第二次聖杯戦争⑬〜神将、天藍の空の下で憤怒に吼える~
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「おのれ……おのれ、『鴻鈞道人』ッ!!」
神将『|史・睡藍《し・すいらん》』の慟哭がシルバーレインの空に木霊する。
かつての戦いで命を落とした神将の現在は、オブリビオンの「傭兵」であった。
今しがた怒りに震わせながら呼んだ名――骸の海の権化たる『鴻鈞道人』の下、向かった世界の先にいるオブリビオンたちに義理を立て、彼らの利になるよう役目を全うしてきた史・睡藍。
しかしそれは今まさに、自らの故郷であるシルバーレイン、そこに住まう生命に仇為す侵略者として遣わされたことで無碍にされたのだ。
「僕は戦ってきた。オブリビオンとして……封神台を操るお前の兵として!
骸の海の中で何度も、何度も……そうして戦ってきた結果が……その仕打ちがこれかッ!!」
乱暴に鎖鎌を地に叩きつける。
コンクリートが砕け、抉れる音が響き渡る。
このような仕打ち、例えどのような人物であろうと物に当たらずにはいられないであろう。
それ程までに彼はこの仕打ちにひどく憤っていた。
「必ずお前の下に戻ってやる……例え叶わずとも、生命と時を弄ぶお前に雪辱の一撃を……ッ!!」
故郷に生きる生命を奪うことへの罪悪感を殺し、かつての神将が一人は今再び、銀誓館学生と猟兵たちの前に立ちはだかる――。
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「流石に今回ばっかりは敵にも同情するぜ。義理もへったくれもねえ扱いを受けたんじゃあな」
複雑そうな表情と共に、地籠・凌牙(黒き竜の報讐者・f26317)はグリモアによって刻まれた白紙のページを捲る。
あの予兆を見て、複雑に思ったグリモア猟兵は恐らく、凌牙だけではない。
鴻鈞道人が姿を現し、グリモア猟兵を操って世界を侵略しようとした殲神封神大戦から一年……こんなところで奴の名を耳にするとは思わなかったし、ましてや経緯は違えど利用された者がいるとなると、思うところがない者はいないハズだ。
「まあ、そういうワケで今『史・睡藍』はシルバーレインの石川県金沢市にある『長土塀青少年交流センター』周辺の地域に布陣して迎え撃つ用意をしてる。
そんでこいつはユーベルコードとは別に能力がある。戦場のどこかに設置している『疑似封神台』が破壊されない限り、一定ラインまで回復してまた襲いかかってくるんだ」
ただし、あくまで「一定ラインまで」である。
負傷を完全に回復することは不可能で、何度も復活を繰り返せばリカバリーできなかったダメージの累積によりいつかは倒れる。
疑似封神台を破壊する場合は、破壊すれば一発で殺すことが可能になるが、その疑似封神台を探し出すのは当然容易であるワケがない。
倒れるまで戦い続けるリスクか、探し出す為に時間を消費するか。どちらのデメリットを取る方が望ましいかは猟兵諸君によって当然違うだろう。
「言っとくが故郷の侵略者になったからって手を抜くような奴じゃねえし、同情して手を抜けばそれこそ怒りを買うぜ。武人ってのはそういう奴だ。
迷う必要はねえってこったな。正月休みを奪われた怒りをぶつけるがてら全力でぶつかってぶっ飛ばしてきてくれ」
……それはそれで史・睡藍がかわいそうな気もするが、全部正月に戦争おっ始めたオブリビオンが悪いと思う。
そういう意味でも彼には同情した猟兵がいたかもしれないし、いないかもしれない。
御巫咲絢
2023年明けましておめでとうございます!今年も元旦早々戦争ですが皆様如何お過ごしでしょうか。
どうもお久しぶりです、MSの|御巫咲絢《みかなぎさーや》です。
シナリオ閲覧ありがとうございます!御巫のシナリオが初めての方はお手数ですがMSページもご一読くださると助かります。
やはり猟兵は新年早々戦争から逃げられぬ運命……!というワケで第二次聖杯戦争、始まりました。
別所でイベント参加中なのであんまり動けないかもしれませんが書ける時に書いていこうかなと思いますのでよろしくお願いします。
戦場は石川県金沢市の長土塀青少年交流センター周辺地域、鴻鈞道人への復讐に燃える神将『史・睡藍』を撃破し戦争を一手先へと進めていきましょう!
●シナリオについて
当シナリオは『戦争シナリオ』です。1章で完結する特殊なシナリオとなります。
また、当シナリオには以下のプレイングボーナスが存在しています。
●プレイングボーナス
何度でも睡藍と戦い、撃破する/疑似封神台を見つけ出し、破壊する。
前者の場合はシンプルに純然たる真っ向勝負描写になるかと思います。
後者の場合はMSが必死こいて周辺地域を検索しまくりながらの執筆になると思われますので大分お時間頂く可能性ございます。あしからずご了承くださいますようお願い致します。
●プレイング受付について
OP承認後の「翌朝」8:31から受付、締切は『クリアに必要な🔵の数に達するまで』とさせて頂きます。
受付開始前に投げられたプレイングに関しましては全てご返却致しますので予めご了承の程をよろしくお願い致します。
オーバーロードは期間前OKですが、失効日の有無の都合上執筆が後の方になりますのでご容赦ください。
頂いたプレイングは『5名様は確実にご案内させて頂きます』が、『全員採用のお約束はできません』。
また、『執筆は先着順ではなく、プレイング内容と判定結果からMSが書きやすいと思ったものを採用』とさせて頂きます。
以上をご留意頂いた上でプレイングをご投函頂きますようお願い致します。
それでは長くなってしまいましたが、皆様のプレイングをお待ち致しております!
第1章 ボス戦
『神将『史・睡藍』』
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POW : 邪気虎牙紋
攻撃が命中した対象に【白虎の紋様】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【白虎が本物の獣のように肉体を食い破ること】による追加攻撃を与え続ける。
SPD : 神気絶命旋
【高速で振り回される鎖鎌の分銅】で触れた敵に、【呼気により練り上げられた「気」】による内部破壊ダメージを与える。
WIZ : 神将従霊群
自身が【詠唱兵器である鎖鎌を振り回して】いる間、レベルm半径内の対象全てに【小妖怪の群れの呪詛】によるダメージか【小妖怪の群れの祝福】による治癒を与え続ける。
イラスト:えの
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
セイカ・ヤブサメ
【アドリブOK】
神将…どういったモノかは理解したよ。
まぁ奴さんの境遇に言いたいことは色々あるが御託は抜きだ。
頭脳労働って|性質《タチ》でもないんでね。
得意分野でやらせてもらうさ!
「神将ってやつは相当に頑丈らしいじゃないか
ならアタシの喧嘩に付き合ってもらおうか?」
バイクから降りてタバコを吹かし、ムラクモとコガラシを構えて戦闘開始。
睡藍が鎖鎌を振り回し始めると同時に切っ先を【見切り】つつ月叢花風の初撃を与え、振り回そうとするたびにムラクモの【切り込み】で妨害しスタミナ切れを狙う。
アンタの想い、個人的に応援してやりたいが今回は間が悪かったと諦めな!
【勝負勘】で攻め時を見極めたら二刀の【2回攻撃】だ!
夢ヶ枝・るこる
■方針
・アド/絡◎
■行動
ええ、少々不快な遣り口ですねぇ。
彼には同情しますが、容赦は無用ですぅ。
【皓翼襅】を発動し飛行、『FMS』のバリアと『FES』『FXS』の結界を展開しますねぇ。
睡藍さんの『虎牙紋』は『命中』を条件とするもの、多重防壁で全周を覆い直接の接触を避けつつ『飛行&走行速度』と『FIS』による転移で回避すれば、対処は可能でしょう。
攻撃時は『FRS』『FSS』の[砲撃]と『FBS』の斬撃、『FAS』の羽弾を併せて叩きますねぇ。
そして【皓翼襅】は『持久力強化』が可能、『祭器』各種は『豊極の女神紋』と『ギガエナジーゼリー』が有れば、容易に補給出来ますぅ。
倒しきるまで、お相手致しますねぇ。
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怒りはあれど、かといって今の自分に課せられた責務を放棄することはできない。
相手は骸の海の権化であり、骸の海から現世に戻りしオブリビオンである以上、今はこの場を生き抜くしかない。
そして睡藍にとって一番の生き抜く術こそ、戦って生き残ることだ。
生きて骸の海へ戻り、雪辱の一撃をくれてやるまで倒れるつもりはない。
そんな決意と並大抵の者では気圧されてしまうであろう戦意が戦場に満ちている――。
「――なる程。神将……どういったモノかは理解したよ」
戦場に足を踏み入れた、ただそれだけで伝わる圧倒的な覇気。
それを浴びても怯むことなくセイカ・ヤブサメ(ハイウェイの戦女神・f36624)はバイクを駆る。
「まあ、奴さんの境遇に言いたいことはあるが……御託は抜きだ」
「ええ、少々不快な遣り口ですねぇ……」
セイカの言葉に答えたのは、時を同じくして戦場に駆けつけた夢ヶ枝・るこる(豊饒の使徒・夢・f10980)。
「彼には同情しますが――オブリビオンである以上、容赦は無用ですから。全力で行くだけですぅ」
「そうさな。頭脳労働って|性質《タチ》でもないんでね、アタシの得意分野でやらせてもらうさ」
アクセルを思い切り踏み込み跳躍し、セイカは距離を詰める。
まるで眼前に壁が振ってくるかのような衝撃と共に一気に睡藍へと迫る彼女に続くように、るこるも|F《フローティング》|B《ブレイド》|S《システム》を駆り、天女が舞い降りるが如く馳せ参じる。
当然、唐突な来訪程度で睡藍は一切怯まない。
「……お前たちが猟兵か」
「ああそうさ。アンタが史・睡藍だな?」
「如何にも。僕の前に現れたということは|わかっている《・・・・・・》ということ――言葉は不要と見なす」
「ええ、心中はお察ししますが……全力でお相手するのみですから」
「神将って奴は相当に頑丈らしいじゃないか。ちょいとアタシらの喧嘩に付き合ってもらおうか?」
バイクから降り、煙草を吹かしながらセイカが二振りの愛剣の片方の切っ先を睡藍に付きつける。
るこるも祭器を構え、いつでも応戦できる構えを取った。
二人から発せられる闘気に睡藍はふ、と笑う。
「いいだろう、相手にとって不足無し。僕も丁度発散したいと思っていたところだ……!」
言うが否や、睡藍は早速セイカたちの懐に飛び込んだ!
一瞬の間に転移したかのように錯覚するが、転移魔術等ではないとセイカとるこるはすぐに察知した。
――縮地だ。
神将として、武人として余念なく己が技術と肉体を磨き上げてきたからこそできる芸当に他ならない!
裂帛の気合と共に放たれる闘気の篭った鎖鎌の一撃が飛ぶ……と同時にるこるが祭器|F《フローティング》|M《ミラーコート》|S《システム》を起動。
衝撃を相殺――することなく、発生した衝撃波により双方が吹き飛ばされることで強制的に距離を開いた。
「流石神将と呼ばれるだけあって、武術の心得も人並み外れているようですねぇ」
「上等、それぐらい強いからこそ尚の事やる気が出るってもんさ。アタシが前に出る、後ろは頼む」
「はい、援護はお任せください」
ふう、と煙草の煙を吐き出し再び縮地にて迫る睡藍の鎖鎌を愛剣ムラクモで受け止めるセイカ。
じん、と少しばかりの痺れが腕に伝わる。細身な見た目にそぐわぬ膂力も持ち合わせているということか。
尚の事上等だとセイカも負けじとそのまま睡藍の腹を蹴り飛ばし、追撃するかのように一気に前に踏み込んでいく!
「――"大いなる豊饒の女神のしとの名に於いて、その徴たる装束を此処に"」
その間にるこるはユーベルコード【|豊乳女神《チチガミサマ》の加護・|皓翼襅《コウヨクノカケギヌ》】を発動し、女神の恩恵をその身に宿す。
豊饒の女神という名が示す通り、身体の豊満さに比例してるこるの戦闘力を著しく増強し、最大134km/hの飛翔速度を得たるこるを捉えることは当然容易ではない。
「(情報によれば、睡藍さんのユーベルコードによる『虎牙紋』は『命中』を条件とするもの――)」
つまり、命中されなければ一切の追撃効果を受けることはないのだ。
るこるは先程起動したミラーコートに加え、さらに|F《フローティング》|X《シェンタオ》|S《システム》と|F《フローティング》|E《エレメンタル》|S《システム》の2つの祭器を起動。
精神干渉と各種属性を遮断する結界を展開することで、睡藍のあらゆる攻撃に対応できる備えを用意したのだ。
元より接近戦を何よりも得手とする相手に対し、接近戦で攻め入るのはそれこそセイカのような肉弾戦に特化したような猟兵でなければ自殺行為にも等しい。
そして疑似封神台の破壊を選択しない場合、否が応でも持久戦を強いられる――それは即ち、いかに自分のペース、及び戦況に相手を持ち込んでいくかが勝敗を決めると考えて差し支えはないだろう。
とはいえ、るこる一人ではおそらく睡藍のスピードが上回り備える前にやられていた可能性も否めず、セイカが睡藍を抑えてくれたおかげで万全の援護が可能になったのだ。
「――参ります」
刹那、るこるの起動した祭器から無数の光弾が放たれ、睡藍へと一直線に向かう――!
「なっ……!」
鎌で受け止めているセイカの腕を彼女の愛剣ごと蹴り飛ばし、即座に回避行動に移るもその圧倒的物量の弾幕は流石の縮地を以てしても完全回避には至らなかった。
脇腹を、脚を、腕を、頬を。次々にるこるの放った光弾が、羽弾が、ビームの刃による斬撃がかすめていく。
一方、マーキングによりるこるの攻撃は一切飛ぶことのないセイカは弾幕のスコールの中を迷わずに駆け抜ける!
「ちっ……!」
睡藍は鎖鎌を振り回し、盾代わりにして光弾を弾く。
彼の鎖鎌は詠唱兵器の一つ。振り回すことで無数の小妖怪たちを引き寄せ、呪詛に蝕む、あるいは傷の治療が可能な効果がある。
このまま振り回せば確実にその効果を発揮できるが――それをセイカが許すだろうか?
当然、否だ。
キィン――と金属が弾かれる音が響く。
セイカのムラクモが睡藍の鎖鎌を切っ先を捉え、回転を阻止したのだ。
「月に叢雲、花に風……ってな。アンタの好きにゃさせねえさ」
「ちぃ……ッ!!」
そこから睡藍は防戦に意識を割かざるを得なかった。
詠唱兵器の起動は尽くセイカの|猟兵技巧《ユーベルコード》によって阻止され、当然ながら負傷の回復は間に合わず、ダメージが累積する一方。
まさに一方的な持久戦が繰り広げられていると言っても過言ではない。
元よりセイカ自身、|猟兵技巧《ユーベルコード》によるスタミナ切れを狙うという意図があった。
だがその為には相手の行動を阻止する”きっかけ"が必要になる。
当然、神将と呼ばれる存在がそのきっかけを掴む隙間をそう簡単に与えてくれはしない。
こうして容易に妨害ができるのも、るこるの援護あってこそなのだ。
実際何度も刃を交えているうちに睡藍の表情から疲れの色が隠せなくなりつつある。
そして。
「(――ここだ)」
セイカの長年の勘、勝負を勝ち取る為の嗅覚がここだと告げる。
再び鎖鎌がムラクモによって弾かれ、るこるの砲弾が同時に睡藍の手からそれを引き剥がしたのだ。
衝撃によろめいたその瞬間を見逃さず、セイカはさらに一歩、勢いよく踏み込む!!
「しまっ――」
「アンタの想い、個人的には応援してやりたいが――今回はッ!!」
超振動を伴った紅き刀による渾身の一突きが睡藍の腹を穿ち。
「間が悪かったと、諦めなァッ!!!」
そして追い打つようにその恵まれた体格からの渾身の一蹴りによって、剣を引き抜かれると同時に睡藍の身体が勢いよく吹き飛ぶ。
派手に地面に血をぶちまけ、のたうち回るように地面を転がる。
るこるの砲撃が一時的に停止されるが、当然警戒を緩めはしない。
セイカも当然、ムラクモについた返り血を払いながら臨戦態勢を解かず様子を見た。
疑似封神台がある限り、無限ではないが睡藍は何度でも復活するのだ。
睡藍の腹に開いた大きな傷がみるみる塞がり、血が止まっていくのが目に見えてわかる。
偶然にもその先に弾き飛ばされていた鎖鎌を手に掴み、何事もなかったかのように睡藍は立ち上がる――。
「……見事。|かつて刃を交えた者《銀誓館の学生》たちに劣ることのない強さだ」
「そいつはどーも」
「だが……これぐらいで倒れはしないことも当然、わかっているだろう?」
「もちろん。倒し切るまでお相手致しますねぇ」
まだ最初に投じた一手は序章に過ぎないのだ。
睡藍が真に倒れない限り、チェックメイトたり得ない。
千日手となる前に猟兵側が王手を確実にするか、睡藍が猟兵たちを倒し生き延びるのが先か。
運命は語らず、結果を見よとばかりに黙するのみ――
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
月詠・春子
睡藍さん…私に何か出来ることがあれば手伝うよ、だからこれ以上被害出すのはもうやめよう?
…もしそれ以上怒りのままに暴れるのなら、私達が止めてみせる!
目的は睡藍の撃破、もしくは疑似封神台を探す仲間の為の時間稼ぎ。
蹴りや拳を主体とした格闘スタイル。【連続コンボ】の連撃から【グラップル】の組み付きなど幅広い戦い方に対応可能。
負傷で戦闘続行が難しい仲間がいたら率先して『慈愛の白炎』で回復を行う。
「傷は治したけど、無茶はしないでね!」
ダメージやユーベルコードで疲労が蓄積しても【継戦能力】と根性で戦い続ける。
「まだ頑張れる、まだ戦える。私は守るために立ち続けなくちゃいけないんだ!」
アドリブ・絡み歓迎します!
ディルティーノ・ラヴィヴィス
どんな理由であれ、ずっと戦い続ければいいんでしょ?
僕も全力で行かせてもらうよ、我慢比べは得意だからね!
今までの経験と戦闘知識を活かして相手の動きをしっかり見るよ
睡藍や白虎の攻撃はなぎ払いや斬撃波で攻撃しつつ距離を取れれば、こっちの消耗は軽減できるかな
…なーんて、そんな事できるのも最初だけだと思うけど
右手の薔薇も暴れたいってさ。僕の腕も棘に覆われて喰われそうだ
野太刀を左手に持ち直したらユーベルコードを発動
いいよ、来な。これが【天地無双剣改-絶-】の構えだ
刃だろうが、怒りだろうが、この呪われた右腕で全部の攻撃を受け止めてやるよ
あんたが攻撃する度、僕も野太刀と棘で何度も貫いてやるからさ!
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ディルティーノ・ラヴィヴィス(黄昏の獅子・f38911)は、敢えて深く考えることをしなかった。
例え互いにどんな理由があろうと猟兵とオブリビオン、その相反する立場にそれぞれ立っている。
言葉を交わさずともある程度史・睡藍という人物がどういう気質であるかは汲み取れた。ならやるべきことは一つだ。
相手が倒れるまで戦い続ける――その一択のみ。
「全力で行かせてもらうよ、我慢比べは得意だからね!」
「面白い。その言葉が二言にならないか否か見せてもらおう――!」
身体を前傾させ、重力に身を預けるように睡藍がディルティーノに肉薄する。
ディルティーノはそれに怯むことなく、繰り出された一撃を白銀の刃で受けて流す。
エンドブレイカーとして戦ってきたことで培われたこれまでの戦闘経験は、どう対処すれば良いかを自然と導き出す。
だが同時にこれが通用するのも最初だけだろうと漠然と感じ取っていた。
分銅を投げつけられれば薙ぎ払うように弾き飛ばし、気を飛ばしてくるのなら斬撃波で相殺し。
時間が経過するに連れて段々と互いを互いの一撃がかすめていく。
だが、かすめていくだけでも睡藍のユーベルコードは起動する。
命中が条件である以上、ただの切り傷程度だろうが刻まれた紋様に呼応して現れた実体あって実体なき白虎がディルティーノの肉体を食い千切らんと飛びかかるのだ。
牙を叩き折らんばかりの勢いで野太刀を薙いでぶつけ、再び白虎が姿を消す。
直後、ディルティーノは一旦バックステップで距離を取ろうとするが――
「甘いな。逃さんッ!!」
睡藍が鎖鎌の分銅を再び投げ、ディルティーノの脚を絡め取る。
跳躍した瞬間を狙ってのその一撃は彼女に対応を許さない。
力任せに引っ張ることでディルティーノの身体のバランスはさらに崩れ、同時に白虎が再びこちらに飛びかかるのが見えた。
流石にこれはヤバいか、そう思った瞬間――
「させない……ッ!!」
そのタイミングで馳せ参じたのは偶然か、それとも。
間に割り込む1人の猟兵がいた。
月詠・春子(慈悲の拳・f39294)は白虎の顎に強烈なアッパーを叩きつける。
闘気と覇気を練り上げ纏わせたその拳は例え紋様により呼び出された実体あって無き存在であろうと容赦なく叩きつけ、再び霧散させた。
「大丈夫!?」
「いやあ、ナイスタイミング!助かったよ」
「怪我……は、そんなに酷くなさそうだけど、治しておくね」
春子の|【慈愛の白炎】《イヤシノホムラ》がディルティーノの傷を瞬く間に塞ぐ。
この手の回復ユーベルコードは代償に相応の疲労もすることになるが、傷そのものが対したことがない故そこまでの疲労感を覚えずに済みそうだ。
覚えたとしても意地でも立ち続ける覚悟で訪れてはいるのだが。
「新手か。お前たち猟兵という者も連携に重きを置くんだな」
ますますかつて戦った相手を思い出すのか。そう口にした睡藍の表情はどこか複雑そうだ。
春子は悲しげな表情で前に出て、訴える。
「睡藍さん……私たちに何かできることがあれば手伝うよ。だから……これ以上被害を出すのはもうやめよう?」
「……それはできない相談だ。確かに僕は|こんなこと《故郷の侵略》をさせられる羽目に遭ったし、その原因を作った鴻鈞道人を許すつもりはない。
怒りに狂っているのも事実だ。暴れ狂いたい程に」
そしてそれらを知っているからこそ、同情や心中を察する言葉が春子ら猟兵たちから出てくるのも、同様に睡藍は理解していた。
だが。
「――それでも、僕は遣わされた以上は自分に課せられた努めは果たす」
例えそれが本人にとって最も残酷な形で裏切られることになろうとも。
それに元より、生き延びねば雪辱の一撃を見舞うことすら叶わない結末に至ることも明白。
睡藍には、春子のその申し出を断る以外の選択肢は最初からなかったのだ。
「そう……なら、私たちは君を止めてみせるよ。君がもうコレ以上自分の故郷の人たちを傷つけなくていいように……!」
「やれるものならやってみればいいさ。当然僕も簡単に引き下がるつもりはない」
睡藍が鎖鎌を回す。
彼の手にする鎖鎌は詠唱兵器である。回すことで回転動力炉に火が点き、秘められた力を発揮する。
鎖鎌を回すことによる風を切るような音が、小妖怪たちを戦場に引き寄せ、呪詛の色に染め上げるのだ。
呪詛がじわじわと春子、そしてディルティーノを蝕もうと侵蝕し始める。
そして同時に、睡藍が受けた傷もじわりじわりと塞がっていくのが二人の目には確かに見えた。
このまま放っておけば確実にこちらがジリ貧に持ち込まれる。それは避けなければならない。
「(あの鎖鎌を彼の手から離さなきゃ……!)」
もう一度闘気と覇気を纏い、春子は距離を一気に詰める。
睡藍はそれに反撃せんと回していた鎖鎌を再び投げつけるが、それを紙一重で交わし肉薄。
「はああッ!!」
睡藍の腕の腱を狙い打ち据えようと拳を繰り出す。だが当然睡藍には読まれるだろうとも思っており、案の定その拳は睡藍のもう片方の手で受け止められた。
そのまま拳を掴まれたまま腹部に強烈な蹴りを見舞われ、春子は数メートル先に吹き飛ばされるが受け身を取りすぐに立ち上がり再び睡藍へと迫る。
畳み掛けるように、隙を与えないように勢いよく連続して拳を、脚を繰り出す。
防戦一方のように見えるが、実際はユーベルコードにより一方的にダメージが蓄積。睡藍は逆に回復したことで春子が結果として不利に追いやられつつある。
鎖鎌という武器の性能上、回し続けることと武器として行使することを成立するのはさほど難しいことではない。
故に春子を常に小妖怪の呪詛が蝕み、体力を着実に削っているのだ。
累積するダメージによる疲労の色が現れ始め、動きが鈍ったところをすかさず捉えられ、再び春子は数メートル先の地面へと転がる。
だが、それでも負けじと立ち上がる。
「まだ頑張れる……まだ戦える……!私は、守るために立ち続けなくちゃいけないんだ……!!」
そろそろ息も切れつつあるが、それでも歯を食い縛って再び睡藍に迫り、もう一度拳を繰り出す。
そしてその意地も込めた一撃が、確かに睡藍の腕から再び鎖鎌を引き剥がした。
「はっ!根性があるな……だが遅いッ!!」
だが鎖鎌が手から離れただけならば、睡藍にとってそこまで支障が出るものではない。
瞬時に呼吸し、春子に渾身の拳を見舞う睡藍。
拳の命中位置に白虎の紋様が刻まれ、再び実体あって無き白虎が彼女の身体を食い千切らんと襲いかかる。
――が、白虎がその口に加えたのは春子の身体ではなく、ディルティーノの右腕だった。
睡藍は少しだけ困惑する。
何故なら何もないようにしか見えないのに、まるで棘を加えているかのように白虎が悶えるのだ。
そして左手に構えた野太刀がその身を貫くと、白虎の姿は再び掻き消える。
「ごめんよ、呪詛対策でちょっと手間取っちゃって遅くなっちゃったんだ。ここからは僕に任せて休んで……てっ!」
そのまま睡藍を春子から引き剥がさんとディルティーノが斬撃波を飛ばす。
バックステップでそれを回避すると同時に、睡藍は再び鎖鎌を握る。
「仲間を庇うか!ますますあいつらそっくりだ、全く!今度こそその飄々とした顔を歪ませてやろうか!!」
「いいよ、来な。そんな感情だろうが刃だろうが怒りだろうが、この右腕で受け止めてやるよ」
「言ってくれるッ!!」
遠心力をつけて振り落とされる鎖鎌を、全く物ともせずにディルティーノの右腕が受け止める。
刹那、睡藍は確かに「何かが刺さったような感覚」を覚えた。
そう、いくつもの棘が武器と自分の手に突き刺さったような感覚を――!
「その力……ユーベルコードか!」
「ご名答、これが【天地無双剣改-|絶《ゼロ》-】の構えだ!」
突き刺さるような痛覚により生まれた隙を逃さず、ディルティーノの野太刀が睡藍の身体を袈裟斬った!
かは、と血を吐き睡藍はその場に膝をつく。
だがすぐさま疑似封神台の加護により傷を修復させて再び一撃を振るい、それをディルティーノが野太刀で受け止める。
「今度は刀で受け止めるか……!」
「この右手の薔薇も暴れたいってさ、僕の腕が|棘《ソーン》に覆われて喰われそうなんだ。
あんたが攻撃する度何度もこの太刀と棘で貫いてやるから、たっぷり味わっていくといいさ!」
ディルティーノの言葉通りに右手の|紫色の薔薇《perdendosi》の棘がうねり、睡藍の身体を再び貫く。
だが疑似封神台によりそのダメージもすぐに修復され、睡藍も負けじと一撃を振るおうと迫り続ける。
互いに攻撃を食らっても何度も反撃に出続け、負傷が累積する。しかしディルティーノは睡藍にユーベルコードの行使を許さない勢いで畳み掛けた。
「まだ傷を治したりはできる……!でも無茶はしないでね!」
「ありがとう、そちらも無理はしないで!」
春子が後方から再び【慈愛の白炎】を発動して継続治療することで体力差が開いたことにより、今度こそ睡藍が不利に陥ったのだ。
待ちわびていたとばかりに暴れる紫の薔薇の棘も白銀の刃も、受ける度に受けた倍以上のダメージを睡藍に刻みつけていく。
復活する睡藍だが、ダメージが累積し先程よりも動きが鈍るのが目に見えてわかる。
この交戦により、確かに相手の勢いを大幅に削ぐことができたのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
シュタルク・ゴットフリート
…行き着く果てが違ったならば、肩を並べる事も叶ったろうか。
だが、貴様の怒りはこの世界を破滅へ至らしめるもの。
この場にて打ち砕く!
封神台の破壊は考えず、睡藍の撃破を以て打倒を狙う。
俺もこういう戦い方しかできん身だ。
敵のUCにて生ずる白虎が肉体を食らってくるだろうが、既に死したる身ならばある程度は耐えられよう。
ダメージは許容し【推力移動】での肉薄からの格闘戦で睡藍と渡り合う。
撃破後は推力移動にて可能な限り迅速に奴を探し出し再び交戦に入る。
ダメージが蓄積してきたら不滅の魂炎を発動、戦闘不能に至るまで更なる攻勢をかけてゆく。
貴様の怒り、俺がいずれ必ず渾沌氏に叩きつけてくれよう。
故に還れ、在るべき処に!
黒木・摩那
確かに今回ばかりはオブリビオンとは言え、同情の余地はありますね。
だからと言って手抜きはしませんけど。
悪いのは『鴻鈞道人』。先の戦争でもえらい騒動を引き起こしてくれました。
いつかそんなモロモロを返したいですね。
ここは疑似封神台を探します。
魂の一部を封じるものですから、気の流れが重要そうです。
まずはスマートグラスで周辺を【情報収集】。
睡藍が陣取る交流センターの近くに川がありますね。
気の流れを乗せるには良さそうです。
この川に沿ってドローン『マリオネット』やマジカルボード『アキレウス』に乗って探査します。
神社や森林、公園などの自然がある場所狙い。
封神台を見つけたら、UC【紅月疾走】で破壊します。
●
「ふぅ……――」
睡藍は深く呼吸をし、体内に気を巡らせる。
治療効果があるというワケではないが、それにより自らを落ち着かせ思考を鮮明にしようとしているのだろう。
既に大分ダメージが累積しつつあり、疑似封神台の加護の限界に近づきつつあることを感じ取っていた。
「……中々どうして、やってくれるじゃないか。猟兵」
戦場が|シルバーレイン《自らの故郷》で、自身が|侵略者《オブリビオン》でなければ、純粋にここまでの戦いに心を躍らせることもできただろうか。
そんなことを一瞬だけ考えて振り払い、より慎重に構えを取る。
「次はお前か?」
冷静に眼前に現れた猟兵を見据える睡藍。
シュタルク・ゴットフリート(不滅なる鋼鉄の咆哮・f33990)の兜の向こう側にある視線が彼のそれと交差する。
「神将、史・睡藍……行き着く果てが違ったならば、肩を並べることも叶ったろうか」
「……そんな物好きな物言い、ますますそっくりだ」
「シルバーレインの平和を守り続けた銀誓館の戦士たちに近しいと言うのであれば、褒め言葉として受け取らせてもらおう。
俺たち猟兵も渾沌氏により翻弄された立場、心中は察しよう。……だが、貴様の怒りはこの世界を破滅へと至らしめるもの――故にこの場にて打ち砕く!」
「ああ、所詮どうあがいても相容れぬ身だ。余計な同情をするぐらいならその力を見せるがいいさ!」
刹那、シュタルクの拳と睡藍の鎖鎌がぶつかりあい、とてつもない衝撃を生み出す――!
◆
「おっと」
その強烈な一撃を、黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)は離れた場にいながらもサイキッカーとしての優れた感覚で感じ取る。
とてつもなくぴりぴりとした感覚に少しだけ驚きながらも、ズレたスマートグラスをくい、と上げる。
「あちらはとてつもない戦闘になっていそうですね……」
戦闘の規模をその感覚から推測しつつ、彼女が立っているのは戦場ではなく――河川敷だ。
睡藍が陣取っている長土塀青少年交流センターの近くに、犀川という川が流れている。
倒れるまで戦い続けることでも睡藍を倒せはするが、果たしてその"倒れるまで"というのがどれぐらい時間を要するかわからない。
例え猟兵と言えど体力が無尽蔵なワケではない。結果的に消費する体力等のコストデメリットを踏まえると、疑似封神台を探し出した方が結果的に時間はかからないと判断したのである。
スマートグラスで周辺を探ってみたが、川は少なくとも付近にはこの犀川しかない。
そして川は水という生命の根源たるものから生まれた奔流であり、気の流れを乗せるに当たり非常に相性が良い。
魂を封じるものである以上、気の流れを読み取ることこそ肝要だろう。
摩那は早速マジカルボード『アキレウス』に乗り、同時に索敵ドローン『マリオネット』を飛ばして捜索に当たらせながら川に沿って進んでいく。
あくまで陣取っているのは周辺地域、だが実際戦場と定義する範囲がどこからどこまでかなんてわからない。
根も葉もないことを言ってしまえばシルバーレインの世界そのものが戦場なのだから、石川県金沢市全体なんて戦場のごく一部でしかないとも捉えられる。
そして何より陣取っている近くに置いてしまえば破壊されるリスクも高まる……灯台下暗しとは言うが、そんな選択をするような人物とも思えない。
故に犀川の流れに沿って、封神台を置いておきそうな気の流れが漂う場所、その中でも特に強く反応のある場所にあると摩那は踏んだ。
既に長土塀を離れ、別の町にすら至った頃に摩那のスマートグラス『ガリレオ』に『マリオネット』からの情報が同期される。
「……自然のある場所と思っていたら、比較的新しい神社、ですか」
その情報が示した先は石川県金沢市、二ツ寺町に存在する|芳稲《はたれ》八幡神社。
いつ創立されたかは不明だが、少なくとも明治14年には――当時は名が違っていたが――存在していた神社である。
シルバーレイン西暦2015年に現在の場所に移転したようだが、それでもやはり神社故か気は集まりやすいようだ。
「でも確かにありえる発想ですね……長土塀周辺と思わせるようにブラフを撒いて、それよりも離れた場所に置くのは」
疑似とはいえ、封神台はそこまで範囲を及ぼせる代物なのだろう。
封神武侠界ではオブリビオンを完全に封じ込めた代物として扱われているし、封神台というものはとかく強力なものと思って差し支えはなさそうだ。
すぐに神社に降り立った摩那の眼前に見えた封神台は、既に幾度かひび割れが入っていた。
……どうやら、睡藍が倒れて蘇る度に入るのだろう。
見てくれだけで判断するならば、ユーベルコードを使わずとも破壊できそうにも見える――が、それで油断して壊せなければ元も子もない。
「"励起"。"昇圧、集束を確認……――侵食開始"」
|【紅月疾走】《リュヌ・ルージュ》により高速回転する超可変ヨーヨー『イクリプス』が、封神台の破片を塵へと変える。
疑似封神台が、あまりにもあっさりすぎて呆気なくすら感じる程に跡形もなく消滅する。
「これで睡藍のリスポーン能力は消失しましたね。後は、今頑張ってくれている猟兵の方たちを信じましょう」
◆
――この男は正気だろうか。
睡藍はそう思った。
先程から何度も白虎の紋様を刻み、そこから現れる実体あって無き白虎が何度も何度もシュタルクの身体を喰らおうとしているというのに。
それを一切気にも留めず、目の前の鎧の男は何度も何度も肉薄し格闘戦を続けるのだ。
「正気か、と思っているだろうな……俺でもそれぐらいは読み取れる。
ほぼ俺と関係性のないお前から見て正気でないように見えるのならば、それもまた俺の一面なのやもしれん」
シュタルク・ゴットフリートはデッドマンであり、死者の肉体というものは生者と比べて強度等が段違いだ。
それ故にある程度は耐えられると判断したシュタルクは、白虎の攻撃を歯牙にもかけぬかのように睡藍に迫ることができたのである。
とはいえ、ダメージが累積するという点においては睡藍と全く同じリスクを抱えているのも事実。
故にいずれ限界はくるし、何より今この時まで何度も蘇ってきた睡藍を倒し続けてきた彼の身体の大部分は白虎の紋様に侵食され既に限界寸前も同然であった。
……それでも止まらないのがこのシュタルクという男だった。
「だが、俺は倒れはしない。この魂の燃える限りは……!」
刹那、シュタルクから炎が吹き上がる。
彼の力の根源、|不朽の魂《ゼーレン・グランツ》から吹き上がる紅き炎は、自らの死が迫れば迫る程己が身を強化するユーベルコード。
|【不滅の魂炎】《Der Unsterblich》は彼の決して立ち止まらぬ決意を如実に表すかのように、鈍り始めていたシュタルクの身体から白虎の紋様すらも消し去り爆発的に能力を向上させていく――!
「俺の征く道は唯、前に在るのみ――故にすべきことは一つ。
――押し通るッ!!」
先程の鈍りつつ合った動きが嘘かのように、『シュトゥルム・ラケーテン』を全力噴射させて睡藍に肉薄!
直感的にこの一撃を受けてはいけないと感じ取った睡藍は距離を取ろうと行動に出――ようとした。
その時だ。
「う、ぐ……ッ!?」
急激に力が抜けていくような感覚に襲われ、立つこともままならない程の疲労と痛み、倦怠感が睡藍を襲った。
「(まさか、疑似封神台が破壊された――まずい、このまま、では……)」
動け。
動け。
動け!!!!!
生き延びなければ、奴に一矢報いることすら叶わない!!
生命と時を弄ぶあの渾沌の権化へ雪辱を果たさなければならないのに!!
……その憤怒の執念で必至に足掻いても藻掻いても、身体は言うことを聞かない。
「史・睡藍。貴様の怒り、俺がいずれ必ず渾沌氏に叩きつけてくれよう。
――故に還れ、在るべき処に!!」
消えぬ魂の焔を宿した一撃が、睡藍の身体を貫き、焼き尽くした――!
大成功
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アリス・セカンドカラー
お任せプレ、汝が為したいように為すがよい。
ふむ、多重詠唱拠点構築結界術による|第六感、千里眼(視力)、順風耳(聞き耳)、情報収集《空間把握》で疑似封神台は探せるし、見つければ空間の切断解体からの|切断部位の接続《再構築》で空間ジャンプして飛べるけど……まぁここまで規模で魔法使えば捕捉されるわよね。
まぁいいわ。|瞬間思考力《マルチタスク》での同時処理は|混沌魔術士《ケイオト》の嗜み、真っ向勝負といきましょう。
|高速詠唱早業先制攻撃カウンター追撃《天地魔闘○構え》で迎え撃つわよ。武器を振るう腕の間合い、腰を入れる胴の間合い、踏み込む脚の間合い、走り込む歩の間合い。この間合いの内は私の|決闘結界術《領域》よ。
それにしても、鴻鈞道人への意趣返しか……できないこともないわね、|創世神術・変化《ワールドクリエイション・オルター》なら。これで作り出す|創世神の繭《ソーンコクーン》は|廃棄された時間質量《オブリビオンの構成物質》を改竄し生前の種族に再羽化させることも可能だしね。
ま、やるだけやってみましょ
●
「……か、は……ッ」
睡藍は、まだ生きていた。
とはいえ、もう虫の息も同然である。あともう少し時間が立てば生命が尽きるのは間違いない。
だが、それでも彼は立ち上がろうとした。
最早完全に焼き尽くされた酷く黒焦げな身を、崩れかねないのも厭わず立ち上がろうとする。
それは最早執念だった。
「……る……て、や、ある……き、――ど……ッ」
最早残るはその執念のみ。
故郷を侵略させられ、時と生命を弄ぶ諸悪の根源に雪辱を果たす――頭のどこかで最早叶わぬやもしれぬと思っていても。
いや、最早それだけの思考をする程の意識が今の睡藍に残っているだろうか?
最早死んだ身体に取り付く亡霊となって、怒りが歩を進めようとしているだけではないか?
「……ふむ」
アリス・セカンドカラー(不可思議な腐敗の|混沌魔術師《ケイオト》艶魔少女・f05202)は思考する。
さっくりと空間把握魔術で擬似封神台の破壊は確認した。
その上相手は既に虫の息同然――いや、ほぼほぼ死んだ身体に亡霊だけがしがみついているにも等しいだろう。
「(鴻鈞道人への意趣返しか……できないこともないわね)」
アリスは|混沌魔術師《ケイオト》である。
|混沌魔術《ケイオスマジック》とは、魔術的パラダイムシフトによる世界観の転換をコンセプトに生み出された魔術形態である。
当然ながら並の魔術師が至ることができる領域ではない。サイキックヴァンパイアとしての彼女の強靭な生命力、そして精神故に軽々と扱えると言っても過言ではない。
それはそうだろう。世界観の転換ということは即ち既に構成されている世界そのものの根幹すら完全に書き換えてしまうのだから。
「あいつに意趣返ししてやりたい気持ちは理解できるし……ま、やるだけやってみましょ」
アリスも鴻鈞道人がどういう者かをよく知っている。
少なくとも今回の依頼を出したグリモア猟兵は、彼女がいなければ奴にとりつかれた時にそのまま諸共に倒されて死んでいた程、奴が非道な手段を用いていたことを目の当たりにしているのだ。
だがあの時用いたパターンはユーベルコードにより自らと生命力を共有させる手法であり、今回はそれは望ましくない。
それでは睡藍がオブリビオンであることに変わりはないままなのだ。
意趣返しをするならば、雪辱を果たすならば。奴が従える骸の海よりいずるオブリビオン以外の何かにしてやった方がきっと良い。
「"時は常に移ろい変わりゆく。変われ変われ何もかも、現状維持とて維持する方向への変化と知れ。
――今に留まりたくば、全力で走り続けよ"」
ユーベルコード|【創世神術・変化】《ワールドクリエイション・オルター》。
アリスは混沌魔術師であると同時にソーンイーター、即ち世界法則を棘に変える創世神術の使い手だ。
世界法則を操る創世神術と世界観の転換を主とする混沌魔術が合わされば――オブリビオンたる所以、彼らを構成する”廃棄された時間質量そのもの”を書き換えることも、不可能ではないのだ。
時の宝珠に封じ込められた棘が溢れ、その姿を柔らかな繭と変えて睡藍を包み込む――。
◆
「(……此処はどこだ?)」
何も見えない。何も聞こえない。ひどく静かな場所だ。
自らが目を開けているのか、そうでないのかすらわからない。
けれど、ほのかに温かく感じるこの空間は何なのだろうか。
彼岸にしては温かい、されど此岸とも言い難い。
「(……結局僕は、果たせないままか)」
「――それはどうかしら?」
「(……誰だ?)」
「ようこそ、楽園へ。貴方は今一度チャンスを掴むことができるかもしれない。けれど失敗する可能性もある。
けど、貴方が本懐を果たしたいという気持ちがあるならきっと、新しい人生を迎えることができるわ」
「(……胡散臭い話だな。けど……)」
不思議と、この感覚は疑う程のことでもない。そう感じた。
まだ目は見えない中、少女の声と自分の思考だけが反響する奇妙な空間でありながらも。
少なくとも今まで自分が義理を立ててきたオブリビオンや、あの骸の海よりは、信ずるに値するかもしれない。
「(……本当にそれができる可能性があるなら、乗るのは吝かじゃない)」
「ふふ、なら行きましょうか。成功するかどうかは私次第、そして貴方次第なのだから」
誰かの手が少年の手を掴み、どこかへと誘っていく。
冷たくも暖かくも感じるその手が導いた先――結果がどうなったかは、彼らのみぞ知る。
大成功
🔵🔵🔵