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白羽井小隊殲滅

#クロムキャバリア #日乃和 #人喰いキャバリア

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#クロムキャバリア
#日乃和
#人喰いキャバリア


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●終幕の入口
 百年にも及ぶ戦乱が続く世界、クロムキャバリア。
 アーレス大陸の東洋に位置する島国の日乃和は、人喰いキャバリアと呼ばれる無人機群の襲来に曝され続けていた。
 夜の帳が下りきった頃、日乃和の首都の香龍は煌びやかな夜光に彩られ、常日頃と変わらず人々が行き交っているはずだった。しかし今宵ばかりは人の気配が無い。首相官邸だけを除いて。
 広く厳かな閣僚応接室に政府要人が詰めている。鈴木健治内閣総理大臣を筆頭に東雲正弘官房長官、その他各省と各軍の幕僚。座す皆が一様に面持ちを緊張させている理由は招かれざる来訪者達にあった。
 鈴木と相対する巨漢、後藤宗隆大佐。後方に控える東雲那琴少尉、尼崎伊尾奈中尉、その他の多くは白羽井小隊所属の隊員達。いずれも殆どが場に不似合いなパイロットスーツを着込んで銃を握っている。
 不意に扉が小突かれた。鈴木が後藤に目配せして伺いを立てると構わんと言いたげに顎を突き出された。
「入っていいよ」
 扉が開かれる。スーツ姿の男が鈴木の元へ駆け寄り耳打ちをしようとしたが「皆にも聞こえるように」と言われると背を正して面持ちを斜め上へと向けた。
「市民の避難が完了しました」
「結構、下がっていいよ」
 男が退室した後で多くが一斉に息を吐き出す。
「いやぁ、まさか中央即応隊が丸々後藤大佐に付くとはねぇ」
 鈴木は首を竦めて隣の席の東雲へと視線を投げた。東雲は黙して後藤を睨め付けている。
「これで漸く本題に入れますな、先生方」
 後藤は首を横に向けて頷いた。オペレーターの少女が前へ歩み出て書簡を差し出す。受け取った鈴木は中身を検めた。
「あー、我々は現内閣府に対して反省を促すべく、止むを得ず実力行使に及んだ次第であります」
 後藤が酷く不慣れな口振りで宣誓染みた文言を述べる。
「簡潔にいこうじゃないか」
 鈴木は書簡に連なる文字列を目で追いながら答えを返す。
「仕返しに来た。そいつが果たし状だ」
 紙面には南州のプラント事故の説明と公表を求める文やゼロハート・プラントの調査結果の報告、総理大臣を始めとする閣僚の国籍永久剥奪と国外追放等、様々な要求が記載されていた。
「君達の意志はよく分かった。持ち帰って中身を精査した上で検討に検討を重ね――」
「出たよ、検討士」
 伊尾奈が拳銃の引き金に人差し指を乗せる。
「具体的な返事をこの場で頂きたいもんですな」
 後藤の太腕が発砲を制した。
「要求は受け入れられない」
 鈴木に代わり東雲が返す。実父を睨め付ける那琴の眉間の皺が険しさを増した。
 反乱軍による首相官邸占拠。
 叛逆の首謀者は後藤宗隆大佐。
 香龍と首相官邸を制圧したキャバリア部隊の主力は、白羽井小隊だった。

●白羽井小隊殲滅
 「やっとここまで……お集まり頂きまずは感謝を。依頼の内容を説明するわ」
 グリモアベースにて集った猟兵達を前に水之江が腰を折る。顔を持ち上げると長杖を振って立体映像を現じさせた。UDCアースの東京都に似た風貌を持つ大都市らしい。
「雇い主は日乃和政府。内容は反乱軍の殲滅よ」
 妙に機嫌の良い声音で説明が続く。

●敵戦力
「反乱軍の首謀者は日乃和陸軍の後藤宗隆大佐。彼がキャバリア部隊を率いて首相官邸を占拠しちゃったんですって。反乱軍の要求は……ま、これは別にどうでもいいわよね。予知が正しいなら反乱軍はオブリビオンマシンに毒されちゃってるわ。それも超とびきり深刻に」
 反乱軍の主力は白羽井小隊。
 かつて猟兵と共に幾つかの作戦行動を遂行した部隊だ。
「編成には灰狼中隊とかも混じってるけどあくまでも主力は白羽井小隊の解釈で良いと思うわ」
 反乱軍は女子士官学校出身者が中心の白羽井小隊を含め殆どが十代の少年少女であるらしい。しかし必ずしも年齢が技術と比例するとは限らない。猟兵と共に死線を抜け、実戦を通して猟兵から直接指導を受けていた者も少なからず存在する。中には猟兵の戦法を学習し模倣する者さえいるだろう。
「白羽井小隊が運用している機体はこちら……イカルガよ」
 水之江が再び長杖を振るうとキャバリアの立体映像が出現した。
「高速軽快高機動。常時滞空可能で市街戦にもぴったり。それからもう一機、あー……」
 出掛けていた声を途端に引っ込めた。視線が左右に泳ぐ。僅かな間を置いた後に肩を竦めて首を傾げた。
「御免なさい、何言おうとしたか忘れちゃったわ。兎に角、出てきた敵を全部倒せば任務達成よ。本命のオブリビオンマシンも多分勝手に現れるわ。搭乗者の生死は問われないわ。ま、猟兵さん達に殺されるか銃殺刑になるかの違いでしかないんでしょうね。戦い以外の手段で解決したいなら止めはしないけれど、先にも言った通り精神汚染が深刻だから良い結果は期待出来ないかも? わた……オブリビオン側はどうしても猟兵さん達と反乱軍を戦わせたいみたいね」
 最終的には政府側に引き渡す運びとなるだろうが、戦闘中の搭乗者に対する処遇は猟兵達に一任される。

●友軍戦力
「政府側の戦力として首都防衛隊がいる……んだけれど、反乱軍と同調してるらしくて早々に投降しちゃったんですって。代わりに有事に備えていた艦隊が急行中よ」
 既に三笠を旗艦とした艦隊が出立している。しかし到着には時間を要するらしく作戦序盤では姿を現さないかも知れない。
「まあ、初動は猟兵さん達の戦力だけで戦わなきゃいけなくなると思うわ。因みに空母の大鳳が港区に係留されてるから流れ弾を当てないよう気を付けてね。撃沈でもしたら大事よ」
 大鳳は暁作戦で受けた損傷を修復するべく入渠を待っている。艦内はほぼ無人の筈だ。

●香龍
「ああそれと、戦闘領域について説明しなきゃね」
 本任務は香龍全区域での戦闘となる。香龍の街並みはUDCアースの東京都に近い。巨大な高層ビルが幾つも建ち並ぶ都市内に張り巡らされているのは鉄道路線や幹線道路に加えて立体的な構造の首都高速道路。ドーム状の競技場もあれば河川も通っているし、東沿岸一帯は港湾施設が広がっている。夜光の煌びやかさは戦闘時も照明を必要とさせない程だ。さほど海抜が無い平地という都合上、殲禍炎剣の照射判定域には余裕がある。
「民間人はもう避難済みよ。暁作戦時に取り零した人喰いキャバリアの襲来が迫ってるという事にしてあるんですって。気兼ねなく動けてラッキーね」
 ただし人類の生活圏である以上破壊活動には制約が伴う。ビルの倒壊程度なら止むを得ない。だが核や致命的な環境汚染を引き起こす粒子を撒き散らすような兵器を運用すれば契約違反となってしまうだろう。

●注釈
「後は……本作戦で知った情報はお漏らし厳禁……って、仕事柄こんなの当たり前よね。政府としては今回のクーデターは初めから無かったものとして処理したいそうよ。因みに雇い主の皆様方は首相官邸に閉じ込められてるわ。救助は不要だけれど死なせたら任務失敗だからご注意を」
 状況が変動した際の細事については依頼主から直接言及があるものと想定される。つまり依頼主は軟禁されながらも猟兵達と連絡を取れる状態にあるらしい。

●終幕の舞台へ
「こんな所かしら? 政府要人の命に関わるお仕事だから報酬もたっぷり。やってみる? お気に召した方は契約書にサインをどうぞ」
 水之江は自然と吊り上がってしまう口角を堪えて深く首を垂れる。
 愛宕連山から始まった因果の連鎖は結末に向かって集束の気配を見せ始めた。


塩沢たまき
 ご覧頂き有難う御座います。
 日乃和編最終シナリオとなります。
 以下は補足と注意事項です。

●第一章=集団戦
 出現する敵勢力を排除してください。
 敵は猟兵との交戦に専念するようですので政府要人の救出等は必要無いかと思われます。敵機はいずれもオブリビオンマシンではありませんが搭乗者は既に重度の精神汚染を受けているようです。搭乗者の生死は問われません。
 戦域は大都市の香龍となります。大小様々な建造物や舗装された道路と競技場などがあり、東沿岸一帯は港湾施設となっています。全域に渡って照明は確保されています。
 民間人は既に避難済みですが人類の主要な生活圏なので使用する兵器にはご注意ください。
 作戦開始時間帯は夜。天候は晴れです。

●第二章=ボス戦
 出現するオブリビオンマシンを排除してください。
 敵機は特殊な機能を備えている場合があります。

●第三章=冒険
 残存している白羽井小隊を殲滅する等、状況に応じて行動してください。

●白羽井小隊
 反乱軍の主力です。
 お嬢様士官学校出身者に加えて灰狼中隊等過去のシナリオで登場した部隊員で構成されるキャバリア部隊です。多くが日乃和の現政権に対して怨恨を抱いているようです。過去に猟兵と戦線を共にした事で猟兵の戦い方を学習しました。
 隊長の東雲・那琴少尉の他、雪月・栞菜准尉等がいます。尼崎・伊尾奈中尉と後藤・宗隆大佐も同部隊のひとりとして扱われます。指定した対象との交戦が可能です。

●艦隊
 反乱軍を鎮圧する為に艦隊が作戦領域へ急行中です。到着には暫く時間を要する模様。スーパーロボットの弐弐式剛天を所有しています。
 旗艦を担う三笠の艦長は佐藤・泉子中佐。

●大鳳
 空母です。港湾施設の埠頭に係留されています。戦闘力はありません。艦内はほぼ無人となっている筈です。
 艦長は葵・結城大佐。

●首相官邸
 鈴木・健治内閣総理大臣や東雲・正弘官房長官を含む政府要人が軟禁されています。第一章の開始時点では抵抗する様子は無く護衛や救出等の必要も無いかと思われます。反乱軍の一部が政府要人の監視の為に官邸内に残っています。

● その他
 高速飛翔体を無差別砲撃する暴走衛星『殲禍炎剣』にご注意ください。
 キャバリアをジョブやアイテムで持っていないキャラクターでもキャバリアを借りて乗ることができます。
 ユーベルコードはキャバリアの武器から放つこともできます。
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第1章 集団戦 『イカルガ』

POW   :    クイックスラッシュ
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【ビームソード 】から【連続斬撃】を放つ。
SPD   :    クイックショット
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【アサルトライフル 】から【連続射撃】を放つ。
WIZ   :    マイクロミサイル
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【超高機動小型誘導弾 】で包囲攻撃する。

イラスト:タタラ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●根源
「だから言ったじゃない」
 伊尾奈が射線を遮る後藤の太腕を押し退けて前に出る。銃口を向けられた鈴木が左右の掌を向けてまだ言い訳が残っているらしい姿勢を見せた。
「南州第一プラントに関しては君達が知っている通りだよ。あそこは確かにゼロハート・プラントと同じ生産能力を有している。僕達はそれを活用して人喰いキャバリアに対抗しようと試みた。結果は言わなくても分かるよね?」
 後藤が目を鋭く細めた。伊尾奈の口元が嫌悪に歪む。オペレーターの少女も顔を俯けて恨めしい目付きを鈴木へと向ける。南州陥落の当日、伊尾奈が隊長を務めていた灰狼|小隊《・・》は南州第一プラントのメインゲートの直掩に当たっていた。そしてプラント内部から出現した人喰いキャバリアによって壊滅させられた。後に南州の脱出地点を襲撃し、避難民の護衛に付いていた後藤の部下と妻子、オペレーターの少女の兄をも喰い殺した。
「まあでも、ゼロハート・プラントの暴走の要因については話してもいいかな?」
「総理、それはレイテナとの合意に抵触しますが」
 東雲のみならず各軍の幕僚も露骨な難色を示す。一部の閣僚は互いに顔を合わせて首を傾げ合う。
「いいじゃないか東雲君。認識の甘さがあったとは言え僕達の動機は国を想ってこそだったんだから。それにだ、|彼等《・・》にも聞かせておいた方が良いんじゃないかな? ゼロハート・プラントを止めるには彼等の力が必要不可欠だろうし……」
「認識の甘さ? 動機? 詳しく聞かせて貰おうじゃあないか」
 那琴が眉を顰めて彼等とは誰を指しているのかと詰問しようとするも、後藤が口を開く方が早かった。
「総理、私からお話しします」
 鈴木は無言で頷く。東雲は手元の硝子瓶を手に取りグラスに水を注いだ。冷たくも暖かくもない無色の液体を一口で飲み干し、喉を十分に湿らせる。待ち受けるであろう長々とした口上に誰もが身構えた。
「ゼロハート・プラントの暴走が始まる前日、日乃和とレイテナの合同調査団が中枢と思しき施設で、制御端末らしきものを発見した」
 伊尾奈が息を吐き捨てて首を横に振る。調査中に暴走を始めたなどと言う話しはもう何度も聞いてきた。後藤がまあ待てと横目を送ると、伊尾奈は壁に背を預けて腕を組んだ。
「端末の名前は|殲術再生柱《キリング・リヴァイヴ・ピラー》。解析された言語から推定して、恐らく古代魔法帝国時代に造られたものだろう」
「古代魔法帝国時代だと? となりゃあ、神皇陛下の御先祖様が日乃和を御拓きになられた時代か……」
 後藤と東雲の視線が交わる。古代魔法帝国時代に於いて、神皇陛下が機械神とも称されるアマテラス、スサノオ、ツクヨミ、その他特別なキャバリアを用い、アーレス大陸から大地を切り離して御拓きになられた国。それが日乃和の建国記として伝わっている。国歌でも詠われた国民の多くが知る御伽噺だ。伝説の真相は定かではないが、少なくとも神皇陛下は象徴として健在であり、お住まいである皇居は香龍内に存在している。
「先に断っておくが、ゼロハート・プラントの詳細について神皇陛下は何もご存じない。レイテナのエリザヴェート女王もだ」
 後藤や白羽井小隊の面々がそれはそうだろうなと胸中で呟く。でなければ現状は生まれていない。
「建国の時期を同じくするバーラントの機械教皇かエルネイジェの王族なら、或いは何らかの情報を持っているかも知れないが……」
 つまりは調べ様が無いのだ。日乃和とは大陸を挟んで反対側に位置するエルネイジェとの国交は希薄だし、バーラントに至っては百年以上に渡り戦争状態にある敵国中の敵国だ。
「調査団の報告を全面的に信じるならば、生産機能の暴走に至った切掛が|殲術再生柱《キリング・リヴァイヴ・ピラー》への接触には無いと否定するのは難しい」
「なんだ? よく分からん柱のよく分からんスイッチを押したのか? 大した度胸の連中だな」
 呆れて肩を竦める後藤の背中を見た那琴はふと栞菜の顔を思い浮かべた。彼女なら好奇心に流されてやりかねない。
「では、人喰いキャバリアが溢れ出したそもそもの原因は日乃和にもあったと?」
 問う那琴に対して東雲は首を横にも縦にも動かさない。
「厳密には利害を同じくする東アーレスの諸国や学園都市、企業連合も含まれているが、調査を主導したのは我々だ。よって、そう解釈してくれても齟齬は無い」
 那琴は実父を真正面に直視したまま拳を握り締める。
「後に日乃和とレイテナは暴走の原因を秘匿する条約を交わした。当初の我々は人喰いキャバリアの出現を危機以上に好機として捉えていたからだ。周辺に蔓延る非友好国を一掃し、同時に東アーレスへ進出を強めるバーラントを封じ込める為のな」
 鈴木が瞑目しながら何度も頷く。
「人喰いキャバリアの件の半分は総理大臣様の不始末だと思ってたけどね、丸々アンタらの仕業だったのかい」
 伊尾奈が舌を打つ。
「あれを人が制御しようなどというのは傲慢極まりない考えだったがな。貴官達の知っての通りに代償は高く付いた」
 那琴の頭から熱が抜け落ちる。代わりに腹の奥底で重い泥水が渦を巻き始めた。
 ゼロハート・プラントから溢れ出た人喰いキャバリアを意図的に放置した末に生じた東アーレス全域規模の人災――否、大量虐殺。それを引き起こした人間のひとりが実の父。愛宕連山での戦いで死んでいった学友達は間接的ながらも父に殺されたどころの話しではもう済まされない。
 伸し掛かる罪悪感と膨れ上がる怒りに心と身体が捩じ切られそうだ。元から決めていた手に掛ける覚悟はより強い殺意に変じつつあった。
「それで? 日乃和国民だけならず東アーレスの市井が何人亡くなられたのか、お父様はご存じですの?」
 まだ爆発させてはならない。那琴は顎を引いて努めて冷静に尋ねる。
「事故に対する認識の甘さは認める。だが国防の戦略上、状況を手段として利用したに過ぎない。代償は大きいと言ったが、見返りも決して少なくはない。バーラントの東アーレス進出の気勢は挫けたし、我が国に非友好的な有象無象の国々は消滅したかレイテナに併合された」
「それで自国も滅びかけてるんだから世話無いね」
 伊尾奈が小声で野次るが東雲の口振りは澱みない。
「その点については先に述べた通り認識の甘さを認めざるを得ない。しかし国防上適切かつ必要な判断でもあった。我々は常に国家の繁栄と国防を根拠に行動している。敵国を滅ぼすのも我々政治家と軍に求められる国防戦略としての役割だ。それがこの世界では、特にアーレスに於いては百年に渡り続いている規範なのだからな」
 防人ながら国防への頓着が薄い伊尾奈は聞き流していたが、那琴は唇を固く結んで黙り込む。
「那琴が武で国を守護るというのも行き着くところは変わらない。戦う相手が人間か人喰いキャバリアかの違い、或いは用いる手段の違いでしかない。もし人喰いキャバリアが存在しなければ、お前は今頃護国の誇りを矜持に掲げ、意気揚々としてバーラントや東アーレスの国々の兵士達を殺していただろう。人喰いキャバリアと役割を代わってな」
「お父様! 貴方は自分が何を仰っているのか解って――!」
 那琴は肌下が騒めき立つに任せて東雲へと銃口を向けた。
「那琴少尉! 親父さんに銃を向けるな!」
 後藤の野太い声を間近で浴びた鈴木とオペレーターの少女が身を縮こませる。だが那琴は銃を下げない。
「私を殺すか? 引き換えにお前は何を得る? 学友達の仇討ちか? 一時の充足感か? 私を殺したところでゼロハート・プラントは止まらないぞ?」
 東雲は臆する気配すら思わせず那琴を正中に見遣った。
「少なくともお父様の凶行を止める結果は得られましてよ!」
「そうか。では国民に対する背信行為も厭わないというならばやってみるがいい」
「背信? 多くの市井を犠牲にしておきながらよくもそのような……!」
「我々が議会に立っているのはその犠牲になった市井によって選ばれた結果だ。お前は国民の意志に対して銃を向けているのだと理解しているのか?」
「そんな詭弁で!」
「話しは終わりか? さあ、撃てばいい」
「いやいやいや待つんだ東雲君!」
 鈴木が席を立って那琴と東雲の間に割って入る。
「僕達が今死ぬのは不味いでしょう! 那琴ちゃんもねぇ……お父さんを撃つのはよくない! みんな冷静になりたまえ! なんで君達はこう……破滅的な思想ばかりに走る? こんな言い方は失礼かも知れないがね、君達はまるで何かに取り憑かれてるようにさえ見えるんだが……」
「そりゃこちとら復讐に取り憑かれてますからな」
 後藤は両眉を上げて首を竦めた。
「政治家の義務感に取り憑かれているというならば、そうなのでしょう」
 東雲の口は動くが視線は動かない。鈴木を挟んでもなお那琴に敵愾心を籠めた眼差しを突き立てている。
「特に最近の東雲君はちょっとおかしいよ? 僕の知ってる東雲君は堅物だけど根は温和な男だったんだけどねぇ」
 鈴木の言及には那琴にも思い当たる節がある。確かに見た目に違わず厳格な父ながらも母無き娘の感傷を慮れる人間でもあった。そんな父の背中に尊敬を抱いて防人の道を志したのだから。出せた成果がどんなに小さくとも褒めてくれて、成果を出せなければ解決策を共に考えてくれて、道を誤りそうになった時には理屈っぽい説教で丁寧に嗜めてくれた。記憶の中にある実直な父には国防の為なら何人死んでも構わないなんて台詞は似つかわしくない。
「国を守護る為になら悪鬼羅刹にでもなり果てましょう。例え娘を手に掛ける結果になろうとも」
 東雲の眉間に刻まれた皺が深みを増す。那琴は怯え竦みながらも東雲を睨み返す。銃を持つ手が震える。暫く顔を合わせない内に父は変わってしまった。
 実の父だって手に掛けられる――そんな自分の覚悟は所詮小娘の口先だけのお遊びに過ぎなかったと痛感させられた。やはり自分はこの人の娘で、いざ目の前にすれば引き金に指を乗せられない。だけど父は本気だ。
「那琴少尉の前で言いたかないんだが、酷い親父さんだな」
 後藤の抑揚の無い声音には自分なら絶対にこうはなるまいと軽蔑の念がありありと乗せられている。
「東雲君! 自分の子にそんな言い方しちゃいかんだろう! 結城君にも無礼じゃないか!」
 鈴木が顔を赤らめ唾を飛ばして声を荒げる。気の良いおじちゃんといった身なりに似合わず本気で激昂しているらしい。硝子窓を振動させる裂帛の怒号にオペレーターの少女が堪らず後藤の脚の影に隠れた。そんな様子を冷ややかに見ていた伊尾奈が阿呆臭いと含む溜息を漏らす。
 それはそうとして、ここで何故葵艦長の名前が出て来るのか疑問を呈した那琴が言葉を挟もうとするも、東雲に先手を打たれてしまう。
「話しを戻しましょう。我々は要求を拒否する。そして我々を殺した所で貴官達は何も得られない。多少気分は晴れるかも知れないが、貴官達は極刑に処され、我々政府は少しの混乱期を終えた後に今と似たような顔触れの首脳陣に取って代わられるだけだ」
 冷淡に言い放つ東雲の言葉が那琴の中で煮えていた憤怒を急速に冷やす。怒りは次第に失望へと移り変わる。
「貴官達の叛逆行為は初めから破綻している。少し立ち止まって考えれば分かる事だろうに。後藤大佐、何故貴官ほどの人間がここまで短絡的な手段に走った? 我々に復讐するにしても、貴官ならもっと利口に、後を濁さない形を取れたのではないか?」
「それは買い被りですな、官房長官。俺を善人か聖人だとでも思ってるのか?」
 後藤が嘲笑を交えて顎を浮かせる。
「生憎俺はぶっ壊れのイカれ野郎でな。あの日カミさんとふたりの娘が人喰いキャバリアの餌になった瞬間からとっくに狂ってるんだ」
「もういいじゃないの大佐殿」
 伊尾奈が壁から背中を剥がして緩慢に東雲へと歩み寄る。
「これ以上アタシがこいつらを撃ち殺すのを我慢しなきゃいけない理由があるなら教えておくれ。ゼロハート・プラントとか終わった後とかどうでもいい。アタシの目的はこいつらの頭を吹っ飛ばす事だけなんだから」
 東雲に銃を向ける伊尾奈は本気ですぐに撃つつもりでいた。されど後藤の大きな手が銃に覆い被されてしまう。
「まあ待て尼崎中尉。言っただろうが。奴等にはそれじゃ生温い」
 伊尾奈は殺気立った肉食獣のような目付きで後藤の双眸を睥睨する。銃を抑える手は微動だにしない。
「殺すだけじゃ生温い……ねぇ。後藤君、君はなんでこんなに回りくどい手段を取ったんだい? どの道最後には僕達を殺めたいんだったら、首都防衛隊と中央即応隊、それに香龍の防空システムを押さえた時点で、キャバリアで首相官邸に突っ込めば済む話しだったよね? もしや君は――」
「さあな?」
 鈴木の言葉を遮った後藤の声音には、ほんの僅かにだが続きを言わせてはならないという焦りが垣間見えた。そしてそれを鈴木は聞き逃さなかった。やはりと零しかけた呟きを胸中に飲み込んで口を噤む。
「先生方も家族を喰われてみれば分かるんじゃないか? 俺としても今すぐ頭を吹っ飛ばしてやりたい所だがそれはいつでも出来る。死んで許される段階はもうとっくに過ぎてるんだ」
 語りこそ落ち着いているが眉間に篭る憎しみは深く激しい。
「世間様に洗いざらい白状して、加担した連中を一掃して、それから死んで貰う。死ぬにしても人の死に方はさせない。こいつらの家族や友人、恋人、部下、上司、俺のカミさんと娘達と同じように人喰いキャバリアの餌にしてやる。それでおあいこだ」
「考え直してはくれないかね? 君達が市民の避難に協力してくれたお陰で、幸いまだ誰の血も流れていない。先にも言った通り、今回の騒動は人喰いキャバリアが襲来してきたという言い訳にして不問としようじゃないか」
 現在香龍に発令されている避難命令は、後藤達が首相官邸を占拠するよりも前に出されたものだ。暁作戦で掃討し損ねた人喰いキャバリアの残党が香龍に接近しつつある――その一報だけで民間人の避難は滞りなく行われた。後藤達からしても今後生じるかも知れない戦闘に民間人を巻き込むつもりが無かったのも避難を円滑に行う一助となったのだろう。つまり鈴木達は叛逆の兆候を早い段階から予め察知していたのだ。
「実のところ、僕達は既に事後処理の準備を済ませてある。僕は君達を失いたくない。この国には君達のような優秀で自分の信念を行動力に変えられる人間が幾らでも必要なんだよ」
「こちらの要求を飲んで頂けるなら手打ちにしますがね」
「駄々に応じるつもりはない」
「ちょっと東雲君! 彼等はご家族を亡くしているんだから駄々なんて言い方はないでしょう!」
 鈴木は声を荒げるがやはり東雲は不動を保ったままだ。
「その駄々で済んだ問題に向き合わずここまでの騒ぎにしたのはアンタらだけどね。検討に検討を重ねた結果、アンタらはアタシに殺される訳だ」
 どうしても射殺したい伊尾奈を後藤がまだ待てと宥める。その様子を横目に東雲は息を深く吐き出す。
「並行線だな」
 東雲の片手が耳元にあてがわれた。那琴を含む白羽井小隊の隊員からオペレーターの少女までもが一斉に銃を向ける。鈴木の顔面から血の気が引いた。
「待て!」
 後藤の裂帛が全員を制する。閣僚応接室の空気が緊迫して静まり返る中、周囲をなぞる様に睥睨する東雲が、ゆっくりと口を開く。
「東雲だ。現時刻を以て契約内容は効力を発揮する。各位は契約内容に従い適切に行動してくれたまえ」
「誰と連絡を……まさか! やはり!」
 那琴が目を見開く。官邸を占拠した時点で通信装置の類は既に没収していたが、体内に埋め込んだものまでには存在自体に気付かなかった。
「当然こうなっちまうよなぁ」
 後藤は表情を変えずに肩を落とす。通話の相手が誰かとは問い正すまでもない。
「貴官達がどうした所で結果は変わらなかったがな。我々が殺害された時点で、代理の者伝に猟兵達との契約内容は有効化される手筈になっていた。いずれにせよ貴官達は猟兵によって殲滅される。万が一猟兵が契約内容を履行しなかったとしても、既に香龍へ向かっている艦隊が代役を担うだろう。貴官達を殲滅して余るほどの戦力を有した艦隊がな」
 猟兵という最強の切り札を出した東雲は特段勝ち誇るでもなく事務報告もかくやといった語り口で述べてみせる。
「やれやれ、だから早く殺しとくべきだったんだよ」
 那琴達と異なり伊尾奈の表情には焦燥の色は無い。
「いや、もういい。尼崎中尉と那琴少尉、以下全員は投降しろ」
「何故ですの!?」
 予め用意していた台詞を並べる後藤に対して那琴は絶望染みた顔色で詰問する。
「おぉ、聞き分けてくれるのかい? 君達の身柄の安全は必ず保証するよ」
 鈴木は胸を撫で下ろしたと言わんばかりに笑顔を浮かべた。すると後藤が意味を含んだ横目を向ける。
「相手は猟兵だ。勝てんだろうさ。俺が死ぬのは別に構わんが、ここで先生方を殺したら猟兵は那琴少尉達を確実に殺しに来るだろう。猟兵を止める人間が居なくなるからな」
「首相達を人質に取れば!」
 オペレーターの少女が鈴木に向けて銃を構えた。凶器を支える細腕は震えており狙いは定まっていない。
「あいつらに通用するとは思えんな…
…御転婆教皇様の言う通りなら、いざとなりゃ雇い主に構わず勝手に動くような連中だ。それに首相官邸に籠もっててもお得意のユーベルコードで何とでもしちまうさ」
 オペレーターの少女が握る銃を後藤の手が包み込む。やがて銃口は床へと向けられた。
「それは……否定いたしませんけれども」
 皆が皆とは言わないが猟兵の荒唐無稽さは那琴がよく痛感するところでもある。
「懸命な判断だな。考えを改めるなら即刻攻撃中止命令を出そう。我々とて無駄に血を流す理由は無い」
「別に? こいつらを殺せるならアタシは猟兵に殺されたって構わないけど?」
「お嬢ちゃん連中が巻き添えになるだろうが」
 伊尾奈の人差し指は銃の引き金に乗り続けている。後藤は東雲と伊尾奈の間に割って発砲を阻止していた。
「わたくしは既に覚悟を決めておりましてよ!」
「わたしだって!」
 後藤の背中に那琴とオペレーターの少女の声が投げ付けられる。
「結論は出たかね?」
「アタシの答えはこれだ」
 伊尾奈が後藤を押し退けて前に出る。
「待て、待ってくれ」
 更に後藤が伊尾奈の前に立ち塞がる。
「大佐殿は殺すのか殺さないのかどっちなんだい? 嫁さんと娘さんの怨念返しに来たんじゃなかったの? 気が変わったってならどいておくれ。アタシは気が短い女なんでね」
「付いてくるなら俺のやり方に付き合って貰うと言った筈だが?」
 伊尾奈の殺気立つ鋭い眼差しを真正面から受け止める後藤は巨岩のように微動だにもしない。
「ならこうしないかい? 君達が猟兵を倒せたら僕達は要求を飲もう」
「何を仰って!?」
 夢にも思っていなかった突拍子も無い鈴木の発言に、那琴のみならず伊尾奈さえも目を丸くした。
「鈴木総理、それはなりません」
「まぁまぁ……ここで一番偉いのは僕なんだから……」
 即断否定する東雲を鈴木は気のいい微笑で宥めた。
「もし君達に猟兵を倒すだけの力が備わっているならこの国の命を託すに値する。僕達も安心して席を空けられるという訳だ。それほどの力があれば僕達がいなくなった後も何とかなるだろうからね」
 鈴木は東雲と後藤に視線を交わすと其々に一瞬だけ片目を閉じてみせた。東雲は真意を測りかねて怪訝に眉を顰め、後藤は心中を見透かされたかの如く反射的に視線を逸らす。
「それに僕も直近で見てみたかったんだよねぇ……猟兵の力ってものをさ」
 意気揚々とした笑みを見せた鈴木を見て後藤は溜息と共に肩を落とした。
「死ぬのは不味いなんざ言ってた矢先にこれか」
 パイロットスーツの上から羽織っていた将校用のコートを脱いで「預かっててくれ」とオペレーターの少女の肩に被せた。そして鈴木達に背を向けて扉へと歩き出す。
「後藤大佐! お待ちを!」
 駆け寄った那琴が背中越しに呼び止める。
「ここは任せるぞ。先生方を見張っててくれ。俺が撃てと言うまで撃つんじゃないぞ」
 後藤は半身だけを向けて那琴達を見遣った。
「ったく、だからさっさと殺しとけばよかったんだよ」
 首を横に振った伊尾奈が扉へと歩き出す。だが足を止めた後藤の横を通り過ぎようとした途端に肩を掴まれて静止させられた。
「来るな。俺だけでやる」
 野太い重音には威圧の念が籠められているが伊尾奈は冷めた視線を返すだけで臆する気配は微塵にも表さない。
「大佐殿には色々と借りがあるからね、どうせ死ぬならその前に一応返しておくさ。仰る通り、確かにそこの首相共を殺すのはいつでも出来る。それこそ旗色が悪くなってきたらすぐにでもね」
 肩に乗せられた大きな手を剥がすと後藤の腰を軽く二度叩いて再び歩き出した。そしてごく普通の身振りで扉を開いて通路の先に姿を消した。
「わたくしも参りますわ!」
 後藤の正面に回り込んだ那琴が鳩尾に握り拳を当てて叫ぶ。潤う琥珀色の瞳は震えている。
「おい……」
 遮らせまいと那琴は更に詰め寄った。
「誰かに言われたからではございません! わたくし達は自分の意志でここまで来ておりましてよ! 分の悪い賭けは承知の上で……お父様を誅し、祖国をあるべき道へ戻すにはもうこれしか……それが! あの日、救えなかった友への償いだと……わたくしは信じます!」
 踵を返すと早足で伊尾奈の後を追う。波打つ濡羽色の長髪はすぐに見えなくなった。残された後藤は「まいったな」と深く嘆息し後頭部を掻くと、自身もまた歩みを再開した。
「後藤大佐!」
 大柄の背中に鈴木の声が浴びせられて歩調が止まる。
「君は生きて帰りたまえよ! さもないと、那琴ちゃん達が……!」
「詰める小指は必要でしょうからな」
 後藤は振り向かずにそう答えると足早に閣僚応接室を去った。室内には決まりの悪い沈黙が流れる。東雲の固い眼差しが残された叛徒をなぞるように睨む。するとオペレーターの少女が震える手で銃を向け、他の面々もそれに倣った。
「君達、それを下ろしなさい」
 鈴木がゆったりとした足取りで前に出る。オペレーターの少女が短い悲鳴を漏らして銃を突き付けるが鈴木は開いた両手を見せながら尚も歩み寄る。
「ずっと持ってたら腕が痛いだろう? そんなものを向けなくたって僕達は逃げも隠れもしないよ」
 少女の銃を両手で包み込み「大丈夫、大丈夫」との囁きに穏やかな笑顔を添えて銃を降ろさせる。だが取り上げる事はしない。
「おーい、誰かこの子達に椅子と飲み物を用意してあげて」
 視線を投げかけられた閣僚達が驚嘆に表情を引き攣らせる中で、東雲は面持ちを下へ傾けると片耳に人差し指を添えた。
「総理の身柄の安全を確保しクーデター勢力を拘束しろ。抵抗する素振りを見せたら殺害しても構わない」
 囁くや否や、部屋の外に締め出されていたスーツ姿の警護員達が鈴木の周辺に展開し、残された叛徒達を取り囲む。彼等は徒手空拳でも凶器を持った人間を無力化する技を会得している。叛徒達は怯え一色の表情で手にした銃の先端を右往左往させた。
「やめんか! その子達を脅かすんじゃあない!」
 顔を真っ赤にした鈴木の怒号に緊迫した空気が戦慄する。その場に居合わせた東雲を除く殆どの者の両肩が跳ね上がった。
「ここは僕の官邸だ! 僕に従ってもらう!」
 身を縮こませるオペレーターの少女を庇いながら怒声を張り上げて警護員達を睨む。暫くの間誰もが瞳すら動かせずにいると東雲が片腕を上げた。
「全員部屋の外で待機するように」
 警護員達は互いに視線を合わせた後に東雲と鈴木の顔色を伺いながらおずおずと部屋の外へと下がる。
「さあさ、座って座って」
 鈴木は人格が入れ替わったとしか思えないほどの温和な表情と声音でオペレーターの少女達を空いている椅子へと促す。
「お腹は空いてないかい? 食べ物も持ってこさせるからね」
 妙に忙しい手振りで世話を焼こうとする様子は幼い孫を家に招き入れて張り切る老人のそれと変わらない。少年少女が殆どの叛徒達は戸惑いながらも誘いに従って行儀良く着席し始めた。
「それから、あー、なんだったかな? モニター! モニターをたくさん持ってきて! 香龍中のカメラに繋いで中継するんだ。みんなで見届けようじゃないか。白羽井小隊と猟兵諸君の戦いの行末を」
 鈴木が急かすように手を叩くと閣僚のみならず追い出されていた補佐官や警護員までもが言われた通りの作業に取り掛かる。暁作戦での猟兵の活躍についてオペレーターの少女に尋ねる鈴木を横目に東雲は指を耳元へとあてがう。
「艦隊の状況はどうか?」
 猟兵が敗れるとは考え難いがこの先はいつ何が起こるとも分からない。最悪でも反逆者は確実に殲滅出来るように万全を期して保険を掛けておくのは必然だ。
 安全保障を脅かすものは排除する。それが一夜の過ちで血肉を分けた愛娘であったとしても、政治家の責任と義務を果たすべく。自らも少なからず鋼鉄の狂気に蝕まれているとも知らずに。

●軍神の悔恨
 夜空を映した瑠璃色の海原に穏やかな波が揺れる。月明かりを反射する波は潮の香りを纏う風に押しやられ、広げたシーツのようなうねりとなって海面を孕ませた。その波を鋼鉄の船が引き裂く。船は一隻ばかりではない。大きさを様々に変えて編隊を構成してどれもが等速で進んでいる。日乃和政府が反乱軍を鎮圧するべく予め洋上に待機させておいた特務艦隊だった。
 艦隊の旗艦を担う巨大戦艦三笠の艦橋内に降りるのは出立時から変わらない沈黙。事務的な報告の声と機器が奏でる電子音ばかりが充満しており、乗組員の誰もが不必要に口を開く事を恐れていた。艦長席に座る佐藤泉子中佐も例外ではない。
 沈痛な面持ちの泉子は胸中で語る。後藤大佐は遂に急ぎ過ぎてしまったと。思い返すのは南州が陥落した日に救出した後藤の横顔。あの時既に後藤は酷く壊れてしまっていた事を泉子は知っていた。妻と子を亡くして静かに狂った父親の顔に、自分の顔が重なってさえ見えた。少し道を違えていれば私が後藤大佐になっていただろう。やっと授かった最愛の息子を亡くしてからその予感は益々現実の味を強めていった。
「ですが後藤大佐、貴官の行いは、積み重ねてきた犠牲の全てを無為にする行為なのですよ……」
 あの時私が貴方を止めていれば――今更どうしようもない悔恨が堪えていた感情を言葉にして吐き出させてしまう。沈黙を破った声の主の元に、副艦長のみならず操舵手や通信士までもが姿勢を動かさないまま意識を微かに向ける。
「後藤大佐の配下は暁作戦時の東南方面軍を取り込んだ白羽井小隊、それに不死身の灰色狼ですか……」
 日乃和軍内最強格と呼んでも過言ではない尼崎伊尾奈を抑えられるのですか? そう言外に付け加えて副艦長が泉子へ不安な目線を送る。艦隊戦力は絶大だが本調子ではない。殆どの艦が入渠もほどほどに切り上げて暁作戦で受けた傷を遺したまま鎮圧任務に投入されている。赤城と加賀の艦載キャバリア部隊もさして事情は変わらない。
「案ずるに及ばない。こちらには剛天があるのだ。猟兵諸君が残してくれた剛天がな」
 視線の意図を察した泉子の声音は毅然としていた。眼差しは彼方の水平線を見据えたままだ。
 暁作戦時に猟兵達にあてがわれたスーパーロボット、弐弐式剛天は殆ど無傷のまま作戦終了を迎えていた。その後は南州の天馬基地に運び込まれて整備を受けていたが、此度の反乱軍鎮圧任務のために三笠隷下の特務艦隊に配備され、現在は空母赤城の飛行甲板上に露天駐機されている。あまりにも大型であるため格納庫に収まらないからだ。
 剛天単機でも反乱軍の鎮圧には事足りるだろうが……まさか猟兵達は現状を見越して剛天を温存していたのではあるまいな――暁作戦の折に後藤達と最も近くに居たのは彼等だ。どのようなやり取りがあったのかは想像力を働かせるに他ないが彼等は彼等なりに企みを感じ取っていたのかも知れない。どこまでが猟兵の意図の範疇にあったのかは泉子には判断し兼ねる。しかし彼等が状況の流れを定める役割を与えられている事に違いはないだろう。
「間に合ってくれ……」
 泉子の噛み締めた歯の隙間から苦い声が染み出す。何に対してなのかは本人ですら分からない。艦隊が香龍に到着するまでの時間稼ぎをするはずだった中央即応隊が機能しなかった以上、東雲官房長官の要請の元に猟兵達は既に動き出しているのだろう。せめて現場の状況が掴めれば幸いだったのだが……水平線の向こうを見詰める泉子の目には広域通信網を奪い去った殲禍炎剣への忌々しさが潜んでいた。
 海と空の境界が曖昧となった世界に浮かぶ瑠璃色の満月は、泉子には厭に大きく圧迫感を持って見えた。

●白羽井小隊
 首相官邸前の広場に駐機されていたイカルガが次々に立ち上がる。動力炉が奏でるけたたましい駆動音が首相官邸の正面玄関を覆うガラスを震撼させた。その正面玄関からパイロットスーツ姿の那琴が吹き付ける風圧に逆らって駆け出す。開放されていたコクピットハッチからぶら下がる昇降用のケーブルを掴むと片脚を鐙に乗せた。ウインチがケーブルを巻き取り、那琴を胸部装甲の中へと招き入れてハッチが閉ざされた。
『ほら! やっぱりあたしの言った通りになったじゃん!』
 操縦席に身を埋めた途端に耳朶を打ったのは栞奈からの無線。既に白羽井小隊の各機は臨戦態勢に入っていた。首相官邸前に展開している者達のみならず、都市内の各地で待機中の機体も同様だ。
「各機、聞いておりましたわね? 敵は猟兵の方々ですわ」
 極自然に言ってのけた自分に薄ら寒い嫌悪を感じた。かつて自分達の命を救い、国を救ってくれた英雄達に恩を仇で返す。外道の極みだなと内心で唾棄する一方で、しょせん彼等は雇われの兵でしかないという諦観の念も抱いていた。自分達はどう言い訳しようとも政変を企てた叛徒で、猟兵達は政権側に雇われた戦力。お互いに敵は倒さなければならない。関係は至って単純だ。
『尼崎中尉も言ってたけどさー! さっさと殺っちゃわないからこうなるんだよ!』
 栞奈の叱咤を気にも留めずコンソールパネル上を指で叩く。孤独なコクピット内で電子音が脈動し、計器類に仄かに灯る光が那琴の顔を亡霊のように浮かび上がらせる。センサーが取り込んだ周辺環境がCG補正を受けた後にメインモニターへと出力された。眩い光を敷き詰めた香龍の夜景が目の前に拡がる。祖国が誇る地上の星だが、那琴はあまり好きにはなれなかった。自分には眩しすぎる。
『コング01より各機、通信状況は……問題無いな?』
 この低く野太い声も聞き慣れて久しい気がする。メインモニターの片隅に立ち上がったサブウインドウ内には近接戦術データリンクを結んでいる機体達の一覧が表示されている。東南方面軍や灰狼中隊等の戦力を編入した現在、羅列される名の数は膨大だ。その内のひとつであるコング01は後藤宗隆がかつてキャバリア部隊を率いていた頃のコールサインであるらしい。当時はゴリラ中佐の渾名で呼ばれていたそうだからそこから拝命したのだろう。
『ウルフ01問題無し』
「フェザー01よりコング01へ、問題ございませんわ」
 伊尾奈と那琴を皮切りにして同じ応答が次々に挙がった。
『さあて、いよいよ最終確認だ』
 皆が皆一様に無風の湖面の如く静まり返る。
『想定通り先生方は猟兵を味方に付けた。官房長官の様子からして、もう香龍入りしてるらしいな。猟兵を倒しちまえば俺とお前さんらの悲願は丸々叶う……が、相手は猟兵だ。連中の出鱈目振りは知ってるな?』
 人喰いキャバリアに向けられていた脅威が遂に自分達へと向けられる。当然勝算は薄い。唯一見出せる勝ち筋があるとすれば数と地の利だが、猟兵ならばユーベルコードの力でどうにでも覆してしまうだろう。幾度となく猟兵と行動を共にしてきた白羽井小隊のみならず、全員が同じ所感を抱いていたに違いない。
『逃げたい奴はすぐに逃げろ……と言っても、今更聞かんよなぁ』
 嘆息が付いた言葉尻に息を詰める者はいない。事を起こした時から――それよりもずっと前に覚悟を決めていたつもりなのだから。猟兵達に銃を向ける事に抵抗が無いわけではない。だが割り切りも覚悟の内に含んでいる。元より彼等は金で雇われた兵士。今回は偶々敵側に雇われた。不幸な巡り合わせだと思う。ただそれだけの話しだ。
『まあなんだ、途中で気が変わった奴は中央即応隊を頼って離脱しろ。御転婆教皇様が逃げ道を用意してくれている筈だ』
 唇を固く結ぶ那琴にそのつもりはない。しかしなんだろう、この腹の底から湧き上がる赤黒い高揚感は。那琴は無意識に自身の手へと目を落とした。自分はこの感情の正体を知っている。かつて彼等に抱いていた憧れ。だが戦いを重ねる中で暗い嫉妬心へと変じてしまった。
 理不尽を理不尽で捻じ伏せる力、ユーベルコード。自分にもあの力さえあれば。自分も猟兵だったのなら。
『那琴少尉は随分と入れ込んでるな』
 以前とある猟兵に言われた。
「当然ではありませんの……」
 あんな力を目の前で見せ付けられて羨ましくならない理由があるなら教えて欲しい。
『白羽井小隊のお嬢様方、猟兵との戦いじゃ連中を一番良く知ってるお前さん達が頼りだ』
 後藤から向けられた言葉に那琴は何も返せない。代わって栞菜が『まっかせて!』と脳天気に応じる。
『ウルフ01、不死身の灰色狼の腕前、当てにさせて貰うぞ』
 伊尾奈は素気なく了解するだけに留まった。那琴は操縦桿を握り込んで顎を引く。思えば自分の技量は猟兵はおろか栞菜と伊尾奈にだって及ばない。いっそ二人が猟兵を倒してくれればいいのに。そんな甘い願望さえも猟兵は微塵に打ち砕いてしまうのに違いない。
「フェザー01より白羽井小隊全機! 猟兵の方々の多くは少人数での行動が主体ですわ! 連携で押しなさい! ユーベルコードにもご用心を!」
『ご用心ってどうご用心したらいいのさ?』
『そりゃ同感だな』
 白羽井小隊の隊長らしい号令を栞菜が冷やかす。後藤が便乗すると同じ周波数帯域に失笑が広がった。
『こちらウルフ01、先に行くよ』
 伊尾奈が搭乗するイカルガが翼状のフライトユニットを展開して飛び立つ。すぐに後藤機が続き、他の機体も次々に地表を蹴り出す。
「猟兵の方々、参ります!」
 琥珀色の瞳が見詰める香龍の夜景のどこかに敵がいる。那琴は戦意を込めてフットペダルを踏み込んだ。猟兵を突破して復讐を果たさなければならない。それがあの時、愛宕連山で友を救えず、生き残ってしまった自分の使命だから。
「そしてわたくしは……戦いの中で死ななければなりませんのよ」
 己に言い聞かせた誓いは、推進装置の噴射音に掻き消された。

●願い
 煌びやかな香龍の方々で生じる新たな輝き。それは猟兵達が放つ光だったのか、白羽井小隊が放つ光だったのか。
 輝きは夜間の寒々とした空気を戦慄かせる騒音と共に動き出した。香龍に残った者達の中でそれに気付かない者は殆どいない。海軍基地の埠頭に係留されている空母、大鳳の艦橋にて独り佇む葵結城とて例外では無かった。
 電力が落とされた艦内に満ちるのは不気味なまでの静寂。艦橋においても同様だ。計器類に照明は灯らず、頼りない非常灯と超剛性プラスチック越しに取り込まれた香龍の人工光源、そして青白い月だけが明かりをもたらしている。
「私の可愛い那琴、私の愛する那琴……貴女は遂に猟兵様の導きを叶えたのですね」
 月光が浮かび上がらせるのは亡霊の如き青い肌。結城の口元が蠱惑的な微笑に綻ぶ。発する声音は達成感に似た感慨を含んでいた。琥珀色の瞳を埋めた双眸には瞼が浅く降ろされる。見る者がいれば妖狐を想起させられたであろう。
「囁きは既に遠く、私の役割は終わり、貴女の役割も終わりました。これでやっと、私と貴女が生まれてきた意味は成就されたのです」
 眼差しは大都市を疾走る光輝のひとつだけを追っている。
「ですから那琴……最期は貴女の道をお往きなさい」
 子を案ずる母のような面持ちの瞑目。胸元に運んだ右の拳を左の掌で包み込む。
「そして……猟兵の皆様」
 祈りを籠めた後、目蓋が緩慢に開かれた。琥珀色の瞳は既に那琴機が放つ光を追っていない。
「あなたは殺すでしょう。望まれるがままに」
 不可視の壁が恍惚な笑みを映す。
 斯くして狂気の始まりは、その胎内に宿した神託を産み落とし、猟兵達をこの場へと誘い終えた。

●血は焼き付くほどに煮え滾り
 愛宕連山補給基地撤退支援。南州第二プラント奪還。南州第一プラント調査。沙綿里島西海岸防衛戦。日乃和西州奪還。人造の思惟は移ろい何処へ彷徨う。死神の憎悪。密会。秘めた確執はより重く。死神会談録。哀悼。託された祈りは執心の色を宿し。思惟の力。凶犬強襲。東雲那琴、エドゥアルトちゃん係になる。第二回死神会談録。明晰夢。ME会談録。神託。
 猟兵達が結んだ鎖はひとつの終着点に辿り着いた。
 鋼鉄の狂気に深く蝕まれた白羽井の防人達は、既に闘志で血を煮沸させている。望む幕引きの結果を得たいとするならば、もはや力を以てして遍く障害を捻じ伏せる他にないのだろう。多くの猟兵がこれまでそうしてきたように。多くの猟兵がこれからもそうするように。鋼を引き裂き、血肉を灰にして。
 強者絶対。弱者必滅。示された答えの評決権は勝利者のみに与えられる。
 だが今も尚――或いは今だからこそ、憎悪を熟成させ続けた棺の中で、戦いの行方を覗き観る碧眼が嘲笑う。この国を骸の海に沈めるのは、猟兵達なのだと。
シル・ウィンディア
今まで一緒に戦った人たちがっていうのはきついものがあるよね。でも、精神汚染されているだけなら、まだ行けるはずっ!
リーゼ、行くよっ!!

高度に気をつけつつ空中戦で対抗するよ。
イカルガは量産機でも性能が高いしね。
でも、リーゼはさらに上だよっ!!

ビームランチャーの狙撃モードで敵攻撃の射程外から狙撃するよ
狙うは腕部か脚部。バランス崩すと空戦では致命傷だしね。

その後はライフルモードのランチャーとツインキャノンで撃ち抜いていきつつ、接近してからビームセイバー!推進器を狙っていくよっ!!
接近時はバルカンも使いつつ攻撃だね

UCはマルチロックしてからのエレメンタル・ファランクス!
拡散できるんだよ、この魔法っ!



●四光乱舞
 綺羅星を散りばめた夜空。その天に手を伸ばさんと屹立する摩天楼の群れはキャバリアからしても尚巨大だった。深い空色に縁取られた白亜の装甲を纏う機体がそれらの狭間を縫って駆け抜ける。背負う双翼の推進装置が青白い光の線を後に残す。
「こういうのってお互いきついよね……」
 予断無く視線を四方に走らせるシル・ウィンディア(青き閃光の精霊術士・f03964)の双眸が重く細められる。発端となった愛宕連山の一件以降、現在に到るまで日乃和を巡る任務に身を投じてきた彼女としても、白羽井小隊に対して思う所が無い訳では無い。
「でも、精神汚染されているだけなら、まだ……!」
 操縦桿を握る指先に力が籠もる。成す術は残されている筈だと。接近を報せる警告音が鳴り響く。
『敵機発見! アルジェント・リーゼ! いや違う……!?』
 シルが走らせた目線の先でイカルガの編隊がビルの隙間から出現した。
「行くよ、レゼール・ブルー・リーゼ!」
 フットペダルを踏み込むとメインスラスターがそれに応えて唸りを挙げる。側面から伸びた突撃銃の火線を前方への瞬間加速で躱す。
「リーゼのスピードなら!」
 僅かな推進噴射で姿勢を反転したレゼール・ブルー・リーゼがヴォレ・ブラースクを構えた。狙撃モードの設定で発射された集束魔力粒子が鋭い光軸となって迸る。
『流石に速い……! だけど装甲は薄いはず! 当てることさえ出来れば!』
 シルがトリガーに指を掛けた時点で既にイカルガの編隊は陣形を解いて各方に散っていた。青い光線が虚空を貫く。
「囲まれる!?」
 殺気が複数方向から膨らんだ。シルは機体を横に退かせる。頭上から銃弾が降り注いだ。レゼール・ブルー・リーゼは横方向へ推進加速しながら左のマニピュレーターでエトワール・ブリヨントの発振基を抜き放つ。
「今度は下……っ!」
 下方から掬い上げるように迫ったイカルガのビームソードを間一髪で形成が間に合った星光の刃で打ち返す。弾き飛ばされる二機の間に青い粒子が割れた硝子のように舞い散った。
『逃さない!』
 更に斬りかかろうと肉薄するイカルガ。
「この距離でならぁっ!」
 シルの指先が操縦桿のホイールキーを回す。レゼール・ブルー・リーゼが背負う二門の砲を正面に倒して砲身を伸長させた。充填もほどほどにトリガーキーを押し込む。グレル・テンペスタが圧縮した魔力粒子を放つ。
『くっ!? アンダーフレームが!』
 至近弾を受けて脚部を喪失したイカルガが黒煙を引き連れながら下方へと落下する。だがシルにはそれを見届けている余裕などない。
「やっば!」
 先ほどの一機は囮だったらしい。耳障りなミサイルロックオン警報に心臓が早鐘を打つ。夥しい数のマイクロミサイルが殺到した。レーダーグラフ上の四方がミサイルの光点で埋め尽くされる。
「躱しきれなきゃ……!」
 自動迎撃機能が働いた。エリソン・バール改が光弾を高速で連射し逸速く接近したマイクロミサイルを撃ち落とす。シルは左右の操縦桿を手元に引き戻してフットペダルを目一杯に踏み締めた。
「く……うぅぅっ!」
 強烈な重力加速度に食い縛った歯の隙間から呻きが漏れる。全力でバックブーストするレゼール・ブルー・リーゼ。猛追するマイクロミサイルの群れ。それらをエリソン・バール改と連射モードのヴォレ・ブラースクで迎撃しエトワール・ブリヨントで切り払う。青白い光弾が走る度に緋色の爆炎が花開き、やがてシルの視界が埋め尽くされた。
『やったの!?』
 大都市のビル街に咲いた爆光にレゼール・ブルー・リーゼが呑まれ、白羽井小隊の其々が喜色めいた声を零す。
「――闇夜を照らす炎よ、命育む水よ、悠久を舞う風よ、母なる大地よ」
『いや! まだだ!』
 黒煙を脱したレゼール・ブルー・リーゼは尚もバックブーストを継続していた。そしてイカルガのパイロット達は身の毛をよだたせたであろう。白と青の妖精機動騎士が放つロックオンパルスに。
「我が手に集いて、全てを撃ち抜きし光となれぇっ!!」
 斯くしてエレメンタル・ファランクスの詩歌を紡ぎ終えたシルは裂帛と共に左右の操縦桿のトリガーキーを引いた。レゼール・ブルー・リーゼの双肩に備わるグレル・テンペスタが四色の光を綯い交ぜにした螺旋の光軸を放つ。
『そんな巨砲なんかじゃあ!』
 当たるものかとイカルガ達が一斉に推進噴射の光を爆ぜさせた。先ほどの砲撃で既に見切っている。最悪誰かは落とされるかも知れないが、残りが取り囲んで十字砲火を浴びせれば終わりだと。だがその判断が誤りだった。
「拡散できるんだよ、この魔法っ!」
 光軸の螺旋が解けて百を超える無数のうねりとして飛び散る。防風に煽られた蔦の如く暴れ狂ったそれらはビルや路面をなぞって構造物の破片を弾けさせた。そして反応が遅れたイカルガ達も同じく光の暴虐に蹂躙され、手足或いはフライトユニットを喪失して次々に墜落する。グレル・テンペスタの砲門が魔力粒子を放出し終えた頃には、火花を散らす鉄の骸がアスファルトの路面に幾つも転がっていた。
「ちゃんと生きてる……よね?」
 少しばかり派手にやりすぎてしまった感もあるが、とりあえずパイロットは生きているらしい。生体反応は消えていない。一瞬嫌な冷気で固まった背筋が安堵に脱力する。
「そこでしばらく安静にしてて!」
 シルは転がるイカルガに全周波数帯域の通信で呼びかけると、操縦桿を横に倒して機体の方向を反転させた。
「大丈夫、すぐ終わらせてくるから……わたしが、わたしたちが!」
 まだきっと間に合う。苦い焦燥が青い瞳に滲む。幹線道路上の極低高度を滑空するレゼール・ブルー・リーゼ。装甲の曲面に沿って流れる風が、エール・リュミエールの推進噴射の残光を軌跡に踊らせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレスベルク・メリアグレース
白羽井小隊の皆様…先の会談でわたくしのスタンスは聞いたはずです

そう言って殺竜兵器を搭載した聖騎士のキャバリアが小隊の前に阻む

我が騎士達に告げます
小隊の皆様を撃破した後、彼らの人質となってメリアグレースへの国外亡命を受理しなさい
鈴木総理には人質を取られて止む無く受理したことにします

そう言って不殺を遵守させた上で小隊を撃破し、パイロットを保護した後少しずつ戦場から離脱させていきます
言ったはずですよ、この物語の結末はわたくしが決めると…
そう言って結城がいる方向へと瞳を向け、ヴォーパルソードでキャバリアの四肢を砕きまた一人パイロットを保護して亡命させます



●竜血騎士団
 聖教皇国に伝わり受け継がれてきた神騎、ノインツェーンの玉座に腰を埋めるフレスベルク・メリアグレース(メリアグレース第十六代教皇にして神子代理・f32263)。彼女が瞑目より覚醒する。容姿こそ少女といって差し支えないが、エメラルドの瞳に宿る思惟は教皇のそれに違いない。
『ノインツェーン……メリアグレースの機械神も来たか……!』
 通信装置が拾った音声の主は白羽井小隊の隊員のいずれかであろう。言葉尻には畏怖とも戦意とも付かない震えが垣間見える。香龍の中央区画にて大規模な十字路の中心に立つノインツェーンをイカルガ達が取り囲む。
「白羽井小隊の皆様、それに後藤大佐。私の意思は以前の会談で既にお伝えした通りです」
 微かに俯いたフレスベルクの面持ちには薄い寂寥が滲んでいた。こうなる事は暁作戦の折でもう解っていた。そして避けられない運命にある事も。だからこそ|あの時《・・・》の密会で先んじて根を回していた。
『ごめんなさい……私達ももう退けないから……!』
 イカルガ達がそれぞれの武器を向けてにじり寄る。フレスベルクは浅く息を吐く。
「あなた方を悪意の枷から解き放つには、やはり……」
 剣をぶつけ合うしかない。ノインツェーンが報せる被照準警報が少年少女達の怨嗟のように聞こえた。
「拝跪せよ、我が聖騎士。汝に授けるは竜殺しの御業たる武器。その剣、槍、弓、遍く殺竜たる武装を以て正義を為せ……」
『全機攻撃開始!』
 フレスベルクが祝詞を唄い、イカルガ達が一斉に退いて飛び立つ。ノインツェーンを中心として路面上にメリアグレースの紋章が幾つも浮かび上がった。そこから光輝を放つキャバリアが地より湧き立つようにして生じる。
 フレスベルクが召還した機械聖騎士団。いずれも騎士として最大の栄誉たる竜殺しを成す武器を携え、ノインツェーンを守護するべく円の防御陣を敷いた。
「我が騎士達に告げます。小隊の皆様を撃破した後、彼らの人質となりメリアグレースへの国外亡命を受理しなさい。鈴木総理には人質を取られて止む無く受理したことにします」
 フレスベルクが片腕を横に薙ぐと機械聖騎士達が仰せのままにと脚を踏み鳴らす。
『みんな! ノインツェーン本体を狙って!』
 退いたイカルガ達は幾つかの編隊に分かれて左右に迂回する。だがフレスベルクは目線を走らせるだけでその場を動こうとしない。聖騎士団も大盾を構えて壁を形成するばかりで防御陣を敷いたままだ。
「決して搭乗者を傷付けぬよう……」
 フレスベルクの唇が言葉を零したのとイカルガの編隊が攻勢に出たのは同時だった。高層ビルの陰から姿を現したかと思いきや猛進。被照準警報が誘導弾接近警報へと変貌する。もう一方のイカルガの編隊も異なる突入角度から同様に仕掛けてきた。しかし射線を聖騎士団の大盾が阻む。マイクロミサイルが次々に着弾し爆炎が炸裂した。
『邪魔をしてぇっ!』
 イカルガが振りかざしたビームソードを聖騎士が大盾で受け止めて弾き返した。体勢を崩した刹那に突き出された槍が腕部を、或いは脚部やフライトユニットを穿つ。
『うあぁぁぁっ!?』
 推力を喪失したイカルガが慣性のままにアスファルトの路面を削って墜落した。尚も立ち上がろうとするが聖騎士達が大盾で抑え込みに掛かる。他のイカルガも同様に突撃を阻まれて地に伏した。
「中央即応隊へ引き渡してください」
 フレスベルクがそう命じれば聖騎士は右腕のマニピュレーターを左胸部にあてがった。以前の密会の後に後藤大佐は中央即応隊と共謀して叛乱軍がフレスベルクの元へと到れる逃げ道を確保している。かつて暁作戦の終盤の折、この場における多大な流血を視たフレスベルクは先んじて手を下していたのだ。
「これが鎖を断つ決定打となるか……それはわたくしにも解りません。ですが」
『教皇さえ倒せばっ!』
 イカルガが単機でノインツェーンの直上から急速降下を仕掛ける。フレスベルクは片手を天にかざす。ノインツェーンも同様の挙動を取った。イカルガのビームソードが振り下ろされる。荷電粒子の刃が神騎の装甲を溶断しようとした瞬間、ノインツェーンの腕から聖教皇国の紋章を描いた光の円が生じた。盾となった円がビームソードを受け止め、もう一方の腕のマニピュレーターに生じさせた剣――ヴォーパルソード・ブルースカイを二度三度と横に縦にと振るう。
「オブリビオンマシンの思惑は必ず打ち砕きます」
 四肢を喪失して達磨となったイカルガのオーバーフレームをノインツェーンが優しげに抱き留める。フレスベルクが甘く蕩けるような聖母の声音で「もう大丈夫ですよ」と接触回線で伝えると、パイロットは抵抗の気勢を失った。そして彼方から感じた憎悪の視線。緩慢に振り返るとその果ては埠頭に係留されている大鳳に通じていた。
「言ったはずですよ、この物語の結末はわたくしが決めると……」
 フレスベルクの双眸が細められる。彼女とノインツェーンの神眼が睨め付けていたのは、猟兵と白羽井小隊の戦いを見届ける結城だったのか、或いは――。
 棺の中の憎悪の根源は、碧眼を煮え滾る怒りの紅眼へと変じさせつつあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジェイミィ・ブラッディバック
今回の私の任務はオブリビオンマシンの撃破に加えて、
日乃和をはじめとするクロムキャバリア各国の戦力及び情勢調査と、対オブリビオンマシンの戦闘教義構築……後者2つはアンサズ連合からの依頼ですがね。
このクーデターを放置すれば、いずれはアンサズ連合に飛び火する可能性もありますし。

セラフィム・リッパー、プラチナムドラグーン、ストライクフェンリル各中隊を市内全域に展開して敵勢力を燻り出します。UCでプラチナムドラグーンを量子複製、イカルガを追撃します。
ミサイルはセラフィム・リッパーのビットで対処。
私はTYPE[JM-E]に搭乗、各中隊を指揮しつつビルの合間を縫うように移動し伊邪那岐の斉射を叩き込みます。



●人形使い
 大都市の香龍は今や殆ど無人だ。であるにも関わらず街路は壮麗なまでの夜光に彩られていた。巨大な高層ビルが作り出す壁の間を縦横に伸びる幹線道路。その車線を白い装甲のキャバリアが滑走する。 
「各無人機の配置状況は?」
 HMCCV-CU-01[M] TYPE[JM-E]"MICHAEL"の核となったジェイミィ・ブラッディバック(脱サラの傭兵/Mechanized Michael・f29697)のスリット型センサーカメラに赤い光が流れる。視界の中には香龍全域の三次元立体モデルが展開していた。
『セラフィム・リッパー、プラチナムドラグーン、ストライクフェンリル、いずれも所定の座標地点に展開済みだ』
 人間的に表現するのであれば頭に直接響くといったところだろうか。事象予測人工知能のWHITE KNIGHTが淡々とした電子音声で答えると、モデルの各所に幾つもの光点が表示された。手駒となる無人機は香龍市街に中隊を成して戦闘準備に入っている。
「結構です。後は燻り出すだけですが……」
 暫しジェイミィは言い淀む。
『この火が拡大すれば、いずれアンサズ連合にまで及ぶとも限らんからな』
「それは白騎士としての予見ですか?」
『するまでもない。日乃和が堕ちれば次はアーレス、その次はと蝕みを際限無く拡大し続けるのはオブリビオンマシンの思惑の常だろう』
 ジェイミィは「まあそうでしょうね」と頷く素振りを見せた。今回ジェイミィに掛けられた任務はオブリビオンマシンの撃破だがそれだけではない。アーレス大陸方面の各国の戦力及び情勢調査、そして対オブリビオンマシンの戦闘教義構築。
「アンサズ連合も安全保障に関しては決して妥協しない……という事ですか」
 後述の二つの案件は別口で請け負った依頼だ。依頼主がアーレスにどれほどの価値を見出しているかは想像力を働かせる他に無いが、かつてオブリビオンの跳梁により苦汁を舐めさせられた身としては、それらを問題として抱える政治共同体に警戒を向けない理由はないのだろう。そしてオブリビオンマシンが犇めいている環境条件は戦闘教義に纏わる情報収集手段に事欠かない。
『セラフィム・リッパー、間もなく白羽井小隊と交戦するぞ』
 三次元立体地図上で同機を示すマーカーが波紋を発する。ジェイミィの視界にウィンドウが立ち上がった。セラフィム・リッパーがセンサーカメラで取り込んだ光景の中継映像だ。ビル街の大通りらしい。
「小隊とは名ばかりですね」
 ブリーフィングでどこぞの部隊を取り込んだとは聞いていたがそれにしても数が多い。合計12機で構成されるセラフィム・リッパーの中隊に対し同数程度の分隊で戦列を組むイカルガが襲来する。
『セラフィム・リッパー!? 猟兵の機体なのか!』
 見るや否や先手必勝と言わんばかりに突撃銃を撃ち散らす。
「交戦開始」
 ジェイミィが短く言い切る。合わせてセラフィム・リッパー達は回避運動を取りながら光の翼より荷電粒子光線を放つ。イカルガは編隊を解消して散らばりセラフィム・リッパーを取り囲む。直後に誘導弾の被照準警報が鳴り響いた。
「マイクロミサイルですか」
『クリスタルビットをリリースさせるぞ』
 イカルガの放った無数の超小型誘導弾に対しセラフィム・リッパー各機はエンジェルビットを放出する。空中で乱れ飛ぶ攻撃端末が鋭い光線を放つ。貫かれたマイクロミサイルが視界を埋め尽くさんばかりに爆発を連鎖させる。
『セラフィム・リッパー中隊に新たな敵軍が接近中だ。包囲するつもりだな』
「初手から忙しいですね。支援に向かいますか」
 TYPE[JM-E]は急制動を掛けて方向転換、敵軍が集結しつつある地点へと滑走を開始した。
『間に合わんな。数も多い。先にプラチナムドラグーンを向かわせる。量子複製しろ』
「おお、忙しい忙しい……」
 WHITE KNIGHTの「さっさとしないか」との急かしを受けたジェイミィは「解っておりますとも」と応じる。そして視界にWARNING:INCOMING ENEMY ATTACK...QUANTUM COPY READY FOR LAUNCHとの文字列が表示された。プラチナムドラグーン――飛竜型無人機の量子複製体が次々に出現し、セラフィム・リッパーとイカルガの交戦区画へと乱入する。
『こいつら、どこから現れて!?』
 プラチナムドラグーンの一機が集中砲火を受けて地に堕ちる。だがひしゃげ穿たれた装甲がすぐに原型へと回復を果たす。
『再生した!?』
 翼を広げて飛び立つ。そして気取られたイカルガに食らい付く。もつれ合った二機はビルの側面に激突した後に落下した。
「ストライクフェンリル隊の方はいかがです?」
『交戦中だ。敵の合流を抑え込んでいる』
 ポップアップした映像上ではアークライト自治領の最新鋭陸戦型可変機が狼形態でイカルガの集団と射撃戦の応酬に興じていた。随分派手に撃ち合っているらしく、オフィス街の道路には双方の損壊した機体が幾つも転がっている。戦況は膠着していると言っていいだろう。狼達が抑制を働かせてくれている限り、セラフィム・リッパーとプラチナムドラグーンの支援に回る時間の猶予は捻出できそうだ。
「いやあ、やはり数とは正義ですね」
 ジェイミィの物言いは呑気だが機体制動は忙しい。高層ビルと高層ビルの隙間を抜けては大通りに飛び出してまたビルの隙間へと飛び込む。接地しているアンダーフレームの足裏からは夥しい火花が散る。
『次の曲がり角だ。距離120。出たらすぐに撃て』
「照準補正は?」
『プラチナムドラグーンとセラフィム・リッパーとのデータリンクで既に完了している』
 気配り上手な白騎士の電脳に感謝しながらTYPE[JM-E]は推進噴射の光を一回り肥大化させた。視野に直接投影されたガイドに従い急停止を掛けて直角にドリフトターンを掛ける。ビルの横を抜けた先に広がっていたのは片側複数車線の大きな道路。都市の交通の利便性を支えていたであろうそこは今や三機種混合の乱闘会場に変容していた。
「ああ、武器は――」
『伊邪那岐でいい』
 イカルガを全滅させて終わりではない。この後の戦闘に備えておけ。そんな言外に含まれた意味を察したジェイミィは我が半身のTYPE[JM-E]へと攻撃指示を下す。両腕のマニピュレーターに携えた短銃身のパルスマシンガンがフルオートモードで撃ち放たれる。合わせてセラフィム・リッパーとプラチナムドラグーンが飛び退くと、電磁加速弾体が防雨となってイカルガに襲いかかった。全周波数帯域越しに悲鳴が挙がる度に翼を失った機械の鳥達が固く冷たい地面へと叩き落される。TYPE[JM-E]のセンサーカメラは、それらの光景を無機質に照り返していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

川巳・尖
地球に似てるけど違う世界、違う国
思ってたよりずっと厳しそうだけど、やらなきゃいけないこと、やりたいことは分かってる

猟兵と一緒に戦ってきた歴戦の兵達らしいけど、あたいのことは知らないよね
退かぬなら、化かしてみせよう、何とやら

水妖夜行で建物の間を素早く抜けて、イカルガに近付く
殲禍炎剣ってやつにも注意だけど、こっちの能力がバレないように飛ばないで、走ってるように見える感じで行こう
撃つのは武器だけ、コクピットは何があっても避ける
拳銃の弾なんか効くはずない、なんて思ってくれてたら驚かせそう
複数の相手から撃たれて、走るだけじゃ避けきれなくなったら飛び上がってもっと驚かせてあげる

命は取らないよ、絶対にね



●百機夜光
 大都市のビル街を風が吹き抜ける。大気が轟く。ここの空気の味は白嶺によく似ている。だが決定的に違う。川巳・尖(御先・f39673)の蛍火色の瞳にその街並みはどう映っていたのだろうか。そよぐ風が黒髪を揺らした。耳元を庇うように手をあてがう。遠くで鳴り響いた重音が空気を震わせた。
「匂いも似てる気がするけど……」
 新改の武器工房に香る金属と硝煙の匂いに。されども漂う感情は刺々しく殺伐に張り詰めている。予感はしていたが、|外界《そと》の世界はやはりずっと厳しく残酷らしい。
「でも、あたいのやらなきゃいけないこと、やりたいことは分かってる」
 ひとつ瞬きをして自分に言い聞かせる。忘れないようにと。地肌がざわめき出す。自分でも気付かぬ内にマコモHcのグリップを指が白くなるほどに強く握りしめていた。
「来た」
 白嶺の空を飛んでいた大剣が放つ音と似たような騒音が次第に近づいてくる。首を捻って後ろを向けば、複数体の鉄の巨人が高層ビルの隙間を擦り抜けて躍り出た。
「あれが……」
 キャバリアか。尖の華奢な身体は無意識の内に腰を落としていた。
『うそ……生身!?』
『油断しちゃだめ! 猟兵の人は生身だってキャバリアくらいに戦える!』
 どうも困惑しているようだが相手もこちらを見留たらしい。生身ひとつで戦う猟兵の存在は知っている口振りだが見立て通り尖個人を知っている訳ではないようだ。
「退かぬなら、化かしてみせよう、何とやら」
 双眸を細めて薄い笑みを作って見せる。
『う……悪いけど!』
 イカルガは躊躇いながらもアサルトライフルを向ける。銃口がマズルフラッシュを吐き出すのに先んじて尖は身を横に跳ばした。直後に人体ならば跡形も無くなってしまう威力を持つであろう火線が駆け抜ける。
「おぉ怖い」
 尖兵の背筋に冷たい感覚が伝う。避けて終わりではない。横幅が詰まったビルの狭間に飛び込んだ。すぐ後ろをイカルガが追い立てる。またしても銃弾が浴びせられた。
「そっちから近付いてくれるのはいいけどさ」
 曲がり角に入り込む。主要な道路に面しているのであろう大通りに出た。頭上をけたたましいエンジン音が通り過ぎたかと思いきや真正面にイカルガが降着した。腕で顔を庇う。路面に噴き付ける風圧に煽られたシャツの裾がはためき波打つ。
「まあ、そうなるよね」
 背後で巨大な何かが地面を踏み鳴らす音が聞こえた。振動が脚から伝わる。前後を挟まれた。紛れもなく絶対絶命――であるにも関わらず尖は焦燥した様子を気配さえ見せない。マコモHcを握る腕をおもむろに前へと突き出した。
『拳銃!? そんなのじゃ!』
 尖の眼差しが照星越しにイカルガのアサルトライフルを睨め付ける。
「意識を集中して、力を籠めて……」
 キャバリアの駆動音に掻き消されてしまいそうなほど乏しい呪言。トリガーに乗せた指先を引くと、マコモHcの銃口が跳ね上がった。そして放たれた一発の銃弾は狙い定めたイカルガのアサルトライフルに命中。甲高い金属音が道路に沿って並ぶビルに反響する。
『やめなよ! 効くわけないでしょ!』
 イカルガが背負う翼のハッチが開く。すぐに『ごめんね!』との苦い声が続き、内部に密集していたマイクロミサイルが一斉に放たれた。前後から殺到する誘導弾の群れはいずれも尖だけを狙っている。
「ばいばい」
 片手を振ってみせた直後、尖の身体は夥しい数の爆光の中に消えた。
「なんちゃって」
 かのように思われた。
『上!』
『飛べたの!?』
 水妖夜行を隠し球として取っておいた甲斐があったようだ。だが爆光の上方からイカルガを見下ろす尖を視認したパイロットが驚嘆したのは単に飛び上がったからという理由だけではない。先ほどの少女には無かった圧力――外観こそ変化が無いが、人間の本能を竦み上がらせる悍ましい圧力を放っていたからだ。
『まだっ!』
 イカルガが突撃銃を向ける。しかしフラッシュハイダーが発砲の炎を焚く事は無かった。銃身に亀裂が入ったと思いきや紫色の禍々しい光が滲み出し、短い悲鳴と共に粉々に砕け散る。
「驚いた?」
 尖の口角が僅かに歪む。返答を待つまでもなく銃を喪失したイカルガに取り付く。立て続けに放った銃弾が機体の四肢を射抜く。穿たれた小さな孔から亀裂が拡大する。そして先ほどの銃身と同様に乾いた土塊の如く砕けて崩れ落ちた。
『何が、起きて……!』
 愕然としていたもう一機のイカルガが銃の照準を向ける。
「いま撃ったら友達に当たっちゃうよ」
 敵機が躊躇を見せた一瞬で尖が足場となっているイカルガの骸を蹴飛ばし宙に踊り出る。浴びせられた小銃弾を舞う胡蝶の如く躱し、マコモHcの銃口を標的へと重ね合わせた。
「命は取らないよ、絶対にね」
 響いた銃声は四回。イカルガの両手両脚にひび割れが伝う。
 マコモHcに籠めた妖力。それが機械の血の通いを断ち、内を蝕む呪いと変じて物体の繋がりを綻ばせたのだ。
『なによこれ……! 動かない、動かないよぉ……!』
 そんな事情などついぞ知らないイカルガのパイロット達は、訳も解らぬままに機体の四肢をもがれて錯乱しているようだった。尖が軽やかな足取りで降着する。
「大人しくしてなよ。その内迎えが来るから」
 オブリビオンマシンの手の上で転がされるのを良しとしない猟兵達がそういう風に動いているらしい。胴体だけになった機械の巨人に一瞥をくれてやると爆轟が響く方角へ踵を向けた。
「……逃さないよ」
 微かに呟いた言葉が向かう先に芽生えた宿命が倒せと囁く敵がいる。猟兵を都合良く利用して血みどろの舞台を作り上げようとしてくれたオブリビオンが。今も奴はあたいを視て薄気味悪くほくそ笑んでいる――ならば祟ってやる。災いを呪う悪霊の草履は確かな歩みで進み出す。アスファルトの地面に落ちた薬莢が澄んだ高音を鳴らした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィリー・フランツ
(HL-T10 ヘヴィタイフーンMk.Ⅹ・UC熟練操縦士にて性能強化)

心情:遂にひよっこを伴って暴発しやがったか。
マシンの洗脳が有ったとは言え、この国も長くねぇな。

手段:市街地の反乱勢力を排除する。
交戦距離も短いだろうからRS一六式自動騎兵歩槍による射撃とRXバーンマチェーテによる近接攻防が中心だ。
EP-Sアウル複合索敵システムもある、ビル群での角待ちも電波妨害がない限り早期発見は可能だ、逆にRSファイアクラッカーを投擲して炙り出してやる。

此方は被弾前提の盾持ち重装機だ、生半可な攻撃じゃ効かねぇぜ。

「何れだけ学んだか見てやる、俺を殺す気で来いひよっこ!ヴィリーおじさんが相手になってやる!!」



●鋼と翼
 夜空に向けて聳える高層ビル群。照明が灯る部屋はいずれも無人だった。まるで戦いの舞台を彩る為だけに存在しているかのようなその窓から見下ろす幹線道路上を、鋼色のキャバリアが火花と推進装置の噴射炎を引き連れて滑走する。
「遂にひよっこを伴って暴発しやがったか」
 孤独なコクピットの中にヴィリー・フランツ(スペースノイドの傭兵・f27848)の呟きが漂う。暁作戦の折、灰狼中隊の若過ぎる隊員達に教義を叩き込んでいた頃から薄々勘付いてはいたが、それが今日遂に現実に至ってしまったらしい。
「この国も長くねぇな」
 オブリビオンマシンによる精神汚染が原因の大半にしろ、元より付け入られる潜在的な問題点があった事には違いないだろう。日乃和もやがて忘れ去られる亡国と成り果てるのか――他人事めいた思案が接近警報によって打ち消された。アウル複合索敵システムが早速仕事をしてくれたらしい。スラスターの推力を横方向へと偏向し、機体を建造物の間に滑り込ませる。
『ヘヴィタイフーン……ってことは、ヴィリーおじさん?』
 高層ビルの狭間を裂いて幹線道路に出現したイカルガの編隊から聞き覚えのある声がした。
「よう少年少女諸君、久しぶりだな」
 ヘヴィタイフーンMk.Ⅹは壁に背を預けて僅かに機体を乗り出す。そして出現した敵機に視線を送る。
『お久しぶりです。こんな形で再会したくなかったんですが……』
「お互い仕事だ。気にすんな」
 通信装置の向こうで相手が言葉に詰まる気配を感じた。ヴィリーは片手間に機体の各機能の最終確認を終える。
「何れだけ学んだか見てやる、俺を殺す気で来いひよっこ! ヴィリーおじさんが相手になってやる!」
『行きますよ……!』
『行くよ、おじさん!』
 火蓋を切ったのはヘヴィタイフーンMk.Ⅹだった。脚部のバーニアを焚いて機体を横に滑らせ、幹線道路上に躍り出るや否や一六式自動騎兵歩槍を撃ち散らす。ヴィリーはゴーグル越しにイカルガが散開するのを見た途端、操縦桿を横に倒してフットペダルを踏み込む。機体の装甲と手持ち武器の取り回し易さを活かしつつ、イカルガの機敏な運動性を削ぐべく市街の環境を利用するつもりでいた。左右を大中小の建造物に挟まれた道路を駆け抜ける。
「ま、上から仕掛けるだろうな」
 頭上から浴びせられたアサルトライフルの連射に対し、ヘヴィタイフーンMk.Ⅹは当然といった様子でスパイクシールドを上面に構える。装甲と盾に降り注いだ小銃弾が金属音と火花を散らせた。反撃に一六式自動騎兵歩槍の30mm弾を応射する。
「悪くない判断だ」
 火線を伸ばした途端に頭上を追走するイカルガが姿を消した。
「しかしな、経験が足りねぇ!」
 交差路に差し掛かる直前でヘヴィタイフーンMk.Ⅹがバックブーストで急停止を掛ける。ヴィリーは身を押し潰す重力負荷に歯を食いしばりつつも操縦桿のホイールキーを転がす。兵装選択項目をファイアクラッカーに合わせると照準モードを手動に切替えてトリガーキーを押し込んだ。ヘヴィタイフーンMk.Ⅹが投擲した手榴弾はビルの壁面に跳ね返って斜向いの路へと転がる。
『なああっ!?』
 炸裂と共に悲鳴が上がり、曲がり角に潜んで辻斬りを狙っていたイカルガが弾け飛んだ。ユーベルコードによって強化されたセンサーシステムがヴィリーに第三の目をもたらしていた。
『こんの……!』
 正面と後方に出現したイカルガがアサルトライフルの斉射を仕掛ける。しかし弾丸は盾に防がれるか重装甲に阻まれ損傷らしい損傷は与えられない。
『硬い! やっぱりスーパーロボット並の装甲じゃん!』
「おう、それがこいつの取り柄だからな」
『ビームソードを使うんだ!』
 二機のイカルガが光剣を抜き放ちヘヴィタイフーンMk.Ⅹに猛進する。ヴィリーは特段焦燥するでもなく機体をその場から動かさなかった。正面のイカルガの方が僅かに速い。荷電粒子の刃が鋼色の装甲を溶断せんとした刹那、ヘヴィタイフーンMk.Ⅹが盾を突き出す。スパイクに打突されたイカルガは運動方向を真逆に転換して吹き飛ばされた。
「惜しかったな」
 打撃の反動を利用して機体を反転させ、片腕のマニピュレーターでバーンマチェーテを抜剣する。帯びる高周波が刀身を赤熱化させた。激突し合う刃と刃が目を潰さんばかりのスパークを明滅させる。
『押し切れれば……!』
「鍔迫り合いは判断ミスだ」
 ヘヴィタイフーンMk.Ⅹの各部バーニアノズルが噴射光を炸裂させた。得られた加速に機体の重量を相乗させ強引に押し込む。状況を察したイカルガは離脱を試みるがもう遅い。減速も叶わぬままビルに激突し、二機は重い衝撃音と共に灰煙に包まれた。
「それと殺る気が薄い……って聞いてないか」
 ヘヴィタイフーンMk.Ⅹが二歩三歩と後退する。ビルの壁面にめり込んだイカルガは動く気配すらみせない。脳震盪を起こして伸び切ったのだろうか。
「まあ、こんなもんだろうさ」
 振るったバーンマチェーテが念入りに四肢を切り落とす。非活性化した刃が色彩を喪失するのを確認してからマウントに戻すと、そのまま暫く寝ていろと言わんばかりに達磨となったイカルガへ背を向けた。
「筋は悪くないんだが……この場合は相手が悪すぎたな」
 意図せず敵に塩を送った事を後悔してかしらずか、無意識に深い息を吐き出していた。暁作戦で出会ったひよっこ達は標的を冷静に追い詰めるだけの技量と連携力を教えた通りに体得していた。相手が歴戦の猟兵という不幸過ぎる巡り合せに遭遇してしまっただけで、通常戦力相手なら十分に機能していただろう。一ヶ月間実戦で仕込んだ甲斐はあったらしい。
「さてと……まだまだいやがるな」
 ジオメタル社製の優秀な肩部レーダーはゴーグル型HMDを介して無情な現実を突き付けてくれる。敵機を示す光点の数からして今暫く仕事は続くようだ。鋼の騎兵が重い推進噴射音を轟かせた跡には、暴風の如き風圧が土埃を巻き上がらせていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

キリジ・グッドウィン
【特務一課】
GW搭乗

(蠱毒にもならないただの蟻地獄じゃねェか。地獄にいる自覚はあっても抜け出せない事に気付いてない)

官邸狙撃を見て
「あーあ、ギバやっちまったなァ!あそこにも一応学兵もいるんじゃねぇの」

精神汚染?それ以上に恐怖を叩きこんで戦意喪失してもらうか
もういっそ二度と戦えないようにした方が良いよなァ?
BXS対装甲重粒子収束飛刀の投擲やBS-Aスクィーズ・コルクでのレーザー射撃。急所をギリギリ外しての猛攻で物理的にも精神的にも恐怖を与える
敵機のマイクロミサイルはマダラがコックピットを剥がした機体を盾にして防ぎ
「どんどん盾が増えるぜ、マダラもやるじゃねぇか…ちゃんと乗ってないのを選んでるさ」


天城原・陽
【特務一課】

政府の所業、その深部までは予測の範疇の域を出なかったけれどもしそれが当たっていたならば彼らの取る手段は決まっている
精神汚染が進んでいるなら猶更だ

「マダラ、キリジ。これ下手したら国際問題になるわ。分かってるわね?」
その上で複合狙撃砲を首相官邸すれすれでぶっ放す
「上手くやんなさい。MIAにしちゃえばあとはどうとでもなる」

さて…私は私の責務を果たす。猟兵でも、特務一課でもなく
一人の『天才』…天城原陽として

アニムスフィアストーム。
粒子展開。意志拡張。精神同期…対汚染、開始。
「さぁこっからが本番よお嬢様方!全部終わったらウチに留学させて上げる!だから今は全力で1/3殺しにしてやるわよ!」


斑星・夜
【特務一課】

キャバリア:灰風号搭乗

「オーケー!うまーくやっちゃえば良いんだね!キリジちゃん頑張っちゃおうね!」
ありがとギバちゃん、最高に格好良いよ。元気出た
俺も張り切って行くよ!

「白羽井の皆、初めて会った時から、一緒に強くなったところ見せて」
『ブリッツ・シュラーク』でイカルガの移動を阻害
そのまま『RXSシルバーワイヤー』を射出し腕や脚を捕縛、態勢を崩す
そのまま足や腕に『RXブリッツハンマー・ダグザ』で攻撃し部位破壊
コックピットは狙わない、狙わせない

変な事させられる可能性あるから
ねむいのちゃんにハッキングして貰ってイカルガ内の音声を拾って
まずいと判断したらコックピットのハッチ引っぺがして止めます



●内閣総辞職未遂ビーム
 人工の光に彩られた摩天楼の数々は、戦いが深みを増すにつれて尚も絢爛に輝いていた。
「政府の所業、その深部までは予測の範疇の域を出なかったけれどね……」
 赤雷号のシートに背を埋める天城原・陽(閃紅・f31019)の眉間が忌々しさに歪む。南州第一プラントの折に――或いはそれよりも以前に極薄く感じていた幾つかの予感は存外遠くない結論へと至った。自らの天才的直感に皮肉めいた舌打ちを禁じ得ない。
「まあなんだ、蠱毒にもならねェ蟻地獄だったな」
 |ケルシー《GW-4700031》のコクピットの中で腕を組むキリジ・グッドウィン(what it is like・f31149)が吐き出した息からは諦観とも嘆息とも付かない色味が垣間見えた。猟兵達さえも飲み込まんとするこの地獄を脱する事は既に叶わず。為す術は地獄の底で口を開けて待ち構えているオブリビオンマシンを討つ以外に残されていないのだろう。
「マダラ、キリジ。これ下手したら国際問題になるわ。分かってるわね?」
 意味を多大に含んだ天城原の鋭い眼差しが飛ぶ。
「オーケー! うまーくやっちゃえば良いんだね!」
 灰風号の操縦席に収まる斑星・夜(星灯・f31041)は相も変わらず温かい笑みを見せていた。だが金の瞳の奥底には確かな思惟が見える。オブリビオンマシンの手の上で踊るつもりなど更々無い。猟兵達の蹂躙によって血濡れにする筈だった舞台をしこたま掻き乱してやろうと。
「分かってなくたって止めねェだろうが」
 キリジは好きにしてくれと肩を落とす。
「まあね」
 天城原の右の口角が吊り上る。
「よーく見ておきなさい、これが私の……!」
 赤雷号が二十二式複合狙撃砲を屹立するビル群へと向けた。機体の全長程もある銃身の砲門から青白い光が溢れ出る。
「やり方だッ!」
 天城原の裂帛に応じて赤雷号が独りでに機体の向きを180度反転させた。そして狙撃砲のフラッシュハイダーが加粒子の波濤を吐き出す。白色の尾を引く青いほうき星が香龍の夜空を真っ二つに引き裂くようにして飛んでゆく。軌道は首相官邸の傍を擦り抜けた。
「あーあ、ギバやっちまったなァ! あそこにも一応学兵もいるんじゃねぇの?」
 キリジの肩が軽く縦に揺れる。
『東雲官房長官より通信要請来ました!』
「あー? なにー? ECMが濃くって聞こえなーい」
 灰風号の支援AIであるねむいのちゃんの報告に答えた天城原の声音にはまるで抑揚が無い。どうせ通信の内容は貴官達の行動は契約内容への重大な違反に及ぶ懸念があるとかいうくどい言い回しなのだろう。仮に詰問されたとて手元が狂ったとでも弁明すれば良い。被害は無いのだからノーカウントだ。といった言い訳を頭の片隅に浮かべながら溜飲が下がったとばかりに深く息を吐いた。
「ギバちゃん、最高に格好良いよ。元気出た!」
 斑星にとっては丁度良い景気付けだったらしい。
『全方位より敵反応多数接近中! レーダーマップに出します!』
 赤雷号、灰風号、ケルシーの元にねむいのちゃんが出力した香龍の地図情報が届けられた。
「そりゃ派手にブチかましたからな」
 キリジが言う通り赤雷号の加粒子砲に誘われたのだろう。多数の光点が特務一課の面々を取り囲むようにして接近しつつある。
「上手くやんなさいよ。MIAにしちゃえばあとはどうとでもなる」
 赤雷号は狙撃砲を高機動推進ユニットから伸びる副腕に預けると、代わりにギガントアサルトを受け取った。
「精々戦意喪失してもらうとするか……」
 キリジが双眸を細めて牙を剥くとケルシーのセンサーカメラが紫炎色の閃光を放つ。
「キリジちゃん今日も頑張ろうね! 俺も張り切って行くよ!」
 斑星は片目を覆う前髪を掻き分けた。灰風号が雷の戦鎚たるブリッツハンマーを肩部に担ぐ。
「さて……私は私の責務を果たす」
 天城原が浅くフットペダルを踏み込む。滞空する赤雷号がやや高度を上昇させた。
『敵機、交戦域に入ります!』
 ねむいのちゃんの電子音声の直後にビルの上から隙間から、何機ものイカルガが出現する。特務一課の三名を被ロックオン警報の騒音が苛む。
「猟兵でも、特務一課でもなく一人の天才……天城原陽として……」
 操縦桿を握る指に力を籠め、思考を剃刀のように研ぎ澄まし、強く深く瞑目する。
『先の荷電粒子の光に赤雷号……アスラ01か!』
『あっちの斑星さんとキリジさん、だよね……』
「お嬢様方! こっからが本番よ!」
 言葉に詰まったような通信音声の数々。それらを双眸を見開いた天城原の怒号が打ち消すと、呼応した赤雷号が星屑の如き微粒子を全方位に向けて拡散させた。
「全部終わったらウチに留学させたげる! だから今は全力で1/3殺しにしてやるわよ!」
 特務一課を取り囲むイカルガ達が気圧されたように見えたのは錯覚ではないだろう。天城原が赤雷号を通して放出したアニムスフィアストームがオブリビオンマシンの精神支配と拮抗したのだから。
「頭の上はあたしが抑える! そっちはしっかりやりなさい!」
 赤雷号の多目的誘導散弾システムが一斉に開放されたのが交戦開始の合図となった。誘導照準を受けたイカルガが散開しながらマイクロミサイルを撒き散らす。赤雷号はギガントアサルトで迎撃しつつも先に発射した誘導弾に紛れるようにして標的の追撃を始める。
「オーケーギバちゃん! 白羽井小隊の皆、一緒に強くなったところ見せてもらおうか!」
 灰風号の周囲をイカルガが高速で飛び回ってアサルトライフルの波状掃射を仕掛ける。ねむいのちゃんが制御を担当する左右一対の半月型シールド、アリアンロッドが忙しく動いてそれらを遮断した。
『やっぱりシールドが!』
 斑星にとって聞き覚えのある声が舌を打った。
「おー、速いねー!」
 緩い声音に緩い笑みを乗せて斑星が左の操縦桿を引いた。灰風号の左腕に稲妻が纏わり付く。
「逃げられるかな?」
 左腕を振り被り、前方へと振り下ろす。生じた雷の鞭たるブリッツ・シュラークが煩く飛び回るイカルガを打ち据えた。かの様に思われた。
『ブリッツシュラーク! やっぱり来た!』
 イカルガは寸前で抜刀したビームソードで雷の鞭を切り払っていたのだ。
「上手になったねぇ!」
 斑星が軽く両手を打ち鳴らす。
『褒めてる場合じゃないですよー!』
 更に横に薙ぎ払うがまたしてもビームソードに受け止められ、斑星は思わず喜色を綻ばせていた。愛宕連山で初めて会ったあの時――鴨の子もかくやといったよちよち歩きの雛鳥は、こうして自分のユーベルコードに立ち向かえるだけの荒鷲に育ってくれたのだと。
「凄い凄い! でもね」
 縦に振り下ろした一撃でイカルガの体勢が僅かに揺らぐ。その一瞬で腕部に内蔵されたシルバーワイヤーを射出し、ビームソードを携える腕部を絡め取った。ウインチが猛烈な駆動音を立てて銀の鋼線を巻き上げる。 
『なぁっ!?』
「おっと! 動かないでね!」
 直近にまで引き摺り下ろしたイカルガに灰風号がブリッツハンマーを打ち据える。機動の要であるアンダーフレームを第一に叩き潰し、攻防の要である両腕を粉砕する。
『ひぃっ!』
「大丈夫だから! ねむいのちゃん!」
 四肢を喪失したイカルガにマニピュレーターを触れ合わせ直接接触回線を開く。オブリビオンマシンが何を仕込んでくるか知れたものではない。奴の思惑に乗ってはやるまいと念には念を入れて搭乗者と機体を完全に分離する為に。
『ちょっとお待ちを! ロックが!』
「ん?」
 ねむいのちゃんの切迫した様子に斑星が首を傾げる。
『なんだかものすごーく頑丈になってます!』
「あらら? そうなの?」
 天城原からはポンコツ呼ばわりされてキリジからは何となく雑な扱いを受けているねむいのちゃんだが実体は優秀な支援AIだ。そのねむいのちゃんが言うのだから相当頑丈な電子保護がほどこされていたのだろう。
『これは……電脳魔術プログラムですねぇ。きっと猟兵さん達の電子干渉能力に対抗する措置だと思います!』
「解除出来る?」
 斑星の意識に薄ら寒い予感が過った。これもオブリビオンマシンが猟兵と白羽井小隊の殺し合いを演出させるべく日乃和が対策するに至るよう仕向けたのかも知れない。
『出来ます! 出来ました!』
 斯くしてイカルガのコクピットハッチが開放される。内部では身を縮こまらせて灰風号越しに斑星を凝視する少女の姿があった。
『斑星さん……とどめ……刺さないんですか?』
 恐る恐る訊く少女の顔には既に戦意と呼べる色は見えない。天城原のアニムスフィアストームが及ぼした脳量子波が精神汚染を幾らか中和したのだろう。
「うーん、そういう気分じゃないかなぁ?」
 斑星は両眉を外側に傾けて力なく笑って見せる。
「ほらほら、ここは危ないから……」
 灰風号を骸になったイカルガから離す。すると少女は灰風号を凝視したまま探るような動きでコクピットから這い出て来た。
『あの、私!』
「どこかに隠れてるか、誰かに拾ってもらって!」
 淀んだ言葉の続きを待たずに灰風号はイカルガの残骸を掴んで放り投げる。
「キリジちゃん! パス!」
 その先には銃弾の掃射を浴び続けても尚怯む素振りさえ見せないケルシーがいた。
「おう? おう!」
 イカルガの残骸を受け取ったケルシーがそれを側面方向へと突き出す。間髪入れずに複数初のマイクロミサイルが駆け込む。骸の盾に衝突して赤と黒の爆炎に変じた。
「丁度いい盾だ!」
 ボロ雑巾のようになった残骸を投げつけた。標的となったイカルガは軽快な挙動で躱してみせる。だが回避先を読んで投擲されていた対装甲重粒子収束飛刀が胴体を直撃。空中で急激に姿勢を崩してビルの壁面へと衝突した。
「どうしたァ!? んなもん効かねェぞ!」
 四方八方からアサルトライフルの火線が伸びるも、ケルシーの黒鉄色の装甲は銃弾を火花に変えて弾き返すばかりで損傷らしい損傷を受けている様子が見られない。
「しっかし楽なもんだが、これはこれで退屈だな……」
 装甲を盾にして足を止めて両腕部のスクィーズ・コルクで対空砲火を上げていればいい。イリテイテッド・ショットの残虐なまでに容赦のない猛襲が飛び回るイカルガの機動をなぞる。そしてはやがて追い詰められ、推力を失うか姿勢の制御を崩して建造物へと衝突する。
『銃が通らないならっ!』
 イカルガの一機がありったけのマイクロミサイルを放出した。
「マダラァ! 次寄越せ!」
「どーぞ!」
 灰風号がコクピットを剥いだイカルガの骸をケルシーへと放り投げた。先のように受け取ったケルシーはそれを正面に押し出して盾とする。やはりマイクロミサイルは阻まれた。
『ビームソードでぇぇぇ!』
 マイクロミサイルを追う格好で吶喊したイカルガが眼前に迫る。
「そいつはオレの間合いだァ!」
 ケルシーは突っ込んできたイカルガを力士の如く真正面で受け止めた。紫電を纏うランブルビーストが荷電粒子の刃を掌握する。空いているもう一方の腕部がイカルガの肩部に剛爪を食い込ませた。
「ぶっ千切れろォ!」
 力任せに胴体と肩部を引き剥がす。断面から覗いた様々な配線や基礎骨格が火花を散らせた。否応無しに開いた直接接触回線越しにパイロットと思しき少女の悲鳴が挙がる。千切った肩部を放ると頭部を掴んで握撃によって圧砕した。
「ちょっとキリジ! 全殺しにしてないでしょうね!?」
 ギガントアサルトを連射する赤雷号がケルシーの頭上を超高速で駆け抜けた。
「まあな」
 あっさりと言ってのけたキリジは続けて解体作業に勤しむ。精神が汚染されているというならもっと強烈な感情だとか意識で塗り替えてやればいい。黒鉄の猛獣が物理と精神の両面で叩き込んだ恐怖は確かにオブリビオンマシンの支配を上回るものだった。機体を器用かつ徹底的に壊し尽くされたパイロット達は、内を蝕む憎悪さえも挫かれて戦意を忘れてしまったのだから。
「さァて、手駒がどんどん減っちまってるが……どうするんだかな? あァ?」
 八重歯を覗かせて嘲笑うキリジの言葉は誰に向けられていたのだろうか。
「あたしらを良いように使おうなんざ百億年速いのよ!」
「あーあ、早く出てこないかな?」
 天城原と斑星も白羽井小隊との交戦の中で本能的にでも薄々勘付いているのかも知れない。長き時間を掛けてこの舞台を用意した者の思惑に。そしてその思惑は着実に破綻へと向かいつつある事に。
 流される筈の血は流れず、膨張する筈だった憎悪は恐怖に塗り替えられ、そして特務一課は望まれるがままに殺さなかった。後もう一歩で蠱毒が完成したものを――戦場の何処かで特務一課を見遣る狂気の眼差しは、舞台を崩された憎しみによって紅の脈動を放っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ガイ・レックウ
【POW】で判定
『結局…こうなっちまうか……とりあえず嬢ちゃん方を無力化してからだな!!』
愛機コスモスター・インパルスを駆り、【オーラ防御】を纏った上で【フェイント】を織り交ぜながら突撃。電磁機関砲は牽制程度に温存しつつ、ブレードでの【鎧砕き】と【なぎ払い】の【二回攻撃】で攻撃するぜ!!防御は【戦闘知識】で動きを【見切り】、避ける
『てめぇらの恨みも大儀もわかる…だがな、世界を蝕む悪意の思惑に乗せられた剣じゃあ、俺は討てねぇ!!』
パイロットを殺さず、機体の無力化を第一に考えユーベルコード【炎龍一閃】で斬るぜ!



●炎龍一閃
 眠らぬ都市たる香龍は藍色の夜空を照らすほどの虹彩に満ちていた。日乃和の経済基盤を支えるオフィスビルの数々は人無き部屋に照明を灯す。
「結局こうなっちまったか……!」
 屹立する高層建築物の狭間を飛ぶコスモ・スターインパルスが内包する操縦席の中でガイ・レックウ(|明日《ミライ》切り開く|流浪人《ルロウニン》・f01997)が苦々しい面持ちで奥歯を噛み締める。暁作戦の折に増幅する兆しをみせた予感は的中した。ガイは猟兵だ。故に本質を直感的に理解出来る。彼等を動かしているのは単純な恨み辛みだけとは限らない。背後には猟兵達さえも手の上で転がそうと画策するオブリビオンマシンが必ず存在している筈なのだと。
「ま、初めっから俺達の戦いだったのかもな……」
 生まれた瞬間から滅ぼし合う宿命を定められた猟兵とオブリビオン。日乃和という国家は両者の殺し合いの場に選ばれただけに過ぎず、クーデターさえもこの国を骸の海に沈める切掛を猟兵の手によってもたらさせる為の策略に過ぎないのかも知れない。だとするならば、或いはだとしなくとも、ガイが選ぶ答えは決まっている。
「とりあえず嬢ちゃん方を無力化しねえとな!」
 ロックオンパルスを検知したセンサーが鳴らす警告音に全神経が臨戦体制に駆り立てられた。スロットルレバーを押し込んで操縦桿を斜めに倒す。コスモ・スターインパルスのアンダーフレームに備わる推進装置が光を焚いて機体を降下させた――かの様に思われたが、僅かに姿勢を沈めたかと思いきやアンダーフレームを跳ね上げると機体の上下を180度反転させて天と地を入れ替えた。
『フェイント!? クルビットで!?』
 背後から急速接近してきたイカルガがビームソードを空振りして擦り抜ける。
「その声、あん時の嬢ちゃんか!」
 暁作戦第一段階の際に聞いた声色だった。
『やっぱりガイさんか!』
 擦り抜けた際の加速を得たままに背を向けて一撃離脱するイカルガ。追撃するべく加速しようとしたコスモ・スターインパルスだが、上下の斜角から伸びたアサルトライフルの火線に阻止されてしまう。
『悪くないカバーリングじゃねぇか!』
 ガイが舌を打って機体の向きを反転させる。火線を逃れるべくバックブーストすると、機体全面に循環させたバリアフィールドの表面に幾つもの明滅が走った。威力を減衰させられた弾丸が装甲に届く度にコクピット内が微弱に振動する。
「てめぇらの恨みも大儀もわかる……」
 後退しながら機体を左右に細かく振りつつも電磁機関砲の照準を追走するイカルガ二機に重ね合わせた。
「だがな!」
 ロックオンマーカーが赤に転じた。ガイがトリガーキーを四連続で押し込む。セミオートモードの発射操作回数分の弾丸が電磁機関砲から放たれる。標的とされた二機のイカルガは急上昇と急降下でそれぞれに散った。いまは追い払えれば十分。この後に本命のオブリビオンマシンが控えている以上余計な弾薬消耗は避けるべきとガイは推力を前方へと偏向する。
『ガイさん!』
 正面から光剣を抜いたイカルガが猛進する。コスモ・スターインパルスもまた特式機甲斬艦刀・烈火を鞘から抜き放ち直線加速した。互いに真正面同士にぶつかり合う。交差した刹那、紅の刃と荷電粒子の刃が切り結んでスパークを散らせた。鍔迫り合う事なく切り抜けた両機はお互いの位置を入れ替えて急旋回、敵を正面に見据えると再度突撃して剣を衝突させる。
「世界を蝕む悪意の思惑に乗せられた剣じゃあ……」
 コスモ・スターインパルスの推進装置がより力強く光を噴射した。ガイのユーベルコードに応えた紅蓮の刀身が滾る炎を纏う。
「俺は! 討てねぇッ!」
 イカルガと三度目の交差に及んだ刹那、コスモ・スターインパルスがマニピュレーターで握り込む妖刀を左から右へと水平に振り抜いた。炎龍の尾撃の如き一閃は切り結ぶ筈だったビームソードを斬り破り、イカルガのオーバーフレームとアンダーフレームに別れを告げさせた。
「それで言い訳付くだろ! 逃げちまえ!」
 黒煙をなびかせて少女の悲鳴と共に墜落するイカルガ。後はメリアグレースの教皇が上手く拾ってくれるだろうと、ガイは落下の行末を見届ける事なく次なる標的へと照準を向ける。オブリビオンマシンから伸びる操りの糸を斬り倒すべく。
 繋いだ因果の鎖の最後にコスモ・スターインパルスの妖刀は白羽井の血で濡れる筈だった。しかし意図してか偶然かはいざ知らず、ガイはその選択肢を真っ向から切り捨てた。画策を崩されたオブリビオンマシンは密やかに赤い激昂を滾らせていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天城・千歳
【SPD】
絡み・アドリブ歓迎
結局こうなりましたか。気持ちは分かるんですけど止めさせてもらいます。
サテライトドローン群を都市外縁に沿って配置、通信・観測網を構築。
UC発動後香龍沖合に遊弋する愛鷹のCICから観測網を通じて都市に対し【ハッキング】を行い、都市機能を掌握。
電子戦で都市機能を掌握後、都市内の電子機器、観測機材を観測網に組み込み【情報収集】及び【偵察】【索敵】を行い敵部隊を捕捉、掌握した通信網を通じて【ジャミング】【データ攻撃】を行い電子的に敵機を制圧します。敵の対抗電子戦に対しては【戦闘知識】【瞬間思考力】で【カウンター】【データ攻撃】を行い制圧します。
構築した通信・観測網は味方と共有



●電死線
 アーレス大陸の百景にも選ばれる程に煌びやかな香龍の夜景。だがそれは陸上からの眺めばかりとも限らない。視点の位置を洋上に移せば港湾施設が摩天楼群と相まって様々な光彩を見せてくれるだろう。
 その光彩をモニター越しに眺める青いセンサーカメラがあった。香龍の東の海上にて遊弋する戦艦愛鷹。元来は陸上での運用が主だが、ホバークラフトを稼働させる事で水上での運用も難なく可能だ。全長260m の船体底部が生み出す浮力に海面が盛大に騒めき立つ。吹き上がる海水は霧のベールに変じていた。
「結局こうなりましたか」
 愛鷹艦内の薄暗い戦闘指揮所に電子的な女性の音声が響く。出所は深い青色の装甲に覆われたウォーマシンに機能を移した天城・千歳(自立型コアユニット・f06941)だった。
 彼女或いはかのコアユニットが日乃和に纏わる任務に加担するのは南州第一プラント奪還作戦以来だが、現状に至るまでの情報は得ている。日乃和政府と今回のクーデター軍に関わる怨恨についても然り。千歳としては彼等の動機に理解が示せないでもなかった。しかしだからこそ止めねばならない。骸の海への沈殿を良しとしない限り、オブリビオンに敗北して良い理由など無いのだから。
「ラプラス・プログラム起動」
 ユーベルコードの作用によって千歳の電脳の中であらゆる感覚が拡張されてゆく。まるで無数の目と手があるような――比喩ではなく、彼女にはそれらがあった。香龍都市外縁に忍ばせていたサテライトドローン達は備わるマルチセンサーを過不足無く働かせ、得られた観測情報をリアルタイムで千歳の元へと送り届けてくれる。並行して構築した電子の網で香龍を取り囲み、千歳の自我は香龍の内部へと浸透した。
「都市全域のカメラシステムとの接続……完了」
 千歳の視野に新たなビジョンが無数にポップアップする。香龍には至る所に観測用カメラが設置されている。今頃は首相官邸で猟兵達とクーデター軍の観戦に使われているらしいそれらを千歳は間借りしたのだ。より具体的かつ精度の高い索敵情報を得る環境を整えた事で、ラプラス・プログラムに要求される代価は十二分に支払われた。
「目標の分布位置を確認、移動予測地点算出」
 千歳は極淡々と状況を述べる。香龍の全域を模した立体地図上に敵味方の配置から予想進路までもが次々に出力される。これで戦う為の下準備は終わった。
「攻撃開始」
 掌握した放送局などの電波塔を仲介として放たれた千歳特製のクラッキングプログラム。白羽井小隊達の戦術データリンクに乗って機体に入り込み、制御中枢を死に至らしめるのだ。
『あれ? 火器管制が……!』
『バランサーが効いてない! これは外部からのジャミング!?』
 一部の機体は先んじて毒に蝕まれたらしい。しかし千歳は首を傾げる挙動を取ってみせた。
「想定より効力が鈍いですね。なるほど、対電脳魔術プログラムですか……」
 猟兵の中には千歳のように恐ろしく有能な電脳魔術士が存在する。日乃和軍は彼等を恐れ、そしていつか敵対した際に備えていたらしい。されども千歳もまた対抗措置の存在に備えていた。
「では攻勢防壁起動。プログラムデータの吸収を開始」
 ラプラス・プログラムを要として白羽井小隊に掛けられたプロテクトを食い破る為の刃を作り上げる。そしてウィルスコードという名の毒を塗りたくられた刃はキャバリアのオペレーティングシステムの深層まで突き刺さり、その機能を溶かし尽くす。千歳の視る香龍のマップデータ上で白羽井小隊のキャバリアを示す光点が次々に暗い灰色へと転じる。
「悪くない推移です。では引き続き搭乗者はそのままに、機体だけ死んで頂きましょう」
 猟兵の手によって香龍を血染めにするどころか無血で手駒を潰されてしまったオブリビオンマシンは怒り狂いつつあったのだが、そのような事情など千歳に酌量してやる理由など微塵にも無い。自立型コアユニットは何一つ狂わず適切であろう戦術を遂行し続けるだけだ。斯くして猟兵はオブリビオンマシンの画策をまたしても圧砕してみせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エドゥアルト・ルーデル
拙者を学習した奴もいる…て事!?
ハジケリストだな?

とりあえず尼崎氏狙うか!動きがいいからわかるだろ
磯野~戦争しようぜ!明るく楽しく殺し合いさせてくれよな!
飛翔してようが近づいてくるならどうとでもなるんだよ!オラックイックハックして部位破壊だ!まずは腕だ!目!鼻!耳!
バランス崩したら機体に飛び掛かりますぞ!東雲氏に張り付けるのに他のに張り付けられない訳ないだろ!至近からどんどん内部破壊でござるよ
動がなくなったらコクピットハッチに信号送って開けゴマ!そこそこ楽しめたでござるよさようなら(発砲)
精神汚染なんざ知るか馬鹿!拙者の|お楽しみ《戦争》を|くだらない事《クーデター》で邪魔するからこうなる訳DEATHよ

エドゥアルトクーイズ!拙者は誰を殺すでしょーか!正解は~?雪月氏と尼崎氏でした!
殺したがりは何もなさせず殺し、東雲氏みたいな死にたがりは生かしとくに限る…そっちの方が芸術にナルモンニ!
後藤氏は死にたがりな気がするネ!どっちかな?

一般人も、オブリビオンも、猟兵すらも…拙者にとっちゃ全て一緒よ



●狼狩り
 方々で炸裂する爆音が大型小売店やファッションビルの窓ガラスを戦慄かせる。一定間隔で並ぶ街頭に照らされた幹線道路の中央をエドゥアルト・ルーデル(黒髭・f10354)が緩慢な歩調で進む。双眸に収まる黒い瞳はしきりに右往左往しており何かを探している様子でもあった。そして彼の探し物は出向くまでもなくあちら側から出現した。
 ビルの狭間を割って滑空するイカルガの編隊。その内の一機――やたらと挙動が機敏で狼のエンブレムが目を惹くイカルガを見付けた途端、エドゥアルトが嬉々として表情を歪ませた。
「尼崎氏~! 戦争しようぜ! 明るく楽しく殺し合いさせてくれよな!」
 声量を張って手を振るエドゥアルトの呼びかけも虚しく伊尾奈のイカルガは目の前を素通りして大型商業店舗の向こうに去っていった。かのように思われたがすぐに反転して戻ってきた。
『いま呼んだかい?』
「ハァイ、調子ィ?」
 両者の間に土埃を纏った風が吹き抜ける。
『尼崎中尉ー? どうかし……ってヒゲのおじさんじゃん』
 素通りしたイカルガがもう一機戻ってきた。操縦しているのは声色からして栞菜らしい。
「ここでエドゥアルトクーイズ! 拙者は誰を殺すのでしょーか!」
 伊尾奈と栞菜はモニター越しに顔を見合わせる。
「正解は~? 雪月氏と尼崎氏でした!」
『えー? なんでご指名? あたしまだ死にたくないんだけどー?』
 飄々とした栞菜とは対照的に冷たい無言を返した伊尾奈機が警戒の気配を膨らませた。
「殺したがりは何もなさせず殺し、東雲氏みたいな死にたがりは生かしとくに限る! その方が芸術になるモンニ!」
『フェザー08、アンタは自分とこの隊長の手伝いに行きな』
『あのおじさんと独りでやるつもりなんです? 無理くないですか?』
『アンタのお守りしながら戦う余裕が無いって言ってんのさ。早く行きな』
 すると栞菜機は渋々といった様子で機体の向きを旋回させた。エドゥアルトに『またねー』と手を振る素振りを添えて推進噴射の光を残して飛び去った。
『アンタに恨みがある訳じゃないけどね』
 伊尾奈機がマニピュレーターに握った発振機より荷電粒子の束を生じさせた。
「うるせえこっちにゃあるんだよ! 人のお楽しみを邪魔しやがってからに!」
 エドゥアルトはマースクスマンライフルのストックを肩に押し付けた。セレクターレバーをフルオートに合わせてホロサイトを覗き込む。中央のレティクルの向こうに捉えた獲物の背後で光が爆ぜた。相対距離が瞬時に縮まる。
「ハッハー! 掛かったなアホめが!」
 エドゥアルトから視界を焼くほどの強烈なスパークが迸った。舌を打つ音が聞こえたのと同時に斬りかからんとしていた伊尾奈機が急速上昇する。その際に生じた風圧がエドゥアルトを煽る。伊尾奈機はアサルトライフルを連射しながら後方へと引く。
「ファッ!? おいてめぇこの野郎ユーベルコード喰らっといて動いてんじゃねぇよ!」
 エドゥアルトは銃弾が届くよりも先に横方向へと跳んだ。ファッションビルのショーウィンドウに我が身を投げ込んで硝子を破り店内の奥へと退避する。
『さあね? アンタらが優秀過ぎたんじゃないの?』
 伊尾奈機は二度同じ手は喰らうまいと接近せずにエドゥアルトが隠れた店舗に向けてアサルトライフルを連射する。だが分厚いコンクリートの壁はキャバリアの小銃ではそうそう撃ち抜けるものではない。
「あー? 誰が何だって?」
『散々アタシらの機体に出入りしたり仕込みを入れたりしてくれたじゃないか』
 どうやら過去に那琴機や伊尾奈機に侵入した件やスーパーロボットを乗っ取った件を指しているらしい。それらに対する何らかの防護処置を施したのだろうと察したエドゥアルトは「ああ」と溢す。
「つまり拙者を学習した……ってコト!? ハジケリストだな?」
 ファッションビルに身を潜めるエドゥアルトと外部から狙い撃たんとする伊尾奈の交戦は早速膠着状態に陥る。だがしかしそれこそがエドゥアルトの狙いだった。
『フライトユニットがイカれた……!? よりによって……!』
 伊尾奈機の浮力を支える背面の推進装置が噴射炎を明滅させる。空中で身を崩して地に膝を付いた際の衝撃音を聞いたエドゥアルトが並んだ白い歯を見せ付けるようにして嗤う。
「ざまあみやがれ! 一発当てちまえばどうとでもなるんだよ! おら目だ耳だ鼻!」
 伊尾奈がバックアッププログラムを走らせる間、機体各部のステータスを示す色が黄から赤へと移り変わる。両腕部やセンサーに至るまでが次々に死んでゆく。エドゥアルトが放ったクイックハック・回路ショートの毒牙は獲物を掠め、その身にじわじわと毒を拡充させ続けていたのだ。
 エドゥアルトは匍匐の姿勢から立ち上がると身に被ったコンクリート片を払い退けて悠々と歩き出す。動きを止めたイカルガの元に辿り着くとコクピットハッチに手を当てがった。
「開けゴマ!」
 構えたマークスマンライフルの引き金に人差し指を乗せてクイックハックの信号を直接送り込んでハッチを強制解放させる。
「精神汚染なんざ知るか馬鹿! 拙者の|お楽しみ《戦争》を|くだらない事《クーデター》で邪魔するからこうなる訳DEATHよ!」
 激しく憤るエドゥアルトが覗き込んだホロサイトの中央には、短機関銃をこちらへ向けて首を傾げる伊尾奈の姿があった。
「誰の精神が何に汚染されてるって?」
 怪訝に尋ねる伊尾奈に対してエドゥアルトは鼻を鳴らす。
「しーらね! 一般人も、オブリビオンも、猟兵すらも、拙者にとっちゃ全て一緒よ」
 理不尽に生きて理不尽に殺す。そこに派閥の有無はない。
「分かり易い奴は嫌いじゃないけどね」
 伊尾奈の指が密やかにサイドパネルをなぞる。
「そこそこ楽しめたでござるよ。じゃ、さようなら」
 ヘルメットに降りたバイザー越しに覗く赤い瞳。エドゥアルトはそこに映り込んだ黒髭の中年男性の姿を見た。彼が構える銃が炸薬の火を爆ぜさせると、市街に重い銃声が反響した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ノエル・カンナビス
(エイストラ搭乗)

報酬は不要。無料でならば引き受けましょう。
この件については議論も無用です。
議論すると死人が出ますので、沈黙をお勧めします。

ともあれ。

戦乱に疲弊した国家における叛乱蜂起は奔馬性の死病です。
他部隊に逃げて扇動を行える機動力と影響力とを持っている方々が前線におられるのは僥倖。
これを粉砕すれば病の進行も、ある程度抑え込めます。

先制攻撃/指定UC。

大出力のECMとガーディアンシステムは、ミサイルも機銃も無力化します。
クローキングユニットも併用しましょう。
音響だけを頼りに、残された僅かな武装で戦うとなれば、敵兵も難儀なことです。

――情けを掛ける気はありませんが。

全く。
何のために大物が現れるたび何度も先陣を切って、猟兵でなくとも出来る戦い方を見せてきたと思っているんです。
私のUCなど、使用機材の機能性能を存分に使うだけの物ですよ。
生来のリンクシステムにしてもAIで代替可能です。

重要なのは練度と機材とであって、猟兵か否かではありません。
貴方がたに足りないのは自覚です。覚えておきなさい。



●翅と翼
 ノエル・カンナビス(キャバリア傭兵・f33081)は猟兵である以前に|専門《スペシャリスト》の傭兵だ。キャバリア対キャバリアの専門分野で生計を立てる傭兵の一人或いは一機である彼女は、今回の依頼に限っては契約時点で報酬の受け取りを拒否した。意図の向かう先は推して量る他に無いが、曰く議論に及ぶと血が流れるらしい。だが少なくとも契約書に署名した上でグリモアの転送門を潜ってきたのだろう。彼女のみぞ知る成すべきを果たすために。
 樹海の如く摩天楼が屹立する大都市香龍。鏡面の硝子窓が高層マンションの間を飛ぶエイストラの虚ろな姿を映す。一拍子遅れて追いかける独特な高音を放つ振動音が硝子窓を小刻みに震え上がらせた。
「……これを粉砕すれば病の進行も、ある程度抑え込めます」
 感情の色味が薄い緑の瞳がメインモニターとレーダーグラフを忙しく反復する。ノエルにとって現状は僥倖と言っても差し支えない。叛乱蜂起は奔馬性の死病。疲弊した国家においては特に重篤な症状を引き起こす。だが病巣の根幹たる先導者が前線に出張ってくれている今であれば処置も容易であるというものだ。
「もっとも、他所でも香龍と同じ事態が生じていれば話しは変わってくるのでしょうが……」
 広域通信網が封殺されているこの世界では遠方の事情を容易に確かめる術は限定的だ。しかし本当に話しが変わってきていたとしてもそれは与り知らぬところだ。レーダーグラフに光点が出現したのと同時にノエルは操縦桿を引いた。
「ほう?」
 ノエルは被ロックオンパルスの警報に違和感を覚えながらもエイストラを舞踏の如く翻させる。直後に複数の火線が伸びた。
『速い! アルジェント・リーゼ!? いや、この音はエイストラがいる!』
「バイブロジェットの稼働音を追ってきましたか。察しがよろしいことで」
 四肢を振るった能動的質量移動により殺到したアサルトライフルの弾丸を紙一重で躱す。ノエルは周囲を高速で飛び回るイカルガの一機にロックオンマーカーを重ね合わせてトリガーキーを押し込んだ。エイストラのマニピュレーターが握るプラズマライフルのフラッシュハイダーから鋭い光軸が放たれる。
「フォックストロット……」
 アンダーフレームのバーニアを一瞬だけ焚いて荷電粒子を回避してみせたイカルガの挙動を見た際、ノエルは無意識に言葉を零していた。呼吸をずらした舞踏の如きマニューバには憶えがある。
「戦術面ではそれなりに学習しているようですね」
 エイストラは牽制としてプラズマライフルを数発撃ち放って機体を反転させるとビルの陰へと滑り込んだ。
『気を付けて! あの機体透明化してるしレーダーから消える!』
 標的を見失ったイカルガ達が周囲をしきりに見渡す。
「はて、クローキングユニットの光学迷彩には問題ありませんが……」
 視覚的な隠密は過不足無く効力を発揮しているようだが、ECMの効力が軽減されているらしい。先に憶えた違和感の正体はこれだ。何らかの保護処置を施したのだろう。
「電子戦における教訓も得ている、と……まあ当然でしょうけども」
 実際自分も統合センサーシステムを搭載して対策を行っているのだから。されど取る戦術に変更は無い。軽減はされているが効力を失っている訳ではないのだ。現に敵機はビルの側面を地表に見立てて滑空するエイストラを発見出来ずにいる。
「難儀なことです」
 正面を素通りしていったイカルガにプラズマライフルを撃つ。背面からの完全な不意打ち。伸びた荷電粒子の光線は機体を強かに貫き爆散させた。
『後ろだ!』
 途端に周辺のイカルガが一斉に集結して荷電粒子光線の出現元へとアサルトライフルの掃射を浴びせにかかる。エイストラは電子欺瞞に甘んじることなく上下に回避機動を取りながらバックブーストする。やはりECMは完全に無効化されている訳ではない。照準は明らかに散漫となっていた。苦し紛れに放たれたマイクロミサイルも向かう先を見失って四方に散り、建造物に衝突して爆散した。
「練度と機材はさておき……貴方がたに足りないのは自覚です。覚えておきなさい」
 包囲網を脱するべく後退推進噴射を続けるエイストラ。まぐれで届いた銃弾がガーディアン装甲が発する高硬度衝撃波と衝突しあって耳障りな音をコクピット内にまで伝播させた。ノエルの双眸の中でエメラルドの瞳が縦横無尽に忙しく動き回る。リンケージベッドのメインモニター内で自機を追い立てるイカルガ達にロックオンの印が灯る。
「かといって情けを掛ける気はありませんが」
 ノエルがトリガーキーを引いた。ミサイルポッド内で犇めくマイクロミサイルが一斉に開放される。白線を描きながらそれぞれの目標に向かった誘導弾は迎撃行動に転じた標的を追い回す。イカルガは全力で回避運動を取りながらアサルトライフルやマイクロミサイルで撃墜しようとするも、電子欺瞞によって本調子ではない火器管制機能が求められる処理に追いつかない。それらの光景を横目で見たノエルはエイストラの機体方向を反転させて前進加速する。翅の音の背後では、幾つもの爆光の球体が弾けて消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メルメッテ・アインクラング
ラウシュターゼ様に搭乗し戦場へ
あの……お味方として戦ってきた方々が、今回の?
『酷く脆い、如何にも人間らしい結末だ
思考を割くな、メルメッテ。お前はただ私の命令に従っていろ』
存じております。参りましょう、主様

敵機、確認。……皆様です。或いは、きっと何処かでお会いした。
『折角だ。メルメッテ、”私の音声の外部用マイク”のみをONにしろ』
ご命令通りに。皆様の前へ降り立ちましょう
『――良い夜だな。私と踊りたい者は一歩、前へ。』

敵攻撃を【見切り】剣で【武器受け】。【受け流し】て捌きます
一振りごとの手応えが骸とは違う。これは命の重みなのでしょう
『答えろ。此処で散らせるつもりか?勿体無い』

指定UC発動。熱飛刃も併用し敵機四肢を【切断】
コックピットは狙わず無力化に留め【蹂躙】です
切り取った敵機腕部の手の甲へ口づけを落とす仕草をし、粗雑に放り投げます
『焦らして悪いが、未成年を貫く趣味は無いのでな
それでも終わりを欲するのなら生きる事だ
成長したお前達がまだ私に請うのなら。その時は、私の腕の中で果てさせてあげよう』



●剣客踊る
 長大な商業ビルや数多の電光掲示板が発する多種多様な光。頭上の夜空以外を人工の星に彩られた香龍中央区画の十字路にて、中心に立つ白磁の騎士の四眼が周囲を睥睨していた。
「やはりお味方として戦ってきた方々が、今回の……」
 ラウシュターゼの胸郭の奥底に収まるメルメッテ・アインクラング(Erstelltes Herz・f29929)が宛もなく尋ねる。メインモニターに映り込むイカルガが放つ鼓動には、彼女の憶えにあったものも少なからず存在していたであろう。
『酷く脆い、如何にも人間らしい結末だ』
 ラウシュターゼの鉄のように冷たい声音が聴覚野に響く。メルメッテは微かに口を開こうとしたが『思考を割くな』との言葉に遮られて面持ちを痛く俯けた。
『雑音が煩いぞ。お前はただ私の命令に従っていればいい』
「存じております」
 短く応じて強かに頷く。自分には迷う必要などないと。意を籠めて操縦桿を握るとアンサーウェアの生地が擦れて軋む。
『だが……思惑通りに踊ってやるつもりなど元より無い』
 顔を上げたメルメッテは主君の言葉の意図に察しを付けて再度頷く。
「はい、政争に利用――」
『お前は鈍いな』
 嘆息気味な声音に先んじられ、途中まで出掛けた言葉を咄嗟に引っ込めた。
『そのような細事ではない。これは元より私と奴等の殺し合いなのだ』
 メルメッテは奴等とやらが指す意味を掴み損なって両目をしばたたかせる。
『折角だ、少々冷やかしてやろう。メルメッテ、”私の音声の外部出力”のみを有効化しろ』
 傲岸不遜な語り口にどこか悪戯めいた嬉々の色味を感じたメルメッテは「よろしいのですか?」と尋ねる。諸々の事情により操縦者情報を秘匿して戦う事が常のメルメッテにとってラウシュターゼの指示は想定し得ない事だった。
『私は命令に従えと言い、お前は存じていると言った。もう忘れたのか?』
「失礼致しました、直ちに」
 僅かに肩を跳ねさせたメルメッテは主君の仰られる通りにラウシュターゼ自身の外部音声出力を有効化させる。するとラウシュターゼが一歩前へと足を踏み込んだ。大理石の床を打つかの如く静かな足音が波紋となって広がった。包囲するイカルガ達が気圧されたかのように一歩後ろに下がる。
『――悪くない夜だな』
 藍色のベールが降りた香龍の夜空を仰いだラウシュターゼがおもむろに言葉を紡ぐ。
『喋った!?』
 イカルガの搭乗者が驚愕めいた呟きを零す。日乃和を巡る依頼の多くに参加してきたメルメッテとラウシュターゼは搭乗者の情報を徹底的に秘匿し続けていた。友軍との通信に一切の応答を返さない謎のパイロット。その神秘がたった今開示された。ラウシュターゼの声を聞いた彼等はそう誤解するに至った。自分に向けられた奇異の視線にむず痒さを覚えたメルメッテは何とも怪訝かつ神妙な面持ちを浮かべる。
『私と踊りたい者は一歩、前へ』
 そんなメルメッテの心境を知ってか知らずか――恐らく前者であろうラウシュターゼは不敵な声音を添えて従奏剣ナーハを静かに抜き放つ。
『な、何のつもり!?』
 イカルガ達はアサルトライフルを向けたままラウシュターゼを睨め付ける。搭乗者の様子からは困惑した気配がありありと感じられた。
『ご覧の通りだが?』
 ラウシュターゼの頭部が緩慢に左右に動く。
『決闘でもやろうっての!?』
 ラウシュターゼを囲む銃口とロックオンパルスの目付きが益々鋭くなる。だが当の機体は動じるでもなく肩を竦めてさえみせた。膠着する空気。イカルガの搭乗者達は互いに見合わせると銃を投棄し始めた。
『それでいい』
 白磁の騎士の四眼が放つ光が不敵な嬉々に歪む。正面切って果たし合いを挑む相手を囲んで殴れるほどに恥を捨てられない精神性が呼び覚まされたらしい。ラウシュターゼが意図した処かは定かではないが、武士道精神或いは騎士道精神などと呼ばれる誇りを重んじる風習の存在を察する機会は幾らでもあった筈だ。
『メルメッテ、解っているな? 苦戦すら論外だ』
「心得ております」
 固く正面を見据えて深く呼吸するメルメッテ。イカルガの一機がラウシュターゼの前に出てビームソードを発振させた。
『いざ!』
 荷電粒子を束ねて形成した刃を構えたイカルガが疾走る。正中を断つ斬り下ろしがラウシュターゼに迫った。ラウシュターゼは身を翻すでもなく従奏剣ナーハで打ち返す。鋸状の無数の小刃が荷電粒子を削り取って周囲に蒼白の粒子を散らせる。
「重い……!」
 操縦桿越しにでも伝わる剣筋の圧力にメルメッテは顔を顰める。これが魂の乗った剣戟か。人喰いキャバリアを切り刻んだ際の肉袋を切ったような感触とはまるで違う。軌道は真っ直ぐで迷いが無い。力任せの横薙ぎを斜め下方からの切り上げで払い除ける。
『まだっ!』
 面を狙った縦の斬撃が裂帛と共に降ろされた。メルメッテは敢えて同じく縦の剣筋でこれを受け止める。剣から伝わる鼓動に負けてはならない。苦戦すら許されないという主の導きを果たさなければならないのだから。真正面から衝突し合う刃と刃が視界を焼き尽くさんばかりの明滅を引き起こす。
『答えろ。此処で散らせるつもりか? 奴に踊らされて終わるのか?』
 鍔迫り合いの最中でラウシュターゼが頭部を迫らせて問う。
『何がっ!?』
 食い縛っているのであろう歯の隙間から苦悶に近い少女の声が返ってくる。
『お前達も鈍いものだな? まったくもって勿体無い』
「くっ……!」
 ラウシュターゼが発した哀れみ混じりの言葉の直後にメルメッテは身を乗り出した。ナーハを押し出すようにしてかち合う剣を弾き飛ばす。大きく後ろに仰け反ったイカルガが体勢を整えるよりも先にラウシュターゼが構えを変えた。
「ベリーベン!」
 突き出されたナーハが剣形態のノーテンから鞭形態のベリーベンへと性質を転じた。小刃を伴う光鞭が伸びてイカルガに蛇の如く巻き付いた。マニピュレーターに握り込まれたナーハの柄から灼熱の思念波動が光鞭へと伝う。刃のひとつひとつが熱に包み込まれて従奏剣は炎の蛇腹剣と化す。
「これでっ!」
 メルメッテが力任せに操縦桿を引くと、ラウシュターゼも応じて腕部を引いた。殉心戯劇のサイコ・フィールドを帯びた刃がイカルガの装甲に食い込み、そしてコクピットブロックを綺麗に残したまま四肢を切り刻んだ。少女の悲鳴と共に残骸が崩れ落ちる。すると虚空に生じた術陣から攻撃端末たるベグライトゥングが出現した。それは残骸のひとつを見繕うと、展開した刃で器用に掴んでラウシュターゼの許へと運び届けた。
『焦らして悪いが、生娘を貫く趣味は無いのでな』
 届けられたイカルガの腕部を独りでに受け取ったラウシュターゼは、マニピュレーターの甲へと頭部を寄せる。触れるか触れないかの距離まで添わせると、まるで興味を失ったかのような挙動で投棄した。
『それでも終わりを欲するのなら、生きる事だ』
 灼熱の思念波が失せた従奏剣ナーハの有り様をノーテンへと回帰させる。刃に食い込んだ鋼の残滓を振り払いながらラウシュターゼの四眼が周囲を一瞥する。
『或いは……成長したお前達がまだ私に請うのなら。その時は、私の腕の中で果てさせてあげよう』
『馬鹿にして!』
 言葉尻に嘲笑を紛れ込ませてやれば、案の定挑発に乗った者が光剣を携えて正面に立つ。
『さて……メルメッテよ、まさか先のひとつで息を切らせたのではあるまいな?』
 ラウシュターゼが従奏剣の切先をイカルガへと向けた。
「問題ありません」
 毅然と答えるメルメッテは深く吸って吐いた呼吸に胸を上下させた。指は操縦桿を強く握り締め、淡い瞳孔は正面に捉えた剣客だけを見詰めている。
『それは良かった。ならば存分に踊り、そして掻き乱してやるがいい……』
 白磁の騎士が肩を鳴らして嗤う。その四眼は既に眼前の剣客を見ていない。視線を辿った果てで、時の骸の化身は赤黒い怨恨を以てラウシュターゼを睨め付けていた。漸く作り上げた舞台の尽くを掻き乱さんとするラウシュターゼを。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カシム・ディーン
竜眼号搭乗
…あー…あのお嬢様達か
彼奴らには素敵歓待して貰った覚えがあるな
「楽しかったよね☆」
…まぁ…イロイロしてくれた恩義には報いるか
「って事は?」
乗ってる機体をぶっ壊しての救出だ
「って事はご主人サマ☆あれの出番だぞ♥」
うっがぁぁぁぁ!!(崩れ落ちる

【属性攻撃・迷彩】
光水属性を竜眼号に付与
光学迷彩で存在を隠し水の障壁で熱源も隠蔽

絶望のUC発動
今…幼女地獄の門が開く…!
「「ひゃっはー☆」」

【情報収集・視力・戦闘知識】
白羽井小隊の機体構造と陣形…搭乗席の位置把握

30師団
【念動力・武器受け】
竜眼号の護衛
念動障壁を展開して主を絶対に護り抜く(傷つくと消えちゃうしね!

残り
【空中戦・弾幕・スナイパー】
飛び回りながら念動光弾を乱射して機体の動きを止める
【二回攻撃・切断・盗み攻撃・盗み】
無数の幼女で襲い掛かり鎌剣で機体を切り刻み分解
中の人を引きずり出し誘拐
【浄化・医術】
精神汚染を浄化し治療!!
「「きゃー☆メルシー達捕まっちゃった☆メリアグレースの亡命の人質だぞー☆」」
等助けたい猟兵達に全力引き渡し!



●ロリータ・ハザード
「あー……あん時のお嬢様達か……」
 戦火孕む大都市を見下ろす帝竜大戦艦――竜眼号の艦橋にて、艦長席に座すカシム・ディーン
(小さな竜眼・f12217)は苦い表情で両腕を組んでいた。
「愛宕連山だったかな? 道中で素敵歓待して貰った覚えが……」
「楽しかったよね☆」
 隣り合う司令席に座る銀髪の少女、メルシーがとびきり明るくも様々な意味を多分に含む笑みを放つ。
「まぁ……イロイロしてくれた恩義には報いるか」
 決心を付けたらしいカシムが組んでいた腕を解いて席を立った。
「って事は?」
 メルシーも合わせて席を降りる。
「乗ってる機体をぶっ壊しての救出だ!」
「じゃあご主人サマ☆ あれの出番だぞ♡」
 待ってましたと言わんばかりに人差し指を立てるメルシーにカシムは頷きを返す。
「ああ! メルクリウスで出げ――」
「ご主人サマ! 依り代お願い!」
「うん!?」
 カシムが全てを言い終えるよりもメルシーが凶行に及ぶ方が早かった。そしてうっかり承認してしまった。カシムの顔面から血の気が引くのが後か先か、艦橋内のそこら中に魔術陣が展開する。
「おいちょっと待てメルうっがぁぁぁぁ!」
「ひゃっはー☆」
 無数の魔術陣から這い出てきたのは銀髪の幼女。即ち幼い可愛いメルシーである。幼女メルシーはうっかり破裂させてしまった水道管の水の如く湧き出てきた。そして一瞬で艦橋を埋め尽くしカシムを断末魔ごと呑み込んだ。しかしそれだけでは収まらない。実際は竜眼号の艦内の至る所に魔術陣が展開しており、そこからやはり幼女メルシーが次々に出現した。最早その数は値に表して管理する意味を持たないほどに膨れ上がっている。こうして開かれた幼女地獄の門から無尽蔵に湧く幼女達は竜眼号内に収まりきらず、飛行甲板上からナイアガラの滝の如くこぼれ落ちて行った。
「うぉいメルシー! ある程度は艦の護りに回せよ!?」
 やっとの思いで顔を出したカシムが怒鳴りつけるようにして声を飛ばす。先ほどまで艦橋に居たはずなのに首を挙げると夜空が見えた。幼女メルシーの激流に呑まれて飛行甲板まで流されてしまったらしい。
「まっかせてー☆」
 一度に百人以上で同じ言葉を発するものだから声量は凄まじく大きい。そして溢れ出る幼女メルシーは唯の量産型幼女ではない。一人一人が小型化されたキャバリア用の武装――鎌剣ハルペーや万能魔術砲撃兵装カドゥケウスを搭載している。高機動ウィングのタラリアも装備しているので空中での活動も問題はない。30師団分の幼女メルシー達はカシムの言い付け通りに竜眼号を包み込むように展開すると念動障壁を球体状に形成した。竜眼号は現在光学迷彩で不可視化しているのに加えて水の属性を根源とする魔術的保護によって熱感知も遮断されている。
「メルシー軍団だぞー☆」
 そして残りの幼女はというと竜眼号からこぼれ落ちた後は市街を飛び回りクーデター軍と交戦状態に入っていた。
『大佐! 空から女の子が!』
 突如として襲来した幼女の大群に狼狽えるイカルガの搭乗者達。幾ら深刻な精神汚染下にあるからとは言えど地にあるのは人間。突然幼女が出現したら出会い頭に発砲出来るものではない。
「待て待てー☆」
 そんな事情は知ってか知らずか、幼女メルシー達はカドゥケウスから光弾を乱射して標的を追い回す。
『惑わされないで! きっとユーベルコードだよ!』
 察した後の行動の切替は早い。イカルガは機体を横方向へと滑らせながらマイクロミサイルを解き放つ。幾つもの小型誘導弾が縦横無尽に走り回り、幼女メルシーや光弾に擦過して近接信管を作動させる。だが幼女メルシーはとてつもなく数が多い。10人20人をどうにかしたところで100人200人が黒煙を切って出現するのだ。なおカシムとしては白羽井小隊の陣形等を把握した上で攻撃を開始するつもりだったのだが、幼女メルシーは主の意向を慮ってくれなかったようだ。最終的に勝てばよかろうなのだと。
「捕まえたぞ☆」
 無数の幼女メルシーがイカルガに張り付く。彼女達は握る鎌剣から月色の刃を生じさせると関節駆動部に差し込みせっせと解体作業を開始した。
『ひいぃぃぃっ!?』
 幼女メルシー達は表情から判断するに楽しいようだが解体されている側からしたら堪ったものではない。同じ顔で同じ姿をした無数の幼女が自分の機体に張り付いて笑顔でビームサイスを振り回しているのだから。
「コクピットハッチの開き方はー?」
「ここをこうして……」
「あっ開いた☆」
 イカルガの機体構造自体はさして複雑という訳でもない。故に幼女メルシー達は難なくコクピットハッチの開放に成功した。何せ彼女達も本来はキャバリア――界導神機メルクリウスなのだから。顔を合わせるや否や凄まじい悲鳴を上げる搭乗者にも構わず幼女メルシー達はコクピット内に侵入する。
「確保ー☆」
 幼女メルシー達は姿に見合わない膂力で搭乗者を引きずり出す。そしてこう叫んだ。
「きゃー☆ メルシー達捕まっちゃった☆ メリアグレースの亡命の人質だぞー☆」
 呆気に取られる搭乗者。それを掴んで飛ぶ幼女メルシー達。搭乗者喪失により制御を失ったイカルガが重力に吸い寄せられるかのように降下を始め、高層マンションの壁面に突っ込んだ。
「なんなのよこの子達……」
 精神汚染の除去が効いたのか、それとも恐るべき幼女軍団に心を挫かれたのか、搭乗者にはもう戦意は疎か拘束に抗う気力さえも残されていなかった。幼女メルシー達は武装解除または投降した敵兵を亡命受け入れの名目で保護しているらしいメリアグレースの教皇の元へと搭乗者をぶら下げて飛ぶ。
「よーし! その調子でしっかり働けよ!」
 対軍撃滅機構を使ってしまった影響で戦闘能力を封印されているという面もあるが、カシムはすっかり現場監督になってしまった。彼の言い付けに銀髪幼女軍団は「まっかせてー☆」と応じると手当たり次第にイカルガに纏わり付いて搭乗者の強制摘出作業を継続する。
 そして戦場の片隅から彼と彼女を見遣る鋼鉄の狂気は赤黒い憤怒を脈動させていた。それを嘲笑うかのようにして銀髪の幼女達はとびきり能天気な笑顔を振り撒く。オブリビオンマシンの望むがままに猟兵達の手によって血染めの地獄になる筈だった香龍は、カシムとメルシーの所為で幼女の地獄と化してしまった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

露木・鬼燈
まぁ、こうなるよねー
不穏な空気は感じてたし驚くことではない
そしてこーゆーお仕事が回ってくることもね
なので熟達の忍に動揺はない
いつも通りに戦うだけっぽい!
とゆーことで…アポイタカラ、出撃するっぽい!
装備はいつも通りにマシンガン&ライフルに徹甲榴弾を装填
命中すればその部位は吹っ飛ぶですよ
例えそれがコクピットであっても、ね
戦場で殺してやるのが慈悲とゆーのなら狙い撃つのですが…
まぁ、活かしたいとゆー猟兵もいるよね?
それなら手足を吹っ飛ばすだけにするけどね
んー戦闘終了後なら精神汚染程度ならどーにかできる
そんなUCを持っている人もいるかもしれないしね
大した手間ではないから合わせるですよ
不和の芽は摘むに限るっぽい!
さて都市部での戦闘に適したUCはっと…魔猿の如く、なんてね。
建造物を利用した立体機動で影から影へ
死角から死角へと移動しながら射撃攻撃
近接戦闘になってもダークネスセイバーがあるからへーきへーき
披露する機会はなかったけど僕は近接戦闘の方が得意だしね



●降魔化身
 夜光の輝石が輝く大都市香龍に、炸薬の弾ける音や荷電粒子の迸りが絶え間なく轟く。方々から挙がる黒煙が風になびいて炎の香りを運んでいた。
「まぁ、こうなるよねー」
 高層オフィスビルの屋上にて赤鉄の鬼が立つ。アポイタカラのコクピット内に座す露木・鬼燈(竜喰・f01316)はさも当然といった感情の色を覗かせるばかりで焦燥の気配は見られない。彼等が反旗を翻すのに及ぶ事は元より想定していた。そしてそれを鎮圧する仕事が回ってくる事も。為すところと言えばいつも通りだ。
「んー、でもどうしよーか?」
 モニター越しに眼下を見下ろす鬼燈の首が右に左にと動く。アポイタカラの頭部も連動して動く。視線を向かわせた先では他の猟兵と叛乱軍が交戦している。
「七対三ってとこっぽい?」
 鬼燈は二度首を傾げた。確認可能な範囲では生け捕り派が七割でそれ以外が三割といったところだろうか。中には事前に打ち合わせていたかの如く敵の搭乗者を拉致して次々に収容している者もいるようだ。
「戦場で殺してやるのも慈悲ですが、まぁ、活かしたいとゆー猟兵もいるよね?」
 活かすにしても殺すにしても手間では無い。生殺与奪の次第について鬼燈は初めから周囲に合わせるつもりでいた。加えて任務開始直前に垂れ流しになっていた首相官邸のやり取りを聞くに、政府側は叛乱軍の処罰に対して極めて消極的らしい事も既知している。
「精神汚染をどうにか出来るユーベルコードを持ってる人もいるみたいだし、ここは……」
 鬼燈の指先が操縦桿のホイールキーを転がす。アポイタカラが左右のマニピュレーターで保持するパルスマシンガン改と、左右後方の肩越しに控えるダークネスハンドが保持するキャバリアライフル改の安全装置が解き放たれた。
「不和の芽は摘むに限るっぽい!」
 アポイタカラがビルの屋上を蹴って跳んだ。オーバーフレームを真下に向けてビル街を左右に二分する幹線道路上へと降下を開始する。風を切る音が装甲からコクピットの中にまで伝わった。
『アポイタカラを確認! 気を付けて! 速い!』
 喧しい接近警報が鳴るが先か、鬼燈は機体の向きを反転させる。編隊を組んだイカルガがアサルトライフルを連射し相対距離を急速に詰めつつあった。
「魔猿の如く、なんてね」
 アポイタカラが側面のビルを蹴飛ばして横滑りした。標的を見失った銃弾が擦過するのを見届けるまでもなく、鬼燈はロックオンマーカーをイカルガへと合わせた。キャバリアライフルをセミオートで数発撃つ。照準を向けられたイカルガは急速降下して回避してみせた。銃弾がビルの壁面に突き刺さると一拍子遅れて炸裂する。
「おー、すばしこいのですよ」
 むしろこの程度避けてくれなければ張り合いが無いと言った口振りの鬼燈は相変わらず呑気そうな表情だ。多角的に伸びたアサルトライフルの火線。バーニアノズルから単発的に噴射炎を焚いて瞬間加速して躱す。
「広いところだと返って面倒っぽいー」
 アポイタカラはまたしても壁に見立てたビルを蹴る。幅の広い幹線道路上からやや手狭な高層建築物群の狭間へと飛び込んだ。その後をイカルガが猛追する。
『こんな狭いところでよくもここまで動ける……!』
「鳥さんこちらー」
 ビル街の狭間へと機体を投じたアポイタカラは、視界の左右に立ち並ぶ建造物を足場に高速で跳ね回った。その様子は正に魔猿の如し。推進噴射が尻尾のような軌跡を描く。辛うじて追走するイカルガ達はフライトユニットを壁に擦って姿勢を崩し、急激に減速してしまう。
「こっちなのですよー」
 唐突な方向転換でビルの陰に滑り込む。
『消えた!』
 視界から消失した標的を探すべく、イカルガの頭部がしきりに動き回る。その間にアポイタカラは市街を迂回して編隊の背後を取った。
「お背中討ち取ったりっぽい」
 ライフルとパルスマシンガンから成る合計四門がマズルフラッシュを吐き出した。弾丸はフライトユニットと肩部、アンダーフレームに突き刺さる。イカルガが被弾の衝撃で姿勢を崩した直後にそれらは炸裂した。徹甲榴弾が撒き散らした金属片や衝撃波が着弾地点を砕いたのだ。
『いつの間に!?』
 他のイカルガが瞬時にアサルトライフルを向けて応射に転じる。アポイタカラはまたしても市街を三角跳びで後退しながら徹甲榴弾を撃ち散らす。当然イカルガは回避運動を取るが、狭所であれば取れる動きも必然的に限定される。鬼燈がトリガーキーを引く度に一機また一機とイカルガが脱落してゆく。
『斬った!』
 突如として背面から殺気が押し込んできた。抜剣して突撃するイカルガを鬼燈の横目が捉えた。
「おおっと!」
 アポイタカラは咄嗟に機体の姿勢を捻る。パルスマシンガンを投棄してダークネスセイバーを抜いた。赤黒いサイコ・フィールドの光剣と青白いプラズマの光剣が激突し合う。防眩フィルターを介してもなお目を焼かんばかりに明滅するスパーク。
『止められた!? 射撃戦タイプじゃなかったの!?』
「披露する機会に恵まれなかったけど、僕は近接戦闘の方が得意っぽい」
 ダークネスハンドが保持するキャバリアライフルの銃口がイカルガを無慈悲に見下ろしていた。放たれる徹甲榴弾。肩部に食い込む弾頭。アポイタカラの眼前でイカルガの肩部が爆散した。
「惜しかったのですよ」
 両腕部を喪失したイカルガにダークネスセイバーの刃を閉じたアポイタカラが足を掛ける。そして強烈な踏み付けで跳び上がった。踏み台にされたイカルガはアスファルトの地面に叩き付けられて機能を停止した。
「誰かに拾ってもらってくださいな」
 路上へと軽やかに降着したアポイタカラは投棄したパルスマシンガンを回収すると、やはり地を蹴り付けて武芸めいた三角跳びを繰り返す。思惑を破綻させた魔猿を睨むオブリビオンマシンの眼は、アポイタカラが振るった刃のように赤黒く染まりつつあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

支倉・錫華
【ネルトリンゲン】

選択肢のひとつではあったけど、
いちばん選びたくないのになっちゃったね。

戦力差を考えると、|そこまで《不殺が》できるほど余裕はないんだけど、やるしかないか。

アミシア、【スヴァスティカ】空戦仕様でいける?
『【フレキシブル・スラスター】の調整は完了してます。いつでも』

理緒さん……『希』ちゃんかな? カタパルトでの射出よろしく。

アミシア、射出と同時に【Low Observable Unit】起動。
敵のイカルガの中に飛び込んだら解除して、攪乱しつつ行動不能にしていくよ。

シャナミアさん、アミシアに射撃のタイミングだけ送って。
わたし飛び込むけど、遠慮なく撃っちゃっていいからね。

イカルガの編隊の真ん中に飛び込んだら、
シャナミアさんが狙いやすいように囮になって、イカルガをわたしに集めるよ。
近づいてくる相手には【歌仙】と【スネイル・レーザー】で翼を狙って攻撃。

シャナミアさんの【クレイモア】は、【アウェキングセンシズ】での回避と、
避けきれない分は【天磐】で防御。盾は使い捨ててもいいかな。


菫宮・理緒
【ネルトリンゲン】

『マーフィーの法則』だっけ?
悪い予感ってだいたい当たるよね。

不穏な感じはしていたから準備はしてたけど、無駄になってくれると嬉しかったな。

シャナミアさん、この状況で|不殺《ころさず》はハードモードだよ?
って、まぁ、わたしもそのつもりではあったけど!

猟兵として『的戦力の殲滅』として依頼は受けているけど、
皆殺しとはいわれてないからね。

錫華さんはありがとね。ごめんだけどよろしく!

向こうの攻撃は【リフレクションマリス】で防ぐから、
どんどんイカルガ墜としちゃってー!

『希』ちゃん、【ネルトリンゲン】はできる限り前線の近くで対空防御。
わたしは白羽井のみんなを回収してくるから、細かなところは任せるよ。

【lanius】は電磁警棒とウインチ装備で救助仕様。

シャナミアさんと錫華さんが行動不能にしたイカルガからパイロットを引きずりだしたら、
動ける人はネルトリンゲンに誘導、動けない人はわたしが連れて行くよ。

ハッチが開かないとかあったら、警棒やウインチでひっぺがしていくよ!

絶対死なせないから、ねー!


シャナミア・サニー
【ネルトリンゲン】
いやぁ、まぁねぇ
こうなるんだろうなぁとは思ってたけどもさ
やっぱりこうなると残念だ

……でもさ
こうなるって思ってたからこそ
私は用意してきたつもりだよ

前にも言ったけど、レッド・ドラグナーに特別な機能は無いし
私も猟兵の力で戦ってるつもりは無い
だからこの局面に対する新兵器のお披露目といこうか!

【バックウェポン・アタッチメント】換装
レゾナンスクレイモア・ツインスクエアポッドで肩装備を重武装化
イカルガの高速機動にはレッド・ドラグナーじゃどうやってもついていけないからね
悪いけど『面』で対抗させてもらう!

錫華さん!
共同作戦でイカルガ壊すよ!
理緒さん、動けなくなったイカルガからパイロット引き剥がして!

レゾナンスクレイモアは着弾して食い込んだら
そこから高周波振動を放ち続ける対人特化の特注散弾
除去できなきゃ高周波振動を喰らい続けるってワケ
機体が耐えられると思う?

一発一発がひっじょーにお高い弾なんだけどさ
まぁ日乃和からもらった金で作った装備だし
いい機会だからここで還元するよ!
全弾持ってきな!



●演者踊らず血も流れず
 聳え立つ高層ビルの硝子窓が大気の轟きに戦慄する。唸りを奏でるのはミネルヴァ級戦闘空母ネルトリンゲンのメインエンジンだった。薄い桜色を含んだ真珠色の装甲が人工の光を灯すビル群を照り返す。
「えーっと、何の法則だっけ? 悪い予感がだいたい当たるの」
 菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)がlaniusのコクピット内にて誰に向けるでもなく問いかける。コンソールの盤面を踊る細い指先は出撃前の最終準備に勤しんでいた。
「マーフィー?」
 スヴァスティカ SR.2の中で操縦席に背を埋める支倉・錫華(Gambenero・f29951)が抑揚の薄い声音で答える。
「それそれ。不穏な感じはしていたから準備はしてたけど、無駄になってくれると嬉しかったな」
 良くも悪くも身構えていた甲斐はあったらしい。機体ステータスの確認を終えた理緒は軽く嘆息した。
「こうなるんだろうなぁとは思ってたけどもさ、やっぱりいざ本番になると残念だなって」
 シャナミア・サニー(キャバリア工房の跡取り娘・f05676)は既に出撃準備を終えたレッド・ドラグナーをネルトリンゲンの飛行甲板上にあるカタパルトデッキへと進ませる。
「選択肢のひとつではあったけど、一番選びたくないのになっちゃったね」
 熱を感じさせない表情の錫華だが所感は理緒とシャナミアとさして変わらないらしい。彼女もまた自機を前線へ投じるべくスヴァスティカ SR.2の足をカタパルトの爪にロックさせた。
「ま、私は用意してきたつもりだよ」
 前線で咲く爆炎の華を見遣るシャナミアが双眸を細める。
「シャナミアさん、本気なの?」
 念を押してといった様子で理緒が尋ねると「もちろん」との声が返ってきた。
「折角新兵器も積んできたし? お披露目するなら今しかないかなって」
 シャナミアのエメラルドグリーンの瞳が向かう先には、サブウィンドウ上のレッド・ドラグナーの機体ステータスが表示されていた。そのモデルの輪郭は従来のレッド・ドラグナーとやや異なる。両肩部に接続されたウェポンコンテナのようなパーツがシルエットを一回り大きく見せていた。
「この状況で殺さずは難易度ハードモードだと思うけど……」
 理緒は続く言葉を仕舞い込んだ。だとしてもやると決めたからにはやる。それに依頼内容は敵勢力の殲滅であって皆殺しにせよとの命令は一言も聞いていない。逆に戦闘中における搭乗者の扱いは生かすも殺すも任せると言われているのだから。
「戦力差を考えると、そこまで余裕はないんだけど、やるしかないか」
 理緒とシャナミアの会話を聞き流していた錫華は客観視に徹していた。実際コクピットだけを避けて敵機を落とすというのは熟練の強者――錫華にとっても容易ではないだろう。しかし不可能ではない。そしてガルヴォルンとしての方向性は決まっている。だからやるしかない。
「アミシア、フレキシブル・スラスターの調子は?」
『問題ありません。いつでも行けます』
 サブモニターの枠の中で揺蕩うパートナーユニットの電子的な音声に「そう」とだけ応じると錫華は操縦桿を固く握り込んだ。
「じゃあ先に出るから。希ちゃん、射出よろしく」
『了解です! お気をつけて!』
 電磁加速で投射されたスヴァスティカ SR.2が香龍へと飛び込む。
「レッド・ドラグナー、行くよ!」
「希ちゃん、ネルトリンゲンはこの場で前線支援しつつ対空防御ね。じゃあ行ってくるから!」
 艦の管制を一挙に担ったM.A.R.Eの見送りを受けてシャナミアと理緒のキャバリアもそれぞれに飛び立つ。三機を射出したネルトリンゲンは申し付けの通りにM.P.M.Sから迎撃誘導弾を発射した。新手の接近を感知したイカルガ達が強襲を仕掛けようとするも、ネルトリンゲンから伸びたミサイルに追い立てられて退散する。最も危険な瞬間である出撃直後の魔の時間は抜けられたようだ。
「錫華さん!」
 幹線道路上に降着したレッド・ドラグナーが足裏から火花を散らして前進加速する。肩部に搭載したウェポンアタッチメントの重量が伸し掛かった。
「解ってる。アミシアに射撃のタイミングだけ送って」
 レッド・ドラグナーの頭上を抑えるポジショニングでスヴァスティカ SR.2が飛ぶ。
「向こうの攻撃はわたしの方で防ぐから、どんどんイカルガ墜としちゃってー!」
 先行する二機に続く格好で理緒のlaniusが地表を滑走する。
『ネルトリンゲンから出て来た機体……やっぱりガルヴォルンか!』
 錫華と理緒とシャナミアの三者がイカルガの編隊と遭遇するのにさほど時間は要さなかった。ビルの狭間を割って出て来た敵機へ最初に食い付いたのは錫華のスヴァスティカ SR.2だった。
「撹乱するよ」
 スラスターから力強く光を焚いてレッド・ドラグナーを追い抜く。その際にイカルガ達の動きがほんの一瞬驚愕したかのように固くなったのは気のせいではないだろう。発艦時に発動していたLow Observable Unitのステルスシステムを解除する事でレーダー上での反応をあたかもレッド・ドラグナーが分裂したかのように見せかけたのだ。獲物では無く|地平線《レーダー》を見よ――教えの通りに戦っていた搭乗者達はスヴァスティカ SR.2に意表という背後を突かれた。
『ステルス機か!』
 散開したイカルガがそれぞれに異なる角度から突撃銃の火線を伸ばす。針となった殺気が錫華の地肌を突き刺した。
「見えてる」
 アウェイキング・センシズで研ぎ澄ました感覚が銃弾の軌道を視界の中に描き出す。スラスターを噴射して機体を捻る。装甲を掠める銃弾の熱さえもこの身に感じた。交差した刹那に逆手のマニピュレーターで握った歌仙を振り抜いた。細身の片刃がイカルガのフライトユニットの表面を滑って火花を散らせる。
『斬られた!?』
 擦り抜けたイカルガが半身の推進装置を焚いて急速旋回した。だがそれよりも先にスヴァスティカ SR.2が背を向けたままスネイル・レーザーの銃口を覗かせていた。錫華が感覚を信じてトリガーキーを押し込む。フルオートモードで連射された光の破線はイカルガの翼を抉り取るようにして撃ち抜いた。滞空し続けるのに必要な推力を喪失したイカルガが黒煙を吐きながら墜落する。しかし錫華にはそれを見届ける暇など無い。誘導弾警報が耳朶を撃ったからだ。
「流石に速いね」
 一機を犠牲にスヴァスティカ SR.2を取り囲んだイカルガ達が一斉にマイクロミサイルを放つ。スヴァスティカ SR.2は正面のミサイル群にスネイル・レーザーを撃ち散らす。炸裂する爆炎に突っ込む。荒れ狂う軌道を描くマイクロミサイルとイカルガが背後を追う。錫華の目がレーダーグラフに移された。見込み通り散らばっていた敵軍は自機の後ろに固まりつつある。そして当然集中砲火を受ける羽目になるのだが――。
「術式展開!」
 理緒が叫ぶとスヴァスティカ SR.2は淡い光の粒子の球体に包み込まれた。背後から銃弾が浴びせられるも、球体に到達した途端に元来た軌道を辿ってイカルガ達に襲来する。
『反射された!?』
 辛うじて回避するも掠めた銃弾によって体勢を大きく崩される。スヴァスティカ SR.2のみならずレッド・ドラグナーとlaniusさえも保護するリフレクションマリスの恩恵だった。
「シャナミアさん、一旦引き付けるから」
「了解っと!」
 レッド・ドラグナーがスヴァスティカ SR.2とイカルガ達を追う。正面を険しく睨め付けるシャナミアの指先はトリガーキーに乗せられていた。焦りと期待が額に汗を滲ませる。錫華が作り出してくれた好機を最大限活かす瞬間がもう少しで訪れる。それまで引き金を力いっぱい引いてしまいたい衝動を耐えろと歯を食い縛る。そして敵機を引き連れて逃げるスヴァスティカ SR.2が進路を180度反転させた。
「来たっ!」
 シャナミアが左右の操縦桿を限界まで引き戻す。レッド・ドラグナーが後退推進噴射し急停止を掛けた。背中を押し潰す重力加速度に牙の隙間から呻きが漏れる。ファンクションシールドを構えたスヴァスティカ SR.2を正面上方に見据え、レッド・ドラグナーは両脚を開いてアスファルトの地面を踏みしめた。
「レゾナンスクレイモア!」
 レッド・ドラグナーの両肩を占拠するスクエアポッドがハッチを開放した。一切の回避運動を取らない機体に対して向かい来るイカルガ達は冷徹なまでにアサルトライフルの集中掃射を仕掛けたいところではあったが、先の反射領域の存在が発砲を躊躇わせた。
「全弾持ってきな!」
 シャナミアの裂帛に合わせて内部に犇めくベアリング弾が開放された。
 弾幕が壁を形成してスヴァスティカ SR.2とそれを追うイカルガ達に正面衝突した。先頭を行くスヴァスティカ SR.2が真っ先に被弾するも僅かに角度を付けて構えた天磐が鈍い金属音と共に受け流す。後続のイカルガ達はまともに浴びる羽目となり文字通りに叩き落された。しかし直撃だったのにも関わらず大破した機体は一機もいない。
『機体が……!?』
 イカルガの搭乗者が目を見開く。機体全体のステータスが黄から赤へと次々に変貌し、それと合わせてコクピット内にとてつもなく耳障りな音色が充満し始めた。
「これは高周波振動を放ち続ける対人特化の特注散弾……だからレゾナンス・クレイモアってわけ」
 シャナミアが口元に不敵な笑みを浮かべる。レッド・ドラグナーの眼前で地に伏すイカルガ達が痙攣を起こして四肢の繋がりを断裂させ始めた。
「いやーひっじょーに高価なんだけどさ、ちゃんと効いてよかったー」
 成し遂げたと言わんばかりの深い頷きから察するに、シャナミアお手製のベアリング弾は過不足無く効力を発揮したらしい。
「もう始めていいかな?」
 レッド・ドラグナーの隣にlaniusを並ばせた理緒へシャナミアは「どうぞどうぞ」と薦める。するとlaniusは滑らかな挙動でイカルガの元へと滑走すると膝を付いてしゃがみ込んだ
「じっとしてて、ねー!」
 転がるイカルガのコクピットブロックにマニピュレーターを当てて直接接触回線を開く。ハッチを開放するべく電脳魔術信号を送り込む。
「ん? あれれ?」
 流し込んだプログラムが弾き出された。
「どうかしたの?」
 錫華のスヴァスティカ SR.2がすぐ隣に降着する。
「ものすごーく頑丈なプロテクトが掛かってるみたい」
「そうなの? 理緒さんが言うなら相当なんだろうね」
 同じく隣に駆け込んできたレッド・ドラグナーが周囲に油断無くセンサーカメラのスキャンを走らせた。
「アミシア、手伝って」
 大丈夫と理緒が言葉を添えてlaniusのマニピュレーターを振って見せた。
「こういう時は……これ!」
 laniusが抜いた得物はMagne Truncheon――電磁棍棒だ。
「ちょっと物騒じゃない?」
 シャナミアが向ける怪訝な眼差しを受けた理緒はコンソールパネルに細指を走らせた。腕部とマニピュレーターの制御設定を微細に調整したらしい。
「イカルガはこの辺を突っつくと……ほらできた!」
 錫華とアミシアが不安気な面持ちで見守る傍ら、laniusは実に繊細かつ大胆な腕部の動きでイカルガのコクピットハッチをこじ開けてみせた。それもその筈、本来laniusは戦闘に耐えうるだけではなく精密作業に向いた機体として理緒が自ら設計しているのだから。そして理緒の持つ機械技能士としての手腕があれば、動かないキャバリアのコクピットを開く事など造作もない。
「ここまでか……!」
 laniusが覗き込んだコクピット内部では、パイロットスーツ姿の少女が潤んだ瞳で理緒を睨み返していた。
「大丈夫ー?」
「……は?」
 理緒がさも当然のように尋ねると呆然とした表情と返事が戻ってきた。
「大丈夫そうだね」
 この場で確認出来る限りでは目立った外傷は無いらしい。
「さっすが私お手製のレゾナンスクレイモア!」
 自賛するシャナミアの言う通り、高周波振動発生弾は機体のみを正確に殺してくれたようだ。
「……撃たないんですか?」
 パイロットの少女が恐る恐る尋ねる。
「苦労して落としたのに?」
 錫華が冷淡に尋ね返すと、少女は息を詰めて続く言葉を失った。
「シャナミアさーん、この子ネルトリンゲンまで連れてって!」
 理緒は返事を待たずに他のイカルガの元へとlaniusを向かわせた。そして先と同様にコクピットを開いて搭乗者に機体を捨てるよう促す。
 |仲介人《グリモア猟兵》すら蝕み盤上で事態を転がし続けたオブリビオンマシン。彼女達がその存在に気付いていたのかは定かではない。だが少なくとも彼女達は手繰る者の願望通りの役割を演じるつもりなど初めから無かった。広場に身を降ろしたネルトリンゲンに収容される白羽井小隊を紅の眼が怒りを滾らせて睨み付ける。不意に突き刺さる視線を感じた錫華は、埠頭に係留されている大鳳の方角へと冷たい眼差しを向けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

防人・拓也
【TF101】
リーパーゼロに搭乗。キングアーサーの格納庫内で待機。システムは起動済。
マックの言葉を受けて
「…心配するな。彼女達はまだ無事だ。ゼロが言った」
と言う。
作戦確認後に
「…やれる事をやるだけだ」
と言い、射出時
「リーパーゼロ、出る!」
と出撃し、港湾施設の近くへと着陸。
恐らく那琴と栞奈が飛んでくると予想。
「…やはり来たか」
と肩を竦めながらも、サーベルを抜く。
「お前達の全力で俺を殺してみせろ!」
と言い、交戦するが剣を交える度に気付く。まるで殺して欲しいと言わんばかりにコックピットを差し出す時が度々見受けられる。その時は盾で受け流す。
「…ふざけるな! コックピットを差し出す馬鹿が何処にいる!」
と怒り、サーベルをしまう。
「お前達はこの国の希望だ! 俺は希望を潰しに来たんじゃない! まだそうするなら…その心を救ってみせる! リーパーゼロ…俺に力を貸せ!」
とUCを発動。
その後に
「…キングアーサーに行け。生きるか死ぬかを決めるのはこの戦いが終わった後でいい。今は矛を収めてくれ」
と言う。
アドリブ可。


アルバート・マクスウェル
【TF101】
キングアーサーに乗艦。艦は低空を航行。UCで艦の操作の補助に4人。残りをマイティ・スナイパーⅡに乗せて直掩にする。
「くそっ、完全に出遅れた! もう手遅れか…?」
と悔しそうに言うが、拓也の一言を聞いて安心する。
「ふぅ…なら、作戦の確認だ。俺達は港湾施設方面に向かい、大鳳の安全確保及び警戒に当たる。お前は港湾施設の近くで大鳳に被害が出ないように迎撃でOKか?」
と彼に確認。
「よし、先に直掩を出す。その次にお前だ。…とりあえず俺はお嬢ちゃん達を艦に迎える準備はしておく。どうするかはお前次第だ」
と彼に言う。
彼を射出する時
「…必ず生きて連れて帰って来いよ」
と伝える。
拓也がサイコゼロフレームの力を使い、部下に共鳴率を確認した時
「何っ!? 共鳴率が120%を超えて130%に達しようとしているだと!」
と驚愕。
戦場全体に広がる光を見て、艦内に入ってきた光を感じながら
「これが…拓也の心の光か? 恐怖は感じない。寧ろ温かく、安心感を感じるとは…。だが、この力を使い過ぎれば…」
と言う。
アドリブ可。



●逢憎
 猟兵と白羽井小隊が交戦する香龍。夜景が彩る大都市のあちこちから黒煙が昇る。大小様々な火球が膨張と消失を繰り返す。爆ぜる炸薬やキャバリアの主機が奏でる喧騒は、東部一帯を占める港湾施設を抜けた海上まで届いていた。
「完全に出遅れたな……! もう手遅れか……?」
 白波を裂いて進む強襲揚陸戦艦キングアーサーの艦橋にて、苦く歯噛みするアルバート・マクスウェル(TF(タスクフォース)101司令官・f29495)。艦長席を立っているのは焦燥からなのだろうか。碧眼が戦火の舞う大都市を映す。
「幸い大鳳にはまだ誰も手を出していないようだが、肝心のお嬢ちゃん連中がこの様子ではな……」
「心配するな。彼女達はまだ無事だ」
 掛けた相手の居ない問いに答えたのは防人・拓也(コードネーム:リーパー・f23769)だった。彼は現在キングアーサーの格納庫内で搭乗機を発進準備させた状態で待機している。彼女という言葉が指すところは白羽井小隊のフェザー01とフェザー08である事はアルバートも理解していた。
「何故言い切れる?」
 アルバートの顔付きは固く訝しい。
「ゼロが言った」
 拓也は抑揚の無い声音で言い切って見せる。
「そりゃ大した根拠だな」
 アルバートは深く瞬きした後に肩を落として呼吸を抜いた。
「作戦の確認だ。俺達は港湾施設方面に向かい、大鳳の安全確保及び警戒に当たる。お前は港湾施設の近くで大鳳に被害が出ないように迎撃……これでいいんだな?」
「ああ」
 拓也が操縦桿を僅かに前へ傾斜させるとリーパーゼロが歩を進めた。一歩踏み込む度に格納庫内で振動音が反響する。格納庫と外界の狭間であるエアロックまで到達すると、既にカタパルトデッキに至るハッチは開放されていた。潮を含んだ夜風の冷たさが機体越しにさえ伝わってくるようだ。黒い海の向こうに光の城と見紛うばかりの大都市が見える。
「先にキングアーサーの直掩機を出す。その次にお前だ」
 アルバートの命を受けた黒豹分隊が搭乗するマイティ・スナイパーⅡ。拓也に先んじてエアロックで待機していた各機がハッチを潜ってカタパルトデッキより外界へと進出する。それぞれに艦体の甲板に飛び移り、これから出撃するリーパーゼロとキングアーサー自身の警護の為に狙撃ライフルの睨みを効かせ始めた。
「とりあえず俺はお嬢ちゃん達を艦に迎える準備はしておく。どうするかはお前次第だ」
 リーパーゼロの両足がカタパルトの爪に捕らえられた。拓也が視線を横に流す。サブウィンドウに表示された射出機への電力供給ゲージが急速に高まる。発艦準備完了を示すランプが灯った。
「やれる事をやるだけだ」
 来たる重力負荷に備えてシートに背中を押し付けた。操縦桿を握る手が軋む音を立てる。
「必ず生きて連れて帰って来いよ」
 念入りに言って聞かせるアルバート。自分は彼のように未来を見通す装置を持っている訳ではない。だからこそ信じられる。この男ならやれるはずだと。
「リーパーゼロ、出る!」
 拓也の身体を強烈に押し込みながらリーパーゼロはキングアーサーから射出された。カタパルトの枷が解けた途端、拓也はフットペダルを限界まで踏み込む。リーパーゼロが背負う専用スラスターが推進噴射の白光を弾けさせた。衝撃波に跳ね除けられた波が軌道を追う。埠頭に辿り着くのにさしたる時間は要さなかった。減速の為の逆噴射を掛けながらバスターライフルを後部マウントに預け、代わりにビームサーベルの発振機を抜く。
「……やはり来たか」
 レーダーグラフ上で急速接近しつつある二つの光点を見た際に口が独りでに言葉を発していた。機体を降着させた衝撃が厭に大きく感じる。
『リーパーゼロ……防人少佐!』
『やっぱゼロえもん少佐じゃん! いやーほんとに敵同士で会っちゃったねー』
 通信装置越しに入り込んできた音声には聞き覚えがある。紛れもなく東雲那琴と雪月栞奈だ。リーパーゼロのセンサーカメラが向けられた先では、二機のイカルガが突撃銃を構えて滞空していた。
『あたし、出来ればゼロえもん少佐とは戦いたくないんだけどなぁ?』
 リーパーゼロが一歩踏み込む。
「お前達の全力で俺を殺してみせろ!」
 マニピュレーターが握る発振機から荷電粒子の刃が伸びた。
『わーお殺る気満々……』
 栞奈は恐れ慄いているような口振りで反応したが、声音は明らかに喜色を含んでいた。
『防人少佐! 参りますわよ!』
 那琴のイカルガが横方向へと突き飛ばされるかの如く急加速した。それが戦闘開始の合図となった。
『鍛えて貰った成果、お見せしたいと思いまーす!』
 栞奈のイカルガが那琴機とは逆方向に加速しアサルトライフルの連射を見舞った。拓也は視線で那琴機を追い、意識で栞奈機を追う。リーパーゼロが飛び上がり、構えたコーティングシールド銃弾の雨を受け止める。高い金属音と共に無数の火花が散った。機体の正面を那琴機へ向けて後退推進を掛ける。喧しい誘導弾警報が拓也の耳朶を打つ。那琴機が放ったマイクロミサイルが出鱈目な軌道を描いてリーパーゼロに殺到する。拓也の双眸の中で黒い瞳を湛えた眼球が目まぐるしく動き回る。トリガーキーを引くとリーパーゼロの胸部に備わる機関砲が唸りを上げた。迎撃されたマイクロミサイルの爆光がモニターを埋め尽くす。そして煙を裂いてイカルガが突っ込んできた。
「思い切りの良すぎる打ち込みだ……だがな!」
 縦に振り切られたビームソードを横薙ぎで跳ね返す。荷電粒子が雪のように舞い散る。拓也はリーパーゼロシステムが視覚野に流し込んできた光景を信じて機体を翻す。
『あたしのはー?』
 那琴機を跳ね除けたと思いきや、呼吸する暇もなく別方向から栞奈機が刺突を繰り出してきた。青白い荷電粒子の束が胸部装甲を擦過した。二機とも小銃ではリーパーゼロの装甲を抜けない事を熟知しているらしく、当たりさえすれば切断するに足るであろうビームソードでの近接戦闘を積極的に仕掛けてきているようだ。
『いまの避けんの!? ああー! またあのインチキデバイス使ってるでしょ!?』
「解ってるじゃないか」
 切り上げを後退加速で躱して牽制のマシンキャノンを放つ。直後に那琴機が背後から斬り込んで来る未来を視た拓也は機体に急旋回を掛ける。挙動で得た加速を伴って撫でるかの如くビームサーベルを振るうリーパーゼロ。だが那琴機を目視で捉えた刹那、剣筋の軌道を無理矢理にずらした。
「ふざけるな! コックピットを差し出す馬鹿が何処にいる!」
 一合目の際に感じたあまりにも潔い斬り込み――あれは偶然の違和感ではない。那琴は明らかに生命を擦り切れさせる事を、戦いの中で死ぬ事を望んでいる。或いは義務として背負っているのか。リーパーゼロシステムが囁く。薙いだビームソードがイカルガのコクピットを焼き尽くす光景を。拓也の中で違和感が確信に変わった。
『何を仰って!?』
 那琴が収まっているであろうイカルガの胸部を溶断する筈だった光刃は虚空を斬った。リーパーゼロの胴体を袈裟斬りにせんとしていた荷電粒子の束をシールドで遮断する。削り取られたコーティングが赤熱化した。リーパーゼロが瞬発加速して後退する。那琴機との間合いが大きく開いた。
「お前達はこの国の希望だ!」
『な……!?』
『うん……うん?』
 拓也の叩きつけるような裂帛に那琴だけならず栞奈さえも機体制動の手を止める。
「もういいだろう!? 俺は希望を潰しに来たんじゃない!」
 リーパーゼロのビームサーベルから光が失せた。
『おふざけなのはそちらでしょう!? 剣をお抜きなさいな!』
 那琴のイカルガが両手のマニピュレーターでビームソードの発振機を握り締める。
『じゃー何しに来たのさ? もしかしてあたしら側に寝返ってくれるとか?』
 栞奈機が発する殺気はまだ薄らいでいない。だが拓也は警戒を向ける素振りすら匂わせずに「違う」とだけ答えた。
「俺はお前達を……!」
 そこまで言い掛けて続きを濁らせた。解っているのだ。どう言葉を重ねたところで彼女達に届く筈など無いと。自分が望む形で彼女達を救うにはもう奇跡にだって縋るしか――。顔を俯けて瞑目する。
「あたしらを?」
 問う栞奈のイカルガがビームソードを構え直す。
「まだそうするのなら……!」
 拓也は顔を上げて双眸を見開いた。
「その心を救ってみせる! リーパーゼロ……俺に力を貸せ!」
 硝子を鳴らしたかのような澄んだ高音が響く。そしてリーパーゼロの両腕部――グラント・サイコゼロフレームを材質に採用された基礎骨格が淡い緑色の光を放出し始めた。溢れ出た光はオーロラの如く緩やかな波を打ち、帯となって香龍全域にまで拡大する。

「こいつは……拓也がやってるのか!?」
 光は港湾施設に接近しつつあるキングアーサーの元にまで及んでいた。艦橋に浸透した光をアルバートが手の平で掬う。触れられる道理など無い。だが光には確かに熱があった。温もりや安心感、恐怖を包み溶かすような人の心の熱が。観測手からサイコゼロフレームの共鳴率が危険域に達しつつあるとの報告がアルバートの意識を否応に眼前の現実へと引き戻す。
「拓也、お前はこの力を使い過ぎれば……」
 超剛性プラスチックの窓から見る港湾施設では、今も尚リーパーゼロが輝く奇跡の極光を放出し続けていた。

『この光は……あの時に見たあの光と同じ……』
『あたしのもまた光ってるんですけどー!』
 光は那琴機と栞奈機の内部にも入り込んでた。そして彼女達がアルバート伝に受け取ったサイコゼロフレームの断片も呼応して光を放つ。那琴のそれは赤黒く。栞奈のそれは蒼炎に。
「今は矛を収めてくれ」
 穏やかに抑えた声量で拓也は言う。多くの言葉はもう不要な筈だ。伝えたい事はこの光が伝えてくれる。彼女達の心を蝕んだ澱みも浄壊されたのだから。
『……防人少佐』
 那琴のイカルガに灯るセンサーカメラの光量が弱まった。通信装置から伝わる声音には涙が滲んでいる。
『貴方は……ここまで……わたくしを……』
 ビームソードを握り込んでいた左右のマニピュレーターが解かれた。発振機は手の内だが、肩部が力なく垂れる。
「キングアーサーに行け」
 拓也は那琴機から視線をずらして呟く。
「生きるか死ぬかを決めるのはこの戦いが終わった後でいい。もう俺とお前達が戦う必要なんてな――」
 逃げろ。リーパーゼロシステムが全力で警鐘を鳴らした。
『貴方はこれほどまでにわたくしを惨めにしなければ気が済まないのですかァッ!』
 悲鳴染みた咆哮。那琴のイカルガから爆発するように膨張した赤黒い光が緑の光を跳ね除けた。背負うフライトユニットが炸裂させた推進噴射。イカルガが機体ごとビームソードを突っ込ませる。
「フェザー01!?」
 拓也は本能でフットペダルを踏み抜いていた。リーパーゼロが後退加速するも荷電粒子の切先がメインモニター全体を覆い尽くす方が速い。だが突如として金属の砕ける音に続いて那琴機が錐揉みして弾かれた。
「悪いな……ゼロえもんの命が最優先だ」
 遂に埠頭に迫ったキングアーサーの艦上から、アルバート隷下のマイティ・スナイパーⅡ達が狙撃を見舞う。次々に放たれる実体弾が那琴のイカルガを精密に射抜く。
「マァァァァックッ! 止せェェェッ!」
「攻撃続行だ。コクピットは上手く避けろよ」
 拓也が叩き付けた怒号を無視してアルバートは撃ち抜かれゆく那琴機を無味な眼差しで見届ける。
『止めなって!』
 栞奈機がキングアーサーに向けて片腕を薙ぐ。その腕から蒼炎としか形容の出来ない光が生じ、津波状の波動となってキングアーサーを煽った。
「サイコ・フィールドだと!?」
 蒼炎の波動をまともに被った船体が大きく揺らぐ。黒豹分隊の狙撃の手が止まった刹那にリーパーゼロに栞奈機が肉薄した。
『やっぱりこの変なの持ってきて正解だった!』
 栞奈に託されたT字の金属構造体が一層強い蒼炎を放つ。
「栞奈! お前は!」
 那琴機を押し退けた栞奈機を前に拓也はビームサーベルの発振を余儀なくされた。切り結んだ互いの刃が激しい明滅を迸らせる。
『ナコ! 逃げて!』
『わたくしは……! 何も出来ないままで……!』
 拓也は栞奈と鍔迫り合う最中、銃弾で穿たれた那琴のイカルガが黒煙を引き連れて降下してゆく有様を見た。おぼつかない機動で吸い寄せられるかの如く墜ちた先は、大鳳の飛行甲板上だった。
「栞奈! 離れろ!」
『ダメだよ! ナコのこと殺す気でしょ!』
 珍しく声音を荒らげた栞奈の物言いに埒が明かないどころでは済まないと断じた拓也は「すまん!」と小声で漏らしてトリガーキーを引いた。
「げっ!」
 リーパーゼロの胸部機関砲が一瞬だけマズルフラッシュを焚いた。拓也にとって栞奈機を無力化する切掛を得るにはその一瞬だけで十分だった。
「許せよ!」
 リーパーゼロの背面でバーニアの噴射炎が炸裂する。
『ぎゃん!?』
 短距離を瞬間加速してシールドの表面を栞奈機の胸部に打ち据える。鈍重な衝撃音と共にイカルガは跳ね飛ばされ、背後に建っていた商業施設の壁にめり込んだ。

 腕を組んで椅子に腰掛けたアルバートが横目を送る。
 白い照明。白い壁。白い天井。白いカーテン。白いベッド。白い掛け布団。白いシーツ。ここは何でもかんでも白ばかりだ。鼻で呼吸すると消毒液の芳醇な香りが粘膜を刺激してくれる。聞こえる音といえば、いまそこのベッドで寝ている少女の呼吸音と心拍数の測定音。薬品類が収められている戸棚の硝子から、疲れたような思い詰めたような表情の初老の男が見返している。
「ん……あれ? マック大佐?」
「よう」
 パイロットスーツと掛け布団が擦れる音と共に栞奈が目を醒ました。
「……ここどこ?」
「キングアーサーの医務室だ」
「キングアーサーって?」
「俺達の船だ」
「なんであたしここにいるの?」
「ゼロえもんが拾った」
 アルバートが拓也の別名を出した途端、寝惚けていた栞奈の表情が我に帰った。
「ゼロえもん少佐は!?」
 詰問する栞奈に対してアルバートは深く肩を落とす。
「もう行っちまったよ」
「行ったって……? じゃあナコは!?」
「お前さんとこの隊長さんはな……」
 アルバートは右手で自分の顎をなぞると椅子から立ち上がった。眉間の皺が一層険しさを増す。目は医務室の出入り口へと向いていた。まだ終わっていない。まだやらねばならない事がある。握った拳に思惟を籠め、彼もまた他の猟兵と同じくして歩き始めた。今に至る戦いの収支を付けるべく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『アークレイズ・ディナ』

POW   :    孔壊処刑
【ドリルソードランス】が命中した対象に対し、高威力高命中の【防御を無視或いは破壊する掘削攻撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    ガンホリック
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【デュアルアサルトライフルとテールアンカー】から【実体弾の速射とプラズマキャノン】を放つ。
WIZ   :    パワーオブザ・シール
命中した【テールアンカー又は両肩部のアンカークロー】の【刃】が【生命力やエネルギーを吸収し続けるスパイク】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。

イラスト:タタラ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠リジューム・レコーズです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●折れた翼
 数多の銃創で撃ち砕かれたイカルガはフライトユニットの翼を喪失した。残された僅かな推力で力無くよろめきながら降下する。機体の姿勢制御は既に搭乗者の手から離れていた。吸い寄せられるかの如く向かった大鳳の飛行甲板上に到達すると膝を付く。遂に力尽きた推進装置から噴射光が失せる。操縦席に通じる隔壁が開放されると、搭乗者の那琴が吐き出されるようにして甲板上に滑り落ちた。
「わたくしは……また何も出来なかった……!」
 無様な四つん這いを晒した背中を嗚咽が震わせる。パイロットスーツの皮膜が軋む程に握りしめた拳を地面に叩き付けると、双眸から止め処なく溢れる雫が暗い染みを作った。
「勝てない……! 倒せない……!」
 いざ戦場に出て来てみればただの一太刀も浴びせる事も出来ず適当にあしらわれただけ。何が覚悟だ。何が誅するだ。猟兵に力量差の現実を突き付けられて、心を陵辱されて、また生き延びただけじゃないか。かつてと同じく友に助けられて。
「わたくしにも……! あの力さえぇぇぇ……!」
 耐熱アスファルトに額を擦り付ける。食い縛った八重歯から暴走する執心の怨嗟が溢れた。
「あの力がぁっ! ユーベルコードが! ユーベルコードさえあれば……! わたくしはぁぁぁっ!」
 慟哭と共に振り上げた拳を何度も叩き付ける。すると重い衝撃が地面に伝わった。強烈な違和感に我を取り戻し目を丸くする。衝撃は飛行甲板の直下から湧き上がってきているようだった。鋼鉄を抉り掘り進む破壊音と昇る振動。それはすぐに直下まで迫った。
 上げた顔の先で、耐熱アスファルトが内側から破裂したかの如く弾け飛んだ。同時に現れた太く長大な回転衝角。拡散した破片から身を庇うのも忘れて呆然とする那琴。穿たれた大穴の中に衝角が引っ込んだかと思えば、推進噴射の爆音を轟かせながらキャバリアがゆっくりと現れた。
 青黒い装甲にXの文字を背負った輪郭。肩部と人体で言う箇所の尾てい骨から伸びる触手が生々しくうねり、先端の凶器が鎌首をもたげる。片腕に双発式の突撃銃を帯び、もう片腕には機体の全長に達するも斯くやといった衝角が握られていた。大鳳の飛行甲板を内部から穿った武器の正体はこれなのだろう。
「あ……あぁ……!」
 青白く発光するセンサーカメラが自分を見下ろす。間違いなく機体に存在を認識されている事を悟った那琴は瞳孔を震わせて後退りする。だが足が竦み腰が砕けて立ち上がる事が出来ない。思考が固まる。出現した機体から視線を動かせない。股下から足へと生暖かい液体が伝う感触さえも解らなかった。辛うじて動いた腕が生存本能に従って身体を後ろへと下がらせる。
 恐怖の根源は機体が放出する圧力にあった。強烈な憎悪。或いは敵意。生けるもの死せるもの問わず全てを滅ぼし尽くさなければ収まらない殺意。それらの思惟は現在という時間軸に存在する者全てに向けられていた。
「ひいぃぃぃ!?」
 実体を持って顕現した呪いと怨みが宙を滑って前に進む。那琴は尾を引く悲鳴を上げる。身体を抱き込んで縮こまった。きつく閉じた双眸の中で地を這う衝撃を肌身に感じた。恐る恐る目を開き、腕の陰から外を覗く。機体は那琴の直ぐ前で騎士の如く膝を付いていた。竜の頭部に見えなくもない胸部の装甲が開かれる。
「どう、して……?」
 口を開けた空洞の暗闇を、計器類が放つ青い光が浮かび上がらせる。まるで搭乗者を誘なうかのように。
「乗れと仰るんですの……?」
 那琴の唇が無意識の内に言葉を零した。機体に通う光が呼吸の脈動を繰り返す。慎重に立ち上がった足が進み出す。斯くしてコクピットに入り込むと、胸部装甲は独りでに閉ざされた。
 操縦席に身を沈めた那琴は、狭い薄暗闇の中で微睡んでしまうほどの安堵に浸らせられていた。母の胎内に還ったとさえ錯覚するほどに。魂すらも包み込む穏やかさを甘受しながら操縦桿に手を伸ばす。漆黒一色に染まっていたコンソールパネルが息を吹き返す。
「イェーガー……デストロイヤー、システム……?」
 盤面に浮かび上がった横文字を目でなぞる。頭の中で体鳴楽器が発する高音が走った。
「う……? ぐうぅぅ!?」
 脳を押し潰される圧迫感が強烈な嘔吐感をもよおした。数多の光景が記憶として雪崩込んでくる。
 機体の制御方法や構造。四色の光の螺旋軸。竜殺兵器を有した聖騎士。無数に複製された白金の機械竜。宙を翔ぶ悪霊。機体の潜在力を引き上げる熟練の傭兵の業。圧倒する速射。思惟を乗せた粒子。荒れ狂う電流の鞭。炎龍の牙。絶対の電脳。機甲を侵す波動。捉え処の無い舞踏。信ずるを力に変える熱。軍を滅ぼす死神の少女達。影となりて跳ぶ機動。研ぎ澄まされた本能。鏡の盾。重装化する機械騎士。人の心の奇跡。獰猛なる黒き傭兵達。
 猟兵達が発現させたユーベルコードが、それらに破壊された仲間達の機体の有様が、全て押し込まれてゆく。脳を指で掻き回されているかのような不快感に断末魔をあげてのたうち回る。やがて頭の中が塗り替えられた頃、荒い呼吸を繰り返す那琴の表情は恍惚の笑みに染まっていた。
「つか……える、使えますわ……わたくしにも……」
 ずっと渇望していた力。それにやっと手が届いた。
「使えますのよ……! わたくしは! ユーベルコードが!」
 芽生えた力の名を呼べば、骨盤が幾度も収縮して身を戦慄かせる。声帯から溢れ出る笑いが肩を鳴らした。脊髄を貫く絶頂感が過ぎた後、腹の奥底から赤黒い感情が溶岩の如く湧き出す。
「この力さえ……この力さえあればぁぁぁ……!」
 牙を剥き出しにして操縦桿を握り込む。搭乗者から溢れ出る憎悪に機体の動力炉が唸りで応えた。

●JDS
 猟兵と白羽井小隊の観戦席となった首相官邸の閣僚応接室。首相命令で運び込まれた多くのモニターには香龍各地の中継映像が表示されている。
「伊尾奈お姉ちゃん……」
 オペレーターの少女が青ざめた表情でモニターのひとつを凝視する。小さな肩は完全に力を失っていた。
「東雲君、あれってアークレイズ・ディナだよね? 仁座真工廠で作ってたんじゃなかったっけ? いつの間に持って来ていたんだい?」
 鈴木の顔色も同様に芳しくない。
「仲介人から提供され、南州陥落の際に一時喪失し、南州第二プラントの奪還作戦の折に回収させた機体です。仲介人の進言に基づいて大鳳の機密区画で保管していました」
 東雲はモニターから目を動かさずに言った。
「あらそうなの? まあそれはいいんだけどねぇ……いま乗り込んだの那琴ちゃんだよね?」
「中継映像のみで判断するならばそうなのでしょう」
 微塵の言い淀みもなくあっさりと言ってのけた東雲に対し、鈴木は信じられないと言いたげに目を細める。
「いやそうなのでしょうじゃなくてね、ああもう……! これじゃあ那琴ちゃんが本当に殺されちゃうじゃないか!」
 堪らず立ち上がった鈴木がしきりに首を振る。東雲は耳元に指をあてがった。
「猟兵各位へ、こちら東雲だ。港湾施設で係留中の大鳳の甲板上に新たな機体が出現した。該当の機体は東雲那琴少尉が運用している。那琴少尉は白羽井小隊の隊長だ。これを撃破すれば反乱軍の士気も大きく損なわれるだろう。速やかに排除を頼む」
 極めて事務的な口振りの東雲の声を聞いた鈴木が両目を見開く。
「ちょっと東雲君! 待ちたまえ!」
 遮る鈴木を無視して東雲は続ける。
「先に述べた機体の名称はアークレイズ・ディナだ。機体の提供者が我々に渡した仕様書が全面的に正しいのであれば、本機は対猟兵戦を想定した機能を有しているはずだ。それは――」
 曰く搭載されている機能の名はイェーガー・デストロイヤー・システム。JDSの略称で呼ばれるこれは、ユーベルコードの発動を検知して解析を行い、可能であれば機体に備わる能力を応用して再現するという。加えて搭乗者の脳に直接作用を及ぼして記憶から感覚レベルで機体への最適化を行うらしい。
「既にこれまでの戦闘で猟兵各位のユーベルコードが学習されている可能性も否定できない。あくまで仕様書の内容を全面的に信頼するという前提だが……我々は過去にシステムの分離と解析を試みたものの、遂に至らなかった。十分に警戒してくれたまえ。なお、間もなく特務艦隊が香龍湾に到着する。猟兵各位は新たに出現した敵機の対処に専念してくれても構わない。判断は各個人に委ねるが、いずれにせよ協働して任務に当ってくれ。以上だ」
「待ちたまえ!」
 東雲は通信を終えるや否や鈴木に両肩を掴まれた。
「君の一人娘だろう!? いますぐ止めるんだ!」
「今は国家に反逆した犯罪者です。それに……」
 東雲の瞳が鈴木から逸れる。
「獲物を前にした猟兵は止まりません」
 目が向けられたモニター上では、大鳳の甲板に立つ機体が推進装置から噴射炎を迸らせていた。

●遅すぎた軍神
 猟兵達の作戦行動開始から幾刻、三笠を旗艦とした特務艦隊は漸く香龍湾の東海上に辿り着いた。艦長席に座した泉子が見る大都市では、火球の爆縮と光線の迸りが止むこと無く繰り返されている。
「間に合わなかった……」
 手が白くなるほどに力を籠めて肘掛けを掴む。
「大鳳の艦上に新たな反応が出現! 我が軍の識別信号を発しています!」
「反乱軍のものか!?」
 観測手の報告を受けた泉子が反射的に声を飛ばす。
「不明ですが撃墜命令が出ています! 映像出します!」
 大型モニターに中継映像が表示される。艦橋内に背筋を冷やす怖気の空気が降りた。装甲空母の飛行甲板が大口を開けている。そのすぐ傍に立つ青黒いキャバリアを見た途端に泉子は眉を顰めた。
「あの機体は……アークレイズ・ディナか?」
 泉子のみならず三笠の主要な乗組員の多くが知っていた筈だ。南州第二プラント奪還作戦の際、猟兵達がプラントの電源停止を支援している最中に大鳳と三笠は別命を遂行していた。任務内容は港湾施設に置き去りにされていた機体の回収。今現在大鳳の飛行甲板上に出現した機体がそれだった。
 何故動いている? 誰が動かしている? 泉子の頭の中で様々な疑問が次々に噴出する。結城艦長が乗っているのか? しかし彼女は大鳳の入渠が完了するまで休暇中で不在のはず。
「大鳳との通信は可能か?」
「呼びかけていますが応答ありません!」
 通信士が上げた報告に泉子の胸中は安堵と不安で混濁した。現在大鳳は無人なのだから応答が無くて当然だが……嫌な胸騒ぎが収まらない。しかし今は状況の収拾に務めなければならない。自分達はその為に来たのだから。
「猟兵諸君の動きはどうか?」
「依然白羽井小隊と交戦中の模様!」
 やはり彼等に手を下させてしまう前に辿り着けなかった。悔恨に呼吸を止めて俯き唸る。
「首相官邸からの情報に依ると、同小隊の敗走者の多くは猟兵ないし猟兵の艦艇に回収されているとの事! その他は戦闘能力を喪失し戦いを放棄しつつあるとも……」
「なんだと!? そうか……彼等は唯の傭兵では無かったという事か……」
 泉子は強く瞬きしながら数度浅く頷く。安堵に緩み掛けた表情を引き締めて肺を膨らませる。
「加賀と翔鶴、瑞鶴に伝えよ! キャバリア部隊を順次発進! 反乱軍の無力化と並行して後藤宗隆大佐を捜索! 身柄を確保させるのだ!」
「佐藤艦長……」
 毅然とした声音で命令を発すると副艦長が言葉尻を濁らせた。
「無力化と言ったのだ! これ以上戦闘で死者を出してはならない! 猟兵諸君の忖度を無為にするな!」
 裂帛で遮ると副艦長はその言葉を待っていたと言わんばかりに短く応じる。
「赤城に通達! 剛天を直ちに出撃させ、首相官邸の直掩に就けよ! 首相達が亡き者にされればいよいよ収拾が付かなくなる……なんとしても死守するのだ! 猟兵諸君にも通達せよ!」
 此度の反乱が初めから無かったものと処理される事が確定している以上、首相官邸に詰めている官僚に流血が及ばなければまだ取り返しはつく。そう内心に言い聞かせていると、観測手から切迫した声が上がった。
「大鳳にエネルギー反応有り! 動力炉が稼働しています!」
 泉子は言葉に詰まって目を見開き首を向けた。誰かが居るのか。やはり結城艦長が――問い質すよりも先にまたしても観測手から報告が飛んできた。
「待ってください! 大鳳のエネルギー反応が急速低下中……? アークレイズ・ディナのエネルギー反応が急激に増大! キャバリアが出していい値じゃ……動きます! 猟兵と交戦する模様!」
 情報の雨を顔面に掛けられて脳が強ばるも、モニター上の中継映像内で推進噴射の光を滾らせたキャバリアに思考を再回転させられた。
「大鳳のエネルギーを吸収したのか……?」
 だとするなら大鳳を目覚めさせた者とアークレイズ・ディナを動かしている者は繋がっている可能性が高い。それにしても――先ほどからずっと感じている怖気の出処は最早間違いなくあの機体なのだろう。見られている訳でもないのに怒りや恨みを籠めた視線が自分に向けられているように思えてならない。映像越しにさえも感じるこの怖気が肌身を泡立たせる。口にしないだけで泉子以外の全員も同じ怖気に苛まれていた。
「尋常ではないぞ……!」
 モニターに釘付けになっている泉子が無意識に零した声に、艦橋内の船員達は皆一様に息を飲み込んだ。あれはきっと産まれるべきではなかったもの。
 遍くを呪い殺さんとする悪意。その背後に浮かぶ瑠璃色の満月が、朱色を帯び始める。

●臍帯
 猟兵の攻撃を受けて不時着したイカルガ。
 大鳳の飛行甲板を内側から破壊して出現したアークレイズ・ディナ。
 独りでに開放された操縦席へ吸い込まれるかの如く乗り込んだ東雲那琴。
 一連の光景は大鳳の艦橋からも直接視認出来ていた。
「那琴……貴女の願いは叶いましたか?」
 窓から見下ろす結城が穏やかな薄い笑みを綻ばせる。アークレイズ・ディナのコクピットハッチが閉ざされ、機体が立ち上がって稼働状態に達した。
「正弘様はご覧になられていますか? 私が産み、貴方が育てた那琴はこんなにも美しく、強くなりましたよ」
 結城の細指が操作盤を這う。艦機能の管制プログラムが走ると、巨大な船体に鈍重な駆動音と僅かながらの振動が伝った。そして暗がりになっていた艦内に次々に眩しいばかりの照明が灯り始める。
「貴女は私を恨んでいるのでしょう。ごめんなさいね。ですが私は悔いてはおりません。私の願いは叶ったのですから」
 埋め込まれたパネルモニター上に表示された電力供給ゲージがゆっくりと上昇する。
「ですから那琴……最期に貴女も叶えなさい。自身の祈りを、望みを、願いを……」
 最大値に達した電力供給率を見届けた琥珀色の瞳に、瞼が薄く降ろされた。
「そして、堕ちた海の深淵で愛し合いましょう。何度も、永遠に……私達の愛が、この世を滅ぼすまで」
 かつて辿った桜花嵐の路。別れに泣き叫ぶ我が子を背にして紡いだ祈りを唱う。満月は一層紅を増していた。

●復讐の紅月があなたを滅ぼす
 数多の時間と幾多の分岐を手繰り続けて漸く至った結末。
 香龍は猟兵の手によって血染めとなり、産まれた怨讐は際限なく続き、日乃和から始まった破滅はアーレスの全てが骸の海に沈むまで拡大する。如何に猟兵が抗おうとも確定した袋小路の未来に例外など存在しない。世界を過去で埋め尽くすオブリビオンの本懐は果たされ、それを防げなかった猟兵を深淵の底で嘲笑う。その筈だった。
 だがそうはならなかった。
 グリモア猟兵さえも蝕み作り上げた盤面は、転がす球だった猟兵によって覆された。呪いの代償となる血は求められた半ばほどにも流れず、一部の猟兵はあろうことか漸く実らせた生贄を片っ端から連れ去り隠しさえもした。
「あと……あともう少しだったのに……!」
 この国を骸の海に沈めるのは猟兵だったのに。那琴の口から違う誰かの発した言葉が滲み出る。アークレイズ・ディナが双肩に備わる触手をうねらせて、先端の鏃を大鳳の飛行甲板に食い込ませた。
「イェーガー……お前たちさえ……現れなければ……存在しなければ……」
 もう成就は叶わない。せめてこの蠱毒で産み出した特級の呪物を依代に、一人でも多くの猟兵を道連れとして骸の海に回帰する。そしてまた何度でもやり直そう。
 食い込んだ鏃が大鳳の電力を吸い上げる。臍帯を介して母体より養分を分け与えられる胎児のように。機体に活力が巡れば、搭乗者も自身に力が流れ込んでくるようにさえ思えた。
「あぁ……! これがユーベルコードの……!」
 表情が恍惚に綻ぶ。ずっと渇望し続けていた力が、いまはこの身体と機体に宿っている。器から溢れて余りあるエネルギーを吸収し終えたアークレイズ・ディナが大鳳と繋がる臍帯を外した。那琴が自身に向けられた視線にやっと気が付いたのはその時だった。
「猟兵の方? ご覧くださいまし! わたくしにも――」
 内で膨張した憎悪が弾けた笑みと言葉を途切れさせた。
「そうでしたわね……わたくし達は、もう違えてしまったのですわね……」
 俯いた面持ちが哀愁に沈む。かつて愛宕連山で命を救ってくれた希望の象徴。理不尽を理不尽で覆す力。生命体の埒外にあるもの。いつか猟兵のようになりたい。今は足手まといだとしても、きっといつか及んで共に戦いたい。彼等に抱いた羨望は到底届かぬ次元と知らしめられた頃から嫉妬へと移り変わってしまった。だが今やっと彼等と同じ力を手にする事が叶った。これで本当の意味で猟兵と共に戦える。けれども何もかもが全部遅過ぎた。
「でしたら……」
 影を落とした顔の奥で頬に雫が伝う。剥き出した牙が噛み締められる。
「もう……こうするしかありませんのよ!」
 那琴の叫びと共にアークレイズ・ディナがバーニアノズルの噴射炎を放出して宙に浮き上がる。輪郭が満月に重なった。青黒い装甲が侵蝕されるかの如く紅へ染まりゆく。マニピュレーターが握る衝角を振り払うと、各部の発光箇所さえも紅に変容した。そして機体を包むようにして紅い球体状の防護障壁が生じる。激昂を示す光が脈動した。
 かの機体を視界に入れた途端、猟兵は宿命に強制認識させられた。あれはオブリビオンマシンであると。対峙するならば持ち得る死力を叩き込む他に無いのだろう。機体と身体が砕け散る覚悟を賭してでも。
「この力でぇぇぇッ!」
 機体によって書き加えられた怒りと憎悪に那琴が咆哮する。紅月を背にするアークレイズ・ディナが交差する光を爆ぜさせた。猟兵を滅ぼす為に。或いは猟兵に滅ぼさせる為に。
 戦いは憎しみ深く、そして運命は終幕を辿る。
エドゥアルト・ルーデル
聞いてよ東雲氏
なんかエゲツネェ敵がいそうだったから出してドチャクソ愚弄しつつ倒してあげようと思ったのに結局出てこない感じなんだよね!根性無しがよォ!
この際雪月氏か後藤氏に八つ当たりしようと思ったら見当たらないし聞いてねーぜ困難!

所で東雲氏もUC使いたかったの?拙者のを譲渡したのに…出来るか知らんけど
大丈夫!先っちょ!先っちょだけだから!ほらこの紳士とか
などと申していたら【刃】的な何かが飛んでくる!グアーッ死ぬ!
拙者が死んだ!この人でなし!何って…また機体の肩の上にいるけど?リスポーン地点を機体上にしたんでござるよ
むっ!機体から拙者のUCの気配を感じる…なら一緒に使うっきゃない!東雲氏もちょっと死ぬだけだから…リスポーンできるから大丈夫だろ…多分

唐突に死ぬ用のでけェ爆弾が出せるから安心して欲しい
いいだろ?ギャグ時空でござるよ?じゃあ…死のうか
天サン!サヨナラ!(爆発四散)

リスポーンしたでござるな!ハッピバァァスデイ!新しい欲望の誕生だァ!
UCを使ってみた気分はどうだい!?楽しいでござろう!



●ここだけ別時空
「はい調子ィ?」
「エドゥアルト様は最後までエドゥアルト様なのですわね……」
 港湾施設の埠頭で相対するエドゥアルトとアークレイズ・ディナ。那琴は彼と遭遇して早々に殺る気を他所へやってしまった。エドゥアルトの側に居る時は尋常ではいられない。時空が変わるのだから。
「ネェ聞いてよ東雲氏!」
「なんですの……」
 どうせ聞かなくても聞かせてくるのだろうと那琴は肩を落として嘆息する。
「なんかエゲツネェ敵がいそうだったから出してドチャクソ愚弄しつつ倒してあげようと思ったのに結局出てこない感じなんだよね! こんの根性無しがよォ!」
 エドゥアルトは酷く憤慨していた。
「はぁ……それは……ご期待に添う展開にならなくてお気の毒でしたわね……ですけれどもうエドゥアルト様が求めるような闘争は多分ございませんわよ?」
「この際雪月氏か後藤氏に八つ当たりしようと思ったら見当たらないし聞いてねーぜこんなん!」
「栞菜とはお会いになられていたのでは?」
「逃げられた! いや逃されたでござる! 尼崎氏に!」
「代わりに尼崎中尉に八つ当たりされたのでしょう? なら良いではありませんの」
「いやぁどうだかナー? ヘルメットが無けりゃ即死だったとか言ってこの後しれっと出てきそうな……」
 脳味噌か臓腑をぶち撒けて死亡を確認するまでが殺しである。爆発や意味深な引きは生存の兆しだとエドゥアルトは認識して――いるのかは定かではない。エドゥアルトが考えている事は人類には理解が及ばないし、エドゥアルトの思想は人類には早過ぎるのだから。
「先ほどまでは珍しく真面目でしたのに」
「おう拙者は常に真面目に不真面目でござるよ。ところで東雲氏もユーベルコード使いたかったの?」
「え? ええ、そうですわね。羨ましくもありましたわ。ユーベルコードの有る無しでは出来る事も雲泥の差でございましょう? エドゥアルト様もよく存じているのではなくて?」
「拙者のを譲渡したのに……出来るか知らんけど」
「エドゥアルト様のは結構ですのよ!」
 那琴は鋭い声で即答した。
「大丈夫! 先っちょ! 先っちょだけだから!」
「要りませんわよ! マインスイーパを始めたりパンジャンドラムを転がしたりお名前を申し上げられないロボットを呼び出したい訳ではありませんのよ!」
「大丈夫だって! ほらこの紳士とか!」
「紳士?」
 かと思いきや突如カットラスのような刀剣が四方八方から殺到した。そしてそれらは全てエドゥアルトの身に突き刺さった。
「グアーッ死ぬ!」
「なぁぁぁ!?」
 刀剣が突き刺さった箇所から夥しい血煙を噴き上げて卒倒するエドゥアルト。トマトを平手で潰してぶち撒けたかの如く広がった血溜まりに沈んで消えた。かのように思われた。
「拙者が死んだ! この人でなし!」
「なんでそこにいらっしゃられますの!?」
 アークレイズ・ディナの肩に髭面の中年が乗っている。その顔付きと身なりはミシシッピー州で起きた殺人事件のように飛んできた刃物に瞬殺されたエドゥアルトと瓜二つだった。と言うよりも同一人物である。
「何って……リスポーン地点を機体上にしたんでござるよ?」
「ござるよ? ではありませんのよ! いつの間にどうやって……以前も同じ事をされておりましたわよね?」
「そうだっけ? そうかも? ん? ペロッ……これは!」
「しれっと人の機体を舐めないでくださいまし!」
「拙者のユーベルコードの味!」
「一体どのような味ですの……」
「なら一緒に使うっきゃない!」
「嫌ですわ」
「東雲氏もちょっと死ぬだけだから……」
「人の命にちょっともそっともございませんのよ!」
「リスポーンできるから大丈夫だろ……多分」
「大丈夫なのはエドゥアルト様だけでしてよ! しかも多分ってご自分でも把握されておりませんの!?」
「問題は死ぬ手段でござるが……」
「貴方は問題だらけですわよ!」
 エドゥアルトはBDUの懐を弄ると先端が丸くなった円柱状の物体を取り出した。明らかに懐に入る大きさではない。
「それはなんですの?」
「唐突に死ぬ用のでけェ爆弾」
「何故そんなものを持ち歩いておりますのよ!? 中東のテロリストではございませんのよ!」
「何故ってギャグ時空でござるよ? じゃあ、死のうか」
 六人の少年を殺害して八王子留置所に拘束された後に精神病院に送られそうな暗黒の微笑を浮かべるエドゥアルト。ヒステリックに絶叫する那琴。両者はニュークリアの光に包まれ爆発四散してしまった。

「ハッピバァァァァァァァスデイ!」
 両者は何事も無かったかの如くその場に復活した。
「リスポーンしたでござるな! 新しい欲望の誕生だァ!」
 いつも通りに盛り上がっているエドゥアルトを肩に乗せた機体の中で那琴は閉口する。
「ユーベルコードを使ってみた気分はどうだい!? 楽しいでござろう!」
「これじゃないですのよ……」
 思ったのと違う。確かにユーベルコードを行使出来る様になりたいとは言ったがこういう事ではない。
「なんだとお? まったく東雲氏は我儘でござるなぁ……じゃあもう一発!」
「結構ですのよ!」
 再度爆ぜる放射線の光。再度リスポーンする両者。那琴が楽しいと言うまでエドゥアルトは死ぬのを止めなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

川巳・尖
イカルガもだけど、こんなのまで造れるなんて凄いね
解析できなかったって話だけど、欠陥とか弱点とか、あってくれないかな

相手の射撃と触手を避けながら、何とかしてこっちの弾を命中させないと
防護障壁に正面から撃ち込んでも効果は薄そう、でも注意を引ければ充分
飛んで近付いてきたら水辺の方に誘導する
あたいを仕留めるつもりの攻撃が来た機会を見計らって、撃墜されたみたいに水中に落ちて、なるべく気配を水に溶かしてみる
相手が他の猟兵、次の獲物に注意を向けたところで一気に浮上
防護障壁も完全に均一じゃなくて薄くなってる箇所がありそう、狙って撃ち込むよ

撃たなきゃいけないのは、祟らなきゃいけないのは、オブリビオンだけ



●濡女と泣き女
 尖は香龍中を流れる河川を伝い港湾施設の近辺に向かった。巨大なホテルビルの物陰に潜んで顔半分を覗かせる。
「あれかな? さっきからあたいの事視てたやつ」
 現在にあるもの全てを呪い祟り殺さんとする視線。空母大鳳から埠頭に驀進する紅の機体が放つ圧力は、先に感じていた視線と完全に同一だった。
「うげぇ……」
 そして不味い。感情がとにかく不味い。尖の好物とする感情から対極にある味わいは、舌先で舐めるのも耐えられないほどだ。
「妖怪の子が動かしてる訳じゃないよね。でもこれ……」
 かの機体も搭乗者も曲がり曲がったとしても妖怪ではないはずだ。しかし感じる圧力は自分が放つそれに近く、それでいて限りなく遠い。
「これみたいに、そういうのを力に変えられる何かを持ってる?」
 尖が手に握るマコモHcに目を落とす。結論から言えば尖の直感は正しかった。アークレイズ・ディナの搭乗者は、感応波を増幅しある種の力場に変換する物質を猟兵から渡されていたのだ。尖にとっては与り知らぬ所ではあるが、妖力を増幅させるマコモHcを持つ彼女は気配で敵が有する能力を的確に見抜いていた。
「もしそうなら……たぶんあたいの使いこなしてくるんだろうなぁ……」
 耳に嵌めた小型通信装置から聞こえた情報が全て正しいのなら、あの機体は猟兵が使用したユーベルコードを模倣してくるらしい。妖力の代替になり得る感応波の増幅手段を有している以上、尖の水妖夜行も例外には漏れないのだろう。
「まあ、なるようになるか」
 双眸を閉ざし、肩から力を抜いて深く呼吸を吐く。肺に目一杯酸素を吸い込むと、マコモHcのグリップを右手で握りしめ、右手を左手できつく締めた。
「いくよ」
 鼻先に近づけた銃のスライドにそう呟くと、尖の双眸が開かれた。蛍色の瞳が夜景を吸い込んで煌めく。緩慢でありながら強かな歩調で踏み出す。ホテルビルの影からアスファルトの路面上へと進んだ。そして遠方のアークレイズ・ディナを正中に見据える。
「こっち来な」
 顎を引いた尖の背後で青と翡翠の陽炎が揺らめく。遍く呪いを呪い返す、彼女の細身に秘匿されていた災いの影だった。
『猟兵の方……!』
 尖は紅に発光する視線に突き刺される感触を覚えた。相手はこちらを見付けてくれたらしい。一直線に驀進する機体の背が推進噴射の光のみならず赤黒い陽炎を放っている。あれがアークレイズ・ディナが撒き散らす災いの影なのか。機体に先んじて到達した執心と憎悪の風が尖の短い黒髪を煽る。
「そのまま……」
 構えたマコモHcの銃口に青と翡翠の光が集う。か細い指がトリガーを引くと集束した光が砕けて弾丸が解き放たれた。尖の籠めた祟りをたっぷり吸い込んだ弾は砕けた光と同じ軌跡を引いてアークレイズ・ディナへと一直線に伸びる。
「ああもう、やっぱ通らない?」
 苦く口元を歪めた尖の視線の先で、発射した弾がアークレイズ・ディナを覆う半透明の赤黒い球体――EMフィールドに遮断された。続けて連射するも結果は変わらない。変わりに増大する殺気が返ってきた。
「いぇっ!?」
 どこから出したのか解らないほどの妙な悲鳴を上げたのは尖だった。足元から翡翠色の光をなびかせて殆ど本能だけで横へと滑る。一秒未満の前まで立っていた場所を小銃弾の群れが駆け抜けた。人間にとっては当たりでもしたらどころか掠っただけでも挽肉では済まないだろう。
「やっば」
 死ぬかと思ったなどと感慨を漏らしている猶予など無かった。ホテルビルの窓にマコモHcを撃ち散らして硝子を破ると我が身を飛び込ませる。爆音と衝撃波と熱が尖の華奢な背中を同時に襲った。辛うじて受け身を取って状況を確認すると路面上が粉砕されていた。残留する青い粒子からして、アークレイズ・ディナが備える尻尾状の武器から荷電粒子を放ったらしい。だがそれだけでは済まなかった。
「あたいのと同じ……!」
 残留する粒子に感じた気配に覚えがない道理などあり得ない。なぜならば尖にとってはマコモHcに込める妖力に類似した気配だったのだから。攻撃に思念波を相乗させて威力を増大しているのだろう。
「ならあの透明な壁みたいなのにも多分……っ!?」
 思考はそこで中断させられた。
『隠れようとも……!』
 全速で追ってきたアークレイズ・ディナの赤いセンサーカメラがホテルビルのロビーを覗き込む。尖が咄嗟に飛び退くと巨大な回転衝角がコンクリートも鉄骨も抉り破って突っ込んできた。衝撃と飛び散る破片に顔面を庇う。そして回転衝角から青い炎が炸裂した。
「あっつぅ!?」
 尖は間一髪で蒼炎の範囲から離脱したが、吹き付けた熱に半袖シャツの端々を黒く焼き焦がされてしまう。ついでに身に宿した水気の多くを蒸発させられてしまったらしい。踏ん張りが効かない。
「今の炎はあたいのじゃない……!」
 ともなれば他の猟兵のユーベルコードなのだろう。出所を気にしている暇も無く尖は視線を周囲に走らせる。階段が目に留まるとすかさず跳躍した。巨大な質量物体を叩き付ける衝撃音が背後で轟く。
「追ってきてるし」
 横目で後ろを垣間見ると、回転衝角で屋内を滅茶苦茶に破壊しながらアークレイズ・ディナが迫ってくる。尖は足元から青と緑が混じり合った朧な光を噴き出して跳んだ。何段もの階段を一気に抜かして踊り場に着地するとまた次の踊り場へと跳ぶ。次第に距離が離れてきた。これなら逃げ切れる。生じた余裕は直ちに掻き消された。
「今度は触手っぽいのが……!」
 機体本体とは比較にならない程に俊敏かつしなやかなアンカークローが先んじて尖を追撃する。急激に詰められた間合いに冷たい汗が背中を伝う。
「あーあ、いよいよやばいかも」
 拒絶の思惟を込めてマコモHcのトリガーを引く。呪殺弾を受けたアンカークローの先端部が蛇のように身動いだ。間合いを詰められ、撃って怯ませ、次の踊り場へと跳ぶ。重力と倦怠感に纏わり憑かれる身体を無理矢理にでも動かして繰り返す事何度目か、遂に屋上へ続く扉が目の前に現れた。
「外!」
 扉を開け放って飛び出す。暗い藍色の空に散りばめた硝子片と紅い満月が視界に飛び込んできた。吹き付けた夜風が肌を撫でて熱を拭い去る。尖は一目散に屋上の縁へと駆け寄ると、転落防止用の柵から身を乗り出す。
「あそこに落ちれば、あたいの……!」
 ホテルビルの前を通る道路を越えた先には緩やかに波打つ黒い内湾が広がっていた。柵の手摺に足をかけ、力を籠めて蹴り出す。華奢な身体が夜空に翔んだ。夜光の軌跡を残す様は箒星にも似ていた。夜風を孕んだシャツが激しくはためく。
「ちゃんと追っかけてきたね」
 ホテルビルの側面で灰煙が爆発した。焼き菓子も斯くやと壁を突き破って現れたアークレイズ・ディナのセンサーカメラが、曲線を描いて降下する尖を捉えた。
『逃しませんのよ!』
 推進装置を閃かせて突進する機体に先駆けアンカークローが迫る。尖は身を捻って海面に背を向けるとマコモHcを構えた。災いを纏う銃弾が伸びる凶器の末端を弾く。回転衝角を振り上げたアークレイズ・ディナとの距離が詰まる。
「あっ、これ間に合わな――」
『これでぇぇぇーッ!』
 尖の背中が黒い波に触れたのと同時に、果たして回転衝角は蒼炎と共に振り下ろされた。叩き伏せられた海面が白泡の巨大な水柱を立ち昇らせる。水蒸気の霧が立ち込め、宙に飛び散った海水が降り始めたその場にいたのは、愕然と立ち尽くすアークレイズ・ディナだけだった。
『わたくしは……今、何を討ちましたの……?』
 戦慄く那琴の声に答える者はいない。搭乗者の喪失感に相反するかの如く機体の眼が勝ち誇った紅を走らせる。霧が薄まり静寂を取り戻しつつある海面を見下ろしたまま後退すると、最早この場に用は無いといった身振りで機体を翻す。
「危ない危ない」
 アークレイズ・ディナの背後で黒い海面が泡立つ。泡は次第に人の姿を形造り始めた。
「危うく消えちゃうとこだった」
 短い黒髪に日焼けした肌、華奢な少女の身体は紛れもなく尖の姿だった。濡れ女等に連なる水の怪異である彼女は、衝角に叩きのめされる寸前で微かに背に触れた波を介して身を海水に溶け込ませたのだ。もし僅かにでも遅れていれば蒼炎で蒸発させられていたであろう。
「もう逃げない、逃がさない」
 尖が再度膨れ上がらせた妖力に気付いたらしいアークレイズ・ディナが旋回するも、既に照星の向こうに据えていた。腕が跳ね上がるのと同時にマコモHcの銃口から光が飛び散る。閃光が筋となって標的へ一直線に伸び、障壁に阻まれて跳弾する。
『なっ……!?』
 搭乗者の目を剥いた声を聞いて尖はしてやったりと口元を歪めた。先に撃った弾が障壁に防がれた途端、障壁の全体に蜘蛛の巣状の模様が広がった。
「驚いた?」
 尖は今まで闇雲に撃ち続けていた訳では無い。障壁に少しずつ呪いの楔を刻み込んでいたのだ。継いで放った弾丸が障壁を硝子のように粉々に撃ち砕いた。
『フィールドを破られた程度でぇッ!』
 アークレイズ・ディナが裂帛と共に駆ける。
「照星の向こうに敵を見て……引き金は鋭く……」
 何倍にも引き伸ばされた時間の感覚の中で、尖の両手が強かにマコモHcを握り込んだ。
『意識を集中しろ。その怒りを弾に籠めろ』
 頭の中にいつぞやに聞いた声音が反響する。
「わかってる」
 青と緑の虚な光の靄が螺旋を描いてマコモHcに集う。
 何を撃つ? 何を撃たない? その為に何を籠める? 誰かが繰り返し問う。
「撃たなきゃいけないのは、祟らなきゃいけないのは……」
 答えを口に出す必要なんて無い。それを呪いに籠めればいいだけなのだから。
「起きなよ」
 人差し指が引き金を押し込んだ。いつにも増して重い反動に腕どころか身体が後ろに仰反る。マコモHcが撃ち出した災いは細い光軸となってアークレイズ・ディナに達した。
『ぐうっ!?』
 搭乗者の呻めきと共に、尖の二倍では済まない巨軀の突進が正面から押し止められた。そして弾が突き立てられた一点から亀裂が染み渡るようにして拡大し、硝子が砕ける音と共に弾けた。
「やっと届いた」
 尖がどこか満足気にほくそ笑む。彼女の呪いが、祟りが、災いが、暗く赤黒い呪いを確かに蝕んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジェイミィ・ブラッディバック
※アドリブ歓迎
※TYPE[JM-E]搭乗

ディナですか。
「我々の前でその機体を出したのは迂闊だったな」
えぇ、その機体の原型たるアークレイズとの戦闘経験がありますからね。
「N.E.U.R.O.Databaseにアクセス。戦闘記録をダウンロード」
コンバットパターンはガンホリックですかね?
「だろうな」

過去の戦闘データをもとにカウンターマニューバを構築。WHITE KNIGHTの予測演算をもとに見切ります。
伊邪那岐と迦具土で牽制、機を見て懐に飛び込みCRESCENT MOONLIGHTで一閃。
付かず離れずを維持しつつ一撃離脱を繰り返して着実に撃破を狙います。
一応コクピットは避けましょうか、念の為。



●クアンタムナイズドメモリーズ
「ディナですか」
 何の因縁かとジェイミィの電子音声が呟く。新たに出現した撃破目標の元へ向かうべく、TYPE[JM-E]が都市に敷かれた幹線道路を滑走する。裂く夜風は冷ややかであった。
『我々にとっては僥倖ではあるが』
 WHITE KNIGHTが誰に頼まれるでもなくジェイミィの視覚野にキャバリアの各種情報を送り付ける。
「えぇ、その機体の原型たるアークレイズとの戦闘経験がありますからね」
 ジェイミィが指す所の戦闘経験とは殲神封神大戦時において出現した渾沌氏『鴻鈞道人』だ。彼は二度に渡ってアークレイズと交戦している。
『とは言え緩むなよ。当時とは状況が大きく異る。アークレイズ・ディナ自体が原型機をより――』
 ビルの側面で灰煙が爆発し、高速回転する巨大な衝角が突き出てきた。
『攻撃的に発展させた機体だ』
「確かにそのようですね」
 TYPE[JM-E]とそれを見下ろすアークレイズ・ディナのセンサーカメラが交錯する。
「N.E.U.R.O.Databaseにアクセス。戦闘記録をダウンロード」
 量子化された記憶からかつての光景を呼び覚ます。アークレイズが出会い頭にリニアアサルトライフルの銃口を向けた様に、アークレイズ・ディナがデュアルアサルトライフルの銃口を向けた。TYPE[JM-E]もガトリング砲の迦具土とパルスマシンガンの伊邪那岐の照準を向ける。
「コンバットパターンは……」
『ガンホリックだ。来るぞ』
 言い終えるより早いか、双方が火器を撃ち合う。相対距離が短い事もあって互いの弾はそれぞれに狙い通りに命中した。しかし障壁に阻まれ装甲への到達には至らない。
「おや?」
 人間的に言えば違和感に相当する数値上の不一致に、ジェイミィが怪訝に頭部を傾ける。左右に機体を振りながら後退推進をかけて伊邪那岐と迦具土を撃ち散らす。追走するアークレイズ・ディナが展開するEMフィールドが銃弾を受けて明滅を繰り返した。
「フィールドの出力が向上してません?」
『EMフィールドとサイコ・フィールドの多積層障壁だな』
「サイコミュデバイスを搭載していると?」
『機体ではない。搭乗者から出力されている』
「ではパイロットはサイキッカーですか」
『照合可能な情報が正しいのであれば真人間だな。恐らくは何らかの触媒を所持しているのだろう』
 猛追するアークレイズ・ディナが突撃銃の豪雨を見舞う。TYPE[JM-E]が瞬間的な推進噴射で横方向へと切り返して躱す。基本的な挙動は確かに原型機と似通っている箇所が見受けられる。TYPE[JM-E]は量子クラウドベースがもたらす追憶を元に回避運動パターンを構築、WHITE KNIGHTの未来視で更にそれを補強する。攻撃面にしても同様だった。伊邪那岐で追い立てて回避先に迦具土の火線を置く。だがアークレイズ・ディナもTYPE[JM-E]同様に動体軌道を可視化しているかの如く回避してみせた。
『ハイビジュアルセンサーも搭載しているな……しかもこのマニューバは……』
 一拍子ずらして瞬間加速するモーションパターンにWHITE KNIGHTのみならずジェイミィもユーベルコードの気配を察知した。疎ましくなるまでに射線をすり抜ける挙動は最早単なる操縦技術の善し悪しだけでは語れまい。恐らく異なる猟兵が用いていたユーベルコードなのだろう。
「JDSの機能は事実のようですね」
 回避軌道を取捨選択する内にテールアンカーから伸びた光軸がTYPE[JM-E]を直撃した。荷電粒子が機体に到達する事は無かれど、張り巡らせた粒子フィールドの多くを削いでいった。整波が乱れた禍津日が水面のように揺れ動く。しかしただでは撃たせない。報復の迦具土を集中掃射する。だがやはり多積層障壁によって阻まれてしまう。TYPE[JM-E]は射線を切るべく交差点の曲がり角で急速旋回して前進加速した。
『埒が明かんな』
「強引にでもCRESCENT MOONLIGHTで斬り込むしかなさそうですね」
 WHITE KNIGHTは無言を肯定とした。粒子フィールドの整波が安定するのと同時にアークレイズ・ディナがまたしてもビルを掘り破って出現する。背後を追う敵機に対しTYPE[JM-E]は進行方向を変えぬままに機体の正面を向けた。
「一応コクピットは避けますが……」
 プラズマキャノンを躱す為に機体を横へと滑らせ、背面へと向けていた推力を前面に偏向した。二連装突撃銃の猛射を甘んじてフィールドで受けTYPE[JM-E]が驀進する。フィールド出力を示すゲージが急激に減少してゆく。されどもジェイミィの電脳は冷徹に戦術目標を敢行する。
『斬り抜けろ!』
 TYPE[JM-E]の腕部に備わる発振機より青白い光の刃が伸びた。二機の相対距離が急激に詰まる。交差する直前でアークレイズ・ディナが回転衝角を突き出す。粒子フィールドが穿たれた。TYPE[JM-E]が機体を捩る。右の肩部から腕部に掛けての装甲が掠めた衝角によって抉り取られた。月光の光を宿した荷電粒子の剣が水平に薙ぎ払われる。異常なまでに集束された切先が多積層の防護障壁に触れると、紙を切るのも斯くやといった滑りでそれを引き裂く。
 TYPE[JM-E]とアークレイズ・ディナが互いに背を向けてすれ違う。すぐに全く同じタイミングで急速旋回してみせると、ジェイミィは敵機に刻んだ荷電粒子の擦過痕を確かに見留た。
「やっと一太刀ですか……」
 嘆息の暇も無く再度射撃戦の応酬に縺れ込む。追うアークレイズ・ディナに対し、TYPE[JM-E]が未来視した軌道の中に機体を滑り込ませる。
『あまり意固地になり過ぎるなよ? 持ち帰らなければならないものもあるのだからな』
「ええ、まあ程々にしておきますよ」
 どこか他人事染みた受け答えをする搭乗者とは相反してTYPE[JM-E]の攻撃は苛烈だった。引き撃ち主体でありつつも、予測されている事をさらに予測した火線でアークレイズ・ディナの機動を制御する。推進噴射の光が弾けると、プラズマソードもまた月光を湛える刃を閃かせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレスベルク・メリアグレース
今こそあなたを否むすべてを、何もかもこの手で壊すように
ならば、わたくしは壊しましょう…この物語の果てに企まれた、終焉を
伊尾奈の生死を確認し、生きられるなら生命維持を行い亡命させ、UCを起動…この戦場に存在する、全ての悲劇の終焉を
予知した未来…模倣したUCを未来を覆す事で回避し続け、的確に無力化していきます

『m'aider』
ーー唱えるなら応えましょう、この『六番目の猟兵』の一人が

この世を救う愛で、芽生えた想いを生まれ変わらせて
こんな痛みを得るならば心なんていらない、とはいわせない
本当に欲しいものの為に、過去も未来も、心も差し出させない
この身が壊れずに歌いましょう、泣いているあなたの代わりに
朽ちゆく願いに陽が射す時、過去という影は消えるだけ
0と1の狭間に鎖された現実に堕ちながら、残酷なまでに美しく優しい世界を見せましょう

戦場内の終焉を悉く砕く荘厳なる祝詞を唱え、ディナのUCを回避
キャバリアの四肢を砕き、コックピットを開けて確保した後亡命させる様に



●失せ物探し
 ノインツェーンが背負う黄金の羽を開いて市街を滑るようにして翔ぶ。二重の円陣を描く神秘文字が黄金の痕跡を後に引いていた。白金の装甲が戦火の緋色を反射する。
 玉座に身を落としたフレスベルクが帰天を以て拡げた星雲の因果図を見遣る。ノインツェーンの現在位置座標を示す星ともうひとつの星が重なり合う寸前でフレスベルクは機体の動きを止めた。アスファルトの路面に積層した土埃を舞い上がらせてノインツェーンが淑やかに着地する。するとフレスベルクの琥珀色の長髪が夜風に揺れた。それは戦闘中にも関わらず玉座を防護する隔壁を開放した左証に他ならない。
「今こそあなたを否むすべてを……」
 何者に向けられた唄だったのだろうか。フレスベルクは玉座から立ち上がり、開け放たれたノインツェーンの胸殻から外界へと舞い降りた。捲れた聖別天衣の裾が落ち着きを取り戻すのを待ち、フレスベルクは淀みの無い身振りで前へと足を進める。揺るがぬ瞳はまるでこの先に何が待ち受けているのかを既知しているようだった。
「……よりによってお転婆教皇様かい」
 商業施設と思しき高層建造物の玄関口から日乃和軍のパイロットスーツ姿の長身が現れた。歩調は覚束ない。頭部を完全に覆い隠しているヘルメットには銃弾の痕跡が刻まれている。バイザーも降ろされているので人物像は判別出来ないが、豊かな双丘からして女性であるのには違いないのだろう。
「アタシとしちゃ、もうアンタと殺り合っても仕方ないんだけどね」
 短機関銃の銃口を向けられるも、フレスベルクは身動ぎひとつせずに相手を見詰める。
「存じています」
 穏やかで無味な表情を変えずに答える。バイザーの向こうに怪訝に傾く眉根が見えた。両者は暫し無言で視線を交差させ合う。幾つかの爆轟が遠くで響いた。
「わざわざ降りて殺り合いに来た……って訳じゃないか。なら何しに来たってんだい?」
「終わらせるために」
「何を?」
「全ての悲劇の終焉を」
 フレスベルクの発した声音は柔らかな抑揚ではあったが確たる意思が秘められていた。するとパイロットスーツ姿の女は両肩を落として首を振り、銃を下方へと降ろした。
「相変わらずお人好しだね」
 脱いだヘルメットに灰色狼を想起させる髪が揺れる。瞳の色は額から流れる血のように赤い。双眸から滲む諦観とも呆れとも付かない感情をフレスベルクは見透かしていた。
「それで? アタシを煮るって? それとも焼くの?」
 言葉尻で呻くと伊尾奈は膝から崩れ落ちた。膝立ちになった女に駆け寄ったフレスベルクが肩を庇う。
「亡命して頂きます」
「手筈通りにってかい……」
 手筈とはかつての密会でフレスベルク側から提案した有事の際の脚本なのだろう。フレスベルクがかざす手のひらに帰天の円環が生じる。灯る淡い黄金色の光が伊尾奈の苦い表情を幾らか和らげた。
「悪いけどアタシにはまだ仕事が残ってるんでね」
 立ち上がろうとした伊尾奈をフレスベルクの細腕が制する。
「それも存じております。憎しみはそう簡単に消せるものではないと……」
 人々の祈りの器たるフレスベルクは重々理解しているのだろう。だがそれでも彼女は壊したかった。或いは壊さなければならなかった。追い縋る過去に歪められた終焉を。フレスベルクの横顔に目を流した伊尾奈が鼻を鳴らす。
「まあ……先生方をぶっ殺すのもそうだけれどね、そいつらより先に殺さなきゃいけない奴がいるらしいんでね。 この体たらくじゃもうどうにもならないけど」
「奴とは?」
 フレスベルクは双眸を細めて首を傾ける。
「そいつはアンタらの方が詳しいんじゃないのかい?」
 赤い瞳の中に少女の姿が映り込む。意図を受け止めたフレスベルクは緩慢に瞬いた。
「それともう一つ……いざとなったらお嬢様連中を逃がせって上官殿からの命令が残ってる」
「その役割はわたくし達が引き継ぎましょう」
 伊尾奈は無言を返答としたらしい。
「あれは、わたくし達が……猟兵が終わらせなければならないものですから」
「つくづくお人好しなもんだね。好きにしなよ」
 両者がこの場で交わした言葉はそれが最後だった。

●アーク・ソング
 香龍東部の港区。本来穏やかである筈の内湾は白波に乱れていた。
『フレスベルク様! ご覧くださいまし! これがわたくしの欲した力! あなた方と同じ力ですのよ!』
 アークレイズ・ディナの肩部から伸びるアンカークローとテールアンカーが、それぞれに異なる軌道でのたうち回り目標へと殺到する。
「本当に欲しいものの為に、過去も未来も、心も差し出させない」
 海上を滑るノインツェーンがヴォーパルソード・ブルースカイを振りかざす。横に払われた剣筋が鏃を跳ね飛ばし、返す刃が荷電粒子の刃と激突した。
『差し出すしかありませんでしたのよ! わたくしには!』
 那琴の叫びに応じてアークレイズ・ディナが推進噴射の発光を膨張させた。唸りを上げて高速回転する衝角が振り下ろされる。
「その為には心など要らないと?」
 黄金の双翼を拡げたノインツェーンが突進した。マニピュレーターが握るヴォーパルソード・ブルースカイに帰天が滾る。それは神秘文字の螺旋となって現じた。祈りの顕現と執心の顕現が切り結ぶ。二機が真正面から激突し合った途端、狭間から相反する光が波動となって生じた。ノインツェーンのそれは淡い黄金。アークレイズ・ディナのそれは赤黒い。
『こんな痛みなんて知りたくなかった! あなた方に出会わなければ!』
 那琴は涙を滲ませる裂帛を乗せて回転衝角を押し込む。受けた青刃の纏う神秘文字の加護が消失と再生を凄まじい速度で繰り返す。フレスベルクの口角が苦渋に歪んだ。アークレイズ・ディナは感応波を代替に帰天を模したらしい。人の心が起こす奇跡を、願いの終焉に歪ませて。
「ならば、わたくしが壊しましょう……!」
『だから壊さなければなりませんのよ! わたくしが!』
 叩き付けた互いの言葉が衝突し合う。終焉を破壊する力同士が互いを消滅させ合う。ノインツェーンが拒絶されたの如く後ろに退くと、アークレイズ・ディナも同じく後方に退いた。二機は持ち得る武器の切先を向け合った。
「企みの果てに導かれた運命を、否定する。この物語の結末は人々の願いが決める……!」
『焼き尽くす炎よ、生命蝕む淀みよ、薙ぎ払う風よ、怒り猛る稲妻よ……!』
 ヴォーパルソード・ブルースカイには世界の理を捻じ曲げた荊棘の光が、ブレイクドライバーには四色の光が、螺旋状に纏わり付いて先端へと集束する。
「故に遍く人々の瞳に映る終焉を――我が帰天により破壊する!」
『我が手に集いて、祈りを貫く破光となれェェェッ!』
 フレスベルクが祝詞を紡ぎ終え、那琴が呪詛を叫ぶ。ノインツェーンのヴォーパルソード・ブルースカイが光の濁流を放つ。アークレイズ・ディナのブレイクドライバーが四つの光を綯い交ぜにした螺旋の光を放つ。互いの思惟が激突し合う。混濁した光の爆球が膨張し、海面を押しやって二機をも呑み込んで尚も肥大化する。その光は夜明けのようだった。
「わたくしは幾度でも歌い、そして壊しましょう……この物語の果てに企まれた終焉を」
 呑まれゆく世界にフレスベルクの温和な笑みが差し込む。港湾施設を超えて拡大する光は、やがて遍く影を消し去った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カシム・ディーン
……その高揚は判らんでもないがな

【情報収集・視力・戦闘知識】
敵の動きとUCの性質
周辺状況を冷徹に分析
そして機体構造と武装の性質
コックピットの位置を確実に把握する

一つおめーに教えてやる
UCを超える技をな
【属性攻撃・迷彩】
光水属性を機体に付与
光学迷彩で存在を隠し水の障壁で熱源や音を隠蔽

UC発動
同じUCなら超速戦闘

幼女祭りだった場合は一気に本体に向けて突撃

【念動力・弾幕・空中戦】
超高速戦闘開始
衛星砲撃の範囲外ぎりぎりで飛び回りながら念動光弾の弾幕展開
【武器受け】
此方に被弾しそうな攻撃は鎌剣で受け流し!

そして…
うん…滅茶苦茶きっついよなそれ?
僕も最初この馬鹿に発動させられた時死ぬかと思ったし吐きそうだったわ
「てへぺろ☆」

【二回攻撃・切断・盗み攻撃・盗み】
鎌剣で連続斬撃を叩き込み切り刻み武装を根こそぎ強奪

コックピットは狙わず不殺徹底

あの学園出身ならちょいと楽しませてもらったしな
その恩義には報いてやるよ

何より…おめーの死に場所はここじゃねーだろ

そして…そこのガラクタ野郎
てめーの好きにはさせねーよ



●生命を駆けて
「その高揚は判らんでもないがな……!」
 嗤う紅月が浮かぶ夜空の下、屹立する摩天楼の合間を潜り抜けてメルクリウスが翔ぶ。喧しく鳴る殲禍炎剣照射警報にカシムは眉根を歪めた。これ以上高度を上げれば警告メッセージが黄色から赤色へと変わるだろう。つまり自分にとっても相手にとっても、生命を棄てるつもりが無ければ現在の高度が天井だ。
『でしたら! カシム様とてわたくしと同じだったのでしょう!?』
 追走するアークレイズ・ディナが二連装突撃銃を連射した。
「そいつはどうだか……!」
 メルクリウスの背負う黄金の天輪が推進噴射を焚く。機体が鋭敏な挙動で断続的に瞬間加速する。軌道を追う火線を振り切るも、避けた先に置かれた青白い光線が装甲を擦過した。纏った水の保護膜ごと装甲が削り取られて白銀の火花が散った。
「悪くねー腕してらっしゃる!」
 カシムは傾いた機体姿勢を立て直しながら操縦桿のトリガーキーを押し込む。指先から伝わった魔力をメルクリウスが増幅し、更にカドゥケスへと流し込む。急速に接近しつつあるアークレイズ・ディナに向けられた錫杖が幾つもの光弾を立て続けに撃ち放った。
「まあこうなるわな」
 光弾はいずれもアークレイズ・ディナの装甲に到達する前に障壁に阻まれて霧散した。想定通りの末路にカシムは尚も光弾を叩き込みながら機体を後退推進させる。されども怯みもせずに突進するアークレイズ・ディナが相対距離を間近にまで縮めた。回転する大型衝角を見たカシムが舌を打つ。
「あんなぶっといの突っ込まれたらメルシー壊れちゃう⭐︎」
「そりゃあなぁ……」
 メルクリウスの口走りは冗談では済まされないのだろう。カシムの額に焦燥の汗が滲む。そしてブレイクドライバーが突き込まれた。
「一つおめーに教えてやる……ユーベルコードを超える力をな!」
『消えた!?』
 万物を抉り貫く螺旋が空気を穿った。愕然とする那琴だったが、すぐに横へと首を向けてトリガーキーを引いた。
「見えてんのかよ!?」
 実体弾の暴雨が飛ぶと虚無の空間に火花が弾けて白銀の装甲を纏う神機が顕となった。光と水の悪戯で視認と赤外線探知はおろか音さえ隠す隠術。これを用いてメルクリウスは衝角の一撃必殺を紙一重で躱したのだ。しかし那琴は一瞬標的を喪失するも即座にメルクリウスの所在を暴いた。
「いや……敵意を追って来てるのか?」
 銃弾が襲来してくる直前で感じた殺気からして、おおよその見当を付けて撃った訳ではないらしい。これほどまでの感覚の鋭さはユーベルコード無しには考え難い。更には那琴がとある猟兵に渡されたサイコミュデバイスが相乗効果をもたらしているのだろう。メルクリウスは金色の刃を生じさせたハルペーを高速回転させ、尚も浴びせられる実体弾と荷電粒子を払い除ける。
「いよいよ小細工御無用ってか? だったら!」
 タラリアのバーニアノズルが噴射炎を炸裂させた。
「メルクリウス……お前の力を見せてみろ……!」
「本気出しちゃうぞ⭐︎」
 機体は即座に音速を超過した速度域に達した。身体を押し潰さんばかりの重力加速度にカシムが歯を食い縛る。
『わたくしにだって……!』
 機体全体に赤黒い燐光を纏ったアークレイズ・ディナが後を追う。ブーツオブヘルメースを発現させた二機が鋭角な軌跡を引き連れて高層ビル群の間を飛翔する。カシムは通信装置越しに聞こえた那琴の呻き声を聞き逃さなかった。
「滅茶苦茶きっついよなそれ? 僕も最初この馬鹿に発動させられた時死ぬかと思ったし吐きそうだったわ」
「てへぺろ☆」
 茶化すメルクリウスが更に加速してビルを迂回した。
「あの学園出身ならちょいと楽しませてもらったしな……その恩義には報いてやるよ……!」
 正面に現れたアークレイズ・ディナが一直線に突撃する。メルクリウスも速度を緩めず直進。二機の相対距離は一瞬で零に達する。
「何より……おめーの死に場所はここじゃねーだろ」
 交差した刹那にアークレイズ・ディナは衝角を横に薙ぎ、メルクリウスも鎌剣を横に薙ぎ――と見せ掛けて何も携えていない腕を振るった。
『なっ!? イグゼクターを!?』
「本業は盗賊なもんで」
 掠め取った二連装突撃銃を投棄すると機体の半身のスラスターを噴射して急速反転、アークレイズ・ディナへと向き直った。多積層フィールドを抜くには速度を乗せて振るうハルペーしか無い。例え皮を切らせる次第となったとしても。カシムは双眸に覚悟を湛えた。メルクリウスの肩に大鎌を担がせて突撃する。
「何より……おめーの死に場所はここじゃねーだろ」
『わたくしは!』
 那琴が何事か言い終えるよりも先に、激昂を滾らせたアークレイズ・ディナがメルクリウスを正中に捉えて最大加速した。カシム・ディーンとメルクリウス、お前達こそが揃えた生贄を根こそぎ連れ去った張本人の一部なのだと。
「そして……そこのガラクタ野郎」
 ブーツオブヘルメースの最大加速を得たメルクリウスが残光を置き去りにして疾る。
「てめーの好きにはさせねーよッ!」
 完全に同じ瞬間に振り切られたハルペーとブレイクドライバー。高速回転する衝角がタラリアに叩き付けられた。砕け飛び散った硝子のように黄金が空中を踊る。肩部装甲まで抉り取られた頃には、メルクリウスはハルペーを袈裟斬りに閃かせていた。EMフィールドとサイコ・フィールドが織りなす強固な守護を、冥府の門を開く月光の刃が強引に斬り破る。遂にその悪意の顕現へと刃を滑らせた。
「うわーん! 痛いよー!」
 あまり痛くなさそうな黄色い声を上げるメルクリウスを他所に肩で荒く呼吸するカシム。鎌傷を受けて狼狽したかの如く出鱈目な機動で退散するアークレイズ・ディナ。見届けるアンダリュサイトの瞳は、果たして何を思うのだろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティー・アラベリア
奉仕人形ティー・アラベリア、ご用命に従い参上いたしました
……本当はもうちょっと早く現地にはいたのですが、何故か必死に止められまして。折角なので給仕役をしておりました

この蜂起に関わった皆様は良い縁に恵まれたようでございますね
或いは、猟兵の皆様にも同じことが言えるのかもしれません
死に場所を定め散っていく様は美しい物ですが、止めようとする意思もまた尊いものです

まぁ、それはそれとして。本命はやはりある機体ですか
献身、慈愛、憎しみ、羨望。人の意思を力に変える美しい機体です
猟兵の力を再現するとなれば、とっても楽しめそうですね
大火力で物事を解決するだけが取り柄と思われるのも心外でございますから、色々と手管を使いましょう
アンカー対策に白兵支援妖精と近接防御妖精で周囲を固め、主兵装は偃月杖
周囲に90式、92式、95式、97式のセットを浮遊させ、敵の距離に関わらず機動を制圧致します
万象を形作るあらゆる属性による包囲、制圧、妨害、そして破砕
折角同じような力を使えるのです、お互いの気が済むまで楽しみましょう



●極彩光
 屹立する高層建造物の最上階。夜空から緩やかに吹き下ろす風が、ティー・アラベリア
(|ご家庭用奉仕人形《自立駆動型戦略魔導複合体》・f30348)のエプロンドレスの裾をそよがせた。
「ようやく参上いたしましたが……」
 表情こそ薄笑いを貼り付けているが言葉尻には疲弊感が滲んでいた。奉仕人形が疲れるのかはさて置いて、今になって戦場に姿をお披露目したティーだが、実際には作戦始動時点で既に香龍入りを済ませていた。だがしかし他の猟兵とは別に開かれた転送門を潜った先は本人の希望或いは所定の位置ではなくどこかの室内だった。そこで長々と核兵器禁止条約についての講釈を読み聞かせられた上に持ち物検査を受け、出撃自体が引き止められていた。騙して悪いがといった空気でも無かったが、ティーは自身の処遇に疑問を呈したかも知れない。されど雇い主の代理人は契約書にそう記載されているからとの一点張りで異議に応じなかっただろう。ティーに渡された契約書|だけ《・・》にはとてつもなく小さな文字で先述の処遇についての記載があった。日乃和政府側としては首都でティーが通常ではない兵器を投入する事を危惧しての処置だったのだが、その点について当の奉仕人形に自覚があったのかは本人に直接聞いてみる他に確かめる術は無いだろう。なお出撃停止命令中のティーはあまりにも暇過ぎたので文字通りの意味でお茶汲み係をやっていた。コーヒーの香りが染み付くまでに。そしてアークレイズ・ディナの起動に合わせて出撃命令が解除され、現在に至る。
「この蜂起に関わった皆様は良い縁に恵まれたようでございますね」
 先の給仕仕事で纏ったコーヒーの香りが夜風に乗って流された。ティーが思うに、戦域に漂う因縁はこの香りのようだった。ティー自身にしてもそうだが猟兵もそうでない者も、一連に関わり続けた者達が集結している。必然だったにしろ何者かの意図が存在していなけばこうはならなかっただろう。
「死に場所を定め散っていく様は美しい物ですが、止めようとする意思もまた尊いものです」
 間の尊さと醜悪さ、その双方を鏡のように映し出す奉仕人形にとってはどちらも等しい生命の輝きなのか。熱を感じさせない薄ら笑みの唇から溢れた言葉の真意を推し量れる者はこの場にはいない。ティーは「では準備を……」とスカートの裾を摘むと些か乱暴に煽った。乾いた音と共に五本の長杖が地面に転がる。続けて妖精型自律端末がスカートの内側からぞろぞろと飛び出し、ティーの周囲に陣形を展開した。
「本命はやはりあの機体ですか。猟兵の力を再現するとなれば、とっても楽しめそうですね」
 ティーが手のひらを虚空に翳すと、コンクリートの床に転がっていた90式爆縮破砕型魔杖、92式火力投射型魔杖、95式思念誘導型魔杖、97式圧縮拡散型魔杖が浮き上がり、主人を守護る盾になるかの如く正面に並んだ。
「献身、慈愛、憎しみ、羨望。人の意思を力に変える美しい機体です」
 那琴がとある猟兵から渡されたサイコミュデバイス。その有無にティーが気付いていたかは定かではないが、言葉の意図がそれを指しているのであれば正しく事実だったのだろう。スカートの中をまさぐった指が零式制圧型偃月杖の柄を掴み、引き抜いて刃を生じさせた頃、美しい機体とやらが発するブースターの轟音が寒々とした空気を震え上がらせた。
「これはこれは、非常にご機嫌がよろしいご様子で」
 炸裂する赤黒い噴射炎は激昂に猛り狂っていた。驀進するアークレイズ・ディナから青白い光線が伸びる。それらはティーの元に到達するよりも先に零式白兵戦支援妖精が展開した斥力場によって遮断された。
「ではこちらからも歓待をば」
 90式が熱の爆縮弾を。92式が広範囲に及ぶ稲妻を。95式が氷柱の誘導弾を。97式が暗い重力球の散弾を。ティーの意思に従って僅かに時間を相違させ乱れ撃つ。暴力的なまでの面制圧にアークレイズ・ディナのセンサーカメラに躊躇の色が微かに見えたが、退くでもなく強引に飛び込んだ。
「なるほど、確かに猟兵の力を再現されているご様子で」
 人間の範疇を超過した域に達するまで研ぎ澄まされた感覚。射線をすり抜ける機体捌き。ユーベルコードを根拠とするこれら二つで爆縮弾を躱し、誘導弾を二連装突撃銃とアンカークローで迎撃した。そして恨み祟る妖怪も斯くやといった気迫が力の作用を有した障壁となって稲妻と重力散弾と衝突する。
「そうこなくては」
 ティーの唇の端が吊り上がる。細められた双眸の中でアークレイズ・ディナがアンカークローを伸ばす。視界の外に広がったそれらはティーの身を砕かんと殺到する。展開した魔杖達が一斉に散開した。
「色々と手管もございますので」
 だがいずれのアンカークローも本懐を遂げるには届かなかった。79式近接防御妖精が散弾を乱れ打ち、零式白兵戦支援妖精がその身を呈して鏃の軌道を逸らせたからだ。されど伸びてきたのはアンカークローだけではない。魔杖と妖精達が手一杯になっているところに荷電粒子の刃を湛えたテールアンカーが叩き付けられた。
「さぁ、趣向を変えましょう」
 ティーは両手で握りしめた零式制圧型偃月杖の柄を振り上げる。巨大な魔刃が荷電粒子の刃と激突してそれを跳ね返した。蛇のように鎌首をもたげたテールアンカーがすぐに突きの攻撃を加える。ティーは返す偃月で打ち払う。一打ごとに強烈な衝撃が奉仕人形の躯体を蹌踉めかせた。体勢を立て直す暇を捻出するべく魔杖達が夜を彩る魔術弾の応射を加えるが、サイコミュデバイスを触媒にユーベルコード由来の力で異常強化されたフィールドの中和が叶わない。継続的な攻撃で整流は綻ばせられるものの、EMフィールドが立ち代って保護している間に再度展開されてしまう。
「やはり障壁を断ち切らねば――」
 打ち合うべく振り下ろした偃月杖が虚無を引き裂いた。直後に凄まじい衝撃が走る。足元に打ち据えられたテールアンカーがティーの華奢な躯体を宙に跳ね上げた。
「おやまあ」
 直線に伸びる荷電粒子の刃。貫かれれば跡形も残らないであろうそれがティーの視界全体に広がる。発する熱がエプロンドレスの裾を焦がした刹那、軌道が脇へと逸れた。複数の79式近接防御妖精が犠牲となって奉仕人形を守護ったのだ。
「危ない、危ない。壊れてしまうところでした」
 両脚に備わる反重力機構を作動させて機動兵器の如く強引な姿勢制御を行う。脇を擦過したテールアンカーのケーブルに手を伸ばす。それを基点に我が身を引き寄せた。横目を滑らせる。魔杖はまだ全て生きている。つまり奉仕人形式鋭剣術は最大効力を発揮出来る。ケーブルに足を乗せたティーが駆け出した。青い瞳と紅のセンサーカメラが視線を交差させ合う。
「お次は白兵戦ですよ☆」
 足場を蹴ったティーの身が飛び上がる。両手で構えたのは偃月杖。躯体の魔力供給を受けて理論上出し得る最大出力で形成された刀身が禍々しく揺らめいた。振り下ろされた偃月杖はサイコ・フィールドに食い込んで亀裂を蜘蛛の巣状に拡大させる。アークレイズ・ディナ自身が驚愕したかのように身動ぐと、機体の周囲を循環する球体の防護障壁は粉々に砕け散った。
「お次は……弾幕ごっこです☆」
 ティーはそのまま高層ビルの最上階から落下を開始する。捲れ挙がるスカートを抑え込みながら見上げた先で、残した魔杖と妖精達がアークレイズ・ディナを取り囲む。全方位から放たれる光の暴雨がティーの視界を彩った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

防人・拓也
【TF101】
リーパーゼロに搭乗。那琴と激闘を繰り広げるが動きが単調なところを見切り、対応していく。
全く…真正面から向き合わないで叱らない馬鹿両親の代わりに親不孝娘を説教する事になるとはな!
UCを発動し、オーロラを放出。三笠や首相官邸までありとあらゆる所へ広げ、自身の那琴を助けたい意思を伝え賛同を集める。
そこで栞奈がやって来たのに気付くが、那琴が敵と勘違いして攻撃した時、栞奈機を庇う。攻撃がコックピットを貫き、自身の身体に武器の先端が突き刺さる。
大量に吐血しながらも微笑みながら栞奈の無事を確認し、那琴にはよく自分の弱点を突いたと褒める。守るべき人を見捨てる事が出来ないのが俺の弱点なのだから。
ここで多くの人々の意思が籠ったオーロラで那琴機を包ませる。オーロラを経由して那琴の赤黒く光るサイコゼロフレームの光を自身が苦しみながら吸収する。
そして
「この国を絶望と憎しみの闇で包み込もうとするのなら、俺は希望と優しさの光で照らしてみせる!」
とリーパーゼロと共に眩い光の中へ消えていく。
アドリブ可。


アルバート・マクスウェル
【TF101】
引き続きキングアーサーに乗艦。
ブリッジに来た栞奈に
「動けるようになったか? お前さんとこの隊長は拓也と交戦中だ。この国の絶望と憎しみを体現したかのような機体で、拓也を殺そうとしている」
と状況を説明。
「…那琴を助けたいか?」
と聞く。ま、答えは1つだろう。
「そう言うと思って、拓也がお前のイカルガを整備してくれた。いつでも使える」
と言い、行こうとした栞奈に
「お前は那琴を助ける事だけを考えろ。拓也の事は諦めるんだ」
と忠告して見送る。
黒豹分隊は艦を直掩しつつ、栞奈機が撃墜されないように護衛。
拓也がサイコゼロフレームの力を使い、オーロラを各地に広げて艦でそれを感じたら
「そうか。お前の願い、確かに感じた。俺も祈らせて貰う」
と賛同し力になる。
そして共鳴率が危険域を超えてリーパーゼロが光の中へ消えた時…

奇跡は起きた。

虹色に輝く大きな球体が香龍全体を温かく優しく照らし、消滅したリーパーゼロから零れたサイコゼロフレームが香龍の各地へ虹色の光を振りまいていく。
彼は悟る。拓也は死んだと。
アドリブ可。



●遥か翡翠の彼方
 香龍の東一帯を専有する港区。その海上でキングアーサーは呆然としたかの如く留まっていた。艦のカタパルトデッキ等で直掩に当たる黒豹分隊のマイティ・スナイパーⅡ達からも、どこか遣る瀬無い様子が伺えた。
「ご覧の通り、お前さんとこの隊長は拓也と交戦中だ。この国の絶望と憎しみを体現したかのような機体で、拓也を殺そうとしている」
 艦長席に腰を落ち着けたアルバートの声は抑揚が薄い。
「へぇ、ナコってユーベルコード使えるようになったんだ」
 アルバートと同じく巨大モニターに視線を固定している栞奈の口振りは感嘆染みていた。
「……隊長を助けたいか?」
 横に流した視線が栞奈の横目と交差した。栞奈の唇は動く気配を感じさせない。両者の間に沈黙が降りる。
「拓也がお前のイカルガを整備してくれた。いつでも使える」
「おん? なんで? 今のあたしら敵同士じゃん?」
 アルバートは肺から空気を抜いてヘッドレストに頭を預けた。
「さあな? 雪月准尉が何をするつもりだったのか、見当を付けてたんじゃないか?」
「ふぅん、見当ねぇ」
「お前は那琴を助ける事だけを考えろ。拓也の事は諦めるんだ」
「えー? どうしよっかなー?」
 思わせ振りか企み振りか、栞奈の妙な微笑にアルバートは首を横に振る。
「でなければ三人纏めて死ぬぞ」
「はーい、気を付けまーす」
 背中を向けて手を振る栞奈をアルバートが目だけで見送る。
「大佐ぁ、ありがとねー」
 艦橋から外へと繋がる扉が開放された際、栞奈が半身を向けて気の抜けた笑顔を見せた。すぐに扉が閉ざされる。アルバートは視線を艦橋の窓へと戻す。遠方の香龍では互いを追い立てる光点が軌跡を描き、鮮やかな爆球を膨張させて光軸を迸らせている。
「これがお前の願いか? 拓也……」
 届くことの無い問いは張り詰めた空気に溶けて失せた。

「全く……真正面から向き合わないで叱らない馬鹿両親の代わりに、親不孝娘を説教する事になるとはな!」
 毒づく拓也が操縦桿のトリガーキーを引く。空中を鋭角な機動で飛び回るリーパーゼロがネオツインバスターライフルを咆哮させた。出力はかなり絞られているがそれでも威力は並ならない。
『その程度では……!』
 アークレイズ・ディナは一射目を不規則な回避運動で避け、二射目を防護障壁で受け止める。荷電粒子の奔流が壁に噴き付けられた水のごとく四散する。
『防人少佐ぁ! ご覧になられておいでですか? 機体だけでは御座いませんわ! あなたから頂いたこれが、力を与えてくださるのですよ!』
 通信機越しに聞こえる那琴の恍惚な哄笑には涙声が滲んでいた。JDSは搭乗者に対して記憶から感覚レベルで機体への最適化を行うという話しが事実ならば、拓也が知っている那琴はもう別の何かに上書きされてしまっているのかも知れない。オブリビオンマシンが産み出した制御装置として――アークレイズ・ディナが突き出したブレイクドライバーに四光が集う。それは先のバスターライフルの如き奔流となってリーパーゼロに迫った。
「撃てば当たるものでもないだろうに……!」
 リーパーゼロはバーニアを焚いて機体を翻し危な気無く躱す。そして弾かれるかのように直進加速しアークレイズ・ディナの許へと飛び込んだ。推力を伴って打突したコーティングシールドはEMフィールドとサイコ・フィールドから成る多積層防護障壁に阻まれた。赤黒い明滅が生じてリーパーゼロが後方に跳ね飛ばされる。
「やはりバスターライフルの最大出力でなければ……!」
 歯噛みする拓也の耳朶を打ったのは警報音だった。後退するリーパーゼロにアークレイズ・ディナが肉薄し、アンカークローとテールアンカーを伸ばしたのだ。拓也は惜しむ気持ちごとネオツインバスターライフルを投棄し、代わりにビームサーベルの発振機を抜くよう操作を介して機体に命じた。胸部マシンキャノンが絶え間なく発射する実体弾がテールアンカーを追い払い、振り回した荷電粒子の刃がアンカークローのケーブルを溶断する。そしてシールドに鏃が食い込んだ。
「こいつ……機体を侵蝕して……!?」
 途端に表示された機体ステータスを見て拓也は背筋が冷える感覚を味わった。シールドを介してリーパーゼロの腕部に侵蝕しようとしているらしい。恐らくは機械を侵すユーベルコードの類を模倣したのだろう。シールドを接続基部ごと排除すると機体ステータスを示す色は正常に戻った。判断は一瞬だった。しかしその一瞬があまりにも致命的過ぎた。
「やられた!?」
 残されたアンカークローがビームサーベルを保持する腕部に食い込んだ。発振機から生じる荷電粒子が泡沫のように消失する。機関砲でケーブルを寸断させようと試みたが、胸部の近辺に突き立てられた鏃に阻止された。更に突き刺さったテールアンカーがリーパーゼロのコクピットを激しく振動させた。出力低下中と制御系異常の警告メッセージがサブウィンドウに次々に立ち上がる。
『やっと……あなたに届いた……!』
 拓也は呻きを噛み殺す中、込み上げた涙に詰まらせた那琴の声を聞いた。そしてアンカークローを介して直接繋がれたリーパーゼロとアークレイズ・ディナがそれぞれの光を放つ。その光が物理的な作用を及ぼす領域となって互いを拒絶し合う。
「フェザー01、よく俺の弱点を突いたな……!」
 ネオツインバスターライフルを最大出力で照射出来なかった甘さ。守るべき人を見捨てる事が出来ない甘さが自覚する内の弱点だった。二射目をフィールドで受け止めた那琴はきっとそれを知って強襲を仕掛けたのだろう。つまり――。
「お前はまだそこに居るのか……?」
 機体に上書きされた人格にその知識を拾われただけという可能性は大いに有り得るだろう。されど拓也は望みを捨て切れなかった。これも甘さなのだろうか。だとしても。
「待っていろ、いま助けてやる」
 自らの中で生まれた思惟を意識の一点に集束させる。アークレイズ・ディナの奥。搭乗者の元へと。リーパーゼロが内包するグラント・サイコゼロフレームが翡翠の光を拡大させる。アークレイズ・ディナが放つ赤黒い光を押しやったそれは、特務艦隊や首相官邸を含む香龍全域にまで及んだ。
『あなたは……! ああ、いや……! おやめくださいましぃっ! わたくしの中に|侵入《はい》ってこないでぇッ!』
 那琴が怯え竦んだ悲鳴を震わせる。
「ただ、俺はお前を救ってやりたい。それだけだ」
 感応波を掻き集める触媒となった拓也の元に彼と同じ祈りが集束する。中にはアルバートや泉子、他の猟兵の思惟もあったかも知れない。オーロラ状の波は奇しくも類似した力を有する量子波と共鳴して更に満ち溢れた。
『わたくしは……! わたくしは……! 猟兵の方々のようになりたくて……!』
 翡翠の光がアークレイズ・ディナを赤黒い光ごと包み込んだ。
『だってあなた方は何でも出来てしまうから! 何でも救えて……何でも倒せて……ですけれどわたくしは何も出来ない! だからユーベルコードが欲しかったんですのよ! あの時のわたくしにこの力があれば、こんな事にだってならなかった! 猟兵の方々に銃を向ける事もありませんでしたのよ!』
 那琴の口から溢れた形にならない言葉が次々に零れ落ちてゆく。
『わたくしは……あなた方と共に戦いたかった……本当の意味で……背中を預けて貰いたかった……』
 全周波数帯域で発せられた戦慄く声を拓也は黙して聞いていた。きつく固めた表情にどんな感情が降りていたのか、孤独なコクピットの中ではそれを量れる者は本人を除いて存在しない。機体の異常を示す警報音はいつの間にか止まっていた。
「お前は……」
『ですけれど』
 両者の言葉が被さり合う。リーパーゼロのコクピット内で再び警報音が鳴り響いた。
『もう全部遅すぎたのですよおぉぉッ!』
 悲鳴とも絶叫とも付かない金切り声と共に、アークレイズ・ディナを包み込む翡翠色の光が赤黒い光に押し出された。拓也が発した希望を叶える奇跡の極光に脳量子波を相乗させ、更には宙を翔ぶ悪霊の呪いがそれらを増大させたらしい。
「那琴! お前は!」
 翡翠と赤と黒が混濁した感応波の暴風がリーパーゼロを煽る。怒り狂うオブリビオンマシンのセンサーカメラが拓也の魂を射竦める。
『消えろイェーガー!』
 那琴では無い何者かの憎悪が裂帛として放たれた。ブレイクドライバーを稼働状態で真正面に構えたアークレイズ・ディナの背後で、灼熱色の噴射炎が炸裂した。
「それでも!」
 アンカークローとテールクローで磔にされたリーパーゼロは四肢を広げたまま向かい合う。
「この国を絶望と憎しみの闇で包み込もうとするのなら、俺は希望と優しさの光で照らしてみせる!」
 超高速回転する衝角の切先がリーパーゼロに触れ合った瞬間、そこを境界として二色の光が生じ、全てを見境なく飲み込んだ。拓也は視界が焼かれる寸前で三つ目の光を見た。生々しく燃え立つ蒼炎の光を。

 身体が重い。それでいて妙な浮遊感がある。暗い泥水の中を漂っているようだった。誰かが呼ぶ声が聞こえた。誰の名前だ? 自分の? 頬に何かが触れる。生暖かい。人肌なのだろうか。今度は熱が痛みに変わった。何者かがしきりに自分の頬を叩いている。
「ゼロえもん少佐ってば!」
 聞き覚えのある声音に閉じていた瞼が開かれた。目に痛い白い光が差し込む。
「やっと起きた」
「……雪月准尉か?」
 拓也は無意識に覚えのある顔の主の名を口走っていた。柔らかく弾力のある床からゆっくりと上体を起こす。首を回して周囲を見渡す。真っ白な風景だった。天井も壁もあるからしてどこかの屋内らしい。
「ここは?」
「おいおい大丈夫か? キングアーサーの医務室だぞ?」
 拓也にとっては馴染み深い声だったはずだ。なぜなら声の主はアルバートなのだから。
「まったく大したもんだな。機体はこっぴどくやられたが、ゼロえもん本体は殆ど無傷とはな……」
「やられた? 俺は確か……」
 拓也が視線を右往左往させて記憶を辿る。アークレイズ・ディナのブレイクドライバーの直撃を受けて死んだ筈だが……足がちゃんと付いているあたり、種族が幽霊になってしまったわけではないらしい。
「はい! あたしが助けました!」
 いかにも誇らしげな顔付きの栞奈が手を挙げた。
「フェザー08? 雪月准尉が? マック、どうやったんだ?」
 拓也に怪訝に問われたアルバートは本人に聞いてくれと顎で栞奈を指す。
「サイコ・フィールドで吹っ飛ばしました!」
 栞奈は何の言い淀みも無く言ってのけた。拓也は光に呑まれる寸前の記憶を呼び覚ます。青い炎が見えたような、見えなかったような。
「まあゼロえもん少佐には助けてもらったし? これで貸し借り無しね?」
 途端に目を丸くした拓也がアルバートに詰問する。
「マック、アークレイズ・ディナは……フェザー01は?」
「今はいいだろう。ゼロえもんの命が最優先だ」
 拓也は面持ちを落として「そうか」と呟く。そんな彼にアルバートは溜息を吐いた。
「まあなんだ、お前の願いは確かに感じた。俺も祈らせて貰ったさ」
 アルバートが拓也の肩に手を置く。拓也にはそれが途方もなく重く感じられた。
 香龍の東部区画では、砕けたサイコゼロフレームが淡い虹色の光と共に滞留していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

菫宮・理緒
【ネルトリンゲン】

この戦い、誰も得るものがない感じになってるね。

なら被害を最小限に抑えないとかな。
特に白羽井小隊は、助けた以上責任もあるしね!

そういえば那琴さん、UCがあれば、とか言ってたけど、
UC抜きでも今のあなたでは、わたしたちと一緒に戦えないと思うよ。

解らないなら、やってみようか。

【WWA】を発動して『特殊能力』を使用禁止にするね。
さ、いってみよう!

『希』ちゃん、【M.P.M.S】全砲門斉射!

ミサイルには2本だけチャフ入り煙幕弾を混ぜておくね。
煙幕を張ったら【Density Radar】で相手の位置を捕捉してシャナミアさんと共有。
そこからは行動を制限するように援護射撃をかけるよ。

UCは確かに強いけど、ただの道具。
|みんなで生き残る《世界を崩壊させない》という意思が|猟兵《わたしたち》の強さ。

那琴さんにも、そんな『みんな』がいるよね?

UCなんて絶対条件じゃない。
むしろ大きすぎる力は、全てのバランスを崩すよ。
いまのあなたのように。

愛宕で戦っていた那琴さんは、いまよりもっと強かったよ。


シャナミア・サニー
【ネルトリンゲン】
だーかーらー言ったろ?もっかい戦う理由考えなって

戦い抜くために|力《ユーベルコード》を得るならともかく
戦う前に|罪深き刃《ユーベルコード》に飲み込まれてどうすんだっての

何度も言ってるけどさ
|特別《ユーベルコード》がなくたって戦えるんだって
アンタにはそれが出来たはずだよ那琴さん!!

正座させてでも説教してやる!
【バックウェポン・アタッチメント】
フリージングパイル・シングルバレルシューターで重武装化

理緒さんと希ちゃんが放った弾幕に合わせて私も仕掛ける!
「こういう|ケース《対人戦闘》を想定して作ってるんだっての!!」
移動して距離を詰めながら残弾全部叩き込むつもり!

理緒さん希ちゃんナイスフォロー!
この距離……もらった!
【コンバットパターン【A】】
ツインバレルライフル超連射しつつ
スケイルカイトシールドでバッシュから
至近距離でのビームブレイド連続攻撃!

何の変哲もない標準兵装と超練習して覚えたパターンだ
それでも!オブリビオンマシンくらいなら破壊できるんだよ!
いい加減、目ぇ覚ましな!!



●あなたが声を聞かせてくれたから
 夜空に向かって伸びる高層ビルの数々は、まるで光の塔のようだった。各地で黒煙が昇る。脇腹を無惨に抉り取られた建造物も少なくない。だがそれでも香龍の夜景の輝きが衰える事は無かった。
「だーかーらー言ったろ? もっかい戦う理由考えなって!」
 ビル街を引き裂いて伸びる高架橋上をレッド・ドラグナーが後退推進加速する。接地した足裏が夥しい火花を散らせた。
『これなのですわよ! その理由が!』
 超極低空を滑走して追い立てるアークレイズ・ディナ。軌道を塞ぐ二連装突撃銃の猛射に続いてテールアンカーが青白い荷電粒子弾を撃ち込む。
「戦い抜くために力を得るならともかくさ! 戦う前に力に飲み込まれてどうすんだっての!」
 レッド・ドラグナーはスケイル・カイトシールドで機体を庇いながら推力を左右に振る。プラズマキャノンは躱せたが、甘んじて受けたデュアルライフルの猛射が見た目以上に重い。
「いだだだっ!? ユーベルコードが乗ってるな? これ!」
 必死の機体制動を繰り返すシャナミアが八重歯を覗かせて顔を顰める。有無を言わせぬ連射は他の猟兵が扱ったものなのだろう。単純ながら強力な銃撃がスケイル・カイトシールドに幾つもの銃創を刻み込む。
「何度も言ってるけどさ! ユーベルコードがなくたって戦えるんだって! アンタにはそれが出来たはずだよ那琴さん!」
 裂帛を乗せたツインバレルライフルが実体弾とビームを交互に撃ち放つ。
『出来なかったのですわよ! 先ほどだって……何も出来ないまま……!』
 アークレイズ・ディナはさしたる回避運動も取らずに火器を応射する。フィールドで防ぎきれると把握しているのだろう。レッド・ドラグナーが撃った二種の弾は多積層保護障壁に阻まれて霧散した。
「あーもうだめだ! 何なのこのインチキバリアは!」
 苛立ちを全開にしたシャナミアがトリガーキーを連打する。やはり結果は変わらない。二連装突撃銃を防御する度に激しく振動するコックピットと、サブウィンドウに表示されたシールド耐久力低下のメッセージが焦燥を募らせる。
「ユーベルコードがあれば……とか言ってたけど、それ抜きでも今のあなたでは、わたしたちと一緒に戦えないと思うよ」
 通信装置越しに響く飄々とした声。出処へとシャナミアと那琴の意識が誘導させられる。高架橋上で撃ち合う二機に理緒のlaniusが追い付いてきたのだ。
『そうだと仰るのならば!』
 アークレイズ・ディナがレッド・ドラグナーと向き合いながら後方へアンカークローを伸ばした。直後に被照準警報が理緒の耳朶を打つ。
「理緒さん! それ食らったらヤバい!」
 言外に逃げろと添えたシャナミアの言葉と理緒の見解は一致していた。当たればエネルギーを吸収されるだけでは済まない。JDSが模倣したユーベルコードにより機体への直接侵蝕作用を及ぼすらしい事は既知の内だ。laniusとて電子的機能保護は施してあるものの、途轍もなく面倒な事態に陥るのは明白だろう。
「大丈夫!」
 汗ばむ細指で操縦桿を握り込むと、laniusがMagne Truncheonを抜剣した。左右から大きく迂回するようにして伸びるアンカークローにロックオンマーカーが重ね合わされる。
「ユーベルコードは確かに強いけど……!」
 横に振るった電磁棍棒がアンカークローの鏃を打ち据えた。生物のように身悶えして引っ込む。
「ただの道具!」
 返す鈍器が次の鏃を跳ね飛ばす。
「世界を崩壊させない、みんなで生き残る意思が私達の……」
 下方からの掬い上げがlaniusの頭部を狙ったアンカークローを打ち上げた。
「強さ……あっ!?」
 鋭く突き刺さる衝撃に揺さぶられ、理緒は片目を閉じて歯を食い縛った。
「これは不味いかも……!」
 Magne Truncheonを保持する腕部に鏃が食い込んだ。機体の状態を示すlaniusの画像上で腕部が赤に点灯している。出力低下中と制御機能異常のアラートメッセージからして、模倣したユーベルコードによる直接侵蝕が始まったらしい。だが理緒もただ看過している道理などない。対電脳魔術プログラムを機体に流し込んで侵蝕作用を逆に侵蝕し返した。双方の蝕み合いが拮抗する。
「理緒さん!? こんのっ!」
 まだ使うには早いが惜しんでいられる状況ではない。そんな苦渋を滲ませたシャナミアの人差し指が操縦桿のホイールキーを回す。サブウィンドウに投映されている選択中の兵装項目が、フリージングパイル・シングルバレルシューターの位置へと重なったのを確認する間も無くトリガーキーを引く。
「貫け!」
 レッド・ドラグナーのショルダーランチャーのハッチが開き、そこから柱とも槍とも付かない鋼鉄の円柱が射出された。円柱は素直な軌道でアークレイズ・ディナの元に直進する。球体状に張り巡らせたフィールドに阻まれた円柱が絶対零度の華を咲かせた。
「これでもダメなの!?」
 シャナミアがサイドパネルに握り拳を叩き付けた。このフィールドもユーベルコードを根拠とした力なのか……いや、何かが違う気がする。
『ご覧になられましたでしょう? ユーベルコードさえあれば、わたくしだってあなた方と同じ様に――』
「解らないみたいだから、やってみようか」
 那琴の恍惚染みた声音に理緒の涼やかな声音が被せられた。直後にlaniusから青い波動が迸る。戦域全体に広がったそれは物理的な作用を及ぼさない。だが一方ではある意味致命的な影響を及ぼしていた。
「ここからは、純粋な力比べだよ」
『理緒様!? 何をして……!?』
 今にも崩れ落ちそうな絶望感を含む那琴の声が聞こえたのと、laniusのコクピット内に充満していた警報音が停止したのは同時だった。理緒が放ったWorld Without Abilitiesが世界の理にユーベルコードを含む全特殊能力の使用を禁ずる法則を書き加えたのだ。パワーオブザ・シールが無効化された訳ではない。しかし法に触れたアークレイズ・ディナに気まぐれな運命の女神が悪戯したのだろう。
「ほら、ユーベルコードなんて絶対条件じゃない。希ちゃん! M.P.M.S全砲門斉射!」
『了解です! 発射します!』
 理緒はアンカークローの虜になっている傍らで密やかにレーザー照準を終えていた。今頃は主の命令を受けた人工知能がネルトリンゲンのランチャーユニットから誘導弾を射出している筈だ。
『まだ動けますのよ!』
 ミサイルの接近を感知したらしいアークレイズ・ディナが離脱しようとメインスラスターを噴射する。
「ダメだよ」
 今も腕部にアンカークローの鏃を食い込ませたlaniusがそれを押し留める。
「逃さないって!」
 レッド・ドラグナーがフィールドに阻まれるのを承知の上でフリージングパイルをありったけ連射する。フィールド越しとは言え氷漬けになったアークレイズ・ディナの動きが完全に封殺された。そしてロケットの噴射音を伴う風切り音が急速に接近する。
「弾着! いま!」
 理緒の叫びに合わせてlaniusとレッド・ドラグナーが姿勢を屈める。アークレイズ・ディナを封じた氷の華の元へ幾つもの誘導弾が飛び込み炸裂した。那琴の悲鳴が膨れ上がる爆球に飲み込まれる。
「むしろ大きすぎる力は、全てのバランスを崩すんだよ。今のあなたのようにね」
 laniusが爆風でケーブルが引き千切れたらしいアンカークローを毟り取るように引き剥がす。侵蝕は留めたが肘関節から下はもう使い物にならない。
『ですけれど、そうだとしても、欲しかったのですわ……』
 霧散しつつある爆炎の中に赤黒い機体が揺らめいた。周囲を巡る球体の斥力場が水面のように波打つ。流石のサイコ・フィールドも艦艇のミサイルの直撃を連続で受ければ中和されて然りらしい。
『シャナミア様と理緒様と同じ力が……そうすればあなた方と同じように戦えましたのよ! 同じ力を得られたから……こうして及ぶように、強くなれたのですわよ!』
「どうかな? 愛宕連山で戦っていた頃の那琴さんの方が、今よりもっと強かったと思うけど」
 理緒が滑らかに発した声に那琴は息を詰めた。
「さっきも言ったけど、みんなで生き残るという意思がわたし達の強さ……那琴さんにも、そんな強さを生んでくれたみんながいたよね?」
 シャナミアと理緒がモニター越しに見るアークレイズ・ディナから力が抜け落ちた。ミサイルに充填されていたと思しきチャフが空中を舞い、市街の光を反射して銀色の光彩を放つ。
『わたくしは……あなたと……共に戦いたかった……』
「もう止めにしない? この戦い、誰も得るものがない感じになってるし」
 理緒の眉宇が疲弊に傾く。搭乗者の挙動を反映するようにしてlaniusへと向けらたアークレイズ・ディナの頭部。微かに聞こえた掠れ声は、路を見失って途方にくれたかのように濡れていた。
『まだ……』
 再度膨れ上がった怒気に理緒は唇の端を歪ませ、機体を後方へと飛び退かせた。
『まだ終われない! お前を殺すまでは! イェーガー!』
「理緒さんバック!」
「希ちゃん援護射撃!」
 何者かの怒声の後にシャナミアと理緒の叫びが交差する。整流を終えた防護障壁が燻る炎を掻き消した。
「いい加減、目ぇ覚ましなッ!」
 ドラグナー・ウイングが光を焚いて機体を猪突させた。シャナミアが正中に見据えたアークレイズ・ディナが二連装突撃銃とテールアンカーのプラズマキャノンを撃ち散らす。
「いったいなぁもうッ!」
 応射の暴雨に突入するレッド・ドラグナーがスケイル・カイトシールドでコクピットブロックを庇う。左右への微細な瞬間加速で直撃弾を辛うじて躱すが、全身の装甲が次々に撃ち砕かれてゆく。フリージングパイルはもう弾が残されていない。強引に撃ち込んでいるツインバレルライフルはやはりフィールドに触れるなり霧散するか明後日の方向へと跳弾してしまう。
「あと少しで……!」
 八重歯を剥くシャナミアがフットペダルを限界まで踏み抜く。搭乗者の根性を汲んだレッド・ドラグナーは被弾に構わず突き進み、遂にアークレイズ・ディナの元へと至った。質量弾となった機体が盾をフィールドに打ち付ける。赤黒いスパークの明滅がシャナミアの視界を焼いた。その途端にアークレイズ・ディナの背後で巨大な爆炎が咲いた。衝撃波に煽られた機体が前方向へとよろける。
「ユーベルコード解除! シャナミアさん! やっちゃって!」
 誘導したミサイルの着弾とサイコ・フィールドの減衰を見届けた理緒が叫ぶ。
「ナイスフォロー!」
 防護障壁を超えてアークレイズ・ディナに肉薄するレッド・ドラグナー。距離が零に詰まる寸前、スケイル・カイトシールドを振りかぶって叩き付けた。
「うっそ!?」
 シールドは機体に到達する前に腕部の肩口まで微塵に粉砕された。ブレイクドライバーに穿たれたのだ。
「だけどね! この距離……もらった!」
 片腕を犠牲にしたレッド・ドラグナーが尚も食らい付く。残された腕部の甲に相当する箇所から生じさせた荷電粒子が直剣を形成する。
「何の変哲もない標準兵装と超練習して覚えたパターンだ!」
 二度目のブレイクドライバーは振るわせないとフルブーストで機体ごと突っ込む。薙ぎ払った刃の切先が赤黒い装甲を擦過した。
「これでも! オブリビオンマシンくらいなら破壊できるんだよッ!」
 シャナミアは戦闘本能に動かされるがまま操縦桿を押し込みトリガーキーを連打する。血と肉に叩き込んだ戦技に機体は応えてくれたらしい。縦に横に荷電粒子が閃く。数秒にも満たない刹那の中でアークレイズ・ディナの後方へと切り抜けた。膝を付いて伏すレッド・ドラグナーの背後では、激昂する鋼鉄の狂気に確かな剣戟の痕が刻み込まれていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

支倉・錫華
【フィラさんと】

はいフィラさん遅刻。作戦終わったらおごりね。
みんなの分、予約しとくから。

ま、それはいいとして、那琴さんも気にはなるけど、
|こっち《大鳳》も放っておくわけにはいかないよね。

お説教するより、こっちのほうが性に合ってるしね。

【スヴァスティカ】に【サラスヴァティ・ユニット】を装着して、
【Low Observable Unit】で姿を隠しつつ水中から大鳳に接近。

大鳳の船底にとりついたら【バンカーナックル】で大穴開けて、船内に飛び込むよ。

アミシア、ブリッジまでの最短距離!
『このままナックルで真上です』

沈むまで時間もないし、力業ってことか。
フィラさん、足場踏み外したら2ヶ月ネタにするからね。

ブリッジの床をぶち抜いて葵艦長を確認したら、
相手がアクション起こす前に【トニトルス・ストローク】で自由を奪って拘束。
身柄はフィラさんにお任せしようかな。

レディの扱いはお任せするね。
わたし顔見てたら殴っちゃいそうだし。

戦死なんて祝福をあげるつもりはないよ。
最後まで生きて、責任はとってもらわないとね。


フィラ・ヴォルペ
【錫華と】
おま……いきなり呼びつけて遅刻呼ばわりとか
どういう性格してんだ……いや、錫華だったわ
って予約ってなんだよ何集るつもりなんだよお前は

細かい状況は把握しきれてねえが
ま、お前がそういうならそうなんだろ?
いいぜ錫華
こういう|汚い仕事《裏方》は俺ら向きだからな
ヴォルペ・リナーシタ、いくぞ!

俺が陸から陽動を仕掛ける
その間に仕掛けな錫華!

【飛蝗】でかく乱といこうか!
「壊すだけがキャバリアじゃないんだよ!!」
数瞬、こっちに注意が向いて隙が出来ればアイツには十分だろ
錫華の突撃に合わせてこっちも突入だ
「ってなんでお前はいちいちプレッシャーかけんだよ?!」
そんな微妙なネタ提供してたまるかっ

ってか放り投げるな!!
お前は俺を何だと思ってるんだ……俺だって選ぶ権利あるわ
舌かみ切る前に気絶させてっと
|葵艦長《コイツ》はどうやっても生かして連れていきたいんだろ?
ったく乱暴なお姫様のエスコートは大変だぜ

聞こえてないだろうが
アンタ(葵)の敗因は錫華を怒らせたことだな
わざわざ寝ているヤツを起こすなっての



●潜行のガルヴォルン
 香龍東部の港区。内湾を臨む大規模商業施設の前に敷かれた大通りに立つスヴァスティカ SR.2。隣にはつい先刻まで見掛けなかった新たなキャバリアが並んでいた。
「どういう状況なんだよ……」
 ヴォルペ・リナーシタの手狭なコクピットの中で、フィラ・ヴォルペ(レプリカントのアームドヒーロー・f33751)は困惑に眉根を傾ける。錫華に呼び付けられ、殆ど聞いていない長々とした説明を受け、目が痛むほどの細かい文字が書かれた契約書に署名させられ、転移門を潜った先は不似合いな戦火に彩られた夜の大都市だった。そちらこちらで挙がる剣呑な爆音や通信音声からして、どうやら逢瀬に誘われた訳ではないらしい。
「はいフィラさん遅刻。作戦終わったらおごりね」
「おま……いきなり呼びつけて遅刻呼ばわりとかどういう性格して……」
 錫華の冷たく突拍子も無い決定事項にフィラは唱えかけた異議を飲み込んだ。錫華だから仕方ない。
「みんなの分、予約しとくから」
「はいはいどうぞご自由に……って予約?」
 一体何を何人分集るつもりなのだと詰め寄ろうとしたが、横に長い商業施設の側面が吐き出した灰煙に強制中断させられた。
「細かい状況は把握しきれてねえが……厄介事を押し付けられたって事は理解した」
 ヴォルペ・リナーシタのセンサーカメラが灰煙の噴出箇所を拡大して捉える。煙を巻き込んで突出した回転衝角を見た矢先に表情筋が強張った。続いて出現した暗い紅月色のキャバリアが視界に入り込んだ。表情を固める嫌な予感が確信へと転じる。
「じゃ、手筈通りによろしく」
 錫華はそれだけ言い終えるとスヴァスティカ SR.2を港湾の方角へと滑走させた。
「手筈ってなんだよ!?」
 バーニアの光を背負うスヴァスティカ SR.2に声を投げ付けるとコンソールパネルが通知音を鳴らす。送信元はアミシアだった。内容は文章情報らしい。フィラの指先がファイルのアイコンを叩く。
「……いいぜ錫華、こういう|汚れ仕事《裏方》は俺ら向きだからな」
 中身が何事か把握すると目線をアークレイズ・ディナへと据えた。
「ヴォルペ・リナーシタ、いくぞ!」
 IFRを介して前進のイメージを機体に流し込む。イメージを受信したヴォルペ・リナーシタが各部に備わるバーニアノズルを点火した。目指すはアークレイズ・ディナ。敵は先んじて動きを見せたスヴァスティカ SR.2を追撃するつもりでいるらしい。
「行かせるかよ!」
 ヴォルペ・リナーシタが前進加速を掛けながら右腕部を突き出した。備わるラピッドファイア・ビームランチャーが立て続けに荷電粒子弾を撃ち放つ。それらは飛散粒子を跡に引きながら目標へ直進、防護障壁に着弾して水滴のように弾けた。
「こいつは骨が折れそうだな……」
 直撃にも関わらず防護障壁の整流が殆ど乱れない。ユーベルコードないしユーベルコードで強化した攻撃でなければ通らないのか? フィラは舌打ちを禁じ得なかったが、今回ばかりは直接の損傷を与える事が目的ではない。そして本来の目的はすぐに果たされる。
「そうこなくっちゃな!」
 アークレイズ・ディナのセンサーカメラがヴォルペ・リナーシタへと向けられた。フィラは容易く目論見通りと口元を吊り上げる。前方向へと傾いていた推力を一挙に後方へと転換する。急激な加速によって生じた重力負荷にフィラの身体が前へと引っ張られた。
「錫華ァ! こっちは釣ったぞ! 後は上手くやれよ!」
 返事を期待しない叫びと共にヴォルペ・リナーシタが幅広な路上をバックブーストした。ビームランチャーを連射しながらも機体を左右に切り返す。アークレイズ・ディナは怒気を孕ませたブースター噴射炎をX字に開いて猛追する。荷電粒子を二重のフィールドで跳ね除け直進した。
「いい狙いしてやがる……!」
 デュアルライフルで回避運動を誘発させ、切り返しの瞬間にプラズマキャノンが鋭く差し込んでくる。依頼の説明を受けた際には、敵は女子供が殆どと聞いていたが、これは明らかに最低でも三十代かそこらの|熟練操縦士《・・・・》の業だ。既知しているが牽制射は誘引以上の影響を及ぼさない。ビームランチャーは十分防御可能と断定したらしいアークレイズ・ディナが一層相対距離を縮める。
「有線式ミサイルって訳じゃなさそうだがな!」
 フィラは細めた眼差しの向こうに左右に広がって伸びるケーブルを見た。コア・ヴォルペがアンカークローをミサイルとして認識し、迎撃するよう搭乗者へと警報で促す。危険度が最も高いであろうテールアンカーに荷電粒子を叩き込んで追い払い、続いて鏃を接近した順に撃ち落とす。弾幕を抜けたアンカークローがヴォルペ・リナーシタの懐に潜り込んだ。
「こいつを落とすには威力不足だぜ!」
 ヴォルペ・リナーシタは難なくデュアルブレイカー・シールドで鏃を受けた。するとサブウィンドウ上にて幾つかの不具合を報せる赤いメッセージが点灯した。デュアルブレイカー・シールドに始まり、左腕部の制御に異常が生じたらしい。
「なんだよおい……!」
 加えて急激に減少し始めるエネルギーゲージにレプリカントの身ながら底冷えする感覚が沸き起こる。しかし立て直しの判断は迅速だった。ラピッドファイア・ビームランチャーの接射で左腕部の肘関節を撃ち砕いた。電脳魔術由来と思しき侵蝕毒が既に回っている以上、毒針を引き抜いただけではリスクを払拭できないと経験則で察知したからだ。
「こりゃあいよいよ出し惜しみしている場合じゃないな!」
 フィラが苦く表情を歪める。ヴォルペ・リナーシタは横方向へと急激な機動転換を行いアークレイズ・ディナに側面を擦り抜けさせた。一瞬だが背面を取った。
「壊すだけがキャバリアじゃないんだよ!」
 直接戦闘が己の役割ではない。錫華から委託された本懐を遂げるべくロックオンサイト内のアークレイズ・ディナに照準を重ね合わせる。フィラがトリガーキーを押し込むと、今の今まで温存していたバックユニットのミサイルが一斉に解き放たれた。それらは白いガスの尾を引いて出鱈目な機動を描き目標へと殺到する。既にクイックターンで方向転換を終えていたアークレイズ・ディナは誘導弾の群れと相対する羽目となった。幾つかは二連装突撃銃で迎撃したが、殆どがフィールドの表面に着弾。爆炎の華だけではなく電磁波と煙幕を撒き散らした。
「この辺で十分だろ……!」
 フィラは文字通り煙に巻かれたアークレイズ・ディナを見届ける間もなく、もうこれ以上は付き合いきれないとヴォルペ・リナーシタを湾内へと向けて驀進させた。この思い切りの良さが明暗を分ける。
 アークレイズ・ディナは、JDSが模倣した熟練操縦士のユーベルコードが及ぼす効力でカヴァレッタの撹乱状態から早々に脱する。されど既にヴォルペ・リナーシタは気配すら残さずに消え失せていた。斯くして猟兵となった狐は己の役割を過不足無く遂行し、引き際も仕損じなかった。

 ヴォルペ・リナーシタとアークレイズ・ディナの交戦域からやや離れた埠頭。そこで大鳳は現在も係留されている。アークレイズ・ディナが飛行甲板を掘削して出現した後に目覚めた動力炉も稼働を続けていた。その大鳳の真下、海中に蠢くキャバリアの輪郭があった。
「アミシア、いけそう?」
 電子機器が発する光が錫華の無味な表情を浮かび上がらせる。
『計算上では可能です。ただしバンカーナックルは使用不能となります』
 嫌味なまでに事実のみを伝えるアミシアに錫華は「そう」とだけ素っ気無く答えると、コンソールの盤上に指を滑らせた。サブウィンドウに表示された出力制限解除のメッセージが黄色に明滅を繰り返す。
「やるよ」
 サラスヴァティ・ユニットが噴き出すウォータージェットで滑らかに加速したスヴァスティカ SR.2が大鳳の船底に取り付く。探るようにしてバンカーナックルを添える。錫華は肺を酸素で満たすと操縦桿のトリガーキーを押し込む。息を吐き出すのと同時に指を離した。バンカーナックルの炸薬が作動して鉄拳を打ち出す。鈍い衝撃が海中の暗闇に拡大した。
「一発じゃ駄目だね」
 大きく窪んだ大鳳の船底を見た錫華が言葉を零す。再度鉄拳が全く同じ機体挙動で繰り出される。窪みは更に深く大きくなった。バンカーナックルの耐久度が危険域である事を報せる警報音を無視して三度目の正直を叩き込む。
『破壊成功。バンカーナックル損壊』
 窪みが大穴に変じたのとバンカーナックルが小爆発を起こしたのは同時だった。スヴァスティカ SR.2は生じた水流に身を任せて大鳳の艦内へと侵入を果たす。防眩フィルターが働いていたとは言え、艦内の照明は夜目に慣れた錫華の目を眩ませるのに十分だった。
「ウェルドックか……」
 スヴァスティカ SR.2に緩やかなスロープを登らせながら錫華は周囲を見渡す。無機質な壁と床と天井。予定通りの船体箇所から侵入出来た事実を確認すると、アミシアに「フィラさんに入り口伝えておいて」と命じる片手間でバンカーナックルのパージ操作を行う。
「大鳳が沈むまでの時間は?」
『ありません』
「そう……うん?」
 意図を掴み損ねて不意に問い返す。
『沈みません。排水機能が作動しています』
 錫華は数回浅く頷きそういう事ねと内心で相槌を打った。現在大鳳は稼働状態にあるため、ダメージコントロールに纏わる機能も動いているのだろう。それはそれとして浸水警報のアラートが煩いしパトランプも目障りだ。
「ブリッジまでの最短距離……は聞いても仕方ないか」
 本来はバンカーナックルで床をぶち抜いて艦橋を目指す算段だったのだが、そのバンカーナックルはスヴァスティカ SR.2の足元に横たわっている。忌々しくも装甲空母の肩書は伊達ではなかったらしい。だが代わりに目標を果たす為に必要な時間は十分に残されている。
『ルート出します』
 アミシアが頼むまでもなくインターフェースとしてガイドビーコンを表示してくれた。
「ったく酷い目に遭ったぜ……」
 うんざりした様子のフィラの声が聞こえた。錫華が横目を向けた先では噴出する海水を割って出現したヴォルペ・リナーシタがスロープを登っていた。
「左腕どうしたの?」
 錫華が何気なく聞くとフィラは「向こうに忘れてきた」と答える。
「フィラさん、それ2ヶ月ネタにするからね」
「なんでだよ!? というかネタになるのかよ!?」
 錫華は背中に掛けられた抗議に構わずスヴァスティカ SR.2を前進させる。フィラのヴォルペ・リナーシタも後に続く。
『ゲートロック解除』
 解き放った隔壁の先には広大な格納庫が広がっていた。飛行甲板を背負う天井を支える柱が並び立ち、使い込まれている筈の床は無数の擦り傷を負っても尚艶やかな鋼の光沢を帯びている。機械の神殿の如き荘厳な空間を二機が慎重に進みゆく。
「どうやら、こっちから出向く手間が省けたらしいな」
 フィラが発した低い声音と錫華の所感が完全に一致した。熱を感じさせない鋼鉄の空間に、踵が床を突く音が連続して反響する。
「ヴォルペ様、支倉様……我が大鳳へようこそ」
 相当に距離を開けた先で深く腰を折る女――見事なまでの濡羽色の長髪に豊満な双丘、日乃和海軍の将校服の出で立ちは見紛う筈が無い。
「葵結城大佐か……」
 疑りを多大に含んで呟いたフィラの視線の先で結城は緩慢に頭を上げた。どこか達成感を匂わせる薄ら笑み。琥珀色の瞳はヴォルペ・リナーシタとスヴァスティカ SR.2の両方を映している。
 どうするよ? そうフィラが訪ねようとした矢先に、錫華がスヴァスティカ SR.2を屈み込ませるとコクピットハッチを開放した。
「おいおい、肝が据わってるのは良いけどよ……!」
 格納庫の床に滑り落ちた錫華。結城に油断無くラピッドファイア・ビームランチャーを向けるヴォルペ・リナーシタ。人知れず大鳳のシステムの保護の突破を試みるアミシア。四者の視線と思惑が無言の空気の中で絡み合う。
「ご要件があればお伺い致しますが……」
「葵艦長の身柄を貰いに来た」
 蠱惑的な微笑みで尋ねる結城に、錫華は無味な面持ちを微塵に崩さず答える。
「そうですか。ご足労をお掛けしました。では、どうぞ」
 裏表の無い温和な声音で返す結城。フィラが怪訝に顔を顰めた。
「随分聞き分けがいいもんだな……」
 十中八九腹に何か抱えているのだろう。状況からして抱えていない道理が無い。となれば錫華がいよいよ危ないか――機体は最悪コア・ヴォルペかアミシアがなんとかするだろうと思い切りを付けたフィラがヴォルペ・リナーシタから飛び降り、錫華の隣へと並ぶ。
「ええ、はい。私の役割は、もう終わりましたので……」
「大鳳を動かしてアークレイズ・ディナにエネルギーを供給させる役割が?」
 鋭く問うた錫華に結城は春のように穏やかな笑みで応じた。
「戦死なんて祝福をあげるつもりはないよ。最後まで生きて、責任はとってもらわないとね」
 成し遂げた。もう何も悔いはない。そんな笑顔の裏に何を隠しているのかは知った所ではないが、思惑通りに動く事を許してやるつもりもない。もし自分のこめかみに銃口を押し当てるような素振りが微塵にでもあれば即座に阻止する。錫華の緑の瞳が静かで硬い感情を湛えた。
「ま、往生際が悪くないのはこっちとしちゃ助かるんだが……アンタの敗因は錫華を怒らせたことだな。わざわざ寝ているヤツを起こすなっての」
「不愉快にさせてしまったのであれば申し訳御座いません」
 結城は微笑を崩さず困り眉を作って浅く首を傾げた。諦観とも達観とも違うこの身振り口振りがどうにも鼻に付く。フィラは結城に向かって歩き出した錫華の背を見送りつつも、警戒という刃を結城の喉元から決して離さない。遂に錫華は手を伸ばせば触れ合えてしまう間合いまで接近した。
「暫く眠ってもらうよ」
「解りました。お帰りの際は機密区画をご利用ください。隔壁は開放しておきましたので。破孔を抜ければ飛行甲板に出られます」
 錫華の緑の瞳と結城の琥珀色の瞳が互いの姿を映し合う。そして錫華は重く鋭く一歩を踏み込み、トニトルス・ストロークを籠めた手刀を結城の腹部にめり込ませた。結城の身体が前方向へと傾く。
「ですが……お二人方が此処に来たという事は、まだ役割が残されているのかも知れませんね」
 錫華は消え入りそうなほど儚い囁きを確かに聞いた。左肩に人体が重く伸し掛かる。
「フィラさん、お願い。このにやけ顔見てたら殴っちゃいそうだし」
「へいへいっと……ってか放り投げるな!」
 錫華が不意打ちで繰り出した人体投擲をフィラが間一髪で受け止める。
「ったく乱暴なお姫様のエスコートは大変だぜ……」
 フィラは結城の身を肩で担ぎ上げると、錫華に倣って自機が待機している方へと踵を向ける。やがてスヴァスティカ SR.2とヴォルペ・リナーシタが去った後、荘厳な格納庫内には湧き出る海水の轟きと警報音ばかりがいつまでも響いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天城原・陽
【特務一課】

遂に現れた本命
戦友を取り込み破滅へと導かんとするそれに獰猛な笑みを浮かべ
「やっと現れたわね。私の『敵』…世界の歪み」
こうでなくては
明確な悪意はブッ潰し甲斐がある

「マダラ!キリジ!」
戦友の名を呼ぶ。それだけですべき事は理解るだろう
最大戦速、肉薄、零距離での粒子解放。プレッシャーと同時にパイロットと無理やりリンク

『はぁい那琴』
遊ぶ約束の待ち合わせのように語り掛け、一呼吸
『そんなのに乗って…コードが使えるようになったからって…あんたが…』
私達が強いのは力が所以じゃない
家族も、仲間も、何もかも抱えて歯を食いしばって立ち向かう意志
それこそが支柱だ
それを持っていただろうにマシンに歪められてしまった。故に
『私に勝てるわけないでしょうが!!!』

アンカーが刺さろうともこちとら都市が誇る究極の生体兵器だ
生命力と精神力の格の違いを思い知らせてやる
『ッ…黙ってろ!!』
アークレイズへの怒号と共に蹴りをブチかまし全兵装を叩き込んで落下させんとす
「月並みだけど言わせて貰うわ。今助けて上げるわよ、東雲那琴」


斑星・夜
【特務一課】
キャバリア:灰風号搭乗

人喰いのとは違うけど、それでも人の心を喰うって意味では一緒だね
――倒し甲斐があるよ。とってもさ

「オーケー。ギバちゃん、分かってる!キリジちゃん、思いっきり行こうね!」
戦闘開始と共にねむいのちゃんに頼んで相手の攻撃データを情報収集
それと一緒に過去の那琴ちゃんの戦闘時の行動パターンのデータと照らし合わせ、二人へ共有

あの防御障壁、ちょっと邪魔かな
『EPブースターユニット・リアンノン』を起動、加速し近づき、その勢いのまま電流を迸らせた『RXブリッツハンマー・ダグザ』で攻撃して叩き割るよっ
割れたら距離を取って相手の攻撃に備えるよ

『AEP可変式シールド・アリアンロッド』を展開し『ハイルング・ブリーゼ』でギバちゃんやキリジちゃんを守るよ!
俺の後ろにはどんな攻撃だって通さない

「白羽井の子達も、すごく強くなったよ。君も強くなったねぇ!」
ユーベルコードがなくたって、あの子達はずいぶん強くなったよ。次は背中を預けて戦える。君もそうだよね。
だから「やっちゃえ、ギバちゃん!」


メルメッテ・アインクラング
※真の姿使用
胸を貫くような悲しい音……
けれど、躊躇いはありません。止めさせて頂きます
『児戯は終わりだ』
御声を合図に、主様の音声の外部出力をOFF
同時に【リミッター解除】で主様の真の姿を解放。闇の中でコックピット内部にも実体のない紅炎の幻が舞い、私の体にも燃え移る様に映ります
ええ、それが何だと言うのでしょう?怖くありません。黒鋼の主様と同じく前を見据えて「参ります!」

禍々しい杭。敵攻撃を【見切り】回避、或いは武装で【受け流し】ますが、このままでは埒が明きません
『私がお前に合わせよう。やれ』
「感謝致します、ラウシュターゼ様」
指定UCを発動。主様とのユニゾンのイメージに集中致します

鼓動が鳴る中、紅の翼を煌めく空色の光で包み込み、1対の蝶翅に替えましょう
主様がお持ちの御力を【限界突破】で引き上げ、敵の武器を砕かんばかりに剣で【なぎ払い】一閃です!
胸部は避け、命を奪わず無力化に留めます

『骸の海に溺れたければ勝手にしろ』
『決して変われぬまま、いつまでも空を見上げて、生命の羽ばたきを羨んでいるのだな』


キリジ・グッドウィン
【特務一課】
ケルシーで。

やっぱりか『お嬢様』。っつーか蟲毒の餌、足りてねぇんじゃねえか?想定の何割なんだか
それに猟兵と同等の力を得ただァ?じゃあ"好きに戦って理不尽に死ぬ"から"好きに戦って好きに死ぬ"にランクアップ?したって事だ
誰かの企みに流されるだけじゃなくて自分でやったこと全ておっかぶる羽目になるぜ。
はいはいハッピーバースデー(挑発は基本)って事で……早速戦りあおうじゃねェか

情緒とか想い入れだとかはマダラとギバに任せるわ


眠いヤツのデータを基に動きを読み推力移動による急接近、防護障壁をぶち壊しにいく
マダラと並び拳を当て続け【RX-Aブルー・ピアッサー】による貫通攻撃。
「ハッ、実体剣ぶん回してた時よりはマシってとこだな」

【RX-Aランブルビースト】でのグラップルでドリルソードランスを受け止め衝撃を殺すか軌道を反らす事を試みる(リミッター解除と激痛耐性で脳筋態勢)
「後は…決着着けとけギバ!」



●灰に灼け落ちるまで
 赤い月が見下ろす香龍は無数の光彩を放つ。多くの銃弾や荷電粒子に見舞われても、屹立する高層ビル群の煌めきが衰える気配はない。
 摩天楼の密集地帯を赤雷号が翔ぶ。高機動推進ユニットのエンジンが噴射炎の軌跡を引いた。
「やっと現れたわね。私の敵……世界の歪み」
 激昂か嘲笑か、天城原が歪めた口元に八重歯が覗く。刃の如き双眸がロックオンサイトの中央を睨め付けた。腹の内に戦友を飲み込んだ悪意――アークレイズ・ディナが赤雷号を目掛けて猛然と突進する。併せて走った二連装突撃銃と荷電粒子砲の火線。赤雷号は直進していた軌道を大きく横へと逸らして火線から脱する。ギガントアサルトが圧砕の意思を乗せて電磁加速弾体を立て続けに連射した。青い稲妻の残光がアークレイズ・ディナを覆う赤黒い力場に阻まれて跳弾した。
「そうこないとね……!」
 でなければ潰し甲斐が無い。天城原は機体を横滑りさせながらトリガーキーを押し込み続ける。明確な悪意に向けられたギガントアサルトの銃口が明滅を繰り返す。アークレイズ・ディナはフィールドの強度を頼りに赤雷号を猛追する。
「マダラ! キリジ!」
 天城原が思惟を籠めて戦友の名を叫ぶ。
「オーケーギバちゃん、分かってる!」
 斑星が応えた。ビルの狭間に敷かれた首都高速道路を灰風号が滑走する。
「という訳でキリジちゃん、思いっきり行こうね!」
「ま、いつも通りってこったな」
 キリジの応答はやはり常日頃と変わらず乾いており素っ気無い。だが灰風号と並走するケルシーの方は気迫を示すかの如くロケットブースターを派手に焚いている。
「だから倒し甲斐があるよ。とってもさ」
 潜むように発せられた斑星の声音。表情こそいつもの穏和で力の抜けた微笑だが、金色の瞳には冷徹なまでに硬い思惟が灯っていた。喰らう対象が肉から魂に変わっただけで、あれもまた人を喰うキャバリアなのだろう。滅ぼす以外の選択肢が存在しない敵。だからいつも通りに倒し甲斐がある。
「ねむいのちゃん!」
『これまでの戦闘データ送ります! あのフィールドはサイコ・フィールドとEMフィールドの二層構造です! 気を付けてください!』
 灰風号の支援AIが赤雷号とケルシーに記録情報を送り付ける。内容は那琴の戦闘記録とイェーガー・デストロイヤー・システムが発現させたユーベルコード由来と思しき特異な挙動。この間も頭上では赤雷号とアークレイズ・ディナがビル街を飛び回り銃撃戦を展開している。二十二式複合狙撃砲の銃口から加粒子が放たれた。標的となったアークレイズ・ディナは拍子をずらした瞬間加速で躱す。天城原の戦術思考能力はその回避挙動さえも読み込んでいた。
「見えてんのよ!」
 ねむいのちゃんがもたらした情報通りのタイミングで実体弾を放つ。アークレイズ・ディナの回避軌道上に置かれた弾体は防護障壁の表面を滑った。反動にアークレイズ・ディナの機体が大きく減速して傾いた。アークレイズ・ディナが乱射した赤黒い光線が赤雷号を僅かに掠める。
「バリアをかち割らないと始まらないわね……!」
 振動するコクピットの中で天城原は苦く舌を打つ。
「邪魔だよねぇ」
 何を考えているのかは推して知るべしと言わんばかりに灰風号がブリッツハンマー・ダグザを肩に担いだ。
「私が引き寄せる! チャンスは一度だけ……しくじるんじゃないわよ!」
 アークレイズ・ディナに背を向けた赤雷号が高度を落として灰風号の方向へと加速する。
「オーケー!」
 スラスターの逆噴射で停止した灰風号が半月状の可変シールドを正面に構えた。
「気軽に言ってくれるぜ」
 同じく急制動を掛けたケルシーが灰風号の背後に張り付く。直後に二機の頭上を赤雷号が駆け抜けた。後を追うアークレイズ・ディナと灰風号が真正面から相対する。
『斑星様ぁッ! 退いてくださいましッ!』
 悲鳴にも聞こえる怒声と共に突撃するアークレイズ・ディナ。眼前の灰風号を排除せんと二連装突撃銃とテールアンカーからプラズマキャノンの連射を叩き込む。
「俺の後ろにはどんな攻撃だって通さない。俺と灰風号がいるからね」
 アスファルトの路面に縁を着けて構えたアリアンロッドの片側がエネルギーフィールドを展開し、雪崩れ込む実体弾と荷電粒子を受け止めた。
「重いなぁ、キリジちゃんのユーベルコードかな?」
 有無を言わせない苛烈な速射はイリテイテッド・ショットを模倣したのだろう。コクピットにまで響く衝撃に斑星は不敵とも感慨深い微笑を滲ませる。
「でもそれだけじゃないね」
『何をッ!?』
「強くなったねぇ」
『ユーベルコードがあるからなのですわよ! 斑星様と同じ力が!』
「いいや」
 斑星が緩く首を振ると言葉に詰まった那琴の息遣いが聞こえた。
「ユーベルコードがなくたって、ずいぶん強くなったよ。あの子達もね」
『そのような事……!』
「次は背中を預けて戦える」
『けれどわたくしは……! あなた方と同じ力が無かったからわたくしはッ!』
 アークレイズ・ディナの背面で紅の光が強みを増した。加速を得て更に重さを増すイリテイテッド・ショット。灰風号が形成するハイルング・ブリーゼの守護は唯の一発も後方に逃さず防ぎ切る。双方の相対距離が急激に縮まった。
『何も出来ないままでぇッ!』
 咆哮を乗せて突き出された回転衝角。灰風号は敢えて動かず受け止めた。切先がエネルギー・フィールドを抉り抜き、出力元となっているアリアンロッドの片割れを捻り砕く。灰風号が機体の姿勢を横に逸らす。
「いまだよキリジちゃん!」
「見えてなけりゃあ、躱せるもんも躱せねぇよなァ?」
 灰風号の背後から黒鉄の獣が跳躍した。
『囮!?』
「遅せぇッ!」
 ケルシーがランブルビーストの剛爪を剥いてアークレイズ・ディナに飛び掛かる。回避が間に合わない必中の間合いだった。アンカークローの迎撃を爪の横薙ぎで一蹴し防護障壁へと鉄拳を叩き付ける。
「蟲毒の餌、足りてねェんじゃねえかぁッ!?」
 間髪入れずに撃ち込んだ電磁杭がフィールドに跳ね返されて赤黒い明滅を放つ。突き立てることこそ叶わなかったものの、打突された箇所の周辺が水面の様に波打つ。キリジはサーヴィカルストレイナー越しに確かな手応えを感じていた。
「目論見の何割だったんだかな……ギバァ!」
 ケルシーは返ってきた反動に従いアークレイズ・ディナから飛び退く。
「上出来!」
 既に旋回を完了していた赤雷号が誘導弾を斉射する。ケルシーの離脱に間髪入れず殺到したミサイルが近接信管を作動。拡散した小型弾頭が連鎖爆発を起こしてアークレイズ・ディナを緋色の華で埋め尽くした。
「マダラ!」
「ねむいのちゃん! リアンノン起動!」
『灰風号、フルパワーです!』
 咲いた爆炎を裂いて灰風号が飛び込んだ。限界まで振りかぶったブリッツハンマー・ダグザに青白い電流が纏わり付く。全スラスターの炸裂と同時に振り下ろされた一撃が防護障壁を打ち据えた。赤黒い閃光と青白い閃光が暴れ狂って明滅する。
『フィールドが!?』
 そして二層の防護障壁は泡沫の如く消え失せた。
『右腕部アクチュエーター破損!』
 灰風号の右腕が力無くぶら下がる。大役を果たした戦鎚がマニピュレーターから滑り落ちた。
「キリジちゃん! ギバちゃん!」
 飛び退いて間合いを稼いだ灰風号。残された左腕でペネトレーターを撃ち込む。
「フィールドを再展開させるな! 畳み掛けるわよ!」
 アークレイズ・ディナを中心点として旋回機動を行う赤雷号。二十二式複合狙撃砲の二つの砲門が交互にマズルフラッシュを吐き出す。
「やっとまともに戦り合えるじゃねェか!」
 ランブルビーストの紫電の残光を引きながらケルシーが獣の如く飛び掛かる。
『この程度ではぁッ!』
 アークレイズは振り回した回転衝角でケルシーを払い除け、灰風号と赤雷号の射撃の直撃を辛うじて躱し、デュアルライフルとテールアンカーで応射を加えた。砕けた装甲の欠片が火花と共に散り踊る。
「あとひと押し足りねェか……!」
 キリジが歯噛みした。失せたフィールドが陽炎のように揺らめき始めた。循環を整えようとしてるらしい。あと一手あれば――射撃を重ねる斑星と天城原も、胸中で同じ呟きを零していたのだろう。その矢先だった。
『児戯は終わりだ』
 傲岸不遜極まりない声音が空間に響いたのは。ケルシーを穿たんと繰り出されたブレイクドライバーが、視界の外から伸びた大百足に横腹を打たれて方向を見失う。
「なんだァ!?」
「あの機体……!」
「もしかして?」
 キリジと天城原と斑星の視線を辿った先には、伸ばした大百足こと従奏剣ナーハを携える白磁の騎士――ラウシュターゼの姿があった。空中に留まるかの機体の四眼が怪しげに脈動する。その視線はアークレイズ・ディナのセンサーカメラと交差していた。
「悲しい音です……」
 ラウシュターゼの内に秘められたメルメッテは沈痛な面持ちで胸に拳を埋める。その囁くような儚い声音が外界に届く事は無い。彼女が主と慕う白磁の騎士の声もまた然り。
『ならばどうする?』
 意識の中で尋ねる声音はまるで答えを初めから既知しているかのように冷ややかだ。
「躊躇いはありません。止めさせて頂きます」
 倒すべき敵を正中に見定めた双眸に決意が灯る。拳は操縦桿をきつく握っていた。
『では嘲ってやるとしよう……メルメッテよ、ラウシュターゼ・アインクラングの名に於いて命じる。奴に真の力を視せてやれ』
 メルメッテは呼吸を止めて目を丸くした。是非を確認しようと口を開きかけたが、寸前の所で飲み込んだ。何を迷うものがあろうか。何を恐れるものがあろうか。我が主が命じてくださった使命を果たす事に。あの時のようにまた変わってしまうかも知れない。だとしても。
『怖気づいたか?』
 嘲笑気味に問うラウシュターゼにメルメッテは首を横に振る。
「変わってみせます。変えてみせます……」
 我が主とならば。
『では証明してみせよ。今のお前ならば――』
 それも成し得られる筈だ。一人と一機の鼓動が重奏した。
「心を重ねて、終わりを今、始まりへと!」
 ラウシュターゼが背負う翼が拡大して機体全体を覆い隠す。そして開かれるのと同時に無数の紅炎の蝶が湧き立つようにして一斉に飛び立つ。
「化けやがった……」
 キリジが無意識に呟く。白磁の騎士の姿はもうそこには存在しない。変わりに黒鉄の騎士が焔の如く噴き出す蝶翅を羽ばたかせていた。翼が一度空気を打つ度に生じる燐光が紅炎の蝶へと変じる。その蝶は周囲のみならず心臓の元にさえ浸透していた。メルメッテは踊る蝶達に視線を送る。蝶が自身の身に止まると炎へと変じた。幻である筈なのに、真の炎の如き熱を感じる。これはきっと自身と主から生まれた熱。
「参ります!」
 メルメッテの裂帛を受けてラウシュターゼが蝶翅を押し広げた。従奏剣ナーハが鞭剣ベリーベンへと転じて刃を走らせる。アークレイズ・ディナはテールアンカーから生じさせた荷電粒子の刃を鞭状にして打ち返す。灰風号のブリッツ・シュラークに酷似していた。
「ギバァ! こりゃどうすんだよ!」
 ケルシーがラウシュターゼの鞭が引き戻されるのに合わせて雷爪の一撃離脱を見舞う。
「攻撃続行!」
 赤雷号がケルシーの離脱に合わせて加粒子砲を放つ。
「そうこなくっちゃね!」
 灰風号が間隙を縫って鏃を食い込ませんとするアンカークローを大口径拳銃で牽制する。残されたアリアンロッドの片割れは再度エネルギー・フィールドを展開していた。機体の後方に生じた力場へケルシーが離脱の度に降着し、ブレイクドライバーとかち合って損傷したランブルビーストを少しでも癒やして再度跳躍する。
『まだ……倒れる訳には!』
 アークレイズ・ディナが赤雷号から発射された狙撃銃を避け損ない姿勢を崩した。そこに突き込まれたベリーベンをブリッツ・シュラークを模したプラズマウィップで打ち払う。飛び込んだケルシーをデュアルライフルのイリテイテッド・ショットもどきで押し返す。
『ほう……?』
 メルメッテの内でラウシュターゼが薄い感嘆にも似た声音を響かせた。直後に重く熱い鼓動が強く脈打つ。アークレイズ・ディナの推進機関から赤黒い炎が炸裂し、ブレイクドライバーが螺旋状の灼熱を纏う。
「殉心戯劇……!」
 メルメッテは目元を歪ませる。アンサーヒューマンである天城原、斑星、メルメッテは直ぐに察しが付いたであろう。機体から放たれる意思は最早搭乗者のものではない。信じているものを更に信じる力の大きさ――オブリビオンマシンが信ずる滅びを、オブリビオンマシン自身が力に転換しているのだと。そして機体の奥で濡れた叫びを放つ少女を幻視した。
『わたくしにだってぇぇぇッ!』
 それは斉奏ノ翅を広げるラウシュターゼに対する羨望の顕在化だったのかも知れない。黒鉄の騎士がそうしたように推進噴射の光を翼に転じて羽ばたくと、紅の蝶が踊り散った。執心の炎を纏った回転衝角を正面に向けて突進する。
「猟兵と同等の力を得たってか?」
 突撃は突如真横から衝突した黒鉄の獣によって阻止された。
「キリジ様!?」
 どの通信帯域にも響かなかった咄嗟の声は果たして誰のものだったのだろうか。
「じゃあ"好きに戦って理不尽に死ぬ"から"好きに戦って好きに死ぬ"にランクアップ? したって事だ」
『邪魔を――!』
 唸りを上げて回転する衝角が水平に振り切られる。
「となるとだな、誰かの企みに流されるだけじゃなくて、自分でやったこと全ておっかぶる羽目になるぜ?」
 ケルシーは避けるでもなく脇腹でそれを受け止めた。更にランブルビーストで抱え込むようにして押し留め、Scratch&Flechetteを連打する。キリジに流し込まれる痛覚情報の通りに機体の装甲が抉り取られてゆく。
「そういやまだ言ってなかったな? ハッピーバースデー」
 キリジが嫌味たっぷりに嗤う表情を見せつけると、ケルシーの頭部がアークレイズ・ディナの頭部に迫った。赤いセンサーカメラが煮え滾る怒りを込めてケルシーを睨め付ける。アンカークローがその背面に牙を剥いた。
「通さないってば」
 エネルギー・フィールドを展開したアリアンロッドを真正面に構えた灰風号が猪突した。寸前でケルシーはブレイクドライバーを手放し、アークレイズ・ディナはアンカークローを突き立てる寸前で跳ね飛ばされる。
『骸の海に溺れたければ勝手に沈んでいればいい』
 間髪入れずに蝶翅を炸裂させたラウシュターゼが驀進する。従奏剣ナーハに纏う紅炎が刀身を何倍にも伸長させていた。示し合わせたものではないが、先にケルシーが衝角の剣筋を逸した瞬間からサイコ・フィールドを滾らせていたのだ。
『決して変われぬまま、いつまでも空を見上げて、生命の羽ばたきを羨んでいるのだな』
 ラウシュターゼの力とメルメッテの力が重奏し、ハイパーモードに転じた従奏剣ナーハが袈裟斬りに振り抜かれる。殉心戯劇を模した灼熱を纏うブレイクドライバーと切り結ぶ。のた打ち回る炎の稲妻が周囲のビルの壁面を焼き砕いた。
『イェェェガァァァ! お前たちがッ! 貴様らがァッ!』
 何者かの怨嗟と共に紅蓮が爆ぜた。アークレイズ・ディナのマニピュレーターから離れたブレイクドライバーが宙で回転する。
「決着着けとけギバァ!」
「やっちゃえ、ギバちゃん!」
 キリジと斑星の声が重なる。きっとそこにはメルメッテの思惟も相乗していたのだろう。
「はぁい那琴!」
 体勢を崩したアークレイズ・ディナに赤雷号が文字通りの特攻を仕掛けた。推進ユニットが限界を越えた噴射炎を吐き出す。天城原は鳴り響く負荷限界警報音に構わずフットペダルを踏み込む。赤雷号はアークレイズ・ディナ共々ビルの側面にめり込んだ。
「そんなのに乗って……ユーベルコードが使えるようになったからって……あんたが……」
 二機の直上に二重の光輪が顕現した。互いの機体がそれぞれに異なる色彩の粒子を放射し始める。アニムスフィアバーストによって重力を得た思惟が真っ向からぶつかり合う。赤雷号とアークレイズ・ディナの搭乗者が発する思惟は奇しくも似通っていた。家族も、仲間も、何もかも抱えて歯を食いしばって立ち向かう意志。双方が支柱とするそれこそが力の根源。那琴は天城原と同じ支柱を持っていたが故に歪に捻じ曲げられてしまった。
「私に勝てるわけないでしょうがッ!」
『勝たなければならないのですわよ! わたくしはッ!』
 アークレイズ・ディナの両肩部から伸びるアンカークローが次々に赤雷号に突き刺さる。電脳魔術による機能汚染と生命力の簒奪に、赤雷号のA²デバイスが呻きを上げる。気合いの抵抗の呻きだった。機体が直接繋がれた事で天城原の中に相対する者の意識が流れ込んできた。羨望と執心、後悔が産み出した赤黒い淀みの中で身を縮こませる少女――アニムスフィアバーストは|味方と使用者の意識を繋ぐ《・・・・・・・・・・・・》。
「そういうことね……!」
 人知れず何かを悟った天城原が息を抜いた。
『触るなァッ! これは、私だけの憎しみ――!』
「黙れェェェーッ!」
 怒号と共に天城原はコンソールパネルに額を叩き付けた。赤雷号が全く同じ挙動でアークレイズ・ディナの頭部に頭突きをぶちかました。
「待ってなさい、今助けてあげるわよ……東雲那琴」
 天城原は額から滴る血の味を噛み締め、自身が放つ思惟を更に深く強く押し込む。二つの光輪が一つに重なった。膨張した粒子が光球となって膝を突くケルシーとそれを庇う灰風号をも包み込んだ。
「この光が……あなたの鼓動……」
 双眸を細めて囁くメルメッテ。感情を伺わせないラウシュターゼの四眼は、ただ黙して見届けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ガイ・レックウ
【POW】で判定
『こんの・・・・大馬鹿野郎があ!!!!間違えた力でつかむのはこの国と大事な友と世界の滅びとなぜわからねぇ!!!』
コスモスターインパルス全体に【オーラ防御】を纏い、【リミッター解除】。【限界突破】した【操縦】と【戦闘知識】による【見切り】と【武器受け】と【フェイント】で被害を最小限にしつつ、電磁機関砲での【制圧射撃】とブレードでの【鎧砕き】と【鎧無視攻撃】の【二回攻撃】を叩き込んでやるぜ!!
『いくら解析して再現しようとしても俺たちの魂まで超えられねぇ!!てめぇを救うために命を懸ける!!それが猟兵だあああああ!!』
機動戦艦『天龍・改』の支援砲撃を叩き込みながら、機体の損傷?知るかってレベルでユーベルコード【ドラゴニック・オーバーエンド】を発動しぶん殴って、そして助けるために命を懸けるぜ!!


シル・ウィンディア
那琴さん、マシンに囚われちゃったか…。
でも、まだ間に合うっ!間に合わなくても、間に合わせて見せるからっ!!

推力移動で推力全開の空中機動。
いつもと違う動きをするかな?
ツインキャノンを撃って、回避したところを単射のライフルモードで撃ち抜くよ。
まぁ、オブリビオンマシンに乗っているなら避けられそうだけど。
避けられても当たっても、そのまま近~中距離間合いで打ち合いだね。
ホーミングビーム、ビット、連射ランチャー、ツインキャノン、バルカン…
持っている火器を全部使って撃っていくよ。
ビットの反射機能も使ってオールレンジ攻撃っ!!

敵UCはビームセイバーで弾いて防御
ただ、被弾したらそのまま吶喊するよっ!
エネルギーを吸いたいのなら、吸えばいいよ。
ただし、その代償は大きいと思ってっ!!

ビームセイバー、バルカンで攻撃しつつ、推力移動を利用し、機体を回転させた反動の蹴りで攻撃するよ。

当たればこっちのもの…
さぁ、リーゼとわたしの全部を持っていけーっ!

コクピットには当てないように注意だね。


ノエル・カンナビス
もはや東雲那琴少尉その人には用もないのですが。
逃がしてもいけませんし、お付き合いしましょうか。

覚悟に免じて、相応のコストも払いましょう。
先制攻撃/指定UC。

パイロットなんか平時のままで良いのですけれども。
折角ですから戦時モードに切り替えておきます。
互いの攻撃を捻じ曲げれば、命中精度も回避力も上がります。
機体そのものも動かせますし、大概の攻撃は止めることも可。

あとはいつも通りの索敵/操縦/見切りからの高速戦闘で、
オーラ防御/吹き飛ばし(と称するガーディアン装甲の迎撃機能)付き、
本体が近付くならブレイドで武器受け/カウンターです。

フォックストロットは範囲攻撃で無力化するってご存じですかね。
しかも予測が必要なので、フェイント/範囲攻撃のキャノンで
空間を埋めたら仕舞いです。
万事そんなものです。UCも戦乱も未来を定めたりはしませんよ。

一人々々が一歩々々を進めていったその先に、全ては成るのです。
偉大なる大鴉セルダン、貴方もイレギュラーには勝てません。
同じ鴉のよしみで、弔いの鐘を鳴らしてあげましょう。


ヴィリー・フランツ
心情:…ひよっこが抜かすじゃねぇか、たがなぁ…二十歳にもなってないガキが高級機に乗った程度でイキがってんじゃねぇぞ!!

手段:スラスター全開でヘヴィタイフーンを急行させる、反抗期のガキを教育するのも大人の仕事だ。

今の奴は慣熟訓練もせず、機体に振り回されてる状態だ。
遠距離は装甲で受けるが、近距離攻撃はマチェーテによる受け流しやスラスターによる回避機動を試みる。

射程に入り次第温存していたRS-Sピラニアミサイルを発射。

誘導弾から逃れようと右往左往してるうちに更に接近を試みる、一六式自動騎兵歩槍の射程に入ったら射撃を開始。

俺が何で他の連中と違って地味なユーベルコードしか使わんのか知ってるか?
手の内を読まれ難いからだよ!
30mmに【指向性EMP発振弾頭】を付与、見た目はナイトゴーストの特殊弾に似てるがコイツはもっと強力だ、これで動きを止める。
後は戦闘不能にして引き摺り出せば良い、今のお前は反乱勢力の次席幕僚みたいなもんでな、大佐や伊尾奈がくたばった場合、お前が部下の為に腹を切らねぇとイカンからな。


露木・鬼燈
よくない…よくないなぁ
なーんかイヤな雰囲気があるよねー
僕らに彼女たちを殺めるように仕向けている
そーゆー意図と流れを感じるんだよねー
生かして捕らえるのが難しい相手だから撃墜も已む無しって状況なんだけどね
だからといってこの流れに乗るのはヤバい気がする
何より気分が悪いからねっ!
正直大変だけどやってみるですよ
まぁ、UCを行使しているのはパイロットではなく機体側みたいだしね
機体をどーにかすればいいだけ
そう考えるといける気がしてきたですよ!
大鳳からエネルギーを態々吸収してきたってところも引っかかるしね
そのエネルギーを僕がさらに奪ってやればいいってね
徹甲榴弾で動きを阻害したところに呪法<朧火>を当てればおーけー
オブリビオンマシンが相手なら通常攻撃では致命とはならない
逆に言えば気にせず撃ち込んでも殺す心配はないってことだからね
本気でいかせてもらうっぽい!



●あなたが綻び砕け散るまで
 那琴の腰脇に鎖で括られた丁の字形の金属構造体が呼吸に合わせて赤黒い発光の脈動を繰り返す。この金属構造体を譲与した猟兵が悪意を我が身に取り込もうとしたように、アークレイズ・ディナはこれを触媒として腹の内に還した胎児の魂を啜り、我が力へと転嫁していた。だが少女が幾多の猟兵と傷付け合うにつれ、やがて魂も尽き果てつつあった。追い詰められたアークレイズ・ディナの激昂が那琴の執心を燃え立たせる。まるで最期の灯火のように。

 香龍中央区画。複雑に絡み合う首都高速道路と高層ビル群の狭間をキャバリア達が疾走り翔ぶ。それぞれのセンサーユニットが長い光の尾を引いていた。
「こんのッ……! 大馬鹿野郎がァァァーッ!」
 ガイの怒声と共にコスモ・スターインパルスが特式機甲斬艦刀・烈火を正中に振り下ろす。波濤のように拡げたドラゴン・ウイングが生み出す推進力を伴った剣戟がアークレイズ・ディナのブレイクドライバーと激突する。
「間違えた力で掴むのは国と仲間と世界の滅びだろうがッ! なぜわからねぇッ!」
『この力が間違っている道理などありませんのよ!』
 高速回転する衝角が烈火を打ち返す。相互に展開するフィールドが反発してスパークの明滅を繰り返した。
『ガイ様! あなたと同じ力なのですから!』
 ブレイクドライバーが纏う赤黒い焔。炎龍一閃の気配を受けたガイが表情を歪める。
「そいつが間違いだって言ってんだろうがッ!」
 重い横薙ぎを烈火で受け止めたが、殺し切れない衝撃にコスモ・スターインパルスが後方へと弾かれた。追撃の突き込みが迫る。だがアークレイズ・ディナは攻撃挙動を中断して横方向へと飛び退いた。一瞬の間も置かない内に光線と実弾の火線が多方向より伸びる。
「ひよっこが抜かすじゃねぇか……いいだろう、反抗期のガキを教育するのも大人の仕事だ」
 ヘヴィタイフーンMk.Ⅹが足裏より火花を散らして路面を滑走する。ヴィリーが睨むレティクルの向こうには、拍子を狂わせた回避運動を繰り返すアークレイズ・ディナがいた。
「よくない……よくないなぁ、こういうのは」
 鬼燈のアポイタカラが路面から跳躍しビルの屋上へと降着する。
「よくない?」
 シルは首を傾げる。ビルの隙間を蛇行するレゼール・ブルー・リーゼがヴォレ・ブラースクより魔力粒子の光線を伸ばす。
「なーんかイヤな雰囲気があるよねーって」
 鬼燈は曇った声音を返した。
「那琴さん、マシンに囚われちゃってるもんね……」
 シルは僅かに面持ちを俯ける。連射モードに切り替えたヴォレ・ブラースクのフラッシュハイダーが光弾を続けて撃ち出す。
「僕らに彼女たちを殺めるように仕向けている……そーゆー意図と流れを感じるんだよねー」
「無いわけじゃねえが……!」
 援護射撃を受けたガイは苦渋の面持ちで機体の姿勢を立て直した。
「生け捕りも難しい状況なんだけど、だからといってこの流れに乗るのはヤバい気がする」
 パルスマシンガンとライフルを交互に撃つアポイタカラの側近を、赤黒い荷電粒子の光線が駆け抜けた。アークレイズ・ディナの尻尾から放たれたものだ。
「そうでなくともあいつは反乱勢力の次席幕僚みたいなもんでな、大佐や尼崎中尉がくたばった場合、部下の為に腹を切る役になってもらわにゃならん」
 業務に徹するヴィリーの眼差しはゴーグル型HMDに覆い隠されて伺い知る事は叶わない。だがヘヴィタイフーンMk.Ⅹがセミオートで発射する一六式自動騎兵歩槍は、照準の鋭さを以て搭乗者の意思を反映させていた。
「もう既に手遅れかも知れないし、正直大変だけどやってみるですよ」
 とは言うものの鬼燈の口振りに諦観の色は薄い。
「まだ間に合うっ! 間に合わなくても、間に合わせて見せるからっ!」
 シルがフットペダルを踏み込んだ。レゼール・ブルー・リーゼが感情を振り払うかの如く加速する。
「私としては東雲少尉その人には特段用もないのですが……」
 前者達の後を追うエイストラ。リンケージベッドに収まるノエルの緑の瞳が横にずれる。
「まあ、周囲に合わせましょうか。逃してもいけませんし」
 エイストラが背負う砲が荷電粒子の光軸を迸らせた。呼応するようにしてアポイタカラがマシンガンとライフルの四門同時斉射を見舞う。コスモ・スターインパルスも電磁機関砲で応射に加わった。
「おうおう、とんでもねぇ動きしやがるぜ」
 ヴィリーがトリガーキーを連打しながら眉間に皺を寄せた。コスモ・スターインパルス、レゼール・ブルー・リーゼ、アポイタカラ、エイストラ、ヘヴィタイフーンMk.Ⅹが僅かにタイミングをずらし合って放った制圧射撃。苛烈な弾幕に押し寄せられたアークレイズ・ディナは、パルスマシンガンとライフルの銃弾をフィールドで跳ね飛ばし、呼吸をずらした社交ダンスを踊るかのように荷電粒子砲を避け、ビルの側面を蹴って魔猿も斯くやといった跳躍機動で魔力粒子砲をやり過ごす。
「フォックストロットは範囲攻撃で無力化出来ますが……」
 エイストラが左右のマニピュレーターで保持するプラズマライフルを交互に撃ち込む。アークレイズ・ディナは機体を翻して一射目を躱すと二射目を全身で受けた。槍の先端のように研ぎ澄まされた荷電粒子が球体状の赤黒い障壁に阻まれて拡散し霧散する。
「このバリアがあるから……!」
 レゼール・ブルー・リーゼもツインキャノンで火線を重ねるが結果は同じだった。
「ユーベルコード連打の一点突破、これしか無ぇだろうな!」
 コスモ・スターインパルスの電磁機関砲が青白い軌跡を迸らせる。
「これ以上ユーベルコードを勉強されるといよいよ手が付けられん。チャンスは一回こっきりで考えた方がいい」
 高速道路上を驀進するヘヴィタイフーンMk.Ⅹのコクピット内でヴィリーは視線を横にずらした。サブウィンドウに表示された選択中の兵装はピラニアミサイルの項目に移動している。
「インチキバリアを破った後は僕にお任せなのですよ」
 多くを語らない鬼燈に対して問い質す者は誰もいなかった。そこには信頼や連携の類がある訳ではない。ただそれぞれの猟兵が己の役回りを果たす意思が存在しているだけだ。
「では覚悟に免じて、折角ですから戦時モードに切り替えておきます」
 ノエルの意識の中で何物かの歯車がずれ、そして噛み合った。
「モードシフト。メインエンジン始動、エネルギー経路切り替え、重力制御・慣性制御開始、it's on.」
 艶を放つ銀色の髪が風に吹かれたかの如く浮き上がる。
「行くぞ!」
 ヴィリーの裂帛が号令となった。シル、ガイ、鬼燈、ノエルが駆る機体が方々に散開する。ヘヴィタイフーンMk.Ⅹは尚も首都高速道路の直線を突き進む。アークレイズ・ディナの二連装突撃銃が暴雨の如く弾丸を浴びせに掛かった。
「そうだ! 撃ってこい!」
 避け損なった銃弾がヘヴィタイフーンMk.Ⅹの装甲を激しく叩く。直ぐ側で路面上に着弾した荷電粒子がアスファルトを爆裂させた。黒い瓦礫が降り掛かる最中、ヴィリーはレティクル越しに捉えたアークレイズ・ディナを睨め付ける。捕捉完了を示す電子音が連続して鳴った。
「今まで大事に温めておいたミサイルだ! 全部お前にくれてやる!」
 ヘヴィタイフーンMk.Ⅹの肩部に備わるミサイルポッドから次々に誘導弾が放たれる。その数は単体重複ロックオンした数と同数の八発だった。誘導弾は飢餓に狂ったピラニアの如き獰猛な軌道で目標へと殺到する。ミサイルを見留たアークレイズ・ディナは後退加速に転じた。何発かのミサイルはデュアルライフルに撃墜されるも、弾幕を掻い潜った個体がフィールドに着弾して爆炎を拡げる。
「まだあるぜ!」
 アークレイズ・ディナを追うコスモ・スターインパルスの背後から幾つもの対空誘導弾が飛来した。戦域外縁に待機中の天龍・改から発射されたそれらは、コスモ・スターインパルスのレーザー誘導に従ってアークレイズ・ディナの元へと次々に駆け込んでゆく。
『幾ら撃たれようとも……!』
 ピラニアミサイルの着弾の衝撃で姿勢を崩されたアークレイズ・ディナは、ビルを盾として対空ミサイルをやり過ごすべく推力を横へと偏向させた。だが得られる筈の急激な加速力は外的な圧力によって押し留められてしまう。
「大概の物理運動は抑えられますからね」
 エイストラが翳すマニピュレーターから生じさせた重力波がアークレイズ・ディナの挙動を封じたのだ。重力の呪縛を強引に振り切ろうとする目標に対し、ディサイディングモードを起動したノエルはサイキック・レプリカントとしての全機能を傾注させて尚も押し留める。
『重力結界!? 覚えましたわよ、その力……!』
 アークレイズ・ディナを覆う二層の防護障壁とそれを包むエイストラの重力場が押し合い圧し合って赤と紫が織り成す光の明滅を連続させる。そこに天龍・改が発射した対空ミサイルが着弾。緋色の爆球が花開く。
「撃つべし撃つべしなのですよ」
 アポイタカラが左右のマニピュレーターに保持するパルスマシンガンと、肩越しに控える二本のフォースハンドが保持するキャバリアライフルがマズルフラッシュを焚く。ピラニアミサイルと対空ミサイルの衝撃、重力の呪縛を受けて機動を封殺されたアークレイズ・ディナに着弾した榴弾が次々に炸裂する。
「今なら直撃で!」
 窓から溢れる照明に彩られた摩天楼の側面をレゼール・ブルー・リーゼが翔ぶ。ヴォレ・ブラースクが放った魔力粒子の光線がアークレイズ・ディナのフィールドに命中した。
「押し切れる!」
 フィールドの表面に刻み込まれた魔術印を見留たシルが、操縦桿をより一層固く握りしめてフットペダルを限界まで踏み込む。アークレイズ・ディナを中心点として旋回しつつリフレクタービットのプリュームを次々に射出した。手動照準モードで発射したヴォレ・ブラースクの魔力粒子光弾がプリュームに跳ね返されて乱れ飛ぶ。同時に発射したリュミエール・イリゼの虹色の光線達が機動を曲げて誘導弾の如く目標を追い立てる。グレル・テンペスタが縮退保持していた魔力粒子を光の奔流として解き放つ。そしてエール・リュミエールが生み出す推進力を翼の如く広げて突進した。
「リーゼとわたしの全部! 持っていけーっ!」
「なかなか無茶しますね」
 ノエルが重力の戒めを解くのと誘導弾の爆炎にレゼール・ブルー・リーゼが突っ込んだのはほぼ同時だった。先に展開した魔術印目掛けてエリソン・バール改を撃ち散らしつつエトワール・ブリヨントを一閃。切り抜けた背後では虹色の光線達と魔力粒子光弾が魔術印に吸い込まれるかの如く着弾していた。先のミサイルや榴弾と相まって視界を彩り過ぎる光の華が狂い咲く。
「バックなのですよ!」
 鬼燈が短く叫ぶ。爆炎の中で怒気が膨れ上がった。
『わたくしにも……これほどの力があったのなら……!』
 炎を振り払ってアークレイズ・ディナが猛進する。先ほどまで機体を球体状に覆っていた防護障壁は海面のように波打ち綻んでいた。
「バリアは中和出来ましたが……」
 ディサイディングモードを発現するエイストラを真っ先に排除するべき対象と判断したらしい。急激に相対距離を詰めるアークレイズ・ディナに対してエイストラは再度重力の戒めを放つ。
「おや、サイコ・フィールドで代用しましたか」
 ノエルはサイキック・レプリカントに変じた結果、アークレイズ・ディナが展開する力場の性質を否応無しに把握する事が可能となった。搭乗者の脳波或いは感応波……生命さえも転換する機能を用いて発現させる力は機体から生じているものではないらしい。そして防御としての使用はひとつの側面でしかない。如何様にも性質を変じる力は圧となってエイストラの重力場と拮抗した。
 後退加速するエイストラと前進加速するアークレイズ・ディナの双方が撃つ荷電粒子が標的を捉える事なく交差する。尚も詰まる相対距離。爆発的に増強された戦闘力がそうさせたのだろうか、ノエルの意識に先んじてエイストラが咄嗟に両腕部のプラズマブレードを振るう。アークレイズ・ディナより伸びたアンカークローの鏃が弾かれた。だが三つ目の鏃が頭部目掛けて突き込まれる。されども寸前でプラズマライフルが刃を遮った。直後に機能異常と出力低下を報せる警報音が鳴り響く。ノエルは一切の躊躇いも無くプラズマライフルの投棄操作を実行する。
「離れやがれ!」
「急いでバック!」
「冗談じゃねぇぞ!」
 地上からヘヴィタイフーンMk.Ⅹが、空中からはアポイタカラとコスモ・スターインパルスがエイストラとアークレイズ・ディナの間に火線を走らせる。跳ね返されるかの如く二機が飛び退く。
「バリアが再生する前に終わらせないと!」
 退いた隙を逃さずレゼール・ブルー・リーゼがアークレイズ・ディナの背面へ飛び込む。左下方から切り上げられた光刃剣がアンカークローに弾かれた。シルはその反動さえも利用してヴォレ・ブラースクを構える。しかしそのランチャーに鏃が食い込んだ。ノエルの際と同じ様に警報音が耳朶を打つ。シルは歯噛みしながら機体を後退加速させる。レゼール・ブルー・リーゼが牽制の小口径魔力粒子砲を撃ち散らした。ヘヴィタイフーンMk.Ⅹのアウル複合索敵システムが急激な熱量増大を検知したのはその時だった。
「全機回避しろ!」
 唐突に叫んだヴィリーにそれぞれが反射的な回避運動を取る。アークレイズ・ディナが侵蝕したプラズマライフルとヴォレ・ブラースクの砲門から四光が解き放たれた。
「エレメンタル・ファランクス!?」
 目を剥いたシルの予測通り、光軸の螺旋が解けて百を超える無数のうねりとなった。広域拡散放射されたそれらは高層ビルや路面の構造体を抉り飛ばして暴れ狂う。コスモ・スターインパルス、ヘヴィタイフーンMk.Ⅹ、レゼール・ブルー・リーゼも擦過した破滅の光の嵐に機体の各部を削り取られて跳ね飛ばされる。エイストラも例外に漏れなかったが、重力偏向による歪曲場とガーディアン装甲の高硬度衝撃波で辛うじて凌ぎ切っていた。故に標的とされた。負荷限界を超えて溶解したプラズマライフルとヴォレ・ブラースクを投棄したアークレイズ・ディナが驀進する。
「接近してきてくれるのは構わないのですけども」
 エイストラは高速マイクロミサイルとプラズマキャノン、残されたプラズマライフルの三門同時発射で迎え撃つ。先んじて放った誘導弾の群れがデュアルライフルの火線に炙られて緋色の爆炎と転じた。そこに伸びる中と大の荷電粒子の光軸が標的を擦過した。溶けて弾けた装甲が宝石のような煌めきを放ちながら宙を踊る。されど速度は緩まない。双方の間合いが零に達する刹那にエイストラがビームブレイドを突き出した。操縦桿越しに伝わる手応えはノエルが想定していたものではない。荷電粒子の刃はデュアルライフルの銃身を貫いていた。
「まあ、いいでしょう。元より相応の代償は払うつもりだったので」
 ヴィリー達は妙に達観したノエルの声音を聞いた。直後に重苦しい衝撃音が香龍の空気を戦慄させた。回転衝角がエイストラを打ち据えたのだ。されど甘んじて直撃を許すノエルではなかった。Eバンクに貯蔵したエネルギーを全てガーディアン装甲に回すのと併せて歪曲領域を展開。更には重力波で強引に行った姿勢制御で機体の右半身を敵機へと向けていたのだ。そして迫る回転衝角を間近に見た瞬間、ノエルは違和感を覚えた。打撃の直前でアークレイズ・ディナが僅かに機体を傾けた。思い留まったような挙動は重力制御によるものではない。搭乗者が自発的に操作していなければ生じ得ない挙動――。
「ノエルさん!」
 シルの悲鳴に近い叫びと共にエイストラは高層ビルの側面に叩き付けられた。
『わたくしは……何を討って……』
 震え掠れた少女の声が無線を伝う。ほんの一瞬だがアークレイズ・ディナが愕然と立ち尽くす。だが直後に機体自らが歓喜に叫ぶようにして紅月を仰ぎ、赤黒い推進噴射炎の翼を広げた。鉄筋コンクリートにめり込んだエイストラに向けられた回転衝角の切先。アークレイズ・ディナが最大加速で突き進む。
「止まれェェェーッ!」
 ガイのコスモ・スターインパルスが突進を仕掛けた。真横から同程度の質量をまともに受けたアークレイズ・ディナは、コスモ・スターインパルス共々アスファルトの路面上に叩き付けられる。地に激突するや否や、コスモ・スターインパルスがブレイクドライバーの横殴りで弾き飛ばされる。
「まだぁっ!」
 レゼール・ブルー・リーゼが入れ替わりに突っ込んだ。振り下ろされたエトワール・ブリヨントが星の輝きを放つ。しかし刃がアークレイズ・ディナの背後に届く前に、アンカークローがレゼール・ブルー・リーゼの腕部に食い込んだ。被弾の衝撃によって錐揉みするかの如く姿勢を崩す。だがその反動さえも利用した回し蹴りが直撃した。
「潰し切るしかねぇな……!」
 これで仕留められなければ終わりだ。確信と覚悟を込めてヴィリーが機体を加速させる。正面に見据えたアークレイズ・ディナが姿勢を崩しながらもブレイクドライバーを構えた。更にスラスターから力強く推進噴射炎を焚いて加速するヘヴィタイフーンMk.Ⅹ。コクピット内に凄まじい衝撃と金属を抉る音が響いた直後、ヴィリーは顔に冷たい夜風を感じた。
「まったく嬢ちゃん連中はやる事が派手だな……俺が何で地味なユーベルコードしか使わんのか知ってるか?」
 直撃の寸前でバーンマチェーテを犠牲に逸した衝角は、ヘヴィタイフーンMk.Ⅹの左肩部から胸部の若干部分を抉り取っていた。口角を不敵に歪めたヴィリーが操縦桿を押し込む。
「手の内を読まれ難いからだよ!」
 この距離ならば絶対に外さない。ヘヴィタイフーンMk.Ⅹが一六式自動騎兵歩槍の銃口を押し当てた。ヴィリーがトリガーキーを握り砕かんばかりに引き続ける。フルオートモードで発射された30mm弾がアークレイズ・ディナの装甲に食い込んだ。そして青白い電流が迸る。ヴィリーのユーベルコードによって30mm弾が指向性EMP発振弾頭に転じたのだ。生じる電磁波はヴィリー自らの機体諸共電装を焼き千切る。那琴が悲鳴を上げ、アークレイズ・ディナが悶え苦しむようにして自ら機体を振り回す。
「大人しくしてろよ……!」
 サブウィンドウ上を埋め尽くす警告メッセージにヴィリーは目もくれない。ヘヴィタイフーンMk.Ⅹは機体重量に加速を相乗させてアークレイズ・ディナを押し留める。そしてアークレイズ・ディナは今度こそヘヴィタイフーンMk.Ⅹを粉砕するべく、ブレイクドライバーを振り上げた。
「いくら解析して再現したってな! 俺たちの魂まで超えられねぇ!」
 光波翼を広げたコスモ・スターインパルスがアークレイズ・ディナ目掛けて一直線に加速する。EMPに電装を焼かれるのも、軌道を変えて振り下ろされたブレイクドライバーにも構わず。
「てめぇを救うために命を懸けるッ! それが猟兵だあァァァッ!」
 烈火を投棄して空いたマニピュレーターを固く握り込み、怒号を込めて殴りつけた。鉄拳はブレイクドライバーを直撃。コスモ・スターインパルスの右腕部が微塵に粉砕されるのと同時に紅蓮の炎と漆黒の雷を纏う二頭の龍が生じた。ガイの闘気が呼び醒ました龍が回転衝角をアークレイズ・ディナの右腕部ごと無数の断片へと打ち砕く。
『イェーガー……貴様らがぁぁぁ……!』
 那琴の声帯から彼女のものではない呪詛が吐き出される。擱座したコスモ・スターインパルスに入れ替わりアポイタカラが飛び込む。
「というわけなので機体だけ死んでもらうのですよ!」
 アポイタカラは四の砲門を全て手放すとアークレイズ・ディナの背面に掴みかかる。直ぐにアンカークローとテールアンカーが機体の各部に突き刺さった。背面のスラスターユニットにプラズマキャノンの零距離射撃が叩き込まれ、機体のエネルギーが急激に低下し、機能が次々に侵蝕と汚染に犯されてゆく。しかしそれでもアポイタカラはアークレイズ・ディナから離れない。
「……燃えろっ!」
 アークレイズ・ディナより焔の柱が立ち昇る。鬼燈はアークレイズ・ディナが大鳳からエネルギーを態々吸収してきた時点で見当を付けていた。かの機体が学習したユーベルコードを再現する為には莫大な電力ないしそれに類する根拠が必要なのではないかと。そしてユーベルコードを発動させているのは搭乗者ではなく機体側――ならば機体だけ殺してしまえばいい。この呪法朧火で。
「ここまでの戦闘で散々エネルギーを使ってきたから、ぼちぼち限界の筈なのですよ」
 サージ電圧と朧火で火刑にされたアークレイズ・ディナが尚も抗う。搭乗者の生命を搾り尽くして重力波でヘヴィタイフーンMk.Ⅹとアポイタカラを弾き飛ばそうとした矢先だった。
「残念ながら、ユーベルコードも戦乱も未来を定めたりはしませんよ」
 機体の右半身を圧砕されたエイストラがアークレイズ・ディナの前に降り立つ。膝をつきながら翳したマニピュレーターが何度目かの戒めを放った。
「一人々々が一歩々々を進めていったその先に、全ては成るのです」
 圧潰したリンケージベッドに右半身を挟まれたノエルが見詰める先では、地に伏すアークレイズ・ディナが恨みがましく腕を伸ばしている。
「お二人方、すいませんがそのままでお願いします」
「おう、やってくれ」
「どうぞどうぞ」
 重力場の巻き添えを受けたヴィリーと鬼燈は何の躊躇も無く軽々しく答えて見せる。
「偉大なる大鴉セルダン、貴方もイレギュラーには勝てません。同じ鴉のよしみで、弔いの鐘を鳴らしてあげましょう」
 逃れ得ぬ超重獄の最中、電磁パルスと炎の呪いによって身を焼き尽くされたアークレイズ・ディナが機体各部の発光を明滅させ始めた。
『まだ……イェーガー……! 私はお前を! 殺し尽くすまではァッ!』
 怨嗟の断末魔の直後、アークレイズ・ディナから赤黒い稲光が半球状に迸った。ヘヴィタイフーンMk.Ⅹとアポイタカラのみならず、コスモ・スターインパルスとレゼール・ブルー・リーゼまでもが真後ろに跳ね飛ばされ、砕かれたアスファルトに背を埋める。
『ごめん……なさい』
「那琴さん?」
 シル達は掠れた通信音声を確かに聞いた。立ち竦んだアークレイズ・ディナの装甲色が抜け落ちるかのようにして青黒く変容してゆく。センサーの発光色が赤から青に転じるとすぐに消失し、機体が後ろへと傾いた。土埃を舞い上がらせて仰向けに倒れ伏す。鋼の衝撃音が香龍の空気に虚しく響いた。

「……機能停止したようですね」
 反応の完全消滅を見届けたノエルが肩を落とす。エイストラも頭部を俯け、翳していた腕部を力無くぶらさげる。
「ノエルさん大丈夫!?」
 立ち上がったレゼール・ブルー・リーゼが覚束ない挙動でエイストラへと歩み寄る。
「大丈夫です、右半身のフレームを潰されただけですので。まあ、リンケージベッドを何とかしないと身動きが取れないのですが……」
 ノエルは構造材に挟まれた右半身を引っ張り出そうとするも抜ける気配が無い。あと一人か二人の力があれば抜け出せそうだが――しかしリンケージベッドと直撃を受けた瞬間の判断と敵機の不審な挙動のどれか一つでも欠けていれば、身体が抜ける抜けないどころの話しでは済まなかったのだろう。
「全然大丈夫じゃなさそうだが……」
 ヴィリーは労うようにしてコンソールパネルを叩くとコクピットハッチを蹴り開けた。
「レプリカントですのでお構いなく」
 無味に言ってのけたノエルに「そうかい」と短く返したヴィリーは全然大丈夫に思えないノエルを脱出させるべくエイストラへと向かった。レゼール・ブルー・リーゼから降機したシルは開放されたエイストラのコクピットハッチから中を覗き込む。
「うぇっ!? やっぱ大丈夫じゃない!」
 コクピット内はシルの目には中々に悲惨な状態となっていたらしい。
「挟まれているだけなので大丈夫です。ところで、少しばかり手を貸して頂けるとありがたいのですが」
「どれどれ……こいつを浮かせればいけそうだな」
 シルと立ち代ったヴィリーがリンケージベッドの一部と思しき部位に手を掛ける。ノエルとヴィリーによる人力作業を不安気に見詰めるシルの背中の先では、鬼燈とガイがアークレイズ・ディナのコクピットから搭乗者を引き摺り出していた。
「下ろすぞ」
「ほい」
 那琴の両脇を支えるガイと両脚を支える鬼燈が慎重に姿勢を落とす。路面上に仰向けに寝かせられた那琴の胸が荒く上下する。
「ガイ様……鬼燈様……ごめんなさい、わたくしは……取り返しのつかない事を……」
「いいから喋るな」
 片膝を付いたガイは那琴から伸ばされた手を握り静かに下ろすよう促した。薄く開かれた双眸の中で琥珀色の瞳が戦慄く。伝う雫が頬を濡らす。パイロットスーツの各所には血液が染みていた。
「うーん、これは下手にいじると危険が危ないっぽい」
 眉宇を傾ける鬼燈の目線を追うと出血元に辿り着いた。腹部に幾つかの金属片らしきものが突き刺さっている。機関銃の弾丸さえ通さないパイロットスーツを貫通したのだから相当な威力だったのだろう。
「どんなもんだ?」
 駆け寄ったヴィリーが那琴の身を見ると、呻きながら顎を右手でなぞった。
「出血量がやべぇな。こりゃ輸血が必要なレベルだぞ」
 腹を切るってのはそういう意味じゃないんだが……そう付け加えたヴィリーの眼下では那琴が「ごめんなさい」とのうわ言を繰り返している。精神状態はさておき意識はあるらしい。
「こっちも大丈夫じゃなかったの!?」
 ヴィリーの横から顔を出したシルが深刻そうな表情で口元を抑える。その後ろからはノエルが緩慢な歩みで向かってきていた。
「うん?」
 鬼燈がしゃがみ込む。那琴の腰の脇で赤黒い光を発する何かが目に付いた。よく間近で凝視すると丁の字形の物体だった。手に取った感触は金属のようだ。それは腰部アタッチメントに鎖で括り付けられている。鎖を慎重に解いて取り外すと、付着した血液を拭いながら立ち上がった。
「なにそれ?」
 シルが不穏な表情で問うも鬼燈には「なんでしょー?」としか答えようがなかった。
「俺も見た憶えはねぇな……」
「なんで光ってるんだ?」
 ガイとヴィリーが訝しげに眺めている間も、丁の字形の金属物体は赤黒く不気味な光の脈動を放ち続けている。
「なんかこの光……あのバリアの色に似てない?」
 シルの何気ない直感的な呟きにガイとヴィリーと鬼燈の「そういえば」という声が重なった。
「たぶんサイキック関連のデバイスではないでしょうか」
 四名の目線が声の元へと向かう。ノエルはアークレイズ・ディナの残骸に腰を掛けて遠目に眺めていた。
「知ってるっぽい?」
 よく観察してみるかと鬼燈が身振りで勧めると、ノエルはお構いなくと右の手のひらを見せる。
「ディサイディングモード中にそれらしい反応を感じたので。機体自体にはサイキック関連デバイスは搭載されていないように思えましたし。恐らくそれを触媒にサイコ・フィールドを生成、更には応用する事で本来なら再現出来ないユーベルコード……先ほど使用した重力制御等も使用していたんじゃないでしょうか。あくまで私の見立てですけども」
「ならあのインチキバリアの出処はこいつって訳か……」
 こんな小さな金属に梃子摺らせられていたのか。嘆息を籠めてヴィリーは首を竦めた。
「まぁ兎も角として、どうにかしねぇとな……!」
 沈痛な面持ちでガイは奥歯を噛みしめる。
 数多の猟兵に叩き砕かれ、オブリビオンマシンは骸の海へと再び沈んだ。無惨に潰えた執心の跡を残して。状況は終幕の向こう側へと流れゆく。紅を落とした満月は瑠璃色を灯していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 冒険 『旗印の堕ちた地で』

POW   :    圧政側の軍勢を一時の間追い払う

SPD   :    急ぎその場を後にする

WIZ   :    レジスタンスのメンバーを護衛する

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●終幕
 アークレイズ・ディナの撃墜は中継映像を通して首相官邸にも伝えられた。寡黙にモニターを凝視する東雲が深く瞑目し、鈴木が呻めきながら首を横に振る。各軍の幕僚達は先の戦闘結果を受けて「増産予定を繰り上げますかね」などと互いに何事かを耳打ちし合っていた。外務大臣は教皇が乗り込んで来た際には如何にして官房長官に鉢を押し付けるか、情報省の長官は後始末の段取りについてそれぞれ思案を巡らせているらしい。
「猟兵各位へ、東雲だ。こちらでもアークレイズ・ディナの撃破を確認した。感謝する。以後は引き続き契約内容に基づき任務を遂行してくれたまえ。補給と修理が必要であれば三笠の佐藤泉子中佐に問い合わせて貰いたい。戦闘不能に陥った者については任意で離脱及び撤収してくれても構わない。その場合であっても報酬は追加分も含めて満額での支払いを約束しよう」
 東雲の至極粛々とした口振りに正気を疑る鈴木の睥睨が向けられた。当事者はモニターを注視しながら何処かへと連絡を取り合うばかりで一瞥すらくれない。
「那琴さんまで……」
 オペレーターの少女の顔からは益々血の気が引いていた。鈴木は少女の両肩に手を置くと「大丈夫だから」と気休めにもならない慰めを掛ける。
「ちょっと貸してもらえるかな? 後藤大佐と繋いでくれるかい?」
 オペレーターの少女が力の抜けた手でヘッドセットを外す。受け取った鈴木はイヤホンに耳を当てがう。
「後藤大佐……尼崎中尉も那琴ちゃんも墜ちた。もう頃合いなんじゃないかな?」
 慎重な言葉運びで尋ねると、一呼吸分の沈黙を置いて野太い男の声が返ってきた。
『コング01より白羽井小隊の総員へ、速やかに武装解除し投降しろ。以後は政府側の指示に従え』
「後藤大佐……!?」
 目を剥くオペレーターの少女の隣で、神妙な面持ちの鈴木は胸を撫で下ろすかのように深い息を吐く。
『戦力を損耗し過ぎた。ここいらが引き際だ。では先生、後は宜しくやってください』
 続く無味な声音にオペレーターの少女が詰め寄るも既に通信は切られた後だった。
「心残りだとは思うけど、これでお終いだね。君達の身柄の安全は保障――」
「まだ終わってない!」
 オペレーターの少女は弾かれたように立ち上がり、肩に置かれた鈴木の手を振り払って銃を突き付ける。閣僚応接室の空気に張り詰めた静粛が走った。戦慄く照星の向こうで身体を硬らせた鈴木がすり足で一歩下がる。
「やめなって!」
 引き金に掛けられた指先には同じ叛徒の声も届かない。東雲が間に割って入ろうとするも鈴木の腕がそれを遮る。
「……これは、あくまで僕が都合良く解釈した憶測なんだけどもね」
 鈴木は向けられた銃口に目を落としながら静かに語り始めた。
「君達が暴発するのに先んじて、後藤大佐は自ら音頭を取ったんじゃないかな」
 要領が掴めない言い回しに、オペレーターの少女は剥いた歯の間から呼吸を漏らす。
「もしだよ? 後藤大佐が立たなかったら今回の件は起こらなかったと思うかい? 僕はそうは思えないね。代わりの誰かが君達を率いて同じ事をしていたんだと思うよ」
 オペレーターの少女にとって鈴木の所感は兼ね同意だった。後藤がいなければ伊尾奈が、伊尾奈が居なければ白羽井小隊の那琴と栞菜が、それさえも居なければ自分が、或いは誰かが代役を担っていただろう。例え独りであったとしても。
「恨み辛みは消せない。だから遅かれ早かれどうしたって君達は事を起こす。でも計画が上手く進む運びには乗らない。ならいっそ自分が矢面に立って事を起こし、収拾が付けられる形で終わらせようとしたんじゃないかな?」
「だとしたら何だって言うんですか!?」
 滲み出してきた疑念を振り払うように怒声を張る。
「限られた選択肢の中から選んだ、集団自殺に向かう君達を止める為の手段――」
「出まかせ言わないで!」
 鈴木の言葉に必死の叫びが叩き付けられた。
「これはあくまで僕の都合の良い憶測だよ。復讐心が嘘だとも思えないしね。だけども、後藤大佐の行動や言動の端々からそんな気配が見受けられたように思えてね」
 より長期間の間、近くに居た者なら尚更感じていたのではないか? 鈴木が無言で尋ねる。
「だからって!」
 怨恨が癒える訳ではない。やり場を失った瞳が忙しなく右往左往した。
「そうだね。さっきも言った通り憎しみは簡単に消えるものじゃないし、事態収束の妥協点を探り合うのが君達の目的でもない。後藤大佐だってそれはよく知っていた筈だよね。でもどうせ君達が事の末に恨みを晴らせないなら、せめて死なせずに済む方法を模索してたんじゃないかな」
「どうして……」
「誰だって部下を死なせたくないと思うのは当たり前でしょう?」
 意図せずして零された問いに鈴木は腕を広げて答えてみせた。オペレーターの少女は言葉に詰まり目線を伏せる。
「しかし……また一方で君達に選択肢を残していった。ここで僕達の監視を命じた理由がそれに繋がるのかも知れない」
 言わんとしている先を掴み損ねたオペレーターの少女が眉を顰める。鈴木は双眸を閉じると、やや間を置いてから緩く首を横に振った。
「簡単な話しだよ。どうしても気が済まないなら撃ってしまえばいい。それもまた良し……いや良しとしていたかは判らないけども、今まさにこうやって銃を向けているように、最後は君達自身の判断に委ねるつもりだったんだろうね」
 床に落とされた鈴木の眼差しに憐れみとも悲観とも受け取れる色合いが滲む。
「そして選択肢を残した事自体が後藤大佐の……まあ、なんというかな? 躊躇いというか、葛藤というか、そういうものの現れだったのかもね」
 いつしか白羽井小隊の隊員達は皆一様に表情を曇らせていた。
「あくまで全部僕の憶測だ。人の心なんてどこまで行っても謎だらけ。誰が何を考えているのかなんて、時として本人にさえ判らない」
 オペレーターの少女は人知れず呼吸器が窄まるような感覚に苛まれていた。作戦が失敗しつつある今だが、引き金に掛けている人差し指をちょっと押し込んでしまえば少なくとも兄の仇は討てる。そうしない理由なんてないし、そうしなければここまで来た全てが無為になってしまう。なのに引けない。どうして? 頭の中が泡だらけになってしまったかのように思考が定まらず、自分の心が判らない。
「後藤大佐の本心だって誰にも判らない。だけども後藤大佐は君達に投降を命じた。これだけは間違いない事実だよね」
「そんなの違う!」
 行き場を失った感情が何の力も持たない言葉になって染み出した。一歩寄った鈴木に対してオペレーターの少女は尚も銃を突き付ける。
「君にもし躊躇いがあるのなら……後藤大佐を慮ってあげてもいいんじゃないかな? 恐らくこれが後藤大佐から君達への最後の命令になるだろうしねぇ……」
 俯いた鈴木の面持ちに哀しげな影が差す。含む意味を悟ったオペレーターの少女は、過ぎる失意に感情を押し流された。

●故に軍神斯く戦えり
 香龍東の内湾は不気味なまでに穏やかだった。夜空を映した真っ黒な水面に浮かぶのは、紅から瑠璃色に移り変わった満月。月光の薄明かりは三笠の艦橋にも差し込んでいた。
「アークレイズ・ディナ、沈黙!」
 観測士の報告を受けた泉子は肺の中の酸素を全て吐き出した。艦長席に沈めた背中が酷く重い。大鳳の腹を食い破って出現した敵の新手が撃破された事で、香龍全区に降りていた生ける者も死せる者も全てを呪い殺さんばかりの重圧は急速に霧散しつつあった。されども緊張の氷解には程遠い。戦況は特務艦隊の圧倒的優位で推移しつつある。時間の流動と共に反乱軍の鎮圧は成されるであろう。だが――。
「反乱軍側より通信要請来ました!」
 泉子を含む艦橋内の船員達が一様に呼吸を止めた。
「回線開け」
 身構えていた成り行きに努めて毅然な声を差し込む。
『よう、泉子艦長』
 音声出力装置越しに聞こえた野太い男の声。姿は映し出されてはいないものの、泉子達はそれが何者であるか既知していた。
「お気付きでありますか? 貴官の為した行いを……!」
 押し潰した憤怒と疑問が声帯から滲む。肘掛けを掴む手に血筋が浮かぶ。
『手柄をくれてやる。今しがた送った座標に来てみろ。騒動を起こした犯人がいるはずだ』
 すぐに座標データ受信との報告が通信士から上がった。
『白羽井小隊の総員には武装解除と投降の命令を出してある。皆が皆言い付けを守るとも思えんが……ま、泉子艦長の方で宜しく面倒を見てやってくれ』
 声の主は言いたい事を言いたいだけ言い終えると一方的に通信を絶った。幾ら呼び掛けようとも応じる気配は無い。泉子は拳を叩き付けたい衝動を寸前で飲み込んだ。
「加賀へ伝えよ。指定座標へ回収部隊を向かわせるのだ。その他のキャバリア部隊は引き続き反乱軍の無力化に当たれ。負傷者は敵味方問わず急ぎ収容せよ」
 あらゆる感情が混濁する中で脳は酷薄なまでに冷たい思考を巡らせる。止めてはいけない。さもなくば後悔に飲み込まれてしまう。南州陥落のあの日、あなたが壊れていた事を知っていたのにも関わらず、止められなかった事への後悔に。
「猟兵諸君の状況はどうか?」
「損耗を受けている模様ですが総員健在です!」
 一抹の安堵が胸中に灯る。あの光、あの量子波が幻でなかったのだとするならば、彼等は文字通りに砕け散るまで戦ってくれたのであろう。猟兵達からしてみれば恩義を掛けたつもりなど無いのだろうが、それでも命を賭した戦いを無為に終わらせるような結末にしてはならない。思惟を籠めて拳を握る。
「龍鳳が作戦領域に到着! 金剛、榛名、比叡、天城も来ます! 撫子並びに武蔵は沖合10Km圏内まで接近中!」
「龍鳳へ通達。剛天を首相官邸に就けるよう要請せよ」
 産まれるべきではなかったあれが倒され、白羽井小隊の戦力も大きく損なわれた今、事態の終息の目処は立ちつつある。悔いるべきは今では無い。貼り付けた鉄面の表情で感情を覆い隠す。加賀の飛行甲板を発ったイカルガの編隊が香龍へと駆けてゆく。眠らぬ大都市に交錯する火線は、一刻前よりもその本数を漸減させていた。

●戦況変容
 長らく日乃和を深部から蝕み続けていたオブリビオンマシンは猟兵に破壊された。禍根が絶たれた事で事態は緩やかに終息へと向かうだろう。依頼内容としての任務は継続中だが、オブリビオンを駆除するという猟兵としての役回りには決着が付けられた。
 今即刻撤収したとしても報酬は満額での支払いが確約されている。或いはこの場に留まり事態の推移を静観するにしても、得られる報酬に変動は起こり得ない。雇い主としても、アークレイズ・ディナとの交戦で損耗した猟兵達にこれ以上の戦闘行動を強いる意向には無いらしい。元来は世界の滅びに対する抗体として生み出された猟兵。オブリビオンの介在が除去された以上、干渉は厳に慎まれるべきというのも適切な認識のひとつなのだろう。何にせよ撤退並びに戦闘行動への不参加による不利益はほぼ生じない。

●残存戦力の掃討
 継続して依頼内容を遂行するのであれば、残存する白羽井小隊のイカルガが交戦対象となる。反乱の主犯格である後藤宗隆大佐より投降の命令が通達されているが、全員が全員承諾したとは限らないらしい。一部は抵抗を続けるつもりのようだ。全体で見れば数は決して多くないものの、現時点まで残存出来た理由は運と偶然だけでは片付けられない。交戦するならば油断こそが最大の敵となるかも知れない。
 しかし一方で対する特務艦隊との戦力差は絶望的なまでに明白だ。仮に猟兵が誰一人として戦闘に加担しなかったとしても、時間の推移と共に掃討は果たされるだろう。特務艦隊としては殺傷は極力抑えて無力化に努めるらしい。

●特務艦隊との交戦
 或いはその顛末を良しとしないのであれば、特務艦隊を相手取るという選択肢が残されていない訳でもない。しかし今も続々と集結しつつある艦隊戦力と真正面から衝突するのは猟兵と言えど決して生半な覚悟と準備で臨める所業ではないだろう。そして得られる結果が何をもたらすのか。事に及ぶ際には目指す終着点を明確に示しておいた方が良いのかも知れない。
 なお反乱軍の無血鎮圧を目的とするならば、特務艦隊との協働を模索する方が遥かに難易度が低い。

●東雲那琴少尉の容態
 東雲那琴少尉の身柄は猟兵達の手によってアークレイズ・ディナから引き剥がされた。
 容態を一言で表すなら重症だ。意識は朦朧としておりまともな会話は不可能に等しく、腹部を中心に大小多数の外傷を受けている。救命を望むのであれば、出血量からして外科的処置と輸血が必要となる。前者に必要な設備を持ち合わせていない場合、三笠の佐藤泉子に問い合わせれば融通してくれる筈だ。香龍市内の病院施設を使う手も取れる。大鳳艦内にも高度な医療設備が用意されているのでそれを使用しても良いだろう。
 なお現在の大鳳は猟兵一名の手によって船底に開けられた穴から浸水が発生している。しかし排水機能が働いている為沈没の恐れは無い。
 血液に関しては、型の一致を前提として多量に輸血しても拒絶反応を起こさない血液の持ち主かパックがその辺に都合よく転がっている事を祈る他に無い。ひょっとしたら誰かが既に確保しているかも知れないが。
 だがそもそも猟兵にはユーベルコードがある。強力な治癒効果を及ぼすそれがあれば雑多な工程を無視出来るかも知れないし、出来ないかも知れない。
 生存が不利益に働くと判断したのであれば、放置しているだけで時間と失血が望む結果をもたらしてくれる。

●首相官邸
 もし日乃和政府要人との接触を望むのであれば、首相官邸を訪れるだけで難なく願いが成就する筈だ。叛徒の身柄確保、報酬額の交渉――もっともらしい理由を付ければ正面玄関を潜れるだろう。意図か過失かはいざ知らず、内閣を総辞職させかけた前科がある以上は無警戒ともいかないかも知れないが。
 首相官邸自体の警護体制は極めて強力な特機が二機で張り付いているので不足は無いだろう。しかし必要性が薄いか否かは別として猟兵が警護の役を買って出られない訳では無い。

●異なる道
 それら以外にも行動の選択肢は猟兵の数だけ存在する。望む結果が得られようが得られまいが、実行する事自体は不可能ではない。成すべきと思った事を成すのも、何も選ばない事を選ぶのも、いずれも等しく猟兵なのだろう。

●痛みの果て
 盤面を操作し続けていたオブリビオンマシンは猟兵によって滅ぼされた。数多の痛みだけを残して。
 袋小路に収束していた因果は砕けた盤面の外へと染み出す。葉脈の如く拡がった分岐は、辿る途を失い終焉の先へと拡大し続ける。
 或いはそれさえも骸の海より生まれた呪いの内だったのか――答えは無く、猟兵は壊れかけたその身体と機体にもう一度火を灯す。
 そして瑠璃色の満月は沈む。
 終焉の彼岸へ、傷付き斃れた痛みの果てに。
ガイ・レックウ
【WIZ】で判定
『色々ときになることはあるが、まずは治療だな…』
機動戦艦『天龍・改』の中に機体を格納し、那琴ちゃんにユーベルコード【呪法『フェニキアクス』】を使用、傷の治癒を試みる。
『あとは輸血か…』
輸血の手筈を三笠の泉子さんに問い合わせて、整えるぜ。
ついでに【情報収集】。ネットワークを【ハッキング】してT字型の金属物体について調査しておくかな。
※アドリブ、連携可



●終幕の裏
「色々と気になる事はあるにはあるが……」
 ガイは渋い面持ちで那琴を見下ろす。思考は混沌に逡巡するが、真っ先にやらねばならない事は既に理解している。身を横たえ、今も赤黒い水溜まりを拡大し続けている少女の許に屈みこむと右手をかざした。
「不死鳥の炎よ。かの者の傷を病を癒したまえ」
 穏やかで柔らかな熱を伴う不死鳥の炎が生じる。那琴の身を照らす呪法は、ゆっくりと横に動くガイの手に従って細やかな傷を高速で癒し塞いでいった。代価として戦闘で疲弊したガイの身に更なる疲弊が覆い被さるものの、この程度でどうこうなるような柔な鍛え方はしていない。長距離全力疾走を終えた直後に短距離全力疾走したかの様な疲労を身体全身に感じつつも、一先ずは手に負える範囲での治癒措置は行なえた。
「流石にこいつに手出しするのは不味いんだろうな……」
 ガイは那琴の腹部に突き刺さっている機体の残骸に視線を落とす。これは下手に傷を塞いでしまうと、いざ処置をする段階になった際に余計厄介な事態に発展してしまいそうだ。傷が絶えない歴戦の経験則がそう告げている。引っこ抜くなど言語道断。下手に動かして静脈か動脈を傷付けてしまえば一巻の終わりだろう。餅は餅屋に、外科手術は外科医師に任せるべきと決まりを付けたガイは立ち上がり、擱座したコスモ・スターインパルスへと向かう。
「通信装置は……問題無いな」
 しっかりと応答してくれたコンソールパネルに我が相棒ながら頑丈なものだと皮肉めいた微笑を零して通信回線を繋ぐ。特務艦隊の旗艦である三笠へと。
「こちら……あー、猟兵ってことでいいのか? 猟兵のガイ・レックウ、コスモ・スターインパルスだ。三笠へ応答願う」
『三笠よりコスモ・スターインパルスへ。こちらは佐藤泉子中佐だ。アークレイズ・ディナの撃破任務ご苦労だった。私からも礼を言わせて貰おう』
 返ってきた女性の声音は大きく溌剌としながらも感情は硬い。
「そのアークレイズ・ディナのパイロットの身柄を確保したんだが、外傷と出血が酷い」
『東雲少尉か!?』
「ああ、見立てじゃ輸血が必要なレベルらしくってな……諸々準備して貰いたいんだが……」
『了解した! すぐに回収班を向かわせよう!』
「それともう一つ、ちょいと聞きたい事がある」
 秘匿化された通信回線に向かって声量を潜ませたガイの言葉に、泉子は「聞きたい事?」と慎重かつ訝しげに問う。続くガイの答えは肥大化し始めた大気の振動音に上塗りされた。

 特式機動戦艦の天龍・改とは、ガイが所有する艦艇だ。キャバリアの支援能力を有する本艦は、当然ながら擱座したコスモ・スターインパルスを収容する事など造作も無い。役目を果たし終えた愛機と共に帰艦したガイは、艦内の情報管理室にて端末の画面を睨め付けていた。
『……いいだろう。ただし取り扱いには細心の注意を払ってくれ。君ならば正しく使用してくれると確信している』
 椅子に背を預けたガイは、ふと泉子からの言い付けを思い返す。聞きたい事というのがこの資料にアクセスする為の鍵――日乃和軍のデータベースへの鍵だったのだ。そして調べたい内容へは存外呆気なく辿り着けた。
「グラント・サイコゼロフレーム……ねぇ……」
 画面上に表示された横文字が呟きとなって滲む。それは那琴が身に付けていたT字型の金属物体の名称。
「出所は日乃和じゃなかったんだな」
 記録情報を全面的に信頼するのであれば、暁作戦の後に猟兵から日乃和軍の兵士へ直接譲渡されたものであるらしい。数は全部で二つ。一つは雪月栞菜准尉に。もう一つは東雲那琴少尉に。二名への聴取上では御守りという名目で個人的に手渡されたらしい。
「分類はサイキックデバイスか……」
 ノエルの見立てはほぼ的中していたようだ。あれやこれやと難解な専門用語が並べ立てられていたが、要約すると例の金属構造体は特定の脳波に反応して様々な作用を及ぼす機能を有しているとの事だった。推定の文言が多用されている様子からして日乃和の研究機関内でも正確な機能については把握していないようだが、先の戦闘で威力を目の当たりにしたガイとしては大凡の見当は付けられる。
 短絡的に言ってしまえばオカルトと表現してもあながち間違いでも無い不可思議な力場を生成し、その力場は多様に性質を変容させ、使い方次第では人の精神にさえ作用を及ぼす。戦いの中で感じた呪詛紛いのプレッシャーは今でもガイの骨身に染み付いている。あれは恐らく機体側――オブリビオンマシンが金属構造体を介して破滅的思想とやらを那琴に逆流させ、那琴の内にある憎悪の類いを増幅、逆流と増幅を無限に繰り返して莫大な力を引き出していたのだろう。加えてイェーガー・デストロイヤー・システムの記臆書き換えまでもが負の親和性を見せた事であのような馬鹿馬鹿しい性能を発揮するに至ったのかも知れない。
「しっかしなんだってこんな……」
 代物を預けた? そして日乃和軍はこれを那琴に所持させたまま放置していた? 前者は預けた猟兵のみぞ知るところなのだろう。それが善意であったのか悪意であったのか……ガイは「悪気があったとは思いたくねぇがな」と腕を組んだ。
 問題は後者についてだ。日乃和軍はおおよその機能について既知していた上で那琴に所持を許していた訳だが、那琴はどこまで知っていたのだろうか。
「まさかな……」
 一抹の忌々しい予感が過ぎる。日乃和軍或いは政府関係者は今回の事態を想定した上で、この得体の知れない金属構造体を那琴に所持させていたのではないかと。その目的は性能の評価試験――取り分け対猟兵戦を想定した環境下での……それも互いに命を賭した実戦。あくまで予感で憶測だ。しかし的外れだったとするならば――。
「どこまで偶然だったもんだか」
 アークレイズ・ディナを仕舞い込んでいた大鳳が香龍に停泊していたところまでか? 那琴のイカルガが大鳳に不時着したところまでか? 巡る疑心暗鬼に頭が痛む。目頭を摘みながら見上げた天井が普段より低く感じた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレスベルク・メリアグレース
ここに終焉を刻みましょう
彼女らの、彼らの想いが真に成就する時が来るまで

官邸に赴き、後藤大佐と接触
今生の別れとして…UCを発動

時が静止したかのように時の加速に入門
連れて行くのは、後藤大佐
単刀直入に言います
責任を取って裁かれるか…公的には死者となり、死者として動いて真の黒幕を討つか

…どこまでも、選ぶのは自分の頭で考え抜いた果てに
時間だけはあります。後悔のないように…

彼が戦う事を選ぶなら、移送中に日乃和の過激派勢力に襲われて彼のみが遺体の損傷の激しい状態で死亡した事にし、日乃和から離脱

その後はメリアグレースの同盟国で用意された戸籍を使い、戦いの準備を整えさせます



●今際の終わりに
 アーレス大陸では特別なキャバリアを機械神として崇める風習がある。UDCアースの日本人が自然現象や岩等に神性を見出して祭り上げるのと似たような感覚かも知れない。信仰はアマテラス教やインドラ教などキャバリアに帰属するが、それらを纏めて機械神教と呼称している。実際に神なのかは誰にも解らない。されども観光資源や国家の威信を示す象徴として重要視されている面だけで判断するのであれば、神の名は伊達では済まされない価値を有する。そして聖教皇国に伝わる伝説級のサイキックキャバリアであるノインツェーンは、アーレス大陸においては八百万の機械神の一柱として認識されていた。
 故に、官邸前庭にその機体が降り立つのは中々に大事である。
「やはり来ましたか……」
 外務大臣は気怠げに呟く。黄金に縁取られた白亜の装甲を纏うキャバリアの姿は、首相官邸の二階の窓から眺めて見て取れる。ノインツェーンの胸部装甲が開放され、内に座していた少女が滑り落ちるかの如く軽やかに降機した。
「分岐の流れはまだ途切れていない……なればここに終焉を刻みましょう……」
 フレスベルクの薄い唇が囁くようにして言葉を紡ぐ。新緑の瞳は首相官邸の正面玄関を真っ直ぐに見据えていた。淑やかな、それでして強かな足取りで何の迷いもなく歩き出す。玄関入り口まで達するとやはり守衛に止められた。フレスベルクは浅く頭を下げる。
「後藤大佐は既にこちらへ?」
 穏やかな口運びで尋ねる。視線を横にずらすとコクピットハッチを開放した状態のイカルガが剛天に見下されたまま沈黙していた。肝心の中身は連行された後なのだろう。お待ち下さい。守衛はフレスベルクにそう告げようとしたらしいが、皆まで言うよりも先に口を閉ざす羽目となった。
『構わん、通せ』
 守衛のヘッドセットから聞こえたのは東雲官房長官の声だった。すると守衛達は「どうぞ」との一言と共に身を引いて道を開ける。開かれた先に見えたのは大柄の男の背中。フレスベルクが祝詞を詠む。
「――我が信仰はこの蒼穹の下にて無辜に生きる民の為、故に我が信仰よ重力を支配して時を加速させよ。その果てに運命を変えるのだ」
 詠み終えた途端に空気が轟く。世界の彩度が一段落ちて霞み掛かった青色に転じた。一瞬が何十何百、それとも何万倍にまでも引き伸ばされた空間で、フレスベルクは男の背に名を呼び掛ける。
「お転婆教皇様か? こりゃユーベルコードを使ったな?」
 緩慢に振り向いた後藤が周囲を見渡す。皆の挙動が一様に停滞している様子から察するに、今この空間で一秒を一秒として過ごせている人間は自分とフレスベルクしかいないらしい。
「お会いするのは慰問会以来ですかな?」
 後藤の両手には何の枷も嵌められていなかった。
「単刀直入に申し上げます」
 フレスベルクが真っ直ぐに後藤の瞳を見詰める。対する相手は顔に何の感情も滲ませず、同じく見返し無言で続きを促す。
「責任を取って裁かれるか……公的には故人となり、死者として動いて真の黒幕を討つか」
 声質は年相応の少女のそれであったが、言葉の一つ一つには神騎を駆るに足る者の重みが乗せられている。後藤は困ったように眉宇を傾けて双眸を細めた。
「どこまでも、選ぶのは自分の頭で考え抜いた果てに。時間だけはあります。後悔のないように……」
 大気の発光現象のような色彩を湛えるフレスベルクの瞳は微動だにしない。
「もし後者を選んだとしたら?」
 後藤が何の淀みもなく問う。フレスベルクはこの時点で察してしまった。彼が選ぶ終焉を。
「移送中に日乃和の過激派勢力に襲われ、死亡した扱いとなって頂きます。その後は我が国と同盟関係にある国で用意された戸籍を使い、戦いの準備を整えられれば宜しいかと」
 連ねた言葉にはもう重みも熱も乗っていない。きっと後藤はフレスベルクに気取られた事を察したのだろう。何度か軽く頷いて労うような微笑を見せた。
「すいませんな、気を使わせちまいまして」
 緑の瞳にゆっくりと瞼が降ろされる。
「ついさっきも、うちの連中が散々世話になったようで。まあ、これ以上面倒を掛ける訳にも行きませんわな」
「そうですか」
 フレスベルクは目を開くと微かな音を立てて呼吸を抜いた。
「起きた事にゃ誰かが指を詰めなけりゃなりませんからな。そいつが大人の世界のルールって奴なもんで」
 目を伏せた後藤の表情からは、申し訳無さと寂寥が滲んでいたようにも思えた。そして二度と目線を交わらせる事の無いままに巨躯は背けられた。
「そうそう、メリアグレース聖教の飯……ありゃあ美味いもんでした。死ぬ前に食わして貰った事、感謝してますぜ」
 背中で語られた明朗な声音。フレスベルクが面持ちをやや持ち上げると、世界の彩度が回帰するのと同じく皆等しい時の流れの中へと戻る。
「では、わたくしは祈り続けます。彼女らの、彼らの想いが真に成就する時が来るまで」
 喧騒の中で立ち尽くすフレスベルクが人知れず呟く。彼女の双眸が見送る先で、連行される後藤の背中が次第に遠ざかっていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

川巳・尖
こんな状況じゃ撤収できないよ
殺そうとするのも死のうとするのも止めさせたい

戦いたくないけど投降もできない追い詰められちゃってる相手、どうしようかな
コクピットを避けて撃って無力化して、でもそれだけじゃ鎮まってくれなさそう
周りの味方には手出し無用をお願いして、説得してみる
銃は仕舞って両腕を広げて、戦うつもりがないことを見せて近付くよ

もう戦いたくない、落ち着いて話をさせて
ここで殺し合ってどっちか、もしかしたら両方、死んでどうなるの
恨みとか哀しさとか、欲しくないものしか残らないよ
あたいも他の人達も同じ気持ちだから、もう止めようよ

どうしても信じてもらえないなら、いいよ
この距離で撃たれたら、あたいの能力じゃ抵抗できないし、するつもりないし
その代わり、恨んで憎んで殺すのはあたいで最後にして、それでお終いにしてね

…あー、やっぱりもう一つだけ、お願いしていいかな?
痛いのも苦しいのも、怖くて嫌だからさぁ、なるべく一発で楽にしてもらえると、嬉しいなって…



●呪いの終わりに
 産まれるべきではなかった者の残響は緩やかに消失しつつある。されど大都市を奔る火線は潰えず、爆炎は華のように咲いては萎んでゆく。
「……まだ、動ける」
 呪いはまだ終わってない。でももう殺させもしないし死なせもしない。だから尖は綻んだ小さな身体をもう一度だけ立ち上がらせる。
 直上をイカルガが轟音を引き連れて駆け抜けた。噴き付けた暴風がシャツの裾と短い黒髪を激しく揺らす。火薬が爆ぜて銃口から噴出した弾丸が空気を裂く。幾つもの巨大な薬莢が尖の傍に落下すると、新たなイカルガがまたしても頭上を駆ける。
「こんな状況じゃあね」
 複数の意味で撤収など出来たものではない。地に付けた足から青と緑を伴う幻光が滲み出す。尖は掌握したマコモHcの銃身に目を落とすと、アスファルトの路面を蹴って跳躍した。細身がビルの数階分の高さまで一気に飛び上がる。硝子が砕かれた窓の縁に足を乗せると姿勢を屈めた。
「翼を折っちゃえば……」
 照星の向こうにイカルガが見えた。特務艦隊のキャバリア部隊と交戦している為こちらには気付いていないようだ。
 呼吸を止めて神経を一点に束ねる。銃を掴む手の指の一本一本に貫き蝕む思惟を籠める。引き金に乗せられた細指がほんの少しだけ押し込まれると、銃口は二色の淡い閃光を炸裂させた。腕が上方向に跳ね上がる。弾丸は光軸を引いて目標へと一直線に向かった。確かな手応えと甲高い金属音がビル街に反響する。呪弾はイカルガの翼を貫いて瞬時に侵蝕を開始。無数の亀裂を広げた末に乾いた土塊の如く粉微塵に砕いた。飛行能力を失った機体は直後に失速してビルの壁面に衝突。ずり落ちるかのように路面へ落着した。
『この程度で……!』
 滲む執心が尖の耳朶を打つ。翼を喪失したイカルガはまだ抵抗する意思を挫かれていないらしく、アサルトライフルを闇雲に撃ち散らす。
「やっぱこれだけじゃ鎮まってくれないか」
 尖は窓の縁から宙へと跳んだ。途端に火線が止む。どうやら弾を使い果たしたらしい。その周囲を特務艦隊のイカルガ達が取り囲む。胸中で嫌な予感が膨れ上がった尖は一層加速して二者の間に割り込んだ。
『なんだ!?』
 細身の少女の出現に意表を突かれた両者が動きを止める。着地した尖は銃をホルダーに差し戻すと、身を沈めたイカルガに背を向けて、広げた両手を振って我が身を曝け出した。
『猟兵の方ですか!? 危険ですから下がって――』
「落ち着いてってば」
 特務艦隊のイカルガ達が躊躇う様な身振りを見せる。
「ねえ、終わったんだから止めようよ。もう戦いたくないよ」
『終わってない!』
 尖は背後で怒気が膨れ上がるのを感じた。アサルトライフルを向けた特務艦隊所属のイカルガ達に身振り手振りで「待って」と伝えると後ろに向き直る。発振機から生じる光の刃が灼熱を放っていた。至近距離で突き付けられている訳では無いが、生身にとっては肌をひりつかせる熱を感じる程度の間合いだ。
『私らの戦いはまだ何も……!』
 怨恨を孕む熱波が空気を干上がらせて尖の身を炙る。
「ここで殺し合ってどっちか、もしかしたら両方、死んでどうなるの? 恨みとか哀しさとか、欲しくないものしか残らないよ?」
 だが尖は気圧されるでもなく淡々と言葉を連ねる。蛍色の目は正中へと据えられていた。
『初めっからこうする事しか残ってないのよ! 早くどきなさい! さもないと!』
「そっか」
 尖は広げた両手から力を抜いた。腕を下げた少女の輪郭はより一層華奢に見える。
「じゃあいいよ。その代わり、恨んで憎んで殺すのはあたいで最後にして、それでお終いにしてね」
 無味な声音に反乱軍側のみならず特務艦隊側のパイロットまでもが息を詰まらせた。
『あなた……雇われの猟兵でしょ……なんでそこまで……』
「さっき言ったでしょ? もう戦いたくないって」
 眉字を顰めて首を傾げる。
「だからこれで……あたいで最後にしなよ」
 もう殊更に理屈を並べ立てるつもりも無い。どうせ伝わらないのだから。怨みや恐れを原動に転じられる尖にとってはそれらの感情がどれほどの力を持っているのかは理解出来る。容易く癒せるものではない事も。感情の問題は感情で決着を付ける他に無い。怨恨が及ぼす痛みや苦しみなど、その人にしか解らないのだから。
「……あー、やっぱりもう一つだけ、お願いしていいかな?」
 綻んだ尖の表情にやるせない微笑が浮かぶ。
「痛いのも苦しいのも、怖くて嫌だからさぁ、なるべく一発で楽にしてもらえると、嬉しいなって……」
 鼻先で空気を灼いている荷電粒子の束で撫でられれば、水の怪の華奢な身体など確実に蒸発するだろう。それでいい。幾年も積み重ねてきた呪いごと綺麗さっぱり消し去ってくれれば。
『だったら!』
 反乱軍のイカルガが機体を起こして一歩を踏み込む。包囲している特務艦隊のイカルガが一種即発の状態にいよいよアサルトライフルの斉射を加えようとするも尖が片手でそれを制する。振り上げられ、直上から降ろされる荷電粒子の刃。尖の瞳は挙動の一つさえも見逃さずただ見届けていた。
『なんて顔するのよ……あなたは……』
 刃は尖の元に届く事なく夜の空気に霧散した。発振機を手放したイカルガが膝から崩れ落ちる。
「あれ? いいの?」
 尖は困惑気味に眉を顰める。
『もう分かんないのよ……』
 振り上げられた怨嗟は向かう先を見失って下げられた。恨みはそう容易く癒せるものではない。正論をぶつけて解決するものでもない。何が正しいとか誰が悪いとかの理屈でもない。だが疲れもする。幾年も暗い場所に閉じこもり続けもしていれば。捩じ切れてしまいそうな掠れた涙声を最後に、そのイカルガはもう二度と動く事は無かった。
「そう」
 尖はただそれだけ呟いた。直後に身体が浮遊する感触を覚えたかと思いきや、視界が星の散る暗い夜空へと転じる。
『大丈夫ですか!?』
 特務艦隊のイカルガの搭乗者の声だろうか。尖はそこでようやく自分の身体が仰向けに倒れた事実を自覚した。
「み……水……」
 本能に突き動かされるがままに渇望するそれの名称を呼ぶ。灼熱の荷電粒子に炙られ続け、尖の身体を構成する水分の多くが蒸発してしまったらしい。乾燥を大の苦手とする彼女にとって、これは重大な死活問題だ。
「一発で楽にしてって言ったのに……」
 冗談なのか本気なのか釈然としない言葉を零しながら腕を伸ばす。窄まる視界が瑠璃色の満月へと集束し、尖の意識は緩やかな微睡みへと沈み込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天城原・陽
【特務一課】

はいどーもお邪魔するわよ(バァンと東雲が搬送されている治療室に乗り込む)

マダラ、例の。あの時のヤツ歌ってやんなさいよ
キリジ、あんたは…邪魔が入らないようにテキトーにやんなさい
でもって私は

マシンの呪縛から解放された今、戦友に戻ったのならユーベルコードも作用する筈だ

『お互い言いたい事はあるけど…アレよ漫画とかでよくある夕焼けの川原で殴り合ったとか所詮そんなもんなのよ。私達の事は。だからあとの面倒な事は大人に任せちゃいなさい

私達、まだ子供なんだから』

「あとこれ置いておくわ」
都市への留学手続きのデータが入ったメモリ媒体
望むのなら他の学兵も連れてきてもいい

今度はオフで会いましょう


斑星・夜
【特務一課】

ギバちゃんギバちゃん、ドアはもうちょっと静かに開けようねぇ
なんて言いながらギバちゃんやキリジちゃんに続いて中へ
那琴ちゃんの具合どうかな、結構傷が酷そうだけど……

あ、いいね、オーケー!まかせて、あれだね!
ギバちゃんのリクエストに答えて『小さなお星様』を口ずさんで、那琴ちゃんの治癒を手伝うよ~
那琴ちゃんが早く良くなりますように、星に願いをこめて
……愛宕連山の時も歌ったね。つい最近のような気がするよ

ねーキリジちゃん
那琴ちゃんや白羽井の皆がうちに遊びに来てくれたらさ
ケーキとかジャンクフードとか、いっぱい並べて
パーティーしたりカラオケしたり、ねむいのちゃんに写真撮ってもらったりさ、したいねぇ


キリジ・グッドウィン
【特務一課】
ギバ、お前の「常識を知ってるけどあえて無視する入室の仕方」恐れ入る。ま、誰か来るかどうかくらいは見ておくわ
入口付近で端末を取り出し報告書を作成
日乃和上層部ならびに沈静化された反乱分子の動き、アークレイズ・ディナとの交戦結果、東雲那琴の現在の容態、投薬を施された学兵たちの様子(そういやプラントのレプリカントはどうなった?ま、いいか)

はたと手を止めて、前回出逢った白から黒へ転じたキャバリアについて思考する。同じ戦場に入る猟兵は少なくないが……アイツ何者なんだ?
それにあの蝶

ギバとマダラの様子を見て報告書を開き直し、「それから日乃和の学生達の第三極東都市への(短期)留学手続きについて」



●ダイナミックお見舞い
 那琴の身柄は重症の状態で猟兵達に抑えられた。その場で応急的な処置を受けた後に特務艦隊によって回収されたのだが、彼女の身柄が移送されたのは大鳳艦内の集中治療室だった。というのも特務艦隊の医療施設には猟兵達がアークレイズ・ディナとの交戦を開始した時点で負傷者が次々に搬送されており、病床が埋まってしまっていたのだ。そこで目を付けられたのが無人で稼働状態にある大鳳だ。
「はいどーもお邪魔するわよ」
 その大鳳艦内の集中治療室が天城原の足によってダイナミックに蹴り開かれる。扉が外れたのではないかと思わせる程の衝撃音と共に天城原が入室、斑星とキリジが後に続く。
「ギバちゃんギバちゃん、ドアはもうちょっと静かに開けようねぇ」
 斑星が柔らかな微笑で嗜めるも、立ち塞がる物は張り倒す側の人間である天城原にはあまり効果が無いらしい。
「……お前の常識を知ってるけどあえて無視する入室の仕方恐れ入る」
「常識とバリアは破るためにあるものなのよ」
 口角を引き攣らせてひっそりと呟くキリジに対して、天城原はさも当然といった様子で振り返りもせず答えた。
「あーらら、まるでまな板の上の魚ね」
 集中治療室の中央に置かれた処置台の上の那琴の有様は、まさしく天城原が揶揄する通りであった。寒々とした薄暗い室内には心電計が刻む規則正しい電子音と那琴の呼吸音が充満している。視線を一巡させた限りでは医療スタッフらしき人間は見当たらない。
「具合どうかな? 結構傷が酷そうだけど……」
 訪ねた相手は荒く胸を上下するばかりで眼を開かない。危なげに上から覗き込む斑星の目が真っ先に捉えたのは那琴の腹から生えた突起物。かなり深く突き刺さっているものの、奇跡的に内臓や主要な血管を擦り抜けているらしい。
「なんで誰もいないのよ?」
 この状態でよく放っておけるなと天城原は苛立ちを隠さずに言う。
「医者が足りねェとよ。んで手付けの処置だけして一旦放置……血が用意出来たら引っこ抜くんだが、それまで下手に動かせねェんだとさ。ま、そうそう簡単には死にやしないが死ぬほど痛いんだろうな」
 台本を読むかのような抑揚でキリジが答える。彼は集中治療室の入り口付近で壁に背を預けていた。
「それどこ情報?」
 天城原の訪ねに対してキリジは手に持った板状のタブレットをかざして見せる。
「ふぅん……なら私達はあっちの処置をやっときましょうか」
「あっちってどっち?」
 斑星の眉宇に疑問符が浮かぶ。
「こっちよ」
 天城原は立てた親指で自身の鳩尾の下を二度叩き、人差し指でこめかみを二度叩いた。
「という訳だからマダラ、例の……あの時のヤツ歌ってやんなさいよ」
「あ、いいね、オーケー! まかせて、そっちだね!」
 察しを付けた斑星の表情が明るく綻ぶ。そして囁くように、或いは祈るように歌う。あの日――愛宕連山を白羽井学園の子女達と共に抜けたあの日に歌った同じ歌を。あれから既に一年どころでは済まない時間が過ぎていた。だが星に願いをかけた歌声は、あの日あの時の記臆をつい数日前のような鮮明さで呼び醒ます。那琴の瞼の下で眼球が微かに動いた。
「マダラ、そのまま歌ってなさいよ。私は……」
 斑星と微かに視線を交わした天城原が不敵に嗤う。オブリビオンマシンの呪縛から抜け出た今なら、脳量子波はより直接的に響く筈だ。まだ神経にこびり付いているであろう残滓を剥がしてやる。天城原は強かな思惟を籠めて何度目かのアニムスフィアバーストを解き放った。
 集中治療室の天井直下に光輪が生じ、そこから綺羅星の如き淡い光を放つ粒子が舞い落ちる。斑星が口ずさむ祈りの歌と降り重なり、薄暗闇が無数の白い星々で満たされた。
「この歌……斑星様……?」
 掠れた声と共に那琴は瞼を微かに開く。
「お? 起きた? おはよぉ」
 斑星が力の抜けた笑みを添えて首を傾げる。
「天城原様……? ごめんなさい……わたくしは……取り返しのつかないことを……」
 上体を起こそうとした那琴を天城原が「寝てなさいよ」と嗜める。
「お互い言いたい事はあるけど……アレよ、漫画とかでよくある夕焼けの川原で殴り合ったとか所詮そんなもんなのよ。私達の事は」
 天城原は仕方ないと言いたげに息を抜いた。
「ギバちゃんの頭突き効いたでしょ?」
 斑星が額をさする真似をしながら言う。
「あとの面倒な事は大人に任せちゃいなさい」
「ですけれど……わたくしは……」
「私達、まだ子供なんだから」
 斑星と天城原の背後の向こうから「ガキはガキらしくしてろってな」とキリジの声が聞こえた。
「あとこれ置いておくわ」
 天城原は取り出した記憶媒体を見せ付けると、那琴のパイロットスーツの腰に備わるポーチにそれを忍ばせた。
「都市への留学手続きのデータが入ってるわ。望むのなら他の学兵も連れてきてもいい」
 目で何事かと尋ねる那琴に天城原はあっさりと答えてみせる。
「わたくしは……あなた方を……」
「済んだ事よ。忘れなさいな。今度はオフで会いましょう」
 天城原が微かな笑みを作ると、那琴の頬を雫が滑り落ちた。

 三名を遠巻きに眺めていたキリジは、冷たい壁に背を預け、端末に指を走らせた。任務完遂後、然るべき部署に提出する報告書を纏め上げる為に。まずは何から手を付けたものやら。暫し思考を止めたキリジは、取り敢えず思い付く限りを書き連ねるべく手を動かす。
 傍受可能な通信内容から窺い知れる限り、日乃和政府の上層部は事前情報通りに今回のクーデターを初めから無かったものとして処理するつもりのようだ。事後処理の生贄に捧げられるのは後藤宗隆大佐に違いないだろう。
「責任をおっ被らせられるのは大人の役回りか……」
 先の天城原の言葉を頭の中で反芻する。その大人が指を詰めるお陰で反乱軍の大多数は無罪放免――というよりも何事も無かったかの如く日常へと返される。自分達の運命を受け入れたのか、オブリビオンマシンの精神汚染が解除された振り返しなのか、はたまたケルシーが植え付けた恐怖が原因なのかは不明だが、身柄を確保された反乱分子達には今のところ騒ぎ立てる様子は見受けられない。
「これで丸っと一件落着……って流れにはならねェんだろうがな」
 オブリビオンマシンが消えたからといって刻み込まれた憎しみが消えるとは限らない。彼等彼女等の中にはこれからもずっと残されるのだろう。幾多の痛みと共に。
 その彼等彼女等が多用している戦術薬物だが……相変わらず改良を重ねたものが投与され続けているようだ。効能はより高く。副作用はより薄く。依存性はより深く。先の戦闘でも使用されていた点からすれば、猟兵と渡り合う為に必要な要素の一端にまで価値が高まっているらしい。そして体内に残留する薬効は消して消える事は無い。
「死ぬまで飼い殺しか……」
 戦いが終わったらどうするつもりなのだろうかとの言葉が喉元まで迫り上がってきたが、発する前に形を失った。どうせ死ぬまで戦いが終わる事など無いのだから。
「後は……あいつか」
 南州第一プラントの最奥部、プラントの中枢に組み込まれていたレプリカントの女。葵結城は母機と呼んでいたが――暁作戦開始前には既に南州第一プラントが稼働状態に戻っていた。つまりは元鞘に収まりせっせと物資精製に勤しんでいるのだろう。
「ま、こいつはいいか」
 再びプラントが暴走するか日乃和の敵国から破壊依頼を請け負うでもなければもう二度と会う事もあるまい。この先同型のレプリカントと遭遇する可能性は否定出来ないが……人喰いキャバリアの出所となっているらしいゼロハート・プラントとの関連性が浮かんだが、考えを及ばせても関係の無い事だと意識から流した。
 残りは先の戦闘記録内容を書き起こして終いだろうか。対猟兵戦を想定した仕様……発案に至るだけなら当然だろう。オブリビオンマシンの事など与り知らぬ一般人からしてみれば、敵側に回った猟兵など対策を講じるべき脅威でしかないのだから。問題はあの機体自体にある。直接対峙した際に感じた重圧。あれは南州第二プラントの任務の終了後、大鳳に乗船していた時に足元から感じた重圧と同一だった。
「あん時にはもう側に居たって訳だ」
 南州第一プラントの調査の折にも沙綿里島の折にも、常に猟兵の直近に在った。
 アークレイズ・ディナとの交戦を振り返る最中、不意に指の動きが止まった。戦闘に割り込んできた白磁の装甲のキャバリアを思い返したからだ。黒鉄色に化けたあの機体……姿形は変われども、どちらも同じ機体である点に疑いを挟む余地はない。
「あの蝶は……」
 視界の端に幻が見えた。脳裏に焼き付いた燐光が視せたのだろう。オレはあの蝶を知っている。だが確証が無い。
「ねーキリジちゃん」
 斑星がキリジの隣に並んで壁に背を付けた。
「なんだァ……? 今取り込み中なんだが」
 止まっていた思考が引き戻され、指が再び忙しく盤面を叩き始める。
「どうする? 那琴ちゃんや白羽井の皆がうちに遊びに来てくれたらさ」
「どうするったってもな」
 半ば上の空で答えるキリジの無表情を斑星が覗き込む。
「ケーキとかジャンクフードとか、いっぱい並べて、パーティーしたりカラオケしたり、ねむいのちゃんに写真撮ってもらったりさ、したくない? したいねぇ」
 軽く緩やかな笑顔を綻ばせる斑星を横手に、キリジは眉を顰めて肩を落とした。
「そういうのはギバとマダラでやってくれ」
 端末の画面上の文字を視線が追う。上方に差し掛かった際に、端末の縁越しに寝たきりの那琴とそれに話しかける天城原が見えた。
「……そもそもウチに来れば、だがな」
 キリジの指先が画面を滑る。作成中の報告書に新たなページが増えた。
 標題は『日乃和の学生達の第三極東都市への(短期)留学手続きについて』だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カシム・ディーン
やれやれ…ここまでして死なせたらそれこそ骨折り損だな?
ま、彼奴の仲間か彼奴自身からエロいお礼があるかもしれねーし気張るか(まあ、期待はしてねーけどやることはやるとすっか)
「あれ使うんだね☆」

【情報収集・視力・医術・属性攻撃】
容態を確認
血が足りないなら更に必要な血液を輸血できる候補者を捕捉
生命属性を付与し活力を高め
UC発動
「他の怪我人さんも癒すぞ☆」
ギリギリまで発動し治療する

後はこいつ次第だな

さて…
なぜこいつらがこんな反乱を起こしてしまったのか…
あのオブビリオンマシンの出所は何処なのか…一応聞き込みと調べてみるか
「調査タイムだね☆」
ま、上手くいくかはわからねーし次いででしかねーがな?



●最後のお楽しみ
「取り敢えず始末は着いたが……」
 カシムはメリクリウスの中で視線を左右に巡らせる。
「ここまでして死なせたらそれこそ骨折り損だな?」
 悪戦苦闘の末漸く確保した身柄。メルクリウスを傷付けた甲斐があったと思いたいものだが。
「メルシー凄い痛かったぞ☆」
 背後から血濡れの銀髪少女の幻影が現れ、カシムの首に腕を回した。
「うおおおおお!? おいばかやめろ!」
 不意打ちに背筋が震え上がった。抗議するも銀髪少女ことメルシーは離れない。
「ま、彼奴の仲間か彼奴自身からエロいお礼があるかもしれねーし気張るか」
「下心ダダ漏れだね☆」
「何を今更」
 実際希望通りの歓待があるかはさておき、やるべき仕事はこなさねばと思い立ったカシムは早速行動に移る。なお日乃和女子の多くは命短し恋せよ乙女な性格なので露骨かつ積極的に押せば一夜限りの条件付きでカシムの思惑通りに運んでいたかも知れない。
「血が足りないって話しだったな……メルシー、ちょっと手伝え!」
 カシムは双眸を閉ざし、自身の機体を介して視覚野を拡大させる。探索するのは那琴と同型の血液を身に巡らせている人間。輸血用血液製剤は那琴が搬送された大鳳艦内でも保管されているだろう。万が一それが足りない、もしくは拒否反応が出た際に備えて人間の生き血を用意しておくのは決して悪手ではない筈だ。
「見付けたよ!」
 先んじてメルシーが黄色い声を上げる。
「ああ……だがこいつって確か……」
 双眸を開いたカシムの表情は訝しげだった。
「……大鳳の艦長だよな?」

『そうですか。では私の血をご利用ください。私の血であれば、必ず適合する筈ですので』
 大鳳の艦長――葵結城大佐に対してカシムが単刀直入に切り出した要求は二つ返事で快諾された。そして即刻大鳳艦内の集中治療室に送り届けた。現在の結城は処置台で横たわる那琴へ器具を介して血液を分け与えている。
「でっけぇな……」
 丸椅子に腰掛けるカシムは、自分の顎をなぞりながら極めて真面目な表情で言った。感嘆を秘めた眼差しの先では、医療用のリクライニングチェアに深く腰を沈めた結城が蠱惑的な薄笑いで見返していた。カシムが言うところのでっけぇなとは、きっとたわわに実った双丘を差しているのだろう。
「セクハラは死罪だぞ☆」
 カシムの隣では全く危機感の無い様子の銀髪少女に化けた神機……メルシーが背負う天輪を輝かせていた。
 天輪の発する光は治療型ナノマシン。システム・アスクレピオースに起因するこれはオブリビオンマシンによる魂の蝕みにさえも治癒効果を及ぼす。カシム自身の活力増強魔術も相乗して作用する事で、那琴が負った外傷の治療は勿論ながら、血を分け与える結城の体力を支える一助にもなっていた。
「どうぞお構いなく」
 カシムから視線を受ける結城は双眸を細めて浅く首を垂れた。
「え? それってつまり……」
「そろそろ止めないと死んじゃうよー!」
「うおっと!」
 弾かれたかのようにメルシーへ向き直ったカシムは解除停止ストップと何度も強く念じる。するとメルシーが背負っていた天輪は瞬時に光の泡となって霧散した。対病根絶機構『医術の神の子』は強力な治癒効果をもたらす一方、自身の力量を超えて行使し続けるとメルシーの言う通りに命に関わる事態を招く。
「もうそんなに使ってたのか……」
 危うく三途の川を渡り掛けた。カシムは椅子に腰を落ち着かせると深く呼吸を吐いた。
「胸ばっかり見てるからだぞ☆」
 今回ばかりはメルシーに反論しかねる。死因が巨乳の凝視だなんてとてもでは無いが死にきれない。
「悪いがユーベルコードが使えるのはここまでだ。そっちは大丈夫なのか?」
 結城と那琴を繋ぐ管がより赤く見える。既に結構な量の血を分け与えている筈だ。
「お気になさらないでください。ご配慮ありがとうございます」
 薄気味悪いか妖艶かはカシムの好みに依る処だろう。どちらにせよ結城は変わらぬ笑みを浮かべたまま柔らかに頭を垂れた。
「さて……」
 やる事が無くなった――やりたい事はあるのだが流石に負傷者に手を出す訳にはいくまい。カシムは横目を那琴へと送る。戦火に煤けても尚艶を放つ濡羽色の髪が目に付いた。そう言えば結城も大層美しい濡羽色の髪の持ち主だ。交互に両者を見れば髪だけではなく顔立ちもどこか似ている気がする。結城が言っていた自分の血は必ず適合するとはつまり血縁関係だからなのだろうか? 無意識に結城の琥珀色の瞳を覗き込んでいるとまたしても薄い微笑を返された。
「ねーねー? 聞き込みしなくていいの?」
 メルシーはいつの間にかどこからか丸椅子を持ってきて隣に座っていた。カシムは物のついでに済ませておこうと考えていた用事を思い出させられ、改めて結城と向かい合う。
「結城さん……いや葵艦長って呼ぶべきか? 幾つか聞きたい事があるんだが……」
 探るような言葉運びで尋ねる。
「どうぞ、可能な範囲でよろしければお答えさせて頂きます」
 もう何度目になるかも分からない会釈が返ってきた。
「そうか、なら早速……今回の反乱のそもそもの原因は何だったんだ?」
 勿体ぶって聞いても仕方あるまい。カシムは簡潔に本題へと切り込んだ。すると結城は困り眉を作って微笑を見せた。
「お話しすると非常に長くなってしまうのですが……」
「あー、要点だけでいい」
 どうも結城の言わんとしている事は言葉通りの意味らしい。結城は「わかりました」との一言の後、やや間を置いてから語り始めた。
「反乱の原因は現内閣府に対する怨恨……取り分け南州第一プラントの暴走事故と、その事故を隠蔽した政府への復讐が主な動機かと」
「プラント事故? 隠蔽?」
 穏やかでは無い文言の羅列にカシムが目を細める。
「後藤大佐を始め、今回の反乱に加担した者の多くはプラントの事故でご家族や親しい関係にあった方々を亡くしております。東雲官房長官のお話しをお聞きになっていたのであればご存じかと思われますが、そちらの那琴少尉も間接的ながらもプラント事故が原因でご学友を亡くしているのです」
 そういえば任務開始直前、首相官邸から駄々漏れになっていた通信音声の中でそんな話しを聞いたような、聞かなかったような。
「つまりなんだ……要は怨念返しと?」
 緩慢に深く頷く結城の面持ちに憐憫の色が滲む。細事はどうあれ話しとしては陳腐なまでにありふれたものなのだろう。
「あのオブビリオンマシンは……那琴少尉が乗ってた機体の出所は?」
「ほう? あれがオブリビオンマシンだったのですね?」
 怪訝に首を傾げるカシムに結城は妙に嬉々として目を伏せた。
「あの機体は南州の第二プラントを奪還した際に併せて我が大鳳が回収したものです。その後は政府の命令を受けて大鳳の艦内で保管しておりました。猟兵様から提供された機体と聞き及んでおりますが、それ以上は存じておりません」
「そうか……」
 カシムは腕を組んで俯いた。いま結城は間違いなく猟兵から提供された機体だと言った。アークレイズ・ディナが出現した際、東雲官房長官は機体の提供者が存在する事を仄めかしていたが、その提供者が猟兵なのだろうか。
「つまりオブリビオンマシンを日乃和に送り付けた猟兵がいるって事か……?」
 見詰めた床は何の答えも返してくれない。
「ねーねー! お礼して貰わなくていいの?」
 途方も無く空気の読めない黄色い声が隣から上がる。犯人は勿論メルシーだ。
「おま……人が真面目に考え事してる時に……!」
「お礼ですか?」
 結城が微笑を崩さず、それでいて不思議そうに首を傾ける。
「ああいやこいつの言うことは……」
「ご主人サマはエロいお礼がご所望だぞ☆」
「だああぁぁぁー! やめろバカ!」
 しかしメルシーは止まらない。二人を眺める結城が口許を綻ばせた。
「そうでしたか。既に子を産んだ身ですが、それでもよろしければ……」
「いやいやこちらこそ宜しく……うん?」
 カシムは我が耳を疑いつつ結城へと向き直った。冗談では無いらしい琥珀色の瞳が見返している。
「カシム様は私に那琴少尉を救う役割を与えてくださいました。その程度の御礼で本当にご満足頂けるのであれば、喜んで身を捧げるつもりですので」
「やったねご主人サマ!」
「いやそうじゃなくてだな!? メルシーちょっと黙ってろ!」
 ひたすらに自分の調子を崩さないメルシーと結城に対して慌てふためくカシム。自称天才魔術盗賊が選んだ選択は、きっと本人と傍に居た一人と一機にしか判らない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャルロット・ゴッドハンド
塩沢たまきマスターにおまかせします。かわいくて強いシャルロット・ゴッドハンドをお願いします!

 「しゃぅもあそぶー!」
 小さな壺からパワーフードの妖精蜂蜜を取り出して食べ、その甘さで力が湧き肉体改造します。超怪力と怪力を発揮。

 5m以上ある相手でも片手で掴み、妖精の羽で空を飛び、振り回して地面に叩きつけたり、見た目で侮ったり油断した相手の機体を砕き、空の果てまで殴り飛ばしてお星様に。
 あとはおまかせ。

●NG
キャバリアの操縦



●|女雌牝《つよさ》比べ
 地上最強。それは、乙女ならば誰もが一生に一度は憧れる夢――なのかは個人に依るが、シャルロット・ゴッドハンド(クロムキャバリアの都市伝説 妖怪「怪力全裸幼精」・f32042)はそれに近い素養を秘めていた。
「はっちみっつ♪ はっちみっつ♪ おいしぃなぁ〜♪」
 路上の中央で浴びるように蜂蜜を喰らうその身は全長僅か15cm。丁度成人男性の手のひら程度の大きさだ。一見すると戦場に不似合いな可愛らしいフェアリーでしかない。だが彼女は違った。
「あ! そらとぶきょじんさん!」
 ビル街を駆け抜けるイカルガがシャルロットの頭上を素通りした。どうやらシャルロットが小さ過ぎて視界にすら入っていないらしい。
「しゃぅもあそぶー!」
 だがシャルロットにとってそれは問題にならない。喰らいたい時に喰らい、遊びたい時に遊ぶ。それが強者の特権である。
「しゃぅと、おそろ〜い♪」
 黄色く可愛らしいシャウトと共にシャルロットは羽を広げた。同時にユーベルコードが発現していたのたが、恐らくあってもなくても結果は変わらないだろう。
「つぅ〜かまぁ〜えたっ!」
 側近を通過しようとしたイカルガの爪先にシャルロットの手が触れた。イカルガは石に躓いたかの如く前のめりに転倒、アスファルトの地面に沈んで動きを止めた。続いて新たなイカルガが直進してくる。シャルロットを狙っている訳ではないようだが、シャルロットは自分と遊んでくれているものだと認識したらしい。
「きゃ〜っち!」
 今度はイカルガの腕部を掴む。直進に向かっていた運動エネルギーは突如横方向に逸らされた。シャルロットはそれを遠心力に転換してイカルガを振り回す。そして投げた。
「どっか〜ん!」
 シャルロットの手から解放されたイカルガはビルの壁面に背部を叩き伏せられた。窓硝子が粉々に砕け、銀色を反射しながら吹雪の如く舞い散る。
「きらきら、きれぇ〜!」
 沈黙したイカルガを前に、シャルロットは硝子片の雨を受けて蝶のように踊る。本来ならば危険極まりない鋭い凶器に一瞬で全身を引き裂かれてしまうところなのだが、シャルロットの身体はそれらを物ともしない。
 僅か15cmの大きさにまで縮退させた莫大な筋肉。蜂蜜状の何かで体内より増強された肉体には細かい理屈など必要無い。シャルロット自身がシャルロットと言う名の力なのだ。
「つぎはどこいこっかなぁ?」
 硝子片の吹雪に満足したのか、シャルロットはビル街を越えて飛翔する。眼下に広がるのは夜光に彩られた大都市。視線を一巡させると何か面白いものでも見付けたらしく、アゲハ蝶にも似た羽を広げて何処かへと飛び去っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天城・千歳
【SPD】
絡み・アドリブ歓迎

さて、反乱騒ぎはほぼ終了、後始末の時間ですね。こちらも出来る事をやりましょう。

UCを継続使用し、愛鷹艦内からサテライトドローン群を起点に香龍全体に構築した通信・観測網を使い【索敵】【偵察】【情報収集】を行い武装したまま逃亡中、または反撃準備をしている反乱軍残党を捕捉次第、日乃和軍又は付近の猟兵に【情報伝達】で連絡し制圧を要請。直に対応できる部隊が居ない場合は【戦闘知識】【瞬間思考力】を使い機体を【ハッキング】し【データ攻撃】で電子的に制圧します。
戦闘で発生した通信・観測網の穴は日乃和軍のドローンを借用して埋めます。
通信・観測網を通じて得た情報はネットワークを通じて味方と共有します。
事態の収束を確認後、通信・観測網を使い【情報収集】【情報検索】を行い【プログラミング】で都市機能及び軍のネットワークの復旧を行い、後始末を行います。
戦闘により破壊されたインフラに関しては破損場所と状態の一覧を制作し政府に提出。後の対応はお任せします。



●猟兵共が夢の跡
 愛鷹の艦橋に立つ千歳のセンサーカメラが淡い青光を放つ。
「この辺りも随分物々しくなりましたね」
 抑揚の薄い電子音声の通り、愛鷹が待機している香龍東の海上には作戦開始当初の穏やかさなど面影すら残されていない。三笠を筆頭に日乃和海軍の艦艇が次々に到着し、海上を埋め尽くさんばかりに展開している。その中であっても愛鷹の船体はは一際異質な雰囲気を醸し出していた。
「さて、反乱騒ぎはほぼ終了……」
 既に大勢は決した。オブリビオンマシン亡き今、事態の収束は時間の推移と共に果たされるだろう。だが何事にも終わらせ方というものがある。
「ここからは後始末の時間ですね」
 オブリビオンマシンの置き土産を処理するべく、千歳のラプラス・プログラムが廻り始める。視野の中に幾つもの盤面が四角形に切り抜かれて出現した。
「サテライト・ドローン群は反乱軍残党の追跡を開始」
 盤面の一つが拡大表示される。分割画面で映し出されたそれは、香龍全区に放った遠隔機動端末が撮影した映像だった。損傷を受けながらも未だ市街を駆けるイカルガは反乱軍所属の機体だ。
「座標位置捕捉……日乃和軍の近接戦術データリンクに相乗りさせてもらいましょうか」
 千歳は機体を直立不動に保ち電脳だけを稼働させる。先ほどのサテライト・ドローン群が撮影した反乱軍の機体の映像を元に最寄りのカメラを検索、カメラの位置からより詳細な座標情報を特定したらしい。
「指定座標にて敵軍を確認。首相官邸に向かう兆候有り。急ぎ鎮圧されたし」
 正確な位置情報が掴めればその後の足取りも予測し易い。粛々淡々とした女性の声音で特務艦隊隷下のキャバリア部隊へと呼び掛ける。後は手出しせずとも彼等がやってくれる筈だ。面子の問題もあるのであまり仕事を奪い過ぎるのもよろしくないだろう。千歳は次なる目標への対処へと意識を移す。戦闘を避けて迂回路を経由して香龍外へ離脱を試みる数機のイカルガを発見した。
「周囲に友軍機無し……これは私の方で対処するべきでしょうか」
 日乃和軍の機体は強固な電脳魔術対策が施されているため、電子的な干渉には少々手間を要する。しかし千歳にはラプラス・プログラムがある。如何に強固な守護りとは言えども、世界の理を捻じ曲げるユーベルコードを完全には防ぎ切れまい。既に掌握した反乱軍の機体を伝ってデータリンクに浸透、逃走するイカルガの足を止めるべく制御系へと干渉を及ぼす。
「推進機能だけを無効化すれば十分でしょう」
 千歳の標的となったイカルガのバーニアノズルが、ガス欠になったかの如く噴射炎を断続的に途切れさせ始めた。滞空するのに十分な推力を得られなくなったフライトユニットは単なる重りと化して、イカルガのアンダーフレームを無理矢理にでも地に着けさせた。推進加速が封じられてしまえば追撃を振り切れる道理など無いに等しい。千歳は推進機能を喪失した敵機の所在を特務艦隊の情報網に流すと、これで十分とまたしても意識を他所に移した。
「寸断されてはいますが、やり方次第で存外どうとでもなるものですね」
 千歳の言う所とは戦闘で破壊された通信網や観測手段なのだろう。香龍中に配置されている監視カメラは猟兵と反乱軍が激しい衝突を繰り返す中で少なからず喪失していたが、日乃和軍はドローンを飛ばす事で失った目を埋め合わせている。そして千歳はそれらも間借りさせて貰っていた。得た情報はデータリンクに洗いざらいしこたま流してやっているのだからお互い恨みっこ無しだろう。
「戦闘の推移は極順調……残るは……」
 本当の意味での後始末。即ち都市機能の復旧だ。猟兵達も派手にユーベルコードを撃ってくれたものだから破壊の規模は並ならない。大規模な停電こそ発生してはいないものの、そちこちで水道管の破断や橋脚の損壊が生じている。
「こちらの方でも纏めるだけ纏めておきましょうか」
 破損状態の確認自体はドローンを飛ばして観測する片手間で行える作業なので造作もない。千歳の電脳は事務仕事も斯くやといった冷徹な思考を巡らせる。香龍の夜景のように、千歳もまた眠る事を知らずに動き続ける。愛鷹の艦橋に染み渡る瑠璃色の月光が、千歳の機体の装甲をより深い青に浮かび上がらせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

露木・鬼燈
この先に僕を満たすような闘争はないだろうね
とゆーことで…お仕事は完了っぽい!
もう帰ってもいいんだけどサービス残業みたいな?
このまま東雲ちゃんに死なれたら後味悪いからね
応急処置は終わってるみたいだし僕は本格的な治療といこうかな
前にも借りた大鳳の医務室に臨時診療所を展開
生きてさえいればこの空間では生命維持は不要
絶対に死ぬことはないので安心ですね?
ちょっとばかり時間はかかるけど傷跡一つ残さずに治してあげるですよ
ふむふむ…なるほどなー
完璧に治すなら7日、通常医療に託せる程度までなら3日ってところかな
ついでにサイキックデバイスの影響とかも調べてあげるですよ
サイキック関連の発達したスペースシップワールドの技術も取り入れてるからね
まぁ、治療が終わるまでは最低3日はかかるので他の人も診てあげるですよー
時間とUCは有効活用しないとね



●摘出完了
「ここに入るのも随分久し振りな気がするっぽい」
 鬼燈が大鳳の医務室に足を運ぶのはいつ振りだろうか。南州第二プラントの電源を落とした帰り以来ならば、実に一年以上の期間が空いている。紫炎の瞳が見渡した室内は当時とさほど変わらず、鼻腔をくすぐる消毒液の香りも懐かしく感じた。かつてと違う点と言えば、人の気配が殆ど無い事だろうか。
 医務室の奥にある扉の向こうからは規則正しい電子音が微かに聞こえる。鬼燈は扉を開いた先の通路を伝ってエアロック紛いの消毒室を抜け、集中治療室に入った。
「もう帰ってもいいんだけど……このまま東雲ちゃんに死なれたら後味悪いからね」
 渇きを満たす闘争は既に去った。今更銃や剣を取る必要もあるまい。なればこそ他にやれる事もある。例えば処置台に寝かせられている那琴の外科手術など。幸い雇い主は事細かく追加報酬を支払ってくれる。手術が上手く進んだとして後程報告すれば小遣い稼ぎにはなるかも知れない。
「応急処置は終わってるっぽい?」
 先客が色々と手を焼いてくれていたらしい。唇の血色も幾分まともになっているし、血圧や心拍数も計測値を信頼するならば致命的という程でもない。パイロットスーツは着せられたままだが、これは下手に脱がせない方が良いだろう。生命維持機能と止血機能が失われて余計重症化しかねないからだ。
「これなら本格的な治療に取り掛かれるのですよ」
 その為には設備が必要だ。故に鬼燈は理想とする設備環境をセーフティエリアで構築する。突拍子も無く出現した台座にはメスやら鉗子やらの外科手術に必須な器具がずらりと並ぶ。麻酔等の薬品類も言わずもがな、全てが鬼燈の理想通りに取り揃えられた空間にて、いよいよ執刀を開始する。
「露木……様……」
 那琴が僅かに双眸を開いた。
「暫く眠ってもらうっぽい」
 鬼燈は那琴の口に酸素マスクをあてがうとガス式の麻酔を吸気させた。那琴が確実に昏睡したのを確認すると、マスクからの酸素供給量を再度設定し直した。
「ちょっとばかり時間はかかるけど、傷跡一つ残さずに治してあげるですよ」
 臨時診療所が維持されている限り死ぬ事は無い。遠慮無く切った繋げたが出来るという訳だ。突き刺さった金属片を除去するべく、全身麻酔で眠る那琴の腹部にメスを差し込む。
「ふむふむ……なるほどなー? 完璧に治すなら7日、通常医療に託せる程度までなら3日ってところかな」
 開いた体内を覗き込む。金属片は中々に際どい箇所を掠めて貫いていた。少し手元を狂わせれば内臓や重要な血管を傷付けてしまいかねない困難な処置を、鬼燈は何のことは無いと言わんばかりにあっさりと攻略してしまう。飄々とした振る舞いからは想像出来ない程の驚異的な集中力だ。那琴の体内から全ての金属片を取り除き、内部の消毒洗浄を済ませた後は慣れた手つきで縫合を終わらせた。
「ひとまずしゅーりょーっぽい」
 深く息を抜く。那琴の身に付着した血を拭ってやると、不意に腰回りに括り付けられた件の丁の字形の金属体が視界に入った。今も赤黒い光の脈動を繰り返している。
「これの影響もちょっと調べておいた方が良さそうなのですよ」
 またしても鬼燈が求める設備が呼び出された。仰々しいそれは脳波を測定する装置らしい。装置から伸びる吸着式の端子をサイキックデバイスと那琴の額に幾つか貼り付け、早速脳波の観測に取り掛かった。
「うーん? やっぱり那琴ちゃんはこれの影響受けてたっぽい?」
 那琴の脳波の乱れから判断するに外部から強力な思念波を受けた痕跡がある。サイキックデバイスが那琴の脳波を受信して思念波に変換、増幅して那琴へ逆流させ、そこから那琴が発した脳波をサイキックデバイスが受信して更に増幅。増幅と逆流を無限に繰り返して莫大な出力を得ていたようだ。JDSの記憶書き換えも相乗効果を与えていたのだろう。
「このデバイス自体がオブリビオンマシンに汚染されちゃってるようなのですよ」
 搭乗者に破滅的思想を植え込むオブリビオンマシンとこのデバイスの相性は正しく最適と言える。憎悪が深ければ深いほど、激しければ激しいほどデバイスがもたらす力も肥大化するのだから。今もサイキックデバイスは憎悪の思念波を放ち続けている。しかし既に人の精神を蝕める程の量では無い。処分しても良いのだが……迂闊に弄れば何が起きるか解ったものではない。触らぬなんとやらに祟りなし。今となってはこの金属単体では何も出来ないのだから。そう決まりを付けた鬼燈は脳波の測定を終えた。
「さーてさてさて、那琴ちゃんのオペは一旦お終いにして……」
 後は最低三日間をどうするかと視線を天井に流す。そう言えば無力化した反乱軍を収容した三笠以下特務艦隊の医務室は修羅場と化しているらしい。
「もうちょっと残業してもいいかな?」
 雇い主は胡散臭い連中だが金払いに関しては誠実だ。やった分だけ儲かるならばそれも悪くない。金は有限。時間も有限。ユーベルコードも併せて有効活用せねば。どうせ一人診た後なら何人診ても同じだと、鬼燈は集中治療室の扉の方へと向きを変えた。医療分野での戦いは、場所を移して今暫く続く次第となる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メルメッテ・アインクラング
真の姿から戻り、再び白へと。
『オブリビオンマシンとの戦闘は終わった。最早、留まる理由は無い』
主様の仰せの通りに。これより帰還致します

帰路の途中、先程(1章で)戦った皆様の御姿をお見かけしました
『私への賛辞の声が聞こえるな』
「まあ。流石は主様でございます」

荒廃した地、傷付いた人々……
世界からオブリビオンマシンがいなくなったと仮定して。人類が理解し合えれば、戦乱は終わるのでしょうか
『古来より、人が2人以上存在すれば争いは起きる。考えるだけ無駄だ
それに。誤解なく分かり合う為ならば秘した胸中を無理に暴いても許される、とでも?』
『自らの胸の音、巡る熱こそが真実だ
明かさずとも生き様に表れよう』
想いを貫いて生き続ければ伝わる事もある、との教えでしょうか
私も、貴方様に救われた命を、一日でも長く――

『まさか未だに、夜中、”死”に震えて泣いているのではあるまい?』
「……ご、ごく偶に。ですがメルは一人で何とか、いえ何とかではなく対処しております!業務に支障を来してはいませんのでご安心を!」
『……………………』



●鼓動
 人工の燈が彩る大都市に戦火孕む風が吹く。爆ぜた炸薬が大気を鈍く震わせ、幾多の機動兵器が主機から轟音を奏でて宙を駆け抜ける。
『終わりだな』
 高層建造物の屋上に立つ黒鉄の騎士の四眼が下界を見下ろす。
「はい」
 胸郭の奥底で短く応じた心臓もまた同じ光景を見ていた。骸の海より生じた過去の化身、オブリビオンマシン。盤上を動かし続けていた指揮者はもういない。残されたのは幾多の痛みだけ。因果の収束点を抜けたこの世界の時間は、再び正しい流れに回帰するのだろう。誰かが振りかざした真実が誰かを苦しめ、誰かが振りかざした答えが誰かを傷付ける。メルメッテがよく知るありふれた日常に。胸の奥底に得体の知れない重さが詰まる。
『最早留まる理由はない』
「主様の仰せの通りに」
 クラングウイングが拡げた双翼がラウシュターゼの機体を包み込む。真紅のカーテンの向こうに秘匿された黒鉄色の装甲が、端々から剥がれ分解されるように消えてゆき、白磁の装甲が露わとなる。ラウシュターゼが尋常の姿を取り戻すにつれて、メルメッテも身を焼き焦がす炎が去る感覚を覚えた。
 仮に真の姿が文字通りの意味ならば、今の私と主様の姿は――答えの無い疑念は炎の鱗片と共に消えた。白磁の騎士が真紅の翼を広げて姿を露わにする。
「これより帰還致します」
 ラウシュターゼの無言を承認と受け止め、メルメッテは操縦桿を引いてフットペダルを僅かに踏み込んだ。クラングウイングが推進噴射光を鳥の如くはばたかせる。透明な障壁が機体の周囲を球体状に覆う。まるで泡沫に包まれたかのように。
 ラウシュターゼはオブリビオンマシン亡き香龍を翔ぶ。眼下にあるのは過ぎた過去。向かう先は辿るべき帰路。
「あの方々は……」
 モニター越しに周囲に視線を回していたメルメッテが不意に呟く。中央区画の大きな十字路にて幾つかの機体が擱座していた。その傍らには搭乗者と思しき者達がいる。誰もが一様に頭上を翔ぶ白磁の騎士へと目を向けていた。
『良い太刀筋だった……だと?』
 ラウシュターゼが言葉尻を怪訝に歪める。
「まあ。流石は主様でございます」
 メルメッテはまるで我が事のように誇らしげだった。実際に半分程度は我が事なのだろうが、主君が栄誉を受ける事は従者の栄誉でもある。
『あの程度など児戯に過ぎん』
 どこか決まり悪く素気ないラウシュターゼにメルメッテは微かに表情を綻ばせていた。しかし面持ちに影が被さる。機体の残骸や破壊された生活の痕跡、搬送される負傷者達の姿が視界に入り込んだからだ。
「世界からオブリビオンマシンがいなくなったと仮定して……人類が理解し合えれば、戦乱は終わるのでしょうか……」
 答えなど分かりきっていた。人が生きている限り戦いは続くのだから。
『古来より、人が二人以上存在すれば争いは起きる。思案するだけ無駄だ。人間の一生は生命が尽きる瞬間まで戦いなのだからな』
 メルメッテは浅く頷く。あっさりと否定された事に寧ろ安心感さえ覚えていた。
『それに、誤解なく分かり合う為ならば秘した胸中を無理に暴いても許される……とでも?』
「いえ……」
 それはきっととてつもなく恐ろしい魂の陵辱だろう。真に分かり合えてしまえば――心がひとつに溶け合ってしまえば、こうして主君と話す必要さえなくなってしまう。想いを伝える意味が消えてしまう。魂がなくなってしまう。鼓動が失われてしまう。
『自らの胸の音、巡る熱こそが真実だ。明かさずとも生き様に表れよう』
「そう……ですね」
 メルメッテは確かめるように胸に拳を埋めた。誤解なく分かり合えないから、こうして鼓動を感じる事が出来る。私が在って、ラウシュターゼ様が在って、世界が在って……そこにあなたが居る事を感じられる。
 人には想いを伝える手段がある。この目、この手、この声。これらで想いを貫き、生きて戦い続ければ伝わる事もある。主君はそう教えてくれたのだとメルメッテは胸の奥底で信じた。
「私も、貴方様に救われた命を、一日でも長く……」
『まさか未だに、夜中、”死”に震えて泣いているのではあるまい?』
 無意識に溢してしまった囁きをラウシュターゼは聴き逃さなかった。探る声音が容赦なく突き刺さる。
「ご、ごく偶に」
『ごく偶に、だと?』
 やり過ごすべく咄嗟に出してしまった言葉をメルメッテは激しく後悔した。
「ですがメルは一人で何とか……」
『何とか?』
 ラウシュターゼの追撃は目敏く容赦無い。メルメッテの視線が忙しく右往左往する。
「いえ何とかではなく対処しております! 業務に支障を来してはいませんのでご安心を!」
 とんでもない早口で言い終えた頃には息が上がっていた。コクピット内に降りる沈黙が痛い。
『そうか、よく解った』
 抑揚無く、それでいて念を押すような言葉運びでラウシュターゼが言う。どう解釈されてしまったのだろうか。さっきの気不味い間からして全部察せられてしまったのかも知れない。メルメッテの頭の中で考え付く限りの可能性が泡のように噴き出してくる。
『だが……その恐れさえも、お前の魂なのだ』
 ややあってラウシュターゼが抑えた声音で呟いた。意味が指す場所を掴み損ねたメルメッテは我知らず目を丸くする。尋ねようと僅かに開かれた唇は声を発する前に閉ざされた。
 この言葉の答えは自分の中で決めるものなのだろう。自らの胸の音、巡る熱こそが真実。そう教えてくれたのだから。
「はい、主様」
 口許に微かな笑みが浮かぶ。ラウシュターゼはもう何も語らない。メルメッテが機体を加速させると、大きく羽ばたいた真紅の翼が蝶の燐光を後に遺した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シル・ウィンディア
リーゼ、もう少し頑張ろうか
終わったら、しっかりメンテしてあげるからね。

機動力も落ちているけど、それでも行かないとね。
エール・リュミエールを稼働させて、上空に舞い上がるよ。
イカルガ隊を止めるためにっ!

接敵迄の現在のリーゼの状態を確認。
スラスターは生きているから、戦闘機動は可能。
バランスは接敵迄に感覚をつかんでいくよ
…武装で今使えるのは、ツインキャノン、バルカン、リフレクタービットとホーミングビーム、そして、セイバーか…。

それでもっ!

コックピットは外していくよ
戦死者なんか出さないからっ!!

リフレクタービットを展開して、ホーミングビームで攻撃。
避けられても、ビットに向っていくような位置取りで撃っていくよ
反射したビームも有効活用だね。

ツインキャノンで狙うのはアンダーフレームだね。
オーバーフレームが残っていたら、何とかなるでしょ。

近接されたらバルカンで牽制
接近を嫌がるような動きをあえてして、近づかれたらセイバーでフライトユニットを切断だね。

囲まれたら、エレメンタル・シューターを使用して切り抜けるね



●傷付いても
 因果の分岐路を袋小路に追い込み、盤面を傾け続けていた者は既に亡く、無秩序に伸びた可能性の葉脈は今も尚拡がり続けていた。
「リーゼ、もう少し頑張ろうか」
 各部に黄色や赤の表示光を灯した機体ステータスにシルが声を掛ける。アークレイズ・ディナとの交戦でレゼール・ブルー・リーゼが受けた痛みは重く深い。しかしまだ動ける。壊れかけた機体を立ち上がらせ、双翼型の推進装置に青白い光を宿す。
 シルは改めて使用可能な兵装項目をサブウィンドウ上に呼び出す。ヴォレ・ブラースクは喪失を示す灰色に非活性化されている。ツインキャノンも片側が使用できない。リフレクタービットはアークレイズ・ディナがエレメンタル・ファランクスもどきを放った際に殆どが破壊されてしまった。その他の兵装も何かしらの損傷なり不具合を受けている。そしてレゼール・ブルー・リーゼ自体も満身創痍であった。
「それでもっ!」
 オブリビオンマシンが遺した呪いによって混沌に広がる時間の流動を正す為に、レゼール・ブルー・リーゼはアスファルトの路面を蹴った。同時にウイングスラスターが青白い波濤を吐き出す。すぐに機体は地上から数十メートルの高さにまで飛び上がった。痛めつけられた機体の各部が警告メッセージとして悲鳴をあげる。
「終わったら、しっかりメンテしてあげるからね……!」
 機体の訴えに胸中を締め付けられながらも、シルは操縦桿を前傾させてフットペダルを踏み抜く。レゼール・ブルー・リーゼがオフィスビル街を駆け抜けると、レーダーグラフに表示された赤い光点との距離が急速に縮まった。恐らくは首相官邸へ最後の攻撃を仕掛けるつもりの反乱軍のイカルガ達なのだろう。
「戦死者なんか出さないからっ!」
 数機のイカルガで構成される編隊を正面に見据えた。レゼール・ブルー・リーゼはスラスターを間欠噴射して直進加速する。軌道上に置かれたアサルトライフルの火線が装甲を掠めた。被弾警報とコクピットを揺さぶる衝撃にシルは面持ちを苦悶に歪める。機体の損傷が自分の痛覚を通して伝わってくるような錯覚さえ感じた。それでも直進は止まらない。極低空を滑空してイカルガの足元から後方へと抜ける。
「いまっ!」
 エール・リュミエールが向きを反転させる。急激な旋回にシルの華奢な身体に重力負荷が襲いかかった。シルは歯を食い縛って耐え抜くと、イカルガの編隊を再度視界に収めて操縦桿のトリガーキーを連打した。リュミエール・イリゼが幾つもの虹色の光線を放つ。イカルガ達は指向性レーザーを見留ると瞬時に散開機動を取った。目標を見失った光線は何も無い虚空を貫く。しかし射線上に小型自律端末が割り込んだ。その端末が発する障壁を直撃したレーザーは軌道を鋭角に偏向、散開したイカルガの主要な推進機関を撃ち貫いた。
「オーバーフレームが残っていたら、何とかなるでしょ!」
 姿勢を大きく崩したイカルガをグレル・テンペスタの砲門が睨む。溢れた魔力粒子の青白い光が放出される。超高温の光芒はイカルガのアンダーフレームを飲み込んで溶かし落とした。半身を喪失したイカルガが黒煙と共に地表へと吸い寄せられてゆく。
「まだ来る……!」
 レーザーを逃れたイカルガが二機、アサルトライフルを連射しつつ両翼から迫る。レゼール・ブルー・リーゼは後退推進加速しながら機体を左右に振り、ビルの最上階に到る程度の高度まで上昇した。
「スピードが乗らない!?」
 推進装置が本調子ではない為、いつものように強引に振り切るという訳にはいかない。挟撃を仕掛けるつもりであるらしいイカルガの一方を頭部ビームバルカンで牽制する。怯んだ敵機が直進を中断して回避運動に移った。しかしもう一方のイカルガが荷電粒子の剣を抜いて迫り来る。レゼール・ブルー・リーゼのマニピュレーターが握るエトワール・ブリヨントの発振機に、夜空に散りばめた硝子片のような輝きが集束し始めた。イカルガとの距離が零に詰まる。荷電粒子が袈裟斬りに閃く。横方向へと瞬発加速したレゼール・ブルー・リーゼの肩部装甲が削ぎ落とされた。
「翼さえ……!」
 レゼール・ブルー・リーゼが機体の正面方向を翻して前進加速する。イカルガと交差した刹那、エトワール・ブリヨントの刃が横に滑った。切り抜けた最中にシルは横目でイカルガの背面を見た。光刃剣を振り切って姿勢を反転させると、フライトユニットを溶断されたイカルガがふらつきながら高度を次第に下げて行く。
「囲まれた!? でも!」
 敵は一機を犠牲としてレゼール・ブルー・リーゼの包囲網を完成させていた。喧しい誘導弾被照準警報音がシルの耳朶を打つ。
「精霊達よ、我が声に集いて……」
 イカルガ達から一斉にマイクロミサイルが放たれた。それらは白いガスの尾を伸ばしてレゼール・ブルー・リーゼの元へと駆け込む。シルはレーダーグラフ上で誘導弾を示す光点が自機に集束する寸前を待っていた。
「全てを撃ち抜きし光となれっ!」
 最後の詠唱と共に、ホーミングビーム砲を触媒としてエレメンタル・シューターが解き放たれた。数百以上に及ぶ四属性を混合させた魔力粒子光線が複雑怪奇に乱れ飛び、レゼール・ブルー・リーゼの元に迫りつつあったマイクロミサイル群を爆炎の華へと転じさせる。咲く光彩を潜り抜けた光線は周囲を取り囲んでいたイカルガの元にまで到達し、予測不能な軌跡を描いてフライトユニットやアンダーフレームを貫いた。
「何とかなった……」
 次々に落下する飛ぶ鳥達を見届けたシルは、いつからか忘れていた呼吸を再開する。横にずらした目に警報メッセージのログが映り込んだ。先ほどよりも件数が増えている。
「ごめんね、でももう少しだから……」
 じきにオブリビオンマシンが遺した呪いは討滅されるだろう。その先に何があるのかはまだ解らない。しかし今やるべき事だけは明確だった。シルは額に浮かんだ汗を腕で拭い、操縦桿に掛けた五指に力を籠める。レゼール・ブルー・リーゼは傷付いた翼を広げて翔ぶ。何度でも。シルが戦い続ける限り。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ノエル・カンナビス
作戦が終わらない限り、私の仕事も終わりません。
その後に日乃和の渉外とも話さねばなりません。
手間ばかり増えますねぇ。

コンバットキャリアのハンガーにエイストラを固縛し、
キャリアで砲打撃戦に赴きます。

整備補給拠点として重宝していようと元来は戦闘車両。
装輪装甲車としては最大級の車体は可動部が少ない事もあり、
キャバリアの比ではない分厚い装甲を誇ります。

もちろんガーディアンシステムも完備しています。
白兵距離には入れませんよ。

搭載装備はエイストラの予備部品です。
主砲にキャノンx2、副砲にライフルx2、対空装備にミサイルx2。
巨大なエンジンを戦闘出力で回せば攻守ともに要塞なみ。
高運動戦も空戦もしないなら、キャバリアよりも強力です。

……が。戦闘は要りますかねぇ。
彼我の現有戦力なら最前線に出る要もなく。
広域探査の結果を流すだけで済みそうではあります。

支援要請が入るなら前線でもどこでも出ますが、
自棄になって官邸に自殺攻撃を掛けてでも来なければ、
直接砲火を交える要もないでしょう。

来たら容赦なく粉砕しますけれど。


ヴィリー・フランツ
(へヴィタイフーンからML-TCタイフーンカスタムへの乗り換え)
心情:あーダメだこりゃ。
EMPの余波で照準システムも狂ってやがる、乗り換えるしかねぇか。
手段:桐嶋・水之江にタイフーンカスタムを転送するよう連絡する。
文句言うな、こっちはお前さんのド忘れのせいでヒデェ目に合ったんだ。

転送後、首相官邸に|私兵部隊《宇宙海兵強襲部隊》を市内に入れる許可を取る、生憎此方の警戒レーダーもイカれてな、潜んだ残党はこれで見付ける。

残りは白羽井小隊だけだったな、となると…投降じゃなきゃ市外に逃げるか、それとも破れかぶれで官邸を強襲して大佐の救出か一矢報いるか?そのどちらかだ。

不味いのは後者だ、首相官邸付近を警戒する。
発見報告が来たら現場へ急行、目標へRS電磁機関短銃《極光》にて牽制射撃をしながら一気に接近、スパイクシールドによる打突攻撃を試みる。
目標を弱らしたら、付近に潜ました海兵隊による携帯ランチャーで間接部を攻撃、転んだ所で武装を突き付け投降を促せば良い、断ったら回りの海兵が扉を抉じ開けるだけだ。



●ゴールキーパー
 レゼール・ブルー・リーゼが交戦している区画と首相官邸が建つ区画の丁度中間に当たる区画。経済力と建築技術力を誇示するかの如き巨大かつ高層な建造物が群生するオフィスビル街。その街並みを通る片側数車線の幅広な幹線道路が怯えるように震えていた。
 地鳴りの発生源は車道を進む大型の装輪式戦闘車だった。主砲に副砲に誘導弾発射装置まで備えた様相は戦闘車の名に相応しい物々しさを醸し出していた。車体後方の大部分を占めるキャバリア整備台には、大破したエイストラが縛り付けられるかの如く固定された状態で積載されている。
「手間ばかり増えますねぇ」
 コンバットキャリアの運転席でステアリング・ホイールを握るノエルが呟きを零す。仕事が終わった後に日乃和と猟兵間の相談窓口と話さねばならない件があるらしい。次から次へと増える手間が気に重く伸し掛かる。一方で顔色は不動のままだった。
「……この辺りでいいでしょう」
 ナビゲーションモニター上に目配せすると、アクセルペダルに乗せていた足をブレーキペダルへと移動させる。足裏で緩やかに踏み込むと負圧式倍力装置が作動し、装置から発生した油圧が各車輪へと伝達された。油圧に押し出されたブレーキパッドが車輪へ緩やかな制動を与え、コンバットキャリアの走行速度を零にせしめた。
 車体が停止するのに併せて、ノエルから見て正面の道路上に青白い光陣が生じた。ノエルはこれが何か知っている――というよりこの場に来た猟兵ならば皆既知している筈だ。何故ならばその光陣はグリモアの転送門なのだから。
 開かれた転送門から産み落とされるかのようにしてキャバリアが現れた。アスファルトの地面を振動させて降着した機体には、ヘヴィタイフーンMk.Ⅹに近似した意匠が見受けられる。きっと同じテンペスト社製の機体なのだろう。
「思ったより時間が掛かりましたね」
「ん? ああ、あのグリモア猟兵がゴネやがってな」
 ML-TC タイフーンカスタムのコクピットの中でヴィリーは首を左右に捻って骨を鳴らす。つい先刻までヘヴィタイフーンMk.Ⅹに乗り続けていたからか、シートの感触がいまいち馴染まない。
「ゴネたとは?」
「転送無料サービスは初回だけだとさ」
「ああ……」
 最終的にはそもそもお前の失念の所為でタイフーンカスタムを転送しなければならない散々な目に遭ったのだから文句を言うなと黙らせた。今のヴィリーの財布にはヘヴィタイフーンMk.Ⅹとレーダーを始めとする装備品の修理費用が重く伸し掛かっている。報酬が降りるとは言え、そんな状況で金を無駄に払えるほどのお人好しではない。修理費用の面で見ればエイストラが大破したノエルも散々であろう。しかもこちらは報酬の受け取りを辞退している。今のヴィリーがそれを知ったらどのような顔をしただろうか。
「そちらの宇宙海兵強襲部隊から伝言を預かっています。各自所定の位置で待機中だそうで」
 ノエルはレーダーグラフに目配せすると幾つかのボタンを押して火器管制機能を作動させた。コンバットキャリアのフロントガラスに、キャバリアのコクピット内メインモニターのような多種多様のインターフェースが表示される。
「そうか……レーダーが死んでなけりゃこんな手間も要らなかったんだがな。さて、後の仕事は外を飛び回ってる白羽井小隊の残党だけだな」
 コンバットキャリアの旋回砲塔が鎌首をもたげたのを見たヴィリーもまたレーダーグラフに視線を飛ばす。幾つかの赤い光点が接近しつつあった。ノエルより送りつけられた広域探査の結果を見るに、光点の所属は敵側と見て間違いない。
「やっぱり来やがるか」
 破れかぶれの首相官邸強襲か後藤宗隆の身柄奪還かはいざ知らず、ヴィリーが想定していた不味い方の予感は的中した。
「この彼我戦力差でよくやりますねぇ」
 ノエルの手が砲塔の遠隔制御を司る操縦桿へと伸びる。右に倒すと対応した砲塔がそちらの方向へと連動して旋回する。
「来るぞ、俺は前に出る」
 どうぞとのノエルの声を背に受けたヴィリーは操縦桿を前に押し込んだ。タイフーンカスタムの脚部に備わるバーニアノズルが噴射炎を焚く。地表を滑走するとアンダーフレームの接地面より緋色の火花が散った。ビルの狭間を抜けたイカルガが直線道路上に出現した。ヴィリーは有無を言わさず照準を重ねてトリガーキーを引き絞る。
「壁際に追い込むぜ」
 電磁機関短銃《極光》のフラッシュハイダーから、金色の破線を残して電磁加速弾体が放たれる。イカルガ達は正面から伸びた火線を難なく躱すとマイクロミサイルの応射を見舞う。誘導弾を捕捉したタイフーンカスタムの火器管制機能がヴィリーに迎撃行動を促す。極光が名が示す通りの光弾を飛ばすと、幾つかの誘導弾が爆球へと化けた。
「広域探査の結果を流すだけで済めば楽だったのですが」
 幾つかのマイクロミサイルはコンバットキャリアも捕捉していた。しかし着弾まであと僅かの距離まで迫ったそれらは自動迎撃機能を作動させていた副砲によって撃墜された。青白い光軸が二度三度と立て続けに伸び、擦過した誘導弾が爆球へと変容する。コンバットキャリアに金属の断片と爆風が吹き付けられるもガーディアンシステムがそれらを遮断した。仮に被弾したとしても、通常のキャバリアを遥かに上回る装甲厚を抜くには至らないだろう。不動の様相は地上戦艦の如し。ノエルは車体を揺らす振動を気にかけるでもなく手動モードで主砲の照準を向ける。向けた先にあるのは幹線道路の左右を固めるビルの側面だった。
「来てしまった以上は容赦なく粉砕しますけれど」
 主砲――エイストラの予備兵装から発射された荷電粒子がビルを直撃して青い爆炎を炸裂させた。エネルギーの供給源となる動力炉の大きさと比例して、放出される荷電粒子の出力も尋常ならない。着弾地点を中心に膨張した衝撃波が、タイフーンカスタムの電磁機関短銃にビル側へと寄せられていたイカルガを跳ね飛ばし、無理矢理に地へと足を付けさせる。砕けた構造物が破片となって降り注いだ。
「仕上げだ!」
 コンバットキャリアが叩き落としたイカルガへ向けて、ヴィリーがタイフーンカスタムを加速させる。立ち上がり掛けていたイカルガに速力を伴うスパイクシールドの打突を食らわせる。火花が水飛沫のように飛び散り、鈍い重音がオフィスビルの壁面に反響する。直撃を受けたイカルガは機体をくの字に曲げて背中をアスファルトに沈めた。
「行くぞ野郎ども、今日は死ぬには良い日だ!」
 ヴィリーの裂帛が通信帯域を震わせたのと同時に、オフィスビルの中や影から重装甲気密服を着用した宇宙海兵隊が次々に現れた。海兵隊員達は仰向けに機体を曝け出したイカルガの四肢の関節部位へ次々にロケット砲を撃ち込む。派手な爆裂音がオフィスビル街に轟く度に腕部や脚部が胴体との別れを告げた。達磨になったオーバーフレームに海兵隊員達が取り付くと、手にしたプラズマトーチでコクピットハッチをパネルラインに沿って溶断する。
「まるで手応えが無ぇな」
 海兵隊員達が搭乗者に投降勧告を行う様子を横目に、ヴィリーはタイフーンカスタムを横へ前へと走らせた。
「自棄になっているのではないでしょうか。もう組織的な戦闘が行えているとも言えませんし」
 ノエルの無味な緑の瞳がフロントガラス上で動き回るロックオンカーソルを追う。トリガーボタンを押し込むとコンバットキャリアに備わるランチャーユニットが幾つものマイクロミサイルを解き放つ。続けて主砲が荷電粒子を迸らせた。先んじて放たれた誘導弾は敵が放った誘導弾と正面衝突し合って爆散。青白い光芒は大気中の酸素を焼き尽くしながら直進、ビルの壁面を叩いて爆音と爆球を膨らませる。
「こっちとしては仕事がやりやすくて助かるが……なッ!」
 タイフーンカスタムがアサルトライフルを実体盾で受けながら猛進、荷電粒子の爆風で怯んだところに飛びかかってスパイク部分で打突して地に叩き落とす。
「それもそろそろ終わりでしょうけども」
 ノエルはレーダーグラフに視線を落とした。今しがたヴィリー隷下の海兵隊員が解体処理して搭乗者を引き摺り出したイカルガが、周辺に展開する分としては最後の一機らしい。敵反応が失せた事を確認すると、トリガーキーに乗っていた指は自然に離れていた。
「終わりはするんだろうが、収まりはするもんだろうかな……」
 タイフーンカスタムは撃ち尽くした極光の弾倉を投棄すると新たな弾倉を叩き込んだ。しかし撃つ相手はもう残されていない。ヴィリーは深く呼吸を抜くとコクピットシートに背中を沈めた。懐に収めていた煙草を取り出して口に咥える。オイルライターに火を灯して息を吸い込むと、肺の中が疲労の味で満たされた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジェイミィ・ブラッディバック
(アドリブ連携等歓迎)
(軍港で待っているとヘルメスが入港、降りてきた初老の男と握手)
「ご苦労、ブラッディバック君」
長旅お疲れ様です、アイアンズ社長。

(軽くここまでの経緯を話し)
さて、官邸へ向かいましょうか。
「あぁ、アンサズ連合事務総長からの親書を渡し、|アンサズ連合平和維持軍《AUPF》による日乃和でのPKO活動の許可を取り付ける」
一応イェーガー社もAUPFの一員として現地入りしてますから問題はありませんか。我々はアンサズ連合から全権を委任された外交特使でもありますし。
「現在の日乃和は復興のためならば外部の力も借りたいところだろう。その交換条件として……」
今回の事件におけるJDSの調査をイェーガー社で行うと。
「仮にJDSが国外に流出しアンサズ地方に出現した場合は脅威となるだろう。『メサイアの夜明け』に代表されるテロリストの手に渡った可能性すらゼロではない」
アンサズ地方外のテロリストネットワークがこのアーレスに通じてないとも限りませんし。
「うむ。では始めようか、アンサズ連合初の『外交』を」



●外交
 海に面する香龍東部一帯は大部分が港湾施設となっており、幾つもの埠頭が海へ向かってせり出している。いずれも経済や軍事を支えてきた重要な施設である。そして国土全域を海に囲まれた日乃和の玄関口でもある。
 その港湾施設の一角、香龍海軍基地の管轄となっている埠頭にキャバリアが立ち尽くしていた。その足元にはキャバリアを257.9cmまで縮めたキャバリアが立っている。否、それはキャバリアではなくウォーマシン、ジェイミィ・ブラッディバックその人であった。HMCCV-CU-01[M] TYPE[JM-E]"MICHAEL"と瓜二つ……或いはキャバリア側が瓜二つなのかも知れないが、兎も角ウォーマシンの彼のスリット状のセンサーカメラが眺める海上では、続々と集結しつつある日乃和海軍の艦艇が犇めいていた。
「お……漸くご到着ですか」
 艦艇の群れを器用に避けるようにして一隻の空母艦が埠頭に接近してくる。ジェイミィの視野の中に空母の照合情報が表示された。実の所は照合するまでもない。何故ならば接近中の空母はCVC/LCA ヘルメス級強襲揚陸航空母艦、そのネームシップである1番艦ヘルメスだったからだ。
 湾内に入り込んだヘルメスは船速を大きく減じさせると、長大な船体を緩やかに回頭させた。そして横滑りするようにしてジェイミィが立つ埠頭へと身を添わせる。巨大な質量が生み出す運動エネルギーが波となって埠頭の床面を潮水で濡らした。危なげない入港をジェイミィが見守っていると、程なくしてヘルメスの舷側の隔壁が開いてタラップが伸びてきた。埠頭に架設されると続けて初老の男が船内から姿を現す。手を振る彼にジェイミィは手を振り返した。
「ご苦労、ブラッディバック君」
 初老の男から伸ばされた手をジェイミィはマニピュレーターで握る。
「長旅お疲れ様です、アイアンズ社長」
 マニピュレーターは力強く握り返された。
「香龍の海は随分仰々しい様子じゃないか。戦争でも始まるのか?」
 アイアンズの朗らかな笑顔には長く波に揺られた疲労が滲んでいた。
「それは間もなく終了する所です。詳細は道中でお話しさせて頂きます。さて、官邸へ向かいましょうか。既に先方には連絡済みですので」
 ジェイミィが身振りで促した先では追突したらとんでもない事になりそうな黒塗りの高級車が停まっていた。日乃和政府が寄越した送迎用の車両だ。黒服の男が扉を開けている様子からは如何にも国外の政治的な客人を招き入れるつもりがありありと感じ取れる。アイアンズにとっては馴染みのある展開なのだろう。
「あぁ、アンサズ連合事務総長からの親書を渡し、|アンサズ連合平和維持軍《AUPF》による日乃和でのPKO活動の許可を取り付ける」
 リムジンに向かって歩き出したアイアンズに、ジェイミィは歩調を合わせて脚部関節駆動部を働かせる。
「一応イェーガー社もAUPFの一員として現地入りしてますから接触自体に問題はありませんか。我々はアンサズ連合から全権を委任された外交特使でもありますし」
「人喰いキャバリアに散々国土を荒らされた現在の日乃和は、復興のためならば外部の力も借りたいところなのが本音だろう。|レイテナ・ロイヤル・ユニオン《RRU》との間に交わした、東アーレス半島奪還計画……ホエール・ソング作戦と言ったか? あれへの戦力拠出の契約履行期限が迫っているとなれば尚更だ。その交換条件として……」
「今回の事件におけるJDSの調査をイェーガー社で行うと」
 アイアンズは頭の向きを変えずに瞬きだけで肯定を示した。
 JDS……イェーガー・デストロイヤー・システム。今しがたジェイミィ達が交戦したオブリビオンマシン化したキャバリア、アークレイズ・ディナが搭載していた、対猟兵戦を想定した特殊なシステム。ジェイミィが戦闘中に苦労して収集した記録は既にアイアンズに送られている。
「仮にJDSが国外に流出し、アンサズ地方に出現した場合は脅威となるだろう。『メサイアの夜明け』に代表されるテロリストの手に渡る可能性すらゼロではない」
 アンサズ連合は安全保障に関して決して妥協しない。外患となり得る要素は先んじて探り、対策を講じる。かつて多かれ少なかれに関わらずオブリビオンマシンによって損害を被った。それに対抗する戦力として猟兵を起用した。その猟兵を名指しして対抗する脅威が出現したのだとすれば、価値を正しく批評しなければならない。遅くとも反社会的勢力の手に渡るよりも先に。
「アンサズ地方外のテロリストネットワークがこのアーレスに通じてないとも限りませんしね」
『ひとつ情報を教えてやろう』
 事象予測人工知能がジェイミィの認識内で耳打ちした。視野の左右に何らかの記録情報が展開される。
『暁作戦終了後、遠方の国家カメリアより武装勢力が侵入した。当武装勢力は日乃和軍のキャバリアを奪取し、当時演習を行っていた白羽井小隊と猟兵を襲撃。撃退されたがその後は行方不明となっている。あくまで公にされている情報を鵜呑みにするのであればだがな』
 実際は公安がマークして泳がせているのだろう。だがWHITE KNIGHTが言わんとしている点はそこではないとジェイミィは知っている。アイアンズの懸念は既に現実味を帯びているという訳だ。
「となればアークレイズ・ディナからのJDSの回収を一層急いだ方が良さそうですね。搭載機があの一機が最後なのかどうかは解りませんが」
 ジェイミィの音声が電脳の中で反響した。通信ログを再生するに、東雲官房長官は過去にシステムの分離と解析を試みたものの、遂に至らなかったと発言していた。どこまでが事実なのかは定かではないが、全面的に事実だとするならば拡散している可能性は低い。今ならまだ間に合う。
「……では始めようか、アンサズ連合初の『外交』を」
 開放されたリムジンの後部座席にアイアンズが乗り込む。
『用心しろよ。相手は恐らく東雲正弘官房長官だ。奴は手強いぞ。加えて現在の日乃和にはメリアグレース聖教皇国、第三極東都市、カメリア、そしてアンサズ連合と深い関わりを持つ猟兵が集結している。当然向こうもそれは知っているだろう。対応はいつも以上に硬いと思え』
「ご忠告どうも」
 ジェイミィも続けて乗り込む。額が車体の天井に激突して被弾警報が鳴り響いた。

 首相官邸に到着したジェイミィとアイアンズを出迎えたのは、東雲正弘官房長官と外務省の長官だった。通された迎賓室に淡い白色の照明が灯る。照明こそ国外から遥々訪れた客人をもてなすのに相応しい柔らかさだが、降りる空気は厳粛だ。日乃和式の落ち着いた室内の意匠は飾り気が少ない。部屋の中央に置かれた長机には白いクロスが掛けられている。長机を囲む椅子にはジェイミィとアイアンズが着席し、東雲ら日乃和の政府関係者達も対面する格好で腰を落ち着けている。
「親書は読ませて頂きました」
 重く硬い口運びで東雲が言う。アイアンズから手渡された書面を静かに机上へと置く。ジェイミィは電脳の内で「白騎士のAIも大したものですね」と呟いていた。この場には外務省の人間も居合わせているのだが、対応の中心人物は東雲だった。
『日乃和側としては、あくまで猟兵関連の案件として取り扱いたいらしいな』
 現段階ではと付け加えたWHITE KNIGHTの見解が的中しているかはさておき、ワンクッション置いたという事は少なくとも警戒心が無い訳ではないのだろう。だがジェイミィはこの点に関してむしろ安堵にも似た感情を抱いていた。安全保障に関して妥協しない価値観を共有できる相手国だという左証なのだから。むしろ大手を振って出迎えてくるような相手だったとしたらアイアンズにしても返って疑心を抱いていただろう。
「確かに貴国の認識の通り、現在の我が国は秩序を維持する為の軍事力を必要としています」
 東雲から真っ直ぐに据えられた眼差しを、アイアンズもまた正中で見据える。
「暁作戦で奪還した日乃和西州には、まだ多くの敵対的自律機動兵器群が存在しています。我々政府としては、国民の安全と財産を守るため、それらへの対処を早急に講じなければなりません。しかし一方でレイテナ・ロイヤル・ユニオンとの間に交わされた東アーレス半島奪還作戦に関する条約を履行するために、近々我が国は多くの戦力を国外へと派遣する必要があります。そうなれば国内に残留する敵対的自律機動兵器群への対処力が損なわれる事は避けられません。それらの問題へ対処する手段として、貴国の提案は非常に有意義なものであると認識しています」
 粛々と言い聞かせるようにして語る東雲に、アイアンズは無言の頷きを返した。
「しかし実際に我が国土の中に置いて、貴国が国連平和維持活動を行うには、まず前提となる法律条件を両国の間で達成する必要があります」
「最低でも相互不可侵条約の締結は必要でしょうね」
 ジェイミィが何気なく呟くと東雲から肯定の視線が送られる。一呼吸を置いてから東雲が再度口を開く。
「実際には更に幾つかの事務手続きが必要となりますが、我が国と貴国との交渉次第では簡略化が可能な点も多く見いだせるものと認識しています」
 先の条約の締結に加えて互いに使節団を送り合う……そんなところだろうかとジェイミィは人知れず見立てを付ける。隣ではアイアンズが深く頷いていた。
「より簡略かつ早期に行うならば、PKO部隊を猟兵が管理する戦力の一部として扱い、猟兵を雇用するという手段が取れない訳ではありません。しかしこれには仲介人の承諾が必要となります」
 仲介人というのはグリモア猟兵を指しているらしいとジェイミィは電脳で頷いた。恐らく日乃和にもアンサズ連合に於ける自身のような立場の猟兵が関わっているのだろう。
「我が国は仲介人との契約により、仲介人を経由しなければ猟兵の雇用並びに関与が認められない立場にあります」
『あまり健全な関係とは言えないようだな』
 白騎士を模した人工知能が耳打ちした。お節介にも表示してくれた資料を見るに、仲介人とやらはこの国に猟兵を斡旋する見返りとして様々な利権を得ているらしい。雇用の独占もその一端に違いない。
「私達は結論を急ぎません。そちらでは法整備にも時間が必要でしょう。我々は安全保障に関する認識と価値観を共有し合い、建設的に話し合う事で、今日貴国とアンサズ連合は大きく歩み寄る事が出来ました。これは互いの国家にとって将来大きな実りに発展する事でしょう」
 アイアンズの太く落ち着いた声音が室内に響く。ジェイミィは微かに頭部を上に向けた。隣の初老の元軍人が言う通り、実際期待出来る実りとしては決して小さくないのだろう。大概の隣国は潰し合う相手でしかないこの世界においては特に。
「そして、貴国が提示した交換条件についてですが……」
 東雲の眼差しの向かう先がアイアンズからジェイミィのスリットアイへと移り変わる。
「今回の事件で猟兵各位によって撃墜されたアークレイズ・ディナに搭載されているJDSであるならば、貴国への提供が可能です。機体は既にこちらで回収しました。必要な手続きが完了次第、引き渡しの準備に移れます」
 妙に含んだ言い回しにアイアンズが双眸を細めた。
「……PKO活動との交換条件にしては軽すぎると?」
 アイアンズに代わってジェイミィがそう尋ねると、東雲は首を一切動かさずに硬い眼差しで肯定を示した。
「万が一JDSが貴国の外に流出し、アンサズ地方に出現した場合は大きな脅威になり得ます。特にメサイアの夜明けに代表される大規模なテロリスト組織――」
「メサイア? エルネイジェの王族が自ら反社会的組織を結成したと?」
 東雲がやや声を荒げてアイアンズの言葉を遮った。皺の寄った眉間からは驚愕とも猜疑とも言える感情が伺い知れる。見れば他の官僚達も互いに目を合わせあっていた。何事かと頭を逸らせて口を噤んだアイアンズにジェイミィは「ここは私から……」と右のマニピュレーターを広げて見せる。
「東雲官房長官が仰ろうとしていた西アーレスの該当する国家とメサイアの夜明けにつきましては、一切関係が御座いません。当国より正式な声明も発表されている筈です」
 ジェイミィの電子音声には一切淀みが無かった。ジェイミィはその声明が発表されるに至った経緯にグリモア猟兵として深く関わっているのだから嘘のつきようも間違いようもない。アイアンズは東雲から視線を移されると「間違いありません」と明確に答えた。
「そうですか、分かりました」
 東雲が息を抜いて眉間を擦る。寄った皺は幾らかほぐれていた。
「繰り返しとなりますが、JDSがメサイアの夜明けに代表される大規模なテロリスト組織に悪用される事があれば、生じる損害は甚大なレベルへと至るでしょう。先程の戦闘が既にそれを証明しています。我々はそうなる前に対策を講じたいのです」
 アイアンズが述べた所感に対して東雲は浅く頷きを返す。眼差しは相変わらず硬いが、アンサズ連合への事情に特に異論を挟むつもりは無いらしい。白騎士の人工知能から忠告を受けていたジェイミィとしては要求に対して難色を示される状況を想定していた。JDSがアイアンズの言う通りの価値を持っているのだとしたら、安全保障に妥協しない日乃和は国防上の都合で他国に譲り渡したくない筈だ。しかし存外快諾されてしまった。東アーレス半島奪還作戦中に日乃和西州の人喰いキャバリアを殲滅するための戦力……アンサズ連合が派遣を申し出たPKO活動戦力が欲しいというのも当然あるだろうが、どうにも妙な引っ掛かりを覚える。或いは欲しくなればいつでも手に入るから手放すのも惜しくないのか――通信ログを聞き返す限り、東雲はアークレイズ・ディナは仲介人から提供された機体だとも言っていた。
「分かりました。前提となる法律条件の相互不可侵条約の件を含め、関係省庁と早急に協議に入りましょう」
「ありがとうございます」
 東雲とアイアンズの声に、疑念とも付かない思考は隅に追いやられた。相互に感謝の意を示し合う両者を見て、取り敢えず仕事に一段落が付きそうだと人を真似て両肩を落とす。アイアンズと東雲が握手を交わす場面がジェイミィや報道官に撮影され、その写真が各メディアを通してアンサズ連合と日乃和、そしてレイテナを含む東アーレスの諸国に流布されるまでそう時間を必要とはしなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルバート・マクスウェル
【TF101】
キングアーサーに乗艦。頃合いを見て無線機をとり
「こちらTF101司令官のアルバート・マクスウェル大佐だ。白羽井小隊の諸君に告ぐ。君達の司令官の言う通り、投降する事を勧める」
「憎しみや苦しみはそう簡単に消えるものではない。だが、これ以上争いは無意味だと君達も薄々気付いているはずだ」
「例え投降しても日乃和に居づらいと思う者もいるだろう。そこで我々の要請を受けて、カメリア合衆国が諸君の亡命の受け入れを承認した」
「但し、日乃和とカメリアは正式な国交はないし、カメリアはとあるテロ組織の脅威もある。必ずしも安全ではない」
「そして防人少佐はもう日乃和に来る事はない。テロ組織に命を狙われ、政府に嫌われているからな」
「カメリアに亡命を希望する者はキングアーサーに来い。作戦終了時間を期限とする。諸君が最善の選択をする事を望む。以上」
次に東雲長官に繋ぎ
「拓也から葵大佐へ伝言だ。彼女に伝えておけ。あの時の約束は守ってもらう。そして赤の他人ではなく1人の母として娘に接してやれとな」
と言う。
アドリブ可


防人・拓也
【TF101】
栞奈を連れて那琴の所へ。移動方法は最適手段で。
手には壊れたリーパーゼロから抜き取ったサイコゼロフレームを。
治療が始まっていた時はその手伝いという理由で参加させてもらう。
残骸はUCを発動した時に取り除くようお願いし、那琴の体にサイコゼロフレームを持った手をかざし、UCを発動。
大きな傷を中心に高速治療し、その間に持っていたサイコゼロフレームがサイコシャードを引き起こし、疲労につれて自身の腕から徐々に結晶化が進んでいく。
身体の次は那琴のサイコゼロフレーム。この光であの禍々しい光を消す。自身の限界まで粘り、死ぬ一歩手前でUCを解除し膝をつく。UC解除と同時に結晶化した身体が元に戻っていく。
そろそろ始まるな。マックの放送を聞きながら体を休める。
放送が終わり、栞奈に
お前達に世話を焼くのはこれで最後だ。那琴に消えろと言われたからな。それに俺はいずれ死ぬべき化物だ。栞奈、消える俺の代わりに那琴を守ってくれ。
と言い、出口まで歩き
健やかに幸せにこれからの未来を生きろ
と言い残し去る。
アドリブ可。



●あなたのおもいでにさよなら
 大鳳が係留されている埠頭のすぐ隣の埠頭に横付けされたキングアーサーは、香龍湾の穏やかな波に浸っていた。波の隆起は労うように優しげだが、湾内は非常に騒々しく物々しい。三笠は勿論ながら今まで猟兵の前に姿を現す事も無かった艦艇達までもが次々に集結してきているのだから。しかも海上では超重力波砲を搭載した戦艦撫子が睨みを効かせているらしい。
「ここも随分窮屈になったな……」
 これは出る際の操舵が大変だなと、キングアーサーの艦橋にアルバートの呟きが充満する。艦長席に座すアルバートが見る先は海面ではなく大鳳の船体だった。飛行甲板を内部から食い破られ、船底にキャバリア大の穴を開けられた巨大な装甲空母は、今もなお動じる事なくそこにある。
「ま、上手くやれよ。死なない程度にな」
 大鳳の艦内に向かった拓也に対し、返される事の無い言葉を投げかける。するとアルバートはおもむろに通信装置を手に取り、通信士の背中に「東雲官房長官に繋いでくれ」と命令を下した。
『キングアーサーへ、こちらは東雲だ』
 この堅物の声も流石に聞き飽きた。嘆息混じりに肩を竦めてから口を開く。
「拓也から葵大佐へ伝言だ。彼女に伝えておけ。あの時の約束は守ってもらう。そして赤の他人ではなく一人の母として娘に接してやれとな」
 アルバートは言葉を差し込まれる隙間を与えず一気に言い切る。通信装置の向こうから重い沈黙が漂ってきた。答えを聞くつもりは元からない。間を置いた後に通信を断つ。
「さて……残すところは……」
 面持ちを伏せて視線を横に逸らす。我ながら面倒な役回りだなと言いたげな憂鬱が顔に浮かぶ。顔を上げると目一杯に酸素を吸い込んで肺を膨らませた。
「こちらTF101司令官のアルバート・マクスウェル大佐だ。白羽井小隊の諸君に告ぐ。君達の司令官の言う通り、投降する事を勧める――」
 極めて粛々とした事務的な言葉運びで声量を張る。青い瞳は大鳳の艦橋を映していた。

 アルバートによる投降勧告の通達が発せられるよりも少し前、拓也は栞奈を連れて大鳳艦内の集中治療室を訪れていた。室内の中央に置かれた処置台には、アークレイズ・ディナから引き剥がされた那琴が寝かせられている。既に外傷の多くは先客の猟兵によって適切に治療され、腹部に突き刺さっていた機体の残滓も外科手術で除去済みだった。そして残された問題は精神汚染と失血。後者についての処置は現在も継続している。
「葵艦長……」
 リクライニングチェアに座る結城を前にした拓也は、様々な感情が綯い交ぜになったかも知れないし、何も思わなかったかも知れない。どちらにせよ結城は薄笑いで会釈するだけだった。現在結城は輸血用の器具を通して那琴と繋がれている。那琴の方はというと、身体に突き刺さった金属片を摘出する手術の際に使用した麻酔からまだ目覚めていないようだ。規則正しい呼吸音を立てて眠りについている。電子音が奏でる心臓の鼓動も時針の動きのように正確だ。
「船の修理終わるまで休暇中って聞いてたんですけど? というか大鳳動かしたのってやっぱり結城艦長だったんですか?」
 拓也の横に並ぶ栞奈が首を傾げる。結城は視線を送るだけで何も答えない。
「……これから那琴少尉の身体に残留しているオブリビオンマシンの思念の除去を始めます。よろしいですね?」
 拓也が静かに硬い声音で問う。
「分かりました、お願いします」
 結城は穏やかな笑みを添えて頭を垂れた。不安気な栞奈に見届けられながら、拓也は那琴の元へと歩み進んだ。そして金属構造体を握った手を翳す。これは大破したリーパーゼロが遺したもの――グラント・サイコゼロフレームだ。
「リーパーゼロ……まだそこにいるなら、もう一度俺に力を貸せ」
 金属構造体が翡翠色の光の脈動を放つ。光は実体を持った結晶へと変容し、体積を増殖させると拓也の腕に纏わり付くかの如く這い上がった。意識が暗闇に吸い寄せられるような感覚が生じ、食い縛った牙の隙間から呻きが滲み出る。
「大丈夫なの?」
 背中に掛けられた栞奈の声に答えている余裕もない。戦闘で疲弊しきった身体にこれはなかなか効くものだなと、どこか他人事めいた感想を胸中で漏らした。増殖した結晶が肩口まで達した頃には、もう浄化出来る邪心は残されていなかった。那琴の身体には。
「次は……こいつだな」
 かつてアルバート伝に那琴に託したお守りは、オブリビオンマシンによって祈りを呪いに変じさせられてしまった。那琴の腰部で現在も赤黒い光を脈動させるそれに終始を付けるべく、おぼつかない足を進める。全身に覆いかぶさる強烈な疲労感に姿勢を傾けさせられた。
「危なっ!」
 崩れかけた拓也を栞奈が咄嗟に支えに入る。いつぞやに嗅いだ香水の匂いが鼻孔をくすぐった。拓也は栞奈に肩を借りながら那琴のグラント・サイコゼロフレームに結晶化した腕を伸ばす。
「もういい。栞奈、離れていろ」
「手伝うよ。例の変な金属で何かする気なんでしょ? あたしだってまだ持ってるんだから」
「手伝えるような事じゃない」
「その結晶みたいなのが何だか知らないけど、支えてる位は出来るでしょ?」
「一人で立てる」
「フラフラな人が何言ってんのさ」
「危険だ」
「知ってる」
 一向に埒が開かない。これでは栞奈と喋っている内に体力を使い果たしてしまいそうだ。遂に根負けした拓也は身体を支えられながら、浄化処理を行うべく結晶体に意識を集中させる。
「ぐ……」
 数多の悪意、数多の憎悪、数多の嫉妬、数多の後悔、数多の傷痕。それらが怨嗟の叫びとなって拓也の中に流れ込んでくる。那琴の腰に括り付けられた金属構造体が一層禍々しい脈動を放つ。赤黒い光は拓也の結晶体が放つ翠星色の光さえも蝕み始めた。意識が赤一色に塗りつぶされてゆく最中、遠くで泣いている那琴の姿が見えた。
「起こしてみせるさ。今度こそ、俺の命を懸けて、誰かを救う奇跡というものを……!」
 全てを癒す奇跡の極光が赤黒い光を蝕み返す。比例して拓也の腕に纏わり付いていた結晶体が更に増殖し、栞奈を巻き込んで身体全身を覆い隠した。そして拓也から生じていた光が那琴の金属構造体が放つ光を塗りつぶすと、突如として結晶体は粉微塵に砕け散った。拓也と栞奈がその場に身を崩して膝を付く。割れた結晶が粒子状に分解されて空気に滞留する。
「なに今の? 上手くいったの?」
 先に立ち上がった栞奈が拓也に手を伸ばす。
「ああ、那琴のサイコゼロフレームにはもう何も残っていない。もう何もな……」
 拓也は今は立てそうにないと首を横に振る。視線を上げた先には、何の光も発する事なく鳴りを潜めた那琴のグラント・サイコゼロフレームがあった。
「防人少佐、お疲れ様でした」
 結城から穏やかで甘い労いが掛けられるも、そちらを向く気力さえ残されていない。奇跡の代償は大きかったようだ。
『――こちらTF101司令官のアルバート・マクスウェル大佐だ。白羽井小隊の諸君に告ぐ。君達の司令官の言う通り、投降する事を勧める』
 大鳳艦内に老年の堺に差し掛かった男の声音が響き渡る。出処は通信装置らしい。
「始まったか」
 拓也は深く息を吐いて瞑目した。栞奈は無言で聞き入っているようだ。
『憎しみや苦しみはそう簡単に消えるものではない。だが、これ以上の争いは無意味だと君達も薄々気付いているはずだ。例え投降しても日乃和に居づらいと思う者もいるだろう。そこで我々の要請を受けて、カメリア合衆国が諸君の亡命の受け入れを承認した。但し、日乃和とカメリアは正式な国交はないし、カメリアはとあるテロ組織の脅威もある。必ずしも安全ではない』
「マック大佐って優しいねぇ……」
 栞奈が零した声音には諦めのような色が滲んでいた。
『そして防人少佐はもう日乃和に来る事はない。テロ組織に命を狙われ、政府に嫌われているからな』
「え? そうなの?」
 尋ねる栞奈に拓也は首を上下に揺らす。
『カメリアに亡命を希望する者はキングアーサーに来い。作戦終了時間を期限とする。諸君が最善の選択をする事を望む。以上』
 途絶えた音声が沈黙の余韻を漂わせる。
「お前達に世話を焼くのはこれで最後だ」
 拓也は漸く立ち上がると改めて那琴の様子を眺める。オブリビオンマシンの影響も、グラント・サイコゼロフレームの影響も既に浄化された。刻まれた痛みはこれからも残り続けるだろうが――もう日乃和に訪れる事は無い自分には与り知らぬ事だ。
「那琴にも消えろと言われたからな」
「……は?」
 妙に冷ややかな栞奈の声を他所に、拓也は天井に灯る照明の一つを見詰める。
「それに俺はいずれ死ぬべき化物だ。栞奈、消える俺の代わりに那琴を守ってく――」
「あれがナコだって本気で思ってんの?」
 言葉尻を遮られたかと思いきや突然襟首を引き寄せられた。
「栞奈……!?」
 普段の人好きのする表情からは想像し難い鬼気迫る面持ちが眼前にあった。思わず息を飲み下す。
「あんなのナコな訳ないじゃん! なにさ! あんだけナコに好き好きオーラ出しといてそんな事も分かんないの!? あれなんだったの!? 防人少佐絶対何か知ってるでしょ!? 教えてよ!」
「おい待てって……!」
 栞奈が早口で捲し立てる。体力が万全だったのならば容易に振り解けたかも知れないが、オール・オブ・ヒール・オーロラによって致死寸前にまで疲弊した身では腕を掴み返すだけが精一杯だった。視界の隅に結城の蠱惑的とも聖母的とも言い難い薄い笑みが見えた。初めからそのつもりは無いが、助けは期待出来ないようだ。
「そーれーにー! ナコだったらこう言うでしょーが! お消えなさーい! 猟兵のかたー! 墓前に飾るお花の色は何がよろしくてー!?」
 那琴の高い声質を真似る栞奈が拓也の意識を覚まさせた。確かに那琴の喋り方には独特の癖がある。出会ってからずっとあの調子なので、作ってやっている振る舞いではないのだろう。
「……オブリビオンだ」
「ん?」
 拓也が顔を逸してそう答えると、襟首を掴む栞奈の手が緩んだ。
「お前に言っても何も解らないだろうが……あの時の那琴は、JDSとサイコゼロフレームの機能でオブリビオンマシンに呑まれていた……いや、憑依されていたのかもな」
 自分に言い聞かせるようにして語る。
「オブリビオンって? いやまあ名前は聞いたことあるけど……」
「失われた過去の化身。世界の敵だ。大抵はかつてその世界に存在した者の姿を持って出現し、あらゆる手段で世界を滅ぼす為に活動する」
「なにそれ怖い」
「あのアークレイズ・ディナはオブリビオンマシン化していた。オブリビオンマシンは搭乗者を破滅的な思想に偏向させる。猟兵以外はオブリビオンマシンを識別できず、その状況を認識する事も出来ない」
「え……じゃあナコはそれで頭がおかしくなっちゃったの?」
 拓也は暫し間を開けてから答えた。
「元々抱えていた思いを焚き付けられたのかも知れないがな。そして影響は必ずしも搭乗者本人にだけ及ぶとは限らない」
 言わんとした先を察したらしい栞奈が眼を丸くする。
「もしかしてあたしも? 結城艦長は? 後藤大佐は? ひょっとしてナコのお父さんも?」
「さあな……」
 目を伏せて首を横に振る。栞奈の手が襟首から離れた。
「そっかぁ……」
 面持ちを俯けた栞奈の両手が力無くぶら下がる。
「全てが全てオブリビオンマシンの仕業だとも決めつけられないがな」
「でもナコが乗ってたあれ、そいつだったんでしょ? ならさ……」
 栞奈が言い終える寸前で拓也は自分の名前を呼ぶ声を聞いた気がした。脊髄反射で視線が出処を追うと、治療室中央の処置台に至った。
「防人……少佐……」
「ナコ!? 起きたの?」
 掠れた声で拓也を呼ぶ那琴の元へ栞奈が駆け寄る。結城は眼差しを傾けるだけで何事も発しない。
「ごめん……なさい……わたくしは……あなたを……殺してしまうところ……」
 瞑目した拓也は身体を部屋の扉の方向へと向けた。背中に視線と声を感じたが、もう振り返る事はない。双眸を開いて確かな足取りで前へと進む。
「防人少佐!」
 扉に手を掛けた瞬間、栞奈に呼び止められた。
「色々ありがとね! マック大佐にもよろしく!」
 黙して扉の一点だけを見詰める。
「健やかに幸せに、これからの未来を生きろ」
 その言葉を最後に拓也は扉を開いた。
 死神はただ独り、冥い道を往く。

●終息
 後藤宗隆元日乃和陸軍大佐は敵対的自律機動兵器群の香龍接近に合わせて、国外より侵入した反社会的武装勢力と結託し、首相を始めとする内閣府の要人の殺害を目的として首相官邸を占拠。その後特務艦隊隷下の白羽井小隊並びに灰狼中隊、そして猟兵達によって反社会的武装勢力は撃滅、後藤宗隆の身柄は拘束された。
 後日開かれた軍事法廷の場に於いて、後藤宗隆は黙秘を貫き、外患誘致誘致の罪を含む多くの容疑に有罪判決を受けて死刑宣告が下された。刑罰は即日の執行となった。
『我が国は国民の安全と財産を脅かす脅威に対して断固たる措置を取る』
 以上が日乃和政府の内閣官房長官の公式発表である。
 一方で各メディアには政府の公式発表とは異なる情報が流布されていた。
『テロの首謀者は後藤宗隆大佐だが、主要な実行部隊は白羽井小隊と灰狼中隊である』
 香龍内で撮影されていた映像記録等と共に国中に拡散し、様々な場面で国民同士の論戦を呼ぶ事となった。
 しかしやがて多くにとってそのような事件があったという程度の話題に落ち着くのだろう。騒ぎ立てるのは数ヶ月の間で、一年毎に特番が組まれるのが精々だ。得てして人は自分と関係の浅い出来事には興味が薄いものなのだから。
 同時期に日乃和政府とアンサズ連合との間に国交が結ばれる兆しが見られたのも事件の風化を加速させる一助にもなるだろう。アーレス大陸外の国家連合体との関わりが経済と軍事にどのような影響を及ぼすのか? 信頼出来る友好国となり得るのか? 疑念への試金石となるであろう、西州での実施を検討されているアンサズ連合によるPKO活動という名の人喰いキャバリア掃討計画に国民の興味は傾いている。

●死して我が屍拾う者無し
 澄んだ蒼天に綿雲が漂う。時折草木を揺らす風は春先の暖かさを含んでいた。照る太陽は刈り揃えられた芝生の緑を惹き立てる。
 日乃和陸軍共同墓地内に設けられた慰霊碑の前で、日乃和海軍の将校服に身を包んだ長身の女性が佇んでいた。
「これで良かったのでありましょうか?」
 泉子の呟きを駆け抜けた風が消し去る。慰霊塔は遥か太古からその場にあったかのような不動の貫禄で泉子を見下ろしている。
「先の事件に関連する記録の多くは抹消され、別の事件にすり替えられました。あなたに全ての汚名を被せて……」
 哀悼を捧げるべき相手はこの場にはいない。大罪人として名誉を奪われ、どことも知れない無縁墓所に埋葬されているのだから。将校服の襟元に付けられた大佐の階級章が陽光を浴びて輝いた。
「残存した白羽井小隊と灰狼中隊は東アーレス半島奪還作戦の派遣戦力に組み込まれるそうであります。結城艦長の大鳳と我が艦三笠も同様であります」
 厄介者を使い潰すつもりなのでありましょうなとの言葉が喉元まで迫り上がったが、忸怩たる思いで飲み込んだ。
「ですが、漸く我々は人喰いキャバリアに対して本格的な反転攻勢を始められる次第であります。我が国の支援を受けたレイテナならば、必ずや事態を終息へと向かわせられるでしょう」
 根拠など無い。取り繕った楽観的な慰めに作り笑いの目が倦む。
「……それでは、失礼します」
 泉子は慰霊塔に海軍式の敬礼を捧げると身体の向きを反転させた。強く吹き付ける追い風が、将校服の裾をはためかせた。

●結実
 香龍と首相官邸を占拠した後藤宗隆隷下の白羽井小隊は、猟兵達によって殲滅ないし無力化された。作戦に参加した猟兵達には契約内容に記載された通りの適切な報酬が支払われている。
 任務終了後、グリモアベースでのブリーフィングにもあった通りに日乃和政府は白羽井小隊の反乱を初めから無かったものとして処理した。
 代替として暁作戦の終了後に国外から侵入したテロ組織を実行犯に仕立て上げ、特務艦隊隷下の白羽井小隊と灰狼中隊、そして猟兵達が鎮圧。事件の終息に至ったと公の声明として発表された。後藤宗隆は外患誘致等の容疑に有罪判決を受けて極刑に処された。刑罰は即日執行されたという。

 作戦遂行中の折に猟兵によって身柄を確保された白羽井小隊の隊員達は、海外研修の名目で各々の猟兵達に扱いを一任されたようだ。しかし一部の主要な構成隊員に関して政府は頑なに引き渡しを譲らなかった。最終的にどのような処遇となったのかは今後の結果次第となる。

 アークレイズ・ディナに搭載されていた特殊な機構は、調査を希望するアンサズ連合関係者に猟兵を介して提供された。その際には何らかの政治的な取り引きがあったとされる。後に日乃和西州におけるPKO活動が実施されれば、取り引きの内容が明らかになるであろう。

 幾多の癒えない傷痕を残して、猟兵とオブリビオンの戦いは終わった。滅亡に収束していた結末から解き放たれた事で、これからの日乃和は異なる分岐路を進んで行くのだろう。
 執心は砕かれ、諦観の夜が過ぎ去り、救いようの無い朝が繰り返す。そうして痛みの枷を抱えたままに人々の営みは続く。
 その先でいつか全てが綻び壊れてしまうとしても、猟兵達は追い縋る過去を倒して零を壱に繋げた。それだけは事実だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年03月27日


挿絵イラスト