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可塑性ゾンビプロセス・プラス

#アポカリプスヘル #救世主の園 #ゾンビ化

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#アポカリプスヘル
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#ゾンビ化


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●仮定
 黒き竜巻『オブリビオン・ストーム』によって破壊されたものはオブリビオンへと変貌する。
 それがアポカリプスヘルにおける法則の一つである。
 無機物、有機物を問わずに黒き竜巻は破壊しオブリビオンへと変える。
 死せる人間の体は何故か腐敗しながら、僅かに人であった頃の原型を留め、生在るもの達を襲う。

 それを人は『ゾンビ』と呼ぶ。
 猟兵達はかねてよりオブリビオンの『ゾンビ化』について検証を進めていた。
 だが、事態は検証を完了させるよりも早く動き出す。

 今一度整理をしよう。
 元々死んでいた者がオブリビオン・ストームに破壊される。
 そうすると、それは『ゾンビ化オブリビオン』として蘇り、知性を失う。
 代替するように強力になる。
 そして、『ゾンビ化オブリビオン』に咬まれた生物もまた『ゾンビ化オブリビオン』になってしまう。

 恐るべきことである。
 ゆえにアポカリプスヘルに生きる者たちは、死せる者があった時、必ず死体を火葬する。死してなお、その骸がオブリビオンとならぬように。
 遺骸が弄ばれることこそ、知性在る生物にとって義憤を駆り立てるものであるから。
「……――」
 だが、そんな人間の感情すらも嘲笑うかのように『ゾンビの群れ』は増え続ける。
 まるで飢えrるように、まるでそうすることが自然の摂理であるかのように、それ自体を捻じ曲げるかのように腐敗した体を引きずりながら荒野を行く。

「救いを求めるのならば、救いを与えましょう。かつてそうであったように、そうあらんとした者がいたように。誰も彼もが『それ』を求めるのならば、『あたし』を求めなさない」
 それはソーシャルネットワークに響き渡る声であった。
 人には聞こえぬ周波数でもって響く戦慄のような声。芸術を解するものがいたのならば、それを没個性的と例えたであろう。
 しかし、文明の荒廃した世界にあって、芸術とは実利の外側に在るものであった。実利だけを求め、明日を生きる人々の実にとって、芸術とは不要たるものであり、見えるものではなかったからである。

 誰も彼女――『フェイスレス・テレグラム』の歌声を聞かない。
 響かぬ言葉は存在しないものと同義。その声を聞く者は、全て死せる者にして停滞する者たち。
 ゆえに彼女の声は『ゾンビ化オブリビオン』にしか届かない。
 生きとし生ける者全てを襲う亡者の遺骸。彼等に伝播し、『最初の一体』たる『フェイスレス・テレグラム』は『願われる』ことをこそ望むのだ。
「『あたし』は救世主たらんとするもの。すべてのものに求められる者。『あたし』こそが世界を救う。この生という汚濁に塗れた世界を救う――」

●救世主の園
 そこは嘗て『救世主の園』と呼ばれていた。
 清浄なる大地が広がり、まさに肥沃と呼ぶに相応しい場所であった。芳醇な大地のめぐみの得られる楽園のような場所。
 噂の尾ひれがついたような土地であり、その噂を頼りにするのは野盗(レイダー)たちに物資を強奪され、生きる拠点さえ追われた者たちばかりであった。

 しかし、それも嘗て、と言葉が頭に付くことになる。
「よく来てくれた。辛かっただろう。道中の辛さはよくわかる。けれど、安心してくれ。此処ならばもう大丈夫だ」
 そう告げるのは『救世主の園』に生きる人々であった。
 彼等はかつて『救世主の園』の噂を頼りに、今この地を訪れた者たちと同じように流れ着いた者たちであった。
 かつての『救世主の園』とはオブリビオン支配によって張り巡らされた罠であった。けれど、猟兵たちの手によって、そして『救世主』たらんとしたオブリビオンの手によって、手つかずの肥沃な大地が残ることになった。
 あれから月日が流れ、人々はこの荒廃した世界で手を取り合って生き延びている。

 皮肉にもオブリビオンの齎したことは結果として今を生きる人々に本当の意味での『救世主』と呼ばれるに値することであったのだ。
「……なんだ? アンタ達以外にもまだ一団が……」
『救世主の園』に生きる人々は見ただろう。今しがた此処にたどり着いた人々ではない一団が遠方よりゆっくりと近づいているのを。
 しかし、今日は風がなかった。
 もしも、風が拭いていたのならば、彼等も気がついたことだろう。風にのって訪れるであろう腐敗した臭気を。
『ゾンビ化オブリビオン』の放つ異臭を――。

●パンデミック
 グリモアベースへと集まってきた猟兵達に頭を下げて出迎えるのは、ナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)であった。
「お集まり頂きありがとうございます。今回はアポカリプスヘルにおける『ゾンビ化』……その進展、とは言えませんが、事態が動いたことをお知らせしなければなりません」
 ナイアルテが申し訳無さそうに瞳を伏せている。
 このような事態になってしまったことをわびているのだろう。何故ならば、彼女が以前猟兵達に頼んだ『ゾンビ化』の検証。それが十分に検証するに至る前に事態が動き出してしまったのだ。

「『ゾンビ化オブリビオン』とは知性を失い、されど強力な力を得た存在です。彼等はこれまでまとまった動きを見せていませんでしたし、原因がなんであるのかも特定できていませんでした」
 だが、それが今回の事件と関わってくるのである。
 何らかの理由で『ゾンビ化オブリビオン』が大量発生……即ちパンデミックを引き起こされることを彼女は予知したのだ。

「パンデミック自体を止めることはできません……ですが、『ゾンビ化オブリビオン』たちは、ある拠点(ベース)……『救世主の園』に迫っているのです」
 これを放置すれば、『ゾンビ化オブリビオン』によって『救世主の園』に生きる人々もまた『ゾンビ化オブリビオン』へと変えられてしまう。
 これを阻止するために今回猟兵達は転移しなければならない。
『救世主の園』? と猟兵の一人が疑問を抱くだろう。かつてナイアルテが予知したアポカリプスヘルでの事件の折に、オブリビオンが人々を引きつけるために生み出した比翼の大地の名である。
 今もその名で呼ばれ、人々が協力しながら生き続けているのだ。

「すでにご存知かと思われますが、『ゾンビ化オブリビオン』は通常のオブリビオンよりも知性に乏しく、しかしユーベルコードが強化されているように見えます。さらに彼等に咬まれてしまえば、皆さんと言えど『理性を失いそう』になってしまいます」
 これが恐らく『ゾンビ化』の初期症状なのであろうが、時間経過で無効化できる。
 しかし、このパンデミックの発生源である『最初の一体』を倒さない限り、これを収めることはできないだろう。

 猟兵達はこの戦いが『救世主の園』に生きる人々を救う戦いであることを知る。
 ならば、躊躇いはないだろう。
 いつの日にか荒廃した文明すらも復興させる。
 それを担うのはいつだって名もなき人々の血と汗なのだ。彼等を失わせるわけにはいかない――。


海鶴
 マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
 今回はアポカリプスヘルにおける『ゾンビ化』、そのパンデミックを防ぐシナリオとなります。

 ※これは2章構成のアポカリプスヘルの戦後シナリオとなります。

●第一章
 集団戦です。
 拠点(ベース)、『救世主の園』に迫る『ゾンビ化オブリビオン』である『ゾンビの群れ」と戦います。
 パンデミックによって爆発的に増殖した『ゾンビ化オブリビオン』。
 彼等は通常よりもさらに知性にと乏しく、ユーベルコードが協力になっています。

 しかし、知性のなさを逆手に取るようにすれば、有利に戦うこともできるでしょう。
 注意すべきは咬まれること。
 咬まれたのならば、以下に皆さんと言えど『理性を失いそう』になってしまいます。この時点では、時間経過で無効化することができます。

●第二章
 ボス戦です。
 このパンデミックの発生源となった『最初の一体』、『フェイスレス・テレグラム』との戦いとなります。
 もしも、『フェイスレス・テレグラム』に咬まれることがあれば、第一章と同じく『ゾンビ化症状』に罹患します。
 この『最初の一体』である『フェイスレス・テレグラム』を倒せば、今回のパンデミックは収束に向かいます。

 これが果たしていわゆるパンデミックであるのか、その答えは未だでませんが、この戦いがきっと何れ訪れるかもしれない『何か』に対して有効なものとなるかもしれません。

 それでは、未だ謎の残るアポカリプスヘルにおけるオブリビオンによる実害、それらを未然に防ぐために戦う皆さんの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
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第1章 集団戦 『ゾンビの群れ』

POW   :    ゾンビの行進
【掴みかかる無数の手】が命中した対象に対し、高威力高命中の【噛みつき】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    突然のゾンビ襲来
【敵の背後から新たなゾンビ】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ   :    這い寄るゾンビ
【小柄な地を這うゾンビ】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。

イラスト:カス

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


『ゾンビの群れ』に知性はない。
 あるのは欲求だけであった。
 ただ、生きる者を襲わなければならない。ただ、己達を増やさなければならない。ただ、そのためだけに存在してないければならない。
「……――」
 彼等は声無き声を発する。
 意味のない言葉の羅列にしか聞こえない。
『今』という時間に生きる者には決して届かぬ声。そこに悲哀も憐憫も不要であった。
 あるのはただの反射。
 そこに『生きる者』が在るからという理由だけで彼等は行動している。

「……この匂い……! まさか!」
『救世主の園』の住人たちは皆、気がつくだろう。
 微風が吹き、『ゾンビの群れ』の周囲に立ち込める異常なる匂いが彼等の鼻腔にも届いたのだ。けれど、もう遅い。
 今からではバリケードも迎撃する準備も禄に整えられない。
 遠目で見れば、ゆっくりと緩慢な動きであった『ゾンビの群れ』が一気に速度を上げる。己の足が折れるのも、腐敗した胴体が臓物をぶちまけるのも構わず、ただ『生きる者』を己たちの領分にまで引きずり降ろさんとする欲求だけが彼等を走らせる。

 生と死は廻るもの。
 されど、ここにある『ゾンビの群れ』は違う。
 輪より逸脱せし者たち。
 彼等が願うのは『生きる者』たちの破滅のみ。
 膨大な臭気と滅びを持って『ゾンビの群れ』は『救世主の園』に迫るのだ――。
ジフテリア・クレステッド
『救世主』たらんとしたオブリビオン…あの子か。
なら、守ってあげなくちゃだね。忘れないって、約束しちゃったし。

UCを発動して私の偽神細胞の怪物たちを召喚。
骨の怪物の伸びる尾による攻撃で向かってくるゾンビたちを纏めてなぎ払う。そして生き残ったゾンビは攻撃した私を狙って襲いかかってくるだろうからそれらが私に向かって集まって来たタイミングで胎児の毒の泣き声の衝撃波による範囲攻撃で一掃する。
あ、常に背後と足元には気を配って念動力で空気の壁を張っておくよ。知性のないゾンビにできる奇襲なんてそれぐらいだろうし、そこを警戒しておけば大丈夫なはず。

私は救世主じゃない。
でも、誰かを少し助けることぐらいならできる。



 停滞した者。
 それがオブリビオンであるというのならば、忘れずに居る者が在る限り、それは決して全てが過去に歪むこととを同義とするものではなかった。
 たとえ、それが欺瞞であると、偽善であると言われようとも。
 ジフテリア・クレステッド(嵐を紡ぐ歌・f24668)の胸にある約束は途切れることはない。
 彼女が覚えている限り。
 忘れぬ限り、『救世主』たらんとした者が真に消えることはない。
 それを示すように彼女の中にある偽神細胞がユーベルコードによって光を増す。
「『救世主』たらんとしたオブリビオン……あの子か」

 ジフテリアは思い出す。
 目の前の荒野に立ち込める腐臭。
 それは『ゾンビ化オブリビオン』が放つ臭気であった。腐敗し、しかし、土に帰ることのない存在。
 そんな『ゾンビの群れ』は何処からともなく現れる。
「なら、守ってあげなくちゃだね。忘れないって、約束しちゃったし」
 身の内側から偽神細胞の氾濫(ジフテリア・オーバードライブ)が起こる。それは毒の胎児と腐食毒を含んだ骨の怪物の召喚。

 上がるは泣き声。
 毒の胎児たちは生まれた意味を問うように叫ぶであろう。そして、骨の怪物の尾が『ゾンビの群れ』たちを薙ぎ払う。
「さあ、行こう兄弟たち。私たちの恐ろしさを教えてあげよう」
「……――」
 その言葉を塗りつぶすように『ゾンビの群れ』たちが上げる声が荒野に響き渡る。
 ジフテリアの背後に在るのは肥沃の大地。
 汚れなき大地である。
 これを為したのは人類でもなければ、猟兵でもない。
 ただ一体のオブリビオンが生み出した『救世主の園』。

 嘗てノブレス・オブリージュの元に歪んだ過去の化身が生み出した、まさしく理想郷の如き大地。
 しかし、大地は在るだけでは何も生み出さない。
 其処に生きる者達がいなければ、何の意味もない。故に、今『救世主の園』は人々が寄り添う縁となった。
 彼等の手が、足が、息遣いが、『救世主たらんとした』者の過去を肯定する。
 何も間違いではなかったのだと。そう言わしめるように、何処までも大地が続く。
「――!!!」
 毒の胎児たちの泣き声は衝撃波となって『ゾンビ化オブリビオン』を吹き飛ばす。

 だが、そんなジフテリアの背後にいつのまに『ゾンビの群れ』が現れる。
 音もなく、気配すら無く、ジフテリアの背後に立っている。。何故、と問われるのならば、『ゾンビ』というのはそういうものであるからだ。
 まるでB級映画のような理不尽さ。
 理屈もなにもない。屁理屈にも似た理不尽さがジフテリアの背後に迫るのだ。
「……だよね、奇襲と言ったら、それくらいしかない。知性がないのならなおさら」
 ジフテリアは背後に予め張り巡らせていた念動力による空気の壁で持って『ゾンビの群れ』の奇襲を防ぐのだ。

 背後に振り返れば、空気の壁に張り付く『ゾンビの群れ』のただれたような顔があった。
 腐敗し、そこに何の意志も感じさせない顔。
 意味のない声。
 空気が口腔より溢れるから奏でられる無秩序な音。
「救いを求めているのかも知れないと馳せるのは、きっとそれが人間であるからだ」
 ジフテリアは思う。

 今、目の前にある『ゾンビの群れ』たちは元は人間だ。
 そして人間ではなくなったものたち。彼等が求めるのは腐敗した現実からの脱却か。それとも救世主か。
 けれど、ジフテリアが出来るのはどちらでもない。
「私は救世主じゃない」
 でも、とジフテリアはユーベルコードに輝く瞳を彼等に向ける。

「誰かを少し助けることぐらいならできる」
 荒廃した世界にありて、『救世主の園』はたったひとかけらの大地。
 此処が救えたからと言って世界の今すぐ豊かな恵みをもたらせるわけではない。

 けれど、彼女はもう決めている。
 兄弟たちの放つ衝撃波が『ゾンビの群れ』を吹き飛ばす。霧消していく『ゾンビの群れ』たちを見やり、彼女は忘れぬという約束と、そして紡ぐべき未来をもう見据えているのだ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

儀水・芽亜
末世に死者が蘇る。神の御言葉はこういう意味ではなかったはずですけれど。
なんにしろ、分かりやすいオブリビオン。湧いて出たものは仕方ありません。確実に討滅してしまいましょう。

近寄られる前にできるだけ片付けないといけませんね。
「全力魔法」「範囲攻撃」音の「属性攻撃」「衝撃波」「浄化」「歌唱」でブラストヴォイス。
よく効くでしょう、これは? 防御するつもりもないゾンビ達を、衝撃波の浸透で微塵に砕いて差し上げます。

この歌声の範囲が言わば私の結界。踏み込めばたちまち崩れる。
私の喉と、あなた方の物量、どちらが先に音を上げるか勝負といきましょう。

アンコールが必要なら、その準備は出来ていますよ。さあ、砕けなさい。



 風に乗る異臭は、腐臭にして死臭。
 生きるものならば、眉根をひそめるであろうし、またその匂いは死を運ぶ匂いであると荒廃した世界であるアポカリプスヘルに生きる人々は知っていただろう。
 この世界にあって死者を弔うのは火である。
 火が死者の穢を清める、というわけではない。
 遺骸は残らず火葬に付さなければならない。
 ただ、それだけが彼等の中にあったルールであった。何故ならば、遺骸が黒き竜巻、オブリビオンストームに巻き込まれた瞬間、それは『ゾンビ化』するからである。

 あらゆるものを破壊し、オブリビオンへと変える黒き竜巻。
『ゾンビ化オブリビオン』とはそういったものである。
 生だけではなく死すらも冒涜する破壊の竜巻。それこそが、荒廃した世界にさらなる滅びを齎す。
「――……」
『ゾンビの群れ』は口を開いてはいるが、言葉を発することはなかった。
 彼等の口腔から溢れる音は、ただの音でしかない。
 意味のない声。ただの反応。
 音でしかないことを儀水・芽亜(共に見る希望の夢・f35644)は知るからこそ、頭を振る。
「末世に死者が蘇る」
 その言葉を呟く。
 神の御言葉。だが、それはこういう意味ではなかったはずだと『ゾンビの群れ』を見やり、芽亜は彼等と対峙する。

 何の感情も乗らない濁った瞳。
 彼等は生者ではあったが、すでに死者であり、そして死者ですらなくなっている。
「なんにしろ、わかりやすいオブリビオン。湧いて出たものは仕方ありません。確実に討滅してしまいましょう」
 芽亜の瞳がユーベルコードに輝く。
『ゾンビの群れ』が標的を定め、機敏な動きで持って彼女に迫る。
 膨大な数。
 それは『ゾンビの群れ』と呼ぶに相応しいものであったことだろう。

 しかし、その大波を薙ぎ払うのが、ユーベルコード、ブラストヴォイス。
 人の声帯より放たれたとは思えぬほどの声。
 それは破壊の力であり、あらゆるものを吹き飛ばすものであった。破壊的な旋律は大気を伝って『ゾンビの群れ』へと迫り、その差し迫る脅威すらも振り払うのだ。
 背後に在る拠点、『救世主の園』は未だオブリビオンに侵されてはいない。其処に生きる人々も、これから此処に集まる人々も、誰も彼もが希望を捨てていないというのならば、芽亜は己の声を破壊に変えて、悪意を吹き飛ばす。
「よく効くでしょう、これは?」
『ゾンビ化オブリビオン』は知性に乏しい。
『ゾンビの群れ』であれば、なおのことであろう。彼等に知性を期待するものなどいない。

 けれど、『ゾンビ』というものは何処からともなく現れるものである。
 背後より突如として湧いて出た『ゾンビの群れ』。
 それは不意打ちの一撃であり、その腐食した顎が芽亜の首筋へと迫る。だが、その顎が彼女に届くことはなかった。
「――この歌声の範囲がいわば、私の結界。踏み込めばたちまちに崩れる」
 彼女の背後から迫った『ゾンビの群れ』が忽ちのうちに吹き飛ばされる。音は大気を伝う。
 ならば、彼女の歌声は指向性を持ちながら、全周に及ぶ。

「私の喉と、あなた方の物量。どちらが先に音を上げるか勝負といきましょう」
 芽亜の声が大気を震わす。
 そこに在ったのは破壊でありながら、一種の芸術性でもあった。
 人という感情の不完全さ。
 そのゆらぎが芸術へと昇華するのならば、人の発する声は、声無き声であったとしても、人の心に響くものがある。

 それが『ゾンビ化オブリビオン』との違いである。
「アンコールが必要なら、その準備は出来ていますよ」
 芽亜の瞳がユーベルコードに煌き、放たれる声は『ゾンビの群れ』という災禍を寄せ付けず、吹き飛ばす。
「さあ、砕けなさい」
 旋律の如き言葉が紡がれる度に、腐臭すらも寄る辺はないと高らかに響き渡る――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

陸郷・める
☆める:戦車乗りの少女。操縦専念中は無口
★7号:搭載偽神兵器の生体コアにされた元ヒャッハー

★ヒャッハー!こっから先は通行止めだぜぇ!
☆……行かせない、よ

★『攻撃ヘリユニット』装備の『6号戦車』で空中から機銃掃射したり砲弾で爆撃したりすんぞ。
掴みかかる……?いやめるは戦車の中でしかも空中だが?跳んだり組体操でもすんのか?
まあどのみちその間に撃ち落とすがな。仮に縋りつかれても戦車の足や作業用アームをぶん回して振り落とすぞ。
密集してたり撃たれて動きが鈍ればUCで纏めて「消毒」だ。派手に燃えちまいなァ!

それと念のためだ。後方には近寄られたら撃て、って指示出したAI制御の戦車隊を待機させておくぜ



 嗅覚あるものにとって『ゾンビの群れ』の放つ死臭は鼻を突き刺さんばかりのものであったことだろう。
 けれど、改造戦車の中核たる実験兵器6号改に座す陸郷・める(死念動力実験成功体6号・f26600)はそうではなかった。
 気密の護られた改造戦車の中にまでは腐臭は届かない。
 六本脚でもって荒野を進む『偽神兵器砲塔』を持つ実験兵器6号改の中にある制御用生体部品たる7号は、己の砲塔より放つべき砲弾を確認する。
 特殊兵装:焼却薬剤散布(オブツショウキャクシステム)はまさに、こういった時の為に用意された武装であると言えたことだろう。

 そう、荒野を埋め尽くす『ゾンビ化オブリビオン』こと『ゾンビの群れ』。
 彼等はこのアポカリプスヘルにおいて汚物と呼ぶに相応しいものであった。この荒廃した世界には未だ黒き竜巻が存在している。
 破壊だけではなく有機物、無機物問わずオブリビオンへと変える恐るべき力は、オブリビオン・フォーミュラを打倒した今でも災禍として続いている。
『ヒャッハー! こっから先は通行止めだぜぇ!』
「……行かせない、よ」
 めると7号の瞳がユーベルコードに輝く。

 砲塔がまるで首をもたげるように角度を付け、荒野より拠点である『救世主の園』へと迫る『ゾンビの群れ』をねめつける。
 照準は固定され、特殊薬剤を散布する砲弾は装填される。
『ヒャッハー!衛生面から汚物は消毒だぁー!』
「それ以外には無害」
 めるは見るだろう。

 汚物と敵だけを“消毒”する炎を。
 それは己達に迫る『ゾンビの群れ』を一瞬のうちに燃やし尽くす。
 言ってしまえば、それは葬列の炎であった。
 彼等は火葬する暇すらなく、ただその遺骸を遺棄することしかできなかった人間の成れの果てだ。
 この荒廃した世界にあって、人の死はつきものである。
 そして、その遺骸は必ず火葬に付さなければならない。黒き竜巻に遺骸が巻き込まれた場合、多くが『ゾンビ化』してしまうからだ。
「無念だったろうね……」
『ヒャッハー! だからこそコイツらをぶっ飛ばすのは!』
 自分たちの役目だと、めると7号は改造戦車の力を振るう。迫りくる『ゾンビ化オブリビオン』たち。

 彼等は通常の『ゾンビの群れ』よりも強化されているように思えただろう。
 炎に塗れながら、改造戦車の多脚へとしがみつく。腐食しながらも燃える匂いは決していいものではなかったが、めるには届かない。
 まるで羽虫を煙たがるように改造戦車が高く飛び上がる。
 それは『攻撃ヘリユニット』を纏う改造戦車にとって当然の対応であった。凄まじい風で吹き飛ばされる『ゾンビの群れ』。
『派手に燃えまいなァ!』
 空よりの機銃の掃射。
 そして砲塔より放たれる砲撃。
 爆撃と呼ぶに相応しい火力で迫りくる『ゾンビの群れ』を寄せ付けない。

 彼等は知性に乏しい。
 だが、目の前に生ある者がいるとなれば、何の計算もなく、戦略も戦術もなく掴みかかってくる。
 鋼鉄の改造戦車には歯が立つことはない。
 けれど、それでも愚直に迫ってくる鬱陶しさは、オブリビオンであるからであろう。
『念のためだって用意していたのが役に立ったなァ!』
 7号の号令と共に後方に備えていたAI制御の戦車隊の砲塔が爆煙を吹き上げる。放たれる砲弾の雨が『ゾンビの群れ』を一気に掃討する。

 爆炎が立ち上り、荒野に腐臭すらも吹き飛ばす熱が吹き荒れるのだ。
『これだけやってもまだ来るかよォ! パンデミックってのは伊達じゃあねぇな!』
「……やっぱり『最初の一体』を仕留めなければ、ダメ、だね」
 めると7号は理解する。
 この『ゾンビ化』のパンデミックは、やはり『最初の一体』を倒さなければ止まらない。『最初の一体』がいるかぎり、『ゾンビの群れ』は『救世主の園』を襲い続けるだろう。
 ならば、やるべきことは一つだ。
 この群れを突破し、『最初の一体』たるオブリビオンを倒す。

 荒廃した世界にあって清らかなるものは少ない。
 だからこそ尊いと思うであろうし、護らなければならない。奪うではなく、分け与え、手を取り合う。
 めると7号の背後にある拠点はそうした者たちが集まっているのだ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イェフ・デルクス
はァ、なるほど。
咬まれると理性を失いそうンなる、ふんふん…ン?
…キャバリアに乗りっぱなしな俺みたいなんにまで効くンか…?
こいつらコックピットまで来ンの…?

ま、まァいいか、キャバリア乗って突っ込む。あー…悩むとこだが、攻撃回数増やして、射程減らす。装甲増やすか迷ったが、元人間の歯がコックピットまで来るとは思えねェから…いやわかんねェが…来たらそんときゃそん時で、マァ、ぶっ潰していけばいいんだろ。
自走砲で陽動しつつ、適当に叫ぶとかで呼んで、ビームダガーで薙ぎ払う。こんだけデケェ的なんだ、来てくれ。

…これキャバリアが制御できなくなったりすンのかな。や、でも、AIも積んでないんだが…。

アドリブ連携歓迎



 鋼鉄の巨人――キャバリアが荒野を征く。
 その姿は雄々しく、文明の荒廃した大地にあっては奇異に見えたことだろう。しかし、嘗て在りし人類の叡智の現影をキャバリアに見る人々はいない。
 彼等もまた高い文明を有した嘗ての人類であれど、改造戦車が主力であった。人型の兵器というのは、アポカリプスヘルにとっては文明荒廃以前であっても見慣れたものではなかった。

 けれど、腐臭漂う荒野を走るキャバリアは彼等の敵ではない。
 イェフ・デルクス(役立たずの生き残り・f30366)は、その鋼鉄の巨人を駆る猟兵の一人である。
 流浪のキャバリア乗り。
 彼を評するのならば、その言葉がしっくり来るだろう。クロムキャバリアにおいて、国を転々としながら戦い続けた彼にとって、常に乗り続けたキャバリアこそが、彼の人生であり、牢獄でもあったのだ。
「はァ、なるほど。咬まれると理性を失いそうンなる、ふんふん……」
 イェフは其処で気がつく。
 己はキャバリアを駆る。
 けれど、『ゾンビ化オブリビオン』の歯は鋼鉄の巨人には通用しないだろう。

 何よりもコクピットブロックに座す己には届かない。
 自身にはあまり関係のないことだと判断するには十分であっただろう。けれど、大地を這うように溢れる『ゾンビの群れ』を見れば、彼等がキャバリアを打倒し、コクピットハッチを引き剥がすことはあり得る話だと理解できるだろう。
「ま、まァいいか」
 イェフは細かいことを頭の端から追い出す。
 コクピットハッチをこじ開けられるような自体になることは、己の敗北と死を意味するであろう。
 ならばこそ、彼の瞳はユーベルコードに輝く。

 いつもと同じだ。
 戦って生きるか死ぬか。その二択。戦場にあるのは、たったそれだけだ。シンプルである。
 戦って死ぬか、戦って生きるか。
「装甲を増やすよりも、手数を増やす」 
 イェフの駆るキャバリアのオーバーフレームがキャノンフレームへと変更される。
 周囲に浮かぶ浮遊自走砲こそが、手数というわけである。
 空を走るように浮遊自走砲が弾丸を放つ。『ゾンビの群れ』は確かに数こそ多いが、知性に欠ける相手である。

 頼みにするのは数。
 ならば、こちらも手数を増やすべきだとイェフは判断したのだ。その判断は正しいと言える。
 彼の之までの人生は戦いそのものである。
 時には勘とも言える偶然にも似た幸運に助けられたこともあっただろう。けれど、今彼を此処に立たせるのは彼の経験在って故である。
「こんだデケェ的なんだ、来てくれ」
 大地を疾駆するキャバリアに群がる『ゾンビの群れ』。
 彼等は装甲に掴みかかり、機体へとよじ登ろうとする。それをビームダガーで薙ぎ払う。

 彼の背後にあるのは拠点だ。
 此処より後ろに『ゾンビの群れ』を行かせるわけにはいかない。此処で全て止める。
「ウィルスのようなものじゃアないのか……?」
『ゾンビ化』。
 それは猟兵であっても咬まれれば『理性を失いかねない』と言われたものである。それが初期症状。
 ウィルスの類であるのならば、己のキャバリアの制御系にも影響を及ぼすかもしれない。
 有機物、無機物問わず『ゾンビ化』する、このパンデミック。

「AIを積んでいないが、敵の攻勢がパンデミックによるものだとしたのなら!」
 このパンデミックを引き起こしている『最初の一体』を打ち倒さなければ、収束しない。
 どんな状況であれ生きる。
 それこそがイェフを今に至らしめる経験の全てである。
 迫る『ゾンビの群れ』を浮遊自走砲から放たれる弾丸が蹴散らし、イェフは『今』もまた答えを出し続けるのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

大町・詩乃
『救世主の園』は久しぶりですが、皆さんが無事に暮らせているようで良かったです♪

(ふと救世主足らんとした彼女を思い出す)
迫りくるゾンビさん達に安寧を与え、元凶を倒し、人々を護らないと!
そして彼女の行いが無駄では無かった事を証明します。

UC:神事起工で攻撃力強化。
多重詠唱による光と炎の属性攻撃・浄化・全力魔法・高速詠唱・範囲攻撃によって、ゾンビさん達を纏めて焼き尽くす。
これを繰り返して、これ以上のゾンビの増加はさせません。

ゾンビさんの攻撃は、結界術・高速詠唱による防壁や、オーラ防御を纏った天耀鏡による盾受けや、見切り・ダンスによる舞うような回避で対応します。

全て終わった後は彼らのご冥福を祈ります。



『救世主の園』。
 それは嘗てありしオブリビオンの罠であった。拠点を追われた者たちや、野盗に追われた者たちを誘い込む蜘蛛の巣の如き罠。
 しかし、罠であっても救世主たらんとしたオブリビオンは、肥沃なる大地を生み出す。汚染された大地を清浄なるものへと変え、オブリビオンでありながら、まさしく『救世主』となっていた。

 その事件へと駆けつけた大町・詩乃(阿斯訶備媛・f17458)は今も覚えている。
 久しぶりの大地。
 荒廃した大地は今も尚アポカリプスヘルに広がっている。
 だが、この『救世主の園』だけは清浄なる肥沃の大地が広がっている。そんな拠点に生きる人々は豊穣を独占するでもなく、人々と助け合って生きている。
 この世界にあって、物資は貴重だ。
 けれど、人の息づく営みこそ、それ以上に必要なものであったのだ。
「皆さんが無事に暮らせているようでよかったです♪」
 詩乃は頷く。
 彼等の営みは人の文明をいつか復興させるに必要なことであった。

 今は苦しい時だろう。
 外敵もある。そして、腐臭を撒き散らしながら迫る『ゾンビの群れ』のようなオブリビオンの災禍もまた同様であった。
 だからこそ、詩乃は、その瞳をユーベルコードに輝かせる。
『救世主たらんとした彼女』を詩乃は思い出す。
 これより果たすのは神性としての務め。

 彼女自身の神力と天地に宿る力。
 そして何より人々の願いと想いを得て、彼女は力を増幅させていく。満ちる力は迫る『ゾンビの群れ』へと向けられる。
 多重詠唱が空に軌跡を描いていく。
「神事起工(シンジキコウ)――たとえ、その身がオブリビオンであったとしても、『救世主』たらんとし、ノブレス・オブリージュの心でもって偽りのままに人々の営みの礎となった彼女」
 思い出す。
 オブリビオンである以上滅ぼさなければならない。

 詩乃は猟兵である。
 拘束詠唱に寄って光と炎の力が膨れ上がっていく。
 己に迫る『ゾンビの群れ』もまた数を増やしていく。これがパンデミックめいた『ゾンビ化』の災いであるというのならば、詩乃は『救世主の園』に降りかかる火の粉を振り払うだろう。
「これ以上、ゾンビの増加はさせません」
 強大な力は、それを制御せしめる力にこそ気を配るべきである。詩乃はそれを知るからこそ、『ゾンビの群れ』を一掃するために力を溜め込む。

 オーラの障壁が迫る『ゾンビの群れ』を遮る。
 其処に在ったのは嘗て生きていた人々の腐敗した顔であった。濁った眼球に意志はない。そこには一切の感情がなかった。
 生ける屍。
 ただの物体。
 そこに憐憫の情を抱くのは詩乃が神性でありながら、人の営みを知るからであろう。
「……死した後も魂は縛られていないようですが、その骸は本来土に還るべきもの」
 それを縛るのが『ゾンビ化』という力の奔流であるのならば、詩乃は力を振るう。

 天を指差す指先。
 そこにあったのは光と炎の渦。
 詩乃は祈ることしかできないだろう。魂はもう其処にはないのだとしても、その骸が新たなる生命を育む礎に為るようにと祈ることしかできない。
「彼女の――救世主たらんとした彼女の想いを」
 此処で潰えさせるわけにはいかないと詩乃の放つ光と炎の渦が『ゾンビの群れ』を吹き飛ばす。

 その強大な一撃は、荒野を明るく照らすだろう。
 神々しささえ感じさせる詩乃の力の発露。
 光の粒子となって霧消する『ゾンビの群れ』。それに詩のは静かに祈るのだ。
 生命はめぐり、廻る。
 次があるのならば、幸多からんことをと――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カイリ・タチバナ
ヤンキーヤドリガミ、依頼探してたら、偶然聞いた。

どこかを守るってのは、守神である俺様の仕事の範囲内ってな。だからこそ、受けたんだが。
じゃ、ちょっくらやってくるわ!

ゾンビ化オブリビオン。つまり、この【守神領域、限定解放】には適さないやつらだ!
ゾンビってのは、地を這ってくるとも聞くし。それを制してるのもある。
そこへ『原初守神宝珠』のレーザーも浴びせよう。
UCにも攻撃にも、浄化と破魔のせてるからな、ゾンビにゃ大ダメージだ。

この地には近づけさせねぇよ。詳細は知らねぇが、誰かが願った土地なんだ。
それを、蹂躙することは…守神として願われた俺様が許さねぇ!



 事の発端が偶然であったのだとしても、それを見る者に知性あるというのならば、そこに運命を見出すことであろう。
 カイリ・タチバナ(銛に宿りし守神・f27462)は祀ろわれる者である。
 百年使われた器物に宿る魂。
 蒼く輝く穂先。
 海神すらも貫く銛。それがカイリという猟兵の本体。

 銛とは即ち守。
 故にヤドリガミであるカイリが己を定義するのならば、守神であった。
「じゃ、ちょっくらやってくるわ!」
 荒野に降り立つ。
 己が知るグリードオーシャンの島とは異なる大地。
 何処までも広がっている不浄為る大地。けれど、そこに生きる者たちがいる。己の背後に在る拠点『救世主の園』は、一点の光であったことだろう。
 清浄なる大地。
 豊穣なる恵みが溢れている土地。
 どれもがこの荒廃した世界、アポカリプスヘルにおいては貴重なものであった。されど、『ゾンビ化オブリビオン』である『ゾンビの群れ』は、それを必要としない。

 生命維持の前に彼等は、すでにもの言わぬ骸。
「――……」
 口腔より漏れるのは意味のない言葉。
 羅列にすらなり得ぬ音。
 カイリにとって、何かを、何処かを護るという行いは自身の仕事の範疇であった。だからこそ請け負ったのだ。
「守神領域、限定解放(ココハモリカミノバ)」
 彼の瞳がユーベルコードに煌めく。
 開放されたるは、蒼く輝く勾玉より満ちる蒼き光。
 蒼い神威の光と呼ぶべきか。それが雨のように荒野に降り注ぐ。どこまでも広がっていく蒼く輝く岩盤地帯。

 それはオブリビオンを蝕む光であった。
 如何に『ゾンビ化オブリビオン』であったとしても、その光に輝く岩盤地帯を抜けることはできない。
「ゾンビってのは地をはってくるとも聞くし、この神威の光の前にオブリビオンは蝕まれるだけだろう!」
 カイリの眼前にあるのは『ゾンビの群れ』。
 骸と成り果てても尚、大地に血肉が還ることのない存在である。
 人の営みの輪廻から外れた者たち。
 彼等の肉体は『ゾンビ化』という呪いに蝕まれているようなものであった。

 カイリの傍らに浮かぶ宝珠より迸る破魔の光が『ゾンビの群れ』を撃つ。
「この地には近づけさせねぇよ。たとえ、てめぇらがどれだけ哀れな存在であろうともな」
 己の背後にある『救世主の園』は誰かが願った土地だ。
 誰もが夢見た大地だ。
 肥沃で奪われることも、奪うこともない大地。理想郷と言ってもいいだろう。この荒廃した大地において、それは誰もが願う大地でもあったのだ。
『ゾンビの群れ』はそれを蹂躙しようとしている。
 腐臭と共に。
 どんな願いも、どんな希望も、死からは逃れられない。それは真理であったことだろう。

 けれど、目の前で蹂躙されようとしている人々を前にしてカイリは、それを真理であると首肯し受け入れることなどできようはずもなかった。
「それを、蹂躙することは……」
 煌めく光。
 蒼の神威の光が迸る。カイリの心にあるものを発露するように。
「守神として願われた俺様が許さねぇ!」
 そう願われたから、そう在る。
 それがカイリであったのならば、彼を引き寄せたのは今を生きる人々の願い。
 誰かのためにという願い。
 希求してやまぬものを守らんとするようにカイリは蒼の神威と共に荒野を遍く照らすのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!

よっとと[ラジオ]を置いてお気に入りのディーバのチャンネルを大音量で流して彼らを引き寄せよう
音を使うのはお約束だね!

んもー!
バリケードの一つも無いって備えが甘いんじゃなーい?
そんなんじゃあシーズン1で全滅だよぅ!

●ごろごろごろ
音で引き寄せたところでまとめて
ある意味禁じ手だよねー重機でぐしゃぐしゃーって
まあやったらやったで何か途中でトラブりそうだけど!
とかなんとか言いながら[球体]くんをゴロゴロとゾンビくんたちの群れに向けて転がしていこう

おっと噛まれるなんてごめんだよ!
と【第六感】で察知してうっかり噛まれるのは避けてUCでドーンッ!

ほら焼いて焼いて
また蘇る?よー?



 ラジオの音が響き渡る。
 ソーシャルネットワークに流れる歌声は、如何なるものであったことだろうか。
 文明というものが人の実利の延長線上にあるというのならば、歌声は実であったことだろうか。それとも利であったことだろうか。
 そのどちらとも違う、人の心の豊かさを証明するものであったことだろう。
「――……」
 故に『ゾンビの群れ』の口腔より放たれる意味無き音の羅列には届かぬものであった。

『ゾンビ化オブリビオン』である『ゾンビの群れ』にとって、それは理解できるものではなかった。
 いや、そもそも理解できる知性はない。
 あるのは反射的な行動のみ。ただ、生きている者を襲う。ただそれだけのために彼等は骸のまま今を侵食し続けるのだ。
「お約束だね!」
 大音量の歌声に『ゾンビの群れ』は引き寄せられる。
 波のように殺到する姿は、何処か哀れでもあったことだろう。
「んもー! バリケードの一つもないって備えが甘いんじゃなーい?」
 ロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)は、アポカリプスヘルの荒野にある拠点の一つ『救世主の園』を見やる。

 バリケードらしいものが存在しない拠点。
 あるのは肥沃の大地と清浄なる大気。
 そこは誰もを受け入れる土地であった。野盗に追われ、拠点を放棄せざるを得なかった者たちが流れ着く最後の希望。
 その大地にあってバリケードとは必要最低限なものであった。
「そんなんじゃあシーズン1で全滅だよぅ!」
 ロニは大いなる無抵抗を是とはしないだろう。この荒廃した世界にあって、それは無抵抗というよりは、ただの放棄であったからだ。

「音で引き寄せられて、本当にたくさん来たねー」
 彼が見やる先にあったのは『ゾンビの群れ』。
 拠点の彼等がむざむざやられるのを見ている趣味もない。召喚させた球体たちが膨れ上がる。
 まるで重機そのものだ。
 引き寄せた『ゾンビの群れ』を重機で踏み潰す。それは質量と言う名の暴力そのものであったことだろう。
 ドラマで言えば禁じ手であった。
 たとえ、実現したとしても途中でなんらかのトラブルがあって実現はしなさそうではある。

 そんな光景を幻視しながらロニは球体たちを放つ。
 転がるように球体たちが『ゾンビの群れ』を踏み潰し、悉くを地に這いつくばらせる。
「ぺっしゃんこにならないのは、『ゾンビ化』の影響かな」
 強化されているように見える『ゾンビの群れ』。
 彼等は球体に押しつぶされながらも、なおも腐食した手を、顎を持って生きとし生けるもの全てに対する憎悪のようなものを発露しながら襲いかかるのだ。
「おっと噛まれるなんてごめんだよ!」
 ロニは覗き込んでいた『ゾンビの群れ』が己に噛みつこうとするのを躱しながら、空に舞い上がる。

 空より見下ろすはユーベルコードの輝き。
 神撃(ゴッドブロー)の一撃は大地すらえぐる一撃。
 放つ一撃は知性無き者たちにもまた神々しさを感じさせる拳そのものであったことだろう。白濁した眼球に、その光を捉える事ができたのかはわからない。
 けれど、それでもロニの放った一撃は『ゾンビの群れ』を吹き飛ばすに値する一撃。強烈なる拳は、その腐敗しながらも大地に還ることのない肉体を霧消させていく。

「ほら焼いて焼いて。また蘇る? よー?」
 ロニは砕ける大地に降り立つ。
 オブリビオンストームが遺骸すらオブリビオンに還る。故にアポカリプスヘルにおいて火葬が通例である。
 人の悲しみもまた炎に溶けるように消えていけばいい。
 ロニは未だ波のごとく増え続ける『ゾンビ化オブリビオン』の渦中にあるであろう『最初の一体』を見据える。

 黒き虚の如き顔がこちらを見ている。
 そこに個はなかった。かといって全でもない。ただただ、虚だけがまばゆい光を見上げていたのだ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『フェイスレス・テレグラム』

POW   :    ブレイン・インフェクション
【端末のぬいぐるみ】から【微弱な電波】を放ち、【脳を一時的に乗っ取ること】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD   :    ゴースト・ペアレント
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【自身を守ろうとする信奉者】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
WIZ   :    ロンリネス・ガール
【端末のぬいぐるみを通して孤独を訴える電波】を披露した指定の全対象に【誰よりも彼女だけを愛したいという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。

イラスト:こがみ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠無間・わだちです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 その顔にあったのは虚の如き闇色であった。
 個を与えられなかった存在。
 ただ、ただ、『救世主』たらんとすることを望まれた存在。
 それが『フェイスレス・テレグラム』であった。彼女、と呼んでいいのかさえもはばかられる没個性。
 存在していながら、己という個を確立できなかった彼女にとって、知性とは在って無いようなものであった。
「『あたし』は救世主。すべての求めに応える者。『あたし』が世界を救う。そう願われたから」

 それは与えられたものであった。
 そうあるべきと願われたものであった。
 己の心の中から発露したものは何一つなかった。名も与えられず、己が如何なる存在かも知らされず。
 だから、彼女は求めたのだ。

 誰からも求められる者を。
「それが『救世主』。ノブレス・オブリージュ。個のない『あたし』にはぴったりな役割。だから」
 だから、とその虚の如き顔の闇色が波一つ立てずに咆哮する。
 救う。
 救う。
 あらゆるものから人を救う。それが救世主であるというのならば、人の生死に意味はない。
 あるのは生という汚濁から人を開放しなければならぬという歪み果てた救世の思想。

「だから、全部救うの。生という苦しみから。死という解放を持って救うの」
 嘗て在りし救世への意志は、残響歪み果てる――。
カイリ・タチバナ
(こっそりと即UC使う)
願われたから、か。まあ、俺様も願われたから面はある。
これでも三人目の守神だからな。
一人は、材料的には親父になる存在。
もう一人は『空にある』存在で、概念的な爺(祖父)。
(隕石と混同された空の彗星の神[島転移時に、元の空が見えなくなったので行方不明]→地に落ちた隕石鉱物のヤドリガミ[故人]→銛のヤドリガミ)

はは。浄化と破魔の結界で、その噛みつきは弾かせてもらう。
それに、俺様を一時的に止めたとして…もう準備はできてんだよ!
ああ、世界を違えても、俺様の声は爺に届くんだよ!そんでもって、届くなら神使派遣もできるって話だ!

だからな…神使による奇跡、流星魔法を食らいやがれ。



 願われたから。
 それは単純な存在の動機であったのかもしれない。
 純粋な願いは純粋なるものを引き寄せる。この荒廃した世界にあって、救済を求める願いは数多あるものであった。
 数多在る願いが集合したとして、生まれるのは果たして願いどおりの存在であっただろうか。
 元より過去の化身。
 オブリビオンは過去より染み出した存在。
 そう願われたからと言って、それが歪まぬ理由など何処にもないのである。

「『あたし』は存在する。此処に存在している」
『フェイスレス・テレグラム』は虚の如き穴の開いた顔で猟兵たちを見据えるだろう。
 救わなけれなばならないという全なるモノだけを与えられた個の無きモノ。
 それが彼女である。
 周囲に浮かぶテディベアの如きぬいぐるみの端末から放たれる電波は猟兵達の脳に至るだろう。

 けれど、カイリ・タチバナ(銛に宿りし守神・f27462)は頭を振る。
「願われたから、か」
 己もまたそうであるとカイリは己を知る。
 願われたから存在している。百年経った器物。それがヤドリガミであり、己の蒼き鉾が本体であることを示している。
 そうして、銛は守へと変わる。
 守護者たれと願われた面は彼もまた否定できない。

 一つは蒼色の鉱石。
 それを父祖とするのならば、『空にある』存在たる概念たる祖父。その命脈たる存在の繋がりが、彼の今を形成している。
 島に落ちた星がやがて器物へとなり、そして人の姿を取る。
 超常なる者は、祀られる。
 それが人の営みのなさしめることであり、その願いこそがカイリをカイリたらしめるのだ。

「なら、『あたし』と同じね。『あたし』と共に救世を為しましょう。いえ、『あたし』だけでいい。『あたし』、『あたし』、『あたし』だけが救世主足り得るの」
 頭に流れ込んでくる電波の如き思念。
 個を与えられず、ただ没するままに役目を果たすことを強いられた過去の化身の放つユーベルコードはカイリにとって強烈なる負荷となるだろう。
「はは……!」
 カイリは笑う。
 如何なる思念が彼の脳を揺らすのだとしても、彼はもう止まらない。
 すでに瞳にはユーベルコードが輝いている。

 ――原初の守神、神使を遣わす(クヌリテオノカミノツカイ)。

 それは時限式なるユーベルコード。
 発動したが最後、必ず二分に満たぬ時間の後に力を発露する力。カイリは指差すだろう。
 空にあるは星。
 否、人の形をした神使。
「『あたし』を邪魔する光……!」
 カイリは身動きが取れない。頭に流れ込んでくる『フェイスレス・テレグラム』の思念が彼の体を苛むのだ。
 けれど、彼は己の力、その浄化と破魔の結界でもって組み付かんとする『フェイスレス・テレグラム』を弾き飛ばす。

「俺様を止めたとして……もう準備は出来てんだよ!」
 カイリが叫ぶ。
 天に浮かぶ神使は、その叫びに応えるように流星の軌跡を空に描く。
 どれだけ世界が違えても、カイリの言葉は概念たる祖父に届く。
 世界を超えても、世界を踏み越えても、なおも届くものがある。彼に必要であったのは確信だけだ。

「てめぇの声はもう何処にも届かないのかも知れねぇが……俺様の声は爺に届くんだよ!」
 ユーベルコードが示すは『フェイスレス・テレグラム』。
 空より飛来する隕石は、流星の魔法。
 煌めく星々が虚の如き彼女の顔を照らす。なにもない。何も存在していない。器にもなれない。
 何者にも慣れぬという孤独が過去を歪ませたというのならば、カイリは己の胸に満ちる願いを持って『フェイスレス・テレグラム』を討ち滅ぼす。

 己に個を求めるのではない。
 己の周囲に在るものが己という個を形成していく。出逢った者、願う者、祀ろう者、それらの全てが今のカイリを形成しているのならば、あの没した個しか持たぬ虚を撃てぬ道理などない。

 空より飛来する流星が『フェイスレス・テレグラム』の虚へと落ちる――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

大町・詩乃
(嘆息し)『人の振り見て我が振り直せ』という言葉の大切さが判ります。

貴方は他者を重んじる事をせず、自分が満足する為の行為を救世と嘯く。
…そして結果的にも誰にも恩恵を与えられない。
それが彼女と最も違う所です。

UC発動し、オーラにて有害な【微弱な電波】をカット。
それ以外の攻撃はオーラ防御を纏った天耀鏡の盾受けで防ぐ。

そして煌月に神罰と光の属性攻撃を宿し、UC効果&なぎ払いにて斬ります。

世界と他者と触れ合い、響き合い、時にはぶつかり合い、そして和す。
その機会が与えられなかったのは哀れだと思いますが、だからと言って貴方が他者を害する事は放置できません!

最後に彼女がいつか正しくやり直せることを祈ります。



 己の行いが常に正しいとは思わない。
 間違っているかも知れないし、正道から外れたものであるかもしれない。常に疑問を呈することは必要なことだ。
 またそれと同時に、己の行いを正しいと信じる強さもまた必要なものである。
 一見すれば矛盾した言葉であるだろう。

 けれど、大町・詩乃(阿斯訶備媛・f17458)は神性でありながら、多くのことを見つめて己の糧とする。
 人と交わり、人を知り、人と共に生きていく。
 彼女の在り方はそれである。
 深く、息を吐き出す。
『フェイスレス・テレグラム』の言葉は常に自分だけしか見つめていない。
 個無く、己というものを確立できず、ただ器に注がれるものだけを己とする虚。それが『フェイスレス・テレグラム』という存在であった。

『ゾンビ化』し腐敗した肉体があれど、それは変わらない。
「『あたし』だけが救世主であればいい。『あたし』が、『あたし』が、全部を救ってみせる。そのためならば、なんでもいい。救われたのならば、死しても構わないもの」
 周囲に浮かぶぬいぐるみの端末。
 微弱な電波が詩乃の頭に入り込んでくる。けれど、詩乃はそれ若草色のオーラでもって防ぐのだ。

「『人の振り見て我が振り直せ』という言葉の大切さがわかります」
 詩乃が見据える『フェイスレス・テレグラム』は虚だ。
 自分というものがないから、他者に己の存在を確立してほしいと願う。願われた『救世主』たらんことをという願いだけを縁にして、この世界にある虚ろな存在。
 故に詩乃は息を吐き出す。
 思い出すのは救世主たらんとした過去のオブリビオンの姿。
「貴方は他者を重んじることをせず、自分が満足するための行為を救世と嘯く」
 神性解放(シンセイカイホウ)した詩乃の若草色のオーラは、あらゆる害意を振り払う。

『フェイスレス・テレグラム』のユーベルコードすら弾き、詩乃は迫る腐敗した彼女に相対する。
 鏡の盾を持って手をのばす『フェイスレス・テレグラム』の虚なる顔には表情はない。
 詩乃の言葉に激高しているのか、それとも悲しんでいるのかさえわからない。
 けれど、たった一つ確かなことがある。
「『あたし』だけが救世主。そう願われたから。そうあるべきとあるのが『あたし』』なのだから!」
 伸ばされた手を詩乃は取ることはなかった。

「……そして、結果的にも誰にも恩恵を与えられない。それが『彼女』と最も違う所です」
 詩乃はいい切る。
 嘗て在りし『救世主の園』の主。
 救世主たらんことを歪められたオブリビオン。その少女の名を思い出し、詩乃は己の手にした薙刀の刀身に力を込める。
 人々や世界を護りたいという想いが詩乃に力を与える。
 それこそが彼女の神性の在り方だ。

「世界と他者とふれあい、響あい、時にはぶつかり合い、そして和す」
 それが人の生き方だ。
 人から彼女が学んだものでもある。だからこそ、詩乃は、『フェイスレス・テレグラム』の虚なる顔を悲しいものであると思ったことだろう。
 他者とは己を写す鏡だ。
 その虚が悲しいものと思えたのならば、詩乃が『フェイスレス・テレグラム』の生き方を悲しいと思うのと同義である。

「哀れだからといって――」
 そう、断じて許されることではない。
 この『ゾンビ化』のパンデミック。その中心たる『最初の一体』である『フェイスレス・テレグラム』を打倒することに彼女は躊躇いはない。
 振るった薙刀の一閃が『フェイスレス・テレグラム』を切り裂く。
 血潮は吹き出すことはない。
 ただ、腐臭だけが周囲に満ちていく。
「『あたし』が、もっと、もっと、強ければ。もっと力があれば」
「確かにそうなのかも知れません。力があれば……そう願うことも。けれど、貴方が他者を害することを放置はできません!」

 詩乃は力強く一撃を放つ。
 それは祈りにもにていたことだろう。
 彼女がいつか正しくやり直すことのできる日が来るようにと。こんなやり方ではなく、誰かのためになるように生きられるいつかが訪れるようにと。
 詩乃は願わずにはいられない。祈ることしかできない。
 それが猟兵とオブリビオンという存在にある唯一許されたものであるから。
 滅ぼし、滅ぼされる。
 されど、残るものがあるのならば、詩乃はより良きを残せるようにと、やはり祈るのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

儀水・芽亜
これはさしずめ、地獄に仏のつもりでしょうか?
幸福になれるなら死んでもいい、と?
馬鹿げたお話ですね。そもそも、幸せを知らぬモノが他人を幸せに出来るはずがありません。

会話が成立しない以上、物理的に排除するしかありませんね。
「全力魔法」深睡眠の「属性攻撃」「範囲攻撃」「催眠術」でサイコフィールで展開。
屍体は後で荼毘に付して差し上げますから、黙って寝ていなさい。

さあ、手下は黙りましたよ、無貌の方。
直に刃を交えるのは苦手のご様子。それは、非常に、都合が、いい。
裁断鋏『Gemeinde』で「切断」して、四肢を「部位破壊」していきましょう。
さあ、寸刻みのお時間です。原形も残らぬように「蹂躙」してあげますね。



 人が生きているから苦しむのだとして、それを救済することは解放とも取れるものであった。
 飛躍した論理が導き出すのは、いつだって暴虐そのもの。
 真理を突いているかの如き言葉は、耳障りの良い言葉であったかもしれない。しかし、それはどのような時代にあっても誰かを言葉巧みに騙すものでしかない。
「だから『あたし』が開放してあげるの」
 腐食した肉体のまま『フェイスレス・テレグラム』が言う。
 彼女の肉体に刻まれた斬撃の痕は、鮮血など一滴もこぼすことがなかった。そう、すでに彼女の肉体は血潮など流れぬ過去の化身そのもの。

「死は解放そのものであるから。苦しみしかない世界から逃れるために必要なのは死。その器である肉体は『あたし』が使ってあげるから、何も心配しなくていいの」
 そう告げる彼女の周囲にあった『ゾンビの群れ』の肉体が立ち上がる。
 死してなお残る遺骸。
 それを操る『フェイスレス・テレグラム』は虚の如き顔をもたげる。
「これはさしずめ、地獄に仏のつもりでしょうか? 幸福になれるなら死んでもいい、と?」
 儀水・芽亜(共に見る希望の夢・f35644)は『フェイスレス・テレグラム』に浮かぶ虚を見つめる。

 見つめた所で、彼女の心の中など見通すことなどできない。
 その疑問もまた虚の中に消えるものであった。
「馬鹿げたお話ですね」
 だから、芽亜は斬って捨てるのだ。その言葉も、考えも、何もかもが馬鹿馬鹿しいものであった。
 論ずるに値しない。
「そんなことはないわ。『あたし』が求められ、『あたし』がそうすると決めたのだから、きっとみんな喜んでくれる。それが救世主というものでしょう?」
 いびつなる言葉。
 そこに真理も何も必要ないというかのような傲岸不遜たる態度。
「そもそも、幸せ知らぬモノが他人を幸せに出来るはずがありません」

 会話は続かない。成り立たない。
 なぜなら『フェイスレス・テレグラム』には知性がない。あるのは、彼女を構成する過去そのものだけである。
『ゾンビ化』した彼女にとって『救世主たらん』とすることは、ただの反射でしかなかったのだ。
「私の世界で勝手はさせません」
 サイコフィールドが展開され、鴇色の陽炎を纏ったドーム状の結界が芽亜を包み込む。
『フェイスレス・テレグラム』が彼女に迫ったとしても、結界が阻む。
「どうして? どうして? どうして『あたし』には『それ』がないの。確固たる個がないの。どうして? どうして?」
 救世主たらんと願われたのは、彼女の願いそのものではない。
 そうあるべきと造られた過去が歪む。
 腐敗した肉体だけが、願いを受けて突き進む。

 その間に芽亜は己に迫った『ゾンビの群れ』を睡魔によって眠らせる。いや、彼等の肉体が見ていた悪夢そのものを塗りつぶす睡魔が、彼等の動きを止める。
「屍体は後で荼毘に付して差し上げますから、黙って寝ていなさい……さあ、手下はだまりましたよ、無貌の方」
 芽亜は改めて見つめる。
 そこにあったのは年端も行かぬ少女。虚の如き闇が浮かぶ顔は、一体何を見つめているのか。

「『あたし』にはなにもない。なにもないなんてことはないと言いたいのに、どうしても、『あたし』には、それがないの」
 顔のないオブリビオン。
 それが求めるのは個である。芽亜はそんな哀れなる存在に向かって駆け出す。彼女が手にした裁断鋏が一閃する。

「さあ、寸刻みのお時間です。原形も残らぬように蹂躙してあげますね」
 芽亜がふるう斬撃は『フェイスレス・テレグラム』の体を切り裂く。
 腐臭漂う肉体。 
 芽亜は見ただろう。虚の如き闇浮かぶ顔と同じように切断された腕が宙に舞う。
 その切り口もまた闇。 
 なにもないことを示すように『フェイスレス・テレグラム』は無貌に泣く。痛みではなく、己にはなにもないことを嘆き、けれど、芽亜は、その嘆きこそ世界に存在してはならぬと、歪んだ過去をこそ裁断するのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

陸郷・める
☆める
★7号

☆……(無言のまま戦闘態勢)
★ハッ、親玉はゾンビ押し売りの自称救世主ってか?
生憎だがこっちは押し売り・勧誘はお断りだってよ

★一応悪環境用の戦車だ、簡単な電磁波対策ぐらいしてあるわな
それにこいつを動かす脳ミソは俺様とめるでふたつ。最悪どっちかが動けりゃ戦車の操縦と攻撃に問題はねぇ、動けるうちに端末に銃撃かドリルアームぶち込むぞ
それにめるはまだUCがあるぜ?
☆(くしゃみ)
★UCで呼ぶ生体偽神兵器キノコもばら撒く胞子も脳ミソはねぇ。テメェの力じゃ止めらんねぇぞ?で、ゾンビなら腐るよなァ?なら菌類の餌だぜ
ほらよ、死が解放って言うなら未練がましく彷徨ってねぇでテメェも土に還っちまいなァ!!



 微弱な電波が戦場に満ちている。
 それは『フェイスレス・テレグラム』の端末であるテディベアの如きぬいぐるみから発せられるものであった。
 脳を乗っ取る電波。
 それが彼女のユーベルコードであった。
「『あたし』が救世主になるの。死を開放し、生という苦しみ、汚泥からみんなを救う。そんな救世主に『あたし』はなるの。救うために、救うために、全て救うために」
『ゾンビ化』した『最初の一体』。
 虚の如き顔の中にある感情は読み取れるものではなかった。

 知性乏しく、されど願われた想いを受ける。
 その器として『フェイスレス・テレグラム』は存在していたのだろう。故に個が存在しない。確固たる己が存在しない。
 いわば、意志の中継点にしかすぎない。己から湧き上がるものなど何一つ無く。あるのは虚無のみ。
「……」
 故に陸郷・める(死念動力実験成功体6号・f26600)は彼女の言葉に答えなかった。応えるりゆうもなかった。
『フェイスレス・テレグラム』の言葉は、言ってしまえば押し付けでしかないからだ。誰かのためにとうそぶきながら、結局自身のためにしか行動しない者の言葉などめるには届くわけもなかった。

『ハッ、親玉はゾンビ押し売り自称救世主ってか? 生憎だがこっちは押し売り、勧誘はお断りだっってよ』
 めるの相棒である7号が代わりにというように言う。
 衝動が改造戦車に流れ込んでいく。脚部ユニットが唸りを上げ、偽神砲塔を『フェイスレス・テレグラム』へと向ける。
 たとえ、微弱な電波がこちらの操作系統を操ろうとした所で、悪環境を走破するために造られた己の体とも言うべき改造戦車には意味がない。
 その程度の対策はすでにしてあるのだ。
「どうしてあなたには『あたし』の言葉が届かないの? どうして?『あたし』は救世主なのに!」
 迫る『フェイスレス・テレグラム』。
 無貌のごとき虚に感情の色が乗ることはない。

 ただ動く屍の如く7号たちに迫るノアだ。
『それはな、こいつを動かす脳みそは俺様とメルでふたつ。最悪どっちかが動けりゃ、問題などあるわけもねぇ!』
 ふるうドリルアームが『フェイスレス・テレグラム』に叩き込まれる。
 血潮は吹き出さない。
 すでに『ゾンビ化』している彼女にとって血は必要のないものであった。彼女を突き動かしているものがなんであるかはわからない。
 これが『ゾンビ化』というものであるのならば、病原菌などといったものが引き起こす事柄とはまた別のものであったのかもしれない。

「――へぷしゅ!」
 それは戦いの最中にあって、あまりにも場違いなくしゃみの音であった。
 7号の中でくしゃみをする、める。
 彼女のくしゃみとともに現れるのは二足歩行するキノコ型の謎生物――めるたちを生み出した者たちに言わせるのならば、それは偽神細胞融合型生物兵器実験体18号(シャンピニオンストーム)という名称が与えられていたことだろう。
 それは偽神兵器としての性質と毒、幻覚、薬物の力を持つ歩行兵器。

「――生物、じゃないな……?」
 己の電波が届かぬ敵。
『フェイスレス・テレグラム』は戸惑うばかりであった。己はソーシャルネットワークを介して人々に救世主たることを示す存在。
 けれど、それが届かぬ存在が、今目の前にあるという困惑が彼女の虚の如き感情に突き立てられるのだ。
『テメェの力じゃ止められねぇぞ? で、ゾンビなら腐るよなァ? なら――菌類のエサだぜ』
 7号はめるの手繰るキノコ型の謎生物が次々と『フェイスレス・テレグラム』の体の表面に生えていくのを見るだろう。

 振り払っても振り払っても、毒のように彼女の体を蝕んでいく力。
 ユーベルコードによって召喚された菌類に意志はない。ただそこに己たちが繁殖するための要因があるのならば、己の中にある存在としての力をふるうばかりである。
 その猛威が『フェイスレス・テレグラム』の体を蝕んでいくのだ。
『ほらよ、死が解放って言うなら未練がましくさまよってねぇで、テメェも土に還っちまいなァ!!』
 それが解放というものである。
 オブリビオンである以上、霧消するしかない。土に還ることもないだろう。何も残さず、何も為し得ることなく消えゆくのみ。

 それこそが『フェイスレス・テレグラム』に与えられた罰であるというのならば、死は解放でも救いでもないのだと7号とめるは圧倒するのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!

そうかーがんばったねー
えらいよ!えらい!
でもねボクはこの世界でたくましく生きるもろく弱い生き物たちをもう少し見ていたいからね!

●ぼうがいでんぱ
むーん!なにか飛んできてる気がする!と【第六感】で察知して
たまにはキミも働いて!と[叡智の球]くんに対抗電子戦をしてもらうよ!
こーいうの得意でしょ!

そして顔の無い顔にUC『神撃』でドーーーーンッ!!

生きている子は生きている方がいいと思って
死んでいる子は死んでいる方がいいと思うものさ
なかなか分かり合えないものだね~

だからボクは骸の海にキミを遣わそう
キミがいつか本当の『救世主』になれるように
あるいは『救世主』にならなくていいように!



 ロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)は感嘆しているようでもあり、また賞賛しているようでもあった。
 何に、とは問うまい。
 それは『フェイスレス・テレグラム』にとって手放しで受け止めることのできるものではなかったからだ。
「そうかーがんばったねー。えらいよ! えらい!」
 ロニは笑って『フェイスレス・テレグラム』の虚の如き顔を見つめる。
 そこにある感情の色を見出すことはできない。
 あるのは死して尚、そして腐敗し、腐臭を撒き散らしながらも存在し続けるという『フェイスレス・テレグラム』の歪さしか、ロニは見ることはできなかっただろう。

 この荒廃した世界において彼女の存在は忘れされたものであったことだろう。
 誰もが切り捨てるか、取り落してきたもの。
 それこそが『フェイスレス・テレグラム』を構成するものであったのかもしれない。過去になり、オブリビオンとなって歪み果てた願いは、救世主らんとすることを縁にしていたのだ。
「でもね、ボクはこの世界でたくましく生きるもろく弱い生き物たちをもう少し見ていたいからね!」
 それが神性のエゴであったのだとしても、明日を求めて生きる者たちの懸命さが美しいということ自体の否定にはならない。

 ロニは己の頭に響く微弱な電波を感じ取って、頭を振る。
 球体が空より舞い降り、ロニは告げる。
「たまにはキミも働いて! こーいうの得意でしょ!」
 電波でもってこちらの動きを阻害するのならば、こちらも抗うことをしなければならない。
 それがオブリビオンと猟兵との間柄における最低限の礼儀であるように彼は思えたかも知れない。
 微弱な電波は完全に打ち消せない。
「『あたし』は救世主。『あたし』は救世主。そうあれと願われたのだから、『あたし』はそうであるべきなの。だから!」
 迫る無貌。

 そこにあるのは、願いを受ける器でしかなく、没した個を求める幼子のような癇癪であったかもしれない。
 それをロニは下す。
 己の拳でもって、それを下すのだ。
「ド――ンッ!!」
 どれだけの憐憫も悲哀も、その拳の前では意味をなさない。

「生きている子は生きている方がいいと思って。死んでいる子は死んでいる方がいいと思うものさ」
 それはわかりあえるものではないことを彼は知っていたことだろう。
 互いが互いの領域をこそ良きものであると思うものである。そう思わなければやっていけないのかもしれない。
 弱さというのならば、確かにその通りであったのだろう。
 けれど、相対する者と自身を比較することによって個を見い出すのが人であるというのならば、やはりそれは相容れぬものであるのだ。

「だからボクは骸の海にキミを遣わそう。キミがいつか本当の『救世主』になれるように」
 ふるう拳は大地を砕く。
 ひしゃげる音が響き、腐敗した匂いがロニの鼻をつくだろう。
 これが生きたものの成れ果てである。
 生きて、生きて、生き抜いたからこそたどるべき最後である。血は流れ、肉は腐り、土に還る。
 それを拒むのがオブリビオンであり、『ゾンビ化』というものであったのならば。
「『あたし』こそが救世主にならなくてはならない存在。『あたし』を否定するということは、『救世主』も否定すること」
「そうだね、あるいは『救世主』にならなくていいように!」

 ロニの拳がユーベルコードの輝きを放つ。
 打ち込まれた一撃は『フェイスレス・テレグラム』の胴を撃ち抜くだろう。
 虚なる器。
 そこに願われた『救世主』としての想い。それが全て他人から寄せられたものであればこそ、ロニは、『フェイスレス・テレグラム』であったいつかの彼女に湧き上がる何か、当人にしか掴めぬ何かが生まれることをこそ願って、拳を振り抜くのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジフテリア・クレステッド
正直なところ、あなたがどういう存在なのかは私には分からない。
でも、私の同族みたいに生きることに役割が必要だと思ってるあなたのことは放っておけないって思う。この想いは、あなたの術中に嵌ってるだけかもしれないけどね。

「生という苦しみから死という解放を持って救う」…この結論が、多分、あなたの本音だと思う。
だから、私があなたを今の苦しみから解放してあげるよ。

UC発動。脳の演算能力が強化されたことで思考能力もアップ。これで相手のUCで与えられた感情もある程度冷静に対処できるようになるはず。
相手への愛を覚えながらも、愛しているからこそ彼女が思う救いを与えるために強化された念動力で殺すよ。

…ゆっくり寝なよ。



「だれも『あたし』をりかいしてはくれない」
 その言葉は、胴を撃ち抜かれ、腕を失って尚『フェイスレス・テレグラム』の虚なる顔より響く声無き声であった。
 実利の中にある者は、きっと彼女の言葉に理解を示すことはできなかっただろう。
 情ある者であったとしても、それはきっと理解し得ぬことを理解する材料でしかなかったはずだ。

『フェイスレス・テレグラム』は嘆く。
 何故己には個というものがないのか。器としての伽藍堂しかないのかと。注がれるばかりで己から生み出すことのできぬ存在。
 そのまま過去になりはて、過去より滲み出ても尚、この有様である。
 腐敗した肉体は崩れ落ちることを知らないかのようにだらりと動き続ける。ぬいぐるみの端末から放たれる電波は、孤独そのもの。
 この世界に人という生命が数多存在していても、存在しているからこそ彼女は孤独を強く感じる。

 己だけが個を持ち得ぬという孤独。
「正直なところ、あなたがどういう存在なのか私には分からない」
 ジフテリア・クレステッド(嵐を紡ぐ歌・f24668)はそう言った。言ってしまえば、それは拒絶の言葉であるようにも受け取られたかも知れない。
 彼女のまたフラスコチャイルド。
 汚染物質を操るために付与された偽神細胞を移植された存在。環境汚染への耐性すらない失敗作と呼ばれた存在。
 けれど、彼女は紡いでいく。

 何を、と『フェイスレス・テレグラム』は虚の顔でジフテリアを見るだろう。
 何を紡ぐというのだろうか。目の前の存在は己と同じはずだ。失敗作。なのに、こうも違うのだ。
 目の前のジフテリアは今を生きている。
 己は過去より滲み出している。
 孤独が深まる。
 ジフテリアが前に居るという自体が、彼女にとって許しがたいものであった。
「でも、私の同族みたいに生きることに役割が必要だと思ってるあなたのことは放っておけないって思う」
 それは孤独を発する『フェイスレス・テレグラム』のユーベルコードの力、その術作に嵌っているだけなのかもしれない。

 反射的に動く『ゾンビ化』したオブリビオンのように。
 ただ、そうあるからという理由で突き動かされている情でしかなかったのかもしれない。
 けれど。
「『生という苦しみから死という解放を持って救う』……この結論が、多分、あなたの本音だと思う」
 それは飛躍した極論でしかない。
 救うという行為。
 それを為し得るためには、オブリビオンである『フェイスレス・テレグラム』は滅びを齎すしかない。
「だから、私があなたを今の苦しみから解放してあげるよ」
 アルジャーノン・エフェクトは、ジフテリアの脳の演算速度を一時的に増強させる。

 思考はクリアに。
 そして、己の中に湧き上がる孤独に泣く無貌の娘に対する感情もまた冷静に整理する。
 これは己のエゴでしかないのかもしれない。
 目の前の『フェイスレス・テレグラム』が泣いていると思うのは、きっとユーベルコードのせいだ。
 けれど、それだけだと言い切れぬ自分がいることをジフテリアは見つめるだろう。失敗作。『救世主』たらんことを願われ、その通りにできなかった者の末路。
 その悲哀。その憐憫。その哀愁。
 どれもがジフテリアにとって、愛豊部に相応しい感情であった。

 ユーベルコードの煌きがジフテリアの頭上に冠のように煌めく。
「『あたし』は救世主になる。ならなければならない。ならないのならば、この胸の虚に注がれる想いに応えられない。どうして、『あたし』は――」
 迫る無貌の救世主。
 否、救世主になりえなかったいつかの誰か。
 願われ、失望され、打ち捨てられた者の残滓。
 それが『フェイスレス・テレグラム』であるというのならば。

 ジフテリアは見据える。
 ユーベルコードの煌きに寄って得た念動力は通常時の六倍。
 膨れ上がった念動力は空を照らす光のように『フェイスレス・テレグラム』を掴み上げ、空へと持ち上げる。
「見なよ。あれが『今』を生きる人たちだよ。キミが『救世主』たらんとしたこと、『救世主』であれと願われたこと、それらの全部が彼等の『今』を生かしている」
『救世主の園』は、同じく『救世主』たらんとしたオブリビオンが残した大地。
 清浄であり、肥沃なる大地。

 過去を排出して時間は前に進む。
『今』という時間もいつかは過去になるだろう。けれど、それは礎と呼ぶのだ。今に染み出し『フェイスレス・テレグラム』もまた無貌のままに消えるしかないだろう。
 だからこそ、ジフテリアは輝く念動力のまま『フェイスレス・テレグラム』を送る。
 霧消し、消えていく嘗ての願いの器。
 それに願うことは唯一つだろう。
「……ゆっくり寝なよ」
 誰しもに終わりが訪れるというのならば、安らかなる眠りを。死を解放と言い、生を苦しみの汚濁と呼んだ彼女ならば、それこそが最も願ったものであったはずだから。
 願われることなく、ただ深い、深い、眠りの中に沈むように、無貌の少女は消えていくのだ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年06月05日


挿絵イラスト