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女子大生刺殺事件――茜沢ねいという彼女

#UDCアース

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●茜沢ねいという彼女
 ――茜沢ねいという彼女を嫌う人はそうそういなかった筈なのだ。

 某私大のコミュニケーションなんて単語がついた学科所属の文学部1年生。所属サークルは『旅をする会』なんてふわっとした交流サークル。
 やや控えめな性格。だが、高すぎず聞きやすいメゾソプラノでのややおっとりめしゃべり方は、相手に安心感と主導権を与えることもあり、常に誰かがそばにいた。
 やや唇が大きくはあるがくりっとした瞳に色白肌は可愛らしい部類だし、やや抑えた抜き方の髪色も親しみやすさ増していた。
 やや。
 これが彼女を示すキーワードだ。
 出過ぎない、譲っていると相手に気遣わせない、だから彼女を概ね誰にも好かれたが、集団の中心となって派手な人気者から目をつけられるということもなかった。
 なかった、筈なのだ。
 でもならばどうしてだろう?
 ある雨の日の夜、彼女は何者かに胴体を斬り裂かれて殺されちゃったのだ。
 発見時、顔は自分の腸を覗き込めと命じられたように無理矢理に上半身を曲げられた状態。警察によると、そういった細工自体は大人の力があれば可能だそうな。

 ――茜沢ねいの葬式も終り数日。
 サークル『旅をする会』の部室には、あの日から剣呑とした空気が漂っている。
「あの子さぁ、妊娠してたんだってね」
 頬杖で窓の外に視線を向けたままで2年の支倉絢奈(はせくら・あやな)は昨日も言った台詞を投げ出した。
 細く開けた窓から吹き込む冬の風が、絢奈の纏う化粧品の匂いを満遍なく届ける。
 それを不快露わと鼻の頭に皺を寄せたのは、1年の高木海(たかぎ・うみ)彼女は中学時代からのねいと一緒。一緒に友達やってきた。
「……あの子のなにも知らないで、いい加減な事を言わないでください」
「えー? 警察に聞かれたんだもーん。『父親を知りませんか?』って」
 アイラインで際立たせたデカ目のつり目が、海の潔癖すぎるぐらい何も飾らぬ瞳に絡みつく。
「あの子、先輩の男取っちゃうタマじゃん。何言ってんの」
 流行のグロスは怒気に渇く。
 女同士の諍いを電子煙草を咥え肩を竦めるのはサークル会長の三河央(みかわ・おう)
「絢奈は俺が『そう』だって思ってるでしょー」
「うん、警察さんに言っちゃだめ?」
「ダメー。違うしー」
「アタシにやらせようとしたことやったんでしょ。あの子なんでもハイハイ聞いてくれるし」
「ねいはそんな子じゃないの!」
 ガンッ!
 海は壁を殴り無理や会話を断絶させると、けたたましい足音と共に出て行った。
「……お前こそ、なにも知らないくせに」
 一連の諍いから一歩引き、止めもせずただただ傍観していた1年の坂田英二(さかた・えいじ)の呟きは誰に聞かせるものでもなく吐息めいたもの。
 入れ替わりで来た1年のサークル員が、自分のタイミングの悪さを呪った。

●グリモアベースにて
「――とまぁ、既に大学生女子が死んでおるのだよ」
 鴉羽色のインバネスコートを翻し、稿・綴子(奇譚蒐集・f13141)は愉楽隠さずににたり笑う。
 不謹慎と言われたならば、このヤドリガミは『吾輩に記すに満ちたミステリーだよ』と嬉々として答えるだろう。そういう輩だ。
「諸君はまず『大学生女子 茜沢ねい』を殺した犯人を探しだしてくれるかね?」
 犯人はサークル員の中に、いる。
 彼らの関係性を物語り仕立てで綴子が語ったのが、先のモノ。
「勿論、邪神絡みさぁ! なんでも、ある教団より『邪神召喚に関わる宝珠』が動いた。それを廻っての事件なのは確実である」
 さぁ、犯人が邪神教団の介入を受けたか、もしくは被害者が? それとも……?
 犯人を探す過程で得られる情報にヒントがあるやもしれぬし、犯人確定で一気にカラクリがわかるのやもしれぬ。
「まぁよ、UDCの協力は取り付け済みであるからして、被疑者と接触の為に大学をうろついて話しかけても問題は起らぬよ。そこは安心し給え」
 調査は主にサークル員の誰かに接触に情報を集めることになる。それ以外からの情報収集、その他の有効と思うなら試してみるがよかろう。
「ミステリー小説の登場人物になれるとは、まこと羨ましい限り! さぁさぁ、行ってきてくれ給え!」
 胸に手を宛て深々と芝居がかったお辞儀で見送る。
「不肖稿綴子、観劇者と同時に諸君のバックアップは確りと勤めさせて頂く所存。どうかこの『事件(譚)』を頼むぞ」


一縷野望
 ご覧いただきありがとうございます、一縷野です。
 第1章では「誰が殺したかを当てる為の調査」に絞ってプレイングをかけてください。
(「トリック」や「アリバイが~」は用意しておりません)

 プレイングはフラグメントに囚われず、また能力値は一切お気になさらずに、やりたいように好きなようにどうぞ!

●補足
 年齢性別を問わず大学に出入りできて接触できます。
(接触の仕方を工夫するのはお任せします)
 接触人数を減らした方がより深い情報が得られます。
 前章で出た情報は全ての猟兵に即座に共有されるので、プレイングに記載は不要です。

●被疑者
 全員『旅をする会』のサークル員、登場順に情報まとめ。

『支倉・絢奈(はせくら・あやな)』
 文学部英文科2年、派手目女子。キツい物言いがコンプレックス。1年の頃は央の動画によくでていた。

『高木・海(たかぎ・うみ)』
 ねいと同じクラスの1年生。
 被害者のねいとは中学時代から一緒、堅物と言える程に潔癖な所がある。

『三河・央(みかわ・おう)』
 教育学部2年。とにかく社交家、承認欲求が強いが満たす術もうまい男。旅動画の配信をしている。

『坂田英二(さかた・えいじ)』
 心理学科1年生。
 大柄で寡黙、サークルの中でも一歩引いた感じ。

『サークル1年生』
 この刺々しい空気が辛い。

 犯人以外からの情報も勿論重要です。
 皆さんが引き出してくれたことをつなぎ合わせて犯人が浮かぶ、読むだけのミステリーでは得られない愉しみを届けるべく全力を尽します。
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第1章 冒険 『嘘つきは誰だ』

POW   :    力を見せつけるなど精神的プレッシャーにより自白させる

SPD   :    容疑者達の一挙一動を素早く観察し、不審なそぶりを見せた者を探す

WIZ   :    容疑者達のアリバイや主張に矛盾点がないか考え、嘘をついてる人を特定する

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



『旅をするふたり』
 央ji(おうじ)こと三河・央とあややこと支倉・絢奈が、大学1年の夏にはじめた旅行生放送動画である。
 当初は大学生男女の2人旅で面白味もなく、再生数も雀の涙。
 ブレイクしたのは冬休み、旅行での痴話喧嘩が誤って生放送にのってしまったのがキッカケだ。
 それぞれが弱った心を晒し、視聴者達がコメントでアドバイスしたり叱ったり。最後は強気の絢奈の本音を視聴者が代弁して仲直り……を、リアルタイムで流し続けた。
 その時の『央jiのイッケメーン対応』と『あややの強気な女が素直になる瞬間可愛い』が印象に残り、以後もハプニングを売りにした人気動画コンテンツに成り上がった。
 友達のように『人気実況者カップル』に介入できる優越感は、それほどに視聴者の心を捉えたのだ――はじめは。
涼風・穹
俺はまあ外堀を埋める方から
『旅をする会』の顧問や、各学年の必修科目担当の教授辺りから『茜沢ねい』や他のサークルメンバーについて聞いてみよう
評判や交友関係等々、サークルメンバー当人達から聞くのとはまた違う内容の話が聞けるだろうしな
……欲を言えば大学側で把握している各人の成績や講義への出席状況、合わせて家族状況や住宅環境も調べられれば、各人がどんな生活をしているのかある程度分かりそうなものだけどこの辺りはもろに個人情報がどうのと言われそうな辺りだし流石に厳しいか…?

それと、まあバイト先や家族からも話を聞ければ有難い
大学とはまた違う環境下では別の顔を見せていたり、何か問題を抱えているかもしれないしな




「まぁ顧問と言っても名前だけだよ、一々監督が必要な子供でもないからねえ」
 涼風・穹(人間の探索者・f02404)を前に、理系助教授の壮年男性はうんざりを隠そうともしない。
「すみません、警察が聞いたことと重なるとは思うんですが」
 丁重に詫びた上でまずは基礎情報の総ざらえと、穹は自分のペースで質問を投げる。
 話によれば『旅をする会』は高校時代の放送部仲間だった三河央と支倉絢奈が1年の時に設立したという。
 数合わせで名前を貸した当時のクラスメートは幽霊部員化。
 動画が当たっていた春には10名の1年生が入ったが、残ったのは高木海と坂田英二、そして茜沢ねい、そこに秋に入った山本という男子の4人が1年のサークル生だ。
「人間関係のもめごとは耳にしないねぇ」
「そうですか」
 事なかれ主義の顧問の言うことだ、信憑性は低いが同時に突っ込んでも有効な情報は得られぬとも理解している。
 幸いにも、顧問が1年の一般教養を担当していた為、授業の素行が聞けたのは収穫であった。
 2年2人は旅行が多く出席日数ギリギリ。1年は海が無遅刻無欠勤で、あとは可もなく不可もなく。
「高木さんと亡くなった茜沢さんは同郷出身でマンションも隣同志だったと聞いているよ――だからかねぇ、課題レポートも同じ知識から書かれたようだったよ。はは、証拠はないし、どちらへも単位は出したよ」
 助教授の笑みが苦いのはブラック珈琲だけのせいではあるまいて。

「さすがにバイト先は友人に当たらないと無理か」
 今回は彼らの自宅住所がUDC組織からの情報でまわってきているので、穹は足を運ぶことにする。
 とはいえ1年は全員親元を離れており、小間使いがいる程に裕福な央の家では門前払い。捕まったのは買い物帰りの絢奈の母のみ。
 凡庸な50前の女はまずは娘の擁護を並べ立てた。
「絢奈じゃありません。あの子は亡くなったお嬢さんとも仲が良かったんですから!」
 意外な情報に穹は瞠目するも、相づちは変わらず続ける。探索者としての日々が穹へ会話面で如才なさ与えた。嫌でも情報収集は必須だ、でないと命を堕とす。
「何度か絢奈が連れてくることもあったんですよ」
「茜沢さんおひとりを、ですか?」
 暗に、海も一緒ではなかったかとの問いかけに母親は首を縦に振る。
「どんな感じでしたか?」
「ふさぎ込む絢奈の相談にのってくれてる感じだったわ。おっとりしてるけれどリードする感じのお嬢さん。うちの子、ああ見えて物事を決めるのが苦手なところがあるから」
 ――リードする感じ。
 これまた先の助教授の語った海との関係とは相反する。
 再び娘の擁護をしだす母親が落ち着いた所で「時期は?」と問えばこう返る。
「2年になって旅行癖もおさまって真面目に大学に行きはじめて安心してたんですけど、夏辺りから思い悩むことが多くなって……」
「そうですか。亡くなった茜沢さんは最近も来てましたか?」
「いいえ。最後に来たのは……秋ね」
 どうやらその頃に絢奈と茜沢ねいは関係が悪化したようだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

四ツ辻・真夜
サークル動画に目を通す
コミュ力で茜沢さんやサークル評判を聞いて回りましょう

こう言うのって噂話を聞くに限るじゃない?
猫も杓子も
陰惨な事件だからってみんな顔を伏せるけど
だからこそ内心では興味津々なんだよねぇ

クラスメイト
教員
サークルに以前所属してた人
近い所にいたけど自分は関係ないって人の方が気軽に打ち明けそう

真面目人には新聞記者
遊び人系はゴシップ雑誌を騙り取材の体で
答えの違いも比べつつ
「彼女、結構モテたんだねぇ
「サークルやめちゃったの?何で?
どこ行って何したとか
特に支倉さんが動画に出なくなった前後の時期を詳しく

黒い噂や異性関係の爛れ話を深く聴けそうなら
「勿論タダでとは言わないよ。ランチを奢らせて頂戴




 ――さぁて、相手によって印象を変える必要があるとしたら、果たしてどういう理由だろうか?
 四ツ辻・真夜(幽幻交差・f11923)の行動を見れば、可能性の1つが浮かび上がる。
 ひっつめ髪の新聞記者は「浮ついた報道の餌食にしたくはない」と嘯き教職員より、先の穹と一部重なる情報を得た。
 そして今は、ぱちりと髪留めは外しゆるく軽妙で軽薄な笑みを浮かべ、以前サークルにいた1年男子を捕まえている。
「サークルやめちゃったの? 何で? ああ、私ね、こういう者なんだけど……」
 ゴシップ雑誌記者の名刺を渡し、如何にも『派手なことして目立つ人の友達になれば、自分も凄い』と信じてそうな彼らへ畳みかける。
 ……相手が好むように自分を変えてインスタントに好感が得る。勿論、真夜は露骨に意図して行っている。さて、茜沢ねいは?
「『旅するふたり』の彼と彼女が痴情のもつれの末に猟奇殺人って、本当のところどうなの?」
 知りたい中身に辿りつく為に、薄皮から剥がして丁寧に味わおう。

 個室居酒屋のランチで緩くなったお口の彼らが語るには――。
「……ふうん、喧嘩が本当になっちゃって別れたんだねぇ」
 食後のソフトドリンクのストローを折り曲げたり戻したり、真夜の指先に気を取られる辺り彼らは若い。
「いや、動画の喧嘩はガチだったからおもしろかったんすよ」
「仲直りまで既定路線だから安心して見られたしー」
 央をもてはやすのは、ガチと既定路線が相反すると思わぬ感覚を持つ者達。
「大学で一緒って自慢ダメとか央ji超塩対応、ガッカリっすよ」
「動画のイケメーン詐欺だよ、詐欺!」
 それがサークルを抜けた理由のようだ。個人情報垂れ流しにされると困るでしょうと咎めるのも莫迦らしい。
(「この価値観に迎合する手っ取り早い方法は、ヤラセだろうが過激なイベントを仕掛ければいい……」)
「央jiってあややセンパイに、アレ……集団レイプ? 動画やろうって持ちかけたとかなんとか」
 今度は『レイプ』を『持ちかける』ときた。
「それは……穏やかじゃない話だねぇ」
「あ、おねーさん引いてる?」
「噂っすよ噂。資金源がヤクザとかー、あはは」
 慌てて打ち消す彼らへ、真夜は万年筆を止めて「茜沢さん」と名を出し瞳で促してみる。
「や、茜ちゃんはないっしょ。あの子はすれてない良い子だもん」
「あー、ありそうっすね。集団アレ動画あややの代わりにやったんじゃないっすか? 央ji最近羽振りいいっすよ、あけおめ福袋爆買い動画アップしてたし」
 今まで異口同音だった彼らは真逆を吐き、それぞれがギョッと瞳を剥いている。
 ……あれやこれやと言い合ってるのを拾い上げると、こういうことらしい。
 前者は『学科が同じな彼女に好感を寄せていたし、話した時も感じが良かった』
 後者は『央と絢奈に可愛がられて気にくわなかったし、俺には素っ気なかった』
 つまり、後者からは嫌われているから歓心を得る必要がなかった、そういうことだろうか?
(「それ『だけ』じゃない気もするけれど」)

大成功 🔵​🔵​🔵​

空廼・柩
すごいギスギスっぷりだね…
彼等がこれ迄仲違いをしなかったのも、殺された彼女のお陰なのかな
…邪神が関わっている以上傍観している訳にもいかないし
ちゃちゃっと事件解決を目指そうとしますか

事前に動画を見られるならばチェックは欠かさない
どうやら絢奈が以前は良く動画に出てたらしいけれど
…さて、今はどう変わったのかな
実際の調査に関してはどうするかな
気になるというか…調査にもってこいなのは英二
彼ならば一歩引いて物を見ていそうだから、確信とはいかずとも情報を得られそう
少し良心が痛むけれど【影纏い】を用いて彼を追跡
彼自身の事や、あわよくばサークル内の現状について実際に確認出来るかも知れない
些細な事でも聞き逃さない


ベリンダ・レッドマン
ミステリー!
頭を使うのは好きだが
故郷ゆえかあまり馴染みのない文化だね!
フーム!お役に立てるかなー!どうかなー!

私はネットを使って情報収集させてもらおうかな!
人から直に情報を引き出すよりは
そういう手段の方が好みだねえ

まずは三河くんが配信しているという旅動画について
過去ログを再生して何か情報がないかチェックを
あとはサークルの子たちのSNSアカウントに何か転がってないかな
三河くんは承認欲求が強いとの触れ込みだし
好きそうじゃないかい?そういうの!
非公開情報についてはハッキングを試みるが
見れたら儲けぐらいの気持ちだね!ダメ元さ!

サークルのサイトなどがあればそちらも見てみよう!
少しでも多く!情報を!




「ああ、それもつなぐといい」
 空廼・柩(からのひつぎ・f00796)がノートパソコンを手に現れたのに、色々察したベリンダ・レッドマン(直し屋ファイアーバード・f00619)は、大学食堂のテーブルの四人がけのテーブルで窓際に詰めた。
「すごいギスギスぶりだね……」
「ミステリー! とかいう小説文化もこういった複雑な人間関係も馴染みがないなー」
 喋りつつ鮮やかな手並みにて超高速ネット接続完了。柩は短く礼を言い珈琲を啜る。
「うえ」
 保温で煮詰まりすぎたか、苦い。
 自分で淹れれば薄くなり、店で飲めば苦い。丁度いい珈琲は何処に転がっているのだろう?
「……これ迄仲違いしなかったのも、殺された彼女のお陰なのかな」
 コップを置いて突っ伏すと、ズレた眼鏡のブリッジを押し上げる。
「本当にそう思ってるのかい?」
「……いや、ヒトクセもフタクセもありそうだ。そうだ、これから動画を調べるんだよね?」
「ああ、三河くんの配信してる旅動画について漁ってみようと思ってね。あとはSNS関連だ」
「手分けしないか? そのお手並みなら『見えないところ』をほじくり返すのもお得意でしょ?」
 その間もベリンダの指は軽やかにキーボードの上を舞い踊り、次々にブラウザのタブを増やしていた、それをYESととって柩は動画を開く。
「まぁダメ元さ! 承認欲求が強いとの触れ込みだし、コミュニティで王様気取りなんか好きそうじゃ……ああ、見つかったぞ!」
『旅をするひと』コミュニティ――公式動画から飛べたそこは、会員限定のオマケ生放送や、オフ会の参加権が得られるとの売り文句が飛び交っている。ちなみに1ヶ月500円が支援金。
 捨てアカウントで登録申請をしつつ、会員数の推移をベリンダは探る。

 珈琲のおかわり3杯目。
 小腹が空いたと買ったサンドウィッチはさして美味くもなく、スカスカに渇ききった。
「かなり集まったぞ」
 くるり横向くベリンダは、こうした1人で集中してやる作業には慣れているから相変わらず元気だ。
「まぁこっちもね。あんたから聞かせてよ」
 だらしなく崩れる白衣の肩側、柩の普段着も大学ならばよく馴染む。
「現状は不人気もいいところだな! 動画投稿も新年の『福袋爆開けいっちゃいまーす』だが、低評価の嵐だ」

 ・もはや旅じゃねーしw
 ・せめてその地方にしかない福袋なら『旅ふた』らしくていいんですが
 ・あやや、今回も顔出しなかったね

「コミュニティでも散々たるものだな、これでは喝采願望は満たせまい」
「秋以降でしょ、特にひどいの」
「ああ、その通りだよ!」
「「あややの顔出しがなくなった」」
 2人の台詞がシンクロした。
 以降に出てくる女は顔をマスクで隠し、央jiを持ち上げ毒舌がなくなった。
「これ、茜沢さんだよねー」
 顔なし、イメチェンしたと押してはいるが明らかに違和感しかない。
「これが通ると思った方がおかしいな!」
「まー、思っちゃいなかったんでしょー……それとも『いける』と思わされたか」
 ――茜沢ねいに。
 だが央jiと出ている『彼女』は、男受けしそうな服装に甘くやや舌っ足らずな声と、到底そういったシタタカさのイメージからは遠い。むしろ従順だ。
「結局、ブレイクした『本気喧嘩』動画だけの一発屋だよね。その後の『喧嘩』はヤラセだよ」
「だが、ヤラセでも良かったようだがな! ほら、秋までは新しい動画がくる度にウケてはいたようだ」
 ベリンダの見せる画面にはコミュニティの賑わいが並ぶ。
「あとこの『オフ会』の記事を見てくれ。殆どが『結局断わられた』とブーイングの嵐だろ? それでこっちを見てくれ」
 別のタグは、アングラ系の掲示板の寄せ集め。真偽の程は定かではにないが、と断りベリンダは続けた。

・あややと『愉しむ』オフ会、20万払った価値あったぜ。あややたん処女だった。でも最後の方は清楚ビッチ、20人プレイとかめちゃ興奮。
(※以下は、目も当てられないエロ小説めいたレポートが羅列される)
・え? 泊まり旅してた央jiとヤッてないの嘘くさくない?
・やっぱそのあやや偽物。

「秋から何度か『オフ会』があったんだねぇ」
 うんざりと溜息をついた柩は、影纏いで追わせていた英二の行動に喫驚する。
「どうしたんだい?」
「……いや。ほら、1人だけ外にいた英二っていたよね」
 どうやら彼もこの件を調べている、と口にする。
 ……更なる詳細な点は英二に接触する猟兵達の聞き取りに託すことに、なる。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヘンリエッタ・モリアーティ
【WIZ】
――うう、えっと、誰が殺したかを、推理していかなきゃ。
でも、だれかれ構わず聞きまわしてしまうと、きっと犯人を警戒させてしまう。
……一番、渦中にいるけれど、小島のような人……坂田英二さんにお話を、聞いてみよう、かな。ああでも、男の人、怖い……いけない、いけない。
選んだ理由は、一番【彼なりに】客観的に集団を見ていそうだから。
心理学科の一年生ということは、多少知識も、あるでしょうね……。
彼相手にコールドリーディング……は不作法かしら。話を【聞き出して】みましょう。わ、わたしも、そういうのは、教授、だった、もので。
私は彼を含めて集団を客観的に推理してみます。
――本当の事を知りたいだけなの。


リインルイン・ミュール
手分けした方が良いんですよネ
英二と話そうと思ってますが、3人以上になるなら別な方と話しマス

サークルへの興味&事件に興味があるテイで接触しまショウ
聞くのは部員全員の為人、普段の活動、皆さんで行った活動とか

ある程度その辺りの会話で情報収集兼場を温めた所で、控えめに事件の話を聞いてみます
怪しいヒトとかサークルに居たら怖いですし、やっぱり気になっちゃうんですヨ
フツーの殺され方ではないから近い人の犯行かとも思いますし
実際、その日は何かあったりしたんですカ? アナタは見てただけ?

カマかけれそうならやってみますが、難しいでしょうかネ
警戒されてもそれはそれ、仮に犯人なら不審な動きしてそのうち尻尾も見せるハズ


クレイ・ギルベルン
【坂田・英二】さんにお話を聞いてみます。
……現時点、坂田さんが犯人だと思っているわけではないのですが
先ずは手がかり集めが定石ですよね。

心理学科の教室に行ってみて
不在であればクラスメイトの方に居場所の心当たりを訊いてみますね。

坂田さんには、あなたが犯人だと言いたいわけではないと告げた上で
『事件前後、普段となんだか様子の違うサークル員は居ないか』訊ねてみます。
言い争いに参加していませんし
フラットな観点からのお話を聞けるのではないでしょうか。

もうひとつ許されるなら
『あなたと茜沢さんはどの程度の仲だったか』も訊きたいですね。
他の方が知らないことを知っているかのような
含みのある物言いが気になりますから。




 近づく者の気配に気づいたか、坂田・英二は茜沢のクラスメートに礼を告げると自分教室へ足を向ける。
「アーすみません。『旅をする会』の方ですヨネ?」
 まず彼を呼び止めたのはリインルイン・ミュール(紡黒のケモノ・f03536)だ。
「ワタシ、あの会に入りたくて。活動内容とか知りたいんです。皆さんで行った活動トカ」
「この時期にか?」
 英二の眼差しは胡乱げだ。
(「ナルホド、随分と警戒と値踏みをされてるようデスネ」)
 さぁてどうつなげたものかと会話の接ぎ穂を探していたら、別の声が飛び込んでくる。
「ああ良かった、すみません。少しお時間いいですか?」
 育ちの良さ滲むクレイ・ギルベルン(迷いの夜に・f04293)は、柔和に切り出す。
(「男の人、怖い……いけない、いけない」)
 既にはじまった会話の輪にじりじりじりじり、近づいたり離れたりの挙動不審さんはヘンリエッタ・モリアーティ(獣の夢・f07026)
「あ……あのっ……」
 そして、意を決してまざる。
(「3人、まぁイケるでショウ」)
 余りに1人に殺到するなら手分けも考えたが、ヘンリエッタからのアイサイン「話を引き出して」を受け取り、リインルインは構わず話し続ける。
「ワタシ、サークルに興味あるんですヨ」
「ふうん。やっぱり事件につられてか? 三河先輩目当てなら、もっとはやく来てるだろうしな」
(「核心をついて会話の主導権を握ろうとしてる……」)
『知りたいだけの自分』がいる。ほぼオートに立ち上げ辿るは相手の心理。コールドリーディングを仕掛けるべきか否か、ヘンリエッタはそれも含み観察開始。
「私は坂田さんが犯人だと言いたいわけではないです」
 事件について調査していることは認め、クレイは真っ直ぐな眼差しで続けた。
「事件前後、普段となんだか様子の違うサークル員は居ませんか?」
「そうデスそうデス。怪しいヒトとかサークルに居たら怖いですし、やっぱり気になっちゃうんですヨ」
 一方であくまでノリ良く合わせるリインルイン。英二が2人を見た後で頷いた。
「こんな話を一緒に続けるってことは、毛色が違うがあんたら仲間だろ? 警察じゃないけど、興味本位でもない……」
「そうやって試して、わたしたちが、信頼できるか、確認してる……ああ、ごめんなさい」
 両手をわたわたと降り、ヘンリエッタは慌てて付け足した。
「わ、わたしも、そういうのは、教授、だった、もので」
「へえ」
 英二の目の色が明らかに、変わった。
「心理学の教授ですか? お若いですね。もしかして海外で?」
 尊敬。
 この反応はヘンリエッタが図星をつけた、だから彼は彼女を認めている。
「事件の調査なんですか、そっちはどんな情報を持ってるんだ。俺が犯人じゃないなら話してくれたっていいだろ?」
 ヘンリエッタへは丁寧に、他2人には不躾に、露わな態度は存外素直だ。
「コレはコレは手強いデスネ。まぁ言ってしまうと、何も持ってないんデスヨ」
 サッパリと肩を竦めるリインルイン。
 邪神が絡んでるなんて情報は彼の求めるものではないだろうし、嘘を吐いてるつもりはないとケロッとしたもの。
「でも、フツーの殺され方ではないから近い人の犯行かとも思ってマス。実際、その日は何かあったしたんですカ?」
 そうして抜き身の台詞で確信を、つく。
「ああ、俺もそう思ってるよ」
 壁に凭れ腕を組み英二は距離を取った。
「坂田さん。不躾さから苛立たせてしまったのなら申し訳ない」
 クレイは潔く頭を下げた。
「あなたは、サークル内で数少ない冷静な人とみています。フラットな観点からのお話を聞きたかったんです」
「……あんたら噛み合ってないな、急造か」
 黙ってはいるがヘンリエッタの内面ではこんな分析が走る。
 ――坂田の理論武装は、信頼できない人に弱みを見せたくない現れ。離れ小島のように振る舞っているのは『他人への不信感』
「わ、わたしも……あなたは、犯人じゃないと、思ってます。坂田さんのような方で犯人なら、わたしたちを追い払う、でしょう……?」
「ああ、そうデスカ。そうデスネー」
 ぽんと手を打つリインルインは「アナタは見てただけ?」なんてカマかけは頑なにさせるだけと気づき、きゅいっと瞳を細くする。
「ワタシは信頼されないようデスネ。ではこれで失礼しますヨ」
 身を引けば、残った2人の信頼度があがると計算し、どろどろ系女子はあっさり、手を振り場を辞した。
 促すように見るクレイに対して、英二は肩を竦めた。
「誰がおかしいかって、まぁあいつらみんな『欠けてる』からな」
 鳴り響く、予鈴。
「――だから茜沢に集ってたんだ」
 それだけ置いて英二は話しを打ち切るように背を向ける。
 唾棄するように歪んだ口元には、当て所ない憎悪と悔悟が深く深く刻まれていた。
「あまり収穫がありませんでしたね。『茜沢さんとどの程度の仲だったか』も訊きたかったんですが」
 苦笑するクレイへ、いいえとヘンリエッタは控えめに頭を横に振った。
「彼は、この事件の調査をしていて……恐らく、犯人じゃないと、思います」
 ――自分のように、人格レベルで使い分けができるのならわからないけれども。
「そうか、事件を調べる程には茜沢さん、を大切に思っていたということですね」
 明確な言葉では得られなかったが彼の態度はそうだと物語っていた。
「こっちの情報を欲しがっていたけど、うまく協力を取り付けられませんでしたよネ」
 戻ってきたリインルインが片目を閉じてたてた人差し指をちちちと揺らす。
「彼、心理学をやってる割りにコミュニケーションが上手じゃないですネ」
 彼もまた『欠けている』のかもしれない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

宙夢・拓未
SPD行動

……なるほどな
なら、俺にできることは――

大学構内に学生のふりをして潜入
支倉絢奈に接触してみる
同年代だしな

「そこのカーノジョ、旅は好きか?
俺と一緒にツーリングしようぜ!
今なら特等席が空いてるぜ」

宇宙バイクの、自分の後ろに座るよう促す
要はナンパだが、情報を得るためだ

「飛ばすぜ、しっかり捕まってくれよ!」

高速道を走ったりして
ほど良く仲良くなれたら、切り出す

「サークルで動画撮ってたんだって?
俺、興味あるな。ちょっと見せてくれよ」

俺は絢奈は犯人じゃないと思う
ただ、央の動画には何かがある気がする

サイバーアイを起動して、よく見てみるぜ
央の言動には特に注意を払う
背景におかしなものが映り込まないか、も




 ――あの日から支倉絢奈の頭痛が止むことは、ない。
 歩けば警察や、興味本位で事件をほじくる新聞記者に捕まるし、日々の生活も侭ならなくてストレスフル。
「そこのカーノジョ」
 だから黒の革ジャンをカジュアルに着こなす男がいつの間にか横に並び、あからさまなナンパを仕掛けてきたのも早歩きの無視。
「旅は好きか? 俺と一緒にツーリングしようぜ!」
 宙夢・拓未(未知の運び手・f03032)は一向にめげず、駐車場に止めた愛車まで先回りすると後部座席をトントンと叩く。
「今なら特等席が空いてるぜ」
「はぁあ? 知らない男の後部座席に乗るわけないでしょ、意味わかんない!」
「だったら知り合いになろうぜ」
 人懐っこく邪気もなく余りに清々しすぎて、絢奈は呆気にとられてからぷはっと吹き出した。
「あたし、男見る目ないんだよなー。でもー……あんた、なんだか、旅先でいきなり漁師飯を押しつけてきたおっちゃんみたいな顔してる」
 お節介。
「あたしの名前は知ってるんでしょ? あんたの名は?」
「俺は宙夢拓未、よろしく!」
 最初の方の動画から聞こえてきてた自然な笑い声に、拓未は揃えた人差し指と中指で戯けた敬礼。
 放り投げたメットをパシリと受け取った彼女は、ますます弾けるように笑った。
「飛ばすぜ、しっかり捕まってくれよ!」
 エンジン音高らかに、絢奈を乗せた拓未のバイクは絢奈の心に渦巻いた闇色の渦を吹き飛ばすように走り出した。

 自由時間は1時間半、オーダーに応え高速道で辿りついた海の滞在時間はたったの10分。
 道中、彼女がとりとめなく零したのは、先程の猟師をはじめ財布を落した時に泊めてくれた老夫婦など、旅の良い出逢いの思い出話ばかりだった。
 事件のことを避けているのを肌で感じた拓未は、動画を見せてくれとは切り出さず絢奈の心をほぐすのに徹することにした。

(ちなみに戻った後、動画サイトで閲覧しサイバーアイでチェック、央の言動にも注意を払ったが、不審な点は見受けられなかった)

「ありがとう! なんかスキッとしたぁ、午後の授業はサボらず出ようっと」
 この邂逅は、絢奈に知らない人とも話ができる前向きさを思い出させた。それは、これから接触する猟兵達への過剰な警戒心を取り去るに一役買うと同義だ。

成功 🔵​🔵​🔴​

嶋野・輝彦
【POW】脅す
対象は三河央
社交家で承認欲求が強い?自分の弱さを外側から補強せんと生きてられねぇだろ?
こういうのは暴力に弱いぜぇ

人気のない所で殴って襟首掴んで
恫喝、存在感、コミュ力
「騒ぐな、ちょっとこっち来いやぁ!?それとももう一発いっとくか?」
裏に行って
恫喝、存在感、コミュ力
締め上げて
「茜沢ねいを殺ったのはお前かゴラァ!言えやぁ、ああ!!」
「茜沢ねいのご両親に頼まれたのよ。娘は悩んでいた、復讐してくれって」
「フカシこくなよ?この商売やってるとなやりすぎて後処理が必要な時もあってな。人一人理由なく消えるそう言う事も出来るんだぜ?」
「知らないんだったらメールでも何でも使って調べろやホントに消すぞ」




 さて、央jiの黒い噂の『オフ会』が催されていたかどうかだが……嶋野・輝彦(人間の戦場傭兵・f04223)のとった暴力的聴取にて証明された。
 社交家で承認欲求が強い、つまりは自分の弱さを外側から補強しないと生きられない――確かにこの読みは当たっていた。
 だが暴力への対策は身近な女があのような殺され方をしたことに加えて身に憶えもあるのだろう、彼なりに用意はしていたのだ。
「騒ぐな、ちょっとこっち来いやぁ!?」
 人気ない路地裏にさしかかるタイミングで突如襲いかかった輝彦は、有無を言わさず襟首つかんで引き摺ろうとする、が、チリッと感じた腰元の刺激に慌てて身を捩り離れた。
 バチィ!
 央の震える手には獰猛な稲光を散らすスタンガンが握られていた。
(「人が殺せる違法モンじゃねぇかよ?!」)
 真っ当な大学生が到底手にできるものではない。
「ひ、人殺し……」
 央はスマホを耳に当て「はやくっ! はやく助けろ!」と喚く。
 その隙を輝彦が逃す訳もない。スタンガンを持つ側の手首をねじり上げ落させると、電流のない方を蹴飛ばして遠ざけた。
「人殺しはお前じゃねえのか?! 茜沢ねいを殺ったのはお前かゴラァ! 言えやぁ、ああ!!」
 容赦なく右ストレート。
「違う」
「フカシこくなよ?」
 ゴキリと首を傾けて、彼のぬくもり残る拳を掌に当て革靴をコツリコツリと鳴らし距離を詰めていく。
「この商売やってるとな、やりすぎの後処理で、人一人理由なく消えるなんてことも出来るんだぜ?」
 頭を腕で覆い震える央の肩を掴もうとするが、背後から掴まれたのは輝彦の方だった。
「オッサン殺すぞ」
 先程呼びつけたのだろう、ヤクザ予備軍の成人前後のガキが3名。ナイフを手に脅しつけてくる。
「あぁ?! ガキが舐めんじゃねえぞ!」
 一切怯まず躍りかかる輝彦が3人ののした時には、既に央は逃げ去っていなくなっていた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

影見・輪
WIZ
人が一人すでに…ではあるけど、だからこそ興味深いねぇ、こういうのは
人の心の闇は、隠されているからこそ映しがいもあるってもんだよ
よい登場人物とは言えないけど、僕も一枚噛ませてもらおうかな

高木・海について、同じ学科の人間に聞き込みするよ
この話はある程度広まっているだろうし
見慣れない人間が話題にしてもそんなに怪しまれないと思うから

聞き込む内容は高木・海の、外からの印象や噂話を中心に
潔癖な印象はどんなエピソードから出てきたものかを知りたいね

あとは関係性
一口に友達って言っても色々あるからねぇ
本当に仲良しだったか、
あるいはどちらかが何か抱えて友達のフリをしていたか、などの情報が得られたらいいと思うよ




 ――さぁ、高木海という女の闇はどんな綾? 隠されているからこそ、映しがいがあるってものだ。
 人の闇を浴びせられ慣れた鏡は、艶やかな黒髪をはらりはらりと靡かせて、事件への好奇を孕むキャンパスを闊歩する。
「やっぱさー、高木さん学校止めちゃうのかなー」
「茜沢ちゃん死んじゃって、大学にいる意味なくしてそー」
 ヒソヒソ話を聞きつけて、影見・輪(玻璃鏡・f13299)は極々自然に高木と茜沢のクラスメート2人の間に割り入った。
 誰かと問われる前に形良い口元に笑みを刻み、柘榴の瞳で女子2人を覗き込む。見目は麗しの女性、しかし内側の性は彼女たちと対になるもの。
「そんなに、高木さんにとって茜沢さんは大切だったのかい?」
 ――大切というか、あれは異常。
「茜沢ちゃんが単独で話してたら、いつの間にかいるんだもん……キモい」
「二言目には『私がいなくっちゃ、ねいはダメなの』って、キモいわー。なんでも世話してたっしょ」
「そうそう。一緒にいる時間を削るぐらいならって、レポート書いたとか聞いたよ」
「あれマジなの?!」
 黄色い声のけなしひとしきり、輪はにこにこ柔和に相づちうって、海という人間像を引きずり出していく。
「講義は全部茜沢ちゃんに被せてたよね」
 ――つまり、茜沢ねいの選択意思が先で、ねいが合わせていた。
「そんなで茜沢さんは嫌がってなかったのかい?」
 問いかけに顔を合わせる二人は「多分……」と言葉少なげに返した。
「……茜沢さんも嬉しそうだった、かなぁ、多分」
「うん、あんなにストーキングめいた友情向けられても、なんだかんだと一緒にいたしねー」
 なにやら曖昧だが、茜沢ねいは『誰にでも嫌われぬよう振る舞っていた』ようで、即ち『自分』を隠すのは巧みであったことだろう。
「ふむ。ずっと2人は一緒だったんだねぇ……」
 輪の念押しには、2人は言いづらそうにもごもごと唇を食む。
「……高木さん、苦学生でいーっぱいバイト入れてて、そもそもあのマンションも住むのにもかなり無茶してたはず」
「茜沢さんはどっちかっていうとリッチな方だから、バイトしないでサークルに入り浸ってたよね」
 そう言えば、絢奈の自宅に単独で訪れていたとの話があったか。
 茜沢ねいは、海の目の届かぬ所にいる機会は多かったようだ――海の望みに反して。
「そうそう、高木さんは潔癖だと聞いたけど……? その割りにレポートでズルしたりしてるよね」
 2人はこう返した。
 いつだったか、2人の男性に告白されたと悩み相談の素振りで自慢する子の頬を張り飛ばして、海は憤慨して部屋を出て行った。
「茜沢ちゃんが『海ちゃん、お母さんが出て行っておうちが大変だったから』って」

大成功 🔵​🔵​🔵​

鞍馬・景正
随分因果な集まりの模様ですな。
さて、滔々たる弁舌で巧みに情報収集――など私には無縁。

地道に外堀を埋めていきましょう。

◆調査
手始めに、傍観者からの印象など伺いましょう。
高木・海女史と入れ替わりで入室した【サークル1年生】に接触を試みます。

「失敬。茜沢ねい女史について色々と調べている者です。――少しお話を伺えますか?」

遠慮されるようなら【怪力】で引き留め、まぁまぁと。
【恫喝】紛いの自覚はありますが情報の為です。

◆聴取
茜沢女史について知っている事をなるべく詳しく。
事件の直前に変化などは無かったでしょうか。

最後に彼……彼女? と茜沢女史に、サークル員として以上の交流がなかったかも確認しましょう。


霧島・ニュイ
わー!ドロドロ―!!
本当に刑事ドラマみたいだけど現実なんだねー(こなみかん)

『サークル1年生』
カジュアル系の私服で学食で偶然を装って隣に座る
【コミュ力】を使ってお話を聞こう

参っちゃうよねー。この学校で殺人事件?
同じ文学部ってだけで刑事さんに話聞かれてさー

テンションを相手に合わせ、共感の姿勢

え、同じサークルなのー?
それは大変でしょ…。大丈夫ー?疲れてなぁい?

犯人とか疑う様子は微塵も出さない。同情の姿勢
この子は違うでしょー
どんな子だったっけー。可愛い子だよねー
エピソードとかあれば聞き出してみる
旅動画とかあれば見てみたいなー誰が撮ってるの?

※とぼけ顔・可愛い顔して曲者・強か
腹では計算してるタイプ




「失敬」
 食堂にてどっかりと隣に腰掛けてきた大柄な男に、山本は眼鏡の奥の小さな瞳を瞬かせる。
「茜沢ねい女史について色々と調べている者です――少しお話を伺えますか?」
 鞍馬・景正(天雷无妄・f02972)の丁重な口ぶりに、山本はキョロキョロと周囲を見回す。
「落ち着いて食べないと消化に悪いですよ?」
 ぽふり。
 親切めかして肩に手を置き座らせた、なにこの力? 逃がす気ないってことー?!
「わー、本物の警察さんー? ドラマみたいだけど現実なんだねー」
 救いの神きたる。
 のほほんとした態度で反対隣にトレイを置き腰掛けたのは霧島・ニュイ(霧雲・f12029)である。
 はい、左右から挟みました!
 彼も眼鏡男子だが、フランス人の母譲りの華のある見目は平凡モブ顔山本と比べるべくもない。
「僕、同じサークルってだけなんですよ」
「それは大変でしょ……大丈夫ー? 疲れてなぁい? 今日のサラダのトマト新鮮で美味しいから食べなよー」
 ことりと置かれたトマトは水滴も相まって新鮮つやっつや。
「同じサークルなんですか。それじゃあ色々詳しく伺っていいですか?」
 疑問系だが有無も言わせぬオーラの景正。恫喝紛いの自覚はあるが、情報の為と、これでも気遣っちゃいるのだ。
「ああ、話しといた方がいいよー? 警察から逃げようとしたら疑われるってドラマだとありがちだしー」
「そっか……そうだよね……」
 飴と鞭。
「では、亡くなった茜沢女史のことをなるべく詳しく教えてもらえますか?」
 ツンツンとトマトをつつく山本が話すには――。
「サークルの誰とも仲が良かったです、ハイ。後から入った僕にも、優しくしてくれました」
 予知にあった印象と同じ。
 誰にでも好かれるように振る舞う女。
 性格的に尖っている『旅をする会』の面々全てと仲良しというのは、人間関係のバランス取りが恐ろしい程に巧みであることを意味する。
 さて、
 それをニュイのように計算ずくでやっているのか、そうなってしまう性質の娘なのか――山本の話から判断することは残念ながら叶わない。
「プレゼントとか、ぽろっと漏らした好みを憶えててくれて」
 誰にでもそうなんですよと、頬をトマトのように染めた彼は慌ててどんぶりに顔を隠した。

 ――茜沢ねいのキーワードは『相手の為に』だ。

「事件の直前に変化などは無かったでしょうか?」
 いい具合に唇が綻んだところで、景正は核心に触れる質問を投げかける。
「直前かって言うと違うんですけど、僕が入会した割と直後に絢奈さんから一方的に絶交されてましたね……」
 表には出さないが、景正とニュイは納得がいく。
 動画『旅をするふたり』にて、秋過ぎからは『顔出しをしなくなったあやや』こと茜沢ねいが代わりに出るようになった。
(「そりゃあ上手くいかなくなるな」)
 しかし、如才なくバランスを取り『相手の為に』が常の茜沢ねいらしからぬ行動だとも言える。
 なんだろう、この矛盾は。
 それとも、矛盾しているわけではない理由があるのか。
「あ、そーいやさ、動画って最初はお互いに撮り合ったり固定カメラだったけど、秋頃から変わったよね? 誰がカメラまわしてたのー?」
 2個のっていたトマトの内1個を確保するニュイの問いに、山本はバツが悪そうに目を逸らし「三河さんの知り合いだそうですよ」とだけ。
 まぁヤクザ組織とつるんでいかがわしいオフ会を催していたのがほぼ確定情報だ、秋以降のカメラマンはそこから連れてきたのだろう。
「ありがとうございました」
 と、席を立ち上がった景正は「ああ、最後に」と思い出したように振り返る。
「山本くんは茜沢さんと、サークル員として以上の交流はなかったんですか?」
「え? はい」
 ぱちくりと瞬いた眼鏡の奥の瞳を2人は確りと観察する。
「三河先輩とも仲良しでしたし、坂田くんともなんだか特別な感じありましたから、僕なんて……」
 ――どうやら嘘ではないようだ、彼が今回話したことに関しては。
「刑事さん、彼は違うでしょー」
 と、助け船を出すニュイ。
「そうですね。失敬、怖がらせてしまいましたか」
 景正もすんなり詫びると今度こそ席を立った。
 ……恐らく殺人に関しては黒ではない。
 だが、なんだろう? 本件とまで大きく見れば真っ白でもない気がするのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

南雲・海莉
(故人に心の中で手を合わせてから)
……私にできるのは、これからの犠牲を防ぐこと
行きましょう

志望大学選びの下見に来た高校生の設定で、構内で支倉さんに接触
事前に三河さんの作った動画は一通り見ておく

「あ、ひょっとして『旅をする会』の方ですか?
……人の顔を覚えるのは自信あるんです」
「勉強で煮詰まったりすると『どっか行きたいー!』って
そんなときの現実逃避についつい(微苦笑)」

動画の内容をきっかけに、少しずつ距離を縮めていく
キツイ言い方も適度に受け流すわ
歯に衣着せずに話せる人、嫌いじゃないもの
それに相手の本当の気持ちにも迫らなきゃね

「最近は、出演されてませんね?」
他の皆との関係とか聞けるだけ訊いてみるわ




 これ以上誰も犠牲になってはならない。ましてや闇に葬られる邪神絡みであれば尚更だ。
 ブレザー制服に身を包んだ南雲・海莉(コーリングユウ・f00345)は、駐車所からコンビニ袋をぶら下げた支倉絢奈へ駆け寄った。
「あ、ひょっとして『旅をする会』の方ですか? あの動画の」
「そうだけど、高校生? 結構見てくれてんの?」
 人気があった頃はたまに話しかけられた。色々あってそういうのも疎ましくなったが、上向きな今はあの頃のように嬉しい。、
「はい、勉強で煮詰まったりすると『どっか行きたいー!』って」
 微苦笑混じりで挙げたのは、初期の動画連だ。
「一番好きなのは、雪道歩いて央jiさん撮ってたのに急に空が映るシーンです、1分ぐらい2人の笑い声だけ」
「雪国なんて初めてなんだもん、転ぶの当り前じゃん!」
 なんて和やかにお喋りしつつオープンテラスに陣取る。
 おにぎりを頬張る絢奈は刻限ありと示すようにスマホを手元に置いた。
「……最近は、出演されてませんね?」
 見開かれた瞳に止る咀嚼、わかりやすすぎる。
「えー? 出てるじゃん。顔出しは止めたけど」
 海莉は今までとは打って変わった苦みの強い形ばかりの笑み。
「人の特徴を覚えるのは自信あるんです。服の趣味も違いますし」
「あれは央jiが変えろって言ったのよ」
 ズーッ、些か下品なストローの吸い上げ音で誤魔化そうとするが……させない。
「そういうので変えないから最初の動画で喧嘩になった。でもあややさんはキツいばかりじゃなくて悩んでもいて……だから共感しました」
 ――そう、ズケズケ央jiへ毒舌系のあややは、喧嘩の中でウケが良かった部分を誇張して作られた『偶像』だ。
「……うん。ちょっとさ、嫌になっちゃったんだ」
 話の内容は予想通りだった。
 ブレイク以降、元々目立ちたがりの央は再生数にしか目が行かなくなり、旅行自体を愉しみたい絢奈とは一切折り合わなくなった。
 ヤラセ。
 視聴者のコメントに一々左右されて、少しでも再生数の伸びが減ったら絢奈に当たり散らす。また央は、満たされぬ喝采願望故に思い詰めて吐くほど悩み精神を病むので、愛情があった頃は見捨てられなかった。
「……それは絢奈さんが辛すぎますね」
「2年になって旅行自体を減らしたよ。たまにはって言われて行ったら雰囲気最悪ー!」
 会話は『こういう風に仲睦まじく振る舞ってから喧嘩』という台本を見せられ打ち合わせのみ。
「あたし、こいつの何なんだろうって。ただ央が好きで、彼と未知の土地にでかけていけるのがすっごく好きだっただけなのに」
「誰かに相談はされたんですか?」
 海莉の投げかけには負の感情が浮いては沈む、だが被せるように鳴った予鈴が彼女の心理防衛壁を立ち上げてしまった。
「じゃあね」
 顎のらいんで切りそろえた髪を払い、ぽつり。
「……あいつはさ、最初から『動画にでてくれる女の子』なら誰でもよかったのかも」
 残されたのはくしゃりと丸められたビニール袋。まるで『旅ふた』の関係性を象徴するようで、海莉の胸を切なく締め付けた。

成功 🔵​🔵​🔴​

勾月・ククリ
【土蜘蛛】
女子高生は制服が正装!
きちっと着こなして準備万端!
【コミュ力】もあるし、きっとわたしたちの誠意伝わるよね

『支倉・絢奈さん』にお話を聞きに行くよ
お姉さんお姉さん、ちょっとお時間いいかな?
わたしたち、近くの高校で新聞部やってるの
(カメラをそれっぽく構える)

ね、お姉さんが警察の人とお話ししてるの見たよ
どんなこと聞かれたか、わたしたちに教えてください!
おねがい!絢奈さん綺麗だから、
新聞にお写真載せたらたくさんのひとに見てもらえると思うのっ

事前に知ってたことでも、初めて聞いたみたいに相槌
どんなことを言われたってめげないよ
ポジティブなのがわたしの取り柄だからね!
他のみんなとの絡み、アレンジOK


花剣・耀子
【土蜘蛛】
新聞部風に『支倉・絢奈さん』に接触するわね。
お話するのはククリちゃんの方が向いているのでお任せするわ。
あたしだって斬って済むならそうしているから、
べりるちゃんはちょっと我慢して頂戴。

メモを取りつつ、様子を観察するとしましょう。
感情の出る咄嗟の受け答えは取り繕えないのではないかしら。
手が出るようなことは早々ないと思うけれど、物理的な危害は静止するわね。

区切りのよいところで、あたしも気になる事を訊くわね。

支倉さん、去年頃に動画に出ていませんでしたか。
最近は見かけなくて残念に思っていたのですけれど、
騒動が落ち着いたらまた出てくれますか?

精々愛想よくしましょう。
ご協力ありがとうございました。


星鏡・べりる
【土蜘蛛】
仕事だから来たけど、まどろっこしいよね。
手っ取り早く銃口向けて喋らせたらどうかな、えっダメ?
それなら、ククリとよーこのトーク力に期待しよっと。

『支倉・絢奈さん』と二人は話してるみたいだね。
私は適当に頷きなら、後ろで見ておこうかな。
……あっ、欠伸しちゃいそう。

二人が十分に情報を得られたなら、私は何もしないよ。
何か隠してるだとか、明らかに動揺しているようなら
【恐怖を与える】ようにジッと目を合わせて「本当に他には何も知らない?」と問いかけるね。
教えてくれたらパッと笑顔になるよ、本当に何も知らなくても笑顔ね。
ご協力、ありがとうございました!




 やる気を出したところで掲示板に『休講』の張り紙を見つけた絢奈はうんざり溜息。
「お姉さんお姉さん、ちょっとお時間いいかな?」
「こんにちは」
「……」
 振り返った所に並ぶのは先程とは違った高校制服に身を包む子が3人。
「わたしたち、近くの高校で新聞部やってるの」
 人懐っこさ一杯の勾月・ククリ(Eclipse・f12821)は、玩具を自慢する子供のように誇らしげにカメラを見せた。
 花剣・耀子(Tempest・f12822)は、眼鏡の奥の涼しげ色のまんまに素っ気ない雰囲気。取り出した手帳を開く。
「やってまーす」
 気怠げにとってつけたですます喋り、星鏡・べりる(Astrograph・f12817)はポケットに潜む自動拳銃を握ったり放したり。
(「まどろっこしいよね。手っ取り早く銃口向けて喋らせたらどうかな」)
(「あたしだって斬って済むならそうしているから、べりるちゃんはちょっと我慢して頂戴」)
 アイコンタクトで会話するべりると耀子の言ってる内容は大凡把握、だがおくびにも出さずに、ククリは絢奈の方へ進み出た。
「ね、お姉さんが警察の人とお話ししてるの見たよ」
 絢奈にとっては触れられたくない話の切り出しにうんざりとした空気が流れ出す。
「どんなこと聞かれたか、わたしたちに教えてください!」
「なんでよ」
 調査で来ているが、それはさすがに言えない。
「支倉さん、動画に出ていませんでしたか。最近は見かけなくて残念に思っていたのですけれど」
 躓きをすかさず耀子がカバーした。
「なんでも事件が起ったというではないですか。それが関係しているのかなと思いまして」
「あぁ、えっと……」
 どうしたもんかな、この子たち……なんて扱い兼ねてる風情の絢奈は、あくびを片手で覆って隠すべりると目があった。
「……んー?」
 じーーーーーー。
 ククリとは違った濃くも明度の高い瞳で覗き込んでくるのに、更に絢奈はタジタジとなる。なんだかこう逃げにくい感じの子たちだ。
 それはもう、こう見えてそれぞれ対UDC『土蜘蛛』に籍を置く異形に対抗する技を持つ娘達だ。
「うちの学校もファンの子が多くって。絢奈さん、実際にみたら本当に綺麗です」
 写真を撮っていいですかと確認した辺り、まだククリは引いたと言えよう。何を言われてもめげないガッツ、大事。
 ちなみに許可はまだ出てない、まだ。
「だからお話を聞きたくって、ダメですか?」
「ダメって言われたら、ダメ。新聞とか、そういうのに載せられたくないし」
 ――成程、動画で一当てはしたが、更に有名になりたいという欲望は持っていない人物のようだ。
「そっかぁ……絢奈さん、芸能人にいてもおかしくないぐらい美人なのにな」
「あぁ、芸能人って確かに凄いと思うわ。でもあたしには無理無理、てかやりたくないかもー」
 脳裏をよぎるのは旅行道がで台本通りを強要された苦い思い出だ。
「そうなんですか。じゃあこの騒動が落ち着いても動画に出る気はないですか?」
 せいぜい愛想良くと憎たらしさを内側に耀子はそつない笑顔で念を押す。
「そうね、央jiとはないかなー」
 身代わりを務めていた茜沢ねいは殺された、そして自分はもう出る気はない、ならばこれぐらいは言ってもいいだろう。
「うん、だからね。あたしはもう有名人とかじゃあないのよ。ごめんね、折角の取材なのに」
 そう捲し立てると絢奈はスマホを見て「行かなきゃ」と独り言。この場から離れようと理由を作る。
「お姉さん」
 す。
 下はじゃりなのに足音もたてず、べりるは絢奈の去ろうとした先へ回り込んだ。
「本当に他には何も知らない?」
 今度の眼差しは、恐怖を与える類いのもの。
「…………!」
 ごくりと唾を飲み下し絢奈はよろけるように後ずさった。
「何も知らないって……き、聞かれたことには答えたわ、だからもういいでしょ?!」
 ご協力ありがとうー!
 ご協力ありがとうございました。 
 ご協力、ありがとうございました!
 三者三様の礼を背負って絢奈は逃げるようにこの場を去っていった。

苦戦 🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

メイズン・シュプリンツェ
邪神がどう絡むのか
手分けしてパズルのピースを組み合わせるしか無さそうよね

『支倉・絢奈』に話を聞きに行く
キツい物言いを気にしてるのが親近感感じるのよね…

警察手帳を偽造して持っていくわ
誰もいない場所で、一人でいるところを狙う
先輩に、追加のお話を聞いてくるようにと言われたの
メイズンと言うわ
ぶっちゃけると、私、貴方の事微塵も疑ってないの
だって性根真っすぐそうだもの
こんな事に巻き込まれて大変だったわね…

貴方、あの時何か言いかけてなかったかしら?
ねいさんの異性関係だとか…何か知らない?
勿論悪いようにしないわ

何も知らない事を悟られない様気を付ける
ずばずば言い過ぎるところあるから、気が障ったらごめんなさいね…




 どんっ!
 きゃっと短い悲鳴でぶつかってきた支倉絢奈を、メイズン・シュプリンツェ(薄氷・f05802)は落ち着いた態度で受け止める。
「大丈夫、顔色が真っ青よ?」
「あ、はい」
「色々大変なことが続いているものね。ああ、私こういう者だけど」
 偽造した警察手帳に態度が固まる前に、メイズンは言葉を継ぐ。
「先輩に、追加のお話を聞いてくるようにと言われたの。でもぶっちゃけると、私、貴方の事微塵も疑ってないの」
 怜悧さ滲むアイスブルーの眼差しに反してこの刑事の物言いは砕けたものである。安心感に流されて、メイズンは絢奈をカフェへ連れ出すことに成功する。

 あたたかなカフェラテを啜り、絢奈はほうっと一息。
 午前は寝過ごし、バイクでナンパ、午後イチの講義は休講で今日はずっとフリー。アップダウンの激しい1日だ。
「あたしを疑ってないってことは、他の誰かを疑ってる……んですよね?」
 慣れぬ敬語には構わずに、メイズンはグラスを眼下に頷いた。
「まぁ、誰かが殺してないと茜沢さんはああはなってないわね」
 メイズンの物言いは調子のいい時の自分によく似ている。
「ですよね……」
「今ね、ねいさんの異性関係から洗っているわ」
 それを喋れと暗に明に。それを気取り、絢奈はマグカップは7割方空けた所でボソボソとと聞き取りづらい声で話し出した。
「……あたし、央は犯人じゃないと思います」
「どうしてかしら?」
「ねい……さんは、動画の根っこを支える存在でしたから。央にとって、動画の再生数は全てです」
「あなたじゃなくて」
 ハッ! 嘲る含みの溜息は自分と央ともしかしたらねいへだろうか。
「もうあたしじゃないです」
「そう」
 言いづらそうを装う間を挟んだ後でメイズンはテーブルを挟む絢奈にだけ届く声を響かせる。
「……三河央さんが、反社会勢力ともつながりがあるのは調べはついているわ」
 央が疑われてると知り絢奈の頬が青ざめる。表情は納得してはいるが、心は粟立つぐらいには彼に情はあるのだろう。
「違うと思います。ねいさんを使って結構稼いでたみたいですから」
 暗に絢奈も『乱交パーティ』の開催を認めた。
 予知で「あたしにやらせようとしたことやったんでしょ」と言っていたのはこのことに違いない。
 また、絢奈の母は絢奈がねいを連れてきていたと言っていた、用事は「相談にのる」だとも。
(「情報をツギハギすると――絢奈さんはねいさんに『乱交パーティに出て欲しいと央さんに言われたことを悩みを相談してた』のは確定でよさそうね」)
 ふむ、とメイズンが頷いたタイミングで絢奈はカップの中身を飲み干して、一礼。
「うん、確信したわ。あなたは犯人じゃないって」
 猟兵に共有してもよい、そう思えるぐらいには。
「性根真っすぐなのに、こんな事に巻き込まれて大変だったわね」
「お気遣いありがとうございます。それじゃあ、ご馳走様でした」
 警察関係者を名乗る者からの労りに、絢奈の心に安堵が満ちたのは傍目にも明らかだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

霧生・真白
ほう、ミステリー小説か
探偵をご所望かね?
大いに結構
僕の出番に相応しい面白そうな筋書きだ

さて、まずは聞き込み調査で情報収集だ
正直なところ誰も彼もが怪しく感じるし、逆に潔白にも感じるね
殺され方からして痴情の縺れが今のところ有力だろうか
僕は被害者の従姉妹を装って聞き込みをしようか
いかにも悲しみに暮れて、こんな酷いことをした犯人を捕まえたい……と同情を誘う雰囲気を醸し出してね
接触相手は坂田英二さん
一番言葉少なかったしね、話を聴いておきたい
「あんなに優しいお姉ちゃんがどうしてこんなことに……何か少しでも知っていることはありませんか?」
こんな感じで

わざわざ僕が外に出たんだ
それなりの結果をもたらしてみせるさ




 動画配信で生計を立てている身としては、非常に興味をそそられる事件だ。
 故に、HN『Shellingford』こと霧生・真白(fragile・f04119)は、わざわざ部屋からでてきて大学内を闊歩している。
 闊歩という表現は相応しくはないか、今の彼女は従姉妹を亡くし消沈した幼気な娘なのだから。

 心理学科の講義室がある建物の前で待ち構えたのは坂田英二。選んだ理由は、予知で一番言葉が少なかったから。
「あの、すみません。お姉ちゃんをご存じですよね……」
 瞳を潤ませてねいの写真を見せた。
「お姉ちゃん、どうしてこんな酷いことをされなきゃいけなかったんだろう……」
「すまない。俺は茜沢を知ってはいるが、キミを知らない」
 不審感を隠さずに見下ろしてくるのに怯む素振り、だがすぐにお辞儀をしてハキハキとした口ぶり……を精一杯装っての自己紹介。
「あ、ごめんなさい。私は真白って言います、ねいお姉ちゃんは従姉妹です」
「ふうん」
 英二は手にした教科書でとんとんと肩を叩き、右目を眇めてボソリと一言。

「茜沢には、親戚で仲のいい奴なんていなかった。お前は誰だ?」

「……」
 喫驚は、一瞬。
 すぐに喜色満面、探偵たるものこれしきのイレギュラーで我を失うものか。むしろそこには貴重な情報が眠っている。
「ほほう、つまり君は茜沢ねいの親戚などというデリケートなプライベートも把握していたわけか」
 控えめ内気な従姉妹の仮面はあっさり手放し、顧問ネット探偵霧生真白は顕現する。
「僕は探偵だよ、解決に必須の登場人物さ」
 紅玉石きらり、倍ほどの年齢の男を見上げて先程ならば決して見せぬ芝居がかった辞儀をしてみせた。
 その間も真白の脳は高速回転、目の前の男の性質を計上する。
 ――情での揺さぶりが効かない、率直すぎる言動は時に図星をつく、人間不信、そしていつもひとりのようだ。
 そんな彼が茜沢ねい殺人について調べまわっている情報は入手済み。
「茜沢ねいは、君を信頼していたのではないかね? なにしろそのような情報を漏らしたのだからな」
 得た情報からカマかけ。実物ならばぶぅんと空を切り振われたそれを、彼は弾くでもなく斬られるでもなく、しばし沈黙という形で済ます。
「………………そう、だ」
 真白は得た情報を前提として更なる問いかけを繰り出そうと、した。
 だが、
「と、いいな」
 男の声はか細く震え、唇は自嘲に戦慄いた。
「……どうだったのかなぁ、俺は、あいつを助けたかったんだ」
 でも、救済という結果に辿りつく前に、殺されたんだ――。

成功 🔵​🔵​🔴​

伍島・是清
四辻路f01660
標的は「坂田英二」

しょーもねェの
ひとなんて、殺す迄もなく何時か死ぬのにな

…ああそう…御前、愉しそうだね…
まあ頑張れよ、よつろ名探偵
伍島青年は見事な助手を演じてやっから

折紙を依り代に【如何様師】で「茜沢ねい」を作り
ねいを見せて反応を見る

頼みの綱は【第六感】
本音を探る

他の奴らが何も知らないと云うのなら
「…御前は何を知ってンの?」
いや、喋らなくてもいいンだけど
独り抱えておくの、結構辛いモンだから
嫌な気持ちにさせたなら悪い、と少しの【優しさ】見せて
喋らないなら実力行使、力で脅す

ところで宝珠絡みも御前?
俺達の本命はそっちなンで。

※使えそうな瞬間があれば【封印を解く】が使いたいです※


四辻路・よつろ
是清(f00473)を前に、パッと閃いた推理を披露
気分は2時間ドラマの犯人当て

私、犯人は坂田って男だと思うのよね
なんでって、単純にあの3人はどれも言ってる事は本当なんじゃないかと思って
”ねい”って子は確かに多少の事なら
何でも言う事を聞いてくれたけど
本当はそんな子じゃない、だから三河って男が
やらせようとした何かは流石に断った 違う?

――ま、別に違ってても良いわ
関係者なら大体が死んだり、殺したはずの人間を目の前にすれば
色々と喋ってくれるもの

そんな訳で、よろしく助手の是清くん
キリキリ働いてちょうだい
私?――そうね、手でも繋いで坂田って男を連れてきてあげましょうか?




 英二が膝をつく少し前、講義棟の横側に曲がった壁際にて――。
「犯人探しをしてるにしたって、調べまわってるのを釣ってる可能性だってあるわ。だからやっぱり犯人は坂田って男だと思うのよね」
 垂らした髪を指に巻き付け嘯く四辻路・よつろ(Corpse Bride・f01660)に対し、伍島・是清(骸の主・f00473)のゼンマイがしゃらと音をたてる、要は肩を竦めたのだ。
「なんでって、単純にあの3人はどれも言ってる事は本当なんじゃないかと思って。口を効いてないのは彼だけ」
「……ああそう……御前、愉しそうだね……まあ頑張れよ、よつろ名探偵」
「よろしく助手の是清くん」
「伍島青年は見事な助手を演じてやっから」
「キリキリ働いてちょうだい」
「はいはい」
 折紙ヒトガタを黒手袋に指に挟み、是清はひらりと零れ放る。

 ――さぁて、此度の主役は此の折紙、茜沢ねいの如何様で御座います。

「……と、それはいいんだけど、結果でちまってないか?」
 崩れ落ちて顔を覆う英二をくいっと親指でさす是清に、よつろは人差し指を口元にあてしばし。
「いいわ、やってちょうだい。関係者なら大体が死んだり、殺したはずの人間を目の前にすれば色々と喋ってくれるもの」
 もはや気がすすまない域だが、是清は『如何様』の肩をつつき英二の眼前へと押しやった。
「――?!」
 今し方まで亡くしたと嘆いていた彼の人が現れたことに、英二は茫然自失といったところか。
 一方の『如何様』は無機質な眼にて彼を出迎える。
 さぁ、その嘆きは猿芝居で仮面が剥がれてしまうのか?! よつろと是清は建物の影に張り付き邂逅を見定める。
「……茜沢、なのか」
「…………」
『如何様』は、ただ微笑んで其処に在る。
 対する「茜沢」と呼び募る英二の声からは『殺した筈なのに何故ここにいる?』などという恐れはない。だが、再会を愛おしむ程の錯乱も、ない。
 疑っている。
 しかしこの『茜沢ねい』は疑うには精巧すぎて、故に英二は前にも後にも進み引けぬ雁字搦め。
「ま、別に違ってても良いわ」
「ネタばらしがはやいな」
「だってこのままどうともならないでしょ、この男」
 堂々と歩み出たよつろは、呆気にとられる英二へ首を小さく傾げて挨拶に代えた。
「『ねい』って子は確かに多少の事なら何でも言う事を聞いてくれたけど本当はそんな子じゃない……」
 はは。
 空気食む嗤いを漏らした英二に、今まで見られなかった怒気がありありと宿るのに、是清もよつろもあっさりと気づく。
「こんなもん用意したあんたらが何者か知らないが、やっぱ勝手に茜沢ねいを定義するんだな」
「……御前は定義しなかったの?」
 答える代わりに英二は如何様の肩に手を置きぎゅうと指に力を込めた。勿論、女の形をしたモノは痛がったりはせず故に貼り付けたような微笑みの侭。
 それは、果たして『如何様』なのだろうか?
 これは、実は『茜沢ねい』そのものではなかろうか?
 だって彼女は――誰からも嫌われないように『演じる』から。
「…………やっぱり、生きてないよな。誰がお前を殺したんだよ」
 反対の肩にも手をかけて縋り付くように英二はずるりずるりと恥も外聞もなく崩れ落ちた。
「……嫌な気持ちにさせたなら悪い」
 人は死ぬのだ、何れ。
 例えば億万の金銭を積み上げて現世にそっくりの現し身をと請うたところで、それは物品に過ぎぬ。目の前の男は、そういった真理を理解してしまう側の者だ。
「ああ、あのさ。浸ってるところ悪いんだど、定義云々ってどういうこと?」
 ドライにつぱりと斬り放つが如くのいつろの問いに、英二はしばし黙考。
「茜沢は『こんな子』だって言うけど、彼女は『どんな子』だって演じてしまう」
 諦観と憐れみに優越感という異物が混ざるのを是清は目ざとく見出した。
「なんだ、まるで抱え込んでるのが嬉しいって顔だな、御前」
 持ち上がった顔は果たして、色濃い優越のみに塗り替えられた。
「俺は、彼女の治療をしてたんだ。カウンセラーとして。誰にでも『合わせてしまえる』なんて異常だ……」
 心理学用語が半端に混じる解説にいつろは形の良い眉根を寄せた。
 自信がないから専門用語で自分を飾り付けての理論武装。結局は半人前ということではないのか。
「そう。本当のあの子を知ってるのは俺だけだって話? じゃあその患者さんに、三河の申し出を断わらせることはできたの?」
 そうじゃないとわかっていて聞く辺り厳しい話だが是清はへの字に唇を結ぶ。そして『如何様』の肩を人差し指でついてもはや意味なき紙切へと戻した。
 英二が精神の疵に耽って話ができなくなるのも都合が悪い。何故なら確認せねばならぬことがあるからだ。
「ところで宝珠絡みも御前? もしくはそういったモンに憶えはない?」
 本命の問いかけには、彼は思い当たる節はないと首を捻った。どうやらそこに嘘はないらしい。
「悪かった、色々」
 ぽん。
 見送るように是清に肩を押された英二はなにも言わずに去って行った。
「……どうしたの?」
 よつろが振り返れば、是清は穴が空くんじゃないかと言う程にじぃと英二を押した掌を見据えている。
「解けるものがあったンだ……」
「はぁ?」
「まだ材料が揃ってないから発動もしないが封印解除もできねェなんて……」
 空を見上げたいつろの吐く息は髪色のように曖昧にくぐもる。
「邪神が好きそうな奴ね」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ニヒト・ステュクス
「あのぉ〜旅する会の人ですかぁ?
コミュ力と言いくるめで
一番ベラベラしそうな支倉にカマかけ
ちょい派手パンギャに変装
怪しまれても
「えー、派手だから知ってると思ったのに!ねいと1年生で同級生だったんすよ
って催眠術

だって事件すよ!めっちゃ気になるっしょ
あいつ、意外とビッチですよねー
何かここの部長ともー…
茜沢嫌いという気持ちを助長し裏面を引き出す

見解だと茜沢は甘い餌をちょっとちらつかせ
人の欲を誘導する
ボクと同じ手口使い

そうそう高木さんってちょっとうざいよね
潔癖すぎて融通効かないっていうか
正義感強すぎて暴走しちゃうタイプ?

正直臭い
自分の中のイメージと違う茜沢を
こんなのねいじゃない!って否定してるって言うか


三嶋・友
わ、またもや何かミステリっぽい事件?
ミステリ好きの血が騒ぐね!
…うん、まあ、好きなだけで推理力があるとかじゃないんだけど

んー
一番被害者と親しいと思われる関係にあるのは海さんなんだろうけど
潔癖らしいから、自分の中のイメージを裏切られたら許せなくなってしまう、とかもあるかもだし
胴体が切り裂かれてたらしいし、妊娠がどうしても認められなかった、とかね

とりあえず無名のサークル員さんに話を聞いてみようかな
同じ1年生、でも深い関わりはなさそうって所で一番客観的な意見が聞けるんじゃないかな

大変そうだけど、ここのサークルって事件の前からあんな雰囲気だったの?
海さんとねいさんってどんな感じの友人関係だったのかな?


文月・統哉
俺は英二さんに話を聞きに行こう。
心理学とか詳しそうだし、サークル内の人間関係について彼の思う所を聞いてみたい。
アリバイもさり気なく確認する。

個人的に気になるのは、ねいさんと海さんの関係だったり。
人物像は見る人の主観や願望によって大きく変わるものだから。
時にそれは事実とは異なる事もあったりするけど、それでも『嘘』ではないのかもしれない。
ずっと一緒だと信じていたからこそ、一緒でない事実を受け入れられない。
そんな事もあったりするだろうか、しないだろうか。
…まあ、これもまた俺の主観なんだけども。(苦笑)

事実と主観を分けながら情報を整理する
何とか真相を掴みたいけど、どうだろう

※絡みもアドリブも大歓迎です




 図書館に逃れるように調べ物に来た坂田英二を見つけ近づく足音。
「こんにちは」
 難物だと他の猟兵より話を聞いていた文月・統哉(着ぐるみ探偵見習い・f08510)は、率直に頭を下げて名乗った。
「俺は、文月統哉、例の事件を調べてます」
 ぴくり、顔を見もしなかった坂田英二の肩が震えた。
「興味本位でなく、解決したいって思ってる。そして英二さんが調査してるようなのも聞いてる」
 協力しないか、と切り出した。自分から申し出ができずにいた彼へ。念のためにとその日のことを問えば吐き気を堪えるように口元を覆った。
「…………第一発見者は、俺だよ」
 くぐもる声はそう絞り出された。
「あの日は彼女と待ち合わせをしていて、逢いに行ったら自宅マンションの前で……」
 死体の状況は「話したくない」とだけ。統哉はしつこく追求せずに本来聞きたかったことを口にした。
「個人的に気になるのは、ねいさんと海さんの関係だったり。人物像は見る人の主観や願望によって大きく変わる。だから英二さんの目から見たことを聞きたいんだ」
「依存だ」
 端的に答えるのは彼のクセなのだろう。
「もう少し詳しく話して欲しいな」
「高木海は欠けている。中学時代に父の会社が倒産して、母が男を作り身籠もって、高木を捨てて逃げた」
『児童心理学』と掲げられた分厚く古めかしい本を手に取り、彼は更に言葉を継いだ。
「母親に捨てられて、父親は全てを失ってふさぎ込んだ。高木は幼いながら人生の報われなさを叩き込まれた――そんな時に出逢った茜沢ねいはこう言ったそうだ」
 ――じゃあ、海ちゃんがわたしのママになってよ。
「茜沢は、高木の前で『家族の愛情に餓えた娘』を演じ続けた。高木は「ねいは私がいないとダメだ」という魔法の呪文を得て、自殺もせずに大人になりこの大学に入ってきた」
 ――でもじゃあ、ねいの幸せはどこにあるんだろうか。
「高木の過剰な依存の受け皿になり続けたねい自身の幸せは?」
 やるせない問いかけに統哉は困ったように目を伏せた。
 英二の視点はねいに同情的だ、過剰に。
 更に彼は言外に嘯く「ねいを救いたい」と。
 ……それは英二もまたねいへ依存しているという現れではなかろうか?


「ねぇ、ちょっといい?」
 三嶋・友(孤蝶ノ騎士・f00546)が裾を捕まえたのは、午後の講義を2コマ終えたモブサークル員こと山本くんだ。
「『旅をする会』の人だよね?」
「は、はい」
 警察の追求(というほどヘビーではなかったが)にクタクタだった山本は、友の何処か自分に近しい雰囲気にあからさまにほっとした。
 三嶋友という人は、良い意味でゆるっと力が抜けている。人から緊張感を上手に奪う名人だ。
「海さんとねいさんってどんな感じの友人関係だったのかな?」
 故に最初からこんな直球を投げ込める。
 ――今回の殺人事件で気になったのは『胴体を斬り裂かれていた』ことだ。さて、妊娠がどうしても認められなかったとしたら?
(「まるで『自分で自分の罪に向き合いなさい』なんて主張を感じるんだよね」)
 死体をわざわざいじくるなんて、必ずなんらかの意味がある。
 例えばトリック上どうしても必要だったとか、例えば抗議を示したかったとか。
 そんな理由で友は海とねいの関係に着目し、恐らくは一番客観的に意見が聞けるであろう山本にターゲッティング。
 同郷出身、学部も一緒。
 実家の経済レベルは、全く違った。
 ねいは裕福で、海は父の会社が倒産し母が逃げたぐらいには困窮していた。
 他の猟兵が聞き出してくれたり、友自身が山本からかき集めたものと相違ない話がまずは出てきた。
「高木さんが茜沢さんに常についてまわってて世話を焼くってのが、沢山聞いた話だと思うんですけど……」
 続きを語る山本くんは、眼鏡をくいっと持ち上げて些か自慢げだった。
「茜沢さんも、高木さんが好きだったと思いますよ?」
「あ、なんかエピソード知ってるの?」
 友が向けた水をゴクンと飲み干すが如く、山本はサラサラサラサラ。
「高木さんは旅行にくることなかったんですよ。で、茜沢さんは必ずお土産買うんですよね、それも2つ。渡す時に『海ちゃん、お揃いだよー』って1個ずつ分けるんですよ」
 海ちゃんお揃いだよ、を口真似する山本が迫真の演技過ぎて内心引いた友ではあるが、そこは口に出さずに「ありがとね」とお礼に代えて別れた。
「ふうん。すっごい人たらし」
 母に捨てられている海へ「いつだって忘れてないよ」と囁いて母性めいた友情を注ぐ。
 更に、いつも一緒を望むが貧困故に叶わぬ海に対して、小まめなお土産はさぞや『愛情』感じさせる気遣いであったことだろう。


「あのぉ~旅する会の人ですかぁ? ほら、ねいに1回連れられてきた、1年で同級生だった」
 ――憶えてるっしょ?
 灰に蒼をスポイトで落とし混ぜ込んだような薄闇へようこそ。絢奈は既にニヒト・ステュクス(誰が殺した・f07171)の術中だ。
「ホットアップルパイなんて、攻めてるっすよねー」
 ちゃらちゃらアンクレットをゆらし、絢奈と似た系統のファッションのニヒトは自販機から缶飲料をとりだした。つられた絢奈も缶珈琲を買い求め、2人は並んで座る。
「ねいって言えば高木さんってぐらいくっついてるっすけど、ちょっとうざいよね」
 シナモンの香りしかしないアップルパイ、既製品はやっぱり美味しくないものばかりだ。
「あぁ、高木さんねー? あの人、旅行に来たことないんだー。貧乏だし、男女同じ部屋で寝るとか赦せないって」
「マジっすか?! なんで『旅をする会』に入ってるんですか」
 オーバーアクションでの驚きに、つられて絢奈の口も軽くなる。
「思うよねー! 部費はさ、ねいが立て替えてたの」
「えー、集りっすね。なんか潔癖で融通効かないって感じなのに、そういうとこ甘えちゃうんすね」
 潔癖で融通が利かないのは『男女関係』についてのみ。
 そして、ねいが立て替えていたということは――ねいから、高木海をそばにいさせた。依存させていた。
「あいつ、意外とビッチですよねー」
「ねいは、いいこだと……思う、よ? 相手思い、だし……」
 ここにきて擁護、つまり絢奈も依存させられていたわけだ。
 ……どんだけばらまいてるんだ。
「でも、何かここの部長ともー……あ、すんません。あの人センパイの彼氏……」
 ガンッ。
 ばしゃり。
 まだ半分以上中身が残る状態でゴミ箱に投げつけられた缶は、無惨に中身をまき散らし落ちた。
「違うよ、違う……違うの」
 ――ニヒトの中、描かれた『茜沢ねい』の輪郭が色濃くハッキリとした線へ変化していく。
「センパイ、辛いことあるんなら吐いた方がいいっすよ」
 共感と寄り添いべったべた。甘い餌をちらつかせてつけ込み『欲』を増幅、そして誘導する。
 ――『欲』しか考えられないぐらいに、そうして『欲』に紐ずくことで自分に依存させる。
「ねいのこと、どう思ってるっすか?」

「……………………こわい」

 顔を覆い震える絢奈の肩に掌を宛がい優しくさする。子供を宥めすように「だいじょうぶ、話して」と繰り返し囁いく。恐らくは、かつて茜沢ねいが絢奈にしたように。
「……夏にあたし、央に『乱交プレイの動画』を強要されそうになって、あの子に漏らしたの。もうなんか自分の判断力が信じられなくって」
 ダラダラと流される央への恋慕だか執着だかも我慢強く聞いた。
「ねいは『絢奈先輩は、そんな怖いことはしたくないんですよね? でも、央先輩が動画を失うのも心配なんですよね?』って」
 ――そんなねいは、央の為に『乱交プレイ』に赴き、挙げ句『動画のあやや』に成り代わった!
「あたしは当然詰ったわ、泥棒猫とかいっぱい…………そしたらあの子なんて言ったと思う?」

『絢奈先輩は、乱交プレイなんてやりたくなかった』
『でも央先輩は動画視聴者をつなぎ止める為に『あややと乱交』のイベントをやって、今後もずっとずっと人気の動画を撮りたかった』
『今の状態って、どっちの望みも叶ってますよね?』
『――なにが、ダメなんですか?』


 食堂の椅子に、友とニヒトは背中合わせで腰掛けている。そこに現れた統哉が3つのマグカップを置き、珈琲を注ぎ込んだ。
「ふうん。それが『茜沢ねい』って人の仕組みだったんだ。私が聞いたのと矛盾しないわ」
 かちゃり。
 スプーンで掬ったスープを飲まずにおいて、ずるずると椅子にだらしなく崩れたもたれた。
「それさぁ、海さんにも向けてたってことだよね? 不味くない?」
「不味いね。彼女の場合は幼少期の支えにまで食い込んでるよ」
 ――ずっと一緒だと信じていたからこそ、一緒でない事実を受け入れられない。
 と、統哉。
 ――自分の中の『茜沢ねい』というイメージが強固にあり、相違は決して認めない。
 と、ニヒト。
 ――否応なしな相違を現実として見せつけられたなら、それは裏切り。
 と、友。
 斯様に見解は一致、そして恐らくはこれこそが真実だ。
 さて、その海に直接話に行った猟兵は誰かいただろうか――?

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



『あたしの平穏は、ねいが全てを肩代わりしてくれることで保たれている』
 怖いと怯えながらそんな風に利用もしていた狡さを、支倉絢奈は気づいていた。
 故にその死に罪悪感を煽られた。
 もし茜沢ねいが自殺なのだとしたら、央に関わらせた自分にも幾ばくかの責任がある、と。
 ――そんな風に殺されていた方が良いと望む気持ちが、ますます彼女を悩みに捉え、自宅で嘆き続けいていた。
 どうしよう、ねいが怖い。
 でも、ねいがいないのも、怖い。


『俺を彩る全ては、もはやねいちゃんをなくしては存在し得ない』
 彼女を男達の中に放った際、三河央は『女王』を見た。清楚な彼女は淫靡に男達を支配した。
 その『女王』は自らを喰らわせ施すことで満たされる! なんて都合のイイWINWIN関係。
 俺は、彼女がいないと、破滅する。
 彼女がいなければ、動画も金もなにもかも手に入らない。
 俺は、おしまいだ。


『俺の自尊心は、茜沢を救うという一点において保たれている』
 人が苦手でコミュニケーションが下手くそなのがコンプレックスだった坂田英二は、それこそ最初はねいの自動的にばらまかれる『依存』に救われていた。
 だが、そこにこそ病巣があると見出した時、ねいを救えば自分の存在意義が見出せるとまで至ってしまった。
 もう俺を引き上げてくれる存在も、俺が引き上げること叶う存在も、いないんだ。


 これらは紛れもない『今の茜沢ねい』への依存、だ。
 語られぬ一人だけは『今の茜沢ねい』では満たされない。
レイ・ハウンド
おまわりさんの!
コスプレを!
していくぞ!
…大丈夫、俺だってコミュ力を装備している…!(ニゴォ…といびつな笑顔)

高木を当たる
ちょっとお嬢ちゃん、茜沢さんの事件の捜査に協力して欲しいんだが…
「人に恨まれそうな子じゃない様なんだがなぁ…
人がいいから悪い連中に唆されたんだろうか?
正義感を煽っていく感じで踏み込んでいく

流れで
「嬢ちゃん茜沢さんと仲良かったのか
そりゃ胸が痛いな
「良い子だったんだなぁ
中学時代からの思い出を聞き
「なら尚更犯人捕まえてぇな
最後に見た場所とか詳しく教えてくれ
「言いにくいが悪い噂もあるみたいだな…
断れない性格で流されたかもしれんが
捜査上詳しく聞きたい
とカマかけ

動揺した部分は突いていく




 顔が怖い。
 歯を見せて朗らかさを精一杯演出し笑みは、控えめに言ってなまはげのように雄々しい。
「不審者」
『旅をする会』の部室にて、レイ・ハウンド(ドグマの狗・f12038)に対する高木海の第一声は、聞くも無惨な代物であった。
 しかし、身長190cm近い眼光鋭く悪そうな顔をした男に声を掛けられた大学生女子の気持ちとしては致し方ないものがあろう。
「ちょっとお嬢ちゃん、茜沢さんの事件の捜査に協力して欲しいんだが……」
 公僕の証な黒い手帳(偽物)をちらと見せればひっつめ髪で色気のない娘は「はい」と短く従った。
 既に部室にいる山本と三河は、気を利かせたかジュースを買いにとかなんとか言って出ていく。
「人に恨まれそうな子じゃない様なんだがなぁ……」
「そうです。ねいは本当に優しくて清楚で真面目ないい子なんです。なんで、なんで……ねいは死んじゃったんだろぅ」
 下唇をぎゅうと結び頬を震わせる様子には、到底演技めいたものは感じられなかった。
「嬢ちゃん茜沢さんと仲良かったのか」
「私以上の親友はいないです。あの子は私がいないとダメなんです……」
 眼鏡を外し拳を宛がい「すみません」と途切れ途切れにか細く零す。
「そりゃ胸が痛いな」
(「なんだこりゃ」)
 そう合わせてやりながらもレイは著しい嫌悪感に襲われていた。
 海の言動の全てにおいて、ねいの自由意志の尊重が感じられない。
 さながら娘の為にレールを敷いてその通りに成長すること『だけ』を求める歪みきった母の言動だ。
(「邪神関連の話もまだ出てねぇよなぁ」)
 茜沢ねいという彼女が教団に絡んでいたのか、その辺りもはっきりとさせておきたい、が。
「嬢ちゃん。言いにくいが悪い噂もあるみたいだな……」
「……」
 恨みがましい下から目線、海は煮詰めた泥のように暗くて嚥下し難い表情をしてみせる。
「じゃあ嬢ちゃんは、そのー……茜沢さんが妊娠したのは無理矢理だったと考えてるのかなぁ?」
 センシティブな内容を極力ショックを与えぬようにと気遣ったら、まるで子供に話しかけるような台詞になった。
 その時、異変は起きる。
「え? なに言ってるんですか? ねいは妊娠なんて絶対しませんよ」
「……しません、だと?」
 剣呑と思わず素が出たレイのポケットが小刻みに揺れる。
 大方、他の猟兵達が回してくれた情報の着信で、今目の前にいるのが茜沢ねい殺人犯人と知らせるものであろう。
「ねいは……」
 そう愛おしげに囁く海の響きは、酷く非道くヒドく――猥雑だ。
「ねいは、綺麗だから妊娠しないの」
「………………だから、妊娠した茜沢ねいを、なかったことにしたのか?」
 レイが指摘したと同時に茜沢ねい殺害犯高木海の上半身が、ぐらり、と傾いた。

成功 🔵​🔵​🔴​


●茜沢ねい殺害の十数分前
「海ちゃん、短い時間しかとれなくてごめんね。でも人が帰ったらまた連絡するから」
「人って誰よ」
 勝手知ったるねいの家、いつもの素振りで上がり込むとキッチンに向かう。
 ――ねいは林檎が好きで、特にうさぎさんの方が美味しいって食べる。だからこれは自然な行動だ。
「坂田くんだよ」
「……彼とつきあってんの?」
「えぇ? 前にも聞いたじゃん、それ」
『恋愛とかそういうの興味ないもん』――大学に入って梅雨が来る頃のねいのこの答えは、数ヶ月間の間も終ぞ変わることはなかった。
「…………ねい」
 かとん。
 包丁の上で割れる林檎は罪の象徴。アダムと名もなき女は囓ったことで恥じらいを知り子を産む苦悩と作る歓びを知った。

「お腹の赤ちゃんはどうするの?」
 崩壊の引き金になるとわかっていても、引かずにはいられない。

 ねいが妊娠しているのではないかと『噂で聞いた』
 ……こんなに大切なことを相談してくれなかった事実が海を苛んだ。
(「私って、ねいの、なに?」)
「うんっとねぇ、堕ろすー。サインは央先輩がしてくれるよ。結構割りのいいバイトになったみたい」
「バイトって……!」
「央先輩は、実家のお金を使うのってプライドが赦さないんだってー。まぁわかるなー、自分で得た喝采じゃないと意味ないよね」
「だから何言ってるの?!!!」
 海に喚き立てられて、ねいはひよこがしてみせるように首を傾ける。
 そうして「コンビニの期間限定スイーツ美味しいよね」とでも言うように、件のことを口にした。

 ――堕胎には男性側のサインが必要で、央は『支援団体(要はヤクザだ)』から金をもらってその役回りをする。堕胎費用も彼ら持ち。
 ――多分、30分の1ぐらいの可能性で父親ではあるし、なんて付け加えるねいはいつも通り。

「そもそも子供ができるようなことさせられて、犯罪じゃないの! 警察いかなきゃッ!」
「まぁあんなに人数がいるのはびっくりだったな」
 視線は林檎を物欲しがりながら、ねいが零すのは涎ではなく央と絢奈の事情だ。
「でも、撮らないと央先輩が大変だったし。『いいね』がつかないと吐いちゃうんだって、手首ガリ細なんだよー」
 さらり揺れる顎のラインで揃えて切った髪は、動画に出るようになってから。以前は肩甲骨につくほどに長く、海はそこに顔をうずめて抱きしめるのがなにより大好きだった。
「でも絢奈先輩もそんなプレイはやりたくないって。無理矢理にされるのって女としては怖いよね」
「!」
 ねいの言動が常軌を逸していると判断できたのは海の脳みその内の一部だ。残りは蔑ろにされた憤怒と嗟歎を餌にして嫉妬が蟲のように這いずり子を殖やしていく。
「ねいは、大学に入ってから変わったわ」
「変わってないよ?」
「嘘! ねいは私がいなきゃダメだったのに、勝手なことばかりしてる!」
「そうだね、海ちゃんは私のお母さんをやってくれるんだから、そうなるよね? お母さんってお小言言うのが仕事だよねー」
「……私とねいは特別、特別なのよ」
 てんてんてんてん――文章ならばそんな『間』が挟まってから、ねいは屈託ない破顔を満面に咲かせた。
「でも、央先輩にとっても絢奈先輩にとっても『あたしは特別』なんだよ……ねえ、林檎ぉ」
 甘ったるく子供じみたせがみ方は、昔となにも変わらない。
「……」
 そんなねいを見たならば、海の中の蟲が『許容』を喰らわされてそ体色を変じていく。
 ほらほら、私はねいのお母さんで、ねいは旅先のお土産を必ず買ってきたりなんて健気な娘なの。
「だけどさ、お腹の子供のお母さんには、まだあたしははやいかなって。お母さんになったら、その子の『特別』になんなきゃいけないし、それはもう時間もすっごい持ってかれちゃうー、海ちゃんが私にしてくれてるみたいに」

 ――そしたら、央先輩や絢奈先輩、坂田くん、あとー……動画で知り合った人達にとっての『特別』でいられなくなっちゃうの、それって困る。

「時間もあたしも有限、沢山いればそれだけ叶えられるのにな。そしたら大事な海ちゃんを寂しがらせることもないし…………」
 本気で言っているのかこの女は。
 そうだ、本気で言っているのだ。罵詈雑言よりもなお人を地獄に叩き落とす『本音』を。
『海ちゃんを寂しがらせた』(ごめんなさいの顔で)
『子供の母にははやい』(独占されたくないって困惑)
 独占されたくない。
 独占されたくない。独占されたくない。
 独占されたくない。独占されたくない。独占されたくない。
 つまりは、茜沢ねいを永遠に自分だけのモノにすることもできなくて、この女は子供を容易く殺せる、捨て去るように。
 ――なんだ、娘(わたし)を捨てた母親(あのおんな)と一緒じゃないか。じゃあ、私がその子ごと斬り裂いて殺してやる。
 完全に油断しきっていた茜沢ねいは、高木海がつきだした出刃包丁で心臓を貫かれてあっさりと落命してしまった。

 ――後の取り調べで、高木海はこう供述する。
「最初から私だけのねいに戻ってくれないならば、殺すつもりでした。
 でも、動機はなんだか色々と増殖して複雑に捩れてしまった感じがします。
 最初からこの子は、私だけのものなんかじゃなかったんだって……とてもとてもとても哀しかったんです」


第2章 冒険 『猟奇連続殺人を阻止せよ』

POW   :    被害者の身辺警護をする

SPD   :    犯人を捜査し取り押さえる

WIZ   :    変装や被害者の共通点を身に付け、被害者の身代わりになる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●サークル『旅をする会』連続殺人事件、開幕
 同じ舞台で続くなら、カテゴリーは連続殺人事件だ。例え犯人が変わったとしても、そんなのはミステリーでもよくある話。
 とはいえ、現状の有様は余りに衝動的でお粗末すぎた。

「……さ、坂田くん」
 殺人を告白させられて人に聞かれたくないからか、感覚が高ぶっていたのが功を奏した。背後より近づく気配気づき更には坂田の手にあるナイフを認め、海は無我夢中で体を倒した。
「高木、茜沢を喰い荒らしていた筆頭のお前が殺したんだな」
 仕留められぬことだけに苛つきが募り、坂田は舌打ちを零す。
「…………ッ! きゃあああああああああ!」
 そして、間抜けな一歩遅れにて床に転がった海はけたたましい悲鳴をあげた。
 何事かと隣にいた三河央や山本が入ってきた。部室に向かっている支倉絢奈も悲鳴に駆け足、すぐに現れるだろう。
「彼女は俺がカウンセリングで治療中だったんだ。でももう茜沢には未来がない。当り前に『自分の幸せを望んで生きる』ようにしてやりたかったのに、お前が壊したんだ」
 吐き出す度に躰が冷えていく、握り込んだナイフと同化するように。
 ……人としての体温を喪失していく。
 彼の心に寄生するナニモノかが歓喜する。
 英二の抱く絶望は居心地の良い苗床で、全てを投げ出し人1人を屠るまでの憎悪と憤怒は恰好の餌。
 ――『ナニモノ』かって『何』?って、そりぁあ、ねぇ??

 情報収集の後に真相に至った猟兵達も望むなら居合わせることが叶う。
 そして猟兵諸君であれば、英二を取り押さえて海の殺害を阻むのは容易い。
 ところで、
 英二を目の当たりにしたならば、某かの邪神の浸食に気づくはずだ。
 恐らくは、何者かが英二に『邪教召喚の為の宝珠』を埋め込んだ。
 触れるだけで体内に宿せるならば、サークル仲間が気取られずに英二を依り代にするのは造作もないことだろう。
 さて、今ここに邪教の宝珠は起動した。
 まもなく邪教の眷属と化す英二を屠るのが、諸君の最終的な使命となるだろう。
 ……恐らくは。


======================
◆マスターより補足
 第2章のプレイングは【2月4日 午前9時以降】より募集開始です。
 それ以前に届いたものは採用できない可能性が非常に高いです。

 第2章の成功条件は【連続殺人事件の阻止=英二に海を殺させない】です。
 つまり【坂田英二の生死は問いません】

 坂田英二を救う方法は【説得にて海を殺さぬように納得させる】だけです。
 そうすれば負の感情を糧に成長してきた『宝珠』は彼の体から離脱します。
 ただし説得難易度は【難しい】です。容赦なく『苦戦』判定を出しますのでお覚悟を。
 説得での救出成功を狙う方は、文字数全てを説得関連に注ぎ込むことを強く強く推奨します。
 英二には明確に幾つかの地雷を設定しています、それに触れてしまった場合と、彼の心に届きにくかった言動は『苦戦』としてお返しします。
 けれども、同時にこちらもお約束します。
 英二とは会話は成立しますし、説得は決して【不可能ではありません】
 心に届くこと叶いましたら、賞賛と共に『大成功』としてお返しいたしましょう!
 第1章で描写されたものは【全て既知として利用してOKです】
(1章ラストの殺害シーンは、情報をつなぎ合わせて推察など――全て通します)
 またプレイングは説得成否確定後に、英二に話しかける形で採用させていただくかもしれません。それを望まない場合はラストに『×』とご記載ください。

 説得以外の実力行使での依頼成功難易度は『易しい』です。
 ただし最初は説得プレイングの方を優先で描写させていただきます、ご了承ください。
 採用は『あと1回苦戦が出たら失敗』の状況下でのみ行います。
(シナリオが長く停滞してしまったら広報の上で採用をはやめるかもしれません)

 また、説得・実力行使以外の行動「例:他のNPCへ声を掛ける、それ以外のアクションをかけるなど」勿論例示以外のプレイングもOKです。
(採用は成否判定の確定後となります)

 最後に第3章についてです。
『成功』で終了した場合は【膨らむ頭の人間】との戦闘になります。
(英二説得が成功し命を救えた場合も、何らかの形でもって敵は現れます)

 それでは皆様のプレイングを心よりお待ちしております!
クレイ・ギルベルン
【SPD】

説得
…と言いますか、言いたいことを言います
あまりにも、経緯が…、胸が悪くて、…ハァ
(※セリフ下に向かうにつれ感情が先立ち、語調荒くなるイメージ

「坂田さん。
あなたが茜沢さんを本当に大切に想っていることは、理解しました。
誰よりも憤りを感じていることも。深く絶望していることも。

「あなたが救いたかったのは茜沢さんでも
守りたかったのは茜沢さんではありませんね。
(直接は申し上げませんが、『己の自尊心』ですね)

「…坂田さん
その強い憎悪の発端は『不安』でしょう。
ここで高木さんを罰したところで晴れるものではない。

何より――茜沢さんの献身に縋っていたのはあなたも同じです。
罰する権利などあなたには無い!」




 拗れきった事態を目の当たりにした時に、精神的な嘔吐を喚起することは大いにあり得る。
 クレイ・ギルベルン(迷いの夜に・f04293)の胸を満たすのは、現状そんなドブを流れる腐り水めいた悪感情だ。
 それは誰に向けて?
 この事態に関わった全てに向けてだ。坂田英二とて例外では、ない。
「坂田さん。あなたが茜沢さんを本当に大切に想っていることは、理解しました」
 クレイは取り繕わない、宥めすかした所で彼が殺人という愚かしい行為を止めるとは到底考えられないからだ。
 鮮やかな紫の猫は、金縁のギミックゴーグルごしの瞳を鋭く尖らせ続ける。
「誰よりも憤りを感じていることも。深く絶望していることも」
「…………知った風な口を聞かないでくれ」
 怒りに反射してくる感情はまた怒りでしかない。だがそれは所詮、口先だけの逃げ口上だとクレイは見抜いている。
「あなたが救いたかったのは茜沢さんでも、守りたかったのは茜沢さんではありませんね」
 直接は口にせぬが『己の自尊心』こそ彼は守りたかったのだ。
「じゃあ教えてくれ」
 紫苑の毛先へと向いた銀の凶器は不安定に上下移動、殺意はないが苛つきは滲んでいる。
「なぁ、俺が茜沢を救いたかったわけじゃあなかったならどうしてこんなに『なにもない』んだ?」
 答えはもたらされなかった。
「……坂田さんその強い憎悪の発端は『不安』でしょう。ここで高木さんを罰したところで晴れるものではない」
 そこまで読み取りなお、クレイは英二の不安を緩和し未来を示すのではなく正論による指摘と弾劾を選んだ。
「何より――茜沢さんの献身に縋っていたのはあなたも同じです」
「そんなことはわかっている……」
 クレイの荒くなる語調につられ叫ぶも英二の語尾は心許なく萎んだ。
「罰する権利などあなたには無い!」
「わかってるよ」
 虚脱しなお抗う台詞は裏腹理解、だが心は赦せない。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

霧生・真白
可能性があるなら賭ける他あるまい
英二の説得をしようか

ほう、茜沢ねいのカウンセリングをね
『自分の幸せを望んで生きる』ようにとは、具体的にどうするつもりだったんだい?
本当にその方法で救済という結果に辿り着けたのかな?
君も、そこの殺そうとしている高木海や周りの人間と同じではなかったのかい?
同じように彼女に依存し、理想を抱いていたんだろう
遅かれ早かれ、きっと彼女の日常は壊れていただろうね
その壊した張本人が、今回は君ではなかった…ただ、それだけのことだと僕は思うけれどね
そんな君が、高木海を断罪する資格があるのだろうか?

僕は君も断罪されるべき人間だと思うよ
茜沢ねいに関わり彼女へ依存した全ての人間と共に、ね




 しゃがんで耳を塞ぎかけた男へ、霧生・真白(fragile・f04119)は腰をかがめて視線を合わせた。
「『自分の幸せを望んで生きる』ようにとは、具体的にどうするつもりだったんだい?」
 この問いかけは否定への伏線である。
 英二が行うように、図星をつくことで相手を怯ませて彼から冷静な判断力を引き出すことに、賭ける。
「茜沢が『どうしてこうなったか』を探る為に沢山の話をしたんだ」
「彼女はなんと語ったのかな?」
「幸せな家庭だと。父は理想的な職人で母は内助の功を絵に描いたような人で……」
 荒く浅い呼吸は思考能力の低下を現わす。そんな中、失って日が浅い彼女との会話を思い出すのは心に爪を立てるに等しい行為。
 だが欺瞞で自分を覆い隠し暴力(やすき)へと流れる男を足止めできては、いる。
「――自分が男に生まれれば完璧だった」
 英二の脳裏に浮かぶのは、珍しく笑っていない茜沢ねい。打ち明けてくれたのは出逢ったかなり初期のこと。
「それに君はなんと返したのかな?」
 英二は力なく首を横に揺らした。
「何も言えなかった。事実は覆せないと」
 製氷機を舐めた時みたいに張り付いた舌は剥がせば傷みしかない。だがねいの心がもっと痛かったのはわかっていた。わかっていたのに、どうすることもできなかった。
「だから君はカウンセラーという役回りを担った、それは君の望みだ。じゃあ更に問おう。彼女を通じて願いを叶えた君は、高木海や周りの人間と同じではなかったのかい?」
 ……英二が切り結んだ唇は、ぎちり、と通常であれば発しない音を、たてる。
「………………」
「遅かれ早かれ、きっと茜沢ねいの日常は壊れていただろうね。その壊した張本人が、今回は君ではなかった……」
 ただそれだけのことだと、力任せにはせず淡々と説くことで真白は彼を止めんとす。
「そんな君が、高木海を断罪する資格があるのだろうか?」
 英二にはわかっているのだ、資格などないと。
「僕は君も断罪されるべき人間だと思うよ。茜沢ねいに関わり彼女へ依存した全ての人間と共に、ね」
 探偵が罪を受け入れるようにと話せども、英二には現状その器は、ない。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

涼風・穹
……やれやれ…
茜沢が邪神だった方がまだ救いようもあったのかもな…
誰にでも合わせられるって、どれだけの闇を抱えていたのやら…?
まあ、可能性だけなら茜沢自身が坂田に『宝珠』を埋め込んだ張本人だという線は消えていない訳だし、或いは茜沢なんて人間は随分と前に消えていて邪神が操っていたからこそあんな振る舞いを続けられていた、なんて風にも考えられるけど…

……さて、悪いけど俺は少し静観させて貰うぜ
高木を含めて誰かが殺される寸前になれば流石に止めるけど、程度の違いこそあれ全員が被害者だけど加害者でもあるとなると、誰かに加担しようという気にはなれない

まあUDC組織へ連絡して警察がくるのを少し遅らせて貰うとするさ


空廼・柩
最初はねいがサークルの仲を取り持っていたと思ってた
それが今は…彼女が彼等を狂気に落としてる様にすら思えるから不思議だ
…口には出せないけれど

欠けている者に救いを与え『依存』させる
確かに彼女の場合は一寸異常だ
坂田英二、君はそんな彼女を救いたいと心から思ったんだね

依存対象を無くした人は簡単に絶望へ叩き込まれる
今のあんたの様に、絢奈や央もきっと
海の場合、嫌う母親と同じ事をしようとした時点で、だろうね
確かに英二の絶望の引金を引いたのは海
でもその感情発露の為に、予め下拵えされていた様にも思える

…聞いて良い?
あんた、ねいに触れられた事ある?
…で、もしかするとその頃からじゃないか
彼女への思いが膨れ上がったのは




 狂気の中心は間違いなく彼女、茜沢ねいだ。
 最初はこの欲渦巻くクセモノ揃いのサークルのバランサーはねいだと考えていた空廼・柩(からのひつぎ・f00796)は、真実が顔を出す度に逆だったのだと思い知り、だが口は慎んだ。
 同じ感想を涼風・穹(人間の探索者・f02404)もまた抱いていた。しかし彼は柩と違い直接的に英二に触れる気はサラサラない。
 程度の違いこそあれ全員が被害者であり加害者だ、ならば誰かに荷担するのは筋があわない。
 ただ、仲間達が英二の生存を勝ち取ろうと足掻くのならば、その根回しは抜かりなく行う所存。
 さりげなく席を外し、馴染みのUDC組織から此度の事件担当の窓口へと連絡を取り、警察の突入を遅らせるよう手はずを整える。
 その間、柩は英二との対話を試みる。
「欠けている者に救いを与え『依存』させる」
 俯き自身の二の腕に痕が残るまでに爪を立てていた男の震えが、止った。
「ははっ、そうだな。俺も彼女に依存して喰い荒らしてた」
 海を殺すとは別の自暴自棄さが浮遊している――柩は瞼をおろすと相応しい文言を探しだした。
 さぁ、一気に説得しきれるかはわからない。だが事実確認は未だ足りていないとも感じている。
「確かに彼女の場合は一寸異常だ」
 異常、その単語が転げ出たタイミングで穹は戻った。
(「確かにな。誰にでも合わせられるって、どれだけの闇を抱えていたのやら……?」)
 いっそ茜沢が邪神だった方がまだお話としちゃあ救いがあるとすら思う。
 一方『その単語』を口にした柩は英二の損壊が深まる前に、
「坂田英二」
 彼の名を呼び、
「君はそんな彼女を救いたいと心から思ったんだね」
 紛れもない真実を改めて言い聞かせた。
 その行動理念は、彼女に依存した4人の中で唯一奪うだけでなく与えようとしていた。
 故に茜沢ねい喪失が産む絶望は一段と大きい。
 祭具たる『宝珠』は絶望より喚起される負の感情を餌に肥え太るのだという。
 本当に在りがちすぎるお隣狂気だと、穹はこう云った話に関わる度に思う。慣れていく度に遠ざかる日常を憂いても、距離が縮まることは、ない。
「……英二」
『怪物』の息づかいを知る柩からは、英二の魂がリアルタイムで喰い荒らされていく様が手に取るように感じられた。
 止めたい、と願う。
「今のあんたの様に、絢奈や央もきっと絶望の中にいる」
「………………絶望」
 生気のない英二の貌は、言われた順番でサークルメンバーを瞳に入れた。
 絢奈は硬く目を閉じると小さく「ごめんなさい」と呟いた。その謝罪は果たして英二へかねいへか、はたまた海へか。
 央は唇を尖らせて貌ごと視線を背けた。ガリガリと掻きむしる手首には浅い傷跡が何本もついている。
 茫洋と戻ってきた虚ろな眼窩に向けて、柩は一歩二歩と距離をつめていく。
「確かに英二の絶望の引金を引いたのは海。でもその感情発露の為に、予め下拵えされていた様にも思える」
 ……誰が?
「――」
 穹は柩が自分と同じ懸念に辿りついているのだと知り、行く末を見守る眼差しに興味が宿った。
 高木海を含め、誰かが物理的に害されるのならば割り入り防ぐ心算だが、現状の英二はそういったことをしでかしそうにもない。他への警戒も張り巡らしつつ、穹は再び存在感を消す。
「……聞いて良い?」
 柩は弾き出した答えの代わりにこう問いかけた。
「あんた、ねいに触れられた事ある?」
 少しでも触れれば宝珠をその身に寄生は可能という。
「……いや、その、俺は彼女とはそういう関係じゃなかったから。隣を歩いていて手が触れあったとかそういうのぐらいはあったかもしれないけれど……」
 頬を紅潮させつつも生真面目に否定する英二に外したかと柩は肩の力を抜いた。
(「へえ、顔つきが変わったな」)
 一方、柩との対話で他者を視界に入れた英二は、人としての平衡を取り戻したようだ。
 穹もまた、背負った荷をおろすが如く肩の力を抜いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヘンリエッタ・モリアーティ
坂田英二さんを説得します。
……気持ちの否定はしないわ。あなたの気持ちは私たちには裁けないし、否定もできない。
あなたは……茜沢さんを救うことで「あなた自身も」救われたかったのでしょうね。彼女をカウンセリングすることで、自分も癒されていた。間違いじゃないわ、行為は。
あなたの心はあなたでしか埋めれない。間違えてない。でも、他人を使ってはいけないわ。――他人は無責任だから。
あなたのことは、あなたが見つめてあげて、坂田さん。
思い出して、あなたは「どんな幸せを望んでいたい」?
……他人を裁くのは司法よ。個人で裁くのは、あなたの気持ちでしかないの。間違えていないわ。でも、強すぎる気持ちだわ。
ナイフを、渡して。


伍島・是清
人と話すって難しいよな
俺は今
御前に掛ける言葉が出てこない


結論から云う
高木海を“今”殺すのは待って欲しい

今、御前の中に邪神の宝珠があり
それが心に影響している可能性がある
殺人という己の人生を費すことに妙なもんが干渉すンのは如何かなものか
先に宝珠を除かせて欲しい

信じ難い話だろうが
俺が本気なのは心理に長けた御前は解ンだろ

除して尚
御前が成したいなら俺は止めない
今日会っただけの俺に何が云える

…本音は止めてェよ
殺せば御前が積み重ねた全てが潰える
治療が必要な人間は屹度沢山居て
御前は救えるひとになれるのに

俺は御前に
殺人者より救済者であって欲しい

でもそれは勝手な我儘だから
せめて御前が御前だけで選べるよう
時間をくれ


霧島・ニュイ
ねいちゃんがいないの、辛くて悲しいよね
どうしたらいいのか分からないよね

英二くんが事件のことを調べてたのは復讐するためなの?
それとも、知りたかったから?
どうしてこうなったのかとか…どうやったら幸せになったのかとか、知りたかったんじゃないの?
でもまだ――ねいちゃんの事、掴みきれてないんじゃないかな

ここで海ちゃんを殺しちゃうと、現行犯逮捕でしょ
君が勉強してもっともっと知識を得て……それが出来なくなるんじゃないかな
ねいちゃんは君を頼りにしてたんでしょ、カウンセリング受けてたんでしょ
君にとってねいちゃんは特別だったんでしょ
彼女は海ちゃんに死んでほしいなんて、君に殺人してほしいなんて願わない子じゃないの?




 ねいと触れあったかに対し何故そんなことを? と、問われたならば、答えるように口火を切ったのは伍島・是清(骸の主・f00473)だ。
「結論から云う、高木海を“今”殺すのは待って欲しい」
 だが、人との会話は斯様に難しく、案配の良い言葉が出てこなかった。だから唇は率直にまず告げたかったことを紡ぐ。
「あんたは殺すのを止めないんだな」
「……本音は止めてェよ。殺せば御前が積み重ねた全てが潰える」
 それは是清の心が産む本当の心、だ。
 だが同時に英二が『海を亡き者にしたい』というのも同類のモノでもある。
 唯、
「今、御前の中に邪神の宝珠があり、それが心に影響している可能性がある」
 ――人生を費やす殺人に、純粋なモノ以外が干渉しているのならば話は別だ。揺るぎない眼差しでそう告がれ、英二は片側だけの眼に飲み込まれる。
 宝珠について更に説明を深めるのに沈黙する英二。終止符は喉仏がごくりと上下する音にて打たれる。
「………………俺は」
 顎に宛がわれた指が日に当たらぬ青びょうたんの鼻先を滑り、男の目元を覆い隠す。
「俺は今、演じてないか?」
 そうして零されたか細い問いかけに是清は息を呑んだ。
「……茜沢は、俺に演じていた……ん、だろう。俺は……同じことをあんたにしたくない」
 でも自分がわからないと、額から髪を掻きむしる手の甲へ、白い指がギリギリまで近づき翳される。
「坂田英二さん、あなたはあなた」
 ヘンリエッタ・モリアーティ(獣の夢・f07026)は、気配だけを彼の指に記し続ける。
「……あなたの気持ちの否定はしないわ。そう、あなたは『否定されない』とこちらに明言させるだけの『あなた自身』なの」
 自分を信じてなどと口にするのは簡単だ。しかし、それを為すのがどれ程に難しいかを、複数人格が常に身を炙るヘンリエッタは知っている。
 是清の真っ直ぐさは、英二には眩しい。でも、ヘンリエッタにとっては――。
「あなたの気持ちは私たちには裁けないし、否定もできない」
 ねいの為に海を害しようとする真っ直ぐさか眩しい。
「御前が成したいなら俺は止めない、今日会っただけの俺に何が云える」
 それもまた本心なのだと是清は胸に拳を宛がい添えた。
「……」
 実はヘンリエッタの目指す着地点は違うのだけれども、今はまだ口にはしない。
「あなたは……茜沢さんを救うことで『あなた自身も』救われたかったのでしょうね」
「俺は茜沢を救えていたのか?」
「……沢山自分がいる人がいて、その『ひとつ』だけにでも真剣に1人の人として向き合ってくれる存在がいるのだとしたら、それは確かに救いだわ。そして、彼女をカウンセリングすることで、自分も癒されていた。間違いじゃないわ、行為は」
 この行為が共依存という歪みを生んでしまったのだとしても、救いは救い。互いにとっての。
 でも、やはり相手に負いすぎるのは健全ではないから、歪みは歪み。
 ねいは歪みに溺れそれを享受していた、けれども英二は違う。
「あなたの心はあなたでしか埋めれない。間違えてない。でも、他人を使ってはいけないわ」
 他者に影響を与える説得という行為で、このようなことを語り説き伏せる矛盾を知りつつも、ヘンリエッタは耳元で囁く。
「――他人は無責任だから」
 と。
 これは詐術だが純粋で真剣な説き伏せでも、ある。
「俺は、でも……」
 ごん、と、床が膝を打つ音が狭く古い作りの部屋を囲む本棚に反響する。
「自分1人じゃあ、立てないんだよ」
「あなたのことは、あなたが見つめてあげて、坂田さん」
 激しく横に揺らされた頭は決して拒絶では、ない。ただそこには深い諦めが満ちていた。
「俺は……口べたで、でも孤独が怖くて仕方がなかった。そのくせ彼のように率直でもない」
 左手は相も変わらず目元を隠し、右手は力なく是清を指した後でヘンリエッタへとずれる。
「…………今だって、あんたに…………あんた、どっか茜沢に似てる…………」
 啜り泣きめいた声にヘンリエッタは「彼の望む幸せ」の答えを知る。
 ――誰かに、そばに、いて欲しい。
 人を必要とし人に寄りかからねば立てないのは、茜沢だけでなく英二もそうだったのだ、と。
 人を手にかけたい程に思い詰める、その情の強さが生み出す喪失感へ寄り添うように差し出されたハンカチ。
「ねいちゃんがいないの、辛くて悲しいよね」
 霧島・ニュイ(霧雲・f12029)は当り前過ぎて誰も口にしなかった気持ちを唇にのせて、優しく背中を撫でさする。
「…………ッ」
 悔しい、哀しい、怒り――啜り泣きに滲む抱えきれぬ感情に振り回された彼をニュイはうん、うん、と頷き続けた。
「どうしたらいいのか分からないよね」
 無理強いにはならぬように、ナイフを握る掌を包み込み「英二くん」と名を呼ぶ。
「ねえ、英二くんが事件のことを調べてたのは復讐するためなの?」
「……………………」
 逡巡の後、彼は遠慮がちに頷いた。
「そっかぁ……」
 斯様に想定と異なった答えもニュイは突き返さずに全てを通し一旦受け入れる。
「それだけねいちゃんをこの世界から消したことが許せなかったんだね」
「……」
 吸い込む泣き声と縦に揺れる頭。
 ニュイは、迷いに焔を灯し彼がまた道を見つけてくれるようにと祈る気持ちで、喘息めいた嗚咽が落ち着くまでずっとずっと待った。
「英二くん。じゃあ、ねいちゃんがいた頃はどうだったかな? ……どうやったら幸せになったのかとか、知りたかったんじゃないの?」
 一つ一つ、殺戮の情動に押し流される以前へと戻すように、ニュイはゆっくりとしたペースで語りかけた。
「……茜沢の、幸せ」
 腕からあがった赤鼻へ是清は猫がしてみせるように鼻を寄せた。
「俺は御前に殺人者より救済者であって欲しい」
 率直であることが憧れとなるのならもう躊躇う必要もない。
「治療が必要な人間は屹度沢山居て御前は救えるひとになれるのに」
 ニュイはまた英二くん、とその名を呼んだ。子守歌めいたリズムでとんとんと背中を叩き続ける。
「ダメだよ、ここで海ちゃんを殺しちゃうと、現行犯逮捕でしょ――ねいちゃんの事、掴みきれずに終っちゃうよ」
 救う人にもなににもなれない。
 でも、
「ねいがいない世界で、ねいを解らぬ俺が何になれるというんだ……」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ニヒト・ステュクス
茜沢ねいってどんな娘?

答えは人によって違い
全て正しい


…彼女は幸せだったと思うよ
相手の幸せが自分の幸せ
ねいを救えばあなたが救われたのと同じで

あなたの尺度では可哀想だったろうけど

悪気は多分なかった
誰でも良かったんじゃなく
皆大切だった
ただ何が悪くて正しいか判らなかったから
彼女も依存で自分を確立しただけ
まるで鏡だ
(師匠:f12038を見て

彼女は「救う」という役割を与えてくれた
ねいの代わりはどこにも居ないけど…
「救いたい」って信念はもう生きてないの?
『ねい』が残してくれた『自分』を
捨て(殺し)ちゃうの?

高田さんこそカウンセリングで救える人なのに

あなたは人に欠けてるものが見える才能がある
誰かを救える力だよ


レイ・ハウンド
ついでだ
他の奴らも更生させる
騒ぎに乗じ
三河をホールド

何で高木だけなんだよ!
茜沢に売春させてた三河も同罪じゃねーのか!
殺される原因作ったのこいつだろ

坂本の矛先を誘導
莫迦は痛い目見せて懲りさせるのが手っ取り早い
一応庇うが

因果応報
自業自得
もうやらねぇなら助けてやるが…?(ニゴォ

ニヒト:f07171を見て
だが良し悪しは人それぞれ
善悪の物差しすら他人に委ねた結果がこれだ
…ってか可笑しいって気づけよ!
可哀想とか間違ってるとか思ってたらやめさせろっての!

坂田
お前が本当に憎いのは止められなかった自分じゃねぇのか

支倉
お前が本当に怖いのは茜沢に全部押し付けた自分じゃねぇのか

お前ら人のせいにする前に
自分と向き合え!


四辻路・よつろ
説得で

自分がない女に、寄生虫が如く惹かれ群がる周囲
まるで食虫植物とその餌の関係みたいね
どうしょうもないクズばっかり


ねぇ、英二
あなたは本当に彼女を治そうと思った?
ねいの話をするたびに『定義するな』とそうやって怒るけれど
一度でもねいは『自分の幸せを望んで生きる』と願ったのかしら
考えてみた事はない?
そうやって一方的な使命感と優越感に浸るあなたに
ねいはずっと合わせてくれたのかもしれないと

いい加減目を醒ましなさい
あなたは医者なんでしょう?
自分が真っ先に患者の病に溺れてどうするのよ


それでもダメだと言うのなら、私にはどうしょうもないわね
固い物で後頭部を一撃、ぶん殴って気絶させられないか試すわ


文月・統哉
英二、君の言う通りなんだろうな
皆何かが欠けている
ねいも海も君もそして俺も
だからこそ『人間』なんだと俺は思う

海は母親役となる事で
君はカウンセリングをする事で
欠けた自尊心を埋めていた
でもそれは
ねいも同じだったんじゃないかな

彼女は依存の受け皿となる事で
他者に必要とされる事で
欠けた自分を埋めていた
サークルの皆に海に君に依存しながら
『自分の幸せを望んで生きていた』
それが当たり前の様にして

英二、君の存在もまた
彼女の求めた幸せの一部だったんだと俺は思う

俺もまた同じなんだ
俺は君を救いたい
それによって救われたい
これは俺のエゴかもしれない
それでも願うよ
君がこれからも
欠けた心を抱えたままに『人』として生きていく事を




 ――ならば茜沢ねいを解き明かし、何者かになれる道を作ろうか。

「茜沢ねいってどんな娘?」
 少年にも少女にも聞こえる声音でニヒト・ステュクス(誰が殺した・f07171)は、茜沢ねいを一番詳しく見ていたであろう英二へ問う。
「ねえ、茜沢ねいってどんな娘?」
 繰り返し、今度は部屋にいる全ての者へも向けて投げた。
「答えは人によって違い、全て正しい」
 海にとっては甘えたで気遣い上手な娘で、
 央にとっては体を含めて自由にできる都合のいい女で、
 英二にとっては患者でありながら彼の孤独と人付き合いが下手という劣等感を慰める女性。
 ……と、1人1人を見る度に想定を漂わせ、ニヒトは後にどうとでもとれる曖昧な笑みを残す。
「そうやって、彼女は依存の受け皿となる事で他者に必要とされる事で欠けた自分を埋めていた」
 英二は、文月・統哉(着ぐるみ探偵見習い・f08510)の提示に納得の表情を浮かべた。そこまでは自分もカウンセリングで辿り着けていたのだ。
 ただ――
「あなたの尺度では可哀想だった」
「俺は『彼女が自分の幸せを望む』ようには導けなかったんだ」
「ねぇ、英二」
 四辻路・よつろ(Corpse Bride・f01660)はずっと疑問として抱いていたことを口にする。
「あなたは本当に彼女を治そうと思った?」
「治そうとしてたかだって……?」
 ――どうして即座に肯定できぬのか。
 確信を突かれ彷徨う瞳をよつろは色のない紫を流し追い掛ける。
「ねいの話をするたびに『定義するな』とそうやって怒るけれど、一度でもねいは『自分の幸せを望んで生きる』と願ったのかしら」
 さぁ、彼女の『幸せ』とはなんぞや? そのゴールを明確に設定してカウンセリングできていた?
 要は「ちゃんと見ていたか?」とよつろは問うたのだ、答えられないと知って。
「考えてみた事はない? そうやって一方的な使命感と優越感に浸るあなたにねいはずっと合わせてくれたのかもしれないと」
 よつろもまた見抜いていた、茜沢ねいという娘の習性を。
 常に自分に合わせて変わってくれる存在、それを語れる程に理解するなんて至難どころの騒ぎではない。
 ――だがニヒトと統哉はそれにあっさりと答えてみせた。

「「彼女は最初から『幸せ』だったんだよ」」

「へ?」
 思いもよらぬ内容に英二はぽかんと間抜けに口をあいた。
「相手の幸せが自分の幸せ。ねいを救えばあなたが救われたのと同じで……」
 英二より幼いのに遙かに大人びた教師のような口ぶりはニヒトのものだ。
「ただし『それ』はほぼ全ての相手に対して適応された」
 海、央、英二、彼女の両親……その他出逢いで『大切』と彼女が定義した人達の幸せが彼女の幸せ。
 と、
 ニヒトは背の低い本棚に腰掛けるて華奢な足を遊ばせる。するととたんに年相応の少女めく。
「悪気は多分なかった。誰でも良かったんじゃなく皆大切だった」
「まるで無邪気な子供みたいな人ね、茜沢ねいって」
 それはいつろとしては、最大限に英二に配慮した物言いであった。
 明け透けなく本音を言うならば――自分がない女に、寄生虫が如く惹かれ群がる周囲、まるで食虫植物とその餌の関係だと、心底の呆れしかありゃしない。
 自我が固まる前の子供、いや、固め損ねた大人だ。だからこんなにもねいは周囲に影響力を持ち、取り返しのつかないことになった。
 ……ある意味、ねいは自分で自分の罪を購わされた。
 明かされた『茜沢ねい』の仕組みは、一気に飲み下すには無理がかかる程には逸脱している。
「英二、君の言う通りだったんだよ」
 故に自己を見失う英二に、統哉はかつて話してくれた言葉を挙げてフォローを差し伸べた。
「皆何かが欠けている、ねいも海も君もそして俺も、だからこそ『人間』なんだと俺は思う」
 かつて茜沢ねいが、海と英二へと行った施術――見失った自尊心というパズルの欠片を手渡す行為を意識して、統哉は紡いでいく。
「ねいは、彼女は依存の受け皿となる事で他者に必要とされる事で欠けた自分を埋めていた」
 誰かが強制したわけではない。
 茜沢ねいは、彼女が一番求める『幸せ』を掴み取る為に、数多の前にて『望む自分』へ為った。
 彼女もまた、望まれなかった自分を埋める為に『望まれる自分』になろうとあがき続ける娘だった。
 依存をさせる悪意がなかったのは統哉もニヒトと全くの同意見だ。
「……ってか可笑しいって気づけよ!」
 ここで、コスプレが過ぎて今まですっかり入り損ねたお巡りさんめいていたレイ・ハウンド(ドグマの狗・f12038)がとうとう突っ込んだ。
 ……ニヒトは内心「師匠、保たなかったか」と肩を竦める。
「可哀想とか間違ってるとか思ってたらやめさせろっての!」
「やめ、させろって……そりゃ、止めろって、言いましたよ」
 反駁するも、結局はねいは英二の言うことは聞きやしなかった。ねいの病(そこ)を治すには、彼女の掌で転がされた英二には、不可能。
「自分が真っ先に患者の病に溺れてどうするのよ」
「……」
 頬を人差し指と中指でなでさすり眉根をあげるいつろの呆れ顔にぐうの音も出ない。
「お前が本当に憎いのは止められなかった自分じゃねぇのか」
 淡々と事実だけを述べられて、だが裁く権利のあるなしには一切言及せぬレイへ英二は黙り込む。
 相手の望みを叶え依存させる茜沢ねいに悪意はなかった。
 じゃあそれが罪なしだったかというと、レイは自分が所持する天秤で測れやしないのもわかっている。
 何故なら、レイが知る茜沢ねいはあくまで伝聞でしかなく、それは今後も覆されることはないからだ。
 重ねられた説得と、なにより明かされた茜沢ねいが自分の手におえるものじゃなかったと知った英二は、もはや海を害する殺意からは遠ざかりきっていた。だからもう矛先を他へ向けるという必要はない。
 ……ないのだが。
「というか、何で高木だけなんだよ! 茜沢に売春させてた三河も同罪じゃねーのか!」
 それでもなおこの部屋で阿呆面晒していられる三河央をねめつけずにはいられない。
「オッサン、それでも警官? ナイフ持ってる奴煽るなんて」
 名指しに萎縮するかと思いきや、スマホをこちらに向ける強かさ。央に張り付いたニヤニヤ笑いは、今撮っている動画の再生数しか考えていないと鷹揚に物語る。
 余りのロクでなさにレイはもはや無言でリーチある腕を伸ばし、スマホごとチャラい鎖の下がる手首を捻りあげる。
「師匠、知らないよー?」
 ニヒトが口だけなのはUDC組織がどうせ隠滅してくれるだろうって腹だからだ。まぁ後は、レイは怪我をさせずに済ませ、かつ、いざ央が命の危機にさらされたなら猟兵として護衛するとわかっているからもある。
 ――それが自らの行い全てを『神』のせいにせず独善と自覚するレイという男の物差しだ。彼は決して決して他者には善悪の判断を委ねたりは、しない。
「気が合うわね」
 ギャアギャア煩いBGMに、いつろは手でパタパタと傍を仰ぎ涼しげに、ちらと流し見たのは絢奈だ。
「私もそう思ってたの。どうしょうもないクズばっかりって」
「……お前が本当に怖いのは茜沢に全部押し付けた自分じゃねぇのか」
 茜沢ねいに依存『させられる』だけの脆さは、本来は自分が負うべき業から逃げたからに他ならない。
「世の中にゃあ、建て直せるクズとどうしょうもなく手がつけられねぇクズがいるがな」
 央に至っては、善悪どころか存在すら外部の評価がなければどうともできぬ程にハリボテだ。
「お前ら人のせいにする前に自分と向き合え!」
 レイの一喝にすっかり呑まれた英二の肩をぽんと叩いたのは、統哉だ。
「却って元気でたかもしれないけど……なんて」
 彼の辛さを思えばこそ、統哉は日向のように快活な微笑みを浮かべた。
「君の存在もまた彼女の求めた幸せの一部だったんだと俺は思う」
「彼女も依存で自分を確立しただけ、まるで鏡だ」
 にぃと唇を持ち上げたニヒトの笑みは「タチが悪い」とも「しょうがないな」ともどうともとれる狡いモノ――まるで「お好きに都合良くとって」とでも言いたげな、茜沢ねいと同類項。
「俺もまた同じなんだ」
 一方、統哉の『同じ』は英二へと重なる。
「俺は君を救いたい、それによって救われたい」
 目の前で、1人が命を堕としたら絶望に囚われる。
「ねえ、彼女は『救う』という役割を与えてくれた」
 もらったものを粗末にする必要はどこにもないとニヒトが指さすのは、英二の胸元だ。
「『ねい』が残してくれた『自分』を捨て(殺し)ちゃうの? あなたは人に欠けてるものが見える才能がある」
「才能……」
 ねいが残したものがニヒトの呪文にて芽吹き、やがては英二の軸となる。
「そ、誰かを救える力だよ」
「あなたは医者なんでしょう?」
 床に放り投げられた央を見下した侭でいつろが放つは氷点下の声音。
「…………俺、茜沢にもらってたんだな。でも、茜沢に向けていたのは、身勝手なエゴだけど、いいんだろうか」
「それを言ったら俺だってエゴだ。それでも願うよ――」
 仲間が包み堪えさせた殺人への情動を更に無理なく手放せるように、統哉そんな想いを込めて両手で彼ごと握った。
「君がこれからも、欠けた心を抱えたままに『人』として生きていく事を」
 ずっと俯きがちだった英二のかんばせが漸く上を向いたのを一瞥し、いつろはもう一度同じ台詞を繰り返す。
「あなたは医者なんでしょう?」
 ……それは先程より熱を持った言の葉。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

四ツ辻・真夜
茜沢さんの存在はある時までは
みんなの為になってたのは確か
でも歯車が狂って崩壊も齎した

彼女は毒にも薬にもなった…って事なんでしょうけど

…みんな被害者
でも違う人が一人だけ

ねぇ山本君
何故このサークルに入ったの?
入会した秋以降
支倉さんと茜沢さんは絶交しギスギス
黒い噂やヤクザも絡む所に
大人しそうなあなたが普通居続けられるかな?

茜沢さんの事も
入部する前から見てきた様に話すし

大体いくら三河君の承認欲求が強いからって
アングラまで手を出すなんて暴走しすぎだよ

ねぇ
動画にコメントした事ある?
歓心欲しさに視聴者の要望に
彼はどんどん応えたでしょうね
つまり動画を通じ三河君をコントロールして…

この惨劇を仕組んだんでしょう?


南雲・海莉
(茜沢さんを含む5人の欠損
全員に容易に共感してしまえる脆い自分に喝を入れ)

誰にでも『共感』する
諸共に壊れるまで『受容』してしまえる
それが茜沢さんの『病巣』ね?

原因や程度はどうあれ、義兄も同じものを抱えていたから

(義兄を救いたいと願う自分も「依存」の側面を抱えてる
失った痛みも想像できない訳じゃない
それらは言葉にせず、真っ直ぐに見つめるだけに留め)

……貴方にはやるべきことが他に残ってる
彼女の病巣に無自覚に依存してた周囲に、依存を自覚させる事
赦せないなら尚更、理想の彼女に依存したままのこの人に「死に逃げ」させてどうするの?
臨床心理学の分野よね
難しかろうと
彼女への手向けにやるしかない、違うかしら?


宙夢・拓未
▼心情
英二のことは皆に任せる
俺は絢奈をこのままにはしておけない

▼行動
一番大事なのは命を守ること
部室に近づかせないよう先回りし足止めする
【怪力】を使って羽交い絞めにしてでも

▼説得
絢奈なら、ねいがいなくても生きていける
それができる強さが絢奈にはある
俺が保証するぜ

キツい物言いを気にしてるらしいけど
何かを拒絶するって、勇気のいることだぜ
最初、俺の後部座席に乗ろうとしなかったのも
絢奈が自分を大切にしている証拠だ

人生、平穏ばかりじゃないけど
絢奈なら自力で危険を回避しながら歩んでいける

生きてくれ、絢奈
それが俺の願いだ
だから、この場から離れてくれ

▼〆
仲間に連絡
「山本に気をつけろ」
おそらく、奴が英二に宝珠を……


影見・輪
WIZで説得試みるよ

君が救いたいと願った茜沢ねいはもういない
目の前の高木海は、確かに、茜沢ねいを殺した…憎むべき相手では、あるね
物理的に殺すのはたやすいとは思うよ
けれど、それは、茜沢ねいを殺した高木海と同じ場所へ成り下がる事になるのではないのかい?

真に高木海への憎しみを晴らすなら、殺すんじゃなくて救うって方法もあるんじゃないかな
例えば、君の学んだ心理学で高木海が持つ心の病(過剰な依存状態の根本)を取り除く…とかね
憎い相手だからこそ、感情で向き合うのではなく、学問で、理論で向き合うべきではないのかい?
そうする事は、ひいては、救いたかった茜沢ねいを、君の中へ取り戻す事にもつながるんじゃないのかい?


嶋野・輝彦
そりゃ俺のやり方じゃ犯人に辿り着かねーわ
全員おかしい上に
一番の厄ネタが茜沢ねいとかよ

優先度
実力行使>説得

●POW
被害者の警護
坂田英二に俺が刺される?攻撃されて?
海を殺させん様にする

第六感で英二の動きを読み
先制攻撃で行動を早め
攻撃に身を晒し(刺さって攻撃が他所に行かんのが理想
怪力で英二を押さえつけ動けない様にする
痛いのは激痛耐性、覚悟で耐える

英二に存在感、コミュ力、恫喝
説得兼攻撃の誘導

いい加減にしろ!
人は救われたい人間しか救えないし茜沢ねいは救われる気が無かった
お前に都合のいい姿を見せられていただけだろが
いずれ破綻は来た
高木海、あれはお前だ
海がねいを壊した?
違うな、ねいがお前ら全員を壊したんだよ


リインルイン・ミュール
死んだ彼女は、こんな結末望まないですよネ?
他人の依存以外を望む心や意思が薄かった、が正しいかもですが
それにしても、彼女にとっては皆「大事」だったでしょうから

貴方が彼女の為でなく、貴方自身の為に復讐するというなら、海さんを殺すのは尚更駄目デス
殺すくらいなら、喪ったものの重みを死ぬまで背負わせる方が良いかと
或いは、命を奪った心の歪みをこそ復讐の対象とするトカ
これから変えられるのはそこしかない
ずっと皆を見てきた貴方にしか出来ない事だと思いますし
歪みがなくなって初めて、本当の重さを知る事にもなるでしょう
歪みを正す事こそ、彼女への弔いになるとも考えられませんか


(人生経験浅いワタシの、きっと誤謬ですがネ)


三嶋・友
救いを考えていた貴方が一番茜沢さんの理解者だった、って事なのかな

でも、海さんを殺した所で復讐になんかならないよ
確かに茜沢さんを殺したのは海さんだけど
別の目的の為に貴方を…ううん、このサークル全てを利用した人物がいる
邪神、なんていって信じて貰えるかどうかは解らないけど
ここで貴方が海さんを殺したら、その人物の思うつぼ
それでいいの?

おかしいとは思わない?
動画が落ち目になってからの入部
入ってからの雰囲気は最悪
他の人のように茜沢さんに依存してた訳でもない
なのに、なんで彼はこのサークルに居続けたんだろうね?

…憤怒という感情に傾いた彼の心を、疑問を提起する事で少しでも冷静な思考へ傾けさせる事が出来れば


鞍馬・景正
◆目標
坂田氏を説得。

◆説得
部室に入る前に刀など武装を外し、丸腰である事を坂田氏に伝えましょう。
その上で話を。

事件当日、坂田くんは茜沢女史と会う約束をしていたのですね。
それは彼女の"治療"のために?

誰しも欲望や保身で彼女と繋がる中、貴方だけは彼女を救おうとしていた。

私はそれに敬意を表し、一つ提案をしたい。

高木女史は貴方が手を下さずとも然るべき罰が待っている。
それに彼女の証言があれば、切欠を作った三河氏とその裏の団体も無関係ではいられぬでしょう。

関わった全員に償って貰う。そうせねば茜沢女史は救われぬのでは?

――また、あなたの学識と人を救おうとした意思。
これもいつかまた必要とされる日が来る筈だ。




 現状は、いつ宝珠が坂田英二より剥がれ落ちてもおかしくない状況である。猟兵達はいつ次のフェイズに移行しても良いように、それぞれに警戒を強める。

 ――さて、斯くして『茜沢ねい』のタネ明かしは為された。
 目の当たりにした南雲・海莉(コーリングユウ・f00345)には、行き場をなくした幼き自分に手を伸ばしてくれた義兄が去来する。
 幼子が抱えるには過ぎた哀しみに潰されそうだったあの頃、痛みに『共感』し、時には自身を顧みずに『受容』してくれた。
 ねいを含む5人の欠損はそれぞれに海莉に身近すぎた、けれどもこの場に立っている猟兵としての矜持もまた握りしめている。
「……貴方にはやるべきことが他に残ってる。それは私も同意だわ」
 英二の『救いたい』は本物だと思う。
 それは、やはり『義兄を救いたい』と願う自分に賭けて言い切れる。裏を返せば――。
(「私も義兄に依存している」)
「今の俺にか?」
 大きな事象に晒されて精神的な虚脱状態に陥る英二へ、鞍馬・景正(天雷无妄・f02972)はまず座ることを勧めた。
 勿論、仲間が抜け目なく警戒の目を光らせてくれていることと、いざとなれば自身も盾となり守り抜く覚悟があるからだ。
「ええ、貴方にしかできないことです。貴方と彼ら3人は明らかに違う点があります」
 思慮深さ現わす瑠璃をあわせてじっくりと彼へ言い含める声は、
「誰しも欲望や保身で彼女と繋がる中、貴方だけは彼女を救おうとしていた」
 真摯であり優しくも、ある。
「救いを考えていた貴方が一番茜沢さんの理解者だった、って事なのかな」
 窓に背中を凭れされて三嶋・友(孤蝶ノ騎士・f00546)も同意を示した。
「そんなあなただから、彼女の病巣に無自覚に依存してた周囲に、依存を自覚させる事ができる」
 海莉は景正と友の言葉を引き取って英二を真っ直ぐに見据えた。
 彼が衝動的な殺害に至ることはない、更には歩いていける道は既にある。その背中を押せればいいし、掌はひとつじゃなくたって構わない。
「…………まだ彼女が許せませんか?」
 しばらく逡巡後、英二は首を縦に振った。
「高木女史は貴方が手を下さずとも然るべき罰が待っているとしても?」
 もう一度、首は縦に揺れる。
 嗚呼、このどうしようもない感情を瞬時に手放せないのが『ひと』なのだろう、と――恨み言を平らで曇りない身にて受け止めてきた鏡、影見・輪(玻璃鏡・f13299)は、ゆるやかな弧を口元に描いた。
「目の前の高木海は、確かに、茜沢ねいを殺した……憎むべき相手では、あるね」
 憎悪の焔が滾る前に更に継ぐ、その有様は誠にひやりと涼やかだ。
「けれど、それは、茜沢ねいを殺した高木海と同じ場所へ成り下がる事になるのではないのかい?」
 つまりは、輪はもまた「英二は他3人とは明らかに違った」と暗に云うている。
「高木海は、依存していた茜沢ねいからの裏切りを感じとり、手を下した」
「それは全くの逆恨み……」
「本当にそう思うかい?」
 輪の問いかけに合わせて景正も海莉も揃って彼を凝視した。
「もうそんな心配はしてないけれど、でも」
 海莉は膝を詰めて、続く。
「赦せないなら尚更、理想の彼女に依存したままのこの人に『死に逃げ』させてどうするの?」
 死は、逃げ。
 その発想に喫驚する英二の傍らへ「さきほどブリですネ」と自然に入り込んできたのはリインルイン・ミュール(紡黒のケモノ・f03536)だ。
「貴方が彼女の為でなく、貴方自身の為に復讐するというなら、海さんを殺すのは尚更駄目デス」
「…………」
 人差し指を下唇に這わせて、英二は思考のスタイルを取る。
 ――この復讐は誰の為のものか?
 茜沢の死から憤怒に囚われて「幸せになり損ねた彼女の無念を晴らすため」という衝動に押され過ごした日々。
 でも『ねいは幸せだった』と解き明かされた。
 ……なんて、思索に至れる彼を前に、リインルインは満足げにうんうんと頷き、友も心からの安堵と共に瞳を伏せる。
 元々が、英二は人の心を検証し辿るのを好む。学術として納めているだけはある。冷静にいつも通りの彼からは憤怒による捨て鉢さは感じられない。
「殺すくらいなら、喪ったものの重みを死ぬまで背負わせる方が良いかと」
「……高木海も、それはそれは茜沢ねいに耽っていたよ。それを自分で壊してしまったんだ、彼女は」
 リインルインの残酷めいたお話を、輪が訳するように丸める。
「彼女の証言があれば、切欠を作った三河氏とその裏の団体も無関係ではいられぬでしょう」
 央のいいわけが割り込みかけたのを「私は」と、身に纏う警官服さながらの精神バランスの感覚を持つ景正はきっかりとした口調で遮り、自身の考えを伝えきる。
「関わった全員に償って貰う。そうせねば茜沢女史は救われぬのでは?」
 茜沢ねいが殺されたことに『無念』を抱いたのだとしたら、の話だ。
「なんにしてもですよ、海さんは貴方以上に拗れきっているんデス。命を奪う程の心は歪みきっている――それを復讐の対象にするトカ」
 どうでしょう? そう勧める様はどこかセールスレディのように気さくで、それがリインルインという女性が持つ巧みな寄り添い方なのだろう。
 一方、感情を排すると取られそうな輪は、落ち着いた心ならば非常に伝わりやすい話し方をする。
「そう。真に高木海への憎しみを晴らすなら、殺すんじゃなくて救うって方法もあるんじゃないかな」
 その武器は既に持っていると、すんなりとした指は知識を呼び覚ますように英二の胸元を示した。
「君の学んだ心理学で高木海が持つ心の病、過剰な依存状態の根本を取り除く……とかね」
 海莉も頷き追従する。
「まさに臨床心理学の分野よね。難しかろうと彼女への手向けにやるしかない、違うかしら?」
 例えば『隣で戦う為に強くなる』と、あるかもわからぬ次回を願い研鑽続けるのだって、海莉が義兄へ示す手向けだ。
 ねいを失った怒りを理解し、然れど英二は『ねいの死を受け入れてはいる』時点で、自分よりは……なんて、詮無き事と今は自身を捨て置く海莉。
「そうする事は、ひいては、救いたかった茜沢ねいを、君の中へ取り戻す事にもつながるんじゃないのかい?」
 輪が英二に向けて紡いだ台詞に、漆黒髪と瞳の娘がかんばせ跳ね上げこちらを見た。鏡の化身たる彼は、一度だけ朱彩を瞬いた。そうした後に咲かせた笑みは、控えめながら、人の道筋を映し出したい鏡の心意気に満ちあふれている。
「誰のための復讐か――そうだな、俺の為の復讐だ」
 長く考えていた英二は、漸く先程の質問へと答えた。
「殺したいのは俺が怒りと哀しみでどうにかなってしまいそうだから。命を奪われる理不尽を、目には目をともたらしてやりたかったんだ」
 そして全ては過去形として語られた意味を悟り、景正はうんうんと何度も頷いた。
 彼の中、暴力でもって仇を討つという執心は、去った。
 鬼が、落ちた。
「――あなたの学識と人を救おうとした意思は尊いものです。私はそれを活かして欲しいと思います」
 細かなことは、説明の上手な仲間に任せると言わんばかりに、生まれつきの麗貌が死の傍らに置かれ続けた結果凍てつきの艶帯びた羅刹は、引いた。
 そうしてこの後がどう流れてもよいように、手放した武装をさり気なく身に寄せる。
「治療は、ずっと皆を見てきた貴方にしか出来ない事だと思いますし、歪みがなくなって初めて、本当の重さを知る事にもなるでしょう」
 リインルインは海に視線を流し、すぐに英二へ戻す。
「そうだね、既に失った重さを知った君が証明しているね」
「復讐せずにいられぬ程に、心を痛めて哀しむことができているわ」
 輪の意図を拾い紡ぎ海莉は英二へと差し出した。
「………………俺は、そこまで人格者じゃあない」
 突っぱねる言葉と裏腹に、英二が海へと向ける眼差しは随分と落ち着き――第三者たろうと心掛けるものへと変じていた。
 まだまだ惑い、揺らぎ、時に憎しみに摩耗もするのだろう。
 それが『ひと』だ。
「そもそも、死んだ彼女は、貴方が海さんを殺すなんて結末望まないですよネ?」
 リインルインは解き明かされた茜沢ねいに沿い、こう続けた。
「彼女にとっては皆『大事』だったでしょうから――大事な人がもう一人の大事な人を殺し、それで罪を背負うだなんて」
 深く深く溜息が吐き出される。
「そうだな。茜沢はそういう奴だ。だから……俺は、俺の価値観で、あいつを救いたかったんだ」
 もういない彼女がくれた『自分』を生かすのは『救済者』となる道。


 英二が落ち着いたのを認めた宙夢・拓未(未知の運び手・f03032)は、仲間達にアイコンタクトを送った後で、ちょいちょいと支倉絢奈を手招きした。
「……なんか流れで色々と言われて辛かったんじゃないか?」
 本棚で仕切られた隣の部屋で、すっかり冷めてしまった缶コーヒーを押しつけ口火を切る。
「言われて当り前だよ。だってあの子がひどい目にあったのはあたしの代わりだし、高木さんがあの子を殺したのだってそれが原因で……」
「待った」
 掌を広げて自分を責め苛むのを、止める。
「絢奈は央から酷い事を強いられそうになって、その不安をねいに相談した」
「うん、だからっ……」
「相談するののなにが悪いんだ?」
 ごく当り前のことをごく当り前に、拓未が喋ったのはたったそれだけ。
「その後は『ねい』が自分で選んでとった行動だ、だから絢奈に責任はない」
 故に絢奈は瞳をまんまるにして、次には納得へと至る。
「最初、俺の後部座席に乗ろうとしなかったよな? 絢奈が自分を大切にしている証拠だ」
 むしろ倫理観の壊れているねいよりも好ましい価値観だと添えた。
 絢奈は、茜沢ねいの『依存』にアテられた責められる筋もない普通の女の子、拓未からはそう見える。
「キツい物言いを気にしてるらしいけど、何かを拒絶するって、勇気のいることだぜ」
「……なんだか普通の悩み相談みたい」
 クスッと吹き出した絢奈は隣に配慮し慌てて口元を押さえた。
「でも、そっか。やっぱおかしかったんだね。なんか普通に愚痴とか聞いて欲しいな。あのさぁ……」
 日常を取り戻すように語り出すのを「悪い」と詫びて遮った。
「絢奈が生きてくれるなら、またいつだって逢える。事情説明は後だ、まだその異常事態は続いてるんだ」
 そろそろと部室の出口まで絢奈を導いてドアを開くと外へ出るように促した。
「だから、この場から離れてくれ」
 真剣な眼差しに何かを察した絢奈は話を止め頷くと廊下へと滑り出た。
 遠ざかっていく足音に安堵の嘆息、胸を撫で下ろす。だがすぐさま猟兵の顔つきに戻った。と、同時に隣から彼が危険人物と目し共有しようとした名が聞こえてくる……。


 茜沢ねいという存在がこのサークルに顕われたことで、サークル員達は安らぎを得た。だが、歯車は崩壊へと狂っていった。
「そりゃ俺のやり方じゃ犯人に辿り着かねーわ」
 嶋野・輝彦(人間の戦場傭兵・f04223)は、漸く地べたから立ち上がりかける央にまたがるように仁王立ち。
「お前っ、なんでここに?!」
「全員おかしい上に一番の厄ネタが茜沢ねいとかよ」
 コクコクとキツツキみたいに頷く央が余りに阿呆らしくて、振り上げた拳を額を割るギリギリで止め輝彦は唇を歪める。
「海がねいを壊した? 違うな、ねいがお前ら全員を壊したんだよ」
「彼女は毒にも薬にもなった……って事なんでしょうけど」
 掌を合わせゆらり、傾けた首に沿い流れる黒髪。四ツ辻・真夜(幽幻交差・f11923)がそんな仕草でまとめに入れば、サークル員それぞれがゆるんだ空気を纏い出す。
 それはそれは嘘くさい話なのだけれども。なにしろ海もついでに央も警察のご厄介になるわけだし?
 だが真夜は大人がしてみせる赦し受け入れる微笑を海と央それぞれへと、向ける。
「……みんな被害者」
 さて、ここで変調。
「でも違う人が一人だけ」
「そうだね」
 カラカラと空気を入れ換える為にあけた窓を閉め直す友は、しばらく存在感を消していた――まるで『誰かさん』みたいに。
「もうすっきりしてるみたいだけど、言っといた方がいいよね」
 英二さん、と、かちり、鍵が閉まる音が、重なる。
「別の目的の為に貴方を……ううん、このサークル全てを利用した人物がいる」
「ねぇ」
 同じ微笑みのままで、真夜は「山本君」と、件の人物の名を呼んだ。
「何故このサークルに入ったの?」
「え? 何故って……『旅ふた動画』が好きだからですよ」
 まさかスポットライトが当たるとは思っていなかった、そんな風に眼鏡の奥の瞳は豆が弾けるようにぱちくり。
「動画が落ち目になってからの入部、入ってからの雰囲気は最悪」
 肩を竦める友、
「黒い噂やヤクザも絡む所に大人しそうなあなたが普通居続けられるかな?」
 入れ替わるように過ぎる真夜。
「他の人のように茜沢さんに依存してた訳でもない」
 静の素振りで一歩一歩距離を詰める友へ、山本は眼鏡のブリッジを押し上げて困惑を面に浮かべた。
「え……だから言ったじゃないですか。『サークル員として以上の交流はなかった』って……依存とか、そんなに怖い人だなんて…………」
「その割りに」
 真夜が口元に刻む笑みが、真夜中の海に投げ出された小舟のように不安定に揺れるも、眼差しは常に山本へ。
「茜沢さんの事も、入部する前から見てきた様に話してたね」
「………………う」
 言葉に詰まった山本がここで重大なことを漏らすかと思いきや、地味面に頬紅。顔を覆って声はぺらりと裏返り。
「悪いですか?! 好きだったんで……」
「大体」
 被せる真夜を横目に、友の中で山本への疑いが完全なる確信へと移行する。
(「大した演技。そりゃあみんな騙されるわ」)
「いくら三河君の承認欲求が強いからって、アングラまで手を出すなんて暴走しすぎだよ」
 真夜が掲げる端末の中、今よりふっくらと健康的な三河央を蝕むように流れてゆくコメントは目も当てられない罵詈雑言。
 アナログ派だがデジタルじゃなきゃ確認できない証拠を掲げ、半分の貌は相も変わらず笑っている。

「――ねぇ、この中の内のどれだけが山本くんのコメントかな? 歓心を欲しがる彼だもの、さぞやコントロールしやすかっただろうね」

 一斉に、そうあたかも水槽の魚たちが餌をめがけるように、この場の瞳という瞳が山本へと向けられた。
「チッ!」
 呼応するように英二の背から、ごろり、と、不可思議色の珠が滑り落ちた。山本は拳大のそれを素早く掴み、裏拳を当てる要領で海へと押しつけんとす。
 ごづり。
 しかし裏拳は柔らかな女の肉を味わえはせずに、鍛錬された肉に跳ね返されてしまった。部屋に来た時からずっと海の護衛に神経を尖らせていた輝彦の腕が阻んだのだ。
「刺されるつもりだったからなぁ、かゆいわ」
 弾きゆらいだ上半身、素早く山本の顔面を節くれ立った掌で押さえ込むと、容赦なく窓ガラスへと叩きつける。
 地上3階、砕け散ったガラスは夕暮れから夜にさしかかる輝きだした該当の光を掬いあげて、綺羅星の如く散っていった。
「自分の弱さを外側から補強せんと生きてられねぇ奴だ、さぞや操りやすかったろうよ」
 吐き捨てた輝彦は、バックダッシュの勢い借りて海と英二を後ろへと押しやった。
「きゃっ!」
「くっ」
「高木海、坂田英二、見ろ!」
 輝彦に言われるままに尻もちをついた2人は、見た。
 珠から球根の如くのびた無数の根が、後頭部血まみれの山本へ吸い付いていくのを。死体のようにグッタリした彼から、醜く高ぶる声が吐かれるのを。
「ハッハッァ! まぁいいですよ、随分と成長しましたからね」
 不可思議色の硬を引き摺りのたくる白の柔の1本が山本に辿りついた刹那、常識が裏打ちする法則全てを無視した膨張でもって全身を包む。
 そうして、肉体的な動作一切なしにて起き上がったソレは、もはや山本という人の形を佚していた。
「あれはお前らが抱いたモンを餌にした成れの果てだ」
「逃げて」
 央の傍にいた猟兵が蹴り出し出来た隙間に、友は渾身の力で引っ張り上げた英二の体を押し込んだ。
「折角、道を見つけたんだもの、だったら生き延びなきゃね」
 腰を抜かした海を支え逃がすのは真夜である。人を殺めた癖に今は圧倒的な狂気に怯える都合のいい娘へも、彼女は最後まで慈悲深さを欠かすことなかった。
 赤色の鉱石めいた頭部に張り付く歪みきった唇が示すは憤怒。それは友が英二の中に見出し憂いた代物。
 ……横取りされてよかったのだ、本当に。

「憧れてたんですよ、この色濃い『感情』に」
 ――主人公って、そういう強さを持ってるものでしょ?

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『膨らむ頭の人間』

POW   :    異形なる影の降臨
自身が戦闘で瀕死になると【おぞましい輪郭の影】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
SPD   :    慈悲深き邪神の御使い
いま戦っている対象に有効な【邪神の落とし子】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    侵食する狂気の炎
対象の攻撃を軽減する【邪なる炎をまとった異形】に変身しつつ、【教典から放つ炎】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


======================
◆マスターより補足
『膨らむ頭の人間』を倒して下さい。
 絢奈以外の一般人NPCをかばったりや逃がしたりの描写を望む方はプレイングでいただければと思います
(なくても戦闘に勝てばみな助かります)
 その他、なにかやりたいことがありましたらプレイングにつめておいていただければ幸いです。
 執筆は2月12日より行う予定ですので、11日以降にプレイングをいただければ助かります。
鞍馬・景正
――三河譜代の方々の半分くらいには面倒な御人らだった。

しかし羨ましくもある。
例え狂気に蝕まれていても、人一人の死にここまで騒擾し、疑問を感じられるのは平和な世に生きてきた証。

故に、それに付け入る邪智は断たねばならぬ。

◆戦闘
抜刀しながら山本氏だったモノに謝罪しておきましょう。

以前、話の流れで刑事と思わせてしまったようですが、あれは嘘です。
改めて名乗れば私は鞍馬景正、一介の旗本で以前は書院番勤めをしておりました。

――そして今は猟兵、貴様を斬る者也。

後は無言で間合を詰め、渾身の【怪力】による【鞍切】で【鎧砕き】の打ちを呉れてやるのみ。

……ふむ、やはり私は謎解きよりこういう修羅場の方がしっくり来る。


宙夢・拓未
真の姿解放、機械の翼を広げる

『フォームG-O-S』で防御力を強化

央に攻撃が向かいそうな時、【かばう】
(海と英二は仲間に任せる)

承認されないと生きていけないのなら
俺が承認してやる

確かにお前は道を誤った、人を傷つけた
けど、生きている限り、やり直せる、償える
だから俺はお前を護る
人の未来を護るのが、ヒーローだからな

ただし、また誰かを傷つけるなら
二度目はないぜ、央

『ガジェットショータイム』で二丁拳銃を召喚
【2回攻撃】で敵を牽制しつつ接近
接近できたら、【怪力】【捨て身の一撃】でタックルだ
影が召喚されてたら、影の方を狙う

とどめは、仲間に譲るぜ

終わったら
ねいと山本の冥福を祈り
絢奈にもらった缶コーヒーを飲み干す


涼風・穹
【真の姿】
姿は変わりませんが、瞳が金色になり背中に光の翼が現れます

【内心】
……その姿はどこぞの邪神の眷属なのか、或いは分霊のようなものかは知らないけど、以前にも似たような姿の相手に会った覚えがあるな…
……姿が似ているのなら大元は同じ邪神に行き着くんだろうし、運命の赤い糸じゃないけど、一度でも関わってしまうといつの間にか引き寄せられてしまうのかもな…

【戦闘】
小細工をしても勝てる気がしない
出し惜しみは無しで初撃に全てをつぎ込む
真の姿を開放して上昇した身体能力、ユーベルコードの【剣刃一閃】、そして手にした『風牙』のアーティファクトとしての力(破魔1)…全部を纏めて使って、一気に突っ込んで全力で斬る


クレイ・ギルベルン
…失敬、失態を晒しました
頭も冷えたことですし
ここから先は多少まともに働きますよ。多分ね

【WIZ】

《呪詛耐性》と《破魔》の力で狂気対策は万全
今更恐れるようなものでもありませんけどね

役割としては後方支援
敵を視認出来る限り《スナイパー》として動けるでしょう

装備諸々で強化した《視力》を駆使
頭部に狙い定め【熱線放射】で《先制攻撃》
間髪入れず《2回攻撃》
醜い姿、惜しげもなく晒して下さって助かります
せいぜい派手に爆ぜて下さいね

邪神の落し子召喚されたら
同ユーベルコードで先に処理
邪魔ですので

敵が一般人らを追うそぶりを見せたら
データベースより霊体召喚し阻ませます
(《高速詠唱》【サモニング・フランケンシュタイン】)


文月・統哉
巨大な本のガジェットを召喚し盾に
英二達を庇う

怪我?大した事ないよ
俺がやりたくてやってるだけだから
言ったろ俺も救いたいんだって
俺も嘗て救われたから
今度は俺の番なんだ

誰だって何かが欠けている
それはとても普通な事だ
一人で立てない時は
仲間に頼っていい寄り添えばいい
別に依存が全て悪い訳じゃ無い
ただ出来る事なら
傷つけ合うより潰し合うより
支え合えたらいいなって
俺はそう思うから

だから、俺は俺の方法で
英二は英二の方法で、な?

成程、憧れか
山本には感情の起伏が欠けていた
だからこそ観察して巧みに真似ていた
彼もまた他者の感情を操る事で
欠けた自分を埋めていたのだろうか
彼は今何を思う?

巨大な本で反撃
嘗て山本だった者を、倒す


霧島・ニュイ
英二くん、君がバケモノにならなくて良かったよ
化物退治はプロに任せて避難避難♪
仲間に避難を任せるつもりだけど
いなければ英二くんを外へ

さて、と。
山本くぅーーん?
すっかり騙されちゃったなぁぁ…
彼の演技に一本取られ滅茶苦茶悔しい
折角トマトあげたのにー

山本くーん、あーそびーましょー(瞳爛々)

感情かー。僕も割と好きだよ♪
でもホラ、勝った方が正義だよ♪

【だまし討ち】【スナイパー】
近づいて、敵が目にしたのが左手なら右手の銃で【零距離射撃】
右手を見てたら左手の拷問具で杭グサッして【目潰し】か目を狙えないなら【傷口をえぐる】
武器を勿忘草に変えて【forget me not】
対象は山本くんだけ!
僕を忘れちゃやーーだ




 未だ意識は山本である。
 膨らみあがる頭は、矮小すぎる自己意識に他所様の『感情』を詰め込んだからだとすれば、不思議と筋もつく。
 そう、筋など持たぬ出鱈目な邪神近くの存在だというのに、意識は未だ山本なのだ、憐れなことに。
「三河さんも高木さんも、もう破滅の未来しか残ってないですしー、ここで被害者になってしまいましょうよ」
 ボタボタと躰の輪郭を這いしみ出る焔、一番大きな塊が自分めがけて飛んでくるのに央は無様にバタバタと腕を振り回し後ずさる。
「く、くるなぁ!」
 身近な猟兵を盾にしようとするのを卑怯でゲスだと誹るのは酷だろう、人はそうそう気高く在れないもんだ。
「危ないッ」
 では、身を投げ出して庇える彼はどのようにして境界線を越えたのだろうか?
 央を庇い焔を受けた宙夢・拓未(未知の運び手・f03032)の背には人が持つには異なる機械の翼。
「承認されないと生きていけないのなら、俺が承認してやる」
 人を傷つけ誤った道筋その全てを受け入れると示すように、焔全てを背で受け止めた。
「けど、生きている限り、やり直せる、償える」
 卑怯で矮小で――実は山本と一番似ている男の瞳を見つめるヒーローの眼差しは何処までも雄大だ。
「だから俺はお前を護る。人の未来を護るのが、ヒーローだからな」
 今までで一番強大な火弾がすわ拓未へ着弾……ッ寸前でより高い熱量に見舞われ、霧散。
「……失敬、失態を晒しました」
 煮えたぎるように熱いはずのゴーグルもクレイ・ギルベルン(天蓋の・f04293)の声も、宣言そのままに冷静冷徹。瞬時に温度を下げたようにゴーグルに爪をふれ調整する。
「頭も冷えたことですし、ここから先は多少まともに働きますよ」
 霧島・ニュイ(霧雲・f12029)に手を引かれ、文月・統哉(着ぐるみ探偵見習い・f08510)かばわれて被害から逃れる坂田・英二への詫びる気持ちは先の一言に込めた。あとは山本が熱弾を出す前に悉く打って潰す潰す潰す! それが鋭き射手の仕事である。
「大丈夫か……」
「怪我? 大した事ないよ。俺がやりたくてやってるだけだから」
 巨大な本の影に高木・海と英二を庇い、煤け火傷を負った腕を撫でる統哉は自然体の微笑みを浮かべる。
「俺も嘗て救われたから、今度は俺の番なんだ」
 それは先程尽した言葉となんら変わらない。救われたことへの感謝は、誰かを救うことでつなげていって欲しいと、統哉は海を抱えあげて改めて願い口にする。
「英二くん、君がバケモノにならなくて良かったよ」
 怖いねぇなんて身を竦めて震わすニュイの戯けた所作に、こんな時なのに英二はほっとした安堵をかんばせに灯す。
 それを見て、うんっと頷くニュイはますますにっこり。
「化物退治はプロに任せて避難避難♪」
 ――ねぇ、はやく退場してよ。繕ってるモノから中身がでてきちゃいそうだからさ。
 なんてもんは内側へ仕舞って、統哉ごと海の背を押して足を速めた。
「逃げちゃうんですか、そうですかぁ……」
 壁を疾走する紫苑の猫は、先程からやたらめったらに見せかけてやけに正確な光線で貫いてくる。開き直り喰らうの前提で歩を進める眼前に、光の羽根が散り舞った。
「ぐぁっっ!」
 初撃に全てを賭けた涼風・穹(人間の探索者・f02404)の一閃にて、瞳らしき器官を裂かれた山本は人だった頃の血液を床に天上にと振りまいた。
 その赤は、染みた傍から焔と変じ建物の有様を崩壊へと導いて逝く。
 穹の手回しもあり、この建物の一般人はUDC組織の者達が避難させている。だから最悪建物が倒壊しても死者はでない。
「そいつらもはやく外に出すんだ」
 黄金に瞳を変えた穹に応え頷いた統哉は、拓未とニュイへ、
「三人の避難は俺に任せてくれ」
「話わかるー♪」
 くるんと踵を返すニュイの軽やかさと、
「また誰かを傷つけるなら二度目はないぜ、央」
 救われた意味を念押しする拓未の重々しさは対称的だ。
「支援します」
 ラストの『す』に召喚呪詛は圧縮し込められている。顕現したるは緑のネジをこめかみから貫通させた異形のフランケン。
 クレイの指示は受理済み、膨れた腕を天井近くにかけて開け放たれたドアと戦場の間で盾となる。
「やだなぁ、いかないでくださいよぉ」
 巨体の向こう側、一番に外へと出て行った央へ未練を向ける山本はやはり未だにひと、なのだ。
「三河さん、僕を撮ってくださいよぉ……きっと閲覧数爆上げですよぉ?」
 山本は『日常』に属している。
 こうまで成り果ててしがみつく有様に、穹は呆れを滲ませた嘆息を吐く。それが自分に跳ね返るのも受け入れた上で刃を返し肉から引き抜いた。
 一方で鞍馬・景正(天雷无妄・f02972)に去来するのは、羨望。
 ――例え狂気に蝕まれていても、人一人の死にここまで騒擾し、疑問を感じられるのは平和な世に生きてきた証に他ならない。
 景正は『三河譜代の方々の半分くらいには面倒な御人ら』がこれ以上害されぬように、堂々たる足取りで山本の前へ進み出た。
 そうして下げられた頭に、クレイに甚振られた触手を戻す山本を虚を突かれる。
「以前、話の流れで刑事と思わせてしまったようですが、あれは嘘です」
「ああ…………ああ、そうだったんですか」
「改めて名乗れば私は鞍馬景正」
 気の抜けたソーダのような声に対して、すらりと抜刀する景正の声は彼の居合わせた『日常』に熱を孕みはじめる。
「一介の旗本で以前は書院番勤めをしておりました」
 礼儀正しい名乗りは現代社会の若者の山本には縁遠く、それでいて小心者の彼は慌てて身を縮めた。
「――そして今は猟兵、貴様を斬る者也」
 対する景正は、一瞬に力をのせた。
 風が、嘶いた。


 がづ。
 縮緬のように萎縮した肩が鈍い音をたて『られた』のは、山本が異形に身を窶していたからに他ならない。
 人なら、致命。
 斯様に景正の怪力は、狂気じみている。
「山本くぅーーん?」
 撃鉄起した右手の銃、眼鏡越しのニュイの翡翠は陽キャな笑みで弓に曲がった。
「すっかり騙されちゃったなぁぁ……」
 かちり。
 器用に片手で構えた指へ伸びた触手を彼は避けない。絡みつく触手は棘を生やして肉をついば……まない。
 ざぐりと、鈍い感触は拷問具を伝いニュイの左腕から全身を伝う。脳に到達したところで少年は、けたりと唇を裂いて瞳をに獣めいた爛々を、灯した。
「だから、お返し」
 ニュイが抉り抜いた肉が作る血生臭いアーチをくぐり、身をかがめた穹の光翼が駆け抜ける。
 ……爆ぜ頭の此奴には以前にも対峙した。眷属かはたまた分霊か、だがこうまで似ているのならば何れは同じ邪神に行き着くだろう。
 最大の一撃を最初に放った穹の心は淡々と、顎に刃を突き刺し其れを見上げる。
「……霧島くん、でしたよね? トマトくれたくせに……」
「そうだよ、あげたのに騙すんだもーん、ひどいよぉ」
 るりるりと零れおちる血は既に人色あらず、だがニュイへ文句を垂らす様は人の侭――穹は自身の感情が邪神事に巻き込まれすぎて渇ききっていることに呆れた。
 真っ先に逃げた央、UDC職員に抱えられ無理矢理出された海、最後に残った英二はもう一度だけ部室へと振り返った。
 1年弱を過ごした場所は、もはや見る影もない。
 ……愉しいことだって確かにあったのだ。
 …………そんな後悔が出来るぐらいには平静を取り戻した自分を見つけ、先程まで海を殺そうとしていた自分への嫌悪が沸き上がる。
「人を殺すとは……ああいうことなんだな」
「英二はもうこっちにこないよな、安心した……俺は、傷つけ合うより潰し合うより支え合えたらいいなって思うんだ」
 統哉はもう一度確りと笑うと、くるりと英二の躰を反転させて背中を押した。
「そうだな、俺もそう思うよ」
 今できることは戦えない自分が離れることだ。精一杯の「ありがとう」を叫び英二は崩れ落ちていく部室を振り返らずに走り去っていった。
「ああ、みんなみんないなくなった。こんなにも強い感情を持ってるくせに……苦しいな、苦しいな」
「自業自得でしょうに」
 とたん。
 鉄音たてて、横向きに倒れた本棚に壁から降り立ちクレイは胸を反らす。
「醜い姿、惜しげもなく晒して下さって助かります。狙うまでもなく当たるでくの坊ですよ」
 台詞の通り無造作に、再びの身軽な移動に身を任せるついでと放った光弾は山本の肩を貫いた。
 そんな芸当が叶うのは、装備諸々で強化された視力と射手として磨き抜かれた技能ある故。
「そうか、苦しいんだな……」
 感情の起伏に欠けた彼には濃密なソレは不相応なのだ。憂い滲ませた統哉の振う本の殴打はしかし容赦がない。
「お前もさ、取り返しがつかないぐらいに傷つけてしまったんだ」
 二挺の拳銃にて仲間の支援射撃を行っていた拓未は、引き金から指を離した。静寂が耳につきささる、それを消すように足早に床を踏み言葉も継いだ。
「自分をさ。もうやり直せない。なんだってこんな……」
 ヒーローとしてはこいつも救ってやりたかった――でも今できるのは、彼に死をもたらしてやるのみ。
 目の前でガンッと強く床を蹴り拓未は全身の力を乗せたタックルで山本の赤と紫の異質な躰を壁に押しこんだ。
 肘鉄で抑えこみ反対の手で銃口を額に押しつけ引き金を引いたなら、絢奈がくれた缶コーヒーがポケットでちゃぷりと音をたてる。
「……ッはぁ、だって僕なんて、そのまま生きてたって所詮モブなんですよ…………あんたみたいに格好良くなんてできないんだ……」
 脳漿散らしてなお異形は己を憂う口上ペラペラ垂れ流す。
 情に塗れた修羅の場にて、景正という鬼は其れは其れは風雅に唇を吊り上げ笑ったという。
 やはり。
 明日の腹具合どころか命すら危ぶまれる環境ではないことが、自分の心を憂い思う最低条件。
 だがひととはおかしなもので、そうして満たされていてもなんだかんだと破滅へと向かう奴もいるものなのだ。
 破滅の死合い、ならば、其れ即ち我の領域。
 一拍で詰め寄り、
 ぶぅんと刃で掬いあげ、
 ビラビラと舞う触手には目もくれず上段へ持ち替えすかさず叩き斬り。
 どんがら。
 巨体がひっくり返り受け止めたが砕けた。派手に跳ね出たアルバムの中の笑顔で寄り添うねいと海の写真がもの悲しい、残り火で焼き切れ散っていくのがいっそ慈悲に思えるぐらいには。
「ふー、ふーー……ふーっ……く……まだ、動くんですよ。この躰なら……」
 げぁげぉり、と異な音たてて人が『あ』と発する開き方の口からは、明らかに大きすぎる落とし子達が吐き出されていく。
「わぁ、そういうことしちゃうんだぁ」
 引き気味なクセに鋭く斬り裂くニュイの視線は、央、絢奈、英二、海……そして無数の『ねい』の姿をした落とし子に向く。
「……きりがありませんね」
「本当にな」
「……」
 複雑な表情をする統哉と拓未を背に、クレイと穹、そして景正はそれらの数を減らす作業に取りかかる。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​


●今更ながらの懐古録
 臆病者の日々は無為の積み重ねでしかない。
 高校までの成績からすると妥当な大学に無事に入れた。家から通ってくれて助かるなんて母は喜んだ。
 就職難だから将来のことはちゃんと決めておけよとバブル時期に公務員なんて安定を選んだ父はことあるごとに言った。
 大学まで苦労せずに通えるこの身は不幸せになりようがない。
 けれども、他と比べりゃ嫌でも自分は下層へカテゴライズされてしまう。
 そりゃまぁ、アクセサリーのようにジャラジャラとファンを連れてる奴もいれば、そこまで派手じゃないにしても「●●くんちょっといいよねー」なんて囁かれる奴もいる。
 彼らは生れ持った外見を褒めそやされて自信をつける。その振る舞いがますます人を惹きつけて勝ち組コースにご案内。
 ……自分は一生涯そうはなれないのだと、山本・均(やまもと・ひとし)という青年はそりゃあもう中学時代から嫌と言う程知っていた。
 平凡安穏いいじゃぁないかと唱えてみても虚しさは日々募る。
 入学一ヶ月もしないそんな時、気軽に誘われた自己啓発セミナーに行ったなら、そこは邪神がうんたらな宗教団体が母体であった。
 ……傾倒した時点で山本均は平凡ではなかったのだけれども、本人はそうとも気づかず邪教集団の駒となる。
 教団から託された宝珠、そして指定されたターゲットは『旅をする会』
 動画実況者として成功し美人な彼女もいるリア充央ji、山本には近づくのすらハードルが高い相手である。
 だから比較的話しかけやすそうな茜沢ねいにターゲットを定めた。
 控えめ誰にも愛想がいい彼女は、コミュ障の自分でも相手をしてくれる……と、いいな。
 そんな希望的観測は見事に叶い、彼女からの会話で引き出した情報は宝の山。
 更に、茜沢ねいという人物を軸に『旅をする会』を眺めれば、宝珠に必要な『濃密な負の感情』も生み出せるではないか。
 ――なにしろ、茜沢ねいは相手に合わせて沢山いるのだ。そんな女が感情的なトラブルを招かぬわけがない!
影見・輪
基本的に、感情ていうのは、人から奪うものではなく、
自分自身で作り出すものだと思っているのだけどもね
…まぁ、もっとも
今回みたいなどす黒い感情については自らで作り出すのも
他人が作ったものを横取りするのも…どちらも馬鹿らしい事だと思うよ

山本くん、だっけか
君の内に抱く闇はホント、面白いよねぇ
とはいえ、残念だけど放置するわけにもいかないね
自らの闇と共に骸の海へお帰り願おうか

基本は後衛配置
攻撃は記憶消去銃の威力最大にするよ
可能なら【催眠術】使うし、そうでなくとも【傷口をえぐる】ようにするね

敵からの攻撃は可能な限り【見切り】、行動の癖や隙について観察する
動きに隙が生じるタイミングで【鏡映しの闇】を使用するよ


南雲・海莉
真の姿によるホログラムの様な光と、UC発動による風をまとう
重視は攻撃力増加
露払いは私の仕事
任せて

どんなに似てても邪神による紛い物だもの
容赦の余地は無い
これ以上、彼らもその姿も弄ばせない
その尊厳を踏みにじらせない


『強い感情を持てなくて』『モブ』で、ね?
他人の感情を横取りしたって、
所詮ここは他人の不幸の末の舞台よ
紛い物の役者(落し子)を揃えたって、
あんたは自分が自分に設定した『モブ』にしかなれない

妬みでも諦観でも何だろうと
別の手段なら救われたかもしれない
でも邪神に頼った時点で、馬鹿よ

邪神の力なんて、舞台を食い尽くすしか能が無い
未だあんたの『人』生の舞台だって言える間に
せめて、その幕を下ろしてあげる


ヘンリエッタ・モリアーティ
【POW】
――色濃い、感情ですって?
あなた、まさか【邪神】を手に入れたからって
感情の理解できない神様ぶっているんじゃないでしょうね?
人の心を食い物にしたあなたは、さぞ美味でしょうね。
そうじゃなきゃ、困るわ。

戦場に残る――元、山本でも、誰のでもいいわ。
他人の血液を人差し指ですくって、口に含む。
【刻印】を作動し、
――【原初の竜】で相手になります。
【怪力】で影たちを【なぎ払い】、ねじ伏せてやりましょう。
【戦闘知識】を活かして、UDCが活性化した尾と腕で喰らってあげるわ

人の心を操って、神にでもなったつもりだったのかしら、傲慢ね。
所詮、あなたも……ただの、欲まみれな人間よ。
色濃い感情は、――見つかった?


空廼・柩
全く、自分の阿呆ぶりに嫌になるよ
まさか黒幕がこんな所に居たとは
眼鏡を外せば準備は整う
…あんたの罪、此処で償わせてやる

俺が得意とするのは拘束と守り
友の視線、挙動等に常に意識を向けておく
攻撃がサークル員――特に央、海、英二へ向いたら棺型の拷問具を盾にする
…大丈夫だ
痛みなんて疾うに慣れている
勿論武器受け序でにカウンターを叩込む事も忘れない
守るべき者がいる中、邪神の落とし子を召喚されては厄介だ
使い方を把握する前に【咎力封じ】で絡め取る
威力を削ぐ事は勿論、上手くいけば攻撃自体も封じられる筈

これが終ったら英二達に謝らないとね
俺がねいを疑ったのは事実だから
幸せに感じる事は人それぞれ、か
確かにそうかも知れない


リインルイン・ミュール
強い感情は怖ァいものであり、大事なものでもありますからネー
憧れるのも分からなくはないですが、こんな事するのはどうかと思うんですよ
ともあれ、ヒトならぬ眷属と化したアナタはぶちのめしマス


武器で増幅したサイキック電流を撃ったり、念動力で椅子など投げ付けたり遠隔で締め上げたり、鞭状に変形させた黒剣で引っ叩いたり
それらを状況に応じて使い分け

上記の手の内見せる事で遠距離攻撃主体と思わせた上で、電撃放つと見せかけダッシュで突撃する騙し討ちを敢行
接近中に高速詠唱で準備、剣での刺突と同時に組み付きユーベルコード発動。二段構え且つ逃げ難い至近での攻撃です
使える技は全て使う心持ち
これで外しちゃったら仕方ないですネ!


三嶋・友
元々歪な人間関係
貴方の介入がなくても破滅していたかもしれないし、もしもの先はもう誰にも分らない
けどこの結果は確かに狂わされたものだから
責任は、取って貰うよ山モブくん

人を羨むばかりだからモブにしかなれないんだよ
どんなに格好悪くたって、自分の人生では自分が主人公なのに
脇役なら脇役のまま、速やかに退場して貰おうかな

真の姿を開放
孤蝶乱舞で更に強化
悪趣味な落とし子も含めて孤蝶で斬りつけていくよ
こうして群れて見えるのに、其々が孤独を抱える蝶達のように
みんな自分だけでは埋められない欠落を抱えていたんだね
その欠落とどう向き合うのか
この先の物語は彼ら次第
けれど、その先を紡ぐためにも、貴方には海へ返って貰うから!




 沢山いる、茜沢ねいが。
 坂田英二も高木海も、視聴者に沢山己身を晒す三河央や支倉絢奈ですらひとりしかいないのに、茜沢ねいは沢山、いる。
「そう、それが『そいつら』が貴方の見ていた茜沢ねいなんだね」
 三嶋・友(孤蝶ノ騎士・f00546)はもはや呆れを一切隠さず吐きだした。
 腰までの髪を揺らし庇護心をそそる眼差しのねい、顎のラインで切りそろえた髪のねいはぽってりとした口紅で淫蕩漂う目つきで見上げてくるし、同じ髪型だが素直そうなねいもいる。
 他にも『やや』控えめだったり明るかったりするねいが、山本の周りを徘徊している。
「全く、自分の阿呆ぶりに嫌になるよ」
 もう棺桶の形を見る者は皆守り切り避難した。だから空廼・柩(からのひつぎ・f00796)は拷問器具として堂々たる凶器ずらりの傍らに下がった。
「……まさか黒幕がこんな所に居たとは」
 眼鏡が仕舞われた胸ポケットを押さえ吐かれた息は戦闘の最中、非常に短い。
「……あんたの罪、此処で償わせてやる」
「そう、黒幕。僕のコメントで三河さんは面白いように踊ったんですよ」
 飛んでくる焔は棺に喰らわせて、攻撃で浮ついた腕へ柩はすかさず銃弾を叩き込んだ。
 射撃の腕はお世辞にも自信がない、故にこうしてカウンター。落とし子召還時に振り上げる腕の腱らしき部位へ狙いを定める。
 悪趣味すぎる。
 サークルを崩壊に導いた手管も、今の落とし子達の姿も。
 だから、奪い取る。
「山本くん、だっけか……」
 古いサークル棟の壁は飴細工のように崩れ落ち、廊下を挟んだ向こうまでが陸続き。影見・輪(玻璃鏡・f13299)は軽音部らしきシンセサイザーの傍らに立ち、囁き声で明瞭に彼へと語る。
「君には彼らが結構魅力的に映っていたようだね」
「ええ、茜沢さん以外の彼らは他の人の行動一つで一喜一憂なんですから」
 彼らは嫉妬し増長し心配しめまぐるしく『目立たぬ自分』に振り回されていた。
「基本的に、感情ていうのは、人から奪うものではなく、自分自身で作り出すものだと思っているのだけどもね」
 得られぬ羨望を感じ取ってなおそう継ぐ輪は、たすきがけるように袖を手繰るのすら優雅な所作である。思考はこれまで重ねた観察を実践へ昇華すべくフル回転。
「憧れるのも分からなくはないですが。一方で強い感情は怖ァいものであるのはご存じのようですが」
 だから利用してこの有様にできたんでしょうと、リインルイン・ミュール(紡黒のケモノ・f03536)は暗に含む。
「でも、こんな事するのはどうかと思うんですよ」
 腕をおろしたリインルインが踵を1回打ち鳴らしたならば、山本の頭上に影がかかる。
「なっ……?!」
 落とし子達の頭上を越えてくるパイプ椅子なんて、今の彼には蚊が刺した程の痛みでしかない……にも関わらず『ひと』としての山本は喫驚し身じろいだ。
 隙を作れた、計算通り。
 リインルインは山本のそばでしゃがむヘンリエッタ・モリアーティ(獣の夢・f07026)の姿を認め満足げに頷いた。
 嗚呼、焦げ臭さと共に濃密な血の香り。
 打たれ砕け落ちた山本の欠片に指を伝わせるヘンリエッタ。
 ぴたり、と。
 だがその指は唇寸前にて止り鼻の頭に皺をくしゃりと寄せて彼女は山本を見上げた。
「――色濃い、感情ですって?」
 指濡らす生臭い温度と掬いあげ近づく匂いにますます皺が深くなる。
「あなた、まさか【邪神】を手に入れたからって感情の理解できない神様ぶっているんじゃないでしょうね?」
「僕は神様にならなくてもよかった、むしろ傍観者でいたかった」
「「「「「「……嘘」」」」」」」
 輪が涼しげに首を傾け囁いた。
「そうでなきゃ、馬鹿らしくて正気でいられないだろ?」
 マヤカシ言葉は味方の攻撃へとつなぐ伏線。
「今回みたいなどす黒い感情を自らで作り出すのも、他人が作ったものを横取りするのも……どちらも馬鹿らしい」
 ねえと更に深く傾いた首に従い黒髪さらり、肩を零れて波打った。同時に山本が逃れる方向に予め弾丸を、置く。
 想定通りの動きをした山本の脇腹が弾け飛び、ヘンリエッタは確実に彼の血たる地に落ちたそれをぬぐい取った。
「……こんな味」
 口中を血で汚しぐいと口元を拭うヘンリエッタは指摘を続ける。
「こんなに美味しいなんて、人の心を食い物にして驕り高ぶらなきゃ無理よ」
 美味なる供物は漆黒の竜を顕現させる。
 ヘンリエッタだったものにのしかかられて、ぱきゃり、と軽々しい音をたてる山本へリインルインが苦笑した。
「神様ぶらないとやってられないのではないですか?」
 吊り下げた銀剣融かし、竜に貪られる彼にまで伸ばして絡め斬り刻む。
「触手はあなたの専売特許じゃないですよ」
「ならば何故、先程彼らを狙った、執拗に」
 柩は冷静に糾弾し、更に引き金を絞った。
 本当、と友は眇めた瞳で魔道書を取り落としかけて反対の手に持ち替えた山本を、見透かす。
「人を羨むばかりだからモブにしかなれないんだよ」
 既に甲冑ごしの友の声は黒幕を言い当てた鋭さはそのままに。
「でもさ山モブくん、貴方は自ら自分が主人公の人生をおりたんだ。傍観者なんて言い訳をしてね」
「僕は最初から舞台になんて登ってませんよ。どうせ観客なんですから」
「嘘ね」
 そうしてもう一度、キッカリと呟いた南雲・海莉(コーリングユウ・f00345)は、躊躇いは欠片も見せずに二振りの剣にて落とし子を撫で斬った。
 ねいの足が英二の胴が降り注ぐが、幻惑する七色の輝きの中で海莉は顔色一つ変えやしない。
「じゃあどうしてこんな紛い物の役者(落し子)を揃えたの? 黒幕気取りで」
 紛い物だ所詮。
 だから露払いは任せてと、海莉は光とは反対へ耽った山本の象徴たる落し子を容赦なく薙ぎ斬っていく。
 容赦のなさは残酷か?
 いいや、これが彼女の矜持。
「これ以上、彼らもその姿も弄ばせない。その尊厳を踏みにじらせない。あんたは自分が自分に設定した『モブ』にしかなれない」
 ――悲劇にすら、なれない。
「所詮ここは他人の不幸の末の舞台よ」


 リインルインが翳す掌に集積する雷撃、順繰り折り曲げ練り上げたなら即座に放つ。
 大ぶりな仕草から放たれる電光は山本の移動を阻害し一部の落とし子を巻き込み消した。
『――……』
 半分ほどに数を減らしたねいの一人が、漆黒の尾で首縊りにされる山本へ振り返った。だが心配するようにのべられた腕は蝶の覆われる。
「こうして群れて見えるのに、其々が孤独を抱える蝶達のように、貴方も含めて自分だけでは埋められない欠落を抱えていたんだね」
 欠落を嗅ぎつけて収まりに行くねいもまた、そうせねば埋まらぬ穴だらけの存在(ひと)
 蝶を連れた友からは茫洋とした山本は異形に果てたにも関わらず、自信のないオドオドした男子の侭で、
「茜沢さん……」
 呼びかける声に友の瞼が下がった。その眼前、蝶が落す鱗粉と一緒にカサカサに砕かれた落とし子は、更に細かく散り空間に消える。
 先の物語を紡げぬのは二人。
 命を堕とした茜沢ねいと、
「脇役なら脇役のまま、速やかに退場して貰おうかな」
 関係を歪め破滅の脚本を書いた山本。
「僕はここで果てるわけにはいきません」
 ヘンリエッタよりの深淵を焼き払い辛うじて逃れると、山本は大きく息を吐いた。もはや落とし子を侍らした時の余力は比べると見る影もない。
「僕は『これ』を、この体を持ち帰らねばならないんですから」
 ならば眷属と成り果て得た暴力で逃走を図れば良い。
 だが、手にした感情は『殺意』
 故に闘争1択だ。
 腕を撓らせ絡む橙や朱の熱は、海莉と友の間を抜けて輪へと向かう。
 煌々と燃える焔は何者も照らす力を有しやしない。
 袖を金魚のようにはためかせ弾いたならば、輪は瑠璃の鏡に其れらを映す。
「君の内に抱く闇はホント、面白いよねぇ」
 だからお返し。
 此の世に放置するわけにいかないから。
「自らの闇と共に骸の海へお帰り願おうか」
 輪は救いようのない闇を形すら変えずに戻す。
「……うぅッ」
 顔面が焦げ爆ぜるよりも、返された諦観が……痛くて苦い。
「今更僕のことなんていいでしょう?!」
 火傷を掻きむしりますます傷を広げる様子に海莉は一旦剣を下げた。雷の光に影響を受けぬホログラム、だが手にした刃に張り付く血肉だけは妙にリアルで明滅にて色を変える。
「妬みでも諦観でも何だろうと、別の手段なら救われたかもしれない」
 誰もがそう、自らを救おうと足掻いた。
 ある者は相手を救うことに求め、ある者は不安を打ち明け相談した。承認への飢餓を埋める為非合法行為に手を出した者や、思う侭にならない依存先の命を奪った者すらいる。
 でもそんな彼らすら――やりなおす権利は佚していない。
 此の世界は、とてもとても優しいから。
 でも、
「邪神に頼った時点で、馬鹿よ」
 もうどうにも取り返しがつかないと、海莉は落とし子の姿をした者たちの行いを重ねて諸共斬り伏せた。
「邪神の力なんて、舞台を食い尽くすしか能が無い」
 その声には隠された涙が滲み湿り気を帯びるが、そんな繊細なものを感じ取るには山本は愚鈍過ぎた。
「未だあんたの『人』生の舞台だって言える間に、せめて、その幕を下ろしてあげる」
 狂わないことが幸せかどうかはわからない、けれども。
「物語の先を紡ぐためにも、貴方には海へ返って貰うから!」
 海莉が裂いた腹へ幻想蝶が纏いつく。友の刃も同じ場所を掻いていた。
「!」
 殊更大きなかけ声と共に再び電光を蓄えるリインルインを、輪はちらと一瞥。と、同時に、ドンッ、と、雷撃が着弾し揺れた、まるで巨人が部屋を掴んで揺するかのように。
「ふ、ぼ、僕には当たってないです」
 踏ん張る山本が焔をばらまく傍から輪は銃弾で相殺した。
「ちぃっ!」
 気を取られたその刹那、輪と同じく離れていたリインルインの獣の面が、ツンッと鼻だった部分をついてきた。
 何が起ったか理解する前に、山本は手首と足首に鋭い痛みを認めた。
「全ては伏線デスよ。貴方と同じです」
 腕が掌握し尾がめり込む生柔らかい感触に舌なめずり、リインルインは面の内側で口元を歪める。
 ――この技を食らい続けるのは危険だ。
 リインルインを突き飛ばすも腰砕け。辛うじて封印を免れた落とし子を零して時を稼ぐ。
 だが、図星をつかれ精神を揺さぶられすぎた山本が生み出す英二も絢奈も央も海も言うことを聞きやしない。咥えてねいが現れないから数の脅威も下がった。
 それでも潰されればまた出せばよい。山本は胸に人差し指を立てて宛がった、が……。
 手の甲と胸を縫い止めるように貫く弾丸が、その『形』を結ぶのを二度と出来ぬように、永遠に削り取った。
「もうこれ以上、彼らの姿を好きにはさせない」
 照準がぶれぬよう慎重に構えた柩の銃は、輪が惑わしリインルインが押し生み出した『緩慢』を逃さずに、山本を唯の的へと貶めた。
 全てが終ったならば英二に詫びよう、ねいを疑ったことを。
 さぁ、だけれども……ねいが黒幕ではなかったが、山本の様子を伺うにやはり罪知らずではなかったようだとも、柩は普段は眼鏡ののる辺りをこする。
(「英二には黙っておきたい所だな……」)
「人の心を操って、神にでもなったつもりだったのかしら」
 ヘンリエッタは黒の群れを部屋一杯に蠢かせて新たに生み出された者と残された落とし子を掃除するように、喰らう。
「傲慢ね」
「……僕は、あなたからは操れていたって見えるんですか?」
 問いかけは縋るように聞こえる、だから――。
「色濃い感情は――見つかった?」
 欲まみれな人間へは問いかけを返し答えは与えてやらない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


●梅雨になる前のファーストフード店にて
 初めて面と向かって逢った茜沢ねいは、はじめこそ表情も硬かったが、いつの間にやら打ち解けて沢山の話を聞かせてくれた。
 場所はファーストフード店、夕飯を奢るよと連れだした。

「うん……央先輩は、繊細な人なんだ。動画につくコメントなんて気にするなーって絢奈先輩は言うし、あたしもそう思う。あの、内緒にしてね?」
 そう言いつつドンドン明け透けなくなるねいを、山本は「口の軽い女だ」と内心嘲った。
「サークルに入って思っちゃった。案外、央先輩って普通の人なんだなーって。でもさ、前より動画がつまんないなら、人気だってなくなるの当り前だしー」
 ハンバーガーにかぶりつくなんて雑な仕草も相まって、女子と話すハードルが随分と下がった。だから溜め込んでいた央の悪口もついつい溢れ出す。
「えー、山本くんが言ってるのコメントでもみた。やっぱ『みんな』そう思ってるんだー」
 ズズッと音をたてた後でストローを外した唇を覆ってクスクス。下世話で上辺だけの女だとますます見下すばかり。
「ねえねえ、央先輩の動画に足りないのって、なんだと思う?」
 その癖、グッと身を乗り出してきたならば、ふわり漂うのはさっきまで口にしていた安い肉なんかじゃなくて甘い女の子の香りなのだ。
「え、ええっと……な、なんだろう……」

「――あたしは、刺激じゃないかなって」

 ところで、
 相手に合わせて振る舞い『特別』に忍び込む、人の欲望を掌握するのに長ける茜沢ねいが……見抜けないわけないだろう?
 初対面の女子を「奢るよ」なんて鼻の穴膨らまして連れてったのがファーストフード。オドオド会話もままならないコミュ障は、サークルの内情を聞き出したくて仕方がないのが丸見え。
 そんな山本を招き入れれば某かの騒動にはなるだろうってぐらい――茜沢ねいという彼女が、見抜けないわけ、ないだろう?
嶋野・輝彦
膨らむ頭の人間…山本…
つーかだなぁ、殺された事まで含めて茜沢ねいって女のヤリ逃げっぷりが見事過ぎてなぁ
ああそんな奴もいたなぁ…位か?
あの女はなっからイカレてただろ、あの三人見てみろよ今のままだとロクな死に方できないからな、あれに関しちゃ山本の干渉は多少はあるだろうが間違いなく茜沢ねいの手腕だろ?
主人公ってなぁ…正直反応に困る…
やる気でねぇ…仕事だからやるがよ

第六感で相手の動きを予測
怪力で押さえ込んで後ろに攻撃が抜けない様にする
ダメージは覚悟、激痛耐性で耐える
攻撃は先制攻撃、零距離射撃、捨て身の一撃
いざいざとなったら俺ごとヤレって方向で
戦場の亡霊のトリガーにもなるしな
死にかけたら戦場の亡霊発動


伍島・是清
四辻路f01660

解り易く歪んだもんが出てきたな
俺のなかにもああいう、歪んだ醜い修羅が眠ってンのかなァ
四辻路、俺がああなったら止めてね
蹴ってもいいから、…一発だけな
(蹴るふりに「えぇ…今…?」と呟いて)
そういや、前にそんな話したなァ
…うん、有難う。
(少し笑う)

さて、往くか
(高木、坂田、三河に)御前らは此処から避難しとけよ
死にたくねェならな

”骸”、彼れを捕まえろ
プログラムジェノサイド『鋼糸乱舞』
からくり人形達を嗾けて化け物を鋼糸で刻む

”山本”は何でああなることを選んだンかな
家族は、友人は、誰か止めてくれるひとは
──御前には何も無かったのか
考えたって、しょうがねェンだけどさ

じゃあな、山本、おやすみ


四辻路・よつろ
是清f00473と

…蹴ってもいいの?
うん、分かった(足を上げて蹴るふりをする)
冗談よ、本当に蹴らないわよ
あなたなら何だかんだ大丈夫じゃない?って思うけど
泣きたくなった時は、いつでも私にお酒を奢ってくれて構わないのよ
慰めてあげるから


3人が避難する様子を目の端で捉えながら
狂気に侵食されたかつては”山本”と呼ばれていた青年の成れの果てを見る

この物語の登場人物は誰も彼も、ろくでなしのダメ人間ばかりだけど
あなたは中でも一等のクズ野郎ね
はっ笑わせないで、加害者さん
どうしょうもなく醜悪で矮小な己の存在の小ささを
自覚しなさい

飢えた犬達は主の命令どおり大きく口を開いて食らいつく


ニヒト・ステュクス
師匠(f12038)と

…モブキャラから敵への昇格おめでとう

でもせいぜいダンジョンのちょっと強いモンスター位かな
ええっ、言ってる事が噛ませ臭ばっかりだよ
キミって言い訳ばっかうまいよね…
(心の傷口をえぐって攻撃をおびき寄せる

わー攻撃が飛んでくるー
と師匠を肉盾にして隠れた隙に
オルタナティブ・ダブルで分身作成
怒りで冷静さを失わせ
分身で惑わす一連は
絡繰意図の術中

分身を囮にしてる間に
目立たない様回り込んでだまし討ち
咎力封じを試みる
…復活はさせない!

…それで
力を手に入れて何をしたいの?
キミは暴れて目立ちたいだけじゃん
ラスボスだって野望くらい持ってるけど

羨望
嫉妬
その癖人の目を恐れ没個性
結局何にもなれなかったね


レイ・ハウンド
ニヒト(f07171)と

いやいや何で主人公に憧れて敵になってんだよ!?
大体自らスポットライト浴びねぇ様に生きてきた癖に言語両断だろ!
(ツッコミのぶった斬り※物理

断頭の盾受けで攻撃を防御しつつ
前に出て戦う奴らがいるなら狙撃で援護
邪神の落とし子は召喚され次第ぶっ飛ばし
仲間の邪魔をさせない
それと教典の狙撃も試みる
スナイパー舐めんな!
アタッカー不足なら前に出て断頭で叩き斬るスタイルにシフト

だーかーら!俺を肉盾にすんな!
(と言いつつ弟子を庇う

おいガキ
『感情』と『強い意志』を履き違えてねぇか?
暴走する感情だけじゃ
ただの化け物
…てめぇが茜沢に依存しなかったのは
自分ですら何になりたいか解らなかったからだろうな




「あああああ、あっ、あああ! 僕にもいたんだ、僕にもっ……」
 ――専用の茜沢ねいが。
「つーかだなぁ」
 頭を抱え込む山本を前に、嶋野・輝彦(人間の戦場傭兵・f04223)は少しだけ似たポーズでやや癖毛の黒髪をかきあげる。
「殺された事まで含めて茜沢ねいって女のヤリ逃げっぷりが見事過ぎてなぁ」
 その台詞は山本の共感を得た。
「山本……ああそんな奴もいたなぁ……位か?」
 だがぞんざいに言い捨てられて会話とならず。所在なげにぶら下げた腕からはやる気の逆が漲っている。
 マイナス評価なのに悦びを見て取り、伍島・是清(骸の主・f00473)は更なる山本の歪曲に短く唸った。
「俺のなかにもああいう、歪んだ醜い修羅が眠ってンのかなァ」
 主役じゃないと嘆き、然れど実像近くの印象を指摘すれば安堵する。
 唯、もうアレはひとでは、ない。
 その一点において是清は憂いの素振りで片目を細めた。さぁ隠された部分は誰にもわからぬ。
「四辻路、俺がああなったら止めてね。蹴ってもいいから……一発だけな」
「……蹴ってもいいの? うん、分かった」
 白くしなやかな四辻路・よつろ(Corpse Bride・f01660)のおみ足、振り上げられた所で是清の瞳が一転丸くなった。
 冗談と、かつり床を打った足元では彼女の犬がお残し落とし子へと牙を喰い込ませている。
「あなたなら何だかんだ大丈夫じゃない? って思うけど」
「そういや、前にそんな話したなァ」
 主達の会話を邪魔せぬように、骸もまた近づくねいを絡め取って締め上げた。
 これで仕舞い。
 見苦しいバラマキのカキワリは、もう山本には生み出せない。
「泣きたくなった時は、いつでも私にお酒を奢ってくれて構わないのよ。慰めてあげるから」
 酒は心と唇と涙腺を緩ませる。
「……うん、有難う」
 隠し込んだ何かをほどいていい、そんな人がいてくれる幸い。彼には居なかったのか?
「やる気でねぇ……」
 弾丸に併走し辿りついた輝彦は、うんざり露わ。ポケットに詰めていた両手を出すと後ろから羽交い締め。
 ジタバタともがく此奴はやはり異形、触れるだけでも肉が焦げダメージを被るが我慢強いを通り越した体勢ある彼の顔色は一切変わらない。
「仕事だからやるがよ」
 曲げた膝で一撃。バケモノの方が激痛ののたうった。
「……命を売り飛ばしてモブキャラから敵への昇格おめでとう」
 ニヒト・ステュクス(誰が殺した・f07171)は灰色のキャスケットをのつばをついっともちあげる。現れた色のない蒼には貼り付けたような煽りの喜色。
「いやいや何で主人公に憧れて敵になってんだよ!? 大体自らスポットライト浴びねぇ様に生きてきた癖に言語両断だろ!」
 しかしまぁ、レイ・ハウンド(ドグマの狗・f12038)こと師匠はよく言えば現実を見据えている為、漆黒銃剣をツッコミハリセンの如く軽々と振り回し山本の頭を張り飛ばすわけだ。
 ご……ザシュッ、ッ!
 ハリセンでは決して出ない音で喉仏を斬り裂かれヒューヒューしか言わなくなった山本へニヒトは躙り寄る。
「良かったね。噛ませ臭たっぷりの小物か言い訳しか吐かないお口がしばらくお留守になって」
「ど、うせ僕は……」
 漸く輝彦を振り払った山本は目の前の小生意気な娘の脳天へ魔導書を叩きおろす。
「わー攻撃が飛んでくるー」
 棒。
 思い切り、棒。
 だが動きは素早い。半身を血に染めた修羅場のお巡りさんの影へ逃げ込み災難を免れる。
「だーかーら! 俺を肉盾にすんな!」
 断頭返して横持ちでレイは魔道書を受け止めた。そうして掌伝いくる熱に指が侵される前に振り払う。
 そう、なんだかんだ言って師匠は弟子を庇うのだ。


 レイの影から怯えたように顔を出すキャスケットの少女へ撓る腕が鞭打たれる。山本の意識が自分のうつし身へと逸れた隙に、ニヒトは先程仲間が飛ばし散らかったパイプ椅子の影に身をかがめた。
 これより三回縛って操り人形を木偶の坊へと切り替える。
「さて、往くか」
 よつろの獣が綺麗に食べ尽くし随分とひらけた部屋は、割れた窓よりの黄昏も手伝い紅色のライトに塗りつぶされた舞台のようだ。
 是清はぽつりと佇む下がり損ねの役者を見据え、一言。
「”骸”、彼れを捕まえろ」
 そうして自分は雪降る中の光条のように真っ直ぐにして儚い軌跡の鋼糸にて“骸”の道を作る。
 舞台中央、人形は血に濡れた喉元を慰めるようにゆっくりと指をあてがった。
「”山本”は何でああなることを選んだンかな」
 憂い含みの独り言。泡を吐く異形は物言いたげに唇を戦慄かせる。そこにひたりと気取られぬように絡みつく轡は無言のニヒトから。
「まだ誰かのせいにしようとしてるの?」
 足元に身を寄せる獣の首元をとんと撫で叩き、よつろは山本へと氷点下の視線を移した。
「本当、この物語の登場人物は誰も彼もろくでなしのダメ人間ばかりだけど、あなたは中でも一等のクズ野郎ね」
 にべもない物言いにはガチリガチリと何人もの歯噛みを合わせたような大音響の講抗議が返った。
 反撃と胸に人差し指を宛がうも、既に落とし子は封じられたと気づき慌てて焔を作る始末。
「あの三人見てみろよ今のままだとロクな死に方できないからな」
 欠伸でも出そうな気怠さの輝彦だが、肩にかけた指は肉に沈み刻印を刻むが如く骨へも触れる。
「は、なせ……痛い、です」
 お陰で随分と遅れ射出された焔を、よつろは歌唄いがリズムをとるよな優雅なステップで避けた。
「殺人者、殺人未遂、集団婦女暴行……」
「まぁ、あの女はなっからイカレてたし、真ん中以外はいいようにされたとも言えるか」
 山本が数え上げる罪は肯定し、生命活動は否定する。ぐちゃりと床に叩きつけた輝彦は起き上がり大儀そうに腰を叩いた。
「あれに関しちゃ山本の干渉は多少はあるだろうが間違いなく茜沢ねいの手腕だろ?」
「そう? 加害者さんを甘やかすのもどうかと思うわ」
 よつろが髪を背中へ流せば、斃れ伏した太もものシルエットが異様に膨らむ。そうして響くは獣の咀嚼音。
「つきあいが悪かったのだとして、家族は、友人は、誰か止めてくれるひとは――御前には何も無かったのか」
 家族と呟いた時に是清の唇の端がピリリと痛む。
「…………」
 その問いかけには、異形に成り果てたというに随分と人間くさいバツが悪いという表情が返ってきた。
 一人っ子、父は堅物真面目で母は心配性。極々普通の愛情は注がれていた。
 平穏だったのだ、自分の人生は。
 パン、と、目が醒めるような破裂音、同時に魔道書の三分の一ページほどが弾け散る。
「おいガキ」
 銃剣なら薙ぎ斬り、盾は防御、そうして今は射手の距離。紛争地帯を生き抜いたレイの得物は斯様に最小限にして多元的だ。
「てめぇが茜沢に依存しなかった理由が知りたいか」
「……依存してましたよ」
 ぶつくさ膨れる男の後頭部をひっつかみ頭突きの勢いで間近でねめつけ、レイは構わず言い通す。
「てめぇが自分ですら何になりたいか解らなかったからだ」
 それもまた山本には図星で隙を産む。
「力を手に入れて何をしたいの? キミは暴れて目立ちたいだけじゃん」
 もはや騙す必要すらないかと苦笑い、ニヒトはうつし身に誘われよろけ来た奴の足首に靴紐をしめるように拘束を仕込む。
「だってそんなの分るわけないじゃないかぁああ! なにもできなかった……なにも」
 駄々のような喚き声、炙られるように急速に温度を跳ね上げる箱の中床は傾ぎ、猟兵達は壁や物品を支えに体勢を保った。
「全く『感情』と『強い意志』を履き違えてやがる」
 節くれ立ったレイの指は弟子ニヒトの細い手首を掴み、地上へ叩きつけられるのを防ぐ。
「ラスボスだって野望くらい持ってるけどね」
 なにもないと、師弟の眼差しは揃う。
「……これ以上時間をかけてはいられなそうね」
 支えに来るのは当り前と獣に寄りかかったよつろは、是清へと瞳を向けた。その視界をやる気なく殺意に満ちた男が横切っていく。
「全くの同意だ」
 傾斜を深め崩れゆく床を蹴り輝彦は異形の巨体へ全身で挑みかかった。
「ぎゃっ! は、離して……」
 万力のように顔面を左右から締め上げられて赤の異形は悲鳴をあげる。
「俺ごとヤレ、はやくしろッ!」
 場に戸惑いが生じる前に、レイはニヒトを片手に握ったまま反対側で手にした断頭にて輝彦ごと打ち払った。闘争に塗れ生きた男は斯様に即断。
「時間稼ぎは必要?」
 よつろの足元から獣が消えて腰から肩へと噛みつき登る。
「いいや」
 是清は“骸”の耳へ唇を離す、糸は既についた。
 ――不幸でないことは決して幸せではない。考えたってしょうがない、そんな嘆息が幕開けのベル。
 骸は舞う、予め言いつけられた台本通りに。
 肘打ちからの裏拳、反対の掌で掴み取り逃さじと固定してからの廻し蹴り……優雅に撫でさするような所作の度、輝彦と山本の肉と血が混じり合い空間を穢した。
 演目が終った。
 ずるり、と、まずは白目を剥いた輝彦が山本から滑り落ちる。
 ごづり、と、続けて山本が膝をついた。
「…………ッ、く、は……僕は、まだ茜沢さんみたいに、殺されてない……まだ……っ」
 瀕死の痙攣の中でちっぽけな黒幕未満の男は嗤って腕を伸ばした。
「僕だって、もうひとりいるんですよ?」
 やけに明瞭にして自信に満ちた、声。
「……復活はさせない!」
 だが彼の希望は、ぽろりと落ちた手首と共に断たれる。
「羨望」
 ニヒトが両手で握り引っ張る真っ赤な紐には『輪』だったモノが確りとした『結び目』として硬く姿を現わしている。
「嫉妬」
 ぷんっと糸を振わせば、結び目に絡む手首の欠片を祓い散った。
「その癖人の目を恐れ没個性……結局何にもなれなかったね」
 だからここで終わりだよと言われた気がした。
「……」
 もう終っていいンだと、人形が首を傾けた気もした。
「!」
 ならばせめて、芯から絞り出した燃え滓を捨身で来た英雄に叩きつけ道連れだ! 
「……う、うぅ……どうして邪魔するんですかぁ」
 だが手首のない腕は、大きくあいた顎門にて、肩まで丸呑みにされてしまった。獣をぶら下げ半べそをかく眷属なんてそうそうおめにかかれないだろう。
「どうしょうもなく醜悪で矮小な己の存在の小ささを自覚しなさい」
 でもよつろは、彼らしい最期だと心から思った。
「小さいままでいれば、よかっ……」
 かぎゃり。
 獣にかみ砕かれると時同じく、輝彦より現れた亡霊は先程と寸分違わぬ所作でこめかみを圧縮し、矮小なる脇役の命脈を完全に断ち切った。
「じゃあな、山本、おやすみ」
 もう目覚めぬ睡魔に囚われる彼へ、是清はそう呟き背中を向ける。
 ……最期に耳朶をなぞり落ちた声は彼に『日常』を喚起させた、もう二度と戻れぬはずの。


 倒壊したサークル棟から出てきた猟兵たちは、英二と絢奈の安堵の顔に出迎えられた。
 仕事は終ったと早々に去る者もいれば、彼らと言葉を交わす者もいる。
 ねいへの疑心を詫びる柩へ、英二は首を横に揺らした。解き明かされた『彼女』は自らの渇望に正直で、故に逸脱していたのは理解している。
 拓未は、ねいと合わせて山本の冥福も祈りたくてフルネームを絢奈に問うた。
「均くんって言うの」
 深くは聞かずだが何かを悟った彼女はそう短く返した。
 その名を聞いたニュイは「勿忘草(わすれないで)」と祈った分だけ彼を憶える。
 他にも猟兵達より言葉をかけられたならば、彼らは謝辞と共に応えただろう。
 ――央や海は、罪を悔いる日がくるのかもしれない。
 ――絢奈は、また顔をあげて旅をはじめるだろう。
 ――英二は、葛藤や憎悪や悔悟を抱えながらも海と向き合い、何時かは本当の意味での茜沢ねいへの弔いへと辿りつくのだろう。
 そんな未来へとつなげられたのは、間違いなく猟兵達の力があったからだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月19日


挿絵イラスト