような。
「そうだね……これはDXアナザー精霊笛-MEMORIAL EDITION-だ」
 ――思い出した。比較すると少し大きくて少し|豪華《リッチ》な造りだが、確かに|蒸気幽霊《オーブチ》先輩が持っていたモノに似ている。
 精神を研ぎ澄まし、ハイネが精霊笛を奏でると、霧の外より弾むような足音が近づいてきた。
 それは――霧に浮かぶ特徴的なシルエット。
 すらりと伸びる長い首。
 全身を覆う毛色は純白。
 言うまでも無くもっふりしており、
 駱駝にもよく似たそのフォルム。
 やがて伽耶の前に現れたのは――そう。
「ぱかぱか」
「とてもぷりてぃーなルックスしてるだろう。先輩から受け継いだこいつが、おれの足になってくれる筈だ」
 見事な毛並みのアルパカだった。
「あ。もしかしてあの時の! 意外な所で意外な再会だわー」
 バイクの上から手を伸ばし、アルパカに触れてみた。
 ……この天上のモフモフ感は間違いなく、一緒に駆けたあの時の。
「この子が居るなら大丈夫ね。私の時も何だかんだでなんか凄かったし」
「ぱすたいむず!」
 円らな瞳に反して、回避、命運、その他諸々全部任せて本当に全部やり切った奴だ。鳴き声の意味は相変わらず良く解らないが、伽耶にしてみればこれ以上ない援軍と言えた。多分。きっと。そうかもしれない。
「うん……? もしかして君があの伝説の……!?」
 そして知らないところで知らないうちに知らない伝説が打ち立てられていたらしい。
「兎も角、飴ちゃん効果も切れたことだし、本気出していくわよ!」
 ぐだぐだしてるようでいて、なんだかんだ準備は全てすべて整った。伽耶はハイネとアイコンタクトを交わすと――フルスロットルで最前線に突っ込んだ。

 魚霊達の大歓迎は途切れなく。燃やすわ突くわの乱痴気騒ぎが後から後から押し寄せて、初めのうちは|真剣《シリアス》に、一匹一匹マスタードソードで文字通り捌いていたのだが、何より数が多すぎる。勿体ないと思いながらも途中から|衝突事故《ドリームロード》気味に魚たちを弾き飛ばし、追いかけるのは霧の中でも鈍く輝く|魔力の光《グリマルキン》。
 世の為|明日の生活《未来》の為、どさくさ紛れに何匹か、|珍味かっこ仮《魚霊たち》を魔法鞄に攫ってしまおうかと考え始めた頃合いに、前方から幾条もの魔力の矢が飛んでくる。
 味が気になるところだが、どうやら回収は後回しにするしかなさそうだ。極力速度は緩めずに、ハンドル捌きの見せ所。
 一つ、炎の矢を躱し、
 二つ、水の槍を避け、
 三つ、石の礫が掠め、
 四つ、風の刃を弾く。
 そして五つ目。超高速度で距離を詰めてきたグリマルキンが、杖先に全ての属性《いろ》を燈していた。
 伽耶は咄嗟、ソードを振りぬくが、既に魔女猫の姿はそこになく。
 ――|速度《スピード》じゃない。残像も残さず一瞬で消えていた。追跡すべきは姿ではなく、魔力だ。
「……超スピードで空飛ぶ上に|瞬間移動《テレポーテーション》は、ちょっと反則じゃない?」
 自身の後ろへ――気配を捉えたグリマルキンに非難の言葉を投げかける。
「なに、結局全部|補助《サブ》だよ。本命はあくまで|空を飛ぶ奴《フライハイ》にゃ」
 リミッターを解除して、これ以上ないくらいスロットルを全開にしてるのに、魔女猫の気配は離れない。単純に向こうの方が速いのだ。
「……へぇ。何か思い入れが有ったりとか?」
 息を整え飄々と、機を見計らう。
「最初に――魔女様が生きてるうちに覚えられた|遺失魔術《モノ》が唯一これだった。私の原点にして奥義と言う、ただそれだけの、昔話」
 ――まだだ。
「アナタ、立派なネコちゃんだったみたいね」
 ――まだ。
「何もかもが過去の話にゃ。今ではもう、何も残っていやしない」
 後ろから聞こえる魔女猫の声音には、僅か郷愁の色が帯びている。
 ――故に。今だ!
「……だとしても!」
 世界を滅ぼすような真似はさせられない。まるで意思を持つように波打つ|鞭《ヒップホップ》が、魔女猫の虚を撃ち据えた。
「どう? 咄嗟の対応にしちゃ上手い方でしょ?」
 ヒップホップを護衛役に、伽耶はバイクを反転させ、改めてグリマルキンと対峙する。
「そうだにゃー……だったらまずはその機転を奪ってみようか」
 瞬間。伽耶の瞼が、異常なまでに重くなる。睡魔だ。魔女猫が霧を|隠れ蓑《ヴェール》に眠りの雲を混ぜ込んでいる。
 眠い。抗い難きまどろみ。その間にも、無数の本が展開し、数え切れない怪魚の群れが此方を睨めつける。
 力が抜ける。無意識にハンドルから手が離れようとした、
 その、
 刹那。
「ぱっしょねーーと!」
「させないよ!」
 横合いから、奇槍を携えたハイネが魔女猫を強襲する。周辺の侵略蔵書を寄せ集め、魔女猫は難なくハイネの一撃を防いで見せるが、一際大きな振動と同時、槍が一瞬輝くと、不可解なほどひどく驚いた様子で飛び退いた。
 やはり、おれじゃ最後の一撃とはいかないか。誰に聞かせるわけでも無く、ハイネはぽつりとそう零す。
「おおぅ、眠気も覚めるケモノの槍の超振動! 流石はハイネちゃん、良い仕事だわ~」
「大丈夫かい? 眠気覚ましなら一本あるけれど……」
 そう心配そうに労わるハイネへ、伽耶はぱちんと自身の両頬をいきおい叩くと、大丈夫♪、とにやり不敵な笑みを返す。
「――ユーベルコード、解放!」
 もらったものは何であれ有効利用させてもらう。食い気と躊躇いと、そして最大級の眠気を解放し、伽耶が挑むのは最後の賭けだ。
「ほら、あたしの幸運がうなぎ登りよ!」
 奪い去るなら魚霊だけに留まらず、|運気と正気と勇気《いろんなもの》もがっつりと。奪ったそれらを問答無用で自身の幸運に変換し、鏡の小手の掌を、グリマルキンへと突きつける。
 怯えがそうさせるか、正気を失いながらも距離を取り、無数に撃ち出される魔力の矢。
「ここから先は旅人の|戯言《ひとりごと》。狂気に呑まれた方がいっそ幸せかも、なんて。そう思ったんだけど……」
 しかしハーフミラーは全くの|幸運《偶然》にそれら全てを跳ね返し、皮肉にも、自身が極限まで練り上げた魔力が、徹底的に魔女猫を苛んだ。
「まだニャ! 魔女様の魔法は――!」
 それでも魔女猫は攻撃をやめない。一時的に正気を失っているからか――いいや。だからこそだろうとハイネは言った。
「猫は忘れない。だからきっと、何をどれだけ失っても最後に残っているモノこそ、彼女にとって一番強い『つながり』なんだと思う」
 世界を壊す|化け物《オブリビオン》である前に、彼女もまた|猫《ケットシー》なのだと。
 そして、その『つながり』の名前こそ――。

「たとえ朽ちて果ててしまったとしても、決して誰にも奪う事の出来ない『絆』、ね」
 伽耶は意を決し、黒の瞳でしかと魔女猫を見据え……ソードに|属性《炎》を迸らせる。

「――わかったわ! だったらそっちの気が済むまで付き合ってあげようじゃないの!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

マウザー・ハイネン
…どれだけ研鑽を積んだのでしょう。
"やり直し"まではないのが救いですが。
…霧は魔竜を思い出しますが、救う為死力を尽くします。

魔術、特に死角への転移に警戒しつつハイネ様の護衛。
姿消えたら直感で対応、必要に応じ彼抱え回避。
破魔の魔力纏わせた氷細剣で魚群を除霊しつつUC起動。
吹雪で魔女猫を凍てつかせ、飛来する聖剣一本装備し倒れ難さ…防御力等強化しつつ他の聖剣に破魔の力籠めて仮面に投擲し支配を妨害。

…個人的に。努力は報われるべきと考えます。
貴女自身が果たせずともその姿や行いが誰かに伝わり遂げられたと。
魔女の魔法も一時失われても再び甦るかもしれませんよ。
考古学者の方とかいますしね。

※アドリブ絡み等お任せ


ラウラ・クラリモンド
「覆水盆に返らず。猟書家になってしまった今のあなたの行動は邪魔をさせていただきます。」「私は攻撃を牽制程度に抑えつつ、他の猟兵の方の行動を邪魔しにようにしましょう。」(常にハイネさんの傍に居て、いざという時には【かばう】行動をとります。)
【WIZ】で攻撃します。
攻撃は、【フェイント】や【カウンター】を織り交ぜながら、【貫通攻撃】と【鎧無視攻撃】の【死女の恋】を【範囲攻撃】にして、『魔女猫グリマルキン』と召喚された者達を纏めて【2回攻撃】します。相手の攻撃に関しては【残像】【オーラ防御】で、ダメージの軽減を試みます。
「私の役目は、少しでもあなたにダメージを与える事。そして、あなたに滅びを与える事ができる方に繋げる事です。」
アドリブや他の方との絡み等は、お任せします。



 いつの間に張り巡らされていたか――視えない何かに圧し潰されるような、みしりと軋む重力の檻を無理矢理獣の爪で抉じ開けて、マウザー・ハイネン(霧氷荊の冠・f38913)は勢いそのまま躊躇なく、魔女猫を引き裂いた。
 はっきりと、己が腕部で確かに為した事。止血不能のその一撃は、魔女猫の体躯より致死にも至る|血飛沫《しぶき》を噴かせ――しかし、たったそこから数瞬後、まるきり無傷な魔女猫が、平気な顔で次の魔法を詠んでいる。
 ――失われていた魔術。空を覆う意志持つ|霧《大気》。別世界の見知らぬ戦場で、思い出すのは終焉に抗い続けていた戦いの記憶。
 故にこそ、『そこ』に至るまで、魔女猫がどれ程の研鑽を積み重ねてきたのか……マウザーは直感的に理解する。死力を尽くさなければ、きっと幻竜の救出には届かない。
(「『やり直し』まではないのが救いですが」)
 猟書家とて、望みのままに世界を作り替えることなど叶わない。
 ……けれど。大魔王によってすべてを食い荒らされ、その後遥か未来で世界を滅ぼすため何度でも蘇る……それが彼女の|終焉《エンディング》だというのなら、余りにも。
 魚霊が群がる。それらが鬼火を噴く前に、氷槍一振り薙いで払うが、魔女猫は魚霊達を目くらましに、マウザーとは全く別の方角に杖を差し向ける。狙いは……ハイネだ。
 魔女猫の周囲に展開する複数の魔力球。揺蕩う光の眼差しは、全てハイネに注がれ、瞬き――しかし。

「そう思い通りには行かせません!」
 ラウラ・クラリモンド(ダンピールのマジックナイト・f06253)が光の進路を遮って、その身を盾にハイネを逃す。
 光の豪雨に曝されたオーラが揺らぐ。それでもこの一時を凌げれば、勝ちへの道も見えてくるだろう。
 標的を違えた魔力球はやがてぎょろりと|光《視線》を動かして、再びハイネを睨めつける。その挙動に、『やはり』と確信を抱いたラウラは、光の途切れた隙を大胆に、魔力球もろとも魔女猫目掛け血染めの鎌を振り下ろす。
「覆水盆に返らず。猟書家になってしまった今のあなたの行動は邪魔をさせていただきます」
 悪夢の聖夜。真二つに分かれるグリマルキンの身体。しかしやはり、瞬き一つ挟んだ後には負った傷そのものを拒絶したかのように元に戻り、ならば、どちらかが斃れるまで続けるより他あるまい。ラウラは返す刀で鎌を巨大化させ、魔女猫が行動を起こすより先に轢き潰す。
 ……つい先ほどから――ハイネの槍が一瞬輝いたその後から、魔女猫の行動に変化があった。それまで『蒸気の機械の産物に、膝を折るわけには行かない』と、あえてハイネの槍の存在を放置したまま真っ向から叩き潰す姿勢を見せていた魔女猫が、|現状《いま》ではまるでその存在を恐れるように、執拗に槍へ攻撃を仕掛けて来ている。
 形勢が悪くなったが故の行動か、それとも――。何れにせよ、魔女猫の好きにはさせられない。
「悪夢ならもう、死ぬほど見たとも。本当に本当の意味でね」
 無数の侵略蔵書がラウラを囲む。独りでに頁がめくれ、巻き起こるのは不可視の衝撃波。
 魔女猫の攻め手に加減なく、牽制一つやるにしろ、大立ち回りが必要だ。|炎刀《デイジー》、|氷剣《ヴァイオレット》、二刀を持って魔導書群を斬穫し、包囲網に穴をあけ、|場《みち》を拓くと剣戟乱舞。残像をその場に残して|錯視《フェイント》を誘い、焦れて放たれた魔法矢の、|後の先《カウンター》をとって魔女猫を斬り伏せる。
 炎と氷が交差して、宙を舞う魔女猫の部品達。
 今度はいくら瞬きを重ねようと元に戻ることは無く。ただ忽然と――霧の中に消えた。

 ――ならばかの猫の狙いはひとつだろう。霧の死角からきらりと顔を覗かせた魔力の輝きを、マウザーは一瞬として見逃さず、直感のまま姿形も朧げな靄に|革命剣《エフェメラ》を突き立てた。
 心の臓腑を貫いた感触。露わになる魔女猫の姿。ふ、と。マウザーは、魔女猫の瞳を覗き込む。
「面白い|終焉《モノ》は見えたかにゃ? エンドブレイカー」
「……! 貴女は、何処まで……?」
 おや、図星とは。私の勘もなかなか捨てたモノじゃにゃいらしい。言いながら、魔女猫はずるりと剣を引き抜いた。
「別に何も知らないし、興味なんてないにゃ。お前達は『打ち果たし』、私は『打ち果たせなかった』。ただそれだけ。そこに恨みも憧れも無い……けどねエンドブレイカー」
 大魔王にせよ魔竜にせよ宝石にせよ。お前たちの世界の産物が他所の世界に迷惑をかけていることは、もう十分に知っているんだろう? 魔女猫は嘲笑う。
「『だとすると』。お前達のやって来たことはただ――見るに堪えないモノを、|瞳《視界》の届かない|世界《ばしょ》へ除けていただけなんじゃ無いのかにゃ?」
 魔女猫が杖を翳す。全てを削り取る黒球が、瞑目するマウザーに迫る。
 ……迷いがあるわけではない。返す言葉は決まっている。ただ、少しだけ――魔女猫の瞳から彼女が辿るべき終焉が見えた気がした。
「『だとしても』。私達がやるべきことは一つきり」
 破魔の力を湛えた|氷細剣《ジュデッカ》が、吹雪を呼ぶ。吹雪が魔女猫の四肢を凍結せしめ、動きを縛ると、マウザーはただ、これまでの|激闘《旅路》がそうであったように――。
「その終焉を、終焉させるまでです」
 決意の一撃を、魔女猫に見舞った。
「……そうかい。そうだろうね。だったら――」
 それでも遅延と拒絶と、世界を滅ぼす意思がある限り、魔女猫は斃れない。風の刃で自身の四肢を切断し凍結から逃れると、天高く杖を掲げ、

「残像もオーラも氷結もめんどくさい。『槍』ごと一網打尽にしてやるにゃ」

「あれは――」
 マウザーは息を呑む。それはいつか見た光景。怪魚と|蔵書《ほん》が蠢く空の、さらにその彼方から降り注ぐ無数の|隕石《メテオ》。
「本当の本当に無茶苦茶だね。逃げ場なんて、もう何処にも無いや」
「……だったら、行くしかないでしょう」
 ハイネの呟きに、天空を見据えたラウラが応える。炎刀氷剣、携えた二つの刃をさらさらと、薔薇の花びらに解いて舞わせ、怪魚目掛けて放った鎌も、切り裂きながら|弧《つき》を描いて|花弁《かべん》に化けた。
 戦場全域に拡散した花弁は容易く蔵書を破り鮮やかに、魚霊の群れを突き抜けて、燃ゆる隕石を微塵に砕く。それを援護するように、幾重もの魔法が爆ぜた。幻影達が、力を貸してくれている。
 やるべきことがあるのなら援護は惜しみません、とそうラウラに背を押され、マウザーはハイネを担ぎ、薔薇と隕石が衝突する戦場を駆ける。
 ハイネも頷く。何処に逃げても同じなら、『槍』の効力を信じて前に出る。気軽に『召喚』できるなら、真っ先にハイネを孤立させればいい。それをやらないのは、槍の奏でる旋律のせいなのだろう。
「どきなさい、私の邪魔をするなら排除します」
 薔薇を彩る|吹雪《ゆき》の|六華《はな》。霧の外より飛来するディアボロスブレイド達。破魔の吹雪はしんしんと、荒ぶる魚霊の鬼火を|消火《け》して除き、それでも|突撃して《向かって》くるモノは、多少の被弾を気にせずに、剣の増幅した防御力に任せて斬り抜ける。
 そうして灰の瞳が見出したか細い|射線《ライン》。
「……個人的に。努力は報われるべきと考えます」
 そのラインに沿って、一振りのディアボロスブレイドが指し示すのは忌々しき大魔王の仮面。希望への座標。
「貴女自身が果たせずとも、その姿や行いが誰かに伝わり遂げられたと」
 ――なぜか。魚霊達を差し向けながら、その言葉を聴いた|魔女猫《オブリビオン》が狼狽した表情を見せた。
 それこそが、|魔女猫《グリマルキン》の求めていた|痕跡《モノ》であるはずなのに。
 ……風雪と共に、剣が疾る。射出されたディアボロスブレイドは仮面の中心を正確に捉え――。
「魔女の魔法も一時失われても再び甦るかもしれませんよ。考古学者の方とかいますしね」
 言ってマウザーの背の後ろが大きく動く。抱えられていたハイネは肯定するように槍を精一杯振り回し――力強く頷いた。

 ――彼方に埋もれてしまった筈の鬨の声が、高らかに響く。
 魔女猫を倒さなければ仮面が外れる事は無い。それでも仮面が傷を負うたび、|幻影達《竜の援護》が活気づき、戦況は、此方の優勢へと傾いてゆく。
 書を破き、魚霊を貫き、隕石をすら砕いた小さな薔薇の花弁たちは、遂に魔女猫の元へと辿り着く。魔女猫が魔法を放っても、無数の花弁はふわりと身軽にやり過ごし、包囲する。先程とは正反対の状況だ。
 花が吹雪き、魔女猫を切り刻む。花が乱れれば、次々に新しい|血花《はな》がさいた。けれどもその度魔女猫は無傷の状態へ立ち戻り――どれほど|傷ダメージ》を負わせているのか、外見からは判断できない。
「私の役目は、少しでもあなたにダメージを与える事。そして、あなたに滅びを与える事ができる方に繋げる事です……!」
 それでもやるしかない。赤の瞳に力を籠めて、ラウラは一歩も退かず、無数に舞い散る花弁が、無限に治る魔女猫を斬り結んだその果てに――。

 ぽたり、と。
 無傷になったばかりの筈のグリマルキンの腕を伝い……一筋の|血《しずく》が地に落ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クーナ・セラフィン
…これは強い。
実力以上にその想いが、恐ろしい程に。
…やっぱり碌でもなさ過ぎだよ万能宝石。
けど引導を渡すのが私達の責務。
その嘆きも怒りも今日、ここで全部終わらせよう。

符に風、そして増幅のルーン数枚分記述し準備。
破魔の力込めたオーラで全身を覆い魔力矢の直撃を逸らす。
速度は劣るが小回りなら翔剣士として互角にやれるはず、やってみせる。
攻撃の為こっちを見た瞬間にUC発動、攻撃の狙いや機動を先読みして回避。
予測に体が追いつかないなら増幅の符を脚に貼り限界超えたり風を自分にぶつけ反動で強引に移動。
更に増幅の符を撒いて秘密兵器の音量を増幅、魔力乱す援護を行う。
空中戦で攪乱しつつ魔女猫の隙を作り、狙い澄ました銀槍の一撃を。

…主を守れず友の嘆きを癒す事も叶わなかった役立たずと自虐してた魔女の騎士猫。
そんな猫の、恩を返せなかった後悔が滲んでた記念碑さえ殆ど摩耗する程の時。
魔女猫の碑が失われたのも無理はない。
今のひとに害を為すなら止める。私が、クーナがやらなきゃいけないんだ。
…だからもう、おやすみ。

※諸々お任せ



 魔女猫がゆるりと杖を一つ振るえば、即座|地水火風《まほう》が巻き起こり、好きにはさせじと騎士猫がルーンの剣でそれを受ける。騎士猫は受け止めた|属性《魔力》をそのまま自身の力に変換し、有無も言わさず魔女猫へ剣を振るうが、切っ先は僅か数ミリの誤差で空を斬った。
 不完全なる終焉視。藍の瞳を覗いた魔女猫は、魚霊と共に侵略蔵書を呼び寄せる。書が開くと、頁に記述されていた文字がじわりと滲んで宙に浮き、鎖の如く、騎士猫の自由を奪おうと空を侵す。しかし騎士猫は突撃槍から放った風花で魔女猫を一瞬幻惑させると、四方に拡散する怪魚と呪詛の隙間を潜り抜け、すれ違いざま|革命剣《オラクル》の一閃で魔女猫の首を斬り落とす。
 首と分離した胴体はそれでもなお独りで動き、無数の魔力矢の弾幕が、それ以上の追撃を許さない。騎士猫は宙を踏んで紙一重、魔力矢たちを避けきると、魔女猫と相対したまま大きく息を吐きだした。
「……これは強い」
 実力もさることながら、それ以上にその想いが。恐ろしい程に。
 それこそが魔女猫グリマルキンの強さの源泉なのだろう――けれど間違っているともクーナ思った。大切な人への想いの果てが、世界の破滅であってなるものか。
「……やっぱり碌でもなさ過ぎだよ万能宝石」
 長靴を一歩動かせば、雪の感触交じり、細かな砂利を踏みしめている感覚があった。
 先ほど魔女猫が砕いた|万能宝石《エリクシル》の破片。今この瞬間にも奴らはどこかの世界で願いを歪に叶え糧にしようと暗躍しているのだろう。そう考えると、ぞっとしない。
 だから。彼女はそれを嫌がるかもしれないけれど、同情する。だが――加減は出来ない。その嘆きも怒りも今日、ここで全部終わらせる。終わらせてやらなくちゃならない。
 直った筈のグリマルキンの首筋が、血液の|赤《いろ》で滲んでいる。これまで|猟兵《なかま》達の攻撃を受け続けて、『拒絶』し切れなくなってるのか。
「瞳を見て分かったにゃ。お前をここで倒さなければ、きっと私に未来は無い。だから――槍と共に死んでもらうニャ」
「……それは未来じゃない。絶望だよ。グリマルキン。だから私は、絶対にキミを倒す」
「元より私の人生はずっとそうだった。希望を抱けば、喰われてしまう。何もかもを滅ぼして、ただ、|絶望《日常》に戻るだけの話にゃ」
 ――それは違う。幸福な時間だったと、自分でそう言っていたじゃないか。やり直す事が出来なければ、それは取り返しのつかない過去の事象でしか無いのか。
 どうあれ命を賭ければ、グリマルキンと刺し違えることは出来るだろう。
 けれども、とクーナは自問する。彼女の瞳を見る気が起きない。もしかして、心の奥底で彼女を倒すことに躊躇、しているのだろうか。だとしたら何故。ここに来て、何故だか思考に靄がかかって、覚束ない。
 油断とも言えないほど僅かな逡巡。しかし魔女猫はそれを見のがさず、|蔵書《ほん》より蛇影の群れを解き放ち……避けられない。
 此処までか、と思った刹那。何処からか現れた幻影達が蛇の群れを遮って、事なきを得た。仲間たちの活躍で、意気軒高な|幻影《戦士》たち。彼らは魔女猫を押し戻し、クーナは一人、頭を振る。

『はろーえぶりわん? 猟兵のみんなー。元気してるかみゃ―?』
 あっすいません。今シリアスのターンなんですよ。などと言う抗議は録音なので受け付けず、ハイネの持つ槍がCV|蒸気幽霊《オーブチ》先輩で喋りだす。
『え? 未だ成仏してないのかって? まー色々あったみゃー。借りてた本の延滞料がスゴイことになっててどうしようかずっと悩んでたりみゃー」
 そんな事はどうでもよろしい。
『……本当の理由は、みーが成仏しようとした矢先に魔女猫グリマルキンが現れるようになったことみゃ』
 なので成仏延期して、血斗死威や精霊たちとずっと対策練ってたみゃー、と。現在の状況などお構いなしに、オーブチ先輩(録音)は話を続ける。
『魔女猫グリマルキン。今はもうほとんど名前が残ってないみたいだけど、みーたちの時代だとまだまだ有名だったんみゃ。だからみーも、彼女が後世に伝えた『魔女の魔法』や、その系譜を継ぐ者たちには随分お世話になったんみゃ』
 最終的に死んじゃったのはご愛嬌として、等と、この先輩は一々ジョークを挟まないと死んでしまう人らしい。いいや既に死んでた。
『猫は忘れない。なので生前彼女への感謝を記す前に死んじゃった事と、死んだあと|猟兵《ゆー》達への感謝を物理的に記すすべがなかったのはみーにとって結構な心残り』
 そんな訳だから恐らく世界初、喋る恩人記念碑を作ってやったんにゃーなどと、オーブチ先輩はぶっちゃけた。
『そう。この奇槍|最凄気威闘《モスキイト》こそ、グリマルキンとゆーたちに宛てた、みーの『恩人記念碑』。受け取るといいみゃー』
 いやいきなり言われても困る。のだが、ハイネが有無も言わさず渡してくるし。そのうえで適当に眺めてたら脈絡も無く|銀槍《ヴァン・フルール》と合体した。
『ワンタッチで解除できるみゃ』
 変な所でユーザーフレンドリーだった。これでどうしろと。
『繰り返しになるけれど、ゆー達への感謝の気持ちと、魔女猫さんへの感謝の気持ちを、その槍にめっちゃ込めたにゃ。これこそみーがこの世界に最後に遺す、みー式、猫式、アルダワ式で見様見真似の『最後の一撃』みゃ」
 その『最後の一撃』を、魔女猫に届けて欲しいとオーブチ先輩は言った。
『そんな訳なんでみーたちの想いを託したみゃ。ゆー達ならきっと、終わってしまった辛いお話に、風穴をブチ開けることだってできる筈みゃー! ファイトみゃー!』
 一方的に捲し立て、オーブチ先輩(録音)は会話を一歩的に打ちるのだった。

「――ああ、そうか」
 クーナは笑う。
 自分はお人好しで。
 他人の人生模様を見るのが好きで。
 それがなるべくなら幸せになればいいな、とちょっかいをかけたりする事もある。
 だから――グリマルキンに対しても、そう思っていたのだろう。
 覆せない人生模様? 本当に覆えせないかどうかは、今から試してみればいい。諦めるのはそれからでも遅くない筈だ。
「ようやく頭がはっきりしたよ。その上で、今のひとに害を為すなら止める。私なりのやり方で。私が、クーナがやらなきゃいけないんだ」
 槍越しに、|旋律《精霊》達が騒ぎ出す。空に広げ、舞い踊る魔術符に、風と増幅のルーンを記述して、自身と『槍』に張り付ける。暖かな陽だまりが体を包み、それに呼応するように、『槍』は光を放ち始める。
 ……乱雑で、不安定で、弱々しくて、心許ないが、それでも感じる。この光は、魔女猫が扱うそれと同等の――。
「なんて事だ――魔女様の魔法を……蒸気の機械が再現したのか!?」
 グリマルキンの求めていた、痕跡だった。
 クーナは地を蹴り跳躍し、空を駆ける。魔女猫が操るのは超高速移動魔術『フライハイ』。豪雨の如く降り注ぐ魔力の矢。やはり、と、この局面で彼女がそれを使うのは、なんとなくわかっていた。
 最高速度では敵わずとも、小回りでなら互角以上に翻弄することもできる筈だ。魔力の渦巻く霧の中、クーナはしかと魔女猫の瞳を覗いて、その心を見透かす。
 ――揺らいでいる。『槍』の放つ光は、グリマルキンとしては『魔女の魔法』が現在に蘇うる|痕跡《しるべ》となるものだが、オブリビオンとしては、それを認めてしまったら、魔導蒸気文明を憎む道理、つまり、自身を化け物として成立させている道理が消え失せてしまう。故に途中から|ハイネ《槍》を執拗に狙い始めたのだ。
 そんな化け物の本能など捨ててしまえばいい。符を張り付けた最凄気威闘は、全く空気も読まず陽気に歌い続け、矢の狙いを滅茶苦茶に搔き乱す。
 足掻いているのは猫か化け物か。狙いが定まらないのなら、寄せ付けなければいいのだと、地に無数の|碧水晶の石板《モノリス》と空に無尽魔力球を展開し、魚霊が巻き込まれようと無差別に、光の渦が、否、光そのものが戦場を埋め尽くす。
 これだけの密度の弾幕を、流石に無傷でやり過ごすのは至難の技で、クーナはオーラが持つまま最小限のダメージで抑えつつ、それでも不可避の致命傷を負うと察すれば自ら風の符を炸裂させて強引に|死線《しんろ》を捻じ曲げる。
 不規則な軌道で縦横無尽に攪乱し、確実に距離を詰める。決して油断はできないが、魔女猫まであともう少し。
 ――その段で。
「『砕けろ』!」
 避けようのない呪詛の守り。エリクシルを砕いたそれは、しかしクーナの身体を傷つけず……見れば、『槍』に亀裂が走っていた。
「『壊れろ!』『爆ぜろ!』『居なくなれ!』」
 魔女猫が呪詛を紡ぐたび、代わりに『槍』が傷ついて、遂には完全に崩壊してしまう。
 それでも――。|猫《ケットシー》達から託された|魔力《思い》は決して朽果てる事無く銀槍に宿り、クーナは反動もお構いなしに自身の脚部へ幾重もの増幅符を張り付けて、飛行も、瞬間移動も、グリマルキンが知覚すらできない速度で強襲し――。

 ……主を守れず友の嘆きを癒す事も叶わなかった役立たずと自虐してた魔女の騎士猫。
 そんな猫の、恩を返せなかった後悔が滲んでた記念碑さえ殆ど摩耗する程の時。
 魔女猫の碑が失われたのも無理はない。
 ――けれど、キミの求めていた|痕跡《モノ》はここに、この世界には確かに在る。
 蒸気幽霊が忘れず、ガジェッティアが再現し、竜騎士が運び、そして仲間達の奮闘を経て、『最後の一撃』は|翔剣士《クーナ》に託された。
 生前の|グリマルキン《魔女猫》が魔を退ける為に遺した魔法を、今、死後の|グリマルキン《オブリビオン》へ。

 ここから先は一瞬の出来事。
、狙い澄ました銀槍の一撃。
 グリマルキンはそれを遮ろうと咄嗟に杖を構え――。
 そして。その時。
 すべての過ちを悟ったように……一度構えたはずの杖を銀槍の進路から外した。

 後に残るのは地に突き立てられた杖と、宿縁を断ち切られた魔女猫の姿。
 なぜ、最後に。クーナがそう問うより前に、魔女猫は弱々しく口を開いた。
「ステイシス……かけていたんだけどね。万が一がなくたって、ユーベルコードと遺失魔術同士のぶつかり合いなら、億が一があるかもしれない」
 拒絶はしない。自身の運命を受け入れたグリマルキンは、ただ、魔女より賜った大切な杖に目をやった。
「世界を壊したいと思う化け物にも、決して壊したくないモノが有る。笑える話だろう?」
 クーナはただ、静かに首を振る。

 斯くして仮面は朽果てる。役目を終えた幻影の戦士たちは後を託すように消え失せて、最後にゆらりと現れた、たった一つの幻影が、グリマルキンの前に立つ。
 ……それは、クーナが垣間見た魔女猫の終焉の、その光景だった。

●罰と許し
 願えばただただ喰われてしまう。望めばただただ糧になる。大魔王とはそういうものだった。
 故に生前のグリマルキンは『あの時』以来願いを忘れ、只管魔術の研究に没頭した。
 そんな不自由な生から遥か未来。死んで生き返ってみて見れば、大魔王の姿は既になく、ならば、と世界破滅の算段を立てている傍らで、不意に思ったことがある。
 ……この世界に蒸気『幽霊』だとか『輪廻転生』だとか、そう言う概念《もの》があるのなら。
 魔女様から賜った杖をこれ見よがしに振り回し、悪さをしていれば、もしかして――。

「――ぁ」
 グリマルキンの前に現れた幻影は、にっこり柔和に微笑むと、彼女を労うように、
「……やめろ。幻竜。お前たちは、今更手を差し伸べるのか」
 グリマルキンは拒絶する。粗悪な幻影だ。いくら彼女が鈍くったって、本物なら、此処まで悪さをすれば流石に大目玉だ。
 沢山沢山悪いことをしたのに、笑って、労ってくれるなんてありえない。都合が良すぎる。
「無力だったあの時の私が、無知だったあの日の私が、どれだけお前さんたちを待っていたと思う?」
 こんなものは幻影だ。けれどたとえそれが幻影でも、望む事も出来ず、願う事も出来ず……それでもずっずっと会いたかった人の姿が、其処に在った。
 視界が霞む。死が近いせいだ。涙なんかじゃない。
「あの日、あの時、お前さん達は――魔女様を助けに来てくれなかったじゃないかぁ……!」
 竜とて万能ではあらず、それはかつて繰り返されていた|絶望《にちじょう》の一端。
 けれど遺された者の心にはそれが棘となってくすぶり続け……これこそ全ての発端だったのかもしれない。
 ――何かが頬を伝っている。呑み込めば、ひどく塩辛い。
 魔女猫は、ゆるゆるとその人の手を取って――。

「……魔女さま。いま、そちらに……」

●痕跡を求めて
「どうしようもない死に瀕した人の前に、幻竜さんは現れる。せめて安らかに旅立てるように……」
 華々しく災魔を倒すことよりも、助からない人の死を看取る事の方が遥かに多かった。だから、極端に記述が少なかったんだろうと、ハイネは語る。
「魔女猫グリマルキン。専門では無かったけど、これを機に彼女の|痕跡《コト》を調べてみようと思うんだ。後輩たちも、彼女の魔法に興味津々だったしね」
 いまはまだ可能性の話だけど、忘れ去られた『遺失』魔術じゃなくなる時が将来来るかもしれない。言って、ハイネが霧の立ち込める虚空に『ありがとう』と投げかけると、霧は男とも女ともつかぬ、しかし穏やかな音を返した。

 しん、と静まり返る霧の山脈。
 虚も実も何もかもが全て彼方に通り過ぎ、後に残るのは碑の如く、大地に打ち立てられた魔女猫の杖。
「……おやすみ。グリマルキン」
 痛いほどの静寂の中で、クーナがぽつりと一つ、そう言い残し――。

 ――悪夢はきっと、終わったのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年03月22日
宿敵 『魔女猫グリマルキン』 を撃破!


挿絵イラスト