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赤の夢

#エンドブレイカー! #紅卿の足跡

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#エンドブレイカー!
#紅卿の足跡


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 歴史ある都市国家の一つ、トラカロン。
 星霊建築技術により、荒野の広がる外界とを分かつ高い城塞に囲まれたこの国は、外からの脅威はもちろんのこと、マスカレイドとの戦い、その正体が露見した後にも懸命に戦い抜き、その歴史を今もなお紡いでいた。
 15年前に一度戦いに終止符が打たれた後も、束の間の平和を維持すべく領民を守るべき牙を絶やさぬよう、質実剛健を旨として繁栄していた。
 だが、栄えあれば衰えあるもの。
 戦いの日々は否応なく穏やかになり、嘗ての苛烈さを、国の上層部は早くも忘れ始め、高貴な身分であるほど甘やかな平穏に堕するようになった。
 都市国家は、上層に行くほど裕福で高貴であると共に、その精神性は平穏が続く程に出征の必要性が低くなり、すっかり贅の前に錆びついてしまっていた。
 それでも、壁の外には屈強な野生のモンスターが徘徊し、何かの間違いで壁の内側に侵入、あるいは出現してしまう者も少なくない。
 また、時には壁の外に出て、大規模に膨れ上がる前にモンスターの大群を退治し、貴重な素材を持ち帰る事も、都市国家を潤すためには必要であった。
 それらを担うのは下層の民。
 外壁部付近の住人には、嘗ての苛烈さを覚えたままの熱量が、まだ吹き荒れていた。
 終わらぬ戦い。日々負傷し、時には無造作に積み上がる死体の数々。
 悲嘆に暮れるは、力なき善良なる民たち。故にこそ、抱かずにはいられなかった。
 平和への願い。
 希望を願わずにいられない、その一途な思いを頼りに、それは現れた。
『良いでしょう。平和を望むその思い。このエリクシルが、しかと聞き届けましたよ』
 人の耳に心地よい、少女の囀るような言葉と共に、赤い霧のような嵐が吹き荒れる。
 街々は砕け、城壁の一部を砂のように変えながら、赤い宝石のような生首が、ぼろぼろにくたびれた少年にその赤い髪を絡みつけていた。
 そこへ、
「離れろ、怪物め!」
 雷のような一閃。宝石の髪を振り払い、少年を奪還したのは、和服を纏ったミレナリィドールの剣士であった。
『宝石の眷属が、我等が意に背くとは……。お前は願いを叶えたくはないの?』
「ほざくなよ、紛い物め。戦いに身を置いて百と余年。このアサギ、主より賜った使命は変わらぬ。たとえこの街が変わろうともな」
 息まく侍アサギであったが、エリクシルの生首が再び赤い嵐を引き起こすと、再び少年を奪い返されてしまう。
 戦いに身を置き続け、片足は義足、その他にも多くの傷を負ったままのアサギは、強大な敵を前に、成す術も無く倒されてしまう。
 遠い昔、彼女を作り上げた主より賜った使命。人の助けの為に力を振るう事。その力及ばぬままに。
 そうして都市国家トラカロンは、長い歴史に幕を下ろすのであった。

「皆さん、『エンドブレイカー!』の世界はご存じでしょうか?」
 グリモアベースはその一角、胸元に火傷の痕を残す羅刹、刹羅沢サクラは居並ぶ猟兵たちに、新たな世界の話をする。
 既に、『エンドブレイカー!』の存在は周知され、また彼の世界から新たに猟兵として目覚めたものも多く存在するというが、サクラはどうやらその世界に覚えが無いようだった。
「過去に大きな戦いを経たという彼の世界には多くの使い手が居るようです。個人的な興味は尽きませんが……今回の事件は、その世界のとある都市国家トラカロンで発生するようですね」
 人類のみならず、野生のモンスターなどもそうであるが、とりわけエリクシルと呼ばれる脅威は、オブリビオンとは異なる存在であるようだが、同等かそれ以上の被害をもたらす事件となるらしい。
 少なくとも、猟兵が予知に視るということは、その世界の終末を示唆するものに他ならない。
 今回の事件が発生するのは、トラカロンの外壁近い下層区域だという。
 戦いに明け暮れる戦士たちと、その家族が住まう、貧しいが活気にあふれる区域である。
「エリクシルは、誰かの希望を歪めて叶え、力とする性質がある万能宝石とのことです。事件の発端となった少年は、外部遠征に出た戦士の家族で、戦い傷ついた家族を思うあまり、『平和』を願ったようですね」
 争いの存在しない平和な世界を願ったものが、エリクシルの悪意に捕まり、滅亡への力へと変換されてしまったという話である。
「予知に視た以上、少年への接触は避けられない事なのでしょう。しかし、これらはまだ実際には起こっておりません。
 かの少年にエリクシルが接触するよりも前に、我々が接触し何らかの心境の変化を促すなどすれば、或は敵を弱体化させることも可能なのではないでしょうか?」
 深い絶望の渦中にこそ、希望は輝いて見えるという。それを糧とするなら、少年に狙いをつけたエリクシルの悪意を挫くならば、どうすればいいのか。
 考え込む猟兵たちの助けとなるべく、サクラは追加の情報を提示する。
「そういえば、予知の中にも姿のあったあの侍。どうやら少年とは知らぬ仲ではないようですね」
 アサギという年経たミレナリィドールの剣士は、トラカロンの下層区域で剣術指南をしているという。
 将来的には戦士である父の助けとなるべく、少年はアサギに剣術を師事しているが、なかなか努力が実らないらしい。
「どうやら、荒事を好まぬ気性。剣を修める上では必要な素養ではありますが、剣を始めるには向かぬ性格ですね。技を学ばぬ内に平和を願うも、然もありなんといったところですか」
 多少なりとも剣術を嗜むサクラの評すところは厳しいが、誰にでも適材適所は存在するという合理性からはじき出された寸評であった。
 ともあれ、まずは彼等に接触し、強大なエリクシルに備えなくてはなるまい。
 そうして、一通りの説明を終えると、サクラは猟兵たちを送り出す準備を始めるのだった。


みろりじ
 どうもこんばんは。流浪の文章書き、みろりじと申します。
 エンドブレイカー! のお話です。世界説明などで感嘆符が付いているので、世界を指す言葉として使う場合は、エクスクラメーションマークをつけなきゃいけないのかなーと思って、注意深く付けて呼称していきます。
 ただ、書式のルールとして感嘆符の後にスペースかカッコをつけないといけないので、場合によっては省略させていただきます。
 そんなわけで、どうでもいいお話を挟みましたが、初のエンドブレイカーシナリオとなっております。
 旧作については一切知らないので、ライブのほうでも多くの疑問符を浮かべながら、そーなのかーと思いつつ、恐る恐るシナリオを出す形となりました。何事も、まずは挑戦してみなくては。
 このシナリオは、冒険→集団戦→ボス戦というシナリオフレームを使わせていただいております。
 冒険で少年や、剣術指南のおねーさんと接触し、「こんな戦いの続かない平和な世界が欲しいぜ」といった感じの願いを糧に出現するエリクシルを、どうにかこうにか弱体化させようぜといった感じの、割と大事なところです。
 集団戦は、エリクシル出現と共に、このまま少年だけを奪い去りたい生首が、集団敵を呼び出し、猟兵たちにけしかけてきます。蹴散らしましょう。
 ボス戦は、ついに追い詰めた生首との戦いです。願いの力を得たエリクシルは強敵です。が、その力の源である少年は拉致されたままなので、これまでの心境の変化やここでの説得によっては、大幅な弱体化も夢じゃないぜ。
 といった感じです。OP内でちゃんと説明しておけという話ですが、まあ、それは、そうですね。
 というわけで、最初の断章は投稿せず、章の合間にちょっとしたシナリオの補正を入れていきながら、基本的にはプレイング募集期間は設けないつもりですので、お好きなタイミングでどうぞ。
 それでは、皆さんと一緒に楽しいリプレイを作っていきましょう。
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第1章 冒険 『下層街の冒険』

POW   :    下層で逞しく暮らす人々と接触する

SPD   :    怪しい奴に目星をつけ、追跡する

WIZ   :    安酒場に入り、情報を持っていそうな人物と取引する

イラスト:木野田永志

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ユリウス・リウィウス
よう、坊主に姐ちゃん。そんなに平和な時代がほしいかい?
俺はユリウス・リウィウス。猟兵だ。そっちの名前を聞いても?

確かに平和は尊い。だがそれを守るために戦い続けなくちゃならん。剣をさびるがままに任せるわけにはいかんのさ。
そこら辺の覚悟は、俺よりそっちの姐ちゃんの方がよっぽど骨身に染みてるんじゃないのかい?
誰かが守った平和だと思うからこそ、落ち着いた生活を享受出来るわけだ。
血を流さずにいようとするなら、いつかは滅ぶことになる。
坊主も師匠にしっかり剣を学んで、この都市国家を守る一員になれればいいな。

何なら、俺も一手稽古を付けようか? どうだ、宝石の姐ちゃん? たまには他流試合も悪くないだろ?



 早く平和にならないかな。
 少年の心の中に、まるで楔を打ったかのようにこびりつく思いがあった。
 世の中は変わりつつあった。いや、確かに15年ほど前に変わったのだろう。それこそ、少年の知らない時代には、既に世界は一度救われ、平和な時代が訪れると信じられていた。
 しかし、下層に住む者たちの日常は、昔から変わらなかった。
 星霊建築の素晴らしきは、高い城壁のすぐ傍であっても日照時間は内部と変わらず、どのような場所であっても田畑を耕して、その隣で金物を営み、獣を捌いて商いを担う。
 賑わいはあれど、それは危険と隣り合わせだった。
 伝説的な脅威は去ったというが、新たなエリクシルという怪物は出現するというし、そもそも壁の外も中にもモンスターが出現する。
 冒険者でもない一般人すら戦う術を持つほどに、この街には危険が溢れているのだ。
 下層の者たちの生活は過酷だ。
 生業を持つ傍ら、モンスターを退治できる程度の力を強いられる。
 討伐隊として壁の外に出征し、ある程度の成果を上げさらにその素材のおこぼれにあやかる事ができなければ、たちまち生活に困窮してしまうからだ。
 少年の父もまた、畑の面倒を見る傍ら、手が空けばモンスターを退治しに壁の外へと出る部隊に入って家を空ける日々であり、少年も将来的にはそうなるであろうと戦う術を学んでいる真っ最中であった。
「どうした。外の魔物は、待ってはくれぬぞ」
「でも、手の豆が破けたんだ」
 あちこちへこみだらけの木剣を握る手は既に赤黒い。
 疲れと痛みで膝を折る少年に剣を教えるのは、地味な着物に身を包む傷だらけのミレナリィドール、アサギであった。
 その表情は薄く、凛々しく吊り上がったままの面持ちは厳しくも映るが、構えた剣を降ろして少年が立ち上がるまで待っている。
「はやく平和になればいいのに。僕たちが戦う必要が無いくらいに」
 痛みを紛らわすべく、身体がその末端を痺れさせる。石のように固くなった手先は、しかし生きている証拠とばかりに血を滲ませる。
 大小の差はあれど、少年の父が無傷で帰ってくることは稀であった。
 戦いに出る事はしょうがないこと。下層区域は貧しく、そうする事でしか生活はままならない。
 それでも、怪我を負って帰ってくる親の姿を見るとやるせない気持ちになってしまう。
 こんなに苦しく、命を張って戦い続ける生活が、自分にも回ってくるのかと思うと、弱音の一つも出てくるというものだった。
「よう坊主。そんなに平和な時代が欲しいかい?」
「えっ?」
 いつからか、二人を見つめていた人影が、声をかけてきた。
 鎧姿に疲れたような顔つき。戦いにしか居場所を見出せないかのような、どこか不安定さを思わせる男であった。
「そちらは?」
「俺はユリウス・リウィウス(剣の墓標・f00045)。猟兵だ。そっちの名前をきいても?」
「それがしはアサギ。子供に戦う術を教えている。見ての通り、既に前線には立てぬおんぼろよ」
 少年はアルと名乗った。
 二人に語り掛ける猟兵ユリウスの力量は、その井出達から感じさせる雰囲気で十分に察するものがあった。
 少年ですら、剣を習い始めたばかりだというのに、その自然な佇まいからいかなるタイミングで打ち込んでも勝てる見込みが見出せぬほどの開きがある事を一目で思い知らされたほどだ。
 それほどの戦士が言うのだ。
「確かに平和は尊い。だがそれを守るために戦い続けなくちゃならん。剣をさびるがままに任せるわけにはいかんのさ。
 そこら辺の覚悟は、俺よりそっちの姐ちゃんの方がよっぽど骨身に染みてるんじゃないのかい?」
「……」
「誰かが守った平和だと思うからこそ、落ち着いた生活を享受出来るわけだ。
 血を流さずにいようとするなら、いつかは滅ぶことになる」
 少年が取り落とした木剣を拾い上げ、柄に染みついた赤黒い努力の証を眩しげに眺め、それを少年に返してやる。
 これが単なる軽口であるなら、何を知った風なことを! と憤ったかもしれない。
 ユリウスの身体に染みついた戦いの匂いが、これまで歩んできた過酷な日々を思わせるからこそ、その言葉は重く、どうにもならない事へのやるせなさというか、腐り始めている上層への皮肉が込められているように思えた。
「坊主も師匠にしっかり剣を学んで、この都市国家を守る一員になれればいいな」
「ありがとう……僕が守れるのなんて、せいぜい、自分一人だと思ってた」
「誰もが自分と家族を守れれば、十分だ。が、今のまんまじゃ、自分一人すら危ないぞ。何なら、俺も一手稽古をつけてやろうか?」
 ユリウスがちらと、アサギを見やる。
 アサギはというと、その意図を計りかねていたが、弟子を横取りなどという訳ではなく、これも稽古の一環と受け取ったらしい。
「どうだ、宝石の姐ちゃん? たまには他流試合も悪くないだろ?」
「そうだな……。アル、見る事もまた、いい訓練となる」
 ミレナリィドールであるアサギの材質を宝石であると看破したユリウスは、そこまでの見識があるのか、或は彼女について知っていることでもあるのか。
 それはともかくとして、木剣ではなく双剣を抜き放つと、それに呼応するようにして、アサギもまた木剣を置いて腰に差した刀を抜く。
 練習用の道具ではなく、敵を倒すための自身の武器を向け合うのは、極めて実戦に近い状況、その空気をアル少年にも感じさせるためでもあった。
 一般人であっても、訓練を積み重ねればユーベルコードにも近いスキルを有するという、凄まじい戦闘力を持つエンドブレイカーの住人であるアサギ。
 片足は義足。それ以外にも百と余年戦い続けたボディには無数の傷がある。
 だが、それでも研ぎ澄まされた技は、衰えを感じさせない。
 いつも小手先で転がされるアル少年には、決して見せる事はない本気のアサギの戦いぶりが、戦いの果てしなさ。そして、目指すべき道の遠さを思わせた。
 平和を思うばかりでは、到底、そんな領域には到達できない。
 立ち止まっている暇など、あるのだろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ブリュンヒルデ・ブラウアメル
堕落した都市国家か……やるせないものを感じるな
平和を願う心が間違っているとは口が裂けても言えんが、とはいえエリクシルの願いを叶えるわけにはいかん

宣教師の衣服を着てアサギと少年が剣術指南をしている所で演説を打とう
堕落した上層部の贄となる日々への反証を確かに訴えながら、それでもこの都市国家の理念であった『質実剛健の出征』等を過去の記録等を分かりやすく口頭で訴え、UCの催眠術でかつての理念とその変質……平和になった事で生まれた現状を分かりやすく伝える
こうして現状の打破を肯定しながらも、ただ平和を貪れば堂々巡りになる事を訴え、アサギの傍にいる少年に施されたエリクシルの悪意を弱体化させるぞ



 戦いのない平和な日々を。
 少年の心に楔の如く打ち付けられ、なぜだか突き放せない思いは、それはこの世界にある者ならば、誰もが普遍的に願う思いの一つであろう。
 思わずにはいられない。なぜならば、日銭を稼ぐべく出征に伴う父が無傷で帰ってくることなど無いのだ。
 贅に溺れ、都市の中で肥え太ることだけを幸福とするかのようなトラカロンの上流階級の貴族たちとくらべ、外壁部に近い下層域に住まう者たちの生活は昔から変わらない。
 命を賭して稼ぎ、時にはその賭けに負ける。
「堕落した都市国家か……やるせないものを感じるな」
 平和を望み、戦い抜いた者たち。その戦いは決して無意味などではなかったはずだ。
 しかし、その結果として上層部の腐敗を招いたとするならば、単純にその成果を是とする者も多くはあるまい。
 強大な敵が去った事による束の間の平和は、大事に駆り出される上層部にのみ許されたものに過ぎず、下にいる者達は変わらぬ過酷な日々を送っていることを、どれほど認知されているのだろうか。
 敵が変わっただけで、ちっとも平和などではない。
 なるほど、それを願うのもうなずける。
 ブリュンヒルデ・ブラウアメル(蒼翼羽剣ブラウグラムの元首たる終焉破壊の騎士・f38903)は帽子を目深にかぶる。
 エンドブレイカーを巡る大きな戦いは、一度決着を見ている。
 15年をさかのぼる戦いの激しさを、15になるブリュンヒルデは目の当たりにしたわけではないが、その傷跡は嫌というほど見て来た。
 傷ついた国々、倒れたものを笑い、生き残った自らをこそ戦いの功労者と嘯く権力者たち。
 そういった有象無象を叩き伏せ排除し、文字通りにたたき上げの国家元首へと上り詰めたブリュンヒルデは、もはや空を夢見る少女ではいられなくなった。
 この都市国家も御多聞に漏れず、贅肉だらけだ。
 だがしかし、自らの権力で以て大鉈を振るうのでは、下層の現状は変わりはすまい。
 ここは彼女の国ではなく、栄えあるトラカロンの民のものであるべきだ。
 それゆえに、ブリュンヒルデは自らの権力の象徴とも言うべき上級階級の服装ではなく、宣教師のようなブラックローブとポークパイハットを身に纏い、素性を隠して都市国家の現状を謳うのであった。
「──上層の貴族たちは、この現状をどうお考えか。下層に住む者たちは、上層貴族の贄となる宿命なのか。今やこの国の理念たる質実剛健を重んじるのはこの下層域だけではないのか。歴史を顧みよ。かの大魔女は強大な敵であった。それを一丸となって倒したことで、平和は確かに訪れたのであろう。しかし、その平和がもたらしたものはなんだ──」
 滔々とよく通る声で下層域の広場で喧伝するブリュンヒルデの言葉に、住民たちは徐々に耳を傾けていく。
 そして、その言葉に耳を傾ければ最後、【蒼翼の終焉破壊・螺旋と髑髏の二重の酩酊伽藍洞】により、破邪の真言と万物魅了の香気を用いる催眠術に見舞われた住人は、酒に酔ったような高揚感とともに、その言葉に魅了される。
「──この現状を打破せねばならない! 平和を貪り、堂々巡りの日々を送る負の連鎖は唾棄すべきものである! 立てよ国民! 平和に堕するべからず!」
 演説は次第に熱量を増していき、その勢いに任せるまま、住人も徐々にヒートアップしていく。
 革命だ。革命だ。口々に人々が熱にうなされる様に声を上げる中、広場で稽古の休憩をしていたアサギと少年、アルは、その様子を呆然と眺めていた。
「僕たちも、平和を貪ることなく、戦うべきなのかな」
「それがしに願いなど無い。が、誰しもが平和を守るために戦うのだろう。たとえ、人同士でも」

大成功 🔵​🔵​🔵​

上野・修介
※アドリブ連携歓迎
少年に対して『各地を旅して、その国の風俗や文化、歴史について纏めている冒険者』として「この都市国家について教えてもらえますか?」という口実で接触。
態度は常に丁寧に、基本敬語。
「色んな人の視点からこの国ついて知りたいんですよ。無論、報酬もお支払いします」

一通り話を聞き、少年が思いと望みを確認した上で、極力説教臭くならないように注意しつつ『戦い』について自分がどう思っているかを話す。

「望む何かを手に入れようとすれば戦いは避けられない。故にどんなに平和な世界でも『戦い』はある」
「だが『戦い』にも色んな種類があり、『力』のあり様もまた様々で、それは努力によって手に入れられる」



 なんとも、異様な雰囲気だった。
 獰猛なモンスターの溢れる外部の脅威から人々を守るべく築かれた星霊建築。その高い城壁の内側には、人の営みが溢れ、特に出入りの多い下層市民たちの住まう外壁付近の街々は活気が溢れ、貧しいながらに市が立って人々が行き交う中に様々な生活の喧騒が生まれている……というイメージを持っていた。
 だが、どうしたことだろう。
 広場には人々が集まって、なにやら異様な雰囲気を醸し出している。
 革命? 貴族の横暴を許すな?
 はて、そんな話は聞いてないが。
 上野・修介(吾が拳に名は要らず・f13887)は、無表情な男である。
 だが、感情が無いわけではなく、無表情と言っても面の皮が厚いわけではないし変わる時は変わる。
 吹き抜ける風に冷たさを感じる季節になっても、動きやすい服装を好み、体にフィットするUDCアースでは一般的な普段着はかえってこの世界は浮いて見えるかもしれないが、立ち尽くす姿勢のままでも衣服を押し上げるかのような鍛え上げられた胸板や手足の骨太さ。
 そして、盛り上がりが見て取れる双肩に乗っかる精悍な顔つきに走った傷跡が、彼を生半な印象から遠ざけていた。
 半端な鍛え方をしていない体つき。修羅場を生き抜いた……ようにも見える精悍な顔つき。
 それが下唇を力ませ、口元をへの字に曲げていた。
 旅人を装うべく、やたらと重そうなリュックを背負ってはいるが、肝心の少年と接触しようにも、人が多い。
 ちなみにリュックは鍛錬にも長年愛用しているもので、ロードワークの際には砂袋をいっぱい詰め込んだりしている。やり過ぎると腰を痛める。
 だがそれならば、少し考えねばならない。この人混みで少年を探し出すのは難しそうだ。
 こんな時に慌ててはいけない。彼に道を示し……たというよりかは、武術を叩き込む名目でボコボコにしてきたような師達は、いかなる時でも冷静さを持つことが肝要であると言っていた。
 冷静に鍛え上げた技を使えれば、十全の効果を得られる。心乱せば技の精度が落ちる。だから、まずは冷静になるために、死の間際まで追い詰められる感覚に慣れておけと理由をつけては……まあそれはいい。
 思い出せ。少年は、壁の外に出た家族の帰りを待っていたはずだ。
 いつも負傷して帰ってくる父の助けになるべく、少年もまた戦士として戦えるようになるべく、ミレナリィドールの剣士に師事しているという情報だった。
 そして予知による内容通りならば、間もなくその父親は帰還し、その有様に少年は悲嘆に暮れるという。
 ……ということは、外壁の門の近くならば、少年と遭遇する確率は高いのではないだろうか。
 周囲を確認すると、なるほど広場からそう遠くない位置に、外壁の門はあるようだった。
「──む!」
 そちらへ向かいながら少年を探すべく、踵を返したところ、修介は足元に誰かがぶつかったのを感じた。
 鍛え上げられた体幹は、子供がぶつかった程度ではびくともしなかったものの、ぶつかった方は尻もちをついたようだった。
 見れば、それが件の少年の姿であった。
「悪い。急に振り返ってしまったな」
「こっちこそ、ごめん。怪我しなかった?」
 手を引いて引き起こしてやると、明らかに自分の方が派手に転んだにも関わらず、少年ははにかんだように笑いながら修介を気遣った。
 どうやら、気の優しい性分というのは間違った見立てではないらしい。
 さて、絶好の機会だとばかり、修介はこほんと咳払い。
 粗野で荒々しい印象を与えがちな修介であるが、礼儀作法は武術を学ぶ上で避けては通れない。最低限の敬語は使えるつもりだ。
「こうして出会ったのも何かの縁。実は各地を旅している冒険者でして……この都市国家について、教えてもらえませんか?」
「ええっ、僕みたいな子供に聞くの?」
「色んな人の視点からこの国ついて知りたいんですよ。無論、報酬もお支払いします」
「えー、あー……歩きながらでいいかなぁ? 父ちゃんが帰ってくる頃なんだよ」
 にこやかな表情とまではいかないものの、柔らかな物腰を意識して少年の歩調と合わせることで、修介は歩み寄りを図った。
 武骨な青年を思わせる印象は、幸いにもこの世界にはありふれている特徴であるようで、アルと名乗った少年は、それほど警戒心の強い子供ではないらしい。
 旅先の風俗や歴史に興味のある冒険者を装い、トラカロンの現状、とりわけ貴族階級の凋落っぷりには閉口するものがあったが、それはあくまでもついでの情報である。
「上層の連中はひどいもんだけど、ここはずっと変わらないよ。叶う事なら、僕もあの人たちみたいに、何もしないで平和な世の中になればいいかなって思うよ。そうしたら、剣術を習って手に豆を作る必要もないのにさ。父ちゃんだって、壁の外に出なくてもよくなる……」
 下町の魅力や、貴族街の豪奢な井出達。様々な風土の話が尽きると、アル少年は角質化した掌をかりかりと搔きながら路傍の石を蹴飛ばす。
 しっかりとしたようにも見えるが、やはり子供は子供。目を伏せる姿には寂しさを感じずにはいられない。
 なるほど、平和を望む少年の心には、彼自身の孤独もありそうだ。
 しかしこの世の中、世界を変えるには子供の力は弱く、また、エリクシルやモンスターの脅威は、猟兵の力を以てしても一挙に解決は不可能である。
 まして、この国の貴族のように、自分たちが出る幕も無い程度に平和なら何もしなくてもいい。というほどに、この世界は甘くはない。
 少年の孤独、幼さからくる甘え、その気性の優しさ。それらを否定するわけではない。
 かつては少年であった修介が、当然持っていてもおかしくなかった筈のものだ。
 鼻から大きく息をつき、アルのほうへ回り込み、修介は身を屈める。
「望む何かを手に入れようとすれば戦いは避けられない。故にどんなに平和な世界でも『戦い』はある。
 だが『戦い』にも色んな種類があり、『力』のあり様もまた様々で、それは努力によって手に入れられるものなんだ」
 肩に手を添え、まっすぐとその目を見つめ諭すように告げる言葉は、説教のつもりではなかった。
 アル少年は、自分が向かないなりに努力を重ねている。
 貧しいなりに、遊びたい盛りの若さを犠牲にする覚悟で。
 自分とて、好き好んで近所の先生達にボコボコにされていたわけではない。
「うん、そうだね……わかってるんだ。寝転がってるだけで、世界が平和になる訳ないんだ。平和を望むなら、自分で手を伸ばさなきゃいけない」
 あるのは厳しい現実だけだ。しかし、そこにエールを送る事はできる。
 少年が伸ばす手の先。血豆だらけの手の先には、開きかけた門があった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『シャドウウルフ』

POW   :    闇の棘嵐
着弾点からレベルm半径内を爆破する【圧縮した闇の弾丸】を放つ。着弾後、範囲内に【大量に飛ぶ闇の棘】が現れ継続ダメージを与える。
SPD   :    闇牙乱舞
戦場全体に【暗黒地帯】を発生させる。レベル分後まで、敵は【闇の牙】の攻撃を、味方は【暗闇の加護】の回復を受け続ける。
WIZ   :    ブラックホール
自身の【影】を代償に【ブラックホール】を創造する。[ブラックホール]の効果や威力は、代償により自身が負うリスクに比例する。

イラスト:lore

👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「父ちゃん! 父ちゃん!」
 遠征部隊が帰還した。
 それは街の潤いに欠かせない素材の数々の到来を意味すると共に、戦士が無事に帰って来るかどうかという危険の答え合わせでもあった。
 鍛えに鍛えたエンドブレイカーの住人は、ユーベルコードにも匹敵するとも言われるスキルを得るとも言うが、誰もが等しく強いわけではない。
 アル少年の父親は、少なくとも猟兵のような例外的な強さを持っているという訳ではなかった。
 命に係わる程の手傷ではなかったとはいえ、馬車から転げ落ちるようにして帰り着いたアルの父親は、身体のあちこちに包帯を巻き、一人では歩けないほど消耗しているようだった。
 ああ、どうして。
 周りを見れば、父と同じくらいの負傷者も少なくはない。
 でも、安堵と痛々しさの入り混じったこの空気は、いたたまれなくなる。
 ああ、どうして。この世界は、平和にならないのだろう。
 ある意味で、自然を相手にしているようなものに、こんなことを思うのは理不尽なのかもしれない。
 しかしながら、負傷し、疲れ果てた父を、アル少年は支えてやれるほどの体格すらない。
 もっと平和になればいいのに。
 不意に願ったそれは、きっと誰しもが恒常的に胸に抱いているものに違いはないのだろう。
 だが、この場に強く願ってしまったのが、運の尽きであろうか。
『良いでしょう。平和を望むその思い。このエリクシルが、しかと聞き届けましたよ』
 ざわざわと、木々のざわめきのような乾いた何かが蠢くような気配と共に、アル少年の影の内より、赤い髪が伸びて絡み、生首が浮き上がる。
 美しい少女の顔つき。だが、顔つきだけだ。首から下が無いそれは、赤い瞳を怪しく輝かせ、その輝きの正体を、この世界の住人は知っていた。
「エリク、シル……?」
「離れろ、怪物め!」
 少年に絡みつく赤い髪の一端を、鋭い一閃が斬り払う。
 コバルトブルーの髪と瞳。地味な黒ずんだ着物に不似合いなほど整った顔つきは、ところどころに傷の目立つミレナリィドールの剣士、アサギ。
 切られた髪が砂のように消えるのを不思議そうに見つめていたエリクシルの生首は、闖入者の出現と、自らの力が思うように発揮できていない事に危機感を覚えたのか、その周囲に影のような狼を呼び出すと、少年をさらって逃げる構えを見せる。
「逃がすと思うのか!」
『生憎と、お人形遊びは卒業したの。邪魔をしないで頂戴な、紛い物の眷属さん』
「くうっ! 待て……っ!」
 宝石を礫のように吐き出す迎撃に、アサギは手傷を負うものの、逃げ出すエリクシルを追跡していく。
 骨身から筋肉、肌に至るまで宝石を加工して作られたミレナリィドールは、液状化した宝石の体液を残しながらエリクシルに攫われたアルを追っていったようだ。
 つまりは、それを辿って行けば追いつくことも可能だろう。
 しかし──、この場に残されたシャドウウルフは、明らかに猟兵を足止めするためのものだろう。
 この場には疲れ切った下層の民と、その家族くらいしか居ない。
 戦える者はおそらく猟兵くらいのものだろう。
 この狼たちを蹴散らし、エリクシルを追跡しなくてはならない。
ユリウス・リウィウス
ちっ、生首がガキを連れて行きやがったか。すぐにも追いたいところだが、この置き土産を片づけんことにはな。
こんなところで屍人を喚んだら、騒ぎが大きくなるだけか。いいだろう。剣で全て断ち切ってやる。

「先制攻撃」で敵群に「切り込み」、手近な奴から「生命力吸収」「精神攻撃」の虚空斬でぶった切る。
大人しく狩られろよ、なあ、おい。

こいつら、手駒のくせして大層なユーベルコード持ってやがる。
闇の弾丸を掻い潜り、敵が密集するその中へ。さすがに味方を巻き込んでまでは撃ってこないだろ。

速やかな殲滅が至上命題だ。宝石の姐ちゃんも倒せるだけ倒してくれ。今ならまだ、あの生首に追いつけるはずだ。
さあ、雑魚は早く片づけるぞ。



「待てぇ!」
 疾駆する人影。
 周囲の何もかもをも置いてきぼりにするかのように、一瞬の喧騒を横切って、騒ぎ立てる人垣を切り裂くように、アサギはエリクシルの生首が飛び去る方角へと駆けていく。
 片足がみすぼらしい棒切れのような義足のそれであってもまったく引けを取らぬバランス感覚は見事だが、彼の者を追いかける足は、周囲の影が起き上がるようにして唸りを上げる影の狼の存在によって阻まれる。
 宝石で出来たミレナリィドール。彼女に願いなど無い。ただ、「人々の為にその力を振るう」という使命があるのみだ。
 それゆえに。広場の人間の脅威となり得るこれらシャドウウルフの出現は、彼女の足を止めるに十分な理由となり得た。
「ウウウウ……」
 不定形だった影の塊が丸く鋭くその身を盛り上げて、毛並みを振るわせて唸りを上げる。
 威嚇して凄むその様子は狼のそれと似ていたが、その不気味さは夜襲をかける狼よりも効果的なのか。戦う術を持たぬ街の民を追い立てて狩場へと集めるようでもあった。
 が、誰一人とて戦わぬわけではなく、無数に起き上がるその影の狼の内の一体にのしかかるようにして、剣を突き立てる人あり。
「ギャンッ!!」
「チッ、生首がガキを連れて行きやがったか。すぐにも追いたいところだが、この置き土産を片づけんことにはな」
 周囲に気を配るように視線を巡らせながら、体重をかけて押さえつける様にして黒剣を突き刺したユリウス・リウィウスは、その影の獣が活動を止めるのを確認してから剣を抜き放つと同時に血糊を払う。
 一見すると派手な立ち回りにも見えるが、集団戦に於いて周囲に目を配りながら距離を開けつつ考えを巡らす時を稼ぐ。
 二刀を携える黒騎士、ユリウスにとって、集団戦は慣れたもの。得意の死霊術でもってアンデッドの群れを使えばその数にも対応するも容易かろう。
 だが、広場に人がいる状態で使うのは、多大な被害をも出してしまいかねない。
 いや、ユリウスならば敵味方を識別するくらいはできるだろうが、住民がパニックを起こして無用な騒ぎを起こしかねない。
「退けぇい!」
 影と切り結ぶ侍の人影。悪くない太刀筋だ。
 元凶であるエリクシルを追いかけるべく、しかし着実に数を減らしながら駆けていくアサギの様子には、頭が下がる。
 己の使命の為に、大した忠心っぷりだ。
 それに倣うではないが、いいだろう。剣で切り抜けてやろう。
「──だから、大人しく狩られろよ、なあ、おい」
 手近な者から、片っ端に、ユリウスはその双刃を振るい、黒瞳に緋色の軌跡を乗せて疾駆する。
 【虚空斬】。虚空を断つような横薙ぎの一閃。通り抜け様に交差する一対二本の黒剣が、黒い軌跡を残して色濃く立ち上がった影の狼どもを薙ぎ払い、その影を白日へと枯らしていく。
「ウウウッ!!?」
「っ、こいつら……!」
 藁を刈るような容易さで切り裂いていくかに思われたユリウスの斬閃は、唐突に反転して飛び去る。
 その足元を狙うかのような黒い棘が突き刺さり、星のように影の棘を散らす。
 飛び散る星が爆ぜ、地面がえぐれる。
「手ごまの癖に、御大層なものをもってやがるな」
 ならば、とユリウスは怯むどころか、逆に敵陣へと更に切り込んでいく。
 はじけ飛ぶ影の棘。確かに当たればただでは済むまい。しかしそれは敵も同じではないだろうか。
 狼は集団で狩りをする。その連携は見事なものだ。同種の信頼のようなものがあるのだろう。
 だからこそ、それは同士討ちは滅多にしないと読んだのだ。
 その推測は正しく、シャドウウルフたちは影の棘を飛ばすにしても、味方が躱せる範囲にしか撃たない。少なくとも露骨に味方を巻き込む様な使い方はしないようだった。
 ゆえに、ユリウスは撃たれるほど逆に踏み込むのだった。
「構わんぜ。どうせ、お前らから利子を貰うからな」
 切り捨てるごとに、ユリウスの二刀は、魂を吸い、血肉を啜る魔剣である。
 速やかに片付け、殲滅させる。それが至上。だが一向に数は減らない。
 今ならまだ、あの生首に追いつけるはずだが……。
「宝石の姐ちゃんよ。倒せるだけ倒してくれよ。雑魚に構ってる時間はないぜ」
「承知!」
 焦る気持ちがないではない。しかし、この場に一匹とてこの異形の獣たちを残しておくわけにもいかない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ブリュンヒルデ・ブラウアメル
さて、終わりを終わらせるとしようか
そう言って両手に紫煙銃を構え、闇の弾丸と闇の棘を撃ち落としていく

何を透過し何を撃ち落とすかは我の裁量にある
闇の棘の包囲をこ黒炎の認識パイロキネシスで灼き尽くし、突破した後シャドウウルフを紫煙銃と黒き炎、自殺衝動で殲滅していく

さぁ、刮目しろ
我はエンドブレイカー、終わりを終わらせる者の一人だ!
紫煙銃から放たれる銃弾を跳弾させ、市民に襲いかかるシャドウウルフの頭蓋骨を撃ち抜き絶命させ、避難させていく

戦士よ、避難誘導は任せる
貴殿らの瞳に映る悲劇の終焉は、我が破壊する!



 人の数が多い。
 広場へと通じる門の前。その場を降臨の場としたエリクシルの撤退は素早かった。
 自らの力の源である少年を、誰の手にもわたすまいとするべく、生首だけのそれはその長い宝石のような髪で絡め取り、唖然とする市民たちを割ってあっという間に姿を消してしまった。
 予知にもあったその出現を止める事はできなかった。まして、取り逃がしてしまうことなど猟兵としてはあってはならない。
 だがしかし、足止めに残されたシャドウウルフたちは、その暴力の向かう先を猟兵にのみ向けるわけではない。
「現れたか。この場で仕留めてもよかったのだが、そうもいかないな」
 終焉破壊の騎士たるブリュンヒルデ・ブラウアメルは、その凄まじい力で以て認識した瞬間から敵を捕捉し、素早く燃やすほどの力を持っているが、強力すぎる力は民衆を巻き込んでしまいかねない。
 それに、この場に於いては、地面から盛り上がるようにして出現したシャドウウルフたちを退治するのが先決であろう。
 そう、それらはまさにエリクシルが撤退するのを見送る視線の脇から、恐慌状態に陥る民衆たちに襲い掛からんと、その身から生じる黒い棘を弾丸のようにまき散らそうとしていた。
 それを、
「終焉を破壊せよ、我が蒼き翼! 常闇の標準を以て黒き炎、万能の紫煙銃、自殺衝動を以て、その終焉に終焉を!」
 【|蒼翼の終焉破壊・闇の紫煙銃が穿つ残酷なる常闇《ブラウアフリューゲル・ダークポイント》】により、手元に出現した紫煙銃を構えるだけで、それは仕事を完了する。
 沸き立つ蒸気が色づいたかのように、黒い棘が空中で霧散する。
 加えて、周囲を囲うシャドウウルフたちの一団が彼女の視線だけで突如として発火し、黒い炎を上げて焼け落ちていく。
 その射線上、遮蔽物となるような市民があったとしても、それは無意味なことだった。
「何を透過し何を撃ち落とすかは我の裁量にある」
 そもそも銃で撃たずとも相手を燃やすパイロキネシスがある時点で引鉄を引く必要すらないのだが、物質を透過し、かつあらゆる方位に、かつ超連射可能な紫煙銃に不可能は無かった。
 そして極めつけは、シャドウウルフたちに突如として湧き上がる自殺衝動であった。
 絶対遵守の制約でも植え付けられたのか、ブリュンヒルデがその銃を手にして戦場に立ってからというもの、シャドウウルフたちは、その銃口が向けられるよりも前に自発的に発火し、自ら肉体を膨れ上がらせて自決に追い込んでいた。
 花のように散る、爆ぜるシャドウウルフたちは、包囲していた筈のブリュンヒルデに襲い掛かる間もなくその身を散らしていく。
 その中を悠然と歩くブリュンヒルデ。それはさながら、神話に語られるかのような戦女神であった。
「さぁ、刮目しろ。
 我はエンドブレイカー、終わりを終わらせる者の一人だ!」
 それはまさに神々の戯れのようであった。
 造物主が、戯れに、自らが象った生命を刈り取るかのように、或は、児戯の如く積み上げた積み木の塔をその瞬間こそ幸福であるかのように叩き崩すように、ブリュンヒルデはあらぬ方向に銃弾を放つ。
 民衆が居ようが居まいが、その銃弾は当てたいものにしか当たらず、あらゆる方向に撃ったところで運命を逆転したかのようにあらかじめ定められた着弾地点へと跳弾する。
 マズルフラッシュを真正面から見た民草の薄汚れた衣服や肉体を透過し、銃弾は何もないところを跳ね返り、かと思えば置きに行ったかのようにシャドウウルフの頭蓋を割り、その脳漿をぶちまける。
 その有様。凄惨さは、いくら負傷する戦士たちの日常に触れている下層市民とて、身を竦め恐怖するに十分なものであった。
 遅い。何をしている。
 慌てるでもなく、まして平静を取り繕わねばならないほどの感情の揺さぶりすらも起きないブリュンヒルデの口の端が舌を打つ音で歪みを生じる。
 だが、苛立ったところでしょうがない。
 超然たるエンドブレイカー、そして領主としての重責を担う自分と彼等とでは、実戦値も覚悟も異なるのである。
「戦士よ、避難誘導は任せる。
 貴殿らの瞳に映る悲劇の終焉は、我が破壊する!」
 彼等を𠮟咤し、騎士として厳しく振舞うことで、彼等に避難を促す。
 人が多い。ここで大技でも使えば、或はエリクシルをこの場で始末する事も不可能ではないかもしれないが、やはり民衆の中で出現し、魔物を呼び出したのはこれが狙いだったのか。
 なるほど、悪意を持って願いを歪めるだけあって、相手もなかなか考えているようだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

氷咲・雪菜(サポート)
 人間のサイキッカー×文豪、15歳の女です。
 普段の口調は「何となく丁寧(私、あなた、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」、
 独り言は「何となく元気ない(私、あなた、~さん、ね、よ、なの、かしら?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。

氷や雪が好きな女の子で、好きな季節は冬。
性格は明るく、フレンドリーで良く人に話しかける。
困っている人は放ってはおけない。
戦闘は主にブリザード・キャノンを使って戦う。
 あとはお任せ。宜しくお願いします!



 どちらかといえば、淀んでいるような空気だった。
 エンドブレイカーの都市国家は、狂暴なモンスターの侵入を防ぐべく、星霊建築魔術によって高い壁で囲われていた。
 言ってしまえば、この高い壁こそが安全の象徴でもあり、この壁に阻まれて風通しの悪い少し淀んだ空気こそが、この都市国家トラカロンの特徴でもあった。
 中と外とは壁で隔てられ、門で繋がっている。
 巨大な壁も万能ではなく、時にはモンスターの侵入を許すし、波のように押し寄せるモンスターの前にいつかは壊れてしまうかもしれない。
 そのために表に出向いてその数を減らす、もしくは外の恵みを持ち帰るために、都市国家の者たちは時に壁の外に出て戦いを繰り広げていた。
 だからこそ、モンスターの出現や怪我人など、その門の付近で暮らす下層市民にとっては日常に違いない筈だった。
「うわあ、影が、襲い掛かってくる!?」
 エリクシルが置き土産とばかりに残していったシャドウウルフの群れに、人々は混乱していた。
 既に幾人かの猟兵たちの戦いによってその数を減らしているものの、戦士ばかりではないこの場にシャドウウルフを退けられるほどの使い手はほとんどいない。
 過酷な世界だけに猟兵にも匹敵するほどの使い手もいるらしいエンドブレイカーだが、そこまでの使い手ばかりというわけでもない。普通の下層市民は脅威の前に無力だ。
 膨れ上がる影の狼のその毛並みが、ぐわっと牙を剥く。
 が、それが市民に食らいつくことはなかった。
「グオッ!?」
「狼はおねむの季節ですよ」
 腕に装着するタイプの大砲、ブリザードキャノンを構えた冬の装いの少女が、その砲口から白い煙を漂わせ、市民の前に立っていた。
 氷咲・雪菜(晴天の吹雪・f23461)のポーズは、筒状のお菓子の箱で遊んでいる訳ではなく、その名の通りに氷塊を撃ち出したキャノン砲は、今まさに嚙みつかんとしていたシャドウウルフの咬合を封じていた。
 厚手のセーターに口元を覆うようなマフラー。大きなニットから流れる長い髪が冷気に煽られてきらきらと雪解けのせせらぎのようにきらめく。
 冬とはいえ凍えるような寒さではないトラカロンには、あまり見かけないタイプの厚着であったが、雪国からやってきたようなその装いは、彼女の用いる冷気とよくマッチしているようにも見えた。
「オゴゴ……」
「仕留め損ねましたね。でも、今のうち」
 大口に氷塊を押し込められたシャドウウルフがよたよたとバランスを崩している間に、雪菜はユーベルコードの準備を終える。
 最初の一撃はあくまでも足止め。
 【絶氷双騎】によって組み上げられた氷の剣と、そして弓を携えた騎士たちを呼び寄せると、それらはあっという間にシャドウウルフを切り伏せ、壁のように立ちはだかった。
「さあ、こちらです。戦闘になるので、退避しましょう」
「す、すまん、助かった……!」
 二体の氷の騎士がシャドウウルフたちと戦っている隙に、雪菜は市民たちを誘導する。
 人命優先、といわれれば聞こえはいいが、
「実は、あの騎士たちを動かしている間は、戦えないんですよ。ですから、今のうちです」
 比類なき強さを誇る氷の騎士は雪菜本人に匹敵する戦闘力を持っているが、それだけに持っていかれるリソースが大きいらしい。
 しかしながら、役割を分けて本人は戦闘をこなさないと割り切ってしまえば使いようもある。
 はにかむように微笑んで誤魔化しつつ、しかし確実に防衛ラインを築きながら、雪菜はシャドウウルフを退治するのと市民の避難とを器用にこなしていくのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

上野・修介
※連携アドリブ歓迎
「推して参る」

調息、脱力、場と氣の流れを観据える。
周囲の市民と味方、敵の数と配置、地形状況を確認しつつ敵陣中央に向かって突貫。

丹田に氣を練りながらUC発動し自身を加速させ行動力を上昇。
UC範囲内の敵の『氣』の流れを阻害し行動を鈍化させる。

立ち回りは基本ヒット&ウェイ
敢えて敵に囲まれていることで同士討ちを警戒させて敵UCの使用を抑制。合間にアサルトペン投擲で牽制を入れつつ、懐から懐を移動するように常に動き回ってヘイトを自分に向けさせ市民を避難させつつ殲滅。

敵が同士討ち覚悟でUCを使用してきたら、丹田に貯めた氣を全身の経絡経穴から瞬間的に放出して爆風を相殺・軽減を試みる。



 ──ぬかった。
 赤い宝石のエリクシル。その強大な気配の出現と撤退は、鮮やかなものであった。
 それを距離を置いて見過ごすしかなかった上野修介は、口中で歯噛みする。
 エリクシルと少年の接触は避けられぬ展開とわかっていたのに、ほんのわずかだけ距離を開けた瞬間に、あっという間に連れ去られてしまった。
 むしろ、その一瞬のうちに少年ごと斬り伏せる勢いで飛び込んでいったあのミレナリィドールの思い切りのよさにこそ驚嘆したものだった。
 いや、あれは機械の精密性のなせる業だろうか。思慮に束縛されない、優先されるべき使命に則したが故の即応であろうか。
 武の頂というよりかは、機械的な対処に近いように思う。
 なんにせよ、少年は予知の通りに奪われてしまい、この人でごった返す門の付近には、多くの魔物が呼び出されてしまった。
 ぬかった。修介がそう思ってしまうのも無理はないことだ。
 だが、そこで取り乱している場合ではない。
 かっと熱くなる頭が、長年の修行のせいか、無理矢理にも警鐘と共に血の気が引いて精神を落ち着かせていくのがわかる。
 冷血になってはいけない。だが、激情に支配されてもいけない。
 心に燃える火を絶やしてはいけないが、心を燃やし尽くしては自滅してしまう。
 熱き武道の精神を全うするためには、常に冷たく燃え続けなくてはならない。
 不格好にならぬ程度に撫でつけた髪が、身の内に秘めた氣に呼応するかのように逆立つような感覚を得る。
 周囲に湧く野生の獣と遜色ない荒れ狂う気配を複数感じつつも、修介は呼吸を整える。
 調息。生きる上で、呼吸は欠かす事ができない。意識せずとも、人は呼吸を繰り返し循環を行っている。
 しかしながら、それを意識して行うことにより、心身をある程度整え、備えることができる。
 無意識の呼吸を文息、意識的に行う呼吸を半文息。そして、調息とともに心身をリラックス、脱力と収縮、日常から肉体を戦いの為に引き上げる意識呼吸。それを武息とも呼ぶ。
 爪を噛むこと、素数を数える事。意識や肉体の調整を行うために行うルーチンはいくつかあるが、修介は呼吸法を用いて自らを切り替えるスイッチとして、また冷静さを保つ手段としても用いる。
 下半身の筋肉を締め上げる様にして丹田に氣を溜め、意識呼吸を繰り返すうちに周囲に意識を巡らせれば、見えてくるものもある。
 逃げ惑い、或は固まって動けなくなる市民、味方、敵それらの数や位置、地形。それらが、自然と合一したかのように氣の流れとして観えてくる。
 目を通じて世界と繋がっている。肌を通じて世界と繋がっている。足を通じて根を張ったかのように世界と繋がっている。
 それは錯覚かもしれないし、意識を広げた精神集中のなせる業なのかもしれない。
 そして必然を成すかのように、修介は地に根を張ったかのような足を踏み出す。
「推して参る」
 とんっと蹴り出す足は、当たり前に根を張っている訳も無く、鍛えて太くなった骨と鍛えて身に着けた筋肉を伴って尚、滑るように身体を飛ばし、敵中へと身を躍らせた。
 氣を満たし、氣を呑む。【周天、或いは圏境】を得た修介は、自身の周囲に満ちる氣と合一、それを自身のものとする。
 正確には、自身で発する氣で流れを操作するのだが、集中し意識を広げた修介は、まるでこの戦地を俯瞰するかのように周囲の状況を感じ取っていた。
 自身の周囲に川の流れでもあるかのように、その流れに乗るように拳を突き出し影のような狼の鼻先を殴りつける。
 芯をとらえる必要はない。正中線はあくまでも支点。鼻先というか顎とその支点を通じ対象にある位置にあるのは脳である。
 ぐらりとシャドウウルフの巨体が揺れる。勢いを殺さぬままその牙を、爪を繰り出さんとするままに修介の脇をすり抜けて転げまわる。
 その動きの差が、あまりにも大きい。まるで、激流に身を任せる優美さと、逆らって身を固くするかのように。
 氣の流れを得た修介は、活性と阻害を駆使し、自らを加速させ、逆に相手を鈍化させていた。
 敵中に敢えて身を投じたのは、彼の掌握できる気の流れがあくまでも自身を中心とした範囲であるからであった。
「フンッ」
 襲い掛かる狼に手刀を叩き込みつつ勢いのまま放り投げると、別のシャドウウルフと激突する。
 敵に囲まれることで、自らに的を絞らせると見せかけ、同士討ちを警戒し統制が乱れるのを狙っていた。
 いや、はなから連中に統制など無いのか、本来は群れる筈の狼たちは、同士討ちも構わずその影の体毛を奮い立たせて棘のようにして撃ちつけようとしているようだった。
「させんっ」
 しかし修介はただの格闘喧嘩好きの青年ではない。距離を外しての遠隔攻撃が来ると判断するや、胸ポケットに忍ばせた対UDC用アサルトペンを抜きざまに投げつける。
 正体不明のUDCにも効果を発揮する詠唱紋が施されたペン先が突き刺さり、怯む形となったシャドウウルフへと素早く踏み込み、掌を喉笛に打ち込む。
 拳は固めることで硬度を得た打撃を繰り出すが、掌は衝撃を相殺し、尺骨から運動エネルギーを相手の内部に打ち込むことができる。
 ぐしゃりと咽頭の奥、頚椎が砕ける音がした。
 集団戦の基本は、なるべく一撃で敵を倒す事だが、逆に一撃で沈めたことが彼等の決意を固めさせたらしい。
 犠牲を払ってでも、修介を倒そうと複数のシャドウウルフが影の棘を放ってきたのが感じ取れた。
 それらが炸裂したら、周囲の逃げ遅れた市民まで巻き込んでしまいかねない。
 だが、幸いにも自分を狙ったそれらは、掌握する氣の範囲内である。
「──哈ァッ!」
 気合一閃、丹田に溜め込んだ氣を放出し、炸裂させることで、影の棘を押し上げて空中で相殺させる。
 上空で幾つか影が爆発する気配がしたが、そんなものに意識を向ける間もなく、修介は一瞬で残るシャドウウルフの懐に潜り込み一撃をくれてやる。
 懐から懐へと素早く移動し、空を裂くような貫手。上体を捻るようにして勢いを入れたソバット。全身で錐もみを打つような絡みつきからの首関節の破壊。
 ビクンと体を震わせるシャドウウルフに油断なく、真上から弓引くような拳を叩き込もうとして、それがもう絶命していることを確認してから大きく息をつく。
「怪我人は──よし」
 そうして周囲を見やると、ようやく修介は立ち上がり、荒れ狂うような獣の気配が無い事に満足したように駆け出す。
 戦いの高ぶりを、もはやこの場所には感じないが。
 しかし、まだ本当の決着はついていない。まだ、最大の敵が残っているからだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『鮮血の女王』

POW   :    鮮血光線
【王冠のエリクシル】からレベルmまでの直線上に「神殺しの【真紅の光】」を放つ。自身よりレベルが高い敵には2倍ダメージ。
SPD   :    エリクシルの女王
【エリクシルの輝き】を纏った真の姿に変身する。変身中は負傷・疲労・致命傷の影響を一切受けず、効果終了後に受ける。
WIZ   :    願われし力
【完全なる肉体を持つエリクシルの女王】に変身する。変身後の強さは自身の持つ【願望宝石エリクシルの数×大きさ】に比例し、[願望宝石エリクシルの数×大きさ]が損なわれると急速に弱体化する。

イラスト:Shionty

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 なんてこと!
 透き通るような宝石色の瞳の奥を、貪欲な炎が少年を睨みつけていた。
 怯えと恐怖を抱きながらも、エリクシルに拉致され、エリクシルの力の源とも言える願いを抱いた少年は、しかし、恐慌状態に陥っているというわけではなかった。
 戦いを好まず、優しい気性を捨てきれないままでありながら、向かないながらも戦士として戦いに出るべく、剣の稽古を受けていたアル少年は、命の危険に面しているこの状況にあっても激しく取り乱す事はなく、束縛するエリクシル、鮮血の女王の赤い髪から逃れようともがいていた。
 それが、無表情の奥で、無性に気に食わなかった。
『そんなに恐れる事はないのです。あなたは、平和を願うだけでいいのですよ』
「こんなのが……平和なもんか! 僕が望む平和は……僕が願うものは……!」
 もがく少年を締め上げるのは容易い。むしろ、今は黙らせておくのがいいとすら思ってしまう。
 なぜだ。純粋な平和の願いには変わらぬ筈なのに。女王は、思うように力が得られていない事に疑問を禁じ得ない。
 何かが彼の意識変えたのか。だとすれば、それはいったい何なのか。
「少年を離せ、紛い物め!」
 ひと気のない路地裏に、雷光のような剣閃がひらめく。
 その名の通りの浅葱色の髪をなびかせる侍が、少年の拘束を切り払った。
『お前如きに紛い物呼ばわりされる謂れはなくてよ。……そう、貴女が少年を誑かしたというのですね』
「拐かしておいて、誑かしたとは聞こえが悪いのはどちらか……」
 アサギが言い終えるより前に、女王の冠のような願望宝石から深紅の光線が放たれ、咄嗟に少年を庇ったアサギは防御もままならず、壁に撃ちつけられてしまう。
 少年を胸に抱いたまま地面に崩れ落ちるアサギは、しかし震える手で刀を向けたまま不敵に笑う。
「滑稽だな。あらゆる願いを聞き入れる万能の宝石でも、人の気持ちは理解できぬと見える。だから、貴様こそ紛い物なのだ」
『……お前……!』
 膨れ上がる気配。
 しかし、再び彼女に攻撃を加える前に、複数の気配がこの場に集っている事に気が付く。
「アル、立てるな。戦いの邪魔にならぬよう、下がっていろ」
「でもアサギ……わ、わかった」
 顔面にヒビの奔ったアサギを見つめるアル少年の表情は悲痛そのものだったが、傷ついて尚、戦おうとするアサギを止めようとはしなかった。
 少年はもはや、平和がただで手に入るとは思ってはおらず、また戦わずして手にすることができないことも知ってしまった。
 願う事だけでは叶わず、戦いを放棄しては叶わない事を、もはや知ってしまった。
 平和を掴み取る為の意志。
 その助けの為に力を振るう事。それを使命とする者を、誰が止めることができるだろうか。
『どうやら、あなたの意志を挫くには、もう少しスッキリさせなくてはならないようですね。そうして改めて、願っていただきましょう。人も争いも無い、平和な世界を』
ユリウス・リウィウス
言いたいことは宝石の姐ちゃんが全部言ってくれたな。
所詮おまえは、人の心を解さぬ化物に過ぎん。この場で討滅してやるよ。

亡霊騎士団、喚起。こっちもいつまででも戦い続けられる軍勢だぜ?
「集団戦術」で、亡霊騎士団を指揮。さあ、一人一撃でいい。生首に斬りかかり、突き刺し、傷を増やせ。反撃されても、屍人に痛覚はねぇぞ。倒されても、また喚び出せる。

アサギだったか、姐ちゃん。まだ戦えるなら、俺の手のものを好きに利用して、一撃くれてやりな。
俺も全部屍人任せはつまらんと思ってたところだ。
生首が屍人に気を取られている間に、死角に回って「生命力吸収」「精神攻撃」の双剣を叩き込もう。

人の願いを喰らう化物に居場所はない。



 いかなる美術品とて、その美しさは完成してから失われていく一方である。
 美術品が美術品として完成したまま時が過ぎるというのは、それはすなわち平和の証であろう。
 天災であれ、人災であれ、平和はそれほど長く続きはしない。
 そして、この世に不変のものなど、そうありはしないのだ。
 全ての形あるものは、それ即ち、崩壊の渦中にあるといっても過言ではないのかもしれない。
 ならば、未来へ向かって足掻く者たちは。この現実を今、今と肌に感じ、躍動する者達は。
 崩れる壁の礫片。それを振りほどくように、ミレナリィドールは足を踏ん張る。
 義足が軋み、足腰が軋み、手足が軋む。
 罅割れた頬骨から半透明の液状宝石が流れ出し、虹の光沢を帯びる血液にも等しいそれが溢れる程、その活動時間は制限されていく。
 それでも斃れるには早い。
 まだ百と余年。たかだかそれしきを戦い抜いたにすぎぬ。
 生れ落ちた恩義、人と共に生きた恩義を、この空虚な人形はただ思い、赴くままに稼働する限り贖わねばならないのだ。
『その有様では、勝負にならないでしょう。それとも、お前も願ってみますか?』
「試してみればいい。この身に願いが本当に生じているのならばな」
 ふらつくような足取りで踏み込むアサギ。
 それをあざ笑うかのように、宙に浮く生首。鮮血の女王はふわりと後退し、その一撃を難なく躱す。
 それはもはや勝負と言えるものではない。やろうと思えば、一息にアサギを行動不能に追いやる事も容易いだろう。
 しかしながら、エリクシルは考える。この場に於いては、アル少年の頼りは彼女だけだ。
 あっけなくアサギが倒れたところで、当初目論んだほどの願いの力が設けられるとは思えなかった。
 少年の何かはもう変わってしまった。
 ならば、もう一度気が変わるように、目の前でアサギを嬲ってしまうのはどうだろうか。
 そのあどけない口元に残虐な笑みを浮かべたところで、ふと鮮血の女王はその身に引っかかりを覚えた。
『……? 髪が』
 見れば、地をこする程の長い髪を、何者かに掴まれていた。
 路地裏の物陰から這いずるように伸びるそれは、人骨。やけにきれいに乾いた白骨死体の上半身が、むんずとエリクシルの髪を掴んで離さなかった。
「──何か、気の利いたセリフで助けに入ろうと思ってたんだがな」
 そして、暗がりの奥から重々しい甲冑の踏みしめる音。
 音、音。古ぼけた具足を引きずる者達の足音を引き連れ、双剣を携えるのは、ユリウス・リウィウス。
「言いたいことは宝石の姐ちゃんが全部言ってくれたな。
 所詮おまえは、人の心を解さぬ化物に過ぎん。この場で討滅してやるよ」
『この無礼者たちを呼び込んだのは、お前ですね』
 ざわざわと、あちこちの物陰や、ユリウス自身の影、あるいは魔法陣を通じて、【亡霊騎士団】は這い出てくる。
 その様子に鮮血の女王は焦りを見せるでもなく、面倒そうに嘆息し、自らの髪を縒り合わせるようにして、首から下の肉体を構築せしめる。
『現段階では心もとないですが、これしきの下賤を払う程度ならば、訳はない』
「強気だな。あまり死人を嘗めない方がいい。こっちもいつまででも戦い続けられる軍勢だぜ?」
『試してごらんなさい』
 真の姿を露にした鮮血の女王は、幼い見た目に関わらず、その力は圧倒的であった。
 腕を払う動作のみで、けしかけられた骸骨やゾンビを蹴散らす。
 それはそれで恐ろしい力であった。が、百体を超えるアンデッドの群れ全てをひと薙ぎで振り払える範囲は持っていなかった。
「大したパワーだが、我慢比べならこちらも慣れっこだ。少しずつでも削っていけ!」
 胴を裂かれ、首を消し飛ばされても、アンデッドは動きを止めない。錆びた剣の一撃、それが届かずとも、崩れかかった指の、爪の先。
 完璧で傷つかぬ筈の万能宝石の女王とて、その姿は完璧ではない。
『お下がり、みっともない!』
 その爪が、指が、腕が、次第に絡みつき、削りもぎ、傷をつけていく。
「アサギだったか、姐ちゃん。まだ戦えるなら、俺の手のものを好きに利用して、一撃くれてやりな。
 俺も全部屍人任せはつまらんと思ってたところだ」
「お節介だな。が、報いねばなるまい!」
 アンデッドの猛攻を前に呆気に取られていたアサギに声をかけ、ユリウスもまた双剣を手に、人ごみに分け入る。
 腐臭のするアンデッドの群れをそのまま突っ切るのではいかにも効率が悪い。
 そう判断したらしいアサギは、群れるアンデッドの上に乗って重さを感じさせないような踏み込みを見せる。
「そのまやかし、いつまでもつかな!」
『お前如きが、近づくな』
 体重を乗せた渾身の突きだったが、エリクシルの身体から枝葉のように伸ばした宝石の柱に阻まれてしまう。
 だが、その一瞬で十分だった。
 アンデッド、そしてアサギのよく目立つ一撃。それに気を取られている間、ユリウスは背後に回り込んで、その双剣を突き立てていた。
 血肉を、魂を啜る一対の魔剣。
「人の願いを喰らう化物に、居場所は無い」
『ぐううっ!?』
 幼い人の肉体を模した体が無数の亀裂と共にはじけ飛ぶ。
 再び首だけとなった女王の、その宝石の冠に大きく罅が奔っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ブリュンヒルデ・ブラウアメル
そこまでだ
触れ合う人が存在せず、誰かと認め合いながら競い合う事も出来ない世界を創り出すというなら…
この我、エンドブレイカーにして猟兵…蒼翼羽剣ブラウグラムの元首、ブリュンヒルデ・ブラウアメルがその終焉を破壊する!

瞬間、チョコ色の希少植物を二つ取り出し、一つはアサギに施し、もう一つは地面に植える
これより、我が蒼き翼が貴様の思い描いた終焉を破壊する!
アサギは希少植物によって回復し、もう一つの希少植物はドラゴンと化す!
往くぞ!
そのドラゴンの背中に乗って『蒼翼羽剣ブラウグラム』を振るい、エリクシルを叩き切る!
終焉を破壊せよ、我が蒼き翼!
戦いという人の本質の一部が根絶せし終焉…
その終焉に終焉を!



 ごう、と風が吹く。
 人通りのない湿った空気を吹き飛ばすかのような乾いた風は、屍たちの腐臭を吹き飛ばし、陰鬱とした空気を入れ替える。
「そこまでだ!」
 打ち合う宝石と宝石。
 アサギとエリクシルの怪物、鮮血の女王の生首とがぶつかり合う中で、周囲は破壊の痕跡で荒れていた。
 そこへ一陣の風の如く声が通る。
 ブリュンヒルデ・ブラウアメルの威風堂々たる立ち姿が、その生き様を示すかのように影を伸ばし、その戦いの行方に待ったをかける。
 傷だらけのアサギは、恐らく何年もセルフメンテすらしていない。
 その状態で戦い続けることも無謀だが、エリクシルと一人で戦うのはもっと無謀だ。
 目に見えた悲劇的な結末。それを、エンドブレイカーたるブリュンヒルデは捨て置く事などできない。
「触れ合う人が存在せず、誰かと認め合いながら競い合う事も出来ない世界を創り出すというなら……。
 この我、エンドブレイカーにして猟兵……蒼翼羽剣ブラウグラムの元首、ブリュンヒルデ・ブラウアメルがその終焉を破壊する!」
 声高に名乗り上げ、輝剣を掲げる姿はまさしく一国の主たる威厳のあるものに違いあるまい。
 どうでもいいが、国家元首が率先して前線に出るのはデメリットのほうが多そうだが、英雄は得てして危険を好むものである。
 こまけぇことは突っ込んではいけない。
 こうしてわざわざ大声で名乗りを上げるのも、不退転の意志と、そして勝利を確信したからこそであろう。
 そうでなければ、みすみす相手に不要な情報をただで与えているようなものだ。
 こうまでしたからには、ここで仕留めておかねばなるまい。
 ゆえに、ブリュンヒルデは最初から全力で相手を引き潰す所存であった。
 その手には、くすんだ焦げ茶色の果実。もっと言えばチョコレートによく似た色合いの果実が握られていた。
 【|蒼翼の終焉破壊・甘き竜菓は不死を以て履行する《ブラウアフリューゲル・メロディア・フルーツ》】によって生み出された希少植物メロディア・フルーツは、その果肉に極上のショコラティエをも唸らせるチョコ味であるほか、その実を一口食べれば瞬く間に傷を癒すという。
「これを!」
「む、かたじけない!」
 二つ用意した果実の一つをアサギに、もう一つを地面に植えると、アサギの負傷は見る見るうちに修復し、地に埋めた果実はみるみる内に芽吹いて育つ。
 だが、完全に育つには10秒を要する。
『どうやら、それを放っておくわけにはいかないようですね』
「そうはいかぬ」
 希少植物が十分に育つ危険性を察知した鮮血の女王が、その王冠からふたたびレーザーを放とうとするが、回復したアサギがそれを阻止すべく、刀で斬りかかる。
 狙いを逸らされた光線が壁を焼き、その光跡が空を焼く。
 舞い散る瓦礫。降り注ぐ粉塵。
 その中で仁王立ちするブリュンヒルデの足元に、それはようやっと成った。
『グオオオッ!!』
 蒼い鱗のドラゴンが、その果実より成長し、成ると、ブリュンヒルデはその背に跨り再び、剣を掲げる。
「これより、我が蒼き翼が貴様の思い描いた終焉を破壊する!
 往くぞ!」
『猪口才な。もう一度!』
「終焉を破壊せよ、我が蒼き翼!
 戦いという人の本質の一部が根絶せし終焉……。
 その終焉に終焉を!」
 神をも屠るという、エリクシルの深紅の輝きが再び収束し、今度こそブリュンヒルデに狙いを定める。
 正面からぶつかり合えば、直撃は不可避だが、それでも国家元首の証たる『蒼翼羽剣ブラウグラム』を手にしたブリュンヒルデは、負けるわけにはいかなかった。
 ドラゴンの巨大質量。それを一身に乗せた蒼い聖剣の一撃と、赤い光線とがかち合う。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ラムダ・ツァオ(サポート)
ラムダよ、よろしく。
相手が強いのなら、削れる機会は逃さず、相手に隙は見せず、
長期戦を覚悟して着実に狙うのがいいわね。
勿論、隙があれば見逃したくないけど。
見切ったり足には自信があるけど、過信せずに落ち着いて戦況を見極めるわ。

行動指針としては以下の3通りが主。
1.囮役としてボスの注意を引き付け、味方の攻撃を当てやすくする。
2.ボスの移動手段→攻撃手段の優先順で奪っていく。
3.仕留められそうな場合は積極的に仕留めに行く。
 (他に仕留めたい人がいればその手助け)

台詞回しや立ち位置などは無理のない範囲でご随意に。
ユーベルコードは状況に応じて使い分けます。
アドリブ・連携歓迎



 人の気配のない、いわば、少年が連れ込まれるためにはおあつらえ向きな路地裏は、もはやその用を成さない様相と化していた。
 日陰者が逃げ込む様な薄暗さは、かの少年を連れ込んだ張本人であるエリクシルの怪物、鮮血の女王の激しい攻撃によって城壁とその他の建物の頑丈な壁面を破壊し、また彼女自身も激しい戦闘によってダメージを追っている。
 瓦礫と、彼女の真の姿とも言うべき肉体を模した残滓が宝石の欠片と飛び散り、周囲にはぱらぱらと小気味よい乾いた音が鳴り響く。
『もう少し容易い相手を選ぶべきでしたか。いいや、純粋な者にこそ、強い願いは宿りやすい。わたくしは間違えていない筈』
 万能宝石に焦りというものはない。ただ、そこに誤りが無いかと言われれば……それは本人が決める事ではない。
 であるならば、猟兵というイレギュラーの存在に阻まれさえしなければ、この状況も間違いではなかったはずである。
 間違いなど無い。
 誤りがあるとすれば、自分以外の何者かが、少年の願いを歪めてしまったという事。
 正さねばならない。
 エリクシル本体が捻じ曲げる願いはあったとしても、請け負った願いが歪められるのは辛抱ならぬ。
 もっと、強い願いを抱かせねば。
 その見向きは、自然と願いを抱く少年の方に向かう。
 エンドブレイカーの世界に生じるエリクシルは、その世界の枠を超えつつあるが、それでも一度狙いを定めた者に、どうしても惹かれてしまう。
 だが、どうしたことか。
 肝心の少年の姿が見られない。
 追いかけてきたあのミレナリィドールが逃がしたのだろうか。
 いいや、近くであるはずだ。
 願いで繋がる鮮血の女王は、それであるからこそ少年から狙いを逸らす事ができない。
 その願いを歪めて叶えねばならないからだ。
 この近くに居るのには間違いないはずなのに、この戦闘の最中、あろうことか、少年の姿を見失ってしまう。
「──あら、何かお探し?」
『……何者ですか』
 それは影から生じたように見えた。
 丸い色眼鏡。褐色に黒髪のエルフ。弾むように軽やかな足取りは、物陰から今しがた姿を現したようにも見えるし、あまりの存在感の希薄さから、最初からそこに居たようにも感じられた。
「通りすがりの影。まあ、そうね。仕事をしに、通りかかったという訳」
 ラムダ・ツァオ(影・f00001)は、肩を竦めつつ、首をかしげるようにしてサングラス越しに鮮血の女王を見つめる。
 敢えて隙を晒すかのようにも見える仕草であったが、それらは全て彼女の撒いた欺瞞。
 強敵を相手に、真正面から喧嘩を吹っ掛けるような真似を、彼女はまずしない。
 たとえ、そのような状況になるとしても、事前準備を欠かさないスタイルである。
 であるならば、この状況こそが既にラムダの術中であった。
『そう。では、お前が、少年を隠したのですね』
 生首そのものであった鮮血の女王に、周囲の宝石片が収束し少女の身体を象ると、その手の内より生じた風圧が深紅の飛沫のような色を帯びて、ラムダへと襲い掛かる。
 凄まじい早業。その衝撃波をラムダはまともに受け、その身体を両断……されたかに見えた。
「驚いた……首だけなのかと思ってたわ」
『くっ……やはり、まやかしですか!』
 ぽつぽつとこぼれる水の雫を残しながら、ラムダはその姿を隠したまま素早く背後へと回り込み、構築の甘い宝石の胴体を切り裂いていた。
 その手に握られる黒塗りの刃には、鮮血が滲んでいる。
 エリクシルの身体から出るそれではない。
 【血襖斬り】は、血液を迷彩や隠れ蓑にすることができる。
 この戦場には既に、影のような存在感を用いたラムダの手が入っていた。具体的には、その血をばら撒き、いつでも戦いに利用できるように。
「まあ、自分の血を使う必要はないんだけど……まあ、戦うからには、自分の身を削らなくてはね。それで、あなたそれ、何本目の首なのかしら?」
『首は生まれてから一つしかございませんわ』

成功 🔵​🔵​🔴​

上野・修介
少年の眼差しに確かな意志を感じる。
もう彼に対して言葉は不要だろう。

ならばあとはただ行く路塞ぐ無粋な石を砕くだけだ。

――為すべきを定め、水鏡に入る

己と戦場と氣の流れを観据える。
周囲の地形状況、敵との距離、少年と剣士との位置関係を確認。

敵UCによる光線は脅威だが直線的。
視線と殺気、氣の流れとエリクシルの向きから射線と発射予測と、TCペン投擲による牽制と体幹操作と重心移動によるフェイントで射線誘導によって被弾回避して間合いを殺す。

そして懐に飛び込む勢いを拳に乗せて一撃。
さらに密着させた拳から相手の氣の流れを読み、寸勁の要領で全関節を螺旋による勁を透して流し込んだ自身の氣を起爆させる。

「爆ぜて消えろ」



 エリクシル。その歴史を紐解くことは難しいが、それがかつての戦いの中で最大限の脅威とは言わぬまでも、尋常ならざる代物である事は確かであった。
 願いを叶える万能宝石。それが意思あるものにとって脅威でない筈がない。
 その力はまさに万能。ただし、彼らそのものは邪悪であると言わざるを得ない。
 自然も、その化身である妖精や精霊といった存在も、決して人間を基準に生きているわけではない。
 大いなる力を持ちながら、その力の向かう先は自然の赴くままであり、時として人に対し牙を剥く。
 仮に、その超自然と心通わせることができるのならば、それは強大な力となるであろう。
 妖精や精霊と言った存在が、その気性に気難しいものを持っていたり、いたずら好きであったりするのは、自然のあるがままの特性そのままなのであろう。
 それらと同じに見るには、エリクシルという存在は、あまりにも邪悪に傾いている。
 人の願いを邪に捉え、滅びへと導くそれはまるで、猟兵たちにとってよくよく見知った存在に似ていた。
「ぬう……折れたか!」
『お前とわたくしとでは、物が違うのです。そのような金属疲労甚だしい刃物で、抗えるとでも思ったのですか?』
 願いを抱いた少年アルを守るように戦っていたミレナリィドールが、その手に握った刀を無念そうに見つめる。
 幾多の戦場を駆けてきた刀は、力任せに竹を裂いたかのような亀裂が生じ、その切っ先は折れて砕けていた。
 刀が折れる事など珍しくもないが、なんとも悪いタイミングで限界が来てしまったらしい。
 もはやこれまでと潔く倒れてやるつもりはないアサギであったが、しかし刀が無くては本来の力も発揮できない。
 それでも折れた刀を構え直すアサギの後ろに控えるアル少年は、希望を失っていないようだった。
 そこへ、
「でいやっ……!」
 路地裏の建物を乗り越えてやってきたかのように、男が一人、石畳を踏み割るようにしてエリクシルとミレナリィドールとの合間に割って入る。
 頬傷に甲冑を思わせるほど隆起した硬質な筋肉。
 ゆっくりと立ち上がり、周囲を見渡すその表情に喜怒哀楽はほとんど見受けられないが、鋭い眼差しが交差するアル少年は、戸惑いを見せたものの怖れは無いように見えた。
 頑張って柔和に話しかけたときの心優しい気性のアル少年の瞳には、強い意志が感じられる。
 もう、彼は大丈夫だ。
 普段から言葉少なな上野修介は、一瞬だけ瞑目し、反対側に視線をずらせば、それはもう戦う者の目であった。
「ならばあとは、ただ行く路塞ぐ無粋な石を砕くだけだ」
『この女王を指して、路傍の石と言いましたか……命知らずですね』
 見据えた鮮血の女王の気配が、爆発的に大きくなったような感覚。
 この場に足を踏み入れた時、既に修介の心意気は水鏡に入っていた。
 熱くなり過ぎず、冷たくなり過ぎず。この場の空気に混じる砂粒一粒をも逃さぬような周囲をとらえる集中力を、平静のままに受け止める。
 目で見るのみでなく、矯めつ眇めつ全身で視る。それはやがて、周囲に感じる空気から今という現象を観測する観点に至る。
 輝く。エリクシルの女王が、その宝石で出来た冠に光を収束する。
 その速度は実に地球を秒間七周半するそれだが、収束する光が撃ち込まれるとして、それは直線に過ぎないはず。
 光を屈折させることは難しくないが、光を曲げる事は難しい。それこそ、膨大な質量を伴う重力操作でもない限り、光線が曲がって飛ぶこと自体、ロスが大きい。
 では直進するとして、それは一つか。狙いはどこか。いつ来るか、いつ来るか。
 視線と殺気、それらを観、読み、氣の流れを感じ、修介は身を沈ませるようにして半身開脚、前進し、斜め前に身体を沈めて殺人光線の射角から外れる。
『ッ!?』
 上背のある男が、一瞬にして身を沈め、地を嘗める様にして踏み込んでくる奇怪な加速に舌を巻く鮮血の女王だが、その対応は早く、すかさず第二射を下方に向けるが、
 その時にはもう、軸をずらして移動していた。そして、視線を躱し様、アサルトペンを投擲し、その目の前には鋭いペン先が迫り、視線を遮っていた。
 直進から周囲を回るような円の踏み込み。
 例えるならば、槍を突き出すような武器術から転じた形意拳から、円環を踏むような八卦掌の立ち回りにスイッチするかのように、巧みなフェイント。
 鍛え上げられた体幹と重心移動の妙こそが、それを可能にしていた。
 直線は最短。しかし、それをいなす理が、武術には存在するのだ。
 拳を合わせずとも、降りかかる攻撃の種類を正しく分別し、対処する術は必ず存在する。
 膨大に積み上げられた武術の理が、その答えを必然的に導く。
 最短と最速。まさしく光の速さで繰り出されるエリクシルの光線と、修介の体捌きは、比べるべくもない。
 にもかかわらず、わずかな交錯を経た次の瞬間には、修介はエリクシルの赤い光線を掻い潜り、その懐にまで踏み込んでいた。
 線から円、円から線。シームレスで繋ぎ合わせた武の理は、その周囲に氣の流れを感じる程に、またそこに氣を【――注ぎ、廻らす】程に素早く、肉体に覚え込ませた筋道を導き出していた。
 吸い込まれるように打ち込まれる拳。
 踏み込み、繰り出す。体重、足腰から上半身のスイング、それらに乗せた筋力。全てが綺麗に纏まり、水流に乗るかのような拳の一撃が、鮮血の女王の王冠を穿ち、砕いた。
『が、ああ!?』
 いや、完璧に砕くにはまだ浅い。
 会心の一発。の上に、相手の抵抗を感じる。それは気の流れが、完全に打ちぬいていない事を示していた。
 空いた手を使うか。いや──、
「爆ぜて消えろ」
 打ち込んだ縦拳。伸びきっていない関節。それらを最大限に動員し、瞬間的に捻り込み押し込むことで、寸勁の要領で気力を流し込むことで起爆。
 捩じり、関節の稼働による纏糸勁。それにより、今度こそ鮮血の女王。その生首は完膚なきまでに弾け飛んだ。
『なんという……しかし、人が生きる限り、願いは……絶えず』
 その声が、赤い宝石が、千々と砕けて風と消えるまで、修介は拳を突き出したまま睨みつけていたが、やがて恐ろしい気配は消えていた。
 土埃の立つ静寂が、風の吹き荒ぶ音で消えてなくなる。
 そんな中で、大きく息をついて、咽そうになりながら修介は緊張を解いた。
 様々な意味で周囲に気を配りながらの戦いは、文字通りの気疲れを起こすようだった。
「アサギ、大丈夫?」
「剣を折られただけだ。また鍛えればいい。拙者も、アルもな」
「うん……僕が、僕たちが掴み取らないと、きっと平和は逃げていくんだ。
 だから、明日も、その次の日も、僕に剣を教えて!」
 どれだけ平和になろうとも、恐らくはこの世界から戦いが絶える日は無い。
 どのような形であっても、人は争う心を持たずにはいられない。
 争いの無い平和は、あくまでもその通過点に過ぎず、目標であり続けるのだろう。
 それが誰かに欲する願いでなく、自分自身の目標としての願いに変わった事が、彼等の瞳に強い意志を宿らせているのかもしれない。
 握りしめた拳には、まだ熱いものが残っている。
 見つめる人々の眩しいばかりの願いに目を細めつつ、修介は静かに踵を返すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年12月12日


挿絵イラスト