11
夏影ノスタルジア

#UDCアース #お祭り2022 #夏休み

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#UDCアース
🔒
#お祭り2022
🔒
#夏休み


0




●もういちど、古き良き日本の夏を
 ――俺達の原点とも呼べるあの夏の日々を、バカみたいにはしゃいで迎えた毎年の夏休みのことを。あいつらは憶えているだろうか。
 憶えているだろうか? ……忘れているだろうな。
 歳を重ねるにつれて。大人になるにつれて。幼少期の思い出をまた一つ、記憶の果てへと追いやって忘れていくにつれて。
 いつしか、夏が来る度に、強くあの頃のことを思い返すようになっていた。
 憧れと希望と思い出で満ちていた、幼少期の夏の日々を。
 もう取りに戻ることはできない、「永遠の忘れ物」のことを。
 あの頃の俺達には不可能なんて何も無いと信じて疑わなかったし、事実、何でも出来ると思っていた。
 あの頃に戻りたいなんて、贅沢は言わない。
 ただ、もう一度だけ、もう一度だけ。あの夏に――あの夏に見た、あの風景が見たい。あの思い出達に触れたい。
 思えば、それが……俺がばあちゃんちを改修して。古民家ログハウスの民宿として立ち上げることにした、ある種の原点だったのかもしれない。

●郷愁と原風景
 小学校の廃校も秒読みと呼ばれた、娯楽も観光名所も何もない、山間のド田舎。それが、俺の故郷だった。
 ……いいや。俺達の故郷だった。俺達の故郷だ。
 全校生徒なんて十数人だけで。同級生の俺達5人。自然と仲良くなるものだ。
 木造平屋建ての校舎は古ぼけていて、廊下を歩く度にギシギシと軋んだ音がしたし、雨が降る度に校舎の何処かしらで雨漏りが生じていた。
 校舎は朽ちかけたあばら家同然で。色褪せた駅の時刻表はその大半が空白で、電車は単線の一両編成。それに、駅は無人駅。
 「村の活性化に」なんて。長老会の有志が整備した広大なヒマワリ畑だけが人気のない無人駅周辺を覆い隠して、寂しく風に吹かれて揺れていた。
 娯楽も遊びも、人も居ない。何もないド田舎で、けれど――あの頃の俺達にとっては、確かに村中が宝の山に思えたのだ。

 夏休みの間、毎日朝9時に。俺のばあちゃんちの縁側で。
 わざわざ口に出さずとも、「またね」を口遊めば、それで全てが通じ合ったのだ。
 言葉なんて無くたって通じ合っていて、それがずっと続くと思っていた。
 ばあちゃんの家のすぐ脇には、澄んだ川が流れていて。
 毎朝、学校のラジオ体操が終わると一目散に駆け出して。水着に着替えて、よく水遊びをしてはしゃいでいた。
 水遊びの合間に、魚を釣ったり、ザリガニを採ったりなんかもして。時には、そのまま川縁でバーベキューをすることなんかもあった。
 水面から、高さは数メートルはあっただろう。「度胸試し」と称して、川岸の大きな岩から川へと向かって飛び込んで――「危険なことしよって!! 流されたらどうするさね!?」と、ばあちゃんに拳骨を落とされたのも、今となっては良い想い出だ。
 リンリリィンという風鈴の音色をBGMに、だらしなく縁側で寝そべって、俺達5人、賢くない頭を働かせて宿題に集中したこともあった。
 昭和初期の化石。カッカッカッという不気味な音を立てて首を振る、壊れかけ寸前の扇風機は思うように首が動かなくて、無理やり首を動かそうとして――ガコンッ! という一際激しい破壊音に、反射的に目を瞑ったのも一瞬。
 次の瞬間には、明らかに可動域を超えて真後ろを向いた、扇風機「だったもの」が目に飛び込んできた。
 宿題をそっちのけにして。何とか誤魔化そうとしたが、誤魔化しきれなくて――扇風機にトドメをさしたと、ばあちゃんにしこたま怒られたのだ。

 小学校の校庭で行われていた、地域の盆踊り。そこで面白おかしく踊り狂ったこと。
 山の上には小さな神社があって、小規模ながらも賑わいに満ちた夏祭りも開かれていた。
 俺よりも2,3年上であるだけなのに。普段は見ない、浴衣姿であるだけなのに。
 露わになった白いうなじに、汗で身体に張り付いた浴衣のせいで、くっきりと見えた身体のシルエット。年上女子の浴衣姿、それに妙に胸がざわついたこと。馬鹿みたいにはしゃいで、縁日の数々を片っ端からはしごしたこと。
 「肝試し」として称して忍び込んだ村外れの墓地に、カブトムシやクワガタムシを探して森や草原、空き地や神社を駆け巡ったこと。
 少ないお小遣いを握り締めて集った駄菓子屋。当たり付きの棒アイス片手に、木陰で駄弁った昼下がり。
 花火を振り回して遊んだ夜のこと。夕涼みも兼ねて、蛍を眺めに川沿いを散歩したこと。
 「隣の校区には、子供だけで行ってはいけません」なんて。誰が設けたのかも分からない、意味不明なルールをぶち破って。自転車に乗って、5人で海を目指したあの日のこと。

「明日は何をしよっか?」

 そう言って笑う彼女の顔を、俺はもう思い出せない。
 何処へだって行けると思っていた。
 何処にだって往けると、信じていた。
 あの夏なら、俺達は何だってできたのだから。


「刻の移ろいと共にまた、人々も変わっていくものなのですね」
 グリモアベースに静かに木霊するのは、何処かしみじみとした曙・聖(言ノ葉綴り・f02659)の呟きだった。
 丁度、手にしていたパンフレットを読み終えたところだったのだろう。
 聖が開けているページには、「一部で話題沸騰! 古民家ログハウス風民宿『えにし』の立ち上げ秘話に迫る!」と爽やかな見出しが躍っている。
 パンフレットの表紙には、深い緑に囲まれた――レトロモダンな古民家ログハウスの外観が映り込んでいた。
「そして、一度変わってしまったものは、もう2度と元に戻ることは無い。
 時間の流れは一方通行です。どれほど『過去に、あの頃に戻りたい』と願っても尚、私達には進むしか道が残されていないのですから」
 だが、それを理解してもなお、「戻りたい」と願ってしまうのが人間なのだろう。
 ド田舎にある、古民家ログハウス風の民宿『えにし』。そこのオーナーが祖母宅を改修し、民宿を立ち上げるきっかけとなったのも、幼少期の想い出が原点だというのだから。
 無論――『えにし』のコンセプトは、『もういちど、古き良き日本の夏を』。
 オーナーの原点である、あの夏に戻れないのなら、せめて。少しでも近くに行きたかったのではないか。
「どれほど願っても、過去には戻れない。ですが……時には過去を懐かしみ、童心に返ってみるのもまた良いものではないでしょうか。
 そんな訳で。本題のお誘いです。山間の古民家ログハウスで、少しノスタルジックな日本の夏を楽しんでみませんか?」
 民宿『えにし』があるのは、山間のド田舎だ。当然だが古民家ログハウス周辺には、何も無い。あるのはただ、自然と動物と、昆虫くらいなものだ。
 だが――工夫次第で、何でも出来る。
 水着に着替えて川遊びをするも、魚釣りや昆虫採集、ザリガニ釣りに熱中するも。
 無人駅周辺を散策したり、広大なヒマワリ畑で追いかけっこや隠れん坊をすることも。
 丁度、今夜開かれる予定だという、小学校の盆踊りや、神社の夏祭りに参加することだって。
 川縁でのBBQに、裏庭での手持ち花火。夕涼みと蛍鑑賞。肝試しに、秘密基地づくり。
 可能性が広がり続けている限り、何だってできる。何にだってなれる。それこそがきっと、夏の魔法なのだろうから。


夜行薫

 夜行薫です。
 需要あるか不明ですが、趣味に全力投球いたました。
 夏休みのシナリオをもう一つ。ちょっと趣向を変えた夏のお出かけのお誘いです。
 夏と幻想と郷愁と厭世。思い出の淵で。

●進行について
 受付:OP公開と共に募集開始。断章追加は無し。
 締切:物理的にプレイングが送信できなくなるまで。こちらは少人数のご案内予定ですが、最低でも1日は開けておきます。
 ※シナリオの雰囲気的に、お一人様~2名様くらいの、ごく少人数での参加をオススメします。

●舞台
 日本の某山間にあるド田舎。
 そこにある古民家ログハウス『えにし』を中心に、何処か懐かしい感じの漂う村内をご自由にお過ごしください。
 下記のできることは一例です。夏にできそうなことなら、何でもできます。

●できること(昼)
 ・川遊び。(ザリガニ釣りや魚釣り含む)
 ・森や草原で昆虫採集。
 ・川辺でBBQ。
 ・駅前のひまわり畑で追いかけっこ等。
 ・駄菓子屋で駄菓子の購入。
 ・秘密基地づくり。

●できること(夜)
 ・古民家ログハウス『えにし』の客室でのんびり。(全室和室です)
 ・小学校の盆踊りに参加。
 ・神社の夏祭りに参加。縁日や食べ物の屋台等、出店もあります。
 ・川辺で夕涼みと蛍鑑賞。
 ・川辺でBBQ。
 ・古民家ログハウス『えにし』の裏庭で手持ち花火。(ペットボトルロケットや、ロケット花火、爆竹なんかも有ったり……)
 ・子供会が運営している、墓地や小学校での肝試し企画に参加。
90




第1章 日常 『山間のログハウスで一時の休息を』

POW   :    一休み、もしくは一眠り

SPD   :    飲み物や料理で一息つこう

WIZ   :    自然を眺めてリラックス

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

メゥ・ダイアー
にほんのなつ、っていうのはどんなことをするの?
どれもメゥたぶんはじめて聞いたよ! 楽しそう!

きもだめしはこわがらせるの?
メゥこわいことより楽しいことがいいなー
……ほんと? 楽しいことなの? じゃあメゥもやりたい!

この狭いところでじっと隠れて、人が来たらビックリさせるんだね!
メゥおどろかすの忘れちゃわないように、誰か一緒にいてくれたら嬉しいけどなー
あれ? きもだめし、はじめてのはずだけど……メゥ、こうやって暗いところで、ずっとずっと、誰かを、待ってた気がする……

……あ、そうだ!
びゃくりんちゅうを光らせたらビックリしてもらえるかな?
でもでも、おどかしすぎてゲガしないようにちょっとだけね!




「にほんのなつ、っていうのはどんなことをするの?」
 目の前の「にほんのなつ」に、メゥ・ダイアー(|記憶喪失《わすれんぼ》・f37609)は、ランプのように赤い瞳をきょとりと瞬かせながら、隣に居た同い年くらいの少女に問いかけた。
「川で遊んだり、虫捕りしたり? あとはねー、きもだめし!」
「どれもメゥたぶんはじめて聞いたよ! 楽しそう!」
 猟兵として目覚めた時、メゥに唯一残されていたのは、自分の|感情《きもち》だけ。記憶も、|幸福《たいせつ》も、|不幸《トラウマ》も、ぜんぶ解らない。
 だから、断言することは出来ないけれど――たぶん、川遊びも虫捕りも肝試しも、全て初めて聞く言葉で。
 「楽しそう!」と笑み綻ばせたメゥに、「じゃあ、一緒に参加していこうよ!」と少女は誘いかける。
「きもだめしはこわがらせるの?」
「うん! オバケのフリして、やってくる皆をこわがらせるんだよ」
「メゥこわいことより楽しいことがいいなー」
「こわいけど、こわくないよ! みんなでするから、とっても楽しいの!」
「……ほんと? 楽しいことなの? じゃあメゥもやりたい!」
 「じゃあ、決まり!」と、メゥへと笑いかけた少女に、メゥもまたにっこりと笑い返して。
 肝試しの運営を行っているという先生にオバケ役として参加することを伝えると、「気を付けてね」と優しい声で送り出された。
「このロッカーとかどうかな? 狭いところに隠れて、人が来たらわあ! って驚かせるの」
「いいと思う! この狭いところでじっと隠れて、人が来たらビックリさせるんだね!」
 肝試しのルート上であれば、好きなところに隠れて良いそうで。
 人気のない校舎の中に木霊するのは、無邪気な少女2人のはしゃぎ声。
 「どこに隠れよう?」とか、「どうやってビックリさせよう?」とか。2人でワイワイと話し合っている時間も、とても楽しい。
 隠れる場所を探す時間は、飛ぶように過ぎ去っていって。
 これがきっと肝試しの楽しいことなのだと、メゥは感じていた。
「メゥおどろかすの忘れちゃわないように、誰か一緒にいてくれたら嬉しいけどなー」
「じゃあ、一緒に隠れよう?」
「うん!」
 気が付けば、オバケ役が隠れ場所を選ぶ時間はもう残り僅かに。
 不思議な形をした理科室の机の下、教室の扉の影。
 最適な隠れ場所は、幾つも思い浮かんだけれど。誰からも意識されていなさそうな、死角となる廊下のロッカーが良さそうだったから。
 少女と一緒に、メゥはロッカーに隠れて、じっと息を殺して――肝試しに参加したみんながやってくるのを、静かに待った。
(「あれ? きもだめし、はじめてのはずだけど……メゥ、こうやって暗いところで、ずっとずっと、誰かを、待ってた気がする……」)
 息を殺して。誰にも見つけられない様に、気配を消して。
 誰か来たとすぐに分かるように、本当に少しだけロッカーの扉を開けておいて。
 そうやって肝試しの参加者を待っていたメゥを不意に襲ったのは、言い表しようのない既視感。
 肝試しは初めてであるはずなのに。メゥの中の何かが、まるで「はじめてじゃない」と告げているかのようで……。
 不意に襲ってきた既視感の正体を掘り下げようとしたところで――メゥの視界を横切ったのは、淡く輝く白燐蟲達の光だった。
「……あ、そうだ!」
 蛍の様に暗闇の中でぼんやりと輝くそれを見ていたメゥは、とある作戦を思い付く。
「びゃくりんちゅうを光らせたらビックリしてもらえるかな?」
「! きっと、ビックリして貰えると思うよ」
 物音を立てない様に気を付けながら、メゥが一緒に隠れていた少女にコソコソと内緒話の要領で作戦を伝えれば、暗がりの中でも分かるくらいハッキリと少女が悪戯な笑顔を浮かべてくれた。
「でもでも、おどかしすぎてゲガしないようにちょっとだけね!」
「そうだね、ちょっとだけ!」
 これはとっても良い作戦に違いない。
 2人で笑い合って、誰か来るのを今か今かと待ち侘びるのも、きっと肝試しの楽しみの一つで。
 メゥ達がやってきた少年達を逃げ帰らせてしまうくらいに驚かせて、「大成功だね!」とハイタッチするのは、もう少しした時分のことだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

真宮・響
娘の奏(f03210)と参加

長い事野外で旅暮らしだったが、実は日本の夏の古き良き夏暮らしは経験ないんでね。ぜひ奏に体験させたくてね。瞬は別の所へ行くんで誘えなかったのが残念だが。ああ、もう奏の目の輝きが半端ないよ。

まずは川でザリガニや魚を釣ろう。アタシより奏の方が良く釣れるみたいだね。昆虫採集も虫取り網を持って子供のように走り回る奏に本当に成人間近の娘かね、と苦笑するが、これが奏らしさか。

昼で遊んで疲れたので、ログハウスでのんびり休んでから、手持ち花火を奏と楽しもうか。奏、今日は楽しかったかい?花火の火に照らされた奏の満面の笑顔を見て、満喫したことを確信する。ああ、幸せな一日だったねえ。


真宮・奏
お母さん(f00434)と参加

知り合いの方から日本の楽しい夏の事は聞いてました!!瞬兄さんが来れなかったのが残念ですけど、お母さんと一杯遊びますよ!ええ、力尽きるまで!!

まずはザリガニと魚釣り。見てください、母さん、どんどん釣れますよ!!今日は運がいいなあ。虫も一杯採りますよ!!目指すは大きなカブトムシです!!(大はしゃぎで虫取り網振り回しながらダッシュ)

戦果のザリガニと魚、大きなカブトムシを眺めながらログハウスで休んでから裏庭で花火を。はい、今日はとっても楽しかったです!!花火をしながら母さんの問いに満面の笑顔で答えます。




 ミーンミンミン、ジィジイィ、チーィ、チチチィ――……と。
 外へと一歩踏み出せば、途端、豪雨の様に降り注いでくるのは、炎天下の中でも元気いっぱいな蝉達の鳴き声だった。
 四方八方から騒ぎ立てている蝉達の鳴き声は、「時雨」と喩えるに相応しいものだろう。本当に、蝉の鳴き声が空から降ってきているように感じられるのだ。
「『蝉時雨』とは言ったものだね」
 立体音響のように広がる一方の蝉の鳴き声に包まれながら、真宮・響(赫灼の炎・f00434)は、青々とした夏空を仰ぎ見た。
 遥か上空を目指してその背を伸ばす入道雲と爽やかな青空の光景は、日本の夏を代表する光景だろう。
「これが日本の夏なのですね!!」
 頬を撫でる生温い夏風に、深い緑を宿し茂る葉や木々の姿。
 思いきり息を吸い込めば、肺いっぱいに満ちていくのは、澄んだ自然の空気と仄かな苦さを含んだ草原の匂いだ。
 五感いっぱいに「日本の夏」を感じ取ってはしゃぐ真宮・奏(絢爛の星・f03210)。
 日本の夏を目の前にはしゃぐ彼女にとっては、茹で上がるような灼熱の日差しも敵ではない。
 今こうしている間にも、容赦なく照りつける真昼の日差しすらものともせずに、日向の方から母である響へと手を振っている。
「元気の良いお嬢さんだこと」
「ああ。本当に疲れ知らずの娘だよ。長い事野外で旅暮らしだったが、実は日本の夏の古き良き夏暮らしは経験ないんでね。ぜひ奏に体験させたくてね」
 古民家ログハウス『えにし』の縁側から娘の姿を眺めていた響に、宿泊客である高齢の女性が話しかけた。
 長い間、各地を転々とする旅暮らしであった真宮親子だが、実は日本の夏の暮らしは経験したことがない。
 だから、「奏に体験させてやりたい」と響が語れば、「良いわねぇ」と女性が微笑んだ。
「瞬は別の所へ行くんで誘えなかったのが残念だが」
 女性と少し言葉を交わして別れた響。彼女の視線は、再び野外ではしゃぐ奏の方へ。
 ここに響のもう1人の子供である息子の姿が見えないのは、残念であったが――別のところに向かった息子は息子で、自分の夏を満喫していることであろう。
「ああ、もう奏の目の輝きが半端ないよ」
「知り合いの方から日本の楽しい夏の事は聞いてました!! 瞬兄さんが来れなかったのが残念ですけど、お母さんと一杯遊びますよ!」
 いつの間にか、奏の両手には虫捕り網と、何種類かの釣り竿、バケツが握られていて。
 それだけでは無く、肩からはひも付きの虫籠やカメラまでが斜め掛けされている。
 遊び道具の準備は十二分で、不在の兄へと語る為の想い出撮影用のカメラも勿論、忘れてはいない。
 響が動く気配を機敏に察知したのだろう。一瞬で遊びの用意を終わらせた奏の様子に、響は苦笑を浮かべながら歩み寄るのだ。
「そうだね。そろそろ行こうとしようか」
「ええ、力尽きるまで!!」
「途中でへばったら置いていくよ」
「そんな!!?」
 燦々と煌めく眩しい太陽に見守られながら。響と奏は、ゆっくりと川へと続く道を下っていく。
 恋い焦がれていた日本の夏。思いきり楽しまなくては損なのだから。

「見てください、母さん、どんどん釣れますよ!!」
 釣り針にスルメを引っ掻けて糸を垂らせば、それだけで面白いくらいにドンドンと釣れた。
 スルメと言えばなザリガニ。川の岩陰や少し流れが緩やかになっているところに狙って釣り針を放り投げれば――少し待つだけで、クッとスルメが何かに引かれる感覚が、釣り竿を通して伝わってくる。
 引っ張られる感覚が離れる前に勢い良く引き上げれば、ガッチリとスルメをハサミで挟んだザリガニが面白いように釣れるから。
 バケツの中は、あっという間に川の生物達でいっぱいになった。
「今日は運がいいなあ」
「アタシより奏の方が良く釣れるみたいだね」
 釣り餌を取り換えながら、再び川面へと糸を垂らす奏。
 それだけで川魚やザリガニが釣れるのだから、奏の言う通り、運が良いのだろう。
 釣れないよりは、釣れた方がずっと良い。
 次々に釣り上げられる川の生物に、太陽よりも瞳を眩しく輝かせる奏を柔らかな表情で見守りながら。響はじっと、自身の釣り竿に魚が掛かるのを待った。
「おや、かかったみたいだね」
「そのしなり具合は、大物じゃないですか!」
 と、のんびり水面を眺めていたところ、急に襲い掛かってきた釣り竿が引っ張られる感覚に、響は急いでリールのハンドルを回してく。
 グイグイと釣り針が思いきり引っ張られる感触、それに負けじと釣り糸を巻き上げてみれば――ビチビチと川面から飛び出してきたのは、大きな魚の姿だった!
 奏がすかさず釣り上げられた魚を網で受け止める。息の合ったコンビネーションは、さすが親子といったところか。
「凄い顔してしますね」
「これはこれで愛嬌があって良いじゃないか」
 響が釣った大きな魚を予備として持ってきた一回り大きなバケツに入れてやれば、大魚は釣り上げられたことが不服そうに響と奏のことを見上げていた。

「虫も一杯採りますよ!! 目指すは大きなカブトムシです!!」
 日本の夏の楽しみは、魚釣りだけではない。
 大量に魚が釣れたのなら、こんどは虫捕りを、と。
 釣り竿から虫捕り網へと得物を取り換えた奏は、意気揚々と川沿いの草むらに飛び込んで行く。
「本当に成人間近の娘かね」
 右へ左へ。虫捕り網を両手で振り回し、草むらをかき分けながら子供のようにダッシュする奏の姿に、響は静かに苦笑を浮かべた。
 とても成人間近とは思えず、事実、同じように虫捕り網を振り回す小学生の中に紛れ込んでも違和感がないのだろうが――。
「ま、これが奏らしさか」
 そう。これがきっと、奏らしさなのだ。
 だから好きなようにさせておこう、と。
 奏と同じように大きなカブトムシを探して虫捕り網を手にした響の視界に飛び込んできたのは、漆の若木を目指して一直線に駆けていく奏の姿で。
「奏、そっちには漆の木があるから、触れるとかぶれるよ!」
「えぇ!? もうちょっと早く言ってくださいよ、母さん!!」
 チョウトンボを追いかけることに夢中だった奏。響の声で、どうにかダッシュの足を止めることが出来たが……。
「ああ!? チョウトンボが!」
 虫捕り網を振り回して追いかけていたチョウトンボは、無情にも生い茂る漆の若木の間を飛び越えてヒラヒラと何処かへ。
 チョウトンボを捕まえられなくてガックリと落ち込んだ奏の肩に手を置いて、響は「そんな時もあるさ」と慰めた。
「さ、気を取り直してカブトムシを探そうじゃないか。樹液の出ているクヌギを探さないといけないね」
「はい、そうですよね! チョウトンボには逃げられましたが、カブトムシは必ず!!」
 落ち込んでいた奏だったが、それも少しの間のこと。
 次の瞬間には早くも顔を上げて、颯爽とクヌギの木を探しに林の方へと向かっていく。
 カブトムシ探しはまだ始まったばかりなのだ。
 大きなカブトムシを見つけられることを信じて。草むらをかき分けて進む奏と響の足取りは、真夏の暑さを感じさせないくらいに軽やかなものだった。

 バケツの中のザリガニ達がスルメを取り合い、大きな水槽に入れられた魚達がスイスイと自由に水槽内を泳ぎ回っている。響が釣り上げた大魚は、じっとりと裏庭を見つめていて。
 そして――虫籠の中に入った大きなカブトムシが、昆虫用のゼリーにのそのそと向かっているところであった。
「奏、今日は楽しかったかい?」
「はい、今日はとっても楽しかったです!!」
 戦果のザリガニと魚、それから大きなカブトムシを眺めながら。
 裏庭で手持ち花火を楽しんでいる奏に響が問いかければ、即座に返事が返ってきた。
 鮮やかな花火の火に照らされた奏の顔は、満面の笑顔を浮かべていて。
 そのことに、奏が日本の夏を思いきり満喫したことを確信する響であった。
「ああ、幸せな一日だったねえ」
 昼過ぎには疲れ果ててしまうくらいに、あちこちを駆け抜けて。
 夕方までゆっくりと古民家ログハウスで休んで。それから、手持ち花火をして。
 これがきっと、日本の夏なのだろう。
 しみじみと幸せを噛み締めていた響に、賑やかな声を上げた奏がとある提案を運んでくる。
「母さん、どっちが長く線香花火の火を灯していられるか、競争しましょう!!」
「良いじゃないか。受けて立つよ」
 ――日本の夏に触れる親子2人の夏休みは、もう少しの間続きそうであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

唐桃・リコ
あき(f29554)と一緒

日本の夏休み、なんてのは分からないけど
もうどの瞬間にも戻れねえから
…この夏を、この瞬間を、大事にしてえ

なあ、魚焼いてくいてえ
ダメだった時のためにスイカを冷やしとく
釣りのための餌はオレが2人分つける
隣に座ってじっとり汗かいている菊にオレの上着をかけて
…中々釣れねえ
もう手掴みしちまった方が早え気がしてくる

川ん中、冷たくて良いな
水滴がきらきらして、あきがぴかぴか光って見えた
川から上がったあきが陽炎で揺らめいてみえる
そのまま光って消えちまいそうで、怖くて後ろから抱きしめた
……火、焚いて、スイカ食お


菊・菊
リコ(f29554)と一緒

あちぃ、
けど、リコが遊びてえって言うなら付き合ってやる

あ?魚とか獲れんの?

めッちゃおもろそう
リコが腹いっぱい食えるように、ひひ、ぜってえ釣ってやる

んでも、餌はむり。んひ、……リコすき。

……ぜってえ釣るって言っといて
へばるのダセえじゃん

んでも、糸、ぴくりともしねーんだもん

上着のお返しに萎れたリコの尻尾に水を掛けたら
リコが俺に水掛けてくんの

そっから川に飛び込むまでちょー早かった
くひ、リコ釣る方が俺うめー


おもろい
ふたりして、ずぶ濡れ、ふひ

久々こんなはしゃいだ気がして、苦しくなった

もう一度
こんな夏を過ごせるかなんかわかんねえから

背中の熱にバレねえように
涙粒ごと流れちまえ




「早く早くー! チョウチョ逃げちゃうよ!!」
「待ってってばっ!!」
「あっちにでっかいバッタいた!」
 ジリジリと全ての生物を焼き殺すかの勢いで照りつける陽光の手にかかれば、木陰でじぃっとしているだけでもじわじわと身体中から汗が噴き出してくる。
 始まったばかりの夏休みとやらを謳歌する目障りな|子ども達《クソガキども》の姿に、姦しく騒ぎ立てている蝉の鳴き声。川のせせらぎを巻き込みながら吹き上げてくる夏風は生温く、申し訳程度の涼感を放り投げると、さっさと足早に過ぎ去ってしまう。
 何もない山中であるはずなのに、もしかしたら、都会以上に騒がしいと来た。
 ドタバタギャンギャン、と。一歩踏み出し、一秒ごとにわざわざ大声で叫びながら。騒がしく獣道を走り去っていく小学生の集団に、菊・菊(Code:pot mum・f29554)は力無く舌打ちを一つ。
「……うるせえ」
「どっちが」
「……どっちも」
 蝉も子供も、どちらも騒がしいことこの上ない。
 多分、この村出身の子供の方がずっと少ない。
 煩く菊の背後を駆け抜けていった子供達は、バカみたいに瞳を輝かせていたのだから。
 彼らの多くは、夏休みの間だけ里帰りに来た人々がつれてきた子供達なのだろう。
(「日本の夏休み、なんてのは分からないけど、」)
 「あっちぃ」と力なく手をヒラヒラと扇いで、どうにかして風を起こしている菊の姿を横目に見ながら。
 唐桃・リコ(Code:Apricot・f29570)が思考を巡らせるのは、「今」のこと。
 走り去った小学生の群れが語っていた「日本の夏休み」とやらは分からないリコだが、「今」が二度と訪れないものであることだけはハッキリと理解している。
(「もうどの瞬間にも戻れねえから。……この夏を、この瞬間を、大事にしてえ」)
 こうしている間にも、「今」は「過去」へと変化していっている。
 気の抜けた声を上げながら空を仰げば、青々とした木々が目に飛び込んできた。
 木々からは相変わらず煩く蝉が鳴き喚いていて、リコの隣に居た菊が不快さを隠しもせず背後の木を睨み付けている。
 ――ミンミンミィッッ、ミミミィ……ミンッッッ!!
「いや、鳴くの、ヘタクソすぎんだろ」
「突っ込むとこ、そこかよ」
 ――チィーチチチィー。
 ――ミンミンミーン、ミンミンミィィ。
 ――ツクツクホーシ、ツクツク、ジジィー……。
「なんか、ちげえのいる」
「季節、間違えてね。夏の終わりだな」
「あちぃし、そのままさ、終わらせちまえよ」
「夏、まだ遊んでねえじゃん」
「それもそーだな」
 煩いだけで腹の足しにもならない蝉に対する興味は、それきり薄れ。
 2人の視線は、自由気ままに叫び続ける蝉の居る木々から、目の前の川へ。
 キラキラと宝石の様に煌めく澄んだ川面の中には、動き回る魚影の姿が確認できた。どうやら、かなりの数の魚が住んでいるらしい。
「なあ、魚焼いてくいてえ」
 川の中を俊敏に動き回る大きな魚影を、リコは見逃さなかった。
 興味の薄れつつあった蝉はリコの脳内から完璧に追い出され、意識は目の前の川の中へ。
 あれだけ大きいのだ。焼いて塩かけて食ったら、絶対に旨い。
(「あちぃ、けど、リコが遊びてえって言うなら付き合ってやる」)
 リコが遊びたいのなら、と。
 菊が重い腰を上げだしたところで、ふと暑さのせいで聞き流し気味であった先の会話のことを思い出す。
「あ? 魚とか獲れんの?」
「獲れるんじゃね。釣りしてるヤツいるし」
「めッちゃおもろそう。リコが腹いっぱい食えるように、ひひ、ぜってえ釣ってやる」
「ダメだった時のためにスイカを冷やしとくか」
「そだな。んでも、餌はむり」
 餌を付けることがむりだという菊の分まで。釣りの為の餌を2人分、釣り針の先につけているリコ。
 その間に、緩慢とした動作で菊がネットに入ったスイカを川に突っ込みに行く。
 そこらに落ちていた大きめの川原の石でスイカを押し止めておけば、流れていかないだろう。たぶん。
「ほらよ」
「んひ、……リコすき」
 出来上がった釣り竿のうちの片方を受け取り、「んひ」と人懐こい笑みを浮かべる菊。
 菊の笑みにリコもまた、悪戯な笑みを返したところで。ふと、菊の背後で、ゆらゆらと揺れていっている緑色の物体があることに気付く。
「な、スイカの紐付けた?」
「あ?」
 リコの声に、菊が振り返ってみれば――。
「スイカ、流れてってんじゃん」
「モモタローかよ」
「眺めてねえで追いかけろよ」
「わあってるっつーの。なんか、生まれたりしてな。スイカタロー、とか」
「なんか生まれやがったら食えねえだろ、スイカ」
 ああでもない、こうでもない、と。
 腹を満たせる訳でもない。非生産的で、くだらない、それでも確かに楽しい会話をお互いに繰り返しながら。
 スイカを回収し、ネットの紐をがっしりとした流木に括り付けた菊は、今度こそ川縁に座り込むと、釣り針を川面に垂らしながら、視界の端で水に浸っているスイカを見る。
「ヒモ、つけたぞ。なんか、マヌケだな」
「犬みてえ」
「じゃ、アレ、今からポチな」
「ポチ、よく冷えとけよ」
 呑気に川の流れにその身を委ねているスイカを一瞥し、リコもまた目の前の水面へと釣り針を放り投げる。
 川の水は澄み渡り、自由に泳ぎ回る魚の姿が見える。これほどの魚が居るのだ。1匹や2匹、すぐに釣れるだろ――と、まともに思考が回っていたのは、釣りを始めて数分後までのことであったか。
(「……ぜってえ釣るって言っといて、へばるのダセえじゃん」)
 いつの間にか、遠く聞こえていた子供のはしゃぎ声ふっつりと途切れ、後に残ったのはじわじわとした茹るような暑さだけ。
 太陽の独壇場と化した真昼の時間帯は、何もせずに水面を眺めているだけでも、じっとりと滝の様な汗が浮かんでくる。
 じっとりと汗をかいても菊が音を上げないのは、ひとえにリコの為だからだ。
 「ぜってえ釣る」と宣言した以上、途中でへばるのはダセえし、カッコわりぃから。
(「んでも、糸、ぴくりともしねーんだもん」)
 もはや、菊はその気力だけで釣り竿を握っていた。
「……中々釣れねえ」
 浮かんでくる汗をぬぐいながら、隣でじっとりと汗をかいている菊にリコはばさっと放り投げる様にして上着をかけてやる。
 釣れねえのに菊が意地でも釣り竿を手放さない理由を、リコは薄々と感じ取ってはいたから。
 暑さそのものはどうにもできないが、上着の影で多少はマシになるだろう。
「もう手掴みしちまった方が早え気がしてくる」
「ふひ、」
 上着で少し元気が出たらしい。
 へにゃー……っと力無く萎れたリコの尻尾に狙いを定め。菊はニヤリと不敵な笑みを浮かべると、両手で掬い上げた水を思いきりかけてやる。
 暑さのせいでふぁさふぁさのリコの尻尾が台無しだし、それに、上着のお返しだ。
「おい、」
 突然尻尾に襲い掛かってきた冷たい感触に、飛び上がるようにしてリコが水飛沫の飛来した方向を見れば、ニヤリとした笑みを浮かべた菊の顔があった。
 菊に釣られるようにして、リコもまたフッと笑みを深めると、釣り竿を放り投げ、勢い良く掬い上げた川水を菊へとぶっかけていく。
「くひ、リコ釣る方が俺うめー」
 釣った魚を入れる為のバケツも、相手に水をかける武器へと早変わり。
 水をかけたと思ったら、器用に避けられて。そっからすかさず飛んでくるのが、倍返しの応酬。
 ぎゃいぎゃいと水をかけ合い、戯れながら川へと飛び込むまで、僅か数秒のことであった。
 2人して川へと飛び込んで。濡れた髪をかき上げながら、菊が「くひ」と堪らず噴き出した。
 魚は全然釣れねえのに、リコが釣れるのは一瞬のことであったのだから。
「川ん中、冷たくて良いな」
 釣られたリコもまんざらでもないような表情を浮かべると、隙だらけの菊に向かって頭から水をぶっかけてやる。
 髪をかき上げ、服の水分を絞っていた菊が再び濡れ鼠の姿に逆戻りだ。
 髪やら服やらが体にべったりと張りついた菊の姿に、リコもまた笑い声をあげた。
「おもろい。ふたりして、ずぶ濡れ、ふひ」
 ずぶ濡れ。バカみたいにはしゃいで。魚1匹も釣ってねえのに、釣り竿放り出して。
 久々のバカ騒ぎに、笑って、笑って、笑って――。笑った分だけ、菊の左胸が苦しくなる。
(「久々こんなはしゃいだ気がして、苦しくなった。
 もう一度、こんな夏を過ごせるかなんかわかんねえから」)
 あと何度、こんな夏を過ごせるのか、なんて。バカだから、「分からない」を決め込むのだ。
 「ふひ」と笑ってるフリをして。
 振り返らずに川から上がる菊の後ろ姿を――眺めていたリコが、堪らず追いかけた。
(「水滴がきらきらして、あきがぴかぴか光って見えた。川から上がったあきが陽炎で揺らめいてみえる」)
 キラキラと乱反射して、気が付けば、「きれい」だと。そんな感想しか、リコの薄ぼんやりとした頭には思い浮かんでは来なかった。
 滴る水滴。キラキラと降り注ぐ太陽の光と混ざり合って、一つになって。
 やがて。
 やがて、消えてしまう。
 そんなはずないのに。バカみたいな想像なのに。
 何故だか、菊がそのまま光って消えてしまいそうな気がして。
 怖くて、寒くて。堪らず菊へと向かって駆け出したリコは、後ろから菊のことを思いきり抱き締めた。
 腕の中にあるその熱の存在を、確かめるようにして。
(「背中の熱にバレねえように、涙粒ごと流れちまえ」)
 笑って、楽しくて、それからどうしようもなく苦しいのも。
 目から出る汗が伝って止まらないのも。
「……火、焚いて、スイカ食お」
 妙に感傷的になってしまうのも。
 やっとの思いで吐き出した声が震えていたのも。
 ぜんぶ、きっと、夏の暑さのせいだ。
 そのはずだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年07月26日


挿絵イラスト