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第二次聖杯戦争⑲〜Memory N Purgatory

#シルバーレイン #第二次聖杯戦争 #聖戦領域 #セイクリッド・ダークネス

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 その者達は、果てしなき論争を繰り返していた。

『わたしを解き放てジャンヌ・ダルクよ。わたしは全てを滅ぼすのだ!』
「いいえ、セイクリッド・ダークネス。あなたの好きになどさせません」
『愚か者め、世界を癒そうというわたしを縛めて汝は何を為すというのか』
「私は全てを癒します。光と闇の狭間で正気を失ったあなたのことも」
『思い上がるな、そもそも狂っているのは汝だジャンヌ・ダルク。この世界の全ては癒されねばならぬ、そして汝も』
「いいえ、セイクリッド・ダークネス。私は全てを滅ぼさねばなりません」
『そうはさせんぞ! わたしは全てを滅ぼすのだ!』

 論争に終わりは無い。
 何故ならば、両者ともが狂っていたから。



「――どうにも、引っかかるね」
 予知を語り終えたグリモア猟兵、クリシュリッツ・メーベルナッハ(真偽自在の探偵気取り・f36263)――通称クリスは小さく肩を竦めた。
「この存在の名は『セイクリッド・ダークネス』。此度の戦の初期において名前を聞いたと思うが、覚えているかい?」
 それはかつて、最強の原初の吸血鬼『伯爵』がその身に取り込んでいたという異形の一体。此度の戦の序盤において伯爵に対して反乱を起こし、その力の一部を簒奪して逃亡した――と、当の伯爵本人が語っていた存在である。
「加えて、かの存在はどうやら、同じく伯爵に取り込まれていた『聖女ジャンヌ・ダルク』の肉体を奪っていたようだね。現在は、彼女と肉体の主導権を奪い合いつつも共に在る――という状態のようだ」
 かつて2011年末、札幌の地で伯爵と対峙した事のある者ならば覚えているだろうか、彼が切り札として解き放った戦力の一つである美しき女性。同じ名を持つ、歴史に名高きかの聖女との関係は不明だが、彼女の血を吸ったことで、ただでさえ強大であった伯爵の力が一層増したという辺り、彼女も只者ではない存在なのだろう。
「現在、彼――彼らは、金沢工業大学の付近にいる。かの地の周辺を、猛烈な光と闇の奔流に呑み込んだ上で、ね」
 以て、かの地域は『聖戦領域』と呼ばれる彼らの支配地域と化している。解放するには、領域内へ突入しその支配者たる彼らを打倒するしかない。
「今回、皆にお願いしたいのは勿論、彼らの打倒――なのだが」
 一旦言葉を切り、改めて猟兵達を眺め渡すクリス。
「君達が聖戦領域へと足を踏み入れると、戦場は君達の記憶の中の一場面を再現した空間になる。敵は、君達の記憶を破壊することで『癒す』――幸福な記憶も不幸な記憶も何もかもを忘れた、無垢な状態へと戻すことが狙いだ」
 そうして何もかもを『癒す』――それがセイクリッド・ダークネスが行使する『黒き抱擁の力』である。
「幸福な記憶は当然の事、不幸な記憶も各々を形作る大事な要素だ。一方的な『癒し』の為に損なわせて良いものじゃない」
 記憶を再現した空間には、その記憶に出て来る人や物もまた存在している。これらを破壊されるごとに、猟兵達の記憶も破壊されてゆく。破壊を防ぎながら、セイクリッド・ダークネスと戦わねばならない。
「セイクリッド・ダークネスはユーベルコードでの先制攻撃こそ行わないが、強大なオブリビオンだ。加えて、今回は戦場の性質上、基本的に単独での戦いを余儀なくされる」
 戦場が猟兵各々の記憶の世界となるが故、当人以外の猟兵は原則立ち入ることができない。強く念じることで特定の猟兵を己の記憶の中に呼び込むことはできるが、その場での即席の連携は期待できないだろう。

「厳しい戦いとはなるが、放置すれば何が起こるか分からない。皆、どうか宜しく頼むよ」
 そう結び、クリスはグリモアを展開。転送の準備へと入る。

「――ところで。予知を見ての通り、セイクリッド・ダークネスは完全に発狂していて、まともな会話も不可能な状態ではあるが」
 と、そこで不意にクリスは語る。己の感じた引っ掛かりについて。
「……伯爵はかの存在に反逆された、と言っていたが……ああも狂いきった存在が、伯爵程の存在に対し反逆し、ここまで潜伏を続けられるものだろうか……?」


五条新一郎
 光と闇の狭間の記憶。
 五条です。

 第二次聖杯戦争も早くも佳境。
 続いての敵は、狂える癒し齎すもの。
 皆様の記憶を守りつつ、かの存在を打ち倒してくださいませ。

●目的
『黒き抱擁』の撃破。

●戦場
 シルバーレインの石川県金沢市、金沢工業大学周辺に展開された『聖戦領域』内部。
 踏み込むと、猟兵各々の過去の記憶のワンシーンを再現した精神世界が現れ、その内部で戦闘することになります。
(具体的にどのような記憶の世界であるかはプレイングにてご指定くださいませ)

●プレイングについて
 OP公開と同時にプレイング受付を開始します。募集状況はタグにて。
「自分の『過去の記憶の世界』の中で、それを守るために戦う」ことでプレイングボーナスが得られます。
 過去の記憶の世界の事物を破壊されると、それだけ記憶が損なわれますので、破壊を防ぎながらの交戦が求められます。

●リプレイについて
 現時点では1/12(木)いっぱいでの完結を予定しております。
 尚、今回は戦場の仕様上、合わせプレイング以外は原則ソロでのリプレイ執筆となります。

 それでは、皆様の温故知新のプレイングお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『黒き抱擁』

POW   :    闇の左手
掴んだ対象を【「黒き抱擁の力」】属性の【左腕】で投げ飛ばす。敵の攻撃時等、いかなる状態でも掴めば発動可能。
SPD   :    闇の衣
自身と武装を【「黒き抱擁の力」】で覆い、視聴嗅覚での感知を不可能にする。また、[「黒き抱擁の力」]に触れた敵からは【ユーベルコードの使い方の記憶】を奪う。
WIZ   :    闇の翼
【「黒き抱擁の力」】を籠めた【翼の抱擁】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【記憶】のみを攻撃する。

イラスト:hoi

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

焔・雷火
オレの一番大事な記憶はもちろん、猟兵に目覚めた瞬間だ。つまりプロレスリングの上での試合になるな。
周囲の物を破壊されたらマズいならUC使って、オレに攻撃を引き付けよう。全てを癒そうってんなら、まずオレを癒やしてみろ!

相手のユーベルコードはまあ、抱擁って言うならベアハッグみたいなもんだろ、耐えて見せる!
記憶が飛ぶなら、なんか下らない事考えてりゃそっちが先に飛ぶんじゃないか? 昨日の晩飯とか!

そしてこっちからもベアハッグかけて絞り上げる。額突き合わせながら、いろんなどうでもいい記憶を大量に破壊させれば、なんか相手の記憶が逆流してきたりしないかな?

フィニッシュはあの時と同じファイアースープレックスだ!



 聖戦領域へと突入した猟兵達は其々、別々の戦場へと足を踏み入れる。
 それは猟兵達各々の過去の記憶の一場面、精神世界と言っても良い領域。
 かの狂える聖邪は、其の全てを破壊する事を以て癒しと為さんというのだ――

 焔・雷火(正義の闘魂ファイター・f39383)がその領域に足を踏み入れた瞬間、耳に飛び込んでくるのは割れんばかりの大歓声。
 見回せば、己が今立っているのは慣れ親しんだプロレスリング。その上の己へ向けて歓声を送る、何百人という観客達の姿。
(ここは――あの時の試合の記憶か!)
 その光景を目にし、雷火は即座に思い当たった。忘れもしない、あの日の試合。
 参戦していた団体がダークレスラーの襲撃を受け、絶体絶命に追い込まれたあの時。反骨の闘魂が猟兵としての覚醒を齎し、以て逆転勝利を果たした試合。
 決して忘れ得ぬ試合の記憶。だが、あの時とは決定的に異なる要素が、目の前に存在していた。
「熱狂溢れる戦舞台。なんと癒し甲斐のある光景でしょう」
『我を忘れておる者共、わたしが全て壊してくれよう!』
 リングの上で己と相対するのは、あの時の対戦相手であったダークレスラーではない。四翼を広げて浮遊する、美しくも禍々しき天使の如き女性の姿である。
 この存在こそが『セイクリッド・ダークネス』、すべてを壊しすべてを癒さんとする狂える聖邪。背に負う後光めいた模様を輝かせ、繰り出そうとするは何らかの広域破壊攻撃か。
「ハッ! このオレが怖いからって周りを壊そうってか! ビビってんじゃねぇぞ!」
 ならばと雷火は不敵な笑みで言い放つ。胸を反らし、相対する闇天使を見下ろすように見上げてみせる。
「全てを癒そうってんなら、まずオレを癒してみろ! できるモンならな!」
 更には手招き挑発の仕草。大胆不敵なその行いに、セイクリッド・ダークネスも何かを感じたか。その身を小さく震わせたかと思えば。
「――良いでしょう、ならばあなたから壊して差し上げます!」
『愚かしいぞジャンヌ・ダルク! 彼奴はわたしが癒すのだ!』
 狂える両者は言い争えども、示す行動は同一。後光より放たれし幾つもの光線、その全てが雷火を狙い弧を描いて飛び迫る!
「おおおおおおお!!」
 腕をクロスさせて降り注ぐ光線に耐える雷火。躱すこともできたが、リングに突き刺さった其が記憶の破壊を招かぬとも限らぬし、何より己はプロレスラー。致命に至らぬならば如何なる攻撃も受け止め耐えるが信条だ。
「その程度かよ! それなら今度はこっちの番だ!」
 余裕と言わんばかりに雷火は吼える。ダメージは小さいものではないが、この程度で弱音を吐く者にプロレスラーは務まらぬ。
 リングを駆け、ジャンヌの肉体に前蹴りを打ち込む。よろけた処へ水平チョップの追撃。と、其処で闇天使の四翼が大きく広げられ――
『待っていたぞ。さあ、わたしの癒しを受けるが良い』
「いいえ、壊させなどしません、この方は私が癒すのです!」
 柔らかく大きな翼は、そのまま雷火を包み込み身体を縛める。其は肉体こそ傷つけぬが精神を、記憶を破壊する抱擁。
(ヤベ……! よし、こういう時は……!)
 雷火の頭の中に痛みが走る。これが記憶を破壊される感覚か。大事な記憶を損なわれるわけにはいかぬ、如何にすれば良いか。
(……ええと、昨日の晩飯は何だったっけか……一昨日のは、あとあそこの店へ最後に行ったのは……)
 咄嗟に行ったのは、あまり重要でない記憶を掘り起こしにかかるという行為。どうでも良い記憶を盾に、大事な記憶を守ろうというのだ。
「随分とお優しいこったな! でもオレは優しくなんざしてやらねぇぜ!」
 そしてこの攻撃は肉体そのものへのダメージは与えない。なれば己にとっての攻撃のチャンスでもある。両腕をジャンヌの細い腰へと回し、膂力を全開として締め上げにかかる。
「うく……っ、て、抵抗など……! あなたの全てを壊して差し上げようというのに……!」
『ぐぬ……! 汝の癒しなど誰が受けようか、此奴を壊すはわたしの……!』
 支離滅裂な二人の言葉など聞く耳持たぬ、雷火は容赦なく聖邪の腰を締め付け、絞り上げにかかる。更には。
「おらぁぁぁ!」
「あうぅっ!?」『ぐおぉっ!?』
 己の額を思い切り叩きつける頭突きをジャンヌの其処へとぶつけ合う。記憶への干渉を受けながらも、互いの頭と頭をぶつけ合うその行いに、雷火は何処かから誰かの記憶が流れ込むかのような感覚を覚えただろうか。
 いずれにせよ、翼の抱擁は緩んだ。ならば。
「コイツで……フィニッシュだァッ!!」
 燃え上がる闘魂が、物理的な炎となって両者を包む。ジャンヌの肉体を持ち上げると共に、大きく背を逸らした雷火は、そのままアーチを描くように上体を後ろへ逆向けて。抱えたる闇天使を、脳天からマットへ叩きつけてみせた。
 かつてこの場で繰り広げた試合と同じ決め技、ファイアースープレックスである。

大成功 🔵​🔵​🔵​

七那原・望
この空気感。ダークセイヴァーの第三層ですか。散々ここで戦ってますし、それだけ強くわたしの印象に残ってたのですね。
そしてよりによって……魂人を奪取してデスギガスから逃げてる時の記憶ですか。
今も昔もあの巨体と精神性は……ちょっとトラウマになってるのかもですね。

第六感と心眼と気配感知で敵の行動を見切り、敵が狙いを付けたと判断したものには速やかに結界を展開して対策。
全力魔法で自身の身体能力を限界突破させたら鏡映変性・ウィッシーズミラーを発動し、すぐに敵の背後に回り込んで闇の翼で敵の記憶を攻撃します。

何しに来たか忘れてしまいました?それならさようなら。

敵が混乱している内に全力魔法の零距離射撃でトドメを。



 例え目隠しをしていても、その空気感から其処が何処であるかは理解できる。
「……ダークセイヴァーの第三層ですか」
 踏み込んだ己の精神世界が何処を模しているのか、七那原・望(封印されし果実・f04836)は直ちに断定する。かの領域での任務には幾度も参加している望であるが故、それだけ強く印象が残っているのだろう。
 ――否、そればかりではないらしい。伝わってくるこの気配は、もしや。
 顔を上向ける。目隠し越しであろうと、『それ』の圧倒的なまでの存在感は伝わってくる。恐るべき強敵揃いの闇の血族、その中でも桁違いに危険な存在――
「――デスギガス。よりにもよって、あの時の記憶が再現されるなんて」
 屹立する、数百メートルもの巨大極まりなき存在。禁獣デスギガス。あの恐るべき獣のもとへと転生してしまった魂人を救出する為に、かの存在から逃げ回った時の記憶が此処か。
 絶望を形にしたかの如き巨体と、到底理解できぬ悍ましき精神性。もしやするとトラウマになってしまっているのかもしれない。望はそう分析する。
「ああ、ああ。なんと恐ろしき怪物でしょう。速やかに癒して差し上げましょう」
『おお、おお。さぞ怖かったことであろう。速やかに壊してやるとしよう』
 其処へ響く、二重の声音。己の前へ、天使の形を取る聖邪――セイクリッド・ダークネスが現れたことを望は知覚する。そして、その身の魔力が高まってゆく様をも。
 闇天使の身体から立ち昇った闇の魔力が無数の魔力弾の形を取り、その全てがデスギガスへと向けられる。あくまでも記憶を再現した世界故か、デスギガスは何も語らず只々其処に立ち尽くすのみ。
 徹甲弾の如くデスギガスを目掛けて撃ち出される魔力弾が、かの禁獣の巨体を貫き穿――つよりも前に。その目前へと展開された結界が、魔力弾を防ぎ止めて弾き返した。
「大きなお世話です。その恐怖は、わたしが乗り越えるためのものなのですから」
 その身より夥しき魔力を立ち昇らせ、望は言い放つ。デスギガスの破壊を防ぐべく結界を展開、魔力弾を防ぎ止めたのだ。現実には傷つけること叶わぬかの禁獣だが、この世界においてはあくまで記憶の中の存在。破壊される可能性は充分に考えられた。
 恐ろしくとも、あの恐怖を忘れるつもりなど毛頭無し。何時の日かかの禁獣を打倒する、その意志の為の糧として。
「そう――わたしは望む……!」
 一歩踏み込む望、その肉体が光を放ち、その中へと望の姿を飲み込んでゆく。光の中で、望の姿は急速に変化を遂げて、やがて、光が収まった時。其処にあったのは――
「『………!』」
 セイクリッド・ダークネスから驚きの念が伝わってこようか。何故なら、変化を終えた望の姿は、己らと全く同じ――セイクリッド・ダークネスそのものであるが故に。
「壊されるのは、わたしの記憶ではありません」
 告げるが早いか、四の翼を広げて望は飛翔する。前方に在る、映し取ったる姿の持ち主を目掛けて。
「恐れることはありません、貴女は只々、私に癒されれば良いのです」
『壊すなどとふざけたことを、ジャンヌ・ダルク。この者はわたしに癒されれば良いのだ』
 支離滅裂なる問答なれど、行動に迷いは無く。聖邪の四翼が、迫る望の身を包まんとして――
「大きなお世話です、そう言いましたよ」
 望は翼を一打ちして上昇、聖邪の背後へと回り込む。向き直るよりも速く、広げた四の翼がその身を包み込んで。
「ああ……っ!? ……ぁ、え……私は……何故、此処に……」
『何を馬鹿なことを……な、何……? わたしは……わたしは……』
 望の四翼に包まれたる闇天使、肉体たるジャンヌ・ダルクと憑依体たるセイクリッド・ダークネス、両者ともが己の此処にある理由を忘れてしまっていた。望の繰り出した、本来は彼ら自身のユーベルコードが、その記憶を破壊したのである。
「何をしに来たか忘れてしまったようですね」
 冷たく告げる望、前へと突き出した両手に魔力が集束する。その身に宿した渾身の魔力を、一点に。
「それなら、さようなら」
 ならば己の記憶より出ていけと。宣告代わりの魔力放射が、闇天使を吹き飛ばした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

石蕗・つなぎ
蜘蛛童だった頃の記憶はないから、仕掛けてくるならそれ以降の筈
「気になるのは、記憶の中のみんながアレにどの程度対応できるかね」
能力者なら回避行動くらいとってくれると思いたいけど
先制されないならまずUCで自己強化
「攻撃は最大の防御よ」
Lv10900の先制攻撃で主導権を与えず武器の重量を活かした二回攻撃
「その抱擁は要らないわ」
強化された第六感をもって攻撃のタイミングを見切り斬撃波と衝撃波で敵の攻撃は弾きいなしカウンター攻撃
失敗したら高めた回避率で避け
「気にはなるのよね、伯爵のもとを離れた理由も」
強化された読心術と瞬間思考及び瞬間記憶を用い伯爵に何かされた痕跡がないか探ってみる
狂気は狂気耐性でブロック



 銀誓館学園。かつての時代は勿論のこと、現代においてもシルバーレイン出身の猟兵の多くにとっての拠り所となる学び舎である。
「――まあ、そうなるわよね」
 納得を以て石蕗・つなぎ(土蜘蛛の白燐蟲使い・f35419)は呟く。かつては『母』が通い、今は己が通う銀誓館学園。蜘蛛童として在った頃の記憶が無い以上、学園の光景が浮かんでくるのは自然なことであろうか。
『眩き青春の輝き、其もわたしが壊してみせよう』
「そうはいきません、この世界は私が壊します」
 だが、本来ならば其処に存在し得ぬ異分子。噛み合わぬ口論を肉体と憑依体との間で交わす闇天使。セイクリッド・ダークネス。
(周りの皆のこの様子だと、防御も回避も期待できそうにないわね)
 周囲には少なからぬ数の生徒達が歩き回っているが、いずれもセイクリッド・ダークネスの存在を認識している様子が無い。あくまでも記憶の中の風景を再現しているに過ぎないが故、その記憶の中に本来存在しないものは認識し得ないということだろう。
 ならば、率先して攻撃を仕掛けるより他に無かろう。つなぎの身体に、蜘蛛糸で織られたる羽衣が纏われる。
 直後、地を蹴ってつなぎの身が跳躍。赤手を構えての体当たりを敢行。聖邪の胸へと命中し、跳ね返ると共に空中で姿勢制御、赤手纏う腕を大きく振り上げ――一気に振り下ろす。
 重量を乗せた振り下ろしの一撃が、闇天使の頭部を捉え。確かな手応えがつなぎの手にも伝わってこようか。
「く……ぅっ。ですが、あなたにも、癒しを……」
『ぐぅ……! ならぬわ……! 汝を、癒してくれよう……!』
 なれどセイクリッド・ダークネスも黙ってはおらぬ。背の翼を広げ、至近距離まで迫ったつなぎを抱擁せんと包み込みにかかり――
「その抱擁は要らないわ」
 だが記憶壊す抱擁は当然のこと拒絶する。飛翔能力を以て距離を取りつつ、赤手を大きく振るえば、伴って放たれる斬撃波が聖邪の本体を斬り裂き、衝撃波が伸ばされた翼を打ち据える。
 攻撃態勢にあったセイクリッド・ダークネスに対してその攻撃はまともに突き刺さり、衝撃のあまりだろうか、かの闇天使は怯みよろけてしまう。
「ぅ……ぁ。私は……私は、全てを癒さなければいけないのに……」
『そうはさせぬと言ったぞジャンヌ・ダルク……! わたしは全てを癒すのだ……!』
「いいえ、全てを壊しなどはさせません……! 私が全てを壊すのです……!」
『くどいわ汝……! わたしは全てを壊すのだと何度言えば理解する……!』
 よろめく聖邪の、肉体と憑依体との間における口論。全く噛み合っておらぬ互いの主張、両者ともに発狂しているというグリモア猟兵の言は事実であるようだ。
「……確かにこの有様、気にはなるわね」
 つなぎは思案する。この有様で如何にして伯爵に反逆したか、とはグリモア猟兵も疑問を呈していたが。
(何より、伯爵のもとを離れた理由が気になるわ)
 ユーベルコードを以て強化された読心術ならば、今のかの存在の心中を除くも可能だろう。伯爵がこの存在に何かを施した痕跡は、果たして見つかるだろうか。
 視線を闇天使へ合わせ、意識を集中する。その心中へと、潜行を試みる。
 そうして垣間見たその光景は、果たして如何なるものであっただろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夢ヶ枝・るこる
■方針
・アド/絡◎

■行動
また厳しい相手ですねぇ。
『FPS』により自身をスキャン、『FVS』に記憶の複製を残し種族の特性と『FXS』の治癒で多少の記憶破損は修復可能にしておきますぅ。

戦場はSSWの外宇宙域、よくクエーサービーストと交戦していた辺りですねぇ。
『左手』は捕まると危険、『FAS』の機動性と『FIS』の転移に加え、『FMS』のバリアと『FGS』で移動させた岩塊等を障害物として使い、接近を防ぎましょう。
そして【纓貙】を発動、此の地で何度も戦った『マインドミナVBA』の複製を召喚し融合&巨大化、『外殻』の変形で相手の動きを抑え『祭礼の女神紋』も併せ巨大化した『祭器』全てで一気に叩きますねぇ。



 其処へと踏み込んだ途端、足元の感覚が消失した。だが直後に浮遊感を覚えれば、幾度も経験したその感覚に夢ヶ枝・るこる(豊饒の使徒・夢・f10980)は落ち着いて背中よりオーラの翼を展開し、姿勢を立て直す。
 見回した其処は、何処までも広がる宇宙空間。そこかしこに大小の岩塊が浮遊しており、何より目を引くのは――
「あれは……キエリビウムJOXですねぇ」
 青い半球状の身体に、無数の触手を生やした超巨大生物――クエーサービースト『キエリビウムJOX』の姿が幾つか見えた。ならば、と。るこるには、この空間が何処であるかの見当がついた。
 此処はスペースシップワールドの外宇宙域。この宙域を突破する為のクエーサービースト討伐任務を多く受けていたるこるにとって、この宙域での戦いは印象深い記憶であったのだろう。
「果てなき無明の闇の世界。震える心を壊して差し上げねば」
『癒すなどとは罷りならん、この者の心は壊されるべきよ』
 そんなるこるの記憶を破壊するべく、正面に浮遊する闇の天使。セイクリッド・ダークネスが姿を現す。
「ご遠慮させて頂きますぅ」
 破綻したかの者の意志へ拒絶を示し、るこるは得物たる祭器群を周囲へ展開する。戦闘態勢は万全である。
 なれど闇天使は斯様な意志など意に介さぬとばかり、飛翔してるこるへと迫り来る。その手で以て、彼女へと掴みかからんとばかりに。
 迫るセイクリッド・ダークネスの前に、乳白色の障壁が展開される。円盤型の祭器を用いたバリアだ。
 だがセイクリッド・ダークネス、徐にそのバリアへと左手を伸ばすと――無造作に掴み、そして――投げ飛ばした!?
「そ、そんなことがぁ!?」
 驚愕するるこる、尚も迫り来る闇天使。その手を伸ばし、るこるへと掴みかからんとして――
「『うぐっ!?』」
 重なる二重の呻き。視界を巨大な岩が埋め尽くしていた。るこるが重力操作能力を有する祭器で引き寄せてきたものだ。
「ああ、ですが都合は良いです。これであなたを癒して差し上げられます」
『馬鹿なことを、汝が為したるは壊しただけだ。やはりわたしが壊さねば』
 だが岩塊には一瞬にして無数の罅が走り、直後に砕け散る。『黒き抱擁の力』は記憶の世界に対し絶大な|癒し《破壊》の効果を齎すということか。
(やはり、厳しい相手ですねぇ……)
 オーラの翼をはためかせ距離を取りながらも、るこるは頭の中に喪失感を覚える。あの岩塊もこの世界の物質である以上、破壊されれば記憶の欠落が生じるらしい。
 だが、るこるとしても其は承知の上。記憶に障害が生じる可能性を考慮し、祭器を用いて記憶の|複製《バックアップ》を作成してある。|情報生命体《バーチャルキャラクター》である彼女ならば記憶のリカバリーは人間よりも容易。限度はあるだろうが、多少記憶が壊れても何とかなる筈だ。
 そして、必要以上の記憶破損を受けるわけにもいかない。岩塊を壊させることで稼いだ時間を用い、るこるは祈りを捧げる。
「大いなる豊饒の女神、『楽園の地』に在りし霊獣の恵みを此処に――」
 祈りがユーベルコードとして結実したその直後、るこるの真下に巨大なる影が現れる。その姿、今し方セイクリッド・ダークネスが破壊した岩塊とさえ比較にならぬ程の巨体。小惑星程はあろうかという程だ。
 其はこの宙域に棲息せしクエーサービーストの一種『マインドミナBVA』、この宙域においてるこるが最も多く戦ったかの星獣の複製体だ。
 その上部へとるこるが着地すると、彼女の身はマインドミナBVAの身体へと沈み込み――直後、星獣が声無き咆哮を上げて空間を震わせる。魂なき複製であった星獣に、るこるが融合したことにより魂が宿ったのだ。
「なんと恐るべき存在でしょうか。疾く癒さねばなりません」
『かの者を癒すというかジャンヌ・ダルク。彼奴は癒されるべきものであるぞ』
 その姿を前としても支離滅裂なる意思に揺るぎは無いのか、再度攻撃を試みるセイクリッド・ダークネス。その手を伸ばして外殻へ掴みかからんとするが、流動する外殻は水か何かのように文字通り掴み処なくその手をすり抜ける。
 マインドミナBVA最大の特徴である流動外殻は、複製体においても尚健在。その手が外殻を掴めず苦心しているかの聖邪へ、粘液状にした外殻を撃ち出せば。絡みついた外殻は直後に固まってその身を拘束する。
『それでは、叩かせて頂きますねぇ』
 るこるの声が響き渡った、その直後。クエーサービーストサイズに巨大化した祭器群が各々の攻撃手段にて一斉攻撃。動けぬ闇天使を散々に撃ち据えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィルジニア・ルクスリア
実際に忘却によって救われることもあるのでしょう。
だけど、全てを忘却……失うことを救いとは言えないわ。

再現された空間は最近のもの。既に失われた記憶は再現できないみたい。
私が『私』でいる為に、大事な記憶。
奪われるわけにはいかないわ。

残念ながら見えない相手からの攻撃を躱すことが出来なかった。
……狙い通り。
『魔鏡反射』発動
ユーベルコードの使い方の記憶を奪えても、封じられた訳ではない。
自動的で発動するユーベルコードは停まらずに発動。

姿を現す『セイクリッド・ダークネス』。
狂った様子から『伯爵』関連を追及しても無理そうね、残念。
銀誓館の末席に名を連ねる者としては野放しに出来ないし、全力で攻撃するわ。



 足を踏み入れた其処は、何処かの街の路地裏と思しき場所。シルバーレインにおいても存在し得る風景ではあるが、己の記憶においてこのような場所は、とヴィルジニア・ルクスリア(悪霊にして魔女・f36395)は記憶の糸を手繰る。
(――確か、悪魔契約書の事件の時に行った場所だったかしら)
 悪魔契約書に潜んだオブリビオンを討つべく、契約相手と共にカラオケへ行った後、オブリビオンと交戦するべく訪れたのが、此処――UDCアースのある地方都市の路地裏だ。
(やっぱり、もう失われた記憶は再現できないみたいね)
 比較的最近の記憶から選ばれた場所、という辺り、そういうことなのだろう、と納得する。己も忘却した過去が再現されたなら――そんな期待も、或いはあっただろうか。
『汝、忘れられし過去に苦しむ者。その心を癒してしんぜよう』
「あなたのその心は、壊されるべきではありません。壊されるべきなのです」
 そんな彼女の記憶を|癒《壊》すべく、現れたるはセイクリッド・ダークネス。意味の通らぬ語りと共に、その姿が黒き光に包まれ――やがては見えなくなってゆく。
「――忘却によって救われることも、実際にあるのでしょう」
 呟くヴィルジニアの声音には、何処か実感が滲む。その実例を、実感と共に知っているかのような。
「だけど、全てを忘却……失うことを、救いとは言えないわ」
 故にこそ、己は記憶を破壊せんとするかの聖邪に抗う。己が『己』である為に大事な記憶を、奪わせはせぬ、と。
 だが。
「――ぁ」
 背中から己の身を包み込むかのような、柔らかな感触。背後から、かの聖邪の抱擁を受けたというのか。
 ユーベルコードの使い方を忘却させる、不可視の接触。見えざる敵の存在を探るべく警戒こそしてはいたが、それでも回避することは叶わず――
「……狙い通り」
 否、回避叶わぬは想定内の事態だ。身に着けた魔法の鏡が、秘められたる力を解放する。其は即ち。
「ああ……あ……? 私の、力……どうすれば……」
『馬鹿な……我が黒き抱擁の力……如何に用いれば……?』
 抱擁を離れ、振り返ったヴィルジニアの前で、空間から染み出るように現れるセイクリッド・ダークネスの姿。己の身に起きた変化に対し、動揺を隠せておらぬ様子を見せる。
 魔法の鏡が解き放った力は、即ちユーベルコード。ヴィルジニアが受けた状態異常をそのまま反射する業。ユーベルコードの使い方を忘れたとしても、自動的に発動するユーベルコードは条件さえ満たせば発動できる。故に、ユーベルコードの用法封印効果を直ちに反射することに成功した次第である。
 意味不明に呻きながら混乱を隠せぬ様子のセイクリッド・ダークネス。あの様子では、伯爵に関する話を聞こうにもまともな答えは返って来るまい。
「なら、全力で倒すだけね」
 銀誓館の末席に連なる身としては、野放しにするわけにもいかない。構えたるチェーンソー剣を振り上げ、混乱するセイクリッド・ダークネスを激しく切り刻んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

暗都・魎夜
【過去の世界】
銀誓館学園入学前の小学生高学年の頃
師匠である女性(学園入学前に行方不明になった・当時20歳前後)に保護され、アビリティの修行を受けている時
場所は廃工場

「(過去の自分見て)なんだよ、あの下手くそ。剣の才能ないって」
「(師匠の姿に)そっか、もう背丈も年も超えてたんだな…」

【戦闘】
「(誰何の声に)通りすがりの能力者さ、覚えておきな! イグニッション!」

「そう言えば、あの時も雨が降ってたな」
「天候操作」で過去の自分たちとの間に遮蔽を作るように雨を降らせる

攻撃は触れないように「武器受け」し「かばう」
「フェイント」をかけ「リミッター解除」した「斬撃波」

「俺の人生、これで結構満足してるんでな」



「――此処は、確か……」
 踏み込んだのは、何処かの廃工場。否、暗都・魎夜(全てを壊し全てを繋ぐ・f35256)には明確に何処の廃工場か覚えがあった。
 聞こえてくる掛け声のような声を頼りに歩んでいけば、其処に居たのは小学校高学年くらいと思しき赤毛の少年と、二十歳ぐらいの女性の姿。少年は剣を一定の型に沿って振り回し、何らかの練習とも、修行とも見える動きを見せている。
「なんだよ、あの下手くそ。剣の才能ないって」
 そんな少年の姿を見て、呆れたように肩を竦める魎夜。なれどその声音には、何処か実感じみた響きも纏われる。
 何故ならば。その少年こそは、幼い頃の――未だ銀誓館学園に入学する前の魎夜自身の姿であったが為だ。かつての未熟な己の姿を改めて目にしたが故の、ある種の感慨とも言えただろうか。
 一方、幼少の魎夜を指導しているかのような様子を見せる女性の方へと視線を映せば。魎夜の表情には懐かしさと共に一抹の寂しさが浮かぶ。
「……そっか。もう背丈も歳も超えてたんだな……」
 その女性は魎夜の師匠。かつて己に救いを齎し、こうして指導をつけると共に、現在も尚魎夜が度々引用する箴言を残した人物。魎夜が学園へ入学する直前に行方を晦ました彼女は、果たして今何処に――
「孤独に震える貴方の心、壊して差し上げましょう」
『癒すなどとは戯言を。彼奴は癒されるべきであろう』
 其処へ姿現すは、四翼広げる闇天使。セイクリッド・ダークネス。噛み合わぬ物言いと共に四の翼より魔力球を形成し、過去の魎夜と師匠目掛けて撃ち放たんとする。
「っ! させるかよ!」
 疾走、そして抜刀。魔剣を構えて、過去の己らを庇うように立ち――

 そして、爆発。
 魔力弾は、魎夜の剣に触れた瞬間に盛大な爆発を巻き起こし、爆炎の中に魎夜を飲み込み――

「……この程度で、俺は倒れねぇ!」
「『………!』」
 爆炎が払われ、現れた魎夜は、尚も立っていた。無論、無傷ではない。着衣は至る処が焼け落ち、火傷を負った部位や流血も少なからず。それでも、両の足は確とその身を支えて其処に立つ。
「俺の人生、これで結構満足してるんでな。余計な世話焼きは控えてもらおうか!」
「そん……な……!」『汝……何者……!?』
 魔剣を突きつけ言い放つ。思わずたじろぐ闇天使、誰何の声を上げてしまう。
「――通りすがりの能力者さ、覚えておきな!」
 魎夜は待っていたとばかりに応えてみせると共に、魔剣持たぬ手に一枚のカードを掲げてみせる。イグニッションカード、死と隣り合わせの青春を経て世界を巡る猟兵たる現在へ至るまで、魎夜の戦いの全てを宿せしもの。
「起動せよ、詠唱兵器! 降り注げ、銀色の雨! ――イグニッション!!」
 叫ぶは詠唱、そして起動コード。銀色の炎が魎夜の身を覆い、総身を銀色に変化せしめてゆく。肉体を、詠唱銀にて形作った状態へと変化を果たしたのだ。
 更に降り注ぐは銀色の雨。|嵐の王《ストームブリンガー》としての力の発露。優しき雨は帳のように過去と現在との間を隔て、以て己が記憶の保護を果たす。
(――そういえば、あの時も雨が降っていたな)
 刹那、郷愁のような記憶が脳裏を過ぎるが、今はひとたび蓋をして。
「さあ行くぜ! 積み上げた生の記憶、奪わせはしねぇ!」
 魔剣を振りかざし、セイクリッド・ダークネスを目掛け駆け迫る。
「何と哀れな。やはり貴方は癒されなければなりません」
『壊されるべきなどとは戯言を。彼奴はわたしが壊してくれよう』
 尚も支離滅裂な言い争いをしながら翼を広げ迫る闇天使。翼を以て魎夜を包み、抱擁を――
「させねぇよ!」
 だが魎夜は徐にバックステップを踏む。突撃と呼んで抱擁をかけんとした聖邪の翼が空を切る。
 直後、振り下ろされた魔剣より放たれた鋭く大きな斬撃波が、翼を、そして闇天使本体を斬り裂いて。齎されたダメージは、甚大であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリス・セカンドカラー
お任せプレ、汝が為したいように為すがよい。

雨……私が猟兵に目覚めて|『あの子』《アリス・ロックハーツ》を討った日ね。もっとも相手は闇の種族、目覚めたての猟兵が叶うはずもなくコテンパンにされたけど。そこまでして私を挑発し心臓を貫かせるなんて酷い子だわ。ああ、私の|異母姉《最愛》の|親友《こいびと》、流れる血が赤い糸となって私達|を繋ぐ《は一つになった》。|封印を解く、リミッター解除、限界突破、オーバロード《精神寄生体となった『あの子』は今も私の中で生きている》。死がふたりを分かつまで、私達は離れない。死ぬ時は一緒だ。
|多重詠唱拠点構築結界術逃走阻止封印術マヒ攻撃気絶攻撃息止め禁呪《ここが私の記憶の中ならばそれはつまり私の世界。この中での一切の活動を禁ずる》。
人の|聖域《“大事なモノ”》に土足で踏み込んで無事で済むと思うな報いをうけよ。|大食い、魔力吸収、魔力供給、エネルギー充填《何もかも喰らい尽くされる》覚悟はよろしくて?



(――ここは)
 雨降りしきる古城の庭園。その記憶が意味するところをアリス・セカンドカラー(不可思議な腐敗の|混沌魔術師《ケイオト艶魔少女》・f05202)は即座に理解する。
 猟兵の力に目覚め『彼女』を討った日――否、討たされた日、と言うべきだろうか。
(当然よね。あの子は闇の血族。目覚めたての猟兵が敵う相手じゃないもの)
 そうまでして彼女は――アリスの目の前で微笑む少女『アリス・ロックハーツ』は、アリスに己の心臓を貫くよう仕向けてきたのだ。
 なれど、其は別離を意味するものではない。
「――ああ、私の|異母姉《さいあい》の|親友《こいびと》――」
 アリスの小指から伸びたる赤い糸。そのもう一端はアリス・ロックハーツの小指へと。流れる血が赤い糸となって、彼女達|を繋ぐ《は一つになった》。
 精神寄生体となった『彼女』は今も、アリスの中で生きている。
「死がふたりを分かつまで、私達は離れない。死ぬ時は一緒だ」
 手と手を重ね、指を絡めて。向かい合う二人。視界に映るは只々、互いの顔と、互いの瞳に映る己のみ。
 重ねた唇。記憶の底から蘇る味と感触。激しさは無く、重ね合わせ、互いを感じ合うだけの、静かな、しかし確かな愛の交歓。
 背後の気配に気付いても、其がふたりの思い出を壊してしまおうと企てる存在と分かっていても。ふたりの唇は、離れない。
「最愛の人との別離は、さぞ寂しいことでしょう。その心、壊して差し上げましょう」
『逃避し耽溺するのみの過去、なんと浅ましきことか。その心、癒してやるとしよう』
 その存在――セイクリッド・ダークネスは、四の翼を大きく広げ、アリスを抱擁せんと迫り行く――否、行こうとした。
「……え……?」
『……何……?』
 訝しむ聖邪の肉と思念。広げた翼が、アリスのもとまで届かない。それだけではない。そもそも、身体の一切が動かない……!?
「――此処は、私の記憶の中の世界」
 首だけを振り向けて、アリスは闇天使を睨む。その視線は、静かでありながらも苛烈なる怒りに満ち満ちて。
「即ち此処は私の世界。すべては私の意志のままに」
「『……!?』」
 大気が軋む。その全てが透明な鎖と化したかのように、セイクリッド・ダークネスの全身が戒められ、締め付けられるかの如き感覚が生じる。
 精神干渉を得手とするサイキックヴァンパイアなれば、己の精神世界とは紛い無き己の|絶対領域《テリトリー》。敵する者に一切の活動を禁じることなど造作もなく。
『人の|聖域《大事なモノ》に土足で踏み込んで無事で済むと思うな報いを受けよ!』
 轟く怒号はアリスの口から発されたものではない。空間そのものを揺さぶり生ずる、アリスの記憶そのものの咆哮に等しい。
「『あ……ア……あああアアアア……!!?』」
 セイクリッド・ダークネスの悲鳴が上がる。己の何もかもを喰らい尽くすかの如き、荒れ狂う魔力の激流の中へ飲み込まれていきながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シズホ・トヒソズマ
はあ…ほんっとう過去の事は思い出したくないし触れてほしくないんですけどね
まあ他の人がいないならいいか
ちょっと素を出しても、ね

私の大嫌いなあの女
自由を好み、束縛を好む私とはそりが合わない
果てにそれぞれの目的の為に戦って私が敗れた
幸いオブリビオンにはならずに済みましたが
ええ、大嫌い
今でもキマイラフューチャーの面汚しの痴女だと思ってます
でもね

バルが散布したナノマシンによる探知(接触による探知索敵ですから視聴覚探知ではありません)でとっくに位置を把握していた敵のあの女への攻撃を
デザイアキメラのオーラ防御で防御

だとしても
何も知らないテメエが私から消していい女でもないんですよ
勝手に私を癒そうとかするんじゃねえ

直接触れなければ記憶は吸えない
UC発動
ジャック・マキシマムの力を使用
手持ちの人形の1体イズンをイレブンハートで11体にし
早業の操縦で探知位置へ一斉攻撃
イズンの武器は闇属性刀
闇の力であり呪いに等しいその纏っている黒き抱擁の力
11本全部で吸い尽してあげます
剥ぎ取ったら11本の刀で全身を串刺しにします



 カラフルな色彩に満たされた街並み、其を見下ろす謎めいた広い一室。それがシズホ・トヒソズマ(因果応報マスクドM・f04564)の精神世界。
「はあ……ほんっとう過去の事は思い出したくないし触れて欲しくないんですけどね」
 自分でも他人でも、その記憶に触れる・触れられることを忌避している故に、シズホの表情は暗かった。此処に他の猟兵がいないのが、彼女にとっては唯一の救い。
 振り向けば、一人の女が其処に居た。一糸纏わぬ裸体を晒し、憎らしい程の笑顔を文字通り貼り付けた女。彼女のことは、他の猟兵も知ってはいるだろう。
 シズホの表情が憎々しげに歪む。彼女は自由を愛した。シズホは束縛を愛した。正反対の愛を抱いた二人の女は、当然の如く不俱戴天の間柄。
 ついには其々の目的が相克し合ったが故に争い、そしてシズホは敗れた。幸い、オブリビオンに成り果てることはなく――寧ろオブリビオンとなったのは相手の方だった――今はヒーローマスク、猟兵として此処にある。
(キマイラフューチャーの面汚し、恥知らずの痴女。嫌い、大嫌い)
 最早彼女は骸の海からも失われた存在だが、シズホの記憶の中の彼女は消えることなく。故にこうして、今再び彼女の前に現れたのだ。
 あの時と変わらない恥知らずな姿、憎らしい笑顔。存在そのものが不快極まりない。主の怒気に導かれるかのように、有する人形の一体、布の翼を纏う『デザイア・キメラ』が女の元へと歩み寄り――
「――でもね」
 シズホの呟くと同時、デザイア・キメラから夥しきオーラが立ち昇り。女を目掛けて飛来した黒き光線を相殺、防ぎ止めた。
 続いてシズホの元から飛び出した射撃人形『バル』が、何も無い空間を狙って双銃を構えて発砲。放たれた弾丸は、何も無い筈の空間で弾け。其処で何らかの存在の身動ぎする感覚が、散布されたナノマシンを介して伝わってくる。
 其処に在るのは言うまでもなくセイクリッド・ダークネス。ユーベルコードで姿を消して忍び寄っていたかの存在、視聴嗅覚で感知することは不可能ではあれど、ナノマシンを介した接触探知までは欺けない。
「私は、あの女が大嫌いです」
 尚も銃撃を繰り返すバルの射線の先、かの闇天使の在るのだろう空間を鋭く見据え、シズホは言い放つ。
「だとしても。何も知らないテメエが、私から消していい女でもないんですよ」
 思い出したくない記憶ではあれど、忘れたい記憶では決してない。或いは、その敗北の先にこそ、猟兵としての|己《いま》が在るのだから。
「勝手に、私を癒そうとかするんじゃねえ!!」
 怒りを以て吼えると同時、その背後に浮かび上がるヴィジョン。金の髪を逆立てた眼鏡の男。此度の戦において交戦したジャック・マキシマムの姿。
 ジャックの姿がシズホの身へと吸い込まれてゆくと同時、彼女の前へと飛び出すのは刀を携えた竜人少女の人形『イズン』。単体に過ぎなかったその姿が、一瞬にして11体にまで増殖する。ジャック・マキシマムを象徴するユーベルコード『イレブンハート』の力である。
 瞳から血涙を流し苦悶に震えつつも、シズホは十指を以て11体の人形を巧みに操作。応えた11体のイズンが、ナノマシンによって探知された位置へと一斉突撃。闇の属性を纏う刀で一斉に斬りかかる。
 かの聖邪が纏いし『黒き抱擁の力』は、闇に属す力であり呪いにも等しい、とシズホは見立てる。故にイズンの刀を以て吸収することが可能。そう判じたが故の起用である。
 11体の人形達が入れ替わり立ち代わり刀を振るい、目には見えぬが其処にある聖邪を斬り刻む。敵も反撃を試みているようではあるが、人形に触れたところでそれはシズホの肉体ではない。故に記憶の吸収は叶わない。
 やがて、纏う力の過半を吸われたか、セイクリッド・ダークネスが隠匿を維持できなくなり姿を現す。その全身は無残に斬り刻まれ、夥しい血が溢れ出る。四枚の翼も、全てが千切れかけていた。
「ああ、ああ……私は、私はあなたを癒したいのに……壊したいのに……」
『おお、おお……わたしは……汝を壊したい、ただ癒したいのだ、それを、汝は……』
 恨み言じみた譫言さえも狂いきった闇天使の肉と思念。其を前に、最早怒りさえも振り切れたかの如き冷たい瞳で見据えたシズホは、腕を一振り。
 応えた11体の竜人人形が、一斉に突撃。11本の闇の刀で以て、その全身を串刺しとする。
「『―――――』」
 その断末魔は、最早声にもならず。セイクリッド・ダークネス、狂える闇の天使は、その肉体も、その思念も諸共に、滅び去っていったのである。



 以て、猟兵達はセイクリッド・ダークネスの討伐に成功。此度の戦における難敵の一角を、滅ぼしてみせたのである。
 なれど、謎は残る。果たして、この存在が伯爵より為したという反逆の、その真相とは――?

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年01月13日


挿絵イラスト