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真っ白な物語

#アリスラビリンス #猟書家の侵攻 #猟書家 #ベスティア・ビブリエ #愉快な仲間 #プレイング受付中

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●繝舌ャ繝峨お繝ウ繝
 始まりは、一冊の本だった。
 この国に本が『落ちて』いるなんて珍しいことだと、白紙の本達は寄り集まって眺めていた。
 元気がない子なら、物語を貰えばいい。早く早くと沸き立つ心を抱えて駆けていけばいい。
 連れて行ってあげようよ。そう、誰かが口にした時だ。
 開いた本から、恐ろしい怪物が表れて。
 本達を傷つけるでもなく、触れていった。
 途端、賑やかでお喋りな本達は、ぱたり、地に落ちてだんまり。
 ただの本になってしまった彼らの『物語』は、始まることなどなく――。

●白紙の始まり
 アリスラビリンスに存在する猟書家の幹部。その一人である『ベスティア・ビブリエ』による『物語の略奪』が行われているという。
 そう語るのはグリモア猟兵ルクアス・サラザール(忠臣ソーダ・f31387)。
「ベスティアはありとあらゆる物語を喰らうそうです。それこそ、生物の記憶や経験、夢や希望さえも『物語』と定義して」
 ヒトですら、『物語』を奪われれば心を無くした抜け殻のような事態に陥ってしまうだろう。
 アリスラビリンスに存在する『愉快な仲間』達にとっては、より深刻だ。
 彼等にとっては『物語』とは存在意義。それを奪われてしまう事は、死ぬことと同じなのだ。
「ただ、ベスティアは複雑な物語を喰らうのに時間がかかるらしく、更には物語を喰らう時に相手を傷つける事はしないようなので、倒せば全て元の場所に戻るそうです。大きな犠牲が出る事はないでしょうね」
 ですので、と。ルクアスは手を打つ。
「心苦しくはありますが、ちょっと愉快な仲間達に囮になって貰いましょう」
 ベスティアに狙われた不思議の国は、『物語の国』だと聞いている。
 喋る花が本を編み、生まれた白紙の本達はハッピーエンドの物語を欲する。
 彼らの望みのままに物語を綴る忙しい作家猫と、幸せを綴られた本達が存在する、和気藹々と楽しい国だそう。
「この国の、既にハッピーエンドの物語を綴られた本達ならば、ベスティアの隙を生み出すのに最適と言えるでしょうね」
 今から駆けつければ、ベスティアの配下が、本達を捕えようとしている場に遭遇するだろう。
 彼らには物語を喰らう力はないが、ベスティアに捧げるため『物語』を吟味している状態であれば、隙だらけで倒すのは簡単だとルクアスは言う。
「その彼らも、元は魔力を帯びた本だそうですよ。ヤドリガミの方々のように、姿かたちは幼い魔導士のようになってはいますが、力尽きれば物言わぬ本に戻るそうです」
 物語の国なら、彼等にも物語を与えてあげられるのでしょうかね。なんて。
 そうだったらきっと楽しいだろうと呟きながら、ルクアスはグリモアを展開するのであった。


里音
 アリスラビリンスよりお届けです。
 集団戦、ボス戦の二章仕立て。

 第一章は集団敵から本が逃げていたり、捕まって吟味されている状態です。
 敵は戦えば普通に危害を加えてきますが、吟味状態の敵はかなり無防備なので簡単に倒せます。
 第二章はボス敵との対峙となりますが、愉快な仲間達を喰らっている状態であれば隙が出来ます。

 なお、この不思議な国に存在する愉快な仲間は、物語の複雑度順に、
 本を編む花<生まれたばかりの白紙の本<物語を綴る作家猫(一匹)<ハッピーエンドを綴られた本 となります。

●おまけ
 一章・二章問わず、下記のシナリオで自分の物語を綴った本を作成した方はその本を守る・囮にするなどにご利用できます。判定に有利や不利は発生しません。フレーバーです。
 ハッピーエンドの綴り方
 https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=11245

 皆様のプレイングをお待ちしております!
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第1章 集団戦 『リトル・マジックスペル』

POW   :    びりびりするよ
【手にした魔導書から稲妻】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    みんな、おいで
レベル×1体の、【額】に1と刻印された戦闘用【呪文で編まれた自らの分身】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ   :    おいかけてあげる
【きらきら光る魔法文字】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。

イラスト:ハレのちハレタ

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

サンディ・ノックス
元気で可愛らしい本達の
沈黙の未来は避けたい

あの子(俺が物語を綴った本)はいるかな
あの子のことは一目見たらわかる自信があるんだ
あの子の写本をぎゅっと抱きしめて戦場へ踏み込む

オブリビオンを見つけたら有無を言わさずUCで攻撃
あの子のことは心配だけど
俺はこの国の本達がみんな好きだから
狙われているのがあの子であろうとなかろうと
害する過去は倒さなきゃ

そう、殺すじゃない
過去は滅ぼすべきものだと思っているけど
力を奪えばただの本になるというのなら
この国の本達と共存できる可能性があるのなら
試そうと思う
駄目そうならすぐ切り刻むつもりだけどね

だから使うUCは優しい小人達の召喚
彼らの魔法で集中攻撃して無力化させていこう




 サンディ・ノックス(調和する白と黒・f03274)にとって、この不思議の国は少しばかりかかわりと思い入れのある国だ。
 元気に可愛らしく飛び回る本達の姿はよく見ていたし、そんな彼らが沈黙するばかりの未来なんて、避けたいもの。
 それに、ここにはサンディが物語を綴った本も、居るのだ。
「あの子はいるかな」
 写本を持ちかえり大事にしているのだ。似通った本達が逃げ惑っている中でだって、一目見ればわかる自信がある。
 ぎゅ、と。写本を抱きしめてから。サンディは戦場へと踏み込んだ。
 逃げ惑う白紙の本達と、彼らを守ろうとハッピーエンドパワーで立ち向かう本達。
 それでもオブリビオン相手では劣勢になるのはどうしようもなく、捕まってはその『物語』を吟味されている様子。
 じーっと本を眺めている『リトル・マジックスペル』が無防備に背を向けている姿へ、サンディは一も二もなく、攻撃を仕掛けた。
 幼子の姿をした敵へと一斉に放たれるのは魔法の弾。
 奇襲にも等しい攻撃に呆気なく魔法力を宿しただけの本へと戻ってしまったのを見て、短く、息を吐く。
 助けた本は『あの子』ではない、けれど。
「無事でよかった」
 サンディは、『あの子』を含めたこの世界の本達みんなが好きなのだ。
 だから、心配する気持ちが『あの子』へと傾いているのはさておき、狙われてしまった子が居るならば助けてあげて、彼らを害する敵は、倒すべきだと考える。
 ――そう、『倒す』べきだと。
(殺す必要は、ないんだよね)
 力尽きる事でただの本になるという、彼らは。もしかしたらこの世界の本達と共存できる可能性があるかもしれない。
 そう聞いたなら、例え滅ぼすべき過去の存在たるオブリビオンだとて、一考の余地なく切り捨てる事はしたくない。
 物言わぬ本を拾い上げ、パラり、捲ってみれば。そこには魔導書らしく幾つもの呪文が綴られている。
 それはもう既に物語を得ていると、言えなくもないけれど。
 じっと見つめるような眼差しを、助けた本達から感じるのだ。
「……試して、みようか」
 そのために、一先ずは黙らせるところから。あちらこちらに散っている幼子達に嗾けるのは、水晶で出来た小さな小人達。
 二頭身の小さな彼らは、今日も悪戯気な顔をしながら、はしゃいだ様子で駆けていく。
 遊びたい盛りにしか見えない、優しい小人達が放つ魔法なら、きっと彼らを必要以上に傷つける事は無いだろう。
 手元の魔導書を本達に託して、サンディは敵へと向かっていく小人達の後を追うのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

城野・いばら
【白夜】
愛称:リティ

物語は読むも話すも好き
類もご本が沢山と聞いたらワクワクしちゃう?
ふふ、お勤め終われば
ゆっくり拝見しましょう
今は仲間の皆を困らせるのは見逃せない

こらー!と突撃したい想い堪え
先ずは、私も吟味の対象になるか確認したい
一千一夜物語の聡明な女性に憧れ仕立てた仮装衣装で
気分は素敵な物語を探す語り部に
アナタも本を探しているの?と
配下さんに声かける

傍に感じる彼の力
描かれる世界に目細め
飛び出す絵本は如何と
小さなうたごえの皆の歌唱も披露

隙を見せたら
仲間はそっと逃がし私が囮役に
難しければ
黒薔薇で眠りへ誘う

攻撃の機は類に任せるの
見守ってくれるから、怖くない
おやすみ
続きは――起きたら貴方達で紡いでね


冴島・類
【白夜】
うん、物語は大好きだし
頁を捲る先で出会える新しい世界
誰かの想いや冒険
綴られた文字から溢れる幸せなお話は…
時間がゆるせば浸りたいぐらい

ああ
この国の子らが
奪われてしまうなんて
悲しいことをさせない為に

仲間達の本質を危険に晒したくない
リティの気持ちに頷き
あえて声かけるのに重ね
眠り効果を指定せぬ夢幻喚び、彼女の周りに広げ
語り部が持つ本から溢れる
歌や蝶々を楽しげに、より彩ってみせ

無事惹きつけられたら隙に本達は逃し
でなくとも、黒薔薇誘う眠りの間に

…その間に危険はないとしても
本質を吟味など
ほんとはリティもさせたくないから
配下君の無防備な瞬間を逃さず
素早く薙ぎ払いで仕掛ける

君達にも素敵な物語が綴られたら




 訪れた不思議の国には、物語を綴られた本がたくさんあるという。
 そう聞いたなら、城野・いばら(白夜の魔女・f20406)が冴島・類(公孫樹・f13398)に掛ける声は、つい、ころころと弾んでしまうのだ。
「類もご本が沢山と聞いたらワクワクしちゃう?」
 穏やかに微笑み尋ねてくる顔に、うん、と類もまた柔らかに頷いて。
「物語は大好きだし、頁を捲る先で出会える新しい世界、誰かの想いや冒険、綴られた文字から溢れる幸せなお話は……時間がゆるせば浸りたいぐらい」
「ふふ、お勤め終われば、ゆっくり拝見しましょう」
 訪れる理由が理由なだけに、そうやって過ごすのはまだお預けだけれど。
 きっと、無事に平穏が戻ったならば、この国の者達はそうして思いのままに読まれることを望むだろう。
 そんな風に感じるからこそ、いばらは楽し気に微笑み、同時にそうやって過ごすことのできない状態に陥っているのを、見逃すわけにはいかなかった。
「ああ。この国の子らが奪われてしまうなんて、悲しいことをさせない為に」
 再び顔を見合わせれば、互いに柔らかな雰囲気の中にきりりと引き締めた気持ちを宿して。不思議の国を脅かすオウガの配下、『リトル・マジックスペル』へと向かっていく。
 いばらにとってもなじみの深い愉快な仲間が危機にさらされているのだから、「こらー!」と声を上げて突撃し、襲われている子達をぎゅっと抱きしめてあげたい気持ちがなくもないけれど。ここは、ぐっと堪えて。
 一度類を振り返り、彼が頷くのを確かめてから、そぅっと幼子の姿をした敵へと歩み寄る。
「アナタも本を探しているの?」
 柔らかな声をかけるのは、異国情緒あふれる娘の姿。
 一千一夜物語に出てくるような、聡明な女性に憧れて仕立てた仮装姿は、幼子の興味を引くためのものであり、いばら自身の気分を語り部へと移し込むまじないのよう。
 そんないばらは、敵が求める『複雑な物語』を保持した『愉快な仲間』だ。上手く気を引くことが出来れば、本を守ってやれるかもしれない。
 ――いばらの、そんな気持ちは理解できるけれど。
 見守る類の本音を語るなら、いばらの『物語』だって、吟味などさせたくない。例え、囮となることに危険がないのだとしても。
 だから、そう、敵たる彼らに見せるのは――楽しい夢にしようか。
 じっ、と。無垢な瞳を向けてくる幼子。その目はいばらの『物語』を吟味するというよりは、吟味するに足るかどうかを見極めているかのようで。
 一先ずの興味程度は惹けたようだとくすり微笑んで、いばらはその手に絵物語を取り出した。
「飛び出す絵本は如何?」
 はらりと紙を広げれば、ぱっと花弁が色とりどりに舞って、蝶々がその後を追うようにひらりひらり。
 驚きに目を丸くしたなら、今度は耳を澄ましてごらんと促して。小さな愉快の仲間達が楽し気に歌う声を披露した。
 ゆっくりと紙を捲りながら、いばらは自身の周囲に類の力が漂っているのを感じ、瞳を細める。
 その力は、幼子に見せるための夢幻。花弁の色を鮮やかに、歌声を高らかに、蝶々の舞を楽し気に、彩ってくれる、優しい助力。
 わぁ、と。幼子が感嘆の声を上げた。
 すごいすごいと蝶々を追いかける眼差しは、さっきまで捕まえていた本達を見てはいない。
 無垢で無邪気な姿に笑み湛え、脅かされていた本達には今の内にお逃げなさいと軽く目配せ。
 ぱたぱたと逃げていく背表紙を見送ったなら、類は彼らの眼差しがいばら自身へと向けられるより早く、素早く刃を構え、薙ぎ払っていく。
 あ、と短く声を上げてぱたりと倒れた幼子は、そのまま力尽きて、元の魔力を帯びた本へと戻った。
 隙をついてしまえば、本当に呆気ないものなのだなと。少し物寂しさに似たものを感じながら、いばらは飛び出す絵本を閉じて、本を拾い上げる類を見やる。
「君達にも素敵な物語が綴られたら」
 それが叶うかどうかも、万事成した後に。
 表情を引き締め直す類に、そうね、といばらは緩やかに微笑んで。類の手元で、おやすみなさいのキスをする前に眠ってしまった本を、優しく撫でてやった。
「続きは――起きたら貴方達で紡いでね」
 きっと大丈夫。そう囁いて、ね、と類を振り返ったいばらは、さぁ、次に行きましょうとひらり身を翻す。
 その軽やかな足取りは、物語る。
 優しい瞳が見守ってくれているから、その身を晒すことになんの恐れも憂いもないのだと――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レパル・リオン
物語の国?…あー!あの時の国かー!
いやー、懐かしいわねー!作ったわ、やたらパワーインフレしまくる話!
今となっては正直、思い返すと気恥ずかしいというかー、ちょーっと好き放題しすぎちゃったかな?みたいな?
若気の至り?ってやつ?(※レパルは13歳です)

だけど、せっかくのハッピーエンド!食べられちゃうなんて許さないわ!
正義のマジカル気合拳で、悪いオウガをやっつける!

あふれる情熱を魔法に変えて、物語を食べようとするオウガにぶつけるわ!
マージーカールー…波ーっ!!!
このUCなら、悪のエネルギーだけをぶっ飛ばせるわ!




 物語の国。そう聞いて、レパル・リオン(魔法猟兵イェーガー・レパル・f15574)は懐かしむように軽やかに笑った。
「いやー、懐かしいわねー! 作ったわ、やたらパワーインフレしまくる話!」
 かつてこの国の白紙の本達に、レパルは『とにかく物凄い修行をした愉快な仲間達が、悪の怪人大魔王をやっつけるお話』を綴ってやったのだ。
 きっとパワフルな物語に相応しく、今も元気に飛び跳ねている事だろう。
 そんな姿は微笑ましく見れそうだが、今となって思い返してみれば、ちょっと気恥ずかしさが湧いてこないでも、無い。
「ちょーっと好き放題しすぎちゃったかな?みたいな? 若気の至り? ってやつ?」
 小さい子が覚えたばかりの数字の概念をそのままぶち込んだようなインフレ力だったなぁ、なんてちょっと照れたように苦笑するレパルだが、今のレパルもまだまだ十分幼子の範疇だったりする。
 さておき、せっかく綴ったハッピーエンドの物語なのだ。それを食べられるなんて、許せるわけがない!
「正義のマジカル気合拳で、悪いオウガをやっつけてやるわ!」
 そう、なんてったってレパルは『魔法猟兵イェーガー・レパル』なのだ。
 誰かが悲鳴を上げるなら、それを救わねば魔法少女の名が廃る。
 溢れる情熱を胸に、今まさに捕まってしまった本達を救うべく、レパルは素早く身構える。
 足を開き、深く腰を落とし、体中の情熱を魔法に変えて手のひら――もとい、その手に握りしめた魔法ステッキに集中させて。
「魔法少女らしく……魔法で勝負!」
 いざ放たれん、必殺魔法!
「マージーカールー……波ーっ!!!」
 ちゅどーん!
 そんな効果音が似合うような、きらきらの魔法エネルギーが『リトル・マジックスペル』へとぶつけられる!
 しかし! 例え敵であろうと、情熱パワーは決して肉体を傷つけない!
 なんと悪のエネルギーだけを吹き飛ばされた幼子は、眠るように横たわり、そのまま魔法力を帯びた本の姿へと戻っていくではないか!
 要するに力尽きたわけだが、残された本には傷ひとつない。
 拾い上げて、ぽん、と軽く汚れを払ってやると、レパルは大きく頷いた。
「この国に似合うような、ハッピーエンドの本になりなさいな!」
 請われればついつい張り切ってしまう作家猫が、きっと素敵な物語をくれるだろうから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御簾森・藍夜
【朱雨】
…そうかもな
誰もが幸福で、誰もが満ち足りて―それで、誰も傷付かない…いや、傷ついたとしても、癒される(無意識に心音の肩を抱き)
そういう“終わり”であれば、

だがそうだな…俺達が勝手に決めてはいけない
でも、望まのままも良くない
そうだな、また紡がれる形にしてやるのが良いだろう

不意打ちの梟葬で吟味状態の個体からUCで各個撃破
「――すまない、少し静かに」
心音からの合図があれば其方優先
心音を狙うものがいれば最優先で撃破
遠くともスナイパーで吟味状態を発見すれば撃破を

(少し悲し気な心音の背を擦って
大丈夫
今からでも遅くは無い
それに全ての物語には余地があるはずだ―死なない限り、な

俺もあいつ等読んでみたい…


楊・暁
【朱雨】

あいつらも、元は魔力を帯びた本なんだろ?
…なら、本当は…他の白紙の本たちと同じように
ハッピーエンドを望んでたんじゃねぇのか…?
藍夜に寄り添い

…ああ。答えは、本人にしか分かんねぇしな
望まねぇ色に染まっちまった頁を、せめて真っ白に戻してやりてぇ

気配感知で索敵
見敵したら、愉快な仲間達には悪ぃけど…吟味状態になるまで
近くに潜伏して静観
吟味状態になったらUC発動
マヒ攻撃Lv100の子狐達で先制攻撃

藍夜、今のうちに…!

できる限り迅速に
愉快な仲間達は勿論…配下の奴らも
少しでも早く、助けてやりてぇ

藍夜の温もりに憂い和らぎ微笑して
…そうだな
あいつらが望む物語を見つけられるように
ここは守り抜いてやる…!




 不思議の国に住まう者と、その国を狙い、害をなす者。
 白と黒を明確に色分けするなら、互いの立場はそうなるだろう。けれど、害をなすと分類分けされた彼等だって――。
「あいつらも、元は魔力を帯びた本なんだろ? ……なら、本当は……他の白紙の本たちと同じようにハッピーエンドを望んでたんじゃねぇのか……?」
 御簾森・藍夜(雨の濫觴・f35359)に寄り添いながら、楊・暁(うたかたの花・f36185)が紡ぐのは、少し悲痛な色をした、嘆きの声。
 そんな暁を見つめ、藍夜は短い同意を呟く。
「誰もが幸福で、誰もが満ち足りて――それで、誰も傷付かない……いや、傷ついたとしても、癒される。そういう“終わり”であれば――」
 知らずの内に暁の肩を抱き寄せながらの藍夜の言葉に、暁は小さく頷く。
 伝わる熱は安堵をくれるけれど、考えれば考える程やるせなくなるようで、つい、視線が下がっていた。
「だがそうだな……俺達が勝手に決めてはいけない。でも、望まぬままも良くない」
「……ああ。答えは、本人にしか分かんねぇしな」
 もしも、彼らが望まぬままに害する者と定義されていて。
 本当は、ハッピーエンドを望んでいるのだとすれば。
 俯いてばかりいては、その可能性を見出す事さえできやしない。
 もう一度、今度は力強く頷いて。自身の気持ちを見つめ直すように、暁は顔を上げる。
「望まねぇ色に染まっちまった頁を、せめて真っ白に戻してやりてぇ」
 迷う気持ちを払ったかのような暁の表情に、藍夜は安堵にも似た笑みを湛え、頷いた。
「そうだな、また紡がれる形にしてやるのが良いだろう」
 そのためにも、彼等には一度力のない本に戻ってもらわねばなるまい。
 愉快な仲間達が逃げ回るのを追い回す幼子――『リトル・マジックスペル』は、捕まえた愉快な仲間の『物語』が喰うに足るものであるかを吟味すると言い、その間は無防備となるのなら。
 申し訳ない気持ちを抑えて、暫し我慢の静観。ハッピーエンドパワーで戦う本達が、そのまま逃げ馳せるならばそれはそれで良いのだが……。
「ッ、頼んだぞ、お前達」
 ジタバタする本を押さえつけて、じぃ、と見つめ始めた幼子達が、本当に『害をなす者』に成る前に。彼らへ向けて、暁は自身の尾から九体の尾獣を嗾ける。
 黒い子狐の姿をした彼らは一気に幼子へと駆けると、強力なマヒを伴う攻撃で、その身体をその場に縫い付けた。
「藍夜、今のうちに……!」
 バッ、と振り返り見た藍夜の手に握られた銃は、既に狙いを定めている。
 その銃口が放つのは、不可視の弾丸。無防備な状態にマヒを付与された幼子が避けることなど、到底かなうものではない。
「――すまない、少し静かに」
 攻撃を受けた幼子は、パタリ、その場に倒れ、元の物言わぬ本の姿へと戻っていく。
 けれどそれで終わりではない。方々に散った幼子達が、既に視界には映っているのだ。
 少しでも早く、彼らを助けてやりたい。急く気持ちに、暁は藍夜の裾を引き、幾つもの気配が群れる方へと促した。
「藍夜、向こうの方が多そうだ」
「ああ、そのようだ――」
 仲間の討伐に気が付いてこちらに――暁に敵意を向けてくる前に、順次片付けていかねばならない。
 思案しながらも、暁の声に藍夜がちらと彼を窺い振り返った、瞬間。
 そっ、と。物言わぬ形に戻ってしまった本に、今しがた襲われていたはずの本が寄り添う姿を、見つけて。
「――大丈夫。今からでも遅くは無い」
 ふわり、暁の背に触れ、宥めるように撫でて。藍夜は努めて優しい声を、紡いだ。
「それに全ての物語には余地があるはずだ――死なない限り、な」
 きっと、この国ならば大丈夫。何故だかそんな気がしている藍夜の言葉は、その場しのぎの慰めなどではなく、染みて。
 暁の憂いも、ふわり、和らいだ。
「……そうだな」
 ふ、と。ようやく浮かべられた微笑。急く気持ちは変わらずあるけれど、どうしようもないもどかしさは、晴れていた。
「あいつらが望む物語を見つけられるように、ここは守り抜いてやる……!」
 真っ直ぐな暁に、藍夜もまた微笑んで。
 無事に平穏を取り戻した世界で、元の本達に混ざってふわふわと遊ぶ魔法の本達の姿を、思い描いてみる。
(俺もあいつ等読んでみたい……)
 幼子を撃ち抜く不可視の弾丸には、そんな希望を、込めて――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティル・レーヴェ
【花結】
物語の世界なんて素敵ね
あなたと縁ある世界へ
共に来れた事も嬉しい

ゆるり浸りたくあるけれど
来る脅威を払ってからね
素敵な物語達を護らなくては
代筆しあなたが贈った大切な子も

けれど
物語を吟味するかの子らも元は本
彼が語る千夜のひとつを
真っ新と受け止められるよに
傷つけず
内なる闇だけ祓いましょうね

煌めく魔法文字は美しくも
彼の語りを邪魔してはダメ
封じる力が及ぶなら
封印解く歌で柔くほどいて

彼の物語はいつだって
贈る相手に添うていて
本の姿に戻れたかの子らが
もとより抱いて居たかのように
きっとその身に宿すのでしょう

表紙撫でる手に手を重ね
ねぇ、あなたの新しい物語が宿るのも
見てみたいわ、なんて
そんな我儘も添えていい?


ライラック・エアルオウルズ
【花結】
いつか訪ねた世界に
手を引いた君の姿に
温もる想いは変わらずも

悲しき哉、脅威は新たにか
代筆の物語に作家猫たちも
護り抜いた先で、浸ろうね
君にも物語を届けたいから

頁を捲る子たちは
作家心を擽るものだが
借りるなら貸出札を綴らねばね
代わりに僕の即興創作を贈るよ

君が祓う素直な心に
君が解く耀く文字に
仄か笑み、今宵語るは
『物語探す少年の話』

大切な子に贈る物語
探せど見つからないと落胆し
踵を返す夜道に連なる星々
――いや、それは煌めく文字列で

探して、駆けて
少年のおとした文字だった
彼はもう物語を持ってたんだ
だって、彼は『本』だから

優しく表紙を撫でたなら
我儘に喜色も滲んで
ああ、どうか見ていて?
流星のように筆も進むさ




 降り立つ世界が冠するは『物語』。
 名もなき世界のそんな姿に、ティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)が浮かべるのは朗らかな微笑だ。
「物語の世界なんて素敵ね」
 素敵だと、そう感じる世界をより彩るのは、この世界がライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)にとって縁のある場所であるが故だろう。
 ティルの手を引くライラックもまた、この世界が変わらず在り続ける事に、その場所にこうしてティルと共に来られたことに、温かな思いを感じていた。
 けれど、それは唯の観光ではなくて。新しい脅威から、彼らを護るため。
 ゆるりと浸り、本に綴られた物語達と戯れたい気持ちは互いにあるけれど、それは、全ての無事を確かめてから。
 無論、ライラックがかつて『代筆した』、作家猫への贈り物も。
「護り抜いた先で、浸ろうね。君にも物語を届けたいから」
「ええ、勿論。そのためにも、素敵な物語達を護らなくては」
 護りたいものは明確だ。しかしながら、それを狙うと聞いた敵もまた、この国に縁の深そうな『本』が形作った幼子達。
 『リトル・マジックスペル』達が自身に書かれた呪文を無意識に呟きながら愉快な仲間達を追いたてる姿は、無邪気なようにも、非道なようにも見えて。
 地面に本を広げて頁をめくっているだけに見えるならば前者の姿で、作家心を擽るばかりなのに。
 それは『物語』をオウガに喰わせるための吟味だと言うのだから、叱ってやらねばなるまい。
「本を借りるなら貸出札を綴らねばね」
 けれど自由な本達を縛る札なんてものはないようだから、代わりに、即興創作を語り聞かせる事としよう。
 ――砂に月が沈むまえ、夢に君が沈むまで。
 語り聞かせようとするライラックの声が、言葉が、真っ新と受け止められるように、ティルは幼子達の内側にある、オウガとしての悪徳だけを祓いのける。
「其方の闇を払おう。だから、どうか――」
 どうか、素敵なお話に一緒に耳を傾けましょう?
 誘うように、促すように。慈愛を湛えた眼差しを向けて、ふわりと両手を広げるティル。
 ぱちり、瞳を瞬かせた幼子がその視線に捕えられたなら、温かな気持ちが内側から湧いて、知らず、オウガのために働く気持ちが薄れていくよう。
 別の幼子が、きらきら光る魔法文字を口遊み綴ろうとするならば、しぃ、と軽く人差し指を立てて。
「彼の語りを邪魔してはダメ」
 諭すように、また闇を祓って大人しくさせていく。
 そうなれば後は、楽しい話を聞いて、ハッピーエンドを知っていくだけ。
 集まってきた幼子達に囲まれて優しく微笑むティルの姿に、つい、ライラックの口元も緩むけれど。語り部として口元を引き締めて、ゆるり、紡ぐ。
 ――物語探す少年の話。

 昔々。あるいは、あるところに。始まりはいつだって聞き慣れた語り口。
 なんにでも興味津々で、沢山の文字に触れてきた少年は、大切な子に贈るための物語を探していた。
 その子は沢山の物語を知っているから、誰でも知っているような簡単なものではきっとつまらない。
 あれでもない、これでもない。これならどうかな。やっぱり駄目だ。
 探せど探せど、見つからない。興味に惹かれて輝いていたはずの瞳はいつしか落胆に彩られて。
 けれどしょんぼりと踵を返した暗い夜道。少年は、不思議な煌きに惹かれるように顔を上げる。
 きら、きらと。連なる星々が、夜道を明るく照らしていた。
 ――いいや、違う。
 それは夜に煌く不思議な文字列だ。
 少年は、その文字列を知っていた。自分が沢山沢山触れてきた、幾つもの文字達。
 それが少年を追いかけるように、きらきら、きらきら、道を作っていた。
 一つ捕まえて、するすると連なる文字列に触れて、気付いた。
 これは、自分が落としてきた文字達だ。
 嗚呼、そうだ。探さなくったって、物語はここにあったんだ。
 沢山の文字達を抱えた彼は――『本』であったことを、思い出した。

 語るに合わせ、夜道を作り出すように影で作られた何かが現れ、幼子達を優しく包んでいく。
 そうして、影が離れれば、ティルの周囲には幾つもの本が折り重なり、散乱していた。
 無事に、自分が魔力を帯びただけの本であったことを思い出したようだと瞳を細める。
 ライラックが綴る物語は、いつだって贈る相手に寄り添っているものだから。
 それに応えたように本に戻った彼らの願いは、きっと、誰かを幸せにできる本であることだったのだろう。
 語り終えたライラックは、その一冊に手を伸ばし、そっと優しく拍子を撫でる。その手に手を重ね、ティルはにこり、微笑んだ。
「ねぇ、あなたの新しい物語が宿るのも見てみたいわ」
 なんて。悪戯っぽく笑って見せて、小首を傾げて尋ねるのは、そんな我儘を添えてもいいかと可愛らしいおねだりで。
 そんなティルにライラックが返すのは、喜色を湛えた微笑だ。
「ああ、どうか見ていて?」
 流星のように筆も進むさ、とは。幸せを知る作家の言――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『ベスティア・ビブリエ』

POW   :    縺願�縺檎ゥコ縺�◆縺ョ縺ァ鬟溘∋縺セ縺励◆
攻撃が命中した対象に【埋まることの無いぽっかりと空いた心の穴】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【一秒毎に記憶を次々と失っていき、衰弱】による追加攻撃を与え続ける。
SPD   :    譏疲�縺ゅk縺ィ縺薙m縺ォ
自身の【憑依しているが、使い捨てる本のページ】を代償に、【Lv×1体の幸せそうな物語の登場人物達】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【世界の『正』を『負』に捻じ曲げた幻想】で戦う。
WIZ   :    蟷ク縺帙↓證ョ繧峨@縺ヲ縺�∪縺励◆
いま戦っている対象に有効な【精神攻撃をする『物語』を演じられるもの達】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。

イラスト:tora

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠フィオレンツァ・トリルビィです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●遨コ閻ケ縺ェ諤ェ迚ゥ
 幼子の姿をした者達は、皆、力尽きて元の本へと姿を戻していった。
 それをせっせと回収して回るのは、作家猫を始めとする愉快な仲間達。
 猟兵達が彼らに新しい物語をと願うのと同じように、彼等もまた、本の姿をした者を放っては置けないのだろう。
 けれど、そんな彼らを妨げるのが猟書家幹部『ベスティア・ビブリエ』。
 本の中から現れたその怪物は、ただ吟味して回っていた幼子とは異なり、物語を『喰らう』存在。
 記憶を、経験を、夢を、希望を、空腹な怪物は望むままに喰らっていく。
 今、現状では、その空腹は愉快な仲間である本達に向けられているけれど。相手が猟兵だろうと、ベスティアにとって構う事ではない。
 本達を護るならば、少なからず、自身の片鱗を喰われることを覚悟する必要があるだろう。
 ――けれど、本達は知っている。
 一時的に『物語』を奪われようと、猟兵達が必ず取り戻してくれることを。
 信じているから、知っている。
「頼ってくれていいんだよ」
 作家猫の言葉に、本達は、花達は、一様に頷いている。
 いつも助けてくれる彼らの助けになれるなら、それはそれは誇らしいことなのだから!
レパル・リオン
あ、あれは!あたしが話したパワフル物語ちゃん!
ううう〜っ!誰よりも真っ先に猟書家に突っ込むなんて…感涙!君こそヒーローよ!
当然、あたしも行かなくちゃ!物語ちゃんの勇気に応えるために、あたしも勇気を示すわ!

猟書家に向かって全力でダッシュ!そのままパンチ!パンチ、パンチ、パンチ!
反撃されても我慢!ひたすらにパンチを繰り返す!殴る動きも反撃の痛みも、エネルギーとなって身体に集まるわ!
そのエネルギーを、右腕に集めて強烈な電撃ストレートでトドメよ!
ポジトロンッ!バンカーーーッ!!!

ベスティア・ビブリオ、アンタにはわかるまい!
何もかも食べるだけのアンタには!誰かと共に戦う強さはわかるまい!




 『物語』を喰らう怪物、『ベスティア・ビブリエ』を見据え、レパル・リオンは拳を握りしめる。
 強そうな敵との対峙は魔法少女としてのお約束。だから恐ろしい気持ちなんてちっともない、けれど――。
「あ、あれは! あたしが話したパワフル物語ちゃん!」
 そう、そんなレパルが綴った物語を持つ本が、果敢にベスティアへと挑んでいったのだ。
 勝つことはできない。そんなこと、オウガの侵略に幾度もさらされてきた本達にはわかっている。
 それでも、ベスティアが彼らの『物語』を喰らう間は、隙ができるというのなら。
 勇敢な『著者』にハッピーエンドを与えられた本が、動かぬはずがなかった。
「ううう~っ! 誰よりも真っ先に猟書家に突っ込むなんて……感涙! 君こそヒーローよ!」
 しかし、感動に泣いている場合ではない。
 奮い立たされるような気持ちを胸に、レパルは力強く地を蹴る。
「物語ちゃんの勇気に応えるために、あたしも勇気を示すわ!」
 ベスティアに向かって全力で駆けていったレパルは、そのまま握りしめた拳を叩きつける。
 パンチ、パンチ、パンチ! 繰り返される動きはベスティアにとって単純で、物語を咀嚼しながらでも払いのけられるものだった。
 けれど、レパルはいくら払い除けても挫けない。
 ベスティアが憑依した本が破り捨てられ、物語に描かれるような幸せなお姫様や勇猛果敢な王子様が溢れ出ても。彼らが、レパルの正義を否定するような言葉を吐きながら攻撃してきても。
 レパルは決して止まらなかった。
「そんなものに、あたしは負けたりしない! さぁ、今こそ喰らいなさい! ポジトロンッ! バンカーーーッ!!!」
 自らが繰り返したパンチが、敵から与えられたダメージが、レパルの激しい活動全てがエネルギーとなって右腕に収束する。
 超圧縮された電気エネルギーを帯びた右腕を振りかざし、握りしめた拳と共に叩きつければ、悪辣なプリンセスも、悪徳なプリンスも、物語を喰らう怪物も、纏めて蹴散らされていく。
 吹き飛んだベスティアに、レパルは電撃の名残を帯びた右手の指を突きつけた。
「ベスティア・ビブリオ、アンタにはわかるまい!」
 怪物に喰われ、物言わぬ姿になってしまった本を抱え上げる。レパルが綴った文字は、変わらず残っている。
 『愉快な仲間』の『物語』を喰うことはできたって、この本が受け取ったハッピーエンドは、決して、消えることはない。
「何もかも食べるだけのアンタには! 誰かと共に戦う強さはわかるまい!」
 『著者』と同じ同じ志を抱いていることを証明した本をぎゅっと抱きしめながら声高に告げるレパルを、ベスティアは無感情な瞳で、見つめていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サンディ・ノックス
頼ってくれていいと言う愉快な仲間達の中にあの子(俺が物語を綴った本)の姿を見つけた
俺の現在と、あのとき俺の綴った物語はだいぶ違った形になってしまったから、あの子の物語を食われることは綴った物語が成就しなかった現実を見せられるようで、辛い
でも、頼ってほしいと願う気持ちを無視して俺だけで戦うことは、俺にはできない
絶対にふざけた怪物を倒して物語を取り戻すからね

本達が囮になってくれている間にUC解放・夜陰を放つ
何度も何度も、大量の黒水晶を作り出し徹底的に敵を穿つ
敵が作りだすのは、あの子に綴られた物語だ
俺は3羽で幸せになることはできなかった
でも俺は知っている
他にも俺を想ってくれている人はたくさんいるんだ




 頼ってくれていい、と。告げる作家猫の言葉に頷く本達。その中に、自身が物語を綴った『あの子』が居ることに。サンディ・ノックスはすぐに気づいてしまう。
 あの物語を綴った時と、今のサンディとの現実は、ずいぶんと違う形になってしまった。
 現実は、物語のようにいつまでも続く幸福では形作られなかった。
 だから、その物語さえ喰われるようなことになってしまったら、『めでたし』の魔法が解けて、現実を突きつけられるようで、辛くもある。
(でも……)
 彼らは、頼ってほしいのだ。そう、願っているのがよく分かる。
 そんな気持ちを無視して己だけで戦うことは、サンディにはできなかった。
「……ありがとう。絶対にふざけた怪物を倒して物語を取り戻すからね」
 微笑みかけるサンディに、本達は無垢に笑って、飛び出した。
 ――勿論、『あの子』も。
 空腹な怪物『ベスティア・ビブリエ』は、その欲望のままに本達を捕らえ、彼らが抱く『物語』を喰らっていく。
 そんな敵を相手に、囮として、誰一人退かずに立ちはだかり続ける光景を真っ直ぐに見つめて。
 サンディは闇の魔力で作り出した漆黒の水晶を、降る雨のごとく、放っていく。
 猟兵として成長したサンディが一度に作り出せる水晶は、五百をゆうに超える数となっているし、その悪意で構成された魔力は、まるで意思があるように、穿つ相手を喰らおうとしているよう。
 そんな、夥しい量の歪んだ欠片に晒されては、『食事』もままならない。
 突き刺さる水晶を、腕の一振りで払いながら、ベスティアは同時に、サンディの心を揺さぶるような『物語』を、召喚する。
「ッ……!」
 思わず息を呑んだのは、そこに現れたのが、『あの子』に綴ったサンディの物語の登場人物であるがゆえ。
 三羽の小鳥は、寄り添い合うことなどなく、互いに互いを突き放して、散り散りのバラバラに。
 そうして一つ、また一つ、小さな鳥は羽を散らして、さようなら。
 最期に残るは、真っ暗闇――。
 突き刺さるような心地に、サンディは胸を押さえるけれど、目を逸らすことはしなかった。
「俺は3羽で幸せになることはできなかった」
 そうだよ、分かっているよ。そう、言うように。
 細めた瞳を、一度だけ伏せて。もう一度開いた瞳に映る芯は、折れてなんかいない。
 だってそうだろう。己は、知っている。知らないわけがない。
「俺を想ってくれている人はたくさんいるんだ」
 それを蔑ろにするようなことは、誰も――サンディだって、望んじゃいない。
 揺さぶりきれずで、お生憎様。精一杯の皮肉で笑って、バッドエンドを蹴散らす楔を穿ち続けるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

楊・暁
【朱雨】

頼っていい、か…
じゃあ有り難く、とは言い辛ぇし
極力自分で対処してぇ
覚悟はとうに決まってる

刀を真横に構え高速詠唱しUCで先制攻撃
敵からの攻撃は見切りかカウンター

万が一、精神攻撃食らったら
藍夜が自分を庇って死ぬ『物語』を見る
抱きしめてる様で違う
その背に攻撃を受け、俺に凭れかかりながら、最後に笑顔を残して―
藍夜の血、動かぬ身体に呆然として、涙しながら叫び狂い

…らん、や?…藍夜っ!!
涙毀れたまま、無事な藍夜の姿に思わず強く抱きしめ
良かった…生きてる…!
そっか、俺…敵の術に…

…藍夜?藍夜!?―まさか…!
即気づき
ばか!離れるか!
危ねぇのは―俺を忘れた、今のお前の方だろ!!
庇う様に前に出て敵睨み

…いい度胸じゃねぇか
人のもんに手ぇ出したらどうなるか、教えてやるよ…!

強固な意志で再度UC
…そう、心音
肩越しに笑って

雪花の鎧で少しでもお前を護りてぇ
そして1秒でも早く敵をぶっ潰す…!

藍夜!お前が忘れちまった分、また俺が新しく埋めてやる!注いでやる!
お前への想いなんて尽きやしねぇ
俺は――お前の狐だからな!


御簾森・藍夜
【朱雨】
恩と思われるのは自由だが、先程とは訳が違う
恐ろしさを分かりながら、引鉄を引いたつもりだった

―心音?
待て…心音、心音っ―…っ心音!
隣に立っていた心音が突然膝をつき座り込んだ体を支え呼びかける
呼べども虚ろなままの心音を心配―…

しん、ぱい?誰の?
―この子は、一体?
え?あ、―心音っ、しっかりしろ!俺は生きてい―…る、が…
(この子は、“誰”だ?心音?心音は―心音は、おれのだいじなひと、そう、だいじなひと―…は、だれだっけ?)

っ眩暈が酷い
あぁ君、危ないから離れて―危ないからっ!

(あ、れ?俺は、この子を―知って、)
(苦しい。苦しい苦しい。どうして…必死なこの少年を、抱き締めたいのに…)

―俺には、不相応…では?

(分からない)
(この子が怒る意味が、わからな―いや)

そ、そんなに怒らなく…て、も?―しおん?
あれ?君―お前、は、しおん?

いたい
あつい
くらくらする

何か焼かれてるみたい、な…
俺の、狐
どこかで聞い―…言った?
…いや、心音は俺の…あぁもう!頭が痛い、途方もなく悲しい
俺のっ…俺の狐に手を出すな!UC




 頼ってくれていい、と。作家猫を始めとする愉快な仲間達の言葉に、楊・暁も御簾森・藍夜も、二つ返事で頷くわけにはいかなかった。
 先程までの配下達とはわけが違う。危険であることは疑いようもなく、それゆえに、二人共覚悟はとうに決めていた。
 そう、覚悟をしていた。だから藍夜は迷うことなく銃口を突きつけ、引鉄を引いたのだ。
 その、はずだった。
 ぱ、と暗転。
「――心音?」
 瞬きするより早い刹那の明滅を感じた瞬間、藍夜は傍らで何かが倒れる音を聞いた。
 思わず確かめたそこには、暁が膝を付き、座り込んでいた。
 何かの攻撃を受けたのか。いつの間に? そんなことを考えている暇などない。ただ、その無事を確かめねば。
「待て……心音、心音っ――……っ心音!」
 体を支え、繰り返し名を呼べども、虚ろな表情に生気が戻ることはなくて。
 どうして、どうしたら。案ずる心が先行して、動揺する藍夜だが、視線の合わない顔を見つめて、瞳を瞬かせる。
(――この子は、一体?)
 案ずる心が、あった。唐突に倒れ込んだ少年を心配するのは人として当然だ。そうだろう。
 そう、だろう。だから何も間違ったことはしていないのに、たった一人の少年にどうしてこんなに必死になっているのかが、理解できなかった。

 ――幕が開いて、始まり始まり。

「……らん、や?」
 呆然とした声が、掠れて、掻き消える。
 刀を真横に構え、素早く唱えた詠唱が、戦場に吹雪を呼んだ。
 ――そこまでは、覚えている。
 共に戦う藍夜に加護を与える雪花の鎧が纏われたのだって見たはずだ。
 なのに、今。その藍夜は、まるで暁を抱きしめるかのような姿で、力なく項垂れていた。
 そうなった要因は明白で、暁を庇う形で背に大きな大きな傷を負ったせい。
「……藍夜っ!!」
 負傷を癒やすはずの鎧はどこへ。徐々に力と熱を失っていく腕は、どろりと伝った血で汚れ、添えた暁の手のひらをべったりと汚して。
 それなのに、それなのに。藍夜は、安堵したような優しい笑顔を残していた。
 残して、逝った。
「あ……うそ、だ……らん……ッ、あああぁああああ――!」
 狂ったように泣き叫ぶことしかできなかった。

 ――さようならで、幕は降りる。
 スポットライトが消えたなら、演者の役目はそこで、御仕舞。
 こぼれた涙に滲んだ視界には、必死の様子で自身に呼びかけ続ける藍夜の姿。
 生きて、喋っている、藍夜の姿に、暁は思わず強く抱きしめた。
「良かった……生きてる……!」
 熱も鼓動も呼吸も感じ取れることに安堵すると同時に、先程の悲劇がまやかしであることを理解した。
 こうもあっさりと絡め取られてしまうなんてと悔いる気持ちはあるが、それほどに暁にとっての藍夜が心を占めていることにも気付かされて。
 ――だからこそ気取ってしまった。
「え? あ、――心音っ、しっかりしろ! 俺は生きてい――……る、が……」
 暁を支え、無事を確かめるように呼びかけ続けているはずの藍夜の様子が、おかしいことに。
 まるで現実と幻の境目に立ち、双方からもたらされる情報に混乱しているかのようで。藍夜もまた、敵の精神攻撃に侵食されているのだろうと、そう、思ったけれど。
「あぁ君、危ないから離れて――危ないからっ!」
 違う。
 藍夜は、『喰われた』のだ。
 藍夜を構築する『物語』から、暁という存在を。
「ばか! 離れるか! 危ねぇのは――俺を忘れた、今のお前の方だろ!!」
 噛みつくような勢いで声を荒らげ、藍夜の前に庇うように立った少年の背を見つめ、藍夜は、ばらばらになったものを繋ぎ合わせようと、幾度も試みていた。
(この子は、“誰”だ?)
 誰かなんて。そんなのすぐに答えが出る。
 出る、のに。
(心音? 心音は――心音は、おれのだいじなひと、そう、だいじなひと――)
 ……は、だれだっけ?
 どこにも、繋がらない。頭が痛くて、眩暈がして。
 自分は大人だから、年端の行かない少年を守るべきであって。でも、少年は猟兵だから、共に戦う仲間であって、だから、だけど、心配で――。
(あ、れ?)
 俺は、この子を――知って、いるはずだ。
 そう確信しているのに、穴が空いたように、たどり着けない。
 苦しい。苦しさに息が詰まって、たまらず伸ばした手は縋るようにも見えただろう。けれど、必死な顔をしているこの少年を、慈しむように抱きしめたいという気持ちが、そうさせていた。
 それなのに、その指先は、少年に――暁に届く前に、離れていく。
(――俺には、不相応……では?)
 ちり、と。感じたのは、痛みだったか、熱だったか。それとも――寒さだったか。
「……いい度胸じゃねぇか。人のもんに手ぇ出したらどうなるか、教えてやるよ……!」
 憤りをあらわにする少年が放つ吹雪が、目の前の敵を巻き上げていくと同時に、自身にも雪花が纏われて。
 冷たいようにみえるのに、暖かい。
 どうしてこの少年がこんなに憤っているのか分からなかった、けど。
 空いた何かを埋めるように、暖かな何かが積み重なっていくような心地に浸っていると、自然と言葉が溢れていた。
「そ、そんなに怒らなく……て、も? ――しおん?」
 唇が、その音を紡ぐ時。いっとう柔らかになることに、気がつく。
「あれ? 君――お前、は、しおん?」
「……そう、心音」
 肩越しに笑う|少年《心音》は、藍夜の異常が解消されたわけではないことを悟っているのだろう。
 それでも、構わないのだと言うように、声を張り上げた。
「藍夜! お前が忘れちまった分、また俺が新しく埋めてやる! 注いでやる!」
 |少年《心音》の声が響く。胸の内に穿たれた空洞に反響するように。
 いたい。
 あつい。
 くらくらする心地は、未だ内側でじりじりと燻る焼けるようななにかが、あまりにも冷たいせい。
 けれど、凍えようとする心に、声が、熱を、注ぎ込む。
「お前への想いなんて尽きやしねぇ。俺は――お前の狐だからな!」
(俺の、狐)
 どこかで聞いた。そう、どこかで聞いた。
 どこかで――言った?
「……いや、心音は俺の……あぁもう!」
 頭が痛くて、途方もなく悲しくて。
 だから、埋まらない穴に無理やり蓋をして、迷う心を、ねじ伏せた。
「俺のっ……俺の狐に手を出すな!」
 眼の前のひとを、護りたい。
 ただ、心の叫ぶままに――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

城野・いばら
【白夜】
心苦しさや怖い思いをさせないように
皆をかばえたらと思っていたの
けれど

格好いい
誇らしいと、頼ってと言ってくれた皆
同じ仲間として、とても誇らしい
うん
皆の願いを叶える為に頑張ろう

皆が繋いでくれた時
絶対に見逃さない
聞いて、聞いてと語り部は紡ぎます
類と綴りたい、素敵な未来を想い描いて
魔法の力へ!

彼の縁も物語も
一時たりともあげないのだから
食いしん坊さんをぎゅっと糸で捕縛し
離さないの

始りは、お喋りな白バラ
いまは
魔女で、語り部で、愛しいアリスのリティで
あとね、次はねって
未だたっぷり綴られて往く私の物語
彼との思い出
簡単には読み解けないのよ

…いつか
真に満たされる物語へ辿り着ける様
在るべき場所へ送りましょう


冴島・類
【白夜】
奪われて欲しくなくて
かばい護りたい気持ちは、僕も
でも…頼ってと、告げてくれた信

うん、格好いい
共に戦ってくれて、ありがとう
僕らは全力でそれに応えよう?

あの子達が生んだ隙に
紡がれるリティの魔力、物語が
食いしん坊を捕えんと伸びる
語られる、離す気はない記憶や願いに
力をもらう心地
刃に破魔の風を降ろして強化
他にあたらぬよう至近に踏み込み、斬る

幸せな物語君達は
誰かの為に綴られて
読み手に、笑顔と暖かな気持ちをくれる

リティの駆けてきた足跡も…
ありすの為に頑張った鮮やかな軌跡で
続く今と未来は、僕も共に紡ぐ物語でもある

どちらも喰わせる気など、ない

奪うばかりでは知り得ぬ味こそ
飢えや穴を埋めてくれるのだろうにね




 猟兵ではない不思議の国の住民達は、オウガには太刀打ちできない。
 それは誰もが知っていることで、だからこそ、彼らの『物語』を狙うという『ベスティア・ビブリエ』から、護らねばならないのだと。
 己の身で、庇うことができたらと、そう、思っていたけれど。
「格好いい」
「うん、格好いい」
 城野・いばらが強張っていた表情を和らげて微笑むのと顔を見合わせて、冴島・類も頷いた。
 共に戦ってくれる。その意志を示してくれたことが、暖かくて嬉しくて。こぼれる感謝は、緊迫した局面でありながら柔らかく響く。
 彼らと同じ愉快な仲間であるいばらにとっては、同じ仲間が格好良く在れることだって、誇らしいことだった。
「僕らは全力でそれに応えよう?」
「うん。皆の願いを叶える為に頑張ろう」
 心苦しい気持ちも、恐ろしさも。皆で立ち向かって、跳ね飛ばしてしまわねば。
 わぁ、とベスティアへ向かっていくハッピーエンドの本達。一生懸命力を放って戦うけれど、彼らがベスティアに致命的なダメージを与えることは決してない。
 捕まって、食べられて。けれど、彼らに綴られためでたしは、込められた思いの分、彼らの『物語』をより複雑にしてベスティアが喰らうまでの時間を稼ぐ。
 それにより、配下の子ら程ではなくとも、十分、隙を見せてくれていた。
「紡いで、結んで――夢を、未来を、繋ぐ力となれ!」
 聞いて、聞いてと、語り部は軽やかな唇で夢を紡ぐ。
 始まりは、お喋りな白バラだった。
 お喋りなのは今も変わらないだろうか。けれどだって魔女はまじないを紡ぐもの。語り部の声が止んでは進まない。愛しいアリスのリティだって、告げたい言葉が溢れんばかり。
 どんな型枠に嵌め込んだって、色鮮やかな毎日は変わらない。
 綴られて往く物語が、思い出達が、簡単に読み解けるものだなんて、とんでもない!
 聞いてくれる大切なあなたと――類と綴りたい素敵な未来は、語る声音に彩られ鮮やかに色づき、くるりと回る紡錘の先に、美しい糸を紡いでいく。
 うんと丈夫に、けれどうんと優しく。紡がれた魔法の縒り糸がベスティアを絡め取り、ぎゅっと力強く、縛り上げた。
「彼の縁も物語も。一時たりともあげないのだから」
 ね、そうでしょう?
 同じ願いでいることを信じて疑わないいばらの眼差しに、真っ直ぐ、頷いて。類は刃に破魔の風を降ろす。
「繋いで、良いかい?」
 沢山の縁と絆を結んできた、その形がここにあるようだ。
 刀を握り直した類は、己の刃を握る手に手が添えられるような心地にふわりと笑んで。真っ直ぐに上げた顔で、ベスティアを鋭く睨む。
 吹く風に背を押されるまま、軽く、深く、踏み込んだ類に、ベスティアは身じろぐけれど。
「奪わせない」
 幸せな物語達は、誰かが、誰かの為に綴ったハッピーエンド。それは、読み手に笑顔と暖かな気持ちをくれるもの。
 いばらの駆けてきた足跡も、ありすの為にと頑張った、鮮やかな軌跡。
 続く今と未来は、類と共に紡ぐ大切な物語でもあるのだから。
「どちらも喰わせる気など、ない」
 願いは、同じ。だからこそ、想い籠もった糸が簡単に千切られることなんてないと、類は信じていた。
 何を巻き込むこともないよう、至近距離から振り抜かれた刃は、ベスティアを大きく切り裂いて、不明瞭に聞き取れない咆哮をあげさせる。
「奪うばかりでは知り得ぬ味こそ、飢えや穴を埋めてくれるのだろうにね」
 傷を帯びて暴れようとするベスティアから距離を取った類の呟きは、ほんの小さな独り言。
 けれどわずかに瞳を細めた彼の、憐れむような眼差しを見たいばらは、そうした願いを、感じ取る。
「……いつか、真に満たされる物語へ辿り着ける様、在るべき場所へ送りましょう」
 あなたを満たす物語は見つかった?
 そう、尋ねられる日が来ることを願って――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティル・レーヴェ
【花結】
頼って欲しいと紡ぎ願う
そんな其方等だからこそ
尚も護りたいと願うのよ
集う子らをそうと撫ぜて

喰らい奪う力から
今を護り捉え離さぬよう
物語達を護り庇い
躊躇わず前に立てるのは
妾を護る人が傍に居るから

獣が喚ぶ演者は
嘗て己を頼った民の姿
己が死へ終へと導いた者達が
聖女様、と手を伸ばす
貴女は此方へ来ないのか
約束を違えるのか、と

名も知らぬ
けれど己に似たよな女性が
一歩前に踏み出でて
おいで、と両の手を拡ぐ

何方にも詰まる胸を抑えども
繋ぐ手を握ってあなたを見て
大丈夫。
どんな『物語』が演じられようと
妾はあなたとの『物語』を紡ぐ最中だもの

ねぇ、ライラック
あなたのその手は護っているわ
間違いなく幸せを綴っているわ
他でもない証が
此処に居るでしょう?

後ろに護る子らにも視線を向けて
繋ぐ手を頬に添わせて
このぬくもりが証だと
在る今があなたを包むよに

あなたの紡ぐ優しくあたたかな物語
咲かせる想像も綴る先も
共に届けられますよう
目の前の子の幸までも願い綴るあなたの筆先に
妾の想いも共に乗せ
幸せな物語を、その先を
どうかどうか全ての子らに


ライラック・エアルオウルズ
【花結】
やさしい物語の子たち
信頼と助力は嬉しいけど
僕たちは似た者同士でね
言葉も意思も返すとしよう
頼ってくれて、いいんだよ

いつか綴った物語を庇い
並ぶ想像が囮になるよう
降る花弁が力になるよう
添う君を奪われないよう
確と創造を編んで、護る

『君には誰も護れやしない』
『幸せなんて綴れやしない』
獣のみせる物語は、悲劇で
否定ばかりを紡いだ人々が
可笑しな作家とせせら笑う
『全て白紙に返せばいい』

けれど、つたわる温もりに
胸の痛みも癒えゆくようで
懐収めた水晶ペンを手にし
てのひらを柔く握りかえし

――ああ、その通りだ
この手なら最愛を護れる
今の僕なら幸せを紡げる
かなしい物語は、おしまい
君の温もりを知った指先で
やさしい想像を咲かせて
幸せの先を綴るんだ、今は

そうして、ねえ、ティル?
今の君が居るべき場所も此処で
交わした約束だって此処にある
だから、どうか僕の傍にいてね

しあわせに溢れる裡と詞
その頁にも分けたいから
今をとらえるリボンが
表紙を柔くとじたのなら
真白の君にも贈れるといい
ふたり、共同で紡ぎだす
“めでたし”の『物語』を




 仲間達が喰われても、胸を張る姿は一つも変わらない。そんな愉快な仲間達を、ティル・レーヴェは優しい指先で、撫でる。
「頼って欲しいと紡ぎ願う、そんな其方等だからこそ。尚も護りたいと願うのよ」
 語る表情に不安は見えない。願いを嬉しく受け止めて、それでもと前に立つことを決めた、真っ直ぐな眼差しだけがそこにある。
 そんなティルを傍らで見つめ、瞳を細めて。ライラック・エアルオウルズもまた、ふわりと優しい声を降らせる。
「やさしい物語の子たち。信頼と助力は嬉しいけど、僕たちは似た者同士でね」
 にこり、笑んだライラックをじぃと見上げるのは、彼が綴り、作家猫へと贈られた本と――それを手にした作家猫。
「言葉も意思も返すとしよう。頼ってくれて、いいんだよ」
 それは決して諭す言葉ではないけれど、無理を願うわけではないのだと告げる言葉ではあって。
 うん、と。作家猫は素直に頷く。二人が危険になれば一も二もなく飛び出すことはきっと気取られているだろうが、彼らはそれを理解してくれているだろうから。
 そうはならないようにと、彼らは努めきるのだろうけど。
 愉快な仲間達の先頭に立ち、ティルはベスティアを見据える。
 傷だらけの獣は、それゆえに飢えているのだろう。狙い澄ますような眼差しは、ティルと、愉快な仲間達と、どちらがより喰らいがいがあるかを見定めるようで。
 ふわりと袖を広げて自身の後ろを隠したティルの手を、ライラックがそっと、握った。
 見上げて、微笑む。柔らかな眼差しと目が合ったなら、もう何も、怖くない。
 ――例え、目の前に嘗て見知った姿が現れようとも。
 聖女様、と。縋る眼差しの人々は口にする。
 伸ばした指先がどこに届くのかもわからず、絶望するように頭を抱えて、彼らは言う。
 貴女は此方へ来ないのか。
 約束を違えるのか。
 ふうわりと、柔らかな空気を纏った女性が、一歩、前に踏み出でて。
 おいで。空気と同じ柔らかな両手を拡げて微笑む。
 その女性のことは、知らないけれど。その女性の顔は、ティルに、よく似て――。
 ぎゅぅ、と。息が詰まるような心地に、胸を抑える。
 短く、浅く。こぼした吐息は、しかし乱れることなく、胸の内に詰め込んだものを吐き出すように、長く尾を引いた。
 胸を抑えるよりも柔らかく握った手のひらが握り返してくれるから。また、見つめて。
「大丈夫」
 ティルは偽りのない笑顔で、小首を傾げてみせた。
「どんな『物語』が演じられようと、妾はあなたとの『物語』を紡ぐ最中だもの」
 そうでしょう、と。囁くようなティルが、視界に溶け込むようにはらりと舞うリラの花弁に、愛おしげに微笑むから。
 頷いたライラックは、己の心を揺さぶろうとする『物語』に、向き合った。
『君には誰も護れやしない』
『幸せなんて綴れやしない』
 罵る声を上げながら、人々は本を刻んで、ばらまいていく。
 ペンを取り上げることもせず、言葉を封じることもせず。ただ、誰かの為にと綴られた本を取り上げて、千切って燃やしてせせら笑う。
 つまらない。くだらない。だからこの子は泣いているんだ。だからあの子は消えたんだ。
 ひとりよがりとしっていて、ひとりあそびをやめないなんて。
 可笑しな作家。後ろ指さした人々が、歪な笑みで、締めくくる。
『全て白紙に返せばいい』
 それでしあわせ、めでたしだろう!
 突き刺し抉る意図を形にしたような物語。痛む胸にかすかに表情を曇らせたライラックだけれど、優しく込められた力が、その痛みを和らげてくれた。
「ねぇ、ライラック」
 棘が、取り除かれる。
「あなたのその手は護っているわ。間違いなく幸せを綴っているわ」
 胸の奥の澱が、晴れる。
「他でもない証が、此処に居るでしょう?」
 ひび割れだって繋ぎ止めて、潤してくれる。
 微笑むティルの視線が、背に守った本達にも向けられて。今日ばかりは大人しい彼らの眼差しも、注がれて。
 繋がれていない方の手で、そぅ、と頬を撫でられれば、温かい熱が、伝わってきた。
「このぬくもりが証だと。あなたは、知っているでしょう?」
「――ああ、その通りだ」
 懐に収めた水晶ペン。リラを抱いた双眸の片割れは、いつだって想いを伝える手を手伝ってきた。
 繋いだ手は、片時も、片時も、その温もりを忘れたことはない。
「この手なら最愛を護れる。今の僕なら幸せを紡げる」
 リラの花弁が、一度に舞い上がった。
 ――ハッピーエンドの其の先も、幸せを綴る為に。
 花弁は、ライラックと、彼の味方を癒やし、戦闘力を増強させていく。
 それと同時に、本達がのびのびと生きる世界にこそ相応しい、ワクワクとした魅力が目一杯詰まった図書館を編み上げていく。
 御伽噺めいた想像が数多並ぶ本棚におすまし風で並べば、獣の目を欺くかくれんぼに。
 感嘆する声で跳ね回れば、図書館ではお静かに、なんて窘められながらも、微笑ましげな司書がきっと力を貸してくれる。
 そうして、かなしい物語は、もうおしまい。
 大切な温もりを知った指先は、やさしい想像を咲かせて、幸せの先を綴っていくのだから。
「そうして、ねえ、ティル?」
 なぁに。呼びかける声にいつも応えてくれることが、どれほど愛おしいことか、君も知っているのだろうから。
「今の君が居るべき場所も此処で、交わした約束だって此処にある。だから、どうか僕の傍にいてね」
 告げて、伝えて。また返ってくる柔らかな声に愛おしさを繰り返して。
 そうして、二人で綴っていく。
「このしあわせに溢れる裡と詞、その頁にも分けられれば――」
 良いと、思わない? そう尋ねるような眼差しに、そう思っているだろうと思っていたと言わんばかりに、ふくよかな笑みが返される。
「共に歩み往く先も、想い出を刻む為に」
 ティルの指先で煌めく輝石から、勿忘草の花と、レースのリボンが放たれる。
 ライラックの図書館は、ティルの居場所だから。花も、リボンも、余すことなく力を発揮して、ベスティアを封じ込める。
 優しくあたたかな物語に満たされたその場所から、咲かせる想像も綴る先も、共に届けられますように。
 込める願いは、目の前の子の幸せまでも願い綴るライラックの筆先に乗せて。
「幸せな物語を、その先を。どうかどうか全ての子らに」
 空腹な獣は、飲み込みきれない幸せな『物語』に包まれて、ひと度、舞台裏へ。
 真っ白に戻ってしまった獣の物語は、きっとまた、空腹を埋めるために繰り返されるのだろうけれど。
 レースのリボンを纏った表紙にも、いつか贈れることを願うのだ。
 ふたり、共同で紡ぎだす、“めでたし”の『物語』を――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年12月13日


挿絵イラスト