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死想――誰が為に終わりは在る

#ダークセイヴァー #ダークセイヴァー上層 #第三層 #マイ宿敵

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#第三層
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 あるところに、いっぴきのくろいいぬがいました。
 くろいおみみにしっぽとたかのようなおおきなはね、もふもふのけなみ。
 ものしずかでおりこうさんで、ひとなつこくやさしいくろいぬは、にんげんさんたちがだいすきです。

 でもだいすきなにんげんさんたちは、いつも「いたい」「つらい」「くるしい」とないてばかりでした。
 とってもわるーいまものたちに、ひどいことをいつもされていたからです。

 まものたちはとってもわるいやつらで、にんげんさんをいつもきずつけころしています。
 でもそれだけではあそびたりないのか、たましいだけになっても、まものたちはにんげんさんをおもちゃのようにあつかうばかり。

 くろいぬは、わるいまものからにんげんさんたちをまもって、あんしんしてくらせるばしょにつれていってあげました。
 にんげんさんたちはみんなおおよろこびで、くろいぬにありがとう、とおれいをいってくれました。
 あたまをなでてくれるにんげんさんのては、つめたくなってもとってもあったかくて、くろいぬはうれしいきもちになりました。

 そして、いっぱいいっぱいたのしいきもちにつつまれたまま、にんげんさんたちはねむります。
 くろいぬは、そのままずうっとねむれるように、くらいけどあったかくてきもちいい、ゆりかごをつくってあげました。
 もう、わるいまものにおもちゃにされないでいいように。
 もう、つらいきもちをしなくていいように。
 ずっと、ずうっと……ねていられるように。

「くろいぬさん、ねるまでずっといっしょにいてね」
「うん。ぼくはずっといっしょにいるよ」

 さいごにねむるおんなのこがそのままめをさまさなくなるまで、くろいぬはずっとよりそってあげました。


「ダークセイヴァーの上層に、とある村がある」

 招集した猟兵たちに、地籠・陵也(心壊無穢の白き竜・f27047)は予知の内容を語る。
 ダークセイヴァーの第三層――より上層へと登ることができるようになった猟兵たち。
 そこは猟兵たちがよく知っているダークセイヴァー――第四層の人々の死後に至る地獄。
 死しても尚安寧を得ることを許されず、オブリビオンに弄ばれた"魂人"たち。
 彼らは生前の暖かな記憶と引き換えに死を否定し、命からがら逃げ続ける日を送っている……のだが。
 その村はそのような『死して尚与えられ続ける苦痛』の存在しない、暖かで居心地の良い素朴な村らしい。

「だがそれは、仮初の平和でしかない。この村を作り上げた存在は、この村を最終的には魂人ごと沈めるつもりなんだ」

 村を作り上げた存在――小さな少年の姿をした闇の種族(と思われる)は、これまでも何度もそうして多くの魂人を死に至らしめているという。
 だが、その動機はどうも他の闇の種族とは違うようだと陵也は言う。

「他の闇の種族と違って、この少年の姿をした闇の種族は……"魂人が生きていることを特に良しとしない”。
 なのに何故か、本来なら眷属に向かわせるハズの村の視察も自ら行い村人たちと交流まで図っている。
 それが気まぐれからくる理由なのか、それとも別の何かがあるのかはわからないが……」

 いまいち目的が掴めないが、多くの魂人の命を奪い続けているというのは事実だ。
 確かに、死んで魂人になった第四層の人々にとっては苦痛な生かもしれないが。
 でも、それでも、耐えきれない程心がボロボロに傷つき果てても生きようとするのは。
 それだけ生きることへの渇望と、"生きて幸せになりたい"という、かつて抱いても諦めるしかなかった気持ちを未だに捨てきれないからだろうから。

「これ以上魂人たちの命が奪われるべきじゃない。だからどうか、助けてやって欲しい」

 例え死してから知り合ったとしても、隣人を喪うことの痛みは計り知れないものだ。
 喪失を何よりも恐れ忌避する白き竜は、それを味わわせないでやってくれと告げて、ダークセイヴァー上層に至る転移陣を展開した。


御巫咲絢
 ついに開きましたねダークセイヴァー上層!!
 手前味噌ですみませんがちょっとやりたいお話があったので筆を取りました。
 どうも一ヶ月ぶりです御巫咲絢です。
 シナリオ閲覧ありがとうございます!御巫のシナリオが初めての方はお手数ですがMSページもご一読頂けると幸いです。

 このシナリオはほぼほぼシリアス一辺倒でお届け致します。
 ダークセイヴァー上層の残酷さに心を痛めているのは、もしかしたら猟兵だけではないかもしれません。

●シナリオ解説
 第一章:村の収穫をお手伝い、と書いてありますが別に収穫だけじゃなくて何でも手伝ってもいいぞ!!
 皆さんのやりかたで魂人たちの信頼を得てください。
 POW/SPD/WIZについてはゆるふわ判定で、やりたいことを思う存分プレイングに詰めてもらえればと思います。
 また、視察にきた闇の種族(?)とも話ができるチャンス……かも?

 第二章:『生命枯らせし鷹羽の犬』との戦闘です……が、基本的には『撤退戦』となります。
 本当に闇の種族なのかどうかはさておき、めちゃくちゃ強いです。
 現時点では斃すことが非常に難しいと推測されています。
 さらに時間が経てば経つ程村が黒い風に包まれて無に帰していく為、それまでに魂人を可能な限り救出する必要があります。
 因みに、斃すのは難しいですが、"不可能ではありません"。
 ですがその場合"魂人の救出は諦めざるを得ない"でしょう。
 それでも斃すのを狙うのであればかなり厳し目に判定させてもらいますのであしからずご了承ください。

 第三章:生命の気配が全くない漆黒の闇の中を進み、救出できた魂人たちを別の魂人たちの集落へ送り届けてあげてください。
 今まで平和に暮らしてきた魂人たちには酷な道ですが、それでも生きたいと願う彼らは猟兵たちについていくでしょう。

●プレイング受付について
 6/22(水)~24(金)の間の夜の時間帯のどこかで断章を投下し、それからプレイングを受付致します。
 現在MSが多忙の為、いつもよりかなり少人数受付、もしくは執筆間に合わず再送願いする可能性が高いです。あしからずご了承頂いた上でご投函お願いします。
 オーバーロードは受付開始前からでもOKですが、かなりお時間を頂く可能性をご留意頂いた上でお願いします。いつもすみません!!ありがとうございます!!

 それでは、皆様のプレイングをお待ち致しております!
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第1章 日常 『魂の集落に育つものは』

POW   :    得体のしれない野菜の収穫を手伝う

SPD   :    剪定や雑草取りをやろう

WIZ   :    どれ、味も見ておこう

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 ――ダークセイヴァー上層。
 暗雲立ち込め、陽の光はおろか月の光すらあるか怪しい空に、血のように赤い樹のようなものが空を覆わんとしている絶望の世界。
 そこで魂人たちは、幸福な記憶を犠牲にしながら生きて……いた。

「あら、こんなところにお客さんだなんて珍しいわね」

 猟兵たちが転移陣により件の村を訪れれば、気さくな声で一人の魂人の女性が声をかける。
 その表情は一切の絶望も嘆きもない、まさに屈託のない笑顔と言っても過言ではない明るいものだ。

「ここにくるまで大変だったでしょう?何もないところだけどゆっくりしていって頂戴」

 魂人ではない猟兵たちに対して疑いもせず、そのまま村の中へと快く案内してくれる村娘。
 この村に住む魂人たちは娘のようなある程度年齢を経た若者や子供どころか、老人と思しき者たちまで、数こそ少ないが年齢層は多岐に渡っている。
 その姿で魂人として"定着"させられたとするなら、いったいどれだけの人が志半ば、人生半ばで命を絶たされたのだろうか。
 と、進んでいくと魂人の子供たちが村の中央に集まっている。

「くろいぬさん!おかえりー!」
「ただいま」
「ねえねえくろいぬさん、せいじょさまはみつかった?」
「ううん……ごめんね。見つけたら絶対にここに連れてくるから」
「そっか……せいじょさま、だいじょうぶだといいな」
「うん、そうだね。きっと大丈夫――」

 子どもたちに囲まれている一人の少年が、こちらをゆっくりと向いた。
 背には全身を余裕で包めるであろう大きな鷹の羽根を持ち、犬の耳を持った黒髪の少年。
 視線が交差した刹那、猟兵たちの背筋をおぞましい寒気が駆け抜ける。
 そう、まるで”死が眼前に迫っているかのような"忌避感。
 生命というものの生存本能が、この少年を"避けたがっている"のだ。

「……いらっしゃい。お客さんなんて珍しいね」

 少年はそれを意に介さず口を開く。

「丁度良いタイミングできたね。今日は野菜の収穫日なんだ。きっと村の人たちだけじゃ食べきれない程の量が取れると思うから、よかったら食べていくといいよ」

 そう告げると、子供たちに「また後でね」と声をかけて少年は立ち去っていく。
 先程の悪寒からして、あの少年こそがグリモア猟兵の予知にあった闇の種族なのだろうか?
 だが、それにしては"敵意がない"。
 生存本能的な忌避感に埋もれかけていたが、少なくとも"あちらからこちらに敵意を向けてはいない"のだ。
 少年が闇の種族であるならば、あまりにも奇怪としか言い様がないし、子供たちからあんなに慕われているのも理由がわからず解せぬという結論しか出てこない。

 ……それを逆手に、情報を本人から聞き出すことももしかしたら可能かもしれないが。

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【MSより】
※プレイング受付開始しますが、8:31を過ぎてから投げてくださると非常に助かります※
※「せいじょさま」についてはわからなくても問題ありません※
アディリシア・オールドマン
POW アドリブ連携歓迎。

ふむ。
よくわからんが、この少年が敵なのか? 違うのか?
……なんとなく、ダフネと接触させるのは拙い気がするな。
収穫を手伝いつつ、話をしてみよう。

ふむ。
黒犬。黒犬でいいのかな。お前は何を……そう、何をしたい?
人と一緒にいたいのか? それとも、誰でもいいのか?

……生きることが苦痛。死こそ安寧、か。
なるほど。よくわからんが、よくわかったぞ。
お前とダフネを会わせるのは良くない。
その想いに、死んだ者は共感するかもしれんからだ。
魂人がお前に親しみを感じるのは、その価値観が合うからかもしれん。

だが、知ったことか。私は死んだことがないからな。
お前が人を殺すというのなら、私は抗うまでだ。




 ふむ、とアディリシア・オールドマン(バーサーカーinバーサーカー・f32190)は首を傾げる。
 
「……よくわからんが」

 あの少年が恐らくグリモア猟兵の言っていた者であろうという線は高いだろうが、やはりこの奇怪な敵意のなさが妙に引っかかる。
 そしてなんとなくだが、自らの中に住まうダフネ――彼女の纏う鎧に眠っていた蛮族の女王の魂を近づけてはならないと直感的に思った。

「おねえさん、どうしたの?」
「ん……ああ、いや。何でもないぞ。よし、私も収穫を手伝うとしよう」
「ホント!?」
「本当だ。力には自信があるからな」

 魂人の少女の頭を撫でて、アディリシアは畑へと向かう。
 流石ダークセイヴァー上層と言ったところか、アディリシアが知る野菜という概念とは程遠い。
 真っ青な土に埋もれて、地面から真っ赤な葉をのぞかせるそれをいざひっこぬいてみれば文字通り"ガラスのように"透き通った実が姿を現す。
 しかし、ちゃんとそこに実はあって触れられるのだ。
 許可をもらって一つ切ってみれば、中身もガラスのように透き通ってはいるが、そこにちゃんと実はあって、断面に触れれば実の持つ水分でわずかながらに指が湿った。

「これは……凄いな……」
「よかったら今丸焼きができあがったばかりなのだけど、食べてみる?」
「ほう、それは……頂こうか」

 村の住人によると、所謂芋らしいこれはシンプルにまるごと焼いて食べるのが非常においしいそうだ。
 受け取ったできたてほかほかのそれは火を通したことで肉眼で見えるようになっており、皮も実も真っ白。
 早速一口頂くと、アディリシアの知っている野菜と全く変わらない、素朴な甘さが口いっぱいに広がっていく。

「これは……さつまいもか……うん、うまい」

 焼き芋を口にしながら、アディリシアは同じように焼き芋を頬張っている村人たちを目にする。
 皆が皆、嬉しそうに笑って楽しそうに談笑しながら、今日の恵みを分かち合っている姿。
 いずれそれが崩れるものだということを知らずに、予兆に映った魂人の少女とは正反対な幸せそうな表情を浮かべて……

「(――この穏やかな生活が壊されてしまうのか。恐らくは、あの少年によって)」

 アディリシアの視線が動き、先程「くろいぬ」と言われた少年へと向く。
 他の村の子供たちと同じように焼いた芋を受け取って、謝意を述べておいしそうに口にしているその姿。
 決して敵意はないが、本能的な忌避感を未だ感じる少年を見てふむ……と思考して。
 アディリシアは思い立って、近くへと歩み寄った。

「……何?」
「話がしたい」
「……いいよ。人と話をするのは好きだから」

 互いに芋を口にしつつ、適当な人気のない場所に腰掛けて会話が始まる。

「黒犬。……黒犬でいいのかな」
「いいよ。ぼくは実際に犬だもの」
「名前はないのか?」
「そうだね。でも別に気にならない」

 村の人は皆、少年を「くろいぬさん」と親しみを込めて呼ぶ。
 例え個人としての名がなくとも、人々がそれを親しみを込めて呼んでくれるなら、それはその者にとっての名たり得るのだと、少年――黒犬は思うそうで。

「お前は、何を……そう、何をしたい?」
「何をって?」
「人と一緒にいたいのか?それとも、誰でもいいのか?」
「それに答えるなら、前者の答えが一番近い。でもある意味では後者でもある」
「……だから魂人たちを殺しているのか?」
「そうだよ。でもそれは彼らのためでもある」

 アディリシアの問いに、黒犬は迷わず答える。

「お姉さんは、このダークセイヴァーの第三層がどんな世界か知っていてここにきている。そうだよね?」
「ああ」
「なら、彼ら魂人たちの成り立ちも知っているよね」
「……」

 第四層の人々の死は安寧たり得ない。
 死ねば全部終わって救われると願い、自ら命を絶った者たちも決して少なくはないだろう――だが、その結果はこうだ。
 死よりも辛い生が待ち受けているなんて誰も予想するワケがない。
 知った時の絶望感はきっと、決して、誰にも慮れるものではないだろう。

「死というものは、他者を弄び苦しめる為のものじゃない。オブリビオンや闇の種族たちの行為を、ぼくは決して許さない」

 それらのやることは、死に対する"冒涜"だ。
 そして死への冒涜とはすなわちそれまでの生、すなわち命そのものへの"冒涜”でもある。
 黒犬は一切迷いのない顔で、アディリシアの目を見て語った。

「……生きることが苦痛。死こそが安寧、か」
「少なくとも、このダークセイヴァーの第三層という世界においては、そう捉えるべきだとぼくは思っている」
「……なるほど。よくわからんが、よくわかったぞ」

 ――お前とダフネを会わせるのは良くない。
 先程は漠然としか感じなかったものの理由を、アディリシアは完全に理解した。
 この黒犬は、死者に対してもっとも”近すぎる”のだ。近すぎる故に、彼の想いに共感し、協調してしまうのだろう。

「魂人がお前に親しみを感じるのは、その価値観が合うからかもしれんな。だが――」

 知ったことか。
 子供に対する加減はあれども、確かに吐き捨てるように、そして強く宣言するかのように告げる。

「私は死んだことがないからな」
「そうだね。"本当の意味での生者"であるお姉さんにはわからないと思うし、わかっても同意はしないと思う」
「ならばこの先やることもわかっているな。お前が人を殺すというのなら、私は抗うまでだ」
「抗うことは生者に許された特権だから尊重するよ。でも、ぼくの邪魔をするなら容赦はしないから」

 芋の最後の一口を食べ終えて、少年は踵を返して立ち去っていく。
 アディリシアもまた、最後の一口を口に放り込んで、その場から離れた。
 まだまだ収穫する野菜はたっぷりある、手伝ってやらねば丸一日あっても終わらないだろうから。

成功 🔵​🔵​🔴​

ミリアリア・アーデルハイム
収穫は大変ですよね。適期を逃すと小さすぎたり固くかったり美味しくなかったりしますから。一斉に稔るので休みなしに働く羽目になりますし。
沢山働くと喉が渇きますよね、とUCで淹れたお茶をみなさんに振舞いましょう、アディリシアさんにも。この後私たちは決死の逃走劇を繰り広げることになると決まっているのですから、油断なく備えておかなくては。

くろいぬさんには普通のお茶を差出し
穏やかな良い場所ですね、でも此処では望みの象をなぞってみても本当に願うとおりの形にはならないのでしょう?お城と砂のお城は違いますものね。

ところで、子どもたちが言っている聖女様とはどなたですか?集落の方で行方が知れないのならば心配ですね。




「収穫は大変ですよね……適期を逃すと小さすぎたり固かったり、美味しくなかったりしますから」

 よいしょ、とミリアリア・アーデルハイム(永劫炉の使徒・f32606)は野菜を引き抜いた。
 人の血のように真っ赤な為不気味な見た目だが、それでも芋がすぽぽぽぽん!と勢いよく抜けていく様は気持ち良いものだ。

「おお、お嬢さん上手だねえ」
「一斉に稔るので休みなしに働く羽目になりますから、こうやって一気に抜いていけるといいですね」
「そうだねえ。おかげで当分食べ物には困らないとはいえ、この作業が大変だからねえ」
「あとでお茶ご用意しますね」
「まあまあ、お客さんなのにそこまで気遣ってもらっちゃって悪いねえ」
「いえいえ、たくさん働くと喉が渇きますから」

 野菜をどさりと籠に入れると、その時に落ちた土埃を彼女の愛用している職人謹製の棕櫚箒がせっせこせっせこと掃いて綺麗にする。
 何ならついでに野菜の周りの余分な土も取っ払ってくれて、掃除にプライドを持つ棕櫚箒は野菜の見た目をも清潔に保つようだ。
 もちろん、子供たちの視線が集中し「何これー!」「すごーい!」「魔法みたーい!」と大人気。
 その間に野菜を可能な限り引っこ抜いて、2回目の休憩に入ると早速ミリアリアは人数分の紅茶を用意し、皆に配って回る。
 ――とだけ書くと普通のやり取りに見えるが、これもきたるべき時に備えての彼女の策の一つ。
 ユーベルコードを用いて淹れたオリジナルブレンドの紅茶の香りと味わいは、永劫炉の使徒としての権能による護りを齎すのだ。

「アディリシアさんもどうぞ」
「ああ、すまないな。ありがたく頂こう」

 当然仲間にも同じように紅茶を配って回る。
 今こそこのような平和な時間ではあるが、この先に待ち受けるのは一縷の希望を賭けた決死の逃走劇だ。
 備えあれば憂いなし……まさにその言葉に倣うか倣わないかでこの先の状況は大きく左右されるであろうから。
 
「……いい香り」

 そこにかの少年――"黒犬"もやってくる。
 流石犬と呼ばれているだけあるのか、嗅覚は中々に鋭いようだ。
 紅茶の香りに表情を少し綻ばせている姿は、それだけであれば普通の子供のそれと全く変わらないように見える。

「くろいぬさんもいかがですか?」
「うん、よかったらもらってもいいかな」
「もちろんですよ。はいどうぞ」

 ミリアリアは紅茶を手渡す。
 もちろんユーベルコードを搦めていない、ただただ純粋にオリジナルブレンドなだけの紅茶だ。
 黒犬は感謝を告げた後、早速口にしてその暖かな味わいに表情より綻ばせる。素の表情から大きく変化する程ではないが。

「ここは穏やかな良い場所ですね」
「うん。みんなが笑顔で過ごせる良い場所だよ。そういう場所を作れてよかったと思ってる
「でも――此処では、望みの象をなぞってみても本当に願う通りの形にはならないのでしょう?」
「そうだね。この世界はそういう場所だから」
「お城と砂のお城は、違いますものね」

 それは黒犬が魂人たちを殺す為に作ったからそうなのではなく、そもそもとしてダークセイヴァー第三層という世界の成り立ちが"そう"なのだ。
 人々がやっとの思いで掴んだ一縷の希望も、オブリビオンによって簡単に蹂躙され、幸福な記憶を犠牲にしてでも逃げなければ生き残れない。
 あまりにも残酷な成り立ちの世界、その中で苦しみ辛い記憶のまま死することの何と救いがなく残酷なことか。
 死は他者を苦しめる為のものではないと定義する黒犬にとっては忌避すべき環境と言っても過言ではないらしい。

「終わりを迎えてしまうにしても、穏やかな終わりを迎えさせてあげたい。だから僕はここを作った」
「それを村の皆さんが望んでいないとしても……ですか?」
「確かにまだ生きたい、と思うかもしれない。でもそれじゃ、輪廻転生の輪が正しく機能しなくなってしまうでしょ?」

 遅かれ早かれ生命というものはいずれ終わりを告げ、消費された"時間"は骸の海へと廃棄されていく。
 ならば、少しでも良い終わりを齎し、来世への希望を抱けるようにしたい。
 でなければ、この先生命が生まれるということがなくなり、全て骸の海に侵蝕されてしまうだろうから、と。
 ――闇の種族とは思いにくい、一線を画した考えだとミリアリアは思った。
 けれど、この黒犬は。
 放っておけば今こうして笑顔に満ちている人々を殺してしまうのは紛れもない事実で、それを止めねばならない以上彼がミリアリアたち猟兵の敵デあることに変わりはないのだ。

「……ところで」
「何?」
「子供たちが言っている"せいじょさま”とは……どなたですか?集落の方で行方が知れないのなら心配だなと思って」
「……あの子たちは、かつてダークセイヴァーの下層であった"魔女狩り"の犠牲者たち」

 かつて"聖女"と呼ばれ、過酷なダークセイヴァーの人々に希望をもたせた偉大な存在がいた。
 "聖女"はその人類砦において動乱を収め、人々に救いを齎したと崇められていたがその後間もなく手のひらをひっくり返すかのように"魔女”と呼ばれるようになった。

「あの子たちは聖女の信者で、最後まで彼女を信じようとした人たち。けれどそれ故に命を散らしてしまった」
「……子供なのに、何て酷い仕打ち……」
「聡い子たちばかりで、この世界に生まれ変わったと知った後聖女も同じように魂人になってるかもしれないって」

 骸の海より還る資格を与えられていなければ、同じように魂人としてここにいるハズだから、きっと辛い思いをしているだろうから助けて欲しい――子供たちはそう言ったそうだ。
 故に黒犬は、その"せいじょさま"を探し続けているという。

「そこまでしてあげているのに……あなたはなんで村人たちを……?」
「さっき言った通りだよ。輪廻転生の輪を正しく機能させる為」

 そして彼らを本当の意味で安らかに眠らせる為、黒犬は彼らを殺すのだと。
 次はオブリビオンに脅かされることのない、平和な世界に生まれられるように――と。

「でも、それでも村の人たちの意志を無視してでもやろうとするのは、違うと私は思います」
「……お姉さんも"本当の意味での生者"だから、理解ができないのは当然だと思うよ。ううん、理解してもぼくを止めようとするだろうね。
 でもこれは、譲れないこと。だからそんなに言うなら、止めてみせることで証明するといいよ」

 当然、簡単に止められるとは思わない方がいいけれど――そう言って、黒犬は紅茶の最後の一口を飲み終える。
 ごちそうさまと告げてミリアリアにカップを返すと、そのまま再び立ち去っていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ドゥルール・ブラッドティアーズ
WIZ
下層で死んだ者達の魂が行き着く、ダークセイヴァー上層……
この何処かにママの魂も…… いや、きっともう居ないわ

半吸血鬼にして数多のオブリビオンの魂を宿す私を
黒犬は警戒して村に入れてくれなさそうね

そう邪険にしないで頂戴。
私は貴方の邪魔をする気は無いわ

守護霊(このこ)達?
私の友達で恋人で家族よ。
私は世界から爪弾かれる者達の救済者なの

人間を脅かすオブリビオンが
幸せそうに私に寄り添う光景は
彼にとって不快かしら

救うべきは人間?
半吸血鬼というだけで石を投げてきた連中を?
悪魔の子を産んだ魔女だからと
病に倒れた母を助けてくれなかった連中を?

そんな事はどうでもいいわ。
私は貴方が同族殺しなのか問い詰めに来たの




 ダークセイヴァー上層。
 そこは第四層――我らの知るダークセイヴァーの人々の死後に至る地獄。
 彼らは死後、ここで魂人として二度目の生を受け、幸福な記憶を代償に過酷な世界に抗うことを強いられている。

「(……この何処かに、ママの魂も)」

 ドゥルール・ブラッドティアーズ(狂愛の吸血姫・f10671)がその存在を知った時、真っ先に思ったのは今は亡き母の存在であった。
 半吸血鬼として生まれた自分を愛してくれた唯一の人間。かけがえのない家族だった愛しい女性。

「(……いや、もうきっと)」

 少しだけ期待してしまったその思考をすぐに振り払う。
 例え魂人として再び生を受けても、今も尚生きているとも限らない。
 何より幸福な記憶を対価として死を否定する特性から、最早娘である自分のことを正しく認識してくれるかも、わからないだろう。
 娘の推測に過ぎないが、母に幸福と呼べるだけの記憶は……果たしてどれだけあったのだろう。

「(今はそれよりも考えるべきことがあるわ)」

 ドゥルールの前には件の村が広がっている。
 ここからでも村の人々の様子が見られて、その中には少年――"黒犬”もいる。
 表情は無表情なれど、警戒している様子を見て取るには容易だった。
 そもそもとして、ドゥルール自身はオブリビオンの救済を掲げる存在であり、これまでの報告書を見るに黒犬はそれとは正反対の存在と見て良い。
 となれば、半吸血鬼でもあり数多のオブリビオンの魂を宿しているドゥルールを、魂人たちに危害を加えるかもしれない存在と認識し警戒するのは当然だろう。
 村には入れてもらえなさそうだ、と思っていたのだが。

「……話がしたいなら、入っておいで。そこで話をしようとすると、話をする暇もないようなことがたくさんやってくるよ」
 
 意外にも黒犬から促してきた。
 実際このダークセイヴァー上層の環境を踏まえると、目的の話をするにもゆっくりできなさそうなのは事実。
 ドゥルールはその申し出を受け入れ、黒犬の元へ向かう。
 彼女が入ってきたのを確認した黒犬は、比較的人気のない場所へと誘導する。
 それは万一のことに備えてなのか、否か。少なくとも黒犬の視線から警戒の色は消えないままだ。

「そう邪険にしないで頂戴。私は貴方の邪魔をする気はないわ」
「別にぼくは何とも思っていないよ。むしろ、お姉さんの周りにいる"子"たちの方がぼくを警戒している方が正しいんじゃない?」
「あら」

 ドゥルールが背後にいる可愛い守護霊たちに目を向けると、いつ黒犬が動いても良いように彼女を護れるように身構えている。
 大丈夫よ、とドゥルールが言い聞かせれば、「ルルがそう言うなら……」と言いたげに大人しくなるが、それでも警戒は解かないままだ。

「随分と懐かれてるね」
「ええ、私の友達で恋人で家族よ」
「変わった人。生者でありながら、骸の海より至る死者に寄り添うなんて」
「私は世界から爪弾かれる者達の救済者なのだから、当然よ。
 ……それとも、人間を脅かすオブリビオンが幸せそうに私に寄り添うのは不快かしら?」
「別に。でもそれに肯定を示せる立場でもない。
 けど、死んだ後の魂がそれで安らかになれているのなら――お姉さんと一緒にいる子たちにとっては良いことなんじゃない?」
「……貴方。同族殺しなのかそうじゃないのか、どっちなのかしら?」
「どっちでもない。彼らが人に害を成したり、ぼくの邪魔をするなら相手をする。そうじゃないなら関与しない」

 同族殺しと定義するには材料の足りない回答だ。
 オブリビオンに無闇に危害を加えないならドゥルールとしても邪魔をするつもりはない。
 だが、人を心から憎悪する彼女にとってこの黒犬が救うに値するような存在がこの世にいるとは思わないし、思えない。
 故にこの質問だけは最後に投げかけておこうと、口を開く。

「救うべきは人間?」
「ぼくはその為に生まれてきた存在だからね」
「半吸血鬼というだけで石を投げてきた連中を?……悪魔の子を産んだ魔女だからと病に倒れた母を助けてくれなかった連中を?」
「"死は平等”だよ。死というものに貴賤はないし、その仕打ちを非道だと裁くのはぼくじゃない」

 死して輪廻に帰る前、然るべき選定が然るべき者によって行われる。
 ドゥルールとその母が受けてきた非道な仕打ちを罪とみなすか否かはその時に判断されるものだ、という。
 確かに同族殺しというワケではないが、決して自分とは相容れない存在だという確信を抱くには十分だった。

「……そう。とりあえず同族殺しじゃなければそれでいいわ、私はそれを問い詰めにきただけだもの」
「納得してもらえるだけの答えは出したつもりだよ」
「ええ、よくわかったわ。貴方とは決して相容れないって」
「そうだね、ぼくもそう思う」

 黒犬はそう言って、踵を返すドゥルールを見送る。
 死者の魂を宿し、永遠の存在として寄り添うドゥルールと、死は安らかな終わりをもたらすものとし、次の生に繋げることを是とする黒犬。
 両者が相容れないのは必然の運命と言うより他ないだろう。
 次に二人が相見える時は、それこそ戦いの火蓋が切って落とされた時になるハズだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

館野・敬輔
他者絡みアドリブ大歓迎

…輪廻転生の輪を正しく機能させるため?
それがあの、少年の目的?
この世界に輪廻転生の輪自体があるとは思えないけど
勝手な希望で魂人の命を奪わせるわけにはいかないな

僕はあえて少年とは接触せず魂人との交流に精を出そう
野菜の収穫を手伝いながら、他愛ない会話に興じようか
あ、なかなか抜けないようなら僕が「怪力」任せに引っこ抜くよ
力仕事なら任せておいて

(初めて見る上層産野菜に面食らう)
土壌が異なれば、ここまで変異するもの?
まあ、それでも貴重な栄養源…だよな

収穫に精を出しつつ村全体を「視力、世界知識」で観察し
最適な逃走経路を導き出しておこう
…彼らを救う為なら、手段を選ぶつもりはない




 時は少しだけ遡り、ミリアリアと少年の会話を偶然にも聞いた猟兵が一人。

「(輪廻転生の輪を正しく機能させる為……?それがあの、少年の目的?)」

 館野・敬輔(人間の黒騎士・f14505)は眉を顰める。
 彼はこの世界に置ける輪廻転生の輪があるなどと、とても思えなかった。
 魂人の存在こそ、輪廻の輪そのものが存在しないことの証明に等しいようにも感じてならない。
 とはいえそれらも全て敬輔の憶測に過ぎないのだが、少年のその目的もあるとも限らないものを期待しての身勝手な希望に過ぎないのだ。
 そしてその結果として齎されるのが魂人たちの死であるなら、尚の事。

「(奪わせるワケには、いかないな)」

 その場を立ち去る少年を一瞥して、敬輔は人々の輪の中に入る。
 また新しいお客さんだと魂人たちは喜んだ。
 外が外であるが故に客人がこうも何人も訪れるのは中々ないことだからと。
 ダークセイヴァー上層の環境を考えれば、来訪者を警戒する魂人たちもいてもおかしくないだろう。
 そんな中こうして歓迎してくれるということは、それ程この村の環境が良いことの示唆である。

「丁度良いところにきたねえ。今日は収穫の日でね」
「収穫ですか、それは良いことです。もしよろしければ僕もお手伝いさせて頂いても?」
「本当かい?じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかなあ。男手があるのはありがたい限りだよ」

 実際、畑仕事というものはかなり力仕事な側面が大きい。
 仮に野菜のひとつひとつがさほど重量がないとしても、それが積もれば相当な重量だ。
 しっかりと土に埋まった根菜を抜くのも簡単そうに見えて簡単ではない。

「んっしょ、んーっしょ」

 敬輔の視界にお手伝いとして野菜を抜こうと頑張っている子供の姿が目に映る。
 色が微妙に自分の知っているものとは違う気がするが、葉の形状からして大根を引っこ抜こうとしているのだろうか。
 大根一本の大きさを考えると子供一人が簡単に抜けるものではないが、頑張っている姿が何とも微笑ましい。

「大丈夫かい?よかったら手伝おうか」
「ホント?ありがとうお兄ちゃん!」

 子供が持っている位置より根元を握り、せーのと二人で引っこ抜く。
 勢いで子供が尻餅をついてしまわない程度の加減はすれど、怪力と言える程に腕力に優れた敬輔の手が加わったことによりそれはもうすぽん!とあっさり実が姿を現して。

「 」

 刹那、敬輔は宇宙猫顔と化した。
 大根と思って引っこ抜いたらどう考えても真緑である。それはそう、きゅうりのように。
 しかしそれでも見た目は大根である。でもよく見ると赤いラインのようなものもかすかに光ってないか?
 考えれば考える程宇宙猫顔不可避なその見た目、敬輔の知る野菜の概念とはあまりにも程遠い故に面食らってしまうのもまあうん、無理はないだろう。
 土壌が異なるからとはいえここまで変異するものなのだろうか。

「(まあ、それでも貴重な栄養源……だよな)」

 考えたところで宇宙の闇のような謎が広がるばかりな気がして、考えるのはやめた方が無難そうなので敬輔はこれについて考えるのをやめた。

「お兄ちゃんすごーい!大根がすっぽーんって抜けたよ!力持ちなんだね!」
「(あ、やっぱりこれ大根なんだ)」

 魂人たちはすっかりこの奇妙な野菜に慣れているのだろうな、と思いつつ。
 野菜をきっかけに村人たちと他愛無い会話をしながら敬輔は収穫に励む。
 たまに子供たちがその力強さに目を輝かせて集まってくるので、腕にぶら下げる形で数人持ち上げてあげたり、
 村の人が差し入れにと焼いたじゃがいも――見た目はどう見ても大きなブルーベリーかと思う程に真っ青だが――をくれて、休憩がてらおやつとして頂いたり。
 そうしてわずかな間その輪に入っただけでも、彼らが穏やかに笑って過ごせているのがよくわかる。
 皆が皆、目が生きる希望に溢れているのだから。
 故に、彼らを救う為なら敬輔は一切の手段を選ぶつもりはなかった。
 子供たちの相手をしつつ、村の大人たちとも会話を交わしながらもその目で村を注意深く見渡し、地形を把握することで最適な逃走経路となり得るルートに目星をつける。
 その中で時折視界に例の少年――”くろいぬ"の姿も入るが、敢えて接触はせずにそのまま村人たちの輪の中に入り続けた。
 少年もその意図に気づいたのか、それとも他に何かあるのか話しかけにくることはなく。
 だが、とても微笑ましいというような顔で、こちらを見ていたのは確かだった。

「(……警戒は怠らないようにしないと)」

 いつあちらが動いても対応できるように。
 魂人たちに気取られぬよう穏やかに微笑む表情の裏で、思考は限りなく冷静さを保っていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

リア・アストロロジー
アドリブ連携歓迎です。

●お野菜
さつまいも……キャベツやかぼちゃもあるのかな?
わんこが好きそうなお野菜。

あ、わたしは調味料を少し持ち込んで、できれば簡単なお料理をお手伝い。
フライパンで焼き野菜や味噌スープなどでしょうか。
今の内にたくさん食べて英気を養っていただきたいです。

●くろいぬさんと
出来たお料理は良かったらくろいぬさんも一緒に。

猟兵とオブリビオンは敵同士なのかもしれませんけど。
わたしはわたし自身の目で見て考えて、決めたいです。
死も過去も、いずれは誰もが辿る道。
それに敵意の無い相手を一方的に憎んだりはしたくありません。

くろいぬさんは、もうこれ以上苦しませたくなかっただけなのですよね。
その時、その場所で。その為の方法が『それ』しかなかったのなら……少なくとも『わたし』にはその行為を咎める資格はありません。

でも、くろいぬさんはそれで大丈夫ですか?
失うことに慣れたりするのは、簡単じゃないから……

せめて亡くなった方たちへ黙祷を捧げます。
いつかは、疵を負った過去もその傍で安心して眠れるように、と。




「さつまいも……キャベツやかぼちゃもあるのかな?」

 リア・アストロロジー(良き報せ・f35069)は穫れたての野菜たちを確かめる。
 まじまじとその見た目を眺め、時には手に取って。
 どれもこれも妙な色だったり透き通っていたり逆に鉄のような錆びた見た目をしているが、確かに自分たちのよく知る野菜と類似した点は多い。
 そして一つ、これらの野菜に共通点を見つけた。
 
「わんこが好きそうなお野菜……」

 そう、犬が好んで食べる野菜によく挙げられるものばかりなのだ。
 ついでに言うと、野菜嫌いな子供でも比較的おいしく食べられる野菜な気もするが多分それはきっと気の所為かもしれない。
 きっとあの"くろいぬさん"も好きなのだろうか。

「今日もいっぱい獲れたねえ……よし、じゃあ早速拵えるとするか!」

 村の女たちが皆腕をまくり、調理器具を取りに行く。
 収穫の日はこうして皆で集まり、料理を作って食卓を囲む習わしがあるそうだ。
 とても素敵な習わしだとリアは思った。
 こんな過酷な世界であるからこそ、穏やかな食卓を皆で囲むというものは尚の事大事であるが故に。

「あの、わたし、簡単なお料理なら作れるんです。よかったらお手伝いしてもいいですか?」
「あらまあ、優しい子ねえ。じゃあせっかくだからお言葉に甘えちゃいましょうか」
「ありがとうございます」

 ぺこりとお辞儀をして、リアも持ち込んだ調味料を手に台所へ。
 とはいえ別段凝ったものを作るよりは、シンプルに野菜の味を感じられる料理が良いだろうと思いフライパンで焼いた野菜に塩を少しだけ振ったり、
 味噌スープの具に野菜をふんだんに使ったものといった程度だ。
 だがその"程度"と侮るなかれ、おいしく食べて欲しいという真心さえあれば、想いも通じるしどんなシェフが作った料理にも勝り得るものなのだ。
 
「(今のうちにたくさん食べて、英気を養って頂きたいです)」

 そう遠くない内にこの平和が崩れてしまうのを知っているからこそ、少しでも生きる活力となれば――と。
 そんな想いを込めて作った料理を食卓に運び、皆によそっていく。
 村にたちまち立ち込めるおいしい食事の香り……そしてそれらは当然、例の少年にも届く。
 皆がおいしく食事を食べている中、耳をぴこぴこと動かしてやってきた黒犬に、リアは食事の乗った器を差し出した。

「よかったら、くろいぬさんも一緒にどうですか?」
「ありがとう」

 少女から器を受け取り微笑む少年の図は、おそらく誰がどう見ても、これから敵対することになる姿とは思えぬ程に平和な光景だ。
 団欒とは少しだけ離れた場で、食事を口にしながら、黒犬はリアにふとこう切り出した。

「不思議だね。敵同士なのに普通にお茶を飲んだり、こうして一緒にご飯を食べたりするのは」

 確かに不思議ではある。
 猟兵とオブリビオンは決して相容れない存在で、猟兵によってはオブリビオンを不倶戴天の敵とすら認識している者も決して少なくはない。
 だが、リアは。

「確かに、猟兵とオブリビオンは敵同士なのかもしれませんけど……わたしは、わたし自身の目で見て考えて、決めたいんです」

 死とは、いずれ全ての生命が最後に至る過程であり、過去は常に今を生きる自分たちが消費して生きている。
 そしていつか死を経ることで、自分たちもまた消費された"時間"として骸の海へと至るのだ。
 蓄積された過去は、いずれ自分たちが通るであろう未来の姿の示唆でもある。
 だからこそリアは安易に敵視するのではなく、きちんと自らの目で確かめた上の選択をしたい、と。
 
「それに、敵意のない相手を一方的に憎んだりはしたくありません」
「ぼくが君たちを憎んでいない、そういう風に見えたんだね」
「だって、そうじゃなきゃこんなに穏やかにお話はできてないですよ」
「……そうだね。別に猟兵を嫌っての理由じゃないのはそうだよ」
「それに……くろいぬさんは、もうこれ以上苦しませたくなかっただけなのですよね」

 ダークセイヴァーは人間にとって非常に過酷な世界である。
 猟兵のよく知る下層の世界も、この上層の世界も。人が生きるにはあまりにも残酷で、無慈悲で。
 人々は皆嘆き悲しみ、苦しんでいた。
 それこそ、死することでの解放を求め、身を投げた者も決して少なくないだろう。

「その時、その場所で。その為の方法が『それ』しかなかったのなら……少なくとも『わたし』には、その行為を咎める資格はありません」
「……」
「でも」

 ――くろいぬさんは、それで大丈夫ですか?
 
 リアのその一言に、黒犬は少しだけ目を丸くした。

「どうして、そんなことを思ったの?」
「失うことに慣れたりするのは、簡単じゃないから……」
「……確かに、簡単じゃないことだっていうのはわかるよ。でもぼくは、その為に生まれてきたから」

 慣れる、慣れない以前の話なんだ――と、黒犬が空を見上げる。

「ぼくは、人間の"苦しみから解放されたい"という想いから生まれた。
 だからその為に、安らかな終わりを用意してあげるのが、ぼくの仕事」

 魂人は、幸福な記憶を対価に自らの死を否定することができる。
 だが、それ故に闇の種族たちもよりなおさら"遊び"に興じ、よりいっそう残酷な仕打ちを思いつくのだろう。
 そうして弄ばれ続ける魂人たちの姿をこれからも見続けることになる方が、黒犬にとっては何よりも辛いことだと、本人は言う。

「だから、もう苦しまなくていいようにしてあげたかったんだ」

 苦しみからの解放と、正常な輪廻の成立のために。
 
「君の言う通り、その為の方法がぼくには『それ』しかないから。
 だから、このご飯を食べ終わったら、ぼくと君は敵同士」

 どの道もうすぐ、同じ用にこの村を"終わらせる"予定であったから。

「だから、君たちの"救い方"を見せて。ぼくはぼくの"救い方"で人を救うから」

 それで一人でも生き残れないのなら黒犬が。
 それで一人でも多く生き残り、生きる理由を失わずにいられるのであればリアたち猟兵側の勝ち。
 最早単純な善悪の天秤にかける程度のことではなく、互いにとっての信念のぶつかり合いなのだ、と。
 故に、証明して見せて欲しいと。

「……わかりました」

 なら、リアもそれ以上は言うまいと口を閉ざし、黙祷する。
 ここに至るまでにその生を終わらせざるを得なかった全ての者へ。
 いつかは、疵を負った過去も。その傍で安心して眠れるように。
 暗闇に星粒を散りばめるかのような静かな祈りが、果たして彼らの元へ届いたかは――その静かなる祈りを捧げられた者にしか、わからないだろう。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 ボス戦 『『生命枯らせし鷹羽の犬』』

POW   :    黒嵐佇む鷹羽の犬(ケイモーン・ムストノテロス)
戦場全体に【黒い砂嵐】を発生させる。レベル分後まで、敵は【生命力吸収】の攻撃を、味方は【吸収した量に比例する生命力付与】の回復を受け続ける。
SPD   :    生命穿つ冥赫剣(アンフェールズツヴァイハンダー)
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【生命を吸い取る赫き剣】で包囲攻撃する。
WIZ   :    冥界の使徒(インフィエルス・アポストル)
【顕現可能時間を代償に将来の青年体の姿】に変身し、武器「【である生命吸収能力】」の威力増強と、【他者の生命力を弱らせる黒い風】によるレベル×5km/hの飛翔能力を得る。

イラスト:倉葉

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠エインセル・ティアシュピスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 結局、その日は何も起きず、魂人たちの厚意で一夜を過ごし、そして。

「きゃああああああああ!?」

 ――翌日の朝、それは突然に起きた。


「な、何だアレ、黒い風が……!!」

 魂人の悲鳴が響き渡る。
 猟兵たちが各々武器を構え、外に飛び出せば黒い竜巻が村を覆わんとしていた。
 魂人たちは"今のところは"全員無事だ。
 それも"わざわざ"村の中央に集められた状態で。

「――時がきた」

 猟兵たち、そして魂人たちの前に、黒犬はゆっくりと舞い降りた。

「改めて自己紹介をしようか。名前はないけどね。
 ……ぼくは生命がいつか必ず辿り着く"死"そのもの。全ての生命の終わりを見届ける者。
 あなたたち、全ての世界のあまねく生命の"苦痛から解放されたい"という想いから生まれた神霊だ」

 死とは"過去”とある意味で最も密接な概念である。
 つまり、骸の海に近い存在。
 ある意味でオブリビオンであって、ある意味ではオブリビオンではない――それがこの"黒犬"であるという。

「このダークセイヴァーの上層に生きる魂人は死ぬことも許されず安寧を得られずにいる。
 だからぼくは、輪廻を正しい形に戻す為に、あなたたちを殺さなければならない。

 ……だから、"この場にみんなを集めた"。
 ここには、あなたたちの"生きたいという願いを叶える為にきてくれた人たち"がいる」

 黒犬の視線が、猟兵たちをまっすぐ見つめる。
 グリモア猟兵の予知では、このような流れはなかった。
 つまりこの時点で猟兵たちが考えうる"最善の選択"に近しい展開を迎えていることは確かだろう。
 ただ、それを提示するのが"あちら側"であったことが予想外であることは間違いないが。
 信じられない、という目で黒犬を見る魂人たちに、黒犬は淡々と告げる。

「この世界はあまりにも残酷で、ここから出たらあなたたちは生きることもままならなくなるかもしれない。
 それでも生きたいと願うなら、彼らと共にぼくに抗うといい。
 別に戦えというワケじゃない、彼らと一緒にここから脱出して、ぼくが操る"コレ"から逃げ切れば、あなたたちはまだ"生きることができる"ということだから」

 黒い竜巻は今も村を取り囲んでいる。
 だが、偶然かそれとも意図的か、村の入り口に当たる箇所だけ、一切黒い風に呑まれていないのだ。

「だけどもちろん、ぼくもただで逃がすつもりはない。あまねく生命の"死"を司る者として、安息の闇に送る使命があるから。
 ……だから」

 黒い風が黒犬の周囲に吹き荒れる。血のように真っ赤な剣が空を覆い、その目は猟兵たちをまっすぐに見つめている。
 ――これから戦う相手として。

「猟兵さん。あなたたちで、彼らを護り通して見せて。
 そしてぼくに証明して――あなたたちの言う"救う方法"を」



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 MSより:プレイング受付開始致します。
 新機能としてルビ振りが実装されましたが、ご希望の方は◎をご記載ください。
 記載ない場合は基本ルビ振りなしと致します為、あしからずご了承ください。
アディリシア・オールドマン
◎POW アドリブ連携歓迎

うむ、倒すのは無理だな。魂人を犠牲にする訳にはいかん。
邪魔をさせてもらうぞ、黒犬。

陽の光のないこの世界ならば、暑さに苦しむことがない。
それが数少ない利点だな……。
今は守る時だ。
(黒鎧が、封印解除により真の姿としての防御に適した形状に変わる)

大盾”モロク”を構えて黒犬に踏み込み、この身を以て守護をする。
赫き剣も、暴風も、砂嵐も構うものか。
仲間や魂人たちを守るために攻撃に意識を割かず、積極的に身を乗り出して防御専念だ。
救出・逃亡のための時間を稼ぐぞ。

……無為と思うか?
知ったことか。私は考えるのは苦手でな。
わかるのは、やるか、やめるかだ。そして今、やめる選択をする気はない!


津崎・要明
村人って全部で何人だ?
ぶっちゃけヤバい場面に来てしまった気がするが、時間が無い。撤退工作に入ろう。

手順はこうだ
1.【迷彩】した「Delphis」を最大戦速で村から離す
2.他の猟兵が交戦する間に「Otters」を少し離れた場所に停める
3. 「Otters」の中にゲートを設置、転送先は「Delphis」の中
4.「Worker bees」で交戦の様子を【情報収集】、【鎧無視攻撃】【砲撃】【遊撃】しながらバリア【結界術】で冥赫剣を防いだり「Falster」のレーザーで消滅させたりして足止めしよう。
5.村人を「Otters」のゲートに誘導
出来るだけ助けたら自分も「Otters」を運転して離脱だな。




「(おいおい……村人って全部で何人だ?)」

 駆けつけて早々、探査船内の窓から黒い風に呑まれつつある村を目の当たりにした津崎・要明(ブラックタールのUDCメカニック・f32793)。
 
「(ぶっちゃけヤバい場面にきてしまった気がする……が)」

 状況を把握するには少し時間がいるが、それでも理解できているのは「時間がない」というその最も重要な1点。
 ならば行動は疾きに越したことはないだろう。
 要明は愛用のタグボート『Otters』に乗り込み、持ってきた探査船『Delphis』を遠隔操作して迷彩機能を起動。そのまま最大船速で村から離す。
 できる限り遠くへ……そう、この黒い風の届かぬ場所までへと。

「(よし、あとは……!)」

 黒い風がまるで意図的に避けている入り口で仲間が魂人を護る為に前に出ているのを見ながら、要明は『Otters』を村の近くへと停止させ、より現状を正確に把握すべく、徘徊型の飛行兵器『Worker bees』を放った上で村へと駆け込んだ。


「くろいぬさん……うそだよね……?」

 魂人の少女が絶望した表情で呟く。
 彼らは死を否定する代償として、幸福な記憶を心の傷に変えていく。それには老若男女などは当然関係ないが、信頼していたものに裏切られたと感じることもまた、幸福な日々を心の傷に変えるには十二分すぎるだろうか。

「嘘じゃないよ。だからこそ、ぼくがゆるせないというのなら、この場を生き延びて」

 黒犬は淡々と告げながら、黒い風を凝縮させた刃を放つ。
 だがそれは村人には届かなかった。
 自らが纏う黒鎧の封印を解き放ったアディリシア・オールドマン(バーサーカーinバーサーカー・f32190)が、|【我が身を盾に】《シールド・プロテクション》することでその生命を吸いとる黒の刃を弾いて見せたのである。
 その純白の大盾――”献身供犠”モロクの表面を黒の刃がかすめていく。
 黒い刃に秘められた力――生命を吸い取る特性は、ユーベルコードによって欠損した部位すらも完璧に修復して見せる再生能力を得た彼女であっても、防ぐだけで"生命が削り取られた"と感じる程のものだった。

「(……うむ、斃すのは無理だな)」

 ここまで強力な生命吸収の能力を持ち、村をそれで覆える程の実力。
 黒犬への迎撃と魂人の守護の併用は不可能だとはっきりと自覚した上で、|大盾《モロク》を構え、だん!と地に突き立てる。
 幸いこの世界には陽の光というものが存在しない故に、このユーベルコードを用いることによるデメリット――陽の光に弱くなるという特性――が存在しない。
 故に、いくらでも立っていられるのはこのダークセイヴァー上層における戦いでの数少ない利点だろう。

「邪魔をさせてもらうぞ、黒犬」
「あなたなら、そうすると思ってたよ」

 淡々とした口調で、再び黒き風を放つ黒犬。
 動揺で動けなくなっている魂人を狙ったそれを、アディリシアはすかさず間に割って入り受け止める。

「大丈夫か」
「は、はい……!」
「私が盾になっている間に逃げろ。常に私の真後ろをキープしつつ距離を取るんだ」
「え、えっと……」
「お前たちは死んでいい存在じゃない――だから私が護る。さあ、早く!」

 動揺で判断の鈍っている魂人たちを、身を挺して庇うアディリシア。
 その姿に|普段の彼女らしさと言えば真っ先に挙げられるであろう特徴《バーサーカーinバーサーカーと言われる程の凶暴な攻撃性》は一切なく、高潔なる騎士そのものにすら人々には見えるかもしれない。
 恐る恐るこくりと頷いて、魂人たちが少しずつ逃げるために黒犬に背を向ける。

「……この力を前に、堂々と身を盾にする人は初めて見た」
「無為と思うか?知ったことか。私は考えるのは苦手でな」
「勇敢だと思うよ。このままお姉さんが僕に倒されなければ、だけど」

 倒れれば勇敢ではなく無謀という評価になるだけだと言いながら、黒犬の周囲に赫く輝く剣が現れる。
 100本を優に超えるその剣は幾何学模様を描くかのように飛び回り、魂人たちへと向かっていく。
 させるものかと迷わず身を乗り出すアディリシアだが、その変則的な軌道はそう簡単に読めるものではなく、いくつかが彼女の防御をすり抜けて一目散に向かいその身を貫こうとするが、唐突に飛来した弾丸がそれを弾いた。
 赫い剣が、まるで最初からそこになかったかのように霧散して消えていく。

「よし、間に合った……!」

 まさに絶妙なタイミングで、要明が『Falster』から放ったエネルギーそのものを変換させる銃弾が命中したのである。
 同時に彼が村に忍ばせた『Woker Bees』からも同様に牽制射撃が放たれ、黒犬の想定を外れた位置へと弾いた。
 多方向からの攻撃に対抗すべく黒犬が黒い砂嵐を解き放つが、アディリシアの盾と要明の展開したバリアがそれを遮断する。

「すまないな、助かった」
「めちゃくちゃヤバい時にきたが何とかなりそうでよかったよ……!この先に"ゲート"を開けてあるから、そこまで彼らを誘導しよう」
「わかった。なら防衛ラインの維持は私に任せろ。お前は魂人たちの避難を頼む」
「無茶な……と思ったけどユーベルコードで保障は用意してあるみたいだな。わかった」

 懸念要素があったとしても躊躇している暇はない。要明は怯えて固まる魂人たちに向かって叫んだ。

「村の外にボート――船を停めてある、そこまで走って!安全な場所に逃げられるようにしてあるから!」
「さあ行け!ここは私たちが食い止める!」

 アディリシアは引き続き盾となり、要明は『Wb』との連携で魂人に向かう攻撃に割り込んで阻害し続ける。
 魂人たちはそれを怯えながら見ていたが、次第に一人ずつ再び勇気を振り絞って立ち上がり、村の外へと一目散に逃げ出し始めた。
 だが全員が全員、その選択ができるかと言われるとそうではない。
 未だ信じていたものに裏切られたショックで動けなくなっている者、単純に死が迫る恐怖に立ちすくむ者もいる。
 そして黒犬は当然、容赦なくそれらを狙って攻撃し――そんな彼らをアディリシアが庇い、要明が支えて逃亡を促していく。

「本当に勇敢だね。無謀で終わらなくて済みそうな程には」
「先程も言ったが、知ったことか。わかるのはやるか、やめるかだ――そして今、やめる選択をする気はない!」

 黒と赫が襲い、白と黒が立ち向かう。
 両者は拮抗し続ける。
 アディリシアの献身と要明の迅速な撤退工作により、村に住んでいた魂人たちの中から犠牲者となる者は、今のところ現れていなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携大歓迎

魂人を殺させるわけにはいかないが
まともに戦うだけの手数はないので
ここは逃げ一択

そちらが手数で逃亡阻止するなら
こっちも手数で対抗だ
指定UC発動、分身を10体生成
分身は全員漆黒の「オーラ防御」を展開し動けない魂人を庇いながら
冥赫剣を「武器受け、武器落とし」で叩き落とし時間稼ぎ

俺自身は確認済みの逃走経路へ魂人を誘導し村外へ逃がす
動けない魂人は「怪力」で抱えて走ろう
他猟兵が仕込んだ仕掛けも積極的に利用していきたい

黒犬には一応言っておこう
この世界で正しく“殺せば”、骸の海に送られると本気で思っているのか?
神霊と自称しても、貴様の行為は生命を弄ぶ闇の種族そのものだぞ?




 魂人たちの避難は今のところ順調だ。
 だが動揺やショックから動けない魂人たちも当然いる。
 当然だろう、自分たちを匿い平穏な生活を与えてくれた相手が、自分たちを殺しにくるのだから。
 それに何の感情も感じなくなってしまえば、それこそ心が死んでしまって戻らなくなっているのと同じである。
 だが、目の前の少年はそれに猶予を与える程甘くはなく――それも本人の言葉を取るなら彼なりの想い故、ではあるのだが――、容赦なくユーベルコードを発動する。
 無数の赫き剣がその生命を穿たんと放たれ、その内の一本が魂人を貫かんとするまさにその刹那、間に入った黒い影がそれを弾く。
 館野・敬輔(人間の黒騎士・f14505)の剣が、赫き剣を弾き折ったのである。
 どの方角から飛ぼうが知ったことかと言わんばかりに、その生命を吸い取る赫剣を叩き落とし、時にはその膂力が赫き刃そのものをへし折って、剣たちは傷を与えることすらできず地に落ち、砂と化していく。

「皆さん!広場の出入り口から向かって右手側へ!そうすれば建物を壁にして安全に避難できます!」
「わ、わかった!ありがとう!!」

 黒犬の猛攻を食い止めながら魂人たちを次々と出口へ誘導していく敬輔。
 事前に逃走経路を仲間たちに共有してあるし、村の外へ停められている避難ボートとの距離も恐らくそう遠くはないハズだ。
 そして割り出した逃走経路の意図は無事機能しており、万一敬輔が防ぎきれなくとも魂人たちの姿が隠れることで被害は建物が全て代わりに被ってくれる。
 流石にこの"自称"神霊とやらは、視覚で認識できない状態の相手に攻撃を正確に当てるまでにはまだ至らないようだ。

「村を俯瞰するように視線を向けているのが多かったのは、やっぱりそういうことだったんだね」
「わかっておきながらそれを許したなんて、傲慢だな」
「あなたや村の人たちに生きたいと思う人がいなければそもそも使われないものだよ」

 そう、そこにいる人のように――と、黒犬の赫き剣が敬輔とは正反対の位置にいる魂人の女性へと向かう。
 流石に今から庇うのでは距離が間に合わない、だがそれを可能にするのがユーベルコードである。
 既にこの無数の剣に対処すべく、敬輔は【渾沌闇技・分身乱舞】により自らの分身を10人生成し、それらを魂人の護りに当てていた。
 同じように実体を有する分身たちは一部が白化した体を漆黒のオーラで包むことで生命を吸い取る赫を拒絶し、魂人たちの避難を次々と促していく。

「お兄さんがああして実体のある分身を、その数だけ攻撃を受ける程生命が削られる危険も覚悟の上でああして避難させても、本当に生きる気がなければ梃子でも動かない。
 でもそれで動いているということは、みんな生きたいと思えるだけの優しい思い出がきっとまだ残っているんだね」

 黒犬が淡々と語る。
 だが敬輔にはそれがとても白々しく見えた。
 彼の思う"輪廻の輪の存在"を一切信じるつもりもなければ信じられないが故に。

「……この世界で正しく"殺せば"、骸の海に送られると。本気で思っているのか?」
「てなければ、死を司る神霊だからってこんなことはしないよ」
「そう自称しても、貴様の行為は生命を弄ぶ闇の種族そのものだぞ」
「そう見られることを否定はしないし肯定もしない。生命の数だけ解釈があるし、お兄さんがぼくにその感情を抱くのをぼくに否定する権利はない。
 お兄さんたちの"彼らを救いたい"という気持ちも、見る目が違えばただの自己満足やエゴだと解釈される可能性があるように」
「――わかっててやっているなら、最早言うことはないな」

 はっきりと自分たちの"敵である"という主張をしたのなら、これ以上の問答は必要ない。
 とはいえ、まともに戦うだけの手数がない以上、逃げの一手を投ずる以外にはない状態だ。
 魂人たちの生存こそ最優先事項、この世界が存在する限りまた相見えることもあるだろう。
 本気で斃す為に戦うのはその時だ。
 
 再び放たれた赫い剣が魂人の子供を狙うのが見え、すかさず間に入って防ぐ。
 
「大丈夫か!?」
「お、おにいちゃ……ふえ、えええ……」

 その子供は偶然にも昨日、畑で野菜を抜くのを手伝ってあげた子だった。
 優しく声をかければ泣き出して、とても自力で逃げられる様子ではない。
 昨日の無邪気な笑顔が消えた――否、奪われたという事実は決して許してはならない。
 だがその怒りをぶつけるのは今ではない。
 
「……しっかり捕まっているんだよ」

 敬輔は子供を抱き上げ、自らの割り出した逃走経路へと迷わず駆け込む。
 避難させるまでのその間に、白化した分身体が各々黒犬を翻弄し阻害。

「やっぱり、一筋縄ではいかないね。猟兵さん」
 
 建物に視界を遮られ、ターゲットを絞れない黒犬はこうしてまたも魂人を殺すことができなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ドゥルール・ブラッドティアーズ
共闘グロ×
POW


人間っていつもそうね。過去を何だと思ってるの?
私の母なら、私との想い出を代償にしてまで延命なんてしないわ

でも、永劫回帰を繰り返して
自分を見失った果てがオブリビオンなのかも?
お前達で実験してみようかしら

縋ってくる村人を脅して追い払う。
邪魔しないと言ったのにって怒るかしら黒犬

見たくなったの。
数多の猟書家やフォーミュラを倒してきた猟兵でも
勝ち目は薄いという貴方の力を

オーバーロードで黒炎の翼を生やし【空中戦】
普段は相手を気遣って抑えてる力の【封印を解く】と共に
守護霊の憑依【ドーピング】で
UCと見紛う程(技能100)の戦闘力増強。
ドレインオーラ【生命力吸収・範囲攻撃】で吸収対決

んっ……くぅっ……
こんな……すごい……あぁっ……!

吸い負けても『永劫火生』で無限に強化復活。
私から吸った力で黒犬も強化?
否、媚毒の【呪詛】を含む私の生命を吸った彼は魅了
軽くても【マヒ攻撃】を受けたも同然

相容れないにしても
人の願いから生まれた貴方が人に否定されるのは理不尽だし
ショタはお姉さんに食べられるものよ




 猟兵たちの尽力もあって、魂人たちは今も尚生きて逃げ延びようとしている。
 魂人の性質は幸福を対価に死を否定する力。
 つまり、自らの記憶――過去を改竄してでも生へとしがみつく能力。

「……」
 
 ドゥルール・ブラッドティアーズ(狂愛の吸血姫・f10671)は魂人たちを見てはあ、と大きくため息をつく。
 そして、黒犬から逃げようとする魂人と彼との間に割って入るように降り立った。

「全く、人間っていつもそうね。過去を何だと思っているの?」

 心底見下げ果てた視線を向けるドゥルール。
 それはまるで黒犬に味方しているように見えるが、そう見せるのは彼女のいつも通りのスタイルだ。
 人間を憎悪し、オブリビオンの救済を掲げて戦う猟兵である彼女は、決してオブリビオンを理由なしに無闇に傷つけはしない。
 かといって、猟兵としての人々と世界を救うという従来課せられているハズの使命も疎かにするワケではない。
 彼女のスタイルは、従来の猟兵としての使命と自らの使命を両立させているが故に、例えどれだけ人間が憎くとも殺しはしない。
 
「私の母なら、私との想い出を代償にしてまで延命なんてしないわ」

 ――ただし、"殺しはしない"だけだが。

「でも……そうね。永劫回帰を繰り返して、自分を見失った果てがオブリビオンなのかも?」

 ――お前たちで、実験してみようかしら?
 
 にたりと笑うその笑みは、魂人たちから見れば正しく魔女のそれだろう。
 最も、人間如きに何を言われたところで最早気にするものではないのでとことんヒールを高くしていくだけ。
 魂人たちは悲鳴を上げ、ドゥルールから全力で離れようと走り出し、村の外へと向かう。

「……意外だね。もう帰ったと思ってた」

 少しだけ目を丸くして、黒犬はドゥルールを見ている。

「邪魔しないと言ったのに、怒るかしら?」
「ううん、別に。でもあなたはこれ以上は関与しないと思ってた」
「そうね、私も最初はそうだったんだけど……」

 ドゥルールの背から、黒炎の翼が伸びる。

「|超克の力《オーバーロード》――そう。そういうこと?」
「ええ、見たくなったの……数多の猟書家やフォーミュラを倒してきた猟兵でも勝ち目は薄いという貴方の力を!」
 
 黒の風とは全く別の、魔力の波動が吹き荒れる。
 背に広げる翼と同じ黒い炎は、彼女の燃え盛る情炎そのものであるかのように、黒犬が発生させた黒い風とぶつかって、互いを喰らい合う。
 恐らく全力をぶつける為にいては邪魔だから、魂人たちを追い払うことで全力を出せるように舞台を拵えた、というところか。
 そうすることで猟兵としての従来の立場を損なうことなく、自らの目的も達成できるように。

「お姉さんって、器用な仕事をするね」
「褒め言葉として受け取っておくわ。さあ――いくわよ」

 ドゥルールに付き従う守護霊たちが次々に彼女に憑依し、彼女の魔力をより高める。
 それは黒犬の持つ生命を吸い取る力に近しいものと言っても過言ではなければ、ただの術でありながら最早ユーベルコードと大差ない程の極致にまで至っていた。
 ぴりぴりとした刺激が黒犬の肌を駆け巡る。

「……いいよ。純粋に力をぶつけたいのなら、ぼくもそうさせてもらうだけだから」

 黒犬が手を掲げれば、村を覆っていた黒い嵐が彼の元へと集い、巨大な獣の姿を象る。
 同じようにドゥルールの放つ黒炎も淫魔を模したかのような、銃を構えた巨大な女性の姿を象った。
 片方が生命を刈り取る猟犬なら、もう片方はさしずめ猟犬を仕留める狩人。
 牙が、銃口が向き、ぶつかったその瞬間、常人であればその場に立ち続けることは決してままならぬ暴風が吹き荒れる!

「んっ……くぅ……っ!」

 苦悶とも恍惚とも取れる声がドゥルールの口から漏れ出る。
 こちらも現在の持てる力全てをぶつけているというのに、それでもこちらの吸収速度を上回るレベルで黒犬の黒い風がドゥルールから生命力を吸い取っていく。

「こんな……すごい……あぁ……っ……!!」

 だが、当然吸い負ける可能性は想定内だ。
 ユーベルコード|【永劫火生】《エターナル・ブレイズ》――瀕死になる度に一度灰に帰し、灰の中から蘇りさらなる力を得てドゥルールは再び黒犬に全力をぶつける。
 過去も未来も超越せしめん驚異的な再生力で、正しく不死鳥の如く蘇り続けては繰り返すのだ。
 一方、黒犬は涼しい顔で生命力を吸いながらも、その不死身の如き再生力には驚いた様子を見せる。
 
「これは……凄いね。死を司る神霊ですら吸いきれない生命力だなん、て――」
 
 ふと、黒犬の手から力が抜ける。
 生命力を吸われたのとは違う。まるで突然"力が入らなくなった"かのようにぷらんと片手が垂れ落ちる。
 もがれたワケでもないのに、まるで腕がなくなったかのように何も感じない――

「……なる、ほど。生命力そのものが、"毒"――」
「ふ、ふふ……ご迷答、よ……!」

 翼にすら力が入らず、黒犬が地に落ちると同時にドゥルールも灰になりかける手前の状態で地に身を下ろす。
 黒い風でできた猟犬も、黒い炎でできた淫魔の狩人も消え失せて。
 力が入らず起き上がれない黒犬に、立ち上がるのもままならない程に疲労している体を引きずってドゥルールが覆い被さった。

「私の生命にはね、媚毒の呪詛が含まれているの……本当なら貴方をこれで魅了してやろうと思ったんだけど、流石にそうは、行かなかったようね」
「どうだろうね。あと1,2回吸っていたらどうなっていたかわからないかもしれないよ」
「ふふ……ならこれは、私の勝ちってこと、かしら?」
「少なくとも、ぼくの勝ちではないかな」

 ドゥルールの手にその頬を触れられながら、黒犬は淡々と口を開く。
 生命力を散々吸われ続けたにも関わらず、その手には確かに体温を感じ取ることができる。

「――でも、どうして?相容れないとわかっているのに」
「相容れないにしても、人の願いから生まれた貴方が人に否定されるのは、理不尽だもの」

 頬から首筋、さらに下へと手を動かしながらもそう言って微笑むドゥルールのそれは、彼女が愛すべきオブリビオンに向けるそれと何ら変わりなく。

「それに、ショタはお姉さんに食べられるものよ」
「……ぼくは食べてもおいしくないよ?」
「可愛らしいことを言うじゃない。|生《エロス》の|性《リビドー》というものは知ってるでしょう?」
「……そういうこと」
 
 動けない以上はされるがままでしかないだろう。
 それを実際どう思うかどうかは本人にしかわからないが……少なくとも少年の姿をした黒い犬は、ただ淡々と眼前に広がる事実をありのまま受け止めた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ミリアリア・アーデルハイム
「死」は定命の者にとって、必ず最後に迎えるべきもの。本来なら四層での終わりに迎えに来る筈だった、という事でしょうか。
それは救いと言えるのかも知れません。でも・・・

彼等はまだ生きている

仮初だと言われようと、嘘だと言われようと、彼等が生きていると信じるならば、その意志を護り戦うまで!
『オーバーロード!』
背中から翼の様に生えた八枚の布状腕を伸ばし、遅れる魂人を絡め取りながら逃走を開始

屏氷万里鏡にオーラを纏わせ「砕かれる度にスピードを削ぐ」属性の結界として展開
くろいぬさんの進行方向を遮るように構築
さあ、走りなさい
生きたいと願うなら

私は生命を守護する「永劫炉の使徒」個々の意志と決断を擁護し他者の束縛を断ち切る断縛の女神
此処は我が『生命守護区域』望まぬ死を齎す者共の禁猟区です!


リア・アストロロジー
◎アドリブ連携歓迎です

●心情
黒い風……(呼吸を落ち着け)
かつて、|わたしたち《フラスコチャイルド》が造られた理由
わたしたちだけでは、超えられなかった終焉……だけど

●行動
避難のお手伝い。
バルタザールの重力操作を使ってドローンでの移動も。

「ここを出ても、第四層での死よりもつらい目に合うかもしれない。わたしたちがここにきた理由……グリモアの知らせだって万能ではないから、いつでも助けになんて言えません」

「それでも、わたしのいた世界は。黒い嵐に蝕まれ崩壊し、|アポカリプスヘル《黙示録の地獄》と呼ばれた世界の人々は、また未来へと歩き出すことができました。だから、今度はわたしも同じように手を差し伸べたい」

「迷ったときは、自分の心を、直感を信じてください。たとえ不正解だったとしても、最後に笑えるような……後悔のない道を進めるように」

UCは不気味な空を塗り替えて道標に。

「ありがとう、くろいぬさん。……またね」

仮初だったとしても、確かに幸福な時間をくれた、守ってくれていた。
人類の永遠のともだちに愛と感謝を。




 黒い風が村を包む姿に、リア・アストロロジー(良き報せ・f35069)の鼓動が逸る。
 呼吸が思わず荒くなるのを落ち着けて、状況をありのまま、冷静に受け止める。

 ……黒い風。かつてアポカリプスヘルにて発生したオブリビオン・ストームも、丁度このように真っ黒な嵐となって世界を襲った。

「(かつて、|わたしたち《フラスコチャイルド》が造られた理由――わたしたちだけでは、越えられなかった終焉……

  ……だけど)」

 今ここにいるのは、自分たち"だけではない"から。
 心を落ち着けて、精神感応制御式ドローン『|Balthasar《バルタザール》』を逃げゆく魂人たちの支えに向かわせる。
 重力を操作することで、脚の遅い者でも軽い足取りで逃げられるように――そして、黒犬の向ける力を人ではなく、地にぶつけさせる為に。
 
 彼女と同じように、ミリアリア・アーデルハイム(永劫炉の使徒・f32606)もまた『屏氷万里鏡』に術式をかけて魂人たちの盾とする。
 黒犬の赫き剣がそれを砕けば、鏡にかけられた術式が発動し、その勢いを削ぐことでゆるやかに地面に落としていく。

「……"今のぼく"では、難しいか」

 猟兵たちが自分に抗い、魂人たちを一人として死なせず逃している。
 その結果から、黒犬は自らの中に慢心があったことを自覚した。
 闇の種族に邪魔をされぬ――即ち匹敵するというだけでは、彼らに"試練"を課すなどというのは傲慢にも程があると。

「そのつもりがなくても失礼をしていたことを謝るよ、猟兵さん。
 ……あなたたちに立ちふさがるには、もっと力を出さなければならないね」

 黒犬の体を黒い風が包み……少年だった体を覆うように、青年の体を形作る。
 より大きくなった鷹の翼が広がると同時に、村を覆う黒い嵐がはより強烈に、最早暴走とも言える程に吹き荒んだ。
 そしてその一つが村の中へとついに侵略を始め、逃げようと藻掻くミリアリアたちへと襲いかかる!

「リアさん、魂人さんたちをお願いします!」
「ミリアリアさん!?」

 咄嗟にミリアリアが前に出て、『永劫炉の使徒』としての権能を解放し炉炎の結界を紡いだ。
 生命を賦活化させる炎が、生命を失活化させる黒い風を受け止め、黒と赤が拮抗する――!

「く、ぅ……!!」

 状態は拮抗――否、ミリアリアが少しずつ押されていってしまう。

「流石だね。この姿の僕の力も押し留めようとしている」

 青年の姿となった黒犬が静かに口を開きながら、黒い風を容赦なく叩きつけて。

「お姉さん。生命を司る神格の貴女は、死というものがどういうものかは理解しているよね」
「"死"は、定命の者にとって、必ず最後に迎えるべきもの……」
「そう。それはこのダークセイヴァーにおいても例外じゃない。――そのハズだったんだ」

 本当なら、第四層で死した後に輪廻の輪に迎えられ、次に平和な世に生まれられるかもしれなかった人々が魂人たち――黒犬は一貫してその解釈を譲らない。
 故に、四層で生命が終わりを告げる時に迎えに行くつもりだった。
 それが、いざ向かってみれば死しても尚生きることを”強いられ"、玩具のように闇の種族に弄ばれているではないか。
 
 「対価にする幸福な記憶が全て削られきってから初めて、遊び終えてつまらなくなったかと言うかのように殺される。
  あまりにも残酷で慈悲のない光景が広がっていた。それを目の当たりにした時の気持ちがどんなものか、貴女たちもわかるでしょう……!」

 黒い風が、黒犬の心境を表すかのように吹き荒れる。
 先程まで淡々と、冷静さと変わらぬ表情を崩さなかった表情が歪む。
 悔しさと、自らの無力さに打ちひしがれるような絶望感とが入り混じったような……

「(……なんて、悲しい顔)」

 魂人たちを避難させていくリアの目に映った時、嫌でもその表情にこもった感情を感じ取って、釣られるように悲しそうな顔をした。

「みんな、泣いていた。……叫んでいた。
 『痛い』『辛い』『苦しい』『助けて』『もう嫌だ』――どれだけ泣いても叫んでも奴らは喜んでさらに蹂躙していく!
 生命を蹂躙し、死を冒涜する奴らの諸行が僕は許せなくて、許せなくてたまらなかった!
 本当ならもっとたくさん笑って、人生を謳歌して、そうして往生していくべきなのが正しいことなんだろう……でも!

 彼らは一度"死んでしまった"んだ!!」
 
 一度死んだ生命が尚も留まり続けることは、生命の誕生のサイクルが乱れることを意味する。
 今は影響がないかもしれないが、やがてそうして生命が留まり続ければ停滞し、新しく生まれるハズの生命すらも転生することができない。
 そうして一度生命が停滞すれば、連鎖するようにその日に消費され、排出されるべき時間の量にも偏りが生まれる可能性があるとしたら?
 もし仮に時間が正しく排出できず、"蓄積されてしまったら"?
 当然それは机上の空論でしかなければただの杞憂でしかなく、猟兵たちが黒犬の行為をエゴであり闇の種族と同じように人々を弄び殺しているという評価も覆りはしない。

「……なんて、それらは所詮は僕のただの建前だ。僕はとにかく、彼らにこれ以上苦しんで欲しくなかった。
 でもこれしか、僕はやり方を知らない。
 だから、貴女たちがそれ以外を知るというのなら。僕にそれを証明してよ。
 
 僕のやり方が"間違っている"と!!断じれるだけの力を!!方法を!!!教えてくれよ!!!!」

 黒い嵐がさらに一つ、二つと重なり、ミリアリアの永劫炉の権能を喰らい尽くさんと猛威を振るう。
 
「く……ぅ……!」

 このままでは確実にジリ貧どころではない。
 その状態を覆す為の手段は、ある。だが少しでも解き放つ為とはいえ炉炎を弱らせれば、あっという間に飲み込まれて魂人たちを逃がすこともままならなくなる。
 押されつつありながらも、自らの生命力を食われようともかろうじて押し留めるしかない。

「りょ、猟兵さん……!」

 魂人たちはこのままでは助からないと思ってしまったのか、次々に脚を止めていってしまう。
 確かに、状況は限りなく絶望的だろう。
 
 ……だが、それは"ミリアリア一人だけではの話"である。
 
「……何?」

 ふと周囲の変化を感じ取って、黒犬は空を見上げる。
 ……星だ。
 ダークセイヴァー第三層では決して見られない、雲ひとつない澄んだ夜空に煌めく星々が、不気味な空を塗り替えていくように広がっていたのだ。
 ミリアリアも、魂人たちも、決してこの世界では見られぬ光景に思わず目を奪われる。
 そして悠久の星々の輝きが煌めくと、ミリアリアの炉炎がまるでさらなる火種を得たかのように燃え盛り、黒い炎をより強く押し留めていく。

「確かに、くろいぬさんの言う通りです」

 祈りを捧げるように手を組みながら、リアが口を開く。
 彼女のユーベルコードによる固有結界による癒しと再動の力がミリアリアに力を与え、黒い風を押し留めるだけの力を保たせて。
 【星かげさやかに】、夜が彼女と――そして、目の前にいる青年も呑み込んでしまわぬように捧げた祈りが、この場を生み出していた。
 
「ここを出ても、第四層での死よりもつらい目に遭うかもしれない。
 わたしたちがここにきた理由……グリモアの知らせだって万能ではないから、いつでも助けに――なんて、言えません。
 
 ……それでも、わたしのいた世界は」

 リアは見た。
 その幼い双眸は、確かに見た。
 絶望的な状況でありながらも、運命を乗り越えようとしてきた強い人々たちを。
 そんな彼らを護る為に奮闘し続けた猟兵たちの姿を。
 懸命に抗って、抗って、藻掻いて、自分たちの"幸せ"を、掴み取ろうとする生命の輝きを。

「黒い嵐に蝕まれ崩壊し、|アポカリプスヘル《黙示録の地獄》と呼ばれた世界の人々は。また未来へと歩き出すことが、できました」
 
 リアは思った。
 ……"わたしもそうでありたい"と。

「だから、今度はわたしも同じように、手を差し伸べたい……!」

 感情に呼応するかのように、煌めく星空を流星が奔る。
 流星群が流れていくと同時に、星々の輝きが魂人たちを導くように道を示す。

「皆さん。迷ったときは自分の心を、直感を信じてください。たとえ不正解だったとしても、最後に笑えるような……後悔のない道を進めるように!」

 再び『|Balthasar《バルタザール》』が彼らを支えるべくその力を振るい、魂人たちを村の外へと向かわせる。
 リアは魂人たちの手を取り、絶望に呑まれかけた彼らに優しく語りかけて再び奮い立たせることで彼らを立ち上がらせた。

「……リアさんは立派ですね。私も見習わないとです」

 その光景を見て、ミリアリアは気の引き締まる思いを感じながら杖を握る手に力を込める。

「くろいぬさん……あなたの言うことも全部が間違っているとは思いません。思えません。
 "死"は定命の者にとって、必ず最後に迎えるべきもの。本来なら四層での終わりに迎えにくるハズだった……確かに、それは救いといえるのかもしれません」

 この残酷な世界では、死こそ最も救い足り得ることは生命の守護者であっても否定することはできない。それは事実だ。
 だが。

「でも……彼らは、まだ生きている!」

 炉炎がさらに燃え盛り、ミリアリアすらも包み込む。

「仮初だと言われようと、嘘だと言われようと、彼らが生きていると信じるならば!私はその意志を護り戦うまで!!」

 ――オーバーロード!!

 炎が彼女の真なる力を解き放ち、超克の果てへと誘う。
 そこに降臨せしめるは背から翼のように八枚の布状の腕を伸ばした生命の守護神。
 黒い風は押し返され、大地を生命を賦活化させる守護の炉炎が包み込む。

「この、力は……僕の力が押し返されて……!」

 黒犬の黒い風を次々にミリアリアの権能たる炉炎が飲み込んでいく。
 リアのユーベルコードと共に完全なる固有結界が構築され、生命を吸い取る死に所以する力を抑え込み、黒犬の神霊としての権能さえも食い止めたのだ。
 青年の体が再び少年のそれへと強制的に引き戻される程に。

「私がいる限り、全ての生命を奪わせはしません。
 私は生命を守護する『永劫炉の使徒』――個々の意志と決断を擁護し、他者の束縛を断ち切る断縛の女神。
 これより此処は我が【生命守護区域】、望まぬ死を齎す者共の禁猟区です!」

 ミリアリアの宣言と共に炉炎が魂人たちに活力を再び与えていく。
 だが、それでも動けぬ者は彼女がその布状の腕で絡め取るように、かつ優しく抱き上げて。

「動けない人は私が連れていきます。さあ、走りなさい――生きたいと願うなら!!」

 リアの祈りとミリアリアの檄が、魂人たちの"生きたい"という願いを確固たるものにさせる。
 完全なる生命守護の固有結界の中では、死を司る神霊である黒犬の権能は完全に弱まり機能しない。
 これ以上は抗うな、と生命の力が死へと至る存在を抑制する。

「……これが、あなたたちの"救い方"なんだね」

 完全に状況を覆された黒犬は、大人しく逃げていくミリアリアたちを見送ることを決めた。
 自らの行動が全て阻止されたとは思えない穏やかな笑みを浮かべて。

「ありがとう、猟兵さん。あなたたちがいるなら、きっと大丈夫だね」
「……くろいぬさん」

 リアはその場に留まり、黒犬と対峙する。
 魂人たちが全員逃げたのを確認してから、自らも離脱するつもりだがその前に、と。
 黒犬に近づいて、そっと手を握って――にこりと微笑んで。

「ありがとう、くろいぬさん」
「……!」
「またね」
「…………うん。またね」

 泣きそうにも、嬉しそうに笑っているようにも見える表情を浮かべて。
 黒犬はリアが、猟兵たちに守られた村の人たち全員が、この場を去りゆくのを見送り――すぅ、と溶けるようにその姿を消す。

 全ての生命がその場を脱したことにより、ユーベルコードによる固有結界も解除され。再び不気味な空が帰ってくる。
 後に残ったのはかつて暖かで幸せな村、その残滓が僅かに留まったかのような廃墟だけだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 冒険 『ディープ・ブラック』

POW   :    地形を破壊し泳ぎやすいルートを作る

SPD   :    素早く泳ぎ短時間で突破する

WIZ   :    魔術等で洞窟の地形を探る

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 ――そこに広がっていたのは、一面の闇だった。
 魂人たちを連れ、死地とかした村から脱出した猟兵たちの行く手を、一切の灯りも見えぬ闇だけが待ち受ける。
 一人が試しにその場にあった小石を落としてみるとちゃぷん、という音が響き、そのまま底の底へと沈んでいく。
 海にしては波が立たずやけに静かなことから、あって湖と行ったところか。

 どうやら、この村があった場所はこの漆黒の湖に囲まれているようだ。
 先には空と水面の境界線、そびえ立つ岩山……その岩山の中に、一つだけ洞窟のような入り口がある。
 村人たちを全員安全な場所に連れていくには、先の見通しすらロクに立てられぬこの漆黒の水面を通る必要がありそうだ。

 猟兵の一人が偵察も兼ねて、一人洞窟の中へと入る。
 オブリビオンの存在は確認されなかったものの、そこは行き止まりになっていた――否、その漆黒の水面の中に先に続くと思われる道を見つけたようだ。
 村を追われざるを得なかった魂人たちの数は大規模、という程ではないが中々に大人数だ。
 彼ら全員を無事に送り届ける為に、どうにかしてこの状態から活路を切り開く必要があるだろう。

 持てる力と知恵を駆使し、魂人たちを次なる安寧の地に導く。
 全ては猟兵諸君の双肩にかかっていると言っても過言では、ない。
津崎・要明
時間さえあれば、湖を渡るとこまでは「Otters」で輸送できる。問題は水中の道だけど、船で通れる程広くはないんだろうし、どうしたもんか。

とりあえずどのくらい続いてるのかとか「葵さん」に見てきて貰おう。よろしく!

俺が向こうに行って転送先を確認してからこっちに戻ってゲートを作れば良いけど長いと泳いで行けないんだよな。
ああ「メカニックツール」に船外作業用の小型ボンベとゴーグルがあったっけ。あれでなんとかなるか?

偵察が済めば葵さんに先導を任せ、「ジェットボード」に掴まって障害物はバリア(結界)や見切りで避けながら水中通路を往復するか。
ゲートの効果時間も無限じゃないし、泳げない人や子ども老人優先だな。




うーん、と津崎・要明(ブラックタールのUDCメカニック・f32793)は頭を捻る。

「湖を渡るところまでは輸送できる。問題は水中の道……かあ」

 今のところ敵の気配はなく、湖を渡ること自体は可能だろうが、その先に敵がいないとも限らない。
 そう考えると船で魂人たちを連れていくのは得策ではないだろう。
 かといって水中にあるであろう道は当然船で通れるものでもない。
 あくまで水中に続く道があるということしか今はわからず、故にそれが行き止まりなのかどうか、分かれ道が存在するのか等々判別のつけられない事象がこれでもかとあった。

「んー……とりあえずどのくらい続いてるのかは調べないとな。葵さーん」

 要明が声をかけるとひらひらふんわりとゆっくりやってきたのは見た目通りひらひらでふわふわなトビエイの『葵さん』。
 その見ているだけで癒されるキュートな見た目は思わず魂人たちの視線が釘付けである。
 子どもたちの中には触りたそうにしている子もいるが、それは諸々事が終わってからなので待ってね、と要明が子供たちに言い聞かせて。
  
「葵さん、この道がどのくらい続いてるのか見てきてくれる?」

 水中撮影用の小型カメラを取り付けてやると、葵さんは「任せて!」と言いたげにヒレを振ると、躊躇せず漆黒の水中に潜っていく。
 その様子を魂人の子供たちが後ろからじー、と見つめて。

「トビエイさん、大丈夫なの?」
「ああ。さっき小石を入れても何も起きなかったから、危害を加えるようなものはいないハズだよ」
「そうなんだ!よかったあ!」

 子供たちはすっかり葵さんの魅力にハマってしまったようだ。
 とはいえ、そうやって心が動かされているという証明を得られるのは要明たち猟兵にとっても安堵すべきことの一つだ。
 本当に絶望に打ちひしがれているならば、そういった心の動きは決して見られない。
 彼らが生きることを諦めていないという何よりもの証拠だ。

 それから10分程して、葵さんがひらひらーと水中から戻ってきた。
 一面黒い湖だが、どうやらそういう風に見えるだけで液体自体は透明なのか、色が変わったり等はしていない。

「ありがとう葵さん。どれどれ……」

 水中カメラのデータを確認する。
 葵さんがつけたカメラが移していた映像の中に脅威となるものや入り組んだ道などはなく、ただただまっすぐに道が続いているだけのようだ。
 水中洞窟の外側も見てきてくれたようでその映像も残されている。
 どうやらこの先は直に陸地に繋がっているようで、水面に出るとすぐに入り口があり、この世界にしては整った道が続いている様子。

「ふむふむ、なる程……」

 恐らく現在地は所謂内海の孤島のような場所なのだろう。
 険しい岩山が自然の城塞となり、他の闇の種族を寄せ付けない――というよりは、面倒くさいと奴らなら考えるだろうか――地にあの村はあったようだ。
 あの"黒犬"は、そこまで考えてあそこに村を築いたのだろう。

「んー、あとはゲートを用意するだけなんだけど……」

 とはいえ、10分かかって戻ってきたということは最低でも片道5分はかかると見て良いハズだ。
 それまでの間、泳ぎ切るのはあまりにも難しいのでは――と思った矢先に思い出したように自身のメカニックツールをがさごそと漁る。

「あったあった!」

 取り出したのは船外作業に用いる小型の酸素ボンベとゴーグル。
 これならば往復で10分程は問題ないだろう。

「よし、じゃあゲートを作りにいくか……葵さん先導よろしく」

 ゴーグルとボンベを身に着けて、ジェットボードに掴まり葵さんに続くように水中に潜る。
 水中は陸から見た漆黒の水面とは裏腹に非常に透明で透き通っている。
 恐らくこの世界独特の特徴か、あるいはただ単に底なしの闇が広がっているだけなのか――ともあれ、意外と道がわかりにくいということもないのは僥倖と言うべきだろうか。
 ユーベルコードでゲートを開けはしても、制限時間がないワケではない。
 可能な限り泳げる人には泳いでたどり着いてもらい、子供や老人を優先してゲートを通らせるのが現時点一番効率良く全員を無事に逃がす方法と言えるのだ。
 障害物もカメラに映っていた通りにそんな大したものはなく、スムーズに向こう側に辿り着く。
 入り口には結構近い位置で道もそれなりに整ってはいるが、人の気配は全くない。
 同時にオブリビオンの気配もないが、万一ということもあり要明はそのまま水面を出てすぐのところにゲートを生成し、魂人たちの元へ戻る。

「お待たせ!今からゲートで向こうに送るんだけど……全員は流石に時間がかなりかかる。
 泳げる人は俺たちが先導するから、ついてきて欲しいんだけど……大丈夫かな?」
「ああ、是非そうしてやって欲しい!俺は泳げるからついていくよ」
「私も!」
「僕も」

 魂人たちに異論はなさそうだ。
 自暴自棄にならず、こちらの言葉を聞いて冷静に対処してくれる彼らは非常に逞しいな、と思わされる。
 ショックな出来事があったにも関わらず、こちらの言葉を信じてついて行けるその強い精神力には敬意すら覚える程に。
 それだけ彼らは生き続けたいのだろう。ならその気持ちは尊重すべきだろう。

 かくして猟兵と魂人たちの逃走劇は、幸先良いスタートから始まることとなった――。

成功 🔵​🔵​🔴​

ミリアリア・アーデルハイム
小石が襲われないので近くに危険生物はいないようですが、深そうです。この闇では危険なので炉炎(照明属性魔砲弾)で辺りを照らしましょう。明るければ渡れそうな足場が見つかるかも。私だけなら箒で飛んでいけますね。

渡れる場所があれば明かりを分けて護衛、なければ洞窟へ先行
湖面と洞窟内の水位に差がないか、水中へ続く道は自然のものか人の手が加えられているかなどを調べましょう。

水棲の知的生物が居るとも聞きませんし、そのまま水中を行くのが正解とも思えません。造られた道ならば隠し通路や水を抜く装置などがあるはず、多分!(予言)
「屏氷万里鏡」と「オーロラアイズ」で見たり、箒で壁を叩いたりして怪しい場所を探りますよ。




「しかし暗いですね……」

 ミリアリア・アーデルハイム(永劫炉の使徒・f32606)は炉炎から炎を一玉分程取り出して灯り代わりにする。
 危険生物はおらず、泳げるものは実際に何人か泳いでいったが、それでもやはりこの真っ黒な水面を見る限り底は非常に深そうだ。
 それに、危険生物が全員が避難できるまで一切現れないという保証はどこにもない。
 本当に道は水中にしかないのだろうか?他にも探そうと思えば見つかる可能性すらないのだろうか?
 そしてこの自然の要塞は"真に自然に出来上がったもの"なのか……?
 いくらでも考察の余地があり、検証できるのならばやってみるに越したことはない。

「ちょっと他に道がないか見てきますね。すぐに戻ります」

 箒に乗り、ミリアリアは洞窟の中へ向かい慎重に中を観察する。
 まずは湖面と洞窟内の水位の差。もしこの水位に差があれば、意図的に造られたものである可能性が高い。
 くまなく調べて見ると湖面自体は同じだが、"明らかに底が浅い"場所がいくつか見受けられた。
 しかも露骨に"水位を下げれば人が歩ける"レベルでだ。
『屏氷万里鏡』を使い見比べて見ると、底の浅さが段違いで、どう見ても岩肌であろうものがその浅い部分には映し出されている。
しかもよく見ると、その底の浅いところから湖面へと道が続いているようにすら見えた。

「(自然物にしては明らかに"できすぎ"ですよね……どこかに水を抜く仕掛けがあるハズ)」

 炉炎で辺りを照らしながら、何かしらスイッチになるものがないかを引き続き探していると、彼女の視界を一瞬だけオーロラが包んだ。

「!」

 それは神秘や隠された真実がここにあることを示すもの。
 極寒の地に生まれた者に、極稀に与えられる"本当の真実"を証明する為の力として、真実のヴェールを剥がすオーロラが宿ることがある。
 そのオーロラが垣間見えた方向にミリアリアは足をゆっくり運ぶ。

「……ここだけ色がおかしい?」

 そこは一面岩の壁と水面が広がる小さな空間。
 だが先程の水位と比べわかりやすい程ではないが、他の岩肌とは色が違う。
 試しに箒で壁を叩いて見ると、力を入れてないにも関わらず非常に柔らかく崩れていく。

「……えいっ」

 思い切り叩いてみると、そこ"だけ"が一瞬にしてぼろっと崩れ落ちていく。
 あまりにも脆すぎたのか凄い勢いで岩がぼろぼろ落ちてくるので慌てて外へ避難する、と……

「おおおおおおお!?」

 魂人たちが驚きのあまり声を上げていた。
 何故なら、さっきまで全く歩けない闇だった湖面に"道ができた”のである。
 どうやら先程の岩肌を崩したことにより水が流れていき、湖面の水位が下がったようだ。
 流石に現在も底のほとんどは見えないが、できた道を通って行くと、先程見た洞窟内での底の浅い水面と繋がっている。
 しかも、先程なかった通路すらも垣間見えるようになった。
 湖側からも下り坂を下れば通っていけそうだ。

「本当に造られた道だったんですね……ちょっと先を見てみます」

 ミリアリアは再び箒に乗り、道に添って洞窟内を進む。
 恐らく水中にあった入り口よりはルートが特殊なようだが問題なく先程見た洞窟の入り口へと別角度から繋がっていると見て良いだろう。
 出口の先には、先程仲間のカメラに映っていた別の地上への入り口があったのだ。
 これは避難に必要な時間をより短縮できそうだ。
 ミリアリアは戻り次第すぐに仲間にこれを共有、歩ける者に声をかけ、別方向から魂人たちの避難を開始。
 途中で水分不足にもならないよう、先日作り置いていた紅茶を適宜注いでやりながら彼らを先導していった。

成功 🔵​🔵​🔴​

館野・敬輔
【一応SPD】
アドリブ連携大歓迎

なんとかしてこの先に進まないといけないけど
僕は探索に役立つアイテムを持ってないんだよな
というわけで、ここは先の猟兵が開拓したルートを利用しよう

全く明かりがないのも困るので
ある限りの投擲用ナイフの刃に「属性攻撃(聖)、オーラ防御」で光のオーラを纏わせたものを魂人達に配ろう
この闇では松明程の明るさは確保できないだろうけど、ないよりましかな

明かりを一応確保したら
魂人たちに湖面に新たにできた道を慎重に歩いてもらい外へ脱出してもらおう
それでも、暗闇の中歩くのが怖い魂人もいると思うので
足が竦んで動けない人がいたら「怪力」で背負って「ダッシュ」で往復するな




「さて、どうしようか……」

 腕を組み、館野・敬輔(人間の黒騎士・f14505)は思案する。
 なんとかしてこの先に進まないといけないのだが。

「(探索に役立つアイテムを持ってないんだよな……)」

 猟兵にも向き不向きや適材適所というものがある。それに伴うと敬輔はどちらかというとその優れた腕力を駆使しての肉体労働が向いている側だ。
 道を探し出すよりは、開かれた道を使って物資を運んだり怪我人を背負って連れて行ったり等。
 
「(とはいえそれで手をこまねいている暇があったら、開けた道を通って少しでも多く魂人たちを連れて行く方がいいね)」

 敬輔は投擲用のナイフを取り出し、その頭身に魔術を仕込む。
 聖属性の魔術とオーラの膜を張り巡らせる防御魔術を組み合わせての応用技だ。
 術を施されたナイフは淡く光り始め、僅かに辺りを照らす。
 本来なら松明のように明るい物を用意できれば良いのだが、現在の持ち合わせと環境からそれらを準備するのは難しいだろう。
 ないよりマシと思い、敬輔は魂人たちに灯り代わりにしたナイフを配る。

「お兄ちゃん、これでどうするの?」
「これを灯りにして、あの道を進んでいくんだ。灯りがないと湖に落ちてしまうかもしれないからね」
「あそこを通るの……?ちょっと怖い……」

 魂人の子供が敬輔にぴと、とひっついて先につながる暗闇を見る。
 逞しい子たちだが、流石に暗闇には恐怖が勝るか。

「じゃあ僕と一緒に行こう。それなら怖くないよね?」
「うん」
「よし、じゃあしっかり捕まっているんだよ」

 敬輔はひょい、と子供を抱き上げて、同じようにオーラをまとわせたナイフで辺りを照らしながら湖面にできた道へと下りる。

「動ける方は今から僕が先導します。動けない方は僕が戻るまで待っていてください」

 魂人たちはこくりと頷き、動ける者は慎重に湖面の道へと降りていく。
 中には子供を最初から抱えて、子供に灯りを任せる者も。
 
「(……逞しいな、この魂人たちは)」

 彼らは酷い裏切りに遭ったようなもので、他者を気遣ったり目を向ける余裕などないであろうに率先してお互いを気遣いつつ前に進もうとしている。
 今まで闇の種族に襲われたことがほとんどないからなのか、それとも……どちらにせよ、彼らが生きることを諦めず、前を向いていることは僥倖だ。
 逃げた先の方が、今まで住んでいた場所より地獄であってもきっと何とかしていけるだろう。
 だからこそ、全員を無事に次なる安住の地となりうる場所まで送り届けなければならない。
 幸いにも開いた道にも魔物の気配がなく、暗い故に慎重に進まなければならないこと以外に弊害もなく、避難は滞りなく進んでいく。
 そして開いた道の先へと辿り着けば、先にゲートで避難していた子供や老人、脚を悪くした者たちが同郷の者たちの無事を喜ぶ。
 今のところ襲撃もないようで全員元気そうだ。

「もう下ろしても大丈夫だね?」
「うん、ありがとうお兄ちゃん!」
「よし、じゃあ僕は他に動けない人たちを迎えに行くから、君はここでみんなと待っていてね」

 子供を下ろし、敬輔は一人踵を返して洞窟へと戻る――と。

「……!大丈夫ですか!」

 一人の魂人が道中で蹲っていて、急いで駆け寄る。

「ご、ご、ごめんなさい……ナイフ、落としちゃって、どうしたらいいかわからなくて……!」

 どうやら手が滑って灯り代わりのナイフを水の中に落としてしまったようだ。
 一度モノを落とせば、浮いてくることがない底なしの沼。
 逞しい魂人たちが多いが、必ずしもそうではない。
 この魂人のようにそういったことに耐えるので精一杯な人も、もちろんいる。

「大丈夫です。よく動かないでいてくれましたね。こちらでお連れしますので、しっかり掴まっていてください」

 すっかり腰を抜かしてしまった魂人をおぶり、敬輔は洞窟を再び駆け足で抜けていく。
 そうして動けない人、動けなくなってしまった人を抱えて連れてきては踵を戻し……を繰り返す。
 こうした地道な避難誘導も魂人たちの安全確保に大いに貢献することだろう。

成功 🔵​🔵​🔴​

アディリシア・オールドマン
◎POW アドリブ連携歓迎

ふむ。追ってくることはない、か。
……奴の考えは、私にはよくわからんが……奴に想うのは、わかる奴がすることだな。
とりあえずは、うむ。よくわからんが、道を拓けばいいのだな?
多少荒いが、問題なければできるぞ。

ロンギヌスやマクシモスを振るって、岩を砕き、木を切り倒す。
通れない障害は破壊して、足場が必要なら切り出した木を並べて使おう。
灯りが要るなら、ホァン・フゥを短い形状で出しっぱなしにして、証明代わりに活用するか。
他にも役に立つものがあれば指示をくれ。
サルコファガスに収納している武器・防具を提出しよう。

オブリビオンの襲撃は無くとも、この極地環境は魂人にとっても辛いだろう。
必要ならば手や肩を貸そう。遠慮はいらない、適材適所という奴だ。
私は戦うことにしか頭を使えないからな。
どういったルートを通るのか、いつ休憩するのか、そういう頭を使う分野は他の者に任せる。
知恵はないが、力なら十分にある。力仕事は、任せてもらおう。


リア・アストロロジー
◎アドリブ連携歓迎です

●準備?
(水辺で|ばちゃばちゃ《泳ぎの練習》してる)

げほ……っ
だ、大体わかりました……はぁはぁ……かんぺき、です!

|水中任務《泳ぐの》は初めてですが、理論上(?)問題はありません!
来年にはきっと水着も買ってもらえているでしょう!
ぱーふぇくと、です!

と、魂人さんたちを微妙に不安(心配?)にさせながら特訓。
満を持して挑みます。

●行動
『暁を残して』のテレパシーでこの先に潜る方たちと視覚イメージを共有。
未知が怖いのはきっと自然な感情ですから、見ててもらおうと思います。

「……いざ!」

わたしが泳ぎ切れるかどうかはともかく、まずダイスを振るのです!(

上手くいったら(いかなくてもきっと何とかなります!)向こう側で次に泳ぐ方たちとテレパシーをつないだまま応援。
何かトラブルがあってもすぐ対応できるようにしながら、大丈夫、って声を届けます。

この先に待つ未知でも、|わたしたち《猟兵》の居ない場所でも、そうであれと願いながら。
新しい集落でも助け合って、幸せになれる――居場所を作れますように。




 アディリシア・オールドマン(バーサーカーinバーサーカー・f32190)は村のあった方向を警戒していた。
 "黒犬"がいつ追いかけてくるとも限らない、と。

「(ふむ……追ってくることはない、か)」

 杞憂で終わったことを察してアディリシアは前を向く。
 結局、黒犬の考えは、彼女にはよくわからなかった。
 故に想い、考えるのはわかる者がすべきだと結論を出し、黒犬について思考するのをやめて状況を整理すべく周りを見る。
 ……まあ、それでもわかるかと言われると違うのだが、魂人たちを無事に護送せねばならないことだけはよくわかった。

「よくわからんが、道を拓けばいいのだな?」
「りょ、猟兵さん……道を拓いてくれるのはありがたいんだけど、その前にちょっとあの子を助けてやってくれないか……?」
「うむ?」

 魂人が青い顔をして助けを乞うものだから何かと思い向かうと、そこには水辺でばちゃばちゃじたばた藻掻いているリア・アストロロジー(良き報せ・f35069)の姿が!

「……溺れているのか?」
「がぼごぼごぼ!(特別意訳:いいえ!泳ぎの練習をしているのです!)」
「すまない、何を言っているか全くわからん。とりあえず少し待て」

 アディリシアは水辺で溺れ、否、泳ぎの練習をしているリアの手を掴むとひょいっと水辺から引き上げる。
 それはもう、水分を吸い重くなった衣服の影響なんか最初からなかったかのようにひょいっと。
 げほごほ、とむせるリアにアディリシアは適当にがさごそと毛布を取り出して被せてあげた。優しい。

「げほ……っ、あ、ありがとうございます……」
「足を滑らせたのか?」
「はぁ、はぁ……い、いえ!泳ぎの、練習をしていたのです……!
 |水中任務《泳ぐの》は初めてですが、理論上(?)問題はないことがわかりました!来年にはきっと水着も買ってもらえているでしょう!ぱーふぇくと、です!」
「ふむ……?」

 一体何がパーフェクトなのか、アディリシアは首をかしげたが全くわからなかった。

「水中にも通路があるなら、やっぱりそこも利用した方が、より多くの人をすぐに連れて行ってあげられますからね」
「ふむ、確かにそうだな……とはいえ、泳げない者もいるから、そちらは私が道を拓こうか」
「はい。進める場所はあるだけあった方がいいですから」

 かくして、アディリシアとリアが最後に残る魂人たちをそれぞれ先導する。
 アディリシアはその怪力を有効活用すべく、右手に『"破断粉砕”マクシモス』、左手に『"狂神通業"ロンギヌス』を構え、そびえ立つ岩山へと向かう。
 少し深呼吸をして、全身の間隔を研ぎ澄ませて。

「多少荒くはなるが、通るのに問題ない道は作れるハズ……だッ!!」

 ユーベルコード【グラウンドクラッシャー】――至極単純な、重い二振りの武器により放たれる痛烈な一撃が、岩山を勢いよく地面から抉り取った。
 魂人たちは全員口をあんぐりと開けてそれを見る。
 アディリシア程の怪力の持ち主がユーベルコードと共に全力を叩きつければ、岩山の一つや二つ簡単にすっ飛ばせることは猟兵たちにとっては割と日常茶飯事なのだが、
 無縁な魂人たちから見れば呆然とするのは当然の帰結だろう。

 「うむ、岩山の向こうは地続きなようだ」

 それはそれとして、岩山を削った先には湖面ではなく地面が続いていることが確認されたのは朗報だ。
 ただ、岩山そのものが隔てていたことから察せるが向こう側につくまでが問題となるだろう。
 
「ふむ、距離がかなり長いな……とはいえ、休憩を取るタイミング等はな……」

 考えるのが苦手なアディリシアにとって、魂人たちを気遣ってやりたい気持ちはあれど適切なタイミングでそれを行えるかは自信がない。
 なら、とそこでリアが提案する。

「じゃあ、魂人の皆さんがもう歩けそうにないと思ったら、アディリシアさんに声をかけるのはどうでしょう?」
「なる程……そうだな、そうしてもらえると助かる。遠慮なく言ってくれ。何なら手や肩をいくらでも貸そう。子供や老人等は私の方で抱えて行くこともできるしな」
「皆さんそれでいいですか?」

 魂人たちが全員首を縦に振ったのを確認し、地上班の脱出が開始する。

「……ああ、その前にリア。これを」

 魂人たちに先に行ってもらうよう促した後、アディリシアは自らの武器を収納している『”鉄棺納庫"サルコファガス』から一つの棒を取り出し、それを光らせる。
『"如意閃光"ホァン・フゥ』――持ち手の意のままに光を放つことのできる棍杖だ。

「こんな湖面だ、非常に暗いだろう。持っていくといい。光の長さはその場に応じて変えるといい」
「わ……ありがとうございます、アディリシアさん」

 『ホァン・フゥ』を受け取り、リアは深々と頭を下げる。
 確かにコレほどの灯りであれば陸地が近づいているかどうかを理解するのは容易になりそうだ。
 意を決してリアは湖面に飛び込むべく、再度入念に準備体操を行う。

「お、お嬢ちゃん……本当に大丈夫かい……?」
「はい、大丈夫です。絶対に皆さんを送り届けて見せますから!」

 とは言うが、魂人たちはめちゃくちゃ不安そうな顔のままだ。
 そりゃあさっきどう見ても溺れているようにしか見えなかった状態で水中を潜って通るなんて不安にしかならんだろう。
 リアもそれは解っている。
 そして何より、この先に何があるのかわからないという"未知への恐怖"も相まって、より一歩踏み出すのに億劫になっているのもあるだろうと感じていた。

「それと……怖いのは自然な感情ですから、わたしが見るものを見ててもらおうと思います」

 リアはユーベルコードを発動し、自らを核として魂人たちとの精神をネットワークとして自らと接続させる。
 自らの視点を共有することで、これから潜って通る先の道を見せ、未知から既知へと変えれば少しは不安も和らぐだろう。
 この漆黒の水の中を泳ぎ切る為、長すぎる夜を耐える為の【暁を残して】、彼らを奮い立たせたいと思い至ったのだ。

「これならどこを通ればいいかも共有することで確認できますし、わたしがちゃんと泳ぎ切っているのも見てもらえると思います。

 ……いざ!」

 懐中電灯ぐらいの光を湛える『ホァン・フゥ』を握りしめ、リアはいざ漆黒の湖の中へと飛び込んだ!

「……大丈夫かなあお嬢ちゃん」

 魂人は心配そうな面持ちでリアの前に広がる視界を共有する。
 からころ、と何かが転がるような音がどこかから響いたような気がした。

「(大丈夫、|水中任務《泳ぎ》の理論は理解しましたから。あとは焦らずに、前へ……!)」

 身体を可能な限り水平にし、水の抵抗を受けにくく。前だけを見て、振れ幅は小さく。
 先程の自分の|ばちゃばちゃ《泳ぎの練習》で感じたことを、ソーシャルネットワークで得た知識に反映させて改良しながらリアは暗い闇の底のような水中を進む。
 すると大きな通路のような穴に遭遇する。
 確か先に先行して猟兵が潜り、ゲートを作る為に通った穴のハズだ。
 ここを通ればゴールに着く――あと少しだ。
 先程アディリシアが託してくれた『ホァン・フゥ』は、持ち手の意志で自在に光の度合い、発光させる距離を選べるものであると聞いている。
 万一泳ぎきれなくとも、この光を届けることができれば何とかなるハズだ。
 長い光を洞窟の向こうへと届けながら、リアは息の続く限り泳ぐ。
 放った光の先の行き止まりに辿り着けば、あとは浮き上がるだけ。
 
 ――大丈夫。絶対に、何とかなります。だから心配しないでください!

 ネットワークを通じて、魂人たちを励ましながら、残った体力を振り絞ってリアは泳ぐ。
 泳いで、泳いで、やっと行き止まりが近づいてきた。

「(見えた……!あとちょっとで……!)」

 ……だが。
 
「ごぼ……っ!」

 あと少しで水面に届くだろう、といったところでそれは起きた。
 唐突に耐えきれない息苦しさが襲いかかり、思わず口を開けてしまったのである。
 いくら猟兵でフラスコチャイルドとは言え、まだ8歳の子供相応の体格・そして体力であるならば、限界も大人よりも早いのは必然とも言えるもので。
 恐らく無意識に終わりが近づいたことで気が緩んでしまったのかもしれない。
 だが、リアは"絶対に何とかなる"と諦めずに藻掻く。
 息をしてしまっても、諦めずに手を伸ばせばきっと、何とかなると。
 最後の最後まで足掻こうと、手を伸ばす――

 そして、届いた。

「――リア!」
「!」
 
 リアの両腕をそれぞれ別々の手が掴み、一気に引き上げる。
 視界が途端に黒い水面から地上へと一転すると同時にリアはその場で激しく咳き込んだ。

「げほっ、ごほっ……!!」
「リア、大丈夫か!」
「よかった、意識はあるみたいだね……!」

 リアの身体を引き上げたのはアディリシアと敬輔だった。
 8歳の少女ぐらいであれば彼女らそれぞれで簡単に抱えられるが、それを二人で引き上げたということは、もしかしたら相当危険だったのかもしれない。
 迷惑をかけてしまったと申し訳なさも感じるが、それと同じぐらい何とかなると信じた結果が実を結んだことへの安堵を覚えた。

「リアさん大丈夫ですか!?これ羽織ってください、すぐに温かい飲み物用意しますから!」
「潜水の用意もなしに泳ぎ切るなんて無茶しちゃダメだよ……!残ってる人は俺が迎えに行くから、休んでて」
「すみ、ません……ありがとうございます……!」

 ミリアリアに毛布をかけられる横で、要明がタグボートを駆って向こう側に残っている魂人たちを迎えに行く。
 自分より少し先に出発したアディリシアともう合流できているのはそういうことか、とリアは理解した。
 彼女が岩山を道にしたことで、地上からボートを持ち込み魂人たちを乗せることができたようだ。
 アディリシアと共に来た魂人たち曰く、この場所と岩山だった道があった場所は丁度隣り合っていたらしい。
 つまりは同じ岩山にできたそれぞれの道を通ってきたということになるのだろうか――
 と、いうところでふとあることを思い出したリアは、アディリシアに声をかけた。

「あ……アディリシアさん!」
「うむ?何だ?」
「これ、ありがとうございました」

『ホァン・フゥ』がリアの手から、アディリシアへと再び戻る。

「何とかなったのはきっと、アディリシアさんがこれを貸してくださったからだと思います。本当にありがとうございます」
「いや、リアの努力もなければこうはならなかった……と、思う。だが、役に立ったのならば何よりだ」

 そうして話をしていれば、要明がボートで最後の魂人たちを連れてきて。
 ボートから降りた彼らは一斉にリアの元にわらわら集まって心底心配した様子を見せながら、無事を喜んでくれた。
 自分たちの方が切羽詰まる状況でありながらも、こうして気遣ってくれるその優しさが、リアにはとても嬉しかった。
 きっと彼らなら大丈夫だろうと、確信を持てる程に。
 
「(……この先に待つ未知でも、|わたしたち《猟兵》の居ない場所でも、きっと――)」

 助け合って、幸せになれる居場所を作れる、と。
 そして、それが叶いますように。
 この暖かさに感謝しながら、リアはそっと祈りを捧げた。


 その後、猟兵たちの引き続きの尽力により、無事新たな魂人の集落を見つけることができた。
 事情を説明すると住人たちは大変だっただろう、と彼らを労いながら受け入れる体制をすぐに作った為、新しい環境に溶け込むのにはそう時間がかからないだろう。
 猟兵たちはその様子に安堵し、グリモアベースに帰投する。
 見送りにきてくれた魂人たちは、皆一様に猟兵たちへの感謝を告げた。
 ありがとう、この恩は決して忘れない、と。
 まだかつて平和な楽園を築いてくれた張本人への複雑な感情はあるだろうが、きっとこれ程までに逞しい彼らなら、それらを力に変えてこの先も進むに違いない。
 ダークセイヴァーの上層は、完全に終わった世界ではない――きっと、救いのある結末へと持っていけるだろう……
 否、持っていってみせる。
 そう決意を新たにして、今回の騒動は幕を閉じたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年09月04日
宿敵 『『生命枯らせし鷹羽の犬』』 を撃破!


挿絵イラスト