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銀河帝国攻略戦㉑~時奪う黒

#スペースシップワールド #戦争 #銀河帝国攻略戦 #黒騎士アンヘル

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 蜂蜜を溶かしたような薄い金の瞳が、集う猟兵達の目を順に見つめる。
 葵絲・ふるる(フェアリーのシンフォニア・f02234)は深く息を吐くと、こくりと小さく頷いた。
「皆さん、ついに黒騎士アンヘルとの決戦です!」
 クライングシェル、そしてアゴニーフェイスの艦隊を突破したことにより、黒騎士アンヘルと解放軍との間を遮るものは、最早無い。
 しかし『解放軍』の艦隊に、黒騎士を撃ち破る事はできなかった。
 ――スペースシップの砲撃も、戦闘機の攻撃も、黒騎士アンヘルを捕らえる事ができなかったのだ。
「解放軍は、黒騎士の撃破を諦め、銀河皇帝を守る艦隊へと攻撃の矛先を変えました。
 銀河皇帝を滅ぼす今回の作戦において、戦力を失った『黒騎士アンヘル』は、もはや重要では無いからです。解放軍にとって、銀河皇帝との決戦を重視するのは当然のことでしょう」
 ですが……と、ふるるは続ける。
 目標を定めたその目に、一切の迷いはない。
「黒騎士アンヘルは、私達にとって捨て置ける存在ではありません。
 オブリビオン・フォーミュラである銀河皇帝を撃破しても、二大巨頭である『白騎士』『黒騎士』が逃げ延びれば、また新たなオブリビオン・フォーミュラとなる可能性が残されてしまいます」
 そうでなくても銀河皇帝を撃破した後に、銀河帝国の残党やスペースシップワールドの不平分子等が集まり、悪事を働く危険性が高い。
「叶う事なら……いいえ、何としても。今ここで黒騎士アンヘルを潰さなければなりません」
 ふわりと浮かび上がったふるるが、猟兵達一人一人の肩にそっと手を乗せる。
「皆さんの力が必要です。許される限り、最大の戦力で臨まなければ勝利は得られない……。
 黒騎士アンヘルは戦力のほとんどを失い、今現在その周囲に他の戦力は存在しません」
 しかしそれは決して、猟兵達の優位だけを現す言葉ではない。
 黒騎士アンヘルが一人の戦士として、最大限の力を発揮できる状況になったのだから。
「精鋭を集めても、勝敗は五分五分……敗北の可能性も高いです」
 黒騎士は『確定された過去を操る』ユーベルコードを操る強敵だ。
 彼のユーベルコードと、猟兵達の過去との噛み合わせ次第では、陰惨たる結果を導くことにもなり得る。

 黒騎士アンヘルはその力が尽きるまで、幾度となく骸の海から蘇るだろう。
 完全に葬るには、蘇るたび彼を繰り返し撃破することだ。
 現れる場所は破壊された配下の艦艇。幾つもある艦艇のどれに現れるかは、グリモア猟兵の予知に頼るほかない。
「わたしが予知した艦艇に、皆さんを送ります。
 現れる黒騎士を待ち伏せし、彼を撃破してください。
 ……吉報をお待ちしています」
 ふるるはそう言うと、両掌を捧げるように開いた。
 覚悟を決めた猟兵達の頬を、グリモアの淡い光が照らし出す――。


珠樹聖
 こんにちは、珠樹聖(たまき・ひじり)です。
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「銀河帝国攻略戦」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

●補足
 黒騎士アンヘルは、『猟兵が使うユーベルコードと同じ能力(POW・SPD・WIZ)のユーベルコード』による先制攻撃を行います。
 彼を攻撃する為には、この先制攻撃をどうやって防ぎ、反撃に繋げるかが重要です。
 作戦や行動次第では、先制攻撃で撃破され、苦戦や失敗となる可能性があります。
 充分な対抗策をご用意ください。

●注意事項
 お友達と合わせての描写をご希望の方、互いに【お相手様の呼称とキャラクターID】、或いは【チーム名】をご記載ください。
 プレイングの自動キャンセル期限は『三日』となっております。極力タイミングを合わせてご参加ください。

 以上、皆様のご武運をお祈りいたします。
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第1章 ボス戦 『黒騎士アンヘル』

POW   :    消えざる過去の刃
【虚空から現れる『空間に刻まれた斬撃』】が命中した対象を切断する。
SPD   :    過去喰らいの三呪剣
【過去の鍛錬の経験を封じる白の呪剣】【過去の戦闘の経験を封じる黒の呪剣】【戦うに至った過去を封じる灰の呪剣】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ   :    記憶されし傷痕
【対象の肉体】から【過去に刻まれた傷跡や病痕】を放ち、【一度に再現され肉体を蝕む出血や疾病】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ウィリアム・バークリー
交戦開始前に「オーラ防御」を展開。消えざる過去の刃が飛んできたら、「見切り」「武器受け」で対抗します。

トリニティ・エンハンスで防御力を強化。スチームエンジン装着。
氷の「属性攻撃」による「衝撃波」を伴う「全力魔法」。冷気を装甲で防ぐことは無理なはず。「鎧無視攻撃」になってくれれば。
何度も使えるわけじゃないから、使いどころを間違えないように。

「高速詠唱」と「属性攻撃」を使って、障害物の間を移動しながらアンヘルに攻撃。

自分や仲間が状態異常にかかったら、「祈り」と「優しさ」を込めた生まれながらの光で回復・解除します。

アンヘルと距離が詰まったら、氷の魔力を乗せたルーンスラッシュ一閃。
これでどうですか!?


三嶋・友
待ち伏せとはいえこっちからの攻撃は無理
先制攻撃を受けるのは覚悟しなきゃいけないって訳だね

晶花にありったけの氷の魔力を纏わせて待機
漏れる冷気はそのままに部屋を満たさせる
突如虚空から斬撃が現れたなら、その場の冷気も消えて察知しやすいはず

いつ攻撃を受けても良いように、宝石の魔力を防御に展開
集中し、第六感まですべてを研ぎ澄まし、斬撃の回避を狙う
万一避けきれなくても、致命傷さえ受けなければ!
攻撃を回避or防御出来たら即座に剣に込めていた魔力を全力解放
この魔法の攻撃範囲は全方位
狙う必要なんてない
攻撃を受けた以上、敵は近くにいるんだから!
全力の凍気、受けてもらうよッ!
その後は持てる全力を叩き込んでいくよ!



 激戦により破壊され、静かに滅びを待つ艦艇。
 その只中に、柔らかな光に抱かれウィリアム・バークリー(ホーリーウィッシュ・f01788)は降り立った。
(情報通り、まだアンヘルの姿はないようだ……今の内に出来る限りのことをしよう)
 ――黒騎士アンヘルの初撃は重い。遭遇してから行動したのでは遅いのだ。
 端から五分と言われた戦いだ。待ち伏せしろと言われたからには、その利を最大限に活かさねば、五分まで届くことはない。
 三嶋・友(孤蝶ノ騎士・f00546)もまたその意味を確りと理解していた。
 戦場となる艦艇に降り立つなり、つぶさに周囲の状況を確認する。
 友はウィリアムと視線を合わせると、微かに頷いた。
「待ち伏せとはいえ、相手が相手だし……先制攻撃を受けるのは覚悟しなきゃいけないね」
「そうですね。何とか持ち堪えましょう」
 ウィリアムがオーラ防御を展開する傍ら、友はまっすぐに極光剣・晶花を構えた。
 ありったけの魔力を注ぎ込めば、紅々とした刀身は忽ち色を変えてゆく――瞳と同じ燃えるような紅から、夜明けの色を経て氷白へ。
 洩れ出した冷気が、ゆっくりと周囲へ広がってゆく。その冷気の中に紛れるように、幾つもの宝石の粒がきらきらと輝いていた。
(躱してやる。それができなくても、致命傷さえ受けなければ……!)
 集中し、意識を研ぎ澄ませる。
 永い沈黙の時が過ぎ――ウィリアムと友の見つめる先に、黒い染みが浮かび上がった。
 染みはどんどんと色を濃くし、禍々しい闇の色が辺りを浸食してゆく。
 黒い甲冑が崩れかけた艦艇の床を踏み――顔の半分以上を仮面で覆った男が現れた。
 仮面から覗く深紅の眼が、薄く開かれる。まっすぐに二人の姿を捉えると、ふと笑むように細められた。
「……待たせたようだ。申し訳ない」
 彼こそが黒騎士・アンヘル。
 凛々とした瞳の中、血を圧し固めたような歪な刃が、ゆっくりと踊っている。
 両手に携えた二本の刃を、敬意を表するかの如く、二人に向けてゆっくりと構える。
「さあ、始めるとしよう」
 一瞬にして静寂は破られた。
 瞬きすら忘れたように、レイピアを構えたウィリアムが、アンヘルの一挙一動を見据える。
 身を翻すように振るった刃が虚空から現れ、容赦ない斬撃を友とウィリアムの双方へ浴びせた。
 虚空から現れた斬撃が、友の周囲に撒かれた防御の宝石によって、僅かに阻害される。
 冷気の消失に感づいたことにより、友の反応がほんの少し早まった。
(くそ、速い……っていうか、近い!)
 即座に躱し切れぬと判断し、友はアンヘルの斬撃の腹を掴むように晶花を噛みつかせる。
 鋭い剣戟に、砕けた宝石が視界に散る。
 びりびりと金属の震える音が、戦場に響いた。
「ほう、それを受け止めるか」
「このくらい余裕だよ」
 虚勢を張るように笑ってみせる友に、アンヘルもまた微かに笑うように眼を細める。

 一方、もう一つの斬撃を浴びせられたウィリアムは――、
 武器で受け止めようとしたが留めきれず、肩から胸にかけてを切り割られてゆく。ウィリアムは歯を食いしばり、渾身の力を込めてレイピアを支え続けた。
「くっ……!」
 血が噴き出し、裂かれた肉が焼けるように痛む。
 けれどオーラ防御とレイピアにより、辛うじて刃を押し留められたことで、切断は免れた。
 震える手を確りと握り締め、ウィリアムは自身の魔力で防御力を強化する。
 続けざまにスチームエンジンを装着しようとしたところで、アンヘルの瞳が怪しい輝きを帯びた。
「君の傷を見せてもらおう」
「……ああっ!」
 過去に受けたすべての傷病が甦り、先ほど受けた傷も相俟ってウィリアムは立っていることすらできなくなる。
「機会を逸した君の負けだ」
 血を流し地面に伏したウィリアム目掛け、アンヘルが剣を振り下ろさんとする。
 しかし――、
「今度はこっちの番だよね? 全力の凍気、受けてもらうよッ!」
 アンヘルの攻撃を凌ぎ切った友が、籠めに籠めた晶花の魔力を一気に解放した。
 相手がどこにいようが、最早関係ない。
 氷の魔力を纏った剣から放たれた、絶対零度の凍気が、アンヘルに襲いかかる。
「ふ……なかなか楽しませてくれる」
「褒めてもらえるのは、嬉しいんだけどね」
 凍気渦巻く只中を、友は晶花を握り締め、アンヘルめがけて突っ込んでいく。
 アンヘルもまた友の刃を受け止めんと、紅い剣を構えた。
「悪いけど、その子は返してもらうよ!」
 ウィリアムを攫うように抱え上げ、アンヘルと距離をとる。
 折好くグリモアの光が、二人の体を包み込んだ。
「……なるほど」
 消えゆく友とウィリアムの姿を眺めながら、アンヘルはぼそりと呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リグレース・ロディット
確定された過去?えっと、難しい、ね?
【POW】……なんか見えない所から攻撃がきてるね。『第六感』や装備の『導きの銀』でどこから斬撃が飛んでくるのかを予測しながら動くね。あれに武器で防ぐと壊れそうで怖いからなるべく避けれるように頑張るけど自分大事だから、危ない時は武器やUCで防げるかやってみるね。あたった時は『激痛耐性』で我慢……する。……我慢しないとだめだよね。みんな頑張ってるもん。僕も頑張る。
見えない攻撃には見えない攻撃。UCの『サイコキネシス』を放つよ。もちろん装備の『束縛する黒』と『解放する白』で強化して。『スナイパー』や『カウンター』『2回攻撃』もやっておくよ。

(絡み・アドリブ大歓迎)



 ――確定された過去とは、いったい何だろうか。
 リグレース・ロディット(夢みる虚・f03337)が艦艇に降り立った時、その男は既にそこに居た。
 黒騎士アンヘル――彼は艦艇の中央で紅い剣を握り締めたまま、微動だにせずにいる。
 戦闘の痕跡は幾つもあるというのに、その場所は不釣り合いなまでの静寂を湛えていた。
(あれが黒騎士アンヘルかぁ……眠ってるわけじゃないよね?)
 リグレースの靴音が響く。
 モノクルをかけた右目で、油断なくアンヘルを見据えながら。ゆっくりと、けれど遠慮なく近づいていく。
「子ども……いや、君も猟兵か」
 アンヘルの眼がうっすらと開き、リグレースの視線とかち合った。
「では遠慮する必要などないな」
(……来る!)
 アンヘルが手にした剣を振り抜く。
「……うわっ!」
 リグレースは直感的に飛び退いた。
 けれど宙を裂くように現れた斬撃は深く、リグレースの腹を引き裂かんとする。
 これはただ切るためでなく、切断を目的としている。
(だめだ、避けきれない……!)
 次手を考える余裕もなく、手にした金の刀身を打ち当てる。
 ――武器が壊れないかよりも、自分自身の方がよほど大切だ。
 滑らかな妖刀の刃先から、激しい火の粉が飛び散った。
 宙で受け止めたことが幸いしたか、腹を割かれることはなかった。その代わり、リグレースの体は勢いよく壁まで吹き飛ばされる。
「い、た……」
 のどの奥から血の味がする。
 背中に走る痺れるような痛みを、歯を食いしばり堪える。
(どんなに痛くても……我慢しないとだめだよね。みんな頑張ってるもん)

 そうだ――僕も頑張らないと。

 離さずきつく握り締めた『クライウタ』が、小さな手の中で妖しい美しさを秘め輝いた。共鳴するように、金の瞳に強い意志の力が漲る。
 『束縛する黒』、『解放する白』。リグレースを彩る二つの装飾が彼のサイキックエナジーを引き上げる。
「大丈夫……僕、頑張るから」
「来るか」
 放たれたサイキックエナジーに、アンヘルはその場から大きく飛び退いた。
 地面に弾けるように爆散したサイキックエナジーの影から、もう一つのサイキックエナジーが現れる。
「くっ……!」
 避け切れないと悟ったか、アンヘルは突き出すように剣を交差した。
「やった、当たった……!」
 アンヘルを包む爆風が晴れるよりも先に、グリモアの淡い光が、リグレースの体を労るように包み込んだ――。

成功 🔵​🔵​🔴​

新堂・ゆき
先制攻撃がやっかいですね。全て回避するのが最善策といいたいところですけど、さすがに無理がありそうです。
ならば、あえて1つ位は避け損ねてもいいのかもしれません。
3つのうちの灰色の呪剣は最悪でも当たってもいい覚悟で。
当たったところで、過去等もうどこにも見当たらないのだから。
残り2つは月照丸ならば。
オペラツィオン・マカブルで技を返して差し上げます。
周囲にいる同じく討伐に来ている猟兵さん達とは協力して戦いたいですね。
からくり人形で何か戦闘のお手伝いが出来るかもしれません。



 艦艇に降り立つと、真っ先に視界に飛び込んできたのは、交差する紅い剣。
 血を啜ったような色をしたその二本の剣に、新堂・ゆき(洗朱・f06077)はすぐさま月照丸の糸を繰る。
「また新たな猟兵か」
 二本の剣がゆっくりと下ろされる。男はその手に握る刃と同じ色の眼でゆきを見据えると、緩く瞬いた。
 無機質なようでいて射るようなその視線に、ぞくりと悪寒が走る。
(これが黒騎士アンヘル……)
 できることなら相手の先制攻撃を回避したいところだが、力量から見てもさすがに無理がありそうだ。
(戦うに至った過去ならば……私には当たったところで、どうということもない)
(そんな過去など、もうどこにも見当たらないのだから……)
 情報を整理し、素早く脳内で取捨を決める。欲張っては破滅を招くのだと、対峙した瞬間にゆきは悟った。
 そんなゆきの考えを知ってか知らずか、アンヘルはゆっくりと剣を構えた。
「最早言葉は不要。我々はただ、剣を交えればいい」
「ええ……私も、同じ気持ちです」
 アンヘルが剣を握り込む。
 対してゆきはだらりと腕を垂らした。
 完全なる脱力状態――けれどゆきの五指に繋がる糸の先に、月照丸がいる。
(行きましょう、月照丸……)
「それが君のユーベルコードか。試させてもらおう」
 過去を喰らう三色の呪剣が、宙に浮かび上がる。
 それらはアンヘルの意志に従い、勢いよくゆきの胸元へと突き立てられた。
「うっ……!」
 無効化し、からくりから排出されるはずの呪いが、ゆきの中からすべてを奪ってゆく。
 過去の鍛錬の経験、過去の戦闘の経験、戦うに至った過去。
 ユーベルコードすら封じられたゆきは、全く無力な存在と化す。
「な、なぜ……?」
 元より成功率の低い賭けだった。
 糸の先に繋がれた月照丸が、動くことはない。ゆきは最早、指に括られた糸の動かし方すら思い出せないのだから。
「君の過去のすべてを喰らい尽くした。後は君が過去となるだけだ」
 アンヘルが無慈悲に剣を振り下ろした。
 のどに突き立てられた刃の先端から、唇から、ごぼりと赤い血と泡とが零れ出す。
 視界が白み、ゆっくりと意識が遠のく。
 アンヘルが剣を振り払うように、ゆきの体から引き抜いた。
 反動で力なく転がるゆきの体を、グリモアの光が包み込んでゆく――。

失敗 🔴​🔴​🔴​

鴇沢・哉太
俺に「過去に刻まれた傷跡や病痕」があると思う?
染みひとつない手を翻して傲然と言う
俺は理想の顕現
過去は存在しないしその必要もない
再現するための瑕がない
そういう存在だからだ
今ここに在る俺がすべて

故に封じられる気は全くしないな
先制攻撃は下手に避けず
意思を強く持って跳ね除ける心構え
もし万一一時的に動きを封じられても
俺には歌がある
歌だけでいい
喉さえ平気なら、平気さ

反撃は高らかに
黒騎士アンヘルを見据え死屍葬送歌を紡ぐ
アンデッドを召喚し手にした毒刃を向かわせよう
幾度となく骸の海から蘇るなら
幾度でも屠ってやればいい

さあ眠れ黒騎士
お前に永劫の終焉を贈ってあげよう
俺に見守られて息絶えるなら
本望だろう?
おやすみ



 グリモアの柔らかな光に包まれて、鴇沢・哉太(ルルミナ・f02480)はその艦艇に舞い降りた。
 血塗れの床にほんの一瞬足を止め、哉太はふっと柔らかに笑む。
 その視線の先にいるのは、血塗れの剣を手にした男――彼は微かに眼を細め、哉太に視線を返した。
 その場に似つかわしくない笑みを浮かべる哉太から、何か違和感のようなものを感じたのかもしれない。
 少なくとも、ここまでに相見えたことのない、浮き世離れした男だ。
「……猟兵か? 戦いに来たのなら、武器を取れ」
「武器? そんなものはないよ。俺には必要ないんだ」
「…………」
 探るような視線を向け、アンヘルは哉太の肉体に記憶されし傷痕を甦らせようとする。
「俺に『過去に刻まれた傷跡や病痕』があると思う?」
 染みひとつない手を翻し、傲然と言う。
 アンヘルは僅かに眼を見開いた。哉太の体には、彼の言う通り何の過去も甦らない。
「俺は理想の顕現。過去は存在しないし、その必要もない。再現するための瑕がない……そういう存在なんだ」
 ――今ここに在る俺がすべて。
 相見えた時より感じた溢れる自信の意味を覚り、アンヘルは目を伏せた。
「そうか……面白い存在だ。
 過去を操る私とは、幾分相性が悪い」
 ふふと微かに笑うような吐息を零し、アンヘルは真っ直ぐに哉太を捉えた。
「ならば今日、私が君に過去を与えよう」
 相手が違えば、アンヘルの放つ空気に威圧され、背筋を凍らせたであろう。
 哉太はますます甘く、魅惑するように笑みを深める。
「今度は俺の番だったよね?」
「……!」
 不穏な台詞に、アンヘルが素早く距離を取る。
「冥府行きのお時間だ。
 ――さあ、甘い夢を見ようか」
 哉太は高らかに死屍葬送歌を歌い上げた。
 誘われるように魔曲使いの霊が現れ、毒刃を手にしたアンデッドが召喚される。
「さあ眠れ黒騎士。お前に永劫の終焉を贈ってあげよう……俺に見守られて息絶えるなら、本望だろう?」
「大した自信だ。確かに私のユーベルコードは、君の前では意味を為さない。しかし……」
 アンヘルはアンデッドの攻撃を躱し、一刀の元に叩き伏せる。
「猟兵でありながら、一度の傷も負ったことがない。大方、後方支援で活躍していたのだろう」
「……武器を振るわない君が、黒騎士である私とどう戦おうというのだ」
 肉迫するアンヘルに、哉太は再び歌を紡ごうとする。
 けれど、もう遅かった。
 体の芯を揺さぶるような衝撃と共に、黒騎士アンヘルの紅い瞳が、極至近距離で哉太の滲むような鴇色の瞳を覗き込んでいる。
「君の偽りの肉体に刻んでやろう。これが、君の初めて手にする過去となる」
 紅い、紅い剣が、哉太の腹部を深く貫いている。
 背から突き出した切尖が、誰かの血で真っ赤に染まっていた。
 微かに震える指先で、哉太はアンヘルの髪を梳く。
「次に会った、時は……俺が、天国に……連れて行って、あげるよ」
 ふっと笑うように、アンヘルが眼を細める。
「断る」
 肉を引き裂くように振り上げられた紅々とした刃が、哉太の視界の端を掠め――彼の意識は、真っ暗な闇の中へと消えていった。

失敗 🔴​🔴​🔴​

アンバー・ホワイト
POW勝負だ、アンヘル
先制攻撃とは手強い相手だ…油断は禁物、気をつけていくぞ
消えざる過去の刃は【フェイント】と【見切り】を使って素早く動くことで捌いてみせる
避けきれない場合は翼に貼った【オーラ防御】でダメージの軽減を試みる

刃を避けた先、星屑の鎖を使用して、アンヘルの腕を縛り上げてみせよう
力比べと行こうか、アンヘル
わたしは、おまえを倒す、倒してみせる
鎖で捉えた腕を引き寄せて、体勢の崩れたところに踏み入り、槍で【串刺し】にする
躱されるようなら【槍投げ】による追撃を
わたしは、わたしを縛る過去など持ち合わせていないから
これからの未来のため、希望のために、しっかり前を向いて戦っていくことしか出来ないんだ



「勝負だ、アンヘル」
 投げかけられたその言葉に応じるように、アンヘルはアンバー・ホワイト(星の竜・f08886)の方へと向き直る。
 幾人の相手をしたのだろうか、アンヘルは僅かに疲弊しているように見えた。
「構わないが、手加減はしない」
「望むところだ」
 アンヘルの紅い瞳が、小さなアンバーの琥珀色の瞳をじっと捉える。その視線に、ぞくりと悪寒が走った。
(疲弊など、とんでもない。
 これは……手強い相手だ。油断は禁物、十二分に気をつけなければ)
 アンバーは一直線に突っ込んでいった。
 その姿を確りと視界に捉え、アンヘルが紅い剣を振り上げる――。
(来る……!)
 一瞬にして身を引き、アンヘルが狙い放つであろう位置から離れる。
 虚空より現れた刃が、空を切る。
「かかったな!」
 アンバーは即座に星屑の鎖を放った。
 夜空に輝く星々と、深い闇の色。
 放たれた夜色のオーラが、今正に次撃に移らんとしたアンヘルの肩口で爆発した。
「やってくれる……」
 アンヘルの眼が、どこか楽しげに細められる。
 アンバーは目を逸らすことなく、ただ真っ直ぐに黒騎士の姿を捉えていた。
「力比べと行こうか、アンヘル」
 そう言った彼女の右腕には、さらさらと小気味好い音を立てる、煌めく硝子の鎖が巻き付いている。
 鎖の先を辿れば、それはアンヘルの右腕へと繋がっていた。
「ほう、これはますます面白い」
「わたしは、おまえを倒す。倒してみせる……!」
「私も君を倒すと宣言しよう」
 アンバーが鎖を引き、アンヘルを引き寄せようとする。
 アンヘルは招かれるまま、アンバーの間合いへと飛び込んできた。
「くっ……!」
 予想外の行動だった。
 アンバーは淡く煌めくような銀の槍を、突っ込んでくるアンヘルの胸目掛けて突き放つ。
「そんなに大振りでいいのか?」
「うっ……あぁっ!」
 アンバーの一撃を躱したアンヘルは、槍より遙かに小回りの利く剣で以って、斬り付けてくる。
 無理矢理に身を捻り致命は避けたものの、肩口から胸にかけて、焼けるような痛みが迸る。
「残念だが、これで終わりのようだ」
 アンヘルが鎖を引けば、アンバーは引き摺られるように体勢を崩してしまう。
「わ、たしは……」
 立っていることができず、膝を突く。
 膝を突いた衝撃はすぐに痛みへと変わり、裂けた肌から血が溢れ出す。
 それでもアンバーは、力の限り槍を引き寄せた。
(わたしは、縛られるような過去など持ち合わせていない。だから……)
「これからの未来のため、希望のために……しっかり前を向いて、戦っていくことしか出来ないんだ」
「残念だ。君は今ここで、過去となる」
 無慈悲なアンヘルの剣が振り下ろされる。
 それを視界に捉え、アンバーは目を見開いた。
(わたしは、ここで終わるわけには……このまま死ぬわけには、いかないんだ……!)
「う、あぁぁっ……!」
 アンバーが力の限りに槍を振り上げる。
 微かな手応えと、それ以上の衝撃。
 強烈な痛みと共に、アンバーの意識は彼女を呼ぶグリモアの光に呑み込まれた――。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

神埜・常盤
傷痕を再現するなんて悪趣味だねェ
さて、どうやって防ごうか
物理的に防ぐ事は難しいだろうから
精神を強く持ち大ダメージを防ごう

痛むのはヴァンパイアたる父から
半端者として迫害された子供時代の傷
折檻の跡など今の身には些細な物
酷いのは此の胸に刻まれた傷の方

あァ、此れはまるで呪いのようだ
呪詛耐性と激痛耐性で堪えながら
胸中で祈りを捧げるのは式神達
彼等に祝詞が届く限り
僕は孤独じゃ無い、だから大丈夫
こんなもの痛くは無いさ

過去を振り払えば霊符を投げ
先ずはフェイントを試みて
反撃は天鼠の輪舞曲で行おう
暗殺の技能で隙を狙い
アンヘルに捨て身の一撃仕掛け
がぶりと噛み付き吸血を

ホラ、僕からのお返しだ
君も痛みを知ると良いさ



「過去の傷痕を再現するなんて、君も悪趣味だねェ」
 神埜・常盤(宵色ガイヤルド・f04783)は軽口を叩くように、アンヘルに声をかける。
「次から次へと、よく現れる」
「まァそう邪険にしないでよ」
 アンヘルが剣についた血を振り落とす。びしゃりと飛び散った血の痕に、常盤は目を細めた。
(派手にやったみたいだねェ……さて、どうやって防ごうか)
 物理的に防ぐのは難しいであろうことは、分かっている。
 考える間にも、アンヘルは二つの剣を手に常盤へと向き直った。
「どうした? そんなに欲しいのなら、君にも贈ろう。在りし日の君自身を」
 アンヘルが射抜くような視線を常盤に向ける。
(だめだ……精神を強く持つくらいしか考えつかねェ)
 じわじわと体中が熱くなってくる。
 過去の傷が一挙に甦ることで、痛みが衝撃となり常盤に襲いかかる。
「ぐっ……」
 ――半端者が。
 ヴァンパイアたる父から受けた、数々の折檻の痕。
 それに付随して、子ども時代の記憶までもが掘り起こされる。
 しかし、そんなものは今の常盤にとっては些細なものだった。
(くそ……痛ェ……)
 非道く痛むのはその胸だ。
 深く刻まれた痕がずきずきと痛んで、押さえ付けようと胸元を掴んだ手までも震える。
 ――あァ、此れはまるで呪いのようだ。
 早鐘を打つ鼓動が、荒ぐ呼吸が、常盤の頭の中で反響し始めた。
 アンヘルがゆっくりと近づいてくる。
「痛みで動けないか……ひどい有様だ」
 そんな言葉を零しながらも、彼の手にある紅い剣は、無慈悲にも高々と振り上げられて――。
「傷が少し増えるだけだ。私が終わらせてやろう」
「……僕は」
(僕は孤独じゃ無い。だから大丈夫……こんなもの痛くは無いさ)
 辛うじて洩れた言葉に、アンヘルは耳を傾けはしない。
 振り下ろされた刃が額を割らんとする間にも、常盤は心の中で式神達に祈りを捧げる。
 何度も、何度も。
 彼等に祝詞が届く限り、常盤に孤独などありはしないのだ。
 はっと吐息が洩れ出した。
 息を吹き返したように、常盤の体が動き始める。
 アンヘルの刃に頭蓋が悲鳴を上げるその瞬間にも、常盤は取り出した霊符を投げつける。
「くっ……!」
 一瞬の判断で、アンヘルは常盤から飛び退くように離れた。
(危ねェ……頭叩き割られるところだった)
 顔面の中央を、たらたらと紅い血が流れる。
 口元まで滴るそれを軽く舐め、常盤はその身を吸血蝙蝠の群れへと変えた。
 何匹もの蝙蝠と化した常盤が、鋭い牙を剥き出しに、アンヘルへと襲いかかる。
「なんと面妖な」
 紅い剣で斬り散らされ、数を減らしながらも、ぐるぐると周囲を飛び回る――常盤は不意に人へと姿を変え、アンヘルに牙を剥く。
「ホラ、僕からのお返しだ。
 君も痛みを知ると良いさ」
 吸血できそうな場所は、頭部のみ。幾ら不意をつこうと、場所が場所だけにガードは固い。
 アンヘルは剣の柄で、常盤の額を打ち付けた。そこは先ほど割られかけた、額の正中――ぐしゃりと濡れた音がして、紅い糸が伸びてゆく。
 常盤の記憶は、そこで途絶えた。

成功 🔵​🔵​🔴​

コノハ・ライゼ
強い程美味しく頂けるってヤツ

とは言え簡単に落とされちゃ意味がナイ
予知する術はナイから
攻撃は見てから躱すってのをやるしかないワケ

「柘榴」手に敵へと駆けながら周囲へ気を張り巡らせ
空間に歪みや違和を察知したら狙われる軌道を予測
『オーラ防御』で防ぐか軌道を逸らし首と腕を庇うヨ
首と腕さえ繋がってれば今は十分、てネ
斬り落し免れたら傷は構わず『激痛耐性』で凌ぐ

突っ込む勢いのまま『高速詠唱』で【紅牙】発動
柘榴を捕食形態にし喰らいつかせ
それを軸に自身が飛び込む『2回攻撃』からの『捨て身の一撃』仕掛けるヨ
「氷泪」にて『傷口をえぐる』ように再び喰らい付いて
ついでに取られた分、『生命力吸収』できっちり回収しときたいネ



 ――見てから躱すってのを、やるしかないんだよねェ。
 予知する術を持たず、けれど簡単に落とされては、美味しそうなごちそうも戴けない。
 コノハ・ライゼ(空々・f03130)は悩ましく思いながらも、艦艇に降り立つなり、『柘榴』を手に一直線にアンヘル目掛け駆けだした。
「そうか……来い」
 前触れもなく始まった戦闘に、アンヘルは愉快げに目を細める。
 迎え撃つようにコノハへと向き直り、手にした剣を大きく振るう――虚空を裂き現れた刃が、コノハ目掛け襲いかかる。
「……後ろからとか、ちょっとひどいンじゃナイ?」
 咄嗟にオーラ防御を張り、コノハは思い切り地面を蹴りつけた。
 衝撃が背を襲い、地面へと叩きつけられる。
 何かが詰まったように感じ、咳き込む。口中に血の味が広がり、背中から非道く熱いものが溢れ出している。
「そう素早く走り回られると、狩りでもしている気分になる」
「今の……ゼッタイ首狙ってた、でショ」
(まァいいや……首と腕さえ繋がってれば、今は十分)
 コノハはよろめきながらも立ち上がり、痛みを堪え再びアンヘル目掛け走り出す。
「君は……違うな」
 アンヘルはコノハから向けられる視線に、何かしらの違和感を抱き始める。
 自身の血を代償に、柘榴の封印を解く――牙状殺戮捕食形態となった柘榴を、コノハは駆ける勢いのまま、アンヘルの元へ放った。
 柘榴が牙を剥き、アンヘルに喰らいつく。
 度重なる戦闘で綻びが生まれたのか、柘榴の牙で鎧の肩に罅が走った。
「なんだと……」
「それじゃ、イタダキマス」
 コノハは捨て身でアンヘルの懐へ飛び込んだ。
 右目の奥に刻まれた印が妖しく煌めき――氷牙となり、アンヘルの鎧をとうとう噛み砕いた。
 抉るように牙を突き立て、コノハはアンヘルの血肉に喰らいつく。
 貪りつくその首の根を、アンヘルの紅い切尖が捉えた。
「君はまるで……獰猛な、獣のようだ」
 呟くようなその声に、コノハは薄い笑みを張り付けるように目を細める。
「強い程、美味しく頂けるってヤツ」
 コノハの首から、止めどなく血が溢れ出す。
 アンヘルは突き立てた剣を容赦なく払い、その首を薙いだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

終夜・嵐吾
傷を負うのは承知の上
持ちうる技能でその一撃を耐えてみせよう
【オーラ防御】しつつ攻撃の痛みを耐え意識保つ【覚悟】をもって
一瞬でも意識あれば攻撃できる

過去に刻まれた傷というのなら
それは眼帯の下、右目の傷しかない
抉られる痛みも何もかもそれは酷いもんじゃったから
再度というのは身もふるえるわ

けど、わしはそこにもらったものがあるからの
失うだけでは無かったことはきっと意味がある

それに今、引き摺り出されるのは目ではなくもらい受けた刻印
無理矢理起こされたなら、不機嫌じゃろう
虚の主よ、頽れよ。鋭利な花弁として、視界奪うよう攻撃を

攻撃に耐えられなんだら、次に攻撃受けそうな猟兵を【かばう】ことで攻撃の機を作れたら幸い



 艦艇に降り立った終夜・嵐吾(灰青・f05366)の前に、黒騎士アンヘルが立ちはだかる。
「君も、私と戦いに来たんだろう。
 ……さあ、始めよう」
 自ら猟兵を出迎えたアンヘルは、鎧が綻び露わになった肩口に傷を負っている。
(前の者達が頑張ったようじゃのう……目に見えて消耗しておるわ)
「そうじゃのう……始めるとするか」
 そう言うや否や、嵐吾はオーラ防御を展開する。
 ――過去に刻まれた傷というのなら、それは眼帯の下にある。
 抉られる痛みも何もかも、それは酷いものだった。
(再度あの痛みを、味わわねばならんとは……身もふるえるわ)
 けれど、そこにもらったものがある。
 失うだけでは無かったことに、きっと意味があるはずだ。
 嵐吾は覚悟を決め、アンヘルと対峙した。
 すべてを見透かすかのように、アンヘルの紅い眼が妖しい輝きを帯びる。
 次の瞬間、嘗て嵐吾の体に刻まれたすべての傷痕が、一挙に蘇る。
「ぬ……う」
 声を漏らさぬよう食い縛った歯が、みしりと音を立てた。
(大丈夫じゃ……これはかつて受けた痛み。耐え切れぬはずがない)
 血がぼとぼとと頬を伝い落ちてゆく。
 止め処なく溢れる痛みに、嵐吾はひたすら耐えることしかできない。
「動けないなら、これで終わりだ」
 アンヘルが無機質な眼で嵐吾を見詰める――無造作に振り下ろされた刃が、首筋を深く割いていく。
「ぐっ……うぅ」
 血が噴き出し、服に生温かい物が染み込んでいくのが分かった。
 視界が白み、意識が遠退いていく。
 朦朧とする意識の中で、嵐吾は右目に手を押し当て、掠れた声で呟いた。
「無理矢理起こされたなら、さぞ不機嫌じゃろう……虚の主よ、頽れよ」
 血を滴らせていた眼窩から、数多の花びらが溢れ出す。
 鋭利な刃と化した花びらが、アンヘルの視界を奪うように乱れ吹雪く。
 花びらに捲かれながら、アンヘルは振り払うように剣を振り上げた。
「立つのもやっとの体で、よくも……」
 ――花びらが散り終える頃、嵐吾もまたその意識を手放していた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

郁芽・瑞莉
黒騎士アンヘル……。
過去を操るなんてまさにオブビリオンですね……。
ですが、過去を操るのは何も貴方だけではありませんよ?

斬撃に関しては皆さんの攻防を観察してその軌跡や癖を頭に入れて。
ユーベルコードを発動、記憶喪失前の自分の力と第六感を信じて、
目線や身体の動きを観察してダッシュや残像で回避を試みますよ。

回避で捌けない斬撃の場合は武器受けやオーラ防御で、
ダメージを少しでも抑えて前に進み、カウンターで2回攻撃を。
「残滓たる過去の自分である瑞莉だもの、厳しいのは百も承知、よ……」

一撃目は串刺しにて、二撃目は引き抜きそのまま振り抜いて衝撃波で!
「天覇天翔と呼ばれた力、その身に刻みなさい!!」



(黒騎士アンヘル……。過去を操るなんて、まさにオブビリオンですね)
 郁芽・瑞莉(陽炎の戦巫女・f00305)は、その軌跡や癖を見抜かんと、幾人かの猟兵と黒騎士との戦闘を比較的安全な場所で見守っていた。
(……ですが、過去を操るのは何も貴方だけではありませんよ?)
 猟兵がグリモアの光に包まれ帰還する姿を見届けると、いよいよアンヘルの元へ歩み寄る。
「ようやく戦う気になったのか」
「ええ……始めましょう」
 頷き、視線がぶつかり合う。
 戦闘開始――瑞莉がユーベルコードを発動するより先に、アンヘルは手にした剣を振り抜いた。
 虚空より現れた斬撃が、瑞莉の首を切断せんと襲い来る。
 その斬撃に、彼自身の目線も体の動きも関係ない。
 過去に刻まれた刃は、自身の行動により後れをとった瑞莉の体を、確実に捉えた。
「くっ……あぁ!」
 咄嗟にダッシュをかけることで、首の切断だけは免れた。しかし背に負った傷は深く、肉はおろか骨にまで達している。
(いけない、意識が……)
 激痛に呼吸が乱れる。
 夥しい量の血液が瑞莉の体を伝い、じわじわと艦艇の床を浸蝕してゆく。
 彼女の危険を察知したのであろう、元の世界へと導くグリモアの淡い光が、体を包み始める。
「まだ私は、なにも……まだ、帰るわけには……!」
 ぐっと強く手のひらを握り締め、瑞莉は祈るように叫んだ。
「昔の私、どうか……今一度、お力を……!」
 十束剣に残る残滓が、その祈りに応える。
 嘗て、記憶を喪う以前の姿へと変貌を遂げた瑞莉の体に、爆発的な力が宿る。
 しかし傷が癒えることはない。刻一刻と瑞莉の命は流れ、立ち上がるのもやっとの状態だ。
 グリモアの光もまた、時を告げるように色濃くなってゆく。
「残滓たる過去の自分である瑞莉だもの、厳しいのは百も承知、よ……」
 剣の柄を握る手に、力を込める。
 彼女が何かする気なのだと察したアンヘルもまた、油断なく紅い剣を手に身構える。
(一瞬だけでいい、この瞬間だけ、意識と体が持てば……)
 無理矢理に一歩踏み出した。
 二歩目を蹴りつける。
 背骨がみしみしと悲鳴を上げ、のどの奥から噎せるほどの血の香りがする。
 飛びかかる彼女の剣先を、アンヘルは冷静に見極めていた。
 串刺すように突き出した瑞莉の剣が、空を斬る。
「天覇天翔と呼ばれた力、その身に刻みなさい!!」
 無理矢理に身を捻り、空振りした刃を振り抜く。
 ――ごきりと何かが断たれたような音が体内で響き、瑞莉が目を見開く。
 その音は確かに、アンヘルの耳にも届いた。終わりを覚った彼の目が、僅かに細められる。
 瑞莉の最期の刃を受け止めんと、アンヘルは剣を振り上げた。
 しかしアンヘルの思惑を裏切り、衝撃波が放たれる。
 真っ正面からそれを受け止めたアンヘルが、数歩後ろへよろめく。
 芯のへし折れた瑞莉の体もまた、ぐしゃりと地面に転がった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

アルバ・アルフライラ
往生際の悪い奴め
幾度と骸の海より蘇るならば
――此方は何度でも屠る迄

然し、過去に刻まれた傷か
…渾身の魔術を行使する度に罅を入れる故
存外に酷い有様になるやも知れんな
とはいえ初撃を切り抜けなければ勝機はない
――それに従者に心配させる訳にもいかぬでな
<呪詛耐性>で威力を削げるか試す
叶わずとも<オーラ防御><激痛耐性>で凌ぐ
たとえ一歩も動けずとも
指先が動けば魔方陣は描ける
口が開けば詠唱も叶う

<高速詠唱>で召喚するは【雷神の瞋恚】
逃げ場のない様に<範囲攻撃><全力魔法>で広範囲に魔術を行使
<マヒ攻撃>で彼奴の動きを一時的に封じられれば僥倖
他の猟兵へ支援を惜しまず互いの隙を補う行動を心掛ける

――沈め、黒騎士



 沈みゆく瓦礫の艦艇を、戦いの中溢れた血肉の紅が彩っている。
 眠るように目を閉じ、深く息を吐く。亀裂の入った黒甲冑を身に纏い、男はただ静かに刃を交える者の訪れを待っていた。
「ここに居ったか」
 激戦の地に、新たな靴音が凛々と響く。
「幾度と骸の海より蘇るとは、往生際の悪い奴め」
 アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)の声に、黒騎士はゆっくりと眼を開けた。
「だが案ずることはない。蘇るたび、何度でも屠ってやろう」
「……待っていたぞ、猟兵」
 傷を負い、鎧は砕け、度重なる猟兵からの襲撃にアンヘルは消耗しているようだった。
 けれど、目の前の敵――アルバの姿を捉える眼差しだけは、何一つ変わらない。
「幾度と私の前に立ちはだかる……君達を屠るのは私の方だ」
 紅と蒼の視線が交錯する。
(これで凌げるか……?)
 妖しい輝きを帯びるアンヘルの瞳に、アルバは挑み耐え抜く覚悟で、己の持てる技のすべてを賭ける。
(堪えろ。……これを切り抜けなければ、勝機はない)
「君の過去を見せてもらおう」
 ビシリと亀裂の入る音がした。
 三条の光を抱くスターサファイアは、渾身の魔術を行使する度に罅を入れる――。
「くっ……」
 過去幾度罅を入れただろうか。砕けた貴石の欠片が、からりからりと足元につもってゆく。
 自身の身が酷い有様になろうことは分かっていた。
 従者に心配させる訳にはいかず、けれど目の前に立つ禍々しい存在を捨て置くこともできず、アルバは一人この場所へきた。
 立っていることができず、頽れる最中に星追いを地に突き立てる。
「猟兵、終わりだ」
 アンヘルの紅い剣が翻る。
 杖を強く握り締めるアルバの耳元で、しゃらりと微かな音が鳴った。
「私を侮るな。たとえ一歩も動けずとも、指先が動けば――」
 疵負う貴石を抱くように、天鵞絨の外衣が翻る。
 高速で描き出される魔方陣に、アンヘルは眼を見開いた。
「くっ……!」
 アルバが導を高々と掲げる。
 光の尾を引く杖が、雷神の瞋恚を招いた。
 振り上げた紅い切尖に、真っ直ぐに光の筋が直撃する。広範に広がる天雷に、じわじわとアンヘルの体が炭と化してゆく。
「天罰と心得よ」
 ふっと口の端を引き上げ、アルバが笑う。
 アンヘルもまた、笑うように眼を細めた。
 手にだらりと紅い剣を下げたまま、男はゆっくりと闇の中へ沈んでゆく。
 ――沈め、黒騎士。
 ――見事だ、猟兵。
 互いに崩れた身なれば、声なき声の形を唇がたどる。
 黒騎士が骸の海へ沈みゆく。
 終焉を齎すは、悪を退け幸運をもたらす、ただ一つの運命の石――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月22日


挿絵イラスト