アルカディア争奪戦⑪〜大樹を食らう鉄の翼
『|帝国継承軍《サクセション・フォース》』……そう名乗った一団は、鉄の船を駆ってこの空をさまよう鉄の者どもだという。
曰く、おおよそブルーアルカディアに知れ渡るガレオンとは体系を異にする異質な技術を用いられた飛空艇を所持しており。
曰く、魔術とも傀儡とも異なる理で動く鉄の兵を従えるという。
恐らく、別世界を渡れる猟兵が彼等の船を見れば、さながらそれが宇宙戦艦のようにも見えたろう。
そして、彼等を構成する機械化したオブリビオンの姿を見れば、異質の理由をいくらか察するかもしれない。
その真偽はひとまず置いておくとして、彼等が手中に収めたという島には、支配すべき人は住んでいないという。
その島には名もなき大樹と、多くの水晶が自生しているだけである。
文化の飛び級も甚だしい彼等が、一体何を目的としてこの大樹の島を占拠しているのかは不明である。
しかし、彼等はおびただしい数で以て、まるで壁を成すかのように勢力を展開、今や何者の突破をも許さないという。
『|拒絶の雲海《アルカディア・エフェクト》』へと至るには、この布陣を抜けなくては始まらない。
だが、猟兵のみの力で抜けられる規模とは、到底考えにくいが……。
「と、いうわけなんですよねー。いやはや、同じお船の世界とは言え、ホントに宇宙戦艦が出てくるなんて……」
グリモアベースはその一角、給仕姿の疋田菊月は、居並ぶ猟兵たちを前に、うーむむと腕組みし始める。
しかしそれでは話が始まるまい。説明を促すべく彼女の頭上に陣取った相棒の黒い鳥がげしっとその嘴でつつくと、気を取り直したようにこほんと咳払い。
「我々の進路を妨害するかのように島の周囲に展開するオブリビオンの方々は『|帝国継承軍《サクセション・フォース》』と名乗っており、今回のアルカディア争奪戦における有力な屍人帝国の一つ『天帝騎士団』と同盟関係にあるという話を聞いております……。
んー、天帝騎士団……前にもちょっと聞いた気がしますねー。まあそれはいいでしょう。今は目下の障害を片付ける事ですよ」
アルカディアを狙う帝国の同盟というのなら、速い話が、邪魔者を寄せ付けないための軍勢と考えるのが妥当だろうか。
「それで、帝国継承軍とやらですよ。ご立派なお船を所有のようですが、本来の用途とは違うように見受けられますね。どうやら有重力下での航行には制限があるようで、1時間数パーセクみたいな、とんでもない航行速度は出せないようです。まあ大気圏内ですからね。
この鈍ガメの戦艦自体はあまり数は多くありません。肉薄すれば大した戦闘力も無いでしょう」
でもですねー。と首をひねる菊月は悩ましげに小首をかしげる。
彼等の出所はともかくとして、その戦力の最たる部分は、その驚愕の生産力にあった。
有翼人を模したような機械化オブリビオンの戦士を、ほぼ無尽蔵に作り出しては布陣する、その圧倒的数の前には、屈強な猟兵とて一人では対抗できまい。
「よほどの範囲攻撃でもなければ、この数を抜けるのは難しいと思います。そこでですね。数で言えば、我々も決して孤軍ではありません。
そうです。我々には今回、『|飛空艇艦隊《ガレオンフリート》』の勇士の皆さんが付いています。彼等に協力を仰ぎ、その数に対抗しましょう!」
技術の差はあるかもしれないが、この空の専門家は、こちらの味方をしてくれるはずだ。
「我々は確かに個人では無類の強さを誇るかもしれません。しかし、数ではどうやっても勝てません。まあまあ、数を覆すズルもありますが……とにかくそういった知恵を駆使して、皆で勝利を掴みましょう。それでは、吉報をお待ちしておりますね」
みろりじ
どうもこんばんは、流浪の文書書き、みろりじと申します。
出遅れてしまいましたが、戦争シナリオ2本目となります。
宇宙戦艦みたいな船を持つおびただしい戦力を前に、空の勇士達と協力して戦いましょう。というシナリオです。
敵キャラとして配役できるオブリビオンが、おおよそ機械化オブリビオンぽくないものばかりでどうしたものかと悩んだものですが、このような形になりました。
このシナリオは戦争シナリオですので、1章完結となります。
プレイングボーナスも用意されておりますので、オープニングにおける菊ちゃんの話を、要点だけちゃんと聞いておいた方がいいかもしれません。全部丁寧に聞いておくと、ちょっと話がくどいので要点だけでいいでしょう。
というわけで、皆さんと一緒に楽しいリプレイを作ってまいりましょう。
第1章 集団戦
『連斬兵』
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POW : 連斬大突撃
【羽や各種装備による加速】によりレベル×100km/hで飛翔し、【装備重量】×【スピード】に比例した激突ダメージを与える。
SPD : 連斬遠狙撃
【数秒間息を止めて集中する事】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【遠距離武器】で攻撃する。
WIZ : 連斬近攻撃
【近距離武器】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
イラスト:すねいる
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
数宮・多喜
宇宙戦艦が相手とはねぇ。
こないだスペシでやり合ってきた身からすると、
なんか不思議な感じだねぇ……
そこからわんさか出てくる雑魚どもを迎撃しろって事なんだろうけど。
……見えてるって事は、別に墜としても構わないんだろう?
アタシ単独じゃさすがに空飛ぶ手段が限られるからね。
勇士の飛空艇に乗せてもらって、甲板で一緒に迎撃の『弾幕』を張りながら戦況を『情報収集』し、座標の絞り込みを始めるよ。
コイツをぶっ放すなら、あまり近付きすぎると却って危険だからね。
なるべく巻き込める敵の数が多くなる敵艦の座標を狙って、
【宙穿つ穴】を発動させる!
周囲に飛んでる兵士共も一網打尽にできるだろ、
そのまま重力の井戸へ落ちちまえ!
イクシア・レイブラント
POW判定。連携OK。公序良俗に従い迷惑はかけない。
* * *
UC発動。翡翠の弾丸のように空を駆け、戦場に突入する。
「こちらイクシア、交戦を開始する。飛空艇艦隊は砲撃を続けて」
最大稼働の効果に加え[推進移動][滑空]による高速飛行。
クリアパーツを光らせて[存在感][陽動][おびき寄せ]。自身のダミーも展開させつつ[威嚇射撃][逃亡阻止]。
広範囲の相手の敵視を集めて前衛を構築。飛空艇艦隊の安全を確保する。
「機体コンセプトは同じ。でも、スピードでは負けない」
[見切り][空中機動]で連斬大突撃を躱し、大型フォースブレイドで[空中戦][鎧防御無視][なぎ払い]。
鋼鉄のフレームごと断ち切っていこう。
ロラン・ヒュッテンブレナー
○アドリブ絡みOK
無限に機械化オブリビオンをずっと生み出す戦艦かぁ
ファクトリー艦だね、まるで
でも、ぼくにもあるの
相手が攻撃すればするほど、無限に威力と数が増える魔術が、ね?
アルターギアに搭乗して|飛空艇艦隊《ガレオンフリート》の前衛を飛行して接近
アルターギアの装甲に施した魔術回路と、AIの演算補助を受けて魔力を増幅、魔術を強化するの
広域結界展開
多重詠唱して強度を高めて艦隊を守りながら突撃、相手戦艦に迫るよ
結界は割れないように何度も重ね掛けなの
艦隊のみんな、チャンスを作るから、制圧はお願いね?
UC発動
これだけの数が居れば、威力も手数もかなりあるはず
いっぺんに撃ち抜くよ!
青い世界。そう言わしめる空の果て無きを遮断するのは、大樹を抱いた島に群れる無数の有翼人たち。
それらは人でなく、ガレオンとも言い難い鉄の船から無尽蔵に湧いて出てくる機械化オブリビオンであった。
彼我の数的戦力差は比べるべくもない。
さながらそれは、浮遊島一つを巣とした蜂の群れが戦闘態勢に入って威嚇するかのように兵を出しているのにも似ていた。
だがしかし、実際に蜂の巣となっているのは島ではなく、群れを成す有翼人に守られた鉄の船。銀河を渡る宇宙戦艦であった。
「距離感狂うな、こりゃあ」
勇猛で成らした空の世界の勇士達。ガレオンフリートの一団も、この数を前には手をこまねいていた。
踏み潰す程度の蟻が相手であろうとも、その数が絨毯、或は波を成すかのように数を用意すれば、容易に踏みつぶせるものではなくなる。
手を出せば真っ先に飲み込まれる。それがわかるからこそ、血気に逸る飛空艇乗りたちとて安易に手が出せない。
その一隻に乗船していた、数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は、甲板の手すりから身を乗り出し、一目には収まりきらぬほどの敵の数を前に、いささか気圧されるものもあった。
何より、目視で甲板から見える光景のもとで、相手取るのが先日宇宙でやり合ったような艦隊だというのだから、おかしな気分にもなる。
重力の中で、陽光を浴びて、しかし広がる膨大な空間に敷き詰められるかのようにわんさと出てくる相手は、宇宙規模ときたものだ。
広がる視野に、おかしくなる距離感。
「あっこから、わんさか出てくる雑魚どもを迎撃しろって事なんだろうけど。
……見えてるって事は、別に墜としても構わないんだろう?」
よくよく目を凝らさないと見えてこないほど密度の高い敵の壁の向こうに、うっすらシルエットだけ見える宇宙戦艦。
あれの数を減らさない事には、いくら有翼人たちを叩いても無駄だろう。
目的はあれを墜とす事になりそうだが……多喜の感覚からすれば、まだ遠い。
空を飛ぶ手段も、多数を相手取る手段も無くはない。が、切り札を使うには、まだタイミングではない。
大掛かりな技となると、味方をも巻き込みかねないという理由もあった。
せめて、敵の前衛だけでも排除し、正確な座標でも見いだせれば確実なのだが、そうするためには、どうにかして近づいて蹴散らしていく必要がありそうだ。
「先陣を切るか……弾足りるかなぁ、はは」
手に取ったマシンガンの湾曲マガジンを外し、装弾されている弾と、予備の残弾を確認する。
一発で一体ところで、どう考えても足りないが、まあ、足らせる手段も無くはない。
飄々とした顔つきのまま厳しいかなーとぼんやり考えている多喜の乗る船の両サイドを、光跡を残して前に飛び出すものがあった。
「おお、飛べる勢! 来てくれたか。じゃあ弾足りるな」
飛空艇艦隊の掃射も加味してみたとしても、猟兵の存在は大きい。
先陣を切るように飛び出したのは、サイキックキャバリアと、空飛ぶレプリカント。
『無限に機械化オブリビオンをずっと生み出す戦艦かぁ……。
ファクトリー艦だね、まるで。イクシアさん、どうかな、いけそう?』
「……やってみる。できるだけ、引き付ける」
自身の魔術により稼働し、また魔術に必要な祭壇をも兼ねるキャバリア、アルターギアを駆るロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)。
そして、緑の光跡を引いてボディのあちこちにあしらわれた透き通るパーツに光を湛えるイクシア・レイブラント(翡翠色の機械天使・f37891)。
各々が、それぞれに得意分野を生かすべく、即興でチームを組んで、多勢をぶつかり合うことを検討する。
『飛空艇艦隊の皆さんは、ぼくの結界の後ろへ。前衛を構築して敵前線を削ります。もちろん、それだけでは押し負けるので、イクシアさんに遊撃をお願いします。
手透きの方はそちらの援護を!』
言うが早いか、アルターギアの周囲からその背後を大きく覆うように、結界が形成される。
5メートルのキャバリアを大きく超える、艦隊の前面を覆うかのような広域結界の展開は、彼そのものはもとより、アルターギアに施された魔術回路、AIによる演算補助、そしてロラン本人の多重詠唱も含め、幾重にも増幅強化が施されていた。
そうした前面の盾【殲滅結界【Lancia fa schifo】】が完全に敷き終わるよりも前に、翡翠色の光跡を引いた輝きが弾丸のように、黒く群がる有翼人たちへと突き刺さっていく。
「こちらイクシア、交戦を開始する」
緑色のサイキックエナジーで自身を覆い、機体を保護するバリアも兼ねた推力としながら、イクシアは【最大稼働】で敵陣を切り裂いていく。
高速で飛翔する物体は、それそのものが武器である。
敵の密度が高かろうと構わず飛び込んで、質量差で動きを止められる前に素早く転進し、まるで螺旋を描くかのように展開して巧みに敵を引き付けるその動きは、突撃しに行っているはずなのに、敵に触れさせない。
そのスピードも然ることながら、自身で光るパーツと、溢れるサイキックエナジーの光跡が、敵の目をひきつけてやまないのだ。
彼等が注視すべきは、攻撃陣形をとりつつ盾を展開して前面にせり出てきたロラン達を先鋒とする艦隊の筈だが、多くの有翼兵たちは敵を輝くイクシアと見定め、その幻影を追うように引っ張られていく。
「よし、追いつかせるな。撃て、撃てーい!」
光跡に魅せられて孤立した部隊を、飛空艇艦隊の砲撃が仕留める。
無論、敵もそればかりにかまけてはいない。
正面からぶつかりに行くロランたち前衛は、激しい砲撃音が飛び交っていた。
しかし、多くの敵兵は、ロランの展開する結界を抜けることはできず、その破壊すらもままならない。
何故ならば、キャバリアで結界を維持するロランが、それらに歪が生じるたびに次なる結界を張り直しているからである。
「よーし、撃ち続けろー! ロラン殿に近づけさせるな!」
『すごい数……でも、ぼくにもあるの。
相手が攻撃すればするほど、無限に威力と数が増える魔術が、ね?』
防御に徹するロランに近づけさせまいと、迫りくる敵機を弾幕を張ることで寄せ付けない艦隊。
しかしながら、ロランはただ防御だけを考えているわけではなかった。
この魔法は、ただの防御結界ではなく、受けた数が多ければ多いほどその手数を増やす反撃を兼ねた魔法なのである。
『艦隊のみんな、チャンスを作るから、制圧はお願いね?』
その反撃の時が迫る中、その戦列に混じる多喜を乗せた船もまた、出方を選ぶ時が迫っていた。
「だってよ。多喜ちゃん、俺たちもあの巨人殿に合わせて飛び込むのかい?」
「それもいいけど、できれば敵の元を断ちたいんだよね。あれが見えるかい?」
「船か。だが、ちと遠いぜ。戦列を離れちゃ危ないと思うが……おっとぉ!?」
流れに乗る形を取っていた多喜達の前に、相手の一団からあぶれた有翼人の部隊が襲い掛かり、総員であわてて対応する。
多喜もSMGで弾幕を張り、それらを的確に撃ち落していくが、直後に通りかかった緑の光跡が、それらを巻き込んで空中で引き千切っていく。
イクシアが通りかかり、多喜達の船の無事を確かめ、そのまま飛び去ろうとするが、
「ちょい待ち、ちょっと頼めるか?」
「なに?」
「敵の影に、うっすら戦艦が見えるだろ? 引き付けるついでに、進路を開けてほしいんだ。……余裕だろ?」
「……やってみる。やったあとは、離れた方がいい?」
「おお、察しがいいねぇ!」
短いやり取りを経て、イクシアは多喜のおおまかな狙いを読み取り、敵艦を叩く役目を彼女に渡すべく、その道を切り拓きにかかる。
そして、
『身に受けし傷、流れる滴に、乾く槍。我が敵を追い、悉くを、喰らい退けよ。ヒュッテンブレナー式殲滅結界、射出!』
艦隊前面を覆っていた結界がロランの号令の下、無数の光の槍へと転じ、前線を担っていた有翼人たちを貫いていく。
それを皮切りに、飛空艇艦隊も一斉に攻勢に出る。
大きく戦況が動いたそのタイミングで、イクシアもまた急に転進。
敵陣を切り裂くかのように、身の丈を越えるような大型フォースブレイドを展開する。
「機体コンセプトは同じ、でもスピードなら負けない……パワーでも」
青みを帯びた翡翠色の光跡が戦列を切り裂き、黒い靄のようだった敵陣が切り開かれていく。
その先にようやく。
「見えたぞ! 座標固定、友軍は離れろ!」
正確な位置をとらえた敵宇宙戦艦。位置さえ把握できれば、あとはそこに投下するだけ。
多喜の【宙穿つ穴】は、正確な位置に亜空間を作り出し、空間を連続崩壊させる。
既にある空間にさらに空間を出現させるということは、その場にあり得ない超大質量を出現させるということでもある。
難しい話はとにかく、出現した亜空間はその場で空間同士が衝突し、凄まじい重力異常を起こして崩壊していく。
「そのまま、重力の井戸に落ちちまえ」
無限の暗闇。光すらとおらぬ空間密度。歪曲する空間同士の超重力にすり潰されて、宇宙戦艦は圧壊。その黒い大きな歪と共に何処かへと消えていった。
大成功
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ヘスティア・イクテュス
|帝国継承軍《サクセション・フォース》とまさかブルーアルカディアで戦う羽目になるなんてね…
えぇ、彼らを倒すのはその世界の人間の役目!
ヘスティア・イクテュス!行くわよ!
現地の船の協力と前進し帝国を倒す…こう過去の…最初の戦争を思い出すわね…
というわけで禁・電王魔術『艦投影』!
これで自身の船、ソードフィッシュ号を再現!
此方、SkyFish団船長、ヘスティア・イクテュス
これより正面に向けて『一斉発射』を行う【範囲攻撃】
|飛空艇艦隊《ガレオンフリート》は正面を避け側面から強襲せよ!どうぞ!
と自身が正面火力&敵の攻撃を引き付ける役に
電脳魔術だからできる役よね
炉を開け!魚雷と機銃、主砲を敵艦隊へ発射!
夜久・灯火
なんで空の世界に宇宙戦艦があるんだろう?
疑問は尽きないけど、あの艦隊をなんとかしないとね。
今回はスカイ・ホエールに乗って出撃するよ。
艇の周囲にサーチドローン11台、シールドドローン6台、ガトリング砲台4台も展開。
まずはUCで精霊さん達を呼んで凍える吹雪で飛んでくる敵に攻撃してもらおうかな。
数が多くても、凍らせちゃえば敵の動きも生産のスピードも鈍るでしょ。
敵の動きが鈍ったら、飛空艇艦隊の人達にも攻撃してもらおうかな。
ボクもシールドドローンの【レーザー射撃】や、サーチドローンとガトリング砲台の【弾幕】で攻撃するよ。
敵の反撃は【運転】して【空中機動】で回避か、バリアの【結界術】で対処しよう。
陣を成し、ぶつかり合い、砂のように零れ落ちながら尚も形を整えて、尾を踏みに行くように、爪牙を食いこませるかのように、それらは群体でありながら二つの異なる生物同士であるかのようにぶつかり合っていた。
広大な空の中では小規模にも見えるかもしれないぶつかり合いは、数と数とのぶつかり合いであった。
この空の世界に名だたる勇士たちが、決死の思いのもとに結束し、一丸となって喰らおうとするのは、蟻塚のように膨れ上がった有翼の戦士たち。
もっと言えば、その奥にそびえる鉄の箱のようにも見える艦船。
気嚢も、プロペラも、艦橋さえもどこにあるかわからない、それこそ鉄塊が空に浮いているかのような、それはこの世界の住人にとっては不自然極まる船であった。
だが、一部の者たち、とりわけ猟兵と呼ばれる者達にとっては、それは既知のものであった。
「なんで空の世界に|宇宙戦艦《あんなもの》があるんだろう?」
飛空艇艦隊に合流せんとやってきたクジラ型のガレオン、スカイホエールの操縦席から、夜久・灯火(キマイラの電脳魔術士・f04331)は、敵影の中にこの世界には似つかわしくない機影を認める。
形状こそ奇抜なスカイホエールであるが、先進的な技術を盛り込んだ飛空艇は、その気密性も高く、空中のみならず水中での航行も可能であるが、その設計思想を形にするまでには幾つもの壁があった。
一時的に電脳魔術で運用するというなら、短時間での扱いだけ気にすればいいが、継続的に使うための船となると、物理法則の壁が容赦なく立ちはだかる。
耐圧性と気密性を維持したままで、有重力下で空を飛ぶ船というのは、そのバランスを取るのが難しい。
二つの異なる環境で問題なく動かせるというのは、本当に大変なことなのである。
まして、無重力でこそ運用可能な超巨大な宇宙戦艦が、この空の世界、無限に広がるかのような空のもとで重力だけはきっちりと存在する世界で安定航行など可能なのだろうか。
存在するメリットがさっぱりわからないが、しかし、同乗者の目つきを見れば、それも察すところであった。
「|帝国継承軍《サクセション・フォース》……! まさか、ブルーアルカディアで、連中を見かけることになるなんてね」
灯火のスカイホエールに相乗りさせてもらっていたヘスティア・イクテュス(SkyFish団船長・f04572)は、モニター越しにその機影を見るなり、その目元に険しいものを浮かべる。
ヘスティアの生まれはスペースシップワールド。まして宇宙海賊としてかつて名を馳せた一族に生まれた彼女にとって、銀河帝国軍の艦影を見間違えるはずが無かった。
一度はカタストロフを起こそうと企てた銀河帝国。たとえ、皇帝は倒れたとしても、その系列を見逃すわけにはいかない。
「間違いないんだね。ふぅ、疑問は尽きないけど、あの艦隊、なんとかしないとね」
「えぇ、彼らを倒すのはその世界の人間の役目!」
こまったこまった、と猫が顔を洗うようにわしわしと頭を掻く仕草の灯火に、怒り心頭となりかけたヘスティアは冷静さを取り戻す。
ここまでのことは、ちゃんと事前にグリモア猟兵にも聞いていた話だ。
今更怒りを露にするなんていうのは、マイペースたる自分らしくない。
わざわざついでだからと船を出して運んでくれた気のいい猫さん。灯火に感謝せねばならない。
厳密には猫っぽいキマイラなのだが、まあそれはいい。
「ここからは別行動だね。お互い気を付けよう」
「ありがとう。十分に温存できたわ。こういう船も、いいものね」
魚と骨が交差するような海賊旗のあしらわれた帽子をかぶり直し、席を立って歩いていくヘスティアを、操縦席から動かずに灯火は後ろ手に手を振って見送る。
手を離せない理由は、スカイホエールの戦闘配備に入るからだった。
サーチドローン11台、シールドドローン6台、ガトリング砲台4基、それぞれ動作不良は無く、いつでも戦闘可能である。
その間に、ヘスティアは後部ハッチから一人、空へと身を投げる。
「ヘスティア・イクテュス! 行くわよ!」
電脳魔術を展開、大きく広げた手足の更に向こうの向こうまで、幾重にも展開した魔術式が、【禁・電王魔術『艦投影』】を成すために、頭の中の容量を削っていくのがわかる。
ここは宇宙ではない。身体全体に感じる大気は、柔らかく力強い。
拠点にしているとある宙域に停泊中の自分の艦を、ここにまで持ってくるのは無茶が生じる。
先述のように、無重力下以外で巨大宇宙船を運用するのはかなり難しい。
だがそれでも、いくらかの前提を無視するならば、この場に自分にとっての最大戦力を投じる事が可能になる。
ユーベルコードとはそういうものだ。
かくして、全長数百メートルにも及ぶというヘスティアの艦、ソードフィッシュ号は、ここに再現される。
「な、なんだ、下の方にでかい船が……あんなものが飛ぶのか!? やつも敵の船だっていうのか?」
『此方、SkyFish団船長、ヘスティア・イクテュス。
これより正面に向けて『一斉発射』を行う!
|飛空艇艦隊《ガレオンフリート》は正面を避け側面から強襲せよ! どうぞ!』
「ガレオンフリートだって!? じゃあ味方か……一斉発射……島みてぇな船でか!?」
ソードフィッシュ号に乗り込み、全方位に向けて呼び掛けたその言葉に、艦隊の勇士達は、慌ててその射線を開ける。
空を突き破るように雲を切り裂いて持ち上がった艦首、そして上昇するソードフィッシュ号。
「敵影多数。識別信号割り振り。あーもう、やる事いっぱい! ハッキング使えればいいのになぁ、もう!
でも、現地の船の協力と前進し帝国を倒す…こう過去の…最初の戦争を思い出すわね…」
巨大戦艦を一人で操り、またその存在を維持し続けるために電脳魔術を展開し続けなくてはならないヘスティアの負担は大きく、得意とするハッキング能力に割く余裕はない。
言うなれば、自分の記憶にハッキングをかけて船を再現している真っ最中なので、その制御に手いっぱいなのであった。
正面艦主砲チャージ。対空機銃、魚雷発射管、それぞれアクティブ。
「炉を開け! ぶつけるぞ!」
艦に群がる有翼の機械化オブリビオンも多数いるが、質量差と装甲の前にあまり機能していない。
とはいえ、幾重にもぶつけられれば装甲をはがされるのも時間の問題だ。
全ての火器管制、姿勢制御、防御機能、ダメージコントロール。それらを一手に担うには頭がもう幾つかほしくなるところだが、自動制御に任せてしまうと味方ごとやりかねない。
慎重に、落ち着いて。攻撃機能自体はちゃんと敵を排除している。もとより被弾は覚悟の上だ。
それに──、
『スカイフィッシュに援護の必要なし! そこまでやわじゃないから、盾にしてでも、攻撃を優先して! こちらも援護するよ!』
「了解! 悪いが、利用させてもらうぜ! 射線に入るな、クジラ型に続けー!」
ソードフィッシュ号の周囲を飛び回るクジラ型のガレオン。スカイホエールが、飛行艇艦隊を先導するかのように立ち回り、展開したドローンからレーザー射撃や、ガトリング砲、機銃などで率先して敵の撃破に取り組んでいる。
【吹雪の精霊】。灯火のスカイホエールの周囲に投影されるディスプレイから湧き出る冷気。
電子の精霊が周囲に吹雪をまき散らし、機械化オブリビオンを牽制する。
元より宇宙兵器とはいえ、ここは大気がある。水分を含んだ大気を猛烈な寒波が襲えば、瞬く間に金属の装甲は凍結し始める。
ましてわざわざ現地のオブリビオンを模して生産された有翼人は関節が多く、凍り付く部分が多いのである。
『動きが止まったよ。さあ、撃った撃った!』
白む空に、散華する鋼鉄の天使たち。
その光景を頼もしく思いつつ、周囲に爆雷を投下するヘスティアのもとへ、主砲のチャージが完了した旨のアラートが灯る。
『主砲、敵艦へ撃てー!』
大気が揺れるほどの巨大な光線が、敵陣を一掃。その先に駐留していた宇宙戦艦をも吹き飛ばした。
大成功
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リーヴァルディ・カーライル
…空の勇士達が協力してくれるとはいえ、生半可では数的不利を覆す事はできそうにない、か
…ならば、初手より一撃に全霊を込めた奥義にて活路を切り開くまで
…飛空艇艦隊の皆には、術式が整うまで敵軍を足止めして欲しい
事前に飛空艇艦隊にはUC発動までの時間稼ぎをお願いして、
大鎌に武器改造術式を施して砲撃の反動に耐える為の黒刃鎧に変型させてUCを発動
眼前に展開した魔法陣に限界突破した魔力を溜めて極大威力の荷電粒子砲をなぎ払い、
魔力が尽きるまで放射される光熱属性攻撃のオーラで防御を貫き敵軍を蒸発させる
…魔力回路、全段直結
…黒刃鎧装、脚部固定
…圧縮粒子、正常加圧中
…友軍は射線上から退避を。ユーベルコード、発動承認
ユリウス・リウィウス
ち、面倒くせいな。足場のないところは苦手だってのに。
しゃあねぇか。血統覚醒でヴァンパイアの力を引き出す。背に生やした蝙蝠の皮翼で、何とか飛んでみせよう。
『飛空艇艦隊』諸氏、大砲での支援をしっかり頼むぞ。
俺は切り込んで敵部隊を崩すきっかけを作る。『艦隊』は敵陣に混乱が見えたら突っ込んできてくれ。
ああ、やたらと動きが速いな、こいつら。これだから空の戦いなんてのは嫌いなんだ。
だがまあ、上手く「見切り」相手の突撃に剣の切っ先を合わせられれば、自分から串刺しの一丁上がりだ。
双剣の力で、「生命力吸収」と「精神攻撃」を使い、体力を奪いながら相手の精神を削る持久戦。
俺らしくもない戦いだ、なあ、おい。
炸裂する榴弾。
飛び交うバリスタの巨大な矢。
時には狩猟用の、捕獲用の、投網や連弩が、あちらこちらの飛空艇から飛び出し、それらを意に介さぬかのような、人を人とも思わぬオブリビオンが砂塵を思わせるほどの黒い壁となって立ちはだかる。
そこいらに狙う必要が無いほどの軍勢。
一つ一つが空獣のように凶暴で、群れて襲い掛かれば船などあっという間に骨組みにまでされてしまいかねない。
恐ろしいまでの物量差は、相手が戦力など持たずとも、船に集団で飛び掛かってぶつかるだけで、その重みで以て船を沈めるにも足るだろう。
この場に於ける数的不利とは即ちそれだ。
事実、互角に渡り合えているように見え、相手の戦艦を数隻撃破し、完全に有利を取っている現状ですら、物量差は相手側に軍配があり、残った船が膨大な量の有翼型機械化オブリビオンを生産し続ける限り、こちらが完全に圧勝する事は不可能であろう。
この期に及んですら、安易に突出した船が多くのオブリビオンに群がられて自爆さながらの特攻の前に沈んでいった。
「……空の勇士達が協力してくれるとはいえ、生半可では数的不利を覆す事はできそうにない、か」
無残に散華していく飛空艇を脇目に、風を切って地獄のような戦場を駆け抜けるガレオン船の甲板の上、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は、黒衣と銀髪を気流に嬲られながら、その眼差しを前に向け直す。
直接攻撃を与えてくる有翼型も無論、その数が厄介ではあるが、本当に倒さなければならないのは、これらを生み出す船の方だ。
攻撃の手立てだけを封じている内は、勝負が終わらない。
だがしかし、彼我の距離は彼女の身の丈のおよそ何百倍、だろうか。
空を飛ぶ手立て、空に対抗する手立て。それらが無いではないが、この圧倒的数量差を覆すには、色々と手が足りないのが現状だ。
リーヴァルディがいる限り、この船だけ守るなら十分に可能だが、それにしたって攻撃が艦隊に散っているからだろう。
他の船全てが沈むとも考えにくいが、それならば撤退を考えるほうが現実的だろう。
「チィ、面倒くせえな……。足場のないところは苦手だってのに」
複数の金属音。何かが潰れるような、砕けるような衝撃を伴う音と、金属同士がこすれ引きずられる音。
今しがた切り伏せた機械化オブリビオンを放りつつ、甲板に着地したのは、甲冑姿に二刀を携えた黒騎士、ユリウス・リウィウス(剣の墓標・f00045)が、悪態をつきつつ、周囲を油断なく見やる。
多くの者が空飛ぶ船やバイク。そして銃器などを用いる中で、一人古臭く白兵戦で空中に戦いを挑む時代錯誤な戦い方を選び続ける彼だが、その身体能力は凄まじく、時には船と船とを飛び移りながら無謀な格闘戦を挑む様な戦い方に身を投じ、偶然にもこの飛空艇に降り立った所らしかった。
「あなた……とても、嫌な気配」
「ふん、そりゃお互い様だろうさ。今は、そんな血筋で言い争ってる時じゃないぜ」
「それはそう……嫌な気配をしてるから、信用できる」
「そいつも言いっこなしだな。で、どうする?」
二人の視線が交差するとき、それが一瞬だけ嫌悪に染まる。
ダンピールがお互いを好ましく思えないケースがほとんどなのは、多くの場合が、その身に流れるヴァンパイアの因子を忌まわしく思っているからだろう。
だが、それがわかるからこそ、その強大な力だけは信用に足るのである。
「ちまちまと一体ずつなんてやってたら、帰る船が無くなっちまうな」
「……ならば、初手より一撃に全霊を込めた奥義にて活路を切り開くまで」
「なるほどな。場が整うまで、近づけさせるなというわけか。騎士をやればいいってわけだ?」
ふう、と嘆息して肩を竦めるユリウスを、リーヴァルディはじろりと睨みつける。
何か、不穏なことを言いかけたろうか。
いや、そんな様でこの数を相手にできるのかと、問うているかのようにも見えた。
「俺がこんなことを言うのも似合わんかもしれんが、ここには味方も居る。信じてみろ」
「……オブリビオンを倒すためなら、なんだって使う」
世を厭うかのように一人、リーヴァルディは船首の方へと歩を進める。
良心の呵責など微塵もないかのように、それは無感動にも見えたかもしれないが、
「……飛空艇艦隊の皆には、術式が整うまで敵軍を足止めして欲しい」
ヴァンパイアを狩ることにしか注力しなかった筈の彼女は、しかし、この世界に生きる者たちの道しるべを、ここから記さんと歩を進めるのであった。
「だそうだ。『飛空艇艦隊』諸氏、大砲での支援をしっかり頼むぞ」
飛空艇の乗組員に、艦隊に行き渡るよう伝令をお願いし、ユリウスもまた、彼女の一撃をお見舞いすべく奔走することにした。
その血の覚醒は、間違いなく彼自身を人でなしにする引き金であった。
その身に流れるヴァンパイアの【血統覚醒】。疲れ切った眼差しに獰猛な生気と地を滲ませたような輝きが怪しく灯り、肉体に昂揚は逆に身体に流れる血潮を冷めたように感じさせる。
ばきばきと背を破って蝙蝠のような翼が生え、身を食い破って飛び散る血肉を振り払って、そうしてユリウスは大空に飛び立つ。
「さて、こいつはもともと、空を飛ぶような技ではない。いつまでもはもたんぞ」
無理矢理に空を飛ぶユリウスの飛翔は、お世辞にも素早いとは言い難い。
はじめから空を飛ぶようにデザインされた有翼型のオブリビオンと似てはいても、そのアドバンテージは、数的にも彼等に分があろう。
剣を持ち、常に複数体で襲い掛かってくるオブリビオンを相手に、ユリウスは翻弄されるが、動きそのものは見えている。
速さを乗せた突撃を双剣でいなし、払い、時には受けるものの、地上とは勝手が違い、踏ん張ろうとする足場がないため、自慢の剣術がイマイチきまらない。
「ああ、やたらと動きが速いな、こいつら。これだから空の戦いなんてのは嫌いなんだ」
押しに押され、別の飛空艇に叩きつけられようとするところで、咄嗟に船体を蹴りつける勢いで相手をいなし、たたらを踏んだところを首を切り落とす。
空中戦なら断然相手に分があるが、それでもただ戦うだけなら十分に見切れる。
しかしながら、こんな調子では負傷も免れまい。
「チィ、まだなのかよ」
続けざまに押し寄せる有翼人の猛攻。突撃に合わせて剣を突き立てることで串刺しにする。
ばちばちと火花を散らして動かなくなるそのオブリビオンから、血と魂を吸うという双剣を通じて生命力を奪う。
少なくともこうしている限りは、ユリウスが力尽きる事はないだろうが……。
「連弩放て! 味方に当てるな。先導する船を護衛するんだ!」
「そっち行ったぞ。誰かいないのか……!?」
「チッ……」
リーヴァルディのいる船に群がろうとする一団へむかい、ユリウスが再び飛び掛かる。
全身を使い、数体まとめて貫き、それすら斬り払いながら、足で、肘で、とにかく引っかかりそうな手足で、かの船へと向かわせぬよう食らいつき、剣を突き立てていく。
「俺らしくもない戦いだ、なあ、おい……」
エネルギーを奪い尽くし、落ちていく有翼人にしがみ付きながら見上げる船の上では、魔法陣が多重に展開されているのが見えた。
魔術を繰るリーヴァルディは、全身から噴き出る汗にも構っている余裕などなかった。
全魔力を注ぎ込む様なその魔方陣によって断続的に幾何学模様を描いて移動し続けるそれは、魔力の、或は粒子の塊であった。
ひたすらにそれらを加速させる、それは魔法陣による粒子加速器であった。
最も信頼する大鎌を、自らを守護し、固定する拘束具として鎧と化し、残りはすべて、魔力を繰り練り上げる作業へと注ぎ込む。
この場に一周数キロに及ぶような真空トンネルは存在しない。
粒子加速に必要な距離、道、それは魔法で作り出すしかない。
加速させるべき弾丸も、極大圧縮された魔力である。
今や、彼女の目の前に、大輪の花のような幾何学模様を描いて回り続けるそれらは魔法陣ではなく、魔法陣のような軌跡を描く魔力の塊である。
「…魔力回路、全段直結」
流れを作ったそれは回路である。雌雄を分かつかのように、引き合うものを敢えて分離させたまま加速させ、極限まで速度を上げたそれを一点にぶつけ結合させる。
「…黒刃鎧装、脚部固定」
一点に収束したそれは、膨大なエネルギーを得る。引き合うもの同士が回路という道を通じて収束せんという力は加速度を増し、徐々に徐々に小さく距離を縮める粒子の花は圧力を増していく。
「…圧縮粒子、正常加圧中」
もはや限界。魔法陣が綻びを生み始める頃、加圧し圧縮する魔力が電荷を帯びて空気との摩擦を生じ、電磁波がプラズマ発光を及ぼし、光があふれ出す。
「…友軍は射線上から退避を。ユーベルコード、発動承認」
【吸血鬼狩りの業・殲光の型】決壊する魔法陣。定められた放出口から、圧縮された魔力の奔流が、亀裂の入ったダムの如く溢れ出て、残存するリーヴァルディの魔力を根こそぎ持っていこうとしていく。
加速した粒子が空気を焼き、摩擦熱でプラズマ発光し、空を焼くような光線が、敵の一団を薙ぎ払っていく。
大気によって大幅に減衰する魔力光は、その過程で数十万度という高熱で以て消耗していく。
そのエネルギーの反動は解き放ったリーヴァルディ本人にも及び、彼女を固定している筈の船をも後退させるほどであった。
だが、その甲斐あって、荷電粒子砲の輝きは、この場に相応しくない宇宙艦隊を、量産施設そのものになっていた船をも機能を失うほどにその装甲を機体の半分以上、蒸発せしめるものであった。
「かふ、かふっ……や、た……」
魔力の枯渇と、凄まじい光と、激しい反動でむち打ち状態のリーヴァルディは、身体が自由に動かないのを感じると共に、酩酊するような昏倒に向かう心地よさすら覚えながら、また、同時に10年くらい老けたんじゃないかという疲労感に見舞われていた。
そして、遠くに、誰か多くの歓声を聞くのであった。
大成功
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