雪解けの露に消えるか恋心
雪。
一面の雪。
街全体が白化粧に包まれていた。
すでに人々は力尽き倒れて路地にその身を伏し、その亡骸を雪が覆い隠していた。
声も無く色も無く、ただしんしんと雪が降り注いでいた。
その中を1人の男が歩いていた。いや走っていたのだった。
だが雪はすでに男の腰まで積もっており、脚の動きを阻もうとする。
男はときおりうしろを振り向きながら、先を急ごうとしていた。
「仙次郎」
男を呼ぶ声がした。
それは、この雪の中でもはっきりと男の耳に聞こえた。
男はそれを聞くと目を瞑り必死の形相で雪をかき分ける。
何かを振り払うように必死に、頭に聞こえた声が掻き消えていくとでもばかりに。
「仙次郎、どうして逃げるの」
男は振り返った。
そこにいるのは見目麗しき女。
透き通るような白い肌に白い髪、そしてまっさらな白装束。
まるで雪か氷が人の姿をとったかのような、美人。
男はそれに恐怖を感じ、必死で離れ逃げようとする。
雪は降り注いで男の進む先を壁となって阻み、体温を奪っていく。
すでに男の感覚は危うく、腕ではなく肩でかき分ける様な格好となっていた。
女が一歩進むと雪は分かれ、やすやすと男との距離を縮めていく。
そしてついに触れるところまで近づき、そっと優しく男の身を抱きしめた。
「私が好きだって、夫婦になりたいって、言ってくれたよね」
女の白き肌に赤みがさし、うっとりとささやく。
男はそれに反して顔色を失っていく。
雪は静かに男と女の上に降り注いでいた。
どれほどの時間が経ったのであろうか。
街全体は白く覆われ丘陵となっていた。
雪は止んでおり、白き大地に生き物の姿は見えない。
その丘の上で、女は氷柱に包まれた男にそっと寄り添っていた。
「これからはずっといっしょだね」
女は陶然とした顔で氷の上から男の身体を愛おしく撫で続けていた。
「これが、私の見た予知でございます」
ここはグリモアベース。
ライラ・カフラマーンは居並ぶ猟兵たちに深々と頭を下げる。
その背後に生じている霧には、さきほどの光景が幻となって現れていた。
頭を上げると幻はうっすらと消えていき、周りの霧と溶け込んでいく。
「今回、皆さまにお願いするのはヴィジョンに現れていた女性、サムライエンパイアの地にて雪女と呼ばれているオブリビオンの撃破です」
雪女。
雪を操り人を死にいたらしめるといわれているオブリビオン。
おもに雪山などに現れ、遭遇してしまった旅人などを襲うのだという。
「仙次郎さんもこれに遭遇しましたが、幸運にも災いを逃れることができました。しかし雪女は仙次郎さんを追って街に下りて来ようとしています」
仙次郎は現在、江戸に繋がる街道沿いの宿場町に停泊している。
その街にむかって雪女が迫ってきているのだった。
「あいにくと仙次郎さんの居場所まではわかりませんが、宿場町に雪女が向かってきていることは予知にても確実です。我々はこれを待ち受け、撃破します」
ヴィジョンでみた通り、雪女が出現するには予兆がある。
雪の化身である雪女にとって、寒くない場所は耐えられないのだ。
仙次郎がいる街は温泉街、それは雪女にとっては火傷をするほどの暑さなのであろう。
「にもかかわらず雪女は仙次郎さんを追っています。この執着心は我々にとって有利に働くでしょう。さいわい雪女が街に現れるまで充分な時間が取れます。調査をするなり準備をするなり、余裕があるなら一戦の前に湯に浸かるのも良いかもしれませんね。今回の件は雪女の撃破です、それ以外のことはみなさんご自由になさってください」
ライラが杖の先で地面を軽く叩くと、霧が変化し情景を形どった。
それはサムライエンパイアの世界。
温泉歓楽街を楽しそうに行き交う町民たちの姿が見える。
「このまま放置しておいてはこの街が雪と氷に埋もれた死の街となってしまうでしょう。オブリビオンに対抗できるのはあなた方猟兵たちだけ。なにとぞ雪女を倒し、この凶行を止めてくださるようお願いします」
そう言ってライラは、深々とまた頭を下げた。
妄想筆
こんにちは、妄想筆です。
今回はサムライエンパイアの世界でのオブリビオン撃破です。
雪女の撃破が目的ですので、仙次郎については重要ではありません。
一章は調査または観光になります。
ここで仙次郎と接触することでなぜ雪女に襲われているのかわかりますが、調査内容に問わず二章で雪女はやってきます。なので観光や湯につかっても問題無いです。調査のあとに遊びたい、というプレイングでも構いません。
仙次郎は十代後半の若い男性です。予知にて二人の姿は判別出来ていますので、絵心ある猟兵なら姿絵も描けます。
二章で雪女の脅威を払い三章で直接対決の予定です。
結末がどうなるかはプレイング次第だと思っています。
みなさんの参加お待ちしております。
第1章 冒険
『宿場町』
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POW : 宿といえば温泉だ! 薬草風呂に露天風呂に混浴に。お湯に浸かってリフレッシュ!
SPD : せっかくだから観光せねば! 町を見て回り、買い物をしたり思い出を作ったり。
WIZ : 宿場町とならば賭博も欠かせない! 花札に賽の目、上手くいけば一攫千金!?
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
江戸に繋がる街道。
温泉街は活気に満ちていた。
客の呼び込みや土産物、屋台の出し物。
人々はそれぞれの時間を過ごしていた。
ここにオブリビオンがやがてやってくるとは思えない。
狙われている仙次郎も、この街のどこかに宿泊しているのだろう。
探すのも自由だし対策を取るのも自由。
そして、羽を伸ばすのも自由である。
上泉・信久
POW判定
せっかく来たのだ。温泉に行くのがよいだろう
薬草風呂は戦闘後に入ってみたいな
露天風呂で温まるかな
混浴も興味がないと言えばウソとなるが
うら若き女子と一緒の風呂に入ってはのぼせてしまう
何か事件が起きた際は、仕方ないので向かうとしよう
猟兵によからぬことを考えるものがおらぬとよいな
自分の刀を手放すわけにはいかないため
入浴時はタオルで巻いて、頭に乗せておこう
こういった時は不便で仕方がないな
細マッチョ
人間としてみればかなりの美形であるが
100を超えるヤドリガミ
ジジイの外見に惑わされてはならんよ
共に浸かる者がいれば語らいあいたいものだ。
上泉・信久が温泉街に到着した時、彼は湯につかることを選択した。
温泉街というだけあって様々な湯殿が看板から推測される。
「まずはひとつ、露天風呂としゃれこもうか」
上泉はその中から露天風呂を選んだ。
薬草風呂というのにも興味を惹いたが、そこは戦いのあとでよかろう。
傷を負った時にでも入れば一石二鳥というもの。
それに、滞在の日々は長いしな。
上泉はまずは一風呂と、暖簾をくぐったのであった。
脱衣場に入って衣服を脱ぐと、幾分寒い。
春の訪れはまだ遠いと感じさせるが、それゆえに風呂につかる期待が高まる。
次々と服を脱ぎ、着用の品を脱衣籠に置こうとして、ふと手を止めた。
愛刀「紅燕」を見つめじっと考える。
己はヤドリガミである、刀を離すのはもっての他である。
されどここは露天風呂、他者と邂逅する場において武器はあまりに無粋である。
しばし逡巡したあと、上泉は刀をタオルでくるみ、それを頭に乗せることにした。
タオルの端と端を結び、顎紐で結ぶ。
「やれやれ、こういった時は不便で仕方がないな」
左右に二度、三度と首をゆらしずれてこないのを確認すると、湯場への暖簾をく分けて入った。
露天の浴場にはすでに何人かの先客が湯船に浸かっていた。
上泉の頭の長物に一瞬ぎょっとするが、すぐに納得の顔をむける。
入ってきた上泉の痩躯は絞られており、鍛錬されているものとわかったからだ。
おそらく旅の武芸者か何かであろう。なら武器を離さないのも納得できる。
そう腑に落ちたからであった。
上泉が桶に湯をくみ、両手ですくって顔を洗う。
肩に湯を流し、腰を洗い、足先を清めて湯に入る。
両肩を湯に沈めると、おもわずため息がでる。
湯殿は少し熱い塩梅で、顔にあたる外気は冷たい。
どこかで鳥の鳴き声が聞こえた気がする。
冬と思っていたが、春は幾分近くなったようだ。
そう、しみじみと一人湯を堪能していると先客連れが話しかけてきた。
「お侍さん、ずいぶんりっぱな物をお持ちですな」
上目づかいで、長物のことを尋ねてくる。
「ああ、これは俺にとって命といえるものだからな」
「そいつはすげえ。あっしはそんなものなんざ持ってませんからなぁ」
「おまえの物はカミさんも喜ばすのがやっとだろ」
「馬鹿言え、隣のカミさんだって喜ばしてやったぜ」
げははははは!
げははははは!
浴場に野卑な笑いがこだまする。
上泉もつられて口の端を歪めてしまった。
「そいつは上等だな。ジジイはあいにく女を泣かしたことはなくてな」
「さすがはサムライだ、亭主の操を立ててなさる」
すでに何年も連れ添った仲のように気を許し、先客は上泉の方へと近づいてくる。
そして頭に乗せている長物をみてまた尋ねてきたのだった。
「でもこんな上等なら、さぞかし武勇がありそうですなぁ」
ふむ、と上泉はしばし考え口を開いた。
「忍びと戦った話がある、聞くか?」
ええぜひぜひと、先客たちは左右に近づき耳をそばだててくる。
承知した、と上泉は頷き自らの体験を話してやる。
「怪異の館、周辺の者がそう噂する屋敷にジジイが足を踏み入れたときであった――」
まるで道場で弟子たちに説く師範のように、上泉は朗々と語るのであった。
屋根に残っていた残雪が、どさりと露天風呂の片隅に落ちた。
人々はそれも気にせず上泉の話に耳を傾けている。
一席終わるころには身体はすっかりゆだっている頃であろう。
大成功
🔵🔵🔵
新納・景久
「何故じゃァァッ!!」
一戦交える前に温泉にでも浸かろうとやってきたが、女湯に入ろうとして番台に止められる不運
パッと見ると男にも見えるからという理由で
「なあば見っが、こん場で見っが、何なら俺はこん場で脱ぐど!!」
ひとしきり騒いだ後で本当に上着だけ脱ぐ
サラシを巻いているが、その内側にはちょっと注意しないと分からないほど小さな膨らみ
「こいで分かったが!」
とても分かりにくい
何とか温泉に入れたら、薬草風呂にどっぷり浸かる
「ったく、人を見た目で判断しよぉ。けしからん奴じゃ」
肩まで浸かって超リラックス
効能は血流改善系を選ぶ
雪女との戦いに向けて、身体を温めておこうという算段
「何故じゃァァッ!!」
温泉宿に怒号が響いた。ここは宿の浴場前。
番台に一人の人物がくってかかっていた。
新納・景久は目の前の暖簾、女湯に入ろうとして止められたのだった。
男と見咎められ、おもわず声を荒げる新納。
「いえ、それはこちらの不手際で……まことすみませんでした」
腰を低くしてあやまる番台に、新納の怒りはとまらなかった。
新納は武士である。剣を携え兄の意志を受け継いで生きていた。
けれども誇りに対しては、人一倍に敏感であった。
新納は激怒した。必ず、この理不尽を除かなければならぬと決意したのだった。
己の誇りを、無実を証明するには言葉は要らぬ。
ただ身をもって示せばいい。
そう、新納は考えたのだった。
「なあば見っが、こん場で見っが、何なら俺はこん場で脱ぐど!!」
磐台の答えも聞かず、上着を脱ぐ。
寒空に上半身を晒し、サラシを巻いた格好を見せつけたのだった。
その迫力に気圧され、胸を確認して番台は驚愕した。
それは 胸というにはあまりにも小さすぎた。
小さく、慎ましく、 薄く、そして貧し過ぎた 。
それはまさに貧乳だった。
「こいで分かったが!」
ドヤ顔で仁王立ちする新納。
その姿を見て番台の頬に涙が伝った。
泣いた。
彼は人前ではばからず泣いた。
自分はなんということをしてしまったのだという、慙愧の念が彼の心中を締め付けていたのだった。
「す、すいませんでしたーーーっ!」
思わずその場で土下座をし、謝罪する番台。
おんおんと泣くその涙が、頬を伝い顎先から落ちて地面を濡らす。
その様子を見て、疑いが晴れたと新納は安堵の笑みを浮かべた。
「なぁに、わかれば良かとよ」
それじゃあ、と新納は落ちた上着を拾い暖簾に手をかける。
女湯に入っていった新納が姿を消し、そこには泣きじゃくり地に伏す番台の姿が残るのみであった。
「ったく、人を見た目で判断しよぉ。けしからん奴じゃ」
脱衣籠へとぶっきらぼうに身につけている物を投げ込む。
余計な時間をくってしまった。
はやく湯に浸からねば、と新納は脱着を終えると湯場へと急ぐのであった。
浴場を見まわすと誰もいない。
薬草風呂はこの時分、空いていたようだ。
「コイツはよか。先駆けぜよ」
一番風呂ではないかもしれないが、大きい湯船に自分一人というのは何となく気分が良いものだ。
思わず駆け出し、風呂へ飛びこんだ。
どぶんと沈み、ぶくぶくとしばらく浸かってから顔を出す。
湯面を波立たせながら顔を洗い、ようやく息をつく。
たしかここの効能は血行促進と看板にあった。
冷え症・神経痛・打ち身等。
どれほどの効果があるかはわからぬが、看板には偽りなしであろう。
ずぶずぶと、肩までつかり新納は景色を眺める。
それは温泉を楽しむ目ではなく、剣士の眼光だ。
「雪女……まっちょれよ」
これは観光ではなく、オブリビオンを倒すための下ごしらえ。
身体をリラックスさせると同時に鋭気を養うのだ。
女剣士は、湯につかり闘志を胸に秘めるのだった。
成功
🔵🔵🔴
織部・水重
SPD行動
アドリブOK
まずは「アート」を使用して仙次郎と雪女の姿絵を描いておく
そして温泉街や源泉、河原などを
『布袋竹の太筆』でスケッチして旅の絵描きを装う
ま、自分の趣味も兼ねとるがな
「ふむう、モワッと立ち昇る湯煙をどう表現するか…」
「この源泉小屋の侘びた佇まいがまた…」
「うーむ、河原を歩く温泉美女、絵になるのう…ニシシシ」
一通り回ったら二人の姿絵を見せて聞き込みと行こう
旅館や食堂などを中心に当たるのが良いかの
なぜ探しているかを聞かれたら
「この世の物とも思えぬ美人を我が筆にて後世に描き残したいのじゃ」と答えよう
温泉街を老絵描きが闊歩していた。
画材を持ち歩き、気に入った場所があれば座り、辺りを描き残す。
今は足湯に浸かりながら筆の進むがままに滑らせていた。
織部・水重、その人である。
「ふむう、モワッと立ち昇る湯煙をどう表現するか…」
その姿が珍しかったのか、一緒に足湯に入っている他の客に声をかけられる。
「御隠居、湯に浸かりながら筆書きたぁ、粋ですな」
「なんの、拙者これが趣味でございましてな」
覗きこんだ客が、織部の絵に世辞をのべる。
かまわず絵を描きつづけている織部にむかって、さらに話を合わせてきた。
「それにしても、見事な絵だ。御隠居、名のある絵師かなにかで?」
「いやいや謙遜謙遜、そんな大層な身分ではござらんよ」
他の絵を見てもいいかとの問いかけに、織部は結構と答える。
それじゃ失礼と客は画材道具を漁ると、一枚の絵を見つけた。
それは女性の絵姿。
白装束に身を包んだ、麗しい姿の一枚絵である。
「これは御隠居、艶絵も描きなさる。ほんとにみごとなものですな」
「おうおう、それは自慢の一品でしてな。時に御仁、その絵姿の女房をご存知かな」
ふむ、と客は絵と織部を交互に眺め思いだそうとする。
「まさかとは思いますが御隠居、お妾さんですかい?」
「まさか、人探しでしてな。覚えありませぬかのう」
「これほど美人ならあっしの目が忘れてませんが、あいにくと。どこか人の多い場所で尋ねた方がよろしいんじゃありやせんか」
なるほど、と絵を描き終えた織部は礼をいって足湯を出る。
そういえば小腹が空いた。
飯の一つ、そこでまた尋ねるとしよう。
そう考えて織部は次の目的地へと向かったのだった。
行き交う雑踏、その中を織部は歩いていた。
その足がふと立ち止まる。
むけた目の先には源泉小屋。
そこに侘びを感じた織部は行き先を中断することにした。
とりあえずそこにあった石へと腰かけ、また執筆の作業に戻る。
「この源泉小屋の侘びた佇まいがまた…」
真剣な表情。
老絵師の粋な姿に声をかける野暮はおらず、織部は心行くまで絵心を堪能した。
己の目的を思い出すのは、九分方描き終ったころである。
「これはいかん、そろそろ動かねばいかんでござる」
画材をしまうと、織部は食堂へと向かったのだ。
食堂、歓談をしている者達。そこにも織部の姿はあった。
すでに腹ごしらえがすんだ織部は筆を取り出して、路に見える通行人を描き写していた。
「うーむ、河原を歩く温泉美女、絵になるのう…ニシシシ」
その織部の向かい側には相席が一人。
織部が描いた絵を眺めていた。
それは目的の人物、仙次郎と雪女の姿絵。
納得するほど見比べたその人は、ようやく口を開いた。
「残念だけど見たこと無いね」
そうですか、と顔を動かさず描きつづける織部。
その顔が次の言葉で横をむいた。
「でも、男の方は見たことがあるな」
その人が言うには男、仙次郎は宿で見かけたことがあるというのだ。
なんでも同じ宿に宿泊しているらしい。
「そいつがまだ泊まっているなら会えるかもよ、爺さん」
「それはありがたい、貴重なお言葉でございますな」
「でもなんで探しているんだい?」
その言葉に、織部は筆を止めて身体をむきなおした。
「この世の物とも思えぬ美人を我が筆にて後世に描き残したいのじゃ」
そうかい、でも爺さん片方男だぜ。
その問いに織部はにんまりと笑った。
「それがそこ。美人に追われる伊達男が肝でござる」
「そうなのか、じゃあ俺もあんたみたいなのに描いて貰えれば別嬪さんに遭えるのかもな」
軽口を叩く相席。いいとも、と答える織部。
じゃあよろしくと、軽口叩く人物は蕎麦を頼んで織部に差し出す。
「爺さん、これが手付けだ。伊達に描いてくんな」
「ほうほうこれはこれは。山吹菓子ではござらんが、賄賂は腹に収めましょうぞ」
仙次郎の宿は分かった。あと少しといったところか。
勝負の前に今一服。
織部は蕎麦をすすり、まずは目の前の注文をうけるのであった。
成功
🔵🔵🔴
白雨・七彩
皆活気があるな。
ここの者達が明日もそのまた明日も変わらない営みを続けて行けるよう、微力だが力を尽くしたいと思う。
さて、観光という言葉は魅力的だが、俺は宿場町を見て回るとしよう。
地理の把握と、敵を迎え撃つのであれば歓楽街から離れた辺りに、適度な広さの場所を幾つか見繕っておくか。
それから要らぬ混乱を広げぬよう上役の者と話を付けておくとしよう。
余裕があればついでに仙次郎も探してみるか。
「野生の勘」でどこまで探れるか分からないが、見つからなければ他の者に託してしまおう。
もし運良く見つけられたら、…一度雪女に遭遇し無事逃げおおせた所に協力を仰ぐのは難しそうだが…。ダメ元で交渉してみるとしよう。
活気ある街並みを白雨・七彩が歩いていた。
すれ違う町民たちの姿に、思わず自分もと思いたくなるが、まずは仕事。
白雨は今回戦場となるであろう街周辺の地理を把握することにした。
大道が街の東西に伸びて、その道に連なるように宿場が南北へと。
街道沿いは開けているが南北はそれほどでもなく。広場となるべき場所は見当たらない。
しいていうなら街にある川べりが開けているので、そこがふさわしい場所といったところか。
あとは細路地長屋と武器を振り回すには集団だと狭い。
最後の手段になるが、街の大道が候補に挙げられよう。
「身のこなしがあれば、平屋の屋根伝いに動けるか……?」
こんなところか。おおよその地理と場所は把握した。
他の猟兵にも伝えておくことにしよう。
白雨とすれ違い、行かう人々の姿に険は感じられない。
江戸に行くか国元の帰りか。
それは分からないが、これからの不安は見えない。
宿場街道の何気ない風景。
だが、オブリオンはやがてこの街にやってくるのだ。
「力を尽くさねばな」
そうひとり呟き白雨は歩を早めるのであった。
次にむかった先はこの宿場街を治める上役との会見であった。
上役は一見の白雨にも快く会ってくれた。
それだけの人となりがないとこの歓楽街ではやってはいけないのであろう。
要件を尋ねる上役に、白雨は単刀直入に切り出した。
「この街に雪女が襲ってくる。始末は俺達がやる、みなの混乱がないようにまとめてはくれないか」
上役は白雨をじっとみつめた。
この丈夫、もしや狂人か。
いきなりやってきて妖が来るときたものだ。
しかも何の証拠もなくだ。
だが、嘘を言ってる様には見えない。
そもそも嘘を吐く必要もないし、だったら妖退治の褒美の一つでもせびるところだろう。
上役は尋ねた。
「では我々はどうすればよいのでしょうか」
「別段なにも。ただ街の人々に混乱がなきよう、それと出来れば俺達に便宜を図ってもらいたい。いずれ吹雪、それが雪女がやってくる合図だ」
「なるほど、ではそのように。私どもにできることはわかりませんが、ご助力約束致しましょう」
「感謝する」
両者は深々と頭を下げた。
吹雪が来たときにあらためて下知、来なければ放っておけばよい。
ともあれ忠告は受け取っておこう。
上役はそう考え、白雨の要件を受け入れることにしたのだった。
そんな上役に白雨は頭を下げて、退室したのであった。
残るは一つ、仙次郎の行方。
白雨はまた、足をはやめるのであった。
仙次郎が止まっている宿は、意外とすんなり見つかった。
他の猟兵が居場所を突き止めてくれていたのだった。
なければ勘で手当たりしだいに探るしかなかった。
仙次郎は宿の大部屋にいた。
旅の疲れか、横になって休んでいる。
そんな仙次郎の前に白雨はどさりと座った。
「仙次郎だな」
白雨の声に仙次郎は疲れているのか、横になったまま答える。
「誰だいアンタ」
「白雨 七彩だ。お前に用があって来た」
「……悪い、俺はアンタを知らねえ。どこかで会ったか?」
「雪女の件できた」
その言葉に、仙次郎はガバリと起き上がった。
逃げ出そうとする仙次郎を白雨は制止する。
「待て、俺は奴の仲間じゃない。それに女に見えるか? お前を助けにきたんだ」
仙次郎は足を止めた。白雨をじろじろと眺めている。
「俺を敵だと思ったらその時に逃げろ。まずは俺の話を聞いてくれ」
「本当に……違うんだな?」
「お前は立ったままでいい、俺は座る。怪しいとおもったらその時に逃げろ」
その言葉に仙次郎は立ち止まり、白雨を見下ろした。
良かった、とりあえず話は聞いてくれそうだ。
さて、こちらの言い分に耳を傾けてくれそうだが、何を尋ねようか。
命に関わらない範囲なら色々と聞けそうだが、雪女に直接会う事は嫌がりそうだな。
白雨は仙次郎を前に悩んだ。だがとりあえず仙次郎は見つけた。
あとはゆるりといこう。
成功
🔵🔵🔴
ジロー・フォルスター
(【世界知識】が無ければ温泉に行ってたかもしれねえな…)
体中聖痕だらけだと警戒をさせちまうらしい
まあ…人肌を前にすると吸血鬼の血が疼いていけないんだが
代わりにいい酒を探して、渇きを宥め体を暖めておくか
その足で仙次郎に【情報収集】
…侍の世界にも似た名前がいるんだな(※仏語系の名前)
体が暖まる程度に酒を勧めれば多少は口が軽くなるかもな
【医術】で加減には注意する
「聞かせて貰うぜ。お前、どうやってここに来た?」
聞く事が絞れねえ時は1から10まで経緯を聞いてみるのがいいだろう
相槌を打ち聖者の気配で安心させ【コミュ力】で気持ちを乗せて聞き出す
「ほう…。そいつは危なかったな。で、何とか上手くやったのかい。」
「どうも世界が違うといけねえな。見当違いに歩きそうだぜ」
サングラスの伊達男の言葉に動揺は無い。
ジロー・フォルスターは仙次郎の宿の前にいた。
手にはこの街で買った地酒。それなりの値段はする物だ。
大事な会話の前に、ジローは一杯の酒をあおる。
「温泉はスルーしたんだ、せめて少しは温まっておかないとな」
そう言いながらジローは宿へと入っていく。
仙次郎の元へ、事の次第を尋ねにと。
大部屋には仙次郎とすでに他の猟兵がいた。
空いてる場所へジローは座ると、仙次郎に挨拶する。
「俺はジロー・フォルスター。仙次郎、アンタに会いにきたんだ」
またの来客に仙次郎は訝しげな目を向ける。
そんな彼にジローは酒と盃をかわそうとする。
「話は長くなりそうだからまずは一杯。座んな。奴に追われて疲れているんだろ?」
その言葉をうけて逡巡していたが、仙次郎はようやく座り盃をうけとった。
酒を注がれるとぐいとあおり、ため息をつく。
ジロー達を見つめて、またため息をついた。
「わかっていることからでいい。聞かせて貰うぜ。お前、どうやってここに来た?」
「どうやってって、自分の足でさ。俺は山で木こりをやっていたから体力には自信あんだ」
「そいつは丈夫でいいな。俺は太陽を見ただけでもクラクラするよ」
「はっ、何がいいもんか。化けもんに追われてりゃあ世話ないさ」
仙次郎が被りをふってうなだれる。
ジローは相槌を打って気分をほぐそうとした。
「ところでセルジュとかサン=ジョルジュとか、知り合いはいるかい?」
「なんだい、そりゃ」
「いや何、知り合いにそんな名前がいるんでね。似たような名前なら知り合いも同じかと思ってね」
「まさか、俺はアンタとあったばかりだぜ」
仙次郎は自嘲気味に笑った。そして呟く。
「俺にも知り合いがいたよ。幼馴染がな」
「女かい」
「ああ、女さ」
はは、と乾いた声で仙次郎は嗤った。
ジローは明るく笑い返した。
「追われ追われて村から逃げてきたってわけか。さっさと解決して戻らないとな。その幼馴染は綺麗なのかい?」
ジローの問いかけに、仙次郎は口をつぐんだ。
そして、だいぶ沈黙した後、重い口を開いたのだった。
「追われたんじゃない。俺が逃げたのさ、幼馴染から。幼馴染……いや雪女からな」
仙次郎は悲しそうな顔をしながら、ぽつりぽつりと呟いたのだった。
白羽の矢。
仙次郎の村に古くから伝わる風習である。
冬が過ぎて雪解けのころに、屋根に一本の矢が刺さっている家が出るのだという。
それは山から招かれた証。
それは名誉と富貴の証。
その家の少女は婚礼衣装と共に山へと送られ、山の娘となる。
代わりに毎年雪が降るころに、たくさんの品が家の前へと、一夜にして贈られてくるのだという。
家の者たちはそれを山からのお返しとし、近所家々にも配って冬を越す準備とするのだ。
そして、その白羽の矢に選ばれた家に仙次郎の幼馴染「むすび」がいた。
むすびは仙次郎に頼んだ。二人で一緒に村を出ようと。
仙次郎は頷いた。もちろんだと。
どこか遠い所で一緒に、夫婦となって暮らそうと。
だが若い男女の浅知恵、露見し、二人は捕まってしまったのだ。
仙次郎は村人たちに折檻され、むすびは山へと送られたのだった。
「ほう…。そいつは危なかったな」
ああ、と仙次郎は頷く。
残った仙次郎は村八分となり厄介者とされた。
だから仙次郎は村を飛び出し、別の街へと逃げたのだった。
「だけど……むすびが……雪女がやってきたんだ」
ある日、奉公先にやってきた雪女。
最初それが誰だか仙次郎はわからなかった。
雪女は微笑んで言った。
山から逃げてきた、一緒になろう仙次郎と。
そして驚くことを述べたのだった。
村の奴らはもう始末した、邪魔する者はいないと。
冷たい笑顔。幼馴染が見せたことのない顔。
恐怖に駆られた仙次郎は逃げ出した。
吹雪に包まれる奉公先から雪女の声が聞こえる。
仙次郎、どうして逃げるの。
私が好きだって、夫婦になりたいって、言ってくれたよね。
「あれは……むすびだったのか? それとも別の何かだったのか? 俺にはわからねえ、むすびは山にいって変わってしまったのか?」
青ざめる仙次郎に、さあなとジローは声をかける。
そしてゆっくりと窓の近くに移動すると、外を眺めた。
「ただ、ここからは俺達の領分ってわけだ。それだけは確かだな」
見つめる先、宿場町の空は曇り始めていた。
ジローはこれから起こる事を予感し、また酒をあおったのだった。
成功
🔵🔵🔴
クック・ルウは仲間が入っていった宿を見つめていた。
どうやら仙次郎はみつかったようだ。
説得は上手い仲間に任せよう。
そうクックは考え踵を返した。
「恋をした雪女……どんな娘なのだろうな」
それはいずれわかること、まずは観光を楽しもうと、クックは辺りを見回しながらぶらぶらと観光に出かけた。
宿が連なる通りには、屋台や出し物も連なっている。
クックはその内ひとつに足を止めた。
「御免」
「へい、らっしゃい!」
店主が愛想よく答える。クックは尋ねた。
「店主、温泉まんじゅうとは何だ?」
「別嬪さん、良く聞いてくれました! あっしが売ってるのは温泉まんじゅう。そこらにあるのは騙りだよ!」
「ふむ、良く聞かせてもらおうか」
「よろこんで!」
店主の話によれば、温泉まんじゅうには二つあるそうだ。
一つは単なる土産物。その土地で売ってるただのまんじゅう。
そしてもう一つは温泉の水でこしらえたまんじゅう。
店主が売っているのはその温泉水で作ったまんじゅう、つまり本場本物の温泉まんじゅうなのだという。
「湯に浸かり食べれば身体のうちそとから効果倍増、別嬪さんの肌だって若返る事間違いなしさ!」
「では一つ貰おうか」
「ありがとうございます!」
おまけしときやしたとの声を背に受けて、クックはもぐもぐと食べ歩きながら、あても無く散策している。
宿に行く者、食事をする者、立ち止まって何かを話す者。
こうして眺めていると様々だ。
そのうち一人に自分がいる。
一つ食べきり指を舐めていると、足湯の場所が目についた。
「そういえば、湯につかると良いと言っていた」
クックは足湯に浸かりながら、まんじゅうをほおばることにしたのだ。
湯に足をつけると心地が良い。
自分では大丈夫と思っていたが、どうやらだいぶ歩いていたようだ。
しばらくぶうらぶうらと足を湯の中で泳がせていると、チチ、と音が聞こえた。
見れば手もとのまんじゅうのそばに、一羽のスズメが止まっている。
クッ、クッ、と頭を動かし、こちらを物欲しそうに見つめてくる。
まんじゅうを手に取り、クックは微笑んだ。
「欲しいのか」
食べやすいように、ひとつちぎって屑をつくって手のひらに差し出す。
するとスズメはこちらに近づきついばみ始めた。
それがなくなると、クックはまた手のひらにまんじゅう屑を置いてやる。
またスズメはついばんだ。
もうひとつ、とクックが手をやろうとすると、どこからか一羽二羽と、クックの元へスズメがやってきた。
「すまない。君たちもいたのだな」
クックはまんじゅうをつまむと、スズメたちが食べやすいようにばら撒いた。
それをついばむスズメたち。クックの頬が緩んだ。
餌をくれると思ったのか、どこから猫もやってきた。
すりすりと、クックの足にこすりつけてくる。
よいしょと持ち上げ、膝に乗せる。
抵抗するそぶりもせず、猫は膝で丸くなる。
人懐こい。おそらくどこかで飼われているのであろう。
まんじゅうを口元にやると、がつがつと食べ始めた。
クックは背を撫でながら、その姿を眺めていたのだった。
どれほどの時が経ったのだろう。
食べようと思っていたまんじゅうはすっかりと食べつくされてしまっていた。
まあいい、と。クックはスズメと猫に声をかける。
「何処かに逃げるといい。自分が安全だと思う場所に。もうすぐここは、危なくなる」
スズメと猫はお礼をいうかのように一鳴きすると、いずこへと姿を消した。
クックは頭上を見上げる。
空は晴天から黒々と変わり始めていた。
クックは指先についていたまんじゅう屑をぺろりと舐める。
「雪女、か」
そう呟いて、腰をあげたのだった。
クック・ルウ
仙次郎は見つかったか
恋をした雪女……どんな娘なのだろうな
尋ねてみたいが、それは難しそうか
観光をしても良いということならば、
ではなにか甘味を……お饅頭などがあれば買いたいな
ぶらりと辺りを歩いてみて
鳥か、犬か、猫か、動物と話す事としよう
おいで、美味しいものをあげる
呼び寄せて、できそうなら一撫でしつつ
鳥獣達にも、もうすぐ此処に雪女が来ることを伝え
逃げるか、暖かい所に隠れているように言い聞かせておきたい
クック・ルウは仲間が入っていった宿を見つめていた。
どうやら仙次郎はみつかったようだ。
説得は上手い仲間に任せよう。
そうクックは考え踵を返した。
「恋をした雪女……どんな娘なのだろうな」
それはいずれわかること、まずは観光を楽しもうと、クックは辺りを見回しながらぶらぶらと観光に出かけた。
宿が連なる通りには、屋台や出し物も連なっている。
クックはその内ひとつに足を止めた。
「御免」
「へい、らっしゃい!」
店主が愛想よく答える。クックは尋ねた。
「店主、温泉まんじゅうとは何だ?」
「別嬪さん、良く聞いてくれました! あっしが売ってるのは温泉まんじゅう。そこらにあるのは騙りだよ!」
「ふむ、良く聞かせてもらおうか」
「よろこんで!」
店主の話によれば、温泉まんじゅうには二つあるそうだ。
一つは単なる土産物。その土地で売ってるただのまんじゅう。
そしてもう一つは温泉の水でこしらえたまんじゅう。
店主が売っているのはその温泉水で作ったまんじゅう、つまり本場本物の温泉まんじゅうなのだという。
「湯に浸かり食べれば身体のうちそとから効果倍増、別嬪さんの肌だって若返る事間違いなしさ!」
「では一つ貰おうか」
「ありがとうございます!」
おまけしときやしたとの声を背に受けて、クックはもぐもぐと食べ歩きながら、あても無く散策している。
宿に行く者、食事をする者、立ち止まって何かを話す者。
こうして眺めていると様々だ。
そのうち一人に自分がいる。
一つ食べきり指を舐めていると、足湯の場所が目についた。
「そういえば、湯につかると良いと言っていた」
クックは足湯に浸かりながら、まんじゅうをほおばることにしたのだ。
湯に足をつけると心地が良い。
自分では大丈夫と思っていたが、どうやらだいぶ歩いていたようだ。
しばらくぶうらぶうらと足を湯の中で泳がせていると、チチ、と音が聞こえた。
見れば手もとのまんじゅうのそばに、一羽のスズメが止まっている。
クッ、クッ、と頭を動かし、こちらを物欲しそうに見つめてくる。
まんじゅうを手に取り、クックは微笑んだ。
「欲しいのか」
食べやすいように、ひとつちぎって屑をつくって手のひらに差し出す。
するとスズメはこちらに近づきついばみ始めた。
それがなくなると、クックはまた手のひらにまんじゅう屑を置いてやる。
またスズメはついばんだ。
もうひとつ、とクックが手をやろうとすると、どこからか一羽二羽と、クックの元へスズメがやってきた。
「すまない。君たちもいたのだな」
クックはまんじゅうをつまむと、スズメたちが食べやすいようにばら撒いた。
それをついばむスズメたち。クックの頬が緩んだ。
餌をくれると思ったのか、どこから猫もやってきた。
すりすりと、クックの足にこすりつけてくる。
よいしょと持ち上げ、膝に乗せる。
抵抗するそぶりもせず、猫は膝で丸くなる。
人懐こい。おそらくどこかで飼われているのであろう。
まんじゅうを口元にやると、がつがつと食べ始めた。
クックは背を撫でながら、その姿を眺めていたのだった。
どれほどの時が経ったのだろう。
食べようと思っていたまんじゅうはすっかりと食べつくされてしまっていた。
まあいい、と。クックはスズメと猫に声をかける。
「何処かに逃げるといい。自分が安全だと思う場所に。もうすぐここは、危なくなる」
スズメと猫はお礼をいうかのように一無きすると、いずこへと姿を消した。
クックは頭上を見上げる。
空は晴天から黒々と変わり始めていた。
クックは指先についていたまんじゅう屑をぺろりと舐める。
「雪女、か」
そう呟いて、腰をあげたのだった。
成功
🔵🔵🔴
第2章 冒険
『大雪の里』
|
POW : 筋力を活かして対策する
SPD : 素早さを活かして対策する
WIZ : 知力を活かして対策する
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
あれみやこれみやささっちょる
しろいやさんがささっちょる
やあれうれしやめでたいな
やまのかみさんよんでおる
きいたかみえたかたずねっしょ
わらべ唄をくちずさみながら、雪女は街をみおろせる場所にいた。
街は雲に包まれはじめていた。
それは雪女の能力。雪を降らせる能力。
あの中で雪は勢いを増し続けやがて吹雪となり、あらゆる物を白く染める。
全てを氷漬けとし、死にいたらしめるのだ。
それを見つめる雪女の目に迷いはない。
にっこりと微笑み、これからのことに想いをはせている。
あの吹雪は目印。白羽の矢。
あの先に仙次郎がいる。これからずっと一緒だ。
「ずっとずっと、一緒だよ、仙次郎」
山から逃げた罰か、それとも雪女と化したせいなのか。
雪女――むすびの愛はとうに歪んでいたのだった。
街が吹雪に包まれはじめた。
街の住人を避難させるか、吹雪の対抗策を練るか。
それとも原因となる雪女を捜索しにいくか。
幸い猛吹雪となるにはまだ時間はある。
猟兵たちはそれぞれの行動をとりはじめたのだった。
白雪・小夜
【SPD】人見知り・対人不信の為、交流不要
私は雪女を探そうかしら。原因を早く掴むのが先決だと思うわ。
宿場町ももう吹雪で酷いものね。
先程まで穏やかだったようだけれど…想像も出来ないわ。
さて…『氷結耐性』で多少は寒さに耐えられると思うのだけれど
自分の体力の限り探し出してあげなくちゃね。
街を凍らせるくらいだし、街全体を見下ろせる場所とか…
…街の人に聞き込みしないと…よね。
あの…そういう所って、えっと、あったり…?
あ、ありがと…じ、じゃあ…行ってみるわ。
誰かに聴き込むのは緊張するわ。
有力な手がかりを得たら、さっさと怪しい場所へ向かいましょ!
雪女、ねぇ…私もよく呼ばれていたわね
本物はどんなものなのかしら
「おいおい、冬に逆戻りかよ」
「うう、寒い寒い」
雪がちらつき、だんだんと激しさを増していく宿場町。
外にいた者達は寒さを逃れようと、屋内へと逃げていく。
これがオブリビオンの仕業とは気づいていない町民たちは、まださほど慌ててはいない。
少し季節外れの雪、そう思っているのだ。
そんな人通りが少なくなった路地を1人の女性が歩いていた。
寒さに耐えかねて下にむけている顔をあげれば、雪女かと見間違う白い着物。
白雪・小夜は元凶を求め町中を探し続けていたのだった。
(酷い物ね……。)
こうして探している間にも、足跡にうっすらと雪が積もり、その行程を消そうとしている。
この雪を止める術を見つけなければ、この街は白く覆われてしまうのだろう。
白雪にとって、この程度の寒さなど大したものではない。
しかし猟兵ではない一般人には長引けば猛威となるに違いない。
一刻も早く見つけないと。
白雪は何か手がかりになる物はないかと、辺りを見回した。
(――!)
白雪の前に1人の町人がいた。
あの者に何か知ってることはないか聞いてみよう。
そう思い目の前に立ちはだかった。
「ねえ、アナタ」
「ひぃっ!?」
町人は悲鳴をあげた。
無理もない。雪は激しさを増している。
そんな中で白装束の美人と出会えば、すわこれが雪女かと見間違えても仕方がない。
怯える町人をじっと見据える白雪。
そんな白雪に対し、町人は怯えながらも問いかける。
「あ、あの……なにか?」
(困ったわ……なんて言えばいいのかしら)
一方の白雪も内心は動揺していた。
何しろ人を前にするだけでも気が張ってしまう。
何かを尋ねようとしたが、何を尋ねようとしたのか思いだせない。
頭が真っ白になって立ちつくしてしまったのだった。
永遠かと思われる沈黙。
ようやく口を開いたのは白雪の方だった。
「この街を見下ろせる場所は……あるかしら」
「き、北にむかえば丘になって山になっとりますが……」
その言葉に白雪は頷いた。
「あ、ありがと…じ、じゃあ…行ってみるわ」
顔から火が出る様な恥ずかしさを語尾に隠し、足早に去っていく白雪。
その後ろ姿を見つめながら、町人は安堵の息を吐いた。
「た、助かっただ……」
町人と去ってからしばらくして、白雪も大きく安堵の息を吐いた。
人と会話をするのは馴れない。
妖と戦っている方が言葉を交わさないだけまだましなような気がする。
足早に駆けて街の北を目指す白雪。
「……妙ね」
彼女はある違和感に気がついた。
雪が前方からしか降って来ないのだ。
自然的な雪であれば風の影響で、横や後ろから降ることはある。
だがこの雪は常に前から、白雪の進行を止めるかのように前方から叩きつけるように降ってくるのだった。
「もしかして……街から出さないように降っている?」
今の段階では何とも言えない。
が、街の一点から離れるにつれ強くなっているのは事実だ
他の者なら風雪によって目を開けることは困難だろう。
だが白雪にとってこの程度、淡雪にすら感じない。
猛吹雪を物ともせず、白雪は街の北へと向かっていく。
……ちょる
……でたいな
「……?」
風雪の中から、歌が聞こえたな気がした。
寒さによる幻聴など白雪には起こるはずはない。
だが確かに、かすかに聞こえてくるのだ。
これはもしやすると、雪女の呼ぶ声か。
白雪は駆ける足を速め、その場所を目指していったのだった。
「雪女、ねぇ…私もよく呼ばれていたわね。本物はどんなものなのかしら」
成功
🔵🔵🔴
上泉・信久
POW 共闘可
空模様が変わったな……雪女が動いたか
吹雪に耐えれるであろう家や壕があれば、そちらに人々を避難させよう
足の悪い老人や寝たきりのものなども荷車(リアカー)に乗せて運ぼう
寒さ対策に着込みはするが、ある程度はオーラ防御で耐えるとしよう
避難所も木材で補強しておこう
【剣刃一閃】で木材を使いやすい大きさや薄さに切断していく
軽く釘打ちも行い、隙間風も防止する
準備もできたら雪女を迎える
さあ、まずは言葉の暴力、話し合いだ
その愛は真の愛ではなかろう……ならば諦めよ
織部・水重
SPD行動
アドリブOK
上役殿には話が通っておったの、では拙者は避難を手伝うとしようか
上役殿に避難所の場所を聞いたら【バウンドボディ】で腕を伸ばして高所に飛び乗り
屋根の上を走りながら、大声で街の住人に避難を呼びかけよう
事情を知らん者も多かろう、雪女が来るとは言わん方がよいな
「吹雪じゃあ! 猛吹雪が来るぞぉ! はよう逃げられーい!」
高所から街を見下ろし、吹雪に巻き込まれてしまった者がいればできる限り「かばう」で
せめて吹雪からかばいながら避難所に向かおう
「ほれ、若い者がしっかりせんか。もうすぐじゃぞ」
避難が済んだら、むすびの話を思い出し
「やりきれんのう…「和」とはもっと和やかな物であろうに」
「おいおい、激しくなってきたぜ」
「まじかよ……こりゃあ荒れるな」
雪は激しさを増し、屋内にいても障子戸ががたがたと揺れていた。
露天風呂はすでに閉鎖されている。
では温泉にとも思ったが、似たような考えの者がごった返し、あぶれた者達は囲炉裏などで暖を取っていた。
和室。
街の上役は二人の人物に伏して頭を下げていた。
上泉・信久と織部・水重である。
揺れ動く障子戸を横目に上泉は呟いた。
「空模様が変わったな……雪女が動いたか」
その言葉に上役は手をついたまま顔をあげる。
「あの……どうか、よろしくお願いします」
吹雪がくれば雪女の合図。
そう、この者たちは言っていた。
そしてその通りに雪がきた。
あやかし相手に、自分の権力などなんの役にもたとうはずがない。
ならば街をあずかる者として、全幅の信頼をおいて頼むばかりだ。
「心配せずとも、任せるがよかろう。あとは拙者たちの領分よ」
織部の言葉に、上役は頭をこすりつけんばかりに頼むこんだ。
すでにもろもろの手配は終わっている。
二人は己の仕事をこなすべく、上役の屋敷をあとにした。
「拙者は避難を呼びかける。おぬしは荷車を用意してくれ」
「わかった」
織部と上泉は二手に分かれた。
上泉は荷車を用意し、街の人々を救難する役目だ。
そして織部は避難を呼びかける役目である。
動ける者は早いうちに動いて貰った方がありがたい。
織部は手頃な屋根を見つけると、それにむかって手を伸ばす。
文字通り手は織部の十人程はあろうかと長く伸び、屋根瓦を掴む。
するとバネのように縮み、織部は屋根の上へと着地した。
そして大声で周りにむかって叫ぶ。
「吹雪じゃあ! 猛吹雪が来るぞぉ! はよう逃げられーい!」
屋根伝いに走りながら、町民たちに避難を呼びかける。
その声に何事かと窓から眺める人々に、織部は再度呼びかける。
「薪の備蓄の無い者は上役の屋敷へ逃げるがよい! 上役も承知済みじゃあ! 死にたくない者は毛布抱えてとっとと逃げんかぁ!」
上役も承知済み。
その言葉にちらほらと、布団や毛布をおっかぶって屋敷を目指す者達が出始める。
織部は屋根の上からその者達を眺めるのであった。
おおーい。
おおーい。
どこかから助けを呼ぶ声が聞こえた。
そこには織部にむかって手を振る男がいた。
屋根をおりてそこにむかうと、寒さに動けなくなったのか、もう一人青年がうずくまっていた。
「弟が…弟が」
「あいわかった、手を貸そうぞ」
織部と兄と思われる男が青年の左右で肩を貸す。
だが青年の足取りは弱弱しかった。
「ほれ、若い者がしっかりせんか」
青年を元気づけようとはするが、いかんせん吹雪は強く、歩こうとするたびに雪は深く足を埋めていく。
「いかんともしがたいのう……」
織部がじれったさを感じ始めた時、ガラガラと前方から荷車部隊がやってきた。
上泉と上役によって助力を頼まれた街の若衆たちである
上泉が木材を車輪の前へと敷いていく。
荷馬車はそのおかげで重みで雪に輪を取られることもなく進んでいった。
上役によって助力を頼まれた街の若衆たちが、通り過ぎた木材を回収してまた前へと敷いていく。
そうやってぞろぞろと、荷車部隊は街を突っ切ってきたのだった。
「おお、上泉殿!」
「待たせたな、織部。動けない者は荷車へ乗せろ」
「有り難い!」
二人と若衆たちは街々をまわって荷車で人々を回収していく。
「織部、アンタは先にいって風呂やたき火を焚いていてくれ。俺はこのまま街を回る」
「承知した!」
織部と別れ、上泉は救難活動を続ける。
民家によってはある程度の備蓄はあった。
そういった者は避難を強制せずとどまってもらい、備蓄が足りぬ者や老人病人を優先して助けることにしたのだった。
荷車に木材を立てて風よけとし、毛布や布団で屋根を作る。
それはまるで即席でこしらえたほろ馬車のようだった。
こうすれば上役の屋敷へたどり着くまでは大丈夫だろう。
次々と、救出対象をその中へと入れていく。
作業を続けるにつれ、若衆たちも寒さにこらえきれない者達が出始めた。
その者達は一緒に避難して交代してもらい、上泉が音頭をとって避難指示を出す。
上泉が鍛錬を積んで寒さに耐えれるのは、この状況において幸運といえた。
街をまわって気づいたことがあった。
風によって戸口が壊れ、雪がなだれこんでいる家もあったのだ。
上泉はそんなこともあろうかと、荷車から持ち寄ってきた木材を打ちつけ、補強して風雪が入って来ないように作業する。
吐く息は白い。雪と風が頬や身体を打ちつけ、上泉をあざ笑う。
だが上泉は弱音を吐くこともなく救助をつづけた。
この寒さにも関わらず、汗がうっすらと出るほどだ。
体内に溢れる勇気は、外気をものともしなかった。
もうもうと湯気が立ち上り、それはまるで自らをまもるオーラのように見えた。
「さて……次は何処へ向かおうか」
吹雪如き、サムライの敵ではない。
上泉は荷車を押し、次の場所へと向かったのだった。
上役の屋敷。
避難所とかした場所で、一仕事を終えた二人は休んでいた。
人々がごった返してはいるが、備蓄は充分。
薪もあるし、食料もある。
すくなくとも自分たちが雪女と戦う間は問題ないだろう。
念のためと、風雪に耐えうるように補強もしておいた。
あとは雌雄を決するだけである。
織部は熱い茶をすすり一息ついた。
「やりきれんのう…「和」とはもっと和やかな物であろうに」
その顔は飲んだ茶より、もっと渋い表情をしていた。
おそらくせんだっての仙次郎の話、むすびのことを思い出したのであろう。
握り飯を頬張り、上泉は相槌を打つ。
「その愛は真の愛ではなかろう、ならば問わねばな」
頷く織部、そして頷き返す上泉。
二人は身支度をし、屋敷を出た。
目指すは雪女、むすびのもとへと。
猟兵の本分を全うしにむかったのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
新納・景久
「おー、吹雪いてきょっだのう。番台どん、先は迷惑かくですんもはん。こいから危のうで、中ば入っちょっでな。火を絶やすでねど」
湯から上がり、番台に詫びをする
それから吹雪の風向きを見ながら、吹き付けてくる方へと向かってゆく
恐らく、その方向からオブリビオンが来るはず
道すがら、外に出ている人々には家へ入るよう呼びかけ
町の出入り口に着いたら、手近な家へ
「おう、ちとすまねが、火ば貸してたもんせ」
竃でも囲炉裏でも構わない
持っている芋や豚肉を放り込み、焼き、食らう
「こいから物騒になっでの。力ばつけねば。……おはんらも食うが? いきなし押しかけて火ば借りた詫びじゃ。遠慮すな」
土産に「出汁に使え」とイワシを残す
「おー、吹雪いてきょっだのう」
雪が激しさを増す中、新納・景久はいまだ露天の湯に浸かっていた。
その顔に狼狽は見えない。
雪女の接近、その機がきたからだ。
ゆるりと風呂からあがり支度を遂げ、番台に先ほど詫びを入れる。
「番台どん、先は迷惑かくですんもはん。こいから危のうで、中ば入っちょっでな。火を絶やすでねど」
「は、はい。わかりました」
刀を腰に差し、暖簾をくぐると外は白い。
人影もまばらで、あたりは一面の雪景色と化していた。
新納は空をじっと眺め、様子を観察する。
頬にあたる風は冷たく、身体の熱を奪おうと撫でていく。
このむこうにオブリビオンがいる。
新納は武者震いをし、一目散に駆けだしたのだった。
おそらく、吹雪の先に敵がいるに違いない。
そう考え、あえて向かい風の吹雪を突っ切るかのように走る。
「おう、さっさと去ね。ここは危なかよ」
ぽつりぽつりと、まだ外にいる町民たちに声をかけながら、彼女は吹雪をものともせずに走り抜き去った。
街の外れまで来たであろうか。
防寒も無しにここまできたが、やはりいかんせん寒くなってきた。
新納は手近な家にむかって方向をかえ、戸口を叩く。
「もし! 誰ぞ、誰ぞおらんか!
数度木戸を叩いて尋ねると暫くして扉越しに声が聞こえた。
「どなたかな」
「旅のもんじゃ、この吹雪、しばらく火ば貸してたもんせ、何卒!」
やがて用心棒の外れる音がし、戸が少し開いた。
新納の姿を中の者が確認すると、戸が開き招かれる。
中には今戸を開いてくれた翁さんが一人、そして奥には囲炉裏にあたる婆さんが一人。
「おう、ちとすまねが、火ば貸してたもんせ」
礼をいいいながら、そのまま中へと入り、囲炉裏のそばへどかりと座る。
そしてどこに持っていたかはわからぬが、豚肉や芋を取り出し、そのまま火へと投げ入れた。
家の中に、食をそそる匂いが立ち上る。
そろそろ頃合いか。
「こいから物騒になっでの。力ばつけねば」
新納は串で焼き物を刺すと、それを口の中にいれ頬張り始める。
暖を取るのと体力の補給。
一石二鳥の作戦であった。
いきなりやって来ては我が物顔に囲炉裏を占拠し、飯をくらう新納。
自分が老夫婦にあっけにとられながら見られていることに気づき、これはいかんと何本かの焼き串を二人に差し出した。
「……おはんらも食うが? いきなし押しかけて火ば借りた詫びじゃ。遠慮すな」
二人はあっけにとられたまま頷き、すすめられるまま口をつける。
美味しい。
寒くて暖にあたっていた時に、これは嬉しいものだ。
口中がじんわりと温かくなっていく。
三人は黙々と飯を頬張った。
やがて持ち寄った食材は、すっかりと無くなってしまったのだった。
ぽんぽんと腹を叩き、新納は一休みを終えた。
雪女を追うのを再開しようと、戸口に手をかける。
「邪魔したの」
身を乗り出すように駆け……だそうとしたが取りやめた。
またごそごそと懐をあさり、老夫婦に物を投げつける。
それはイワシであった。
「出汁に使え、ごっそさん!」
火を貸してくれた礼を言い、新納はまた駆けだした。
吹雪はいまだ勢いを弱めてはいないが、まだまだいける。
オブリビオンのもとへとむかうべく、新納は遅れた足を取り戻すべく、疾風のようにかけていったのだった。
成功
🔵🔵🔴
ジロー・フォルスター
そうか…やり切れねえ話だ
だがこれ以上の悲劇は止めねえとな
幼馴染の勘を信じるぜ
仙次郎から代わりの着物か、当時着てた柄の着物を借りる
仙次郎に見えるように【変装】。後姿を特に似せる
着物は【防具改造】で防寒加工するか。履物も滑り難い物を選ぶ
「そうだ仙次郎。むすびにいつもどう呼び掛けてたんだ?」
地図を見て【地形の利用】で人が少なく地熱が期待できそうな場所を探す
そこに雪女を【おびき寄せ】てみよう
避難や寒さ対策が行われたとしても、町中を戦場にするのは気が引ける
【オーラ防御・氷結耐性】を使い通りの真ん中を歩いて見つけて貰う
雪女の足が早ければ仙次郎に教わった言葉を『天声』に乗せて足止めしつつ予定の地点に誘導する
白雨・七彩
宿場街の方は上役に任せているとは言えこのままでは不味い。
次の手を打たねばな。
さて仙次郎、お前の身の上は分かった。
分かった上で無茶な提案なんだが、一緒にむすびを探しに行かないか?
説得というのは少々苦手だが、まあ渋られたとしても想定内だ
それに此処に留まっていれば彼の故郷と同様の事態になりかねん
ひとつ聞かせてくれないか。
逃げる事は悪いことではない、命がかかっていれば猶の事だ。
誰も責めはしないだろう。
だが姿や本質を捻じ曲げてまでお前に会いに来る程の幼馴染だ。
お前が逃げれば必ず後を追って来るとは、考えなかった訳では無いんだろう?
仙次郎、お前はどうしたい?
共に探しに行くか宿に残るか仙次郎の判断に任せたい。
雪深くなる温泉街。
ジロー・フォルスターと白雨・七彩は仙次郎と共に宿にいた。
今回の件は彼に鍵がある、そう考え説得を続けていたのだった。
「さて仙次郎、お前の身の上は分かった」
白雨の表情はここに来たとときと変わらない。
だがその内心は穏やかではなかった。
吹雪は刻一刻と酷くなる。
仲間たちが避難をすませてくれたようだが、このまま座するわけにもいかない。
そろそろ自分たちも動く必要があったのだ。
そして白雨はある言葉を口にする。
「分かった上で無茶な提案なんだが、一緒にむすびを探しに行かないか」
その言葉にわかりやすく動揺する仙次郎。
おいおい危険だぜ、と言いたげなジロー。
二人を一瞥し、白雨は続けた。
「まあ渋るのもわかる、だがひとつ聞かせてくれないか」
射すくめるように白雨は仙次郎に尋ねる。
彼は黙って耳を傾けようとしていた。
「逃げる事は悪いことではない、命がかかっていれば猶の事だ。誰も責めはしないだろう。だが姿や本質を捻じ曲げてまでお前に会いに来る程の幼馴染だ。お前が逃げれば必ず後を追って来るとは、考えなかった訳では無いんだろう?」
「それは……」
顔を伏せふさぎ込む仙次郎。
胸の中では様々な思いが葛藤しているのであろう。
だから白雨は尋ねたのであった。
「仙次郎、お前はどうしたい? 我々は雪女を仕留めるために来た。だから彼の者を討つ用意がある。だが人を殺めよとは聞いておらん」
沈黙。
障子戸が音と立てて揺れている。
外は吹雪、そしてここは冷たい空気が支配している。
その空気を切っ裂いて白雨は尋ねる。
「仙次郎、お前はどうしたい?」
「俺は……」
胡坐の上で組んでいた両掌。
仙次郎のその手のひらに、指がくいこみ爪をたてる。
血がにじむが、そのことに彼は気がついてはいない。
「俺は……俺は……」
絞り出すような声。
そんな仙次郎をジローと白雨は静かに見つめていた。
今回の件、どんな結果になろうと彼の結果を尊重する。
二人の考えは、そう一致していたからだ。
やがて、仙次郎が応えを出してくれた。
「俺は……むすびに会いたい。あれがむすびなら、もう一度やりなおしたい」
「オーケー、決まりだな」
白雨の説得に口を挟まなかったジローがようやく口を開いた。
「これ以上の悲劇は止めねえとな」
「だが、危険だぞ」
「それを承知で提案したんだろ? 俺は幼馴染を信じるぜ」
警告する白雨に、こっちとしても対策はとっておくがなと、ジローは己の荷物から色々と取り出す。
「何をする気だ?」
「変装さ。仙次郎、代わりの着物か何かあったら貸してくれないか」
着物を借り、帯を纏い、ジローはこの世界の住人となるべく化粧を施していく。
鏡を見るのではなく、仙次郎を手本として化けていく。
しばらくののち、目の前にはパッと見るかぎり双子の仙次郎が部屋に出現した。
「俺が影武者となる、そうすればいきなり取って食われるってことはないだろ?」
ああそうだな、上手く化けたと白雨はジローに近づき、手を伸ばした。
「だがサングラスは止めておけ」
「おいおい、ソイツは俺のトレードマークだぜ」
さて、とジローは仙次郎に話しかける。
「これから俺達はアンタの幼馴染にちょっかいをかけにいく。アンタは一緒についてきて欲しい。俺達がまもってやる」
「ああ、でもその後はどうするんだ?」
「わからねえ。正直他所様の女口説くのは得意じゃないんでな。だから合図があるまでそこら辺にでも隠れていて欲しい」
わかった、と仙次郎は頷いた。
ジローと白雨もお互いに頷き合う。
色々と準備は行った。だが現場ではどうなるかはわからない。
しかし……そういう局面に対処するのが、我々猟兵である。
二人と一人は、宿を後にし吹雪渦巻く中歩きだしたのだった。
街が遠く見える。
街は積乱雲のような雲に包まれており、ここからでもその形がはっきりとわかる。
あの中では猛吹雪と化しているのだ。
「まるで縁日でみたワタアメのようだな」
「俺にはシュークリームのように見えるな」
街から離れたここでは雪の影響は小さい。
降ってはいるが粉雪程度、影響はさほどないと感じられた。
白雨の下調べ通りに、ここには古井戸があった。
あいにくと湯が沸く適当な場所は見つけられなかったが、護衛対象がいるのならこちらの方が都合が良い。
桶の紐を綱として、仙次郎をそこに隠す。
「じゃあちょっとそこで辛抱してくれ。合図があるまで顔を出すんじゃねえぞ」
「ああ、でもむすびはどうするんだ?」
「心配するな、悪いようにはしねえ。ちょっと騒動がおさまるまでじっとしてくれればいい」
井戸に仙次郎を隠し、二人はそこから離れた。
広い丘。
ここなら多少暴れられても町人たちには被害は及ぶまい。
ジローは、すうと息をすうとわらべ唄を歌った。
「そうだ仙次郎。むすびにいつもどう呼び掛けてたんだ?」
「なぜそんなことを?」
「影武者が仙次郎らしくするには必要なのさ」
「特に変わった呼びかけはしなかったよ、だが昔は良くわらべ唄を歌いながら遊んだものさ」
「……聞かせてくれ」
あれみやこれみやささっちょる
しろいやさんがささっちょる
やあれうれしやめでたいな
やまのかみさんよんでおる
きいたかみえたかたずねっしょ
ジローの歌声は良く通り、それは郷愁を思わせるどこか懐かしい響きだった。
それは丘を越え街へと、山を越えて空の向こうまでへと届くような、そんな気がした。
たずねやいこうかよめまいり
このこのちぎりのおいわいに
やあれうれしやめでたいな
やまのむすめよわらってな
おせよおすおすほうりましょ
しらはつきたてさしましょか
やいばゆみやのひかりもの
やあれうれしやめでたいな
やまのかみさんささげもの
こうはくまんじゅうべっとりよ
あれみやこれみやささっちょる
しろいやいばがささっちょる
やあれうれしやめでたいな
やまのかみさんごまんぞく
きいたかみえたかたずねっしょ
それは残酷な歌。
村で生まれた子供に掟を言い聞かすために作られたわらべ唄。
まだ善悪の基準もわからぬこどものうちから言い聞かせる、村の掟だった。
この唄の奥でどのような事があったのか。
白雨は黙祷を捧げるかのように頭をさげ、静かにジローの歌声に聞きっていた。
ジローも同じ気持ちであったのであろう、唄を続けるうちにその声に熱がこもってきたようだ。
「なるほど、サングラスは必要だな」
目じりをおさえ、白雨は一人呟いた。
そしてその顔が緊張に強張る。
雪はいつしか粉雪から綿雪となっていた。その雪のなかをしずしずと人影が歩いてくる。
その人影は、ジローの後ろ姿に優しく語りかけたのだった。
「やっと会えたね、仙次郎」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『『雪女』冷結』
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POW : 氷の制裁
【足を魅せる等して肌から冷気を貯め、指先】を向けた対象に、【対象の場所を起点に発生する氷の塊】でダメージを与える。命中率が高い。
SPD : 氷の神隠
自身と自身の装備、【そこから吹雪を発しながら自身と】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
WIZ : 氷の呟き
【心の底から凍てつく言葉】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
イラスト:煤すずみ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ポーラリア・ベル」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
この怪異の元凶、雪女とようやく遭遇することができた。
今はまだ、敵対するそぶりはみせない。
だが内に凶悪な意思を秘めているのは確かであろう。
予知霧で見た光景を起こしてはならない。
禍根を絶つためここで討つが人の為か。
それとも……?。
猟兵たちは、それぞれの思いを行動に移したのだった。
新納・景久
「オブリビオンじゃな? オブリビオンなあばそれ以上でんそれ以下でんなか。今を生くっ人ん仇なすだけでん十分じゃ」
恋心を否定はしない
しかし今を生きる人を過去へ引きずり込むことを許すわけにはいかない
まして、仙次郎が拒絶するならば猶更だ
滅する意味はそこにある
「ないごて想い人ん気持ちを汲み取らね。ただ己ん私利私欲でねが。盗人と同しじゃ!」
己の想いだけを押し付ける恋のあり方は気に食わない
鬼棍棒を担ぎ、攻めかかる
氷の塊が発生したら、棍棒をスイングして打ち返す
十分距離を詰めたら鬼吼丸で【蜻蛉一之太刀】
「一方的ん殺意ば押し付けらる気はどげんね。そん苛立ちを、おはんはおはんの想い人に押し付けっとじゃど!」
織部・水重
SPD行動
アドリブOK
救えるなら救いたいものよ
だが、まずは動きを止めねば
【ガジェットショータイム】で巨大プロジェクターを召喚
●氷の神隠 の吹雪や雪原に向けて、あらかじめ「アート」で描いた
山奥の村、無数の刀と弓矢、血の映像を
反応を見ながら順番に映していく
「吹雪を止められよむすび殿! 仙次郎殿を凍え死なせてしまうおつもりか!
今度こそ、お主をそこから、あの山から連れ出してくれるのだぞ!」
説得失敗の場合
攻撃をあえて受け「パフォーマンス」でワザと無様かつ派手に吹き飛んで、むすびの怒りを鎮める
「どぎしぇぇぇ~!」
戦闘終了後
人間のむすびの姿絵を描き、仙次郎に渡す
「結局、この世ならぬ美人など居なかったのう…」
ジロー・フォルスター
(仙次郎への【変装】もいずれバレる。その前に…)
声のトーンを仙次郎に近付けて、違和感は【言いくるめ】て聞くぜ
「むすび。山に行って何があったんだ。教えてくれ」
雪女から【コミュ力】を生かして【情報収集】
元は人間の妖怪なら僅かだが希望があるかもしれねえ
【呪詛耐性・祈り・医術】や聖者の力で戻せないのか
経緯を聞く事で糸口を探したい
(人ならぬ身で人間を思うってのは大変な事だからな…)
正体がバレた場合もまずはむすびを傷つけねえように戦う
【凍結耐性・オーラ防御】で耐える
古井戸もギリギリ入るように『禍祓陣』で攻撃から味方を守る
雪女にはここに留まって貰う
「仙次郎の居場所は知ってるぜ。もう少し相手していってくれよ」
上泉・信久
POW 共演可
お主が雪女か。別嬪ではないか
軽々しくも話せるならば話してみたい
【礼儀作法】自己紹介をし、仙次郎をどう思っているか問おう
【第六感】と【見切り】で雪女の心理を見る
悪意なき心で愛し方がわからないなら説き、大人しくしてもらおう
大人しくするなら闘う猟兵達から離れ、様子を見よう
心から壊れているなら、斬ってやろう
それは様子を見ている場合でも殺意が見えたら参加する
オブリビオンに生まれた悲しい魂を斬る
相手の動きを【見切り】攻撃を仕掛けてきたら回避重視
【無窮ノ型 阿修羅斬】の攻撃重視を【早業】で【属性攻撃】をのせ【残像】を残して居合斬る
慈悲は一閃。首を斬り、その首を優しく撫でよう
魂が浄化されるよう
白雨・七彩
先ずは我々を信じ同行してくれた仙次郎に感謝と礼を。
これから戦場となる場所に彼を誘ったのは軽率だと咎められたら返す言葉もない。
だが想い人を1度は掟に取られ今度は2度目だと考えたらな。
俺ならとても耐えられ無いだろう…と、思ってしまった。
むすびと交戦になっても直ぐに攻撃には転じず少しでも言葉を交わす時間を稼げるよう攻撃は防ぐに徹する
ただし仙次郎の身に危険が及びそうな場合は〔属性攻撃〕を上乗せした【炎月】で応戦
雪女は躯の海へ還す対象だと承知しているが、僅かでもむすびの部分が残っているなら、雪女では無く一人の人として弔い送り還したい。
少なくとも此れからを生きて行かなければならない仙次郎には必要では、と。
白雪・小夜
【SPD】人見知り・対人不信の為、交流低
アナタが雪女…?
…ふうん、確かにいろいろ白いから私を間違えても仕方ないのかしら。
まぁどうだろうと斬るだけだけれど
さて…『氷結耐性』で多少は寒さに耐えられると思うのだけれど
戦闘になれば妖刀による斬撃を繰り出しながら素早く戦闘。
『雪夜の一振』は使う場面を慎重に見極める。
攻撃を受けても『激痛耐性』で怯まないように出来ればいいのだけれど。
『殺気』立てて『恐怖を与える』事で敵を追い込む事が出来たなら。
多少なりとも敵の動きを『見切り』出来るといいのだけれど…。
雪女の考えてる事なんて全く想像も出来ないけれど
…もしかして似たもの同士…だったりするのかしらね?
アドリブ歓迎
時は少し遡る。
白雪・小夜は他の猟兵よりはやく雪女と対峙することに成功していた。
刀を抜く前に尋ねる。
「アナタが雪女…?」
「あなたは誰?」
二人並ぶ白装束は、まるで姉妹同郷の徒にも見えなくもない。
互いに親近感を覚えたのか、しばし見つめ合う二人。
だが問答は無用とばかりに白雪は刀を抜いた。
「まぁどうだろうと斬るだけ」
すらりと抜いた白雪を、雪女は敵と認識して構えた。
白が踏み込み、白が距離を取る。
白刃が標的をとらえたと思った刹那、姿が消える。
一陣の雪風と共に、別の場所へと雪女の姿があらわれた。
オブリビオンの眼に警戒から殺意の光が宿っている。
答えるかのように白雪は刀を構える。
氷塊が辺りに出現した。それらは白雪にむかって高速でむかってくる。
それを避け、斬り、躱し、相手に負けじと殺意が雪女とむかっていった。
氷雪吹雪。
それを意に介しもせず、白雪は己の刃を相手に斬りつけた。
着物が斬れ、雪女の腕が露わになる。
朱が滴りおち、地の雪を紅く染めた。
キィンと空気が軋む音。
氷塊が傷口を覆うと、再び白き柔肌が現れた。
やはり化け物、遠慮は要らぬと白雪は再び刃を構え直したのだった。
その耳に何事かが聞こえてくる。
「これは……歌?」
単独での行動で白雪は知らなかったが、それはジローの歌声だった。
オブリビオンをおびき寄せるべく発した、猟兵の策。
「……仙次郎?」
その懐かしい唄に雪女は戦いを止めて、歌に耳を澄ませる。
もしや。いいや、まさか。
だとすれば、こんな奴に構っている場合ではない。
彼女は風雪を起こすと、姿を消したのであった。
姿を消したのを奇襲の予兆とみて、白雪は構えを崩さなかった。
だが、いっこうに攻めてくる気配が無い。
「もしかして……あの歌の方へ?」
刀を一振りし、鞘へと納めた。
無防備にも関わらず、敵が襲ってくる様子もない。
やはり、逃げた。
白雪はとりあえず歌の方角へと、走ったのであった。
そして今。
変装したジロー・フォルスターの後ろに雪女は立っていた。
彼に会う為に。仙次郎に会いに来たのだった。
策は成功。あとはどうするか。
同行していた白雨・七彩はまずは事の成り行きを見守ろうと、二人から離れることにした。
念のため、刀には手をかけたまま。影武者と言えども仲間を危険に晒すは本意ではない。
いつでも抜ける準備をしつつ、白雨はジローを見守った。
「仙次郎……、仙次郎だよね」
後ろ姿のジローに雪女、むすびは語りかけた。
その顔は険がとれて村娘のそれだ。
「ああそうとも、お主の探し求めていた御仁だ。存分に語るがよい」
上泉・信久がジローの側へと立った。
彼も同じく、相手の様子をうかがっている。
悪に染まっていたらば斬る。
上泉も刀の鍔に指をやったのだった。
二人の護衛を受けつつ、ジローは怪しまれぬうちにと問いかける。
「むすび。山に行って何があったんだ。教えてくれ」
その言葉に、むすびはポツリポツリと語った。
むすびは仙次郎と別れさせられた後、山へと送られた。
婚礼衣装を着せられ檻に入れられたまま山奥へと。
それからむすびは殺されたのだ。
村人たちに、山の神への捧げものとして。
意識を失った彼女は、気がつくと檻の外にいた。
村人の姿はとうになく、傷口も嘘のように無くなっている。
そしてむすびの前に、白装束の山の娘たちがいたのだった。
いらっしゃい、いもうとよ。
それからのち、むすびは彼女たちと一緒に暮らした。
山を冒すものを氷漬けにし、ひっそりと。
何かを凍らすたび、命を奪うたび、身体が暖かくなっていく。
そして、何かが失われていくような気がした。
しかし変わらない物があった。
それは心の片隅にある記憶。
自分がまだ人間であったころの思い出。
それは種火のように小さかったが、むすびを温かくする。
会いたい。会わねば。
そして彼女は、山を下りたのだった。
「だけど……だけど……」
はあはあと息が荒くなるむすび。
両腕で自分を抱きしめ、吐き出すかのように後を続ける。
「山から離れれるほど……誰かが囁くの……お前はワタシのムスメだって……捧げよ…捧げよ……ワレに捧げよって……」
「……むすび?」
ジローは思わず振り向く。
そこにはしゃがみ込み頭を押さえる少女がいた。少女の眼はすでに正気ではない。
瘧にかかったかのように震え、その言葉はジローの方をむいてはいない。
「寒い……寒い……でも彼を想うと……ちょっとだけ…温かい……会いたい…彼にあえばきっと……この気持ちがおさまるはず……彼……かれ……」
カレッテダレダッタッケ……
むすびを中心に、激しい猛吹雪が起こった。
たじろぐジローをかばうように、上泉と白雨が割って入った。
「やはりアヤカシか」
「いや待て、まだ……」
「アレをみろ、問答は出来そうにないぞ」
そこには、氷と雪をまきちらし他者の命を奪わんと欲すオブリビオン、雪女の姿があった。
目は虚ろに氷と雪を辺りにただよわせ、妖しく微笑んでいる。
にぃ、と笑いオブリオンは言った。
「死になさい。いいえ、氷漬けにして……愛してあげる」
「ちいっ!」
ジローは印を結んだ。己の聖痕がえぐり出されたかのように痛む。
その痛みに耐えながら集中すると、二十平方メートルほどの光の円陣が展開される。
防御円・禍祓陣。
この陣内では味方の防御力を大幅に高め、敵の攻撃から護ることが可能だ。
ただ、その集中のため自身は動けなくなるという制約がつくが。
「頼む! 彼女を取り押さえてやってくれ!」
「やれやれ、無理をいう」
「やむをえん場合は斬るぞ」
二人は雪女へと駆け出した。
両者はそれぞれ刀を抜き煌めかせる。
その刀を返し、峰をむけた。
ジローの言葉を聞くまでも無く、かれらは積極的に戦うつもりはない。
だがある程度の力を削ぐ必要はあるだろう。
二人は峰打ちで動きを止めようとした。
「動かないで」
静かな呟き。
吹雪にかき消えそうなその言葉を、だが二人は確かに聞いた。
刹那、指先からつま先へと凍れる何かが奔った。
それは二人の切っ先をわずかながら鈍らした。
その刻のさなか、オブリビオンは吹雪の風と共に姿を消していった。
「幻術か!」
上泉と白雨は互いに背中をあわせ、攻撃に備える。
二人から離れた場所に雪女は出現した。
逃げるのか?
それを危惧したジローが大きく叫んだ。
「仙次郎の居場所は知ってるぜ。もう少し相手していってくれよ!」
その言葉に、ジローへ顔をむける雪女。
よかった、反応してくれた。ということはまだむすびとしての意識があるということ。
ならば彼女を救えるチャンスはまだ残されているということ。
そんな事を考えているジローにむかって、雪女が指先をむけた。
現れる氷塊たち。それはおそらく自分を襲うのだろう。
被弾を覚悟するジロー、それが驚愕の目に変わった。
氷塊が襲ってきたからではない。
辺りの風景が一新されたからだ。
温泉街から離れた丘ではなく、山の寒村へと。
それは敵も同じだったのであろう、相手も呆けた顔をしている。
あれみやこれみやささっちょる
しろいやさんがささっちょる
やあれうれしやめでたいな
やまのかみさんよんでおる
きいたかみえたかたずねっしょ
唄がする方に顔をむけると、織部・水重の姿があった。
その横には巨大プロジェクターの姿があった。
それはまるでプロジェクションマッピング のように、雪と氷を利用し辺りの背景を変化させていく。
織部が変化させたのはまず、仙次郎とむすびが住んでいたであろう山村の風景だ。
「吹雪を止められよむすび殿! 仙次郎殿を凍え死なせてしまうおつもりか! 今度こそ、お主をそこから、あの山から連れ出してくれるのだぞ!」
雪女は彼の方をむいた。攻撃の手が止まる。
好都合とばかりに織部はまた風景を変化させる。
それは村人達。刀と矢を持った村人達。
さきほどの風景と同じく、むすびの故郷そのものではない。
だが彼女の心の奥底を揺り動かすのは充分だったのであろう。
彼女の顔に動揺が走ったのを猟兵たちは見た。
「それともその手で殺めるおつもりか! なぜ殺める必要がありなさる! 好いた仲同士、手を取り合うのがよかろうぞ!」
枯れ木に花、いや雪原に過去を咲かせるべく、織部は再び叫ぶ。
プロジェクターが映したのは朱に染まった画像。
檻の中で血に染まって息絶える少女の姿であった。
「むすび殿は死にもうした! 山の因習にとらわれた悲しき少女はすで死にもうし、もうおりませぬ! ここにおわすは恋仲と手をとりあえ添い遂げる、乙女むすびのお姿ぞ!」
「黙れ!」
雪女が両手を掲げると、頭上に巨大氷塊が出現した。
それを織部にむかって投げ捨てる。
「どぎしぇぇぇ~!」
巨大プロジェクターを庇うかのように、それを受けて織部は吹っ飛ばされた。
声がエコーのように響き渡り、放物線を描いて吹雪の彼方へと消え去っていく。
雪女はジローの方へと身体をむけた。
「仙次郎……今、殺してあげる」
虚空につぎつぎと現れるツララ。
その切っ先は間違いなくジローの方へとむいている。
ジローはその攻撃に耐えようと、印の集中に再度念を押す。
ツララが放たれ、そのミサイルはジローへとむかっていった。
「どっせい!」
氷柱を叩き落とし新納・景久が加勢に現れた。
得意げに棍棒を敵へとむけ啖呵をきる。
「オブリビオンじゃな? オブリビオンなあばそれ以上でんそれ以下でんなか。今を生くっ人ん仇なすだけでん十分じゃ」
そしてジローに顔をむけ、安心しろといわんばかりに指をむける。
「仙次郎はん、助けにきたど!」
「仙……? ああそうか、俺がそうだったな」
新納は敵へと棍棒を振り上げ、突撃していく。
雪女の矛先は、むかってくる新納へとむけられた。
「動かないで」
「なんで言うことば聞かんといけん!」
敵の静止を一笑にふし、棍棒を上段へと構える。
何か身体がちくちくするが、それはこの吹雪のせいであろう。
唐竹割りにするべく振り下ろされた一撃を敵はかろうじてかわした。
一陣の風雪が新納の前を通り、次の瞬間には遠くへと敵が姿をあらわした。
「ないごて想い人ん気持ちを汲み取らね。ただ己ん私利私欲でねが。盗人と同しじゃ!」
今を生きる人を過去へ引きずり込むことを許すわけにはいかない。
そう猛る新納の猛攻が、再度敵へと間合いをつめようとする。
そんな新納にむかって雪女は指をさす。
空気が震え軋み、新納にむかって氷塊群を降り注がせる。
「やかましか!」
唸りをあげ棍棒を振り回すと、それらを新納は叩きつぶしまき散らす。
攻撃の手を休めず、とうとう雪女はとらえられ強烈な一撃をあびてしまった。
水きり石のように吹っ飛んでいく敵にむかって、新納は思わずガッツポーズを取った。
「一方的ん殺意ば押し付けらる気はどげんね。そん苛立ちを、おはんはおはんの想い人に押し付けっとじゃど!」
動く前に追い打ちをかけようと新納は進む。
そんな彼女の背に、静止の声がかかる。
「待ってくれ!」
「仙次郎はん!?」
影武者ではない本物の仙次郎だった。
彼は古井戸の中で身をひそめていたが、飛び出してきたのだ。
見ず知らずの人たちが、自分のために身を呈して戦ってくれている。
なら自分も、身を呈して何か出来るのではないか?
そう考え、思わず飛び出したのだった。
新納、そして白雨と上泉が庇い塞ぐように立つ。
三人を仙次郎は手で静止し懇願した。
「みなさん、ありがとうございます。だけど……だけど、少しだけ話させてくれ」
あの時、自分は逃げ出した。
そしてむすびは山へと送られてしまった。
そしてふたたびやってきて、自分はまた逃げ出してしまった。
隠れて聞いたむすびの過去は酷い物だった。
それこそ狂うのも仕方がなかろう。
自分には何かできたのではないか?
この人たちのように、何かしたいという心が自分には足りなかったのではないか?
もう、逃げない。
たとえ死んでも良い。むすびと遂げよう。
仙次郎は覚悟した。
覚悟して幼馴染の方へと足を運び、身体を抱きおこした。
「むすび、俺だ。仙次郎だ」
彼の眼が幼馴染の目をじっとみつめる。
むすびの手が仙次郎の頬に触れる。
「仙次郎……」
「俺に会いに来てくれたんだろ? ありがとう、だから……もうこんなことはやめるんだ」
ぴしぴしと、仙次郎の足に氷が纏わりつく。
それは徐々に脚をのぼっていき広がっていく。
猟兵たちは踏み出すが、それを仙次郎は片手をあげて静止する。
「むすび、村人はもういないんだ。俺の命が欲しいのならくれてやる。だからこんなことはしなくていいんだ。二人一緒にあの山へ帰ろう。一緒に暮らしたいならそうするさ」
そして彼女を両腕で抱きしめた。
仙次郎の身体は腰まで凍っている。
それでも彼は幼馴染から離れようとはしなかった。
雪原の景色が変わる。
それは春になった山間の景色。移り変わって夏、秋へと。
雪解けの景色を魅せていく。
いつの間にか織部がプロジェクターを作動させていたのだった。
それは、彼女をなだめるかのように鮮やかな景色だった。
アタタカイ
雪女の奥底で燃えていた種火は、弱弱しいながらも火勢を強めていった。
コレガホシカッタ
キエルマエニアイタカッタ
――あとは氷漬けにするだけだ
頭の中で囁く声に、雪女は目をひらいた。
目の前の男をじっとみつめる。
男は凍りつきながらもその手を離さない。
自分はなぜ、この男はなぜ、こうなっているのだろう。
――それはオマエがワレのムスメだからだ
頭の中でまた誰かが囁く。
なぜ。どうして。
「むすび」
男がまた語りかける。
そうだ、この男は……仙次郎。
私はむすび。
――違う。オマエはワレのムスメだ
――生者を凍らしワレに貢ぐ、捧げられしモノだ
違う。
全然違う。
「私は……あんたのムスメになった覚えはない……」
拒絶の意志。
なぜだろう、そうすると全身から力が抜ける様な気がする。
しかしむすびは力を振り絞って仙次郎を突き飛ばした。
「私はむすびだ! 仙次郎のお嫁さんだ!」
自分に言い聞かせるように、周りに訴えるように叫ぶ。
「仙次郎逃げて! 私を……殺して!」
――なんという出来損ないだ
――いいだろう、あとはワレがやる
ふっつりと糸が切れたかのようにその場へ崩れ落ちるむすび。
その身体から瘴気が立ち上り、周りから氷雪が集まっていく。
たちまち氷の女が出現し、そのモノは宣告した。
「我が名は冷結、冷たい骸のむすびより生まれしモノ」
ギィンギィンと氷柱があたりに立ち上る。
「貴様らを捧げ、ついでにあそこに見える街の住人も頂くことにしよう」
オブリビオン『雪女・冷結』が猟兵たちを『敵』と認識して襲いかかってきた。
「ど、どないばなっとん?」
展開についていけず仲間達に尋ねる新納。
そんな彼女に織部は笑ってこたえた。
「なんの。人の恋路を邪魔する輩を吹っ飛ばすお時間でござろうよ」
左様、と上泉と白雨も両手を刀にかけ構える。
「あとはオブリビオン退治」
「俺達の役目だな」
二人の言葉を聞き新納は棍棒をおさめ刀を取り出す。
そして鞘を投げ捨て、先駆けとばかりに走りだす。
「よか! ならば首ば俺がもらうとよ!」
三剣士と絵師は冷結のもとへと駆けていく。
冷結は氷の身体を軋ませると激しく咆哮した。
猛吹雪の息吹が彼らを襲う。
「死ね……死ね……死ねぇ!」
むすびという枷が無くなったからか、それともこれが本気か。
冷たい息吹は猟兵たちの身体にまとわりつき、足を止めさせ体力を奪って行った。
気力をおこし、禍祓陣の中へと一旦退避する。
「おいおい、策はあるか?」
「大丈夫だ」
白雨が手をかざすと、狐火が出現する。
これなら多少離れていても当てることは出来る。
この暴風でまともにあてることは難しいが、相手も攻撃をいつまでも続けていることは出来ないだろう。
猟兵たちはしばらく防戦し機をうかがうことにしたのだった。
猟兵たちと冷結の戦い。
その様子を白雪は見つめていた。
雪女を追ってたどり着いた時は、なにやら悶着が起こっていた様子。
それを遠巻きに眺め、機をうかがっていたのだった。
猟兵たちはあの吹雪に難儀しているようだが、自分にとってはあの程度どうということはない。
このまま加戦してもよかったのだが、オブリビオンを屠れるなら力を借りたほうがいいだろう。
それにしても、と白雪は思った。
「似た者同士と思ったけど、全然違うわね」
一人呟き、白雪は刀を鞘におさめたまま水平に構えた。
そのまま祈るように目を瞑り、垂直におこして刀に手をかける。
「雪羅刹の一振り……」
そう言いながら抜いた刀で虚空を切り裂くと、たちまち吹雪が起こり白雪を包んだ。
もうひとりの雪女がそこに出現したのであった。
猛吹雪を起こしながら、そのまま白雪は冷結へとむかっていく。
猟兵たちは見た。
美しい雪女が禍々しいオブリビオンへむかって行くのを。
猛吹雪が猛吹雪へとあたり威力を相殺していくのを。
これは好機。
猟兵たちは一撃を加えんとすべく禍祓陣を出で再び敵の元へと走りだした。
「死ね……死ね……死ねぇ!」
心の底から凍てつくような言葉、そして吹雪。
だが白雪には痛痒すら感じない。
むしろそれを上まわるはるかに強力な猛吹雪によってそれらを押し返す。
自らを凌駕する力。
氷塊を続けざまに発射するオブリビオン。
だが白雪の白刃はそれらを斬り伏せ、ただの氷片と化した。
激しい殺気の連撃が、冷結の身体を切り刻んだ。
「ぎゃああああーーーーっ!」
「……無様ね」
玲瓏たる殺気がオブリビオンを通り過ぎ、致命傷を負わせる。
血ではなく、雪粉をあたりにまき散らして悶えるオブリビン。
だが、脅威は白雪独りだけではない。
「おう、おまん! 首寄越せ! チェストォッ!」
新納の一撃をかろうじて腕で受け止めるが、その腕は脆くも吹っ飛ばされる。
片腕を無くしたことで冷結は咆哮をあげた。
それは先ほどの攻撃の時ではなく、痛みをうけたときにあげるそれだ。
ガードががら空きになった個所から、白雨の狐火が襲いかかった。
「弐の舞 炎月!」
氷の身体にとって、炎の攻撃はどれほどの威力なのだろう。
ましてや、それが何十と襲いかかってきては尚更だ。
敵を焼き、溶かし、浄化していく。
オブリビオンがたまりかねて身悶えする。
それを逃さず太筆を持って織部が殴りかかった。
だが、断末魔の喘ぎによって振り回した片腕が、運悪く織部を吹っ飛ばしてしまう。
「なんでワシだけーーーーーーっ!」
また声がエコーのように響き渡り、放物線を描いて吹雪の彼方へと消え去っていった。織部の、筆だけを残して。
上泉は静かに目を閉じていた。
目の前のオブリビオンではなく、魔を感じるために。
その気配は確かに前方、冷結のあたりにはっきりと感じることができた。
見きった。
あとはその形に沿って斬るだけ。
魔を絶つために、上泉はその刀の刃を感じるままに振るった。
パチン
上泉は刀を鞘におさめた。
ただ鯉口から刃を見せ、再び戻した。
そんな気がした。
虚空を火花が奔った。
そんな気がした。
ぶれた刀と腕があらわれたような。
そんな、気がした。
上泉は語らず。
なぜなら事はとうに終わっているからだ。
「 阿修羅斬……明鏡止水の理を超え、刹那の閃を成す」
ぐらり、とオブリビオンの首が揺れた。
そしてゆっくりと首が雪面へと落ちる。
身体は立ったまま、狐火がその身を焦がし続けている。
上泉は落ちた首を両手でひろいあげ、念仏でも唱えるかのように言った。
「無窮ノ型、いまだ遠し。危うき哉」
ぼろぼろと古紙がやぶれくずれていくかのように、オブリビオンの身体が散っていく。
それは首のほうも同じだった。
あとには何もなかったかのように消えていき、そこに残っていたのは猟兵たちと、仙次郎とむすびの姿だけであった。
猟兵たちは、勝ったのである。
仙次郎が目を覚ますと和室の一室に寝かされていた。
「気がついたかな」
声をかけられ首をむくと、織部の姿があった。
ああ、そのままで結構と彼は言う。
「あんたがここに?」
「いやいや、他のみんなと一緒でな。アンタは運がいいな」
あれから気を失った仙次郎を猟兵たちが担いで運んでくれたらしい。
そうか、ありがとうと天井を見つめる仙次郎。
その耳に外の賑やかさが聞こえてくる。
吹雪はとうの昔にやみ、人々も落ち着きを取り戻しているのだという。
街は救われた。
じゃあ自分はこれからどうするか、と考えあぐねる仙次郎に、織部は茶を薦めた。
身体を起こし、茶をすする。
温かい。自分はこうやって生きている。
仙次郎の目に、じんわりと涙が浮かぶ。
「どうして泣きなさる」
「いや、これからどうしたものかと思って」
「ふむ。まああれだけ大変な騒動じゃった。途方に暮れるも無理はなかろうの」
仙次郎も茶をすすり、一息いれる。
「まあ、これから先は長い。二人でゆるゆると考えなされ」
二人。
その言葉にぎょっとする仙次郎。
まさか、と目を丸くする仙次郎にむかって、織部は渋い顔をむける。
あれからのち、倒れた二人をジローは介抱した。
俺の世界じゃ悪魔憑き吸血鬼、死人返りは日常茶飯事よ。
そう叫びながら、決死の形相で二人を治療したのだという。
その甲斐あって仙次郎は助かり、むすびも助かった。
むすびは反魂。甦った死者のようなモノだったという。
その死者の身体に共生する形で何かが巣食っていたらしい。
巣食うモノのおかげでむすびは生かされていたが、それを失っては息絶えるほかない。
だが、ジローは少女も救うべく尽力したのだという。
そしてその無謀とも思える挑戦は成功した。
「なあに、俺は生まれながらに光輝いてっからな」
声色をつかう織部。
それを聞いて大粒の涙を流す仙次郎。
「じゃあ……じゃあ……」
その布団の傍らに、一枚の絵を置いて織部は立ち上がった。
それはむすびの姿絵。
そしてその傍に寄り添う仙次郎の姿。
「婚礼のときは呼んでくだされ。お安くしときますからな」
そう言って、宿をあとにしたのだった。
宿を出て、織部は頭をつるりと撫でた。
「結局、この世ならぬ美人など居なかったのう…」
ひとり愚痴る彼を仲間たちが迎える。
「彼は?」
「いや、問題なさそうじゃ。ジロー殿は?」
「ジローはあれからぶっ通しで眠り続けている。まるでこっちが死んだみたいだ」
「激戦のあとのあれは無理もなかろうて。白い別嬪さんは?」
「いや、探したんだけど見つからなくてな。礼の一つでも言いたかったんだが」
「グリモアに帰還したときに会えるかもしれんのう」
「そんな事より飯じゃあ! 腹減ったでがね!」
雑談を交えながら歩く猟兵たち。
今回、街の脅威を未然に防いだことで猟兵たちは上役が主催する宴に招かれていた。
他の猟兵たちは、織部をむかえに来たのだった。
もっとも、宴席は二人分ほど空席になりそうだが。
談笑し、上役の屋敷を目指す猟兵たち一行。
「むすび殿はいかがなさった?」
「息はしている。だが目を覚ます気配は無いな」
「オブリビオンの気配は」
「無い。魔は俺が絶ち斬った」
「流石は剣豪。それならばようございますな」
仙次郎は目を覚ましたが、むすびは目を覚まそうとしなかった。
息はしている。なれば希望はあるというもの。
雪女を討ち、拙者たちの役目は果たした。
あとは二人の問題であろう。
織部は口元をゆるませ、のちの楽しみとするのだった。
日は沈んでおり、夜風が肌に触る。
宴のあとは風呂に入るのも一興か。
それとも先に入りながら一杯も風情か。
上役の屋敷からはやくも騒ぐ声がする。
オブリビオンを倒さねば、この声が聞こえることもなかったであろう。
猟兵たちは、この街を守ったのだ。
その歓待を受けるべく、猟兵たちは門をくぐったのであった。
大成功
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