第二次聖杯戦争⑧〜お願いだからもっとわかりやすく
二年連続、正月からの大戦争。しかも自分の生まれ故郷。
グリモア猟兵、白鐘・耀が、額に手を当てて天を仰いでいるのもむべなるかな。
ショックを受けて当然だ。能力者ではなかったが、彼女もまた死と隣り合わせの青春を生きたのだから。
「……なんでよりによって
廉貞なのよ~~~」
おや? てっきりシリアスに打ちひしがれてると思ったら、そうでもなさそうですね?
「せめてほかの七星将のところに案内したかったわ!わっかりづらいのよアイツの喋り、まわりくどすぎて!
いやでも、あんたたちに比べたらマシなんだけどね。あんたたちはアレと共闘しなきゃなんないんだし」
しかも、さらっと聞き捨てならない事を言っている。
耀は腕を組み、猟兵たちを見渡した。
「ってことで、シルバーレインで戦争よ。名付けて『第二次聖杯戦争』。舞台は日本の石川県金沢市!
放っておくとシルバーレインはもとより、他の世界が侵略されてヤバいわ。止めるのは大前提、として」
ふー、と嘆息。
「あんたたちに向かってほしいのは、尾山神社。あの前田利家とその奥さんを祀ってる神社らしいわ。
まあ、私は地元じゃないし行ったこともないんだけど……敵はここを、拠点として制圧してんのよね」
メガネを指で押し上げながら、戦況について説明する。
「だから、この先の戦場を侵攻するためにも、急いで境内に突入して、敵戦力を蹴散らしてほしいの。
現地には、来訪者『妖狐』の七星将のひとりである
廉貞がいて、共闘してくれるわ」
ここまでなら、ごく普通の案件に聞こえる。
が、さっきの耀の振る舞いを見ればわかる通り、その共闘相手にいささか問題があるようだ。
「一番の問題は、その廉貞がなーに言ってんだかさっぱりわかんない喋り方するヤツってとこ。
同じ妖狐の連中でさえさっぱりわかんないのが大半なんだから、こっちもわかるわけないわよね」
10年以上経ってんなら少しは矯正しろと言いたいところだが、人間ならぬものはならぬものである。妖狐だけど。
「共闘ってのは、意思疎通が大事でしょ? 何言ってんのかわかんない奴相手には合わせるのも面倒よね。
だからうまく『廉貞とコミュニケーションを取りながら戦う』ことで、敵を効率よく倒してかないと大変よ」
耀いわく、境内は数え切れないほどのオブリビオンで埋め尽くされているそうだ。
こちらの戦力は、多ければ多いほどいい。その長である廉貞との意思疎通は重要なポイントだろう。
もちろん、「何いってんだこいつ!」と最初から切り捨てるのもアリだが、それは茨の道というものだ。
「……まあ正直、いまさら揺籠の君が蘇ったことに、思うところはあんだけどね」
耀は髪をかきあげてぽつりと言い、火打ち石を取り出した。
「それはそれ、あいつをぶん殴れるようになったら直接伝えに行くわ。まずは緒戦、気合い入れていくわよ!」
カチカチと小気味いい音が響く。戦いの無事を願う、祈りの音だ。
「あ、あとあけましておめでと。お年玉ちょうだい!」
最後の最後で台無しだった。
唐揚げ
シルバーレインで戦争です。戦場一覧にもおなじみの名前がずらりと並んでいて感慨深いですね。
あけましておめでとうございます、カルパッチョです。ややネタ気味ですが一応純戦です。
廉貞はものすごく難解で回りくどい喋り方をします。わざわざ訂正するところまでがお約束です。
コミュニケーションを取ろうとするとクッソややこしい台詞が飛んできます。頑張って解読しましょう。
第1章 集団戦
『絡新婦』
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POW : 鋼糸使い
【鋼糸】が命中した対象を切断する。
SPD : 蜘蛛の領域
レベルm半径内を【蜘蛛の巣】で覆い、[蜘蛛の巣]に触れた敵から【若さ】を吸収する。
WIZ : さらなる絶望
【蜘蛛の巣】が命中した敵から剥ぎ取った部位を喰らう事で、敵の弱点に対応した形状の【部位を持つ蜘蛛の部分は分離し、人間】に変身する。
イラスト:koharia
👑11
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龍巳・咲花
噂に聞き及んでいた廉貞殿の難読会話を直に聞くことができるとは光栄でござるな!
敵に情報を与えぬ為とかなんとか、拙者にもさっぱり分からぬでござるが!(悪気も無く勝手に誤解している)
拙者は地から生やした龍脈鎖や、クナイに取り付け投げつけた龍糸銕線を使って敵を絡め取り攻撃し易い様に纏めるでござるよ!
お互い鋼糸の技量比べと言ったところでござろうか
纏まったところに逆鱗を投げつけ一網打尽にしながら相手の陣形を崩していくでござるよ!
廉貞殿の言葉には
「???」な顔になったり、なるほど○○でござるな! みたいな正答率3割位の解釈をするでござるが、戦闘中はハンドサインなどジェスチャーで連携をとってみるでござろうか?
●特に暗号とかではない
かつて、日本やアメリカといった国の軍隊では、非常に訛りの強い地方出身者や少数民族の兵士を連絡役にあてがうことで、機密保持と防諜対策を講じたとされる。いわば、天然の暗号というわけだ。
「もしや、廉貞殿の難読会話も、そういった敵に情報を与えぬための作戦なのでござるな? さすがは噂に名高き妖狐七星将でござるな!」
龍巳・咲花は筋金入りの忍者で、半端に知識をつけてしまっていたため、このような誤解をしていた。なんならそれを心の底から信じている。
「…………」
悪意ない無邪気な眼差しにさらされた廉貞は、やがて重々しく口を開いた。
「……白髪三千丈に惑わされるべからず。我が言の葉は繰り言に非ずして、全ては自明なれば。耳聡き敵が我が意看破しようとて、我ら戮力同心し一丸となれば是恐るるに
能わず」
「出た! 廉貞殿の難読会話さっそく炸裂でござるな! これは噂通り……いや、それ以上でござる!」
咲花はキャッキャとはしゃいでいる! 憧れ(?)の芸能人を偶然街で見かけたミーハーのようなテンションだ!
「でも問題があるとすると、拙者にもさっぱりわからんことでござるな!」
「……あなたのそれはただの勘違いです。私は別にわざとやってるわけではないです」
「えっ
!!?!?!?!」
ハイパーびっくり顔であった。
「それと、敵が何をしようと、我々が力を合わせれば敵を恐れることもないでしょう」
「あ、はい。……と、とりあえず張り切るでござる! ニンニン!」
咲花は無理やり流れを変えた。廉貞の視線が痛い、超痛い!
なにせ戦い始めなのでさっきは落ち着いて会話出来たが、いざオブリビオンと接敵するとそうもいかない。
敵は『絡新婦』。異形のオブリビオンは、まるで同一人物のクローンであるかのような完璧な連携でもって、不壊の陣形を組み攻め手を凌いでいる。
「くっ、牽制してもびくともしないでござるな! よし、拙者の龍陣忍法で動きを止めて、逆鱗を投げつければ一網打尽に……!」
「待たれよ」
「廉貞殿!? 短く喋れるんでござるか!?」
咲花は別のとこでびっくりして、思わずつんのめった。が、その間にも敵は猛攻を仕掛けてくる!
「うわわわわ! 危ないでござる!」
「汝の勇猛は実に見事也。されど逸るなかれ、守らば則ち余りありて攻むれば則ち足らず。巌が如く堅忍不抜し趨勢を見極めよ。我、その覚悟に必ずや報いん」
「は? へ???」
咲花はちぎれそうなぐらい首を傾げた。攻撃されながらだと余計にわからない!
「……あなたは勇ましいですが、落ち着いてください。まずは守勢に徹し、隙を見て反撃しましょう。私も続きます」
「あ、はい! なるほどでござるな!!」
ようは合わせてくれるらしい。咲花は「じゃあなんでこんなややこしい喋り方するんでござろう」と何度も首を傾げながら、頑張って耐えしのいだ。
そしてわずかな隙、咲花は念のため廉貞にハンドサインを出した上で(廉貞は曖昧に頷いていた)クナイ投擲! その持ち手部分には、すでに『龍糸銕線』が取り付けられている!
「お互い鋼糸の技量比べといったところでござろうか! ニンニン!」
さらに地から龍脈鎖を生やすと、咲花はみっちり詰まったオブリビオンの合間を地を這うほどの低姿勢で駆け抜けた。
ジグザグに駆け抜けた先でおもいきり腕を引っ張ると、張り巡らされた糸が絡新婦の脚を絡め取る!
「今でござる、廉貞殿!」
「委細、承知」
こと戦闘となれば、そこはさすがの七星将。20mという限られたアビリティの範囲を補うため、自ら敵陣ど真ん中に飛び込み九尾扇を振るう。同時にムカデ王の巨体が、怒れる神の振るった鞭めいてオブリビオンを打ち据えた!
「おお! これは拙者も負けられんでござる! いざ、龍陣忍法バニロニアン・ムシュマフ・バーストッ!」
追撃の余裕を得た咲花は、廉貞と挟撃する位置に飛び出し、炎竜ムシュマフの逆鱗を放った。
効率的連携により、逆鱗は瓦解した敵陣の中央で爆ぜる。燃え盛る竜鱗が榴弾の破片のように敵を貫き、見える範囲の絡新婦は灰燼に帰した。
「ふう、なんとかなったでござるな!」
「汝が武勇、我が万夫不当たる猛将等とて及ばず。永永無窮の残骸漂いたる虚空を越え轟くも道理也」
「え? あ、まだ油断するなってことでござるな! 了解でござる!」
「……いえ、あなたは私の部下たちでも敵わないぐらい強いという意味です。世界の壁を越えられるというのも納得しました」
「そんな意味だったのでござるか
!!!!?」
二度目のハイパーびっくり顔だった。
大成功
🔵🔵🔵
紫・藍
藍ちゃんくんでっすよー!
なるほど、コミュニケーションが大事なのでっすね!
藍ちゃんくん、得意なのでっす!
というわけで!
藍ちゃんくん、黙るのでっす!
(コミュ放棄したわけではないのでっすよー?
ブラックホールで邪魔な蜘蛛さんや蜘蛛の巣を吸い込んで、廉貞のおにいさん達の道を作るのでっす!
オーラ防御も合わせて敵をおびき寄せ時間を稼ぐ囮役もお任せなのです!
ではではコミュはどうするのかと言いますと!
黙っててもうるさいと評判な藍ちゃんくんですので!
楽器や行動、表情で示すのでっす!
おにいさんの言葉もそうなのでっす!
言葉の難解さだけに囚われるのではなく、おにいさんの行動や表情も合わせて魂で感じとるのです!)
●この少年、うるさすぎる!!(行動が)
「…………」
「…………」
紫・藍と廉貞は、互いに無言だ。だがここは戦場、しかも周りの敵は隙間がないのではないかと思えるほどに無数で、敵味方ともに攻防忙しなく動く。静寂などあるはずもなく、黙っているだけ損でしかない……。
……はず、なのだが。
「…………」
「…………」
なんでかふたりの動きはわりと連携が取れており、たとえばムカデ王が敵を薙ぎ払おうと巨体で地面を払えば、藍はそれを読んでいたかのようにジャンプして躱す。
一方、藍がユーベルコードでブラックホールを生み出し、絡新婦の設置した蜘蛛の巣を除去すると、廉貞はすぐさま突撃して九尾扇を振るった。
アヤカシの群れが敵を焼き払い、藍の疲労を癒やす。だがやっぱり無言。なのに連携出来ている。一体何故!?
「…………」
「…………」
その理由は、藍にあった。というか、たしかに「喋らない」という意味では沈黙を貫いているが、自己主張していないというわけではない。
「…………(さすがは廉貞のおにいさんなのでっす。この調子でどんどん敵を引き付けるでっすよー!)」
動いている。バッバッバッと激しいダンスを踊り、敵の注目を惹きつけ、輝くようなスマイルを振りまきながら(※スマイルに特に意味はない。藍がやりたくてやってるだけだ)右に左に上に下にと高速移動でギュンギュン飛び回る。
アコースティックギターをかき鳴らし、シューズで石畳を楽器代わりに叩き、マイクスタンド……は声が出せないのでダンスで自己表現に使う。接地部分を足で蹴り、くるくると紳士のステッキよろしく回転させて周りの敵を薙ぎ払うなどするのだ。
つまり、うるさかった。表情も動作も楽器も、何もかもが激しく自己主張していた。藍は! 黙っていてもうるさいのだ!!
(「さあさ、絡新婦さん! 藍ちゃんくんのサイレントムービーをお楽しみくださいなのでっす!」)
「…………」
廉貞のほうがなぜ黙っているかというと、藍の全身を使ったボディランゲージを集中して読み取るためというのが半分である。
それだけ注視されていれば、藍のほうも廉貞の表情を読めるものだ。ステージの上では言葉をかわしている余裕などないので、藍はもともとそういうコンタクトの取り方に秀でていた。
黙るだけでブラックホールすら生じさせるのだから、藍という男は本当にやかましい。存在がやかましい。今もブンブン頭振ってるし。動作が多すぎて、それが戦闘に必要なことなのかいまいちわからないあたりがデメリットなのだが、藍の役目は主に敵の注意を引き付けることなので、最終的には役に立っていた。わざわざ敵陣のど真ん中でポーズを取ってアピールしたりもする。
「廉貞様、申し訳ございません! 私もお力添えを……」
だだっ。そこへ、どうにかして加勢したくて駆けつけたモブ妖狐現れる! ただのオチのために用意したツッコミ役だろ? そこは言わないで!
「婆沙羅も斯くや、汝が一挙一動此れ尽く雄弁にして才気煥発也。巧言令色鮮し仁とは言えど、汝が如き振る舞いは我には連木で腹を切るも同然か」
(「ありがとうございますなのでっす! けど、おにいさんの思いも、藍ちゃんくんは魂で感じ取っているのでっすよー!」)
「えっ、通じてる!? なんで
!!??」
かたやいつもの廉貞語、かたや一言も喋ってねえのに意思疎通できてるらしい光景に、モブ妖狐は本気でビビって逃げ帰ったとか。
大成功
🔵🔵🔵
ニーニアルーフ・メーベルナッハ
…廉貞さん、相変わらず言ってることが難解過ぎます…。
ともあれ。
廉貞さんに共闘を申し出つつ、簡単に連携について打ち合わせを。
・廉貞さんに前に出て頂き、私が援護する形を基本とします。
・廉貞さんから私に指示や依頼がある場合は、出来るだけ手短な表現(平易でなくても良いので兎に角短く)かジェスチャーを交える形でお願いします。
纏まりましたら彼と自分に白燐奏甲をかけて戦闘開始。
廉貞さんの攻撃の隙を補うように【蟲使い】で白燐蟲を飛ばし敵を攻撃。
敵が迂回を試みたり、罠を張ったり、ユーベルコードを使う様子を見せたら廉貞さんに声をかけ報せつつ、蟲達を操って対処。
●慣れているからわかるかというとそんなこともない
「汝の嫩葉なる姿、嘗ての銅頭鉄額なる汝らを想起せん。巡合の紅線が二豎齎せしは昌運か禍患如何なるか、我多岐亡羊に陥らん」
「……あの、ごめんなさい廉貞さん、相変わらず言っていることが難解すぎて……」
ニーニアルーフ・メーベルナッハは、おずおずと言った。
「……あなたの若々しい姿を見て、かつての能力者の勇ましい戦いを思い出しました。運命の糸症候群はいいことなのか悪いことなのか、私はどちらとも言えず困ってしまいます」
「あ、なるほど……えっと、ありがとうございます……?」
とりあえず褒められているっぽいので、ニーニアルーフは首を傾げつつお礼はした。礼儀は大事である。
ところで、個人としての面識はさておき互いに能力者と来訪者、しかも銀誓館学園OBと妖狐七星将ともなれば、ある種の旧友同士といって差し支えない。
友誼を交わしたいという欲求もあったが、どうやら周囲の敵はそれを許してくれなさそうだ。
「そ、そうでした。廉貞さん、共闘しましょう! それで簡単でいいので打ち合わせを……っ!」
なんとかして少しでもコミュニケーションの精度を上げたいニーニアルーフだったが、そうはさせじと絡新婦が蜘蛛糸を放つ。
土蜘蛛であるニーニアルーフなら、その程度の攻撃は見ずとも避けられる――が、攻撃が前後左右と言わず上下からも間断なく矢継ぎ早に襲い来るとなると、さしものベテランとて回避で手一杯になってしまう!
「廉貞さん、あのですね! 基本は廉貞さんが前衛……ああもうっ、なんでこんなに連携取れてるんですか相手は!?」
「忌々しくも敵は旗鼓堂堂也。然れど虚静恬淡心得よ。呉越同舟なれど管鮑之交たる汝が言の葉、造次顚沛の意気にて曠野に降る沛雨が如く謹聴せん」
「わからない! わからないです! この状況だとなおさら読解に時間がかかりますぅ!?」
ニーニアルーフは混乱した! 攻撃避けて反撃しながら廉貞の言語読み解こうとするとか、頭がフットーしそうだよぉ!
「……いい気分ではないですが、オブリビオンは統率が取れていて厄介です。ですが私はあなたがた能力者を特に信頼していますから、ちゃんと聞いてるので安心して話してください」
「あ、はい。廉貞さんが前衛をお願いします! 私が援護します!」
最初からそれで言ってください! という言葉が喉のすぐそこまで出かけたがギリギリ飲み込み、ニーニアルーフは手短に伝えた。
「委細承知。然らば我、摩頂放踵の意気にて」
「あっ、あと廉貞さんから指示があるときはとにかく短く! 平易でなくてもいいですから! それか身振り手振り交えてください!」
「……わかりました。頑張りますね」
ニーニアルーフの声がマジで切羽詰まってるし、攻撃を躱すのは廉貞もけっこう大変なので、普通に頷いた。わざとじゃないんです、わざとじゃ。
そうこうしている間に、ニーニアルーフは気を取り直して白燐奏甲を付与。敵対者に不運をもたらす呪いで偶然の隙を生み出し、そのチャンスを逃さず白燐蟲を飛ばして牽制することで徐々にペースを取り戻す。
「あそこの敵、迂回するつもりです! 合わせてください!」
「…………はい」
なんかすげえこらえる間があったが、廉貞は頑張って前に出て前衛を務めてくれた。おかげでニーニアルーフは敵の動きを落ち着いて注視でき、鉄壁の包囲網を打ち崩していく。
しかし敵もさるものか、突破口を開かせまいと蜘蛛糸の巣で罠を張るつもりだ。
「曇華一現也。一気呵成に反撃すべし」
「ありがとうございます、さすがにそれはわかりました!」
ニーニアルーフはようやく晴れやかな表情をした。放たれた蟲たちがアヤカシの群れと同時に殺到し、敵陣に風穴を開ける。
ふたりは同時に包囲網を抜けると、振り返りざまの連撃で残敵を振り払った!
「ふう、なんとかなってよかったです」
「…………」
「……? 廉貞さん?」
額の汗を拭いながら、ニーニアルーフはなぜか押し黙る廉貞を見て首を傾げ、はっと気付く。
「あっ、もしかして何か言いたいことがあるけど、どう表現するか考えていらっしゃるとか
……!?」
「…………はい」
ニーニアルーフはくすりと笑った。意外となんとかなるもんだ、という意味も含めて。
大成功
🔵🔵🔵
ドローテア・ゴールドスミス
本物の廉貞様!?きゃーっ!まさかきんなところで会えるなんて!
……じゃ、頑張ってお話しようかしラ。
『声が小さくて聞こえません』って言えば言い直してくれるんだろうけど、あれは武曲ちゃんしかできないものねえ。
えーっと、万夫不当の勇将たる汝が名、我ら銀誓館に知らざる者なし。此度の邂逅は望外の幸運なり。
(お会いできて光栄よ)
昔日に見えし王たる汝が尾の暴威、万軍の兵を得るに等しき。
(あの時あんなに恐ろしかった百足王が今は味方とは心強いワね)
汝が尾をもて封縛の陣を成さん。さすれば我が超常なる力にて此処なる地を浄めん。
(廉貞様は百足王で敵を追い立てて頂戴。一ヶ所に固めたらあとはこっちのUCで一網打尽よ!)
●偽物がいるってけっこう絶望的なことじゃない?(色んな意味で)
「きゃーっ! 本物の廉貞様よネ!? まさかこんなところで会えるとは思わなかったワ!」
あのここ戦場ですよ? と言いたげな顔をする廉貞と、それを見てキャッキャと年甲斐もなく(失礼)はしゃぐドローテア・ゴールドスミス。
まるで、長年推してきたアイドルを握手会かなんかで物理的近距離に捉えたマダm……いやお姉さまのようだ。ジャで始まるアイドルでよくあるやつ。
「こんなことなラ推しウチワとか作ってくればよかったワ! 廉貞様ー!」
その間も背後から絡新婦が襲いかかってくるのだが、ドローテアは黄色い声援を送りながらシュバババと攻撃を躱している。あれこれ共闘いらなくねえか?
「汝が鼓舞、実に幸甚也。然れど此度は轍鮒之急、今は我ら貴賎の別無く堵列となりて和衷共済すべし」
「きゃー! 声が小さくて聞こえ……いやこれはだめネ、武曲ちゃんの十八番だものネ」
いやそういうもんじゃないんですけど、と言いたげな廉貞だったが、何度も言ってるようにこの会話の間も攻撃は絶え間なく続いているし、多分それも訂正しなきゃいけないんだろうなと思っていたので、口には出さない廉貞だった。
「えーと……つまり、ありがたいけど今ピンチだし、立場とか気にせず共闘しようってことよネ?」
廉貞はちょっぴり瞠目した。ドローテアはふふんと得意げに笑う。廉貞ガチ勢は解読も出来るらしい。
「それは願ってもないわ。というワケで……頑張ってお話しようかしラ」
ドローテアはこほんと咳払いし、言った。
「
万夫不当の勇将たる汝が名、我ら銀誓館に知らざる者なし。此度の邂逅は望外の幸運なり」
「……!?」
廉貞はまた瞠目した。そこからやんの!? という驚きと、自分と同じような喋り方をしてくれる
能力者がいるなんて思ってなかったからだ。
「
昔日に見えし王たる汝が尾の暴威、万軍の兵を得るに等しき」
「……
我言葉尽くす必要無し、汝と我斉一なる鏡面が如しなれば。此れ當に重見天日也」
多分廉貞の部下たちがいたら、ヤバい上司が増えたように感じて頭が火星人のように爆発していたかもしれない。
とりあえずドローテアの作戦はうまくいっており、そこからふたりの反撃が始まった。
互いに入れ替わり立ち代わり前衛後衛を務め、四方を包囲し襲い来る絡新婦の攻め手を躱す。
敵の狙いは境内からこちらを排除すること。ゆえにじりじりと後退を強いられるわけだが、ふたりはゆるく円を描くように立ち回ることで、包囲網を維持
させながらチャンスを待っていた。
どれほど連携が取れている敵であろうと、その瞬間は必ずやってくる。あちらが数で勝るなら、こちらは威力で勝っているのだから。
「……好機到来也」
ぽつりと廉貞が呟いた。ドローテアは頷き、言う。
「
汝が尾をもて封縛の陣を成さん。さすれば我が超常なる力にて此処なる地を浄めん」
「委細承知」
そこに野暮な言葉はなかった。廉貞が九尾扇を振るいアヤカシの炎を起こせば、それを目印にムカデ王が襲来、巨体でもって質量攻撃を見舞う。
削れた石畳が粉塵とともに舞い上がった。内側からそれを吹き飛ばすのはドローテアが生み出した超次元の竜巻だ!
「さあ、消し飛びなさいッ!」
竜巻は四散した残骸をも取り込み、さらに伸びて膨らみ辺り一帯の敵をもろともに餌食にした。
ふたつの暴威がDNA螺旋を描くように交わり、駆け抜ける。あとに残るのは嵐が過ぎ去ったあとのような、静寂と荒涼たる光景だ。
「ふう! なんとかなったワ……アラいけない、じゃなくて」
おほん。咳払いするドローテア。
「
汝の武勇あらば此度の勝利とて果然自明の理。呉越同舟なれど轡並べしこと、我が畢生の九鼎也」
「……ありがとうございます。私も同じ気持ちです」
「えっ!? そこは廉貞様が普通に喋るノ
!!!?」
こっちが同じような喋り方すると向こうが素になる! 15年余の事実にさすがに愕然とするドローテアだった。
大成功
🔵🔵🔵
エドゥアルト・ルーデル
いるよね言葉がくどいさん…
ああお年玉?崩すの面倒だし束でいい?
戦場で言葉は不要でござるよね!という訳でコミュニケーションにハンドサインを使うでござるよ!何より喋らなくていいからな
これこれこういうのでござるから覚えてね!
……………
…よし覚えたな!イクゾー!
【流体金属】と無造作に合体してから正面攻撃!飛んでくる【鋼糸】!身体をメタル化して無ければ即死だった…まあこの通り肉体じゃないからすぐくっつくんだが…
とまあこんな感じで拙者が引き付けてるからその内に他の奴らはガンガン攻撃しろよな!大体なんとかなるから誤射とか気にするな!
●木曜日は!
また新たに転移してきた猟兵の気配を感じ、廉貞は振り返る。
「我既に紅線の嚮導諾したり。無窮の虚空越えて来訪せし新鋭よ、汝……」
「え? あーわからんでござる! それより拙者がハンドサインするとこ見てて!」
廉貞は面食らった。エドゥアルト・ルーデルはハイパー自己中心的マイペース野郎なので、ツッコミという
役割を断固拒否し突然ハンドサインを始める。
「
……(スッスッ)」
「……?」
「
……(サッ)」
「…………??」
「
……(ババッ)」
「………………!(ようやく飲み込めたらしい)」
「…………(ススッババッシュバババダダドムゥ)」
「??????」
「はいよし覚えたな! イクゾー!」
デッデッデデデデッ!
「待たれよ。我未だ暗中模索が如し也」
カーン……と勇んで突撃しようとしたエドゥアルト、廉貞が引き止めるとクソめんどくさそうに振り返った。
「なんでござるかもう! わかるでしょ!?」
「……最後のだけがわかりませんでした」
「あれ一番簡単でござるよ! ほら! これ! このいい動き!(ズバババロロロダダドムゥ)」
「
三千大千世界に斯様なる妖物非ず。我晩冬の雪景が如き心地也」
「このタコ焼きタコが入ってへんやん! でござるよ!」
「
汝、諸葛亮孔明が神算鬼謀も斯くや也」
前代未聞、廉貞にツッコミを入れさせる男! これがエドゥアルトだ!
あとこいつさりげなく普通に言葉理解してる! 通訳いらねえじゃん!!
「なぜ理解できないのかコレガワカラナイ、今度こそイクゾー!」
デッデッデデデッ! デデデデッカーン! という音は特にしないのだが(マイナス点)エドゥアルトは無造作合体からの無造作突撃! 廉貞はどうしたもんかと考える一瞬の間をおいて援護することにした。
前に出れば当然統率された無数の攻撃がエドゥアルトを襲う。全方位から襲いかかる斬鉄の鋼糸、いかにして避けるか!?
「うおおおメタル化!」
エドゥアルトは全身を硬質化させた! スパスパスパ! 斬れた! ダメじゃん!!!
「危なかった、メタル化してなければ即死でござった……まあ肉体じゃないからすぐくっつくんだが……」
「
我胡蝶の心地也。此処は悪夢に非ずや」
信じられねえって顔をしている廉貞だが、どうやらエドゥアルトが敵を集めてくれているらしいことはさすがにわかったので、きちんとムカデ王との同時攻撃で薙ぎ払った。七星将は仕事も出来るのだ。
「さあこの調子で出撃でござるよハンチョウ君!!」
「
我七星将が一、廉貞也」
「誤射とか気にせずでござるよバンチョウ君!! 聞いているでござるかドンチョウ君
!!!!」
「
我七星将が一、廉貞也」
ある意味息はあっていた。ある意味。
大成功
🔵🔵🔵
戒道・蔵乃祐
なるほど…
なるほど?分かります。分かりますとも
つまり自分はすごく強いけど、そもそもオブリビオンに対しては
ルールが違うので負けることはなくても敵うことも出来ない
だから致命的な致命傷は猟兵に頑張って欲しいということですね?
そうですかありがとうムカデすごいですね
それほどでもない?
◆クロム・クルアハ
筋肉と肉の鎧で覆われたモンクタイプが量産型に遅れをとるはずは無いのですね!
とはいえ蜘蛛の巣は厄介…
お前絶対忍者だろ・・・汚いなさすが忍者きたない
クイックドロウ+切り込みで
先手を取り、早業+乱れ撃ちであんまりしつこいとバラバラに引き裂くぞ
お前ハイスラでボコるわ…
ダークパワー!
●猟兵がァ! 壁際でェ!
「我未だ遥けき帳越えるに至らず。然れど九尾様に忠義誓いし七星将が一席なれば、覆水不返の理識らぬ愚劣者供に遅れを取ること無し」
「……なるほど???」
戒道・蔵乃祐は頑張って解読しようとしたがダメだった。
「……私はまだ猟兵ではないので、あなたのように世界は越えられませんが、九尾様に従う七星将の誇りにかけて、オブリビオンには負けません」
「ああ、意気込みでしたか! で、戦術はどうします?」
「汝が武威、大山巻きし我が宝刀に比肩す。然らば汝が技芸もて有象無象尽く覆滅覆滅すべし」
「……なるほど? わかります、わかりますとも」
蔵乃祐はうんうん頷きながら、バッと手を突き出す。ちょっとまってね頑張って考えるから、のサインである。
「つまり自分はすごく強いけど、とどめは猟兵である僕に任せると。そういうことですね?」
「
当意即妙心地良し」
「そうですかありがとうムカデ王すごいですね!」
「
然に非ず」
なんかやけに黄金の鉄の塊っぽくなったが気のせいだろう。
ともあれ敵は未だ無数、なにげに包囲はまたされているわけで、蔵乃祐が呑気こいている暇はなかった。
「いざ!」
廉貞はムカデ王を呼ばい、九尾扇を手に自らに狐の相を顕すと、来訪者の力――すなわちアビリティを使い敵陣を退かせる。
「おお、あれがアビリティですか! なるほど20mが限界だそうですが、これほどの力なら、
先手は任せましょう!」
蔵乃祐は拳を胸の前で鳴らすように撃ちつけ、肉の鎧を要塞のように固く締めながら一気に突撃した。
蜘蛛糸が放たれる! 張り巡らされた巣は罠であり壁、迂闊に触れれば老化がマッハだ!
「お前絶対忍者だろ……汚いなさすが忍者きたない」
「
あれなるは土蜘蛛に非ぬ詠唱銀の亡霊なり」
「ええわかります、わかりますとも! モンクタイプが量産型に後れを取るはずはないのでご安心を!」
「
我が心地、曇天に似たり」
蔵乃祐はわかっていなかったが、とりあえず隙が出来ていたのは事実なので、英雄幻妄パラドクスメサイアを縦横無尽に振るい絡新婦をバラバラにせしめた!
「お前ハイスラでボコるわ!!」
「
汝が技芸すでに意を得たり」
廉貞はきょとんとしていた。新世代の猟兵、コワ~……。
大成功
🔵🔵🔵
新田・にこたま
廉貞さん、あなたにUCを使わせてもらってもいいでしょうか?
初対面の私たちが円滑に連携を組むため、一時的に私たちを古くからの知己だったことにする記憶捏造です。使ってもよければ首肯をお願いします。
許可を貰えたら魅了プログラム以外を使わせてもらうのですが…これ、廉貞さんの攻撃力は下がるは私も攻撃用UCを使えなくなるわでデメリットの方が大きいのでは…?
…いや、ズっ友コンビの私たちが負けるはずがありません!
敵には魅了プログラムも含めてUCを全部当ててベストフレンドだったことにして混乱させ隙を作りフォトンセイバー化させた特殊警棒で斬っ!
言葉はいりませんよ、廉貞!
あなたの言いたいことは心で理解できています!
●どうしてこう非倫理的ユーベルコードばかり揃っているので?
「廉貞さん、突然ですが洗脳していいですか?」
「は?」
さすがの廉貞も、新田・にこたまのいきなりすぎるクエスチョンには難読漢字や小難しい言い回しをする余裕さえなかった。
「あっ、いえすみません、過程をすっ飛ばしました。ユーベルコードを使わせてもらっていいでしょうか」
「我が胸に去来せしは暗雲低迷。汝が昏き無窮の虚空越えて来訪せし精兵たることに異論なかれど、其は真に土扶成牆に須要なりしや……?」
「違うんです! その言い回しをしているとですね! わかりづらすぎてほら攻撃来たじゃないですか!!」
空気を読まない(ある意味読んでいるとも言う)絡新婦の群れの攻撃をギリギリ躱すにこたまと廉貞。余裕などないのだ。
「とにかくですね、その……いやそれも何言ってるか全然わからないんですが」
「……私はいま困惑しています。あなたが強き猟兵であることは疑っていませんが、それは共闘に本当に必要なことなのですか」
「必要だから聞いているんですよ当たり前じゃないですか。これは初対面の私たちが円滑に連携を組むために非常に有効なユーベルコードなんです」
廉貞はものすごい胡乱げな顔でにこたまを見ていた。
「……然らば如何なる態様齎さんか我に敷衍すべし。……つまりどういう技なのか説明してください」
「ですから洗脳するんです。私たちを古くからの知己「だったことにする」記憶捏造ユーベルコードです」
「……去りし問いを再び呼ばうは愚劣と知れど、我が敷延未だ去らず。……それは本当に必要なことなんですか??」
よもや自分がユーベルコードの対象に……しかもこんな明らかにヤバいユーベルコードを使わされようとすることを想定していなかったので、廉貞も聞き返されるまでもなく訂正して意を問う始末。
「ええ、これがあれば絶対に勝てます! 必ずです!」
「……汝
然に首肯すならば」
「あっ、でもよく考えると廉貞さんの攻撃力は下がるし、私も他のユーベルコードが使えない気がしてきましたね」
「
背水之陣なれど時未だ尽きず。我が渾身以て刹那を生み、汝の明晰を期待せん」
「えーと、多分OKですね。大丈夫です、魅了プログラムは除外します!」
「否也」
「ではいきますね!」
「否也!!!」
肝心なところでにこたまは話を聞いてくれなかった。
「……私としたことが、なんと愚かだったのでしょうか」
にこたまは重々しく顔を上げた。なんでかっていうと、このプログラムは彼女にも作用するからである。でないと意味がない。
「ズッ友コンビの私たちが負けるはずがありません! そうですよね、廉貞!」
その時廉貞の頭に、突如として蘇る存在しない記憶――!
「
青天の霹靂とは當に此れ。然れど我が心の迷妄未だ晴れず、此は如何なる事態にありや……?」
妖狐七星将でなければ正気を失いかねない異常事態だったが、廉貞は頑張って対応した。主に、矢継ぎ早に襲いかかってくる存在しない記憶(にこたまとクレープを食べたり、にこたまの
極道抹殺任務に相乗りしたりなど)にマジで取り込まれないよう正気を保つことに集中した。
「ところでなんであなたがたが敵に? 私たちはズッ友だったじゃないですか!」
「は!?」
と思ってたら同じもん敵にかましやがったこいつ!
絡新婦の皆さんは振り上げかけた爪をさまよわせたまま、互いに顔を見合わせて困惑した。魅了プログラムもかかっているので余計に混乱がひどい!
「うおお行きますよ廉貞! 合わせてください!」
「
我が胸中に湧きたるは黄河に連なりし大泉」
「大丈夫です、あなたの言いたいことは心で理解できています! でやーっ!」
会話は成立していなかったがにこたまの中では完結していたので問題なかった。廉貞はすべてを諦めて攻撃を合わせることにした。アビリティと特殊警棒フォトン斬の同時攻撃! 迫りくる
ズッ友に恐怖した絡新婦の皆さんは死亡!
「これが私たちの友情です……!」
「
我は胡蝶かそれとも妖狐なるか」
悪い夢のような光景でしかなかったが、残念ながら現実だった。
大成功
🔵🔵🔵
烏護・ハル
よろしくね、廉貞さん。
……と、とても古風な話し方、だね。
現代語、抵抗感お有りでしょーか……?
……ほんの少しで良い。
冴えてちょうだい、私のコミュ力。
多数召喚した式神さんに魔力を充填して貰い、広範囲にUCを展開。
近くの敵から狙い、式神さんにも呪殺弾で追撃させる。
結界での守りは最小限に、敵を減らす事を優先。
え〜と、廉貞さん。
私たちが薙ぎ払った奴らからどんどんやっちゃって。
肯定なら頷いて教えてね。
それと、狙って欲しい敵がいたら、指し示してくれれば助かります。
サインを見逃さないよう、誠心誠意頑張りますので……。
……式神さん、頑張ろうね。
言語が全てじゃないもの。
きっと通じ合える。
通じ合える……といいなぁ。
●異世界妖狐、混乱す
ざわざわと木々のこすれあうような嫌な音をさせ、また新たな敵の軍勢が出現した。払えど払えど尽きない大群、まさに蜘蛛の子のごとし。
「うっわぁ、すごい数……って、おおっと!」
烏護・ハルは何かすさまじい力が来ることを察知し、慌てて飛び退いた。
彼女がさっきまで立っていた場所のギリギリ隣を、巨大な柱めいた何か……いや、狐の尾が通過し、突出した絡新婦を串刺しに穿つ。
「おお、あれが尾獣穿……ていうか、アビリティ?」
「……汝は極めて摩訶不思議。不渡なる虚空の果て、斯様なる近似在るとは。これもまた巡合の赤線の嚮導なりや」
「え? ……あ、えっと……廉貞さん、どういう意味でしょう……」
すたすたと現れた廉貞の噂通りの難解語に、ハルは悪いなあと思いつつおずおず問い返した。
「……あなたは異世界の妖狐ですね。話には聞いていましたが、別世界にこれほど似通う種族がいるのは驚きです。運命の糸の導きなのかもしれませんね」
「な、なるほど。運命の糸……たしかこの世界にはそういうのがあるんだっけ」
読み解いてみると大したことを言っていなかったので、ハルは多少肩透かしを食らった。
「と、ともあれ! よろしくね、廉貞さん。その、と、とても古風な話し方……だね。現代語、抵抗感おありでしょーか……?」
「我は昔日の幻影に非ず。我らが一族に遥けき開闢を知悉したる者あれど、此に参着せしはすべて当世の太平が為也」
「……はい???」
「……特に現代語に抵抗があるわけではありません」
そんだけ!? そんだけの内容がなんでそこまで膨らむの!?
……とツッコミたくて仕方ないハルだが、頑張って抑えた。保ってくれよ、わたしのコミュ力……!
とりあえず、落ち着いて喋っている暇もさすがになかったので、ハルはなし崩しに廉貞と共闘することになった。
「じゃ、式神さん……魔力充填、よろしくっ」
ハルの投げた呪符が、周囲で人型のシルエットに変じ、ハルに魔力を送り込む。すると、彼女の身体がほのかな光を放つ。太陽を思わせる暖かな色だ。
「結界の守りは最小限、できるだけ広い範囲を……よし」
算段は整った。迫る雲霞を前に、ハルは廉貞を振り返る。
「えーと、廉貞さん。廉貞さんのアビリティは20メートルしか届かないんだよね」
「……是也」
廉貞もハルの意気を汲み、余計な言葉なしに首肯のみで応える。
「だから、そのぶんは私たちが請け負う。廉貞さんは私たちが薙ぎ払った奴らから、さっきのアビリティでどんどんやっちゃって」
廉貞がもう一度首肯すると、ハルも嬉しそうに微笑んで頷いた。
「もし狙ってほしい敵がいたら、指し示してくれれば助かります。あっえっと、サインを見逃さないよう、誠心誠意頑張りますので……」
「汝との戮力協心、我が心は春風駘蕩が如し」
「あ、えっと」
「……あなたは好ましい人物ということです。気負わないでください」
「!」
廉貞はそれきり、ムカデ王とともに周囲の敵を牽制しに向かう。
「……式神さん、頑張ろうね」
ハルは少しだけ弾んだ声で言うと、精神を集中し、目を見開いた!
「言葉がすべてじゃない。世界も種族も違ったって、通じあえる……だから、この世界は壊させないっ!」
光が一気に鮮烈になり、収束した霊力は狐火となって燎原の野火めいて燃え上がった。
敵は突然の範囲攻撃にうろたえ、わずかに生まれた隙を鋭い尾が穿ち、仕留めていく。
ハルの表情は莞爾としていた。そしてまた、この世界を守りたいと、彼女は心に強く誓った。
大成功
🔵🔵🔵
九頭竜・聖
ええと、わからない喋り方とは……?
当世の言葉などに慣れていらっしゃらないといったことでございましょうか……?
ですが、この世界を守らんとする意思は同じ……きちんとお話すれば意大丈夫な筈……!
は、初めまして、廉貞様
わたくしめは九頭竜・聖、と申します
どうやら敵は蜘蛛の巣で罠を仕掛けている様子……わたくしめが御呼び致す龍神様の力でそれを焼き払い、その隙を突いて……
とか、考えたのですが、いかがでございましょうか……?
挨拶と自分なりに考えた作戦を伝えて、様子を見ながら会話を致します、ね?
おいでませ、おいでませ……偉大なる赤き龍神様
祈り、身を捧げて御呼び致しますはすべてを焼き払う浄化の火でございます
●ちゃんと喋れるんですよね彼
「は、はじめまして、廉貞様」
こういうのは一番最初の印象が大事だ、と意気込んでいた九頭竜・聖は、開口一番恭しくお辞儀した。一応、ここは戦場なんだけども。
「……」
廉貞は無言で振り返る。黙っていれば眉目秀麗で落ち着いた雰囲気を漂わせる、まさに唐風の美丈夫だ。黙ってれば。
「わたくしめは、九頭竜・聖と申します。猟兵として、此度の戦に馳せ参じた次第でございます」
「……」
「その、もしお嫌でなければ、どうか肩を並べて戦うことをお許しいただければと」
聖はらしくもなく、相手の顔色を伺いながらおずおずと問いかけた。
廉貞は瞑目し、しばし沈黙したのち、うっそりと口を開く。
「……挙棋不定は敗北の戸口也。汝は七星将たる我すら不壊なる三有の帳越えし者、何故に小心翼翼なるや」
「え? えっ?」
「……勝利のためにはしっかりした作戦が大事です。なのに猟兵であるあなたがどうしてそんなにへりくだるのか気になりました」
「当世の言葉に不慣れというわけではないのでございますか
……!?」
てっきり古風な思考をしているのかと思ったら、普通に言い直してくれたことに二度びっくりする聖。
聖はどちらかといえば廉貞のような古風なほうが慣れている(なんせ神の巫女であるからして)タイプなので、他の猟兵に比べれば噛み砕けそうではあったのだが、わざわざ言い直してくれたことのほうにびっくりした。
「と、とにかくでございます。ええと、どうやら敵は蜘蛛の巣で罠を仕掛けている様子でございますから」
聖はしどろもどろになりながら誤魔化した。「あなたの喋りが気になっていました」なんて失礼なことは言えないと思ったのだ。
まあ廉貞のほうは慣れているので(慣れているなら直せやというのは野暮な話である)口は出さない。
「……わたくしめがお呼びいたします龍神様の御力で、それを焼き払い、その隙を突いて……とか、考えたのでございます、が……」
その廉貞は何も言わないもんだから、だんだん聖の語尾はしぼんでしまった。かわいそう。
「……挙一明三、心地良し。汝が深謀、我が尾にかけ……」
ちらり。廉貞は聖の顔を見た。こっちをおずおず見ながら、はらはらした表情をしている(ちょうどアイコンみたいに)
「…………だいたい了解しました。いい作戦なのでそれでいきましょう」
「……あ、ありがとうございます!」
聖はぱあっと笑顔になった。廉貞も心の中で、ちょっとほっとしていた。
作戦が決まれば、あとは実行するだけだ。そこに余計な言葉は不要。
「おいでませ、おいでませ……偉大なる赤き龍神様」
聖は言霊と舞によりて自らの肉体をカミに捧げ、壱之龍・燭陰を現し世に喚ばう。
「彼の者を御身の炎で清め給え……総てを焼灼せし御身の力を此処に……」
廉貞は七星将としての卓越した第六感で、ユーベルコードの威力の程を悟り、周囲の防衛に回していたムカデ王を下がらせた。
直後、虚空より龍の咆哮が轟き、大気をも焼き払う核熱の赤が境内を舐った!
「此れは……!」
廉貞をして瞠目せざるを得ぬ威力。のたうつ炎は開闢の地球をここに再現したかと思わせるほどの熱でもって糸の結界を焼き払う。逃げ遅れた絡新婦の一部は、影さえ遺さず燼滅していた。
「ありがとうございます、龍神様……さあ、廉貞様、あとはどうか」
「……」
廉貞はこくりと頷いた。働きを以て示すのが戦士の誇りというもの。
ムカデ王が暴威となりて、いまだ赤熱する石畳を嵐のごとく蹂躙す。続く九尾扇の風とアヤカシの群れとが、炎を怖れ集まった蜘蛛どもをバラバラに引き裂いた。
「よかった……! ところで廉貞様、なにゆえそのような喋り方を……?」
「……」
「……まあ、いけませんわたくしめとしたことが。何か深甚なる理由がございますのね、これは失礼を……」
「いえ、特には」
「そ、そこは普通にお答えくださるのですね
……!?」
来訪者も色々なんだなあ。また一つ勉強になった聖だった。
大成功
🔵🔵🔵
クロム・エルフェルト
アドリブ・連携◎
道邇しと雖ど為さざれば成らず、況や此の戦をや
今我も徳を以て徳に報わん、いざ共に万障討ち祓わんと具申す
(貴方程の強き妖狐ならばこの程度は困難の内に入らないでしょうが、それでも独りで戦わせる訳には参りません)
(この世界を守る為に再び立ち上がった貴方の義に、猟兵たる私も応えようと思います)
無煩天であれば如何に難き言葉であろうと問題は無いわ。
言葉の壁は▲切断してしまうもの。
嗚呼、然れど行く手を遮る蜘蛛の巣は看過出来ず。
廉貞様に妖術で焼き祓って頂こうかしら。
いいえ、あの方の事ですもの。
屹度声に出さずとも蜘蛛の糸一本残さず灼いて呉れる筈。
"当意即妙小気味良し" 、ね?
道が開けば後は斬るだけ。
瞬間転移めいた▲ダッシュで死角に回り込み
敵が動くより先に▲先制攻撃、▲早業で賽の目に▲切断よ。
我が身は孤蓬、万里に征く者なれど
天導く事有れば是に随いて再会を誓わんと欲す
(猟兵は世界を渡りますので中々時間は取れませんが、いつかまたお会いしましょう)
●類は友を呼ぶ……ってコト!?
ざわざわと蜘蛛が蔓延る――が、よくよく見ればその数は、初めの頃と比べてはるかに目減りしていた。
「どうやら、そろそろ仕上げみたいね」
威風堂々と参着したクロム・エルフェルトは、廉貞を一瞥する。
「道邇しと雖ど為さざれば成らず、況や此の戦をや。今我も徳を以て徳に報わん、いざ共に万障討ち祓わんと具申す」
廉貞は薄く開いた目で、クロムを見返した。
「
汝が厚志、万謝に値す。
然れども、此度の戦に汝らの助太刀非ずんば、
悲運悽愴為る結末とて呉牛喘月に非ず。
故に報徳せしは我も同様也。
然れど付和雷同と失考すること無かれ、
此は妖狐七星将たる我が意なり」
クロムはふっと微笑んだ。その笑みは、背中を預けられる戦友にみせるものだった。
ところでなんのツッコミもなしに当然のように会話が成立しているが、多分この光景を大陸妖狐の一員(特に色々とトラウマのある文曲あたり)が見たら、わけがわかんなくて頭がバグるだろう。
無煩天って すげー!
かくて両雄、並び立ち
疾風もかくやに吶喊す。
絡新婦は即座に陣形を組み、突出したふたりを一度陣の中央まで誘い込んだ上で、壺のような形を描くことで包囲を完成、退路を断ち全包囲より圧殺する構えを取った。
「怜悧狡猾、片腹痛し。斯様な弥縫の策にて我等を閉籠しようてか」
クロムは鼻で笑った。が、次々に蜘蛛の巣が形成され、包囲を十重二十重に強化する。実際これは効率的であり、ふたりは孤立した格好だ。
「竜の鬚を蟻が狙うは當に此れ也」
クロムの言葉を証明したのは、彼女の剣ではなく、アヤカシの狐火だった。
包囲が縮まれば、それはすなわち廉貞のアビリティの間合いに踏み込むも同じ。なにせ彼は大陸妖狐最強を誇る、妖狐七星将が一なのだ。
ユーベルコードのような汎用性と奇想天外な爆発力はなかれど、その手が届く間合いにおいて、このような雑魚どもに後れを取るはずはなし!
「好機到来。汝が天佑、目に物見せるべし」
「当意即妙小気味良し、ね!」
クロムの姿が消えた。否、絡新婦には知覚出来ない速度で踏み込んだのだ!
その姿は、まず包囲の外、北東に現れた。すなわち鬼門、魔性にとっての死告である。
「今拓かん、極致の
天――いざ!」
踵を返せば
旋風が起こる。刃という名の風が二十重に吹き荒び、近くも遠くも一切合切遠慮も都合も容赦もなしに、斬の一語にて断ち切った!
暁風一陣、吹き抜けたあとに転がるのは賽の目状の肉片無数。断末魔など欠片もなし、電光石火とはまさにこれ。当然にして劇的な決着だった。
「……廉貞様」
残心したクロムは、血の一滴とて残さぬ刃を納めると、穏やかに笑んだ。
「我が身は孤蓬、万里に征く者。なれど天導く事有れば、是に随いて再会を誓わんと欲す」
「
斯くも我が躊躇逡巡せざるを得ぬとは、真不可思議な日也」
廉貞は苦笑めいて首を傾げた。
「
過去蘇りし今、当世は肩摩轂撃。
然れど、願わくば我等再び大同団結せん」
クロムは剣士の礼にて応えた。吹く風は冷たいが、不思議と爽やかなものだった。
大成功
🔵🔵🔵