歌うはレクイエム
●時は止まる
まだ死ねない。
あの子を腕に抱くまでは。
あの子の姿を見るまでは。
だから、己は死ねないのだと思った。そう、砲火荒ぶ中を走る。ただただ走る。
戦いはいつだって惨禍に無辜なる者たちを巻き込む。
誰も彼もが無関係でいられないのが戦争というものであったのならば、未だ見ぬ我が子もまた無関係ではないだろう。
「これが己の身勝手な思いなのだとしても、己は死ねないのだ」
走る。
ただ戦地をひた走る。
あの子のための未来を『作る』ために。あの子に迫る凶刃を『防ぐ』ために。あの子の行く末を『祝う』ために。
そのために己は生きなければならない。
戦争とは己が思っていた以上に人の尊厳を壊していく。
そこに個としての存在は許されない。ただ部品であることを求められる。この『大戦』がきっと誰かの礎になると信じていなければ、到底やりきれるものではなかった。
「ああッ! だがそれでも己は、未だ見ぬ我が子に会いたいのだ! ひと目! ただひと目でいい! あの子の顔を、あの子の声を、あの子の……!」
見たい。
この凄まじき戦場を生き抜き、必ずや我が故郷にて待つ我が子に会いたい。
それさえできるのならば、己は――。
●そして血は
サクラミラージュは世界統一の為された世界である。
それは多くの生命が犠牲になった痛みを伴う結果であった。幻朧桜の花びらが帝都に舞う。
平和とはいつだって仮初である。
誰もが願いながら、誰もがそれを確かなものとして手に掴むことができないでいる。
「御国の為に。我が子の未来がより善きものとなるように。そのためにこそ己は戦うのだ。だというのに、これは如何なることか!!」
咆哮が轟く。
それは『妄執の軍人』の咆哮であった。
彼は見た。
己が守らんとした帝都。
その国の惨状を。
ようやく帰ってきたのだ。しかし、彼の狂気に染まった瞳に映るのは、帝都に蔓延る敵兵の姿であった。
無論。それらは彼が戦っていた敵兵ではなく、『今』を生きる帝都の罪なき人々であった。
「我が国は占領されたか! 我が子は! 我が子は、何処に!」
狂乱そのものたる瞳で『妄執の軍人』は走る。
迸るように己が求める見ることも叶わなかった我が子の姿を求めて帝都の街を疾駆する――。
●大戦の残影
グリモアベースに集まってきた猟兵たちを迎えたのはナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)だった。
「お集まり頂きありがとうございます。サクラミラージュでの事件が起ころうとしています」
彼女の言葉に猟兵たちは頷く。
グリモアエフェクトによって将来訪れたであろう『大いなる危機』をその前段階で予知することに成功下彼女はサクラミラージュにて起こるであろう『大戦の残影』とも言うべき影朧の存在を知らせる。
「『妄執の軍人』とも言うべきなのでしょうか。影朧の心は今でも『大戦の時代』の中にあります。そして帝都を『戦場』とし、人々を『敵兵』として認識しているのです」
彼の心にあるのは『御国の為に』という思いと『我が子の為に』という想い。
だが、狂気に染まる影朧は、その想いのままに己の末裔たちに手をかけようとしているのだ。
これを鎮めるためには、『影朧の元となった、大戦の時代の人物』、その遠い子孫を突き止め情報を得なければならない。
「『妄執の軍人』たる影朧の子孫の方は今でも、先祖から伝わる『紫苑の花』の髪飾りを付けていらっしゃいます。それが影朧として出現した『妄執の軍人』に影響を及ぼすことになるのかはわかりません」
そのために、まずはカフェーを営む『妄執の軍人』の遠い子孫である女性の元に向かい、情報を引き出さなければならない。
「予知した帝都を襲う影朧の出現までは幾ばくかの時間が残されています。なるべく多くの情報を得て、説得することができたのならば……」
ナイアルテの瞳が揺れている。
もしかしたら、という不確定な情報を伝えるのは、猟兵たちの身を危険に晒す行為でしかない。
だから、躊躇っている。
けれど、彼女は思うのだ。
人の想いはどれだけの時間が流れ、過去になり、歪められるのだとしても潰える事無く紡がれている。
平和を願い、我が子を想い、そして散っていった者たちの思いが今を作り上げているというのならば、それが無価値で無為なるものではないと信じたいのだ。
「……影朧『妄執の軍人』は正気を取り戻す可能性があるかもしれません。危険なことには代わりありません。ですが、どうか」
心を過去に歪められたのが影朧であるというのならば、かの『妄執の軍人』は未だ囚われているのだろう。
どうしようもないことだ。
過去は変えられない。
けれど、歪む。
ならばこそ、猟兵たちは飛び込むしかない。
妄執が哀しみしか齎さない未来など合ってはならない。
紫苑の花言葉は『君を忘れない』。
追想が紡いだ生命がある。
戦場に嘗て、我が子の未来を守らんと駆け抜けて還らぬ父親がいた。その思いを知れば、遣る瀬無い思いがこみ上げてくるかもしれない。
「どうか、『妄執の軍人』たる彼の想いを鎮めてください」
ナイアルテは頭を下げ、猟兵たちを送り出す。
幻朧桜の花びらが舞い散る中、レクイエムは響くか――。
海鶴
マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
サクラミラージュに迫る『大いなる危機』。その前触れを予知するグリモアエフェクトによって、帝都を戦場に、人々を敵兵と誤認した嘗ての『大戦の時代』に散った『妄執の軍人』の出現が判明しました。
かの影朧の暴走を防ぐシナリオになります。
●第一章
日常です。
グリモアエフェクトによって『影朧の元になった、大戦の時代の人物』の遠い子孫が経営するカフェーに訪れます。
店主である女性は『紫苑の髪飾り』を身に着けています。
それは先祖から受け継がれてきたものであり、その由来を彼女は知っているようです。
彼女と交流を測り、影朧である『妄執の軍人』の情報を得ましょう。
●第二章
集団戦です。
『大戦の時代』から生まれた影朧に引き寄せられて配下となった、低級の影朧『影狼』が帝都の街中に現れます。
これを蹴散らし、中心に存在する『妄執の軍人』へと迫りましょう。
●第三章
ボス戦です。
現在のサクラミラージュ、帝都を戦場と誤認した『妄執の軍人』が狂えるままに暴れまわろうとしています。
逃げ惑う人々を追い詰め、敵兵と見なして殺さんとしています。
第一章で言えた『元の人物の子孫』から得た情報を元に『妄執の軍人』を説得することもできます。
ですが、どちらにせよ打倒しなければなりません。
それでは現代に蘇った『妄執の軍人』の狂える暴走を止める皆さんの物語の一片となれますように、いっぱいがんばります!
第1章 日常
『あなたのことを教えて』
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POW : 積極的に話しかける。
SPD : 関心を持たれそうな話題を提供する。
WIZ : 場を和ませるように、笑顔で接する。
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
そのカフェーは穏やかな時間が流れていた。
カラコロと扉の呼子が鳴る。
外の冷たい空気とは違って、店内は暖かく外套やマフラーを緩めることができただろう。
悴む手を擦れば、吐き出す息の白さに驚くかも知れない。
そんな来客に店主である女性は微笑んで席を進める。
「どうぞ温まって行ってください」
優しげな微笑みは、君を客以上に思っているせいかもしれない。
一見の客であるにも関わらずだ。
それは接客としては間違いであったかもしれないが、人としては正しい行いであるように思えただろう。それが無理をして装っているのではなく、自然な所作であることが伺える。
その店主の女性の髪飾りが揺れる。
年代のものであろうか。
少し古びたデザインであるし、ところどころ手直しをしている雰囲気もあった。
「何になさいますか? お決まりになったらおっしゃって」
ゆるりと流れる時間。
温かな空気は、これより帝都に荒ぶ戦いの冷たい風を微塵も感じさせず、さりとて店主の彼女が渦中にあることなど露とも思わせなかった――。
カレイジャス・カラレス
アドリブ・連携歓迎
◆行動指針
- POW判定
- 店主に注文してきっかけを作りつつ、情報収集する
◆心境
今も戦い続ける、妄執の軍人…。戦場は辛いものだ。それなのに今もまだ囚われているのは、あまりにも哀しすぎる。
おれでよければ、手伝うよ…。
まずはカフェーに入って、店主さんに注文をしよう。
「あったかい珈琲と…おすすめのスイーツとか…あるかな。」
注文がきたら…すぐ味わいたいところではあるけれど、そのタイミングで店主さんに少し微笑みながら話しかけよう。
「その…おれ、あまり花は詳しくないんだけど、身につけてるその髪飾り、綺麗な髪に似合ってますね。」
「あっ違う、ナンパとかじゃなく…!不愉快にさせたならごめん…」
深く傷ついた魂が影朧……即ち弱いオブリビオンへと変じる。
慰撫によって癒やしを得たのならば、転生することもできるのが影朧の救いであったのかもしれない。
救うためには手を差し伸べなければならない。
けれど、時としてそれは人に理性というものがあり、また善性と悪性によって葛藤が生まれるからこそ躊躇われるものでもあった。
人の心は千差万別。
故に差し伸べる手もまた画一的なものでは意味がないのかも知れない。
故に知らなければならない。
『妄執の軍人』の如何なるかを。
予知の咆哮を世界に轟かせてはならないのならば、カレイジャス・カラレス(暗がりで尚、硬輝・f39216)はカフェーの扉を開けて足を踏み出す。
温かい空気が頬を撫でるようであった。
クリスタリアンである彼の容貌は猟兵であるがゆえに違和感を感じさせない。
扉に付けられた呼子の音に振り返ったのかもしれないし、外の冷たい風がカフェーの店主の元に流れ込んだからかもしれないが、彼女は振り返る。
「いらっしゃいませ。どうぞ、お好きな席におすわりになって。寒かったでしょう」
彼女は『妄執の軍人』、その元となった者の子孫である。
柔らかな微笑みとともに揺れる紫苑の髪ざかりがカレイジャスの瞳に映り込む。
「あったかい珈琲と……おすすめのスイーツとか……あるかな」
「ええ、温かい珈琲ですね。そうね、折角ですし、パイなどは如何? 温かいりんごのパイ。もう少しで焼き上がりますから、少し待ってもらえると助かるのだけれど」
その言葉にカレイジャスは頷く。
彼女を見る限り、『妄執の軍人』は世界統一の礎となったことを喜ぶだろうか。
だが、影朧となってもなお戦い続ける存在を彼はあまりにも悲しいものだと思った。
戦場は辛い。
当然のことだ。
生命のやり取り。誰も彼もが死にたくないと思うだろう。
生きて戻りたいと思っただろう。
しかし、それが叶わなかったこともまた事実。
それだけの辛い現実に打ちのめされてもなお、まだ囚われている者がいるということがカレイジャスにとっては痛烈なるものであったことだろう。
目の前に湯気立つ珈琲カップが置かれる。
鼻腔をくすぐる香り。
程よくローストされた香りは、カレイジャスの痛みを感じる心を少しでも癒やしてくれるかも知れない。
「その……おれ、あまり花は詳しくないんだけど、身につけてるその髪飾り、綺麗な髪に似合ってますね」
きっかけを掴みたいと思ってカレイジャスはそう語りかける。
だが、その所作はカレイジャスにとって誤解を与えたかもしれないという疑念にすぐにかわってしまう。
「あっ違う。ナンパとかじゃなく……! 不愉快にさせたらごめん……」
その言葉に店主の女性は微笑む。
別に気にしていないと焼きたてのアップルパイの皿を置いて首をかしげる。
「よく言われるわ。髪のことを言われたのは、そうないことだけれど、ありがとう。髪飾りはね、私のご先祖様の形見なのだそうよ。大事に、大切にしてきたから、私も気に入っていて」
だから身につけているのだと言う。
「昔、大きな戦争が合った時、ご先祖様がもらったものなのだそう。以来、ずっと私の家の女の人が身につけているの」
紫苑の花飾り。
紫苑の花言葉は『君を忘れない』。
追想の花言葉。
その言葉の意味と『妄執の軍人』を結びつけることはできるだろう。
彼女が知らぬことであったけれど。
それでも、その花言葉の意味は、いつまでも彼女とそれに連なる者達を守り続けたのかもしれない。
カレイジャスは、珈琲の香りと共にそう微笑む店主の穏やかな雰囲気に、確かに守られたものがあることを理解するのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
朱鷺透・小枝子
店主に黙礼を。促されるままに席につき、店主の顔を、ジッと見つめます。
かの妄執の軍人と店主との間に、そしてかの者が愛したであろう妻と子と、
どれほどの血の繋がりが残っているのだろう……?
「飲み物、何か、甘いのを、お願いします…
不躾に、申し訳ございません。
カフェは、数えるほどしか来た事がなくて……少し、緊張しております。」
店主や店の事など記憶しながら、話しをしましょう。
「あの、貴女は、いえ、この店は、ずっと、続けるのですか?」
オブリビオンは、壊す。
しかし、
戦った先に、望んだ未来があったなら。
あったなら、知っておくべきだ。
戦い散った兵士に、望まぬ未来を幻視している暇などありはしない。
きっと…また来ます
カフェーは帝都にあって流行の最先端。
けれど、中にはそんな流行の活気とは裏腹な落ち着いたカフェーも存在しているのである。大人の雰囲気と言えば語弊があったかもしれない。
それは紳士淑女が静かなる時間を求めて訪れるカフェーであった。
紫苑の髪飾りをした女性が営むカフェーの扉をまた一人の猟兵がくぐる。
呼子の軽やかな音に朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵・f29924)は少し驚いたかも知れない。
いつもの彼女にとって、この平穏そのものたる空間はあまりにも場違いであるように思えたからだ。
戦塵の悪霊。
それが小枝子という猟兵であったが、カフェーの女性店主は特に気に留めた様子もなく微笑みを持って彼女を迎え入れる。
「いらっしゃいませ。どうぞお入りになって。外はもうだいぶ寒いでしょう。温かな暖炉のお席は如何?」
その言葉に小枝子は黙礼し、促されるままに席につく。
暖炉の火が温かい。
しかし、小枝子は店主の女性の顔を見る。
『妄執の軍人』。
これより現れるという嘗ての『大戦』の残滓の如き影朧。
その元となった人物と血の繋がりのある子孫。一体どれほどの血の繋がりが残っているのだろうかと思う。
かつて愛し合った者がいて、だからこそ子という繋がりが生まれる。
連綿と紡がれる生命の糸。
それがより合わさったものが目の前の女性である。
「あら、どうかして?」
「飲み物、何か、甘いのを、お願いします……不躾に、申し訳ございません。カフェは、数えるほどしか来たことがなくて……少し緊張しております」
「そんなこと……その数少ない貴重な一回に選んで頂けて嬉しいわ。そんなに緊張しなくていいのよ。堅苦しいことも、無理に楽しもうとしなくてもいいの」
微笑む女性の優しさは、誰かから与えられたものなのだろう。
人に優しくしなさないと、幼子が親から教わったように、それを自然と行うことのできる女性なのだと小枝子は理解できただろう。
「甘いものは先程アップルパイが焼けたの。それにしましょう。飲み物はミルクティーに致しましょう」
「はい……」
見つめる先にあるのは平和そのものの笑顔だ。
サクラミラージュは世界統一の為された世界。
その世界にあって争いは小さなものが頻発すれど、大きな戦いに発展することはない。それが『妄執の軍人』の元となった人物が生命を賭した結果であるというのならば、これこそがかの者たちが身を擲って誰かのためにと残したものだろう。
「あの、貴女は、いえ、この店は、ずっと、続けるのですか?」
小枝子の不躾な質問に女性は振り返って微笑む。
紫苑の髪飾りが揺れている。
「私がおばあちゃんになっても、そうしていたいって思う程度には。続けることって大変なことだから。今日のあなたのような誰かをもてなすことができるように。がんばってみようとは思うわ」
その言葉に小枝子は何を思っただろうか。
彼女にできることは壊すことだけだ。
オブリビオンを壊す。ただそれだけが彼女の至上命題。
それとは対極に位置する者がいる。
目の前の女性がそうだ。壊すのではなく、続けること。誰かのためにと思って繋げられた平穏を続けること。弛みなく、連綿とつなげていくことをする者がいる。
これが。
「戦った先に、望んだ未来があったなら。あったなら、知っておくべきだ」
戦い散った兵士に望まぬ未来を幻視している暇などありはしない。
だからこそ、小枝子は店主の厚意に報いることをしなければならない。
温かな紅茶の味も。
甘やかなりんごのパイの食感も。
全てが小枝子にとっては縁遠きものであった。しかし、それをつなげるものがある。
嘗ての戦いが今に繋ぐものがあった。
願われた平和が紡いだ結果が、この店にはある。
「きっと……また来ます」
小枝子はそう言って、寒風の荒ぶ外へと店主に礼を告げて踏み出すのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友
第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん
その思い、片方は…『御国のために』は、わかりますねー。
え?家族のところへ?さて、私は忍びでしたからー。
しかし同時に、その影朧に『子孫を殺す』などということはさせてはいけないの、わかっていますよ。
というわけでー、情報収集がてら、紅茶とケーキをいただきましょう。あ、クッキーあります?
※こっそり陰海月と霹靂にあげる。
ふふ、よい髪飾りですねー?大切にされてきたの、よくわかりますよー。何かいわれでもあるのでしょうか?
そういうのって、素敵ですよねー。…選んだ方の思いが宿っているようで。
※
陰海月と霹靂、影でクッキーもぐもぐ
戦いに赴く理由はそれぞれである。
その理由に貴賤はなく。
抱える重さに上下もなく。
あるのは生と死の狭間で揺らぐ生命のみ。
故に争いの中で生きて死んだ『妄執の軍人』の元となった人物は願ったのだろう。
未だ見ぬ我が子のためになりますようにと。
世界にはそんな願いがいくつも存在している。
親が思う子があって、親が願うものがある。それを尊ぶというのならば、それもまた理解の及ぶものであったことだろう。
そして、国というものが人によって成り立つのならばこそ、『御国のために』と叫ぶ心にもまた馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の一柱『疾き者』は理解を示すのだ。
「その思い、わかりますねー」
家族の元へと走る『妄執の軍人』が見せる破滅の未来。
それを為さしめることはあってはならないと理解する。
影朧は弱いオブリビオンであれど、その妄執の刃が如何なる結末を生み出すのかなどいうまでもないのだから。
だからこそ『疾き者』は目の前のカフェーに立つ。
元となった人物の子孫を殺すことなどあってはならない。わかっているのだ。わからないことがあれど、その片方を理解するのならばこそ、心得るのである。
「あら、いらっしゃいませ。今日はお客様が多いわ。どうぞ、お好きな席に」
カフェーの店主である女性が微笑んでいる。
温かな空気は暖炉の火だけではないだろう。彼女の醸し出す雰囲気にも一因があるように『疾き者』は思えたことだろう。
「ご注文はどうなさいます?」
「そうですねー紅茶とケーキを頂きましょう。銘柄はおまかせしますのでー」
「はい、良き茶葉がありますので」
そのやり取りだけでわかるだろう。
目の前の人間が善き人間であると。人の本質が善性であるか悪性であるかなど論じるつもりはない。
目の前の女性の在り方は、人の心の暖かさの発露だ。
『妄執の軍人』の元となった人物の子孫。
願いは確かにあった。間違いではなかったのだ。彼の戦ったことの意味が、今目の前にあるとさえ思えたかも知れない。
「あ、クッキーあります?」
そうだ、と『疾き者』は注文を付け加える。
目の前に湯気立つ紅茶のカップが置かれ、店主の女性が微笑む。紫苑の髪飾りが揺れる。
「ふふ、よい髪飾りですねー? 大切にされてきたの、よくわかりますよー」
「ええ、先祖から受け継いでいるものですから」
「何か謂れでも?」
その言葉に店主は微笑む。
「プロポーズの品だと聞いていますよ。私に、ではなくて、私のご先祖様への」
その言葉に『疾き者』は頷く。
大戦の最中にあっても人の営みは途切れることはない。
むしろ、そういう最中にあったからこそ、ということでもあるのかもしれない。紫苑の花言葉は『君を忘れない』。
追想の言葉は、花飾りに込められた。
戦地にあっても忘れることのない想いがあればこそ、戦火降り注ぐやもしれぬ妻を思いやっての事であったのかもしれない。
「そういうのって、素敵ですよねー」
如何なる理由で選んだのかなど想像するしかない。
けれど、確かに宿る想いがあればこそ、守られてきたのだろう。紡がれてきたのだろう。
『疾き者』は影の中にいる二匹にクッキーを与えながら頷く。
人の想いは形には見えない。
だから、品物として送る。それが正しいのかはわからない。なにか形のあるものを欲するのが人であるのならばこそ。
その形ある紫苑の髪飾りは、今こうして時代を経て残っている。
それが『妄執の軍人』の元となった人物の残したもの。
平和への願い。
我が子の明日を願うもの。
故に『疾き者』は理解するのだ。
かの者の歪められる前の思いを――。
大成功
🔵🔵🔵
ウルル・マーナガルム
戦争が終わっても、心を戦地に置いてきちゃったままの人……
じぃじの戦友さん達の中にも
そんな人が居たって聞いた事があるよ
『多少の荒療治は覚悟すべきでしょう、ウルル』
分かってるよ
でも、出来るなら
ここの人々は自分が守り抜いたモノの証左だって事だけでも分かってもらいたいな
温かいココアをくーださーいな
ミルクはたっぷりがいいな
あのね
今、授業でね『大戦の時代』について調べてるんだ(建前)
戦争に行った人の子孫の人達にお話を聞いたりとかしてるの
店主のお姉さんは
なにかそーいうお話知ってたりしない?
かつて死神と謳われた祖父が言っていたことがある。
ウルル・マーナガルム(死神の後継者・f33219)はその言葉を思い出していた。
戦争が終わったとしても、人の心は置き去りにされてしまうものであると。
どれだけ周囲が平和に見えるのだとしても、心は未だ戦地のまま。
故に心は歪む。
現実と精神の狭間に取り残された人は、心を歪めていく。
歪は戻らず。
歪んだままきしんでいく。
その音をいくつも祖父は聞いてきたし、見てきたのだ。
祖父のその時の表情をウルルは思い出していたかも知れない。
『多少の荒療治は覚悟すべきでしょう、ウルル』
猟犬型ロボットのAIの言葉にウルルは頷く。
「わかってるよ。でも、できるなら」
彼女は帝都の街を見る。
ここは大戦が夢見た平和そのもの。世界統一の為された平穏なる世界。影朧の脅威はあれど、それでも大きな争いはない。
誰もが戦争に無関係ではいられないのだとしても、それを慰めにするしかないのだ。
散った生命が意味のあるものであったと信じるためには。
「ここの人々は自分が守り抜いたものの証左だってことだけでもわかってもらいたいな」
ウルルは思う。
子を思う親の気持ちを。
想像するしか無い。けれど、思うことはできる。人の紡いだものは、いつだって誰かのためになるものであると信じたいのだ。
ならばこそ、彼女はカフェーに足を踏み出す。
「いらっしゃいませ。外はお寒いでしょう。中にお入りになって」
女性の店主。
彼女が『妄執の軍人』の元となった人物の子孫であることはすでに聞き及んでいる。彼女から何かしらの情報を得ることができれば、影朧である『妄執の軍人』に対するアドバンテージになるかもしれない。
いや、そういう言葉の使い方はしないでもいいだろう。
ウルルはわかっている。
これは戦いである。けれど、それ以上に彼女は思う。思っているのだ。散々に傷ついた生命。その傷跡を痛めつけるのではなく、これが傷を癒やすための戦いであると。
「温かいココアくーださーいな。ミルクはたっぷりがいいな」
「はい、わかりました。こういう寒い日は温かいミルクがありがたいものね」
そう言って店主が準備を始める。
カウンター席でそんな彼女の様子を見やる。
ああ、そうだとウルルは前振りをするように、思い出すように言葉を紡ぐ。
それは少し大仰な言い方になったかもしれないけれど、店主の女性は気にしなかった。
「あのね。今、授業でね。『大戦の時代』について調べてるんだ」
「お勉強がんばっていらっしゃるのね。良いことだわ。過去を知るから今ある足元がどんなもので出来上がっているのかを知ることができる。足元がどんなものであるかを知ることができたら、きっと歩みは堅実なものとなるはずだわ」
その言葉にウルルは頷く。
知ること。
それが今の彼女の戦いである。
「戦争に行った人の子孫の一太刀にお話を聞いたりとかしているの。店主のお姉さんは、なにかそーいうお話知ってたりしない?」
店主の女性の紫苑の髪飾りが揺れる。
「私のご先祖様が『大戦の時代』に出征なされたというお話は聞いているわ。お優しい方だったと聞いているし、どんなに優しい方も、どんなに苛烈な気性の方も、銃前には等しく散る運命であったことも」
個ではなく部品であることを強いられた時代。
生命を散らすも、それは銃後の生命を守るためにこそ。
故に彼等は礎になったのだ。それは守られた者たちにとっての都合の良い解釈であったかもしれないけれど。
それでも、守られた生命があるからこそ今がある。
その今を正しくあれと願うのは当然のことであったかもしれない。思うだけでいいのだ。少しだけ憐れんでくれるだけでいいのだ。
振り回される必要はない。
「ただ知って欲しいだけなのかもしれないわね」
「自分がそこにいたということを?」
ウルルの言葉に店主の女性は微笑む。
それはきっと同じ思いであるという肯定の笑みであったことだろう――。
大成功
🔵🔵🔵
佐伯・晶
妄執の軍人となった人の人生を思うと切ないものがあるね
生前なら望まなかったであろう
悲しみを振りまく所業を何とか止めたいな
カフェに行って直接話をしてみようか
私も一緒に行きますの
どんなお菓子があるか楽しみですの
目的が違う気はするけど
分霊は物怖じしなさそうだから
話を聞くには良いのかな
カフェに着いたらお勧めの珈琲とお菓子を頼みますの
それと帝都の名所やお店の話も聞いてみたいですの
遊ぶ気満々なのが頭痛いけど観光客のふりして
旅の記念といって一緒に写真撮っても良いか聞いてみよう
髪飾りが写る角度が理想だけど
駄目ならこっそりドローンでも撮影しておこう
その時に髪飾りに気づいた体で
どこで買ったのかと、由来を聞いてみるよ
『妄執の軍人』は吠えたける。
守りたいと願ったものは敵兵によって蹂躙された――ように彼の瞳には映る。
今を生きる人々を敵と見なし、帝都の平穏は破壊された瓦礫のように見えるだろう。妄執の彼方にあるのが、それであったのならばひどく落胆しただろう。
個として生きることを否定された時代。
平穏の時代を生み出すために生まれてきたというのならば、それは後年の者たちが付け加えた飾りげの在る言葉であった。
その時を生きていた者たちにとって、それだけが慰めであったのかもしれない。
「『妄執の軍人』となった人の人生を思うと刹那いものがあるね」
きっと、生前の思いがあったのならば、影朧となって振りまく大いなる危機は望まなかったであろう。
だからこそ、哀しみを振りまく所業をなんとか止めたいと、佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)はカフェーに足を踏み入れる。
温かな空気が頬を撫でる。
温かい。ここはとてもあたたかい。外気が冷たく頬を切りつけるようであったとしても、それは温度以外のものが感じられるようであった。
隣に連れ立つ邪神の分霊。
彼女のしっかり付いてきていたが、きっとカフェーのスイーツが目的なのだろう。
「目的が絶対違う気がするんだけど」
「気の所為ですの」
きっぱりと言い放つ分霊の様子は、物怖じしない少女そのものであった。
晶はしかし、そうした彼女んの態度が話を聞くには事態を好転させるかもしれないと半分諦めのままカフェーへと入店する。
クラシカルな落ち着いた店内。
暖色の明かりが照らす調度品はどれもが心地よい雰囲気を放っていた。
「いらっしゃいませ。何になさいます? ああ、ごめんなさい。今日はお客様が多いものだから。メニュー、ごゆっくりご覧になってね」
猟兵たちが彼女の話を聞こうと集まったがためであろうか、このカフェーを一人で切り盛りしている店主の女性は少し忙しそうだった。
こういう時は手早く頼めるものがいいだろうと晶は珈琲とクッキーを頼んで腰を落ち着ける。
分霊はもっと手の込んだものが食べたかったかも知れないが、そういうのはまた今度といい含めておく。
「いやですの。ああ、帝都は如何なる名所がございますの? オススメのお店があれば聞いておきたいですの」
その言葉に店主の女性は微笑む。
「帝都桜學府はご覧になられて? ユーベルコヲド使いの方々が務めておられるのだけれど、それは壮麗ですよ」
「遊ぶ気満々だな……」
晶は頭が痛い。
けれど、観光客のふりをすることができたのは幸いであったことだろう。
「旅の記念に一緒に写真を撮っても良いかな?」
「あら、私と? シャッタアを切る係ではなく?」
「うん、旅で出会った人と写真を撮るのが楽しみの一つなんだ」
もっともらしい言い方であったかもしれない。分霊に頼んで晶と店主は並んでカフェーの店内で写真を撮る。
シャッター音が響き、晶は今気がついたというように紫苑の髪飾りを示して尋ねる。
「それ、とても良い品だね。何処で買ったのか聞いても?」
「ああ、これはご先祖様から譲り受けたものなの。なんでもご先祖様がプロポーズの時に頂いた品のようなの。素敵な方と出会いがあれば、とは思わないけれど、皆大切にしてきたの」
紫苑の花言葉は『キミを忘れない』。
追想の言葉だ。
「大切にされてきたってこと、わかるよ」
晶は思う。
その花言葉は、送る相手のことを思ってのことだろう。それを身につける者は、送り主のことを『忘れない』からこそ、紡がれてきたものがある。
その言葉は擦り切れ、ひび割れ、歪んだ心にもきっと届くはずだと、晶は小さく頷くのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
綾倉・吉野
判りましたであります、ナイアルテ殿!
綾倉吉野、學徒兵として、桜の精として、その任、果たすであります!
【POW】
カフェーでその女性からお話を聞くであります
マステマ殿が言うには「必ずその先祖の名を聞き出せ」とのことでありますが……
(ええ、難しくとも、その者を「一兵士」ではなく「ヒト」として終わらせるならば必要ですよ吉野。第一、いざ交戦した時その者に「妄執の兵士殿」などと呼びかけるつもりですか?)
いや、確かにそれはちょっと
(でしたらやり遂げなさい吉野。これも試練ですよ)
……そうでありますね。では行って来るであります!
※()内は吉野に憑いて試練を与えたりしてる女|悪魔《ダイモン》のマステマさんです。
影朧は弱いオブリビオンである。
しかし、『妄執の軍人』は帝都を平穏引き裂くようにして『大いなる危機』に陥れるだけの力を持っている。
彼の瞳に映るのは敵兵。
彼の激情を駆り立てるのは帝都の破壊された痕。
戦場だ。
けれど、それは全てがまやかしである。幻であるといえるだろう。
彼が見ている者全ては彼の見ているものとは全てが正反対だ。帝都は平和そのものであり、人々は平穏を謳歌している。
それを引き裂かんとしているのが『妄執の軍人』だ。
狂おしいほどの情念を抱き、ただ咆哮することしかできない。
「綾倉・吉野(桜の精の學徒兵・f28002)、學徒兵として、桜の精として、その任、果たすであります!」
吉野は気合を入れるようにカフェーの前に立つ。
此処には『妄執の軍人』の元となった人物の子孫がいるという。平和そのもの象徴。カフェーは流行のものであったが、此処は少し違う。
扉を開けて呼子の音が響く。
軽やかな音。
流れ込む温かな空気。
どれもが落ち着いたものであり、吉野は息を呑む。
だが彼女とて學徒兵である。
尻込みなんてしないのである。
「あら、いらっしゃいませ。どうぞ、お入りになって?」
柔らかな微笑みの女性。
店主の女性だ。吉野は彼女こそが今回の行動の目的であると見定める。彼女に憑いている|悪魔《ダイモン》たる『マステマ』の言葉に従う。
店主の女性の先祖、『妄執の軍人』の元となった者の名を聞き出せ、という試練。
彼女の言葉は尤もであった。
『その者を一兵士ではなくヒトとして終わらせるならば必要ですよ吉野』
「それは……」
『いざ戦う時、その者に『妄執の兵士殿』となど呼びかけるつもりですか?』
その言葉に吉野は頭を振る。
それはしてはならないことだと吉野は思えた。そう思える心があることが大切なのだと『マステマ』は思ったかも知れない。
その心が在るがゆえに徒に傷つくことになるのだとしても、その傷こそ練磨として生きなければならないのがヒトであるのだ。
だからこそ、吉野に試練を課す。
『やりとげなさい吉野。これも試練ですよ』
「……そうでありますね」
そんな吉野の葛藤に店主の女性は首をかしげるばかりであった。
どうしたのだろうと心配そうな顔をしている。
吉野は思い切って言葉を紡ごうとする。だが、どうやって名を聞き出せばいいのだろうか。
紫苑の髪飾りが揺れている。
『大戦の時代』は店主の女性にとっても何世代も前の話であろう。自分に繋がりのある先祖の名を知っているだろうか?
おそらくは知らない。
ただ伝え聞いているだろう。彼女が身につける紫苑の髪飾りは、戦いの赴く一人の男が自分の妻に送ったものであると。
「……どうかなさって?」
吉野は緊張したように揺れる髪飾りを見やる。
聞き出すことはできない。
けれど、名がわからずともできることはあるだろう。
「いえ、大丈夫であります!」
背筋を伸ばす。紫苑の花言葉は『キミを忘れない』。
追想の言葉だ。
ならば、それは送り主が送った相手のことを忘れないという意味だろうか。
違う。今まで紡がれてきたのは、身につける者が死せる者を忘れぬという意思表示。
今があることは過去があればこそ。
連綿と紡がれてきた轍。
ならば、吉野が『妄執の軍人』に呼びかける言葉は一つしかない。
「『紫苑の君』……名はわからずとも、その言葉の意味を知るのならば」
きっと『妄執の軍人』は気がつくだろう。
どれだけ歪み果てたのだとしても、|悪魔《ダイモン》の課す試練の答えとは違うのだとしても。
それでもこれが吉野の出した答えだ――。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『影狼』
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POW : シャドーウルフ
【影から影に移動して、奇襲攻撃する事】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : 復讐の狼影
自身の身体部位ひとつを【代償に、対象の影が自身の影】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
WIZ : ラビッドファング
【噛み付き攻撃(病)】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
イラスト:鴇田ケイ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
影朧『妄執の軍人』の咆哮が轟く。
「これが己たちが求めたものか! あの大戦の結果が! この帝都の有様か! この惨状なのか!」
彼の瞳に映るのは平和たる帝都ではない。
あるのは敵兵に蹂躙された傷痕だけであった。
正気すら失った彼には、そう見えているのだ。そんな彼の咆哮に引き寄せられるように影が集まっていく。
それは低級影朧『影狼』。
彼に従うように集まり、次第に数を増やしていく。
まるで夜の帳が降りるのを待っていたかのように『影狼』たちは数を増やし、膨大な数で持って凶悪な牙から影を滴らせながら平穏という名の安寧に浸る人々を食い殺さんばかりに、その赤い瞳を輝かせる。
「おお! 同胞たちよ! お前たちもそう思うか! ならば共に征こう! 御国のために!」
抜き放たれた刃の切っ先が煌めく。
嘗て合った思いも歪み果てる。
彼の瞳にはもう狂気しかない。
願った思いも。
己を殺してでも銃後の者たちを守ると決めた決意も。
何もかもが歪み果てていく。
それを悲しいと呼ぶことは簡単なことであった。
しかし、止めねばならない。
蹂躙の牙が、爪が、かつて彼等が守りたかったものを傷つけるその前に――。
馬県・義透
引き続き『疾き者』にて
さて…止めねばなりませんね。
と思っていたら、陰海月がいい案があると…。UC使用ですー。
陰海月「ぷきゅー」
…陰海月語を翻訳してお送りします…
ぷー!ここを壊すの反対!
相手、大量の影なんだよね?
なら、その影をなくすように!ぼくが光り輝けばいいよね!
目立つけど、的になるだけたからいいや。その方が、一般の人にも被害少ないでしょ?
というわけで!四天霊障(極彩色)で光を広げて押し潰しちゃえ!
噛みつこうとしても、口を開けた瞬間に四天霊障押し付けちゃうし、何なら光珠もぽいぽいなげちゃうよ!
咆哮が迫る。
それは影朧『影狼』の放つ咆哮であった。黒い姿は、まるで世界のすべてを怨嗟という牙でもって引き裂かねばならぬとばかりに帝都を疾駆する。
人々は見ただろう。
夜の帳に掛ける狼の姿を。
帝都ではまず見ることのない存在。
その強靭なる体躯。
爛々と輝く赤い瞳が残光となって帝都の夜を駆け抜ける。
「オオオオオオ――!!」
その咆哮は怒りか。それとも怨みか。
いずれにしても、今を生きる者に向けられて良いものではないと馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の一柱である『疾き者』は立ち塞がる。
「さて……止めねばなりませんね」
彼が見据えるは『影狼』の顎。
鋭い牙はあらゆるものを引き裂かんとばかりに襲いかかってくる。それを見据え、『疾き者』はユーベルコードに輝く。
否、1680万色に輝くのだ。
それは呪詛。
悪霊が持つ霊障を、『陰海月』と合体することによって纏うユーベルコード。
四悪霊・『虹』(ゲーミングカゲクラゲノツヨサヲミヨ)。
『陰海月』が言うのだ。
此処は、帝都は多くの先人たちの血によって築かれたものだ。
屍があったからこそ成り立つ平穏がある。
否定する者もいるだろう。肯定ばかりではないのはわかっている。けれど、此処に今生きている者たちは少なくとも平穏なのだ。
仮初と呼ぶがいい。
偽善だと謗るがいい。
けれど、壊してはならぬものがあるのだ。
だからこそ、『陰海月』は叫ぶように鳴くのだ。
「ぷきゅー!」
合体した『疾き者』の体は霊障を広げる。迫る牙を押し止めるまばゆい輝きの呪詛は、その鋭き牙でもっても貫くこと能わず。
「ガッ!?」
「あなたがたは影。ならば、光もまた強くなるもの。『陰海月』が言うには、自身が輝けば良いとのこと」
ユーベルコードによって合体し煌めく輝きは影を色濃くするだろう。
けれど、『影狼』たちの牙は決して届かない。
『目立つだけかもしれないが、的に自分がなるのならばいい』
それが答えであった。
帝都に住まう人々に塁が及ばぬように自分が囮になる。被害を出さない。ただ一人とて傷つく者があってはならないと『陰海月』と『疾き者』は合体したのだ。
光り輝く呪詛をが広がっていく。
広げた顎。
そこに叩き込まれる呪詛が膨れ上がり、『影狼』の顎を引き裂くようにして霧散させる。
「守らなければならないものを理解している者は強いですよ。『陰海月』もそうでしょう」
放たれる光球が『影狼』たちを次々と貫いていく。
平穏を切り裂く影。
それを霧散させる極彩色の光。
乱舞する光は、幻朧桜の花弁を受けてさらに舞い飛ぶ。平和の敵はいつだって影のように忍び寄る。
敵として認識させぬように、人の心に滑り込む。
だからこそ、止めなければならないのだ。
如何に妄執が破壊を呼ぶのだとしても。
「止めて見せましょう。歪み果てた心が其処に在るのならば――」
大成功
🔵🔵🔵
カレイジャス・カラレス
アドリブ・連携歓迎
◆行動指針
- POW判定
- 指定したUCを使い、奇襲攻撃に備えて防御を固める
- 防御を固めながらも射撃をし、敵を迎撃する
◆心境
軍人さんの、己を殺してでも銃後の者たちを守ると決めた決意を、汚すわけにはいかない。だから最善を尽くすよ。
何かを守りたい気持ちは、おれにもわかるから…。
軍人さんの想いは今に繋がってる。確かに守られたんだ…それを伝えてあげなくちゃ。
アンブレラガジェットを展開して、UCを発動。
仲間を《かばい》、奇襲攻撃に備えるよ。
アンブレラガジェットから《早業》《クイックドロウ》で素早く《弾幕》を放ちながら敵を牽制し、射撃の《2回攻撃》や《誘導弾》で迎撃していこう。
人の思いが紡がれるというのならば、それが織りなす光景は如何なるものであっただろうか。
『大戦の時代』に死した者たちがいた。
多くは己が死ぬことなど良しとはしなかっただろう。
当然だ。
生命ある者にとって、生命とは最も守らなければならないもの。
本能がそう告げているのだ。けれど、『大戦の時代』に生きた『妄執の軍人』の元になった人物はそうではなかった。
多くのものたちが生命を懸けたのだ。
自分ではない誰かのために。己の生命を賭して駆け抜けたのだ。
「軍人さんの、己を殺してでも銃後の者たちを守ると決めた決意を、汚すわけにはいかない」
カレイジャス・カラレス(暗がりで尚、硬輝・f39216)はクリスタリアンとしての体を闇の帳が落ちた帝都にて輝かせる。
ダイヤモンドを思わせるような髪。
その煌めきがユーベルコードに輝くようであったであった。
「だから最善を尽くすよ」
迫る咆哮。
影朧『影狼』たちが疾駆する。帝都の、平穏たる日常を引き裂かんと走っている。
未だ人々に塁が及ばぬのは先行した猟兵の放つユーベルコードの輝き故であろう。
何かを守りたいという気持ち。
それがカレイジャスにはよくわかる。
己の抱いた気持ちでさえ、過去から今に繋がるものである。ならば『妄執の軍人』の元となった人物の想いは、確かに誰かを守ったのだ。
そう告げたい。
だからこそ、カレイジャスは手にした黒い傘のガジェットを広げる。
「大丈夫。きっとおれが伝えてあげるよ。その思いを。確かに守られたってことを。あなたが守りたいと思って、守り通したものがあるってことを」
きらめくユーベルコード。
展開した黒傘の骨が軋む。
迫る『影狼』の奇襲の一撃。しかし、それは展開した強力な防御結界に激突して勢いを殺される。
重たい一撃だ。
カレイジャスはしかし、素早く黒傘の持ち手にあった引き金を引く。
先端が閃光を解き放ち、散弾の一撃が『影狼』たち打ちのめす。
「きっと無駄なんかじゃなかったんだって、それさえ信じることができたのならば、あなたの無念も、哀惜も、報われるはずなんだ」
それは憐れみであったのかもしれない。
人の心を慰めるものであったのかもしれない。
傷ついた霊があるのならば、慰撫する。それによって得られる癒やしがある。サクラミラージュのオブリビオン、影朧にとって癒やしが得られるのならば転生の機会も訪れるだろう。
だからこそ、カレイジャスは戦うのだ。
守られたものが傷つけられることなんてあってはならない。
最善を尽くす。
「オオオオ――!」
『影狼』の咆哮と共に彼等の牙が帝都の人々に襲いかかる。けれど、それらの全てをカレイジャスは防ぐ。
「大丈夫、おれの後ろにいて」
安心させるようにつぶやく。
誰かが守った平穏を崩すものがいるのならば、己が防波堤にならなければならない。
たった一つのこと。
それをすることこそが、慰めだ。
無価値な生命なんかないのだと叫ぶことこそが、彼等の、死せる者たちの魂の尊厳を守り抜くこと。
故にカレイジャスは黒い傘を広げて瞳でもってまっすぐに見据える。
『妄執の軍人』の狂気の瞳を――。
大成功
🔵🔵🔵
ウルル・マーナガルム
連携アドリブ歓迎
やっぱり外に出ると寒いや
終わったら、もう一度お店のココアが飲みたいな
『その為にも、ここからが踏ん張り所ですよ。ウルル』
大丈夫
なんたってボクは、祖国の独立を守り抜いた英雄の孫だもん
守ってみせるよ
この街も、あの影朧の心も
ハティの子機達を街中に散開させて
地形情報を集めつつ囮役をしてもらおう
ボクとハティ本体はホログラムで風景に紛れて待機
狙いやすい場所に敵を誘導してもらって
射線に入った奴を片端から狙撃していくよ
受け継がれて現代まで遺るほどの想い
きっと、きっと
そう簡単に忘れられるものじゃないと思うから……
カフェーの外に出れば、風の冷たさに肩をすくめることだっただろう。
ウルル・マーナガルム(死神の後継者・f33219)もまたそうであった。あの温かなカフェーの空気はウルルの心に少しの寂しさを呼び込んだかも知れない。
いつまでも暖炉の前にいることができたのならば幸せであったことだろう。
けれど、いつまでもはいられないのだ。
どれだけ冷たい風が頬を切りつけるのだとしても。
それでも人は立たねばならないときがある。
ならばそれは今だと彼女は思った。
「終わったら、もう一度お店のココアが飲みたいな」
『その為にも、ここからが踏ん張りどころですよ。ウルル』
AIの言葉にウルルは頷く。
夜の帳がおりた帝都に疾駆する影がある。
あれが影朧『影狼』。低級影朧と言えど、数が揃えば脅威である。『妄執の軍人』の気配に誘引されるように出現したあの狼を打倒しなければならない。
そうしなければ喪われる生命があるからだ。
「大丈夫。なんたってボクは、祖国の独立を守り抜いた英雄の孫だもん。守ってみせるよ」
ウルルは暗闇の帝都に駆け出す。
街灯の光が彼女の顔を照らす。それもつかの間であった。
彼女の瞳がユーベルコードに輝く。
『狼の狩りをご覧にいれましょう』
「行こう。この街も、あの影朧の心も――ムーンドッグス・ア・ゴーゴー!(ムーンドッグ・シュツゲキジュンビカンリョウ)」
全て救ってみせるのだとウルルはAIである『ハティ』と同じ性能を持った子機を召喚して走らせる。
『影狼』が反応する。
共に同じ猟犬の如き体躯。
それに釣られるようにして『影狼』たちの牙が走る。
赤い瞳の残光が闇の中に残る。
けれど、AIによって制御された子機たちは構うこと無く走る。
戦うのではなく惹き付ける。
それが子機である彼等の役目なのだ。
「……ウウウウオオオオ――!!」
苛立たしげな咆哮が響く。
遊ばれていると理解した『影狼』たちは怒りに満ちた赤い瞳を街中に走らせる。だが、その牙は何者にも突き立てられることはなかった。
放たれた銃弾が『影狼』の頭蓋を砕く。
一瞬何が起こったのか、彼等には理解できなかった。
自分たちが惹きつけられ、そしてホログラムの迷彩に隠れ潜むウルルの構えた狙撃銃が己たちを穿っったのだと理解すらできなかった。
戸惑い、困惑。
焦燥、混乱。
どれもが彼等の内面を現すのに等しかっただろう。
狙撃されている場所も理解できない。ならば、此処は最早狩場である。ウルルのスコープを覗く瞳が的確に『影狼』たちの頭部を見つめる。
引き金を引く。
その度に『影狼』たちが霧散していう。
「受け継がれて現代まで遺るほどの想い。きっと、きっと」
引き金は重たくはない。
思うのだ。
ウルルは思う。紫苑の髪飾りを付けた、あの温かな空気の源たる女性店主の顔を。
あの表情は守られたものだ。
今が仮初の平穏であったとしても、『妄執の軍人』が守りたかったものは守られた。守られ、紡がれ、今という時代にまで残っているのだ。
だからこそ、その妄執の深さを知る。
「そう簡単に忘れられるものじゃないと思うから……」
だから己は引き金を引くのだ。
ウルルはスコープに映る『影狼』たちの怨嗟の如き赤い瞳を見つめ、その躯体を撃ち抜くのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
綾倉・吉野
『紫苑の君』……必ず貴方を止めてみせるであります
綾倉吉野、推して参る!であります!
一度に多勢を相手取るのは不慣れ、ひとつづつ確実に倒していくしかないであります
……ならば、「ゴエティア」を構えUCで新たに呼べるようになった梟の頭と翼をもつ狩人の悪魔「バルバトス」殿を呼び、空中より影の矢を放って敵の脚を縫い留め支援してもらうであります
バルバトス殿のおかげで今の私も暗視・心眼効果を受けるでありますから夜でも問題なく見えるでありますし、退魔刀と桜花軽機関銃を手に積極的に前へと出て戦い、こちらの影に乗り移って来れば攻撃を退魔刀で逸らし、バルバトス殿の支援も受けつつ、機関銃で反撃をしていくであります!
影朧『妄執の軍人』を取り囲むように影が走る。
それは彼に誘引された低級影朧『陰狼』たちであった。彼の咆哮に、怒りに、狂気に影響されるようにして走る影は、帝都の平穏を切り裂く牙となるだろう。
しかし、それをさせてはならない。
彼の元となった人物は『大戦の時代』に深く傷ついた魂である。
ひと目我が子に会いたい。
その願いすらも踏みにじられた時代があった。
けれど、そんな時代があったからこそ今がある。
今という平和があるのだ。その礎になったと思うことが欺瞞であるというのならば、それは甘んじて受け入れるべきことだろう。
「ですが、今の平和を壊すこととは繋がるものではありません。『紫苑の君』……必ず貴方を止めてみせるであります」
綾倉・吉野(桜の精の學徒兵・f28002)は帝都に降りる暗闇と、それを照らす街頭の輝きを前に息を吐き出す。
止める。
必ず止めなければならない。
あのカフェーの女性店主が『妄執の軍人』の元となった人物の子孫であり、彼が願った平和を享受しているというのであれば、吉野は。
「綾倉吉野、推して参る! であります!」
飛び込むようにして吉野は迫る『影狼』の群れへとユーベルコードに輝く瞳を持って示す。
「貴方の力を貸して欲しいであります―――バルバトス!」
捌式召喚術「バルバトス」(ハチシキショウカンジュツ)によって召喚されしは、梟の頭部と翼を持つ狩人。
其の名を悪魔『バルバトス』。
かの悪魔の力は影の矢を放つこと、そして吉野との視界を共有すること。
即ち、彼女の瞳は『バルバトス』の闇を見通す心眼そのもの。
故に彼女は手を掲げる。
「ウォオオオオオ!!!」
咆哮が轟き、吉野の心を縛る恐怖が走るのだとしても彼女は立ち止まることはない。確かに目に前に迫る『影狼』の牙』は恐ろしい。
けれど、大丈夫なのだ。
空より俯瞰してみる光景。
『バルバトス』の見せる光景は、確かに彼女に襲いかからんとする『影狼』たちの姿をしっかりと見せている。
「征くであります!」
影の矢が『影狼』たちの躯体を縫い止めるように放たれ、その間隙を縫うようにして吉野の退魔刀が翻る。
その閃きの如き太刀筋は、縫い留められた『影狼』たちを一刀のもとに両断してみせるのだ。
さらに前に進む。
立ち止まってはいられない。
彼女の背後から迫る『影狼』の顎。しかし、それも吉野には見えている。俯瞰する『バルバトス』の視界に映るそれを見た瞬間、吉野は振り向きもせずに機関銃を逆手に持って引き金を引く。
放たれる弾丸が『影狼』たちの口腔を穿ち、その体を霧散させるのだ。
「ひとつずつ確実に倒していくであります。この程度で私を止められると思わないことであります!」
吉野はひた走る。
彼女が求めるもの己の前にしかない。
何故なら、己に追いすがり阻むものはいつだって過去だからだ。『妄執の軍人』だってそうだ。
彼を倒さなければならない。
學徒兵だからではない。猟兵だからではない。
吉野自身の思いのままに走る。
『紫苑の君』と呼ぶ。『妄執の軍人』とは呼ばない。人の心を癒やすためには、それを知らなければならない。
どれだけ茨の道であり、険しく厳しい道のりであっても。どれだけ長い、途方も無い時間がかかるのだとしても。
「傷ついた魂には癒やしが必要なのであります!」
だかから、と吉野は退魔刀の閃きと機関銃の放つ轟音と共に帝都を戦場と為さしめぬためにこそ惨禍の中心たる『紫苑の君』へと迫るのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
ステラ・タタリクス
これは……私のメイド的名誉挽回の千載一遇のチャンスを逃したのでは??
カフェーに紫苑の花と言えば、この私、ステラです、と言い切る機会を逸したのでは??
不覚です
仕方ありません、何事も無かったかのように登場しましょう
(ネコミミがぺたんとなっているのはヒミツ)
ええ、紫苑の花はとても素敵ですね
花言葉はさることながら、とても強い
例え一面を刈り倒したとしても翌年ひょこっと生えてくる程度には強いのです
きっと、何かを、誰かを待ち続けているのでしょうね
放っておくとすごく増えるバイタリティ溢れる花でもありますがさておき
【シーカ・サギッタ】で迎撃しましょう
わんこにしてはおいたが過ぎますよ
メイドが躾けて差し上げましょう
「これは……私のメイド的名誉挽回の千載一遇のチャンスをのがしたのでは?」
いや、まだ間に合う。
そうつぶやくのは、ステラ・タタリクス(紫苑・f33899)であった。
彼女のメイド服の裾が寒風になびく。
メガネを懸けているのは知的なイメージを底上げするためである。
そう、カフェーに紫苑の花。
それが今回の事件の中心である。『妄執の軍人』と呼ばれる過去に深く傷ついた魂を元にした影朧。
にじみ出る彼が齎すのは世界の破滅。
どれだけ最初の思いが高潔で、代えがたい尊いものであったのだとしても。
傷ついた魂は歪められる。
過去という圧力に捻じ曲げられる。それが嘗てあった思いの結果を傷つけるものであったのならば。
それは許せないことなのだ。
だからこそ、ステラは色々不覚だったと己を恥じ入るのだ。
「仕方ありません、何事もなかったかのように登場しましょう」
ネコ耳がぺたんとなっているような気がするが、見てみぬ振りをするのもまた優しさの一つであったことだろう。
いや、そうでなくても己の名は星のように輝くのだ。
紫の髪は、紫苑の花のように。
花言葉を思い出す。
『キミを忘れない』。追想の言葉は、とても強く彼女の心に響き渡るだろう。
「例え、一面を刈り倒したとしても翌年ちょこっと生えてくる程度には強いのです」
雑学。
眼鏡のインテリジェンスが冴え渡る中、ステラは帝都の街中を疾駆する『影狼』を捉える。
其の瞳に輝くのは知性とユーベルコードである。
投げ放つナイフの一撃が次々と『影狼』たちの頭蓋を貫いて、その躯体を霧消させる。
「――ッ、ウウウ!!」
次々と群れが霧消されていく中、『影狼』たちは見ただろう。
闇の帳が降りる帝都。
その街灯の上に立つメイドの姿を。街頭の明かりに反射するレンズ。そのかがやきは瞬きの間に投げナイフの放つ剣呑なる輝きによって打ち消され、『影狼』たちは己たちが貫かれたという事実を理解できぬまま霧消する。
「きっと、何かを、誰かを待ち続けているのでしょうね」
放っておくとすごく増えるバイタリティ溢れる花。
それが紫苑の花。
一つの思いが大いなるものを守る。
一人では抱えきれないものであったとしても。
それでもその紫の花弁もつ花は、きっと誰かの心を癒やすことだろう。
己が守る事ができない誰かを、己ではない誰かが守ることを祈る。そうして紡がれた平穏が今であるというのならば、ステラは思うのだ。
「平和を思うこと。心に平和を宿すこと。それがいつだって人の心を推し進める。例え、その道が困難に満ちていようとも。それでも進む人がいるのならば」
ステラは『影狼』たちを見据える。
「わんこにしてはおいたが過ぎますよ。メイドが躾けて差し上げましょう」
柔らかく微笑むメイドは投げナイフを放つ。
いかなる防護も無意味。
彼女の道と同じように、その投げナイフはあらゆるものを貫通する。
障害も、困難も。
試練も、現実も。
何もかも貫いていく。それだけの力がある。意志もある。ならばこそ、ステラはひた走るのだ。
此処はサクラミラージュ。
平和の影にうごめくものがあるのだとしても、仮初の平穏だと言われようとも。
平和を愛する者がいたのならば、そのためにこそ自分は駆けるのだと言うように、ステラは手にしたナイフの刀身に映る己の紫の髪を紫苑の花に例えるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
朱鷺透・小枝子
|『眼倍起動』《視力情報収集》
【瞬間思考力】|光剣《フォースセイバー》を自身の影へ投擲。
影の頭部を消しながら、【早業】
即座に軍刀を居合抜き、奇襲攻撃をなぎ払い迎撃。
知らないのなら、叩きつけてやるまで!
まだ生きている。まだ繋いでいる事を!
【推力移動切り込み】影に潜むより先に、刃を叩きつける!
壊れる刀、即座に振るい返せぬ刀を捨て、代わりの刀を手に振るいて断ち、駆けて貫き、狂気の狗牙が
何者を傷つけるより先に!
あの者に叩きつけて分からせてやる!
だから!その為に壊せ!!
切り裂いた影朧達の|【呪詛】《狂気》を奪い捕食、
|【闘争心】《悪霊が怨念》で従わせ、強引に荒ぶる魂を鎮めさせる。
帝都の闇は街頭の明かりに照らされて、影を色濃くする。
それは平和という名の光がまばゆく輝けば輝くほどに闇に蠢く平和を切り裂く者たちの力を、その胎動を見通せぬように。
故に、朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵・f29924)の瞳は輝く。
「その咆哮。平和の意味を知らないか。平和の尊さも。その礎となった者の嘆きも、思いも、何もかも知らぬというのならば」
小枝子の魔眼が輝く。
残光を遺して、帝都の闇を疾駆する猟兵が一人。
街頭を蹴って飛ぶ。
其の影を見上げた『影狼』たちの咆哮が轟く。
「ウォオオオオオ――!!」
怨嗟。
傷つけられた痛みを、その魂の傷痕から流れる血潮を知らしめるように『影狼』たちの赤い瞳が小枝子を見る。
けれど、小枝子は光剣を抜き払う。
咆哮と共に自身の影より『影狼』の顎が襲い来る。
そこに光剣を投擲し、小枝子は宙に舞う。
「知らないなら、叩きつけてやるまで! まだ生きている。まだ繋いでいる事を!」
突き立てられた光剣を小枝子は引き抜きながら、『影狼』の首を切り裂く。
ビルの壁を蹴って小枝子は街灯に映る己の影から迫る顎を、牙を、あらゆるものを切り裂き、叩きつけ、砕く。
「何者を傷つけるより先に!」
振るう光剣が影の牙と激突して砕ける。
だが、それでも小枝子は止まらない。砕けて使い物に成らぬ剣は投げ捨てる。
騎馬刀を抜き払い、迫る牙を受け止める。
眼倍(ガンマ)たるユーベルコードの力が迸る。彼女の人工魔眼から迸る熱量は、闇の帳降りる冬の空に在りてなお、熱を持つ。
それは彼女の魂に灯ったものだろう。
熾火のように輝いている。
これは己の中より発露したものであるが、己がともしたものではないと知る。
「あの者に叩きつけてわからせてやる!」
この熾火は、己ではなく。
『妄執の軍人』の元となった人物の願いだ。祈りだ。
昇華した命の煌きが、今をこうして紡いでいるのならば。振るう騎馬刀の一閃が『影狼』たちの呪詛を喰らうように伸ばした手に掴まれる。
「だから!」
悪霊の怨念。
それが全てを上回る。
深く傷ついた魂の成れの果てだというのならば、従わせる。荒ぶる魂を鎮めるために古来より必要なのは力だ。
地鎮の力。
大地を踏みしめるように小枝子は己の力を増していく。
彼女の瞳はあらゆる状況を認識し、迫る『影狼』たちの顎を捉えている。ひねるように廻る己の体。
揮われる騎馬刀の旋風が『影狼』たちの胴体を切り裂き、霧消させる。
「そのために壊せ!!」
己の中にある傷さえも壊す。
壊すことしかできない。壊すことでしか守れぬものがある。
平穏も、平和も。守りたかった誰かも。
それら全てが建前であったのだろう。ただひと目我が子を見たいという願い。そのためにこそ傷ついた魂があるのならば。
「自分は、そのために!」
燃えるように小枝子は人工魔眼の力を迸らせながら、迫る『影狼』の中心に在るであろう『妄執の軍人』の姿を捉えるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
佐伯・晶
話が通じる相手では無さそうだね
妄執の軍人との接触を邪魔されても困るし
倒させて貰うよ
分霊とはカフェを出た所で別れたよ
遊びに行ったのか、それともカフェの辺りにいるのか
まあ、目の前の相手を何とかするとしようかな
ガトリングガンは建物や道を傷つけそうだから
ワイヤーガンを使って戦おうか
他の猟兵達とできるだけ被らない方向から近付いて
討ち漏らしが無いように気を付けよう
拘束ワイヤーで動きを止めたり
切断ワイヤーで切り裂いたりするよ
相手の攻撃は影を移動できる以外は
狼の動きに近そうだね
そしてUCは呪詛に近い攻撃なのかな
攻撃の起点がわかりやすいから対処はしやすいね
明かりの位置を把握していれば
攻撃が来る方向を調整できるし
邪神の分霊はカフェーを出て何処かに行ってしまった。
遊びに行ったのかも知れないし、カフェーの辺りにいるのか。
どちらにしたって佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)は戸惑うことをしなかった。いつものことだと言われればそのとおりであったし、何より自分が為さねばならぬことを理解している。
手にしたワイヤーガンの冷たさが手に伝わる。
闇の帳がおりた帝都の街中は、風が冷たい。わかっていたことだ。けれど、それでも晶の心の中には温かなものがある。
平和を守るものがあるのだとすれば、それは力ではない。
誰かに何かをしてあげたいという温もりだ。
それをカフェーで受け取った晶は戦場とならんとする帝都の街を走る。
宙を走るワイヤーが壁面に突き立てられ、巻き取られるようにして晶の体が宙に走る。
「話が通じる相手ではなさそうだね」
帝都の街中を疾駆する影。
赤い残光を残すは瞳。
それが『影狼』であった。咆哮を轟かせている。影朧は深く傷ついた魂の成れの果てだ。
だからこそ、彼等にもまた傷ついた理由もあるのだろう。
その憎しみ。怨嗟。理由すらもわからぬままに凶刃の如き牙でもって無辜なる人々を傷つけようとしている。
「傷は傷を与えることで癒えるんじゃあないんだよ」
晶の瞳がユーベルコードに輝く。
手にしたワイヤーガンから放たれる一撃が『影狼』を捉え、動きを止める。のみならず、そのワイヤーが締め付けられると、その胴体が切断される。
庸人の錬磨(ヒューマン・エクスペリエンス)たるワイヤーの操作技術は晶の中で確かに蓄えられ、磨かれてきたのだ。
「オオオ――!!」
言葉を介さぬ怨嗟の咆哮。
その轟きと同時に晶の背後の影から迫るは『影狼』の顎。
鋭い牙は晶を切り裂かんとしている。けれど、晶は躱す。
「怨嗟、呪詛に近いんだろうね、君たちは」
晶は背後を振り返り、迫る顎を拳で打ち上げる。攻撃の起点が己の影であるというのならば、読みやすい。
振り返りざまに放った拳によって打ち上げられた『影狼』を即座にワイヤーガンで巻取り、切り裂く。
「闇夜だからこそ、わかるんだよ。君たちの攻撃は」
街頭の明かり。
その位置関係を理解しているのならば、対処は容易い。
それに猟兵としての経験が告げているのだ。闇討ち、不意打ち。あらゆる経験を積んできた晶だからこそできることがある。
天性のものでもなく。
資質でもなく。
己を人であると定義するのならばこそ、たゆまぬ練磨によって磨かれる決勝の如き技術がある。
故に晶は負けない。
どれだけ影から迫る脅威があるのだとしても、負ける謂れはないというように立ち回る。
「『妄執の軍人』との接触を邪魔されたくないんだ。君たちは此処で一体残らず倒させて貰うよ」
晶の瞳はユーベルコードと意志に輝き続ける。
敵を打倒することと、『妄執の軍人』たる影朧の魂に癒やしを与えるのは似ているようで異なるものだ。
だからこそ、邪魔はさせない。
オブリビオンである影朧に転生という選択肢が与えられているのがサクラミラージュの、幻朧桜の齎す奇跡であるというのならば、その奇跡を手繰り寄せてみせるのが猟兵であるというようにユーベルコードの輝きでもって示して見せるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『妄執の軍人』
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POW : 壊そう
【拳】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD : 斬ろう
自身に【狂気の闇】をまとい、高速移動と【斬撃による衝撃波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 呪おう
【片掌】から【呪いの炎】を放ち、【呪縛】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:めんきつね
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠寧宮・澪」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「この帝都を戦場にはさせぬ! 貴様たち敵兵に奪わせはせぬ! 我が同胞がどれだけ屍を晒そうとも! 己はそれを越えていく!」
『妄執の軍人』は影の惨禍にいた。
彼の瞳は狂気に染まっている。
怒りも、憤懣やるかたない思いも、何もかも狂気と過去に歪む。
それほどまでに過去の堆積は凄まじい圧力を生み出すのだ。
清廉高潔なる魂も。
傷つけば、その魂を歪める。
「させはせぬ! 己は!」
『妄執の軍人』は、立ち止まる。
今己が見ている光景を猟兵は理解できないだろう。本能が叫んでいる。
己の目の前に立つ者。
それこそが己が滅ぼさなければならない存在。
オブリビオンと猟兵は滅ぼし、滅ぼされる間柄でしかない。例え、弱いオブリビオンである影朧であっても例外はない。
故に滅ぼす。
目の前の『あれら』は己の敵である。
「滅ぼす!『壊す』ために!『斬る』ために!『呪う』ために!」
全ては反転する。
嘗てあった思いなど歪み果てたと証明するように『妄執の軍人』は己の名すらも忘れて、己が真に欲したものさえもわからなくなったように狂える力の奔流を撒き散らすのだった――。
朱鷺透・小枝子
騎兵刀二刀を振るい、切り込む!
何を見ている!何の為の戦いだ!!
あの『紫苑の花』の子の為だろう!!!
『戦喰類』
【瞬間思考力】拳のぶつかる先を判断して、
己が肉を騎兵刀として【捕食カウンター】
生きたのだ、まだ続いている!
お前は知らねばならない!あの女性の笑顔を、優しさを!
【早業】騎兵刀を振るい、刃と化した五体を振るう。
子が生き抜いた証を!!お前が何に刃を向けているのかを!!
子孫がまだ髪飾りを持っている事を!長い時が経とうとも!
何代先でもまだ!繋がっている事を!
砕けた刃を【念動力】で操り妄執の軍人を切り刻み、
戦意を喰らう。狂気を喰らう。虚飾を喰らう。
貴殿は兵士で父親だ、敵よ、壊す物を違えるなッッ…!!
猛る炎は紫苑。
故に『妄執の軍人』は力を振るう。吹き荒れる力の奔流の色を見てもなお、彼の心に去来するものはなかった。
あるのは狂気のみ。
深く傷ついた魂を元にした影朧。
子を思う親がいる。
父親として何一つしてやれることのなかった己が叫ぶのを彼は聞いたかもしれない。間違えていると。
己が刃を向ける先は、もうないのだと。
「そんなことがあってなるものか! この帝都の現状を見よ! 何処かしこにも敵兵の姿が跋扈しているではないか! 我が子を思うのなら! 己はこれを壊さねばならぬのだ!」
振るう拳の一撃が帝都の建物を破壊線とした時、その拳を受け止めるのは二刀の騎兵刀であった。
「何を見ている! 何の為の戦いだ!!」
朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵・f29924)が迸るように燃える人工魔眼で『妄執の軍人』を見つめる。
振るう拳の一撃で二刀は砕けて散る。
衝撃波が小枝子の体を撃つ。
痛みが走ってもなお、小枝子は叫んだ。
「あの『紫苑の花』の子の為だろう!!!」
投げ捨てた騎兵刀の代わりはない。いや、あるのだ。彼女の瞳がユーベルコードに輝く。
擬物を凶器に変える。
それこそが戦喰類(イクサグルイ)たる己の本分であるというように、血肉を、皮を、爪を、毛を、己の五体を構成する物部手を無数の騎兵刀へと変える。
打ち合う拳。
カウンターを狙ったとしても、その一撃は砕かれる。
それほどまでに『妄執の軍人』の技量は卓越している。只者ではないと小枝子の理性が理解するが、それを凌駕する本能があった。
「聞こえぬ! 其のような戯れ言は! この惨状を見てなお、信じろと言うか!」
「そのとおりだ!」
叫ぶ心が言う。
胸に宿った熾火は今も燃えている。あの暖かさを知るからこそ、小枝子は叫ぶ。届かぬと知りながらも叫ぶのだ。
「生きたのだ、まだ津ぢ居ている! お前は知らねばならない! あの女性の笑顔を、優しさを!」
冷たい風の中を歩く人を出迎えたあの温かな空気を小枝子は知っている。
けれど、『妄執の軍人』は知らないのだ。
それが何によって齎されたのかを。だからこそ、己の五体でぶつかる。拳と騎兵刀の刃が激突する。
血潮が吹き荒れるように飛び散る。
それは果たして敵の血か、それとも己の血か小枝子にはわからなかった。
けれど、己が五体を振るうのと同じように叫ぶ心のままに言葉を紡ぐ。
「子が生き抜いた証を!! お前が何に刃を向けているのかを!! 子供がまだ髪飾りを持っていることを!」
叩きつける。
拳を、腕を、頭を、足を。
何もかも使って小枝子は言葉を吐き出す。それは言葉以上に伝わるものであったかもしれない。
「長い時が経とうとも! 何代先でもまだ! 繋がっていることを!」
優しさは紡がれる。
悪意はすぐに伝播していくが、優しさは違う。連綿と撚り合わされ、悪意の刃さえも寄せ付けぬ強靭なる意志へと変わっていく。
それを小枝子は見たのだ。
伽藍堂の悪霊たる己の中にある破壊の意志の中にさえ、あの温かな空気は優しく入ってきたのだ。
その源を小枝子は目の前の『妄執の軍人』に見たのだ。
拳の一撃が小枝子の髪によって紡がれた刃を砕く。
だが、その砕けた刃を小枝子はむき身のまま素手で掴む。血潮が走り、その振り下ろした一撃が『妄執の軍人』へと叩きつけられる。
「何が繋がっているというのだ! それを!」
「優しさというものだ! お前が嘗て我が子を思ったように!」
「そんなもので何が守れる!! 壊されるものが!」
「貴殿は兵士で父親だ、敵よ」
小枝子は己の爪でもって『妄執の軍人』の体を切り裂く。
その狂気を、戦意を、虚飾を喰らうように。
「壊すものを違えるなッッ……!!」
あの優しさの結末がこんなものであって言い訳がないと、小枝子は己の心に燃える熾火を持って『妄執の軍人』纏う紫苑の炎を切り裂くのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
ウルル・マーナガルム
連携アドリブ歓迎
さっき子機達が集めた地形情報から一番高い所を選んでそこに移動するよ
その間ハティは
ボクの姿のホログラムを纏って時間稼ぎ、お願いね
『了解。幸運を、ウルル』
移動中、ハティの無線ごしに影朧に語りかける
同じ軍人として真面目に話をしてみたくなったんだ
「貴官にお尋ねしたい
貴官は……銃後に居る次代の子供たちが
戦火を知ること無く生きるを望まれるか」
「どうか安心されたし
次の時代を担う者たちは、他ならぬ貴方自身が守り抜いたのだ」
「何故なら、先の英雄に連なる系譜はここにも居る」
「|私《・》は|死神の後継者《次代の英雄》
そう在るべく薫陶を受けた者
私の使命は
かつての英雄の奇跡を継承し、再現してみせる事」
「私は守り抜く
かつて祖父がそうした様に
その昔、|先人達《貴官ら》がそうした様に」
狙うのは、ハティを攻撃しようとした瞬間
剣を振るう腕を
その次は頭か心臓の位置を
何度も繰り返した動きは、すっかり体に染みついていた
踵を揃えて背筋を伸ばす
心優しき兵士に、敬礼を
帝都に降りる暗闇の帳。
それを払うのが街灯の明かりであったというのならば、建物を縫うようにして吹く寒風を払うのは一体なんであっただろうか。
冷たさは心を凍りつかせるかもしれない。
けれど、人の優しさというものがかじかんだ心をこそ解し溶かしていくというのならば、あの甘くもコクのある味わいは今もウルルの舌の上に残っていた。
優しい味がしたと思ったかも知れない。
気の所為であったかもしれないし、ただの思いこみであったかもしれない。
「それでもあの人はボクに優しかったんだ。行くよ、『ハティ』」
そう言ってウルルは子機が集めた情報を元に戦場とならんとしている帝都の街中を征く。
影朧『妄執の軍人』は今も帝都に在りて、その狂気宿す瞳から齎される影を纏て飛ぶように駆け抜けている。
それをウルルと『ハティ』、そして子機が追う。
『了解。幸運を、ウルル』
その言葉と共にホログラムが展開する。
『妄執の軍人』にとって、それは目くらましにしかならなかったし、また同時に帝都を蹂躙する敵兵の姿にしか見えなかっただろう。
だからこそ、咆哮する。
思いは狂気に歪み果てた。
彼の心の中に在るものは過去という堆積するものの圧力に負けて捻じ曲げられている。だが、強さは変わらない。
親が子を思う気持ちは強烈にして鮮烈。
振るう軍刀がホログラムを振り払う。
「邪魔をするな。切り裂かねばならぬ。敵兵というものは! 己の道を阻むものは全て!」
切り裂くホログラムの合間に『ハティ』の子機が飛ぶ。
その外部スピーカーからウルルの声が響く。
「貴官にお尋ねしたい。貴官は……銃後に居る次代のコドたちが戦火を知ることなく生きるを望まれるか」
その言葉は狂気によって正気を失った『妄執の軍人』にとって如何なる意味を持つものであっただろうか。
『大戦の時代』にあって、敵兵もまた人間であることを影朧の元となった人物は理解していたことだろう。
己の思惑も、意志も、何一つ思い通りに成らなかった時代である。
国という枠組みの中でしか生きられないのならば、個を捨て、せめて己の未だ見ぬ子を思うしかなかっただろう。
だからこそ、尋ねたいのだ。
「望まぬ親がいるものか! 子の安寧を。健やかなるのを。それを望まぬ親など、親などではない畜生にも劣る者である!」
その言葉を聞いてウルルは息を吐き出す。
「どうか安心されたし」
意味があったのかはわからない。
けれど、知ってほしいと願ったのだ。深く傷ついた魂が変じるのが影朧。ならば。
「次の時代を担う者たちは、他ならぬ貴方自身が守り抜いたのだ」
「虚言を弄するか! 己たちの戦いは終わってなど居ない。敵兵に塗れた帝都を見て、それを信じろと言うか!」
一層濃くなる影。
紫苑の色をした炎じみたオーラが噴出する。
「ええ。貴官には信じていただきたい。何故なら、先の英雄に連なる系譜は此処にも居る。|私《・》は|死神の後継者《次代の英雄》、そう在るべく薫陶を受けた者。私の使命は」
告げられる言葉に合間に揮われる軍刀の一閃が『ハティ』を捉える。
ホログラムなどまやかしであるというように『妄執の軍人』はそれらを切り裂いて、声を発する『ハティ』に迫るのだ。
その瞬間、その腕を貫くは弾丸であった。
跳ね上がる腕。
血潮が噴出する。その光景を『妄執の軍人』は見ただろう。
「かつての英雄の奇跡を継承し、再現してみせる事」
引き金を引く。
弾丸は暗闇を切り裂くように真っ直ぐに飛んでいく。
言葉を紡ぎながらもその所作はよどみなく。何度も反復によって得た動作は、流麗そのものであったし、淀みなどなかった。
過去の堆積が心を歪める圧力となったとしても、この技量だけは変わることはない。
弛みなき練磨こそがウルルを支えるものであるのならば、体に染み付いたそれはきっと彼女を守るだろう。
そして『妄執の軍人』は見ただろう。
己の胸を穿つ者の姿を。
このまやかしの如きホログラムと街灯が織りなす影と暗闇にあってなお、彼の瞳はウルルを捉えていた。
彼女がいたのは鉄塔の上。
この帝都の中でも指折りの高所。其処に彼女の姿を認める。
「私は守り抜く。かつて送付がそうしたように、その昔、|先人達《貴官ら》がそうしたように」
その決意みなぎる超克の輝きの最中に、狙撃のルーティン【ドルズの歌】(コマッテナクテモトナエテクダサイ)は響き渡る。
構えた銃を下ろしてウルルは己を見やる『妄執の軍人』の瞳と相対する。
踵を揃える。
背筋を伸ばす。
教えられた通りに。祖父の言葉通りに。
目の前にいる生命を見た。
故に彼女は心優しき兵士に敬礼を持って応える。
例え、それが己が穿つ生命であったものなのだとしても。
それが『妄執の軍人』の元となった魂の傷を癒やす一助となることを彼女は心より願い、敬意をもって見送りの一射と成すのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
カレイジャス・カラレス
アドリブ・連携歓迎
◆行動指針
- POW判定
- 指定したUCを使い防御を固める
- 防御を固めながらも射撃をし、敵を迎撃する
◆心境
狂気の瞳であってもまっすぐに見据え、伝えるよ。
軍人さん、あなたの生きた証は守られているんだ。
紫苑の花飾り…それにこめられたあなたの想いは、連綿と現在まで繋がっている!それを自ら傷つけようとしてはだめだ…!
指定UCを発動。アンブレラガジェットが壊れようとも、自身の体が砕けようとも…おれが全部受け止める。あなたを止めてみせる!
傘部分が壊れたとしても、散弾銃としてはまだ使えるはず。《早業》《クイックドロウ》で《弾幕》を放って迎撃。
銃も壊れたらオックスフォードシューズで戦うよ。
銃撃の音が帝都に響き渡る。
跳ね上がる『妄執の軍人』の腕。血潮荒ぶ風の最中に、カレイジャス・カラレス(暗がりで尚、硬輝・f39216)は飛び込んでいく。
己の瞳がユーベルコードに輝く今という瞬間を彼は理解しただろうか。
それがどんなに困難で、険しく、辛い道であるのかを。
「軍人さん、あなたの生きた証は守られているんだ」
その言葉を告げる。
意味のある言葉であったのかなど知りようがない。
ただ狂気の瞳からカレイジャスは目をそらすことはなかった。真っ直ぐに見据える。見つめる。
猛烈なる圧迫感が心を締め付けるようであった。
それほどまでに血潮に塗れる『妄執の軍人』の狂気に彩られた瞳は、強烈なものであったのだ。
「生きた証など! 己が死んでいるかのような物言いを! まだ守れていない! 何一つ己は成していない! 徒に死んでいく同胞を見た。意味もなく証明などなく、ただ喪われる生命を見た! 戦いとは、そういうものだと!」
銃撃と斬撃によって血を撒き散らしながらも鬼気迫る表情で『妄執の軍人』はカレイジャスに迫る。
展開したシールドアンブレラ……ガジェットの織りなす強力な防御結界すらも振るう拳は砕く。
響き渡る衝撃。
臓腑を穿たんばかりの一撃にカレイジャスは痛みに顔が歪むのを自覚したかもしれない。
けれど、それがなんだというのだ。
カレイジャスは自分が伝えなければならないと思ったのだ。
あのカフェーの店主。
『妄執の軍人』の元となった人物。
その彼の子孫である女性がしていた紫苑の髪飾りを思い出す。
「紫苑の髪飾り……それに込められたあなたの想いは、連綿と現在まで繋がっている!」
「虚言を弄するか! 己を滅ぼさんとするもの! 己は惑わされはせぬぞ! 己は生きて還るのだ! あの子の姿を見るために!」
血を撒き散らしながら叩きつけられる拳。
防御結界が血に染まる。衝撃が突き抜けてくる。
これが弱いオブリビオンである影朧であるなどとカレイジャスは思えなかったかも知れない。
歪み果ててもなお、子を思う心は強烈だった。
「還りたいと願ったこと! その願いの、繋いだ、紡いだ先にあるものを自ら傷つけようとしてはだめだ……!」
結界が軋むのも、砕かれるのも構わずにカレイジャスは足を踏み出す。
己の体が砕けても構わないとさえ思った。
受け止めるのだ。
自信なんてない。自分の価値なんてもっと信じられない。
けれど、確かなことが一つだけある。
あの店主の女性の笑顔。それは『妄執の軍人』の見たかったものでは、厳密には違うのかもしれない。
本当に見たかったものではない。
何故なら、彼の子はすでに他界している。もうこの世にはいないのだ。
「それがどんなに残酷な現実なのだとしても!」
それでも守りたいのだ。
かの『妄執の軍人』は深く傷ついた魂を原型にしている。それが見せる影法師であったのかもしれないけれど。
受け止めることしか己にはできない。
アンブレラガジェットの骨子がひしゃげ、砕けていく。それでも前に進む。
「……おれが全部受け止める」
「敵兵が何を言うか!!」
拳が揮われ、その一撃がカレイジャスの胴を穿つような衝撃でもって襲う。けれど、ユーベルコードの輝きが、それを阻むのだ。
痛みなど今は気にしていられない。
軋む体も。
捻じ折れたガジェットの骨も。
何もかも関係ない。
「あなたを止めてみせる!」
引き金を引けば散弾が飛び出し、『妄執の軍人』の穿つ。だが、止まらない。再度揮われる拳をカレイジャスは見ただろう。
あれは止められない。
それほどまでに強烈な一撃なのだ。前に進むことを諦めたわけではない。
「あなたが守りたかったもの全部! あなたの優しさが守ってきたことの証明は!」
体がねじれる。
回転する体。振り上げた足。その靴底に仕込まれた刃が『妄執の軍人』の頬を切り裂く。
「優しさ……それがあの子を守ることになるのなら。未だ見ぬ子が、健やかなるを……過不足無く生きていける平和を」
「そう願った! いつかのあなたのためにも!」
翻る蹴撃の一撃が『妄執の軍人』の狂気を切り裂くように撃ち込まれるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
綾倉・吉野
(影朧の業に飲まれかけています、あまり猶予はありませんよ吉野)
…まだであります!『紫苑の君』、かつて貴方が護ったものを貴方自身に壊させやしないであります!
他を攻撃させない為にも前に出て、UCにより攻撃を刀で弾いたり霊力弾での迎撃(マステマ殿の特訓で同じような攻撃は経験済みであります!)でひたすら凌ぎ、その身を覆う「狂気の闇」へ破魔の霊力を込めた霊力弾や退魔刀での斬撃を狙っていくであります!
「帝都の敵兵」を見て激昂したのは、軍人である以上に、
貴方が紫苑の髪飾りを送った|女性《ひと》の身を案じたからでありましょう!?貴方が刀を取った根本の理由、一番守りたいもの、それを思い出してほしいのであります!
軍刀翻り、その身に宿した狂気の闇が膨れ上がる。
それは『大戦の時代』に在り得た狂気であったのかもしれない。誰も彼もが正気ではいられなかった時代が確かにあったのだ。
争いに無関係でいられないのならば、人の心はささくれていく。
めくれる痛みは心に走り抜ける。
故に人は己の心を鎧うために狂気に走るのかも知れない。
「御国のために! それがあの子のためになるのだと信じて戦っているのだ! それを!!」
『妄執の軍人』が咆哮する。
血を撒き散らしながら飛ぶ姿はまさしく妄執に囚われているが故に。
その姿を見た綾倉・吉野(桜の精の學徒兵・f28002)に協力している悪魔『マステマ』が告げる。
『影朧の業に飲まれかけています、あまり猶予はありませんよ吉野』
「……まだであります!」
しかし、吉野は否定する。
飲まれかけているのならば、あの顔はなんだと言う。
『妄執の軍人』の瞳は狂気に彩られている。
けれど、それでも彼が言葉にするのは我が子への思いであった。
そのためにこそ彼は狂気と共に舞い戻ったのだ。見るもの全てが敵兵に見えても。平穏なる光景が戦場に見えるのだとしても。
その心の根底にあるのは我が子を思う親としての心であった。
だからこそ、吉野は『妄執の軍人』をそう呼ばない。
「『紫苑の君』、かつて貴方が護っったものを貴方自身に壊させやしないであります!」
煌めくユーベルコードの輝き。
瞳に宿るのが狂気であったというのならば、その狂気を照らすのは正気の光ではない。払拭するでもなく、ただ示してみせるのだ。
吉野の瞳に宿るのは、マステマの恩恵(トックンノセイカ)。
前を向き、前に踏み出し、その一歩を知る力があるのならば吉野は何も間違えない。
迫る闇のオーラ纏う『妄執の軍人』の斬撃を退魔刀でもって受け止める。
「己は何も護っていない! まだ何も! あの子のことも! 何もかも!」
「いいえ、時は前に進む。時は逆巻くことはないのであります! ならば! 今は未来なのであります、あなたにとっての!」
霊力弾の弾幕が帝都の夜に煌めくように広がっていく。
それを高速で飛ぶ『妄執の軍人』の狂気たる瞳が躱しながら迫る。わかっていることだ。これでは止まらないことは。
『マステマ』がこれまでの訓練で示してきたものがある。
どれだけ多数の弾幕によって飛ぶルートを狭めたとしても、弾幕であるがゆえに無視して一直線に飛ぶものもいるのだと。
それが『妄執の軍人』である。
間隙を縫うといよりも、弾幕の薄い場所を選んで飛び込んでくる。
多少の被弾を覚悟するのは生命を捨てる覚悟のあるものだけだ。『妄執の軍人』にとって、それは当然のように備わっている。
己の体を一つ。
それをして誰かの生命を守らんとしたものが、弾丸を恐れることどないのである。
「己の覚悟を侮るか!」
振るい上げられる軍刀の煌めきを吉野は見ただろう。
「あなたが! 激昂したのは、軍人である以上に、あなたが紫苑の髪飾りを送った|女性《ひと》の身をあんじたからでありましょう!?」
その軍刀の一撃が吉野の頭を一刀の元に両断しようとして、その動きが鈍るのを彼女は見ただろう。
間一髪で振り降ろされた斬撃は吉野の肩をかすめる。
吉野は動いていない。
その言葉に『妄執の軍人』が躊躇ったのだ。
何を幻視しているのかはわかりようもない。けれど、吉野は理解する。これは『マステマ』が示したことのない現象である。
一度似たような目に遭っているかのごとく攻撃を予測することはできる。
けれど、今は違う。
異なる未来が見えているのならば。
「貴方が刀を取った根本の理由、一番守りたいもの、それを――」
吉野は一歩前に踏み出す。
戦いは恐ろしいものである。
けれど、人の心には理性や正気、そして何よりも狂気よりも強き力が宿るものである。
それを『妄執の軍人』の元となった人物は持っていたからこそ死したのだ。
人はそれを勇気と呼ぶのであれば、吉野の前に踏み出す一歩は、そのとおりであっただろう。
「それを思い出して欲しいであります!」
振り下ろした退魔刀の一撃が袈裟懸けに『妄執の軍人』の身を切り裂く――。
大成功
🔵🔵🔵
ステラ・タタリクス
さて
本当はあの髪飾りを借りてくるのが正解だったのでしょうが
見ず知らずの私ではそうもいかないでしょう
届けられるのは想いと色くらい
「貴方には私の髪の色はどう映るのでしょうね?」
【スクロペトゥム・フォルマ】で仕掛けましょう
拳を銃でいなしながらこちらも銃身やグリップで格闘戦を
「敵であるからこそ告げましょう」
「貴方の愛しい人の顔を思い出せますか?」
「紫苑の花を贈った時の気持ちを思い出せますか?」
何よりも……貴方は何故、帝都に戻ってきたのに
紫苑の花の想い人に会いに行かないのですか?
あまりにも強い愛は歪んでしまう
せめてこの戦いでその歪みを砕いて差し上げます
戦いの他にもできることを思い出させてあげましょう!
人の狂気を凌駕するのが人の理性でも正気でもないのだとすれば、猟兵の放った斬撃の一撃は何に由来するものであっただろうか。
恐るべき狂気の闇を纏いし影朧『妄執の軍人』。
彼の体を切り裂く斬撃の一撃は勇気によって為されたものである。
己に降りかかる凶刃にすらも立ち向かう心。
それが生まれるのもまた人なのである。
ステラ・タタリクス(紫苑・f33899)は本来であるのならば、と思った。
あの紫苑の髪飾りを借りて来るのが正解であったのかもしれない。
けれど、見ず知らずの自分がそういったところで貸してもらえるものでもないと理解していた。
自分が届けられるのは一体なんであろうか。
「貴方には私の髪の色はどう映るのでしょうね?」
狂気に塗れた瞳を前にしてステラは毅然と立つ。
彼女の紫の髪。
それは紫苑の花と同じ色であったことだろう。
けれど、それは『妄執の軍人』の元となった人物の求めたものではない。彼が求めたのは彼の妻と、その子の安寧である。
彼が死を厭わなかったのは、それがあればこそ。
己の背に追うものがあるからこそ、人は勇気という名の蛮勇に足を踏み出すのかもしれない。
勇気と蛮勇を履き違えてはならぬと賢しいものは言うだろう。
けれど、時に人は愚かしくも前に踏み出すしかない。
「あの子のために! お前たちがあの子に累を及ぼすモノであるというのならば、己は容赦はせぬ! 消え失せろ!!」
吹き荒れる狂気。
それが『妄執の軍人』を推し進める力であり、また彼の生前たる人物の思いを歪に変えるものであった。
揮われる拳の一撃が重たいことをステラは理解している。
撃ち込まれる拳を両手にした拳銃の底でいなし、身を翻す。
自分にできることは届けることだ。想いと色を。
紫の髪が帝都の暗闇を照らす街灯に揺れる。
「敵であるからこそ告げましょう」
「敵兵の言葉に耳を貸すものか! 戯れ言を!!」
「貴方の愛しい人の顔を思い出せますか?」
その言葉は確信を突くものであったことだろう。
愛おしい人。
その言葉に思い浮かぶものがあったはずだ。しかし、靄がかかっている。『妄執の軍人』は目を見開く。
狂気に塗れた瞳の奥にあるはずのものがない。
あったはずなのだ。
ないはずなどないのだ。
己をひた走らせるものが確かにあったはずなのだ。
「紫苑の花を贈った時の気持ちを思い出せますか?」
その言葉に亀裂が走る。心に散々に走るものがあった。痛みを伴うものであったことだろう。しかし、そのどれもが空虚に響くしかなかったのである。
彼は『紫苑の髪飾り』を送った人間そのものではない。
あくまで影朧である。元となった人物の魂が過去という体積によって歪んだものでしかない。だから、思い出せない。
輪郭すら。
「だまれ!!!」
「……貴方は何故、帝都に戻ってきたのに『紫苑の花の想い人』に会いに行かないのですか?」
ステラの瞳がユーベルコードに輝いている。
揮われる拳の一撃をいなしながら、|『銃の型』《ガン=カタ》によって超接近戦を仕掛けている。
止まらない輪舞曲のように鳴り響く銃撃の音。
その最中にステラは告げるのだ。
答えられぬ己の喉に困惑する『妄執の軍人』に。
「あまりにも強い愛は歪んでしまう。あなたがそうであるように。あなたの胸に熾火が煌めくように。その強き思いは人の誰もが持つもの。伝播していくもの。はじまりが誰であれ関係のないもの」
ステラが踏み込む。
紫苑の花のような紫の髪が『妄執の軍人』の狂気の瞳の前に翻った。
手にした拳銃の銃口が向けられているのに、彼は動けなかった。
「せめてこの戦いでその歪みを砕いて差し上げます。戦いの他にもできることを思い出させてあげましょう!」
放つ銃撃の一撃が『妄執の軍人』を穿つ。
それは強き思いを持つが故に歪み果てた魂を慰撫するように、立ち止まることを知らしめるように、帝都に響き渡るのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
引き続き『疾き者』だが、UC継続中
陰海月「ぷっきゅ!」
…陰海月語を翻訳してお送りします…
むー、ダメだよ!それは、えーっと、『むじゅん』してる!
戦ってたのは、かつてここにいた人たちのためでしょ!
その証を壊しちゃダメー!
おじーちゃんたちも、『壊させるわけにはいかない』って言ってるもん!
だからぼくは、四天霊障(極彩色)で押さえるようにする!
ん?何か炎来たけど、へっちゃらだ!…ぼくの気合いが勝った!
※本当は『疾き者』の風結界で弾いた。
光珠、ぽいぽいしておこう。自動的に追いかけるからね!
ここで止めないと、後悔しちゃう!…っておじーちゃんが言ってた!
四悪霊・『虹』(ゲーミングカゲクラゲノツヨサヲミヨ)の輝きが帝都の暗闇を散々に照らす。
あまりにも煌めきが強いが故に暗闇は、影は更に色濃くなるだろう。
けれど、『妄執の軍人』は銃撃と斬撃を見舞われてなお消え失せることはなかった。
影朧は弱いオブリビオンである。
しかし、そんな彼が今もなお狂気に濡れた瞳を持って猟兵に対峙している。
血潮は流れ、その瞳を濡らすのは涙であった。
狂気にまみれてなお涙を流すことに他ならぬ『妄執の軍人』その人が戸惑っている。
「……視界が滲む。なんだこれは。なんなのだ、『これ』は!!」
咆哮が迸る。
困惑。
その環状のままに『妄執の軍人』が叫んでいる。彼にとってこれはまだ『大戦の時代』の戦場そのものなのだ。
「壊す! この戦場を! この戦場の如き光景を世界に齎してはならぬからこそ、己たちは!」
戦って。戦って。そして死んだのだ。
だというのに。
「ぷっきゅ!」
その言葉は駄目だと言う言葉であったことだろう。
それは駄目なのだと馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)と合体した『陰海月』の言葉成らぬ言葉であった。
矛盾しているのだと。
「ええ、それは矛盾しています。戦っていたのは、嘗て此処にいた者たちのために。その証が今の帝都の平穏であるというのならば」
『疾き者』は迫りくる『妄執の軍人』の狂気に彩られた紫苑の炎を躱す。
壊させるわけにはいかないのだ。
人が生命を賭してでも守りたいと願い、守り通したものがあるのならば、それを壊すことは全てを否定することであったからだ。
「そうですね、『陰海月』。あなたの思いもまた私達と同じもの」
その言葉と同時に霊障が煌めく。
虹色の輝きを放つ悪霊の呪詛が膨れ上がって『妄執の軍人』の放つ紫苑の炎を受け止める。
霊障が砕ける。
それほどまでの圧力。
過去の堆積に人の心が、魂が歪むというのならば、それほどの質量が過去にはある。
人が連綿と紡いできた歴史がある。
人が望んだ未来がある。
平和という名のかけがえのないもの。
それを誰もが望みながらも実感できないものである。平穏の最中にあってなお、なにか異なるものを求めてしまうように。
実感するための争いを欲するように。
人は愚かであるのかもしれない。けれど、その愚かしさ故に人は平和というものを見る。
「ぷっきゅ!」
此処で止めなければ後悔する。
だからこそ自分たちは立ち向かわなければならない。どれだけ過去の堆積が人の魂を歪め、世界の破滅を望むのだとしても。
「其処を退けぇぇぇぇッ!!!」
破壊するために。
そのために嘗て在りし、誰かのためにと思った願いすらも歪められた力が迸る。
極彩色の霊障が炎を受け止め、風が舞う。
掲げる手が見せるは光珠。
へっちゃらだと、『陰海月』が鳴いた瞬間、光珠が迸る。
それは、歪み果てた魂の慟哭すらも貫く弾幕。
後悔は人の道行きの後にできるものである。轍の後にしか存在しないものである。人は時を逆巻くことはできなくとも、歩みを振り返ることはできる。
できなかったこと。
せねばならなかったこと。
そのいずれもが後悔という名の重しによって手をのばすことによって己の歩みすら留めるものである。
けれど、確かに其処に在ったという事実が、その生命を刻むのならば。
「その後悔ごと抱えて生きていくのでしょう、人は――」
大成功
🔵🔵🔵
佐伯・晶
他の世界のオブビリオンと違って
影朧は転生の可能性がある
鎮まってくれると良いんだけど
とは言えある程度動きを抑えないと
説得する余裕は無いかな
衝撃波は躱したり
神気で防御したりしつつ
拘束用ワイヤーを射出して戦うよ
接近戦はワイヤーガンでの移動や
ワイヤーでの絡めとりを利用して凌ごう
そして神気による麻痺で自由を奪っていこうか
動きが鈍って来たなら
さっきカフェで撮った写真を見せよう
万が一破かれるような事があっても複製創造で複製できるよ
この紫苑の髪飾りに見覚えは無いかな
あなたが送った物だと思うんだけど
この女性の先祖がプロポーズの際に貰ったんだって
だからきっと貴方は貴方が守りたかった人を守れたんだ
誇って良いと思うよ
銃撃と斬撃。
そして極彩色の輝きが『妄執の軍人』を照らす。
痛みは感じない。あるのは妄執のみである。己が守らねばならぬもの。それがなんであるかを彼は知りながらも、その全容を知ること叶わず。
何故戦っているのかを言葉にすることはできても、その源たるものを思い出せない。。
「あの子とは、なんだ? なんだったのだ? 靄がかかっている。これが敵兵の齎す力か、まやかしか!」
膨れ上がる狂気。
思い出せない。知らない。わからない。どうしようもないことが彼の心を散々に打ちのめす。
斬撃も銃撃もなにかも彼の心を傷つけることはできなかった。
けれど、その事実の一つだけが彼の心を打ちのめす。
自分というものがなんであったのかを自覚できない。
「この紫苑の髪飾りに見覚えはないかな」
その言葉と共に『妄執の軍人』の体に巻き付くワイヤーがあった。
それはぐるりと彼の体を締め付け、その動きを止める。ぎしりと軋む音が聞こえた。けれど、振り解けるものではない。
周囲の建物を利用し、がんじがらめにワイヤーが絡んでいるのだ。
佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)は動きを止めた『妄執の軍人』の前に降り立ち、手にした写真を突きつける。
それはカフェーの女性店主がしていた髪飾りの写真。
晶と共に撮った写真の一枚であった。
そこにあったのは彼が追い求めた者の面影であったのかもしれない。違う存在であることは言うまでもない。
そもそも、彼の元となった人物は我が子の顔を知らない。
今、彼が過去に歪み本当に大切なものを理解できなくても、それでも晶は見せるのだ。そのために此処まで布石を敷いたのだ。
「あなたが贈った物だと思うんだけど」
その言葉に『妄執の軍人』の瞳にあったのは狂気ではないなにか別のものであった。
人はそれを涙と呼ぶのかもしれない。
見開かれた瞳に映るのは、狂気ではない。
敵兵でもなければ、戦場でもない。
あったのは面影でしかなかった。紫苑の髪飾り。そして、微笑み。温かな微笑みだった。それが澱を溶かすように彼の瞳から溢れる熱きものを知らしめる。
「この女性の先祖がプロポーズの際に贈ったんだって」
「何を」
何を言っているのだと、『妄執の軍人』は言葉を紡ぐ。
かすれるような声だった。
理解できないのに、魂のどこかが軋む音と痛みに喘ぐような声であった。
わかるよ、と晶は小さく呟いた。
知らないはずなのに知っているという矛盾。
それこそが彼を今苦しめている。傷を癒やすのはいつだって。
「貴方は」
その言葉と同時にワイヤーが引きちぎられる。けれど、それは『妄執の軍人』にってお己の肉体を傷つける行為そのものであった。
けれど、構いやしなかった。
体が散り散りに千切れ果ててもなお敵兵の喉元に喰らいつかんとするのが軍人としての務め。
「やめなよ! それ以上は! 意味がない!」
「止まるものか! 止められるものか! 我が愛おしき……――」
その言葉に動きが止まる。
複製創造(クリエイト・レプリカ)によって生み出されたワイヤーが再び絡まり、その体を神気で固定する。
自由を奪ってなお、『妄執の軍人』の足は止まらぬ。
恐るべき力である。
これが思いの力。
彼の胸に宿る熾火の輝きそのものであった。
だからこそ。
「その言葉が証明しているよ。だからきっと貴方は貴方が守りたかった人を守れたんだ」
晶の瞳が狂気ではないなにか別の……涙溢れる『妄執の軍人』の瞳を捉える。
痛みでも、傷でもない。
齎される癒やしは何のために。
「誇って良いと思うよ」
狂気にまみれていない今ならば見えることだろう。
涙に滲む視界にこそ見えるものがある。偽りの戦場ではなく。
幻朧桜の花弁舞い散る帝都が。
求めた平穏が。
そして、涙の向こうから懸けてくる一人の女性の姿を見た。
邪神の分霊が、きっとと晶は思ったかもしれない。美しいものを見たいという思いがあるのならば、それは言葉に出来ぬものであったことだろう。
「――」
声が聞こえた。知らぬ声。けれど、知っている声。己を呼ぶ声。
『妄執の軍人』は最早、そこにはいない。
いたのは、一人の父親だった。
狂気は涙に溶かされる。
誰かを思って流す涙は、きっとそれらを押し流す。一時であっても得られる癒やしがあるのならば、影朧は転生を果たす。
「歌うはレイクエイム、か……いいや、違うよね、これは」
晶は消えていく影朧を見送る。
その歌の名は――。
大成功
🔵🔵🔵