花と散れ、御衣黄桜〜帝都花月心中〜
月夜の遊園地にて、一隻の飛行船が飛び立った。
客室の窓から、わぁとはしゃいで帝都の灯りを一望するのは可憐で年若い、華族の少女。数人の側仕えの者に囲まれ船旅を楽しむ彼女を見守るのは、護衛の學徒兵たちだ。
「お前は、護衛の任は初めてだったか」
「問題ない。|巡回《パトロヲル》だろうが護衛だろうが、僕ら學徒兵は任務を遂行するだけだ」
「相変わらず真面目だな、|御衣黄《ぎょいこう》は」
學徒兵の中でも小柄で細身の中性的な少年は御衣黄と呼ばれ、淡黄の花弁を纏いながらも凛と護るべき少女を見据えている。
――真に狙われているのが、己だとは知らぬまま。
ふわりと、花の香が仄かに泳ぐ――。
●
「皇族ッてのは案外、身近にいるモンなのかもな」
――いてたまるか。
そんな猟兵たちの視線を軽く受け流し、明・金時(アカシヤ・f36638)は続く言葉を紡ぐだけ。
「サクラミラージュの皇族殺人事件。少し前からあったろ。今回もそんな手合でな」
遊園地の飛行船に、華族の護衛として乗り合わせた學徒兵の少年――に扮した皇族の少女が、影朧の凶刃に斃れるのだと。
不死である筈の皇族が、何故そのような末路を辿るのかは、未だに解らない。しかし、人命に関わる影朧事件であることに、変わりはないのも事実。
猟兵たちにはこれを阻止し、犯人である影朧を倒し――可能であれば救って欲しい、と。
「まずは先に話を通しておくのがいいだろうな。飛行船に同乗して、面会を取り付けるところまでは俺が何とかするからよ」
超弩級戦力の権限を使えば、強引にではあるがその辺りは問題なく突破できると言う。些か力技ではあるが、人命第一である。任せていいだろう。
さて、御衣黄と呼ばれる彼女はその名の通りに煌めく御衣黄桜を纏い、髪と瞳は淡い金で彩られた中性的な美少年――実際には少女なのだが――であるため、客室がそう広くはないことも手伝って、発見は容易にできそうだ。
ここで猟兵たちも事情を知らぬ學徒兵や乗組員、或いは乗客としての華族に扮して情報を集めるのがよいだろう。
御衣黄本人に相談を持ちかけてもいいだろうが、かなり気難しい性格であると言う。多少なりと打ち解けられれば戦闘時の支援も期待できるが、その辺りをどこまでするかは任せると金時は言う。
いずれにせよ、早い段階で情報を集めておくことで、襲撃の備えになるだろう。
「ただ油断はするなよ。犯人は自分が追い詰められたと見るや、最後の抵抗として何か罠を仕掛けてくる可能性が高い。何が起きてもいいように、調査中も警戒して事に当たってくれ」
それを打開できれば、犯人と対峙することができるだろう。
犯人もまた哀れな影朧――できることなら救済を。
叶わぬならば、討伐を。
●
「解らねェことだらけだよ。男として生きる理由も、學徒兵として戦う理由も。果ては恨みを買った理由も――けどな、」
皇族であろうとなかろうと、影朧によって失われる命が出るのなら、止められるのは猟兵しかいない。
「信じてるぜ。お前らなら、何とかしてくれるッてな」
その掌で、|フヰルム《グリモア》が回る。
絵琥れあ
お世話になっております、絵琥れあと申します。
人物像は浮かんでいたけれど、出すかはかなり迷った皇族。
この度、命を狙われることと相成りました。救ってやっていただければ、幸い。
流れと詳細は以下の通りになります。
第1章:日常『容疑者を探せ』
第2章:冒険『容疑者最後の罠』
第3章:ボス戦『???』
第1章では、人間に扮して皇族を狙う影朧の正体を突き止めるべく、情報を集めていただきます。
影朧はかなり用心深いため、猟兵としてではなく、こちらも乗船していて不自然ではない立場の者に扮する必要があるでしょう。
また、御衣黄本人と会話をすることも可能です。性格や対話の傾向に関しては後述。
第2章では、自身の正体が発覚することを危ぶんだ影朧による最後の抵抗として、飛行船内に張り巡らされる死の罠を打開していただきます。
なお、前章で御衣黄からある程度の信を得、この章でも彼女に親身に接した猟兵が一人でもいた場合、彼女は次章で支援を行ってくれます。
罠についての詳細は断章で改めて説明させていただきます。
第3章では、遂に姿を現した影朧との決戦となります。
が、現時点でその正体は判明しておらず、詳細な情報は開示されておりません。
花を操り、花弁から炎や毒を生じさせて戦うことを得意とする相手のようですが……?
御衣黄について、もう少し。
高潔だけれど、気難しくて皮肉屋な桜の精。
支援を得られれば、ルナティック・マグネタイトに似た攻撃手段と、ラブマックスルナに似た治療手段を用います。
(但し今回は互いの攻撃力上昇は起こらないものと考えていただければ幸いです。詳細な発動条件も不明です)
対話については挨拶や、犯人の特定に必要と判断したことは喋りますが、余計なことと判断すれば口を閉ざしてしまう模様。
もしも踏み込むのであれば、ある程度の信を得る必要がございます。
また、皇族の中では年若く、齢百を迎えて間もない模様。
そんな彼女が買った恨みとは、これ如何に。
第1章開始前に、断章を執筆予定です。
戦闘パートの地形などの追加情報も、断章での描写という形で公開させていただきます。
断章公開後、プレイング受付開始日をタグにて告知させていただきますので、ご縁がありましたらどうぞよろしくお願いいたします。
第1章 日常
『容疑者を探せ』
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POW : 乗り物内をくまなく歩き回り、怪しい人物を探す
SPD : 目星をつけた人物の持ち物を掠め取り、証拠品を探す
WIZ : 人々の会話に耳を澄まし、違和感のある部分を探す
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
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月夜の遊園地にて、一隻の飛行船が飛び立った――観測された未来よりも、多くの乗客を乗せて。
御衣黄と、その護衛対象とされる華族の少女のいる客室は、ある程度の地位ある客のための特別室のようで、御衣黄以外の二人の學徒兵が、扉の前で番をしていた。
より気さくな方の學徒兵の言うところによると、少女が御衣黄を気に入り、傍に置きたいと言い出したため、御衣黄は中で待機していると言う。
派遣された超弩級戦力であることを伝え、中へ通して貰う。くるりと甘い香りと共に可憐な少女が猟兵たちを見た。
あなた方が追加の警備の方ね、とほわり微笑む。世間知らずそうだが純で愛らしい、金木犀を咲かせた少女だった。怪奇人間、だろうか。傍には身なりの良い、家令らしき初老の男性が控えている。
表向きには彼女の護衛、それも不審者がいるかも知れないとの噂があった程度の、当たり障りのない理由を伝えてある。超弩級戦力の言うことだからと受け入れられたのだろう。さて、真の護衛対象は――いた。
部屋の隅に、冷徹な眼差しを猟兵たちに向ける學徒兵の少年がいた。御衣黄桜を纏うその姿は間違いない。
彼――否、彼女が、影朧に狙われた皇族だ。
話は通っている筈だが、彼女はついと『自らの』護衛対象へと視線を戻してしまった。話すのであれば部屋の隅で、声を潜める形になりそうだ。何処かへ連れ出すなら、本人と少女の両方が納得する理由、もしくは渋られない手段が要るだろう。
客室以外には、前方から操縦室、一般客用の客室と並んでいて、この特別室は一般の客室の更に後方に位置している形だ。最後尾には此処とは防音壁で隔てられたエンジン室もあるが、外部からしか出入りできないため、確認は必要なさそうだ。
一般の客室には、カップルが一組、両親と子供の三人の家族連れが一組。華族の少女に連れられてきた下男と下女の二人組も、今は此処に出ているようだ。
操縦室には、操縦士と副操縦士が一人ずつ。操縦を中断することはないが、超弩級戦力が相手であれば簡単な受け答えであればしてくれるだろう。
――さて、容疑者は必ずこの中にいる。
果たして猟兵たちは、真実へと辿り着けるのか――。
御園・桜花
今回も皇族の顔から今上帝の御尊顔の近似値を求め参加
(人もヒーローマスクな方もいらっしゃいましたけど。桜の精である方が圧倒的に多い気がします。もしや皇族とは、血縁ではないのでしょうか…事件すら、選別?)
「きゃぁ、すみません。ついうっかり」
乗客に扮する
よそ見して御衣黄にぶつかる態装う
御衣黄の服の汚れを払いなが御衣黄にだけチラッとチケット見せ耳元で小さく囁く
「影朧乗船。御身を守ります」
「どうもすみませんでした。巡回頑張って下さいね」
にこやかに会釈し離れながらUC「蜜蜂の召喚」
気付かれないよう華族の姫と御衣黄に
残りの蜂はブリッジや機関部、トイレの道具入れやゴミ箱確認
自分は窓の外観察装い蜜蜂達の情報統合
●
「きゃぁ、すみません。ついうっかり」
迷い込み、きょろりと周囲を見渡していた乗客の女性が、御衣黄へとぶつかる。御衣黄は、表情を崩すことなくそれを受け止めた。
その顔を、乗客――に扮した御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は、不躾にならない程度に、しかししっかりとその瞳に、脳裏に焼きつけた。
確かに整ってはいるが、男性と言われたら男性、女性と言われたら女性と取れそうな中性的な顔立ちをしている。背丈は桜花より気持ち小柄だ。そして、頭部には桜花とは違う、緑掛かった淡い黄色の花弁。
(「人もヒーローマスクな方もいらっしゃいましたけど。桜の精である方が圧倒的に多い気がします」)
実は今上帝の御尊顔の近似値を求め、皇族の顔立ちを記憶することも目的としてこの任務を引き受けた桜花である。そして御衣黄を含め、様々な皇族と出会い、抱いた所感がそれだった。
(「もしや皇族とは、血縁ではないのでしょうか……事件すら、選別?」)
単に桜の精がこの世界由来の種族だからか。或いは――他にも気になる点は色々とある。
が、現在進行形で遂行中の任務も勿論忘れてはいない。
御衣黄の服の汚れを払いながら、彼女の目にのみ触れるようにちらつかせたチケット。一瞬だけ、色素の薄い金の瞳が僅かに見開かれた。
「影朧乗船。御身を守ります」
「――不本意だが状況は把握した。対象は任せる」
耳元で囁くように告げれば、そう小さく返された。
不本意、というのは自身が護られることに対してであるように思えた。だが、堪えて貰うしかない。
「どうもすみませんでした。巡回頑張って下さいね」
にこやかに会釈し、身を離す。
――同時に、極めて小さく視界に捉えにくい存在である蜜蜂を、御衣黄の背中と、華族の少女の服の裾へと忍ばせた。微かな羽音は掛けた声に紛れさせた。
他にも、ブリッジや機関部、道具入れやゴミ箱に至るまでをくまなく偵察に向かわせる。何処に何が隠れて、或いは隠されているか解らない以上、入念に調べるに越したことはない。
桜花は一度、一般客用の客室へと戻る。窓から夜景を楽しむ体を装いながら、蜜蜂たちの情報を統合し、整理するのだった。
大成功
🔵🔵🔵
神臣・薙人
葛城さん(f35294)と
御衣黄様は學徒兵である事に
誇りを持っておられるのでしょうか
皇族の中ではお若い方でしたら
恨みを買う事も少ない気がしますが…
葛城さんとは一旦別行動
迷子になった従僕を装いましょう
一般の客室がある場所へ行き
下男下女の二人に接触します
恐れ入ります
一般客室はこちらで良かったでしょうか
お恥ずかしながら迷ってしまって…
会話中も不自然な点が無いか注意
不審な点があれば心に留めます
ところで特別室には
どのような方が?
興味を引かれた風に尋ね
受け答えの様子を見ます
会話は不自然にならない程度で切り上げ
他の乗客とも会話し
食い違い・不自然な点が無いか注意
全員と接触した後
葛城さんと合流
情報の共有をします
葛城・時人
神臣(f35429)と
護られるだけで居たくないようだ
女性である事の拒絶も感じるね
敵はだからこそ命を狙ってる
そう感じるよ
けど此処には猟兵が居る
影朧の好きにはさせない
神臣と目配せをして別れ部屋へ
一礼し金木犀の少女と従僕に挨拶
気付かれないよう様子を窺った上で
御衣黄と小声で話す
「任に当たり何か気になった事はない?」
生真面目な顔で聞く
この部屋に敵が居ても尻尾出さないだろうけど
だからこそ万一の段どり等を口にして
技能の情報検索を応用し
話題への空気感をサーチ
「誰が標的でも全力で護るよ。それが望みで本懐だ」
言い切り信頼を得られるよう最大限努力
観察終了後神臣に会いに出る
退出を喜ぶ空気の有無も視て
得た情報は外で共有
●
特別室からやや離れた飛行船内の廊下。
神臣・薙人(落花幻夢・f35429)と葛城・時人(光望護花・f35294)は目配せひとつ、それから、別々の方向へと歩き始める。
薙人が向かったのは、一般客用の客室。其処には、華族の少女に付き従い乗船したと言う、下男下女の姿もある。
「恐れ入ります。一般客室はこちらで良かったでしょうか」
迷子になった従僕という体で、声を掛ける。
予め特徴は聞いていた。柔和な面立ちの線の細い男と、透き通るような月白の髪と緋色の目をした女。
男は、力仕事――この場合はお土産などの荷物持ちだろうか――を任されることもあろう筈だが、それにしては線が細い気もする。女は恐らくアルビノで、今は夜とは言え、基礎的な体力もそうない筈だ。この二人が下男下女として華族に仕えているというのは、少々不自然な気もする。
とは言え、外見だけで判断するのも早計だ。薙人は慎重に、注意深く二人の動向を窺う。
「お恥ずかしながら迷ってしまって……」
「まあ、そうだったのですね。大丈夫、此処で合っていますよ」
下女がふわりと微笑む。下男もまた、人好きのしそうな笑みを浮かべて薙人を見ていた。
「ところで特別室にはどのような方が?」
興味を引かれた風にして尋ねれば、二人はにこやかに応じてくれる。
「あちらにいらっしゃるのは、向坂秋子様です」
「此処だけのお話なのですが……私達は秋子様に雇われて、この遊園地に来たのです」
下男、下女とそう教えてくれた。
二人が少女――秋子に仕えているのは知っていたから目新しい情報ではなかったが、そうだったのですか、と初耳を装っておく。
「私は見た目ほど虚弱ではありませんが、それでも日光には弱く……夜だからとは言え、それを知ってなお雇ってくださった秋子様には感謝の念に堪えません」
そう話す下女の言葉には確かに秋子への感謝の色が滲み出ていた。しかし同時に、引っかかることがあった。
(「……夜だから?」)
今日、この遊園地に同行させるためだけに雇われたのだろうか?
考えたが、それが何を意味するのかは今の薙人には解らなかった。
●
時人は改めて、特別室に控える御衣黄の姿をちらりと見遣る。
纏う空気は硬く、ともすれば少し緊張しているようにすら見えた。
(「護られるだけで居たくないようだ。女性である事の拒絶も感じるね」)
予知を聞いて、時人が強く感じたことがそれだ。
伝え聞くだけでも御衣黄の纏う張り詰めた空気が身を刺すようだった。それが恐らく、學徒兵としての責務であったり、己の性への負い目であったりするのだろう。
(「敵はだからこそ命を狙ってる……そう感じるよ」)
御衣黄の特異性。敵は其処に何か思うところがあるのではないかと、時人は感じているのだ。
例えば、女でありながら學徒兵など、とか。或いは、御衣黄が己の性を厭うようになった理由と何か関係があるとか。
だが、いずれにせよ。
(「けど此処には猟兵が居る。影朧の好きにはさせない」)
まずは、秋子――この時点で時人はその名前を知らないが――と、その家令に挨拶を。表向きは、彼女たちの護衛であるのだから。
それから御衣黄に倣って壁に控える風を装って、機を窺い御衣黄との対話を試みる。今はまだ、秋子と家令の潔白も証明できていないから、彼女たちにも気付かれない方がいい。
窓の外に目が向いたその瞬間に、時人は口を開いた。
「任に当たり何か気になった事はない?」
短く、それだけ。それでも誠意が伝わるよう、生真面目な顔を努めて。
御衣黄はちらと時人に視線を向け、それから少し考え込み、ぽつりと。
「……一般客席に出ている下男と下女は」
今、薙人が接触しているであろう二人。
「昨晩、今夜限りの従僕として雇われたらしい。秋子嬢の遊園地行きが決まったのが一昨日。本来同行する筈だった従僕たちが、体調を崩したのが昨日の朝だそうだ」
「……それは」
偶然で、片付けていいものなのだろうか。
もし、そうでなければ――『何処から』?
(「やっぱり怪しいのは|華族《あのこ》周りか……本人か従僕か、どっちにしてもこの部屋に敵が居ても尻尾は出さないだろうけど……」)
だからこそ万一の段どり等――考えられる罠への対処など――を、時人は口にした。
話題への空気感からも、情報は得られるものだから。
御衣黄は時折頷いていた。少し聞こえた、と言うより敢えて聞かせたのだが、秋子はきょとりとしていて、家令は相変わらず静かに佇んでいた。少なくとも動揺の気配は感じ取れない。
まだ気は抜けないが、一先ず此処を少し離れるくらいは大丈夫そうか。時人はそう判断して、最後に御衣黄へと向き直る。
「誰が標的でも全力で護るよ。それが望みで本懐だ」
躊躇いなく言い切る。少しでも信を得られるように。
御衣黄は何も言わなかったが、今度は正面から、じっと時人の瞳を見つめていた。
●
「俺が退出した事に、安堵の気配も感じられなかったな。断言はできないし未だに怪しさはあるけど、多分特別室の二人じゃない……と、思う」
「となると……下男か下女の可能性が高いですね。……言われてみれば……」
薙人が思い出したように語る。
下男の方はあっさりと、特別室にいるのが秋子だと明かした。幾ら今日限りの雇用主とは言え、少々不用心ではないだろうか。
(「しかし……御衣黄様は學徒兵である事に誇りを持っておられるのでしょうか。皇族の中ではお若い方でしたら尚更、そんな彼女が恨みを買う事も少ない気がしますが……」)
薙人の言う通りで、恨みを買うには――皇族基準でだが――御衣黄は若すぎる気もする。そして時人から実際に話を聞いて、後ろ暗いこともなさそうなのだ。
一体何が彼女を、追い詰めようとしているのだろうか。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鳴上・冬季
「身分を隠して桜學府に所属する方もがそこそこいるのは、やはり桜學府が大正帝直轄だからか。…面白い」
嗤う
「學徒兵の鳴上冬季と申します。姫様の警護とは命令系統が違いますが、同船いたしましたので挨拶に参りました。外のご用がありましたら、遠慮なくお申し出ください」
挨拶しながら小さく丸めた式神を御衣黄に指弾
『姫、守る。宮様、守る。呼べば、御前に』
式神が御衣黄にだけ聞こえる声で伝えたらまた小さく丸まり御衣黄のポケットへ
「それでは私も護衛を置いていきます…姫様を庇え、黄巾力士」
御衣黄が姫を庇わなくてすむよう命じて退出
一般部屋巡回
式神放ち
家族
カップル
下男達の会話聞く
会話の流れがおかしい者を特に式神で注視する
●
(「身分を隠して桜學府に所属する方もがそこそこいるのは、やはり桜學府が大正帝直轄だからか」)
思えば先日、同じように影朧から命を狙われていた皇族も、お忍びで學徒兵として活動しているのだったなと、鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)は一人納得していた。
「……面白い」
くつりと嗤って、動き出す。
特別室で待機する御衣黄の前へすいと進み出ると、彼女は冬季の視線を追って顔を上げた。冷ややかな無表情――に見えるが、少々緊張で強張っているようにも見える。
「學徒兵の鳴上冬季と申します。姫様の警護とは命令系統が違いますが、同船いたしましたので挨拶に参りました。外のご用がありましたら、遠慮なくお申し出ください」
そう、挨拶と共に冬季は何か小さなものを御衣黄に向けて指弾させた。それは小さく丸めた式神であり、一瞬のみ広がって御衣黄を見上げるような所作を見せた。
『姫、守る。宮様、守る。呼べば、御前に』
式神は御衣黄にのみ聞こえるように短く告げると、そのポケットの中へと潜り込んだ。御衣黄が静かに目を瞑る。どうやら彼女なりの認可の証らしい。
気難しいと聞いていたが、必要なことと判断した要求や申し出に対する聞き分けはいいようだ。
「それでは私も護衛を置いていきます……姫様を庇え、黄巾力士」
大柄な男程の身の丈の黄巾力士を秋子――冬季もまた現時点ではその名前を知らないのだが――の傍へと控えさせる。有事の際に御衣黄が彼女を庇い、自らが窮地に立たされることのないように。
不思議そうに、興味津々といった様子で黄巾力士へと目を向ける秋子の姿を認めて、冬季は一度特別室を辞した。
向かったのは一般客室。此処でも気取られぬよう式神を複数体放つと、その声を、会話を拾い上げてゆく。
家族連れ、カップル、下男下女――一通り、彼らの言葉に式神を通じて耳を傾けて。
(「……ふむ」)
含んだ嗤いをひとつ浮かべて。
下男と下女へと、式神たちの注視を傾ける。
やけに下男が下女の体調を気遣う発言をしている。下女は平気ですと笑っているが、それでもだ。
色素の薄い下女は儚げではあったが、顔色は悪くなかった。そのことが妙に引っかかり、更に式神を二人へと接近させた、その時。
――式神を通して、濃密な花の香りが冬季の鼻腔を突き抜けた。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『容疑者最後の罠』
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POW : 狙われた皇族を身を挺して守る
SPD : 仕掛けられた罠を発見し、解除する
WIZ : 焦った敵の残した痕跡から、正体を推理する
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
――ばたん。
猟兵たちの鼓膜を、何かが倒れる音が打ちつける。
音の源は、御衣黄のいる特別室からだ!
咄嗟に、偵察を放っていた猟兵たちがその五感を共有し、特別室の光景を、感覚を、己のものとする。
倒れたのは、華族の少女――秋子のようだった。猟兵が配置した黄巾力士がそれを助け起こし、家令がその口元にハンケチを当てている。
『ゴホ……ッ! ……ハッ、はァ……っ』
咳き込む声が聞こえる――御衣黄の声だ。
同時に、一般客室に残っていた猟兵がいたならば、傍近くからも咳き込む声が聞こえたことに気づくだろう。
「ケホッケホッ……」
「柚太郎!」
家族連れから悲鳴が上がる。
夫婦の子供らしい少年が、止まらぬ咳に苦悶の表情を浮かべている。彼を抱き締める母親も苦しそうだ。父親が二人を守ろうとしているようだが、打つ手がない様子だ。
カップルも同様に、男性が女性を守ろうとしているが、何にどう抗えばいいのか、解らない。
だが、猟兵たちは気づく――これは、毒だ。
船内に、毒が充満している!
そしてはたと見渡せば、いつの間にか下男下女の姿が見えなくなっている。偵察の『眼』によれば、子供に注目が集まった隙に抜け出したようだ。
それから先、何処に向かったのかは解らないが――この、漂う秋の花の香りを辿っていけば、追いつけるかも知れない。
しかし、気がかりなのは一般客室の乗客たち。何も処置を施さないまま敵と対峙し、その対処に長引いたなら、人命が失われてしまうかも知れない。
残された猟兵たちは、何を成すべきか――。
●
そして、特別室に向かった猟兵がいたならば。
まずは花と毒の満ちた廊下で、倒れている一人の學徒兵を見つけるだろう。
三人の中でリーダー格であった學徒兵で、倒れる音を聞きつけてもう一人の學徒兵が中に入った後、振り向きざまに何者かに二度、切り裂かれたと言う。その周囲には紫の花弁が散っていた。
傷の手当は自分でするからと中へ促す彼に従い特別室へと入ったならば、ぐったりとした秋子を介抱する家令と、もう一人の學徒兵の姿があった。後者は恐らく、御衣黄に追い払われたのだろう。
肝心の御衣黄は――やはり部屋の片隅で、膝を着いていた。呼吸は荒いが、咄嗟の判断で呼吸を抑えたのだろう。活動に支障はないようだ。
――影朧は、恐らくまだ自分に目的達成の目がある状態を保ったまま、御衣黄を引きずり出そうとしている。
当然、敵の目論見を成就させるわけには行かない――と、言いたいところだが。
御衣黄を敵の前に連れていけば、交渉によっては即座に毒を止めてくれるかも知れない。尤も、御衣黄に相応の危険が付き纏うが。
当然、御衣黄自身は渋るだろう。自分がどう、と言うよりあの状態の秋子を放っておけない。連れ出すならば説得は必須だ。
――だが。もし、一人。
葛城・時人(光望護花・f35294)が再び、彼女の前に立つのなら。
御衣黄は、自らその口を開き告げるだろう。
「連れて行け。敵の狙いは僕だろう」
立ち上がり、顔を上げて。
もう一度、その瞳を見つめて。
御園・桜花
「木天蓼は煎じて服せば胃腸薬になります…これは食料なんです!」
UC「花見御膳」使用
解毒効果のある木天蓼飴大量作成
倒れている人(家族連れ・カップル等)と自分達猟兵の口にポイポイ放り込む
「空気が汚染されてるなら、また毒状態になるかもしれません。外に出られた方が良いですけど、すぐ降りられるでしょうか。それに空気だと操縦室まで流れていってるかもしれません。操縦士さん達が倒れたら、それこそ墜落しちゃいます」
この場の人全員に追加で1人2個ずつ飴渡し、華族の方へ行く猟兵にも華族護衛學徒兵分の飴渡し解毒依頼
「私は操縦室に此を届けて降下の依頼を出して来ます」
操縦室に行ったら
●
――これは、毒だ。
そう判断してから、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)が動いたのはすぐだった。
「木天蓼は煎じて服せば胃腸薬になります……これは食料なんです!」
まずは一般客室で一番苦しそうにしていた少年の口に木天蓼飴をぽいと放り込む。味は蜂蜜で、幼い子供でも問題なく舐められる筈だ。
少年の表情が和らいだのを認めて、桜花は彼の両親にも飴を手渡した。そして自身の口にも素早くそれを放る。
ただの飴ではない。ユーベルコードの恩恵で大量に作成することができ、加えて解毒効果もある飴なのだ。
その場にいた他の猟兵にも配り、カップルにも口を開けるよう告げてその中にポイポイと放った。
一先ずこれで、この場にいる人間の吸った毒は取り除かれただろう。だが、これが根本的な解決になったわけではないことを、桜花自身も理解していた。
(「空気が汚染されてるなら、また毒状態になるかもしれません。外に出られた方が良いですけど、すぐ降りられるでしょうか……」)
飛行時間、いや航行時間を確認しておけばよかったか――いや、敵の仕掛けてくる罠がどのようなものか未知数だったのだ。全てを的確に予測して適切に対処するなど、不可能に等しかった。
だが、だからと言ってその事実に甘んじる桜花ではない。今、自分にできることを考え、力を尽くす。それがこの場における最善手だ。
考えろ。次に何をすべきかを。この身体が動く限り!
(「それに空気だと操縦室まで流れていってるかもしれません。操縦士さん達が倒れたら、それこそ墜落しちゃいます」)
――そうだ、操縦室!
彼らもまた、毒に侵されている可能性がある!
乗客に追加で二個、飴を渡して急ぎ一般客室を出る。丁度、特別室に向かう猟兵と、倒れている學徒兵に合流できた。
「私は操縦室に此を届けて降下の依頼を出して来ます。そちらはお願いします!」
彼らにも特別室内の人物分も含めて飴を手渡すと、身を翻して操縦室へと急ぐ。
廊下を駆ける。遊覧用の飛行船だ、然程距離はない。
だが、結論から言うと、桜花は降下の依頼を出すことは愚か、操縦室に入ることすら叶わなかった。
操縦室の、扉の前。
――其処に、犯人がいたからだ。
成功
🔵🔵🔴
鳴上・冬季
「この中に解毒できる方はいますか?居なければ、毒に侵された方は全員私が壺中天で保護します」
「私の壺中天の中には、時のない部屋が複数あります。その中で動けるのは私と私の式神だけです。式神がその部屋に運び込めば、その方の時は止まり解毒の準備ができるまで苦しむこともなくなります」
「安心なさい。貴方達は必ず全員助けます」
一般客室の3人家族とカップルを壺中天に収納したら即座に特別室へ
なお、家族連れ・カップル・學徒兵・華族は全員別の時のない部屋に送り込む
自分は毒耐性と仙術+薬品調合で仙丹に手早く解毒効果持たせたものを風火輪で全力移動しながら頬張る
特別室では切られた學徒兵と御衣黄以外の全員を壺中天に収納する
●
鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)は一般客室の様子を見ていたが、先に毒への対処を終えた猟兵が出ていくのを見届けると、自身も行動を開始した。
「解毒は済んだようですが……まだ毒は船内に漂っている。毒に侵された方は全員私が壺中天で保護します」
空気そのものを浄化する手段がない以上、安全な場所に避難させるべきだと冬季は考えた。しかし此処は空の上。逃げ場などない。
ならば、どうするか。幸いにして冬季には、密室の中からでも人々を別の場所に逃がす手段を有していた。
それがこの宝貝『壺中天』である。
「一体それは……?」
カップルの男性が訝しげに案内役の式神を見遣る。
「私の壺中天の中には、時のない部屋が複数あります。その中で動けるのは私と私の式神だけです。式神がその部屋に運び込めば、その方の時は止まり解毒の準備ができるまで苦しむこともなくなります」
それでもなお半信半疑といった様子の男性だったが、冬季は冷静に、落ち着かせるように諭す。
「安心なさい。貴方達は必ず全員助けます」
男性は、冬季を見、恋人の女性を見――覚悟を決めたように頷いた。
それを受けて、式神が二人に触れる。刹那の内に、その姿は霞が掻き消えるように失せてしまった。
「さあ、貴方達も」
同様にして、家族連れも壺中天の内部へと案内する。子供のことを考えてか、決断はカップルよりも幾分か早かった。
この二組はそれぞれ壺中天内部の別の部屋に案内している。そして、まだ内部に部屋はある。次は特別室の人間だ。
特別室に、御衣黄の姿は既になかった。彼女に着けていた式神の記録を辿ると、どうやら他の猟兵と移動したようだ。任せていいだろう。
まずは黄巾力士に護らせていた秋子の元へ。家令に許可を取り、二人とも壺中天へと送り込む。続けて護衛の學徒兵も、また別の部屋へと案内した。
部屋の隅に搬入されていた、斬られた學徒兵は――まだ息はあるようだが、気を失っている。解毒はされているようだから、後は保つことを祈るしかない。
「さて、私も合流しましょうか」
冬季自身もまた、解毒効果を持たせた手製の仙丹を頬張りながら、風火輪をフル稼働。味方の元へと急ぐのだった。
大成功
🔵🔵🔵
神臣・薙人
葛城さん(f35294)と
無差別の毒…
子供もいるというのに!
葛城さんと共に特別室へ入室
御衣黄様には名乗り
猟兵である事を伝えます
葛城さんのUC使用に合わせ
ヤドリギの織姫を使用
多重詠唱で葛城さんと御衣黄様にも
御衣黄様には
今は守りを固める事も肝要と判断しました
ご無礼をお許し下さいと説明
秋子様、家令、學徒兵
御衣黄様の順に解毒
室内の治療が済めば
葛城さんからボーロを受け取り
残花を呼び出し
葛城さんに同行させて
一般客室へ移動
ククルカンさんが一緒なら
心強いですね
御衣黄様の事はお願いします
真の姿の方が移動が速ければ変化
真っ先に家族連れの元へ
まず子供の解毒を
食べる事が難しそうであれば
細かく砕く・水分でふやかす等
少しでも摂取しやすいよう工夫
その後に両親
操舵手・カップルの順に解毒
他にも解毒を行う猟兵がいれば
手分けして治療
行く手を阻む者がいた場合
植物の槍で排除
客室への道を開く事を優先
全員の解毒完了後は
花の香りをたどって
下男下女を追跡
痕跡が途切れていた際は
残花を呼び戻して
その経路をたどります
ククルカンさんの声も参考に
葛城・時人
神臣(f35429)と
真の姿:大鎌・全盛期の能力者・大人
報いは受けて貰う
けど今は毒の対処が先だね
特別室間近なのが不幸中の幸いだ
「神臣行こう!」
飛び込み状況把握後即「お菓子をどうぞ」詠唱
材料は詠唱兵器庫に
小粒の卵ボーロを大量作成し解毒
金木犀、老僕、學徒兵の順で手分けし癒す
口に入れば溶けて効く
先治癒は断るだろう御衣黄は最後
「待たせたね。これで十全に動けるよ!」
言葉を聞き頷く
「分かった同道する。必ず護るよ。御衣黄だけじゃない。
この船全部をだ」
「御衣黄には狙われる心当たりとかある?」
あくまで同じ事態に対処する仲間として遇し
話す内容に傾注し的確に判断
ボーロは神臣に多く託し残りは自分で
「神臣頼む。子供からで操舵手たちも!最悪落ちる!」
ククルカンを一匹預け残花ちゃん肩に載せ
これで互いの行き先はある程度分る
「任せた!」
學徒兵に部屋を頼み御衣黄と出る
…花の香が
きっと他の猟兵も気づいてる
「これを追うよ、良い?」
御衣黄に断り真の姿解放
御衣黄の意思を無碍にしない
凡ての技能もククルカンも使い
邪魔も毒も打ち払い往く
●
――時は少し遡る。
充満する毒に気づき、葛城・時人(光望護花・f35294)は即座に駆け出した。
「神臣行こう!」
「はい……!」
神臣・薙人(落花幻夢・f35429)も彼と共に、特別室へと急ぐ。幸いにして距離は近い。
(「無差別の毒……子供もいるというのに!」)
御衣黄を始末するためなら、手段は選ばないとでも言うのか。薙人は我知らず、拳を固く握り締めた。
薙人の様子に気づいた時人の表情もまた、険しい。
(「この報いは受けて貰う。けど今は毒の対処が先だね」)
扉の前で倒れていた學徒兵に事情を聞いて特別室へと踏み込めば、秋子が顔面蒼白の様相で倒れている。それを家令と學徒兵が介抱していたが、學徒兵の方は倒れた仲間に気がつくと声を上げた。
「仁科!」
「に、しな……? っ、」
続く苦しげな呻き声の主は、やはり御衣黄だった。片膝を着いて肩で浅く息をしている。
瞬時に状況を把握した薙人と時人がそれぞれに、動く。薙人は御衣黄を助け起こし、時人は秋子達の元へと駆け寄った。
「これを!」
時人が家令と學徒兵――彼は小鳥遊と名乗った――に小粒の何かを手渡す。
卵ボーロだった。小鳥遊が首を傾げるので、解毒効果があるからと説明すれば、ユーベルコヲドかと納得してくれた。
家令が秋子の口にそれを含ませれば、口内で溶けて不浄を取り除く。その顔に血の気が戻り始める。
「仁科にも渡してきます……!」
小鳥遊が一度その場を離れた。それとほぼ同時、御衣黄へと超弩級戦力、即ち猟兵であると身分を明かした薙人が、自らと時人へ、そして御衣黄へと緑の外套を纏わせる。
「……これは?」
「ヤドリギで編んだ外套です。御衣黄様の御身を護るものです。今は守りを固める事も肝要と判断しました、ご無礼をお許し下さい」
「……こんなことで怒ったりしない」
顔色は悪いものの、そう告げる声音は凪いでいて、その言葉に偽りはないのだろう。彼女は誠実さを特に重んじる性質なのかも知れないと、薙人は感じた。
其処に、時人がやってくる。
「待たせたね。これで十全に動けるよ!」
御衣黄とは先に少し話したが、恐らく自分よりも秋子を優先するのだろうと、敢えて治療を後に回したのだ。
実際、御衣黄は時人に苦言を呈することなく、自らの掌に乗せられたそれを噛みつくように口内へと放り込んだ。
それを見届け、時人は薙人にもボーロを渡し、自身も噛む。その様子を、御衣黄はやはりじっと見ていた。
「連れていけ」
徐ろに、御衣黄が立ち上がり、口を開く。
視線は一度薙人に向けられ、次いで時人の瞳を真っ直ぐに見据える。その金色に揺らぎはない。
「今、狙われているのは僕だろう。僕だって皇族の端くれだ、そう易々と死にはしない」
静謐の青が気鋭の金を映す。
それを、赤褐が泰然と見守った。
「分かった、同道する。必ず護るよ。御衣黄だけじゃない。この船全部をだ」
頷いて、時人が告げる。
危険を承知で、それでも信を置いてくれて、自らがこの事態を解決するため、動くと申し出たのだから。
ならば、護り抜く。護るべき、全てを。
「……それでいい」
御衣黄もまた頷いた。表情は硬いままだが、何処か安堵したような気配を薙人は感じ取っていた。
今この時より、御衣黄は仲間だ。ただ護られる皇族ではない、同じ事態に対処する仲間だ。
「御衣黄には狙われる心当たりとかある?」
時人が尋ねれば、御衣黄は再び考え込む様子を見せ。
ややあって、口を開く。
「……いや、ないな。少なくとも影朧には」
「と、言うと?」
御衣黄の言い方に引っ掛かりを覚えた薙人が尋ねると、御衣黄は少し言葉を選んだ様子で間を置いてから、付け加えた。
「僕は、ある事情で三年前まで生家の外に出たことがなかった。ただの一度もだ」
「え……」
時人も薙人も、思わず目を見開いてしまった。
百年近い間、一度も外に出たことがなかった、と?
「桜學府に入ってから、ぽっと出の小僧が何だの、もやしの癖に何だのと囀る輩はいたけどな。僕の知る限り、そいつらは存命だ」
結果で黙らせてやったけどな、と皮肉げに零した御衣黄の言葉は、二人にはもう届いていなかった。
色々と気になる点はあるが、今何より考慮するべきは、外部の人間が接触するには余りに短い期間。加えて相手が|影朧《オブリビオン》ともなると、余計に憎むべき相手になり得る暇がないように思える。
このように周囲の人間を巻き込むほどの強い恨みとなれば、尚更。
いずれにしてもその真意は、対面するまで判明しなさそうである。
「……葛城さん」
「ああ」
薙人の言わんとしていることを、時人は即座に理解し、その手に大量のボーロを握らせた。
それから、合わせるように二人、楽を奏でて。唇を落とすは蟲笛。淡く白く煌めく蟲達が、毒の中に在っても優雅に泳ぐ。
宛ら巻雲と雪の共演。思わず、といった風情で見惚れる御衣黄に何処か外見相応のあどけなさを見ながら、それでも二人は次の手を。
「神臣、頼む。子供からで操舵手達も! 最悪落ちる!」
「はい。ククルカンさんが一緒なら心強いですね」
柔らかく微笑む薙人に、時人のククルカンが擦り寄る。入れ替わるように、薙人の残花がちょこんと時人の肩に乗った。
これで、互いの行き先や状況はある程度共有できる。
「御衣黄様の事はお願いします」
「ああ。そっちは任せた!」
――刹那、赤褐は桜花の色へと彩られ。
儚くも気高き桜の精としての、真の姿。
蕾のままであった己の本質を此処に開花させた薙人が、仁科を引き擦る小鳥遊と入れ替わりにするり廊下へと滑り出た。
目指すは一般客室。一分一秒でも、一瞬でも早く。
そして辿り着いたその場所を、ぐるり見渡す。下男下女の姿はない。だが一先ずは、乗客の処置を。
まずは、家族連れの子供である少年に。
「それは……」
「解毒効果がありますから、食べさせていただけませんか」
両親に軽く説明し、細かく砕いて溶かしやすくしたボーロを手渡す。口に含ませると少年の息が整い始める。続けて、両親にも同じように手渡し、嚥下させた。
これで彼らは一先ずは大丈夫だろう。
(「後は操舵手にも……」)
カップルの様子を窺えば、先に治療を開始していた猟兵のお陰でもう少し持ちそうだ。すぐに戻りますと声を掛け、薙人は一般客室を後にした。
そして、気づく。ククルカンも警戒するように、きゅいと一鳴きした。
目的の操縦室の方向へと、花の香が続いていることに。
「……気をつけて行かないと、ですね」
戦いの予感を覚えながらも、避けて通るという選択肢はない。
薙人は警戒を強めつつ、目的の場所を目指した。
●
そしてまた、特別室でも。
學徒兵達へと纏わりつくように、部屋に入ってきたものが。
「……花の香が」
すん、と小さく鼻を鳴らした時人の嗅覚にその存在を訴えるのは、金木犀の香りとはまた違う、秋の花の香り。
毒と共に流れてきているのはこれだと、悟る。そして恐らくは、薙人も、他の猟兵もと。
「これを追うよ、良い?」
「解った」
頷き、部屋を出ようとする御衣黄を一度制して。
「少し驚かせるかも知れないけれど」
「何を、……え」
御衣黄が、目を丸くした。
先程まで、御衣黄の肉体と然程変わらぬ年端の少年の姿をしていた時人の姿が、完成された青年の姿へと変貌していたからだ。
大鎌を携え凛と立つその姿は、貫禄すら感じさせる。
「行こう」
「あ、ああ」
この場を小鳥遊に任せ、先に立って部屋を出る。
直後に御衣黄が出るのを確認し、彼女の歩幅に合わせながらもできる限りの駆け足で、源へと急ぐ。
(「持てる全力を以て、邪魔も毒も打ち払う」)
そして、戦いの場へと駆けて往く。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『桔梗』
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POW : 阿利乃比布岐
【掲げた手から放つ、赤く変化した桔梗の花弁】が命中した対象を燃やす。放たれた【儚く燃える】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD : 死屍舞
【流れるように舞うこと】で敵の間合いに踏み込み、【桔梗の花弁】を放ちながら4回攻撃する。全て命中すると敵は死ぬ。
WIZ : 孤独の華
【掲げた手のひら】から、戦場全体に「敵味方を識別する【毒素を含んだ桔梗の花弁】」を放ち、ダメージと【身体を蝕む毒】の状態異常を与える。
イラスト:神田珊瑚
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「アイン・ローレンス」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
操縦室に向かった猟兵。
或いは、花の香を辿ってきた猟兵。
彼らは一様に、その扉の前で、犯人と対峙した。
下男――否、花の香纏う儚くも妖しき影朧『桔梗』が、気を失った下女の首筋へと扇を当てて佇んでいる。
しかし彼は、猟兵達の背後に御衣黄の姿を認めると、穏やかに笑んで下女を解放した。猟兵の一人が、桔梗の動きに警戒しつつも下女を回収、廊下の奥へと退避させる。
その間、桔梗は動かなかった。だが、むせ返るような花の香りと毒素はすっかり消え失せていた。
操縦室には元々、毒を送っていなかったらしい。御衣黄以外の人間を、殺すつもりはなかったと言うことか。
「御衣黄様、お待ちしておりました。無辜の民の盾から出てきて下さるのを――」
桔梗の表情は柔らかく、心から喜んでいるようだった。
だが、その胸中には間違いなく、御衣黄への憎悪が渦巻いているのだ。
「……何故、僕を恨む」
警戒心を露わに、御衣黄が問う。
すると、桔梗は少し悲しげな微笑を浮かべて、ぽつりぽつりと話し始めた。
「昔話をしましょうか。生前の私は幼い頃から身体が弱く、若くして世を儚みました」
大好きだった舞も満足に舞えず。
同年代の子供達と遊ぶことすらできず。どころか。
「子供達は揃って、私を爪弾きにし、時には手酷く虐げられました。勿論、幼さゆえの残虐性でしかないと、理解はしております。ですが――」
どうしても、傷つけられた心がまだ、痛む。
あどけなく笑う、無邪気な悪魔達の顔が、忘れられない。
そして、その内の、一人が。
「――金の花を纏った、金色の少年だったのですよ」
あなたは覚えていないかも知れませんが、と。
儚げに笑うその表情にすら、今や凄みが利いていて。
たん、とよろめく靴音が、猟兵達の背後から聞こえた。
御衣黄だ。驚愕の表情をありありと浮かべ、血の気の失せた顔で、けれど首を横に振っている。
「ちがう……違う、……僕は、」
「御衣黄様」
諭すように、桔梗は穏やかに、冷え切った笑みを浮かべたまま、優しく、絶望に満ちた言葉を紡ぐ。
「今からでも、私を哀れと思ってくださるのなら――私と、共に幽世へ参りましょう」
どうせこの身は猟兵に討たれる。
哀れと思うなら、花と散っておくれ、御衣黄桜。
「……僕は……っ」
猟兵達が、その行く手を阻む。
細長い通路は、人が二人で塞げばもう奥には行けない。
その姿に御衣黄も、揺らぎながらも刀を抜く。自衛と、支援はこなしてくれるらしい。
それでも尚、桔梗は舞い続ける。己の身が滅ぶまで。
憎むべき花を散らすべく。
●
「……っ……」
御衣黄は、何かを伝えたがっているようだ。
だが、本人が動転していること、桔梗が聞く耳を持たないことから、その言葉を伝えるのなら、猟兵達が場を整えなければならない。
桔梗がある程度消耗し、大勢の天秤が猟兵達の優位に傾いたなら、或いはその時こそが、初めて声の届く時かも知れない――。
鳴上・冬季
「誰かが治療するかと思いましたが…。いえ、敵の手先かと様子見した私も同罪ですが」
嗤う
切られたままの學徒兵に医術で応急措置
回復させる仙丹も口に押し込み壺中天の時のない部屋へ送り込む
「下男下女と宮さま、猟兵を除く全ての乗客を壺中天に収納しましたから、これでこの航空船が落ちても人的被害は軽微で済みます」
のんびり操縦室前へ
「遅参して申し訳ありません。…おや」
仙術+功夫で仙丹を御衣黄の口内に指弾
「話さねば伝わりません、が落ち着かねば話もできないでしょう。飴を噛み砕く間に考えをまとめられたらいかがです」
嗤う
仙術+功夫で縮地し敵の真横に回り込み肘打ちから掌底
「宮さまが落ち着かれるまで私と遊びましょうか」
嗤う
●
――此処でまた、時を少し遡る。
鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)は御衣黄につけていた式神から、敵の居場所とその正体を知ることとなった。そして彼が向かったのは勿論操縦室前――ではなく、特別室だった。
動く者は誰もいない。だが、息をしている者はいた。応急手当を終えて気を失ったままの學徒兵――仁科である。
「誰かが治療するかと思いましたが……」
解毒は充分だ。だが、本人が応急処置をすると言うので傷の方は本人任せになってしまったのだろう。
それでも生きているのだから大丈夫ではあるのだろうが。
「いえ、敵の手先かと様子見した私も同罪ですが」
先の段階ではまだ自作自演で油断させようとしているという線も捨て切れなかった。故の様子見だったが犯人が判明した今となっては必要はないだろう。
そう判断し、仙丹と医術で手当を済ませてから彼も壺中天へ。
「下男下女と宮さま、猟兵を除く全ての乗客を壺中天に収納しましたから、これでこの航空船が落ちても人的被害は軽微で済みます」
と、精神的に余裕も出てきたので、のんびりと目的の場所に向かえば何やら剣呑な空気。
「遅参して申し訳ありません。……おや」
最後尾には気丈に振る舞っているが、動揺している様子の御衣黄。
「失礼」
「……ぐっ!?」
それを見た冬季は何と、指を弾くと御衣黄の口内に仙丹を投げ入れたのだ。噎せる御衣黄。
見事に狙い通り――だったのだが、御衣黄はそれを吐き出してしまった。
「……何のつもりだ貴様」
「話さねば伝わりません、が落ち着かねば話もできないでしょう。飴を噛み砕く間に考えをまとめられたらいかがかと思ったまで。気分を害されたなら申し訳ございません」
「本気で思ってないだろ……!」
何せ平素と変わらぬ嗤いを冬季が浮かべているもので。
だがその抗議は意にも介さず、冬季はするりと敵前へ。当ては少し外れたが、御衣黄の意識が敵から逸れたのは結果としては悪くない。
「宮さまが落ち着かれるまで私と遊びましょうか」
「そのような余裕はもう、私にないのですよ」
犯人――桔梗は少し哀しげに、冬季を花纏う毒の風で包み込む。だが、冬季は効かぬとばかりに仙丹を自らの口内にも放り込み、そのまま縮地で横合いへと瞬時に移動。肘打ちで体勢を崩し、掌底を叩き込む。
踊るようにたたらを踏んでよろめく姿にまた、嗤った。
大成功
🔵🔵🔵
御園・桜花
御衣黄の腕をポンと叩きヨシヨシと頭を撫でる
「お知り合いで、行き違いがあって、伝えたい事がある。そう言う理解で宜しいですか?」
刀を押さえ宥めるように目を見てゆっくり話す
「落ち着いて下さい、御衣黄さま。彼は、私達が転生させます。彼と話せる機会は此が最後です。私達が戦う間、貴女がすべきは彼に悔いなく全てを伝えられるよう考えを纏め、彼がどんな反応を示そうと動揺せず全てを伝えきる事です。其れには貴女が落ち着かねばなりません。必要なのは刀ではなく貴女の心。時間は長くはありません。さあ、お覚悟を」
御衣黄を庇える位置に立った儘UC「桜吹雪」
敵を切り刻む
「御衣黄さまは貴方と逝きません。貴方も素直におなりなさい」
●
「御衣黄さま」
荒く息をする御衣黄の肩を、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)が優しくぽんと叩く。
そして、振り返りざま鋭い視線を向ける御衣黄の――頭をよしよし、と撫でた。
「お知り合いで、行き違いがあって、伝えたい事がある。そう言う理解で宜しいですか?」
「え」
御衣黄は、呆気に取られた顔をしていた。
その丸められた月色の目を見て、刀の柄を取る手をそっと押さえる。
「落ち着いて下さい、御衣黄さま。彼は、私達が転生させます。彼と話せる機会は此が最後です」
宥めるように、一言一句を丁寧に、紡ぐ。
「私達が戦う間、貴女がすべきは彼に悔いなく全てを伝えられるよう考えを纏め、彼がどんな反応を示そうと動揺せず全てを伝えきる事です。其れには貴女が落ち着かねばなりません」
揺らいだ言葉では、伝わるものも伝わらない。
不確かな心では、届くものも届かない。
その思いで、御衣黄には、後悔のない選択をして欲しいから。
きっとそれが、彼が心から転生を望む未来へと繋がる道だから。
希望を込めて、真実の言葉を請う。
「必要なのは刀ではなく貴女の心。時間は長くはありません。さあ、お覚悟を」
そのための時間は、自分が稼ぐ。
桜花は桔梗へと向き直る。御衣黄の盾となるように、庇い立つ。その葉桜の瞳には、朝日を受けて煌めく朝露のような、凛と強い意志の光が宿る。
「御衣黄さまは貴方と逝きません。貴方も素直におなりなさい」
桜よ桜――歌うように唱える。
桔梗が舞う。風が毒花を巻き上げる。
負けじと桜は舞い上がる。金の花を蝕む紫をも、淡紅は切り裂いて。
復讐に囚われた、儚くも哀しき舞手を踊らすように刻む!
――そんな彼女の後方で、御衣黄は腕を組み、何やらぶつぶつと呟きながら唸っていた。
「……何故、あいつらは僕を子供か何かのように扱うんだ。僕の方が遥かに歳を重ねているだろうに……」
本人は至って真剣な面持ちだった。
大成功
🔵🔵🔵
神臣・薙人
葛城さん(f35294)と
真の姿維持
桔梗が嘘を言っているようには思えない…
でも、御衣黄様が
そのような事をなさる方だとも思えない
…場を整える必要がありますね
行きましょう、葛城さん
御衣黄様には
通路での待機をお願いし
私は通路を塞ぐ位置で
白燐想送歌を使用
武器封じが解除されるか
負傷者が出た場合は
都度再使用
その他は
蟲笛で攻撃します
孤独の華発動時は
残花に花弁を撃ち落とさせます
無理でも花弁の行方を確認
御衣黄様に当たらぬよう
体を盾にして妨害
死屍舞には特に注意
兆候が見えれば
声を上げ注意喚起
桔梗が消耗し言葉が届くようになれば
御衣黄様が3年前まで
生家から出た事が無い事を伝えます
貴方を虐げたのは
本当にこの方でしたかと
問い掛けを
御衣黄様
桔梗に伝えたい事がおありなのでしょう
それは言葉にしなければ伝わりません
貴方が言葉を伝える間の護りは
私達が引き受けます
どうか、声を届けて下さい
桔梗
貴方も幽世へ行く必要はありません
貴方が望むのなら
私は貴方に次の生を与えられる
願って下さい
…願わせて下さい
貴方にとって
次の生が幸せであるように
葛城・時人
真の姿で神臣(f35429)と
彼にも御衣黄も…嘘は見えない
この齟齬と誤謬を解く必要がある
「同感だよ。往こう神臣」
或いは御衣黄の兄妹なりの仕業かもだけど
御衣黄の花色の謎含めて確定じゃない
だから今はまず御衣黄に声を
「事情も言いたい事があるのも解る。けど今は
会話の場を整える為に任せて」
抗われても
「今護られるのは怯懦じゃない。必要な時に十全である為の
布石だよ」
真っ直ぐ御衣黄の顔を見て
白燐奏甲を先に御衣黄に
次神臣、自分、可能なら他猟兵も
視覚阻害で護り神臣と連携し攻撃を当てさせない
神臣は影朧の転生を心から願っている
その為にも
「猟兵が超弩級戦力と言われる由縁を見せてやる…来い」
通常攻撃なら絶命させず消耗させられる
攻撃は技能等で躱しククルカンでも攪乱と迎撃
彼の抗戦意思を挫いたら奏甲を解除し
御衣黄を前へ
万一攻撃あれば即時我が身で盾になる
それ以外は御衣黄と神臣の意思と願いを全力で尊重
「このまま堕ちるよりは、もう一度…どうかな」
御衣黄には
「必要なら何時でもまた、共に」
學徒兵は俺達と同じ世界を護る仲間なのだから
●
「……はぁ……」
気怠くも悩ましげな疲労の溜息が、桔梗から漏れる。
だが未だに哀しみと、その奥に憎しみの色を宿した瞳は、御衣黄を射抜いたまま。
(「桔梗が嘘を言っているようには思えない……」)
その双眸も、その痛切な言葉も。
神臣・薙人(落花幻夢・f35429)はそのどちらからも、嘘偽りを感じ得なかった。
(「でも、御衣黄様がそのような事をなさる方だとも思えない」)
それも確かに、御衣黄と接して感じたことだ。
気難しい性質ではあるが、認めた相手には何処までも誠実だった。
そしてそれは、短い時間ながらもより御衣黄と向き合った葛城・時人(光望護花・f35294)も、同じように。
(「彼にも御衣黄も……嘘は見えない。この齟齬と誤謬を解く必要がある」)
真実を、御衣黄は握っている。
だがそれが、桔梗に響くかどうか。
いや、響かせるのだ。
「……場を整える必要がありますね。行きましょう、葛城さん」
「同感だよ。往こう神臣」
桜色帯びた心優しき精霊と。
歴戦の能力者の在るべき姿が。
今、哀しき影朧の前に立ち、その背は尊き少女の瞳に焼きつく。
「御衣黄様は、此処で待機をお願いします。必ず、声を届ける機会を、作ります」
「事情も言いたい事があるのも解る。けど今は、会話の場を整える為に任せて」
「……解った」
その背に、御衣黄は小さく頷く。
きっと、その喉奥に万感の思いを呑み込んだのだろうなと、時人は思った。
「今護られるのは怯懦じゃない。必要な時に十全である為の布石だよ」
顧みて、その月色の瞳に時人は説く。
真っ直ぐに見つめ返してくるその色に、時人は彼女の答えを見た。彼女は、大丈夫だ。
今度は薙人と視線を合わせて。その淡紅の瞳にも、全ては伝わった。憂うべきことはもう、ない。
「――歌いましょう、もう誰も傷つけないために」
薙人の声が、月夜の密室へと優しく響き渡る。
武器を収め、戦いを止め、誰も死ぬことのないように。
「く……っ」
桔梗の精神は、その憎悪に反して戦意を失っていく。
巧く、舞えない。疲弊が重く、その細身に伸し掛かる。
(「或いは御衣黄の兄妹なりの仕業かもだけど、御衣黄の花色の謎含めて確定じゃない」)
真実は程なくして、御衣黄の口から語られるだろう。
だから、時人も今成すべきことを。
「ククルカン! 皆に力を!」
奏でる蟲笛に、歌うように羽持つ白蛇が如き煌めきが御衣黄へと寄り添う。次いで薙人へ、時人へ、この場で戦う猟兵達へ。
「通して……頂けませんか」
深い悲しみを湛えて、弱々しくも桔梗は舞った。
紫の色が毒を孕んで、何処からともなく吹く風に乗って咲き誇らんとする。
だが、揺らいだ心で舞う花弁は、浮かぶも弱々しく。
「――残花」
歌う合間を縫って蟲笛の音が重なる。薙人の音だ。
ふわり、浮かぶ風花の如き純白が、浄化するように花弁へと飛来し撃ち落としてゆく。
ククルカンもまた、毒の舞を遮るように桔梗の視界を遮るよう、纏わりついた。扇でそれを振り払うことに注力したならば、害意の風もまた溶けるように凪いだ。
(「何度でも、何度でも――」)
歌い上げて見せる。
時人も、仲間達も、御衣黄も、護り抜く。
そして、願わくば、桔梗の花よ、どうか。
絶望して散りゆくばかりが末路ではないのだと。
全ての思いを歌に込めて、薙人は何度だって声を上げる。
薙人のその決意は、時人にもひしひしと伝わってきた。
(「神臣は影朧の転生を心から願っている……その為にも」)
隣に立つ自分が、協力を惜しんでどうするのか。
薙人は、一人で戦っているのではない。仲間がいる、何より――|時人《じぶん》がいる!
「猟兵が超弩級戦力と言われる由縁を見せてやる……来い」
蟲笛を繰る。薙人と時人、連携を取り視界を奪い錯乱し、攻撃の手を緩めさせる。
ユーベルコードに依らない攻撃であれば、不殺を貫き敵を消耗させられる。残花とククルカンが齎す光が、着実に桔梗の力を奪い去ってゆく。
「死屍舞――来ます!」
「心得た。ククルカン!」
強力な攻撃も、最早捨て身だ。
見切ることは容易く、尚も奥へと進もうとした一撃だけ、身を呈して御衣黄を護る覚悟の薙人の肩口を掠めるも。
「させるか」
光が、傷口へと収束する。
淡金の輝き。月光の加護。
再び抜き放たれた御衣黄の刀が、同じ色の光を放っていた。
「この程度は目を瞑れ」
「御衣黄様」
再び刀は鞘へと収まり、光は消えゆく。
服の裂け目こそ残るものの、薙人に傷はもうなかった。
「あ、あ……」
その時、桔梗が昏くか細く声を上げた。
自分は、復讐を成し遂げられない。そう、身を以て思い知ってしまった。そんな顔をしていた。
膝から崩れ落ちる。項垂れて、髪がさらりと地へと流れた。
今なら、届くかも知れない。
「御衣黄様は」
薙人の言葉にも、桔梗は顔を上げない。
――続く言葉を、聞くまでは。
「三年前まで、生家を出られたことがないと」
「え……」
そう、仰っていましたと。
告げれば、俄に岡止々岐の瞳が薙人を見上げる。
「貴方を虐げたのは、本当にこの方でしたか」
「……そんな……いえ、しかし……」
瞳にありありと、戸惑いの色が浮かぶ。
桔梗の様子に、時人は皆を護らせていたククルカンを呼び戻す。
そして、促す。御衣黄へ、前へと。
「大丈夫。心のままに、話せばいいんだ」
時人もまた、万一の時は盾になる覚悟で此処に居るのだ。
薙人と御衣黄の意志と願いを、遂げさせるのだ。
「御衣黄様」
薙人もまた、道を譲るようにして。
御衣黄と桔梗を真っ直ぐ、結びつける。
「桔梗に伝えたい事がおありなのでしょう。それは言葉にしなければ伝わりません。貴方が言葉を伝える間の護りは私達が引き受けます」
だから。
薙人が。時人が。
此処に居る、全ての猟兵達が。
御衣黄の言葉を、待っている。
「どうか、声を届けて下さい」
桜色と月色が、交わされる。
ふわり、御衣黄桜を散らして少女は頷いた。
進み出る。仲間と共に。
「聞け。僕は」
双月が、桔梗を照らした。
「子供と遊んだことなどない。人違いだ」
桔梗が、息を呑む。
同じ年の頃――少なくとも外見上は――の少年少女と、御衣黄は遊んだことすらないと。
「何故、お前が生前に虐げられた相手と、僕を間違えたのかは僕の知るところではないし、追求するつもりもない。もしかしたら特に血の近い身内かも知れないが、僕には心当たりがない」
皇族の血脈は、当事者である御衣黄自身も把握し切れていないらしい。
今となっては藪の中。ただ、御衣黄が桔梗の心に傷を残した人物とは違う。それだけは、事実だと。
「そもそも、生家では男の形など出来なかったしな」
「……ならば……私は、何のために……」
ぽつり零れた呟きを、桔梗が拾えたかは解らない。
だが、失意のまま目を伏せた彼の前に、御衣黄は歩を進め。
「結局は当事者ではない僕が、上辺だけの謝罪を口にしたところで、お前の気は晴れないだろう。だから僕が言えることはひとつだ」
その眼前に、膝を着き。
「お前はよく頑張ったよ」
桔梗が、顔を上げることはなかった。
だが、その手は、その肩は、微かに震えていた。
「桔梗、貴方も幽世へ行く必要はありません」
御衣黄が、時人の後ろへ下がると同時、薙人が入れ替わるように桔梗の前へと出て、語りかける。
「貴方が望むのなら、私は貴方に次の生を与えられる」
「……桜の精の、転生」
頷く。
彼もまた、虐げられ傷ついた、哀しき存在。
その心の傷を癒し、未来へ繋げられるなら。
「このまま堕ちるよりは、もう一度……どうかな」
時人も、穏やかに言葉をかけて。
漸く見上げた桔梗の瞳もまた、震えていたけれど。
「願って下さい。……願わせて下さい」
薙人は、手を差し伸べる。
新たな生に、希望を見出してくれればいいと、薙人自身も希いながら。
「貴方にとって、次の生が幸せであるように」
桔梗は――静かに、その手を取った。
●
薙人の癒しを受けて、桔梗の色は花散るように、薄れゆく。
だがそれは、終わりではない。再び花開くための、一時の夢。
「……僕では成し得なかったことだ」
微かに、御衣黄が呟く。
光に包まれ消えゆく紫の影を、彼女は見ていた。
「必要なら何時でもまた、共に」
時人の声に、御衣黄ははたと彼を見た。
じっと見つめる月色に、己の青を返す。
(「學徒兵は俺達と同じ世界を護る仲間なのだから」)
その意志の光を、見届けた御衣黄は。
そうだな、と零し、そして。
「ありがとう」
ぎこちなく、けれど確かに、微笑んだ。
其処に戻ってきた薙人。そして、時人。
二人もまた、顔を見合わせて、頷いた。
大成功
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