第二次聖杯戦争⑲〜それはあまりにも暖かく
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「集合お疲れ様。今回の依頼はちょっと骨が折れそうよ」
そう告げるチェルシー・キャタモール(うつつ夢・f36420)の表情は固い。チェルシーは猟兵へと向き直ると、続きの言葉を紡いでいく。
「今回の目的地は金沢工業大学の周囲ね。ここに『セイクリッド・ダークネス』と呼ばれるオブリビオンが出現し、周囲一帯を『聖戦領域』とやらに沈めてしまったの。事態を解決するために、セイクリッド・ダークネスの討伐をお願いするわ」
目的地は人々が暮らす学生街だ。けれど今はその全てが光と闇の奔流に沈み、異様な気配を発している。
その中央に存在するのが目的のオブリビオン、セイクリッド・ダークネスだ。
「セイクリッド・ダークネスは『ジャンヌ・ダルク』の肉体に『セイクリッド・ダークネス』が憑依した存在よ。人格は二人とも存在しているんだけれど、どちらも完全に発狂しているわ。何もなければ二人でずーっと口論しているみたい。一応会話は通じるけど、成立はしないでしょうね」
二人とも目的は「全てを癒やすこと」であり「全てを滅ぼすこと」だが、協力出来るほどの正気は残っていないようだ。
「今回戦う個体は『黒き抱擁の力』を使ってくるわ。この能力が恐ろしいのは文字通り『何もかも』を癒やすことが出来ること。彼女はこの力を使って、皆の記憶に忍び込んでくるわ。そして全ての記憶を破壊して癒やすことで、相手を赤ん坊みたいなまっさらな状態にするつもりよ」
セイクリッド・ダークネスの齎す癒しはあまりに破滅的で独善的なもの。
猟兵といえど記憶が破壊され尽くしてしまえば無事では済まない。今回の戦いは、それだけ危険なものになりそうだ。
「皆には自分の記憶の中、再現された精神世界でセイクリッド・ダークネスを倒してもらうわ。恐ろしい黒き抱擁の力を乗り越え、自分の記憶を守ろうとする想い……それがきっと必要になると思う」
再現される記憶は猟兵ごとに異なるだろう。
壊されたくない幸せな記憶のこともあるだろうし、むしろ壊してほしい辛い記憶かもしれない。
けれどそのどれもが、理不尽に壊される謂れはないはずだ。
「強く念じれば他の人の精神世界に招き入れてもらうことも出来るわ。とにかく自分に出来る手段で、どうにか相手を迎え撃って欲しい」
それが自分達は勿論、多くの人々を助けることになるはずだから。
話を締め括ろうとしたところで、チェルシーがふいに首を傾げる。何か思うところがあったらしい。
「一つ気になるのは『伯爵』のことよね。セイクリッド・ダークネスって彼の元から逃げたのでしょう? 何か弁明してたけど……」
その答えはここで考えていても分からない。チェルシーは小さく首を振り、猟兵達に笑顔を向ける。
「懸念材料はあるけど、最優先はセイクリッド・ダークネスの討伐よね。きっと大変な戦いになるけど、皆ならきっと大丈夫だわ」
だから、しっかり記憶を守って帰ってきてね。
そう話を締め括り、チェルシーは転移の準備を進めていった。
ささかまかまだ
こんにちは、ささかまかまだです。
苛烈なまでの暖かさ。
このシナリオは「やや難」です。
●プレイングボーナス
自分の「過去の記憶の世界」の中で、それを守るために戦う。
戦場は「過去の記憶の一場面を再現した精神世界」です。
強く念じれば他者を招き入れることも可能です。
(合わせプレイングでなければ他の人が招き入れられることはありません)
記憶は暖かなものでも、辛いものでも。
どの記憶も破壊されないように頑張りましょう。
●『黒き抱擁』
セイクリッド・ダークネスの一側面、全てを癒す力です。
『ジャンヌ・ダルク』と『セイクリッド・ダークネス』の人格を有しており、双方ともに発狂しています。会話は通じますが成立しません。
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オープニングが出た時点でプレイングを受付開始します。
シナリオの進行状況などに関しては戦争の詳細ページ、マスターページ等も適宜確認していただければと思います。
また、プレイングの集まり次第で不採用が出てしまうかもしれません。ご了承下さい。
それでは今回もよろしくお願いいたします。
第1章 ボス戦
『黒き抱擁』
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POW : 闇の左手
掴んだ対象を【「黒き抱擁の力」】属性の【左腕】で投げ飛ばす。敵の攻撃時等、いかなる状態でも掴めば発動可能。
SPD : 闇の衣
自身と武装を【「黒き抱擁の力」】で覆い、視聴嗅覚での感知を不可能にする。また、[「黒き抱擁の力」]に触れた敵からは【ユーベルコードの使い方の記憶】を奪う。
WIZ : 闇の翼
【「黒き抱擁の力」】を籠めた【翼の抱擁】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【記憶】のみを攻撃する。
イラスト:hoi
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
剣未・エト
記憶は年齢相応に体が小さかった頃
一人でマヨイガから出てしまった日
初めて感じる世界結界の拒絶感にろくに動けない自分に迫るオブリビオン
助けてくれた|黄金《太陽》の剣もつ『あの人』、銀誓館学園の生命使い
それが僕の起源、いつかあの輝きに至らんと走り始めた|星《エトワール》の|序章《プロローグ》
触らせないよ、確かにそれは苦難と苦しみの戦いが続く物語だ、でも多くの友と喜びに満ちた道でもある
UC発動小さくも強く光る剣で闇の手を切り払い立ち向かう
伯爵…かつての戦いの後で所持していた異形は破棄する約束だったと聞いたけれど…弁明時に触れなかったね
彼女らは果たして|現在《異形》なのか|過去《オブリビオン》なのか
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剣未・エト(黄金に至らんと輝く星・f37134)にとって、初めて訪れた外の世界は恐ろしいものだった。
まだ幼かった頃、ちょっとした手違いで道に迷って。思わずマヨイガの外に出たと気付いた時にはもう遅かった。
身体が重い。世界結界が自分の存在を阻み、縫い付けてくるようだった。
それだけならまだ誰かが迎えに来るまで耐えればよかった。運悪くオブリビオンが自分の側に現れるまでは。
叫ぶことも逃げることも出来ず、ただ相手が迫る様を見ることしか出来なかった恐怖感。それは今も鮮明に思い出せる。
けれど、それ以上に覚えているのは――あの太陽の輝きだ。
それが僕の|序章《プロローグ》だったんだ。
エトは今、あの時の場所に立っている。
身体はしっかり動かせるから大丈夫。くーちゃんだって側にいてくれている。
あの時と大きく違うのは、迫るオブリビオンが『黒き抱擁』だということだ。
彼女はぶつぶつと何かを呟いているが、その内容は癒しだとは破滅だとかそんな言葉。自分にはきっと関係ないことだ。
「……この思い出は壊させない、触らせないよ」
ぐっと拳を握りしめ、エトは思う。
この序章から始まった長い道を。今も自分は道の途中、ずっとずっと歩いて行くんだ。
「僕の歩く道は、確かにそれは苦難と苦しみの戦いが続く物語だ、でも多くの友と喜びに満ちた道でもある。だから――」
あの人のように、凛と在りたい。
エトの想いに応えるように詠唱銀は姿を変えて、小さくも輝く剣に変わる。
『あの人』の持つ|黄金《太陽》にはまだ至らずとも、|星《エトワール》はまだまだ走り続ける。いつか彼女のように、強く輝けると信じて!
その想いを踏みにじるかのように、『黒き抱擁』が放つのは闇の左腕だ。あらゆる者を理不尽に癒やすその存在を、決して見逃してなるものか。
「僕は、未だ届かざるとも、牙無き者の剣たらんと欲する!」
ヤトは闇に向けて剣を振るい、鋭い銀の輝きを奔らせる。
その輝きは闇の腕だけでなく、『黒き抱擁』すらも切り裂いて。
自分の輝きと、この世界に暮らす牙無き者。その全てを守ろうとする光は、困難を打ち砕いていったのだ。
これで戦いは切り抜けられた。けれど安心はしていられない。
(……伯爵、かつての約束とは違う行動を取っていたね)
彼の真意は謎のまま。調べないこと、戦わなければならないものは多くありそうだ。
星はその全てに向き合って、きっと乗り越えていくだろう。
大成功
🔵🔵🔵
七那原・望
ここはブルーアルカディアの黄金の玉座?
散々悪夢を見せられましたし、辛い記憶がたっぷり詰まった場所ですね。
わたしは望む……癒やしなんて不要です。余計な事をしないで即座に失せなさい。それがわたしの望みです。
辛い記憶でもかけがえのない記憶には違いなく。それを土足で踏み荒らされたくないという願いを胸にLaminas pro vobisを発動。
そのまま足元からのオラトリオで不意打ちをし、敵をがんじがらめに拘束しましょう。
その左手は厄介ですからね。封じさせてもらいます。
オラトリオの状態異常力が増した状態でオラトリオに氷属性を纏わせ敵を氷漬けに。
完全に身動きを封じたら全力魔法で頭部を破壊し仕留めます。
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「ここは……」
『黒き抱擁』との戦いが始まった瞬間、七那原・望(封印されし果実・f04836)の意識は精神世界へと飛ばされたようだ。
周囲の様子を確認すれば、ここがどこだかはすぐに理解できた。何度も足を運んだ虚神の玉座だろう。
アルカディアとの戦いは過酷だった。たくさん悪夢を見ることになったし、その時の辛さは今も鮮明に覚えている。
「あなたを癒します。辛い記憶も全て消し去り、赤子のように癒やされるべきなのです」
ふいに、望の想いを感じ取ったかのように『黒き抱擁』が呟く。
『黒き抱擁』は闇の力を纏いつつ、左腕を伸ばしてきているようだ。それに対して望は小さく首を振って。
「わたしは望む……癒やしなんて不要です」
「何故? 辛いのではないのですか?」
「確かにここでの経験は辛い記憶です。でも、余計な事をしないで即座に失せなさい。それがわたしの望みです」
きっぱりと拒絶の意思を示しつつ、望は赤い水晶を握りしめる。
お願い、力を貸して。わたしの願いを叶えさせて。
「辛い記憶でもかけがえのない記憶には違いないのです。それを土足で踏み荒らされたくないのです……!」
望の意思に応えるように水晶が煌めけば、その輝きは彼女を護る力に変わる。
鮮やかな赤い礼服を纏いつつ、望が指差すのは『黒き抱擁』だ。
「――オラトリオ!」
次の瞬間、エクルベージュの影が黄金の世界を奔り、眩く輝く闇を捕らえた。
望の友人『オラトリオ』は水晶による強化を得て、強固な力で敵を拘束していた。
これで本体の動きは止められるはず。友人に感謝しつつ、望は次に取るべき行動を考える。
敵本体は動かずとも、彼女の側に浮遊する左腕はまだ自由だ。あれに触れられてしまえば、この記憶は破壊されてしまう。
「その左手は厄介ですからね。封じさせてもらいます」
再びオラトリオに力を注ぎ込めば、影は畝るように動いて闇へと触れる。
そのまま展開するのは凄まじい冷気だ。オラトリオは闇の左腕を一瞬で氷漬けにし、こちらの動きもしっかりと止めてくれた。
「何故、何故癒やされないのですか。何故……」
抵抗する手段を失い、『黒き抱擁』はひたすら呟き続ける。狂気に陥った彼女には、きっと望の想いは理解できないだろう。
「辛い思い出も楽しい思い出も、全部がわたしを作っているんです。だから、触れないで下さい」
拒絶の言葉はあっさりと、行動ははっきりと。
望はありったけの魔力を使い、『黒き抱擁』へ向けて強烈な魔法を放つ。
その輝きは一方的な善意の頭部を砕き、望のこれからも歩む道を照らしていくのだ。
大成功
🔵🔵🔵
唯嗣・たから
たからの過去を守るため。たからの、殺された、過去を、守るため?
友達と遊ぶ約束をした川縁で、たからは一番最初について。
呼ばれて、振り向いて、逆光で見えない顔の大人の人、振りかぶられた刀で切られて、たからは、そのまま死んじゃった。
――だから、ここはきっとその川縁だ。
わざわざ、悪趣味なことする。いいよ、殺されたのは、過去のこと。
たから、それを受け入れて、今がある。骨の姿になっても、たからの両親は、たからを愛してくれた。だから、大丈夫。
闇には闇で。その腕、尽く、腐らせる。
たからでも知ってる。
それが本当に救いでも、なんでもかんでも、一方的に押し付けるのは、余計なお世話とか、要らぬお節介って、言う!
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そよそよと揺れる草木の影、穏やかに流れる川の音。
それらを認識した瞬間、唯嗣・たから(忌来迎・f35900)は自分がどこに立っているのかを理解した。
「ここ、あの時の……」
この記憶は守るべきものなのだろうか。一瞬迷いが駆け巡る。
だってここは――たからが殺された場所だから。
いつものように友達と約束して、一番乗りで川縁まで辿り着いて。
ぼんやり皆を待っていたら、突然名前を呼ばれて。
誰だろう。村の人かな。振り返っても、それが誰かは理解出来なかった。だって後ろから差す太陽の光が、それを隠してしまったから。
改めてその人を凝視することはなかった。それよりも先に、熱くて冷たい感触が身体を襲ったから。
その正体が痛みと血だって気付いた時にはもう遅い。そこから先の記憶は、もう殆どなかった。
それが生前の最後の記憶。その時の川縁に、たからは今立っている。
あの時と違うのは登場人物だ。目の前には刀を持った大人ではなく、天使のような女性が立っている。
「これはあなたにとって苦痛の記憶なのでしょう。それを私が癒します」
その女『黒き抱擁』は穏やかに微笑みを浮かべ、たからへ向けて闇の腕を伸ばす。
けれどその手は絶対に握り返してやらない。だってそんな癒しは要らないのだから。
「わざわざ、悪趣味なことする。いいよ、殺されたのは、過去のこと」
「ええ、消せない過去だからこそ癒そうと……」
「違うよ。たから、それを受け入れて、今がある。骨の姿になっても、たからの両親は、たからを愛してくれた。だから、大丈夫」
確かに殺された過去は辛いものだ。
けれど反魂すら行って自分を呼び戻し、愛してくれた両親がいる。
骨になってからもたくさんの人と出会って、楽しいことがたくさんあった。
それだけで十分なのだ。辛い過去を消してしまえば、そこから歩んだ道のりだって消えてしまうのだから。
「だから、それが本当に救いでも、なんでもかんでも、一方的に押し付けるのは、余計なお世話とか、要らぬお節介って、言う!」
きっと目の前の存在は、そんなことも知らないのだ。
だからはっきりしっかりと、違うって叩き付けてやるんだ!
腕には腕を。たからは周囲に怨霊の腕を呼び出すと、彼らと共に『黒き抱擁』を掴んでいく。
そこから伝わる腐敗の力は強力な存在だろうと容赦なく腐らせ、潰していくのだ。
それは正しく時間が流れ、様々なことが積み重なっていく象徴のようで。
天使が腐る傍らで、たからは少しだけ川縁を見遣る。
大丈夫。まだまだきっと、歩いていけるから。
大成功
🔵🔵🔵
ロラン・ヒュッテンブレナー
・アドリブ歓迎
・記憶
ダークセイヴァーの生家である隠れ里、ヒュッテンブレナーの屋敷の中
怪しく輝く月光の元、耳と腕が変化し、尻尾が生え、狂気に陥って咆哮を上げ、使用人に襲いかかろうとしている場面
過去の記憶を癒やす?
そんなこと、どうやって?
これは、ぼくが人狼になったときの?
人を傷つけたときの…
あなたがセイクリッド・ダークネス?
そうだね、確かに消したい記憶なの
でもね、このときの後悔があれば、ぼくは力の使い方を間違えないの
辛い記憶も、未来のために必要だから、壊させないの
あのときは怖くて仕方なかった、人狼の咆吼で、「後悔」を守るの!
ありったけの満月の魔力を顔に集中、後を考えないで全力魔術なの!
出て行って!
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精神世界へ飛ばされた瞬間、ロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)が感じ取ったのは強烈な懐かしさだ。
一番それを呼び起こしたのは嗅覚だろう。自分が生まれ育った家の匂いは、今もしっかりと覚えているから。
遅れて周囲の状況を確認すれば時刻は夜のようだ。窓からは大きな満月が見えて――満月?
その輝きを認識した瞬間、ロランは「いつ」の生家に舞い降りたかを理解する。同時に勢いよく床を蹴って、目指すは自室の前だ。
そこにいたのは7歳の時の自分と使用人。使用人は目の前の少年に怯え、逃げ惑っている。
そして幼少期のロランの様子は誰がどう見ても普通ではなかった。
狼の耳と尻尾が生え、腕は艶やかな毛並みに覆われて。狂乱と混乱の最中、小さな人狼は目の前の使用人に襲いかかろうとしている。
間違いない。これはぼくが人狼病を発症した夜の記憶だ。それと同時に、初めて人を傷付けた――。
「この記憶から癒やされたくはありませんか」
記憶に釘付けになるロランに囁かれるのは誘うような言葉。そちらに視線を向けてみれば、『黒き抱擁』が静かに佇んでいた。
「あなたがセイクリッド・ダークネス? 過去の記憶を癒やすって、そんなこと、どうやって?」
「この記憶を消滅させるのです。あなたはこの記憶に苦しめられていますから」
囁かれる言葉にロランは少しだけ目を伏せる。
確かにこれは消してしまいたい記憶だ。病が原因とはいえ、自分の手で世話になっている者を傷付けてしまった。罪の意識はずっと残っている、
けれど――その罪と過去から逃げなかったからこそ、得られたものも確かにあるのだ。
「このときの後悔があれば、ぼくは力の使い方を間違えないの」
人を傷つける恐怖を覚えたから、守る決意をした。病を患ったからこそ、病を根絶しようと誓った。
その想いがここまで積み重なってきたのなら。
「辛い記憶も、未来のために必要だから、壊させないの。あのときは怖くて仕方なかったけど、今は――!」
ロランは『黒き抱擁』の方へ向き直ると、大きく息を吸う。
あの時怖かった満月だって、今は自分に魔力を与えてくれる。その力を頭部へと集中させれば、ロランの顔には狼を象った魔術文字が浮かび上がっていく。
「――うぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉぉぉん!」
ありったけの魔力を籠めて、放つは全力の咆哮だ。
人狼となったからこそ、その力を武器に変えて。拒絶と決意の意思を籠めた叫びは『黒き抱擁』を強かに打ち付け、精神世界から掻き消していく。
もう悲劇は繰り返さない。自分のような想いをさせる人を生み出したくない。
そんなロランの意思は、紛い物の癒しをしっかりと否定していった。
大成功
🔵🔵🔵
酒井森・興和
辛苦の記憶も全てを無かった事にすれば…という発想か
理屈は通るが知性というものを蔑ろにしてるねえ
…
忘却期前の故郷の山、1番幸せだった頃
土蜘蛛の主様や姉さん、弟妹達も居て
あのひととも逢った忘れ得ぬ思い出の…
此れを奪う?これは僕の拠り所、死ぬ時まで僕のもの
狂ったあなたの癒やしなぞ願い下げだ
初手、抱擁にのまれる前にUC、三砂で地を撃ち【第六感と、気配感知】で敵位置割り出し
なるべく接触回避のため飛斬帽で【切断】狙い【投擲、追撃】に逆鱗も撃ち込む
触れてUC記憶を抜かれても
過去記憶を【かばう】ため余計無意識に鋏角衆の能力者として戦った戦法を継続
逆鱗で【毒使い】弱らせ三砂で【急所突き】、【重量攻撃で2回攻撃】
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全てを壊し、全てを癒す。あの聖なる怪物は確かにそう言った。
「辛苦の記憶も全てを無かった事にすれば……という発想か」
ぽつり呟く酒井森・興和(朱纏・f37018)の表情は険しいものだ。
理屈としては理解出来る。けれどあの怪物の発想は知性というものを蔑ろにしている他ない。
そして彼女の施す癒しに、今から自分も立ち向かう。一つ大きく深呼吸をして、興和もまた戦場へ。
すぐに意識は暗転し、目覚めるのは――。
すぐに鼻をついたのは濃い自然の香りだ。
次に聞こえてきたのは人々の笑い声。主様や姉さんが小さな弟妹達と一緒に楽しそうに過ごしている。
彼らは皆自分の名を呼んで、一緒に遊ぼうと手を伸ばしてくる。ああ、そうだ。間違いない。
これは忘却期より前の故郷の光景。人生で一番幸せだった時の記憶だ。
だとすれば、もうすぐあのひとも現れるはず。いつだって鮮明に思い出せる景色が目の前に広がれば、胸が詰まるようだ。
けれど幸福はいつまでも続かない。ふいに現れた『黒き抱擁』が強烈な闇を纏いつつ、世界に触れようとしているのだから。
「――待つんだ」
その影に割り込むよう、興和は走る。そのまま地面へ三砂を振り下ろし、周囲の土に衝撃を叩き込む。
余波で土煙が巻き上がろうと、興和は決して敵の位置を見失わない。
そのまま飛斬帽で追撃を打ち込めば、聞こえてきたのは小さな悲鳴。大丈夫、敵はまだそこにいる。
「八相、烈火」
言葉短くユーベルコードを発動すれば、先程走らせた衝撃の道が熱を帯びた。
湧き上がる炎は道を辿って一気に燃え滾り、侵入者を尽く焦がしていく。
「何故、何故あなたは否定するのです。癒やされればもう何にも苦しまずのに済むのに……!」
「僕にとってはこの記憶を消されることこそが、何よりも苦しいんだよ」
炎に飲まれつつも問いかける『黒き抱擁』に興和が返すのは重く響く言葉だ。
「この思い出は僕の拠り所、死ぬ時まで僕のもの。狂ったあなたの癒やしなぞ願い下げだ」
もう主様も姉さんも、故郷も失われてしまったからこそ。自分がいつまでも胸に抱いて、つれていきたい。
銀誓館の生徒となってからも、猟兵になってからも変わらない想いを、否定させてなるものか。
拒絶の意思と共に送るのは逆鱗による一撃だ。その毒で『黒き抱擁』を蝕めば、あとは三砂を構えて。
「……僕の記憶から、出ていってくれ」
別れの言葉の代わりに重い一撃を叩き込めば、『黒き抱擁』の身体は粉々に崩れていく。
同時に記憶の世界も薄れていくが――大丈夫。ここは消え去ったりしない。
懐かしい光景に笑顔を向けて、興和は現実へと帰還するのだった。
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猟兵達が戦い抜いた結果、『黒き抱擁』の力は完全に消え去った。
偽りの癒しは成されることなく、残るのは確かな現実と――胸にある記憶のかけら。
大成功
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