アルカディア争奪戦㉖〜わたしがずっと居たい場所
●逆巻く嵐の慟哭を
荒れ狂う嵐、島を飲み込む大気の化身が啼く。
「……わかっている。わかっている……」
「……わたしは、私が生まれた意味はこの空に無い……」
雲海と呼ばうべき全てはわたしである。
帝竜の|号《ごう》を掲げようとも、竜には興味がなかった。
「……わたしこそが、この世界の空そのもの……」
故に、"虚神アルカディア"を護るべき側に位置するのだと、魔竜は理解する。
だからこそ、この空中庭園に大気を凝縮し風と共に哭こう。
「……この戦いが終わったならば、わたしは居るべき場所へ行こう……」
ブルーアルカディアに災害が竜の姿になって、大きな姿が猟兵たちを睥睨した。
『……私の声が、聞こえますか』
脳内に直接声が届く。この場に居ない、誰かの声だ。
少女――だとわかる。その声は、あまり余裕を持つ声色ではなかった。
『私は、もう持ちません』
『でも必ず、会いに行きますから。今はこの力で持ちこたえて……!』
声を聞いた猟兵の背中に、赤い霧が渦巻き、現れる。
声の主によって付与された"創世の翼"が、猟兵の向かうべき場所は"空"であり"大気"であると示すのだ。
『……その空に、その場所に。私を縛る"制約"はないのですから』
何者かはわからない。しかし、真の姿を喚び起こし生えた赤き霧の翼と空を疾走れば。
大気にだって、君の攻撃は届く――そんな予感がする。
●紋章「赤い霧」
「世界そのものを敵に回しても、君は迷わずに戦える?」
明るい色の目を細めてソウジ・ブレィブス(天鳴空啼狐・f00212)はまっすぐに猟兵を見る。
「君はあの大気の名前を知ってるよね、|拒絶の雲海《アルカディア・エフェクト》。でも、あれは大空を覆うもの、という大気という災害を司る竜でもあるんだ。……驚いた?」
魔竜。あれはいつか、そう呼ばれた存在。
数千年の時間を、誰かのために使っていた。
洗脳されて下僕へ降ったものの、彼は最後まで寄り添い続けた竜でも在る。
そんな伝説さえ残すものがブルーアルカディアの大気だよ、とソウジは笑うが、その真偽は定かではない。
「僕が語るのは創世神話みたいなあやふやなそれだからね。真実かはわからない。でも……君もその目で見ているでしょう?彼は実在する。そして、……遣えていた主のことを覚えているし、還りたがっているようなんだよね」
大気とは、すべてである。
一部に力を集約させて霧散させたとしても、"彼は真の意味で再び骸の海へ消えることができない"。
この空の大気をすべて、滅ぼさない限りは。
「まるで神話のような力だよね、悪いものじゃないさ。僕が保証するよ。でも、僕は同時にリスクが在る力でもある、と言うよ。"正しい意思"によって扱われた力だろうけれど、"赤い霧"の力はあまり浴びているべきじゃない」
長時間身に宿すべき力じゃないのだ、とソウジは苦笑して。
「そうだなあ……あれは願いを叶える力、みたいなものだよ。僕たちは夢や希望を掴んで歩いて良いのだけど、でも誰かの願いの力を後押しに歩くべきではないでしょう?だからこそ、無限に頼っちゃだめなのさ?」
それから、指をひとつ立てて君たちに示す。
「"赤い霧"の力を得た後、君たちの攻撃は"大気だって終焉させるように散らせる"ことができるでしょう。だからこそ……最大火力で、最大の一撃を食らわせるように努めた方がいい」
素早く重い一撃を与えて、離脱。
一時的にでも散らしてしまえば、大空を覆うものの体積だって概念的に減るかもしれない。この存在の質量が少なくなるのなら、ひょっとすると、見知らぬ誰かを救えることもあるだろう。
「僕たちは……彼と戦うべきだね。声の主、"謎の少女"の助力を存分にぶつけてね」
大気を司る竜であるからこそ、彼は災害竜とも、魔竜とも呼ばれていたのだ。
「僕は託された望みどおりに"待って"いようと思うよ。必ず会いに行くという、誰かの言葉を信じて」
簡単には還れない"無敵"の竜を、真実追い返すことができるのは誰だというのだろう。
創世の力って、なんだろうね。
ソウジはただ、そんな風に呟いて――意味深に笑うばかりだった。
タテガミ
こんにちは、タテガミです。
このシナリオは、戦争依頼に属する一章のシナリオです。
プレイングボーナスは以下の通りです。
「赤き翼の真の姿」に変身し、最大最強の一撃を放つ。
●簡単な概要。
空中庭園での戦闘。広い空には「大空を覆うもの」の体の一部でも在る大気が空をこれでもかと覆っています。
彼は、「数十kmもの巨大さ」を持ちますが、猟兵たちが「赤き翼の真の姿」で戦う限り、大きさを無視し、竜へ物理攻撃を届かせることができるでしょう。
●帝竜「大空を覆うもの」。
災害竜。魔竜。
あやふやな雲や霧の集合体のように、見えることでしょう。
とても巨大で、その全容は計り知れない。
しかし、大気そのものであるものの、……オブリビオンとなっている時点で彼はいつかどこかで敗北したことが、あります。
このシナリオ上でも完全に倒すことは出来ない(ブルーアルカディア全域の大気がこの戦場にあるわけではないため)ですが、彼の力を削ることはできるかもしれません。この世界の大気であることを理解しているため、猟兵にも災害級の仕掛けてくることでしょう。
●真の姿
あなたの真の姿に、霧の赤い翼が生え、身体を蝕むほどの超パワーを得ます。
真の姿があるひとは、プレイングからなるべくお伝えいただけますようお願いします。
貴方が翼を持つ姿になる人でも、一対の多く、赤い翼が生えていることでしょう。
●その他
公序良俗に反する内容が強い場合は、反映が出来ずお返しする場合があります。なるべく頂いたプレイングは採用できればと思いますが、描写の期待に応えられない場合は内容に関係なく採用を見送らせて頂く場合がありますのでご注意下さい。
第1章 ボス戦
『帝竜『大空を覆うもの』』
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POW : 雷災体現
自身の肉体を「稲妻の【渦巻く漆黒の雲】」に変える。変身中、雷鳴電撃・物理攻撃無効・通電物質内移動の能力を得る。
SPD : 災害竜招来
自身の【肉体を構成する雲海】を代償に、1〜12体の【様々な災害を具現化したドラゴン】を召喚する。戦闘力は高いが、召喚数に応じた量の代償が必要。
WIZ : 魔竜真空波
全身を【触れたものを破壊する真空の波】で覆い、自身の【大きさ】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
樹神・桜雪
【wiz】
※真の姿はシマエナガの翼持つ緑の髪の青年。
ううん、なんとかしなくちゃたけど、大きすぎるか…。
なに、相棒…?少し交代?なにを、言ってるの。
(真の姿になって)
人の言葉を話すのも久しぶり。
このままだとまたこの子が無茶するからここからは「俺」の出番。
さ、本気で行こうか。
どんなに大きくても、物量で押し潰せばいい。
全力で桜花雪月を発動。二回攻撃で。
真空は厄介…。もう少し刀を呼べるか?呼べるよな。
呼べる限りの硝子の刀を呼び出して全力でぶん殴る。
これだけ動いたのも久しぶりだよ。
疲れた。あとは安全な場所まで行ってこの子と交代しなくちゃ。
…じゃあ、またね。桜雪。
「俺」はまた見守る側に戻るよ。
●|アルカディア《理想郷》の戦い
――うーん。
思わず感嘆のため息と唸り声だって出るだろう。
樹神・桜雪(己を探すモノ・f01328)は空高くを上げていた。
大気そのものである覆うように広がる雲海全てが眼前で桜雪を睨む帝竜でもある。
「ううん、なんとかしなくちゃだけど、大きすぎるか……」
届かせる力では引けを取らないだろう、と数と力の暴力で目測をつける桜雪だが何かが足りないと思う。
攻撃だけを届かせるのでは意味がないかも知れない。
「ジュリリ!」
耳元でパタパタと|シマエナガ《相棒》が忙しなく声をかける。
桜雪には、鳴き声混ざりにこう聞こえただろう。
"待って待って!――少し交代!"
「なに?え?相棒?……なにを、言ってるの」
相棒にも、桜雪にも聞こえていた"謎の少女の声"。
この力を使ってと、何か強い力を受け取ったような――。
ふわあ、と先端に黒を染める白の翼を広げ、緑の髪を持つ青年が立ち上がる。
ついでのように本来存在しない翼――小さな赤い霧で出来た翼が腰あたりに一対増えているが些事である。
「やあ、良かった。ちゃんと聞いてもらえて。はは、人の言葉を話すのも久しぶりだよ」
"代わり"に顕れた姿で、ゆるりと笑った。
心底、良かった、と言わんばかりに気の抜けた優しい顔で。
「悪いね、相手をするのは"俺"だよ。このままだとまたこの子が酷い無茶を魅せつけるだろうからね、俺に」
『……わたしは構わない。誰が何になろうと……』
「意外と話が分かるんだね、ありがと。桜雪も俺の気持ちわかってくれたらいいのに」
やれやれ、と軽く肩をすくめた相棒は、やはりゆるりと笑う。
桜雪も見上げた大きな竜がその身を揺らすのを見ても、尻込みしたり、焦ったりという様子もない。
『……気持ちは、言葉にせず伝わるものではない……』
『……頼み込んだとしても、アルカディアにも、届かない……』
魔竜は身を震わせる。
生き物が必須の空気を凝縮し、固めて実体化する実体の上に鎧のように纏う。
触れれば切断を起こす風の乱舞――真空で、振動の波を。
「凶悪だねぇそれ。"俺"の出番だけど、……うん。やっぱり作戦は単純に質量が多い方が良いよね」
じゃあ、本気で行こう。
――桜雪が出来ることは、俺もするよ?
「どんなに大きくても。物量で押し潰せば鎧だって堅牢を誇れない……」
手元に最初に喚び出したのは|桜花雪月《おうかせつげつ》が一振り。
ただ、一振り。
「ねえ知ってる?これは魔を断つ刃。魔竜とも災害竜とも呼ばれるそうだね、……キミもスパッとやれちゃうねえ、こわい?」
『……恐れなど、ない……』
「それは良いことだね。肝が座ってる。……じゃあ、真っ向勝負だよ」
シマエナガの翼と、控えめの小さな赤い翼を広げて相棒は翔ぶ。
そう、文字通り飛ぶ。小鳥が飛ぶように軽い動作で。
慣れた空に身を踊りこませる。
「求め人を照らす道標がこれの力、さあ迷子なら道を教えてあげるね」
硝子の一振りがじわりじわりと、分裂するように大本から数を増やしていく。
光の矢のように相棒の周囲に並ぶ様は壮観だ。
本来は一つの刃の複製刃だ、だが――モノは使いよう。彼だってそう使ってる。
――まあ、少し本来の使い方とは違う気がするけど、いいんじゃない?
――自由な発想で。
心の中ではずっと楽しげに笑っている相棒も、戦闘中は気を引き締める。
笑っているのは、あくまで心のうちだけだ。
霊力を帯、仄かに光る光の太刀を相棒は――砲撃でも行うように空を滑らせて奔らせる。帝竜に触れた刃は、破壊されるように消えていく。
雲の中に粉砕して消す真空の壁は分厚いようだ。
「この程度が俺と桜雪の力だと思った?言ったでしょ、これは魔を絶つ刃だ、って」
――真空は厄介。
もう少し応えて、俺と君なら出来るから。
――君の大事な物は壊したくないからもう少しだけ、創り出した力で全力を出すよ。
――もう少し刀を呼べるか?うん、呼べるよな。いける。
赤い霧の翼の力も全部使ってやってしまおう。
相棒は悪戯っぽく笑って、再攻撃の準備に移る。
「桜雪が得意なのは"二回攻撃"なんだよ、憶えておいて。俺だって……一度がダメなら"二度繰り返すよ"」
真空?壁が厚くて壊しきる前に壊される?
じゃあゴリ推して、破壊で上回ろう!
手にした一振りから、再び硝子の太刀が大量に溢れかえる。薄い桃色が空を染めて、大気を帝竜以上に覆って幾何学模様を描きながら怒涛の勢いで押し流す――!
『……ぐっ、わたしが、押され……』
「一度目立って抑えめで出したんだよ、今のは残りと二度分を重ねたかな」
重いでしょ?効いたでしょ?君の真空だって"無敵"じゃないんだよ。
赤い翼の力をほぼ使い切り、自前のシマエナガの翼でゆっくりと空中庭園に降り立ちながら相棒は胸を弾ませた。
「はあー、……これだけ動いたのも、随分久しぶりだよ」
すっごく、つかれた。
これをかおいろをかえずにやるんだもの、ほんと、この子はいつもやりすぎだ。
今回は、俺が代わりにやってあげたけど、ホントつかれたよ。
「あとは、安全な場所まで行ってこの子と交代しなくちゃ」
――……じゃあ、またね。桜雪。
「"俺"はまた見守る側に戻るよ」
――でも、無茶ばっかりするのはダメだからね?
しばらくして桜雪の耳に|ジュリリ《起きて!》と騒がしく鳴く声が届くことだろう。
大成功
🔵🔵🔵
天城・潤
真の姿:血飛沫を浴びた黒衣の翼無き吸血鬼
…ああこうなるんですね
解放もこれが二度目で鮮明に
散らしたら逝けなくても行きたい所には
行けるのですか
ならお手伝いを
戦域よりの退去を促しましょう
赤き加護の翼…何と大きな!
飛翔せざるは虫けらと嘲笑った父上に
見せつけられないのは残念…
いえ、そんな些事に拘泥すべきでない
今はただ乾坤一擲の一撃を期して
UC虚空斬・闇剣詠唱
その飛翔力と背の赤い大翼で
限界まで上へ高空へ
そして翼を畳み超弩級速で急降下し
激烈な攻撃を
剣先に集まり滴る闇が必ず『大空を覆うもの』を
たとえ一瞬でも拭い去る!
闇を使い果たしたら即離脱
赤き翼を駆りつつ心中で声の主に礼を
「近々お目にかかれたら直接でも必ず」
●虚空からの死で連れて行こう
誰とも識らぬ相手の声を確かに聞いた。
赤き霧がどこかの誰かの助力だというのならば、天城・潤(未だ御しきれぬ力持て征く・f08073)もまた拒むものではない。
広い敵そのものである大空と帝竜を見上げながら、血飛沫を浴びた模様を黒衣に染み付かせた吸血鬼は赤い霧の翼を背に心を落ち着ける。
翼無き吸血鬼に、自身のものではない"借り物の翼"は赤色でよく映えて見えた事だろう。血飛沫よりも赤く、鮮やかすぎる程の、赫だった。
「……ああ、こうなるんですね」
力の開放はこれで二度目。
イメージも、姿への意識も鮮明にもなる。これが自分の、姿であると。
帝竜として大空を覆う存在は、この場に居たくないと口に出していた。本当に争奪戦の行方に、心は無いのだろう。ただ舞台装置として、存在するだけ。
叶うのならば、――還りたいと。
切実な願いであると、潤の耳にも聞こえていた。
「あなたを散らしたらすぐに逝けなくても、本当に行きたいところへは行けるのですか?」
『……わからない。だが、消し飛ばされた分くらいは行けると、信じたい……』
予想、そして、願望。
出来ないかもしれない。だが、そう祈りたい。そんな口調であると受け取った。
「なら、お手伝いを」
――大きく広く、広大な貴方は居たいという場所へ還るべきだ。
戦域への退去を潤は、肯定し――出来るものならしても良い、と応える。
お互いの利害は一致しているのに、洗脳されているわけでもないのに、ブルーアルカディアの|空《大気》は潤へ真逆の行動を見せる。
それは、"門番"もしくは"番犬"のように縛られた竜の有り様だ。
大気であり雲海を束ねた肉体がばちばちと雷電の音を立てて実体化し、渦巻く漆黒の"汚れる色さえない深淵の黒に"染まっていく。
時々稲光を走らせるこれは、雷雲であり暗雲だと潤の目にも明らかに広がっていく。
『……この場所での役割は果たそう。だが、わたしは望み続けよう……』
バリバリと大きく質量を上げて鳴り響く豪雷の音を聞きながら、しかし潤は――。
「赤き加護の翼……なんと大きな!」
一蹴りで空へ飛び出し、降り注ぐ魔竜の全身から放つサンダー・ブレスを避けるのに役立った。
生きる存在を拒む雷雲の海。大空を覆う竜は、今や人間を拒んでいる。
――行動としての矛盾。
――これは確かに……帝竜にも苦しい部分があるでしょう。
「飛翔せざるは虫けらと嘲笑った父上に見せつけられないのは残念……」
空を自由に飛ぶ強大な力を借り受けている今、その言葉を覆す事ができただろうに。
「……いえ、そんな些事に拘泥すべきでない」
雷を横目に、身を交わしながら進む黒衣の吸血鬼を、帝竜は撃ち落とさんとするが――ことごとくを避けられる。
狙いが逸れているのではない。潤の速さが光と轟音を上回る速度を得ているからだ。
「覚悟は、出来ましたか」
――今はただ、乾坤一擲の一撃を。
有り様の歪さを全て正すには、大きすぎる相手に向けて。
「虚空より、死を」
短く詠唱し、闇を纏い空中多角を舞い上がっていた潤の居場所は飛翔力と突進力を合わせてずいぶんと高所を取っている。
赤い大翼の後押しをうけて、限界まで高所へ挑んでいた。
推進力を今度は遠心力を乗せた急降下に乗せる。翼を畳み、実体化している竜の頭部目掛けて放つ!
剣先に集まり滴る闇の刃は、深々突き刺さり刳り侵食し、破壊する一途を辿らせる!
――虚空斬・闇剣(コクウザン・ヤミツルギ)――――!
空を裂く一撃。
剣の闇が一気に尽きるだろう程の超弩級速度を加えた攻撃は、大気だろうと一部を分離させ終わりを齎すには十分だった。
雷も、雲も、散らせばその後に残るのは――穏やかな空と相場は決まっている。
『……抉る闇の一撃。見事だ……』
形を保とうとする帝竜の頭部は歪んでいた。
歪んた顔に、歪んだ大きな竜の口――帝竜は、穏やかに笑っているように潤には見えた事だろう。大きな存在に物理的ダメージを確かに与えたのにも関わらず、攻撃された側は――不思議と笑って受け入れているように、みえた。
攻撃後、潤は即離脱を選択し、大きな翼を駆りながら心中で声の主に礼を呟く。
「(近々お目にかかれたら、直接でも必ず――)」
借りた力の分。
きっと言葉として、あなたへ届けよう。
大成功
🔵🔵🔵
霑国・永一
初っ端から肉体の主導権全て戦闘狂人格に渡す真の姿となり、狂気の戦鬼を発動
『そうだよ! これだこれ!! ただ全力でぶっ壊せばいいってのは最高だぜ!! 赤い翼は鬱陶しいが妙に力湧くし我慢してやるか! 行くぞオラァ!!』
『ハッ! 変なドラゴン召喚しやがって! 邪魔だ邪魔だ!! 前菜なんぞ食らっても腹の足しにならねぇよ! 死ね!(衝撃波を放って最低限邪魔な災害竜を抉り飛ばしながら本体まで高速で飛ぶ)』
『大気だか何だか知らねぇが、俺様の攻撃通るようになってんのは好都合! くたばりやがれッ!!(全力の衝撃波を放つ)』
『さァて一発だけってのは物足りねぇが、その分は他で晴らすとするぜ! ハハハハッ!』
シキ・ジルモント
"赤い霧"の力、か
声の主が誰かは分からないが、有り難く使わせてもらう
真の姿を解放(月光に似た淡い光を纏う。犬歯が牙のように変化、瞳は夜の獣のように鋭く光る)
普段は無い赤い翼も確認した
確かに、この力があれば大気の竜にも手が届くかもしれない
ドラゴンが召喚されたらハンドグレネードを投擲、爆風で相手の体勢を崩して突破を試みる
帝竜はドラゴンの召喚に雲海を代償としているようだ
無理に倒さず先を急ぐ
召喚の代償で消耗した今が好機だ
ドラゴンを躱せたら赤の翼の力で空を駆けて帝竜の元へ
ユーベルコードを発動、温存した弾丸全てを叩き込む
あんたは十分に戦った、もう終わらせても良いんじゃないのか
…還りたい場所があるんだろう?
クーナ・セラフィン
この声って帝竜ガルシェンでも聞いたような…人違いかな?
声の人迎える日の為に、一時この力をお借りして今日を持ちこたえよう。
とにかく負荷酷いので全力疾走で短期戦狙う。
防御は陽だまりのオーラ纏い結界術で補強、災害の竜の攻撃は体当たりは見切り躱し炎とか地震は属性に合わせオーラに対抗する属性纏わせ軽減。
帝竜に近接したら勢い殺さず翼の力全開でUC起動!
帝竜の鼻から目、首へと超高速で帝竜の体の上駆けながら銀槍振るいズタズタにしてやろう。
大気の無敵に頼ってるから物理化時の防御力はそこまでじゃない筈…!
ヤバいと判断したら跳ねて空中庭園へ着地し撤退。
※アドリブ絡み等お任せ
真の姿は服装のみ変化、令嬢のような黒ドレス
●|堅牢《暴力》を超えて
「ねえ、聞こえた?」
頭の中、それとも心の声に響くような少女の声が。
クーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)は凛と立たせた猫の耳を軽く揺らす。
「……聞こえたがなあ、そこまで細かく憶えてねーわ!つーかそうだよ! これだこれぇえ!!」
息を吐きすてるように、粗暴な人格の顔が覗く霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)。盗み纏う狂気の|色《かお》は"ただ壊せ"と望まれた力である事に楽しげな笑みをこれでもかと浮かべた、
「目的は一つ。標的も一つ、っとなりゃあ ただ全力でぶっ壊せばいいってのは最高だぜ!!」
目の前に広がる何もかもが攻撃対象!
ああなんてわかりやすい!今回ばかりは貧乏くじなんてクソ喰らえ!初っ端から肉体の主導権を|掠め取った《うばいとった》んだ、なーらさっさと殺っちまえ!
「赤い翼は鬱陶しいが妙に力湧くし我慢してやるか!」
跳ね上げた戦闘力に更に、攻撃的攻撃センスが乗る。
「んじゃあ、些細だろうがなんだろうが命の形を散らして逝けッてんだよ!行くぞオラァ!!」
永一が帝竜よりも吼える。先行して最速の速度で飛んでいく。
『……ああ、やれるものなら、やってくれ…………』
――声は確かに聞こえたとも。感じだとも。
クーナはヒゲの先にも、既視感のような物をキャッチした。
これは推測の混ざるただの勘なんなのだが――。
「私は帝竜ガルシェンから聞こえたような……人違いかな?」
記憶を辿る、確かに優しい声色は胸に響く音を奏でていたような。
「声の人を迎える日の為に、一時この力をお借りして今日を持ちこたえよう」
過去から未来へ、これはきっと一時的に貸し与えられた明日への翼、なんだから。
「……"赤い霧"の力か、か」
聞こえていた、と返答する以外に背中にある"異物"の証明が出来ない。
自身の背中に只ならぬ赤の力が広がっている。
シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は一瞬考える仕草をして、戦闘意識を強く持つ。
「声の主が誰かは分からないが、有り難く使わせてもらうだけだ」
月光に似た淡いを纏い、ざわざわと胸の内側で闘争心が暴れ出す感覚。犬歯が牙のように鋭利に変化して、一度伏せた瞳には夜の獣の様な凍れる色を鋭く宿した。
「確かに、この力があれば大気の竜の首にさえ手が届くかもしれないな」
確証はないが、出来る気がするのだと思う。
鼻で笑う声の頼もしさ。
それから優雅に舞う小柄なケットシーの落ち着き。
どちらともシキの様子は異なるが、シキの牙は断じて近距離のみの届くものに在らず。
先に速度を持って飛んでいく背中を、追いかけながらシキの手に握った|銃《牙》を静かに、静かに潜ませる――。
「……しかし、負担が本当に大きいね、これは」
騎士のように凛々しい男装のケットシーの姿を、赤い翼は令嬢のような黒ドレスに変えていた。普段と違い、男装とは口調だけに宿る。
大気の圧力で揺れるドレスを風に靡かせて、二人の後を追うようにクーナは駆ける。
全力疾走で――短期戦を狙い、最大の一撃を大空を覆うかのものに与えるために。
『……人々を根絶やしにする、災害。それをこの場に現そう…………』
帝竜は自身の身体でもある雲海に働きかける。
顕れろ、と願いそして災害たちはその身を捩り猟兵たちの視界に現れだす。
その総数は大きく三つ。それから三つの旗本に従う眷属竜がぞろぞろと。
『……"震竜"、"氷竜"、"炎竜"…………』
『……大地の災害、水の災害、炎の災害を司るものたちよ…………』
『……災害竜の名に相応しく暴れ、阻め、わたしたちの役目を果たすのだ…………』
名は姿形に比例する。
地を揺らす巨大な蛇竜が一体、燃え盛り大顎や身体から炎を燃え上がらせる赤き蛇竜が一体。
それから、溢れ出させた水を氷結させて終わらせる終焉の蛇竜が一体。
個体の名など此処に必要ではない。彼らもまた、大空を覆う加護を得た"影法師"。
過去に共に大空を、どこかの世界で大いなる災害を齎した共犯者だろう。
その炎は人々を破滅させ、その氷は人々を終わらせて。
大地の災害は、地の底へ人々を沈め落として終焉させた。
同時に迫る竜に従うは、類似の力を持つ眷属達。
壁として立ち塞がり、猛威となって災害を同時に併発させる。
大気が震え、大地が震え、炎が溢れ、氷結していく水が大量に空より降ってくる。
同時に迫るそれはまるで嵐のような虐殺の驚異が事もあろうに空からやってくる。
加護を施す大空を覆うものを護る、竜の守りとはこの事だ。
『……わたしは、隠れる身を持たない…………』
「ハッ!変なドラゴン召喚しやがって!災害メンバーの紹介ってか!?それにしたって、舐めてんじゃねーぞ!」
邪魔だ、失せろと誰よりも声の限りに叫ぶ。
笑いながら、それでいて迅速に雲海を媒介に顕れた災害達は猟兵たちの行く手を阻む。
赤い霧からなる翼を生やす真の姿を晒す者たちの壁に並んと阻むのだ。
「前菜にすらなりゃしねえ!腹の足しにもなんねぇよ!なあ!!」
最低限邪魔な災害竜が一角を、永一は衝撃波を鋭く放ち、隙間をするりと退ける。
倒せない?そんなこたぁどうでもいい!
ただ本体まで高速で!最速で!到達してやりゃあ良いってんだよ!
『……だが、反撃せぬわけでもない……』
「おっと、きっと災害級の強い一撃を放ち続けるのだね。でも……」
――私の毛並みを傷つけられると思ったかな。
緩やかに暖かい"陽だまりのオーラ"を纏い、ルーンを応用した結界術で補強展開。
災害竜の突撃を、クーナは大きな瞳で見つめて見切り、ふわり、とたんぽぽの綿毛のようなふわふわさで体当たりを躱す。
「災害の強さだけが全てとはいえないよ。最大なら、全てを壊しにきてくれないと」
――身だしなみは大事。だから壊させるのも傷つくのも嫌だけどね。
「そのように巨体を揺らすなら、小柄な私一人を倒すのは難しいのではないかい?」
挑発的に言葉を発するクーナに、炎を向けた災害竜が、大気ごと揺らすもう一体が視線を向けて猛攻を仕掛けだす。
赤い翼の助けを借りて、ひらりひらりと翻弄するケットシーのなんと勇ましいことか。
災害なんてもろともせず、相手の属性に合わせてオーラの属性を切り替える為、致命的なモノは貰っていない。
「災害の魔竜たちよ。君たちを追い抜き、置き去りにしたならば……私達こそが災害となろう」
各々の得意な、それでいて竜でさえ驚異に思える攻撃を込めた。
クーナは帝竜にお構いなしに接近し、勢いをそのままに翼の力を全力で高さを無視しユーベルコードに転用、そして展開する。
「さぁ――このクーナの槍さばき、とくと味わうといい」
小さな勇士は騎士猫は旋風のように(エレジー)。
心を見透かしたような銀槍を振りかざし、大気そのものである帝竜の鼻から目、首へと超高速で体の上を駆けながらクーナこそが旋風となってズタズタに貫き傷つけていく。
早業、だった。雲を散らすように、それから霧を晴らすような槍の鋭い連撃であった。
「大気が無敵、という理屈はわかるよ。でもね、物理化させられたらキミの防御力というのは何処まで無敵を誇れるのかな」
当たらない事が無敵なら、表面化したら――。
クーナは笑い、そして素早く離脱する。
大空を覆うものの呼び出した災害が、再び攻撃を仕掛ける仕草をして魅せていたのだ。
災害はちょっとやそっとでは押し返せない――だが、切り裂き貫き、穿った空の向こう側には。
遠く遥かであり、|広大な澄んだ青空《ブルーアルカディア》が普段と変わらない色を称えていた。
赤の翼の力を手元に集約、最大の力を最大の威力で放つため。
力の流れを制御しつつ、威力に力ごと上乗せするシキの存在は存在感をわずかに潜めている。
力そのものを弾丸に込める――赤い霧は理想通りに銃に宿り"出来る"という意識をシキに持たせた。
「これは俺の全力。その身に刻め、喰らいつかれた獲物のように」
フルバースト・ショット!温存した弾丸を、その身にすべて与えよう。
弾倉内の弾が赤い軌道を描いて連続射撃として打ち出される――。
それはまるで命を蝕むトリガーのように、大気の中へ突き刺さり帝竜は喋る口調を思わせない悲鳴を啼いた。
赤い霧は大気に吸い込まれて、まるで赤い流血を流すようにその身を一部染めて居るようにも見える。
「あんたは十分に戦った、もう終わらせていいんじゃないのか?俺たち相手に、戦った。守った。義理は果たしたはずだ」
「……還りたい場所があるんだろう?」
「大気だか雲だか霞だか何だか知らねぇが、幻じゃねぇってんなら俺様にとっても好都合!」
この攻撃を避けてんじゃねぞ。
全部受け止めて、吠え叫べ!
巨体なら巨体らしく受け止めて大人しくも残忍な|致命傷《きず》をその身に負え!
「清々しくくたばりやがれッ!!」
満を持した最大威力、最大の衝撃波が帝竜へと繰り出される。
逃げる素振りも、身を捩る素振りも見えなかった。
顔面だと思わしき竜の顔が、くしゃりと苦悶を浮かべるように歪んだのを見過ごす永一ではない。
連続に食らっては、大気を覆う存在とてダメージ埋め合わせていけないのである。
「さァて一発だけってのは物足りねぇが、その分は他で晴らすとするぜ!ハハハハッ!」
まるで嵐が通り過ぎるように、男はさっさと離脱する。
大空を覆うものの、大きな腹に風穴を穿ち――それでも笑って離脱するのだ。
『……容赦という言葉を知らない者たちだ……』
『……だが、わたしはそれでいいとその姿勢を全わたしを形作る面積で肯定する……』
大成功
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栗花落・澪
【金蓮火】
※澪よりも幼い外見で淡々とした態度
杜鬼クロウ、といったね
澪越しに見てたから知ってる
僕が澪の技を使ってアイツに穴を開ける
連携の締めは、アンタがやりなよ
傷付く程度なら苦じゃないけど
澪の体を壊されたら困るね
僕も存在出来なくなる
【オーラ防御】を纏い赤い翼で【空中戦】
…信じろ、ね……(呟
【紅色鎌鼬】発動
操る鎌の増殖量は無制限
魔力を多めに消費すれば
数秒あれば2、300程は
宙に浮いたそれらを操り一気に帝竜の元へ
更に【高速詠唱、多重詠唱】で風と炎の【属性攻撃、範囲攻撃、全力魔法】
全ての鎌に魔力を乗せて
帝竜本体に鎌の【なぎ払い】が命中すると同時に
爆発と爆風を起こして大気を
帝竜の一部を吹っ飛ばしてあげる
杜鬼・クロウ
【金蓮火】
真の姿は黒髪長髪の漢服
第二段階ゆえ口調性格は普段通り
外見とは裏腹に普段より男前というか
知ってくれてるなら何より
俺の手札は変わらねェよ、澪サン
美味しいトコを譲ってくれるたァお優しいねェ
任せな
何があろうとこの俺を信じろ(澪もお前も其方にはいかせねェ
少女の声聞く
赤い翼生やす
UC使用
器物の神鏡の能力解放(能力発動中の鏡は割れない
敵の攻撃は操作して浮遊した鏡でカウンターか飛んで回避
剣に風纏わせ離散しそうな敵の雲を収集
澪が薙いだ隙を突く
意志と正義を力に
風から焔へ属性変更
弱点などを追撃し弱らす
テメェが覆う世界(そら)に剣を轟かして晴らす
悪ィが俺は”この世界”が好きなンでなァ
惑う竜に道標(ひかり)を
●世界を覆う暗雲に|終焉《ひかり》を
散らされては、蠢く生きた|大気《そら》を視界に納めて、動きや躍動は嵐の様相を極めている。
しかし、こちらを睨む帝竜の姿はまだそこにあった。
歪に、雲海である身体に点々と風穴を開けられても、だ。
空中庭園を埋め尽くす、生きた"大空を覆うもの"が大口を開けて、覇気のような強風を猟兵へ吹き付ける。
『……ああ、わたしはこうして、縛られる……』
『……この戦いは、いつ終わる……』
嘆き。慟哭。
帝竜は聲に乗せて、啼く。泣くべき泪さえ、大空そのものでも在る自身に合わぬと解っていても。
雨などと生易しいもので、済ませて欲しくなどなかった。
凛と|少女《少年》は、荒れ狂う空を見上げていた。
臆する雰囲気など何処にもない。
「ふうん?――外見とは裏腹に、普段より男前というかなんというか」
「ああ、確か――そう。杜鬼クロウ、といったね」
つい、と栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は普段よりも幼い外見で、オッドアイの視線で漢服の男を見上げる。
「澪越しに見てたから知ってる」
普段よりもよく風を受ける黒の長髪を靡かせた杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)へ、返される言葉は淡々としていた。
事実として瞳越しに見ていた知識を口から出しているだけ。そんな印象を受ける。
「知ってくれてるなら何より」
ふ、と軽く笑うクロウに対し、澪は状況への最適解を手短に、打ち合わせを。
「あれを、どう攻める?」
「俺の手札は変わらねェよ、澪サン」
派手なことをするならそれなりに。
静かに追い立てるのなら、それなりに。
「なら、僕が澪の技を使ってアイツに穴を開ける。連携の締めは、アンタがやりなよ」
――穴を開けるくらい、大技を使うことになるけど。
――追撃を与えるなら、より大ダメージは免れない。
「美味しいトコを譲ってくれるたァお優しいねェ」
「適材適所だよ」
――傷付く程度なら苦じゃないけど、澪の体を壊された困るからね。
「僕も存在出来なくなるのは、困るし」
『――今はこの力で持ちこたえて……!』
ふたりとも先に姿が変わっていたが、合わせて背中へ感じる違和感はあっただろう。
遠く何処かから手を貸す存在の、赤い霧の力。
渦巻く力は赤い翼となって、空を征する一躍を買う。
澪のオラトリオの翼の他に、もう一対――この力は恐ろしい力だとは思わなかった。
「任せな」
澪にも、それから声だけ寄こした誰かにも。
クロウは応じて返す。
「何があろうとこの俺を信じろ」
――澪もお前も其方にはいかせねェから。
渦巻く啼き声は、開けられた風穴分の痛みを吼えるものだろうか。
大空を覆う大声は、猟兵たちを拒むように"覆い"尽くさんと災害へと姿を変化させていく。
『……原初の災害とは程遠いが、それでも阻むものへ至ろう……』
雲海を黒く、黑く漆黒へと変質させて稲妻を内包する。
雷災の体現を。
過去の再現を、際限なく発揮しよう。
――かの空で容赦のない災害をぶちまけた帝竜ワームのような雷鳴を轟かせよう。
バリリと音を立てる雷竜を、クロウは静かに見定める。
「無作為なんかやめて、俺を狙えよ?」
赤い翼を生やした男は、器物の神鏡の能力を開放する――鏡は映す。
その空に何があるのかを。
翼を広げ、高く翔ぶ天使が帝竜の懐近くまで踏み込んで行ったのを。
「ほらこっちにもいるんだよ」
赤い翼が力を貸すかのような仄かに赤い霧のようなオーラを纏って、澪は空中へ飛び出す。
「……信じろ、ね……」
手を翳す。
大空を覆うものは、魔竜とも呼ばれていたという。
自身を含まない災害竜や眷属さえ、加護化に置いていたという。
『……触れたなら唯ではすまない。本当に、守りきれるか……?』
全身を真空の波で覆った空は、風音さえ聞こえない無風の緊張感を空に張り巡らせる。
帝竜はの声は、試すように落とされた。
「護るだけじゃない。これでも、鎌使いなんだよね」
|紅色鎌鼬《べにいろかまいたち》が向くべきは、この空だ。
帝竜の頭は、本当に一部でしか無い――ならば、大空こそが、敵自体と思えば何処を切り裂いても同じこと。
虚空より赤い花弁を巻きながら吹雪くよう顕れる清鎌曼珠沙華、薄紅色の鎌を握り。
望む数だけ大鎌の数を増やす――増加量は無制限。
魔力を多く消費すれば、形作られる鎌は――2,300程が空を覆い尽くすだろう。
「――信じる、よ」
中に大量に喚び出した鎌を繰り、一気に帝竜の元へ挑む澪。
高速で二重詠唱を行い、風と炎の属性を更に上乗せして|攻撃《手》の届く範囲を拡大する。
「全力で行くから」
帝竜本体に向けた大鎌の薙ぎ払いは、たった1つではない攻撃。
雪崩のように降り注がれる大鎌はの刃は真空を切り裂く。
淡々と告げる声は、"内側に刃が入り込んだ"のを見届けると指をパチンと鳴らす。
同時に引き起こる連鎖爆破。
風と炎の属性が一気に爆ぜて、澪が作り上げた爆風が切り込んだたいきごと容赦なく帝竜の体の一部を吹っ飛ばした。
『……わたしが如何に素早く動こうとも、関係ないと……』
「大きな存在だとしても、"無敵"でも散らす力の無効化をしてるわけじゃないでしょ」
物理的な攻撃を、広範囲で受ければ如何に大気も震えよう。
「そういうこと」
漆黒の雲姿で物理攻撃を無効化していた上に、鎧のように真空を纏っても猟兵の追撃から逃げられない。
大気ごと消え失せて逃げれば良いものの、帝竜は|ブルーアルカディア《この世界》に縛られている。
向かいたい場所はあれど、還れない。
『……では物理だ。雨のごとく降らせよう、災害竜の名の下に……』
大きく唸る雷は視界を埋める程の空から聞こえる。
竜が吠えた声に合わせて降り注がれる雷を、クロウは浮かべた鏡で操作し――跳ね返し、それから赫の翼で翔ぶ。
その鏡は――決して割れず。
カウンターで返した雷が大空を穿って突き刺さり、悲鳴が上がったのを聴いた。
大気から発せられた攻撃が、不可避の物理攻撃となって体を焼かれる痛みとは相当なものだろう。
握る剣にも力が籠もる。
悲鳴上げ、還りたいとただ啼く竜を決して哀れだと口に出してはならないと口を噤む。
「……終わるまで寝てる事は出来ンだろ」
離散、霧散していこうとする雲海を風を使って纏わせて、先に薙いだ大空目掛けて突く。
これは切り裂く刃ではない。
意思と正義を力に乘せた、正義の味方が信じる戦い方。
立ち向かうものは世界そのものを変える方を見据える。
――此処に、佇むのにテメェは向いてねェわ。
「この程度で災害?少し風の強い台風の間違いだろ」
風を受け、焔へ属性を変更し雲を凪ぎ、大気ごと切り込んだ残効に僅かな花の匂いを引き連れて終わらせる。切り結び、霧散した空の向こうは――荒れる姿さえない澄んだ蒼く広い自由な空が目に映った。
「テメェが覆う|世界《そら》に剣は通る。テメェの声を轟かせて――晴らす」
『……如何にわたしでも、ズタズタに遭えば暫く動く事は叶わない……』
「だろうなァ?そうでなくちャ困るんだがよ。……悪ィが俺は"この世界"が好きなンでなァ」
広く遠く、何処よりも近い空が広がるこの場所を。
暗雲や悪さをする雲海で覆っていて欲しくないのだと|信念《正義》が叫ぶから。
「たくさん帰り道を教えられたンだ」
惑う竜に、|道標《ひかり》を。
大空を覆い尽くしたお前の上に、明るい陽の光が差し込んだだろう。
お前は此処で、一時的だろうと眠っていれば良い。
暴竜ではないお前は。
帝竜であって、防衛以外を努めないお前は。
真実終わるその日まで、頭に心に響いた誰かがこの地に訪れるまで。
「大人しく誰の妨げにもならない心地いい風を吹かせてるンだなァ!」
『……このまま"主"の側へ迎えたら、清々しい気分で在れただろうな……』
笑うような声、だと何故か確信した。
慟哭ではなかった。自分をいつか完全に滅ぼす誰かを、夢に描いたのかもしれない。
入道雲のように、おおよその姿を顕していた帝竜をクロウは斬り伏せて。
暴力のような災害の風が段々落ち着くのを二人の猟兵が空中で感じた。
魔竜による雷の災害は、局地的にひどく暴れそして通り過ぎた。
大気を覆うものは、――息をひそめて戦意を失い、この場より居なくなった。
猟兵の足止めもこれで終わりと大気に溶けてこの場より去っていったのだろう。
大ダメージを受けては、竜とてひとたまりもない。
それは夏の夕立のように――通り過ぎれば太陽が顔を覗ぞかせる。
暗雲もまた、光指す場所に場を譲り――穏やかな風が、髪を撫ぜて吹き抜けていった。
大成功
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