●ラグジュアリーサマー!
そこはUDCアースでも有名なグランピング施設、ラグジュアリー・シー。名前の通り、海の近くでラグジュアリーなひと時を過ごせると人気のスポットだ。
ベルテントに大型のドームテント、別荘風のコテージと好きなスタイルを選べるのも魅力の一つ。そしてそのどれもが充分な間隔があり、多少騒いでも苦情が入るようなことはない。
バーベキューの道具も全て揃っていて、食材もお好みのものをチョイスすることが可能。調理器具も大抵のものはあるので、作りたい料理を楽しむのだって問題なくできるだろう。
そして、目の前に広がるのはプライベートビーチとも言える海、水遊びもバーベキューも花火も肝試しも、きっと何をしたって楽しいひと時になるのは間違いないはず。
そんな場所へのお誘いを猟兵達にかけるのは――。
●とっておきの夏休み~Midnight~
夏といえば何を思い浮かべる? そう笑ったのは甘恋・周宜(Danse macabre・f33079)で、問われた猟兵の答えに耳を傾けては頷いている。
「うんうん、そうだよねぇ。夏って言ったら海に山に、水着に浴衣に夏祭りに花火、わかる~」
大層ゆるい喋り方の彼は、でもさ? と悪戯っぽく微笑んで。
「やっぱり夏といえばホラーじゃない? 肝試しに百物語もいいよねぇ」
怖い話大好き! とそれはもういい笑顔だ。
「やっぱりさ、夏のお泊り、しかも屋外でしょ? 怖い話は定番だと思うんだよね」
昼は水遊びにバーベキュー、夕方から夜にかけてはバーベキューに花火、そしてこの深夜――もう怖い話をしたり怖い体験をするしかないと周宜は推していく。
いやそれ、お前が怖い話好きなだけじゃないのかと猟兵達の脳裏をよぎるけれど、確かに怖い話は面白い。怖い怖いと思っても、ホラー映画を見てしまうのと同じ感覚だろうか。
誘われたなら、怖い話の一つもしてみてもいいか、なんて思う猟兵もちらほら。
「あ、でもねぇ? 怖いの苦手な子は無理しなくっていいよ。テントで恋バナとかでもさ、そういうのもオレ好きだしね」
修学旅行のノリかな?? でも、怖い話と同じくらい恋の話だって聞いてみたいもの。
昼と夜の喧騒が嘘のように静かなグランピング施設で深夜にしか出来ないこと、してみない? そう……深夜の袋ラーメンなんかも罪深いよね! なんて、少しばかり蠱惑的な笑みを浮かべた周宜が手にした小さなポールのようなグリモアに触れ、ゲートを開く。
「これもグランピングの醍醐味……ってことでさ、楽しんできてよ」
それで、良かったら俺にも怖い話や恋バナ聞かせてよね、と笑って猟兵達を送り出した。
波多蜜花
閲覧ありがとうございます、波多蜜花です。
夏といえば楽しみや催し物も様々ありますけれど、納涼ホラー、または恋バナなんて如何でしょうか? こちらは一章のみのお楽しみイベントシナリオとなっております。昼間・夕~夜・深夜の三部作となっておりまして、それぞれ案内する猟兵が違います。場所は同じですので、お好きなシナリオにご参加いただければ幸いです(複数参加も歓迎です)
深夜ですので水着を着ている可能性が低い場合は描写予定はありませんが、水着を着ている方は描写致します。
●プレイング受付期間について
断章投下後にタグやMSページ記載のURL先にてご案内しております、参照いただけますと助かります。
また、参加人数やスケジュールの都合、予期せぬ出来事によっては再送をお願いする場合がございます。なるべく無いように努めますが、再送となった場合はご協力をお願いできればと思います(この場合も、タグとMSページ記載のURL先にてお知らせ致します)
オーバーロードについてはMSページに記載があります、ご利用をお考えの方がいらっしゃいましたらお手数ですが確認していただけると幸いです。
●できること
時間帯は深夜、午前0時~午前三時くらいです。
グランピング施設での語らい、肝試し、百物語、恋バナなど、深夜にできそうな事はお好きなようにやって頂いて構いません。お腹の空いた腹ペコさんは、袋麺やカップ麺を作るのもいいんじゃないでしょうか。
コメディもシリアスも大歓迎です、怖い話や恋バナに拘らなくても眠れないから話をしている、真夜中の散歩に出るなどもいいと思います。
POW/SPD/WIZは気にしなくて大丈夫です。
●同行者について
同行者が三人以上の場合は【共通のグループ名か旅団名】+【人数】でお願いします。例:【真夜中3】同行者の人数制限は特にありません。
プレイングの失効日を統一してください、失効日が同じであれば送信時刻は問いません。朝8:31~翌朝8:29迄は失効日が同じになります(プレイング受付締切日はこの限りではありません、受付時間内に送信してください)
未成年者の飲酒喫煙、公序良俗に反するプレイングなどは一律不採用となりますのでご理解よろしくお願いいたします。
●その他
プレイングでのご指定がありましたら、周宜がご一緒致します。もし何かあればご用命くださいませ、プレイングに記載なければ登場することはありません。
それでは、皆様の素敵なサマーバケーション深夜の部をお待ちしております。
第1章 日常
『海を楽しもう』
|
POW : 海に入って泳いだり遊んだりする
SPD : 海には入らず他の遊びをする
WIZ : 食事をしたりしてゆったり過ごす
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
夏目・晴夜
◎
リュカさんf02586と
肝試しですか…
あ、廃校探索には浪漫を感じます!行きましょう
いや何故ライトを消そうとするんですか!
幽霊とか呪いとかは全然怖くないですけども
消したら足元とか危ないですよ
的になるのも一興ですよ
…暗いのが怖いんですよ!この、ハレルヤは!
もし消したらアレですよ、無言で涙だけ零すタイプの泣き方しますよ?
良いんですか?大の大人が静かに泣く姿は大分ヤバいですよ?
リアルな狼でしたら兎も角、ハレルヤは全く夜目効かないです
お茶目ですよね
まずは校長室を探しましょう
歴代の校長写真を飾る所に我々の写真もしれっと並べたいです
偉大なる写真は暗闇に飾られても眩いのですよ!
しかし画鋲はダメです(死守する
リュカ・エンキアンサス
◎
晴夜お兄さんf00145と
よし、肝試しだ
近くに廃校があたはずだし、そこにしよう
お兄さんは怖いの苦手?
懐中電灯がお約束らしいから、それ持っていこうか
そしてついたらライトを消す
え?怖くないんでしょう?
だったらライト消さないと、自分たちの居場所が丸わかりだから
これだといい的だよ。消そう
やだ。俺は死にたくない
…
……
(お兄さんが無言で泣くってかなり見てみたいところだけど)(さすがにガチで嫌がってる人にするのはよくないな)
わかったわかった。ライトつけるよ
狼って夜目効くんじゃないの?
お兄さん、その写真は永劫暗闇に置かれることになるけど…
(お兄さんの写真を鼻画鋲で貼ろうとし
はいはい(旅行写真でも貼っておこう
●夏の夜は廃校探索で〆!
ぐったりとベルテントのベッドの上に横たわる夏目・晴夜(不夜狼・f00145)に、容赦なくリュカ・エンキアンサス(蒼炎の旅人・f02586)が声を掛ける。
「何してるのお兄さん、行くよ」
「え、何処にですか?」
もう深夜に近い時間ですけど、あとハレルヤは胃が重いのですけど、という視線を向ける。
「お兄さん、夏の夜と言えば?」
「……花火ですか?」
「うん、それもあるよね。でもまだあるよね」
「思いつかないですね~」
「そう、肝試しだよお兄さん」
「ハレルヤ何も言ってませんが?? しかし……肝試しですか」
「お兄さんは怖いの苦手?」
「怖いのが苦手というわけではないですが」
いまいち気乗りしない、あと胃が重い。食べ過ぎとかじゃない、得体の知れない何かで胃がやられたみたいな感じで。
「近くに廃校があったはずだし、そこにしよう」
「あっもう決定事項でしたか……って、廃校? 廃校探索には浪漫を感じます! 行きましょう」
胃薬も効いてきたことですしね! と晴夜が立ち上がった。
「お兄さんの胃って意外と軟弱だよね」
「普通なんですけどね、逆にリュカさんの胃が強いんだと思います」
|あの《ヤベー》料理の数々を食べて平気なのだから、相当強いはずだと晴夜は思う。思いつつ、何はともあれ廃校探索だと、お約束の懐中電灯を片手にグランピング施設から離れた場所にある廃校へと向かった。
「ここですか、ほうほう……中々に趣がありますね」
廃れ具合が肝試しにはもってこい、的な意味で。
「よし」
「え?」
「行こうか、お兄さん」
「え? 何故ライトを消したんです!?」
さっきまで煌々と辺りを照らしていた光が一瞬で消えた驚きと共に、晴夜がリュカの持っていた懐中電灯のスイッチを入れる。
「え? 怖くないんでしょう?」
「幽霊とか呪いとかは全然怖くないですけども!」
「だったらライト消さないと、自分たちの居場所が丸わかりだからこれだといい的だよ。消そう」
じゃあ消すね、という強い意志を感じさせる顔で再び懐中電灯のスイッチを押し、灯りを消そうとするリュカを晴夜が慌てて止める。
「消したら足元とか危ないですよ」
「やだ。俺は死にたくない」
「何に狙われるんです?? いっそ的になるのも一興ですよ」
必死に食い下がる晴夜に、リュカが僅かに眉間に皺を寄せる。
「何にかまではわからないけど、真っ暗な中で光源を持ってるとか死にたいの?」
「ここは平和なグランピング施設の近くですからね! 滅多なことにはならないですよ!」
「なったらどうするの」
「あ~~……あのですね、暗いのが怖いんですよ! このハレルヤは!」
「え」
暗いのが怖い、と言われて虚を突かれたようにリュカが晴夜を見る。
「もし消したらアレですよ」
「泣き喚く?」
「いいえ、無言で涙だけ零すタイプの泣き方しますよ?」
「……」
それはそれでめちゃくちゃ見てみたい、お兄さんが無言で泣くって相当じゃないかとリュカが思う。
「良いんですか? 大の大人が静かに泣く姿は大分ヤバいですよ?」
「|…………《めちゃくちゃ見たい》!」
いや、でもさすがにガチで嫌がっている人にするのはよくないな、とリュカが思い直す。
「わかったわかった。ライトつけるよ」
仕方ないな、とリュカが懐中電灯を点けたまま歩き出す。
「でもお兄さん」
「はい?」
懐中電灯の灯りにほっとしながら、晴夜が返事をする。
「狼って夜目効くんじゃないの?」
人狼でしょ? という含みに晴夜が笑う。
「リアルな狼でしたら兎も角、ハレルヤは全く夜目効かないです」
「お兄さんの尻尾と耳は飾りなの」
「飾りではないですが!? 神がかったモフモフですが!?」
これがあれば夜目が効かないくらいお茶目の範疇ですよ! と晴夜が尻尾を見せびらかす。
「うんうん、そうだね。ところで何処を目指そうか?」
「華麗なスルー! そうですね、まずは校長室を探しましょう」
「校長室?」
セオリーだっけ、とリュカが校長室のありそうな方へ足を進めながら言う。
「歴代校長写真を壁に飾るでしょう? そこに我々の写真もしれっと並べたいです」
「お兄さん、その写真は永劫暗闇に置かれることになるけど……」
「写真はいいです、ハレルヤ本人じゃないので。それに偉大なる写真は暗闇に飾られても眩いのですよ!」
「そんなものかな……あった、ここだ」
校長室って一階の職員室の隣とか、それよりもう少し奥にあるかなので殊の外探しやすいもの。お邪魔しまーすと入り込み、リュカが晴夜の写真を画鋲で貼り付けようと動く。
「まっっってください、今鼻のところに画鋲を刺そうとしませんでしたか?」
「夜目が効かないんじゃなかったっけ」
まさに鼻の穴を広げるかのように画鋲を刺そうとしていたリュカが晴夜に視線を向け、勘が良いのかなと手を止める。
「やっぱり! ダメです、鼻画鋲はダメです」
「はいはい」
それなら旅行写真でも貼っておこうと、リュカが適当にチョイスした写真を貼って。
「よし、次は何処を目指そうか」
「音楽室の音楽家の絵が並んでいる所に我々の写真をですね」
「自己主張が激しい」
主張してなんぼですよ、という言葉を聞きながら、廃校に来た証を残しに音楽室を目指すのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
乱獅子・梓
【不死蝶】◎
綾に渋々付き合わされた花火もなかなか悪くなかったな
それじゃあ、今度こそ朝まで寝……
なんだって???
冗談だと思っていたらマジだったとは…!
だいたい、袋麺なんて持ってきているわけないだろう
あるのかよ! こういう準備だけは良いな!
こうなったら開き直って
キャンプならではの少し豪華なラーメンを作ってやる
袋麺の味噌ラーメンを入れた鍋に
キムチの素、豚肉、ネギなどを入れてぐつぐつ煮る
完全に茹で上がる前に卵を落として半熟状態に
味噌キムチラーメンの完成だ
お前は辛いものが好きだろう
自分用には半熟卵入りの豚骨ラーメン
更にはビールも飲む
深夜にラーメンとビールとか明らかにアウトだが
これがまた悪魔的に美味い…!
灰神楽・綾
【不死蝶】◎
梓ー、梓ー(ゆさゆさ
花火でいっぱい遊んだらなんだか小腹が空いてきちゃった
昼食の時に話してた袋麺食べたいな~~
大丈夫、こんな時の為に持ってきておいたよ
じゃじゃーんと二人分の袋麺を取り出す
やったぁ、楽しみ
調理を始める梓の様子をワクワクしながら見守る
あ~ラーメンを煮込む時のこの音いいよね~
お手軽なインスタントラーメンもキャンプだと
なんだか特別なものに感じてくるね
えっ、すごい、味噌ラーメンがキムチ風味になった
俺の好みに合わせてくれたなんて嬉しいな
はふはふしながら美味しくいただく
夏とはいえ夜は割と涼しいから、ラーメンの温かさがちょうどいい
愛用の激辛ソースをかけて更に美味しくしちゃう
●お夜食は罪の味
「綾に渋々付き合わされた花火もなかなか悪くなかったな」
バーベキューもした、花火もした、寝る支度も済ませ、後は波音をBGMにして寝るだけだと乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)はベッドへと倒れ込んだ。
「ベッドまで一級品とは……」
柔らかすぎず硬すぎず、丁度いい寝心地。このまま吸い込まれるように寝てしまえたら、間違いなくいい夢を見られるに違いない。
「それじゃあ、俺は今度こそ朝まで寝るからな。おやす……」
「梓ー、あーずーさー」
おやすみ、と言い切る前に綾が梓の名を呼び、ゆさゆさと揺り起こす。
「なんだ? トイレか?」
「違うよ、子どもじゃあるまいし」
「じゃあ何……」
「花火でいっぱい遊んだら、なんだか小腹が空いてきちゃった」
「なんだって???」
聞き間違いか? と思いながら思わずむくりと起き上がる。
「バーベキュー、腹いっぱい食ってただろ?」
「そうなんだけどさ、このままだと眠れそうにないな~って」
だから、と綾がにっこりと笑う。
「昼食の時に話してた袋麺が食べたいな~~」
「おま、冗談だと思っていたらマジだったとは……!」
少し多すぎたかと思っていた料理も、バーベキューマジックかはたまたよく食べる綾のつられてか、梓自身もかなり食べたのだ。
「だいたい、袋麺なんて持ってきているわけないだろう」
「あるよ?」
「あるのかよ!」
「こんな時の為に持ってきておいたんだよね」
「こういう準備だけは良いな!」
でも、施設の食材コーナーでも見たよ、と綾が笑う。
「きっと夜中のラーメンを食べたくなる人が多いんだろうね」
「夜食の定番ではあるからな……仕方ないな」
溜息を一つ零し、梓が起き上がる。袋ラーメンの話をしていたら食べたくなってきたのだ、あのジャンクな味わいを……!!
「こうなったら、キャンプならではの少し豪華なラーメンを作ってやる」
「やったぁ、楽しみ」
開き直ったからにはジャンクと言えど少しの手間暇を掛けて美味しくしてやろうと、梓が綾から袋麺を受けとる。
「炭火は時間が掛かるからな、ガスコンロでやるか」
鍋に湯を沸かす間に材料を揃え、ネギを刻む。
「これを入れるのと入れないのとじゃ、美味しさが変わってくるからな」
「ラーメンのネギってなんであんなに美味しいんだろうね~」
ワクワクを隠し切れない様子で綾が調理をする梓を眺め、お湯が沸いたよと声を掛ける。
「まずはお前のからだな」
沸いたお湯の中に乾麺を入れ、少し待つ。柔らかくなる手前くらいでキムチの素に豚肉、ネギを入れて卵を手に取った。
「あ~ラーメンを煮込む時のこの音いいよね~」
ぐつぐつという音、食欲をそそる匂い。
「ここにスープの素を入れて……卵を落とすっと」
「美味しそう~! お手軽なインスタントラーメンもキャンプだとなんだか特別なものに感じてくるね」
どんぶりに移し替えず、小鍋のままテーブルにドンッと置けば更にキャンプらしい夜食の出来上がりだ。
「そら、味噌キムチラーメンの完成だ。お前は辛いものが好きだろう」
「えっ、すごい、味噌ラーメンがキムチ風味になった」
割り箸を持って、いただきますと食べ始める。それを眺めつつ、今度は自分の分を作り出す。手順は似たような感じだが、梓のは豚骨ラーメンでキムチは無し。その代わり肉とネギをたっぷり入れて同じように卵を落とした。
「ん~、半熟卵が美味しい! キムチも合う~」
自分好みにアレンジしてくれた事が嬉しくて、にこにこしながら麺を啜って。
「あ、ビールも飲むの?」
「ラーメンっていったらビールだろ、今日は特別だ」
深夜にラーメンとビールとか明らかにアウトではあるけれど、たまになら許される! と缶ビールを開けて喉に流し込み、続いて出来立てのラーメンを啜る。
「うーん、これがまた悪魔的に美味い……!!」
「美味しいよねぇ。あ、愛用の激辛ソースもかけちゃおう」
「お前……いや、アレンジは人それぞれだからな」
じゃじゃーん! と取り出したソースの瓶には髑髏のマーク、どう見ても毒薬か劇物である。
「うわ……」
思わず引いた声が出たが、どんどん真っ赤に染まっていく綾の小鍋を前にしてはそれも致し方ないというもの。
「夏とはいえ夜は割と涼しいから、激辛ラーメンの温かさがちょうどいいよね~」
「俺はビールの冷たさが丁度いい……」
それぞれ美味しく夜食を食べて、簡単な片付けを済ませたら再びテントへ戻る。
「あーお腹いっぱい! ごちそうさま~!」
「おう、今度こそ寝るぞ」
はーい、おやすみ~! という綾の良い子の返事を聞いて梓は笑いながら目を閉じた。
夏休みの〆はラーメンとビール、それはそれは罪深い味であったとか――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
明日知・理
ルーファス(f06629)と
◎
日中も夕方も散々遊んだにも関わらず、体力はまだ有り余っていて
うまく寝付けなかったから、気晴らしに散歩でもしてこようかと
隣のルーファスをそっと窺う。…寝てる、か?
起こすのも忍びないし、そっと隣から抜け出そうとして──
起きてた。
「付き合わせてごめんな」
ルーファスと連れ立って夜の浜辺へ
少し申し訳ない気持ちはあれど、ワクワクしている自分もいる
静かなさざなみの音が心地いい
彼と穏やかに会話しながら、ふと空を見上げれば
「…あ」
流れ星が尾を引いた
願い事は間に合わなかったけれど、自分の手で叶えてみせるから
ラッキーだったなと笑ってそのまま空を仰ぐ
──月が綺麗だ。
ルーファス・グレンヴィル
◎マコ(f13813)と
散々日中遊んだけど
隣の彼から寝息は聞こえない
こんな日は必ず抜け出すんだよな
なんて考えていれば
案の定、動く気配があって
こら、マーコ、どこ行く気だよ
なんて腕を掴んで引き留めた
お前を一人にするほうが心配だからな
それに疲れてたら寝てるよ、オレは
コツンと握り拳を彼の額に当てて笑う
他愛もない談笑をしながら浜辺を歩いて
寄せては返すさざ波の音に耳を傾ける
不意に空を見上げた彼の視線を追い
流れた尾っぽに瞳きらりと輝いた
おー、流れ星なんて珍しいな
願い事なんて何も言えなかったけど
見れただけでも十分に運が良い
夜中に出掛けるのも悪くねえじゃん
唐突な言葉に噴き出して笑う
──ああ、死んでもいいわって?
●月だけが見ていた
夏休み、それは少しだけ特別な響きがするもの。夏休みを楽しみにしている猟兵達も多く、今日と言う夏休みを思う存分遊び尽くした明日知・理(月影・f13813)もその内の一人であった。
ドーム型のテントの中、隣のベッドで寝ているルーファス・グレンヴィル(常夜・f06629)をちらりと盗み見て、昼間に海遊びをしたのも楽しかったなと思わず笑みを浮かべる。夕方から始めたバーベキューも美味しかった、それに美味しそうに食べるルーファスを見ていると自分も嬉しくなって楽しくて、ついたくさん食べ過ぎてしまったな――なんて思いながら小さく息を吐く。
あんなに遊んだのに、体力がまだ有り余っているのかうまく寝付けないのだ。
楽しすぎて、身体が眠る事を拒んでいるのかもしれないな……そんな風に考えながら、さてどうしようかと天井を見上げ、透明なシートになっている部分から覗く夜空に目を奪われた。
一方ルーファスはといえば、程よい疲れと満たされた胃袋のお陰か目を閉じて気を抜けば何時でも眠れる状態。それでも眠っていないのは、隣で眠る理から寝息が聞こえないからだ。
こんな日は、決まって必ず抜け出すんだよな……なんて考えていれば案の定だ。隣で寝転がっていた理がなるべく音を立てぬように起き上がり、ベッドを抜け出そうとしていたのだから。
「こら」
その声に、理がびくんと身体を揺らす。
「マーコ、どこ行く気だよ」
パッと起き上がって腕を掴み、ルーファスが理を引き留める。
「……起きてたのか」
「マコが寝ないからな」
う、と言葉に詰まった彼の腕を離し、しょうがないなと笑った。
「何処へ行こうと思ってたんだ?」
「海まで。星でも見に行こうかと」
「なら一緒に行こうぜ」
立ち上がり、スタスタと先を行こうとするルーファスを理が追いかける。
「付き合わせてごめんな」
「お前を一人にする方が心配だからな」
ぴたりと止まり、理が隣に来たところでルーファスが彼の額に握り拳をコツンと当てて、ふはっと笑う。
「それに疲れてたら寝てるよ、オレは」
「そうだな、ごめ……ありがとう」
きっとごめんより、ありがとうの方が彼は喜んでくれる。そう思って言い直した理によくできました、と笑ってルーファスが拳をパッと開いて彼の手を掴んだ。
「行こう」
「……ああ」
繋いだ手は温かく、海まで二人並んで歩く。少しの申し訳ない気持ちはあれど、ルーファスが一緒に夜の散歩に出かけてくれるワクワクとした気持ちには敵わない。サクサクと砂地を歩けば、涼しい潮風が二人を迎え入れてくれた。
「風が気持ちいいな」
「そうだな、それに海の音も」
寄せては返す静かなさざなみの音が心地いいと、手を繋いだまま歩くルーファスを見て理が僅かに笑う。
「少し歩くか」
散歩だしな、と僅かに繋いだ手に力を込めて、理をエスコートするようにルーファスが波打ち際を歩く。
「昼間とは全然違うな、海」
「昼は青くて地平線の先まで見えていたけど、そうだな」
全く違う顔みたいだと、深い藍色のような海を眺める。それでも、月明かりのお陰か白波はくっきりと見えていたし、遠くには人工物の灯りも見えた。
ふと、理が夜空を見上げればきらりと尾を引く流れ星。
「……あ」
見た? と理がルーファスを見れば、彼も同じように理を見ていて。
「おー、流れ星なんて珍しいな」
願い事は間に合わなかったけれど、願いは自分の手で叶えてみせるから、構わない。だから、理はラッキーだったなとだけ言ってルーファスに笑う。
「願い事を言う暇はなかったけど見れただけでも十分に運が良いな。これもマコのお陰だな」
「……俺の?」
ああ、とルーファスが笑う。
「マコが抜け出そうとしなかったら、見られなかっただろ。そう思うと、夜中に出掛けるのも悪くねえじゃん」
「そっか……うん、そうだな」
前向きなルーファスに笑みを浮かべ、理がそのまま空を仰ぎ見る。
「――月が綺麗だ」
煌々と夜を照らす、太陽とは違う優しい明かりに思わず理が言葉を零した。
「ふ、は」
なのに、隣の彼が笑いだすから、どうしたのかと見遣れば顔が近い位置にあったものだから、理がぴたりと動きを止める。
「――ああ、死んでもいいわって?」
そう、耳元で囁かれて理の頬が一気に赤くなる。
「そ、んなつもり、は」
「ない?」
なんて意地悪く問われては、観念するしかない。
「……ある」
本当に、そんなつもりはなかったけれど。
彼が言うなら、拒めるはずもないのだから。
「マコ」
だから、笑いながら近付いてくる唇に、理は目を閉じるしかなかったのである。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ラファン・クロウフォード
【箱2】◎
真夜中にぶらっと散歩デート
昼間と違った景色で、新鮮だ
歩いてるだけで楽しい
戒の普段と少し違った顔を見てる気がしてドキドキする
人もあまりいないので、人目を気にせず手を繋いで歩けるな
浜辺で寝転がって夜空に感動。戒もきれいだ
怖い話して、くっついたりして甘えてみたい
戒、怖い話を知らないか?
それな。どちらも見てたけど、ぐうかわ。表情が、むりかわ
そういや、昼間、あと一歩で崖から海に落ちるとこだったんだ
戒を追いかけてたのに、何故か、戒は後ろの方にいて
親切な海の妖精が、景色のきれいな場所に案内してくれたのかも?
俺も本物だよ。触る?待って、何か聞こえた
俺の腹の虫の音。戒が作った味噌ラーメンが食べたいな
瀬古・戒
【箱2】◎
真夜中にふらふらするって背徳感あってイイよな!深夜徘徊~☆真っ暗過ぎるとちょい怖いけど空がプラネタリウムしてるし!手を繋がれると安心するから嬉しいんだが言わない
俺アレやりたい!寝転がって夜空みるヤツ!みてみて!星空キレー!
はぁ?怖い話?……家に帰ってからボタン1つかけ違えてたのに気づく
朝起きたら枕に髪の毛がびっしり………俺がマジで怖い話するわけねぇだろ!俺がイヤだわ!!てコラ!ボタンは認めるが毛は抜けてねぇぞ!!!マジで!!!
……え?なに?そっくりお化け…妖精さん?……お前は本物だよな?じゃあ触る
へ?な何が聞こえッ!?びっ!ビビらせんなよもう!
はぁーいお湯沸かして3分な
俺シーフード
●真夜中デート
ラグジュアリー・シー、その名に相応しく海に面したグランピング施設のドーム型テントのベッドの上で、ラファン・クロウフォード(武闘神官・f18585)は楽しそうに自分に話し掛ける瀬古・戒(瓦灯・f19003)を見ていた。
「おい、おーい、聞いてるか?」
「聞いてる、戒が尊い」
「ダメだこれ聞いてなかったな」
今日も俺の嫁が可愛い、神様ありがとう! いや俺も神の端くれだけど、とラファンが改めて戒を見て笑みを浮かべる。
「笑ってる場合じゃねぇだろ、もう一回言うからよく聞いてろよ」
「散歩に行きたいんだろう?」
「あれで聞いてたのかよ、すげぇな」
全く違う返事したじゃん、と言いながらも戒が立ち上がる。
「行くぜ、深夜徘徊!」
「行こう、散歩デート」
深夜徘徊と散歩デートでは字面も響きも全く違うが、本人達は気にしない。それに、戒にとっても散歩デートは間違いではなかったので。
「思ったより真っ暗過ぎるけど、空がプラネタリウムしてる!」
ちょっと怖いけど、この満天の夜空は間違いなく綺麗だ。それに、隣にラファンがいるなら大丈夫だと胸の内でこっそり笑う。そんな戒の心を知ってか知らずか、人もほとんどいないし人目を気にせず手を繋ぐチャンスだと戒の手を握る。
「お?」
「危ないから」
理由はそれだけじゃないけど、手を繋ぎたいからだけど、そう言っておけば戒が照れないかなと思ったから。
「しょうがねぇな~いいぞ!」
それなら別にいい、みたいな態度だけれど、戒も手を繋いでもらった方が暗い夜道でも安心するというもの。それに、嬉しいと思う気持ちも大きくて、わざと繋いだ手を大きく振って歩く。
「真夜中にふらふらするって背徳感あってイイよな!」
「街中とは違った良さがあるな」
昼間とは全く違う景色だとラファンが頷く、それに月明かりに照らされた戒は普段と違った表情をしている気がして、なんだかドキドキしてしまう。おかしいな、結婚してるんだけどな、付き合いたてのカップルみたいだと、少しおかしくなってラファンが笑った。
少し歩けば海は目の前、真っ暗な海を月明かりが照らしていて、どこか幻想的にも見える。
「ラファン、俺アレやりたい! 寝転がって夜空見るヤツ!」
「やる」
ラファンが着ていた上着を脱いで、せめて頭だけでも砂が付かないようにと地面に敷く。その上に二人くっついて寝転がれば、広がるのは星の海。
「みてみて! 星空キレー!」
「きれいだ」
「な、キレーだな!」
「戒もきれいだ」
「おま、お前はまたそういう!」
だって本当だもん、とにこにこしているラファンの脇腹に肘を入れつつ、戒の瞳は星空に奪われたままだ。
その瞳をどうにかこっちに向けたくて、そうだ怖い話しよ! と思いつく。そうすればくっついたり甘えたりできる、間違いない。完璧、とラファンは口を開いた。
「戒、怖い話知らないか?」
「はぁ? 怖い話? ……家に帰ってからボタンひとつかけ違えてたのに気づく」
それは怖い、怖いけど。
「朝起きたら枕に髪の毛がびっしり……」
「それな。どちらも見てたけど、ぐうかわ」
でもそれ怖い話だけど違くね? と視線を送る。
「俺がマジで怖い話するわけねぇだろ! 俺がイヤだわ!! てコラ! ボタンは認めるが毛は抜けてねぇぞ!!! マジで!!!」
ゴラァ! って怒る表情も可愛い、ちょっと照れてるのも可愛い、|むりかわ《大好き》。俺の嫁が尊い。
「……ったく、そういうラファンはあるのかよ」
怖い話、と戒が問う。
「怖い話……かどうかはわかんないけど」
そう前置きして、ラファンが話し出す。
「昼間、あと一歩で崖から海に落ちるとこだったんだ」
「は? え?」
「戒を追いかけてたのに、何故か、戒は後ろの方にいて」
「……え? なに? ワープじゃん……」
俺いつの間に瞬間移動手に入れたの、と戒が目を瞬かせる。
「親切な海の妖精が、景色のきれいな場所に案内してくれたのかも?」
「そっくりお化け……じゃなくて、妖精さん?」
それにしても案内の仕方が雑じゃね? と戒が眉根を寄せて。
「……お前は本物だよな? いや、俺も本物だけど!」
「俺も本物だよ。触る?」
「じゃあ触る」
ぺと、と手をラファンの心臓の上において、きちんと心臓が動いている事を確認してホッと胸を撫で下ろした。
「待って、戒」
「ん?」
「何か聞こえた」
「へ? な、何が聞こえッ!?」
思わず戒がラファンの胸に飛び込むような形でくっついて、ラファンがにまにまして俺の腹の虫の音だと笑う。
「びっ! ビビらせんなよもう!」
でも確かに腹減ったな、と照れ隠しも手伝って戒が起き上がる。
「戒が作った味噌ラーメンが食べたいな」
「はぁーい、お湯沸かして三分な。俺シーフード!」
「戒が作るなら、カップ麺も至高の美味さだ」
なんて、本気の顔でラファンが言うものだから戒も笑ってラーメン食いに戻ろうぜ、とラファンに手を差し出したのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
千家・菊里
【戯4】◎
(朝から元気に食べて遊んで鱈腹食べて――一息入れていたらもうこんな時間
という訳で、まだまだ眠気より食気のおたまと共に、上機嫌にカップ麺作り寛ぎ)
楽しい時間はあっという間ですねぇ
でも夜はまだまだこれからですよ?
良いんですか、寝てしまって?
(ぴったり三分で麺を頂きつつ、伊織越しに扉を見遣れば静かに開く気配があり――
彼方も丁度良いタイミングで)
――ふふふ、真打は遅れてなんとやら
いやぁ、良い夜ですねぇ
(にこにこと、新たに増えた“二人分”の飲物を用意しながら
成り行きをそっと見守り――)
(ええ、そう、真打は二段構えなのでした)
ふむ、熱いのをご所望と
では熱々の麺で口直ししますか、伊織?(のほほん)
呉羽・伊織
【戯4】◎
(怒濤の食遊食食略を乗り越え
良い子なお供達を寝かし付け――
漸くおふとんにダイブし)
つかれた…
オレは不貞寝するからお前は独りでお楽しみクダサ~イ!
って、えっ…今何か扉に気配が…
(恐る恐る振り向けば)
――!!
きゃ~!姐サン!!
えっ夢じゃない?ホント??
頑張ったオレへの御褒美来た??
寝ない寝ない、恋バナでも肝試しでも何でも大歓――
(と、不意に背後から伸びてきた手に物凄くイヤ~な悪寒覚え)
…
(悪寒の元を
見なかったコトにしよーとするも――)
やっっ…ぱり出やがったなこの狐!!
悪霊退散どっかいけ!
そんな肝試しはお断りだって言ってんだろ~!
うう、姐サン…!オレはこんな寒気より熱~い夏を満喫したい…!
花川・小町
【戯4】◎
(大変遅れ馳せながら、朝から出掛けていた菊ちゃんと伊織ちゃん達の元へ伺う事に
――勿論、愉しい友人と美味しい肴を伴って、ね?)
あらあら、何だか賑やかな様子ねぇ
(室内から伝わってくるわちゃわちゃとした気配や声に微笑みつつ、連れ立つ清宵ちゃんに振り向き)
ふふ、それじゃあ私達もお愉しみのラグジュアリータイムに入れて頂きましょうか
◇
(そっと扉開き、先んじて一歩)
御機嫌良う
ええ、夢じゃないわ
折角の夜だもの、一緒に愉しみましょう
――それとも、もう寝ちゃう?
まぁ、良いお返事
何でも大歓迎だなんて――良かったわねぇ
(清宵ちゃん?と微笑み)
大丈夫、きっとすぐ食事とお酒で火照るわ
ふふ、仲良く語り明かしましょ
佳月・清宵
【戯4】◎
(小町と共に夜遊びがてら、酒を携えふらりと――約二名がいるコテージへ
飲み明かすにゃうってつけの夜と風情と顔馴染
オマケに|肴《伊織》も揃ってやがるたァ、実に誂え向きなこって)
ったく、毎日朝から晩まで飽きねぇ連中だな
(件の部屋の中から聞こえてくる、毎度のやりとりと声に肩竦め)
ま、この様子ならまだまだ元気そうだな
不貞寝始める前に賑やかしてやろうじゃねぇか
◇
(先に入った小町と扉の影で、遠巻きに暫し様子伺い――
頃合いを見て、浮かれた|伊織《肴》の肩へ手をかけ)
――おう、大歓迎たァ有難ぇな?
安心しろよ、夢でも霊でもねぇ現だ
此処は褒美の|肝試し《酒盛》と洒落込もうじゃねぇか
これなら熱い夜になんだろ
●真夜中のお楽しみ
楽しい時間とは何故こんなにもあっという間に過ぎてしまうのか、と千家・菊里(隠逸花・f02716)はコテージの壁に掛けられた時計を見遣る。
「到着したのは午前中だったんですけどねぇ」
時計の針はもうすぐ0時を指そうとしていて、ほぅ……とアンニュイな溜息を零し――菊里は沸いたお湯をカップ麺に注いでいた。
「なんっっでまだ食おうとしてんだ!!?!?」
昼間から怒濤の勢いで食べまくってただろ!? と、呉羽・伊織(翳・f03578)が楽しい……いや、途中からはもう悪夢にも似た食の波状攻撃を思い出して唸る。
「遊びが三で食が七……いや、二と八……」
うう、と呻きながらも彼の良い子なお供達であるぴよこ、亀、蛟を寝かし付けた伊織はその隣のベッドへとダイブした。
「つかれた……オレはもうこの寝心地抜群なベッドで不貞寝するから、お前は独りでお楽しみクダサ~イ!」
「何言ってるんですか、夜はまだまだこれからですよ?」
「いやもう寝る時間ですケド???」
「良いんですか? 寝てしまっても」
ぴったり三分でカップ麺の蓋をはぎ取り、いただきますと手を合わせて菊里は麺をちゅるりと啜る。
「何か悪いことでもある?? 食い気野郎と二人ですることないヨネ!」
「おやおや、そんな事言ってると……」
くす、と意味ありげに笑って、菊里が麺を上品に啜り上げながら伊織越しに扉を見遣った。
――キィ。
「って、えっ……今何か扉に気配が……」
何々、何か出るのこのグランピング施設! 昼はラグジュアリーな施設で、夜はホラーな施設にでも変わるの??? と伊織が恐る恐る振り返ったその先には。
「――――ッ!!!」
声にならない悲鳴が、コテージに響いた。
さて、ここから少しばかり時を遡ること数分前。花川・小町(花遊・f03026)は佳月・清宵(霞・f14015)と連れだって、このグランピング施設に訪れていた。
「ふふ、もう二人とも寝ちゃってるかしら?」
ねぇ? と、小町が隣を歩く清宵に振り向いて笑う。
「ガキじゃあるまいし、起きてるだろう」
特に菊里は小町が自分を連れてやってくることを知っているはずなのだから、寝るはずがない。そして、自分達が来ることを知っていて伊織を寝かせるはずもないのだ。
「こんな時間だけれど、菊里ちゃんなら美味しい肴を用意してくれるでしょうしね」
「ああ、とびっきりの|肴《伊織》も揃ってやがるだろうしなァ」
ふふふ、くくく、と忍び笑いを零しながら、菊里から連絡のあったコテージへと急ぐ。やがて、それらしきコテージが見えて小町がそうっと扉へと近付いた。
聞こえてきたのは騒がしい伊織の声と、それを飄々といなす菊里の声。いつものやり取りだなと肩を竦めた清宵に向け、小町がそっと目配せをして小さな声で耳打ちする。
「ふふ、元気そうね?」
「ま、この様子ならまだまだ元気そうだな」
「それじゃあ、私達もお愉しみのラグジュアリータイムに入れて頂きましょうか」
「ああ、本格的に不貞寝を始める前に賑やかしてやろうじゃねぇか」
そして、小町が艶やかな笑みを浮かべて扉を開き――ご機嫌良う、菊里ちゃんに伊織ちゃん? と声を掛け、伊織の声なき悲鳴が響いたのである。
「きゃ~! 姐サン!! えっ夢じゃない? オレ今寝てない?」
思わず自分の頬をぎゅっと抓って、痛い……と呟く。
「えっ夢じゃない? ホント??」
「ええ、夢じゃないわ」
本物よ、と小町がころころと鈴を鳴らすような玲瓏な声で笑い、伊織の顔がパァァッ今日一番の輝きを見せる。
「今日一日頑張ったオレへの御褒美来た?? 時代がオレに向いている……!」
「そうかもしないわねぇ」
「ふふふ、真打は遅れてなんとやら、ですねぇ」
カップ麺を食べ終えた菊里が立ち上がり、ゴミを片付けるとそのまま簡易と呼ぶには豪華なキッチンで飲み物を用意し始める。勿論、『二人分』だ。それには一切気付かず、というか小町しか見ていない伊織は楽しそうにはしゃいでいる。
「さ、折角の夜だもの、一緒に愉しみましょう? ――それとも、もう寝ちゃう?」
「寝ない!」
ガバッと起き上がり、伊織が小町に向き合う。
「寝ない寝ない、恋バナでも肝試しでも何でも大歓――」
そこまで言いかけて、ゾクリとした悪寒を感じて伊織が言葉を止めた。
背後から伸びてくる手の気配、これ幽霊だった方がマシでは? なんて思いながら、よしいっそ感じなかったことにしよう! と、言葉を紡ぎ直す。
「姐サンなら大歓迎!」
「まぁ、良いお返事。何でも大歓迎だなんて――良かったわねぇ」
ねぇ? 清宵ちゃん? と小町が微笑めば、先に入った小町と扉の影から遠巻きに部屋の様子を窺っていた清宵が姿を現した。
「――おう、大歓迎たァ有難ぇな?」
「やっっ……ぱり出やがったなこの狐!!」
「おう。安心しろよ、夢でも霊でもねぇ現だ」
「歓迎すんのは姐サンだけっていっただろ! 悪霊退散どっかいけ!!」
「あら、私も幽霊の方が良かったかしら?」
「姐サンは別っ!」
「いやぁ、良い夜ですねぇ」
それはもういい笑顔を浮かべ、菊里が二人分の飲み物を手にしてこちらへどうぞと二人を案内する。
「ありがとう、菊里ちゃん」
「貰うぜ」
「し、知ってたな、お前!」
「ええ、知ってましたけど?」
さっきまでのご機嫌顔とは打って変わって、苦虫を嚙み潰したような顔をしている伊織に向かって、真打は二段構えなのでした、と菊里が笑う。
「此処は褒美の|肝試し《酒盛》と洒落込もうじゃねぇか」
なァ? と清宵が笑うと、伊織が全身全霊を込めて拒否の態勢を取った。
「そんな肝試しはお断りだって言ってんだろ~!」
「あら、でもお酒と肴の用意は準備できてるようよ?」
いつの間にかテーブルの上にはお酒と菊里が夕飯時に仕込んでおいたダッチオーブン料理が並んでいる。
「うう、姐サン……!」
「さ、伊織ちゃんも座って、ね?」
「オレはこんな寒気より熱~~い夏の夜を満喫したい……!!」
めそめそしながらも、小町の対面に座った伊織がぼやく。
「大丈夫、きっとすぐ食事とお酒で火照るわ」
それもちょっと違うんだけど~~とがっくりと項垂れて、そのまま頬を机にくっつけた。
「ふむ、熱いのをご所望と。では熱々の麺で口直ししますか、伊織?」
のほほんと、親切めいた口調で菊里が言うと伊織がガバっと顔を上げて。
「オレは夕食のバーベキューでお腹いっぱいだからネ!」
「良いじゃねぇか、これなら熱い夜になんだろ」
「ふふ、仲良く語り明かしましょ」
夜はまだまだこれからだもの、と小町が機嫌よく笑った。
そこからはいつもの通りの、本当にいつも通りの宴会の始まりで。
「あら、このローストチキン美味しいわ、菊里ちゃん」
「酒が進むな」
「焼きそばもありますよ」
「うふふ、おたまも美味しそうに食べてるわねぇ」
バーベキューの残り物とはいえ、肉は最高級品だし野菜は新鮮。パパッと作った焼きそばだって、いつもより美味しく感じるというものだ。
「いやー……ほんっとよく食うネ」
ダッチオーブンで作られた山盛りのポップコーンを摘まみながら、乾いた笑いを浮かべて伊織がちびちびと酒を呑む。
「美味しい肴に美味しいお酒、これで箸が進まないなんて、ねぇ?」
「ありえねぇな」
くいっとグラスを傾けて、清宵がニヤリと笑う。
「砂肝のガーリック炒めと、こちらはアヒージョ、というものです」
蛸と海老をオリーブオイルで煮た、旨味が充分に染み渡ったオイルをバゲットに浸けるとまた美味しいですよと山盛りのバゲットがテーブルの中央にドンと置かれた。
「これは洋酒に合うわねぇ」
「砂肝も美味ぇ」
次々に空になる皿と酒の瓶に缶、それに負けじと提供される料理と酒の数々に、伊織は羊を数えるより容易く眠れそうだなと思いながら、まぁこんな夏休みも悪くはない……かも? なんて、止め時が分からないポップコーンを摘み続けるのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
スキアファール・イリャルギ
◎
コテージで寝ている時にふと目が覚める
…ラトナ、起きてますか?
(自分の影に住み着くねこさんに呼び掛ける
いえ、少しお話を――折角ですしふたりだけの内緒の会話をね
コローロはいま寝てるから
(小さな女の子だから夜更かしはダメでしょう? と笑いつつ
ラトナ
いつもコローロにお姉さんのように接してくださって、ありがとう
いつ命が尽きても可笑しくない私を主と認めてくれて、ありがとう
本当に感謝しています
…だから、ね
先に謝らせてください
いつかあなたを置いて先に死ぬことを
怪奇人間は短命
その運命を受け入れてはいる
…でもやっぱり
大切な人たちを置いて逝くのは、辛い――
…すみません、弱気になって
これ、コローロには内緒ですよ
●夢のあとさき
一人では――いや、自分とコローロとのふたりでは少し広いコテージのベッドの上で、スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)はふと目を覚まして時間を確認する。
「一時ですか……」
小さな光たるコローロを見れば、いつもは火花のように瞬く彼女も小さな寝息を立てるように淡く瞬くのみ。良く寝ていると微笑んで、ベッドから下りると彼女の眠りを邪魔せぬようにコテージの外へ出た。
屋根付きのテラスに置かれた椅子に座り、柔らかな波音を聞きながら目を閉じ、自分の影に住み着く悪夢喰らいの猫妖精の名を呼ぶ。
「……ラトナ、起きてますか?」
呼びかけに応え、ふわふわの毛並みを持つ可愛らしい猫が影からぴょんっと飛び出して、スキアファールの膝に乗った。
何か用? とばかりに首を傾げたラトナに笑って、小さく首を振る。
「いえ、少しお話を――折角ですし、ふたりだけの内緒の会話をね」
そう言うと、ラトナがコテージの中を気にするように視線を向ける。
「コローロはいま寝てるから」
彼女は小さな女の子だから、夜更かしはダメでしょう? とスキアファールが笑うと『あなたはいいの?』と言うようなジト目で見られて誤魔化すようにもうひとつ笑ってみせた。
「……ラトナ」
高音も低音も自由自在に操り、伸びやかな歌声を聞かせる声が静かに響く。
「いつもコローロにお姉さんのように接してくださって、ありがとう」
ぴる、と片耳を動かしてラトナがスキアファールの顔を見上げる。
「いつ命が尽きても可笑しくない私を主と認めてくれて、ありがとう」
怪奇人間たる自分は短命を宿命付けられた存在、長く生きれたとしてもあと十年あるだろうか。一年後か二年後か、五年後か――それは自分にもわからないけれど。
「本当に、感謝しています」
けれど、それと同じくらい。
「……だから、ね。先に謝らせてください、いつかあなたを置いて先に死ぬことを」
普通の猫ではないラトナの寿命は長い、確実に、自分よりも。
その運命を受け入れてはいる、いつか自分は誰よりも先にいなくなるだろう。淡々と受け入れていた、受け入れていたけれど。
今の自分は、もうひとりではないから。大切な人たちが、沢山出来てしまったから。
「大切な人たちを置いて逝くのは、辛い――」
遊んで、笑って、くだらないことで大喜びして、そんな時間がずっとずっと続けばいいと、思ってしまったから。もっと一緒にいたいと、欲が出てしまったのだとスキアファールはラトナに弱々しく笑う。
てしっ。
「……ラトナ?」
ラトナの肉球が、ぷにっとスキアファールの俯いた鼻先に当たる。そのまま、何度もぷにぷにと押されて、これは励まされているのだなとスキアファールが気付いた。
「……すみません、弱気になって」
あの日、UDCアースの遊園地で見せられた夢が、あんまりにも理想的だったから。時折、夢で見てしまうくらいに希望で満ちていたから。
「絶望が怖くなってしまったんですかね、私」
ぽつりと呟いたスキアファールに寄り添うように、ラトナがその身をすり寄せた。
「これ、コローロには内緒ですよ、ラトナ」
ふたりだけの秘密です、とスキアファールがラトナを抱き上げる。
「さ、今度こそ寝ましょうか」
コローロが目を覚ました時に寂しくないように、傍にいなくてはと誰よりも優しい彼が微笑んだ。
大成功
🔵🔵🔵
蘭・七結
【紅月】◎2
普段ならば叶わないこと
共に、と乞うても良いかしら
ねえ、ユェーさん
あなたへと願っても、構わない?
真夜中にいただく袋麺
……が、とても気になっているの
ぽつぽつと秘かごとを明かすように
あなたへと言葉を溢しましょう
意外、かしら?
日頃味わうことの出来ない禁断の楽しみ
良ければ、御一緒してちょうだいな
塩味の袋麺にひと手間を加えることで
“カルボナーラ風”というひと品になると云うの
具材も、多く入れてみたいわ
仕立てているうちに、お腹は空くものね
工程の一つ一つに無駄は無く
その洗練された動作に魅入ってしまうよう
とても、とても美味しそうだわ
――これにて完成、かしら
ふふ、いけないことをしている気持ち
あなたも共犯なのだもの
たんと、この時間を楽しみましょうね
あかく耀く葡萄酒と
葡萄の果汁で乾杯しましょう
ステキな晩餐会が始まるかのようね
とても愉しい夜になりそうだわ
朧・ユェー
【紅月】◎2
貴女と二人
真夜中にコテージの外で食べる食事は魅力的ですね
先ずは何を作りましょうか?
おや、僕にお願いですか
お嬢様の願いでしたら何なりと
袋麺?
パチパチと瞬きした後にっこり微笑んで
それはとても危険な魅力ですねぇ
確かに僕も貴女も袋麺を食す事はほぼ無いでしょし
僕も作って皆さんに提供した事が無い
貴女の禁断の願い事、僕もご一緒させて頂きましょう
では一緒に作りましょうか
おやおや、そんなアレンジレシピは何処から?
それでしたら、ベーコンを炒めて
水と牛乳をラーメンを入れてから一煮立ち
卵を入れて良くかき混ぜて出来上がりです
シーフードも入れたらさらに美味しくなりそうですね
えぇ、僕も共犯
いけない事を楽しむ時間ですね
飲み物は、ワイン…はまだ飲めませんので
熟された葡萄ジュースです
真夜中のレストランみたいですね
●深夜の素敵な晩餐会
波音が優しく響くコテージのテラスで満天の星を眺めながら、蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)が朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)へと話し掛ける。
「素敵な星空ね、ユェーさん」
「そうですね、今にも零れ落ちてきそうな空です」
じっと見上げていれば、流れ星も幾つか見えて。
「あ……っ、早すぎて願い事を言う暇もないわね……」
「何か叶えたいことが?」
「ええ、普段ならば叶わないことを」
そっと、七結が秘密の話を切り出すかのようにユェーへと視線を向けた。
「何か聞いても?」
「えっと、そうね。星に願うよりもきっと確実だわ」
「おや、僕に叶えられそうな事ですか?」
どんな願い事だろうかと、ユェーが七結を見遣って微笑む。
その視線に、こほんと小さく咳払いをして七結が花の蕾のような唇を開いた。
「ではそうね、改めて――ユェーさん、あなたへと願っても、構わない?」
「僕に叶えられる事であれば、なんなりと」
その返事に安堵して、七結がはにかんだように言葉を紡ぐ。
「わたし、真夜中にいただく袋麺……が、とても気になっているの」
「……袋麺、ですか?」
意表を突かれたような表情で、ユェーが問い返す。
「ええ、この深夜の時間に……」
ほぅ、と息を吐いて七結が袋麺へと思いを馳せる。このキャンプ……グランピング施設の夜だからこそ許される、夜食に――!
「ふふ、それはとても危険な魅力ですねぇ」
何よりも、この真夜中にコテージの外で食べるジャンクな食事というのが魅力的だとユェーが笑う。
「やっぱり意外、かしら?」
「予想していなかったお願いだったのは確かですね」
「だって、ね? 日頃味わう事の出来ない禁断の楽しみでしょう?」
「はい、確かに僕も貴女も袋麺を食す事はほぼ無いでしょうし」
視線を合わせ、くすくすと笑ってユェーが袋麺、と頷く。
「僕も作って皆さんに提供した事が無い」
「目にすることもないわね」
手軽で美味しいとは聞くけれど、中々口にする機会がないのだ。
「良ければ、御一緒してちょうだいな」
あなたの料理の腕を袋麺に使わせるのも悪い気がしてしまうけれど、今日くらいはきっと許されるはず。
「お嬢様の願いでしたら何なりと」
恭しく礼をしてみせて、ユェーが準備を始める。まずは小さなガスコンロ、それから小鍋にコテージの食材置き場に置かれていた袋麺!
「では、折角ですから一緒に作りましょうか」
その言葉に瞳を煌かせ、七結がこくこくと頷いた。
「お味は何が良いですか? 醤油に塩に味噌、豚骨もありましたよ」
「それなら、塩味かしら」
「塩味、いいですね」
はい、と渡された塩味の袋麺をじーっと見つめ、七結が顔を上げる。
「わたし、お聞きしたことがあるのだけれど」
なんでしょう? と、ユェーが計量カップに手を伸ばしながら続きを促す。
「塩味の袋麺にひと手間を加えることで『カルボナーラ風』というひと品になると云うの」
「おやおや、そんなアレンジレシピを何処から?」
「前に見た雑誌で……塩味の袋麺がカルボナーラに? って覚えていたのよ」
「なるほど、ではカルボナーラ風にしてみましょうか」
「それなら、具材も多く入れてみたいわ」
具がたっぷりのカルボナーラ風塩ラーメン、それはいったいどれだけ美味しいのか? 考えただけでお腹が空いてきてしまうわね、と七結が笑う。
「それでしたら、先にベーコンを炒めましょうか」
少し待っていてくださいね、とユェーが言って持ってきたのはまな板に包丁、それからベーコンと卵に牛乳とチーズ。
「材料は多分この辺りだと思うんですが……」
「ええ、ええ! 牛乳にベーコン、それにチーズと卵……黒胡椒もあったかしら」
「まさしくカルボナーラの材料ですねぇ」
そう言いながら、手際良くベーコンを短冊切りにして小鍋に入れると中火で炒め、程よくカリっとしたところで取り出す。それから水と牛乳を半々くらいにし、そのまま鍋へと入れて沸騰させていく。
「いつもなら洗うところですが、今日はこのまま使いますね」
「ふふ、これも悪い事みたいで楽しいわ」
沸騰した小鍋に粉末スープと袋麺を入れて、中火にして時折混ぜながら茹でる。もうこれだけでいい匂いがしているけれど、ここへ卵白とチーズを入れて掻き混ぜながらひと煮立ちさせて火を止めた。
その工程の一つ一つに無駄は無く、まるで流れるような手際の良さに七結が感嘆したように息を零す。
「ユェーさんの調理の腕は洗練されているのね……思わず魅入ってしまったわ」
「ふふ、お褒めに預かり光栄です」
「とても、とっても美味しそうだわ」
小鍋の中のラーメンにベーコンを散らし、さらに中央に卵黄を置けば塩ラーメンのカルボナーラ風の出来上がりだ。
「――これにて完成、かしら」
「ええ、お好みで黒胡椒もどうぞ」
ユェーが手にした小鍋はほわほわと温かな湯気を立て、その香気は鼻孔を擽って胃を刺激するほどに魅力的。
「ふふ、いけないことをしている気持ちだわ」
「二人だけの秘密ですねぇ」
「そうよ、あなたも共犯なのだもの」
そうでしょう? と、渡された割り箸を受け取って七結が悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
「えぇ、僕も共犯」
素敵な響きですね、と笑ってユェーが小鍋を二人の真ん中に置いた。
「では、共犯同士半分こと致しましょう」
こくり、と頷いた七結の為にユェーが小さな椀に彼女と自分の分を取り分けると、七結がいそいそと冷蔵庫から葡萄酒と葡萄ジュースを取り出して持ってくる。
「あかく耀く葡萄酒と葡萄の果汁で乾杯しましょう?」
「ワインと葡萄ジュースですか。そうですねぇ……今夜は僕も葡萄ジュースにしておきましょうか」
まだお酒の飲めぬ七結の前だ、それならば二人葡萄ジュースで乾杯の方がいいとユェーがグラスに注いで。
「乾杯しましょうか」
「ええ、ステキな晩餐会の始まりに」
「真夜中のレストランのようですね」
二人笑いながらグラスの縁を軽く鳴らし、一口飲むと目の前のお椀に手を付けた。
「ん……美味しい……!」
「これは癖になるのもわかりますね。シーフードを入れても合いそうな……」
濃厚なチーズと卵黄が麺と丁度いい塩加減のスープに絡み、なんとも癖になる味わい。麵を運ぶ箸が止まらないとはこの事、スープまで飲み干して思わず二人顔を見合わせる。
「……あっという間になくなってしまったわね」
「ええ、一袋を分けるくらいで丁度いいかと思っていたのですが……」
これは、もう一袋作るべきではないか? と互いに頷き合う。
「それなら――」
控え目ながらもはっきりとした声で、七結はもう一つ悪い事しましょうと笑う。
「味噌ラーメンのアレンジもあるのだけれど、どうかしら」
「味噌ラーメンも? いいですねぇ、やりましょう」
毒を食らわば皿まで、こうなれば気になる袋麺のアレンジレシピをもう一つ。
「豆乳で味噌ラーメンがまろやかになるそうなの、しかも……冷やしラーメンなのよ」
熱々のカルボナーラ風塩ラーメンの後に、口当たりもさっぱりしそうな冷やしラーメン。思わずごくりと鳴りそうになった喉を押さえ、ユェーが材料を揃えていく。
「味噌味の袋麺と、豆乳。それからトッピングにカリカリに焼いたチーズが合うんですって」
「冷やしラーメンなら水菜も合いそうですねぇ」
どれ、と冷蔵庫から取り出した水菜とネギを食べやすいように切って、チーズをフライパンでカリカリに焼いて。袋麺はお湯でしっかり三分茹でて水で締める。
「あとはお湯を100cc沸かして、スープを溶かすの。そこに豆乳を200cc加えて……」
「麺と野菜、カリカリにしたチーズを載せると」
出来上がったのは二人が初めて目にするような、美味しそうな冷やし豆乳味噌ラーメン。早速これも分け合って、ちゅるりと麺を啜れば広がるのはまろやかな味噌の風味とインスタントならではの麺の味。
「これも美味しい……!」
「冷たくしても美味しいとは、袋麺のアレンジは無限大ですねぇ」
カリッと焼いたチーズも合うと、二人のいけないお夜食タイムは盛り上がりをみせた。
「ふふ、とても愉しい夜ね、ユェーさん」
「ええ、新しい知見を得てしまいましたね」
一度きりでは勿体ない――そう思ってしまうような素敵な夜に、二人はもう一度乾杯とグラスを合わせるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ティア・メル
【波音】 ◎
今年の水着(大人の姿)
バーベキューも線香花火も楽しかったねっ
夏の思い出が増えて、
クロウくんのことがますます好きになったんだよ
ぼくも楽しかったよ
今日は付き合ってくれて、ありがとう!
ぼくとの時間を惜しんでくれることが何より嬉しいって
言ったら、困らせちゃうかな?
んふふ。この静かな空間だから言えることもありそう
クロウくんさ、前に言ってたよね
世界を選んじゃうから
唯一を選べない自分に
ぼくの手を取る資格はないって
でも、実はぼくを選んでくれてるんだよ
世界ってことはソーダ水も含まれてる
君の護りたい「世界」に「ぼく」も入ってるの
だから嬉しいよ
ぼくのことも護りたいってことだもの
泣かないで(そっと指先を伸ばして頬伝う涙拭い
ふふふークロウくんはいつでも格好いいよ
ね、クロウくん
ぼくの戀人になってくれる?
改めて問いかけよう
一緒に世界を護らせて
君の護りたいものを一緒に
答えが、はい、なら
ぎゅって、して?(肩口に嬉しげに頬擦り
泣かせたっていいじゃない
ぼくを泣かせられるのは、|君《戀人》だけだよ
杜鬼・クロウ
【波音】◎
ネモフィラ柄のシャツ
BBQ楽しみ線香花火もした充実な日
今はコテージから夜の海と彼女の横顔を見る
あっという間の楽しい一日だったぜ
ティアの花火、長く持ったよなァ
賭け負けたし
今日が終わっちまうのが本当に惜しいわ
いンや?
彼女の話に口噤む
…あァ、そうだよ
誰だって”特別”がイイに決まってる
もしも天秤に掛けた時
いつも俺は、選べない
選ぶ訳にはいかなかった(手を離す
俺が何の為に人の器を得たのか
其の意味が無くなるから
…ッ
お前、(視界滲む
…泣いてねェ
(漸く腑に落ちた
違う安らぎ
心焦がすのでも激情でも無く
穏やかな心地良さ
彼女(ティア)に”ずっと”隣に居て欲しいと願ってしまった
慾しいモノは自ら掴むのでなく
分不相応でも
…俺らしくもない
知らない
こんな|凪愛《あい》は
心の奥の奥に仕舞う願望(ゆめ)が果たされた)
…こんなん
カッコ、つかねェって(引き寄せて強く抱擁
お前のコト、泣かせちまう悪い男かもしれねェのに
それ(泣き虫な本当のお前)は誰にも見せねェよ(笑う貌が好き
(未だ|凪愛《あい》言葉を持ち併せてねェ
いずれは)
●愛を叶えて
昼間や黄昏時の喧騒はすっかり鳴りを潜め、聞こえてくるのは目の前の海から届く波のさざめき。それから、隣にいる|あなた《お前》の息遣い。
「ね、バーベキューも線香花火も楽しかったねっ」
大人の姿をしたティア・メル(きゃんでぃぞるぶ・f26360)が去年のスポーティーな可愛らしい水着から一転、大人っぽく甘やかな水着姿で杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)に笑みを向けた。
「そうだな、夏休みを満喫したって感じだな」
ネモフィラ柄のシャツと黒いサーフパンツ姿のクロウが伸びをしながら笑い、コテージの窓から海を見遣る。
「お肉も野菜も、あの鉄のお鍋で作ったローストチキンも美味しかったよね」
彼の隣に立って、ティアも同じものを眺めながら、またバーベキューしたいねと笑い声を響かせた。
「ティアの花火、長く持ったよなァ」
まさか負けるとは思わなかったと、クロウが線香花火勝負を思い出してしみじみと言う。
「賭け、俺が負けたし」
「ふふーん、ぼくの線香花火の腕を甘く見るからだよっ」
線香花火の腕ってなんだよ、とクロウがふはっと吹き出すように笑う。
「夏の思い出、増えちゃったね」
「そうだな」
「二人だけの思い出だよ? 誰も知らない、ぼくたちだけの思い出」
ぼくしかしらない、クロウくんの顔。ぼくだけに向ける声、ますます好きになってしまったとティアがくすくすと笑ってクロウに向き直る。
「ね、外に出てみない?」
「いいぜ」
窓を開け、テラスへと足を踏み入れる。夜風がふわりと吹き抜けて、ティアの髪を攫うように揺らしていく。
「わ、気持ちいい風!」
「潮風だな」
目の前の海は月の光を受けて、まるでダイヤモンドを散らしたように揺らめいている。
「あっという間の楽しい一日だったぜ」
「んふふ、ぼくも楽しかったよ。今日は付き合ってくれて、ありがとう!」
「どういたしまして? なんてな。今日が終わっちまうのが本当に惜しいわ」
もう少し遊んでいたかった気もするけれど、きっとこれが丁度いいのだろう。この時間が長く続けば、帰りたくなくなってしまいそうだから。
「ね、クロウくん」
「ン?」
「ぼくとの時間を惜しんでくれることが何より嬉しいって言ったら、困らせちゃうかな?」
「いンや?」
何を困る事があるのかと、クロウが軽く首を傾げながらティアを見た。
「本当に?」
「こんな事で嘘はつかねェよ」
よかった、と笑う彼女が視線を海に向けたから、クロウもそのまま海へと顔を向ける。
「んふふ。静かだね」
「……ああ、そうだな」
まるでこの世に二人だけになったような、そんな気持ちにすらなるほど。
「この静かな空間だからこそ、言えることもありそう……なんて思わない?」
「普段言えない事とかか?」
「ん-とね、聞いてくれる?」
「いいぜ」
こくりと頷いたクロウに微笑んで、ティアが海から彼へと向き直る。
「クロウくんさ、前に言ってたよね」
その声はどこまでも優しく、海のように穏やかだ。
「世界を選んじゃうから、唯一を選べない自分にぼくの手を取る資格はないって」
「……あァ、そうだよ」
くしゃりと前髪を掻き上げて、クロウが昏い――それでいて光を湛えた海を苦く見つめて唇を噛む。誰だって『特別』がイイに決まっている、それはきっとティアだってそうだ。
自分は世界と誰かを天秤に掛けた時、いつだって選べない。そうやって取りこぼしてきたのだと口を噤んだまま天を仰いだ。
そうだよ、と言ったっきり口を噤んだクロウに向かって、真っすぐに自分の想いを届けようとティアが彼の握りしめられた拳をそうっと握って、見つめて。
「……ティア」
息を吐いて、名を呼んで。
「俺は、選ぶわけにはいかなかった」
絞り出すような声と共に、そっと彼女の手を離した。
「そうじゃなきゃ、俺が何の為に人の器を得たのか其の意味が無くなるから」
世界を守ることこそが――。
「でも、それって実はぼくを選んでくれてるんだよ」
離された手を、ティアがもう一度握って、言葉を紡ぐ。
何度離されたって、何度だって繋ぐから。ぼくは君を諦めないと、ティアの瞳が月明かりよりも輝いてクロウの瞳を惹きつける。
「ティア……」
「だって、世界ってことはソーダ水も含まれてる」
ぼく、ずっと考えてたんだとティアが笑う。
「君の護りたい『世界』に『ぼく』も入ってるの。だから嬉しいよ」
「……ッ」
「ぼくのことも護りたいってことだもの」
「お前」
ぐ、と唇を噛む。それでも、目の前の彼女の顔がどうしたって滲んでしまう。
もう、諦めなくてもいいのだろうか。
「泣かないで、クロウくん」
そっと指先を伸ばし、彼の頬を伝う涙を拭う。
「……泣いてねェ」
「ふふふー、こんなにしょっぱいのに」
拭った涙を舐めて、ティアが笑う。
「バカ、おま……恰好悪ィ……」
「クロウくんはいつでも、泣いてたって恰好いいよ」
ぼくの大好きな君、とティアの声が波音に乗ってクロウへと囁かれる。
「ね、クロウくん」
彼の両手を手に取って、握りしめて。まるで祈るかのようにティアが厳かに唇を開く。
「ぼくの戀人になってくれる?」
全身全霊の想いを言葉にのせて。
「ぼくにも一緒に世界を護らせて、君の護りたいものを一緒に」
嘘偽りのない言葉、何よりも美しい光をクロウはそこに見た。
あァ、とクロウが吐息を零す。やっとわかった、どうして自分はティアに誰とも違う安らぎを感じていたのか。心焦がす激情では無い、穏やかな心地よさ。海のような――。
今この瞬間、彼女に『ずっと』隣にいて欲しいと願ってしまった。
慾しいモノは自ら掴むのでなく、ただ隣にいて欲しい。分不相応な願いだったとしても、溢れ出るようなこの想いを胸の内に留めようとしても、どうしたって出来ないほどに。
「クロウくん」
答えを聞かせて欲しいと、ティアの手がクロウの手をぎゅうっと握って。
「ハ……俺らしくもない」
零れた言葉に、ティアがきゅっと唇を噛む。
「知らなかったんだ、こんな|凪愛《あい》は」
握られた手をそっと離して、クロウの親指がティアの唇を撫でる。
「クロウ、くん。答えが、はい、なら」
震えるような喜びのままに、ティアがねだる。
「ぎゅって、して?」
ああ、とクロウが甘い吐息を零す。主、あの日あなたが言った言葉が本当になりましたと、心の中で呼び掛ける。心の奥の奥に仕舞う|願望《ゆめ》が果たされたのだと。
――言っただろう? いつか、宿命と願い、両方叶うとも、と。
主の声が聞こえた、そう思った瞬間にクロウはティアを引き寄せていた。
「……こんなん」
ぎゅっと、強く強く抱き締めて。
「カッコ、つかねェって」
「どうして?」
抱き締める腕の強さに、その胸の鼓動の速さに、ティアが嬉し気に肩口に頬ずりをして笑う。
「お前のコト、泣かせちまう悪い男かもしれねェのに」
「んふふ、そんなこと」
くすくすと、腕の中で彼女が笑う。幸せそうな声に、堪らなくなって一層強く抱き締めて。
「泣かせたっていいじゃない」
「泣かされたいのか?」
「知らないの? ぼくを泣かせられるのは、|君《戀人》だけだよ」
くすくす、きゃらきゃらと、この世で今一番幸せだと|彼女《戀人》が笑う。
「それは誰にも見せねェよ」
泣き虫な本当のお前が泣くのは、この腕の中だけでいいから。そして俺はお前の笑う貌が好きだから、泣かせねェと誓うようにこめかみに口付ける。
未だ|凪愛《あい》を囁く言葉は持ち併せてねェけれど、いずれは言葉にするからと、今はただ|凪愛《あい》する彼女を抱き締めた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アパラ・ルッサタイン
藍(f28958)と
日中は湯だる様に暑うが
流石にこの時間は涼しいな
(兎の丸焼きって聞くとおいしそ…いや言わないでおこう)
コテージに敷かれたラグに行儀悪く寝転がる
や、真似しなくていいと思うよ?
このまま潮騒に包まれて心地よく眠れそうだが
些か勿体ないし…小腹が空いたね?
『凄いもの』?って何だい?
おぉ。…おお?うん。
…UDCで良く見かけるアレだなあ…
所謂ドヤ顔ってこんな感じかな、なんて思うも
水をさすのは無粋ってヤツ
確かに天才という評価に異論なしだしね
藍の説明に頷きつつ
じゃ、食べようか!
真夜中のカップ麺
罪深くってイイじゃない?
なあ藍
折角久しぶりに会えたんだ
近況でも聞かせておくれよ
探し物の進捗はいかが?
ふふ、そう
じゃ秋以降に期待だね
あたしはさ
報告したい事があるの
えーと、ね
人妻になりました
以前話したお相手と
ま、大変に私事ではあるが
藍には知っていて貰いたかったの
それだけ!以上!
――ふは!
あなたが結婚する様な喜びようだ
でも、…ありがと
また今度ね
さーて
夜食も食べたし
少し夜の海へ散歩しない?
月明かりが綺麗だよ
歌獣・藍
あぱら(f13386)と!
本当、最近はとても暑いわね
兎の丸焼きになってしまわないかと
日々震えているわ
まぁ、あぱら。
変わった寝転び方をするのね
私も真似し……え?
しない方が良いの?わかったわ…?
あら、お腹が空いたのね?
それなら『凄いもの』があるのよ!
と、世間知らずの白兎が
彼女の前に突き出したのはカップ麺
これ、麺から作らなくても
お湯を入れれば
『らぁめん』が出来ちゃうの!
凄いでしょう!?
どれぐらいの時間で出来ると
思う……!?3分よ!?
素晴らしいと思わない!?!?
これを作った人は天才だわ……!
早速作って食べましょう!
順調!…と
言いたいところなのだけれど
ぼちぼち、といったところかしら?
…涼しくなってから本気出すわ!(ふんす!)
報告……?
一体どうし──ひ、人妻!?
まぁ、まぁ、まぁ!!!
この前の!?
すごいわ!おめでとう!!!
あぁ、ここにも
素敵なアイがあったわ……!
嬉しい…!
教えてくれてありがとうあぱら!
また詳しく、聞かせて頂戴ね!
ふぅ、ふぅ。
興奮したら熱くなってしまったわ
あら素敵…!勿論!行きましょう!
●真夜中女子会
真昼の暑さも太陽と共に消え、真夜中ともなれば涼しい風がそよぐ。コテージの窓を網戸にして、アパラ・ルッサタイン(水灯り・f13386)が穏やかな波音を聞きながらグラスの中の氷をカロンと鳴らし、ストローで冷たいドリンクを吸い上げた。
「日中は茹だる様に暑いが、流石にこの時間は涼しいな」
「本当、最近はとても、暑すぎるくらいに暑いわね」
同じように冷たいドリンクを飲んでいた歌獣・藍(歪んだ奇跡の白兎・f28958)も、アパラの言葉に大きく頷く。
「あまりの暑さに私、兎の丸焼きになってしまわないかと日々震えているわ」
ぴる、と頭上の兎耳を揺らし、藍が唇をむぅーと尖らせる。
「兎の……」
それはなんだかとっても美味しそうでは? と思ったけれど、言葉にするのは控えて違う言葉をアパラが紡ぐ。
「それは大変だね、藍の白い肌が真っ赤になってしまいそうだ」
そう思ったのも本当なので、笑いながら言ってみれば藍がこくこくと首を振る。
「そうなの、だから日傘は必需品なのよ」
「ああ日傘は日焼け対策にもだけど、暑さ対策にもいいものね」
手にしたグラスをローテーブルのコースターの上に置き、アパラがふかふかのラグの上へと寝転がる。少々行儀が悪かっただろうかと思いはしたが、藍とあたしの仲だ、構うもんかと彼女を見遣った。
「まぁ、あぱら」
お行儀が悪いと言われるだろうかと、笑って見せる。でも、続く言葉は予想とは違っていて――。
「変わった寝転び方をするのね?」
「変わってるかい?」
「ええ、私も真似し……」
「や、真似しなくていいと思うよ?」
同じようにごろりと寝転がろうとした藍を、アパラが止めた。
「……え? しない方がいいの?」
「まぁ、やっているあたしが言うのもなんだが、行儀がよろしくないからね」
クッションを抱え、足を投げ出したアパラが笑う。
「そうなの……? わかったわ……?」
よくわかってはいないけれど、彼女がそう言うならば真似するのは止めておこう。その代わり、と彼女の隣でクッションにもたれて足を伸ばした。
「このままだらりと寝転がって、潮騒に包まれて眠るのも気持ちよさそうだが……」
「そうね、それもとっても気持ちよさそう」
入ってくる夜風は気持ちいいし、タオルケットを掛けて寝たらきっと風邪も引かないわと藍が笑う。
「でもねぇ、折角の豪華なコテージの夜だろう? それじゃ些か勿体ないし……それに」
「それに?」
「……ちょっとばかり小腹が空いたね?」
「あら、お腹が空いたのね?」
お腹が空いたまま眠るのは、ちょっと切ないわと藍が少し考えるようにして、そうだ! と顔を輝かせる。
「それなら、『凄いもの』があるのよ!」
「うん? 『凄いもの』? って何だい?」
凄いもの、と言われて思わず起き上がったアパラに、ちょっと待っていてねと藍が立ち上がってキッチンの方へ向かった。
「ふふ、これこれ、これよ」
そう言いながら、ちょっとばかり――かなり世間知らずな白兎である彼女がアパラの目の前に突き出したのは――。
「じゃーん!」
「おぉ」
「これ、麺から作らなくてもお湯を入れれば『らぁめん』が出来ちゃうの! 凄いでしょう!?」
「……おお? うん」
やや興奮気味に話す彼女を眺めつつ、これアレだな、UDCアースでよく見かけるヤツだなあ……そういやここ、UDCアースだったね? と、アパラが思う。
「でね、どれぐらいの時間で出来ると思う……!? なんとなんと、三分よ!?」
キラッキラの笑顔で話す彼女は可愛らしいけれど、所謂ドヤ顔ってこんな感じかな、などと考えつつ水を差すのは無粋ってヤツだね、ここはひとつ知らない振りをしておこうと決めた。
「なるほどなるほど、お湯を入れて三分だね」
「そう! 素晴らしいと思わない!?!?」
それは確かにそう、お湯を入れて三分でラーメンが食べられるとか、死ぬほど画期的である。
「私、これを作った人は天才だと思うの……!」
「ああ、天才という評価には異議なしだよ」
うんうん、と藍の身振り手振りを交えた説明に頷きながら、よし! とアパラがカップ麺を手にして。
「じゃ、食べようか!」
「ええ! 早速作って食べましょう!」
電気ケトルでお湯を沸かして、二人分のカップ麺に注いで、タイマーはきっちり三分。
「良い匂いがするわ」
「ああ、いいねぇ……このちょっとチープでジャンクな香り」
ピピピ、と鳴ったタイマーを止めて、割り箸を割って蓋を剥いで、湯気立つカップ麺をいただきます!
「はふはふ、ん、美味しいわね」
「真夜中のカップ麺、罪深くってイイじゃない?」
「イケないことをしてる気分ね」
二人カップ麺を啜りながら笑って、お腹が満ちたらラグの上に寝転がって、お行儀が悪い事も今日は無礼講だと目を瞑って顔を寄せ合わせる。
「なあ、藍」
「何かしら?」
「折角久しぶりに会えたんだ、近況でも聞かせておくれよ」
「いいわ! あぱらも聞かせて頂戴ね」
クッションを抱きかかえ、藍が何から報告しようかしらと小首を傾げた。
「なら、探し物の進捗はいかが?」
「順調! ……と言いたいところなのだけれど、ぼちぼち、といったところかしら」
ほう、と息を零した藍がすぐに顔を上げて拳を握る。
「……涼しくなってから本気出すわ!」
ふんす! とやる気をみせた藍にアパラが笑う。
「ふふ、そう。じゃ、秋以降に期待だね」
「ええ、期待していて頂戴ね。あぱらは? 何かあるのかしら」
アパラは、と問われて彼女が一瞬動きを止め、それからこくりと頷く。
「あたしはさ、報告したいことがあるの」
「報告……?」
えーと、ね? と、ほんの少し恥ずかし気に、それでいて嬉しそうな雰囲気のアパラに藍が一体どうしたのかと問おうとした瞬間。アパラが唇を開いた。
「あたしね、人妻になりました」
ひゅ、と藍が息を吸って、目を瞬かせる。
「――ひ、ひとづま」
「うん、以前離したお相手とね」
「人妻」
人妻という単語を咀嚼するように飲み込んで、理解した瞬間に藍の瞳が夜空に輝く星よりも煌いて。
「まぁ、まぁ、まぁ!!! この前の!? すごいわ! おめでとう!!!」
なんて素敵な近状報告なの、と藍がぴょこぴょこ兎耳を揺らす。
「ま、大変に私事ではあるが藍には知っていて貰いたかったの」
大切な大切な、友人だもの。
「それだけ! 以上!」
照れ隠しも手伝ってか、アパラがそう言って話を締め括る。
「あぁ、ここにも素敵なアイがあったわ……!」
嬉しい、嬉しいと、今にも部屋の中で飛び跳ねそうな藍にアパラがつい吹き出して。
「――ふは! あなたが結婚する様な喜びようだ」
「だって、こんなに素敵な事があるなんて!」
「でも、……ありがと」
「こちらこそ! 教えてくれてありがとう、あぱら! また詳しく、聞かせて頂戴ね!」
プロポーズの言葉とか、結婚に至る道筋とか、聞きたいことは沢山あって藍が指折り数える。
「ふふ、また今度ね」
「絶対よ!」
約束、と笑って、漸く藍が落ち着きを取り戻す。
「ふぅ、ふぅ。興奮したら熱くなってしまったわ……」
「それなら丁度いい、夜食も食べたし少し夜の海へ散歩しない?」
なんだか歩きたい気分だと、アパラが藍を夜の海へと誘う。
「あら素敵……! 勿論! 行きましょう!」
「よしきた、きっと月明かりが綺麗だよ」
コテージのテラスから、スリッパからビーチサンダルに履き替えて、二人砂浜を歩く。
きらきらと夜の海へ降る月明かりは、優しく降り積もるアイのよう。きっと今日の事は一生忘れないわと藍が笑えば、アパラも同じだと頷いて共に笑みを深くするのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
シビラ・レーヴェンス
露(f19223)
寝るためにベットに入ってから突然露は妙なことを言いだす。
?好きな男のタイプ?何を言い出すんだ。この子は。
「男も恋愛も私には理解できないものだ。よってわからん」
…頬を膨らませてつまんなそうな表情を露にするな…。
「しかたがないだろう? 今まで常に独りだったのだから」
露は何時ものように私にくっつくと一言。『あたしは?』
「…は? 何を言ってる? 君がどうかしたのか?」
それから後はいかに露が私のことを大好きなのかと説いてきて。
…。
私の容姿のこと。性格のこと…よくもまあ長々と話せるものだ。
しかも嬉々として。…ん。そんなに好意的なのか…。わからんが。
…。次はいかに私が可愛いか…か。
そんなに可愛いのか?私は。まあ何が『可愛い』のかさっぱりだが。
黙って聞いていないと駄目らしいな。しかたがない。聞こう。
明日は仕事というわけでもないからな。…やれやれだ…。
神坂・露
レーちゃん(f14377)
すぐに寝ちゃうのはなんだかつまらないわね。
うーん。あ。恋愛のお話ってしたことないわ。
「ねえねえ、レーちゃん…好きな男の子っている?」
…あれ?なんできょとんってしてるのかしら…。
レーちゃんは即答でレーちゃんらしいことを言って。
それじゃあつまらないわ。つまらないわ。レーちゃん♪
「じゃあじゃあ、あたしってどー思ってるの?」
レーちゃんをぎゅーって抱き着いてから聞いてみる。
やっぱりレーちゃんらしい言葉で返事してきて。
…いいわ。あたしがいかにレーちゃん大好きが教える!
「誰でも振り返るくらいすっごく美人なのよ? レーちゃん」
柔らかくって高級な壺以上にスベスベなお肌。
光によって鈍くも白くも輝く綺麗で絹みたいな髪。
お月様みたいにキラキラしててすっごく澄んだ瞳。
「言葉は乱暴だけど、すっごく優しくて気遣いさんよね?」
レーちゃんに何度も助けられて励まされて…勇気もらったのよ?
「カッコいいだけじゃなって、可愛いところも多いわよね♪」
猫さんと遊んでる時とか子供と遊んでる時とか…可愛いのに。
●羊の代わりに大好きを数えて
お散歩も楽しかったし、バーベキューも楽しかった、泊まる事になったコテージはとっても素敵だし、今日は楽しくて素敵な一日ね! と神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)が歯磨きを済ませたシビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)に笑いかける。
「……そうだな、悪くない一日だった」
後は寝るだけだと、シビラが二つ並んだベッドの前に立ち、私は此方を使うと早々にベッドに入った。
「露、きちんと歯を磨くんだぞ」
「もう、レーちゃんったら! 子どもじゃないんだからちゃんと磨くわよ~」
先にベッドに入ったシビラを追い掛ける為、露が急いで――それでいてきちんと歯磨きを済ませ、ベッドまでやってくる。
「れーちゃん♪」
「何だ?」
「お邪魔するわね~」
二つあるベッドの空いている方……ではなく、シビラが寝ているベッドへと潜り込む。
「どうしてこっちに入ってくるんだ、そっちで寝ればいいだろう」
「このベッドとっても広いんですもの。二人で寝ても広いくらいよ♪」
そういう問題ではないのだが? と思いはすれど、露がシビラのベッドに潜り込むことなど今更なので、もうそのまま放っておくことにした。
だって後は眠るだけなのだから、ここで無駄な体力を使う必要もないだろう……というのはシビラの弁だ。
ごそごそと潜り込んで、シビラの隣を陣取った露がえへへ~♪ と笑っている。
「はぁ……」
電気を消すぞと声を掛け、部屋の電気を手元のリモコンで消す。足元を照らす常夜灯だけになると、不思議と波音がよく響くような気がしてシビラはゆっくりと目を閉じ――。
「ねえねえ、レーちゃん」
「……何だ」
「すぐに寝ちゃうのはなんだかつまらないわね、レーちゃんもそう思わない?」
「思わない」
即答し、そのまま強引に目を閉じようとしたけれど、露がごろごろ、じたばたとするものだからシビラは仕方なく目を開ける。
「露、寝る時間だ」
「でもでも~、折角のお泊りよ? こういう時って、なんだったかしら……内緒話をするものなんでしょう?」
「知らん」
本当に知らないし、寝る為にベッドに入ってから突然妙な事を言い出した露に、シビラが呆れたように視線を向けた。
「確かそうよ……あ! 恋愛のお話よ、そうよそうよ」
「恋愛?」
怪訝そうな顔をしたシビラを置いてけぼりにして、露が思い出したと笑みを浮かべる。
「こういう夜は、恋のお話……ええと、恋バナをするのが定番なんですって。……でも、恋愛のお話ってしたことないわ」
だからレーちゃん、あたしと恋愛のお話をしましょ♪ と、露が決定事項とばかりに言葉を続ける。
「ねえねえ、レーちゃん……好きな男の子っている?」
あまりにも唐突な質問に、シビラが珍しいものを見るような目で瞬く。それを見て、露はどうしてきょとんってしてるのかしら……? でも、そんな表情のレーちゃんも可愛いわ♪ なんて思いながらわくわくして返事を待った。
好きな男のタイプ? 何を言い出すんだこの子は……でも、ここで何か言わなくてはきっと露は満足しないし話は終わらない。シビラはそれを嫌と言うほど知っていたので、溜息交じりに返事をすることにした。
「男も恋愛も私には理解できないものだ。よってわからん」
「ええ~? それじゃあつまらないわ。つまらないわ~~」
なんてシビラらしい返事なのだろうかと思うけれど、それでは恋バナが秒で終わってしまう。ぷっくりとまろい頬を膨らませた露がシビラの身体をゆさゆさと揺すり、ねぇねぇ~と続きをねだる。
「そう言われてもな……仕方がないだろう? 私は今まで常に独りだったのだから」
誰かを好きだと思うよりも前に、その好きになるような相手が文字通りいなかったのだ。
「むぅ~……」
むむ、と唇を尖らせて、露がシビラを揺するのを止めたかと思うと、今度はぴったりと抱き着くようにしてくっついて。
「じゃあじゃあ、あたしってどー思ってるの?」
その問いに、今度こそよくわからない質問をされたとばかりにシビラが瞳を瞬かせた。
「ね~~~レーちゃんったら、あたしのことよ?」
「……は? いや、何を言ってる? 君がどうかしたのか?」
期待していた返事ではない言葉に、思わず露が脱力したようにレーちゃんらしいわと笑う。
「私らしいとはどういう意味だ? 私は常に私だが……」
「うふふ、いいの、それでこそレーちゃんだもの! いいわ、次はあたしがいかにレーちゃんを大好きか教えるわ!」
「は? いや、別に要らな……」
「まずひとつめ! 誰でも振り返るくらい、すっごくすっごく美人なのよ?」
「……誰の話だ?」
「レーちゃんよ!」
そこからは怒濤という言葉が相応しいほどに、露がテンションも高くシビラについて語る。
「柔らかくって、高級な壺以上にスベスベなお肌でしょう?」
「壺と比べるのか……」
きっと露が言っているのは白磁の壺かそこらだろうと思いつつ、露がシビラの腕に頬をすりすりと寄せるのでそれ以上言葉を返すのは止めた。
「それからー、光によって鈍くも白くも輝く綺麗で絹糸みたいな髪! 触ってもつるんとしてて、キューティクルが揃ってて~」
指先で触れれば、絹よりも触り心地がいいと露が笑う。
「あとあと、お月様みたいにキラキラしててすっごく澄んだ瞳でしょう?」
ぱっちりとした金色の瞳、太陽の金ではなくて月の金色だと、うっとりしたようにシビラの瞳を見つめて。
「……露」
「それに容姿だけじゃないのよ? レーちゃんってば言葉はちょっと乱暴だけど、すっごく優しくて気遣いさんよね?」
「買い被りすぎじゃないか……?」
だってあたし、レーちゃんに何度も助けられて励まされて……勇気をもらってきたのよ? と、ぎゅうぎゅうとシビラに抱き着きながら、露が楽しそうに笑顔を向けた。
「ん……私の容姿のことに性格のこと……よくもまあそんなに長々と話せるものだな」
「あら、まだまだあるのよ?」
「まだあるのか?」
嬉々として頷く露に、どうして自分に対してこの子はここまで好意的なのかさっぱりわからんな、と思いつつシビラは引き続き聞くことにした。
「レーちゃんってカッコいいだけじゃなくって、可愛いところも多いわよね♪」
「……可愛い?」
可愛いか? と思わず口に出てしまったが、露はうんうんと頷く。
「猫さんと遊んでる時とか、子どもと遊んでる時とか……とっても可愛いのよ?」
「自分ではわからんな」
わからないどころか、何一つ納得もいっていないが口を挟むと倍になって可愛いところが返ってくるという、露のエネルギーの強さにシビラが目を瞬かせる。
「だってね、レーちゃんのお顔がふにゃんって優しくなるんだもの♪」
意識していない事を言われてもシビラには全くわからないので、そうか? と適当な相槌を打つしかできない。
「ま、いいさ。明日は仕事というわけでもないからな」
「なーに? レーちゃん?」
「いや、なんでもない」
このまま露の話を聞いて夜更かしをしたとしても、明日は昼前まで寝ていられる。
「……やれやれだ……」
あくび交じりに呟いて、シビラは露が眠くなるまでこの話に付き合う覚悟を決めたのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朱酉・逢真
坊と/f22865
心情)深夜の依頼! 感激だ。坊、眠くないかえ? 眠けりゃ寝てもいいが…ひひ、そォかい。さてテント選びだが…ああ、アレいいンでじゃねェか? 上に窓…透明なシートのとこがあるらしいぜ。寝っ転がっても夜空が見える。海の音もあって雰囲気サイコーだな? どういう意味でって? そりゃマア、怪談話をするのに最適って意味さ。
行動)鉄灯籠の火を真ん中に、寝袋に座って怪談でも。そォさな、海といえば。|子供《ちび》を連れて海に来るなら気をつけるこった。呼ばれることがある。ちょっと目を離した隙に、ざぶざぶ海に入ってっちまうかもしれねェぜ…と、おや。坊、懐かれてるねェ。(外を回る足音・中に増えた人影に笑い) 怪談をいくつか話して(*内容おまかせ)、そろそろお開きにしようじゃないかね。ヒトは眠らンと死ぬのだろ。オヤまあ、ひひ。供物ってンなら断れンなァ。ホレ、子らも手伝いなィ。それ食ったら寝るンだぜ。子守唄でも唄ってやろう。ああ、おやすみ。夢も見ない夜を。
雨野・雲珠
かみさまと!/f16930
いつになくお体が楽そうなかみさまに後ろでほろり
昼間は心配になるほどお辛そうでしたから…
へへへ、ばっちりです
お昼寝してきました!
野犬や襲撃の心配もない平和な夜に、
ただ親しい人と楽しく過ごすためのキャンプ…
去年の夏はダークセイヴァーにいただけに、
心のうちで存分に平和を享受する俺です
ごはんを早々に済ませて香炉を灯しましょう
寝袋に潜りこんでシートごしに星空を見上げ、
灯りが照らす彼を眺めながらお話に聞き入ります
思わず息を止めてしまうほど恐ろしい話、
しんみりと悲しい話…
ん…あれ?
ふと気がつくと、いつのまにか同じように息をのみ、
ときに小さく悲鳴をあげ
わくわくとお話を待つ気配がそこかしこに
…海、近いですしね…
折角です。当たり前のような顔をして
いっしょに聞きましょう
こんな贅沢、独り占めは欲深すぎるというものです
そろそろお開きと言われても
はしゃいだざわめきと「まだ遊ぶ」の声が絶えないので
禁断の袋ラーメンを作ってお供え代わり
食べたら皆で寝ましょうね
ふふふ、おやすみなさいかみさま!
●夜の揺り籠
夜、夜だと朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)の唇がにんまりと持ち上がる。三メートルも歩けば転びそうになる|宿《カラダ》だが、思わずスキップをしたくなるほどに夜のひんやりとした空気にいつになく|気分がぶち上っていた《テンションアゲアゲ》。
「深夜のお誘いたァ粋じゃないか。なァ坊」
「はい、そうですね!」
昼とは打って変わって体が楽そうな逢真に、雨野・雲珠(慚愧・f22865)が元気よく答える。
何せ、このかみさまと来たら夏の陽射しに滅法弱い。この時期はどこにも行きたくない、水着コンテスト? 知らんね、というスタンスなのだが何故か毎年いつの間にかエントリーされていて、死にそうな顔をして参加しているのだ。
そんな姿を見ていた雲珠なので、昼間とは違いものすごく元気そうな逢真を見て思わず笑顔も浮かぶというもの。思わずほろりとしかけたところで、逢真がくるりと雲珠に振り向く。
「俺には丁度いいが、坊は眠くないかえ? 眠けりゃ寝てもいいが……」
「へへへ、ばっちりです! なんとお昼寝してきましたから!」
ヒトの子は夜は眠るものだろう? という気遣いに、雲珠がえっへんと胸を張る。
「俺、一度はハンモックでお昼寝をしてみたかったんですけど、夢が叶いました」
浜辺の木陰にハンモックが張ってあって、風が気持ちよかったですと雲珠が楽しそうに話すのを逢真が慈母の様な眼差しで見つめ、頷いた。
「ひひ、そォかい。そンなら良かった」
さて、テントをどうするかと逢真が雲珠と共にグランピング施設に並ぶテントを眺める。遊牧民達が使う移動式テントの様なベルテントに、ドーム型のテント、広めのコテージと選り取り見取りだ。
「わ、どれも素敵ですね!」
「そうだなァ、俺はどれでも構わんが……ああ、アレでいいンじゃねェか?」
つい、と逢真が指さした先には側面は布張りだが天井部分は透明なシートになっていて、夜空が見えるようになっている人気のドーム型テントがあった。
「寝っ転がっても夜空が見えるみたいだよォ」
「テントの中に居ながら夜空が……! あれにしましょう!」
はいよォ、と逢真が返事をして、二人ドーム型のテントへと入る。外からでも広いと思ったけれど、中から見るとまた広々としていて、まるでホテルの一室のようにも思える内部に雲珠が目を煌かせた。
「想像していたテントとはまた違う豪華さです、これがらぐじゅありー……!」
「そうそ、らぐじゅありーってヤツさァ」
天井は透明で、テントの海側の側面も内側の布を巻き上げれば外が見えるようになっている。海も星もと欲張れる、贅沢仕様だ。
「ひひ、こりゃァ海の音もあって雰囲気サイコーってヤツだな?」
「雰囲気、ですか?」
どんな雰囲気だろうか、と小首を傾げた桜の精に、かみさまが唇の端を持ち上げる。
「どういう意味でって? そりゃマア、怪談話をするのに最適って意味さ」
「怪談……!」
怖い話は嫌いではない、寧ろ耐性がある方だ。
何せ雲珠が住処とする福来探偵事務所は霊障がすごいのだ、慣れっこにもなるというもの。そして、それとは別にお話としての怪談話は怖いと思っても聞いてみたい派なのである。
「では、怪談話を聞く準備をしなくては……!」
寝支度もだけれど、雲珠はうっかりお昼寝を長く取ってしまったので夕飯を食べ損ねていたのだと逢真に向かって恥ずかし気に笑う。
「それなら外でちょいと何かしら焼いて食うかい?」
俺は食えンけど、と逢真がテントの外にあるバーベキューコンロを指さす。
「軽く、軽く食べます! 俺、今日はお夜食も頂くつもりなので……」
へへ、と笑ってテントの外で手慣れたようにランタンを吊るし、火を熾して肉や野菜、それからおにぎりを網に並べる。逢真は少し離れた場所に座り、雲珠が楽しそうにしている姿に顔を綻ばせた。
「焼きおにぎりは味噌派と醤油派があるんですよね……」
どちらも捨てがたいが、今日は醤油だとスプーンから醤油を垂らして雲珠が焦げ目を付けていく。野犬や襲撃の心配もない平和な夜に、ただ親しい人と楽しく過ごすためのキャンプ……なんて心穏やかなのだろうかと思う。
そして、それと同時に去年の夏はダークセイヴァーのとある村で尽力していた事を思い出し、心のうちで存分に平和を享受する。夏休みなのだから、少しくらいは許されますよねと顔を上げれば、逢真がまるで雲珠の心を汲んだかのように笑みを浮かべた。
「ああ、ちょっと食べ過ぎた気がします……!」
「ひひ、イイじゃないか。食は生きるモノの楽しみだろう?」
それはそうですけど、と言いながら片付けと寝支度を済ませた雲珠が香炉に火を灯す。
「オヤ、あの時の香炉かい」
「はい、俺のお気に入りです」
良い匂いがするので、と笑う雲珠が寝袋へと潜り込んだ。
「寝袋もこんなにふかふかで……俺の知ってる寝袋と違う……」
「寝心地がよくて何よりさァ」
香炉を挟んで雲珠の向かい側、寝袋の上に座った逢真がサテ、と笑う。
「お待ちかねの怪談だ、何から聞かせてやろうかね」
「ふふ、お任せします。あ、でもそうだ……最初は海のお話はどうでしょう?」
向こう側に海が見えて、波音も聞こえてきますからと雲珠が月明かりに照らされて、白波が見える夜の海に視線をやった。
「イイねェ、そうしようか。そォさな、海といえば」
そう語り出した逢真を香炉の灯りが照らし、どこか不思議な雰囲気を作り出す。
「|子供《ちび》を連れて海に来るなら気をつけるこった」
「どうしてですか?」
「呼ばれることがある」
呼ばれる――それはひとつに限った話ではない。海に住む何かに、海で死んだ何かに、子供は呼ばれやすいのだ。
「ちょっと目を離した隙に、ざぶざぶ海に入ってっちまうかもしれねェぜ……と、おや」
「七つまでは神の子とも言いますから……ん、あれ?」
「坊、懐かれてるねェ」
くすくすと笑う子供の声に、テントを覗き込む小さな影。外をぺたぺたと走り回る音、海側の透明なシートに付いた子供の手形に逢真が笑った。
「……海、近いですしね……」
俺が懐かれているというより、かみさまに懐いているんじゃないでしょうかと思いつつ、雲珠は折角だから当たり前の様な顔をしていっしょに聞きましょうかと笑う。
だって、わくわくとお話を待つ気配は悪いものには思えなかったから。
「よしよし、そンなら他にも話をしようかねェ」
生きているものも死んでいるものも、いのちは等しく|赦《あい》しているので、逢真も構わず話を続ける。
「海の話ときたら山の話もしようかねェ」
山も海に負けず劣らず、子供を攫うもの。神隠しってのがあるだろ? と逢真が低く柔らかい声をテントに響き渡らせて。
「何処にでも神はいるがね、山の神は妖が変化したモノも多く在る。狐や蛇なんかもよく聞くだろ」
樹が奉られて神になる事もあると逢真が言えば、パッと顔を上げて雲珠が頷く。
「迷い込んだ子供を返してくれるモノもいれば、招き入れて隠しちまうモノもいる。禁忌とされてる山に近づくなってのはそういうモノがいるのさ」
勿論、熊や獣を刺激せぬように作り話として大人が言い含める場合もあるけれど。
「噂話っていうのはそれが広まっちまえば怪異としての形を取るモンさ」
ヒトの子が無害なおまじないを呪いにしてしまうように、物事は変質する。手順をひとつ違えただけで、儀式が変容するように。
「ひ、ひ、そう考えるとヒトの子が一番怖いかもしれないねェ」
食い入るように聞き入っていた雲珠が小さく息を吐けば、周囲の気配も詰めていた息を零すようにさざめく。
「さて、そろそろお開きにしようじゃないかね。ヒトは眠らンと死ぬのだろ」
「一日くらいは平気ですが……翌日に響いたりはしますね」
そう雲珠が言うと、はしゃいだざわめきからブーイングが起こる。
「でも、俺もまだ眠くはないですし、この子達もまだ遊びたそうで……あ、そうだ!」
忘れていましたと雲珠が寝袋から起き上がり、ポンと手を打つ。
「お夜食をいただきましょう!」
「夜食」
「こういう深夜にですね、小腹が空いたら食べる事を言うんですけれど」
そう言いつつ、雲珠が手際よく火台の薪で火を熾し小鍋に湯を沸かす。
「お夜食の定番です!」
じゃーん! と袋麺を手にし、沸騰した湯に袋麺を入れて茹で、添え付けのスープを入れて丼へと移す。
「これをお供え代わりにどうでしょうか? 食べたら皆で寝ましょうね」
お供え、という言葉にきゃあきゃあとはしゃぐ声が響く。
「オヤまあ、ひひ。供物ってンなら断れンなァ」
丼から漂う香りだけで、腹ァいっぱいだと逢真が笑った。
「ホレ、子らも手伝いなィ。それ食ったら寝るンだぜ」
はぁい、はーいとさざめく声と共に雲珠がラーメンを啜ると、不思議と周囲の気配も美味しそうに麺を啜っているようで、なんだか嬉しくなって雲珠はちゅるちゅると麺を頬張った。
「さァ、腹はいっぱいになったな? 子らもお眠り、子守歌でも唄ってやろう」
「ふふふ、かみさまの子守歌で眠れるなんて、俺は贅沢者ですね」
「そンな大層なモンじゃないぜ」
そんなことないですよ、と寝袋に潜り込んだ雲珠が目を閉じる。
「おやすみなさい、かみさま!」
「ああ、おやすみ」
夢も見ない夜を、と囁いて逢真が唇から旋律を紡ぎだす。
高く低く、眠りへと誘う歌声が響く。それは波音と合わさって、桜の彼と子らを眠りの淵へと誘う。
夜の揺り籠の中、かみさまは彼らが眠りにつくまでの間、ただ優しい歌を紡ぎ続けた。
大成功
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