描いた星の降る夜に
●
「お初にお目にかかる。この度猟兵の末席に加わる事となったセンテリェオと言う。どうかお見知りおき願いたい」
丁寧な所作で礼をしたのはグリモア猟兵、センテリェオ・テソロ(水面石・f38974)。
エンドブレイカーでもある彼女は、自身がこうして任を伝える立場になるのは不思議な心地だと呟き、僅かに緩めた表情を引き締める。
「我々エンドブレイカーの世界において万能宝石エリクシルの悪意が蔓延っているのは既知のことと思う。その悪意に晒されようとしている人々を、救ってほしい」
狙われるのはとある都市国家――アクエリオと聞いて理解する者も居るだろう。
幾重にも張り巡らされた水路と、その上を進むゴンドラが有名な地域と覚え置いて貰えればいいと添えて、センテリェオはその地に起こる事件について語った。
エリクシルは何らかの『幸せなお祭り』のクライマックスに現れ、祭りの参加者たちを虐殺することを目論んでいる。
そうして、その事件で死んだものを生き返らせたいという願いを得ようとしているのだそう。
「そのような非道を断じて許せるものか」
直ちに現地に赴いて阻止してほしい。そう願うセンテリェオは、ただしと口添える。
「催しを楽しむ人々には、襲撃が目論まれている事自体を、気付かせないでほしい。幸せを謳歌する彼らが知る必要のないことだからな」
イベント会場への襲撃ルートは予知できている。
基本的には水路が多く、足場環境は良くない。しかし、ルート上には廃墟となっている建物が集まっている地点もあるため、そう言った場所を選んで襲撃することも可能だ。
飛ぶことが可能ならば見通しの良い水路地帯で上空から仕掛けることも、逆に建物の死角を活かす戦い方を選ぶことも出来る。スタイルに合う戦い方が良いだろう。
「敵となるのは、ラビシャンの女王アルゴラ――その肉体を奪った、喋る武器『滾る鎚ベリオルズ』だ」
かつてエンドブレイカーが撃破した敵の再生。エリクシルの厄介な所だと眉をひそめたセンテリェオ。
「おそらくは肉体のみで、女王の意思はない。だからこそ、仮に猟兵となったラビシャンが情を訴えようとも無駄だろう」
加えて、ベリオルズを討伐しようとも、ベリオルズの『目的を果たしたい』願いを利用して大量のマスカレイドを呼び寄せる。
油断なく、心して当たってほしいと語ったセンテリェオは、そこでふと表情を緩めた。
「万事恙なく解決できたなら、イベントを楽しむと良い」
都市国家の空の多くはドロースピカと呼ばれる星霊術によって描き出されているのだが、アクエリオのドロースピカは特に優秀であり、広い空に描けば疑似的な空を作り出すこともできる。
その空を仰ぎ見る事の出来る広い水路地帯に、その日はある時間になると流星群が発生するのだそう。
「その一帯は建物が取り払われ、どこまでも広がる星空が描かれている。瞬く星も、流れる星も、本物さながらに美しいものだ」
ゴンドラに揺られながら星を眺め見るのが趣旨の催しだ。ゴンドラ乗りに操縦してもらってもいいし、技術ある者は自身で操縦してもいい。
水路のどこに居たって、星の煌きは届くのだから。
「俺達の世界の幸いを、知っていってほしい」
そう告げて微笑む顔は、どこか、誇らしげにも見えた。
里音
エンドブレイカー!エンドブレイカー世界ですよ!!!!
ボス戦、集団戦、日常の三本立てでお届けいたします。
●ボス戦について
ラビシャンの女王アルゴラはOPの通り(当シナリオでは)女王の意識はありません。武器に死体を操作されているような状態です。
武器の方は喋るので会話は可能ですが何らかの情報が得られるとかはありません。TW3当時のことなども基本的にスルーします。
ボス討伐直後に集団戦となります。詳細は断章にて。
●イベントについて
ゴンドラに揺られながら水路で流星群を眺めるのんびりとしたイベントです。
ゴンドラ乗りさんに操縦してもらうのが基本となりますが、ご自身にゴンドラ乗りの技術があれば自操も可能です。
おひとりでもわいわい大人数でも問題ありません。
飲食は酒類含めて可能です。水路の途中に軽食やお菓子を売る露店もあります。
喫煙は出来ません。また、公序良俗に反する行為、あまりに雰囲気を損なう行為も採用いたしかねます。
第一章プレイングはOP公開直後から受付いたします。
第二章、第三章は断章を挟む予定ですが、投稿前にプレイングを掛けて頂いても問題ありません。
皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『滾る鎚ベリオルズ』
|
POW : ジェノサイドハンマー
予め【ベリオルズが力を溜める】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD : ファントムスタンプ
自身が触れた物体ひとつに【ハンマーの幻影】を憑依させ、物体の近接範囲に入った敵を【実体を持つ打撃】で攻撃させる。
WIZ : ランドブレイク
単純で重い【ハンマー(ベリオルズ自身)】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
イラスト:志村コウジ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
杼糸・絡新婦
マッチポンプってやつかいな。
楽しいお祭のお邪魔はよろしゅうないで、
まずは一仕事といきましょか。
廃墟の多い場所から
建物の死角から『闇に紛れる』ようにして行動。
錬成カミヤドリにて鋼糸【絡新婦】を召喚し、
張り巡らせるようにして『罠使い』
武器がお喋りできるて聞いてたけれど、
もうちっとアピールせんと忘れられるでとでも『挑発』して、
こっちに意識をむけとこか。
敵の攻撃は『見切り』で回避したり、
鋼糸で絡めて『捕縛』で動きをおさえつつ、
『切断』攻撃していく。
ヴァニス・メアツ
おや、懐かしいですね…あのクソハンマー
まぁ実際に相対するのは初めてですけど
成る程、聞きしに勝る気味の悪い笑い方だ
建物を利用し、屋上より攻撃開始
その重そうな打撃を受けたら一溜まりも無いでしょうが、生憎と私の得物はこれでして
紫煙銃を向け、UC発動
味方がいらっしゃれば支援としましょう
そうでなくとも奴とその周囲の幻影攻撃を逸らす事が出来れば僥倖
なるべく敵には近付かず、奴が触れる物質は把握して気を配ります
隙を見て跳弾にて寄り代たる女王の四肢関節を撃ち抜き、動きを抑えられれば良いのですが
建物を破壊されても別の建物に飛び移り立ち回りますよ
死して尚利用される女王には多少同情します
私も兎、なものですのでね
●
水路が張り巡らされたアクエリオの一角、廃墟が立ち並ぶその道を進む姿を見て。
ヴァニス・メアツ(佳月兎・f38963)は「おや」と愉快気な声を上げた。
「懐かしいですね……あのクソハンマー」
少々口が悪くなるのは、ヴァニスがエンドブレイカーであり、かつて件のクソハンマー――『滾る鎚ベリオルズ』が敵対した存在であることを知っているから。
そして何より――。
「ドゥフフ、久々の登場に拙者昂りまくりですぞ。ドゥフフ……」
「成る程、聞きしに勝る気味の悪い笑い方だ」
実際に相対したことのない相手ではあるが、その特徴的な笑い方と口調だけは聞き及んでいたその通りで。
女王の方が復活していればよかったのにと思わないでもない。
杼糸・絡新婦(繰るモノ・f01494)もまた、ベリオルズの性質的な部分はさておいて、エリクシルのやり口に些か引いた様子。
「マッチポンプってやつかいな。楽しいお祭のお邪魔はよろしゅうないで」
やれやれ、と。廃墟の高所に陣取った二人の溜息が重なって。一瞬、目が合って。
ぱ、と闇に紛れるように影の中に降りて行った絡新婦を見送ったヴァニスは、迫りくる姿に銃を向ける。
『世界の瞳』から発生する紫煙を弾丸に換えて放つ『紫煙銃』は、ヴァニスのかつての相棒。
三月兎の如く跳ね回る弾道を持つその銃口に気が付いたのか、ベリオルズを担いだラビシャンの女王『アルゴラ』と目が合った。
「おやこれは、邪魔者の気配……」
「その重そうな打撃を受けたら一溜まりも無いでしょうが、生憎と私の得物はこれでして。――さぁ、今の内ですよ……!」
ヴァニスが引き金を引けば、廃墟の壁を蹴って跳ね回る兎の如く紫煙の弾丸が奔る。
ベリオルズは即座に周囲の瓦礫にハンマーの幻影を憑依させ、自身は『アルゴラ』に豪快に振り回させて、弾丸を弾いていく。
遠距離攻撃を受け付けないと主張するような行動は、射撃者であるヴァニスの接近を誘うようだが、そんなものに乗ってやる必要はない。
何故なら、紫煙銃による攻撃は、決してベリオルズを倒す目的だけでは放たれていないのだから。
「まずは一仕事といきましょか」
闇に紛れた絡新婦が、ベリオルズの死角から鋼糸による攻撃を仕掛ける。
武器として担がれる事で『アルゴラ』とは異なる視界を持つベリオルズだが、だからこそ、その攻撃に直前まで気付くことが出来ずにいたことに驚いたように飛び退いた。
「なんやえらい動きやすい気がするなぁ」
にこりと笑う絡新婦の周囲に、ふわりと紫煙が漂った。
同様の紫煙がベリオルズの方にも過って見えるが、こちらは纏わりつくようで。それがベリオルズにとって『ちょっとした妨げ』になっているようだと、絡新婦は感じていた。
それこそがヴァニスのユーベルコード。劇的に状況を覆すほどの力は持たずとも、紫煙銃で射撃している間、その『紫煙』は味方の成功率を僅かに上げ、敵の成功率をわずかに下げる。
それが上手く噛みあえば、敵の警戒の隙をついて、廃墟地帯に張り巡らせた鋼糸で絡め取ることも、決して難しくはないのだ。
「ドゥフフ、拙者縛られるのも嫌いではないですぞ」
「……武器がお喋りできるて聞いてたけど……」
しっかりアピールしてくれないと忘れられると言おうとして、この癖の強さはちょっと喋るだけで印象に残ってしまいそうだとほんの少し眉を顰める絡新婦。
さりとて、敵の意識が己に向くようにと糸を操り誘い込む。
「それ以上下がると危険ですよ」
「おっと、せやったなぁ。おおきにね」
ひょい、ひょいと後退しながら、頭上からのヴァニスの声に従い方向転換。
ハンマーの幻影が憑依された物体の近接範囲に迂闊に入るものではない。
高所からしっかりと把握しているヴァニスが邪魔になったのか、振りかぶった鎚で彼のいる建物を破壊するが、予期できたこと。
ひらりと近くの建物に飛び移り、振り向きざまに放つ弾丸は、またしても壁や地面を跳ね飛んで、死角から『アルゴラ』の足を捉える。
「ドゥフフ、こんなにも無防備なアルゴラ殿を狙うとは」
「良く回る口やんなぁ」
「ですね。それにしても、死して尚利用される女王には多少同情します。私も兎、なものですのでね」
だからこそ、早く解放してやりたいものだ、と。ヴァニスは再び銃を向けるのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ソフィア・アンバーロン
わぁー
ベリオルズとか凄く懐かしいなぁ
ラビジャン王国が強襲した以来だね
ぼ、私は実際闘えなかったけど、今なら戦えるかな?いざ勝負!
先ずは闇に紛れて近づいて
闇がないならユーベルコードで幻覚と戦っている間に近づくよ
近づけたら魔鍵で殴って影縛りで動きを鈍く出来るか試すよ
攻撃には神聖とかそれ系の属性攻撃を込めて距離を取られたらユーベルコードを使って甲冑騎士と一緒に引き続き一緒にボコる
相手の一撃は怖いので甲冑騎士を相手にしているときに後ろに回り込んだりして、なるべく自分が有利に攻撃出来るようにしよう
相手の行動に注意しつつ確実に攻撃を当てるよ
猟兵としては初心者だからね
足を引っ張らないようにしなきゃ
●
わぁー、と声を上げたソフィア・アンバーロン(虚ろな入れ物・f38968)の瞳が、ゆるり、細められる。
「ベリオルズとか凄く懐かしいなぁ。ラビジャン王国が強襲した以来だね」
かつて多くのエンドブレイカーが集った戦い。その中の一人であったソフィアだが、当時は、ラビシャンの女王『アルゴラ』とも、『滾る鎚ベリオルズ』とも、実際に戦う機会には恵まれなかった。
その機が、今訪れたと言うのだろうか。
「いざ勝負!」
夜に向かうアクエリオの廃墟地帯は、幾つもの影に満たされている。
闇に紛れながら素早く敵へと近づいたソフィアだが、意思はなくとも鋭敏な聴覚を持つ『アルゴラ』の肉体が気取ったとでも言うのだろうか。あとわずかと言うところで気付かれてしまう。
「ドゥフフ、またしても邪魔が入りましたな」
「邪魔はどっちだか!」
素早く中空に描くのは黒鉄兵団の紋章。魔想紋章士であるソフィアが紋章学の中でまともに使える紋章でもあるそれは、目の前に立つベリオルズらへ、甲冑騎士団の幻影による攻撃を繰り出した。
甲冑騎士の剣を受け、弾き飛ばしと攻防を繰り返すベリオルズ。その隙に背後に回り込んだソフィアは、手にした魔鍵を振りかぶり、ベリオルズの影へざくり。
それにより、影縛りの効果が表れたのか、ほんの一瞬その動きが止まる。
だが、ソフィアのそれは、決して強力な効果を発揮できるものではないゆえ、せいぜいが動きをわずかに鈍らせる程度だった。
「上手くはいかないかぁ。猟兵としては初心者だからね。仕方ない」
動きを制することができないならば、作戦変更。紋章を描き、召喚した甲冑騎士と共にボコっていくのみ。
無論、無暗矢鱈に突っ込めば、巨大な鎚の一撃に叩き潰されるのは目に見えている。
現に突撃した甲冑騎士の幻影が、地形すらも抉るその一撃に無残に吹き飛ばさているのだから。
しかしそれはソフィアが臆する理由にはならない。
叩きつけられた一撃を躱し、すかさず距離を詰めて魔鍵で殴る。
確実な一撃がダメージを蓄積していくことを信じるソフィアの目の前で、再び甲冑騎士が霧散する。
抉れた大地の中央に立つベリオルズは、獲物を追い詰めるような笑い声を、漏らしていた――。
成功
🔵🔵🔴
ヴィトレル・ラムビー
アクエリオに足を踏み入れるのは久々だな
土地勘はあまりないが、襲撃ルートを絞ってくれているのなら何とかなるだろう
足元のマシな廃墟区域で迎え撃つ
ポールアックスを眼前に構え、ユーベルコードを使用
さあ我等が父祖よ、その力を示したまえ
本当に六時間かけて崇めたからな?力を貸さなかったら許さんぞ
挑むは近接戦
強化に任せて正面から打ち合ってやる
多少の被弾も気にしないが、力を溜めた一撃は食らいたくないな
前兆を見いだせたら懐に踏み込んで、槌の柄の部分を受け流して捌きにかかる
近間で振りづらいのはこちらも同じだが、斧の刃はきちんと研いである
押し付ける形で切り裂いてやろう
どうした、私はまだまだやれるぞ?
ま、六分間だけな
夜鳥・藍
喋る武器……聞いたような覚えがございますが、いつどなたに聞いたのだったかしら?
……。ううん思い出せないわ。
思い出せない事が少々悩ましいですがまずは事件を阻止しなければ。
力をためる時間は与えません。
速やかに鳴神を投擲、さらに念動力で操作して当ててまいります。
さすれば竜王さんの雷撃による追撃がありますから。
向こうの攻撃は第六感で回避するか、回避しきれなければ青月で受け流します。受け止める事は難しくとも力を流せれば。
……模擬戦のように思い切った動きが出来れば良いのですが。でもそこまでできないのはこれが実戦だからなのでしょうね。きっとまだそこまでの自信がないのね。
●
アクエリオと言う都市国家には幾度か訪れた。しかしそれも、随分と以前のことだ。
エンドブレイカーであるゆえに知らぬ土地ではないとはいえ、ヴィトレル・ラムビー(斧の狩猟者・f38902)にとっても土地勘の薄い場所ではある。
「しかし、襲撃ルートを絞ってくれているのなら何とかなるだろう」
「そう、ですね……」
独り言のような呟きに同意を返すのは夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)。
今一つ歯切れが悪いのは、藍の頭の中で、『喋る武器』と言う存在がなんとなく引っかかっているためだ。
(喋る武器……聞いたような覚えがございますが、いつどなたに聞いたのだったかしら?)
考えても、考えても、思い出せない。
それが、藍の表情を僅かに曇らせていたが、ゆるりと頭を振れば思考は切り替わる。
いま、この事件を阻止するために全力を尽くさねば。
真っ直ぐに前を見据える藍を横目に一瞥して、ヴィトレルは敵が進み来る道のど真ん中に陣取って、待ち構える。
そこへ近づいてくる、駆ける足音。
どこかで猟兵の攻撃から逃れてきたのだろうか。ぴょん、と大きく跳ね飛んだラビシャンが、彼らの前に軽やかに着地した。
「一難去ってまた一難と言う奴ですな、ドゥフフ」
巨大な鎚を担いだラビシャンの女王『アルゴラ』――その肉体を乗っ取った、『滾る鎚ベリオルズ』。
その姿を眼前に捉えたヴィトレルは、すかさずポールアックスを構え、六世代分の先祖伝来の力を発動する。
「さあ我等が父祖よ、その力を示したまえ」
世代分時間をかけたの崇拝儀式を経る事で、世代分相応の力を手に入れられるユーベルコード。
六世代分、きっちり六時間崇めてきたのだ。これで力を貸してくれぬのであれば許されないところであるが……勿論、ヴィトレルの父祖たる存在達は、崇拝儀式に応え、彼に力を与えてくれる。
確かな力が漲るのを感じながら、ヴィトレルは巨大な鎚であるベリオルズへ、真正面から勝負を挑む。
振るわれる斧の刃を受け止めんとするのは、ベリオルズ自身が鈍重で頑丈な鎚であるが故か。しかし――。
「ドゥフッ!?」
笑う声が思わず詰まるほどの衝撃に、思わず後ずさるベリオルズ。
なるほど素の力では叶わぬと悟った鎚は、ヴィトレルの強化を打ち砕くための力を溜めようとする。だが、共に戦う藍が、それをみすみす許すはずがない。
すかさず黒い三鈷剣である『鳴神』をベリオルズへ向けて投げつけると、突き刺さるそれを起点に、嵐の王を、呼び寄せた。
「竜王招来!」
迸るのは咆哮。あるいはそれによく似た、雷鳴。
強烈なダメージを齎す雷に晒されたベリオルズはその場に縫い留められたように動きを止めるが、まだ、倒れるには至らない。
元より操られている状態の『アルゴラ』の身は、幾ら焼けこげようと立って得物を振るえさえすれば使い物になってしまう。
身体のバランスが崩れたのか、多少のふらつきは見られるものの、鎚による一撃必殺とも言えよう攻撃は、健在なまま。
力を溜めているのだろう。大ぶりな攻撃は見切りやすくなっており、藍は第六感を頼りに回避を繰り返す。
(受け止めるのは難しいでしょうが、力を流すことが出来れば――)
頭では理解できている理屈を、けれど、踏み切ることができないまま。
模擬的な戦闘でそう言った動きにも慣れたはずなのに、実戦では活かしきれていないのをつくづく、感じる。
そんな藍の傍らをすり抜けて、大きく振りかぶった『アルゴラ』の懐深くへヴィトレルが潜り込んだ。
目を瞠る藍の眼前で、藍が思い描いたような動きで。重厚な武器と武器の柄をきりきりと擦り合わせて攻撃を受け流したヴィトレル。
そのまま、鋭利に研がれた斧の刃を押し付けて。ふくよかな『アルゴラ』の胴を、大きく、斬り裂いた。
「どうした、私はまだまだやれるぞ?」
六分間という制限付きではあるが。『アルゴラ』の損傷に大きく退いたベリオルズに、そう言い放つヴィトレルを見て、藍はほんの少し、瞳を細める。
(私には、きっとまだそこまでの自信がないのね……)
同じようには、出来ずとも。次はもう一歩、前へ――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
真宮・響
ふむ、エリクシル。願いを歪んだ形で叶えるという。厄介だね。彼の女王も死体を利用されるなんて哀れなものだ。たとえ、その願いが邪悪なものであっても、利用されるのは女王の誇りに反するはずだからね。
まずは目の前の脅威を何とかするか。赤竜飛翔で見通しの良い水路を選んで仕掛けよう。勿論【迷彩】で姿を隠してね。目立った格好だから見つけやすいだろう。これ以上身体を利用されるのを防ぐ為に【気合い】【怪力】【串刺し】で全力で【槍投げ】で身体を貫く。
邪悪な女王さえ利用するか。喋る武器、そしてエリクシル。厄介だね。
ラビラブ・ラビシャンソウル
えっ!?あれはアルゴラさまっ!!
どうして…だってあの時にやられちゃって…
違う、目を閉じれば今も思い出せる女王さまは優しいお顔していた、あんな虚ろなお顔じゃない
そっか、これがエリクシルの所為なんだね!
しゃべる武器のため女王さまは無理やり連れてこられた感じ…許せないんだよ!
相手が武器ならこの刃…何度でも打ち合い、叩き付けてやるんだ!
ただただ武器がしゃべるなんて忌々しい!それならその口が開かなくなるまで
こんなハンマーがあるから…!女王さまが…!!
うん、あの時失われた|故郷《ラビシャン王国》はこんなウソツキ宝石なんかに頼らなくったって、ぜったいブーちゃんが復興してみせるんだから
見てて、女王さま…
●
アクエリオの平和な祭りを脅かす存在と対峙すべく廃墟地帯へと至ったラビラブ・ラビシャンソウル(ラビシャン王国最後の生き残り・f38943)は、敵の姿に驚きを隠せないでいた。
「えっ!? あれはアルゴラさまっ!!」
どうして、と。ラビラブが動揺するのも無理はない。ラビシャンである彼女は、女王である『アルゴラ』の最期を知っている。
どのような敵が相手かを聞いていたとて、目の当たりにした今でも信じられない光景なのだ。
だが、ラビラブの動揺はすぐに解消される。
「――違う」
良く見なくたって、分かるのだ。ラビラブの知る女王『アルゴラ』は、優しい顔の、美しいラビシャンだった。
あんな、虚ろな顔をしていた事なんて、一度もなかった。
「そっか、これがエリクシルの所為なんだね!」
「ふむ、エリクシル。願いを歪んだ形で叶えるという。厄介だね」
憤るラビラブに、真宮・響(赫灼の炎・f00434)の呟くような同意が返される。
女王『アルゴラ』がどのような状態でいまこうしてベリオルズを構えて立っているのかは知れない。だが、死体を操られているような状態だと聞けば、憐れなものだと同情も湧く。
「利用されるのは女王の誇りに反するはずだからね」
「そのとおりだよ!」
声を荒げ、わなわなと震えるラビラブに、くすり、響は微笑ましいような気持ちに微笑んで。
けれどすぐに表情を引き締めて、共に武器を構えた。
「竜騎士の意地を見せようかね!! 容赦はしないよ!!」
一喝するとともに赤い竜の翼を生やした騎士へと転じた響は、水路の巡る上空へと飛び上がる。
見通しのいいその場所から見下ろせば、『アルゴラ』――その身を乗っ取ったベリオルズとラビラブが対峙するのが、良く見えた。
「しゃべる武器のため女王さまは無理やり連れてこられた感じ……許せないんだよ!」
「ドゥフフ、小振りなラビシャン殿は揃いも揃って手厳しいですな。小振りなのに。ドゥフフ」
その言葉が侮蔑であろうと称賛であろうと、ラビラブには関係がなかった。
ただただ、武器が喋るなんて忌々しいという感情が、彼女を突き動かした。
「何度でも打ち合ってやるんだ……お前の、その口が開かなくなるまで!」
太刀を振りかざし、ラビラブは果敢に挑む。
華奢なラビラブが握る得物は大剣にも匹敵するほどの長さを誇る野太刀と言え、重厚な鎚と打ち合えるほど凶刃にはとても見えない。
だが、ラビラブの強さはその早さだ。
神速の突きは『アルゴラ』の身体能力を以てしても躱すのに難儀した。まして、これまで切り抜けてきた猟兵との戦いで傷ついた肉体では。
「こんなハンマーがあるから……! 女王さまが……!!」
前のめりなラビラブは、強い感情を備えているがゆえに、ほんの少し、踏み込み過ぎた。
『アルゴラ』に傷がつくことを全く厭わないベリオルズが、ラビラブの刃を無理やり『アルゴラ』に掴ませてその動きを制し、力を溜めた一撃を、その身に叩きつけんと振りかぶる。
「させるものか!!」
刹那、空を切る轟音と共に何かが飛来する。
それは赤熱した槍。響が全力を籠めて投げつけたその槍は、響のエリクシルを許せぬ思いに、ラビラブの必死な姿が一層の力を与えたかのように、赤く、熱く、炎を帯びたドラゴンの牙さながらに、『アルゴラ』の身体を穿ち、その場に縫い留めた。
ぐらりと傾いだ瞬間、振り下ろされるはずだった鎚の軌道が逸れて、間一髪で退避したラビラブ。
「止めを!」
は、と短く息を吐きだしたラビラブは、響に促されるまま、もう一度踏み込む。
狙うのは、女王ではなく、醜悪な鎚。
足掻くように振りぬかれた鎚を、返し刀で弾き飛ばしたラビラブは、神速の突きを叩き込んだ。
響いたのは、断末魔か。それとも、果たしたい願いか。
聞くに堪えないその音に眉をひそめた響は、倒れ伏した『アルゴラ』の傍らに立つラビラブの元へ降りると、そっとその表情を窺った。
「……邪悪な女王さえ利用するか。喋る武器、そしてエリクシル。厄介だね」
「……うぅん、女王さまは……」
人にとっては邪悪だったかもしれないけれど、やっぱり、とても優しい存在だったのだ。
女王が治めていた王国は、こんな武器が存在しなければ、きっと今も――。
「うん、あの時失われた故郷はこんなウソツキ宝石なんかに頼らなくったって、ぜったいブーちゃんが復興してみせるんだから」
見てて、女王さま。ぐっとこぶしを握り締めたラビラブを見上げる形で倒れ伏す女王。
その表情がほんの少し和らいだような――そんな、不思議な錯覚に、響は思わず目を瞬いたのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第2章 集団戦
『デモン人間』
|
POW : クリムゾンハウンド
自身の【血液】を代償に、1〜12体の【血の猟犬】を召喚する。戦闘力は高いが、召喚数に応じた量の代償が必要。
SPD : レギオスブレイド
レベル×1体の【魔剣】を召喚する。[魔剣]は【斬撃】属性の戦闘能力を持ち、十分な時間があれば城や街を築く。
WIZ : デモンフレイム
レベル×1個の【漆黒】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
イラスト:させぼのまり
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
溶けるように消えた『滾る鎚ベリオルズ』とラビシャンの女王『アルゴラ』。
しかしその間際に残された願いが、新たな敵を呼ぶ。
それは、『夜』だ。
具現化された夜は、この世界においては|悪魔《デモン》と呼ばれている。
そしてその|悪魔《デモン》の力を振るっていたデモニスタ達の肉体と精神を乗っ取ったのだ。
『デモン人間』と称される彼らは、エンドブレイカーではないデモニスタの、成れの果て。
上位者に従い、己の身を顧みず強力な魔力を振るうこの集団を退ける事が出来なければ、エリクシルの望んだ虐殺は叶ってしまうだろう。
阻止すべく立ちはだかる猟兵達へ、デモン人間達は夜の力を行使する――!
エルシェ・ノン
デモン人間を目の当たりにし覚えるのは憐憫
そうやって使われるのは本意じゃないよね
エリクシルの目論見通りの未来もご免だし
心機一転の実戦、初心に返って慎重に、かつ全力で
出来るだけ闇に紛れて気配を殺し、狙いを絞って強襲
背中から首筋に走る傷跡を勢いよく爪で掻き切り、【憎しみの化身】を召喚
自身を幾らか若くした銀髪の男の後姿に目を細める
激情は既に無い。でも骨が剥き出しの拳には少しだけザマアミロと思わなくもない
飛来する黒炎は廃墟を盾に凌ぎたいけど、いざとなったら三十六計逃げるに如かず
潜って大丈夫そうなら、水路にドボン。はい、水も滴るイイオトコの出来上がり?
単独行動は避け、死角は伴うヒュプノスに補ってもらいたい
ヴィトレル・ラムビー
本当に六分程度で加護が切れるのかご先祖よ…
まあいい、マッチポンプの願い程度なら私の本来の実力で相手取れるだろう
たぶんな
お前達もエリクシルに使われるのは不本意だろう。すぐに解放してやるからな
血の猟犬はUCで迎撃、廃墟の建材が使えそうなら天井崩しや床をぶち抜いて一網打尽を狙う。狩られるのはごめんだ
切り抜けられたら最低限懐に入ってきた奴をナイフで切り払い、前進を続けよう。今更多少の手傷は厭わない
だがお前達の使う技は私も見慣れている
そう簡単に喰らってやると思うなよ
長物の間合いに踏み込めたらポールアックスで思い切り薙ぎ払ってやる
悪いな。一応私も、この後の祭は楽しみにしているんだ
ヴァニス・メアツ
デモン人間とはまた…
影に潜んで逃げてしまう前に全て仕留めねば拙い
敵の前に身を晒し、敢えて目立つ様に声張って叫びます
さぁさぁ御立合い!
私のこのカードマジック、しかとご覧に入れましょう!
ギャラリーは多いに限る、さぁおいでなさい
それとも私如きも殺せませぬか!
出来るだけデモン人間や猟犬を引き付ける様にし、奴らをなるべくひとところに集めたい所で
カードを扇の様に広げ、一枚だけ飛び出すはハートのQ
それ以外のカード全てを放ち、UC発動
トランプ兵と騎士達へ、手元に残したQを手に命じましょう
一人残さず殲滅せよ!と
芸の御代はその首にて貰い受けましょうか
何せ二分も持ちませんし、この兵隊たち…一網打尽じゃないと、ね
●
デモン人間、ひいては、そうなり果てたデモニスタ。それを、彼らは知っている。
「デモン人間とはまた……」
思わずと言った風に呟いたヴァニス・メアツの言葉に、エルシェ・ノン(青嵐の星霊術士・f38907)も薄らと瞳を細める。
そこにあるのは、憐憫だ。
「そうやって使われるのは本意じゃないよね」
「そうだろうとも。すぐに解放してやるからな」
自身に降りた先祖の加護という強化が、ブレイクもされていないのに戦闘終了まで持続せず、きっちり六分で切れてしまっている。
そのことにやや不服を感じつつも、ヴィトレル・ラムビーは自身の本来の力を確かめるように武器を握り直した。
加護はなくとも、マッチポンプの願い程度なら己の本来の実力で相手取れるだろうと力強く豪語したかと思えば、「たぶんな」と軽く言ってのけるその様子に、ヴァニスもエルシェも口元を緩める。
ヴィトレルの言うとおりだ。自分達は彼らのことをよく知り、対峙してきた立場の人間、エンドブレイカー。
「エリクシルの目論見通りの未来もご免だし――」
「――凄惨な終焉は、終焉させませんとね」
ぱ、と顔を見合わせたのは一瞬。エルシェはすぐさま夜の闇に紛れるように気配を殺し、逆にヴァニスは自身の姿を主張するように大きく両手を広げ、声高に告げる。
「さぁさぁ御立合い! 私のこのカードマジック、しかとご覧に入れましょう!」
声は広く、デモン人間達へと届き、その意識を引き寄せていく。
手にトランプを備えたヴァニスは、広げたりシャッフルしたりと軽く披露してみせながら、そのままステップを踏み誘うように後退し、戦いやすそうな立地へと進んでいった。
それを追うように放たれるのは血の猟犬。上位者の望みを叶えるためにいかな代償も厭わないデモン人間達は、己の限界まで血を捧げ、数多の群れを形成し嗾けてくる。
「流石に多いな」
「ギャラリーは多いに限る、さぁおいでなさい。それとも私如きも殺せませぬか!」
丁度ヴィトレルの隣に立ったところで、一斉に地を蹴り牙を剥き出しに飛びかかってくる猟犬達。
真っ直ぐな獣達に対抗するように、ヴィトレルもまた、真っ直ぐにポールアックスを振り上げ、叩きつけた。
その単純で重い一撃は、彼らが立つ場所に無数の罅を入れ、崩れかけの建物すら大きく揺らした。
がらりと音を立てて崩れる廃墟。それに巻き込まれた猟犬は多数だが、無論、すり抜けてくるものも多く。
それらを待ってましたと相手取るのは、トランプを扇状に広げたヴァニス。
指先で弾けば飛び出るのはハートのクイーン。気難しい女王様の忠実なる配下として、その他のカードが投げつけられて――。
「ハートの女帝は命じた、敵の首を刎ねろと!」
一人残らず殲滅せよ!
クイーンのカードを掲げて唱える声に応じて、トランプは次々と兵士へ、騎士へと姿を変えた。
「芸の御代はその首にて貰い受けましょうか」
トランプ兵が猟犬を食い止め、騎士達が素早く斬り伏せて。
鮮やかなトランプさばきを見せたヴァニスの兵隊達は相応の強さで以て敵と対峙する。
その中を縫うように駆けるのはヴィトレルと、もう一つの影。
「気持ちいいくらいの全力だね!」
自身は初心に返って慎重に動いてきたわけだが、ここで動かねば全力に乗り遅れよう。
背中から首筋に掛けて走る消えない傷跡を抉った爪は血が滲むし、痛くないかと問われると全くちっともそんなことはない。
だが、それによって召喚されたエルシェに似た銀髪の男が猟犬の群れへと突っ込む姿を見ると、不思議と痛みなどは気にならなくなって。
ふと細めた視界に映る骨が剥き出しの拳に、ふん、と鼻を鳴らす。
(――ザマアミロ)
なんて、少しくらいは、思わなくもなかったりするのは、それが、エルシェにとっての憎しみの化身であるがゆえ。
激情なんてものは既にないけれど、痛い思いをした分働いてもらうのは、当然のことだ。
骨の拳で猟犬を殴り飛ばす化身と並び、ナイフで猟犬を散らしていくヴィトレル。
その視界の端でデモン人間が漆黒の炎を打ち出そうとするのが目に入れば、自然、瞳が細められた。
「お前達の使う技は私も見慣れている。そう簡単に喰らってやると思うなよ」
長物の間合いに入るよう、深く踏み込んで、大きく一閃。
纏めて吹き飛ばされたデモン人間の頸を、騎士が刎ね飛ばしていった。
前へと進むヴィトレルの顔や腕に飛び散っているのが返り血なのか自身の血なのか。それぞれの挙動を警戒するエルシェの目にはどちらにも見えて、一瞬、回復の必要性が脳裏をよぎった。
その傍らで、ぽよん、と跳ねる羊型の星霊にハッとして、自身へ向けて放たれた炎を廃墟の壁を盾に防ぐ。そうして、危機を報せた星霊にぱちりとウィンク。
「後で、だね」
「その方向で。何せ二分も持ちませんし、この兵隊たち……一網打尽じゃないと、ね」
慣れない戦い方に肩を竦めるヴァニスに、エルシェも同意を返して笑う。
「炎で燃えそうなら、いざとなったら水路に飛び込んじゃおうか。水も滴るイイオトコの出来上がりってね?」
「あの炎って、それで消えるんですかね」
「この後の祭りを楽しめなくならないかそれは」
一応楽しみにしているんだと告げるヴィトレルに、また浮かぶ笑みは、誰一人として祭りの開催を疑っていない、良い証拠であった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
夜鳥・藍
デモンであってダイモンではないのですね。言葉は似ていますが根本的に違うものなのでしょう。
ですが夜の具現化デモンは少し気にはなりますね。どのような存在なのでしょう。
雷鳴にて複製した神器をぶつけ魔剣と相殺します。
相殺しきれない分は青月で斬りはらい受け流しをしつつ近づき、直接切り込み攻撃するようにします。
ええ、自信がないのであれば持てるように実践あるのみ。
剣筋を見極めときには第六感でかわし躱し切って見せましょう。
ふと思うのですが、デモニスタさん達の肉体と精神を乗っ取ったと言う事は、デモン単体では存在できないのでしょうか?
真宮・響
デモニスタ。悪魔には他の世界にもいるが、この世界の「悪魔」はより闇が深く、業が深そうだ。使いこなせないと悪魔という闇は扱うものを乗っ取るんだね。
可哀想だがこれ以上罪を犯す前に止めてやる事がしてあげれる事か。
繰り出す血の猟犬の攻撃を【迷彩】で姿を隠し、【残像】で回避。赫灼の闘気で残さず薙ぎ払う。
本体に接近できたら容赦無く【気合い】【怪力】【串刺し】で全力で貫く。
悪く思わないでくれ。このような所業はアンタたちの本意ではないだろうから。恨むなら幾らでも恨んでくれ。
●
デモンであって、ダイモンではない。そんな言葉的な意味合いの違いを感じて小首を傾げる夜鳥・藍。
しかしそれ以上に、エンドブレイカー世界における|悪魔《デモン》というのは、そもそもが夜の具現化した存在と言う、定義からして異なるもののように思える。
「きになりますね。どのような存在なのでしょう」
「確かに、悪魔には他の世界にもいるが、この世界の「悪魔」はより闇が深く、業が深そうだ」
真宮・響もまた、興味や感心の混ざった声音で呟く。
デモニスタと言う存在は、この|悪魔《デモン》を使いこなしているらしく、そうでなければこのように乗っ取られてしまう恐れがあると聞くと些か危うくも聞こえたものだ。
きっと、猟兵に目覚める程の者らがこうなることはないのだろう。そして、こうなってしまった以上は、可哀想だがしてやれる事は限られている。
「罪を犯す前に止めてやる事がしてあげれる事か」
武器を構える響に、そうですね、と短く呟いた藍も続く。
デモン人間が操るのは、血で形成された猟犬の群れと、浮遊する禍々しい剣の群れ。
己の限界を顧みずに血を代償とするデモン人間達によって、多くの猟犬が生み出されては襲い掛かってくる光景に目を細め、響はその憤りに似た感情を、闘気として燃え上らせた。
「アタシの燃える闘気はアンタらの暴虐を許さない!!」
ごぅ、と音を立てて響から放たれるのは赫灼の闘気。燃え上る炎に等しいそれは、猟犬と、それを生み出したデモン人間達を次々と飲み込み、焼き尽くしていく。
血を焼く、不快な匂い。その要因となる猟犬を生み出したデモン人間達は、その殆どが猟犬が駆けるより先に血の海に伏していた。
その現実が響の闘気をより燃え上がらせる傍らで、炎を突っ切って飛来してくる魔剣達へ対抗すべく、藍が自身の神器を無数に複製し、魔剣の斬撃を相殺するように放つ。
数の多い手合いとの相手。自身の複製した神器だけでは全ての魔剣を落とすに至らぬことは、藍とてすぐに見て取れた。
だからこそ己の武器である刀を構え、果敢に前へと出るのだ。
(ええ、自信がないのであれば持てるように実践あるのみ)
自信を裏付けるのは、経験だ。それが足りぬのであれば、重ねればいい。ただそれだけのこと。
臆さず、前へ。そうして、魔剣の剣筋を見極めては払い落していく。
藍の果敢な姿は、響の足をも前へと進めさせる。
迷彩効果を纏い、焼けながらも飛びかかってくる猟犬の動きを素早く躱しながら、未だ息のあるデモン人間へと接敵すると、その身に躊躇なく槍を突き立てる。
「悪く思わないでくれ。このような所業はアンタたちの本意ではないだろうから。恨むなら幾らでも恨んでくれ」
解放されたと喜ぶ理性は残っているのか。あったとして、本当に本意ではないのか。
考え出せば、きっときりはないのだろうと、響は一度思考を区切った。
魔剣を切り払い、次の一手を講じようとデモニスタの力を行使する姿を見据え、藍もまた、思案を過らせる。
「ふと思うのですが、デモニスタさん達の肉体と精神を乗っ取ったと言う事は、デモン単体では存在できないのでしょうか?」
「……どうなんだろうね」
知ったばかりの世界のことだ。まだ、知らないことの方が多い。
デモンと言う存在そのものに遭遇することもこれからあるかもしれない。
全ては、その時になればわかる事だろう。
今はただ、彼らが悲劇を起こさんとしている現実だけを、打ち砕いていくのみ――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
杼糸・絡新婦
(真の姿開放)
あのようわからん武器、いらん置き土産していきおったわ。
あんたさんらも悪いけど、お祭りには不参加でお願いするわ。
引き続き鋼糸を周囲に展開し、絡みつくように【切断】
【捕縛】した【敵を盾にする】ことで防御。
ようさんいるのが有利とは限らんで。
【フェイント】をいれ攻撃しつつ【見切り】で回避しつつ、
タイミングを図り脱力して敵の攻撃を受け
『オペラツィオンマカブル』発動。
全部、お返ししようか、サイギョウ。
ラビラブ・ラビシャンソウル
なんで女王さまが無理やり復活されたのかはブーちゃんにはわかんないけど~……でもこのエリクシルの好き勝手にはさせられないんだよー!
またどこかで女王さまの躰を勝手に使われちゃうかもしれないし!
何考えてるかなんて知らないけど思い通りなんてさせないよー!!
女王さまのニセモノと戦いで溜まったもやもやを晴らすかのようにラビシャンらしく服なんて脱ぎ捨てて|真の姿《野性解放》!
こっちもなんだか操り人形みたいだし、エリクシルのやる事はほんと気に食わないんだよー!
ブーちゃん怒りの魔炎で焼き尽くしちゃうんだから!!
ソフィア・アンバーロン
●WIZ
わぁ、今度はデモンかぁ
よぉーし、虐殺なんかさせてたまるかっ!
あんまり使いたくないけど、
ユーベルコードで
痛ぅ……呼び出して、憎しみの化身と一緒にデモン人間を攻撃するよ
闇に紛れて憎しみの化身と挟むようにボコボコにしよう
少しは動きは止められるらしいから、素早い敵には影縛りで隙を作って憎しみの化身をぶつけるよ
憎しみの化身ってこっちの言う事聞いてくれるかな?聞いてくれないなら憎しみの化身をサポートするように動いたほうが良いような気がするんだよ
指示できるなら次の相手を指定しよう出来ないなら、サポートするつもりで一緒にボコボコにするよ
●
暗がりが広がる。夜が、訪れる。
そんな『夜』が具現化した存在だという|悪魔《デモン》に乗っ取られたデモン人間達は、夜闇よりもさらに深い漆黒を操り、血生臭い猟犬を幾つも従え、立ちはだかる。
「わぁ、今度はデモンかぁ」
「あのようわからん武器、いらん置き土産していきおったわ」
ソフィア・アンバーロンにとっては見慣れた存在であるデモン人間に眉を寄せる傍ら、杼糸・絡新婦は辟易したように瞳を細め、自身の姿を幾つもの複眼を持つ、蜘蛛に近い真の姿へと変えていく。
「あんたさんらも悪いけど、お祭りには不参加でお願いするわ」
「そうだね、よぉーし、虐殺なんかさせてたまるかっ!」
敵を駆逐するべく意気込む二人より一瞬遅れて、ラビラブ・ラビシャンソウルも俯きそうになっていた顔を上げる。
彼女にとっては、優しかったラビシャンの女王の最期の繰り返しを見届けたようなもの。その現実に心が痛まぬことなんて、ないのだけれど。
でも、それ以上に。
「なんで女王さまが無理やり復活されたのかはブーちゃんにはわかんないけど~……でもこのエリクシルの好き勝手にはさせられないんだよー!」
憤りが、湧く。だって、そうだろう。猟兵達は、骸の海とやらから蘇ってくる過去の敵との対峙だってすると聞く。
同じように、エリクシルを野放しにしていたら、何度だって女王の躰が悪戯に酷使されてしまう事になりかねない。
そんなこと、断じて許容してやるものか。
決意固めたラビラブが、纏った服に手をかける。
そうして、女王との戦いで溜まったもやもやしたものごと纏めて払いのけるように、一気に脱ぎ捨てた。
女王を見ていればわかる事だろう。これが、ラビシャンと言う種族の在り方なのだと。
だから、どことなく微笑ましさを湛えた笑みを浮かべながら、絡新婦は鋼糸を残っている建物たちを繋ぐように張り巡らせ、群れを成す猟犬や魔剣の勢いを削いでいく。
刃が糸を切断しようと迫ってくるが、指先で軽やかに操る糸を柄に絡め、くるりと方向転換してつばぜり合いを演じさせてみたりなど。
「ようさんいるのが有利とは限らんで」
群れればその分行動範囲が制限されて、避けきれない攻撃も出てくるだろう。
そう、例えば、闇に紛れながら死角に回り込み、飛びかかろうとする猟犬や飛来する魔剣諸共巻き込みながら殴打する、骨が剥き出しの拳だとか。
「痛ぅ……あんまり使いたくないけど、言ってられないよね」
自身の消えない傷跡を抉ることで召喚する憎しみの化身の後を追うように駆けながら、ソフィアは血の滲むロンググローブをそっと撫でる。
傷を抉る痛みには、耐えて。漆黒の炎を打ち出そうとしているデモン人間へ素早く間合いを詰めれば、彼らは躱す素振りさえ見せず、ただただ攻撃を放つ姿勢を取り続けていた。
「刺し違えてでもってことかな……でも、させないよ!」
ラビシャンの女王をわずかとはいえ留める事の出来た、影縛り。
同じように魔鍵を突き立てれば、やはりわずかとはいえ、効果は表れる。そしてそれだけの間があれば、肉薄した憎しみの化身が、炎を散らすように、殴打を繰り出すのだ。
呼び出した憎しみの化身は、決してソフィアの指示に従ってくれるわけではないが、狙うべきと感じる敵は同じようで。時に挟撃を、時には影縛りでのサポートをと立ち回りを変えながら、ソフィアは追随していく。
そんなソフィアの視界に、ぱ、と明るい炎が過る。
それは、ラビラブが放つ不死鳥のオーラであり。それに巻き込まれた血の猟犬達が、消えない魔炎に包まれてのたうち回る姿でもあった。
「こっちもなんだか操り人形みたいだし、エリクシルのやる事はほんと気に食わないんだよー!」
憤慨するラビラブの放つオーラは、彼女が体表の殆どを露出していることによって威力を増し、迫ってくる敵を次々と炎に包む。
それでもなお向かってこようとする猟犬をひょいと交わし、ラビラブは更に不死鳥のオーラをばら撒いていった。
「ブーちゃん怒りの魔炎で焼き尽くしちゃうんだから!!」
「ええねぇ、頼もしくて」
眸細めて微笑んだ絡新婦の手元で、糸が断ち切られる感覚。
鋼で出来ているとはいえ、糸は糸。刃を、まして魔剣を相手にすれば、そうなることは、目に見えていた。
だからこそ、絡新婦は決して動揺せずに、そのまま迫ってくる切っ先を、ちらりと見て。
「全部、お返ししようか、サイギョウ」
ふわり、受け入れるように魔剣の群れが殺到するのをその身で受け止めて――けれど、傷ひとつ追うことなく、傍らのからくり人形から、全て、吐き出した。
蹴散らせ、と。口元だけで呟いた声に応えるように、斬撃を排出したからくり人形に巻き込まれて、魔剣もデモン人間も、散らされていく。
ふぅ、と息をついて、ゆぅるりと辺りを見渡した絡新婦が見たのは、最後まで立っていたデモン人間を殴り倒す骨の拳の何かと、それを見届けて肩の力を抜くソフィア。
それから、自身から放たれていたオーラを潜めて、夜の帳が描き出された天井を見上げる、ラビラブの姿だった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 日常
『約束の場所にて』
|
POW : 観光地巡りを楽しむ
SPD : お洒落な飲食を楽しむ
WIZ : 穏やかな語らいを楽しむ
イラスト:麦白子
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
群青色が頭上に広がり、ちらちらと星が瞬く。
それは、確かに空だった。ドロースピカの力で描き出された紛い物であることを誰もが知っていて、それでも、誰もが『空』と呼ぶ。
美しい星空の下を、ゴンドラ使いの静かな歌声が響き、水路に灯された仄かな明かりを頼りに水面をゴンドラが横切っていく。
そんな中に響く、温かな飲み物や軽く摘まめるものを進める売り子の声。家屋を取り払われた水路には当然屋台の類もなく、皆、広げた絨毯の上に座り込んでいるため目線も近い。
それゆえにか、ついつい惹かれて買ってしまう者も居れば、ひらりと手を振り挨拶だけを交わして進む者も居て。
めいめいに、空を見上げるためにいっとう素敵な場所を見つけながらゴンドラは進んでいく。
――さぁ、もうじき星が降るよ。誰からともなく囁き合って、皆が一斉に空を見上げたなら。
星霊の瞬きが、夜空を真っ直ぐ駆け抜けていく。そんな光景を、見られるのだろう。
幸いの降り注ぐこの夜に、悲劇的な終焉なんてなかったのだから!
コナタ・クガサネ
コゲンタちゃん(f39068)と
最後にみたあの時のままだなぁとしみじみ思いつつ
一番変ったのはお互いの視線の高さ
僕ほんとは30ちょいなんだけどね、気合で20になった~
でも変わらないこともある
コゲンタちゃん、チョコ掛け果物がある
チョコ好きなのはお互い、変わらない
僕は葡萄にしよかな
それからホットワイン
そそ、僕はもう大人だからね
早く、コゲンタちゃんも飲めるようになるといいね
あ、そういえばまだ言ってなかった
僕はコゲンタちゃんがいない間に…チョコの店のオーナーになったんだよぉ
チョコ食べ放題!
そんな話しながらアクエリオを楽しむ
あ、始まるよ
ちゃんと見逃さないようにしないと
うん、僕も主と、あいつとみたかったなぁ
コゲンタ・ロウゲツ
コナタ殿(f39077)と
アクエリオは変わらぬ様子でござるな
しかし小世界に行って帰る間によもや15年も経っていようとは…
コナタ殿は随分と大きくなられた
置いて行かれたような気分でござるが
ちょ、ちょこ掛け果物とは?(食い気が勝つ)拙者は苺を所望いたす
ゴンドラに乗り込み遠くへ漕ぎ出したら、覆面を外す
寒い夜は温かい物が沁みるでござる
拙者は露店で買ったほっとちょこれいとと揚げたてドーナッツを
!? コナタ殿、お酒はだめでござる!
あ、いや…もう大人なのでござったか…
しかしおーなー…ちょこれいと食べ放題とは…
コナタ殿は相変わらずやり手にござる
しかしこの美しい夜空
我が主にも一目、見せて差し上げたかったでござるな
●
張り巡らされた水路と、ゆらりと進むゴンドラ。それから、星霊建築が描き出した空。
小世界に旅立ってから、よもや十五年が経とうとは。月日を指折り数えれば長い年月のような気もするけれど、この世界の姿は、最後に見たあの時のまま何も変わってなんかいない。
しみじみと思いながら、ちらり。コナタ・クガサネ(枯の忍者・f39077)はコゲンタ・ロウゲツ(狐花・f39068)を見やった。
「一番変わったのはお互いの視線の高さかな~」
「確かに、コナタ殿は随分と大きくなられた」
同い年の少年だった二人は、目線の高さも同じくらいだったのに。
月日が経って、互いに成長して。それぞれに三十路を迎えたはずだけれど、コナタは気合で二十歳の時間を取り戻し、コゲンタは、十六歳の姿まま変わらない。
四つ分の年の差が、ニ十センチ近い身長差に表れているようで。なんだか少し、置いて行かれたような気がするとコゲンタは瞳を細めたが、ゆるりと視線が離れたコナタは、あ、と顔をほころばせて露店へと駆け寄っていく。
「コゲンタちゃん、チョコ掛け果物がある」
「ちょ、ちょこ掛け果物とは?」
甘い香りのチョコレイト。とろりとしたそれが掛けられた瑞々しい果物が並ぶのを見れば、揃って瞳を輝かせるところは、いつまでたっても、変わらない。
「拙者は苺を所望いたす」
「じゃぁ僕は葡萄にしようかな」
微妙な顔をしていた気がしたのに、食い気にすっかり負けてしまっているコゲンタを横目に見て、くすり、コナタは笑みをこぼして。
他にも揚げドーナツと、暖かい飲み物をそれぞれに購入して、いざ、夜空を仰ぐ船旅へ。
水路を進むゴンドラから見える灯りは乏しくて、けれどその分、星空が綺麗に見える。
冷たい風に軽く身震いしつつも覆面を外したコゲンタは、指先を温めるホットチョコレートのカップを握りしめ、伝わる熱にほっと一息。
「寒い夜は温かい物が沁みるでござる。そう言えば、いい香りがしているでござるが、コナタ殿は何を……」
「ん? 僕はねぇ、ホットワイン」
甘い熱に白んだ息を吐き出してゆるりと首を傾げたコゲンタは、コナタの回答に思わず目を丸くして、慌てたように身を乗り出す。
「!? コナタ殿、お酒はだめでござる!」
言って、手を伸ばしかけて。ほの灯りに照らされてにっこりと笑う少し大人びた表情に、ハッとした。
「あ、いや……もう大人なのでござったか……」
「そそ、僕はもう大人だからね」
こくり、と。ホットワインを嗜むコナタは、やっぱり、少し遠くに行ってしまったように見えるけれど。
「早く、コゲンタちゃんも飲めるようになるといいね」
ほわ、と柔らかに笑う顔に、浮かぶのは同じような笑みだった。
四年後には、きっと。約束を交わすようにカップを重ねて乾杯を。
舌が温まれば他愛もない話にも花が咲く。互いに会わぬ間のことをあれやこれと話し始めてすぐ、コナタは思い出したようにポンと手を打つ。
「あ、そういえばまだ言ってなかった。僕はコゲンタちゃんがいない間に……チョコの店のオーナーになったんだよぉ」
チョコ食べ放題! と今日一番の笑顔を咲かせたコナタに、コゲンタは感心と驚きの混ざったような顔で数度瞳を瞬かせ、特に理由もなく『相変わらず』だと、笑う。
「ちょこれいと食べ放題とは……コナタ殿は相変わらずやり手にござる」
月日が変えてしまったものもあるけれど、会って、話せば、何にも変わってないのが良く解った。
のんびりと話を重ねていた二人の視界の端で、きらり、星が瞬く。
始まるよ、と。囁き合って空を仰げば、星霊が駆け征くように、幾つもの流れ星が空を走って。
わぁ、と。圧巻の光景に思わず声が漏れたのは、どちらだったか。
「しかしこの美しい夜空――我が主にも一目、見せて差し上げたかったでござるな」
ぽつり、と。聞こえたコゲンタの声に、コナタは視線を降ろすことはしないまま。
「うん、僕も主と、あいつとみたかったなぁ」
ただ、同じ気持ちに頷いて。
煌きを目に焼き付けるように、見つめていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
真宮・響
ああ、とりあえず騒ぎはひと段落したか。まだまだ騒ぎは起こるんだろうが。
さて、このアクエリオでは水路を通るゴンドラが名物だという。家で待つ家族への土産話の為に乗らせて貰おうかね。
失礼するよ。実はここアクエリオには初めてきたんだ。ゴンドラは見るのも初めてだ。何か迷惑かけたら許してくれ。
ゴンドラに乗りながら、美しいアクエリオの風景を存分に観光する。見事なものだ。星霊建築ってのは奥深いものだ。息子なら興味を持ちそうかね。
それに、アタシは歌い手だからゴンドラ乗りの歌声に感心する。ああ、この都を愛してるんだね。アタシには分かるよ。
●
無事にエリクシルの尖兵を討伐する事で、一先ずの騒ぎはひと段落したようだ。
まだまだ同様の――あるいは毛色の違う騒ぎは起きるのだろうが、今は息を吐いて気を抜いてもいいのだろう。
祭りの会場まではほんの少しの警戒を残していた真宮・響だが、いざ平穏な祭りの場へと赴けば、口元に笑みをはいてアクエリオ特有の光景を物珍し気に見やる。
「家で待つ家族への土産話の為に乗らせて貰おうかね」
水路を横切っていくゴンドラを見やり、客を待つ様子のゴンドラ乗りの元へ歩み寄ると、ぱっと向けられた笑顔に、軽く手を上げて。
「失礼するよ。実はここアクエリオには初めてきたんだ。ゴンドラは見るのも初めてだ。何か迷惑かけたら許してくれ」
アクエリオが初めてだという客は、都市国家間の街道が整備されつつある中でも珍しい。
その訪れが祭りの時期に合ったのなら、きっと長い旅路を苦労してたどり着いてきたのだろう。
そんな風に、解釈して。ゴンドラ乗りはお任せ下さいと嬉しそうに舵を取る。
すぃ、と軽やかに進んでいくゴンドラと、それに重ねられる静かな歌声。
夜の催しによく合う穏やかな声音は、仄かな明かりに照らされた水路の光景を幻想的に魅せるようで。響はゆったりと揺られながら、昼の様子も観光してみたいものだとひっそりと笑んだ。
「見事なものだ」
感嘆は、誰にともなく、独り言のように紡がれて。
星霊建築の奥深さに感心しながら、息子なら興味を持ちそうかと家族の姿を過らせて。
ふと見上げた空に、瞬く星が駆けだすのを、見つける。
描かれたものだという空。そんな言葉が信じられないくらい、美しい流星群が目の前にあった。
ひとしきり駆け抜けるまで、ゴンドラは静かに揺蕩っている。共に見上げるゴンドラ乗りの表情がどこか誇らしげなのは、きっと気のせいではあるまい。
「アタシも歌い手なんだけどさ」
独り言のように、語る。
「ゴンドラ乗りの歌声ってのは、素晴らしいものだ。ああ、この都を愛してるんだね。アタシには分かるよ」
笑みと共に紡がれる声に、返されるのは朗々と響く歌声。
美しいものが重なる光景は、良いものだと。響は噛みしめるようにして見つめ、聞き入るのであった。
大成功
🔵🔵🔵
夜鳥・藍
POW
空でないのに空とよばれるもの。
星霊建築もですけどエンドブレイカーとよばれる方々の辿ってきた道筋をおもうと……どういえばいいのかしら?
最初のエンドブレーカーと言われる人物がこの世界に投じられた初めの一石だとして、誰がそれを行ったのかしら?
オブリビオンに対する猟兵のように、世界が望んだのかしら?でも猟兵の存在自体はじまりはわかってないような気もするけれど……。
ついつい思考の海に沈んでしまいそうになるけれど、その夜空をかける星を見てしまえばそんなことは些細な事ね。
例え人が描いたものであってもこの素晴らしい夜空は確かにここにあるんだもの。
それにきっとこの空の向こうにも宙はあるのでしょうから。
●
暗がりの中、一人、ゴンドラに乗り込んで。ゆっくりと進んでいく船に身を預ける夜鳥・藍。
ゴンドラ乗りが紡ぐ歌声は穏やかで、夜の景色にとてもよく合っていて。
だからだろう。つい、考え事に耽ってしまうのは。
目の前に広がるのは、空ではないのに空と呼ばれるもの。
――この世界の誰もが『空』と認識する、星霊の力のたまもの。
(星霊建築もですけどエンドブレイカーとよばれる方々の辿ってきた道筋をおもうと……どういえばいいのかしら?)
胸中に飛来するのは、なんとも言えない感情。
先人が辿ってきた苦労を思い、労う気持ちのような。
その辿った道を遡る過程で疑問を抱いたような。
言ってしまえば、とりとめのない思考ばかりが浮かんでは、消えていく。
(最初のエンドブレーカーと言われる人物がこの世界に投じられた初めの一石だとして、誰がそれを行ったのかしら?)
創世神と位置付けられたあの赤い少女だろうか。それとも、他に誰かが居たのだろうか。
あるいは、オブリビオンに対する猟兵のように、世界そのものが望んだのだろうか。
(でも――猟兵の存在自体はじまりはわかってないような気もするけれど……)
考えても、考えても――考えるだけでは、進展しない思考。
とっぷりと暮れた夜の空のように、暗い思考の海に沈んでしまいそうになっていた藍は、ふと、目の前で星が瞬くのに気が付いた。
それはまるで何かの合図であるかのように、一つ、また一つと流星を呼ぶ。
濃紺の夜空に星が駆ける光景は、堂々巡りになりかけた思考を晴らし、感動をその心に灯した。
不思議な事も多いけれど、些細な事だと感じるほどに。
(例え人が描いたものであってもこの素晴らしい夜空は確かにここにあるんだもの。それにきっと――)
見上げた空の、更に向こうにも、宙はあるのだろう。
あまねく世界を繋ぐ、本物の空が――。
大成功
🔵🔵🔵
ソフィア・アンバーロン
◎アドリブとか御任せ
ふー。
やることやったら疲れちゃったかな
さぁ、そんな疲れを吹き飛ばすメインイベントを楽しもうかな
ホントはゴンドラ漕ぎたいけどなぁ…。
ボクのゴンドラは、15年前に他のゴンドラ乗りに譲渡したからなぁ
どこかでゴンドラ乗りいないかしら
とりあえずお腹を満たすこと始めよう
どこかに屋台ないかなぁ屋台があったら適当になん買って、シルヴィアと一緒に食べながら街を歩こう
ドロースピカを見上げるときは安全な場所で、寝っ転がって見上げよう
ボクもあんなドロースピカ書けるようになりたいなぁ…。
●
ぐっ、と大きく伸びをして、ソフィア・アンバーロンはため込んだものを目一杯吐き出すように、大きく息を吐き出した。
「やることやったら疲れちゃったかな」
そう言いながらも、表情に曇りはない。何せ、今からはイベントを楽しむ時間なのだ。
疲れを吹き飛ばすような、美しく圧巻の光景が拝めることは、未来視せずとも知っている。
ソフィアはふらりと水路を歩き、ゴンドラ乗りが操るゴンドラを横目に見る。
エンドブレイカーの一部は自身のゴンドラを所持し、操縦できる技量を持っており、ソフィアもその一人であった。
しかしながら、自身のゴンドラは小世界へ旅立とうというあの時、他のゴンドラ乗りに譲渡してしまって手元に残っていないのだ。
折角の機会なのにな、と肩を竦めつつも、空いているゴンドラを探すソフィア。
イベント事の折と言う事もあってか、横切るゴンドラには大抵人が乗っている。
それほど多くのゴンドラが繰り出しているのだ、探せば一つくらい空いている者もありそうだが――。
「とりあえず、お腹空いたな」
一先ずは、小腹を満たすことから始めることにした。
星が良く見える暗がりだと言え、水路の脇には灯りが点々と設置されていて歩きやすい。
軽食を扱っている露店も歩けば幾つも目につくから、ソフィアはゆるりと眺め歩きながら、小さなバスケットにサンドイッチや珈琲などを購入しては詰めていく。
ゆったりとした足取りのソフィアが買ったものを確かめる、その肩口から、ひょこりと青い体躯の生き物が顔を覗かせる。
星霊スピカ。シルヴィアと名付けられたその生き物は、ソフィアが赤子の頃からずっと一緒に居る、相棒のような存在だ。
すん、と鼻を鳴らしながらバスケットの中を一緒に覗き込む様子にくすりと笑んで、指先で軽くくすぐって。
二人で一緒に、食べ歩き。
「シルヴィア、あそこ」
いいものを見つけた、と言うようにソフィアが指で示したのは、水路に面して設置されたベンチだ。
ゴンドラに乗らずとも、のんびりと星を見上げる事が出来るように備えられているのだろう。
先客は誰も居ないから、遠慮なく腰を下ろして。ころり、寝転がって天を仰ぐ。
手を伸ばせそうなほどのそれは、本当に、届いてしまう空。
それでも、こんなにも美しく、人々を魅せる事が出来る。
「ボクもあんなドロースピカ書けるようになりたいなぁ……」
胸の上に置いた指先をぺろりと舐めるシルヴィアと共に、星が駆け征くさまを、瞳に焼き付けながら。
ソフィアは大きな夢を紡ぐのであった。
大成功
🔵🔵🔵
杼糸・絡新婦
のんびりゴンドラに揺られながら、
目についた摘めそうな食べ物や酒を買い、
街の景色を肴に楽しんでいます。
これはこれで中々面白い所やねえ、
これだけの空や、無粋なことも言う必要ないわ。
・・・そういえば、
ここにはえらい見た目の可愛らしい神様がおったとかおるとか・・・
まあ、これから知っていけばええわな。
●
張り巡らされた水路は、そこそこ複雑に入り組んでいる。
水路にぶつからぬように設置されたと思われる仄かな明かりを横目に見れば、暗がりだとてそれが良く解った。
けれど、ゴンドラ乗り達はそんな水路をすいすいと軽快に揺蕩っていくから。
杼糸・絡新婦は、すっかり身を任せ、のんびりとした心地で揺られていた。
「あ……ちょい、おにーさん、あのお店に寄ってくれる?」
燻製肉やチーズなど、簡単に摘まめそうな食べ物に、小さなボトルに注がれたワイン。
幻想的な夜を楽しむには丁度いいラインナップを購入して、また、ゆらりと船旅へ。
今にも降り注ぎそうな天井の星空に、幾つも折り重なって見える地上の灯り。
そんな光景は、ゴンドラ乗り達の歌声も重なって、目と耳を楽しませてくれた。
「これはこれで中々面白い所やねえ」
肴にするには丁度いい夜景に相好を崩して、少しずつ酒を楽しんで。
つぃと仰いだ空では、流星を報せる合図であるかのように、ちかちか、星が瞬いた。
あ、という間に、空を駆けだす幾つもの星々。ああ、と。絡新婦の口元から零れたのは感嘆の吐息だ。
「これだけの空や、無粋なことも言う必要ないわ」
描いた空、だなんて。区別する必要すらないのだろう。
見上げて、見つめて。星の行く先を視線で追い掛けて、すぐに別の星に目移りして。
星空を楽しむ絡新婦は、ちゃぷん、と跳ねる水音に、不意に視線を降ろす。
流星の様が映り込むほど澄んだ水を見つめて、そういえば、と小首を傾げた。
「ここにはえらい見た目の可愛らしい神様がおったとかおるとか……」
聞いた、ような。
思い起こして、けれどすぐに、思い出すのをやめて。絡新婦はまた、酒のボトルに口を付ける。
「まあ、これから知っていけばええわな」
次々と猟兵に覚醒しているらしいエンドブレイカー達。彼らに聞けば、きっとすぐにわかる事。
だから、焦る事なんて何もない。今はこの煌きを、存分に――。
大成功
🔵🔵🔵
ラビラブ・ラビシャンソウル
「選択:観光地巡りを楽しむ」
ブーちゃん、ニンゲンのお祭り?にはあんまり興味がないんだけど~……まぁ、戦って少しはスッキリしたしせっかくだから少し見ていこっかな?
ふぅん……ヒトの街は賑やかなんだ~?
あちこちで語らったり、楽し気に皆でご飯食べたりしてるんだよ~。
そしてこの川も涼やかな流れで気持ちよさそう~。
……そっか、やっぱり群れであることが一番の賑わいなんだね。
皆が集まらないと、楽しくならないんだ。
ブーちゃんも今は|一羽《ブーちゃんだけ》だけど、必ずあの|楽しかった故郷《ラビシャン王国》と同じぐらい賑やかで楽しい国をつくってみせるんだー!
このお祭りよりもっともーっと!楽しくしてやるんだよ~!
●
「ブーちゃん、ニンゲンのお祭り? にはあんまり興味がないんだけど~……」
むす、と。口をへの字に曲げて、ラビラブ・ラビシャンソウルはちらりと楽し気な雰囲気が漂う水路の先を見やる。
興味はない。ラビシャンと人間の間に文化の違いがあるのは明白で、好みが合致するなんて、あんまり思っていないから。
でも、ぷいとそっぽを向く程無関心でもないのは、戦って少しはもやもやした気分もスッキリ晴れたからだろう。
「せっかくだから少し見ていこっかな?」
人間の祭りが、どのようなものなのか。
とことこと水路の先へ進んでいけば、ゴンドラ乗りが穏やかな歌と共に軽快にゴンドラを操る光景が、ちらほらと目立つようになってきた。
水路の脇では、道端に食べ物や飲み物を広げてそんなゴンドラへと声をかける姿もある。
すれ違うゴンドラ同士で挨拶を交わしたり、道端のベンチで並んで食事を摂っている人間もいて。
ふぅん、と。ラビラブは呟いた。
「ヒトの街は賑やかなんだ~?」
一人でふらふらと歩いている姿も見かけはするものの、誰も彼もが、星が流れる時を待ちわびながら楽し気に過ごしている。
「この川も涼やかな流れで気持ちよさそう~」
さらさらと音を立てる水路の水に、ちょっとだけ手を伸ばして。この時期の水は流石に冷たいと、触れてすぐ引っ込めた。
ピッ、と水を飛ばしながら、誰も居ないベンチに、ちょこん、と腰を掛けて見て。
眺め見るラビラブの視界に映るのは、沢山の人間。
――人間達が、言葉を交わし合う事で生まれる、賑わいだ。
「……そっか、やっぱり群れであることが一番の賑わいなんだね」
ラビラブの周囲がなんだか静かに感じるのも、きっと沢山の人間の中にラビシャンが独りきりなせい。
故郷で過ごしたあの頃のように、沢山のラビシャンと共に過ごしていれば、きっと――。
「ブーちゃんも今は一羽だけど、必ずあの楽しかった故郷と同じぐらい賑やかで楽しい国をつくってみせるんだー!」
落ち込んでなんかいられない。奮起して立ち上がるラビラブの頭上で、星が瞬いた。
「このお祭りよりもっともーっと! 楽しくしてやるんだよ~!」
決意を籠めた声に応えるように、幾つもの星が駆けていく。
星の行く先を追いかけるように駆け出したラビラブの瞳にも、きらきら、とびきりの煌きが瞬いていた。
大成功
🔵🔵🔵
ヴィトレル・ラムビー
🍓🐇
良い機会だ、久々に会った友人と旧交を温める
ゴンドラを借りてゆっくりと水路へ
どこか行きたい場所はあるか?
これでもレースに出たことがあるからな、操舵に問題は無い――いや無い事もないな。何年前だったかあれは
そう考えるとお互い年を取ったものだなアミナよ
褒められるのは満更でもない
だが変わらぬものを目にすると安心するのもまた事実だ
私はお前が変わっていなくて嬉しいぞ
あとこの水路も以前のままだな
道に迷ってはいない
本当だ
ゆるやかに周遊できる場所に来たら、ゴンドラを流れに任せて空を見上げる
本物の空も良いが、人の営みが作り出したこの星空も、私は嫌いではない
一仕事終えた後だと尚更かもしれないが、と笑って
アミナ・ユフィン
🍓🐇
お友達のヴィトレルくんと
わたしは旅暮らしだから彼と会うのも久々
お膝に星霊スピカちゃんを乗せてのんびり
じゃあね、今宵の行き先は船頭ヴィトレルくんにお任せ!
操舵の腕が鈍ってないかどうか、わたしたちが見てるから
ふふ、そうだねぇ
あなたはわたしと違って歳を重ねることを選んだもの
それでも重ねた年月は同じ
ヴィトレルくんはすっかりお髭が似合うようになったね
ほら、スピカちゃんも素敵だっていってるよ
アクエリオの水も変わらず澄んでていて綺麗だね
あれ、迷ってない?
彼に倣って天蓋を見上げてみる
本物じゃないけれど、わたしにとっては本当の空と同じ
あなた達が守った未来で輝く、星霊の光
どんなときもやっぱり特別に見えるね
●
借りたゴンドラを水路の脇に付け、感覚を確かめるように軽く舵を握った。ヴィトレル・ラムビーは、大丈夫そうだという視線を通路へと向ける。
それを受けてにこりと微笑み、ひょい、と軽やかにゴンドラに乗り込んだアミナ・ユフィン(桜苺の星霊術士・f39067)。
しっかりとゴンドラに腰を据えたアミナの膝の上には、星霊スピカがちょこんとお座り。
確認して、ゆるり、ヴィトレルはほの灯りに照らされた水路へと繰り出した。
「ヴィトレルくんと会うのも久々だね」
「そうだな。こういった機会も良いものだ」
世界の平穏を取り戻した後、アミナが旅暮らしを始めたこともあって、毎日のように酒場で互いの姿を見ていた頃を思えば会う機会は随分と減った。
今日は、久々に訪れる都市国家で、久々に会う友人と旧交を温める、少し貴重な日。
「どこか行きたい場所はあるか?」
問いかけに、思案気に小首を傾げて、アミナは思いついたように笑顔でヴィトレルを見上げる。
「じゃあね、今宵の行き先は船頭ヴィトレルくんにお任せ! 操舵の腕が鈍ってないかどうか、わたしたちが見てるから」
ね、と膝のスピカを撫でれば、「すぴきゅ!」と元気よく返事をしてくりくりの瞳でヴィトレルを見つめるスピカ。
微笑ましげに笑って、ヴィトレルは任せておけと言うようにゆったりとゴンドラを進めていく。
「これでもレースに出たことがあるからな、操舵に問題は無い――いや無い事もないな。何年前だったかあれは」
アクエリオで行われた水神祭の記憶を遡るヴィトレルだが、少なくとも世界が平和になる以前の話なのだから十五年よりもっと前。
それだけの年月が経った今、この体がどこまでゴンドラの操舵を覚えているだろうかと肩を竦め、ヴィトレルはアミナを見やった。
「そう考えるとお互い年を取ったものだなアミナよ」
お互い、と言いながら、ヴィトレルの目にはアミナが年老いたようには見えていない。
ふふ、と笑う彼女は、昔のままで。一見すれば親と子ほどの年の差があるようにすら、見える。
「そうだねぇ。あなたはわたしと違って歳を重ねることを選んだもの」
エンドブレイカーなのだから、年齢なんて気合でどうとでもなるけれど。ヴィトレルはありのままに己の身に時を重ねてきた。
けれど二人とも同じだけの年月を過ごしてきたのは同じで。見た目には表れていない時の経過は、アミナの中にもちゃんと重ねられていた。
「ヴィトレルくんはすっかりお髭が似合うようになったね。ほら、スピカちゃんも素敵だっていってるよ」
「ふむ。褒められるのは満更でもないな」
蓄えた髭を撫でつけ、ふりふりとご機嫌に尻尾を揺らしているスピカに誇らしげな顔をして見せるヴィトレルだが、そんなスピカの所作も含めたアミナの姿を見て、ふ、と柔らかな笑みを漏らす。
「だが変わらぬものを目にすると安心するのもまた事実だ。私はお前が変わっていなくて嬉しいぞ」
そんな言葉に、そっかぁ、と嬉しそうに顔をほころばせたアミナは、すいすいと横切るゴンドラが波紋を描く水面を見やる。
星が映りこむような暗がりだとて、水路の底まで見通せるほどの透明さは感じられて。時折跳ねる水が煌くのを、瞳を細めて見つめていた。
「アクエリオの水も変わらず澄んでていて綺麗だね」
そうして、穏やかな時をゆったりと過ごして綺麗な星を見る、はずだったのだけれど……。
「あれ、迷ってない?」
アクエリオの水路が入り組んだ構図なのも変わっていない。
星を見る一帯は建物が取り払われているし、辺りは暗いし。目印になるものが少ない中での操舵は、慣れていなければ多分難しいとは、思うけれど。
「迷ってはいない」
「でも多分さっきあの露店見たような……」
「道に迷ってはいない。本当だ」
迷っているのではなくベストポジションを探しているのだと言い張るヴィトレルに、くす、と笑みをこぼして。
お任せしたのだからと、見守ることにした。
やがて緩やかな流れが出来ている水路にたどり着いたヴィトレルは、舵を手放し、ゴンドラが流れるに任せて空を見上げた。
アミナもまた、そんな彼の穏やかな様子に倣って、改めて天蓋を見上げてみる。
「本物の空も良いが、人の営みが作り出したこの星空も、私は嫌いではない」
「本物じゃないけれど、わたしにとっては本当の空と同じ」
そこにある空が、星が、描かれたものだという事は、この世界に生きる者ならだれでも知っていて。
だけれど、だからこそ。彼等にとっては、これが紛れもない『空』なのだ。
「一仕事終えた後だと尚更かもしれないが」
「そうだよ、あなた達が守った未来で輝く、星霊の光」
ちか、ちか、と。星が瞬くさまは絵物語のようで。駆けるように流れていく幻想は、描く誰かの憧れを映し出したようで。
そんな誰かの願いを砕く悪夢のような存在を、一つ、討ち祓ったばかりなのだ。
その後に見る星が美しくないわけがない、と。短く笑うヴィトレルに、アミナは柔らかな笑顔で肯定して。
「どんなときもやっぱり特別に見えるね」
瞳の中にも星を落としてくれそうな流星群を、共に見上げるのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヴァニス・メアツ
アクエリオのドロースピカは相変わらず優秀だ
ゴンドラに乗りながら星空を見上げてついつい見とれてしまう
船の操作は手練れの方に任せます
のんびり雑談でもしながら楽しみましょう
私はアクスヘイムの下層出身でしてね
十を超すまで星すら見た記憶が無い
初めて見た『本物』の星空や月には衝撃を受けたものです
けれど、この星空は本物の星空よりも鮮やかな気がする
きっと星霊スピカが頑張って輝かせてくれてるんでしょう
…で。
さっきから甘い香りが気になって仕方無いんですがっ!
あそこの露天寄りますお菓子買います買わせて下さい
甘味は正義ですから、ええ(まがお)
アクエリオ様の形したドーナツ…!
可愛らしいけど容赦無く囓りますよ私(甘党兎)
●
相変わらずだ、と。ヴァニス・メアツはゴンドラの上から星空を見上げて、ゆるり、口角を緩める。
アクエリオのドロースピカが優秀な事は昔から知っているし、それが今も変わらず健在であることは喜ばしい。
ゴンドラの操舵に慣れた手練れの運航はゆったりと安全運転で、穏やかな歌声も心地よく響くから、ヴァニスも気分良く浸っていた。
歌に一区切りついて、ささやかな拍手にはにかむのを見届けてから、ヴァニスは折角だからと雑談を切り出した。
「私はアクスヘイムの下層出身でしてね。十を超すまで星すら見た記憶が無い」
エンドブレイカーの世界では、空を見たことのない者なんてごまんといる。アクエリオ程の優秀なドロースピカがないこともあって、特に下層ともなれば、こんな風に美しい星空にお目にかかる事なんて、滅多となかった。
だからこそ本物の空を目指して上層へと向かう者も、多く居て。ヴァニスも、そんな一人だった。
「初めて見た『本物』の星空や月には衝撃を受けたものです」
ヴァニスが、本物の空を初めてみた感動によってエンドブレイカーへと覚醒した、ヴァルキリーだからこそ。あの時の強烈な感情は、今でも明瞭に覚えている。
『本物』を知ってしまった後の空が褪せて見えるなんてことはなかったけれど、知ることで、ヴァニスの世界は紛れもなく大きく広がったのだ。
けれど――。
「この星空は本物の星空よりも鮮やかな気がする」
ゴンドラ乗りの手前で語る世辞などではない。本物を知るからこそ比較できるようになった目は、この空似遜色など見出さなかった。
「きっと星霊スピカが頑張って輝かせてくれてるんでしょう」
美しい空が見たい。皆と、共有したい。
描く誰かの願いを乗せた一等星。その煌きが美しいのは、道理だろう。
あぁ、星が瞬いている、と。瞳を細めたヴァニスの視界で、きらり、尾を引く星が流れる。
一つ駆ければまた一つ。後を追うように、星々が次々と群青の空を流れていく圧巻のさまに、ヴァニスは暫し、見入っていた。
ひとしきり、星が駆けて。美しかったなと余韻に浸るヴァニスは、その中に入り込んでくるもう一つの魅惑に、耐えかねたように視線を向ける。
「さっきから甘い香りが気になって仕方無いんですがっ!」
水路の脇に広げた絨毯に並んでいる菓子類。あれが甘い香りの正体だろう。
気付いてしまえば、はやる気持ちも抑えられない。
「あそこの露店寄りますお菓子買います買わせて下さい。甘味は正義ですから、ええ」
ゴンドラ乗りに頼んで向かった露店にすぃと横付けされれば、思った通り、菓子達が並ぶ魅惑の光景が。
その中でもヴァニスの目を引いたのは、アクエリオに眠る水神を象ったという、ドーナツだ。
「アクエリオ様の形したドーナツ……!」
可愛い、と愛でるのは一瞬。見た目をしっかり堪能したなら、味も楽しまなければ菓子に失礼。
がぶ、と容赦なくドーナツを頬張りながら、美しい星空の下を揺蕩うゴンドラ旅を満喫するヴァニスであった。
大成功
🔵🔵🔵