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その墓碑にミオソティスの冠を

#ダークセイヴァー #ダークセイヴァー上層 #第三層 #永劫の果ての獣

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●想い出さえも残さずに
 助けて。
 そう絞り出したつもりの自分の声は、湿った不明瞭な音しか成さなかった。
 とうに目の慣れた暗がりに横たわりながら、身体が痛くて体勢を変えようとして気づく。自分の手がどうしてあんなに彼方の壁に触れるのだろう。腕でも脚でも翼ですらもない、備えた覚えのない部位が、どうして冷たい石の床の感触を拾って伝えて来るのだろう。
 理解したくないその意味は隣で獣の様な呻き声を上げ続ける不気味な肉塊が告げている。
 これは共に連れて来られた魂人の内の誰だろう。理不尽な苦痛の中で、途中まで互いに願望めいた励ましの言葉と永劫回帰とをかけ合って居た魂人たちはもう居ない。そうして、この誰かにも、今の自分が誰であるのかきっと解るまい。
 頭が痛い。顔が痛い。何かが内から裂ける音がして、何が起きているのかを嫌でも理解する。同朋たちが「そう」なるのを既に何度も見せつけられて来た。
 自分の血潮で視界を染められながら、脳裏に浮かんだものは、あの村の短い春にだけ咲く野の花の青い色。
――見せてあげるって約束したのにな。
 ひとひらの無念を最後に、そこから先は覚えない。気が付けば、見覚えのある荒野を往く肉塊たちの後を追っていた。行く手には見覚えのある砦が――あれ、何だっけ。

 壊さなきゃ。

●想い出くらい美しく
「皆の家族って元気にしてる? あぁ、友達でも恋人でも良いんだけど、なんかそんな感じの大切な人」
 グリモアベースに集まった猟兵たちに、白い軍服のグリモア猟兵、チェーザレ・ヴェネーノは湯気の立つマグカップを片手に世間話の気安さで問い掛ける。ココアに浮かべたマシュマロがちょうど程よく溶けていた。
 俺の家族はね、なんて呑気に話し出した内容は割愛する。長くなりそうな気配を察した誰かの控えめな咳払いに、あ、と思い出した様な声ひとつ。
「そうだ、仕事だ。ダークセイヴァー上層のある村が化け物の群に襲われるのを予知したよ。村っていうか、打ち捨てられた砦に築いた集落という方が近いかな。敵は強いけどまぁ別に皆が倒せない相手じゃないからそこは良いや」
 時折ココアに息を吹きかけて冷ましながら、憲兵崩れは饒舌だ。
「問題は、その化け物って元はその村に住んでいた魂人たちみたいなんだよね。急に行方不明になっちゃって、村人たちは探してたらしいんだけど……」
 彼の話すところによれば、行方不明の真相は闇の種族による誘拐だ。元魂人たちは、その尖兵となるべく無残な改造を施された。そのさなか、この世のあらゆる痛み苦しみを味わい尽くし、幾度も永劫回帰を重ねた彼らには既に正気も残らない。
 後に残るのは忠実に闇の種族の命に従う、見るもおぞましい化け物ばかり。
「って言う訳だから、さっきの質問に至るんだよね。依頼の正否に関して言うなら、魂人たちには化け物の正体を教えてあげても教えてあげなくても構わない。でも、改造された元魂人たちはどの道もう救いようもないし――だったらせめて想い出くらいは綺麗なままの方が良いと思わない? だってさ、酷いんだもん、あれ」
 いかにも痛ましげな表情をして、チェーザレは、ね、と同意を求める様に首を傾げた。
 無論その場合には集落の魂人らは帰らぬ家族や友人たちを永劫待ち続けることになるのだが、それは猟兵たちの責任を離れた別の話だ。
「それなら皆にも教えないで欲しかったって? それはそうかもしれないんだけど、でも、戦いには情報が多い方が良いでしょ」
 誰かの視線に応える様に、チェーザレは言い訳めいた言葉を重ねた。
「敵の襲撃は二度あるよ。第一波は完全に理性も何もなさそうだけど、第二波はちょっとそうでもなさそうなのが居るみたいなんだよね。特定の魂人を狙おうとして来るようだから、多分その人に縁もゆかりもあるんじゃないかな」
 ひとしきり喋った後で、一息つく様にマグカップに口をつける。
「熱っ……あぁ、そう言えば、全部終わったら後始末でも手伝ってあげてよ。途中で不幸にも真実を知ってしまう子がいたりしたら、きっとケアとか必要でしょ?」
 色々と気を付けてね、と牙を見せて憲兵崩れは笑う。
 血の色のグリモアが展開されて、瞬きほどの刹那の後には猟兵たちは夜の荒野に佇んで居る。


lulu
ご無沙汰しております、luluです。
知らぬが仏。言わぬが花。

受け付けはタグで告知しながらのんびり運営予定です。

●第一章
集団戦。魂人たちが住んでいる古い砦を護ってください。
敵に理性はないようです。

●第二章
集団戦。魂人たちも参戦します。
特定の魂人を狙う敵がいるかもしれません。

●第三章
戦後処理。ご自由に。
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第1章 集団戦 『闇の被造物-肉達磨-』

POW   :    超常的剛力の一撃
単純で重い【破城槌にも喩えられる程の全力パンチ 】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    テンタクルランページ
自身の【破壊殺戮繁殖を生き甲斐とする邪悪な魂 】が輝く間、【己が肉体から生えている多数の筋肉質な触手】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ   :    粘液放散
レベルm半径内を【ぬめぬめとした白濁色の粘液 】で覆い、[ぬめぬめとした白濁色の粘液 ]に触れた敵から【気力や体力】を吸収する。

イラスト:塚原脱兎

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ジュジュ・ブランロジエ

こんな姿にされちゃって可哀想に
魂人達には知らせない
大事な人が苦しみぬいた挙げ句に化け物になるなんて知ったら
そんなの、帰りを待ち続けるより辛いよ

元魂人を早く楽にしてあげたい
誰かが真実に気付く前に、早く

魂人が近くにいたらオーラ防御で守りつつ避難促す
私とメボンゴにもかけておく

なるべく距離をとりながら
UCに浄化の力付与し2回攻撃
効きが悪ければ炎属性付与

どうしたらもっと早く倒せるかな
きっと存在しているのも辛いだろうから
ううん、そんな気持ちももうないよね
辛いと思ってるのは私
『でも早く倒すのは間違ってないはずだよ』
そうだね、頑張ろう

触手は炎属性付与したオーラ防御+メボンゴにナイフ持たせて防いだり切ったり


クレア・ジャキエ
へーえ、ほーお、面白ぇじゃん? つまりアレは合成人間ってわけだろ?
やっべぇなクッソ気になるぜえ!! どーやって混ぜたんだぁ!? 拒絶反応は? 神経系の統合はどうやって? 劣化具合の差は? 永劫回帰とやらの痕跡は残ってんのか? ッカー気になる!!
触手の一本でも貰えりゃサンプルには十分かな。オレが突っ込んで触手ブッちぎってけば砦側にも有利! オレもサンプル貰えてハッピー! WIN-WINだよなあ!!
こう、他の猟兵の援護っぽく行って、ピアス爆弾で目潰ししつつ、四肢変形させて避けながら、医療道具のナタで一本もらってくわ。いのちだいじに、ガンガンいこうぜえ!!



●ヒトなりしものの尊厳は
「何だ、あの化け物は!?」
「砦に入れるな!」
「兄ちゃんがいたらこんなやつらなんて――!」
 望むと望まざるとに関わらず、ダークセイヴァーの上層に転生した身である以上、魂人らはオブリビオンの襲撃はこれが初めてである筈もない。故にこうして一介の集落ならぬ、廃墟と言えども護りを備えた砦に集って住まうのだ。だが、その彼らをしても混乱せしめる程に、此度襲来したオブリビオンはあまりにも醜悪な見目をしていた。それを創り出した闇の種族が名付けて曰く、『闇の被造物-肉達磨-』。
 ――可哀想。
 逃げ惑う魂人らの波に揉まれながら砦の入り口に佇んでジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)の心の内に湧いたものは憐憫だ。
 この被造物らのただ生きる為であるならば無駄としか言えぬ迄に無駄に発達した筋肉も、その背や肩から無数に生やした用途の解らぬ触手の群も、害する為だけにあるのだろう。だがその逞しさの割に、不気味な粘液に塗れた体躯は身を護るべき皮膚らしい構造すらも持たずに、その粗雑さはいかにも使い捨ての兵器と言わんばかりの趣がある。
 そうしてこの酷く雑な被造物らが元来はこの地に生きた魂人であった事実をジュジュは知っている。
「慌てないで、砦の奥に非難して!」
 足をもつれさせて転んだ魂人の少女を狙って襲い来た触手らをオーラの護りで退けながら、ジュジュは高く声を張る。街角の喧噪も喝采にも慣れ親しんで磨かれた旅芸人の少女の声はこの騒乱の場でもよく通る。
「――この化け物は此処で私たちが止めるから」
 化け物。強いてその言葉を選ぶのは彼女なりの決意であった。
 目の前に立つこの醜怪な被造物らがかつては誰の家族で、友人で、或いは恋人であったのかジュジュには知る術もない。知りたくもない、とも思う。知ったとて此度ばかりは墓場まで持って行くと決めていた。
この化け物の正体を絶対に、魂人らには知らせまい。大切な誰かが苦しみ抜いた果て、こんな姿で理性も記憶も失くした果てに己の元に帰るだなんて、何も知らずに待ち続けるより辛すぎる。
「『踊って!』」
 揃えて向けた白くか細い指先より、風の刃が吹き荒れる。ジュジュや魂人らには頬を撫でるだけの風でしかないそれらは、被造物らには研ぎ澄まされた鋼の切っ先よりも鋭い斬撃を見舞う。風刃を避けんとしてその巨躯を躱す彼らの動きはダンスと言うには無様なれども。
 無論相手が防戦に徹して居よう筈もない。風を縫って襲い来た触手のひとつを皮切りに、無数の触手が荒れ狂う。骨も外殻も携えぬくせに筋繊維のみで成したかの様な触手のなんと敏捷なこと。ジュジュが細腕に携えた二本のナイフのみでは手にも余るところを、彼女の指先に繋いだ糸で操る白兎人形・『メボンゴ』が携えた刃がもう二つ。張り巡らせた魔力の障壁を罅割れ、砕けさせられながら、肉を斬らせて骨を断つとでも言わんばかりに四本の刃は風の刃と共に、触手へ、それを操る被造物らへと斬り込んで行く。
 ――願わくば、一秒も早い安寧を。
 今や理性を失くしたこれらに対しては、それがどこまでも己のエゴだと知りつつも。

「へーえ……ほーぉ……」
 古びた砦の外壁上、見下ろす様にジュジュの戦いを眺めて唸る猟兵が一人。肉の色をした被造物らが、姿も持たぬ風の刃に刻まれて鮮烈な赤を散らし屠られてゆく様はおよそ常人には心地よい光景などとは呼べまいが、夜闇に光るこの猟兵の金の双眸はどうやらそこに別の何かを見出しているものらしい。
「面白ぇじゃん?つまりアレは合成人間ってわけだろ?」
 興奮気味な独白を漏らすこの猟兵の名はクレア・ジャキエ(Dr.C・f37458)。生物学上は24歳の女性である――今のところは。
 眼下で暴れ、屠られてゆく被造物らをクレアの瞳は舐める様に吟味する。
 やたら醜怪で無駄に膂力を発達させているという点に於いて酷似したあの生命体どもは、どう見ても元の魂人らの個体の名残はさしてとどめていないらしい。であるならば、合成させた「何か」の形質の方が色濃く出ていると見るのが妥当だろうが、そこまで混ぜたと言うならば元の生体が何らかの拒絶反応を起こすと考えるのが必然だ。王道の解を用いるならば免疫抑制剤の類を投与するのが適当なところだが、闇の種族が一介の配下に果たしてそこまでするものか? とまれ、この場限りの使い捨ての駒であると見るならば整合性は取れよう。だが、それにしてはあの敏捷な動きはどうだ。元から備えたものとも思えぬ発達した前肢は「後付け」であると見るのが妥当だろうに、であるならばその神経系は如何に統合したのだろうか。それを魂人の身体に合成する前後での劣化具合の差は如何程か? 永劫回帰だとか言うこの世の事象を巻き戻す異能の齎す痕跡は? 己の知り得る医学の知識の外にその解はあるらしい。
 知りたい。知りたい。探究欲が尽きない。
 尽きてくれない。
 何かの答えに至る前に、安全圏の外壁上からクレアは身を躍らせて飛び降りていた。白衣をはためかせて地を踏んだ人影に被造物らの注意が向くのと同時、月光を浴びて煌めいた二重螺旋のピアスが宙を舞い、誰の注意を惹く前に派手な爆炎と煙を上げる。目くらましの様な煙をついて振り抜かれた鉈が被造物らの四肢を、触手を、煙の内で斬り飛ばす。
 この戦局の先の先まで、今のクレアの脳裏には一枚の青写真がある。この場で脳にプログラムしたそれに従い、彼女の身体は最適な動作と動線で被造物らへ鉈を振るう。その成否などどうだって良い。躱し損ねた触手に腹を穿たれようが、それで血反吐を吐き出すことになろうが、そんなものなど所詮過程だ。ゴールはあくまで研究である。その為に払う犠牲などたかが知れている上、クレアのこの派手な陽動で猟兵や砦に住まう魂人らが反撃の機を得るならばそれはどこまでもWin-Winだ。残念ながら今やクレアにとっては被験体として頭数でしか数えられないこの闇の被造物たちはその勝者の内に名を連ねる余地はないとしてもだ。

 やがて戦利品たるオブリビオンの触手を手にして狂喜するマッドサイエンティストを目の端に、ジュジュはその振る舞いを咎める言葉を持ち得ない。ここに至るまでに知り得た事実と倫理に照らしてそれが「かつての」彼らに対する冒涜や狼藉の類だと断じることは易けれど、それを為すことは即ちこの醜怪なオブリビオンらがただの化け物などではないと魂人らに気取らせることになりかねない。
手のひらに爪を立てて拳を握り込みながら、ジュジュは喉にまで上がる言葉を飲み下す。 
かつてヒトなりし彼らの尊厳に言及をせぬことでしか、彼らの尊厳を守れぬと苦くも理解をしていればこそ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

丸越・梓

解釈お任せ

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そうか、と
ただそれだけを返す
冷たく厚い、氷の様な理性の中で
瞳の光が刹那切なく揺らいだ

……痛かったろう、
攫われ、意味もわからぬままに
理不尽に苦しんだだろう
だから悪夢はここで断つ
湿ったその不明瞭な音に
かつては込められたのだろう願いを
確かに聞き届けた

恐れはない
厭いもない
その魂を今尚繋ぎ止める雁字搦めの鎖から解き放つ、
確固たる意志だけがある
憐憫を否定するわけでは決してない
けど、…俺は、
彼らを"可哀想"にしたくない、から
だから、掬い上げたい
その魂の、想いの一欠片でも

もう既に理性なくとも
最期は安らかに逝けるように
この一閃に痛みはなく
断ち斬るはオブリビオンたる縁のみ

「──おやすみ」



●その魂が『ヒト』である為に
 砦を前に立ちはだかった猟兵の姿を前に、闇の被造物らが上げた咆哮は相も変わらず不快な湿り気を帯びて、意味を持たない音だけ成した。野生の獣の鳴き声にしたってもっと未だ何らかの意図や感情が汲み取れるものである。その差は自我を持つ者と持たざるもののとわに埋まり得ぬ隔たりによる。
「――そうか」
 丸越・梓(零の魔王・f31127)にはそれらの言葉が解るとでも言うのだろうか。仮にそうだとしたところで、単に無責任な相槌と言うには痛ましげな声も、常は強い意志を宿した黒曜の瞳の刹那の翳りも、闇の被造物らにはその意味も理由も解らない。幸いなる哉、それ故にどんな理解も悼みも現実を何ひとつ変えてはくれぬ不条理への嘆きも持ち得ぬが。
 故に梓の言葉を受けた被造物らが得体の知れぬ白濁色の粘液を辺り一面に撒き散らすことにも、ただ短絡的に目の前の障害を排除する為に成し得る手段を取った、それ以上の意味はないのだろう。触れれば生命を啜り上げる筈のその汚濁した液体は、燕の様に身を躱した梓の黒衣の裾にすら届くことはない。だが、生命すら枯れ果てた様なダークセイヴァーの荒野を広く染め上げて、まるで外堀を埋めるかの様に足元から敵を蝕む。
 泥濘よりも尚重く足を取る粘液の上、膂力に任せて叩きつける様に振るわれる被造物らの腕を、追撃を狙う触手を梓は不自由を感じさせぬ動きにて掻い潜りながら立ち回る。誰の目にも醜怪と映ろう被造物らのその姿に、梓は何の厭いもない。恐れもない。同情もない。憐憫も、ない。
 この地に立つ限り今この間にも命を吸い上げられて行く以上、攻め手を重ねことが本来正解の様でありながら、生半可な傷を与えたところで回復されて無駄に苦しみを長引かせることになりかねない。開戦より瞬時にその判断に至っていた梓が愛刀を振るうのはその一閃が確実にとどめたり得る瞬間のみだ。冷たく厚い氷の様な梓の理性は冷静にその好機を見極めて、夜闇に閃く白刃が定かに断ち切る。
 無残に改造された闇の被造物らの肉体でなく、今も尚その魂を雁字搦めに捕えて離さぬ忌まわしき鎖のみを。
「――おやすみ」
 目の前で同朋が頽れる様を見てすら何も感じるものはないのであろう、闇の被造物らは先と変わらぬ調子で襲い来る。生物として本来持ち合わせている筈の死への恐怖すらないのだろうか。だが、その端から切り伏せながら、梓が向き合うものは「今の」被造物たちならず。
 ――痛かっただろう。唐突に攫われて、意味も解らぬままに弄ばれて、理不尽に苦しめられたことだろう。
 闇の被造物らの不明瞭な咆哮に梓が聴くのはかつてヒトだった頃の彼らの想いであり、願いである。
 彼らを憐れむことは易しい。そうする猟兵も居るであろうし、それを否定するつもりもない。だが、梓は強いて己が彼らを「可哀想」にすることを望まない。ヒトとしての彼らの想いを、魂を、たとえ欠片でも掬い上げ、彼らをヒトとして終わらせることが出来るのは今この場所に立つ猟兵だけなのだ。故に桜の名を持つ愛刀を握り直して、かつてヒトであった誰かへと解放の為に振り抜く。
 畢竟、汚れた大地に立つ者が梓のみとなった時、辺りに散らばる屍は何処までも醜悪な化け物どものそれである。
 彼らがヒトとして扱われ、安らかな最期を迎えたことはただ梓だけが知っている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

霧島・絶奈


◆心情
「私を忘れないで」…ですか
人の数だけ想いがある故に、正解は無いのでしょうね

◆行動
私なら真実を知った上で黒幕に報いを与える術を模索しますが…
敢えて伝えないのも手ですか
…第二波で察されそうですけれどね

とは言え、魂人に積極的に攻撃させるのは避けましょう
所詮エゴですが、知らず覚悟も無い儘身内同士が相争うのは愉しくありません
…まあ、露呈して怨嗟の声を向けられる覚悟はしています

持ち込んだ「魔法で敵を識別するサーメート」複数を使い防衛線を構築

その後は『涅槃寂静』にて「浄化」属性の「劫火」を行使し範囲攻撃

更に範囲攻撃するマヒ攻撃の衝撃波で二回攻撃し追撃

負傷は各種耐性とオーラ防御で軽減し生命力吸収で回復



●神ゆえに知る、世は残酷なものなれば
 「私を忘れないで」。
 霧島・絶奈(暗き獣・f20096)が思い起こすのは勿忘草の花言葉だ。グリモア猟兵の予知で聴く誰かがヒトの意識で最期に思ったものはどうやら青く可憐なその花らしい。であるならば、さて、覚えて居て欲しいと願うのはどの瞬間の己であっただろうか。
 答えは闇の中なれど、だが少なくともそれは、目の前の肉の赤色で聳え立つ化け物どもの姿としてではないことだけは間違いがない。
 逃げ遅れたか、砦の門の近くにて固唾を呑んで見守る魂人らの前で、擁壁の間近に火柱がひとつふたつと上がる。絶奈が仕掛けたサーメートに闇の被造物が掛かったものだった。
「身を潜めていてください。助力が必要になったら声を掛けます」
 振り向いて静かに微笑む絶奈の言葉に、魂人らが控えめに頷きを返す。その間にも彼女の背後、荒野の随所に火の手が上がる様を見ればその防衛線が彼らの助力を要する様な展開はだいぶ想像もし難いのだが。
 魂人らの避難を見届けながら、絶奈は折しも火だるまになって突進して来た闇の被造物の一体を横目に捕えて黒き剣にて撫で斬りにする。その巨躯と醜い容貌からは元の種族の想像もつかぬが、これとて元は彼らと同じ魂人であったらしい。元の姿を知る誰かは、真実を知れば何を思うか――その胸中を慮るかのように、グリモア猟兵は強いて伝えぬことを提唱していたものの、自分であればどうだろう? 真実を知った上でこの悪逆の黒幕に一矢報う術を模索したいと願うのではなかろうか。
 だが、誰もがそれを為し得るだけの力を備えては居ないこととて、永くを生きた絶奈は知っている。であれば、確かに強いて伝えぬという選択にもまた一理ある。
 サーメートの地雷原のさなかから、闇の被造物らが白濁した粘液を撒き散らす。神たる身への不敬を赦さぬと言わんばかりに迎え撃つのは地獄の炎のごとき業火だ。津波の様に荒野を飲み込む浄化の炎は粘液を蒸発させて、哀れな元魂人たちをも灰燼へと帰してゆく。美醜に善悪、理性の有無、ヒトであるか化け物であるかさえも分け隔てなく死も無も万物に平等だ。
 砦の壁の覗き穴より何対もの瞳がその光景を見守って居ることを絶奈は振り向かずとも当然に気付いている。その眼差しが「今はまだ」味方たる猟兵の善戦を目の前にして、期待に満ちていることも。
 彼らを戦線より退けたことは何処までも絶奈個人の感情の為でありエゴである。何も知らずに何の覚悟も持たぬまま身内同士が相争うのを放置するのはどうにも明日の寝覚めが悪い。他方、この世は何処までも残酷だ。この場で真実を秘めたところで、予知された第二波の襲来はいずれ全てを詳らかにするであろうと予想しても居る。その暁にはこの集落の魂人らの向ける期待と信頼の眼差しが、怨嗟のそれと声高な罵倒に塗り替わるであろうことも。――口には出さぬその覚悟とて、慈悲かエゴかはいざ知らず。
 露悪的な聖女の足元で、元はヒトであり化け物であった何かの骸が炭となり、静かに熾火を燻ぶらせていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

上野・修介
よくあることだ。
特にこの『世界』では『こんなこと』がありふれている。

――やることはいつもと変わらない

呼吸を整え、(――憤りを飲み下し)無駄な力を抜き、(――奥歯を噛み締めそうになるの抑えて)戦場と己を観据える。(――熱を帯びる四肢とは逆に頭は冷たくなっていく)
彼らの数と配置、周囲の地形状況、砦までの距離、氣の流れを確認。


「悪いが、貴方達をその姿のまま帰すわけにはいかない」

立ち回りは基本ヒット&アウェイ
初動は狙いを自分に向けさせるように真正面から。
極力足は止めず、懐から懐に移動するように姿勢は低く。

胸部への掌打にて勁を透すと共に、UCを用いて経絡経穴に氣を流し込み内部から心臓部を停止させる。



●ヒトなればこそ、喧嘩上等
 よくあることだ。
 無数に聳え立つ肉塊もどき――闇の被造物らが迫り来る様を眼前に、上野・修介(吾が拳に名は要らず・f13887)は己に言い聞かす。弱き者が理由もなしに虐げられて涙を流し、その悲劇がまた悲劇を呼ばう。そんな理不尽は四半世紀も生きぬ彼の人生に於いてでも枚挙にいとまがない程だ。
 特にこの『世界』では『こんなこと』がありふれている。――この常闇、ダークセイヴァーと呼ばれる世界に於いては。
 故に修介は平静を保とうと試みる。気を抜けば腸が煮えくり返りそうな激情の中、それを鎮める方法は「喧嘩」の場数を踏んで来た彼の身体は実践として知っている。ともすれば上がりかねない心拍に引きずられ浅くなる呼吸を整えて、憤りをただ飲み下す。訳もなく拳を握りしめ、奥歯を噛み締めそうになるのを堪えて無駄な力を逃す。こんなことには慣れている。元来は穏やかな修介が経験をした喧嘩の殆どは、己が好んで仕掛けたものならず、斯様な理不尽で巻き込まれざるを得なかった代物であるがゆえ。
――やることは、いつもと変わらない。
 静かに力を漲らせるかの様に熱を帯びる四肢に反して、頭は何処までも冷えてゆく。冷えた頭に流れ込むのは常時の比などではない膨大な情報だ。敵の数や配置は言うまでもなく、その正確な距離及び、元来は見えぬ筈の、大気を縫う様に走る淡く光る流線――気の流れ。この境地に至ればこそ見えて来るそれは、戦いに於いて修介が必要とする全てであった。
 それ故に、その気の流れを読み解いて、突如襲った闇の被造物の拳を修介は危なげもなく躱してカウンターを叩き込みながら間合いを取り直すことが能う。彼が避けた先、破城槌の如き一撃を受けて割砕かれた擁壁が砂塵と瓦礫を派手に撒き散らす。
「悪いが、貴方達をその姿のまま帰すわけにはいかない」
 敵であると認めた相手へのそれとは異なる二人称で声高に告げるのは、目の前のこの相手を修介がヒトとして扱うことの証左に他ならぬ。そうしてその間も彼は足を止めない。尋常ならぬ膂力が故に力に任せた敵の一撃は大振りで、故に躱せば隙も生まれる。その隙を縫う様に、低く拳を構えて懐に飛び込んだ修介は心臓の直上へと掌底にて打撃を見舞う。化け物と言えどそこにある器官が全身の循環を司る最重要の臓器であれば、強打によって俄かに止まる拍動に、その衝撃に仰け反る頸はがら空きだ。続いて見舞う修介の次撃は闇の被造物の脳を重く揺らして、流し込んだ「氣」が内部からその心臓を止めるのに幾らの時間もかからない。
 よくあることだ。いつもと何も変わらない。
 即ちヒトを相手取り「喧嘩」する時と同じ作法で修介は立ち回り、その間隙に何の流派の名も冠しない拳を叩き込むのみだ。
 己の四方、視界に映る限りに於いて立ち歩くものが無くなる時までそれを続けることも、また然り。

大成功 🔵​🔵​🔵​

比良坂・彷
【旅路】
※流血歓迎

ニュイの願いは割と見えてたけどなァ
道連れ相手にお選びいただけたのは至極光栄
キミに降りる幕が幸いたれと願う

隣の怒りに頷き煙草に火をつける
さぁさぁ終わらせるよ

勿忘草に紛れ接敵
ニュイが打った敵を確実に殺していく
敵の頭を掴み砦に叩きつけ
飛び散る煉瓦は蹴り飛ばし目潰しや武器にして攻撃力をあげる
敵の連続攻撃は壁や物品を盾に凌ぐ
生じた瓦礫は続く攻撃の相殺で裏拳で叩いてばらまく
その技知ってる
俺の大事な人が使うからさ
己の命惜しくての同士討ちが誘えるなら言葉や敵を盾にして積極的に狙う

たまにニュイを見て狙いは把握
オーバーキルにならぬよう効率よく攻撃相手を選ぶ

ニュイも俺が落したの撃ってくれるでしょ?


霧島・ニュイ
【旅路】

彷は僕の心の底の願いを引きずり出してくれたから
上層に行くのについてきて欲しいと思ったんだ
魂人になりそうな家族は想い人はこういう場所にいるのかな

…吐き気がする
こんな無惨な改造をする敵に
生きたままなんて、酷い

出来るだけ待つ家族に真実を知らせないよう
だって真実は何よりも残酷だから
勿忘草の花弁を飛ばして、まずは全体的に戦力を削ぐ
スナイパーで命中率を上げて、2回攻撃で手数を増やす
長く苦しませないよう急所を狙ってクイックドロウで早撃ち
フェイントとだまし討ちを織り交ぜてのトリッキーな戦い方を好む
攻撃は敵の手や足、視線をよく見て見切り避けて
僕が注意を引き付けてるならその間に数を減らしてくれるよね、彷?



●鉄火場に勿忘草の餞を
 セルフレームの眼鏡を越して緑の瞳が収めた常闇の世界の景色は初めて見る場でありながら、まるで縁のないものとは何故だか思えない。懐かしい、と言うには違う。見たことがあるとも思わない。
 だが、この世界の何処かで魂人になっているやもしれぬ家族や想い人らが居るとするなら、こうした場所であるのだろうと、霧島・ニュイ(霧雲・f12029)は物思う。吸血鬼の父の血を引いて、夜の名を戴くニュイが猟兵として陽の下を、他の世界をも自由に渡り歩いている一方で、彼らは未だこの明けぬ夜に囚われている。生きていようが、いるまいが。
「彷は僕の心の底の願いを引きずり出してくれたから――ついてきて欲しいと思ったんだ」
 ぽつりと零したニュイの言葉に、傍らで比良坂・彷(天上随花・f32708)は淡い笑みで答えた。
「道連れ相手にお選びいただけたのは至極光栄」
 彷にしてみれば、ニュイの願いは引きずり出すだなどと言う難儀もなしに早くから割と明確に見えていた。日頃からニュイを甘やかしたくて仕方ない彷はニュイ自身が自覚をしていないものも含めて彼の望みに敏感だ。
そうして、ニュイ当人よりも強い程に願うのだ。彼に降りる幕が幸いたれと。
 ――それがどの様なものであれ、目の前に広がるこの地獄などとは異なることを願うのだ。
 夜闇に紛れるようにして果ても知れぬ荒野より迫り来るのは、四肢の造形と二足歩行に人の名残をとどめていることが逆に不憫になるまでに醜悪な闇の被造物らだ。もっと人類とかけ離れた造形に作り替えられている方がいっそ救いがあるだろう。
「……吐き気がする」
 生きたままなんて、酷い。
 絞り出す様に小さく震えたニュイの呟きに、彷は頷きのみを返した。この化け物が誰の大切な人であれ、この世界に大切な人が居る身には他人事ならず、怒りはひとしおなのだろう。もしこれが己の大切な人であったなら――などと言うその無意識下の思惟が明確な像を結ぶ前に、手探りでポケットから煙草を出して、咥えて燐寸で火を点けた。己なら考えたくもない話だ。
「さぁさぁ終わらせるよ」
 賭場の壺振りの口上めいて威勢よく彷が声を張り上げれば、じわりじわりと距離を詰めて来ていた闇の被造物らが一斉に動く。元より砦の壁を背にして佇んでいた二人を追いつめられた不利な位置だと断じただけの知性があるかはいざ知らず、事実、二人に逃げ場などない。
 闇の被造物らの視界を覆うのは無数の可憐な青の花弁だ。奇しくもニュイの好きなその花は陽の差さぬこの集落にも、一年のうちの短い時期にだけ咲くと言う。
 不穏で不機嫌な空の色をしたニュイのマスケット銃が解けて姿を変えた勿忘草の花たちは、見る間に数を増しながら闇の被造物らを切り裂いて、視界を青と赤とのまだらに染めてゆく。粘液を散らして応戦しようとした闇の被造物の死角より、その側頭を殴りつけたのは使い込まれてよく艶の出た焦げ茶のアタッシュケースーー否、厳密に言うなら麻雀鞄。博徒らの夢と絶望の媒体を重く詰め込んだ鞄は強かにその一体の脳を揺らした。
 防ぎ損ねた粘液を至近で浴びながら、次撃を見舞って距離を置こうとした彷に無数の触手が襲い来る。腹を、肩を穿たれながらも、荒れた鉄火場の博徒らの捨て身の暴力に比べるならばまだ温い。夜を徹しての命のやり取りは彷がいつもして来たことである。故に、砦の擁壁に叩きつけられて瓦礫を撒き散らすのも、そのまま起き上がれないふりをして畳み掛けんとした触手や拳を誘ってすんでのところで身を躱し、わざと派手に擁壁を壊させるのも、全て計算の上のこと。闇の被造物は予想しようか。触手も拳も獲物を仕留めなかったどころか、崩落した瓦礫がよもや触手を圧し切る重さと威力を持とうなど。
 彷が演じて見せた窮地に群がる様に襲い来ていた別の一体の頭を掴み、彷は未だ堅牢に聳えたままの石壁へと叩きつける。散った瓦礫の幾つかを蹴り飛ばし、背後に迫った一体の触手を防いで、後ろへと跳んで距離を稼ぐさなかに、此方へと顔を向けた闇の被造物の眉間を銃弾が穿って抜けた。敵の狙いを定めさせぬ様、引き金を引くと同時に駆け抜けて行ったニュイと視線は合わずとも解る。彷がどれだけ無茶をしようと、ニュイが背中を護ってくれるだろう。
賭博と言うものは胴元が勝つ。だが、負け越せば誰も賭けごとに狂うまい。今宵の彷は胴元の仕込みとして、適度に負けて相手を気持ちよく勝たせることで深みに嵌める役回り。そこに共謀者たる友の存在まであれば、今宵、この場で闇の被造物らに勝ちの目などのあるべきか。
 無論、理性などとうにない闇の被造物らにそんな道理は解るまい。膂力に任せて暴れ、破壊しか求めない闇の被造物らは刷り込まれた本能の様に、それに適した異能を用いるのみだ。
勢いを増した触手を前に、戦いに於ける攻め手を増やすその異能を彷は知っている。彷の大切な人も用いるそれは元来、味方を害することなくば己の命を削るものであり、それ故に彷は大切な彼女には必ず己を攻撃する様に言いつけている代物だ。だが、闇の被造物らは既に己の命を顧みるだけの思考さえ持ち得ぬか、どうやらそれを為す気配すらもない。手近な瓦礫を掴んで触手を断ち切って、その後頭部へと強打を見舞いながら、次の一体へと向かう彷の背中で、ニュイが放った弾丸が無様に追い縋ろうとした闇の被造物に永久の安寧を賜う。友と同じく窮地を装い危なっかしく戦場を立ち回るニュイの手の内で雲の名を冠した銃が鳴く度に、屍がひとつ増えてゆく。
 闇の被造物らの全てが地に伏して、短い静寂を取り戻した夜の荒野に、この季節には咲き得ない勿忘草の花弁がひとひら舞っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『地獄の亡者』

POW   :    堕落
自身の【欠片ほどに遺されたわずかな正気や人間性】を捨て【紋章の力をさらに引き出した、完全なる亡者】に変身する。防御力10倍と欠損部位再生力を得るが、太陽光でダメージを受ける。
SPD   :    レギオン
【別の亡者】と合体し、攻撃力を増加する【2つ目の紋章】と、レベルm以内の敵を自動追尾する【亡者弾(肉体の一部を引きちぎったもの)】が使用可能になる。
WIZ   :    呼び声
自身が戦闘で瀕死になると【10倍の数のさらなる地獄の亡者】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。

イラスト:V-7

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
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 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●常闇に神も仏もあるべきか
「兄ちゃんが留守だって砦を護るって約束したんだ」
「そうよ!あの人の帰る場所を私が守らなきゃ――」
「猟兵たちに任せきりじゃなく俺たちも戦おう!」
 一度は砦に逃げ込みながら、猟兵達の活躍に落ち着きを取り戻した魂人たちの間でそんな声が湧いたのは、残酷なこの世界の道理から行けばある種の必然でもあった。
 皮肉も皮肉。神などいないこのダークセイヴァーの上層で、事態は常に最悪のシナリオを辿る。
 前線に出るや、自分をしつこく付け狙う一体の地獄の亡者に、少年は兄から貰った片手剣を握りしめながら啖呵を切った。
「かかって来いよ、化け物!」

 嗚呼。
 少年は夢にだって思わない、彼の愛する兄君が今目の前に居ようだなどと。

【マスターコメント】
 地獄の亡者を討伐ください。
 家族や恋人、かつて縁あった魂人を執拗につけ狙う習性があるようです。
ジュジュ・ブランロジエ

お願い!下がって!
魂人に叫ぶ
砦の中にいてほしい
戦わせたくない
でもその理由は言えない

魂人を自分よりも手厚くオーラ防御で守る
やめてよ
こんなの嫌だよ

敵の攻撃は早業でオーラ防御+メボンゴの手から光属性衝撃波出して衝撃緩和して受け流す
目眩ましも狙う
ねえ、お願いだからここは私に任せて
貴方は隠れてて

早く倒さなきゃ…
魂人が察する前に

※UCに光属性付与
太陽光じゃないけど少しでも効果があるといいな

正気や人間性を捨てるなら正体に気付かれ難くなるかもなんて残酷なこと考えちゃった
ごめんね
ごめんなさい
心の中で謝る
届かなくても
…ううん、反省も悲劇を嘆くのも後!

うう、硬い!
一気にぶつけるしかないかな
※を2回攻撃&全力魔法


上野・修介
「手出し無用。ここは俺たちの戦場だ」
先ず魂人たちに向かってそう宣言し、砦まで下らせる。

既に魂人たちと戦闘になっている『地獄の亡者』がいれば、果断なく背中から攻撃して早々に仕留める。

彼らだって『この世界』の住人だ。
何れは、分かることかもしれない。

だがそれでも、意地でも双方に手を下させない。

調息と脱力、戦場と己を観据える。
魂人たちと『亡者』の数と配置、周囲の地形状況、砦までの距離、氣の流れを確認。

立ち回りは先と同じくヒット&アウェイ
極力足は止めず、姿勢は低く、懐から懐を渡る様に。

相手は再生力と防御力が高い。
直接打撃よりも、UCを用いて経絡経穴に氣を流し込み内部から心臓部を停止させることを重視。



●知るも地獄、知らぬも地獄
「お願い!下がって!」
 ジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)の叫びは悲鳴にも似た。
 闇の被造物らを退けた後、機を伺っていたかの様に戦場に雪崩込むのは地獄の亡者たちだった。
 時を経た屍の様なくすんだ黒い皮膚も、その皮膚を弛ませながらも不気味に膨張した体躯も、これがどうして立ち歩くのかと思える様なその様相。怨嗟とも苦悩ともとれぬ呻きを口から垂れ流すその有様は、地獄の亡者だなどとよくぞ名付けたものである。
「大丈夫よ」
 ジュジュの叫びを弱気と取ったのか、頼もしく返して斧槍を手に前線に躍り出た魂人の女性と、やはり各々の得物を手にした数人の魂人らがある。
「私達だって戦える!」
「砦の中にいて!」
 ひとりの青年の姿を見るや他の魂人らに脇目も振らずそちらへと駆け出そうとした一体の亡者を魂人らが阻み、取り囲む。
 その亡者はきっとあの青年と所以ある者だったのだろう、思わずそんな思惟に気を取られたジュジュが咄嗟にしたことは魂人らにオーラの護りを施すことだ。己への護りよりもよほど手厚いそれはジュジュの優しさそのものであると言うのに、
「ねぇお願い、ここは私に任せて――」
「邪魔するんだったら貴女が下がってて」
 折角取り戻した士気を下げる様なジュジュの言葉に返るのは苛立ち混じりの舌打ちだ。
「……っ!」
 ジュジュが彼らを戦わせたくない理由など明解なれど、どうしてもそれを口にすることが能わない。だが、命を懸けて立たねばならぬ戦地に於いて、誰が理由も知れぬ懇願などに耳を傾けることがあろうか。
 ジュジュの目の前の地獄の亡者へと矢が射掛けられ、剣が閃き、振り下ろされた槍斧の刃がどす黒い血に濡れた。先程亡者が執着を示した青年本人が剣鉈を振り上げる目の前で、
「貴方達が下がれ」
 有無を言わせぬ声と共に亡者の後頭部へと目にも止まらぬ瞬撃が見舞われる。
「手出し無用。ここは俺たち猟兵の戦場だ」
 一撃の下に前へと倒れ伏した亡者の延髄を踏み砕いてトドメとしながら、上野・修介(吾が拳に名は要らず・f13887)が魂人らに告げる。刻まれた古傷からも歴戦と知れる彼の風貌と、目のあたりにした圧倒的な力は彼の言葉にある種の強制力を漂わせた。魂人らの返答を待たず、次の敵へと向かう修介の黒い瞳が一瞬だけジュジュへ向く。迷いを諫められた様な心地を受け、思い直したジュジュが抱きしめた白兎人形・メボンゴが此方へと来たる地獄の亡者らに光の織りなす衝撃波を浴びせかけた。抗議する様に呻きを上げた亡者らに生まれた僅かな隙をついて、修介が拳を叩き込む。
 彼ら猟兵が千差万別である様に、先の言葉を受けての魂人らの判断もまた様々だ。この場を猟兵に任せて大人しく引き下がることを選ぶ者、尚戦うことを選ぶもの、惑った末に未だ判断のつかぬ者。致し方ないことだ。だが、いずれの判断に至ろうが彼らは真実を何も知らない。彼らとてこの世界に生きる身なればいずれはその真実に辿り着くことにもなろう。その時に如何な心情に至ろうが、少なくとも今この場でその真実を知らせることも、知らぬまま身内と殺し合わせることも修介は望まない。
 槌の様に大上段から振り下ろされた、指を組み合わせた亡者の両手を躱した修介の足元で地面が罅割れる。地獄の底に至っては、組む指は祈る為ならず、こうした破壊の術にしかなり得ない。大振り故に躱せば隙の大きいその一撃、反撃として低い位置にある亡者の頭を蹴り上げながら、修介がわずかに背けた鼻先をジュジュが投げたナイフが通り過ぎ、背後から迫る別の亡者の目へと突き立つ。修介は振り向かず、重ねる様に裏拳でその顔面を殴りつけ、その一体が後続を巻き込んで倒れ込むのを見届けることのないままに、眼前で身を起こそうとする亡者の脳天に肘を落とした。視界に入ろうが入るまいが、この戦場で起きることは気の流れによって修介にはある程度読み解ける。
 そしてそれ故に、突如雄叫びを上げた亡者らがその身に受けた傷を見る間に癒して行く様も、目に入れる前に事態をそうと解るのだ。身に埋め込まれた紋章の力を解き放ち、なけなしの正気や人間性と引き換えに再生力と防御力とを増したものらしい。刃も拳も硬い手応えのみを返して確かな手応えがない。
獣めいた四つ足で猛り狂う亡者らを瞳に映したジュジュは、震える指先を強く鳴らした。
「『さあ、ご注目!』」
 軽快に響いたフィンガースナップの音と同時、高らかに叫ぶ。刹那、七色で燃え上がる炎は常より明るく、昼の日中の陽光めいて燦然と輝いた。その炎に焼き焦がされながら、生前から常夜しか知らぬ亡者どもには目眩ましとしてもよく効こう。
 あってないようなものとは言えど欠片ほど残る人間性の残滓すらかなぐり捨てたと言うのなら、魂人らのことも解らず、魂人らがこの亡者らの正体に気付く可能性も下がるやも知れぬなどと言う甘えた期待を抱いたことにも、それによって僅かばかりでも己の罪悪感が薄れる様な気がしてしまったことにも、自己嫌悪しか湧いて来ない。
 何をどう言い訳をしたところで、この亡者らは「ヒト」である。
――ごめんね。ごめんなさい。
 心の中で謝罪を重ねながら、その謝罪とて何処までも自己満足だと知っている。ジュジュが振り抜いたナイフの刃は硬く弾かれて通らない。反撃を覚悟して身を竦めた彼女の背後から突き出された修介の腕は、さしたる力みも感じさせず、地獄の亡者の眼前で寸止めされたとも見えるのに、俄かに動きを止めた亡者が声もないまま膝から崩れ落ちた。流し込まれて内から爆ぜた「氣」によってその心臓が動きを止めたその御業はさながら魔法のよう。
「喧嘩に迷いは命取りだ」
 冷徹に、しかし諭す様な言葉にジュジュはナイフを握り直す。
 介錯の様にとどめを刺して回る二人の働きで亡者らの呻きが数を減らしてゆく中で、七色の魔法の炎が送り火の様に燃えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

丸越・梓


「──お前が狙うべきなのは、その子ではないだろう」

果敢に立ち向かう少年と、彼を狙う亡者の間に
音も気配もなく静かに
然し確かに少年を背に庇って立ちはだかり
同時にグリモア猟兵の言葉を思い出す
この子に縁ある者──例えば、兄か
何れにせよ
彼らのその手は、本人たちの望まぬところで愛する者を傷つける手であってはならない
そして──この少年が、他の魂人らが、亡者たちが
真実を知らずとも、目の前で大切な人が傷つく様を見せたく無い

この"人"たちが、護りたいと願うものを、俺が護ろう

──降るは夜
然し其れはこの世界を慈悲無く覆う闇夜ではなく
傷を浚い、オブリビオンたる由縁を解き
安息の眠りへ導く夜
俺が支配するその間は
全て等しく、その魂に安らぎあれと
その最期は亡者としてではなく
大切な人と共に過ごした、"いつかの貴方"であれと
誘い、導こう

「大丈夫──怖くないさ」
痛いのも、辛いのも、苦しいのも、よく頑張ったな。
だから今は、…もう、おやすみ。



●慈悲無き無明に慈悲の夜を
「何だよこいつ、しつこいな……ッ!」
 或る一体の地獄の亡者が、片手剣を手に立ち回る少年を執拗に付け狙っていた。他の魂人らが援護に回ろうが割って入ろうが意にも介さず、何の執着によるものか、ただ少年だけを追い回す。
 魂人らは知らず、また知るべきでない。それは理性も何も残らぬこの亡者が不幸にして僅かに失い損ねたかつての記憶の残滓によるものだ。
「兄ちゃんだったら、こんなやつ……!」
 この世は常に残酷だ。兄が教えた剣術で、兄が残した愛剣で、少年が何ひとつとして知らぬままその兄に対峙することになろうとは。
 だが、それ故に斯様な場へと現れる救世主は何時だって、世の理を推してでもその救いの手を差し伸べる。
「――お前が狙うべきなのは、その子ではないだろう」
 息切れでもしたか、切れ味と勢いを鈍らせた少年の刃が亡者の躰を断ち損ね、振り下ろされた亡者の片手はそのまま行けば少年の脳天を叩き潰して居たのであろう。その腕を肩口から音もなく断ち切った刃の疾さは誰の目に留まることもない。ただ、何が起きたかも解らぬままに呆気に取られた魂人らと、片腕を失くした憤懣を吐き散らす様に咆哮を上げた亡者の間、静かに地を踏みて立ちながら黒き魔王、丸越・梓(零の魔王・f31127)は黒耀の瞳が向けた視線と射線を一にした切っ先を亡者へと向けていた。
「俺が相手だ」
 背後にて息を呑む気配があった。何時ぞや兄に誓った通りに小さなその手が剣を握り締めることを梓は知っている。故に、居ても立っても居られぬ様に次に紡がれる言葉は半ば予想していた。
「こんな化け物くらい俺だって――」
「下がっていろ」
 残る片腕を亡者が薙ぎ払う様に振り回し、それを躱して立ち回りながらも少年たちを背に庇う位置取りを保ち続けて、梓は短くそう告げる。言葉以上に雄弁な彼の振る舞いと実力を目の前に、少年も他の魂人らも口を閉ざして黙すまでさしたる時間はかからない。
 梓は思う。グリモア猟兵の言葉によるならば、この亡者はこの少年の縁者であろう。それも、おそらくは彼の兄だ。理性も人間性も剝ぎ取られても、その存在の奥底に澱の様に留まったなけなしの記憶の欠片が肉親の顔を目の前に何らかの執着を呼び覚まさせてありながら、今や文字通りの亡者と成り果てたこの存在は、命じられた破壊の他にそれを表す術も持ち得ない。
 本来は誰より傷つけたくない筈の相手を、己の意志さえ介在させず己の手により傷つける。そんな悲劇は赦されて良い筈がないのだ。
 少なくとも、この黒き魔王の目の届く範囲では。
「ガあアあぁあ―――ッ!!」
 不明瞭に濁った声で吼えた亡者が、残る方の手で手近な亡者の頭を掴む。掴んだ箇所から肉が、血管が波打って、二体のそれらが見る間に融合をしてゆく中で、掴まれた方が拒む様にもう一体の躰に喰らい付いて引き千切る。千切れて投げ捨てられた肉塊が弾丸の様に梓へと襲い来る。目も背けたくなるその光景を梓はしかと瞳に映しながら、己の身を穿たれて骨を砕かれて血を流すことになろうとも、その場より動くことはない。そうして背後の魂人らにそれを届かせることもなければ、背に庇う少年の瞳にその光景を映させることも決して、ない。
 この世界が常闇なればこそ、理性なき亡者たちは勿論、魂人らですらも気づきもしないで居たらしい。先刻より、辺りに常闇より尚濃く深い夜の帳が降りていた。
 だが、それは慈悲無くこの世を覆う闇夜ならず、傷を攫って因果を断ち切る、安息の眠りへと導く優しき夜である。魂人の内の誰かは、己の負った傷が癒えて行く様を見た。別の誰かは、亡者が腕を失くした傷口が塞がれてゆく様を見た。この異能の主は果たして敵か味方か、俄かに上がる困惑したさざめきもやがて波が引く様に消えてゆく。彼らを黙らせたものは、あれほど獰猛に猛り狂った亡者らが至極おとなしく、まるで微睡むようにして眠りに落ちてゆく姿。
「大丈夫――怖くないさ」
 地に伏しながら尚も微睡みに抗おうとするかの様に身を起こそうとする亡者へと梓は刀を納めながら声を掛ける。本来であれば服が汚れることすら厭わず身を屈め、視線を合わせてかけてやった筈の言葉を立ったままで告げたのは、背後で見守る魂人らへの配慮である。過ぎたる慈悲はともすればより残酷な真実を彼らに知らせる糸口となる。それ故に。
 ――おやすみ。
 短い瞑目の内に梓は祈る。痛みも苦しみももはや無用であろう。
この世界の理がそれを許そうと許すまいと、少なくともこの労わりの夜の内に微睡む今だけは、その魂に安寧のあらんことをと、心からの願いをこめて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

霧島・絶奈


◆心情
引き続きエゴを貫くのみです
私はオブリビオンの敵であって、想いに寄り添う正義の味方では無いのですから…

◆行動
『真実』を囁くは容易い事です
ですが、その場で覚悟を決められる者が果たしてどれ程居る事か
徒に動揺させて士気を落とし、被害を拡大させるだけです
故に、引き続き真実は語らず、魂人にも手出しはさせません

尤も、察して尚立つ気概を見せるなら助力は惜しみませんが…

持ち込んだ「魔法で敵を識別するサーメート」複数を使い防衛線を構築
砦の魂人に反応する事が在り得ませんが…
「罠の発動を妨げられると困る」と嘯いて魂人を遠ざけましょう

加えて『暗キ獣』にて呼出した軍勢を使って敵を包囲
物理的に接触を困難にしてしまいましょう
集団戦術を用いた範囲攻撃で、敵が数を増やそうと圧殺するのみです

<真の姿を開放>
私も範囲攻撃するマヒ攻撃の衝撃波で二回攻撃し敵を殲滅

負傷は各種耐性とオーラ防御で軽減し生命力吸収で回復

亡者よ、嘆く勿れ
想い人の「傷」にならずとも、その者が貴方を忘れる事は決して無い
故に美しき想い出の儘、安らかに眠れ



●異端の神の選んだ慈悲は
 戦闘に於いて情報は多い方が良い、それは事実だ。目深に被ったフードの影に目元を隠してその表情は誰に見せることもないまま、長い黒衣の裾を温い夜風に揺らして霧島・絶奈(暗き獣・f20096)は思う。長く戦地に身を置き続けた彼女の薄い耳朶は、この今も否が応にもこの戦場の情報を拾い集めている。即ち、戦闘の音や亡者らの呻きを縫って、魂人らの叫びも猟兵たちのかける言葉も、全てが耳に入るのだ。――好むと好まざるとに関わらず。
 その上で絶奈の結論は明快だ。引き続き当初のエゴを貫いて、魂人らにはこの場に於いては真実を告げることはせぬ。いずれ遠からぬ未来に於いてそれは露見するものであれ、指揮官としての目でこの戦局と言う一場面のみを眺めるならば、真実を告げることによる妙味は何もないのだ。法や社会が高度に整えられて洗練された世でならば自己決定権だのと言う権利が彼らにも与えられようが、それには必然、決定をする為の時間もまた与えられるべきものである。この場で知らされた事実に対し、この場で後の後悔も鑑みず納得の行く決定を下せるものなど一体どれだけ居るであろうか? 彼らの殆どは何の判断にも至れずに、徒に動揺をして士気を下げるだけならまだ良い方で、悪くすれば無意識に判断を先送ろうとするあまり猟兵たちの戦いを妨げることすらしかねない。
 そんな思索は、横合いから振り下ろされた亡者の腕を絶奈が黒剣で受けて斬り払い、刃を返して首筋を薙ぐまでの刹那に行われたものである。
 誰の援護を受ける間も与えず眼前の地獄の亡者へととどめを見舞いながら、絶奈は周囲で身構える魂人らへと声を掛ける。
「罠の誤作動を招く虞れがあります。巻き込まれたくなければ下がって居てください」
 戦場へと撒き散らされて配備されてゆくサーメートの威力は魂人らも既に知って居る。故に、そのリスクを敢えてとる様な蛮勇の持ち主はどうやらこの場には居ないらしい。
 だが、理性持たぬ地獄の亡者らには、耳に届いた筈である絶奈の勧告も、目の前で燃え上がる同朋の姿も何の抑止力にもならぬらしい。荒野より遮二無二砦へと迫る彼らは、或いは、その落ち窪んだ両の瞳に、既に懐かしい誰かの姿を映してでも居るのだろうか。その懐かしさもどんな回顧も、加害以外の方法で表し伝える術など持ち得ぬくせに。
「『闇黒の太陽の仔、叡智と狡知を併せ持つ者――』」
 最初に決めたエゴの通りに、その悲劇は起こさせまい。エゴだと自覚すればこそ何の躊躇いも揺るぎもなしに、絶奈の静かな詠唱はこの暗夜によく通る。夜闇から、痩せて荒れ果てた地表から湧いて出ででもしたかの様な屍者の軍勢は、疫病を纏う四足の獣らは、いつからそこに居たものだろう。絶奈が声に出して何かを命じるより先にそれらは砦へと向かう地獄の亡者たちの行く手を阻む位置へと陣取って、槍衾と牙を以て亡者らを魂人へと近づけぬ。数の多い爪牙が、槍が亡者どもを元来あるべき死の淵へと追い落とせば、だが、十倍にも数を増した地獄の亡者らがいずこからともなく現れる。
 しかし、それらが暴れ出す前に戦場を吹き抜ける衝撃波がある。物理で殴りつけられた訳でもないくせ、痺れた様に動作を鈍らせた地獄の亡者らに、獣の牙と槍衾が畳みかける様に襲い掛かった。衝撃波の出元は魂人らを背にして佇む白き聖女である。屍者らの軍勢の現れたと同時、色が抜け落ちるようにして黒衣を白衣へと変えてみせ、暗夜には目立つ燐光を纏う姿へと変じた絶奈は今は露わとなった銀の瞳で戦場を見渡して、形の良い唇の端を吊り上げた。
「愉しみましょう、この逢瀬を」
 彼女の言葉など待たずとも、既に戦局は動き出しており、このまま行けば早晩に趨勢は決することだろう。
 地獄の亡者らが慟哭めいた呻きを上げる。理性をなくした彼らの放つ声など、今や何の意味ひとつ持ち得ない。かつての縁者たる筈の魂人らにすらもそれは今や深いに鼓膜を震わせるだけの「音」にしかなり得ぬのだ。
 だが、敢えて絶奈は心の内で告げてやる。
 ――亡者よ、嘆く勿れ。
 それが嘆きだと勝手に断ず、それすらエゴだとした上で。
 彼らが魂人らに見せた執着が何らかの感情に依るものであると仮定した上で。
 わざわざ想い人の傷となり、それをつけた者を知らしめずとも、想った誰かが彼らのことを忘れることは決してない。故に真実を知られぬ内に、美しき想い出の儘に安らかに眠らせてやることこそが誰もにとって最も傷の浅い方法たり得る。 
 黒き刃の愛剣を携えて、人くさい機微を解する異端の女神は介錯の為に混沌の戦地へと足を踏み出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『集落作りのお手伝い』

POW   :    荒れた土地を耕す

SPD   :    家を作るお手伝いをする

WIZ   :    植物の種を植える

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
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※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●夜明けは未だ訪れず
「おかげで助かったよ!最初はもう駄目かと思ったけど」
「猟兵ってすっごく強いね!」
「ありがとう、救世主ってこんな感じなのかな?」
 オブリビオンの二度の襲撃を退けた砦では、壊れた擁壁の修復その他雑務に奔走する傍らで、魂人らが喜色満面に猟兵たちへと謝辞を並べる。
 聞けば、この集落では本来の主力たるべき者も含めて多くが行方不明であると言う。その不在を護り通してみせたことが彼らには嬉しくて仕方ないらしい――攻めた者らの正体が何であるかなど露知らず。
「ねぇ、ねぇ、兄ちゃんが帰ってきたらちょっとだけ自慢しても良い? 俺も一応戦ったって」
 彼らの待ち人など二度と帰ることはないと言うのに。
ジュジュ・ブランロジエ

正体がバレなくて良かった
でも気持ちの区切りはつけられない
ずっと帰ってこない人を待ち続けるんだ……
それでも真実を知らないままでいてほしい
残酷すぎるから

猫人形に砦を修復させる
私の猫ちゃん達、よろしくね
演奏は無し

魂人達に何を言えばいいのかわからない
誤魔化すようにお菓子を配る
立派に守って偉いね
子供だけじゃなく大人にもたくさん
『甘いものは元気のお薬!』
メボンゴはお菓子渡しながら元気に跳ねる

『知ってる』って辛いんだね
もしいつか知る日が来たらどうなるんだろ
立ち直れるかな
その日が来るとしたら今日の記憶が、変わり果てた姿の記憶が、薄れた頃だといい
今日の喜びが強いほど悲しみが深くなりそうでとても盛り上げられない



●希望を繋ぐは誰なるか
「にゃーぉ」
「にゃ、にゃー」
「わぁ、猫だ!」
「違うわ、猫のお人形よ」
「可愛い上に働き者なのねぇ」
 鮮やかな鼓笛隊の衣装に身を包んだ猫人形たちが愛嬌を振り撒きながら壊れた砦の壁の修復に勤しむ様に、集落の女子供らが黄色い声を上げる。無邪気に笑い合うその様子を横目で窺っていたジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)は表には見せぬまま内心にそっと胸を撫で下ろした。
 魂人らの様子を見るに、どうやら砦を襲ったオブリビオンの正体は露見することなく済んだらしい。ジュジュ達が意図した通り、彼らは無惨な最期を愛する人々のトラウマとすることもなく、想い出の中にヒトとして生き続けてゆくことだろう。
 だが、それは即ち。
「あっ、この柱壊れちゃったんだ……兄ちゃんに描いてもらった羊の絵があったのに」
「あれは山羊でしょう?角があったよ」
「羊だって言ってたよ!帰って来たら聞いてみてよ」
 帰る筈もない者たちを彼らはこれからも待ち続けるということに他ならぬ。
 無論、この明けぬ夜の世界に住まう彼らが心の底よりその無事の帰還を信じているとも思い難い。だが、一縷でも希望が残っている限り、人はそれに縋りたがるものである。人々に希望を与え続けて来た身であればこそ、ジュジュは誰よりも知っている。此度のジュジュの決断は確かに彼らに希望を与えた。別の言い方をするならば、希望を失う契機を奪ったとも言える。それでも、やはり真実を知らないで居て欲しいと思うのはエゴであろうか。いずれはバレると仮定したならば、今目の前で彼らの笑顔が失われるのを他ならぬジュジュ自身が目にしたくないと言うだけの?
「にゃー……」
 猫人形の一団が瓦礫を運んでジュジュの足元を通り過ぎて行く姿を翠の瞳に映し、ジュジュはハッとして顔を上げる。いつの間に俯いて居たのだろうか。見送る猫人形たちの尻尾も垂れていつもより元気がないように思われた。盛大なパレードは流石に不謹慎に思われたことと、何より、何かの旋律がいつか今日のこの日を忌まわしく思い起こさせることを危惧したジュジュの配慮によって常の賑やかな演奏を禁じたことで、猫人形らも何か察するところがあったのだろうか。はたまた、ジュジュの元気のなさが彼らにも波及したとでも言うのだろうか。
『レッツ・スイーツ・タイム!甘いものは元気の魔法!』
 ジュジュの動揺を誤魔化す様に、メボンゴが声高に叫ぶ。何事かと振り向いた魂人たちへ、受け止めやすい柔らかな放物線を描いてキャンディやチョコが降り注ぐ。
「皆、緊張したでしょ。甘いもの食べて休憩しよう!」
 頑張ったね。立派に砦を護って偉いね。労いの言葉をかけながら、ジュジュは子どもたちだけでなく大人たちにもたくさんのお菓子を手渡しで配って回る。その後を追いかけるメボンゴが飛び跳ねながらお菓子の雨を降らせた。
 魂人らの笑顔を前に、ジュジュが彼らに返す笑顔もまた翳ることはない。否、胸の奥の疼きを無理矢理押し殺してでも、決して翳らせる訳には行かぬ。
同じ場にて同じ戦闘、同じ結末を目にしながら、真実を知っているか否かで斯くも心境が異なるものか。知るという事象の何と辛いこと。
 だが、それ故にジュジュは思う。彼らが真実を知る頃に、彼らの今日の記憶が薄れて居れば良い。変わり果てたあの姿を鮮明に思い出せぬ程、記憶が風化して居れば良い。そうであるならば、いずれ彼らが真実を知ることになれ、それを先延ばすことはジュジュのエゴなれど意味はある。
 そう信じるが故に笑顔を保ち、ジュジュは魂人らを励まし続ける。

成功 🔵​🔵​🔴​

上野・修介
「……さて」

『知らせない』『戦わせない』と決めたからにはそれを徹底する義務と責任がある。
表情や態度に出すことさえ許されない。

先ずは砦の周囲を探索し、他に脅威がないか確認。
グリモア猟兵さんが予知にない以上、再度戦闘になることはないだろうが念の為に。
(もしも『生き残り』が居たら、彼らに見せるわけにはいかない)

周囲の安全を確認したら、瓦礫の撤去と擁壁の修復を手伝う。
但し砦の魂人さん達との接触は最小限に。
後は彼らだけで問題ないと判断したらさっと撤収。

(自己満足だな)

『知らせない』と決めたからには探索が終わった時点で気取られる前に帰還するべきだろうが、最低限『喧嘩の始末』を付けずに帰るのは性に合わない。



●喧嘩の後の片付けは
 砦の周囲、割れた擁壁を猫人形の鼓笛隊が甲斐甲斐しく修復しながら働き回り、魂人らがはしゃいだ声を上げてそれを眺める。その彼らを遠巻きに眺めて、上野・修介(吾が拳に名は要らず・f13887)は無言のままに視線を逸らす。
 砦は護られ、明日からもこの地には今日までと何も変わらぬ日々が在るのであろう。
 この地に暮らす人々は、己と愛する者に起きた悲劇をそうとも知らぬまま、また明日からも生きて行く。生きねばならぬ。
「……さて」
 修介は、猟兵によって振る舞われる菓子に賑やかに湧き立つ砦の周囲へ無言で背を向ける。
 その幸せを瞳に収めることが辛いと言うよりは、それを見届ける必要性を感じなかった。
 このひとときの幸せは修介たち猟兵らに拠るものだ。『知らせない』。『戦わせない』。たとえそれが何処までも身勝手であれ、ひとたび決めた以上はそれを徹する義務と責任が修介たちにある。
 幸せそうに笑う魂人らには決して、真実を露も知らさぬと決めたのだ。なればこそ、昏く沈んだ心の内を表情や態度に出すことは許されぬ。喧嘩に於いては如何なる局面に於いてでも己の表情に感情の漣ひとつ立てぬ自負はあれ、修介は元が優しい心根をした男でもある。味方たるべき魂人らを目の前にその無風をを成し遂げられるかと問われれば、手放しに首を縦には振り難い。故に魂人らには己の表情を晒さぬことを彼は選んだ。
 グリモア猟兵の予知によるなら、この地を襲う戦力はあの地獄の亡者らで終いの筈である。そうと心得た上で修介は尚、荒野へ巡回を買って出る。万が一にも何等かの『生き残り』があるならば、その姿はゆめゆめ魂人らの目に触れさせるわけにはいかぬ。
 荒野に倒れ伏した赤い肉塊も黒い亡者の屍も、修介の視線の先で微動だにすることはない。だが、どれのものとも解らぬ屍の斬り落とされた片腕に、肥大したその手首に儚く光るものを見て、修介は思わず身を屈めていた。
 華奢な金細工の腕飾りは、元来は若い女が身に着ける類の装飾品であろうか。それに相応しい白い手首は辺りを幾ら見渡せど見当たらねども。
 それでも、この品はかつての彼女を知る誰かの目に留まる暁には彼女を想うよすがとなり得るだろう。故にそれを取り去る様に拾い上げ、修介は金のブレスレットをポケットに収めた。その対価はいずれ彼の懐に入るものならず、様々な事情にて寄る辺を失くした子どもらを支えるものとなるのは別の話だ。
 砦の周囲に差し迫る危険が何もないことを見届けて、魂人らの想い出を脅かしかねぬ一切を排した後で、修介は無言で砦の補修作業を行う一団に肩を並べる。傍らで魂人らに労いを掛ける猟兵の少女を視野にも入らぬものの様に、ただ黙して淡々と割れ崩れた壁を治す作業に従事する。魂人らとの会話は最小限に留めるのが望ましいと、誰に聞かずとも心得ていた。言葉を掛けるべき役目は己よりも誰か他の、そうした振る舞いが得意なものに任せてしまう方が良い。
 魂人らの声は明るく、笑顔に曇りも見られない。己の聴かされた真実を彼らは知らぬと確信をして、作業を程ほどに切り上げて修介は無言のままに踵を返す。ここまでの後始末をしておいたなら、誰に咎められることもなく、己の美学も赦す気がした。
 本来はもっと早くに切り上げるのが筋であろうか。だがしかし、元が律儀な喧嘩人は多少のリスクを冒そうが己の喧嘩にきっちりと幕引きをして去るを選んだ。その見上げた美学も心得も、彼の他には誰ひとりとして知らねども。
 そうして、誰も決して知るべきでない。この秘めやかな美徳は修介のみが自己満足として終えるのが誰にとっても幸いなれば。

大成功 🔵​🔵​🔵​

丸越・梓


どんな理由であれ、俺は彼らの大切な人を骸の海へ還した
そんな己は謝辞を向けられる資格は無く
然しどんな理由であれど一般人を護ることは己の使命であり、当然のことであり
故にやはり俺には過ぎたものだ
謝辞は他の猟兵らへ向けさせ、俺は怪我人の救護や心のケアへ

小さなかすり傷ひとつ見逃さず、全て俺へ移す
恐ろしい思いをしたことだろう。ゆっくり話を聞き
その傷に寄り添おう
流れ弾で砦に壊れたところがあれば修繕を
休むことなくケアに従事する

その間にも先ほど共に戦った少年の話を聞きたい
自慢してもいいか、と無邪気に言う彼の顔を見て
……恐怖に負けず果敢に立ち向かったその姿に、兄君もきっと誇らしく思うだろうと
彼の頭を撫でる
だが、それだけでは終われない
彼は強くならねばならない
兄君の意志を継いで
此処を護っていかねばならない

元来俺は西洋剣で剣を習った
だからその心得は多少なりともあるつもりだ
時間の許す限り彼を鍛錬し

「忘れるな」
その剣に、その手に、その心に
兄君の魂が宿っていることを

その剣は誰かを殺すためではなく
誰かを護るためであれと



●いつか真実を知る暁に
「ありがとう!最初にあいつらが来た時はもう駄目かと思ったよ」
「助けに来てくれて良かった。本当に何てお礼を言ったら良いか――」
「礼には及ばない」
 口々に感謝を述べる魂人らへと丸越・梓(零の魔王・f31127)の答えは短いものである。その超然とした雰囲気と先の戦いでの一騎当千ぶりを目にした彼らにしてみれば、かなりの勇気を振り絞っての謝辞であり声掛けであったろう。だが、それをつれなく流されたとて、崇拝にも似た彼らの熱い眼差しが冷めることもない。彼らにしてみれば、梓たち猟兵はそれこそ救世主の様な存在として映るのだ。いっそ無愛想でさえある言葉も、酷く謙虚なものとして何処までも好意的に受け止められる。
 無論、梓の認識している事実は大きく異なっている。救世主どころか梓は彼らの大切な人を骸の海に還したのだ。そんなことなど夢にも思わないから彼らは喜んで居られるだけで、たとえば猟兵の誰か一人が真実を一欠片でも口に上らせただけでこの場は阿鼻叫喚となり得る。そんな中で己が彼らから感謝の言葉を受けるなどおこがましいにも程があると梓には思われた。故にその謝辞はせめて他の猟兵へと向けさせようとして、だがしかし、他の猟兵たちも笑顔を繕いながらも瞳の底に葛藤を隠し切れない様を見て思い直した。彼らとて梓同様、知った全てを己の胸の内のみに留めてその手を汚して居るのだ。手放しに感謝されたところで喜べる者など居まい。梓はただ賑やかに己を取り囲む魂人らの視線を拒む様に背を向けた。足を運ぶのは祝勝に酔ったかの様なこの場の賑わいに加われずにいる者たちの元だ。
 一応は医務室の役目をしているらしい砦の一室では、怪我人たちが手当を受けていた。魂人らを前線に出さなかった猟兵たちの配慮によって、重傷者こそないものの、治療のユーベルコードを使える者は限られているようで、ほとんどが薬草等による応急処置のみを行われていた。
「俺に任せてくれ」
 薬液を塗って包帯を巻くだけの処置を施されている青年の元へ近寄って梓は声を掛ける。あたたかな光が青年の傷ついた腕を包み、彼が訝しむ間すらなく溶ける様に傷も痛みも消えてゆく。しきりに感謝を述べる彼に、よく頑張った、との一言だけを向けて梓は次の怪我人の元へ移る。掠り傷程度の怪我よりも、先の敵への恐怖による心の傷の方が大きそうなその少女には、傷を癒す傍らで話に耳を傾けながら心的外傷への手当をすることも忘れない。
 他人の傷を癒せば癒すほど梓の身には真新しい傷が増えて行く。満身創痍でありながら、流す血を黒衣に覆い隠した。痛みも傷の存在そのものも、魔法のような快癒に笑顔を見せる魂人らには決して悟らせぬ。それらは梓ひとりが抱えて持って行くものだ。
 今日の戦いの真実のように。
「ねえ、傷薬ちょうだ――あれ?猟兵さん?」
 梓が全員の治療を終える頃、ひょっこりと医務室に顔を出したのは、先刻梓が共に戦った少年だ。聞けば、闇の被造物らとの一戦で、退避の前に瓦礫で足を怪我していたらしい。
「偉いな。怪我をしていたのにまだ戦おうとしていたのか」
「うん、俺の兄ちゃんが帰って来たら俺もちゃんと戦ったって言いたいし。ねぇ、俺もちょっとは活躍したってことにして自慢しても良い?」
「あぁ、立派に頑張ったとも。兄君も誇らしく思うだろう」
 梓が頭を撫でてやれば照れたように少年が笑う。褒められたがりのこの少年がいつか兄へと興奮気味に語って聞かせる話の中ではきっと、彼は少しどころではなしに獅子奮迅の活躍をしたことになっているのに違いない。
 さりとてそのいつかなど、もう永遠に訪れぬ。
「君の剣術は兄君が授けてくれたのか」
「うん、兄ちゃんや猟兵さんに比べたらまだ全然強くないんだけど、毎日鍛錬してるんだよ」
「良かったら俺に稽古をつけさせてくれないか」
 梓の申し出を少年は嬉々として受けた。
 今でこそ日本刀を携えているものの、梓の剣術は元はこのダークセイヴァーにて西洋剣で習ったものである。少年が兄から習ったのだと言う様式を梓は最大限に尊重しながら、基本の構えのところから不足を補い、癖を正す。
短い時間ながらも師の実力によるものか見違える様に腕を上げた少年の、稽古の集大成は実戦を模した手合わせだ。無論、梓が手心に手心を重ねても、少年の刃は梓には遠く届かない。それでも梓は手を抜くことはなく実戦以上の真剣さで彼の剣を受け、捌く。
 この世界に生きる為には、この少年も強くならねばならない。
 兄の意志を継ぎ、この集落を護って行かねばならぬのだ。
「忘れるな」
 少年の剣の一閃をいなしてそのまま払い除けながら、梓は一番伝えたかった言葉を稽古の終わりに告げる。圧倒的な力の差をまともに受けた少年は体勢を崩し、尻餅をつく様に座り込んで梓を見上げた。
「その剣は誰かを殺すためのものじゃない。誰かを護る為に使って欲しい。――君の兄君と同じように」
 この少年の兄は確かに志半ばでその生を終えたやも知れぬ。それも随分と酷い形で。
 だが、その剣を、心を継いだこの彼が強く生き続ける限り、その魂までもは誰も貶めることは出来まい。そうしてその事実こそが、いつか残酷な真実を知る暁に少年の心を支えるよすがともなろう。
 それゆえに。
「強くなれ」
 万感をこめた言葉と共に、座り込んだままの少年へと梓は片手を差し伸べた。
 その手を取って、少年は確りと己の足で立ち上がる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

霧島・絶奈


◆心情
「世は全て事も無し」
民を知らぬが花の仏と為して、我々だけが苦しみを知っていれば良いのです

◆行動
尤も同じ轍を踏ませない様に手は打ちますが…

擁壁の補修を手伝いつつ、護りを高めるべく罠使いの技を揮いましょう
足りない人手は『暗キ獣』で軍勢を呼出して補いましょう

陥穽やスネアトラップ、トラバサミ等、現地民だけでも運用が容易な物を中心に防衛線を構築
闇の種族に対抗出来るとは思っていませんが、鳴子の代わりにはなるでしょう

設営を進めつつ、罠の位置や特性を魂人達に教えておきます
…雑談として「もしも待ち人が帰らないとしたらどう生きるのか?」を聞いておきましょう
どの様な答えであれ、其れが選んだ道なのですから兎や角言う必要はありませんが…
叶うなら、待ち人との思い出を護る為にも生きて欲しいとは思います

序に「野晒しの遺体は疫病の元となる」と理由を付けて、肉達磨や亡者達の遺体を手厚く葬るとしましょう
いつか真実に気付いた時に、想いにけじめをつけられる場所が無いと困るでしょうから
尤も、そんな日が来ない事を祈りますが…



●ゆえに、表題
 オブリビオンらは退けられて、砦は無事に護られた。
 魂人らは真実を知らず、無邪気に戦勝を喜び合って、猟兵達へと心の限りの感謝を述べる。
故に、起きた事象の表面だけを言うならば、こうもなろうか――「世は全て事も無し」。霧島・絶奈(暗き獣・f20096)は常の通りに目深なフードに白いおもてを半ば隠しつつ、不知ゆえの歓喜を遠く眺めてこの顛末をそのように結論付けた。
 言わぬが花。知らぬが仏。それを体現する魂人らを眺める傍らで、絶奈は当然の様に全てを知っている。他の猟兵たちとてそうだ。魂人らに真実を気取られぬよう無理にでも笑顔を繕う彼らを見遣り、絶奈は思う。そうだ、この地の民を知らぬが花の仏と為して、我ら猟兵たちだけが苦しみを知れば良い。当事者ならぬ猟兵の方がその苦しみは幾らも軽く、また、潜り抜けて来た修羅場の数からすれば、その苦しみを受け止める度量も幾らも大きかろう。そんな無機質な比較衡量を為しながら、それでもそんな絶奈にも人の心が無い筈もない。彼女が冷静にこの場を眺めるこの今も、彼岸より喚び出されたる屍者の軍勢は黙々と砦の擁壁の補修作業に従事している。今日を生き延びた魂人らの歓びに水を差すことなどはせず、明日もまた彼らが命を繋いで行くことが能うようにと。
 それを見届け、絶奈は魂人らの賑わいに背中を向けて、一人、荒野へと足を運んだ。此度の悲劇の発端はこの砦に住まう魂人らが闇の種族に囚われたことにある。同じ轍を踏まぬよう、打てる手は打っておくべきだろう。
 絶奈が荒野へと仕掛ける罠は多種多様。底で槍の待ち受ける陥穽や、敵を無防備に天高く吊るし上げるスネアトラップ、両のあぎとに棘を備えて骨をも砕かん威力で噛み付くトラバサミ。地形や配置を考慮して絶奈自身が、或いは喚び寄せた屍人らが設置してゆく無数の罠の共通項はただひとつ。猟兵たちの去った後にも、砦に住まう魂人らが独力で運用して行くことが容易い代物である、それだけだ。単純な威力だけを考慮するならもっと他の選択もあるものを、後で設置した箇所を教えて幾らかの説明を添えてやることだけで事足りる、至極単純な手法のみを絶奈は敢えて選んだ。
 無論、それゆえに闇の種族の襲来をこの罠だけで防げるなどとは思わぬが、それでも鳴子の代わり程度にはなるだろう。そうしてそれらの罠が有事に稼ぐ数秒は幾つもの命の生死を分けるものであることを、闘争に長けた絶奈は知っている。
「このトラバサミは敵の捕獲と共に殺傷力を意識したものです。間違っても皆さんが足を取られることがなきように、設置場所はよく周知して――」
 戦勝に酔い痴れていた様でありながら、いつからかしっかりと絶奈の挙動を注視して追いかけて来た数人の魂人らへと絶奈は語って聞かす。それぞれの罠の特性も長所短所も、魂人らは深く幾度も頷いて、中にはメモを取っている者も居た。
「ありがとう。これなら俺たちにも使えると思う」
「あんたのおかげでこの先も集落を護って行ける気がするよ」
「何よりです。解らないことがあったらいつでも聞いてください」
 罠の設営を終えた後、魂人らが素直な感謝を口にした。それを契機に幾らかの他愛ない言葉を交わし、暫し場を温めたその後で、世間話の延長の様な調子で絶奈は目当ての問いを投げかける。
「――ところでこれは仮に、ですよ」
 互いの逃げ場を残す為、それは仮定の話としよう。
「もしも貴方がたの待ち人が帰って来ないとしたらどうします?」
そんな絶奈の配慮を知ってか知らずか、返る言葉は思った以上に何の衒いもないものだ。
「彼らの分も俺たちが此処を護るよ」
 泣きそうな声と目をしながらも笑って見せた魂人は、果たして何処まで察して居たのであろう。
彼らとて一度死した身だ。如何な希望も打ち砕かれるこの世界の理不尽を、誰より刻み付けられて、尚この場所に生きる身だ。自他の心を鼓舞して支える様に言葉の上では強がって希望を紡ぎ続けれど、そんな希望的観測だけで温く生きて来た訳でもないらしい。
 そうと思い至った絶奈はただ淡い笑みを浮かべて、頷くことのみを返答とした。真実はきっと彼らの覚悟をも尚上回って残酷だなどと、わざわざ告げてやる野暮はせぬ。
 やがて衛生上の対処だと尤もらしい理由をつけて、かつてはこの集落に生き、化け物の姿形で死した者たちをひとところに埋葬させた後、絶奈はその場に簡素な墓標を立てた。己らに仇成そうとした存在たちへの斯様に手厚い弔いの真意など魂人らは解るまい。否、永遠に解らぬならばその方が望ましいのだ。
 だが、絶奈は祈るのだ。味気ない墓碑の前へと膝を折り、今は己こそが神たる身なる彼女が祈りを捧ぐ対象は何であろうか、それは誰にも解らねど。

 いずれこの地の魂人らが今日の真実を知る日が訪れるやも知れぬ。ならばその暁には彼らの為にも、せめて。

 ――その墓碑にミオソティスの冠を。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年12月28日


挿絵イラスト