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甲冑館殺人事件~未完の名探偵

#サクラミラージュ #殺人事件

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#サクラミラージュ
#殺人事件


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●甲冑館殺人事件
 とある山奥に、甲冑館と呼ばれる洋館がある。
 その名の通り、5階建ての洋館の中には、西洋東洋、種類も時代も問わず数々の甲冑が置かれているのだ。
 玄関やパーティホールにテラス、数十はある客室から備え付けの浴室に至るまで。手洗い以外に、甲冑がひとつも置いていない場所を探す方が難しいくらいだ。
 曰く、館の主人の趣味であると言う。
 そんな甲冑館で、ある日、事件が起きた。

 死んだのだ――館の主人が。
 否。殺されたのだ。

 数ある甲冑の一つを纏った状態で、兜の面頬を上げた顔を剣で貫かれて。両手は置物の甲冑と同じように、身体の前に立てた一振りの剣の柄に添えられていた。
 顔を貫いた剣が、主が纏った甲冑とは別の甲冑に備えられたものであるのは、館に務めていた者達からも証言が取れた。
 明らかな他殺。だが、数日経っても犯人は不明のまま。
 誰が、何の目的で、甲冑館の主を殺したのか。
 その謎を解き明かす為、甲冑館に名探偵が集められた――。

●と言う新聞記事の話
 これは、とある若いミステリィ作家の遺稿である。
 冒頭のみ残し、著者はこの世を去った。現実にある、甲冑館で。
 現実の探偵諸君。このような悲運、そのままにしておけるだろうか。冒頭だけ創られ、解き明かされないままの謎が残るなど、許せるだろうか。

 どうか探偵達よ。未完の謎を最後まで描くべく、その叡智を貸して貰いたい。

 我こそはと思って貰えるのなら、△月×日、実在の甲冑館にお越し頂きたい。日頃、事件の解決に尽力されている探偵の方々に、ささやか乍ら慰労の宴席もご用意しております。

 ※ドレスコードはありませんが、仮面をつけてお越しください。あくまで未完の小説の実演。顔を明かさぬ方がやり易いでしょう。

●事件だよ
「――と言う新聞記事が出回りそうだったので、超弩級戦力権限フル活用して握り潰した」
 潰した記事のコピーを配りながら、銀星・偵(狙撃探偵・f22733)がイイ笑顔で集まった猟兵達に告げた。
 勿論、何の意味もなくそんな真似をしたわけではない。
「記事が出回る事で、山奥の洋館で『影朧による連続殺人』が起こると予知できたのである」
 未完の小説から新聞記事まで、自作自演。
 何もかも、影朧の策略。
 でも、潰れた。発行前に情報を得ていた探偵達も、行くな、行けば死ぬぞ、と説得した。
 万事解決。オールOK?
「となるなら良いのだが。影朧も倒しておきたい」
 今回は未然に防げたが、また次を計画されるかもしれない。
 そうなる前に、根を断つべき。
 そろそろ、勘のいい人はお分かりだろうか。
「と言うわけで、ちょっと探偵を名乗って死んできてくれ」
 このパターンである。

 予知の通りに探偵が洋館に集まって連続殺人が発生すれば、犯人の影朧は姿を現す。
 事件が事件して成立する為には、被害者役が必要だ。
「予知した身でなければ、我輩も死にに行きたい所なのだが」
 普通の探偵達なら死ぬ様な目にあっても、猟兵なら大丈夫。多分。
「あんな新聞記事まで出して、大勢の探偵を集めようとしていたくらいだ。館の中には、殺人トリックがわんさか仕込まれているであろうよ」
 多分、甲冑が動いたりするんだろうな。
 死にそうな機会は、きっと沢山ある。
 何処かで死ねるだろう。
 とは言え、本当に死ななくていい。
 死んだように思わせられれば、それで良いのだ。
「ちなみに舞台は、甲冑館と名付けられた山奥の洋館である」
 冒頭だけの小説の通り、5階建てでそこら中に甲冑が並ぶ洋館が再現されている。
 お誂え向きに、そこまで続く山道は1つのみ。途中に幾つかのトンネルがあり、館の前には橋もある。
「ま、トンネルの何処かが崩れて、橋も落ちるであろうなぁ」
 閉ざされた洋館は、一種の様式美。
「御覧の通り、仮面は用意した。記事の通り、最初はパーティで始まると予知できたのでな。ちなみに食事は中々美味い洋食が出るそうだぞ」
 そこまで言うと、偵は猟兵達の前にずらりと仮面を並べた。
 目元だけ覆うタイプや、鼻回りまで覆うもの、食事はどうするんだと言うフルフェイスまで様々だ。
 そう言えば、パーティって誰が準備するのだろう。
「さてな。甲冑館は、藤梧と言う老爺がを始めとした数人で切り盛りしているらしいぞ」
 誰かが上げた問いに、偵は意味ありげな笑みと共に返した。


泰月
 泰月(たいげつ)です。
 夏です。お盆です。殺人事件です。死のう!

 と言うわけで、前々からやりたいと思っていた、皆で死んで事件を解決しようシナリオです。

 舞台は山奥の洋館、甲冑館。
 謎の影朧が探偵を呼び集めて連続殺人事件、連続殺探偵事件を起こそうとしているので、殺される探偵役として乗り込んで下さい。
 探偵は自称でOK。○○探偵、と言う肩書も好きに名乗ってどうぞ。

 イラストで犯人が見えてんじゃんって?
 渋い人を立たせたくなったんだから仕方がない。

 1章は、仮面がドレスコードのパーティです。
 大事だから2回言います。まだ死にません。1章では、まだ死にません!
 フラグ立てるのはOK。あとご飯は美味しい。

 (1章と2章の間で、橋が落ちたりトンネルが崩れたりする予定)

 2章は、小説の設定、と言う体で連続殺人事件が起きます。
 いよいよ死んでもらうパートです。
 未完の小説の続きを考えようと言う体で、トリックを考えた傍から何故か事件になる感じです。死に方はプレイングで指定でも、こちらにお任せでも良いですが、館ごと爆発、とか状況を壊してしまう様な指定だと大幅マスタリングになるかもしれません。
 あと犯人は本気で殺すつもりですので、それなりに危ないです。
 死なない工夫をしといた方が、痛い目は見ないですむかと。

 3章。犯人と対決だ。動機とか明らかになる、と思います。多分。
 一応、動機考えてはあるんですけど、その通りになるかどうか。

 プレイング受付は8/15(日)8:31~でお願いします。
 再送は人数次第でお願いするかもです。

 ではでは、よろしければご参加下さい。
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第1章 日常 『仮面の下は誰も知らない』

POW   :    仮面をつけて全力で参加する

SPD   :    仮面をつけて器用に参加する

WIZ   :    仮面をつけて賢明に参加する

👑11
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

黒木・摩那
洋館に行くだけでただご飯が食べられて、しかもおいしいとは、いい依頼ですね!

ドレスコードが仮面というのが面倒ですが、ただご飯の前には些細な事です。
では、この鉄仮面で行きます。

ご飯はおいしく堪能させていただきます。
食べ終わるまでは死ねませんし、死にませんよ!

自称探偵ですから、ご飯を食べた後には館にどんなトリックがあるか、下見しておきます。
死に場所ぐらいは選んでもよいでしょう。

きっと設置した人はワクワクしながら仕掛けたんだろうな、と想像しながら、スマートグラスのセンサーでトラップを探査します。


アディリシア・オールドマン
SPD アドリブ連携歓迎だ。

ふむ。謎解き……をする必要は無いのか。演技だけか。
それならば私たちでも対応できそうだ。
『罠を踏み潰すならともかく、事前に見抜くとかわたしたちには無理だからね』
うむ。それに、私とダフネならば分身してアリバイを作ることもできるだろう。
『……それは、犯人側の視点じゃないかな……?』

普段から着ている全身甲冑の姿で参上しよう。このフルフェイスヘルムなら仮面代わりになるだろう。
甲冑探偵アディリシアだ。よろしく頼む。
『わたし(ダフネ)も時間差で会場入りして行動します。アディとは鉢合わせにならないように動いて同一人物があちこちにいるアピール……やっぱりこれ、犯人側の動きじゃないかな?』
まあ、面白くなりそうだから問題は無いだろう、たぶん。

他の探偵たちと交流しつつ、藤梧という主人とも話をしてみようか。
死んだ作家とはどんな人物なのか、主人との関係はどのようなものなのか。
まあ、殺人事件のためのでっち上げなのだろうが、探偵として来ているのだ。
適当に相づちしながら話を聞くとしよう。うむ。


六道・橘
【大正探偵師弟】
※アドリブ歓迎
設定:神埜先生の元助手(物理)独立し女学生探偵(17)

目元のみのマスク
般若を選んで止められた
神埜先生に見立てていただいたカクテルドレス

…緊張しますわ
甲冑でなくて良かったのかしら
手を取られ
煌びやかさに乙女心がひっそりときめき

ケーキには頬を染めながらあーん
まぁ
誰かに食べさせて頂くとこんなに美味しいなんて…!
やっと何時もの笑み
先生もお食べになって…あーん…?

ピアノに目を向け
実は最近習っていて
武道以外も探偵の嗜み
ヱレガントな先生の弟子ですもの!
早めのワルツ、アレンジ多めの弾む曲

トンネルが潰れたと聞き俄然張り切る
岩なんて斬り裂けばいいこと(無理
先生の事は全力でお守りしますわ


アイ・リスパー
「殺人事件ですね!
それならば電脳探偵(自称)の私にお任せください!」
『ですが、運動音痴のアイでは本当に殺されてしまうのでは?』

サポートAIのオベイロンが冷静に指摘してきますが、そのあたりは抜かりありません。
そう、今回のドレスコードは仮面!
つまり、オベイロンを|強化外装《パワードスーツ》として装着していけば何かあっても殺されたりしません!

というわけで、甲冑探偵オベイロンという偽名を名乗り館に乗り込みます!

「さて、まずはお楽しみの豪華パーティです!
おいしい料理をいただきましょう!」
『アイ、私を装着したままだと食事できないのでは?』
「あ……」

しくしくと泣きながら強化外装内で液体栄養食を飲むのでした。


神埜・常盤
【大正探偵師弟】

橘君の元上司
探偵業の師匠でもある
気障で傲慢な名探偵

目許を覆う鴉の仮面
宵を纏った燕尾服
胸には赤い薔薇挿して

ようくお似合いだ
薔薇の花も霞む程
お嬢さん、お手をどうぞ

今日の為にと飾り立てた
可愛い弟子をエスコォト

甲冑で君の可憐な姿を隠すのは
無粋が過ぎるのではないかね
ほら、緊張せずに食べなさい

フォークに挿したケーキを
強張る口許へ寄せて

旨いだろう
君は笑顔の方が似合う
おや、お返しを貰えるとは
有難く……――旨い

ほう、ピアノを
良い心掛けだよ、きみ
探偵には教養も必要だ、私の様に
あとで一曲聞かせ給え
弾むワルツに喝采を

良くないな
帰路を立たれたようで気味が…
ふっ、その発想はなかったなァ
頼りにしてるよ、橘君


ジゼル・サンドル
美味しいご飯…!じゃなかった、今日のわたしは探偵なのだな、うむ。
サクラミラージュらしく、矢絣の着物に袴姿。それにドレスコードに合わせて桜の意匠をあしらった顔半分を隠す白狐の仮面をつけていく。
…しかしこの格好、夏は暑いな…

パーティーで自己紹介した方がいいだろうか。
すぅ、と息を吸って『はじめまして こんにちは わたしはジゼル♪』
改めて、歌姫探偵ジゼルだ。普段は歌劇団で歌いつつ、密かに帝都で起こる事件の謎解きをしている(という設定を今考えた)

さてまずは腹ごしらえだな!
カツレツ美味しい…このパンも!
夢中で食べる、といっても食べてばかりじゃなんだから【聞き耳】を立てて【情報収集】くらいはしておこう。


皆城・白露
(連携・アドリブ歓迎です)
(白尽くめの服に、顔の上半分を覆うタイプの白い仮面)

…そうだな、オレは…事件や犯人を嗅ぎ当てる、人狼探偵ってとこかな。
…犬じゃないぞ

パーティの雰囲気と食事を楽しむ
こういうのも、たまにはいいもんだな
…量はあまり食べられないんだ。身体が弱くてな
この仕事も、どれだけ続けられるかはわからないが、命の燃やし方としては悪くない
(宴の切り盛りをする者達に、病弱さをアピール。
実際弱ってはいるので、嘘は言ってない)

ああ。必要な薬は、多めに持ってきてるから大丈夫
飲んでおかないとな。水を貰えるか?
(ファントムフォース(装備中のペインキラー)と錠剤(に見せかけたラムネ菓子)を取り出して飲む)


柊・はとり
自前の狐面ガスマスクを装着
肩書き?『名探偵の曾孫』だ
主催にもそう伝えといてくれ

普段なら飯を食い倒す所だが
全く食欲が湧かない
明らかに体調が悪い
ジジイの様子を一瞬でも見ておきたいが…
宴会には少し顔を出したら無理せず客室へ
何だこの甲冑…悪趣味な館だな
俺の実家みたいで余計気分が悪い

部屋に着いたらベッドに倒れ込む
恐らく俺以外誰も気づいちゃいない
この事件は本当に危険だ…
本人の意思を問わず殺人事件を引き起こす
「名探偵の呪い」に侵された柊一族の人間
そいつらが二人も関わってるんだ
無事で済む筈がない

『解決を放棄しますか?柊 はとり』
うるせえコキュートス…
『貴方が手を引けば危険度は低下の可能性が…』
うるせえっつってんだよ!!

う…
汗一滴も出ないが酷い悪寒と吐き気だ
前の俺なら逃げ帰ってただろう
与えられた宿命の重さを
あの凍てつく眼差しを
何より…俺のせいで喪われる命を恐れて

だが反抗するなら今だ
俺一人じゃ呪いに勝てないが
集った物好き連中のしぶとさを信じる

『ふふふ』
楽しそうで結構だな…
お前らの思い通りにはさせない
少し寝る


吉岡・紅葉
ここが甲冑館ですか!これほどの立派な建物がこんな山奥にあるなんて驚きましたね。
宴には仮面が必須…ここでは誰もが匿名希望というわけですか。私も、学徒兵という身分は今は隠しておきましょうか。
それにしてもこの鎧の数々。一着だけでも相当な値段のはず。この館の主は、とんでもない大富豪だったのですね!
まだ会場や参加者に変わった様子はありませんね。今の間に、私もパーティーを楽しむとしましょう!折角ですし、美味しい料理も味わいたいですよ。ステーキコースにしましょうかねぇ…。
さすがは大富豪の館、いい肉使ってますね!でも、料理は美味しいけど…なんだか落ち着きませんね。まるで、隅の板金鎧に見られているような…。


リュカ・エンキアンサス
晴夜お兄さんf00145と
つまり合法的にお兄さんを殺せるイベントだよね
わかるわかる
…え、違う?
何だ
違うのか

せっかくなので料理をいただきつつ
仮面は、このゴーグルでいいだろう。ダメだったら適当になんか目立たないの探す
お兄さんは…まあうん。目立って(的になるし)いいんじゃないかな?

こういう時は「死亡ふらぐ」っていうのを立てるといいんだって
なんとなくわかんだけど、具体的にはよくわからない
お兄さん、いい「死亡ふらぐ」ある?
……なるほど?
つまりこうか
「お兄さん、この戦いが終わったら墓に入って欲しいんだ。特に一緒じゃなくてもいい」
あれ、違うのか
難しいな…この国の殺しの作法って
聞いてる聞いてる(聞いてるだけ


夏目・晴夜
リュカさんf02586と
ちょっと何言ってるのかわからない

仮面は目元だけ覆うのを適当に
仮面をしてもハレルヤの存在感は隠せそうにないのでね!
リュカさん用の派手な仮面も私がチョイスしてあげましょうか?

ハレルヤに死亡フラグを語らせると長いですよ?
「あの時あんな事がなければあの人も…」と不穏な過去を匂わせたり、
「全てが終わったら一緒になろう」と光ある未来を匂わせるのがセオリーですね!
「そうか、犯人は…!」と一人真相に気付いてしまうのも趣深いです

ちょっと何言ってるのかわからない
…さては
ハレルヤを殺す犯人はリュカさん、あなたですね
と、フラグはこうやって立てるのです!
あ、マジで殺したらダメですよ?
聞いてます?


臥待・夏報
【🌖⭐️】
(全力のコスプレとごりごりのキャラ設定で参加)
風見先生、名探偵の出番ですよ!
みかんに終わった物語の続き
自称文学少女の助手として、是非とも知りたいところです!

ふふっ……数々の難事件を解決してきた先生なら、小説家の考える筋書きなんて余裕ですよねっ(フラグ)
この事件が終わったらぱーっと温泉旅行でも行きましょう!(フラグ)
あっ、離れちゃ嫌ですよ? 仮面のままではぐれちゃったら大変ですから(べたべた)(これもフラグ)

確かに腹が減ってはなんとやら
僕も先生と同じワインをいただきま〜す……って、うわ、美味しい
コレがおかわり自由かあ……樽で流し込みてえなあ……(素)
はっ、こほんこほん
気を付けまーす!


風見・ケイ
【🌖⭐️】
(書生探偵のコスプレとキャラ設定に全力)
やれやれ……もう僕の出番か(本を閉じる)
この本の続きも気になるけど、物語は完結させてこそだ
夏報くんのために、未完の物語を解き明かしてみせよう

すでにある物を見つけてね、此処は人目も多いから部屋でこっそり教えるよ(フラグ)
本の続きを、と思っていたけどそれもいいか……君に伝えたいこともあるし(隠した小箱を触る仕草)(フラグ)
ふふ、どこにもいかないさ……僕たちの物語が続く限りはね(フラグ)

さて、思考するにも脳に栄養が必要だよ
それに……心にもね(給仕からワインを受け取り)
さあ夏報くんもどうぞ
ちょっ、夏報さん(素だけどなんとか小声)
……飲みすぎないでよね


森永・蝶子
アドリブ絡みOK

まぁ!仮面パーティ―だなんて、素敵なお誘いですわね!
…あら?わたくしの手元には招待状は届いておりませんけど?
きっと手違いですわね!

ドレス姿に蝶モチーフの仮面をつけて
気合いれてパーティ―へ参上
お招きありがとうございます(礼

何も気になるところがないですわね!
お食事をいただきましょう
どのお料理もとても美味しいですわ!
あら?何か倒れ…甲冑でしょうか?
危ないですわね、戻しておきましょう(片手で戻し
ところで、気が付けば外は大雨ですわね
小説ですとこの館は陸の孤島となり、携帯の電波も通じ…(携帯なし

小説は小説
事件なんて起きませんわ!
だって、ここには探偵しかいませんもの!
そう思いませんこと!?


カイリ・タチバナ
ヤンキーヤドリガミ、故郷の島での祭事を済ませて、猟兵仕事。

へー、甲冑館。カッコいい館だな!
じゃ、行きますか!銛(俺様の本体)は、黒い手袋から繋がる異空間(神域)に放り込んでっと。
借りた仮面は、白くて鼻回りまで覆うやつで。
設定は新聞記者探偵の橘・海鈴ってな。

※以降、『演技時は』な口調※
ええ、未完の謎。それを描くべく、ここへ来ました。
コラムの編集などなど…文章に携わるものですから、是非に、と。
ですが、ここに来るまでにお腹が空きまして。『腹が減ってはいい文章も思い付かない』ので…先に食事を、と。
ええ、このように美味しい食事までご用意くださるとは。とても嬉しいものです。

ああ、この黒手袋…つい、いつもの癖で。ほら、私は新聞記者ですが、童子に探偵ですから…指紋を残しては、検証の邪魔になるかと。



●甲冑館に集う探偵達
 急勾配の坂や急角度なU字カーブが続く山道を行き、トンネルをいくつも抜けた先。ただ一つだけ橋が架かった深い谷の向こうに、その洋館は人知れず在った。
「ここが甲冑館ですか!」
「へー! カッコいい館だな!」
 橋を渡り切った所で、吉岡・紅葉(ハイカラさんが通り過ぎた後・f22838)とカイリ・タチバナ(銛に宿りし守神・f27462)の足は思わず止まって、感嘆の声が上がっていた。

「これほどの立派な建物が、こんな山奥にあるなんて驚きましたね」
「ええ! こんな趣のあるお屋敷で仮面パーティ―だなんて、素敵なお誘いですわね!」
 感心したような紅葉の言葉に、森永・蝶子(ハイカラさんの猟奇探偵・f22947)も相槌を打つ。
 まさに深山幽谷と言った雰囲気の中に佇む館の趣は、帝都では味わえないものであろう。さてどこぞのお嬢様であろうかと、一目で判る出で立ちの蝶子をして、趣があると言わしめる程に。

 西洋建築の様式を取り入れたのが一目でわかる、レンガ造りの5階建て。
 窓の位置と大きさで、外からでも各階の天井が高い造りなのが見て取れる。
 中でも、正面玄関のある棟が最も大きく、上階の窓の数から部屋数も多そうだ。
 その左右には、やはり5階建ての塔屋を挟んで、和風建築の棟が2つ続いている。
 洋館と和風建築の棟を合わせた造りは、遥か昔の明治期に見られた様式だ。
 それほどに古い館と言う事か。
 これならば――多くの探偵役が集まる事件の舞台に、お誂え向きと言えるだろう。

「さ。参りましょう!」
「そうですね」
「だな。じゃ、行きますか!」
 外で見ているだけでは、話が進まない。
 大荷物をひょいと持ち上げて歩き出した蝶子の後を、紅葉とカイリが追いかける。
(「っと。俺様の本体は念の為、神域に置いとくか」
 2,3歩進んだところでカイリは一度足を止め、本体である銛を謎の空間に放り込んでから、小走りに後を追いかけた。

 ――コン、コン。
 ドアノックハンドルを叩いて待てば、恐らく鉄製の扉がゆっくりと開く。
 中から、羽織袴姿の壮年の男が姿を現した。
 その顔に刻まれた皺と両頬に残る傷跡が、男の雰囲気を気難しそうなものにしている。
「……探偵殿ですな?」
「その通りですわ!」
 蝶子は、そんな男の雰囲気も気にした風もなく力強く返した。
「わたくしの手元には招待状は届いておりませんけど、よろしいかしら? きっと手違いですわね!」
「何と……実はその通りなのだ」
 蝶子の言葉に、男は細めていた目を僅かに見開く。
「帝都の複数の新聞に招待状代わりの記事が出る筈だったのですが。偶然にも依頼した全ての新聞で手違いからの落丁が発生したようでな」
(「そんな偶然、あってたまるか」)
「むしろ僥倖と言えよう。それでも嗅ぎつけて来た方々なら、名探偵に違いない。その叡智、存分に活かして頂きたい」
 胸中でつっこんだカイリを始め、一部の猟兵からは訝しむ視線が向けられるが、男は淡々と頷き返す。
「申し遅れた。儂がこの甲冑館の管理を任されている、藤梧と申す」
 そして、探偵達を甲冑館に招きいれた。


●甲冑館に集う――甲冑
『ちょっと。本当に大丈夫なの?』
「事件と言っても、謎解きをする必要はない……演技だけと言う事だ」
 甲冑館からすると谷の向こう。
 谷にかかった橋の袂で、全身甲冑姿の2人が甲冑館に視線を向けていた。
「それならば、私達でも対応できそうだろう」
『そうね。罠を踏み潰すならともかく、事前に見抜くとか、わたしたちには無理だからね』
 アディリシア・オールドマン(バーサーカーinバーサーカー・f32190)と、オルタナティブ・ダブルで増えたもう一人のアディリシア――”蛮族の女王”『ダフネ』である。
 冒険者であったアディリシアが、とある遺跡で見つけた鎧。
 魔法陣の中に飾られていたその鎧は、『ダフネ』の魂が封印された呪われた鎧であった。今にして思えば、あの魔法陣は封印の類だったのかもしれない。
 とは言え、色々あってアディリシアとダフネは共生関係になった末に、こうして分身として『ダフネ』も動けるようになったりしている。
「それに、私とダフネならば分身してアリバイを作ることもできるだろう」
 確かにそう言う事も可能だろう。
 アディリシアとダフネを初見で見分けられる者など、恐らくいない。
「と言うわけで、私は先に行くから適当に時間を置いてから来てくれ」
『いいけど……それは、犯人側の視点じゃないかな……?』
 主にアディリシアの発案で、2人はなんか画策していた。
 これが後々役に立つ――かどうかは、定かではない。

「殺人事件ですね! それならば電脳探偵の私の出番ですね!」
 谷を挟んだ反対側、橋の袂にはもう一人、アイ・リスパー(|電脳の天使《ドジっ娘電脳魔術師》・f07909)の姿もあった。
『ですが、運動音痴のアイでは本当に殺されてしまうのでは?』
 意気込むアイに、サポートAIのオベイロンの|冷静な指摘《ツッコミ》が入る。
「そのあたりは抜かりありません」
 自分の事だ。オベイロンに言われるまでもなく、良く判っている。
 故に、アイには秘策があった。
「今回のドレスコードは仮面! つまり、オベイロンを強化外装パワードスーツとして装着していけば何かあっても殺されたりしません!」
『なんで仮面がフルアーマーになるんですか』
 |再びの指摘《ツッコミ》を入れながらも、変形するオベイロン。
「今日の私は、電脳探偵ではなく甲冑探偵オベイロンです! 行きますよー」
 そしてアイは意気揚々と橋を渡って行ったのだが――。
 パワードスーツ形態の体長は、アイ自身の2倍で、3mをちょっと超える。甲冑館の様に、西洋建築を取り入れた洋館の天井は3m以上あるのも珍しくないとは言え、まず玄関を潜るのにもギリギリであった。
「はぁ……甲冑探偵殿であるか。随分と大きい方だが、入れますかな?」
「……ええと……こう、屈めばなんとか……」
 安全を買った代償に、出迎えの藤梧に胡乱な目を向けられるアイであった。

●黒赤の二人――大正師弟探偵
 2階部分まで使った吹き抜けのホール。
 天井からは豪奢なシャンデリアが下がっており(落ちたら真下にいる誰かが死にそう)、ホールに並んだ数々の甲冑が光を浴びて、キラピカ輝いている。
 ホールには直径1m程の円卓が並び、訪れた探偵達を持て成すバイキング形式の宴が開かれていた。

 そんなホールに続く階段の上に、2人の猟兵の姿があった。
 宵を纏った様な微かに青みがかった黒い燕尾服に目元のみを覆う鴉の仮面を合わせた姿の神埜・常盤(宵色ガイヤルド・f04783)の後ろに、色濃くも鮮やかな赤のカクテルドレス姿の六道・橘(|加害者《橘天》・f22796)が続く。こちらも、目元のみを覆う仮面を付けている。
「お嬢さん、お手をどうぞ」
「ありがとうございます。神埜先生」
 常盤が差し出した手の上に橘が手を置いて、階段を降りていく。
「……緊張しますわ。甲冑でなくて良かったのかしら」
 あまり味わった事のない煌びやかさの中、師である常盤にエスコートなぞされて、橘の中のナニカがひっそりときめいていた。これが乙女心と言うものか。
(「――矢張り、般若面を着けてくれば良かったかしら」)
「甲冑や般若面で君の可憐な姿を隠すのは、無粋が過ぎるのではないかね」
 照れや気恥ずかしさと言った情も混じってそうな橘の内心を見透かしたかのように、常盤が微笑みかける。
 実際、橘のドレスも仮面も、常盤が見立てたものだ。最初に選んだ般若面は止められた。
 赤と黒。並んだ色合いも計算したであろうコヲディネヱト。
「ようくお似合いだ。薔薇の花も霞む程に」
「~~~っ」
 胸に挿した赤い薔薇を、いつも花飾りのある耳上に挿して来た常盤に、橘はもう閉口するしかなかった。
 大体、師は弟子を弄るものである。

●コスプレも楽じゃない
「風見先生! ご馳走ですよ」
「夏報くん。落ち着きなさい」
 声を弾ませテーブルに駆け出しそうな臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)の肩に、風見・ケイ(星屑の夢・f14457)がそっと手をかける。
 ケイは丸首のシャツに紫の羽織と黒の袴姿の書生スタイルで、夏報は幾らか淡い藤色のような羽織と花模様を入れた濃青の女袴の女学生スタイルである。
 ケイが書生探偵で、夏報はその助手の文学少女と言う設定だ。
 ペアで行動するに当たり、探偵の師弟と言うカバーを考えるのは自然な流れであろう。
「とは言え、これはありがたいね。思考するにも脳に栄養が必要だ。それに……心にもね。ああ、良いかな」
 通りがかった女中の持つお盆から、ケイはグラスワインを2つ手に取る。
「さあ夏報くんもどうぞ」
「いただきま~す」
 ケイが片方を夏報に渡し、キンッと2つのグラスが打ち合わされる。
「……って、うわ、美味しい」
 乾杯の後に口に広がった味と香りに、夏報の目が思わず丸くなった。
 見た目はロゼになるのか赤になるのか迷う色合い。どちらかと言えば甘口だが甘すぎず、仄かな甘みと酸味が舌の上に広がる。
「香りも良いワインですね」
 ケイがグラスを軽く揺すれば、立ち昇る葡萄の香りが鼻孔をくすぐった。
「コレがおかわり自由かあ……樽で流し込みてえなあ……」
『ちょっ、夏報さん。素が出てる、素が』
 美味しさのあまりキャラを忘れた夏報に、ケイも思わず素の口調でツッコミを入れる。
「はっ」
 我に返った夏報は、こほんこほんと咳払い。
 なんしろ設定が文学『少女』である。
 堂々と飲酒可能年齢だと明かしてしまった時点で、果たして少女のカテゴリに含んで良いのかと言う点もあるだろうが、少なくとも、樽でワインを呑みたいなどと宣う少女はいないだろう。
(「夏報さんがもっと素になれる設定の方が良かったかな」)
 ケイも胸中で呟くが、今更設定変更は、今回は無理だ。このまま通すしかない。
「……飲みすぎないでよね」
「気を付けまーす!」

●少年たちは通常運転
「あれ? パーティ?」
 盛り上がりを見せるパーティを2階から見下ろし、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の旅人・f02586)が首を傾げている。
「おかしい。合法的にお兄さんを殺せるイベントだと思ってたんだけど」
「ちょっと何言ってるのかわからない」
 解せない様子のリュカに、夏目・晴夜(不夜狼・f00145)の口元が何とも言えない形にひくつく。
 何しろリュカってば、いつも通りの真顔なもんで、晴夜はそれが冗談かどうかさっぱりわからない。
「何だ。違うのか」
「なんでそう残念そうなんですかねぇ!?」
 本当に――わからない。
「まあいいや。折角だから料理をいただこう」
「あ、ちょっと待ってください」
 しかもスタスタ階段を降り出したリュカを、晴夜は慌ててついていく。
「そのまま行くんですか?」
「おかしいかな?」
 踊り場で追いついた晴夜に呼び止められ、リュカの目がゴーグルの奥で丸くなる。
 リュカは『仮面でお越しください』と言うドレスコードを、いつも額にかけている事が多いゴーグルで通すつもりなのだ。まあ、顔を覆うもの、と言う意味では見当違いと言うほどではないが――。
「おかしくはないですが……このままだと、ハレルヤだけ目立ってしまいますよ」
 一方の晴夜の仮面は目元だけを覆うタイプのものではあるのだが、何と言うか、まあ派手な部類だ。煌めいていると言うか、ハレルヤってると言うか。
「適当に選んだ仮面をしても、ハレルヤの存在感は隠せそうにないのでね!」
「お兄さんは……まあうん。|目立って《的になるし》いいんじゃないかな?」
 いつもの様に唐突にドヤってくる晴夜を、さらっと流して頷くリュカ。
「そうだ! リュカさん用の派手な仮面も私がチョイスしてあげましょうか?」
「要らない。ダメだったら適当になんか目立たないの探すから」
 さらっと流された程度じゃ揺らがない晴夜を遮って、リュカは先に階段を降りていく。
(「お兄さんに任せたら、なんかすごい派手なの持って来られそうだし。お兄さんの方が目立ってないと、的にならないし」)
 口に出さない優しさが、そこにはあった。
 なお、ゴーグルも仮面と言う言い分は、あっさりと通ったのを付け足しておく。

●洋食と探偵達
 ライスカレー。
 ポークとチキンのカツレツ。
 オムレツライス。
 コロッケ。
 ハムアンドエッグ。
 ビーフステーキ。
 ロールキャベツ――etc。
「……なんだろ、これ」
 ズラリと並んだ取り放題な洋食メニューの中には、皆城・白露(モノクローム・f00355)には見覚えがないものもあった。
「……あ、美味い」
 周りが皆食べてるのだから大丈夫だろうと食べてみれば、その言葉が白露の口を衝いて出て来る。
「美味しいよね」
 白露の隣のテーブルで、ジゼル・サンドル(歌うサンドリヨン・f34967)が頷いている。
「さすがは大富豪の館、いい肉使ってますね!」
 その向かいでは、紅葉がナイフとフォークを手にロールキャベツを頂いていた。
 キャベツも丁寧に下処理してあるようで、ナイフを動かせば崩れる事無く、スッと切れる。
「大富豪の館……なのか?」
「そうだと思いますよ」
 そんな話はあっただろうかと首を傾げる白露に、紅葉が頷き返す。
 頷く根拠はあるのだが、それを語るよりも紅葉は食べる方が忙しい。
「これだけの料理がタダとは、豪勢なものですね」
 鉄仮面を付けた黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)も、洋食に舌鼓を打っている。美味しいご飯が出るパーティがあると言う所に引かれて甲冑館を訪れた部分が大きいのは、否定できない事実だ。
「仮面と言うドレスコードは些か面倒ですが、タダご飯の前には些細な事です」
 タダより高いものはない、とも言う。
 面倒さかタダご飯か、比べるべくもない。
 だが面倒さを感じるのは、摩那が鉄仮面を選んだからではないだろうか。
 鉄仮面を外さずにどうやって食べているのか、謎である。
 しかも摩那が食べているのは、ライスカレー。
 辛党ならば当然のチョイスだが、摩那はそこに他の料理を色々トッピングして、時前でカツレツカレーとか作っちゃってる。本当にどうやって食べているんだろう。
 だが周りの誰も、それを気にしている様子はなかった。
「美味しいわけだよね。このカツレツも、美味しい……!」
 テーブルの下で、ジゼルの両足が思わずパタパタと動いている。
 皿に乗る限りと取ってきた料理は、どれもこれもそのくらい美味しかった。
「このパンも、外はカリッとしてて、中はふわふわで……!」
「こんなパンもあるんだな」
 貴族の生まれでこそあるが、冷遇の身であったジゼル。
 どこぞの施設で実験体にされていた白露。
 経緯は違えど、苦の方が多い過去を送ってきた二人にとっては、焼き立てパンも御馳走か。
「洋館に来るだけでタダご飯が食べられて、しかも美味しいとは、いい依頼ですね!」
「あ、依頼……そうだった」
 そんな摩那の呟きに、ジゼルがはたと我に返った。
「今日のわたしは探偵なのだな、うむ」
 何となく居住まいを但し、さして乱れてもいない着物の襟も直す。
 ご飯が美味しくて、探偵役と言うカバーを忘れかけてた。
「別にいいんじゃないですか?」
 けれども、ジゼルをハッとさせた当の摩那は、カレーを食べる手を止めずにそんな事を言って来る。
「探偵だってご飯は食べます」
「そうですとも。腹が減っては何とやらです」
 それに同意したのは、これまた遠慮なく皿に乗るだけのご飯を盛って来たカイリである。
 その口調は、館に入る前とはガラリと違っている。ヤンキーヤドリガミ、を自称するカイリの普段の振る舞いを知っている者がこの場にいたならば、そのギャップに驚いただろう。
 周りにいるのはほぼ猟兵ばかりとは言え、ここはもう、敵の策の中だ。いつどこで見ているかわからないのだからと、カイリはカバーの演技に入り込んでいた。
「ここに来るまでにお腹も空きましてねぇ……美味しい食事はありがたいものです」
 そう言って、カイリはコロッケを頬張る。
 かつて|海洋世界《グリードオーシャン》で祀られていた銛を本体とするヤドリガミであり、上げ膳据え膳生活を味わい、飽きた身ではあるが、たまにはこういうのも悪くない。
「良いじゃないですか。まだ変わった様子はありませんしね。今はパーティを楽しむとしましょう」
「それもそうですね」
 紅葉にまでそう言われて、ジゼルは肩に入りかけていた力を抜いた。
「と言うわけです。私は食べ終わるまでは死ねませんし、死にませんよ!」
「次はステーキコースにしましょうかねぇ……」
 摩那が力強く言い切って空になったカレー皿を手に立ち上がれば、紅葉が空いた皿を手に席を立つ。
「……。わたしも!」
 一拍遅れて、2人の後にジゼルが続いた。
(「こういうのも、たまにはいいもんだな」)
 その背中を見送りながら、白露は胸中で呟いていた。

●師弟の甘い一時
 楽しい宴の時間が、恙なく過ぎていく。
 メインディッシュが終わった後となれば、デザートの時間だ。
「ほら、緊張せずに食べなさい」
 常盤はフォークに挿したケーキを、強張る橘の口許へ寄せる。
「……」
 これには橘も頬を染めながら、けれどもケーキの魅力には抗えずに、言われるままに口を開いた。
「まぁ!」
 口に広がる上品な甘味に、橘の表情がぱっと戻る。
「誰かに食べさせて頂くとこんなに美味しいなんて……!」
「旨いだろう? 君は笑顔の方が似合う」
 やっと何時もの笑みを浮かべた橘に、常盤の口元にも笑みが浮かぶ。
 余裕が見え隠れする様子に、橘は少しやり返してやりたくなった。
「先生もお食べになって? ……あーん……?」
「おや、お返しを貰えるとは。有難く……――旨い」
 だけど真似してケーキを差し出してみれば、常盤は臆面もなくパクリと頂いて、また余裕のありそうな笑みを浮かべてみせた。

●分水嶺かもしれない
 ――とまあ、二人の世界に浸る者達がいる一方で、対照的な気配を纏う猟兵も2人いた。
「……」
 その1人は、壁際で沈黙しているアイである。
 何故か。
 パワードスーツ形態の大きさ故に玄関を通るのに苦労したが、この吹き抜けのホールなら、天井はどーんと高く問題ない。ない筈だった。
 ――まずはお楽しみの豪華パーティです! おいしい料理をいただきましょう!
 と、アイも意気揚々とこのホールに来たのだ。
 その時まで、気づかなかったのだ。
『アイ、私を装着したままだと食事できないのでは?』
「あ……」
 オベイロンの|冷静な指摘《ツッコミ》で、やっと気づいたのだ。
 このパワードスーツ形態、飲食を出来るように設計していなかった事に。
 美味しい洋食が並んでいるのに、食べられないと言う、悲しすぎる状況。すっかり消沈したアイは、壁際で体育座り状態で、内臓の液体栄養食をさめざめと呑んでいる。
「あの……良かったら、後でどうぞ」
 事情を聴いた女中さんが少し料理を置いておいてくれたりしたけれど、お陰で何だかお地蔵さん状態になってもいたりする。
『アイ……言いにくいのですが、プランの再検討も必要では?』
「うぐっ」
 そんな状況でも――だからこそオベイロンが発してきた指摘に、中でアイが呻いた。
『此処は良いですが、廊下ですと天井と頭部の隙間、あまりないですよ? 運動音痴のアイが、そんな狭い空間で満足に動けるとは思えません』
 このサポートAI、容赦がない。
「わかってはいますよ……」
 憮然とした声で、アイはオベイロンに返す。
 防御力を追求した結果、機動性が犠牲になると言うのは、ままある事である。

 まあ、最終的に一度は死んだふりする必要あるのだ。
 あまり深く考えなくても、多分大丈夫。

●不機嫌曾孫とハイテンションレディ
(「くそ……っ」)
 柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)は、ずっと壁際のテーブルで不機嫌そうに頬杖ついていた。
 あまりに不機嫌なあまり、不機嫌オーラが溢れているものだから、配膳の女中さん達もおっかながって遠巻きになってしまっているくらいだ。
 別にはとりは、パーティ嫌いと言うわけではない。
 むしろ、普段なら飯を食い倒す所だが、全く食欲が湧かないのだ。
 明らかに、体調が悪い――原因の見当は、着いているのだが。
(「ジジイの様子をもっと見ておきたいが……」)
 館に入る時に出迎えた、藤梧と名乗った老人。
 今は他の猟兵達と話しているようだが、出来れば探っておきたい。おきたいが――。
(「部屋に戻るか……」)
 嘆息混じりに、はとりが席を立った、その時――背後で物音がした。

「さて、どうしましょう。デザートもそそられますが、まだ食べていないお料理も捨てがたいですわ!」
 蝶子は迷っていた。
 そろそろデザートに移行するか、まだ料理にするか。
 どの料理も美味しいのが悪い。
 なんて贅沢な悩みに悩んでいる所に、ガシャンッと言う物音と、ぐぇっと蛙がつぶされた様な声が耳に飛び込んできた。
「あら? 誰か倒れ……いえ、あれは甲冑でしょうか?」
 壁際に並んだ甲冑の一つが、何故か倒れている。
「危ないですわね! 戻しておきましょう」
 駆け寄った蝶子は、ひょいと片手で甲冑を壁に戻す。
「あら」
 そして見つけた。
 不運にも倒れて来た甲冑に押し倒されていた、はとりに。
「柊様ではありませんか!」
「ん? ああ、森永か」
 狐面ガスマスクを付けているのに自分に気づいた蝶子に、はとりも相手が誰だか気づく。
「柊様は狐面ですのね! 何探偵なのですか?」
「ん? 肩書き? 要るのか?」
「要ります! これも様式美でございます!」
 前にもどこかで聞いた様な蝶子とのやり取りに、はとりが思わず閉口する。
「ちなみにわたくしは……わたくしは……探偵パピヨンレディですわ!」
「それでその仮面……とでも言うと思ったか! 今考えただろ!」
 聞いてもいないのに蝶子が名乗ったたった今考えたっぽい肩書きに、はとりはたまらずつっこんだ。
 とは言え、着けている蝶をモチーフにした仮面には合っている。
 そして即興で良いのなら――。
「……なら、俺は『名探偵の曾孫』だ。主催に会ったら、そう伝えといてくれ」
「柊様、なんだか元気がありませんわね」
 いつも以上にぶっきらぼうに返して来るはとりの様子に、蝶子が首を傾げる。
「まあ……ちょっとな」
 どう説明したものかと、はとりはしばし迷い、率直に訊いてみる事にした。
「なあ、森永。何か気になる事はないか?」
「何も気になるところがないですわね!」
 蝶子からは、秒で頼りない答えが力いっぱい返って来た。
「あ、どのお料理もとても美味しいですわ!」
 更にどうでもいい答えも、矢継ぎ早に返って来た。
「いいか。この事件は本当に危険だ……」
 そんな蝶子の肩に手を置いて、はとりは深刻そうな声で告げる。
「小説は小説。事件なんて起きませんわ!」
 はとりの懸念を払拭するかのように、蝶子が力強く言い放つ。
「だって、ここには探偵しかいませんもの! そう思いませんこと!?」
「それが問題なんだ」
 いつもの根拠のない自信に満ちた蝶子に、はとりは溜息混じりに返した。
 でもガスマスクで、溜息はシュコーッと言う音に変わっている。と言うか、さっきからずっと、仮面代わりのガスマスクで、大分台無しになっている事に、はとりは気づいているのだろうか。
「本人の意思を問わず殺人事件を引き起こす『名探偵の呪い』に侵された柊一族の人間。そいつらが二人も関わってるんだ。無事で済む筈がない」
「名探偵? 呪い?」
 はとりが告げた言葉に蝶子が首を傾げた、その時だった。
 その名前が、少し離れた所から聞こえて来たのは。

「柊・藤梧郎――と言う名をご存知かな?」

●老爺と探偵達
 時間は少し遡る。
「御口に合わなんだかな?」
「――え?」
 突然かけられた声に、白露が少し驚いた様に、声の方に顔を向けた。
 そこにいたのは、この館に入る時に出迎えた壮年の男である。老爺と言ってもいい。
 確か名は、藤梧と言ったか。
「あまり食が進んでいないようだから、気になってな」
「……量はあまり食べられないんだ。身体が弱くてな」
 そんな懸念を口にする藤梧に、白露は病弱さをアピールするように答えを返す。
「こういう薬を飲んでおかないといけない身でな。水を貰えるか?」
「君。彼に水を」
 更に見せつけるように錠剤の入った小瓶を取り出して見せれば、藤梧は驚きもせずに近くの女中を捕まえて、白露の前に水を運ばせた。
「俺自身の命は最早、搾り滓のようなもの――使い道を探っている様なものでな。この仕事も、どれだけ続けられるかはわからないが。命の燃やし方としては悪くない」
 実際の所、弱っているのは事実だ。
 蛍光色の錠剤と、錠剤に見せかけたただのラムネを、水を煽って飲み下しながら自嘲気味に告げた言葉も、嘘ではない。
 白露自身はそう思っている。そんな命の使い道を、意味を求めている。
「そう言えば、名乗ってなかったな。オレは……事件や犯人を嗅ぎ当てる、人狼探偵だ」
(「ってとこでどうかな?」)
 考えていた肩書きを告げる場面かと、白露は名乗ってみて藤梧の反応を見る。
「……犬じゃないぞ」
 付け足したのは、白尽くめの服に合わせた白い仮面が、顔の上半分を覆うタイプでイヌ系をモチーフにしている様なデザインにも見えるから。白露本人は、狼だと思って選んだのだが。
「人狼探偵か。面白い肩書きだ。ぜひ長生きして、活躍して頂きたいものだ」
 鷹揚に頷いて、藤梧は視線を白露から外す。
「して――そちらは」
「んぐっ!?」
 急に視線と話を向けられ、食事に夢中だったジゼルがむせ返った。
「失敬。驚かせたかね。年若い探偵の名を聞いてみたくてな」
「ああ、いえ……」
 さして悪びれずに言って来る藤梧に、口元を拭ったジゼルが向き直る。
 すぅ――と深く息を吸い込んで。
『はじめまして こんにちは わたしはジゼル♪』
 声音を変えて、唄う様な声で告げた。
「改めて、歌姫探偵ジゼルだ。普段は歌劇団で歌いつつ、密かに帝都で起こる事件の謎解きをしている」
 声音を戻し、ジゼルは小さな笑みを浮かべて続ける。
 さっきご飯食べてる間に考えた設定だなんて、おくびにも出さずに。
 出てない筈だ。
 今日のジゼルは|この世界《サクラミラージュ》らしくと、矢絣の着物に赤い女袴に、ドレスコードに合わせて桜の意匠をあしらった顔半分を隠す白狐の仮面も着けているのだから。
(「……しかしこの格好、夏は暑いな……」)
 不意打ちされたようで変に緊張したせいか、ジゼルはその服装の難点を思い出していた。外を歩いている間などは、それは暑かったものだ。冷房が効いているようで、甲冑館の中は快適なのが幸いである。
「歌姫と探偵の両立。君も面白いな。実に面白い」
「今度はこちらからも、質問を良いだろうか」
 ジゼルの肩書にも鷹揚に頷く藤梧に、背後から声がかかる。
 そこには、甲冑が立っていた。
 この館に並んでいるものとは、デザインが全く異なる。それ以前に、生きている気配がする。
「甲冑探偵アディリシアだ。よろしく頼む」
「ほう。ほうほう。やはり甲冑探偵なのか。出迎えた時からその出で立ち、気になってはいたが」
 甲冑館に甲冑探偵と言う取り合わせに、アディリシアには藤梧が少しだけ目を見開いた様に見えた。
「して、儂に質問とは?」
「死んだ作家とはどんな人物なのか? 主人との関係はどのようなものなのか?」
「ああ、それは私も聞かせて貰いたいものですな」
 アディリシアがぶつけた問いを聞いて、カイリが声を上げた。
「私は、こういうものでしてね」
 スッとカイリが差し出したのは、『新聞記者探偵 橘・海鈴』と書かれた名刺であった。
 白くて鼻回りまで覆う仮面とスーツ姿と言う出で立ちも、記者を兼ねた立場に説得力を持たせる為のもの。
 しかし、この名刺はいつの間に用意したのか。
「ふむ……それは?」
 だが藤梧の目を引いたのは、名刺よりも、カイリが手に嵌めたままの手袋。
「ああ、この黒手袋……つい、いつもの癖で」
 そう見られるのも、計算の内。
 だからカイリは、迷うことなく少し困った様な笑みを浮かべて見せる事が出来た。
「ほら。お渡ししたそちらにありますように、私は新聞記者ですが、同時に探偵ですから……指紋を残しては、検証の邪魔になるかと」
「なるほど。新聞記者と探偵か。科学捜査にも明るいと見受けられる」
「文筆の方も、ね」
 得心が言った様子の藤梧に、カイリは更に言葉を続けた。
「ええ、未完の謎。それを描くべく、ここへ来ました。日頃、記者としてはコラムの編集などなど……文章に携わるものですから、是非に、と」
「それは心強い。未完の小説が完成した時には、お願いするとしよう」
 スラスラとカイリが続けた演技をすっかり信じた様子で、藤梧は深く頷いた。
「ええ、それはもう。このように美味しい食事までご用意くださったのですから。ですが、それには情報を幾らか頂きたいもので、はい」
「ああ、そうであったな」
 話を戻したカイリに頷いて、藤梧はゆっくりと息を吸い込む。

「柊・藤梧郎――と言う名をご存知かな?」

 そして、その名前を口にした。

●バーサーカーの存在証明
 甲冑館の3階。
 客間が並ぶエリアでは、女中さんが歩いている。
 今日は客が多くて疲れたとぼやきながら角を曲がり――誰かとぶつかりかけた。
『おっと』
「っし、失礼致しました」
 慌てて下がった女中さんは、頭を下げる。そして、甲冑の足が目に入った。
 ――おや? この足は。
「甲冑探偵様……ですか?」
『如何にも。甲冑探偵アディリシアだ』
 オルタナティブ・ダブルで増えた方であるダフネは、アディリシアになり切って頷く。
「え? でもついさっきホールで藤梧さんとお話をされていたのでは……あれ?」
 何故ここに甲冑探偵がと、混乱する女中さん。
 この女中さん達、聞けば一ヶ月ほど前から雇われているただの一般人である。
 アディリシアとダフネの見分けなど、つくく筈がない。
 同時に入るのではなく、ダフネだけが時間差を置いてこっそりと入った上で、鉢合わせしない様に別々の場所で動く事で、周りには同一人物(と言うか鎧)があちらこちらにいるように思わせる――。
「え? あれぇ?」
(『やっぱりこれ、犯人側の動きじゃないかな?』)
 アディリシアの策に見事に嵌った女中さんの様子に、ダフネは胸中で呟いていた。
 面白くなりそうだから問題は無い――とアディリシアが言っていたのはダフネも頷く所ではあるけれど、どんな効果があるかは、さっぱりわからない。
 これが後で役に立つ――かなぁ。どうかなぁ。

●過去にあったかもしれない話
 再び、パーティの場に戻る。
「柊・藤梧郎――ああ、彼について語る前に、だ。先ほど、この館を大富豪の館と言ったのを聞こえていたのだが、誰かな?」
「あ、それは私です」
 藤梧の言葉に、紅葉が片手を上げる。
「何故、そう思ったのかね?」
「簡単な推理です――この鎧の数々ですよ」
 目を細めて訊ねてくる藤梧に、紅葉は迷わず返した。
「見ればわかります。どれも一揃えだけでも、相当に値段が張る物の筈です」
 こうしたオブジェ用の甲冑は、レプリカも多い。
 だが紅葉が言ったように、此処にある全ての甲冑がレプリカの類ではないとしたら、ひとつひとつの品としての価値、歴史的な価値を勘案し、値段をそうそう付けられるものでもない。
「それだけの品をこれ程の数も揃えられると言う事が、財力の証。この館の主は、とんでもない大富豪だった――と推理できます」
 尤も、それはレプリカでも同じ事だ。
 数が数である。そこらのちょっとお金がある程度の財力では、この光景を作るのは難しい。
 そう言う意味では、紅葉の推理は正解としか言えなかった。
「慧眼である。その通りだ」
 実際、紅葉の答えに藤梧は満足そうに頷く。
「如何な探偵であるかな」
 藤梧が続けてきた問いには、紅葉は首を横に振った。
「ここでは誰もが誰もが匿名希望……仮面を必須としたのは、そういう事でしょう?」
(「私も、学徒兵という身分は今は隠しておきましょう」)
「ふむ。謎の探偵か。それもありだな」
 打算を隠した紅葉の答えに、藤梧はあっさりと頷いた。
 別に、肩書を考えていなかったとかではない。ハイカラ探偵では外連味がないと思ったとかではない。
「話を戻そう。この館を最初に立てたのは、理由合って先祖代々伝わる甲冑一式を持ち、海を渡ってきたとある英吉利貴族の血を引く者であったと言う。その者はこの館を立て、伝来の甲冑を飾った。だが甲冑一つだけを飾っているのでは、大事なものだと喧伝しているようなもの。故に甲冑を増やしたのだ」
「成程な……木を隠すなら森の中、か」
 滔々と藤梧が語る話に、アディリシアが相槌を打つ。
 殺人事件のためのでっち上げだろうと思って聞いてはいたが、ありそうな話ではあった。
(「破綻はなかった……か?」)
 それが嘘か真か、今この場で確かめる術をアディリシアは持たないが、真実味は帯びている様に思える。
(「だからと言っても、こんなに増やすものでしょうか。まるで、隅の板金鎧に見られているようで、なんだか落ち着かないんですけどね」)
 甲冑の多さに居心地の悪さと言うか、妙な違和感を感じている紅葉は、内心で首を傾げていた。
「そして時が流れて、数十年ほど前だ。この館で起きた一家惨殺事件――それを見事解決したのが、柊・藤梧郎と言う当時の名探偵であった」
 そこまで語った藤梧は、ふぅ、と大きく息を吐く。
 遠くで聞き耳を立てていたはとりが、ガスマスクの奥で刺すような視線を向けていた。
「さて、続きだ。と言っても、もう長くはないがね」
 それに気づいているのかいないのか、藤梧は話を再開する。
 その事件で世継ぎが耐えた一族は、恩を感じた藤梧郎に館の行く末を託し――。
「そして話は|》現在《いま》に至る。若くして亡くなった作家は、その名探偵の血筋のもの。儂がこの館の管理を任されているのは、その遠縁に当たる故よ」
 そこまで言い終えると、藤梧は席を立ち、探偵達から離れていった。
 話は終わり――と言う事だろう。
「……伝えてくれ」
 その背中に、白露が声をかける。
「料理を作った奴に。量は食えなかったが、美味かった――と」
「そうです! とても美味しかったです!」
「まったくその通りで。『腹が減ってはいい文章も思い付かない』というもの。嬉しいものでした」
 白露が言えば、ジゼルとカイリも口々に料理の感謝を告げる。
「伝わった」
 それを聞いた藤梧は、背を向けたまま頷いた。
「作ったのは儂だ。昔――美食探偵と名乗る男の元で働いた時の手慰みと言うものだ」
 そして今度こそ、探偵達の前から去って行った。

●フラグ下手さんと、一級フラグ建築士さん
 真面目(?)な話がされていた一方で。
「死亡ふらぐ、の話をしたい」
「ほう?」
 リュカと晴夜は食後の珈琲を飲みながら、そんな話をしていた。
「こういう時は『死亡ふらぐ』っていうのを立てるといいんだって。お兄さん、いい『死亡ふらぐ』ある?」
 それを聞いた晴夜の目がキラーンと輝いた。
「ハレルヤに死亡フラグを語らせると長いですよ?」
「いいよ。なんとなくわかんだけど、具体的にはよくわからないから」
 リュカのその言葉に、晴夜は引っかかった。
 ものすごく、引っかかった。
「よくわからないって……前に沢山映画を見たじゃないですか」
「え? うん? ああ、あれね」
 いつぞやの、同じ世界での空の旅の中の事。
「あのバナナなサメの中に、死亡フラグ幾つもありましたよね?」
 死亡フラグのないサメ映画って、多分ない。
「……」
 だが、リュカの答えは沈黙だった。
 取り敢えず語って、と目が言っている。
「ではでは! 死亡フラグには色々な種類があります。まずは、情報を持ったままパターンです。例えば、『あの時あんな事がなければ、あの人も…』と不穏な過去を匂わせたり、『そうか、犯人は…!』と一人真相に気付いてしまうのも趣深いです」
「趣深い……」
「大体、詳しい事を言う前に殺されて『何に気づいたんだ……!』となります」
「成程?」
 段々、リュカが首を傾げる角度が深くなっていくが、晴夜のフラグ談義は続く。
「あとは光ある未来を匂わせるのがセオリーですね! 『全てが終わったら一緒になろう』とか『まだ墓に入るには早すぎる。同じ墓に入って欲しいからな』とか、希望のある台詞を言うと、大体直後に死にます」
「希望があるのに……」
「だから死ぬんですよ。サメ映画でもそうだったじゃないですか。あとは――」
「つまりこうか」
 まだまだ続きそうな晴夜の死亡フラグトークを、リュカが遮る。

「お兄さん、この戦いが終わったら墓に入って欲しいんだ。特に一緒じゃなくてもいい」

 どうしてこうなった。
「ちょっと何言ってるのかわからない」
「あれ、違うのか」
 盛大な溜息を吐いた晴夜に、リュカが腕を組む。
 けれど、晴夜はめげなかった。ここまで来たなら、リュカに何とか死亡フラグを理解して欲しい――そんな風な変なスイッチでも入ってしまったのかもしれない。
「……さては、ハレルヤを殺す犯人はリュカさん、あなたですね!」
「あ、やっぱり合法的に殺して良いの?」
 だが、晴夜の渾身の死亡フラグは、伝わらなかった。
「違います! フラグはこうやって立てるのです! と言う事です」
「難しいな……この国の殺しの作法って」
 思わず乗り出した晴夜に、リュカの不穏な呟きが返って来た。
「殺しの作法ではなく、死亡フラグですからね? 聞いてます?」
「聞いてる聞いてる」
 念を押す晴夜の言葉は、割と雑にリュカに流された。

 ケイと夏報の間から、湯気が漂う。
 食後のティータイム。或いは珈琲か。
「風見先生。そろそろ宴も終わりじゃないですか? 宴が終わったら、名探偵の出番ですよ!」
「やれやれ……もう僕の出番か」
 声を弾ませる夏報に、食後の読書中だったケイはパタンッと本を閉じた。
 ――演技である。
 何処からかと言うと、まあほとんど全部。
 食後の読書だって、その方が書生探偵っぽいからとやっていただけだ。実の所、適当にページをめくっているだけで、ケイはちゃんと読んですらいなかった。
「未完に終わった物語の続き。助手として、是非とも知りたいところです!」
 夏報が声だけでなく、待ちきれない様にぴょんぴょこ跳ねて見せるのも、文学少女っぽさを出そうとしての動作である。
「ふふっ……数々の難事件を解決してきた先生なら、小説家の考える筋書きなんて余裕ですよねっ」
「実は、すでにある物を見つけてね、此処は人目も多いから部屋でこっそり教えるよ」
 そんな夏報を宥める様に、ケイはティーカップの中身を飲み干し、椅子から立ち上がる。
 フラグ、1つ目。
「さすが先生。この事件が終わったら、ぱーっと温泉旅行でも行きましょう!」
「本の続きを、と思っていたけどそれもいいか……君に伝えたいこともあるし」
 などと言いながら、ケイは夏報から隠す様に身体の向きを少し変え、片手を上着のポケットに入れる。
 まるでその中に大事な小箱を隠しているかのように。
「あっ、離れちゃ嫌ですよ? 仮面のままではぐれちゃったら大変ですから」
「ふふ、どこにもいかないさ……僕たちの物語が続く限りはね」
 全力でベタベタいちゃつきながら、更にフラグを立てていく2人。
 ふと、視線を感じた気がして夏報が顔を上げると、2階へ続く階段の途中から、狐面のガスマスクをつけた誰かがこっちを見ている気がした。
(「今フラグ乱立してんだから、邪魔すんな?」)
 何してんだあいつ――と言われてるような気がしたので、夏報はバチンバチンとウィンクしてみた。

 ケイと夏報のそのやり取りは、少し離れたテーブルからも見えていた。
「リュカさん……あれです。あれこそ死亡フラグです!」
 小声ながらやや興奮気味に、晴夜がリュカに2人を指差している。
 実例を見れば、きっとリュカにも通じ――。
「え? ……俺とお兄さんが腕を組めばいいの? やだな」
「ちーがーいーまーすー!」
 通じなかった。

●開幕に向かう円舞曲
 ――♪♪♪ ♪♪♪ ♪♪♪
 ほとんどの料理が下げら、人数もまばらになったホールに、ピアノの音が響いている。
 テンポを早めに、アレンジも多く加えた弾むようなピアノワルツ。
 ――♪♪♪ ♪♪♪ ♪♪♪
 弾いているのは、橘だ。
 ホールに入った時から、角にあるグランドピアノが気になっていた。
「あのピアノが気になるのかね?」
「……実は最近習っていて」
 なんて常盤に告げてみれば、弾いてみなさい、と返って来るのは自明の理。
(「……ふぅ」)
 ――パチパチパチ。
 一曲弾き終えた橘に、常盤と、まだホールに残っていた数人からの拍手が向けられる。
「良い心掛けだよ、橘君。探偵には教養も必要だ、私の様に」
「武道以外も探偵の嗜み――ヱレガントな先生の弟子ですもの!」
 常盤からの賛辞に、橘は今日一番の嬉しそうな笑顔を見せた。

●抗う時は今
 ――♪♪♪ ♪♪♪ ♪♪♪
 遠くから聞こえるピアノの音を背に、はとりは宛がわれた部屋に戻る。扉を開ければ、正面に、ホールでも散々見た剣付きの甲冑が置かれていた。
「本当に、部屋にまであるのかよ。何だこの甲冑……悪趣味な館だな」
 溜息混じりに呟いて、無駄に大きなベッドに倒れ込む。
「俺の実家みたいで余計気分が悪い」
 続けた呟きは、天井で跳ね返って来る。
『では解決を放棄しますか? 柊 はとり』
 ベッドサイドに立てかけていた『コキュートスの水槽』から、機械的ながら流暢なAIの声が飛んで来た。
「うるせえコキュートス……」
『貴方が手を引けば危険度は低下の可能性が……』
 呻くはとりに構わず、AIは淡々と告げて来る。
「うるせえっつってんだよ!!」
 ガバッと上半身を起こして声を張り上げた直後、はとりの視界がグルッと回った。
「う……」
 思わず、再びベッドに倒れ込む。
 汗一滴も出ないが、酷い悪寒と吐き気を感じる。
 体調を優先するなら、AIが言う事も一考の余地はあるだろう。
 だがはとりは、そんなつもりは毛ほどもない。
(「前の俺なら逃げ帰ってただろう。与えられた宿命の重さを。あの凍てつく眼差しを。何より……俺のせいで喪われる命を恐れて」)
 前の――と言うのは、いつの『はとり』の事なのか。
 確かな事は、今のはとりは違うと言う事。
「だが反抗するなら今だ」
 その言葉を、敢えて口に出す。
「俺一人じゃ呪いに勝てないが、随分と物好き連中が集まった。連中のしぶとさを、信じるさ」
 何人か、知った顔もいた。
 自分を含めて、殺したって死にそうにないのもいる。
 そう思える事こそが、前の『はとり』との違いかもしれない。
『ふふふ』
「楽しそうで結構だな……お前らの思い通りには……させな……い」
 まるで人間の様に含み笑いを漏らすAIに言い返す前に、はとりの意識が、微睡みに落ちていく。

●がらんどうばかりではなく
 その頃――。
「探偵を自称したくらいですからね」
 早めにパーティから引き揚げた摩那は、少し休んだあと、ひとりで甲冑館の中を歩いていた。
「フリとは言え、死に場所くらいは選んでもよいでしょう」
 独り言ち、スマートグラス『ガリレオ』のセンサー機能をオンに切り替える。
 目立たない様に補助プロセッサはつけていないが、トリックの仕掛けを探査するくらいなら、標準でもいいだろう。元より、そう容易く見つかる物ばかりだとも思っていない。
 思っていなかったのだが――。
「あの鎧……中が空洞ではない?」
 割とあっさりと、摩那は幾つもある甲冑の一つに、何かが仕込まれているのを見つけてしまった。
 どうやら、動力が仕込まれているようだ。その他にも――。
「ふふ」
 けれども摩那は、見つけたそれをそのままに、その場を去る事を選んだ。
 見つけた仕掛けは、きっと氷山の一角。1つ解除した所で、リスクは然程変わるまい。
 それに――。
(「きっと設置した人はワクワクしながら仕掛けたんだろうな」)
 それは摩那の想像に過ぎないけれど。
 だとしたら、動き出す前に潰すなんて――無粋と言うものだ。

●そして、事件の幕が上がる
 そして――夜も更けた頃。

 ッッォォォオォォォン!

 何処か遠くから重たい音が聞こえてきて、甲冑館が少し揺れた。
 地震だろうか?
「た、大変です――!」
 音から間を置かず、ホールに残っていた猟兵達の下に、女中さんの1人が駆け込んで来る。
「今、麓から連絡があって……雨で山が崩れて、山道のトンネルも崩落してしまったと!」
 鬼気迫る声で、そう告げて来た。
「本当、気が付けば外は大雨ですわね」
 蝶子がカーテンを開いた窓の外で、雷がピシャーンッと夜空を引き裂いていた。
 そんな天気予報だっただろうか?
「小説ですと、こういう時は……この館は陸の孤島となり、携帯の電波も通じな……」
 と言いながらポーチに手を入れた蝶子が固まった。
 気づいてしまったのだ。
 そもそも、携帯がそこにない事に。

「良くないな。帰路を立たれたようで気味が……」
「大丈夫ですわ」
 崩落と聞いて眉を顰める常盤に、橘が拳を握る。
「岩なんて斬り裂けばいいこと」
 この女学生探偵ったら、無茶な方向に俄然やる気になっている。
「ふっ、その発想はなかったなァ」
 常盤が発したその一言は、素だったかもしれない。
「頼りにしてるよ、橘君」
「先生の事は全力でお守りしますわ」
 すぐに状況を楽しむような笑みを浮かべた常盤に、橘は目を輝かせて頷いた。

 ポーン、ポーン、ポーン。
 どこからか、柱時計の音が鳴り響く。
 時計の針は、丁度午前零時を指していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『『小説殺人』』

POW   :    足を使って調査

SPD   :    巧みな話術を用いて調査

WIZ   :    魔術を用いて犯人の足取りを調査

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●?・???――探偵を識る者は
 探偵とは難儀な生き物だ。

 どこかで銃声が響けば真夜中でも飛び起きて、近くで悲鳴が聞こえれば飛び出さずにはいられない。
 倒れている人を見れば一目散に駆け寄り、暗号に気づけば思考はそれに囚われ、開かずの扉は開こうとせずにはいられない。
 そこに『謎』の気配を感じれば、止まれない。
 それが探偵と言う生き物だ。
 もはや習性と言っても過言ではないその職業病は、他ならぬ儂自身が良く知っておる。
 探偵の事は、探偵が一番知っている。

 そろそろ、極一部の食事に仕込んだ遅効性の毒『名探偵クルシーム』の効果が出る頃だ。
 効かない可能性も考慮し、館にある甲冑の一部は『名探偵絶対殺すロボ』になっている。オブジェと思わせてひとりでに動き出し、衝撃を与えれば時限爆弾っぽいタイマーが作動する。謎の気配で名探偵でも釘付けにする自信作だ。

 死んで貰うぞ、探偵諸君。
 我らが名探偵に至る為に。

●甲冑館連続殺人事件、開幕――最初に死ぬやつは割と怪しい
 ポーン、ポーン、ポーン。
 柱時計から、午前零時を告げる音が鳴り響く。
 それから、数分が経った頃だった。
『――探偵諸君』
 甲冑館のそこかしこから、淡々とした藤梧の声が響いてきたのは。
 どうやら放送設備があるらしい。
『突然の放送に驚いたかな。驚いてくれたら嬉しい。さて、こんな時間にこんな真似をしたのは、勿論理由がある。未完の小説の続きを、その謎を解くために集まって貰ったわけだが、ヒントの一つもなしでは、いかに名探偵と言えども難しいであろう。実は、若き作家が残したメモがある』
 誰も口を挟めないのを良い事に、藤梧は語り続ける。
『メモに遺された言葉は2つ。最初の殺人は真夜中に。犯人は動く甲冑。であるからだ。真夜中と言って良いこの刻限から、今から! 諸君には好きな時に謎解きを始め――な、なんだ?』
 滔々と続いていた藤梧の声が、急に乱れた。
 スピーカー越しで少しわかりにくいが、何か争う様な物音も聞こえ出す。
『お、お前はまさか……や、やめ――』
 パァン!
『ぐふっ!!』
 うめき声の間に聞こえたのは、もしかして銃声?
 ザー……ザー……プツンッ。
 そして、唐突に始まった放送は途絶えた。
 これも未完の小説の筋書きの一部なのか。それとも――。

==============================================
 さて、2章です。
 こちらからも死亡フラグを立ててみました。
 拾って死んで頂いても良いですし、勿論1章で立てたフラグを回収しても良いですし、ロボとか気にしないで新たなフラグを立てて即回収しても良いです。
 甲冑館にある室内設備は、適当に作っていいです。ビリヤード台がある遊戯室とか。
 突然茶室が生えても良いです。その為に、洋風建築と和風建築のミックスにしたんだ。
 ただあまり各階が大きすぎると、吊り天井トラップとか見てから回避余裕では?となるので、天井の高さは大体3mちょっとくらいになりました。

 大事な事は、全員死ねば3章になる。
 それだけです。
 途中参加もOKなので、2章からの人はパーティーいました顔で死のう。
 真面目に死んでも、面白おかしく死んでも良いです。
 兎に角、死のう。(繰り返しますがフリですよ)

 死に方お任せも受け付けます。
 その場合は
 【任死】
 とプレイング冒頭にでも書いてください。何か考えます。
 名探偵絶対殺すロボとか言い出してる奴が考える死に方なので、多分トンチキに死んでもいい人向け。

 一応ミステリィっぽい雰囲気のパートを入れてみたので、ミスリード防止なNPC情報も置いておきます。

 藤梧。
 死亡?
 放送室は地下にあるようだ。地下、あったのか……。(突然生える地下)

 4人の女中さん達。ABCDとかだと味気ないので、仮名で花子さん、松子さん、竹子さん、梅子さん。
 4人とも、1ヶ月ほど前、麓の村で雇用された。
 調べればわかる事だが、完全に巻き込まれた一般人である。(死なないとは言っていない)
 寝室は1階に用意されている。

 プレイング受付は、予告通り
 8/21(日)8:31~とさせて頂きます。
 再送になるかどうかは、ギリギリ水曜の判断になるかと思うので、受付期間も多分水曜までかな。
==============================================
臥待・夏報
【🌖⭐️】
(コスプレだし助手だし毒は効かない)

犯人はともかく被害者まで甲冑を着る必要性っていったい
よほど人に見られたくないような趣味でもあったんでしょうか?
――さすが先生、|証拠《かぎ》は掴んでらっしゃるんですね!(この顔……絶対なにもわかってねえなあ)

真実の物語、僕も気になります
でも真夜中に廊下を歩くのってなんだか怖いですね……さっきの放送のこともあるし……(死ぬの知ってるし……)
先生、もっと傍に来てください

(くっつくだけのふりして風見くんの左手を取り、指を強めに噛む)
(自分のも噛む)
ふふっ、おまじないです(UCで不死性を付与)

さて、早速解決編を……!
(扉を開けた拍子に倒れる甲冑爆弾)
あっ


風見・ケイ
【🌖⭐️】
(コスプレだし名探偵じゃないし毒は効かない)

【殺人は真夜中】【犯人は動く甲冑】……なるほど
先に手に入れていた物と組み合わせれば
――|結末《エンディング》はこの手の中に(なにもわからないけどそれっぽいこと言っとくかな)

夏報くん、僕たちの部屋に戻ろう
真実の物語を、まずは君に伝えておきたい
ふふ、それなら手でも繋いで歩こうか
(UCで観察しながら道を選ぶ……って死ななきゃいけないんだっけ)

(近づく夏報さんの顔をつい見つめたまま)
んっ……どんなお守りよりも安心だね

ああ、手早く済ませて僕たちの物語の続きを、(……これ適当な推理を言ったら灼かれるのでは?)
(思案で観察を中断したまま扉を開ける)
あっ



●探偵のふりも楽じゃない
 パァン!
『ぐふっ!!』
 ザー……ザー……プツンッ。
 此の怪しげな放送が流れた時、風見・ケイ(星屑の夢・f14457)と臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)は宛がわれた部屋ではなく、誰も使っていないであろう客室にいた。
 宴の終わりを待たずに切り上げた2人は、自分達の客室には戻らず、取り敢えず鍵のかかってない部屋を探しては中を調べて回っていた。
 その方が探偵っぽいから、と言うだけである。
「先生。気になる事があるんです」
 肩が触れる程の距離でケイの隣を歩きながら、夏報がその横顔を見上げて訊ねる。
 まだベタベタいちゃいちゃ演技も継続中である。
 どこで犯人が見ているかもわからないのだ。仮面を捨てるのは早すぎる。
「犯人はともかく被害者まで甲冑を着る必要性って、いったい何なのでしょう」
 さておき――夏報が口にした疑問は『|新聞に載っていた筈だった《でっちあげの》未完の小説』の中で書かれていたとされる、この甲冑館で起きた殺人事件。
「よほど人に見られたくないような趣味でもあったんでしょうか?」
 何故、この館の主は甲冑姿で殺されたのか――?
 それはある種のホワイダニットと言って良いだろう。これが本当のミステリだったのなら、それはとても大事な要因である筈だ。
 そう言う話題の会話をしていると、とても探偵っぽい。気がする。
「そんな事か――それは初歩的な推理だよ、夏報くん」
 だからケイも、助手を持つ探偵らしく、自信に満ちた笑顔を夏報に向けた。
「先ほどの放送にヒントがあっただろう? 殺人は真夜中、犯人は動く甲冑。この2つに、さっきの部屋で手に入れていた物と組み合わせれば――」
 判った風な事を言いながら、ケイは何かを隠している様に上着のポケットを探ってみせた。
 さっきはそこに、まるで小箱でもあるように振る舞ってはいなかっただろうか。
「――|結末《エンディング》はこの手の中に」
(「なにもわからないけど、それっぽいこと言っとくかな」)
 何も掴めていない空っぽな掌を、ケイはもう謎が解けた探偵の様に握り締める。
「――さすが先生、|証拠《かぎ》は掴んでらっしゃるんですね!」
(「この顔……絶対なにもわかってねえなあ」)
 その|虚勢《ハッタリ》に気づいていながら、夏報は助手役に徹してキラキラとした眼差しを向けていた。

 2人としては、こんなに探偵らしくしてるのだ。
 そろそろ、いつ殺されるイベントが起きてもおかしくない。
 だが――まだその気配は何処にも感じられなかった。
 実は既に食事に盛られていた毒を耐えきって、あれだけ立てたフラグを1つへし折っていたりする。
 夏報で少し食べ過ぎたかと思わせられた程度だ。遥かに高い毒耐性を持つケイなど、食事と一緒に毒を接種していた事すら、気づいていないかもしれない。
 何はともあれ、死ぬチャンスがまだ来ない。
「夏報くん、僕たちの部屋に戻ろう」
 ならば行動パターンを変えてみようと、ケイは踵を返した。
「真実の物語を、まずは君に伝えておきたい――まだ話せる内にね」
「先生と話をする時間なら、たっぷりありますよ――でも真実の物語、僕も気になります」
 ケイの提案に、夏報も乗っかった。
 更にフラグを増やしながら。
「だけど、真夜中に廊下を歩くのってなんだか怖いですね……さっきの放送のこともあるし……」
 ついでに暗闇を怖がる助手と言う設定を生やした夏報は、ケイにすり寄っていく。
 実際、甲冑館の廊下は大半が暗かった。
 何故か、照明がほとんどないのだ。中に蝋燭を入れるタイプのランタンのような燭台は廊下に幾つもあるのだが、中が入っていて灯りが点いているのは数えるほどしかない。
 この暗さは元々なのか、犯人の仕込みか――。
(「仕込みだろうな。死ぬの知ってるし……そろそろ来そうだし……」)
「ふふ、それなら手でも繋いで歩こうか」
 夏報が演技の中にほんの少し警戒心が混ざったのを察してか、怯える助手を宥めるように、足を止めたケイがそのを手を取ってきた。
「大丈夫。見えるものが全てではないさ」
 ふっと笑ったケイが発したその言葉の意味を、夏報は知っている。

 ――|間違い探し《リット・ア・ライト》。

 観察する事で、行動の成功率を高めるケイのユーべルコード。
 灯りがない暗闇の中でも、ケイが観察する限り、正しい道を選ぶ可能性を高める事が出来る。
(「安全そうなのは……って死ななきゃいけないんだっけ」)
 つい安全を取ろうとしたケイは、嫌な予感を感じた方へ足を向ける。
 ケイが夏報の警戒心に気づいた様に、夏報もケイの僅かな逡巡に気づいていた。
「先生、もっと傍に来てください」
 有無を言わさず、夏報はケイの左腕を掴んで引き寄せる。
「夏報くん?」
 ケイの困惑を他所に、夏報はまるで怖がる少女が縋る様に、ケイの左手に唇を寄せて――ガリッ。
「っ」
「ふふっ、おまじないです」
 驚いたケイに微笑んで、夏報は自分の指もガリッと強めに噛んだ。
 それは口づけに見せかけた、噛むと言う攻撃。

 |くちづけの先の熱病《コールド・ケース・アフター》。

 その【不死性】を付与する為の。
「……どんなお守りよりも安心だね」
(「――ん?」)
 夏報に微笑み返してから、ケイは気づいた。気づいてしまった。
 今しがた夏報が使ったユーベルコードは、付与したのは、不死性だけではない。嘘を吐くたび激痛と共に粘膜を灼く呪詛の炎も付与されているだ。
(「……これ適当な推理を言ったら、灼かれるのでは?」)
 探偵でもないのに探偵を名乗り探偵っぽく動くと言う、既に現在進行形で吐き続けている嘘に反応した様子はないが、これは迂闊な事を言えないのでは。
 そんな思考が、ケイに観察を忘れさせる。
「さ、先生。早速解決編を……!
「ああ、手早く済ませて僕たちの物語の続きを――」
 ケイは夏報に促されるままに、全くの無警戒で扉を開けた。
 内側のドアノブにかかっていたワイヤーが、壁際の甲冑を引っ張って、倒す。その甲冑の中に仕込まれていたのは、『ちょっとでも水平が崩れたら爆発する系の起爆装置』と結構な量の爆弾。
「「あっ」」
 ――ドォーンッ!
 2人の声と姿が、爆炎に飲み込まれて――消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神埜・常盤
【大正子弟探偵】

テェブルの下から拾った証拠品
名探偵クルシームなる薬物だと云う
成程、一杯喰わされたか

橘くん、僕らは永くないらしい
僕が着いていながら済まない
君も数々の経験し通し一人前になったと
そう認められたんじゃないか
何とも皮肉なことだがね

だが、殺人犯に殺されるなぞ探偵の名折れ
どうせ死ぬなら気高く
自ら毒杯を煽って死のうじゃないか
君に心中を強請る悪い師匠を赦し給え

互いのグラスに有りっ丈の毒を分ければ
気取った調子で乾杯ひとつ
なに、ようく混ぜれば苦味も紛れるさ
別れの挨拶は触れ合うグラスの響だけ

橘、くん

赤絨毯に倒れ伏せば
最期の一息はきみの名を

まァ……
毒耐性があるから死なないケドね

橘くん
死んだフリ死んだフリ


六道・橘
【大正子弟探偵】
そんな!美味しいデヰナアに盛られていたの?
嗚呼
先生のお顔が土気色(おろっ
わたしまだ『名』探偵じゃないから或いは…
神埜先生待って?
流れるように褒めてらっしゃるけれど
わたしの死亡フラグ立ててらっしゃるご自覚はおあり?
うぅ胃が重たい

ええ犯人の鼻を明かしてやりたい
毒杯…苦く、ない?
わたしがシロップ薬しか飲めないのご存じよね
心中は回避したい
然れど美しく散るのもまた正道
何より先生の反逆の死を尊ぶ心が麗しいもの

先生、飲みます!
ふれあうグラス
涙目で常盤さん…と憧れた師匠の名を呼び一気に煽る

(先生涙が出る程苦いわ)
(やはり物理探偵は名探偵じゃないようよ、効かない)
(…あ、はい。死にます、ぱたり)



●毒と薬は紙一重
 パァン!
『ぐふっ!!』
「先生、事件よ!」
 スピーカーから聞こえた銃声らしき音と断末魔の呻きらしき声に、六道・橘(|加害者《橘天》・f22796)はガタッと椅子を鳴らして立ち上がった。
「待ち給え、橘くん」
 そんな橘を、椅子に座ったままの神埜・常盤(宵色ガイヤルド・f04783)が止める。
「橘くん。残念なお知らせがある」
 いつになく真面目な様子の常盤に、橘もゴクリと息を呑んだ。
「これは先ほど、テェブルの下から拾った証拠品だ」
 常盤が見せて来たのは、空の小瓶。薬瓶で良く使われるタイプだ。
 ラベルが2つ貼られており、その片方は薬らしからぬ髑髏マークが描かれている。うわ怪しい。
「名探偵クルシームなる薬物だと云う。発見場所からして、どうやら、既に一杯喰わされたようだ」
「そんな! 美味しいデヰナアに盛られていたの?」
 寂しげに微笑んだ常盤に駆け寄って、頑張って悲痛そうな声を上げる橘。
「嗚呼……先生のお顔が土気色に」
「……いよいよ、毒が回り出したか。橘くん、僕らは永くないらしい」
 そんな事はなくいつも通りの白い肌まま、常盤はしかし諦観の色を浮かべて橘の肩に手を置いた。
「僕が着いていながら済まない」
「……いえ、先生」
 悔やむふりをがんばる常盤の手から、橘は小瓶をさっと奪い取る。
「書いてあるのは『名探偵クルシーム』です! わたしまだ『名』探偵じゃないから或いは……!」
 ――名探偵『にも』きっと効く毒です。用法用量を守ってご使用ください。
 なんて小さい字で書いてあったのは全力で無視して、橘は希望に縋る様に瓶を常盤に見せつける。
「橘君。君も判っているだろう? 毒が効いている事が」
 その言葉に、常盤は微笑みを絶やさずに首を横に振った。
「君も数々の経験し通し一人前になったと言う事だ。そう認められたんじゃないか。誰よりも雄弁に名探偵と認めてくれたのが毒だ言うのは、皮肉な話だけどね」
 意訳。一人だけ毒が効かない設定にはさせないよ?
「神埜先生待って? 流れるように褒めてらっしゃるけれど、わたしの死亡フラグ立ててらっしゃるご自覚はおあり?」
 意訳。出来れば死にたくないの。
 しかし常盤は、微笑みを絶やさない。
「……うぅ胃が重たい」
 仕方ないと覚悟を決めて。
 橘も毒が回ってきたように、かくんっと膝から崩れ落ちてみせる。

 けれど探偵を称するからとて、常盤も罠にはまったふりだけをする気などない。
 或いは探偵を称するのなら――と言うべきか。
「だが、橘君。このまま殺人犯に殺されるなぞ探偵の名折れ。そうは思わないかい?」
「ええ犯人の鼻を明かしてやりたい」
 常盤の言葉に、橘も力強く頷いた。
「どうせ死ぬなら気高く、自ら毒杯を煽って死のうじゃないか」
「毒杯……苦く、ない?」
 しかし常盤が毒杯と言った途端、その力強さは橘の表情から一瞬で引っ込んだ。
「わたしがシロップ薬しか飲めないのご存じよね」
 それは死にそうな人間が気にする事だろうか。
「デヰナアに盛られていたのが気づかなかったくらいだ。ようく混ぜれば苦味も紛れるさ」
 頬を膨らませた橘に微笑み返し、常盤は棚から上等そうなワインと2つのグラスを持ってきた。
「君に心中を強請る悪い師匠を赦し給え」
 血の様に赤いワインを自分の前に置いたグラスに注ぎながら、常盤は告げる。
「けれども僕は――毒で苦しみ果てる姿など、君に見せたくはない」
 そこに薬瓶を振って中身を落とし、常盤はもうひとつのグラスにワインを注ぎ出した。
「これが最期になるのなら、僕は、最期の瞬間まで君の師匠のままでありたい。だから、共に此処で果ててはくれまいか」
 その言葉はどこまでが嘯いていて、どこまでが演技だったのだろう。
 苦しむ最期の姿など見せたくはない――それは常盤でなくとも、思う事ではなかろうか。
「狡いですわ、先生……」
 真に迫った常盤の言葉に、橘も微苦笑を返すしかなかった。
 心中は回避したい。
 然れど美しく散るのもまた正道だと感じる。
(「それに何より、先生の反逆の死を尊ぶ心が麗しいもの」)
 それが、敵を欺く為の芝居だとしても。
 気が付いたら、橘の前のグラスにも赤いワインが入っていた。もう薬も入れているようだ。
「有難う。それでは――乾杯」
「はい。常盤さん……」
 気取った表情に戻ってグラスを掲げる常盤を先生とは呼ばず、憧れの師としてその名を口にして橘もグラスを掲げる。
 その目元が微かに潤んでいるが、目薬は見当たらない。

 ――キン。

 グラスの触れ合う音が、やけに大きく響いた気がした。
 これが、二人の別れの音になるのか。
 常盤も橘も、ぐいっとグラスの中身を一気に煽る。
「「うっ……」」
 ほぼ同時に呻き声をあげ、二人の手からグラスが零れ落ちた。割れない様に、柔らかい絨毯の上に落ちるように計算されて。
 先に膝をついた常盤が、赤の上にワインの赤が重なった絨毯の上に倒れ伏した。
「橘、くん」
 遅れて膝をつく橘の名を囁くような声で呼ぶ。
 まるで、最期の吐息の様に。
「せん、せい」
 合わせて囁くように返した橘の目から零れる涙。
 その理由は――。
(「先生涙が出る程苦いわ! 苦くないって言ったのに!」)
 まさかの、苦かったから。
 だが、それもその筈、なのだ。
 常盤がグラスに入れたのは、毒ではなく、胃に良く効くが苦い漢方薬なのだから。
 薬瓶は本当に拾ったものだが、中身まで本当に毒にする必要などない。
(「まァ……僕は毒耐性があるから、本当に毒を使っても死なないだろうけど、橘くんはね」)
 耐性がなくとも大きな問題にはならそうだが、念のためだ。
 それに耐性云々もそうだが、橘はさっき、胃が重たいと言っていた。
 ケーキを些か食べさせ過ぎたかと、常盤はちょっと反省していたりする。
(「先生。おかしいわ。全然苦しくないの。やはり物理探偵は名探偵じゃないようよ、効かない」)
(「橘くん。死んだフリ死んだフリ」)
 気づいていないのか、毒が効かないと目を爛々と輝かせる橘に、常盤は囁き目を閉じる。
(「……あ、はい。死にます、ぱたり」)
 橘も目を閉じて、頑張って死んだ振りに入った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夏目・晴夜
リュカさんf02586
どうやって死ぬか全く考えてませんでしたね
ただただ料理が美味かった

ダメです
二人組らしく仲間割れからの相打ちで死にましょうよ
それでは私は場を掻き乱す鬱陶しい人やります
リュカさんはそれに文句や喧嘩を叩きつける人をお願いします
はいアクション!(ガソリンを撒き)

いや撃つ前に止めましょうよ、ハレルヤの奇行を!
止めて喧嘩になるのがパニックホラーの定番でしょう
仲間だったかも怪しい…?それは…最初からずっと親友じゃないかという台詞の前置きですか?

なんて言ってたらめっちゃ火つけられた
そうですね、炎で豪快に焼け死にますか
そして灰の中から不死鳥の如く蘇るのです!
その奇跡に世界は歓喜で…は?演技?


リュカ・エンキアンサス
晴夜お兄さんf00145と

確かに
俺は死にたくない
お兄さんだけ死なない?
折角だから俺が引導を渡してもいいよ?
ダメなの
そう…
まあでも相打ちは賛成

……?
(文句を言ったり喧嘩を…?どうすればいいんだろう
(とりあえず問答無用で撃てばいいんだな。そうすれば疑心暗鬼になるに違いない
いや…お兄さんが鬱陶しいこと言うから、ここでけりを付けておこうかと思って
仲間割れとか言ってるけど最初から仲間だったかも怪しい
故にお兄さんを簀巻きにして火をつければいいんだね。焼きは流儀じゃないけど…
あ、違う?この炎に隠れる?
了解

……
お兄さん、もう演技は終わったんだからそんなにうるさくしなくても…
え?にぎやかなのは素?そうかー…



●仲間割れの末に、変死体役
 夜に抗う様に明るくした客間の中で、夏目・晴夜(不夜狼・f00145)とリュカ・エンキアンサス(蒼炎の旅人・f02586)は何とは無しに、それぞれの得物の手入れを始めていた。
 晴夜は『悪食』の刃を拭紙で拭い、リュカはアサルトライフル『灯り木』を分解している。

 パァン!
『ぐふっ!!』

 その最中、スピーカーからそんな怪しげな音が聞こえた。
「リュカさん。大事なお話があります」
「何かあったっけ?」
 ぽんぽんと打ち粉を付けながら告げた晴夜に、リュカが銃身の内側を磨きながら返す。
「今のを聞いて思い出したんですよ。どうやって死ぬか、全く考えてませんよね」
 そうなのだ。死亡フラグの話は色々したけど、結局どうやって死ぬか決めてなかった。
「……」
(「……お兄さん気づいちゃったか」)
 晴夜の言葉に、しかしリュカは確信犯な内心を隠して無言を返す。
「ただただ、料理が美味かった」
「……確かに。美味しい料理は色々忘れさせてくれるよね」
 料理のせいにしようとする晴夜に、リュカはしれっと頷いた。死亡フラグの話が始まった(そして脱線した)のは、2人の腹がくちくなって食後の珈琲タイムになってた筈だが、それを指摘する者はいない。
「では、どう死にましょうか!」
 今から決めようと、晴夜は手入れを終えた刀を置いて声を上げる。
「俺は死にたくない」
 今更に始まった死に方相談は、早々に終わりそうだった。
「お兄さんだけ死なない? 折角だから俺が引導を渡してもいいよ?」
 さっきまでリュカが分解整備していたアサルトライフルはいつの間にか組み立てられていて、その銃口が晴夜に向けられる。
「何がどう折角なんですかダメです」
「ダメなのか……」
 物騒なリュカのジョークに怯まず、晴夜は机バシバシしながら返す。
「ここは二人組らしく、仲間割れからの相打ちで死にましょうよ」
「相打ちか。うん。賛成」
 代わりに晴夜が提案した死に方に、リュカも頷いた。ここまで、長かった様なそうでもなかったような。
 あとは具体的な展開を煮詰めるだけだ。
「私は、場を掻き乱す鬱陶しい人やります」
「……」
(「相打ちにそれ要る? いつものお兄さんと変わらないのでは?」)
 なんて思ったリュカだが、口に出さない優しさと無言を持って、晴夜に続きを促してみる。
「リュカさんは、そんな私の行動に文句や喧嘩を叩きつける人をお願いします」
「……?」
(「文句を言ったり喧嘩……? どうすればいいんだろう」)
 晴夜の口から語られた筋書きに、リュカはますます混乱していた。
 その結果――。
「私はあれを使いましょう。如何にも怪しくて、気になってたんですよ」
(「仲間割れだから、とりあえず問答無用で撃てばいいんだな。そうすれば、疑心暗鬼になるに違いない」)
 部屋の隅に何故か最初から置いてある赤いポリタンクを晴夜が取りに向かう間に、リュカの中で『文句を言ったり』の部分がすっぽりと抜け落ちてしまった。
「では、私が火を付けたら始めて下さいね」
 リュカが無言で銃弾を込めるのに気づいているのかいないのか、晴夜はポリタンクの蓋を開ける。
 途端に、ガソリンに似た、鼻につく臭いが漂い出した。
「はいアクション!」
 バシャッ!
 パァンッ!
 晴夜が声を上げてポリタンクの中身をぶちまけるのと同時に、銃声が響いた。
 何かが晴夜の耳元を凄い速度で飛び抜けていき、後ろでパリンッと窓が割れた様な音も聞こえて来る。リュカが構えた銃口から、硝煙が上がっていた。
「なんでいきなり撃つんですか!」
「いや……お兄さんが鬱陶しいこと言うから、ここでけりを付けておこうかと思って」
「いや撃つ前に止めましょうよ、ハレルヤの奇行を!」
 晴夜、奇行の自覚はあったのか。
「止めて喧嘩、そこから仲間割れになるのがパニックホラーの定番でしょう」
 晴夜が熱く語るが、リュカは「ふーん」と言った感じだ。
「仲間割れとか言ってるけど最初から仲間だったかも怪しい」
「仲間だったかも怪しい……?」
 やっぱり遠慮ないリュカだが、それを聞いた晴夜の目の色が変わる。
「それは……最初からずっと親友じゃないかという台詞の前置きですか?」
「え?」
(「あ、これ違いますね! わかってないですねこれ」)
 きょとんとしたリュカの反応で、晴夜はどこかですれ違っていた事にやっと気づいた。
 何故か夏用布団を巻きつけられようとすれば、誰だって何かがおかしいと気づく。
「あの、リュカさん? これは一体……」
「お兄さんを簀巻きにして火をつければいいんだね」
 突然の乱入、簀巻き。
「簀巻きどこで入って来たんですかねぇ!?」
 何て言ってる間に、晴夜はギュッと布団の上からきつめに縛られてしまう。
「焼きは流儀じゃないけど……」
 なんて淡々と言いながら、リュカはシュッとマッチを擦って、ぽいっと投げ捨てた。赤い炎がボワッと、床の上に燃え広がる。
「うわ、めっちゃ火を付けられそう」
 晴夜はあの中に転がされるのか、投げ込まれるのか。
「リュカさんストップ! 流石にストップ! 私の尻尾が焦げてしまいます!」
「止めないでお兄さん。火を付けないと焼けない」
 さすがに晴夜もじたばた暴れ出した。
「周りに火を付けるだけでいいんです! 部屋に炎が広がれば、その中に紛れて隠れられるでしょう!」
「この炎に隠れる?」
 晴夜の言葉に、リュカは目をぱちくり。
 晴夜の筋書きはこうだ。ガソリンらしき液体を部屋にぶちまけ、なるべく広範囲に一気に火を付ける。その炎と煙に紛れて倒れておけば、火元と倒れた所でも、なんやかんや仲間割れとかあった末に炎の中で窒息して力尽きた2人組が出来上がると言うわけである。
「まあ、簀巻きにされて炎に包まれて豪快に焼け死ぬのも、アリと言えばアリですね。そして灰の中から不死鳥の如く蘇るのです! その奇跡に世界は歓喜で……」
「お兄さん」
 簀巻きにされてるのに語り続ける晴夜を、リュカが遮った。
「火を付けて終わりで良いなら、もう演技は終わったんだよね? そんなにうるさくしなくても……」
「……は? 演技?」
 指摘のつもりだったリュカの言葉に、晴夜の目がぽかんと丸くなった。
 2人の間に沈黙が落ちる。
 その間にも、炎の勢いはどんどん強くなっている。身体に悪そうな黒い煙も広がってきた。
「賑やかなのは素か。そうかー……」
 諦めたように溜息混じりに呟いて、リュカは簀巻きの晴夜を雑に押し倒した。炎の方へ。
「待ってリュカさん、ハレルヤが燃えてしまいます!」
「お兄さん。俺は死んだから」
 慌てる晴夜から少し離れて、リュカは唐突に「うっ」とか言いながら倒れていた。

 数分後――。

 煙に反応してスプリンクラーが作動した事で、2人は焼け跡で見つかったのにずぶ濡れの被害者、と言うある意味ミステリっぽい変死体ポジションに収まるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カイリ・タチバナ
ご飯をもりもり食べていた理由。
『口調:演技時』は継続。

未完の小説、それにある未発表部分の筋書きなのか。それとも…。
気になりますので、私は放送室へ向かいますね。新聞記者根性と、探偵の性ですね、これは。

向かう最中、体調がおかしく…。
たしかにたくさん食べましたが、これは…おかしい。
まさか、食事に毒が…?
吐血しながら、そんなことを考え…廊下に倒れる探偵が一人。
死因は毒殺。

※思考は素の口調※
まあこの血、味変用トマトケチャップを拝借したんだけどな!
あれだけ食べたら、どれかに毒は入ってんだろ、と思ってたら本当に入ってやがった。
しかもこれ、遅効性だろ!?
あー、ヤドリガミでよかった。本体(銛)無事なら、この身体も大丈夫なんだしよ。その本体も、まだ黒い手袋の異空間(神域)にあるし。
というわけで、そのまま死んだふりってな。


ジゼル・サンドル
死ぬ前に探偵の真似事くらいはしておきたい。
女中さんに今の放送はどこからだ?藤梧さんは今どこに?と聞き地下室へ行ってみる。

(地下室から戻り、ホールにて)
う~む、謎だらけだが…ここは歌おう!わたしは歌姫探偵だからな。

歌うは「|仮面舞踏会《マスカレード・ナイト》」
『踊れ踊れ、どうせ全ては仮面の下 でも私にだけは真実を見せて
踊らされたのは私?いいえ、踊るのはー貴方!』
そこで頭上に落ちるシャンデリア、辺りは血塗れに…

…ふう、【ジャストガード】や【盾受け】がなければ危なかった…
着ていた着物や袴、仮面は【早着替え】で脱ぎ捨てシャンデリアの下に。血はトマトジュース。後は(安全な)甲冑にでも潜んでやり過ごそう。



●探偵は現場に向かう
 パァン!
『ぐふっ!!』
 ザー……ザー……プツンッ。
(「ああ。死んで来てくれってのは、こういう事か」)
 銃声らしき音や悲鳴らしき声が立て続けにスピーカーから聞こえた直後、ジゼル・サンドル(歌うサンドリヨン・f34967)は、部屋を飛び出した。
「ん?」
「おや?」
 そして、階段の前でカイリ・タチバナ(銛に宿りし守神・f27462)とばったり遭遇した。
「どうやら、考えは同じようですね」
「死ぬ前に探偵の真似事くらいはしておきたいと思ってな」
 探偵を名乗っているのだ。
 それらしい動きをしておくべきだろう。
 カイルの問いにひとつ頷いて、ジゼルは階段を降りていく。すぐ後ろに、カイルも続いていた。
 迷いのない足取りだが、2人とも当てがあったわけではない。
 けれども、当てを知っていそうな人物の心当たりはあった。その為に、少し前まで美味しいご飯を食べたり話をしていたホールに降りて来たのだ。
 2人の探していた相手はホールにはいなかったが、続く廊下の先に灯りが漏れている部屋があった。覗いてみればそこは厨房で、探していた女中さんの1人、松子さんがいる。
「今の放送はどこからだ?」
「放送……?」
 ジゼルの問いに、女中の松子さんは不思議そうに首を傾げる。
(「……なんだ? まるで聞いていなかったような反応は」)
「放送室はどちらにありますか?」
「それでしたら、地下に」
 予想していなかった反応の違和感に、ジゼルが内心首を傾げる。その間に、カイリは訊き方を変えて目指す場所の位置を聞き出した。
「藤梧さんは今どこに?」
「地下の私室でお休みだと思いますよ」
 ジゼルが再び訊ねてみれば、今度は女中さんも答えを返して来た。
 けれども、その答えはやはり、あの放送を聞いていたとは思えない。
「……わかった。それだけ聞ければ充分だ」
 疑問は残るが、これ以上は聞いても無駄だろうと話を切り上げる。
「地下に行ってみますね。ありがとう」
 カイリも笑顔で女中の松子さんと別れ――。
「あの」
 別れようとしたところで、呼び止められた。
「大丈夫ですか? 失礼ですが、|顔色が良くない《・・・・・・・》様に見えるのですが」
「……どうしても気になりましてね」
 体調を案じてくれる女中の松子さんに、カイリは小さな笑みを浮かべて返した。
「先ほどの放送――この状況が、未完の小説、それにある未発表部分の筋書きなのか。それとも……と。新聞記者根性と、探偵の性ですね、これは」
 確かめずにはいられないのだと自嘲気味に告げて、カイリは先行したジゼルの後を追って、地下へ続く階段の方へと向かっていった。

「放送室……放送室……あった!」
 先に地下に辿り着いたジゼルは、薄暗い廊下で目を凝らし、放送室を探し当てる。
 ドアノブを押してみれば、鍵はかかっていなかった。
「さて、何が出るか……」
 警戒しながら、ジゼルはゆっくりと扉を開く。
 扉の向こうに罠があって、開けたらドカン――なんて可能性も考えられる。
 だが、そのような事は何も起きなかった。
 とは言え、それは何もない事とイコールではない。
「これ、は……」
 ジゼルがまず感じたのは、血の匂い。
 中心にスタンドマイク。その周囲に幾つものボタンやレバーが並んでいるのは、所謂デスク型アンプと言うものだろう。放送先を選ぶスイッチは全館ではなく、一部の部屋と廊下のみに設定されている。
 そしてその半分以上が、血の様に赤い液体で染め上げられていた。
 もしこれが血痕で、ひとりの人間が流した血によるものだとしたら、その人物は到底生きてはいまいだろうと言う事はジゼルにもわかる。
 だが――撃たれたと思しき藤梧の姿は、何処にも見当たらないのだ。
「これはどう思――あれ?」
 意見を求めようとジゼルが振り向いた時、カイリの姿はそこにはなく――。

 一方、その頃。
「こ、れは……おかしい」
 カイリは地下へ向かう階段の途中で、膝をついていた。
 階段を降り出してすぐ、異変が次々とカイルの身体を襲い出した。急に視界が歪んだかと思うと、手足がカイリの意に反してガクガクと震え出し、あっという間に歩くのも覚束なくなった。
「まさか、食事に毒が……?」
 そうとしか考えられない。
 しかしその結論に至った時には、カイリは舌まで痺れているのか、声も震えていた。
 だとしても、何の毒かもわからない。
 ここから助かる方法など――。
「ゴホッ」
 せき込んで口元を抑えたカイリの手の指の隙間から、赤い液体がしたたり落ちる。
「ゴフッ、ゴホッ…………」
 そしてカイリは、階段の踊り場で倒れ伏した。
 まるで、毒殺された様に。

「き――きゃぁぁぁぁっ! だ、だれかぁぁぁぁ!」

 心配して追って来たのだろうか。倒れたカイリを見つけた女中の松子さんの悲鳴が響き渡った。

●彼がご飯もりもり食べてた理由
(「やーっぱ、あると思った! 毒!」)
 まあ当然の事だが、カイリは死んでなどいない。
 毒で倒れるのも、織り込み済みだった。
 カイリがパーティでもりもりご飯を食べまくっていたのは、単にお腹空いてたとか、ご飯が美味しかったからと言う事ではない。そのどちらも事実ではあるのだが。
(「いやまあ、普通に美味くて食ってた部分もあるけどな。あれだけ食べたら、どれかに毒は入ってんだろ、と思ってた!」)
 そう予想していたカイリは、食べながら死亡フラグを立てていたのだ。
(「でも本当に入ってやがったとはな。しかもこれ、遅効性だろ!?」)
 今となっては、どの食事に毒が入れられていたのか、特定は出来ないだろう。
(「慌てて部屋飛び出したり動いたから、回りが早まった可能性あるかもなぁ」)
 そして、探偵であるならばとるであろう行動が、毒の回りを早めたのだとしたら。
 何と言う念の入れようだろうか。
(「あー、ヤドリガミでよかった」)
 祀られる事に満足していた頃でも、カイリが自分の種族をこんなにありがたがった事はあっただろうか。
 ヤドリガミの本体はあくまで器物。カイリの本体である『銛』は、甲冑館に入る前に、彼が神域と呼ぶ異空間の類にに放り込んでおいた。それが壊されない限り、カイリに『死』が訪れる事はない。
 ――とは言え、死なない事と、毒が効かない事はイコールではない。
 それに、本体が離れていればヤドリガミは無敵、と言うわけでもない。
 端的に言って、カイリは多少なりとも毒の影響を受けていた。
(「なんなんだこの毒。頭痛えし、胸焼けみたいな感じするし、だりぃし」)
 死んではいないが、ピンピンしている――と言える程、無傷でもないくらいには。
(「まあ、動けないほどじゃねえけどな。浄化追いついてるから、血も吐いてねえし」)
 カイリが吐血したように見えたのは、トマトケチャップをベースに作った血糊を利用したものだ。
 特に大きな問題はない。
 まあ、ひとつだけ、敢えて上げるなら問題がない事もないが。

「うぅっ……先ほど、廊下でお見掛けした時に強く止めていれば……」
「私達にはどうしようもなかったのよ」

 女中さん達が凄く気にしてるらしい事である。特に気にしているのが、聞こえて来る声からして、どうもさっき廊下で会って放送室の場所を聞いた松子さんだろう。
 まあ、ほんの少し前まで話していた人間が急に倒れれば、無理もない事だとカイリもわかる。
 わかるが、だからこそ、目の前で起き上がるのは物凄くバツが悪い。
(「ま、毒を浄化しきるのに時間かかりそうだし、まだ全員死んでないみたいだしな。このまましばらく、死んだふりしとくか」)
 カイリは検分のフリをするジゼルに小声で告げて、しばらく死体の役に専念する事にした。
 状況が変わる頃には、カイリの毒も浄化されているだろう。

●踊り歌う歌姫
「う~む、謎だらけだな……」
 ホールに戻ってきたジゼルは、首を傾げる。
 放送室で、放送を聞いていなかった女中さんがいる理由は判明した。だが、何故そんな事を?
 あの血痕らしき赤い染みも謎だ。どうしてそうなったのか、まるで判らない。
「ここは歌おう! わたしは歌姫探偵だからな」
 ジゼルは急に、難しく考えるのを投げ捨てた。

 踊れ踊れ、どうせ全ては仮面の下♪
 でも私にだけは真実を見せて♪
 踊らされたのは私?
 いいえ、踊るのは――貴方!

 踊るようにくるくると回り朗々とジゼルが歌い上げた、その直後だった。
 今は灯りが点いていない大きなシャンデリアが、突然、上から降って来たのは。
 ガシャァァァァンッ!
「な、なんの音ですか?」
 大きく響いた破砕音に、慌てて駆け込んで来る女中さん達。
「こ、これは……シャンデリアが!」
「あそこ、何かが見えない……?」
「誰も巻き込まれていないと良いのだけれど……」
 落ちて砕けたシャンデリアの下には、早着替えでジゼルが脱ぎ捨てた着物や袴に、トマトジュースをベースにした血糊も残っている。
 だが、光源がない状態では、女中さん達にそれらを詳細に把握することが出来ずにいた。むしろ何処に硝子の破片があるかもわからない以上、迂闊に立ち入る事も出来ず、女中さん達はその場から離れていく。
(「……ふう、危なかった……」)
 ――その混乱に乗じて空っぽの甲冑に隠れられたジゼルにとっては、好都合な事であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

江波・景光
【任死】のタグをつけてみよう。
わらわは楽しいことが好きだからな。はっはっは!

実際わらわが演じている探偵はフルフェイスの仮面を被った顔無し探偵であった。
顔を隠したがり、作家探偵としての顔も持ち、しまいには眠りこけながら推理をすることもある。
その名を野津平芒様。

わらわがずっとパーティーで寝てただけとも言う。

さてどこから推理したものか、
否推理しなくとも良い!
何をしていたとて時はやってくるもの。
ただ死ぬわけないじゃないかと笑っていれば良い。

死の際はUCを発動。
ダメージのみを無効化し、外傷をそのままにして被害者となってみよう。

全てが終わって頃合になったら、
怪奇人間らしくゆっくり立ち上がろうか。



●顔無し探偵は死に顔も隠す
 ガシャァァァァンッ!
 すぐ近くで響いた、何か大きなものが割れたような音が、江波・景光(日々綴る変の影・f22564)の耳朶を打ち意識を覚醒させる。
「ん……んぅ?」
 どうやら、テーブルに突っ伏した状態で、いつの間にか寝てしまっていたようだ。
「今のは……なんの音だ? そもそも、ここは……む?」
 身を起こそうとした景光は、頭にズシッとした重みを感じた。
 それで思い出す。
(「ああ。そう言えば、探偵を演じる為にフルフェイスの仮面をつけていたんだったな」)
 何故、フルフェイスの仮面かと言えば、甲冑館に探偵役として訪れる為だ。
 景光が設定したのは、仮面で顔を隠したがる素顔を明かさぬ顔無し探偵『|野津平芒《のっぺらぼう》様』と言うカバーであった。
 いつの間にか、パーティの最中で眠りこけてしまったが。
「まあいい。わらわは眠りこけながら推理をすることもある探偵なのだ」
 まさに取ってつけた設定を、誰に言うでもなく独り言ちる。
(「とは言え、何故わらわが眠ってしまったのだろうな?」)
 フルフェイスのまま、器用にご飯を食べていたのは覚えているが――いつ寝落ちたのか、と言う記憶は景光の中から、すっぽりと抜け落ちていた。或いは、記憶に残らない程に急速に眠りに入ったか。
(「もしかして、薬でも盛られたか?」)
 そう思ってテーブルクロスを捲ってみれば、テーブルの脚の辺りに落ちている小さな小瓶が見つかった。
 ラベルには『名探偵ネオチール』と書いてある。
「……」
 あまりにあからさまな名前に、さすがに景光も閉口していた。
(「そもそも、わらわは本当にこれを盛られたのか?」)
 薬瓶だけは盛られた証拠とは言えず、さりとて盛られていない証拠もない。
(「だとして、何故わらわに? わらわだけなのか? 他の探偵達は?」)
 まさに悪魔の証明に、 景光の思考が、ぐるぐると渦巻いた。
「さて、どこから推理したものか――」
 思わず、また独り言ちる。
 そもそも、今何が起きているのだろう。
 今は何時だ? さっきの物音は?
 考える事が多くて、とても推理しきれない。
「まあ良いか。うむ。推理しなくとも良い!」
 ついに景光は、推理を思考の彼方にぶん投げた。それ、探偵らしからぬ行動だけど大丈夫?
「わらわが何をしていたとて、何もしていなくとも、時はやってくるもの」
 確かに、探偵がどんな推理をしようが、犯人は犯人で動くものだろう。
「こんなところで、唐突に死ぬわけないじゃないか」
 そうフルフェイスの中でフラグを立てて、笑い飛ばす。
 その背後に、動き出した甲冑――名探偵絶対殺すロボが立っている事には気づいていないのだろうか。
 或いは――。
「では一度、被害者じみてみようぞ」

 ――故無クバ灯消エズ。

 気づいていたからこそ、ダメージのみを打ち消し傷だけ残るミステリーモードになって、ロボが構えた斧槍を振り下ろすその時を待っていたのだろうか。
 避けもせずに斧刃の一撃を受けた姿からは、どちらからかわからなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

皆城・白露
(連携アドリブ歓迎)
(基本的には「所持している薬が毒物にすり替えられており、それに気付かず飲んで死亡」)

…寝てた(崩落やら放送やらの音で起きた)
食事の後から、全身がだるい…気がする。妙に眠い
単純に疲れているのか、食事に何か盛られていたのか

食事をしたところまで行き、女中さんに声をかけて水を貰う
(いなければ適当に貰ってくる)
そんなに具合悪そうに見えるか?…別に珍しい事じゃない、薬もあるし大丈夫
コレが実は似たような見かけの別の薬…なんて事がなければ、だけど

食事の時と同じように薬を飲み
推理だのなんだのは、少し落ち着いてからにさせてくれ、と目を閉じるが
暫くすると苦しみだし、そのまま動かなくなる


結城・有栖
のんびり食事を楽しんでたら、何だか物騒な雰囲気になってきましたね。

「ミステリーの本番って感じダネー」

そうですね。
では、探偵役として頑張って捜査しましょうか。

目元を覆う狼っぽい仮面を付けて参加です。
狼探偵とでも名乗っておきます

放送で犯人は動く甲冑と言ってましたし、甲冑になにかヒントが有るんでしょうか。
…こういう時、甲冑に罠が仕掛けてあって、不用意に触れたら危険なのがパターンですよね。
と言った感じに甲冑を調べ、怪しげなボタンに触れて爆破されます。

触る前に【風の属性攻撃のオーラ防御】を展開して爆風を受け流しつつ、吹っ飛びますね。
後、吹っ飛んだ瞬間にUCで幻影を纏って黒焦げになった姿を偽装です。



●狼探偵と人狼探偵
 ――きゃぁぁぁぁっ!
 ガシャーンッ!
 ドカーンッ!
 悲鳴やら破砕音やら爆音やら。
「食事を楽しんだ後、部屋でのんびりしてたら、何だか物騒な雰囲気になってきましたね」
 そんな非日常的な音が立て続けに響いて来る中、宛がわれた部屋でのんびりしていた結城・有栖(狼の旅人・f34711)はゆっくりと立ち上がった。
(『ミステリーの本番って感じダネー』)
 頭の中で、オオカミさんの少し弾んだ声が聞こえる。
 有栖が見聞きしたものは、有栖に宿るオオカミさんにも伝わっている。
(『ところでサ』)
(「はい?」)
(『有栖は、何探偵ナノ? さっきはご飯食べテテ、話に入ってなカったジャン?』)
 先ほどのパーティでは、有栖は特に名乗っていなかった。ご飯食べる方が忙しかったし。
(「ああ……狼探偵で良くないですか?」)
 目元だけを覆う狼モチーフの仮面を着けて、有栖はオオカミさんに返す。
 もう仮面を着ける必要はないのだが、折角だ。
(『人狼の人と被らナイ?』)
(「……それは仕方ないですよ。色は違うし」)
 そんな他愛のない会話をしながら、有栖は部屋の扉に手をかける。
(「では、オオカミさん。私達も探偵役として頑張って捜査しましょうか」)
(『有栖がネ』)
 そして有栖は、真っ暗な廊下に出ていった。

 その頃、当の人狼の探偵はと言うと。
「……寝てた」
 宛がわれた部屋のベッドの上で、皆城・白露(モノクローム・f00355)は目を覚ました。
「銃声やら爆発音が聞こえていた様な……?」
 他にも、何人かの悲鳴も聞こえた気がする。
 あれらは夢だったのだろうか、それとも現実の事なのか。
(「――そもそも、これは現実か?」)
 寝起きだから、白露の思考は中々明瞭にならなかった。
「妙に眠いな」
 寝ていた時間は長くないだろうが、だとしてもあまりにも寝た気がしない。

 ッドォォォォンッ!

 そんな白露の耳に、何処か近くで響いた爆発音が届いた。
「……取り敢えず、現実なのは間違いないか」
 ビリビリと床から伝わる震動を感じながら、白露はベッドから降りた。
「どうしたものか……なんか、考えがまとまらないな」
 今の爆発音で白露の意識は目覚めたが、身体はどうも違うようだ。
 得体の知れない倦怠感の様なものがまとわりついている。
 そのせいで、思考も何だか散漫になっている気がする。
「取り敢えずこれだな」
 白露はベッドサイドに置いておいた薬瓶を手に取ると、水を貰おうと部屋を出て――数mも歩かない内に、誰かが倒れているのを見つけた。

 時間は少し遡る。
「……確か、さっきの放送で『犯人は動く甲冑』と言ってましたね」
 でっち上げの小説からの始まりだとしても、敢えてそんな放送をしたのなら、甲冑に何かヒントがあるのではないか。そう考えた有栖は、甲冑をを調べて回る事にした。
 とは言え――だ。甲冑館と言うだけあって、甲冑の数は文字通り数えきれない程ある。本当に甲冑にヒントがあるとして、どの甲冑が当たりなのか。
(『どうスルの?』)
(「手当たり次第しかないですね」)
 オオカミさんに有栖が返した答えは、力業。
 絞り込もうにも他に手がかりもないのだから、そうするしかない。
 シンプル・イズ・ベスト。
(「それに……こういう時、甲冑に罠が仕掛けてあって、不用意に触れたら危険なのがパターンですよね」)
(『あー……そう言う事ネ』)
 有栖の言葉で、オオカミさんも力業を選んだ理由を察した。
 有栖はミステリのパターンに入ろうとしている。
 探偵役としてそれらしいことをしてはいるが、有栖は別に、本当に何か謎を見つける必要はないのだ。何かを解く必要だってない。陽炎の仕掛けたトラップにかかればいいのだ。
「あ、この甲冑の兜、何か……」
 だから有栖は、何故か跪いてジュラルミンケースを抱えていると言う、アホみたいにあからさまに怪しい甲冑を見つけても、一切の躊躇なく動きそうな頭を押してみた。
 同時に、風属性のオーラを纏いながら。
 ガコンッと甲冑の頭が押し込まれた直後、抱えたケースから光が溢れ出す。
「あ、やっぱり爆は――」
 言いかけた有栖の声を、光と音がかき消した。
 爆発に、有栖の姿が飲み込まれていく。

 ――想像具現・幻影乱舞。

 風のオーラで爆風を流しつつ、有栖は想像力で実体化させた『黒焦げになった自分自身の幻影』を纏ってその場に倒れ伏した。
 そして――。

「……」
「……」
 倒れた有栖を、白露が遭遇した。
 どうやら有栖が探偵らしく歩き回っている内に、白露の部屋の近くに来ていたらしい。
(「オレはどうやって死ぬかな……」)
 有栖が死んだふりをしているのを察した白露は、黙ってその場を去っていく。
 そのままフラフラと階段を降りて、何故か真っ暗になっているホールを通り抜け、廊下に漏れる灯りを頼りに厨房に辿り着く。
「あら? どうされました」
 そこには、折よく女中の1人、竹子さんが立っていた。
「水を貰えるか? 薬を飲みたい」
「お薬なら、湯冷ましがありますよ」
 コップとやかんを持って来る女中の竹子さん。
「……つらそうですね?」
「そんなに具合悪そうに見えるか?」
 ぬるめの水を入れて貰う中、竹子さんの心配そうな視線を受けて、逆に白露の方が首を傾げる。
「……。……失礼を承知で申し上げますと、その、顔色が決して良いとは」
「……別に珍しい事じゃない」
 逡巡の末にはっきり言って来た女中さんに、白露は寂しげに笑って返した。
「薬もあるし大丈夫」
 ポケットから薬瓶を取り出し、振ってみる。
「コレが実は似たような見かけの別の薬……なんて事がなければ、だけど」
 自嘲気味な笑みを浮かべて言って、白露は薬を躊躇わずに飲み下す。
「推理だのなんだのは、少し落ち着いてからにさせてくれ」
 そう言って手近な椅子に腰かけて、目を閉じた。
 そして――。
「ぐっ……うぁ……ぐぅぅぅっ」
 数分後、白露は唐突に苦しそうな呻き声を頑張ってあげて、そのまま倒れて動かなくなってみた。
(「死んだふり……こんなもんで良いのかね」)
「ど、どうしたの? ま、まさか……あなたも死んでしまったのですか?」
 胸中で呟く白露の背中に、女中の竹子さんの声が降って来た。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

吉岡・紅葉
はいはい、次は謎解きパートですねー。
ガチで殺しに来る相手にどう立ち回るか…探偵の腕の見せ所ですね。

《忍び足》《聞き耳》《追跡》の技を駆使して
館内をコソコソ歩き回り、女中ズや来賓の雑談を盗み聞きして
情報を集めていきましょう。こう見えて私、怪盗の弟子ですから!
…ええ、実は探偵じゃなくて
本来はそっち側なんです、ごめんなさい!
それから死んだとき用に、予めレストランでくすねた
トマトケチャップを服に忍ばせて、血糊に偽装させますね。

ふむ、どうやらここは資料室のようですね。
偶然見つけましたが、アタリだったようです。
こ、これは…所謂『設定ノート』!物語の核心に触れる
重要なアイテムです。持って帰りましょうか。



●探偵にして怪盗
 ――ええ、人狼探偵様も顔無し探偵様も、動かなくなっていて……。
 ――そんな。子弟探偵様達とフラグ探偵様達もお部屋で変死され、記者探偵様と別の探偵様は廊下で倒れているのが見つかったと言うのに……。
 ――書生探偵様とお弟子様、歌姫探偵様は行方不明です……。

 女中さん達が顔を寄せ合い、心配そうに話している。
(「へぇ……もう皆、結構死んでるんですね」)
 その声を、吉岡・紅葉(ハイカラさんが通り過ぎた後・f22838)が廊下で聞き耳立てていた。
(「そろそろ私も死んでおいた方が良いですかねー?」)
 別に、紅葉は死んだふりを避けているわけではない。
(「ガチで殺しに来る相手にどう立ち回るか……探偵の腕の見せ所ですしね」)
 ただ折角だから、探偵らしく情報を集めるのもやってみたいのだ。
 とは言え、足音を殺し館の中を歩いて回っても、聞けたのは女中さん達の話くらいなのだが。
「ん?? この部屋……鍵がかかって……匂いますね」
 だが歩き回る内に、紅葉は偶々、鍵がかかっている扉に行き当たった。
(「電子錠でもない普通の鍵……だったら」)
 紅葉はポケットからただの針金を取り出すと、それを鍵穴に入れてカチャカチャと弄り出した。
 カチッ!
「よっし!」
 十数秒で鍵が開いて、紅葉は扉の向こうにするりと入り込む。
 真っ暗な部屋の中には独特な匂いが漂っていた。やがて暗闇に目が慣れて来ると、多くの本棚が並んでいるのが見えて来る。独特な匂いは、古書の匂いだ。
「ふむ、どうやらここは資料室のようですね」
 ここならば、何かしらの情報があるかもしれない。
 偶然見つけた場所だったが、どうやらアタリと言えそうだ。
「おや? これは……」
 何冊も本をひっくり返す内に、紅葉は本棚の奥に隠されていた薄いノートを見つけた。
 表紙に書かれていた文字の大半は掠れていたが、『設定』の2文字だけはまだ残っていた。
「こ、これは……所謂|『設定ノート』《くろれきし》!」
 ノートを持つ紅葉の手が震える。
「きっと物語の核心に触れる重要なアイテムです。持って帰りましょうか」
『――それを持ち出すのは許可できんな』
 紅葉が踵を返そうとしたその時、部屋の奥から声が響いた。
「まさか扉の鍵を開けた挙句、それを見つける者がいるとはな」
「ふふん。こう見えて私、怪盗の弟子ですから!」
 どこかで聞いた様な謎の声に、紅葉は勝ち誇ったように返した。
「怪盗だと?」
「……ええ、実は私、探偵じゃなくて本来はそっち側なんです」
 紅葉の師匠は、元・怪盗。
 聞き耳を立てたり扉の鍵を開けたのは、怪盗の技術に寄るところが多い。
「そうか……つまり怪盗探偵。あの場で名乗らなかったのは、そう言う事か」
「あれ? もしもし?」
 何かひとりで納得し出した謎の声に、紅葉の方が首を傾げる。
 あと今、何か引っかかる事を言ってなかった?
「その業……頂かせて貰うぞ」
 謎の声がそう言った直後、ドンッと重たい物音がした。
「って、えぇぇぇっ」
(「あ、死ぬチャンスですね」)
 突然倒れて来た目の前の本棚に、紅葉は敢えて押し倒される。更に他の本棚もどんどん倒れてきて、倒れた本棚の上から積み上がって来た。
 ややあって、床に赤い染みが広がっていた。
 まるで、紅葉が押し潰されてしまったかのような光景。
(「び、びっくりしました……」)
 赤い液体の正体は、他の猟兵も使っていたトマトケチャップをベースにした血糊である。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エリン・エーテリオン
8月24日のプレイング再送
アドリブOK
ああ…始まったな
『じゃあ、死んでみよう!不良探偵!』
早速行くぜ!へぶっ?!
私に突然何かが飛んで来た?!扉を開けたら突然来たから反応出来なかった…
何処かで犯人がいるのか?とりあえず地下に向か…ぐわぁぁぁぁぁぁ?!
階段で向かおうとする時にも何か飛んで来た?!
…次は当たらないぞ、まだ犯人に会ってもないのに気絶なんて嫌だぞ。
『犯人とトリックは特定出来たよ、マスター。』
よし、後は犯人の所へ…ギャァァァァァァ?!
『マスター?!玄関まで吹っ飛ばされた?!』
マスターはボロボロだった…意識も無いようだった。
『まさか犯人に会えずに倒れるなんて…』
犯人の仕業ではないようだった。


リュカシオン・カーネーション
8月24日プレイング再送アドリブOK

狐探偵のウチは事件を解決するために屋敷を歩いていると後ろから何かが頭に目掛けて飛んで来た。
?!急いで回避して後ろを見ると敵がいた先制攻撃をされてしまったがまだ立て直せる巨大な狐火を放つも躱される。
これはまずいと急いで下の階へと降りる…奴も追って来ている…階段の方へ狐火を放ったがまた躱される。
くそ…死んでたまるか…ウチはこの事件が解決したらラーメンを食べるんだ!…良し、ここなら安全だろう。
何とか撒けたようだしこんな館には居られない…ウチは帰るぞ☆《何だか嫌な予感がするんですけど…》
大丈夫!大丈夫!この部屋は見つかりにくいし、仮に来ても玄関に近いから何とか脱出することだけを考えよ…ぎゃあぁぁぁぁぁぁ?!出たぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
クソ〜皿投げて目くらましからの狐火じゃあ!?あっ避けられて玄関の方へ飛んでいった…

くっ…ハァ…ハァ…
くう……
ハァー
く…来るな…
ウチのそばに近寄るなああああああー!
《キャアァァァァァァァ!》



●狐探偵、(死なない様に)奮闘す
「……この事件、狐探偵のウチが解決したる」
 和風建築の棟の廊下で、リュカシオン・カーネーション(転生したハジケる妖狐と精霊王とカオスな仲間たち・f38237)ゴクリと喉を鳴らしていた。
 一歩踏み出す度に、板張りの廊下が、ギィッと軋んで音を立てる。
 ギィッ――ギィッ――。
 軋むその音こそが、この近くには他に誰もいない事の証左で――ギギィッ。
 音が、変わった。
「ん?」
 気になって振り向くが、そこには弓を手にした甲冑が鎮座しているだけだ。諏訪法性兜を模したであろう甲冑にあしらわれた白毛が、暗闇に良く映えている。
「気のせいか……」
 リュカシオンは顔を前に戻して、再び歩き出す。
「ウチ、この事件が解決したら1日50食限定のラーメンを食べるんだ……」
 ものすごい唐突に、フラグ染みた事を呟いた、その時だった。
 ヒュッと風を切る音がリュカシオンの耳元を掠めて、ドスッと壁に矢が突き立ったのは。
「!?」
 驚いた顔で、リュカシオンが振り向く。
 そこにはやはり、諏訪法性の甲冑がいた。立って、弓を構えて。
 武者鎧タイプの名探偵絶対殺すロボである。
『あら。先制攻撃されてしまいましたね』
「こんくらい、まだ立て直せる!」
 ペンダントから聞こえる精霊王アロナフィナの声に返して、リュカシオンは掌に狐火を生み出す。飛んで来た二の矢を焼き払い、反撃の狐火を――。
「あ、アカン」
 呟いて、リュカシオンは踵を返して駆け出した。
『え、ちょっと? どうしたんですか』
「いや……それがな」
 アロナフィナの声に、リュカシオンは答えを濁す。
 狐火を放とうとした瞬間、察してしまったのだ。
 放てば絶対に当たる――と。
 相手は所詮、ロボだ。影朧が作ったにせよ、ただの探偵を殺す為に作られたロボだ。ましてや、オブリビオンでも何でもない。そんなものに、猟兵が本気で攻撃して、当たらない筈がない。
 そして当ててしまえば、鎧の隙間から見えた爆弾にも当たってしまう。
 安全に死ぬのって、案外、難しいのかもしれない。
「これはまずいかも……」
 取り敢えず逃げ続けるリュカシオンを、武者タイプの名探偵絶対殺すロボが追って来る。いつの間にか、十字槍を手にしたタイプが増えて2体になっていた。
 更には、和風棟を抜けだした所にいた西洋甲冑が動き出す。
 三段飛ばして駆け下りた階段の途中にいた甲冑も、動き出す。
「くそ……死んでたまるか……ウチはこの事件が解決したら、カレーうどんを食べるんだ!」
『さっきラーメンって言ってませんでした?』
 アロナフィナに突っ込まれながらフラグを立てつつ、リュカシオンは逃げ続ける。
「くっ……ハァ……ハァ……」
 いつの間にか玄関近くまで来てしまっていて、さすがに疲れて来たので、適当な部屋に逃げ込んだ。
「……良し、ここなら安全だろう」
 安堵の息を吐いて、ずるずると壁に背を当てながら座り込む。
「何とか撒けたようだし、こんな館には居られない……ウチは帰るぞ」
『何だか嫌な予感がするんですけど……』
 更にフラグを立てるリュカシオンに、溜息混じりのアロナフィナの声が届く。
「大丈夫! 大丈夫! この部屋は見つかりにくいし、仮に来ても玄関に近いから。何とか脱出することだけを考え――」
 キュピーン!
 殊更に能天気な声をリュカシオンが上げた時、部屋の奥に置かれていた甲冑の兜の奥で赤い光が2つ輝き、携えた槍を構えて動き出した。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ?! 動いたぁぁぁぁぁ!?」
 更にバキッと嫌な音が響く。
 振り向けば、半壊したドアの隙間から、名探偵絶対殺すロボが頭部を無理矢理突っ込んでいた。
『キャアァァァァァァァ!』
「こっちも出たぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
 アロナフィナの悲鳴を聞きながら、リュカシオンは扉を蹴破り外に飛び出す。
「クソ~! 目晦ましの皿投げじゃあ!」
 苦し紛れにリュカシオンが投げた高そうな皿は、甲冑ロボ達から大きく逸れて明後日の方向に、しかし狙った様に、玄関の方に飛んでった。

●不良探偵、玄関に死す(死んでない)
 一方、その頃。
『じゃあ、死んでみよう! 不良探偵!』
「ああ、早速行くぜ!」
 諸事情でまだ甲冑館に入っていなかったエリン・エーテリオン(転生し邪神龍と共に世界を駆ける元ヤンの新米猟兵・f38063)が、邪神スマホ龍のAIエキドゥーマの声に頷いていた。
 大きな扉にエリンは両手を置いて、腕と足に力を込めて扉を開けて――。
「へぶっ!?」
 飛んで来た何かが、エリンの額に直撃した。
「な、何だ? 何かが飛んで来たが……」
 直ぐに立ち上がったエリンの後ろで、パリンッと皿でも割れたような音がする。
「扉を開けたら突然来たから、反応出来なかった……油断したぜ」
 拳をパシッと掌に打ち合わせて気合を入れて、エリンは再び玄関に踏み込んで――。
「ぐへっ!?」
 またしても、何かが飛んで来た。
 今度は、花瓶のようなものだった。
「くっ……何なんだ。何処かに犯人がいるのか?」
 まあ犯人もいるだろうけれど、投げているのはあなたの師匠である。
「まあいい。何かが飛んでくると判れば、次は当たらないぞ!」
 などとフラグめいた事を言いながら、エリンは三度、甲冑館の玄関へと踏み込――。
「壺ぉっ!?」
 壺が、放物線を描いて飛んで来た。
「絵!?」
 ぐるぐる飛んで来た額縁の角は痛い。
「石膏像!?」
 頭から飛んで来た首像の頭突きも痛そうだ。
「う、うう……どうして避けられないんだ」
 何故かエリンは、そのどれもこれも当たり続けていた。
『これ……犯人ってもしかして……でも、なんで?』
 どういう理屈でか、AIのエキドゥーマは、リュカシオンが投げているのだと気づいたようだが、相手が相手だしその目的までは特定できず、エリンに告げるかどうか迷ってしまう。
「こうなったら、狐火じゃあ!」
 そしてついに、リュカシオンは敢えて外れるように炎を放った。
 飛んでいった先にいるのは――エリン。
「今度こそ、当たらないぞ……まだ犯人にも会えてないのに気絶なんて嫌すギャァァァァァ!?」
 飛んで来た狐火の直撃で、ついにエリンが玄関にぶっ倒れた。
『マスター?!』
「うう……」
 焦げてるエリンは、AIの声にも呻き声しか返せない。
「む? 誰かいるのか?」
 そこに、名探偵絶対殺すロボ達から逃げて来たリュカシオンが駆けこんで来た。
「なっ……エリンじゃないか!」
 そして、倒れている弟子を見つけた。
「誰だ! 誰にやられた! 誰がこんなひどい事を!」
『『……』』
 大精霊とAIは、あなただよ、とリュカシオンに言えずに黙り込む。
 そして――ガシャンガシャンと音を鳴らして、名探偵絶対殺すロボの群れが追い付いてきた。
「く……来るな……ウチのそばに近寄るなああああああー!」
 リュカシオンが、狐火を放つ。
 炎が甲冑ロボを包み込み――数体分の爆発が、リュカシオンとエリンを吹っ飛ばした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

森永・蝶子
【任死】

…今のは!?
物騒な音に驚きつつ
これは事件ですわね!事件ですわ!!
ここは、わたくし…えーと、何でしたっけ?
そう、探偵パピヨンレディにお任せくださいませっ!

あら、気が付いたらどなたもいらっしゃらないですわ
あ、皆様きっと事件現場ですわね!
しかし、どこが現場なのかわかるとは皆様さすがですわ
わたくし見当もつきませんのに!
…と、調査?している間に階段が
ここは迷わず上に行きましょう!きっと犯人は上にいますわ
わたくしの勘です!!

は!?不穏な気配が…っ!
え?誰もいない…?甲冑だけ…?
甲冑は動きませんわよ!
顔をお見せなさい!
…そんな貴方が犯人だったなんて…(言いたかっただけ

で、お名前を伺ってもよろしくて?



●|迷探偵劇場へようこそ《キブンハメイタンテイ》
 ――パァンッ!
「今のは!?」
 スピーカーから聞こえた音に、森永・蝶子(ハイカラさんの猟奇探偵・f22947)はガタッと椅子を鳴らして、勢い良く立ち上がった。
「これは事件ですわね! 事件ですわ!!」
 事件の気配に、居ても立ってもいられなくなっているようだ。
「ここは、わたくし……えーと、何でしたっけ?」
 立ち上がったものの、蝶子の動きが固まった。何かを考え込むように宙を見つめて――テーブルの上の蝶のモチーフの仮面を見つけてハッとする。
「そう、探偵パピヨンレディにお任せくださいませっ!」
 即興とは言え自分で名乗った名前を、忘れないで頂きたい。

 ――ドォーンッ!
「この音は!?」
 爆発音が聞こえれば、駆け出して。
 ――きゃぁぁぁぁっ!
「悲鳴ですわ!」
 誰かの悲鳴が聞こえれば、手近な扉を蹴破って。
 ――ガシャァァァァンッ!
「新たな事件ですの!?」
 シャンデリアが砕けた音にも反応して、廊下で踵を返す。
「きっと犯人は上にいますわ! わたくしの勘です!!」
 階段を見つければ、迷わず上へ駆け上がり。
 甲冑館の中で次々と起こり続ける事件の音に、蝶子は探偵っぽく敏感に反応し続けた。
 故に、迷探偵劇場が成立する。
 推理らしい推理をせずに、ただただ、自分の勘に従って動いていただけでも。
「あら? ここは何処でしょう?」
 その結果、気づいたら迷子状態になっていようとも。
「しかも気が付いたら、どなたもいらっしゃらないですわ? あ、皆様きっと事件現場ですわね!」
 暗闇の中、周りに甲冑しかいなくなっていても。
「どこが現場なのかわかるとは皆様さすがですわ。わたくし見当もつきませんのに!」
 それが蝶子にとって探偵っぽい行動であるのなら、迷探偵劇場は成立する。
 その結果――。

 カチッ。
 足元のスイッチを踏み抜いた蝶子に壁から矢が飛ぶが、当たるも鏃が砕ける。
 ポキッ。
 名探偵絶対殺すロボが背後から斬り付ければ、剣の方が折れた。

 迷探偵劇場によって上昇し続けた蝶子の身体硬度、恐るべし。どうすれば殺せるんだコレ。
「は!? 不穏な気配が……っ!」
 背中に感じた衝撃に、蝶子は振り返る。
「え? 誰もいない……? 甲冑だけ……?」
 そこにいるのは、剣を振り下ろした体勢で硬直している、甲冑のみ。
 それを見た蝶子の脳裏に、閃きと言う電球がピコーンと点灯した。
「謎は全て解けましたわ!」
 目の前の甲冑に、自信満々にびしっと指を突き付ける。
「甲冑は動きませんわよ! 犯人は……貴方ですっ!!! 顔をお見せなさい!!!!!」
 至極その通りな指摘から数段すっ飛ばしていきなり犯人扱いし、蝶子はその兜に平手を一発叩き込む。
 カラーン。
 面頬がひしゃげた兜が落ちて、乾いた音が廊下に響いた。
 ぷしゅーっ。
「っ!?」
 その瞬間、鎧の中から噴出した謎の煙が、蝶子の顔を直撃した。

 名探偵なら兜を外して顔を暴こうとする者もいる筈。名探偵絶対殺すロボには、兜を半回転させずに外した場合に名探偵スヤスヤガスを噴出し、眠らせて爆弾でトドメを刺す仕掛けもあるのだよ――と、どこかで呟く謎の黒幕。

 ピッ……ピッ……ピー――ドカンッ!
「……そんな……貴方、が、犯人……だった……なん、て……むにゃ」
 途切れかけな夢現の中で見たと思った顔が誰のものだったのか――スヤァと寝落ちながら爆発で吹っ飛ばされて甲冑の中に埋もれた蝶子が目覚めても、覚えていないかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アディリシア・オールドマン
POW アドリブ歓迎【任死】

いい手を閃いたぞ。
甲冑姿を活用して、犯人側の共犯者となろう。
『探偵役なんだよね……!?』
うむ。よくある欲深い、悪い探偵という奴だな。

手口はこうだ。
謎の犯人に協力して、アリバイを作りながら館の人間を始末していくのだ。
ダフネが大勢の中にいるときに私が犯行を起こせばアリバイになる。その逆もありだな。
盛られた毒や屋敷に仕込まれたロボに加えて、生きた殺人者も徘徊するのだ。

巻き込まれた女中たちも、そうだな。
私とダフネが一緒にいるところを目撃されたから口封じに、という風に気絶させて……押し入れなど、安全な場所に隠して保護しておこう。

犯行動機は、金で雇われる、というのが一番やりやすいか?
あるいは屋敷の財産に目がくらんだとか、かな。
ある程度探偵たちの殺害が済んだところで、用済みだとばかりに真犯人に殺されようか。
ダフネが。『わたしが!?』
うむ。ダフネはUCによる分身体なので致命傷を負っても大丈夫だからな。
『ま、まあ、いいけど……痛みはあるんだけどね』すまんな。
では……行動開始だ。


黒木・摩那
もう夜も更けましたし、外は大雨。
ご飯もおいしかった!
今晩は死ぬには良い日ですね。

あれだけもてなしてくれたからには、こちらも期待に応じないといけません。
まずは屋敷で見つけた甲冑ロボを使うのは良いとして。
名探偵たるもの、あのぐらいは見切っておきたいところでもあります。

ここは間を取って?、ロボからの攻撃は避け切って、安心しているところで、上から落とされた鉢植えに当たって死ぬ、というのにしましょう。
これなら死亡フラグも立てられて、きっと首謀者にも満足してもらえると思います。

鉄仮面に血糊も仕込んで、鉢は【受け流し】てダメージ減らせばごまかせるでしょう。



●密談
『アディ、いる?』
「ダフネか。入れ」
 外から聞こえた扉を叩く音と声に、アディリシア・オールドマン(バーサーカーinバーサーカー・f32190)はそっと扉を開けて、自分と同じ鎧姿の|もう一人の自分《ダフネ》を中に入れる。
「どうだった?」
『うん。女中って言うんだっけ? この世界のメイドみたいな人にも見られたよ。おかしいとは思っていたみたいだけど……』
 入るなり尋ねられた別行動の結果を、ダフネはアディリシアに告げる。
 甲冑姿の探偵が、ほぼ同じ時間に離れた場所にいた――と言うアリバイを、数人には印象付けられた、かもしれない。だが、それでどうするのだろう。
『それで? これからどうするの?』
「犯人側の共犯者となろう」
『なんで!?』
 問いかけてみれば返って来た予想外の答えに、ダフネは思わず声を上げた。
「甲冑姿を活用すれば、何とかなるだろう」
『そこじゃなくて……探偵役なんだよね……!?』
 さも、いい手を閃いたと言わんばかりに自信に満ちたアディリシアの声に、ダフネは困惑を隠せない。
「探偵の動きだぞ?」
 アディリシアは、さらりと返して来た。
「良くある、欲深い悪い探偵という奴だな」
『……良くあるの!?』
「良くある程ではないかなぁ」
 ダフネが更に困惑を深めたところに、扉の外から声がした。
「っ!」
『誰!』
「驚かせちゃった? 尾けさせて貰ったよ」
 扉を開けて入って来たのは、黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)であった。
 摩耶はアディリシアもいたパーティの場をひとり早くに離れ、探偵らしく下調べに動いていた。
 そんな摩耶は、館内を歩き回っていたダフネを偶然に見つけて、こっそりと後を尾けていたのだ。アディリシアもダフネも、アリバイ作る事を考えるあまり、他の猟兵に尾けられるとは思っていなかった。
「それで、共犯って本気なの?」
「本気だ。金で雇われる、と言うのが一番やりやすい動機か? 或いは、館の財産に目が眩んだと言うのもいけそうだ。さっき、誰かがここは大富豪の館だろうと看破していたからな」
 真意を測ろうと言う風の摩耶に、アディリシアは迷わず返す。
「そう……なら、私を殺して貰いましょうか」
『えええええっ!?』
 そして摩耶の口から飛び出した予想外の答えに、ダフネが驚きの声を上げた。
『いいの!?』
「ええ。あれだけもてなしてくれたからには、こちらも期待に応じないといけません」
 下調べの中で、摩耶はスマートグラスを使って、動きそうな甲冑が幾つもあるのを見抜いていた。
 折角仕掛けてあるのだ。
 それを使おうと思ってはいるが、思惑通りに死ぬのも面白くない。
「名探偵たるもの、あのくらいは見切っておきたいところでもあります。とは言え死ぬ必要もある。そこで、間を取って甲冑ロボの攻撃を避けきって安心した所で死ぬ――と考えているのですが、どうにも丁度いい仕掛けが見つからなくて」
 何故か悪い探偵として、犯人側に回りたいアディリシア。
 敵の仕込みを使いつつも、すぐに死にたくない摩耶。
 両者の思惑は、割と一致していた。
「良いだろう。お前の殺し、請け負った――ダフネがな」
『わたしが!?』
「植木鉢でお願いね」
 困惑をますます深めるダフネを他所に、アディリシアと摩耶は握手を交わす。
 そして――。

●犯人の覚えのない凶器
「やみませんね、雨」
 人気のない廊下に立って、摩耶は窓の外を見ている。
「もう夜も更けましたし、外は大雨」
 勢い良く叩きつけられて窓を流れ落ちる雨は降りやむ気配がなく、月も見えない真夜中。この上、どこかでトンネルが埋まったとなれば、到底外には出れそうにない。
「ご飯もおいしかった!」
 その言葉だけ思わず力が込もるくらい、料理は本当に美味しかった。
「今晩は死ぬには良い日ですね」
 狩られる側ではなく狩る側のような事を言いながら、摩耶は窓を背に振り向く。そこには、廊下の向こうから歩いてきた甲冑が立っていた。
 バイザーの中で何かがキュピーンと瞳の様に輝いて、斧槍を手に飛び掛かって来る。
「やはり甲冑が動きましたね」
 摩耶は驚いた風もなく、その一撃を避けてみせた。
「これだけの数の甲冑を調べ切る事など不可能。何か仕込んだものがあると思っていましたよ」
 全て知っていた探偵の様に言いながら、摩耶は次の一撃も危なげなく避ける。
「所詮は機械、ですね」
 甲冑ロボの動きは、幾つかのパターンの組み合わせでしかなかった。人間の様に思考し、摩耶の動きに合わせて新たなパターンを構築するような高度なAIを持つようなロボではないらしい。
「こんなもので名探偵を殺せるとでも?」
 摩耶は、甲冑ロボの攻撃を悉く躱し続け、パターンの隙をついて、一撃。
 それほど強い打撃を与えたつもりはなかったが、その衝撃で鎧の前が外れて落ちる。
 或いは――最初から、少しの衝撃ですぐに外れるようにしてあったのかもしれない。
 何にせよ、甲冑の中には赤い電光板と複雑な配線、そして見るからに怪しい四角い物体があった。外郎を包んだもののようにも見えるが、包みには『C4』と書かれている。
「……もしかして爆弾ですか?」
 タイマーに表示された時間は、10秒――9――。
 爆弾が本物か否かを確かめている時間はない。摩耶はその場から踵を返し、駆け出す。二度、角を曲がった先で階段の陰に飛び込んだ直後、後ろで爆音が響いた。
「ふぅ。ここなら安全ね」
 ほっと安堵した様子でフラグを立てつつ、摩耶は壁にもたれながら上を向いて――。
「!!!」
 ゴッ!
 そこに『予定通りに』上から降って来た植木鉢が、摩耶の鉄仮面を直撃した。
 落としたのは、ダフネである。
(「あ、これ結構衝撃が――」)
 鉄仮面の中で思った以上に響いた衝撃。耐えれば耐えられる程度ではあったが、摩耶はぐらっと来たのを耐えずに倒れ込んだ。
 鉄仮面の内部に仕込んでおいた、トマトケチャップベースの血糊の袋も今の衝撃で割れている。
 倒れた摩耶。鉄仮面の隙間から流れる赤い液体。傍には割れた植木鉢。
 誰がどう見ても、凶器と被害者が揃った事件現場。
(「これならきっと、首謀者にも満足して貰える事でしょう」)
 摩耶は達成感を抱きながら、しばらく死んだまま横たわり続けた。

●暗躍の結末
 摩耶をやったその後も、アディリシアとダフネは犯人側に回り続けた。
 暗くなったホールで寝ていた顔無し探偵の背後に、名探偵絶対殺すロボを誘導したのはダフネだ。
 名探偵絶対殺すロボに追われる狐探偵に、ロボを増やしたりしたのもダフネだ。
 迷子になりかけていた探偵パピヨンレディの元に名探偵絶対殺すロボを誘導したのも、ダフネだった。
「あ、あなた達は……!」
『見られてしまったか』
「……口封じさせて貰うぞ」
 アディリシアとダフネと2人でいる所を女中の梅子さんに敢えて目撃されて、口封じと言う名目で怪我させない様に気絶させ、使ってない客室のクローゼットの中に入れて保護したりもした。
 だが、他の探偵役達の死に方に関わったのは、圧倒的にダフネの方が多かった。
 それも、アディリシアの作戦の内である。

『それで、わたしたちはどう死ぬの?』
 摩耶との相談を終えた後、アディリシアとダフネの相談はまだ続いていた。
「ある程度探偵たちの殺害が済んだところで、用済みだとばかりに真犯人に殺されるのが理想的だ」
『そう上手く行くかなぁ……』
 ダフネの懸念は尤もだ。アディリシアの案は、賭けになる部分が多い。
「私が犯人なら、生きた殺人者が徘徊するのは利用する」
 真犯人の正体は見当がついていても、その動機はまだ不明なままなのだから。或いは、余計な邪魔だと真っ先に殺される事になるかもしれない。
 結局のところ、いつ死ぬ事になるか犯人次第が部分が残る点では、素直に探偵役をしている他の猟兵たちとあまり大きな差は無いのだ。
「どうなるにせよ、死ぬ役は頼むぞ、ダフネ」
『あ、やっぱりそうなるのね』
「うむ。ダフネは分身体なので、致命傷を負っても大丈夫だからな」
『ま、まあ、いいけど……痛みはあるんだけどね』
「すまんな」
 やや不満そうなダフネの肩をアディリシアがぽんと叩いた。

『はぁ……』
 廊下を歩くダフネの口から、重たい溜息が零れる。
 あの日――遺跡の最下層で鎧を見つけたアディリシアに憑依してから色々な事があったが――こんな日が来るとはも思っても見なかった。溜息の一つも出るだろう。
「なにか困りごとかね?」
 そんなダフネに、背後から声がかかる。
『あ、いや……?』
 答えかけて、ダフネは疑問を抱いた。
 これは――誰だ?
「まあ困っているのは儂も同じだ。あまり余計な事はしないで貰いたいのでな」
 疑問の答えは、杖から鞘走った白刃。
(『こ、こいつ――!』)
 殺されるつもりでいたから防御もしなかったとは言え、一撃でダフネの首は斬り落とされていた。その冴えに驚きながら、ダフネの意識はアディリシアの元へ戻っていく。
「ふむ……魑魅魍魎の類であったか? 何れにせよ、探偵以外に用はない」
 首から上を失った胴体が薄れて消えていくを見届けもせず、声の主は何処かへ去っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

柊・はとり
探偵ばかりの館
止まらない連続殺人に館内放送
繰り返し見ていた悪夢そっくりだ
偶然なのか

夢で生き残るのはいつも俺で
まるでお前こそが真犯人だと
常に誰かに責められているようだった
外が静かになるまで部屋で待ち
犯人を探しに行く
人の気配が無い
皆本当に生きてるのか…確かめたら駄目だ

罠の気配は第六感で解る
場数の違いだ
不審物は偽神兵器の属性攻撃で凍結
女中達には何があっても部屋にいろと伝える

おいジジイ
生きてるんだろ
藤梧…いや、柊藤梧郎
茶番も様式美も糞食らえだよ
俺は殺人事件をぶち壊す探偵だ

謎を解くのは人を生かす為だけ
あんたとは価値観が相容れない
居るだけで人を殺す探偵はもう嫌だ
事件が事件になる前に終わらせる
それが『名探偵』だろ
俺があんたを倒せば事件解決――

UCが勝手に発動
首から下の躰が引き裂かれる

コキュートス…お前…

『ホームズ 貴方の苦しみが私の喜び』

クソが…
邪魔するな…

『痛みを乗り越えてください』

館を包むのは今や吹雪
何度目か判らない激痛が体中を蝕む
痛い
苦しい
普通なら死んでる
普通なら…

『それだけが探偵を永遠にする』



●きっと誰も、名探偵足り得ない
 断続的に続いていた爆音や破砕音、誰かの悲鳴も、いつまでも続きはしない。
 段々と頻度が少なくなり、やがて甲冑館の中には深夜らしいシンとした静けさが戻ってきた。
「……」
 そうなってやっと、柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)が動き出す。
「……やっぱ、そっくりだな」
 こんな静けさを、はとりは夢で知っていた。
「探偵ばかりの館。止まらない連続殺人に館内放送。繰り返し見ていた悪夢そっくりだ」
 ――偶然なのか?
 脳裏に浮かんだ疑問を、胸中で飲み込む。
 そんな筈はない。
 そんな偶然が、起こる筈がない。
 『名探偵の呪い』に侵された、柊一族である、はとりには。

 ならば結末も同じになるのか。
 いつもの夢の様に、はとりだけが生き残る。生き残ってしまう。お前こそが真犯人だと、責められるような居心地の悪さの中に、取り残される。
「他の皆は、本当に生きているのか……」
 思わず呟いた言葉を隠す様に、はとりは左手を口元に当てた。
 今は駄目だ。確かめてはいけない。
 彼らの死んだ振りの苦労を無駄にしてはいけない。
「よし……行くか」
 決意を口に出して、はとりは暗い廊下の先へ脚を進めていく。

「むーっ、むーぅっ!」
 程なくして、そんな呻き声が曲がり角の向こうから聞こえて来た。
「むぐっ、むーっ!」
 角から覗き込めば、女中さんが1人、布で猿轡噛まされた上に、ぐるぐるに縛られて転がされている。
 パーティの後から姿が見えなかった花子さんなのだが、はとりは知らない。
『被害者です、ホームズ』
「見りゃわかる」
 淡々としたAIの声に、はとりは面白くもなさそうに返した。
 滅茶苦茶、怪しい。
 女中さんは本物だろう。怪しいのは、その前だ。
 はとりの第六感が、罠があると告げている。
「見え透いてんだよ」
 淡々と告げて、はとりは氷の偽神兵器『コキュートス』を掲げた。
「だから犯人は死体を凍らせて切断した」
『第一の殺人――人形山荘』
 淡くも冷たい輝きに包まれた刃から、冷たい凍気が放たれる。吹雪の様に吹き荒れた凍気が、居並ぶ十数体の甲冑を悉く氷に包み込んだ。凍り付いた床と天井が、白い霜に覆われる。
「こんなもんか」
 ジャリジャリと凍った床の上を、はとりは悠々と歩いて渡った。
「大丈夫か?」
「ぷはっ……あ、ありがとうございます」
 はとりは凍った床に膝をついて、花子さんの轡を外し縄も解いてやる。
「ありが――」
「そこの角を左に行った先は安全だ。その辺りの部屋に入って、鍵をかけろ。出て来るな。あんたが探偵じゃなければ、それで助かる」
 お礼の言葉すら遮って告げたはとりに背を押され、女中さんは頷きながら小走りに駆け出した。パタパタと言う足音が、遠ざかっていく。

「おいジジイ」
 他に誰もいなくなった廊下で、はとりは声を響かせた。
「生きてるんだろ。藤梧……いや、柊・藤梧郎」
 宴の中で、他の探偵役達が藤梧と名乗っていた老人から聞き出した名前。
 はとりにとっては、曾祖父の名前であり――はじまりの名前。その『名探偵』が遺したキセルがなければ、それを押し付けられる事が無ければ、はとりはきっと違う人生を送っていたのだろうから。
「やれやれ……」
 何処か呆れたように答える声は、廊下の先から聞こえた。
 現れたのは、羽織袴姿の壮年の男。
「柊一族の血は争えん、と言う事か」
 藤梧――もう、その名で呼ばなくても良いだろう。
 柊一族。
 そう認めたのなら、この男こそが間違いなく――柊・藤梧郎だ。
「しかし、随分と無粋な解決方法を取ったものだな。これだから最近の若い者は――とでも言うべきか」
 呆れたような物言いで、藤梧郎はコツンと杖を床に打ち鳴らす。
「謎も解かずに、何だその様は」
 その様――と掲げた杖の先で指して来たのは、コキュートスを持つはとりの右腕だ。動かないものも混ざっていたであろう甲冑も、罠が無い部分もあったであろう床と天井も、まとめて凍らせた代償に凍り付いた右腕。
「抜かしてろ。茶番も様式美も糞食らえだよ。俺は殺人事件をぶち壊す探偵だ」
 けれどはとりは、藤梧郎の物言いも凍った右腕も気にせずに言い返す。
「俺が謎を解くのは、人を生かす為だけだ」
 無言で続きを促す藤梧郎を睨みつけ、はとりは殊更ぶっきらぼうに言い放った。
「事件が事件になる前に終わらせる。それが『名探偵』だろ」
「ふぅ……」
 返って来たのは、明確な溜息。
「本当に若いな。お前も小生も、到底、名探偵足り得んと言うのに」
「構うもんか。居るだけで人を殺す探偵は、もう嫌だ」
 溜息混じりな藤梧郎に、はとりは吐き捨てるように返した。
「思った通りだ。あんたが何を考えてこんな計画をしたのか知らないが、知りたくもない。あんたとは、価値観が相容れない。俺があんたを倒して、事件解決――」

『いいえ』

 終わらせようとするはとりの言葉を遮る声は、手元から聞こえた。
『だから犯人は死体を凍らせて切断した』
「!?」
 コキュートスからその音声が発せられた瞬間、その刃がはとりに向かって伸びて来た。
「コキュー……ト……お、前……」
『ホームズ 貴方の苦しみが私の喜び』
 腕が、脚が、躰が。首から下が文字通り八つ裂きに引き裂かれて掠れたはとりの声に、コキュートスのAI音声が喜びなど無さそうな無機的な声で返してきた。
 常人なら、とっくに死んでいる状態。
(「クソが……邪魔するな……」)
 痛い、苦しい。其れだけに頭の中を占められそうになりながら、はとりはコキュートスを睨みつけた。
「小生の仕掛に加えて吹雪……クローズドサークルか」
 微動だにせずに成り行きを眺めていた藤梧郎が、ぽつりと呟く。その視線は、窓の外を見ていた。
 はとりの感じる痛みが、苦しみが。コキュートスに流れ込んで氷の魔力となって、甲冑館を周辺だけの局地的な吹雪で包み込んでいる。
「……人を生かす為に謎を解くと言ったな」
 藤梧郎の視線が、はとりに戻されていた。
「その様で、か」
「~~~~っ!」
 向けられた言葉に、冷たい視線に、はとりは歯噛みするしか出来なかった。
(「結局か。結局、俺は――」)
 悪夢で何度も向けられた責められている様な感覚が、喉の奥から脳裏に蘇る。
『痛みを乗り越えてください』
 無機的に告げるコキュートスの声が、やけに大きく聞こえた気がした。
『それだけが探偵を永遠にする』
「永遠の探偵? そんなもの――存在せぬよ」
 そして藤梧郎が何処かへ消えて――その場には、千切れた躰が元に戻ろうとズルズル這いずっているはとりとコキュートスだけが残された。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『名探偵』柊・藤梧郎』

POW   :    調査開始
対象への質問と共に、【今回の事件内容】から【象徴的なシンボル】を召喚する。満足な答えを得るまで、象徴的なシンボルは対象を【固有の技】で攻撃する。
SPD   :    推理展開
質問と共に【仕込み杖から居合い抜き】を放ち、命中した対象が真実を言えば解除、それ以外はダメージ。簡単な質問ほど威力上昇。
WIZ   :    犯人指名
【自らの推理の結果】から、対象の【『名探偵』柊・藤梧郎を倒したい】という願いを叶える【凶器となる証拠品】を創造する。[凶器となる証拠品]をうまく使わないと願いは叶わない。

イラスト:三多洋次

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠柊・はとりです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●過ぎ去りし名探偵達
 Case――『美食探偵』|八月一日・料彦《ほずみ・かずひこ》。
 美食家を自称した探偵。生まれは農家。
 どんな毒をどんな食材と組み合わせようが、皿の上に盛られた毒は彼の前では暴かれる。無味無臭と言われるフグ毒も感じ取る舌を持ち、現場の血の味から死亡推定時刻を割り出すと言う離れ業を持っていた。
 晩年、正月の餅を喉に詰まらせてしまい、この世を去った。

 Case――『薬屋探偵』|薬研地・顛茄《やくしじ・てんか》。
 毒と薬は紙一重、と言う言葉の権化と呼ばれた探偵。
 薬学に長けた探偵であり、とある怪盗と宿敵関係にあった。怪盗が多用する煙状の眠り薬や痺れ薬の類を無効化する薬品を次々と生み出した。毒殺事件に関わる事も多かったと言う。
 晩年、老眼が進んだ事による調合ミスで毒ガスを発生させてしまい、この世を去った。

 Case――『邪眼探偵』|百千万億・那由他《つもい・なゆた》(恐らく本名ではない)
 常人には見えぬ第三の目を額に持つ――と言う設定で、催眠術を駆使する探偵。
 主に目撃者に催眠術をかけ、当人が『気にしていないが故に見た事を覚えていない些細な情報』を集める独特の手法を得意とする探偵だった。
 晩年、目の中に入れても痛くないと可愛がっていた孫娘の『おじいちゃんイタい』の一言で心に致命傷を追って引退。彼の『設定ノート』《くろれきし》は、知人に預けられたと言う。

 Case――『爆裂探偵』|万馬・賢三《まんば・けんぞう》。
 殺陣師、スタントマンとの二足の草鞋と言う異色の探偵。その経験から様々な危険物の扱いや、高所からの落下に長けており、火事や爆弾が絡んだ事件、飛び降り自殺に見せかけた事件の解決率が高い。
 晩年もスタントを続けていたが、聖林でのとある撮影の際の事故で、この世を去った。

 Case――『ロボ探偵』|本名不詳。
 事件現場に|人型の絡繰《ロボ》を送り込む事から付いたロボ探偵と呼ばれた探偵。安楽椅子探偵の一種と言えよう。ロボに搭載したハヰテク技術を駆使した科学捜査を得意とした。
 素顔はおろか誰も名前も性別も住居も知らず、ある時を境にパタリと活動が途絶える。本人は歩けない身体で災害から逃げ遅れた、実は女性でひっそりと寿退職した、等々、様々な噂が飛び交った。

●Why done it――名探偵が探偵を求めた理由
「彼らだけではない。他にも刑事犬探偵、水兵探偵、落下傘探偵、解剖医探偵、姫騎士探偵、堕天使探偵、猫耳探偵、鉄拳探偵、酔客探偵、黄金探偵――上げればキリがないほどに、探偵達が存在した。一癖も二癖もある者も多かったが、彼らが生きた時代に於いては、名探偵と呼ばれた者達。その業は今、小生と共にある」
 この世界で過去に活躍した『探偵』達の|業と業《ごう/わざ》。
 それらが、かつて偉大なる名探偵と呼ばれた猟奇探偵の姿の元、ひとつに集まったのが『名探偵』柊・藤梧郎であり、藤梧と名乗って偽りの小説をダシに探偵達を集めようとした黒幕である。
 その理由は、彼のその在り方にあった。

「何故――小生なのだ。何故、小生はこれ程に歪に、この世に舞い戻ったのだ」
 |この世界《サクラミラージュ》では、影朧は傷つき虐げられた者達の『過去』から生まれると言う。
 では、斯様な名探偵を求めたのは、如何な『過去』なのか。
 探偵達が関わった事件に必ずと言って良いほど存在していたであろう、被害者達か?
 それとも、探偵達自身が遺した未練からか?
「わからぬ……小生にはわからぬ。多くの探偵達の業を持ちながら、現世に存在する理由がわからぬのだ」

 『名探偵』であっても解けない謎――それは――名探偵自身。

 自分が存在する限り、解けない謎が存在する。
 そんな自己矛盾を、名探偵が許せる筈がない。
「謎を解けぬのは、小生が未だ『名探偵』足り得ないからだ。ならば、成らねばならぬ。解けない謎など一つも無い『真の名探偵』に成らねばならぬ」
 その為に必要だったのが、更なる探偵達の業である。
「或いは――俺を、私を、我等を、小生達を越える名探偵がいるやもと思ったが……小生の遺した『名探偵』という宿命も、真の名探偵には届かなんだ」
 彼らは『期待』していたのかもしれない。
 今の時代の探偵達に。
 そしてその期待は――……。
「若き探偵達よ。其方らの業、貰い受ける。流した血を無駄には――む?」
 滔々と独り語っていた藤梧郎の表情が、曇った。
「こ、これは……どうした事だ? 何故、彼らの業が流れ込んで来ない」
 ほとんど感情が浮かばなかったその瞳に、始めて動揺が走った。
 だが、どうしたもこうしたも、答えは一つしかない。
 推理するまでもない、文字通りの『初歩的な事』だ。

 誰も死んでいないから。

「……そうか。欺かれたのは、小生の方か。若き探偵達に、小生が……」
 藤梧郎の表情から、動揺が消えた。
「これはもしや、いるのか? 昨今、巷を騒がせていると言う『超弩級戦力』なるものが。だとしたら、小生は成れるやもしれぬ。真の名探偵をも超えた、超弩級名探偵に」
 細めた瞳の中に在るのは、欺かれた怒りではなく――新たな期待。

 これはもう――名探偵と言う名の謎解きに憑かれた|機構《システム》だ。

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 さて、3章です。戦争始まってしまいましたが、最後までお付き合い頂ければと思います。

 そしてまた導入がくっそ長くなってますが、この中だけ読んでもらえればOKです。

 2章末で確定していましたが、真犯人の影朧の正体と、その動機が明かされました。
 動機を端的に言い換えれば『探偵の業の集合体となった自分の存在理由がわからないと言う謎を解くために更なる探偵の業を欲した』と言った所です。
 動機をここで明かすか、3章が進む中で明かすかは最後まで迷いましたが、情報は可能な限り公平に伝えないといけないですからね。
 まあ、クライマックスになれば、動機は黒幕が語ってくれるものです。
 そして皆さん死んだ振りした場所がバラバラですが、影朧の動機は『知っている体でOK』です。
 うっかりピンマイクONになっててスピーカーから全館に流れてた、とか、どうにでもなる。
 あとは事件を終わらせましょう。

 なお、影朧は猟兵の皆さんが『まだ死んでない』事には気づいています。
 但し『どうして死んでいないのか』と言う部分は、推理段階でしかありません。

 ですので、死んだフリから復活するのは、好きなタイミングでどうぞ。
 先に復活して攻め込んでも良いですし、2章で死んだ場所で待ち伏せても良いです。

 プレイング受付は、9/3(土)8:31~とさせて頂きます。
 再送は、しないで済むように頑張りますが、またお願いする可能性は高そうです。
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ジゼル・サンドル
『♪私は名探偵 解けない謎などない だけど分からないことがひとつだけ…』
歌いつつ甲冑で動こうとして盛大にコケて脱ぎ捨て「やはり貴方が犯人だったのだな、放送室に遺体がなかったからピンときた」
ついでに、甲冑館殺人事件について。
被害者が甲冑を着ていたのは死体の顔を潰して身元をごまかすためだ。甲冑を着ていたら剣で貫けるのは顔だけだからな。つまり殺されたのは館の主人ではなかった…こういう推理はどうだろう?

それでは一曲お付き合いいただこうか。
UC発動、『♪生まれ変わったら真の名探偵になりたい 全ての謎を解き明かしたいよ』
藤梧郎の手をとってワルツを。
証拠品はおまかせ、【不意打ち】でうまく使えればいいけれど…



●Ich weiss nicht was soll es bedeuten――魔性の歌
 甲冑館に集まった探偵達が、持て成されたホール。
 今は落ちたシャンデリアの破片が散乱しているその場所に。

 ――私は名探偵 解けない謎などない♪

 動いている甲冑から、歌声が響いていた。

 ――だけど分からないことがひとつだけ……♪

 甲冑姿のまま気持ちよく歌っていたジゼル・サンドル(歌うサンドリヨン・f34967)だったが、着なれない甲冑の重さに足がもつれでもしたのだろうか。
「っ!?」
 ドンガラガッシャンと甲冑同士が音が響く程に、盛大にコケてしまった。
「……」
 歌に招かれた様に現れた、柊・藤梧郎の目の前で。
「生きていたか。歌姫探偵。シャンデリアの下敷きにしたと思ったが」
 呟いた藤梧郎の声に、噴き出すのを堪える様な微かな震えがあったのを無視して、ジゼルは素早く甲冑を脱ぎ捨て立ち上がる。
「ご覧の通りだ。貴方こそ、やはり犯人だったのだな」
 ジゼルも何事もなかったかのように、藤梧郎を指差し告げる。
「放送室に遺体がなかったから、ピンときた」
「左様。小生の方も、ご覧の通りだ」
 見破っていたと言うジゼルの言葉にも動揺する事無く、同じ言葉を返して来る。
「再会の記念に、一曲お付き合い頂こうか」
「……まあ良いだろう?」
 しかしジゼルが手を差し出せば、その表情が動いた。藤梧郎は訝しむように眉間を寄せながらも、その手を取って、ジゼルがワルツのリズムでステップを踏めば、同じリズムで着いてくる。

 ――|いきなり《サドンリー》ミュージカル。

 先ほどから響いていた歌声が、ジゼルのユーベルコード。
「生まれ変わったら真の名探偵になりたい♪ 全ての謎を解き明かしたいよ♪」
 歌を披露した相手に、歌いたい、踊りたい、と言う感情を与える業。
「なりたい、ではない。小生はならねばならぬのだ。真の名探偵に」
 だが感情を与える事は、必ずしも他の感情を消す事にはならない。ましてや、藤梧郎が抱くような、使命感とすら言える程の強い感情であれば――。
「探偵は語る♪ 甲冑館殺人事件の真相を――♪」
 だからジゼルは、歌の中身を変えた。
 |歌劇《オペラ》の様に台詞を歌に落とし込む。話題も藤梧郎が食い付きそうなものにして。
「ほう。餌にする為と戯れに書いた話の真相と来たか。聞かせて貰おう」
 ジゼルが歌に乗せた推理を語れば、藤梧郎も乗ってきた。
「では――鍵は被害者が甲冑を着ていた事だ♪ その理由は、死体の顔を潰して身元を誤魔化す為♪」
「ふむ。顔を潰したいなら、甲冑はむしろ邪魔ではないか」
「そう思わせる為だ。甲冑を着ていたら、剣で貫けるのは顔だけだからな♪ もしも生身で顔だけを剣で貫かれていたら?」
「顔を潰したいと言う意図があからさまか。ならば犯人は?」
「殺されたのは館の主人に見せかけられた別人だった……ならば自分の死を偽装した者♪ 死んだと思われていた館の主人が犯人♪ ……こういう推理はどうだろう?」
「ふむ……」
 藤梧郎は、ジゼルの仮説を吟味するように目を閉じる。
「良いな。着せて殺した『甲冑』それ自体に復讐の意味がある――小生の考えていた筋書きとは違うが、其方のも結末足り得る」
 そして、鷹揚に頷いた。
 その時には――ジゼルの手の中には騎士の持つ様な剣が現れていた。藤梧郎をの犯人指名により現れた、名探偵を倒し得る凶器となる証拠品。
 だが、手にしたジゼルの中に生まれる躊躇い。
 倒したい――のだろうか。倒すべきなのは判っている。けれども願っていたのは、ただ、未完の小説の推理を語りたかったのではないか。
「其方は……犯人になれておらぬな」
 ジゼルの胸中の迷いが、藤梧郎に看破される。
「尤も、それは小生も同じか」
 されど藤梧郎もまた、杖に仕込んだ刃を抜けずにいた。
「セイレーンかローレライの様な歌に対する手段を見出せぬのも、小生の未熟さであるな」
 ある感情が強くなれば、他の感情が弱まる事もある。藤梧郎は気づいていた。自身の闘争心の類が薄れている事に。ジゼルの歌によって、自分の中にある種の感情を与えられている事に。
「その業、必ず頂く。其方がこの館を出る前にな」
 まるで怪盗の予告状めいた事を言いながら、藤梧郎は踵を返す。
 その背中を見送りながら、ジゼルはその予告が果たされないであろうと確信していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アディリシア・オールドマン
POW アドリブ連携歓迎。

死んだと思ったか? 残念だったな、トリックだ。
『多重人格による分身。ノックスの十戒にある双子のような、ありきたりなタネだよ』
今はこの身一つだが、貴様と相対するには十分だ。行くぞ。

今回の象徴、シンボルか。鎧甲冑はまさにこの姿そのものだが……。
質問に対してはこう答えるとしよう。
「知ったことか!」
私は頭がよくないからな。殴って倒して、他の探偵に考えてもらう。
これが甲冑探偵だ!
有利不利など気にせず、がむしゃらに暴力を用いて事態解決を試みる!

ふむ……。柊・藤梧郎。
貴様は、目の前で消えた魑魅魍魎の正体を解くこともせず、ただただ探偵を求めていたな。
ならば逆に問おう。
探偵とは、何だ?



●命知らずの拳
「立ち聞きするつもりもなかったがな。話は聞かせて貰った」
 ホールを去った柊・藤梧郎の前に、見覚えのある甲冑が現れた。
「甲冑探偵……黄泉から舞い戻って来たか。やはり魑魅魍魎の類か?」
「死んだと思ったか? 残念だったな、トリックだ」
 溜息混じりながらも訝し気な藤梧郎の言葉に、アディリシア・オールドマン(バーサーカーinバーサーカー・f32190)は自信に満ちた声音で返す。
「トリックだと? どういう事だ?」
 それを聞いた藤梧郎が、意外そうな顔を見せる。
(「ふむ……?」)
 一方のアディリシアも、そんな藤梧郎の反応に引っかかるものを感じていた。
(「まあいいか」)
 けれども、その引っかかりはアディリシア自身がすぐに取り払った。
 元々、謎解きをする側にはなれそうにないと思っていたのだ。頭を使う分野は、決して得意とは言えない。
「答える必要があるか? 今はこの身一つだが、貴様と相対するには十分だ。行くぞ」
 拳を固め、アディリシアは藤梧郎との距離を詰めていく。
「いいや」
 だが、藤梧郎はそんな答えでは満足しなかった。
 名探偵が、トリックと聞いて解けないままでいる筈がない。
「答えて貰おうか。其方の言うトリックは、幻影の類であるか?」
 その問いと共に、藤梧郎の前の床に光の輪が生まれ、中からアディリシアと同じ大きさの甲冑が現れた。館に並んだ鎧の多くよりも大きなそれは、ロボではない。
 藤梧郎のユーベルコードにて召喚された、事件のシンボル。
「象徴、シンボルはやはり、鎧甲冑か……」
 しかし、甲冑を見てもアディリシアは進む速度を緩めなかった。
「ぬんっ!」
『!』
 構わず距離を詰め、殴りかかる。かつて蛮族の女王を封印していた甲冑の拳と、象徴として召喚された甲冑の拳がぶつかり、ゴッと鈍い音を響かせた。
「答えぬ限り、それは消えぬぞ。もう一度聞く。其方のトリックは、幻影でないのなら別人使ったのか?」
『別人じゃなく、多重人格による分身。ノックスの十戒にある双子のような、ありきたりなタネだよ』
 象徴的甲冑を盾に答えを迫る藤梧郎に、アディリシアの口を借りて『ダフネ』が答える。
「多重人格による分身だと? 人格を切り分けて、分身として己の外に出したと言う事か? 小生も知らぬ業だが、斯様な事が可能であるのなら……確かに其方の言うトリックは成立する」
 知らないものを否定はし切れない。
 藤梧郎が納得して頷けば、象徴たる甲冑の姿が消えていった。
 今ならば、アディリシアの前進を阻むものはいない。
「ふむ……」
 しかし、アディリシアの足は止まっていた。
 今度は、あっさりと外せない引っかかりを感じて。
「逆に問おう、柊・藤梧郎。貴様にとって、探偵とは、何だ?」
「謎を解き事件を解決する者であろう」
 アディリシアが発した問いに、藤梧郎は迷う事なく返して来る。
「ならば何故、貴様は目の前で消えた魑魅魍魎の正体を解くこともせず、ただただ探偵を求めていた」
 アディリシアが言っているのは、ダフネの首が斬り落とされた時の事。
 確かにあの時、藤梧郎はダフネの消滅を見届けようともしなかった。
「あの時は、ただの魑魅魍魎の類と思っていたからな。同一人物がいるとは考えてもいなかった」
 アディリシア達が藤梧郎と会ったのは、アディリシアとしてパーティで話した時と、ダフネが斬られた時の2回だけだ。
 つまり藤梧郎には、同じ甲冑姿の2人が同じ時間に別々の場所にいると思わせられては、いなかった。
 翻せばそれは、アディリシアが上手く隠れ過ぎたとも言える。
「もう一度訊ねる。何故、そんな真似をした?」
 イレギュラーに気づいてしまえば、当然の疑問。
 再び藤梧郎の回りに象徴的な甲冑が現れる。
 それを見たアディリシアは、再び拳を握り締め――。
「知ったことか!」
 何も考えずに全力でぶん殴った。
「!!」
 殴り飛ばされた兜が藤梧郎を直撃し、たたらを踏ませる。
「私は頭がよくないからな! 殴って! 倒して! 他の探偵に考えてもらう! これが甲冑探偵だ!」
「そんな、もの……探偵ではなく、荒事担当の助手が精々ではないかね」
「喧しい!」
 藤梧郎の反論に、アディリシアの強い声と拳が飛んで来る。
 Daredevil――思考を放棄し、身体能力を高めたアディリシアの一撃で、藤梧郎の中から鉄拳探偵の業が消えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

吉岡・紅葉
自分自身に秘められた謎を解こうとする探偵、ですか!
世の中には、色々な探偵がいるのですねぇ…
失礼、私は吉岡紅葉!
実は探偵でもなんでもない、桜學府の學徒兵です!
この退魔刀をつっかえ棒にして、なんとか生還できましたよ。
あの血ですか?食堂から持ち出した、トマトケチャップです。
育ちは良いけど、手癖が悪いのが玉に瑕でして。

柊さん…いえ、貴方のことは『自分探し探偵』と
呼ばせていただきましょう。
転生されて、次作の構想でも練りますか?
現れた甲冑騎士たちの斬撃を掻い潜り、「雷火」を
《クイックドロウ》《乱れ撃ち》して応戦!
素早く退魔刀を抜刀して、【強制改心刀】の一太刀を浴びせますよ。
「生まれ変わっちゃいなさい!」



●今はまだ、明日を夢見ていたいから
「ここを最初に調べるべきであったな」
 資料室、と書かれた札が掛かった扉の前に、柊・藤梧郎が立っている。
 独り言ちるその姿は、少し疲れているようにも見えた。
「ここは小生の|同胞《はらから》、邪眼探偵の|設定ノート《くろれきし》を暴いた怪盗探偵なる者を、本棚の下敷きにしてやった筈。よしんば生きていたとしても、満足に動ける筈がない」
 そっと扉を開く藤梧郎は、気づいていたのだろうか。
 その言葉、最近ではフラグと言うものなのだと。
「自分自身に秘められた謎を解こうとする探偵、ですか!」
 中に入れば、その声は少し高い所から降って来た。
「世の中には、色々な探偵がいるのですねぇ……」
 倒れた本棚が積み重なったその上に腰かけて、吉岡・紅葉(ハイカラさんが通り過ぎた後・f22838)が藤梧郎を見下ろしている。
「やはりか……其方も生きていたか……」
「吃驚はしたんですよ! この退魔刀をつっかえ棒にして、なんとか生還できました」
 溜息混じりな藤梧郎に、紅葉は明るい物言いで返す。
「……」
 藤梧郎の視線が、無言で下に向けられた。
 本棚から飛び出した本が散乱していて、その下に赤い液体が流れた跡が染みとなって残っている。
「その血ですか? 食堂から持ち出した、トマトケチャップで作った血糊です」
 視線で察して、紅葉はさらりと返した。
「育ちは良いけど、手癖が悪いのが玉に瑕でして」
「そう言えば怪盗探偵であったな」
 カラカラと笑って続ける紅葉に、藤梧郎は得心がいった様子で頷いた。
「ああ、いえ、その。それがですねぇ……」
 そこで納得されてしまうと、紅葉の方もバツが悪いと言うものだ。
 確かに、元怪盗であった師から武術やその他色々と習ったものだが、別に怪盗でもないのだから。
「失礼、私は吉岡紅葉! 実は探偵でもなんでもない、桜學府の學徒兵です!」
 少し迷った末、紅葉はきっぱりと宣言した。
 同時に、本棚を蹴って跳び上がる。
 天井スレスレでスラリと抜くは退魔刀。
「……」
 それを見た藤梧郎は、無言で背筋を伸ばし、杖を両手で構え直した。
 ギィンッと、刃のぶつかる音が鳴る。
 紅葉が振り下ろした退魔刀の刃を、藤梧郎が半分抜いた仕込み刀が止めていた。
「何故だね?」
「なにがです?」
 藤梧郎の問いに、床を蹴って距離を取りながら紅葉が返す。
「この部屋に辿り着いた運。この中に何かあると感じ取った嗅覚。閉ざされた鍵を開けた手管。探偵に役立つ才と資質をそれだけ持っていながら、其方は探偵ではないと言う。勿体ないとは思わないのかね?」
 質問ともに、藤梧郎の周囲に現れる数体の甲冑。
 今度はロボではない。
 藤梧郎のユーベルコードにて召喚された、事件のシンボルたる甲冑。
「探偵ですか! まあ将来、なってみてもいいかもですね!」
 甲冑達の斬撃を躱しながら、紅葉は退魔刀を降ろし反対の手で銃を抜く。
「でも今はなりません。私、毎日を楽しく生きたいんですよ!」
 これと言う職を決めると言うのは、ある意味、生き方を定めるとも言える。
 言い換えればそれは、何かに縛られたり、何処かに留まるのと同義とも言えよう。束縛や停滞を嫌う紅葉にとって、今はまだ、生き方を定めるには早すぎる。
「楽しく、か……若いな」
「柊さん……いえ、貴方のことは『自分探し探偵』と呼ばせていただきましょう」
 雷火――自ら製作した|拳銃タイプの光線銃《ビヰムピストル》から光を次々と放ち、シンボル甲冑達を撃ち抜きながら、紅葉は消える甲冑の間を抜けて、藤梧郎に向かって距離を詰めていく。
 紅葉が光線銃をしまい、両手で刀の柄を握る。
 それを見た藤梧郎も仕込み杖を構え――。
「転生されて、次作の構想でも練りますか? 生まれ変わっちゃいなさい!」
「これ以上の生まれ変わりなど、御免被る」
 ガッギィンッ!
 再び鳴った刃の音は、前とは少し異なっていた。
 今度はお互いに抜き切った刃はぶつかっても止まらず、届いたのは、逸れた相手の刃が肩を掠めるのも構わずにそのまま斬り付けた紅葉の刃。
 強制改心刀。
「くっ、今度は……小生の中の邪眼探偵の業が……!」
 対象の【邪心】のみを斬る紅葉の一撃が、藤梧郎の中の探偵達の業をまた1つ、消滅させていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

結城・有栖
被害者が実は生きていて犯人だった、というのもミステリーではお約束だったりしますよね。

「なら、探偵が死んだふりをするのも可笑しくはないのカナ。
で、私達はどうするノ?」

折角ですし、奇襲しましょうか。

まずは実体化する幻影で鎧を創造してその影に【目立たない】ように隠れます。
ついでに幻影の鎧に触れて戦闘力を上げておきましょう。

【野生の勘】で敵が近くを通ったのを感じたら、幻影の鎧を動かして突っ込ませます。
鎧が敵に接触した瞬間、鎧を爆炎の幻影に変えて攻撃です。

これはさっきの爆破のお礼なのです。

「自分で爆破されに行ったのは内緒ダヨ」

反撃に対しては上昇した戦闘能力と【軽業】を使って回避です。



●消えた死体
(『ねえ有栖』)
(「何ですか、オオカミさん」)
 死体を装い倒れたまま、結城・有栖(狼の旅人・f34711)は頭の中に聞こえたオオカミさんの声に返す。
(『死んだフリなの、バレたんじゃナイ?』)
「ばれたっぽいですねー」
 今度は声に出して答えて、有栖は黒焦げの幻影を消して、むくりと起き上がった。
(『で、私達はどうするノ?』)
「折角ですし、消えた死体になって、奇襲しましょうか」
 オオカミさんの疑問にそう返した有栖は、珍しく少し悪戯っぽい笑みを浮かべていた。

 ――想像具現・幻影乱舞。

 想像力で幻影を実体化させるユーベルコード。
 自らの死を偽装したその業を、有栖は再び発動させた。
 先の黒焦げ死体を装った時と同じ様に、自分を包み込むように幻影を広げていく。けれどもその形や色は、先の幻影とはまるで異なっていた。
 まず色は黒ではなく、シルバーに近い。
 そして形も、黒焦げの様に何となく人型ではなく、はっきりと人型であった。
(「こんなに見本が多いのは、始めてかもしれませんね」)
 胸中で呟く有栖を包んで実体化したそれは、似たような姿形の実物が、そこら中に並んでいる。
 つまり――甲冑である。
(『大丈夫カナ。死んでなくテ』)
(「大丈夫だと思いますよ。死体が消えるのも、被害者が実は生きていて犯人だった、というのもミステリーではお約束だったりしますよね」)
 もう甲冑に扮したので、有栖は再び胸中でオオカミさんに返す。
 木を隠すなら森の中、だ。
 更にこうして幻影の中にいて、幻影に触れていれば、有栖の戦闘力は徐々に高められるている。『幻影乱舞』の幻影は、触れた者のに戦闘力を与奪する事が可能なのだから。

 そして――。

「確か、この辺りには黒焦げに爆死した探偵がいた筈だな」
 潜む有栖の耳に、柊・藤梧郎の肉声が聞こえて来た。
 程なく、曲がり角の向こうからその姿が現れる。
「……なに? 誰もいないだと?」
 そして、驚きの声を上げた。
「小生が場所を間違えたか? ……いや。この館の中は歩き尽くして熟知している。確かに此処に、黒焦げの探偵がいた筈だ」
 訝しみながら早足で来て、廊下に膝をつく。
「この辺りの絨毯が、爆発でもあった様に焦げて破損している。やはり爆発があったのは間違いない」
 眉間を寄せた藤梧郎の指の隙間から、煤の粉がパラパラと落ちた。
「だとすると――死体が消えた事になるな」
 有栖が死を偽装した方法と言う手段を知らないながら、藤梧郎は有栖が取った行動と言う結果に辿り着く。
「まさか小生が、死体消失トリックを仕掛けられる側になるとはな」
(『有栖。このまま推理させると、見破られかねないんじゃないカナ?』)
(「名探偵を名乗るだけはありますね……」)
 すっかり探偵の顔になった藤梧郎の横で、オオカミさんと有栖が胸中で溜息混じりに呟いた。
 とは言え、これはチャンスだ。想定外ではあるが。
「よかろう。この死体消失の謎、小生が必ず解いて――」
 床の焦げ跡を更に念入りに調べようとし始めた藤梧郎の背後で、有栖が幻影の鎧ごと動く。
 ぽん、と幻影の鎧の手が藤梧郎の背中を叩いた。
「む? そうか、鎧に――だとしたらあの焦げた姿は――」
 藤梧郎がそれに気づいた瞬間、有栖は幻影の鎧の背中から飛び出した。
「これはさっきの爆破のお礼なのです」
(『自分で爆破されに行ったのは内緒ダヨ』)
 脳裏のオオカミさんの声を聞き流す有栖の目の目で、幻影のカタチが変化する。
 白銀の甲冑から、煌々と赤い爆炎へ。
「ぬおっ!?」
 想像の爆炎が、一瞬で藤梧郎を飲み込んだ。その効果がどの程度あったか確かめるより早く、有栖は身軽な動きで廊下の奥へと消えていく。
「水兵盾居の業が……小生を爆発に巻き込むとは、見事。その業、なんとしても貰いたくなった」
 藤梧郎は有栖が消えたと思しき方へ、廊下を駆けていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒木・摩那
名探偵もいろいろと考えてしまって大変そうですね。

しかし悲しいかな、世の中は不思議に満ちているのです。

だから、死人が生き返るくらい、なんでも無いですね!

こういう面倒な相手は、切ってしまって終わり、ではないですね。
ここはほめ殺して、精神的ダメージを与えた方がよさそうです。

復活にあたって、まず毒入れたらしいけど、全然効いてないから。
毒の容量間違えたんじゃない?と指摘。
さらにロボットも動き雑すぎて、全然当たらないから。
本当に殺すあるの? 詰め甘いんじゃない?
でも、植木鉢は意表つかれた。あれはいいアイデア。おかげでつい死んじゃった。

逆上されたとき用にUCは用意しておきます。



●探偵の知らない植木鉢
 廊下を急ぐ柊・藤梧郎の足が、不意に止まった。
 階段の下で、横たわる影を見つけて。
「立つが良い。其方も生きているのだろう?」
「ああ……もう他の探偵役達が生きてるのを見て来た後ですか。それはまあ、気づきますよね」
 藤梧郎の言葉に、鉄仮面を付けた死体――のふりをしていた黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)はゆっくりと立ち上がった。
「この順番になったのは偶さかだが、例え最初に見つけていようが、小生は其方を疑っていたぞ。何しろ名探偵絶対殺すロボが見失った後、見つけた時には死んでいたのだからな。名探偵クルシームの毒が効いたかと思っていたが……」
「ああ、毒を入れてたんでしたっけ」
 後悔混ざりの藤梧郎の独白に、摩那は仮面を外しながら答える。
 やっと視界がクリアになった視界で、藤梧郎を見据えて続けた。
「それ、全然効いてないから。毒の容量、間違えたんじゃない?」
 そして、遠慮の欠片もなく言い放った。
「そんな筈はない。小生の中には、薬屋探偵の業がある。あの者の業があって、調合を間違える筈が――」
「それから、あのロボット。動き雑すぎて、全然当たらないから」
「なんだと?」
 更に摩那が重ねる指摘に、藤梧郎の眉がぴくりと跳ねる。
「そんな筈が……アレはロボ探偵をはじめとした、探偵数人の業を駆使した名探偵絶対殺すロボだぞ」
 摩那が繰り返し指摘を重ねたあとの藤梧郎の声は、微かに震えて聞こえて来た。
 或いは、その声の震えは、藤梧郎に集まった探偵達の業が感じていたものか。
「本当に殺す気あるの? 詰め甘いんじゃない?」
 その動揺を見逃さなかった摩那は、追求よりも、ここぞとばかりに畳みかける。

「でも、植木鉢は意表突かれた。あれはいいアイデア。おかげで、つい死んじゃった」
「いや待て。其方は何を言っているんだ」

 秒で藤梧郎から返って来たツッコミの言葉は、摩那の言い方ではなく、知らない単語があったからだろう。
 それもその筈。摩那の上に落ちて来た植木鉢は、犯人側に回ろうとした他の猟兵と、摩那の意図が奇跡的に一致した結果。
 植木鉢が落ちて来る仕掛けなんて、藤梧郎は仕掛けていないのだから。
「植木鉢とはなんだ。小生はそんなもの知らな――」
 言いかけた藤梧郎の言葉が止まる。
 見つけてしまった。彼の名探偵の嗅覚とでも呼ぶべきものは、視界の隅のそれを見逃さなかった。

 摩那の足元に砕けている、植木鉢の残骸と言う『証拠』を。
「なんだ……その植木鉢は。知らないぞ、小生はそんなものは知らぬ。つまりこれは別人の――」
(「思っていた通りですね。切ってしまって終わり、と言うタイプではないですね」)
 ブツブツと推理に入った藤梧郎の様子に、摩那は胸中で呟いていた。
 問答無用で攻撃しても、ダメージを与えられないと言う事はないだろう。
(「ここはほめ殺して、精神的ダメージを与えた方がよさそうです」)
 けれどもこういう敵の場合は、まず精神から攻めた方が良かったりするものだ。果たして、摩那の言動がほめ殺しになっているかはさておきである。
「そうか……考えられる可能性は1つ。あの時の魑魅魍魎が」
「名探偵もいろいろと考えてしまって、大変そうですね」
 どうやら何かしらの答えを出せたらしい藤梧郎に、摩那は小さな微笑を浮かべて告げた。
「しかし悲しいかな、世の中は不思議に満ちているのです」
「そんな事は知っておる」
 摩那の言葉に、藤梧郎は毅然と返す。
「だからこそ――」
「ならば言うまでもないでしょう。死人が生き返るくらい、なんでも無いですね!」
 藤梧郎の言葉を遮って、摩那は告げた。
「大いに問題が。そんな謎を、名探偵が作ってしまってはならぬ」
「では殺しますか?」
 かぶりを振る藤梧郎に、摩那が告げる。
「今度こそ、私を殺しますか? その手で」
「そうさせて貰おう」
 殺してみなさい――そう言わんばかりに、心臓の上に手を置く摩那に、藤梧郎の手にした杖の中から、スラリと刃が引き抜かれる。
「殺されるのはごめんです」
「ぬぐっ!」
 しかし、摩那の両掌から高圧電流が放たれた。空気を焼いて飛んだ電流が、絡みつく蛇の様に藤梧郎の身体を這いまわり、痺れさせる。
「む? おい、ロボ探偵、自信を持つのだ。揺らぐな――」
 そんな声を背中に聞きながら、摩那は悠々とその場を離れていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夏目・晴夜
リュカさんf02586と
ついにクライマックスですよ
待ち伏せと洒落込みますか

これはエグすぎてウケる
いいですねえ、ナイストラップです!
…え、ステイですか?わかりました
黒幕、そろそろ来ますかね
来るといえば夏の終わりもそろそろ来ますね
海に川に花火に肝試しにと、我々は今年も完璧な夏を過ごしたように思います
が!実はまだやり残した事がありますよね!
それは春夏秋冬やり残してて良い事です
やり残した事、そう、それは──

あ、来ましたね(妖刀をスパァンと投擲)
何故そうも謎を全て解き明かそうとするのでしょうかね
解き明かされない謎もあるからこそ、世界は面白いのですから
謎は敢えて謎のままにしておく事も名探偵の責務でしょうに


リュカ・エンキアンサス
晴夜お兄さんf00145と
死んだふりということで…
待ち伏せ、せっかくだからいろいろしたいな
これを機にあんなえげつない罠とかこんなえげつない罠とか…
……
お兄さん、ステイ。お口チャック
(言ってから、あ、無駄なこと言った、みたいな顔する
何故喋る
いや…聞くまでもなかったかな…
やり残したこと…?
お兄さんにとどめを刺せなかったことかな?

そんなこと言ってたら、もう来たじゃないか
仕方ない、お兄さんを盾にそのまま撃とう
まあ…それにだけは、珍しく賛成できるけれど
謎は全部解かれるわけじゃない。そういう世界の方が、俺は好きかな
でも、解きたいという気持ちは否定しないよ

…ところで、お兄さんのやり残したことって何(気になる



●開催、夏の終わりのトラップ祭り
「何故――小生なのだ。何故、小生はこれ程に歪に、この世に舞い戻ったのだ」

 その声がスピーカーから流れて来た後で、夏目・晴夜(不夜狼・f00145)は勢い良く跳び起きた。
「リュカさん、ついにクライマックスですよ!」
「そうだけど……死んだふり終わりにしちゃうの?」
 その活き活きとした声に、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の旅人・f02586)も、のそのそと身を起こす。
「死んだふりのまま、待ち伏せても良かったのに」
「それもいいですねえ」
 リュカの言葉に、晴夜も成程と頷いて。
「じゃあ、待ち伏せと洒落込みますか!」
「……」
 晴夜の賛同に、しかしリュカの反応は無言だった。
 起きちゃう前に言えば良かったか、と目が言っているようにも見えなくもない。
「ま、いいか。せっかく起きたんだし、いろいろしたいな。あんな罠とか、こんな罠とか」
 すぐに意識を切り替えると、リュカは口よりも手を動かし始めた。

 ――レプリカクラフト。

 実物を模した偽物を作るユーベルコード。
 特に仕掛け罠を作った時に最大の効果を発揮するものであり、リュカの手の中から、見えにくいワイヤーや強力なバネ仕掛けが造られていく。
 他にも、この部屋の中には甲冑をはじめとして、罠の素材に使えそうなものが幾つもある。
 それらを組み合わせ、2人での宿泊に充分な広さの部屋の半分以上を埋め尽くす程度にトラップを仕掛けるのは、今のリュカならば難しい事ではなかった。
「おお……これはエグすぎてウケる」
 そして、リュカの作るトラップが増える程に、後ろの晴夜のテンションが何故か上がる。
「いいですねえ、ナイストラップです!」
「お兄さん、ステイ。お口チャック」
 段々声が大きくなって来た晴夜に、ついにリュカはびしっと告げた。
 待ち伏せと言えば、待つ側は静かに待つのが基本だ。序に言うと、暗闇に紛れるとなお良い。けれども、晴夜の性格と暗闇が苦手な点を考慮すれば、そうした待ち伏せは向かない。
 だからリュカは、隠密性を捨ててトラップの物量で待ち伏せようとしているのに、ナイストラップなんて声が外まで聞こえていたら、トラップの存在がバレてしまうではないか。
「……え、ステイですか? わかりました」
 当の晴夜は、なんで『ステイ』なのかわかってなさそうで、リュカは「あ、無駄なこと言った」みたいな何とも言えない顔になる。
「……」
「……」
 それでもしばらくは、2人とも無言になり、リュカが罠を仕掛ける音だけが鳴り続けた。
「黒幕、そろそろ来ますかね」
 その沈黙も、3分で晴夜に破られた。早いよ。
「来るといえば、夏の終わりもそろそろ来ますね」
 しかも早々に話が脱線している。
(「――何故喋る」)
 喉元まで出かかった言葉を、リュカはギリギリで飲み込んだ。
 聞いたところで「聞くまでもなかったかな……」となるオチがもう見えたのだ。
 それにもう、トラップも作れるだけ作ったので、問題ない。
「海に川に花火に肝試しにと、我々は今年も完璧な夏を過ごしたように思います!」
 と言うわけで、リュカがストッパーになるのを諦めた結果、晴夜の喋りは盛り上がっていく。
「――が! 実はまだやり残した事がありますよね!」
「やり残したこと……?」
 勢いのままに晴夜に同意を求められ、なにかあったっけ、とリュカが首を傾げる。
「お兄さんにとどめを刺せなかったことかな?」
「それは春夏秋冬やり残してて良い事です」
 急に目がマジになるリュカに、晴夜も思わず真顔で返していた。
 そんな時である。
「其方らも、ピンピンしているようだな」
 部屋の外から年嵩のいった男の声が聞こえて来た。
「あ、来ましたね」
「お兄さんが賑やかだから、もう来たじゃないか」
 晴夜とリュカが顔を見合わせている間に、開け放たれた扉の向こうから和服姿の男、『名探偵』柊・藤梧郎が入って来て――その足が敷居を跨いで床を踏んだ瞬間、リュカの最初のトラップが発動した。

 バターンッ!

 木製の扉が勢い良く閉まって、藤梧郎を外へと押しやった。
「っ」
 ゴンッと言う音と、息を呑んだような声も聞こえて来た。
 ぐっ、とリュカが小さく拳を握る。
「……不覚。まさか罠があるとは」
 再び扉の向こうから男の声がして、キンッと刃を鞘に納めた音が少し遅れて響く。
 仕込み杖でバラバラに斬り裂いた扉の残骸を踏み越え、藤梧郎は今度こそ部屋の中に――。
「っっ!!」
 リュカが扉の戸板そのものに入れた仕掛けが、斬られた事で発動。
 ベッドの下から飛び出して来た矢を、藤梧郎は抜いた仕込み杖の刃で斬り落とす。
「こんな罠、あると警戒していれば――!」
 と言った所に飛んでいく、木製テーブル。
 それも何とか避けた藤梧郎の足が、ワイヤーを踏む。
 床板の下からジャキンッと飛び出して来た槍が、藤梧郎の鼻先を掠めた。
「ちっ」
 藤梧郎が舌打ちをして、斬り裂かれて落ちた槍がカランと乾いた音を立てる。
「いい加減に――っ!」
 槍の残骸を踏み越えた藤梧郎の足元から、甲冑の籠手だけがロケットパンチよろしく飛び出して、藤梧郎の顎を打ち上げた。
「ぐぅっ」
 たたらを踏んだ藤梧郎の足が、また別のワイヤーを踏んで。後ろから飛んで来た、焦げた絨毯を切って剥がしてロールしたものが、丸太の様に藤梧郎の背中を叩く。
「っ! 何と言う……数だ」
 例えば爆弾解除のような、最初からあると判っている様な場面であったなら、藤梧郎がトラップここまで不覚を取る事もなかっただろう。
「こんな探偵がいるとはな」
「どうです! すごいでしょう! リュカさんは!」
「なんでお兄さんが偉そうなの……」
 感服した様子の藤梧郎に、何故か晴夜の方が自慢げに答えてリュカがぼそりとつっこむ。
 とは言え、晴夜は別に手柄を取ろうと言うわけではない。
 リュカの功績を晴夜が誇ると、こうなったと言うだけだ。
「ほんと、エグい物量ですね」
「まあ、うん。頑張った」
 当の本人には晴夜も素直な賛辞を向けて、リュカもちょっと誇らしげだ。
 実際、物量で攻める選択は正解だったと言えるろう。
 既にトラップが多数あると気づいているであろう藤梧郎が、進みあぐねているのだから。
 それでも、名探偵は止まらない。
「面白い者達だ。小生の中にいる探偵達とは毛色が違う。その業を得られれば、小生自身の謎を解き明かす事が出来るやもしれん」
 ついにトラップを乗り越えて来た藤梧郎が、瞳の中に強い光を湛えて距離を詰めて来た。
「お兄さん、動かないでね」
 それを見たリュカは、晴夜の背中でアサルトライフル『灯り木』を構えて撃った。
「何故そうも、謎を全て解き明かそうとするのでしょうかね」
 しれっと盾にされた事に気づいているのか、いないのか。
 晴夜は迎え撃つ様に身構えて――。
「解き明かされない謎もあるからこそ、世界は面白いのではないですか!」
 スパァンッ!
 その体勢から、鞘無しの妖刀『悪食』をぶん投げた。
「っ!?」

 ――|恋う欲求《ゴウヨク》。

 新雪を踏み荒らすが如き無遠慮な晴夜の一投は、藤梧郎の虚を突き、その肩に『悪食』が深く突き刺さる。
「ぬぐっ……知れた事。謎を解き明かすのは、名探偵の責務であろう」
「謎は敢えて謎のままにしておく事も、名探偵の責務でしょうに」
 藤梧郎が引き抜いて投げ捨てた悪食を拾い上げ、晴夜は嘆息混じりに告げた。
「まあ……それにだけは、珍しく賛成できる」
 その背中に隠れたまま、リュカは藤梧郎に銃口を向けて引き金を弾く。
「謎は全部解かれるわけじゃない。そういう世界の方が、俺は好きかな。解きたいというあなたの気持ちも、否定しないけど」
 告げながら、リュカは弾丸を浴びせ続ける。
 強引に避けようとすれば、待っているのは晴夜の二投目だ。妖刀は与えた傷を覚え、二撃目の方がより深くに突き刺さる。
 それを察したのか、藤梧郎はじりじりと後ろに退がっていき――。
「謎を残して名探偵と名乗れるものか――っ!?」
 そこには、リュカが仕掛けたトラップがまだ残っていた。
 横から飛んで来た高級そうなベッド(マット込)が、藤梧郎を部屋の外へと吹っ飛ばす。
「こ、こんなことが――こんなことで、爆裂探偵と落下傘探偵の業が消え――」
 パリンッ。
 ガラスが割れる音がして、藤梧郎の声と気配が遠ざかっていく。
「……ところで、お兄さんのやり残したことって何?」
「気になりますか! このハレルヤがやり残した事、そう、それは──」
 危険が去った部屋で、リュカと晴夜は夏の話に戻っている。
 何処までも、マイペースな2人であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

皆城・白露
(連携アドリブ歓迎)
(どうあれ相手は、「死んだ奴」を確かめに来るだろう。だから待っていればいい
…というのは正直、言い訳だ。
なんだか酷く身体が重くて…眠い)

倒れた場所で死んだふりのまま待ち伏せ…というか、眠ってしまっている
相手が近付いても起きない。ぱっと見は死体に見えるかもしれない

襲われそうになると【渾沌の傷跡】発動
服を破いて白い触手が生え、腹の傷跡が牙を生やした顎に変化
戦いも喋りもするが目は閉じたまま
眠る白露の身体を、白露と繋がった渾沌が動かしている状態

『これ(白露)』が今沈んでいるのも、『これ』を今動かしているのも
お前がこれから行くところだ
骸に、還れ

戦い終えると触手は消え、眠る白露だけが残る



●渾沌権限
 ――……そうか。欺かれたのは、小生の方か。
(「気づいたか」)
 スピーカーから聞こえた声に、皆城・白露(モノクローム・f00355)は厨房の机に突っ伏したまま、胸中で呟いていた。
 それはつまり、もう死んだふりを続ける必要がない、と言う事だ。
「……」
 けれども、白露は動こうとしなかった。
(「相手は『オレが死んでいるか』を確かめに来るだろう。だから待っていればいい」)
 白露が動こうが、動くまいが。
 本当に死んでいようが、いまいが。相手は――『名探偵』を名乗る者なら、向こうの方からやって来る。
 故に、白露が積極的に動く必要はない。
(「……誰に言い訳してんだろうな、オレは」)
 胸中に浮かんだ考えが言い訳に過ぎないのは、誰よりも白露自身が良く判っていた。
 そう考えてしまう原因は、自分の中にあるのだから。
(「なんだか酷く身体が重くて……眠い」)
 フリではなく、本当に毒が効いているのか。
 それとも、白露の身体の不調のであるのか――原因は不明だが、いずれにせよ、白露は死んだふりを止めて立ち上がろうとする気になれずにいた。
 そうしている内に、白露の意識は、再び微睡みに落ちそうになっていた。このまま、眠ってしまいそうだ。それはそれで、ぱっと見では本当に死体に見えるかもしれないが――。
(「せめて……これだけは……」)
 微睡み薄れていく意識の中、白露はもぞもぞと上着の袖から腕だけを抜いた。
 そして――。

「ふむ……確か人狼探偵、だったか?」
 柊・藤梧郎が厨房に入った時には、白露の意識は完全に眠りに落ちていた。
「寝ているようだな」
 呼吸で微かに身体が動いているので、死んでいないのは直ぐに見破られる。
「名探偵ネオチールにかかったか? ならば――」
 白露の眠りがどれだけ深いか、確かめようとしたのだろう。
 藤梧郎の手が白露の肩を軽く揺さぶり、その拍子に肩にかかっていた上着が滑り落ちる。
 いわば、白露は上着を脱いだ状態になった。
 その瞬間だ。
「!! 何だこれは」
 白露の胴体から生えた白い触手が、内側から服を破って藤梧郎に襲い掛かった。
 咄嗟に距離を取って藤梧郎が触手から逃れれば、白露は腕を使わずに触手を支えに立ち上がる。
「面妖な……」
「面妖? まあそうかもな」
 驚きを隠しきれない藤梧郎に答える声は、目を閉じたままの白露の腹部から聞こえた。
 敗れた衣服の隙間から見えるのは、白露の腹部に現れた鋭い牙。そこにあった筈の傷跡は、牙が生えた顎となっていた。

 ――|渾沌の傷跡《リターン・オブ・ケイオス》

 それは白露が『渾沌』と呼ぶものに飲まれた姿。
「其方、何者だ」
 問いかけと共に、藤梧郎が仕込み杖から刃を抜いて奔らせる。
「何者、なぁ。『|白露《これ》』が今沈んでいるのも、『|白露と触手《これ》』を今動かしているのも、お前がこれから行くところだ」
 白露の腹部の顎がその答えを告げれば、藤梧郎の刃は白い触手に阻まれた。
「……っ!」
 更に、別の触手が藤梧郎の肩に突き刺さった。
 藤梧郎も思わず息を呑む。
 刃が通らなかったと言う事は、即ち、白露の身体を動かすモノの答えは真実だと言う事だ。
 であるから、認めざるを得ない。
 藤梧郎も理解の及ばぬ渾沌なる存在が、白露の身体を動かしていると。もしも白露の業を集めれば、それも共に流れ込みかねない。
「今の一撃で刑事犬探偵の業もやられたか……これは、小生の手に余るな」
 藤梧郎が探偵達の業を欲しているのは、自分自身と言う謎を解きたいが故。それなのに手に余る業を抱えてしまっては、本末転倒、元の木阿弥と言うものである。
「解けぬ謎を残すも探偵、か……彼らの言葉、認めざるを得ないかもしれぬな」
 或いは、諦め以外の感情が生まれたが故の選択でもあったのか。
 藤梧郎は仕込み杖の刃を納めると、触手を蠢かせる白露から目を逸らさずジリジリと後退する。
 そして廊下に出ると、何処かへと去っていく。
「……」
 藤梧郎の気配が完全になくなると、白露の身体から顎と触手が消えて――床に崩れ落ちた白露は、何事もなかったかのように寝息を立てていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

六道・橘
【大正探偵師弟】
※アドリブ歓迎

あら胃がスッキリ
先生
帰りに檸檬をふんだんに使ったパイでお茶なんて如何?
でも岩より先にお爺ちゃまを斬り捨てないと
先生の事を友人に話すの
愉快で狡いくて優しいって

UC発動
まず己の手首斬る
問「どうして自刃を?」
「初手で斬られたがる彷がいないからよ」

破顔
先生ごめんなさい
痛みを独占したい方がいらして

さぁ
お爺ちゃま
先生の謎にお答えになってと喉を突き斬り荒す

理屈なき狂気は周囲を傷つける
然れど苦悩を貪り人は花を咲かせる
だから今の常盤先生は麗しい

先生の疵に焦るも含み気取り庇わず
美しき母の顕現に嘆息憧憬

嗚呼
彼がボウイで潜んでたりはしない?手回しいい方だし
いたら初手斬り
指で彷の頬に触れる


神埜・常盤
【大正探偵師弟】

はは、それは何より
毒も慣れれば甘いもの
僕も元気溌剌さ

檸檬パイ、いいねェ
苦い想いさせた詫びにご馳走してあげよう
先ずは、黒幕を斃さなければならないケド
はは、僕の話は土産になるかね

此の後に及んで「名探偵」なんて笑わせる
君はもう“犯人”だと云うのにねェ

謎解きが好きならこんな話は如何かね
僕の親父は家族殺し
数多の子、数多の妻を手に掛けた
さて、動機は?

答えは、狂っていたから
動機があるなら僕だって知りたいさ
それが愛の容なんて笑わせる

疵は得られるだけ得よう
橘くんの一撃を喰らってあげても良いケド
それが特別なものなら辞そうか

瀕死に成れば縫――
母に似た彼女が来てくれる
共に啜溺を振い名探偵を追い詰めよう



●赫絲が縫いて彼岸咲く
「先生」
 もう死んだフリは要らないと察して、六道・橘(|加害者《橘天》・f22796)が身を起こす。
「帰りに檸檬をふんだんに使ったパイで、お茶なんて如何?」
 隣でまだ転がっている神埜・常盤(宵色ガイヤルド・f04783)に呼びかけるその表情は、何だか妙に輝いていて、声も弾んでいるではないか。
「檸檬パイ、いいねェ」
 そんな橘に釣られるように、常盤も死んだフリからむくっと起き上がる。
「ところで、胃が重たいのは構わないのかい?」
「ええ! 胃はスッキリなの」
 常盤の気づかいに、橘は朗らかな笑顔を向ける。
「はは、それは何より」
「毒が良かったのかしら。毒と薬は紙一重、なんて言いますものね」
 笑って嘯く常盤が毒と言いつつ胃薬を盛った事に、橘は気づいているのか、いないのか。
「なに。毒も慣れれば甘いものだよ。僕も元気溌剌さ」
 当の常盤の顔色も、心なしか健康的な色合いになっている様だ。光の加減か、それとも――薬は胃の腑のみならず滋養強壮にも効いたのかもしれない。
「苦い想いさせた詫びに、パイはご馳走してあげよう」
「紅茶も付けてくださる?」
「良いだろう」
 弟子のおねだりに、常盤は苦笑交じりに頷いた。
 そんな――師弟だけの時間もそろそろ終わりが近づいている。
「先ずは、黒幕を斃さなければならないケド」
「そうね。岩より先にお爺ちゃまを斬り捨てないと」
 常盤の一言に、橘の目から輝きがスッと消えた。伸ばした手が掴むは、柄の先に赤が咲く刀。
「いつまでそうしているつもりかな?」
「どうぞ――入っていらして」
「気づいていたか」
 常盤と橘に招かれ、杖を携えた男が悠然と入って来た。
 黒幕――名探偵、柊・藤梧郎。
「刀、か」
 橘の手にある緋色の咲く鞘を見やり、藤梧郎の眉がピクリと動いた。
「小生、名探偵であるが、剣の腕にも自信があってな。そう安々と斬られはせぬよ」
 告げながら、藤梧郎が杖の中から刃を引き抜く。
「ははっ」
 仕込み杖から刃を、声に自信を見せる藤梧郎を、常盤が一笑に付した。
「……何が可笑しい」
「可笑しいさ。此の後に及んで『名探偵』なんて笑わせる」
 目を細めた藤梧郎の問いに、常盤は薄ら笑いを浮かべて返した。
(「わかっていないのかい? 君はもう“犯人”だと云うのにねェ」)
 薄ら笑いで隠して、常盤はその言葉を胸中に秘める。
 時に半端な挑発の方が、心に刺さるものだ。
「其方の方から、笑えなくしてやろう」
 この名探偵の様に。
「駄目よ、お爺ちゃま」
 身構えた藤梧郎が動く前に、橘が進み出る。その足元に、カランと鞘が落ちた。
 そして左手に構えた抜き身の刃を、橘は右の手首に宛がった。
 そっと刃を這わせれば、切り口から流れ出た朱が、橘の指を伝って滴り落ちる。
「む? |何故《なにゆえ》に自刃を?」
「初手で斬られたがる彷がいないからよ」
 訝し気な藤梧郎には、橘が不満そうに返した言葉の意味が判らなかっただろう。
 当然だ。どんな名探偵でも――わかるまい。

 ――1回は俺を斬りなさい、いーい?

 兄めいた彼と橘の間に交わされたその約束を知らなければ、判る筈がない。
「橘くん、僕が喰らってあげても良いケド」
「先生ごめんなさい」
 常盤の言葉にも、橘はゆるゆると頭を振った。
「痛みを独占したい方がいらして」
 破顔しながらそっと刃を這わせれば、流れ出た朱が、橘の指を伝って滴り落ちる。
(「あんな約束させた癖に……何でボウイに扮して潜んだりしてないのよ。手回し良い方なのに、肝心な時にいないんだからっ」)
 瞳を紅く輝かせ、此処にいない誰かに胸中で毒づく橘だが、それは無理と言うものだ。
 だってこの名探偵――偶さかだろうけど、女中さんしか雇ってない。
 りん、と鈴が鳴って橘の姿が消えた。
「っ!」
 藤梧郎が頭上に掲げた刃に、振り下ろされた刃がぶつかる。
 ギィンッと刃が鳴った時には、橘の姿は藤梧郎の足元に。柄に咲く彼岸花が翻る。
「速い!」
 瞠目しながら後退った藤梧郎の足首を、橘が振るった刃が掠める。

 ――九死殺戮刃。

 橘の瞳が輝く間、殺戮の刃『天音』を振るう速度が9倍になる。
「くっ……これほどとは」
 剣の腕で、どうにかなる領域ではない。
 橘が動くとリンと鳴る鈴の音も、問題にならないのだ。
 藤梧郎が剣の達人であっても、純粋な剣の腕では追いつけない奇跡の領域。
「おや、もう余裕が消えたのかね?」
 そこに常盤が嘲るように嗤いながら、横槍を入れる。横爪――と言うべきか。
 常盤が振るう五指の先、赤い凶爪が、赫絲が如き軌跡を刻む。
「……」
 橘だけでも速さで負けているのに、そこに常盤も『啜溺』を手に加われば、藤梧郎の顔から余裕が消えた。
「謎解きが好きなら、こんな話は如何かね」
 余裕がないとわかっていながら、常盤はそこに謎解きを投じた。
「僕の親父は家族殺し。数多の子、数多の妻を手に掛けた。さて、動機は?」
「あまりに情報が少ないのではないかね?」
 常盤の謎掛けに、疑問を返す藤梧郎。
「お爺ちゃま、先生の謎にお答えになって?」
 その喉元に刃を突き込み、翻し、橘が斬り荒らす。
 問うた常盤とて、爪を振るう手は緩めない。
 まとまらない思考をかき集める様に、藤梧郎も刃を振るい続ける。
 血の匂いが――濃くなっていく。
「ふーっ」
 やがて、藤梧郎がゆっくりと息を吐きいた。
 一息で、乱れた呼吸と思考を整える。
「子殺しならば、然程珍しい話でもなかろう。それこそ、神話の時代から数多の例がある。かの希臘神話の大神も、子に王の座を奪われると言う予言を信じた父神にあわや殺される所であったと言う逸話もある。父が子を狙う動機は、地位や名誉と言った類が多いだろうが――」
 そこで藤梧郎はしばし言葉を切って、最後に確かめる様に僅かに黙考した。
「妻殺し、それも複数となると、だ。どう考えても正気とは思えん。愛憎に狂い心を疑い鬼になったか」
「……」
 藤梧郎の答えに、常盤は曖昧な笑みを返した。
「そうだろうね。ああ、狂っていたんだろうさ。動機があるなら僕だって知りたいさ」
 吐き捨てるその顔からは一時、探偵の仮面も師の仮面も道化の仮面すらも、忘れていたようだった。
「それが愛の容なんて笑わせる」
 笑っていない声で、常盤は告げる。
 その頃には、常盤の身体には幾つもの疵が刻まれていた。あんな戦い方をすれば、当然だ。橘よりも動きを常盤に、藤梧郎の刃が集中するのは。
 それで良かった。常盤には――疵が必要だった。

 ――|絲むすび《ツナグエニシ》。

「おいで」
 常盤の呼ぶ声に、その足元の血を浴びた影から式神――神楽巫女≪縫姫≫が飛び出した。
 その姿が、常盤の亡き母に似ていると知る者は多くない。
「行くよ、縫姫。共に名探偵を追い詰めよう」
『御意』
 常盤に応えて、式神は同じ血爪が生えた腕で、藤梧郎に攻めかかった。
「ちぃっ!」
『無駄。絲は斬れず』
 鴉面から覗く口元に嗤いを浮かべて。
 縫姫が魂を縫う爪を振るえば、赫絲が如き軌跡が倍に刻まれる。
「嗚呼」
 美しくも苛烈なその様に、橘は憧憬の嘆息を吐きながら、しかし刃を振るう手は緩めない。
 そして、元々ギリギリだった所にもう1人が加われば、戦線はあっさりと決壊した。じわじわと、藤梧郎が窓の外へと追いやられていく。
「さようなら、お爺ちゃま」
「小生が剣で負けたのは、いつ以来であろうな」
 諦観を見せた藤梧郎の爪先スレスレを、橘の刃が過ぎていく。斬り落とされたテラスと共に、藤梧郎の姿も眼下へ落ちていった。
(「やられた業は……姫騎士探偵と堕天使探偵か」)
 まあ、直ぐに立ち上がって館の中に戻って行ったが。
「追うかい?」
「いいえ。先生は、少しお休みなって」
 下を指差す常盤を、橘が有無を言わさぬ口調で座らせる。内心、一人だけどんどん疵を追う常盤に、橘は内心焦って仕方なかった。必要だと判っていたから、含んで気取っていたけれど。
「休んだら、岩を斬りに向かいましょう!」
 そんな橘の苛立ちは、道を塞ぐ岩にぶつけられる事になる。
「はは。元気だね、橘くんは」
「ええ。早くパイをご馳走になりたいし――先生の事も、友人に話したいもの」
「はは、僕の話は土産になるかね」
「ええ、なるわ。毒を薬と云うなんて、愉快で狡くて優しいって」
「それは……褒められているのかね」
 常盤の嘘に、橘が何処から気づいていたのか――それは2人の秘密である。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

森永・蝶子
うっかり眠ってしまっていたようですわ
ところで一体今は何が起きていますの?
わたくし、見ての通り怪我一つありませんけど?

どなたか説明をお願いしてもよろしくて?
…ふむふむ
わかりましたわ!
至極単純なことですのに、何故わからないのでしょう?
答えは明白です――貴方は名探偵ではないから!それだけですわ!
だって名探偵であるならば解けない謎などあるわけありませんもの
ほら、わたくしはわかったでしょう?
それが証拠です!

…ちょっと甘いモノを頂きたい気分ですわね
夜ですが…少しだけ…
は!?そこ!何をなさっていますの!?(足元の甲冑を投げつけ
犯人は必ず探偵に暴かれる
それがこの世の理というものですわ!(ドヤッ

アドリブ絡み歓迎



●迷探偵VS名探偵――或いはチョコレヰト天国
「ふぁ……」
 抑えきれない欠伸を噛み殺し、森永・蝶子(ハイカラさんの猟奇探偵・f22947)がふわふわとした足取りで階段を降りていく。
「うっかり眠ってしまっていたようですわ……鎧の上は寝心地が良くないですわね」
 ぼやきながら、1階まで降りていったそこで。
「む。其方は……確かパピヨンレディだったかな?」
 蝶子はばったりと、柊・藤梧郎に遭遇した。
「パピヨン……そうです、そうですわ! わたくしは、パピヨンレディ!」
 反応がちょっと鈍かったのは、また忘れてたのではない。多分。蝶子が寝起きだからである。多分。
「其方もか……やはり生きていたのだな」
「何の事ですの? わたくし、見ての通り怪我一つありませんけど?」
 じっと見つめてくる藤梧郎に、蝶子はけろっとした様子で返した。と言うか、睡眠ガスとか甲冑が爆発したとか覚えているのだろうか。
「ところで一体今は何が起きていますの? 説明をお願いしてもよろしくて?」
 覚えてないかもしれない。
「小生にかね?」
「他に誰がいるんですの?」
 訝しむ藤梧郎に、蝶子はぐいぐいと説明を求めて迫る。
 この分だと、藤梧郎が黒幕だと言う情報も、蝶子の中では抜け落ちているのかもしれない。
「……仕方ないな」
 溜息混じりに、藤梧郎は語り始めた。序に連戦続きの身体を少し休めようと、ゆっくりと。
 自分が黒幕である事も隠さずに。
「ふむふむ……」
 蝶子はそれを熱心に聞いて――。

「わかりましたわ! あなたが黒幕ですのね!」
「今、小生が自分でそう言ったのだが?」

 自信満々に藤梧郎を指差して、きっとこの夜最高に困惑させた。
「もうひとつの謎もわかりましたわ!」
「ふむ? どの謎の事かね?」
 それでも、謎が判ったと言われれば聞いてしまうは探偵の性というやつか。
「藤梧郎様の疑問ですの。自分と言う謎が解けない理由、その答えは明白ですわ!」
「……」
 無言で続きを促す藤梧郎に、蝶子は自慢げな顔になって告げた。

「――貴方は名探偵ではないから!」

 それも、ついさっき、藤梧郎が自ら蝶子に告げたばかりである。
「そ……それだけかね?」
「それだけですわ!」
 絞り出すような藤梧郎の問いかけに、蝶子はとっても力強く答えた。
「だって名探偵であるならば、解けない謎などあるわけありませんもの」
 それも、ついさっき、藤梧郎が自ら似たようなニュアンスで告げた事である。
「ほら、わたくしはわかったでしょう? それが証拠です!」
 人の話を聞いてないし、覚えてもいない。
 それなのに、蝶子のこの自信は一体どこから湧いてくるのだろう。
「其方は……羨ましいほどに、自信たっぷりだな」
「だってわたくし、名探偵ですもの!」
 疲れた様な藤梧郎の呟きに返って来た蝶子の答えは、やっぱり答えになっていなかった。
 それでも。
 それでもだ。
(「この根拠のない自信……そう言えば他にもいたな、やたら自信の強い探偵が。もしや、これか。小生に足りないものは、これなのか」)
 お嬢様の自信は装備品。
 であるからして、その自信は藤梧郎が到底持ち得ないものであり、故にその思考が迷走する。

 目の前の藤梧郎が、そんな思考を巡らせているなどと、蝶子は当然気づいていない。
「……たくさん頭を使ったから、ちょっと甘いモノを頂きたい気分ですわね」
 だって、疲れていたから。
 先程までだって、蝶子なりに頑張って考えているのである。
 つまり、頭を使っていたのである。
 蝶子の脳は、糖分を欲していた。
「夜ですが……少しだけ……」
 蝶子は可愛らしい見た目の小さな包みを取り出すと、お気に入りのチョコレイトを口に放り込む。
 仄かな苦みの混ざった濃厚な甘さが、口いっぱいに広がった。
「あぁっ、チョコレートって本当に素晴らしいですわね!」
 その甘さで、迷探偵、復活。
 同時に、チョコに目を奪われている内に不意打ちしようとしていた藤梧郎が目に入った。
「は!? そこ! 何をなさっていますの!?」
 他の戦いの余波だろうか。足元に倒れていた甲冑を、蝶子が片手でぶん投げる。
「なんだとっ」
 想像以上の力強さと勢いで吹っ飛んで来た甲冑に、藤梧郎が廊下の端の壁に叩きつけられる。
「犯人は必ず探偵に暴かれる! それがこの世の理というものですわ!」
 しかし、蝶子が勝ち誇っている間に、藤梧郎の姿は何処かへ消えていた。

「くっ……黄金探偵の業がやられたか」

大成功 🔵​🔵​🔵​

江波・景光
どうやって、とな?
うむ、存分に考えてみるがいい。
欲しいのだろう、業が、意義が、理由が。

名探偵ネオチールの謎をはじめとした悪魔の証明をも打ち破るのが真の名探偵ともすれば…
もし盛られていたとすればわらわがパーティーに早く来すぎた、というのが有力説だが、そこの所如何かな?
謎は全て解けて一件落着が良いよの。

だが、ここで新たな謎が。
何故記憶喪失のみでは己を失う理由たり得ぬのか。
そもそも過去には何がわらわを超弩級、果ては埒外に至らしめたのか。

手がかりなら、
この仮面の中にあるやも知れんぞ?
謎を解きたいその心を利用し、その手で仮面を剥いでもらおう!

真の姿とは、
悲劇『A-0』に巻き込まれ顔の左半分が無い、白い瞳ののっぺらぼう。
UCを使うともなれば右半分も完璧に消えよう。

至近距離で顔を見せる事がわらわの狙い。
精気を頂こう。なに、少しでいい。
お前さんに用がある探偵もいるようだしな…くくっ!

わらわに残った謎も未だ闇の中。
謎が謎を呼び謎だらけ。
解けぬなら、お前さんは超弩級名探偵には届かぬよ!

あな、いとたのし。



●嗤う無貌
「おうい、そこ行く名探偵」
「ふむ?」
 呼び止める声に、『名探偵』柊・藤梧郎が振り向けば、フルフェイスの仮面に黒い着物姿と言うアンバランスな出で立ちの者が、いつの間にか背後に立っていた。
「其方は、確か…………顔無し探偵、だったか?」
「如何にも、わらわが顔無し探偵『|野津平芒《のっぺらぼう》様』である。ま、パーティーではいつの間にか眠りこけてしまっていたのだがな」
 探偵としての名前を憶えていた藤梧郎に向かって、江波・景光(日々綴る変の影・f22564)は、何か小さなものを放り投げた。
「わらわが目覚めた時、テーブルの下にそれが落ちておっての」
「ふむ。名探偵ネオチールか。確かに小生がこれを食事に盛った」
 掌に落ちた小瓶のラベルを見た藤梧郎は、景光の言葉に自分の仕業と認めて頷く。
 同時に、藤梧郎の脳裏にある光景が浮かんで来た。
「ああ、思い出したぞ。追っていた探偵を見失った『名探偵絶対殺すロボ』が、寝起きらしい探偵を背中から斬り付けた事があったな。暗くて良く見えなんだが、あれが其方であったか」
「うむ。あれがわらわじゃ!」
 斬られたにしては元気な声で、景光は藤梧郎の言葉を首肯する。
「して、名探偵よ。わらわは、本当にその薬を盛られたのかの? わらわだけが? 他の探偵には?」
 景光が矢継ぎ早に問いかけるのは、盛ったと認めただけでは、消えない謎。
 本当に薬を盛られたのか、偶々小瓶だけを見つけたのか。
 そんな悪魔の証明とも言える謎を、打ち破ってみせろとぶつける。
「もしわらわがこれを盛られていたとすれば、わらわがパーティーに早く来すぎた、というのが有力な説だと思っておるのだが、そこの所は如何かな?」
「良かろう。ネタバラシといこうではないか」
 挑戦的な景光の言葉に、藤梧郎は鷹揚に頷いた。
「其方がテーブルの下で見つけたのなら、間違いなく薬を口にしておる。この小瓶は、『名探偵ネオチール』を盛った食事を出すテーブルの下にのみ、置いておいたのだからな」
「すると、なにか? その薬は一部にだけ盛ったという事かの?」
「左様。これは即効性なのでな。全員寝てしまっては、面白くない」
 藤梧郎が明かした真相は、知ってしまえば意外性などない答え。
「つまり、偶然、わらわだけが『名探偵ネオチール』を盛った料理のあるテーブルにいたと?」
「いや。其方だけではないかもしれぬぞ。つい先ほども、寝たまま小生の攻撃を防ぎ、あまつさえ反撃してきた探偵が……いや、むしろ其方の方が薬の抜けが早そうだな」
 寝たままだった探偵と、こうして問答している景光。
 どちらも同じ睡眠薬を盛られたとして、どちらの方が早く抜けているかは、一目瞭然だ。
「其方、小瓶を見つけた後、他のテーブルの下は確かめたかね?」
「他? ……いや。そう言えば調べなかったな」

 ――まあ良いか。うむ。推理しなくとも良い!
 ――わらわが何をしていたとて、何もしていなくとも、時はやってくるもの。

 そんな事を言いながら、景光は推理の為に動く事はしなかった。
「わらわは、眠りこけながら推理をすることもある探偵なのでな」
「そうであるか。其方が『名探偵ネオチール』に当たったのも、運命かもしれぬな」
 前に独り言ちたのと同じ言葉を口走る景光に、藤梧郎が再び鷹揚に頷いた。
 同時に、両手で杖を持ち直す。
「謎は全て解けたかね? ならば――」
「いいや、まだだ」
 もういいだろうと、杖から刃を抜こうとした藤梧郎を遮って、景光は声を大にした。
「謎はある。わらわだ。わらわが謎だ」
 自分の胸に手を当て、景光は言い放つ。
 そして、くるりと背中を向けた。新しい傷跡が残る背中を。
「その傷は――」
「何故、わらわが未だ生きていると思う?」
 出血の痕跡も見える傷に息を呑む藤梧郎に、景光は問いかける。
「超弩級戦力であるから? ならば、過去には何がわらわを超弩級、果ては埒外に至らしめたのか?」
「やはり……超弩級戦力であったか」
 景光が重ねた問いを聞いて、藤梧郎の目が変わった。
「うむ。わらわも超弩級戦力よ。その手掛かりが、この仮面の中にあるやも知れんぞ?」
 取ってみろ――と、景光は自分の頭部を覆う仮面を指差し、探偵の顔になった藤梧郎の謎を解かんとする心を刺激する。
「……罠のつもりか」
「さてな?」
 さすがに訝し気な藤梧郎に、景光は肩を竦めて頭を振った。
「わらわには記憶がない。故に、お前さんが見なければ、答えは得られぬ。わらわに残った謎も未だ闇の中。謎が謎を呼び謎だらけ。解けぬなら、お前さんは超弩級名探偵には届かぬよ!」
 嘲笑う様に声高に告げて、景光は仮面に覆われた顔をずいっと藤梧郎に近づける。
 仮面の中、瞳の輝きが右側片方しかない事に、藤梧郎は気づいただろうか。
「そこまで言われては、退けぬな」
 景光の挑発だというのは、藤梧郎とて判っていただろう。
 それでも、目指す所に届かないとまで言われては、手を伸ばさずにはいられなかった。
 藤梧郎の指が、景光の仮面の留め具を外す。

 仮面が落ちて、露わになった景光の顔は――|なにもなかった《・・・・・・・》。

 まさに、言葉通りの『のっぺらぼう』――片方だけの白い瞳すらもなくなったそれが、景光の真の姿。ある悲劇に巻き込まれた末の姿と本人は語っているが、どこまで本当なのだろうか。
「……見たか、見たな? では結構……!!」
 口もない顔の何処かから、景光が愉悦に満ちた声を上げる。
 その瞬間、藤梧郎の身体から何かが吸い込まれるように抜けていった。

 ――|怪奇之零《コードゼロ》|『決シテ我ノ顔見ルベカラズ』《ダイイングシアター》

 喪われたその顔は、見たものの生気を奪う。
「っ!??!」
「おっと」
 目の前で藤梧郎が後ろに倒れ込みそうになったのを見て、景光は仮面を着け直す。
「生気を頂いたぞ。なに、少しだけだ」
 杖で支えて倒れるのを堪える藤梧郎に、景光は仮面の中で嗤って告げる。
 少しだけ、とは言うが、今ので藤梧郎の中から、解剖医探偵の業が消失していた。
「では、わらわはこれで失礼する。あとは他の探偵に任せるとしようぞ。お前さんに用がある探偵もいるようだしな……くくっ!」
「ま、待て……」
 すぐには動けない藤梧郎に背を向けて、景光は足取り軽く何処かへ去っていった。

 ――あな、いとたのし。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カイリ・タチバナ
ヤドリガミの年齢とは。

ちょうど浄化しきれたのが、その藤梧が来たときだった…てことで、踊り場で対峙することに。
こっそりUC使っとこ。

ああ、毒は効いてたけどな。死にはしなかった。
そう言いながら黒手袋から取り出したるは銛(俺様の本体)、守神勾玉、守神鏡。
さて、探偵。何で俺様が死んでないか…わかるか?答えはこの三種の神器じみたこの中にある。
ヒントがなけりゃ、解けるものも解けないってのでこの三つを出した。そんで、謎があれば、解きたくなるもんだろ?
答えは『銛が本体』になってるんだけどな。
で、見た目年齢+100なのが俺様だ!

なおこれ、時間稼ぎ兼ねてる。このUCなぁ、届くまで時間かかるの。
うちの爺、世界越える感じで送ってくるから、仕方ないんだけどな!
(※島が転移した時点で行方不明になってる、祖父的存在な『彗星と混同された隕石神』)

何でこれにしたかって?時間稼ぎの意図があるにせよ、ちと話す時間がほしかったんだよ。
まあ、そこは個人的興味ってやつだが。
あと、さすがにここに親父は呼べねぇよ…(からかわれるから)



●|空鐸隕神《クヌリテオノカミ》
 階段の半ばで、上と下から向けらる2人の探偵の視線がぶつかる。
「其方は……記者探偵だったな」
「ええ、まあ。記者探偵を名乗っていましたがね」
 『名探偵』柊・藤梧郎の視線に、踊り場に立つカイリ・タチバナ(銛に宿りし守神・f27462)は着けていた仮面をちらつかせた。
「けど、悪いな。俺様、記者でも探偵でもねえんだ」
「……其方もか……」
 カイリが演技を止めて正体を告げれば、藤梧郎の口から大きな溜息が零れる。
「驚かねえって事は、もう他の探偵だった奴らの正体も、聞いたな? ――道理で、遅かったわけだ」
 藤梧郎の胸中をある程度察して、カイリはニヤリと笑みを浮かべる。
「ま、お陰で、毒の浄化はとっくに終わってんだがな」
「浄化――だと?」
 カイリの言葉に、藤梧郎の片眉がピクリと動く。
「お? 気になるか? だったら――降りて来いよ」
 カイリが踊り場に降りて来いと言葉と指で招けば、藤梧郎は僅かな間をおいて、階段を降り出した。少し逡巡があったようだが、好奇心に勝ったか。
「――――、――」
 藤梧郎が階段を降りて来るのを眺めながら、カイリは何事か、小声で呟く。
「なんと?」
「大したことじゃない。それより、気になってるんだろう?」
 訝しむ藤梧郎に曖昧に返して、カイリは話題を変えた。
「そうだよ。てめぇが食事に盛った毒は、俺様には効いてはいた。効いてたけどな、死にはしなかった。その前に浄化したからな」
「毒が効いていない――とは、他の探偵も言っていた。いや、あの者も探偵ではないのかもしれんな」
 追求よりも先にカイリが答えを告げれば、藤梧郎は誰かの言葉を思い出し、自嘲気味に呟いた。
「毒の量を間違えたのではないか、とも言われたな。いっそ、それならばまだ納得がいったものを。其方は毒は効いていたと言うではないか」
 誰かとカイリで、異なる毒への批評。
 並び立たない2人の言葉が、名探偵の前で謎になる。
「さて、探偵――謎解きの時間だ」
 そんな藤梧郎の前で、カイリは黒手袋を嵌めた手で、異空間から自分の本体である『銛』を取り出した。
 長い柄の先で蒼く輝く穂を下に向け、自分の前に突き立てる。
「他の奴らはいざ知らず、何で俺様が毒で死んでないかって理由なら、俺様が答えを持っている」
 そう言いながら、カイリは銛と同じ蒼に輝く鏡と勾玉を取り出すと、銛の左右に並べて置いた。
「解いてみせろ――と言ってもヒントがなけりゃ、解けるものも解けないだろう。この三つがヒントだ。答えはこの三種の神器じみたこの中にある」
 銛に鏡に勾玉。一見すると、どれも毒とは関係なさそうなものばかり。
「嘘は言ってねぇが、信じる信じないは好きにしろ。疑わしくとも、謎があれば、解きたくなるもんなんだろ? 探偵ってのは」
「良いだろう。その挑発、乗ってやる」
 そう言われては、藤梧郎が退ける筈もない。
 そして――名探偵の推理が始まった。

 藤梧郎はまず、カイリが最初に出した銛に視線を向けた。
「この穂先、面妖な素材で出来ておるな」
 鉄よりも黒く、電流のような蒼い輝きを全体に纏っている。穂先が尤も細く、石突側に広がっているのは銛であれば珍しい事ではないが、その裾は不規則ながらも幾何学的に放射状に尖っていた。
 まるで、空を堕ちる流れ星を引いた尾と共に固めた様な形。
「むう……小生も見た覚えのない金属だ。隕鉄の類に似ている気もするが……ロボ探偵か黄金探偵の業が残っていれば、解析出来たやもしれぬが」
(「ロボはまだわかるが、黄金ってなんだよ」)
 出かかったツッコミを喉元で飲み込んで、カイリは黙って藤梧郎の推理を見守る。
「鏡と勾玉か。どちらも同じ輝きを放っているとなると、銛と同じ金属で造られているな。素材の差が無いのであれば、意味があるのは大きさ――いや、形か?」
 カイリの胸中に気づいた風もなく、藤梧郎はひたすらに思考を回転させる。
「勾玉は確か魔除けの、鏡は凶祓いの意味を持つとされる物であったな。ふむ。魔除けも凶祓いも、毒を浄化する力があると言われれば頷けるものであるか。ならば、このどちらかが――と思わせたかったのだろう?」
 藤梧郎の口元に、小さな笑みが浮かんだ。
 それは犯人を指名する時に、探偵が見せるもの。自信の表れ。
「その銛だ」
「……」
 きっぱりと告げた藤梧郎の言葉に、カイリの目が僅かに丸くなった。
「同じ素材の器物を三つ。内二つは形から神秘性を連想させるものである。ならば、逆にそうではない残る一つが答え。恐らく、銛の穂先と勾玉と鏡に共通している素材に解毒の力でもあるのではないかね?」
「驚いたな……」
 滔々と藤梧郎が告げた答えに、カイリは驚嘆しながら銛の柄をしっかりと掴んだ。
「銛ってのは当たりだ。理由が違う。この銛が、俺様の本体だ」
「そうか。其方、宿り神の類であったか」
 一種の驚いた様に眉が動いた藤梧郎だが、カイリの言葉で正しい答えを手繰り寄せる。
「……だとしたら、何故だ?」
「ん? 何がだよ」
「何故、其方は小生に答えを明かし、本体を晒した? 隠したままであった方が、有利だろうに」
「あー、それなぁ」
 藤梧郎の質問と共に、今回の事件の象徴である甲冑が召喚される。
 困った様に頭上を仰いだカイリの目に、光が見えた。
「個人的な興味ってとこだな」
「興味?」
「てめぇとは、ちと話したかったんだよ」
 それは偽りなく、カイリの本心だ。だからその時間を作れるように、振る舞った。
 まあ、それだけではないのだが。
「あとはまあ、時間稼ぎだな」
 ニヤリと笑って、カイリは頭上を指差す。
 そこには――流れる星があった。
「な――」
「この術なぁ、届くまで時間かかるの。うちの爺、世界越える感じで送ってくるから仕方ないんだけどな!」
 流石に驚く藤梧郎に、カイリが笑って告げる。
 その後ろには、小型隕石を核とした人型の神使が顕現していた。
 カイリが神使と流れ星を喚んだのは、藤梧郎が階段を降り始めた時。

 ――空鐸隕神の神使よ、来たれ。

 藤梧郎に聞こえぬよう、囁き唱えた喚ぶ言葉。それに祖父たる神使が応えるまでの時間を、カイリは藤梧郎に推理させる事で稼いだ。
「まあ、なんだ。結構楽しめた。名探偵は伊達じゃねぇな」
 告げて、カイリは指揮するように銛を振り下ろす。
「空鐸隕神の神使よ」

 ――|原初の守神、神使を遣わす《クヌリテオノカミノツカイ》。

 神使の体当たりが藤梧郎を踊り場から上階へと打ち上げ、そこに空間を越えてやってきた流星が降り注ぎ、藤梧郎を撃ち抜いていく。
 その衝撃で、藤梧郎の中の薬屋探偵の業が消滅した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

風見・ケイ
【🌖⭐️】
(真の姿:ワンピセーラー服の少女)
ふふ、『わたし』におまかせあれ
壁や天井が吹き飛んだ部屋、飛び散る甲冑、『私』の記憶(最後が9割)
これらから導き出される真実は!
……規制回避、かな?
不死でも傷は負うし服は燃えるもんね

なんか放送でネタバレしてたし、向こうから来てくれそうだよ
星でも数えながら待とうか……なんて噂をすれば
こんばんは、名探偵さん

では名探偵さん、わたしたちセーラー服探偵から問題だよ
この謎が解ければ超弩級名探偵さんになれるかもしれない(てきとう)
もちろん挑んでくれるよね?

|推理《せいかい》でも|推理《まちがい》でもいいんだけどさ
その凶器は夏報ちゃん向きじゃないんだよね

見上げた先には午前零時の夜空
(こんな星空、明日も夏報ちゃんと見たくなっちゃうな)

――これが|真実《せいかい》(凶器を【星屑】が覆って、輝きが落ち着くとそこには撲殺向きの脚立が)
ほら、ちょうど人を殴りやすそうな脚立だし、証拠品っぽいでしょ

星まで届きそうないいスイングだったよ
それじゃ、次はスコップにする?
なーんてね


臥待・夏報
【🌖⭐️】
(真の姿:セーラー服の少女)
『僕』が出てきたはいいが、毎度のごとく状況がわからん
今回は何やってて死んだんだあの女……?(おぼろげな記憶)
推理っていうかメタ読みだろそれ
ま、黒焦げのままで動き回るよりマシなのは確かだな

ネタバレとか言うなメタが加速するじゃねーか
そもそも名探偵なんて本当に実在すんのか?
いや、さっきまでの謎のごっこ遊びは置いといて……
うわ出た
滅茶苦茶それっぽい見た目の奴だ

本当に名探偵だってんなら名推理を見せてみろ
死んだはずの|登場人物《おとな》の代わりに、見たこともない|登場人物《こども》がふたり
御老体、この状況をどう説明する?(推理はお任せ)

推理が合ってても外れてても自白なんてしてやらない
名探偵殿――どうも難しく考えすぎて、一番重要な大原則を忘れてらっしゃるぜ

どんな謎で飾り立てたところで……
(掴んだ凶器が撲殺向きの脚立に変わり)
殺人はなあ、
暴力なんだよ!
(致命的な箇所へと振り下ろされる)

……はー、なんか久々にスカッとしたな
いい星空じゃん
死体を埋めるには最高の夜かもな



●たとえばなんて言えない夜に、君が星こそと願ってみれば
「む……何処だ、此処は」
 臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)が開いた目に映った景色は、見知らぬ風景だった。半端に歪んで見えてる上に、何もかもが逆さまになっている。
 いや。逆さまなのは夏報自身だ。
 どうやら横倒しになったテーブルの上に、仰向けに倒れているようだ。歪んだ視界は、眼鏡がずれているからか。身を起こそうとすれば、セーラー服のスカートがちょっとよろしくない状況になっているのが見えた。
「『僕』が出てきたはいいが、毎度のごとく状況がわからん」
 整えつつ周りを見回すも、やはり良く判らない状況だった。
 何故この部屋は、こんなにも何もかもが壊れているのか。何故、夏報は真の姿になっているのか。
「今回は何やってて死んだんだ、あの女……?」
 目は開けたまま、夏報はおぼろげな記憶を探ってみる。

 最初に思い出せたのは――熱。全身を包んだ炎の熱。

 それはあの夏の日を連想させるような――。
「……」
「ふふ、『わたし』におまかせあれ」
 過去に傾きかけた夏報の思考を、近くで上がった声が引き留めた。
 ひっくり返ったベッドの上で、風見・ケイ(星屑の夢・f14457)が起き上がっている。
「壁が吹き飛び、天井も黒焦げになった壊れた部屋。床にはバラバラに飛び散った甲冑」
 告げたものを順番に、ケイが右腕で指差していく。
 普段なら手袋や長袖で隠した右腕を覆っている殻は、剥がれて落ちていた。瑠璃と紫が混ざった様なと|宙《そら》のような色が露わになっている。
 その色が見えているという事は、今のケイは『慧』ではなく、『螢』でも『荊』でもない真の姿。
 瞳の色も、赤でも青でも赤と青でもなく、右腕と同じような色になっているのだから。『星屑』と呼ぶ、邪神の色に。
「そして『私』の記憶。これらから導き出される真実は――!」
 とは言え、自分のこめかみをトントンと指で叩いてから、ベッドの上から飛び降りる姿に、邪神らしさなどない。むしろ普段のケイよりも、可愛げすらあるかもしれない。
「……規制回避、かな?」
「推理っていうかメタ読みだろそれ」
 ケイの出した|解答《こたえ》に、夏報が一息で返す。
「ま、黒焦げのままで動き回るよりマシなのは確かだな」
 目と鼻の先で爆発が起きた――そんな『あの女』の死を、夏報は完全に思い出していた。
「そうだね。不死でも傷は負うね。だけど、それだけじゃなくてね」
 前屈みになったケイが、足元に落ちていたものを拾い上げる。
「服だって燃えるもんね」
「ん? それって――」
 ケイが掲げたそれは、半分以上焦げた布の様だった。
 原型を留めてはいないが、夏報は僅かに残った紫色に見覚えがあった。
 ふと、自分も足元に視線を落としてみれば、やはり半分以上焦げてるが見覚えのある淡い藤色の布が。
「『私』達が着ていたコスプレ衣装だね!」
 先に思い出してたらしいケイの一言がトドメとなって、夏報の中でおぼろげだった記憶が一気に鮮明になって蘇ってきた。
 風見先生と呼んで目を輝かせてイチャイチャしてみたり、手を繋いでみたり、腕を組んでみたり――。
「コスプレ言うな。せめて謎のごっこ遊びとか……いや、いい」
 どっちもどっちである。
 そして、そのコスプレ衣装がこうして無残になっているという事は、こうして真の姿になってセーラー服を纏っていなければ、ケイと夏報の姿がどうなっていたかと言うのは――。
「ふふ、規制回避だろう?」
「メタ読みには変わりないだろ……てか、死に方選べよな……」
 楽しんでるようなケイに対するツッコミに続いて、夏報の口から過去の自分に対する恨み言が零れ出た。

「で、どうする? 黒幕、探しに行く?」
「星でも数えながら、待ってればいいんじゃない?」
 扉の無くなった出入口を指差す夏報に、ケイは座り込んで背中を向けたまま答える。
「綺麗な星空だよ、夏報ちゃん」
 あったであろう壁がなくなった部屋からは、外が良く見えた。壊れた壁が館の外壁でもあったようで、夜空も良く見えている。
「そもそも名探偵なんて本当に実在すんのか?」
「なんか放送でネタバレしてたし、向こうから来てくれそうだよ」
「ネタバレとか言うな、メタが加速するじゃねーか」
「メタって言う方がメタじゃない?」
 メタメタしくも他愛ない会話を交わしながら、夏報もケイの隣に腰を下ろそうと――した所で、2人の後ろで小さな物音がした。
 夏報がぐるっと踵を返し、ケイも弾かれた様に立ち上がる。
 視線の先に立っているのは、和服姿の『名探偵』。
「うわ出た。滅茶苦茶それっぽい見た目の奴だ」
「……噂をすれば。こんばんは、名探偵さん」
 柊・藤梧郎は、何かを警戒するように杖の先で敷居の先の床を数回叩き、それから部屋の中に入ってきた。
「ふむ? ここには書生探偵とその助手がいた筈だが……其方らは?」
「ふふ、誰だろうね。と言うわけで、名探偵さんに、わたしたちセーラー服探偵から問題だよ」
 訝し気な藤梧郎に、ケイがいきなり問題を突き付ける。
「この謎が解ければ超弩級名探偵さんになれるかもしれないよ。もちろん挑んでくれるよね?」
「本当に名探偵だってんなら、名推理を見せてみろ」
 ケイは適当な虚言に餌をちらつかせ、夏報は挑発的な物言いで、藤梧郎を引きずり込まんとする。
「ふむ。良いだろう。何を企んでいるかも含めて、小生が解いてくれる」
 怪しいとは思いながらも、藤梧郎はそれに乗った。
 2人が知る由もない事だが、この時、藤梧郎はもう、色々あって自信と言う柱が大分グラついていた。だからこそ、乗るしかなかった。自信を保つ為には。

「では、夏報ちゃん。問題をどうぞ!」
「死んだはずの|登場人物《おとな》の代わりに、見たこともない|登場人物《こども》がふたり。御老体、この状況をどう説明する?」

 2人が名探偵に出した問題は、今この状況の説明。
 しかも、ノーヒント。
「ふむ……まず本当に二人とも小生が『見たこともない人物』なのだろうか?」
 それでも、藤梧郎は推理を始めた。
「山道を封じ橋も落としたこの局面において、新たな登場人物が現れる方が不自然と言うもの」
 あり得ない可能性を除外していく藤梧郎だが、この推理は誤りだ。
 猟兵達が持つ『転移』と言う手段を知らなければ、気づける筈のない誤り。
 だが、時に誤りが正解への道となる。
「この部屋には、書生探偵とその助手が案内された筈。そう思って良く見れば、其方たちは面影がある。故に其方たちが、書生探偵と助手と同一人物であると仮定しよう。だとすると、小生が推理するべき命題は、外見が著しく変化した理由であるな」
 出だしで誤った藤梧郎の推理だが、此処に来ていい線いっていると言えるだろう。
 確かに、夏報もケイも、今の姿とコスプ――探偵に扮していた時とで、外見に同じ部分もある。例えば、どちらも髪の色は大きく変わっていない。だが、ケイの右腕のような身体的変化は、衣装の違いや変装と言ったものでは、到底説明がつかない。
 藤梧郎の眉間が寄って、その頭の中で推理が回り出す。

 ――人間が体格まで変化する、そんな事が可能か? 否。此処は可能と仮定し考える。

 藤梧郎がガチの推理に入ってしまった為、2人はちょっと暇になってしまった。
「セーラー服探偵かー……」
「だって2人ともセーラー服だよ?」
 呻く夏報の前で、ケイがくるりと回る。
 ワンピースタイプのセーラー服のスカートが、ふわりと舞い上がった。

 ――だとすると、小生も予期せぬ何かが名探偵絶対殺すロボの中で起きたという事か。

「そうなんだけど、響きでコスプレっぽさ増してね?」
「大丈夫。夏報ちゃんも似合ってるよ」
「そりゃどーも」
 本当に少女の様に微笑むケイに、夏報が苦笑を返す。

 ――甲冑、金属、爆発、睡眠ガス……そうか!

 そんな他愛ない会話も、あまり長くは続かなかった。
「解ったぞ」
 藤梧郎の推理が終わったのだ。
「この部屋の惨状を見れば、小生が甲冑に仕掛けた『名探偵絶対殺すロボ』の爆発があったのは間違いない。そして『名探偵絶対殺すロボ』には爆弾の他に、睡眠ガス『名探偵スヤスヤガス』を出す仕掛けもあった」
 ここまでは、正しい。何しろ彼自身が仕掛けたものの話なのだ。

「『名探偵絶対殺すロボ』の爆発で起きた炎と熱によって甲冑が溶け出し、その成分と『名探偵スヤスヤガス』が熱で化学反応を起こして未知のガスが発生、其方たちを少女に変えてしまった、とすれば、説明がつく」

(「……ええ」)
(「説明はつくけど……」)
 その答えに、夏報とケイは無言で顔を見合わせた。
「驚いているようだな。小生も驚いておる」
 などと真顔で宣うこの名探偵、実は此処に来るまでに幾つもの探偵の業を既に失っている。喪失した業の中には、薬屋探偵やロボ探偵の業もあった。見た目には判らないが、サイエンスやケミカルな領域に影響が出ているのかもしれない。
 それでも、名探偵は答えを出した。
 故にケイと夏報の元に、如何にもな緑色の煙が入った円筒型の瓶が何処からか転がって来た。藤梧郎の推理の結果で創造された、凶器となり得る証拠品が。
「|推理《せいかい》でも|推理《まちがい》でもいいんだけどさ」
 ケイはそれを拾うでもなく、藤梧郎から視線を逸らした。
「その凶器は夏報ちゃん向きじゃないんだよね」
 |宙《そら》色の瞳を夜空に向ければ、都会では見えない星空が広がっている。
 さっきは夏報と一緒に見損ねた星空。
 元々なかったのか爆発で吹っ飛んだのか、時計が無いので正確な時間は判らないが、午前零時は過ぎているだろう。見えているのは、そろそろ丑三つ時の星空だろうか。
(「こんな星空、明日も夏報ちゃんと見たくなっちゃうな」)

 ――きみが、明日も輝けますように。

 明日への希望を、|星空に希う《ステラ・バイ・スターライト》。
「――これが|真実《せいかい》だよ、名探偵さん」
 願いに呼応して、ケイの右腕から【星屑】の輝きが浮かび上がる。明滅する光が足元に転がったままの毒ガス入り瓶を覆うと、目が眩むほどの輝きが3人の間に膨れ上がる。
「むぅ」
 藤梧郎が袖で顔を隠した程の輝きは長く続かず、数秒で光は消える。
 そして光が消えた後には、毒瓶があったそこには、代わりに2段程の小さな脚立が鎮座していた。
「ほら、ちょうど人を殴りやすそうな脚立だし、証拠品っぽいでしょ」
「おい待て何がどうなった」
 笑顔で告げるケイに、藤梧郎が声を上げる。
「そんな物理法則を無視した変化が成り立っ――」
「名探偵殿――どうも難しく考えすぎて、一番重要な大原則を忘れてらっしゃるぜ」
 藤梧郎が続けようとした言葉を途中で遮って、夏報が凶器を拾い上げた。黒縁眼鏡の奥から藤梧郎を睨みつける双眸に、隠す気のない殺意が燃える。
「どんな凶器を使ったところで、どんな謎で飾り立てたところで」
 血塗れの脚立を振り上げて、夏報は床を蹴って軽く跳び上がる。

「――殺人はなあ、暴力なんだよ!」

 容赦のない夏報の一撃が、流星の如く藤梧郎の脳天に叩きつけられた。
「うぐぅっ」
 たまらず膝をついた藤梧郎の頭の中で、ぐわんぐわんと星が巡り、衝撃が渦を巻く。
 それは|暴力《さつい》に込めた|夏報の呪詛《カジュアル・ロマンス》。
「こ、れは……小生、に、何をした!」
「さあな? 自白なんてしてやらない」
 答えの代わりに、夏報はもう一撃を振り下ろす。呪いに耐える藤梧郎の――眼前の足元に。
 夏報の呪いは、無機物でも生物でも、夏報に友好的な行動を取らせる。例えば、爆発で半ば壊れかけていた床下の建材が、自ら壊れて床が落ちる様に。
「ぬおっ!?」
「じゃーな、名探偵」
 美食探偵と酔客探偵の業を代償に呪いに耐えていた藤梧郎は、成す術なく落ちていく。
「……はー、なんか久々にスカッとしたな」
「星まで届きそうないいスイングだったよ」
 見届けもせずに踵を返した夏報を、床に座ったケイが手招きしていた。壁がなくなった壁際は、断崖の様に足だけ外に出して座るのに丁度いい感じになっている。
「いい星空じゃん」
 隣に腰を下ろせば、やっと夏報の目にも星空が見えた。
「死体を埋めるには最高の夜かもな」
「じゃあ追いかけて、今度はスコップにする? ――なーんてね」
 夏報の物騒な冗談に、ケイも笑って返す。
「櫻の樹も無さそうだしなぁ……」
「そうだね」
 2人が見上げた星空に、星が2つ、流れて行った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

柊・はとり
おいジジイ
死ねる訳ねえだろ
お前の選んだ後継者だぞ

『名探偵は世界すら救う神である』
俺はお前の傲慢な信仰が産んだ
何度殺しても死なない最強最悪の探偵だ
なあ俺がどれだけ辛かったか解るか!?
解らないよな
こんな簡単な謎解きで躓いてるんだもんなあ!

あのな
殺人事件って人死んでんだよ
落命した被害者
間に合わない探偵
遺された関係者
犯人だって…皆傷ついて当然だ

拍子抜けか?
だがそんな普通の感覚を失い
謎という魅力に憑かれたあんた達は
『真の名探偵』に救いを求める声が聴こえず
遂に犯人にまで成り下がった

お前ら何の為に探偵やってきた
金?名誉?退屈凌ぎか?
俺は『被害者』だからこそ
誰より人の痛みが解る探偵でありたい
そんな『名探偵』絶対認めない…!

柊藤梧郎
あんたは『真犯人』だ
あんたの造った探偵が贈る
最期の餞
最高の栄誉だろ

誰より犯人の考えが解るから
魂が加害者になりたがる…
そんな最終回で人生満足か!?
名探偵畜生共が…その業は俺が斬る

感謝なんぞできないが
運命を憎むのももうやめた
見ろ
誰も死んじゃいない

探偵なら事件現場で死ねよ――じゃあな



●誰が名探偵を殺したか
「ぐ……うむぅ」
 1つ上の階から落ちた『名探偵』柊・藤梧郎が、ゆっくりと上半身を起こす。
「あちこち動き回りやがって。やっと見つけたぞ、ジジイ」
 背中の方から、遠慮のない声が降って来た。
「その声……はとりか」
 立ち上がった藤梧郎が振り向けば、そこには同じ姓を持つ若き探偵、柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)が立っている。
 あの時、藤梧郎の前で千切れたはとりの四肢も身体も全て、繋がって揃っている。
 今となっては、体中に切傷や打撲傷、果ては頭から流血している藤梧郎の方が、重傷そうだ。
「いいザマじゃねえか、ジジイ」
「言ってくれる。だが、返す言葉もないな」
 挑発的なはとりの言葉に、藤梧郎は溜息混じりに返す。
(「なんだ……?」)
 その反応に、はとりは違和感を覚えた。
 はとりが少し前に藤梧郎と話した時と、何かが違っている様に感じる。
「久しく忘れていた。これが、被害者の痛みであったな」
 だが、その違和感を追求する前に、藤梧郎の一言がはとりの精神を逆撫でた。
「なに当然の事を言ってやがる。あのな。殺人事件って人死んでんだよ」
 詰め寄って、藤梧郎の胸倉を掴んで詰め寄る。
「落命した被害者。間に合わない探偵。遺された関係者。犯人だって……皆、傷ついて当然だ」
「傷ついて当然? 探偵もか? 其方の様にか」
「そうだよ。拍子抜けか?」
 何故、と言いたげな藤梧郎の声に、はとりは胸倉を掴んでいた手を放した。
「それが『普通』なんだ。そんな『普通』の感覚を失い、謎という魅力に憑かれたあんた達は『真の名探偵』に救いを求める声が聴こえてねえ!」
 ほとんど叫ぶように、声を張り上げる。
「お前ら何の為に探偵やってきた! 金? 名誉? 退屈凌ぎか? 何を求めて、ついに犯人にまで成り下がりやがった! そんな『名探偵』、俺は絶対認めない…!」
 そんなはとりを、藤梧郎は距離を取るでもなくじっと見据える。

「『普通』を失った、か……そうなのであろうな」
 そして、ひどく穏やかな声が藤梧郎の口から零れ出た。
「ジジイ?」
 再び、はとりが感じる違和感。
 今度はさっきよりも強く、はっきりと感じる。
「業すら消えてしまった|同胞《はらから》達にも、聞かせてやりたかったものだ」
「……まさか」
 曖昧だった違和感が、はとりの中で固まった。
 八つ裂きになる前の対峙では、泰然と立つ藤梧郎には感じた重みのようなものが、失くなっている。
「おいジジイ。お前、探偵達の業、あといくつ残っている」
「多くはない。美食探偵、薬屋探偵、邪眼探偵、爆裂探偵、ロボ探偵――皆、消失した」
 藤梧郎に集い藤梧郎を成していた探偵達の業の多くは、他の猟兵達との戦いで消えていた。名探偵と言う名の|機構《システム》は崩れ去っている。
「今の小生は、柊・藤梧郎と言う個に近いのだろうな」
 影朧である以上、藤梧郎自身とは言えないけれど。
「……」
 藤梧郎の言葉に、はとりは何も返さなかった。
 今更そうなった所で、何を言えと言うのか。
「まあ、業が残っている探偵もいるがな。猫耳探偵とか」
「おい待て、なんでそんなの残してんだ」
「小生が意図して残したわけではない。偶さか、残っただけの事。それに、そんなのと言うな。猫耳探偵も優秀な探偵だったぞ。猫耳型収音デバイスを駆使して――」
「黙れ」
 聞いてもしょうがない情報を、はとりは再び藤梧郎の胸倉を掴んでシャットアウト。
「はとり。先ず其方の思い違いを、正しておこう」
 しかし今度は、その詰まった距離を藤梧郎が突き放す。
「其方は言ったな。小生が『犯人に成り下がった』と」
「事実だろうが」
「ああそうだ。小生は、小生達は犯人に成り下がろうとした。だが正しくはない。実の所、成り下がる事すら出来ていなかったのだ。名探偵のまま、犯人になどなれる筈がなかったのだ」
 犯人だった者でも推理する側になれば、その事件では犯人足り得ない。
 同様に、探偵でも事件を起こせば、その瞬間から犯人になる。
 探偵と犯人は、両立しない存在だ。
 なのに藤梧郎は、名探偵のまま犯人になろうとして、どちらにもなり切れなかった。どちらも、捨てきれなかったと言うべきか。
「多くの探偵が集まっていた小生は、きっと誰よりも『犯人』を知っている探偵だ。だから――」
「誰より犯人の考えが解るから、名探偵を殺そうと考えたら、魂が加害者になりたがった……だけど、なり切れなかったってのか」
「そうだ」
 途中で遮ったはとりの言葉に、藤梧郎は鷹揚に頷く。
「名探偵畜生共が……そんな最終回で人生満足か!?」
「さてな。消えていった所を見ると、満足したのやもしれん」
 吐き捨てるように言ったはとりに、藤梧郎は何処か寂しげに返した。
 藤梧郎という探偵達の集合体は、自分達を超える存在の予感に期待していた。期待は外れれば失望だが、成就すれば満足し、越えてくれば――希望へ変わる。
「其方は、小生の様にはなるな。小生は所詮『失敗作』だ」
 はとりを真っすぐ見て、藤梧郎が言って来る。
「っ!! ふざけんな!!!」
 その一言が、はとりの激情に火を付けた。
「『名探偵は世界すら救う神である』――俺は、そんなお前の傲慢な信仰が生んだ、何度殺しても死なない最強最悪の探偵になっちまってんだ! 血塗られた『名探偵』に仕立てておいて、なのに、今更そんな事……!」
 はとりはきっと、こんな話をするつもりじゃなかった。
 こんな話が、出来ると思ってなかった。
 罵り合って、魂を摩耗させて――それでも死ねず、いつもの様に生き残る。
 それで良かったのに。
 いつか見た悪夢みたいな、死体蹴りのような言動も厭わない藤梧郎であれば良かったのに。
「俺がどれだけ辛かったか解るか!? 解らないよな! こんな簡単な謎解きで躓いてるんだもんなあ!」
 こんな大声を出したのはいつ以来だ――なんて頭の片隅で考えながら、はとりは喉が裂けても構わないと声を大に張り上げた。死ななければ、どうせすぐに治るのだ。
 だが――そんなはとりの脳裏に、唐突に声が響いた。

 ――はとり君、大好きだよ!

 音声データでしか聞けてない、その声が。
 辛い事ばかりじゃなかったでしょ、とでも言いたいのか。
(「何でだ。何で今、あいつの声が」)
 その声を忘れられないのも、つらい。けれど、その声の主と出会った事は――。
「――ワトソン」
 声の強さを落として、ぽつりと呟く。
「俺なんかの助手を名乗った奴がいてな。俺といると殺人事件にばかり出くわす癖に、離れやしねえ。いつしか周りが『白雪坂のホームズとワトソン』なんて言い出して……」
 うんざりしている部分もあったけれど、それはきっと、悪くなかった。
「成程、そうか。それか。小生達に足りなかったのは」
「は?」
 黙って聞いていた藤梧郎が唐突に上げた声に、はとりが目を丸くする。
「ワトソンだ。其方が今言っただろう。助手がいたと。小生に助手はおらなんだ。業が集まっていた探偵達にもおらなんだ。それが、小生と其方らの違い。小生達に足りなかったものなのかもしれん」
 それぞれにとっての|助手《ワトソン》と出会えなかった名探偵達。
 だからこそ、その業は1人の名探偵の元に集まった。1人で名探偵になれてしまった探偵達だったから、自分自身と言う謎を、誰かに委ねようとは考えられなかった。
 猟兵の介入がなくとも、恐らく彼らは真の名探偵にはなれなかっただろう。
 未完の名探偵は、永遠に未完の名探偵のままだった。

「……さて。もう推理すべきこともないだろう」
 藤梧郎が、杖に仕込んだ刃を抜く。
「構えろ」
 鞘代わりの杖を捨て、はとりに向けた切っ先は少し毀れていた。
「始まりや過程がどうであれ、其方は最早、探偵だ。そうあり続ける宿命だ。辛かった? それがどうした。それを知る前になど、戻れはせぬぞ」
 告げる口調こそ穏やかでも、藤梧郎の言葉に優しさなどはありはしない。はとりに、探偵以外の生き方を許すつもりなどありはしない。
 そしてそんな事、はとりだって言われなくとも判っている。
 もう、何も知らなかった頃には帰れない。
「その上で、問う。其方は――どんな探偵になる」
「俺は探偵だが『被害者』だ。だからこそ、誰より人の痛みが解る探偵でありたい」
 だからはとりは、現れた甲冑には見向きもせずに、藤梧郎の質問に迷わず返せる。
「ならば、その剣を何とかせよ。いちいち反抗されて、死ぬなよ」
「死ねる訳ねえだろ。お前の選んだ後継者だぞ」
 そして、未だ無言を貫くコキュートスを真っすぐに掲げた。
「コキュートス。零の殺人」
『承りました、ホームズ。|探偵コロシアム《ホワイダニット》』
 機械的な声の後に、コキュートスから冷気がはとりに降って来る。

「犯人は俺達の中にいる。柊藤梧郎。あんたは『真犯人』だ」

 凍えながら、はとりはきっぱりと告げた。
 犯人になり切れなかったと言った男を、敢えて真犯人だと名指しした。
「あんたの造った探偵が贈る、最期の餞。最高の栄誉だろ」
 ――充分だ。
 無言で構える藤梧郎の目が、そう言っている様な気がした。はとりが、そう思いたかっただけだろうか。
「感謝なんぞできないが、運命を憎むのも、もうやめた。だから、あんたの業は俺が斬る」
 冷気がまとわりついたはとりの身体は、戦える筈がないほどに凍り付いている。それでも動いている。何かがはとりを動かしている。それは、コキュートスなのか。それとも――。

「探偵なら事件現場で死ねよ――じゃあな」

 振り下ろされた冷たい刃が、象徴の甲冑と毀れた刃を砕いて――未完の名探偵を真犯人として葬った。
 コキュートスの冷気の放出が止まり、はとりの身体に熱が戻って来る。
「見ろ、誰も死んじゃいない」
 ――あんたの他には。
 その呟きに、答える相手は誰もいなかった。

 ――|甲冑館殺人事件、解決《ケース・クローズド》。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年09月15日
宿敵 『『名探偵』柊・藤梧郎』 を撃破!


挿絵イラスト