●蜻蛉玉
そうそうとした清流の涼やかな音に合わせて、夏の虫が忙しくさざめいている。
水面から頭を覗かせている岩に水がくだかれ、水花火がぱちぱちと弾けた。
澄んだ水面を歩む者より、慌てて逃げ出す小さな魚影。
風に揺れる緑の影に和らげられた日差しに、水底がきらきら燿いた。
「あ、あった!」
水底で燿いていたものを拾い上げた少女は、その美しさに笑みをこぼし。
「いいな、僕も早くさがそっと」
連れの少年も逸るように、ざぶざぶと水面を掻く。
――サムライエンパイアの山辺に位置するこの村の横に流れる川では、夏場のこの時期になると不思議な蜻蛉玉のような色とりどりの石が水底に顕われる。
その石は神様からの贈り物とされ、お守りや魔除けの縁起物として村人たちから扱われているそうだ。
●グリモアベース
「そういう訳で、センセ! サムライエンパイアの川に涼みに行くついでに、神様からの贈り物を賜りたくないっスか?」
小日向・いすゞ(妖狐の陰陽師・f09058)は、ぽっくり下駄のかかとをコーンと響かせて。
手のひらを開いてみせると、その上には色とりどりの蜻蛉玉のような石が載っている。
「この石は、ある村の特産品のお守り……みたいなモノなンスけれど。色ごとに色々どんなご利益があるか~、みたいな話があって……」
ぴかぴかと光を照り返す蜻蛉玉をコロコロ転がしながら、彼女は一度言葉を切って。
「ま、ま、ま。そういうのはおいておいたとしたって、とっても綺麗でしょう?」
この蜻蛉玉の取れる川は広く人々に開放されており、村の活性化にも一役買っているそうで。
「その場で装飾品に加工して貰える屋台や、食べ物や飲み物の屋台もたくさん川辺沿いにあるそうっス! なんだか、ちょっとしたお祭りみたいでわくわくっスよね」
それから。
彼女はねえ、と首を傾いで。
「さあさ、センセ。それでは水に濡れても平気な格好をしてきてくださいね!」
と、楽しげに笑った。
絲上ゆいこ
お久しぶり、またははじめまして!
絲上ゆいこ(しじょう・-)です。
川底に沈んだ、縁起物の蜻蛉玉を広いに行きましょう!
●受付期間
マスターページにリンクのあるスレッドや、タグにてご案内致します。
●場所
昼下がりのサムライエンパイア。山沿いに位置する村沿いの河原。
川の流れは緩やかで、子どもでも足がふくらはぎ程しか浸からぬ程度の浅瀬に多く石は溜まっていますが、少し深い場所まで向かえば泳いだり、舟を出す事もできるようです。
●できること
・水底に沈んでいる色とりどりの蜻蛉玉のような石を拾う。
大きさも色合いも蜻蛉玉のようですが、神様の贈り物という事になっているようです。
もしかすると、村人が村おこしの為に撒いた蜻蛉玉もあるかもしれませんが、それはそれ。
暗色の蜻蛉玉は心を鎮め、今あるモノを更に良くして行くご利益が。
暖色のとんぼ玉は縁や運を切り開いたりと、新しいモノを開拓していくようなご利益がある……と言われているそうです。
模様からご自身でご利益内容を考えてもらうのも、大歓迎です!
・拾った蜻蛉玉を加工してもらう、加工する。
川辺沿いにはいろんなで店があり、自分で拾った玉を装飾品等に加工もできますし、店の人にしてもらう事もできるようです。
・出店を楽しむ、川遊びを楽しむ。
食べ物や飲み物、サムライエンパイアっぽい出店が立ち並んでいます。
川遊びももちろん大歓迎です!
●迷子防止のおまじない
・複数人でのご参加は冒頭に「お相手のキャラクターの呼び方とID」または「共通のグループ名」の明記をお願いします。
・3名以上でのご参加は、グループ名推奨です。2名でも文字数が苦しい時はグループ名を使用してみて下さい!
●その他
・プレイングボーナスは水着の着用だそうです、浴衣も可愛いと思いますよォ!
・プレイングが白紙、迷惑行為、指定が一方通行、同行者のID(共通のグループ名)が書かれていない場合は描写できない場合があります。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております!
第1章 日常
『水底の玉』
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POW : 川の中に入って水底のトンボ玉を素潜りで拾い集める。
SPD : 釣り竿や網を使って船の上からトンボ玉を釣る。
WIZ : 川の流れを読んでトンボ玉の流れ着きそうな河原を予測する。
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
八上・偲
川で石拾い!わーい!
せっかくだから水着で行こー。
今年の水着、ひらひらでかわいいからお気に入り!
(川の中に入って手を突っ込んでざぶざぶ)
水つめたくて気持ちいい~!
でも泳ぐのあんまり得意じゃないし、
そんなに深くないところで石探しするね。
……あ!これがそうじゃない?
青い蒼いとんぼ玉。きらきらして綺麗。
神様の贈り物かあ。いい神様もいるんだね。
このとんぼ玉、首飾りみたいにできるかな。
お店の人に頼んでみよう。わくわく。
そういえばこのとんぼ玉はどんなご利益があるのかなあ。
お店の人に聞いてみようかな。いいご利益だといいなあ。
……できた?できた?わーい!ありがとう!
※アドリブ大歓迎です!
ぴかぴか瞬く太陽が、穏やかな清流を照らしている。
川辺の対岸は崖のようになっており、茂る緑が日差しを和らげているが、影の無い河原はそうは行かない。
太陽に熱せられてサンダルを通して尚あつあつの河原の石を、八上・偲(灰かぶり・f00203)は小動物めいた足取りで跳ねるように駆け。そんな足取りに合わせて、水着にあしらわれたリボンとレースがひらひら揺れる。
今年仕立ててもらったばかりのこの水着は、ひらひらしている所が特にかわいくて偲のお気に入りだ。
勿忘草に彩られた灰被り髪を覆う|黒のヴェール《ヴァレリア》も、水着のひらひらに合わせてふわふわと舞った。
「わーい!」
そうして熱い石を超えれば、ひえひえの川が待っていた。
ざぶんと足まで浸けてしまってから、腕もえいっと水面へと押し込み。
川の水は肌がぴりぴりとするくらい冷たいけれど――。
「気持ちいい~!」
ぱしゃぱしゃと水を跳ねさせると飛沫が散って、思わず笑顔になった偲はさらにざぶざぶと水をかき混ぜた。
ヴァレリアもきっと涼しくて心地良いに違い無い。……けれど、今日はただ川へと涼みに来た訳では無い。
翼を小さくはためかせてから両拳をきゅっと握りしめた偲は、へんにゃりとろけた笑顔を一瞬で気合充分の表情に引き締めて。
「よーし、いっぱいみつけよー!」
浅瀬の川底の探索を開始するのであった。
ざぶざぶ水をかき分けて、水の奥の奥まで見逃さないよう、真剣に。
水底に咲く小さな白い花が水面から少しだけ顔を覗かせている横を、小さな魚がゆらゆら尾を揺らして逃げてゆく。
「あ!」
その先の丸い川石の隙間に、ぴかりと光が煌めいた気がして――。
「これじゃない?」
拾い上げたまるくて小さな石は……否、蜻蛉玉は青い蒼い色をしていた。
「わー、きらきらして綺麗!」
光に透かすと、青の奥に見える蒼がくるくると糸を引いているような姿は、本当に神様の贈り物なんて言葉がぴったりに感じられて。
いい神様もいるんだね、なんて偲はくすぐったそうに肩を竦めて笑い。
「……あっ、そういえばアクセサリーにもして貰えるっていってたの!」
はたと思いついた表情。
どうしてもらおうかな。
首飾りみたいにしてもらったら、綺麗かも!
もう少し探してから頼んでみようかな? ひとつだけでもかわいいかも!
そういえば、このとんぼ玉はどんなご利益があるのかなあ?
ひらめいた表情から、悩んだ表情、笑って、わくわく。
偲はころころ表情を変えながら、思案を始めて。
――蒼色の神様の贈り物は、そんな偲の手のひらのなかでぴかぴかと輝いていた。
大成功
🔵🔵🔵
月舘・灯里
【華鬼灯】
水着で、参戦、なのです(きりりっ)
今年の水着はひらふわな金魚のような水着なのです
ほあ……た、確かにそうなのかもしれないなのです(むむ?)
どちらも灯里は好きなのですよ?
川に入ってトンボ玉さがし
見つけたい色は決めているので頑張るのです
ありましたよ、かあさま
かあさまのひとみに似た色のトンボ玉なのです
かあさまは……どんな色を見つけたのです?
そう尋ねたら逆に何色だと思う?と問われたのです
ふふ、当てるのです!
とうさまと灯里のひとみの色でしょう?
そう問えばいつもの優しい笑顔で笑ってくれるのです
さぁ、かあさま
加工してもらいましょう?
根付はだめですよ?灯里とにいさまがいるですからね?
※かあさま=倫太郎
篝・倫太郎
【華鬼灯】
俺は去年の水着にしとく
普段だと少し大きいんだよなぁ、アレ(今年は真の姿で参戦した)
ん-?俺は最初見た時
鬼灯の精がいるなぁって思ったけどな?
そう告げれば少し悩んで返される答えに
そう言うトコは『とうさま』に似てるなと笑って
いざ、蜻蛉玉探し
足元にある蜻蛉玉に気付いても拾わないのは
欲しい色があるからか
灯里も成長したから、見守ってなくても大丈夫か
そう考えつつ、俺も手にしたい蜻蛉玉を探して
やっと見つけたらしい灯里の言葉に
『さて、何色か当てられるか?』
そう問えば、きっぱり即答されて
そうだよ、そう笑って返した
灯里に促されて川を上がる
掛けられた一言には小さく噴き出して
ああ、根付にはしないから、大丈夫
鬼灯色をしたセパレートの水着に、ふんだんにあしらわれたレース。
金魚の尾鰭めいた薄く透けたリボンを、ふんわりと翻して。夕焼け空を写した髪を纏める鬼灯が、ろんと揺れた。
「かあさま、かあさま! ことしのあかりは、ひらふわきんぎょさんなのですっ!」
篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)に月舘・灯里(つきあかり・f24054)は自らの新しい水着を誇る様に。
きりりと横ピースを決めて、ウィンクを一つ。
「んー?」
そんな愛おしくも可愛らしい娘の言動に、倫太郎はじっと灯里を見つめてから眦を和らげて。
「俺はずっと、鬼灯の精がいるなぁって思ってるけどな?」
「ほあ……?」
かあさまの言葉に瞬きをひとつ、ふたつ。言われてみれば確かに、鬼灯のモチーフもふんだんにあしらわれているものだから。
灯里は今年仕立ててもらったばかりの水着をきょときょと見渡して。
「た、たしかに……、そうなのかもしれないなのです……?」
少し悩んでから言葉を紡いだ娘の仕草の中に、倫太郎は彼女の苗字を与えた『とうさま』の空気を感じて、肩を竦めて小さく笑った。
彼女はお守りとして贈られた、鬼灯の根付のヤドリガミだ。
同じくヤドリガミである『とうさま』とも『かあさま』である倫太郎とも、血こそ繋がっていないが、このようなちょっとした仕草に『家族』を感じられる瞬間がある。
倫太郎はその一瞬が、とても愛おしく幸せに感じるのだ。
「そういえば、かあさま」
むむむっとくるくる回って水着を見ていた灯里は、はたと思い出したように倫太郎を『とうさま』の同じ色の瞳で見上げて。
「かあさまは、ことししたてていただいたみずぎではないのです?」
問われた言葉に羽織った赤いシャツをなんとなく少し引いて、先程の灯里に倣うように倫太郎も水着を見た。
「あー……、普段だと少し大きいんだよなぁ、アレ」
「そうなのです?」
灯里はなるほど、と傾いでいた首をまっすぐに戻してから、ぱっと花のように笑んで。
「どちらのみずぎも、あかりはすきなのですよ!」
「俺も。去年の灯里の水着も好きだぞ。きらきらひらひらで天使みたいだったもんな」
「ふふ、ありがとなのです!」
楽しげに笑う灯里に倫太郎は、やっぱり今年も天使かもなあ、と。くすぐったげに笑い。
「それじゃ。蜻蛉玉探し、始めるか」
「おー! なのです!」
倫太郎の提案に、きゅっと握った拳を突き上げて灯里がぴょんと跳ねた。
川へと入ると、灯里でも難なくすすめる程度の水深でも、流水はひんやりとしていて心地良いものだ。
穏やかに流れる浅瀬の水をざぶざぶと掻き分けて、親子は進む。
「ん」
娘だって成長しているのだから見守りはそこまでせずとも大丈夫、と思いつつも。
倫太郎がちらりと見れば、灯里が蜻蛉玉が転がっている事に気づいている様子であるのに、拾っていない事に気が付いた。
……そっかぁ、欲しい色があるんだな?
一生懸命水の中を眺めながら歩いている灯里の様子に、倫太郎は得心した様子。
それから、自らの足元へと視線を落とすと――。
「お」
目当ての色合いをした蜻蛉玉がぴかぴかと光を照り返していた。
素早く拾い上げると、倫太郎は玉を見つめて悪戯っぽくにんまりと笑い。
「あ、ありました!」
そこに。
しゃがみこんでいた灯里が、ぱっとあかりが灯ったような弾んだ声をあげた。
倫太郎に蜻蛉玉を掴んだ指先を掲げて、彼女はぴかぴかに瞳を輝かせている。
「かあさま、みてください! かあさまのひとみにたいろのとんぼだまなのです!」
「おお。本当だな、灯里。よく見つけたな」
「はい! がんばってさがしたのです!」
太陽の光を照り返す琥珀色。
かあさまのねぎらいの言葉に灯里は、またぴっかぴかの笑顔と返事で応じて。
それから倫太郎の手のひらが軽く握られている事に、首を傾いだ。
「かあさま! かあさまは、どんないろをみつけたのです?」
灯里の問いに倫太郎はまた悪戯っぽい笑顔を浮かべたまま、軽く握った拳を突き出して――。
「さて、何色か当てられるか?」
「ふふ、……当てるのです!」
かあさまの大きな手を少し見つめた灯里も、悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
「とうさまとあかりの、ひとみのいろでしょう?」
「うん、そうだよ」
彼女の即答に、倫太郎が手のひらを開く。
親子は琥珀と翠の視線、――手のひらの上の蜻蛉玉と同じ色をした視線を交わして、笑い合う。
「さぁ、かあさま。加工してもらいましょう!」
「そうだな、行こうか」
「……あ!」
ざぶん、と水を掻き分けて。
二人が河原に向かって歩みだそうとすると、はたと気づいた様子で灯里は瞬きを重ねて。
「でもでも、かあさま」
「ぅん?」
「ねつけはだめですよ? あかりとにいさまがいるですからね?」
灯里が拳をきゅっと握って一生懸命訴えだしたものだから、思わず倫太郎は吹き出した。
くすくすと笑って、肩を竦めて。
「ああ、根付にはしないから、大丈夫」
「ほんとうにほんとうですよ?」
「うんうん、大丈夫大丈夫」
くすくすと笑いながら、倫太郎は灯里へと手を伸ばし。――親子は手をつないで、河原へと向かう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジェイ・バグショット
【塩焼きそば】
蜻蛉玉、ねぇ
なんでもご利益があるんだと…
金運上がるとか、健康になるとか
そういうご利益あるやつ探すわ
キャップ帽とサングラスは外して
水着で川に足を浸してざぶざぶ進む
水面をじっと見つめ
パシャンと跳ねた水が顔を濡らす
……蜻蛉玉、あったぞ
ちゃぽんと浸した手の中に
夏の青空や海の色をした蜻蛉玉
どーよこれ。けっこう綺麗
光に透かして二人に見せる
ヴィリヤのは金混じりで豪華だなァ
澪のは川の水面に反射する魚影とかそんな雰囲気
さてどんなご利益があるか
楽しみじゃねーの
っはは、涼むには丁度いい
髪の先から落ちる雫ごとかき上げ
お返しだとばかりに軽く水面を蹴り上げる
光を浴びてきらり降る様子に
すっかり暑さも忘れていた
寧宮・澪
【塩焼きそば】
お守りになりそう…
いいことがありそうなのを見つけましょ…おー
健康もお金も大事…ラッキーになるもいい…
水着でのんびり入っていって…頭まで潜って底を見ます
揺れる水の世界で吟味した石を拾って、上がりましょ…
私も見つけましたー…
ジェイさんのは、夏の青を閉じ込めた感じ…
ヴィリヤさんのは、夏の光きらきら、ですね…
どちらも綺麗…すてき…
私は、川の流れのような、流線型の水色と銀の粒が混じったのを
日に透かして嬉しげに
ヴィリヤさんにかけられた水に目をぱちりとし
ふふ、そですね、遊びませんと…
両手でぱしゃり、お二人狙って水面をすくいます
そーれー…うん、綺麗
水はねて、きらきら……お二人も楽しげ
ふふ、涼しい
ヴィリヤ・カヤラ
【塩焼きそば】
色んな色とご利益があるらしいし、
どんなのが見つかるか楽しみ!
何となく良い事がありそうなのが良いな。
暑いし水着だし帽子と上着は取って
軽く走って水に入っちゃおう。
水が跳ねたらゴメンねっ!
ジェイさんのは青色で海っぽいし、
澪さんのも水色と銀色が川みたいで凄く綺麗だね!
水底を見ても流れる水でよく分からないし、
勢いよく水底に手を伸ばして触ったのを取ってみよう。
見つけたのは透明な中に金色の針が沢山入った蜻蛉玉。
私も綺麗なの見つけたよ!
川から出る前に二人を呼んで、
思いっ切り水を掛けてようかな。
せっかく川に来たし少しは遊ばないとね!
涼しくなったし楽しいね!
風に揺れる草木が和らげる眩しい日差しの下、絶えることなく流れる涼し気な水音。
平瀬と平瀬に囲まれた淵は、川底を透かす程にうつくしい青竹色に染まっている。
「……」
寧宮・澪(|澪標《みをつくし》・f04690)が水中に頭まで浸かり込んでしまえば、こぽこぽと流れる水音が直接鼓膜へと伝わってくる。
泡の弾ける音。
水のうねる音。
水の上を少しばかり歩く事もできるけれど、それよりも中に入った方がもちろん涼しい。
まるで黒いくらげのように靡く美しい髪を水流に委ねたまま、澪は川底へと視線を向けた。
外気にふれることのない世界には幾つもの岩や石が積み重なり、その隙間を埋めるように緑の藻や水草がゆらゆらと揺れて。
魚が大きな生物――澪の存在を感じて、慌てて尾ひれを翻す。
水の世界を一枚隔てた、水中の世界。ここまでは別段、普通の川と変わりは無いだろう。
しかし。
この川には、普通の川では見られないものが在るのだ。
……おー。
澪は水泡を少し吐くと、瞬きをひとつ、ふたつ。
――水を通して和らいだ太陽の光を浴びて。幾つもの蜻蛉玉がぴかぴかと水底を彩る姿は、どこかモザイク画めいて見えた。
その中の一粒に、誘われるように彼女は水を蹴って――。
清流へ足を浸けると、太陽に熱され火照る肌を刺すほどに冷たい。
水を蹴るように歩けば、跳ねた水泡が程なく水流と一つになり川へと戻ってゆく。
「ご利益、ねぇ……」
落ち着いた色合いの水着に身を纏ったジェイ・バグショット(幕引き・f01070)は、ざぶざぶと浅瀬を歩みながら、月色をした視線を水面に落とした。
ぱっとみは何の変哲もない川。
しかし。
この川には、『神様の贈り物』とされる蜻蛉玉が顕われると言われている。
その話を聞いたからこそ、ジェイは人を誘ってこの川まで遊びに訪れたのであった。
「うん、どんな蜻蛉玉が見つかるか楽しみだね!」
ジェイが呟いた言葉に朗々と応じたヴィリヤ・カヤラ(甘味日和・f02681)は、髪色に合わせたのかフェミニンな印象の青の水着だ。
「色んな色もあるみたいだしね。後で加工するのも楽しみだな」
ヴィリヤは人懐こく笑って、川へと向かって歩みだす。
河原の石はじりじりと太陽光に焼かれ、サンダルを介していても熱気を感じるほどに熱い。
知らず識らずヴィリヤの足取りも、早く冷たい水に浸かりたいと訴えるように早足と成っていた。
「金運が上がるとか、健康になるとか、色々あるらしいが……」
ヴィリヤの相槌に顔を上げたジェイが、彼女の声の方へと振り向いた、刹那。
えいっ、と一気に地を蹴ったヴィリヤは、――ばしゃん。
勢いよく川に入ってきた彼女は盛大に水しぶきを上げて。
「……!」
「あっ」
ジェイは大きく跳ねてきた水を、そのまま思い切り頭から被ってしまった。
口を押さえたヴィリヤは、眉尻を下げて。
「えっと……ゴメンねっ?」
「いや……別に良い」
手を合わせて申し訳無さそうに伝えると、濡れ鼠のジェイは少し笑っていたのかもしれない。
顔を振るって水滴を跳ね飛ばしてから肩を竦めるた彼は、眦を少し下げて言葉を次いだ。
「ヴィリヤのお陰で、蜻蛉玉の方から転がってきてくれたみたいだしな」
それから。
気づけば足元に転がっていた蜻蛉玉をジェイは拾い上げて、光に透かして見せる。
「どーよこれ」
「あ! すごい、本当に蜻蛉玉だ。海っぽくて綺麗だね」
相違う色を宿した瞳を瞬かせて言うヴィリヤの感想通り、ジェイの手にした蜻蛉玉は空や海。夏の最中の涼しげな色を切り取ったような彩りだ。
「私も見つけましたー……」
「澪さんも?」
そこにタイミング良く淵から顔を覗かせた澪が、二人の元へと歩み寄ると。
彼女の手のひらの上には、清流のように流れる水色に銀の粒が星屑のように散る玉が載っていた。
「ふふ、きらきら。川の流れみたい、ですー……」
「確かに。川の水面に反射する魚影とか、そんな雰囲気を感じんなァ」
「二人とも凄く綺麗なのを見つけたね」
ジェイの言葉に次いでわぁ、と声をあげたヴィリヤは、ジェイと澪の蜻蛉玉に負けていられないと、早速水面へと腕を伸ばす。
「うーん……、あるかな?」
彼女の立っている浅瀬は水底の石が入り組んでいる分、他の場所より少しばかり水流が早いようだ。
岩や石に当って砕かれた水が白い泡や、水のうねりを生み。爆ぜる水花火は、水底の全てを透かせまいと水をかき混ぜている。
ヴィリヤが指先の感触だけを頼りに水底を撫でると、つるりとした石の肌。
水草がさらさらと指先を擽り――、なんとも冷たくて心地が良い。
川遊びが少し楽しくなって、水流の勢いを手のひらで受け止めるように手首を返すと、小石とは違った感触の丸いものが指先に触れたのが解った。
「あ!」
眉を跳ねて声を上げた彼女が、玉を摘んで水中から引き上げてみれば、澄んだ水滴めいた透明の蜻蛉玉の中に、たくさんの金色の針が閉じ込められている。
ニコ! と微笑んだヴィリヤはジェイと澪に手を振って。
「私も綺麗なの見つけたよ!」
「お。金混じりで豪華じゃねェか」
「夏の青に、夏の光きらきら……、どちらの蜻蛉玉も、綺麗、ですね……」
三者三様。
夏の色を閉じ込めた蜻蛉玉は、空から降り注ぐ光を飲み込んできらきらときらめいている。
ご利益の如何は解らずとも、それはとてもとても、美しく見えて。
「ふふ、……すてきですね……」
いつも眠たげな澪の視線が、まぶしげにも嬉しげにも見える形に細められた。
ざぶ、と先頭をきって歩みだしたのはジェイだ。
「おう、それじゃ折角だし加工に行くか」
ここに歩いて来るまでにちらりと眺めた河原に立ち並ぶ出店たちの中には、蜻蛉玉の加工をしたりさせてくれる出店たちも沢山あった。
組紐を合わせて武器飾りにするのも良いし、ブレスレットなんかにしてもなかなか綺麗なものができるだろう。
「どんなご利益があるか、楽しみじゃねーの」
「……そうです、ねー。いいことがありそうなご利益だと、いいですね……」
お金も、健康も、ラッキーになるのも良い。
どんなご利益にしたって、自分たちで選び取ったお守りは良くききそうな気がして、澪はこくんと頷いた。
「あ! ジェイさん、澪さん、待って!」
そこに。
ヴィリヤが大きな声で呼び止めると、歩き出した二人は思わず足を止め。
「あ?」
「う、ん……?」
ばしゃん。
「あはは、――せっかく川に来たし、少しは遊ばないとね!」
ヴィリヤが思いっきり跳ね上げた水を頭からかぶって、再び濡れ鼠になったジェイと澪は少し顔を見合わせて――。
瞬きをひとつ、ふたつ。
「っはは」
「……ふふ」
ふたりは同時に空気が抜けるみたいに笑みを零し。
「涼むには丁度いいな」
きらきら煌めく水滴ごと、髪の毛をかきあげたジェイは肩を竦めて。
「そですね、遊びませんと……」
唇に人差し指をあてて、澪は悪戯げな曲線を唇に宿して――。
「行くぞ」
「そーれー……」
それから。
同時に水をヴィリヤに向かって、水を掬い跳ねさせ。
降り注ぐ水滴が夏の太陽の光を浴びて、きらきら耀いた。
「わっ!」
「ふふ、涼しい、ですね……」
それはきっと。
夏の暑さなんて忘れてしまうほど、涼しくて楽しいひととき。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
菱川・彌三八
雲の字と/f22865
俺ァ浴衣を絡げた方が性に合ってら
水底が五色に輝くなんざ風流じゃねえかい
成る程、神の膝元とあっちゃ合点がいく
丁度緒締めを新調したかったんだ、一つ貰って帰ェるとしよう
さて、何色にしようかね
新緑…いんや、黄も良いやな
お、此れなんてなァお前ェの眼の色の様だぜ
二色に混ざった不思議な色合いだが、人の手は入っちゃいめえ
神の御遣いだなんてお誂え向き、したが俺ァ此れに決めた
どんな御利益があるか知らねえが、屹度守りに違ェねえ
お前ェの色は…何でェ、モット派手な色にしねぇな
然し其れァ勝ち守になるぜ
緒締めにと思ったが、喧嘩札に通すってのも良いな
一先ず転がして、ゆるりと考えるさ
雨野・雲珠
菱川さんと!/f12195
去年の水着で
清流の底に色とりどりの蜻蛉玉
ひとの賑わいに出店、笑い声
神様と仲良く暮らしてこられた村なんですねえ…
こんなに綺麗なんですもの
誰かにさしあげるのもいいかも
わぁ…ほんとだ どんな風に熱を入れたんでしょう
ふふ。ええ、きっとそう──えっ
…それでいいんですか?
いえ、綺麗ですけど
俺の目とか関係なしにその蜻蛉玉は綺麗だと思いますがあの
…あの人に俺の分までご利益お願いします、と
こちらの神様に祈っておきます
それなら、と俺は燃えるような明るい茶の玉を
うん。…勝負運
でしょう!これは絶対勝負運です
お店で細い皮紐を購入
仕事の時、首から下げようかなって
土壇場でも心折れずにいられるように
村から河原へと続く道行きには、賑々しく出店が立ち並び。
そこを川から吹き抜ける風は、夏の暑さをずいぶんと和らげてくれているようであった。
揃いの腹掛けの腰に浴衣を絡げた菱川・彌三八(彌栄・f12195)と、腹掛けに水着を合わせた雨野・雲珠(慚愧・f22865)はふたり並んで、河原から清流を見下ろしていた。
そうそうと流れる清流の底は石や岩が敷き詰められ、その合間に苔や藻、白い花をつけた水草が流れに揺れて。小さな魚が鰭を靡かせてすいと泳いでゆくのが見える。
水面をじっと眺めていた彌三八は、眦を和らげてふ、と鼻を鳴らして口角を上げて笑った。
「随分と風流じゃねえかい」
ぱっと見た所は、普通の川ではあるが。
よくよく覗き込んで見れば水底に幾つもの宝石――蜻蛉玉が光を浴びてぴかぴかと輝き、幾重にも彩りが重ねているのが見えた。
これはこの川の伝承で言う所の、夏場に姿を顕すという『神様の贈り物』である事を二人は既に知っている。
「随分と、神様と仲良く暮らしてこられた村なんですねえ……」
雲珠は歩きくぐり抜けてきた道行の出店に、川に住まうと言う龍神の形を模した守りも沢山売られていた事を思い出しながら。
うつくしい光景に惹かれるように瞳をどんぐりみたいに見開いたまま、河原に座り込んで水面に触れた。
さらさらと流れる心地の良い温度の水が、指先の火照りを奪ってゆく。
「みてえだな。神の膝元とあっちゃ合点がいく光景だ、」
彌三八もその横でしゃがみ込んで、じっと水の中のきらめきを眺めながら倣うように水を掬って、ぱたぱたと川へと雫をこぼしながら言葉を次ぐ。
「余所者の浮気参りを許してくれるなんてヨ、懐の深い神じゃァねえか」
ここは決してどこからも交通の便が良いとは言えぬ、山間の村だ。
物見遊山の参詣者にも『神様からの贈り物』を無料で分け与える事で、――『神様』のお陰でこの村に活気が保たれている事は確かなのであろう。
「はい、きっと優しくてよい神様なのでしょうね」
雲珠は彌三八を見上げて、拳をきゅっと結んで頷いて応じて。
「こんなに綺麗なんですもの、誰かにさしあげるのもいいかもしれませんね」
それから。
お土産にするのならば贈りたい人がたくさんいる様子で言葉を紡ぐと、再び水底へと視線を向けて重なる耀きの色を見ていた。
「ん。そらァ良い。俺も丁度緒締めを新調したかったんだ、一つ貰って帰ェるとしようかね」
さて、何色にしようか、なんて。
彌三八が大きな手のひらで川底をさらうと、色とりどりの蜻蛉玉が幾つも手のひらの中に掬われた。
新緑、いんや――黄も綺麗なもんだ。
手のひらの上で選別するように、幾つもの玉を指先で転がして――。
「お、」
「はい?」
彌三八の手のひらの中を一緒に覗き込んでいた雲珠は、彼の上げた声に思わず返事をしてから。
「此れなんてなァ、お前ェの眼の色の様じゃねェか」
彼の指先に摘みあげられた、桜と空色が混じりあう不思議な色合いの蜻蛉玉にまた目を丸くした。
それは当に雲珠の瞳の色を移したような色合いに見えて、雲珠は思わず指を伸ばして蜻蛉玉をちょいとつついた。
「あ! わぁ……! ほんとですね。どんな風に熱を入れたんでしょうか……?」
「いんや、きっと人の手は入っちゃいめえよ」
なんたって、ここに在る蜻蛉玉たちは全て『神様の贈り物』だそうだから。
彌三八がいつも通りの様子で言うものだから、雲珠は得心した様子で眦を下げて、こっくり頷いた。
「ふふ。……ええ、きっとそうですね」
「そうサ」
なんたって、『神の御遣い』だなんてお誂え向きだろう?
どこか楽しげな色に瞳を揺らした彌三八は、つまみ上げていた桜空色をした蜻蛉玉を手のひらの中に握りしめて。
「俺ァ、此れに決めた」
「――えっ」
それは彼が、自らの瞳の色を選んだという事。
雲珠はもとより大きな瞳を驚きにまた見開いてしまう。
「…………それでいいんですか?」
「応、どんな御利益があるか知らねえが、屹度守りに違ェねえ」
「いえ、綺麗ですけど……」
彌三八の言い切る様子に雲珠は眉を下げて、少しばかり言葉に詰まった様子でしどろもどろ。
しかし。
その言葉の裏側の感情を、彌三八は既に知っている。
「ええと、その……、俺の目とか関係なしに……、その蜻蛉玉は綺麗だと思いますが、あの」
「そのう……」
それから雲珠はかぶりを振ると。彌三八の逆の手のひらの中に掬われたまま残っていた蜻蛉玉を、一つつまみ上げて。
「……それなら俺は、これにします」
「どれ、」
雲珠の指の先には、燃えるような明るい茶の色を宿した蜻蛉玉が収まっている。
彌三八はふは、と息を吐いて。
「……何でェ。お前ェ、其れモット派手な色にしねぇな」
「いえ、これでいいのです」
――彌三八の燃えるような明るい茶色の瞳をまっすぐに見据える、桜と空の色を宿した雲珠の視線。
その色に彌三八は、眦を和らげる。
「マ、然し其れァ、勝ち守になるだろうよ」
「うん。……でしょう! これは絶対勝負運です……!」
「あぁ、」
雲珠は手のひらに残っていた蜻蛉玉を彌三八の代わりに川に返しながら、この川の神様へと祈るよう。
――あの人に、俺の分までご利益お願いしますなんて。
「サ、往こうか」
「はい! あ、装飾用の紐が欲しいのですが、お店に寄ってもよいですか?」
――仕事の際に、土壇場でも心折れずにいられるよう。
革紐で結んだ、|勝負運の加護《あなたのいろ》を首元に。
「アア、もちろん」
雲珠の言葉に頷いた彌三八も、手のひらの中で蜻蛉玉を転がしながら考える。
――緒締めにと思ったが、喧嘩札に通すってのも良いな、なんて。
まあヨ。
一先ず転がしてから、ゆるりと考えるさ。
村から河原へと続く道行きには、賑々しく出店が立ち並んでいる。
二人は来た道と同じ道を、ふたり同じようにならんで、歩みだす。
此処より富士は見えずとも、今日も富士の嶺の煙は高く高く登っているのであろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
尾白・千歳
【漣千】水着で参加
川底でキラキラしているの、石?
すっごくキレイ~私も欲しいなぁ
早く行こ…っあ!滑っ…やーん、濡れた~(ちょっとだけ
へー、いろんな色や模様があるんだね
私はどんなのがいいかな~
お花の模様のとかあるかな~
む、これ違う、違う~(ポイポイッ
あ、そこで光っ…きゃ、滑っ…!
あはは、さっちゃんってば濡れてる~!
見て!私はこれにする~可愛いでしょ?
拾った蜉蝣玉は加工してもらえるんだって!
お守りとして身に着けれるのとかいいよね~
あ、交換はしないよ
これは私のだから(きっぱり
えー私が選ぶの?(面倒くさい
ん-じゃぁ、これ(5秒で決定
さっちゃんの神社のお守りとどっちがご利益あるかね~?
石の色や模様お任せ
千々波・漣音
【漣千】水着で
まぁオレ自身が神格高い竜神なんだケドなァ
ちぃも喜んでるし、川に涼みに行くか(てか水着超可愛い!
って、そんな慌てなくても…あっ
濡れていい格好で良かったじゃねェの(心配だケド転ぶ姿も超絶可愛い!
んじゃ、石を探すか
神様からの贈り物、そんなぽいぽいしていいのかよ!?(オレが川の神なら可愛いから許すケド!
おい、また滑るぞ……ちょ、だあっ!?
…ふ、水も滴るイイ男って言うだろ…(庇ってかわりにずぶ濡れ
お守りか、じゃあ交換…って、拒否られた!?(がーん
う…じゃあオレのも、ちぃが選んでくれ…
え、すげー適当じゃね!?
それは神格高いオレ様のに決まってるだろ!
…でもありがとなァ(超絶嬉しい
石の詳細お任せ
生い茂る緑の隙間を縫って、水面に光の粒が煌めいている。
絶え間なく流れる水音に合わせて岩に砕かれた水が弾けて、空気をはらんだ泡が白い波を生んでいた。
この川には毎年この時期『神様からの贈り物』が、川底に顕われる。
「まぁ、オレ自身が神格高い竜神なんだケドなァ。そう、神の贈り物くらいならオレが――」
「わあー! 川底がキラキラしてる~! あれが石なのかな? 私も欲しいなぁ~」
「まあちぃが欲しいっていうなら……」
ちらちらと横を見ながら話しだした千々波・漣音(漣明神・f28184)の話をスルーして、尾白・千歳(日日是好日・f28195)が川辺へと向かって勢いよく駆けて行く。
「って……」
幼馴染が話を聞いてくれていない事なんて、漣音にとって日常茶飯事だ。
それよりも彼女の駆ける足取りに合わせて大きな獣尾と耳が、ふわふわの水着のレースとともにぴょっぴょこ跳ねる姿が可愛いものだから。
漣音は話を聞いてくれていないことなんて、すぐにどうでも良くなってしまう。
なんたって千歳の水着姿も超可愛いし……。えっ、可愛すぎないか……?
「さっちゃん、川すっごくキレイだよ、早く行こ~」
「待て待て、そんなに慌てなくても……」
千歳に漣音が見惚れてフリーズしている間にも、動いている千歳は河原を超えて川縁へとたどり着いてる。
幼馴染がぼうっとしてなんだか動きを止めている事なんて、千歳にとって日常茶飯事だ。
漣音に向かって、千歳は大きく手を上げて――。
「だってさっちゃ、……――あっ」
「あっ、ちぃ!」
刹那。
「きゃっ!」
手を上げた勢いで足を滑らせてしまった千歳は、川へと――流水へと転んでしまう。
「やーん……」
「大丈夫か、ちぃ? 怪我は無いか?」
漣音が慌てて川縁へと駆けて行くと、千歳は少しだけ照れくさそうにはにかみ笑顔。
「大丈夫だけど、ちょっと濡れちゃった」
「……濡れていい格好で、良かったじゃねェの?」
「うーん、それはそうかも!」
立ち上がった千歳は獣尾とおしりの部分が少し濡れてしまっているが、そんなに水浸しというわけでも無さそうだ。
それよりも、そりゃ、まあ。
転んで心配だったのは勿論だが、……千歳の転ぶ姿も超絶可愛いかったな……。
しみじみと網膜に焼き付けた千歳の姿を噛み締めた漣音は、小さくかぶりを振って。
「んじゃ、石を探すか」
「うんっ!」
二人は並んで浅瀬へとゆっくりと進みだし、蜻蛉玉探しを開始するのであった。
赤、黄色、青、緑。
――水底に沈んだ玉は、光を浴びて色とりどり。
よくよく見れば一つ一つ色も、柄も、模様も、大きさすらも違う『神様の贈り物』は、きらきらどれもが美しく燿いているように見えた。
「どんなのにしようかな~、あ、これお花の模様っぽい~」
千歳は石と石の隙間に挟まっている蜻蛉玉を次々に発見しては、じっと眺めて――。
「む、これ違う、違う~」
しかし彼女が欲しい蜻蛉玉のイメージと違った様子で、ぽいぽいとドンドン川へと戻してゆく。
「お、おい、それってここの神様からの贈り物だろ? そんなぽいぽいして……」
まだ一つも拾えていない漣音は、幼馴染に振り向くと瞬きを重ねて。
――まあ、漣音はこの川の神様であれば、千歳が可愛いという理由だけで全然許してしまうのだろうけれども。
千歳はそんな言葉を聞いているのか居ないのか、瞳をぴかぴかに輝かせて漣音へと一歩近寄ってきた。
「おい、えっ?」
突然千歳が近づいてきたものだから、漣音は目を白黒。
えっ、何だ何だ何だ!? もしかして突如オレの魅力に……、いやあやっぱり神格高い竜神は違うっていうか……。
石も拾っていないのにご利益が……? すげえな川の神……!?
「さっちゃん! そっちにすっごいキラキラのがあるよ!」
「おい、まっ」
もちろんそんな訳も無く。
漣音の足元のとんぼ玉を拾うべく、千歳はもう一歩足を踏み出し。
――そのまま丸い川石で、再び足を滑らせて――。
「……ちょ、だあっ!?」
「わっ……!」
ひっくり返りそうになった千歳は、なんとかきゅっとその場で踏みとどまり――。
助けようと咄嗟に腕を伸ばした漣音が、逆に足を滑らせて背中からひっくり返った。
「あ! さっちゃん!」
ばしゃん、と派手な水音が響き、ゆうゆうと泳いでいた川魚の群れが慌てて逃げてゆく。
「あはは、……さっちゃんってばびしょびしょ~!」
「……ふ、水も滴るイイ男って言うだろ……」
奇跡的なバランスで踏みとどまった千歳は、代わりに水に沈んでしまった漣音に向かってくすくす笑って腕を伸ばして。
すぐに立ち上がった漣音は、びっしゃびしゃになった髪の毛をかきあげながら格好をつけるが、もちろん千歳の興味は既に別の場所へと移っている。
「見て、見てさっちゃん! 私はこれにする~、可愛いでしょ~?」
千歳の指先に摘まれている蜻蛉玉は、先程、漣音の足元から拾い上げたばかりのものだ。
ぴかぴか瞬く太陽色に、金色がひまわりのように咲いているように見える。
「お、おう。可愛いな……」
何となく千歳らしさを感じるその蜻蛉玉に、漣音はこっくり頷いて同意を重ねて。
まあ、ちぃ本人のほうが可愛いんだけどな……。
「そうだよね! 私はこれにしようかな~」
漣音の言葉に、嬉しそうにはにかんだ千歳はそういえば、と瞬きをしてから言葉を次いだ。
「あ、そうそう! 拾った蜉蝣玉は加工してもらえるんだよね? お守りとして身に着けれるのにしてもらおうかな~」
「へえ……」
千歳らしさを感じる蜻蛉玉をお守りにできるなんて、なんとも良さげに思えて。
漣音は瞳を細めると――。
「じゃあ交」
「あ、交換はしないよ。これは私のだから」
「えっ!?」
千歳にきっぱりとかぶせ気味で即答されたものだから、肩を跳ねた漣音は目を丸くするが。
「だって~、とっても可愛いでしょ~?」
「……おう」
本当に気に入った様子で太陽に蜻蛉玉を透かして笑む彼女を見て、一瞬で千歳が可愛いかったからそれはそれで良くなってしまった。
「それじゃあさ、オレのも、ちぃが選んでくれよ……」
否。
少々、すこし、ちょっとダメージが残ってしまい、漣音の語気が弱まっているかもしれない。
そんな彼の様子に気づいていない様子で、千歳はどんぐりみたいに大きな瞳をぱちくり。
「えー、私が選ぶの?」
なんていう千歳は、少々、すこし、ちょっと面倒くさそうな顔をしていたかもしれない。
「……ん-じゃぁ、これ」
それからえいっとしゃがんだ先に落ちていた、紫色に水滴のような模様が浮かぶ蜻蛉玉を0.5秒で拾い上げて千歳は漣音へと手渡してあげる。
「え、すげー適当じゃね!? でも、……ありがとなァ」
なんだかんだで、選んでもらえたものは嬉しいもの。
へんにゃり笑う漣音を置いて、先に千歳は河原の方へと歩いていきながら、はたと思いついた様子で振り向いて。
「ねえねえ! さっちゃんの神社のお守りと、どっちがご利益あるかね~?」
「それは神格高いオレ様のに決まってるだろ!」
言葉を交わして、幼馴染たちは笑いあった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
千々岩・弥七
【岩戸】
(松葉色の矢絣の甚兵衛)
ふそー(扶桑)さんは、こういうのなつかしいですか…
ボクよりずっとずっと年上だから、きっと色々な思い出あるですね
楽しいこと、もしかしたら悲しいこととかも…
ぴえ!何でもないですよ見てないですよ!
さ、さーて!とんぼ玉捜索開始です!
じんべ濡らしたくないから真の姿で行くです!(飛び込む子狸)
ふそーさんにどんな過去があっても、今はボクがいるからだいじょぶ!
一緒にいっぱい楽しいことを見つけていくのです
っていうことを伝えるには…あ、キレイなざくろ色の石!これにするです!
ふそーさん、これどーぞですよ!
ふわ、ステキな緑の石!これボクにくれるですか?
ありがとうです!宝物にするですね!
黒羽・扶桑
【岩戸】
紺と白の七宝柄の浴衣
帯は赤
神様からの贈り物か
此処では信仰が生きているんだな
ふふ、懐かしい心地だ
人と神との距離が近いこの世界の空気は
生命力に満ちていて
カクリヨのそれとは少し違って――
ん、どうしたチビ助
我の顔に何か付いているか?
あ、おい。待っ…
むう、逃げられた
何やら気を使っていた様子だったな
あやつはすぐ顔に出るから
まあ、無理に聴き出すことはするまい
想いは、石に込めて贈ろうか
おかえり、弥七
おや、我に選んでくれたのか?
綺麗な柘榴の色の石を受け取り
お返しに渡すは、若草に似た緑の石
たくさん色んなことに出会って
すくすく元気に育っておくれ
日に日に大きくなるお前を見ているのが
今の我の楽しみの一つだからな
川から吹き上げる涼風は、陽の光がさんさんと降り注ぐ道であっても身体を心地よく冷やしてくれる。
村から河原へと続く道には、神様を模した仮面からお守り、置物を売る屋台、お守り加工専門の屋台、食べ物の屋台。……本当に様々な屋台が立ち並び。人々が賑々しく行き交っている。
その道の端を、松葉色の矢絣の甚兵衛を纏った狸の特徴を備えた小さな少年と、黒曜色の翼を携えた紺と白の七宝柄の浴衣を纏う女が手を繋いで歩いていた。
――この山間の小さな村は『神様の贈り物』が毎年この時期に現れる事によって、このように賑わっているそうで。
世界の住人達が、無意識に感じている『神様への信仰』があるからこそ、神様のお守りが賜われる事で賑わうのであり。サムライエンパイアという世界そのものが、人と神の距離が近い証拠のように感じられた。
「……ふふ」
それは黒羽・扶桑(あまづたふ・f28118)の住む世界――人々に忘れられた妖怪たちが消えてしまう前に逃げ込んだカクリヨには無い『生命力』とでも呼ぼうか。なんともくすぐったくも愛おしく切ない心地のする感覚に、『元』神の使いとしてはどうにも胸裡がくすぐられるようであった。
「懐かしい心地だ」
「……」
千々岩・弥七(ちびたぬき・f28115)の手を引いて道を歩む彼女は、小さく唇の端を持ち上げて小さくぽつりと呟き。
その小さな小さな呟き声をばっちり狸イヤーで受け止めた弥七が、彼女の顔を見上げて瞬きを重ねた。
――ふそーさんは、こういうのなつかしいですか……。
扶桑は弥七よりもずっとずっと年上だ。
弥七よりもずっとずっと長く生きているということは、弥七よりもずっとずっと沢山の思い出があるという事である。
扶桑よりもうんとすこししかまだ生きていない弥七だって、思い出には色んな種類がある。
嬉しかったこと、楽しかったこと、幸せだったこと、――苦しかったこと、悲しかったこと。
今、扶桑がどんな気持ちで懐かしくなったのか、弥七には解らなくて。
「……」
「……ん? どうしたチビ助」
なにやら考え込んでいるような弥七の視線が、自らに注がれている事に気づいた扶桑は首を傾ぎ。
「我の顔に何か付いているか?」
「ぴえ!? なっ、何でもないですよ! ふそーさんは見てないですよ!」
肩を跳ねた弥七は、扶桑と繋いでいた手を解いて。
丁度たどり着いた河原へと、大きな尻尾を揺らし揺らし駆けて行ってしまった。
「あっ、おい、待……」
そうして弥七は、その場で地面を蹴るとくるりと一回転。
「さ、さあーて! とんぼ玉をソウサク開始するのです!」
刹那の合間にはらりと葉っぱが舞って、弥七の姿は真の姿――狸の姿に戻り。そのまま川へとぴゃっと飛び込んでしまった。
「……むう」
子狸の機敏さで逃げられた扶桑は、顎に指先を寄せ息を漏らす。
弥七の顔色を見るに、どうやら何か気を使っているようなのだけれども、理由がわからない。
ぱちゃぱちゃと川で狸掻きをして泳いでいる彼に視線を送り、それから扶桑はかぶりを振って。
――まあ、無理に聴き出すことはするまい。
彼があのような様子で隠すという事は自らを慮っていてくれるからこそだと言うことを、扶桑は何よりも理解している。
ならば、扶桑にできる事は今は一つ。
自らの想いを別の形で、彼に伝えるだけだ。
「どれどれ、我も探してみるか」
河原に立ち尽くしていた扶桑も弥七に少し遅れて、浴衣の裾を引き上げ蜻蛉玉探しを始めるのであった。
木々の緑を透かして落ちる太陽光が、水面をぴかぴかと光の粒で彩っている。
水底に沈む蜻蛉玉は、色とりどり。
「……!」
獣の手足で水を掻いていた弥七は、岩の合間に挟まっていた美しい色をした蜻蛉玉に瞳を輝かせて。
たしたしと前足で蜻蛉玉に手を伸ばした。
ボクはふそーさんと一緒にいると、たのしいことがたくさんあるのです。
いっしょにぶじゅつの練習をしたり、おやつをたべたり、ふそーさんのことばがわからない時もあるけれど。
さいきんはたまに、むかしのことを思い出しているときがあるのをしってるですよ。
でも、でも。
「ふそーさん!」
川から上がって人に化け直した弥七は、狸の尾をゆらゆら揺らし。
「これ、どーぞですよ!」
口で説明出来ない気持ちを全て籠めて。
弥七は扶桑へ、石榴色の蜻蛉玉を差し出した。
扶桑の帯と同じ深い色をした石榴色は、太陽の光を浴びると奥で光が反射して不思議なきらめきを見せるもの。
――ふそーさんにどんな過去があっても、今はボクがいるのです、ボクがついてるのです! だから、だいじょぶです!
一緒にいっぱい、いっぱい、楽しいことを見つけていくのです!
大きな流木に腰掛けていた扶桑は、その玉のうつくしさに淡く眦を和らげて。
「おお、おかえり、弥七。一生懸命探していたようだが、我に選んでくれたのか?」
蜻蛉玉を手にすると、太陽に透かして瞳を眇めた。
「えへへ、ふそーさんにぴったりのものをえりすぐったです!」
「そうか、それは嬉しいな。ありがとう」
お礼の言葉を聞けば、弥七はむん! と胸を張ってぴかぴか笑顔。そんな子狸の様子に扶桑は、ふっと笑みを漏らし。
「我も弥七の為にひとつ、選ばせてもらったよ」
お返しだ、と。
弥七へと差し出されたのは、若草に似た美しい緑色の蜻蛉玉だ。
向こう側が見渡せるほどに透明度の高いその玉は、光も、景色も、なにもかも中に透かして収めてしまうように見えた。
いろんな事があるだろう。いろんなものに出会うだろう。
いつだって、お前がお前らしく物事と向き合えるように。
「ふわ、素敵な緑色のとんぼ玉です! ……これ、ボクにくれるですか?」
恐る恐る緑色の受け取った弥七は、手のひらの上に乗せた石と扶桑の顔を交互に見比べてから尋ね――。
「ああ、勿論」
「わああ! ありがとうです、ふそーさん! ふそーさん! うれしいです! 宝物にするですね!」
「……ああ」
手のひらの中にきゅっと蜻蛉玉を握りしめて、ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶ弥七の姿に、扶桑は優しく瞳を細めて笑う。
チビ助のお前が日に日に大きくなっていく姿は、『今』の我の楽しみの一つなのだ。
――たくさん色んなことに出会って、すくすくと元気に育っておくれ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朱赫七・カムイ
⛩神櫻
倭国の夏はいっとうに落ち着く
きみの故郷は私の故郷だ
微笑ましく巫女をみやり、おやと瞬く
サヨ
まだ水が
全く溺れようも無さそうなところだが
可愛らしいことこの上なくて笑みが溢れて堪らない
手を離さぬよう握っている
大切な巫女が攫われないようにね
其れは?
噫、神からの贈り物だと聞いた
喜ぶサヨに、モヤりと陰るのは胸の裡
私以外の神が、なんて
これは嫉妬か…この位で嫉妬などしない
私みたいにという言葉に簡単に嬉しくなる
サヨ
私は知らぬ神からの祝福なんて受けられないよ
サヨが他の神を褒めるなんて──噫これは紛いもなく嫉妬か
私の黒を、きみから?
其れなら欲しい
首に揺れるのは水が苦手な巫女が探してくれた私の黒
サヨは私の、光だよ
誘名・櫻宵
🌸神櫻
一番落ち着くのは故郷の夏ね!
涼やかなせせらぎに足をひたせば冷た、と声を咲かせて笑むばかり
優しい神様の頼もしい掌があるから水もちっとも
怖くないの
ちょっとカムイ、手ぇ離すんじゃないわよ!!絶対よ!
離したらあなたの巫女は川の藻屑になるわ
冗談ではなく
あら
綺麗なのが落ちてる
拾い上げた蜻蛉玉を光にかざせばきらり瞬くよう
へぇ、神様の贈り物……この綺麗な赫は……きっとこれから良いことがたくさんあるっていうお告げかしら!
だってカムイみたいに綺麗
カムイのも見つけましょ
他の神様からの贈り物は嫌?
……なら私からの贈り物にしてあげる
ほら綺麗な──黒
組紐で結んで首にかける
うん!良く似合うわ!
私の……しあわせの神様
数多の――20を越える世界を渡る猟兵たちは、様々な世界の『夏』を知っている。
訪れることのない朝をはらむ夏を。
船の中で人工的に作られた夏を。
美しき櫻の咲き誇る夏を。
快適なリゾートを提供してくれる夏を。
――どのような世界の『夏』を知っていようとも、一番落ち着くのは自らの生まれ故郷の世界の『夏』であろうか。
それが愛おしき巫女の故郷であれば、その神も居心地を良く感じるのであろう。
緑茂る山より吹き下ろされる風は、その涼やかさが身体に染みるよう。
浅瀬に足を浸ければ冷えた流水が、夏の暑さに火照った熱を奪って行く。
「ん、――冷た」
その心地よさに思わず声を漏らして花咲む誘名・櫻宵(咲樂咲麗・f02768)の掌を握る朱赫七・カムイ(禍福ノ禍津・f30062)は、眦を和らげて。
「足元に気をつけるのだよ、サヨ」
「ふふ、大丈夫よ、カムイ。――優しい神様の頼もしい掌があるから」
「――そうか」
貝のように深く結んだ指先。
紅の色づく櫻宵の指先は、カムイの長い指に固く固く結ばれている。
「だから、水もちっとも……そう、ええ、ちっともね、怖くないの」
カムイはすこしばかり驚いた様子で、櫻宵の顔を覗き込む。
その櫻宵の視線――櫻に宿る色は|本気《マジ》の色だ。
「……サヨ、きみ、まだ水が……」
「怖くないって言ってるじゃないの! ちょっと! 手ぇ離そうとするんじゃないわよ!!!!」
「離していないよ、サヨ」
「絶対よ!?!? 絶対よ!!!! 離したら離した瞬間に、あなたの巫女は川の藻屑になるわ!!」
「わかっているよ、サヨ」
「脅しでも冗談でもないのよ、これは!!!」
水に浸かっている範囲なんて、言っても膝程度なのだけれども。
一生懸命可愛らしい事を訴える|櫻宵《愛おしき巫女》の姿は、カムイの瞳には何よりも愛おしく可愛らしく見える。
「大丈夫、握っているよ。――大切な巫女が攫われないようにね」
「ええ、……お願いよ、カムイ」
貝のように結んだ掌を更に深く深く。カムイの胸に半ばしなだれかかったままの櫻宵は、水面へと視線を向けるとなにかにはたと気づいた様子で。
「あら、水底に綺麗なのが落ちてるわ」
カムイと片手は繋いだまま真剣な表情で。丁寧に丹念に慎重に決して転ばぬように注意深く腕を水へ浸けると、綺麗なの――美しい赫色の蜻蛉玉を拾い上げた。
山の緑の合間より差し込む、太陽の光の粒を浴びた赫はぴかぴかと美しく耀いている。
それはまるで――。
櫻宵は蜻蛉玉とカムイの顔を、瞳を眇めて見比べて。
「うん? ――噫」
カムイは蜻蛉玉と同じ色にまばたきをひとつ、ふたつ。
此処へと来る前に、たしかそのような話を聞いた覚えがあった。
「確か神からの贈り物だと聞いたね」
「へぇ、神様の贈り物……。この綺麗な赫は……きっとこれから良いことがたくさんあるっていうお告げかしら?」
櫻宵はこの蜻蛉玉を光に透かしてじっと見つめながら、くすくすと楽しげに笑う。
カムイは、その楽しげな表情に――……何故だろうか。
不思議と、胸裡に影が落ちた気がした。
……この感情の名前は。――否、違う。
これは、そのような名前の感情では無い。私がこの程度の事で、そのような。
「だってこれ、カムイみたいに綺麗なのだもの」
自らの神様と同じ色をした美しい蜻蛉玉なんて――吉兆以外のなにものでもないでしょう。
蜻蛉玉から顔を上げて花咲む櫻宵の言葉に、カムイの胸裡におちた影へぱっと光が差したようであった。
「……そうかい?」
カムイは自らの巫女の言葉に、こんなにも簡単に嬉しくなってしまう。
やはり、あの感情の名前は――。
「ねえ、カムイ。カムイのも見つけましょうよ」
手を結んだまま櫻宵が腕を引くと、カムイはその瞳の赫を細めて。
再び胸裡に落ちた影の色に、確信を抱いてしまう。
「サヨ、……私は知らぬ神からの祝福なんて受けられないよ」
――噫、これは紛いもなく嫉妬だ。
私以外の神が、きみに何かを贈る事が許せはしないという、――嫉妬だ。
ぴしゃりと言い放ったカムイの言葉に、櫻宵は眦を和らげて。
「他の神様からの贈り物は嫌かしら。……なら私からの贈り物にしてあげるわ」
自らの神様の言葉の意味を全て理解した様子で肩を竦めると。
――手だけはしっかりと繋いだまま。丁寧に丹念に慎重に決して転ばぬように注意深く腕を水へ浸けるともうひとつぶ、蜻蛉玉を水中から拾い上げた。
「みて、カムイ。ほら綺麗な――黒」
それは落ちる太陽の光すら飲み込む暗い暗い、濡烏色。
水が苦手だというのに櫻宵がわざわざ拾い上げてくれた、カムイの真の姿に似たその色。
「……私の黒を、きみから?」
「ええ、あなたの色を、贈らせて頂戴」
「……其れなら欲しい」
「ええ」
くすくすとくすぐったそうに笑った櫻宵は、濡烏色の蜻蛉玉を組紐で結んで神様の首へとうやうやしく掛けて。
「うん、良く似合うわ!」
「ありがとう、サヨ」
櫻と赫の視線を交わして、神様とその巫女は笑い合う。
神にとって、|櫻宵《愛おしき巫女》は、光であった。
巫女に取って、|カムイ《愛おしき神様》は、――しあわせだ。
二人は手を繋いで、ゆっくりと河原へと歩みだす。
「……それはそうと、カムイ。絶対まだ手を離しちゃだめよ?! 本気だからね!?!?!?」
「大丈夫、大丈夫だよ、サヨ……」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
メゥ・ダイアー
メゥいまね、楽しいものを探す冒険中!
それでね、見せてもらったとんぼだま、っていうのメゥも探しに行くよ!
んー、海も大きかったけど川はうーんと石がいっぱい
探すのはあったかい色のがいいかな。他のと違う色だから見つけやすいかも!
ちゃんと水着も着てきたし、泳ぎもちょっとは上手くなってきた気がするんだ。
それでね、メゥわかったの!
海はね、飲んじゃうとちょっとおいしくなかったけど、
川はねさらさらしてるから、長めに水の中にいてもメゥ平気な気がする!
かみさま?
その言葉はメゥ聞いたことあるような。ないような。
でも、贈り物くれるなんて優しいんだね。
会えたらメゥありがとうってちゃんとお礼するね!
探すの楽しかったー!
村より河原へと続く道には様々な屋台が立ち並び。
なんだか皆が楽しそうに過ごしているように感じられて、メゥ・ダイアー(記憶喪失|《わすれんぼ》・f37609)もなんだかうきうきしてしまう。
なんたって。
メゥは今、楽しいものを探す冒険中なのだから。楽しいものには敏感なのだ。
透き通った足で跳ねるみたいな足取り、飛ぶには心許ない小さな翼で川辺の涼しい風を切ってメゥは進む。
あっちの屋台は、おいしそうなかおり! こっちの屋台は、きらきら綺麗!
川魚を焼くにおい、野菜をたくさん使った煮物のにおい。
加工されたお守りの見本がしゃらしゃら揺れて、宝石みたいにぴかぴかしている。
「すごいね、きらきらきれい」
加工された蜻蛉玉のアクセサリーを直接触れてみると、つるつる、すべすべ、持ち歩きしやすいようにきれいな装飾が施されている。
それは案内される前に見せてもらった蜻蛉玉よりも、もっともっと素敵なように思えた。
「それはね、神様の贈り物なんだよ」
「かみさま?」
商品をじっとみているものだから、メゥに屋台の店主が声をかける。
メゥはその言葉を、聞いたことがあるような――、ないような。
あかい瞳をぱちぱち瞬き、いちど、にど。
「ああ、そっちの川にはね、神様の贈り物がこの時期に顕れるんだ。ここはそれを装飾品に加工している店なのさ」
「そうなんだ、おしえてくれてありがとう!」
「どういたしまして」
ぺこりとメゥが頭を下げれば、思わず店主も丁寧にお辞儀を返す。
「それじゃ、メゥもいってみるね!」
「ああ、気をつけてな」
店主に大きく手を振ったメゥは、また歩き出す。
――かみさま、は、贈り物をくれるんだ。
優しいんだなあ。
「よーし……!」
歩みながらメゥは贈り物を探そう! と、両拳をきゅっと握りしめて気合充分。そのために今日は、水着だって着てきたのだ。
それでは早速、まずは初めて見る川の状況確認!
海は大きくて広かったけれど、川は上からざあざあ流れて、石がいっぱい。海よりは広くないみたい。
慎重に足を水に浸けてみると――。
「わ! つめたい!」
メゥは覚える。海よりも川のほうが水が冷たいのだ。
ざぶざぶ進むと、水の冷たさがまた気持ち良い。
えいっとちょっと深い場所まで歩んで、ざぶんと頭を水中まで浸けてしまう。
「!」
メゥはそこで、驚いてしまった。
海の水は飲むと、苦くて、のどがいがいがして、しょっぱくて、ちょっと美味しくなかったけれど。
川の水は、さらさらしていて、味がそんなになくて、水中ずっといても平気な気がする。
それから。
水底へと視線を移したメゥは、大きく瞳を見開く。
水草の白い花が水流に靡き、小さな魚達がゆうゆうと尾ひれを翻す、もっと下。
白い川石の合間にはいくつもの蜻蛉玉が、太陽の光を浴びてきらきらと燿いている。
それはとても、綺麗な光景に見えて――。
その中で一番まっかな、中に水泡と金色が花みたいに見える蜻蛉玉をメゥは一つ拾い上げてみる。
「わあ……」
ざぱっと顔を水の中から上げて、蜻蛉玉を掲げ。
太陽の光に直接透かすと、水中に居たときよりももっともっとぴかぴか燿いているみたいに見えた。
「……きれい!」
こんなにすてきな贈り物!
神様と会えたら、ありがとうってちゃんとお礼をしたいな。
メゥはへんにゃり笑って、蜻蛉玉を握りしめた。
大成功
🔵🔵🔵
栗花落・澪
【狼兎】
※今年の水着着用
折角ならお互いの色見つけたいよね
僕は紫崎君の赤色を探そうかな
あ……あの色、それっぽいかも
見つけたらその石を手に持って、
そっと祈りのポーズを
サムライエンパイアは紫崎君の故郷だから
家族は生きてるとは聞いた
でも、紫崎君は追い出された身だから
もう会えないから…僕の家族と同じでいいって
結婚の、挨拶
だから、形だけでも…祈りという形で
未だ知らぬ彼の家族に、神様が届けてくれないかなって
あっ、えと……ここって、さ
紫崎君の故郷、だよね
だから…挨拶しとこうと、思って…
以前に同じ話をした事があるから
それだけで彼には伝わるから
覚悟…したよ、うん…恥ずかしいけど…(照
その時は…また、声かける…
紫崎・宗田
【狼兎】
※今年の水着着用
神、な…
俺も澪も、猟兵としての神じゃない
願いを叶えるだなんだの神話はあまり信じる方じゃないが
たまにはこういうのもいいかもな
2人それぞれで石探し
目につくだけでもチラホラあるが…
どうせ探すならお気に入りを見つけたい、とは澪談だ
互いの色を、という話になったから
俺はひとまずオレンジかピンクのどちらかを探してる
だが、ふと澪を見た時に祈るようなポーズで立ち尽くしているのを見つけ
…どうした?
ん、あぁ…そうだな
世界的には、故郷だ
帰って来た澪の答えには一瞬驚き
しかしすぐにふっと笑みを
なるほど、覚悟決めたってことか
なら次は…お前の故郷にも行かねぇとな
挨拶が嫁からだけじゃ締まらねぇだろ
ぱしゃん、と魚が跳ねる。
「そっち、滑りそうだぞ」
「――わっ!」
慌てて腰を抱きとめて、その滑りかけた身体を受け止め。
「……危ないっていったろ」
「……う、うん……、ありがと」
「ん」
二人組はぱしゃぱしゃと水面を跳ねて、更に歩みだす。
留まる事無く流れ続ける涼しげな水流の音に重なるように、蝉の声が賑々しく響いでいる。
川の向こう岸は崖のようになっており。うっそりと伸びた枝の葉が、まるで川に掛かった傘のように日陰を作ってくれていた。
葉と葉の合間に生まれた隙間によって、影の合間には光の粒が水面に落ち。
浅瀬を二人ならんで歩む栗花落・澪(泡沫の花・f03165)と紫崎・宗田(孤高の獣・f03527)の頭上にも、光が煌めいていた。
「こうやって川を歩くと、冷たくて気持ちいいね、紫崎君」
「ああ」
川石の合間には水草と苔――それに、まあるい小さな蜻蛉玉。
折角探すのならば、お気に入りを。――お互いの色を見つけたいよね。
そう提案したのは、澪だ。
幾つも蜻蛉玉自体を見つける事は出来ていたが、二人が拾う事無く浅瀬を歩み続けているのは、そういう理由であった。
「……あ、」
「……ん? どうした?」
――水面を蹴る音が一つ減ったことに気づいた宗田が後ろを振り返ると、澪はその場に立ち尽くしていた。
白い翼を畳み。金蓮花と白いリボンが彩る琥珀色は、空から降り注ぐ光の粒を浴びて。
ふんだんにあしらわれたフリルに、繊細なレースのウェディングドレスを模した水着を着る澪の姿は、どこか神々しく瞳に映る。
掌を結んで祈るように瞳を閉じる姿は、まるで絵画のようにすら見えて。
「……どうした?」
思わず息を飲んだ宗田は、ちいさくかぶりを振ってから澪に尋ねた。
「あっ、えと……ここって、さ。紫崎君の故郷、だよね」
『ここ』とは、この村の事では無い。
この世界――サムライエンパイアの事自体だろう、と得心した宗田は小さく頷き、相槌として。
「ん、あぁ……そうだな」
「それで」
一度言葉を切った澪は、宗田を見上げる。
彼の黒い瞳をじっと覗き込んで、一度息を呑んでから。
掌に握り込んでいた、燃えるように真っ赤な蜻蛉玉を押し付けて、言葉を紡ぐ。
「……だから、挨拶しとこうと、思って……」
「……」
澪の言葉に一瞬瞳を見開いて、すぐに細める。
和らぐ眦、ふ、と息をこぼして、きっと宗田は笑っていたのであろう。
「なるほど。覚悟決めた、ってことか」
「……うん」
まっすぐにタキシードをもした水着を纏う宗田を見据えて、澪は頷いた。
「覚悟、……したよ」
こく、と頷いてから澪が言葉を告ぐと、下唇にきゅっと力が知らず識らず籠もっているようであった。
琥珀色の瞳を細めて、両手のひらで唇を覆う。
頬が熱い。
きっと真っ赤になっているのだろうと、自分で理解できてしまう。
宗田は故郷を追い出された身だ。
家族は生きてこそいるそうだが、宗田と澪は、宗田の家族には会うことはきっと叶わないだろう。
――家族と会う事が叶わぬのは、澪も同じだ。
だからこそ、だからこそ、形だけでも。
祈りという形で、――結婚の挨拶を、祈りに籠めて。
未だ知らぬ彼の家族に、神様が届けてくれたら良いな、なんて。
願ってしまう、祈ってしまう。
「なら、次は――お前の故郷にも行かねえとな」
「え?」
まぶしそうに笑う宗田は、肩を竦めて。
宗田としたって、澪としたって、猟兵としての『神』では無い。
『神話』としての神様。
特に願いを叶えてくれるだなんて神話は、あまり信じる質では無い。
しかし、しかし。
――ここの神様は、人々に贈り物をしてくれるほど優しい神だというのならば。
願う事くらい、祈る事くらい、――たまには良いだろう、と思うのだ。
「挨拶が嫁からだけじゃ、締まらねぇだろ?」
そうして次がれた宗田の言葉に澪は、くす、と笑って。
頬を染めて頷いた。
「うん、……その時は、……また、声、かけるね……」
「ああ」
澪に押し付けられた真っ赤な蜻蛉石を握りしめた宗田は、照れて視線を逸らす澪の頭をぽん、と撫でてやり。
「――ほらよ、手ェ出しな」
それから。
いつの間にか手にしていた桃色の溶ける琥珀色の蜻蛉玉を、澪の手へと転がり落とした。
少しばかり体温の移っているその蜻蛉玉はもしかすると随分前に拾われており、澪が真剣に探しているものだからずっと付き合って探していたのかもしれない。
「うん、……ありがとう」
澪は瞳を瞬かせてから、その長い睫をふさと揺らして。
光をあびてぴかぴかと瞬く蜻蛉玉を、きゅっと握り込む。
その表情を見る事ができるのは、この世界で宗田ただ一人だけだ。
――留まる事無く流れ続ける涼しげな水流の音に重なるように、蝉の声が賑々しく響いでいる。
川の向こう岸は崖のようになっており。うっそりと伸びた枝の葉が、まるで川に掛かった傘のように日陰を作ってくれていた。
葉と葉の合間に生まれた隙間によって、影の合間には光の粒が水面に落ち。
――光の粒を浴びた二人は、どこか幸せそうに手を重ねて、来た道をゆっくりと歩みだした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
呉羽・伊織
【珍】
(漸く邪魔狐を回避したと思ったのに――
今度こそ水着美女と納涼天国~と思ったのに――
何故か|ネコチャン《オッサン》と愉快な仲間達があらわれた!)
珍獣団過ぎるだろ~!
(猫軍団&雛&亀&|蛟《鰻》を前に項垂れ)
ってうわヤメナサイ!(飛沫直撃)
分かったヨ…んじゃ仲良く探しといで!
あ、ぴよこは溺れないよーにコッチな
(泳ぐ亀&蛟の横に
お椀舟で浮かべてやりつつ
…盥猫軍団見れば)
…ソッチは玉と光物に目が無さすぎるな!?転覆しても知らないぞ~!
(とかわちゃわちゃしつつも
猫軍団&ぴよこの分はちゃんと掬い上げ
亀と蛟の分も受け取れば――
眩い玉と笑顔が見事に揃い)
よしよし
そしたら仲良くお揃いの飾りにしてもらうか!
鈴丸・ちょこ
【珍】
(お供の猫軍団&
伊織のぴよこと亀と|蛟《鰻》を
ぞろぞろと連れ)
ったく、お前が独り寂しく河原で黄昏る羽目にならねぇ様に、皆でついて来てやったんだぞ
喜べ
(挨拶代わりに早速
猫軍団が伊織へえいっと水飛沫浴びせた!
”早く遊ぼうぜ!“の意の様だ)
よしお前達、今日は玉を探すんだぞ
魚に釣られるんじゃねぇぞ
(此方も盥を舟代わりに川へ
――言った傍から
水中の輝きにきょろきょろしまくる軍団を
“青いな”と見守りつつ蜻蛉玉探し)
ふふん、転覆も水も恐るるに足らずだ
(だが何だかんだ抜群のフォロー見せる男の力を有難く借り
無事に色とりどり粒揃いの輝きを手に入れ)
ふ、皆満足げだな
おう、そいつは良い
運気も気分も一際高まるだろう
蝉が鳴いている。
りっぱな枝ぶりの木々は、どれもが生命力に溢れた緑の葉を大きく広げ。
ぴかぴかと痛い程輝く太陽の光が、眩しく肌を焼く、夏本番。
しかし。酷暑だと感じはしないのは、山肌を撫でて吹き下ろす風が川によって冷やされているからだろうか。
山間の村から河原に向かう道沿いには、幾つもの屋台が立ち並び。
神様からの贈り物を賜わろうと集まった人々が、賑々しく言葉と交わし合っている。
「…………ドウシテ」
「ったく、お前が独り寂しく河原で黄昏る羽目にならねぇ様に、皆でついて来てやったんだぞ?」
「…………ドウシテ??」
「喜べってんだよ」
「…………頼んでませんケド!?!?」
河原に集った者たちのひとり――呉羽・伊織(翳・f03578)に、賢い動物の猫……の鈴丸・ちょこ(不惑・f24585)と、その猫の使い魔の猫たちと、伊織のバディペットたるあったかかわいいふわもこひよこのぴよこと、伊織の右腕たるでぇとにやたらと誘ってくる助けた亀の亀と、黒く艶やかな蛇……? 龍、えっと……、なんか……使い魔の|蛟《鰻》。ともかくなんかいっぱいの動物たちは、呆然を項垂れている伊織を囲んでワイワイやっていた。
「珍獣団過ぎるでしょ!」
割りと大きな声で突っ込む伊織の足元に、すりすり擦り着く亀。
いやオレは亀に好かれたい訳じゃなくてデスネ!?
――いつもいつもいつも、何かと邪魔をしてくる狐軍団を今日こそ回避したと思っていたのに。
今日こそ、水着美女のオネエサンたちと納涼天国~🎶 るんるん🎶 なんて、思っていたのに。
ドウシテ、ネコチャンオッチャンと大量の愉快な仲間たちがこんな所まで……?
内心嘆きながら伊織は亀を川の方へと置いてやると、亀は水を得た魚よろしく楽しげに川をスイスイと泳ぎだす。
ああ~、納涼天国って顔してマスネ……。
「おいおい、大きな声を出すなよ。ご近所迷惑だろう」
ちょこが可愛らしくワイルドに肩を竦めて諫めると。
にゃっ、にゃっ、にゃっ!
頭上にたらいを掲げ持った使い魔の猫たちが、既に伊織と話す事に飽きたのか、それとも苦情を申し立てているのか。
伊織へとぱしゃんと水を跳ねる。
「誰が……うわっ、冷たっ!? や、やめなさい、ヤメナサイ!」
「早く遊ぼうってよ」
頭を振って気持ちを代弁したちょこに、伊織はまた大きめのため息をこぼして、やれやれ感を全身で滲ませてから。
「はいはい……、ワカリマシタ……。ったく……、んじゃ仲良く探しといで」
ぴよこだけは溺れないように伊織がおわんを舟代わりに用意してやると、亀と|蛟《鰻》は併走するようにするりと水面を滑り泳ぎ。おわんの中でぴょいぴょい跳ねるぴよこが落ちないように、おわんを支えるように川遊びを始めた。
「さてと……」
人仕事おえた伊織が、ちょこと使い魔の猫軍団の方へと視線をやると――。
「よーし、お前達はこっちだ!」
ちょこの号令一つで、使い魔猫たちは川へとたらいをおろしている。
「面舵一杯、ヨーソロー! 今日は玉を探すんだぞ、魚につられねぇように気をつけろ!」
一斉にたらいへと乗り込んだ猫たちを乗せたたらい舟は、ゆるい流れに乗って川を進み出し――。
刹那。
にゃっ、にゃっ!
すいすいと泳ぐ魚に手を伸ばす|者《ねこ》。
ぴかぴか瞬く水面の光につられて、瞳孔をまんまるに開いて威嚇する|者《ねこ》。
風に揺れる草を気にして、今にも飛び出さんとぎゅっと身体を縮こまらせる|者《ねこ》。
「……」
ちょこは肩をまた竦めて、ぴぴぴと耳を揺らしてかぶりを振る。
まだまだ青いな、お前達。
それでも使い魔達の主として、彼らを見守りながら水底へと視線を向けるちょこ。
ぴかぴか瞬く光に尾の先がぴこぴこ揺れてしまっているのは、条件反射だ。しかたあるまい。
賢い動物とは言え、猫は猫。本能は全ては抑えきれない。
「……何か今にも転覆しそうなバランスだけど、大丈夫?」
ぐらぐらしているたらい舟の動きに、伊織は思わず声をかけ――。
「ふふん、転覆も水も恐るるに足らずだ」
「そっか。じゃあ、これはおすそ分けな」
小さく笑った伊織は、水面から頭を覗かせている石の方へ向かいそうになっていたたらいの向きを、そっと掌で撫でて別の流れに乗せてやる。
そして。
そのまま水底まで腕を伸ばしていくつかの蜻蛉玉を拾い上げると、たらいの中へと転がり込ませた。
「……お」
にゃにゃっ。
たらいの中に転がり込んできたぴかぴかの蜻蛉玉に、いろんなものに気を引かれていた使い魔の猫たちの興味が一斉に注がれる。
青色、赤色、緑色、金色がひまわりみたいに咲いた玉。
肉球でころころ転がして、かつんと転がった玉を別の猫が弾いて。
「ふ、皆満足げだな」
「そりゃ、何より」
「おう、ありがとよ」
唇に笑みを宿して伊織が相槌を打つと、おわんを引いてきた亀と|蛟《鰻》がちょいちょいと彼の足先を突く。
そちらを見てみれば、ぴよこがぴょーんと跳ねて、黒色の奥に赫色の宿った蜻蛉玉を頭の上に掲げ。
彼ら3匹の分なのであろう、蜻蛉玉が3つおわんの中に入っていた。
「自分たちで取ってきたのか? よしよし。すごいな、ぴよこ」
ぴよこがぴっと喜んだようにもう一度跳ねると、亀が自分も褒めてほしいと言うように伊織の足に絡みつく。
「あーあー、わかった、ワカリマシタ、亀サンと蛟《鰻》サンもエライ、エライ!」
その言葉にふん、と二匹も胸を張ったように見えるだろうか。
「そんじゃ、そしたら仲良くお揃いの飾りにしてもらうか!」
「おう、そいつは良い。お前達も、玉は持ったな?」
にゃにゃっ!
ちょこの言葉に、それぞれ猫の使い魔たちも元気なお返事。
太陽の光を浴びて、ぴかぴかと眩く輝く蜻蛉玉を猫たちも確保している。
「それじゃ、行くか。自分で取った石を飾りにしてもらえば、運気も気分も、一際高まるだろうからな」
伊織はおわん舟と、たらい舟を抱えあげ。
賢い動物の猫のちょこ。――その猫の使い魔の猫たちと、伊織のバディペットたるあったかかわいいふわもこひよこのぴよこと、伊織の右腕たるでぇとにやたらと誘ってくる助けた亀の亀と、黒く艶やかな蛇……? 龍、えっと……、なんか……使い魔の|蛟《鰻》。
ともかく。
沢山の動物と人は、賑々しく人々の集う屋台道へと歩んでゆく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ミリアリア・アーデルハイム
(2021水着で)
素敵な行事ですよね。もし村おこしだとしても野暮は言いっこなしです!
わわっ、川の水って冷たいんですね。でも流れがあって面白い。
ちょっと流されてみましょう。流されれば流れの止まる場所が分かりますし、きっとそこには石もある筈
ん~、楽しい!そして、ここっ!!
ほら、見~つけた!
錦鯉でしょ、藍玉に銀星、桜色にさざ波?どれもこれもきらきら綺麗
そうだ、いいことを思いつきました!(UC「繁殖」『願いが叶う』属性の【祈り】を込め、模様のついた貴石を創造して川底に少しずつ落とす)
楽しませていただいたお礼にとりどりの宝玉をそっとお返ししましょう。
この世界の神ではないけれど、私も一応神族ですしね!
河原に敷き詰められた、太陽の光を一身に受けて熱くなった白い川石。
そこから川に脚先を移すと、サンダル越しでも感じられる熱に火照った肌を流水がひやりと奪う。
「わわっ」
想像していたよりもずっとひんやりとしている水温に、ミリアリア・アーデルハイム(永劫炉の使徒・f32606)は琥珀色の瞳を瞬かせる。
――ずっと流れが淀むことがないからこそ、こんなに冷たいのかもしれないですね。
そう思うと、川の流れは面白い。
「よーし……」
川の流れに身を任せて、流れ着いた先にはきっと蜻蛉玉だって溜まっているはず。
――川は海とは違って、真水だ。
その分身体が浮きにくく危険であるのだが、ミリアリアは猟兵であり、神でもある。
ひとの子は決して真似してはいけない事でも、神ならば少し力を込めればなんとかなるものだ。
腹程までの水深まで歩いたミリアリアは、目を瞑って川の流れに身を委ねる。
神の川流れ。
水流淀む場所が瀬となるのか、淵となるのかは解らぬが、どうなるかが分からない事も含めて冒険とは楽しいもの。
きっと水の流れが辿り着く場所には、蜻蛉玉だって沢山溜まっているはず。
瞳を開けば白い石の合間に、ぴかぴか瞬くきらめきが見える。
小さな魚達が尾を揺らして泳いでいる。小さなエビやカニ達がのこのこ歩いているのが見えた。
水草がゆらゆら揺れて――。
鼓膜を震わせる水の中の音は、こぽこぽと不思議と落ち着く響き。
ん~っ、楽しい! 川の中ってきれいだな。
そうして運ばれた先は――浅瀬であった。
「見~つけたっ!」
ここはきっと、穴場なのだろう。
『神様の贈り物』を賜わろうと村から歩いてくる者は、大体そちらの岸側を探しているものだ。
なんたって対岸はずっと崖のようになっており、上には生い茂る木々が覆っている。
しかし。
ミリアリアの流れ着いた先はその崖のようになった対岸が、少しだけ河原と成っている場所であった。
人々が探しに来ない――、来れない、かもしれないが。
ともかく。
この場所には、きらきらの蜻蛉玉が沢山溜まっていた。
透明度の高いまあるい蜻蛉玉に、錦鯉に、藍玉に銀星、桜色にさざ波。
太陽の光をあびてぴかぴかと瞬いている玉は、色鮮やかな光彩を纏ってどれも宝石のように見える。
「きらきら光って、綺麗……」
ほう、と息を吐いたミリアリアは、次の瞬間にはなにやら思いついた様子。
琥珀色の瞳にぴかぴかの好奇心を揺らして。
「いいことを思いつきました!」
それから両手のひらを貝のように結ぶと、――祈りを捧げる。
これを手に入れたものの、願いが叶いますように。繁栄を成しますように。
――模様のついた貴石……蜻蛉玉を|創造《ゴッド・クリエイション》したミリアリアはそれを川底へと転がり落として。
「ふふふ、楽しませていただいたお礼です」
――ミリアリアだって、この世界の神では無いとは言え、神族だ。
『神様の贈り物』をすこしくらい増やしたって、『神様の贈り物』には違いない。
それから一粒拾い上げた蜻蛉玉を太陽に透かして、くすくすと笑った。
私からの贈り物を、誰かが受け取ってくれますように。なんて。
大成功
🔵🔵🔵
フリル・インレアン
ふわぁ、蜻蛉玉ですって素敵ですね。
水の中ということはアヒルさんの出番ですね。
頑張ってください。
ふえ?無理って、どういうことですか?
一応、私も水着を着てきていますけど、水中はアヒルさんの方が得意じゃありませんか?
水辺は確かに得意ですけど、水底は無理って、アヒルさんもしかして泳げないんですか?
ふええ、突つかないでください。
あれ?でも、アヒルさんと何度か水中に行ったことがありますけど、一緒にいましたよね。
これまでに行った場所は特別な力で水中にいても大丈夫だっただけど、普通は浮いてしまうって、アヒルさん元々はボートでしたね。
妙に納得って、ふええ、アヒルさん突つかないでください。
そうそうと流れる水音は如何にも涼やかで、留まる事は無い。
対岸は崖のように切り立っており、その上に緑の木々がまるで川を覆う傘のように影を落としている。
影の合間から落ちる光はぴかぴかと水面を照り返し。小さなカニが青い花の咲くサンダルの横を歩き、川の中へと姿を消していった。
「ふわぁ……、アヒルさん、川ですよ」
山から吹き下ろされる涼しい風に、大きな麦わら帽子が攫われてしまわぬように。
フリル・インレアン(|大きな帽子の物語《👒 🦆 》はまだ終わらない・f19557)は帽子のツバを両手できゅっとおさえて、彼女の周りにぷかぷかと浮いているアヒルさん――アヒルの形をしたガジェットへと声を掛けた。
「蜻蛉玉は水の中にあるそうです、――アヒルさん、水の中は得意ですよね?」
フリルの言葉に、アヒルさんはふるふると首を左右に振る。
「ふえ? どういうことですか?」
フリルだって水着を一応着て来てはいるが、アヒルボート由来のアヒルさんのほうが水中はずっと得意であるはずだ。
あ、と気づいた様子でフリルは目を見開いて。
アヒルさんのつぶらな瞳を覗き込むと、首を傾いだ。
「アヒルさん、もしかして泳げないんですか?」
そんな訳ないだろう、と言わんばかりの勢いでアヒルさんはフリルをつんつん小突く。
「ふええぇ……、突かないでくださいぃ……」
頭だけは守ろうとするように、帽子のツバをきゅっと更に深く抑え込んだフリルはふるふる顔を左右に揺すって。
「だって、アヒルさん、わたしとも何度か水中に行ったことがあるでしょう? そのときは普通に一緒に……あっ、あっ、ふえぇ……、突かないでください……」
猛攻するアヒルさん。
たまらず川をぱしゃぱしゃと駆け出すフリル。
見た目だけで言えば、なんとなく青春っぽく見えなくもない構図だ。
「――これまでに行った場所は特別な力で、水中でも大丈夫、あっあっ、突かないでください……、普通は浮いてしまうって事はわかりましたから」
そう。
アヒルさんは"アヒルボート由来"なのだ。
言われてみれば浮いてしまうというのも納得だ。
「妙に納得、し、ふええ……アヒルさん、突かないで、突かないでください~」
駆けるフリルの銀糸の髪が太陽にきらきら照り生えて。
それを追う、真っ白なアヒルさん。
水しぶきを跳ねて、二人は河原をどこまでも駆けてゆく。
――夏は、真っ盛り。
なんだかんだでアヒルさんはちゃっかりしているものだから。
きっとこのまま、蜻蛉玉が拾える場所までフリルを誘導してくれるのであろう。
大成功
🔵🔵🔵
クーナ・セラフィン
贈り物、か。
何かいい感じの縁が見つかるといいなー。
暑いから涼めれば更に最高。
今年の水着と一昨年の浴衣準備。
水遊び兼蜻蛉玉探し…身長的に全身浸かりそうだけど!
浅瀬中心に探るけどなーんか物足りない感じ。
深場に挑むべきでは?
そうと決めたられっつだいびんぐ。
こんな時用の水着だし、素敵なきらきら見つけるまで粘る…!
直感でピンと来た模様の綺麗そうな石を拾って水面へ。
全体は暗青色の石、一番星みたいな模様に加えて夜の雲のような灰の模様。
…目標は隠れる事もあるけどいつかははっきり見えてくる…とかそんなご利益ありそうかにゃー。適当だけど。
さて、体拭いたら浴衣に着替え出店を楽しみに行こうかな。
※アドリブ絡み等お任せ
村より河原へと続く道には屋台が立ち並び、賑々しい祭りの雰囲気を感じさせる。
一年に一度、川へと賜される『神様の贈り物』。
クーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)はサングラスをくいっと下げると、まばゆい太陽に瞳を細めた。
川の『足だけが浸かる範囲』は、43cm程の彼女ではあまりに浅すぎるようで。
「うーん、やっぱりこの範囲じゃなかなか無いにゃー」
ここまで河原沿い過ぎると川の中に顕れるという『神様の贈り物』――蜻蛉玉は、なかなか見当たらない。
勿論、少しは転がっているのだけれども。
折角見に来たのだからもっともっと沢山吟味してみたいものだ。
「よし、やってみようかな」
水浸しになると、乾くまで時間がかかるのだけれども。
面倒臭さよりも、クーナの好奇心のほうが強かった。
――素敵なきらきらを見つけるまで、粘ってみようかな!
「れっつだいびーんぐ」
なんて、戯けて。じゃぶん、と一度全身を水に浸けてしまえば、もうどれだけ濡れたって一緒だ。
猫掻きで淵まで泳いでゆくと、水底へと瞳を凝らす。
泳ぐ魚に一瞬目を奪われるが、今日の目的はそうでは無い。
白い花がまぶされたように咲く水草が、ゆうらりゆらり揺れている。
敷き詰められるように転がる川石の合間に挟まった、蜻蛉玉たちは太陽の光を浴びてぴかぴか輝いて、色とりどりに水底を彩っている。
それはまるで、宝石箱をひっくり返したような光景にも見えて。
クーナは内心舌を巻く。
わーお、どれもかしこも綺麗だにゃー。
じゃぼん、と水を掻き蹴って、水底まで身体を沈みこませると、――直感でピンときた玉を、一つつまみ上げて水面へと顔を出した。
「ぷはっ」
ざぶざぶと浅瀬まで泳ぎ戻り、ぶるると身体を震わせて水気を払うと、改めて蜻蛉玉を見下ろして。
暗青色のまあるい石の表面には、一番星みたいにぴかぴか瞬く金色ひとつ。
太陽の光に透かせば、奥には夜の雲のように灰色が渦巻いているのが見えてくる。
「うーん……、――目標は隠れる事もあるけどいつかははっきり見えてくる……、とかかにゃ」
ご利益内容を即興で考えると、もう一度ぷるると身体をふるって。
随分と水気も飛んだ事ものだ。
此れだけ太陽が照っているし、身体を拭いて少しゆっくりすれば、浴衣が着れる程度には乾くだろう。
ごろんと平たい大きな岩の上に転がると、クーナはすこし一休み。
「このあとは、屋台の方も見に行こうかな?」
青空に流れる雲。
蝉の鳴く声、人々の声、水の流れる涼やかな音。
川に冷やされた風が、なんとも心地よい。
「うーん、なつやすみって感じだにゃあ」
くわ、とあくびを一つ。
クーナは瞳を細めて、夏の風を感じていた。
大成功
🔵🔵🔵
ペペル・トーン
ティルちゃん(f07995)と
今年の水着で水底を薄く覗いて
海よりも浅い底に潜む贈り物
私達も見つけて行きましょ
歩く度に跳ねる飛沫に水が足に戯れるのも楽しくて
遊びたい気持ちもふわりと沸くも
こっちは水の流れが速いみたい、手を繋いでくれる?
なんて、貴方が足を取られないように手をとって
川にも人魚はいるのかしら?
目に裾を映して不思議に思うの
あら、それなら私達、今は龍の中にいるのね
キラリと光るのは鱗も同じで
ああ、きっと丸い鱗のその子は優しい子ね
色が選べるなら…そうね
貴方との縁なら、暗い色がいいわ
ああでも、私の縁は少ないから、新しい縁もいいかしら
目を凝らして水底覗けば、キラと光る色の玉
あ…見つけたわ
手の中にあるのは小花咲く陽だまり色
泳ぐように輪を描く色は温かい
互いの手にある縁の色は素敵で
何より共に見つけられたのが嬉しいわ
嬉し気に言紡ぐ彼女がいると
温かい心地は日差しのよう
きっとそうねと胸にある幸せに頷くの
髪や服の飾りにしようかしら
なんて話せば、あっと言う間に華やいで
水に戯れながら、次はと言葉弾ませるの
ティル・レーヴェ
ペペル殿(f26758)と
流れる水面の煌めきに
蜻蛉玉の其れが合わさって眩い程
ふふ、近付き浸って共に探して
おひとつお裾分けを頂こか
身に纏うは今年の水着
パシャリと星を纏うよな
友の爪先を眩しげに眺めれば
差出される手
うんっ、繋いでゆこう!
きゅっと握って踏み出せば
ふわりと鰭のよな薄布揺れて
ふふ、居るやもしれぬな
あゝけれど和の国では
川を龍に喩える事もあるという
この“贈物”が其の鱗なのやもよぅ?
なんて
きらきら光る蜻蛉玉
どんな色を手招こう
新たな縁も魅力的
けれども、そうね
見つけるのなら――
ペペル殿の言葉を聞きながら
指先追えば、近くにきらり
あ、妾も見つけたっ!
伸ばす先には
宵と明けの狭間空めく紫色に
星屑のよな模様が混じる玉
互いの手の煌めきを見せ合って
宿す色に微笑み合う
其方の明るき新たな縁も
妾の暗き深まる縁も
きっときっと幸に満ちた其れになる
だって、こんなに温かな気持ちで
ふたりで見つけられのじゃもの!
そうして迎えた色彩を縁の玉を
どんな形と変えようか
ふふ、迷うのならば
屋台見ながら決めてもいい
ね、其れも楽しみゆこう!
山を吹き下ろす風は涼やかで。
揺れる緑の影を透かして、幾つもの陽光の粒が川へと降り注ぐ。
光の粒を浴びて、煌めいているのは何も水だけでは無い。
それはゆうゆうと泳ぐ川魚の鱗であったり、『神様の贈り物』だと言われている蜻蛉玉であったり。
――まるで人魚の鱗のように虹色に輝く腰飾りであったり、ぱちぱちとはじけるソーダ水の身体の気泡であったり。
いずれも光を浴びてぴかぴかと燿き、まばゆいほどに夏の川辺を鮮かに彩っている。
「わぁ、冷たいのぅ」
清らかな流水は、身体を浸せばひんやりと冷たくなるほどに水温が低く感じる。
ティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)は尾鰭めいた薄布をふうわり遊ばせ。歩みに合わせて蒼が空を泳ぐよう。
それから彼女は、水の冷たさに驚いたように翼の先をぴぴぴと跳ねさせ。
光を浴びてぴかぴか輝くものは、もう一つ。
ソーダ水の身体――セイレーンの身体だって、光を浴びてきらきら輝くのだ。
ぱちぱち弾けるきれいな色のうみの炭酸水。
喫茶店の看板メニューみたいに涼やかで可愛らしい翠を纏ったペペル・トーン(融解クリームソーダ・f26758)は、ティルをエスコートするように。
「うふふ、ティルちゃん。そっちは水の流れが速いみたい」
手を繋いでくれる? と。
ペペルは掌を伸ばすと、甘やかな相違う瞳に睫を揺らして笑った。
「うんっ!」
そんなペペルの翠の指先が美しかったものだから、眩しげに瞳を細めたティルもはにかむよう。
翠と蒼の水着を纏う少女たちの足取りは、水を跳ねて、水を掻き分け。
ペペルの知る海よりずっとずっと浅い水底を、二人並んで手を結んで歩む。
きっと、きっと。
このまま日が暮れるまで、水を掛け合って遊んだり。足を水に浸して涼やかに、乙女のおはなしに興じる事も楽しい事であろう。
しかし今日の二人の目的は、中にいくつもの色を包み込んだまあるい玉。
神様の贈り物の、お裾分け。
さらさら響く水の音。
白い花を咲かせた水草に、ちらちら尾鰭を遊ばせる川魚が泳ぐ。
そのもっともっと、下。
水底の石と石の合間に転がる贈り物を、拾っては、眺めて、戻して。
「ねえ、ねえ、ティルちゃん。川にも人魚はいるものかしら?」
ふと。
ぴかぴか瞬く蜻蛉玉を、太陽に透かして覗いていたペペルが、ぱちぱち瞬きを重ねて言葉を零す。
「ふふ、居るやもしれぬのぅ」
浸した手に水流を遊ばせるティルは吐息を零すように笑い。
それから思い出したように、言葉を次いだ。
「あゝ、けれど。和の国では、川を龍に喩える事もあるというよぅ」
「そうなのね。それなら私達、今は龍の中にいるのかしら?」
流れる龍の中で二人過ごしているなんて。
それってなんだか、とっても不思議で、とっても素敵なことのよう。
ペペルは瞳を美術館に飾られている、大きな宝石みたいにまあるくして。
「うん、この“贈物”が其の鱗なのやもよぅ?」
悪戯っぽく紫を細めたティルが、拾い上げた蜻蛉玉を掲げ。
得心した様子で肩を上げたペペルは、くすぐったげに眦を和らげた。
「ああ、それならば、きっと丸い鱗のその子は優しい子ね」
この川が、自らの鱗を人に賜ってくれるかみさまだとすれば。
それに――この蜻蛉玉たち……まあるい鱗たちは、縁を結んでくれるお守りになると言われているのだから。
皆のさいわいのために自らを与えるなんて、優しい神様はあまり居るものでも無いだろう。
ならば、ならば、神様の縁の贈り物。
欲張る事無く、色とりどりに輝くいくつもの縁の中から、一粒選り抜き賜りましょう。
水底をじっと見つめながら、ペペルは考える。
――ティルとの縁なら、暗い色が良い。
でも、ペペルの縁はあまり多いものではないとペペルは思っているものだから。
新しい縁を繋ぐ贈り物を、賜るのも素敵ね、なあんて。
「……あ、見つけたわ」
重なる縁の中に見えた、一つの光を拾い上げて。
ペペルの上げた声に重なるように、ティルも声を上げた。
「妾も見つけたっ!」
――新しい縁も魅力的だけれど、やっぱり、やっぱり、妾は――。
ペペルの指先には、泳ぐように輪を描く暖かな色に、小花咲く陽だまり色。
ティルの指先には、瞬く星屑を内に宿した、宵と明けの狭間空めく紫色。
「あら……うふふ、素敵な明けの空色。夜と朝の境界が溶ける時のようで、心地よい色だわ」
「ペペル殿の見つけた蜻蛉玉も、とうても美しいよぅ。暖かな新たな縁が紡げそう」
互いの指先のきらめきを見せあって、二人はくすくすと笑みを交わし合う。
明るいひだまりの色に、暗いそらの色。
新たな縁に、深める縁。
正反対だけれど、二人で一緒に見つけた縁の色。
「きっときっと、ふたりとも幸いに満ちた縁となることじゃろう」
「ふふ、きっときっと、そうね」
嬉しくてたまらないといった様子で、言葉を跳ねさせるティルの言葉に、ペペルの胸もぽかぽかとあたたまるよう。
こんなに、こんなに、ふたりが温かな気持ちでみつけられた色なのだから。
それだけ温かくて、素敵な縁になるに違いない。
「しかし、そうじゃのぅ。どんな形と変えてもらおうか」
蜻蛉玉をみつめたティルは、思案顔。
ペペルは陽だまり色を自らの髪に重ねて見せてから。
「髪や服の飾りなんていうのも、素敵ね」
その美しさに瞳をまたたかせたティルは、ぽんと手を叩いて。
「わぁ、本当に素敵な飾りになりそうっ! ふふ、そうじゃ。迷うのならば屋台を見ながら探してはみぬかえ?」
「あら。そうね、いろんな飾りがあるでしょうから。私の知らない飾りも知ることができるかもしれないわ」
ティルの提案にペペルは河原に向かう道沿いに、立ち並ぶ屋台を見上げながら、こっくり頷いた。
「ふふ、それもまた新しき縁じゃのぅ!」
それからティルは、紫の眦を下げてペペルを伺うよう。
「へへ、それに妾ね、……他の食べ物も気になるのよぅ」
「うふふ、あまあいお菓子はあるかしらね?」
「きっと在るのじゃ、しっかりばっちり味わわねばなぁ!」
二人の足取りがぱしゃんと水をはねて、飛沫がきらきら燿いた。
「楽しみね」
「楽しみじゃな!」
――二人の川辺のお出かけは、もうすこし続くのであろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
蘭・八重
【比華】
そうねぇ、いつ振りかしら?
何故でしょう、心臓の音色が速いわなゆちゃん
懐かしい風、匂い。何も変わらないわ
水底に蜻蛉玉?不思議な現象ね
神様の贈り物なんて
この村は素敵な事を考えるのね
えぇ、なゆちゃんの夏の姿…いつ見ても麗しい
可愛らしい姿を皆さんに魅せるのは勿体無い
でも独り占めするのはいけないわね
えぇ、沢山戯れて遊びましょう
今から心躍るわ
なゆちゃんの可愛らしい両手が川へと
そっと汲み上げればキラキラと美しいあかい、それも淡いあか、濃いあかなど
あらあら、私たちみたいなんて
そうね、私たちのあかね?
どれも綺麗よ
私?ふふっ私もあかが気になるけど
それと同時に黒にも惹かれたの
紅と黒、私となゆちゃん…そして
これも姉妹の証
なゆちゃんは、髪を結わう飾りに仕立てて頂くのね
私は簪にしてもらおうかしら
あら?どなたへの品かしら?
愛おしいなゆちゃんのお願いだもの
美しい絹糸の髪を横は編んで望む様に高く結っていく
本当に綺麗な髪ね
そして、そっと簪を挿して
神様から贈り物
いえ、私達からの贈り物
幸せの時間をありがとう、なゆちゃん
蘭・七結
【比華】
倭国へと降り立つのは何時以来でしょう
あねさま、久方振りの故郷だわ
変わらない景色
懐かしい匂いたち
触れる風の心地は、如何かしら
水底には蜻蛉玉が睡るのだそう
共に探しましょう、あねさま
せっかく、夏の衣を仕立てたのだもの
存分に遊泳しましょう
摘み上げるのは、あかい――わたしたちの色彩
紅に緋、朱に茜、葡萄色
とりどりの“あかいろ”を集めてゆく
わたしたち姉妹のようでしょう?
あねさまは、如何なる彩を集めるのかしら
……まあ、ふふ。それはステキね
姉妹の証だなんて、心惹かれてしまうわ
手にした蜻蛉玉と、紅の組紐を交えて
髪を結わう飾りに仕立ててちょうだいな
屹度、ステキなひと品へと成るわ
――ふふ、それはね
わたしだけの宝物にするのよ
ねえ、あねさま
なゆのお願いごとを聞いてくださる?
高く高く、髪を結って欲しいの
叶えてくださるかしら
結ばれた髪と挿し込まれた簪
双方に触れながら、あなたへと微笑む
ありがとう、あねさま
なゆは今――とても、とても幸せよ
様々な世界を巡り歩む猟兵たちは、様々な世界の色とかおりを知っている。
今日ふたりの降り立った村は、懐かしい風のかおりがした。
「ねえ。あねさま? 久方振りの故郷かしら」
「そうねぇ、いつ振りかしら?」
生まれた場所は違えど、懐かしき故郷の世界の色とかおり。
村に並ぶ建物も、あの山の連なりも、流れる川の風さえも。
蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)と蘭・八重(緋毒薔薇ノ魔女・f02896)にとって、どこか郷愁を感じさせるものだ。
回顧に跳ねる胸を抑えるように八重はかぶりをゆるく振って、太陽に熱されて熱くなった河原の石を踏んで歩みだす。
涼やかに流れる水の音に、魚が跳ねる音がした。
覗き込んだ水底には、白い川石の合間に揺れる水草。小さな蟹やエビ、それに――『神様からの贈り物』。
蜻蛉玉たちは降り注ぐ太陽の光をのみこんで、鮮やかなとりどりの色で白石を彩っている。
「この村の方々は、素敵な事を考えるのね」
「ふふ。それでは、あねさま。『神様からの贈り物』、共に賜りましょう」
とても楽しみだわ、と。
和金魚の尾鰭にも、和物語のなかの踊り子のように見えるパレオを風に遊ばせ、七結は甘やかにあかを和らげて笑った。
「ええ、そうね」
それを眩しそうに瞳を細めた八重は、卜者にもよく似た黒のヴェールを抑えて頷く。
水面へと脚先を差し込めば、ひやりと熱を奪う温度。
より涼しい頂きより注ぎ込まれる流水、夏の暑さには負けぬ冷ややかさだ。
「折角水際の装いを仕立てたのだもの、遊泳も存分に、ね」
それから愛らしく七結が首を傾いで告げたものだから、八重は唇へと指を寄せて重ねて頷いた。
「勿論、沢山戯れて遊びましょう?」
いとおしい彼女の姿はいつ見たって麗しいものだけれども、夏の装いのあかは彼女の美しさを更に引き立たせているように見える。
その姿を周りの皆に見せるのは、八重としては少しだけ胸裡の奥がざわめくけれども。
――独り占めをしてしまう方が、もっともっと勿体ない気がして。
「なゆちゃん、行きましょうか」
それ以上に、彼女と過ごす時間を大切にしたくて、八重は七結の手を引いた。
水しぶきを跳ねて、水流を掻き分けて。
ふうわりふわり、あかとくろをたなびかせて、七結が遊ぶように手を伸ばした先は水底。
紅に緋、朱に茜、葡萄色。
紅星を抱いた玉に、陽の沈む色。
白く細い指先が摘み上げるのは、あかい――あかい、ふたりの色彩たち。
さまざまな『あか』が掌の上で光を浴びて、きらきらとあかの影を落としている。
「ねえ、あねさま? わたしたち姉妹のようでしょう?」
「そうね、どれも綺麗な私たちのあかね」
七結が笑えば、牡丹一華も花咲む。
そこに八重は――、夜の色を抱いた深い深い黒色の蜻蛉玉を一粒拾い上げて。
「けれど、私は黒にも心が惹かれるわ」
それからその蜻蛉玉を、あかに彩られた七結の掌の上へと一粒転がし置いた。
「こうすれば、紅と黒で――もっと私となゆちゃんの色ね」
「……まあ、ふふ。それはステキね」
眦を和らげて、自らのあねさまの提案にくすぐったそうに笑みを零し。
「ええ、姉妹の証みたいでしょう」
「嗚呼、そうね。……姉妹の証だなんて、どうにも心惹かれてしまうわ」
交わす視線と言葉は、優しく胸裡の奥をくすぐるよう。
温かな気持ちを交わした二人は、同時にまた微笑みあった。
「ふふっ、それじゃあ、なゆちゃん。姉妹の証を飾りへと仕立ててもらいましょうか?」
「ええ、いっとう美しく仕立てていただきましょう。屹度、ステキなひと品へと成るわ」
交わるあかとくろをこぼさぬように、仕立ててもらったアクセサリーは――。
七結は花咲くようにぱっと明るいあかに、夜の静寂のくろが煌めく、紅の組紐を交えた髪結い飾り。八重は星空抱くくろと、夕焼けのあかを宿した簪だ。
いっとう美しく仕上げて貰った品々を手に、八重は唇に笑みを宿して。
「あら、なゆちゃん。どなたへの品かしら?」
「ふふ、あねさま、それはね。――わたしだけの宝物にするのよ」
「まぁ、それも素敵ね」
七結が眩しく笑むものだから、八重は瞳を細めて頷き。
それから七結は甘えるように指先で髪結い飾りを転がしてから、首を傾いだ。
「……ねえ、あねさま。なゆのお願いごとを、聞いてくださるかしら?」
「何かしら、愛おしいなゆちゃんのお願いだもの。なんでも聞いてしまうわ」
「高く高く、髪を結って欲しいの」
叶えてくださるかしら、なんて。
七結が瞳をまっすぐに見据えれば、八重は首を縦に。
「ええ、勿論。それじゃあ少し、腰掛けて貰えるかしら?」
きっと本当は。
言葉を重ねるまでも無く、七結の願いならば八重は何でも叶えたいと望むのであろう。
川辺に腰掛けた姉妹。
七結は脚先を川の流れに遊ばせて。
八重は彼女に灰被りに淡い紅を抱く、絹糸の髪を、高く、高く結い上げて行く。
結わえて、結んで。
仕上げに――そっと簪を挿して。
「なゆちゃんの髪は、本当に綺麗ね」
「……ええ。ありがとう、あねさま」
夏の暑さを和らげる、山の木々の緑。
太陽の光を透す葉の影と、光の粒が二人へと落ちている。
きらきらきらきら夏の色が輝く、姉妹の時間。
「なゆは今――とても、とても幸せよ」
「えぇ、――私こそ」
これは『神様からの贈り物』で、彩られた時間。
……いいえ、そうではないわね。
この時間を紡ぐ事ができるのは、きっときっと姉妹で一緒に過ごしているからこそ。
ならばこれは、私達、――姉妹の紡いだ時間であろう。
「幸せの時間をありがとう、なゆちゃん」
愛おしい彼女からの贈り物に、八重はくすぐったそうに微笑んだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
佐那・千之助
クロト(f00472)と浴衣で
手を引く彼が煌めいている
眩い世界がもっと眩い
愛い…
はしゃぐ姿が愛らしくて、見惚れてしまう
…照れているのか?可愛いひと。
楽しいことを、クロトが自分で見つけている…
こんなに嬉しい光景、到底気のせいと思えそうにない
クロトが見つけてくれた川辺の石も記念碑にしたいレベル
浴衣の裾を少し上げて足先を清流に
清らな水の冷たさも、光を反射する綺麗な水面も
ずっとこうしていたいくらい素敵で
こぼれる笑顔を彼へ向けると目が合い…え?早く探したかったのか?
蜻蛉玉はどれもころころ可愛くて
クロトはどれが好きかな…と目を向ければ
彼の石を探す姿がまた私に感動をもたらす。
この感動を映画化したいし単館上映で私だけが観たい。
クロト今日いっぱい楽しそうで嬉しい。私も幸せ…
おや?かわいい横目がこちらへ向いた
…もしかして私のこと考えてた?
わかるよ、私も同じ
連れてゆくのは、温かないろの石(詳細おまかせです
愛しいひとがこれからも
これまで知らなかったぶんを取り戻すくらい
楽しいことをたくさん見つけてゆきますように
クロト・ラトキエ
千之助(f00454)と
折角なので、浴衣で
(視線を感じる…
ほらほら、こっちですよ
君の袖を引く
見つけるのは人からは少し遠い川縁
座れそうな石などあれば尚良しで!
…はしゃいでる?
気の所為です。そうで無くてもそういう事にしておいてくださいっ
楽しいのは、君がいるからで
二人でのこんな時間、嬉しくない筈無いじゃないですか…
いえ、記念碑はちょっと(条件反射ツッコミ
清流に足を浸して涼をとる
…君はこういうの、退屈じゃないだろうか?と
こそり見遣る
バレそうになる前に
僕らも探しましょうか!なんて川へ繰り出して
咄嗟の石探し、けれど…
これ結構、本気になるなぁ
みなそこでひそり耀くきれいなもの
手にしたいとは、思う
けれど、隠しておきたい気もする
…似てる、のかな?
もう一度、誰かさんをこそり
今この時は、僕だけの――
…とか思っていたら
流石に二度目はバレそう?
あはーっと笑って、川底をひと掬い
無欲からか、砂とは異なる感触
手の内で耀くのは――
(暗色の蜻蛉玉。詳細はお任せで
彼が幸せでいてくれる事が、この上ない倖い
願うよ
この先ももっと、と
「ほらほら、こっちですよ」
夏の太陽の光が眩しく降り注ぎ、世界を全て輝かせているようであった。
――否。
佐那・千之助(火輪・f00454)の世界が眩く見えるのは、夏のせいだけでは無い。
|夏の精《なつのようせい》と言う意味であれば、ある意味正解かもしれないけれど――。
「う、うむ」
愛い、――愛いな……。
去年揃いで仕立てて貰った浴衣に身を包んだクロト・ラトキエ(TTX・f00472)が、自らの浴衣の裾を引いている。
陽光色をした髪紐で結わえられた黒髪が歩む度に跳ねて、覗くうなじが白くて眩しい。美味しそう。
そんなクロトの足取りが普段に比べて、ずっとずっとはしゃいでいるように感じられる。
その事実だけで見惚れてしまう、愛おしくてたまらなくなってしまう。
世界の全てが眩しくて、嬉しくて、最高で、今年の夏も優勝まっしぐらになってしまうのだ。
「千之助、ここなら落ち着けそうですよ」
弾んだ足取りでクロトの案内した先は、喧騒から外れた川辺であった。
そこは山の緑が日陰を生む下に、大きな平たい岩が川へと向かって突き出しており。
ここのヘリに腰掛けると、丁度川に足を浸けて涼む事ができそうであった。
「さあ、どうぞ」
先に腰掛けたクロトが千之助に横へ腰掛けるよう、横をぽんぽん叩いて催促するものだから。
「クロト――」
「はい?」
ああ、なんて、なんて愛おしい、愛らしい、可愛らしい……!
訪れたばかりだというのに、千之助はもう色々限界を迎えそうになっていた。
「今日のおぬし、……はしゃいでいるように見えるのじゃが」
いいや、言わなくて良い言葉がはみ出ていた。
顔に掌を添えてぷるぷる震えながら思わず伝えてしまった千之助に、クロトは目をまあるくして。
「……? はしゃ……? ……気の所為ですよ」
そのままクロトは、真顔で視線を空へと泳がせる
自らの動きを思い返せば、まあ、ええ、うん。
いえ、――そうかも知れませんけれど、ええと……。
「そうで無くても、そういう事にしておいてくださいっ!」
「……照れているのか?」
クロトの反応に強い衝撃を受けた心臓が強く痛み、千之助はぎゅっと胸元を抑えて眉を寄せる。
そんな、こんなに……こんなに可愛いのにまだ可愛くなれる事ってあるの? 大丈夫?
なんてなんて、可愛いひと。なんてなんて、――いとおしいひと。
「ち、違います! それに、楽しいのは、君がいるからで……」
「ウ……!」
言い訳をするために墓穴を掘るクロトに呻く千之助。
もう限界であった、嗚呼、嗚呼! 嗚呼!!
「……二人でのこんな時間、嬉しくない筈無いじゃないですか……」
そうしてクロトが視線を逸らし次いだ、小さな言葉。
そんな愛おしい光景を見せられて、千之助が正気でいられる訳も無かった。
クロトが、あの、あのクロトが――!? 楽しいことを自分で見つけている……? 嬉しい事を……?
そんな事、そんな、――こんなに嬉しい光景が他にあるだろうか。
どう考えたって、気の所為だなんて思える訳ないだろう。
感動と喜びに打ちのめされた千之助は、首を両手で抑えて過呼吸を起こさぬように身長に息を吐いて、吸って――。
「この石を記念碑にせんか?」
「いえ、記念碑はちょっと……」
ちょっと興奮しすぎて意味の分かんない事を言い出したいとおしい人に、クロトは思わず左右に首を振って真顔でツッコミを入れた。
――山の緑を透かした影と陽光の粒が、きらきらあなたに降り注いでいる。
少しばかり落ち着いた千之助とクロトは、川辺に並んで腰掛け。
夏に火照る脚先を冷やす流水は、なんとも心地の良い温度。
他愛のない言葉をぽつりぽつりと交わしながらも、クロトは――本当は君がこういう時間が退屈じゃないか、なんて。
千之助の様子をこっそり何度も窺いながら、その太陽の色をした髪が美しくて、愛おしくて。
この穏やかで静かな時間が、幸せだなあ、と思ってしまう。
楽しいなあ、と思ってしまう。
そうして幾度目かも既に解らぬ、千之助を窺う視線を再び彼に向けて――。
「む?」
刹那。
千之助の紫瞳とクロトの蒼瞳がばっちりあってしまったものだから、クロトは肩を跳ねた。
跳ねたその衝撃で、玩具みたいにぴょんと立ち上がって。
「あっ、そ、そろそろっ! 僕らも蜻蛉玉を探しに行きましょうか!?」
「え? えっ? そんなに早く探したかったのか?」
慌てて歩き出したクロトを追って、千之助も浅瀬へと向かって歩みだした。
「……」
ずんずんと歩みながら、クロトは掌で口元を覆ったまま。
――なんたって。
千之助と視線が合ってしまった時、やっと見えた彼の表情が満面の笑みだったものだから。
ああ――楽しい時間を共有できていたのだ、と。クロトは胸裡からこみ上げる嬉しさを、掌で覆い隠して歩む。
浅瀬にたどり着けば、きらきら耀く水面。
石と石の合間にどうやら蜻蛉玉がありそうなのだが――。
「……これ結構、本気になりそうですね……」
「うむ、宝探し力を見せつける時がきたようじゃの」
「そんなに得意でしたっけ……?」
二人並んで水を掻き分け、煌めく『神様の贈り物』を探す。
クロトは川石を撫でながら。蜻蛉玉を探しているようで、きっと探していないのだろう。
――水底でひそりと耀く、きれいなもの。
手にしたいと、思っている。
しかし、隠しておいてしまいたい気もしている。
――これは、……似ている、のだろうか?
意識をせずとも、視線を向けてしまうのは陽光色宿す彼。
今この時は、僕だけの――。
「……」「……」
刹那。
再び二人の視線が交わされて。千之助は眦を和らげ、クロトに尋ねる。
「……もしかして今、私のことを考えていたか?」
「……」
千之助の言葉は、――。
クロトはぱちぱちと瞬きを重ねて唇を引き絞って――、笑みに似た形を作り。
そんな彼を見つめる千之助は全てを見透かしたように眦を和らげると、首を小さく傾いだ。
「わかるよ、私も同じじゃ」
――今日はいとおしくて可愛いひとが、楽しそうで良かった。嬉しそうで良かった。
それだけで千之助は幸せで、嬉しくて、なんだか泣きそうなくらい胸がいっぱいになって。
――うん。この感動は映画化した方が良い気がする。単館上映で私だけに独占配信されたい。
「あ、あははー……っ」
そう。
千之助の言葉はクロトにとって、図星であった。
――だからこそ、クロトは引きつった笑いを上げて誤魔化す事しか出来なかった。
なんたって、恥ずかしいじゃあないですか。
それから勢いよく、水面から手を持ち上げると――。
「あ」
「おや」
水底からクロトと千之助が同時に引き上げていたのは、『神様からの贈り物』の蜻蛉玉であった。
クロトの手には深い紫色に赫の花咲く、昏く優しい玉。
千之助の手には柔らかな空色に、星粒の舞う温かな色。
「見つけ、ましたね……」
「うむ」
二人は顔を見合わせると、肩を竦めて同時に笑った。
愛おしい人が幸せでいてくれる事が、クロトにとってこの上無いさいわいなのだから。
クロトは願う。
この先も、もっと、もっと、幸せでいてくれますように。
愛おしい人がこれまで知らなかったさいわいを、幸福を――楽しいことを。
千之助は祈る。
たくさん、たくさん、見つけてゆきますように。
――二人の手の中で、太陽の光を飲み込んで。
彩りの影を落とす蜻蛉玉は、いつまでもぴかぴかと燿いていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵