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第二次聖杯戦争⑫〜煽動のライスメキア

#シルバーレイン #第二次聖杯戦争 #闇の淑女オクタンス

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●闇の淑女オクタンス
 嘗ては『赤と黒の淑女』と名乗っていた。
 それは自身の激昂しやすいという欠点を示すものであったし、自戒であった。
「まあ、懐かしいこと」
 骸の海より滲み出て、彼女が最初に見たのは銀の雨の降る世界であった。
 変わらない。
 いや、解っているのかも知れない。

 なにせ、己が世界を見る瞳は、かつてのように恨みと怒りばかりではなかった。
 帰ってきた、という帰郷の念が己の中にもあったのだという喜びにも似た嬉しさが彼女の中に芽生えているようでもあった。
「ああ、そうね。猟兵。それが迫っているというのね。だから何?」
『闇の淑女オクタンス』は優雅にほほえみながら|『吸血鬼大隊』《ヴァンパイア・ヴァタリオン》たちが自身を守るように布陣したことに首を傾げる。

 彼女は自身が為すべきことを冷静に受け止めている。
 淑女たるもの、背中をせっつかされて走るだなんてことをするのは、みっともない。
 だからこそ、彼女は優雅に立ち振る舞う。
 臆する必要はない。
 彼女にとって、嘗ては能力者に敗れたことはたしかに屈辱極まりない事実であったことだろう。
 万の軍勢に匹敵する『原初の吸血鬼』であった彼女にとって、それは汚点そのものであった。
 唯一己の生に落ちた一点の染み。
 それこそが己の不満。
 抱くことのなかった感情を抱かされて、滅せられたことは確かに許しがたいことだ。

「でも、わたくしも愚かだったのね。オブリビオンの愉悦を知らずにいたなんて。永遠に骸の海を漂う悦び。これは、『伯爵』といえど味わったことはないでしょうね」
 恍惚とした表情を浮かべる『闇の淑女オクタンス』。
 彼女は心酔しているようでもあった。オブリビオンとなった今でならば、あのときの屈辱も、不満も、何もかもが許せるというものだ。
 そして、彼女は恩義というものに報いる者でもあった。

「『持ち帰り』ましょう。『揺籠の君』と|『全能計算域限界突破』《エクスマトリックス・オーバーロード》、その二つを」
 普段ならば己が命令されることなど到底許容できるものではない。
 彼女は機嫌がいいのだ。
 あの悦楽。あの愉悦。あの悦び。どれもが何ものにも代えがたいものである。
 ならばこそ、素直に命令を遂行する。
 大量の鮮血が満ちていく。此処はすでに『闇の領域』にして杯そのものである。

「さあ、来なさい。猟兵。わたくしを滅ぼさんとする者。あなた達がそうであるというのならば、原初の吸血鬼たるわたくしこそが、あなた達を滅ぼす者よ――」

●●第二次聖杯戦争
 グリモアベースに集まってきた猟兵たちを迎えたのはナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)であった。
「お集まり頂きありがとうございます。シルバーレイン世界、日本のひがし茶屋街周辺が『闇の領域』に沈んでしまいました。此処に座す原初の吸血鬼『闇の淑女オクタンス』が何らかの儀式を行っているという予知を見ました」
 ナイアルテは、その儀式が如何なる状態になれば『儀式の成功』となるのかまでは予知できなかったことに肩を落としていた。
 なんらかの儀式を執り行っているという予知が出来たこと自体が僥倖であったが、もっと精度の高い予知ができなかったことを悔いているようであった。

「しかし、早く制圧したほうが良い、というのは間違いないでしょう。おそらく達成度を下げることができるのは、間違いありません」
 その言葉に猟兵達は頷く。
 新年と言えど、猟兵達の動きが鈍ることはない。
 しかし、と嘗ての戦いにおいて能力者であった猟兵は首をかしげる。
『闇の淑女オクタンス』――『赤と黒の淑女』と名乗っていたはずだ、と。
 そして、同時に彼女が嘗て『怒ると冷静さを欠く』という弱点を持っていたはずだと告げる。

「はい、ですがオブリビオン化した影響か、もしくは過去に歪んだ結果なのかもしれませんが、今の『闇の淑女オクタンス』は極めて冷静そのものです。皆さんの攻撃を冷静に見極め、カウンターを叩き込んでくることでしょう」
 万の軍勢に匹敵する原初の吸血鬼。
 その弱点がなくなっているという事実にどよめきがグリモアベースに広がっていく。それほどまでに『闇の淑女オクタンス』は強敵であると言えるのだ。
 極めて強大な力。
 それが取り付く島がない、というのは些か不利である。

「ですが、完全に『怒ると冷静さを欠く』、という欠点がなくなったわけではないようです。ならば、そのメッキの如き冷静さを引き剥がすように怒らせ、『赤のオクタンス』の面を引きずり出すことができれば……」
 そう、彼女は儀式と戦闘の両立ができなくなる。
 かつての彼女のように、怒り散らかし、苛烈なる攻撃を繰り出してくるだろう。
 そこに付け入る隙が生まれることは想像に難くない。
 ならば、舌戦を仕掛けるのも悪くはない選択となるだろう。

「ですが、それは諸刃の剣であるとも言えます。敵は原初の吸血鬼。その力は嘗て万の軍勢に等しいと言われた力そのもの。油断は禁物です」
 ナイアルテは煽り耐性がちょっとやそっと付いた程度では、付け焼き刃に過ぎないのだと言うように微笑んで猟兵たちを送り出す。
「銀誓館学園の皆さんは、現代文がお得意だと聞いております。知性を磨いて、敵を煽る……これが肝要なのですね。ええ、自分がやられて平気なことは嫌がらせになりませんからね」
 ぐ、と拳を握り締めて、むん、とするナイアルテ。
 猟兵たちは、それはなんか違うんじゃないかなぁと想いつつも、原初の吸血鬼たる『闇の淑女オクタンス』の元へと転移するのであった――。


海鶴
 マスターの海鶴です。

 ※これは1章構成の『第二次聖杯戦争』の戦争シナリオとなります。

 シルバーレイン世界のひがし茶屋街周辺にて『闇の領域』が展開し、その中で『大量の鮮血』をもって何らかの儀式を執り行っている『闇の淑女オクタンス』を打倒するシナリオになっています。
 今回戦い『闇の淑女オクタンス』は、かつて『赤と黒のオクタンス』と呼ばれ、原初の吸血鬼として万の軍勢にも値する強大な力を持っていましたが、『怒りやすく、冷静さを欠く』という弱点を持っていました。

 しかし、今回の彼女は冷静さに満ちており、ちょっとやそっとの煽りでは怒らないようです。
 このままでは戦闘と儀式を両立され、彼女の目的を完遂されてしまうでしょう。
 かといって、怒らせることは諸刃の剣であることは言うまでもありません。
 その力は冷静さを欠いてなお、強烈です。

 プレイングボーナス………オクタンスを怒らせる。

 それでは『第二次聖杯戦争』、嘗ての強敵『闇の淑女オクタンス』に煽り散らかしながら立ち向かう、皆さんの死と隣り合わせの青春の続き、その物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
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第1章 ボス戦 『闇の淑女オクタンス』

POW   :    ジェット・シャーク・ファング
召喚したレベル×1体の【ホオジロザメ型妖獣】に【チェーンソー刃】を生やす事で、あらゆる環境での飛翔能力と戦闘能力を与える。
SPD   :    ブラッディ・シャーク・バルカン
【体内】から無限に供給される【生命体を追尾飛行する鮫型妖獣】を、レベル分間射撃し続ける。足を止めて撃つと攻撃速度3倍。
WIZ   :    シャドウ・クレマンソー
【現代兵器】で武装した【ヴァンパイア・バタリオン】の幽霊をレベル×5体乗せた【影の空母】を召喚する。

イラスト:新井テル子

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

月夜・玲
オブリビオンの愉悦だってさ
いやー笑っちゃうねオバさん
そんなものに愉悦を覚えている時点でさあ…?
そりゃあ、勝つまでやれば負けないって考えはあるよ?
けどさー、オバさんの考え方はダメだね
永遠を認めた時点で負け犬根性丸出しでダメダメだね
心に燃える物が無い時点で、死んだ感性なんだよ
あ、死んでるんだったゴメンゴメン
とはいえオブリビオンになったとしても性根が変わる訳でもないし
元々そーいう負け犬だったって事だね
かわいそ…
そのまま進歩も無くサンドバッグにされていきな

【Load[Summon Data]】起動
雷龍、不死鳥、機神召喚
妖獣は雷龍の『ブレス攻撃』と不死鳥の突撃で時間を稼いで
召喚した右腕の拳で本体を殴る!



 過去の化身たるオブリビオン。
 それは停滞した時の中に生きる永遠であったのかもしれない。
 時は過去を排出することによって未来へと進む。
 それは不可逆であり、如何なる存在も逃れ得ぬ宿命であったことだろう。だからこそ、オブリビオンとなった『闇の淑女オクタンス』は愉悦に浸った表情を浮かべる。
「どれだけの敵が来ようとも、わたくしは儀式を止めない。あなた達にとって、それこそが最も遠ざけたいこと。ならば、冷静にわたくしは考えましょう」
 召喚されたホオジロザメ型妖獣にチェーンソーが生え、唸りをあげる。
「さあ、邪魔者たる猟兵を始末していらっしゃい」
 そう指先で弾くようにして『闇の淑女オクタンス』は召喚したホオジロザメ型妖獣を猟兵に差し向ける。

 そこには嘗て在りし『赤のオクタンス』たる側面は見受けられない。
「オブリビオンの愉悦だってさ」
 そんな戦場に在りて、月夜・玲(頂の探究者・f01605)は聞こえるか聞こえないかの声量で呟いた。 
 ホオジロザメ型妖獣の唸りを上げるチェンソーの音が響き渡る中、それは『闇の淑女オクタンス』の耳に届いたことだろう。
 世界の悲鳴に応える戦士。
 それが猟兵である。ならばこそ、オブリビオンたる愉悦を知らなくて当然であろう。
 彼女は柔らかくほほえみ、玲に首を傾げてみせる。

「いやー笑っちゃうねオバさん」
 抜き払った二刀の模造神器の蒼い刀身が煌めき、迫るホオジロザメ型妖獣の放つチェンソーを受け止める。
 火花が散る中、その言葉は安い挑発であると『闇の淑女オクタンス』に受け取られたことだろう。
「そんなものに愉悦を覚えている時点でさあ……?」
「そんなもの? 何もわかっていないようね、猟兵。どれだけ言葉を弄するのだとしても、経験していないことを経験したように語るのは、烏滸がましいのではなくて?」
 玲は模造神器の刀身でもってホオジロザメ型妖獣を切り払いながら、『闇の淑女オクタンス』と同じように首をかしげてみせる。

 あえて同じ仕草をしてみせたのだ。
「そりゃあ、勝つまでやれば負けないって考え方はあるよ? けどさー、オバさんの考えたはダメだね」
 何を、と取り合ったのが『闇の淑女オクタンス』の『赤』たる側面が未だ彼女の内部にあることを知らしめる。
 取り繕っているだけであるが、その取り繕った顔の皮の厚さだけが問題であると玲は理解する。
 乗ってきた時点で負けは確定しているのだ。
 これは戦いである。
 舌戦であろうが白兵戦であろうが、戦いは戦いなのである。

「永遠を認めた時点で負け犬根性丸出しでダメダメだね。心に燃えるものが無い時点で、死んだ感性なんだよ」
 告げる言葉に反論しようとするが、玲は掌を見せて制する。
 反論を許さないつもりなのだ。
 遮り、出鼻をくじく。
「あ、死んでるんだったゴメンゴメン」
 此方の非を認めておいて、なんだが、それは煽りでしかなかった。
 謝罪の言葉を使っているが、その意志はまるでないことをあえて見せている。

 ビキ、と音が響くようであった。
「この」
「とはいえ」
 玲は柔らかく微笑む。
 仕方ないよね、と言っているようでもあった。
「オブリビオンになったとしても性根が変わるわけでもないし、元々そーいう負け犬だったってことだね。かわいそ……」
 憐憫。敵対している相手から、その感情をぶつけられることこそ、『闇の淑女オクタンス』には経験のないことであったのかもしれない。
 何故、己が今そのような感情を向けられなければならないのか。
 考えた時点で負けなのである。

 何度でも言う。
 これは戦いである。刃で戦うか、弁舌で戦うかの違いでしかない。
「あなた――! わたくしが、如何なる存在か知っての!」
 は、と玲は明らかに瞳を細める。
 憐憫の感情は、嘲りへと変わる。
 それを様々と見せつけられ、『闇の淑女オクタンス』は見逃していたのだ。玲の瞳がすでにユーベルコードに輝いていることを。
 取るに足らないと捨て置いた、猟兵のユーベルコードがその弁舌にまぎれて発動していたことを。

「……! これは!」
 彼女の周囲を取り囲むのは雷の龍、不死鳥。
 そして……。
 玲の召喚した巨大なる機械腕。
「そのまま進歩もなくサンドバックにされていきな」
 迫る雷龍と不死鳥が波状攻撃を仕掛け、儀式を完遂せんとする『闇の淑女オクタンス』へと迫る。
 飽和攻撃はしのげても、玲とともに飛ぶ機械腕の一撃が振り降ろされるのは、防げない。
 打ち込まれた拳は、『闇の淑女オクタンス』の頭上より叩き落された――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

戒道・蔵乃祐
一敗地に塗れ、一度は|現世《うつしよ》で滅びようとも
骸の海より甦りしその身で、嘗ての汚名を|雪《そそ》がんとするその意気や良しです

しかしながら名誉を挽回したとして、失われた過去の化身となった貴女が誰に讃えられようというのです?
領地と城を喪い、一族郎党も悉く消え去った
いっそ獣性を解放し、破壊と殺戮を齎す怪物に成り果てた方がまだ幸せだったでしょう

空虚な人形芝居を見せられている
独り舞台に取り残された傀儡は
不憫に見えるとは思いませんか?

◆龍顎龍尾龍撃乱舞
限界突破の早業+怪力で鮫型妖獣を撃ち落とし
奔流に抗うが如く切り込み+乱れ撃ちで前へ!
見切り+フェイントで懐に入り込み、グラップル+重量攻撃で闇を貫く!



 鋼鉄の機械腕の一撃が『闇の淑女オクタンス』の頭部を打ち据える。
 ぐらつく視界。
 赤く染まる視界は、彼女の激情を現すものであったかもしれない。
 けれど、と彼女は持ち直す。どれだけ猟兵の言葉が真実であり、彼女の激情を煽るものであったとしてもだ。
 己の使命を忘れたわけではない。
 嘗て『赤と黒の淑女』と言われた己はもういないのだ。
 あれは過去。
 ならばこそ、あの揺蕩う快楽の中を知る己はもはや『赤』は不要なのだ。極めて冷静に。極めて冷徹に。そう考えればいいだけのこと。
「これほどまでにわたくしを侮辱し、侮蔑してなお、得ようとしているのは時間というわけ。わたくしが儀式を完遂するまで待てないのかしら?」

 その言葉に戒道・蔵乃祐(荒法師・f09466)は告げる。
「一敗地に塗れ、一度は|現し世《うつしよ》で滅びようとも、骸の海より蘇りしその身で、かつての汚名を|雪《そそ》がんとするその息や良しです」
 彼の言葉に『闇の淑女オクタンス』は微笑えむ。
 別に褒められたいわけではない。
 けれど、向けられた敬意の言葉は素直に受け止める。これまでの生において自身を褒めそやす言葉はいくらでも聞いてきた。
 称賛こそが己の人生であったのだ。
 だが、能力者に敗北し、死したのならば、それはまた別の意味を持つ。
 不満。
 みちるは、不満なのだ。

「しかしながら名誉を挽回したとして、失われた過去の化身となった貴女が誰に讃えられようというのです?」
 蔵乃祐の言葉に『闇の淑女オクタンス』は微笑みながら、その体内より供給される鮫型妖獣を弾丸のように放ちながら言い放つ。
「世界の全てよ。世界を滅ぼし、その悲鳴こそがわたくしの全てを称賛するものとなるのです。オブリビオンとはそういうものでしょう?」
 彼女はオブリビオン。
 その言葉には理性がある。なるほど、とも蔵乃祐は思ったことだろう。
 確かに嘗ての『赤と黒の淑女』と呼ばれた彼女の『怒りやすい』という欠点は改善されているようである。

 だがしかし、蔵乃祐は、迫る鮫型妖獣たちを己の拳でたたきとし、回し蹴りで切り裂くように吹き飛ばす。
「領地と城を喪い、一族郎党も悉く消え去った」
「ええ、奪われたのですから、そうでしょうとも。けれど、失って初めてわかるものもあるでしょう? わたくしは死すまで奪われなかった。確かに敗北は全てを喪うものですが、敗北を得たものもまた正しいものです」
 だからこそ、彼女は微笑む。
 死だけが得られたものではない。
 骸の海にはあらゆるものがある。あらゆるものが過去になるのならば、やがて全てを得られるということでもあるのだ。

 だからこそ、彼女は揺蕩うように艷やかに笑う。
「そのようなに振る舞うなど。いっそ獣性を開放し、破壊と殺戮を齎す怪物に成り果てたほうがまだ幸せだったでしょう」
「語るわね、猟兵。貴方達がわたくしの何を理解していると? 過去に揺蕩う悦楽も知らぬ者たちが、わたくしによくも説教をたれたわね?」
 蔵乃祐に迫る鮫型妖獣の勢いは増していく。
 まるで濁流そのものたる妖獣たちの群れを蔵乃祐は抗うように切り込み、己のユーベルコードを乱れ打ちながら突き進んでいく。

「そこで喰らわれ、破れて、塵と化しなさい」
「まるで今の貴方は空虚な人形芝居を見せられているようでありますね。独り舞台に取り残された傀儡は、不憫に見えると思いませんか?」
 その言葉に眉根が動く。
 それを蔵乃祐は見逃さなかった。
 己を不憫だという者がいる。悦楽に浸っていた己を、不憫だと。恐怖の視線ならば心地よい。
 だというのに、かの猟兵は己を哀れんだのだ。
 それが、許せない。

「――」
 音が鳴った気がした。しかし、それが『闇の淑女オクタンス』の隙であった。
 僅かであろうと、彼女は理性を途切れさせた。
 一瞬であっただろう。
 けれど、その一瞬でいいのだ。蔵乃祐にとっては。
 衝撃波放つ竜撃砲が彼我の距離を一瞬で詰め、揮われる正拳突きの一撃が『闇の淑女オクタンス』の掌に受け止められる。
 そのまま身を翻し、振るうわ回転蹴りの一閃。

「龍顎龍尾龍撃乱舞! その闇を貫かせて頂きましょう!」
 闇が迫るとも、蔵乃祐は止まらない。
 目にも留まらぬ連続攻撃は、刹那をこじ開け、『闇の淑女オクタンス』の余裕を切り裂くのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カーバンクル・スカルン
過去の残滓にも関わらず過去を顧みて、成長しようという心持ちは良し。でもその粛々と行われている儀式は阻止させていただきますよ?

【置酒高会】を配備させてオクタンスを幽閉・隔離すると同時に機械仕掛けのワニを解き放つ。「生命体を」追いかける鮫型妖獣は機械に興味は示さないでしょう?

さて、ワクワク質問タイムと参りましょう?

ただ、質問と言いながらもその内容はただの時間稼ぎ! 儀式や企みと全く関係ない「好きな物は何?」「伯爵に向けて一言」などプライベートな物ばかり聞いて挙げ句の果てには「今何問目?」というクイズと化す。

いつ自分の野望を話せるかワクワクしてたところで、私の企みに気づいた時の反応が楽しみですな?



 猟兵達によってこじ開けられる闇。
 それは『闇の淑女オクタンス』にとって、必然であったかもしれない。
 万の軍勢に値すると言われた強力な原初の吸血鬼。その力であれば、猟兵たちを個で凌駕するのは当然のことであったことだろう。
 彼女の優位は変わらない。
 粛々と儀式を完遂し、命ぜられたものを『持ち帰り』すればいい。
 だと言うのに。
 いや、だからこそ、というべきであっただろうか。

 猟兵達は舌戦でもって『闇の淑女オクタンス』を煽り続ける。
 彼女の冷静さと時間こそが猟兵達の敵であったからだ。儀式の完遂が如何なる形で現れるのかを予知できなかったがゆえに、疾くこれを撃破しなければならない。
「確かに。過去の残滓にも関わらず過去を顧みて、成長しようという心持ちは良し。でも」
 その言葉は、カーバンクル・スカルン(クリスタリアンのスクラップビルダー?・f12355)の瞳に輝くユーベルコードとともに『闇の淑女オクタンス』へと遅いかかる。
 嘗ての戦いとは違い、猟兵の放つユーベルコードは柔軟にして千差万別。
 規則性はあれど、発露する力は猟兵によって異なるのだ。
「その粛々と行われている儀式は阻止させていただきますよ?」
「吠えたわね、猟兵。どれだけ貴方たちが来るのだとしても、わたくしの優位は揺らがない。現に未だあなた達は私が執り行う儀式を止められないじゃあない」
 微笑む姿にカーバンクルは笑みを返す。

 余裕を保っている。
 即ち冷静さは、その余裕があればこそである。故にカーバンクルは置酒高会(ソーシャブル・インズ・ショータイム)を持って『闇の淑女オクタンス』を脱出不可能な檻に閉じ込める。
 そこに存在するのは五体のワニ。いや、機械じかけのワニである。
 大量の鮮血が満ちる儀式場の中を悠々と泳ぐように取り囲む機械じかけのワニに『闇の淑女オクタンス』は鼻でせせら笑う。
「だからどうしたというの。この程度のものでわたくしの儀式を中断させたとでも?」
 迫る五体の機械じかけのワニたちがその牙や頭部に備えられた回転ノコギリの如き機構でもって『闇の淑女オクタンス』へと襲いかかる。

「ええ、思っていますとも。さて、ワクワク質問タイムと参りましょう?」
 それこそがカーバンクルのユーベルコード。
 これは彼女が満足な答えを得るまで解かれることのないユーベルコードだ。
「情報を引き出そうって言うわけね。小賢しいことだわ。そんなことでわたくしの時間を――」
「好きなものは何?」
「――は?」
 その質問は、あまりにも平凡なものであった。
 いや、違う。
 聞くまでもないし、猟兵にとって必要のない質問であったことだろう。まるで無意味。情報を引き出そうという意図すらない。
 だからこそ、『闇の淑女オクタンス』の反応が送れる。
 彼女の身を包み込む闇のドレスを機械じかけのワニの牙が切り裂く。

「何を言っていらっしゃるの、あなた」
「伯爵に向けて一言!」
「だから、何を――!」
 苛立ちが募っていく『闇の淑女オクタンス』の姿をカーバンクルは笑みのまま見続ける。このユーベルコードの発動を赦した時点で、『闇の淑女オクタンス』は彼女の仕掛けた儀式中断と遅延の罠の虜となっていたのだ。
 質問に意味はない。
 そして、意味がなければカーバンクルは納得しない。満足しない。そして、如何に彼女が強大な存在であろうとも、そのユーベルコードたる檻からは脱出できない。

 即ち、彼女が行っていた儀式は、現段階から進むことはないのだ。
「悪いけど、いつ自分の野望を話せるかワクワクしていたよね? わかるよ。大物ぶっている時って、大体そういうものだもの。自分が勝ったって思っている時、優位に立っている時ほど、時間に余裕がある時だものね」
 カーバンクルは檻の外から笑いかける。
 確かに力任せにすればカーバンクルのユーベルコードを破ることもできたかもしれない。
 けれど、今は無意味だ。
 次々と浴びせかけられる無意味な質問に『闇の淑女オクタンス』の苛立ちはボルテージを上げていくのだ。

「あなた、一体何を言って……!」
「アハハ、気が付かない? 私の企みがなんであるのかを。わからないかな?」
 頭に血が上り始めているのだろう。
 それは嘗て『赤と黒の淑女』と呼ばれていたときの彼女の悪癖が如実に引きずり出されていることを示している。
 ならばこそ、カーバンクルは後もう少しだけとからかうように檻の外で『闇の淑女オクタンス』の上がり続ける血のままに笑うのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フール・アルアリア
じゃじゃーん!ねぇねぇ、聞いて。
僕ね、貴女が憎んでるだろう元能力者!
その上で、ごめんね?僕、貴女を知らないや。
もう一回言うね。僕、貴女を、知らない。
土蜘蛛の女王の方がよっぽど恐ろしいや!
悔しいならわからせてよ、貴女の恐ろしさ!

なぁんてね、マジで本当に知らないんだけど、煽りにはなるよね。

怒りん坊には怒りん坊で。切り裂けかまいたち!
綺麗な腕をちょーだいね?
鮫型妖獣は尻尾が欲しいかな?

空を駆け、僕が刃に。
貴女にピッタリの刃をあげる(レッグギロチン)
Behead!なんてね!
足を止めてて僕を捕らえられると思わないで。

流石に無傷では対峙が難しいだろうから仕方ないけど、重い傷や致命傷は全力で避けるね。



 猟兵の戦いは繋ぎ、紡ぐ戦いである。
 入れ代わり立ち代わり、強大な敵に立ち向かっていく。
 かつて万の軍勢に値すると言われた『闇の淑女オクタンス』の力は強大そのもの。
 個として猟兵が敵うべくもない。
 しかし、これまでそうであったように猟兵は、そうした者たちを打倒してきたのだ。何故ならば、一人で戦うことをしないからだ。
「忌々しい。このわたくしを前にして遅滞戦術をするなど」
 頭に上り掛けた血を冷ますように『闇の淑女オクタンス』は頭を振る。
 ユーベルコードの檻によって捕らわれていたが故に、儀式は遅れていたが、十分取り戻せると彼女は考えていた。

 猟兵など小蝿のようなものだとさえ彼女は思っていただろう。
「じゃじゃーん! ねぇねぇ、聞いて」
 それは、フール・アルアリア(No.0・f35766)にとって、それは呼びかけ以外の何ものでもなかった。
 猟兵としてわかる。
 目の前の存在がいることで世界が脅かされていることが。
「何を。鬱陶しいこと。やかましいったらないわね」
 あしらうように『闇の淑女オクタンス』の体内から発せられる鮫型妖獣が弾丸のようにフールへと迫る。
 それを空を駆け抜けるようにして、フールは躱す。
 だが、圧倒的な物量だ。
 無限に供給される弾丸の如き鮫型妖獣はフールを追いかけ回す。

「もう聞いてってば。僕ね、貴女が憎んでいるだろう元能力者! その上で、ごめんね? 僕、貴女を知らないや」
 その言葉は煽る言葉であったことだろう。
『怒りやすい』という弱点を持っているのが『赤と黒のオクタンス』であった。
 けれど、今の彼女は冷静そのものだ。
 己を知らぬ無知を許容さえしている。
「もう一回言うね。僕、貴女を、知らない」
 だからなんだというのだと『闇の淑女オクタンス』は儀式を完遂させようと、続行する。無論、迫る鮫型妖獣の群れは凄まじく、フールはなかなかに近づけない。

 もしかしたのならば、『闇の淑女オクタンス』はフールがあえて知らぬふりをしているのだと思っていたのかも知れない。
 ならば、気に留める理由もないのだ。 
 虚勢を張るのは弱者の証。弱者に強者が翻弄される謂れなど何一つないのだ。
「知らぬ存ぜぬを決め込むのは結構ですけれど? それが偽りであると看破されているのなら無意味でしてよ?」
「なぁんてね」
 舌を出してフールは首をかしげる。
 バレちゃったか、という仕草に思えただろう。特に『闇の淑女オクタンス』にとっては。

 しかし、次なる言葉に彼女の血は頭に登る。
「マジで本当に知らないんだけど」
 真顔であったし、フールは続ける。
「土蜘蛛の女王の方がよっぽど恐ろしいや! 悔しいならわからせてよ、貴女の恐ろしさ!」
「このわたくしを……原初の吸血鬼を……!」
「やーい、怒りん坊! 怒りん坊には怒りん坊で。切り裂けかまいたち!」
 ユーベルコードに輝くフールの瞳。
 迫る風の刃が『闇の淑女オクタンス』の腕を斬りつける。綺麗な腕だと思っていたのだ。それがほしいと思った。
 鮮血が奔り、けれど、それがすぐさま彼女の腕の中に収まる。

「わたくしの体に傷を付けて、あなたこそ五体満足で戻れるとは思わないことね!」
 激昂する『闇の淑女オクタンス』を前に、フールはどちらが、怒り狂った北風の悪戯(ボレアスフュリアスヒステリー)であるかわからないなとさえ思ったことだろう。
「貴女にピッタリの刃だと思ったんだけれどね!」
 フールは走る。 
 敵は放つ鮫型妖獣のために足を止めている。
 そんな相手に自分が捕まる道理など何一つ無いとばかりにフールは縦横無尽に駆け抜け、風の刃で鮫型妖獣の尾を切り裂き、さらに『闇の淑女オクタンス』の腕を執拗に狙う。
 敵が自分より強いことはわかっている。
 無傷で済むとも思っていない。
「ちょこまかと!!」
 激昂するがゆえに攻撃の数は膨大なものとなっている。だからこそ、フールは笑って飛ぶのだ。

「それ、ちょっと盗らせてね?」
 翻り、眼下に『闇の淑女オクタンス』の姿を捉え、急降下一閃、その腕を風の刃纏う蹴撃の一撃でもって切り裂くのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロッタ・シエルト
揺籠の君に全能計算域限界突破…
持ち帰ってどうするのか分からないけど
止めないといけないわね

スピカには足元にいて貰って
負傷したら適宜回復するよう指示
わたしは破城鎚の射程にオクタンスが入るまで
周囲を警戒しながら接近
妖獣が飛んで来たら
ハンマーで迎撃するか
伸び退いたり身を縮めたりして回避するわね

接近中はオクタンスに向かって
わざとらしいお嬢様言葉で挑発

闇の淑女ですって?
そんなはしたない格好で淑女だなんて
さすがにおハーブ生えますわ
淑女としての教養はどうなってますの?
失礼
あなたオブリビオンでしたわね
それに愉悦を感じるなんて
やっぱりおハーブ畑不可避ですわ!

射程まで近付いたら
全力で破城鎚使用
骸の海にお還りなさい!



『持ち帰り』する。
 それはこれまで猟兵たちが相対してきたオブリビオンの言葉に見られる単語であった。
 時に『アーカイブ』と言われた、その行為が一体何を示すのか。
「『揺籠の君』に『全能計算域限界突破』……」
 ロッタ・シエルト(夜明けの藍・f38960)の頭の中で『闇の淑女オクタンス』が求めるものが反芻するように響く。
 それを持ち帰ってどうするというのだろう。
 何が目的なのかもわからない。
 けれど、それを求めるオブリビオンが居るということは、即ち世界の破滅を齎す行為に違いない。

 己が猟兵であると自覚できているのならば、理由など後から知ればいい。
 これを打倒する。止める。
 それこそがロッタの使命である。手にした愛用のハンマーを構える。
 叩けば大抵の敵はどうにかできるものである。
「それじゃ、後はタイミングでお願いね」
 肩から星霊スピカが降りる。適宣回復をお願いしているのだ。

「ふぅー……ふぅー……まったく、淑女らしからぬことをしてしまいましたわ」
 片腕を喪いながらも、その肉体を再生させるように『闇の淑女オクタンス』は血潮でもって復元させ、ホオジロザメ型妖獣を召喚しロッタへとけしかける。
 その巨体から映えるチェンソーが唸りを上げ、ロッタを八つ裂きにせんと迫るのだ。
「淑女ですって?」
 唸りを上げるチェンソーの音の合間にロッタは『闇の淑女オクタンス』へと語りかける。
 その言葉に彼女は冷静さを取り戻し一瞥するだけだった。
「そんなはしたない格好で淑女だなんて。さすがにおハーブ生えますわ」
 にこり、とロッタはあえてお嬢様言葉を使う。
 わざとらしい。
 いや、取ってつけたような言葉の使い方であった。どうしようもなく、その言葉はわざとらしく、そして同時に己が煽られているのだと『闇の淑女オクタンス』は理解しただろう。

「わたくしの姿を見て美しい以外の言葉は出て来ないはずですが?」
「その格好で美しいだなんて。淑女としての教養はどうなってますの?」
 ロッタは迫るホオジロザメ型妖獣をハンマーで叩きのめしながら、じりじりと『闇の淑女オクタンス』へと近づいていく。
 さとられぬように、ただ只管に己の手にしたハンマーの一撃が届くまで歩みを止めない。
「教養がどうとかそん……」
「失礼。あなたオブリビオンでしたわね。それに愉悦を感じるなんて」
 ロッタは嫋やかに微笑むだろう。
 言葉を遮ることはまったくもっておお嬢様らしくなかった。その慇懃無礼さが、さらに『闇の淑女オクタンス』の怒りのボルテージを上げていく。
 確かに冷静さを得ているはずだ。
 けれど、怒りとは溜まっていくものだ。
 爆発する爆弾の導火線のように、ジリジリと火の粉を散らしながら限界へと向かっていくものだ。

 ならばこそ、ロッタは言い放つ。
「やっぱりおハーブ畑不可避ですわ!」
「言わせておけば小娘!」
 その言葉を待っていた。瞬間、ロッタの眼前に迫る鬼の如き形相の『闇の淑女オクタンス』。
 けれど、それは彼女にとって好都合であった。
「そういうとこですわよ!」
 みなぎるユーベルコードの輝きが、ロッタの瞳をきらめかせる。
 距離を詰めるのではなく、詰めさせる。
 彼女の手にしたハンマーはすでに振り上げられているのだ。ならば、後は振り下ろすだけ。
 目にも留まらぬ速度で打ち込まれる、破城鎚(ハジョウヅチ)の一撃。
 それは己に迫った『闇の淑女オクタンス』の体を大地に叩きつけ、その身を強かに満ちる大量の鮮血へと叩き込む。
 血しぶきが柱のように戦場に立ち上り、その最中ロッタは叩きのめした彼女に言い放つのだ。
 愉悦を感じるのならばこそ。

「骸の海にお還りなさい――!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

シズホ・トヒソズマ
うわあ、ドンフリよりはマシですがすっごい痴女…
ぴっちりスーツで健全な私を見習ってほしいですね
さて怒らせればいいんですね?ならアレでいきましょう

からくり人形は早業で操縦

UC発動
『五の王笏』の力を使用
ベルセルクドラゴンの鎧を幻影実体化し装備

バルの軌道変化弾で牽制しつつ
鎧から凶暴化ブレスを連続発射
相手は回避するか防御ではねのけるか
命中していれば『冷静さを失え』とルールを宣告、守らなければダメージ
回避してても守らなくても凶暴化ブレスの残滓が漂う中では
じきに凶暴化して怒り出す事になる

鎧によるドラゴン化で動きを加速して鮫型妖獣を回避し
自身へ敵意を向けている対象にダメージを与える狂える竜のオーラを発射します



 盛大なる血しぶきの柱が戦場に立ち上る。
 それは猟兵の一撃と、『闇の淑女オクタンス』の激昂のボルテージを現すものであったことだろう。
 うかつにも飛び込んだ『闇の淑女オクタンス』は猟兵の一撃に叩きのめされ、儀式の場に満ちた大量の鮮血を飛び散らせながら跳ねるように立ち上がる。
 怒り満ちる表情。
 怒り狂う心を鎮めるように息を大きく吸い、吐き出す。
 冷静さを取り戻そうとしているのだろう。
 かつての戦いでは、それが仇となったし、弱点にもなった。その経緯を彼女は受け入れ、冷静であることに努めようとしていたのだ。

「落ち着きなさい、わたくし。雑兵の言葉に翻弄されてどうするというのです」
 胸をなでおろす。
 その光景を見ていたシズホ・トヒソズマ(因果応報マスクドM・f04564)は思わず呟いていた。
「うわあ、ドンフリよりはマシですけがすっごい痴女……」
 おそらくキマイラフーチャーのオブリビオン・フォーミュラのことを差しているのだろう。
 シズホの言葉に痴女呼ばわりされた『闇の淑女オクタンス』は、びきりとこめかみを引きつらせた。
 まだ大丈夫。わたくしは大丈夫と言わんばかりに無視しているのだ。

 だが、そんな怒りを抑え込む『闇の淑女オクタンス』とは裏腹にシズホの言葉がまるでナイフのように走るのだ。
「ぴっちりスーツで健全な私を見習ってほしいですね」
「どこが――!!」
 その言葉に『闇の淑女オクタンス』は激昂するしかなかった。
 己の姿格好をどのように言われようとどうでもいい。それは僻みやそねみと言ったものでしかないはずだからだ。
 けれど、よりにもよってシズホには言われたくなかったのだ。

「怒らせればいいんですよねって……ってもう怒ってますね」
 シズホは首を傾げながら己のユーベルコードでもって、『五の王笏』たるオブリビオンの幻影を出現させる。
 それを自身に覆うことによって力を宿し、超強化を得る。
 ベルセルクドラゴンの鎧を幻影として実体化し、装備したシズホは手繰る戦闘人形から放たれる弾丸でもって『闇の淑女オクタンス』から放たれる弾丸の如き鮫型妖獣の奔流を牽制する。
 圧倒的な物量を前に牽制など無意味であるというかのように、『闇の淑女オクタンス』は足を止めて凄まじい速度でシズホへと攻撃を仕掛ける。

 怒りに身を任せているとしか思えないほどの圧倒的な攻撃量。
 それをシズホは真っ向から対峙する。
「なるほど。確かに怒り狂えば冷静さを喪うというものですね。ならばこそ、これが付け入る隙があるというものです」
 ベルセルクドラゴンの鎧から放たれるのは凶暴化ブレス。
 迫る鮫型妖獣たちの群れを引きつけながら、シズホは戦場を走る。確かに『闇の淑女オクタンス』は強大なオブリビオンだ。
 それは戦ってみてよく理解できる。

 怒りに身を任せているからこそ、その攻勢は圧倒的であり、どうしようもないほどの力であった。
「ですが、やっぱり忘れていますね。儀式の完遂。このまま忘れてもらいましょう」
 凶暴化ブレスはいつずれ残滓ととなって彼女を更に起こりやすくさせてしまうだろう。
 それに、とシズホは己のユーベルコードの力によって、その身に宿したオブリビオンの幻影たる力をましている。
 幻影装身(アームドオブリビオン・ミラージュ)とはそういうユーベルコードだ。
 己の身を縛る代償など安いものだ。

「よくもその風体でわたくしをそしりましたわね!」
「いやあ、肌色が見えていないからセンシティブではないでしょう。肌の面積で判断されるのですよ」
「減らず口を!!」
 吹き荒れるユーベルコード。
 そのさなかをシズホは、ベルセルクドラゴンの鎧によって加速し、さらに『闇の淑女オクタンス』を翻弄し続けるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友

第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん?
属性:風

はてはて、まあ恩義に報いるはわかりますけどね?
永遠とはすなわち停滞を意味する…故に、貴女はもう強くなることなどない。
いろいろ調べましたけどね、過去の貴女の方がよっぽどの強敵ですからねー?
何せ、敵といえども何かしらの手をうって勝とうとしていたのですから。

今の貴女ですか?悦楽に溺れきった愚か者に見えますよ?
ええまあ、同じく死者ですけどね。私はまだ、前に進む者ですよ。

ですから…早業からのUCを使用。
ジャミング能力もつけての一斉射撃攻撃。
…貴女の企みも、潰してみせましょう。



 翻弄される『闇の淑女オクタンス』。
 しかし、それでもなお時間さえ立てば頭に上った血も冷めていくというものである。
 肝要であるのは、彼女を『怒らせ続ける』ということ。
 嘗て『赤と黒の淑女』と呼ばれた彼女であるからこそ、弱点を引きずり出すことが可能なのだ。
 今は冷静さを取り戻している。
 原初の吸血鬼。
 万の軍勢に等しい力を持つと言われた彼女の個としての力は猟兵を上回っていることは事実である。
 ならばこそ、猟兵に構わず『持ち帰り』の儀式を完遂すればいい。

 それだけで彼女の使命は達成されるのだ。
 故に猟兵達は彼女の儀式を遅滞せる。
「はてはて、まあ恩義に報いるはわかりますけどね?」
 馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の一柱である『疾き者』は首を傾げながら、目の前の『闇の淑女オクタンス』の姿を見やる。
 確かに強大である。
 しかし、だ。
 彼はこれまでのことを銀誓館学園で調べていた。
『赤と黒の淑女オクタンス』。
 紛れもなく強大な力を持つ存在。けれど、過去の彼女の戦歴を見れば恐るべきものであったが、今の彼女とすれば見劣りすると彼は思っていたのだ。

「舐めた口を聞くわね、猟兵。力の差を理解していながら、そんなことが言えるだなんて」
「いえいえ。だってそうでしょう。永遠とは即ち停滞を意味する……故に貴女はもう強くなることなどない」
 故に過去の化身。
 どれだけ言葉を弄して、悦楽に浸るを是というのならば。
『疾き者』にとって、それは恐れるに値しないのだ。
「今のわたくしと対峙してなお、その物言いは!」
 掲げた掌が呼び水になるように影の空母が空より招来される。そこより現れるヴァンパイア・ヴァタリオンたちが一斉に戦場を埋め尽くし、『疾き者』たちに襲いかかる。

「これでもなお、その舐めた口を聞けるとでも!」
「ええ、快楽に溺れきった愚か者でしかない」
「死にぞこないが……!」
「ええまあ、同じく死者ですけどね。私はまだ前に進む者ですよ」
 悪霊として。
 それでもなお、道を歩むものであるのならば、『疾き者』のユーベルコードは、四更・雷(シコウ・ライ)を解き放つ。
 雷の矢。
 それは戦場を埋め尽くすヴァンパイア・バタリオンたちを取り囲み、また同時に『闇の淑女オクタンス』さえも巻き込みながら打ち込まれる。
 雷によるジャミング。
 走る矢は、次々と敵を滅ぼし、迸る。

「……貴女の企みも、潰してみせましょう」
 何一つ『持ち帰り』することなく、討ち果たす。
 その言葉を裏付けるように『疾き者』のユーベルコードの煌めきは、影の空母すらかき消すように、空より飛来し続け、『闇の淑女オクタンス』の身を穿つのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒沼・藍亜
現代兵器ならまだ対応はできなくもない、けど厳しいし助っ人を呼ぶ事にするっすよ
「オクタンスちゃん」どうぞ―!
という訳でUC、萌え擬人化したオクタンスちゃんとその親衛隊を呼び出し。
ボク自身は周囲にUDCを広げて触手を出して応戦するっすよ

そうだ、これ無事に終わったら新生オクタンスってことでこの子のお披露目会っすね!
「気でも狂った?」もしくは「ふーんどうでもいい」って反応?……まさか「誰だっけ?」扱いとか?

アンタはどう思……ああ、骸の海でオブリビオンの愉悦にご満悦なアンタには俗世の事……「銀誓館」とか「聖女アリスさん」とか「伯爵」とかから「オクタンス」がどう思われてようとも、もう関係のない話だったっすね

じゃ安心して隠居するといいっすよ?「前オクタンス」さん?



 影の空母より降り立ち、次々と戦場を埋め尽くしていくヴァンパイア・バタリオンたち。
 彼らは『闇の淑女オクタンス』のユーベルコードによって召喚される存在であり、彼女の儀式を完遂させるための壁であり、また盾であった。
 そして、鉾でもある。
 彼らが走り、次々と猟兵たちを射殺さんとする姿は、たしかに脅威であったことだろう。
 その数に黒沼・藍亜(人■のUDCエージェント・f26067)は現代兵器ならばまだ対応できなくもない、という判断を下す。
 しかし、それでも厳しいと言わざるを得ない状況だ。
 未だ『闇の淑女オクタンス』は健在であり、またその力は万の軍勢に匹敵すると言われるとおりであったからだ。

 個としての力はオブリビオンに猟兵は及ばない。
 これは周知の事実である。
 しかし、恐れることはない。
「なら助っ人を呼ぶことにするっすよ」
 どろりと、大地に落ちる影。
 その影が染み渡るように広がり、彼女を中心に立ち上がるのは、冒涜的な異端なる神殿(コレハヒドイオタシンデン)。
 ユーベルコード、と『闇の淑女オクタンス』は冷静さを取り戻しながら視線を送る。神殿。何かを呼び出すというのならば、自分の影の空母と同様のものか、と理解する。
 確かにそれは正しい。

 けれど、次の瞬間神殿より這い出した存在をみやり彼女は目を剥く。
「なっ――」
「『オクタンスちゃん』どうぞー!」
 藍亜の言葉に立ち上がるのは、『闇の淑女オクタンス』を可愛らしく萌え擬人化した姿であった。
 何処かのアニメに出てきそうな絵柄。
「芸風が違うじゃあない! いえ、画風が違いすぎませんこと!?」
 彼女は思わずツッコんでいた。 
 なにせ、藍亜の呼び出した萌え擬人化体は、なんかこう、そのきゃるんってしていたのだ。彼女の元の姿からは想像も付かないほどに愛嬌たっぷりであったのだ。
 それだけではない。
 彼女の背後から現れるのは、これまた画風の違うヴァンパイア・バタリオンたちである。
 信仰を歪められ堕ちたと言われても仕方ないほどの元邪教徒の成れの果てたる幽霊たちが、色んな意味で悍ましい邪神の神殿たる影から溢れ出してくるのだ。

「あ、悪夢ですわ!?」
「これ無事に終わったら新生オクタンスってことで、このこのお披露目会っすね!」
「正気ですの!?」
「いやぁ、それってば褒め言葉じゃないっすかね?」
『闇の淑女オクタンス』の顔に青筋が走るようであった。
 ゾワゾワとしたものが背筋を駆け抜けていく。
 目の前の猟兵はやる。やるったらやる。
 どう考えても気が狂っているとしか言いようがない。怒りだとか憐れみだとか、そういう感情が浮かばぬほどに藍亜の瞳は本気の本気であった。

「アンタがどう思……ああ、骸の海でオブリビオンの愉悦にご満悦なアンタには俗世のこと……」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!? 本当に!? 本当にそんなことをするっていうのです!?」
 侮辱極まる行為であると彼女は思っただろう。
 青筋立てていた表情はみるみるまに赤くなっていく。羞恥。恥辱。そう取られてもしかたのない言動。 
 これほどの力を得てもなお、己を侮辱するものが居る。
 それが許しがたいことであると彼女の『赤のオクタンス』たる側面が顔を覗かせる。冷静などかなぐり捨ててでも、それは阻止しなければならない。

 その様子に藍亜は思う。
 これはひと押しすれば、簡単だと。
 だからこそ、頭を振って大仰に言うのだ。
「銀誓館とか『聖女アリス』さんとか『伯爵』とかから『オクタンス』がどう思われていようとも、もう関係のない話だったっすね」
 ため息を吐き出す。
 どうでもいいことだと、些事であると言うように藍亜は宣言する。
 飛び出す『オクタンスちゃん』とヴァンパイア・バタリオンたちが一斉に本物とかち合う。確かに彼らは偽物だ。
 擬人化でしかない。
 けれど、それでも歪められた信仰がまっとうな信仰に勝てぬという道理などない。
 歪み果てたからこそ、凌駕するものがあるのだ。

「じゃ安心して隠居するといいっすよ?『前オクタンス』さん?」
 ぶちん、と何かが切れる音を藍亜は聞いた。 
 だが、もはや遅きに失するというものだ。
 彼女のユーベルコードによって生み出された痛神殿は、すでに現実に知らしめられるようにそびえ立ち、『オクタンス』という存在を貶めるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ステラ・タタリクス
【ルクス様と】
なるほど、随分と安い快楽主義者ですね?
己の信念すら快楽に曲げてしまうとは

ル ク ス 様?
私は|エイル様《主人様》の公認メイドですので?
押しかけメイドですが嫌われてないので
お間違えなく?
誰がやべーメイドですか?あぁん?

ったく
私はクールな美人メイドですから(後方メイド面に戻る)

(最近闇纏ってますし、光の勇者というよりは
闇の破壊者のほうが合っているような……いえ今はやめておきましょう)

まぁ闇の痴女というのは正解かもしれません
過去から滲み出してきたくせに
過去の誇り高き自分より劣っているのですから
痴れ者、といったほうがいいですか?
どうせ戦うしか能がないのなら
早々に果てなさい!
UC発動です!


ルクス・アルブス
【ステラさんと】

永遠に骸の海を漂うのが悦びなら、
ずっとそのままで出てこなければいいのに。

誰も呼んでないですよ?

呼ばれてもいないのに押しかけたりするから、
嫌われるんじゃないですか?
しつこいのってよくないですよ?

ステラさん、目が怖いですけど!
これ、オクタンスさんのことですからね!?

(っていうか、すこしは自覚あったんですね)

あ、あと『闇の淑女』でしたっけ?
『光の勇者』には遠く及ばない二つ名ですし、
だいたい『淑女』の意味解ってます?

そんな半裸みたいな格好で人前にでるのは、
『淑女』じゃなくて『痴女です』

『闇の痴女』
あ、これならしっくりきますね。

怒らせたところを【世界調律】でどーんしちゃましょう。



 猟兵たちの言葉に『闇の淑女オクタンス』の堪忍袋の緒はすでに限界であった。
 いや、ブチ切れ散らかしていると言ってもいい。
 侮辱など屁とも思わないはずだった。
 けれど、これまで重ねられてきたことが、『闇の淑女オクタンス』自身が思う以上に彼女の心に余裕を失わせていたのだ。
 儀式を完遂さえすればいい。
 時は己の味方であり、また彼女は冷静であれば万の軍勢と同等の力を持っているのだ。攻勢を躱しながら、儀式を行うことなど簡単なはずだったのだ。

 だが、現実は違う。
「よくも言ってくれましたわね! この――」
 あまりに罵声に音割れするような響き。
 その声を聞いて、ルクス・アルブス(『魔女』に憧れる『出禁勇者(光属性)』・f32689)は、あーあ、と思わないでもなかった。
「永遠に骸の海を漂うのが悦びなら、ずっとそのまま出てこなければいいのに」
 まったくもってそのとおりであった。
「誰も呼んでないですよ?」
「やかましいですわね!」
「呼ばれてもないのに押しかけたりするから、嫌われるんじゃないですか? しつこいのってよくないですよ?」
 ルクスの冷静さが返って『闇の淑女オクタンス』を煽る。
 うーん、この煽りスキル。

 ルクスは思った。自分の後方にいるステラ・タタリクス(紫苑・f33899)も似たような所あるなーって。
「なるほど、随分と安い快楽主義者ですね? 己の信念すら快楽に曲げてしまうとは。それはそうと」
 ルクス様? とステラが背後からルクスの肩を掴む。 
「いたいいたい!?」
「私は|「『エイル』様《主人様》の公認メイドですので? 押しかけメイドですが嫌われて無いので。お間違えなく?」
 ぎりぎりと爪が肩に食い込んでいる。
「ステラさん、目が怖いですけど! これ『オクタンス』さんのことですからね!?」
 いや、ていうか、この煽りの言葉がステラにも刺さるってことは、それなりに自覚があるという証明であったことだろうか。

「誰がやべーメイドですか? あぁん?」
 そういうとこやぞ。
「何をコントのようなことをやってなさいますの!」
 咆哮と共に宙を飛ぶようにしてホオジロザメ型妖獣が二人に迫る。
 その巨体に生えたチェンソーが唸りを上げ、その凶悪な刃を持って二人を切り刻まんと飛ぶ。
 その姿をみやり、ステラは、ったく、と後方メイドに戻る。というか、さらっとルクスを全面に押しやった。
「今、押しませんでした!?」
「いえ、まったく」
 いや、押した。
 けど、そんな暇はないのである。敵を打倒すること。これを忘れてはならないのである。

「あ、あと『闇の淑女』でしたっけ?『光の勇者』に遠く及ばない二つ名ですし、だいたい『淑女』の意味解ってます?」
 ぷくす。
 ルクスは少し噴き出した。相手の知性を疑うのが煽りの基本である。こっちが高い位置に居るということを示すのが、肝要なのだ。
 自分が上で、お前が下。
 その位置関係を自覚させるのもまた煽りなのである。
 知ってから知らずか、ルクスはそういうことをしれってやっていた。

「そんな半裸みたいな格好で人前にでるのは、『淑女』じゃなくて『痴女』です」
 ステラはそんなルクスの背中をみやり、ちょっと嬉々とした雰囲気があるなーって思っていた。
 最近病みっていうか、闇を纏っているし、光の勇者っていうより闇の破壊者のほうが合っているような気がする。
 だが、それを口に出して言うほどステラも野暮ではないし、今はやめといた方がいいなという空気は読めるのである。
「あ、『闇の痴女』! これならしっくりきますね」
「言わせておけば!!」
 ぶちん、とまた切れる音が聞こえる。
 色々限界だったのだなーとステラは思った。けれど、敵に情けは不要なのである。

「まあ、『闇の痴女』というのは正解かもしれません。過去から滲み出してきたくせに、過去の誇り高き自分より劣っているのですから」
 痴れ者って言ったほうがいいのだろうとステラは瞳をユーベルコードに輝かせる。
 わりとざっくりした感じであった。
 ルクスもまた同様である。
 トニトゥルス・ルークス・グラディウスの巨大なる天使核より得られたエネルギーの迸る雷光の剣が構えられる。
 そして、ルクスの手にした世界調律(セカイチョウリツ)たる巨大音叉剣もまた揮われる。
 十字に交錯するようにして揮われる一撃は、『闇の淑女オクタンス』が冷静であったのならば、躱せたことだろう。
 けれど、ステラとルクスの心無い……いや、煽りによって彼女はブチ切れ遊ばしているのである。
 他の猟兵達の言葉もそうであったが、『闇の淑女オクタンス』の相当に蓄積した鬱憤ははらされることなく、巨大な二つの剣によって叩き潰される運命しかないのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

メンカル・プルモーサ
…原初の吸血鬼…ねぇ?
…オブリビオンの愉悦に浮かされて他所の命令を素直に聞いてしまうようなお前が?
…その心はもう『オブリビオン』に塗り潰されてるお前が原初の吸血鬼を名乗るのか…
(ため息をついて)そんな性根じゃ『伯爵』に勝てないのは当り前だね…
…おっと…怒って幽霊をぶつけてきたか…
【その符号、我が書中にあり】を発動……影の空母やヴァンパイア・バタリオンの攻撃を封魔の書で受け止めて召喚された物全てを吸収…
…そして即座に解放してこちらの物にして幽霊達に命令して一斉攻撃を仕掛けよう…
…オクタンスがそれらを蹴散らしている隙を付いて術式装填銃【アヌエヌエ】で破魔術式を籠めた銀の弾丸を叩き込むよ…



 交錯する十字の巨大な斬撃が『闇の淑女オクタンス』を叩き伏せる。
 その一撃は痛烈であったが、しかし、その交錯した斬撃の底から伸ばした彼女の掌が招来せしめるのは、影の空母。
 飛び出すのはヴァンパイア・バタリオン。
 膨大な数の吸血鬼たちが一斉に走り出す。
 しかし、その勢いは確かに削がれていた。
「この、わたくしが! 原初の吸血鬼たるわたくしを、よくも地に……!」
 許しがたいことだ。
 この現状が。
 この状況が。
 何もかもが彼女を苛立たせ始めていた。『怒りやすい』という弱点を彼女は克服していたはずだ。
 だが、皮肉なことに、その弱点を克服した理性と冷静さというものは、己の煽りに対する許容量を増やしただけに過ぎないことを彼女は理解していなかったのだ。

 受け流すことができたとしても、受け流したそれは、必ず貯まるのだ。
 溜まって、溜まって、限界が近くなれば。
「……原初の吸血鬼……ねぇ?」
 メンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)の言葉は針のようなものであった。
 ちくちくと『闇の淑女オクタンス』の精神を突き刺す言葉の針。
 その言葉事態が強烈であったわけではない。
 これまで猟兵たちが蓄積させた苛立ちをつついて揺らせばいいだけの話だったからだ。
「……オブリビオンの愉悦に浮かされて他所の命令を素直に聞いてしまうようなお前が?」
 メンカルにとって原初の吸血鬼とは傲慢不遜たる者たちであったことだろう。
 だが、それは同時に孤高たる存在であるとも言える。
 群れることなく、忖度することなく、そこに在るという事実こそが至高たる者。だからこそ、敬意という言葉もまた生まれるのだろう。
 けれど、『闇の淑女オクタンス』にはそれがないといい切る。
 何故ならば。

「……その心はもう『オブリビオン』に塗りつぶされているお前が原初の吸血鬼を名乗るのか……」
「一々癇に障る物言いをしてくれますわね、猟兵。だから何だというのです。オブリビオンになること、それ自体がすでに愉悦に満ちているというのに。それを? まるで知っているかのように語るあなたこそ」
 その言葉を遮るようなため息が聞こえる。
 メンカルは心底呆れ果てたというように息を吐きだしていた。

「そんな性根じゃ、『伯爵』に勝てないのは当たり前だね……」
 それは己を謗る言葉にして侮る言葉。
 自分が。
 あの『伯爵』すら経験したことのない悦楽を知る己が、よりにもよって猟兵に値踏みされているという事実に彼女の激昂は頂点に達する。
 その激情を現すように影の空母より飛び出すヴァンパイア・バタリオンたちの勢いは津波のように膨大であった。
 
 しかし、メンカルの瞳はユーベルコードに輝く。
「魔を掴む書よ、集め、封じよ、汝は封印、収奪。魔女が望むは写して記す封魔の書……それはもう見た。何度も見た。だから」
 他の猟兵たちに差し向けた力をメンカルは見ていた。
 だから対処できる。
 すでに、その符号、我が書中にあり(ユーベルコード・キャプチャード)。
 術式で受け止めた瞬間、彼女の手にした封魔の書より放たれるは、影の空母。
 召喚される空母より放たれるヴァンパイア・バタリオンたちの幽霊にメンカルは告げる。
「……これで終わりにする」
「わたくしのユーベルコードを吸収して我が物にすると!?」
「……力は全て使いようということだよ。お前のそういうところが」
 迂闊だというのだと告げるように影と影とがぶつかる間隙の最中に針を通すようにメンカルの手にした術式装填銃の銃口が煌めく。

 それを『闇の淑女オクタンス』は見ただろう。 
 だが、反応できない。
 これまで蓄積したダメージが。
 猟兵達の紡いだ戦いが、彼女の冷静さを失わせていたがゆえに、己の負傷も理解できなかった。
 がくり、と膝が崩れるのを彼女は知覚することもできなかっただろう。
 放たれた銀の弾丸が『闇の淑女オクタンス』の額を貫く。
「い、忌々しい……猟兵ども!! クソっ、邪魔をするなこの○×△☆! 死の宇宙で生まれたリリスの女王の『本体』を抽出して『|持ち帰る《アーカイブ》』事の何が悪い! お前達さえ、いなければ!!!!」
 それは怨嗟の咆哮。
 そして、それを成し得なかった彼女の最期の言葉として、虚しく戦場に響き渡るのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年01月07日


挿絵イラスト