●
常闇の燎原に燃え盛る黒い炎が、脳裏という名のスクリーンに悲劇を投写する。
それは血と膿に塗れた地獄である。腐蝕の呪いに冒され、それでもなお生に縋ろうとする哀れな者たちの坩堝である。
幻影が見せる街に集う者は皆、この地にて祀られる死を司る異端の神の赦しを得ようと集まってきた呪い人だ。彼らは徐々に肉体が崩壊していく苦痛から逃れるために、死を司る異端の神に赦しを乞い、その名を叫び、姿を求めて街を徘徊し、祈りを捧げる。
だが、救われる者はいない。皆、薄汚れた街角にて腐り果てる。そこに例外はなく、ただ、膿で満たされた街に新たな死が積み重なるのみ。
「死を司る異端神? そんなモノはいねえ。それどころか、異端の神を信じることで肉体を腐蝕させる呪いを生んでいるんだ。どこぞのオブリビオンの悪趣味な罠によって」
常闇の燎原の『黒い炎』が見せる幻影の概要を語った羅刹の娘は、どこか冷めた様子で瞳を細めた。それは幻影が見せる悲劇から目を逸らしているようであり、憤りを隠しているようでもある。彼女の名は、ショコラッタ・ハロー。グリモアの術で視得た光景を、猟兵たちに伝える役目を負った娘。
「だが、黒い炎が見せる幻影を打ち破って先に進むためには、そんな噂に付き合うしかねえのも事実だ。常闇の燎原に踏み入れるなり、おまえは『力なき呪い人』の一人になっちまうだろう。そして、死を司る異端の神の赦しを求めて、腐臭に満ちた街を徘徊することになる」
幻影に囚われている間は、猟兵としての力は振るうことはできない。個々人の身に備わった知識と知恵だけが、この悲劇を生き残る唯一の武器となる。
身を苛む腐蝕の呪いを打ち消し、この幻影を打ち破る方法は限られている、とショコラッタは続ける。
「呪いを解く異端の神なんざいねえ。異端の神を信じる心こそが呪いを生む……その事実に自力で辿り着いてくれ。そのことが街に広まれば、この呪いは消え去り悲劇を打ち破ることが出来る」
例え幻影のなかの出来事だとしても、悪い話じゃないだろう? ショコラッタは、そう言って唇の端を上げた。
幻影によって錯乱し、救いを求める側になった猟兵がその事実に辿り着くのは至難の業だろう。だが、そうしなければ幻影の中で惨たらしく腐り落ちるだけだ。
鍵となるのは生への執着心と探究心だ。貪欲に救いを求め、人々に聞き込みを進めるうちに神の不在を疑う素地も生まれるだろう。或いは、神の所在を探って街中を調べるうちに、神が存在する証拠が皆無なことに気がつくだろう。或いは、古い文献を調べるうちに異端の神ではなくオブリビオンの存在に行き当たるかもしれない。或いは、死の淵にて救われることのない己の身こそが、神の不在の証拠と確信する瞬間が訪れるかもしれない――。
「ひとたび幻影に飲まれれば、無力な呪い人にすぎないという錯覚に囚われる。今の話もまともに思い出せないだろう。だから、後はおまえの信心次第だ。神に対してじゃねえ。おまえ自身に対しての信心次第だ」
征こう、猟の時間だ。おれたちの手で、オトシマエをつけてやろうじゃないか――ショコラッタはそう言って、グリモアをその手に浮かび上がせるのだった。
扇谷きいち
こんにちは、扇谷きいちです。
リプレイの返却スケジュールを紹介ページでご連絡する場合があります。お手数をおかけしますが、時折ご確認いただければ幸いです。
●補足1
第一章は「常闇の燎原」の「黒い炎」の幻影に取り込まれた後から始まります。
幻影の中では、「この悲劇の中の無力な一般人のひとりである」という風に錯覚してしまう為、猟兵としての能力や知識を駆使して攻略することは出来ません。
●補足2
「死を司るの異端の神」に救いを求めて街を調査するうちに、その神がただの噂に過ぎなかったことに気がつけば成功となります。
また、その真実を街に広めて人々を納得させられる内容であれば、大成功となります。
腐蝕に倒れて行動不能になった状態で、異端の神の存在をまだ信じている場合は失敗判定となります。
●補足3
時間経過とともに肉体が腐蝕していく呪いが掛かっています。この呪いの進行を停止・軽減する方法はありません。
幻影の中のため実際の時間経過とは異なりますが、概ね幻影内の24時間の時間感覚がタイムリミットとお考え下さい。
●補足4
冒険章における「POW」「SPD」「WIZ」の行動は一例です。
オープニングを踏まえて、自由な発想でプレイングをかけてください。
●プレイング受付について
8月01日(月)午前8時31分以降から受付を開始いたします。
第二章以降は、第一章にご参加いただいた方を優先的に採用いたします。
以上、皆様の健闘をお祈りしております。
よろしくお願いいたします。
第1章 冒険
『異端の神々について調査せよ』
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POW : 町人や村人に、直接聞き込みをする
SPD : 町や村に潜入して、密かに調査する
WIZ : 町や村の教会で、神父に教えを乞う
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
眞清水・湧
祈っても祈っても、赦しは得られず…私は苦しくて、もう死んでしまう方が楽だと思って、蹲っていました
でも、少女が私を励ましてくれたんです、自分も苦しい筈なのに…
諦めないで。一緒にお祈りをしましょう。と
勇気づけられた私は彼女と祈りに戻り…疲れ果て、身を寄せ合って眠りました
目が覚めた時、繋いでいた手は腐り落ち、彼女は溶け崩れていました
どうして、どうして…あんなに優しく敬虔な人さえ、救われないのでしょう
神様は意地悪で、嘘つきなのでしょうか
いいえ…もっと簡単な答えがあると、私は思い至りました
神様はいないのです、それが誰も赦されない理由です
皆さん、もう祈りは必要ありません
残りの時間をもっと大切に使って下さい
●
星の瞬きの一つもない夜空の漆黒は、この街と己の心を覆う絶望の色彩そのものだった。
剥がれた腐肉を引きずりながら歩いていた眞清水・湧(分界簸却式超人類祖型・f02949)は、無数の蝿が飛び交う路地に腰を下ろして暗い空を見上げた。
この街を訪れた当初は猛烈な腐臭と纏わりつく害虫の群れに散々苦しめられたが、今の湧にとってはそれらはただの無意味な風景の一つに成り果てていた。
救いを求めて訪れた街で、湧が得たものは絶望だけだった。崩壊していく身体を引きずりながら歩き続けて、探し続けて、湧は一片の希望も得られぬままとうとう力尽きたのである。
救われないのなら、苦痛のなかでのたうち回るしかないのなら……いっそこのまま全てを諦めて命を捨ててしまったほうが、よほど楽ではないか。
湧は諦念に心を委ね、己の肉体に卵を産み付ける蝿どもに身を委ねていく。
だが、不意に、湧の崩れかけた腕に誰かが手を添えた。
腐汁で汚れきった手袋に包まれた、小さな手。それに気がついた湧は閉じかけていた目を開き、いつの間にか傍らに立っていた少女に視線を向けた。
「ダメ。死んじゃダメ」
「……いいえ、放っておいてください。私は、もう、祈る言葉すら忘れてしまいました。もう、助かる見込みはありません。だから……楽にしてください」
「諦めちゃダメ。そう、ママも言ってたから。諦めなければ、神さまが助けてくれるんだって」
「……」
しゃがれた声で湧を励ます少女の姿は、とても正視に耐えないほど腐蝕が進んでいた。けれど少女の瞳だけは、希望を抱くその瞳だけは、この世に存在する唯一の光であるかのように清らかに輝いていた。
その瞳を見た途端、もう動かないと思っていた湧の身体に微かな力が湧いた。苦痛は、一片も楽にはなっていない。だが、胸の奥に芽生えたかすかな温もりは、彼女が久しく忘れていた感情だった。
湧と少女は、街外れにある荒屋で身を寄せ合って祈りを捧げていた。ふたりとも、すでに神さまの姿を求めて歩き回る力は残されていなかった。
「死を司る神よ、我の穢れた魂を清め給え……。さすれば我が清められたる魂を未来永劫御身に捧げん……」
少女から教わった祈りの言葉を、湧は唱え続ける。少女と二人、朽ちかけた荒屋の床に体を横たえて、頭上を覆う廃屋の闇を見つめながら救済を求め続ける。
助かりたい。その気持ちは、祈りを捧げるたびに湧のなかで変化していった。
助けてあげたい。私を励まし、生きる希望を再び与えてくれた少女のことを。
そのために、湧は祈る。祈り続ける。
傍らに寝そべる少女と繋いだ手は傷みきって、もうお互いの体温を感じることも出来なかったけれど、少女の手が再び人としての温もりにふれることが出来るように、湧は祈り続ける。
けれど、湧はとっくに気がついていた。祈りが無意味であることを。
だってそうではないか。もし神が本当に存在するのならば、この心優しい少女を見捨てるわけがない。無惨にも腐り果てて死に絶えるのを見過ごすわけがない。
「神様の、嘘つき」
もはや人としての形を留めることも困難なほど腐蝕した少女の亡骸を抱きかかえながら、湧は穢れた街を再び放浪する。
最期の言葉を聞くことも出来ず、眠りから覚めたときには繋いでいた少女の手は崩れ落ちていた。
「神様なんていない。誰も赦されない。誰も救われない。これだけ優しく、敬虔な人でさえ救われないのなら……もう、祈りなんて、神様なんて、必要ありません」
それは湧が新たに見出した信仰だった。
神はおらず、祈りは届かない。少女の亡骸を抱えて歩く湧の言葉に、人々が集い出す。それは絶望であると同時に、新たな希望でもあった。
「祈りは必要ありません。残された時間を、もっと大切に使ってください。あなたのために。あなたの隣にいる人のために」
湧が少女から受け取った微かな温もり。それこそが、唯一の救いなのだと。
成功
🔵🔵🔴
ジュジュ・ブランロジエ
腐って死ぬなんてやだ
神様、助けて
まだ死にたくない!
姿を求めて聞き込み
どこにいるの?
どうして助けてくれないの?
皆がこんなに苦しんでるのに助けてくれないなんて
高みの見物してるとしたらそんなの神様じゃない!
もしかして本当は最初から神様なんて居ないんじゃない?
誰も会ったことないの?
誰も見たことない、痕跡もない
それじゃあそんな神様なんてやっぱり居ないんだよ!
だっておかしいもん
誰も救われてない
もしも居るなら救ってくれてるはず
私達を救うのは存在しない神への祈りじゃない
腐るのを止める現実的な方法だよ
動ける人は一緒に文献を探してみよう
動けない人は私達を信じて待ってて
皆が助かる方法を絶対見つけてみせるよ
と呼びかけ
●
「まだ死にたくない! それは、あなたもそうでしょう? だから一緒に探そうよ! 高みの見物をして助けてくれない神様ではなくって、腐っていくのを止める方法を!」
街の酒場に集っていた、呪いを受けていない者や比較的軽症の者たちに、ジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)は熱弁を振るっていた。彼女の張り上げる言葉に、人々は目を白黒させるばかりだった。
「神様がいないだって? バカなことを言うもんじゃない。この呪いから救われる方法は、死の神への祈りの他に有り得ないんだ!」
酒場にいた男の一人が、腐蝕で不自由になった手に掴んだジョッキをテーブルに叩きつけると、周りの客たちもそれに同調してジュジュを非難する。
その剣幕にジュジュは思わずたじろいで、反射的に左腕に抱いた古ぼけたぬいぐるみを抱きしめた。
客たちが一通り言いたいことを言って落ち着いたのを見計らってから、ジュジュは気を取り直して一人一人に詰め寄っていく。
「じゃあ、教えて。あなたは神様に会ったことがある? そちらのあなたはどう? 神様の声を聞いたことは? ううん、直接見たり聞いたりしたわけじゃなくてもいいよ。実際に神様に救ってもらった人がどこかにいるなら、教えてよ!」
「そ、それは……」
ジュジュの剣幕に押されて、客たちはしどろもどろになる。幾人かは「助かったヤツはみんな街から出ていった」とか「赦された人は神様の国に連れて行って貰えるんだ」とか真偽の定かではない反論をしてきたが、それはあまりにも弱々しい声だった。
ジュジュがこの街を訪れてから真っ先に行ったことは、街の人々に徹底的に聞き込みをすることだった。
死にたくない。それも、生きたまま身体が腐って死ぬなんて、絶対にイヤだ。神様に助けを求めれば救われる。だから、ジュジュは熱心に神様に助けてもらう方法を探し求めたのだ。
けれど、知れば知るほど、求めれば求めるほど、神様の姿はジュジュから遠のいていった。その代わりに心に広がっていったのは、神様に対する疑問だった。
「誰も救われていない。もしも居るなら、誰か一人でも救われていなくちゃおかしいもん。神様なんて、本当はいないんだ」
だから、私達に必要なのは存在しない神への祈りではない。身体の腐蝕を止める、現実的な方法……解呪の方法、あるいは医療の技術だ。
その方法を探し出せば、きっと本当に助かることが出来る。その考えに至ったジュジュは、比較的体力の残っている者が集う酒場を訪れて、先程の熱弁をぶち上げたのだった。
ジュジュの力強い言葉に、最初は懐疑的だった街の人たちの中に賛同者が現れ始める。それは決して大勢ではなかったけれど、ジュジュにとっては力強い味方だ。
「街に図書館はある? 動ける人はみんなで本を探そう。呪いを解くためのヒントが見つかるかもしれない。動けない人たちは、私達を信じて待っていて。神様を信じていたように……とまでは言わないけれど。少しだけ、信じてくれたら嬉しいな」
そう言って、ジュジュは笑顔を見せた。腐蝕した顔の大半を包帯で覆っていたから、上手に笑えたかどうか自信は無かったけれど。それでも、笑顔を返してくれた人がいて、彼女は勇気づけられた。
かくして、刻一刻と進む腐蝕の呪いと戦いながら、ジュジュは賛同者とともに街の図書館にて文献を探す。神の存在を証明する文献も、腐蝕を治癒する方法も見つからなかった。
だが、ジュジュはその身が腐り果てる前に、一冊の本を探し出した。それはこの街を苛む呪いの元凶、古のオブリビオンの所業を記した本だった。
成功
🔵🔵🔴
ウェズリー・ギムレット
応急処置道具一式とチョコレート等の食料持参
己の事を忘れても屹度、アリス適合者としてオウガと抗っていた頃と同じ事をするだろうからね
強く神の慈悲を願えど一向に呪いは晴れない
…アプローチの仕方が間違っているのか…?
体調の悪い民衆を治療しつつ聞き込み
私が知っている事も教えよう
些細な事でも良いから、神に関する情報を共有してくれないか
協力者には礼と、空腹なら食料も
大変な時は助け合うものだ
都度、愛用の懐中時計で時間確認
長年の癖のようなものだ
遅くならない内に情報を精査
祈祷方法、適した時間、道具、教義…
共通事項はないか…?
なければそれは神ではなく、唯の幻想だ
真実を知り絶望はしても、立ち止まるわけにはいかない
ここは私の死に場所ではない
私の帰るべき場所は他にあるはずなのだから
真実を民衆に伝えよう
これだけ切に祈って救われた人がいるか?
私でさえできる簡単な治癒を、神は施してくれたか!?
もう無為に過ごすのはやめよう
不確かなものに縋るより、私達自身で活路を見出そうじゃないか…!
救いを求める心のままに民衆に訴えかけよう
●
まだ指先が腐蝕せずにいるのは不幸中の幸いだ、とウェズリー・ギムレット(亡国の老騎士・f35015)は思った。少なくとも、懐中時計の蓋を開けられずに苦労するのは、まだ先のことのようだから。
腐肉を求める鼠だらけの路地に力なく座り込んでいた男の容態を診たウェズリーは、男が知っている祈りの文言を一字一句書き留めていく。それは初めて聞く祈りの文言だった。彼がこの街に訪れて聞き込みを開始してからしばらく経つが、不思議なことに同じ文言の祈りを口にする者に二人として出会わずにいた。
「教えてくれてありがとう、助かったよ。私に出来る礼はこれくらいだが、受け取ってくれ」
ウェズリーは腐蝕した男の患部に包帯を巻いてやり、持参したチョコレートを差し出した。男がもはや物を手にすることが出来ない身体だと気がつくと、彼は細かく砕いたチョコレートの欠片を男の口に差し入れた。
男と別れたウェズリーは、腐臭満ちる街を再び歩き出す。聞き込みで得た神への祈りの言葉を呟きながら、次第に進行していく身体の崩壊に彼は焦燥感を抱く。
――神よ。これほど祈っても一握の慈悲も与えては下さらないのか。私の信心が足りないというのか。それとも、なにかアプローチの仕方が間違っているのだろうか……?
何の手がかりも得られぬまま神の所在を求めて街を彷徨しながら、ウェズリーは己と同じ境遇に苦しむ者たちに出来る限りの手当を施していく。
それは情報を得るという利己的な部分もあったが、同時に、ウェズリーの胸の奥から湧く衝動のようなものだった。もはや過去の記憶も曖昧だが、彼は誰かを救わんとする利他的なその衝動を無視するつもりはなかった。
「教義も、儀式も、聖職者もいない? それは貴方が知らないという意味ではなく、文字通りの意味と捉えていいのか?」
「ああ……。誰も、何も、知らない……。ただ、祈ることしか出来ない……。それで救われた人がいるって話を、信じるしかないだろう?」
一体何人の人間の手当を行い、食料を分かち合い、話を聴き込んだだろうか。
噂を聞きつけて助けを求めてきた男が口にした言葉は、ウェズリーの心中に広がりつつあったある疑念を、確信へと変える引き金となった。
誰もが神を信じれど、そこに共通の認識となるものは皆無だった。そんなものは、信仰にも満たない曖昧なもの……唯の幻想に過ぎない。
すでに、手持ちの物資は底をつきかけていた。しかし、ウェズリーを頼って集う者たちは数を増すばかりだった。腐り落ち、崩れかけた、亡者よりも惨たらしい様相の人の群れ。彼らの一人一人の顔を見渡したウェズリーは、ある決意をする。
――我々は救われないのかもしれない。真実は、誰の救いにもならないのかもしれない。だが、立ち止まるわけにはいくまい。ここは私の死に場所ではなく、それは彼らにとっても同じだ。
すでにウェズリーの肉体もまた、まともに動かなくなりつつあった。四肢を動かすたびに激痛に苛まれ、呼吸をするたびに血膿が口から溢れていた。しかし、彼にはまだすべきことが残っているのだ。
救済を求める者たちを前に、ウェズリーは静かに、だがはっきりとした意志を宿した声音で語りかける。
「もう無為に過ごすのはやめよう。救いをもたらさない神に縋るのではなく、私達自信で活路を見出そうじゃないか……! 私達に残された時間は少ないかもしれない。だが、祈る代わりに足掻くことは出来る……そうだろう?」
ウェズリーの言葉に、人々はただ無言で腕を伸ばす。あたかも、求め続けてきた神の救いが目の前に顕現したかのように。
懐から取り出した懐中時計に目を落としたウェズリーは、人々と共に最後の希望を求めて歩き出す。死に場所を求めるのではなく、生きるための道を探るために。
――時間は残り少ない。だが、諦めるわけにはいかない。此処ではなく、私の帰るべき場所は、他にあるはずなのだから。
大成功
🔵🔵🔵
誘名・櫻宵
臭い
気持ちが悪い
朽ちていく
溶けていく
私が、私の桜が──醜く崩れていく
はやく神様の所に
私は生きると決めたの
約束したの
永遠を生きる『神』の隣で
腐り朽ちるわけにはいかない
諦めない
足掻いてしがみついて生き残る
たとえ私が無力でも
神を探りましょう
…ねぇあなた、と道行く人に声をかける
神ならば祀られている場所があるのではない?
何処かご存知?
…腐敗の進度に違いはあるの?
私は救われたいの
神の在処を知らない?
進んでいる者と、そうでない者にもききたいわ
神への信心の強さを
信じれば救われるならなぜ神は来てくれないの?
祈れども朽ちるのならば
…神とは本当に存在しているの?
疑念の種を広げていくわ
私の求める神は
こんな偽物じゃない
●
死の臭いがどこからやってくるものなのか、わからなくなっていた。数多の死が重ねられて街に染み付いた腐臭なのか、それとも朽ち果てていく己の身から溢れ出る腐臭なのか。五感の麻痺しつつある誘名・櫻宵(咲樂咲麗・f02768)には、もうわからないのだ。
それでも、生理的嫌悪感は拭い去ることができない。まだ肉体は己の生命を守ろうとして、忌むべきものを排出するために嘔吐を促す。櫻宵の胃袋から吐き出されるものは、溶けた粘膜混じりの胃液だけしかないというのに。
膝をついて嘔吐に喘ぐ櫻宵を見て、道端に座る骸骨のように痩せ細った小男がけらけらと煩わしい嗤い声をあげた。「愉快だ、愉快だ。美しい者も醜い者も富める者も貧しい者も、呪いは等しく腐らせてくれる……」と。
眼脂でまともに開かない目で、櫻宵は小男を見た。男は亡者の如き病んだ風貌だが、呪いを受けているわけではないらしい。彼は嘲りを無視し、小男に声をかけた。
「あなたは呪われていないのね。どうして? 神に救ってもらえたのかしら?」
そのような問いかけがされるとは思っていなかったのだろう。小男は驚いたような素振りを見せ、それから卑しい笑みを浮かべて櫻宵の言葉に答えた。
「神に救われた? バカを言え、テメェを救えるのはテメェだけだ。いや……ハハハハッ、確かに俺は神に救われているとも言えるな。俺はこの街で生まれ、お前たち腐れた呪い人どもを無数に見てきた。お前たちが神を求めるおかげで、俺は生きているんだ……」
「へえ……」
櫻宵は、小男の語る話に耳を傾ける。それは大して面白い話でもなかった。
醜く病弱な身体で生まれ、己の不幸を呪い、しかしこの呪われた街の外に旅立つ勇気もなく、行き倒れた呪い人の死体から身包みを剥いで生を繋ぐ、惨めな半生の話だった。
こんな状況でもなければ、櫻宵は聞く耳も持たずにその場を立ち去っていただろう。だが、今の彼にとっては小男の語る境遇もまた、呪いを克服するために必要な情報の一つだった。
お前が死ねば、俺の糧にしてやる――そう言って口元を歪める小男のもとを、櫻宵は背を向けて立ち去ろうとしたが、振り返ってもう一つ質問を投げかけた。
「ねえ。聞かせて。あなた自身は……神の存在を信じている?」
小男は澱んだ目で櫻宵を見返しながら答えた。
「信じるものか。もし神がいたら、こんな地獄に俺は産み落とされなかっただろうよ――」
血と死脂で真っ黒に汚れた道を歩きながら、櫻宵は確信する。
――神なんて存在しない。信じる者だけが救われない。もし神が本当にいたとしても、私の求める神はこんな偽物じゃない……。
大通りを往けば、呪いの浅い者、呪われていない者もいることに気がつく。それらの者がどのようにしてこの街で暮らしているのか、先の小男を思えば容易に答えは見えてくる。
櫻宵は行く先々で神に祈りを捧げる者たちに、呪われぬ者どもを指し示しながら真実を語った。
「やめましょう。祈れども朽ちるだけよ。ご覧なさい。神を信じない者たちの姿を」
生きると決めた。櫻宵はそう約束したのだ。永遠を生きる『神』の隣で己も生きるのだと。
櫻宵の『神』はここにはいない。ならば、どのような手段を用いても己の力で生を勝ち得なければならない。
櫻宵の角が枯れ枝のように砕け、それは何の風情もなく腐敗した残骸として散っていく。だが、己が桜の全てが朽ち果てようとも、櫻宵は諦めるつもりはなかった。
成功
🔵🔵🔴
シキ・ジルモント
腐蝕の呪いが進む苦痛に耐えつつ呪いの解除を目指す
足は止めない、死んでたまるかと強く思う
死を司る異端神の名は…名は、何と言っただろう
姿は?祈り方は?
赦しを乞うべき神について何も知らないと気付くが、無知を嘆いている暇は無い
残り少ない時間を割いてでも、それを知らねばならない
街を隅々まで歩き回り人々の様子を見て、聞き込みを行って、神についての情報を求める
もし彼等が各々違う方法で祈っていたなら
神の姿を誰も知らず、呼ぶ名すら定かではないのなら、違和感から疑惑と不信が生まれる
誰が正しいのか?もしかすると、誰も正しくないのかもしれない
異端の神など初めから存在しない、だから神について知る者が居ないのではないか、と
神がいないならどうすれば助かるのか、絶望感が滲む
…それでも、生きて成すべき事がある
それが何だったのかは思い出せないが、死ねないと訴える自身の思いは神より確かな寄る辺だ
時間が無い、神が居ないなら他の方法を探す必要がある
神を信じ続ける者達にも知らせなければ
諦めれば死ぬだけだ
ならば、最期まで足掻いてやる
●
神骨の髄まで腐蝕した右足を引きずりながら、その人狼の男は神の名を求めて街を彷徨う。一歩進むごとに足裏から脳髄にまで激痛が走るが、彼は一時も歩みを止めることはなかった。
――死んでたまるか。
きつく噛み締めた奥歯がすり減り、口の端から血が滴る。シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)が歩みを止めぬ理由。それは、狂おしいまでの生への渇望だ。そこに、救いを求める相手に対する己の無知を嘆く隙など皆無だった。
「教えてくれないか。死を司る神の名を。俺は……俺はまだ知らないんだ。名も、祈り方も、姿も」
当て所なく街を往くシキが声をかけたのは、小さな辻に建つ崩れた彫像に跪く呪い人達だった。
それは人物を象った彫刻のようだが、上半身は完全に砕けており男か女かすらも定かではない。だが、彫像の足元にすがりつく者達の様子には鬼気迫るものがあった。あたかも、その彫像こそが神の依代であると信じているかのように。
シキの問いかけにしばし間を置いてから、呪い人達は地面に擦りつけていた顔を上げた。何度も何度も彫像前の石畳に顔を擦りつけて祈っていたのだろう。彼らの腐敗した顔面の肉は刮げ落ち、なかには骨が露出している者までいた。
「神の名も、祈る言葉も、知らぬのか。哀れな他所者……」
「そうだ。俺は……なぜ自分が呪われたのかすらもわからない。どうやってこの街を訪れたのかも。だが、生きて成すべき事がある……それだけは確かだ。この地で命を落とすわけにはいかない。だから、教えてくれ」
シキの頼みを受けた呪い人達は、何も答えなかった。ただ、じっとシキの顔を見つめたあとで、再び彫像に祈りを捧げ始めた。
シキはそれを彼らの同意と受け取った。呪い人達のなかに加わると、見様見真似で祈りの文言と作法を学んでいく。彼らの唱える祈りの言葉は定型があるわけではなく、おおよその文意は同じもののそれぞれが全く別の言葉を口にしているため、シキは模倣することに酷く苦労をした。
そうして、どれだけの時間を呪い人達との祈りに捧げただろうか。シキの額が擦り切れて、血も流れなくなってきたころ、祈りを捧げていた者達の数名が物言わぬ躯に変わっていることに彼は気がついた。
一心不乱に祈りを捧げる呪い人達は、死した者達に何ら感心を示していない。いや、或いは、敢えて見て見ぬ振りをしているのかもしれない。盲目的に意味のない祈りを捧げ続ける彼らの姿に、シキは失望を禁じ得なかった。
「誰が正しいというのか。いや、誰も正しくはないのか? 赦しなど、はなから誰も与えてくれないのか……?」
彫像に祈りを捧げる者達と別れたシキは、その後も数多の人々に神の所在と赦しを得る方法を尋ねて歩いた。だが、出会う者は皆、不確かな言葉を口にするのみ。それはまるで、紙に垂れたインクの染みから天啓を読み取ろうとする、怪しげな迷信にも似ていた。
絶望がシキの胸中に広がる。神が存在しないことに、彼は気がついてしまった。
だが、同時に、胸の奥底に密やかに眠る記憶が、シキに訴えかけるのだ。
決して死ぬなと。生きて成すべき事を成せと。それは、シキにとって神よりも確かな寄る辺だった。
「……構わない。神がいないのならば、それに代わるものを探し出せばいい……そうだろう?」
シキは己の奥底に問うと、腐蝕の進む身体を心の力だけで動かし始める。何を探し出すべきか、それはまだ定かではなかったが、立ち止まっていては百年の猶予を得ても成し得ないことは確かだ。
神の不在を人々に唱えながら、シキは病み爛れた街を往く。
――諦めれば死ぬだけだ。ならば、最期まで足掻いてやる。
成功
🔵🔵🔴
六道・橘
※アドリブ・グロ歓迎、NGは兄へ恋のみ
前世だの語ると囚われそうと記憶がねじ曲がる
この地で双子の兄を亡くした認識
死にたくない
この地で死した兄を分析
薄氷上の平静を手にし探求に耽る
…兄はわたしより遙かに聡く人心を惹ける
でも死んだ
つまり呻いてる人に頼っても無駄
腐りゆく右手首を引きちぎれば嘗ての死が重なる
俺は屋上から叩きつけられぐちゃぐちゃで死んだ
―違う、わたしは生きている
(何故嘗ての俺は自殺したのか?)
それは
俺は俺を信じられず嫌悪し絶望した
…兄は己を見限りながらも命尽きるまで生きた
…嗚呼、やっぱり敵わないわ。自慢の兄さん
俺(わたし)は凡夫だから出来るのは己を信じるのみ
断切部分が痛い
ほら、生きてる
まだまだ兄の事を考えられる
兄なら生き延びる為に神を調べ辿り着…いいえ、神がいるなら兄は敬虔な使徒となり布教するでしょうね
そうして弟を生かす
そんな抜け目なく狡猾な男だわ
弟の為に神を利用し自らが利用される事を厭わない
でも死んだ
つまり…神なんていないのよ
神がいたら兄はこの地を牛耳っている筈だもの!
神はいないのよ
●
六道・橘(加害者・f22796)は確信していた。この呪われた街で兄が死んだことを。根拠などない。蝕まれた頭蓋の奥の奥が痛むたびに、叫び声が聞こえるのだ。「俺はここにいる」と。
すでに覚束ない視界に映る光景を橘は見やる。跪いて天に祈る者。地に伏して赦しを乞う者。絶望してただ虚空を睨む者。"彼"の目に映る光景は、狂信と恐心に囚われた呪い人の群れの他に何もなかった。
橘は、亡者にも似た彼らを一顧だにせず通りを往く。嘆く彼らに用はない。なぜならば、"彼"の兄であれば斯様な者達すら惹きつける魅力があり、神に代わる道筋を示していたに違いないからだ。
――でも、兄は死んだ。この地で、確かに死んだ。
その理由を橘は知りたかった。非凡な"彼"の兄ならば、こんな場所で為す術もなく野垂れ死ぬわけがなかった。もし力及ばず呪いに倒れたとしても、その痕跡は必ず残っているはずだ。
死を恐れないわけではない。むしろ、橘は自身を凡夫と自己認識している。ごく平凡に死を恐れているからこそ、この街を訪れたのだ。探究に意識を向けるのも、迫りくる死の恐怖忘れんとするためであることは、"彼"自身も気がついていた。
「聞きたいことがあるの。神を……いえ、ある青年を探している。もし何か知っていることがあったら、教えて欲しい」
橘は比較的呪いの影響が弱い者や、剣呑な目つきで呪い人達を睨む呪いを受けていない者達に話しかけていく。嘆き、祈る者達よりも、この街では異質とも言える彼らのほうが、兄の痕跡を辿る上で有益だと橘は踏んでいた。
――もし兄であれば、ただ自分の命欲しさに祈るだけで終わらせる訳がない。真理に近づき、それを布教するはず。街の人たちを助けるためじゃない……きっと、いずれこの街を訪れるわたしを生かすために。
狡猾で抜け目ない、非凡なる存在。そして疎ましく思えるほど己を庇護する存在。この地に於いて橘が信ずる者は、姿なき神ではなく死した兄だった。
呪われぬ者たちに話を聞く橘の希望は、しかし、すぐに失望へと変わっていった。誰も、何も、知らぬのだ。神の存在も、神への信仰も、ましてや"彼"の兄の存在も、その痕跡すらも。
おかしい。
そんなことが、あるだろうか?
わたしの兄が、何事も成し遂げず、ただ無意味に腐った肉塊に成り果てたというのか?
有り得ない。
「――ぁああああっ」
人気の無い路地裏に踏み入れた橘は、這い回る無数の蛆蟲にも構わず地べたに突っ伏して慟哭する。
有り得ない。有り得なかった。
嘆くたびに腐蝕する脳髄が疼き、「俺はここにいる」という叫び声が大きくなる。錯乱した橘は石畳を何度も右手で殴りつけ、心の平静を取り戻そうと足掻く。
ぐちゃり、と湿った粘着質の水音が何度も響き、腐蝕していた右手が潰れていく。その様を目にした橘の脳裏に、ある光景がフラッシュバックした。
浮遊感。迫りくる地面。引っくり返った天地。そして、潰れゆく己の肉体。妄想ではない、現実感を伴った紛れもなき己が死の記憶。
「……違う。わたしは生きている。わたしは……」
かつて経験したはずの死を再び追体験した橘は、我に帰った。血と腐汁に塗れた己の惨状を気にもとめず、もはや使い物にならなくなった右手首を無理やり引き千切って、蛆蟲どもにくれてやる。
ははは、と乾いた笑い声をあげながら橘は暗き路を歩んでいく。頭の奥の痛みはまだ続いているが、意識は不思議なことにこの街を訪れてから最もクリアになっていた。
そうだ、俺はなにを嘆いているんだ。
自分を嫌悪し、絶望した俺と、命尽きるまで生きた兄が、同じなわけがない。
嘆く暇はない。信じろ。わたし自身のことを。そして、自慢の兄さんのことを……。
痛みが、絶望が、橘の信心を金剛石よりなお強固で輝かしいものへと昇華していく。
神などいない。"彼"の兄が何も遺さず死したことが、その証だ。
「そうよ。もし本当に神がいるならば、兄さんはこの街を牛耳っていたはずですもの」
この確信は橘一人だけのもの。きっと他の誰にも理解されぬ信仰だろう。
だが、それでも構わなかった。信じるものはただ一つあればいい。信じるものはただ一人いればいい。
「ねえ、そうでしょう?」
成功
🔵🔵🔴
第2章 集団戦
『『シャーデンフロイデ』煽られた群衆』
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POW : うるせー!黙れ!お前を処刑すれば円満解決なんだ!
【体を掴んで処刑台へ引連れ拘束する群衆の腕】が命中した対象に対し、高威力高命中の【酷い目に遭っている鬱憤を込めた処刑の刃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 抗う力のあるお主に!儂らの苦しみが分かるか!!!
【いつ戯れに殺されるか分からない死への恐怖】【吸血鬼に抗う力と勇気を持つ者への妬み嫉み】【自分達を死の危険に晒している対象への怒り】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
WIZ : みんな、あなたの独善的な偽善に迷惑しているのよ!
【反抗する者のせいで虐げられる、という主張】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
イラスト:渡辺純子
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
神の不在の噂が、呪われた街に広まっていく。
それは姿なき神を信仰する呪い人と、彼らを糧にする街の者にとって、不都合な真実だった。
悲劇を見せる幻影が揺らぎ、異分子である猟兵たちを排除せんと恐怖と暴力が生み出される。
「不信心者どもを殺せ! 処刑台に磔にしろ! 生きたまま焼き殺してしまえ!」
神への祈りを止めた猟兵たちに、暴徒と化した街の者たちが迫り来る。
未だ己の力と存在を取り戻せずにいる猟兵たちにとって、それは形ある死が押し寄せているのと何ら代わりはない。
だが、座して死を受け入れるわけにはいかないだろう。勇気をもって脅威に立ち向かい、この街を脱出せねばならない。
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●概要
第二章の戦闘は、引き続き「無力な一般人」として戦わなければならない。
迫り来る暴徒と化した群衆もまた同様に一般人相当の力しかもたないが、人数が多いため真正面から戦おうとすると確実に敗北する。
暴徒との戦い方や脱出方法に制限はない。
暴徒は断続的に、無尽蔵に湧く。一度に襲いかかってくる人数に上限はない。
武器は使用できるが、一般人離れした能力は扱えない。
脱出までの猶予は、幻影内の時間感覚でおよそ12時間とする。
●第二章のクリア条件
・大成功🔵🔵🔵
おおよそ10名以上を撃退した上で街を脱出する。
・成功🔵🔵🔴
最低一人以上の暴徒を撃退し街を脱出する。
・苦戦🔵🔴🔴
暴徒を一人も撃退せずに街を脱出する。
・失敗🔴🔴🔴
猶予時間を過ぎても脱出が出来なかった場合。
暴徒に敗れ、処刑された場合(幻影内の出来事なので、次章への参加は可能)
●プレイング受付開始
この断章が投下された直後から。
※訂正
大成功の条件を『10名以上の撃退』から『5名以上の撃退』へ緩和。
ジュジュ・ブランロジエ
怖い!嫌だ!どうして!?
私は何も悪くないのに!
理不尽に怒り恐怖に震えても足は動く
早く走れる
私は生きたい!
聞き込み中に通った地形は頭に入ってる
路地や建物の影等を使い群衆をまく
逃走中に砂をポケットに入れておく
人の足音や声等に注意し極力隠れながら移動
相手が一人かつ近くに来たらふいをついて襲撃
拾った煉瓦や石等の鈍器で頭を思い切り殴る
倒したらすぐ逃走
対集団なら風向きに注意して砂を撒き目潰しして逃走
もし接近されたら素早く鼻、喉仏下、鳩尾等の急所を殴って隙を作り逃走
隠し持つ銀のナイフは最後の手段
捕まりそうになったら使う
狙うのは首
私、死にたくないの
ごめんね
※生に執着
殺したくないけど自分に死が迫れば躊躇しない
●
ジュジュの眼の前で、彼女と共に図書館で文献を探してくれた仲間たちが暴徒たちに鏖殺されていく。それはあまりにも唐突すぎて、ジュジュは何が起きているのかすぐには理解出来なかった。繰り広げられる悪夢のような光景に恐れ慄き、彼女は震える足で後退りする。
「神はいない? オブリビオンが撒いた呪いだ? そんなのはデタラメだ! 不信心者め!」
最後の仲間を撲殺すると、暴徒たちは残されたジュジュを手に掛けようと迫ってきた。ジュジュは咄嗟に足元の砂を先頭の一人の顔面めがけて投げつけると、踵を返してその場から駆け出した。
――怖い! 嫌だ! どうして!?
ジュジュの頭のなかに浮かぶのは、疑問だけだ。真実を伝えることで人々に困惑される程度のことは想定していたが、よもや暴力を以って応じられるとは思いもよらなかった。
腐蝕した足で走るのは耐え難い痛みを伴ったが、しかし、その痛みがジュジュの恐怖心と動揺を取り除いてくれた。恐怖の後に胸の奥から湧いてきたのは、理不尽な暴力への怒りだ。
――こんなの間違っているよ。何がいけなかったのかわからないけど、私、まだ死にたくない……! こんなところで、意味もなく殺されたくない!
幸い、聞き込み中に通った道はジュジュの頭のなかに入っていた。街から脱出する経路を頭の中で組み立てながら、彼女は入り組んだ路地を駆け抜ける。武器になりそうなものを見かけるたびに、その都度拾っていく。
『あの女は向こうの路地へ逃げたぞ!』『追え、逃がすな!』『周りこめ、挟み撃ちにしろ!』
暴徒たちの怒号が四方八方から響いてくる。その声の輪は徐々に狭まってきて、数名がジュジュのいる路地に向かっているようだった。緊張と恐怖で息が止まりそうになりながら、物陰に身を潜めた彼女は先程拾ったレンガを握りしめた。このまま隠れてやり過ごすことは不可能だ。一か八か戦うしかない。
「……ッ!!」
暴徒が目の前を通りかかった瞬間、物陰から飛び出したジュジュは男の側頭部を力いっぱい殴打した。相手もまた、呪いを受けた身だ。腐蝕した頭蓋は卵殻のように砕け散り、灰色の脳漿が向かいの壁にぶちまけられる。
この路地に入ってきた暴徒はもう一人いた。まだ状況を飲み込めないでいる暴徒めがけてジュジュは手に残っていたレンガを投げつけると、脱兎のごとく逃げ出した。
追いかけてくる男から必死で逃げているうちに、ジュジュの脳裏に朧気な記憶が蘇る。あの時も、こんな風に逃げていた。月が沈むその時を待ち、恐ろしいケモノから逃げていた――。
不意に激痛が走り、ジュジュは思考を現実に戻す。酷使しすぎた脚が悲鳴を上げて、奇妙な形に折れ曲がっていた。走る勢いそのままに地べたに転倒したジュジュは、軽い脳震盪を起こす。背後から、先程の暴徒の足音が近づいてきた。
「……私、死にたくないの」
「うるせえ!」
暴徒の男が声を荒らげる。手にしたハンマーを振り上げて、怒りに身を任せてジュジュを殴殺せんとする。
だが、次の瞬間、血を撒き散らして息絶えたのはジュジュではなく、暴徒の男のほうだった。隠し持っていた銀のナイフで、ジュジュは振り向きざまに男の首を掻き切ったのだ。
返り血を無造作に拭ったジュジュは、壁に手をついて立ち上がると、物言わぬ躯となった男を見下ろした。
「ごめんね。私、死にたくないんだ。だから、こうするしかなかった」
路地に落ちていた木材を杖代わりに、ジュジュは急いでその場をあとにする。まだ暴徒たちは諦めたわけではない。一刻も早く、この街から逃げ出さねばならなかった。
成功
🔵🔵🔴
ウェズリー・ギムレット
誰かに追われるこの感覚を、何故か知っている
眺めた懐中時計の、文字盤の向こうに過ぎる朧な面影
私を生かす為、命を賭した誰かがいた…?
ならば尚の事ここで死ぬわけにはいくまい
建物の影等に潜み、暗がりで目立つ肌や髪を隠す
濃い色の布が理想だが、土でも泥でも塗りたくろう
この状況で汚れなど些末な事だ
武器は自動小型拳銃が2挺
照準器付と消音器付
どちらも不思議と手に馴染む
装弾数は多く予備弾もあるが、慎重に使わねばな
街の構造を脳裏で整理
広場等の遮蔽物の少ない場所は避けた上で
最短距離の経路を決めたら即脱出開始だ
高台や群衆からの死角に潜みながら、極力音を立てずに移動
先手を取る為、足音や声、影等を頼りに脱出妨害となる群衆を索敵
極力距離を取り、遠距離なら照準器付
群衆に発砲音が聞こえる距離なら、居場所特定を防ぐ為消音器付で射撃
罪悪感はない
ただ、共に生きられないのは淋しいものだ
狙うは足
命までは取りたくはないが…尚も妨害となるなら、頭を
冷静に、引き金は躊躇わず
身体がどうなろうと、躊躇も停滞もしまい
生きる為にどこまでも足掻くさ
●
親指を上手く動かせなくなっていた。
ぎこちない所作で懐中時計の蓋を開いたウェズリーは、こんな状況でも変わらず時を刻み続けてくれる機械の姿に安堵を覚える。同時に、奇妙な感覚を彼は覚えていた。
文字盤の向こうに、今とはまた違った危難の記憶と、朧気に浮かぶ面影を見た気がしたのだ。
――かつての私も、こんな状況に身を置いていたのだろうか。私を生かす為に、命を賭した誰かがいた……?
人目を避けて潜伏した暗がりのなか、ウェズリーは今それを考えるのは詮無きことだと首を振る。危難のなかにおいて、なにより優先すべきは生き延びる術を考えることだ。本当に己を生かすために命を賭した者がいるのなら、尚の事だろう。
闇のなかで目立つ髪や肌を、ウェズリーは荒屋の片隅に溜まっていた汚泥を塗ってカモフラージュする。すでに全身は腐蝕した体液で汚れていたし、感染症のリスクを考慮するほうが滑稽な状況だった。
ウェズリーは潜伏していた荒屋から出て、影の中を伝いながら移動を開始する。街の構造はこれまでの捜索でおおよそ頭に入っていた。大通りや広間を避けて最短で街の外へ脱出するには、細い路地と廃屋のなかを突っ切るのが最善と彼は判断する。
巧みに遮蔽物に身を隠しながら、ウェズリーは慎重な足取りで暴徒たちをやり過ごしていく。時にどうしても排除せねばならない見張りの姿もあったが、彼が手にした得物に掛かれば造作もない事だった。
松明を掲げて周囲を哨戒していた三名の暴徒の内の二人を、ウェズリーは消音器付きの拳銃で即座に無力化した。何が起きたのかわからずに動揺する残る一人の男の脚を撃ち抜いた彼は、地面に転がった男の手斧を蹴り飛ばしてから問うた。
「この周囲にお前たちの仲間は何人居る? 答えれば命までは奪わん」
「……ひ、ひい……っ。助けてくれ……! ううう、この辺は、三十人くらいで周ってる……他の地区のことはわからねえ……」
傷口を押さえて呻く男の言葉に嘘はないように思えた。他の二人も戦意喪失している事を確かめたウェズリーは、先を急ぐ。
可能な限り戦闘を避けようとすれば、徒に時間を浪費する上に状況の悪化を招く恐れもあった。ウェズリーは手持ちの得物を改めて確認する。
照準器付と消音器付の自動小型拳銃が二挺と、予備弾薬。いずれもこの世界に存在するいずれの武器とも様相が違う代物だ。しかし、それはウェズリーの手に良く馴染み、呼吸するように扱うことが出来た。懐中時計の文字盤を覗き込んだ時と同様に、それらは古く朧気な記憶を彼の脳裏に想起させる。
予定通り、ウェズリーは想定していた逃走経路を辿っての脱出を試みる。行く手を阻む暴徒とかち合う恐れはあったが、唐突に取り囲まれでもしなければ切り抜けられる公算は高いと彼は判断した。
迂回路のない河の橋に差し掛かったウェズリーは、橋上に屯する暴徒たち目掛けて一気に距離を詰めていく。数は六名。最も手前にいた二名の脚を照準器を覗いて狙い撃つと、こちらに気がついたもう一名にも発砲する。
今度の暴徒は血気盛んなようだ。倒れた男の一人が、地に崩れながらもクロスボウを構えて此方に狙いを定めた。ウェズリーは、その男の頭部に目掛けて躊躇なく引き金を引く。死と同時に男が放った短矢は、狙いを逸れて明後日の方向に消えていった。
「悪く思うな」
死者にそう告げながら、ウェズリーは襲撃に気がついて殺到してきた残り三名の暴徒の動きを止めていく。
考え方の相違こそあれ、暴徒もまた同じ呪いを受けた身の上だと思えば、ウェズリーは命まで奪うことを良しとはしなかった。止むを得ず死を与えることになっても、罪悪感こそ覚えないが、共に生き延びることが出来なかった結末に一抹の淋しさを抱く。
差し当たっての脅威を排除したウェズリーは、街の外へと抜け出していく。腐蝕の進む肉体は先の強行軍で悲鳴を上げていたが、それを気に留めている暇はない。
生きる為ならば、どこまでも足掻く。例え身体がどうなろうと、ここで死ぬわけにはいかないのだから。
大成功
🔵🔵🔵
誘名・櫻宵
呪を糧に生命に寄生する蛆虫共も
そうしなきゃ生きられないこんな街も
都合がいいだけの「神」だって
丸ごと否定し壊すわ
先ずはここから脱出よ
囲まれたら終わりね
街の地形を観察し地形や物を利用し
いざと言う時の仕掛けを作りつつ身を隠し進む
不意打ち的に暴徒を少しずつ斬る…にも限界はある
罠も利用して無力なら工夫しなきゃ
動くなら暗がり
好戦的に挑むでなく
か弱い兎が逃れるように駆け誘い込む
後、身を潜めて上に移動よ
脱いだ着物を着せた別の死体を私に見立て転がして
上から物を落として火を放ち纏めて燃やしたい
…死体の脂って意外とよく燃えるの
混乱を起こし斬り倒し
深追いはせず離脱
死ぬ事はできない
私の禍津神との約束を胸に
抗う
諦めないわ
●
暴徒と化した群衆が巻き起こす狂乱を遠巻きにしながら、櫻宵は闇に紛れて街を往く。
つくづく醜い街だと彼は思う。呪いを糧に、弱き者に寄生する有象無象たち。真に呪われているのは、人の心のほうだ。死肉を食らって生きる獣や虫のほうが、よほど生命に対して敬意を払っているだろう。
あらかじめ巡っていたおかげで、街の地形を一通り理解していたのが幸いだった。櫻宵が想定している脱出経路は細い路地が多く、仮に大勢に追われたとしても単独行動の自分の方に地の利があると睨んでいた。
――とは言え、囲まれたら終わりね。なるべく追っ手の足を遅らせる必要があるわ。
すでに、櫻宵を追跡していると思しき一群が路地を縫って近づいてきているようだった。
櫻宵は路地に転がっていた廃材を利用し、簡易的な罠を作る。殺傷力のあるような仕掛けを作る余裕はないため、せいぜい足止め程度の効果しか期待できないが、追っ手が警戒心を抱いて追跡の速度が遅れれば、それで構わなかった。
ところが、暴徒たちの魔の手が迫るのは後ろからだけではないらしい。人一人がやっと通れる程度の狭い丁字路に差し掛かると、辺りを見回って不信心者狩りを行う連中に櫻宵は行く手を塞がれたのだった。
――斬れる? いいえ、斬るのよ。
曖昧な記憶を辿れども、腰に佩いた得物の扱い方を思い出すことは出来なかった。だが一度鞘から刃を抜けば、櫻宵の背筋に冷たく澄んだ感覚がぞっと駆け上った。
刀の持ち方も構え方も正しいかわからないが、櫻宵は丁字路で周辺警戒している暴徒に肉薄すると、その身体を無造作に切り上げた。
暗闇のなかでもそれとわかる血飛沫が櫻宵と路地を汚す。音もなく崩れ落ちる暴徒の男の姿が、彼の目には奇妙なスローモーションで映った。
その場にいた暴徒は一人ではなく、二人だ。即座に鉈を振りかざして襲いかかってきたもう一人を、櫻宵は返す刀で迎え撃つ。暴徒たちはいとも呆気なく命を散らして崩れ落ちた。
「……私の物みたいね、どうやら」
刃の血汚れを拭った櫻宵は、凛然とした佇まいの得物を鞘に収めて息をつく。記憶はどうしようもなく朧気で、けれど、身に染み付いた動きだけは裏切らない。この感覚に従っていれば、自分は死ぬことはない……櫻宵はそう理解しつつあった。
さりとて、危険はまだ去っていないようだ。さして足止めを食らったわけではなかったが、驚くほど近くにまで追っ手が迫っている様子だった。それも、一人や二人ではない。
――死ぬ事はできない。せいぜい、最期まで抗わせて貰うわ。それが罪深いことだとしてもね。
一人の亡骸を近くの暗がりに隠した櫻宵は、もうひとりの死体に己の着物を羽織らせて壁際に座らせる。暗がりのなかで見れば、疲れ果てて逃亡を諦めた不信心者に見えなくもないだろう。
丁字路を見下ろせる屋根上に登った櫻宵は、ほどなくして集ってきた暴徒たちを見下ろす。人数は、およそ五名ほどだろうか。松明を手にしている連中がいるのは、好都合だった。
暴徒たちが座らせていた死体の検分を始めたタイミングを見計らい、櫻宵は斬り殺した暴徒から奪っていた松明に点火して、それを丁字路に放り投げた。
「知ってる? 死体の脂って意外とよく燃えるの」
あらかじめ廃材を狭い丁字路に並べておいたお陰で、死体を燃料に燃え上がった炎は瞬く間に延焼し、追っ手の暴徒たちを炎に巻き込んだ。
鼻をつくはずの異臭は、とっくに嗅覚を失っている櫻宵には感じられない。もっとも、そんなものを好んで嗅ぎたいとは彼も思ってはいなかったが。
騒動に気がついて他の暴徒が集まってくる前に、櫻宵はその場を後にする。
生き延びるためには、まだ危険を冒し、切り抜く必要があるだろう。闇夜を駆けながら、櫻宵は胸の奥底に眠っている形も定かではない"約束"を強く想う。
その約束を果たすために、この醜く呪われた街を、都合良く生み出された『神』を、丸ごと否定して破壊する。その誓いが櫻宵を前に進める力となる。
大成功
🔵🔵🔵
六道・橘
※アドリブ・グロ歓迎
―神がいないこの世界で兄は死んだ
そう思い込んでいた
暴動を知り嗤いが込みあげる
違う
こんな愚者に喰われる兄ではない
きっと上手に脱出したんだわ
わたしも絶対に外に出る
逢いに行くわ
兄さん
刀で髪を削ぎ
更に肩まで腕を叩き斬り隻腕に
呪い進み蛆湧く黒肉を千切ってふりかける
道ばたに倒れ死者の振りでやり過ごし
欲を掻いた奴が近づいてきたら刀で頸動脈に斬りつける
一瞬の悲鳴と派手な流血を大群へ見せつけ
「不信心者は死なないと高をくくっていたようだけど残念ね
わたしに関わった此奴はもう死ぬわ―すぐに、死ぬのよ」
「どけ!呪いの伝染を受けろ!」
男を投げつけ割れた道を刀を振り回しながら村の外目掛けて走る
別の団に捕まりそうなら先んじて死体の振りから騙し討ちを繰り返す
不殺や救済なんて施しは圧倒的な力を持つからできること
わたしには無理な話
だから殺しも厭わない
頭を使うのも倫理観のかなぐり捨ても兄さんの真似事
あなたに釣り合いたいのよ、兄さん
まるで此処は煉獄
兄を信じず自死した『俺』が転生し罪を償うに相応しい場所だ
●
暗き街の方々で輝く炎の群れ。噎せ返る腐臭に人体が焼け焦げていく異臭が混じりだす。街の広場では、神の不在を知って騒ぎ立てていた者たちが捕らえられ、火刑に処されていた。
業火の爆ぜる音に混じって響き渡る断末魔に、橘の嗤い声はかき消された。
愉快な光景だった。神がいないこの世界で橘の兄は死んだと思い込んでいたが、そうではない。この愚か者の群れに迎合することなく、ましてや野垂れ死ぬこともなく、"彼"の兄は街を立ち去ったのだろう。それどころか、慧眼を持つ兄はこの街に立ち寄ることすらなかったのかもしれない。
祀る者を持たぬ街の片隅で、橘は髪を刃で削いでいく。すべきことは理解していた。この街を脱出し、兄の行方を追うこと。そのためには、狂った暴徒どもの追跡から逃れる必要がある。
生憎と、橘は戦の心得も無ければ危機を脱する発想も持ち合わせていなかった。出来ることは、兄の模倣だけ。兄の影を追い求め、その足跡に足を重ねながら歩むことだけ。
そのために必要な唯一のオリジナリティは、覚悟のみ。苦痛を受け入れ、己を抑え込む覚悟だけが、橘が扱える唯一の武器だ。
「……!!!」
腐蝕して脆くなっているとはいえ、左腕一本で右腕を切り落とすのは至難を極めた。何度か切断を試みてみたが、生黄色い膿を含んで膨張しきった皮と肉を無意味に傷つけることしか出来なかった。
ならばと、橘は角度を付けて壁に突き立てた刀を腋に挟んだ。布を巻いた木片を噛みしめると、何度も何度も体重をかけて、上腕骨頭と肩甲骨の繋ぎ目に刃を滑らせ続けた。
「わたしも絶対に外に出る」
「逢いに行くわ」
「兄さん」「わたしも絶対に外に出る」
「逢いに行くわ」
「兄さん」「わたしも絶対に外に出る」「逢いに行くわ」
「兄さん」「わたしも絶対に外に出る」
「逢いに行くわ」「兄さん」
その言葉を神へ捧ぐ祈りの代わりとして片腕を切り落とした橘は、蛆蟲の蠢く己の分身を愛しげに抱き、血と涙と洟水でぐちゃぐちゃに汚れきった相貌で通りを進む。
誰か人の気配があれば、道端に倒れて死者のフリをした。側に転がる断たれた腕と、腐肉を漁る蟲や鼠どもが群がる娘を、暴徒は気にも止めなかった。なかには身包みを剥ごうとわざわざ群衆から離れて戻ってくる浅ましい者もいたが、そいつらを橘は何の良心の呵責もなく切り捨てた。
その繰り返しだ。わざわざ路地裏をこそこそと隠れながら逃げる必要もない。むしろ、大通りを闊歩する暴徒どもの目のほうが節穴だと言えよう。不信心者が堂々と通りを歩いているとは、彼らは夢にも思っていないのだ。
例え見つかったとしても、一切の恐れも迷いも抱いていない橘にとってそれは危機ではなかった。
此処は煉獄なのだ。兄を信じず、自死を選んだ『俺』が転生し、罪を償うために用意された浄罪の箱庭。なればこそ、苦痛も、危難も、橘にとっては受け入れるべき試練であって、逃げるべき事柄ではない。
「かっ、はぁあ……っ!!」
生死を確かめようと近寄ってきた注意深い暴徒の喉笛を切り裂いた橘は、突然の出来事に混乱をきたす群衆に向けて笑みを浮かべた。
「呪われさえしなければ死なない……そんな風に高を括っていたのでしょうけど、残念ね。死ぬわ。あなたも、あなたも、ここにいる全員が――すぐに、死ぬのよ」
血まみれの亡骸を暴徒たちの前に放った橘は、血を滴らせる刀を振り回しながら並み居る者どもを睨みつける。狂気に満ちたその姿に恐れ慄く暴徒たちに、橘が「伝染れ、伝染れ、伝染れ、我が呪いよ伝染れ」と呪詛を口にすれば、彼らはそれ以上何も出来ずに後退りをするばかりであった。
――わたしに出来ることは、何もない。兄さん、あなたに釣り合いたいと願っているけれど、わたしに出来ることは本当に、何も……。
不殺も、救済も、圧倒的な力や才覚を持つ者だけが行える施しだ。今の橘に出来ることは、ただ己と他者が流す血の道の上を歩むだけ。その道が苦痛に満ちた道程だとしても、"彼"はその道を歩む他に生きる術を持たないのだ。
成功
🔵🔵🔴
シキ・ジルモント
こうなっては説得の余地はなさそうだ
その場を離れたいが、腐敗が進んだ脚を引き摺って逃げ切るのは難しいか
即座に狼に姿を変えて四足で街の外へ向けて駆け出す
これなら後ろ足一本を庇いながらでも、残りの脚で人の姿よりは速く走れる
暴徒が追ってくるなら、追わせたまま付近の薄暗い路地や建物の中へ逃げ込んで誘導
人の姿に戻り、追ってきた暴徒にピンを抜いたスタングレネードを放る
暗所や室内なら十分な効果が見込めるだろう
物陰にしゃがみ、目を閉じ耳をふさいで数秒後
暴徒が目潰しや失神で動きを止めたら飛び出し銃を抜いて反撃を試みる
一人ずつ確実に狙いを付け、命中率を上げるため胴体を狙い引き金を引き暴徒の無力化をはかる
“的”が動かないなら更に当てやすい
動きを止めた上で銃撃まで重ねるのは、紛れもなく恐怖からの行動
生き延びるのだと自分に言い聞かせ続けなければ、武器を握る手まで震えそうになる
…とにかく、死ぬわけにはいかない
余計な事は考えず、成功したら再び狼に変身して外を目指す
暴徒に見つかれば再度誘導を行い、グレネードと銃で応戦する
●
街は狂乱の渦に巻き込まれているようだ。暴徒たちは神に捧げる罪人を求めて見境なく人狩りをしている。
まともに動かない脚を引きずって暗闇に身を潜めていたシキは、しかし、一見無秩序に見える暴徒たちが明確に自分をターゲットにしていることに気がついた。
「ただ神の不在を唱えていた者よりも、それを示した俺の首を求めるわけか。当然と言えば当然だが……こうなっては、説得の余地はなさそうだ」
差し当たっての問題は、腐蝕が進んでもはや使い物にならない片脚だ。これは狼の姿になれば他の足でカバーできるが、『人狼の男』が神の不在を説いて周っていた事実を知られている以上、完全に身を隠すことは難しいとシキは判断した。
――はなから平穏無事に危機を脱出できるとは思っていない。あとは、出来る限りのことをするだけだ。
暴徒たちの包囲網を脱出する計画を頭の中で組み立てたシキは、狼の姿に変身すると、狂気と暴力が渦巻く爛れた街を駆け出した。
シキの脱出劇は、彼が計算していた通り序盤は難なく進行していった。脚を引きずった狼の姿を見ても、それを人狼の男だと瞬時に見抜く暴徒はいなかったのである。
しかし、観察眼に優れて知恵が回る者も暴徒のなかにいるのだろう。程なくして、暴徒たちの一群が明確に己の逃走を阻もうと動いていることにシキは気がついた。封鎖を突破するためには戦いは避けられそうにない。
――囲まれる事態だけは避けねばなるまい。ならば、少数ずつ切り崩すまで。
シキはそのような発想と覚悟が浮かんでくることに、少なからず驚きを覚える。死への恐怖で身体は震えているというのに、己の中で眠る見えない何かが、彼の背中を押して導いているような感覚があった。
大まかな暴徒たちの陣容を確認したシキは、最も手薄と推測した地点でわざと姿を露わにする。
警戒に当たっていた暴徒たちが、俄に騒ぎ立てて殺到してきた。やはり狼に変身したシキのことを探していたのだ。
身体を動かす苦痛に耐えながら、シキは最後の力を振り絞って駆け出した。農具を突き立て、鈍器で殴り掛かる暴徒の合間を掻い潜り、狭い裏路地に逃げ込んだ彼は、追走してくる暴徒たちが十分に密集してくるのを待ってから、人型に姿を戻した。
「……!!?」
直後、眩い閃光と轟音が狭い路地を圧するように炸裂する。シキが投擲したスタングレネードの効果だった。
室内ほどではないが、狭く暗い裏路地で放たれた強烈な光と音は、無防備な暴徒たちを無力化するには十分な効果を発揮した。
投擲直後に物陰に隠れていたシキは、懐にしまっていた拳銃を流れるような所作で取り出すと、闇の中でもがいている暴徒に狙いを定めて引き金を絞った。
再びの閃光と炸裂音に、何が起きているのかわからない暴徒たちがパニックを起こす。シキは追撃してきた暴徒三名の腹部を正確に射抜くと、残りの後続は無視し、今度は進行方向から回り込んできた連中に銃口を向けた。
スタングレネードで動きを止めた以上、銃撃して暴徒を倒す必要はないはずだ。だが、恐怖で心身を支配されているにも関わらず、彼は戦いを止めることが出来なかった。
――生き延びるためだ。何としてでも、生き延びる……!
気がつけば、シキの周りには銃弾を受けて呻いている者や、戦意喪失をして腰を抜かしている者だけが残されていた。震えるほどの死への恐怖を生への執着で押さえつけたシキは、暴徒たちの包囲網を突破することに成功したのだ。
再び狼の姿に変じたシキは、真っ直ぐに街の外へと駆け抜けていった。
死ぬわけにはいかない。そのためには、どのような手段でも用いる。
追いかける者。行く手を阻む者。シキの決意を挫く者は、もういなかった。
大成功
🔵🔵🔵
眞清水・湧
…おや、我と人格が交代したか
無理もない、湧は人を始末することなど出来ぬからな
このユーならば、邪魔者には容赦せぬ
…とはいえ、我も非力な娘には違いないゆえ、厳しい脱出になるであろう
まず入り組んだ裏路地を、目当ての場所へ向かう
敵に見つかれば命乞い、と見せかけて大事に抱えていた少女の亡骸を投げつけ、意表を突いて隠し持っていたナイフで刺し殺す
…全く、手間を取らせおって
亡骸はただの亡骸、少女も許してくれるであろうよ
梯子を見つけたら、屋根の上へ登ろう
梯子は蹴倒し、後から来る連中を地面に叩きつけてやる
屋根伝いに移動し、追手は廃屋の朽ちかけた屋根に誘い込む
我は軽いゆえ通れるが、大勢で乗れば崩れ落ちるであろう
愚か者共の悲鳴は心地よいな
最終的に川へ出られれば、後は飛び込むだけじゃ
無事に街の外まで流れ着けばよし、どのみち捕まれば死ぬのじゃから危険を顧みる必要もない
…しかし不思議じゃな、我は一体何なのか?
ただの娘が現実逃避に作った人格にしては、あまりに恐れを知らぬ気もするが…
街を出られたら、ゆっくり考えるとするか
●
腐臭満ちる裏路地を通って逃避行を続けていた湧は、荒れた石畳に躓いて転倒したはずみで、掛けていた眼鏡を落としてしまう。腐蝕して上手く動かせない手でそれを拾い上げた瞬間、彼女のなかでなにかが切り替わった。
「……おや、我と人格が交代したか」
掛け直そうとした眼鏡を懐にしまった湧は、湧ではなくなっていた。
――随分と追い詰められた状況のようだな。湧ではこの修羅場は潜り抜けられまい。このユーならば、有象無象ども相手に遅れを取ることもなかろうが……。
極限状態に置かれた湧の精神は、彼女には対処しきれない事態を打破するために、別人格のユーとスイッチする選択をしたのだ。
すでにユーの背後からは数名の暴徒が迫っていた。彼らはユーの姿を見つけると、口角から泡を飛ばして何言か叫びながら襲いかかってくる。
「や、やめてください……! 私、なにもしていません! 酷いこと、しないで……!」
ユーがか弱い娘を演じて命乞いをすると、ごく僅かに暴徒たちの表情に反応が見えた。その期を捉え、ユーは大切そうに腕に抱えていたもの――湧に生きる希望を与えたあの少女の亡骸だ――を、何の躊躇もなく暴徒たちに投げつけた。
すでに腐敗しきって溶解しかけていた屍肉を浴びた暴徒たちは、たまらず襲撃の勢いをくじかれる。その隙を突いたユーは、一足飛びで暴徒の先頭に肉薄すると、所持していたナイフで先頭の男の胸を刺し貫いた。
暗色の裏路地に、鮮血が妖しげな色彩を添える。虚を突かれた後続の暴徒は、あんぐりと口を開けてその様子を眺めるばかりだ。ハッと我に返ったときには、もう遅い。ユーは躊躇なく二人目のその男の頸動脈を掻き切っていた。
「……全く、手間を取らせおって」
思わぬ反撃に恐慌をきたした残りの連中は、悲鳴を上げながら退散していった。ユーは逃げた連中の背中と、地面に散らばった少女の残骸を一瞥すると、顔色一つ変えずにその場を後にする。
亡骸は、所詮はただの亡骸だ。そこに魂はなく、意味も価値もない。あの少女であれば、ユーの……いや、湧の命を救う一助となったことを、きっと許してくれるだろう。彼女はそう確信する。
先程の襲撃は無事に撃退することは出来たが、それで安心するわけにはいかなかった。案の定、逃げた連中からユーの情報が伝わって、彼女を狩り殺そうと大群が押し寄せつつあった。
ユーは路地に立て掛けられていたはしごを登って、屋根伝いに逃走を図る。石畳以上に手入れのされていない屋根の上を走るのは苦労するが、それは暴徒たちにとっても条件は同じだ。
「いたぞ、屋根の上だ! 絶対に逃がすな!」
「ちっ、思ったより早い。まあ構わん……好きに追ってくるがいい」
ユーの逃走経路に気がついた暴徒が続々と屋根伝いに追いかけてくる。男女の体力差もあり、その距離は徐々に詰まってくるが、ユーの表情に焦りの色はない。
とうとう暴徒の一群がユーのすぐ後ろの建物にまで迫ってきたところで、彼女は足を止めた。彼女の目の前には建物はなく、眼下には腐敗した屍体を町の外に運ぶための運河が流れていた。
「とうとう追い詰めたぞ、クソガキめ。覚悟しろよ」
「ふん……」
ユーを追い詰めた暴徒たちは、仲間を殺されたことでひどく興奮していた。剥き出しの憎悪と殺意に突き動かされるまま、ユーに殺到してくる。
だが、次の瞬間、彼らの姿が一瞬で消え失せた。
体重の軽いユー一人ならともかく、ろくに補修もされずに脆くなっていた荒屋の屋根が、暴徒たちの体重を支えきれずに崩壊したのだ。ごく短い悲鳴が轟音に混じって響き、そしてすぐに辺りは静寂に包まれた。
「愚か者共の悲鳴は心地よいな」
ユーは暴徒たちの生死には気も止めず、汚染された運河に飛び込んだ。もとより、彼女が目指していた逃走経路は川を下ることだったのだ。
汚濁した川を泳ぎながら、ユーは物思いに耽る。
ただの娘が現実逃避に作った人格にしては、ユーという存在はあまりに無情であまりに恐れを知らなすぎる。
――我は一体何なのか?
考えども、その答えは見つからない。
ユーは、意識を逃走に集中させる。贅沢に思索に耽るのは、この危難を脱してからでも遅くはあるまい。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『崩呪の遊星シュヴェルツェ』
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POW : 呪殺
【雨霰と降り注ぐ多種多様な呪い】が命中した対象に対し、高威力高命中の【収束した呪いの破壊光線】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 呪狂
レベル×5本の【滅殺・崩壊・不死殺しの呪詛が籠った呪】属性の【ホーミングする呪いの矢】を放つ。
WIZ : 呪天
【中央の主星と周囲の衛星】から【様々な呪いを籠めたどす黒い呪いの波動】を放ち、【爆発、凍結、感電、石化、衰弱などにより】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:夏目零一
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「死之宮・謡」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
猟兵たちが呪いに爛れた街を脱出した途端、眼の前の景色が一変した。
黒い炎が見せる幻影が晴れ、本来の常闇の燎原の光景へと戻ったのだ。
文字通り絶望的な悪夢から目が覚めた猟兵たちは、即座に自己を取り戻す。
腐蝕して崩れかけていたはずの肉体は、元の頑健な姿のままだ。暴力に対して死にもの狂いで抗わねばならなかった精神は、戦士としての揺るぎない柱に支えられている。
彼らの眼前には、この絶望を統べる者の姿があった。
狂える炎を纏った、異形のオブリビオンである。
そのオブリビオンが如何なる由縁を持つ者なのかは、誰にもわからない。絶望の幻影の中で猟兵たちが目撃した、かつて存在していた腐蝕の呪いを生み出した存在なのか、それも定かではない。
確かなことは、眼の前の脅威を取り除かねば、進むべき道にも帰るべき場所にも到達できないということだけだ。
真の戦いの始まりは、これからなのだ。
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●概要
第三章では、立ち塞がる「狂えるオブリビオン」を撃破する。
このオブリビオンは視覚や聴覚や嗅覚を持たず、「猟兵が抱く恐怖や絶望の感情」を察知して優先的に攻撃をしてくる特徴がある。
このオブリビオンが使用する呪いの力には以下のような性質を持つ。
・POW……肉体の腐蝕をもたらす呪詛を撒き散らし、命中した相手の腐蝕を進行させる光線を放つ。
・SPD……命中すると肉体の腐蝕をもたらす、追跡する呪矢を放つ。
・WIZ……対象の恐怖と絶望を増幅する波動を放ち、一時的に動きを封じ込める。
●プレイング受付開始
8月10日(水)午前8時31分以降から。
ジュジュ・ブランロジエ
真の姿を解放
『』は裏声でメボンゴの台詞
ああ、良かった!
全部幻だったんだ
実際には誰も殺してなかった
でも人を殺した感触がまだ手に残ってるような気がする
とっても嫌な気分
とんでもない悪夢を見せてくれたお返しをしなくちゃね!
まず浄化の力と聖属性付与したオーラ防御を展開
これは保険
追跡してくるなら逆に誘導しやすいかも
風属性付与した衝撃波(メボンゴから出る)で矢の勢い弱め動きを見切り早業軽業で身を躱す
追ってきた矢をUCの鏡で受け止め反撃
呪詛返しで意趣返し
『倍返しだ!』
少し体に受けても呪詛耐性で耐える
酷くなる前に倒すよ!
なんだか呪いの権化みたいなやつだね
『メボンゴもやっつける!』
浄化+聖属性付与した衝撃波で攻撃
ウェズリー・ギムレット
予め聞いてはいたとは言え、まやかしに囚われるとは…
どんなに心を強く持とうとも抗えない相手がいるのは恐ろしいが
全てを忘れても尚、心に残る絆がある事も確かだ
懐中時計を見るまでもない
アリスラビリンスで出逢った無二の相棒
私の"扉"へと私を送り出す為
この時計を託し命を賭した、人型の時計ウサギ
君との記憶がある限り、私は恐れに負けはしまい
奇妙な姿の敵には幾度も遭遇したが…これは天体か?
いや、この手の敵の成り立ちなど考えても無意味だろう
立ち塞がるならば、屠るまで
覇気とオーラ防御を纏いUC発動かつ早業で先制攻撃
スナイパーの技術で愛銃を乱れ撃ち
生じた衝撃波と弾幕で呪天との相殺も狙おう
攻撃は極力回避したい所だが
傷も己の力になると思えば笑みすら湧くさ
UCの回復が追いつかねば真の姿解放
20代半ば頃の精気に満ちた青年時の姿へ
視覚等がないのなら不意打ち等も望めまい
ならば真っ向から盛大な一撃をお見舞いしてやろう
生命力吸収付の呪殺弾
とっておきをくれてやる
自身が呪い殺されるのはどんな心地だろうね
敵に心がなさそうなのが残念だ
眞清水・湧
全てを思い出したら、ほっとしました
今までのことは幻…あの少女も、きっと誰かに助けて欲しいという私の心が見せた幻影でしょう
ですが、それでも…例え実在しなかったとしても、私に希望を持たせてくれた、亡骸を利用してしまったあの子の為に何かしてあげたいと思うのは、おかしいことではない筈です
だからまず、元凶を断ちます…あの子の復讐の為に
恐れる要素はもう何もありません
悠々と近づいて、私の位置が解らないなら、コンコン叩いて触覚で教えてあげます
敵の攻撃を全て受け、別に恐怖することもなく、ユーベルコードで全身を再構成して反撃を始めます
…これをやると寿命を使ってしまうのですが、正面から呪いを打ち破る方が復讐らしい気がするので…
硝子の剣で斬りつけます
これは呪いで苦しんだ、痛ましいあの子の分
これはお母さんの言葉をずっと忘れずにいた、健気なあの子の分
これは騙されて報われなかった、優しいあの子の分
これは死後も争いに巻き込まれた、可哀想なあの子の分です…
戦いが終わったら、記憶の中の少女や呪い人達を弔おうと考えています
シキ・ジルモント
脚が治っている?…腐敗も痛みも全て幻影だったのか
記憶に残る痛みを振り払い、即座にオブリビオンの討伐に移る
真の姿へ(月光に似た淡い光を纏う。犬歯が牙のように変化、瞳は夜の獣のように鋭く光る)
更にユーベルコードを発動
解放した獣性が齎す過剰な興奮を宥めつつ、二重の強化で速度を引き上げ呪矢の回避を試みる
矢が追尾するならそのまま敵に接近
ぎりぎりまで引き付けた所で敵を飛び越え、敵の陰に隠れて奴自身を盾としてやり過ごしたい
矢の処理の成否に関わらず、接近した好機に零距離射撃の距離で射撃を見舞う
この距離なら外さない
幻影の中では恐怖の内に取った行動だが、今は確かな戦略として引き金を引いて
強く敵を蹴り付けつつ間合いを取り、攻撃を再開する
…生きて成すべき事がある
“自身の力を他者の為に揮う”
子供の頃に戦い方を教えてくれた、今は亡き師との最後の約束だ
猟兵としての戦い、オブリビオン討伐もその一環といえる
幻影の中で持ち続けた執着は現実でも変わらない
奴の由縁も目的も分からないとしても、オブリビオンは必ず倒して、生きて帰る
六道・橘
右腕…あるの?
でも先程の興奮の儘に斬りかかる
恐れは、ある
だから進んで的になればいい
仲間の盾となるわ
…兄は、兄と似ている彼はそうやってわたしを守り戦わせた
再びの腐食で恐怖が沸きあがる
ああ、やはりわたしは力なき民のままね…
それがいい
震える足で前に出て自分の恐怖とお前殺すと叫び惹きつける
生きたいという渇望は死に瀕しなければ生まれない
UCで背中に羽根を生やし飛びかかる
お前を殺せばわたしの呪いは解けるのか
ならば殺す
殺す
兄のように頭を使う絡め手は無理
でも迷いない切っ先だけは―わたしになって手に入れた
反撃で腐食が進む度生存欲を膨らませて切り刻む
恐怖が生きる渇望を上回てっても無様に「生きたい」と再びUC使用
まだ体がある生きている
なら抗う
※
あの村では常に死の恐怖があり
わたしは兄に縋った
前世の兄は完璧
でも|俺《弟》への執着は異常
その理由が少しだけ理解できた気がする
兄は俺に縋らずにはいられなかったんだ
改めて己の拒絶の罪深さを知る
生きてここをでて
兄に似た彼に確かめよう
あなたならこの村でどう振る舞ったかしら?って
誘名・櫻宵
噫──戻ってきた
私の約束が、神様が──やっぱりこうでなくちゃ!
大丈夫よ、神斬師匠……私は立ち向かえるわ
舞い降りた師の表情に笑って、前を見る
よくも穢してくれたわね
手に馴染む刀を構えて
この腐れた呪いを断ち斬り壊すだけ
さぁ、絶望咲かせて散らせましょ
焔と共に湧き上がるのはゾクゾクするような恐怖
──私が恐れることはひとつ
愛しい神様との約束を違え隣にいられなくなる
…あなたが私以外をみること
──私の絶望はひとつ
愛しいものをこの手で殺めて喰らうこと
抗い難い誘惑に敗け愛しい人魚は血花に染まる
鈍く軋む愛祝が教えてくれる
浄華
薙ぎ払う
絶望を糧としあらゆる哀しみを呪いを喰らって
私は咲くの
立ち止まってなどいられないのよ!
●
「ああ、良かった! 本当に良かった……私、誰も殺していなかったんだ。ふふっ」
傷一つない己の手を強く握りしめたジュジュは、口の端を不敵に吊り上げて眼前のオブリビオンに笑みを向けた。
手に残る殴打の感触は未だに残っているが、その事実に安堵をする。胸に巣食う悪夢の残滓を払うために、ジュジュは己の真の力を開放してオブリビオンとの距離を詰めていく。
――お返しをしなくっちゃ。今日も一緒に戦ってくれる? メボンゴ。
ジュジュの接近に気がついたオブリビオンが狙いも不確かな呪いをばら撒いて牽制を試みるが、彼女の歩みが止まることはない。
ジュジュは片手を空中でひるがえし、見えざる浄化の障壁を築いて、己と仲間たちの被害を最小限に食い止めていく。
防壁を張るジュジュに視線で礼を示したウェズリーは、胸元に仕舞われている懐中時計の微かな重みに意識を向ける。
まやかしに囚われて全てを忘れてもなお、心に残る絆があることがわかった。恐れが皆無と言えば嘘になるが、その事実があれば前へと進み続けることが出来る。
――安心してくれ。君との記憶がある限り、私は屈しない。
降り注ぐ呪いの直撃を巧みに回避しながら、ウェズリーは懐から抜いた拳銃を素早く構え、引き金を引いていく。奇怪な姿をしたオブリビオンの急所は定かではないため、まずは弱点を探る意味も込めて大量の銃弾をお見舞いしていく。
天体を思わせる姿をしたオブリビオンに着弾すると、表面に細かなヒビが入ったのをウェズリーは認めた。そして、血を思わす暗い体液が滲み出す様を目にして眉をひそめる。
あれもまた、生物なのだろうか。そうであれば、オブリビオンもまた私と同じように恐怖を覚えるのだろうか……橘は構えた刀の柄を握りしめ直す。
あたかも幻肢痛の逆のように、未だに右腕に残る痛みに脂汗が滲み出てくる。猟兵としての力を取り戻した今となっても、恐怖を払拭したとは言い難い。
だが、それは却って好都合だと橘は覚悟を決める。私が仲間の盾となり、敵の攻撃を引き受ければ、それだけ皆は戦いやすくなるだろう……と。
橘の恐怖に反応し、オブリビオンが呪いの矢を放つ。致命傷を避けつつそれらを受け止めた橘は、苦痛に表情を歪めながらも相手の懐に飛び込むことに成功する。
止めていた息を強く吐き出すなり、橘は冷たく輝く刃でオブリビオンの体躯を切り裂いた。
硬質な金属音が響き渡り、火花と血煙が宙で花開く。
戦場の空気を五感で受け止めた櫻宵は、絶望の幻のなかから戻ってきた現実感を得て表情を幽かに緩める。
舞い降りた師の姿、その柔和な顔を目にし、つい先程まで腐蝕に囚われていた櫻宵の四肢に力がみなぎってくる。
――私の約束。私の神様。噫、やっぱりこうでなくちゃ……!
敵の攻撃を防ぐ仲間たちと足並みを揃え、地を蹴り跳躍した櫻宵は大上段に構えた愛刀を渾身の力でオブリビオンに振り下ろした。
大雑把にも見える大胆な一刀はすなわち、未だ櫻宵の足首に絡みつく幻影を断ち切るための儀式だ。
「よくも穢してくれたわね」
櫻宵はオブリビオンにそう囁くと、斬撃の確かな手応えに満足を覚えつつ、素早く飛び退って反撃に備えた。
櫻宵と立ち代わりオブリビオンに肉薄したシキは、降り注ぐ呪いを回避しながら拳銃を構える。
あれほど激烈な苦痛を齎していた腐蝕も全て幻影と理解した今、シキの戦意を押し留めるものなどありはしなかった。
月光を思わす凛とした光を纏ったシキは、獣の如く戦場を駆けながらオブリビオンの体躯目掛けて銃弾を放っていく。その身を獣化せしめる力は敵の動きを翻弄し、放たれる追尾の矢すら避けてみせる。
二度、三度とオブリビオンの攻撃を避けたシキは、息つく暇も見せずに立ち位置を変えて、更なる銃撃を見舞った。反動で心身を焦がす獣性を強い意志で捻じ伏せながら、シキは眼の前の敵を撃滅するために再び地を蹴った。
繰り広げられる戦の情景は、湧の心に新たな恐れを齎すには足らぬものだった。
全ては幻だった。あの少女も、腐りゆく己の身も。それでも湧の心のなかには、今でも幻影で見聞きした記憶が鮮烈な実体感をもって残っている。
――復讐をしましょう。私自身ではなく、あの子の為に。
あの少女が例え実在する人物ではかったとしても、それは湧にとって大した問題ではない。あの子が湧に希望を与え、そして彼女を利用した事実は確かな現実なのだ。
オブリビオンの攻撃の隙を突いて間合いに踏み込んだ湧は、指先から具現化させた硝子の剣を振るい、オブリビオンの外周を巡る天体を打ち砕いていく。彼女の揺るぎない決意が、復讐という名の裁きを下していく。
執拗に追跡してくる呪矢は確かに厄介なものだが、なればこそ対処しやすい一手だとジュジュは判断する。
「おいで、こっちだよ!」
禍々しい矢の雨がこちらに向かってくることを確かめたジュジュは、操り人形のメボンゴに命を吹き込んで軽やかにステップを踏む。
一見すれば、遊んでいるかのように見える所作。だが、操られたウサギの人形から放たれた衝撃波が呪矢の威力を弱め、舞い踊るかのような体捌きでジュジュはそれらの攻撃を避けていく。
『倍返しだ!』
可愛らしい声でメボンゴの代わりにジュジュがセリフを叫べば、避けたはずの呪矢が鏃の向きを反転させた。呪いを返したジュジュが放った矢は、狙い違わずオブリビオンの体躯に腐蝕を齎してみせる。
血も流せば腐蝕もするのか、とウェズリーは感心を覚える。最も、立ち塞がる脅威などこの手で屠るのみ。相手の成り立ちも正体も考慮するに値しないものだ、と彼はかぶりを振る。
確実にこちらを腐蝕させるオブリビオンの能力は油断ならず、すでにウェズリーの身体も腐蝕が進んでいるが、負傷も力に変えるのが猟兵の業ならば、それを利用するまでだ。
若かりし頃の力を引き出したウェズリーは口元に微かな笑みを浮かべ、迫り来る攻撃を銃弾で弾き返し、放たれた波動を衝撃波で相殺していく。それらは守りのみならず、反攻の一手でもある。新たな銃創をオブリビオンの体躯に刻み込みながら、ウェズリーは心中でつぶやく。
命を賭して私を送り出した者が、きっと今でも私を見守ってくれている。ならば、恥ずかしい戦いは見せられまい――と。
恐れることなくオブリビオンと相対する仲間たちの背を頼もしく思いながら、腐蝕を受ける橘は湧き出る己の恐怖とも戦っていた。
端から、兄のように搦め手を用いて戦うことなど出来やしない。猟兵とて、自分は力なき民の一人に過ぎないと橘は自嘲する。だが、貪欲な生存欲と恐怖を受け入れる心は、他でもない己の武器だということも自覚していた。
――殺す。殺す。殺す。お前を殺し、わたしの呪いを解くために……殺す。
腕が、足が、腹が、呪詛を受けて醜く腐り落ちていく。それも構わずに橘は怯えた身体に鞭を打ってオブリビオンに接敵すると、白刃を閃かせて何度も斬撃を繰り出してみせた。
橘の剥き出しの恐怖心につられて、オブリビオンが反撃の矢を放つ。それに貫かれた橘の表情が歪む。苦痛の歪みではない。己の思惑通りに事態が進むことに対しての、不器用な歓喜の表現だ。
さらなる追撃に出んとしたオブリビオンを牽制したのは、櫻宵の一刀だった。焔立つ刃を振るえば、桜の花吹雪が病み爛れた戦場に淡い色彩を散らし、仲間たちに対する異形の攻撃を逸らしてみせる。
「さぁ、絶望を咲かせて散らせましょ」
内から滲み出る恐怖は隠さぬまま、櫻宵は刃を繰り出してオブリビオンの身を切り裂いていく。彼が真に恐るものは、強大な敵でも身体の腐蝕でもない。
ただ一つだけ。櫻宵が愛しく思う神様との約束を違え、隣に居られなくなることだけだ。そう、例えば――。
続く思考を櫻宵は心の奥底に留めておく。今はそのことを考えるのはよしておこう。戦場に於いて、感傷に浸るわけにはいくまい。
オブリビオンが降らす絶望と呪いを焼き払いながら、櫻宵は今再び刀を切り上げて、桜花と共に悪しき存在に相対していく。
獣化によって身体の内側に灯る命の炎が燃え盛っている感覚があった。爛々と輝くシキの瞳はあたかも俯瞰しているかのように戦場全体を捉え、風に混じる血と桜の香りのなか、迫り来る脅威を尽く躱してみせていた。
幻影のなかでは恐怖に駆られて銃を手にしていたが、いまは猟兵としての確たる信念のもとにシキは引き金を引き絞っている。
全ては眼前の敵を討ち滅ぼし、生き延びるためだ。このオブリビオンの由縁も目的もわからないが、あの絶望の街を生み出した張本人である可能性がある以上……いや、そうでなくとも、シキは研鑽し続けた己の力を迷いなく行使するつもりだった。
後方より迫る矢を振り切ったシキは、オブリビオンの背後へと跳躍して敵自身を攻撃の盾とすると、空中で身を捻り至近距離から銃弾を叩き込んでいく。
目まぐるしく戦場を駆ける仲間とは真逆に、湧のスタンスはまるで平日に街角を散歩しているかの如く物静かなものだった。
もはや一切の恐怖を抱かぬ湧はオブリビオンにとって不可視の存在に近しい。悠々と接近をし、刃を振るわれる衝撃でようやく彼女の存在に気がつくほど。
それでは困るのだ。これは復讐なのだから。
呪いをその身で受け止め、そして倍返しで裁きの刃を振り下ろす。それがあの少女のために湧が成す復讐の方法だ。
攻撃を受けて蝕む腐敗を、肉体の再構築で帳消しにしながら、湧は信念の元に刃を突き立てる。
今の自分の姿を見て、ユーはどう思うだろうか。賛同するか、それとも嗤うだろうか……。
――どちらでも構いません。これは私が決めた、私の戦いなのだから。
蟠る闇の戦場を呪いが満たしていく。
誰も彼もが腐蝕を受けて、無傷でこの地に立つ者は一人もいない。
もしかしたら、まだ私は悪夢の幻影のなかにいるのだろうか。ジュジュは、腐蝕して溶け落ちる自身の肉体を見下ろして、そんな疑念を抱く。
だが、幻影であれ現実であれ、この戦いから逃げ出すという選択肢は存在しないのだ。ジュジュは所々骨の露出した手指を繰り、相棒のメボンゴと共にオブリビオンに立ち向かう。呪いの権化である難敵だが、そのぶんお返ししてやる甲斐がある……そんな風に思って、彼女は恐怖に飲まれそうになる己の心身を奮い立たせる。
降り注ぐ呪詛の光を清浄の鏡で跳ね返したジュジュは、臆せずオブリビオンとの距離を詰めた。追撃の矢の幾つかが肉体を蝕んだが、彼女は奥歯を噛み締めて苦痛を堪える。猛攻の手は、決して緩めない。
「さあ、これからが本番ってね!」
『メボンゴもやっつける!』
蝕まれた戦場を切り裂く浄化の波濤が、オブリビオンの本体を呑み込んで盛大な亀裂をその身に走らせた。その亀裂目掛けて、ジュジュはダメ押しとばかりに再び衝撃波を叩き込んで、負わせた負傷を強引に押し広げてみせた。
砕け散ったオブリビオンの破片とドス黒い血飛沫が、戦場に降り注ぐ。それらを避けながら銃弾を装填し直したウェズリーは、オブリビオンの放った呪矢を横跳びに回避して地を転がる。
――今更、不意打ちなど望みはしない。ただ正面から撃ち合うのみだ。
すかさず体勢を整えたウェズリーは、敵が第二撃を放つよりも前に銃を構えて引き金を絞る。次々と突き刺さる銃弾の効果をいちいち確かめるつもりはない。ただ、眼前の目標が粉砕されるまで戦い続けるだけだ。
避けきれなかったオブリビオンの光線に蝕まれながらも、ウェズリーは後退などしない。最も威力を発揮できる間合いを捉えるなり、彼は生命を奪う呪殺弾をオブリビオンの中核に撃ち放った。
「自身が呪い殺されるのはどんな心地だ?」
もとより答えなど期待はしていない。言葉も、心も、きっとこの異形は持たぬだろう。ただ、苦しみ悶えるかのように全身を震わすオブリビオンを見据えながら、ウェズリーは二度目の呪いを彼の者に下した。
互いを呪い合う異質の戦場にて、橘はなぜだか古い記憶を思い出していた。
死の恐怖が常に隣り合わせで、兄に縋るしかなかった日々。同時に、兄もまた橘への異常な執着を見せていた。
――兄さん。あなたが見せた俺への執着の理由、今なら少しだけわかる気がするよ。それに、俺がした仕打ちの罪深さも。
背に広げた翼で宙へと舞い上がった橘は、そのまま急降下をしてオブリビオンへと迫る。それは自死を選んだあの瞬間を思い起こさせて、橘の心に広がる恐怖をさらに煮え立たせていく。
顔面の半分を灼いた光線の痛みに絶叫しながら、橘は両手に握りしめた刀を落下の勢いそのままに突き立てた。生きたいと願う"彼"の強い意志が、その瞬間、恐怖を屈服させた。
――生きたい。生き延びて、会いたい人がいる。会って、話したいことがあるんだ。
刃の根本まで突き刺さった刀を強引に引き抜けば、間欠泉のようにオブリビオンの体内から黒血が噴き上がる。橘の中で燃えたぎる生への渇望は刃を揮う力となって、オブリビオンが死を迎えるその瞬間まで閃き続ける。
血と膿にまみれた戦のなかで、櫻宵は鈍い疼痛を訴える己の身体に遺された祝にそっと触れた。
大丈夫。どれだけ肉体が蝕まれようと、我が身に宿るもの、我が心に宿るものは、私だけのもの。生きる術も戦う術も、全ては自分の手の中にある。
ましてや、櫻宵にとっての絶望は己の苦痛や死ではない。愛しいものをこの手で殺め喰らう絶望に比べれば、目の前で広がる地獄絵図のなんと可愛らしいことか。
「蝕んでみせなさい。私を絶望させてみせなさい」
浄華が咲き誇り、オブリビオンの体躯が削れ、崩れていく。櫻宵が刀を揮うたびに桜花が舞い、濁った汚濁は花びらを抱いた清水に押し流されて、爛れていた櫻宵の肉体に英気をもたらしていく。
「――それでも、ね? 私は止まるつもりはないわ」
身を翻した櫻宵は横薙ぎの一太刀をオブリビオン目掛けて放つ。音をも断つ撃剣だった。それは敵にとっての絶望と言えようか。彼の者の体躯を両断せしめた血桜の刃の熱に、炙られた黒血が蒸発していく。
オブリビオンの体躯はすでにボロボロに崩壊しつつあったが、未だその呪いは尽きることを知らないようだ。
シキは早鐘を打つ心臓をたしなめるように、胸元に手をやった。開放した獣性が命を喰らう音が、体内から聞こえてくるかのようだった。
無論、シキはそのことを悔いるわけでもなければ焦るわけでもなかった。両手で握りしめた拳銃を構え直し、彼は頭上より襲来する呪詛の雨を避けながらオブリビオンへと迫る。
――生きて成すべき事がある。
そう。
“自身の力を他者の為に揮う”……かつて幼き日に、亡き師と交わした最後の約束。それが、シキが命を燃やしてでも戦いに身を投じる理由だ。
それは恐怖によって蝕まれることのない、シキだけが触れられる矜持である。
「避けられるものならば、避けてみるがいい」
身を沈めて呪詛の光を躱したシキは、低い姿勢のままオブリビオンに食らいついた。外殻を破壊された核に腕を突っ込んで、銃弾が尽きるまで発砲を続ければ、オブリビオンの本体に無数のヒビが走り、崩壊が始まった。
文字通り命を削る戦いだった。この戦の果てに、この身の寿命はどれだけ失われるだろうか。遠い未来のことを思わないでもないが、いま湧の心を占めるものは、己の命のことではなかった。
呪いで苦しんだ、痛ましいあの少女。死した母の言葉を守り続け、湧に希望を与え、けれど何も報われぬまま地獄に飲み込まれてしまったあの少女のこと。
それは誰かに助けてほしかった湧の心が生んだ、幻影のなかの幻影だったのかもしれない。
けれど。
「けれど」
澄み切った硝子の刃が、闇のなかの微かな光を抱いて煌めく。崩れ行くオブリビオンが放つ断末魔の呪詛をその身に浴びながら、湧は何度も、何度も、数多の念を込めた刃を振り下ろし、敵を砕かんとする。
「それでも、私の……あの子の復讐は、遂げねばならないんです」
両手で柄を握りしめた湧は、全身全霊の力で刃をオブリビオンの中核に叩きつけた。
オブリビオンの動きが一時止まり、そして、静寂が訪れた。次の瞬間、内側から湧き上がった暗き炎と共に、その体躯は粉微塵に吹き飛んだ。
崩壊の衝撃に吹き飛ばされた湧は地を転がる。はずみで、眼鏡を落としてしまった。
湧が顔をあげると、もうもうと巻き上がる土煙の向こうで、元気に走っていくあの少女の姿が見えた気がした。眼鏡を掛け直したときには、もうその姿は消え失せていたけれど。
報われたのだろうか。解き放ってやれたのだろうか。
駆けていくあの少女は、たぶん、笑顔を浮かべていたと思う。
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戦いを終えた猟兵たちは、無事に再会できたことを喜びあい、互いを労いあった。
しかし、本当の戦場が此処ではないことを彼らは知っている。この先に待ち受ける地こそが、真の絶望が支配する場所であることを。
猟兵たちは傷ついた心身を癒やすため、各々の帰るべき場所へと戻っていく。
ある者は約束を守るために。ある者は大切な人と会うために。ある者は次の戦場へ向かうために。
一つの絶望が消えた。今はそのことだけを胸に抱いて、幻影ではない在るべき現実へと、猟兵たちは戻っていく。
大成功
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