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第二次聖杯戦争⑮〜11人の待ちプレジデント

#シルバーレイン #第二次聖杯戦争 #ナイトメア王『ジャック・マキシマム』 #プレジデント #???「くにへかえるんだな。おまえにもかぞくがいるだろう…」 #30年間変わらない完成された戦術 #勝っても負けても|灰皿投げ《灰皿ソニック》の刑 #そしてリアルストリートファイトの第二ラウンドに発展する

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#シルバーレイン
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#プレジデント
#???「くにへかえるんだな。おまえにもかぞくがいるだろう…」
#30年間変わらない完成された戦術
#勝っても負けても|灰皿投げ《灰皿ソニック》の刑
#そしてリアルストリートファイトの第二ラウンドに発展する


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●失われたゲーセン
 『シンデレラチャーム』……それはかつて石川県を代表するゲームセンターであった。通称『新茶扇』とも『新茶』とも呼ばれた遊技場は金沢工業大学生と金沢大学生のホームとして賑わい、当時人気だった格闘ゲームのレベルが高い地として数々の名勝負が繰り広げられたという。
 現在は店を畳んでしまっているが、居抜きによって他店舗が入居しており建物自体は残っている。だが、ナイトメア王『ジャック・マキシマム』によって骸の海よりシンデレラチャームが当時の筐体を並べた姿で復活したのだ。その数、優に11店舗!!
 清遊のアミューズメントパークはナイトメア王の自身の所有物を11倍にするユーベルコード『イレブンハート』により無数の『実体化したゲームキャラクター』に守らせた自身の要塞『ジャックマキシマムハウス』へと変えたのだ。そのひとつの店舗を覗くと、何やらどこかで聞いた声で騒乱としている。

『ここをコロンビア特区とする!!』
『いい考えだ、私。だが、全てを統括する大統領……即ちプレジデント・オブ・プレジデントは誰が担うというのだね?』
『私よ、ここは自由と平等のフロンティアらしく合議制というのはどうだろうか?』
『良い案であるな、私よ。だが、長が誰であるかを何れ白黒を付ける時が来るものだ』
『ならば、私たちよ。ここは男らしく拳で決めようではないか』
『それはいい考えだ。さぁ、かかってこい!』
『こっちのセリフだ。しかし、私よ。何故力を溜めるようにしゃがんでいるのだね?』
『私こそ同じだろう?』
『このままでは埒があかない。まず私がしゃがみを解こう』
『では、私も』
『くっ……私も』
『『どうぞどうぞ』』
 何故かアポカリプスヘルのオブリビオン・フォーミュラ……フィールド・オブ・ナインの一柱『プレジデント』が11人に分裂して、互いに拳を構えながらしゃがみ合って対峙していた。


●グリモアベースにて
「……という予知を視てしまったのです」
 秋月・信子(|魔弾の射手《フリーシューター》・f00732)がげんなりそうな顔をしているが、正月三が日が明けたとは言え11人のプレジデントとかいう悪夢その物を視れば誰だってそうなろう。

「不幸中の幸いというか、アレはナイトメア王が持つメガリス『夢魔随筆・下巻』によって作り出された『複製体』よ。オリジナルより性能が低いのが何よりもの救いね」
 信子の影が隆起したかと思えば、彼女の影に宿るグリモアを核とする瓜二つの|二重身《ドッペルゲンガー》が姿を顕現させ、まだ精神状態が落ち着かない本体に代わり補足する。彼女たちの話によれば、ナイトメア王『ジャック・マキシマム』によって骸の海から閉店してしまったゲームセンター『シンデレラチャーム』がサルベージされ、筐体を利用して作成したゲームキャラクターによる巨大なオブリビオンの軍勢を編成しようとしているらしい。プレジテントもそのひとりなのだが、予知でも語られていた通りにどうも様子がおかしいという。

「これは私たちの予想だけど、多分触媒に使ったゲームの筐体が影響を及ぼしているかもね。ほら、黎明期の格ゲーってバランスが極端すぎて、店によっては使用禁止されるまで溜めキャラが猛威を振るっていたって聞くじゃない?」
 思えば、プレジデントは竜巻すら引き起こす鋼鉄の回転拳による|遠距離攻撃《←ため→+P》と天高く吹き飛ばすアッパーカットの|対地攻撃《↓ため↑+K》を得意としていた。ならば、信子の影が語るようにプレジテントの技が格闘ゲームのキャラクターと合致したことで何らかの異常が起きた可能性が高い。

「と、ともかく、このまま放っておけばねずみ算式にプレジテントが増えてしまいます。ナイトメア王の動向も見逃せませんが、こちらも由々しき事態ですので直ぐ様対処する必要があります!」
 気を取り直した信子が自身の影と説明が入れ替わると、二重身はゲートに変わるからと言い残して元の影へと戻る直前に、思い出したようにあることを言い残す。

「下手に近寄ると一方的にやられちゃうけど、今の格ゲー環境は飛び道具打ち消しとか実装されて、そこまで凶悪な戦法じゃなくなってるわ。あとプレジデント自体もアポカリプス・ランページのままだろうから、そこから対策を練っても良いかもしれないわよ?」
 格ゲーの溜めキャラ対策をやるか、アポカリプス・ランページで判明済みのプレジデント対策をやるかは現場の猟兵に委ねられるが、最善は両方を行うことであろう。言うは易く行うは難しであるが、飛び道具を持たずにこれといった対策が無いキャラであっても立ったまま技を繰り出す技術を体得した熟練プレイヤーとなれば、切り返しが乏しい溜めキャラ使いは絶好の鴨とされていたとも聞く。何はともあれ、プレジデントをこれ以上増やさないためにも彼らへ挑むしか無いが、格ゲーの影響を受けているのであれば一対一の勝負に持ち込みやすいだろう。
 そんなアドバイスを影が言い残すと、人型の身体が漆黒の不定形状に代わりゲートを形成させる。猟兵たちは復活したシンデレラチャームのうち、プレジデントが待ち構える店舗へと転送されるのであった。


ノーマッド
 ドーモ、ノーマッドです。
 シナリオOPを考えるにあたって調べ物をしていましたら、11人由来の作品名は結構多いのですね。最近の映画ですと、なんとかイレブンが有名所ですが、昔の時代劇や西部劇でもあったのは意外でした。

●戦場概要
 ナイトメア王「ジャック・マキシマム」はかつて「金沢市もりの里」に存在したゲームセンター「シンデレラチャーム」を骸の海より引きずり出し、無数の「実体化したゲームキャラクター」に守らせた自身の要塞ジャックマキシマムハウスに変えています。彼の操るユーベルコード「イレブンハート」は「自身の所有物を11倍にする」為、放置すれば彼は瞬く間に巨大なオブリビオンの軍勢を編成してしまうことが予想されます。ジャックはメガリス「夢魔随筆・下巻」を利用して、かつて猟兵が破ったフィールド・オブ・ナインの1人「プレジデント」の「11人の複製体」を作成してしまいました!
 複製体である為、過去の戦争当時よりは弱いようですが、それでも11人のプレジデントは脅威です。過去の戦争の記録を利用し、敵の攻略法を編み出すことで、勝機は猟兵により近付くでしょう。

 よって、プレイングボーナスは、『アポカリプス・ランページの記録から、11人のプレジデントの攻略法を編み出す』となりますが、OP内でも語られてた『格闘ゲームの溜めキャラに影響された待ちプレジデント対策』も入ることに致します。
 シナリオの難易度自体は『普通』ですので無理にプレボを両方狙うこともありませんが、余裕があればプレボの同時達成をお狙いください。

 それでは、格ゲーに熱が入りすぎて思わずリアルファイトに発展しそうなまでの熱いプレイングをお待ちしています。
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第1章 ボス戦 『プレジデント複製体』

POW   :    アイ・アム・プレジデント
自身の【大統領魂】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
SPD   :    プレジデント・ナックル
【竜巻すら引き起こす鋼鉄の回転拳】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
WIZ   :    アポカリプス・ヘブン
【対象を天高く吹き飛ばすアッパーカット】を放ち、レベルm半径内の指定した対象全てを「対象の棲家」に転移する。転移を拒否するとダメージ。

イラスト:色

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

イザベラ・ラブレス
【アドリブOK】
嘘…プレジデントが…ガン待ち勢…?(解釈違いにクラっとする自称プレジデント限界オタク猟兵)
確かに|必殺技《UC》の方向性はあってるけど…どっちかといえば正統派ボクサーキャラでしょ!?
グローブ付けながら紅茶飲むキャラみたいなっ…あれは英国人だけれどもっ…!

はぁ…とにかくさっさと倒すわよ!私の精神衛生上の理由で!

溜めキャラのガン待ちは飛び道具で削っていくのが定石。
最近の格ゲーは射撃武器持ちも珍しくないしフェイルノートの【弾幕】攻撃でガードの上からHPを削るわ。

プレジデントの大統領魂、恐らくスパアマ接近技でしょうから接近を【見切り】、【カウンター】のゴリラパンチで迎撃よ!



「やだ|真実《マジ》……ッ! "|大統領《プレジデント》"が、あの"|大統領《プレジデント》"が……還って来るの!?」
 自称プレジデント限界オタク猟兵のイザベラ・ラブレス(デカい銃を持つ女・f30419)は、複製体とは言えプレジデントがこの世に再臨を果たした事実に歓喜した。自身も視た予知が|幻想《ユメ》かと思えたが、確かに予知は|現実《リアル》となったのだ。|力が法であり正義《強えヤツは正しい》であるアポカリプスヘルにおいては、過酷な環境を生き抜く筋骨隆々の肉体が理想の男性像としてして良く上げられている。
 それはアポカリプスヘルで名を馳せる傭兵一族の名門ラブレス家令嬢であるイザベラも例外ではなく、まさに『歩く|アメリカ大陸《ステイツ》』であるはち切れんばかりな大胸筋であるプレジデントが彼女の心を射止めたのだ。しかし、お嬢の恋は再び文明はおろか世界をも破壊せんとした|超生物《オブリビオン・フォーミュラ》『フィールド・オブ・ナイン』であるプレジデントが骸の海へと還ったことで、イザベラの苦い初恋が終わりを迎えた……かと思えた。
 だが、奇跡は起きた。既に骸の海送りされた強敵が何かを切っ掛けに復活する現象に僅かながらの願いを託していたイザベラの前に再びプレジデントが姿を見せたのだ。また殴り愛えるのだと考えるだけで|恋心《エンジン》に火が点いてしまう。しかもプレジデントはひとりではなく11人も居るのだ。その事実を前にお嬢の頭はのぼせ上がる一歩手前にまでなったのであるが、とある事実を目にしてそれは急速に冷えていった。

「嘘……プレジデントが……ガン待ち勢……?」
 |解釈違い《限界オタクの地雷》である。確かにプレジデントは骸の海から還って来た。しかしながら、それらはナイトメア王『ジャック・マキシマム』が有する『|夢魔随筆・下巻《メガリス》』による外法の反魂によって創られた複製体に過ぎない。
 そして、ナイトメア王はプレジデントのことを詳しく知っていない。ましてや筐体のデータを元にしているとなれば、アメリカ出身という共通点だけで混ぜられてもおかしくはない。

「確かに|必殺技《UC》の方向性はあってるけど……どっちかといえば、プレジデントは正統派ボクサーキャラでしょ!? グローブ付けながら紅茶飲むキャラみたいなっ……あれは|英国人《イングリッシュマン》だけれどもっ……!」
『そう言ってもだね、レディ。私としても何故かこう構えてしまい、困っているのだよ』
 相手からの攻撃を待ち構えながらしゃがんでいる複製体のプレジデントにイザベラが激しい剣幕で指を差しながら抗議するが、当然と言えば当然だがオリジナルと同じ声で返ってくるのが更に精神を削りにかかってくる。
 彼女としては、プレジデントは同じ溜めキャラであっても非常に高い攻撃力と突進力、同時に打たれ強さを持った攻めを得意とする肉体派な溜めキャラである。具体的には間合いを保ちながら溜めを作り、隙あらば重機関車のような突進技で画面端に追い詰めた後に連続技を叩き込む感じか。とは言え、この手の溜めキャラはシンプルな分手数が少ないのが弱点な上に動きが単調となりがちで、状況に合わせて立ち回りを工夫せねばならない玄人向きでもある。『派手』や『ロマン』にてんで弱いイザベラ好みと言えようが、もはや姑息な待ちスタイルを取るプレジデントなどプレジデントの皮をかぶった偽物でしかないのである。

「はぁ……とにかくさっさと倒すわよ! 私の精神衛生上の理由で!」
 クソデカな溜息を漏らしつつ、アレは偉大なる大統領ではないと自身に言い聞かせながらイザベラは自身の影を隆起させた。人型の影は不定形な獣の姿を形成させ、不定形な泥と形容できる動体から吐き出されるかのように店内の照明に反射して黒光りする筒状の物が出てくる。それを女性らしいほっそりとした腕から想像できない膂力を持ってして片手で引き抜いて姿を見せるは、グリップと引き金より後方に弾倉や機関部を配置することで重量バランスを調整するブルパップ方式のM2082対物対空ライフル『フェイルノート』。従来の対空ライフルより軽量化が図られているが、それでも重量が10キログラムを越える巨銃を体重移動を片手でガンスピンさせて後部レシーバーを肩へと乗せると同時に、こちらもプレジデント同様にしゃがんだ。

『HAHAHA。対物ライフル程度では私の鉄壁たる守りを崩すことは……』
「つべこべ言わず、黙って喰らいなさい!」

 BANG!! BANG!!

『ぐぅッ! この衝撃は……まさか機関砲かッ!?』
 一般的な対物ライフルの口径は重機関銃と共用の12.7ミリだが、フェイルノートの口径は25ミリと銃ではなく砲に属するサイズだ。また、古き格闘ゲームでは|徒手空拳《ステゴロ》が基本であったが、ジャンルが30年にも渡り円熟されていけば刀剣はおろか銃器といった射撃武器を使うキャラクターはそう珍しいものではない。
 重機関銃の弾幕に耐えきれる鋼鉄の回転拳と言えども、流石にこの衝撃は大変重く響くのか。プレジテントの自信に満ちた余裕と鷹揚さが消え失せていく。このままでは|回転拳が射ち砕かれる《ガードクラッシュ》のも時間の問題と捉えた大統領が遂に動いた。待ちから攻めの反転だ!
 
『私の|大統領魂《ディクショナリー》には、敗北の二文字はないのだよ!』
 プレジデント再臨の触媒となった格闘ゲームのキャラクターは、|合衆国《ステイツ》の武威たる|空軍《エアフォース》の軍人だ。待ち戦法が有名であるが、実はそんなこともなく攻め戦法でも強いキャラだ。対処の難しい弱飛び必殺技を追いかけて畳み込むというまっとうな戦法はもちろん相当強いのだが、マシンガンジャブや対空必殺技の着地硬直が0フレなどと開発者が流石に隙が無さ過ぎるとマスターROM提出直前に修正を図ろうとしたほどだ。「今更こんな変更をして、バグが出ても知りませんよ?」とプログラマーが呟いたともまことしやかに囁かれるが、そうして生まれたのが『真空投げ』と呼ばれるチート級のバグ技である。
 それは、上昇中は完全無敵の対空技、ダウン中の無敵状態すらも完全無視して通る『無敵貫通』の投げコマンドは待ち戦法同様に入力はさほど難しくはない。熟練者が実行すれば、一度投げられたら為す術もなく投げ続けれしまうという極悪極まりない技への対処法は、当時は筐体が横並びされるのが一般的でもあったことから隣り合う|対戦相手《プレイヤー》にリアルパンチを食らわせると言わしめるまでだ。

「狙い通り、待ちを解いて攻めに来たわね」
 イザベラは残弾がまだ残るフェイルノートをかなぐり捨て、締まりのあるしなやかな肉体で跳ね上がらせて起き上がると、革靴の底を床にキュッと擦り鳴らしてプレジデントを迎え撃つべく拳を構えてファイティングポーズを取る。眼前にはまだ撃ち続けると思っていたのか、虚を突かれたプレジデントの姿が迫っている。彼の記録映像を何度も見返すほどの限界オタクだからこそ、彼女はこのタイミングを待っていたのだ。電子によって体組織を構成された偽りの大統領とは言え、その身に宿りし|大統領魂《誇り》を己が拳に託して賭すこの時を──。

(大したレディだ。全ては私を誘い出す作戦だったとは……ならば、その想いをこの身で受け切ろう。その後に返答を拳で返そう)

 ──何故なら、私はアメリカ合衆国大統領だからだ!

 プレジデントは電子の写し身に刻まれた古き良き定石の戦法をかなぐり捨て、アーマーキャンセルを狙ってのボクシング独特なフットワークで一気に詰め寄る。繰り出される剛腕の射程内に入るか入らないかの|刹那《フレームタイミング》を見切り、イザベラは自身の|拳技《ユーベルコード》『ゴリ・ラッキー・パンチ』を繰り出した。

『グ……ハァッ!?』
 ガードキャンセルを狙っての大統領魂は不発に終わった。繰り出す直前、プレジデントは視たのだ……イザベラの背後で親指を立てるゴリラの|幻影《ファントム》を。そして彼は見誤った。彼女がうら若き乙女ではなく、握力400キログラムもある|漢女《女ゴリラ》であったことを。
 プレジデントの水月を殴り上げ、巨体が宙を舞う。設定されていた体力ゲージが真っ赤に染まったのか、大統領の身体に雑音混じりのノイズが走ると仮初の肉体が基盤へと還ったのだ。

「……|Good Boy《さよなら》,|Your Excellency《大統領》.」
 解釈違いとは言え、大統領魂を賭した姿は確かにプレジデントであった。ほろ苦い勝利を噛み締めながら、イザベラはプレジデントが打ち上げられた空間を涙ぐみながら見上げていたのだった。


       YOU WIN !

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティエン・ファン
えーと、確かこの待ちアメリカ人に有利を取れるのは、ヨガの得意なインド人だっけ?
日本生まれ日本育ちのベトナム人じゃ有利にならないかな?

さて、私はこの人のことは知らないんだけど、過去の戦争の記録を見るに、真の姿で、かつボクシングで戦うと有利らしいんだけど。
私ボクシングはさっぱりなんだよね。
ので、格ゲー基準で対策をして戦わせてもらうよ!
遠近両方で戦える溜めキャラの攻略法といえば、高回転の飛び道具で削り切る!これだね!
そして私は格ゲーキャラじゃないんで、回転数に制限がないんだよ!
というわけで八卦浄銭弾雨を発動!
一度に645発の浄銭の雨、受けきれるものなら受けきってみるがいいよ!



「えーと……確かこの待ちアメリカ人に有利を取れるのは、ヨガの得意なインド人だっけ?」
 ティエン・ファン(除霊建築学フィールドワーカー・f36098)はプレジデント複製体の元となった年季の入った筐体を見やる。電源が入った筐体では世界各国からの代表が自己紹介とともに対戦し合っているデモが流れているが、インド代表はヨガを得意とするが何故か手足が伸びるというインド人もびっくりな宇宙人めいた技の持ち主だ。
 言わずと知れた格ゲー界の元祖色物キャラクターにして、日本全国のちびっ子にインド人とヨガの何たるか誤解させた元凶であるが、リーチが長い牽制力によって待ち溜めと並び2強に数えられる。緩慢な動きが祟って手数の速さで攻め込むスピードキャラにはてんで弱いが、熟れた者が扱えば的確に伸ばした手足で先読みした相手の行動を事前に封じていくというトリッキーな戦いに持っていけるので十分に強い。おまけに溜めコマンド相手には下→前斜め下→前の順番に入力する236コマンドの回転率で勝つので、待ちプレジデントにも有用な戦い方となろう。

「私は日本生まれ日本育ちのベトナム人だけど……それじゃ有利にならないかな?」
 などと、むむむと眉間にシワを寄せて考え込むティエン。

『いや、決してインド人だからこそ私に有利となる訳でないのだが……』
 プレジデントのツッコミはごもっとで、要は格ゲーの勝敗はキャラの性能のみで決まらず、使い手の技のみでも決まるものでもない。ただ、結果のみが真実なのだ。

「それもそっか。じゃあ、サクッと|闘《ヤ》って終わらせるね?」
『これはこれは。お手柔らかにお願いするよ、マダム』

  GET READY? FIGHT!!

 何処からともなく滑舌のいい英語の掛け声が流れ、格闘ゲームの様式に従っての勝負が始まった。良くあるラウンド・ワンが入っていないのは泣いても笑っても一本勝負だからこそである。
 プレジデントもそれを理解してか、試合開始の掛け声が始まるまでは紳士的に軽やかなフットワークで前後を行き来していたが、開始されれば苛烈な必殺技がすぐさまと炸裂させる。

『アポカリプス・ヘブン!』
 何故わざわざ技名を叫ぶかと云われれば、それが格闘ゲームの|様式美《お約束》としか言いようがない。実戦においては繰り出す|行動《アクション》をご親切に宣言しているに等しいので、躱すのは造作無いことである。

「よっ、はっ、ほっ……と!」
 天高く吹き飛ばすアッパーカットの連撃をティエンは難なく躱すが、ゲーム画面越しのキャラではなく実際に自分が戦っているだけあって、拳圧による衝撃の余波が空気の塊となって顔を掠めていく。オリジナルのオブリビオン・フォーミュラとは劣る複製体とはいえフィールド・オブ・ナインの一柱であるプレジデントだけあって、上級オブリビオンに迫る破壊力を有しているのは肌を感じで分かる。
 まともに喰らえば無事では済まされないならば、攻撃こそが最大の防御となる……のだが、ここで相手の待ち戦法が厄介となる。プレジデントも先程の攻撃が当たるとは思っていなかったらしく、せいぜい牽制として自分を離して間合いを稼ごうという思惑だったのだろう。その証左にプレジデントはしゃがみ体勢を取って、飛び道具攻撃を繰り出そうと両腕に取り付けている回転拳を唸らせ始めていた。

(うーん……本物とは戦ったことはないけど、真の姿になった上でボクシング勝負に持って行かせるとそれに乗ってくれるんだったっけ? けど、私ボクシングはさっぱりなんだよねぇ……)
 ボクシングのルールは分かっていても、実際にやるまでの技術は持ち合わせていない。そこで彼女が取った解決法は、複製体製造の元になった格闘ゲームに則った対待ち溜めキャラ用の対策法である。

「遠近両方で戦える溜めキャラの攻略法といえば、高回転の飛び道具で削り切る! これだね!」
 そう、彼女が先程考えたヨガの得意なインド人が使う飛び道具、236コマンドの回転率だ。ティエンが懐からある物を取り出すと上空に向けて投げ放つ。銭差しで貫として纏められた浄銭である。

「受けきれるものなら受けきってみるがいいよ! 浄銭よ……弾雨となりて我が敵を穿て!」
『なっ……!?』
 すかさず印を刻んで詠唱すれば、|術式《ユーベルコード》『八卦浄銭弾雨』が発動される。何を繰り出すかと思ったプレジデントが目を丸くさせたのも当然で、仄かに光を帯びた一枚一枚の浄銭が意思を自分めがけて襲いかかって来たのだ。
 すかさずコマンドをキャンセルさせようとしたプレジデントであったが、浄銭の雨が文字通りに身体を削りにかかってくる。ましてや彼の身体は悪しきメガリスによって再現された身となれば、浄化の力を宿した古銭の効力も馬鹿には出来ない。

『このままでは、くっ……不覚!』
 そうして全ての浄銭がプレジデントへと降り注ぎ終わったと同時に、体力ゲージが赤一色となったのか。そこには散らばった浄銭しか残っておらず、彼の身体は成仏したゴーストのように消え失せていたのであった。

「やったぁ!」
 見事勝利を飾ったティエンは年頃の女の子に戻ったかのように、その場でジャンプをして無邪気に嬉しがって勝利を噛み締めた。


       YOU WIN !

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルジェン・カーム
…げぇむというものでしたか
色々な世界に普及していますが…新鮮ですね

対プレジデント
僕は初めましてですが過去の情報を見ると…
ぼくしんぐ…拳闘ですか!とはいえバトルガントレット?も持ってるようですし…
格闘戦なら多少は自信があります!

【戦闘知識】
敵の動きと攻撃の癖というか攻撃パターンの解析
有益なハメ技の把握

UC発動
コンボ…でしたか?
実は僕もそういう系列の技は心得てます
なので…拳闘…挑ませて頂きますね?
【二回攻撃・弾幕・念動力】
念動力を拳と武器に込めて
蹴りと拳の弾幕の如き連続攻撃から
宝剣による剣戟
待ちならば空気の断層による超神速の刃で刻み
ダメージが通る限りの怒涛の連続コンボを叩き込みます!!



「……げぇむというものでしたか。色々な世界に普及していますが……新鮮ですね」
 猟兵とプレジデント複製体とのリングとなっているゲームセンター『シンデレラチャーム』。格闘ゲームならず様々なジャンルのゲームが所狭しと並ぶ筐体の画面を、興味深くアルジェン・カーム(銀牙狼・f38896)は覗き込んだ。今のAC筐体はひとつのゲーム専用機みたいなものだが、この時代の筐体は最新作ではないが人気がある作品も選んで遊べるように数枚の基盤を差し込まれており、コイン投入前か投入後でその中のひとつを選んで遊ぶ形式となっている。まるでひとつの世界にいくつもの世界が納められている様が、アルジェンの出身世界であるエンドブレイカーと重なり合ったのであろう。

『ほう、青年よ。古き良き筐体がそんなに珍しいというのか』
「ええ。少なくとも、こういった形式は初めてと言ったところです」
 彼の隣ではプレジデントの一体が腕を組みながら、現在繰り広げられている対戦が終わるのを紳士的に待っていた。彼らとしてはゲームの基盤に入っているデータを触媒に創られているということで、筐体に被害が及ぼすのを避ける意味合いも込めてゲーム内のルールに沿って一対一の勝負を行っているに過ぎない。猟兵側もあのプレジデントを数体まとめて相手にするよりは、ひとりずつ倒せるのであれば越したことはない。
 そんなことでリングが空くまでは互いに騙し討ちはしないという紳士協定が実現されており、猟兵とオブリビオンの不倶戴天の敵同士が束の間の停戦を実現されているといったところである。

『しかしだ。君も私たちの記憶に無い者であるが、アポカリプス・ランページ以降に猟兵となった口なのかね?』
「……ええ、そうです」
『それならば、時間潰しがてらあの大戦に拳を交わした強者との思い出話でもしようではないか』
 アルジェンは現在プレジデントと対戦中の猟兵を見やったが、白熱する勝負はまだ付きそうもない。何せゲーム内にあるタイムアップの制限時間が∞で無いのだ。
 それに、彼としては『過去の情報』に乏しいという事情もある。ここは彼の思い出話を聞きながらリングが空くのを待つのも手であろう。

『……と言ったところだ』
「ぼくしんぐ……拳闘ですか! 格闘戦なら多少は自信があります!」
『そうか! それは楽しみが増えたものだ……む。ようやく勝敗が決まったようだ。次は私たちの番であるな』
 遂に自分たちの対戦が回ってきたや否や、プレジデントは悠然とした趣で椅子から立ち上がって激戦の跡が生々しく残るリングへと脚を進める。だが、その前にアルジェンはひとつ確かめたかった疑問をプレジデントへと投げかけた。

「あの、どうして過去の敗因をわざわざ教えてくれたのですか?」
 オブリビオンとは世界に染み出した過去である。過去である以上、当時の敗因が弱みとなるものであり、何故猟兵である自分へ敵に塩を送る真似をしたのかという疑問だ。

『……簡単なものさ。私は自由と平等を掲げたアメリカ合衆国の大統領だ。アポカリプス・ランページに参戦した者なら知り得る私の趣向を知らないという不平等を、私の大統領魂が許さないのだよ。それに諸君ら猟兵たちは、私が興味に尽きなかった新しき力"オーバーロード"を見せてくれた。その礼に過ぎないのだよ。それに、だからと言って不利になるという訳でもない。何故なら……私はアメリカ合衆国大統領だからだ! HAHAHA!』
 プレジデントがそう言い残すと、葉巻の残り香を残しながら先にリングへと上がっていく。余りにも度量というスケールが桁違いの漢を前にし、思わずぽかんとしてしまうアルジェン。

「……なるほど。このような王の中の王の器だからこそ、彼女のようにプレジデントを敬愛する方も居るのですね」

  GET READY? FIGHT!!

『ゴングが高らかに鳴った……心行くまで|闘《ヤ》り合おうではないか!!』
 闘いの開始を告げられれば、先程までの停戦状態が幻だったのかと思えてしまうまでのプレジデントの苛烈な拳撃が炸裂する。あの剛腕から繰り出される拳をまともに喰らえば洒落にならないのは明らかであり、アルジェンは防戦一方の展開が暫し続く。

『どうした、怖気づいたか? あの程度で拳が鈍るようでは……未熟ッッ!!』
 回転拳による竜巻が舞起こったかと思えば、それを盾としてプレジデントが距離を詰めてマシンガンジャブのコンボを繰り出してくる。待ち攻めを巧みに使い分けて徐々にアルジェンが追い詰められつつあった。だが、それでも彼は反撃に転じようとはせず、のらりくらりと躱して反撃の機会を窺いに徹している。、もはや万事休すか!?

「そう言えば……拳闘が得意だと教えてくれましたが、実は僕も教えていなかったことがあります。それは……」
 その時、アルジュンの周囲に風が渦巻いた。プレジデントの回転拳とは逆向きの風が渦巻いたのだ。それらはアルジュンの拳に纏わり付き、光の屈折でか拳が半透明へと曇っていく。そして遂に、拳と拳が激しくぶつかり合う衝撃音がゲームセンター内に響き渡ったのだ。

「コンボ……でしたか? 実は僕もそういう系列の技は心得てます。なので……拳闘……挑ませて頂きますね?」
 ──風よ、世界を巡る風よ……我が武としてその力を示せ……白虎門……開門!
 今までアルジュンはつぶさに観察していたのだ。プレジデントが繰り出すボクシングの癖を、パターンの解析を。
 それらが全て解明された今、こことぞばかりに秘蔵していた|アビリティ《ユーベルコード》『白虎門開門』を顕現させた。

『……これは一本取られたな。しかし、私は……大統領だ!』
 とうとう眠れる獅子が目覚めたとばかりに新たなる|強者《とも》が本気となったことで、プレジデントの拳が更にキレが増していく。だがしかし、それでも身体に刻まれた|大統領魂《クセ》は消せるものではない。
 それを確かに見極めたアルジュンが風を纏わせることで、目にも留まらぬ速さの拳を僅かに生じた隙に叩き込む!

『ごっ……ぐぅううううッ!!』
 細身の身体からは想像ができない重みのある連撃を浴びせられ、これには数々の世紀末タイトルを飾ってきたプレジデントも脂汗を流しながら苦痛で顔を歪めされる。攻め続けてはカウンター技を喰らうだけ……ここは一旦距離を取ってからガードを固めて待ちに転じる動きを見せたことにアルジュンの片眉がピクリを動く。読み通りの展開に動いたと認知するや否や、守りを固められる前に拳に自身の念動力を籠めることで超音速の域に達した拳撃が空を斬る。これにより生じた不可視の空気の断層による斬撃が容赦なくプレジデントへと襲いかかり、刻まれた傷口から鮮血が程なくして噴き出せば回転拳によって生じている旋風に乗って血煙となり周囲に充満する。

『HA、HAHAHAHHA……やるでは、ない……か』
 不敵なプレジデントの笑い声が響く中、アルジュンは彼の血によって視界が妨げられながらも容赦なく超神速の刃を浴びせかける。そうして血煙が晴れれば、片膝を付いて倒れ込むプレジデントの姿があった。彼は満足げな様子で力の限り高らかに笑うと、身体にノイズが走ってモザイク状となり、今まで敗れ去っていった複製体同様に虚空の彼方へと消えて行くのであった。


       YOU WIN !

大成功 🔵​🔵​🔵​

戒道・蔵乃祐
Here Comes A New Challenger!

曲がりなりにもフィールド・オブ・ナイン
混線して愉快な御仁になっていますが気を引き締めて参りましょう

◆天壌無窮即是天下布武
さあ来なさい!
第六天魔王『織田信長』
弥助装!
フォーミュラにはフォーミュラをぶつけんだよ!卑怯とは言うまいね

切り込み+ジャストガードで回転拳をブロッキング、硬直狙いの『闘神の独鈷杵による決闘状態』で怪力+グラップルの掴み技
焼却+重量攻撃で投げ飛ばす

逆ドラマチックバトルで殺到してきたらかばうで割り込み念動力+限界突破でサイキックバースト!
ゲージ全開!フェイント+クイックドロウ+乱れ撃ちで|即死コンボ《ボクシング》を叩き込む!



「曲がりなりにもフィールド・オブ・ナイン。混線して愉快な御仁になっていますが気を引き締めて参りましょう」
 プレジデントにも劣らぬ体躯の破戒僧、戒道・蔵乃祐(荒法師・f09466)がエントリーする。悪僧の身体に染み付いた拭えない血の臭いに、しゃがみガードで待ち体勢のプレジデントが思わずとして感嘆する。

『ほぅ。どうやら君は|こちら側《世紀末》の人間に等しいようだ。これは思いの外、愉しめそうだな』
 表向きは紳士振っているが、プレジデントとはアポカリプスヘルで群雄割拠する世紀末覇者を統べる大統領だ。純粋な複製体ではなく変な枷がインプットされていても、その身体に流れる血が強者を求めるのは自然の理である。

「何を勘違いされていると言うのです? 対戦するのは僕ではありませぬぞ?」
『……何?』
 葉巻を咥えながら訝しむプレジデントを他所に、蔵乃祐は自身の拳を握った程の大きさである珠を繋ぎ合わせた大連珠を鳴らしながら|念仏《ユーベルコード》を唱え始めた!

「ナムアミダブツ、ナムアミダブツ……三界諸天、欲界六欲天。現れよ第六天魔波旬! 他化自在天の化身よ! 天壌無窮即是天下布武ッ!!」

 - Here Comes A New Challenger! -

 おお、見よ! 蔵乃祐の金剛身から溢れ出たスピリチュアルなエネルギーが光背となって不動明王が纏う火焔光となる。燃え滾る火柱となると天高く登り、そして両者の間に墜ちると人の身体を形成させたではないか。
 ジョインジョインとキャラクターセレクト音とともに炎が散ると、姿を現したのはサムライエンパイアの|世紀末戦国覇者《オブリビオン・フォーミュラ》……織田信長であったのだ!

『……珍妙な|相撲《格闘ゲーム》が催されていると聞き入れ、召喚に応じ馳せ参じた。問おう、汝が余を招きし|術者《マスター》か?』
「如何にも。大の相撲好きとお聞きになります信長公におかれましては、思う存分と楽しんで頂きたく召喚した次第でございまする」
『……よかろう。余は天下無双の天覧試合を催したと記録に残るが、相撲を取るのも好きでな? 見よ、こんなこともあろうかと鍛え続けたこの体!!』
 信長が纏っている甲冑を脱ぎ捨てると、盛り上がった大胸筋と引き締まった腹筋が露となる。それでも身を焦がさんとばかりに纏う炎は、彼の身体に憑依している弥助によるものだろう。

『……なるほど。他世界の|王《オブリビオン・フォーミュラ》が相手となれば、礼に失するは紳士として名折れ。ここはそちらの流儀に合わせよう。だが、それでも私は負けないだろ……何故なら、私は合衆国大統領だからであるッ!!』
 プレジデントが待ちを解いて立ち上がると、おもむろに背広を脱ぎ捨てる。西洋的な盛り上がった首筋に分厚い胸筋と割れた腹筋が露わとなって、これで対等と言えよう。蔵乃祐はどこからか取り出した軍配を手に両者の間に立つと、行司として双方の名を呼び上げた。

「にぃし~、プレジデント~。ひがぁし~、織田信長~。見合って見合って……」

 ──いざ尋常に! 勝負!!

『ぬぅん!!』
『ぬぉおお!!』
 どちらも複製体のオブリビオン・フォーミュラは屈強な肉体を激しくぶちかまし合い、互いに自分の頭を相手の身体にぶつけて拳を掴み合う。その様子はボクシングの原型とされた古代ギリシアのレスリングと融合させたオリンピア競技『パンチクラオン』さながらである。古代ギリシャ語で『全ての力』を意味する通り、両雄はあらゆる手段を用いて相手を倒すSUMOUだ。
 あらゆる手段を用いて、となれば『|何でもあり《バーリトゥード》』で、拳が封じられてもボクシングの流儀として脚技を自ら禁じているプレジデントが動いた。機械化されたボクシンググローブとも言えよう回転拳を激しく回転させ、信長の腕をねじり落とそうという作戦だ!

『弥助ェッ!!』
 だが、相手もオブリビオン・フォーミュラである。身体の内より炎が滾れば、公の従者たる弥助が|弥助装《パワーを持ったヴィジョン》となってUCを発現させる。炎の闘気が突如として爆発を起こし、その衝撃で取っ組み合っていた両者は吹き飛ばされる。
 だがしかし、信長のUCによってプレジデントは炎の鎖に繋がれてしまっている。着地した反動を利用し、大統領の巨体を投げ飛ばして地面に叩きつけようと全身に膂力を込めあげる。

『HAHAHA! それを待っていたのだよッ!!』
 テレッテー!
 何処の筐体だが知らないが、デモプレイで超必殺技を発動させる軽快な処刑BGMが鳴っている。それへ合わせるようにプレジデントが回転拳で生じさせた竜巻で軌道を修正し、炎の鎖に引っ張られる力を利用して信長へ急接近して拳を唸らせた!

『これが、私の大統領魂だァ!!』
『ガ……ハァ!?』
 強烈な剛拳をガードしきれずに受けてしまった信長はノックアウトし、この勝負はプレジデントが勝ったことが|行司《レフェリー》たる蔵乃祐によって宣言される……はずであった。

 - Here Comes A New Challenger! -

「かかッたりーッ!」
 ブッダファック!
 なんと、行司であるはずの蔵乃祐が軍配を捨ててプレジデントへ拳を振るったのだ!
 それもそのはず、このSUMOUは『|何でもあり《バーリトゥード》』……即ち、行司が漁夫の利を得ようとボロボロ同然の勝者を倒すことなど当然なのである。汚い、さすが破戒僧汚い。

『グワーッ!?』
 既に|限界突破《サイキックバースト》の準備を万全としてゲージ全開とさせていた蔵乃祐が、目にもとまらぬ速さのマシンガンナックルをプレジデントへ浴びせかける。
 汚いであろうが、勝てば良かろうなのだ。|即死コンボ《ボクシング》を受けたことでプレジデントの身体にノイズが走り、既に赤ゲージ一色となった信長とともに露と消えたる。勝ちを飾ったのは、最後まで立っていた悪僧において他ならない。


       勝 負 有 り !

大成功 🔵​🔵​🔵​

南六条・ヴィクトリア三世
※アドリブ・連携歓迎

プレジデントにどう立ち向かうか?
愚問ですわ!
プレジデントにはプレジデントを!
カモン、Mr.プレジデント!
(パチンと指を鳴らすことで12人目のプレジデントが姿を現す)
「至言だな。私のことは私が一番良く知っている……!」

待ち状態の遠距離攻撃はこちらのプレジデントが相殺しますわ!
その間にパワードスーツを着装し接近!
そう、パワードスーツ……待ちキャラにとっては天敵の「スーパーアーマー」であれば懐に飛び込むのは容易いですわよ!
我が方のMr.プレジデントからのアドバイスと、かつての666ラウンドの死闘の経験を活かしてグラップル!
固めて一気にフィニッシュして差し上げますわ!!



「待ちプレジデントにどう立ち向かうか? 愚問ですわ!」
 南六条・ヴィクトリア三世(株式会社UAI最高経営責任者(現職)・f30664)は手にしている扇子を広げて宣する。

「プレジデントにはプレジデントを! カモン、Mr.プレジデント!」
 筆字で『社長魂』と描かれた純白の扇面が眩きユーベルコードの輝きを放ち、空いている片腕でパチンと指を鳴らせば、社長の背後から巨大な影が伸びる。

 - |Here Comes A New Challenger!《ジョインジョインジョイン プレジデェント!!》 -

『至言だな。私のことは私が一番良く知っている……!』
 何たることか!
 かつて666ラウンドに渡る死闘の果てに体得したユーベルコード『666ラウンドの死闘が結びつけたやべーコンビ』により、実体を持つプレジデントの電脳再現体がエントリーしたのだ。だがしかし、よく見ると複製体とは少し様子が違う。所謂2Pカラーであり、複製体とは違い純白のスーツを身に纏っていたのだ。

『なるほど。そちら側に就いた12人目の私が相手ということか』
『そういうことだ。生憎私は相手を待たせるのは苦手でね?』
 待ち状態のプレジデント複製体にプレジデント再現体が大統領魂を撃ち出す大技『大統領ビーム』を撃ち放つ。だが、遠距離攻撃には遠距離攻撃とばかりに複製体も『大統領ビーム』を放って互いに相殺し合う。同じプレジデントであるからか、技を繰り出すタイミングはほぼ同時である。こうなれば、どちらがコマンドミスをやらかして僅かな体力ゲージ差での判定となるのだが、生憎ながらこの闘いは最終的にどちらかが立っているかで勝敗が決まるリアルストリートファイトだ。
 だがしかし、ここに至るまでに格闘ゲームは多種多様な試みが行われている。キャラを選んでのタイマン勝負だったのが、先鋒・中堅・大将と3キャラを選ぶ方式の作品も大いに人気を博して時代を彩ってきた。

『今だレディ。交代攻撃だ!!』
 ともなれば、こんなことも出来る作品もあるというもの。チームメイトのメンバーを戦闘中に交代できるシステムだが、交代モーションには隙があって出掛かりを潰されると交代は行われないようになっている。それを|コマンド入力《↓↘→+BC or CD》パワーゲージ一本分を消費させることで解消したのが、CAとも略されるチェンジアタックなのだ!

『オーッホッホッホ! 任されましたわ!!』
 いつの間にか株式会社UAIの社長専用機『UAI-SSX-01V ユニバース・ヴィクトリアV』を着想したヴィクトリア三世が高飛車な笑い声とともにエントリー!
 そして、この交代攻撃システムには乱入時に『|無敵時間《スーパーアーマー状態》』が1フレーム分だが付与されるというえげつなさを持っているため、待ちキャラの遠距離攻撃をすり抜ける戦法の内に入っているのだ!!

『やはり、か。だが、アポカリプス・ヘブンがあることをお忘れか?』
 当方に迎撃の用意あり──。そう言わんばかりに拳を握り締め、ヴィクトリア三世を迎え撃つ体勢を構える複製体。だが、そちらこそお忘れか? 目の前に迫る対戦相手の背後には自分自身が控えていることを。

『そこだ! このタイミングでフェイントを掛けるのだッ!!』
『ええ、わかっていましてよ!』
 確かに射程内に踏み込んだはずであった。剛腕が天高く突き上げられ、ヴィクトリア三世は宙に舞い上がるはずであった。
 だが、そうはならない。何故ならば、発動直前にパワードスーツのスラスターが逆噴射しての減速とバックステップを掛けて複製体の攻撃を躱したのだから。

『プレジデント。決めますわよ!!』
『|Certainly《承知した》!』
 おお、見よ!
 かつての666ラウンドの死闘の経験を活かしたカウンターアッパーで、複製体の巨体が逆に打ち上げられたかと思えば世界を越えた両雄が天高く舞い上がった!
 息を合わせて相手の両腿を手で掴み、相手の首を自分の肩口で支え合いながら着地した衝撃で、同時に首折り・背骨折り・股裂きのダメージを与えるグラップル!
 |社長魂《愛》と|大統領魂」《友情》のツープラトン、『Wスピリットバスター』である!!

『グハァッ!!』
 体力ゲージが削られていなければ耐えられたかもしれないが、大統領ビームで削られていたのが災いしていた。かくしてまた一体、プレジデントの複製体は骸の海と電子の海との境界に還されたのであった!!


       YOU WIN !

大成功 🔵​🔵​🔵​

メディア・フィール
POW選択
他PCとの絡みOK
プレイング改変・アドリブOK

媒体の筐体の限界を超える処理の必殺技を出し、処理落ちさせることで溜め待ちを発動できなくして、できた隙に攻撃します。また、横スクロールのみの時代の弱点を突いて、待ちの正面から直接攻撃、横合いから炎の二弾攻撃も試みます。

「ボクの必殺技、【邪竜黒炎拳】は、11人に同時に攻撃できる! なんだったら、媒体となったゲームの筐体や背景のキャラも、味方以外なら攻撃に巻き込むことができるよ! これだけの範囲の攻撃、処理しきれるかなっ!?」
「よし、動きがカクカクになったっ! これが処理落ちっていうやつなのかな? 今なら溜め待ちの隙を突くこともできるはずっ!」



「これがプレジデントの複製体を生み出した触媒か……」
 メディア・フィール(人間の|姫《おうじ》武闘勇者・f37585)は液晶画面を光らせて稼働中の筐体を訝しみながら覗き込む。ゲームではステージに合わせて軽快なBGMが鳴りながらデモによる勝負が執り行われている。これを破壊すればと思うが、そうすることで自体が更に悪化してしまうことが懸念されるため手出しが出来ないという次第である。

『君が私の対戦相手かね?』
「そうさ! ボクがみんな纏めて|コテンパン《K.O.》してやるよ!!」
『HAHAHA、これは大層なお嬢さんだ。だが、次の私に挑むにはこの私を倒さねばならないぞ』

  GET READY? FIGHT!!

 試合開始を告げるボイスが流れ、ゴングが鳴らされた。メディアが機先を制して悠々と構えて待つプレジテントを畳み掛けるべく接近を試みたが、プレジデントの対空攻撃とも言える大統領魂を籠めたアッパーカットが炸裂した。

「くっ! なんて力なんだ……腕が痺れてしまうッ!?」
 日々に渡り鍛錬を積み重ねている成果か。反射的に手甲でプレジデントの拳を受け流すように防いだものの、重い衝撃は手甲を通してメディアの腕を震えさせる。指先すら麻痺したような感覚が神経を通して警鐘を鳴らし、下手に攻め込めば待ち戦法の前にやられるだけだと理解した彼女は距離を取ろうと仕切り直しにかかる。

『先程の威勢の良さはどこに消えてしまったのだね? HAHAHA!』
 急に防戦一方となったメディアを追撃するべく、プレジデントはボクシング形式のファイティングポーズを取り直すと目にも留まらぬ速さでシャドーボクシングを行うように虚空を拳で切るように振る。そうすれば発生するのはマッハの剛拳が産み出す衝撃波、マッハソニックだ!

「まともにガードすれば一気に削られてしまいそうだ。ここは……ボクの遠距離攻撃で相殺するしかない!」
 空気の刃が迫りくる刹那の瞬間、メディアは避けるか防ぐかの選択を選ばず武闘勇者らしく真っ向勝負の道を選んだ。彼女の拳から暗黒の炎が噴出させ、渦巻く炎の波動の力を籠めた|拳《ユーベルコード》を突き出す。

「邪竜黒炎拳!!」
 人間の奥底に眠る闘争本能であり、負の禁忌的感情そのものである典型的な『闇の力』が炎となってマッハソニックを相殺させる。だが、新たな獲物を求める漆黒の炎は周囲に霧散すると全てを焼き尽くさんとばかりに燃え広がる。ゲームセンターのリングは一転して炎の海と化し、互いに逃げ場の無いデスマッチバトルと化したのだ。

『自ら退路を断っての背水の陣か。大したお嬢さんだ……だが、そうでなくては私の大統領魂も燃えないものだ!』
 さながら格闘ゲームの画面を右に行ったり左に行ったりしか出来なくなった直線上の決闘場をプレジデントが待ちのフォームで突き進む……が、ここで異変が生じる。

『何んだというのだ……この緩慢さは?』
 ボクシングを得意とするだけあってキレのある動きであったプレジデントの足の運びが緩やかとなっている。何が起きたのかと狼狽するプレジデントを前に、メディアはしてやったりの顔でネタバラシする。

「よし、動きがカクカクになったっ! これが処理落ちっていうやつなのかな? 今なら溜め待ちの隙を突くこともできるはずっ!」
 目の前に居る複製体は格闘ゲームの筐体を触媒に現界したキャラクターであるならば、筐体に何らかの異変を与えれば自ずと影響が出るはず。対戦前に稼働している筐体を覗き込んでいる最中にそんな予想が思い浮かんでいたのだが、まさかこうも効果てきめんだったとはメディアにとっては僥倖である。

『なるほど……だが、こうであればあるほど私の大統領魂が騒ぐのだよッ!!』
 なおもプレジデントは応戦の意思を示して、己の拳に全てを賭けた一撃を繰り出す。しかし、判定にも影響が出る処理落ちとなれば当たればラッキーパンチとしか言えないものなのは確かでもある。

「敵ながらあっぱれだけど、勝つのはボクだぁッ!!」
 腰を落としながら大股に構えると、そのまま片足を拳に当てながら滑走するかのようにメディアがプレジデントの拳をくぐり抜ける。そして、閃光の如き連撃がプレジデントへと浴びせかけた。思いがけない強者との闘いに満足させた笑みを浮かべながら漆黒の炎へと突き落とされ、またひとりの複製体が消えていくのであった。


       YOU WIN !

大成功 🔵​🔵​🔵​

バルザック・グランベルク
地上では飛び道具、空から仕掛ければ対空攻撃で迎撃される。まさに移動要塞だな。
この手の相手は無策で挑めば何も出来ずに敗れる事は必然。故に、時間をかけて挑むとしよう。
地上では飛び道具を【継戦能力】【激痛耐性】で|防ぎながらの前身《歩きガード》で距離を徐々に詰めていく。奴の狙いは飛ばせて落とす迎撃戦法だ。功を焦り飛び掛かろうものなら迎撃されて距離を離され倒す機会を失う。ジリジリと、着実に間合いを詰める。
飛び道具の発動には後方に|気力溜め《←タメ》をする必要がある。我が間合いを詰めれば、距離を保つため自らが後ろに下がらねば成らぬ。であれば、時間をかければ|窮地《画面端》に立たされる。
そこまで詰めたなら、奴が取る行動は位置を入れ替える飛びか打撃による地上戦。そこにUCで|相手の行動を受け止め《ハイパーアーマー》でカウンターの一撃を入れる。飛びは見てから同じように叩き落とす。
我は黒き|嵐《サイクロン》、確実に砕いて見せようぞ。



「地上では飛び道具、空から仕掛ければ対空攻撃で迎撃される。まさに移動要塞だな」
 『其の者、歩めば死の暴風を巻き起こし、手に携えた大槌を振るえば嵐となりて鏖殺の限りを尽くす災厄の王』と恐れられた黒鉄の巨人……その名もバルザック・グランベルク
(嵐帝・f38770)。人間の2倍はある体躯を誇る巨人と呼ばれる種族である彼にとって拳を構えながらしゃがんでいるプレジデントの姿は、さながらしゃがみ込んでいる子どものように見えたはずだろう。

『HAHAHA。どうしたのかね、Mr.ジャイアント? 私はこの場からまだ一ミリとて動いていないぞ』
 だが、そうではなかった。一歩進めば重厚な回転拳の重みを感じさせない超高速ジャブが生み出す衝撃波が襲いかかり、かと言ってそれを飛び越えて上空から攻撃を仕掛ければ翼を持たぬ限り重力に従い落下する身体へと強烈無比なアッパーカットを叩き込まれる。一分の隙もない待ちスタイルは、さながらプロレスリングとボクシングのチャンピオン同士が異種対決の際に降着状態となった場面さながらである。この場合はプレロスリング側が足技が禁じられているボクシングへの対抗策であったのだが、今回はその逆である。相手を殴るだけのボクシングに遠距離攻撃の攻撃方法が加われば正しく鉄壁の要塞となり、屈強な肉体であるプレジデントを遙かに勝る体躯のバルザックでさえも攻め倦ねていた。

(我とて無策で挑めば無事では済まされない。幸いにも制限時間の概念がない……さすれば、時を掛けながら互いに根比べと行こうぞ)
 嵐のような拳風が吹き荒ぶゲームセンターに所狭しと並べられた重厚な筐体が床と擦り合わせながら微動するのに合わせ、呪聖鎧を鳴らしながら黒鉄が一歩一歩と着実に地を抉りながら進んでいく。容赦なく真空の刃が鎧を打ち砕いて行くが、深い傷が付こうとも砕かれようとも再生する|呪い《祝福》が与えられた鎧甲により守られている。だがしかし、裂傷は与えられなくとも骨をも砕かんと襲い掛かる衝撃は緩和されることはない。暴風を受け止める度に体の節々が悲鳴を上げ、兜によって隠されたバルザックの顔が苦痛によって歪み、くぐもった叫びが風切り音によってかき消されてしまう。

「ぐゥ……ッ!!」
『たいした|気概《スピリット》だ。しかし、私の大統領魂を賭けたこの勝負、私とて負けるわけには行かないのだよ!!』
 プレジデントの回転拳が一段と激しく回転し、風のうねりに変化が生じる。その二つの拳の間に生じる真空状態の圧倒的破壊空間は、まさに歯車的大統領魂の|大宇宙《フロンティア》ッッ!

『ここまで回転拳の出力を上げれば、もはや私とて手加減することは叶わない。痩せ我慢せず潔く観念して白旗をあげるのだな、HAHAHA!』
 余裕綽々に咥えている葉巻から紫煙が風に乗ってバルザックの鼻腔をも挑発する。ここまで愚弄されれば並の者であれば怒り心頭に起死回生の賭けを行うだろうが、寡黙な王は何も語らずに尚も歩みを止めなかった。いや、止めようとはしなかった。此奴の真意は無防備状態の自分自身を曝け出した後に、呪聖鎧の修復力を遥かに凌駕する鉄拳を叩き込む以外に他ならない。そうであれば、複製体とは言え大統領に相応しくない道化染みた振る舞いなどするものであろうか?

『HAHAHA! 随分と粘り強いな、Mr.ジャイアント!』
 疑念が徐々に確信へと変わりつつある中、バルザックは襲いかかる暴風に真っ向から立ち向かい向かってくる。プレジデントは尚も道化めいた笑いを浮かべながら回転拳による竜巻を浴びせかけてくるが、心なしかその表情に曇りが浮かんでいるのを嵐帝は見逃さなかった。そして、一方的に有利な状態であるプレジデントが徐々にだが後退しているのも彼は見逃さなかった。リングの中心部から壁際までに大統領は追い詰められつつあり、ふたりの距離も狭まりつつある。巨人という種族であり巨体ゆえに暴風をまともに浴びせられてしまっていたが、これが思ったよりも相手の注意力を向けざるを得ない結果となって背後の確認がおろそかとなったのであれば、まさに僥倖の一言に尽きる。

「……如何した大統領。笑みに陰りが出ているぞ?」
『ふんッ! たいしたタフネスには私の拳で直々に称賛を与えねばな!』
 そうして、遂にプレジデントは壁際までに追い詰められてしまう。もはや後が無い大統領は、自らを掴み捕らえようと迫りくる巨腕を打ち砕かんと待ちから攻めに出た。バルザックが待ちかねていた反撃のチャンスが、遂に到来した瞬間である。

「確かに我は頑健であるが、無論他にも得意としているものが多々とある……この様に、だ」
 風のうねりが止むと同時に突風めいた大統領の拳がバルザックへと襲いかかろうとしたが、そうはならなかった。何故ならば跳んだのだ。重厚な鎧を纏った巨人が跳んだのである。だが、天井の高さがバルザックが飛び上がることを阻んでこれ以上高く跳び上がれないのを確認するや否や、プレジデントもその巨体から想像がつかないボクシング独自の身軽なフットワークで体制を整えると|迎撃《アッパーカット》の準備に取り掛かる。

「嵐に剣を突き立てたとて、止まる事などない」
 両者の明暗を分けたのは、ここまで温存していたバルザックのユーベルコード『|絶対不可避ノ暴力《オンスロート・ゲイル》』である。確かにプレジデントの対空攻撃とも言えよう天をも貫くアッパーカットは炸裂したが、これはユーベルコードによる『|攻撃を無効化する受け止め《ハイパーアーマー》』を格闘ゲームさながらに展開して無効化せしめたのだ。そうすればバルザックとプレジデントの距離は目と鼻の先であって、大槌の如く振られた巨腕が遂にプレジデントの胴体を捕らえると、そのまま吸い込むように上下逆さまに抱え上げて拘束したのだ。

『──我は黒き|嵐《サイクロン》、確実に砕いて見せようぞ』
『ノォオオオオォォッ!?』
 何が起きたか理解が追いつかない叫び声を上げながらプレジデントは、|脳天杭打ち《パイルドライバー》を決められて頭から地面へと叩きつけられてしまう。巨人の質量を伴う落下による激しい衝撃によってゲームセンター内が揺れると同時に、ゴキリと鈍い音が身体を通してバルザックへと伝わってくる。プレジデントが敗北した証である実体が骸の海へと還っていくため消えつつある中、嵐帝は悠然と立ち上がり自らの勝利を誇示せんと塵となっていく|強者《とも》を見送るのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エダ・サルファー
以前は戦えなかったけど、格闘家として興味はあったんだよね、プレジデント。
でも、うーん、今のこの人は某格ゲーキャラの影響受けすぎてるからなぁ。
まあ、それも込みで楽しませてもらおうかな!

とりあえず、教えてもらったオーバーロードで真の姿は解放するとして。
通常のプレジデント相手だったら、相手の流儀に則ってボクシングで挑むところなんだけどね。
でも今のプレジデント、しゃがんで溜めてるからなぁ。
ならあえて、不利であろう投げで挑むのが正しいのでは?
私は不利な行動をして強くなるわけじゃないけど、あっちはそうらしいから、逆を突くってことだね。
というわけで、ボコボコ遠距離攻撃を打たれて削られても困るんで、ちゃっちゃと間合いを詰めるよ!
んで、近接したら対空のアッパーが来るんだろうけど、それを狙って私の|ユーベルコード《コマ投げ》、聖職者式脳天砕きを使うよ!
どれだけ威力のある対空アッパーであろうと、掴んでしまえばこっちのターン!
その頭、かち割らせてもらよ!



『HAHAHA! |なんてことだ!《I’m shook!》 よもや私がこうも安々と打ちのめされるとはッ!!』
 遂に一体だけと残った複製体のプレジデントが、頭を抱えながら天を仰ぐのも無理はない。いくら頭で複製体であると理解していても、オリジナルの写しである自分自身があれよこれよと叩きのめされる現場を目の当たりにすれば誰だってこうなる。

「ようやく最後のプレジデントで私の番だね。よしよし、頑張っちゃうよ~」
 偉大なる|States《国家》の大統領が現実を受け入れられず悲観に暮れているのを傍らで、エダ・サルファー(格闘聖職者・f05398)はポニーテールを揺らしながらおっちにーさんしーと試合前の柔軟体操を念入りに行っている。これから文字通りの命を駆けた|勝負《ストリートファイト》が始まろういうのに何処か心弾んでいる様子で鼻歌混じりなのは、格闘家としてプレジデントに興味を持っていたからである。残念ながらアポカリプス・ランページではプレジデントと拳を交えることは叶わなかったが、何かの巡り合わせでメガリスの力によってプレジデントは複製体とはいえ再臨を果たした。
 ともなれば、これも何かの縁というもの。ましてやこの体に流れる格闘家の血が強者との出会いを求めているのも事実であり、身体を解きほぐすにつれて心の内で燃え盛る闘争心が燃え盛って血流の流れが更に早まっていく。

「どうしたんだい、大統領? ご自慢の大統領魂は単なるお飾りで、お前は単なる|腰抜け《チキンハート》かい?」
 |準備《バンブアップ》が完了して腕を組んでいるエダの背後に何かが浮かびがある。それは真の姿となった彼女の背後に現れる巨拳であり、親指を突き出してのサムズダウンでプレジデントを罵り挑発した。

『ふ、ふふふ……HAHAHA! 紳士的に黙っていれば、随分とじゃじゃ馬が好き勝手と言ってくれる。よろしい、|絶大なファイティングスタイル《待ち戦法》でその鼻を叩き折ってやろうッ!!』
「ようやく|闘《ヤ》る気になったようだね。その言葉、拳でそっくりそのままお返ししてやるよ!」


     FINAL RAUND!

      GET READY?

       FIGHT!!



 売り言葉に買い言葉。両雄は互いに拳を向かい合わせ、互いへの闘志を己の力へと変えて決戦のゴングは鳴らされた。

(聞いた話だと、通常のプレジデントは相手の流儀に則ってボクシングで挑むようだけど……。今のこの人は、某格ゲーキャラの影響を受けすぎてるからなぁ)
 本来であれば真の姿となったことで再臨した拳の構えがボクシングそのものであり、プレジデントは喜んで華麗なフットワークで踊るような殴り合いを挑んでいただろう。しかしながら、今は違う。確かに構え自体はボクシングと言えばボクシングなのだが、異様に腰を屈めながら相手を出方を待つという待ち戦法が複製体であるプレジデントの基本スタイルなのだ。

『HAHAHA! どうしたのだね、威勢のいいフラッパーガール。一向に向かって来ないようだが、手も足も出ないと言ったところかな?』
 長身長のプレジデントがしゃがめばドワーフである自分とだいたい同じ高さとなるのは助かるのだが、迂闊に近づけばリーチの長いパンチや身体をバネとしたアッパーカットによる応酬が繰り出されるのは必定。
 この手の格ゲースタイルには飛び道具で牽制し合うのが定石であるが、生憎ながらエダはドワーフ|力《ちから》を乗せた拳や蹴りで相手に打ち込む肉体派の格闘家である。まさに攻守ともに兼ね備えた鉄壁の待ち戦法を前にどう攻めるか悩むところで、今はプレジデントが牽制に放ってくる音速の拳風を避けて一定の距離を保つのがやっとであった。

「まさか。どう料理してあげようか悩んでいるところなのさ!」
 耳をつんざくような風切り音が身体の直ぐ側を掠める中、エダは今できる精一杯の反攻を見せる。相手の正面及び上空は危険地帯であるが、前方に守りを徹しているしゃがみ状態であれば後部はガラ空きである。そうなれば回り込んで背後を取ろうとするが、流石は本来ボクシングを得意としているだけあって軽やかなフットワークで常にこちらと正対し続けている。
 そうすると上手く背後を取ったつもりがそうではなく、クイックターンでのアッパーカットが炸裂するのは火を見るよりも明らかだ。徐々にプレジデントの拳捌きに熱を帯び始め、隙あらば接近して溜め込んだ力を開放すべくアッパーカットを繰り出そうと立ち上がってはしゃがんでの準備運動めいた動きを始めている。であれば、こちらが何かしらの一手を講じなければイニシアチブはプレジデントが支配する状況を打破できないということだ。

(あれ……? 待ち戦法を解いて私に詰め寄るってことは、あっちにとって結構不利なんじゃ?)
 相手にとって不利な行動であればこちらは有利。その逆に、こちらにとって不利な行動を行えば相手は有利になる。
 至極当然な考えであるが、そもそも相手はオブリビオン。ユーベルコードを駆使することで同じくユーベルコードを扱う猟兵でなければ打破できない、世界に染み出した過去の染みである。そうなれば、一見すると格闘ゲームのキャラクターに影響を受けてしまったかのような待ち戦法自体がユーベルコードであるのならば、それこそ相手の出方を窺えば窺うほどユーベルコードの術中に陥るのではないか?

(例えば……もし、相手のユーベルコードが自分に取って不利になることでバフがかかるのだとすれば、有利な状態に持っていけば解除されるんじゃない?)
 つまりは、待ち戦法とは即ち背水の陣。守りに徹する行為そのものがプレジデントにとって不利な状況を産み出すのであれば、それがユーベルコードによって彼の力となる。それを打ち破るには相手にとって有利な状況、即ち絶好な攻撃のチャンスを与えることに相違ない。
 だが、それは自らの身を危険に晒す行為以外の何物でもない。とは言え、それに見合う見返りが期待出来る以上はやる勝ちがあると言うもの。それにエダとしてもこのまま膠着状態が続いて相手の思う壺となるのも癪に触るものだ。そうと決まれば後は早い。

『ほう……動きが変わったようだな?』
 エダの明らかに反撃の糸口を探る回避運動からこちらへと近づくべくタイミングを見計らう動きに変わったことで、プレジデントの眉が密かに動いた。遂に痺れを切らしたかと拳と脚に力を籠めて迎撃の体勢に移行する。

「今だ!」
 プレジデントが見せたあからさまな予備動作にエダは食いついた。彼女が両腕を広げれば背後の巨拳も連動して動く。

『HAHAHA、読めたぞ! さては組み付いて投げるつもりかッッ!!』
 今までの回避行動の逆を突いて組み付こうとも、既に何を行うかはエダの背後に浮かんでいる巨拳が悠然と語っている。そうなれば彼女の身体は無防備同然であり、ここで自慢の|対空攻撃《アッパーカット》を決めればノック・アウトは間違いなしだ。
 敢然と立ち向かうエダに向かい、待ちに徹していたプレジデントは遂に動く。己の大統領魂を籠めた一撃必殺のアッパーカットを叩き込むべく、大統領は高らかに跳び上がったのだ。

「やーい、引っかかった!」
『なっ……!?』
 しかし、彼の予想は外れた。確かにエダはプレジデントの身体を掴むべく向かっていたが、狙っていたのは胴体ではなく腕であったのだ。エダ自身も近づけばプレジデントがアッパーカットを繰り出すのは分かりきっていて、つまりは裏の裏をかいたユーベルコードによる|必殺《コマ》投げと言ったところだ。

「どれだけ威力のある対空アッパーであろうと、掴んでしまえばこっちのターン! その頭、かち割らせて貰うよ!!」
 既にプレジデントの巨体は地面を離れており、アッパーカットを放ったことによる跳躍もまだ最高点にまで達していない。常人よりも小柄であるドワーフならではこその腕への組み付きまでは大統領でさえ考え及ばない行為であり、機械式グローブである回転拳を駆動させて振りほどくにも時間は遅すぎた。
 巨腕がプレジデントの身体に掴みかかったのだ。エダが腕を動かせば謎の巨腕も連動して動き、自在に空中に浮かんでいるからこそプレジデントの体勢を空中であるにも関わらず、天地逆転と頭を地面側へ変えてしまう。後はドワーフ|力《パワー》を滾らせた膂力でエダは体勢を整えると同時に、両者の身体が無重力状態となった。

『ぬぅおおおおおおッ!?』
「掴んだら砕く! 必殺のぉ、聖職者式|脳天砕き《ブレーンバスター》!!」
 ──落下しているのだ。いかなる状態でも掴めば発動可能なエダの|闘技《ユーベルコード》によって逃れる術を喪ったプレジデントが、自らの体重を乗せながら頭からコンクリートのマットへと垂直落下する。
 エダの技が炸裂すると同時に、シンデレラチャームが激しい揺れ始めた。すべてのプレジデント複製体が倒されたことで仮初の遊技場が実体化を続けることが不可能となり、建物自体が骸の海へと還って行くのだ。猟兵とプレジテントたちが拳を突き合わせていたリングの周囲にあった年代物な筐体も露と消え去り、後に残ったのは様々な思惑が渦巻く金沢市内の街並みであった。



    CONGRATULATIONS!

       YOU WIN !!

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年01月23日


挿絵イラスト