アルカディア争奪戦⑰〜イケイケぼくらのカオスヘッダー
●コルディリネ~豊穣の地にて
植物植物植物植物怪獣怪獣植物植物植物植物植物怪獣怪獣植物植物怪獣植物怪獣植物植物植物怪物植物怪獣植物植物植物植物植物植物植物植物植物怪獣怪獣植物植物怪獣植物怪獣植物植物植物怪物植物怪獣植物植物植物植物植物植物植物全裸植物怪獣怪獣植物植物怪獣植物怪獣植物植物植物怪物植物怪獣植物植物植物怪獣植物怪獣――。
「ゲヒャ~ヒャッヒャッヒャ!! 光合成が捗るゼぇ~! ムシャムシャ~!」
緑が映え翠が踊る戦場にて、翠色の竜と光輪戴く白翼の大天使が対峙していた。
渾沌の魔力によって分裂を続ける翠の暴竜が、津波の如く戦場へと押し寄せる。その激流は太陽を目指す植物怪獣らを踏み拉き、世界樹の若木が根付く大森林ごと飲み込み喰らいつ尽くさんとする。
「何という能力! 討伐部隊が完全に倒されていれば、確かにあなたは、全ての植物怪獣を食べ尽くしていたかもしれません」
その怒涛の勢いに戦慄を覚えながらも、エンケロニエルはこの戦いの趨勢を冷静な目で見極めていた。
「ですが流石にあなたも万全でない様子。如何にKINGと言えども……」
送り出した刺客たちは十全とはいかずともいくらかその役目を果たしたのだろう。渾沌の魔法を行使する竜には隠し得ぬ消耗による翳りが見え隠れしており、ネズミ算式に増える植物怪獣を喰らいつくすには至るまい。
であれば、この戦いの結末はすでに見えているようなもの――。
そもそも、此処は豊穣の地――地の利も此方に在るのだ。如何にKINGと言えども、あまりにも無謀な……。
「……?」
そこまで思考して、エンケロニエルははたと気付いた。まるで太陽が西から昇るような。当たり前と考えていた事実が覆るような、違和感を持つその言葉に。
「……お待ちなさい。あなたが、候補者ですって?」
「ゲヒャ〜ッヒャッヒャ、その通りだ! これから、お前の眼前にも現れるゼぇ?」
――あのガチデビルさえも駆逐した無敗の『7thKING』!
オレタチの王にして世界最強の群体、『|猟兵《イェーガー》』サマがナぁ!
翠の竜の言葉に、哄笑に、エンケロニエルは思わず言葉を失い、|戦慄《わなな》いた。
だがそれも無理はないことだった。後の4thKINGである大首領ブレインの功績がなければ、魔界の皆はガチデビルに騙され、皆殺しにされていた可能性が高いのだ。
かつての3rdKINGたる『堕天使エンケロニエル』――過去の自身にとっても、彼の者は畏怖の対象であったというのに。そのガチデビルすらを凌駕し、駆逐せしめて見せたというのなら。
「|猟兵《イェーガー》ですって? まさか、そんな――」
エンケロニエルの新雪のように真白き肌が泡立つ。
天使核の乙女たちに抱かれた大天使は、慈愛に満ちた表情をこわばらせ、恵みを垂れるように広げていた両腕を閉じて。
――その穢れなき真白き翼は、今はただただ、凍える寒さに耐えるように、自身の躰を掻き抱くのだった。
●グリモアベースにて
「……寒いかっこうしてるから、そんなことになるんですよ」
おまえさん、それをいっちゃあ……。
「大体、オブリビオンだからって、夏だからって、イケナイと思います! 服を着てください! 服をっ……!」
まぁ、オーデュボンの皇帝なパッセンジャーさんとかも……だしなぁ。
でも、|お前んとこ《アポカリプスヘル》のマザーコンピューターさんとかもあんなだったからね?
「そんなだから、猟兵の皆さんに寄ってたかってオーバーキルされちゃうんじゃないでしょうか……っとと………こほん」
何処かとの|脳内会話《テレパシー》を打ち切って、グリモア猟兵のリアは貴方たちに向き直る。
彼女の依頼は『大天使』エンケロニエルの討伐。
『スーパーカオスドラゴン』の襲撃によって『植物怪獣軍団』を抑えられているエンケロニエルは、現在は更なる猟兵たちの襲来を警戒して防御を固めているそうだ。
「豊饒の大地。そこに根ざした大量の――無尽蔵ともいえる植物を操って、『濃密すぎる酸素と植物毒で満たされた猛毒の領域』を創り出し身を守りながら、近づく者を殺そうとしているようですね。なので、スーパーカオスドラゴンさんには有効な反撃が出来ていないみたいです。ええと、皆さんなら知ってるかもですけど……」
スーパーカオスドラゴンは、無尽蔵に増えると見せかけて、実は一体でも倒れると全部が爆発オチするという最低な特性も持っているのだが、エンケロニエルはその弱点に気づく間もなく眼前の戦いから目を逸らされ、『猟兵』という脅威への警戒を強いられているようだ。
「ふふ……ふふふ、まさに手のひらの上! スーパーカオスドラゴンさんの策略の通りなのです……!」
何やらスーパーカオスドラゴン推しらしいリアは、エンケロニエルを実質手玉に取っているスーパーカオスドラゴンの活躍にご満悦の様子。
割と依頼内容そっちのけで、語りたくてしようがないようだった。
「だってKING候補者としてメタを張っていたって、すごくないですか? もしかして、ブルーアルカディアに飛ばされることも……。そしてそこにオブリビオンになってしまった元3rdKINGのエンケロニエルさんが潜んでいることでさえも、とっくの昔に想定していた通りだった……ってコト!?」
どうかなー。実はその場の勢いでハッタリかましてるだけの気もするけど……。
「はわわ……。す、すべては手のひらの上……?? スーパーカオスドラゴンさんの神算鬼謀は、とどまるところを知らないのです……!?」
そんな様子で、あんまり有益な情報を引き出せそうにないグリモア猟兵をどうにか動かして、貴方たち――7thKINGたる『|猟兵《イェーガー》』は現地へと向かったのだった。
常闇ノ海月
ムシャムシャしてやりましたよ!
|常闇ノ海月《とこやみのくらげ》です。
……|猟兵《イェーガー》さん、全裸ですよ! 全裸!
でも、エッチなのはイケないってグリモア猟兵が言うので、スーパーカオスドラゴンさんのとなりにはリアを並べておきました。(計画通り……!)
●参加受付
随時受け付けます。
いつもより大分文字数控えめ、速度優先になる予定です。
●プレイングボーナス
一撃離脱の速攻を仕掛ける。
濃すぎる酸素と植物毒に対処する。
🆕ハッタリを仕掛ける。
公式のもの以外にも追加してます。
折角なので『俺は名もなき候補の一人に過ぎぬ!』をやってくれたスーパーカオスドラゴンに続いて『今のはメラ〇ーマではない……』的なヤツをかまし、エンケロニエルさんをビビりあがらせましょう。
エンケロニエルさん、デビキン出身の元Kingということは本来は善良な性格だったのだろうなぁと惜しみつつ……。
皆さんのプレイング、お待ちしてます。
……元から全裸だったのでしょうか?()
第1章 ボス戦
『『大天使』エンケロニエル・殺戮女王形態』
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POW : 進化を拒むものを皆殺しにする酸素毒
戦場内に「ルール:【呼吸するなかれ】」を宣言し、違反者を【超高濃度酸素ボール】に閉じ込める。敵味方に公平なルールなら威力強化。
SPD : 終末を告げる天使の暴走
【全身にまとった天使核】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
WIZ : 生存拒絶楽園の創造
自身からレベルm半径内の無機物を【植物毒噴出植物の森】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
イラスト:Anenecca
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友
第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん
武器:漆黒風
陰海月が「行こう!!」って視線を送ってきてましたしー。
断る理由もないのできましたー。
対抗策:四悪霊の前に『敵の攻撃』に値するものを置くとこうなる
天候操作で風を起こし、少しだけ毒濃度を下げましてー。UC使いますねー。
そしてー、漆黒風を投擲しましてー。
あ、さっきのは軽めですよー?
…まあ事実ですよ。薄めたとて毒でダメージを食らいますけど。
その度に私の攻撃力とか上がりますのでー?
そう考えつつ、二撃目の漆黒風投擲ですねー。
※
たぶん、スーパーカオスドラゴンファンな陰海月は、行く前にリアさんと握手している
●大天使の想い
如何にKINGの器を備えた悪魔とて、その竜が万全の状態にないことは見て取れた。
「私自身が手をくださずとも、おそらくは時間の問題ですね。とはいえ――」
どうやら竜の肉体に加えて、凄まじい魔法をも操るようだが、その制御が困難であろうことも想像はつく。よほど周到な準備や段取りがなければ、暴走してしまいかねない危うさをも秘めているのかもしれない。
であれば、竜が力尽きるのを待っていれば、趨勢はいずれ此方に傾くだろうが。
「今しばらくは、押し返せそうにもありませんか……いえ、今はそれよりも」
楽園を喰らう竜たちを遠目にみやり、『大天使』エンケロニエルは植物怪獣たちのその戦いが未だ優勢とは言い難いことを確認すると、意識を切り替える。
自らはただの『候補』の一人に過ぎないと語った竜の言葉――この眼前に現れると予言された『7thKING』。
KINGの器を備えた竜をして『世界最強』と言わしめる『|猟兵《イェーガー》』への対処こそ、最優先すべき事項だった。
「……来るなら来なさい、猟兵。これ以上の邪魔はさせません。私は、わが主アルカディアにまみえなければならないのです」
最大級の警戒を以て【生存拒絶楽園の創造】のユーベルコードにより『植物毒噴出植物の森』を構築、旧き生命の接近を拒む領域を作り出していく。
そうして強き覚悟を宿し、死線へと赴く戦士の顔つきとなった大天使――かつての3rdKING『堕天使エンケロニエル』の眼前に現れたのは――。
●忍者が来た!
「|ぷっきゅー《行こう、おじーちゃん》!」
そんな陰海月さんの視線とお願いを受け、「断る理由もないのできましたー」とめちゃくちゃ軽いノリでやってきた|馬県・義透《死天山彷徨う四悪霊》さんでした。
スーパーカオスドラゴンさんのファンでもある陰海月くんの頼みに、陰海月くんに甘いじーちゃんズは断る理由とてなくやってきたわけです。
「さてと、まずは天候操作で風を起こし、少しだけ毒濃度を下げましてー」
その|四悪霊《じーちゃんズ》がひとり、『疾き者』――忍者一族の当主であった『外邨義紘』さんは風を操り、進路上の毒濃度を少しばかり弱めながら進んでいきます。
「来たゼ来たゼぇ! 勝ったなゲヒャ〜ッヒャッヒャ!」
「――ッ!! 勝負は、下駄を履くまでわからないものですよ」
その来援に気づいたスーパーカオスドラゴンさんはもうすでに勝った気でいるようです。一方、気丈に振る舞うエンケロニエルさんは、言葉とは裏腹に若干ビビっているような気もします。
「死霊の類ですか……トボけた風を装っても、私の目は誤魔化せませんよ」
「……へぇ」
義紘さんが糸のように細めた目の奥を光らせほんの少し笑みを浮かべます。
のほほんと振る舞う『疾き者』はそうすることで相手に警戒を抱かれにくいのが常でしたが、エンケロニエルさんは油断することなく対峙していました。
「ですが、あなたが何者であろうとも、此処はすでに私の領域。あなたがあなたのまま、無事に帰れるなどとは思わないことです」
「そうですか? まぁ、とりあえずユーベルコードを使いますねー」
エンケロニエルさんの言葉通り、植物の生み出す高濃度の毒は悪霊たる義紘さんの霊体をも蝕み変質させていきます。ユーベルコードの発動により『四悪霊の呪詛』がその全身を覆いますが、毒に蝕まれた体の崩壊が留まることはありませんでした。
「そしてー、漆黒風を投擲しましてー」
「……この程度、ですか?」
エンケロニエルさんが疑うような目を向け、飛来する棒手裏剣を植物のツタで絡め取ります。その間にも毒は義紘さんを蝕み、その姿を少しずつ崩壊させていきました。
「どういうことです。何かを見落としている……?」
「ああ、いえいえ。あくまでもさっきのは|軽め《ウォーミングアップ》ですよー?」
訝しむ大天使の眼前で、毒に蝕まれ徐々に解けつつあった躰が『再構成』されていきました。
「――因果は巡りて回る。どこまでも」
「!? 呪詛によるカウンターですか」
再び放った二本の棒手裏剣は再度ツタに阻まれ――しかし、捕らえたツタは『生命力』を奪われ枯れ落ちてしまいました。
「……いやらしい相手です」
「四悪霊の前に『敵の攻撃』に値するものを置くとこうなるのですよ」
【|四悪霊《シアクリョウ》・『|回《マワル》』】――自身が敵から受けた『攻撃』に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得るユーベルコードの効果により徐々に高まっていく戦闘能力。
「〜っ!!」
三度放った三本の棒手裏剣は、阻むツタの壁を切り裂き穿った穴を抜けると、エンケロニエルさんの柔肌に突き刺さり、赤い鮮血を溢れさせるのでした。
「さてー、参りましょうかー」
両手に六本の棒手裏剣――漆黒風を握り込んだ悪霊が、淡々と言葉を紡ぎます。
それらは緑色の稲妻を帯びていて、本来何の変哲もないはずの無機物の塊が、猟兵が使えば恐ろしい別物のように見えてきます。
「それでも、私は――」
そんな決意と共に猟兵へと立ち向かうエンケロニエルさん。
一方の義透さんたちは、スーパーカオスドラゴンファンの『|同志《リア》』を見つけて喜び握手なんかしていた陰海月も可愛かったなぁ……などと思い出しながら、表に出ている『疾き者』と『大天使』の戦いを見守るのでした。
大成功
🔵🔵🔵
御堂・伽藍
アドリブ、即席連携歓迎
さんそ? どく?
命を奪う?それで?
地形を利用し樹風地属性の魔力を増幅
残像陽動フェイント忍び足空中浮遊でゆるゆると接敵
さんそ? どく?
命を奪う?それで?
わたし がらんどう
元から命無き我楽多から?それで如何に命を奪うと?
射程に入り次第念動怪力闇地風樹空属性衝撃波地形破壊UC
リミッターを解除し最大範囲のブラックホールを撃ち込む
わたし おにんぎょう
猟兵の、愛玩人形
だから これっぽっち
まさに児戯。お情けの末席
からすがないたら さようなら
帰ろう帰ろう、疾く速く
もたもたしてたら しかられる
前座の出番は、これまでだ
言うだけ言って、落ち着き払ってさっさと撤収
●殺戮女王
酸素――かつて生命の進化の途上にて大量絶滅を引き起こした『猛毒』の気体。十億年という途方も無い年月をかけてシアノバクテリアの『光合成』とともに増え続けた酸素は当時の原核生物を殺戮し、地球の全球凍結をももたらしたのだという。
その後、生命はこの酸素に耐性を得て逆に利用することで大きな進化を遂げたのだが、現在でも高すぎる濃度の酸素は生体にとって悪影響を与えるものだった。
「あなた方が『進化』を拒むというのなら、須らく、悉く、滅びてしまいなさい」
そのような謂れを持つ気体を超高濃度に圧縮し与圧した空間。『大天使』エンケロニルは【進化を拒むものを皆殺しにする酸素毒】のユーベルコードによって接近する猟兵をも屠ろうとしていた。
それは戦場内に『呼吸するなかれ』とのルールを宣言し、違反者を『超高濃度酸素ボール』に閉じ込めるという権能。
呼吸をすることによって活動のためのエネルギーを得ている『生命』にとって『呼吸こそ命』ともいえる中、それを実質禁じてしまうという必殺のユーベルードだった。
――が、
●猟兵の|愛玩人形《おもちゃ》
「さんそ? どく?」
殺意を滾らせる殺戮女王の眼前に現れたのは、小さな女の子の姿をした猟兵――|御堂・伽藍《がらんどう》。
何を言っているの、とでもいうように、こてん、と首を傾げて見せる少女の造形。
「命を奪う? それで?」
「……私があの方と見えるための障害は、消えて失せるというわけです!」
豊穣の大地にて無尽蔵に増え続ける植物と、それを操り侵入者を阻む大天使。そのテリトリー内に竜との戦いで生まれた綻びを認め、ゆるゆるとした足取りで空を行く。
眼下から伸び来るツタや葉は食虫植物のように伽藍を捉えようと迫るが、地と風と、樹々にまで増幅した魔力を巡らせる小柄な|人形《僵尸》を捉えることは出来ずにいた。
「さんそ? どく?」
すんでのところでひらり、ふわりとその矛先を躱しながら進む、我楽多の空中散歩はやがてその終着点へとたどり着き。
「命を奪う? それで?」
「なるほど……あなたは、すでに呼吸を必要としない躰なのですね」
「ええ、そうよ?」
今一度問うた伽藍に、真面目くさった表情で答えるエンケロニエル。伽藍は表情を変えぬままこくりとうなずきを返し、
「わたし、がらんどう。元から命無き我楽多から? それで如何に命を奪うと?」
三度、大天使へとその是非を問うた。
「命とは、その生命を使い何を為すか……あなたがすでに呼吸すら止めているのならば、その躰を粉々に打ち砕いて何一つ成し得ぬガラクタにして差し上げましょう!」
伽藍が大森林へと浸透させ、循環させていた薄い魔力の膜が排撃される。
本来の主である大天使の権能によって、支配下の植物群が活性化していく。
蓄えた天使核より供給されるエネルギーさえあれば、その緑の生命は繁栄するのだ――たとえ日は差さずとも。
「あなたたち猟兵がいかに精強といえど、この私の領域でその力が十全に発揮できるなどと思い上がらないことです! ましてや、あなたのような幼いものが……」
無限に増殖する植物怪獣たちが幹をムチのごとくしならせ、ツタを伸ばして伽藍を捕らえにかかる。その植物の一体一体とて決して弱敵などではなく、猟兵を相手取って十分『勝負』が成立する戦力だ。
エンケロニエルはそうして懐へ呼び込んだ幼き猟兵を全周囲からの一斉攻撃にて屠り、反攻の狼煙とすることを目論んでいるようだった。
それはあるいは、7歳の少女に過ぎない、人形のような伽藍の見た目を侮ってのものだったのかもしれないが……。
「あーあ……、そりゃ悪手だぜゼぇ?」
遥か後方から戦場を窺う竜の、猟兵たちとの幾度もの戦いで散々な目にも遭っているスーパーカオスドラゴンの、憐れむような独白を彼女たちが聞くことはなかったが。
「――偉大なる鉄人の名に於いて! ぐらびとーん」
「!? な、あぁ……っ!?」
緑の波に呑まれるかと思われたその時、人形の腹部から、リミッターを解除した高出力の重力子反応が発生した。そうして伽藍のおなかから発射された『ブラックホール』は向かってきた膨大な植物群を吸い込み更に質量を肥大させながら、エンケロニエルを目指して突き進んでいった。
「なんて、出鱈目、な……っくぅ……うぁあああああああ……っ!!」
光が、歪む。
空間すら歪む。
単純にして、重い重い、一撃。
「な、るほど……」
最後の砦とも言える天使核の乙女たちに護られながらも、浅くない傷を負った躰でエンケロニエルが呟く。
周辺の地形諸共、樹々を巻き込み崩壊させしめた重力の力場が解けた時、エンケロニエルを護る植物たちは原型なきガラクタとなり骸を晒していた。
そうした犠牲を払って、大天使はようやく理解していた。猟兵の力量は恐らく、その外見や一時的な観測程度では容易く推し量れるものではないのだと。
「……たとえ群体で最強であれど、単体ならば――と。私にもまだどこか慢心があったのでしょう。幼き猟兵よ、これより先は私も全身全霊を持ってお相手いたしましょう」
そんな風に真剣な表情で伽藍へと呼びかける大天使に、がらんどうはほんの少し、ふわりと微笑み首を横に振る。
そうして、六腕の美しき少女の造形は小さな唇を割って、歌うように告げた。
わたし おにんぎょう
猟兵の、愛玩人形
だから これっぽっち
まさに児戯。お情けの末席
からすがないたら さようなら
帰ろう帰ろう、疾く速く――
「……。 えっ……???」
かつての3rdKING――『大天使』エンケロニエルが、その言葉に絶句する。
末席? 愛玩人形? この少女はいったい、なにをいっているの?
脳に響く言葉の意味は正しく分かれども、精神が理解を拒む。
……ああ、だけど、彼女は言っていたではないか。自らを指して命無き『がらんどう』の『我楽多』だと。だとしたら、猟兵というのは一体どれほど非情で、化け物じみた恐ろしい存在なのだろう……。
もたもたしてたら しかられる
前座の出番は、これまでだ
「叱られる……ですって? ……お、お待ちなさい!」
呼び止めようとする大天使に背を向け、言うだけ言って、落ち着き払ってさっさと帰っていく伽藍。
振り返ることなく離脱していくがらんどうは、だから気づくことはなかった。
かの殺戮女王、エンジェル狩りを行う謎めいた帝国『コルディリネ』の支配者――『大天使』エンケロニエルが浮かべる表情に、隠しきれぬ怯えが滲んでいたことに。
大成功
🔵🔵🔵
バルタン・ノーヴェ
POW アドリブ連携歓迎!
HAHAHA!
これがスーパーカオスドラゴン殿の混沌なる叡智であります!
7thKINGである猟兵すらも手のひらでダンスダンス!
流石デース!
おっと、高濃度の酸素や植物毒が満ちているので、対処せねば。
こちらのトウモロコシでありますが……メガリス『フローラの鉢植』で育てた逸品!
これを食べることで!「六式武装展開、木の番!」
三分間行動力と攻撃力が3倍になりマース!
呼吸を止めて180秒の間、やりたい放題させていただきマース!
(実際にそれだけ息を止められるかは不明。ハッタリです)
ということで口をチャックして……スーパーカオスドラゴン殿の上から火炎放射器を展開。
レッツ放火開始デース!
●呼吸を止めて
「HAHAHA! これがスーパーカオスドラゴン殿の混沌なる叡智であります!」
|バルタン・ノーヴェ《雇われバトルサイボーグメイド》さんはいつものハイテンションな調子で、スーパーカオスドラゴンさんが作り出したエンケロニエルへの道を進みます。
「7thKINGである猟兵すらも手のひらでダンスダンス! 流石デース!」
「ゲヒャッ? オレサマ……また何かやっちゃいました……だゼぇ?」
そんな風に無闇矢鱈と高評価されて、道端で世界樹の若木ちゃんをムシャムシャしていたスーパーカオスドラゴンさんが不思議そうに首を傾げました。
「Oh! スーパーカオスドラゴン殿! 流石の健啖家ぶりでありマスな」
「ゲヒャ〜ヒャッヒャッヒャ!! ビタミンと食物繊維が豊富だゼぇ〜!?」
そうはいっても猛毒の大気に汚染されたフィールド。その発生源である植物たちをそんな風にモリモリ食べて大丈夫なのでしょうか? 植物の本来の毒性って、捕食されないための生存戦略なのでは?
……いいえ、大丈夫なのです。トリカブトを食べても元気元気! それが、スーパーカオスドラゴンさんなのです(理不尽)!
「おっと、高濃度の酸素や植物毒が満ちているので、対処せねば」
とはいえ、大天使の自らを護るために作り出した守護領域に踏み入るならば、たとえ猟兵であっても長時間留まることは自殺行為となってしまうでしょう。
そこで、対策としてバルタンさんが取り出したのは――トウモロコシでした。
「げひゃ〜! ヤッター!! トンモコロシだゼぇ〜!?」
「フフフ。こちらのトウモロコシでありますが……メガリス『フローラの鉢植』で育てた逸品! そしてこれを食べることで!」
翠の竜とメイドが、謎のテンションで盛り上がります。植物たちから向精神物質でも出てるのでしょうか? ……いいえ、大体こんな感じが素のテンションなのです。
「行きマスヨー!! ――六式武装展開、木の番!」
甘いトウモロコシをムシャムシャしながら起動した【|楽花流粋《ランニング・ベジタリアン》】のユーベルコード。それはバルタンさんの行動・攻撃の威力を3分間3倍にするものでした。
「これにて3分間行動力と攻撃力が3倍になりマース! 呼吸を止めて180秒の間、やりたい放題させていただきマース!(強引)」
「トウモロ……ええぇ……?」
そうしてずんどこ進んでいくバルタンさん。遠目から警戒しいしい様子を伺っていたエンケロニエルさんも、これにはちょっと困惑しています。
バルタンさんとしても、実際にそれだけ息を止められるかは不明なのですが……。
「なるほど……私の領域が『呼吸するなかれ』というのならば、実際に呼吸をしないと。……なるほど? 単純な力技ですが、あなたはそれで戦えるというのですね?」
「|ザッツライト《その通り》! 3分間だけ遊んであげマース!」
――ハッタリ成功デース! エンケロニエル殿は、割となんでも真に受けてしまう駄天使さんだったようデスネー。
などと、割とひどいことを考えながらスーパーカオスドラゴンさんの背にひょいと飛び乗ると、スーパーカオスウイングは空を飛び、かつての3rdKING――『大天使』エンケロニエルさんへと急接近していきます。
「アナタが植物を操り世界に仇なすというナラバ! ワタシも植物の力を借りてアナタと戦うまでデース!!」
「っ……! KINGの余裕、というわけですか……たしかに、トウモロコシほど人類に貢献した植物は数少ないでしょうが……」
太陽の光をさんさんと浴びて育ったトウモロコシの美味しさは折り紙付き。エンケロニエルさんも心なし物欲しそうにバルタンさんを見ていますが……あげません!!!
「ということで、レッツ放火開始デース! ヒャッハー!! オゾンで消毒デース!」
「ゲヒャ〜ヒャッヒャッヒャ!!! 焼けて、食べやすくなっちまいナぁー!!!」
大天使のユーベルコード【進化を拒むものを皆殺しにする酸素毒】の領域でお口をチャックして……ときどきチャックを開いて元気に宣言しながら。
バルタンさんはスーパーカオスドラゴンさんの上から火炎放射器を展開し、植物の大群諸共エンケロニエルさんを超高熱の炎の奔流で飲み込んでいくのでした。
「くっ、なんて乱暴な……」
「HAHAHA! 魔界随一の乱暴者の名は伊達ではないのデース!」
まるで世紀末ヒャッハーなムーブをかますバルタンさんに非難じみた視線を向けるエンケロニエルさん。バルタンさんはすっかり死に設定になっていそうなスーパーカオスドラゴンさんの渾名を叫びますが。
「ゲヒャ〜……!! 猟兵には敵う気があんまりしないゼぇ(素)」
「No! それは言わないお約束デース!」
そんなこんなで3分が経過して。
わちゃわちゃと賑やかなやり取りをしていた竜とメイドが飛び去っていった後。
「……そうなのですね。今の魔界はきっと」
焼け落ちた眷属たちの屍と、もうもうと立ち込める黒煙と、未だ消えやらぬ灼熱の炎が吐き出す熱波にあぶられながら。
かつての大天使はどこか眩しげに目を細め、その後ろ姿を見送っていたのでした。
大成功
🔵🔵🔵
アポリト・アペルピシア
ククク、汝がエンケロニエル…かつての3rdKINGだな?はじめまして
このような異郷で過去のKINGに見えるとは光栄の極み
しかし我が敵として立ちはだかるならば、何者であろうと容赦はせん!
ときに3rdKING殿…火は何故燃えるかご存知か?
そう、酸素があるからよ!
此処はもはや毒となる程に酸素が濃い…となれば、炎の勢いも尋常ではなかろう!
まして鬱陶しい雑草を焼き払うなど造作もないよなあ!
そう言いながら、爆炎を上げて襲いかかる「ほんの小さな火」を見舞ってやろう
ククク…今のはほんの火遊び程度だったが…果たして我が力に耐える事ができるかな?
(まあ、実のところ魔力の炎ゆえ酸素濃度とか関係ないのだがな…)
●絶望と共に
卵にも似た球体に、蝙蝠のような羽根。
本体から独立して浮かぶ、逞しい両腕。
王者の風格を備えた、天を衝く二本の角と……そして何よりもその特徴たるのは、禍々しい光を宿すその単眼であろう。
そこに在ったのはひと度その目に睨まれればいかなる極悪人も泣いて命乞いするという、真に邪悪なる存在……。
「ククク……まさか汝が3rdだったとはな。このような異郷で過去のKINGに見えるとは光栄の極みよ」
「……|7thKING《現王》たるあなた方にそう言っていただけるとは、痛み入りますわ」
悪徳と混沌の権化のような魔王、|アポリト・アペルピシア《魔王アポリト》がかつての先達――3rdKING『堕天使』エンケロニエルだった者を前に邪悪な笑みを浮かべ、慇懃な言葉を投げかけていた。
まぁ、実際はデビルキングワールドの典型的な一般ラスボスで、めちゃくちゃ良い子だから周囲の期待に答えるために巨悪ぶっているというオチなのだが……。
スーパーカオスドラゴンの機転と先に仕掛けた猟兵たちの活躍により、すでに|7thKING《猟兵たち》は色んな意味でヤバい集団認定されつつあるようだった。エンケロニエルの態度も一線引いた、緊張混じりの硬いもの。
そこへアポリトが瞬きもせず、決して大きくはなくとも迫力ある声で凄んで見せる。
「しかし敵となり立ちはだかるならば、何者であろうと容赦はせん! ときに3rdKING殿……火は何故燃えるかご存知か?」
「っ……! 燃焼の化学式、ですか。要は、酸化現象のことを仰りたいのでしょう?」
植物ときて火を思い浮かべる猟兵はそれなりにいるようで、すでにちょっと焦げたエンケロニエルが眉を顰めて吐き捨てる。
「そう、火が燃え盛るのはそこに酸素があるからよ! もはや毒となる程に酸素が濃ければ、火の勢いも尋常ではない。まして雑草を焼き払うなど造作もないよなあ!」
植物体を構成する|炭水化物《セルロース》は燃焼により熱エネルギーを出すと共に二酸化炭素と水に変化して安定する。この時、酸素濃度が高ければ高いほど、化学反応も促進されやすいのだ。
(まあ、実のところ魔力の炎ゆえ酸素濃度とか関係ないのだがな)
とも思うアポリトだったが、そこら辺は真面目に考えすぎると頭痛が痛くなる世界。エンケロニエルの言う酸素も魔力の酸素な気もするので、魔力の調子(?)次第で反応したりしなかったりするのだろう。
「止めておきなさい。燃え盛る植物とて、すぐに動きを止めるわけではないのです。あなた達がこれ以上容易く火を扱うならば、いずれは己の身をも焼き焦がすでしょう」
「クックックッ……我がそのような間抜けだとでも? それに、汝らを焼き尽くすにはこの程度の火で充分よ……」
エンケロニエルは『これ以上火を使うならば自爆覚悟で巻き添えにしてやる』ということを暗に伝えてくるが、それは無意味な脅し文句。なぜなら、アポリトの操るユーベルコードの炎は、延焼分を含め彼女自身の意志でいつでも任意に消去可能だった。
そうして【|ほんの小さな火《ボリーダ》】は躊躇なく放たれ、一見すると小さな火の玉が吸い込まれるような軌跡を描いてスルスルと大天使へ迫った。
「くっ……護りなさい、パラボラス《向日葵怪獣》! そうして、火を帯びたのならば彼の者をその炎の中に巻き込むのです」
大天使配下の植物怪獣が身を挺してエンケロニエルをかばう。ほんの小さな火に籠められた魔力の濃度からしてそのまま受けるのは危険と判断したのだろう。
『!? ――〜〜……!!!』
――着弾。
全てを焼き尽くすほどの濃密な魔力を秘めた炎弾は一瞬で植物怪獣の本体部分を炭化させ、そのまま風穴を開けて貫通していった。燻るような煙の発生にほんの一拍だけ遅れて、赤熱した着弾点を中心に超高熱の爆炎に包まれた植物怪獣が藻掻きながら焼け落ちていく。
警戒をしていた大天使はすんでのところで抜けてきた炎弾の直撃を躱してはいたが、爆発的に膨らんだ爆炎と熱波の影響からは逃れられずに、白い肌には痛々しい火傷の痕が残されていた。
「はぁ、はぁ……何という炎。何という緻密な魔力制御……ですが、すでに見切りま」
「クックック、慌てるでない。今のはほんの火遊び程度だった……が、果たして力を解放した我が火力に耐える事ができるかな?」
「……あれが、火遊び程度ですって? ……そんな……そんな馬鹿、な、こと……」
延焼により炎に巻かれた植物のツタや植物怪獣らがアポリトを巻き込もうと進むが、その炎は彼女を害することはなく立ち消えていく。残されたのはただただ、焼け落ちた植物たちの死屍累々。
「くぅっ、どうして、こうも私の使命を阻みますか、7thKING――猟兵よ!」
「さてな? あるいは3rdKINGであったころの汝であれば理解できたのかもしれぬ」
立ちはだかる壁は厚く、大天使は自らの命運が燃え落ちていくのを、絶望的な目で眺めていることしか出来なかった。
大成功
🔵🔵🔵
ユニ・バンディッド
(確かSPDは若き世界樹……もっとえっちなほうだったー!)
こそっと裏話はさておき!
自慢の視力で敵の動きを盗み、先読みの回避スタイル。
スピード勝負だね!本物を偽物に貶めるのもまた贋作の悪魔の所業【ネームド・スティール】。
「植物」を対象に排出する植物毒や濃い酸素、瑞々しさ、アレコレ盗って朽ちた植物に。同じ植物とは思えないぐらいに真っ赤な偽物にしちゃえ。
素早く4回攻撃の全てで盗れば偽物判定という名の死に、追い打ちの領域判定!。同名の対象(分類名「植物」)はみんな道連れ。領域内の植物を一気に偽物と変えて、朽ちさせるよ。
えへへ、強力な除草剤だと思う?ホントに?天使核も老女に変えちゃおっかー。
●終末を告げる天使の暴走
「なんてこと……!」
これが大天使エンケロニエルの『本気』だとでもいうのでしょうか。かつてないほどの脅威に|ユニ・バンディッド《贋作の悪魔》さんが焦りの表情を浮かべ、震える声で呟きます。
エンケロニエルさんとの戦いもいよいよ佳境かと思われたその時、大天使の戦いぶりにはある異変が発生していました。
もともと彼女の経験上、自分にとってこの場で障害となるのは『世界樹の若木』の可能性が高いと考えていたのですが――。
「……もっとえっちなほうだったー!」
そう、エンケロニエルさん(全裸)はとうとう|最後の護り《天使核の乙女》をキャストオフ。
かろうじて大事なポイントをジャストガードしていた天使核たちは巨大化し、猟兵たちへ最後の抵抗を仕掛たのです!
つまり、エンケロニエルさんはいよいよ本格的に全裸になりました。
それはまさに【|終末を告げる天使の暴走《おわりのはじまり》】と呼ぶにふさわしい光景でした……色んな意味で。
「嬢ちゃん大丈夫だゼぇ! 黙ってたけど実はオレサマも全裸なんだゼぇー!?」
「だからなにーっ!?」
かねてから全裸耐性もあったスーパーカオスドラゴンさんが、すかさずフォローしてくれますが……なにも安心できません!
「わからないのですか? 竜は全裸はちっとも恥ずかしくないことだと、その身を以てあなたに教えてくれているのですよ」
「いらないよ! よけいなお世話だよ!」
いまや混じりけなしの純粋な全裸となった大天使が既存の常識に囚われた悪魔を哀れみの目で見ます。意味がわかりません。
「うぅ、肌色が……肌色がぁ〜」
自慢の視力がまさかこうして自分の首を絞めることになろうとは……。
生まれたての姿を隠すことないエンケロニエルさんから、しかし迂闊に視線を外してしまうのも危険です。かくして、突然の強制ストリップショーを見せられる羽目になったユニさんなのでした。
●昔日の残影
「こうなったらスピード勝負だね! とにかく、さっさとやっつけないと……!」
贋作の悪魔のシーフにして盗賊魔術を修める魔界盗賊の少女は決意します。
ですが、追い剥ぎでも『身ぐるみ置いてけば命だけは〜』と言ったりするもの。最初から身ぐるみ一つなくなっている相手にナニを盗れば良いというのでしょう。
――と思いきや。
「げひゃ〜!? 苗木ちゃんの鮮度がワルくなったんだゼぇ! これを作ったのはだれだゼぇ!? 女将を呼べだゼぇー!」
「……なんですって?」
キャストオフした天使核からエネルギーの供給が滞りはじめた影響でしょうか、若木になる前の世界樹の苗木までムシャムシャしていたスーパーカオスドラゴンさんが、その鮮度の悪さにオコのようです。
「ふっふっふ……」
「!? ……まさか、あなたが……っ! 私の植物たちに何をしたのです!?」
気づけば新旧のデビルキングが戦う戦場にて、『大天使』エンケロニエルが治める楽園にて、あれほど栄えていた植物たちは枯れて朽ちはじめていました。
「えへへ、強力な除草剤……だと思う?」
それは本物を偽物に貶める『贋作の悪魔』の所業。
ユニさんの【ネームド・スティール】のユーベルコードは世界樹の若木からその瑞々しさを盗み取り、朽ちた植物へと変えてしまったのです。
更に、このユーベルコードの恐ろしさは呪いのように『同名の対象』をも道連れにする権能を宿しているところでした。それは原初の呪術――類似したもの同士は互いに影響しあうという類感呪術のように、同じ世界樹の若木や植物をも死の淵へと追い落としていったのです。
(まぁ、流石に腐っても世界樹候補なだけのことはあったみたいだけど、スーパーカオスドラゴンさんにも散々にやられかけちゃってたからね~)
魔術の触媒としても最高峰の素材になり得る世界樹の若木は、魔法的な抵抗力も相応に高いレベルにありましたが――意識の大半を他に割いている相手の盲点から概念を掠めとるのは、盗賊魔術の使い手であるユニさんにとってはそれほど難しくなかったようです。
「……さあて。それじゃその暴れてる天使核も老女に変えちゃおっかー」
「時間操作? 精気吸収? ……いえ、いずれにせよ、これ以上はやらせません!」
エンケロニエルさんが命じ、3体の天使核の乙女たちが朽ちていく植物諸共、ユニさんを薙ぎ払おうと迫り――。
「あっ」
「え?」
「――ゲヒャッ」
一足早くその広範囲無差別攻撃の巻き添えになったスーパーカオスドラゴンさんが、うっかり乙りました。きっと食べ過ぎておなかが重くなっていたのでしょう。
「げ、げひゃ~っ!!????」
ラスボスらしい断末魔をあげ、爆発するスーパーカオスドラゴンさん。各所で派手な爆発が連鎖していきます。いつものこととはいえ、爆発オチなんて最低です。
「えっ?????」
アレだけ植物軍団を苦しめていた竜の軍勢の、馬鹿馬鹿しいほど呆気ない幕切れ。思わず目を疑うエンケロニエルさんに向け、ユニさんが目ざとく疾駆しました。
「――心囀る|一度《ひとたび》の違和感。|二度《ふたたび》の疑心。|三度《みたび》の確信。|四度《よたび》の烙印」
近接の間合いに踏み込んでの連撃。錬成したダガーを使い捨て、既にその身を守るものを何一つ纏わぬ大天使の白い肌を切り裂きます。
そうして同時に放たれる盗賊魔術は、一撃ごとにエンケロニエルを大天使足らしめている要因を、その概念ごと盗み取っていきました。
「その名に偽りあり。……キミみたいなのが天使なわけないもんね」
「なるほど……質料ではなく形相にまで干渉する魔術……といったところですか」
自らを死へと導く悪魔の手を、エンケロニエルさんは諦観の目で見ていました。
やがて大天使ではなく、堕天使でさえなくなった『ただのエンケロニエル』は天から真っ逆さまに堕ちていきました。はじめから、翼なんて無かったかのように。
『~~……!!』
巨大な姿に変じた天使核の乙女たちが手を伸ばし主を救おうとするも、彼女たち自身もすでに翼を失い、天使であった頃の形を保ってはいませんでした。
当然その手が主の身に届くことはなく、水袋で地面を叩いたような音がして、
「ああ……そうか。私は、初めから『|贋作《ニセモノ》』に過ぎなかったのですね……」
遍く世界を照らすべく光輝いていた光輪の輝きも消え失せ、後に残されたのは――地に投げ落とされ、もはや死を待つだけの老女でした。
その傍らに降り立ち、ひとりぽつんと立って、ユニさんが尋ねます。
「……ねぇ。偽物の先輩。キミが天使たちを攫って、天使核を作って植物怪獣たちを生み出して……そうして会わなければならなかったアルカディアって、何なのさ?」
「教えて……あげません。偽物の言葉などより、ご自分の目で確かめなさい」
植物たちも焼け落ち、あるいは枯れ果てた、荒涼とした硬い地面の上。エンケロニエルさんはなぜだか笑っていました。
「可愛い後輩の頼みを無碍にする……どうです? ふふ……中々の……ワルではありませんか……?」
「うーん、まぁまぁかな? でもさ、ガチデビルはもういないから、無理してまでワルぶらなくたって良くなったみたいだよ」
「ああ……そうでしたか。ならば、おめでとうございますって……祝って……差し上げましょう……」
「うん? ……ありがと」
きょとんとするユニさんに一つ頷いて、何が可笑しいのか微笑んだ表情のまま、エンケロニエルさんは|再び《二度目の》息を引き取りました。
「何か……変なひとだったね?」
「ゲヒャ~ヒャッヒャッヒャ!! そりゃデビルキングになるようなひとですから……だゼぇ!」
「それって、遠回しにボクたちのことも変なヤツって言ってる?」
「ゲ……ゲヒャ~ヒャッヒャッヒャ!!」
ちょっとジト目になりながら見上げるユニさんには答えず、スーパーカオスドラゴンさんはエンケロニエルさんの亡骸を|渾沌の炎《カオスフレイム》で包み、燃やし尽くしてしまいました。
――こうして、|昔日《在りし日》の3rdKING『堕天使エンケロニエル』との戦いは幕を閉じ。
猟兵たちは彼女の目指したその先――アルカディアの玉座へと、一歩ずつ、着実に歩を進めていくのでした。
大成功
🔵🔵🔵