第二次聖杯戦争㉒〜汝、一切識る事なかれ
●オブリビオン・フォーミュラの独白
「わたし……ゆりゆりには、ほんとうにほしいものがあります。それは、『すべてのせかいのすべてのいのち』」
粘つく大地と、獣のように性的に互いを貪り合う者ばかりの、白く輝く淫欲の領域――その中心にある金沢大学で、この領域の支配者たるオブリビオン・フォーミュラ『聖杯剣揺籠の君』が独語した。
「いまのゆりゆりは、にくたいからはなつ『いんよくのかぜ』にふれたものすべてをえっちにできる」
いんよくのかぜの催淫効果は、あらゆる生物を「死の絶頂」に至らしめる。死の絶頂に至った者は、性行為を繰り返すだけの獣となり、最後には死を迎える。その生命は、全て聖杯剣揺籠の君に吸収されていくのだ。
「すべてをうばいつづければ、ゆりゆりはどこまでもつよくなれる。いんよくのかぜのこうかはんいも、どこまでもひろがってゆく」
そう、いんよくのかぜの効果範囲は今は金沢大学周辺のみとなっているが、聖杯剣揺籠の君を放置すれば、いずれは石川県全体、そして日本全域、果ては世界中へと拡がっていくことになる。
「せかいのそとにでれるなら、もっと。もっと。きっと、むくろのうみもこなごなにできるはず……!」
ここで、聖杯剣揺籠の君はかくん、と首を傾げた。
「あれ? なぜ、そんなにむくろのうみをうらんでいたのでしょうか?」
だが、聖杯剣揺籠の君は想い出や記憶と言ったものを聖杯に捧げたので、その理由を知ることは出来ない。やがて、聖杯剣揺籠の君はその理由を考えるのを止めた。
「……かんがえてもしかたないので、ゆりゆりはしんぷるに『さいきょう』をめざします。りょうへいたちもたいせつないのち。ゆりゆりはおなかがすいて、こうふんしてきました……!」
ぺろり。聖杯剣揺籠の君は、舌なめずりをする。その表情は、淫靡そのものだった――。
●わずかでもその光景を認識するとアウト
「いよいよ、オブリビオン・フォーミュラ『聖杯剣揺籠の君』との決戦の時が来ました」
緑の板金鎧とマントに身を包んだエメラルドのクリスタリアン、ウィルヘルム・スマラクトヴァルト(緑の騎士・f15865)が、目の前に集まった猟兵達に告げる。だが、その頬は妙に紅い。
それもそのはずで、ウィルヘルムは予知で白く輝く淫欲の領域の光景を見てしまった。そして、その光景はウィルヘルムにはあまりに刺激の強すぎるものだった。だが、白く輝く淫欲の領域の光景を見たのが予知だったからこそ、ウィルヘルムは無事でいられたとも言える。何故なら。
「戦場となる白く輝く淫欲の領域では、絶えず聖杯剣揺籠の君から放たれた『いんよくのかぜ』が吹き荒れています。そして、淫欲の領域の光景に惑わされると、猟兵と言えども『いんよくのかぜ』の影響を受けてしまいます」
そうなれば、聖杯剣揺籠の君を倒すどころではなくなり、死ぬまで行為に耽る獣の一匹に堕ちるだけだ。
「逆に言えば、淫欲の領域の光景を一切『認識しない』でいることが出来れば、聖杯剣揺籠の君の最大の能力を封じたも同然と言えるでしょう」
だが、戦場の光景を一切認識しないでいるためには、視覚や聴覚などの感覚を何らかの手段で閉じねばならない。オブリビオン・フォーミュラを相手に、それはあまりにも危険であることは疑いなかった。
そして、もう一つ重大な問題が残っている。聖杯剣揺籠の君はオブリビオン・フォーミュラであるため、先制してユーベルコードを使用してくることだ。こちらの対策も重要であり、不十分な対策で望めば苦戦は免れ得ないどころか、掠り傷一つ付けられず戦闘不能となる可能性さえある。
「先制ユーベルコード対策で一番重要なのは、『ユーベルコードでの防御は間に合わない』と言うことです」
つまり、ユーベルコード抜きで先制ユーベルコードへの対策を立てねばならない。
「そして、あと半月はあるので大丈夫だとは思うのですが……」
月が変わるまでに聖杯剣揺籠の君を完全に撃破できなれば、いんよくのかぜは効果範囲を拡げ、石川県全域を覆うだろう。そして次の日には日本全域、その次の日には世界中を覆うことになる。
「オブリビオン・フォーミュラを討たねばならないのはもちろんですが、いんよくのかぜの範囲拡大も阻止しなければなりません」
そこまで告げると、ウィルヘルムは掌の上に浮かべた巨大なエメラルド――グリモア――を眩く光らせた。
「戦場の光景を一切認識出来ない状況での、オブリビオン・フォーミュラ戦……困難な状況であることは、理解しているつもりです。ですが、皆さんならそれでもこの状況を乗り越えて、聖杯剣揺籠の君を倒して下さると信じています」
深々と、ウィルヘルムが頭を下げる。同時に、グリモアからの緑色の光が拡がった。その光に包まれた猟兵達は、聖杯剣揺籠の君を討つべく次々と転移していった。
緑城雄山
こんにちは、緑城雄山です。いよいよ第二次聖杯戦争もオブリビオン・フォーミュラ戦です。
って、今回の戦争ペース速くない!? 東京オフ中にフォーミュラ戦までは想定しましたが、まさかそれよりも早くフォーミュラ戦が来るとは!
ともかく、フォーミュラ戦ですので難易度は高め、判定も厳しめとなります。予めご承知おき下さい。
●このシナリオについて
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「第二次聖杯戦争」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
●プレイングボーナスについて
このシナリオでは、下記に基づく行動をとると、プレイングボーナスが入ります。
『淫蕩な光景を一切認識しない/揺籠の君の先制ユーベルコードに対処する』
なお、状況はR18な感じではありますが、猟兵が認識してない光景は描写されませんので、リプレイの描写が全年齢PBWの範疇を出ることはありません。
●先制ユーベルコードのルール
聖杯剣揺籠の君は、猟兵が使用するユーベルコードと同じ能力値(POW、SPD、WIZ)のユーベルコードを、猟兵より先に使用してきます。そのため、ユーベルコードによる防御は『根本的に間に合いません』。
聖杯剣揺籠の君を攻撃する為には、この先制攻撃をユーベルコード抜きで『どう防ぎ、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
対抗策を用意せず自分の攻撃だけを行おうとした場合、先制ユーベルコードで撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるのでご注意下さい。
●プレイングの採用について
基本的に、「プレイングボーナスの条件を満たしていると判断できるもの」「執筆しやすいもの」を優先して採用していく予定です。前者については特に重視します(満たしていないと、淫欲の領域の光景に惑わされるor先制ユーベルコードによって戦闘不能になると判定して、不採用とする可能性があります)。
また、極力採用したいとは考えておりますが、当方のキャパシティを越えたプレイングが集まった場合、やむなく流してしまう可能性があります。予めご了承下さい。
それでは、皆様からのプレイングを楽しみにお待ちしております。
第1章 ボス戦
『聖杯剣揺籠の君』
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POW : うずまくいんよく
【神の左手】による近接攻撃の軌跡上に【いんよくのたつまき】を発生させ、レベルm半径内に存在する任意の全対象を引き寄せる。
SPD : せいはいうぇぽんず
【あらゆる物質を引き寄せる「神の左手」】【癒える事なき毒を注ぐ「リリスの槍」】【対象のユーベルコード全てを奪う「聖杯剣」】を組み合わせた、レベル回の連続攻撃を放つ。一撃は軽いが手数が多い。
WIZ : みだらなひとみ
【揺籠の君の淫靡な眼差し】が命中した部位に【淫欲に満ちた思念】を流し込み、部位を爆破、もしくはレベル秒間操作する(抵抗は可能)。
イラスト:飴茶屋
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
龍巳・咲花
骸の海に対する姿勢など色々と思う所はあれど、過去の先輩方がそうであったように、拙者もこの世界と住まう人々を守る為に、揺り籠の君を討つでござる!
先制攻撃は直視されぬよう会敵と同時に龍陣忍者マフラーを広げ身を隠しつつ、拙者特製の煙玉を展開し回避を試みるでござるよ
煙の中で耳栓装備であれば、周囲の光景も認識できないでござろうしな
先制攻撃と敵の領域の対策後は、此方の領域返しでござる!
敵を此方が直視せずとも空間内にいれば、龍脈に眠る古の誰かの致命傷の記憶を次々と実際にその身に再現し続けるでござる故!
身を隠しつつ攻撃する、忍者の神髄でござるな!
余裕があれば、周囲の一般人には癒しの効果を使用しておくでござる
●姿、見せることなく
(骸の海に対する姿勢など、色々と思う所はあれど――)
戦場に降り立つや否や、龍巳・咲花(バビロニア忍者・f37117)はそう思考しながらも、龍陣忍者マフラーを広げて龍脈の力で身を隠し、さらには煙玉で視界を遮った。
「拙者もこの世界と住まう人々を守る為に、揺籠の君を討つでござる!」
過去の先輩達がそうであったように、と咲花は意気込んでみせる。
「こえはするのに、すがたはみえない……りょうへい、ひきょうです」
その咲花を、聖杯剣揺籠の君は口を尖らせて非難した。聖杯剣揺籠の君が発動したユーベルコードは、視線を命中させた場所に思念波を流し込み、爆発させる。つまり、相手の姿が見えなければ、視線を向けようがないのだ。
もっとも、その非難は咲花には聞こえていない。周囲の光景を聴覚でも認識しないよう、予め耳栓をしてきているからだ。そして、煙玉により咲花は視覚でも周囲の光景を認識していない。
「此方の領域返し、行くでござる! 龍陣忍者の神髄受けてみよ、でござる! 龍陣忍法『禍福糾纆』!」
領域には領域だと、咲花はユーベルコードを発動し、龍脈を活性化して領域を展開した。
「なん、なの、です……これは」
咲花に特に攻撃されているわけでもないのに、聖杯剣揺籠の君には幾つも浅からぬ傷が刻まれていく。その一つ一つが、常人なら致命傷になっているほどの深いものだった。全身から紅い血を流しながら、困惑する聖杯剣揺籠の君。それでも消滅に至らないのは、オブリビオン・フォーミュラである故だろう。
咲花が展開した領域は、龍脈に眠る致命傷の記憶をその中にいる全ての敵の身体へと再現する。即ち、聖杯剣揺籠の君に刻まれた傷は、歴史の中で龍脈の記憶に刻まれた傷なのだ。
(身を隠しつつ攻撃する――忍者の神髄でござるな!)
忍者らしい活躍が出来たことに、咲花は満悦しながら戦場を離脱した。
大成功
🔵🔵🔵
ルネ・シュヴァリエ
あらゆるものを吸って、それで骸の海を壊して一人ぼっちでどうするの?
……言っても無駄なんだろうね、もう
周りなんて知らなければいい
ルネ自身に催眠術、ゆりゆり以外の生物を認識しないように
貴女もついでにかかってくれる? ルネの姿が周りに溶け込んで見えなくなるように
見えないものに眼差しは向けられないよね、一応背後に空中機動で回っていくよ
このままUC使用、見えないはずだから姿は飛ぶのに的したぴっちりした服に変化させて
常に視界の外に移動するように飛行しながら誘惑の言葉を囁きつつ生命力を吸収していくよ
低下した思考にはよく効くでしょ?
「そのままルネに吸い尽くされてね、その方が幸せだから」
……貴女以外が、だけどね
●催眠によって見えず、見せず
「――周りなんて、知らなければいい」
戦場に降り立ったルネ・シュヴァリエ(リリスの友想い・f30677)は、早速自身に催眠術をかけた。その内容は、「聖杯剣揺籠の君以外の生物を認識しない」と言うものだ。つまり、これで淫欲に耽る周囲の者達の姿は、一切ルネに認識されなくなった。
「貴女も、ついでにかかってくれる?」
ルネの姿を確認した聖杯剣揺籠の君が、ユーベルコードを発動する。それと同時に、ルネも聖杯剣揺籠の君に催眠術をかけた。催眠術にかかった聖杯剣揺籠の君の目からは、ルネの姿が周囲の光景と同化して視認できなくなる。
「……また、きえた。りょうへい、ほんとうにひきょう」
聖杯剣揺籠の君が発動したユーベルコードは、視線を命中させる事が前提となる。つまり、相手の姿が視認できないことには、視線を向けられず効果を発揮させることが出来ない。先程も手段は違えど同じような目に遭わされたこともあって、聖杯剣揺籠の君の不満は高まっている。
その間に、ルネもユーベルコードを発動した。ルネの服が空気抵抗のないぴっちりとした、身体のラインがはっきりとわかるものへと変わる。もし聖杯剣揺籠の君が今のルネの姿を目にしていたら、「りょうへい、えっちです」くらいは言ったことだろう。だが、今の聖杯剣揺籠の君にルネの姿は見えない。
「あらゆるものを吸って、それで骸の海を壊して一人ぼっちでどうするの?」
聖杯剣揺籠の君の背後に回り込んだルネは、耳元で囁うように問うた。だが、聖杯剣揺籠の君は耳朶にかかる息の感触にピクリと身体を震わせるも、頭に疑問符を浮かべるばかりだ。記憶や想い出を聖杯に捧げた聖杯剣揺籠の君に、その問いに答える能力はない。
(……もう、言っても無駄なんだね)
哀れむような視線を投げかけながら、ルネは聖杯剣揺籠の君の首筋に唇を当て、生命力を奪いにかかった。
「――このまま、ルネに吸い尽くされてね。その方が幸せだから」
もっとも、幸せなのは聖杯剣揺籠の君の者であるのだが。
聖杯剣揺籠の君はオブリビオン・フォーミュラである故か、その生命力はルネが吸いきれないぐらい膨大だった。だが、吸える限りは吸って十分に生命力を奪ったことに満足し、ルネはこの場を後にした。
大成功
🔵🔵🔵
葛城・時人
何も見てはならぬ聞いてはならぬ、か
十全に対策して挑む
目を固く布で縛る
俺には|白燐蟲《ククルカン》が宿る
彼らには淫も爛れた宴も関係無い
その上で強く指示
「鳴き続けながら征って!」と
共生蟲が大勢で脳と精神で『きゅいきゅい』とか
鳴いたら外の音なんて何も聞こえない
どうやって鳴いてるかは分かんないままだけど
これで戦える
蟲に先導され護られ技能でも全力でみだらなひとみを回避し
万一傷を負ってもけして止まらず
アークヘリオンを多重・高速詠唱も用い多層展開
長い付き合いだ
今更蟲の声で集中は妨げられない
それに
揺り籠の君は気配だけで「其処に居る」のが解る
俺が見る必要はない
全力で創世の印を紡ぐ
蟲達が勝利の凱歌を上げるまで
●フォーミュラを灼く光
(――何も見てはならぬ聞いてはならぬ、か)
それを踏まえて戦場に降り立った葛城・時人(光望護花・f35294)は、両目を布で覆い硬く縛っていた。これで、視覚での対策はクリア。そして聴覚での対策だが――。
「大声で鳴き続けながら、征って!」
身体に宿る|白燐蟲《ククルカン》に、時人はそう指示した。その指示に従う|白燐蟲《ククルカン》の、きゅいきゅいと言う鳴き声が、時人の脳と神経に響き渡る。これで、領域内に響く嬌声が時人の耳に届くことはなくなる。
「こんどのりょうへい、みえる」
聖杯剣揺籠の君は、ユーベルコードを発動して時人を視た。その声に何処かホッとしたような安堵の響きがあったのは、先行した猟兵達が自らの姿を隠したために視線を向けることが出来ず、一方的にダメージを負った経緯があるからだ。
「ぐうっ!」
時人を視た聖杯剣揺籠の君は、その視線を通じて淫らな思念を時人の身体へと流し込む。たちまち、時人の胸部が、腹部が爆ぜた。傷口からは血が流れ、焼けた肉は焦げ臭い匂いを放つ。何より、高熱と痛苦が時人の身体を苛んだ。だが。
「俺は――止まらない!」
それらに耐え、時人は立ち続ける。そして、今度はこちらの番だとばかりに、ユーベルコードを発動した。
「始まりの刻印よ――創世の光もて、敵を討て!」
戦場に、光り輝く始まりの刻印が顕現し、周囲を創世の光で覆い尽くす。
「なんの、ひかり――?」
創世の光は、聖杯剣揺籠の君の身体を灼いていく。しかも今の聖杯剣揺籠の君は、先行した猟兵により常人なら致命傷ものの傷を全身に受けている。そこに染みこむかのように創世の光が傷を灼いていくのだから、傷口に塩どころではなかった。
「うぐっ……」
あまりの痛苦に、顔をしかめて悶える聖杯剣揺籠の君。その顔には、だらだらと脂汗がいくつも流れていた。
創世の光が止んだ時、聖杯剣揺籠の君は肩で息をしていた。その生命力の大半は既に削り取られており、目に見えて憔悴しきっていた。もっとも、時人はそれを知ることなく戦場を離脱したのだが。
成功
🔵🔵🔴
ニーニアルーフ・メーベルナッハ
…大丈夫。
今の私には揺籠の君しか、見えていません。
かつての聖杯戦争の首謀者、ゆえに私の双子の妹の仇。
かつても今も、己の欲で世界を食い尽くそうとする彼女への怒りで!
その意志で意識を揺籠の君だけに集中し戦います。
加えて【蟲使い】で蟲達を周囲に展開、周囲の風景を遮断し羽音で声なども遮ります。
先制UCも蟲達で視線を遮り回避。命中時は先の心情で淫欲を抑えるか、爆破された部位を蟲で【切断部位の接合】し凌ぎます。
聖杯剣と槍は、攻撃動作が見えたら適切な回避方向を【瞬間思考力】で判断。
攻撃は蟲達を多方向から展開しての多角攻撃に交え白燐侵蝕弾を撃ち込みます。
貴女が奪ってきた命、僅かでも返してもらいます…!
●双子の妹の仇
「――蟲達よ、力を貸して下さい。私の視覚を、聴覚を、閉ざして下さい」
ニーニアルーフ・メーベルナッハ(黒き楽園の月・f35280)は、戦場に降り立つやいなや、自身の使役する白燐蟲と黒燐蟲達にそう命じた。蟲達はすぐにその命令に従って、ニーニアルーフの視界を己が姿で、聴覚を己が羽音で覆い隠していく。
元より聖杯剣揺籠の君しか見るつもりのないニーニアルーフだったが、視覚や聴覚が活きている以上は、周囲の淫蕩な光景を全く認識しないと言うことは不可能だった。だが、蟲達により視覚と聴覚を閉ざされたことにより、ニーニアルーフは周囲の光景を認識せずにいることが可能となる。
「むし……じゃま」
ユーベルコードを発動させた聖杯剣揺籠の君は、不満そうに口を尖らせた。蟲達は、ニーニアルーフの視界を閉ざすだけでなく、聖杯剣揺籠の君の視線を遮る盾にもなっていたのだ。聖杯剣揺籠の君のユーベルコードは、相手を視ることで効力を発揮する。故に、ニーニアルーフを視ることが出来なければ、発動はしても効果は皆無に等しい。
「貴女が奪ってきた命、僅かでも返してもらいます……!」
聖杯剣揺籠の君への憤怒を声に滲ませつつ、ニーニアルーフは蟲達に聖杯剣揺籠の君を襲わせた。ニーニアルーフの心には、当時も今も己の欲望のままに世界を食らい尽さんとする、聖杯剣揺籠の君への憤怒が溢れんばかりに満ちていた。聖杯剣揺籠の君がかつての聖杯戦争を起こさなければ、ニーニアルーフが双子の妹を喪うことはなかったはずだ。
その心情が乗り移ったかのように、蟲達は怒濤の勢いで聖杯剣揺籠の君へと押し寄せる。そのあまりの数に、聖杯剣揺籠の君は回避もままならない。
「うっ……」
蟲達の羽音に紛れて、聖杯剣揺籠の君の呻き声が聞こえた。それを聞いたニーニアルーフは、蟲達の攻撃が命中したと判断し、ユーベルコードを発動する。
「逃がしは、しません……!」
「ぐっ……!」
白燐蟲達が、次々と聖杯剣揺籠の君の皮膚を食い破り、その肉の中へと潜り込んでいく。既に大きく生命力を削り取られていた聖杯剣揺籠の君に、白燐蟲達の侵食に耐える力は残されていなかった。
程なくして、聖杯剣揺籠の君の全身は灰へと変わり、さらさらと崩れ落ちて消滅した。「いんよくのかぜ」も止み、視界を遮る必要のなくなったニーニアルーフの視界には、崩れゆく聖杯剣揺籠の君の姿が映る。
(――見てて、くれた?)
聖杯剣揺籠の君を討ったと言う達成感を得たことと、オブリビオン・フォーミュラ相手の戦闘による緊張感から解放されたことで、ニーニアルーフはふぅ、と大きく息を吐いた。そして、心の中で今は亡き双子の妹に問うのだった。
大成功
🔵🔵🔵