あの闇を彷徨う者の忘れ形見を
●
――嗚呼、喧噪が騒がしい。
無数の銃撃音。
空中からの爆撃音。
上官からの号令。
そしてオレを見送ってくれた……家族。
『嗚呼、故郷で待つあの子達を守る為にも、『戦争』は、終わらせなきゃなぁ……』
――プカリ、プカリ。
煙管に詰めた合法阿片を美味そうに吸い、銃剣を軽々と担いだ男が笑いながら、帝都に姿を現す。
その『戦場』を見渡しながら、腰にサーベルを携える『兵士』達に向けて命令を下した。
『良いか、手前等。戦場では生き残った者が勝者だ。御上の建前、大義、そんな下らないものの為に命を落とす必要なんぞねぇ。只、己が家族を、恋人を、身近な友人達を、故郷を思い出せ! 此の戦争に勝利することで、自分達が帰る事の出来る場所を守れる事を忘れるな! 其の為にも、戦い……生き残れ!』
『敵兵』……否、帝都の一角の住民達が悲鳴を上げるのにも構わず、男がそう命令を下し。
『おお!」
其れに端正な顔立ちをした兵士達が一斉に応える怒号が、帝都の一角の大気を震わせ、土地を朱色に染め上げた。
●
「……此のタイミングで大義を携えた兵士達が影朧と化して黄泉還る、とはな……」
グリモアベースの片隅で。
双眸を閉ざしていた北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)が小さく呟き、ゆっくりと双眸を開いていく。
漆黒の瞳を蒼穹に染め上げた優希斗が、自らの周囲に集まった猟兵達の姿を見て、皆、と小さく囁きかけた。
「帝都の一角に、今の恒久的な平和が訪れるよりも前に起きた大戦で散っていった兵士達が影朧と化して襲撃する事件が見えたよ」
そう重々しく呟いて、そっと溜息を1つ漏らす優希斗。
「どうやら、此の帝都の一角に住む、とある少女のご先祖様らしい。其の少女の名前は、カスミ、と言うらしい」
その少女達の住む一角を、その影朧達は『戦場』と判断しているらしい。
幸いにも彼等がその土地に突入するよりも僅かに前のタイミングで、現場には向かうことは出来そうだ。
「其処で皆には、カスミと言うこの帝都の一角に居る人物に接触し、現れる影朧についての情報を収集して欲しい。只……もう1点、気になることがある。それは……」
現状として、カスミの先祖であるその大戦中に戦死した将官とその配下達は未だ、この地区に姿を現していない。
つまり、今まで通りの平穏な帝都での生活を享受している、と言う事だ。
「帝都桜學府には予め通達はしておいたが、だからと言って直ぐに動かせる戦力があるとも限らない。だから、カスミを見つけてご先祖様の過去や経歴を聞き取るその間に、一般人を守れる様、予め予防策を打っておいて欲しいんだ」
その対処の方法によって、実際に影朧達が『戦場』に辿り着いた時の戦いの枷がある程度は緩和されるであろうと優希斗は続ける。
「影朧が現れる直前に予知出来たのは、不幸中の幸いだと正直、思っている。また、此の影朧達は、自分達が死んでいるという事実を認識できていない。彼等を転生させるにせよ、撃破するにせよある程度の納得が無ければ、彼等を止めることは出来ないだろう。どうか皆、宜しく頼む」
その優希斗の言の葉と、共に。
グリモアベース内に蒼穹の風が吹き荒れて……猟兵達が姿を消した。
長野聖夜
――全ては、己が家族と、御国の大義の為に。
いつも大変お世話になっております。
長野聖夜です。
サクラミラージュのグリモアエフェクトシナリオをお送り致します。
今回の帝都の一角の都市については、下記の様な状況です。
都市の規模:小規模。幻朧桜に覆われた、一般的に『町』と呼ばれる場所を想定すれば大丈夫です。但し、中央に幻朧桜に包まれた公園があります。
在住人数:数百人。
*フェアリーランドの様な収容系、ユーベルコヲドで、全員を収容したり避難させたりは無理です。但し、一種の安全地帯を作成することは出来るかも知れません。
第2章以降の条件は、第1章の判定の結果で変動します。基本的には『防衛戦』を意識して頂くと良いかもしれません。
第1章プレイング受付期間及びリプレイ執筆期間は下記となります。
プレイング受付期間:11/25(金)~11/26(土)15:00頃迄。
リプレイ執筆期間:11/26(土)16:00頃~11/28(月)一杯迄。
――それでは、良き戦いを。
第1章 日常
『真実の探求:影朧の軌跡』
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POW : 影朧を知る人を探しに行く。
SPD : 新聞や書籍に影朧の情報が無いか調べる。
WIZ : 影朧が執着するものについて調べる。
👑5
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
神宮時・蒼
…戦争、とは、何とも、無情であると。…そう、思わざる、を、得ない、事件、です、ね
…護った人々を、今度は、殺めて、しまう、とは、やるせません、ね
…なんと、しても、此の悲劇は、回避、せねば
死して尚、誰かを守りたいという願い
その志はとても崇高なものであるのでしょう
そういった想いを、ボクは抱いた事が、ありません、から
可能ならば、彼らが覚えているようなものは無いか調べましょう
当時の出来事を記した石碑等があれば、訪れましょう
文章は【瞬間記憶】で覚えておきます
彼らを説得する、何かになれば、と
他にも、きっかけとなるような物を、自身の【第六感】で探りましょう
最後の時を思い出させるのは、気が引けますが…
今の、都市の、人々の顔を、見てください
戦に、疲弊している、顔に、見えます、でしょうか
誰も彼も、皆、穏やか、でしょう?
此れが、貴方たちが、護った、未来、の、姿、です
過去ではなく、今を、未来を―。
其の瞳で、きちんと、見てほしい、と、願い、ます
御園・桜花
「2~3箇所の数百人なら未だしも、バラバラの場所にいる数百人を集めるのは現実的ではないのでしょうね…」
俯く
「帝都もそこそこ埋蔵物がありますから、自宅なら未だしも勝手に巨大防空壕を作るわけにもいかないでしょう。元々の防災組織を利用して、多くの方の避難を促す、が正解でしょうか…」
近くの交番又は役場を訪ね地区の避難場所や防災訓練の有無、其の方法確認
「サイレン等町内放送を流せる施設に陣取って、大隊なり中隊なりが現れたら避難勧告を出し、其の儘小学校なり公園なりへの避難を促す位しか思い付きません」
役場の放送設備に移動後UC「蜜蜂の召喚」
多くの蜜蜂を広く町の境に送り込み何時でも直ぐ避難警報を出せるよう警戒
ネリッサ・ハーディ
【SIRD】のメンバーと共に行動
まずはカスミさんと接触を行い、話を伺いましょう。敵の正体が分かればいいですが、少なくとも何かしらのヒントを掴めるだけでも損はありません。場合によっては、付近の住民にも話を聞く必要があるかもしれません。
同時に、UCの夜鬼を放って上空から街の地形や現状、避難経路、敵を迎撃するのに適した場所等を予め確認・把握しておきます。
恐らく現状の予想としては、住民を避難させつつ帝都桜學府の増援が来る迄の時間を稼ぐ、いわゆる遅滞防御戦闘となる可能性が高いですが…敵がどの様な戦術を取ってくるのかまだ不明です。少なくとも、住民の安全確保が最優先事項になるかと。
アドリブ・他者との絡み歓迎
灯璃・ファルシュピーゲル
【SIRD】一員で密に連携
一度全うした軍人としての歩みを、
不要な戦いで汚させるわけにはいきませんね
まずはカスミさんに局長と同行し接触。
同時に桜學府諜報部にも協力要請し、軍の過去の戦術・軍事史研究資料から、御先祖が都市部での戦闘指揮経験や得意とした戦術等があったか、また人物像等もカスミさんから可能な限り探ってみようかと。
情報収集後は自身の市街地ゲリラ戦等の戦闘経験と照らし合わせ、
敵侵攻経路・部隊の動きを予想。
局長や仲間が策定する避難経路から引き離すべく、予想侵攻経路から別方向へ誘導する様に、指定UCで無人機関砲座や遠隔式の対人指向性地雷、リモート狙撃銃座を偽装して、茂みや街角の見えにくい隅等、各所に多数設置。
設置後はUC:FuchsNachtsfestを発動して管狐達を各種兵器へ配置、
監視と遅滞工作の為の迎撃・誘導の準備をしておきます。
砲火では迎え火にはなり様も無いですが…せめて、しっかりお相手させて貰いますよ。
※アドリブ・絡み歓迎
ウィリアム・バークリー
カスミさん、ですか。幾つくらいの方でしょうね。『少女』といっても、歳が一つ違うだけで随分変わりますから。
とりあえず、人が集まっていそうな公園で、その人の居所を尋ねてみましょう。
避難誘導は、荒事が得意な皆さんに任せます。
こんにちは、カスミさん。
いきなりですけど、御先祖様に最後の大戦で武勲をあげつつも還らぬ人となった方がいると伺いました。
そのお話が言い伝えられてはいませんか?
はい、ちょっとその方の情報が必要でして。
有り体に言って、その御方が影朧として黄泉返って、この帝都を襲うそうなんです。
御先祖様の名誉を守るためにも、一切の被害無く鎮め転生させないといけません。
何か戦場での勲が伝わっていませんか?
鳴上・冬季
「こんにちは、お嬢さん。貴女のご先祖とその部下が、影朧になってこの町に攻めてくると桜學府から連絡がありまして。至急防衛設備を作らなければならないのですよ。部隊員数や得意な戦術はわかりますか」
風火輪と飛来椅で空から登場
「出でよ、黄巾力士金行軍」
町の地図も出させ外に繋がる道路や隣町との境の状況確認
召喚した黄巾力士132体を3体44組に分けどんどん道路や侵攻の可能性が高い町境にバリケードを築かせていく
「住民を公園を避難させる時間を稼ぐ必要があります。これは城壁なしの籠城戦です」
「もしも彼らが明確に貴女を狙うのなら。その時は貴女に是非前線においで願いたい。もちろん最大限守る努力はしますとも」
嗤いを収め
司・千尋
アドリブ、他者との絡み可
もう『敵兵』と『一般人』の区別もつかないのか…
それとも大義があれば何を攻撃しても良いって事なのかね?
からくり人形の宵、暁、熒惑と手分けして
一般人の避難場所に出来そうな場所を探して目星をつけておく
やっぱり中央の公園が有力かね?
全員入れるかわからないけど難しそうなら避難場所周辺で使えそうなものを探す
避難場所の目星をつけたら効率よく誘導できるようにルートを確認しておく
他の猟兵の邪魔はしないようにする
何か手伝えそうなら協力
他にも影朧の情報も探してみようか
得意な戦術とかわかれば助かるけど
そういう情報って残ってるのか?
見張らし良さそうな高い所があれば
からくり人形を配置し見張らせる
彩瑠・姫桜
カスミさんへの接触を中心に動くわ
それにしても
カスミさんは、ご先祖様にどんな感情を抱いているのかしらね
私達は事前に優希斗さんから話を聞いて今に至るんだけど
カスミさんからしたらこの話、寝耳に水なのよね、きっと
どんな感情を抱いているにせよ
いきなり「あなたのご先祖様が町に襲撃してくるから情報ください」って話はきついと思うのよ
襲撃されるってことも、その襲撃者が身内っていうのもね
だから、カスミさんの様子を見ながら、その気持ちにはできるだけ寄り添いたいと思うわ
私達への不審も、ご自身の気持ちの吐露も含めて受け止められる覚悟で行くわね
可能ならあおとも接触
他の仲間とも連携したいわね
榎木・葵桜
一般人の避難経路を確保するための情報収集するよ
前もっての避難は聞き入れてもらえないだろうから難しいと思うし、
かといって事が起こってからだとそれこそ犠牲が多くなりそうだし
中央にあるっていう、幻朧桜に包まれた公園って安全地帯になるのかな?
それとも、戦場的に一番危険なところになるのかな?
町全体の地形を見て回って、一番広くて守りを固めやすい位置を特定させておきたいね
あと、戦いが起こった時の役割分担もしておくと、とっさの時に動きやすいよね
余裕がありそうならカスミさんともお話を
自分のご先祖様の襲撃って聞くと気に病んだりするのかな
様子を見つつ、気持ちに寄り添えるたらいいな
藤崎・美雪
【一応WIZ】
アドリブ連携大歓迎
私は図書館(ない場合は役場)に足を運んで
カスミさんのご先祖様、及びその部下の記録が残っているかどうか探してみよう
「コミュ力、礼儀作法」で大戦時の歴史調査という名目で資料を見せてもらえないか施設管理者と交渉し借り受け
虹色のミラーコンパクトも併用しつつ「世界知識、情報収集」で資料を読み漁り該当箇所を探そう
将官クラスなら経歴や戦功、戦死時の状況は記録されているはずだが…
調べ終わったら全猟兵と情報共有後
逃げ遅れた方を収容する避難所の構築を兼ねて
許可を取った上で図書館or役場の外で出張カフェを開きアピールしよう(指定UC発動)
帰りがけに茶や珈琲をひとつ、いかがかね?
文月・ネコ吉
少女との話は仲間に任せ
俺は住民達の避難誘導に回ろうか
仲間と情報共有して連携協力して行動する
可能なら全員町の外へ逃がしたいが
今は防衛し易い場所へ避難させる方が現実的か
先ずは猟兵として町長に話を通そう
影朧が来ると事情を説明し住民達の避難誘導を頼みたい
突然の避難指示に戸惑うだろうが
避難場所の確保も住民への呼びかけも
町の防災計画に沿った形の方が混乱は少ないだろう
少なくとも何も知らずに襲撃されるよりマシだろうさ
町長や住民からも情報収集を
町の歴史と大戦当時からの変化を確認しておく
当時の面影を残すものはあるだろうか
例えば公園の幻朧桜はこの町の象徴か?
…これは貸しだぞ影朧
嘗てお前が護ったこの町は
俺達が必ず護る
館野・敬輔
他者絡みアドリブ大歓迎
…己が死を認識せずに戦い続ける影朧か
阻止しないと
防衛戦の準備をするのも大事だろうけど
それ以上に気になることがあるから
先にその裏付けを取っておきたい
前提を整理しよう
影朧として現れるカスミさんのご先祖様とその配下たちは
カスミさんが住む一角を戦場とみなしているんだよな?
つまり、周囲の一般人たちを敵兵と判断するってことで合っているか?
…何かおかしいな
影朧たちは、帰る場所を守るために戦っているのだろうけど
子孫が暮らす「帰る場所」たり得るこの都市を襲撃するのは矛盾している気がするんだ
この都市がある場所が、かつての大戦時の激戦地だった可能性もあるけど
だとすると、子孫たるカスミさんを危険にさらす理由がわからない
カスミさん、ないしは祖先が、大戦後にこの都市に引っ越してきた可能性もある?
…カスミさんに惹かれてこの都市に現れた可能性も十分あり得るけど
この推測の裏付けだけは、一応取っておこう
過去の新聞や記録がありそうな場所に足を運んで「情報収集」しておき
結果は他猟兵と共有するよ
文月・統哉
戦場に立つ者が兵士なのか、兵士が立つ場所が戦場なのか
終わらせに行こう
今なお戦い続ける彼の中の『戦争』を
仲間と携帯等で情報共有し連携して行動する
召喚した『着ぐるみナイン(救助活動100)』に避難誘導の手伝いを頼み
俺は急ぎカスミの所へ向かおう
時間は限られている
猟兵と明かして単刀直入に話を進めよう
家族を故郷を護る為に戦い続けた彼女の先祖
彼が家族を想うように
家族もまた彼を想っていただろうか
彼女の家に伝わる話を聞いてみる
もし彼らの遺品があればその中に
家族と彼を繋ぐものを探そう
彼は護り抜いたんだ
カスミ達が今生きている事がその証
彼の故郷への帰還を悲劇なんかにしたくない
影朧への敬意を胸に
カスミ達に協力を頼もう
●
蒼穹の風に運ばれて到着した、幻朧桜達の中央に聳え立つ石碑を、その赤と琥珀色の色彩異なる双眸で何処か哀しげに見つめながら。
「……戦争、とは、何とも、無情であると。……そう、思わざるを、得ない、事件、です、ね」
そう神宮時・蒼(追懐の花雨・f03681)がポツリ、と拙い口調で囁く様に呟いている。
その蒼の蚊の鳴く様な囁き声に。
「……戦場に立つ者が兵士なのか、兵士が立つ場所が戦場なのか。……いずれにせよ終わる事の無い戦争なんて、俺達の手で終わらせなきゃな、蒼」
その蒼の隣に自然とした仕草で立ち、蒼と一緒にその石碑を見上げた文月・統哉(着ぐるみ探偵・f08510)が静かに首肯する。
「文月様も、いらして、いたの、ですね……」
蒼が確認も込めて振り返りながらそう聞くと、ああ、と統哉が静かに頷いた時。
「まっ……来たのは文月達だけじゃないけれどな」
そう何処かいつもの皮肉げな冗談めかした笑みを口元に閃かせて蒼に呼びかけたのは、司・千尋(ヤドリガミの人形遣い・f01891)
冗談めいた様子で軽くウインクをする千尋の其れに微笑を浮かべ、蒼が軽く小首を傾げるのに。
「やるべき事が沢山在るのはいつもの事だよな」
そう皮肉っぽく肩を竦める千尋の其れに。
「そうね……カスミさんに会わなきゃいけないし、更に人々の避難誘導もしないといけないって事だものね」
と、彩瑠・姫桜(冬桜・f04489)が軽く頬杖を1つつくと。
「ええ……そうですね。普通の2~3箇所の数百人なら未だしも、この町……バラバラの場所にいる数百人を避難誘導する必要がありますからね。其れを1箇所に集めるというのは……現実的ではありませんし……」
笑顔で同意する御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)の其れに。
「でも! 姫ちゃんも、皆もいる! だからきっと何とか出来るよ! その何とかの為にやることは沢山あるけれど!」
そう榎木・葵桜(桜舞・f06218)が桜舞花でトントン、と軽く自分の肩を叩きながら告げるのに。
「ええ……そうですね。元々私達は、人命救助の為の助力は惜しむつもりはありません」
小型情報端末MPDA・MkⅢを取り出し、影朧達の戦術をシミュレートさせながら、そう呟いたのは、ネリッサ・ハーディ(クローク・アンド・ダガー・f03206)
その隣では、灯璃・ファルシュピーゲル(Jagd hund der bund・f02585)が帝都桜學府諜報部へと無線で連絡を取り始めている。
(「一度全うした軍人としての歩みを、不要な戦いで、汚させるわけにはいきませんからね」)
そう内心で呟く灯璃を見て。
「灯璃さん、もしかして帝都桜學府諜報部に連絡を取っているんですか?」
ウィリアム・バークリー(|“聖願”《 ホーリーウィッシュ 》/氷聖・f01788)がそうさりげなく水を向けて来るのに無言で頷く灯璃。
「そうしたら、帝都桜學府諜報部の方に聞いて貰えませんか? カスミさんは『少女』とのことですが、幾つ位の方なのか等をです」
そのウィリアムの其れに。
「ウィリアムさん。カスミさんの年が気になるのか?」
そう問いかける藤崎・美雪(癒しの歌を奏でる歌姫・f06504)の其れに、ええ、とウィリアムが頷き返す。
「『少女』と言っても、年齢に幅がありますからね。歳が1つ違うだけで、印象や雰囲気もずいぶん変わるでしょうし」
「ああ、そう言う事か。まあ、言いたい事は分からないでもないな」
ウィリアムの其れに何とも言えぬ表情を浮かべつつ、軽く首肯する美雪達を見ながら。
「美雪、統哉、姫桜。俺は先ずこの町の町長に会いに行くつもりだが……お前達は如何するんだ?」
文月・ネコ吉(ある雨の日の黒猫探偵・f04756)が確認する様に問いかけると、美雪が其方を振り向き、そうだな、と軽く言の葉を紡ぐ。
思考する様に眉間に皺を寄せながらのネコ吉の其れに美雪が私は、と改めて続けた。
「先輩と一緒に、此の地区にある図書館に向かおうと思っている。今、灯璃さんがやっている様な諜報部からの情報とは、別経由で件の将官や、部下達について調査をしておきたいからな」
諜報部などの帝都の中央にある組織と、ある意味で現場とも言えるこの場所で。
取れる情報や解釈が異なると言うのはままあることだ。
其れに……。
「……そうだな。その方が良い。俺も、気になることがあるからな」
そう美雪の言葉を引き取る様に告げたのは、館野・敬輔(人間の黒騎士・f14505)
(「……己が死を認識せずに戦い続ける影朧……」)
そんな哀しい修羅に戦いをさせたくは無い。
そんな敬輔の言の葉に籠められた想いを感じ取ったか。
「時間は限られている。ならば役割を分担して其々行動しよう。連絡は皆、其々に取り合える手段があるな?」
そう統哉が懐から黒にゃんこ携帯を取り出しながら確認するのに、ネリッサと灯璃が粛々と頷き。
「ああ、大丈夫だぜ、文月」
そう高性能スマートフォンを取り出しながら千尋が微かに引き攣った表情を見せながら呟くのに。
「……司様。どうか、致し、ました、か?」
何故か少しだけネコ吉から距離を取る様にしている千尋を見て、不思議そうに蒼が小首を傾げると。
「いや……少しな。別にネコ吉を嫌いとかそう言うわけじゃないぜ」
自らの天敵である猫を想起しながらの千尋の様子を、口の端に笑みを浮かべながら。
「まあ、そう言う方もいるでしょう。ですが、やるべき事はやりませんとね」
帝都桜學府制服風八卦衣に身を包み、風火輪で浮遊し、空から眺めていた鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)が呟いた。
●
「で、先輩。私は件のカスミさんのご先祖様及び、部下の記録についてを調べるつもりだが……」
中央公園に居た人々に灯璃のJTRS-HMS:AN/PRC-188 LRP Radioに送られてきたカスミの写真を元に。
ウィリアム達、カスミへの事情聴取班が彼女の居場所の確認をするのに別れを告げて。
敬輔やネコ吉と共に図書館と町役所に向かう美雪が微かに怪訝そうに敬輔に聞く。
町の上空には常人では容易に発見出来ないネリッサの夜鬼が飛ばされており、影朧の襲来に対する警戒態勢を敷いていた。
「……まあ、何となく想像は付くが、確認の意味も込めて、俺も聞いておきたいな。……あの、中央公園の幻朧桜に覆われる様にあった石碑についても含めてな」
(「……確か、あそこに何か言葉は刻まれていたが……写真でも撮っておくべきだったか? まあ、蒼がじっと記憶する様に見ていたから後で確認を取れば良いのかも知れないが」)
眉間に眉を寄せつつ、そう想いを馳せるネコ吉の青い瞳の奥の光に押される様にああ、と敬輔が軽く頷いて。
「……先ず、今回の件、前提条件がある。それは、影朧として現れるカスミさんのご先祖様と配下達が、此の帝都の都市の一角を戦場と見做している、と言う事だ」
そう敬輔が自分に言い聞かせる様にそう呟くと、美雪がそうだな、と相槌を打った。
「だから、此処に大戦時の資料が無いかどうかと私は考えている訳だが……」
「……うん、そうだ。後輩の考えはそれはそれで正しいのだと思う。けれども、此の件、少し整理すると……」
「まあ、影朧達はあいつらにとっての戦場に居る住民を敵兵と判断し、この都市を襲撃するって事だな」
眉間に皺を寄せながらのネコ吉の確認に、やはりそうなるのか、と敬輔が思わず溜息を漏らした。
「……だとしたら、やっぱり何かおかしい気がする。そもそも影朧達は、帰る場所を守る為に戦っている筈だ。それなのに……」
――何故、子孫が暮らす『帰る場所』たるこの都市を襲撃する?
「まあ、確かに矛盾しているな。本来であれば守るべき場所を守らず、逆に襲撃しているって事になる。とは言え、其処にも幾つかの可能性があると思うぜ」
敬輔の懸念に更に眉間に皺を寄せながらネコ吉がその件について、幾つかの憶測を立てる様に話を続けた。
「例えば、影朧達の子孫のカスミ達の先祖が大戦後に此処に移住してきた可能性。そして、此処が大戦時の激戦地だった可能性。……後、考え得ることは……」
「……単純にカスミさんに惹かれて、この都市に現れる可能性、か」
ネコ吉の其れに成程、と言う様に美雪が相槌を打つ。
それらのネコ吉と美雪の推測に、そうだな、と敬輔が軽く首肯して、言の葉を紡いだ。
「どの可能性が正解なのかは分からない。でも、これらの推測の裏付けだけは、一応取っておきたいんだ」
「ならば、俺の方でも町長に会いに行くつもりだから、其処も合わせて聞いておくぜ。町長が知っていること、当時の新聞、諜報部の情報……全部が全部同じとは限らないしな」
そう告げて、ポン、と自分の胸を叩くネコ吉に、頼む、と敬輔が頷いた所で。
「着いたぞ」
そう美雪が呼びかけながら、その役所兼、図書館のある建物を指差した。
機能美を追求した、鉄筋コンクリート製の、やや大き目の建造物。
其処に人が出入りする姿を認め、恐らく今日も平常通り運営しているのだろう、と美雪が見当を付けている。
「よし、行くぜ」
そう呟き、眉間の皺を益々深めネコ吉が建物に足を踏み入れ、受付にサアビスチケットを提示して。
「超弩級戦力だ。急用があるんで、町長に取り次いで貰いたい」
そう呟くと、受付にいた女性が少し慌てた様子で、奥の電話交換室に向かっていく。
1人で業務を切り盛りしているのであろう、交換主が慌てて町長に連絡を取る間に。
「それで、其方のお2人様方は、どういったご用件でございましょうか?」
戻ってきた受付嬢がネコ吉の後ろに立つ美雪と敬輔に問いかけると、ネコ吉に倣って2人もサアビスチケットを提示して。
「私達は彼の同業の超弩級戦力だ。至急ですまないが、大戦時の歴史調査をする必要がある。それで私達に図書館を使用させて貰いたいのだが……」
と美雪が説明するのに、事務的な笑みを浮かべながらでは、此方にお名前の記入を、とリストを提示する受付嬢。
其れに素早く名前を敬輔と美雪が記入する間に、奥から町長に取り次いでいた交換主が現れ、受付嬢に耳打ちする。
受付嬢はそれにありがとうございます、と頷きネコ吉へと交換主からの伝言……。
「直ぐにお会いになるそうです。場所は……」
と、其々の行先への経路を説明する受付嬢に礼を述べ。
「それじゃあ、後でな」
「ああ、ネコ吉さん。宜しく頼む」
軽く手を振って別れを告げるネコ吉の其れに美雪が首肯で返すと、彼女は敬輔と共に図書館へと足を向けた。
●
――中央公園の中央に建てられた、幻朧桜に守られる様に聳え立つ石碑を見て。
「……『嘗て、此処で、戦い、命を、賭して、私達を、守り抜いて、くれた、英霊達の、魂に、敬意と、弔慰を、表して』……ですか」
刻み込まれた文字を訥々と歌う様に読み上げた蒼が、そっとその石碑を撫でている。
(「……この、石碑は、きっと、大戦の、後に、建てられた、モノ、なの、でしょうね……」)
その胸に灯る暖かな其れが、蝋燭の火の様に微かに揺れている様を感じながらの、蒼の呟き。
此の石碑を作り上げた人々は、どんな想いと共に、此の文字を刻み込んだのだろう。
そして、今では英霊として祀られているかの者達が……。
(「……護った人々を、今度は、殺めて、しまう――なんて」)
――本当に……。
その赤と琥珀の色彩の異なる双眸に何ともやるせないと光を漂わせながら、そっと自らの左胸を押さえる蒼。
そんな蒼の灯璃から借り受けていたスマートフォンに、連絡が入った。
「蒼、俺だ、ネコ吉だ」
「……文月様。どうか、いたし、ましたか……?」
そのネコ吉からの通信にそう蒼が返事を返すと。
「ネコ吉で良い。統哉もこっちに来ているから、同じ文月呼びだと、皆が混乱しかねないからな」
「……はい、分かり、ました。文……ネコ吉様。それで……ボクに、連絡とは、どうか、致し、ましたか?」
軽く首肯して訥々と言葉を続ける蒼の其れに、ネコ吉が、ああ、と軽く返事を返す。
「今、町長に避難誘導の依頼を終えて、この町の歴史と大戦の変化について聞き取ってきた所なんだが……お前は今、石碑の前にいるか?」
「……はい。ボクは、石碑を、見て、そこに、刻まれた、文字を、読んで、いました」
確認の様に問いかけるネコ吉の其れに、こくり、と首を縦に振る蒼。
その赤と琥珀のヘテロクロミアを何処か茫洋とさせて、石碑を見つめている。
「そうか、なら丁度良い。聞きたいんだが、そこには何て刻まれている?」
「……はい。其処には、こう、刻まれて、います。『嘗て、此処で、戦い、命を、賭して、私達を、守り抜いて、くれた、英霊達の、魂に、敬意と、弔慰を、表して』と……」
その蒼の言の葉に。
そうか……とネコ吉が軽く溜息を漏らし、軽く蒼に礼を述べた上で一度通信を切る。
そして眉間に益々眉を寄せて、町長室を出て直ぐ傍の背もたれ付きロビーチェアに座り込み、思索を張り巡らしていく。
「……町長達は、お前達のしてくれた事を残し、その歴史を刻み、息づかせていく為に、この町を作り上げた。その想いは、あの石碑にも文字として、刻み込まれている」
――だから。
「……此は貸しだぞ、影朧。嘗てお前達が護ったこの町に根付く想いは、俺達が必ず護る」
――その石碑に刻み込まれた誓いの言葉の意味を、彼等に知らせる其の為にも。
そう胸中に決意を宿したネコ吉は、窓越しに出動していく消防隊を見つめていた。
――鳴り響く緊急避難のアナウンスと共に。
●
――時は、少し遡る。
「……それにしても」
カスミの居るであろう家の目星がついたところで、大急ぎで中央公園を後にしながら独り言の様に呟く姫桜。
「カスミさんは、ご先祖様にどんな感情を抱いているのかしらね」
その姫桜の呟きに。
「どうでしょうね。年齢としては14歳。高校生になるかならないか位の少女ですから、其処まで過去に拘っているとも思えませんが」
そう軽く頭を横に振りながら、共にカスミの家に向かって駆けていくウィリアムが返していた。
そのウィリアムの何気ない呟きに。
「……それは、如何だろうね」
そう誰に共なく呟いたのは、黒ニャンコ携帯に入っていたメールに視線を走らせながら同じ方向に向かって駆けていた統哉だ。
「文月さん、何か情報が入りましたか?」
夜鬼の目を借りて、幸い、未だ影朧達の姿が見えていないことを確認しながらのネリッサの其れに、ああ、と統哉が首肯した。
「今、敬輔と美雪から連絡が入った。多分、皆にも直ぐに伝達されると思うが、取り敢えずこの町について。この町は、どうやら大戦が終わってから、人々が慰霊の石碑を建てて、其れに伴い移動してきた人々の手で発展した町だそうだ」
「……そう言えば、蒼さん。最初に私達が優希斗さんに転送された場所にあった石碑をじっと見つめていたわね」
何かを探る様に周囲を茫洋と見つめ、石碑にじっと目を凝らしていた蒼の姿を脳裏に思い浮かべながら、姫桜がそう呟くと。
「多分、何か石碑に気になるところがあったのでしょう。……それはさておき、敬輔さんが調べた情報が事実ならば、過去に想いを馳せる方がカスミさんにとっても自然ですか」
そう自分の主張を再考しながら呟くウィリアムの其れに、灯璃が静かに首肯する。
JTRS-HMS:AN/PRC-188 LRP Radioに入るであろう、諜報部からの情報を待ちながら。
(「軍の過去の戦術・軍事史研究で諜報部に至急で調査をして頂いておりますが、流石に未だ時間が掛かりそうですね。となると、カスミさんからある程度伝聞されている人柄などを聞ければ幸いなのですが……」)
そう灯璃が思考する間に、でも、と姫桜が軽く頭を横に振り、腰まで届く自らの金髪を軽くくしゃくしゃにした。
「私達は事前に優希斗さんから話を聞いているから影朧が来ると分かっているけれども、カスミさんからしたらこの話、寝耳に水よね、きっと」
「ああ、そうだね」
呟く姫桜に統哉が自らの首に巻いた赤いスカーフを軽くなぞる様にしながら首肯した時。
9体のふわもこ着ぐるみ達が、赤いスカーフから飛び出す様に現れて、バラバラと町の中へと散っていった。
「だとしたら、どんな感情を抱いているにせよ、この話はかなりきついんじゃないかしら?」
そのふわもこクロネコ着ぐるみチームに一寸心をときめかせながらの姫桜のそれに。
「そうでしょうね。ですが現状、館野さん達が調べてくれた事以外については、カスミさんが情報収集の相手として最有力候補なのです」
風火輪で上空を飛び交いながら、当然、と言った様にそう諭す様に告げる冬季。
その冬季の正論に思わず微苦笑を綻ばせつつ、統哉が。
「何、それなら俺達には一番簡単な方法がある。それをやれば、俺達が信用されるには十分な筈だぜ、冬季」
その統哉の言の葉に、分かりましたと笑いを口の端に刻み、首肯する冬季。
(「まあ私の格好も、カスミさんの信用を買う為に、十分な証拠になるでしょうしね」)
と、自らが着込んだ帝都桜學府制服風八卦衣を見下ろす冬季。
……と、此処で。
「あそこですね」
ネリッサが夜鬼で注意深く戦場となるであろうこの都市の状況を確認しながらその一軒家を指差した。
何処か古めかしさを感じさせるその家の門戸には、『霧原』と刻み込まれた檜の表札が掛かっている。
表札を確認して1つ頷き、代表する様に統哉が門戸に進み、呼び鈴を鳴らすと。
「はい」
と、極自然な明るさを伴う少女の声が返ってきた。
(「……カスミは、家族を、故郷を護る為に戦い続けた先祖のことを」)
――どの様に想っているのだろう。
「霧原・カスミさんだね。俺達は、超弩級戦力だ。少し君から話を聞きたい」
「えっ……超弩級……戦力……?」
統哉のその言葉に、一瞬意味を図りかねたか、絶句する様な緊張した声でカスミがそう返してくる。
そんな統哉の其れをフォローする様に。
「ええ、そうです霧原さん。私達は帝都桜學府の者です。とある影朧の救済のために、貴女に助力を頼むためにやって来たのですよ」
上空から家の中で統哉に応答しているカスミの姿を確認した冬季が嗤いながらそう告げると。
「あっ、帝都桜學府の……分かりました。今行きますので、少々お待ち下さい!」
と、些か慌てた様子でカスミが応えてワタワタと通信を切り、直ぐに統哉達の待つ玄関の方へと小走りに駆けていった。
●
――和室風のリビングルームに導かれ。
「すみません、帝都桜學府の皆様。今、お茶を……」
一先ず各々が畳の適当なところに座り込んだところで、緊張と恐縮と困惑を浮かべたカスミがそう告げる。
そして一度、台所へと向かおうとするが……。
「気にしないで下さい。あまりのんびりしている時間もありませんから」
ウィリアムがそう宥めて姿を消すのを止めると、カスミは何となく居心地が悪そうな表情を浮かべつつ座布団に正座した。
(「14歳と聞いていましたが、落ち着いていますね。ご両親の教育の賜物でしょうか?」)
ネリッサがそんなカスミの様子を見つめながら内心でそんな事を考えていると、あの、とカスミが声を上げた。
「それで私に何の用事でしょうか? ……あっ、それともパ……父と母に、ですか? 父と母は、生憎出張しておりますが……」
そう緊張した面持ちで告げるカスミのそれに。
(「まあ、無理も無いわよね。これだけのお客様に突然押しかけられたら、誰でも緊張しちゃうものだわ」)
と姫桜がじっとカスミを見つめながら、さて、どうやって心を解していくべきか、と考えているその間に。
「いきなりですみません、カスミさん」
ウィリアムが代表する様に、取り敢えず、と言った様子で言葉を紡ぐ。
「あっ……はい」
「実は……」
「貴女のご先祖とその部下が、影朧になって攻めてくるので、それから貴女方を護る様に、と帝都桜學府から命令が下りました」
ウィリアムが言うよりも先に冬季がさらりと衝撃的な事実を告げた瞬間。
カスミは何を言われているのか分からない、と言う様に目を大きく見開き、口をパクパクさせていた。
ウィリアムがちらりと冬季を見て軽く窘める様にしつつ、はい、と後押しする。
「不躾なお話ですみません。只、まあ、単刀直入に言うとそう言うことなんです。800年以上前に起きた大戦で武勲を上げつつも、還らぬ人になった貴女のご先祖様が、影朧として黄泉還り、此の帝都を襲うそうです。それで……何か貴女がご存知のことがあるかも知れないと言う話が帝都桜學府でも持ち上がって、ぼく達が其れを聞きに来たんです」
「そ……そんな事、起きる筈がありません! ご先祖様はとても立派な方だったと聞いています! 部下のことを想い、民を想い、其の為に自分の命を厭うことも無かったと……! そんな立派なご先祖様が、影朧になる程、心が傷ついていた、なんて……!」
そう嗚咽の様に吐き出すカスミ。
そのカスミのあまりの剣幕に一瞬怯みつつ、静かな表情でネリッサがそうですね、と溜息を漏らした。
「気持ちは分かります。只、影朧とは、死した者達の心の瑕疵から生まれ落ちる存在です。寧ろ、カスミさんに伝えられている程に立派な方でしたら、それだけに孤独であったこともあるでしょう。そう言った人の心の闇が集まって影朧と化す例があるのは、貴女も聞いたことがあるのではありませんか?」
そのネリッサの呼びかけに。
優しくその背を姫桜に擦られていたカスミが咽せながらも一瞬、表情を青ざめさせた。
「それは……」
――聞いたことがない筈もない。
そんなカスミの死人の様に青ざめた顔を気の毒そうに見つめながら統哉がカスミ、とそっと声をかけた。
「どんな些細な事でも構わない。君が聞かされたことのある、そのご先祖様の話を俺達にも聞かせてくれないかな? もしかしたらそこに、何か鍵があるかもしれないんだ」
「私達の言っていることにあなたが不審を抱くのは当然よ」
統哉の優しくかけられた言葉に覆いかぶせる様に、カスミをあやす様にその背を優しく擦りながら、姫桜が続ける。
「でも、だからこそ私達は検証も兼ねて聞いておきたいのよ。あなたのご先祖様がどんな人だったのか。それをあなたが知っている範囲だけでもいいから」
「……私達が不躾であることは、お詫び申し上げます」
その姫桜の言葉に1つ頷きながら、小さくそう謝罪したのは灯璃だ。
「ですが、もし此れが本当の話であれば、私達は……」
「……その御先祖様の名誉を守る為にも、一切の被害無く鎮め、転生させないといけません。それがぼく達、影朧救済機関『帝都桜學府』の者として、ぼく達がせねばならないことですから」
灯璃の言の葉を引き取る様にそう告げるウィリアム。
そうウィリアムが告げるその間、冬季は油断なく周囲を見回していた。
(「ふむ。特に銃等が壁に立てかけられている等はありませんか。彼女自身は戦い慣れている訳ではなさそうですね」)
口の端に微かな笑みを残したままに、そう冬季が結論付けたところで。
「……分かりました。私が知っていることを少しだけ、お話します」
ようやっとの思いで息を整え。
沈痛そうな表情を浮かべたままにカスミが告げる。
「……私のご先祖様は……」
そのカスミの口から最初に紡がれたその言の葉は……。
●
「……血染めの英雄……か」
――町役場の図書館で。
この町の図書館管理者であった図書館司書に事情を説明し、更にネコ吉が会って正式に許可を取った、その上で。
この町にあった大戦時代の記録を虹色のミラーコンパクトから入ってくる断片的な情報と照らし合わせながら美雪が溜息を漏らす。
インターネットがあればわかる程度の情報を教えてくれる代物だが、情報伝達手段の発達の鈍いこの世界では、中々扱いが難しい。
「将官の男の名は、桐原・飛鳥。此処で戦死したのは凡そ30代前半の時、か」
16で大戦の絶えない時代に士官学校に入学し、20の頃に卒業。それから程なくして中尉へと昇格した男。
飛鳥はその後、大戦の中で順調に戦歴を積み重ねていき、その名の通り飛ぶ鳥を落とす勢いで武勲を上げ、そして昇格していく。
だが……。
「彼個人の能力は言わずもがな、飛鳥さんは、指揮官としても抜群の才能を持っていた。彼は人心掌握力に長け、他者の士気を底上げ出来るカリスマ性を備えていた。それ故に……」
――そう。
「だからこそ、常に最前線に立たされ、武勲を上げていたそうです」
そう告げるカスミの瞳にはたっぷりと白い雫が溜まっていた。
「私は、そんな御先祖様の英雄物語が大好きで、憧れました。でも、御先祖様はいつも、こう言っていたそうです。『この武勲は、俺のものじゃない。多くの敵と味方……双方の血に塗れた勲章なのだと。死する必要のない数多の命を、自分は散らさせてしまった。本来は、平和に勝る武勲は無いんだ』と……」
その、訥々と告げられたカスミの其れに。
「それだけの痛みを抱えながらも尚、君の御先祖様……飛鳥さんは戦い続けていたんだね」
そう統哉が締めくくる様に呟くのに、はい、とカスミが静かに頷く。
「……その全てが、自分が護るべきものの為だったのでしょうね。そもそも、それ程部下の命を大事にする方であったからこそ……兵卒達もついていったのでしょうか」
そう呟く灯璃の其れには、分かりません、とカスミが頭を横に振った。
(「その時代に生きていた訳ではないのですから、彼女のこの反応は当然でしょうね」)
ネリッサが内心でそう呟き、では、と軽く確認する様に言の葉を紡ぐ。
「別の者が図書館で調べてきた情報なのですが、この土地には、大戦が終わった後、カスミさんの御先祖様が移り住み、そして都市として発展させていったものだと聞いています。それはつまり……」
「……はい。きっと、護り通してくれた自分達の命が在る事を、御先祖様にきちんと伝えたかったんだと思います。平和への皆の願いをいつまでも守り続けていくから安心してお休みください……と」
その何処か遠い述懐の籠められたカスミの其れに。
「ええ……そうね。私もきっとそうなのだと思うわ」
そう姫桜が粛々と頷き、そっとカスミの背を擦る。
(「でも……もし、カスミさんの御先祖様……飛鳥さんが影朧になるのだとしたら、その理由は……」)
「……此処で起きた大戦の戦いで、彼は敵部隊を全滅させたが、部下も全滅。自らも最期には敵国の指揮官と戦い……戦死した……か」
図書館でその頃の資料に一通り目を通し、少し痛む目を軽く解しながら、美雪が重苦しい溜息を1つついた。
(「だが……合点は行く。彼が影朧と化す理由としては、十分な位にな……」)
――何も、この戦場で死んだ部下達だけではない。
其れだけ数多の戦争を、彼は仲間と自らの流血で潜り抜けてきたのだ。
その死した戦友達や、部下に対する哀惜の念が心の瑕疵として残り続けるのは当然で。
それが、虐げられし者達の衣を帯びて、影朧と化す事には……。
そう美雪が結論を図書館で出したのと、ほぼ同時に。
「何の矛盾点もありませんね」
カスミの家で何気なく呟いた冬季のそれにネリッサが、沈黙を持って肯定した。
そのネリッサの肯定を横目に捕らえながら、統哉は思う。
(「彼は……飛鳥は家族を、故郷を護る為に戦い続けていた。その想いは、部下達の心にも強く響いていた」)
――なれば、きっと。
彼が……飛鳥が家族を想っていたそれに応えて。
飛鳥の子供達……カスミの先祖もまた、飛鳥の事を想っていたのだろう。
想い合い、慈しみ合うその心。
それが部下達を率いるのに、どれほど効果的なものであるか……。
(「人の情に訴えるだけの力と言葉を持ち、行動に移すことの出来た将官、飛鳥か」)
その飛鳥が死した数多の部下達と共に、戦争の輪廻から抜け出せず、その剣で自らの守った人々を、想いを踏み躙る。
――此れが成功してしまえばそれは間違いなく……。
「……悲劇、だな」
図書館で自分が得た情報を統哉達に送った敬輔が図書館に戻ってきて、疲れた様に目を解す美雪にそう囁く。
「ああ。……どうやらどんな手を使ってでも、私達はこの悲劇を防がなければならない様だ、先輩」
呟く美雪の其れに、そうだね、と敬輔が頷いた時。
「……カスミさん」
そう冬季が、カスミの家で笑いを消して、カスミに向けて問いかけていた。
「……何ですか?」
そのカスミの問いかけに。
「もしも、私達の言っていることが本当で、彼等が明確に貴女を狙ってくるとしたら。その時は、貴女に是非、前線においで願いたいのです。勿論、最大限守る努力は致します」
笑みを消して真剣な眼差しで呼びかける冬季のそれに。
「冬季さん、それは……!」
姫桜が思わず冬季を睨みつけるが、冬季は生真面目な表情で淡々と告げる。
「まあ、今の話を聞く限りではそうはならないとは思うのですが。いずれにせよ、彼女が最も狙われる可能性は高いです。そう……影朧と化した飛鳥さんが、もし、自分と同じ血を持つ彼女に指揮官としての器を見出した場合、飛鳥さんは最優先でカスミさんを狙うでしょう。……自軍の被害を最小限に食い止めるために敵に退かせるのであれば、それが戦術としては最善ですから」
「……でも!」
淡々と告げる冬季の其れに、反駁する姫桜。
と……その時。
「……やっと情報が来ましたか」
JTRS-HMS:AN/PRC-188 LRP Radioに届いた連絡に気が付いた灯璃が、そっと息を吐き、その情報を検める。
そして……。
「……成程。彼は、戦術的に、ではなく戦略を用いて、自らの隊が優位に立った上で、波状攻撃を行う事を得意としておりましたか」
基本的な陣形は背後からの射撃部隊と、前線を守る白兵部隊を配備。
そして然るべきタイミングで射撃砲戦部隊による猛火を叩きつけ、それから白兵部隊を突撃させる。
(「その上で、自分自身が率いる事が多かったのは……高機動を確保した攪乱部隊、ですか」)
戦線を把握し弱点となるであろう場所を見つけ、そこに集中的に攻撃を加え、自らは部下達と共に戦場を攪乱する。
そして……都市部での戦闘の際には。
(「そのカリスマ性で相手の心を搔き乱す……つまり、都市の要所を破壊させて自軍をそこに集中させて一気に攻め落とす……謀略も苦にしない方だった……」)
つまるところ、かなり優秀な指揮官だった、と言う事だ。
いずれにせよ、一般人をきちんと『民間人』と認識してくれていれば、犠牲も少なくなるだろうが……。
(「その一般人を『敵兵』と、認識しているのですからね……」)
その点をどうにかしなければ危険な相手なのだな、と灯璃が見当を付けたところで。
「……カスミ。君に、頼みがある」
不意にそう統哉が言の葉を紡いだところで、冬季のそれに震えていたカスミがそっと統哉へと視線を向けた。
「……何ですか?」
「統哉さん?」
カスミと姫桜が同時に口を開くのを、軽く手で制して。
「君の御先祖様である飛鳥さんはそれだけ、家族を思いやっていた人だった。ならば……その飛鳥さんと、その家族を繋ぐ絆として、伝わっている何かが、この家にはあるんじゃないのか? ……あの中央の幻朧桜の咲き誇る公園の中央に聳え立つ石碑とは、別の何かが」
そう、統哉が問いかけた時。
はっ、とした表情になったカスミが、バタバタと慌てて応接間の端にひっそりと供えられていた仏壇の箪笥を開けて。
そして、ウーツ鋼か何かで作られているのであろうか。
錆びた様子のない、綺麗な小さな箱を取り出した。
「それはこれの事、でしょうか?」
そう怪訝そうに尋ねるカスミの其れに。
統哉がありがとう、と頷き。
「中を確認しても構わないかな?」
と、問うのに、カスミがはい、と首肯する。
礼を述べ、その箱の中を改めた統哉が見たもの。
それは……。
「……本?」
それは、豆本と呼ばれる小さな物。
チェーンで釣るされた其れを手に取り、豆本を統哉が見つめると、其処には小さく文字が書かれている。
――それは。
『この本を、最愛なる者達の為に捧ぐ』
そう小さく……判別するのが難しい位、小さく書かれたその文字を読み取って。
「ありがとう、カスミ。きっと此れがあれば、君の御先祖を救う事が出来る」
――その上で、と統哉は思う。
それはきっと、大きなリスクのある事なのだろうけれども。
それどころか上手く行く保証もない方法ではあるけれども。
……否、そもそも彼女に無理強いをしてはいけないことだとも思うけれども。
――それでも。
「冬季の言う通りに、とは言わないけれども。君に是非協力して欲しいことがある。君の御先祖様とその部下達を、戦争の輪から抜け出させる……其の為にも」
その統哉の言葉を聞いて。
「……私に、出来る事……」
俯き加減になり、何かを考える様な表情になったカスミの肩に、励ます様にそっと姫桜がその手を置いた。
●
「……しかし、もう『敵兵』と『一般人』の区別もつかなくなっているって訳か……」
――敬輔と統哉達が得た情報を、高性能スマートフォンで共有しながら。
千尋が口の端に皮肉気な笑みを浮かべながら軽く肩を竦めるのに。
「そうみたいですね。でも、話を聞く限り、誰にも犠牲を出さない覚悟で私達もやらなきゃ、飛鳥さん達を救う事は出来そうにないですよ!」
千尋のスマートフォンを横から覗き込み、状況を理解した葵桜がきっぱりと告げるのに、そうだな、と千尋が首肯する。
千尋は自らのからくり人形、『宵』と『暁』、『熒惑』を放ち、より多くの人々を避難させられる場所を探す骨を折っていた。
(「やっぱり、神宮時がいる中央公園と、あの石碑の周辺が最有力か?」)
そう内心で千尋が思う、その間に。
「……司様」
何処か儚さを感じさせる声が、千尋のスマートフォンから流れてきた。
直ぐに気が付いた千尋が、スマートフォンをスピーカーモードにする間に。
隣を歩く葵桜がキョロキョロと辺りを見回しながら、ん~、と軽く唇に人差し指を当てて、空を仰いだ。
「一番安全そうなのは幻朧桜に包まれた中央公園っぽいけれど、さっき灯璃さんから貰った情報を纏めると……」
(「其処だけじゃ、ちょっと全員を保護するのは難しそうなんだよね……」)
そもそも、この町の全員を中央公園に入れきることが出来るのか。
正直に言えば、其れも少々怪しいところだ。
「となると、あっちの学校とか、後は美雪さん達が行った町役場なんかも避難場所としては有効だね。うん、取り敢えず其の為に一番使いやすい経路は……」
そう呟き、うーん、と葵桜が唸っているその間に、千尋は蒼と話を始めていた。
「神宮時か。中央公園の方はどんな感じだ?」
「……全員、では、ありません、が、それなり、の、人数、を、此処に、避難、させる、ことは、出来る、と、思います」
スピーカモードにした千尋のスマートフォンから伝わってくる蒼の囁く様な声に、そうか、と千尋が首肯を1つ。
「俺達も町の中を回っているが、中央公園以外に候補になりそうな避難場所が幾つかあった。此は、御園の受け売りだが、案外2~3箇所に絞って200~300人ずつを纏めて避難させる方が、安全かも知れないな」
「……相手が、どの様な、手を、打ってくるのかは、ファルシュピーゲル様の、話、からも、完全には、読み、切れない、ですが……。そう、なのかも、知れません」
そう蒼が軽く首肯と相槌を打つのに千尋は微笑み、その上で、それで、と話を続けた。
「他にそっちで何か気になった事はあるか? 例えば、影朧に繋がりそうな情報とか」
その千尋の問いかけに、蒼は一瞬、無言の間を置いたが、程なくして。
「……石碑、です」
そう呟いた蒼の其れに、ほう、と千尋が興味深げに軽く緑色の瞳を細めた。
その千尋の興味深げな其れに1つ頷き、蒼が続ける。
「……石碑、には、この都市、を、作った、人達、の、想い、が、籠められた、文字、が、刻まれて、います」
「どんな内容だ? できれば教えて欲しいが」
その千尋の其れに、蒼が、はい、と静かに首肯して。
「その、内容、です、が……」
そう告げて……。
『嘗て此処で戦い、命を賭して私達を守り抜いてくれた英霊達の魂に、敬意と、弔慰を表して』
刻み込まれたこの都市を初めて生み出した人々の想いの綴られた其れを聞いた千尋はふむ、と愉快げに鼻を鳴らした。
(「モノである俺に、完全にそれが理解出来るとは思えないが……」)
――けれども、恐らく蒼が……自分と同類でありながら、何かが異なる『モノ』である少女が言うのであれば、其れは恐らく。
「……その想いが、この都市と此処に住む人々に刻まれた『心』ってヤツなんだろうな。それこそ、『物』として文字に残す程のな」
「……はい。そうだ、と、ボクも、思います、司様」
その蒼の応えに、となると、と千尋が軽く溜息を漏らした。
「やっぱり住民を今の内に外に避難させるってのは、難しそうだな」
「……はい。その通りです、司様。……ですから……」
その何処か懇願する様な蒼の其れに、千尋ああ、と首肯した。
「大丈夫だ。収容人数等も含めて、何処に一般人を避難させれば良いのかの場所の目処は、ある程度俺達の方で立てている」
そう告げた千尋の脳裏にちらりと過ぎるのは、先程まで自分達と打ち合わせをしていた桜花の事だ。
――その内容は……。
●
「2~3箇所に数百人を集めて、俺達で護衛する場所を絞る?」
「はい、そうです千尋さん」
ネリッサ達がカスミに関する情報を集め始め、ネコ吉達が町役場に向かった後。
予め一般人の避難場所を見繕う為に先行した千尋と葵桜に対して、そう考える様な表情でその意見を出したのが桜花だった。
「それはどう言うことなんですか、桜花さん?」
葵桜もその桜花の言葉が気になったのか身を乗り出すようにして問いかけてきたのに、つまり、と桜花が言葉を続ける。
「この町には数百人の人が住んでいます。勿論、バラバラの場所にです。一番簡単なのは、数百人単位の人々が住んでいるこの場所で、その全員を1箇所だけを利用して保護する事ですが……それは、現実的に考えて難しいです」
その桜花の言の葉に、まあ、と葵桜が軽く首肯している。
「確かに普段はこの都市の人全員が1箇所に集まることなんて無いだろうから、そう言う場所を作ってある可能性はあまりないですね。特にこの世界は800年以上平和が続いているんですから、尚更です」
その葵桜の相槌にその通りです、と桜花が微笑み首肯した。
「何よりも、帝都にもそこそこ|埋蔵物《 ・・・ 》があります。ですので、誰かに何の許可も取ること無く、勝手に巨大防空壕等を設けるのは、自宅程度なら未だしもそれ以外の場所では難しいです」
「……うん、そうですね。そうなると、1箇所に集めるだけでは少し足りない……そう言うことですよね」
その葵桜の言の葉に、その通りです、と桜花が首を縦に振り、話を続けた。
「ですが、逆に言えば、こういうことは出来ると思います。数百人を200~300人位に分けて、2~3箇所に分けた避難所に収容する。此でしたら、1箇所に集めるよりは難易度が下がると思うのです。まあ、それでも全員を私達が避難場所と位置づけた所に分けて避難させるのは難しいとは思いますが」
(「其の為に、ネコ吉さんは町長さんを説得しに言って下さっているんですけれど……」)
如何しても、こう言う際の避難を考えた場合には、自分達だけでは無く、そう言った地元の防災組織の協力が必要となる。
その桜花の提案にじゃあ、と千尋が軽く肩を竦めた。
「御園。お前は其の為に警察とかそう言った防災組織に協力を要請しに行くつもりか?」
「はい、その通りです、千尋さん。私1人でも、近くの交番や、役場を訪ねて近くのの避難場所等の確認と協力の要請位は出来ますから」
そう告げる桜花のそれに、じゃあ、と葵桜が手を挙げた。
「避難場所を桜花さんに確認して貰いつつ、私達は、予めそう言った人達が纏まって避難できる場所とルートを確認した方が良さそうですね。もしかしたら、本来の避難場所が使えなくなってしまう可能性も0ではありませんから」
「そうですね。其方は葵桜さん達にお任せします。一応、この町に私の蜜蜂を放っておきますので、何かあったら、私からも連絡しますので」
「よし、それじゃあ、そっちは任せたぜ、御園」
告げられた桜花の其れに千尋が軽く首肯し、桜花がそれに笑顔でカーテシーをして、その場をゆっくりと去っていた。
●
(「まあ実際、最終的に避難を簡単にするためには、御園の言う様に元々の防災組織を利用するのが手っ取り早いんだよな」)
諸々の其の時のやり取りを思い起こして蒼に簡潔に説明しながら、千尋はちらりと内心でそう思う。
――その桜花の思考をより円滑に進める其の為にも。
「ネコ吉達が了解を取ってきてくれるべく動いている。其方の説得が完了すれば、人々を避難させるのが多分、一番安全だろうしな。だから、お前は中央公園で引き続き調査を頼むぜ、神宮時」
告げた千尋の其れに、分かりました、と首肯する蒼。
その蒼の応えを聞いてからスマートフォンを千尋が切ったところで。
「千尋さん。取り敢えず沢山の人達を収容出来る避難場所は学校・病院・町役場・それと、後中央公園が主みたいですね。後は……」
そう葵桜が話を切り出し、千尋と共にその避難場所への逃走ルートを確認しようとしたところで。
「すみません、榎木さん、司さん。合流が少し遅れてしまいました」
小走りで現れたネリッサの姿に、葵桜がネリッサさん! と声を上げた。
が……直ぐに目当ての人物がいなかったことに気がつき、怪訝そうに小首を傾げる。
「あれ? ネリッサさん。姫ちゃんや、統哉さんは如何しましたか?」
その葵桜の問いかけに、灯璃が彩瑠さん達は、と話を切り出した。
「カスミさんにもう少しついている、との事です。鳴上さんや文月さんが彼女に協力要請をしましたので、其の為の落としどころを探しています」
(「舘野さんの調べてきた情報は確かでしょうけれども、鳴上さん達の意見……カスミさんが最優先で狙われる可能性を否定する証拠がありませんしね」)
その胸中の思いを心の奥底に押し止めながらの灯璃の言葉に、そうですか、と少しだけ残念そうに葵桜が顔を俯かせた。
(「姫ちゃんは、姫ちゃんで頑張っている。ならば私も、今できることをやらなくちゃ!」)
と内心で葵桜が決意を固めた時。
「……出でよ、黄巾力士金行軍」
不意に上空から冬季の声が轟いた。
その号令に応える様に、132体の『金行』を司る黄巾力士達が姿を現す。
「鳴上さん。如何するつもりです?」
ネリッサが上空の夜鬼で何時来るか分からない影朧達の襲撃に神経を尖らせながら冷静にそう問うと。
「本来であれば人々を公園に避難させるのが最良でしょう。それをやりやすくするために、道路や町境にバリケードを築かせておきます。先程の飛鳥さんの戦術からしても、城壁なしの籠城戦になる可能性が一番高いですから」
「分かりました。バリケードの設置はお任せします」
風火輪を点火して空を飛びながら、黄巾力士金行軍に指示を下す冬季の応えにネリッサが首肯し、灯璃が続けて千尋達を見る。
「それで、司さん、榎木さん。避難経路などの具合はいかがですか?」
「ああ、そうだな。取り敢えず幾つか目星はつけてあるぜ」
その灯璃の問いかけに軽く首肯してその位置を『宵』に案内させる千尋。
「取り敢えず、4箇所からの包囲作戦が一番危なそうなんですよね」
千尋と共に避難経路を探りながら町の大まかな地図を書き込んでいた葵桜が確認する様にそう呟くと。
「ええ、そうです。本当は数百人全員を1箇所に集めておく方が最善なのですが……」
「だが、いざ、と言う時にそこまで統率された動きが取れるとは限らない。だから、次善の策として、御園やネコ吉が動いている。そう言うことだろ?」
そう千尋が軽くウインクをしながら問いかけるのに。
「そうですね。そして、その避難場所を私達が予め把握しておけば、後は空に浮かばせている私の夜鬼の目でも状況を確認できますし。もし手が足りなければ、数を召喚するユーベルコードを使用する、と言う手段もありますから……」
そう告げるネリッサの其れに、成程ね、と千尋が口の端に笑みを浮かべて首肯を1つ。
その間にも葵桜が次善に予め選定してくれた避難経路の案内を始めている。
「公園に行くには此の道を。それから学校や、町役場に行く為ならば、此の道を、という感じです。で……此の通路は今、私達が把握しているこの町の住人(900人程)を2~3箇所に分けて避難させられる場所に繋がっています。中央公園を通るのが一番早道かも知れませんが、それですと……」
「そうですね。中央公園は最も避難民を多く集める事の出来る場所になるでしょうから、其処をメイン通路としてしまうと、混乱が生じますね」
その葵桜の説明に首肯しながら、葵桜と千尋が選ぶ道を歩くネリッサと灯璃。
やや、裏道とでも言うべきその場所ではあるが……。
(「だからこそ、彼等にとっても、狙い目になりやすい場所ですよね」)
と言うか、もし自分が彼等が市街地でのゲリラ戦を展開するのであれば、こう言った要所となり得る通路は予め押さえておく。
そこに侵入された場合に備え、次々に無人機関砲座や、対人指向性地雷、リモート狙撃銃等を偽造する灯璃。
そして其れを、冬季が黄巾力士金行軍に製作させたバリケードや、通路から見た死角、今は無人のビル等に慎重に設置していく。
特に、対人指向性地雷の配置には、一般人が誤って踏まぬ様、細心の注意を払って仕掛けていく。
そう……正しく冬季が設置したバリケードから踏み込んだ直後の通路等に。
更に念入りに此方で何時でも起爆できる様にする為に、電子精霊である管狐達を召喚し、それらの偽装兵器の中に忍び込ませた。
「此で一先ず下拵えは完了したと言って良いでしょうね」
「そうですね、局長」
確認する様に呟くネリッサのそれに、灯璃が正しく頷いた、其の時。
――ウー! ウー! ウー!
サイレンと共に、緊急避難のアナウンスが響き渡り、桜花の蜜蜂とネリッサの夜鬼が、消防隊などの防災組織の出撃を確認したのだった。
●
「……人々の避難誘導が始まった様ですね」
その放送を耳にしながら。
カスミの家に居たウィリアムがそう呟くと、そうだな、と統哉が静かに首肯する。
(「敬輔や美雪はもう、行動を開始しているのかな?」)
自分の呼び出したふわもこ着ぐるみ部隊も防災組織に協力して、人々の避難に今頃、協力していることだろう。
更に桜花が各交番等に、非常事態に備えた動きをする様に予め根回しをしており、灯璃やネリッサも既に『仕込み』をすませたそうだ。
「……取り敢えず、誰1人殺されずに、どうにか出来る可能性は此で見えてきたわね」
その状況を、統哉の黒にゃんこ携帯に入ってくる情報から聞いた姫桜が、安堵の溜息をそっと漏らした。
(「あお……貴女も無事で居てね……」)
出来れば一度葵桜の無事な顔を見ておきたかったが……流石にその余裕は今は無い。
――それよりも。
「それで……私は、結局如何したら良いんでしょうか?」
そんな風に不安と恐怖、そして緊張を交えて小首を傾げているカスミの姿に、統哉がそうだな、と軽く小首を傾げた。
「俺達に出来る事なら協力して欲しいけれども……でも、其れを俺達に強要する事は出来ない。只、此の大切な形見だけは俺達に預けて貰っても良いかな?」
その統哉の言の葉に。
「……はい」
そう静かに首肯するカスミのそれに、姫桜がペチン、と気合いを入れる様に自らの両頬を軽く叩いて。
「そうと決まったら、カスミさん。貴女には、私達と一緒に中央公園に避難して貰うわよ。多分、あそこが一番安全だから」
「分かり……ました」
姫桜の其れに首肯して軽く身支度を調えるカスミ。
その様子を見ながらウィリアムがさて、と誰に共なく呟いた。
(「カスミさんから、大体の情報は掴むことが出来ました。後、諜報部や図書館に載っている情報からも大体の事が分かっています。けれども……」)
それでも、影朧の動きが完全に予測仕切れない。
その事実にウィリアムは一抹の不安を覚えたが……。
「それでも、出来る事をやるしかありませんよね」
そう呟き。
統哉達と共に、カスミを連れて、中央公園へと向かって行った。
●
「……始まったか」
そのサイレンの音を聞いて。
敬輔と眉間に皺を寄せたネコ吉を見送った美雪が、軽く溜息を1つ漏らす。
「ネリッサさんが、予め用意してくれていた夜鬼が影朧の動きを察知し、桜花さんの蜜蜂がサイレンの音を広げてくれたから、何とか間に合ったが……」
消防隊や、一部警備員達に案内されて緊急避難されてくる人々を見ながら美雪は思う。
(「だが、本当の戦いは此からだ……」)
これは、未だ相手と戦うために今、出来る限りの準備をしたに過ぎない。
本当の戦いは此からであり、影朧達が何処から現れ、どの様な手段を講じてくるのかは、未だ完全には読み切れていないのだ。
(「灯璃さんが諜報部から引き出した情報を頼りにするとしたら、恐らく予め影朧の誰かを、この町に侵入させている可能性が高いが……」)
これだけ大事になれば、簡単にその影朧が動くことが出来るとは思えない。
けれども……不可能では無いかも知れない。
今は未だ、緊急避難のアナウンスが入り、防災組織の秩序だった指示も出ているから、大きな動きは出来ないだろうが……。
「それでも……何かをしてくる可能性がある」
そう美雪が呟いた時。
町役場に姿を現した避難民達の一部を見て……自らの巨大冷蔵庫完備のログハウス喫茶店としての笑顔を向け。
「やあ、皆さん。今は少し心を落ち着けるためにも、茶や珈琲は如何かね?」
そう呟く美雪の其れに。
此処を避難場所と指定されていた200名程の住民達の一部が、怪訝そうな表情を浮かべながら、ありがとう、と頷いた。
●
――そして、最も避難民が多く誘導されてくる中央公園の中央では。
「……避難誘導が、間に合って、良かった、ですね」
石碑をじっと見つめ、何かの違和感を探し続けていた蒼が、そっと誰に共なく言の葉を紡ぐ。
その蒼の赤と琥珀色の色彩異なる双眸には統哉達と共に、中央公園に避難してくる、カスミの姿。
胸中に宿る熱が何かを慰撫するかの如く暖かくなるのを感じながら、蒼は統哉達と合流しようとして。
一瞬、クルリ、と石碑を振り返った。
「……正直に、言えば、ボクは、貴方達、に、最期、の、時を、思い出させる、のは、気が引けます……」
――けれども。
「でも、今の、都市の、人々の顔を、皆様には、見て、欲しい、です」
――皆様には、見えますか?
必死の形相で避難してくるこの都市の人々が、戦慣れ、している様に。
それに、疲弊している……その様に。
「そんな、顔に、見えます、でしょうか?」
――此は、全て、貴方達が、護った……。
「未来、の、姿、です」
――だから、ボクは。
「貴方達、に、ボク、は、見て、貰い、たいのです」
――過去では無く、今を、未来を、見つめる――。
「……貴方達、が、護った、未来、の、姿を」
――その瞳で、きちんと……。
――だからこそ。
「蒼!」
統哉の呼びかけに。
「……文月様。カスミ様、を、お連れ、出来た、の、ですね」
振り返った蒼が問い返すと。
「ええ……何とかね」
姫桜が代わりに応えるのに、良かった、と安堵した様に花の様な微笑を浮かべる蒼。
「……では、行きましょう。皆様」
――カスミ様、の、大切な、御先祖様、と。
その、お仲間、であった、部下、であった、影朧様達、に。
「……あの方達が、お守りした、未来を、其の瞳、に、焼き付けて、頂く、戦いに」
そう告げて。
中央公園に避難誘導されてきた人々の波に逆らう様に、蒼が統哉達と共に、中央公園を護る様に前進する。
――その蒼達超弩級戦力達の後ろ姿を、石碑とそれを護る様に咲き誇る幻朧桜が風を送って優しく見送った。
大成功
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第2章 集団戦
『旧帝都軍突撃隊・旭日組隊員』
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POW : 怪奇「豹人間」の力
【怪奇「豹人間」の力】に覚醒して【豹の如き外見と俊敏性を持った姿】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD : 怪奇「猛毒人間」三重奏
【怪奇「ヘドロ人間」の力】【怪奇「疫病人間」の力】【怪奇「硫酸人間」の力】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ : 怪奇「砂塵人間」の力
対象の攻撃を軽減する【砂状の肉体】に変身しつつ、【猛烈な砂嵐を伴う衝撃波】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
イラスト:i-mixs
👑11
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
「……報告です。新たな敵による防衛拠点の建設が確認されました」
――着々と、避難の進む帝都の一角。
凡そ900名程が住むその都市を、双眼鏡を覗いて見つめていた、斥候を命じられていた若者がそう飛鳥に報告する。
報告を受けながら合法阿片を詰めた煙管を吸い、深呼吸をする様に吐き出して。
「兵力がどれ程かは分かるか?」
と、飛鳥が尋ねると。
「はっ。……幸い1000には満ちませんが、恐らくは大隊規模の部隊かと」
「更に工作兵が100名以上おりました。恐らく貴奴等による突貫工事で防壁を作り上げたのでしょう」
斥候の傍に現れた密偵と思しき若者に、成程ね、と飛鳥は笑い。
「なあ……孫子の兵法って知っているか?」
そう飛鳥が問いかけると、若者は、はあ……と曖昧に首を傾げた。
「聞いた事はございますが……」
「|用兵,十围之《 用兵の方は、十なれば即ち之を囲む 》」
曖昧な答えをする若者を笑うこと無く、飛鳥がゆっくりと歌う様にそう諳んじる。
「此の一分から始まる其れは、本来は小兵力しか無いのに、無理をして大兵力に戦闘を仕掛けるな、と言う驕兵を戒める言葉だ。だが幸いにも、今、オレ達には敵戦力に対して、数倍近い兵力がある。しかもお前達1人、1人が、数人の一般兵を相手取る程の力を持つ……な」
(「まあ、本来であれば、こんな実験の犠牲に何ぞ手前等をしたくなかったが……」)
それが、彼等が自ら御国の為にと望んで行ったことであったとしても。
それでも、此の大戦末期……勝敗がどうなるのか分からない様な、そんな戦で『勝つ』為だけに、若者の命を無駄にするなど……。
――だが、それでも。
「はっ! 心得ております、閣下! 既に我等は此の命、御身と、御国の為に全てを捧げる所存。例え此の戦の後に短命で終わろうとも……閣下や、我等の御国の家族や、親しき者達の為であれば、是非もありません」
その若者の覚悟を決めた、言の葉に。
飛鳥が報告された砦の状態を確認し、覚悟を決めた様にそっと溜息を漏らした。
「まあ……今すぐに叩かねば、此処に新たな戦力が集結しちまう。そうなれば、御国もオレ達の家族も、故郷も、何もかもが奪われちまう」
――だから。
「手前等の命、この飛鳥が預かった。戦場では、生き残った者が勝者だ。御上の建前、大義、そんな下らないものの為に命を落とす必要なんぞねぇ。只、己が家族を、恋人を、身近な友人達を、故郷を思え。此の戦争に勝利し、自分達が帰る事の出来る場所を守れる事を忘れるな! 其の為にも、この攻城戦、必ずオレ達の手で成功させるぞ!」
その飛鳥の号令に。
『ハッ!』
若き兵士達が一礼し、数千名がバリケードの敷かれた都市を包囲を開始。
その間に。
「工作部隊は、先ずは食料庫を叩け! 補給を断っちまえば奴等の士気も下がるだろう。それから中核となる施設も抜かりなく攻めろ。隠密班はオレと共に来い! 指揮官を撃ち殺して内応を誘い、内側から陥落させるぞ!」
その様子を見て満足げに頷きながら、続けて飛鳥の下したその指示に。
『ハッ!』
素早く無線を装備して緊密な連絡手段を得た兵士達が、都市へと進撃を開始した。
――其々の、大切なものの為に。
*第1章の判定の結果、第2章は下記のルールで対応致します。
a.敵戦力は、最低でも3000名以上の兵士を備えています。隊としては。
1.包囲攻城部隊(都市を外から包囲して攻めてくる部隊です)
2.特殊部隊(現在で言う所のインフラ設備の破壊を行う部隊です)
3.狙撃・隠密部隊(飛鳥率いる内部侵入を行い、一般人の中の要人を暗殺したりして指揮系統を乱す部隊)
となります。
特別にどの部隊を相手にする、とプレイングで指定する必要はございません。
攻城の為に部隊が最適化されているのだと考えて下さい。
b.都市の住民は全部で900名程です。第1章の結果、現在は避難が速やかに行われていますが、全員の避難完了はしておりません。
凡そ、70%程の避難が完了しているとイメージして頂ければ幸いです。
(全ての場所でほぼ同様です。此の避難を手伝って早目に避難させたり、護衛は可能です)
c.避難民達の避難先は、現時点では下記3箇所です。
最終収容予定人数も、下記となります。
何処の場所を守るのかをプレイングでご指定頂いた場合、それは状況によってはプレイングボーナスになるかも知れません。
町役場:300名程(第1章の判定の結果、安全地帯もございます)
中央公園:400名程。
学校:200名程。
他に避難場所の候補として病院等もありますが、此方に避難させる動きはありません。
c.影朧達は、スーパーや水道用地等を補給拠点と判断しています。
d.第1章で用意したバリケードやトラップ等はプレイングボーナスとして使用できます。但し、【レベル✕○体を召喚する】系統のUCで召喚された存在はいません。
e.カスミは中央公園に居ます。カスミは『指揮官クラス』と扱います。
f.それなりの地位を持つ町長の様な人物も、影朧達は『指揮官』と見做します。
g.飛鳥率いる狙撃部隊は、少数部隊ですが、彼等は『アサシン』と呼ばれます。
『アサシン』は下記ルールで運用致します。
死角や、超遠距離から攻撃してくる。この『アサシン』達は、『指揮官クラス』と判断した対象を優先して攻撃する。
『アサシン』との決戦は第3章です。第2章では『アサシン』と直接対峙は出来ません。
――それでは、最善の結末を。
神宮時・蒼
…抱く信念は、立派な、もの、ですが…。遺した、未来を、潰しかねない、の、です、よね
…此の戦いが、彼の方の、新しい、未練に、ならぬ、ように…
…出来る、限りの、力を、持って。全てを、守り抜いて、見せましょう
戦いは此方の領分ではありますが、一般の方々を危険に晒す訳にはいきません。
このまま中央公園にて対処を
敵方の狙撃舞台を警戒
公園に【魔力溜め】で強化した【結界術】を展開
避難した方々に被害が及ばぬように―
【動物】や【植物】に都市で見た事が無い者が居ないか常に情報を貰いましょう
周囲への警戒はそのままに、眼前に迫り来る兵士を何とか致しましょうか
相手の攻撃は【見切り】、都市の方に向かいそうならば【受け流し】
【弾幕】で侵攻の邪魔を
単体ならば【衝撃波】で、複数いるならば【冬花庇護ノ舞】を
いずれも【全力魔法】と【魔力溜め】で威力を強化して早期に決着を
戦線が落ち着いて、怪我した方がいるのなら【医術】や【薬品調合】で対処を
…流石に、死地を、歩んだ、方々は、気迫が、違います、ね
ウィリアム・バークリー
避難場所の防衛は皆さんに任せて、ぼくは大通りで一撃入れます。
|原理砲《イデア・キャノン》、起動。影朧エンジン、スチームエンジン接続。トリニティ・エンハンスで攻撃力強化。Elemental Cannon、「エネルギー充填」。「全力魔法」氷の「属性攻撃」、フロストライトを触媒に。Mode:Final Strike. Idea Cannon Full Burst!
第一射で、敵陣を崩せたらいいんですが。
味方を巻き込まないよう注意し、発射間近になったら連絡網にその旨を流します。
全力で砲撃して、まだ原理砲がもってたら、続けての砲撃いきます。
あとは、囮として影朧を引きつけましょう。『スプラッシュ』、抜刀!
灯璃・ファルシュピーゲル
【SIRD】一員で密に連携
2章配置の全兵器の妖精を活性化し周囲監視
さて、プレイボールですね…納得できるまでお付き合いしますよ。
まずは、防壁に各機銃座を味方の迎撃に合わせ断続的かつ段階的に攻撃開始させ、避難先と別方向に大規模防衛拠点があるように見せかけ、一気に吶喊出来ない様に遅滞狙いで圧を掛けつつ、手前が沈黙したら奥の銃座を動かしという具合で地雷と狙撃銃座の巣の奥へ徐々に誘導。
局長や仲間とも情報共有し、完全に引っ掛かったところで地雷を爆破し、
罠を閉じ足止め、味方の攻撃に合わせ狙撃銃座で通信兵、小隊指揮官クラス狙いで狙撃させ攪乱、部隊連携の阻害を図ります
自身は前線の戦闘を隠れ蓑に忍び足で移動し、敵部隊が後方からスーパー・給水所等に向えそうな経路の方へ進出。敵特殊部隊も動くなら前線の騒ぎに乗じてでしょうし、ココが捉えやすいかなと。
捕捉次第、狙撃(スナイパー)で通信兵の排除と足止めを図りつつ、
指定UCで爆撃機を召喚、クラスター誘導爆弾による制圧を狙います
…スナイパー通りへようこそ
アドリブ絡み歓迎
ネリッサ・ハーディ
【SIRD】のメンバーと共に行動
(無線にて)グイベル01よりSIRD各員へ。侵攻中の敵兵力は、恐らく増強連隊規模。重火器及び車両等の存在は現時点で確認できず。また、都市内部にて破壊工作を行う敵部隊が浸透する可能性大。我々はこれらを直ちに迎撃、殲滅します。
グイベル01は|交戦を許可《クリアード・ホット》、|各個にて射撃開始《ファイア・アット・ウィル》。
UCにて敵戦力の位置や動き、戦況等を把握し、その状況を無線でSIRD及び他の猟兵に伝達し、指揮管制を試みます。基本的には中央公園でカスミさん達を護衛しつつ指揮管制を行いますが、状況に応じて自身も予備戦力として形勢不利なエリアの救援を行います。
ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの面子と協力
アドリブ・他者との絡み歓迎
いいね、俺好みの鉄火場みてぇじゃねぇか。今回は|SIRD《ウチ》の|局長《ボス》もいるから、弾代の心配もしなくて済みそうだ。給料分しっかり働いてやる。
こちらセールイ11、|目標視認《ターゲット・インサイト》。おっ始めるぜ。
市街地の建物の中に身を潜ませ、インフラ設備狙ってる敵の横合いからチャンスを狙ってUCにて狙撃。射撃したら自分の位置を悟られない様、別のポイントから狙撃を行う。
こちらセールイ11、|目標視認《ターゲット・インサイト》。おっ始めるぜ。
獲物は取り放題、よりどりみどり、ってヤツだな。なぁ、誰が一番敵を倒しせるか、誰か今夜の晩飯掛けねぇか?
司・千尋
連携、アドリブ可
死んでも戦い続ける『何か』があるんだろうけど
俺にはわからないな
避難所の防衛優先
手薄な所に行く
無理なら敵の数を減らす事に注力
近付いてくる敵は片っ端から吹っ飛ばす
攻撃は『空華乱墜』を使う
範囲内に敵が入ったら即発動
味方がいる場合は当てないように調整
近接・投擲等の武器も使い
早業、範囲攻撃、2回攻撃など手数で補う
死角や敵の攻撃の隙をついたりフェイント等を駆使
確実に当てられるように工夫
敵の攻撃は結界術と細かく分割した鳥威を複数展開し防御
オーラ防御を鳥威に重ねて使用し耐久力を強化
割れてもすぐ次を展開
回避や防御、相殺する時間を稼ぐ
間に合わない時は双睛を使用
一般人や避難所への攻撃は最優先で防ぐ
藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎
おいおいおいおい
明らかに我々を敵兵と判断しているようだが
そもそもどう見ればこの街の人々を敵兵と判断できるのか
…いやある意味我々がそう判断させてるかも?
まあ…先ほど調べた通りの人となりであるならば
影朧化して認知が歪むのは理解の範疇ではあるのだが…
町役場の安全地帯を作ったのは私なので
避難完了まで私はここから動けないな
しかも町役場にいる町長は真っ先に狙われそう
…最悪、私が庇うしかないか(嘆息)
避難民は1章で発動した【出張カフェ『スノウホワイト』】による安全地帯に大声出して誘導し入ってもらおう
事前に巨大冷蔵冷凍庫の中身は片づけたから、この人数なら入ると思う
町長はおそらく最後まで避難しないと思うので
護衛を付け守りたいところだが
避難が間に合わずアサシンの手にかかりそうになったら即座に指定UC発動
町長の精神を箱庭にすっ飛ばす代わりに肉体を無敵化して攻撃回避だ
この方法、難点があるとすれば
町長がもふもふさんに心奪われて戻ってこないかもしれんことか…
…自力で戻って来いよー
鳴上・冬季
【空城計】
御園桜花と共闘
「私が指揮官なら、役所と病院は確実に潰します」
自分のUCは壺中天
御園のUCで発動させるのは黄巾力士五行軍
火行132体を4隊にわけ
小学校の防衛設備構築
敵への制圧射撃
敵への鎧無視・無差別攻撃
オーラ防御で敵の攻撃から庇う
飛行し町役場へ
町長達に
「これは影朧との戦争です。貴方がすべきは戦闘指示ではなく、市民を守るために戦闘中の市民の慰撫です。貴方は指揮官と誤認され、ここが激戦区となる。ここに集まった市民、小学校に集まった市民の慰撫が貴方の仕事です。これから10時間、壺中天に避難してください。壺中天内の物は何を使っても構いません。市長の貴方には市民を守る義務がある。そして、桜學府には影朧から国民を守る義務がある。ここから先は、全て桜學府の責任です」
町役場に避難した全員を壺中天に避難させ一緒に行くと表明があった猟兵も居れば一緒に収容し小学校へ連れていく
「多少はここでも反攻がなければ空城計は成立しませんから」
嗤う
小学校でも可能な限り壺中天へ避難させつつ屋上で雷公鞭振るい敵に雷撃
御園・桜花
【空城計】
鳴上氏と共闘
UC「幻朧桜召喚・桜朧」
「戦闘で使用するのは今回が初めてなのですけれど。私はこのUCを、自分がUCを使う代わりに他者のUCをもう1つ使わせるUCだと理解しています。帝都を守るなら、早く戦闘を終息させるなら、他の方々に複数のUCを使って頂く方が、市民の皆さんの命を守れると思うのです」
小学校から町役場に飛び可能な限り他の猟兵にも複数UCを使う機会を提供
小学校に戻る前に病院に寄り赤十字の旗を急いで作り掲げさせる
「戦闘協定が生きていれば攻撃されずに済むかもしれません。病院に避難しては病院機能が失われますから」
小学校に戻りがてら避難民を見つけたら抱えて運ぶ
敵には飛行しながら制圧射撃
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友
第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん
武器:漆黒風
少し遅れましたがー…『私たち』も参りましょう。
あ、来たことは猟兵仲間には伝えておきますねー。
では、UC使いまして、隠密へ。
霹靂に騎乗して、空からの防衛遊撃ですねー。ええ、漆黒風を投擲していきますー。
どこから来たのかわからない攻撃ってのは、結構怖いものでしてねー。
ああ、陰海月はUC活用しつつ、こっそり護衛してますねー。こういう時って、頭を叩くものですからー。
※
陰海月「ぷきゅう!」黒曜山(盾)持ちつつ、護衛頑張る!
霹靂「クエ!」遊撃頑張る!たまに体当たり仕掛けようとする。
彩瑠・姫桜
カスミさんの護りに集中
【血統覚醒】で強化後
[かばう、武器受け]駆使して対応するわ
毎回、一つ覚えもいいところって感じだけど
カスミさんが狙われるってわかっているのなら徹底的に護るのみよ
手が足りているようなら敵の牽制にまわるわね
何にせよ他の猟兵仲間との連携は常に意識するわ
影朧になる前から様々に傷を抱えていたのかもしれないけれど
それでも貴方達が決死の思いで護ってくれたから、カスミさんや住民の方々の今がある
それを傷に囚われた歪んだ視界でとらえて壊してしまわないでよ
平和を望んだんでしょう?
愛する人たちの笑顔を望んだんでしょう?
ちゃんと見なさいよ、聞きなさいよ
貴方達の望んだものがここにいる彼らなんだから
榎木・葵桜
「学校」を拠点に残った街の人たちの避難と守りに専念する
収容人数少ないけれど、ここも大事な防衛拠点だからね
拠点に校長先生とか、要人にあたる人がいるって把握できそうなら
その人の守りに重きを置こうと思うよ
そうでない場合は校門前などで待機して迎え打てるようにするね
【巫覡載霊の舞】で強化
避難・守り時には[武器受け、かばう、見切り、第六感、激痛耐性]駆使
攻撃時は[なぎ払い、衝撃波]で対応するね
かつては戦場だったかもしれない
影朧になってしまったということは、ここでの戦いが一番心残りだったんだよね
でも、かつて貴方達はちゃんと護ることができた
だから護ったものを自分達で壊してしまわないように
私達が止めてみせるよ!
館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携大歓迎
この街の住民は
慰霊の石碑を立ててまで飛鳥さんたち将兵に報いている
せめて、その事実は伝えたいが
公園の石碑を見てもらわない限り、認識を変えてもらうのは難しいか
…今は撃退するしかない
この状況は…俺は町役場周辺から動かない方がよさげだな
他猟兵とすまほで連絡を取り合いつつ
避難完了するまで町役場で防衛戦だ
「早業、先制攻撃」+指定UC発動し、分身を10体生成
分身のうち3体は「武器受け、オーラ防御」で町長、及び指揮官とみなされた人々の護衛に専念
2体は「第六感、世界知識」で近場のインフラ破壊を狙う特殊部隊に対応
残りの分身と俺自身は、住民の避難誘導を優先しつつ近づく敵を斬る
住民全員が避難完了したら、町長も避難させよう
最悪、「怪力」で引きずってでも避難させる
避難完了したら、敵部隊を「属性攻撃(氷)」で絶対零度の氷を帯びた「衝撃波」で「範囲攻撃、吹き飛ばし」て避難所に接近させない
敵と真っ向から斬り合うのは出来れば避けたいが、やむを得ない場合は漆黒の「オーラ防御」を展開しつつ斬り合おう
文月・ネコ吉
大規模戦闘に関しては得意な奴等が居るからな
その辺りは仲間に任せて
俺は避難の早期完了に動こう
地図を手に仲間と連絡を取り合い避難状況を確認
誘導が手薄な場所や避難困難者のいる場所へ急行して住民を保護
[オーラ防御]と[武器受け・かばう]で護りつつ避難所へ連れて行く
避難経路の確保と仲間の援護にUC『鈍色の雨』使用
戦場全体への【鈍色の稲妻】の攻撃で敵の侵攻を妨げつつ
【優しい雨】で住民達の気力と体力を回復する
避難完了後は避難所を防衛(町役場か手薄なら中学校)
ウミネコを偵察に飛ばしつつ
[暗殺]者の狙いを[見切り]備える
誰一人死なせやしない
住民達は俺達が絶対に護り通す
護りたいと願う彼らの想いを真に全うさせる為に
文月・統哉
仲間と連携して護る為の戦いを
誰も死なせる訳にはいかない
バリケードを活用してオーラ防御を展開
中央公園で人々の防衛を行い
カスミを庇い暗殺を阻止する
どこまで伝えられるだろうか
それでもやるべき事がある
護る為に戦った先人への敬意をもって
大戦時の彼らの旗印を掲げよう
ここが既に敵地ではなく
護り通した未来である事を英雄達に伝えたい
嘗てこの地で戦った貴方方は
その命を賭して人々の未来を護り切った
大戦に勝利したんだ
それから既に多くの時が流れている
今一度周囲を見回して欲しい
見た事もない街並みこそが
貴方方が勝ち取ってくれた平和と繁栄の証だから
『願いの矢』と共に
石碑に込められた住民達の想いを伝え
英雄達の転生を促し浄化する
●
――兵士達の歓声と突撃の咆哮と、動き出した其れを|夜鬼《 それ 》の目で見て。
「……来ましたか。グイベル01より、SIRD各員及び、各猟兵達へ。侵攻中の敵兵力は、凡そ増強連隊規模」
中央公園に駆けつけ、夜鬼の目で戦力を確認したネリッサ・ハーディ(クローク・アンド・ダガー・f03206)がそう通信を繋げると。
「Yes.マム。この練度……本気で戦うつもりですね、局長」
自らのJTRS-HMS:AN/PRC-188 LRP Radioに入ったネリッサの其れに灯璃・ファルシュピーゲル(Jagd hund der bund・f02585)が首肯して。
誰に共なくその手を挙げ、人々の避難の最中に予め仕込んでいた管狐達が嘶きと共にバリケードに配備した各機銃を起動する。
と……其の時。
「へっ……何だか面白そうなことになっているじゃねぇか、|局長《 ボス 》、灯璃」
そう昂ぶる血を抑えきれない様子で口の端に鮫の笑みを浮かべた人影が地面に向かって落下してくる。
誰も居ない空の空間から不意に姿を現したその人影に、灯璃が一瞬厳しい表情になり其方を振り返ると……。
「よう|局長《 ボス 》、灯璃。良い感じに暖まってきた鉄火場があるから……遊びに来たぜ?」
そう余裕の笑みと共に、肩に担いだ愛銃SV98-Mで軽く自らの肩を叩く……。
「……ミハイルさん。貴方に全く誰も居ない空間から姿を現す能力、ありましたか?」
ミハイル・グレヴィッチ(スェールイ・ヴォルク・f04316)の其れに微苦笑を綻ばせて灯璃が問うと、いやあ、とミハイルが肩を竦めた。
「まっ……そりゃ、お前や|局長《 ボス 》からはそう見えるか。さっきまで馬県の霹靂に乗っていたからな。流石は忍者だぜ」
そうミハイルが軽く肩を竦めて告げると。
「成程。馬県さんも来たのですね」
此方の手の内をこれ以上明かす訳にも行かず、囁き声で灯璃が問いかけるのに。
「……ええ。そうですよー、ファルシュピーゲルさん」
そう通信機越しに空中に海水霧を発生させた馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)ののほほんとしたその声に。
「成程……空中からの目に見えない攻撃は……それだけでも重圧になりうるでしょうね」
避難場所の護衛、及び避難民を任せ、確実に此方に近付いてくる敵戦力の方へと視線をやって。
その両手で描き出した青と白の混ざり合った魔法陣から魔導原理砲『イデア・キャノン』を召喚し、そのトリガーに両手を掛け。
ガシャン、と伸びた台座に足を掛け、コンソールをカタカタと叩いているのは……。
「バークリーさん。十分、『イデア・キャノン』を充填して下さい。出来る限り私の機銃で敵部隊を避難場所から引き離します」
「分かりました、灯璃さん」
灯璃の言の葉に頷いた、ウィリアム・バークリー(|“聖願”《 ホーリーウィッシュ 》/氷聖・f01788)。
(「影朧エンジン起動、『スチームエンジン』及びルーンソード『スプラッシュ』|原理砲《 イデア・キャノン 》に接続済。新コード|触媒《 メディウム 》、フロストライトを使用……」)
自らの体を水属性のオーラで覆い、『イデア・キャノン』の攻撃力を上昇させながら、宝石『フロストライト』をつぎ込むウィリアム。
次々にコンソールにその手をウィリアムが走らせる音を通信機越しに聞きながら。
「しかしこの状況、明らかに色々とあれだな。我々を敵兵と判断しているのは確かだが……。そもそもどう見れば、この町の人々を敵兵と判断できるんだ、あいつらは?」
そう巨大冷蔵庫完備のログハウス喫茶店を町役場に配備した、藤崎・美雪(癒しの歌を奏でる歌姫・f06504)が溜息を漏らした。
ログハウス喫茶店店主として、此処に来訪した避難民の一部に紅茶を振る舞いながらの美雪のそのぼやきに。
「恐らく、影朧と化しているから、でしょうね」
そう完爾と笑いながら防災組織を回り終え、人々の避難を補助しつつ告げたのは、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)。
「そうでしょうね、御園さん。そして私が指揮官であれば、確実に役所と病院は潰しますね」
その桜花の其れに重ねる様に式神にそう文字を書いて美雪に伝える鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)の其れに。
「……まあ、其れは否定できないな。先程調べた通りの人となりならば、影朧化して認知が歪むのは理解の範疇でもある。ところで、避難に手を回せる者はいるか?」
溜息を漏らし、米神を解しながらの美雪の其れに。
「……大規模戦闘に慣れている奴等は流石だな。避難は俺が受け持つぜ。何処か、人手が足りない場所は?」
「ネコ吉か。それなら学校の方に回ってくれ。俺と榎木……実質今は俺だけだから、ちょっと人手不足なんだ」
文月・ネコ吉(ある雨の日の黒猫探偵・f04756)の問いかけにそう応えたのは、防災組織に協力する司・千尋(ヤドリガミの人形遣い・f01891)。
千尋の高性能スマートフォンからの通信を、文月・統哉(着ぐるみ探偵・f08510)の黒にゃんこ携帯から聞いた……。
「あおに何かあったの!?」
思わず、と言った様子で些か慌てて彩瑠・姫桜(冬桜・f04489)が叫んでしまったのは、やむを得ないことであろう。
その姫桜の其れに千尋が冗談めかして軽く肩を竦め、ペロリとわざとらしく舌を出し、悪い、と軽い調子で返事を返す。
「今、榎木の奴が小学校にもあいつらから見た場合に指揮官と思われる奴がいるんじゃ無いか、と確認を取りに行っていてな。だから収容数こそ少ないが、その分割ける人員も少なく、少し対応が遅れているんだ」
「……そう。よかっ……べ、別にあの子のことだもの! 大丈夫だと思っていたに決まっているんだからね!」
親友、榎木・葵桜(桜舞・f06218)の件を聞いた姫桜が不意に少し顔を赤くして冗談の様にそっぽを向いてそう応えるのに。
「大丈夫だよ、姫ちゃん。心配してくれてありがとうね♪」
「だ……だから、別に心配なんて……!」
葵桜が何処からかう様な口調でそう告げるのに、姫桜が頬を赤らめた儘顔を横に振る。
(「……戦いの前の軽口は、其々の緊張を解すのにも必要な事だよな……」)
そんな葵桜達のやり取りをスマートフォンのイヤホン越しに聞いていた館野・敬輔(人間の黒騎士・f14505)がそっと軽く息を漏らして。
「だが……この町の住民は、慰霊の石碑を建ててまで飛鳥さん達将兵に報いている。出来れば此の事実を今すぐに伝えたいが……」
気を取り直す様にそう告げつつ目の前で転び掛けた町役場に向かう市民を支える敬輔。
その左肩が白化した自らの分身と共に、消防員達に協力して、町役場への避難を呼びかける敬輔の其れに。
「……だからこそこの町の人々を、俺達は誰1人、死なせるわけには行かないんだ」
そう黒にゃんこ携帯越しに伝える統哉のそれに。
「……文月様。……はい。ボク、も、その通り、だと、思い、ます」
その赤と琥珀色の色彩異なる双眸に愁いを帯びた光で戦場を見つめる神宮時・蒼(追懐の花雨・f03681)が小さく呟いた。
(「……あの人達の、抱く信念は、立派な、ものだと、思う、のですが……」)
――でも、その思いを貫き通してしまうことこそが。
「……遺した、未来、を、潰し、かねない、の、です、よね。……皆様」
彷徨わせる様に双眸を揺らめかせる蒼のそれに、そうだな、と統哉が首肯する。
「でも、其れをさせず、彼等が護った未来を守ることが出来る可能性があるから、俺達は此処に来れたんだ。そうだろ……蒼?」
確認する様な、統哉のそれに。
はい、と彷徨わせていたヘテロクロミアの双眸に、蒼が1つの決意を宿して頷いた。
「……文月様、の、言う、通り、ですね……。それに……」
――願わくば。
「……此の、戦い、が、彼の方、の、新しい、未練、に、ならぬ、よう、に、ボク、も、したい、の、です……」
蒼の誓いの籠められたその言葉に。
「ああ、同感だ、蒼。だから、先ずは皆を完全な避難を完了させよう」
「はい。文月さん、ネコ吉さん。人々の避難は全面的にお任せします」
その統哉の蒼への呼びかけに、そう告げたのはネリッサ。
「私達SIRDが遅滞戦闘で時間を稼ぐ間に、中央公園は文月さん達が、町役場は藤崎さん達が、学校は司さん達が避難を完了させて下さい。鳴上さんは、御園さんと共に行動する予定でしたね?」
「ええ、そうです。ですので私は先ず町役場の藤崎さん達と合流し……」
ネリッサのその問いに、冬季が確と笑いながら首肯して。
「私は鳴上さんの言葉通り、一度病院に立ち寄ってから小学校の司さん達に合流します」
同様に空中を浮遊しながら桜花がそう告げるのに、分かりました、とネリッサが首肯し、方針を確認したところで。
――ワアアアアアアッ!
敵影朧……嘗てこの土地を守った英霊達の勇ましい雄叫びが、戦場に轟き。
同時に彼等は、見る見るうちに様々な『怪奇』へと変貌を遂げていった。
●
「……今ですね。グイベル01より、SIRD各員へ。銃火器及び、車両などの存在は確認できず。然れど攻城部隊が各員、其々に姿を変貌させています。都市内部における破壊工作部隊迄がそうなっているのかは確認できません。ですが……破壊工作部隊が此の都市に浸透する可能性は極めて大。我々は、これらを直ちに迎撃、殲滅致します! グイベル01より各員、|交戦を許可《 クリアード・ホット 》、|各個にて射撃開始《 ファイア・アット・ウイル 》!」
「Yes.マム。さて、プレイボールと行きますか。……管狐隊、|撃て《ファイエル》!」
ネリッサの指揮に合わせて敬礼と共に、灯璃がそう叫ぶと同時に。
避難先である各施設とは離れた一角に設置されたバリケード上に配備された幾何かの機銃に宿った管狐達がそれらを起動する。
――ドルルルルル! ドルルルル!
凄まじい音と共に連射される無数の弾丸が、目前に凄まじい瞬発力で戦場を疾駆する豹人間達を撃ち抜かんとする。
『全軍、怯むな! そのまま突撃せよ!』
撃ち抜かれて倒れる兵士達を見ながら、轟く色とりどりのその声は。
各分隊に配置された士官クラスの兵士達の叱咤の声だ。
『……大分派手なお出迎えだねぇ。第1部隊は、敵の機銃砲撃の餌食にならない様、散開しつつ進軍を。それ以外の隊は弾幕の薄い方角から『砂状の肉体』形態で、砂嵐で身を隠しつつ行きな』
――味方には最小の被害を、敵には最大の打撃を。
用兵学の基本のために、自分に付いてきてくれている兵士達を捨て駒の様に使う自分に少し嫌気を覚えながらも。
(「まあ……其れが最善策だからね。そうするしか無いってのが現状か」)
そう内心で呟き、砂嵐に紛れる様にしてすっ、と身を消す様にして、飛鳥と特殊部隊が都市に肉薄する。
夜鬼の目は、突然戦場の彼方此方で巻き上げられ始めた砂嵐を捕らえ、其れを見つめたネリッサが軽く舌打ちを1つ。
「灯璃さん、気をつけて下さい。敵部隊は砂嵐を展開。此方の視界を塞ぎつつ、確実に進軍してきています」
「……どう足掻いても、潜入されるのは避けられませんね。まあ、あの数を私達だけで対応するのですから、全ての殲滅は無理ですか」
ネリッサの其れに、灯璃が小さく呟くその間に、SV-98Mのスコープ越しに緒戦の戦況を見ていたミハイルが続く。
「いっそ、俺も射撃に参加しちまった方が良いか、|局長《 ボス 》? 俺が狙い撃てば、此処に近寄られるよりも前にある程度数は減らせるぜ?」
「いえ、それでしたら此処は私が行きましょうー。上空からの目に見えない射撃は、恐怖を煽るには十分ですからねー」
ミハイルの肉食獣の笑みと言の葉に応える様にそう答えたのは、義透……を構成する四悪霊が1人、『疾き者』外邨・義紘と……。
「クエ!」
義透の跨がるグリフォン『霹靂』
遊撃頑張る! とばかりに嘶きを上げる『霹靂』の首を優しく撫でてやりながら、海水霧で包まれた義透がでは、と笑い。
「行きますよー」
そうのほほんと告げると同時に。
漆黒の棒手裏剣を投擲し、風を切って落下した其れが、上空の監視を怠っていた『豹人間』の1体を射貫き、その場に頽れさせた。
『なっ……何だ!?』
思わぬ奇襲に一瞬浮き足立ちかける兵士達に。
『狼狽えるんじゃねぇよ。要するに奴さん達は、手前等と同様の技術にその手を染めて手前等によく似た兵士を作り上げたらしい。……たく、油断も隙もありゃしない。怯むな! 臆すること無く落ち着いて前進しろ! 砂塵人間部隊は砂嵐を防性攻壁化して、防御と迎撃を』
そう進軍しながら冷静に指示を出す飛鳥。
其れを受けて素早く編隊を整え直し、上空からの義透の攻撃を攪乱する様に肉薄を続ける豹人間部隊。
其れを守る様に砂塵人間部隊が砂嵐を展開しつつ、更に砂嵐を散弾の様に広げて衝撃波を叩き付け、バリケードを破壊していくその様に。
「……やはり、簡単には倒されてくれませんか」
夜鬼の目を通してその戦況を見ながらネリッサが呟き、直ぐに通信相手を変える。
「精霊力充填率、75%。……未だ臨界点までは少し時間が掛かりますね……」
『イデア・キャノン』に搭載した影朧エンジンとスチームエンジンの唸りを聞きながらのウィリアムが呟くその間に。
「バークリーさん。後、どの位時間が必要ですか?」
そのネリッサの通信に、ウィリアムが。
「未だもう少し掛かります。ですが、此の一撃を撃ち込めば其れなりに戦力も削れる筈……」
そうウィリアムが告げた、その刹那。
――不意に、戦場全体を覆い尽くす様に鈍色の雲が現れ、優しき雨が戦場に降らせ始めた。
同時に無数の幻影の幻朧桜が戦場を覆い尽くす様に咲き乱れ、その桜の花がハラハラと一斉に吹雪と化して散っていく。
――そう、其れは。
「おい、こっちだ! 急いで小学校に避難しろ! お前達位の数なら此処からの方が速い! それから、防災組織の奴等も、皆と一緒に避難を急げ。 ……もう、雨は降り始めたからな」
そう人々を叱咤激励し鈍色の雨と稲光を降り注がせるネコ吉と。
「此のユーベルコヲドを使用するのは初めてではありますが……之は猟兵である皆様に複数のユーベルコヲドを使用できる様にするものと理解しております」
空中をヒラリ、ヒラリと舞う様に飛翔しながらそう告げる桜花が巻き起こした桜吹雪。
――更に。
「……邪を、祓う、鋭形の葉」
「蒼……?」
中央公園に向かってくる人々を急いで押し込む様に避難させていた統哉が、隣で自分に協力していた蒼にその声を掛けた刹那。
「……奔れ。風と、共に」
蒼はその手の小さく、馨しき香を纏う、限りある短き時の中で、懸命に咲く儚き幻想の花の名を冠する白杖を高々と掲げた。
その蒼の短き詠唱に応える様に、その白杖の先端に取り付けられた琥珀色の宝玉から白き光が発されて。
戦場を覆う鈍色の雲から降り注ぐ鈍色の雨と稲光と桜吹雪……其れと混じり合う様に旋風が迸り、敵部隊を貫いていく。
『くっ……此は!』
邪を祓う鋭い葉の旋風が蒼のスカートの裾を靡かせながら、鈍色の稲妻と共に敵部隊を襲うその間に。
「……火器管制システム、管狐達よ。|一斉射撃《 ファイエル 》!」
灯璃がその隙を見逃さず号令を掛け、それに応じる様に各機銃がその砲身を焼けさせるかと思わんばかりの勢いで敵を薙ぎ払う。
――と、其処で。
「……今ですね。精霊力充填率120%! ……Release. Elemental Cannon Fire!」
そのウィリアムの雄叫びと共に。
砲身を積層型立体魔法陣による魔力収束式仮想砲塔を作り上げた|原理砲《 イデア・キャノン 》が唸りと共に放射された。
解き放たれた火・氷・風・土・光・闇……相反する精霊達の魔力を収束させた其れが解き放たれ、轟音と共に敵部隊の一角を撃ち抜く。
その凄まじい一撃に、灯璃が火線を敷いていた部隊が半壊したと言う報告を聞いて、思わずちっ、と舌打ちする飛鳥。
『敵の策略にまんまと乗せられちまったって訳か……。取り敢えず緒戦では戦力をやられたが……本番は此からだぜ、敵さんよ?』
呟く飛鳥の其れに応える様に。
防壁バリケードを破壊した2000強の兵士達が、遂に防衛拠点本陣への到着を果たした。
――戦いは、まだ始まったばかりだ。
●
(「……皆さんの協力の御陰で敵の一角を潰すことが出来たのは、僥倖でしたが……」)
その刻一刻と変わりゆく戦況を夜鬼の目を通して冷静に見つめながら、内心で呟くネリッサ。
既に彼女の瞳は、此の都市に辿り着く手慣れた様子で複数の中隊規模に再編され、各地に散らばっていく攻城部隊を捕らえている。
元より、3000以上の人員で構成される連隊規模の戦力なのだ。
たった10数名で、都市に侵入されるよりも前に倒しきるなどと言う考えはおこがましい。
「……ですので、此処からが本番です」
ネコ吉達から次々に送られてくる避難完了の連絡を受けながら、ネリッサがそう呟く。
勝利の女神は、未だどちらにも微笑みを向けてはいない。
その微笑みを乗せた天秤の姿が、ネリッサの目前で幻視される様で、仕方が無かった。
●
――緒戦が始まった、その一方で。
「始まっているな。避難を急げ。じゃないと乱戦になった時に大変なことになる」
「はっ……はい!」
ネコ吉のその言葉に、小学校の方への避難を担当していた警察が素早く敬礼し、人々への避難を促している。
外から時折聞こえてくる轟音が、人々をビクリと震わせるが。
「大丈夫だ! 外の奴等は灯璃さん……私達の仲間が今、足止めをしてくれている! 大事には至らないから、パニックにならずにこの中に避難するんだ! このログハウス内であれば安全だからな!」
「後輩の言う通りだ。大丈夫。いざとなったら君達は俺達が守る。安心して避難してくれ」
敬輔と美雪がそうやって人々に声を掛け、防災組織員と協力して町役場に人々を避難させるその間に。
「……ふむ。間に合った様ですね」
そう首肯しながら風火輪を使って空中を浮遊していた冬季がスタリ、とその場に着陸し、その口の端に笑みを浮かべていた。
「……冬季さんか」
現れた冬季の姿を見て美雪が軽く目を細めると、ええ、と冬季が小さく首肯して。
「町長は今、どちらに?」
その冬季の問いかけに、ちらりと背後の町役場を示す美雪。
「あの中だ。放送アナウンスと防災組織員達の手を借りて、人々を避難させるために懸命に指揮を執っている。顔を出していないと心配なのだろう」
呟いた美雪の其れに、分かりました、と冬季が首肯。
それから町役場へと入場し、ネコ吉から教わっていた町長室へと向かって行く。
「ああ、そうだ。中央公園への避難率は? そうか……超弩級戦力達の協力もあって90%以上になったか。引き続き避難の連絡を頼む」
そう言って矢継ぎ早に指示を出している町長の前にぬっ、と姿を現す冬季。
その身に纏った帝都桜學府の校章の刻まれた八卦衣を示すと、町長が思わずほっ、と安堵する様に息を漏らした。
「超弩級戦力の皆様、ありがとうございます。お陰様で何とか避難が完了できそうです」
「そうですか。それなら良かった」
告げる町長に軽く嗤いかけながら、首肯する冬季。
けれども程なくして、ですが、と言葉を紡ぎ続けた。
「此は、影朧との戦争です。恐らく彼等が侵入してくれば、貴方は敵に指揮官と誤認されるでしょう」
その冬季の言の葉に。
「……どう言うことですか?」
確認の様に問いかける町長に冬季が実は、と話を続けた。
「どうやら貴方方の祖先であった影朧達は、此の地を戦場と誤認しているのです。更に各施設を補給地や、司令部と見立てている。ですので此処……町役場は間違いなく、激戦区となるでしょう」
その冬季の諭す様なその言葉に。
「……」
町長がゴクリ、と唾を飲み込むのに、そこで、と冬季が自らの周囲に無数の式神を展開して話を続けた。
「藤崎さんの巨大冷蔵庫完備のログハウスだけで皆様の安全を賄いきるのは難しいでしょう。ですので、彼女の方で収用しきれず町役場に避難している人々を、私の壺中天の中に収容したいのですよ。具体的には10時間程ね。そこに収容されることを望んだ者達の戦闘中の市民の慰撫を貴方に依頼したいのです」
「……その様な場所を用意する時間があるのですか? 貴方方の事を信用していないわけでは無いが、少なくともそれをする時間は以前にあった筈です」
その町長の反論に。
(「成程……そう言うことになりますね。とは言え……」)
「確かにその準備をするのを怠っていたのは、私の方でも迂闊だったと言うべきでしょうね。ですが、それでも出来うる限りの人々を収容したいのです」
元々、壺中天は、触れた抵抗しない対象を吸い込む能力だ。
其の為、安全地帯となり得るのは確かだが……全員を収容するための時間を確保するのには間に合わない。
――けれども。
「町長の貴方には、町民を守る義務があります。そして、帝都桜學府には影朧から国民を守る義務もあります。ですので、避難できる人員だけでも私の避難を受け入れて貰えませんか? 後から先は、全て帝都桜學府の責任ですので」
その冬季の説得に。
暫く町長が考え込む表情をしていたが、未だ美雪の用意したログハウス型施設に入れていない連絡員達の事を思い出し、分かりましたと首肯した。
「それでは、人々の避難が完了次第、私と共に避難の連絡を担っていた者達はその旨を伝達し、貴方が用意する避難場所に避難させましょう。私も其れに同行します。ですが……それも、中央公園含めた全市民の避難完了の報告を受けてからです。其処を確認してからで無ければ、私も町民達を落ち着かせる事は出来ません」
苦渋の表情を浮かべてその決断を下した町長の其れに。
「……分かりました」
嗤いながらそう冬季が首肯した。
(「……空城の計は、多少は反攻が無ければ成立しません。既に安全地帯に収容された人々の護衛はお任せしますよ、藤崎さん、館野さん」)
目前で避難指示を続ける町長を見つめながら、冬季が内心でそう呟いた。
●
――その間に。
「此方の赤十字の旗を急いで上げて頂けませんか?」
桜花が今、動ける者達を避難させていた院長に病院で呼びかけていた。
(「冬上さんの言う通り、此処も狙われるでしょうからね」)
此処は怪我人を収容し、彼等の怪我を癒やす場所。
となれば、負傷兵達を担ぎ込まれる此の施設を飛鳥達が破壊する可能性は、十二分に考えられる。
と言うよりも、其れは当然の選択であろう。
だが……それでも、もし。
(「彼等に、軍としての規律……いや……」)
「仁義とでも言うべきなのでしょうか。大戦の時代に結ばれていたであろう戦闘協定が彼等の頭の中にあれば、赤十字の旗を掲げれば攻撃されずに済むかも知れません。それ以上に病院に誰かが避難してしまえば病院機能が失われてしまうでしょうし」
その桜花の言葉に、そうですね、とその話を聞いた院長が首肯する。
「……何処まで効果があるのかは分かりませんが、他ならぬ超弩級戦力の方からの頼みです。やってみましょう」
そう告げて。
如何しても体を動かすのが不都合な者達を守る為に残っていた者達から更に一部の戦力を割いて、病院に赤十字の旗を掲揚させた。
(「……成程。相手の倫理観に訴える作戦ですか」)
やってみる価値は全く無いとは思えない桜花のその作戦を、夜鬼で上空から見下ろしていたネリッサが、そう内心で呟き。
「……敵はこの状況で、その情報を仕入れることが出来るのでしょうか……?」
ポツリと誰に共なく呟いてある事をも思いつき、直ぐにMPDA・MkⅢに登録されていた番号をコールする。
「おう、ネリッサ。如何した?」
通信機越しにそう応えたのは、人々への避難指示を防災組織員達と共に出し続けていたネコ吉だった。
「ネコ吉さん。すみませんが頼みがあります。此の都市の病院に御園さんが赤十字の旗を掲揚させた様です。此の情報を敵の手に渡る様に出来ませんか?」
「……成程。確かに其れが条約として存在しているなら有効な一手になりうるな。よし、人々の避難と平行して、情報を回しておく」
そう頷いたネコ吉に頼みます、とネリッサが首肯して通話を切り、続けて灯璃や千尋、美雪達にもその情報を伝達。
「成程。それは……やってみるだけやってみた方が良さそうだな」
「効くのかどうかは分からないが……まっ、相手の情に訴えかける様な手はこう言う手合い相手なら賛成だ。俺も協力してやるよ」
美雪が合点がいったと言う様に首肯し、千尋は口の端に皮肉げな笑みを浮かべて其々に同意の返事を返し。
そして桜花の提案である、病院に掲げられた赤十字の旗の情報が敵に渡りやすくなるよう、拡散していった時。
『……ちっ。やってくれるな。其処に兵士が隠れている可能性は否定できないが……』
その拡散された赤十字の旗の情報を掴んだ飛鳥が有無を確認するべく狙撃銃のスコープで其れを覗き込む。
確かに病院の屋上には赤十字の旗が高々と掲げられていた。
「……如何致しますか?」
『アサシン』部隊の一員の青年に問われ、しょうがねぇと、飛鳥は軽く肩を竦める。
「俺達の目的は、此の砦の制圧だ。ならば、残しておけば病院は利用する価値がある。病人の中に要人の関係者が居る可能性も否定できねぇ。だから出来る限り各部隊に病院は攻撃しない様に通達しておけ」
溜息を軽く漏らしながら判断を下す飛鳥の其れに若者が首肯し、無線で状況を報告。
……その間に。
「千尋さん! 校長先生も多分要人扱いだと思いますよ! 其れなりの地位のある人間を優先的に狙うんじゃ無いかって、そんな気がします!」
そう葵桜がそう声を張り上げると、千尋は小学校の周囲に無数の鳥威を配置しながらスマートフォンを切って、彼女に答えた。
「だろうな。榎木、そっちは気を遣ってやれ。俺はこの学校そのものを守る様に動く」
「はい! 任せて下さい!」
その千尋の指示に、キッパリと頷いた葵桜が素早く学校内に消えていく。
「おい、人々の避難は終わったのか?」
そう千尋が近くを忙しなく駆け回っていた消防服の男に呼びかけると。
「はい、無事に避難は完了致しました」
「よし。じゃあ、アンタ達も小学校の体育館に隠れていろ。避難してきた奴等を守ってやってくれ。外は俺が引き受ける」
レスキュー隊の隊長だったのであろうその男に千尋がそう告げると、男は分かりました、と小さく頷き。
「超弩級戦力の皆様も、どうかご無事で……!」
「ああ、勿論だ」
そう告げて隊を纏めて素早く小学校の敷地内に避難していく男達を見送り、さて、と千尋が独りごちた。
「……分からないな」
その千尋の独り言に。
「えっ? 何が?」
葵桜の通信機に拾い上げられた千尋の声にそう聞き返すと、千尋は皮肉げに肩を竦める。
「いや……死んでも尚、戦い続ける『何か』があるんだろうけれど……それが『何』なのかがモノの俺には理解出来ない、と言う話だ」
その千尋の呟きに。
「……多分、それはですね、飛鳥さん達が影朧になってしまっても尚、此処をまた攻めてきていることに由来するんだと思いますよ」
そう葵桜が漏らした回答に。
「へえ……どう言うことだ?」
興味深げに眉を軽く動かした千尋が問いかけると、つまりですね、と葵桜が続けた。
「きっと飛鳥さん達は、此処での戦いの結果が、一番心残りだった。だから……嘗ては戦場だったかも知れないこの場所にある此の都市を襲撃しているんじゃないでしょうか?」
その葵桜の推測を交えた確信に近い回答に。
「……そうなのかも、知れないな」
と、首肯しながら。
不意に周囲に集まり始めた気配を敏感に察知し、『宵』と『暁』を巨大化させる千尋。
(「3回攻撃しちまうと、榎木や一般人も巻き込んじまいかねないんだよな……」)
その千尋の悩みを、まるで慰撫するかの様に。
桜吹雪と漆黒の雨、そして鋭い葉の旋風が撫でていく。
(「……御園に、ネコ吉、そして神宮時の想い……か」)
其れを浴びて、漆黒の雨の上から白き柊の花の結界を身に纏い。
更に吹きすさぶ桜吹雪に包み込まれ、其処から注ぎ込まれた力を感じ取り。
「……成程。御園の奴も、面白い手段を持っているな」
そう口の端に皮肉げな笑みを浮かべた千尋の言葉を聞いていたかの様に。
「大丈夫です! 私も中から援護の攻撃を仕掛けますから!」
ぱっ、と校長先生を避難させた小学校の一角から顔を出した葵桜が、その身に神霊体を降臨させながら、そう叫んだ。
●
――そして、中央公園では。
「落ち着いて奥に向かうんだ。大丈夫。俺達は貴方達のことを必ず守り通してみせる。貴方達の、誇りと共に」
そう統哉が人々を説得し、避難民達を安心させながら避難させている。
そんな統哉が避難を進めるその場所に。
「あの……統哉さん」
石碑の所に匿っていた筈のカスミが現れ、問いかけたのは偶然だろうか?
「如何した、カスミ?」
その統哉の返事を聞いて。
カスミがその……と微かに困惑した様な表情を見せつつ、統哉を見つめた。
「……如何して、私が狙われるんですか? 如何して……御先祖様達はこの町を襲撃しようと……」
「……そうね」
そのカスミの問いかけに、統哉の代わりに言葉を漏らしたのは、姫桜。
少しだけ考える様に腕を組んでいた姫桜だったが、程なくしてきっと、と言葉を紡いだ。
「これは、あおの受け売りになるけれども。もしかしたら、飛鳥さん達……カスミさんの御先祖様は、此処に何か忘れ物を取りに戻ってきたのかも知れないわね」
「忘れ物……?」
パチクリと瞬きをするカスミの其れに、蒼が小さく、ポツリ、ポツリ、と拙い口調で言の葉を紡ぐ。
「……彼の方、達、は、此処、で、皆、戦死、なさい、ました。……その先、の、未来、を、信じて、です。でも……」
――その先の平和が……。
「……本当、に、あった、のかどうか、それ、が、不安、に、なった、の、かも、知れ、ません。沢山、の、仲間、が、お亡くなり、に、なられた、の、ですから……」
「ええ……それだけの犠牲を出しても尚、守りきった者があるのかどうか。其れが分からない、と言うのは深い未練と|心の傷《 トラウマ 》……心の闇となるでしょうね」
蒼のぽつり、ぽつりとした呟きに、同意する様に首肯する姫桜。
姫桜と蒼の其れに、カスミがそれじゃあ……と小さく息を飲み、統哉が、だから、と軽く頭を横に振った。
「彼等は自分達の死が無意味で無かった事を知る術も、証明する術も無い。……大戦に勝利して、既に多くの時が流れている『今』が大丈夫なのかどうか、其れが不安で仕方が無いんだろう」
――故に。
「俺達は、彼等に今一度周囲を見回して貰いたいんだ。護る為に戦った先人への敬意を込めたい。其の為には……如何しても、俺達は、誰も彼等の手に掛けさせるわけにはいかない」
――其の為の印として。
此の都市に保管されていた彼等の旗印……御旗を、中央公園に飾る統哉。
正面から姿を現した砂塵人間達は、豹人間の部隊と共にその旗を見て、咆哮した。
『我等の御旗を、貴様達何処で手に入れた!? 許せない……必ず、お前達を……!』
「……させま、せん。此処、の、人、達、は、貴方様、達、が、護り、通した、未来、を、生きる、人、達、です。……だから、ボク……ボク、達、は」
――出来る、限りの、力を、持って。
「貴方達が護り通した人々の想いと、この御旗に籠められた想いを未来に繋げる為に。オレ達は誰1人死なせず……全てを貴方達に見せ、守り通す。それが俺達の戦いだ」
その統哉の言葉と共に。
蒼がその手の金木犀の名を冠する白き杖を掲げると同時に、その先端から緋の憂いを宿す優美なる幽世蝶達を羽ばたかせる。
それは、愁いが、優しく、切なく、哀しみに染まった幽世蝶。
彼岸の如き幽世蝶達が、羽ばたきと共に零した鱗粉が緋の結界と化して公園を守る様に包み込む。
――中央公園に避難した者達に、被害が及ばぬようにと言う祈りの籠ったその結界が。
●
「……何とか避難は無事に完了したと言う事ですね」
石碑の傍で夜鬼の目を使って統哉達の動きを具に確認していたネリッサが、ほっ、とそっと軽く息を吐く。
(「文月さん、彩瑠さん、神宮時さんが中央公園。司さん、榎木さん、それから病院に赤十字の旗を上げさせた御園さんが学校ですか……」)
……と、なると。
最も、空きが出てしまうのは……。
「……通信士達と町長が鳴上さんの式神に保護され、更に藤崎さんのログハウスで安全地帯が建設されたものの、戦力的には館野さんしか事実上いない町役場、ですね」
「其方は私が空から支援をするつもりではありますがねー」
そのネリッサの通信を聞いていたのであろう。
状況を整理していたネリッサの其れに、海水霧で姿を消したままに空を疾駆する義透の声が入る。
「無論、馬県さんの力も借りたいところですが……。空中からの遊撃手として貴重な馬県さんを、町役場にのみ集中させるのは……」
と、ネリッサが呟いた、その時。
「町役場か……安全地帯があるとは言え、そもそも其れを出している美雪が倒れたら本末転倒だな。敬輔だけで何処まで守り切れるのかも分からない。……俺が其方に行こう」
人々の避難を終え、手が空いたネコ吉が出した提案を聞いて、お願いします、とネリッサが頷くと。
「では、私は各部隊の上を転々としていますねー。インフラも気になるところですからー」
その言葉を最後に義透からの通信が切れた所で、ネリッサは思わず溜息を漏らした。
(「此れならば、臨時の指揮場を作っておいた方が良かったかも知れませんが……中々上手くは行かないものですね」)
無論、万が一戦力が薄い部分が露見すれば、其処に補助に回る為には、指揮場を設置しておいても放棄せざるを得ない。
それでも、今、猟兵達の優勢が続いているこの状況は……。
(「……ちっ。やっぱりこう言った攻め手に不利な戦いは嫌いだねぇ。しかも、敵側の指揮官も頭が切れる」)
――ネリッサと同様の結論を出した飛鳥が、内心で思考を張巡らす。
敵部隊の通信を傍受できれば一番良いのだが、先程流された赤十字の旗と祖国の旗が中央公園に掲げられている事以外の尻尾が中々掴めない。
『やれやれ……こうなると特殊部隊用の罠も張り巡らされていると考えるべきか。|名贤将动,胜于人,成功之众,故先知也《 名君賢将の動きて人に勝ち、成功の衆に出ずるゆえんの者は、先知なり 》とはよく言ったものだ。此方の先手、先手を行かれているね』
――で、あれば。
(「……やっぱりオレが一番に狙うべきは……|そこ《 ・・ 》か」)
そう誰にともなく胸中で呟き、敵の伏兵達に十分な警戒を命じつつ、特殊部隊に指示を下し、飛鳥は狙撃班を散開させて姿を消した。
●
(「此処迄は想定通り……いや、想定以上に敵が此方の動きに嵌ってくれていますね」)
戦況の確実な有利を確認しながら、内心で灯璃が呟いている。
しかし、敵もさるもの。
城壁を破壊し、取りついた2000以上の連隊をあっという間に400名程の中隊に分けて、この戦場を制圧しようとするその動きは……。
「外連味の無い配置だと言うしかないですね」
そうウィリアムが呟き、イデア・キャノンの状態を確認する姿を見て。
「ええ、本当にそうですね」
そう灯璃が淡々と首肯を返すのに、ウィリアムがですが、と上目遣いに灯璃を見る。
「ですが、次の準備は出来ているのですよね。寧ろここからが本番位の勢いの」
「ええ……こう隊を分けられると全員を引っ掛けるのは難しいですが、出来る限り、|数《 ・ 》は減らしておかないと、他の皆さんの負担がその分大きくなってしまいますから」
――だからこそ。
「では、行きますよ。バークリーさんは此方に彼等を誘い出す手伝いをお願いしますね」
そう灯璃が告げると、ほぼ同時に。
――パチン!
と灯璃が指を鳴らした、その瞬間。
――ドルルルルル! ドルルルルル!
予め、冬季が黄巾力士軍に配置させていた|都市内《 ・・・ 》に仕込んでおいた機銃を起動させる。
『十重二十重に用意していたってわけだ……何処までも用意周到な事で』
分隊した隊の隊長がやれやれと言う様に溜息を漏らすと同時に、それらの機銃を制圧するべく命令を下す。
『この命に代えても、他の同胞達の道を切り開く! 行くぞ!』
『応っ!』
中隊長に下された命令に応じる様に豹人間部隊に跨る様に、砂塵人間部隊が展開され砂嵐を巻き起こす。
巻き起こされた砂嵐から迸る衝撃波が着々とバリケードと機銃を破壊し、彼等がゆっくりと進軍してくるその間に。
「では……トコトン納得いくまでお相手してあげましょうか」
その間に、3避難施設に繋がる通路へと誘導する様に機銃を着々と起動させる、灯璃。
「バークリーさん」
「ええ……でも、この状況では、イデア・キャノンのチャージは間に合わないですね」
その灯璃の呟きにウィリアムが首肯して。
イデア・キャノンから引き抜いた『スプラッシュ』を正眼に構えながら、左手で軽く空を横一文字に切り。
「やはりこういう時は、基本に立ち返ることも大事ですよね。桜花さんの桜吹雪の影響で複数のユーベルコードを使える状況ですし」
その言の葉と、共に。
「Icicle Edge!」
短くその呪をウィリアムが発動させた、刹那。
620本の氷柱の槍が、先に左手で切った空間から溢れる様に繰り出され、兵士達に銃弾の様に放たれる。
放たれた氷柱の槍に貫かれ、負傷する仲間達を気遣う兵士達に向かってウィリアムが咆哮と共に突貫し。
「行きます! いりゃああああああっ!」
『スプラッシュ』を袈裟に振るい、瞬く間に白兵戦にのめり込んでいく。
『くっ……! 怯むな! この程度の攻撃に臆する程、我等は甘くないと言う事を、この小僧に教えてやれ!』
部隊長の叫びに応えた中隊規模の部隊が、ウィリアムを襲わんと一気に襲い掛かろうとしたところで。
「ぷぎゅ!」
何処からともなく表れた陰海月が漆黒の盾『黒曜山』を構えて、ウィリアムを守る様に立ちはだかり。
「バークリーさん、後退を。灯璃さん……」
夜鬼の目でその戦況を見下ろしていたネリッサの下したその指示を耳にして。
「Yes.マム。バークリーさん……今です!」
狙撃銃座に乗り込んでいた灯璃が素早くそうウィリアムに合図を出すと。
「了解です!」
ウィリアムがそれに応えて義透の陰海月と共に、戦線を素早く離脱しようとする。
そうはさせじと、豹人間に変身した兵隊の1人がウィリアムを掴まんとするが。
「やらせませんよー」
そうのほほんとした言葉と共に、姿を完全に消していた義透が漆黒風を投擲、その兵士を貫いた。
『くっ……ま、待て!』
そう言って慌てて追いかけてきた兵士達。
――そう、彼等が踏み込んだその場所は。
「……網にかかりましたね。……スナイパー通りへ、ようこそ」
その言葉と、共に。
灯璃が|移動経路《 ・・・・ 》に仕込んでいた地雷を一斉に起動。
瞬間、敷設されていた地雷が一斉に爆発し、中隊規模の敵部隊に大きな被害を与える。
『くっ……直ぐに、陣形を……!』
そう隊長が言の葉を紡いだ、その刹那。
「遅いですね」
その呟きと、共に。
上空に突如、1機の大型爆撃機が召喚され。
――ヒューン……!
その爆撃機からクラスター誘導爆弾が地面に向かって落下。
爆発の花を咲かせ、兵士達が瞬く間に殲滅されていく。
『た、隊長……こ、こいつら……!』
その爆発に飲み込まれて、全身を焼かれながらも尚、辛うじて生き残っていた通信兵に向けて。
灯璃が、狙撃砲座に装備していた自らのHk477K-SOPMOD3"Schutzhund"の引き金を引き。
――音もなく、通信兵に断末魔の声を伝えさせる間も与えることなく、第1中隊最後の生き残りを屠ったのだった。
「……でも、また敵が来ないとは限りませんね」
『スプラッシュ』を構えたままにそう呟くウィリアムの其れに、灯璃がそうですね、と静かに首肯する。
『ぷぎゅ』と小さく呻く陰海月を見て義透の事を思い出し、そっと溜息を漏らしながら。
「……スーパーマーケットや水道用地も無事だと良いのですが……スーパーマーケットの方は、ミハイルさん、馬県さん、任せましたよ……」
先程のネリッサと義透の通信機越しのやり取りを思い出して、そう独り言の様に言葉を紡ぎ。
敵戦力を一定数撃破した事も、改めてネリッサに報告すると、灯璃は、ウィリアムと共に素早くその場を後にした。
目指すは――水道用地。
この都市の水源を司る重要施設……インフラ設備の1つに向かう、其の為に。
●
――スーパーマーケット。
大量の食糧を、水を、様々な日用品を取り扱うその場所に400人単位に分かれた中隊から更に別れて向かっていた特殊部隊が辿り着き。
「……|対象《 オブジェクト 》を確認。此れより作戦を実行する」
そう特殊部隊の男が小声で他の者達に伝え、自らをヘドロ人間へと変身させる。
体から零れ、滴り落ちる毒は、本来であれば代償であるが、殊にこの手の任務においては、寧ろ益になる能力だ。
――けれどもそれでも、ネリッサの『夜鬼』の目を誤魔化しきることは、不可能。
――故に。
「……セールイ11」
「Yes、マム。まっ……だからこそ、面白いんだけれどな。今回は|局長《 ボス 》もいるから弾代の心配もしなくて済みそうだしよ」
ネリッサからの合図を通信機越しに聞いたミハイルが、そう誰にともなく呟き、口の端に肉食獣の笑みを浮かべ。
「……行くぜ、此方セールイ11。|目標視認《 ターゲット・インサイト 》。早速おっぱじめるぜ……!」
その言葉と同時に。
――ズドゥゥゥゥゥーン!
ボルトアクションライフルSV-98Mの轟音が鳴り響き、其れとほぼ同時に、特殊部隊の隊長各の頭部が撃ち抜かれた。
『がっ……!』
「くっ……敵か!」
隊長が頽れるにも関わらず、他の特殊部隊の者達が素早くミハイルの狙撃音が響いた方角を見つめた時。
戦場を満たしていた鋭い葉の旋風が特殊部隊を絡め取り、続けざまに鈍色の稲妻が戦場を駆け抜けた。
駆け抜けた稲妻がスーパーマーケットを襲おうとしていた彼等を感電させた時。
「はあっ!」
叫びと共に、その右肩が白い爪の様な傷跡の残った漆黒の影が走り込み、その手の黒剣を一閃する。
凍てついた氷結の斬撃が特殊部隊を数体纏めて薙ぎ払い……。
「ミハイルさん!」
そう呼びかけるのに、へっ、と愉快そうにミハイルが笑いながら、鼻を鳴らした。
「館野の分身か! こりゃあ、いい。どうだ? 此れだけの戦いだ。獲物は取り放題、よりどりみどり。折角だし今夜の晩飯でも賭けねえか?」
――ズドゥゥゥゥゥーン!
そう冗談めかした調子で敬輔に向けて言葉を投げかけながら、鮫の様に笑ったミハイルがSV-98Mを再び発射。
放たれた銃弾が狙い過たず2体目の頭を撃ち抜き、その場に頽れさせる間に、黒剣についた血糊を振り払いながら。
「……流石に僕にはそんな賭けは出来ないよ」
「はっ……お前さんは本当にお固いな。もうちょい気を抜いて戦った方が、より良い戦果を挙げられるもんだぜ?」
そのミハイルのからかう様な物言いか、それとも現れた敬輔の分身を警戒したか。
猛毒人間を守る様に豹人間に変身し旭組隊員達が、敬輔の分身の前に立つ。
『敵に構うな。お前達猛毒人間隊は、施設の破壊を優先しろ。こいつらは我々白兵部隊が引き受ける!』
『はっ!』
恐らく副官だったのであろう。
特殊部隊の1人がそう告げて、数名の豹人間に変身した者達と敬輔の間に割って入り、豹の様に鋭い爪を振るう。
猛毒人間達は其れに素早く敬礼をし、自分達の任務を果たさんとその姿を……。
「クエ!」
不意にそんな嘶きが空から降り注ぎ、同時に海水霧が突然中に侵入しようとする猛毒人間に体当たり。
「くっ……馬鹿な、熱源反応は……!」
一瞬、驚愕の声を上げる別の猛毒人間にそれ以上を言わせるでもなく義透が抜く手を見せぬ早業で漆黒の棒手裏剣をその首筋に突き立てた。
「くそっ……何だ、これ……力が抜けていく……」
「だから言っただろ。撃ち放題だってよ!」
ハハッ! と愉悦に満ちた笑みを浮かべながら、狙点を移動したミハイルが、続けてSV-98Mの引き金を引いた。
撃ち出された銃弾の前に成すすべも無く射抜かれその場に頽れる猛毒人間。
「くそっ……! 兎に角破壊班を護れ……!」
副官が後ろでの混乱を見過ごすことが出来ず、咄嗟にそう指示を出すその間に。
「……そこだ!」
敬輔の分身が黒剣を横薙ぎに振るうと、配下の豹人間がそれを左足の爪で受け止めて。
「……この!」
お返しとばかりに敬輔の体を横薙ぎ、漆黒の鎧の上から、敬輔の体を切り裂いた時。
「ぐっ……! 分身が傷つけられたか……!」
現れた攻城部隊から分隊し、町役場を奇襲していた班に対応した敬輔本体の胸元に傷が入っていた。
「先輩、大丈夫か……!?」
敬輔の負傷に気が付いた美雪が咄嗟に声をかけるが、敬輔は大丈夫だ、と不敵に笑う。
「この程度の傷なら、何度も受けたことがあるからな。後輩は、自分のログハウスを維持することを優先してくれ。そこを突破されれば終わりなんだ」
「分かっている。ああ、くそ! 冬季さんが町長を何とか説得して連れて行ってくれた分未だマシだが……この状況は流石にきついか……!」
美雪が毒づく様に呻きつつ、反射的にミュージックデバイスを展開。
更にグリモア・ムジカに書き込まれていた譜面を起動させ、音楽を奏でようとするが。
「その歌を使えば疲労するぞ後輩。大丈夫だ。俺はネコ吉さんと蒼さんに守られている」
その敬輔の言葉の通り。
自身を含めて、この場にとどまっている4人の分身についた傷が、優しき白い花……柊の花と、優しき鈍色の雨の加護で癒されていく。
(「後、桜花さんの桜吹雪が齎してくれた生命力と体力。此れが無ければ……流石に危なかっただろうけれどな」)
そう内心で敬輔が呟いた、丁度その時。
「急げ! 突破だ!」
部隊を守る様に展開されていた猛烈な砂嵐を伴う衝撃波が敬輔の脇を駆け抜け、美雪に迫った。
「くっ……後輩!」
『コイツらの動きを止める、一瞬の時間を作り出せ! その為に俺達の全てを賭けろ!』
その隊長各の号令と共に。
敬輔1人につき数十体の猛毒人間が、硫酸を、ヘドロを浴びかけさせんと一斉に砲撃を開始。
(「くっ……!」)
此処でそれを浴びれば、致命傷になる。
そう判断し、咄嗟にその攻撃を避けるその間にも、砂嵐を纏った衝撃波が美雪を……。
「……間一髪、か」
――ザザザッ。
その間に割り込む様に入り込んだのは、雨に撃たれて銀色の輝きを取り戻した鈍色の刀……叢時雨を構えたネコ吉。
「ネコ吉さん……」
「悪い。遅くなったな、敬輔、美雪」
その美雪の呟きに、自らに銀色の結界を張り巡らしながら、冷静に返すネコ吉。
優しき雨は、その主の登場に歓喜するかの様に一際強くなり、更に鈍色の稲妻が、雷光と化して、影朧を貫いた。
『くっ……やはり先の先を行かれ……!』
「遅いっ!」
叫びと共に、ネコ吉の加勢で勢いを増した敬輔が唐竹割に赤黒く光り輝く刀身を持つ黒剣を振り下ろす。
何処までも愚直で真直ぐな斬撃が凍てつく冷気を纏って猛毒人間と化した彼等を斬り裂き、凍てつかせた氷が砕けたところで。
「助かったよ、ネコ吉さん。此れで何とか余裕ができる」
そう告げて。
漆黒のオーラを自らの全身に張り巡らす敬輔の隣に並び、静かにネコ吉が頷いた。
「よし、敬輔。此処は俺達の手で死守するぞ」
「ああ!」
叫びと共に、敬輔と3体の敬輔の分身、そしてネコ吉が互いに互いの背を預ける様な円陣を組んで、迫る影朧達を斬り払った。
●
――その間も。
「やれやれ。どこもかしこも狙われ放題。厄介なことこの上ないな、こいつは」
小学校の方で冗談めかした嘆息をした千尋が無数の鳥威を展開し、小学校を守りながら口の端に笑みを浮かべていた。
砂嵐を纏った無数の衝撃波が千尋を吹き飛ばさんと襲い掛かるが、展開中の鳥威に重なる様に白き花と焦げ茶色の結界が其れを妨げる。
(「……いつもはあの緋の憂いとの重ね技になるんだがな。全く、今、中央公園だろうに……神宮時もやってくれるぜ」)
内心でそう感嘆の息を吐きながら。
千尋は自らの巨大化した月烏を宵に、巨大化した鴗鳥を暁に持たせ、その小太刀と鈍器を存分に振り回させていた。
巨大化された宵と暁は身の丈に合うそれらの武器を軽々と振り回し、毒を齎さんとやってきていた兵士達を次々に叩き潰している。
(「1回の攻撃を二重の連撃に切り替えて誤魔化しているが……ただ、使いすぎると榎木達を巻き込みかねないのがこの技の難点っちゃ難点だな」)
内心でそう呟く千尋の展開していた鳥威。
その影に匿われる様にしていた校長を守る盾として、神霊体と化していた葵桜が胡蝶楽刀を振るっていた。
「皆を守る……! 其れが私に出来る事だから!」
神卸の影響で寿命と言う名の体力を削り取られ、其れを表わすかの如くその双眸から血の涙を流しながら叫ぶ葵桜。
放たれた衝撃の波が、胡蝶楽刀の柄に取り付けられた鈴の音と共に叩きこまれ、千尋の人形の攻撃を躱した敵を斬り捨てる。
(「確かに此処は、嘗ては戦場だったかもしれない」)
「でも……貴方達はそれを護り通した! 自分達で護り抜いた大切なモノを、自分達の手で壊すなんて悲しい事しないで!」
その地の底から湧きだす様な叫びと共に、衝撃波を連続で解き放つ葵桜。
上空から掩護の様に降り注ぐ鈍色の稲妻がその衝撃波と絡み合い、千尋と正に対峙している砂塵人間達を打ちのめす。
更にその稲妻に寄り添う様に咲き乱れるかの如く放たれている鋭い葉の旋風。
それらが影朧達を食い止めていたが……。
(「だが……俺達だけで、この数を食い止めるのは少し事か……?」)
と、内心で千尋が思った――その刹那。
『! 後方に敵影!? 此れは……うわああああっ!』
突如放射された火行の属性を持たせた黄巾力士五行軍33体が、後衛から敵部隊を焼き払った。
その『火』行の黄巾力士軍の姿を見て。
「……おい、遅いぜ鳴上。何処で道草食ってやがったんだ?」
冗談めかした口調で肩を竦めながら問いかける千尋の其れに、いえ、と口の端に笑いを刻み込んだ冬季が呼びかける。
――小学校の屋上から。
戦場を小学校の屋上から見下ろす冬季は、裏門を守る様に展開された自らの黄巾力士達の結界を確認し、その成果に満足げに首肯している。
その結界を展開した黄巾力士隊の背後からも、33体で構成した第3黄巾力士隊が、火行の砲撃を立て続けに吐き出していた。
其れに焼き払われる後背からの攻撃を狙っていた兵士達を見つめながら、冬季が嗤い。
「少し理由がありましてね。小学校に避難した人々も出来れば壺中天へと避難させたいのですが……中々間に合わず」
そう呟くと、ほぼ同時に。
雷公鞭を屋上で振るって見せた。
――振るわれた鞭の先端から迸るのは、雷光の矢。
正しく閃光の如く放たれたその雷光が千尋と対峙していた敵部隊隊長を貫き、全身を感電させて息絶えさせた。
――更に。
「来ているのは、鳴上さんだけではありませんよ」
その言葉と、共に。
上空を天女が踊るかの様に飛翔しながら、莞爾と笑った桜花が軽機関銃の引金を引く。
――ドルルルルルルルルルルル!
それと同時に薬莢が軽機関銃から零れて次々に重力に引かれて落ちるその間に、次々に兵士達を射抜いていった。
「おいおい、俺の鳥威を傘代わりにするなよ、御園。ったく……大量の鳥威が展開されているからいいや、と言わんばかりに薬莢をばら撒きやがって」
「ふふ……御冗談を。司さんとて私が如何して軽機関銃で制圧射撃を行っているのか、分からない方ではありませんでしょう?」
そう莞爾と笑い、片目を瞑ってウインクをして見せる桜花の其れに、やれやれと千尋が皮肉な笑窪を自らの頬に刻み込んだ。
「まあ、元々一般人を守るのは俺達の役割だからな。薬莢が人の所に落ちそうになったら止めるのは当り前だろ」
そんな軽口を返しながら、素早く周囲に結詞を展開する千尋。
展開された結詞……飾り紐を解いて蜘蛛の巣の様に編み上げて、其れで覆い隠す様に学校に展開しようとした……刹那。
『……チェックメイト、だ』
――ドキューン!
何処からともなく銃撃の音が鳴り響くが……。
「その動きは、分かっていたよ! だから、やらせない!」
その銃撃から校長を庇う様に葵桜が割って入り、胡蝶楽刀を縦に構え。
「せえいっ!」
銃弾を真っ二つに切り裂き、この小学校の校長にして、将の1人と判断されていた要人を護り抜いた。
(「完全な死角にも関わらず、私の銃撃を読み切っただと? 一体、どうやって……」)
そう狙撃班であった彼が内心で思い、上空を見上げた時。
――上空を漂っている、ネリッサの夜鬼と目が合った。
「……チェックメイトは、貴方です」
中央公園の、石碑の前で。
その状況を把握していたネリッサがぽつりと呟き、そして……。
「……榎木さん」
と、指示を出した時。
「貴方達が犯そうとしている過ちは……私達が必ず止めて見せるから!」
首肯と叫びを同時にやってのけながら。
葵桜が解き放った胡蝶楽刀からの衝撃の一撃が、アサシンの1人であった『狙撃班』を斬り裂いた。
『……閣下。申し訳……ございません』
その謝罪と共に。
どう、と狙撃班の1人の倒れる音が戦場を叩き。
一瞬、水の様に静まり返った兵士達を……。
「殲滅せよ。黄巾力士火行軍」
冬季が嗤いながらその命令を下し。
33体の『火』行黄巾力士軍第4隊の大砲が、一斉に其の火を残存の兵士達の背後に噴かせた。
●
その瞬間だった。
――ズキューン!
鋭いスナイパーライフルによる射撃音が、中央公園に響き渡ったのは。
「……間に、あって、下さい……!」
祈る様にそう呟いた蒼が咄嗟に展開した、緋の憂い抱きし幽世蝶達の結界。
彼岸の祈りを、美しさを……そして儚さを籠めたそれを強化する様にその鱗粉の中央に描かれたのは、美しき白い花。
――『庇護』の花言葉持つ……柊の白花。
其れが埋め込まれた結界が、周囲に咲き誇る幻朧桜と絡み合い美しき結界と化して、その一発の銃弾を辛うじて受け止めていた。
――ネリッサを狙っていた、その銃弾を。
(「……植物の、皆様の、声を、聞いて、いなければ、と、思う、と……」)
ぞっとする様な想像をして、何とかその凶弾からネリッサを守った蒼がそっと胸を撫で下ろす。
――と、其の時。
「姫桜さん……大丈、夫……です、か……?!」
震える声で、カスミが二槍を構えてもう1つの凶弾を受け止めた姫桜へとそう問いかけてきた。
――ボタリ、ボタリ。
「ええ……大丈夫よ、カスミさん。貴女が無事で何よりだったわ」
――その真紅の瞳から、零れ落ちる血の涙と。
――二槍の防御を潜り抜け、自らの腹部に出来た銃創から大量に流れ落ちる血で足下に赤い池を作りながら。
姫桜が自分達に向かってきていた兵士達を、じっと目を凝らして見つめていた。
(「……正直、ヒヤッとしたけれどね……」)
そう姫桜が内心で呟き、ぺっ、と赤黒い血の唾を吐き捨てながら白と黒の二槍を風車の要領で回転させる。
振るわれた二槍に籠められた想いと、吸血鬼化したが故の超常的な膂力。
それで蒼が生み出した鋭い棘持つ花の旋風を巻き取って、更に遠心力を加速させ、敵部隊に叩き込んでいた。
(「……ちっ。|指揮官《 ・・・ 》はどちらも討ち取れなかったか。やれやれ、オレ達の腕も衰えたもんだな」)
砂嵐と組み合わせて巻き起こされた衝撃の波をクロネコ刺繍入り緋色の結界で防御しつつ、部下達に声を掛ける統哉を見ながら、飛鳥は思う。
もう1人の自分の狙撃班員……カスミを狙っていたその若者は、自らの狙撃が、失敗したその瞬間。
「そこですね」
ネリッサがクイックドロウしたG19C Gen.5の引金を引いて撃ち出された弾丸に射貫かれ、その命を絶たれていた。
その間にも豹人間部隊は、姫桜や統哉達と切り結ばんとその攻撃を繰り広げている。
(「……御旗まで持ち込むとは、本当にふてぇ奴等だな。あまりにも用意が|周到《 ・・ 》過ぎる。……此が未だ出来たばかりの防衛拠点に配属される戦力か?」)
自分の狙撃でネリッサを撃ち漏らし、天からの目から身を隠す様に移動しつつ、そう自問自答を行う飛鳥。
――実際、戦局は今までの過去の自分の戦闘史からしても、最悪の記録だった。
仲間達の大多数がやられ、戦力を攪乱された影響で悉く部下達は敗れ。
更に、優秀な狙撃員と剣士の手で、食料庫を狙った部隊さえも、滅ぼされている。
そして……指揮場でもあるのだろうこの場所には、偽旗作戦のためにか、祖国の御旗が掲揚され、部下達が我武者羅に暴れる有様だ。
『……ったく、十分戦力的に勝負になると判断しての作戦行動だったのによ……まさかこんなことになっちまうとはな……』
そうぼやく様に、呟きながら。
それでも、敵の指揮官……あの幻朧桜に覆われた中央の広場で作戦指揮を執るネリッサを再び狙撃するべく離脱する飛鳥。
その間も、勇猛果敢と言う言葉がこれ以上に無い程に相応しく、中央部隊が、統哉達と切り結び続けていた。
●
――その頃、水道用地では。
『此処を、やれば……!』
特殊部隊の1人がそう呟き、自らが猛毒人間と化して、その水そのものに命を賭けて、溶け込もうとしていた。
(「例え、僕達の力で此処を破壊することは出来ずとも、水源を汚染させれば、兵の士気は下がる。……毒なんぞ卑怯だ、と閣下には罵られるであろうが……全ては閣下と御国のため……!」)
そう悲壮な覚悟を固めたその特殊部隊の若者が、今、正にその水源に自らから滴る毒を流し込もうとした、その瞬間。
「間に合ったか……!」
インフラを狙う特殊部隊を迎撃する任を帯びていた左足が白化した敬輔の分身が肉薄し、その黒剣を袈裟に振るっていた。
振るわれたその斬撃から同僚を守らんと、砂嵐を纏った衝撃波を巻き起こした砂塵人間が立ちはだかった時。
「……想定通り、ですね。生憎ですが、貴方達の大切なものを護る為にも、其れをさせるわけには行かないのですよ」
その言葉と、共に。
音も鳴く解き放たれたスナイパーライフルの一射が、庇護者を無慈悲に撃ち抜いた。
『がっ……!』
『くっ……よくも副隊長を! だが、我等の大義を阻む者達を、私達は決して許さない! 守れ……! 我が祖国の為の安寧な世界を勝ち取る為にも、我等は最期まで死力を尽くそうぞ……!』
その士気を高揚させる雄叫びに応えて。
灯璃によって撃ち抜かれた者と、毒を投げ込むものを守る様に円陣を組み上げる兵士達。
――然れど。
「……馬鹿野郎! 此処でお前達が此の水源を汚染させたら、其れこそお前達が守ろうとしたものを、自らの手で穢すことになるんだぞ!」
「そんなことを、ぼく達、貴方方影朧を救済する機関『帝都桜學府』の協力者が見逃すわけが無いでしょう!」
敬輔の分身と、ウィリアムが同時に叫びを上げ、敬輔が黒剣を横薙ぎに。
ウィリアムが刀身を凍てつかせた『スプラッシュ』を縦一文字に振り下ろす。
氷の精霊の力を纏った『スプラッシュ』と氷結の力を帯びた敬輔の黒剣が十文字の軌跡を描き、毒となろうとした敵を斬り。
「……スーパーマーケットだけじゃ飽きたらねぇ。こっちもって事か? おいおい、欲張りはいけないぜ?」
「そうですね。貴方方は既に私達、スナイパー包囲網の哀れな虜囚となっていますから」
そう告げたミハイルのSV98-Mの弾丸と、灯璃のサイレント銃弾が、ウィリアムと敬輔に切り崩された陣形を狙い撃つ。
狙い撃たれて死亡した兵士達の屍と重なり合う様に壁となる兵士達を瞬く間に敬輔とウィリアムが斬り捨て――そして。
『が……はっ……!』
自らという名の毒を水源に染み込ませようとした若き兵士を、灯璃のスナイプが撃ち抜いた。
「此で……特殊部隊は全滅ですかね?」
手早く『スプラッシュ』を鞘に納めながら呟くウィリアムの其れに、敬輔の分身は応えず確認のために発電所の方へと駆けていく。
「おいおい、館野。抜け駆けはダメだぜ? 折角の祭なんだ。もっと楽しんでいこうじゃねぇか!」
そう笑いながら叫んだミハイルが敬輔の後を追い、其れを一度見送った灯璃がそっと、溜息を漏らしていた。
その灯璃の溜息を苦笑交じりに聞いていたのだろう。
「灯璃さん」
と通信機越しにネリッサの声が聞こえてきたのに、水道用地の部隊の全滅の確認を口頭で報告した上で、灯璃が続けた。
「……仮に他のインフラ設備にも生き残りがいたとしても、館野さんとミハイルさんが後は処理してくれると思います、局長」
「分かりました。では、灯璃さんは念のため、その水道用地の哨戒を念のために続けて下さい。夜鬼の目から確認したところ、恐らく大丈夫だとは思いますが……」
ネリッサの念押しにそうですね、と灯璃が首肯する。
「もし此処を汚染されれば、仮に影朧達を撃破できたとしても、人々の生活は立ちゆかなくなるでしょう。そうならない様、私達は暫くこの水道用地を警戒しています」
その灯璃のネリッサへの報告に。
「……そうですね」
そうウィリアムが同意の首肯をするのに、ネリッサが宜しくお願いします、と告げて通信を切る。
(「……未だ、飛鳥さんは生き残っている。……大将級と戦う其の時のためにも、力をきちんと温存しておかなければ行けませんしね……」)
そう胸中で呟いたウィリアムは、何気なく中央公園の方を見やった時。
●
「くっ……俺は、貴方達に信じて欲しい! 彼等の想いを……此の町の風景の意味を!」
統哉は、迫り来る砂嵐を混ぜられた衝撃波をバリケードと其れに纏わせたクロネコ刺繍入り緋色の結界で防御しながら叫んでいた。
『何が彼等の思いだ! 此の風景だ! ここは戦場で、お前達は、俺達の国を、家族を奪う為に戦う侵略者だ! そんな侵略者の言葉など誰が信じる!? どう信じる!?』
「違うんだ! もう貴方方が戦った大戦は、800年以上前にもう終わっている。貴方方のその勇気が、誰かを思いやる心が、その勝利を導いたんだ!」
豹人間と化した彼等の其れに、必死に反駁する統哉。
(「ダメだ……。このままじゃダメだ……!」)
――ヒラリ、ヒラリ。
桜花の撒き散らした桜吹雪が戦場を慰撫する様に吹き荒れている。
其れに重なり合わせる様に、邪を祓う鋭い葉の旋風が吹き荒れて兵士達を怯ませ、其処に瞳から血の涙を流しながら姫桜が踏み込み。
「貴方達が決死の思いで護ってくれたから、カスミさんや今の住民の方々の今があるのよ。だから……其れを傷に囚われた歪んだ視界で捉えて、壊してしまわないでよ!」
咆哮する様な声と共に、二槍を振るった姫桜が、そのまま豹人間を突き倒した。
「……流石、に、死地、を、歩んだ、方々、は、気迫、が、違います、ね……」
(「……だからこそ、その歪んだ認識から、逃れられない、のかも、知れません、が……」)
流石にそっと溜息を漏らしながら、砂塵人間達の繰り出す砂嵐を混ぜ合わせた衝撃波を、統哉の結界に柊の花を纏わせ防御する蒼の呟き。
其処に籠められた、悲哀や憐憫……其れに気がついたものは、どれ位いたであろう。
「……貴方達は、平和を望んだんでしょう? 愛する人達の笑顔を望んだんでしょう!?ならば、その人達の声を、思いを、ちゃんと見なさいよ! 聞きなさいよ!」
――だって。
「蒼さんが差し出してくれている此の柊の花の花言葉も、そして、此の中央公園の中心にある石碑に刻まれた言葉も……! 全てが、貴方達が命を賭けて望んで戦って手に入れたモノの結果なんだから……!」
その叫びと共に。
姫桜が二槍を旋回させて薙ぎ払い、続けて統哉が両拳を握りしめて前に突き出しながら必死に言葉を紡ぐ。
「貴方達が此処に見ているものは、本当に戦場なのか? この見た事の無い町並が、本当に防衛拠点に見えるのか? それだったら……如何して咲き誇る幻朧桜と、その先に石碑が建てられているんだ!?」
『……石碑、だと!?』
その統哉の決死の呼びかけに、一瞬、その動きを止める豹人間達。
その豹人間達に向けて統哉は微笑み、これは、と畳みかける様に言葉を続ける。
「これは皆、貴方方が勝ち取ってくれた平和と繁栄の結果だ。貴方達が命を賭けて勝ち取り、そして手に入れたモノ……その種子が実を結んで育まれ、生まれたのが此の町であり、都市なんだ。だからこそ、貴方方は其れを破壊してはいけないんだ。此処を戦場と勘違いして、戦っては、ダメなんだ」
――だから。
「此処を作り上げた人々の想いを感じ、そして貴方達に受け取って欲しい。それが……俺が貴方達に現すことの出来る、敬意だから……!」
その言葉を言い切ると同時に。
統哉が両手を開き、630本の、中央公園に避難した500人の願いと祈りを籠められた浄化の矢を解き放つ。
解き放たれた願いと祈りの矢が、蒼の呼び出した旋風と、ネコ吉の解き放った鈍色の稲妻と溶け込む様に混ざり合い豹人間達を射貫いた。
『破邪』と『浄化』の力持つそれが、彼等を豹人間達を幻朧桜の力を借りて、彼等の澱んだ魂を転生させていく。
(「……閣下。申し訳……ございません」)
――その謝罪の、言葉と共に。
●
一先ず撃退した彼等の姿を見送って。
「……何処まで分かって貰えたかしら」
ぐにゃりと視界を歪めつつ、二槍を地面に突き立て、両肩で荒い息をつく姫桜の嘆息。
その姫桜の様子を見て、蒼が些か慌てた様子で姫桜の傍に寄り添い。
「……彩瑠様。直ぐ、に、傷を、ボクに、診せて、下さい……!」
そう告げて、腹部から出ている出血を止めるべく即座に止血を始めた。
「御免なさい。ありがとう、蒼さん」
「……いえ。ボク、には、この位、しか、出来ません、から……」
そっと礼を述べる姫桜に微かに頬を赤らめつつ、素早く姫桜の腹部を消毒し、優しい手付きで包帯を巻いていく蒼。
――と、其の時。
「……未だ、此で納得してくれる様な相手では……ありませんよね」
その状況を夜鬼で見定めたネリッサの、嘆息交じりの声に応じる様に。
――カツ、カツ、カツ……。
軍靴の音を鳴り響かせた男が姿を現し、パチリ、と口に咥えていた煙管に火を点けた。
『情けない話だな。十分な戦力で攻めた筈なのに、オレ達が完敗しちまうなんてよ……』
――だから。
『手前等の仇は、オレが取る。此の戦争は……手前等の想いは、オレが死ぬまで決して消えることはねぇからな』
――その男……飛鳥の言葉に応じる様に。
其の背に無数の英霊達を背負った飛鳥が、ネリッサ達の前で無数の銃を召喚し。
その銃口を、統哉達に向けた。
――決戦の時が、間近に迫っていた。
大成功
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第3章 ボス戦
『『殺人者』退役軍人』
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POW : 終わらぬ戦争、終わらせぬ戦争~エターナルウォー~
【自身に【戦闘継続(戦闘不能時、異常を無効】【化して全回復する)】×800回を付与する】【。又、【戦闘継続】が消費される度に副効果】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD : 戦争の亡霊~我ガ大隊ハ今ダ戦争中ナリ~
自身が戦闘で瀕死になると【負傷が全回復する。又、大隊規模の戦友の霊】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
WIZ : アサルトバタリオン~大隊、突撃!突撃!突撃!~
【自身の小銃・銃剣から、自身に敵意】を向けた対象に、【攻撃回数を800回に増やした、弾丸や銃剣】でダメージを与える。命中率が高い。
イラスト:吉原 留偉
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「アララギ・イチイ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
――中央公園。
その入口にズカズカと無造作に軍靴を鳴らして入ってきた男……飛鳥が、やれやれ、と口に咥えた煙管を吸う。
詰め込まれた合法阿片の味が、何時になく美味く……けれども、渋い。
『……驕兵は戒めていたつもりなんだがな。だが、攻城作戦をするには少し傲りの心があったか。オレ達みたいな『力』の使い手が、此処まで此の地に集結しているんだからよ……|名君贤将动,赢得人,成功,不能出群,先知之明也《 名君賢将の動きて人に勝ち、成功、衆に出づる所以のものは、先知なり 》とはよく言ったものだが……今回は完全に上の上を行かれちまったな』
(「悪いな……手前等。オレの甘さが、手前等の死を招いちまった……」)
――それも、数え切れない程の数多の死を。
『まあ、こんな状況で、流石にはい、そうですか、ととんずらをこける程、オレも臆病にはなれない。無能者かも知れないがね。それでもオレを信じて共に赴いてくれた|戦友達《 あいつら 》の望んだ世界や、守るべきものの為に、オレの此の命位は捧げないとな。まっ、其れでアイツらの霊が慰められるとも思えねぇが……』
――けれども、未だ。
未だ、此の中央公園には……。
『500人の兵隊とオレや部下達を殲滅した『敵』がいる。まあ、此の都市中から今際の時に報告にあった増援が来る可能性も高いが、それでも此処で手前等の命を無駄にする選択肢はねぇ』
――轟。
その飛鳥の愚痴の様な呟きが、まるで言霊になったかの如く。
自らの全身に無数の亡霊と亡者達……大隊単位の此までに失われてきた戦友の英霊達を纏い、小銃・銃剣を構える飛鳥。
その全身から迸る無限にも等しい英霊達の願いと想いは、彼1人で此の都市を容易く破壊できる程の力を飛鳥に齎している。
「ご……御先祖、様……」
震える様なカスミの言葉がやっとの思いで吐き出され、ヘロヘロとその場にへたり込むカスミ。
カスミの呟きに飛鳥が軍帽と前髪に隠された眉を微かに顰める仕草を見せた。
『ああっ? ……オレには家族がいるが、手前位の年頃のガキじゃねぇな。そんなまやかしの言葉が通じるものかよ。……さて』
――せめてコイツらに一矢報いて此の砦を、自らの命を等価にして滅ぼして。
『次代の奴等の未来のためにも、その想いを守り抜いていかねぇとな……。落とし前を付けさせて貰うぜ……手前等』
その、飛鳥の言の葉と共に。
飛鳥の纏う英霊達が咆哮を上げ、猟兵達は眼前の過去の亡霊と対峙した。
*第3章に関しては、下記ルールで運営致します。
1.舞台は幻朧桜に囲まれた中央公園になります。此の中央公園には、その中心に嘗て此の地で戦い、その命を散らして今を生きる人々の未来を守った彼等を讃える石碑がございます。
2.飛鳥は、絶対先制でPOW、SPD、WIZ、全てのユーベルコードを使用してきます。
このままでは勝つことは出来ませんが、過去と未来に感する説得が出来れば、絶対先制+全てのUCの使用という状態は回避できます(通常の戦闘と同じ判定になります)
3.中央公園には500名の避難民がいます。彼等が巻き込まれる可能性はあります。しかし、フェアリーランド等の収容系のユーベルコードで彼等を匿うことは出来ません。
500名全員を守りきることは、プレイングボーナスになります。
避難させる事は時間的にも状況的にも出来ません。
猟兵側の戦い方によっては、500名の一般人を猟兵達のユーベルコードや攻撃に巻き込む可能性もあります。その点は十分、注意して下さい。
4.カスミは戦場に居ます。彼女も戦闘に巻き込まれます。但し、飛鳥の説得などの補助は可能かも知れません。
5.第2章で中央公園に居なかった方々も、中央公園に移動可能です。他に別の場所で如何しても何かやりたいことがあれば、プレイングをして頂いても構いません。
但し、第2章の敵部隊は掃討されており、その場を離れたから他に被害が出る、と言う事はルール上起きません。
また、何処か別の場所に行ったところで、プレイングボーナスになったりはしません。
POWの戦闘継続(戦闘不能時、異常を無効化して全回復する)✕800回に関してですが、プレイングボーナスにある説得及び、特定の行動を行えば、上記効果の回数が緩和される可能性はあります。
第2章で飾られた中央公園に飾られている飛鳥達の旗印ですが、現時点の飛鳥はこれを偽旗作戦と判断しています。
但し、説得の仕方によってはプレイングボーナスとなり、飛鳥の能力を弱体化させられる可能性があります。
飛鳥を転生させることは、条件を満たせば可能です。
――それでは、最善の結末を。
ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの面子と協力
メインデッシュは中央公園だとさ。やれやれ、相変わらず|局長《ボス》は人使いが荒くて困るぜ。
中央公園に急行し、UCで一般人を襲う銃剣等を迎撃。
…似てるよな、手前と俺は。砲煙弾雨の戦場で、過酷で絶望的な状況を戦い続け、戦友や部下達が傷つき、斃れていくのを目の当たりにする。狂っちまうのも無理はない。その点は同情するよ。だから、俺はそれを|楽しむ《・・・》事で狂気から逃れた。いや、これも一種の狂気なのかもな。
だが、手前と俺とじゃひとつだけ違いがある。
俺にとっちゃ、戦争は自分の命を賭けたスリルあるゲームに過ぎねぇ。だがゲームである以上、自ずと最低限守らなきゃならねぇルールってモンが存在する。武器を持たない無抵抗な人間は、ゲームの参加者と見なさねぇ事。
手前にはそういったルールは存在しねぇみてぇだな。最近は事情が複雑になっちまったが、本来軍人ってヤツは、そういう連中を守るのが存在意義なんじゃねぇのか?
まぁいい。御託はここまでだ。天国か地獄かは知らねぇが、手前を部下の元に送ってやる。
彩瑠・姫桜
引き続きカスミさんの護りに集中
真の姿解放(姿変わらず)
[かばう、武器受け]駆使
攻撃はできるだけ跳ね返すようにするわ
ダメージは【白燐閃光】で回復
誰一人として欠けさせはしない
[覚悟]を持ってこの場に挑むわ
>カスミさん、避難民の皆さんへ
飛鳥さん…カスミさんの御先祖様は、
こんな風にして「過去」の戦いから、貴方達の「今」を繋いだんでしょうね
今は過去の中に囚われてしまっているようだけれど、まだ声は届く
「まやかしの言葉」と言われても、貴女の存在が見えることは救いがあるわ
だから諦めないで
カスミさんも、避難民の皆さんも
貴方達が知りえる、御先祖様の全てを、想いを、飛鳥さんにぶつけるの
御先祖様達の頑張りがあって、今のカスミさんがいることを何度でも伝えるのよ!
>飛鳥さん
「まやかしの言葉」なんかじゃない
ここにいるカスミさんをはじめとした皆は、
貴方が「過去」、傷つきながらも護り繋いだ「未来」の形
自分の思い込みに囚われ周りを見ない頑固親父なんて今時流行らないわ
耄碌してる暇があったら想いの言葉をちゃんと聞きなさい!
榎木・葵桜
真の姿解放の上、【巫覡載霊の舞】使用
基本は積極攻勢
攻撃は最大の防御ともいうし
前に出て飛鳥さんの牽制試みたいな
先制攻撃発生時は避難民を[かばう]よう立ち回る
できるなら広範囲の人数に対して、攻撃された衝撃を和らげられるようにしたい
舞を舞う要領で[なぎ払い、衝撃波、範囲攻撃]を組み合わせて、攻撃を跳ね返せないか試みるね
>飛鳥さん
貴方の目に映る世界は、ご自身の部下や戦友を失い、それでも未来をと望んだ「過去」なんだね
守れなかった仲間の想いを無駄にしたくないって気持ちは、十分過ぎるほどに私にも伝わったよ
でも、今のこの場所は貴方の知っている「過去」じゃない
貴方や貴方の部下の人達が望んだ「未来」なんだよ
貴方が見えなくても、この公園の桜は、石碑は、
貴方には「敵の兵隊」にしか見えない人達は、
貴方や貴方の部下が護った子孫で、貴方達が確かに繋いだ未来そのものなんだ
貴方には届かない言葉であっても、何度でも口にするよ
貴方は、もう解放されていい
だって、貴方や貴方の部下が望む「未来」は確かに、今ここにあるんだから
ウィリアム・バークリー
水道設備からグリフォンに「騎乗」して中央公園に急行。狙い撃ちにされる前に地上に降ります。
「全力魔法」「範囲攻撃」でActive Ice Wall展開。避難者の皆さんに一発の銃弾も届かないよう「盾受け」します。
閣下。あなたの部隊がどういう経路でこの『戦場』まで至ったのか、覚えておられますか? 此処で戦った記憶が、既に別にありはしませんか?
思い出してください。あなた方はかつて此処で戦い、そして斃れた。
今のあなたは黄泉返った影朧なんです。
最後の大戦から七百年余り。皆様のおかげで世界は帝都の帝の名により統一され、天下泰平に揺蕩っています。
どうか今の現実を受け入れて、幻朧桜の輪廻の輪に還ってください。
ネリッサ・ハーディ
【SIRD】のメンバーと共に行動
(無線で)…グイベル01より戦闘参加中の全ユニットへ。中央公園にて有力な敵と接触、交戦中。至急来援を乞う。
恐らく、このままの状況で彼を倒すのは至難の業。ですので、避難民を守る為に、G19及びUCを使用して避難民に被害が出ない様注意しつつ、敵に対して攪乱・牽制攻撃で来援到着までの時間を稼ぎます。それらを行いつつ、飛鳥に問いかけます。
側聞した所によると、あなたは民衆の為に戦い、その責務を十分全うした筈。そのあなたが、守るべき民衆はおろか、あなたの子孫である筈のカスミさんまで襲うとは、一体どういう事なのでしょうか?戦う理由すら分からなくなる程の狂気に蝕まれたのですか?
烏丸・都留
[SIRD]必要なら連携
POWアドリブ共闘可
自身は医師等に擬態し避難民を護衛指示優先。
ボスはその時まで狙わない。
各場所5台以上の戦闘車両スレイプニル(中隊規模搭乗可)をエレボスの影や対情報戦用全領域型使い魔(運転手/医師等擬態)の力も合わせて各種救急車両に擬態、中央公園内とそれ以外の安全な避難場所に配備護衛。
中央公園内避難民を車内に誘導避難後、他装備群で敵の意識を誘導した上でCICユニットの即時配置転換能力で安全圏の擬態済み車両と入れ換え。
超反応防御船殻/外皮の事象改変型結界や無数のガードユニットで防御対応。
無数の亜空間潜伏型アンチアストラルマインを、情報連携の上その時まで潜伏適宜運用。
鳴上・冬季
「霧原カスミを守れ、黄巾力士」
オーラ防御で庇うよう命じ先行させる
「壺中天は宝貝で設置型ではないのですよ。収容者を無秩序に放出しては大事故になりますし、時間を掛けては戦場に間に合いません」
「一粒一粒の砂を動かすのは難しくても、箱に詰めた砂を動かすのは簡単です。…できることをしましょうか」
「敵の攻撃は全て公園に向きましたが、まだ安全とは言いきれません。戦闘は後3時間ほどで終結するでしょう。中のものは自由に使っていただいて構いませんので市民全員に行き渡るよう炊き出しの準備をお願いします。町役場の人員も収容したら中の方々にお願いしたいことがあります。そこに居る貴方達にしかできないことです」
壺中天内の市長と式神で連絡とりつつ小学校の避難人員全て収納したら役場へ
役場の避難人員にも戦闘終結までまだ3時間ほどかかると思われること、中で戦闘終結のため是非手伝って貰いたいことがあると言い収容
完了後戦場へ
一般人の怪我人を優先的に壺中天へ送り込みつつ雷公鞭振るう
(関東大震災の轍を踏むわけには行きませんから)
御園・桜花
「無理解無分別の方が暴発しやすいのは、震災時に証明済みですもの。避難した方々同士で反目しない、自分の行動に誇りを持てる、カスミさんに寄り添える、近隣の方々にそうなっていただかない限り、この後のカスミさんの安全が保証されません。其の時手助け出来るのは近隣の方々だけです」
「私達が見捨てた、と思われるのが1番傷になりますから」
UC「幻朧桜夢枕」
まず小学校・役場の避難誘導手伝い拡声器で避難市民に呼び掛け
「今、此の地に来ている影朧は、大戦時に此の地を平定する為に戦い全滅した部隊の方々です。彼らはまだ、自分達が大戦の直中に居て、自分達が守らねば家族が、恋人が、子供達が全員殺されてしまうと思い、必死に皆を守ろうと奮戦しています。貴方達が中で一息ついて落ち着いてからで構いません。此の地で皆を想って戦った彼等に、貴方達のお陰で戦争は終わったと、感謝し愛していると祈って下さい。今此処に居る貴方達にしかお願いできないのです。願いが届けば、彼等もまた貴方達の家族として転生出来ます。貴方達の想いが必要なのです」
灯璃・ファルシュピーゲル
【SIRD】一員で密に連携
アドリブ・絡み歓迎
忠義に厚い優秀な部下の方々ばかりですね。上官と|故郷《くに》の人々の為なら、自分の矜持に反して名誉に傷がつく破壊工作と解っていても、なお、身を犠牲にやり通そうという程の…それだけに、そんな彼らを家族の元に帰してやれなかったのが心残りでしたか?もう一度、あの戦場で戦えれば次こそと…願ってしまいましたか?
人として、とても正しい想いです…ですが、貴方は多くの命を預かる指揮官です。常に自身と周りの事を冷静に判断しなければいけなかったはずです。本当にこの街は貴方の知る戦場でしたか?あなた方が狙った要人は本当に敵対的な人達でしたか?…|彼女《カスミさん》は本当に貴方方の『敵』ですか?
貴方は部下が身を賭して勝ち取った平和を汚すんですか?
言いつつ銃を構え、指定UCで狼達を召喚。少しでも此方の話に考えを動かされている様子であれば、問いかけつつ狼達で四方から波状攻撃をかけ圧力をかけ、動きを鈍らせ仲間達の攻撃を支援しつつ、腕・足狙いで狙撃し戦闘力を削ぐよう戦います
神宮時・蒼
…個々の、命を、預かるという、使命の、重み。…きっと、相当な、もの、なの、でしょう、ね。きっと、とても、慕われて、いた、方、なの、でしょう
…未来の、為に、と、抱く想いは、此処に在る、方々、皆、同じ、ですのに。護るべき、ものの、形は、同じ、です、のに…。
真実を知った時
彼の方が、後悔しないように
【全力魔法】【魔力溜め】【限界突破】と全ての力を持って【結界術】を展開
一般人の方に、決して害が及ばぬように
この土地が、嘗てどのような姿であったのかは分かりません
けれど、此の石碑が。貴方様が此の場所を護った、という証の一つ
此の地に伝わる歴史と、貴方様の記憶に、大きな違いは、無い筈、です
此処が、此の場所が、貴方様の行動の結果、です
落とせる攻撃は【範囲攻撃】と【弾幕】で払い、【属性攻撃】で岩の壁や氷の柱を生み出して受けましょう
多少の怪我は厭いません。此の身は心在るヒトの盾となりましょう
隙あらば、【雪花誓願ノ禱】にて対象の戦意を削ぎましょう
…もう、血濡れの、戦場は、ありません
あるのは、幸福溢るる、未来、です
司・千尋
連携、アドリブ可
やれやれ…忙しいな
中央公園へ移動
避難民の防衛優先
他の猟兵の邪魔はしない
近接や投擲等の武器も使い
攻防は基本的に『翠色冷光』を使用
回避されても弾道をある程度操作し追尾させる
早業、範囲攻撃、2回攻撃など手数で補う
範囲内の敵の攻撃は可能なら迎撃
鳥威だけじゃ防ぎきれない分は『翠色冷光』で撃ち落とす
敵の攻撃は結界術と細かく分割した鳥威を複数展開し防御
オーラ防御を鳥威に重ねて使用し耐久力を強化
割れてもすぐ次を展開
回避や防御、相殺する時間を稼ぐ
間に合わない時は双睛を使用
避難民への攻撃は最優先で防ぐ
守りは任せてもらって構わないぜ
手が空いたら援護もしてやるよ
『ヒト』は知れば知る程
わからなくなるな…
館野・敬輔
【POW】
アドリブ連携大歓迎
影朧化したことで
死の間際に抱いた無念や後悔が歪んでしまっているのか
しかもここが…飛鳥さんが命を落とした戦場
…説得は厳しいがやるしかないか
事前に黒剣に「属性攻撃(聖)、優しさ」のオーラを纏わせた上で
絶対先制が発動したら英霊たちを「衝撃波、吹き飛ばし」で押し戻す
…英霊たちの想いを考えるとできればやりたくないから
説得で回避出来ればいいんだが
頃合いを見て指定UC発動
グリモア・スクトゥムを避難民の前に展開し少しでも避難民を護る盾に
僕自身は飛鳥さんに肉薄し、攻撃を「武器受け」で少しでも受け流しながら黒剣で「2回攻撃」だ
…飛鳥さん
貴方は決して驕っていないし無能者でもない
立派な、立派な将官だ
想いを守り抜こうとする意思も
それに自らの命を捧げようとする想いも
…全て本物なのだろう
だけど、よく見てほしい
ここは、あなたの知る戦場か?
街並みや人々の服装は、あなたの記憶通りか?
…あの大戦から、もう何百年もたっている
あなたの願いは、既に人々に受け継がれているんだよ
それを、壊さないで
藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎
町役場の安全地帯はそのまま維持しつつ
急ぎ中央公園に駆けつけよう
飛鳥さんも、自らの想いを自ら踏み躙るのは望まないはず
可能なら、1章で調査した資料の複写を持っていきたいが…
駆けつけたらカスミさんの護衛優先
絶対先制に対する説得は中央公園で耐えていた皆に任せるしかないが
不可避となった場合は…気合で避けるか
凌いだら呼吸整え「歌唱、優しさ」+指定UC発動し回復専念
飛鳥さん
あなたにひとつ、お伺いしたいことがある
今日は……何年何月何日だ?
…と、うまい手ではないのは承知で質問する
もし、飛鳥さんが大戦期の日時を答えて来たら
カレンダーを見せつつ既に何百年もたっている旨を伝えよう
信じられないかもしれないが
貴方は先の大戦で命を落とし、影朧と化している
もう、あれから何百年も経ち
貴方が望んだ未来は貴方の手で守られているのだよ
もし資料を持って来れていたら
石碑を見てもらいつつ資料も見てもらう
貴方の想いは既に守られ、後世の人々に讃えられている
…もう、無理に戦い続ける必要はない
馬県・義透
引き続き『疾き者』にて
UCは防御力強化。身を呈してでも守る。四悪霊の総意は『守ること』。認識は周囲のを使う
攻撃が必要ならば、漆黒風投擲。
さて…まあ、こうして思い込んでしまうのも仕方のないことでしょう。何せ、彼にとってここが未来となる、なんてわかりませんから。
ですがね、あなたを…あなたたちを忘れないための碑があると、途中で聞きましたよー?それも、ここに。
あと…武器を持ってる私たちはともかく。交戦の意思のない民衆、攻撃するおつもりで?
※
陰海月は黒曜山(盾)持って護衛中。ぷきゅ。
霹靂、今度は陰海月を乗せている。クエ。
二匹は友だち。守りきったと知らないまま、傷つけることになるのはダメだと思っている
文月・ネコ吉
引き続き鈍色の雨を発生させつつ
人々を護り戦うべく中央公園へ
優しい雨で人々や仲間の傷を疲労を回復し
オーラ防御も重ねて鉄壁の防衛を維持する
勿論誰も死なせるものか
刀を手に応戦
油断なく戦況を確認し
仲間と連携して行動する
いよいよ指揮官のお出ましだな
召喚した戦友と共に戦う姿には、なるほど人望の厚さが伺える
共に命を賭して戦った者達だ
その覚悟も絆の強さも相当なものだろう
だからこそ知って欲しいと俺も思う
この地で彼らが成し遂げた事を
彼らの戦いは決して無駄ではなかったと
彼らは勝利し
想いは今もこの地に息づいていると
手にした日本刀と鈍色の稲妻に込めるのは
浄化の力と、周囲に満ちるこの町の人々の祈り
英霊達の転生を願い、放つ
文月・統哉
仲間と連携して行動
人々を護るオーラ防御を展開し
カスミを背に庇い、宵を手に応戦する
冷静に戦況を見切り
武器受けで盾となり人々を護りつつ
祈りを込めた衝撃波で霊達を浄化
誰一人死なせる事無く
人々の想いを届ける為に
飛鳥の心情を読心術で読み解きつつ説得
カスミにも無理のない範囲で協力を頼む
今際の時の報告…貴方は確かにそう言った
飛鳥さん、貴方は気付いている筈だ
自分が既に死んだ身である事を
この石碑にはその後の事が刻まれている
貴方方は勝利した
この地にこの御旗を掲げ
命を賭して戦って
この国を人々を護り抜いたんだ
貴方に見せたいものがある
カスミの家に伝わるこの豆本
貴方はこれを知っている筈だ
『この本を、最愛なる者達の為に捧ぐ』
貴方が家族を想う様に
貴方の家族もまた貴方を想っていた
戦後この地に移り住み、貴方の事を弔って
大切なこの豆本を子孫に遺したんだ
カスミ達が今もこの地に生きている事こそが全ての証
護る為に戦った貴方の想いは
貴方が死した後も消えてはいない
これまでもこれからも
カスミ達人々の想いと共に
飛鳥達の転生を願い
祈りの刃を
●
――目前に現れた飛鳥の姿を見て、目を細めて。
「……グイベル01より、戦闘参加中の全ユニットへ。中央公園にて有力な敵と接触、交戦中。……至急来援を乞う」
眼前で漆黒の大鎌『宵』を抜き放ち、周囲にクロネコ刺しゅう入りの緋色の結界を展開する文月・統哉(着ぐるみ探偵・f08510)。
――その統哉の直ぐ近くで。
「……個々の、命、を、預かる、という、使命の、重み」
そう囁く様にか細い声で呟きながら。
赤と琥珀色の色彩異なる双眸を茫洋と彷徨わせ。
その白き短髪を、水晶の様に美しく腰まで届く程に伸長させ、羽織っていた外套月白をバサリと脱ぎ捨てると、ほぼ同時に。
身に纏う衣装を水晶と氷晶色に染め上げ、黒きタイツを身に着け。
緋の憂い思わせる幽世蝶達に煌めく水晶蝶の如き真の姿を与え、無数の群れと成して戦場へと飛ばし。
その手の、短く、美しく、儚き幻想の花の名を賜った金木犀の白杖を、氷晶石の槍へと変身させながら。
「……ハーディ様、にも、かの方、にも。……きっと、相当な、もの、なの、でしょうね」
神宮時・蒼(追懐の花雨・f03681)が静かに囁きかける様に呟くのに。
「……ええ、そうね、蒼さん」
蒼の様に衣装こそ変わらないが、その全身から迸る力が数倍に膨れ上がったかの如き感覚を与える彩瑠・姫桜(冬桜・f04489)が首肯する。
――オーバーロード。
それは、数多の戦いを潜り抜けてきた猟兵達が覚醒した技の1つ。
危機に陥った時にのみ解放できる真の姿……自らの中に眠る本当の力をも解放することの出来る、猟兵達の奥義。
そのオーバーロードを解放する蒼と姫桜の姿を見つめながら。
「……繰り返す。……グイベル01より、戦闘参加中の全ユニットへ。中央公園にて有力な敵と接触、交戦中。……至急来援を乞う……」
無線を通じてそうネリッサ・ハーディ(クローク・アンド・ダガー・f03206)が戦場全体に|緊急招集《 スクランブル 》をかけるその姿を見て。
『……やれやれ。手前みたいな有能な指揮官がいると分かってりゃ、アイツらを生かしてやることも出来たかもしれねぇな。ほとほとオレの無能さに、嫌気が差すぜ』
自らが背負う英霊達の想いを、自分に命を託してくれる彼等の事を。
想うが故に、そう思わず愚痴を漏らす飛鳥の其れを聞きながら。
「……Yes.マム。此処まで来たら、私も手を貸したほうが良さそうね」
その中央公園の避難民の中に紛れ込む様にして。
ネリッサからの無線での連絡を耳にした、避難してきた人々を診断していた医師姿のヤドリガミ……。
「……対UDC/NBC対応全領域可変ステルス型多脚思考戦闘車両スレイプニル始動。避難民達の防衛を開始するわ」
烏丸・都留(ヤドリガミの傭兵メディック・f12904)が呟くと、不意に5台の戦闘車両スレイプニルが避難民達の前にその姿を現した。
●
――その変化は、小学校や町役場等でも起きていた。
突然現れた戦闘車両スレイプニルの威容を見て。
「此れは……味方なのか!?」
町役場のログハウス型喫茶店(と言う名の安全地帯)創設者、藤崎・美雪(癒しの歌を奏でる歌姫・f06504)が思わず驚愕の声を挙げる。
「た、多分、そうなんだろうな」
この突然の状況の変化には、流石の館野・敬輔(人間の黒騎士・f14505)も一瞬頭の中を空白にするしかない。
敬輔や美雪の無線からもネリッサからの至急増援の連絡は入ってきている。
「……此処が主戦場になるとは思えないが、まあ、万が一何かあった場合には何とかなる様に措置をしたと思うべきだろうな」
そんな中でも冷静に眉根に皺を寄せながらそう言葉を紡ぐのは文月・ネコ吉(ある雨の日の黒猫探偵・f04756)。
「……そうだな。今はネリッサさんの言う通り、中央公園に急ごう」
ネコ吉の落ち着いた声音に気を取り直した敬輔が首肯して、後輩である美雪を見やる。
美雪は町役場……そこにある資料室の方を気づかわしげに見やっていたが。
(「出来る事なら歴史の記録の写しを持っていきたいが……流石にその時間はないか」)
やむを得ぬ、とばかりに美雪がそう判断し。
「ああ、そうだな、先輩。中央公園にいる統哉さん達の事も心配だ。急ごう」
呟いた美雪が踵を返す様に分身を消した敬輔達と共に、中央公園に向けて駆けだす。
息を切らせんばかりの勢いで走りながら、しかし、と敬輔が言葉を漏らした。
「ネリッサさん達の通信を受信した限りの話になるが。……飛鳥さんは影朧化したことで、死の間際に抱いた無念や、後悔が歪んでしまっているんだろうな」
「ああ、恐らくそうなんだろう。……皮肉な話だよな。己が祖国や帰りを待つ家族達の為に戦っていた将官が、影朧となってその子孫達を襲っているんだ」
溜息と共に呟かれた敬輔の其れにネコ吉がそう静かに首肯する。
「しかも此処は……飛鳥さんが命を落とした戦場なんだ」
「その通りだな、先輩。資料にもその辺りの情報は間違いなく記載されていた」
敬輔の速さに少し息を切らしながらも返す美雪の其れに、だったら、とネコ吉が静かな決意を籠めて。
「……飛鳥達のその想いを繋ぐその為にも。俺達は誰も死なせちゃいけない。必ず護り通すぞ」
そうキッパリとした口調で告げる。
――この哀しき英霊達の、狂ってしまったその想いで、過ちを起こさせぬその為に。
その裏にあるネコ吉の誓いに、黒剣に鞘内で『彼女』達に祈りを籠めたオーラを纏わせながら、そうだな、と敬輔が首肯した。
●
――同時刻、小学校。
「……成程。此処はこいつらに任せれば良いって訳だ」
現れたスレイプニルの車両を見て、やれやれと皮肉げに肩を竦め乍ら、司・千尋(ヤドリガミの人形遣い・f01891)がそう笑う。
その千尋の隣には、校長を守っていた榎木・葵桜(桜舞・f06218)が窓から飛び出し、千尋の展開した鳥威に受け止められ着地していた。
その校長は、屋上から風火輪で校長室に降りてきた、鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)に預けている。
「少し思うところがありますので。榎木さん、あなたは私の黄巾力士を連れて、直ぐに中央公園に向かってください」
(「……冬季さん、何をするつもりなんだろう?」)
それが何なのかは皆目見当がつかないが、しかし冬季の柔らかい物言いの中には、何か揺るがぬ決意の様な何かが宿っていた。
であれば、信じて任せることも大事だよね、と葵桜もまた気を取り直す。
その冬季の宝貝・黄巾力士は宝貝・飛来椅に座して、空中を浮遊していた。
「千尋さん、ありがとうございます。ネリッサさんの言葉通り、私達も急がないと行けませんね」
呟く葵桜の其れに、そうだな、と千尋が微苦笑を零し、それから隣で莞爾と微笑む御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)を見る。
「で、お前はどうするんだ、御園」
「はい、司さん。私は鳴上さんと一緒に、此方に留まります。……やるべきことがございますので」
その桜花の呟きに。
へぇ……と興味深げに眉を動かし千尋が桜花を興味津々と言った様子で見つめていた。
「戦場は中央公園だぜ? それでも未だ、此処でやることがあるのか?」
其れは単なる好奇心からの問いかけ。
その千尋の問いかけに、桜花はそれに、はい、と莞爾と笑いながら首肯した。
「無理解無分別の方が暴発しやすいのは、嘗て起きた震災時に証明済みですもの」
「……震災って、もしかして……」
その桜花の言の葉に。
何となく引っ掛かりを覚えた葵桜が問いかけると、はい、と桜花が其れに応えた。
「関東大震災。嘗て関東一帯を襲った大災厄。とある流言が広まり、それを信じた人々により起きてしまった異国人の虐殺。広がっていく混乱と暴動。その根底には、避難した方々同士の反目等がございました。なれば反目せず、自分の行動に誇りを持てる、カスミさんに寄り添える。……近隣の方々にそうなって頂けなければ、これからのカスミさんの安全が保証出来ません。其の時、手助けできるのは……近隣の方々のみなのです」
「……成程。ヒトってのはそういうものなのか。俺にはよく分からないが、それも桜の精……だったか? この世界の転生の儀式を執り行える、御園が見てきたモノなのか?」
その千尋の問いかけに。
「どうとって頂いても、其れは司さん次第です。いずれにせよ、私にはここに残る理由があります」
「……そうですね。それじゃあ、そっちは任せましたよ、桜花さん」
桜花が微笑んだままに提示した解に頷き、葵桜がポン、と軽く桜花の肩を叩くと。
「はい、お任せ下さいませ。私と鳴上さんは、違う形で皆さんと共に戦います」
そう桜花が莞爾と笑って一礼するのに首肯して。
「やれやれ……忙しい話だな」
呟きその場を足早に立ち去る千尋と葵桜と黄巾力士の背を、桜花と冬季が見送った。
●
――その頃、水道用地でも。
「……Yes.マム」
ネリッサからの無線をJTRS-HMS:AN/PRC-188 LRP Radioで受信した灯璃・ファルシュピーゲル(Jagd hund der bund・f02585)が其の連絡に返事を返していた。
そして、それは……。
「此れは……急行したほうが良さそうですね。その彼が纏っている英霊達とやらも危険な事、この上なさそうですし」
そうウィリアム・バークリー(|“聖願”《 ホーリーウィッシュ 》/氷聖・f01788)が呟きながら、大地に魔法陣を描いている。
「ええ、そうですね。……恐らくこの話が届けば、ミハイルさん達も動く筈です。馬県さんが今は何処に偵察に出ているのかにもよりますが……」
(「彼に連絡を取って、霹靂に乗せて貰った方が早そうでしょうか……?」)
そう灯璃が内心で呟くその間に。
「ええ、灯璃さん。ぼくも空からの方が早いと思っていました。ですので……『ビーク』!」
その灯璃の心中を察する様にウィリアムが魔法陣に向けて居た魔力を籠めて叫びを上げると。
大地に描かれた白と青の綯い交ぜになった魔法陣が主の言葉に一瞬明滅し、そこから見事な白翼を広げたグリフォンが姿を現した。
「キュイイイイッ!」
「ビーク! ぼくと灯璃さんを乗せて直ぐに中央公園へ! さあ、灯璃さん、急ぎましょう」
告げるウィリアムの其れにありがとうございます、と灯璃が首肯。
軽く嘶きを上げたビークが晒した背に先ずはウィリアムが手慣れた様子で跨り、その後ろに灯璃が乗る。
『ビーク』は主と灯璃が搭乗するや否や、その一対の白翼を翻し、空に舞い上がる。
――その刹那。
地上に現れた5台の戦闘車両スレイプニルが目に入り、ウィリアムが思わず目を白黒させた。
「あれは……?」
「恐らく都留さんの戦闘車両スレイプニルですね。万が一に備えての代物でしょう。と言う事は、都留さんも来ていた、と言う事ですか……」
灯璃のその呟きに、成程、と感心した様にウィリアムが頷き『ビーク』の手綱を握り、その場を後にする。
そうして中央公園に向けての飛翔を続けていた、丁度その時。
「よお、灯璃、バークリー」
不意に1頭のグリフォンの姿が隣に移り、其処に乗っていた男が口に咥えた煙草で一服していた。
そのグリフォン……霹靂の登場に、霹靂と同じ悪霊を主としている、陰海月が何処となく嬉しそうに『ぷぎゅ!』と鳴き声を上げた。
「いやー、やはりこういう時は空からに限りますよねー」
そうのほほんとした調子で霹靂を操作しながら同意を求めてきたのは、馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)
――その術式を構成する、四悪霊が1人、『疾き者』――外邨・義紘の人格である。
「馬県さん……ミハイルさんを拾いに……?」
その灯璃の問いかけにはいーとのほほんとした調子で首肯する義透。
「館野さんも一緒にいましたが、あれは分身だった様ですのでねー。役割を終えたら分身が消失しましたので、ミハイルさんをピックして中央公園に向かっている最中なのですー」
その義透の言葉にやれやれ、と言う様に煙草をぷかりと吹かしながらミハイルが軽く肩を竦めた。
「メインディッシュが中央公園とはね。相変わらず|局長《 ボス 》は人使いが荒くて困るぜ」
「そう言いつつ、既に武器をSV-98MからUKM-2000Pに持ち替えているる辺り、まるでこの状況をあらかじめ見越していた様にしか見えませんが」
何となく目頭を押さえる様にして溜息を漏らす灯璃のそれに、まあな、と煙草を嚙み潰す様にしながらミハイルが鮫の笑みを浮かべる。
その間にも中央公園への距離は、ぐいぐいと接近していた。
(「それでも……俺にだって、あいつの事で思う事がある」)
中央公園が近づくにつれ、自分の脳裏を過っていく数多の光景を思い起こしながら、ミハイルが内心で軽く頭を振り。
(「まあ……なる様にしか、ならないだろうな」)
そのミハイルの胸中の呟きに応える様に。
――ネリッサ達の待つ中央公園の光景が、眼前に迫ってきた。
●
「大丈夫よ。カスミさん」
ネリッサが無線で連絡を取り、ミハイル達が此方に向かってきているその途中で。
都留が展開したスレイプニルにエレボスの影を走らせて、スレイプニルによる防御壁を強化している中でその声を響かせたのは姫桜。
「皆のことは、きちんと他の皆が守ってくれる。だから、今は私達に協力して欲しいの」
その姫桜の呼びかけに。
何処か呆気にとられた表情と虚ろな眼差しで姫桜を見上げるカスミ。
統哉と共に、カスミの視線を背後に感じながら、姫桜は続ける。
「今は、過去の中に飛鳥さん……カスミさんの御先祖様は、囚われてしまっている。でも、未だ、あなたの声は届くんだから」
その姫桜の呟きに。
『……まやかしの言葉を操る手前等が、如何してそこまでオレに執着しようとする?』
全身に纏った英霊達に一斉掃射の準備をさせながら、微かな戸惑いを混ぜた声で問いかける飛鳥。
その飛鳥の微かな戸惑いを、統哉は自らの読心術で読み取っていた。
(「彼は、確かに過去に囚われている。だが、話が通じない相手じゃない。本当は、何処かで……」)
と、統哉が探りを入れる様に、その紅の瞳で飛鳥の心境を見透かそうとするその間に。
「……貴方様、は、きっと、とても、皆様、に、慕われて、いた、方、なの、でしょうね」
自らの体から迸る様に空を舞う、自らの凍った心を砕いたその欠片を、緋から煌めく水晶へと化した蝶達に乗せて。
人々を守る青き水晶花の花粉と水晶蝶の鱗粉を結界として構築た、蒼がそう囁くと。
『……はっ。確かにそうなのかも知れないな。オレは慕われていたかも知れないが、そんなオレを慕ってくれる奴等を、オレはオレの都合と読み違いで無為に散らさせちまった。どうしようもない愚か者だよ、オレは』
そう、合法阿片を詰めた煙管を燻らせながら、何処か自嘲の翳りを帯びた笑みを浮かべて飛鳥がそう吐き捨てる。
――プカリ、と空へと浮かんでいく合法阿片の煙が、何故だか酷く目に染みた。
と……此処で。
「それは、如何なのでしょうか?」
そう問いかけたのは、愛銃G19C Gen.5の銃口を向け、その引金に手を掛けてじっと翡翠の瞳で飛鳥を見つめるネリッサ。
『……何?』
――本来であれば、もう攻撃を仕掛けてきても良い筈だ。
にも関わらず未だ攻撃を仕掛ける事無く、その前髪に隠れて見えない眉を動かす飛鳥。
(「……私達と落とし前を付けるために来たと言うのに……私達の話を聞いているとは、これは思いがけぬ幸運ですね」)
内心でそう呟きながら、ネリッサが続ける。
「側聞した所によると、あなたは民衆の為に戦い、その責務を十分全うした筈です。そのあなたが、守るべき民衆は愚か、あなたの子孫である筈のカスミさん迄襲うとは、一体どう言う事なのでしょうか?」
そのネリッサの問いかけに。
『ああっ? 手前もそいつと同じ事を言いやがるんだな。確かにオレには妻子はいるが……未だ、そいつ程デカくなってねぇよ』
カスミを睨め付ける様にしつつ鼻を鳴らす飛鳥に、いいえ、と姫桜が頭を横に振った。
「違うわ。貴女が『まやかしの言葉』と切り捨てようとしたカスミさんの言葉。それは『まやかしの言葉』なんかじゃないわ! 此の地は……私達にとっての『今』であるこの場所は、飛鳥さん。貴方と、貴方の仲間達が傷つきながらも護り繋いだ『未来』の形なのよ!」
その姫桜の叩き付ける様な叫びに。
『ハハハハハハハハハハッ! こいつは傑作だ! 如何に無能者のオレでもそれで騙せると思ったら……とんだお笑い草だぜ?』
腹の底から湧いてくる様な笑い声を姫桜へと叩き付ける飛鳥。
統哉はそんな飛鳥の笑い声の中に育まれる微かな動揺を読み取り。
(「畳みかける方法は……」)
そう冷静に状況を観察し、決め手を突きつけることの出来る機会を伺い続けている。
――と、此処で。
「……未来の、為に、と、抱く、想いは、此処に、在る、方々、皆、同じ、ですのに……」
酷く哀しげな、ヒトの思いを……その心の裡に燃ゆる『灯』を。
1人の『モノ』として、其れが守るべき『ヒト』の心なのだろう、と解さんとする氷晶石と琥珀のブローチのヤドリガミの少女が呟く。
その蒼の哀しげな呟きに。
『……未来のために、と抱く想いは此処に在る者達、皆同じ……か』
そう何処か自嘲染みた口調で呟く飛鳥の其れに、そうだ、と統哉が静かに首肯した。
「飛鳥さん、貴方は先程、俺達が倒した貴方達の部下の死を『今際の時の報告』と……確かにそう言ったな」
その統哉の問いかけに。
『あっ? ……そうだな。手前等にあいつらは殺られちまった。その直前にアイツらの声がオレに届いた。だからオレはそう言った迄だ。……其れが如何した?』
いなす様に問いかける飛鳥の其れに、統哉が軽く頭を横に振る。
「確かにそうだ。俺達は貴方の部下を倒したあの時、貴方に報告が届く姿を目撃している。でも其れは、『今』が初めてだったのか?」
『……何が言いてぇ?』
切り口を変えての統哉の問いかけに、飛鳥がピクリ、とその手の銃剣を構え直す。
その銃口が統哉に真っ直ぐに向けられているのに姫桜が思わず息を飲み、蒼がその手の煌めく水晶石の槍を振るおうとするが。
大丈夫、と言う様に両手を挙げて姫桜達を制し、姫桜と共に背後のカスミを庇う様にしながら、統哉が続けた。
「飛鳥さん、貴方は、気がついているんじゃ無いのか? 本当は、自分が既に死んだ身である事を」
その統哉の決定的な問いかけに。
『……』
凍える様な殺気を、前髪に隠れて見えない視線から叩き付ける様に発する飛鳥。
その統哉を貫く飛鳥の殺気に、ビクリ、とカスミがその身を震わせる。
けれどもその殺気に怖じ気づかなかった蒼が、統哉の言葉を補う様に、言葉を紡いだ。
「……ボク、は、此の土地、が、嘗て、どの様な、姿、で、あった、のかは、分かりません」
『……此処は戦場だ。それ以上でもそれ以下でもねぇ……』
――何かが、飛鳥の胸中に警鐘を鳴らし続けている。
これ以上、大切な部下達の命を奪った仇の話に耳を貸すな、自らの口を開くな、と誰かが囁き掛けている。
けれども、そんな飛鳥の胸中に聞こえている声に構わず、その少女達の声は、想いは、飛鳥の判断を遅れさせていた。
「……ですが、1つ、だけ。ボク……ボク達、は、貴方様、の、知らない、こと、を、知って、います」
その蒼の呟きに。
『……オレの、知らない事を、知っている……だと?』
微かな動揺を孕ませた怒気を押さえた声で飛鳥が問いかけるのに、統哉が何も言わずに後ろに向けて人差し指を向ける。
その統哉の人差し指の向こうにあったもの。
それは……。
――咲き誇る幻朧桜に隠される様に聳え立つ……嘗ての英霊達を奉る石碑。
「……あの石碑には、貴方方が、自らの身を擲った結果、戦いに勝利した事。そして……其の後の『未来』の事が刻まれている」
自らが先の戦いで立てた飛鳥達の祖国の御旗を見回しながら、言葉を紡ぎ続けた。
「此の地に、この御旗を掲げ、命を賭して戦って……。貴方方は此の国を、人々を、護り抜いたんだ。だから、カスミさんは、貴方の事を『御先祖様』と呼んだんだ」
『……』
その統哉の追い打ちに。
飛鳥がビクリ、と身を震わせた一瞬の隙を突いて、統哉が自らの懐から、カスミから預かっていた豆本を取り出した。
それは、年月を経ても|色褪せることの無い《 ・・・・・・・・・ 》ウーツ鋼のチェーンで繋がれた豆本。
――子々孫々、愛する未来を担う者達に、大戦という愚かな争いを捨て、平和に生きて欲しい、と言う想いと祈りを籠めた……。
「『この本を、最愛なる者達に捧ぐ』これはそう遺言として、家族を想う貴方が刻んだ言葉の書かれた豆本だ。貴方は此を、知っている筈だ」
――その、統哉の決定的な一言。
何時かは、やがて何時かはと、醜い争いを繰り返して欲しくないと言う願いの、想いの籠められた其れ。
――嗚呼。
でも――それでも。
『……それでもな。オレは、手前等に部下達を殺された。その落とし前はオレの手でつけなきゃならねぇんだ』
――先の戦いで死んでいった部下達の想いに報いる其の為にも。
だから……。
統哉達に向けていた銃口を、飛鳥は引く。
その銃口から銃弾が放たれようとしたその刹那。
飛鳥の纏う英霊達が……『戦友』がその銃撃を800回まで増幅し、纏めてその場の者達を一掃しようとした、その刹那。
――ドルルルルルルルルルルルッ!
上空から無数の銃弾が地上に向かって降り注いだ。
降り注いだその弾丸……UKM-2000Pの銃口から放たれたそれが、800の銃口から吐き出された無限にも等しい弾丸を撃ち落とし。
――更に。
「Active Ice Wall!」
間に合った、と言わんばかりに何処か安堵を伴う呪が詠唱され、無数の氷塊が戦場を覆い着く様に解き放たれる。
解き放たれた無数の氷塊が壁と化し、都留の呼び出したスレイプニルと、其れに乗車しようとしていた避難民を護るべく。
ミハイルでも撃ち落としきれなかった弾丸を受け止め、次々に割れて砕けていく。
『ちっ……新手か』
一瞬、何が起きたのか分からないという表情をしていた飛鳥だったが、直ぐに其れが意味することに気がつき思わず舌打ち。
飛鳥の上空には、二頭のグリフォンの影が太陽の光を遮る様に飛び去っていき。
其の背から……。
「ミハイルさん、灯璃さん、馬県さん、バークリーさん……間に合いましたか」
着陸した4人の影を見てそっと額に滲んでいた汗を拭いながら呟くネリッサの言葉に、灯璃が敬礼を1つ。
「お待たせ致しました、局長。此より援護に回ります」
「まあ、飛鳥さんが文月さん達の言い分の全てを完全に認めているとは思えませんけれどねー。如何に石碑という証拠を突きつけられたとしても、それだけを以て、彼にとって此処が未来だと言われても、納得しがたいでしょうー。ですが……少なくとも最初の一射のタイミングを遅らせるには、十分な説得材料だったかと思いますがー」
そうのほほんと告げながら、『馬県・義透』と言う自らの認識補助術式を再構築し、自らの全身を封じてきた呪詛で覆う義透。
それは四悪霊が1人、『不動なる者』を想起させる巌の様な堅牢な呪詛の鎧と化して義透を覆い避難民を守る結界を練り上げていく。
『……ちっ。相変わらずオレは甘ちゃんだな……。如何してもアイツらの想いに報いたいという気持ちが勝っちまう。……何よりもアイツらはオレの作戦のミスで死なせちまったんだ。せめてアイツらの為に落とし前だけは付けねぇとな』
その飛鳥の呟きに。
「……確かに貴方の部下は忠義に厚い方々ばかりでしたね。|故郷《 くに 》の人々の為なら、自分の矜持に反して名誉に傷が付く破壊工作と解っていても、尚、身を犠牲にやり通そうという覚悟を抱いていた程に……」
そう灯璃がHk477K-SOPMOD3"Schutzhund"に銃弾を送り込みながら思い出した様に呟くと、ハハッ、と飛鳥は寂しげに笑った。
『自分の矜持に傷が付こうが、その身を犠牲にする覚悟なんて……オレには出来すぎた部下だ。オレは、只、アイツらが生きて故郷に帰れれば、其れで良かったのによ……』
「……そうなのでしょうね。そんな彼等を家族の元に帰してやれなかったこと、それは、酷い心残りなのでしょうね」
――だからこそ。
「……もう一度、この戦場で戦えれば、次こそを……と願ってしまったのですか? それとも、そんな彼等の思いに報いてやりたい一心を独りで背負って貴方は再び起ってしまったのですか?」
『……ああ。オレがもう死んでいるとなると、そう言うことになるんだな。だとすれば、アイツらも、もう……』
寂しげにそう呟いて。
再び解き放った無数の銃弾が灯璃達を撃ち抜かんとするが。
「……雨よ、降れ」
その刹那に。
不意に戦場を鈍色の雲が包み込み、上空から鈍色の稲妻と優しき雨が降り始めた。
「この優しき鈍色の雨。此は……」
その雨の主の名を統哉が口にするよりも、僅かに早く。
「私達は……貴方にこれ以上罪を重ねさせなんてしない! 貴方達が護り通したものを、今度は私達が護り抜く! カスミさん! 避難民の皆さん! 貴方達が知り得る、御先祖様の全てを、想いを、飛鳥さんにぶつけて! 御先祖様達の頑張りがあったから、今のカスミさん達が居て、この町がある事を伝えて上げて!」
その雨に、無数の銃弾で穿たれた肩や足の傷を癒されながら。
姫桜がその不屈の覚悟を籠めた言葉を発すると同時に、数多の白燐蟲で構成された閃光を解き放った。
解放された閃光に其の体を動かされる様にミハイルがUKM-2000Pを連射して撃ち出された弾丸を撃ち落としつつ。
「……似ているよな、手前と俺はよぉ」
何処か言い聞かせる様に告げるのに、飛鳥が微かに前髪に隠れた眉を吊り上げる。
『……オレが似ている。手前にか?』
そう飛鳥が問いかけた、刹那。
機関銃を構えて都留が守ろうとしている一般人に向かって流れていく弾丸を撃ち落とすミハイルの姿に何か奇妙な納得を得る飛鳥。
その飛鳥の気配に何となく気がついたのであろう。
ミハイルが先程から、飛鳥が浮かべ続けている自嘲によく似た笑みを浮かべて、ああ、と静かに首肯した。
咥えた煙草の煙と、飛鳥の煙管から漂う合法阿片が絡み合い、雨が大地を叩く音と共に、戦場に奇妙な静けさを齎していた。
その奇怪な静けさを打つ様に響くのは、ミハイルの声。
「……気がついただろ? 手前も、オレも、砲煙弾雨の戦場で、過酷で絶望的な状況を戦い続け、戦友や部下達が傷つき、斃れていくのを目の辺りにしてきた……修羅だって事にだよ」
そうでもなければ、狙いを定めた大隊の銃弾を一般人に当てること無く撃ち落とすことなど出来ない。
そのミハイルのぼやきに、確かにな、と飛鳥が微かに自嘲の笑みを浮かべるその間に。
都留が自らの呼び出したスレイプニルに人々を搭乗させ、各地に擬態して配備していたスレイプニルと置換を行おうとするが。
「待って。お願い……皆、待って!」
その都留の行為に謝意を示しつつ、カスミが思わずそう叫んだ。
「どうかしたのかしら?」
そのカスミの懸命な想いの籠められた其れに、都留がカスミの方を見ると。
「お医者様! 貴女達がわたし達の事を守ってくれているのは本当に感謝しているの! でも……! 此処で皆が此処から逃げ出してしまったら、きっと……!」
――飛鳥は、自分達の言葉を信じられなくなるだろう。
此処に居る人々は飛鳥やその部下達が文字通り『命を賭して』護り抜いた、未来の証。
でも、その未来の証である人々が……今の平和を享受し、その前にあった悲劇の歴史を知る者達が此処から逃げてしまえば……。
「……過去と向き合えなくなる、と言う事かしら?」
その都留の問いかけに。
「……そうですね。守って頂いておいて虫がいいのは分かっていますが……それでも、僕達の御先祖様の事を、僕達には無視できません」
中央公園に避難してきていた住民達の1人である少年……カスミのクラスメートか誰かだろうか……が代表して声を上げた。
その少年の呟きに、都留が溜息を1つ吐き。
「分かったわ。あなた達を無理矢理この場から避難させることはしない。でも……その代わりあなた達を守らせて。あなた達は、この町の歴史の証明そのものだけれども、だからこそ、此処で彼にあなた達を殺させるわけにはいかないのよ」
都留のその言葉に、少年がありがとうございます、と挨拶を1つ。
――と、其処で。
「まっ……そう言うことならば、俺にも一枚噛ませてくれよ。こう見えても、誰かを守る戦いには、定評があるんだぜ?」
そんな、何処か皮肉げで、冗談めかした口調と共に。
都留が用意したスレイプニルや蒼が張り巡らした青水晶の花の煌めきに覆い被さる様に、無数の鳥威が戦場に展開される。
「私達だって、飛鳥さんに避難民である皆を殺させたくないんだ! だから、絶対に私達が皆を守る!」
鳥威と共に姿を現した千尋が無数に展開した鳥威の向こう側から。
神霊体と化して、自らの寿命を削る鮮血を零しながら、走り込む様に避難民と飛鳥の間に娘の影が割り込んで。
――リン、リン、リン!
と柄に取り付けた鈴の音を鳴らしながら、楽刀を撥ね上げる様に衝撃の波を解き放つ。
解き放たれたそれが、尚、飛鳥と、彼と共に在る亡霊達が連射して生み出された銃弾を撥ね飛ばし、暴風を巻き起こす。
その暴風の向こうから現れた神霊体と化した少女……。
「……あお!」
葵桜の姿を目の端に捉えた姫桜が歓喜と共に叫ぶと、左手でVサインを作って、葵桜がにっこり笑った。
「姫ちゃん、暫くぶりだね♪ 大丈夫だった?」
「其れはこっちの台詞よ、あお! あおこそ、よく無事で……」
良かった、と姫桜が最後まで言い切るよりも前に、姫桜の隣に黄巾力士が姿を現し。
更に……。
「あー……感動の再会に水を差すようで申し訳ないが……姫桜さん。葵桜さん。未だ飛鳥さんは健在……どころかピンピンしているぞ? 取り敢えず先ずは飛鳥さんを何とかするのが先ではないか?」
そんな言葉が紡がれると、ほぼ同時に。
オーロラの様な調べが戦場を満たし、それと同時に温かな七色のオーロラ風が追風となって吹き荒れる。
吹き荒れるオーロラ風が統哉達の傷を癒すその間に、グリモア・ムジカにメロディを奏でさせている美雪が苦笑交じりに軽く手を振り。
――更に。
「……飛鳥さん。貴方は、決して驕ってもいないし、無能者でも無い」
その言葉と、ほぼ同時に。
吹き荒れるオーロラ風に押される様に赤黒く光り輝く刀身を持つ黒色の輝き放つ黒剣を、敬輔が上段から飛鳥に振り下ろした。
真っ向両断に振り下ろされた斬撃に直感的に気がついた飛鳥が特に驚いた様子も無く、手に持つ銃剣で其れを受け止め。
『はっ!』
叫びと共に敬輔に膝蹴りを叩き込み、自分から無理矢理敬輔を引き離し、銃剣の白刃で敬輔を貫こうとした時。
「役者は揃っている様だな。それにしても、召喚した戦友と共に戦う……か。なるほど、お前の人望の厚さが伺えるな」
その敬輔と飛鳥の脇を駆け抜ける様に。
鈍色の輝き伴う小太刀の一閃が放たれ、それを飛鳥の戦友の亡霊の銃剣が受け止めた。
『……成程。これだけの戦力が集結していたからこそ、オレ達は敗れたと言う訳か。……全く戦力を見誤りすぎだぜ、オレ』
やれやれ、と言う様に亡霊達に銃弾を一斉掃射させながら油断なく距離を取る飛鳥の其れに、ネコ吉が鋭くその目を細めると。
鈍色の稲妻が叩き付ける様に飛鳥と英霊達を撃ち抜き。
そして優しき雨が敬輔達を癒やすその戦場で、ネコ吉は続けた。
「……その覚悟、そしてその絆の強さ……本物なんだな」
――でも、だからこそ。
「俺達は、お前に知って欲しいんだ」
――此の地で嘗て、飛鳥達が成し遂げたこと。
その戦いが、決して無駄では無かった事を――。
そのネコ吉の言葉に籠められた想いを無意識に感じ取り、其れに微かな動揺を見せながらも尚。
『……それでもオレは、オレ達は認めねぇ。認められねぇ。例え、オレ達が既に死んでいるのだとしても。オレの大切な部下達を手前等に先程殺されたという事実は消えないからな。其の分の落とし前は――借りは、返してやらないと……な?』
そう獰猛な、けれども何処か哀しげな笑みを浮かべて告げる飛鳥と其れに呼応する様に雄叫びをあげる亡霊達の姿を見て。
「……此が、『ヒト』か。知れば、知る程、分からなくなるよな……」
(「……御園、鳴上。お前等は此に一体どんな答えを与えるつもりなんだ?」)
そう内心で千尋が呟きながら鳥威の結界を展開しつつ、その指先から青い弾丸を飛鳥に向けて解き放った。
●
千尋の青き光弾を、戦友達の霊が肩代わりしてくれるのに感謝の意を示しながら。
「まっ……撃ってきたのは、手前等だからな」
そう呟くと、ほぼ同時に。
銃剣の銃口を千尋に向け、それが800に分裂して一斉に無数の射撃を解き放つ。
解き放たれた一斉掃射が一般人に当たらぬ様、氷塊の盾を展開していたウィリアムが。
「閣下」
そう飛鳥に呼びかけたのは、決して誤りではなかっただろう。
けれども飛鳥はそれに対して肩を竦めて。
『おいおい。只のしがない兵士に過ぎないオレに、そんな称号大それているぜ?』
そう告げて。
一度は引き離した敬輔とネコ吉の後退に合わせる様に灯璃が四方から嗾けた無数の漆黒の狼にその身を囓り取られながら。
傷ついた体を一瞬で再生する事への痛覚すら忘れてしまったかの如き笑みを浮かべる飛鳥にいいえ、とウィリアムが頭を振る。
「あなたは、元々閣下の御国の将官でしょう? 其れを閣下と呼ばずに何と呼べば良いのですか」
『……部隊を失った愚劣な将官に言うべき言葉じゃねぇよな、それは』
口元に昏い笑みを浮かべてそう告げながらウィリアムに肉薄し、銃剣を突き出しながらの飛鳥の言葉。
ネコ吉や敬輔が左右から同時に襲い掛かり、更に姫桜や、葵桜達も其れに追随する様に攻撃を仕掛けるが、しかし其れは英霊達が防いでいる。
「……かもしれません。ですが、ぼくが聞きたいのはそう言うことではありません。今、閣下。ぼくがあなたに聞きたいのは、あなたの部隊がどう言う経路でこの『戦場』まで至ったのか、其れを覚えておられますか? と言う事です」
氷塊の盾でその無数の銃剣を辛うじて防御しながらのウィリアムの問いかけに。
ピクリ、と想わず眉を顰める飛鳥を見て、ウィリアムが畳みかける様に告げる。
「此処で戦った記憶が、既に、別にあるのでは無いですか? そもそも、あなたが|初めて《 ・・・ 》此の地で戦った時、蒼さんや統哉さんが告げた石碑がありましたでしょうか? 教えて下さい。其の時、あなたはどの様にして戦ったのか……其の時の武勇のその記憶を」
そのウィリアムの言葉にそうだな、と同意する様に首肯するは、グリモア・ムジカにメロディを奏でさせながら七色のオーロラ風を吹かせる美雪。
「飛鳥さん、私も同様に貴方にお伺いしたいことがある。今日は……何年何月何日だ?」
その美雪の問いかけに。
『ああっ? それは……』
と美雪の其れに応える飛鳥の回答を聞いて、やはりな、と美雪が軽く溜息を漏らすと同時に、懐からカレンダーを取り出した。
「……残念ながら、飛鳥さん。その月日は700年以上前……嘗て、大戦が起きていた末期の時だ。今はもう、これ程までに時が進んできている。カスミさんの言葉を信じられなかった貴方の事だ。私の言う事も信じられないだろうな、とは思うがな」
そう美雪が呟くや否や、風を孕んだカレンダーが捲れ、更に次の年の年月日を指し示す。
そこに書かれた年月日を見て、まさかな、と飛鳥が乾いた声を上げた。
『馬鹿を言うな。……と、言いたいところだが……否定できる材料が出てこない、と言うのも奇妙だな』
その飛鳥の何処か稚気を感じさせる笑みと共に。
飛鳥の周囲の英霊達が800の銃口を美雪に向けて、一斉掃射。
それは、ウィリアムが呼び出した氷塊の盾を易々と貫通し、全ての銃撃が美雪を撃ち抜かんとするが。
「おっと、やらせないぜ」
口元に皮肉げな笑みを浮かべたままに無数の鳥威を千尋が展開し。
「……此処で、貴方様、が、罪、を、犯せば、貴方様、は、必ず、後悔、します、ので……!」
氷晶花の如き、腰まで届く長髪を風に靡かせながら、蒼が粒やきと共に、煌めく水晶蝶に水晶色の結界を張り巡らせさせた。
鳥威の上に重ねられた氷晶花の花粉を思わせる結界が氷塊で防ぎきれなかった銃弾を受けきり。
『ちっ……!』
更に呻く様に舌打ちをする飛鳥のその隙を付く様に、蒼が水晶蝶を自らの周囲で羽ばたかせながら肉薄し。
「……貴方様、が、此の、場所を、護った、その証、を、護る――為に」
そう小さく呟き水晶蝶達に氷晶花の破片を散らせながら蒼が飛鳥に突撃させる。
突撃され、纏わり付く様に飛鳥に絡んだ水晶蝶達が、見る見るうちに水晶と化して飛鳥を凍てつかせ、その動きを阻害。
『ぐっ……!』
思わぬ束縛攻撃に呻きを上げる飛鳥に向けて、葵桜が姫桜と共に肉薄した。
「自分の思い込みに囚われ、周りを見ない頑固親父なんて今時流行らないわよ!」
雄叫びと共に、その腕の玻璃鏡の鏡面を揺らがせつつ、姫桜に振るわれた二槍を銃剣で飛鳥が受け止めた瞬間。
「貴方の目に映る世界は、ご自身の部下や戦友を失い、それでも未来を、と望んだ『過去』、なんだよね」
その呟きと、共に。
葵桜が胡蝶楽刀の魔除けの鈴を鳴らしつつ解放した衝撃の波が蒼の水晶と共振して砕け散り、その破片が、飛鳥の体に傷を負わせた。
傷を負った端からその傷を癒されていく飛鳥の姿を、痛ましい想いを抱えて見やりながら、葵桜が続ける。
「それが貴方を縛るもの。守れなかった仲間の想いを無駄にしたくない、と言う想い」
――勿論、その想いは……。
「とてつもなく大事で、決して忘れてはいけないものなんだ。飛鳥さん、貴方が立派な、本当に立派な将官として、後世の人々に語り継がれていくその理由は、正しく其処にあるんだ」
その言葉と、共に。
ウィリアムの氷塊の影から飛び出す様に現れた敬輔が、黒剣を横一文字に薙ぎ払い、飛鳥の上半身と下半身を真っ二つに切り裂くが。
その凄まじい負傷も又、見る見るうちに癒やされていき、逆に周囲に新たなる英霊達がその姿を現したのに、敬輔が思わず顔を歪めた。
(「……本当に800回も、僕達は此の人を殺さなきゃいけないのか? 幾ら影朧だからって、それではあまりにも……!」)
――報われない。
彼も、彼と共に戦った戦友達も……そして、彼と彼の戦友、部下達を『英霊』と奉り、長年彼等の思いを繋げてきた|未来《 いま 》を生きる人々も。
――そう。誰も、報われない、そんな世界は……。
「貴方が『過去』に傷つきながらも、護り繋いだこの『未来』の形を、このままじゃ貴方は貴方の手で壊してしまう事になる! そんなの……誰も幸せになれないじゃない! そんな耄碌している暇があったら、カスミさん達の……皆の想いの言葉としっかりと向き合いなさいよ!」
側面を取る様にサイドステップを繰り出しながら、白燐蟲の閃光を自らの背に受けて。
真の姿を解放している姫桜が抜いていた黒と白の二槍を螺旋状に交差させて突き出し、飛鳥を貫こうとするが。
其の時には先程飛鳥が瀕死になった時に飛鳥を護るべく現れた英霊達の内の1体が其れを受け止め。
別のもう1体が、そんな姫桜を撃ち抜くべく銃剣の引金を引いた。
――パーン!
鋭く響き渡る銃声。
その銃声と共に解き放たれた凶弾が、姫桜の身を撃ち抜かんと……。
「やらせませんよ」
生み出された122体のネリッサの炎の精達の何体かが銃弾に取り憑き、その弾を飲み込み体内で焼き払い。
「……其処ですね」
そのタイミングに合わせてスナイパーライフルのスコープを覗き込んでいた灯璃が、銃の引金を躊躇いなく引いた。
無音の銃撃が、飛鳥の肩を射貫くその間に、灯璃が小さく問いかける。
「貴方は、正しく、また、心優しい将官でした。人としては、とても正しい想いを持っています。……ですが、同時に貴方は指揮官でもある。常に自身と周りの事を冷静に判断しなければ行けなかった……そう言う立場だった筈です」
――それは、普段であれば当然の様に彼が出来ている行為。
だからこそ、多大な戦果を上げることも出来ているし、死者も最小限に留められ、『英霊』と迄、人々に讃えられる様になった。
――それ程、偉大なる将官であり、指揮官であった、その男が。
「判断を見誤り、その上狙った要人達が、本当に敵対的な人であったのかどうかすら確認しなかった。何故ですか? この町は、本当に貴方の知る戦場でしたか? 貴方方が狙った要人は、本当に敵対的な人達でしたか……? 何よりも、今、彩瑠さん達に護られている|彼女《 カスミさん 》は、本当に貴方方の『敵』だったのですか? 既に貴方達は部下と共に、その身を挺して平和を勝ち取った。その平和を、貴方が自らの手で穢すというのですか!?」
微かな激昂の綯い交ぜになった灯璃の言葉の乗せられた弾丸が、飛鳥を撃ち抜く。
撃ち抜かれた飛鳥がゴボリ、と喀血するが、其の体は瞬く間に再生されていく。
――何度も。何度でも。
(「……何とも哀しい話ですよねー。私……『我等』の様な悪霊になる事も出来ず、只、影朧としてしか、此の地に生まれ落ちる事が出来なかった……。その理由は、恐らく……」)
――彼がその胸に抱いていたモノが……。
「復讐ではなく、『誰かの未来を繋ぎたい』、或いは『贖罪』、『罪悪感』……そう言った邪気とはまた異なる類いの思いだったから……なのでしょうかね」
その独り言の様な呟きと、共に。
無数の銃撃から一般人達を護るべく漆黒風を投擲し、飛鳥の目を貫く義透。
放たれた漆黒の棒手裏剣の一撃に飛鳥が仰け反ったその瞬間を狙って、千尋が懐から烏喙を投擲し、更に指から青い光弾を解き放つ。
先端に毒の塗り込まれた短刀と共に解き放たれた青い光弾に打ち据えられ、大きく傾ぐ飛鳥を護る様に英霊達が一斉射撃。
その一斉射撃を千尋が無数の鳥威で、都留がスレイプニルで防御。
それでも防ぎきれなかった弾丸を四悪霊の想いを一つにした、義透が巌の様に立ちはだかりその銃弾を受けきった。
その衝撃で義透の体についた傷は、ネコ吉の呼び出した優しき雨がしとしとと降り注ぎ、癒し、回復している。
その様子を目の端に捉えながら。
ウィリアムの氷壁にめり込むことなく跳弾した弾丸からカスミを黄巾力士が護る姿に背を押され。
クロネコ刺繍入りの緋色の結界を張り巡らした統哉が、『宵』の柄で飛鳥の腹部を殴りつける様に肉薄し。
「貴方が家族を想う様に、貴方の家族もまた、貴方を想っていたんだ」
――そして、その想いを。
「未来へと繋ぎ、護っていく。其の為に、俺達は此処に来た。それが、今の俺達に出来る貴方方死した方々へのせめてもの敬意の表し方だから……」
その呟きと、共に。
その柄で飛鳥を殴り付け、ゴボリ、と喀血された彼の血を躱しながら、統哉がその『宵』の刃に願いと祈りを籠め始める。
――けれども。
『オレは……オレ達は、止まらない。止められない。オレ達の大切な者達の為に、せめて一矢報いなければ……!』
そう呻く様に呟いた飛鳥を護る英霊達が、自らの銃剣で、千尋達を一網打尽にするべく一斉掃射した。
●
「未だ……まだだよ……! この町は、時代は、貴方や部下が護った其の後の世界お出、貴方達が確かに繋いだ未来そのものなんだから!」
その咆哮と、共に。
葵桜が胡蝶楽刀の魔除け鈴を鳴らしながら、トン、とその柄を大地に叩き付ける。
同時に大地を震撼させる波が放出され、それが無数の銃弾の幾何かを撃ち落とし。
「……足りないわね。エレボスの影、起動」
続けて都留がそう小さく言葉を紡ぎ、無数の影が暗黒属性を持つ銃弾へと変化を遂げ、次々に銃弾とぶつかり合い、相殺。
――そこに、UKM2000-Pによる無数の銃撃が飛鳥を斬り裂く様に襲い掛かり、彼の体中に穴を開ける。
其れが完全に蘇生されていく様を見ながら、ミハイルがそっと溜息を漏らした。
「手前は、何処までも自分の意志を貫き通すつもりなんだな。……俺は、戦争で育まれていく狂気を|楽しむ《 ・・・ 》事で逃れていたが」
『……戦争を楽しむねえ。其れは確かに、オレとは違うな。オレは、アイツら護って、死んだ奴等の分まで報いてやる。只……それだけで良かったんだ』
そう呟いてミハイルに肉薄し、銃剣の銀刃を突き立てる飛鳥の其れに、割り込む様に。
「……やらせ、ません。ボクは、心在る、ヒトの、盾、となる。それが、ボクが、モノと、して、選んだ、道、なの、ですから……」
己が凍った心を砕いた欠片を水晶の鱗粉の様にばらまいて結界を張り巡らした蒼が立ち塞がった。
「……あっ? 神宮時、お前が俺を庇うとは、どう言うつもりだ?」
思わぬ割り込みを受けたミハイルが軽い調子で問いかけると、ボクは、と蒼が水晶蝶と氷晶花の欠片を解き放ちながら言葉を紡ぐ。
「……ボクは、モノ、です。だから、狂気、と、言う、ヒトの、在り方、は、よく、分かり、ません。ですが、其れも、また、ヒトの、心、と、言う、ので、あれば、ボクは、其れを、護る、事に、躊躇いは、ありません……」
「やれやれ、戦争というスリルを|楽しむ《 ・・・ 》、それも一種の狂気と割り切っている俺が、そんな理由で庇われるとはね」
そう口の端に肉食獣の笑みを浮かべたミハイルが。
軽く肩を竦めて、灯璃の生み出した全ての光を飲む漆黒の森の様な霧と、都留の呼び出したガードユニットに隠れる様に後退しながら。
「……まっ、いいさ。いずれにせよ、飛鳥。手前と俺とじゃひとつだけ違いがあるのは間違いねぇからな」
そう呟き。
霧の向こうから現れた灯璃の無数の狼の様な影の群を薙ぎ払った瞬間、続けて迫ってきたネリッサの炎の精に戦友を焼かれる飛鳥にミハイルが続けた。
「俺にとっちゃ、戦争は、自分の命を賭けたスリルあるゲームに過ぎねぇ。だが、ゲームである以上、自ずと最低限護らなきゃならねぇルールってモンが存在するって事だ。まさか、其れを忘れちまったとは言わせないぜ?」
そのミハイルの剃刀の様に鋭い言葉を受けて。
『……ルールか。確かに手前等はそのルールを遵守させる為に、病院に赤十字の旗を立てていたな。だが、この中央公園にいる将兵達は、殺し合うことが仕事だろう?』
そう飛鳥が問いかけるのに。
「いや……違うね。手前の目には、今、何が映っているのかは分からねぇ。だが、この公園で俺達が護っている奴等は皆、武器を持たない無抵抗な人間だ。要するに、コイツらは兵士じゃねぇ。手前等が護ろうとした動機……詰まるところ『御国』の民、なんだよ。だから、コイツらをゲームの参加者と見做すのはお門違いって訳だ」
「それとも飛鳥さん。あなたは、武器を持っている私達はともかく。交戦の意思のない民衆を攻撃するつもりなのですか?」
ミハイルの問いかけに相槌を打ちながら義透がその言葉を飛鳥にぶつけると。
『……此処は戦場だ。そもそもあの大戦は、どこもかしこも一杯一杯だった。戦場に居るって事は、銃を持ち、戦えると言う事になるぜ?』
飛鳥が微かに口の端に苦笑を貼り付けてそう応えるのに。
「……もう、此処は、貴方様、が、戦う、血濡れの、戦場、では、ありません」
蒼が、その手の氷水晶で作り上げられた槍を突き出し、氷晶花を咲き乱れさせる。
『……その台詞、何度も聞かされているな。此処はもう、戦場じゃねぇって。じゃあ、此処は何処だってんだ? 此処が、オレ達が護った未来だという保証は……』
――何処に、と言いかけた、その瞬間。
ハッ、と何かに気がついたかの様に目を大きく見開く飛鳥。
――いや、違う。
本当は、気が付きたくない?
そんな思考が飛鳥の脳裏を掠めていくが……。
(「それでも、その証拠となるものは……無いわけではない、か」)
「そうですね。この公園には、あなたを……あなた達を忘れないための石碑があるのですよー。それは嘗てあなたが戦った時、この戦場にあったものなのでしょうかー?」
そう畳みかける様に告げる義透の其れに、飛鳥の胸の中で何かが激しくざわめきだす。
統哉や蒼、義透の言う、幻朧桜の群に隠れて見えない『石碑』
自分の子孫だというカスミが、統哉に預けた……自分が別れ際に家族に遺した豆本。
更には、ウィリアムが示した一度既に戦った事があるのでは無いかという記憶と、美雪が示したカレンダーの年月日。
――そうやって、積み立てられていった無数の証拠。
ぐにゃりと、一瞬視界が眩んだ。
(「……ならばオレは?」)
今、此処に居るオレは、|オレ達《 ・・・ 》は何なのか。
英霊達と共にそう自らに自らの在り方を問いかける飛鳥の其れに、応える様に。
無数の生み出した氷塊で英霊達の進軍を防御しながら、ウィリアムが言い放った。
「閣下。今のあなたは、黄泉還った影朧です。最後の大戦から700年あまり。皆様のおかげで世界は、帝都の帝の名により統一され、天下泰平を揺蕩っている、あなたにとっての遙かなる『次代』。その世界に黄泉還った『過去』の存在。それが、あなたなんです」
そのウィリアムの呼びかけのタイミングを、まるで見計らっていたかの様に。
――不意に町中から、数百人の想いを乗せた声が、中央公園に響き渡った。
●
――時は、少し遡る。
「……壺中天は宝貝であって設置型ではないのですよ。とは言え、収容者を無秩序に放出しては大事故になりますし、時間を掛けては戦場に間に合わないのも確かですか」
千尋達と分かれた冬季は、自らの無数の式神、及び自らの宝貝、壺中天の事について呟きながら、軽く頭を横に振っていた。
(「先程、御園さんが説明してくれましたが……其れを実行するためには、必要な事がありますね」)
――例え、一粒、一粒の砂を動かすのは難しくとも。
「箱に詰めた砂を動かすのは簡単です。……ですので、今、出来る事を、あなたにして頂きたいのです」
そう冬季が綴った通信用の式神が、東屋風無限倉庫の中に収納していた町長と町役場員に伝えられていた。
その式神に書かれた内容を読み、そこに冬季がいるかの様に町長が嘆息し、言葉を紡ぐ。
「……私達に出来ること。……炊き出しの準備が、果たして役に立つのでしょうか?」
炊き出しをする事。その事自体を町長は決して問題にしているわけでは無い。
だが……それが如何、影朧達との戦いに影響を及ぼすのかが読み取りきれない。
――けれども、そんなことは冬季の想定の範疇内。
「ええ、勿論役に立ちます。敵の攻撃は全て中央公園に向き、更に烏丸さんと言う戦力が参戦した以上、住民の安全度は一段階跳ね上がったと考えて良いでしょう。ですが、それでも尚、外で戦う者の安全が保証されたとは言い切れない。そして、仮に戦いが無事に終わったとしても……」
その戦いの中で失われた物資や建物が直ぐに元通り、とは行かない。
何よりも、想定よりも長時間に亘っている戦いは、それだけで人々の心身を蝕み、その精神を不安定なものにさせてしまう。
――その先に待っているのは、嘗て関東大震災であった様な、集団ヒステリーと流言の浸透による、人々の暴走とパニック。
それが起きてしまえば、例え影朧を倒せたとしても、この町は阿鼻叫喚の地獄絵図になってしまうだろう。
「人心はそう言った時、先ずは自らの安心、安全を求めます。そう、衣食住の安全の確保を。となると、貴方達は中央公園に避難し、共に戦っている者達の心を暖め、人々を迎え入れる手段として、炊き出しをしておく必要があるのです。そして其れが出来るのは、今、私の壺中天に避難している貴方達しかおりません」
その冬季の式神に書き込まれた説明を読み。
町長は束の間考える様な表情をしていたが、程なくしてそうですね、と首肯した。
「……中央公園の者達を避難させる余裕も、時間も無い。ですが此処の町民達であれば、多くの者が、|彼等《 かれら 》が遺してくれたモノの大切さと偉大さをよく知っている。ならば其れを護る為に、戦う……戦いを見届ける事をしない筈もありません」
――何よりも、もし、自分がその場にいたらそう行動していたであろうから。
愛する自らの町の町長として、今、自分に出来る事が無い事に忸怩たるものを覚えないこともない。
――だから。
「それでは、交渉成立ですね。戦闘終結の為に、あなた達に出来るお手伝いの指揮は、全面的にお任せしますよ」
式神に書き込まれた町長の承認に首肯して。
「私達と共に、この町の過去を護った英霊達の影朧と、中央公園で今も尚、戦っている町民達に敬意を払う皆さんへ。どうか此から私がばらまく式神の中で町長の指示に従い、彼等がしようとしていることの手伝いをして下さい」
そう冬季が呟くと同時に。
町役場に無数の式神がばらまかれ、冬季と町長の意志に従う彼等を東風無限倉庫へと導いていく。
――戦後のパニックを抑え、これ以上の悲劇が起きさせぬ行動に協力させるその為に。
●
――一方、その頃。
「今、此の地に来ている影朧は、大戦時に此の地を平定するために戦い、全滅した部隊の方々です」
葵桜達と別れた桜花は、小学校で避難誘導手伝い用拡声器で人々にそう呼びかけた。
学校に避難していた校長と、避難民達が、その桜花の呼びかけに、
「えっ……?」
と、思わずと言った様に声を漏らしたのを耳にする桜花。
(「私の話に耳を傾けてくれましたか。これならば、上手く行くかも知れませんね」)
そう胸中で呟きながら、桜花は呼びかけを続けている。
幻朧桜の桜吹雪が、そんな自分の声を届けてくれるかの様な錯覚を覚えながら。
「彼等は未だ、自分達が大戦の最中に居て、自分達が守らねば、家族が、恋人が、子供達が全員殺されてしまうと思っています。そして、そんな事をさせないと、奮戦し続けています」
その桜花の呼びかけに。
「そっ……そんな、馬鹿な……」
小学校の校長が愕然とした表情になり、呆然と言葉を紡ぐが、けれども同時に奇妙な納得が校長の中に育まれた。
(「私が狙われ、あの娘が私を護ってくれたのは、それが理由だったのか……」)
自らを護る為に、その命を削ってまで神霊体と化し、戦い続けていた葵桜の事を思い出す校長の胸中を脇に置いて。
桜花の放送は続いている。
「無論、貴方達が一息ついて落ちついてからで構いません。此の地で皆を想って戦った彼等に、貴方達の御陰で戦争は終わったと、感謝し、愛していると祈って下さい。中央公園ではなく、此処に居る貴方達にしか其れは出来ません。その願いが届けば、彼等も又、貴方達の家族として転生できます。必要なのは――貴方達の想い、なのです」
その頭部から桜の花が生えた『桜の精』である桜花の言葉を、疑う者はいないだろう。
――桜の精以上に、転生に関する知識を蓄えている者は、少ないのだから。
故に、桜花の言葉を聞いた人々は、桜花の言葉に感応して無防備な状態で、祈る。
――その祈りを行う小学校の人々を冬季の式神が、壺中天の中へと導き。
(「後は……町役場の方の方々にも呼びかけないと行けませんね」)
そう内心で呟いて。
桜花が収納されていた冬季の壺中天の中の町役場の者達に同様の呼びかけを行った時。
――両避難所に避難していた、合計400人程の人々の祈りが――。
●
自分と、姫桜と、黄巾力士の背に庇われる様にしているカスミ。
そのカスミが不意に何かを感じ取ったか様に祈りを始めたのは、正にその時、だった。
そんなカスミの想いに、祈りを呼応する様に。
(「……っ! この『宵』の輝きは……」)
統哉の漆黒の大鎌『宵』の刃先が七色の眩い光を放ち始めている。
まるで虹の様にも、或いは全てを浄化させる光の様にも見える『宵』の其れは、漆黒の闇を切り裂く一条の光。
『……何をするつもりだ、手前等……!』
そう飛鳥が呻く様に呟いて。
無数の英霊達と共に一斉射撃で、統哉を撃ち倒さんとした、刹那。
「……此処は切り時か。本当は一般人を護る為に使うつもりだったけれど……」
――でも、もし。
カスミの祈りで統哉の『宵』の集まる光が、人々の『祈り』と『願い』であれば……。
(「いや……其れは考えすぎ、か……?」)
そう敬輔が内心で呟いた時。
「いや……案外ビンゴかも知れないぜ、館野?」
無数の鳥威を展開して、カスミを、避難民達を護り。
まるで誰かの願いを聞いたかの様に祈り始めた中央公園の避難民達をちらりと見て、千尋が告げる。
「少なくとも、俺と榎木は、鳴上と御園が何を目的として彼方に残ったのか……その理由を聞いている」
その千尋の呟きに。
「そうですね、千尋さん」
神霊体になり、代償として自らの体から寿命と共に血を滴らせながら葵桜が首肯した。
「敬輔くん。私も其の時、桜花さん達の話は聞いていたんだ。桜花さん達は、この町の人々の想いそのものを集めて、禍根を残さない様にしたかったんだって。昔、大きな災厄があって、その災厄を受けた人々が起こしてしまった悲劇を繰り返したくないからって」
「……そうなんだな。だったら此も、飛鳥さん達の次代の人々の想いを繋げるのに……必要な『行為』か」
そう敬輔が呟くと同時に。
その耳に飾られていた蒼穹のグリモア……グリモア・スクトゥムにその手で触れた時。
――自らの『黒剣』に宿る『彼女』達の魂魄が蒼穹の防衛結界となり、託されようとしている想いを力に変えようとする統哉を護る。
その蒼穹の防衛結界が、英霊達の一斉射撃から、統哉とカスミを護るその間に、黄巾力士が空からソニックウエーブを叩き付け。
――更に。
「もう、気がついているんでしょ!? だったら、素直に現実を受け止めなさいよ! 何時迄も誤った道を歩き続けて、落とし前をつけようなんて考えているんじゃ無いわよ!」
自らの呼び出した数多の白燐蟲の閃光で、その場を飛び出すように駆け抜けた姫桜が、全力で二槍を突き出し、飛鳥の英霊達を貫き。
「……英霊達よ。貴方方がした事は、想いは、其の願いは今も尚、人々の中に根付いている。だからその想いを受け止め、世界の正しき輪廻へと還って欲しい」
その呟きと、共に。
鈍色の稲妻を解放しながら援護を続けていたネコ吉が自らの放った優しい雨に打たれ、その力を増した叢時雨を振るう。
振るわれた浄化の魔力の籠められた斬撃が、もう幾度目になるのか分からない『死』を飛鳥に齎し、再び其の体を蘇生させるが。
「……御託はこの辺で良いだろう。天国か地獄か知らねぇが、手前を部下の元に送ってやる」
その蘇生の瞬間を狙って、ミハイルがUKM-2000Pの引金を引いた。
無数の薬莢をばらまきながら吐き出された銃弾の群が飛鳥を守る英霊達をズタズタに切り裂き、飛鳥が防戦するその間に。
「あなたが、もう戦う理由は無いでしょう。それとも、それすらも分からなくなる程の狂気に、尚、貴方は未だ蝕まれているのでしょうか?」
その呟きと、共に。
ネリッサが122体の炎の精達を解き放ち、飛鳥と英霊達の体を焼き払い。
「……人々の想いと、願いか。私に出来るのは、その想いを伝えやすくできる様に協力する事かしらね」
その呟きと、共に。
都留が対神霊/UDC対応ステルス型アンチ・アストラルマインを起動した。
それは人々の思念や想いを追尾し、連携し、コネクトさせる機能を持つ機雷型兵器。
それが、統哉の元へと集まりつつある人々の点と点であった想いの其々を線で繋いでいき更にその想いを増幅させる。
都留が増幅したその想い達を蒼が水晶蝶達の結界で受けてその中に眠るヒトの『心』と言う名の『灯』に思いを馳せながら。
「……この、ヒトの、想い、が、貴方様達、が、護り、抜いた、モノ、です。その先に、在るのは、幸福溢るる、未来、です」
――だから。
「……もう、貴方様達、は、戦わず、とも、良い、の、です。皆様、の、未来、を、護る、のは、1人の、『モノ』、であり、今を、共に、生きる、モノ達、の、果たすべき、責務、なの、ですから」
――ヒラリ、ヒラリ。
蒼の高貴なる誓いに答える様に水晶蝶と、氷晶花の破片が、飛鳥達に降り注ぐ。
雨の様に降り注ぐ、その、己が凍った心を砕いた欠片は、蝶として舞い、花として咲き、飛鳥達の動きを束縛し。
――其処に……。
「この貴方が部下と共に勝ち取った未来を、平和を私達は貴方に汚させるわけにはいきません。どうか、安らかにお休み下さい」
すかさず灯璃がそう呟いてパチン、と指を鳴らしていた。
鳴り響いた音に応じる様に飛鳥と英霊達の四方八方から現れた漆黒の狼の群達が、彼等に食らい付き。
其の時には、美雪の七色のオーロラ風に身を委ねた灯璃が、Hk477K-SOPMOD3"Schutzhund"の引金を引いている。
ミハイルの剛の如き、UKM-2000Pによる連射と対照的な『静』なる弾丸が、飛鳥の足と腕を射貫き、その動きを止めさせて。
――其処に。
「貴方を……貴方達を忘れないための石碑も、そして、その想い出の品も今の世界に確かに引き継がれているのですよー? そして、その石碑は――此処に、あります。戦いを望まず、あなた方の為に祈りを捧げる民衆を、今の貴方には攻撃することなど出来ないですよねー?」
そう義透が問いかけると同時に。
漆黒風を投擲し、飛鳥の周囲に居る英霊達を貫き。
「……やれやれ。此が『ヒト』の想いってヤツなのか? 俺には良く分からないが……まあ、お前を放っておくわけには行かないよな」
そう告げた千尋が幾度目かの青い光弾を解き放ち、飛鳥を撃ち抜く。
撃ち抜かれ、再生していく飛鳥の姿のあまりの痛ましさに、美雪が歌を歌いながら見るに堪えぬと言った様子で言葉を紡いだ。
「……飛鳥さん。もう、あれから何百年も経ち、貴方が望んだ未来は、貴方の手で護られている。そんな貴方がこれ以上……無理に戦い続ける必要は無いんだ。貴方達が安らかに眠る事……それを、この町の人々も望んでいる。その想いは、貴方も感じている筈だ」
――その美雪の言葉に同意する様に。
統哉の『宵』の刃先に集中していた『それ』が一際輝きを強め、戦場全体を眩く照らし出す太陽の如き輝きを、戦場に齎した時。
『……これは……!』
あまりの輝きの眩しさに飛鳥が手で自らの目を覆う様にしたのを見て、統哉が飛鳥さん、とカスミから預かった豆本を撫でながら呟いた。
「……カスミ達が、今も、此の地に生きている事。そして、俺がカスミから預かった此の豆本が今も尚、此処にあるのは……全部、貴方達が護り通したものだ」
――だから。
「これまでも、これからも……影朧として、ではなく只の『英霊』として……或いは、転生して、皆を護っていってくれ」
そう願いと祈りを籠めて。
敬輔の蒼穹の防御結界に護られていた統哉が、漆黒の大鎌『宵』を一閃する。
――全てを呑み込む太陽の如き眩く尊い人々の『想い』を闇を切り裂く一条の光を放つ
刃に籠めて。
その統哉の一閃が、飛鳥の邪心を――。
――その心を蝕み続けてきた哀しき願いを、想いを……心残りだけを斬り裂いた。
●
――そこは無限の光。
そうとしか形容出来ない場所に吹き飛ばされたかの様に、飛鳥の意識はその空間を揺蕩っていた。
(「此処は……?」)
その飛鳥の思念の様な微かな疑問に応える様に。
(「……閣下」)
誰かの声が、聞こえた。
いや……それは。
(「そうか……手前等、か……」)
あの時、オレはアイツらを生かして帰してやることが出来なかった。
アイツらが本当に望んでいた幸福を与えることも出来ず……。
只、その命を自らと共に散らして、御国と家族を護ることに、なってしまった。
(「なあ……手前等。手前等は、本当に、それで……」)
――幸せ、だったのか?
そう自嘲じみた思考と共に、光に問いかける飛鳥に向けて。
(「……閣下」)
まるで視界が開けていくかの如く……嘗て、『最期』の戦いを共にした、部下達が微笑み、その手をそっと飛鳥に差し出した。
(「……そうか。手前等は、今は……」)
(「我々は、満足しているのです」)
大戦の時代に、自らの命を賭して戦いに挑み。
相討ちになりながらも勝利して、後の世代の者達の為に平和を勝ち取れたその事実に。
そして……それは。
――我々にとっては『幸福』なのです、閣下。
その思念達の呼びかけに。
飛鳥がヤレヤレ、と言う様に苦笑を綻ばせながら。
……己と共に、『影朧』と化しながらも、人々の想いを受け入れて浄化され、転生されようとしている魂達が差し出した手を握りしめ。
――仕方ねぇな。……それじゃあ、還るか。
そう、呟いた。
それは……|今《 ・ 》の自分達が、還る事の出来る場所。
……即ち。
世界に再び転生することの出来る、正しき輪廻の輪の中へ……。
――かくて、都市での攻防戦は終わりを告げた。
――何の禍根も残す事無く、復興の為の希望と……嘗ての英霊達への想いと共に。
大成功
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