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燃えろ殺禍衆

#サムライエンパイア #猟書家の侵攻 #猟書家 #今川義元 #羅刹 #武田信玄 #魔軍転生

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●毬は友達
 かの猟書家・今川義元がまだオブリビオンでなかった頃の話。
 義元が桶狭間で討たれた後、家督は長男の氏真が継いだ。この氏真、偉大なる父の名をおおいに辱める無能であり、周囲を大国に囲まれながらそれらに対して全く手を打つことなく、ただただ遊興にあけくれていたとされる。とりわけ蹴鞠を好み、のち父の仇である織田信長(むろんオブリビオンになる前の話である)の前でその腕前を披露したという。だが、それは勝者によって捻じ曲げられた歴史であり、氏真はただの無能ではない。ただただ蹴鞠で遊んでいたわけではないのだ。
 一般に足の力は腕の三倍と言われ、それを戦いに活かさぬ手はない。そのため氏真は足による攻撃を主体とした格闘技を自ら開発し、信頼できる家臣に習得させたのである。氏真にとって蹴鞠が軍事訓練の一環だった事は賢明なる読者の皆様には既にお気づきの事であろう。実際、氏真が鍛え上げた精鋭部隊の力はすさまじく、諸国の大名は彼らを『殺禍』と呼び恐れた。いつしか精鋭部隊自身も殺禍衆を名乗る事となったのである。
 なお現在のUDCアースにおいて、世界的にフットボールと呼ばれるスポーツが我が国で『サッカー』と呼ばれるのが殺禍衆の名に由来するのは言うまでもないだろう。
(大豪傑出版刊『鬼矢賦天・翼』より)

 そして現在、サムライエンパイアは駿河国。
『徳川家康めがバカ息子の領地を掠めた際に、殺禍衆どもは最後まで戦うどころかむしろ進んで取り込まれ、彼奴めの天下統一に嬉々として協力したと聞く』
『ふん、吾輩もかの三方ヶ原では奴らのせいで家康めの首を取り逃がし、勝頼のやつも長篠で煮え湯を飲まされたらしいしな』
 とある山中で蹴鞠、もとい、戦いの訓練を行っている殺禍衆の羅刹たちを、猟書家・今川義元と、その盟友で今回はなんかスタイルがむちゃくちゃ良い妖狐のねーちゃんに『憑装』させられている武田信玄が眺めていた。
『いずれにせよ、だ』
『ああ』
 義元が『仕留めの矢』を番え、妖狐たちは突撃の態勢を整えた。
『今度こそ、我々の役に立ってもらわないとな』

●お前らは友達じゃないが蹴っ飛ばす
「そして今川義元と妖狐のねーちゃんたちは殺禍衆たちを全員殺してしまうのだ!」
 普段はおちゃらけている大豪傑・麗刃(24歳児・f01156)だが、さすがに故郷であるサムライエンパイアの事件、それも大量虐殺を伴う猟書家の事件とあっては、真剣な顔をしないわけにはいかないようだ。
「連中の目的は、殺禍衆の死体を使って強力なオブリビオンを作って手駒にすることらしいのだ。今川義元が強力な部下をもってしまったら大変な事になるし、それ以前の話として大虐殺などを許すわけにはいかないのだ!」
 そんなわけで猟兵たちはすぐに現地に赴き、殺禍衆を名乗る羅刹たちを助けつつ、敵と戦わなければならないのだが、問題がいくつかあった。
 まず最初に戦う妖狐の忍者であるが、こいつらにはかの武田信玄を『憑装』されており、いわば量産型信玄とでも言うべき力を持っている。かのエンパイアの戦争において復活する事なく終わった信玄だったが、かの織田信長に仕えていた魔軍将のひとりなので強いのは間違いないだろう。さらに妖狐と戦っている間、今川義元が絶えず『仕留めの矢』を撃ってくる。これにも対応しなければならない。
 そして妖狐を退けたら、いよいよ今川義元との戦いになる……言うまでもなく猟書家だ。間違いなく超強敵だ。
「なので、わたしたちは殺禍衆を助けるわけだが、逆にわたしたちもまた殺禍衆に助けてもらうのがいいのだ。具体的には殺禍衆たちは山の中に詳しいらしいから、うまいこと地形を利用して戦う事ができれば、強敵ともなんとかやりあえると思うのだ。どうかみんな、よろしく頼むのだ」
 改めて麗刃は猟兵たちに頭を下げる。かくして猟兵たちはサムライエンパイアへと赴くのだった。


らあめそまそ
 らあめそまそです。
 どうも新世界がスポーツに関連しているぽいので、スポーツ絡みのサムライエンパイア猟書家シナリオを急遽お送りする運びとなりました。今回のシナリオにはプレイングボーナスがあり、これをプレイングに取り入れることで判定が有利になります。

 プレイングボーナス(全章共通)……羅刹達と協力して戦う(猟兵ほど強くはありませんが、周辺の山岳地形を熟知しています)。

 羅刹の集団『殺禍衆』は先のエンパイアウォーの英雄たる猟兵の事はたぶん知ってますので、プレイングで彼らを信頼させる必要はありません(むろんしても良いですが)。もし彼らにも戦ってもらうのなら、猟兵よりも威力は劣りますが、下記のユーベルコードを使用できます。
 羅刹旋風:予め【武器を振り回しておく】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。

 なお第1章で今川義元が超遠距離から撃ってくるユーベルコードはこんな感じです。
 仕留めの矢:【大弓の一矢】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。

 それでは皆様のご参加をお待ちしております。
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第1章 集団戦 『妖狐忍』

POW   :    魅了の術
【全身】から【魅了の術】を放ち、【幻惑】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD   :    小刀一閃
【小刀】が命中した対象を切断する。
WIZ   :    狐火
レベル×1個の【狐火】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。

イラスト:すねいる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●蹴鞠好きか……?
 殺禍衆の首領【大向・翼虎】(おおむかい・よくこ)は『天賦の才たる鬼の矢』略して『鬼矢賦天』の異名を持つ強者であった。
「毬は我らが友!恐れるものではないぞ!」
 今日も今日とて配下を厳しくも暖かく叱咤激励し鍛え上げる翼虎。そして殺禍衆の精鋭たちも鬼矢賦天を慕い、激しい訓練によく耐えていた。

 そんな殺禍衆が、間もなく襲撃を受けようなどとは、誰も予想していないのであった。
●ようこそ妖狐
『ふむ、異形なれど、なかなか動かしやすい体よの』
 さすがは忍者といったところか、と、妖狐忍に『憑装』されている武田信玄がつぶやいた。

 妖狐の能力は以下の3種類確認されている。
『魅了の術』は名前からすると異性を魅了して言うことを聞かせる術に見えるが、実際は幻惑で相手の動きを止め、その隙に小刀で斬る技のようだ。本体が女性型なので対象が男なら魅了されるような幻覚になるだろうが、女性なら……まあケースバイケースであろう。どのようなものが来るか予想するのも悪くないかもしれない。
『小刀一閃』は文字通り、手にした小刀で斬りつけるものだ。単純な攻撃であるが、オブリビオン、それも武田信玄が憑装された者なれば、文字通りあらゆるものを切断することであろう。神出鬼没かつ超高速の動きでこれをやられたらきわめて厄介であろう。
『狐火』は大量の炎を飛ばすものだ。炎それ自体が強力なのは今更説明するまでもないが、さらにそれらは自由自在に操れるのだ。一度に複数の敵を攻撃できるし、相手がひとりなら合体させれば強力な火炎とすることもできる。
 さらにやっかいなことに、超超遠距離から今川義元の弓矢が飛んでくる。この状況で強敵と戦わなければいけないのだ。それでも猟兵はどうにかしないといけない。猟書家の悪しき野望を打ち砕けるのは、猟兵しかいないのだ。
アイ・リスパー
「聞いたことがあります。
あれが今川氏真が鍛えたという精鋭部隊、殺禍衆の末裔たちですね」

ですが、今の殺禍衆にはオブリビオンに対抗する力はないようです。
これは(サッカーのゲームで)名監督と呼ばれた私が直々に特訓するしかありませんね!

「鬼矢賦天の翼虎さん、あなたには必殺技の塞駆論を会得してもらいます!」

塞駆論とは、予め武器である蹴鞠に回転を与えておくことで、毬による攻撃の威力を増強する蹴鞠術!
すなわち羅刹旋風の究極形態なのです!

「塞駆論には動きが見破られやすいという欠点がありますが、私が【バタフライ効果】による風で今川義元の矢を防ぎましょう!
さあ、今のうちに塞駆論で攻撃してください!」



●スーパーストライカー
 今川義元の指示により妖狐忍が殺禍衆たちを襲撃する、少し前の事。
「聞いたことがあります。あれが今川氏真が鍛えたという精鋭部隊、殺禍衆の末裔たちですね」
 襲撃に先んじ、アイ・リスパー(電脳の天使・f07909)は殺禍衆たちのもとを訪れていた。それはともに戦いの準備を行うためであった。
「ですが、どうやら今の殺禍衆にはオブリビオンに対抗する力はないようです」
 アイの見立ては当たっていた。殺禍衆たちの名誉のために付け加えるならば、これは決して彼らが弱いわけではない。実際、彼らが他国との戦いで活躍し、恐れられたのは確かなことである。ただ人間相手とオブリビオン相手では勝手が違い過ぎるし、何よりオブリビオンがあまりに強すぎるのが悪いのである。これは殺禍衆のみならず、これまで今川義元と相対してきた羅刹たちすべてに言える事であろう。そのため、猟兵の中には現地の地形に詳しい羅刹たちからはその情報のみをもらい、迎撃は自らの手で行う者も多かった。だがアイは違う考えのようだ。
「これは名監督と呼ばれた私が直々に特訓するしかありませんね!」
 ともに戦う同士として、彼らにも戦力になってもらうべく、自ら鍛え上げる道をアイは選んだのだった。ちなみに『名監督』と言ってるが、これはどうやらサッカーのゲームでの話らしい。果たしてそれはアクションゲームなのかカードゲームなのか。

「なんと!」
 アイから話を聞いた大向・翼虎ら殺禍衆はみな一様に動揺を隠せない様子だった。むろんオブリビオンが自分たちを攻めに来る事はそれ自体が衝撃的な事ではあるが、それだけが理由ではない。
「今川義元公が……」
 先に書いた通り、殺禍衆は義元の後継者・氏真が徳川家康に攻められた際、家康の部下となった経緯がある。いわば今川家からすれば裏切り者に他ならない。なぜ彼らは最後まで抵抗するのではなく降伏の道を選んだのかは後ほど解説するとして、そこには彼らなりの理屈があったのは確かな事であった。それでもなお、かつての主君を敵に回すという事に対しては、やはり彼らなりに思うところはあまりに大きいもので。
「今は悩んでいる暇はありません!」
 そんな殺禍衆たちをアイは叱咤した。そう、確かに襲撃は間近であり、時間はほとんど残されていない。今やるべきことは、何よりも対策をすることなのだ。
「そうであった……してアイ殿、我々は何をすればよろしいか?」
 さすがは精鋭。すぐさま精神を立て直した殺禍衆に、アイが告げたのは。
「鬼矢賦天の翼虎さん!あなたには必殺技を会得してもらいます!」
「必殺技?」
「そう!その名も……」

 そして現在。
「いいですね皆さん!手筈通りに行きます!」
「応!!」
 ついに妖狐忍たちが里を襲撃してきた。だがアイと殺禍衆たちは万全の準備を整えてきた。
『ほう、察知しておったか』
 妖狐の中の武田信玄が嘲るように言う。
『だが猟兵よ、殺禍衆どもは人(この場合『種族としての人間』ではなく『羅刹も含めたあらゆる知的生命』ぐらいの意味である)にしてはそれなりにやるかもしれないが、所詮は人の領域。足手まといを抱え、どれだけやれるというのだね』
 だがアイは堂々と言い返した。
「やってみなければわからないでしょう!」
『面白い。ならば受けるが良い!侵し掠める事火の如し!』
 信玄の言葉に合わせ、数多くの妖狐忍たちが両腕を上げる。まもなく彼女らの周囲に現れる、おびただしい数の火の玉。火、火、火、あとはたくさん。間違いなくアイと殺禍衆全員を巻き込むだけの数はあるだろう。
「させません!ローレンツ・アトラクタ・プログラム!起動します!」
 それに対しアイは【バラフライ効果】を発動。これは……そも『ローレンツ・アトラクタ』というのが、まあ要するに地球の大気に関する動きを表した方程式が描く図、というのはさすがに乱暴すぎるだろうか。ともあれ、空気の分子を自在にコントロールすることにより、猛烈な竜巻が巻き起こるのである。むろんこれで普通に攻撃しても良いのだが、今回アイはそれを防御に使った。嵐の防壁が、妖狐忍たちが放った火の玉を確実に防いでいく。どっかのスポーツマンガでも火の弱点は風だと言っていたぐらいである。まああれはサッカーではないのだが。
『ぬう、多少はやりおるわい、だが、そろそろかのお』
 信玄の言葉と同時に、今度は弓矢が飛んでくる。事前に情報を得ていた、今川義元の【仕留めの矢】による超超遠距離攻撃だ。アイをめがけて正確に飛んできた矢だったが、これも大嵐の前に防がれる。本来は狐火で体勢を崩した所を狙うものだったので、狐火が防がれた結果、効果が減弱したようだ。
(……とはいえ、正直厳しいですね)
 だがアイも強力な攻撃を連続で防いだ事により激しく消耗していた。正直、あと数回同じ攻撃を食らったら耐えられるか怪しい。信玄もそれを見抜いたようで、さらに狐火の攻撃を加えてくる。
(……ですが)
 アイは後方をちらりと見た。その口元に笑みが浮かぶ。
(どうやら、間に合いそうですね)

「その名も【塞駆論】!」
「塞駆論!?」
 それは簡単に言ってしまえば羅刹の基本スキル【羅刹旋風】の進化系だ。だが単に回転数を上げただけではない。
「毬を蹴り上げた時の回転力!毬の速度と高さ!そして羅刹の力!四つの力がひとつになる時、毬は無敵の力を秘めた塞駆論になるのです!」

 そう。アイが信玄や吉本相手に必死で時間を稼いでいる間に、翼虎はリフティングの要領で毬を高速回転させていたのだ!
「今です!翼虎さん!」
「応!!必殺!!【塞駆論】!!」
 貯めに貯めたパワーを一気に爆発させるかのごとく、翼虎は思い切り毬を蹴飛ばした。それはすさまじい勢いで妖狐たちに突き進んでいく。
『こ、これは!!』
 毬の勢いによるソニックブーム、そして妖狐たちの中心部に着弾したのちに巻き起こった大爆発により、かなりの数の妖狐が倒れた。これには思わず信玄もうなった。
『ぬうう、侮れじか!』

「やりましたね翼虎さん!」
「ああ、あんたのおかげだ!」
 そしてアイと翼虎たち殺禍衆たちは健闘をたたえ合った。戦いはまだ続くが、それはそれとしてワンゴールを決めたらまずは大喜びする。これこそ蹴鞠の、殺禍衆の流儀なのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鹿村・トーゴ
今川義元は相変わらず執念の羅刹狩りか
オレも羅刹
同族皆殺しとか御免被るぜ

蹴鞠を武器にねェ
なんつーても羅刹なら何投げても蹴っても威力はありそ
殺禍衆には自在符を見せ敵情報を共有
妖狐のねーちゃんらしいがご油断召さるな、とね
火を使うし風下行くなー
山中に潜み行動
敵発見時
殺禍衆内で連携し多勢で一斉攻撃
鞠か蹴り攻撃頼むぜ

あとこの山で虚を付ける場所聞いていい?【情報収集/地形の利用】
オレは枝葉伝いに敵へ接近【忍び足/追跡】
樹上から手裏剣【念動力で投擲】→UCへ繋ぐ
動き鈍った敵を手持ちクナイで【暗殺、串刺し】トドメ刺す

>仕留めの矢
これには最大警戒な
【野生の勘、情報収集、聞き耳】気配感じたら即散開促し躱す

アドリブ可



●山は友達
「今川義元は相変わらず執念の羅刹狩りか」
 と言う鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)。
「オレも羅刹、同族皆殺しとか御免被るぜ」
 その言葉通り、これまでトーゴは9回義元と戦い、そして今まさに10度目の戦いを挑もうとしている。これまで義元が出現したのが今回を含めて19回なので、実に半分以上だ。間違いなく猟兵の中でも最も義元と信玄を知るひとりだろう。

 早速トーゴは天下自在符を手に、殺禍衆たちに接触した。
「蹴鞠を武器にねェ」
 確かに毬は武器としてはかなり特異な部類に入るものではあった。むろん最近発見されたばかりの新世界では文字通りのサッカーボールが武器としてあるわけだし、それ以前でもいくつかの世界でボールが武器となっているようだが、それでも珍しい事に変わりはあるまい。
「たしかにあまり他では見ないが、我らにとっては慣れた武器ゆえな」
「なんつーても羅刹なら何投げても蹴っても威力はありそだな」
「ただ変わった武器という点においては、貴殿とてそうではないか?」
「ま、忍者だしな。たしかに他から見たら、変わってるかもな」
 同じ羅刹ということもあり、トーゴと殺禍衆たちはすぐに打ち解けたようだ。交流もそこそこに、早速襲撃への対策を練り始めた。まずはトーゴが襲撃者の情報を殺禍衆たちに伝える。
「今回来るのは妖狐のねーちゃんらしいがご油断召さるな」
「ね、ねーちゃん?」
「だってそう言われたんだから、しゃーねえや。なんかスタイルがむちゃくちゃ良い妖狐のねーちゃん、って」
 ……うん、確かに言った。言ったけどさあ。
「安心されたし、見た目に惑わされる我々ではない」
 殺禍衆の首領、大向・翼虎は力強く言った。まあさすがに戦場で色仕掛けを受ける事など、ユーベルコードでもくらわない限りはそうそうないだろうが、それでも事前にそういう敵が出てくる事を知らされるのと、全く知らないのとでは、精神的なアレやコレやで大きく異なるものと思われた。
 一方でトーゴは殺禍衆より地形についての情報を得る。特にトーゴが重視したのは、忍者である彼らしい観点であった。
「この山で虚を付ける場所聞いていい?」
「むろんだとも」
 こうして事前準備は着々と進んでいった。そして。

『侵し掠める事火の如しなり!』
 ついに信玄が憑装された妖狐忍たちが襲撃してきたのだった。
(……なるほど、あれがスタイルがむちゃくちゃ良い妖狐か)
 なんつーか。そんなにお前らスタイルいい子が好きなのか。胸部の豊かな奴ぁそんなに偉ぇのか?という具合である。事前に情報を聞いていた事と、彼女らの周囲に浮かぶ狐火や手にした短刀が殺意を明確に示していたので、さすがに殺禍衆たちも警戒を緩める事はしないわけだが。
(おいでなすったようだな、では手筈通りに!)
 火を使う相手とのことで、風下にあたる方に潜んだトーゴが、殺禍衆たちに素早く指示を送る。そしてすぐさま反応が帰って来た。
(承知!)

『ふむ』
 殺禍衆どもは山中に潜んだまま出てこない。信玄はどうしてものかとしばし考えた。おそらく連中はこちらが来るのを待ち構える構えだろう。むざむざと敵の誘いに乗ってこちらから山に踏み込むわけにもいくまい。狐火を使って焼き払ってしまうのが最善だが、先ほどのように風でも使われて防がれたら厄介だし、何よりあまり大火を起こして全てを焼き払ってしまうと、後で死体をオブリビオンに改造する際にいささか面倒があるかもしれない。
『まあ良い』
 結局信玄はあえて敵地に踏み込む事を決めた。罠があろうと全て火の如く侵し掠めるのみ。

「来やがったねぇ」
 山中に入って来た妖狐を、見事な隠形で存在を伏せつつトーゴは襲撃の機を伺う。そして。
『!?』
 さすがに殺気に気が付いた妖狐はトーゴの投じた手裏剣を回避した。だが確実に当たらぬはずの手裏剣が、曲線軌道を描いて妖狐に迫る。
『面妖な、念動力の類か?だが』
 手裏剣はわずかに妖狐をかすめたが、致命的な箇所に当たるまでには至らない。樹上という不安定な場所で投じられた事、それでいて投擲の勢いがあったことで、念動力をもってしても自在に操るまでにはいかず、手裏剣は遠くへと飛んでいく。
「おっと、ちゃんとアレは後で回収しないとだな、やっぱ慣れん事するもんじゃねーな」
 なんかとぼけた事を言いながら現れたトーゴを、妖狐の中の信玄は胡散臭いものを見る目で見た。
『ふん、剽げ者の仮面を被ろうと、殺気が見え透いておるわ』
「……仮面ねえ」
 戦いにおいてもどこか雑で飄々としたような態度を貫くトーゴは、果たして真剣な素顔を隠しているだけなのか、それとも単にこれが素なのか。
『まあ良い、いずれにせよ、この炎で侵し掠めるのみ』
「おっと、そいつは無理だな」
『何?……!!』
 次の瞬間、妖狐の視界が揺らいだ。安酒に悪酔いしたような感覚をさらにひどくしたような衝撃に襲われる。
『貴様、まさか!』
 さすがに忍者の体を持つ信玄は正体にすぐ気が付いた。先刻体をかすめた手裏剣に毒が塗ってあったのだ。
「ほんっとにアレ回収しないとな、誰か拾ったら大変だかんな」
 トーゴの言葉と同時に周囲に殺気が広がると、殺禍衆たちが姿を現した。妖狐忍をトーゴの【千鳥庭】で弱らせ、そこを集団で叩くのが狙いだったのだ。
「っと!全員散開だ!」
 ちょうどそこに義元からの【仕留めの矢】が飛んでくるのを察知したトーゴは全員に回避を指示し、すぐさま殺禍衆たちは姿をくらます。そしてトーゴは自らを狙ってきた矢を見事に回避。あとは全員で弱った妖狐忍を討ち取るだけであった。
 こうして、トーゴと殺禍衆たちは山に侵入してきた妖狐忍をひとりずつ確実に消していったのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リカルド・マスケラス
「英子(えいす)が通るって感じっすかね〜?」
色々な理由で歌えないのが残念すけど

「ちょっと手を貸すっすよ〜。お面なんで手は付いてないっすけど」
などと軽口を叩きながら【仮面憑姫の舞闘会】で『殺禍衆』達に憑依。身体能力を上げていざ勝負っすよ
武器を振り回す→ボールをドリブルやパスで回していくってことでいいっすかね?
地の利を活かしてパス回しで翻弄しつつ、敵に向かって鞠を蹴(しゅう)ッ!【属性攻撃】で暴風とか電撃とか纏わせるっすかね。後は敵の虚を突くのに樹を使った跳弾とかもアリっすね

分裂したお面を通して互いの位置など確認して【集団戦術】を行って奇襲される死角をできるだけ減らして敵の攻撃にも備えておくっすよ



●版権に抵触するような歌詞は載せていません
「英子が通るって感じっすかね~?」
 リカルド・マスケラス(ちょこっとチャラいお助けヒーロー・f12160)は殺禍衆たちを指してそう評した。文字通り、英(ひい)でた子。特殊な武術をもって勇名を四方にとどろかせた彼らには相応しい呼び名だと思われた。だが。
「英子か……」
 どことなく、殺禍衆の首領【鬼矢賦天】大向・翼虎はしぶい顔をした。それはただの謙遜ではなく、れっきとした理由があった。
「先代の頃なら、そうであったかもしれぬな」
 それは例えば今川氏真によって結成された、まだ殺禍衆の名すらなかった頃。やがて徳川家康に仕え、天下統一を機に再び駿河の地に戻るまでにあるじとともに諸国を回り連戦に連戦を重ねた頃。その頃の彼らの評判は、それはもうすごいものであった。彼の者を見よ、優れ者ぞと道行く者は皆噂し、蝶の様に華麗に舞うかのように飛び交い、直線曲線稲妻形にと縦横無尽に動き回るその戦いぶりは、腰の曲がった老婆ですら興奮のあまり走り出すほどに人々を熱狂させたと言われている。
「そんな先代たちに比べれば、我々など何のものであろうか」
 当代の殺禍衆の中で、その当時から戦に出ていた者はほとんどいない。ただ伝聞にてそのすさまじき戦いを知るのみであった。毬の蹴り方ひとつにも、どうしても先代たちと比較してしまい、その威光にきりきり舞いさせられている気分になってしまうのである。
 そんな彼らに向け、リカルドは言う。
「走るっすよ」
「走る?」
「そう、何も考えずに」
 考えるよりも動くことだ。走り、とにかく走り、毬を蹴り、稲妻のような蹴撃を敵に決めるしかない。
「その時こそ、超絶英雄と呼ばれる時っすよ」
「超絶英雄……」
 超絶の英雄。正直盛り過ぎた言葉かもしれない。だが、それくらいの気合でやるのが重要なのだ。リカルドはそんな事を思っていた。

 そしていよいよ妖狐を迎え撃つ時が来たのである。
「ちょっと手を貸すっすよ~」
 とか言いながら分身して自らの複製を増やしていくリカルド。
 ヒーローマスクはそも他人に自らを装着させ、他人に自らの力を使わせるという形で実力を発揮できる。しかし、自分を装着できるのはひとりだけだ。集団に力を与える必要がある時いったいどうすればいいのか。その答えこそ【仮面憑きの舞闘会】だった。殺禍衆たちがこれを装着することで、猟兵の力を得る事ができるのだ。いわば量産型信玄たる妖狐忍たちに対抗する量産型リカルドである。正直この発想はなかった。
『ほう、狐面の集団とは、これは面妖な』
 妖狐忍に憑装した武田信玄は興味深そうに言った。狐面の羅刹集団対妖狐忍。そう、期せずしてこの戦いは狐対決となったのである。
『羅刹の身体能力を元に猟兵の力を上乗せするとは恐るべき所業ではあるが、だが吾輩が乗り移っているこの体も妖狐が基なれば強力無比』
 そう。こんなナリだけど強いのであるこの妖狐忍。やたらといろいろでかい上にもふもふな上にぴっちりだというのに。忍者は忍者でも別の忍者ぽい感じなのに。強いのである。いや別のアレも強いのは強いのだが。
『そこにこの吾輩の力を上乗せしてあるわけだ。敵は羅刹とはいえ猟兵でない者がベース、負けるはずがないであろう』
 この物言いには普段おちゃらけているリカルドもさすがに強弁しないわけにはいかなかった。翼虎の頭上……リカルド本人は翼虎にかぶられていたのだ……から、堂々と宣言した。
「やってみなければわからないっすよ!」
『おもしろい。行くぞ!疾きこと風の如し!』
 信玄の号令で妖狐忍たちは小刀を手に一斉に殺禍衆たちに襲い掛かった。魔軍将の力を持った忍者の動きはすさまじく、あっという間に迫って来る。
「手筈通りに行くっす!」
 リカルドの指示が分身を通して殺禍衆たちに飛ぶ。それを受け、殺禍衆たちは器用に毬を蹴りながら山中へと退く。誘いの手とは分かっているが、それでも近接戦しかない妖狐忍たちはこれを追っていくしかない。
 山中に入った妖狐忍のひとりが殺禍衆に遭遇する。一気に接近戦を挑もうとするも、殺禍衆はうまい事地形を活かして妖狐忍の接近を許さない。そうこうしているうちに妖狐忍は殺禍衆があやしげな動きをしている事に気が付いた。
『連中、毬を蹴って他の物に渡しているのか、なぜそんな事を?』
 地形を知り尽くしているとはいえ、強力な妖狐忍から逃げながら毬を次から次へと足だけで受け渡していくという芸当は、間違いなくリカルドの力であった。
 そして。
「今っす!」
「おおう!」
 リカルドの指示を受け、翼虎が妖狐忍に向け、渾身の力を込めて毬を蹴りこんだ。
『ふん、そんな球ころごときが……なにィ』
 侮った信玄は、だがすぐに驚かされる事になる。その毬の勢い、パワー、何よりも迫力に。
『こ、これは……まさか!』
 ここで改めて、羅刹が使う基本技【羅刹旋風】の能力を確認しておこう。

羅刹旋風:予め武器を振り回しておく事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。

 はい、ここ注目。
『予め【武器を振り回しておく】事で』。
『あ、あの毬を連中同士で受け渡していた事が……』
「ボールをドリブルやパスで回していく事が、武器を振り回しておく、って解釈はバッチリだったみたいっすね」
 正直この発想はなかった(2回目)。そして回しまくった結果、すさまじい力となった毬に、さらにリカルドは暴風を纏わせていく。疾走、蹴撃そして疾走。燃えて凄瞬駆け抜けろ。
『ば、馬鹿なああああああ』
 信玄くんふっとばされた!見事に毬がゴールならぬ敵に突き刺さり、喜ぼうとした殺禍衆たちをリカルドは制止した。
「みんな、喜ぶのは後っす!仕留めの矢が来るっすよ!」
 本来、妖狐忍の襲撃で体勢を崩したところに飛んでくるはずの矢だったが、その狙いが外れた事、そしてリカルドが敵襲に対して備えていた事から、今川義元必殺の超遠距離攻撃も殺禍衆たちを捉える事はなかった。そしてリカルドたちは喜びもそこそこに、次の相手へと向かったのである。多重分身の疲れがリカルドには色濃く見えはしたが、ここで休むわけにはいかないのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クレア・フォースフェンサー
魔軍将が憑装した者達が相手か
その力と技は脅威じゃが、逆に考えれば画一化された強さとも言えよう

如何に優れていようと、全員が同じ崇虎射家では勝負には勝てぬ
おぬし達の多彩な蹴りとわしの弓
速さも軌跡も異なる技であやつらを翻弄してやろうではないか

まずは遠間から光弓で攻撃
殺禍衆の攻撃を躱した者を射貫き、また、その逆をしてもらおう
弾幕を抜けて接近してきたなら、光剣でお相手しよう

しかし、男の武将が憑依した妖狐の誘惑か
刺さる者が随分と限られるシチュエーションのようじゃが、嗜好は人それぞれ
その色香に惑わされる者が出る前に切り伏せよう

義元の矢は、こちらも弓矢で対応
間に合わぬならば、剣の刀身を伸ばし切り落とそうぞ



●TS美女は攻め側よりは受け側の方が多い気がする(個人の感想です)
 猟兵の中には外見年齢と実年齢が様々な理由で一致していない者が少数ながら存在する。ある者は実年齢を正直に申告し、別の者は外見年齢を実年齢として申告するらしい。またなんらかの原因で一時的に休眠状態にあった者は、その期間を年齢に含めるか否かでさらに分かれるようだ。それはまあ個々の考え方の問題であり、どちらが正しいとかそういう問題ではないわけだが。
「魔軍将が憑装した者達が相手か」
 クレア・フォースフェンサー(旧認識番号・f09175)もそんな感じで外見年齢と実年齢が一致していないひとりであった。自己申告における年齢は20歳とのことだが、実際は古代帝国で作られたサイボーグの生き残りとのことで、その戦闘経験、そして長きにわたる鍛錬や実戦経験からくる剣技は凄まじいの一言に尽きる。さすがに寄る年波には勝てず現在は一線を退いているようだが、それでも猟兵としての使命感か、あるいは戦士としてのサガか、こうして最前線に来る事もあるようだ。
「確かにそのその力と技は脅威じゃが」
 そんな長きに渡る経験から、冷静に敵の戦力を計算するクレア。その口調はまさしく年齢を経た者のそれであり、穏やかで柔和な中にも確かな知性が感じられ隙を見せない。それでいて見た目は一度退役したとは思えないほどの若々しく活力にあふれたものであった。
「逆に考えれば画一化された強さとも言えよう」
 そして出た結論はこれだった。
「如何に優れていようと、全員が同じ崇虎射家では勝負には勝てぬ」
 たしかに強力な相手が数そろっているのは脅威である。だが何人いようと同一人物であれば戦法も同じであり、また弱点も同じであろう。ならばひとりを倒す事ができれば、他の敵にも同様の手が通じるということである。
「おぬし達の多彩な蹴りとわしの弓、速さも軌跡も異なる技であやつらを翻弄してやろうではないか」
 クレアは殺禍衆たちに力強く告げた。

 そして。
『なるほど』
 妖狐忍の中の武田信玄が、殺禍衆たちの構えを見て憮然とした顔をした。
『接近されては不利とみて、遠距離戦で方をつけようというか』
 殺禍衆たちは柵を作り、その後方に横一列に並んでいる。その中央には明らかにサムライエンパイアの住人とは思えぬ服装の女。間違いなく猟兵だろう。
『勝頼めが敗れたかの戦いの再現をしようてか』
 それは本来なら信玄が知るはずもない、かの長篠の戦いの事である。あの戦いで、織田信長と徳川家康の連合軍は、長い柵を築き、その向こう側から種子島銃を連射する、いわゆる『三段撃ち』を用いる事で、天下に名高い武田の騎馬隊を打ち破ったとされる……と、されている。なお三段撃ちの存在については疑問視されており、それでもなお織田徳川連合が武田軍を打ち破った理由に関しては何やらいろいろあったらしいが、そのあたりの事については、不用意に歴史の闇に触れるのは得策では無いと申し上げておこう。
 ともあれ。あえて今回は、織田徳川連合が武田軍を破ったと表向きされている三段撃ちを再現するかのごとく、殺禍衆たちは横一列に整列しているのである。
『だが、そうはさせぬ、吾輩は馬などよりも遥かに速いぞ、一挙に踏みつぶすのみぞ』
 妖狐忍たちが突撃を開始した。それを見て、殺禍衆たちは一斉に毬を蹴る。鍛え上げられた羅刹の脚力から繰り出される毬は十分に殺人的な威力を誇る。
『甘いわ、所詮は人の技ぞ』
 妖狐忍たちは繰り出された毬を次々に回避して殺禍衆たちに迫る……が、ひとりの妖狐忍が突然倒れた。その首筋に突き刺さるのは、一本の光り輝く矢。
『むう!猟兵か!』
 殺禍衆たちの中央で、クレアが光る弓に次の矢を番えていた。殺禍衆たちの毬を回避し、体勢が崩れた瞬間をクレアが狙う。ユーベルコードと見まがう程に長い時を経て研鑽され鍛錬された技術をもって、である。
『生意気な、我々の狙いを返すつもりか!』
 信玄と今川義元の作戦は、信玄が殺禍衆たちの体勢を崩し、そこに義元の【仕留めの矢】で致命傷を与えるというものであった。狙ってか、偶然か、クレアの策はまさにそれと極めて酷似したものであった。さらにクレアは矢を連射する。
『生意気な、いかな技量とて、単純な弓矢ならば……!?』
 だが弓矢を回避しようとすると、今度は殺禍衆たちの毬をそこに受ける事になる。画一の相手に対し、多彩な技で翻弄する。二段構えの策の前に、妖狐忍たちは次々に倒れていく。それでもさすがは信玄、決して少なくない数の妖狐忍が凶悪な弾幕をくぐり抜けた。
『おのれ、だがここまで近づけば!徐かなる事林の如し!』
 瞬間、殺禍衆たちの動きが止まる。戦場であるにも関わらず、どことなく恍惚とした表情すら浮かべていた。あらかじめ情報を得ていたクレアにはその正体が分かっていた。
「しかし、男の武将が憑依した妖狐の誘惑か。刺さる者が随分と限られるシチュエーションのようじゃが、嗜好は人それぞれじゃしのお」
 そう。妖狐忍必殺の【魅了の術】だ。残念ながらスタイルの良いねーちゃんが自らの肉体を使って男を篭絡するような類のものではない、が、むしろその方がまだよかったかもしれない。なにせ肉体を使うなら一度に魅了できるのはひとりだけだが、術ならば一度に数多くの相手を巻き込めるのである。そう、まさに今この時の様に。まあ、本当にTS美女の幻覚を見ているかは、あとで各人に聞いてみるしかない。
「ま、切り伏せるだけじゃ」
 クレアはフォトンセイバーを構える。今、義元の矢が飛んで来たら極めてまずい状況だ。そうなる前に妖狐忍を斬り、術を解かなくてはならない。だが信玄は機先を制した。
『させぬ!徐かなること林の如し!』
 瞬間。クレアの前に現れた、美形の男、男、男。さまざまな種類の男たちが、なぜか全員半裸で、クレアに微笑みかけてくる。
「なるほどのお」
 だがクレアは光剣を構えると、幻覚を全て斬り捨てた。
『何!?』
「悪いがそーいう方面に関しては、とおの昔に枯れておるもんでのお」
 返す刀で妖狐忍を斬り伏せると、ちょうどいいタイミングで飛んできた義元の矢もついでとばかりに斬って落とす。そしてクレアは穏やかに、それでいて力強く、殺禍衆たちに呼びかけた。
「ほれ、しっかりせんかい」
「ううっ、わ、我らは……」
「さて、おぬしらが何を見たかは是非聞いてみたいものじゃが、残念じゃがそれはもう少し先の話になりそうじゃの」
 殺禍衆たちを叱咤しつつ、クレアは油断なく前方を見た。
「来たぞ」

 クレアが凝視する、その視線の先には……。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『今川義元』

POW   :    仕留めの矢
【大弓の一矢】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD   :    鷹の目
【大弓】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【癖】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
WIZ   :    飛鳥墜とし
対象のユーベルコードに対し【、蹴鞠の要領で体勢を崩すほどに強烈な蹴り】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。

イラスト:鴇田ケイ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ケーレス・ネメシアです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●因果は巡るパス回し
 今川義元の死には間違いなく羅刹の働きがあった。
 それを知りつつも、羅刹の力は敵よりも味方とすべきだと判断した今川氏真は、羅刹を集め、彼らを与力として配下の武将たちに与えたのである。その中には、氏真より蹴鞠を応用した武術を授かった者もいた。彼の与力である羅刹たちこそ、のちに殺禍衆と呼ばれるようになった羅刹の一軍であった。
 そしてのちに殺禍衆は徳川家康に帰順することになる。同属の家康に親近感を覚えたのか、駿河の地を守るには氏真では力不足と冷徹に判断したのか、あるいはそもそも今川の家臣となった事自体に不満だったのか。いずれにせよ、彼らはそれぞれの思惑を持ち、自らの意思で今川を裏切ったのである。
 その氏真の父にしてかつての駿河の主、今川義元が今、目の前にいる。
 今の殺禍衆に、当時の事を知る者はおるまい。ましてや義元の顔を知る者などいるはずもない。しかし駿河に住まう者にとって義元は伝説的な人物である。実際に眼前にして、その威光が決してただの誇張された与太話ではなく、たしかに現実に存在したものである事を、誰もが悟っていた。
「確かに我らの祖はかつて貴方を裏切った」
 現在の殺禍衆の【鬼矢賦天】大向・翼虎は、それでも義元を見据え、はっきりと言い放った。先代より受け継いできた誇りが、翼虎に逃げる事を許さない。
「しかしその選択に間違いはない、我々はそう信じている。例え貴方といえども、我々は断じて戦い抜こうではないか」
『ふん』
 義元は殺禍衆たちを一瞥し、鼻で笑った。
『羅刹どもはそも我の仇。その大罪に比べれば、貴様らの先代どもがバカ息子を裏切った事など、ほんの些事だ。要は貴様らが今から我の役に立ちさえすれば良いのだ』
 義元は弓矢を番えた。その姿は、まさに海道一の弓取りの名に相応しき威容を誇っている。
『喜ぶがいい、死してその大罪を洗い流し、オブリビオンとして我の部下となる栄誉を授けてやろう』

 今川義元の能力は3つ。
【仕留めの矢】は一撃必殺の威力を誇る。例え一撃目を回避したとしても、回避のために体勢を崩した所で義元は続けざまの二撃目を放ってくる。体勢を崩した状態では回避が困難な上に、より致命的な箇所に必殺の一撃を食らう事だろう。
【鷹の目】は命中率を重視した射撃である。俗に真剣な表情で狙いをつける時の鋭い目つきを指して鵜の目鷹の目と呼ぶが、その名の通りによく狙いをつけた射撃はただでさえ回避が困難な上、一度命中したら次回以降は命中率と威力が大幅に上昇してしまうのだ。
【飛鳥墜とし】は蹴鞠を思わせる蹴りで相手が放ったユーベルコードを蹴り飛ばして消滅させ、そのままの勢いで敵本人をも蹴り殺す凶悪な技である。もしかしたら氏真が開発した格闘技の原型は義元が作ったものであるかもしれない。だとしたら殺禍衆のルーツは義元ということになるが……
 いずれも凶悪極まりない能力であるが、猟兵たちが殺禍衆と協力し合い、全力を出せば、きっと勝機は見えてくるはずだ。猟兵よ走れ!猟兵よ走れ!!走り抜け!!!
鹿村・トーゴ
何回でも倒す気でいるけどその執念は慣れられねーな…

>殺禍衆
あんた方には因縁の武将か
弓も矢も蹴りも一度当たれば即死
あんた方は山の地形と鞠を味方に遠目で奴の連射を妨害してくれる?
死んでも手柄にならねーし奴が撃てば即退避をな

大将相手じゃ樹上に隠れる意味もなし
【野生の勘/聞き耳/軽業】で命中を避け掠っても【激痛耐性】で足場を定めず接近
距離が5~6mになったら【地形の利用】樹と地面を蹴り上空へ
狙ってくるのを土塊と手裏剣落として撒き【カウンター/目潰し】
→猫目雲霧を布状で視界妨害ささやかに【罠使い】隙作り
敵に撃たれる前に至近距離でUC威力、羅刹の膂力と落下自重をクナイに乗せ【追跡/串刺し/暗殺】

アドリブ可



●ひとりスカイラブハリケーン
「そりゃ何回でも倒す気でいるけどな」
 ついに現れた今川義元を前に、鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)はつぶやいた。
「その執念は慣れられねーな…」
 義元と9度戦い、その全てに勝利してきたトーゴだったが、それでもなお義元が超強敵である事、そして一度でも敗北したら羅刹が皆殺しの憂き目にあった挙句に死体が義元の部下として再利用されると事、このふたつの事実は厳然として眼前に存在する。なんとしてもトーゴは10度目の勝利を遂げなければならないのだ。
「ま、やるっきゃねえか」
「応、我々も共に戦いますぞ」
 クナイを手にしたトーゴに、殺禍衆たちも意気込みを見せる……が。
「そうか、あんた方にとっても因縁の武将だったな、しかしな」
 トーゴとしては殺禍衆たちを義元と戦わせるわけにはいかない。先刻の武田信玄が憑装された妖狐忍たちの時点で、殺禍衆たちにとっては強敵だっただろう。その時はトーゴが毒で弱らせることと集団でかかる事で対抗できたが、今回はそれが通じる相手ではない。そして何より。
(奴の弓も矢も蹴りも一度当たれば即死だ)
 猟兵ならまだ耐えるかもしれないが、強者とはいえ猟兵ではない者が受けたら、文字通り死ぬ。そうなっては義元に勝利したとしても元も子もありはしないのだ。
「あんた方は山の地形と鞠を味方に遠目で奴の連射を妨害してくれる?死んでも手柄にならねーしな」
 なので、トーゴが選んだのは援護を受けつつも単独で義元と相対する事だった。
「しかし……」
「大丈夫大丈夫、オレは結構強いんだぜ、こう見えても」
 ともすれば弱気に陥りそうになる心を笑顔で隠しつつ、トーゴは前に進み出た。相手が義元なら先刻の様に山中に隠れるのは意味がないと判断し、真っ向勝負を挑む事にしたのであった。

『動かざること山の如し、とはいかないものよ』
 先刻まで後方から弓を撃っていた今川義元は既に臨戦態勢に入っている。武田信玄を前に出して相手の隙に義元が狙撃する最初の狙いこそ破ったが、それで終わりではない。義元は弓を番え、いつでも撃てる状況だ。おそらくは弓だから回避して近接に入れば良いというセオリーは通じるまい。初弾を外したとしてもすぐに次弾が来るだろうし、なんなら弓矢で白兵戦すらやってのけるに違いないだろう。
「久しぶりだな、オレの事覚えてるかい」
『ふん、我にとっては羅刹など全て下郎よ、顔などいちいち覚えていられるか』
 トーゴと義元は相手に対する殺意についてはきわめて共通していたにも関わらず、相手を個として狙うトーゴと、羅刹全体に対する怨念を抱く義元は、相手への反応は対照的なものとなった。
『他の羅刹どもはどうした』
「どうしたもこうしたも、オレだけじゃ不満かい?」
『まあ良い、貴様を葬ったのちに殺禍衆ども全て探し出し殺しつくすのみよ』
 早速義元は先制とばかりに【仕留めの矢】を放つ。いつ矢が飛んできてもおかしくないものとトーゴが最大限に警戒していたために、矢が飛ぶ音に反応して体が勝手に回避の姿勢を取ったため、矢はわずかにトーゴの脇腹あたりをかすめるにとどまった、が。
「……かすっただけ、いや、もしかして風圧だけか?それでもなお、これか」
 ダメージこそ些少だが、トーゴの脇腹は確実に痛みを感じている。それでもトーゴはクナイを手に義元に突撃を敢行する。忍びとして積んできた鍛錬が、激痛の影響を受けずに動く事を可能にしているのだ。
『来るか、だがその速度では回避できまい!』
 矢を放ったばかりでは二の矢は放てまい。それは一般の常識である。オブリビオンにそのような常識は通用しない。義元は瞬く間に次弾を装填し、突っ込んでくるトーゴに向けて放とうとして……
『……むっ!?』
 矢はトーゴとは関係のない方向へ飛んで行った。その方向にあったのは、物陰に潜んでいた殺禍衆が蹴り飛ばした毬。トーゴは殺禍衆たちに義元の妨害を頼んだのだ。
『生意気な殺禍衆どもめ、鬱陶しいわ』
 雨あられと飛んでくる毬を速射砲のような矢の連発で撃ち落とす義元。そうしているうちにトーゴは義元から5メートルの地点にまで接近していた。義元にとっては十分に近い、トーゴにとってはまだまだ遠い距離。その距離を縮めるべく、トーゴは跳んだ。地面を蹴り、そのまま大木の幹を駆けあがるように登っていくと、そのまま宙を舞った。
『愚かな羅刹よ!空を舞えば弓も当たらぬとでも思うたか!地を駆ける禽獣だろうが、天翔ける飛鳥だろうが、我が弓は逃しはせぬわ!』
 義元は吠えると、空中のトーゴを狙い定める。むしろ空中ならば機動が効かぬ、良い的でしかない。むしろ態勢が崩れているだけに、致命的な箇所を撃ち抜く事すらできよう。あるいは猟兵なれば空中機動も効くやもしれぬが、だとしても撃ち落としてくれよう。実際、義元にはそれだけの技量があった。だがむろん、トーゴとて無策で空中からの攻撃を選んだわけではない。
「それそれそれぇ!」
 空中より大量の手裏剣がばらまかれる。よく見たらその中には土くれも混じっていた。さらに猫柄の六尺手ぬぐい『猫目雲霧』を広げて、その後方に隠れる形をとる。
『小癪な羅刹め、このようなもので目くらましになると思うてか』
 手裏剣とはいえ猟兵が投げたものならば義元にとっても無視はできない。さらに土くれは弓矢をもってしても迎撃は困難であり、確実に視界を奪ってくる。そして広げられた、人間を隠せる程に大きくなった手ぬぐい。これが存外厄介で、トーゴがそのまま手ぬぐいの真後ろに居続けるのか、それとも上下左右に移動するのか。予備動作を見て移動方向を確認する事ができず、相手の移動を待つしかない。やむなく義元は相手の動きを見て後の先を取る事にした。
 だが、それこそがトーゴの狙い目であった。猫目雲霧を自ら取り払ったのだ。
「行くぜ!くらいやがれ大鉄嘴!!」
 クナイを両手で構え、自由落下にて一気に義元目掛け突っ込んでいくトーゴ。
『愚かな!今度こそ返り討ちぞ!』
 真っ向から来る相手に仕留めの矢を撃ち込む義元。だが、むろんそれはトーゴも読んでいた。義元の逡巡はほんの一瞬だっただろうが、トーゴが矢の対策の準備を整えるには十分な時間だったのだ。
「どりゃあああ!」
『何!?』
 羅刹の膂力と落下自重により、クナイが生み出した超圧縮空気は、仕留めの矢を弾き飛ばすのに十分な威力だった。そのままの勢いでトーゴは義元に必殺の【空嘴】を叩き込んだ。
『……お、おのれ羅刹め!』
 義元の周囲はクレーター状になり、トーゴの凄まじい破壊力が伺えるものだった。それでもなお義元は立っている。その両眼は怒りに燃えていた。
「……やっぱり、何度戦ってもその執念はほんっと、慣れねーな……」
 あきれたようにトーゴは言った。戦いはまだ、始まったばかりだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リカルド・マスケラス
流石に殺禍衆全員の強化はキツかったっすね。次は憑依先を一人に絞る
「そんな訳で翼虎は引き続きよろしくっす」
殺禍衆とも因縁のある相手みたいっすしね。もうちょっとお付き合い頼むっすよ。ダメージをこちらが受け持てる『ブラックコート』も羽織って気合い入れるっすよ

そんな訳で山道も【悪路走破】で駆け抜けつつ矢を避けながら鞠をドリブル
「山で鍛えられた体幹なら、この程度で崩れることはないっすね」
そして【羅刹旋風】を織り交ぜたシュート!だが、ここで樹に阻まれる。だが、これは相手を油断させる下準備
「行けぇ!【虚空弾】ッ!!」
戻ってきた鞠をそのまま蹴り返す【2回攻撃】。今度は地形…木々ごとぶち抜いて義元にぶち込むっす



●コラテラルダメージ
「流石に殺禍衆全員の強化はキツかったっすね」
 リカルド・マスケラス(ちょこっとチャラいお助けヒーロー・f12160)が先刻の妖狐忍戦で使ったユーベルコードは、分身して多くの者に自らと同じ力を与えるという大技だった。強力な反面、反動も大きく、リカルド本人に多大な負担を与える。なんとか戦闘には問題のないレベルまで回復はしたが、今川義元という強大な相手を前にして、できれば自分が消耗するのは避けたい。そして先刻の様に殺禍衆たちに一緒に戦ってもらうのは、彼らを危険にさらす行為でもある。なので。
「そんな訳で翼虎は引き続きよろしくっす」
 リカルドは本来のヒーローマスクの在り方に立ち返り、ひとりの人に自らをかぶらせて強化させる道を選んだ。それならば現在の殺禍衆のトップである大向・翼虎が選ばれるのは当然の流れだろう。
「殺禍衆とも因縁のある相手みたいっすしね。もうちょっとお付き合い頼むっすよ」
 翼虎の頭上からリカルドは話しかける。完全に仮面として顔全体を覆うより、頭部の正面ではなく側面に位置するのを好むのである。
「ああ、先代たちの選択が過ちでない事を示す義務があるからな」
 それは無論、殺禍衆の先代たちが今川氏真を裏切った事だけではない。今川義元を死に追いやり、その後羅刹の徳川家が天下を統一し、現在に至るまで統治している事。その事全てを今川義元は恨んでおり、そして翼虎は義元の怨念を真っ向から受け止める覚悟だった。
「おっと、こいつも着て気合入れてほしいっす」
 リカルドは漆黒のコートを翼虎に渡した。伸縮自在のコートは着用者の体形を合わせて自在に変化する。すなわち誰にとっても最も着心地が良く、動きやすいものとなるのである。
「ふむ、これはなかなか上等な衣装だな」
「喜んでいただいて光栄っすよ」
 それは翼虎にとっても着やすい衣装であり、着心地に満足していたようだが、実はリカルドにはひとつ言っていない事がある。ブラックコートを着用した者のダメージは、着用者ではなくリカルド本人に行くのだ。そう、リカルドもまた、翼虎とともに義元の怨念を受け止める覚悟を決めていたのである。

 さて、1対1で今川義元と戦う事を選んだリカルドだったが、さすがに真正面からやりあう程には無謀ではない。
「じゃ翼虎、手筈通りに」
「ああ、この山は我の庭も同然、任せておけ」
 そして翼虎は毬を蹴りつつ山中を駆け巡った。山の地形を知り尽くした翼虎にリカルドの能力が加わった時、とてつもない悪路も、登り下りの激しい地形も、大小さまざま数ある木々もまったく意に介する事なく、まるで良質の芝生が張られた大地のごとくに自由自在に走っていく。
「山で鍛えられた体幹なら、この程度で崩れることはないっすね」
「これも貴殿の合力あってのこと」
 そんなふたりを義元は苦々しい顔をして眺めていた。
『ふん、悪地形の上、木々が天然の障害物になれば、矢も当たらんと考えたか、小賢しい』
 義元は即座にリカルドの狙いを看破した。たしかにそれはきわめて有効な手段であっただろう。実際、義元は手を出しかねていた。弓に矢を番えながらも、必殺の一撃を放つ機会を掴めずにいたのである。しかし。
『それはそちらとて同じ事、木の裏に隠れたままでは、その毬も放つ事はできまい』
 義元の指摘もまた当たっていた。確かに、木の後ろから毬を放ち、義元に当てる事はきわめて困難である。威力のある直球は放てない。曲線を描くように毬を蹴る、木を超える高い軌道で放つ、などの手段もなくはないが、どうしても威力・命中率の両面に問題をかかえる結果となるだろう。さりとて直線軌道で毬を蹴りこむには、どうしても敵の眼前に姿をさらす事になる。なので互いに手が出しづらい……と思われたが。
『ならば』
 均衡を破ったのは義元だった。
『まずは邪魔な障害物から排除するのみよ』
 番えた矢をリカルドが隠れている大樹に打ち込む。矢は狙い違わず幹に当たり、轟音を立てて大木が崩れていく。
「なんという威力!これが今川義元か」
「まずいっす、逃げるっすよ」
 これにはさすがのリカルドに翼虎も驚愕した。巨木を貫通して背後のリカルドにまで被害が及ぶに至らなかったのは僥倖とはいえ、改めて猟書家おそるべしを痛感せずにはいられない。次弾が来る前にと、慌てて別の大木の裏へと避難する。だが、次の木もまた義元の矢の前に倒れる事になる。
『往生際の悪い、貴様らも羅刹とはいえもののふなれば潔く我が矢にかかるがよいわ』
「自分は武士じゃないっすよー」
 そういや翼虎のジョブは何が妥当だろうかとか考えつつ、それでもなおリカルドを被った翼虎はなおも逃げる。その度ごとに新たに木が倒され、隠れ場所が次々と失われていく。
「いかん、このままでは義元を退けたとしても、山がはげ山になってしまう」
「それは確かにまずいっすね、でも、そろそろ反撃の時っすよ」
 もう何度目になるだろうか。翼虎が次の木の裏に身を潜め、義元がその木を射ろうとした、まさにその時であった。
「今こそ好機っす!」
「応!【羅刹旋風】!!」
 リカルドの指示を受け、翼虎が思い切り毬を蹴飛ばす。弧を描くバナナシュートでも、縦回転のかかるドライブシュートでもない、直線の軌道で義元に向けて撃ち込んだ。むろん、翼虎と義元の間には大木がある。この動きを怪しんだ義元であったが、ここでひとつの考えに至った。
『そういえば彼奴めは先刻、毬を回す事を武器を回すと解釈し、羅刹旋風の威力を増していた、すなわち毬を何度も蹴り飛ばす動作で威力を増し、その大木を貫いて我の所まで毬を届かせようというのか?』
 だがそうはならなかった。毬は空しく大木の前に弾かれ、リカルドのところに戻ってくる。それを音で察知した義元は哄笑した。
『やはり浅知恵であったか、愚かな羅刹よ』
「それはどうっすかね?」
 だがリカルドの策はこれで終わりではなかった。戻って来た毬に向け、翼虎は思いっきり足を振り上げると、
「行けぇ!【虚空弾】ッ!!」
 全力を込めて蹴り返した。蹴撃の威力に、戻って来た羅刹旋風の威力を足し、そこにさらにリカルドのユーベルコードの力で高重力が乗り、漆黒の弾丸が飛ぶ。それは大木をあっさり吹き飛ばすと、そのまま義元に向けて突き進んだ。だが義元が見たのは毬ではなかった。高速で飛んでくる毬を蹴り返した反動で超絶級の迅速を得た時、それは球形ではなく、別の形をとるという。ある時は龍に。そして、別のある時は……
『これは……鳳凰!?』
「押し潰されるっすよー!」
 漆黒の鳳凰は義元が放つ矢すらも弾き飛ばし、そのまま義元へと突き刺さっていった。
「……っっっ」
「何か?」
「いや、なんでもないっすよ、それより結局自分たちも木を折っちゃったっすね」
「これ以上の被害を出さぬためなれば、仕方のない事」
 すさまじい威力の蹴撃は使用者にも多大な負担をかける。しかしブラックスーツの力で翼虎にはなんら影響がなく、リカルドは本来自分にないはずの右足の痛みを覚えていた。が、それは今ここで翼虎に伝える必要のない事であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アイ・リスパー
「出ましたね、今川義元!
今度は私が相手です!
受けてください、私の必殺シュート!」

【クラインの壺】で生成したマイクロブラックホールをボールに見立てて、義元に向かって蹴りましょう!

「って、きゃああっ、ミニスカートで蹴ったらっ!?
殺禍衆の皆さん、今、スカートの中、見えてませんでしたよね!?」

見てたら後で殺します、という視線を殺禍衆の皆さんに向けますが、
私のマイクロブラックホールは義元の蹴りで蹴り返されてしまいます。

私を飲み込まんと迫るマイクロブラックホール。
ですが、それは作戦通りです!

「さあ翼虎さん、雷の獣を宿して、あのボールを蹴り返すのです!」

そう、あれはシュートではなく味方へのパスだったのです!



●蹴りの反動で砲撃のような迅速なシュート
「出ましたね!今川義元!」
 現れた強敵を前に、アイ・リスパー(電脳の天使・f07909)は燃えていた。
「今度は私が相手です!」
 先刻の妖狐忍戦では名監督(?)として殺禍衆の頭領【鬼矢賦天】大向・翼虎を鍛え上げ、得意技の羅刹旋風を発展させた【塞駆論】で敵をまとめてなぎ倒させたものだ。そんなアイは遮るもののない平原で義元と相対している。そして殺禍衆たちはアイの後方に控えていた。
「受けてください、私の必殺シュート!」
 どうやらアイは今回は殺禍衆たちの援護を受けず、単独で義元と戦うようであった。
『ほう、必殺の蹴投だと?』
 その言葉に義元は素早く反応した。本来、古来より伝わる蹴鞠とは、毬を地に落とす事なく連続で蹴り上げる回数を競うものである。現代風に言うならリフティングの回数を競うものであった。だがかつて義元本人が作り上げ、氏真に、そして殺禍衆たちへと受け継がれた殺人蹴鞠においては、たしかに敵に向けて毬を蹴り、打撃を与える体系が存在する。その技術こそ『蹴りによって毬を投げる技』すなわち『蹴投』と呼ばれるものであった。

「なお現在のフットボール(サッカー)においてゴールにボールを蹴りこむ事を『シュート』と呼ぶが、これが蹴投に由来することは賢明なる読者の皆様には説明の必要はないであろう」
(大豪傑出版刊『鬼矢賦天・翼』より)

『面白い』
 ともあれ、義元はアイの言葉に大変興味を持ったようだ。番えていた弓矢の構えを解くと、背中に背負った。
『この我を今川義元と知った上で蹴投を仕掛けてくるとは、猟兵にしてはなかなかの度胸よの。だが』
 上から目線であるがアイの行為に多少の関心を持ったような視線が、疑惑に変わる。
『見た所、肝心の毬を持っていないではないか。それでどうやって蹴投を放つというのだ』
「毬ならあります!」
 だがアイははっきりと言い放ったのである。そして。
「マイクロブラックホール生成開始!」
 そしてマイの足元に現れた、漆黒の球体。その大きさは確かに蹴鞠で使用される毬とほぼ同様の大きさであった。だが明らかに毬ではない。そんなものよりはるかに大きく重い、そのようなものを一点に凝縮したかのような……アイの宣言通り、それは間違いなくブラックホールであった。だがそれは攻撃用ではない。本来の用途は、なんと倉庫なのだ。超重量の特異点の中は電脳空間になっており、表裏の区別のない【クラインの壺】の名が示すとおり、無限とも思える空間が形成されていた。アイはそこに宇宙戦艦や機動戦車といった大型の兵器を格納しているのであった。いわばあれだ、四次元のポケットである。
『ほう』
 義元は獰猛な笑みを浮かべた。
『実に面白い、それを我に蹴りこもうてか』
 かつてサッカーのとある名フォワードはシュート力を鍛えるため、通常の3倍の重さのボールで脚力を鍛え上げたという。そのボールは偶然にも漆黒のものだったらしい……そう、アイが今しがた蹴ろうとしているブラックホールのごとく。だがアイがやろうとしているのは、そのストライカーとは真逆の発想であった。重い球体で脚力を鍛えるのではなく、重い球体そのものを威力上昇に使うのである。
『来るが良い猟兵、見事蹴り返してみせようぞ』
 義元は直立不動の姿勢を取った。蹴鞠に構えはない。このなんの変哲もない一見無防備に見える姿勢こそ、蹴鞠においては正式な体勢なのである。それに対しアイは数メートルほど後方に下がると。
「いきます!うおおおおおおおおお」
 ブラックホールに向け走りこむと、右足を大きく後方に蹴り上げる。体勢は自然と前傾姿勢となり、頭と足の位置が逆転する。そして渾身の力を込めて右足をブラックホールに振り下ろすと、足の甲に当てて思い切り蹴りこんだ。サッカーの基本中の基本、もっとも強烈なボールを蹴る事ができるインステップキックと呼ばれる技法である。そして漆黒の球体は猟兵の力と技術で義元に一直線に飛んでいった。

「……」
 なぜか殺禍衆の皆は、黙り込んでいた。それはインステップキックの見事な動作や球体の威力に感心したからではない。
「って、きゃああっ!?」
 その後アイが悲鳴を上げたのは、ミスキックを嘆いたからではない。
 アイのイラストを見ると、一部の和装以外は基本的に赤系統の上下であり、そしてスカートは裾がかなり短めである。今回の戦場にもそんな感じの恰好で来たようだ。そして、そんな恰好で、サッカーマンガでよく見かけるような思い切り足を振り上げるシュートのポーズなんか取った日には……もうわかるよね。
「殺禍衆の皆さん、今、スカートの中、見えてませんでしたよね!?」
 アイの言葉は呼びかけではなく、あくまで独り言である。が、どうやら聞こえたらしい。殺禍衆たちは皆それぞれ首を左右に振っていた。
 さて飛んできた漆黒の蹴鞠を迎え撃つ義元。
『きえええええいッッッ』
 思い切り気合を入れた。これも本来の蹴鞠の動作ではない。あくまでも貴族の嗜みであり、優雅を旨とする。毬を蹴り返す時にはあくまで相手が蹴りやすい様に蹴るのがルールとなる。しかし今回飛んでくるのは自らに対する敵意が込められた必殺の蹴投であり、当然それに対する蹴投もまた殺意を込め返す事になるのだ。
『そいやああああああ』
 義元もまた思い切り足を後方に跳ね上げると、飛んできた漆黒の球体を思い切り蹴り飛ばした。足が折れるような衝撃を味わいつつも、猟書家の根性でそれを蹴り返す。つい先刻、猟兵側が跳ね返って来た毬を蹴る事で反動で強力なショットを放ったが、偶然にもそれを再現する形となった。
 マイクロブラックホールがアイに戻ってくる。これを回避しても、義元が後方から走ってきている。回避して体勢が崩れた所を蹴り飛ばす算段だ。
「今です!翼虎さん!」
 だがそれはアイの狙い通りの行動だった。帰って来たブラックホールに向け、翼虎が走りこんできたのだ。
「かかりましたね義元!あなたは私にシュートを撃ったのではなく、翼虎さんにパスを送ったのです!」
『な……なにぃ!?』
「さあ翼虎さん、雷の獣を宿して、あのボールを蹴り返すのです!」
「おおう!」
 アイと義元、両者の蹴りで威力の増した漆黒球を、翼虎はさらに蹴り返す事で威力をさらに増そうというのだ。むろん並みの蹴りでは蹴り返せずに翼虎が死ぬ。そこで翼虎はアイと義元が相対してブラックホールの蹴りあいを行っている間、羅刹旋風の要領で蹴りの威力を上昇させていた。さらに黒色球を蹴る直前にわざと地面を蹴る事によって足をしならせ、威力をさらに上昇させる。
「どりゃあああああああ」
『なにィ』
 翼虎の蹴った漆黒球は猛虎の姿となって地を這うように義元に突っ込んでいく。それは直前でホップすると、義元の顔面を撃ち抜いたのであった。

「……ところで」
 アイは殺禍衆たちの方を思い切り睨みつけた。
「見てないですよね?」
「……な、何をでしょう」
 果たして本当に見ていないか、そして仮に見ていたとして、それを隠す事ができたのか否か。それは皆様の御想像にお任せいたします。

大成功 🔵​🔵​🔵​


●燃え上がる山
『おのれ猟兵ども、殺禍衆ども』
 さすがの今川義元も怒りに我を忘れかけていた。
 本来、義元の役割は『山』だった。盟友、武田信玄の座右の銘であり、得意戦術でもある『風林火山』。このうち風林火を信玄が担当し、疾風のごとき動きで敵の機先を制し、林のごとき徐(しず)かさで敵に感づかれぬうちにかく乱し、火のごとき侵略で敵を圧する。こうして相手が完全に浮足立った所で山の如く動かぬ義元が【仕留めの矢】でひとり残らず射倒す。これが当初の計画だったはずだ。それが信玄が憑装された妖狐忍たちが猟兵と殺禍衆たちによって返り討ちにあい、義元自らが前に出なければならない事態に陥り、そして現在こうして苦戦を強いられている。それはまさにかつての桶狭間を否が応でも思わせるものであった。
『我は健在ぞ、このまま終わってたまるか』
 それでも義元の戦意は軒昂であり、その目からは敵手への怒りを殺意がいまだに消えていない。必殺の弓を番え、いつでも放てる態勢だ。
『我の相手はどこだ、出てくるがよい』
クレア・フォースフェンサー
御大将のお出ましじゃな

損耗しているとは言え、幹部の猟書家
僅かな隙も見せることはできぬ
全力で参るとしようぞ

光剣を構え、全身の機能を最大化
完全戦闘形態へと移行

矢を躱していては近付けぬ
見切りのギアを一つ上げ、自身や殺禍衆へ放たれる矢を斬り落としながら接近
接敵できたならば、剣の間合いを変えつつ斬り結ぼうぞ

――と、わしは囮じゃ
眼を逸らす余裕があるならば、わしの背後に幾つもの竜巻が出来上がるのが見えることじゃろう

あれぞ大回転魔蹴
回転することで威力を増し、かつ、蹴りのタイミングと位置を見定めさせない蹴鞠の基礎の基礎たる技

時間が掛かる
動きが見破られやすい

ならば、わしが時間を作り、見破る余裕を無くしてやろうぞ



●蹴鞠の旗のもと
「総大将は既にお出ましじゃったか」
 そこに現れたのは、つい先刻まで残敵掃討にあたっていたクレア・フォースフェンサー(旧認識番号・f09175)だった。妖狐忍たちの数は十分減った。あとは大将たる今川義元を討ちさえすれば、当面の間はこの地に平和が訪れるだろう。
『貴様か』
 声に反応し、義元はすぐさまクレアに弓矢を向ける。だが即座に発射はしない。あくまで弓を構えてクレアの出方を待つ構えのようだ。
(ほう)
 クレアはその事にむしろ感心した。
(損耗しているとは言え、さすがは幹部の猟書家といったところじゃな)
 クレアにしてみれば、先に義元が撃ってくれた方が良かったのである。先にクレアが動けば、義元はクレアの動きを見て矢を放つ。動いている状態では機動をコントロールしづらく矢を回避するのは困難だ。一方で義元が先に矢を撃てば、クレアは防御態勢万全の状態で矢を回避する事ができる。むろん義元のことなので、すぐさま二の矢を継ぎ、回避行動中のクレアを狙うやもしれないが、その狙いがわかっていれば対処法もあるだろう。
(僅かな隙も見せることはできぬか)
 今の義元は間違いなく万全ではない。にも関わらず、少なくとも判断力に関しては落ちてはなさそうだし、おそらく実力に関しても、万全の状態となんら遜色のないものがある、そう考えるべきだろう。
「ならば」
 このままだと互いに動く事のできない千日手だ。それならそれで狙いはあるのだが、それでもこのままただ時間を稼ぐよりは、自ら動く事をクレアは選んだ。多少なりともダメージを与えておきたかったのである。
「全力で参るとしようぞ」
 クレアは光剣を構えた。その姿を見て。
『……む?』
 義元の目がさらに険しくなった。クレアの力が上昇しているのに気が付いたのだ。
「はああああああああああ」
 剣を中段に構えたまま、静かに呼吸をするクレア。義元も気付いた通り、それはただ息を整えているだけではない。全身の機能を最適化し、最高の状態に持っていく、完全戦闘形態へと移行する準備行動なのだ。
『なるほど、我が弓を上回る速度でケリをつけようてか』
 戦闘力が上がれば当然速度も上がるだろう。それを利用し、矢を回避しつつ一気に勝負をかけるつもりだと義元は読んだ。
『大した自信過剰ぶりよの』
 クレアが全開の力を発揮しても打ち倒せるだけの自信が義元にはあった。だがそれはそれとして、むざむざ相手の狙いに乗ってしまうのも癪である。
『いいだろう、ならばこの矢、躱せるものなら躱してみよ』
 結果として義元が選んだのは先制攻撃だった。完全戦闘形態が完成する前にと、正確にクレアの胸部中央を狙い、矢が飛ぶ。回避されたとしても素早く矢を番え、回避行動で体勢が崩れた所を狙う。むろんクレアもそれは読んでいるだろう……そして実際に読んでいた……が、それでも構わぬ対策出来るならやってみろ、という気合が込められた矢だった。だが。
「回避しようなどとは思っておらんよ」
 クレアが選んだのは矢に真っ向から突っ込んでいく事であった。光の刀を振り上げ、自分を貫き通し破壊せんとする殺意が込められた矢に対し全く恐れる様子も見せず、逆に破壊せんとの確かな意思を持ち、ただ前へと進んでいく。
「いちいち矢を躱していたらおぬしに近づけぬからの」
『ぬう!小癪な!』
 完璧ではないが上がっていた身体能力と、これまで生きてきた中で極限まで鍛え上げられた剣技は、超高速で迫る必殺の矢を確実に捉え、これを破壊した。義元はすぐさま二の矢を放つが、回避と比べて体勢の崩れは小さい。次々に放たれる矢を、同じ数だけ斬り落とすと、クレアは義元に迫った。
「覚悟するがよい」
『白兵戦ができぬと思うたか!我も甘く見られたものよ!』
 クレアの必殺の斬撃を、だが義元は弓で受け止める。さすがに猟書家の武器、ただの弓ではない。熟練の猟兵の攻撃を受け止めて折れる様子も見当たらない。そして義元もただの狙撃手ではない。逆に至近距離からの射撃でクレアを討ち取ろうとする。
「まあ、だろうとは思ったがの」
 弓矢で白兵戦をやってのける敵手の技量に感嘆しつつもなんとかクレアはこれを回避。互いに当たれば必殺の一撃と、それを回避できるだけの技量を持った者同士。先刻までの静の膠着状態から一転、動の膠着状態と呼ぶべき状況になってきた。
『ふん、この我とここまで渡り合うとは、下郎にしては少しはできるようだな』
「お褒めにあずかり光栄、と言いたい所じゃが」
 クレアはわずかに後方を見た。
「少しぐらい、眼を逸らす余裕はあるかの?」
『何?』
 思わず義元はクレアの視線を追う。そこにあったのは。

 数多くの、竜巻の群れ。よくよく目を凝らしてみれば、その竜巻一つ一つは殺禍衆たちが猛烈な回転を起こす事によって発生している事がわかるだろう。
「あれぞ大回転魔蹴!」
『大回転……魔蹴だと!?』

 それは羅刹の基本技、羅刹旋風の強化版であった。
 羅刹旋風はフォームが大きく見切られづらいという弱点が存在する。それを解消すべく、コマのように高速回転する事により、毬を蹴るタイミングと位置を見定めさせないようにした技がこの大回転魔蹴である。また強烈な回転を加えてあるためにその威力も計り知れない。

「いわば蹴鞠の基礎の基礎たる技じゃな」
『馬鹿な!我の知る蹴鞠にあのような技は……いやそれよりもだ!よもや貴様!』
「ようやっと気が付いたかの」
 そう。クレアはあくまで囮だった。これまでの行動は、全て殺禍衆たちが技を完成させるまでの時間稼ぎだったのだ。
「さて、わしとあやつらの同時攻撃、見切れるかの?」
 そして殺禍衆たちがついに大回転魔蹴を完成させた。戦場をつんざいて白い稲妻のごとくに凄まじい威力の毬の群れがおっ走る。その勢いはまさに巨人のごとし。いわば彼らひとりひとりが、侍の巨人であった。
『お、おのれええええええ!』
 回避しようとした義元だが、クレアの剣撃がそれを許さない。毬のうなりに地獄が見えた。たちまち義元は毬の嵐に飲み込まれ、なすすべもなく……

 義元くん吹っ飛ばされた!

『……さ、さすがはこの我がバカ息子に伝えた蹴鞠よ、大したものだ』
「それは違うじゃろ」
 大地に倒れ伏した義元の、本気の感嘆とも、悔し紛れともとれぬ言葉を、だがクレアはぴしっと否定した。
「本当に大したというべきは、あれを磨き上げた、ほかならぬ、あやつらじゃよ」
 介錯の一閃が、義元の首を断つ。同時にその体は消滅した。最初からこの世界に存在しなかったのように。
(羅刹ども……これで終わりではないぞ)
「やれやれ、こりん奴じゃの」
 捨て台詞を残して骸の海へと消えていった義元に、あきれたように呼び掛けると、クレアは改めて後方を見やった。その方向には、歓声を上げて走って来る、殺禍衆たち。
「ま、今日のところは、よしとしとくかの」
 彼らの姿に、クレアはようやっと心の底からの笑顔を浮かべる事ができたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年07月20日


挿絵イラスト