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アルカディア争奪戦⑳~汝、その諷意なる封印を打ち破れ~

#ブルーアルカディア #アルカディア争奪戦 #マグナ聖帝国 #『聖女皇』ベアトリクス・マグナ

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 ――かつて、楽園と言われた国があった。

 そこには一切の飢えも苦しみも存在せず、愛し合う人々が幸せを謳う。
 慈悲深き女皇の下、人々は永遠かと見紛うような幸福な時を生きていた。
 その幸福が、永遠に続くものだと、信じていた。

 だが当然、永遠ではなかった。
 竜の魔の手が伸びた時、女皇は何もできなかった。
 ――否。できる限りのことをやろうとしたが、その尽くは竜に敵うものでは到底なかったのだ。

 女皇も、国の民たちも忘れていたのだ。
 "力なき正義は無力にも等しい"ということを。
 どれだけ平和な世を築いても、それを護り抜くだけの力がないのであれば、ただの砂上の楼閣にすぎないのだと。

 やむを得ず秘術を解き放ち、国そのものを封印することで帝竜から逃れた時に、女皇はやっとそれに気づいて自らの無力さを嘆いた。
 民を護ることすらできなかった自分の弱さを、心の底から呪った。
 故に、今度こそは、と。

「……わたくしは、今度こそ諦めません」

 最早愛する国も民も雲海に沈んでしまったが、まだやり直せないワケではないハズだ。
 もう二度とあの時のようなことにはさせない。
 誰よりも――そう、誰よりも強くなって、今度こそあらゆる脅威から愛する国を護るのだ。


「――という理由で、マグナ聖帝国の女皇様はアルカディアの玉座を目指しとるんだと」

 さも他人事のようにフィルバー・セラ(|霧の標《ロードレスロード》・f35726)は招集をかけた猟兵たちに語った。
 屍人帝国が1つ、マグナ聖帝国女皇、『聖女皇』ベアトリクス・マグナ。
 かつて帝竜に襲われた時、自らの持つ『大規模封印ユーベルコード』で国そのものを封印し、平和になった時に封印が解けるように仕掛けていた。
 しかし時の流れとは残酷かな、封印が解けるよりも前にマグナ聖帝国そのものが雲海に沈み、屍人帝国と化してしまった。
 だがそれでも民の幸福を諦めたくなかった彼女は、誰よりも強くなることを求め、アルカディアの玉座へ通じるスカイゲートを開いたのだという。

「まあ経緯は各々思うところあるだろうが置いといて、問題はその『大規模封印ユーベルコード』だ。
 国一つを長いこと封じることができるとんでもねえ代物が、"俺たち猟兵に向けて使われる"。
 ――と言えば、俺が何を言いたいかはわかるな?」

 その『大規模封印ユーベルコード』を、何らかの形で退けなければ猟兵たちに勝機はない。
 幸いにもベアトリクスはこれまでの幹部級のオブリビオンと違い先制でユーベルコードを発動できる特殊能力を有していない故に、立ち回りは考えやすい方だろう。
 各人の持てる知恵を尽くし、封印を打ち破りベアトリクスを再び骸の海へと還す……それがフィルバーから猟兵たちに託される"依頼"だ。

「今の奴は"誰よりも強く"なって国を護る為に、"手段を選ぶという選択肢を捨てた”。
 "力無き正義"では民を護れねえ――無力さに打ちひしがれてそう感じるまではわかる。だがその為に今生きるブルーアルカディアの民を、大地を犠牲にしようとしてる以上、奴の道に正義なんてモンはねえ。
 "正義無き力は力無き正義と同じく無力である"ってことを、お前らで教えてやれ」


御巫咲絢
 正義無き力は無力だが、力無き正義もまた無力。かの方が我々に教えてくれたことの一つですね。(わかる人にしかわからない言い方)
 どうもお世話になっておりますMSの|御巫咲絢《みかなぎさーや》です。
 シナリオ閲覧ありがとうございます!御巫のシナリオが初めての方はできればMSページもご一読くださいますと助かります。

 アルカディア争奪戦も折り返し地点が近づいて参りました。
 マグナ聖帝国の女皇ベアトリクスを討伐し、猟兵たちの勝利の一手を先に進めていきましょう!

●シナリオについて
 当シナリオは『戦争シナリオ』です。1章で完結する特殊なシナリオとなります。
 また、当シナリオには以下のプレイングボーナスが存在しています。

●プレイングボーナス
 敵の「大規模封印ユーベルコード」に対処する。
 発動される前に割り込んで発動を止めるでも敢えて誘発させて内側から打ち破るでも何でもOKです。
 先制ユーベルコードはありませんが、だからといって弱いワケではないので十二分にご注意ください。

●プレイング受付について
 OP承認後の「翌朝」8:31から受付、締切は『クリアに必要な🔵の数に達するまで』とさせて頂きます。
 受付開始前に投げられたプレイングに関しましては全てご返却致しますので予めご了承の程をよろしくお願い致します。
 オーバーロードは期間前OKですが、失効日の有無の都合上執筆が後の方になりますのでご容赦ください。

 頂いたプレイングは『5名様は確実にご案内させて頂きます』が、『全員採用のお約束はできません』。
 また、『執筆は先着順ではなく、プレイング内容と判定結果からMSが書きやすいと思ったものを採用』とさせて頂きます。
 以上をご留意頂いた上でプレイングをご投函頂きますようお願い致します。

 それでは長くなってしまいましたが、皆様のプレイングをお待ち致しております!
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第1章 ボス戦 『『聖女皇』ベアトリクス・マグナ』

POW   :    封印術「黄金沃野」
【黄金翼の輝き 】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    封印術「武装崩壊」
【光輝く慈愛の波動 】を解放し、戦場の敵全員の【武器攻撃力】を奪って不幸を与え、自身に「奪った総量に応じた幸運」を付与する。
WIZ   :    封印術「神聖庇護」
レベルm半径内を【マグナ聖帝国 】とする。敵味方全て、範囲内にいる間は【ベアトリクスに敬意を持つ者の行為】が強化され、【ベアトリクスに敬意を持たない者の行動】が弱体化される。

イラスト:hina

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

バルタン・ノーヴェ
◎POW アドリブ連携歓迎!

国や民を思う心意気は立派であります。
しかし、そのために無関係な人を虐げるのは見過ごせマセン!
そして、アナタのために忠義を尽くして果てた部下を労うことなく放置するのは、上司としてもよろしくないであります!
性根が善良であっても、今のアナタは正義に非ず!
正義なき力は非道、ただの暴力にすぎマセーン!
ベアトリクス・マグナ!
アナタの暴虐、ここで止めさせてもらいマース!

封印術式。それを防ぐ技術は持ち合わせてマセンガ、ならば発動前に叩き込めば良いのであります!
「六式武装展開、雷の番!」
時速13000kmのトップスピードで、ベアトリクスのUCが放たれる前に強烈な一撃を叩き込みマース!




「きましたね……猟兵の方」

 『聖女皇』ベアトリクス・マグナはまっすぐにこちらを見つめて、待ち受けるように佇んでいた。
 
「例え未来を視る力がなくとも、わたくしの前にあなた方が立ちはだかるであろうことは、必然の理であったと言えましょう」
「YES、それが猟兵の使命であります故!」

 愛剣・ファルシオン風サムライソードを構え、バルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)もまたまっすぐに対峙する。

「国や民を想う心意気は立派であります。それこそが為政者として国に立つ者に必要なものでありましょう――しかし、その為に無関係な人を虐げるのは見過ごせマセン!」
「ええ……あなたの仰ることは尤もです――と、かつてのわたくしは同意していたでしょうね」
「そして、アナタの為に忠義を尽くして果てた部下を労うことなく放置するのは、上司としてもよろしくないであります!」
「……」

 ベアトリクスは答えない。
 ただ粛々と、淡々と、バルタンから見た自らの印象を受け止めるかのように決して目を逸らしもしない。
 彼女の言っていることは事実であると、肯定するかのように、黄金の翼を広げて対峙する。
 否定はせず、それらを受け止めた上で相対しようと考えているのだろうと、バルタンは漠然と感じ取った。
 ならば。
 
「例え性根が善良であっても――今のアナタは正義に非ず!正義無き力は非道、ただの暴力に過ぎマセーン!
 ベアトリクス・マグナ!アナタの暴虐、ここで止めさせてもらいマース!」
「ええ、受けて立ちましょう・バルタン・ノーヴェ。あなたの語る正義は、わたくしの覇道を止めるに値するかを見せてもらいます」

 ベアトリクスの背にある黄金の翼が眩く輝くと同時に、彼女が描いた魔法陣が光の矢を放つ。
 これは封印術ではないだろう。彼女には猟兵より先んじてユーベルコードを展開する結界を築く術を持たない。
 ならば、これらを歯牙にかける必要はないハズだ。
 力がなければ、その分立ち回りや知恵で補うのもまた総じて戦いにおける基本である。
 先制ユーベルコード結界を持っていることを知らなければ、黄金の翼の輝きと同時に術を放つことで騙し撃ちが可能であっただろうが――バルタンたち猟兵には、グリモア猟兵の予知による"情報"がある。
 最初からその魔法陣がブラフであるとわかっていれば、その翼の輝き――封印術を放つ為の時間稼ぎを阻止する為に迅速に動くことは十二分に可能だ。

「(封印術式――それを防ぐ技術は持ち合わせてマセンガ、ならば)」

 答えは単純明快である。
 ――発動する前に、叩き込んでしまえば良い。

「"六式武装展開、雷の番"!!」

 バルタンの身体を迸る電撃が包み込む。
 彼女はサイボーグであり、半機械の肉体は雷との親和性が非常に高い。
 その雷は彼女の翼となり、足となり、"ベアトリクスの暴虐を阻止する”という高潔なる使命に昂ぶる彼女に呼応するかのように勢いを与え、まさに光の如き速さを齎す!

「これらを気にも留めず、こちらに――間に合いません、か……!」

 ブラフであることに気づかれたと察したベアトリクスは即座に結界を展開する。
 その時速にして13000km/hの雷の弾丸と化したバルタンをたかだか結界程度で止められるなどとは流石に戦闘に疎かったベアトリクスとて思ってはいない。
 そう、これはあくまで自らの次の一手を通す為、自らのダメージを最低限に抑える為のものだ。

「(戦闘経験がないと言っても、流石国の頂点に立つだけありますな……ならば、奴の想定以上のダメージを与えるまでデース!)」

 バルタンの感情が昂り、さらに雷が迸り翼を形作る。
 文字通りの雷鳥が如き一撃は、結界を容易く突き破り、ベアトリクスは勢いよく宙を舞う。
 その身体は戦場と化した大地にそびえ立つ岩山を、根本から折る程の勢いで、叩きつけられた――!

成功 🔵​🔵​🔴​

黒木・摩那
◎☆
目的と手段がごちゃまぜになって、わけわからなくなった感じですね。
ここで女皇を倒し、妄執を終わらせて、成仏してもらいましょう。

と言いつつも、厄介な封印術ですね。
幸い先制もしてこないようですから、こういう強力な敵はこちらも一撃必殺狙いで行きます。

UC【殲禍烈剣】を使います。
誘導ドローンが配置につくまでの間、こちらの意図を悟らせないように、マジカルボード『アキレウス』で【空中機動】。
ヨーヨー『エクリプス』でペシペシと女皇を打ち据えて、挑発します。

準備ができたら、異世界からのレーザーで屍人帝国と女皇に一撃加えます。
封印で威力は弱体化するでしょうが、元が元だけにどのぐらいダメージ入るでしょうか。




 猟兵の先手の一撃を受けたベアトリクス。
 だが、これだけで簡単に倒せるような存在であるならばマグナ聖帝国は脅威足り得はしない。
 崩れた岩山の中から、土埃を纏いながらもしっかりとした足取りで再び姿を現し、土埃を払う。

「流石です、猟兵。わたくしが越えなければならぬ壁とは、まさしくあなたたちのことでしょうね……」

 ベアトリクスの足元に魔法陣が形成される。
 恐らくユーベルコードを発動する為の詠唱だろう、彼女の足元がじわじわと侵食されていくのが見える。

「(場全体に及ぶ封印術ですか。アレが完全に起動する前に手を撃たないと)」

 黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)はいち早くその変化を察知し、手を撃つべく行動を開始。
 迷彩機能を備えた誘導ドローンを放つと同時に自らはマジカルボード『アキレウス』に乗り空中からヨーヨー『エクリプス』でベアトリクスを牽制する。

「次なる猟兵はあなたですね」
「『聖女皇』ベアトリクス……最早目的と手段がごちゃまぜになっていることに気づかないのですね」
「何とでも仰ればよろしいかと。誰に何と思われようと、一度歩み始めた道を引き返すなど最早許されません」
「ならば、あなたの妄執をここで終わらせて成仏してもらいましょうか!」

 摩那のエクリプスが縦横無尽の軌道を描いてベアトリクスに向かう。
 ベアトリクスはそれらを結界術で弾きながら、黄金の翼の根本にある人の顔を模したナニカから光線を放つ。
 それらは無数の追尾レーザーとなって摩那を追いかけるが、それらを『アキレウス』のスピードに任せ、時には盾として掻い潜りながら、摩那は『ガリレオ』と接続した『マリオネット』を経由して誘導ドローンの配置状況、そしてベアトリクスの『大規模封印ユーベルコード』の起動状況を分析する。

「(配置完了まであと64秒程ですか。女皇の封印術の起動も大凡それぐらいか、数秒程遅れるぐらい……ですか)」

 懸念されるのは封印術によるこちらのユーベルコードのダメージがどこまで削減させられてしまうかだ。
 とはいえ、今用いようとしているユーベルコードは摩那の中でも特に極大ランクの威力を誇る奥の手だ。
 ベアトリクスの『大規模封印ユーベルコード』によって、フィールドが完全に『マグナ聖帝国化』させられたとしてもそれなりの打撃を与えることは不可能ではないハズ。
 今はとにかく、あと64秒の間こちらの意図を悟られぬようにするだけだ。

「(この攻撃は牽制。先程のも。何かを仕掛けようとしているのでしょうか)」

 そしてベアトリクスもまた、摩那の意図が別にあることを漠然と感じ取る。
 先程からこちらの攻撃を掻い潜りはするものの、致命的な一撃は与えてこない。
 だが、幸いにもそのおかげで自らの『大規模封印ユーベルコード』を起動することはできそうだ――いや、むしろそれを誘発しようとしているのか。
 互いに決定的な打撃を与えぬまま、運命の64秒後へと至る。

「……これも神がわたくしに与え給うた試練というのなら、正面から受け止めるまでです」
 
 ベアトリクスの足元の魔法陣がより大きく広がり、眩しく輝いて大地を侵食しーー

「ジャスト64秒……!目標確認――発射!!」
 
 摩那の指を鳴らす音が、遥か天空より高出力のレーザーを呼び寄せた。
 神聖なる庇護の下広がるマグナ聖帝国の大地に展開される結界と、|【殲禍烈剣】《セント・グレール》による暴走衛生の高エネルギーの一撃がぶつかり合う。
 この封印術は、マグナ聖帝国の聖女皇であるベアトリクスに敬意を抱かぬ者の力を著しく衰えさせるものだ。
 だが、摩那の放った【殲禍烈剣】は、元より時間をかけて整えることで発揮される極大威力の一撃。
 たかだか敵国の女皇に敬意がないからと弱められた程度で、人を傷つけぬ程度の威力へと化すことはなく。

「く、ぅ……防ぎ、切れな――」

 衛生が暴走する程の高出力エネルギーは、封印という壁を突き破り、ベアトリクスの身体を確かに貫いた――!

成功 🔵​🔵​🔴​

ゾーヤ・ヴィルコラカ
 みんなを護れるくらい強くなる、それってとっても難しくて、大切なことだと思うわ。でも、聖女さまは本当に、世界すべてを踏みつけてでも力が欲しいの?

 〈勇気〉を振るって彼女に向き合うわ。封印は自分に〈結界術〉をかけてから受け止めて、完全に身も心も封印される前に魔力を放って〈こじ開け〉るわね。そのまま【UC:聖魔氷槍】(SPD)を発動、封印の突破でかなり消耗しちゃったから、この一撃に全霊の想いを籠めて放つわね。

 わたしも、誰かのために戦えるようになりたくてここに居るわ。だからわたしは、あなたに誰かを否定してほしくない。そんなのきっと、あなたの大切な人を悲しませちゃうから。

◎(アドリブ連携等々大歓迎)




 苦痛に顔を歪めながら、ベアトリクスはまだ諦める様子を見せない。
 
「これが、今までわたくしが力無き正義の無力さを忘れていた代償、ですか」

 まだふらつきはせずとも、確かにダメージは蓄積しているのは見て取れた。
 とはいえ、まだ戦うには遜色はなさそうでもある。
 ベアトリクスの今の肉体は"間に合わせ"ではあるが、それでもやはり他とは一線を画す生命力を備えているということなのだろう。
 
「ですがこの程度で怯む覚悟で、わたくしは玉座を目指しているのではありません」

 どれほどの血が流れようと、どれほどの傷を負おうとも。
 マグナ聖帝国の民に幸福を齎す為ならば、覇道を歩む魔王と呼ばれても構わない。
 そう、彼女は既に覚悟を決めているのだ。
 だが、故にこそ。ゾーヤ・ヴィルコラカ(氷華纏いし人狼聖者・f29247)は悲しげに語りかける――。

「みんなを護れるくらい強くなる……それって、とっても難しくて、大切なことだと思うわ」
「ええ……その意見には、同意致しましょう」
「でも……聖女さまは本当に、世界をすべてを踏みつけてでも力が欲しいの?」

 ベアトリクスはその問いに即座に返しはしなかった。
 否、できなかったのだろう。
 ゾーヤの問いかけに、揺らがない部分がないとは自らを否定できなかったのだ。
 けれど、既にもう決めた道から踵を返すことも断じて許されない。故に。

「……昔のわたくしであれば、そう考えたことでしょう。ですが、それ故にわたくしは弱く、力が足りず……愛すべき民を、国を護れなかったのです」

 重々しく、苦々しい表情を浮かべ。
 だが、それでもゾーヤからは目を逸らさずにベアトリクスは答える。

「故に、わたくしは人としての心を捨ててでも、辿り着かねばならないのです。
 例え……わたくしの為に身を捧げてくれた臣下を捨て置くことになろうとも――!」

 ベアトリクスから眩く輝く波動が発せられる。
 その根幹にあるものを、ゾーヤはその身で感じ取った。
 ――慈愛。
 そう、例え覇道を征く決意をしていようと、それ相応の振る舞いを心がけていようと。
 この女皇の根幹に存在するのは"慈愛"なのだと。
 輝く波長が、ゾーヤを封印すべく包み込み始めるのを、結界で覆って自らへの直接干渉を可能な限り長引かせる。
 
「抗うことはおやめなさい。逆に苦しくなるだけですよ」

 慈愛の波動はあらゆる存在から攻撃力――他者を傷つける為の力を奪い、それらを全て自らの幸運の因果へと転じさせる。
 覇道を征くと謳っても尚、苦しまずに済ませようとするのはベアトリクスの慈悲深さからか、それとも。
 だが、それでもゾーヤには抵抗するだけの理由がある。世界を救うのが猟兵の宿命であるということ以外にも。

「……わたしも、聖女さまの気持ちはわかる」

 結界の中のゾーヤの魔力が膨れ上がり始める。
 聖者の証たる聖痕は、生まれながらに光を持つ。
 そこにいるだけで他者を照らす存在足り得る光が、ゾーヤの想いに呼応するかのように結界から漏れ出ては、ベアトリクスの封印術を逆に侵食し、浄化し始めていく!

「何と眩い光……!わたくしの封印術を、内側から……!?」
「わたしも、誰かの為に戦えるようになりたくてここに居るわ。……だから、だからこそ!」

 想いが頂点に達した時、聖痕から解き放たれた魔力が封印術を完全に打ち破る!

「な……っ」
「わたしは、あなたに誰かを否定して欲しくない。そんなのきっと、あなたの大切な人を悲しませちゃうから……!!」

 ――届いてッ!
 
 ゾーヤの全身全霊の想いを込めた、聖痕の魔力で築き上げられた浄化の氷槍がベアトリクスを貫く。
 真っ赤な雫が黄金の翼と白の装束を染め行き、ベアトリクスはふらつきながらも堪えるように踏み留まる。

「……貴女は、優しいのですね。屍人の国の長となった私にも、そのような想いで立ち向かわれるのですか」

 ああ、何と眩しい存在だろうか。
 自らも、国が帝竜に襲われ封印せざるを得ないような事態も迎えることなく、楽園と呼ばれていたあの頃が続いていたならば。
 この少女のようになれたのかもしれないと、想いを馳せる。

「ですが、わたくしも引き下がれません。わたくしが皆を護り切れる程に強くなれば、悲しむ者も生み出さなくて良いようになるのです……
 貴女のような方が心を痛めるようなことではありません。さあ、わたくしはまだ戦えます――おいでなさい、猟兵……!」

 血を拭いながら、ベアトリクスは再び魔法陣を展開する。
 ゾーヤはその姿を悲しげに見つめながら、聖痕の魔力を放ちきってしまった自らの身を鑑みてグリモアベースに帰投。
 次なる猟兵に後を託したのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

数宮・多喜


さぁて、どうにも可哀そうなお話じゃないのさ。
力を求めるがあまりに、
大事なものを見失ったと来てやがる。
それじゃあ待つのは、いつぞやのアリスと同じ末路だ。
だから、ひとつここは話し合いと行こうじゃないか。

敢えての無手で対峙して、『コミュ力』頼みにお喋り開始さ。
アンタが背負ったその覚悟の、重さを問うつもりはないけどよ。
国を封じると決めた時、アンタの臣民はどう答えたんだい?
抗ったのか、受け入れたのか。
国を愛し、民に愛された女皇様だったんだろ?
アタシにゃアンタが一存で決めたとは思えねぇんだ。
彼らは納得して決断し、アンタに封じられたんじゃないのか?

その上で答えておくれ。
『今のアンタは、何を護りたいんだ?』




「さぁて――」

 数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は、敢えて無手にて戦場に臨む。
 彼女の此度の武器はその持ち前のサイキックパワーではない故に。

「……武器を持たずに立ち向かおうと言うのですか?」

 ベアトリクスは怪訝そうに多喜を見る。
 術を行使しようと構えて――やめる。
 彼女の意図がこちらの攻撃を誘うが故のブラフではないと、漠然と察したからだ。

「流石女皇様、意図を汲み取ってくれて助かるよ。あたしゃ個人的にアンタと話がしたくてね」
「話――ですか」
「ああ、ここはひとつ、話し合いと行こうじゃないか、女皇様?」

 ――どうにも可哀想なお話じゃないのさ。

 戦場に向かう前、グリモア猟兵の話を聞いた多喜の抱いた印象がこうだ。
 力を求める余りに、大事なものを見失った女皇。
 しかし、それで待ち受けるのはいつぞやのアリスが迎えた末路と全く同じものであろう。
 故に、多喜はベアトリクスとの対話を試みることにした。
 |【罪暴く言の葉】《ディテクティブ・ロイヤー》は相手の罪を暴くだけものではないのだ。

「……何を、聞きたいのです?」
「アンタが背負ったその覚悟の、重さを問うつもりはないけどよ。

 ――国を封じると決めた時、アンタの臣民はどう答えたんだい?」

 ベアトリクスの目が見開いた。
 国を封印するということは、そこに住まう臣民たちをもまとめて封印するということ。
 これを独断で横行しようものなら反発は免れられるワケがない。
 だからこそ、まずは多喜はそれを問うべきだと思った。そして今はこうして対話しているとはいえ、戦場だ。
 単刀直入に、簡潔に、問うべきだろう。

「抗ったのか、受け入れたのか。……国を愛し、民に愛された女皇様だったんだろ?
 アタシにゃ、アンタが一存で決めたとは思えねえんだ」
「……ええ。わたくしの独断で決めて良いものではありません」
「彼らは納得して決断し、アンタに封じられたんじゃないのか?」
「……」

 "ごめんなさい。わたくしに力がないばかりに、このような選択しかできず……"
 "……陛下は我々を、国を護る為できうる最善を常に尽くしてくださいました。その上でのご決断を、誰も咎めは致しません"
 "陛下がそれを最善と信じておられるのなら、我々は従います。貴女が国の為に下してきた選択は、今まで何一つ間違っておりませんでしたから"

「……っ」

 ベアトリクスは、答えない。
 だが、その表情だけで多喜が問いかけたことへの答えがYESであるか、NOであるかは明白だ。
 彼らは主を信じ、彼女と共にいつか来る平和な日々を願って、身を委ねたのだと。
 しかし残酷な時の流れが、封印していた国そのものを雲海に沈めてしまった。
 そう、そもそもの原因に誰が悪だったのか等といった問題は存在しないのだ。
 大元を辿れば、マグナ聖帝国へ攻め入った帝竜ということではあるが……それ以外の悪因は、何一つ。
 ただただ、歴史の波のうねりが、飲み込んでしまっただけの。

「……その顔見るだけでわかったよ。そうだと思った」

 でなければ、そんな表情を見せるハズがない。
 多喜が一番問いたかったことは、それが最前提として存在しなければ成立しないものだ。
 正直に言うなら、その答えが多喜の思っていたものと相違ないことに安心した程に。

「女皇様。その上で、答えてくれ」

 ――今のアンタは、|何を護りたいんだ《・・・・・・・・》?

「――」

 ベアトリクスは、思考する。
 愛するマグナ聖帝国の臣民たちは、封印を嫌々受け入れたのではない。
 自身を信じてくれたからこそ、封印を受け入れてくれたのだ。
 しかし、それでも幸福ある生活を得ることができなかった――故に、再び幸福な時間を取り戻す為に此処にいる。
 予定していた肉体を使うことはままならず、間に合わせの肉体を使って受肉してでも。
 代わりに捧げてくれた生命に思うところがないワケではない。だが、それを表に出すことは許されまい。
 自分の歩んだ道はそういうものだ。そして――

「……とても、お話が上手でいらっしゃるのですね」
「そいつはどうも。答えは、出せるのかい?」
「ええ、頭の中の考えをまとめるのに少し、お時間を頂きました。わたくしの護りたいものは……今も昔も変わりません」

 ――愛すべき、マグナ聖帝国の民を護る為に、此処にいます

 ……そう、迷わず言い放つ。

「恐らく、貴女の求めていらっしゃる答えとは違うでしょうね。けれどこれがわたくしの答えです。
 仮にマグナ聖帝国が雲海に沈むことなく、平和な世に再び目覚めることができたとて――|必ずしも平和が続くという保証はどこにもない《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》」

 故に、どの道力は求めなければならなかったのだと。
 例えその道がどれ程歪んでしまっていても――自分の思考がどこかでかけ違ってしまったとしても。

「故にわたくしは、かつての弱い女皇のままではいられないのです。我が国の民たちに、再び幸福を齎す為に……!」

 故に、戦う。
 その選択肢から変えることはしない、と。

「……そうかい」

 多喜は悲しげにそう返した。
 恐らく、オブリビオン化してしまったことから力を求める思考から動かなくなってしまったのだろう。
 だが、ただただ力を求める余り"完全に呑まれた"ワケではないのは、救いかもしれない。

「わかった。それがアンタの答えなんだね」
「ええ……ご納得頂けなくとも構いません。元よりわたくしと貴女は敵同士なのですから」
「ああ、その通りさね。でも、対話せずに戦うのと、そうでないのとじゃ違うからね」
「ええ、わたくしもそれは同意致します。貴女とのお話は、有意義なものでありました」
「そう思ってもらえたなら、幸いだね」

 せめて彼女の終わりが、少しは安らかなものでありますよう。
 決して相容れなくとも、それを祈ることは許されていいだろう――多喜はそう、切に願った。

成功 🔵​🔵​🔴​

ドゥルール・ブラッドティアーズ
共闘グロ×
WIZ


正義なんて無いわ。どんな綺麗事にも犠牲は付き物。
全てを救いたいという善意すら
誰かの不幸を願う者にとっては悪意。
他人の不幸は蜜の味。漁夫の利。勝てば官軍。
それが私の見てきた人間という生物よ

守護霊の憑依【ドーピング】でUC級(技能145)の強化を得た私と
同じ強さの霊128人を『私達の楽園』で召喚

私はオブリビオンの楽園の女王。
この子達の喧嘩や我儘ですら手を焼いている私が
生きた人間に永遠の幸福を与えていた貴女を尊敬しない筈も無い。
何より、私達は貴女を救う為に来たの

私を含め129人の聖歌【誘惑・催眠術・全力魔法・歌唱】で
彼女の心を【慰め】優しい心を思い出させ
抱擁から【生命力吸収】のキス




「正義なんてないわ」

 覇道を征かんとするベアトリクスの前に、新たに立ちはだかる猟兵一人。

「どんな綺麗事にも犠牲は付き物。全てを救いたいという善意すら誰かの不幸を願う者にとっては悪意。
 他人の不幸は蜜の味、漁夫の利、勝てば官軍」

 散々な酷評であるが、ドゥルール・ブラッドティアーズ(狂愛の吸血姫・f10671)が見てきた人間とはそういう存在だった。
 でなければ、半吸血鬼として生まれた自分がここまで疎まれることもないし、母も虐げられることがなかったのだから。

「……そうですね。人間は確かに皆が皆善き心を持っているワケではありません。貴女の仰る側面もまた、人の姿でしょう」
「それをわかっていても尚、貴女は国の民を救おうとしているのね」
「ええ。民の幸福の為、わたくしは強くならねばなりませんから」

 再び大地が|ベアトリクスの領域《マグナ聖帝国》へと変化を始める。
 眼の前にいるドゥルールもまた猟兵。ならば自分が戦い、超えるべき壁に他ならない。
 故に封印術を迷わず行使するの、だが――ドゥルールはベアトリクスの封印術を受けても尚、何の影響もないかのように佇んでいた。

「……術が、効かない――?」
「貴女のその封印術は、貴女への敬意無き者を全て封じる封印術のようだものね。効かないのも無理はないわ」
「……??」
「――ああ、自己紹介をしていなかったわね。ごめんなさい、不躾だったわ」
 
 身に纏うスカートを軽く持ち上げ、片足を下げて行われるカーテシー。
 刹那、ドゥルールの後ろに集う多くの守護霊をベアトリクスは見た。
 それを見ることができたのは、宗教国家の長であるからか、それとも生来の力故か。
 守護霊がドゥルールへと次々に憑依し、彼女の能力を極限まで高めていく。

「初めまして、ベアトリクス陛下。私の名はドゥルール・ブラッドティアーズ――オブリビオンの楽園の女王よ」

 顔を上げると同時に姿を現す、128人の霊。|【私達の楽園】《ネヴァーエンド・ラブメモリーズ》に住まう、ドゥルールにとってかけがえのない護るべき存在。
 それこそ、ベアトリクスがマグナ聖帝国の民を愛する気持ちと同じぐらいだと自負できる。
 だがそんなドゥルールでも、流石に守護霊として保護したオブリビオンたちのいさかいを完璧に止められるワケではない。

「この子たちの喧嘩や我儘ですら手を焼いてる私が、生きた人間に永遠の幸福を与えていた貴女を尊敬しないハズも無い」

 オブリビオンの子ら同士でのちょっとしたいざこざを仲裁し宥めるのも大変だというのに、生きた人間相手を諌めて幸福を与えた彼女に敬意を示さないなど考えられるハズもない。
 生きた人間の方が、オブリビオンよりもよっぽど手を焼く上に平気で裏切り人を踏みにじる連中だ。
 そんな存在をまとめあげ、幸福を齎す治世を行っていたベアトリクスは、紛れもなくドゥルールが目指すべき高みにいると言っても過言ではなかったのだ。
 
「それに何より――私達は貴女を救う為にきたの」
「わたくしを、救う……?」
「ええ。貴女の無力さを嘆いて力を求める気持ちは、否定できるものではない。むしろ共感さえ覚えるわ。
 けれど、力を求める余りに貴女の本来の優しさを忘れてしまっているのは、悲しいことよ……」

 だから、それを思い出してもらいたい。そう願い、ドゥルールは呼び出した霊たちと共に歌を歌う。
 ――主よ、御許に近づかん。
 その聖歌はベアトリクスにとっては馴染みのないものかもしれないが、不思議と心に染み渡るものがあった。
 ああ、かつてこのように、国の子らが歌を歌うのを聞いていた……懐かしい記憶が蘇る。
 つい昨日のことのように蘇る、幸せだったあの日々の思い出に、ベアトリクスは自然と涙を流していた。

「ああ……ああ……っ」

 ごめんなさい、と言葉が溢れる。
 幸せな日々を護れなくて、ごめんなさい、と。
 今度こそ、今度こそは、あなた達を幸せにしてあげるから――

 静かに崩折れ、領域が自然と収縮する。
 泣き崩れるベアトリクスを、ドゥルールは慰めるように優しく抱き締める。
 守護霊たちもまた、それに寄り添うように二人を囲った。

成功 🔵​🔵​🔴​

四王天・燦


まだ生来のベアトリクスは封印の向こう側で眠っていると思うんだ
いつか彼女がマグナと共に蘇る為にも、オブリビオン化した貴女を倒させてもらうよ

漆式で紅狐様を呼んで騎乗して封印の地をダッシュで駆け抜けるぜ
封印されそうになったら、本格的に封じられる前に符術で封印を解く
稲荷符は今回の勝負の要…武装崩壊しないよう神鳴で慈愛の波動を斬るように受け流す
…鈍になったら打ち直しだなこりゃあ

距離が詰まれば紅狐様じゃーんぷ!
グラップルで抑え込んで稲荷符を直接貼り付け、呪詛で生命力吸収し命脈を断つぜ
慈悲深く、けして痛みを与えないよう注意する

マグナが世界から憎まれる国になって欲しくないんだ
倒すしかできなくて、ごめんな




 四王天・燦(|月夜の翼《ルナ・ウォーカー》・f04448)は、今目の前にいるベアトリクスを真の彼女とは思えなかった。
 ――恐らく、生来のベアトリクスは封印の向こう側で眠っていて、マグナ聖帝国も完全に屍人の国と化したワケではないのだと。
 きっといつか、本来の彼女がマグナ聖帝国と共に眠りから覚める日がくるハズだ、と。

「だから、オブリビオン化した貴女を倒させてもらうよ」
「……残念ながら、貴女の思うような光景は叶いませんよ。確かに顕現に他者の肉体を用いてはいますが――わたくしは、ベアトリクス・マグナ本人に他なりません」
「アタシも貴女も、口だけなら何とでも言えるさ。だからアタシはアタシの考えを信じて貴女を倒す」
「ならばわたくしも、わたくしの信念に基づき貴女を倒し、玉座へ至らせて頂きます」

 互いに言葉を発して、数十秒。出方を伺うかのように――あるいは、戦いの狼煙となる何かを待つように。
 ひゅう、と風が吹き抜けたその刹那――

「”御狐・燦の狐火をもって贄となせ。紅蓮の鳥居潜りて、おいでませ紅狐様!”」
「"ベアトリクス・マグナの名において命じます。汝、我が名の下に刃を捨てよ"」
 
 ベアトリクスの封印術が飛ぶと同時に、燦は自らの二倍の体躯を持つ紅蓮の狐に飛び乗る。
 封印術を回避しながら、ベアトリクスへと肉薄しようと試みる。
 とはいえ、協力な封印術は無防備に掠めるだけでもそこから侵食を始めるだろう。
 
「(回避は……ダメだね、これは間に合わない。なら――!)」
 
 燦はすぐさま符術を紡ぎ、封印の干渉を一時的に拒絶、その間に抜け出して再び接近を試みる。
 あらゆる武装を崩壊する慈愛の波動を、『神鳴』にて斬るように受け流す。
 この封印術はあらゆる武器の攻撃力・殺傷力を奪うもの――それは雷様が鍛えた天下の一品であろうとも、影響を及ぼすだろう。
 長いことこの刀を使い続けている燦は、刃こぼれ等といった外観的な欠落要素がなくともそれを漠然と感じ取り。

「(……鈍らになったら打ち直しだな、こりゃあ)」

 と、少しだけ先が思いやられる気分になりながらもひたすら波動を斬るように流しては踏み込み、ベアトリクスへと迫り征く。
 彼女が例え鈍らになってしまうリスクを追ってでも『神鳴』にて受け流して接近を試みるのは、とっておきの一手を見舞う為。
 その為に必要な稲荷符の力を奪われるワケにはいかないのだ。
 ベアトリクスもその意図は察しているが、器用に受け流して符を護る燦に一撃を与えあぐねていた。
 武装の攻撃力を一切奪わせないことで、最低限の幸運しかベアトリクスには齎されず、本来十全に発動できていたなら間違いなく捕まえられていたであろうものも未だ捕まえられない。
 故に、燦が攻め入るのを止めようとしても追いつかない状態だ。

「く……やはり、強い……!」

 ベアトリクスは大規模封印ユーベルコード等、非常に強力な術を持つ屍人帝国の長が一人。
 しかし、彼女の生来の戦闘経験とその戦闘スタイルからわかるように、近距離戦闘を得意とする相手への対処は不得手と言えた。
 そしてそれが、燦に極限まで接近させることを許したのだ。

「紅狐様、じゃ――――んぷっ!!」

 紅狐が大きく飛び上がり、その背から燦が飛び降りてベアトリクスを拘束する!
 決して痛みを与えないように注意しながらも抵抗できないよう動きを抑え、取っておいた稲荷符を貼り付けて印を刻む。

「何を――っ、あ……!」

 ベアトリクスの身体から急激に力が抜けていく。
 燦が今貼り付けた稲荷符には、生命力を吸い取る呪詛が込められている。
 これを用いてベアトリクスの命脈を断とうと試みたのだ。
 決して痛みを与えないようにという、慈悲を込めた燦の呪詛は苦痛は与えることなく、ベアトリクスの生命を削る。

「う、うう……わたくしは、まだ……!」
「力を入れるのもやっとなハズだぜ。もう無理しない方がいい」
「く……ぅ……」

 視界がぼやける。
 瞼が重くなる。
 命脈を断たれたベアトリクスは、間に合わせの肉体を以てしても顕現が難しい程に衰弱し――その場から起き上がれなくなった。
 まだ意識はあるようだが、時間の問題だろう。月が静かに沈むように彼女の生命は終わりを迎えようとしている。

 「……マグナが世界から憎まれる国になって欲しくないんだ。ごめんな」

 倒すしかできなくて――そう呟いた燦の声は、きっとベアトリクスに届いたのだろう。
 意識が遠のきつつある彼女の口元が、穏やかに緩んでいたのだから。

成功 🔵​🔵​🔴​

アリス・セカンドカラー
お任せプレ、汝が為したいように為すがよい。

|封印を解く、リミッター解除、限界突破、オーバーロード《『幼年期の夢で見た魅惑つきせぬ領域。時間と空間を超越するただ一つの窮極的かつ永遠の“アリス”』》
|継戦能力《魂が肉体を凌駕する》
はは、真の姿の詠唱自体が厄い邪神だなんて気の所為気の所為。
さて、封印術か。ま、私も結界術をメインにしてるからそちらの造詣も深くもあるのだけど……解呪も面倒そうだし封殺しましょうか。
天地魔tもとい◎|不可思議なる厄災の『夜』《ワンダーカラミティ・デモン》で迎え撃ちましょう。
|早業先制攻撃《タイムフォールダウン》で自身の時を加速し、聖女皇の|マヒ攻撃、気絶攻撃《時を減速》させる。
|カウンター盗み攻撃《リフレクション》で構築中の封印術の術式を奪いお返しする。
|多重詠唱属性攻撃《トリニティバースト》で時さえ凍える絶対零度の◎|氷の棺《アイスコフィン》に閉じ込めましょう。|気絶攻撃《何が起こったのか認識できぬまま》|重量攻撃《凍えた時間質量の重みに潰れて》骸の海へと還りなさい




 生命力も吸い取られ、最早意識すら危ういベアトリクス。
 だが、それでも彼女は立ちあがる。
 ふらつきながら、ぼやけた視界の中、自らの望みを叶える為に。

「……諦め、ません……諦め、切れ、ません……わたくし、は……皆を……っ」

 残る力を振り絞り、封印術を再び展開する。
 全ては愛する民の為に。
 例え非道と罵られようと、自らを覚醒させる為に準じた忠臣を切り捨てるようなことになっても、進まねばならない。
 でなければ、何の為に再び目覚めたのか。
 何の為に、こんな決意をしたのか、わからなくなってしまうではないか。

「……さあ、おいでなさい。わたくしは、まだ、戦えます――!」

 そう、決意を叫んだ瞬間――ベアトリクスの視界が暗くなる。
 彼女の意識が飛んだのではない。その場が|『夜』《デモン》に変わったのだ。
 物理的に夜を迎えたのではない。
 これは幼年期の夢で見た、魅惑つきせぬ領域の顕現。
 魂が肉体を凌駕し、時間と空間を超越するただ一つの窮極的にして永遠の|少女《アリス》が、今ここに降臨した。

「色々と言いたいことは他の皆が言ったことだし。私からは言うことは何もないわ」

 アリス・セカンドカラー(不可思議な腐敗の|混沌魔術師《ケイオト》艶魔王少女・f05202)は|超克の果てに至り《オーバーロードにて》解き放った真の姿で、ベアトリクスを迎え撃つ。
 彼女は最早ユーベルコードとも違わぬ程に鍛え上げた結界術のエキスパート。
 結界術は封印術に近しい術であり、そちらにも当然造形の深いアリスは、まさに封印術を操るベアトリクスにとっては天敵とも言える相性の悪さだった。

「ええ、わたくしたちは敵同士。言葉は不要でしょう……!」
「そういうことよ。まあ、私は――”最早何もさせる気はない"けれどね」

 ベアトリクスが封印術を放とうとした瞬間、アリスもユーベルコードを発動する。
 刹那、ベアトリクスの|眼の前の景色が全て凍りついたように止まった《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》。

「え……?」

 何が起こっている?自分は今何を見せられている?
 目の前のアリスは動かない。
 ……否。
 |ベアトリクスが何が起きたかわかっていないだけに過ぎない《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》。
 |【不可思議なる厄災の『夜』】《ワンダーカラミティ・デモン》による|【早業先制攻撃】《タイムフォールダウン》はアリスの体感時間を加速させる。
 相手にとっての1秒はアリスにとっての10秒。1分は10分。
 既にこの時点で相手が自覚する暇も与えないのだが、さらにそれを応用することで相手の体感時間をより減速させることも可能なまさに埒外の力である。
 つまりこの時点で、ベアトリクスは既に気絶してもおかしくない程の攻撃をアリスから受けていることになる。
 
 しかしこの【不可思議なる厄災の『夜』】により行える技はこの【早業先制攻撃】だけではない。
 アリスは次にベアトリクスが構築している封印術の術式を|盗み取り《・・・・》、|カウンター《それを反射》してベアトリクスに返す。
 当然、対処法など存在しない。そもそも構築中の術を取り上げられて返されているという自覚すら持つことが不可能なのだから。
 構築中の封印術を|【カウンター盗み攻撃】《リフレクション》することで、アリスが本来受けるかもしれなかった武装の攻撃力低下を全てベアトリクスに押し付ける。
 もう既にこの時点でベアトリクスは戦闘不能だが、仮にまだ動かれたとしても攻撃力の大半を喪失した状態で戦うことになる為アリスを止めることは不可能に等しいだろう。

「時間質量操作で加速し、反撃さえ許さぬこの厄災の如き怒涛の連撃に耐えられて?
 ……と言っても、聞こえてはいないだろうけどね。体感している時間が違うもの。まあ、苦しまずにイカせてあげる。
 何が起こったのか、認識できぬまま凍えた時間質量の重みに潰れて、骸の海へと還りなさい――」

 そして最後に放たれるは時空と氷、そして空間属性を複合させた|【多重詠唱属性攻撃】《トリニティバースト》。
 時すらも凍える絶対零度の|氷の棺《アイスコフィン》がベアトリクスを包み込み、足元に展開された魔法陣が異空間へ繋がる門を開く。
 さながら死者を埋葬するかのように、棺に眠ることとなった彼女をゆっくりと受け入れて――門が閉じる。

「おやすみなさい。その眠りがまた妨げられないことを祈っておくわね」

 手向けにと、門が閉じる前に近くに生えていた花を投げ入れてアリスはグリモアベースに帰投。
 |『夜』《デモン》が明け、再び空に日が昇る。
 激しい戦いなんて何もなかったかのように、正常な時がその場に齎された。

 ――かくして、『聖女王』ベアトリクス・マグナは再び眠りについた。
 願わくば、その眠りが安らかなものであらんことを祈ろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年09月23日


挿絵イラスト