ティタニウム・マキアの策動
●ドラッグ・パーティ
「金」
「……え、何? なんなの? え、まじで何!?」
「だから、お金ちょうだいよ」
亜麻色の髪の男の前でそう告げるのは、『ケートス』と呼ばれる少女であった。
端的な言葉であったし、彼等の間に何らかの約束事があったのかもしれない。だがしかし、亜麻色の髪の男は何のことかわからないとばかりに肩を竦めて見せた。
「惚っけんじゃないわよ! あんたこの間の仕事のお金! まだ私に払ってないでしょうが! 警察署のセキュリティー無効化したやつ!」
『ケートス』の言葉に亜麻色の髪の男は、今しがた気がついたという顔をした。嘘である。完璧にバックレるつもりであった。
ぶっちしてやろって思っていた。
だが、そんな簡単に電脳の殺し屋たる『ケートス』を欺くことなど出来ようはずもない。
仕方ないとばかりにクレジットを彼女の端末に送る。
こちらのクレジット残高は雀の涙ほどになっていた。頼んだ仕事の結果とは言え、コレは世知辛いものである。
サイバーザナドゥにおいて金とはイコール、力でもある。
お金はとても大切なのである。
世の中には金で買えぬものがあるという者もいるが、金で買えないものは金でどうにかできてしまうのもまた世知辛さというものに空っ風でもって吹き付ける人情の薄さを示すかのようでもあった。
「うう……今月一体どうやって食っていけばいいってんだよ……俺が何をどうしたって言うんだよ」
「肉なしミートスパゲティで頑張ればいいじゃない。アンタ好きでしょ、ミートスパゲティ」
「肉なしミートスパゲティはミートスパゲティって言わねぇよ」
「アンタの現状では、そう言うしかないでしょ」
「……ごもっともで。あーあ、なんかこう、ぽんってお金がスイッチ押したら手に入る仕事なんかねぇもんかなぁ」
亜麻色の髪の男は、今夜は聖夜だぜ? と己の金のなさに辟易していた。
警察署に忍び込むなんてことしなければ良かったと思ったが、仕方のないことである。
「あるわよ」
「え」
「だから、スイッチ押すだけでお金が手に入る仕事」
「あー絶対にそれってば悪い仕事だろ? 世の中が自分中心で回ってると思ってる人間が、自分以外のやつを食い物にする感じの。なんだよくそ。世界が回るんじゃなくて、お前が走り回れよって感じだよな!」
「業界最高峰の殺し屋『メリサ』の言うことじゃあないわね」
でもま、そうかもね、と『ケートス』は目の前にある電子ボードを指先でスワイプし、ダストボックスに投げ入れる。
「所謂ドラッグパーティで提供するドラッグに混ぜものしたのをランダムに入れるって仕事なんだけどね。ま、絶対裏があるでしょって奴。裏付けとるのもめんどくさかったからしてないけど、どうせ『ティタニウム・マキア』が最近雇った連中が軒並みぶっ飛ばされてるから、その補充をどうこうって……」
「はーん、なるほどですねー」
「感じ悪っ。っていうか、うっざ」
その言葉に亜麻色の髪の男は、シューンとした顔をする。
もう一度亜麻色の髪の男は呟く。
「あー、もうほんっと、世界を回したいぜ。俺が走り回るんじゃあなく世界に動いてもらいたいぜ――」
●クリスマス・パーティ!!
グリモアベースへと集まってきた猟兵達に頭を下げて出迎えるのは、ナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)であった。
「皆さん、クリスマスですうぇい。ですが、サイバーザナドゥにおきましては、またもや巨大企業群『ティタニウム・マキア』の策動があるようなのですうぇい。」
ナイアルテは神妙な顔をしている。
後なんか誰もツッコまないから、変な語尾のまま話が進行していっている。誰かツッコミを入れてくれ! そうでないとずっとこのままである。
「サイバーザナドゥにおいてクリスマスと言えば、パーティ。パーティと言えばドラッグだと言われておりますうぇい。今回皆さんが向かっていただくのは、おしゃれなナイトクラブ。それはもうパーリィナイトしちゃうんだぜってくらいにオシャレでナウでハッピーな集まりのですうぇい」
しつこいようだが、ツッコまないと語尾は変わらない。
「あっ、パリピの方々は語尾に、うぇいってつけないんですね……」
漸く誰かが指摘したことによってナイアルテは小さく縮こまりながら説明を続ける。
いつものやつである。
「このナイトクラブは若者が多く、ドラッグを『手軽にストレスを解消できるアイテム』としてカジュアルに楽しんでいるのです。健康被害はその、なんといいますか……その、ちゃんとありますけれど」
そう、サイバーザナドゥのナイトクラブでは公然とクリスマスパーティーでライトなドラッグが提供されているのである。
それだけであれば猟兵が出ていく幕はない。
しかし、そのライトドラッグの中に『致命的な骸の海を混入させたもの』が混じっているのだ。
それがナイアルテの予知した事件である。
「もちろん、そんなものを、えーと、その、服用、じゃなくて、えっと、キメ、る? とパリピの皆さんはオブリビオンに返られて『ティタニウム・マキア』の傀儡にされてしまうことでしょう」
ならば、このクスリを混ぜている連中をどうにかすればいいのか、と思いきやことはそう単純ではない。
恐らくパーティ会場でドラッグを舞いているのは、末端も末端。さらにその雇われであり、ばらまいている者をどうこうしても裏で糸引く『ティタニウム・マキア』には痛くも痒くもないのだ。
「皆さんがしていただきたいのは、パーティに潜入し『骸の海が混入したドラッグが一般人に渡らないように工作し、企みを挫くこと』なのです」
つまり?
「はい、みなさんにはパリピになって、このアブないナイトクラブのパーチーに乗り込んでいただきたいのです! いぇいいぇい!」
フッフー! とナイアルテがテンション高めにぴょんこする。
猟兵達の視線に彼女はまた小さくなってしまう。
彼女にはパリピのなんたるかが理解できていないのだろう。ダメである。
「……その、えっと、『骸の海が混入したドラッグ』の回収方法はおまかせします……ただ、その、『ティタニウム・マキア』の手先に怪しまれないように、お祭り気分やパリピやドラッグ目当てのジャンキーに成りきってのお仕事をお願いしますね……」
私にはどうせ無理です、とナイアルテは精一杯のパリピモードの不発にしょんぼりしながら、猟兵たちを送り出すのであった。
そう、レッツ・クリスマス・パーティナイト――!!
海鶴
マスターの海鶴です。
サイバーザナドゥのアブないナイトクラブのパーティに乗り込めー! なクリスマスシナリオになっております。
やることは唯一つです、
巨大企業群『ティタニウム・マキア』が仕掛けた『骸の海の混入したドラッグ』を、悟られずに回収すること。
巨大企業群『ティタニウム・マキア』は『安心安全を売る』巨大企業です。
そのクリーンなイメージの裏側では、これまでカルト教団やサイバースペースでの犯罪行為、ヤクザ事務所との繋がりなど後ろ暗いことを行ってきました。
が、今回は末端も末端のさらに末端なので、恐らく『ティタニウム・マキア』を追い詰めることはできないでしょう。
●第一章
日常です。
とあるオシャレな若者たちが集まるナイトクラブのクリスマスパーティに乗り込み、『骸の海の混入したドラッグ』を回収しましょう。
この際は、周囲のテンションと合わせて、お祭り気分やパリピな性格、ドラッグ目当てのジャンキーなんかを装っているとお仕事しやすいかと思います。
ナイトクラブに来ているのは殆どが若者たちばかりです。
遊びたい盛りの女性や、ナンパ目的の男性、たまにはこういう場所もいいかとやってきたイケおじさんや、年齢詐称と言われておいいほどの美魔女さんなど、まあ、それはそれはご機嫌なパーティーピーポーが集まっています。
そんな彼等にばらまかれる『骸の海の混入したドラッグ』は多くがウェルカムドリンクや、その他の飲食物とともに提供される傾向にあるようです。
パーティを楽しむふりをしながら、彼等が『骸の海の混入したドラッグ』を飲んでしまう前に密やかに回収し、ちょっとアブないクリスマスパーティを乗り切りましょう。
それでは、パリピのなんたるかを示してみせる皆さんの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
第1章 日常
『ドラッグ・パーティ』
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POW : 危険なドラッグを撒いている奴を締め上げる
SPD : 骸の海入りのドラッグを目敏く見分ける
WIZ : 何も知らない一般客からさりげなく骸の海入りドラッグを取り上げる
イラスト:ハルにん
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
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※プレイング受付締め切り:12月26日午前12:00
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メサイア・エルネイジェ
わたくしおパーティ大好きですわ〜!
ですけれどやべぇお薬をおキメになられるのはよろしくありませんわねぇ
お薬より安全で簡単にぶっ飛べるものを存じておりますわ〜!
しかも美味しい!しかも合法!
それがこちら!ストロングおチューハイ!
このお酒を飲みまくってたら体内で精製出来るようになりましたわ!
こちらをおパーティ会場でばら撒いて悪いお薬を駆逐致しますのよ〜!
もし〜?そこのあなた
良いものがあるのですけれどいかが?
ちょっとグラスをお借りして…
はい召し上がれ!
今どこから出したのかと?
お口からですわよ?こう、マーライオンみたいにオエー!と
飲みたくない?
まあまあそんな事仰らずに…
だんだん飲みたくなって来る筈ですわ〜
お姫様というのはパーティ大好きである。
いや、お姫様となれば、パーティの方から歩み寄ってくるものである。棒に当たればパーティ。それがお姫様!
エルネイジェ王国の姫、メサイア・エルネイジェ(放浪皇女・f34656)はサイバーザナドゥのナイトクラブに馳せ参じる。
綺羅びやかなライトが明滅し、ズンドコと軽快な音楽が体に響き渡る。
サウンドはお腹に響き渡る音こそ醍醐味。
何処を見ても、パーティーピーポーな人々で溢れている。
メサイアもまたパーティ慣れした猟兵である。
「わたくし、おパーティ大好きですわ~!」
「ヒュー! 俺も俺も~! パーティ……」
「大好きー!! いぇーい!」
そんな具合にメサイアはパリピの中に紛れ込んでいた。否、溶け込んでいた。
彼女たちは肩を組み、音楽に乗って体を揺らす。
ダンスの作法がわからなくたって大丈夫。音楽は国境を超えて自由に響き渡る。どんな世界にだって音楽は共通言語なのである。
ミュージック!
「しかし、どえらいお騒ぎようですわねぇ~」
メサイアはひとしきりパリピたちと戯れるようにして踊り、ハイタッチをかましてライトが煌めくお立ち台から降りる。
今どきお立ち台あるとか、さすがはサイバーザナドゥのパリピ御用達のナイトクラブである。
しかし、メサイアの目的はパリピとダンサブルではないのである。
そう、此処には『骸の海が配合されたドラッグ』をばら撒く者がいる。それを密やかに回収するためにやってきているのだ。
「やべぇお薬をおキメになられるのはよろしくありませんわねぇ」
ふんふん、とメサイアは委細承知していた。
確かにライトドラッグは健康被害さえ無視してしまえば、疲労回復やら何やらで、大変のハイになれるものである。
「お薬より安全で簡単にぶっ飛べるものを存じておりますわ~! しかも美味しい! しかも合法! それがこちら! ストロングおチューハイ!」
何を言っているのかわからないが、メサイアは無限ストロングチューハイ(リアルブレイカー)でもって、なんか体内で精製できるようになっていたのである。
いくら猟兵が生命の埒外だからって言っても限度があると思うのだが、そこはそこ。メサイアはメサイア姫なのである。
何の問題もない。
色々問題在るような気がするが、アルコール度数9%なチューハイは泥酔、幻覚、脳細胞破壊、肝機能破壊など諸々すごいことを引き起こす。
問題だらけでどこからツッコんでいいかわからない。
「おほほほ! こちらをおパーティ会場でばらまいて悪いお薬を駆逐致しますのよ~!」
メサイアの計画は完璧であった。
それはもうパーフェクトで素晴らしい計画であった。
しかし……。
「もし~? そこのあなた」
「ん? なんだい、お美しいお嬢さん」
キラリ、と歯が煌めくイケおじにメサイアは声をかける。
この場で一番落ち着いた感じのナイスミドルに声をかけたのは理由がある。こんなイケおじですら、デロンデロンにぶっ飛びハイにしてしまえば、すごいドラッグがあるとメサイアに集まるって寸法である。
「良いものがあるのですけれどいかが?」
「君のようなお美しいお嬢さんから頂けるのなら何でも」
キラリ。
顔がうるさくなってきた気がする。
「では、ちょっと、おグラスをお借りして……」
でろでろでろでろ。
今何の音かと思った者は聡明である。
そう、たしかにメサイアの計画は完璧でパーフェクトで、ビューティフォーであった。
しかし、彼女のユーベルコード、無限におストロングチューハイが出るのは、彼女の体内から。
すなわち醸造しているのは彼女の体内。
なお、口から出る。
そうなのである! おストロングチューハイは彼女の口からマーライオンもかくやというばかりにでろでろってでるのである。オエー! と言わなかったのはせめてもの良心である。
「はい召し上がれ!」
「……お嬢さん、今何処から……?」
「お口からですわよ?」
「……え、遠慮しておこうかな?」
にこやかにナイスミドルがお断りしようとする。だが、メサイアの瞳がキラリと光る。
確かに出どころはちょっとあれである。
しかし、味はとても良いのである。ぶっ飛べるのである!
「まあまあそんなこと仰らずに……」
ぐいぐい行くメサイア。
絵面がヤバイ。
けれど、メサイアはぐいぐいと推していく。その圧にイケおじナイスミドルはタジタジである。
数分後、ナイトクラブの一角には、すっかり泥酔したイケおじがフランフランしながら、ドラッグどころではない様子でぐらぐらしていた。
「おほほ! 最初はいやいやでも一口飲めば、お虜になる!それがストロングおチューハイですわ~!」
メサイアの言葉に新たなぶっ飛び体験を求める若者たちが集まってくる。
「キンッキンに冷えておりますわ〜! ありがたいですわ! 犯罪的ですわ! 美味しすぎますわ! お身体に染み込んできやがりますわ! そういうわけでお召し上がりになって~!
どこかのコマーシャルかと見紛うほどにメサイアはナイトクラブの一角でドラッグ以上におストロングチューハイを捌きまくり、多くの若者たちをドラッグよりよい潰した山の上に座して良い気分を満喫するのであった――!
大成功
🔵🔵🔵
オリヴィア・ローゼンタール
まったく、退廃極まりないですね
売人を見つけて締め上げても、ティタニウム・マキアに繋がらないのは残念ですが、放っておくことはできません
こういうパーティーなら、踊り子がいても不思議はない筈
紅い踊り子の衣装を纏って参加
明るく激しく賑やかに、【情熱の艶舞】を舞い踊り(ダンス・パフォーマンス)、注目を集める(存在感・おびき寄せ)
そして手元への注意が疎かになった瞬間、尻尾を使って【目立たない】ようにこっそり飲み物をすり替える
私自身はドラッグも骸の海も飲むつもりはないので、ナンパの類いはダンスに【お誘い】して躱す
そんなことより、一緒に踊りませんか?(誘惑)
ナイトクラブの盛り上がりは、言ってしまえばどんちゃん騒ぎと表現してもいいものであった。
それほどまでにクリスマスという行事は、パリピたちにとって騒ぐ格好の口実担っている。由来や、それに類することなどはどうでもいいのだ。
刹那的な快楽に身を任せること。
それがこのサイバーザナドゥで生きる上でストレスなく過ごす秘訣なのだ。
ドラッグだってそうだ。
健康被害? そんなのクソくらえだ、と言う。
どれだけ生きるつもりだよ、と。
「まったく退廃極まりないですね」
そんなパリピ溢れるナイトクラブの壇上の袖でオリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)は呆れ返っていた。
彼女が見つめる先にあるのは色とりどりのライトで照らされて、ショーのような踊り台。
彼女は紅い踊り子衣装に身を包んで己の出番を待っていた。
エキゾチックな衣装は、彼女の見事な体のラインを浮き出させていたし、魅力的であったことだろう。
本来ならば『骸の海の混入したドラッグ』をばら撒く売人を見つけて締め上げてしまうのがいいのだろう。
けれど、例え売人を捉えても巨大企業群『ティタニウム・マキア』に繋がるものは何一つ出てこないだろう。だからこそ、オリヴィアはこうしてナイトクラブに飛び込み、『骸の海が混入したドラッグ』を回収しようとしているのだ。
「ではでは~? お次の踊り子ちゃんはこの人! 紅い衣装が目を引くぜ! ついでに俺もひと目みたけど、ゾッコンです! オリヴィアCHAN、カモンッ!!」
そんなテンション高めな進行役の言葉にオリヴィアはうなずいて袖から明るくほほえみながら壇上に飛び込む。
彼女の体はライトアップされて光と影に明滅する。
情熱の艶舞(パッション・ステップ)とでも言えばいいのだろうか。彼女の踊りはとにかく情熱的であった。
くねる肢体も、艶かしく。
ごくりと生唾を飲む男たちは、オリヴィアの踊りに、その見事な体に釘付けであった。
「皆さん一緒に踊りましょう!」
その言葉を耳にすれば、男たちが一斉に壇上に上がってくる。
オリヴィアの踊りに誘惑された男たちは、どうにかオリヴィアにアピールしようと懸命に踊る。
その様子にオリヴィアは可愛げがあるように笑むのだ。
しかし、そんな彼女の笑顔に見惚れていたのならば男たちは自分たちのポケットの中に忍ばせていたドラッグが軒並み盗られていることに気がつくことはなかっただろう。
いつの間にかなくしてしまったかと思うかも知れないし、それよりもオリヴィアの踊りに夢中なのだ。
「なあ、この後抜け出さね? いいところ知ってるんだよ、俺」
「ばっか、俺だよ。俺のほうがいいぜ。金もあるしさ」
一曲が終われば、踊りを止める。そうするとそんなふうにオリヴィアを口説こうとする男たちが殺到する。
あまりにも単純だとオリヴィアは思っただろう。
「この酒うまいんだぜ、一杯おごってあげるからさ」
そう言って酒を進めてくるがオリヴィアは艷やかに微笑んで、グラスを指先で押し返す。
彼女はドラッグも『骸の海』も飲むつもりはない。
アルコールだってお断りなのだ。
それに彼女はナンパに引っかかるほど安い女ではない。にべもなく断ることは簡単だろう。
けれど、それでは芸がない。
今の彼女は情熱の踊り子なのだ。
「そんなことより、一緒に踊りませんか?」
手を差し伸べられた男性は、顔を真っ赤にし、喜色満面でオリヴィアを追うようにしてダンスホールに足を踏み出す。
オリヴィアはその瞬間に尻尾を使って飲み物をすり替える。
「……忘れられないような情熱的な踊りを」
ドラッグなんかよりも鮮烈に男性たちの瞳にオリヴィアの踊りは刻み込まれ、今夜の出来事を数日は思い出し、触れ得ぬ美しき花に散々に心をかき乱されることになるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
劉・涼鈴
おっとなー!なぱーちーに参加しちゃうぞー!
そのためにはこれが必須! 【大人化】!
おしゃけ飲んでみたーい!!って思ったけど、骸の海入りかドラッグ入りじゃあなぁ……
バニーガールの格好で潜入だよ!
店員のふりをして食べ物を運んで、これにはこっちの方が合うよー!って骸の海入りとふつーの飲み物を取り換えちゃう!
ふふー、おっぱいをむにむに押し付けながらやってあげたら、そっちに夢中になって拒否はされないハズ!(誘惑・挑発)
あとは雑技団的に中身をこぼさないようにお手玉して、こっそり入れ替えたり!(功夫・パフォーマンス)
腕相撲で勝てたらなんでもお願い聞いてあげるー!って言って【怪力】で負かしてドラッグ没収したり!
劉・涼鈴(鉄拳公主・f08865)はご機嫌であった。
クリスマスの夜はどんな世界にあっても特別なものだ。子供から大人もみんなみんな楽しみにしている。
だからこそ、涼鈴は浮足立っていた。
「おっとなー! なぱーちーに参加しちゃうぞー!」
彼女が足を踏み入れようとしているのはサイバーザナドゥのナイトクラブだ。
当たり前のようにアルコールの類だって提供されている。
非合法なドラッグが蔓延しているとは言え、あまりにも幼い者はつまみ出されてしまうだろう。
そうなってしまっては、このナイトクラブで巨大企業群『ティタニウム・マキア』がばらまいているという『骸の海の混入したドラッグ』を回収することができない。
彼女はまだ未成年。
そして、その体躯も子供と言っていいものであった。
だから見た目ではナイトクラブのバウンサーたちを騙すことはできない。とは言え、猟兵である彼女がバウンサーごときに遅れを取ることなど無い。
力押しをしてもいいかもしれないが、それでは目的を果たせない。
ならばどうするのか。
そう、ユーベルコードの出番である。
「大人化(アダルトモード)!」
彼女の体が大人の姿に変貌する。
それはあまりにも見事な女性の姿。見目麗しい顔立ちも当然のことながら、その見事な鍛えられながらもしなやかさが両立したかのような見事な体のラインは見惚れるものであったことだろう。
そんな彼女はバニーガールとしてナイトクラブの中に潜り込む。
店員のフリをしていれば、『骸の海の混入したドラッグ』を混ぜられた飲食をすり替えることなど造作も無いのだ。
「お、キミかわいーね? この後暇?」
早速というべきか、当然の帰結というべきか。
涼鈴のバニーガール姿にナイトクラブに入り浸っているであろう若者が声を掛けてくる。
おいでおいでと手招きしているところから見て手慣れている。
親しみの持ちやすい爽やかな顔立ちの若者に涼鈴はトレーを手にしながら近づく。
「私? まだまだお仕事だよー!」
「そうなんだ? でもでもさ、こっそり抜け出しちゃわね? ここのお給料以上は払えると思うからさ」
そっちのが絶対楽しいよ、と若者が笑っている。
「えーどうしよっかなー」
涼鈴は、こういうナイトクラブに興味津々だった。
大人は皆お酒が大好きであるが、彼女は未成年。
ユーベルコードで大人の姿に変身しているから飲めるのではないかと思ったが、実年齢が追いつくまでお預けというやつである。
「いやいや、ぜっっっっったい、楽しませてあげるからさ!」
ね、ね、としつこい若者のナンパに涼鈴は首をかしげる。その手にしていた蛍光カラーの飲み物に目ざとく目をつけ、彼女は若者からそれを取り上げるのだ。
あまりにも速い手わざに若者は目をパチクリさせている。
「なら、私からこれ取り返せたら考えてあげよっかなー」
なーんて、と笑ってバニーガールな涼鈴はナイトクラブの中を逃げ回る。
本気にした若者は彼女をおってナイトクラブの中を駆け回る。
「あはは、こっちこっち」
そんなことを言いながら涼鈴は捕まらない。いつのまにか取り上げた飲み物を普通の飲み物と取り替える。
どれだけの『骸の海の混入したドラッグ』がこのナイトクラブで提供されているのかわからない以上、こうやってすり替えるのが一番なのだ。
逃げ回る間にもあちこちですり替えて回っているのが抜け目ない。
「ぜぇ、はぁ、はぁ……ちょ、ちょちょ……! すばしっこすぎ……」
若者は何時まで立っても店内を逃げ回って捕まえられないバニーガールに肩で息をしながらうなだれる。
「ちょっとからかいすぎちゃったかな? ごめんね?」
そんな若者の背後に回り込んだ涼鈴が彼の背中にもたれかかる。
そうすると必然、彼女の豊かな胸が押し付けられる形になるだろう。その感触に若者はとてもハッスルしてしまう。
ぐるりと振り返って、がばり! と以降にも涼鈴バニーガールはすばしっこいのである。
あっさり掴みかかる腕から彼女は逃れてしまう。
「ま、まじで、素早すぎ……!」
「あはは、じゃあ、そうだなぁ……腕相撲で勝てたらなんでもお願い聞いてあげるー!」
「なんでも!?」
それはあれやこれやそんなこともオッケーということですか! と若者が素早さでは負けたが、腕力であれば女性に負けるわけないとばかりに奮起するのだ。
だが、結果は言うまでもない。
涼鈴バニーガールは、次々と挑みかかる男たちを全て腕相撲でなぎ倒し、たんまりとドラッグを買収し、その山を積み上げていたずらっぽくウィンクして言うのだ。
「こういうのは程々にね――?」
大成功
🔵🔵🔵
月夜・玲
【PH】(f09466)
うぇ~~~いメリー討ち入り~~~~~!!
ドンドンドンドンドンおらおら四十七士のお通りじゃい!
陣太鼓~陣太鼓~ドンドンドンドンドン
良い子の君には仇の首!
悪い子の君にはズバっと一太刀!
吃驚した、引っ込む刀だよ!
持ち手の分だけ引っ込むから残った部分はただの鉄の棒!
痛いって?今日はパーティー無礼講でしょ!
enjoyしなきゃ勿体ないんだぜ!
それじゃあ駆け付け一杯イエーイ!🍺💥🍺
もっと強くてキくやつ出して!
やくめでしょはやく!
オラオラ出せ出せ、ヤクを出せ!
良いの持ってんだろ良いの!
それじゃああけましたメリークリスマス!
戒道・蔵乃祐
【PH】(f01605)
あれ月夜さん??何処行った?
うわっ…壁ドンしてピョンピョンさせてる…手馴れてる~~~僕が真似すると出入り口が増えちゃうからなあ
場馴れするために景気づけに一杯やりますかね🍺💥🍺
あぁ~~!脳細胞が破壊される音ォ~~~!
∩(^∀^)∩
うらあ!ッタッテンダらあああん?kーーーーーちゃっすぞあああああん???
兄ちゃん姉ちゃんちょっと裏行こか?な?なんやなんやそれ?なああああんやそれええええ?あ?くれる?ありがとオオここへはともだちときたん?
ボクにも紹介して欲しいなァ?誰や?おらんことはないやろ??あぁーーー?
心カゞ、ζ、ゎ、ζ、ゎすゑ➰メリークリスマス!来年もヨロシク!
「うぇ~~~いメリー討ち入り~~~~!!」
その声は盛大にナイトクラブの入り口で放たれた。
あまりにも混じりまくっている和洋折衷な言葉。
討ち入り?
ナイトクラブに入り浸っていた若者たちは、その言葉の意味を理解できなかったかもしれない。
けれど、彼等はパリピである。
意味などわからなくてもノリだけでなんとなーく世間の荒波を乗り切ってきている者たちである。
ならばこそ、世の事は全てノリで解決できるものである。
「ドンドンドンドンドン! おらおら四十七士のお通りじゃい!」
陣太鼓をどんどんやってナイトクラブにダイナミック入店したのは、月夜・玲(頂の探究者・f01605)である。
彼女は黙っていたら美女である。
仕事のできるおねーさんと言ってもいい。過言じゃない。ちょっと喋り始めると、その、えっと、そんのぉ……ってなるところもあるが、誰がどう見たって美女にカテゴライズされるのである。
そんな彼女がダイナミックナイトクラブにインすれば、若者たちのテンションは沸き立つというものである。
「うぇ~~~い! おねーさんおもしれーね!」
「良い子の君には仇の首! 悪い子の君にはズバッと一太刀!」
ぶんがぶんが刀を振り回す玲。
その刀を近場にいた若者のお腹にぶっすり。
うお、あっぶね! もしかして、すでに相当キマってらっしゃる? と若者たちは思った。
いきなりの刃傷沙汰である。
だが、玲は軽く笑いながら手にした刀を引き抜く。そこにあったのは血塗れの刀身ではなく、バネじかけで引っ込むようになったパーティグッズであった。
「吃驚した? 吃驚した? ねえ、刺されたと思った?」
ぐりぐりぐりぐり。
玲は構わずぐりぐりしていた。まじでぐりぐりしていた痛い。
「ちょ、痛いっておねーさん。いや、ホント、えっ、まじで痛いから!? なんでやめてくんないの!?」
「今日は無礼講でしょ! パーティーでしょ! enjoyしなきゃ勿体ないんだぜ!」
「え、話聞いてくれない感じ!?」
「それじゃあ駆けつけ一杯イエーイ!」
まるでマシンガンである。玲のダイナミック入店にかき消される感じで、するっとナイトクラブに入店していた戒道・蔵乃祐(荒法師・f09466)はあっという間に玲の姿を見失っていた。
彼はこのナイトクラブに『骸の海の混入したドラッグ』を回収しにやってきていた。
いわば、猟兵としての責務をちゃんと果たそうとしていたのである。偉い!
けれど、共に来た玲は早々にパリピに混じって、一杯うぇいうぇいしている。
「月夜さん? あれ!? マジで何処行った?」
そんな蔵乃祐が見たのは、壁際で玲が若者に壁ドンしてピョンピョン……カツアゲしている光景絵あった。
うわ~手慣れてる~~~~と蔵乃祐は関心しきりであった。
絶対良い子は真似してはダメである。ダメだぞ!
「僕が真似したって、出入り口を増やしちゃうだけですからね……」
あのやり方はやめとこ、と蔵乃祐は己の有り余る膂力を発揮しない方向でどうにかく『骸の海の混入したドラッグ』を回収できないかと考えを巡らせる。
どうにかして仕事を完遂しなければならないという彼の真面目な考えはとても好感が持てるものであった。
けれど、こういうナイトクラブにおいて蔵乃祐の筋骨隆々たる肉体美は、別の意味で注目の的であった。
「おい、あれってバウンサー? すっげぇ、大胸筋……」
「いやいや、腹斜筋も見ろよ。キレまくってんじゃん……すっげ」
「見せ筋じゃねーって、あれ……挑んでみよっかなぁ……」
「ばーか、お前じゃ相手にされねぇよ」
何をどう挑むっていうのかわからないが、蔵乃祐は蔵乃祐なりにモテモテであった。男が男に惚れられるっていうあれである。
そういう男気みたいなのが彼からは溢れているのかも知れない。
とはいえ、ここはナイトクラブ。
「イエーイ、戒道さんやってるー?」
イエーイと玲がグラスを手渡してくる。ドラッグ入りではないことは確認済みである。ならば、駆けつけ一杯!
「場馴れするためですね。では、遠慮なく」
カチーン! とグラスがぶつかって軽快な音が響き渡る。
二人で一気に煽れば、それは気分爽快!
そう、アルコールは二十歳になってから! 二人とも二十歳を超えているので問題なし!
「あぁ~~! 脳細胞が破壊される音ォ~~~!」
その一杯が切欠であった。
蔵乃祐は、ただの一杯で出来上がっていた。
どう考えてもやべー酔い方をしていた。
「あ~戒道さんって、コップ一杯でダメになる感じなんだね」
玲さんが知っていたのならば止めたのかも知れない。いや、おもろいから黙っとこって思ったかも知れない。多分後者。
「うらあ! ッタッテンダらああああん?――ちゃっすぞあああああん???」
ぶっ壊れたのかな? となるほどに蔵乃祐は普段の彼からは想像できないほどに、こう……その、あれな感じになっていた。
酒乱ってこういうことを言うのかなって思わないでもない。
そんな乱れっぷり。
返して。普段の理知的なマッチョな蔵乃祐返して。
「兄ちゃん姉ちゃんちょっと裏行こか? な?」
「え、僕らっすか!?」
「えーなにこの人ー」
「なんやなんやそれ? なああああんやそれええええ?」
これは親戚の集まりで一人はいる厄介なおじさんのムーブである。それは素面では絶対にできない行動であった。
若人に混ざりたいけど、素直に混ざれない。
だから、こんな恫喝めいた事をしてしまう。素直になれない。だって酔ってんだもん☆ というやつである。
ちょっと怖い。
「いや、いや、えっと、これ、これあげますから勘弁してください!」
蔵乃祐の前に差し出されるドラッグ。
それを受け取って蔵乃祐はにっこし笑顔になる。
「ありがとオオここへはともだちきたん?」
「ひっ」
「ボクにも紹介してほしいなァ? 誰や? おらんことはないやろ??」
まじで絡み酒である。勘弁してあげてほしい。
身につまされる思いである。そんな彼を止められるのは同伴者の玲さんだけである。しかし、そんな玲さんも壁ドンからのカツアゲピョンピョンで忙しいのだ。
「もっと強くキくやつ出して!」
「え、いや……その……」
玲さんは一人の若者を執拗に追いかけ回していた。彼女の心の琴線のなにかに触れたのかも知れない。ただの酔っ払いの絡み酒であったのかもしれない。
どう考えても場末のスナックにいる感じのあかん感じのアレでしかない。
「やくめでしょはやく! オラオラ出せだせ、ヤクを出せ! 良いの持ってんだろ良いの!」
ぐいぐいどんどん。
もうめちゃくちゃである。やりたい放題であるとも言える。
玲さんみたいな美人なら詰め寄られてもいい気もするが……。
「あけましたメリークリスマス!」
あ、やっぱナシで。
そんなどんちゃん騒ぎという名のあれな客に絡まれまくってドラッグをカツアゲされまくる若者たちは這々の体でクラブから逃げ出そうとする。
しかし、その足をぐいっと掴む野太い手があった。
彼等が振り返った先にあったのは蔵乃祐の、酒乱の波動に目覚めた顔であった。
お決まりであるが、あえて言わせていただこう。
ご唱和ください!
「心カゞ、ζ、ゎ、ζ、ゎすゑ➰メリークリスマス! 来年もヨロシク!」
なんて――!?
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ステラ・タタリクス
うーむ
この亜麻色の髪の乙女……じゃなかった男は本当に|エイル様《主人様》に連なる情報となり得るのでしょうか?
わかりませんね、メイドセンサーは何も答えてくれない……
ところでナイアルテ様?
せっかくのクリスマスですし、黒猫仕様で『うぇい』していただけませんか?
とりあえず今回の事件はメイドな私にとっては天職のようなもの
って、え?メイドの募集はしてない?
そんなぁ……仕方ありません
ここはパリピとなって仕掛けましょう
テンアゲMAXで!シャウトしていきます!
「エイル様だいすきーーーー!!」
ふふ、私のシャウトに動きを止めましたね?
その瞬間に早業でドリンクを交換していく所存
ええ、メイドたるもの
この程度は楽勝です
ステラ・タタリクス(紫苑・f33899)は多くのレポートや報告書といった類の書類を見返していた。
難しい顔をしている。
丸メガネが叡智の証明であったのならば、彼女であっても解き明かせぬ謎が未だ世界には多く存在している。
「うーん、この亜麻色の髪の乙女……じゃなかった男は本当に|『エイル』様《主人様》に連なる情報となり得るのでしょうか?」
疑問ばかりが浮かび上がってしまう。
彼女が『主人様』と呼び慕う存在。
『エイル』と同じ亜麻色の髪を持つ男。
その男の存在と邂逅を果たしたのならば、また異なる情報が得られるのだろうか。
「わかりませんね、メイドセンサーは何も答えてくれない……」
難しいことばかりである。
世の中は自分の思い通りには進まない。
自分の世界の中心が『主人様』であるというのならば、答えはイエスである。世界を回すのはいつだって『主人様』なのである。
ステラはその回る世界を走るだけなのだ。
「ところで――」
ステラはサイバーザナドゥに猟兵を転移させることを担当しているグリモア猟兵に一つ提案してみせる。
これから向かうナイトクラブは、パリピの巣窟。
ならばこそ、うぇい! の手本を見せてほしいのだ。
「是非この猫耳をつけて」
その言葉が最後だった。
ステラは一直線にサイバーザナドゥのナイトクラブに転移させれていた。
「照れ屋さんですね……とは言え、今回の事件はメイドな私にとっては天職のようなもの」
ふふ、とステラは己の姿を示して、ばーん! とナイトクラブの支配人に掛け合うのだ。
「いや、メイドはいらないんだけど。どっちかってーと、バニーガールとか踊り子さんのが……」
その言葉にステラがビシリと音を立てる。
メイドの自信に亀裂が走る。
だが、メイドはくじけない。もしかしたら『主人様』へと繋がる情報があるかもしれないのだ。こんなことではへこたれないのだ!
「そんなぁ……仕方ありません」
ならば、とステラはナイトクラブに真正面から飛び込む。
メイド服姿の丸メガネの素敵な女性が飛び込んでくれば、ナイトクラブに来ていた若者たちは目を惹かれるだろう。
「お、メイドさんじゃーん! ご奉仕して~」
(笑)みたいな語尾が見えてそうな軽薄な男たちが寄ってくる。
どう考えてもドラッグがキマっているのだろう。
普段はそうではなくても、こういう場では日頃のストレスを開放するために多少下品になってしまうというものである。
それに加えて見目麗しい美少女メイドが目の前にいたのならば、理性のタガなんてまるで役に立たないのである。
若者たちがステラを取り囲む。
だが、ステラは恐怖に怯えるようなただの美少女ではない。
彼女はメイドでありながら猟兵。
そして、もっと言うのならば、ご主人様を探し求める献身的なメイド(ホンニンハソウオモッテイル)なのである。
すぅ、と彼女の胸が膨らむ。
息を吸い込んだのだ。若者の下卑た笑い顔と手が彼女の胸元に伸びた瞬間、彼女の口から吐き出されたのは裂帛の気合。
否!
「『エイル』様だいすき――――!!」
すーきー!
すーきー! すーきー!!
エコがナイトクラブにかかりまくる。ブースターを噛ませていなくてよかった。音割れでノイズがすごいことになっていただろう。
いや、そうでなくても彼女の叫びはナイトクラブに来ていた若者たち全ての動きを止めてしまう。
彼女のシャウトという名の愛の叫びは、彼らの身をすくませる。
その僅かな一瞬に置いて、ステラは提供されていた飲み物を全て安全なものへとすり替えていくのだ。
そう、メイドたるものこれくらいは楽勝なのである。
そうかな? そうかも?
「やべーな、このメイド……」
まだ耳がキンキンしていると若者たちはステラの愛のシャウトに恐れおののきながら、このメイドには手を出してはならないと、強く己達の心を戒める。
それは時にドラッグの誘惑すらも押しのけるほどの、やべーメイド感情を齎したのだった――!
大成功
🔵🔵🔵
ラップトップ・アイヴァー
【セイ研】
《折角のクリスマスがこの様な気分はどう?》
うっふふ素敵なナイトクラブですわね!
…本当に、全く。
《…キレてるな。
元がスポーツ選手だからか。ま、みきも麻薬騒ぎを許す気はないから。
にこたまセンセと一緒にほら》
うふふっそうしましょにいにい!
そーれれっつごー♪
《大丈夫かこの人たち……??
ってなるくらいの演技、素敵なの》
…あら、ハンドサイン。
なるほどそういうことですのね!
では私も安心して、何も考えてないウェイ系のパリピを演じて、マイクパフォーマンスと洒落込もうかしら?
パーティですもの、客の気分を煽って…気を惹きつけて!
皆さー↑ん↓?
盛り上がってますわよねーーー!?
こんな感じで、あとはにいにいが!
《そう、計画通りにやってくれる。
後はお姉ちゃんが薬品を盗んだセンセを連れて離脱して、ミッションコンプリート、だよね》
優しさで以て、あらあらうふふ、少しはしゃぎ過ぎたかしら、なんて自然な感じで誘導すれば、回収もうまくいきますわね!
ええ! サイバーザナドゥ、いい世界ですわね!
うぇーい!
《うん、楽しいよ》
新田・にこたま
【セイ研】
美希さん、シエルさん。今日の私は重度のジャンキーで頭空っぽのパリピ女子です。
というわけで―――シエシエ♪とりま、行こ☆ワタシ、早くキメなきゃ頭割れて死んじゃう♡(笑顔だが濁った瞳。頭をガリガリと掻き毟り)※【演技】
会場入りと同時にドラッグ服用。恍惚。
実際は心臓炉心を起点とした循環器系の【浄化】システムで無毒化しますが。
シエルさんにはハンドサインで伝えます。
事前打ち合わせ通りシエルさんのマイクパフォーマンスに合わせて【ダンス】。シエルさんが会場を熱狂させてくれていますし、私はジャンキーっぷりを会場入りから見せつけています。
なので様々な理由のトリップからダンスの勢いで人や物にぶつかりまくっても不思議ではないでしょう。
―――骸の海が混入した飲食物や、それらを混入させた人間たちにぶつかっても。
私の目であれば全てを見切れます。※【見切り】
飲食物はぶち撒けて、人間からはぶつかり様にドラッグを【盗み】取りましょう。スリにできることは警察にもできます。
お二人とも…これがサイバーザナドゥっしょ♪
サイバーザナドゥのクリスマスパーティにおいてドラッグはつきものである。
金至上主義な世界にあって、金を得ることは大変にストレスフルな作業である。できることなら、やりたくない。やりたくはないが、やらねば金が手に入らない。
金がなければ人権すら無い。
金で買えぬものは多々あれど、買えぬものをどうこうするための人情やら愛やら、希望なんてものは、たいてい金でどうこうできてしまうものなのである。
だからこそ、金が必要なのだ。
しかし、そんな金ばっかりを追い求めていたら心が壊れてしまう。
なので、そんなときにはこれ!
そう! ドラッグである!
《折角のクリスマスがこのような気分はどう?》
色とどりのライトで照らされているナイトクラブの中で、ラップトップ・アイヴァー(動く姫君・f37972)……多重人格者である彼女の中の人格、美希がもう一つの人格であるシエロに尋ねる。
「うっふふ素敵なナイトクラブですわね! ……本当に、全く」
ああ、これはキレてるやつだな、と美希は思った。
元は双子であったからこそ、余計にわかってしまう。
彼女たちはアスリートアースで生まれた者たちだ。彼女たちにとって、スポーツは公正でなければならない。
超人的な競技ばかりがひしめくアスリートアースだからこそ、尚更のことであっただろう。
元スポーツ選手だったから、という理由もあるだろう。
けれど、その思いはシエロと美希は同じくする。
《ま、みきも麻薬騒ぎを許す気はないから。にこたまセンセと一緒にほら》
一緒に来ていた新田・にこたま(普通の武装警官・f36679)を示す。
「美希さん、シエルさん。今日の私は重度のジャンキーで頭空っぽのパリピ女子です。というわけで――」
え。
にこたまはなんかスイッチが入ったように虚ろな目になる。
これが演技に入る前の女優の顔であったのかもしれない。多分違う。
「――シエシエ♪ とりま、行こ☆」
びっくりするくらいの演技であった。
すごい豹変っぷりであった。
笑顔だけどとんでもなく濁った瞳。
「ワタシ、早くキメなきゃ頭割れて死んじゃう♡」
ガリガリと頭を掻きむしっている姿は、いつものにこたまではなかった。
「うふふっそうしましょにいにい! そーれれっつごー♪」
そんな二人の様子に美希は本当に大丈夫か? と思った。でも素敵である。ナイトクラブに潜入するのならば、それくらいのことはやってのけなければならないのである。
そういう意味では二人はとてもナイトクラブの雰囲気に溶け込んでいた。
「うぇーい! いらっしゃーい! とりま、駆けつけ一杯どうぞぅ! はい、それ、いっき! いっき! うぇいうぇい!」
ナイトクラブに入ればすぐに若者が蛍光色ギットギトのなんか、体に悪そう! という飲み物を持ってくる。
ウェルカムドリンクって言っても、流石に限度があるだろうというものであったが、にこたまは躊躇いなく受け取って飲み干す。
確実にドラッグが混ぜられているはずだが、そんなの関係ないとばかりに彼女は一気に飲み干す。
「う、ふ~……♡ キ、くぅ……」
にこたまの顔は恍惚に濡れるようであった。
ミイラ取りがミイラになってるんじゃないかと美希は思ったが、にこたまがダブルピースで大丈夫だと伝えてくる。
事前にパリピっぽいハンドサインを決めていたのだ。
ダブルピースは、『骸の海が混入したドラッグ』ではない、という符丁なのである。
「あ~、これいいよぉ♡ シエシエもほらぁ♡」
「ええ、それじゃあいただきますわ!」
あ、それ、と一気にシエロことシエシエも一気に煽る。
「お~! いいじゃんいいじゃん! いいねぇ!」
若者が乗りの良い女性二人の来訪を心から歓迎するように、奥へと案内してくれる。
確かに飲み物には『骸の海が混入したドラッグ』は入っていない。けれど、通常のドラッグは普通に混ぜられているのだ。
それは若者が訪れた女性をお持ち帰りするためのものであり、明らかに健康被害がでるものであった。
けれど、にこたまは心臓炉心を起点とした循環器系の浄化システムで無毒化しているのだ。
美希とシエロもまた同様である。
飲んだふりをして、さっとにこたまにからのグラスと交換してもらっているのである。あまりの早業に若者は気がつけなかっただろう。
「ねぇ、ちょっとよろしいのですの?」
「うん? なんだい? なんでもいってよ、フゥー!」
すでにキマっている若者は彼女が何者であるかわかっていないようである。楽しければ何でもいい。日頃のストレスを発散できればそれでいいとばかりに回らぬ頭で彼女の言葉に耳を傾ける。
何をするのかと言うのは、にこたまと事前に打ち合わせをしていた通りである。
すなわち、ナイトクラブに来ている者たちの気を惹き付けること。
そういう点において、アスリートアースでアスリートをやっていた彼女たちは適任であった。
勝利のマイクパフォーマンス、そして人々を惹き付ける所作というのは、競技をしていれば自ずと身につくものである。
「皆|さー《↑》|ん《↓》? 盛り上がってますわよね――!?」
頭空っぽなふりをした彼女たちは何も考えていないウェイウェイな若者を演じてマイクパフォーマンスへと洒落込む。
すでにマイクは彼女の手の中。
つまり、この場を仕切っているのは彼女たちである。
お立ち台の上に立てば、すらりと伸びた足が健康美を若者たちの目に刻みつける。
くそう、ライトアップのせいで影になって見えない!
とは壇上の下にいる若者たちの言葉である。だが、そんな彼らにウィンクしながら美希とシエロはアゲアゲで煽り立てるのだ。
そう、パーティは客の気分を煽って惹き付けるのが本分である。
「さあ、アゲていきますわよー♡」
あったまからっぽのほうがいっぱいつめこめるのである。
そんな美希とシエロが壇上で軽く腰を振れば、それだけで若者たちは大いに沸き立つのである。
見えそうで見えない。
それが一番大切なことである。決して見えないけど見えるんじゃないかと期待してしまうのが、若者の、パリピの、男の性というものである。
流し目なんかを壇上から送られてしまえば、それはもう恋してしまってもしかたないのである。
そんな感じで大いに盛り上げた中をにこたまは泳ぐようにパリピの間に体を滑り込ませていく。
こんな大盛りあがりの中では、多少体がぶつかった程度で文句を言うものは居ない。
だからこそ、にこたまは動きやすかったのだ。
「おっと、ごめんよ」
「いいぇ、大丈夫でぇす♡」
濁った瞳のまま、にこたまはぶつかったついでというように男の胸元に指を触れて小首をかしげてみせる。
その表情に男は絶対に手を出したら破滅するけど、手を出したくなるような不思議な魅力を感じるだろう。
けれど、するりとにこたまの体は人並みの中に紛れていく。
そう、彼女の目的は男の胸ポケットの中にあった『骸の海が混入したドラッグ』なのだ。
それを凄腕のスリのように抜き取ったのだ。
「スリにできることは警察にもできます」
とは彼女の言葉である。
「……と、向こうも盛り上がっていますね。なら……」
にこたまは壇上に上がる。共にシエロ、美希と共にマイクパフォーマンスと一緒に盛り上げるために踊るのだ。
そうすれば、テンションの上がった若者たちが次々と彼女たちと同じように壇上に上がり、さらに会場のボルテージがあがっていくのだ。
「あらあらうふふ、少しはしゃぎすぎたかしら?」
「いいえ、これがいいのですよ。おふたりとも……これがサイバーザナドゥっしょ♪」
にっこり濁った瞳で笑うにこたまに、美希とシエロも思うのだ。
確かにドラッグ云々を抜きにすれば、ナイトクラブの乱痴気騒ぎも楽しいと言える。
だから、二人は頷くのだ。
「ええ! サイバーザナドゥ、良い世界ですわね!」
《うん、楽しいよ》
その言葉ににこたまは手を掲げる。
何事かと思ったことだろう。
簡単なことだ。大抵の若者は、テンションが極まったとき、ハイタッチというのが相場と決まっている。
何はともあれハイタッチである。
ハイタッチすれば、誰も彼もがその場では皆友達なのである。
故に、にこたまと美希、シエロはこのナイトクラブの中で最も高くハイタッチをし、お決まりのパリピの掛け声を一緒に響かせるのだ。
そう、クリスマスパーティ……?
『うぇーい♪』
イエイイエイ――!!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡みも歓迎!
メリー・クリスマス! ハッピーでピーポーなパーティーナイト! いぇいいぇい!
●UC『神知』
みんな楽しんでる~!?
と【カリスマ】と【歌唱】で会場の【ダンス】シーンを席巻していこう!
うぇいうぇい!
そうやって【催眠術】にでもかかったような原始のトランス状態を作り出してみんなで精神的交感していえいいえい!
これはヤクよりキまる!
みんなこれでボクを邪神くんたちより崇めてくれるようになったからね!
宗教勝利!
あ、その間に
【第六感】とかなんかその当たりのスキルでヤク入りを見抜いて…
ぽいぽいぽいっと[餓鬼球]くんの口に放り込んでいこう!
しゅわしゅわして美味しいって?よかった!
「メリー・クリスマス! ハッピーでピーポーなパーティーナイト! いぇいいぇい!」
それは高らかにナイトクラブに響き渡る声であった。
眼帯をしたピンク髪の少年が、ナイトクラブを照らすミラーボールを振り子のように揺らしながら、高いところから呼びかけている。
「みんな楽しんでる~!?」
それは、ロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)であった。
彼はミラーボールをぶらんぶらんさせながら、明滅するように綺羅びやかなナイトクラブの床に降り立つ。
「うぇーい!」
「うぇいうぇい!」
言葉はもういらないのである。
むしろ、語彙というものは、こういう場に置いて不必要であるとさえ言えるだろう。
肉体言語!
そう、踊らないという選択肢はないのである。
ナイトクラブに来たからには踊る! 騒ぐ! 飲み倒す!
それがサイバーザナドゥのナイトクラブであり、またドラッグパーティたるクリスマスの夜に相応しいものであった。
そして、ロニは言うまでもなく神性である。
猟兵である以前に神性であればこそ、このような乱痴気騒ぎというのは、一緒のトランス状態を生み出すものだ。
誰も彼もが前後不覚になってしまうほどに、この状況の空気は異常なものであった。
まるで催眠術にかかったかのような原始のトランス状態は、まるで精神的交感を示すようでも合ったことだろう。
「いえいえいえい! えーい! ってね! これはヤクよりキまるよ!」
神知(ゴッドノウズ)たるユーベルコードの輝き。
あらゆるアート以外の技能が尋常ならざる高みまで昇華したロニのダンスは、人々をひきつけ、さらなる狂乱へと引きずり込む。
さらに歌えば、その声が人々の心をかき乱す。
言ってしまえば、もう彼らの心は極彩色そのものであった。
何処を見ても色が溢れている。
何処を見ても同じ景色はない。
あるのはぐんにゃりと歪んだ世界と、ビビットなカラーに様変わりした光ばかり。
「あれ~……なんだこれ、すんげぇ、ぞ?」
「世界が回ってるのか? 俺が回っているのじゃなく? いや、俺が回してんだよな!」
「アハハハ! みんなこれでボクを邪神くんたちより崇めてくれるようになったからね!」
お薬よりも歌とダンス!
これこそが生物的原始欲求!
それをかき乱し、振り回し、ロニという神性に向ける行い。
それは言ってしまえば、宗教的勝利ともいえるだろう!
「たのしいねぇ! みんなが楽しいって思っているとボクも楽しいよ! 楽しいってことは共有することができる! うんうん、心より楽しんでくれてうれしいよ!」
その隙にロニは『骸の海の混入したドラッグ』を引き抜いていく。
どうやってわかるのかって?
勘である。
第六感という便利な言葉がある。大抵のことは、これでなんとかなるってもんであるとばかりにロニは次々と『骸の海が混入したドラッグ』を引っこ抜いては、ポイポイっと球体の口の中に放り込んでいく。
骸の海を注入されてしまえば人々はオブリビオンに返られてしまう。
この骸の海が雨として降り注ぐ世界にあって、これほどまでに人体に影響を与えるものもないだろう。
だからこそ、ロニは球体の中に放り込んで、後でぺってさせるのである。
「どう? 変な感じ?」
ロニの言葉に球体たちの顎がカクカク空いたり閉じたりしている。
「あーしゅわしゅわしてるんだ? なら、あとで、ぺっとしよね」
ロニは、その感想にケタケタ笑いながら、ナイトクラブに存在していた『骸の海の混入したドラッグ』を全て回収する。
ドラッグは確かに心の負担を軽くするものであったのかもしれない。
けれど、そんなものなくたってトリップすることはできるのだ。
だからこそ、ロニは最後に一言ナイトクラブに響き渡るように言うのだ。
「さ、みんな馬鹿になって踊って歌って! 今日はパッピーメリークリスマス! ハッピーなピーポーな君等が主役だよ!」
いえいいえい! とロニは拳を突き上げながら、サイバーザナドゥの聖夜に大騒ぎを巻き起こしていくのでった――。
大成功
🔵🔵🔵