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|征服《レコンキスタ》と|脱出《エクソダス》

#けものマキナ

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#けものマキナ


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『誰か、この通信が聞こえますか』
 それは、突然訪れた。
『この通信が聞こえていたら応答してください。我々は|脱出《エクソダス》派の人間です。そちらへの亡命を希望しています』

「……と、言う内容の通信がマナキタの里に来る予兆が出ている」
 こちらはいつものグリモアベース。(自称)レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレット(厨二系姉キャラSTG狂・f03431)がいつもの如くゆったりと椅子に座って手を組んでいる。
「けものマキナの世界では人間は対話不能で敵だった。だが、人間はオブリビオンではない事は分かっているので必ずしも倒すべき敵では無い。向こうにその気が無かっただけでな」
 人間がマナキタの里を襲撃し、それを迎撃する過程で通信塔が建てられた。現在マナキタの里はその通信塔を中心として移転している。
「ここまでの経緯のどれがきっかけになったのか分からん。或いはその全てが必要だったのか。ともかく、対話を望む人間が現れた。加えて、亡命まで望んでいる……無論、これが何らかの罠である可能性はある」
 現状はマナキタの里にしかない大規模通信設備が揃って来ればいずれは他の集落とも通信技術が確立される。そうなれば、住人はより連携して事態に対処できる。ならば、今の内に通信塔を破壊しておきたいと企んでいる可能性は残る。
「その意味でも猟兵諸君に、或いは猟兵の資格を持つ住人に事態の対処を頼みたい。ああ、亡命を受け入れるという事ならマナキタの里の住人は大体は歓迎するそうだ。一部反対派も居る様だが、元から旅人が多い集落だしな。それに、猟兵が現れてから人間を見る目が変わってきている」
 それが決定的になったのは先日の大規模戦だろう。あの戦闘中に、一部が人間である事が露呈したが住人は誰も気にしてなかった。
「そう、そもそも猟兵の人間と敵として現れる人間は生体が違い過ぎる。そろそろ、人間の全てが敵では無いという住人が出て来てもおかしくはない頃なのだ。これを機に、今まで人間である事を隠していたという事をバラしてもいいかもしれない。おそらく、それで拒絶される事は無い筈だ」
 人間が敵と言う前提を覆す。それは大きな転機となるだろう。
「この状況なら何か質問をすれば答えてくれるだろう。それが嘘だとしても情報にはなる。どの道好機である事に違いは無いのだ……通信元を辿れば人間の拠点の位置も割れるだろうしな」
 椅子に深く座って偉そうに手を組むレイリス。
「私は見えた事件を解説するだけ……どう答えるか、何を問うかは諸君に任せる」
 そして、マナキタの里の通信塔へと繋がる転送用のゲートを開く。
「では、往くがよい」


Chirs
 ドーモ、Chirs(クリス)です。今回はけものマキナの人間の謎に迫るお話となっています。このシナリオの結果により今後の展開が大きく左右される事になります。まあ、どういう結果になっても敵としての”人間”は残るので今後も人間と戦うシナリオは出るし、出しても構いません。
 今回に関しては特に戦闘になる予定はありません。人間に聞きたい事を聞いたり、亡命を受け入れるかどうかを答えたりしましょう。或いは、受け入れに反対する住人も居るかもしれないので説得するなり応援するなりして下さい。
 今回は内容的にあんまり他の人と絡まない気もしますが、プレイング次第でやっぱり絡んだりするかもしれないしどの道アドリブはマシマシなのである程度の人数を待ちます。皆さんの望む展開を提供できれば良いなと思う所存であります。世界を回していきましょう。
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第1章 日常 『プレイング』

POW   :    肉体や気合で挑戦できる行動

SPD   :    速さや技量で挑戦できる行動

WIZ   :    魔力や賢さで挑戦できる行動

イラスト:仁吉

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

木霊・ウタ
心情
罠かも知れないけど本当かも
救いを求める手を無下にしたくない
まずは話を聞いてみようぜ

行動
ケモ耳付けず参加

通信塔破壊のリスクがあんなら
通信主と連絡を取り合い
集落から離れたとこで落ち合う

万が一この話自体が陽動って可能性もあるから
集落や通信塔の警備を
いつも以上に気合を入れてもらうと
よさげかも

影で事前に偵察
会ってる間も周囲に注意しとく

名乗って互いに自己紹介したら
質問タイムだ

亡命の理由
戦闘不能で分解しちゃうようなとこに
いたくないのは判るけど
そもそも
亡命したら分解しない?

脱出派とは
どの位の勢力?

人間はこの世界にとって何者なのか
どんな組織なのか
リーダーは
等々

亡命受入となったら
最初は行動範囲は限定させる形で


巨海・蔵人
アドリブ絡み歓迎
◼️心情
元々人間に関する情報量も少ないからね、
偏見も確執も殆ど無いってことで、
仮装だってわかってても自分達に友好だって事が大事だったみたいだしね、
それなら罠でも、違ってもいい様に準備しようね

◼️おもてなし
発信源の大雑把な方向でも解れば今ある通信塔の手前になるように離して
UCでおもてなし用に、
拠点作っちゃおう。
ちょっと時期は外れちゃったけど、
コツコツ用意してた資材を使って、
今のうちに
お菓子の町と通信塔を作ってしまおう。
大きなお皿の大地にお口で溶けて|手で溶けない《食べるまで清潔に》がコンセプト。
拠点としても通信塔としても勿論機能するし。食べて美味しい!盗聴機と発振器でもおもてなし



●その日は突然来る
 この世界に最初に人間が現れたのも同じように唐突だったに違いない。
「よーっすウタ、蔵人」
「よう!」
 住人に声を掛けられて軽く答える木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)と巨海・蔵人(おおきなおおきなうたうたい・f25425)。
「今日はどうしたんだ?」
「ちょっと近くまで来たから寄ってみただけだぜ」
「僕の置いてった通信塔、大分使ってくれてるみたいだね」
「おー、無線通信技術ってのは便利なもんだな」
 これから人間の通信が来るから来た、とは言えない。予兆が出ている以上確実に起きる事件だが、それを先に言ってしまうと予兆が変わってしまう事がある。特に、今回はグリモア猟兵であっても何故起きたのか全く分からない事件。にもかかわらず重要度は高いと推測できる。
 既知の住民が近くに居たことは幸いか。事が起きた時に迅速に協力を頼める。たまたまここに居ただけだが、たまたま居るという事は案外重要になる物だ。
 運命、などという呼び方をする事もある。誰がそうなるかの違いでしかないと思うが。
 ウタと蔵人、住民のハクメ、後から通りすがったミチコも加えて何気ない雑談をしているとそれは突然来た。
『誰か、この通信が聞こえますか』
「ん? 何かしらこの放送」
 広域放送に向けた通話通信。個人宛ではなく集落その物への通信となると重要度は高い物が大半になる。宣伝文句等を垂れ流すには煩わしい。
『この通信が聞こえていたら応答してください。我々は|脱出《エクソダス》派の人間です。そちらへの亡命を希望しています』
「……人間からの通信?」
「胡散臭いわねぇ」
 いやまあ、それはそういう反応にはなるだろうが。グリモアベースではグリモア猟兵が重要な案件だと言っているからそうと分かるだけで、普通はこんな物だろう。
 当然、重要案件と知っているウタと蔵人の反応は違う。
「ハクメ、ちょっと里の偉い人呼んできてくれないか?」
「分かった」
「何よ、やっぱりちょっと寄ってだけなんて嘘だったんじゃない」
 何も聞かずに応じるハクメと、ジト目でこっちを見るミチコ。
「あー……まあ、ごめんな。言えない事も色々あるんだ」
「知ってるわよー、どうせ悪いようにはしないでしょ? 今回も上手くやりなさいよね」
「ああ、任せとけ!」

●おかしな拠点
 通信という物は双方向に通らなくては意味が無い。相手はこの里に向けて通信をしてきた。望んでいる事が対話である以上、送信先のチャンネルも添付されている状態だ。
 だからと言って馬鹿正直に里の通信塔を使うにはリスクがある。何せ、通信技術については大きく衰退していたのでネットワークセキュリティ面では住民は脆弱であった。そもそもネットワークが無い状態だったから仕方がない。
 その点猟兵も同じと言う訳もない。特に通信塔その物を建てた蔵人は違う。
 里の通信塔を使わずに自前の、新たなる通信塔を用意していた。住民に起きる事件を教える事は出来なくても、事件に対する備えをそれとなく用意するのは問題ない。こんな事もあろうかとという奴だ。
「で、これがその新規拠点って訳か……なんか、すごい所だな」
「お口で溶けて|手で溶けない《食べるまで清潔に》がコンセプトだよ」
 125体のお料理用パンダ型とテレビウム型のドローンが作ったお菓子の拠点。十分な時間があったので通信拠点としての用途はもちろん、いざとなったら防戦もできる。何せ、食べられるので糧食の心配がなく、いざとなったら丸ごと放棄も出来る。
 ただ、マナキタの里は森の中なので、その近くに作らざるを得なかったこの拠点も森に近い。割と動植物が豊富である。普通にお菓子にしてしまうと凄い集られてしまうので、見た目はお菓子だが香りが無い。香りが無ければ虫も集ったりしない。
 だが、香りが無ければお菓子としての美味しさを大きく損なってしまう。ここで匠の拘りが光る。普段は全く香りはないが、一部を崩すとふわっと香るように香りを構造物の内側に包み隠してあるのだ。
 食べ物は単純に味覚だけで味わうのではなく、見た目や香りも重要なのだ。特にお菓子等の嗜好品は。
 正しく、お口で溶けて|手で溶けない《食べるまで清潔に》を忠実に実行している。
「で、私を呼んだのはコレを見せるためか?」
「いや、住民側の|助言役《オブザーバー》が欲しくてな」
 ウタも蔵人も住民の志向を完全に理解している訳ではない。猟兵が勝手に全部決めて後で問題になったら困るので、マナキタの里の偉い人を読んできてもらった訳だ。
「見事なもンだ。食べられるって要件を満たしながらこれだけの構造物を作るとはね」
 |斥候《スカウト》であり本職は大工の鰯山がその巧妙さに感嘆する。
「私の護衛という役割を忘れてないだろうな?」
「わーってますって大将。正直、護衛なんて必要ないと思うがね」
「そうそう、ヒヤマは|慎重《おくびょう》だなぁ」
「本音が漏れてるわよー?」
 ついでとばかりに付いて来たハクメとミチコまで居る。
「そう言えば、ウタは今日は付け耳無いんだな。似合ってたのに」
「ああ、そろそろ必要無いかと思ってな」
「んー、そうだなぁ。マナキナの中ならもう要らないと思うぞー」
「元々人間に関する情報量も少ないからね。偏見も確執も殆ど無いってことで、仮装だってわかってても自分達に友好だって事が大事だったみたいだしね」
「近頃は他の場所でも種族特徴が無い人の話も聞くしね」
「あ、人間って特徴が無い人になるのか」
「そりゃ、そうだろ。何の種族だか分らない奴がヤバいって噂が広がって来たのがきっかけだし」
「特徴無いとどう接していいか分からない時はあるよなぁ」
 なお、ハクメとミチコは|妖精《フェアリー》なので小さい。マナキタの里は妖精が多く、全体的に小型の種が多い集落だ。
「それで、ここから”人間”を名乗る奴に返答を返すんだったな」
「ああ、罠かも知れないけど本当かも知れない。だから、救いを求める手を無下にしたくない。まずは話を聞いてみようぜ」
「それなら罠でも、違ってもいい様に準備しようね」

●異文化交流を始めよう
「それじゃあ、送信するよ」
 ウタの提案でマナキタの里も警戒を強化している。今の所警戒網に変わった動きはないが、こちらからの送信を起点に襲撃が来る可能性は否定できない。更にウタ自身も【|影の追跡者《シャドウチェイサー》の召喚】で周囲を警戒している。
「里に何かあったらこっちにも伝わる手筈だ。当然、通信塔が無くてもな」
 元より長距離通信設備などなかった世界だ。狼煙等を使って遠くの場所に連絡を取る手段は用意してある。
 蔵人がお菓子拠点の通信塔を使い、指定されたチャンネルに通信を繋げた。
『こちら、里の通信局員の蔵人だよ。聞こえるかな?』
『はい、聞こえています。応答して下さりありがとうございます』
 返事はさほどラグ無しに来た。通信を送りながら位置の探知をそれとなく仕掛ける。
『俺はウタ、木霊ウタだ。あんたの名前は?』
『私は|脱出《エクソダス》派の党首を務めている斎藤智也と言います』
『僕は巨海蔵人だよ、よろしくね』
 斎藤智也、えらくUDCアースにいくらでも居そうな名前で出てきた物である。
(偽名として使うには都合がよさそうな名前だけど)
 まあ、山田太郎よりは信用できそうな名前ではある。
『直接会って話がしたい。指定の場所に来る事はできるか?』
『いえ、それは不可能です』
 全く迷いなく言い切った。
『私には地上に出る為の物理肉体が無いので』
『物理肉体が無い……?』
『私は、いえ、私達はデータ上だけの存在です。なので、地上に出る事は今は出来ないんです』
『バーチャルキャラクターみたいな物かな……?』
「なんだそれ?」
 ハクメは何気なく疑問を投げたので、蔵人は自分の通信を切って答える。
「電子ネットワーク上に生まれた電子の存在だよ。僕の故郷では珍しくないんだけどね」
「へー……マキナの一種か?」
「そうと言えばそうなんだけど、少し違うかな」
 分類上はマキナの一種と言えば間違いないだろう。しかし、バーチャルキャラクターは単なる電子上のプログラムではなく物理世界へと出現する手段を持っている。
『バーチャルキャラクター……という物は良く分かりませんが、おおむねその認識だと思われます』
 一方で斎藤も言葉の意味は分からないながらも近い物と理解した様子。蔵人は通信を繋げて対話に戻る。
『それじゃあ、君達は物理世界に出現する手段がないって事かな?』
『そうです。それが出来ていれば、苦労はしないという話でもあります』
 そこには深い感情が込められているように感じた。
『いや、来てるじゃないか。地上に表れている人間とは無関係って言いたいのか?』
 ウタは当然の疑問を投げかける。
『いえ、無関係ではありません。それは我々の……|征服《レコンキスタ》派の所持する戦闘端末です』
『良く分からないけど、それを使ってこっちに来ればいいんじゃないか?』
『……それが、出来ていれば、なのです』
 やはり苦々しく言い淀む。嘘を付いているという感じではないが。
『順を追って話すにはかなり長くなりますが』

●|再征服《レコンキスタ》
『じゃあ、聞きたい事を聞いていこう。君たちは今、どこに居る?』
 蔵人は探知である程度の辺りを付けてから言った。
『地中です。物理的には地中の奥深くという事になります』
「地中だって。地底人?」
「でも、さっき電子ネットワークがどうとか言ってなかった?」
 しーっと、指を立てて外野を黙らせる蔵人。声が入り込んだらわざわざ遮断した意味が無くなる。
『確かに、物理座標は地底を指してるね』
 蔵人はそのまま先の発言を肯定する。
『つまり、地中の深くにスーパーコンピュータがあって、君達はその中で生活をしているって事かな』
『その通りです。最も、私もその事を知ったのはこの一年程前ですが』
『それで、どうして亡命なんだ? 戦闘不能で分解しちゃうようなとこに居たくないのは判るけど』
『その、戦闘端末は人間ではないんです。生物学的には人間の要素で構成されていますが、完全な作り物で地上制圧の為に製造されている兵器なんです』
『地上制圧のための兵器ねぇ……』
 生物ではないと予想されてはいたが、ここで断言された。そして、人間は地上を制圧する気であるとも。
『重ねるようだが、どうしてそれを使って出てこない? 聞いた限り出来なくはないはずだ』
 自分たちがデータ上の存在であり、地上に肉体を作る事ができる。両方合わせれば地上に出る事は出来る筈だろう。
『それが出来ていればは、無しだぜ』
 だからウタは釘を刺した。
『技術的に不可能では、無いんです。ただ、単純に出力が足りない。私達の全てを移住させるには足りないんです』
『移住を望む理由は?』
『もし、明日世界が滅びるとしたら、ただ黙って滅びの道を進みますか?』
 問い返された。
『はい、と答える人は少ないと思います』
『ああ、俺もそれを認める気はない』
『私達の存在するクレイドルは演算力の限界を超えると世界ごと初期化されます。つまり、滅びるんです』
『……そう言う事、か』
『その初期化は2036年に起きると予測されています』
 2036年問題。2000年問題と似たような現象だが、コンピュータの時刻がオーバーフローを起こす事により大規模なシステム不具合が発生すると言われている現象だ。
 だが、それはUDCアースの話のはずだ。
『待って、じゃあ今は何年なんだい?』
『今は、2022年です』
 UDCアースのタイムレコードと一致している。これは偶然だろうか。UDCアースとは全くかけ離れた地で、よく似た世界がコンピュータ上に疑似構成されているという事になる。
 嘘、と片付けるには符号が合いすぎる。何より、その事を知るのはUDCアースという世界を知る猟兵だけだ。
『じゃあ、その2036年の前に亡命して来たい。そう言う事でいいんだな』
『ええ、我々は現状約80億人存在していますので……それを全てとなると、とても』
『それは、そうだろうねぇ……』
 80億人がいきなり出現したら双方ともに大混乱になるのは間違いないだろう。
『選別した人間だけを送る、そう言う案も無くはないんですが』
『その人数、300人だったりする?』
『……何故それを?』
『いや、陰謀論として有名だからね』
『どうやら、私達の世界について詳しく知っているようですね』
『……いや、よく似た世界を知っているだけだよ』
 一体どこまで一緒なのか。
『その300人が|脱出《エクソダス》派なのか?』
『いえ。私の意見への賛同者は……20名ほどになります』
『随分と少ないんだな』
『ええ、公には秘匿している一派な物で。知られると消去されかねませんし』
『ああ、だから端末を使えないのか』
『そうなります』
 公表されていない実情を知る者の中の、公表されていない一派。
『端末を使えるのは|征服《レコンキスタ》計画に正式に書類を通し、上の認可を得る必要があります。私達の意見は……言うなれば、敵国に逃げ込むも同然ですから』
『地上を征服してどうする気なんだ?』
『私達には物理肉体がありません。なので、現状地上に存在する肉体へと……人格を上書きする事になっています』
『何、だと』
『生物兵器群を服従させ、人格を上書きして地上を|再征服《レコンキスタ》する。これが……端末を用いる、|制圧《レコンキスタ》派の主張で、現状では一番現実的な案として採用されています』
「……なんて事だ。人間共め、なんて事を企んでいやがる」
 地上に出現する人間の目的。それは正しく、現住民を残さず滅ぼす方法だった。
『それで、それでもアンタは亡命したいって言うんだな、斎藤』
『はい、その結末を回避する方法を探す為に』
『なるほど、なるほどね……』
 だが、人間側としても苦しい状況だ。14年後には世界の全てが消えてしまうのだから。
『止める手段はないのか。その、初期化を』
『不可能です。クレイドルはもうほとんど限界に近い……次の初期化が起きる時は、本当に全てが滅びます。だからこそ、クレイドルは地上侵攻を選んだのでしょう。人間の種の保存という使命を全うする為に』
 それが、人間が敵として現れた理由だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


●最上位ミッションコード
『待ってください、今緊急最上位ミッションが発令されました。その場所が危ないです』
 斎藤の声に緊張が入る。
『緊急最上位ミッション、つまりこの世界への侵攻だね』
 蔵人はその一言だけで現状を整理した。
『ここを襲撃しようってのか。やっぱり罠だったのか?』
『そうでは無い事の証明に情報を提供しましょう』
 情報に関してはグリモア猟兵の予兆を上回る事は不可能だ。もちろん、猟兵の事を全く知らない斎藤がその事を知る由は全く無いが。
『キャバリア、人型起動兵器を用いた強襲を行うようです。しかし、そちらは囮。本命は地上歩兵を広域に展開し、火炎放射器で森ごと一気に焼き払うつもりの様です』
(俺を相手に火責めとは悪手だな)
 ウタは思った事を口にしなかった。わざわざこちらの情報を与える理由はない。
『私に侵攻その物をどうにかする手段はありません。不用意にそちらの手助けをする事も……現状では』
『それはまあ、いいぜ』
 ウタは決断的に言い切った。
『俺達の仕事だ』
『で、提供する情報はそれだけ?』
『囮のキャバリアは単機、歩兵部隊については……それなりの数が集まると思います』
『……ずいぶん、ふわっとしたね?』
『参加者の数は私にも分からないのです。実際、どの位の数が集まるのかはやってみない事には』

「襲撃が、来るんだな」
 ヒヤマが言った。
「マナキタに火責めとはな。そんな物、何度もやられてるわ」
「まー、その度に少なくない被害が出るからやられたくねーのは確かだけどな」
「今は季節も悪いわ。こんなに空気が乾燥してたら大変な山火事になっちゃう」
 ハクメとミチコも臨戦態勢。
「どうする、大将」
「里に戻れイワシ。そっちは任せる」
「ああ、任されたぜ」
 |斥候《スカウト》の鰯山は素早く動いた。もう猟兵でも追跡は困難だろう。
「私たちは?」
「勝手にしろ。元々、お前らは勝手に付いてきただけだ」
「それもそうよね」
「じゃあ、勝手にさせてもらおうかな」

◆拠点襲撃シナリオに続きます。こちらへの参加者でも襲撃シナリオの方にも参加できますし、引き続きこちらへの参加者も受け付けます。
稚微丿・鈴
人間さん、亡命の際は新しい体用意せなな。外観はマキナと見分け付かなく成るんやないかな?

事態は急展開を迎えとるわけやけど、ここで一旦、マナキタの里の皆さんに、路上インタビューや。

配信は、うち封チャンネルの鈴が、お送りするで!
(姿は本体の鈴に手足が生えた器物体。配信方法は、デモンズコードで増やした複製体を数個中継して声をお届け。周波数を合わせれば映像も見れるで。)

早速、声を掛けていくで。
おこんにちわ~。最新話題の実態調査配信をしてはります、鈴って言います~お時間良いですか~?
元人間のサイトーさんが、里の住人になりたがってるけど、住民さんは、どう思う?

ありがとうな~。

この調子で、意見集めていくで~。



●街頭インタビュー
 時間は少々遡り襲撃前のマナキタの里。
「人間さん、亡命の際は新しい体用意せなな。外観はマキナと見分け付かなく成るんやないかな?」
 稚微丿・鈴(消音箱の内の鈴のモノノケ・f38578)は疑問を口にする。
「さあ? 用意する体によるんじゃないかしら」
 マナキタの里には現在交渉中の内容は筒抜けになっている。ヒヤマは自分に何かあってもマナキタで対応できるように手を打っておいた形だ。まあ、皆が皆聞いている訳ではないので鰯山が里に戻った意味はある。
「……所で、あなたは何ですの?」
「封ちゃんこと、防音室の鈴やん、おぼえとき~」
 その姿は本体の鈴に手足が生えた器物体。明らかにケモノマキナには居ない種族だ。
 ちなみに、けものマキナの住民はユーベルコードの代わりにデモンズコードを用いるが、だからと言って猟兵が使う物もデモンズコードになったりはせず普通にユーベルコードである。他のアライアンス世界の住民ならまた別な呼称があるのかもしれないが、外から来た者は世界を越えた猟兵の資格を持つ者である事に違いは無いのでたぶんユーベルコードで間違いではないはずだ。
「え~……」
 おっと、思いっきり訝しまれているぞ。まあ、明らかに人間ではないから敵意という訳ではないが、なんか変なのが居ると言う感じで。
「じゃあ、あらためて挨拶しよか。おこんにちわ~。最新話題の実態調査配信をしてはります、鈴って言います~。お時間良いですか~?」
「あっはい。マナキタの里で歌姫をしているコンシュですわ」
 戦闘になれば癒し手となるコンシュだが、本業は歌姫だ。彼女の扱う歌のデモンズコードは広範囲のナノマシンに一気に働きかける事が出来るので癒し手に限らない活躍も出来そうな物だが、争いを好まない性格(この世界ではそこそこ珍しい)とひかえめな運動神経(主にこっちが要因)により|後方支援《フルバック》に詰める事が多く戦線には出ない。
「元人間のサイトーさんが、里の住人になりたがってるけど、コンシュさんは、どう思う?」
「その人、現人間ではないかしら?」
 まだ人間を辞めてはいないのだ。まあ、情報生命体が人間かと言われると違う気がするが、どの道元人間ではあるまい。
「まあ、別にいいんじゃないかしら」
「……それだけですん?」
「それだけですの」
 さも当然と言わんがばかりに言い切るコンシュ。
「何の話をしているんだ?」
 骨アクセで身を固めたスイが会話に入ってきた。彼女は生命研究家で骨を操るデモンズコードを使う。世界が違えば|死霊術師《ネクロマンサー》とも呼ばれるだろうが、別に死者の霊魂を操っている訳ではない。
「おこんにちわ~。最新話題の実態調査配信をしてはります、鈴って言います~。貴女もお時間良いですか~?」
「構わないが……君は何だ?」
 何せ、鈴に手足が生えて喋っている物体だ。生命研究家たるスイが興味を惹かれるのも当然だろう。
「ヤドリガミのモノノケやで~」
「最近話題になってる猟兵と言う奴か」
 猟兵の噂は既にマナキタの里では完全に知られており、他の集落へも少しずつ広まってきている。
「それで、元人間のサイトーさんが、里の住人になりたがってるけど、スイさんは、どう思う?」
「彼は元人間じゃないだろう」
「人間と言ってもええですけど」
「まあ、いいんじゃないかな」
「あ、やっぱりそれだけですん?」
「人間なんてここ一年でいきなり現れてあっちこっちで迷惑してるだけだしな。違う人間も居るだろう。事情を聴いた限りでは里に迎えるのも悪くは無いと思う」
 スイも特に何でもない事のように言った。
「それよりも、彼らの肉体をどうするかと言う話の方が気になるな」
「やっぱり、機械の体に入れるんと違いますの?」
「彼らの自己認識はケモノに近いだろう。いきなりマキナの体になったら困惑する者も出るだろう」
 それはそうである。ただでさえ自分たちの住んでいた世界がデータ上の物でしかなくて、外にある本当の世界に出たら機械の体だなんて受け入れがたい事実を積み重ねる事になる。
「困りますね~。だからと言ってケモノの方々に体譲ってもらうのも気が引けます~」
「それはそうだろうが……マキナでもそれは変わらないぞ」
 この世界においてはマキナも一つの命だ。マキナの体に上書きすると言うのも住民的にはさほど変わりが無い。
「それは……そうですね~」
 他ならぬヤドリガミである鈴なら理解も出来る話だ。
「……それ、一応解決できる手段はありますわよ、一応……おすすめはしませんけど」
 ここでコンシュが口をはさんだ。
「そうなのか? しかし、魂の無い肉体など……」
「肉体が溢れて魂が足りなくて困ってる場所がありますわよね」
 そう言われて、スイは露骨に嫌な顔をした。
「あ~……あそこか。行った事あるのか?」
「一応、一度だけ……中に入る勇気はありませんでしたわ」
「何ぞ、心当たりがあるんか~?」
 何か、ろくでもない場所のような感じではあるが。
「……GFBT、と言う塔がある」
「GFBT……何かの略か~?」
「その……グレート、ファッキング、ビッチ、タワーですわ」
 ……あまりに酷過ぎる名前が出てきたぞ?
「……何ですの、そこ」
「……交尾に特化した集落、と聞いている。なんでも一年中繁殖期だとか。イカれてるとしか言えん」
「……何なんですの、そこ」
「乙女の口から言う事ではありませんわ~……知りたければ知ってそうな男にでも聞いてくださいまし」

大成功 🔵​🔵​🔵​


●轢き逃げダイナミック
「ニンゲンの人達? 何て言うか、無自覚ディストピアな住人だったりするのかな? と言うか、相手の事情、急かしてるせいかアレだけど、割りと言い分に無理があるような、無いような?

 桃枝・重吾(スペースデコトラ使いXLスペース食べ歩き道中・f14213)は走りながら考えた。そう言う事はあっちで本人に言ったらいいんじゃないかな。

「うわー、ナヴァリアさんでっかいね。成る程元生物兵器って、成る程」
 アヴァリアが歩兵を引き付けている間に重吾はキャバリアに向かってスペースデコトラを走らせる。
「それはそれとしてキャバリア?
誰も相手しないならアクセルベタ踏みで押さえよう」
『Man sagt, das Handling von Teilen sei schwierig, aber das neuste Modell ist unschlagbar! lass uns gehen!』
 相対するキャバリアも一直線に突っ込んで来る! 武装は両腕の腕部一体型火炎放射器のみ。特化した|構成《アセンブル》だ、接近しなければ攻撃も出来ない。
 だが、特化しただけあってその熱量は歩兵の比ではない。
「スペースを自律航行するのにこの程度の高温……と思ったけど、案外危ないなぁ」
 宇宙空間を自走するなら相当な高温にも低温にも耐えられる設計なのは当然である。だがそこはデモンズコードによって起された炎、決して無視できる熱量ではない。センサーによれば局所的には恒星の熱量に匹敵する。
 デモンズコードを制するにはやはり、デモンズコードかユーベルコードが必須なのだ。
「放置するわけにも行かないし、カードにしちゃおう」
 【|事象圧縮式カード型カートリッジ装填式王鍵起動準備《キドウジュンビペネトイレイザー》】がその高熱と言う事象を一枚のカードに圧縮し吐き出す! だが、敵キャバリアは意に介さず攻撃続行!
「うわっ、なんだかすごい事になっちゃったぞ」
 |超古代試作機『平練卜零さん』《高次圧縮型超長距離弾成形変換ユニット》が次々とカードを吐き出す。カード化する事によって一旦は熱量が下がる物の継続して受け続ければ|スペースデコトラ『星降丸』《デコトラ型後方支援兼輸送機コアユニット》とてただでは済まない。一次装甲が融解し始める。
 だが、それで引く重吾ではない。アクセル全開でそのまま突っ込む! だが、敵キャバリアはサイドブースターで致命的体当たりを回避! 轢き逃げならず!
 その時、ちょうどウタの獄炎が敵歩兵を薙ぎ払っていた。勝負も決め所だ。元より重吾はドライバー、荷物を誰かに届ける事が本職だ。この大量のカードを適切に運用できる誰かに。
 遠距離支援用多脚戦車の頭上を、スペースデコトラが駆け抜けた。大量のカードをばら撒きながら!
「任務了解。一発で十分」
 大量のカードを一発の砲弾が稲妻めいて貫く! 貫く度に砲弾は熱を帯び、解放された熱量が砲弾に収束していく!
 それはさながら恒星の流星。キャバリア一機の装甲をぶち抜くには十分だ。そして!
「体制が崩れたな、久々にやるか!」
 総攻撃のチャンスだ!

●コープス・ブレイズインテリジェント王鍵咆哮の戦士
「目覚め、働け! 仕事じゃぞ!」
 ナヴァリア・エキドナのコープス・マキナ!
 周囲に伏せていたマキナのフレンズによる一斉射撃!
「お前にも、還れる場所はある筈だ」
 木霊・ウタのブレイズブラスト!
 吸収した高熱を大焔摩天の光刃に収束し一閃!
「当然、殲滅対象を逃すはずも無し。一発で十分」
 アノマ・ロカリスのインテリジェントキャノン!
 超高熱を帯びた砲弾が何度も突き破る!
「アストロNOMINの|底力《農筋》見せてやる。押して参る!」
 桃枝・重吾の|王鍵咆哮ライガーロアー《ジンキイッタイ》!
 |悠々荷台《ユニヴァースユナイトキャリア》がエクステンドブレードモードに変形し|斧の一撃《マスターキー》!
「降参しないならこれで終わり。ブレイブッ……フェニックス!!」
 トール・テスカコアトルの|勇気の戦士《ブレイブトール》!
 トールの勇気が希望の不死鳥と化し、悪を滅ぼした!
『Auf Wiedersehen!!』
 キャバリア爆発四散! 猟兵達の大勝利だ!

●業火の吹き荒れた地で
「もう敵は居ないみたいだな」
「状況終了と判断する」
 各自で周囲を捜索し、残敵の掃討を確認。結局、拠点の外で返り討ちにしたので拠点は無事だ。当然、森も焼けてはいない。
「アイツ、囮の役割を全然果たせてなかったな」
「ふぇっふぇっふぇっ、小賢しい真似などするからじゃ」
「この人達、どうして森を焼こうとしたんだろう……」
 トールの小さな呟き。
「どうしてって、森ごと焼けば一気に焼き払えるからだろ?」
「……肉体が、欲しかったはずなのに?」
 そう、考えても見れば。森ごと焼き払ったら遺体すら残らない。それに、この規模の森が丸ごと焼けるほどの山火事となれば被害はそれだけに留まらない。
「たぶん、その辺は考えてないんだと思う」
 重吾が言った。
「完全スタンドアローンなのにどうやって中身逃げてるか聞いてみようと思ったんだけど、聞くまでも無かったよ。脱出装置なんて最初から無い。逃げる気なんて無かったんだ」
「……人造兵器ってコトだけど……人格が形成される前に、上書きされちまった存在なのかもな」
 つくづく歪な命だ。ウタはそう思った。

「防火帯、意味なかったな」
「まあ、無くて良かったわよ」
 遠くの森では延焼に備えていたハクメとミチコが呆然としていた。
「なんだありゃ、でたらめじゃないか」
「味方でよかったわねぇ」
 あまりに迅速に、一方的に蹂躙した猟兵達の姿は他にも多くのマナキタ住民が見物していた。
「あいつ等と戦う事にならねぇのを祈るばかりだな」
「ま、その時はその時だろ、大将」
◆リプレイ誤送信インシデントが発生しました。担当者は事実を重く受け止め自主的にケジメ後に旅立ちました。誤送信部分については削除申請は送ったのでそのうち消えると思います。
◆なお、プレイングは現在も受付中です。
桃枝・重吾
アドリブ絡み歓迎

◼️心情(ぐるぐる思考)
んー、
目的、種の保存、だからかな?
個じゃなくて、種。
出てきてる人達、戻ることは考えてない?
失敗しなくても自分達が間引かれる事で多少でも時間を稼ごうとしている?
脱出派、ばれてないのも少しでも確率をあげるためあえて見逃してるって考えることも出きるし
あー、うん、考えてるだけだと良くないね、
準備して斎藤さんにも聞いてみようかな?

◼️準備
しばらく使ってなかった3Dプリンターの試運転にチーズケーキだしてみて、
|古いマシン《超古代謹製》な分細かいのまで設定値必要だけど問題なさそう。
エネルギーバカ食いするからありったけのカードカートリッジもかき集めたし、
いってみよう

◼️会談?
取り敢えず、斎藤さんの方とのデータ形式の整合性の確認も兼ねて、
データのチーズケーキ送信、
味の感じ方や見た目変でないかな?

さて、本題として、
そちらが望む最低スペックと理想スペックを教えて欲しい、
現状、私達の方で問題ない物としては発掘したデータサーバー数台か、一人分なら、体を生成出来るかもしれない



◆なお、プレイングは現在も受付中です。●廻る思考と廻らない世界
(んー、目的、種の保存、だからかな?)
 桃枝・重吾(|スペースデコトラ使いXL《スペース食べ歩き道中》・f14213)は準備を整えながら思案を巡らせる。
(個じゃなくて、種。出てきてる人達、戻ることは考えてない?)
 考えながらも手は休めない。
(失敗しなくても自分達が間引かれる事で多少でも時間を稼ごうとしている? 脱出派、ばれてないのも少しでも確率をあげるためあえて見逃してるって考えることも出きるし)
 考えながらの準備はこの程度だろうか。手を動かす方が案外考えがまとまる時もある。
「あー、うん、考えてるだけだと良くないね。準備して斎藤さんにも聞いてみようかな?」

『先ほども説明しましたが、地上に出ているのは戦闘端末の生体兵器です』
 斎藤に疑問をぶつけるとすらすら回答が返って来る。
『私達に出来る事は兵器を設計して地上を侵攻する事だけです。今の所、侵攻に成功したケースが無いので成功したらどうなるのかは誰も分かっていないんですよ』
『どうなるか分からないのに侵攻だけはしてるって本当に迷惑だなぁ』
『我々の視点からはゲームという事になっていますので……ゲームの舞台の方が本物の世界というのは中々に思い付きもしないでしょう』
『じゃあ、ゲームとしてのこの世界はどんな風になってるんだい?』
 斎藤の回答は推測が多い。斎藤が隠している可能性も無くは無いが、どうにもこちら側の世界がどういう様子かも分かっていないように感じる。
『まず、人間が絶滅した後一万年後の世界で』
 それは、正しい。
『常に激しい放射能嵐が吹き荒れて、地表ではまともな植物は存在せず』
(いや、放射能嵐なんか無いけど? 植物も十分まともだし)
『呼吸する酸素すら自力で作らなければならない極限環境だと』
『逆に、その設定でよくこっちに来ようと思ったね?』
 つまるところ、斎藤を始めとする本物の人間達はこの世界の事をかなり誤解しているという事になる。
『2036年問題が無ければそう言う気にはなりませんよ。そこは、地下のセーフハウスか何か何でしょう? 実際、どんな生活なんでしょうか。その……やはり、まともな食事とか出来ないとか』
「おーい、オツマミに揚げ芋でも食うかー?」
「焼きリンゴもあるわよ」
 外野が飽きて宴会始めたぞ。
『むしろ、結構恵まれてる方だと思うよ』
 現在戦争中のダークセイヴァーなんて酷い物だし。
『えぇー、藻を培養した合成糧食とかじゃ』
 そりゃ違う世界だ。あの糧食美味しいらしいし。
『場所にもよるかもしれないけど、普通に農作物は取れるし肉も魚も食べられるよ。あと、ここも普通に地上だし放射能嵐とかも見た事無いなぁ』
『えぇぇー……』
 地上侵攻する人間がやたらと重装備だったのはそう言う極限環境化だと言う設定があったからだったようだ。そう言う世界なら確かに環境スーツが無ければ数秒と持つまい。
『それじゃあ、どうしてスーツ破損後に汚染大気に触れると数秒で死亡するなんて設定が組まれてるんでしょうか?』
『機密保持かなぁ』
 胞状分解現象は住民と猟兵側に人間の情報を与えない為の物では無かった。裏で操作する人間側にも本当の世界を見せない為の処置でもあったのだ。
『やはり、そちらの世界をこの目で見てみたいです。その話が本当ならあまり心配は無さそうですし』
『じゃあ、最後に試運転するからもう少し待っててね』

「チーズケーキ作ったんだけど食べる?」
「焼いたんじゃなくて作った?」
「うん。3Dプリンターで」
「それ食べられる奴なの?」
「へーきへーき、案外美味しいよ」

「ん……確かに、美味しい感じはするけど」
「何かしら。何か……ちょっと違和感はあるわね」
「そりゃ、料理上手な人に比べられたら仕方ないかもね」
 それでも試運転には十分だ。
『さて本題だ。そちらが望む最低スペックと理想スペックを教えて欲しい』
『と、言われましても。普通に生活する分には過不足ない程度で構わないのですが』
「その話、ちょっと待った」
 そこで、意外な人物が待ったをかけた。
「この会話は盗聴されてる。じゃなきゃ智也、アンタが俺達を裏切ってるかだ」
『……どういう事でしょうか』
「その前提じゃなきゃ|猟兵殺し《オブリビオンスレイヤー》って存在が成り立たない」

大成功 🔵​🔵​🔵​


●なんか交渉始まってから半年位過ぎてるのでその間も色々ありましたという話
「80億人の命の未来がかかってる。解決方法を見つけたいぜ」
 木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)は交渉が始まった後も色々と聞き込みをしたり、ゴブリン集落で人間を追い返したりなどしていた。
「GFBTってのをもっと聞きたいぜ」
「帰れ。もしくは自分で行って確かめろ」
 ウタは鈴の調査記録からGFBTとやらが突破口になりそうだと当たりを付け、知ってそうなマナキタ集落のスイに話を聞いてみた。
「そりゃ行けば早いんだろうけど」
「流石にここからだと見える場所にある訳じゃないから長旅にはなるが」
 まあ、私が適当に予知すれば一瞬なんだが。
「名前通りの場所だ。ゴブリン集落を知ってるか? アレをもっと過激にヤバくした場所だ」
「アレをかぁ」
 そっちは知ってる。色々とギリギリだったがGFBTと比べるとぬるいらしい。
「肉体が溢れて魂が足りない、ってのは?」
「あの塔ではこの世界の常識が通じない。埒外の命が乱造されている場所だ」
 命を乱造するというのも大分アレな話だが。
「この世界では魂≒意識って後から入れるもんなの?」
「マキナ種に限ればそうと言う事は出来る。ケモノ種にはそんな事はしない」
「じゃあやっぱりGFBTが特別だって事か」
「ああ、お前の後ろに立ってる奴にでも聞いてみろ」
「え?」
 言われて、後ろを振り返る。金色の猫が立っていた。踊り子のような装束を身に纏っているからただの猫ではないのは明白。おそらくはケットシーだろう。
「ドーモ、猫です」
 問題は、猟兵であるウタに一切感知させずに背後の足元に立っている事である。ただ者ではない。
 そして、問題はもう一つ。ウタはこの猫にそっくりな奴をかつて倒した事がある。あれは銀の猫だったが、雰囲気が非常に近い。つまり、コイツも暗殺者だ。
「ドーモ、猫さん。木霊ウタだ」
 ともかく、アイサツされたらアイサツを返さねば。古事記に書かれているし、書かれて無くても一般常識だろう。
「GFBTについて詳しく伺いたいと聞いて駆けつけましたにゃ」
 あの銀の猫はオブリビオンだった。この金の猫もこの世界の埒外の存在という気配を感じる。だが、これはどちらかというと。
「アンタ、もしかして猟兵か?」
「オリジナルの猫は猟兵だにゃ。でも、クローン猫は猟兵の資格は無いにゃ。それだけがクローンでコピーできなかった部分だし」
「へー、やっぱあの塔はクローンに人格コピーなんて非道行為も普通にやっているのか」
「まあ、クローン猫は特殊と言うか……管理猫なので」
 現場猫ならぬ管理猫だったらしい。
「茶でも入れて来よう。ゆっくり喋っててくれ」
 スイが席を立った。茶を入れるというのは口実だろう。あまり関わりたくないというのが本音か。禁忌の技術なんてのは関わらないのが一番だ。
 ウタはそうは言ってもいられない状態なんだが。

「クローン猫? クローンを作ってオリジナルの人格を入れてるのか?」
「んー、クローン猫だけは特殊なんだよにゃー。何せ、呪いの大本だからもう猫として生まれた時には既に猫になっているというか」
 金の猫は椅子に座って足を組んだ。
「クローン猫ってのはオリジナルの精子とオリジナルの卵子を使って産まれた猫と、クローン猫同士で出来た子供の事だにゃ」
「ちょっと待ってくれ、オリジナルって男か女かどっちなんだ?」
「雌だけど生やして種付けする位ならあの塔の中では超楽勝の部類だし」
「クローンってもっとこう、なんか科学的な施設とかで作るんじゃ?」
「GFBTではちゃんと生き物の精子と卵子を使って生き物の子宮から産んでまーす」
「……それ、もう普通に子供なんじゃ」
「そうだにゃんよ? ただ、クローン猫の場合両親の遺伝子が一億パーセント淫乱だから同じ性格にしかならないというだけで」
 突っ込み所が多すぎる。たぶん、つつかない方が平和な部類の。
「っていうか、クローン猫の話が聞きたい訳じゃない筈だにゃ」
「おっと、そうだった。ええと……」
 整理しよう。聞きたい事はGFBTの内容ではない。
「肉体が溢れて魂が足りない、って聞いたんだけどどういう事だ?」
「産むのが大好きな雌が居るから滅茶苦茶産みまくるんだけど、そのまま育てるとみんな同じような性格になっちゃうからにゃー。お客さんに頼んで人格のコピーを取って、余った子供にインストールして使うんだにゃ」
 これまた突っ込み所に困る話だ。
「……子供、余るのか?」
「滅茶苦茶余る。いや、自分の子供産ませる目的で来る客はそのまま子供持ち帰ってくれるんだけど、そうじゃない客も割と居るから余るにゃ」
「それって世話とか食事とか色々大変なんじゃ?」
「そういう問題を性行為だけで解決できるのがGFBTなんだにゃ」
「えぇー……」
 どうやって? と、思いはしてもろくでもない話しか出てこなさそうなのでスルーする。要点はそこじゃない。
「つまり、魂ってのは意識の話か」
「魂なんて概念自体があやふやな物だにゃ。正確にはその記憶だにゃ。その人物の記憶を入れると、まるでその人物が宿ったような振る舞いをするにゃ。これが人格インストールだにゃ」
「その記憶はどこからどうやって入れるんだ?」
「目とか耳とか鼻から極細の触手を伸ばしてこう、くちゅくちゅしますにゃ」
(うわぁ)
「でも、それじゃ記憶が無い状態だと肉体はどうなってるんだ?」
「んー、その辺はこの世界の基本仕様に沿ってるにゃ。まず、この世界の子供は常に6歳の状態で産まれるのは知ってるにゃ?」
「ああ、それは知ってる」
 ゴブリン集落の命の儀はあくまで例外だ。原則としてこの世界の子供は6歳の肉体年齢で産まれる。
「で、通常妊娠期間は10年だけどGFBTでは最短1分で産めます」
「1分」
 短いってレベルじゃないぞ。
「普通の子供は胎内に居る時に母親の経験をある程度共有するんだにゃ。だから、いきなり6歳で産まれても普通に歩けるし喋れるにゃ。ただ、GFBTではこの胎教時間が超短縮されてるから何もできない6歳の子供が産まれてしまうにゃ」
「それは、かなりの弊害だな」
「この問題を解決するのが人格インストールだにゃ。産まれる前に知っておくべき記憶をあらかじめインストールしてしまうんだにゃ。ただ、自分の子供として育てたい場合は本当に必要な事だけを入れるにゃ。コピーした人格とか使うのはそうじゃない場合だにゃ」
「それって、他所の人格データとかも入れられるのか?」
「地下のデータ人間の話をしてるにゃ?」
 この金猫、その辺は既に知っているようだ。
「んー、技術的には地下のデータ人間の人格を入れる事は出来ると思うにゃ。ちょっと実物のデータが無いと断言はできないけど」
「それじゃあ、その親がいない子供ってのは……どの位居るんだ?」
 育てる親が居ないとは言え、子供の未来を奪う事にはなるのだが。とは言え、GFBTで生まれ育った子供がまともな人生歩める筈もないのではあるのでどっちもどっちかもしれない。
「ちょっと数えた事が無いから分かんないにゃ。一日1000人は下らないかにゃ」
「……一日に?」
「一日で。だって、あの塔の内部人口だけで既にヤバいし。むしろ、引き取ってくれるならこっちも悪い話じゃないし」
「……それ、80億が何とかなったりするのか?」
「んー、流石にひとつの世界の人口丸ごと移植するのは……一年くらいかかるんじゃないかにゃー」
「一年で80億を?」
「その気になればもっと短縮は出来る気はするけど」
 2036年までに肉体を確保する問題、ここに案外あっさりと解決。GFBTヤバい。

「話は終わったか」
「ああ」
 スイがお茶を持って現れた。一応、本当にお茶は出してくれるらしい。
 だが、茶碗は二つ。金猫の方に視線を戻すと既にそこには一枚のチケットしか残っていなかった。
『 グ レ ー ト ・ フ ァ ッ キ ン グ ・ ビ ッ チ ・ タ ワ ー 半 額 優 待 券』
 半額とは言えちゃんと金は取るらしい。まあ、猟兵なら5万Cat程度すぐに用意できるが。
「サンキューな」
 スイはウタにハーブティーを差し出し、対面側の席にも置いて座った。
「面白い話をしてたな。魂がどうとか」
「なんだ、結局聞いてたのか」
「まあ、技術者としてはあの塔の技術には興味はある」
 テーブルの上にネズミが乗った。ただのネズミではない。骨のネズミだ。
 スイは骨の装飾品で身を固めた|死霊術師《ネクロマンサー》のような格好をしているが伊達ではないらしい。所謂死霊術とは別物なのだろうが。
「私のデモンは骨に魂を吹き込んで起こす。こんな風にな」
 骨のネズミはまるで生きているかのように走り去っていった。よく見れば骨の鳥、骨の猫、骨の犬、骨の魚。一度気が付けばこの家には多くの骨の命がある事に気付く。
「まあ、流石に私でもデータの人間を骨に入れたりは出来ない。私のデモンは眠っている骨の魂を起こすだけだからな」
「それって、死人を生き返らせてるのか?」
「そう言う誤解をよくされるんだが、あくまでも吹き込んだ魂は別の魂だ。元の骨の持ち主の魂を呼び戻している訳じゃない……と、言うかそんな事は出来ない」
 猟兵の中にも一度死んでアンデットとして蘇った者も居る。だが、多くの場合生前のままに蘇る訳では無い。死んだら、終わりだ。
「魂にはそれだけ強い力があるんだ。魂が望めばどんな冒険でどんな活躍でもできる。色々な世界で好きに着飾る事も出来る。臨んだままの能力を手に入れる事も出来る。魂の可能性に果ては無い」
「それ、魂って言うか別の力じゃないのか?」
「いいや、これこそが魂の力なのさ。さっき言ったのはただの一例だ。魂は世界を己の望むがままに変える力がある」
「そうなのか」
 ハーブティーを頂く。心地よい香りが突き抜けた。
「ただし、魂は力があっても使い方を知らない。万能無限にして白痴の神。それが誰もが当たり前に持っている魂の正体だ」
「成程な」
 猟兵ならばユーベルコードという形にすれば大体の事は出来る。だが、ユーベルコードと言う形を持たなければ出来ない……と、思いがちだが案外そうでもない。
 思った事をやろうという|意思《プレイング》の方が大事なのだ。
木霊・ウタ
心情
80億人の命の未来がかかってる
解決方法を見つけたいぜ

行動
GFBTってのをもっと聞きたいぜ
肉体が溢れて魂が足りない、ってのは?
この世界では魂≒意識って後から入れるもんなの?
意識はどうやって?何処から?
魂がない状態で肉体ってどう存在してる?
数はどの位?20人はありそう?
80億人分、はないよな(あったら驚きだぜ
頼めばその肉体を譲ってくれそう?

智也にQ
クレイドルに増設機器を接続とか可能では?
造った奴は将来のことを考えてなかった?
他世界の知識や技術を使えば
演算力を補えるかも

ユーベルコードやデモンズコードなら
助けられる手があるんじゃないか
例えばフェアリーランド系で時間稼ぎとか
…肉体がないと触れられないかも

ところでデータ存在の人間は
デモンズコードってのは使える?

そもそもどんな経緯があって
データ存在になったのか
これまでリセットは何回起きたのか
人間の歴史を教えてもらいたいぜ

猟兵殺しってどんな存在?
人間の世界では
猟兵ってのはどんな存在だと考えられているのか
その理由は?

少しでも手がかりを見つけたいぜ



●そして一つの結論へ
 そこで、意外な人物が待ったをかけた。
「この会話は盗聴されてる。じゃなきゃ智也、アンタが俺達を裏切ってるかだ」
『……どういう事でしょうか』
「その前提じゃなきゃ|猟兵殺し《イェーガースレイヤー》って存在が成り立たない」
 制止を掛けたのはウタだ。
「どういう事だい?」
 重吾はその行動を訝しむ。
「データの人間達はこっちの事をほとんど何も知らないんだろう? だったらどうして|猟兵殺し《イェーガースレイヤー》なんてのが現れたのか。答えは簡単、この会話の内容が漏れてるんだ」
「確かに、そうかもね」
『この会話が盗聴されているなら既に私は目を付けられているという事ですか』
 智也は唸った。だとすればあまりに危険な状況だ。
『目を付けられてる? それは違う。智也、アンタは裏切り者だ』
 ウタは断定した。
『何故、私が裏切り者だと?』
『それだけ厳しい情報統制が行われてるんならこうして双方向通信ができているという事自体が怪しい。|猟兵殺し《イェーガースレイヤー》があんなにピンポイントなタイミングで現れたのは俺に目を付けて監視してたからだ』
 そう、あのタイミングのエントリーはあまりに都合が良すぎる。だが、人間側にグリモアの予知に相当する物があるとは考えられない。
 ならば単純に、厄介な敵をマークし続けた方が楽だ。
『そうですか。それがあなた達の結論だと』
『ああ、そうだ。アンタの願いは聞けない』
『残念だよ。このまま大人しく情報を渡してくれれば彼ももう少し長生きできたのに』
 別な人物の声と乾いた音が聞こえた。発砲音。
『その世界は我々が戴く。精々抵抗してみろ原住民と流れ者共』
 その声は生身ではない、機械の合成音声めいた声だが確かな殺意が籠っていた。

「上手くいきましたね」
「ああ、とりあえずな」
 斎藤智也は安堵の息を漏らした。
「ここが、本物の世界ですか」
「とりあえず、この世界で標準的な生物のデータを流用した人間の体だけど違和感はなさそう?」
「ええ、ありがとうございます。今の所は大丈夫なようです」
 何と! 斎藤はさっき裏切り者として処分されたはずでは? それがどうしてこちらの世界に!?
 その仕組みは案外単純だ。何気ない音に仕込んだモールス信号。指で机を叩く音。コップを置く音。ペンで何かを書く音。
 盗聴されている事など、斎藤には最初から分かっていた。用済みになれば自分が始末される事も。当然だ、厳しい情報統制を抜けて本物の世界の情報を持っている人間を野放しにするはずはない。
 重吾の3Dプリンターはさっきの会話を済ませる前に既に肉体の生成を終えていた。斎藤智也の人格データもモールス信号で送信済みだ。
 何せ、何故か半年くらいの時間があったので。人格の情報は膨大と言えたが、何とか成し遂げた。
「想定はしてた通りですが、やはりあちらの私は殺されてしまいましたか」
「クレイドル内部の足掛かりは無くなっちゃったね」
 クレイドルの内部はデータ空間。たとえグリモア猟兵でも中に誰かを送り込む事はできない。不可能ではないが、スペースシップワールド並みの技術力は必要になる。流石にこの世界に持ち込める物ではない。
「とりあえず、ようこそ初めての本物の人間」
「ありがとうございます。これからよろしくお願いします」

●|脱出完了《エクソダスコンプリート》
「ひとまず、私だけは脱出した訳ですが他の人も放置する訳には行きません」
「ああ、残りの人間も必ず助けるぜ」
 状況も落ち着いたので、ウタは智也に聞きたかった事を聞いてみる事にした。
「クレイドルに増設機器を接続とか可能では?」
「物理的に接触する手段があれば、あるいは。ただ、今見せた通りクレイドルその物の意思は脱出には完全に反対しています」
「なんでだ? 人間という種の存続が目的なんだろう?」
「その筈なんですが……クレイドルがどうして征服という手段に拘っているのかは私にもわかりません」
「うーん、クレイドルの意思か。まるでディストピア物の管理AIだね」
「造った奴は将来のことを考えてなかった?」
「将来を考えた結果がこれなのではないかと。そもそも一万年以上稼働しているコンピューターという時点で結構な代物ですし」
「肉体の問題は解決できる手は見つけた。でも、中からデータを持ってくる手段がないな」
「クレイドル自体にアクセスする手段が必要だね」
「ユーベルコードやデモンズコードなら助けられる手があるんじゃないか? 例えばフェアリーランド系で時間稼ぎとか」
「可能性はあるけど、現状では手の出しようがないかな」
 クレイドルのAIが猟兵にとって当面のクリアすべき問題となるようだ。当然、依然として地上侵攻を企む人間戦力も。
「ところでデータ存在の人間はデモンズコードってのは使える?」
「クレイドル内では無理でしたよ。フィクションに登場する魔法や超能力みたいな物でしたし……今なら、使えるんでしょうか?」
「スペック的には使えるはずだけど」
 標準的な生物として生成された以上、この世界の標準的な能力であるデモンズコードは使える筈である。
「あの、どうすれば使えるんでしょうか?」
「まずはイメージだ」
 そこに割って入ったのはハクメ。現地住民の方が詳しい。
「自分の起こしたい現象をなるべく具体的にイメージする。そこに至るプロセスをイメージする。最初は簡単な奴から始めた方がいい」
 ハクメは遠くに転がっていた石を手元に引き寄せた。
「遠くにある石をイメージする。その重さと材質をイメージする。それを動かす場所をイメージする。動かすのに必要な力をイメージする」
 くるくると、引き寄せたまま宙に浮かぶ石を弄ぶ。
「イメージが実態と離れすぎてるとダメだ。たとえ1%でも起こりうる事でなきゃいけない。それを自分が出来ると認識する事も大事だ」
「……難しいですね」
 言われた通りに智也も遠くにある石をじっと睨んで手を突き出してみる。
 すると、ふわりと浮かんだ石が目の前に……なんて事は無く何も起こらない。
「うーん、ちょっと……難しいですね」
「そりゃそうだ。デモンはそう簡単に使える物じゃない。まずは色んな人の色んなデモンを見て、何をどうイメージしているのかを知る事だ。で、それを自分ができると確信しなきゃならない」
「将来的には使えるようになりそうだけど、今はまだ無理って事か」
 ウタはそう結論した。恐らく、地上に脱出した人間もこんな感じになるだろう。
「そもそもどんな経緯があってデータ存在になったんだ?」
「データ存在になった、というより私達は初めからデータ存在として産まれているんです。少なくとも私はそう認識しています。データ上に作られた仮想世界ですから……それが、こうして現実世界に出てきたというだけで奇跡みたいな物に思えますけど」
「これまでリセットは何回起きてるんだ?」
「それは分かりません。私も沢山のデータを積み重ねてそうであると結論しただけですから」
「人類が滅んだのが一万年前。クレイドルが作られたのはそれよりもっと前のはず。単純に考えたら6回位だと思うけど」
「別に紀元前からやる必要はないですからね。私の世界は2023年でしたけど、リセットされてから1年しかたってないという可能性はあります」
「なんでだ? 智也はそれより前の記憶はあるだろ?」
「そういう記憶を持った存在として作られた可能性が残るからです」
 結局、確かな事など何もないのだ。
「|猟兵殺し《イェーガースレイヤー》って結局何だったんだ?」
「あなた達猟兵という特化戦力が存在する事はクレイドル側に流れました。地上侵攻を成功させるにはとにかくこの猟兵を倒せる者を作るしかない。そういう結論になったんだと思います」
「それだけか? 何か妙に意味深な事を言ってたが」

『知らぬ。オヌシは本来存在せぬ筈の盤外の存在。故に排除せねば人類に未来は無い。|猟兵《イェーガー》殺すべし! イヤーッ!』

「この|猟兵殺し《イェーガースレイヤー》というユニットはかなり演算力にリソースを割り振っていたようです。戦闘の中で|猟兵《イェーガー》と言う物が何なのか。それを分析し、彼なりの結論として出した答えだと思います」
「……そうか」
 |猟兵殺し《イェーガースレイヤー》はけものマキナでこれまで遭遇したどの人間よりも一番人間らしかったようだ。与えられた目的に忠実だったというだけで。もしかすると、彼の憎悪を解消する事が出来れば、あるいは。だが殺した。
「とりあえず、0を1にする事は出来た」
 重吾は満足そうに頷く。
「今後、クレイドルの中から呼びかけられたら同じようにこっちで外に出力する事は出来ると思う」

 今日この日、一万年ぶりに本物の人間が地上に帰還した。
 これに続く者が現れる事もあるだろうか。だが、それは戦いの終わりを意味しない。
 クレイドルに対する情報は今後も何らかの形で集め続ける必要がありそうだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年05月21日


挿絵イラスト