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悪夢の抱影、尽きることなく

#ダークセイヴァー #ダークセイヴァー上層 #第三層 #禁獣領域 #禁獣『歓喜のデスギガス』

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#禁獣『歓喜のデスギガス』


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●ダークセイヴァー上層部『禁獣禁域』


 頭上から降り注ぐ声に、恐怖の絶望の何たるかを知った。

「こんばんは!!」

 魂人として転生した瞬間に、少女の希望は潰えていたのだ。
 少なくとも、この声の主の目に留まるという最悪の不運によって。
 禁獣の領たるダークセイヴァー上層部。
 そこで無邪気な悪夢たる禁獣が、一切の邪気と悪意なしで遊んでいる。
 巨大な要塞ほどの巨躯。異形めいた身体の作りは、それこそ悪夢の集合体だ。
 見るものに不安を与えるばかりの禁獣の感情と情緒は未成熟。感性なんて童に等しい。
 けれど力に比した知識はさながら惨劇ばかりを集めた書架めいていて、相手の思念を読み取って彼なりの善意を為す。
 ああ、つまりこうすれば願いは叶うのだと、幸せを知らない悪夢の裡からごぼりと大泡を吐くのだ。
 それこそが魂人の少女の前に立つ禁獣デスギガス――巨大な災禍に幼き心を乗せた異形。


「ぼく、デスギガスっていうんだ! キミの名前は?」



 何処までも純粋な善意をもって、悪夢の底で身体を揺らしている。 
 ぎょろりと動く巨大な瞳は何もかも見透かしていて――。

「あ、答えられなくても大丈夫。ぼくは心が読めるから、答えなくても判るよ」

 そういって笑うデスギガスの姿と声は何処までも童のそれだ。
 ここまで無邪気で純粋なものが、悪意ばかりのダークセイヴァーに存在できるというのだろうか。
 出来るとするのならば、それは恐ろしいほどの力を持って生まれたということになる。
 他者からの影響を一切受けないほどの尽きせぬ力。
 侵略や恐怖を感じることもないから、成長も変化もしはしない。
 いいや、かすり傷のような痛みすら真っ当に受けたことはないのだろう。
 だからこそ、子供のように拗くれた善意で語りかける。
 
「恐怖で口が上手く動かないんだねっ。なら、後でそれを何時でもお喋りできるようにしてあげるよ。水の中でも、酸素のない場所でも喋られる口って大事だね!」

 純粋な善意で動く、悪夢の虚像。
 決してヒトが越えられない異形の禁獣が、ぼくって凄いね、と続けていく。

「死んでも喋り続けるようにして、痛いって叫べられるようにしてあげるね」

 デスギガスに悪意など一切ない。
  何処までも善意で惨劇と悲劇を作り広げていく禁獣。
 誰も傷付けられない、異なる神の如き存在に少女は目眩を覚えた。
 私は必死で生きていた。
 全てを叶えることはできないし、大きなことなんて何もできなかっただろう。
 それでも懸命に自分の人生を歩み続けたというのに。
 最後はこんなものに繋がり、転がり落ちるだなんて。
 あんまりだ。もっと他にはないのだろうか。
 救いは。優しさは。ああ、希望なんて欠片も信じられず、涙が知らず溢れてきて。


「消えてしまいたいなんてだめだよ? 大切なたったひとつの命なんだから」


 そう心配そうに魂人の少女の心を覗き込むデスギガスが、ぎょろりと瞳を動かす。 
 そうだ。いいことを考えた。やっぱり僕って頭がいい。
 そんな自画自賛のもと、呪われた祝福を紡ぎ始める。

「キミが死なないように、救いと優しさがいずれ訪れるように――キミをこの大地と一体化させるね? これで、キミは消えたりしないよ!」

 生きているとは言えないけれど。
 生きていたいとキミは思っていないもんね。
 心を読む悪夢が、素晴らしいことを思いついた子供のようにはしゃぐ。
 ああ。
 この|悪夢の化け物《デスギガス》に共感など求めてはいけない。
 何処までも純粋な善意のまま、悪夢の解釈でねじ曲げて叶えてしまう、悪魔なのだから。



●グリモアベース
 


「死してもなお、救いではない」
 それはどういうことでしょうね。
 予知した未来の悲劇を反芻し、赤い少女は唇より言葉を紡ぐ。
「それはとても酷いことだと思うわ」
 そう静かに語るのはリゼ・フランメ(断罪の焔蝶・f27058)。
「ひとは産まれながらに罪を背負うというけれど――それは必ず、天国へと至る道を用意されたということのはず」
 生きる裡にて罪を贖へばこそ、天国への階段はみつかるのだ。 
 だから必死に生きよう。毎日の、ちいさなことさえ。
 そうやって生きる事を尊ぶ。
 いずれ来る死を絶望にしない為にという想い。
「抱くことさえ許されないのがダークセイヴァー」
 下層で死んだものは魂人として上層部で蘇り、 そこでオブリビオンたちの玩具となる。
 懸命に生きたあとさえも、玩び続けられるのだ。
「そうして、そんな中でも巨大な悪夢の泡がひとつ――禁獣デスギガス」
 ソレに転生した直後の魂人の少女が見つけられ、彼なりの『純粋な善意』から異形の存在へと作り変えられようとしている。
 曰く、大地と一体化すれば消滅することはなくなるから。
 希望が、助けが来るまで待ち続けることができるのだと。
 それこそが、『闇の種族』がひとを玩ぶということだというのに。
「必死で辛い世界を生きた筈の彼女を……助けたいと思わない?」
 それはとても難しいこと。
 何しろデスギガスは現状倒すどころか、傷付けることさえ不可能だという。
 それでも、今から向かえばデスギガスが魂人の少女へと手を出す前に到達できるだろう。
 だが、斃せないどころか傷さえつけられないのならば、魂人を救い出してそのまま離脱するしかない。
 交互に殿を交代し、引きつけて、デスギガスの領域の外に離脱する。
 幸いなことにデスギガスは頭がよくない。というより、人の心を読む能力がある変わり、強い思いに引き寄せられてしまうのだ。
「問題なのはそれを、何処までも悪夢じみた歪みを以て叶えてくることだけれど……」
 救いたい、助けたいというのならば、驚異が増えたり助ける為の試練を用意するだろう。
 救いたいのは英雄になりたいからだよねと勝手に解釈して、全ての負傷をひとりに背負わせるかもしれない。
――傷だらけだから英雄なんだと。
 戦いたいというから、対峙した相手を脚を大地と結びつける。
――逃げたいからこそ、戦士なんだと。
 デスギガスを傷付けたい。
――だったら、この力で闇たるモノに変貌しないといけないね?
 では誇りを、矜持を、或いは理想や希望、友情を以て相対すれば、どれほどに歪ませてくるのか。
 何事も思い、願ったものを歪んだ形で叶える悪魔。想像がつかないからの|悪夢《デスギガス》。
 もっとも――何もない無心でいれば、ただ純然たる暴力で蹂躙されるだけ。それよりは願い事を叶えようとデスギガスが善意で動いている間のほうがマシ。
 加えて心や感情に反応する為、自分に思いが向けられれば反応せざるをえない。魂人の少女を捨ておいても。
 結果として自分の領域から逃げさせることになっても、デスギガスにとってはそれが大事なのだ。
「そして、そのデスギガスに辿り着くまでも大変」
 まずは禁獣領域の入り口には、強力な守護者として闇の種族が控えている。
 それを倒しても領域内部をうろつくオブリビオンの群れを切り拓かないといけないが、彼等は何かしらの紋章を持っているのだ。
 どれも一筋縄ではいかない相手。
「それでもこの世界で希望はあるのだと、魂人となった少女に示す為にも」
 終わりは終わりでも。
 懸命に生きた心は、まだ脈打っている。
 この世界で抗うことはできるのだと、姿で示して欲しいのだと。
 ひとの心にこそ願い、祈るようにリゼは静かに瞼を閉じた。


遙月
 マスターの遙月です。
 この度はダークセイヴァー上層、それも禁獣デスギガスのシナリオを出させて頂きます。
 まず最初にデスギガスは現段階では倒すことが不可能な敵。
 どのような攻撃も悪夢のような現象、全てを跳ね返らせてきます。
 その上で驚異的な力と、心を読んで歪んだ願いを叶えてくる。
 そんな絶望的な敵と状況に抗うシナリオとなっています。
 デスギガス相手の三章では厳しめの判定となりますこと、どうぞご了承くださいませ。
(ただ、デスギガスはキャラクター様の身体を変貌させたりはしません)
割りと私の趣味が出るシナリオかもしれません……。


 また、シナリオは一章、二章は少数採用の上で自分のペースで運営させて頂きます。
 負担やスケジュールと相談での運営です。
 再送などとなりましたら申し訳御座いませんが、どうぞご了承くださいませ。
 三章では出来るだけ採用したいと思いますので、三章だけの方や、一章、二章で不採用だった方でも来て頂けると幸いです。



 章編成は


『一章』
 ボス戦。
 禁領の門番であり守護者との戦い。
 常闇を用い、暗がりの中で戦う闇の種族が相手です。
完全な暗視の能力を持っており、自分の有利な常闇の中で戦おうとします。


『二章』
集団戦。
 多数の紋章持ちのオブリビオンを相手に戦って頂きます。


『三章』
 禁獣であるデスギガスとの戦闘。
 あらかじめ断章で補足をしますが、キャラクター様の心情に対して、何かしらの歪んだ形で現象を引き起こします。
 何が起きるかは指定できず、プレイングで指定されてもそれが本当に起きるかは確約できません。
 デスギガスは『純粋な善意の閃き』だけで、『悪夢みたいなこと』を引き起こす……とだけは。
 絶望との戦い、という形になるとだけは明記させて頂きます。

 殿で攻撃を引き受けるのを交互に交代しつつ、撤退するのが目的。
 また、心情や想いが足りない場合などはキャラクター様ではなく、魂人の少女や撤退阻止にデスギガスが動くので注意が必要。
 デスギガスが叶えてあげたい、と思うほどに強い思いが大事となります。
(再度いいますが、何が起きるか判りませんが肉体変異や欠損などは起きませんのでそこだけはご安心を)


それでは、だいぶ我が儘なシナリオとなりますが、どうぞ宜しくお願い致します。
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第1章 ボス戦 『常闇の女王『イザナミ』』

POW   :    常闇の檻
【奈落之矛】より【迷宮化を齎す暗黒の帳】を降らせる事で、戦場全体が【一切の光が消え失せる常闇】と同じ環境に変化する。[一切の光が消え失せる常闇]に適応した者の行動成功率が上昇する。
SPD   :    黄泉送り
【強烈な死のイメージを与える力】を籠めた【奈落之矛】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【魂】のみを攻撃する。
WIZ   :    魂喰の死魚
召喚したレベル×1体の【黄泉魚】に【生者の魂を感知して、それを喰らう能力】を生やす事で、あらゆる環境での飛翔能力と戦闘能力を与える。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠天御鏡・百々です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


断章 ~~常闇は私のものだから~~



 闇が満ち溢れて、光を塗り潰す。
 これが私の世界、私達の庭なのだと示すように。
 禁獣領域の入り口はただ黒々とした闇が湛えられ、その先を見渡すことは出来はしない。
 或いは、禁獣がこの領域を越えて出ないようにとしているのかもしれないが……真実はやはり、闇の中。
「あら」
 ただ、暗闇を伴って女がひたりと歩み出る。
 濡れたように艶やかな黒。
 深く、深い夜空のような黒。
 眸はどれほど覗き込んでも、何もみせない黒一色。
「ここは通行止めよ。ええ、誰も進んではいけないし、戻ることだめ」
 人生の、運命の歩みの止まる場所だと。
 物静かなながら深い情念が滲む声を響かせて、しゃらりと矛を向ける女。
「そう、闇の中に沈みましょう。私の暗がりの中で溺れてしまって?」
 告げるや否や、闇が周囲を覆う。
 覆い尽くし、取り囲み、何も見えなくなっていく景色の中で。
「もう、戻ることも、進むこともなく。時さえ止まった闇のなかで……私の傍にいてね」
 魂のぬくもりをちょうだいと。
 闇と死を司る女の、冷たい聲が揺れた。
 直後、振るわれるのは奈落の如き黒き矛の刃。
 命を狩り取る死神の指先のように、静謐なままにあなたの命へと迫る。
クロム・エルフェルト
救いを乞われたならば行かねばならぬ
阻む者在らば斬らねばならぬ
其の為の活人剣
今揮わずして何時揮う

無明の闇、冷たき暗黒
是は死に通ずる領域か
狐耳聳て▲聞き耳、風斬り音を頼りに回避
若しくは闇の中からの▲殺気を探り▲咄嗟の一撃で弾きたい

此の闇には覚えがある
嘗て半ばまで黄泉平坂下った身
私を捕える死の腕を悉く焼き尽くし
此岸の地に舞い戻らせた、猛き焔を思い出す

嗚呼、幽か笑んでしまうのも無理からぬ事
冷たき黄泉の暗中にて尚も熾る天下布武の篝火は
今も我が手に在るのだから

憑紅摸に劫火纏わせ
闇を祓い▲環境耐性を得たい
繰り出される奈落之矛は憑紅摸で迎え撃とう
▲武器受けで抑え込み
矛に籠められた「死のイメージ」をも▲焼却
【黄泉送り】を潰した上で矛を払落し(▲武器落し)
【指定UC】で火災旋風を▲カウンターとして放とう

千引の岩など生温い
喩え黄泉の国の
邪魔立てするならば劫火に灼かれて灰と散れ
私は此の先に用がある……!



 全てが暗闇へと沈む中。
 それでもと、剣を携え進む少女がひとり。
 持ちうる心を刃に宿して、道を斬り拓かんが為に。
 志をもって希望と成そう。
 救いをもって差し出された手を握ろう。
 もはや何もその藍色の双眸には映らずとも、辿り着くべき場所は判るからこそ、その静かな歩みは止まらない。
「救いを乞われたならば行かねばならぬ」
 穏やかに、されど揺れることなく呟くはクロム・エルフェルト(縮地灼閃の剣狐・f09031)。
 さらりと鞘より滑り出させた刻祇刀・憑紅摸の刀身のように、鋭くも真っ直ぐにと向けられるクロムの思い。
 この闇を生み出し光を閉ざすオブリビオンに対して、声を向けた。
「阻む者在らば斬らねばならぬ」
 他を蝕み、玩ぶ邪悪ならばなおのこと。
 逃しはしない。阻ませはしない。
 救うというクロムの一念を受けて、憑紅摸はゆらりと紅の焔を纏っていく。
「其の為の活人剣。……今揮わずして何時揮う」
 そのまま切っ先をあげ、迎え撃つクロムの姿は柳の構え。
 何も見えない闇に対しては自ら動く必要はない。
 剣技に絶対の自負があるからこそ、闇に乗じての不意打ちとて必ずや迎え撃つのだとクロムは唇より呼吸を漏らす。
 ああ、と。
 この無明の闇には覚えがある。
 いと冷たき黒さは魂さえも蝕むかのようであり。静謐さは命の脈動の欠片も感じられぬ。
 是は死に通じる領域。
「黄泉の闇、か」
 ぽつりと零したクロムの声に応じるのは、冷ややかな女の笑い声。
 何処か心の底に不安を抱かせ、ぞわりと背筋を震わせる美しさで流れる。
「そうよ」
 同時に放たれるは奈落之矛による斬撃。
 クロムは首を狙って放たれる刃を、風斬る音を頼りにと紙一重で避ける。
 ひやりとした刃の感触を肌で感じながら、止まることなくさらに身を翻す。
 立てた狐耳での聴覚で相手のいる方角は分かった。ならば十分と、身に突き刺さる殺気を探り当てる。
 必ずや相手を瞳で見る必要などないのだ。
 研ぎ澄ました心境を鏡となし、相手の殺意と剣気を反射するように放つは憑紅摸による斬撃。
 クロムの繰り出す白刃は確かに奈落之矛の切っ先を捉え、地面へと叩き落としていく。
 澄んだ刃金の音色響かせ、されど追撃へと移ることなくクロムは呟いた。
「問おう。……お前に名はあるか?」
 斬る相手ならば。
 どのような者であれ、その名を知る必要があろうと。
 人斬りは人斬り。命を殺めるならば、その咎は背負うべきもの。
 罪人であれ、邪悪なものであれそれは変わることなどあるまい。
 例え、此の闇に覚えがあったとしても。
 嘗て黄泉平坂を下った身として、クロムを捕らえようとした死の腕を思い出したとしても。
 それとこれはまた別の者。
 再度、あの時のように悉くを焼き尽くす猛き焔を巻きあげようとも。
 斬る相手の名を、魂を覚えようとする烈士たるクロムの志を以て対峙する。
「名乗るなら今。墓標さえも灰とならぬよう」
 だが、嗚呼、と。
 幽かにに微笑んでしまうのも詮無きこと。
 冷たき黄泉の暗中にても尚も熾る天下布武の篝火は、今もクロムの手にある。
 黄泉の闇と死を焼き払いて、前へ前へと、武を以て平穏を求む火はなお、尽きることなく燃え盛るのだ。
 志半ばで尽きようとも、その篝火を受け取り、別の誰かへと託して未来へと進むように。
「……イザナミよ。墓標なんて、いらないけれどね」
 薄ら笑う女に対し、クロムは憑紅摸に劫火纏い、闇を焔と紅光で祓う。
 故にクロムもついに双眸で捕らえるイザナミの姿。
 これより先はただ力を持って決するのみ。
 闇討ち、騙し討ちなどない真っ向勝負と、両者は等しく悟って構えなおす。
「ならばイザナミよ。この壬妖神剣狐、クロムが御相手致す。――そして、看取るひとりとなろう」
 憑紅摸に更なる焔を纏いて脇構えとなるクロム。
「あら、凄い自信ね。それなら、私は本当の闇に貴女を誘いましょう、クロム」
 瞬間、イザナミが構える奈落之矛より迸ったのは余りにも濃密な死の気配。
 生きる者ならば反射で目を逸らしてしまいそうになるほどの、避けて忌むべき何か。
 触れるべきではないものの気配を真っ正面から受け、されどもクロムの剣先は微かににも揺れず。
 疾走と共に放たれた奈落之矛を、火焔纏う憑紅摸にて迎え撃つ。
 受けるも避けるも危うい死の刺突一閃。それを逆さの紅い三日月を描くクロムの剣閃が弾き上げるた。
 されど、踏み込まれるより早く矛を翻し、頭上からの一刀と化してクロムへと強襲するイザナミ。読んでいたかのように流れる太刀捌きで、更に受け止めた上で刀身滑らせ間合いへと踏み込むクロム。
 音速を超えた刃同士がが噛み合い、高らかに鈴のような音色が響き渡る。 
 遅れて流れる剣風の凄まじさ。
 一瞬でも反応が遅れてれば、両者共にこの交差で死んでいただろう。
 続け、奈落之矛より流れ込む死の気配。黄泉へと送らんとする邪念が一筋、クロムの心身へと針のように突き立つ。
 けれど。
「千引の岩など生温い」
 だからどうしたと、憑紅摸より巻き上がる焔たち。
 自らを侵食しようとする死という穢れをも焼却しながらクロムを中心に渦巻いていく。
 さながら清めの炎嵐。
 死の力に触れたクロム自身の肌を、肉をと焼きながらも、新生するかのように炎と力が増していく。
 我はただ志と伴に罷り通るとクロムの剣気と共に吹き荒れる。
「お前が喩え黄泉の国の者であれ、その主であれ――臆す理由にも、退く理由にもなりはしない」
 故に斬る。
 進みてこの活人の剣、揮うべき場と時に揮うがため。
 死の気配に満ちた奈落之矛へと憑紅摸の剛柔合わせ持つ刀身を巻き重ねれば、イザナミの手より弾き落とす。
 のみならず、更に一歩と踏み込みながら、クロムの従える炎が脈打つ。
「邪魔立てするならば劫火に灼かれて灰と散れ」
 一瞬の隙。それを見出したクロムが剣閃を流れさせる。
 水面の如き静かな斬撃と共に放たれるは、苛烈なる火炎旋風。
 さながら空へと昇る龍の如く荒れ狂い、深々と斬り裂かれたイザナミの身体を焼き尽くしていく。
 さながらクロムが抱く流水の穏やかさと優しさのような剣筋と、抗いて進む激情の発露。
 どらちも違うことなく己、クロム自身。為すべき事、成そうと願う事の為にただ歩を進ませる。
「私は此の先に用がある……!」
 そのまま火炎旋風を刀身へと宿し、熾烈なる斬撃で闇を、イザナギをと斬り祓う。
 進む先に闇があるならば。
 そして、滅ぼすこと叶わぬ悪夢が待ち受けるならば。
 ただ自らの思いを以て挑むのみ。
 潰えることのない願いを以て、歩み続けるのみ。
 憑紅摸の刀身に、クロムの明鏡の如く澄んだ眼差しが映り込む。 


 闇と死などに。
 もはや恐れはしないよ。
 ああ、独りではないのだからと、憑紅摸を握る指先に優しい熱が宿った。
 救うべき者にもこの温もりを届けるべく、疾風と化したクロムが赤き刃を閃かせる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月白・雪音
…かの悪夢にとってはこの地の民も我ら猟兵も今は等しく無力な命。
故に我らにとっても、先に待つは死地となりましょう。
されど進まざればただこの地に振り撒かれる死が蔓延るのみ。

──なればこそ此処にて、貴女の常闇を討たせて頂きます。


UC発動、怪力、グラップル、残像を用いた高速格闘戦にて戦闘展開
暗視にて暗闇を見通し見切り、それが叶わなければ野生の勘にて攻撃を感知、回避及びカウンター
刃が掠め死を刻まれるとあらば落ち着き技能の限界突破、無想の至りを以て精神を極限まで鎮め、
凪の大海の境地にて死の想起を無の水面へ受け流す

その常闇が先への歩みを阻むものなれば相容れる道は無し。
…この身は、今と未来に生きるものなれば。



 闇に沈み往く最中、紅の眸が瞬いた。
 決意に覚悟。全てを抱えて、それでも静かに。
 滾る戦意は呼吸に潜み、何も見えぬ暗闇の中で構えを取る。
「……かの悪夢にとってはこの地の民も我ら猟兵も今は等しく無力な命」
 紛れもない事実であると、自らに戒めるように囁くのは月白・雪音(月輪氷華・f29413)。
 唇より零れるのは、越えるべき事実。
 決して現実より視線を逸らさぬ。
 抱きしめた思いを貫くのみと、赤い双眸が細められた。
「故に我らにとっても、先に待つは死地となりましょう」
 故に、絶望など覚えはしない。
 どれほどの理不尽が撒き散らされようとも、雪音にしか出来ない事があるのだ。
「されど進まざればただこの地に振り撒かれる死が蔓延るのみ」
 何もせず、座して待つという事などありえないのだ。
 この闇を生み出して潜む見えざるイザナミと視線は届けられずとも、言葉のみは確かに響かせる。

「──なればこそ此処にて、貴女の常闇を討たせて頂きます」

 呼吸と共に零れる気。
 雪が降り積もるような静かな旋律で、その身に募っていく戦意。
 闇の何処からかくすくすとイザナミが冷たく笑うが、それを意に介さず雪音は闇の中を疾走する。
 闇雲な動きなどではなく、己が戦闘領域を展開する為のもの。
「無明の闇を見通す瞳を持ったとししても……」
 しなやかな足がその裡にある怪力をもって地面を蹴れば、真白き獣となって疾走する雪音の姿。
 残像を伴い、高速で前後左右にと自由自在に動けば、もはやその動きを見切ることなどでぎず。
「……|拳武《ヒトナルイクサ》を宿す私の動きまでは、見通せるか否か」
 これより事実のみで判じようと、唇より紡ぐ雪音。
 虚実を交えた動きは俊敏。かつ、見切れずに動けば鋭い反撃の一撃が待っているだろう。
 視覚で捕らえていることと、武として捉えていることはまるで違うのだる
 まさに武の真髄の一つたる懸待表裏。敵の攻めを待つと同時に、相手への布石となる戦域の展開だ。
 真白が吹雪くようなその雪音の動きを前に、イザナミの微笑みが止まる。
 一瞬の静寂。
 凍り付いたような闇の奥底より。
 するりと、刃が泳ぐ音がした。
 先んじて雪音に襲い懸かるのは刃に篭められた強烈な死のイメージ。
 奈落之矛より迸る死の気配が、触れてもいないのに周囲の者を汚染していく。
 自らの心臓に切っ先が突き立ち、最後の鼓動と共に血が溢れていく――そんな幻覚を脳裏に焼き付かせる。
 痛みがあった。血の熱さが喉へと逆流する。鼓動の度に激痛と、血の臭いが込み上げる。――ああ、自分が終わらせた者達は、こんな感触を抱いて潰えたのかと、雪音の心に浮かび上がった。
 だが。
「例え、この身を討たれたとしても」
 叩き込まれた死のイメージは何処まで真実に近くとも、いいや、真実であっても雪音が止まることはない。
 真実、心臓を貫かれてもこの白き氷姿は最期の瞬間まで動き続ける。戦い続け、抗い続け、絶望を祓うのだ。
 死を目前にしても無想の至りを崩さぬ氷鏡の精神。
 積み上げた武にて鎮められた本能は、死中にあってもなお気高さを失わない。
「……この身は、今と未来に生きるものなれば」
 此処で死ぬ訳にはいかないのだと。
 心魂に刻まれた死の侵食を打ち払い、双眸に光を灯す。
 故に霞むことのない野生の勘が捕らえた微かなる風切り音を頼りに、身を転じる。
 直後、胸部を掠めていく冷たい刃の気配。
 掠めるだけとはいえ直接に触れた死は、更に深い死の感触を雪音に刻むが、もはやそれは通用しない。
「此処で止まる筈もなく、死してなおす進むが志なれば」
 そこにあるのは凪いだる大海。
 雪音は受けた死の想起を、武心が織り成した無の水面へと受け流す。
 さながら、春に溶ける雪のように。
 跡形もなく、音もなく、滲んで消え逝く。
「魂を以て、死の統べる領域をも越えましょう」
 奈落之矛を掴むイザナミの手首を掴む、雪音の繊手。
 そのまま引き寄せると同時に放つ前蹴り。イザナミをくの字に折るような蹴撃の威力をそのままに、更に掴んだ腕を引き寄せ、上へと蹴り上げる。
 闇が支配する状況。見えざるが為に、正確に急所は捕らえられぬ。
 だが、触れた、殴った、蹴ったというのならば、そこにイザナミの身体は確かにあるのだから。
 小柄にして繊細なる雪音の身体から繰り出されたとは思えぬ、強烈なる一撃を叩き込み続けるのみ。
「その常闇が先への歩みを阻むものなれば」
 上段の蹴りが頭部を撃ち据えたのならば、追撃に繰り出す正拳の一撃。どれもが骨を砕き、内臓を潰す威力。
 例え鎧で受けても、その鉄板ごと貫こう。
 闇では、研ぎ澄ました武とその心を沈めることなど出来ぬ。
 見えざる未来を自らの歩みで進もうとする、雪魄を縫い止めることなど出来はしない。
「――相容れる道は無し」
 そうして放つ雪音の拳武が、闇の裡でなお白く瞬いた。
 これより先はヒトなるものが生きて棲まい、進む場ではなくとも。
「それは過去のこと。今を進むが、ヒトとこの身なれば」
 星灯りにて輝く白銀の領のように。
 雪音のもたらす心と声は、届ける武は、蟠る絶望と闇を祓いて進む。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
死すら救いにならぬのであればこそ、此の脚を止める訳には行かん
護る為に振るわれる刃が在る事を途切れさせるものか

私が傍に在る事を許すのは唯1人、お前なぞに用は無い
早々に其処を退け……否、退かずとも構わん。斬り捨ててくれる

元より視界に難のある身だ、闇に覆われた処で然程変わらん
――刃雷風裂……研ぎ澄ませ
気配の揺らぎを基に、集中した第六感にて動きを読み
鳴る音の方向と風の流れから攻撃の方向と強さを見極め、見切り躱し
其れ等の流れを逆に辿る事で位置を捉えて距離を詰めるとしよう
長柄の攻撃範囲に付き合う心算は無い
其の矛を引く速さよりも此の刃が素っ首を捉える方が先と知るが良い

闇には独りで沈め、残滓には其れが似合いだ



 極楽浄土という概念。
 それは死した後に救いがあるという願いの集積体。
 懸命に生きたのだから。
 善きひととして、胸を張って生きたのだから。
 いいや、そうした私の後に、というものとは違う利他の祈りによってまた形作られる。
 人生の歩みの最中、不幸にも断崖の先へと転がり墜ちてしまったひと。
 不運であり、理不尽であり、そしてこれからにさいわいのあるひとにまだ救いを。
 そういったせめての幸せこそ、極楽浄土という願いなのだ。
 喪われてしまったひとが、今、幸せであって欲しいという思い。
 ああ。
 ただ幸せを願うしか出来ず、もはや触れられないのだけれど。
「死すら救いにならぬのであればこそ」
 この世界では、その先の幸福を祈ることさえ出来ないというのであれば。
 深淵の如き闇に身を浸しながら、なお歩を進むは鷲生・嵯泉(烈志・f05845)。
 石榴の如き赤き隻眼では何も見えず、何も捉えられず。
 それでもと手は腰に吊した愛刀たる秋水を抜き放ち、一閃を以て災禍を断ち切る刃で風を切る。
「此の脚を止める訳には行かん」
 この闇紡ぐ存在をも斬るのだと、深紅の眸が闇の奥底を鋭く睨み付ける。
 世界を変えるのがこの鋭刃ひとつで叶うとは言わない。
 だが、誰かが絶望へと真っ先に抗いて示すことで、続く者は顕れるのだから。
「護る為に振るわれる刃が在る事を途切れさせるものか」
 誰がか為の希望。
 誰かを護る為の刃。
 途切れずに在れば、千を越えた志の色をもって世を変えよう。
 今は絶望と悪夢ばかりが織り成す色彩を、いずれはひとの心の輝きで染め返せよう。
 ならばこそ、闇にて潜む女はぬくもりを感じて震えた。
 それはあまりに邪悪な想念でしかなかったが。
「ああ、素晴らしいぬくもり……闇の中で錆びて朽ちていく姿が、見たいわ」
 そう呟くイザナミに対して、笑うこともなく毅然として応える鷲生。
「私が傍に在る事を許すのは唯一人、お前なんぞに用はない」
「…………」
 闇と死の女主人に対して、真っ向から言葉で斬り捨てる鷲生。
 いいや、闇と死にばかり入り浸り、光を信じられぬ女なぞこんなものだと告げているのか。
 自分はもっと素晴らしい者達を知っている。
 それに比べれば、微かな笑みも浮かびはしない。
「早々に其処を退け……」
 いいや、まだ知らぬ素晴らしき者がいるのだろう、この常夜の世界にも。
 ならばこそ、まだ見ぬ彼らに光届けようと、無明の闇にて秋水の切っ先に思いを宿す。
「――否、退かずとも構わん。斬り捨ててくれる」
 イザナミの身から放たれる殺気を浴びながら、鷲生は怯むこともなく一歩と前へと踏み出る。
 周囲は墨汁を撒き散らしたような、一切の光のない闇。
 だが鷲生は元より視界に難のある身。闇に覆われた処で然程、変わりはしない。
 隻眼だからと半分の視界だからではない。
 瞳に映らぬものを捉えることに鷲生は敏感だから。
 今も尚、闇の奥から漏れるイザナミの呼吸、殺気、気配。立ち籠めるそれを捉えている。
「――刃雷風裂」
 鷲生が秋水を正眼にと構えれば満ち溢れる剣気。
 同時に、精神と五感をも携える刃の如く。
「……研ぎ澄ませ」
 言霊として浮かべて、更に深く、深く。
 周囲を包む闇よりなお深く。
 一切の光のない迷宮めいた闇であれ、それを紡ぐイザナミの元へと白刃閃かせるのだと。
 微かな気配の糸とて逃さぬと、鷲生の深紅の眸が瞼にて閉じられる。
 静寂と闇。夜とは思えぬほどの重圧。
 その裡で捉えたのは、地を蹴りて鳴る足音。
「――――」
 闇の中でも足音は消せぬ。
 鷲生が手繰り寄せるようにと意識を向ければ、更に近づく足音と風の流れ。そして、刃が風を斬る強い音。
 集中した感覚、戦場を駆け抜けて得た刃への第六感。
 それらを束ねて奈落之矛が迫る方向を見極めるや否や、足を狙った薙ぎ払いだと見切りて跳躍。後ろに飛び跳ねるようにして下がる。
「あら。あれだけ勇を言葉にしたというのに、長柄に臆したの?」
 くすりと笑うイザナミの気配。
 確かに刀を持つものにとって長柄は恐ろしい。
 その間合い、距離、攻撃方法。どれも刀の利点を潰すものだ。流派によっては、対刀用の術として編み出されたものとてある。
 だが、瞼を見開いた鷲生の深紅の眸はただ、ただ、研ぎ澄まされている。
「抜かせ。ただ、貴様のような残滓に付き合う心算は無いだけということ」
 遠方の足を薙ぎ払うが為に、多く振られ、そして引き戻すのが遅れている奈落之矛。
 見えずとも、風の流れで、気配のみで鷲生は必勝を知るのだ。
 着地と同時に流れた秋水の切っ先が、終幕を告げる。
「其の矛を引き抜いた時には既に」
 今だに流れて手元に戻らぬ奈落之矛。
 そこへと鋭く踏み込むや否や、迅雷の如く振るわれる秋水。
 鷲生の気にて紡がれる剣弧は、無明の闇の裡においても秋夜の名月の如く瞬いた。
「此の刃が素っ首を捉えていると知るが良い」
 剣気を宿した斬撃はさながら烈風の刃。断つは刀身のみにあらず。気が距離を不問とする無数の飛刃と化して、イザナミの首断つ斬刃へと至る。
 それは闇の裡にて見えざるモノなれど、確かに、未来拓くが為の一刀。
 烈志の揮う刃が、断てぬ闇の残滓などありはしないのだと、峻烈なる音を響かせた。
 直後、吹き上がる鮮血。
 呼吸に苦しむ悲鳴。
 どうしてと、孤独と寂しさと、それでも潰えぬ邪念が闇の中でのたうち回る。
 それらを肌で感じ、なお消えぬ闇の中で鷲生は再度、鋭刃を振るう。
「闇には独りで沈め、残滓には其れが似合いだ」
 死の後にさえ救いのない世界。
 だが、それは今はということ。
 ならば、この禁獣の領域を切り払えれば、桜の枝でも継ぎ木しよう。
 ひとつの残滓を斬れば、またひとつ桜をと。
 何時かこの世界でも、夜を愛しみ、酒の杯へと月と花を浮かべられるように。
 気付けば、桜の庭が出来るほどの数を重ねていこう。
 それは長き時が必要なことだとしても。
 誰がが。
 鷲生の知らぬ誰かが静かなる夜桜を、誰かと愛おしむ日が来るように。
 
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベリザリオ・ルナセルウス
【白と黒】
この世界で平穏を望むのはなんて難しいのだろう
それでも、私は未来を望む。織久が、あの優しい子が優しいままに生きられる未来が欲しい

私も戦うよ、織久。君は決して叶わないと思ってるだろうけど、私は諦めないからね
どんな暗闇も照らして見せる。私が守り受け入れるのは織久の闇だけだ
UCの一斉掃射で闇に包まれた場所を祝福して常闇を浄化の光で照らし出し、味方にも祝福を贈る
これだけ目立てば敵の注意も引き付けられるだろう
盾を中心にオーラ防御の結界を張って攻撃を防ぎ、織久に攻撃を集中させない
織久とタイミングを合わせ盾を掲げて結界ごとダッシュ、シールドバッシュで体勢を崩して織久が攻撃しやすいようにサポートしよう


西院鬼・織久
【白と黒】
上層はベリザリオには辛い。腑抜けるようなら置いていくつもりでしたが、変に立ち直りましたね
ならば俺がやるべき事は一つ

未だ届かぬ怨敵が有る
なればより多く、より強い怨敵の血肉を喰らい我等が牙を研がねばならぬ

【行動】POW
五感と野生の勘+第六感を働かせ敵味方の行動を捉え、戦闘知識+瞬間思考力で敵行動を予測する

先制攻撃+UCで敵を爆破、呪詛+焼却+生命吸収の継続ダメージを付与して蝕みつつ、周囲と敵を燃える怨念の炎で闇に紛れられないようにする
影の腕が繋がったら怪力で引き寄せると同時にダッシュ+串刺し、武器伝いにUCを流し込み傷口をえぐる



 常に闇に覆われた世界。
 上へ、上へと逃れても、そこは更なる深淵が魂さえも玩ぶ場所。
 笑うのは力あるものばかりで。
 異貌と暗闇が、ゆらゆらと手招きをしている。
 おいで、おいでと。
 誰も彼もが光を失う場所へと。
 そんな場所においても、やはり喪われぬ心はあった。
「この世界で平穏を望むのは」
 闇の中に響くのは苦渋を覚えながらも、聞く者の心を穏やかに梳かし流す声色。
 どんな時とて、優しさを忘れぬ青年の声だった。
「なんて難しいのだろう」
 ふるりと大きな四枚の翼を震わせて、紫水晶の花びらを零すはベリザリオ・ルナセルウス(この行いは贖罪のために・f11970)。
 中性的な美貌は、雌雄どちらの色も帯びないからみそ美しく艶めいていて、流れる金色の髪はさながら金糸のように柔らかく流れている。
 柔らかな表情もあいまっていっそう神秘的。浮世離れしている上に、この常闇の世界にはなんとも似合わない。
――或いは、この闇の中でも生きて、願い、祈り続けたが故にこのヒトが思う奇跡の如き美しさなのか。
 そんなベリザリオは首を左右に振りながらも、それでもと菫色の眸に浮かべた意思は僅かにも霞ませない。
 諦めなければなど、子供の夢物語だろうか。
 けれど、ベリザリオが諦めてしまえば全ては無為な気がしてしまう。
 生き残った事に。
 そうして、歩み続けた贖罪の道に。
 確かに、それは誰かの幸いへと続く祈りの道筋だったと、示したいのだ。
「それでも、私は未来を望む」
 あの優しい子が、織久が、優しいままに生きられる未来が欲しいのだ。
 ならばこの腕で抱き寄せなければいけないだろう。
 闇に、絶望にと屈する訳にはいかない。
 誠に尽きせぬは愛。
 終わらない絶望や悪夢はないのだと、穏やかな吐息に乗せる姿に。
「…………」
 戦場ならば常のように殺意と狂気を放っていた男、西院鬼・織久(西院鬼一門・f10350)もまた黙す。
 爛々と輝く赤い眸のように、傍に立つベリザリオのような温もりは感じられない。
 白磁めいた美貌は、けれど血の流れを忘れたよう。
 表情を動かすことを忘れたように美しき鬼の面めいており、鋭い眸は命と死を捉えるばかりだからこそ、より研ぎ澄まされていく。
 あくまで狂戦士。西院鬼の血筋は何処までも呪われているのだと、渦巻く戦場と闇の成す怨念の気配に触発されながらも。
 それでも、言葉を紡がず、自ら炎のように揺らがず、影として織久は傍に佇む。
 下層で生き抜いて来たからこそ、ベリザリオにとって上層は辛いだろう。
 必死に、懸命にと生きていた人生、世界の行き着く先が闇の種族の玩具に過ぎないなど。
 認められないと絶望するほうが普通で真っ当。
 いいや、この織久が戦場で『正常さ』を評する異常はあれども。
 腑抜けるようならば、置いて行くつもりだった。
 そのほうがベリザリオにとってはよいのだと、呪いと怨嗟以外のものに染まった心を僅かに覗かせつつも。
 一歩を踏み出し、常闇の中へと踏み込む織久。
 ベリザリオが立ち、進むというのならばほ、織久もまたせねばならぬ事があるのだ。
「今だ届かぬ怨敵が在る」
 鬼気を立ち上らせながら、全ての色彩を蝕む暗闇の中へ。
「なればより多く。より強い怨敵の血肉を喰らい我等が牙を研がねばならぬ」
 暗器がひとつ、漆黒の大鎌たる闇焔を構えて呟く織久。
 持ちうる武器はそれひとつではなく、どれもがどうしようもないほどの怨念を宿したものたち。
 だが、そんな恐ろしい気配を放つ織久の傍に、白と黒、光と影のように寄りそうベリザリオ。
「私も戦うよ、織久」
「…………」
 沈黙は否定ではく肯定。
 或いは、言葉にできない複雑なる思いだからこそ。
「君は決して叶わないと思っているだろうけれど、私は諦めないからね」
 その言葉を否定できない。
 狂気と怨念の炎をもってしても、優しくも神秘的なアメジストの輝きは消し去れない。
 ベリザリオが構える淡く刀身が煌めく近いの剣――Fulgor fortitudoの輝きは、誓いし思いに呼応するかのようにより一層美しさを増す。
 ならばどうして止められよう。
 Gloriosus scutum――我欲などないからこそ、より清き加護を受ける純白の盾と共に前へと出るベリザリオを。
腑抜けるよりは遥かにマシではあっても。
 変に立ち直ったものだと、一瞬だけ優しく静かな視線を向ける織久。
 だが、ならばこそやるべき事はただひとつ。
「常闇、死を統べるというならば、その身にある怨念は相応。我等が貰い受け、喰らい尽くすのみ」
 織久が暗闇の中で頼るのは己が身に宿るもの。
 五感の全てと、生命に触れうる者への第六感。生と死の気配を肌で捉えようと研ぎ澄まし、今まで喰らった怨念たちとの戦闘経験でイザナミの同行を予測する。
 ここは闇の領域。イザナミの王国。
 死と暗がりに満ち、されど、織久の感覚とて闇に蠢くものを捉える。
 ならば一種の拮抗。何かのキッカケで崩れる静寂だこらこそ。
「どんな暗闇も照らして見せる」
 剣を掲げながら唱えるはベリザリオの祈り。
 祝福を告げる旋律の矢が周囲一帯に放たれ、常闇を浄化の光で照らし出すと同時に、共に戦う者へと祝福を贈る。
「私が守り受け入れるのは織久の闇だけだ」
 光。
 そして、浮き彫りになる影と闇。
「……光と闇、か」
 殺意と喧騒に爛々と輝く赤い眸には、それは眩しすぎるものなのか。
 それとも、道を照らすものなのか。
 今だそれは判らない道半ば。
 ただ光があれば、それを妬むように、憎むように。
「ああ、玩びたいわ、アナタ」
 そして、玩具のような壊して玩びたいのだと召喚した黄泉魚をともない、ベリザリオへと強襲するイザナミの黒い姿。
 だが、それを予期していたベリザリオと織久。
 闇に棲まう者は極端に光を嫌うというのを、自分達で経験したかのように。
「いいや。誰もこれ以上、君の犠牲にはならない。終わるのは、君の常闇だけだ」
 ベリザリオが盾を中心として張り巡らしたオーラ防御の結界は、さながら幾重にも重なる紫水晶の花びらたち。
 いまだ咲かぬ蕾として裡にある命を守護し、祈りの叶う瞬間をと願う光の障壁だ。
 大きく柔らかな四枚の翼も広がり、純白の羽根を舞わせて周囲を彩る。
 白と菫。宝石の輝きと、翼の柔らかさ。異なる美しさを合わせ持つは、心と祈りの象徴。
 何事もそんな単純には割り切れない。贖罪の意識は今もなお。だからこそに揺れて、揺れる、戦士の忘れが身たる|織久《きみ》への思い。
 痛みがある。だが、それ以上に共に在りたいと思うのは――怨念の坩堝にある君の手を握りたいからだろうか。魂を救いたいと、命の終わりついた先に流れ着く絶望の世界でこそ思うのだろうか。
 ああ。判らない。
 でも、今はひとつだけ。
 織久は傷付けさせない。その思いに繋ぐだけ。
 少なくとも織久には攻撃させないという意志の元、ベリザリオは喚び出された黄泉魚を阻み、結界を奈落之矛で切り裂いたイザナミと対峙する。
 だが、全ての者が傷付けた先に勝利を求めるのではない。
 守り切り、次へと希望を繋ぐことを勝利とみる。
 そんな矜持を抱く者がいると、イザナミは知らなかったのだ。
「行くよ、織久」
 そんな物腰柔らかな囁きと共に、盾を掲げて紫光の結界ごとシールドバッシュでイザナミへと突撃するベリザリオ。
 結界と闇が衝突して互いを消滅させ、盾と矛が交差してベリザリオの身から鮮血が吹き出る。
 ただこれは単純な力量差ではない。
 ベリザリオが求めたのは我が身による勝利ではなく、イザナミの姿勢を崩すこと。その為ならば身に傷をとも厭わなかっただけ。
 なぜならば、そうして繋ければ必ずや叶えてくれる優しい子がいる。
 ベリザリオが光をもたらすからこそ、闇はより深く、そしてらしくあれるのだと、イザナミの死角よる鋭く襲い懸かる織久の呪怨の炎纏う赤黒い姿。
「嗚呼、その怨念。実に我等に相応しい」
 故に我が元へ来いと手繰り寄せるが如く、黒い影が織久とイザナミを繋ぎ、次の瞬間に呪怨の炎を撒き散らしながら爆破する。
「くぅっ……」
「どうした。まだ、終わりは遠いぞ」
 姿勢が崩れた処へと更に重ねて放たれたのは呪詛により、生命を吸収する赤黒い炎。
 血を思わせる色合いのそれは、周囲とイザナミ本人を燃やし続け、闇に紛れられないようにとしている。
 喚び出された黄泉魚は全てベリザリオが抑えきり、いまだイザナミは爆破の衝撃から立ち直れていない。
 ベリザリオが更なる光を重ねる好機は今。
 或いは、織久の死の嗅覚にいてイザナミの魂を捉えたのも今。
 更なる光が降り注ぐ中、影の腕を怪力で引き寄せる同時に、織久は黒い疾風と化して駆け抜ける。
 それはさながら、歌劇か幻想小説の一幕だった。
 ベリザリオという祝福の光の中、浮かび上がった死神たる織久が、密やかなる死で命を狩り取る瞬間。
 死とは慈悲だから。 
 更なる苦痛をもたらさぬ為の、優しさだから。
「――そんな優しい夢を砕いたのは、君達のほう」
 誰かのその言葉に従うように、闇焔は黒い三日月を描いてイザナミの胸を貫き通す。
 串刺しにした儘に、イザナミへと皿似る黒い影が闇焔を伝い、傷口を抉って。
「終わりの後に救いを。そんな優しい光と影を、この世界にも」
 そんな歌のような静かな声の元、イザナミからさらなる鮮血が迸る。
 その血に宿りて流れる怨念は、今まで虐げられたものたちのものであり――。
 ならば、と。
 世界が果てるまで。
 この世の残酷な律が朽ち果てるまで。

「我等、怨敵の血肉を喰らい、世界を壊す牙とならん」


 それが誰かの希望に繋がる怨念か。
 それとも、ただ終わりを求む妄念か。
 定かではない。ただ爛々と赤く輝く織久の|眸《やみ》を。
 穏やかに、柔らかく、そして受け止めるように優しくとベリザリオの紫の双眸が見つめた。
 だから――少しだけ闇は揺れる。
 例え届かぬとて続く祈りの光とともに。
 ふたつの心は白と黒の影絵のようにワルツを踊る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
【双星】アドリブ◎
この闇を抜けても、その先にあるのは明るい未来じゃねぇなんて
ほんと、ふざけた話だ
それでも…ひとつでも助けられるなら
行こうぜ、アレス

馴れねぇ暗闇で縦横無尽に駆け回るのは不利
…なら、別の所で戦ってやる
【囀る籠の鳥】を歌いあげる
音の反響に耳を澄ませ、敵の居場所を探るながら
歌には祈りと鼓舞を
アレスの力になるように想いを込めて
敵には─…さあ、真っ直ぐ向かってこいと挑発するように
来るとわかってるモンの対処がアレスにできないとは思えない
だから音と反響で割り出した敵の方向へ、風を向けてアレスを誘導する
俺自身も逸れないように
アレスの気配を辿りながらついて行こう

軽い攻撃なら歌に集中してようが回避はできる
音にあわせて、踊るように
それ以外は…
すぐ傍らにアレスがいる
だから大丈夫
アレスには、俺がいる
どれ程強烈な死のイメージをアレスに叩きつけようが
そんなもん、何回でもぶっ飛ばしてやる
たとえ夜が開けずとも
希望はここにあると
存在を示せ
守ってくれる赤星の背中を支えられるように
希望は、お前にあると強く伝えよう


アレクシス・ミラ
【双星】アドリブ◎

…恐らく僕達が生きていた|層《世界》よりも
強大な闇が広がっている
(それでも…いや、だからこそ)
ああ、必ず救い出そう。セリオス

この常闇では視覚ではなく
それ以外の感覚を研ぎ澄まし環境耐性を
セリオスの場所なら気配や歌があるから大丈夫…だが逸れないよう傍で戦おう
僅かな音、振動、気配を見切れ
それから…嗚呼
彼の風と歌が教えてくれる
…ああ。僕がいるよ
闇に潜もうとも、攻撃は盾で
彼の方に向かうものなら庇い、盾からオーラ『閃壁』で彼ごと囲うように拡げて受け止める
絶対に指一本触れさせはしない
ーその際にどれ程死のイメージを叩きつけられようとも
歯を食い縛り耐え抜いてみせる
…この力は覚悟だけではないさ
傍にはいちばんの星の歌声が…
|僕の光《セリオス》がいるから
…ああ、我が剣に…共に在る君に誓おう
【例え夜が明けずとも】
運命を変える払暁は此処に在る
その希望を示し、守り抜くと!
降り注ぐ光で闇を祓い
矛に宿る闇をも浄化する光を閃壁に込めて押し返す
敵を一瞬でも捉えられれば…剣で全力の光を!

僕達はこの先へ共に征く



 例え果てのない闇が広がっていたとしても。
 声を交わし、心を繋ぐひとがいれば、想いが潰えることはない。
 そうやって生きてきたのだから、今までの自分たちを信じるだけ。
 下層と上層。別たれたとしても、此処で生きるふたりの心は真実なのだから。
 より過酷で、悪夢的なものが待ち受けていようと、怯えることにはならない。
「この闇を抜けても」
 だからこそ、暗闇の真っ只中にあってもセリオス・アリス(青宵の剣・f09573)の声に震えはない。
 真っ直ぐに響き渡る、歌のような美しい声色。
 常に傍にある者への信頼と共に闇に響き渡る。
「その先にあるのは明るい未来じゃねぇなんて」
 認められる筈がない。
 幾つもの夜闇と惨劇を越えて来たセリオスだからこそ湧き上がる想い。
 怒りにも似て、けれど、悲しむ正義にも似通っていて。
 同時に、どれほどに憤りを含めても独りでは壊れてしまいそうな、繊細なる声が続く。
「ほんと、ふざけた話だ」
 もしも灯りがあれば、睨み付ける青の双眸が見えただろう。
 美しき貌と長い睫毛を微かに震わせて、闇の主人を睨み付けようとするセリオスの姿が。
 夜色の髪は艶やかに流れるあまり、闇に溶け込むかのよう。
そして裡に燃える炎は、伴う者がいるからこそ永久の光となるのだ。
「……そうだね。けれど」
 そう呟くアレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)が傍にいる限り、青い炎の一等星は輝き続ける。
 同時に優しく、穏やかに。護るが為にある赤き一等星も、その輝きを受けて等しく瞬くのだ。
 それは互いが見えなければ喪われるような、そんな単純なものではない。
 手を繋がなければ、互いのぬくもりを忘れるような薄い絆じゃない。
 何も見えない暗闇の中だからこそ、互いの吐息と、声と、そして存在を深く感じて吸い込みながら、アレクシスはゆっくりと続ける。
「……恐らく僕達が生きていた|層《せかい》よりも」
 セリオスの手を握ろうかとアレクシスの指先が彷徨うが、それは何かを悟ったように自らの盾へと回される。
ああ、判っているよね。
 今ではないほうがきっといい。
「強大な闇が広がっている」
 ああ、それでも。いいや、だからこそ。
 もう一度、セリオスを肌で感じるのはこの闇を越えた先で。
 昔、長い時と鳥籠を越えて再開した時のように、必ず手を握りあい、笑い合うと、アレクシスは微笑んだ。
 セリオスの目では見えない。
 けれど、アレクシスの微笑む気配に押されるように、セリオスもまたゆっくりと言葉を紡ぐ。
「それでも……ひとつでも助けられるなら」
 きっと意味はあるはず。
 沢山を闇の中で喪ってきたけれど。
 そんな過去を経験してきたからこそ、もう二度とという想いがある。
 これが闇の中で潰えることなどあるものか。
 あくまで過去は過去。今から全てを変えてやるとばかりに、セリオスが魔力の風をひとつ吹かせた。
「行こうぜ、アレス」
 その風に乗るように、同時に一歩目を刻むアレクシス。
「ああ、必ず救い出そう。セリオス」
 アレクシスも風を紡ぎ、セリオスの黒い髪を撫でるように吹き抜けさせて。
 無明にして寂寞たる闇の気配へと、眦を決して対峙するのだ。 
「――――」
死の気配すら漂う暗闇。
 絡み付くようなそれに、セリオスもアレクシスも剣を構える。
 どちらも意念の光刃を持つが、どちらもこの常闇の灯火としては余りに心許ない。
 無闇にと縦横無尽に駆け回るのは不利。
ならば別の処で戦うのだと、大きく息を吸い込むのはセリオス。
 如何なる光をも蝕み、浸す闇の中で響き渡るのはセリオスの白く細谷か鳴る喉が奏でる囀ずる籠の鳥の旋律。
 どんな闇であろうと想いは消せないと告げるように響き渡る歌声に、セリオスもアレクシスも耳を澄ました。
 いいや、それに反響する物音を。
 剣と盾を構えるアレクシスも、セリオスの傍から離れない。
 これだけの音で探るのだ。セリオスが相手の注意を引きすぎるという事とてありえる。
 切っ先が向かえば、それを阻まんとセリオスの近くにありながら、視覚を捨てる変わり、他の感覚を研ぎ澄ましていく。
 僅かな音、振動、気配の揺れ。
――見切れ
 自分の心に言い聞かせるアレクシス。
――もう、セリオスにこの世界の闇で傷つかせない為に
「……見切る」
 そう心に決め、誓うように呟けばセリオスの歌が祝福の祈りとなってアレクシスの背に寄り添う。
 手で、肌で、触れることは今はできずとも。
 繋がっている。離れることはない。
 もう、二度と。
 だからアレクシスの力になるようにと、真っ直ぐな想いを篭めて、歌がそよ風を紡ぐ。
「……嗚呼」
 だからアレクシスの頬が緩み、微笑みを浮かべてしまう。
 セリオスの風と歌は、何時も教えてくれる。
 進むべき道を、頼るべき君の存在を。
 何より、一緒なら大丈夫という希望の光を。
 一等星としてあれるのは、きっと、セリオスという存在のおかげだから。
「僕がいるよ」

 君がくれるぶんだけ、僕も君に返そう。
 君の全てくれるというのなら、僕は君のものだ。
 その証明に、またこの闇を越えて見せよう。

「もう独りではなくて、ふたりだから」
 閉ざす鳥籠はないのだと、唇より優しさに濡れた声を零す。
 ある意味、そんな優しいひとときだからこそ――柔らかな心を抉る為に、死の気配に満ちた刃が強襲する。
 元よりセリオスは真っ直ぐに来いと挑発するように歌い上げたのだ。
 いいや、こういう関係は真っ向から斬り裂いてこそ、後が残り絶望は薫る。
 そういう拗くれた闇の気配、傲慢なる悪辣さ。
 闇に潜もうとも自らを隠しきれぬ邪悪と死の気配。
セリオスへと迫る奈落之矛は見えずとも、確かな存在として捉えたアレクシスが正面から立ち塞がる。
 見えはしないまま。
 だが、セリオスの美しい歌声を刃で切り裂く雑音を感じたから。
「セリオスの歌を、邪な刃で穢すな……!!」
 僅かな風切り音。だが、愛しむ程に傍にあり続けたセリオスの歌に入り込むノイズを、アレクシスが見逃す筈がない。
 故に確かに真っ正面から対峙する事となるアレクシスとイザナミ。
 白銀の大盾が光の壁たる『閃壁』を伴い、意思の強さを持って死の刃と交差した。
 鋼の噛み合う激音。
 ただの盾ならば貫通しただろう死刃と、ただの矛ならば逆に撃ち砕いた光壁の鬩ぎ合い。
 衝突の余波に乗り、ひらりと小鳥が自由に踊るようにステップを踏んで後方へと避けるセリオス。
 アレクシスがいるから大丈夫。
 彼へ信頼は信仰よりもなお強く、絶対にして不滅なるもの。
 それを示してくれるのだと、セリオスもまた不敵に微笑んでみせる。
 どうなっているかなど見えなくとも。
 必死に戦い、懸命に生きるアレクシスの魂の脈動を、セリオスは胸の奥で感じるから。
「アレスには、俺がいる」
 そう囁き、歌い上げ、更なる祝福の風と音色を重ねるセリオス。
「……っ」
 一瞬だけ流れたのは、アレクシスの苦悶の声。
 精神に叩きつけられ、心魂を抉るのは凄絶なる死のイメージ。
 串刺し、両断、殴殺など生温い。ギリギリ生きているからこそ、次の呼吸を繋ぐことさえ儘ならない激痛と苦しみの中だからこそ、凄まじい死を感じるのだ。
 故に、気を抜けば本当に力を失って矛に心臓を貫かれてしまう。
 それでも。
「アレスには、俺がいる」
「……っ」
 そう重ねられた歌声を頼りに、歯を食いしばって盾を掲げて抗ってみせる。
 それは殉じる騎士にして、祈り奉じる者の姿。
 護るが為に我が身を削る清き者。
「あら、貴方のようなひとに、この刃の利きは悪いのかしら?」
 いいや、だからこそなまくらの鋸で切り刻んでいたぶるように笑うイザナミの声。
「覚悟というもの惨劇や痛みに対する麻酔だものね」
 くすくすと冷ややかに零れる嘲笑。
 即死は出来ない。希望を持つから抗えてしまう。
 ならばそれが潰える瞬間を、最期のぬくもりの吐息を奪おうとして更に矛に力を込めるが、切っ先が進む事はない。
 むしろその逆、奈落之矛をアレクシスに押し返されてしまう。
「……この力は、覚悟だけではないさ」
 だって今もそう。
 姿は見えない闇の中だとしても。
「アレス」
 そう、何度も名を歌ってくれるセリオスがいるから。
「アレス、アレス、アレス――アレス」
 純粋に信じて、歌い続ける夜の鳥。
 どれ程に強烈な死のイメージがアレクシスに絡み付こうとも、それが触れた端からセリオスは歌と風で吹き飛ばす。
 そうしてある命に、想いに、心に。
「アレス」
 愛しさと共に名を呼び、死の闇からアレクシスを呼び起こす。
 例え夜が明けないとしても。
 この想いと絆が朽ち果てることなんてありはしない。
 闇と死を統べるイザナミが相手ならば、その闇と死の世界を越えていくだけ。
「アレス――そう、何時ものように!」
 希望は此処にあるのだと。
 ふたりの胸の鼓動の裡にあるのだと。
 その存在を示し、悪辣なる闇を祓おう。
 嗚呼、そうだね。
 傍にはこうして、何時もいちばんの星の歌声があるから。
 苦痛に染まったアレクシスの顔は和らぎ、微かな笑みをみせる。
 死に蝕まれながらも、なお生きる喜びを見出して。
「……|僕の光《セリオス》がいるから」
 呟けばその輝きを増す『光壁』。
 じりっ、と地面を削るように前へと踏みだし、盾で矛を押し返す。
 刃越しに、或いは空気を伝って感じる死の気配からは逃れられずとも、抗えない訳がないだろうと。
 背中にセリオスという光を受けているのならば。 

 君という光が為に、僕は進もう。
 魂を傷付ける刃にひとりでは抗えずとも。
 この魂は、もうひとりだけのものではないから。
 アレクシスの魂は、セリオスの魂と伴にあるから。

「……ああ、我が剣に」
 清廉なる、君だけの騎士として。
「伴に在る|青き星剣の君《セリオス》に誓おう」
 ああと。
 声と歌は重なり、纏う風は溶け合い。
 星屑のような光が幾重もの帯として周囲に流れる。
 さながら、オーロラに包まれるように。
 極夜に顕れる希望の道筋を、ふたりで紡いだかのように。
「希望は、|暁星の盾《アレクシス》にある」
 告げるセリオスは、夜明けを示す赤星の背を支えるように声を響かせ、届かせ、力と想いを重ねた。
故にとアレクシスが空を目指して振り上げるは白銀の騎士剣。
 その刀身にセリオスの歌が宿り、アレクシスの希望と絡まれば此処に闇に終わりを瞬かせ、朝を迎えるべく光を招く祈りが響く。
剣の向けられた先にて浮かぶはたったひとつの赤き星。
 戦場全体に届く光を放ち、聖なる光を降り注がせて闇を討ち祓う。
「……っ……こ、のっ」
 セリオスとアレクシスにる常闇に抗う星光と歌。
 身に触れた星の光に身体を焼かれてイザナミが姿勢を崩した瞬間、更なる浄化の力を盾に込めてアレクシスが奈落之矛を弾き返す。
「な……ぁ……!?」
 宿る死のイメージ所か邪念に染まった矛の刀身が砕け散り、黒い塵となって消えていく。
「重ねた|光《おもい》を」
「繋いだ俺達の|希望《絆》を、甘くみんなよ!」
 そうしてセリオスに再び背を押されて。
 アレクシスは背で守りながら、心身と魂にある全ての光を掻き集め、騎士剣へと灯すのだ。
 夜は終わり、闇は消える。
 光が巡れば、星屑たちの歌も終わるけれど。
「僕たちはこの先へと、伴に征く」
 迷い無く疾風の如く踏み込み、騎士剣を一閃させるアレクシス。
 さながら流星のような煌めきを示し、ついに闇の女主人たるイザナミを断ち斬るのだ。
 泡が弾けていくように消える常闇。
「終わりになんて、させないよ。立ち止まることなんて」
 そう言いながら振り返るアレクシスに、軽やかな足取りで近づくセリオス。
 それこそ抱きつくような勢いで傍へと近寄り、腕を掴んだ。
「ようやく、セリオスの顔が見れたぜ。ちょっとだけの間だったのにな?」
 そういって無邪気に笑う、繊細なる美貌。
 同じ黒ではあれど、闇とは全く違う優しく艶やかな黒髪は美しく、青き眸は燃える星のようにアレクシスの心ら捉えて放さない。
 ああ。 
 放さないし、放したくない。
 だから放さないでくれと、小さく笑えばセリオスの手がアレクシスの顎に、頬にと触れて、添えられて。
「有難うな」
 イザナミの闇が掻き消え、今だ赤き星が照らし出す世界の中でセリオスも微笑む。
 それだけで満足なのだとアレクシスに想わせるほどに。
 この想いと、笑顔の為に、永久の道とて歩み続けよう。いいや、伴に征く道こそ永遠なれと願ってしまって。
 セリオスが小首を傾げれば、長い睫がするりと揺れた。
「さあ」
 そうしてセリオスはアレクシスの手を握る。
 もう二度と離れる事のないふたりを、しっかりと繋いで。
「この世界で絶望しそうな奴を救いにいこう。この上層の世界にも希望はあるって、示してやろうぜ」
 それはと。
 呼吸をひとつ止め、セリオスの髪を撫でたあとにアレクシスは唇より紡いだ。
 か細い祈りを。
「|青星の歌《セリオス》で」
 そして、即座に応じる願いの歌声。
「|赤星の光《アレクシス》の腕で」
 それは伴にあるからこその一等星。
 闇の中で掻き消えず、決して朽ち果てず。
 互いに繋がる限り、深き闇に潜む悪夢をも祓うふたり。
 その光が、次なる地へと。
 救うべき者の心へと向けられる。


 ふたりのように。
 絶望して己の身ばかりではなく、他者の喜びを我が事のように。
 そう笑えることこそ、ひとの光なのかもしれない。
 孤独なる闇はこの光のもとに消え去る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ダンスマカブル・オートマタ』

POW   :    報怨のサラバンド
自身が戦闘不能となる事で、【呪詛を撒き散らし、自身に攻撃した】敵1体に大ダメージを与える。【主を賛美する言葉】を語ると更にダメージ増。
SPD   :    斬殺のパヴァーヌ
任意の部位から最大レベル枚の【射出も可能な殺戮刃物】を生やして攻撃する。枚数を増やすと攻撃対象数、減らすと威力が増加。
WIZ   :    滅戮のメヌエット
自分の体を【無数の刃物を生やした姿に変形させ高速回転】させる攻撃で、近接範囲内の全員にダメージと【呪詛による行動速度低下】の状態異常を与える。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


● 断章~私の傷をあなたにあげる~



 禁獣の領域に踏み入れた猟兵たちを迎えたのは。
 闇に似つかわしくない、楚々たる少女たちの声。
 深窓の令嬢もかくやという美しく澄んだ笑みを幾つも重ねて、それらはやってくる。
「あら、お客様だわ」
「どうしましょう。おもてなしもできないわ」
「大丈夫。こんな処に来る方なんて、とても物珍しい心の持ち主だもの」
 くすくす、くすくすと笑い合う声はなんとも人形めいている。
 感情がないのではない。
 ただ余りにも浮ついた喜び一色。
 地に足がついていないし、情動の起伏もない。
 いってしまえば蓄音機にある声だけを再生し続けているような。
 誰かの声だけを借りて喋っている人形たち――或いは、声帯を奪って備え付けた悪趣味な人形たち。
「物珍しい程に勇敢な方は、きっと痛みと傷は怖くない筈だわ。喜んで立ち向かう筈だわ。誇りにさえ思うはず」
「そうね。なら、この紋章でもてなせばいいわね」
 そういって彼女達の身に刻まれた紋章――アザミの姿を模したそれを見せつける。
 場所はそれぞればらばら。
 けれど、ぬらぬらとした光沢はまるで血の色をしているかのようで。
 全ての人形の美しい肌に、禍々しさを刻んでいた。
「歓喜するアザミの紋章」
「受けた傷を、与えたものに返す紋章」
「ねぇ、だから私たちを傷付ける時は優しくてくださいましね。だって、そうでないと、貴方さまたちにも傷は返りますもの」
「そう」
「これは、傷つけた者を等しく傷つけ返す呪の刻印」
「歓喜の元に、因果の報復をもたらす花の紋章」
「死んでいなければ――傷で繋がる、悪夢の絆」
 喜ばしそうに、それが祝福のようにと笑うからこそ、彼等は悪夢めいた領域の人形たちなのだ。
「優しく、痛みなく、殺してくださいまし。でなければ、貴方様たちが死にますよ」
「致命傷はやめてくださいませ。即死でなければ、この紋章は喜んであなたに私の傷をさしあげてしまいますの」
 だから。
 だからと。
 こくんと人形の首と顔が傾いた。
「さあ、優しく……私たちを殺めてくださいませ?」
 そうして人形の身より飛び出すのは、殺戮が為の暗器の刃たち。
 即死でなければ。
 一太刀で痛む間もなく終わらせてくれなければ。
「でなくば、私たちが貴方様を殺めますわ」
 血濡れに歓喜したアザミが、報復の花を咲かせる。

 

 だが。
 此処で様子見をしたり、迂回することなんて出来はしない。
 それは大幅な時間のロスとなり、予知した魂人を救えるチャンスを喪うということになるのだから。
 


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解説

 集団戦闘です。
 十数体を超えるオブリビオンの人形たちに行く手を阻まれている状況。
 その上、彼女たちの告げる紋章『歓喜するアザミ』の効果は本物。
 彼女達がユーベルコードを発動した際、追加効果として受けた傷と状態異常を、与えた人に返すという報復の効果。
 一撃必殺。敵の即死を狙わなければ、人形である為に痛みにも苦しみにも無関心で無為。四肢が取れても反撃と報復に来ます。
 そして、今回は必ず猟兵たちが先制しなければならない状態。
 拮抗して待ち続ければ時間のロスとなりますし、そうなれば魂人を見捨てなければならない状況にもなるでしょう。

 かならずや先制の上で必殺を求められる状況。
 厳しいシチュエーションのものとなりますが、どうぞ宜しくお願い致します。
 
月白・雪音
…傷、痛み、そこに伴う死。それらへの恐れを忘れる事は命を軽んじる事に他なりません。
それは勇敢なのでは無く、危機意識に欠けるというのみ…。その感性は己のみならず、大小はあれど必ず他者の命にも向くこととなります。
それを知った上でそうでもならねば戦えぬ者もまた居るものですが、此処で論じるものでも無いでしょう。

我らが相対するべき悪夢と、拾うべき命はこの先に。
──故に、推し通らせて頂きます。


UC発動にて、野生の勘と見切り、殺人鬼としての技巧も併せ敵の紋章、急所の位置を的確に見極めつつ相手の攻撃を感知
怪力、グラップル、残像による最速の無手格闘での一撃一殺を以て紋章による反撃の余地なく仕留める



 決して果てる事のない禁域の薄闇。
 命と情念のぬくもりを持つ者を蝕むかのような空気が漂う。
 廃退と耽溺。闇の享楽は典雅さを持ちつつも、おぞましさを伴うもの。
 そんな中であっても、決して曇らぬ清らかな白き美貌がある。
 静かなる赤い眸を、くすくすと笑う人形たちに向けながら。
 雪が降るかのような物静かさで、ひとの心を語るは月白・雪音(月輪氷華・f29413)。
「……傷、痛み、そこに伴う死」
 それらを内包しているかのような薄闇へと。
 一歩、一歩と前へ踏みしめていく真白き姿の凜々しさたるや。
 まるで白き氷花が香りで闇たる場を清めるように。
 凍て付いた月がその灯りで、禁域の先へと導くように。
 唇より言葉を紡ぎ、人形たちと対峙するは磨きあげられた志にして、身に巣くう衝動を律する武の精神。
「それらへの恐れを忘れる事は、命を軽んじる事に他なりません」
 ああ、届くだろうか。
 いいや、あの人形たちにこの想いは届くまい。
 それでも自らに刻み付けるように。或いは、斯く在るべしと謳うように雪音は続ける。
「それは勇敢などでは無く、危機意識に欠けるというのみ……」
 むしろ真逆。なんとも虚ろなる精神性か。
 生きるものは傷を恐れ、痛みを怖がり、死を避けようとする。
 総じて闇を避けて光を求める心であり、幸いなる未来を欲するもの。
 その上で、自ら傷と痛みの避けられぬ戦場に出るからこそ、勇気と呼ぶのだ。貫いた信念と誇れるのだ。
 避けるべくして、されど、誠を進むが為にそんな茨を踏みしめていく。
 それをまるで遊びのように笑う精神は、己も他人のものも命を玩具とする心は決して容認できるものではない。
「――その感性は己のみならず、大小はあれど必ず他者の命にも向くこととなります」
 故に災いもたらす過去の残滓。
 傷を傷で返し続ければ、そこは地獄でしかないというのに。
 痛いからと他人へと痛みを渡し続ければ、そこは修羅の領域。
 此処で論じるべきものでも無いが、そういった軽薄さと空虚さをもってしか戦えぬ者もいるが。
 それでも、そういった者も戦うものなのだ。
 くすくす、くすくすと悪意に染まった笑い声で返す人形たちとは違う。
「あらあら、武の心を解かれても私たちには判りませんわ」
「とても崇高ですもの。つまり、難解すぎますわ」
 つまり人形たちは、痛いという相手の心を解する気はないのだ。
 痛み、傷、死。自分が与えられて嫌だと思う気持ちも、相手からすればどうなのかという対等に向きあおうとする心も。
「……貴方たちは捻れ、壊れているのですね」 
 静かな吐息が雪音の唇より零れた。
 くすくすと笑うばかりの人形に、ならばこそと拳を握り締めて立ち向かう雪音。
 斯くはあるまい。
 自らの姿、志を以て進むのみ。
 魂とはそのようにして在るものなのだから。
 この人形たちに魂たるものがない、ただの器だという事に悲しみを覚えても。
 此処に来た理由は忘れない。
 雪音は絶望に抗いて救うべく、今この場で呼吸を続けているのだ。
 凛烈と張り詰めた戦気は冷たく澄んだ冬風のように雪音を中心として渦巻き、吹き抜ける。
 或いは。
 そう、或いは。
 殺戮衝動を律する事のできない獣の姿は。
 過去に雪原を駆けて血濡れた己が姿は、目の前の人形のように無惨で、悲しみすら誘う空虚なるものだったのかもしれない。
 そんな一抹の思いに雪音は瞼を閉じて。
「我らが相対するべき悪夢と、拾うべき命はこの先に」
 雪音は今と未来と共に在りて生きるものなればこそ。
 師より与えられた志と、水鏡のように澄んだ精神を以て越えていくのだ。
 危うき命を救い、絆にして繋ぎて進むが人の強さ。
「──故に、推し通らせて頂きます」
 宣言と共に雪音の瞼が開き、深紅の双眸が瞬く。
 瞬間に宿るは殺しの鬼としての本能。
 生と死を見切る超感覚。
 急所の位置、相手の動向、そして一撃必殺に至るまでの最短の道筋。
 刹那で悟ると共に、白き残像を伴いて真っ直ぐに突き進む雪音。
 人形たちはそんな雪音を抱き締めるように腕を広げるが構うまい。
 白くちらつく残像は、さながら吹雪の色彩めいて人形たちの目を欺き、鋭く研ぎ澄まされた拳の一撃が人形の心臓を貫く。
「――――っ!」
 反撃の余地など与えない、速やかなる白き死神の技。
 そのまま身を翻せば肘撃として隣の人形の脛骨を撃ち砕き、更なる加速をもって放たれる廻し蹴りは額へと突き刺さり頭部を粉砕する。
 身に秘められた殺戮武器、鋼の刃を露出させる暇も与えぬ精密なる破壊の武。
「このような」
 更に純白の三日月を蹴撃で描きながら、雪音が情動の籠もらぬ声を零す。
 冷たく、静かに。
 ただ、悼むように、祈るように。
 次々に哀れな人形を葬りながら囁いた。
「壊す為の業など、救う為のものに比べればなんと容易きものか」
 自らが為に戦うのではなく、誰が為に戦うことこそヒトなる者の戦なればこそ。
「故に、躊躇いなく進ませて頂きましょう」
 凪ぎたる意気を以て、人形たちを氷輪の如く鋭く終わらせ。
 雪のように静かなる願いを告げる。
「この先に、救う命と悪夢との戦があるならば」
 雪音は破壊の吹雪が如く武術を渦巻かせ、人形の残骸を地に打ち棄てながら。
 見つめるは闇の先、禁域の深奥。
 そこにある深淵の悪夢を打ち払うべく、真白き武が道を示していく。
 儚き命が喪われぬように。
 そこにある心が絶望に沈まぬように。
 雪音もまた、魂たるものを月華のように輝かせて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
ぞろぞろと鬱陶しい……
此れ以上、余計な時間を使うは只の下策
なれば一閃一殺――全速を以て斬り拓くのみ

此方へと向けられる攻撃は見切り躱して“受ける”事は行わず
態勢を整える隙なぞ与えはしない
侵逮畏刻――仕事だ、疾く参じろ火烏
私の前に付いて動き、羽根で敵の動きを止めろ。一瞬で構わん
神経を集中し研ぎ澄ませ、“其の瞬間”を逃さず刃を振るう
狙うは確実に屠る為の軌跡……頭頂から両断してくれよう
前進の加速をも利用し、全力の踏み込みに怪力乗せた斬撃を叩き込む
脚は止めない
前を塞ぐものは悉く踏み越え前へと進む

お前達から受け取るものなぞ何もないが
お前達へ呉れてやるものなら1つだけある
――潰えろ。終わりを呉れてやる



 深い闇の気配を秘めた人形たちが笑う。
 さながら優雅なる舞踏会に訪れた少女たちのように。
 行く手を阻み、共に傷つき、痛みましょうと。
 魂を知らぬ。心が判らぬ。
 ただ闇の饗宴、死のワルツを求めるかのように。
 くすくす、くすくすと可憐な筈の声が不快なノイズのように頭に響くのだ。
 さあ、私と踊ってくださいまし。
 あら刃を持たれるのなら鋭い痛みを伴ってくれますのね。
 ならば、ああ、ならば。
 |傷つけ合う《おどってくれる》まで、離さないし逃がささない。
 目の前に並び立つ人形たちの情念は、空虚さと妄念が絡み合うかのよう。
 ならばこそと、火を付けた煙草を深く吸い込んで烈志は継げるのだ。
「ぞろぞろと鬱陶しい……」
 石榴のような隻眼をもって、鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は人形たちを睨み付ける。
 ある意味において醜悪。
 別の意味においては、なんとも憐れともいえる魂なき人形たち。
 救おうにも心を理解せず、自ら喜んで死へと突き進む。
 そうして命もつ者と踊る最期のダンスだけが歓びであるかのように。
――なんとも……。
 死たる存在、亡者そのものの存在だと、不愉快な笑みと声を消すように馨しき紫煙を深く吸い込む鷲生。
「付き合い切れん」
 ならば正直に関わる必要などあるまい。
 ましてや此れ以上、余計な時間を使うのは只の下策。
 故に鷲生は白刃を以て眼前の一切を掃いて断つのみと、秋水の切っ先を泳がせる。
「なれば一閃一殺――全速を以て斬り拓くのみ」
 鷲生の全身から鋭い剣気と殺気が放たれる。
 燃え上がるような熱量、底知れぬ深い気迫。どちらも真っ向より受ければ、揺るがずにはいられない。
 筈だというのに、人形たちはダンスの誘いを受けたかのように喜びあい、笑い合う。
 ああ、だとしてもそれを真に受ける気など鷲生にはもはやない。
 命の重さ、魂と矜持のなんたるか。
 それを懸けた者ならば剣士として対峙しよう。
 尋常にとこちらも等しき者として相対しよう。
「だが、貴様等は違う」
 軽薄にして空虚なる人形。
 がらんの胸に刃を届けてくれると、燻らせた煙草を投げ棄てる。
 瞬間、瞬くは鷲生の手にある一枚の符。
 術符に灯された火より喚び出されるは炎を纏う鳳の姿。
 体勢を整える隙や暇など与えない。
 一秒、一瞬、より速やかに屠るのみ。
「侵逮畏刻――仕事だ、疾く参じろ火烏」
 鷲生にと付き従う火鳥の姿。
 言葉なくとも主の意を解し、炎翼をはためかせるは霊鳥の如く美しく清らか。
 赤々としたその炎の羽根が撒かれれば、闇を払う紅の光もまた灯る。
 されど、その効果は美麗なる火にはあらず。
「あ……ら……?」
 炎の羽根に纏われた人形の動きが鈍る。
 一瞬で構わないのだ。
 鷲生は神経を研ぎ澄まし、あらゆる感覚を以て『其の瞬間』を捉えるのみ。
 防御、回避。或いは捨て身で即死だけは避けるという荒技も斯様な虚ろなの人形ならばありえよう。
 腕を捨てても首だけ残れば、などという甘い魂胆など諸共斬り捨てる。
「――そこだ」
 故に秋水を正眼に構えた儘、凄まじい踏み込みを見せる鷲生。
 まさに烈火の勢い。それをも利用して放たれるは、ただ真っ正面より斬り込む一刀。
 単純だが、故に何処までも研ぎ澄まされた基礎の基礎。
 剣士の技量が問われるそこに、更に鷲生の腕力も乗れば龍鱗をもってもはじき返せる筈もない。
 鋼刃一閃。頭頂より両断せんと奔る剣威は、笑みを浮かべた人形を正中線の通りに斬り裂いた。
 確認する必要もない確実なる即死。
 のみで止まらず、更に進む鷲生の足。
 残心を以て気勢の流れを止めず、更に前へと立つ一体へと斬り懸かる。
 再び振り下ろされる裂帛の剣閃。
 僅かな狂いもなく、先の一体を屠るに至った剣筋を再現している。
 のみらず、鷲生は全身全霊を以て前へと駆け抜け、そして刃を奮い続けている。
 止まらぬ。悉くを斬りて掃らい、進むのみ。
 精密さと凄絶さがあいまった刀は、人形たちの求めた痛みなど伴わず、次々と斬り捨てていく。
 ただ前へ。前へを塞ぐものは悉く、斬りて踏み越え、更に前へ。
 激流のような勢いをもって進む鷲生が、人形たちの求める|踊り《きず》を伴い合う相手でないと知るや、身に潜ませた無数の刃を露わにして攻め懸かるが、これもまた一顧だにしない。
 見切りて躱し、受ける事は一切行わぬ。
 自らを止める事など叶わぬと知れと深緋の眸が人形たちを見据え、躱す勢いも利用して更に前へと刃を瞬かせる。
 捨て身で相打つように抱きつこうとした者を鋭く横手へと飛ぶや、そのまま揮われるは一閃一殺。言葉にしたものを為して進む烈士。
「お前達から受け取るものなぞ何もないが」
 鷲生の剛剣が唸り、両断を以て人形を刹那に屠る。
 いいや、真に恐ろしきは秋水の刀身、その刃金がこれ程の猛威で揮われても微かにも震える事はないということ。
「お前達へ呉れてやるものなら只一つだけある」
 肉を斬り、骨を断てば鞘に収まらぬほど刀は震えるものなれど。
 烈士の技、研ぎ澄まされた専心を以て揮えば、微かにも乱れることなどないのだ。
 故に鷲生の勢いは止まらず、むしろ更なる加速をもって人形たちの群れを斬り破る。
「――潰えろ」
 命も心もないのだ。
 傷つくという恐れがなく、それを歓ぶというのならば。
 それは、己より大事な存在が傷つく事を知らぬ――そして、決して理解出来ぬ闇の存在。
「――終わりを呉れてやる」
 鷲生の腕は、大事なる存在が為にある。
 その腕で斬り拓く道が、斯様な闇の器に遮られる筈はない。
 彼が為に道を進むもまた誓いを通すも、過去の残滓が呼ぶ悪夢では、最早出来ぬのだ。
 剣光が瞬き、刀影が射す。
 その繰り返す交差が、ついに途絶える。
 ついに鷲生が自らを囲む人形たちの群れを真一文字に斬り拓いたのだ。
残るはこの先にある、悪夢めいた気配。
 童が笑うように揺れるその無邪気な邪悪さに、僅かに眉を潜めながらも……。
 鷲生は怯むも臆すこともなく、更に地を蹴って駆けた。
 
 どのような闇の深淵の裡であれ。
 誓いしお前の信じる姿であろう。

 秋水の剣先が、鷲生の深緋の隻眼が。
 流れる星の如く輝き、悪夢そのものへと跳ぶ。
  

大成功 🔵​🔵​🔵​

アレクシス・ミラ
【双星】アドリブ◎

…慈悲を与える、という訳ではないが
彼女達も紋章も痛みを感じない位に
悪夢に咲こうとする花は断たせてもらおう

今度は僕が君を支える番だ
セリオスの視線に応える
鎧を『白夜・竜騎士形態』へ変化
剣と盾に光を纏わせよう
敵の意識を僕へと向けさせ
彼の疾さを活かし、導く為に
光と共に高速で駆ける

そして【絶望の福音】で
敵の動きを…『敵がUCを発動する直前の瞬間』を見通そう
狙うは先の先。UCと紋章の発動を阻止させ
僅かでも彼の剣を届かせる時間を作り出す為
勝負は一瞬。それに敵も影で戦う彼に気付きだすかもしれない
…だが
セリオスには僕がいる
そう強く伝えるよう名を呼ぶ
敵の意識が彼へと向こうとし、攻撃しようとする瞬間を見切れば
盾から『閃壁』を大きく展開、僅かな隙へとシールドバッシュ
その勢いで光属性を一気に解放
一瞬でも全ての闇を照らす程強く!
敵の体勢を崩させてみせる
後ろに青星の気配が帰って来たのを感じれば…道を開けるように回避
…ああ。今度は光と影からではなく
共に、真っ直ぐに
意識も光をも超える速度で終わらせよう!


セリオス・アリス
【双星】アドリブ◎
優しく、痛み無くって…敵に言われんのもなんか変な感じだな…
けど、そう乞われるなら
一瞬で、終わらせてやる

歌で身体強化して靴へ風の魔力を注ぐ
トントンと2回つま先で地面を蹴って
行くぞとアレスとアイコンタクト
風の魔力を炸裂させて一気にトップスピードへ
アレスが敵の注目を集めてくれてる間に敵の後ろへ回り込む
今回は、俺が影であり│攻撃の主体《剣》ってなァ!
今よりもっともっと魔力を脚へ
放つのは【閃迅烈脚】
気づいた時には終われるように
貫くような蹴りを敵へ

1体倒したらまた次へ
鳥が飛ぶように
アレスの影で踊るように敵を屠る
アレスがいればどこへだって飛んでいける気がする…つーか、絶対行ける
戦場で注意を引く光は俺にとっても導だ

つっても、仕留め過ぎたら狙われるのは道理
まあ、心配はしてねぇけど
守ってくれたであろうアレスの呼び声
その瞬間はきっちりは見れなかったけど
どうしたいかは…声を聞きゃわかる!
つまり真っ直ぐそこへぶち込めばいいんだろう!
今日一番、最大級の威力を持って
気づくより早く、終わらせてやるよ!



くすくすという可憐な笑みと共に染みこむ闇の気配。
 これより先に光と希望などはなく、捻れて狂った悪夢があるだけ。
 そう告げるような人形たちの純粋に過ぎる悪の情念。
 傷つけて。傷つけ返すから。
 まるで舞踏会に誘うようにそう笑う姿は、心が壊れていると思うほど。
 決して悪意などないのだけれど、それが素晴らしいことだと信じている人形たち。
 悪と呼ばずして何というべきか。
 こういう邪悪さに拗くれた存在を、確かに知っている。
 上層と下層に別れても、此処はダークセイヴァーなのだ。
「優しく、痛みなくって……」
 人形たちの顔の奥底にある邪悪さを感じ取ったのか。
 儚いとさえ思える程に美しき貌に疑問と迷いを浮かべるのはセリオス・アリス(青宵の剣・f09573)。
 青星の色彩宿す双眸は決して背けることはないけれど。
「……敵に言われんのもなんか変な感じだな……」
 それは殺すということ。
 どう言い換えても自らの手を穢すということ。
 真っ向から戦うべき相手ならば兎も角、セリオスは自らの過去を反芻してしまうのかもしれない。
 躊躇など一切しないけれど。
 振り返ることさえしないけれど。
 変わらない鳥籠の記憶が、心に棘を刺す。
 一瞬だけ震えそうになる声を制し、セリオスは言葉を紡いだ。
「けど、そう乞われるなら」
 進むべきは先であり前、未来。
 何故ならばその道には必ず、伴う赤暁の彼がいるから。
 過去を思う必要など一切ないと、振り切るように告げるセリオスの声はまるで一陣の風のよう。
「一瞬で、終わらせてやる」
 強く、気高く、そしてさらなる高みを目指して駆ける想い。
 再び常闇の邪悪さと対峙するというのに、セリオスの声には一切の戸惑いも苦しみもないからこそ。
 青宵への暁たるアレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)もそっと瞼を伏せた。
 頼もしくも、大切なる君がそう告げるならば、アレクシスも先陣を切って進む事ができる。
 大事な存在が闇の茨で傷つくことがないようにと。
「……慈悲を与える、という訳ではないが」
 白銀の騎士剣と燐光伴う大盾を構えて、前へと踏み出すアレクシス。
 闇の種族の生み出した人形に、慈悲というものはないだろう。
 心たるものが虚ろ。
 自らに想うものもなければ、他人を想うこともない。
 あくまで何も見えない闇の中、拗くれた歓びのために他者を犠牲にするものたち。
 ならばこそ。
「彼女達も紋章も痛みを感じない位に」
 もたらす終わりは、鋭くも速やかに。
「悪夢に咲こうとする花は断たせて貰おう」
 闇の色をした花びらは、誰かを傷つけることなく埋もれるように。
 次なる災いを呼ぶことなく、その種をも此処で切り裂くのだ。
 そう覚悟を決めていたアレクシスへと、ふいにセリオスから柔らかな笑みが投げかけられる。
「へへっ」
 そう笑みを零しながら、月のように澄み渡る歌を奏でて自らの身体能力を増すセリオス。
 風を渦巻かせれば、それはすべて『流星』と名付けられた靴へと集められる。
「……これが更なる闇の世界って奴で、俺とアレスの故郷よりもなお深いものだとしても」
 立ち止まらない。振り返らない。
 更なる前へと進もうと思えるのは、唯一無二の存在がいつも傍にいるから。
「その闇の元凶を払いにいこうぜ」
 そうやって心に灯火の光を抱けるのだ。
「ああ。絶望などこれ以上、僕たちの前では示させない」
 ふたりならば如何なる闇にも、悪夢にも立ち向かえるとアレクシスが笑えば、トントンとつま先が地面を叩く軽やかな音。
 視線を向ければ、青い眸が戦意に燃えている。
 セリオスに行くぞとアイコンタクトで告げられれば、姿で答えるのだとアレクシスも毅然とした表情を浮かべる。
――今度は僕が君を支える番だ。
 ならばとアレクシスはペンダントである白夜に想いを託し、黎明の鎧を『竜騎士形態』へと変じさせる。
 架空元素に思念の形を与え、作り出したのはウィングとブースター。
 セリオスより前を走り、飛び続け、痛みも傷も引き受けよう。
如何なる刃も呪詛もセリオスには届けない。アレクシスは覚悟を光と化して剣と盾に宿すのだ。
 一陣の流星であるように。
 共に輝きながら、空を自由に飛ぶふたつの一等星であるために。
「いざ……!!」
 光を纏う事で注意を引き、高速で疾走するアレクシス。
 それはさながら誇り高き竜騎士のようで、人形たちがその美しさに歓びの声をあげる。
「――綺麗なものを傷つけられるから、歓ぶってか?」
 そのアレクシスの美しさは自分のもの。
 いいや、血の一滴だって渡すものかとセリオスの青い眸が鋭く細められた瞬間、靴に集まった風の力を炸裂させる。
 一瞬でトップスピードに到達する尋常ならざる勢い。
 風の魔力を自在に操り、自らも疾風となったセリオスだが僅かに息を潜める。
 なんとも純粋そうにアレクシスの放つ光へと手を伸ばす人形たち。
 その身体に秘められた鋼の殺戮刃物を解き放ちながら、くすくすと笑う者たちの背後に回るや否や、放たれるのは烈風の蹴撃。
「見惚れたとしても、あの|光《アレス》はやらねぇよ」
 音速より早い一撃は、視覚でも聴覚でも捉える事は出来ない。
 過負荷レベルの風の魔力を蹴ると同時に炸裂させ、人形の胸部を貫通させるセリオス。
 気づけばもう終わっている。
 傷を受けたと自覚する前に、人形に訪れるのは死の静寂だ。
 セリオス凄絶な一撃でありながら秘やかなる風の鋭撃。それは留まることを知らず、自由に羽ばたくのだ。
 一体を倒せば次へ、更に次ぎへ。
 鳥が飛ぶように鮮やかに、夜のように艶やかな黒髪を靡かせて跳躍を続けるセリオス。
 アレクシスが光となって人形たちの前で踊るからこそ、影に潜みながら一撃必殺を繰り返せるセリオス。
 さながら光と影のワルツ。アレクシスがいるから、セリオスは全力で踊れるのだ。
「今回は俺が影であり、|攻撃の主体《剣》ってなァ!」
 故に気づかれるより早く。
 もっと素早く、迅速に人形たちを屠るべく、もっともっとと魔力を脚へと集めていくセリオス。
 もとより過剰な程に収束させていたのた。脚が悲鳴をあげるがセリオスは一切気にしない。
 これもアレクシスのお陰というのならば、自分の全力を以て答えたいから。
 アレクシスが駆け抜けながら放つ光に導かれ、従うようにと次々と影の裡で人形を屠っていく。
――アレスがいれば……
 どこにだって飛んでいける気がするのだ。
 いいや、絶対にいける。
 このダークセイヴァーという常夜の世界でなお、朝焼けの瞬間までいけるのだと。
 確信するし、信じるし、疑いたくないのだ。
「だろ、アレス……」
 セリオスは胸で燃える想いにただ素直に従い、華奢な身体を暴風のごとく動かし、強烈なる蹴りで人形たちを貫いていく。
 さながらそれは風の剣先。
 如何なる困難をも穿つ、自在にして自由なる烈風一閃。
 |彼《アレス》の剣なのだと、矜恃と喜びを込めた誠なる力。
 そんな迅烈なる風が、傷つけあう事を歓びとするアザミの紋章に囚われる事などあるだろうか。
 セリオスが次々と踊るように跳ねれば、艶やかに美しい黒髪が揺れる。闇とは違う複雑な黒が揺れて、揺れて、終わりのカーテンのように人形たちを誘って。
 想いと信念、絆の元に烈風の一撃が止まる事なく吹き続けた。
 だが、それも何時までももとはいかない。
 人形たちも自分の後ろで暴威を振るうセリオスの存在に気づき、アレクシスの光に向けていた注意を剃らす。
「まあ、なんと勇敢な方かしら」
「背後からというのは頂けませんが、それでもお美しいひと」
「――ならば、血で染めてあげないといけませんわね」
 くすくすと笑う人形たちが、光と共に駆け続けたアレクシスからセリオスへと標的を変え、殺戮刃物の切っ先を向ける。
 自分たちに攻撃して来ず、注意を引くばかりのアレクシスより、猛撃奮うセリオスへと標的を変えたのだ。
 あわよくば急所以外に一撃を受ければ紋章の力が働く。
 でなくとも、抱きしめ合うように攻撃を交差させれば、歓びを以て血の花は咲くのだから。
 一斉に身体の各所から殺戮刃を生じさせ、風を纏うセリオスへと向き直る人形たち。
「けど、させないよ」
 だが、セリオスを護るのだと誓う騎士が此処にいる。
 アレクシスはセリオスを支えるのだ。その想いが何より強い力となって、彼を動かす。
「セリオス!」
――君には僕がいる
 信じてほしい。
 他人には愚かだと思われるほど、根拠も理由も、確信もなく信じ抜いてほしい。
 理由はお互いだから。それ以上もそれ以下もいらないだろう。
 そうして続けていく為に――。
「セリオス、悪夢の向こうに行こうへ!」
 アレクシスが発動した絶望の福音は本来あくまで回避が為のもの。
 完全な予知ではないか細い糸。
 それでもセリオスの為に手繰り寄せるのだと、大盾を構えて直進していく。
 これは理不尽な現実に抗う為の力だから。
 奪われたものを取り戻す為に生き残り、運命を変えたいと願って得た瞳なのだから。
 これより先、幸いを見いだす為、セリオスが為にとアレクシスの蒼穹のような眸が輝く。
 見通した未来より、狙うのは先の先。
 人形たちがユーベルコードと紋章を発動させる直前の瞬間を見通し、その寸前にと光の竜騎士が翔る。
 攻撃に動き出す前の瞬間、紙一枚より薄いその時を捉え、大きく展開した『閃壁』と共にアレクシスはシールドバッシュを叩き込む。
 自らと護る為の力。それを光と衝撃に変えて人形たちに叩き付ければ、悲鳴と共に体勢を崩していく人形たち。
 重ねて光の魔力を炊き放てば、闇を打ち払う暁のような輝きが周囲を津包む。
 アレクシスの放つ衝撃と光に乱され、崩された人形たちは体勢も思考も乱れて崩れたまま。衝撃はまだ踏み留まれたかもしれないが、何しろ人形たちは『周囲に溢れる程の光を知らない』。
 故に未知なる光に驚き、瞬き、恐怖するように顔を遠ざければ、そこに速やかに踊りて訪れる青き炎の一等星。
 彼もまたアレクシスと同じく光のもの。
 星光のように儚く、美しく、そして時に眩いほどに強く輝く魂。
その気配を感じてアレクシスは微笑み、道を空けるようにサイドステップを踏んで回避。
「ああ、心配はしてねぇよ。だって、アレスがいるだろう」
 守ってくれた事はセリオスには声だけで解る。
 声だけで解るのは、セリオスだけ。
 それほどに近く、傍にあり続ける星だから。
「そして、どうしたいかも……声を聞きゃ解る!」
 つまりは全力で、まっすぐにそこに叩き込めばいいのだ。
 その為にアレクシスは敵の隙を作り、セリオスの名を呼んだのだから。
 言葉を聞かずとも。
 声を聞いただけで、すべてが解る。
 それは傲慢で、時にすれ違いを呼ぶかもしれなくても。
 姿を見てもいないのだから、何が解るのかと他人に言われたとしても。
「俺は、アレスを信じるだけだ!!」
 それがセリオスとアレクシスの何時も。
 常に信じ合う一等星同士の輝きがふたつ重なれば、如何なる闇をも恐れる必要などない。
 全身全霊の魔力を靴に送り、渦巻く程の烈風を脚に纏わせるセリオス。
 細くて華奢な身体は過負荷レベルの魔力に悲鳴をあげても、アレクシスの声を聞いて輝くように浮かぶ笑顔は消えない。
 全力で、この禁域へと踏み込むように。
 その奥、深淵のような悪夢をも穿つように。
 疾風と化して突き進むセリオスが、アレクシスの通った道を辿るように突き進み、人形たちの群れへと最大級の一撃を叩き込む。
「……ああ、そうだ。今度は光と影ではなく」
 そして、横手で伴うように光を纏わせた剣を構えるアレクシス。
 決してセリオスひとりに無理はさない。
 進むならば共にで、危険も幸せも、幸いも不幸も分け合うのだから。
「何時ものように互いを信じ合い。共に、まっすぐに」
 セリオスの巻き起こす烈風に燐光を伴わせ、重ねるように同時に放つ光刃の一閃。
「意識も光をも超える速度で終わらせよう!!」
 そうアレクシスが叫ぶのならば、セリオスもまた応えるだけ。
 闇が訪れ、絶望が忍び込むよりも早く。
 何より早く、輝くように。
「悪夢の花が気づくより早く、終わらせてやるよ!」
 風と光。重なり合った一撃が、人形たちの群れを粉砕するように奔り抜ける。
 さながらそれは、夜天に咲き誇る無数の星々たちが煌めくよう。
 この世界ではない。
 違う場所で見た幸せを此処でも示すのだと、天蓋へと星彩を飾るふたりの一撃が、数多の人形たちに終わりを告げる。
 報復を意味するアザミの紋章が目覚める事などなく。
 かわりに、隣に立つセリオスとアレクシスが見つめ合い、微笑み合う。
 一陣の道を、ふたりで進む道筋を切り開くセリオスとアレクシス。
 何時もこうして道をふたりで切り拓き、進んだのだから。
 何も憂うことはない。怖がることはないのだと。
「ん、いくぞ。アレス」
「そうだね。行こう、セリオス」
 道は開かれたのだからと、どちらともなく手を差しのばして握り合う。
 決して分かたれることはないのだと。
 信じ合い、願いあい、誓い合うように絡まる指先。
「なあ、アレス。この世界の闇は晴らせると思うか? 夜明けは来ると思うか?」
「難しいね、セリオス」
 自分たちが断ち、散らせたアザミの紋章と人形たちを見つめてアレクシスがつぶやく。
 けれど、その声はとても柔らかい。
「けれど、僕がセリオスの朝焼けであれるようにと願う限り、誰かにとっての夜明けはあると思うよ」
「そっか。それなら」
 ならと切なく、きゅっと指に力を込めるセリオス。
 手で、指で、腕で肌で。そうして触れられない願いほど尊いから。
 大事にと抱く、思いがあるから。
「この世界にとっての夜明けも見つけてやろうぜ。だって、さ」
 笑うセリオスはどこまでも美しく。
 闇に囚われていた影など、もはや匂うことさえない。
 アレクシスの、前ならば。
「――きっとこの闇も、趣味の悪さも。夜明けのような大切な何かを、知らないか見失ってしまったからだろ」
 そして、どうしようもない程に喪ったというのなら。
 みんながみんな、私のように傷だらけになれと願うのなら。
「俺たちが、夜明けになろう。……此処の魂人も、そのぬくもりの記憶は忘れていないはずだから」
 だから行こう。深き夜の道の先を。
 どうなるか知らず、歓喜する禁獣の悪夢を知らずとも。
「俺たちなら、きっと……」
 セリオスの言葉は続かない。
 けれど、声を聞けばアレクシスには伝わるのだ。
 夢物語でも。
 ふたりなら奇跡のように、叶えられるから。
「そうだね」
 柔らかく微笑むのは、相手に見せる心そのままに。
 闇の裡で、優しいひとときを交わらせるセリオスとアレクシス。 
 そうして、異貌の悪夢が元へと臆すことなくふたりで歩を刻む。
 救う為に。
 いつか、ふたりが互いを助ける為にそうしたように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クロム・エルフェルト
無駄に痛苦を与えず命を絶つは
剣士の慈悲だとお師様は仰った
そして相手の裡に己を見つけ、その己を斬るのだとも

アレが死に急ぐ自分だとするならば
はて、私はどんな風に討たれたいのだろう

 ――剣と呼吸を合わせよ
 ――手の内に在りて尚、剣が自在であるように
急ぐからこそ初心に立ち返り、お師様の言葉を脳裏に起こす
お師様の見せて呉れたお手本は正しく "弐の太刀要らず" だった


多数に▲先制攻撃仕掛けるならば、より速く駆ける必要がある
「流水紫電」を励起させよう
但し九十九折りを下る織り水で無く
木々や集落を呑みつつ奔る|蛟《あばれりゅう》の勢いが欲しい
▲不意打ち気味に▲ダッシュ、縮地めいて次々にUCの間合いに入り
鍔鳴りに込めた▲催眠術で刹那に隙を晒させ
至近距離から放つ▲早業のUCで確実に頸を▲切断したい


触れる事は勿論、風も、時には音さえ立てず
何の前触れも無く頸を墜とす
屹度地に墜ちてから尽命を知るのだろう

故に此の、壱の太刀の名は『椿』
物淋しい手向けの華で申し訳ないけれど
急ぐ身故押し通る



 深き闇に棲まう者どもに心はあろうか。
 己どころか他を思うこともなく、ただ享楽にと耽る者たち。
 いいや、目の前の人形たちなど自分が傷つき、果てることさえ考えないのだ。
 他者と己を同一に見るという、当然の他への義たる思いなく。
 自らがどうなりたいか。そのように未来に思い馳せることもない。
 まさに無明の闇に棲まい、溺れる者たち。彼ら彼女らに、幸いなる先などあるはずもないのは道理のこと。 
 されど。
 そんな者たちを前にして、深く想うものがいる。
 刃に心を移し、刹那に駈けるからこそ魂を尊ぶ者が。
 微かたりとも羞じぬようにと、他を視て、移して、想いて初めて立つ剣士が、嗚呼、と吐息を零した。

 アレが死に急ぐ自分だとするのならば。
 はて、私はどんな風に討たれたいのだろう。

 そんな問いを胸で繰り返すはクロム・エルフェルト(縮地灼閃の剣狐・f09031)。
 藍の双眸は美しき鋭利さを以て、ただ前を見据える。
 闇の者ども、化生というにも空虚なる人形を、愚かと切り捨てはしないのだ。
 それでも命を持ち、生きているからこそ、彼女らの戯れ言を誠として受け取っている。
 優しく殺めてくださいませ。
 そう悪趣味に囁かれたものを、懇願と受け取って、思い、悩み、考え抜き続けるクロム。
 無駄に苦痛を与えず命を絶つは、剣士の慈悲だとお師様は仰った。
 そう振り返るのは、やはり斬ると定めた刃に己の心を写すからなのだろう。相手と己の魂を切っ先に宿し、斬り合いて果たし合う。
 勝ちて残るのは只独りなれど、負けて散る者の心も無碍などせぬように。
 誠意を持って、誇らしく最期を果たせるように。
 それは確かに慈悲であり、同時に矜恃でもあるのだろう。
 自分たちに斯く在れと定めるが故に、迷うことも躊躇うこともなく死線へと足先を踏み出せる。
 そうして、相手の裡に己を見つけ。
 生きようとする心を、死を求める心を斬るのだ。
 生きようとする自分がいるように、生きようとする相手がいる。
 それを殺すのは自らであり、また死中に活をと求めて脈動する情念も。
 いわば、死に向かう者の心のひとしずくを掬い上げるということ。その上で、殺めるということ。
 剣士たる者が目指す夢想の如き生き様は、常人では呼吸さえ出来ぬほどに清冽に過ぎる。
 それでもと。
「私は……そうだ、進もう」
 刻祇刀・憑紅摸の柄に白魚のような指を這わせて、息を零すクロム。
「斬り合い、傷つけあい、血を流し続ける修羅道の闇など、ご免被る」
――剣と呼吸を合わせよ
「そして、その裡に君たちが、たとえ操り人形であっても居続けることも、悲しいと思うからやはり認められない」
――手の内に有りて尚、剣が自在であるように
 斬りて進むと決めた以上、そして人形たちに憐れみを思うからこそ。
 急いて逸る気持ちを宥め、かつてお師様が告げて見せてくれていた初心の頃へと立ち返るのだ。
 呼び起こされる言葉の数々は、剣を奮うのではなく、握り続ける為のものたち。
 太平の世をと目指した剣は、何も修羅を肯定する狂乱の刃ではない。
 だからこそ見せられたお手本は、正しく『二の太刀要らず』の静寂の剣。
 あれを自らが奮うのだと。
 痛みも苦しみも、そして闇が間に入り込む暇もなく。
「――斬る」
 くすくすと人形たちが笑う気配を穏やかなる精神より捨て去り、クロムが全力を以て疾走する。
 紫電纏うクロムの足下に、水飛沫の如き蒼い粒子が舞う。
 足音ひとつ響かせず、それど疾風よりなお早く翔るはクロムが誇る足捌の秘奥。
ただし、此処で現れるのは九十九折りを下るが如き勢いを以て。
 さながら土砂、岩に木々、村々を飲み込んで奔る蛟。
 一度目覚めた暴れる龍を沈めるのは、誠実なる心のみなれど。
 そのような明鏡の如き剣士の精神、持ちうる者は人形たちにいるはずもないのだ。
 右へ左へ、荒れて揺れて、されど更に速度を増して研ぎ澄まされて。
 人形たちの視線、瞳に動きすら追いつかず、クロムの残像さら捉えなくなった瞬間。
 更なる加速を以て駆け抜け、縮地の技法を以て一息に懐へと飛び込むクロム。
 されど、懐に入られた人形は未だ気づかず。
「――――」
 ちりんっ、と。
 クロムが奏でる鍔鳴りに込められた、優しき催眠の技ばかりが人形の心に届く。
 浮かぼうとした笑みは何故だったのか。
 闇に澄みて生きるものが、クロムの技の裡で剣に宿る光でも見届けたのか。
 定かとなる言葉は、ついぞ出ず。
 ただ刹那をも断つが如く、鞘より放たれる剣閃が放たれる。
 なんと静謐なる一太刀か。
 風が吹き抜ける事もなければ、乱れる空気もない。
 剣先は確かに人形の頸を捉えたというのに、零れる音色のひとつさえないのだから。
 なんとも疾みやかにして、精密なる一太刀か。
 まさに無想の太刀。だが、それは命を刈り取る死の一閃なのだ。
 クロムが流水紫電の足捌きをもって横手へと滑り抜けるや否や、後を追いかけるように冷たい風が吹く。
 そして、すべてが終わった瞬間にぽとりと。
 すでに終わっていた事を思い出したように、人形の頸が地へと落ちる。
 ああ、夢の終わりのように静かに。
 悪い夢ならば、余韻も残さず散るようにと。
 頸斬り落とされたすぐ横の人形も何が起きたか解らず、激流の様を見せたクロムの本体を探すだけ。
 きっと斬られた者も地に首を落として、初めて尽命を知るのだろう。
 故に。
「此の、壱の太刀の名は『椿』」
 首を落とす様は美しくも儚く。
 されどその瞬間まで凛と咲き誇る花の名。
 武士の生き様だと語り、あるいは、死に姿だと静かに伏せられるそれに。
「物寂しい手向けの華で申し訳ないけれど」
 或いは、これでせめてで、そして最大の手向けなのかもしれない。
 生きても死んでも、深き闇にて生まれた人形たちは歓んでしまう。
 傷つけ、傷つけられ、それを優雅な舞踏会の一幕のように語るのだ。
 死する瞬間すら求める夢のように。
 狂っている。捻れている。壊れている。
 不幸を転がし続けて、思いと心を磨り潰して。
――もしかしたら、人形であれ自分もそれを抱けたかもしれない希望を、血で染め上げるなんて。
 そんな心、クロムからすればなんとも痛ましいから。
 けれど、それを糺す言葉も暇もないから。
「急ぐ身故、押し通る」
 紫電が瞬くように速やかに。
 流水が過ぎ去るように静やかに。
 そして椿の名の如く艶やかに。
 鍔鳴りを幾重にも重ねて通り過ぎたクロムが、長い吐息を零しながら憑紅摸を鞘へと戻す。
 しゃらりと。
 穏やかな音色が奏でられれば、それが人形たちという悪夢の終わりの合図。
 はらり、はらりと。
 幾つもの人形の頸に奔るは刃の跡。
 あまりの鋭さと早さに、斬られた線を見せてもなお生きて動こうとする人形なれど。
 クロムへと追いすがろうと振り返った瞬間、皆がその首を落としていく。
 悪夢の百花が散るが如く。
 一刃を以て、切り進んだ道を示して。
 活人剣を用いて誇りと為すクロムが見せた殺人の技。
 されど、それは心を守るため。救いを求むひとがため。
――などと、自らを欺けるならばクロムはこうもまっすぐに生きてはいない
「ああ」
 けれども、何と遣る瀬なきことかとクロムは嘆息する。
 人形たちは落椿のように、皆が皆してその首を堕としたけれど。
 それはとても優しく、鋭いクロムの慈悲の心が為したものなれど。
「おまえたちは人形だからと」
 踏みしめる大地の先にあるのは、更なる闇と悪夢。
 笑うように揺れる歓喜の気配に僅かにクロムの尾の毛先が揺れる。震える。
 死神と相対するがまだマシだと、剣士の本能が継承を鳴らしている。
 それでも進み、唇が形続るのは手向けの言葉。
「――心が持たないはずはなく、きっと光も信念も」
 誰かに教えられれば。
 或いは、自分と他人を分け隔てて。
 その他人を己より尊ぶような出会いがあれば。
「大切なひとがいれば、違ったのかもしれないね」
 ただ速やかに屠るが刃も、誰かがを救う為。
 そういった信念、矜恃を持たぬ空虚な人形たち。
 ある意味ではなんとも愚かで、そして悲しい姿。
「もしも終わりの先が骸の海であるのなら、こんな寂しい刃の花ではなく」
 からん、と闇の大地に。
 禁獣の領域に下駄の音を響かせて、クロムは囁いた。
「愛おしい花を、見つけられるといいね」
 こんな闇ばかりの世界が始まりで終わりなど。
 そんなものは花にも、心にも。
 ひとにも人形にも似合わないはずだから。
 一振りの刀の鞘や鍔に凝らされた、花よ蝶よ、月よ鳳よ。
 それは剣先が別ける闇の先に、求むものを刻んだものだろうから。
 或いは、還りて辿り着く場を示したものだろうから。
 憑紅摸の鍔を囲む紋様に、クロムは僅かに視線を落とした。
 






 さあ。

 志は斯くもありしきものたちが。
 いざいざとと闇に挑むものなれど。

――なにそれ、すごいすごい!

 ぎょろりと動く瞳は、『すべて』を視て歓び続けていた。


――そんなすごい君たちの願いって、なぁに?

此処まで視て歓び、されど共感の持ち合わせぬ怪物と出会うまで、あと僅か……。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『禁獣『歓喜のデスギガス』』

POW   :    デスギガス蹂躙
【闇色のオーラ】を纏い空中高く舞い上がった後、敵めがけて急降下し、[闇色のオーラ]が尽きるまで【腕の振り回しとビルによる踏み潰し】で攻撃し続ける。
SPD   :    歓喜の笑い声
戦場全体に【精神を蝕む耳障りな笑い声】を発生させる。レベル分後まで、敵は【精神破壊】の攻撃を、味方は【デスギガスだけは快く感じる笑い声】の回復を受け続ける。
WIZ   :    喜ばしき忘却
【デスギガスの漆黒の肉体】に触れた対象の【記憶】を奪ったり、逆に与えたりできる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●断章~すごい君たちと、すごい僕と~




 何故、これほどに巨大な奈落を見逃していたのか。
 声は絶望。存在は悪夢。思念は歪んだ幼い歓喜を以て、猟兵たちを迎える。

「こんばんは、すごい君たち!」


 ぎょろりと動く目玉。
 子供のように上下に奮われる手。
 異貌の姿は数百メートルを超え、いわば動く城塞だ。
 だというのに、その一線を踏み越えるまで存在を関知できなかった。
 笑うように揺れる悪夢の気配は確かにあったが。
 それはどこまでも薄められたものなのだと、どれほどに闘志と戦意を燃やした心でも震えてしまう。
 復讐。怨念。或いは希望と信念?
 すべてを無視して笑う巨大な邪悪に、そんなものは通用しない。莫大な闇に、花火をくべても色も光も刹那のもの。
 これが禁獣、『歓喜のデスギガス』。
 出会う事自体が災厄そのものである彼が、童のように猟兵たちを歓迎している。

「あのね、あのね! 禁領にはいってからみんなを視ていたけれど、すごかったよ。すごったから、わあわあっ、て言って、この子を『みんなみたい』にするのを忘れちゃってた!」

 すごいね、すごいねと何度も褒めてくるデスギガス。
 その足下で怯え、震え、尽きることの涙を絶望と恐怖で流し続ける魂人の少女。

「そう、『この場のみんな』みたいにね!」

 そんな魂人の少女の安全を確保し、猟兵たちが確保しながら、デスギズカに言われて気づく。
大地に、顔があった。 
 花には唇があって、石には耳があった。
 絶望と恐怖で暗くよどんだ瞳が、それでも助けてと泥と一体化したまま、猟兵たちを見つめていて……。


「死なないように、誰かが助けてくれるまで壊れないように、この大地、この禁域の庭と一体化させたの! すごいでしょう、僕!」

 きっといずれ、誰かが助けてくれるからね。
 それまで絶望して待っていようねと、大きな手のひらで人面の浮かんだ大地を磨り潰すデスギガス。
 ああ、ここまでして――デスギガスに邪気はない。
 心の底から、魂人たちが助かる方法として、助けられるまで大地と一体化させるという方法をとったのだ。
 そして……今、猟兵たちに彼らを救う方法も。
 デスギガスを倒す方法も、ありはせず。

「それで――すごい僕への、すごい君たちの願いは? あ、だめだよ」

 駄々をこねるように足を動かしただけで大地が揺れる。
 巨大な質量のみならず、裡にある混沌とした力そのものが世界に波及していく。
 これを怒らせたらどうなるのか。
 それはいうまでもなく、破滅への一直線。
 
「その子は僕のものだから、連れて行くのはだめっ。あと、僕を滅ぼしたい、傷つけたいという願いも、僕はいたいのは嫌だから、いやだなぁ」

 小首をかしげるように天空を見つめたデスギガス。
 隙だらけではあるものの、放たれる一撃が遊びであっても破滅を呼ぶ。

「その上で君たちの願いはなぁに? 僕、願いを叶えるの大好きなんだっ。あ、心が読めるから喋らなくてもいいよ!」


 その上でと。

「さあ、追いかけっこしようか? 僕が満足したら、その子を連れて逃げてもいいよ!」


 怯えきった魂人が全力で走れるはずもなく。
 魂人の少女を抱え、交代で殿を努めて逃げる時間を稼ぐしかないのだ。
 或いは、そうしてデスギガスを満足させるしか。

「すごいなぁ、やっぱり君たちは。こんな状態でも、いずれ僕を倒すって決めているんだから! あれ、それは僕が倒されるってこと。いやだなぁ、いやだ、嫌だ嫌だ嫌だ!」


 瞬間、童の癇癪めいたものをまき散らして。

「嫌な気分を忘れるぐらい僕を楽しませてよ、すごいひとたち、すごい猟兵たち!!」


 猟兵たちへと、デスギガスの関心が移る。





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 第三章は特殊ルールが絡みます。ご注意を。
 また、第三章はデスギガスに絡みたい、因縁をつけたい(戦争で出るかもしれないなど)というねこの章だけの参加者も歓迎です。
 できる限り対応させて頂きます。
 一方でデスギガスの叶える願いに私の趣味が混じりますので、ご覚悟のほどはお願いいたします。


特殊ルール
1.
 デスギガスは現在、倒す方法が見つかっておらず、討伐は不可能です。
 加えて、あらゆる攻撃が悪夢のようにねじ曲がって、デスギガスを攻撃したものへと反射されます。


2.
 ですので、殿を交代する形で交互にデスギガスに対峙するひとを変え、時間を稼ぎながら撤退する必要があります。
 場合によってはデスギガスが夢中になって、攻撃が止まることもありますので、真っ向から戦う以外の選択肢もはいってくるでしょう。
(魂人はなんかとか、全力で逃げるのは無理ですが自力で撤退可能です。補佐や精神的なフォローがあればなおよいですが、まずはデスギガス対応が第一)


3.
 デスギガスは人の心を読み、その願いを叶えるのが大好きです。
 それに耽っている最中は攻撃を止めることもありますし、願い(心情)を感知すれば魂人への追撃をやめ、そのひとへの対応に全力を出します。その時は自分が何をしていたかも忘れるでしょう(魂人の追撃も含めて)
 ただあくまで、デスギガスの読み取った形での願いの再現。
 拗くれ、歪み、元の形や望んだものではないものを、デスギガスが勝手に願いとして叶えますので、最悪の形や正反対の形で出るのが常です。
 都合のいい物は出ませんし、プレイングで指定されても『そのまま』であるとは限りません。
(プレイングでデスギガスが叶える願いと指定されても、そのまま100%ではありません。もっと悪くなると思ってください)

 ただ心情や願いなしなら、そのまま全力で攻撃してくるか、魂人への攻撃or願いを叶えるに動いてしまいます。
注意を引く意味でも、悪趣味なデスギガスに『付き合ってあげる』必要があるでしょう。


4.
 魂人の生存は成功判定などに一切関知しません。
 いきなりひとつめの判定で死亡することもあります。
ネリー・マティス
聞いたよ!聞いたよ!君、すーっごく強いんだってね!心を読めて、相手を思うがまま創り変えられる!
実は……興味があるんだ。見ての通り恵まれた肉体のわたしだけど、この肉体に生まれてなかったらどうなっていたか。どこまでわたしは後から変われるのか。
さあ!【がっぷりよつ】で組み合おう!このわたしをどこまで変えられるか。君の「可能性」を、わたしの恵まれた肉体で見せてみなよ!!
ぶん回し、潰され。なぜそこまでやれるのか、と聞かれれば……やっぱり、興味かな。自分が、あるいは君がどこまでできるのか。ああ、ドキドキする。これこそわたしの「本性」なのかもしれない。
さあ、君が興味をなくすまで。いくらでも付き合おう。

──「筋肉」を鍛えるのは、狂気と紙一重だ。
自分を痛めつけるほど、高みへと登れるのだから。

(どんな醜い肉体改造だろうとOKです。)



 笑う悪夢の気配が世界を揺らす。
 敗退と死のダークセイヴァーにあってなお、さらに異質めいた存在。
 ぎょろりと大きな眼を動かし、到着した猟兵たちへと拍手をおくる。
「すごい、すごいっ。お友達になってよ」
 一切の悪意、邪念なしに破滅を呼ぶ存在。
 それが歓喜のデスギガス。こんなモノに叶えられる願いの結末など、拗くれ曲がって役になど立つまい。
 だが、それでも。
 それでもと願うのは、危機感の欠落か、それとも過ぎたる願望か。
「聞いたよ! 聞いたよ!」
 あくまで少女として、純粋に瞳を輝かせるのはネリー・マティス(大きな少女・f15923)。
「君、すーっごく強いんだってね!」
 童顔でありながら、筋肉隆々の戦士の身体をしているネリー。
 彼女が求めるのはどこまでも求めるのは、強さというべきもの。
 故に、デスギズカという存在はある意味において無視できないものなのだろう。
「心を読めて、相手を思うがままに造り変えられる!」
 現状、絶対に斃せない禁獣。
 それだけではなく、他者の思考を読み願いを叶えるという悪魔めいた力。
 ああ、ならばどうなるのだろう。
 心躍るのをネリーは止められない。
「実は……興味があるんだ」
 心が読めるはずのデスギガスは、すでに知っているネリーの言葉を遮ることなく、むしろ促すようにと手を上下に振り続ける。
 なんとも無垢に遊ぶ子供のようで。
 異形の化け物、無尽の力を秘めた闇の種族。
「実は……興味があるんだ」
 そう言ってネリーが示すのは己が肉体。
 鍛え上げられた筋肉を誇示し、けれどまだ足りないのだと赤茶色の瞳に羨望とも憧れともつかない光を灯す。
「見ての通り恵まれた身体のわたしだけれど、この肉体に生まれていなかったらどうなっていたのか」
 ぐっと握りしめる拳は、それだけで岩をも砕けよう。
 踏みしめる脚は或いはその怪力で鋼さえ歪ませるかもしれない。
 ああ、でも。
 足りない。足りない。
 まだ、先があるのだと信じるが故に果てなく強さを求める。
「どこまで――わたしは後から変われるのか」
 そうやって闇に響くネリーの声に、じたばたと動きながらデスギガズが応える。
 そうか、そうなんだと。
 純粋な善意をもって、現実が締め上げられねじ曲がっていく。
「つまり、自分の可能性をみたい。広げたいんだね!」
 それは凄いことだよ。
 求道者の見る、果てぬ夢。
「自分が変わっても、どこまでもどこまでも積み上げられていく強さ、筋肉、そして……ああ、それを叶えたらお友達になってくれる?! あ、心が読めたから応えなくていいよ!」
 ここに悪魔との契約は成った。
 どのようにという制約のないものは、一方的な悪魔の押しつけであっても。
「さあ!」
 ネリーは腕に、脚に。身体の全体に黒い鱗粉を纏いながら。
 暴走するような力の奔流、飢餓めいた衝動と脈動、そして裡にて荒れ狂う何かの気配に。
 脚を地面に突き立て、腰を落としてネリーは構えた。
「――【がっぷりよつ】で組み合おう!」
 一秒、一秒ごとに自らが造り変わっていくのを感じる。
 血は灼熱。筋肉は強酸。骨は流動する金属。
 ああ、違う。これは自らが自らを捕食しながら更に進化しているのだと直感で知りながら。
 今のネリーの身体を説明するならば、もっとも原初的なアメーバやスライムに近い。単一構造からなる生物で、触れたものを捕食しつづける。 
 人体としての形を保っているのが偶々なのか、それとも、それさえデスギガスの叶えた願いなのかは知らずとも。
「うん、筋肉のおともだち!」
 地面を鳴り響かせ、揺り動かし、デスギガスが闇色のオーラを纏って跳躍してネリーへと激突する。
 通常ならばそれだけで四肢は砕け、残骸がちらばるだけだろう。ただの力任せ、だからこそ恐ろしいデスギガズの遊び。
「は……はは……っ」
 ネリーが見たのは両腕が爆散するように消えながらも、次の瞬間には再生している悪夢じみた光景。
 再生、いや復元といっていいだろう。あらゆる細胞、体液が同一存在ならば、それぞれが元の形へと復元する。
 さながら液体金属で出来たロボットのように。
 もうこんな有様は、人類の範疇から超えながらも。
「このわたしをどこまで変えられるか」
 恐れや戦慄はネリーには一切なし。むしろ真っ正面からの突進をもってデスギガスを後退させる。
 その一瞬のうちに四肢を三度は自らの力で粉砕しながらも、それ以上の再生力と怪力で突き進むネリー。
 これほどのエネルギー。
 肉体を変貌させられたというよりは、何かネリーの裡なるものを燃やしながら繰り出しているというほうが正しい。
 そう、例えば自分自身を喰らい、その力をすべて放出しているかのような、死への一方通行。
 それでも最期の刹那だからこそ、その光は最期の輝きを一際強めるように。
「君の『可能性』を、わたしの恵まれた肉体で見せてみなよ!!」
「うんうん!」
 闇色のオーラ―を纏い、空中で巨大な腕を振り回すデスギガス。
 あくまでデスギガスによる、ある意味での恩恵。ネリーの自力と合わせてもデスギガスは超えられない。
 振り回される腕に弾き飛ばされ、押しつぶされ。
 それはさながら巨竜の戯れにと弄ばれる鞠。
 デスギガスの豪腕で数十メートルを吹き飛ばされたかと思えば、続けて墜ちるビル群れによる蹂躙。
 弾けたのは肉体であり、血肉。押しつぶされたのは骨であり臓器。
 それでも僅かでも余裕があればネリーは再び正面から突撃し、デスギガスを後退させるほどの衝撃を打ち込む。
 上空にあるデスギガスの身体が激震をもって後方へと流れる。だが、それは城塞を身ひとつで揺るがし、動かしたという事に他ならない。
 脚部にはえているビルのひとつひとつが、堅牢なる塔よりも大きいというのに。
「ねぇ、ねぇ、楽しい??? どうして楽しいの???」
 まるで子供同士がぶつかり合うような。
 それでいて周囲ごとに破滅を呼ぶような力と力の激突が、大地に亀裂を走らせる。
「……やっぱり、興味かな」
 ようやく、ネリーも自らへの違和感に気づきながらも。
 それでもと全力をもって果敢に挑むことをやめない。
「自分が、あるいは君がどこまでできるのか。ああ、ドキドキする」
――ドキドキするよねぇ、高め合うお友達って。
 周囲が見えなくなるまで、相手しか見えなくなるまで。
 そうして更なる高みと可能性を見いだすために。
「これこそわたしの『本性』なのかもしれない」
――うんうん、素敵だねぇ。とても、とても純粋なヒトだねぇ。
 この歓びと高鳴りが、ネリーのものか、デスギガスのものなのか判別がつかなくなり。
「さあ、興味をなくすまで。いくらでも付き合おう」
 またも奮われるデスギガスの巨大な腕。
 右の半身が挽肉となりながら、ひとつと数える前に復元してネリーはデスギガスに挑む。
 筋肉を鍛えるのは狂気と紙一重だ。
 自分を傷つければ傷つけるほど、高みへと至れるのだから。

 だから。
 ネリーが気づいた瞬間、デスギガスが歓ぶようにその両目を動かす。

「ね、ね、ね! その自分の身体どころか、心と魂を食らって、更なる存在に成り変われたら、素晴らしいよね。――最後は君なんてもの、かけらも残っていないけれど、きっと関係ないんだもんね」

 再び降り注ぐデスギガスが放つ破壊の蹂躙。
 果たして自分を喪ってなお、更なる可能性が見たかった。
 自我というべきものを抱きつつ、ネリーは自らの可能性の先を見たかったのではないのか。
 筋肉も肉体も瞬時に復元しても、その裡に何も詰まっていないのならただの肉の袋。そうなりたかったのかとネリーは自問するも更に腕を加速させながら振り回すデスギガスの前では応えなどではしない。
 あくまで善意ながら、悪夢の集合体であるデスギガスは笑う。
 これが願いだよねと。
 どんどんと力を振るえば振るうほど、自分を喪っていくネリーに。

「君が、君を残したいぶんだけ付き合うよ! 怖くなったり、諦めたら逃げていいからね!」

 壊してねじ曲げる悪夢が|祝福《のろい》を贈った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロム・エルフェルト
◎色々ご自由に

 いずれは地に囚われたきみ達の事も、必ずや。

撃破は叶わぬ故、少女を抱き上げ
▲ダッシュや跳躍で攻撃回避
急いでUCで召喚した馬の背に乗せ駆けさせる

 掴まっているだけでいい!
 手綱を離さず次の猟兵の元へ!

任せたよ、|白石鹿毛《カゲマル》

死神よりも尚、分が悪い相手と対峙する
覚悟は――そんなもの
彼の人が下らぬ石子を拾い上げてくれた時から
彼の人が死の闇に沈む私を焔で掬ってくれた時から
疾うの昔から決めている
心が読めると彼奴は言ったけれど
敢えて声張り上げる

 願いを叶えると言ったね
 ならば骸の海に堕ちた者共を
 穢された魂を須く斬り祓って救う
 そうだ
 救う為の剣を
 私の|瞳《め》に灼き付けてみせよ

「流水紫電」、脚への負荷を無視して最大励起
▲残像曳く程の縮地の▲ダッシュ
更に今迄の▲戦闘知識を総動員した上で
拍を崩して▲先制攻撃
▲受け流しと同時に▲カウンターの返し刀
何に相対しても揺らがぬよう心の備えもする

願いをどう歪めて来たとしても
悉く斬り抜けて活路を拓いてみせる
其れこそが剣に生きる者の生き様だから



――いずれは。
 故にと剣に生きる凜々しき仙狐は全力で駆け抜ける。
 唇から苦しげな言葉を漏らしても、今すべき最優先へと向かうがため。
――血に囚われたきみ達の事も、必ずや。
 そこに逡巡はない。迷えば散るという戦の掟を心得るから。
 撃破は叶わぬ。太刀打ちさえ儘ならぬ。
 ならば救うべき少女を抱き上げ、跳躍するや否や大地に落ちる巨大な腕。
 割れた大地の岩盤の欠片が背後に突き刺さるが、なおも加速して戦域を離脱しようとする。
 いいや、走るだけでは無理なのか。
 ならば。
「捕まっているだけでいい」
 狐が少女が腰に差す刻祇刀より炎が渦巻き、形を成していく。
 気高き嘶きを響かるは世にも希なる名馬にして、かの第六天魔王と呼ばれた将の愛馬、|白石鹿毛。
「手綱を離さず次の猟兵の元へ!」
 馬も声に応えて魂人の少女のみを乗せて疾走する。
 一瞬、一秒が惜しい。速やかなる撤退こそが唯一最善。
 金ヶ崎の退き口でも、かく逃げに徹して走るまい。
 本気でデスギガスが暴れれば、全滅だけが残る結果。ならば、そうならないようにと立ち回るのはさながら、怒りを燻らせる龍神に相対するかのようなもの。
「任せたよ、|白石鹿毛《カゲマル》」
 そういって深く息を吸い、静寂なる藍の双眸をゆっくりと細める。
 最大の戦力である筈のユーベルコードを救うべき少女の離脱に使い、自らは引き抜いた一刀のみを持ってデスギガスと対峙する。
 そんな絶望、悪夢めいた状況にあってなお、常と変わらぬ静けさ、穏やかさ。
 揺れて、震えることなどない佇まいは手に執りし怜悧なる刃のよう。
 そう。魂人の少女は、自らを助けた狐の女の名を知ることなく次へと託されたのだ。
 それでよいのだと。
 自らが願いは、この刃にて結ぶのだと。
――きみが生きている、それが望みに繋がる筈だから
「さて」
 これこそが刀に心映す者、クロム・エルフェルト(縮地灼閃の剣狐・f09031)。
 破滅の風が吹き荒れようとも、心の水面にひとつの波紋も浮かばせない。
「デスギガス――お前を止めてみよう」
 此より先は死に神よりも尚、分が悪い相手と対峙する。
 まだ騙す事や、倒す事ができる。或いは、心をもって約束を果たすぶんだけ死に神が善いだろう。
 龍ならば刃に訴えられるし、神に並ぶ者はひとの心に揺り動かされる。
 だがデスギガスは悪夢そのもの。捻れ、狂い、歪んだ想念と知識の元に、純粋な善意で破滅をばらまく。
 だとしても――覚悟は何時もと変わらずそんなもの。
 切っ先を向ける相手がどうあり、強い弱いや性質で態度を変えるクロムではありはしない。
 強いていうならば悲しき骸の残骸に心あるならば憐れみを。
 太平の世を乱す修羅の刃ならば、そっと一息に覚悟を込める。
 いつも、いつも、覚悟は――そんな静かなもの。
 彼の人が下らぬと棄てられた石子を拾い上げてくれた時から。
 彼の人が死の闇に沈む私を炎で掬ってくれた時から。
 つまりは、疾うの昔から決めている。
 不変なる者にして、不滅なるものとして魂に皓々と灯されているのだ。
 今更にして横から何が現れようと、変わる余地などありはしない。
 心が読めるという。
 ああ、ならば何故に真水の如き澄み切った精神で相手を映せぬのか。
 それが悔しく、悲しく、また痛ましくて、そんなものに頼らせぬとクロムは敢えて声を張り上げる。
「願いを叶えると言ったね」
 清冽なるクロムの声は、鈴の音の如く禁域の闇に響き渡る。
 続くは氷が砕けるが如き、清く美しき刃金が鞘を滑る音。
 抜刀をもってクロムは風を纏い、月灯りを受けて澄んだ刀身をデスギガスへと掲げてみせる。
「ならば骸の海に墜ちた者共を」
 クロムが奮う剣は美しい。
 それはひとつの志を以て、生と死を別けるものだから。
 自らが奮っているものは、ひとの心だと識っているから。
「穢された魂を須く、斬り祓って救う」
 いいやと、ゆらりと剣先を泳がせて描くは三日月。
 斬る事に本懐を置くのではない。
 斬り、壊し、殺すことなど求めるものではないのだ。
「そうだ」
 例え、この身が尽きてもなお燃える願いの篝火として。
 託し、繋がれ、紡がれていくものこそ平和という希望だと思うから。
 太平の世は、一刀のみを以て為せるものではないのだ。
――だからこそ、お師様は私たちに託そうとしたはず。
 そう信じたいからこそ、より鋭く、裂帛の気勢をもってクロムは声を張り上げた。
「救う為の剣を」
 お前には決して出来ないだろう。
 救う為にある腕、そこにある痛みと優しさを持たぬ悪夢では差し出せぬから。
「――私の瞳に灼き付けてみせよ」
 痛みが嫌だというならば。
 優しい思いの色彩に包まれて生きたいという心、解らぬか。
 悲しみと孤独は、同じ痛みだというのに。
 故にデスギガスが首を傾げ、何かを考えようとしているが全て無視する。
 惑い、考えるならば行幸。それが改善に繋がらぬならば、救う為に斬りて時間を稼ぐ。 
 そう。
――|デスギガス《おまえ》から救う剣を、私の瞳に。
 故に、クロムの足下で限界を超えて弾ける紫電。
 蒼い粒子も周囲に舞い散らせながら、足音ひとつ立てず、されど神速の足捌を以てデスギガスへと迫るクロム。
 脚を初めとする全身への負担など無視。限界の先へと求める心が脈動し、握る憑紅摸に更なる鋭さを宿させる。
 蒼い粒子を残像の尾として曳くは縮地の技。音速を超えるが故に、奔り抜ける瞬間は静謐そのもの。
 故に捉えたと単純にデスギガスの懐へとは至らない。
速さに驚き、巨大な眼を左右に動かすデスギガス。戦闘姿勢や構えなど一切持たない相手なれど、生き物には呼吸がある。
 故に今まで斬った者たちとの過去を総動員した上で、デスギガスの思考の拍を崩し、意識の死角を付いて強襲するのだ。
 脚を駆け上がってクロムが身ごと奮うは神速の斬閃。
 勢いを乗せた斬刃が瞬いた直後、音の壁を裂いた、まるで硝子が割れ崩れるような音が響き渡る。

――手応え、感触……共になし。
 ならばこそ、幾重にも重ねるのみ――

「わぁ!」
 デスギガスが歓ぶような声を上げる間に、クロムの鋭刃にて叩き込まれた斬撃の数は十を超える。
 闇雲に剣を奮ったかのような虚空を裂くが如き感触。むしろ、空振りして刃が届いていない方が自然だと思うような違和感。
 確実に先制し、無防備の儘に意識と生物としての急所を捉えたにもかかわらず、露を払ったような手応えのなさ。
 されど、デスギガスが何を呼びて相対しても揺らがぬという心の備えと共に、受け流しへと備えられた憑紅摸は後の先を期す。

――斬れずとも剣を奮うのみ。
 己に出来る事とは其れのみ、そして、其れを以て未来を引き寄せる――

 それぞクロムの剣の常にして情。
 斬るのではなく、奮った後に望むものを導くこと。
 ただ無闇に屍を転がす事が望みな筈がないのだから。
「すごい、すごいっ。すごく綺麗な刃っ!」
 だが動き出したデスギガスが示したのは闇色のオーラを纏った上空への飛翔。
 憑紅摸の刃が届かねば何も出来ないという単純な上空への距離、間合いの外。しかもデスギガスは対空し続ける。
 いや、だからこそ先制をせねばクロムは文字通り、刃をひとつとて届ける事は出来なかっただろう。
 はしゃぐように四肢をばたつかせるデスギガスは、これより悪夢の本領を見せる。
 闇色のオーラが手に収束し、形作るのは一振りの刀。
「キミの願いは……太平の世が為の剣、だね?」
 悪夢が現実へと滲み出すように、ぎょろりと巨大なデスギガスの瞳が動く。
「きっと僕にも無理なその剣は、キミが奮うべきだ。キミが奮って、キミのお友達に灼き付けるべきだ――斯く、共に在れと願うためにね」
 デスギガスの声が老人のものへと変質していく。
 かつて。
 拾い、育てて、教えてくれた彼の人のように。
「ならば、まずは過去の太刀。自らの裡より悪夢が溢れる様、断ち切って見せよ。『何れ相見える我が弟子』」
 そして、兄弟子たちを屠ったあの日のように。
 血色に染まったかのような老人の声と共に奮われる殺人剣。
 見えざる太刀筋にて走るは頸断ち。
 諸手を以て奮い、相手の太刀筋ごと切り伏せる龍の如き一閃。
 どのように願いが歪んで来たとしても、もとより真っ向より斬り抜けて活路を拓く。クロムの精神がそう定まっていなければ、握る憑紅摸ごとデスギガスの奮う『老人の太刀筋』は切り捨てていただろう。
 無傷などでいられない。
 それでも。
「――お師様を……!」
 受ける憑紅摸の刃金が軋む。悲鳴をあげる。
 それはデスギガスの力ではなく、そう読んでいた彼が剣威が為。
 今奮われている剣は、決してデスギガスの力ではない。だからこそ、クロムはそれを超えるが如く真っ向より捌き、払い、斬り棄てて光を掴む。
 そう、デスギガスが飛翔する闇のオーラが尽きるまで、彼の老人が起こした惨劇の刃をくぐり抜けたのだ。
「愚弄するな、己の誇りも願いさえ知らぬ下郎め!」
 そしてクロムの放つ炎纏う斬撃が、闇の刀を両断する。
 死者の炎からしても、斯様な扱いは許せぬのだと。
 模した再現性、技の精度や威力はそのものでも、奮う心まではないのだと。
 故にデスギガスを包む闇は果て、クロムが再度姿を消すように疾走し、剣が赤く輝く。
「ああ、そうなんだね。キミは……ボクと友達にはなれないんだ……」
「――――」
 クロムは静かなる吐息を重ね、凪いだる心を持って刀を携える。
 もはや喋る余力もなくとも。
 ここは通さぬ。止めてみせる。
 明鏡の如く澄んだ思いは、故にこそ、死と生の狭間にて更に心剣を研ぎ澄ます。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
【双星】アドリブ◎
1歩大地に足をつけるたび
悔しさと怒りがこみあげて来る
助けられない
今は、まだ…どうにもできないけれど
いつかに繋ぐために
今、目の前のひとりを助けよう
任せたぜ、ヴェガ
彼女を乗せるアレスの横
ヴェガへと声掛ける
直接の言葉がわかるわけではないかもしれない
けれど、思いは伝わるはずだ
【願いを勝ち取る呪い歌】を歌い上げ
鼓舞するように彼女とヴェガを送り出そう
次は、俺達ががんばるばんだな
征こうぜ、アレス

アレスとふたり
敵の前に立ちふさがる
たとえ今この瞬間に救いがなくても
欲しいのは、掴みたいのは
夜明け─、このダークセイヴァーの希望だ
常闇の世界にも光を
明日を、迎えられるように
今苦しんでいる誰かを救える未来を
直ぐに全員助けるのが無理なんてわかってる
それでも、ひとりでも多く
未来へ繋げたら…

願いを歪ませて叶える…だったか
恐怖が無いわけじゃない
それでもこの身に宿る怒りと
│希望《アレス》が、いるから
ここで、折れるわけには行かねぇんだよ!
せめて、一太刀だけでもいれてやる


アレクシス・ミラ
【双星】アドリブ◎

大地と化した人々を今直ぐ助ける方法がない現実
心に怒りと悔しさが満ちていく
…っ今は目の前のひとりにこの手を
必ず貴女を、貴女の希望を
私達が守り抜きます
白馬の『ヴェガ』に彼女を乗せよう
…大丈夫。君の想いはヴェガにも伝わるよ
ああ
征こう、セリオス

『重騎士形態』となり盾を構え
ふたりで敵の前に立ち塞がる
たとえ絶望の闇の中であっても
欲しいのは、迎えたいのは
夜明け…ダークセイヴァーを照らす希望
誰も、大切なものを奪われる事のない明日の世界、未来をと
直ぐには全員を救う方法が見つからなくとも
理想であっても
僕は…守るとこの手を伸ばす事を諦めていない…!
ひとりでも多くの未来を、心を
守るのが…騎士だ

たとえ願いを歪ませられようとも
(畏れが心に湧けども)
この身は盾
我が誓いは決して歪みはしない
絶望の運命に【希望の福音】を
|福音告げる歌声《セリオス》がいるから
これ以上踏み躙らせるものか
此処で斃れるものか!
守り…生きて、征く為に!
彼の宣戦布告の一太刀だって僕が在る限り返させない
僕達は、僕達の手で
夜明けを示す!



 大地を踏みしめる度に、込み上げるのは怒りと悔しさの念。
 胸の底から止めどなく湧き上がり、心を満たしていく。
 助けたい。
 そう思いながら足で踏み抜く大地には、デスギガスの犠牲者たちが一体となって混じり合っている。
 今、踏みしめた大地は助けてと求める腕だったのかもしれない。
 そう、どれほどに助けたいと切に願っても。
――助けられない。
 今は、まだと。
 唇を噛みしめ、叶わぬ思いを抱くはセリオス・アリス(青宵の剣・f09573)。
 どうすればいいのか解らず、ただ今できるのは繋ぐために。
 たったひとりでもこの悪夢の庭から助け出す為、魂人の少女を迎え入れる。
 せめてこの救いを求める腕だけはと。
「乗りな。後は任せろ」
 歌うように澄んだ声で告げるセリオス。
「……っ……今、は」
 そう、せめてたったひとりだけでも。
 セリオスの声に背を押されたように、騎士として少女の腕をとるのはアレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)。
 苦悶と後悔を貌より払い、自らが希望の光であるようにと微笑みかける。
「目の前のあなたに、この手を」
 それは苦渋に満ちた騎士の顔だっただろう。
 並び立つセリオスも、怒りを消せずにいる。
 それでも笑顔のかけらを浮かべて。
「任せろよ。……次があって、光があるって示してやるから」
 そうだ。
「必死に、懸命に生きたお前の人生は無駄じゃない。救いは、俺たちが見せてやるから」
 ひとりでにセリオスの唇が奏でた、近いの唄。
 ひとの心はかくも優しく。
 そして激しく、人の為に熱を帯びられるのなのか。
 セリオスの声は闇の裡に響き渡り、遠い地平の彼方まで流れていく。
 この闇の世界にはない、夜明けを呼び込むように。
 涙を零し魂人の少女を、光の翼もって空駆ける白馬ヴェガへと乗せるアレクシスも続ける。
「必ず貴女を、貴女の希望を」
 堅くなった少女の手のひらを溶かすように撫で、震える指先にヴェガの手綱を触れさせる。
「私達が守り抜きます」
 だから貴女はこの手綱を握りしめるだけでいい。
「生きて、呼吸をかさねて。今は、それだけでいいんですから」
 そんな些細なものが積み重なって、きっと希望と奇跡は叶う。
 ひとりひとりはどんなに小さくとも、それぞれが煌めく星ならばこそ。
「頼んだぜ、ヴェガ」
 アレクシスの傍ら、セリオスも言葉を重ねる。
 人間の直接的な言葉なんて馬であるヴェガに解る筈はない。
 けれど、胸に抱いた想いは伝わるはず。
 伝わった想いが、無為に消える筈なんてない。
 そんな泡のように儚い願いを込めて、セリオスが歌い上げるのは|願いを勝ち取る呪い歌《レイジング・バトルクライ》。
 その細い喉より編み上げられる玲瓏とした音色。
 奏でられる旋律は夜空を震わせ、心に響く。
 故にこそ、ヴァガも蒼白い燐光を伴って嘶きをひとつあげると、空高くと駆けていく。
 それこそ闇の中でも浮かぶ希望の星のように。
 セリオスが鼓舞するのは希望そのものではなく、それを抱く心だから。
 想いの光は尽きない。果てることなどありはしない。
 千を越える色彩をもって、世を織り成し飾る彩模様。
 それこそが、セリオスの信じる強さなのかもしれない。
「……大丈夫。君の想いはヴェガにも伝わるよ」
 ひとつひとつは、あまりにも儚くとも。
 それこそセリオスの姿のように、美しくも闇に消え入りそうでも。
 容易く闇夜に呑まれるものではないとアレクシスは知っているから、穏やかな声をかけた。
 僅かな静寂。
 それは絶望的な戦いを予感させるものの。
「次は、俺達ががんばるばんだな」
 セリオスの貫は夏双星宵闇『青星』は、歌声に反応したかのように蒼く輝いている。
 闇を払う剣は此処に。
「征こうぜ、アレス」
 アレクシスの手にある双星暁光『赤星』と共に輝いて、供にある。
「ああ」
 白夜による重騎士形態を取り、大楯を構えて守る力を強化したアレクシスは青い眸にセリオスを映す。
「征こう、セリオス」
 決して違いを喪わずに、この闇夜の世界の向こうへ。
 赤と青の一等星は並び立ち、互いに誓いあうからこそ。


――悪夢は絶望となって押し寄せる。


「ね、ね、ね! どこにいくの!」
 飛翔、そして激震。
 その巨躯をもって空を跳び、着地と共に闇のオーラを纏うはデスギガス。
 咄嗟にアレクシスがセリオスを庇うように立ち塞がるが、デスギガスは楽しそうに笑うばかり。
 傷つけることは不可能。故に倒せぬ存在。
 それでもとセリオスも光剣を構えて前へと躍り出る。
 一方的な蹂躙。それに耐える具体的な手段も方法も浮かばない。
 だが絶望の闇には沈まないと、美しい青の双眸に希望の光を灯すセリオス。
 たとえ、この瞬間に救いがなかったとしても。
「構うものか、アレスと一緒なら」
 自分たちで掴み取るだけ。
 ふたりならば不可能はないのだと、闇の奥底でなお求め、欲し、掴もうとするのは夜明け。
 朝焼けの美しき光――このダークセイヴァーの希望そのもの。
 常闇の世界にも憧憬を抱かせる光を。
 決して疑う事なく、明日を迎えられるように。
 いま、この瞬間も苦しんでいる誰かを救える未来を。
 そんなユメみたいなと言われても、セリオスは願わずにはいられないから。
「誰も、大切なものを奪われることのない明日の世界、未来を!」
 アレクシスも声を張り上げ、想いを共にするのだとセリオスに告げる。
 すぐには全員を救う方法はみつからなくとも。
 架空の理想、夢物語と笑われたとしても。
「ボクは……守りることを、この手を伸ばすことを諦めていない……!」
 ひちりだも多くの未来を、心を。
「守るのが……騎士だ!」
 故にと光の障壁たる『閃壁』を掲げて、デスギガスに真っ向から立ち向かうアレクシス。
 そう、すぐに全員助けるなんて無理。
 解っている。犠牲者が一体化した大地を踏みしめている今、強く解る。
 それでも、ひとりでも多く未来へと繋げられたら……。
 浮かぶ希望も。
 叶える|理想《ユメ》も。
 大きく膨らみ、闇を払う光へと繋がって育つから。
 きっとこの|悪夢《デスギガス》をもいずれ討つ光となると信じて。
「お前を此処で止めてやるぜ!」
 輝きを増す意念の光刃。
 願いを歪めて叶えるというデスギガスの前で、これがどうなるかという恐怖がセリオスにはないわけではない。
 だが、それでも怒りが鼓動と共に身体に廻る。
 傍らに立つ|希望《アレス》の存在を感じるから、セリオスは誰よりも勇敢になれる。
「此処で折れてやるわけにはいかねぇんだよ!」
 真に恐れるべきものなどは何もないのだと、禁域の闇を払うように燦然と輝くふたつの光剣。
「ああ」
 だから。
 悲しげにデスギガスは囁き、項垂れ、そしてつぶやく。
「キミ達とぼくはお友達にはなれない。キミ達はひどい」
――来る。
 悪夢の脈動。世界が歪む絶叫じみた空気の震え。
 願いが歪み、恐災となって顕れようとしている。
 アレシクスの心に畏れが湧き身が竦めど、セリオスの姿が視野の隅にはいれば、更に前へと踏み出す。
 守る。救う。傷つけさせない。
 この身は盾。
 我が誓いは決して歪まず、心は壊れることない。
 そう信じ抜くことこそ、アレクシスの力だからこそ。

「……え」

 零れたふたりの声は、なんとも空虚だった。
 地平の端から立ち上がる白く美しい光を、なんと言うのか。
 優しげな瞳のようなその姿を、星より大きく、鮮やかな白をなんというのか。
 彼らは知っている。
 この常闇の世界には決してない。
「夜明け……」
 そう二人が呟いた瞬間、純白の光が肌に、髪に、瞳に触れて……。


――全身が光で焼けていく。


 肌が、肉が、唇も髪も一気に燃え上がり火だるまとなるセリオスとアレクシス。
 一体何がという問いが湧き上がるふたりに対して、デスギガスが嘆きの声をあげる。
「ひどい、ひどいよ、キミ達は」
 自分は闇のオーラで全身を纏い、光を遮りながら。
「闇に生きるものたちにとっての朝日が何であるか、知っている癖に」
 そう。これは|朝焼け《デイブレイク》。
 暁光をもって闇に棲まう者と絶望を払い、光の中で生きる者たちの希望となる。
 けれど、それは一転すればこういうこと。
――夜明けがこの世界にくれば、吸血鬼はみんな死ぬ。
 一気に全身を燃え上がらせたセリオスとアレクシスは、さながら朝日という絶望と死に突き出された憐れな吸血鬼。
 闇の種族という主観、観点からみれば夜明けとは破滅そのもの。
 誰も生きてはいけぬ忌むべき光の誕生に他ならないのだとデスギガスは受け取るから、そのように願いは歪められて現実に顕れる。
「キミ達は、世界が滅びればいいっていうんだね。みんな、みんな、光に抱かれて死ねというんだね」
 しゅんと悲しげに言うデスギガス。
 あくまでデスギカス達からいう夜明け、朝日というのはそういうもの。
 光は忌むべき死である。
 それを望むアレクシスとセリオスは、どうしようもない常闇の世界の敵。
「闇が消えたら、ボク達はどこにいけばいいの? キミ達の嫌う『みんな』から外れる、ひとを傷つけない闇の種族も、こんな光に焼かれて死んじゃえって」
 自分のいう『みんな』に含まれないのなら。
 こうなってしまえと、歪められた朝日が光をもってセリオスとアレクシスを焼いていく。
 だが。
「違う、だろうが!」
 光に灼かれながらも、アレクシスの放った希望の福音による光で守られたアレクシスが身を起こす。
 こんな光は求めていない。
 希望を、救う為の、優しい光を求めたのだ。
 あくまで歪められたこの朝日は、姿だけは似た白い闇に他ならないのだと、闇を払うかのような声で告げる。
「助けたい。命を、心を。ひとりでも多くのひとが笑っていられるように!」
 デスギガスの価値観で歪まされたというのなら、それを正してやると、真実の星光を湛えた剣を諸手で構えるセリオス。
――ああ、どれほどに腕を灼かれたとしても、そっと握りあった手のぬくもりは消えないから。
「こんなのは、俺たちが願った夜明けじゃねぇ。そもそも、光じゃねぇだろうが!!」
「光はこういうものだよ?」
 何処までも何処までも、闇に棲まう者の主観と圧倒的な力で押しつけるデスギガス。
 それに逆らう為に。
「俺たちの求める光は希望だ。欲しいと、掴みたいと願うのは……」
 翔けようとして、更なる光を浴びて白い炎に包まれるセリオス。
 喉を焼かれ、それでもと澄んだ声色で世界を震わせるのは、歪められていない純粋な願い。
「朝日ってのは誰かを、大切なひとを想う気持ちと同じなんだ」
 暖かいんだよと、自らの胸をかきむしるセリオス。
 もしも、このデスギガスが幼い純粋さで。
 純然たる善意で、それを理解してくれたら。
 或いは――幸せというものを理解するのならば、闇の種族とだってわかり合えるかもしれないのだと。
「笑顔にしてくれる、希望なんだよ」
 そこまで優しくは想うのは、セリオスではなくアレクシスのほうだけれど。
 彼が願いは、自らの想い。
 騎士の剣として、セリオスは優しさも忘れずに抱きしめたいのだ。
「力でねじ伏せ、悲しみと痛みを呼ぶものの筈がねぇだろうが! 暖かく、抱きしめてくれる|大切なひとの腕《ひかり》も知らねぇっていうのかよ、デスギガス!」
 だからこそ、こんな光をねじ曲げる化け物に負けてたまるかと、甚大な負傷を無視して前に進もうとするセリオスの背に。
 そうだと。
 重装備を無為とする光に晒されていたアレクシスも、白炎に包まれながら前へと踏み出す。
 放たれるのは光が故に、自らの光では相殺さえできずとも。
「微笑んで、名を呼んで」
 次もまたこうありたい。
 明日もこうしていよう。
「手を握り合う相手と、夜を心安らかに過ごせる」
 明日があるから、今は共に眠ろう。
「朝日とは、|ユメ《理想》なんだ。心を救い、繋がるものなんだ」
 そうやって繰り返す朝と夜。
 どちらか一方だけ消してしまえと、暴論と暴力を繰り出すことこそ間違っていると。
「俺とアレスの願う光を、俺たちで示してやるよ!」
 |福音告げる歌声《セリオス》が、灼かれる痛みの中でもなお澄んだ声色響かせるからこそ。
 薄れた意識より自らを取り戻し、アレクシスが唇を噛みしめる。
「……っ」
 いまだ身を焼く忌むべき光は満ちあふれていても。
「……っ! これ以上、心を踏み躙らせるものか!」
――そうだ。腕が砕けたとしても、抱きあげた身体の柔らかさを覚えているから。
 デスギガスの産んだ忌むべき光に立ち向かい、盾を掲げたアレクシス。  光と光がせめぎ合い、真っ白な空間ができあがる。
「…………」
 デスギガスが闇を纏って飛翔する。
 上空から覗くのは説得を諦めて、壊すとい決めた悪夢の瞳。
「……世界は卵なんだって。新たに産まれるものは、ひとつのものを壊さないといけいないんだって」
 ひな鳥は卵の中から抜け出ようとあらがいも戦う。
 卵は世界だ。
 生まれ出でようとするものは、ひとつの世界を壊さないといけない。
そうして、鳥は神に向かって飛ぶ。
「キミ達は、キミ達の希望の光の為に、ボク達の闇の世界を壊すつもりなら……ボク達はお友達にはなれないね」
 アレクシスとセリオスが羽ばたくを阻止するが如く、デスギガズの闇の腕が縦横無尽に奮われる。
 一撃一撃の重さもさることながら、これの恐ろしい所はその力の無尽蔵さ。纏った闇のオーラの総量が無限にも等しいからこそ、反撃許さぬデスギガスの一方的な蹂躙が続く。
 もはやこれは天災。阻もうとしたアレクシスの盾が砕け、鎧がひび割れた。追加の装甲をと更に白夜を起動させて紡ぐか、創造した端から砕かれていく。
 それでもと。
「此処で斃れるものか!」
 アレクシスは踏みとどまり、これ以上はセリオスに届けさせないと暁星の光を放ちながら大盾で闇の一撃を防ぐ。
 剣を握る手があがらないのは、骨が砕けたせいだろうか。
 いい。構わない。それでも最後はきっと、あの美しい歌声で決めてくれると信じるから。
「守り……生きて、征く為に!」
 その想いを受け取り、闇纏う腕と建物による乱撃の隙間を縫って翔ぶ、夜に囀る黒鳥。
 艶やかな黒髪を翼と見紛うように靡かせて。
「此処で、折れるわけには行かねぇんだよ!」
 光剣を諸手に構え、儚くも果敢に飛び込むセリオス。
 闇を裂いて、忌むべき光を乗り越えて。
 真実の朝日を希って、燃えて流れる青き一等星。
「せめて、一太刀だけでもいれてやる」
「そうだ。僕達は、僕達の手で!」
 デスギガスの作った偽りの、悪夢の光を消し去るべく。
「「夜明けを示す!」」
 故にと放たれるセリオスの一閃。
 闇を断ち、悪夢を切り裂くかの如き凛烈なる剣光は。
 けれど、狙ったのはデスギガスのではなく、地平の先に浮かぶ偽りの太陽。
 生きる命の悉くを灼く、魔性の光が両断され、周囲に闇夜が戻る。
 本当の夜明けは、朝焼けは、希望は自らの手で実現すると告げるように。
 ああ、でも。
 セリオスを庇うようにも動くアレクシスの姿をも、デスギガスの瞳はしっかりと捉えていた。
「…………」
 まだ闇のオーラは尽きない。
 故に振り下ろされ、なぎ払われ、蹂躙する空中のデスギガス。
 全力を振り絞ったセリオスを庇いながら、後ろへと下がるアレクシスは何も喪わないと叫ぶかのよう。
 セリオスもまた、星光の如き清き光剣を奮ってデスギガスの闇色のオーラを斬り払う。
「そうか」
 ふたりの雄志は墜ちる絶望と闇、|悪夢《デスギガス》の姿に。
「そうか。キミ達は……絶対に絶望しないことが、朝の光だと想うんだね?」
 ようやく、正しい光の存在を示した。
 けれども闇が心地よいのだと。
 そういう存在なのだと囁くように、デスギガスの纏う闇のオーラが更に膨れ上がる。
 この身に攻撃を向けるのは無意味。
 どんな攻撃でも反射するのは解っていること。
 故に刃を向けられない。一太刀を身に刻もうとしても、次の瞬間には最悪、ふたりともが片方の放った斬撃で斬り棄てられている可能性もある。
だと、しても。
「恐怖を越えて!」
 闇の腕を打ち払う盾をもって、大事なものを守り。
「闇を切り払って!」
 生きるべき道を光刃をもって作りながら。
「「――全ては、ふたりで生きる世界に光を」」
 ふたりは全身全霊を以て闇と悪夢に抗う。
 互いの青い眸に、本当に望むべき青空を見いだして。
 倒すことどころか、傷ひとつつけることできずとも。
 願いは鼓動となって脈打つ。
 今はまだ叶わずとも、必ずや、必ずやと。
 心の生み出す光は潰えぬものだから。
 ふたりで重ねる未来は、きっと、言葉にならないぬくもりだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
全く……
元より願いの全てを叶える事なぞ出来んと云うのに
加えてこうも性質が悪いとは面倒が過ぎる
だが――其れで済ませられる程甘くは無い、か

暈涯双添――彼の祈りを此処に
選ぶのは防御力。少しでも長く注意を引き……必ず生きて帰る為に
如何な巨体だろうが視線もあれば気配もあろう
空気の流れに風切る音、得うる五感情報に第六感重ね
攻撃の気配を読む事に徹して方向を見極め、見切り躱し続けるとしよう
致命と動きの阻害と成り得るものにはカウンターでのなぎ払いを当て弾くに努める

どれ程に歪められようとも、見失う事も見誤る事も無い
私の望み、唯1つの願い
護るべきを護り、成すべきを為し
我が竜の元へ帰る事は、私にしか叶えられはせん



 ついに迫る悪夢が姿。
 無邪気な儘に笑う巨躯と、脈動する闇の気配。
 尽き果てる事のない力と存在感で周囲を震わせながら、けたけたと笑うのは怪物そのもの。
 或いは、ひとでは討てぬ悪魔そのものか。
「まったく」
 だが、それでもと。
 僅かな恐れも怯みもみせず、立ち塞がるのは隻眼の烈士、鷲生・嵯泉(烈志・f05845)。
 石榴のような緋色の眸に鋭い意思を宿してデスギガスを睨み付ける。
「もとより願いの全てを叶えるという事なぞ出来んというのに」
 するりと抜き放つ愛刀、秋水の切っ先を掲げながら鷲生は苦そうに呟く。
 それでも純粋な善意を以て、願いを歪めて叶えようとするデスギガス。
 いいや、その願いを真っ当に受け止める心を持ち合わせないのだから何とも恐ろしい。
 希望も、矜恃も、或いは切に誰かを想う気持ちというのも本当の意味では理解すまい。
 訪れるのは、望まぬ結末。
「ねえ、ねえ! すごい剣士のひと! お友達になろうよ!」
 そんな事を一切解らぬまま、デスギガスは子供のようにはしゃぎ続ける。
 心が読めるというのに、自分に向けられた絶望、恐怖、畏敬に敵意に対して反応できない。
 共感も出来ないから理解できない。
 抱いたことのない感情は知識として解っても、情念として湧き上がらないのだ。
 さながら恋慕を知らぬ童。
 大切なる人への慕情を重ねる唄に首を傾げるようなもの。
「加えてこうも性質が悪いとは面倒が過ぎる」
 故に真っ向から向き合うこと自体が悪手。
 読心の術も、如何なる攻撃も身に届かず跳ね返されるということも、ただただ恐ろしい。
 だがと。
――其れで済ませられる程、甘くは無い、か。
 最悪でなければ、全てを越えてみせるのだと秋水を握る手に力を込め、鷲生は煙草へと火を付ける。
 紫煙と共に立ち上るのは馨しき匂いと、大切なるひとの思い出、誓い。
 此れらを理解出来るものか。
 出来ぬ愚かな者に、このと約束を踏みにじらせはしないと、秋水が災禍を断つべく白刃を瞬かせる。
「暈涯双添――彼の祈りを此処に」
 刀身に宿すのは触れた者の生命力を奪う呪詛。
 更に性質を同じくする呪焔を身に纏い、自らの護るが為の力を強化していく。
 死した者の怨念、生きる者の情念。
 それらを糧とするなど、清冽な烈士たる鷲生の術らしくはない。
 いいや、だが、だからこそこの選択なのだろう。
 彼が面影を刃紋に灯し、必ずや生きて帰るが為に。
 その宣言であり、自らへの誓約に他ならない。
「貴様に言おうと、理解出来ぬ以上は無意味だろうからな」
「…………」
 じっ、とデスギガスの巨大な眼球が鷲生を見つめる。
 そこにある思考、想い、感情、記憶。その全てを見透かすような、悪夢の瞳が注がれてなお、揺るがぬ鷲生に対して、デスギガスは問いかけた。
「それは信頼?」
 膨大なまでの闇のオーラを纏い、上空へと飛翔する悪夢の巨躯。
「それは約束?」
 判別が付かないのだと、急降下と共に放たれる言葉と腕。
「愛、希望、夢、理想。誇りであって、悲しみ――何だろうね?」
 教えてよと。
 激流の如き思念を伴い、デスギガスの巨腕が鷲生へと振り下ろされる。
 それはさながら絶望の激突のようでありながらも、疾走と共に秋水を閃かせる鷲生。
「ほざけ。何も告げるも教えるもない。――自らの裡で識れ」
 大地の激震を潜り抜け、躱した鷲生が更に跳躍を重ねた。
 デスギガスがどのような巨体であれ、視線があれば気配があり、思考の向きがある。
 加えて物体であれば大気の流れを生み出し、風切る音とて。
「何も浮かばねば、それがお前という空虚さだ。過去の残滓よ」
 五感で捉える情報、更に第六感を用いた見切り。
 デスギガスから地形ごと粉砕するような乱撃が繰り出されるものの、直撃を受けねばそよ風に等しいと秋水を構え直す鷲生。
「どれ程に歪められようとも、見失う事も見誤る事も無い」
 鷲生の剣士の勘が冴え渡るは、特にその太刀捌き。
 回避不能、或いはその妨げになるならばと秋水による剛剣を繰り出してデスギガスの腕を受け止め、弾き返す。
 決して刃を当てない。
 鎬を当てて、なぎ払って弾くのみ。
 恐らくは自らの剣威を信じて切り払い、或いは、活路を切り拓こうと秋水を奮えば、迎え撃った筈の斬撃が悪夢めいた現象で跳ね返されていただろう。
 ようは自分が攻撃と見做したかどうかではない。
 デスギガスが攻撃と見做したかどうかが、反射の条件。
 能力の本質を見切った事こそ、鷲生が為した一番の防御だろう。
 事実。
――此れは返されるか。
 胸の奥で独り呟くは、デスギガスの腕を秋水で弾き返した瞬間にごっそりと奪われた鷲生本人の生命力に対して。
 刀身に纏った呪詛の効果は自動。それすらも攻撃と見做して、悪夢のように跳ね返されているのだ。
 だと、しても。
「私の望みは、唯ひとつの願い」
 自らを護るが為の力を高め、デスギガスの豪腕を受けたが為に骨ごと痺れる腕と身体を叱咤して戦場を駆ける鷲生。
「護るべきを護り、成すべきを為し」
 尽きる事のない巨大な腕の打ち下ろし。
 此処が街であれば、既に廃墟となっているだろうデスギガスの蹂躙。
 それを全て受けて捌き、凌ぎ切るなど不可能。
 今は斃せぬ。救えぬ者がいる。
 その存在と、近づく自らの限界に唇を噛みしめながらも、鷲生は今に為すべき事を告げるのだ。
「我が竜の元へ帰る事は、私にしか叶えられはせん」
 たとえ、何をしても。
 彼が瞳に、胸を張って姿を見せる為に。

 ただいまと。
 優しく、告げる為に。
 
「貴様には解らぬものを、願いとして胸に掲げよう」
 凛烈に告げて、鷲生は自らへと伸びるデスギガスの魔の腕を弾き返した。
 身に纏う呪詛も、怨嗟の声をあげるのではなく、ただいまと言いたいのだというように揺れて、揺れて。
 刀身に灯された呪焔も、切なる願いのように瞬くから。
「???」
 ぎょろぎょろと動くデスギガスの瞳は、何も捉えられていないかのよう。
 解らない。意味不明。渾然たる鷲生の想いは、美しくも濁もあり、誇りもあれば恥もあり、自己への呪いとてある。
 だから解らなくて。
「……キミ」
 デスギガスが、闇を震わせる声をあげた。

「意味わかんない。怖いよ」

 故に全力を以て壊すという、悪夢の波濤が鷲生へと殺到する。
 一撃ごとに腕の骨がひび割れ、筋肉が断裂し、血管が弾け飛ぶ。
 だがと。
 噛みしめた唇の隙間からも血が溢れてなお、鷲生は倒れぬ。
「帰ると。自らの足で帰ると」
 血塊を吐き出すと共に、再び構えられる秋水。
 災禍の悉くを断つならば、この|悪夢《デスギガス》をいつか必ずと。
 解っていて、けれど今は遂げられぬが故に、ただこの瞬間は。
「誓ったのだ。約束は果たさせて貰う」
 帰ろう。彼に腕を差し出す為に。
 この身は全て、己が身に溶かした誓いによって動くならば。
 破れぬ今、果てるわけにはいかないのだと。
 終わりの見えない悪夢の影姿へと再び対峙する。
 

――其の祈りは、ひとりを生かして、ふたりの道となり
 また、多くのひとを救う光となる――

大成功 🔵​🔵​🔵​

ネロ・ディアンガ
苦戦◎

「そうか、お前が ——歓喜のデスギガス」
聞いていた通り、悪夢が具現化したような禍々しさだ。この悪趣味な大地も植物も、全てあれが諸悪の根源か。
しかし、デスギガスの思考には本当に邪気がないようだ。まるで幼子。派手なものには目を奪われるはず…ならば、

「五行の神獣、ここに顕現せよ」
水流が渦巻き、5体の水でできた神獣が飛び出す。玄武、白虎、青龍、朱雀…そしてひときわ大きな、麒麟。

強大な生物を形づくるのは負担が大きい。走れる最低限の力以外全てを注ぎ込んでしまったが、手加減はしていられない。どれだけ耐えられるかはわからないが、あとは神獣たちに任せるしかない。
すぐさま馬に姿を変え、全力で少女のもとへ走る。
「私の背につかまれ」
尾を伸ばし、少女を引き寄せて自らの背に乗せる。あとは脱出するだけだ。

ああ、手も足も出せない自分が不甲斐ない。しかし、もしあれが外界や他の世界に出た日には、阿鼻叫喚の地獄絵図になるに違いない。この身が無に帰ろうとも、あの災厄をここから出すことだけは、絶対に、絶対に阻止しなければ。



 転がり弾むように近づく悪夢の気配。
 笑っている。どうしようもない程、笑い続けている。
 世界は歓び一色であり、それ以外があるのは可笑しい。
 異なるもの、自らと違うものに対して寛容なる優しき微笑みをしる事なく。
 デスギガスはただ、ひとりで笑い続ける。
「こんばんは! あ、心は読めるけれど挨拶はしてね、猟兵のひと!」
 大地を震わせ進むその巨体。
 ぶんぶんと子供のように上下に振り回す腕。
 それらがどれほど甚大な、いいや凶悪な災厄を生み出すのかなど、知らないかのように。
 なるほど、だから悪夢のように恐ろしいのだ。
 上層世界の中でも、禁域と呼ばれる領域に棲まうもの。
 見上げる瞳は恐怖に震えることこそしないものの……。
「そうか、お前が ――歓喜のデスギガス」
 澄んだソーダ水よりなる身体を揺らしたのは、太古の昔より生きるセイレーン、ネロ・ディアンガ(緑と生きる大精霊・f38613)。
 深い知性と理性を宿す眸は、デスギガスの奥底にあるモノを見透かすように異形の巨体に向けられている。
「うん、そうだよ。キミの名前は、ね、ね、ねぇ! 心が読めても、名乗ったり挨拶は大事なんだよ! お友達になるための第一歩だからね!」
 そうやってぶんぶんと腕を回し、あはははと笑う姿は、無邪気さを突き詰めたかのよう。
 何も知らない。何も解らない。
 在るのは、僕だけ。
 成る程と頷くネロ。これは諸悪の根源に他ならない。
 悪夢が具現したかのような禍々しさに、闇の感性をもって見る瞳。力ばかりは何処までも溢れていて、止めるものなどいはしない。
 加えて、自分と他人をうまく別けられないのだ。
 こうしたら自分は喜ぶ。嬉しい。だから、キミも喜ぶ。
 自分にとっての夢が相手にとっての悪夢であると理解できない。共感性の欠如はそのまま巨大な悪夢へと誘う渦となり、デスギガスの前に立って何か思い浮かべればもう逃げ出せない。
――つまり、異なるものを受け入れられない。
 徹底的に壊す。いじくってねじ曲げる。
 自然の摂理としての寛容と受容を知らず、澄んだ真水に自らという塩をぶちまける。中で泳いでいた淡水魚が死んでも、何も解らないままに。
――これは、自然を壊す。
 ダークセイヴァーという世界だからまだマシなのだ。
 決して許せる存在ではないと、ネロは蹄を大地に触れさせる。
 ひとだった者たちが溶け合った大地へ。
 そんな願いを浮かべていない筈なのに、ねじ曲げられて悪夢に堕とされたものたちへ、せめての慰めの触れあいのように。
 苦悶を浮かべた顔が浮かび、岩には叫ぶような口が。
 声は出ず、助けてと言葉に出来ず、デスギガスという恐怖と悪夢を間近で覚えながら。
「しかし」
 それを成したデスギガスには一切の邪気、悪意は見当たらない。
 今も手をゆっくりと振りながら、ネロからの『挨拶とお返事』を待っている。
 何処までも幼子。何処までも成長の見込みのない精神性。
 ならば派手なものに眼は惹かれよう。
 思いに眼を引きつけられるように、色彩や光にもまた意識が奪われよう。
 真っ向より挑めないのは、深く解るからこそ。
「わ、わ、わ。すごく綺麗っ」
 ネロの力によって水流が渦巻く。
 清らかな水は微かな星と月の灯りを受けてきらきらと輝いて、飛沫のひとつひとつが何かへと変わっていく。
 それは聖なる神獣たち。
 巨大な亀にして、尾は蛇を持つ玄武。
 猛る遠吠えを響かせて、軽やかに跳ねるは白虎。
 空へと登りながら、自らの威厳を地へと降らす青龍。
 燃え盛る炎のように脈打ち流れる翼をはためかせる朱雀。
 そして――一際大きく、大地廻る力と命を脈動させるもの、麒麟。
 四方と四季、四期を司る四聖獣と、中央に座す瑞獣がデスギガスに対峙する。
「ね、ね。お名前は? キミ達のお名前は?」
 首を傾げながら、顕れた五体の聖獣たちへと問いを向けるデスギガス。
 興味津々とばかりに目を動かす悪夢。それに比べれば、聖獣たちのなんと小さなことか。
 攻撃に出られれば僅かしかもたないだろう。
 ネロの手繰る百流夜行の術法でも巨大な生物は負担が激しく、ほとんどの戦闘力を注ぎ込んだが、加減などしていられない。
 僅かでも時間を稼げば、それが同等の希望となるのだから。
 ならばとあとは聖獣たちに任せ、ネロは馬に姿を変え、残された全力をもって魂人の少女の元へと走る。
「私の背に掴まれ」
 疲弊など見せない、ネロの揺れざる声。
 デスギガスという恐怖を前にしても確かなその声色に少女は救いを見て、差し出されたネロの尾を掴む。
 あとはただ駆け抜けるだけ。
 戦場を、禁域を脱して生きて帰るだけ。
 その筈が。
「応えてよ、もう!」
 ぶちりと。
 何かが潰される音が響き渡り、大量の液体が大地にばまかれる。
 まさかという想像が頭に浮かぶ。
 そう、まさか不機嫌になった一撃だけで、聖獣の一体が潰されたのかと。
 恐怖。戦慄。そして、後に続く――哄笑。
「あは、あはは……! まるで水風船みたいだねぇ、楽しい!」
 精神を持っているものならば、その心を蝕み侵す耳障りな笑い声。
 紛れもない歓喜であり、子供が水風船か、或いは小さな虫を潰すように聖獣を壊し、そして笑い声をあげる。
 逃げながらも、精神を一方的に破壊されていく。
 耳を塞ごうが、狂気に耐性を持とうがその上から蹂躙していく悪夢の声。
 それはネロであっても同様で、ただ耐えるしかない。
「ぐっ……」
 すぐにまっすぐに走れなくなる。
 力を込めて四肢で大地を蹴れず、失速と共にデスギガスの笑い声が更に大きくなる。
 それでも――助けて、帰るのだ。
 これ以上の犠牲は出さないと、ネロは走る。
 ああ。手も足も出ないとはまさにこの事か。
 不甲斐なく、情けなく、何よりそんな自分に憤りを感じる。
 自然を守ることの尊さ、大切さを知りながら、笑い声に心を浸食されながら逃げるしか出来ないなど。
 だが、事実としてあれは災厄なのだ。
 あれがもしも、外界や他の世界に出た日には阿鼻叫喚の地獄絵図となろう。いいや、きっと新たな地獄の世界の中心としてデスギガスが無邪気に笑い続けることになる。
 そんな事、許せる筈もない。
 悪夢の歪んだ願いにより、草木が枯れ、水が濁り、大地は腐る。
 そんな悪夢めいた情景、ありありとネロの脳裏に浮かぶからこそ。
「例え、この身が無に還ろうとも」
 あの災厄を、悪夢の存在を。
 この禁域から出すことだけは。
 絶対に、絶対に、許してはならない。
「全霊を賭して、お前を……今は無理でも、お前を阻止してみせよう」
 不愉快な笑い声に蝕まれた心でなお。
 苦痛に満ちた顔を、果敢と勇猛さで塗り替えて。
 ネロは己に誓うように告げ、力尽きるまで疾走としてこの禁域を疾走する。

 後を追いかける笑い声は、まさに悪夢の追従。
 振り切れることはなく、けれど、確かに|禁域《あくむ》の終わりへと向かうのだ。
 今は、この少女に目覚めという救いを。
 新しき人生から絶望を払う為に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月白・雪音
…然り。我らを視ていたとあらば『敵わぬ』と終われぬ事もまた存じておられる筈。
故に、その戯れに応えましょう。


UC発動、残像の速度、悪路走破にて少女を抱え走り、響く笑い声の精神汚染は落ち着きにて芯を保ち
自らが願いの悪夢に囚われ少女を守るが困難となれば少女自らで出口に走らせる

猟兵の身でありながら貴女を満足に守れぬ事、面目次第も在りません。
彼の者はそれほどまでに強大…。故に今はただ生き残る事を以て、我らと共に戦って頂きたく存じます。


己が望みは戦を終わらせ、民が武の力を恐れ生きる事が許される世を齎す事。
才なき矮小なこの身が抱くには余りに大きな願いで、またその為に振るうが振るわぬ事を真髄と学んだ武の力である事の滑稽である事か。
戦を終わらせる戦、などとは詭弁。武を戦に使う時点で我が武は二流以下に過ぎません。

それでも、今は戦の世。二流に満たぬ武でなくば守れぬモノは確かに在る。
なればこそ、例え敵わぬと、届かぬと知るとしても。


──師より教え賜った武を以て、猟兵として立つこの身の責務を全うせねばならぬのです。



 悪夢は尽きることなく笑い続ける。
 心より他者を思い、微笑むことなく。
 そう、これは善悪を知らぬ幼子の歓喜。
 己が為に、己だけの歓びにと笑う無邪気な悪魔。
 それがついに禁域の端まで弾むように跳ねて、追いかけて。
「だめだよ! 逃げたらだめだよ!」
 全力を尽くして護ろうとした猟兵を追い越し、脱出の希望が見えた魂人の少女を見つめる。
 けらけらと笑いながら、左右上下に動く巨大な眼球。
 不滅にして無尽蔵の力がその身体を作り出し。
 あらゆる影響を受け付けない不滅の悪夢が、絶望の影を忍ばせる。
 あと少し。あと一歩。
 そう思い、祈り、希望と縋るから。
 するりと。
 願うべきは自分たち、他者を思う心持つものだと。
 真白き少女の姿が、その身を以て魂人へのデスギガスの視線を塞ぐ。
「初めまして――月白・雪音と申します」
 静かなる声を以て、自らの名を告げるのだ。
 雪のように白く透けるような肌。
 赤き眸は紅玉に似て美しく。
 何より香り立つは、月のように気高き精神。
「うん、初めまして、えっと、えっと……雪のひと!」
 先に言われた名前すらろくに覚えられないのか、首を傾げながら告げたデスギガス。
 今宵、初めて真っ正面から心を向けてくれた存在に、嬉しいのだと全身をもって跳ねる心を表すが、それだけで大地がひび割れて陥没し、災害のひとつとなっている。
 そう、これこそが斃せぬ悪夢。
「――然り」
 故にと。
 本来ならば真っ向より心を向けるべきモノではない存在にまで、己が思いを告げる雪音。
 それは矜恃か、或いは信念か。
 それとも優しさなのか、己への厳しさかもしれずとも。
「我らを『視て』いたのならば、『敵わぬ』と終われぬ事もまた存じておられる筈」
 ただ尽きせぬは、悪夢だけにあらず。
 自分たち猟兵の助けたいという想い、その腕、ぬくもりも。
 また尽きせず、朽ちず、果てることなどないのだと。
 どのような理不尽、困難、絶望……その一切を払いて進むのだと。
「故に、その戯れに応えましょう」
 想いと悪夢。
 どちらが尽きるか、先に新たなる場所へと辿り着くか。
「さあ、追いかけっこと致しましょう。貴方の遊びに、私は命を賭けて」
 宣言と共に心眼を開く雪音。
 このような終わる事のない災厄に立ち向かうことこそ、ヒトなるイクサの本懐なのだと。
 粉雪に似た白き残像をその場に残して、音もなくその場から離脱する。
 腕に抱えるのは、憐れなる魂人の少女。
 彼女を救う以上、先の言葉は絶対に必須だった。
 遊び、戯れるというのならば童のような精神性のデスギガスはまず乗ってくる。自分に向けられる絶望以外の感情に聡く反応し、一方的に『お友達』を求めるのだから。
「わかったよ、追いかけっこだね!」
 少なくともその視点、視野は雪音のみに注がれる。
 魂人の少女はこの戯れの外にあり、後に『お友達』となれるのかもしれないのだから、此処で命を磨り潰しはしまい。
 いいや、デスギガスという悪夢の向ける惨劇の対象から一時的に雪音以外の全てが外れたとでもいうべきか。
 故に、その危険性は跳ね上がるものの。
「猟兵の身でありながら貴女を満足に守れぬ事、面目次第も在りません」
 唇より零すのは、穏やかなる声。
 雪の降り積もるような、しんしんとした美しい声色だ。 
 情念の温度、色を知らず、それでも何かを抱く雪音の言葉。
 自らの想いや情動を顕す術は、どうしても見つけられぬが故に、遠き月のように美しい存在こそが雪音の心なればこそ。
「彼の者はそれほどまでに強大……」
 背を向け、一目散に逃げるを不甲斐ないと想い恥じる。
 されど、自らの誇りよりも大事なのだと魂人の少女を腕に抱き上げるのだ。
「故に今はただ生き残る事を以て、我らと共に戦って頂きたく存じます」
 死んではいない。終わってはいない。
 ならば心は再起し、志をより研ぎ澄まして先へと進めよう。
 鼓動の続く限り、想いの繋がる限り。
 そうして繰り返される|夢《りそう》をこそ信じて。
 

 雪音が望みは戦を終わらせ、民が武の力を恐れず生きる事が許される世。
 握り合うのは拳や武器ではなく、互いの手。
 恐れて震え、夜に身を寄せ合うのではなく、明日への願いを夢に乗せられる夜。
 そんな世をもたらす事を望むのだ。
 花の色は赤なれど、そこから血を連想する子供などもう産まれないように。
 ある意味、他愛のない日常と日だまりを願っている。
 振り上げられる拳に、痛みに、怯え続ける世など、本来ならば可笑しい筈なのだから。
 奪いあうより。
 共にあることを選べるような。
 ああ。
 そんな事もすぐには叶えられぬ、才なき矮小なるこの身よ。
 抱く願いの大きさにこそ押しつぶされ、いずれ雪が溶けるように儚むときとて訪れるだろう。
 それは不意に、花が風に散るように刹那のことであろうと。
 構うまい。それでも抱き続け、願い続け、信じ続けて、この足を進む。
 平穏なる世の為にと、雪音の奮った武が、また同じく怯えをうむ暴力だとしても。
 奮わず、鞘にありてこその武であるというのに。
 その神髄は、握りしめた諸手を開いて、相手の心の手を握ることなのに。
 なんと滑稽なことか。
 雪音の白い姿は、拭い去れぬ赤い血で覆われている。
 いずれその身が屍となり黒く枯れ果てるは、それこそ偽りの証左。
 戦を終わらせるなど詭弁。
 武を戦に使う時点で、雪音の武は二流以下。
 そんな悟りを得た武士のような。或いは、戦の果てを視た僧のような歳月を得て編まれた思想を以て。
 それでもと、若き鼓動を脈打たせるのだ。
「それでも、今は戦の世」
 後ろで首をひねるデスギガスは、きっと理解しえないだろう。
 心を読めても、他人の感情に共感できない以上は。

 あなたが痛むなら、私は泣く。
 あなたの傷は、私の痛みだから。

「二流に満たぬ武でなくば守れぬモノは確かに在る」
 そんな当たり前を、ついぞ理解できない悪夢の化生には理解できずとも。
 自らの手で為し、渡して、繋いで世を為す。
 ひとの世が、どうして独りで形作られようか。
 他人より与えられた光と色をもって、世の綾模様は作られる。
 だから――。
「うん、そうだね。わかんない!」
 不滅なるデスギガスは、幼い子供の声で笑うのだ。
「むずかしいね。すごいねっ。雪のひとは、とても凄い。お友達になれたらって思うよ。だから、僕に出来ることを、せめて、するね?」
――来る。
 雪音の全身を走る悪寒。
 心の隅から隅まで、そして中心までをも覗かれていたのだと悪夢の瞳の気配を、そこから放たれる災厄の気配を感じて少女を手放す。
「走ってください」
 私が潰えたとしてもなお。
「……振り返ることなく」
 あと少し、もう少しで救い出すことは出来るのだから。
 吐息を吸い込み、握り絞める拳を構えた瞬間――訪れるのは恐ろしい程に不愉快な笑い声。
「…………っ!?」
 それは、武をもった心を殺すもの。
 いいや、力もつ心を壊して戦を終わらせるもの。
「あはははははははは――! ぼくが、戦いの終わらせた方を、笑って過ごせる世界を見せてあげるね! あはははは!」
 芯を確かに持ち、明鏡の如く澄んでいた雪音の心が一瞬でひび割れる。
 苦痛と歓喜、狂気と絶望はまさに極彩色。
 ひとが生きては訪れられない極楽浄土に堕とされたかのような感覚。
 地獄と天国。その両方が此処にある。
 落ち着くにも一呼吸がいるというもの。
 いいや、精神や狂気に対する耐性があったとしても、これはその上から微塵にして砕く。
 曰く――暴力ではなく、声で戦を終わらせるもの。
 力持つものを笑い声で納め、武器を落とさせて、笑わせるもの。
「あ……ぁ……」
 凪いだる心、崩れず乱れぬ精神性。
 それこそが雪音の真骨頂であっても、膝がぐらつき、まっすぐに立てない。
 恐らく効果を一文に記せばこうなるだろう。
 聞いたモノが持つ力で自滅し、戦闘不能へと導く笑い声。
 自分の持つ特徴、特性、長所がそのまま破滅の誘いとなる。
 確かにこれは暴力ではなく、デスギガスの笑い声で、武を恐れずに生きていける世になろう。
「い、いいえ……!」
 けれど。
 それは、誰の心も死んだ世界。
 そんなモノは望んでいないのだと。
 勝手に歪めて、狂わせるのもまた暴力なのだと。
 氷月のような精神の底から滲む悪夢の脈動に抗い、立ち塞がる雪音。
 意識に浮かんだものならば即座に凪の一息で打ち消し、されど悪夢のように無意識の奥底――普遍無意識からも浮かぶモノに、雪音は苦鳴をもらす。
「ならば、こそ」
 我が望みではない。
 自らの領域、過去と今より生じて、未来へと歩むものこそが『己』と定義するならば。
 外より干渉されて響くこの悪夢。己が願いではないのだと、強く否定する。
「あははははは! すごいね、すごいね!」
 そう歓喜の笑い声をあげ続けるデスギガス。
「キミが倒れたら、願いを叶えたということでさっきの少女を追いかけるけれど――」
 耐えようとする雪音の姿にデスギガスの視線と心は釘付けとなっている。
 素晴らしい。素敵だ。強くて綺麗だからこそお友達にしたい。
 醜い、醜い、ボクと違うお友達。
 そう思った瞬間、雪音の唇から言葉が流れ出た。
「孤独、ならばこそ……他者の心、友誼を結んだ志を望むものなれば」
 故にゆらりと。
 一瞬だけ身を震わせて、静かなる構えを取る。
 さながら冬の夜の如く、冷たくも厳しきそれ。
 凍てつく月灯りにも似た光が宿る双眸は赤。毛細血管が破裂し、血の色が滲むものなれど。
 それは、修羅に似るものなれど。

 美しいと感じるは、矜恃に殉じるその姿。

 どれほどの悪夢の笑い声に晒されようと、もはや、雪音は氷輪の如く揺るがない。
 身の裡の獣に生命力と気を湧き上がらせるを任せながら、その全てを氷鏡の精神で制して律する。
 その鏡に悪夢が映れど。
 全ては移ろうものなれば。
「そう、|デスギガス《あなた》……友達を求めるのは必定なのでしょう」
「あは、ははは」
「意識か、無意識かは知らず。されど、『お友達』の為にという、求めるものが為に自らを動かすならば――|お友達《わたし》にかけた願いを無視して、動くことは不可能」
 故に、雪音が耐えて立ち続ける限り。
 歪んだ願いを叶えようとして、叶わぬと突きつけ返される度に。
 デスギガスは不滅の存在なれど、動く事も儘ならぬ。
 他を視ることできず、意識移らず。
 攻めらぬのだから、攻撃を仕返す反射性も起きない。
「ならばこそ、立たせて頂きます。希望へ、明日へ、或いは、誰かの命への架け橋として」
 そう、それは。
 死と直面し、死に神と向き合うことに他ならない。
 精神とそれを支える活力潰えれば、雪音は果てる。悪夢の蹂躙の前に消え去るのみだ。
 だとしても、生涯をおいて一度たりとも。
何と誰が相手でも譲れぬものがある。
「──師より教え賜った武を以て」
立ち塞がるものを、鏖殺せしめるが武ではない。
 鏖殺にと進むものに、無手でも立ち塞がるが武。
「猟兵として立つこの身の責務を全うせねばならぬのです」
 故にこの雪音の願いは、自らを以て完遂するのみ。
 それは悪夢に侵され、眸から深緋の血を零す儚き姿。
 されど。
 透き通る氷の如く美しく、ただ一念の元に咲く花。
 まるで薄氷で紡がれた彼岸花の如く、風に吹かれて凛と音を立て。

 |此岸《こちら》と|彼岸《むこう》。
 それを別け隔てる白と赤として。立ち尽くす。
 拳は一度たりとも、歓喜のデスギガスに打ち込まれることはなく。
 ただ歓喜の笑い声に、その心を蝕まれてもなお。
「デスギガス。敵であろうと、如何なる存在であろうと――そのような他者と触れあいの出来ぬあなたを」
 そっと、深雪のごとく静かなる声を零すのだ。

「憐れと思います」

 この大地に溶けてひとつなったひともまた。
「他の形で願いが叶うこと、知れたのなら」
 きっと、きっとと。 
 血で染まった視界が、更に疲弊で霞みながらも。
「――この禁域は美しい大地となり、あなたは守護者となれた」

 あなたの言葉でいうならば。

「今と未来を生きるひとの心と共に進めたのなら、あなたの傍は『友達』で溢れていた」

 そんな氷姿雪魄の心魂より紡がれた、澄みきった声に。
 他者を思うことこそ美しく、本当の不滅であると示すかのような響きがあった。
 それでもと笑い続けるデスギガス。
「あははははははは!」
 歓喜の声はあまりにも虚しく、届けられた言葉を理解もできず。
 ただ空をも震わせる笑い声の暴力、災禍をもって世を揺るがす。


「あはははは! あははは!」 




● そうして、悲しいあなたと




 歓喜の笑い声をあげつづけるデスギガス。
 それはさながら、ただ無邪気に、何処までも心の底から笑うかのようでもあり。
 同時に、絆や信念、矜恃や光への願いをみせつけられて。
 みたくないものを、受け入れられないものを、阻むような笑い声だった。
 手にする剣とは何とか。
 朝焼けは綺麗なのかとか。
 一緒にみるともっと綺麗なのとか。
 おかえりって言われるのは嬉しいのとか。
 いろいろ聞けた筈なのに。
 聞く耳持たずに、破滅と悪夢をばらまいたデスギガス。 
 恐らくは――そういった心の機能を持たないのだろう。
 悲しく、愚かな欠落者。あなたを育て、導くことに世界は誤った。
 愛しさのひとしずく。
 あればよかったかもしれないのに。
 だからこそ、猟兵たちが残る力を振り絞り、禁域から脱出するのを『見れなかった』。
 心は読めるのに、まっすぐに見つめる力がないから。
「あはは……あれ? みんなは、すごいみんなは?」
 きょとんと首を傾げて。
 ひとりぼっちの黒兎のように周囲を見渡す。
「すごいみんなっ、ボク、お友達になったらみんなに凄いことできるんだよっ」
 そんな見当違いを叫んでる
「すごいみんな、すごいぼくっ」
 そして首を傾げるのだ。
「すごいみんな……って、誰だっけ? ねえ、教えてよ、大切な『お友達』……あれ、あれ、あれれ?」
 不滅なる悪夢は囁いた。
「うん、『お友達』ってなんだっけ? ボクの願いって、なんだっけ」
 ただひたすらに歪み、狂い、闇は墜ちていく。




● 救われた、わたしの先


例えば、懸命に生きて死んでしまった命がある。
 必死で生きたのだから、当然の絶望もあるけれど、当然としての希望もあった。
 友情だってあったのだし。
 信頼や、それより深い何かを抱いて、だから生きられていた。
 死んだのは覚えている。
 それは、そんな大切なものたちの為だった。
 ああ、だからこそ思うのだ。あんな大切なものたちと|死別《わかれ》して、どうやって生きていくのかと。
 それでも――。
「この世界も、死んだ後も」
 涙で崩れた魂人の少女の声は闇に溶ける。
「ひとは、暖かいのですね……」
 優しさに救われた少女は、ひとりきりの悪夢から抜け出す。
 月灯りは冷たく、凍えるようであっても。
 注がれる視線は、どうしてこうも温かいのだろうか。
 ひとりきりになっても、まだ生きられるならば。
 この先、また繋がっていけるのだろう。
 みんなで、生きているのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年12月22日


挿絵イラスト