第1ターン(大陸歴939年1月第4週)
大陸歴939年1月26日09:30。
ライエルンジーゲン特別市中央区・国防軍最高司令部内陸軍参謀本部・作戦課第一会議室。
「皆、揃っているかね?」
セントラル・ヒーティングの利いた、広い会議室。
フィールドグレーの軍服に身を包んだ男達の視線が、入室してきた初老の将軍へと注がれます。少し白髪の混じる、豊かな銀髪を端正に撫で付けたその将軍は、居並ぶ士官達……ライエルン連邦陸軍の頭脳たる陸軍参謀本部の参謀達に軽く手を挙げて挨拶すると、ゆっくりとした身のこなしで、大テーブルの中央に設けられた自分の席へと向かいました。
「はい、閣下。公務、病欠その他やむを得ない理由で欠席している者を除き、リストにある者は全員この場に参集しております」
傍らに侍立する副官が事務的な口調で報告します。その言葉に軽く頷くと、銀髪の男……ライエルン連邦陸軍参謀総長クレメンス・フォン・ジーベルト上級大将は落ち着いた口調で宣言しました。
「よろしい。では、本日の会議を始めるとしよう。皆、忌憚のない意見を聞かせてくれたまえ」
●今回、結論を出す必要のある議題(第1ターン)
特にありません。
●懸案事項の一覧(第1ターン)
(1)A軍集団司令部より、『国防軍特殊作戦旅団(通称”リンデン部隊”)をレーヌス川にかかる橋梁の制圧に投入すべきである』という意見具申が上がってきています。
”リンデン部隊”は、国防軍最高司令部直属の特務部隊で、敵国に潜入して、破壊活動や通信網の攪乱、偽情報の流布等の特殊工作を行う部隊です。 橋梁の制圧は空軍所属の降下猟兵師団が行う事になっていますが、天候等の条件次第では降下作戦が中止される可能性もある事から、より確実な手段として特殊部隊による制圧が必要、というのがその理由です。
”リンデン部隊”は非常に小規模な部隊編成であるため、橋梁の制圧に回した場合、本来予定していた任務の大半は実行不可能となるでしょう。同じ理由で、彼らが橋梁を制圧し続ける事が出来る時間は限られたものとなります(※コマンド作戦を実施したターンの第1移動フェイズ又は第2移動フェイズのいずれか一方のみに限定されます)。更に、体面を傷つけられる空軍からは猛烈な抗議が予想されますので、彼らをどう宥めるのか?も考える必要があるでしょう。
(2)B軍集団司令部より、『軍集団直轄の第56装甲軍団に所属する2個自動車化歩兵師団を、一線級の自動車化歩兵師団と交替させるべきである』という意見具申が上がってきています。
B軍集団の装甲部隊が全て二線級部隊(配備されている軍用車輛の多くが旧式のもので占められている部隊)であり、新型の戦車が配備されている連合軍機甲部隊と会敵した場合、対処が困難となる可能性が高い、というのが理由です。
現状、一線級の装甲師団と自動車化歩兵師団は、殆どが西方総軍(A軍集団)に配属されており、本国の予備師団の中には一線級の部隊は存在しません。ライエルン東部の国境地帯には、一線級の装甲師団や自動車化歩兵師団がいくつか配備されていますが、(相互不可侵条約を締結しているとはいえ、依然として潜在的な軍事的脅威である事には変わりない)ファントーシュとの軍事バランスを考慮すれば、おいそれと配置換えを行える状況ではありませんので、要望を叶えようとするならば、何らかの工夫が必要となります。
(3)親衛隊作戦本部より、『親衛隊装甲軍に所属する第2SD装甲軍団の2個自動車化歩兵師団を装甲師団に改編すべきか否か?陸軍参謀本部の意見を求む』という照会が持ち込まれています。
当該自動車化歩兵師団については、以前から装甲師団への改編が計画されていましたが、”金の場合”の作戦発動時期が未確定だったため、延期されてきたという経緯があります。現状、”金の場合”の作戦発動予定時期は9月の初旬とされている事から、『半年間あれば装甲師団化も可能では?』という声が上がっているようなのですが、スケジュール的にはギリギリの状況で、何らかのアクシデントで編成作業に遅れが生じた場合には、”金の場合”への参加が危ぶまれる事態となる事も十分に考えられます。そのため、親衛隊内部でも意見が分かれている模様です。
(4)総統府より、ラインハルト総統の『”金の場合”に於いては、親衛隊装甲軍が重要な役割を果たす事を期待している』という内々の意向が伝達されています。今の所は正式な総統命令という訳ではなく、あくまで個人的な要望というレベルに留まっていますが、だからといって完全に無視する事は難しいでしょう。
安藤竜水
PBWアライアンス【Reyernland über Alles! シナリオ#1”金の場合”】へようこそ!
本ゲームは、異世界<レーベンスボルン>に存在する軍事国家ライエルン連邦とその西隣に位置するゴール共和国との戦争を題材とする仮想戦記風PBWです。皆さんには、ライエルン連邦国防軍最高司令部に所属する陸軍参謀本部の参謀将校となり、数か月後に実施される予定の共和国侵攻作戦"金の場合"の作戦計画の立案にあたって頂きます。
ゲームの開催期間は約1年間、ゲームターン数は5回です(なお、ゲーム内では、1ターンは約1週間に相当します)。ゲーム期間の終了後、制作された全リプライを元に最終的な判定結果を導き出した上で、断章として執筆・公開を予定しています。
本ゲームへの参加にあたっての注意点です。
皆さんの立ち位置は、陸軍参謀本部の作戦課に出仕する佐官クラスの参謀将校であり、前線司令部で部隊を直接指揮したり、自ら最前線に立って敵と戦ったりする立場ではありません。従って、リプライの中で、戦闘や戦場の場面が描かれる事は基本的には無いものとお考え下さい(そもそも、このゲームの対象期間は、最後に制作する予定の断章を除き、ライエルンとゴールとの戦争が始まる数か月前の時期となっています)。
皆さんに行って頂きたいのは、
(1)ゲームサイトに掲載されている情報(戦略マップ、戦力表、各種図表類、ルール、世界設定等)を活用して、オリジナルの作戦案を立案する。
(2)ゲームサイトに掲載されている、NPCが立案した二つの作戦案のいずれかを支持し、正式な作戦計画として採用されるように努力する。
(3)各ターンのシナリオ・オープニングに掲載されている懸案事項に関して、意見を述べ、解決に向けて努力する。
のいずれか、です。
ただし、(3)だけを選択する事は出来ません((3)を選択したい方は、必ず(1)又は(2)と一緒に行って下さい)。また、(3)については、懸案事項を解決出来なかったとしても、ただちにゲーム上の不利益が発生する訳ではありません。もっとも、懸案事項の解決に貢献したと認められた方は、上官や関係者から好感を獲得出来るだけでなく、状況によっては、本国からの増援部隊の来援等、ゲーム上の利益となる事象が発生する可能性もありますので、挑戦してみる価値は十分にあると言えるでしょう。
第1章 日常
『プレイング』
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POW : 肉体や気合で挑戦できる行動
SPD : 速さや技量で挑戦できる行動
WIZ : 魔力や賢さで挑戦できる行動
イラスト:みやの
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ヘルムート・ロートシュタット
私はA案を支持する。
その理由は二点ある。
まず、一つ目は、A案の方が「兵は拙速を尊ぶ」という言葉により合致するからだ。
即ち、B案は部隊展開にA案よりも時間がかかる故に、それだけ展開に不確定要素が絡み、その後の善後策を立案し難いからだ。
次に、二つ目は、A案はB案よりも戦力を集中投入しており、戦力分散による各個撃破の愚を犯していないからだ。
それ故、リンデン部隊の投入には、私は賛成だ。
なぜなら、それだけ部隊展開をスピーディーにでき、より上記の格言に資するからだ。
尚、空軍の不満は、C軍集団等の囮作戦をより攻勢的にし、その攻勢に降下猟兵を参加させて活躍させる事を空軍に提示する事で、宥めるべきと考える。
大陸歴939年1月26日16:15。
陸軍参謀本部・作戦課第一会議室。
「私はプランAを支持する。その理由は二点ある」
会議室に響き渡る声の主は、ヘルムート・ロートシュタット歩兵上級大佐。
典型的なライエルン軍人と呼ぶにふさわしい、威風堂々たる体躯の持ち主である彼の声は、その声量の大きさでつとに有名だった。
「まず第一に、プランAの方が"兵は拙速を尊ぶ"という兵法の基本原理により合致するからだ」
上級大佐が持ち出したのは、ライエルン軍人……否、各列強の軍学校に於いて、士官としての教育を受けた者であれば、一度は耳にした事があるに違いない、古代の伝説的な軍略家の著した古典的名著に登場する高名な一節だった。『作戦を練るのに時間をかけるよりも、少々まずい作戦であっても、すばやく行動して勝利を目指す方が勝算が高い』……生涯にわたって、戦争の真理を追い求め続けた古代の智者が遺したこの言葉は、彼が没して後、数百年を経た現在にあってもなお、士官学校で用いられる教本には必ず載っていると言っても過言ではないだろう。
「第二に、プランAは戦力分散による各個撃破の愚を犯していないからだ」
続いてヘルムートが発したのもまた、用兵に於いて基本中の基本と看做されている金言の一つ。
彼のその言葉に、ブランAの立案者であるクロースナー上級少将が『我が意を得たり』とばかり、大きく頷いたのは勿論だが、クロースナーやヘルムートとは意見を異にしている筈のフリンゲル少将やグロースファウストSD上級少将も、敢えて奇をてらう事なく、軍略に於ける王道的な理論に拠って展開される彼の主張に、神妙な面持ちで聞き入っていた。
ただ一人、関心が無さそうな表情を浮かべていたのは、ハインツ・ヴェーゼラー少将だったが、彼もまた、ヘルムートがプランAとプランBの比較に一区切り付け、A軍集団司令部から意見具申のあった”リンデン部隊”の投入の是否についての意見を述べ始めるやいなや、態度を一変させて、熱心にメモを取りつつ説明に聞き入り始める。
(午前中に、パウラ・ヒンデンブルク歩兵少佐が発言した際にも感じたが、少将の態度には些か腑に落ちないものがある……機会を見付けて、確認してみた方が良いかもしれんな)
なお、ヘルムートが主張した意見は、概ね以下の通りである。
『プランAとプランBとを比較すると、プランBは部隊の展開に要する時間がプランA案よりも多くなると判断する。無論、部隊展開に時間がかかる程に、不確定要素は増大し、その後の善後策は立案し難いものとなるだろう』
この主張は、プランBに於いて、主力であるA軍集団の装甲部隊(第1装甲軍等)が本格的な攻勢に取り掛かる時期が、作戦開始の直後ではなく、第2週に入ってからである点を念頭に置いたものだった。
プランBでは、B軍集団と親衛隊装甲軍が囮となって、連合軍中最強と目されているゴール共和国第1軍とサクソニア大陸派遣軍の第1機甲軍団を北方に釣り出した後、A軍集団の装甲部隊が、連合軍の防備が最も手薄となっているアイフェル~メジエール間の森林地帯を強行突破して、戦線に楔を打ち込む事になっているのだが、それを成功させるためには、連合軍に『ライエルン軍の主力部隊は北方に展開している』と誤認させる事が必要不可欠とされている。そのため、A軍集団の装甲部隊は、一部を除き、作戦開始から約一週間、戦場後方で息を潜めていなければならない訳だが、ヘルムートに言わせれば、これは戦力の有効活用の面に於いて極めて疑問の多い用兵である、という訳だった。
『また、プランAはプランBよりも戦力の集中投入という点で優っている。プランBは、戦力分散による各個撃破の危険性を低く捉え過ぎているのではないだろうか?』
この主張は、プランBに於いて、A軍集団の装甲部隊(第1装甲軍等)が共和国領の奥深くに突出する形となっている点、及び、B軍集団を分割して、二つの攻勢正面を形成しつつ、共和国領に進軍する点を問題視したものである。確かに、戦力の集中投入という点では、A・B軍集団の主力部隊を主戦場であるヴァノアール周辺に集結させ、連合軍に決戦を挑む、というプランAの方が、ブランBに優っているのは事実だろう。
ただし、上級大佐のこの意見に対しては、一部の参謀達から、戦力分散による各個撃破の危険性という点では、ブランAにも問題点は存在している、という反論が寄せられた。すなわち、何らかの事情で、両軍集団のヴァノアール到着にタイムラグが生じた場合、先に到着した軍集団は連合軍主力からの反撃を受け、もう一方の軍集団が到着する前に大打撃を蒙る可能性があるのではないか?という訳である。これに対し、ヘルムートはリンデン部隊の投入等によって、各軍集団の進軍に遅れが生じないようにフォローする事は十分可能である旨、論証を挙げつつ反論を試みている。
『”リンデン部隊”の投入には賛成である。なぜなら、悪天候等に左右される可能性の少ない”リンデン部隊”を投入して橋梁を制圧すれば、部隊の展開時の不確実性を排除し、事前に立てた予定通りに迅速な機動を行う事が可能となるためである。
なお、空軍から上がるであろう不満の声に対しては、C軍集団等が実施する囮作戦をより攻勢的なものとし、その攻勢に降下猟兵を参加させて活躍の場を提供する事で、空軍を感情を宥めてはどうだろうか?』
この主張に対しては、ブランAとプランB、どちらの作戦案を支持する考えの持ち主であるかに関わり無く、参謀達の多くから『C軍集団の現有兵力で攻勢的な作戦を実施するというのは困難ではないか?』と懸念を示す声が多く上がった。
実際、C軍集団は、師団規模以上の装甲部隊が配備されていない2個の歩兵軍によって構成されており、積極攻勢に打って出る能力を有しているとは言い難い。しかも、C軍集団の担当する南方戦域には、共和国軍の第2軍集団(共和国南部の山岳地帯の防衛にあたる1個軍を除いたとしても、3個軍・約30個師団)が展開しており、中には機甲師団や軽機甲師団が配備されている軍も存在していた。
『精鋭部隊と名高い降下猟兵師団の増援を得たとしても、劣勢なのは否めない』というのが大方の見方だったと言える。仮に親衛隊装甲軍を追加投入したならば、状況は幾分改善するだろうが、先程のヘルミーネ・モルトケ装甲兵中佐とグロースファウストSD上級少将のやり取りを見る限り、現状に於いて、親衛隊は、南方戦域に親衛隊装甲軍を投入する事に乗り気であるとは到底思えなかった。
結局、”リンデン部隊”の投入そのものに関しては、彼以外にも支持する意見が多かったため、採用される運びとなったものの、ヘルムートが提案した空軍への対処策に関しては、参謀達の賛同を集める事は叶わなかった。
大成功
🔵🔵🔵
パウラ・ヒンデンブルク
(2)プランAに支持を表明(理由は補足プレイングに記述)。
懸案事項は、(2)と(3)について、それぞれ賛成した上で、
(3)の第2SD装甲軍団を東部国境に送って、同地で装甲師団への改編作業を実施し、
その代わりとして、東部国境の一線級の自動車化歩兵師団2個と(2)の第56装甲軍団の二線級の自動車化歩兵師団2個を交換する、というアイデアを提案する。
装甲師団への改編作業が作戦開始に間に合わなかった場合、東部には2個師団がそのまま残り、
間に合った場合でも、装甲師団への改編に伴い不要となる2個師団分の装備が残る事になるため、国境地帯の防衛力低下は最低限で済むと主張(詳しくは補足プレイングを参照願います)
大陸歴939年1月26日09:50。
陸軍参謀本部・作戦課第一会議室。
「……以上の理由により、小官はプランAを採用すべきであると判断いたします。ご静聴感謝します」
発言を終え、静かに着席するパウラ・ヒンデンブルク歩兵少佐。
慣例により拍手こそ起こらなかったものの、居並んだ参謀達の相貌には一様に称賛と労いの表情が浮かんでいる。
陸軍少佐である彼女は、この場に参集した作戦課員達の中では最も階級が低い。参謀本部に於ける慣例では、討議の際には、最も階級の低い者から順に意見の陳述を行う事になっており、つまるところ、彼女は本日の会議に於ける最初の発言者なのだった。
(兵卒からの叩き上げ組や経験の浅い若い士官であっても、会議の場で十分な発言機会を得られるように、階級が最も低い者から順に発言を行う……私のような立場の人間にとっては、とても有り難い話ですが、この慣例は、おそらく、古株の参謀達が、参謀本部に配属されて間もない若手の品定めを行うためのものでもあるんでしょうね)
心の中で独りごちながら、自分の発言に対する列席者の反応を反芻するパウラ。
参謀達の反応は様々だったが、パウラの理路整然とした説明に対しては、プランAの立案者であるクロースナー陸軍上級少将は無論の事、意見を異にしている筈のフリンゲル陸軍少将やグロースファウストSD上級少将も、概ね好意的に捉えている様子だった。
彼女の直属の上官であるハインツ・ヴェーゼラー少将は、と云えば、プランAを支持するという意見を述べたくだりでは、正直な所、ほとんど関心を示しはしなかったように見受けられたのだが、第2SD装甲軍団を東部国境に送り、同地で装甲師団への改編作業を実施し、その代わりに、現在、東部国境に配置されている一線級の自動車化歩兵師団2個とB軍集団の第56装甲軍団の二線級の自動車化歩兵師団2個を交換する、というアイデアを披露した際には、『そんな手があったか!?』と、感心したような表情を浮かべていた。
(少将は、クロースナー上級少将が立案したプランAを支持しているという話だけど、どうやら、それほど熱心に採用を望んでいるという訳でもないみたいですね。う~む、だとしたら、一体どんな理由で、少将はプランAを支持しているのでしょうか……?)
彼女の意見は、要約すれば以下の通りである。
『プランAとプランBを比較した場合、主戦場への戦力の集中投入という点に於いて、プランAはプランBに優っている。
西方総軍に所属する3個の装甲軍のうち、主戦場として想定されている、クリスベルンからヴァノアールにかけての平原地帯に投入される兵力を比べると、プランAが第1と第2の2個装甲軍を予定しているのに対し、プランBでは第1装甲軍のみとなっている。たしかに、2つの装甲軍を北方で活動させる事は、連合軍の首脳部に、わが軍の作戦意図を誤認せしめ、敵の機動兵力(共和国第1軍及び連合王国第1機甲軍団)を誘い出す上では効果的な手段であるかもしれないが、だからといって、主戦場に投入する兵力の不足を招いてしまっては、本末転倒であるというべきではないだろうか?
以上の理由により、私は、プランBは”戦力は集中して投入すべきである”という兵法の常道に反し、戦力の分散投入というリスクを冒そうとしている危険性の高い作戦案であると判断せざるを得ない』
この主張に関しては、ブランAを支持する参謀達の間で歓迎の空気が強かったのに加えて、ブランBを支持する参謀達の間でも、敵軍主力部隊を誘引する手段として2個装甲軍を北方に投入する事を(ある程度)評価する内容が含まれていたため、必ずしも受けは悪くなかった。
『ただし、プランAについても、細部に関しては修正すべき点がいくつか存在する事は指摘しておきたい。たとえば、ゴール軍の逆侵攻に備えて国境線の防衛にあてられているA軍集団所属の第16軍に関しては、第5軍団と第57軍団に各3個師団が配備されている現在の部隊編成を、第5軍団と第57軍団に各2個師団、残る2個師団により新設する新軍団、という編成に改めるべきである。その上で、新設軍団を西方総軍直轄に移管し、B軍集団所属の第18軍第55軍団に代わってヴェストファーレの防衛に充てる事にすれば、第55軍団の3個師団を攻勢に用いる事が可能となる筈である』
この主張は、彼女の後に発言するヴィルヘルミナ・グレーナー上級少佐の意見と若干の違いはあるものの、基本的に同じ趣旨のものであると言って良いだろう。ただし、ヴィルヘルミナが主張した独自の作戦案は参謀達の間ではかなり受けが悪かったため、彼らの支持の多くはパウラの主張の方に集中する事になったのだが。
『なお、目下の懸案事項に関しては、(2)と(3)について、第2SD装甲軍団を東部国境に送って、同地で装甲師団への改編作業を実施する代わりに、東部国境に配置されている一線級の自動車化歩兵師団2個と第56装甲軍団の二線級の自動車化歩兵師団2個を交換する事を提案する。
この場合、万が一、装甲師団への改編作業が"金の場合"の作戦開始に間に合わなくなれば、東部国境には2個師団がそのまま残り、改編作業が作戦開始に間に合い、装甲師団に改編された2個師団が西部戦線に送られる事になったとしても、装甲師団化に伴い不要となった2個師団分の装備品については東部に残される結果となるため、国境地帯の防衛力低下は最低限で済む筈である』
最後に主張した意見も、参謀達の間では概ね好評だった。
特に、B軍集団司令部からの要請を叶えようとするならば、A軍集団の戦力低下はやむなしと判断した上で、第56装甲軍団所属の二線級の自動車化歩兵師団とA軍集団のいずれかの部隊に所属する一線級の自動車化歩兵師団を入れ替えるしかない、と考えていた者達は、そのようなリスクを背負い込む必要のない彼女のプランを口々に称賛し、賛同の意を表明する。
その結果、パウラの意見はほぼ原案通り採用される運びとなり、彼女は、2つの難問を見事に解決するアイデアを見出した才媛として、参謀本部内で一目置かれるようになるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
ヴィルヘルミナ・グレーナー
(1)独自の作戦案を立案し、発表する。
詳細は補足プレイングに記述しますが、
要約すると、プランBの作戦計画に一部修正を加え、親衛隊装甲軍をA軍集団に後続させて、ダレンドからアイフェルに進出(※途中のアンドレラインはA軍集団の歩兵部隊が制圧)、
その後、メジエールに向かうA軍集団と別れてメディスに進み、ヴァノアール方面の敵軍の南進に備える、という内容。
懸案事項については、(4)に関して、自分の立案したプランであれば、親衛隊装甲軍に、囮任務ではなく、A軍集団の装甲部隊と轡を並べて連合軍主力との決戦に臨む役割を与える事が出来るため、
ラインハルト総統の期待にも十分お応えする事が可能な筈だ、と熱弁をふるう。
大陸歴939年1月26日10:45。
陸軍参謀本部・作戦課第一会議室。
「……本作戦案についての説明は以上です。質問のある方はいらっしゃいますか?」
努めて丁寧な物腰で、自らの発言を締め括りながら、ヴィルヘルミナ・グレーナー砲兵上級少佐はゆっくりと周囲を見渡した。
居並んだ参謀達の反応は様々だったが、押並べてあまり友好的とは言い難い挙動を示している者が多い。ある者はあからさまに顔を顰め、ある者は軽蔑するかのように、フン、と鼻を鳴らし、また別の者は手元の書類に目をやるフリをして彼女から視線を逸らしている。多少なりとも彼女の意見に好意的な人物でさえ、腕組みをしたまま、深く思考に沈んでいるのが精々、という惨状だった。
(やはり、ご列席の皆様方の大半は、総統閣下の"内々のご要望"への対応を前面に打ち出したのがお気に召さなかったようですわね……)
独りごちるヴィルヘルミナ。
ライエルン連邦の国家元首であり最高指導者であるラインハルト総統が『来るべき”金の場合”に於いては、親衛隊装甲軍が重要な役割を果たす事を望む』という強い期待を抱いているという事実は、陸軍参謀本部の参謀ならば誰でも知っている、いわば公然の秘密だと言って良いものだった。だが同時に、それは、現時点に於いては未だ正式な総統命令という訳ではなく、あくまで総統の個人的な要望というレベルに留まっているのも事実である。
……にも関わらず、彼女は”総統閣下の御期待”に応える事を主たる目的に掲げる、独自の作戦プランを纏め上げ、参謀総長臨席の下、”金の場合”の作戦計画を討議する参謀本部の正式な会議の場に公然と持ち込んでしまったのである。いくら、参謀達の自由闊達な議論を重んじるのが参謀本部における議論の基本方針であるとはいえ、極めて大胆不敵かつ野心的な行動である事は間違いないだろう。旧神聖ライエルン帝国時代であれば、『一介の参謀風情が出しゃばるなッ!』と非難囂々であったに相違ないし、現状に於いても、『総統閣下の威を借りるキツネめ』『総統の内々のご要望を盾に、議論を有利に運ぼうとする魂胆が見え透いているではないか』という見方をする者が多数存在しているのは明白だった。
当然の事ながら、自分が立案した作戦案をこき下ろされたクロースナー上級少将は眼鏡の奥の双眸に怒りの炎を点しているし、フリンゲル・ヴェーゼラーの両少将の表情も強張りかけており、とてもではないが、賛同している雰囲気とは言い難い状態である。
(……ですが、”総統閣下の御期待”に対して、正面切って反駁しようとなさる方がいらっしゃらないのも、また事実ですわ。今回は広汎な支持の獲得には至りませんでしたが、勝算はまだ十分にある、と言って良いでしょう)
困難な状況ではあるが、決して希望が無いという訳ではない……ヴィルヘルミナの緑色の双眸から放たれる眼差しは、列席の面々の中にあって、ただ一人、笑みを浮かべている人物、親衛隊連絡将校のグロースファウストSD上級少将の精悍な顔立ちにじっと注がれていた。
ヴィルヘルミナの主張した作戦プランは、要約すれば以下の通りだった。
『プランAもプランBも、親衛隊装甲軍の活用方法に関しては非常に消極的であると言わざるを得ない。
プランAは、共和国軍の第2軍集団を主戦場から遠ざけ、南方に釘づけにしておくための兵力としか看做しておらず、ブランBも、連合軍の機動兵力(共和国第1軍及び連合王国大陸派遣軍第1機甲軍団)を誘い出すための囮部隊としてしか位置付けていない。これでは、『来るべき”金の場合”に於いては、親衛隊装甲軍が重要な役割を果たす事を望む』という総統閣下の御意向に沿う事は困難ではないか?と危惧せずにはいられません』
『総統閣下の御意向に沿うためには、親衛隊装甲軍のより積極的な活用が必要である事は明白。
そのため、小官は、プランBの作戦計画に修正を加え、親衛隊装甲軍をA軍集団に後続させて、ダレンドからアイフェルに進出させた後(注:その途中に存在するアンドレラインはA軍集団の歩兵部隊が制圧)、メジエールに向かうA軍集団と別れてメディスに進み、ヴァノアール方面の敵軍の南進に備える、というプランの検討を要請いたします。
この作戦案であれば、親衛隊装甲軍に、囮任務ではなく、A軍集団の装甲部隊と轡を並べて連合軍主力との決戦に臨む役割を与える事が出来、ラインハルト総統のご期待にも十分お応えする事が可能となると確信いたします』
これらの主張に関しては、参謀達の間での受け止め方は、お世辞にも良いものとは言い難かった。その意味では、総統の意向に沿う作戦案である事を前面に押し出した彼女の戦術は裏目に出てしまった、と考えざるを得ないだろう。ただし、少数ながら、作戦案の内容そのものには評価すべき点もある、という意見も存在した事は事実である。
『加えて、ゴール軍の逆侵攻に備えて国境線の防衛にあてられているA軍集団所属の第16軍に関し、以下の通り、部隊編成を改めるべきである
まず、第5軍団に配備されている一線級の歩兵師団3個を第12軍第20軍団の二線級歩兵師団3個と交換した上で、第5軍団と第57軍団に各2個師団、残る2個師団により新設する新軍団、という編成に改める。その上で、新設軍団をA軍集団直轄部隊に移管し、予備兵力として活用すべきであると考える』
この主張は、先に発言したパウラ・ヒンデンブルク少佐の意見と同趣旨のものだったが、内容的には、少佐の意見よりも更に一歩踏み込んだものだった。
参謀達の間では比較的冷静に受け止められ、彼女に向けられる批判の視線を(僅かにではあるが)和らげる効果はあったと言えるだろう。
成功
🔵🔵🔴
ヘルミーナ・モルトケ
(2)プランAとプランB、どちらを採用すべきか?について、自分の意見を述べる。
現時点では、プランAを採用すべきと判断。
プランBでは、親衛隊装甲軍を北方に配置し、B軍集団と共に共和国第7軍を圧迫する事で、連合軍主力部隊を誘い出す任務にあたらせる、という事になっているが、その目的のためだけに2つの装甲軍を投入する必要が本当にあるのか?疑問に感じるため。
親衛隊装甲軍は、プランAのように、南方に配置し、C軍集団と共に共和国第2軍集団を釘づけにする任務にあたらせるべきではないかと考える。
なお、懸案事項の(3)に関し、装甲師団への改編に賛成する意見を表明。
いずれも、詳細については補足プレイングにて説明。
大陸歴939年1月26日11:50。
陸軍参謀本部・作戦課第一会議室。
「フリンゲル主任参謀にお訊ねいたします」
開口一番、ゴットリープ・フォン・フリンゲル少将に質問を浴びせたのは、ヘルミーネ・モルトケ装甲兵中佐。
透き通るような白い肌に金髪ストレート、サファイアのような青い瞳、という典型的なライエルン美女の条件を具えた才媛である。
「アンドレ・ラインを突破した後、ピスタニアを守る共和国第7軍を包囲下に置く事で、連合軍の機甲部隊主力(共和国第1軍及び連合王国大陸派遣軍第1機甲軍団)を北方へと誘い出す、このブランBの作戦方針自体の是否に関してはさておき、私が疑問に感じているのは、その目的を達するための兵力として、B軍集団のみならず、親衛隊装甲軍の参加が必要であると主張していらっしゃる事についてであります」
沈着冷静な物腰ながらも、ヘルミーネの舌鋒はあくまで鋭い。その勢いに気圧されたのか、質問の受け手であるフリンゲル少将の表情からは普段のおっとりとした柔和な微笑みが消え、緊張感が露わとなっていた。
「何故、B軍集団だけでなく、親衛隊装甲軍の投入が必要であるとお考えなのか?つまり、B軍集団単独では、この囮任務を全うする事が出来ないと考える、その理由をお伺いしたいと存じます」
冷や汗を拭うフリンゲル少将を、ひたと見据える、美人参謀。
その勇姿を、クロースナー上級少将は頼もしげに、ヴェーゼラー少将は興味深く、見つめている。その一方で、親衛隊連絡将校のグロースファウストSD上級少将は、ヘルミーネの発言が始まる少し前に会議室に入室してきた、親衛隊の士官から手渡されたメモに視線を落としながら、何か考え込んでいる様子だった。
(親衛隊作戦本部から、何か連絡があったのでしょうか?)
一抹の不安を覚えるヘルミーネ。
はたして、その不安は、しばらく後に大きな障害となって彼女の前に立ち塞がる事になるのだった……。
ヘルミーネの提起した問題点は、要約すれば以下の通りである。
『プランBでは、親衛隊装甲軍を北方に配置し、B軍集団と共に共和国第7軍を圧迫する事で、連合軍主力部隊(共和国第1軍及び連合王国大陸派遣軍第1機甲軍団)を誘い出す、とあるが、その目的のためだけに、装甲軍を2個投入する必要があるのか?
B軍集団には、第2装甲軍の他にも、第6軍、第18軍の2個軍と軍集団直轄の1個装甲軍団が配備されており、囮部隊としての任務を遂行する能力は十分に備えている。この上、更に親衛隊装甲軍を投入するのは戦力の過剰投入と言わざるを得ない』
彼女のこの主張に対しては、フリンゲル少将から、B軍集団に配備されている装甲師団と自動車化歩兵師団は、いずれも二線級の部隊(配備されている軍用車輛の多くが旧式のもので占められている部隊)であり、新型の戦車が配備された連合軍機甲部隊と会敵した場合、対処が困難となる可能性が高いため、親衛隊装甲軍を投入するのだ、という回答が返ってきた。
『親衛隊装甲軍を投入する先としては、北方よりも、むしろ、南方即ちC軍集団の担当戦域が適しているのではないか?
C軍集団は、師団以上の規模の装甲部隊が全く配備されていない2個軍により構成されており、その戦力で、共和国軍全体の約4割の部隊を擁する第2軍集団を南方に釘付けにしておくという困難な任務を果たさなければならない。親衛隊装甲軍をこの方面に投入すれば、C軍集団の負担は大幅に軽減されると思われる』
この主張に対しては、グロースファウストSD上級少将から、『仮に、親衛隊装甲軍を南方に投入するとして、貴官は親衛隊にどのような作戦行動をお望みなのか?』という趣旨の質問があった。
具体的な作戦行動の内容までは考えていなかったヘルミーネは、クロースナー上級少将の立案したプランAに沿った説明を試みようとしたものの、上級少将は、大仰に手を振ってそれを遮り、『私が訊きたいのは、中佐、貴官の意見なのだ』と、重ねて問いかけてくる。何とか、『詳しく検討した上で、後日ご説明いたします』とだけ答え、その場を取り繕ったヘルミーネだったが、彼の質問が『親衛隊はこの案には同意出来ない。再検討を要求する』という意図を含んだものであるのは明白である。
(親衛隊が反対に回るとは、いささか厄介な事態になりましたね……やはり、噂に聞く”総統閣下の御意向”が影響しているのでしょうか?)
ちなみに、ヘルミーネ自身は、親衛隊装甲軍の能力を低く見積もっている訳でも、ましてや、(一部の参謀達のように)親衛隊装甲軍を含む総統親衛隊(SD)の量的・質的な拡大を”第二の国軍化”を目指しているものではないか?という警戒の念を抱いている訳でもない。むしろ、彼女としては、親衛隊と国防軍とが互いに良きライバルとなって切磋琢磨し合う事により、ライエルンの軍事力が総体として向上していく未来を望んでおり、親衛隊作戦本部から照会のあった、第2SD装甲軍団所属の2個自動車化歩兵師団の装甲師団化に関しても、陸軍参謀本部として改編を支持する方向で回答を行うべきである、と意見具申を行っている。
この意見に関しては、他の参謀達の中にも装甲師団化に賛成する者が多かったのが幸いして、無事採用される運びとなっている。
(いずれにせよ、今は意見の対立を脇に置いて、一致団結して国難に対処すべき時の筈。ゴール・サクソニア連合軍との決戦を前にして、ライエルン国内で勢力争いを繰り広げるなど、愚の骨頂と言う他ありませんわ……)
成功
🔵🔵🔴
エリーシャ・ファルケンハイン
(2)"金の場合"の戦略方針に関して、以下の通り、意見を述べる。
・プランAとプランB、どちらを採用すべきか?
プランBの採用が適当。
プランAでは、A・B両軍集団の装甲部隊を、ヴァノアール付近に集結させて連合軍主力部隊を包囲殲滅するとあるが、同市は海峡に面した港湾都市であり、連合軍は、たとえ包囲されたとしても海上移動を用いて近隣の港湾都市に部隊を撤退させる事が可能である。
これに対し、プランBは連合軍を内陸部に誘い出し、背後を断つ運びとなっており、プランAよりも敵を取り逃がす可能性が低いのは明らか。
なお、懸案事項の(1)に関し、特殊部隊の投入に賛成する意見を表明。
詳細については補足プレイングを参照。
大陸歴939年1月26日14:35。
陸軍参謀本部・作戦課第一会議室。
「失礼ながら、主任参謀殿は連合軍の海上輸送能力を些か過少評価されていらっしゃるのではありませんか?」
マルティン・クロースナー上級少将の辛口コメントに対し、挑発的な口調で切り返したのは、プランBを支持する参謀の一人、エリーシャ・ファルケンハイン歩兵上級中佐である。
皮肉屋で知られるクロースナーの毒舌に、負けずとも劣らないその舌鋒に、周囲の空気が凍り付く。
「おいおい、ファルケンハイン参謀。いくら何でも、その言い方は失礼だろう。場を弁えたまえ……」
直属の上官であるフリンゲル少将が、目を泳がせながら、小声で窘めようとする。ジーベルト参謀総長の遠縁にあたるB軍集団担当の主任参謀は、参謀としての能力は兎も角、胆力の持ち合わせはあまり無いらしく、部下であるエリーシャに対する注意の言葉も迫力を欠く事甚だしかった。
「……ほう、中々、威勢の良い御令嬢がいらっしゃるようですな」
対するA軍集団担当の主任参謀は、と云えば、エリーシャの態度にも一向に動じる様子も無く、シニカルな笑みを絶やそうとしない。
参謀本部に於いて積み上げてきた経験値では、(ジーベルト参謀総長その人を別にすれば)質・量共にこの場にいる誰よりも優っている、海千山千のベテラン参謀の目には、士官学校を飛び級で卒業し、陸軍大学を首席で修了した彼女といえども、未だまともに相手をするだけの価値のある存在とは映っていないに相違あるまい。
「よろしい。その威勢の良さに免じて、今しばらくご意見を拝聴しようではないか。
……さあ、好きなように囀ってみたまえ、お嬢さん」
「ご配意、感謝いたしますわ。主任参謀殿」
奥歯を、ぎりり、と噛み締めながら、クロースナーを睨みつけるエリーシャ。灰色の双眸の奥では、目の前の男に対する敵愾心と共に『必ずこの男を打ち負かしてみせる』という強い決意が炎となって燃え盛っていた。
しばらくの後。
「……」
エリーシャが発言を終えて着席した時、会議室の中は奇妙な沈黙に包まれていた。
彼女の指摘した、連合軍側の海上移動の可能性は、多くの者が見落としていた(あるいは、その可能性に気付いてはいたものの、重要視はしていなかった)ポイントを正確に射貫いたものであったと言って良いだろう。
「ファルケンハイン上級中佐、君の意見は実に面白い。少し時間をかけて精査したいので、持ち帰っても良いだろうか?」
そう告げた、クロースナー上級少将の相貌には、相変わらず特徴的な薄い笑みが張り付いたままだった。……だが、度の強い黒縁眼鏡の奥の双眸からは、薄笑いは完全にその姿を消している事実を、エリーシャの灰色の瞳は見逃さなかった……。
エリーシャの指摘したプランAの問題点とは、要約すれば、以下の通りである。
『プランAでは、A・B両軍集団の装甲部隊を、ヴァノアール付近に集結させて連合軍主力部隊を包囲殲滅するとあるが、同市は海峡に面した港湾都市であり、連合軍側は、たとえ陸上から包囲を受けたとしても、輸送船舶を掻き集め、海上移動を用いて近隣の港湾都市に部隊を撤退させる事が可能である。
また、同じ理由から、海上輸送を利用して、包囲下のヴァノアールに増援部隊や補給物資を運び入れる事も可能であると考えねばならず、敵軍を包囲下に置く事がただちに分断・孤立化を意味するとは言えないのではないだろうか?』
『これに対し、プランBは、敵軍をヴァノアールから更に内陸部、すわわち、ヘルダーラント付近まで誘引した上で、A軍集団の装甲部隊をその背後に回り込ませ、ノールやメーリッツ等、ヴァノアールよりも西に位置する港湾都市を制圧下に置く事により、完全に分断する事を目指す作戦案であり、たとえ敵軍にヴァノアールまでの撤退を許したとしても、ブランAのように、海路での脱出は不可能である』
これらの主張に対し、参謀達の中には、虚を衝かれたような表情を示す者が続出していた。
連合軍側が高い海上輸送能力を持っている事は彼らも理解していたのだが、多くの者は、その輸送力は専らサクソニア連合王国からゴール共和国北部の諸港に大陸派遣軍(SEF)の部隊をピストン輸送するのに振り向けられるものと考えており、ゴール共和国内での部隊移動に活用される可能性を考慮していた参謀は多くなかったのである。
『A軍集団司令部の空挺降下作戦の不確実性に対する懸念は至極尤もである。
いかに作戦に万全を期し、周到に準備を整えて事に臨んだとしても、天候や気象の急変を完全に予想する事は不可能である以上、空挺降下による橋梁の制圧には常に失敗の危険が伴っていると言わざるを得ない。その点、国防軍特殊作戦旅団(通称”リンデン部隊”)によるコマンド攻撃であれば、天候の急変によって作戦の成否が左右される恐れはまずない。
ただし、これにより、降下猟兵師団による降下作戦自体を中止すべきとまでは考えない。彼らには、リンデン部隊とは別の橋梁への降下・制圧を試みて頂くべきであるし、また、本来、秘匿部隊であるリンデン部隊の作戦行動が外部に漏れるのは好ましい事とは言えないため、これを防ぐ意味においても、同部隊の上げた戦果は、降下猟兵たちの戦果であると報道発表する、という策はいかがだろうか?』
この主張に関しては、参謀達の評価は大きく分かれていた。
彼らが問題としたのは、やはり、(陸軍の部隊である)リンデン部隊の戦果を(空軍所属の)降下猟兵師団のものとして報道発表する、という意見だった。リンデン部隊の機密保持の必要性を理由に掲げているとはいえ、エリーシャの真意が、面子を潰される事になる空軍からの反発を和らげる事にあるのは明らかである。参謀達とて、陸軍の軍人であり、『空軍に対して、そこまで譲歩しなくても良いのではないか?』という感情は、現実問題として根強く残っていると言って良い。
降下猟兵師団はリンデン部隊とは別の橋梁への降下・制圧を担当させるべきだ、という主張の方には賛同する者も多かったものの、この提案が彼女の原案通りに採用されるかどうか?は、かなり微妙な状況だった。
大成功
🔵🔵🔵
ヴィリー・フランツ
(よく葉巻を吸う)(階級はお任せします)
(2)プランAを支持
(3)国防軍特殊作戦旅団による橋梁確保の是非について
プランAについて:小官はクロースナー閣下の案を支持します。
我が国の最大の強味である機甲師団や機械化師団、それらを活用出来る平地からの進軍は利にかなってると思われます。
リンデン部隊ついて:リンデン部隊については当初の作戦に従事させた方が最良だと思われます。
確かに橋梁の確保は重要です、しかし!彼らはアンドレ・ライン突破の為に破壊工作等を行う更に重要な任務が控えており、ここで消耗させるのは余りに下策であり、今後の全体の作戦行動にも影響が出るでしょう。
橋梁は降下猟兵に任せても支障はないかと。
大陸歴939年1月26日15:20。
陸軍参謀本部・作戦課第一会議室。
「……以上の理由により、自分は、プランAこそが、来るべき共和国侵攻作戦に於いて我が軍を勝利に導く良策であると判断いたします」
その言葉で、自分の発言を締め括ったのは、あまり手入れが行き届いているとは言い難い、ボサボサの金髪が特徴的な参謀大佐。
程度の差こそあれ、自信に満ち溢れた態度を具えている者が多い作戦課の参謀達の中では、やや頼り無さげな印象を振り撒く彼の姿は些か浮いて見える。しかしながら、彼の軍人として実力を知らぬ者は、周囲の参謀達の中には一人もいなかった。
ヴィリー・フランツ参謀大佐。
貧しい開拓農民の子として生まれ、幼少時は十分な教育機会に恵まれなかったらしい。何とか士官学校には入校出来たものの、卒業時の成績はせいぜい「中の上」といったところで、注目されるような存在では全くなかった彼が、32歳という若さで大佐にまで栄達できたのは、戦場で立てた数々の武勲によるものだった。
「さすがは大佐、素晴らしい御意見でした。見て下さい、フリンゲル少将のあの顔……あれは、かなり効いてますよ」
自席に戻り、シガレットケースから好物の葉巻を取り出したヴィリーに対し、隣の席に座る同僚が囁きかけてくる。曖昧な表情を浮かべて頷き返した参謀大佐は、葉巻に火を付けながら、居並ぶ参謀達の様子を静かに観察する。どうやら、自分の意見表明の後、参謀達の心象は明らかにプランA支持に傾き始めたらしく、クロースナー上級少将や彼の同調者達の表情は一様に明るくなっていた。勿論、ライエルン人の一般的気質として、たとえ個人的に何らかの悪感情を抱いていたとしても、公の場でその感情を直接相手にぶつけるような言動をとる事はエリートとしてのモラルに反する行為と考えられているため、クロースナー達も、表向きは、フリンゲルやプランBを支持する参謀達に対して、礼儀に適った態度で接し続けてはいたのだが。
(……それに、今日のところは、プランAの方が多くの支持を集めたとはいえ、”金の場合”の作戦方針が確定した訳じゃない。先程のエリーシャ・ファルケンハイン歩兵上級中佐のように、痛い所を突いてくる人間もいれば、ヴィルヘルミナ・グレーナー砲兵上級少佐のように、プランAともプランBとも異なる、独自の作戦案を構想している者だっている。
最終的な結論がどんなものになるか?は、まだまだ見通せないな……)
一見のんびりと、その実はあくまで冷静に、紫煙をくゆらせながら、思考を巡らせるヴィリー。
その視線の先では、ヴェーゼラー少将とグロースファウストSD上級少将が、それぞれC軍集団司令部と親衛隊作戦本部から参謀本部に派遣されてきている士官達と、何事か小声で会話を交わし続けていた……。
なお、ヴィリーが提示した意見の概要は、以下の通りである。
『”金の場合”の全体作戦としては、プラン案を支持します。我が陸軍の最大の強味である装甲師団や自動車化歩兵師団等の装甲化部隊をいかに活用するか?を考えた場合、平地からの進軍こそが理にかなっているものと判断いたします』
発言内容そのものは決して目新しいものではなく、従前からプランAの長所として挙げられていたポイントの一つだったが、意見を主張するにあたって彼が選択した論法は、理路整然として付け入る隙の無いものだった。
彼のこの意見が、プランAへの賛同者を増大させる契機となり、この日の会議の行方を決定付けた、と言っても過言ではない。
ただし、装甲部隊の展開に適した平野部を主力部隊の進軍ルートとするプランは、連合軍側も予想している可能性が高い事については注意が必要となるだろう。事実、国防軍最高司令部がゴール共和国領内で密かに行っている情報収集活動に於いては、ライエルン軍装甲部隊の侵攻が予想される平野部に建設されている”アンドレ・ライン”の要塞防御施設は、山岳地帯や森林地帯に建設されたものよりも質・量共に優っており、配備されている要塞歩兵師団の数も多くなっている、という趣旨の情報が多数集まってきているらしい。また、”アンドレ・ライン”の突破に成功した後も、森林地帯と異なり、遮蔽物の少ない平原では、部隊の展開状況や進軍方向は航空偵察等によって容易に察知する事が可能であり、余程の幸運に恵まれない限り、奇襲は望めないものと考えた方が良かった。
『リンデン部隊については、当初の作戦に従事させた方が最良だと思われます。確かに橋梁の確保は重要ではありますが、彼らにはアンドレ・ライン突破の為の破壊工作等を行う等、より重要な任務が控えており、これを徒に消耗させてしまうのは、下策かつ今後の作戦行動にも悪影響を及ぼしかねない危険な選択となり得るでしょう』
要は、橋梁の制圧に関しては、当初の計画通り、降下猟兵に任せるべき、という主張だった。
この意見に関しては、首肯する参謀も相当数いたものの、エリーシャ・ファルケンハイン歩兵上級中佐や(ヴィリーの少し後に発言した)ヘルムート・ロートシュタット歩兵上級大佐など、リンデン部隊の投入は必要であると考える者も多く、議論は、思いの外、長引く事となる。
最終的に、リンデン部隊の投入を是とする意見への賛同者が投入は不要とする意見のそれを僅かに上回ったため、A軍集団司令部からの意見具申は容れられる運びとなったものの、この問題はそれで終わりという訳ではなかったのだった……。
大成功
🔵🔵🔵