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狐面の祭りにて事件と邂逅す

#サクラミラージュ

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#サクラミラージュ


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●狐の面を被りまして
 艶やかなもの、シンプルなもの、古来伝統のもの、斬新なもの。多種多様な狐の面が出店の全面を飾り、帝都の人々は楽しげにそれを選ぶ。
 明るい日の下、桜の下。すこし汗ばむ陽気の下。
 今日はとある神社の祭りの日、狐面を着けて巡るがお約束。
 さあさ、ハレの日を楽しみましょう。

●帝都にて異常あり
 帝都桜學府は影朧事件の対応以外にも、自主的に、あるいは學級活動として帝都を巡り、パトロールを行っている。テロル組織の活動や影朧による猟奇事件の気配がないか、日々見て巡る學徒兵達がいるのだ。
 そんな彼らに協力し、帝都の街を見回って治安維持活動に貢献しほしいというのが狐の面をつけた澪の依頼だった。
「ちょうど今の時期、狐面の祭りが開かれるんですよー……」
 とある稲荷様を祀る神社の祭りで様々な狐面が出店に並び、それをつけてお祭りを楽しむという。もちろんお面以外の店もあるのだ。
 ただしそこで何やら事件の手がかりが得られそうなな気がする、というのが澪の予知だ。
「なので厄介事が大きくなる前に、皆さんにはそのお祭りをパトロールしていただきたいのです」
 場に紛れるために狐面を選んで着けて見回ってもいいし、桜學府制服を借りてもいいだろう。観光客を装ってもいい。各々自分の好きなように見て回っていいのだ。その最中に何かしらの事件の手がかりを見つけられるはずだから。
「無事見つけたら、事が大きくならないうちに解決していただいて……で、またパトロールに戻ってもらえれば」
 事件が解決したら少しくらい遊ぶ余裕もあるはずだ。パトロールに戻るもよし、祭りをもう一度巡るもよし。桜學府の學徒兵や帝都の人々と交流を通じてコネクションを作りがてら、すこしゆっくりするのもいいだろう。
「では、どうかパトロールと事件解決……よろしくお願いします……」
 そう澪は頭を下げて、帝都へと道を繋ぐのだった。


霧野
皆でつけよう狐面。霧野です、よろしくお願いします。

●シナリオについて
 狐面の祭りで賑わう帝都をパトロールし、潜む事件の手がかりを見つけ出し、未然に解決してまたパトロールしたりゆっくりしたり。
 戦闘のないシナリオです。

 一章:狐面の祭りでパトロールをお願いします。
 二章:一章で見つけた手がかりを元に、事件を解決してください。
 三章:無事事が大きくなる前に解決できたら、パトロールに戻るもよし、純粋にお祭りを楽しむもよし。人々とコネクションを作るのもいいかもです。

●複数人で参加される方へ
 どなたかとご一緒に参加される場合や、グループ参加を希望の場合は【グループ名】もしくは【お相手の呼び方(ID)】を最初にご記入いただけると、助かります。

●アドリブ・絡みの有無について
 以下の記号を文頭に入れていただければ、他の猟兵と絡んだり、アドリブ入れたりさせていただきます。なければできるだけ忠実に作成します。
 良ければ文字数節約に使ってください。
 ◎:アドリブ歓迎。
 ○:他のグループや猟兵とも絡み歓迎。
 ♪:これがあるとシリアスよりはギャグっぽかったりコミカルな感じになるかもしれません。
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第1章 日常 『狐面の祭り』

POW   :    数ある狐面からランダムに選ぶ

SPD   :    好きなデザインの狐面を選ぶ

WIZ   :    着け心地の良い狐面を選ぶ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●賑わう祭りの人の波
 呼び込みの声も高らかに、今日も帝都は花火より。少々汗ばむ陽気なれど、道行く人並み途切れずに。
 けれどけれどもその影で、何やら事件の予兆あり。行き交う人に紛れいる、不穏な何かの影がある。
 そこに来たるは猟兵諸氏。いざ、活躍の幕が上がりゆく――。
杼糸・絡新婦
◎○
黒い狐面を着用し、
からくり人形サイギョウをたまに
【パフォーマンス】的に操りながら、
祭りを楽しむ人に【コミュ力】で話しかけたり、
周囲の要素を観察し【情報収集】。
気になるものがあるのなら【第六感】に従って、
そちらへ向かってみようか。
しかし、こんなお稲荷さんの祭りの中で、
よお、悪いことしようと考えるなあ、罰があたるで。


夜鳥・藍
◎○

きつね……不思議と何か引っかかる心持ではありますが、私自身には思い当たる節はかけらもなく。
昔どこかで何かしらの縁があったのだと思う事にしましょう。
お祭りの時は占いの卓を出す事が多いけど、パトロールというのですから動き回ったほうがよろしいのかしらね。
それなら狐面は紛れ込めるようにシンプルな物を。よくあるデザインともいえるかも。それを顔を隠さないように顔の横か後ろ側につけて。
それを付けていろいろ歩き回ってみましょうか。
こういう人の出が多い時は迷い人や迷子が出やすいですし、お面を付けていたらなおさらでしょうから。対策もなされてると思いますが人手はあったほうが良いでしょう。



●黒狐と人形と、白狐と白狼と
 自身の髪に馴染むような、黒に銀の墨を入れた狐面を斜めに被った杼糸・絡新婦(繰るモノ・f01494)。彼は自身と白い小さな狐面を着けたカラクリ人形のサイギョウを操って、道行く人を沸かせながら縁日の賑わいを歩く。
 帝都の空は高く晴れ渡り、雲一つない良い天気。行き交う人々の顔も道も明るくて。とても良いハレの日だった。
 溢れるような人の波の中、ひらりひらりと波間を縫って絡新婦は歩いては白い着物をひらりと翻し、身軽くサイギョウを踊らせて。如何にも興行でござい、と人の目を惹きつける。その最中に何か怪しいものはないかと観察しながら。
 一方、人の波を眺めつつ。こんこん、こん、とは鳴かないけれど白黒黄色と様々な顔を見せる狐の面。それをふと見やって足を止め、夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)は星色の髪を微かに傾けて不思議な心地を噛みしめる。
(きつね……不思議と何か引っかかる心持ではありますが、思い当たる節はないのですよね)
 今の自分に無いのならば、過去もしくは、もっと前の世の縁かもしれない。そう思い切り、藍は笑みを浮かべた。道行きの友にと呼び出した白銀の背を撫で歩を進める。普段、祭りであれば占い師としての顔で店を出すことが多いが、今回パトロールということであれば歩き回るほうが良いだろう、と判断したからだ。
 数多く見かける白塗りに朱を入れたシンプルな狐の面を横にかけ、藍は塞がれぬ宙色の視界であちらこちらと眺めゆく。彼女の死角には白銀が目を配る。絡新婦が人目引いたその間隙、何か不思議はないかと細かく気を配って歩いていた。
 祭りの人の波の中、ひらりと一つ、二つ、ビラが舞った。人の波に紛れるような小さなものが妙に絡新婦の目を引いた。
 ビラと一緒にもう一つ、藍の目を引いたものがある。人の多い賑わいでは迷い人や迷い子も出やすいものだ。今も道の傍らで不安げに見渡す幼子が見えた。
 藍は絡新婦へ目をやる。視線に気づいて頷いた絡新婦が人の波を人形の芸で誘導し、幼子の側へと流れを作り出す。その流れに乗って素早く移動した藍が柔らかな笑みを浮かべ、幼子に声をかけた。
「大丈夫ですか? 親御さんは?」
 幼子の潤んだ瞳が大きく丸く、そしてほろりと涙がこぼれていく。優しげな声に緊張が解けたのた。その子が大きく息を吸い泣き出す前に、白銀の尻尾がゆったり差し出される。びっくりした幼子は泣くことも忘れて揺れる尻尾に釘付けだ。
「ああ、迷子やなぁ。飴ちゃん食べる?」
 絡新婦も着物の袂から飴を出し、サイギョウへと持たせて幼子へと差し出した。大きなまん丸のドロップスにおずおずと幼子は手を伸ばし、口へと入れてふにゃりと顔を緩める。
「親御さんも今頃あなたを探してますよ。一緒に探して歩きましょうか」
 差し出された藍の手を幼子はきゅっと握り一つ頷いた。
「なぁ、この祭りでは迷子は何処に連れてけええやろか」
「へぇ、社務所に祭りのまとめ役がいるはずでさぁ」
 絡新婦も辺りの見物人へと話しかける。気のいい帝都の住民は、神社の側の社務所で面倒を見てくれると教えてくれた。二人は親を探しながら幼子と共に歩き出す。
 絡新婦の人形に導かれ、藍に手を引かれた幼子は、社務所で無事に親へと巡り合う。笑顔で手を振る親子と別れ、絡新婦と藍はそういえば、と祭りの総代に声をかけた。
「迷子も大変やけど、他に何か困りごとはあるやろか?」
「私達は桜學府と協力してこちらをパトロールしています。何かお力になれるかも」
「そうですな、まあ祭りの騒ぎに乗じたスリや喧嘩はありますが。それ以外で一つ気になる代物が」
 そう言って総代は一枚のビラを見せる。
「いつ配られたか置かれたかわからぬのです。中身も少々危ういもので」
 曰く、「帝都桜學府の横暴を許すな」「立ち上がれ帝都の若人よ」「志に賛同する者は、本日以下のカフェへ集いたし」などと人々を扇動するビラであった。絡新婦と藍が人の波間に見たものに相違ない。
「ああ、確かになぁ。これはまずいなぁ」
「一つ、事件の手がかりが得られましたね」
「せやなぁ。総代さん、安心してな。こっちで見てくるで」
「桜學府にも知らせを入れておきますね」
「ありがとうございます、どうぞお願いします」
 頭を下げる総代に頷き返し、藍と白銀、絡新婦とサイギョウはビラに乗せられたカフェへと向かう。
 狛狐の間を潜り抜け、狐面の並ぶ祭りを見ながら絡新婦は一つ呟いた。
「しかし、こんなお稲荷さんの祭りの中で、よお、悪いことしようと考えるなあ、罰があたるで」
「まったくです。せっかくのお祭り、純粋に楽しめばいいのに」
 藍の憤りにこくり、こくりと頷きを返す絡新婦とサイギョウ、白銀であった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

氷雫森・レイン
【蜜雨】
鳥精霊に手紙を運ばせた
きっともうすぐ会える
そわそわを抑えられず狐面を頻りに撫でる
貴女をイメージして作らせたこれも今日は本当にただの飾り
だって
「!…夕辺っ!」
じわりと熱くなる目尻を拭いもせず羽ばたいて頬に寄り添う
嗚呼彼女だ
私の最愛の友
「久しぶり。会いたかったわ」
離れたくなどなくて
けれど捨て置けない紫陽花狼の供をする為彼女を置いて旅館を出た
初秋に旅立ち…半年を過ぎた
それでも1日とて忘れたことなどないし、私の右中指を彩る指輪の蜜金石と双子の様な雫型の青石が揺れる彼女の耳を見れば想いはお揃いと判る
「ね、今日は羽を伸ばしましょう」
猟兵の仕事はあくまでもついで
「ふふ、貴女に似合う物を探しましょう」


佐々・夕辺
【蜜雨】
友人から受け取った手紙
今日がとっても待ち遠しかった
着物も躑躅色のものを新調して
狐面は…お祭り会場で買いましょう
すっかり祭りを楽しむ気の己に苦笑

「レイン!」
久しく見る友人の顔
泣きそうになるのを抑えて
頬の暖かさに安堵する
「ええ、ええ……私も会いたかったわ!元気にしていた?」

耳には貴方の水色をした、輝石の耳飾りがあるけれど
本物にはやっぱり敵わないわ
貴方の指に輝く私の色
思いは同じなのだと判る

どこを旅していたのかしら
何か目新しいものは見付けたりした?
聞きたい事ばかりね
私も話すわ
夫と二人で暮らしている事
お宿は変わりない事を

「そうね、久し振りの休みだもの、……あ。狐面」
貰いに行っても良いかしら?



●祭りの日、最愛の友との再会を
 よく晴れた狐面の祭りの日、ひらりひらりと桜の花が舞っている。
 過日、鳥精霊のラルに約束の手紙を運ばせた氷雫森・レイン(雨垂れ雫の氷王冠・f10073)は花の下、今日のこの時に会おうと約束した待ち人を待つ。逸る心は抑えきれず、右中指の指輪と同じ色をした、琥珀に藍を指した狐の面をそっと撫でた。約束の刻限まであと少し。
(きっともうすぐ会える)
 待ち人に似せて作られた狐面をしきりに撫でて、大事な大事な友を待つ。いつもなら旅の空の下、友のことを思い浮かべる縁の一つだが、今日はただの飾りでしかない。
 佐々・夕辺(咲梅・f00514)は、託された手紙を受け取ってから今日を指折り数えて待っていた。久方ぶりの友の色を宿した耳飾りが映えるよう、躑躅の色した着物を新調した。それから祭りでは一緒に狐面を購おうと、レインと過ごす時間への期待に心は浮き立っている。すっかり楽しむ気分の己に苦笑しながら、夕辺は待ち合わせの場所へと急いで向かう。
 待ち合わせの場所、大きな桜の木の下。同じように待ち合わせ、来ては去りゆく人波の中。視線がずれれば隣の人とも逸れそうな人出の中で、二人はすぐにお互いを見つけ出した。
「! ……夕辺っ!」
「レイン!」
 人の波を潜り抜け二人は距離を縮めてゆく。晴れた空の下だというのにレインの視界は緩んで雨が振り、夕辺の目にも雫が滲む。お互いの間にあるほんの僅かな距離が、ひどく長くも感じた。
 あふれる涙を拭うことなく、懸命に羽ばたいたレインが夕辺の頬に寄り添う。そっと夕辺が彼女に手を添えた。触れた部分から伝わる最愛の友の温もりに、互いに安堵の息を零す。言葉にならない思いも伝えるように、お互いに再会を祝った。
「久しぶり。会いたかったわ」
「ええ、ええ……私も会いたかったわ! 元気にしていた?」
 レインが離れたくない最愛の友と離れ、捨て置けない紫陽花狼の旅の供になったのは初秋の頃。それから今日まで半年を過ぎる中、様々な物を見て、体験し、紫陽花狼と共に歩んでいた。その旅路の中でも一日たりとて、最愛の友を忘れたことなどなかった。何をしているか、健やかにいるだろうか、想いを馳せていた。
 それは夕辺も同じ想いであった。耳飾りの色を見ては、降る雨を感じては大事な友を思い返していたものだ。今はどこにいるだろうか、どう過ごしているだろうか、怪我は、辛い思いはしていないだろうか、と。
 今も尚、双子のような形のレインの右中指を彩る蜜金石と、夕辺の耳を彩る輝石が揺れる度、互いの色を大事に身に着けていた事実を教え、離れた間も思いが同じであったことを教えてくれる。
 そっと友の涙を拭いながら、夕辺はレインに問いかける。
「あなたはどこを旅していたのかしら。何か目新しいものは見付けたりした?」
「そうね、何から話しましょうか」
 二人が離れた半年の間、何を見て何を感じたか、何をしたのか。たくさんレインの話を聞きたいのだ。それに夕辺に起こったことも伝えたい。彼女の夫と二人で暮らす甘くときめく日々の事を。それと桜の花の宿も変わりない事を。それ以外にも、色々と。
 レインも夕辺へ話したいことは尽きることなく湧き上がる。二人で飽きることなく言葉を交わしたい。離れた時間を埋めるように言葉を交わし、互いの事を知りたいものだ。
 けれどまだまだ時間はあるのだ。祭りを巡りながら話してもいいだろう。レインはそっと夕辺を誘う。
「ね、今日は羽を伸ばしましょう。せっかくのお祭りだもの」
 猟兵の仕事はあくまでもついでだ。二人でゆっくり祭りを楽しんでもいいだろう。賑わいの中、菓子を買ったり土産物を探したり。疲れたらいくつか用意された休憩所で休んで、語らうのもいいだろうから。
 夕辺もそれに頷いた。せっかくレインと過ごす休日、お祭りの日なのだ。少しのんびりと、レインと共に楽しみたい。
「そうね、久し振りの休みだもの、……あ。狐面」
 ちょうど目に飛び込んで来たのは狐面の屋台。ぐるりと囲うように様々な狐の面が並び、皆が楽しげに選んでは被っていく。夕辺はそんな屋台の一つを指差した。
「ねぇ、レイン。狐面貰ってきてもいいかしら?」
「ふふ、貴女に似合う物を探しましょう」
「ありがとう。あなたに選んでもらいたいわ」
 離れた時間を取り戻すように、互いに視線をあわせて笑い合い。まずは狐の面を。次は何をしようか。そんな会話をしながら、レインと夕辺は祭りの雑踏へと並んで進むのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

朱酉・逢真
【白蛇衆】◎ 黒地にススキ柄の浴衣+目の細い笑う狐の面
心情)指で狐を作ってコンコン。稲荷の神の祭りだねェ。"江戸のどこでも見れるもの、伊勢屋・稲荷に犬の糞"たァよく言ったもので、ある時期を境にドッと流行ったンだ。幸運だな。
オヤおふたり博識だ、そのとおり。面とは己を隠すもの。ひ、ひひ…案外・カミサマご自身も歩いてっかもなァ。なにせ祭りは神のために成されたものだ…。
行動)人混みに入るまでは坊らと歩き、人混みになってからは黯(*影)に潜ンで。物理的に触ると相手を腐らしちまうンでね。せっかくだから影をつたって怪しい相手を探そうか。見つけたら坊や深山の旦那にお伝えしよう。
オヤ…坊、財布ひっぱられてンぜ。


深山・鴇
【白蛇衆】◎
2021の浴衣、白蛇は小さく懐に隠れ+黒狐の半面

雲珠君は鹿が好きだからね
俺も猫にしたいところだが、郷に入っては郷に従えだ

誰かわからないからこそ、か
仮面舞踏会もそういうものだったかな
やんごとなき身分の者も、そうでない者も同じように楽しめる…って所か
雲珠君もその枝角でわかる気がするよ
君が言うとシャレにならんな?(何せ神だ)
なら、逢真君も少しばかり楽しんでもいいだろう、狐面も良く似合ってるよ

狐面、なんて被ってるんだ、顔がわからないなら悪事を働くのも容易いだろうね
ほら、雲珠君(軽い動きで紐を引いた手を叩き落とし)
爆破予告、なんてのもあり得るかもだよ
そうだな、挙動不審な輩がちらほらいたね


雨野・雲珠
【白蛇衆】◎
紺地に鹿の子模様の浴衣+白地に赤い隈取の狐面

鹿のお面をつけたいところですが…
(狐のお面装着)
今日はお稲荷様のお祭りですから!

お祭りは境界を混じらせ、
お面は正体を曖昧にすると聞いたことがあります
外すまで、その方がどなたかわからないからって
……(二人を見上げる)
お二人はすぐわかる気がします
なんていうか、雰囲気ありすぎて…

お祭りに乗じた悪事といえば、
スリにかどわかし、置き引き…あっ!?
(首から下げた紐がびん、と張る)
(スリはすぐ雑踏に紛れて逃げていった)
…あとは無差別の暴動でしょうか

見回りの学徒兵の方にタコ焼きを差し入れしましょう。
おつかれさまです、
何か気になることはありましたか?



●白蛇衆は祭りと面を語り、見回り、動く
 祭り会場に行く前に、担当の學徒兵とも顔を合わせ、祭りの開かれる神社へと【白蛇衆】の三人は向かう。
「鹿のお面をつけたいところですが……」
 雨野・雲珠(慚愧・f22865)は、冬桜の枝角を避けるように白地に赤の隈取の狐面を被りながら呟いた。
「雲珠君は鹿が好きだからね」
 そう頷く深山・鴇(黒花鳥・f22925)も黒に朱と白の線が入った狐の半面を被る。黒地に麻の葉の透かしを入れ、裾に日と雲を描いた浴衣に紅の帯を締め根付を下げていた。白蛇の縒は小さくなって懐に隠れ、ひやりとした心地を伝えている。
「俺も猫にしたいところだが、郷に入っては郷に従えだ」
「はい。今日はお稲荷様のお祭りですから!」
 そう拳を握る雲珠の浴衣は紺地に絞りの鹿の子模様に淡やかな桜色の帯。冬の枝角とあいまって鹿の面を被れば鹿の精、と嘯くこともできたろう。けれど今日は稲荷の祭り、狐の面を被るべきなのだ。
 そんな二人に並ぶ朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)は目を細め、指で狐を作ってみせる。黒地にススキの柄の浴衣に紫に百合が刺された帯を締め、目を細めた狐の面とよく似た顔で笑ってコンコンと鳴いてみせた。
「うん、稲荷の神の祭りだねェ」
 まだ少し離れた場所にある神社の鳥居の向こうには狛狐、辺りの人も狐面。参道にさんざさざめく人並みの、向こうに見えるはお稲荷さんの屋台に狐面を商う屋台。賑わう稲荷のお社の、ハレの良き日の祭りにかみさまは一つ智慧を語る。
「"江戸のどこでも見れるもの、伊勢屋・稲荷に犬の糞"たァよく言ったもので、ある時期を境にドッと流行ったンだ。幸運だな」
 開運、商いの神の利益を願ってか、商工業が発達した江戸では稲荷信仰が流行ったものだという。そんな祭りの縁日で神と人、桜の精が肩を並べ、人の世を守る見回りをするというのも奇縁かもしれない。
 三人で祭りの中に向かいながら、見えるいくつもの狐の面を見て雲珠は言う。
「お祭りは境界を混じらせ、お面は正体を曖昧にすると聞いたことがあります。外すまで、その方がどなたかわからないからって」
 面を顔が見えるように被るならまだしも、隠れれば途端に曖昧になる。神域やヒトならぬものとの領域の曖昧になる祭りの場ならなおさらに。もしかしたら隣の知人は知らぬ誰かかもしれない。
「誰かわからないからこそ、か。仮面舞踏会もそういうものだったかな。やんごとなき身分の者も、そうでない者も同じように楽しめる……って所か」
 鴇も仮面にまつわる知識を口にする。仮面舞踏会ではその下の素性を問うはナンセンス、たとえ察することができたとしても互いに素知らぬままで楽しみましょう、というのが暗黙の了解だ。
 逢真は狐の形の指のまま、二人の知識に深く頷いた。
「オヤおふたり博識だ、そのとおり。面とは己を隠すもの」
 そうこのように、と言いながら逢真は笑う狐の面を深く被る。そうすれば顔は見えず、確かに曖昧になるだろう、と。
 けれどかみさまと探偵をよく知っている雲珠は、そんな逢真を、鴇を黙って見上げた。
「お二人はすぐわかる気がします。なんていうか、雰囲気ありすぎて……」
「雲珠君もその枝角でわかる気がするよ」
「違いない」
 博愛のかみさまと胡散臭くも優しい人間は、そんな素直な桜の精に破顔した。嗚呼、確かに身近な者ならば顔が見えずとも通じるものがあるだろう。二人にも雲珠はきっとすぐわかる。
 さて人波に近づけば、どこもかしこも狐の面。被る被らぬ自由だけれど、乗り気な帝都の民は皆こぞって被るよう。ふと逢真がにんまり笑う。
「ひ、ひひ……案外・カミサマご自身も歩いてっかもなァ。なにせ祭りは神のために成されたものだ……たまには賑わいを見たいというものさァ」
 神への感謝を、神への懇願を。荒御霊を鎮めて和御魂に。祭事とはそう言う面も持つ。ならば神自身が紛れていてもいいだろう、と。
「君が言うとシャレにならんな?」
 何せそう言う逢真自身がかみさまだ。コンコン嘯く逢真を見ながら鴇は言い、さらに続ける。
「祭りが神のものというなら、逢真君も少しばかり楽しんでもいいだろう。狐面も良く似合ってるよ」
「オヤありがとォ。そういう旦那も坊も、浴衣似合うねェ」
「ありがとうございます」
 人の波が近づくに連れ、逢真はそっと黯へと潜む。神の権能で他者を腐らせぬように。影から伝って怪しい輩を見定めるために。
 鴇と雲珠は人波に紛れながら辺りを観察していた。
「お祭りに乗じた悪事といえば、スリにかどわかし、置き引きですね」
 祭りの出し物に気を取られ、己の身の回りから注意が逸れる。そこを狙ってモノを奪い、その身を奪う。雲珠は経験した祭事での事件を思い浮かべる。
「狐面、なんて被ってるんだ、顔がわからないなら悪事を働くのも容易いだろうね」
 顔がわからず正体不明、目立つ狐の面も辺りいっぱいに被っている。悪人もたやすく紛れてしまえるだろう。鴇も頷いていた。
「オヤ……坊、財布ひっぱられてンぜ」
「……あっ!?」
 逢真の声と同時、びん、と雲珠の首にかけた財布の紐が張る。狐面のスリは気づかれた上でも手の内に隠した刃物で紐を切ろうとした。奪ってしまえばそれでいいと考えたのだろうか。
「ほら、雲珠君」
 けれどそれより前に鴇が軽く財布を握った手を叩く。計算された衝撃はたやすくスリの手を開かせ、財布を雲珠へと跳ねさせた。すかさず雲珠が懐に財布をしまう間に、スリは人混みに紛れゆく。
「追いますか?」
「いや、すぐに捕まるだろう」
 鴇の視線の先では帝都桜學府の學徒兵が走っていくのが見えていた。彼らに任せて大丈夫だろう。
 鴇と雲珠、影に隠れた逢真はまた見回りに戻っていく。
「事件だけど。爆破予告、なんてのもあり得るかもだよ。嘘でも真でもこういう場でそんなことがあるとしれれば混乱も大きくなる。爆発が目的か、その混乱が目的か」
「……あとは無差別の暴動でしょうか。それも暴動そのものが目的か、他にあるのかで違いそうですが」
「そうだな、挙動不審な輩がちらほらいたね」
 祭りの賑わいを見るのとは違う目線の動きをするもの、何かを狙うように観察するもの。楽しむ人々の動作とはどこか違う動きは些細なものでしかない。けれど確かに怪しいものだった。
「ちょうどいい、スリも捕まったみたいだし。幾人か怪しいのを學徒兵に伝えに行こう」
 歩く先に見えたのは一つのテント。警備所などと染め抜かれたそこには数人の學徒兵が詰めていた。先程のスリもそこで調べを受けているようだ。そこならば人混みも途切れがちである。
 鴇や雲珠、姿を表した逢真に気づいた學徒兵が出迎えた。雲珠は差し入れのタコ焼きを差し出して聞いてみる。
「おつかれさまです、これ差し入れです。何か気になることはありましたか?」
「お疲れ様であります、ありがたくいただきます。気になることですか……おい、信濃」
「はい、武蔵さん」
「先程何か見たと言っていなかったか」
 信濃と呼ばれた學徒兵は頷いた。
「はい、何やらビラのようなものを見るのですが……どうにもつかめないのです。自分が手を伸ばしてもスルリとすり抜けて行く有様でして」
「こいつかなァ」
 影を伝って逢真が一枚のビラを取り出した。
 曰く、「帝都桜學府の横暴を許すな」「立ち上がれ帝都の若人よ」「爆発万歳、花火万歳」「志に賛同する者は、本日以下のカフェへ集いたし」などと人々を扇動するビラであった。信濃は是と頷いている。
「不穏ですね」
「怪しさしかないね。よく騒ぎにならないものだ」
「何やらの力で紛れているんだろうねェ」
 ならばここは猟兵の出番であろう。祭りに詰める學徒兵に怪しい人物を教えたあと、感謝する彼らに見送られて【白蛇衆】の三人はビラに乗せられたカフェへと向かうのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

エル・クーゴー
◎【ワイハン】



躯体番号L-95
当機は大正浪漫に高い適性を発揮します
(制帽+桜學府女子制服+颯爽翻すインバネス。現地スタイルでゴー)

サクラミラージュは鈴鹿の出身世界であるものと把握しています
パトロールに於けるルート選択_及び_作法に関しては彼女を模範として追従します
モ、モウカリマッカー(聞き込みがんばる)

初見の土地であろうと即座に適応、観察眼を働かせる咲花のニンジャ適性もなかなかのもの――

当機も自身の専科を用いての周辺警戒に尽力します
【万象改竄:電脳大天球儀】をチカチカさせずにふんわり展開
祭の作法に倣い狐面を装着している以上、当該エリアの霊験との回線接続が成立する可能性が高確率で想定されます


龍巳・咲花
◎【ワイハン】

おぉ、ここがサクラミラージュでござるか!
この時期にも関わらず本当に桜が咲いているのでござるなあ!
桜學府制服を借りたでござるが、おかしくないでござろうか?
ナチュラルに着こなしているエル殿は流石でござる!
鈴鹿殿のメイド衣装も素敵でござるなあ!
これは拙者、両手に花というやつではないでござろうか!

拙者、忍者故、狐面とはきっと相性良いでござるよ!(鈴鹿殿の隣で古風な狐面を選び)
鈴鹿殿は可愛い系でござるか、エル殿はどれにするでござるか?

諜報は忍びの得意とする分野でござる!
周りの人達とは歩き方などの普段の仕草に違和感がある者に目星をつけておくでござるよ!
あ、拙者、かき氷も食べたいでござる!


国栖ヶ谷・鈴鹿
◎【ワイハン】

狐面でお祭りだ!
っと、その前にパトロールだったね。
でもお祭りも楽しまなきゃ、咲花は初サクラミラージュだしね!
咲花、制服似合ってるよ、お面も忍びらしいね!
エルも制服似合ってるね、ぼくもオーダーメイドしてもらおっかなぁ。

パトロールは、ぼくのUCでコミュ力上げて、聞き込み中心にやっていくよ!
エルもやってみ……?それはちょっと違うかもしれない……!

狐面を選ぶんだよね?
どれにしよーかな?
かわいいのにしよっと!

……何か事件が起こるなら、何かを待っているような人がいるんじゃない?それか、お祭りの陽気にそぐわないような雰囲気の人とかね。
あ!りんご飴ある!買っちゃおう。
かき氷もいいね!暑いし!



●ワイルドハントの三人はひらりひらりと人波を舞う
 ひらり、ひらりと桜が舞う。狐の面を着けた人の上にも降り注ぐ。
「おぉ、ここがサクラミラージュでござるか! この時期にも関わらず本当に桜が咲いているのでござるなあ!」
 他の世界であればもう葉桜で、緑が目に鮮やかな時期だろう。けれど幻朧桜は今日も満開だ。彼女の名と同じように、咲き誇る花にはしゃぐ声を上げる龍巳・咲花(バビロニア忍者・f37117)。花びらと同じように軽々とインバネスを翻す。
「桜學府制服を借りたでござるが、おかしくないでござろうか?」
「咲花、よく似合っています」
 制帽に詰め襟、パニエを合わせたスカートに、ひらりと颯爽翻るインバネス。歩く姿は桜が舞うが如く、大正浪漫に高い適性を発揮する機体と桜學府制服を身に着けたエル・クーゴー(躯体番号L-95・f04770)は咲花へと肯定の意を返す。
「それなら良かったでござる! ナチュラルに着こなしているエル殿は流石でござる!」
「うんうん、咲花、制服似合ってるよ! エルも制服似合ってるね、ぼくもオーダーメイドしてもらおっかなぁ」
「ありがとうございます、鈴鹿もよくお似合いです」
「鈴鹿殿のメイド衣装も素敵でござるなあ! これは拙者、両手に花というやつではないでござろうか!」
「えへへ、ありがとう!」
 その身に馴染んだパーラーメイドの衣装の裾を靡かせて、国栖ヶ谷・鈴鹿(未来派芸術家&天才パテシエイル・f23254)もにっこり笑う。ここは彼女の出身世界である。水を得た魚のように慣れ親しんだ雰囲気に馴染んでいた。
 祭りの会場はもう、すぐそこだ。人波の多くが狐の面をつけており、種々様々な狐面が目に映る。賑やかなハレの日の空気に鈴鹿の表情も華やいだ。稲荷神社のお祭りに、彼女の中のきこやんも浮き立つのか、いつもより狐耳と尻尾も元気がいい。
「狐面でお祭りだ! っと、その前にパトロールだったね」
「はい。まずは祭りを見回り、何らかの事件に関わる手がかりを発見してほしい、という依頼です」
 今回の依頼の内容を簡単にまとめて答えるエルに頷きつつ、辺りを楽しげに観察する咲花を見て頷きながら言った。
「うん、でもお祭りも楽しまなきゃ、咲花は初サクラミラージュだしね!」
「よろしくでござる!」
「サクラミラージュは鈴鹿の出身世界であるものと把握しています。パトロールに於けるルート選択_及び_作法に関しては彼女を模範として追従します」
 郷に入っては郷に従え、祭りならば楽しむのも作法のうち。まずはこの祭りの約束事である狐の面を手に入れに、三人は屋台へと脚を向ける。
 並んだ狐の面達は、色も形も表情も、どれも様々に魅力的。乙女の心をくすぐって、どれにしようかな、と少しだけ迷いながらも思い思いに手に取った。
「選択肢多数で、少し迷います」
「狐面を選ぶんだよね? どれにしよーかな?」
「拙者、忍者故、狐面とはきっと相性良いでござるよ!」
 咲花は白地に朱を入れた古風な面を。
「お面も忍びらしいね! ぼくはかわいいのにしよっと!」
 鈴鹿は花の模様を取り入れた可愛らしいデザインの面を。
「鈴鹿殿は可愛い系でござるか、エル殿はどれにするでござるか?」
「当機はこちらを」
 エルは淡い水色に白で隈どったシンプルな面を選ぶ。
 それぞれ髪型を崩さぬように頭に飾り、次は早速パトロールだ。
「こんにちは! 何かありましたか?」
 鈴鹿は超高精度技能再現化装置を使用して、コミュ力の達人の技を模倣する。祭りに不似合いな物を持つ者がいないか、雰囲気が違うものがいないか観察していく。また、人への問いかけ方、相対する角度に仕草、すべてへと気を配り、対象の最も好むと思われる声のかけ方を用いて聞き込みだ。いくつか証言を得ながら、追従して観察するエルへと水を向けた。
「こんな感じだね。エルもやってみ……」
「モ、モウカリマッカー」
 エルはもちろん、聞き込みを頑張ろうとしたのだ。けれどどこかから回っている。カクカクと手を上げ、唐突な浪速風の声かけを行うエルに鈴鹿の声も尻切れトンボだ。
「……? それはちょっと違うかもしれない……!」
「そうですか……聞き込みは難しいです」
 一方咲花はひっそりと人波に乗りながら、周囲を観察していた。彼女が注目するのは足運びや仕草。祭りを楽しむものの何かを目当てとしつつもたまに迷うような足運びや、屋台や出し物へと目を奪われる視線、人とぶつからぬように気遣う仕草。そういうものとは違う些細な違和感を観察して、目星をつけていく。
「初見の土地であろうと即座に適応、観察眼を働かせる咲花のニンジャ適性もなかなかのもの――当機も自身の専科を用いての周辺警戒に尽力します」
 そんな咲花を見ながらエルは万象改竄:電脳大天球儀を柔らかに展開させた。目立たぬように瞬く光を押さえ、電脳魔術によるスキャニング光で祭りの会場を走査していく。
 ひとしきり見て回り、情報をまとめようと三人は肩を並べて祭りの中を歩き出す。
「もしも何か事件が起こるなら、何かを待っているような人がいるんじゃない? それか、お祭りの陽気にそぐわないような雰囲気の人とかいると思って聞き込みしてみたんだ。そうしたらこんなのを配っていた、変な雰囲気の人がいたって教えてもらったよ」
 鈴鹿は一枚のビラを二人に見せる。
 曰く、「帝都桜學府の横暴を許すな」「立ち上がれ帝都の若人よ」「志に賛同する者は、本日以下のカフェへ集いたし」などと人々を扇動するビラであった。いかにも何か良からぬことを企んでいる、と示すような文言が並んでいた。
「拙者も何やら祭りにそぐわぬ雰囲気の者や、祭り以外の目的がある動作をする者を見たでござるよ。その者達は確かにビラを配っていたな。そ奴らのことは、この祭り担当の學徒兵にも伝えておくべきでござるな」
 咲花も頷き、ビラを見て行動指針を立てていく。
「当機も該当の動きをする不審者を確認しました。また、当該エリアの霊験との回線接続が成立し、籠絡ラムプの存在も確認できました」
 祭りの作法に乗っとって狐面をつけ、かつ異界の魔術を使ったエルにこの稲荷神社の神使が接触したのだ。使いの狐曰く、桜學府の人員や、協力関係の組織の人員の手に、ビラが直接渡りにくくなる効果を撒いているらしい。
 見かけた不審者をこの祭りの担当の桜學府職員に伝え、カフェを目指して歩き出す。もちろん屋台を見ながらだ。
「あ! りんご飴ある! 買っちゃおう」
「あ、拙者、かき氷も食べたいでござる!」
「かき氷もいいね! 暑いし!」
「当機も何か、冷却作用のあるものやエネルギー減を取得したく」
 キラキラお日様に輝くりんご飴、ひんやりいろんなシロップのかき氷。箸巻きやイカ焼き、ひやしあめ。他にも片手で食べるには持ってこいの品が並んでいる。たこ焼きや焼きそば、お好み焼きのソースの香りもハイカラで捨てがたい。
 もう一度祭り会場を見回りがてら、乙女達は心躍る品々を楽しむべく脚を進めるのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

シビラ・レーヴェンス
露(f19223)〇♪
面は視界を狭くするからしっかり被るのは気になるな。
被る前に横被りが問題ないか聞いてみようと思っている。
もし横被りが難しいという説明なら…しっかり被るとしよう。
そうそう。狐面は着け心地の良いものを選択する。
そして府の制服に扮して巡回する。
制服の者が祭りを巡回していれば物取りなども減少するはず。
組織も警戒してくれれば楽なのだが…そうもいくまい。

…しっかりと面を着けているがよく前が見えるものだ…。
すれ違う者達に触れずに器用に避けていくのは勘なのか?
露らしいといえば露らしいが…凄いな。こういうところは。

私達の背丈では人が溢れている場所の警邏は困難だな。
それぞれの出店に立ち寄り店の者に話しかけてみよう。
「なにか困ったことは発生していないか?」
困ったことがなくてもいい。景気の話でも構わない。
ただ世間話から情報を得るということもある…はずだ。
困っている観光客を発見したら声をかけてみようか。
「桜學府の者だが、お困りかな?」
一般の者も何かをみているかもしれないからな。


神坂・露
レーちゃん(f14377)〇♪
可愛いお面にカッコいい制服…とっても素敵だわ!
それをレーちゃんが着るなんて…素敵よね♪
まずはお面を選ばないと…うーん。どれがいいかしら。
あ!鋭い視線のこのお面。レーちゃんに似てるわ!
「これにするわ。あたし♪ えへへ」
あたしもレーちゃんと一緒で桜學府制服を着るわ。
お面はしっかり被って…ごー♪

いつもよりもぎゅって腕にくっつくわよ♪
軍人みたいな服装のレーちゃんって初めてかもしれない。
「あ! レーちゃんレーちゃん、あの出店にいこー?」
「あ!! このお面柔らかい顔してて可愛いわ~♪」
「この狐面、模様みたいな柄だけど意味あるのかしら?」
…え?しっかり被っててよく見えるな?えへへ♪
ちゃんと邪魔になってないみたいよ。この狐のお面。

人が多いと迷子になっちゃう子供とかいるわよねー。
レーちゃんだと怖がっちゃうかもしれないからあたしが!
「大丈夫? おかーさんと逸れちゃったかしら?」
こーゆーのは事件と関係ないかもだけど放っておけないわ。
「じゃあ、あたし達と迷子センターにいこ?」



●ちびっこの祭り巡り
 祭囃子に舞うように、ひらりひらりと桜の花びらが舞い踊る。
 二人揃いの桜學府制服を着用したのは、シビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)と神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)。二人は顔を並べて狐面の屋台をじっくり見て面を選んでいる。
「まずはお面を選ばないと……うーん。どれがいいかしら」
「ふむ。私は付け心地の良さそうなものがいいな」
「あ! これにするわ。あたし♪ えへへ」
 露はすっと鋭い視線の狐の面を手に取りにっこり笑う。白地に金と銀で差し色を入れられたそれは、まるでシビラのような鋭い視線だった。
 シビラは面をつける前に、先程顔合わせを済ませたこの祭り担当の學徒兵へと問いかけた。
「すまない、この面は横につけても問題ないだろうか」
 面をしっかり被ると視界を狭くするから、気になったのだ。
「はい、構いません。皆思い思いにつけていいのです」
 學徒兵の言うとおり、祭りを歩く者は皆自由な位置につけている。きちんと被るもの、顔が見えるよう斜めや横につけるもの、後ろ頭につけるもの。時には被らず浴衣の帯に括りつける傾奇者もいた。
「なるほど」
 シビラは付け心地の良さそうな柔らかな紐に、緩く曲線を描いた狐の面を横に被り視界を確保する。
 露はそんなシビラを見てうっとりしていた。両手を顔の前で組んでキラキラした視線を向けている。
「可愛いお面にカッコいい制服……とっても素敵だわ! それをレーちゃんが着るなんて……もっと素敵よね♪」
 詰め襟に袴のようなプリーツのスカート、ひらり翻るインバネス。制帽の代わりに柔らかな曲線の狐の面。大正浪漫を詰め込んだシビラの格好に、露は大変眼福だった。
 自分も揃いの格好をしているが、狐の面はしっかり被る。案外広く確保された視野でシビラを見れば、いつもと違う装いが新鮮だった。
「うふふ。レーちゃん、行きましょ〜♪」
「ああ」
 制服のインバネスを、スカートの裾をひらりと翻し、柔らかに桜の舞う狐の面の祭りをシビラと露は歩く。軍人めいた格好のシビラが新鮮で、いつもより露はシビラの腕にぎゅっと抱きついて笑っていた。もしかすると初めて見る格好かもしれない。
「あ! レーちゃんレーちゃん、あの出店にいこー?」
 露が指差したのは、また別の狐面の屋台。抱きついたシビラの腕を引き、先程よりも種類に富んだ狐面を眺めていく。
「あ!! このお面柔らかい顔してて可愛いわ~♪」
「本当だ。目のラインが微笑んでいるようだな」
 花の文様を頬に入れた可愛らしい狐面にはしゃいだ声をあげ。
「この狐面、模様みたいな柄だけど意味あるのかしら?」
「呪術的な意味があるかも、な」
 朱色で隈取を全面に入れた狐面に感心する。
 しっかり顔を覆っていながら、人波に当たることも紛れる頃ともなく器用に歩き、シビラの周りではしゃぐ露にシビラは感心していた。
「……しっかりと面を着けているがよく前が見えるものだ……」
 今もすれ違う人とぶつかることなく避けた露にシビラは唸る。勘なのか、優れた感覚なのか。露らしいといえば露らしいと思い、凄いと素直に思えた。
「……え? えへへ♪ ちゃんと邪魔になってないみたいよ。この狐のお面」
 露は褒められてはにかみながら狐面に触れる。鋭い目つきから想像するよりも周囲を見やすい。邪魔にならない付け具合で感覚も大きく変わりはない。けれど褒められれば嬉しいものだ。露はぎゅーっとシビラの腕に抱きついた。
「まあいい、他の場所に行くぞ」
「はぁい♪」
 シビラと露は制服で祭りを巡回する。シビラの狙いはその姿による抑止力である。治安維持を担う組織の制服を着た者が巡回していれば、物取りなどの犯罪が減少するはずだと考えたからだ。大規模なテロル組織や影朧を何らかの意図で利用するものも警戒してくれれば楽だったが、そうもいかないと予想している。
 露はそんなシビラの意図に合わせて着替えただけだったりする。なによりシビラともおそろいだ。この機会を逃すはずはない。
 さて、人が少ない場所はともかく、すし詰めの如く人波に溢れた場所では彼女達は警護に向かない。実力云々ではなく、純粋に背丈が足りないのだ。人波をかき分け、進むことは十分にできるが、目視での抑止力としてはどうしたって物足りない。
 そこは適材適所、体格のいい者に任せることにして、シビラと露はじっくり出店の者に話を聞くことにした。早速手近なたこ焼きの屋台の主へと声をかける。
「らっしゃい! ちっちゃいお嬢ちゃん、何かいるかい?」
「帝都桜學府の者だが、なにか困ったことは発生していないか?」
「ふぅむ、困ったことなぁ?」
 店の主は悩み顔。別にシビラは困り事じゃなくてもいいのだ、景気の話でも天気の話でも。世間話から情報を得られれば、と思ったのだ。
「困ったことはないが、ちっと面倒なもんならあるぜ」
「ほう?」
 そう言った店主が差し出したのは一枚のビラ。
 曰く、「帝都桜學府の横暴を許すな」「立ち上がれ帝都の若人よ」「志に賛同する者は、本日以下のカフェへ集いたし」などと人々を扇動するビラであった。
「なるほど」
 風に乗って飛んできたから捕まえた、と言うだけで配っているのもを見てはいないと言う。シビラは店主に礼をいい、おまけたこ焼きをもらって露と分けながら、店から離れることにした。
「変なビラねぇ」
「何もないならいいが、そうもいくまい。後で見に行ったほうがいいかもな」
 そんな話をしていると、人混みの中で小さくなく声を露が聞く。見ると涙を零す幼子が、周囲の大人に声をかけられながら泣いていた。
 露はシビラを見る。今の彼女はビラの向こうに見える何やらあやしい組織の事を考えて視線がいつも以上に鋭い。これは子供が怖がりそうだ。だから露は自分が動くことにした。
「大丈夫? おかーさんと逸れちゃったかしら?」
 事件と関係はないかもしれないが、放っておけない。自分よりも少しだけ大きな子供に、泣いている幼子は安心したようだ。周りの大人も、桜學府の制服を着た姿にこれなら大丈夫だろうと胸を撫で下ろす。
「かーたん、とーたん……いない……」
 ぐずっと鼻をすする子供に露は手を差し出した。
「じゃあ、あたし達と迷子センターにいこ?」
「まいご、せんたぁ?」
「んーと、迷子のおかーさんを探してくれるところ!」
「いく……」
「えらいわね〜。じゃあいきましょう?」
 すんすん泣く幼子と視線を合わせ、あやして宥め、手を繋ぐ露にシビラは感心していた。合流した途端、シビラの視線の鋭さに幼子の目に涙が復活するが、まあ問題はない。
 ちびっこが三人で祭りを行く。華やかで賑やかな屋台に幼子は視線をうろつかせ、気を抜けば逸れそうになる。気を使いながらも途中、祭りに疲れ困っていた観光客の手も引いて、桜學府の詰めるテントへと向かうのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

馬県・義透
◎◯
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友

第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん

ハレの気は、悪霊ですから少々苦手なのですが…たまにはね?白い狐面をかぶりましてー。
まあ、祭りや祝い事というのは(生前は暗殺とか隠すのにちょうどよくて)好きですけどー。
たぶん、そういうことを企む者って、私と同じ考えなんですよー。
でもまあ、止めてるためにも気づかれぬように見回りしつつの情報収集ですねー。
ここの平和は本当に好きなのでー。


内部にいる武士三人、()内の言葉を察している。
「これ聞くの、こうなってから三回目くらいだしな…」



●疾き者、祭りの中で暗躍す
 明るいハレの日、祭りの中。馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の中で唯一忍者でもある『疾き者』こと義紘は、人の波の中をぶらりと歩く。
 白い狐の面に浴衣姿の彼は、のほほんとした笑みを浮かべながらゆったり歩いていた。
 悪霊が集って今の形になった彼にしてみれば、こういった神聖な場に通じる祭事やハレの気は少々苦手である。それでもたまには悪くない。
「祭りや祝い事というのは好きですけど、ねー」
 尚、この言葉には隠された本音がある。生前、忍びであった義透は暗殺なども請け負っていた。こういう祭りや祝い事の場は、それらを隠すにも紛れるにもちょうどよかったのだ。中で本音を聞いている武士の三人も既に察している。
「これ聞くの、こうなってから三回目くらいだしな……」
「うむ」
「わしらも付き合い長くなったのぅ」
 内部の声は置いておいて、義紘は己の思考に従って祭りを見て回る。
(たぶん、そういうことを企む者って、私と同じ考えなんですよー)
 騒ぎを起こして目立つにしろ、陽動で狙いは他にあるにしろ。自身の思考、嘘偽り、隠された方がいい真実を撒き散らし、人々に猜疑心を植え付けるにしろ。やり様もそこに至るまでの思考も、義紘は人の動きを観察する。祭りを楽しむ気もそぞろな軽い足取りと違う足運びはないか。人とぶつからぬよう気をつける仕草と違うものはないか。出し物や屋台にはしゃぐ声や歓声以外の声はないか。己の技術を持って情報を集めていく。
 スリや物取り、喧嘩などのその場の騒ぎは簡易に対処して帝都桜學府の担当者へと突き出しながら義紘は怪しいビラを配る者を泳がせた。彼らには気づかれぬようにしつつ観察し、ついでに風にまぎれて飛んできた一枚を受け止める。
 ビラには曰く、「帝都桜學府の横暴を許すな」「立ち上がれ帝都の若人よ」「志に賛同する者は、本日以下のカフェへ集いたし」などと人々を扇動するビラであった。
「これ、ですかね」
 散発的な事件は数あれど、予知に言われたような大掛かりな背景を感じるものはこれくらいだ。実際に記されたカフェに向かえば、未然に事件を防げるかもしれない。
 担当の學徒兵にも一報を入れながら、義紘は脚をカフェへと向ける。
「ここの平和は本当に好きなのでー……それを乱されたくはないんですよねぇ」
 明るく晴れた空に小さな呟きが溶けていった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 冒険 『怪しげなカフェー』

POW   :    従業員や常連客を締め上げて情報を吐かせる

SPD   :    屋根裏やバックヤアドに忍び込み、こっそり情報を集める

WIZ   :    カフェーの従業員として潜入し、情報を集める

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●怪しげな者達
 狐面の祭りの中で何やら怪しげなビラを撒いた者達がカフェーに集まっている。
「祭りの面といえば狐面が多い! しかし別にこだわる必要はないのだ! 狸や猫、犬、うさぎもいいじゃないか! 牛だって鹿だってかわいい!」
 様々な動物を着けた面を被って主張する男。
「爆発万歳! 花火万歳! 芸術は花火だ! 祝いの日以外にもどんどん花火を打ち上げようぜ!」
 花火玉のハリボテを持って、もっと花火を打ち上げたい紳士。
「もふもふ影朧はいいものですよ……うふふ……いっぱい愛でたいわぁ……」
 ふかふかのぬいぐるみを撫でながら、うっとりふかもふ影朧への愛を語る淑女。
「籠絡ラムプは便利なもの……もっとお国のための活用法を考えるべきである!」
 籠絡ラムプの有用性を語る軍人。
 それ以外にもやれ幻朧桜をもっと大規模に保護すべきとか、やれ帝都桜學府の制服いいよね、やれ怪奇人間サイコーなどなど、様々な主張が飛び交う。
 彼らに共通するのは、人数の少ない少々もしくは大いに怪しい組織だと言うことだ。要するに同士を増やそうというのがビラの目的であった。

=====
・ちょっと危ない人達が仲間を増やしたくてビラを配っていました。ここは怪しいカフェーです。お客も従業員も皆危ない人達の仲間です。
・でも皆ちょっと猟兵が叱れば改心しちゃうくらいのゆるさです。危険物(籠絡ラムプ)は帝都桜學府の人が何とかします。
・即乗り込んで叱る、隠れて情報を集めたあと叱る、潜入して情報を集めて叱る、何でもありです。同意したあとにたしなめる、悪いことは悪いと叱るのもいいでしょう。フラグメントにこだわることもないです。
馬県・義透
引き続き『疾き者』にて

(のほほんにっこり)
なるほど、こういう方向の怪しさ。…いえ、大きな騒ぎになる前でよかったですよ。そうなると、治安を乱すのでー。

籠絡ラムプ…たしか、『私たち』が猟兵になりたての頃に騒動が…。

いいですか、例えお国のためだとしても、活用はダメですよー。
あくまで私の場合ですが。二回関わって、二回とも持ち主が殺されかけましたけどー?

それに、影朧にとってもよくないですよー。『救済』とは違うんですからー。
言い換えましょう。あれは影朧を奴隷にする道具です。
縛り付けていた道具がなくなれば…どうなるかわかりますよねー?

(あくまで、いつもののほほんにっこりだが、知らない人が見ると…)



●疾き者、軍人の背筋を凍らせる
「なるほど、こういう方向の怪しさ」
 そっと物陰に気配を殺して忍び、各人のとりとめのない主張を聞いた義紘はいつもののほほんとした笑みを浮かべていた。ここはちょっと危なくて怪しい方向の人達の集会場所になっている怪しいカフェーであった。
「……いえ、大きな騒ぎになる前に見つかってよかったですよ。そうなると、治安を乱すのでー」
 それは彼の愛するこの世界の平和を乱すと同じ。未然に防げるならばそれがいい。
 義紘はそっと籠絡ラムプの有用性を考える軍人へと近づいていく。彼は鼻の下に蓄えた立派な髭を撫でながら、テーブルに乗せた籠絡ラムプの有用性を考えていた。
(籠絡ラムプ……たしか、『私たち』が猟兵になりたての頃に騒動が……)
 その騒動、籠絡ラムプに関わる部分は決して明るいものではない。一つ間違えば悲惨なものになりかねなかった。そんな事態を繰り返させないためにも、義紘は軍人の向かいに腰掛けて語りかける。
「ちょっといいですか、例えお国のためだとしても、籠絡ラムプの活用はダメですよー」
「む? 何故かね?」
 軍人は素直に義紘の言に耳を傾けた。
「あくまで私の場合ですが。二回関わって、二回とも持ち主が殺されかけましたけどー?」
「なんと」
 救いを求めた少女、文を求めた文士。どちらにも事情があって、願った事は別ではあったけれど、どちらも籠絡ラムプの犠牲になりかけた。
 それを義紘が軍人に伝えれば、彼は髭を撫でながらふむ、と頷いた。
「それはよろしくない。帝都臣民を危険に晒すのは言語道断である」
「それに、影朧にとってもよくないですよー。『救済』とは違うんですからー」
「それもそうだ。救いがないのはよろしくないな」
 ここまでの話でも十分そうだが、義紘はもう一押しすることにした。割と単純そうなこの軍人がまた籠絡ラムプを使う気にならないように。
 籠絡ラムプは彼らの助けにはなりえない。影朧を救いもしない。あれはそういったものではないのだから。
「言い換えましょう。あれは影朧を奴隷にする道具です。
縛り付けていた道具がなくなれば……どうなるかわかりますよねー?」
「ひぃっ」
 義紘にしてみればいつもの笑顔だ。のんびりとした春のような笑顔だ。けれど言葉に乗せた凄みが、気配が、その笑顔を極寒の吹雪に見せてくる。
 軍人は背筋を冷たくしながら、素直に籠絡ラムプは使わないと真摯に約束したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍
◎○

ええとですね、あの……(思っていたより緩い雰囲気に非常に困惑)
ビラ配りさえなければそのまま……いえ、籠絡ラムプやもふもふ影朧の方はちょっと危なっかしいですね。もふもふ愛もわからなくはないのですが。
でもこんなに主張がばらばらなのに一つの組織として成り立つのでしょうか?不思議です。

一通りお話しを伺ってから説得しましょう。
頭ごなしに否定しても拗れるばかりでしょうし、きっと肯定して欲しい想いがあると思いますので。
そのうえで危なくない方向に誘導できれば。
特に影朧や籠絡ラムプに関しては猟兵の方が多く接しておりますし。
もふもふでしたら新たな影朧を生まぬためにも今生きてるものを愛でればよいと思うのです。



●宙の瞳と銀狼、話を聞いて道を正す
 藍は憤りながら向かったカフェーの雰囲気に困惑していた。その耳で聞いた彼らの主張にも。共にいる白銀も落ち着かない様子だった。
「ええとですね、あの……」
 想像していたよりもだいぶ緩い。ビラ配りさえなければそのまま放っておいてもいい気がするレベルである。
「……いえ、籠絡ラムプやもふもふ影朧の方はちょっと危なっかしいですね。もふもふ愛もわからなくはないのですが」
 もふもふは良いものだ。手触りも見た目も優しい。藍の持つぬいぐるみの月のように、触れたものを優しくしてくれる。ただ、それでも影朧を愛でたいと言うのは危なっかしいものがある。籠絡ラムプは言うに及ばすだ。
 そこでふと、藍は疑問に思う。
「でもこんなに主張がばらばらなのに一つの組織として成り立つのでしょうか? 不思議です。……ああ、もしかしたらだからこそ、でしょうか」
 これだけ主張がばらばらだからこそ、大きな事件を起こせる組織にはならなかったのかもしれない。
 そう推測しながら、藍はもふもふ影朧を愛でたいと主張していた淑女のテーブルへと相席する。
「よろしいですか? 少しお話を聞かせてください」
「あら、よろしくてよ……」
 ドレスの淑女はもふもふへの愛を語る。その上でもふもふ影朧がいるのだから、退治せずもっと愛でてもいいのでは。おとなしい気質の子もいるらしいから自分も触りに行きたい、と。
 藍は彼女の話に耳を傾ける。占い師でもある藍は聴く技術を持っている。まずは否定せず、相槌を打ち、淑女が満足するまで聞き続けた。頭ごなしに否定しても拗れるばかり、きっと淑女も誰かに肯定して欲しい想いがあると思ったから。
「ふぅ……たくさん、話せたわぁ……ありがとう」
「いいえ、こちらこそ。お話ありがとうございます」
 満足気に紅茶を飲む淑女に藍は微笑んだ。あとは、ほんの少し方向を変えてあげればいい。
「確かに、もふもふ影朧にはおとなしい子もいたと聞きます。けれど荒ぶる影朧もいるのです」
「そうねぇ……」
 性質も在り方も多種多様、見た目が愛らしいもふもふでも凶暴な存在もいる。
「それに可愛らしくても影朧は強大です。影朧はじゃれたつもりでも、人には大怪我、命に関わる事態になるかもしれません。それはきっと、お互い望まないでしょう」
「それは、そうね……」
「それに、影朧は傷つき虐げられた者達の『過去』から生まれた存在です。力を削いで新しい輪廻に戻すことで救いになるのです」
「そう、そうよね……より幸せになれるよう、巡った方がいいのよね……」
 淑女も少ししんみりと頷いた。
「それに、もふもふでしたら新たな影朧を生まぬためにも今生きてるものを愛でればよいと思うのです」
 そうして信頼と親愛を築いていけるといい。そう言って微笑む藍と、その隣にそっと寄り添う白銀の姿に淑女も微笑んで頷くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エル・クーゴー
◎【ワイハン】
・カフェー従業員として潜入
・ゴーグル外して素顔オープン、クラシカルなメイドさんスタイルでエントリー

躯体番号L-95
当機は給仕業務に高い適性を発揮します(咲花へ無表情でドヤる)

鈴鹿のパーラーメイド力は疑うべくもありません
副腕群『L95式マニピュレーター』及び【マネギ・カーペンターズ】を適宜用い、彼女のスペシャリテ製作を支援
不穏分子諸兄へそれらが行き渡り、その効能の伝播を確認次第、説得工作を開始します


――貴方方の望む混沌が達成された時、社会機能は深刻な破綻をきたし、カフェーでパフェーを味わうひとときは存在し得なくなることが高確率で想定されます
一時の狂奔に身を任せることは推奨されません


龍巳・咲花
◎【ワイハン】

まさか猟兵になることでこんな可愛い格好ができるとは思ってもいなかったでござる!
な、なんだかちょっと気恥ずかしいでござる(スカートヒラヒラ)
鈴鹿殿は流石普段から着こなしているからか、凄く似合っている上に溶け込んでいるでござるなあ!
エル殿もクラシカルで気品を感じる上に、出来るメイドな迫力を感じるでござるよ!

拙者は給仕を担当するでござる
忍び故、雰囲気に溶け込んでみせるでござる(でもどこかぎこちなく笑顔を意識しながら)
主義主張は人それぞれでござろうが、他者に迷惑を掛けてはめっでござるよ!

それにしてもいい香りで、見た目も凄く美味しそうでござるなあ!
休憩中に賄いとしていただきたいでござる!


国栖ヶ谷・鈴鹿
◎【ワイハン】

カフェーが舞台なら、ぼくの独壇場さ!
怪しまれないように、メイド服で潜入するのも、みんなでお色直しするみたいで楽しそう!
二人とも似合ってるよ!

さぁ、ぼくはこの乱痴気騒ぎの現場を落ち着かせる特製スヰーツで落ち着かせちゃおう。
エルとマネギにもトッピング手伝ってもらって、咲花にも給仕手伝ってもらうね、ほらほら咲花はリラックス、笑顔が満点ならパーラーメイドは務まるよ!
今日のスペシャリティは、カルダモンとクローブとシナモンをブレンドしたスパイスショコラパフェ!リラックスする香りが特徴だよ!

頭に血が昇ってると良いことないからね、まずは落ち着くこと!それから「めっ」ってするよ!



●三人の乙女、特製スペシャリテを提供し、諭す
「怪しまれないように、メイド服で潜入するのも、みんなでお色直しするみたいで楽しそう!」
「でござるなぁ」
「はい」
 乙女達の潜入捜査の始まりは、まず装いを整えることから始まる。
「ふっふーん、カフェーが舞台なら、ぼくの独壇場さ!」
 本職の天才パテシエイルの鈴鹿はカフェーにも熟知している。こういった建物は大きく構造が変わることは少ないものだ。カフェーの裏手より咲花とエルを案内し、まず向かったのは更衣室。そこで舞台にふさわしい装いへと変わるのだ。
「まさか猟兵になることでこんな可愛い格好ができるとは思ってもいなかったでござる!」
 先程の學徒服とはまた違う、金茶の小さな花が散りばめられた鳥の子色の着物の袂とスカートの裾をひらひらと翻し、同時につけたフリルのエプロンとリボンに咲花は少しだけ頬を染めた。普段とは違った装いに少し慣れない心地だった。
「な、なんだかちょっと気恥ずかしいでござる」
「咲花、メイド服姿もかわいいよ! エルもよく似合ってる!」
「鈴鹿殿は流石普段から着こなしているからか、凄く似合っている上に溶け込んでいるでござるなあ! エル殿もクラシカルで気品を感じる上に、出来るメイドな迫力を感じるでござるよ!」
「勿論です。当機は給仕業務に高い適性を発揮します」
 ゴーグルを外し涼やかな目元を表したエルは無表情で、どこかドヤッとした顔で咲花に言い、同時にすっと背筋を正した。青磁鼠の生地に千歳緑で葉が描かれた落ち着いた着物と袴、エプロンの姿はクラシカルなメイド姿である。
 鈴鹿も普段と違った、襟元に繊細なフリル、花浅葱に櫨染の模様の着物とスカートに、エプロンを占めて準備は万端だ。
 装いを改めた三人は怪しまれないように密やかに、けれど堂々とした足取りでカフェーのスタッフ専用区画を歩く。
 まず向かったのは調理場。最初の目的は、鈴鹿による特製スヰーツの作成だ。
「さぁ、乱痴気騒ぎの現場を落ち着かせる特製スヰーツ作りだよ!」
「支援します」
「拙者も手伝うでござる」
 エルは鈴鹿の制作を支援する。主腕と副腕群『L95式マニピュレーター』、呼び出した120のマネギ・カーペンターズによりカフェーのキッチンを鈴鹿の調理しやすい形態に整え、調理機器や材料を準備する。咲花も素早く食器の準備や洗い物などのサポートに回った。
 鈴鹿は材料をパフェのグラスに重ねていく。チョコソースを底に少しだけを注ぎ、糖衣がけのコーンフレーク、生クリームを入れる。チョコアイスを乗せて、ビターチョコクッキー。もう一層、チョコクリームを乗せて、ブラウニーとバナナを刺す。最後にチョコソースをかけると、広がったのはカルダモンとクローブ、シナモンと深いチョコの香り。どこか落ち着きながらも食べたいと思う、美味しそうな香りだ。
 トッピングにはエルとマネギ達も手伝えだった。鈴鹿の指示通りミントを飾り、ココアを散らし、ウェハースを添えていく。
「完成! 今日のスペシャリティは、カルダモンとクローブとシナモンをブレンドしたスパイスショコラパフェ! リラックスする香りが特徴だよ!」
「いい香りで、見た目も凄く美味しそうでござるなあ!」
 完成した素晴らしいパフェに咲花は笑みを浮かべる。
「休憩中に賄いとしていただきたいでござる!」
「そのためにまずは給仕です」
「そうでござった」
 パフェを盆の上に乗せたエルの言葉に咲花の笑顔が固まった。これからパフェを騒がしく興奮した客の元に運び、給仕する必要があるのだ。修行に明け暮れていた結果、こういうバイトの経験もない咲花にはなかなか難しそうだ。
「ほらほら咲花はリラックス、笑顔が満点ならパーラーメイドは務まるよ! エルみたいに微笑む感じでも大丈夫」
「はい。鈴鹿のような満開の笑みでも勿論大丈夫です」
 そんな咲花を励ますようにエルと鈴鹿は笑ってみせる。落ちついた微笑みと鮮やかな笑みに咲花も笑っていた。
「そうでござるか。よし。拙者は忍び。忍び故、雰囲気に溶け込んでみせるでござる」
 どこかぎこちなく、それもまた初々しい、そんな笑みを浮かべて咲花も一つ、パフェの盆を手に取った。
 鈴鹿は慣れた動きで、エルは迷い無く、咲花は馴染みながらも僅かに不慣れな動きでカフェーのホールを進む。三人の手によって特製スペシャリテが客達へと配られていく。頼んでいないと言う客もいたが、店からのサービスだといえば大体は受け取ってもらうことが出来た。
 興奮していた客の一人が、運ばれたパフェの香りに目を細める。異国情緒あふれるスパイスとチョコの香りが混じり合って期待が高まっていった。少しだけ高揚した気分を落ち着かせてもくれるようだった。まず味見、と一匙。それを口に入れた途端、すぐに次の匙がパフェに沈む。
 甘く薫り高いブラウニー、冷たく滑らかなアイス、ほろほろした食感のクッキー、滑らかなホイップ、パリっとしたコーンフレーク。それらを包むチョコソースと、ふわりと邪魔しない程度のスパイス達。バナナもチョコに合っていた。
 同じものを食べた咲花の顔も幸せいっぱいだ。エルも無表情ながらも美味しそうに食べている。
「おいしいでござる……良きものでござる……」
「実に美味です。さすが鈴鹿」
「ありがとう」
 三人が賄いにパフェを食べている間に、客も食べ終わったようで。先程よりは大人しい雰囲気のカフェーの中だった。
「うまかったなぁ」
「ああ」
 何やら怪奇人間サイコーとか言っていた男と、籠絡ラムプで怪奇人間捕まえて仲良くなりたいと言っていた男が穏やかな顔で言っている。すっかり頭も冷えて今は満足感に浸っているようだ。そこにすっと涼やかにエルの言葉が染み入っていく。
「――貴方方の望む混沌が達成された時、社会機能は深刻な破綻をきたし、カフェーでパフェーを味わうひとときは存在し得なくなることが高確率で想定されます」
「あら、それはいやですわ」
 影朧もふもふしたいなぁと言っていた淑女の一人も残念そうに言う。
「一時の狂奔に身を任せることは推奨されません」
「そうでござる! 主義主張は人それぞれでござろうが、他者に迷惑を掛けてはめっでござるよ! 美味しいものを仲間と一緒に楽しめないでござる!」
「頭に血が昇ってると良いことないからね、まずは落ち着くこと! それからよく考えて、本当にそれがいいことなのか」
 咲花と鈴鹿も言葉を添えた。
 三人で一緒に過ごし、美味しいものを食べる楽しい時間を知っている彼女達の言葉は重い。
 スパイスの力もカフェーの客は己の主張と引き起こそうとしていた事態を今一度冷静に考え、決して己の行為はいいことではないと考えを改めるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

杼糸・絡新婦
◎○
まず濃いなあこのカフェー。
うまくやれば逆にズルズル情報が引き出ると思うから、
それ自体、學徒兵に教えればええんちゃう?
あ、流石に放置するわけにいかんのか。

まあ主張でおわるぐらいやったらええわ、
要注意人物として情報流すけど。
朧影とラムプの発言は流されへんな。
ちいっとお話しよか。
とりあえずラムプ使ったら自分ら猟兵出るし、
その後どうなるか含め話しておこう。

ついでにユーベルコード『お遊戯の時間』発動
カフェーに集っている方々の行動をを遅くする。
んじゃ、ゆっくりお話(説教)聞いていきな。



●繰るモノは遊戯を差し出し、語る
「まず濃いなあこのカフェー」
 何とも色物が集まったものだと、絡新婦は少し感心した。よくもまあ今まで見つからなかったものである。
「うまくやれば逆にズルズル情報が引き出ると思うから、それ自体、學徒兵に教えればええんちゃう?」
 そう考えたが、この集団の一部を放置するのはちょっとまずいかもしれない。
 花火のハリボテを弄ぶ者がいるが、彼が本物を手にするかもしれない。幻朧桜を守ろうと言う者が、このまま過激になって一般人に害をなすかもしれない。
「報告はするけど……まあ主張でおわるぐらいやったらええわ」
 そういう者の人相と主張を紙にまとめ、絡新婦は懐にしまう。これは後で桜學府へと提出すればいいだろう。
「さて、あっちはこれでええけど……そっちはなぁ」
 ちらりと目を向けたのは、珍しい影朧を見世物にしたいと語る紳士と綺麗だと籠絡ラムプにうっとり目を向ける淑女。あれは放置してはいけない。
「ちいっとお話しよか」
 すいっと絡新婦は双六を取り出してそのテーブルへと付く。ぱたりぱたりと盤面を広げ、駒を並べ。唐突に現れた人物に虚を突かれた二人は言葉を止めた。
 じれったくなる程にゆっくりとしか動けない紳士淑女に絡新婦はにぃっと笑った。
「あんなぁ、影朧は傷ついた過去から生まれた存在や。そんなんを見世物にして何が楽しいんや? そもそもおっかない力も持ってる存在、対応もできんのに触れよう言うんが間違っとるで」
 一人、絡新婦は賽を振り、駒を進める。一つ、二つと進めて、さあどうぞ、と紳士に手を向けた。紳士は悩ましげに顔をしかめ、のろのろと手を上げているが、その動作はまだ終わらない。その間に絡新婦は淑女の方に向き直る。
「ラムプ、持ってるんも良くないんよ。それも影朧を無理矢理使おうとしとる。救済にも輪廻に返すことにもならん。それにラムプから放たれた影朧は持ち主をまず殺そうとするんや」
 そう聞いた淑女の顔はいつもの五分の一の速度で表情を変えた。そんな痛ましいとは思っていなかったのだろう、とても罰が悪そうだ。
 双六を楽しんでいるのは絡新婦だけだ。まだまだ説教をする時間はたっぷりとある。
「さあ、ゆっくりお話しようなぁ?」
 もう二度と影朧を見世物にしようとか、籠絡ラムプを綺麗だから欲しいなどと言わぬように。
 絡新婦はにっこりと笑ってみせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
【白蛇衆】
心情)伝わってくる感情がずいぶん重てェな…と思ったらこれだよ。てか《過去(*影朧)》もいねェじゃねェか。アー、おふたりサンや。残念なお知らせだが、俺ァ役に立てねェ。生きる者の意思を捻じ曲げることは出来ねェのよ。なンで説得おまかせしてイイかい? やりやすいよに手伝うからさァ。
行動)黯(*影)に潜りながら、カフェの中に毒をそうっと撒くよ。ヤ・危険なモンじゃアない。思考がちょっくらぼやァっとするだけさ。催眠状態になるンで、"説得"しやすくなるはずさ。坊と旦那にゃ結界張っとくンで大丈夫さ。がんばれェ。


雨野・雲珠
【白蛇衆】◎

あれーっなんだか思ってたのと違う…!
やや、了解ですかみさま。
生きてる俺たちとて
ひとさまの意見を変えるのは難しいものですが、
まずはお話を伺ってみましょう

…それぞれが思い思いに主張して、退けられることもない…
好きに喋ってるだけとも言いますが、
なかなかよいサークルなのでは

あ、俺も鹿のお面をつけたいです!(挙手)
そもそもの選択肢が少ないだけで、
そういう方たくさんいると思うんです。
実際に色んなお面を作ってみたら、手に取る方も多いのでは!
と本気で提案しつつ
でもお稲荷さんのお祭りに狐面は正装かなって…
と別視点も交えてお話します。
自分さえよければいいって根性でいると、
何事もうまくいかないものですし


深山・鴇
【白蛇衆】
これはまた…本来であれば害のない思想だとは思うし
突き詰めれば同好会というやつでは??
方向性を間違わなければ人々にも受け入れられるだろうし
間違えば迷惑をかける…って類だな

うん、逢真君はどうにもできんなこれ
君が話を聞くとうっかり新興宗教おこしてしまいそうだものな…
そうとくれば俺と雲珠君でなんとかするとしようか
もちろん、毒の力はお借りしてね

猫のお面、俺も素敵だと思うよ
ただそうさな、猫の祭りに狐や鹿が出張らんように
他の祭りや物を尊重するってことは大事さ
そこを踏み越えると大事にしている物まで他人に悪い物だと思われるだろう?
大事だ、好きだと思うなら、それに迷惑かけぬようにするのが粋ってものさ



●白蛇衆は夢現に誘い、頷き、正しゆく
「あれーっなんだか思ってたのと違う……! 怪しいけど平和な感じ!」
「伝わってくる感情がずいぶん重てェな……と思ったらこれだよ」
「これはまた……本来であれば害のない思想だとは思うし、突き詰めれば同好会というやつでは??」
 カフェーのホールにいる客の様子。それを壁に隠れて背の順に三つ、頭を連ねて隠れてこっそりと、そしてじっくりと観察した白蛇衆は戸惑った。各々目を丸くしたり、眉を僅かに寄せたり、かすかに唸ったり、と思い思いの反応を示している。
 先程見たビラには不穏な文言が連なり、込められた感情も重いもの。すわ国家転覆か、とはいかずとも人民惑わせる代物で。さてさてどんな悪党が潜んでいるや、どんな陰謀が待ち受けているやと思いきや。
 蓋を開けてみれば、各々自分の好きを語り、それも良き、と否定はせず受け止める。そんな怪しいが、ある意味前向きな会であったのだ。込められた感情が暗いものでなかったのも頷ける。影朧や籠絡ラムプについては少々手を出すと危ないものであるが、それはそれとして。
「……それぞれが思い思いに主張して、退けられることもない……好きに喋ってるだけとも言いますが、なかなかよいサークルなのでは」
「方向性を間違わなければ人々にも受け入れられるだろうし
間違えば迷惑をかける……って類だな」
 雲珠に応じた鴇の言葉がすべてを示す。賑やかな花火も皆が好き勝手打ち上げれば危険だし、怪奇人間好きだからと言って対象に何をしてもいいわけではない。影朧や籠絡ラムプは言わずもがな。まだ主張だけですむ今のうちに止めるのが彼らの為にもなるだろう。
「アァ、《過去》もいねェじゃねェか……アー、おふたりサンや。残念なお知らせだが、俺ァここでは役に立てねェ。生きる者の意思を捻じ曲げることは出来ねェのよ」
 ただ、逢真には相性が悪かった。すべての命を赦しているかみさまは生きている者にはめっぽう弱い。どんな意志すらすべて赦しているから。彼自身が直接関わることで、彼らの意思を否定する、動かす気はまったくないし、できないのだ。
「やや、了解ですかみさま。どうか、お気になさらず」
「うん、逢真君はどうにもできんなこれ。むしろ君が話を聞くとうっかり新興宗教おこしてしまいそうだものな……」
 雲珠は逢真の言葉に頷き、鴇は別の心配もしていた。確かに妙なカリスマ性のある逢真が彼らの話を聞き、すべて赦していくうちに彼を崇める宗教が起こってしまいそうだ。雲珠にも鴇にもその光景が目に見えるようだった。
 頷きそっと黯へと身を溶かしながら、逢真は二人へと手を差し伸べた。
「なンで客の説得おまかせしてイイかい? やりやすいよに手伝うからさァ」
 ゆるりと白い手を揺らし、雲珠と鴇へ加護を与える。疫毒の神の権能でもある毒避けだ。これから逢真の拡める毒への耐性である。
「ありがたい。そうとくれば俺と雲珠君でなんとかするとしようか」
「はい、生きてる俺たちとて、ひとさまの意見を変えるのは難しいものですが……まずはお話を伺ってみましょう」
 託された二人は逢真の加護を受け取り、カフェーのホールへと歩き出した。
 その背を追いながら、完全に黯へと潜った逢真はカフェーの中へ毒をそっと撒いていく。彼そのものである毒は逢真の意思に従いホールに拡がり、カフェーの客達を包んでいった。
 毒と言っても体に響くものではない。心に染みていくものだ。ほんの少し、思考がぼんやりとするくらいの。
「くらりくらりと、夢か幻か……これで催眠状態になるンで、"説得"しやすくなるはずさ」
「ありがとうございます、かみさま」
「助かるよ」
 充分に毒がいきわたり、客の目が少しゆらゆらとし始めた。その中で、様々な動物の面をつけた男達のテーブルへと鴇と雲珠は向かう。
「うん、やっぱり面には様々な動物がいていいと思うんだ……稲荷さんが人気だから狐面が人気だが、猫だって犬だっていい。鹿もいいじゃないか」
 ゆらゆらゆらり、催眠状態になりながらも色んな動物の面があっていいと主張する男に、雲珠は元気な挙手をした。
「あ、俺も鹿のお面をつけたいです! かわいいです!」
 鴇も愛用の煙草を一本吸いながら、男の意見を肯定する。
「猫のお面、俺も素敵だと思うよ。様々な毛並みのような、色々な色味の面があってもいいかもね」
「そもそもの選択肢が少ないだけで、そういう方たくさんいると思うんです。実際に色んなお面を作ってみたら、手に取る方も多いのでは!」
「そうだろう、そうだろう。そう思ってくれるか。ほら、一枚あげよう」
「ありがとうございます!」
 同意を得た男は朗らかに笑い、雲珠に鹿を模した面を、鴇に猫を模した面を差し出した。柔らかな茶色の、木の葉のような小さな耳に円な目の特徴を捉えた面を受け取り、雲珠は桜と冬の空色の目で見つめながらそっと続ける。
「でもお稲荷さんのお祭りに狐面は正装かなって……やっぱり祭神にあやかった姿をするのが、礼儀かと」
「そうかな……そうかもなぁ……」
 男もわかってはいるのだ。だから雲珠の言葉に素直に頷くことが出来た。だが好きを皆にも伝えたい。それも素直な気持ちだったのだ。じんわりと、冬の晴れ間の日差しのような、穏やかな声が男の心に染み入っていった。
「そうさな、猫の祭りに狐や鹿が出張らんように、他の祭りや物を尊重するってことは大事さ」
 黒い猫の面を受け取り、煙草を一息ふかした鴇も名の通りの色の目で男の目を見据えて言い添え、彼の思考を正していく。落ち着いた言葉が男のぼやけた思考へとゆっくり浸透していく。
「そこを踏み越えると大事にしている物まで他人に悪い物だと思われるだろう? 大事だ、好きだと思うなら、それに迷惑かけぬようにするのが粋ってものさ」
「そうだなぁ……俺も、他の動物の面を、否定されたら悲しいな……粋は、大事だしなぁ」
「自分さえよければいいって根性でいると、何事もうまくいかないものですし」
「ああ……」
 鴇と雲珠の言葉に、帝都っ子の男はゆっくり頷いて、まるで憑き物が落ちたようにスッキリした顔になる。見守る鴇も、雲珠も笑みを浮かべた。
「狐の祭りでは、狐面……他の祭りでは、他の面。祭神が関係しない場所で、玩具としての他の面。住み分け、考えてみるよ」
「それがいいと思うよ」
「はい! 鹿のお面や猫のお面、他のお面も色んな方の手に取ってもらえるといいですね」
 男の決意に、穏やかな鴇の同意に、明るい雲珠の希望に。黯で見守るかみさまは朱の目を細め、一人静かに柔らかな笑みを浮かべていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

氷雫森・レイン
【蜜雨】
祭りの賑やかさにすらそぐわぬ雑音は癇に障る
折角夕辺と過ごす時間なのに
「…でも仕事なのよね」
とはいえ
「ねぇ夕辺、どうしたらいいかしら」
普段聞き分けが良すぎるか何言っても無駄の二択な人物ばかりで叱るって実はすごく苦手
こういうのは無駄骨でも都度叱ってきた彼女の方が得意だと思って尋ねれば
「子供を叱る…」
私いつも自分が小さい子扱いになりがちなんだけど…
でも、そうね
暴走状態じゃ人は遠巻きにするだけってことを教えるくらいは
「ねぇそこの貴方。その鹿面の角は人混みじゃ危険だわ。あと買われたいなら作品ごとの魅力を宙じゃなく客に語りなさい、商売下手なの?」
男相手に容赦する気はないから
フォローは頼むわよ、夕辺


佐々・夕辺
【蜜雨】
まあまあ、主張が喧々囂々として喧しいわね
昔の私ならすぐ怒っていたのでしょうけど
今はあらあら、としか思わないのだから不思議
「そうね、一人ずつ順に説得していくしかないんじゃない?」
「其れこそ、子どもを叱るみたいに」
やんやんと喚く彼らは子どものようだ
真っ向から叩き潰し…あら失礼
ちゃんと躾けてあげないとね?

「そうよ、貴方。例えば私は妖狐だけれど、確かに他の動物の面を被りたい事はあるわ。でも、其れで人を傷付けてしまったら意味がないの。楽しむための面なのだから、誰も怪我をしない事が最低のマナーだと思わない?」

私の親友は、本当に容赦ないわ
フォローを私に丸投げしたわね?
良いわよ
クッション役は任せて頂戴



●蜜雨の二人は間違った行為を叩き潰し、諭す
 ビラにあったカフェーに行けば、好きに主張する声が様々に混じり合い、騒がしい限りだった。
 レインは祭りの喧騒よりも賑やかな、むしろ不協和音とも言えるような声に眉をしかめる。何ともハレの日にそぐわぬ雑音は彼女の癇に障る。せっかくの最愛の友と過ごす日であるというのに、不快でならなかった。
 夕辺も各々の主張に眉を下げ、頬に手を添えていた。主張が喧々囂々として、カフェーの中は喧しいくらいだ。昔の夕辺ならば、皆が皆好き勝手に無法図に騒ぐこの状況に怒りを覚えていただろう。今は「あらあら」と眉をひそめる程度でしかないのが自分のことなのに不思議でもあった。
「せっかく、楽しい休日なのに」
「そうね」
「……でも仕事なのよね」
 レインは口を少しだけ尖らせた後、すぐに切り替えた。さっさとこの騒ぎを落ち着かせて、友との時間をより多く取れるようにすべきだ。前向きに仕事に取り組むほうがいい。
 とはいえ、どうするべきかは悩んでしまう。この騒がしい連中をどうやっておとなしくさせるべきか。
「ねぇ夕辺、彼ら、どうしたらいいかしら」
 普段、レインの周りにいるのは聞き分けが良すぎるか、もしくは何言っても無駄の二択な人物ばかり。叱ると言うのは諭す行為でもあるから、聞き分けが良いものには機会がないし、聞く耳持たぬ者には無駄である。そのため、叱るという行為はレインには経験が少なく、特に苦手とする行為だった。むしろ、どんなに無駄骨でも、その都度きちんと相手を叱ってきた夕辺の方が得意だと思って尋ねる。
「そうね、一人ずつ順に説得していくしかないんじゃない?」
 尋ねられた夕辺は騒ぐ客をどうしようもないという笑みを浮かべて見ながら言った。彼らはオブリビオンではなく、武力で解決するべき事態でもない。ならば一人ずつ、言葉で制するしかないだろう。
「其れこそ、子どもを叱るみたいに」
「子供を叱る……」
 やんやんと喚く彼らは頑是ない子どものようだ。ならば真っ向から叩き潰し、もとい、ちゃんと躾けてあげないといけないだろう。少々やんちゃな頃の思考が混じったが、夕辺はおっとりレインに提案する。
 種族柄愛でられることに慣れ、更に小さい子扱いされがちなレインは少し戸惑う。子供を叱るというのも難しいが、それでも暴走状態じゃ人は遠巻きにするだけってことを教えるくらいはできそうだ、とも思えた。
「ありがとう、夕辺」
「ふふ、どういたしまして」
 二人は早速、声高に騒ぐ、面を好む男達へと向かっていく。それから一つ視線を合わせて、軽く頷いた。
「ねぇそこの貴方。その鹿面の角は人混みじゃ危険だわ」
「は、え、何!? いきなり切って捨てられた!?」
 気持ちよく狐面以外の面の魅力を怒鳴っていた男は、涼やかで容赦などないレインの言葉に目を白黒させた。全く持ってレインの言葉通りであるのも間違いなく、言い返すにも言葉など急には出てこない。
 口をぱくぱくする男に、夕辺は柔らかに母性を浮かべた微笑みでそっと諭す。
「そうよ、貴方。例えば私は妖狐だけれど、確かに他の動物の面を被りたい事はあるわ。でも、其れで人を傷付けてしまったら意味がないの。楽しむための面なのだから、誰も怪我をしない事が最低のマナーだと思わない?」
「あ、はい、そうですね……?」
 先程容赦なくレインに叱られ、そっと柔らかに夕辺に諭され、男の興奮は治まっていく。
「ええと、じゃあ、角短くして、丸くしたらどうでしょう」
「あら、いいんじゃないかしら」
「他の動物の面も、ちょっと丸みを持たせて……」
 男はそっと面のデザインを見直す気になったようだ。けれどそれだけでレインの舌鋒は鈍らない。男というものにに容赦は必要ないのだから。最初からフォローは夕辺に丸投げだった。丸投げされた夕辺は任された、とクッション役になって諭していく。
 ひんやりとアメジストの目を眇めたレインはきっぱりと男達に事実を突きつける。
「あと買われたいなら作品ごとの魅力を宙じゃなく客に語りなさい、商売下手なの? こんな所で騒いでいるだけで売れるわけないでしょう?」
「生の声は大事よ。ここで好き勝手に叫ぶより、面を実際に見てもらって、お客様の反応を知ったり、売れ行きを分析したりする方がよりいいんじゃないかしら」
「はい……」
 鋭く真理を突きつけるレインに叩き潰され、柔らかな言葉で琥珀の目を柔らかに細めた夕辺に諭され。様々な面があってもいいと騒ぐ男達はすっかりおとなしくなったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シビラ・レーヴェンス
露(f19223)
こういう類の者は関わらないのがいいんだが…しかたがない。
祭で貰ったビラを見て従業員として潜り込み情報を収集しよう。
当然のことだが作業員として潜入するのだから桜學府制服は脱ぐ。

「…ん」
潜入したはいいがこのキモノとハカマというのは動くのに邪魔だ。
だが恐らく今回は戦闘にならないようだから問題はあるまい。
水を運び注文を聞き料理を運びながら聞き耳を立てていようか。

他人に害がない主張ならば限度はあるが問題はないと考えている。
しかし籠絡ラムプを利用する発言は聞き捨てならん。
ラムプを利用した仕事を何件か請け負ったが…あれは人を不幸にする。
籠絡ラムプは確かに便利だ。だがあれは使い方が繊細過ぎて難しい。
「今は国や他の者のために使ったとしても、自分や周囲を不幸にするよ」
切々と説いてみよう。怪しいが悪い者ではない気がする。

改心はしたようだが妙なことになった。
なぜか主張が洋装メイドと和装メイドの話題になり討論が始まるとは。
しかも私が着ている和装の『ここがいいんだ!』と主張する者が多い?
…何故だ?


神坂・露
レーちゃん(f14377)
レーちゃんがカフェーに潜入するならあたしもしたいわ!
あ。レーちゃんが着物で和風メイドならあたしは洋風よ!!
ヴィクトリア朝時代?の『クラシック』ってゆーのを着るわ。
「えへへ♪ 似合うかしら、レーちゃん」
…むぅ。何時もと同じ口調で『似合う似合う』って言われたわ。

怪しいかはわからないけど…面白い人って多いのね~?
だけどね。だけど籠絡ラムプはダメだと思うの。
あれって初めはよくっても段々使う人をダメにしちゃうのよ。
籠絡ラムプはレーちゃんがじっくりと語ってるから問題なさそう。
ならあたしは…うーん。花火の人にしようかしら。
火薬って扱い方次第で危険ってレーちゃんが言ってたし。

突然『ダメ』じゃあ花火の人も困っちゃうからまずお話聞くわ。
「…へえ! 花火って科学なの?! 色って化学変化でするのね!」
火薬のお話がすっごく面白くて聞き入っちゃったわ。
「花火が素敵なのはしってるけど、ちゃんと方法護るともっと素敵よね♪」
多分花火の人は危険なことしないと思うけど釘を刺すように言っておくわ。



●ちびっこ二人は潜入し、諭していく
 過激な思想、声高に主張する声、喧騒にも勝る怒鳴り合い。
「こういう類の者は関わらないのがいいんだが……しかたがない」
 シビラはビラに書かれたカフェーにて、何とも怪しく落ち着かない者達にため息をついた。聞く耳持つ者がいると願ってひとまず潜入して様子を見ることにする。
「露はどうする?」
「レーちゃんがカフェーに潜入するならあたしもしたいわ!」
「そうか」
 隣で腕にくっついている露に聞けば、元気よく返答があった。ならば早速潜入することにして、まずは更衣室へと忍び込む。
 ささっと桜學府制服を脱いでしまい、シビラが身につけたのは白花色に雪の輪を描いた着物に褐返の袴。そこにフリルとリボンで飾ったエプロンをつけて、和風のパーラーメイド姿へと着替えてみせた。
 露は逆に洋装を選ぶ。足首まで届くほど長いスカートに長袖の丈夫な黒い綿サテンのワンピース。襟は白、頭にはキャップを被って髪を収め、下の色味が透けるほど薄い、アントレデューで装飾されたエプロン。ヴィクトリア朝のメイドの姿である。ひらりとスカートをつまんで礼をして見せながら露は聞いてみた。
「『クラシック』ってゆーの。えへへ♪ 似合うかしら、レーちゃん」
「似合う似合う」
 いつも通りのさらりとした言葉で流すように褒められた露の頬はむぅっと膨れたが、シビラのパーラーメイド姿にすぐににっこり笑うのだった。
 着替えた二人は水やメニューを運び、注文を聞いて提供する女給の仕事をしながら、騒ぐ者たちの言葉に聞き耳を立てる。
「……ん」
 シビラは盆の上に水を乗せて運びながらかすかに眉を潜めた。着崩れないようしっかり締め付けて固定する着物と袴に動きにくさを感じたのだ。長いスカートとも違った袴の動きに違和感もある。ただ、この場で戦闘が起こることはないから大した問題でもない。少々動きにくいが、それだけだ。シビラは給仕を行いながら、じっくりと聞き耳を立てることにした。
 露も軽快にホールを回りながら、辺りの声に聞き耳を立てる。
(怪しいかはわからないけど……面白い人って多いのね~?)
 動物のお面の種類を増やしたいとか、影朧桜をもっと積極的に増やしたいとか。ファンのように怪奇人間について素晴らしさを語る者もいる。こんな風な他人に害を与えない主張なら、許容の範囲内だ。けれど過激になるならそれは一度冷静になるべきかもしれない。
 ただし、シビラも露も問題だと思っているのは籠絡ラムプに関する主張だ。
 あれは最初は物事が良くなるように見えても、すぐに歪みが出てくる。使用者に素晴らしい力を与えたように見せかけ、堕落させていく。そんな持ち主も周囲も不幸にする代物だ。例えばかつてシビラと露が関わった事件では、美しい姿を求めた男性に仮初の姿を与え願いを叶えたように見せ、その上で彼の恋う人を巻き込んで害をなそうとしていた。
 そんな代物を使わせてはいけない。シビラは籠絡ラムプの有効性を討論する軍人の一人に近づいて、語りかける。
「ちょっといいだろうか」
「ふむ? いかがしたかな、お嬢さん」
「籠絡ラムプは確かに便利だ。だがあれは使い方が繊細過ぎて難しい。たとえ影朧を自在に操れると嘯いても、いつかは破綻する」
「むぅ」
 ひどく繊細であり、影朧を捕らえるだけ、制御はひどく難しい。人にも影朧にも救いにはならないものだ。そう語りかけると軍人は素直に聞き入れ、悩ましい表情をした。
「今は国や他の者のために使ったとしても、自分や周囲を不幸にするよ」
「自身の不幸は気にせぬが……他者を不幸にすると言うのは捨て置けぬな」
 切々と説くシビラに軍人は唸りながらも籠絡ラムプを手放すと約束する。彼は彼なりに、国や人を思って考えたのだ。それが間違いだと言われれば聞き届け、改心する柔軟性もあった。
 籠絡ラムプは大丈夫だ、と判断した露は、ハリボテの花火玉を持ってもっと使ってみたい、と主張する紳士へと近づいていく。火薬とは扱いが難しい、と以前シビラが言っていたことを思い出したからだ。
 ただいきなり頭ごなしに『ダメ』と否定しても、紳士も困ったり意固地になってしまったりするだろう。だからまずは話を聞いてみる。
「あのー、花火って綺麗よね。なんであんなに色んな色が出せるの? 火薬なのに」
「おお、お嬢ちゃん! よくぞ聞いてくれた! あれは科学の反応さ」
「へえ! 花火って科学なの?!」
 紳士曰く、あの色は金属が関わってくるという。中に入れる「星」と呼ばれる火薬に混ぜた金属が燃えるときの色なのだ。熱されてエネルギーを持った金属の原子が安定状態に戻るときに発する光を人が色として認識するのだ。
「色って化学変化でするのね!」
「うむ! 銅なら青緑、ナトリウムなら黄色、と決まる。それを組み合わせて空中で花開かせる、花火は科学と芸術なのだ!」
 案外わかりやすく説明してくる紳士に露はすっかり聞き入っていた。何となくこの紳士は危ないことはしなさそうだ。今だって空っぽの紙の玉しか持っておらず、金属も火薬もない。だけど露は一応釘を指しておく。
「花火が素敵なのはしってるけど、ちゃんと方法護るともっと素敵よね♪」
「もちろんだとも! 芸術は爆発だ、けれどそれで危害を与えてはいけないからね!」
 ひらりとハリボテの花火玉を翻し、紳士は危ないことはしない、と約束するのだった。
 さて、これで事件を未然に防ぎ、後は籠絡ラムプの処理を桜學府に任せればいいのだが、シビラは戸惑っていた。
 改心した者達が何やら討論を始めていた。
「やはり女給服は和装がいい。伝統の衣服と洋装のエプロン、その二種の組み合わせがよい」
「伝統の洋装メイド服もいいぞ。丈夫さも落ち着いた雰囲気もいいものだ。品よく施された、派手ではなく、けれどときに華やかな装飾もいい」
「うむ。洋装も捨てがたい。和装の着物と袴の機能美に、西洋のフリルとエプロンはいいものだ」
 話題は洋装メイドと和装メイドの格好、好ましい点について。どうやらやや和装メイドの好ましい点を上げる者が多いようだ。否定はなく、お互いの良い点を受け入れ、認め合う。賑やかな雰囲気にシビラは困惑していた。
「……何故だ?」
「なぜだろね?」
 腕にくっつく露をそのままに、シビラは首を傾げるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『帝都を遊ぶ』

POW   :    とにかく全力で楽しむ

SPD   :    得た情報に基づいて楽しむ

WIZ   :    効率よく楽しむ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●さて、帝都には名所がありまして
 カフェーの騒ぎを無事治め、事件を防ぐことのできた猟兵諸氏。
 このまままた帝都をパトロールするもよし、切り替えて帝都の名所を巡るもよし。
 有名所で百貨店、展望塔、遊園地。神社仏閣門前町。幻朧桜はいつでも見頃、ところにより穴場もあるというものだ。先程の祭りもまだまだ続いている。
 桜學府の人員もパトロールに戻ったり、帝都を満喫したりと思い思いに過ごすようだ。彼らや、他の帝都の人と交流をするのもいいかもしれない。
 日はまだ高い。ここに連れてきた澪は先ほどの祭りで買い食いをしながら、日付が変わるまで待つという。
 ――さあ、どうやって過ごそうか。
=====
・無事、事件を防ぎました! 後はパトロールするもよし、ちょっと休みがてら遊ぶもよしです。
・帝都の名所へ遊びに行ってもいいでしょう。お祭りに戻るのもありです。
・桜學府の學徒兵はパトロールする人もあれば、遊びに行く人もいます。彼らや他の帝都民、カフェーのお客さんと交流してコネクションを作るのもいいでしょう。
・名所は上げた以外にもあるかもしれません。穴場は猫のいるおばあちゃん店主のお香のお店です。
・澪はお祭りで食い歩きしてます。もし御用があればお声がけください。ほっといても食べて楽しんでます。
夜鳥・藍
◎○

さてと。ひと段落着いたのなら……どうしましょうか。
お祭りを巡っても良いのですが、少し占いの卓を出してみたくもあるのですよね。
幸いカードセットは最低でも一つは持ち歩いてますし、カードを持ち歩くために布(きれ)で包んでおりますから場所さえあれば。
客入りといいますか人通りは気にしないのでお邪魔にならない場所をお借りできるか交渉してみましょうか。
広げるカードもケルト十字までならそこまで場所も取らないでしょう。もっと少なくワンオラクルという方法もありますし。

場所をお借りできたらあとは街行く人々を眺めて過ごします。
お客様がいなくともこうして仕事道具を広げて、賑やかな往来を眺める事が好きなので。



●太陽の下、楽しげな人波の中、占い師は微笑む
 無事カフェーも落ち着いて、桜學府の人員も撤収を始めている。空に輝く日は未だ高く、日付が変わるまで、と言うならばたっぷりと時間はありそうだ。
 白銀の頭を撫でながら、藍はゆっくり歩き出す。
「さてと。ひと段落着いたのなら……どうしましょうか」
 とりとめなく脚を先程の祭りへと運べば、賑わいは盛りのまま。人出も多く、皆楽しげで、この中を巡るのも悪くはないが。
「お祭りを巡っても良いのですが、少し占いの卓を出してみたくもあるのですよね」
 常にカードは最低でも一セット持ち歩いているし、カードを置く場にもなる布も、カードを包むものがある。人が対面で座る場所さえあればいい。占いにおけるカードの広げ方、スプレッドも引いたカード十枚を十字の形と、その横に縦に並べるケルト十字ならば場所もあまり取らない。なんならカード一枚引くだけのワンオラクルでもいいのだ。
 藍はそのまま神社の社務所へと向かう。そこには先程の祭りの総代がいて、藍に気づけば頭を軽く下げてきた。会釈を返しながら藍は尋ねてみる。
「すみません、占いの卓を出したいのですが場所はありますでしょうか」
「へぇ、占い。今からだと大きな場所は無理ですが、向かい合わせて座れるくらいの場所ならありますなぁ」
「十分です」
 そういう総代が案内して見せてくれたのは幻朧桜の枝の下。枝があるため屋台の合間ができたそこは、ちょうど人が一人ずつ対面で座るとそれなりに余裕がある感じだ。机と椅子も借りて、藍は布をテーブルに広げる。カードを横に置けば、それで準備完了だ。白銀は藍の足元に伏せている。呼び込みも看板も無くてもいい。客が来なくとも、人波を眺めるのも藍は好きだった。
 花びらの振る中、藍は祭りを行き交う人を眺める。皆どこか浮き立って楽しげで、ちょっとしたトラブルはあるけれど平和な日だ。明るい笑顔も数多く見え、何とも楽しい光景だった。
 藍は手慰みに大アルカナのみでカードをシャッフルし、まとめてからカット。そこから一枚これと思ったものを引いてみる。出たのは太陽の正位置だ。大まかな意味はエネルギーに満ち溢れる、幸運、成功など。事件も未然に防げたハレの日には似合いのカードではないだろうか。
 カードを見つめて微笑む藍に声がかかる。
「あの、占い屋さんですか?」
「はい。何か知りたいことがあおありでしょうか?」
 今日の最初の客に応え、占い師、藍晶月はタロットを手に取ったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
◎○♪
引き続き『疾き者』

さてー、ちょっと陰海月の要請がありますので、行きますかー。

布など扱った手芸店。しかも、ぬいぐるみやクッションに使えそうなものの。
ついたら、陰海月に声をかけましてー。

おや、桜色の布。
布の感触は、陰海月が直々に確かめるそうでー。といっても、目にした時点で買うのは決まってたそうですが。
陰海月と同じ模様にするための白い刺繍糸に、布に合わせた糸。それに中に詰める綿も買いましたねー。


陰海月、新作ぬいぐるみ・クッションのために布と綿探し。サクラミラージュ海月つくるんだ!ぷきゅっ!
霹靂は『自分だと商品なぎ倒しそう』で影に。友は新作のために張りきっている。クエ。
二匹は友だち!



●海月ぬいぐるみ量産計画
「ぷきゅ〜♪」
「はいはい、行きますかー」
 影から聞こえる陰海月の声にのほほんと笑って要請に応じた義紘は、ゆったり歩いて帝都の中でも大きい手芸用品店へ入っていく。広い店内に立つ棚に並べられているのは様々な手芸用品。様々な布地に糸、綿やら布地の芯やら。ぬいぐるみやクッションに使うにもよさそうば物ばかり。もちろん針や毛糸、編み針、型紙なども揃っている。
 帝都の住人がのんびりと眺めるその中で、義紘は影へと声をかける。
「着きましたよ」
「ぷきゅ」
 影に潜む陰海月に声を掛ければふよりと浮かび上がるミズクラゲ。陰海月は熱心に商品を見比べて、一つの布を見て見て、と言わんばかりに掲げてきた。
「ぷきゅ、ぷきゅ♪」
「おや、桜色の布」
 桜の皮で染めた布は柔らかな桜色。ところどころに桜の花弁が透かしのように模様として入っている。手触りも滑らかで柔らかい。布の伸びも、硬すぎず伸びすぎず。丸いぬいぐるみやクッションにも向いた布だ。
「ぷきゅ、ぷきゅ……ぷきゅっ♪」
「なるほど、買うことは見たときに決めていたんですね〜……感触も申し分ない、と」
「ぷきゅ!」
 触腕を伸ばして滑らかさや柔らかさ、伸び具合を確認した陰海月も満足そうだ。きゅっと大事そうに布地を抱え、これに決めた、とはしゃいでいる。
 それから買うのは陰海月と揃いの四葉模様を描くための白い刺繍糸。ほんのり桜がかった白い糸を一揃い選び出す。それから桜色の布に馴染むような糸。ふかふかの感触を伝える綿のかたまり。
 少し色味の違うリボンも買って、義紘は影へと商品を収めた。一緒に入った中では陰海月が興奮のままに布地を広げている。
「ぷきゅ! ぷきゅ〜、ぷきゅ♪」
「クエ、クエ」
 商品をなぎ倒さぬように、ちょっぴり残念ながらも大人しく影にいた霹靂に早速布を披露して、自分の張り切り具合を伝えているようだ。サクラミラージュらしい、桜色のの海月ぬいぐるみになるのか、クッションになるかは陰海月次第だが、友が楽しそうで何よりだ、と霹靂も思っているようで。
 ぷきゅぷきゅクエクエ、楽しそうな声で話す仲良しな二匹に、義紘ののほほんした笑みがより柔らかくなるのだった。

 後日、完成したのは桜色のミズクラゲ型のぬいぐるみ。その柔らかさはまさに極上、抱きしめるもよし撫でるもよし。一緒に買ったリボンは陰海月と霹靂とおそろいの、柔らかな花の飾りになったという。

大成功 🔵​🔵​🔵​

氷雫森・レイン
【蜜雨】
「さ、後は何をしましょうか」
出された案は幼少を一張羅で過ごした所為で服に頓着がない身には…ああでも
「じゃあ2人で1つの生地を選んで各々好きなアイテムに仕立てるのはどう?一風変わったお揃い」
何て言うか忘れてしまったのだけど(※シミラールック)
呉服屋の反物でなく汎用性意識で洋物生地を見る為行先は手芸店
どれがいいかしらね
「動物…」
確かにそういう祭りに来ているから流れは自然だけど難しい
「これから夏だから…」
爽やかさが欲しいのだけど
「ぁ、夕辺これはどう?」
夏空色に紛れる様な青い鳥のシルエット(生地仔細アドリブ可)
「幸せの青い鳥よ」
いつも貴女の傍にいてほしいもの
私は…バルーンスカートにしてみたいわ


佐々・夕辺
【蜜雨】
そういえばそろそろ衣替えの季節なのだと思い出す
隣の友人はいつも似たような衣装を纏っているけれど
「ねえレイン。折角だから貴方の服を仕立ててみたいのだけど」
提案に返って来た提案はとても素敵なもので
同じ生地で!それ良いわね!
貴方は余り和装をしないし
私もお洋服を着る機会が増えたから洋物の生地にしましょう
うーん…
「この動物柄とかどうかしら」
提案してみるけれど芳しくない
「ふむふむ」
夏だものね
爽やかさは大事だわ
「…!まあ、其れ素敵だわ!」
よく見ないと鳥が判らないのが素敵
幸せってそういうものよね
「幸せの青い妖精なら、もう隣にいるのだけど」
私は七分丈のワンピースに仕立てて貰おうかしらね



●蜜雨の幸せ
 騒がしいカフェーも落ち着いて、後はゆっくり意のままに。そう言われたレインと夕辺は帝都を歩く。
「さ、後は何をしましょうか」
「そうねぇ」
 まだ時間のあるこの休日。祭りに戻るのも悪くはない。帝都の名所へ行くもいい。さて悩ましい、と考えるレインの隣で夕辺も少しだけ首を傾げた。
 仰ぎ見る空は高く青く、これから暑くなりそうな色に通じている。それを見ながら夕辺はふと思い出した。日本ではもうすぐ衣替えの時期である、と。
 長袖の厚い生地から半袖やノースリーブの薄い生地へ。少しひんやりしっとりする梅雨も来るが、夏物への移行を始める頃合いだ。
 ふと隣の友人を見れば彼女はいつも似たような衣装を纏っている。たまには彼女の別の装いも見てみたい。夕辺はそう思った。
「ねえレイン。折角だから貴方の服を仕立ててみたいのだけど」
「服? 私の?」
「ええ。貴方の」
 レインは少し虚を突かれた顔をする。幼少を限られた一張羅で過ごしていた彼女は服飾に頓着はしない。けれど夕辺の提案には心惹かれたのだ。ならばどうしようか、ほんの少し考えて。
「そうね、じゃあ2人で1つの生地を選んで各々好きなアイテムに仕立てるのはどう? 一風変わったお揃い」
「同じ生地で! それ良いわね!」
 いわゆる色味や素材、雰囲気などを揃えるシミラールックという素敵な提案に、手を合わせた夕辺の顔も明るくなった。早速どんなものにしようか考えながら歩き出す。
「貴方は余り和装をしないし、私もお洋服を着る機会が増えたから洋物の生地にしましょう」
「そうね、良い生地があるといいのだけれど」
「どんな仕立てにしようかしら。生地を見てから考えた方がいいかしら?」
 さて、呉服屋で反物を見るよりは、より汎用性のあるものを、と二人で見に行ったのは手芸店。大店のそこは服飾に使うにもいい品が揃っていた。
 様々な布地を眺めて比べ、レインと夕辺は目移りしている。綿に麻、素材も様々、織りも様々。色だってとりどりに。きょろりきょろりと歩いて目を配れば、がらりと違う布を見つけたりする。
「どれがいいかしらね」
「うーん……この動物柄とかどうかしら」
「動物……」
 夕辺が手に取った写実的なうさぎや猫が、植物や西洋の意匠と描かれた華やかな布地にレインは浮かぬ顔。確かに稲荷由来の祭りに来ているから流れは自然だったけれど、この少し厚めの布地を着た自分達を想像するのは難しい。それに着こなしも。
「これから夏だから……爽やかさがあったほうがいいかもしれないわ」
「ふむふむ、そうね、夏だものね、爽やかさは大事だわ」
 軽く涼し気な素材や色味がいいだろう。頷く夕辺の隣で辺りを見渡したレインの目に、一つの布地が目に入った。
「ぁ、夕辺これはどう?」
「……! まあ、其れ素敵だわ!」
 爽やかな夏空の色に紛れるような青い鳥のシルエットの布地をレインは手にとって見せる。爽やかな色味はこれからの梅雨時期にも、暑くなる時期にも気分をすっきりさせてくれるだろう。綿を薄めに、軽く編んだ布地の手触りはさらりとしていて涼やかだ。青い鳥の影も主張しすぎず、布の角度を変えたときにちらりと覗く程度。ひらりひらりとレインの手の中で動く度に、ほんの少し浮かび上がる青い鳥の影に夕辺の目が細められる。
「よく見ないと鳥が判らないのが素敵」
「ふふ、幸せの青い鳥よ。いつも貴女の傍にいてほしいもの。この生地なら、叶うでしょう?
 優しい願いを口にする妖精の友に、夕辺は笑みを深めていった。幸せの青い鳥はいなくとも、もっと素敵な存在がいるのだと。
「幸せの青い妖精なら、もう隣にいるのだけど」
 彼女の幸せを見つめて夕辺は笑う。優しげで嬉しそうな笑みに、レインも笑っていた。幸せがすぐ近くにあっても見つけにくいものだ。けれど、自分達の幸せはこんなにも近くにあるのだと気づけているこの幸福を、お互い噛み締めていたのだ。
 さらりと流れる生地に触れて、夕辺は楽しげな声で言った。
「この生地なら、私は七分丈のワンピースに仕立てて貰おうかしらね。爽やかに過ごせそうだわ」
「私は……バルーンスカートにしてみたいわ。上はどうしようかしら。同じ色味で、ノースリーブもいいかもしれない」
「きっと貴方によく似合うわ」
「夕辺のワンピースもよく似合いそう。楽しみね」
 この生地で服を作って、また一緒に出かけて。今度はどんな思い出になるだろうか。ああ、きっと楽しい思い出になるだろう。
 互いの幸せに笑い合い、レインと夕辺は店員へ声をかける。生地を測って切り分けて貰わなくてはいけないから。
 楽しげな二人の休日はまだ続く。さあ、このあとはどこに行こう、何をしよう。待っている間もレインと夕辺のおしゃべりは止まらないのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

国栖ヶ谷・鈴鹿
◎【ワイハン】

せっかく時間もあるし……そうだ!「薫草堂」もここから近いね。
どういうお店かって?お香のお店で、色んな和香が置いてある猫とおばあちゃん店主のお店!

エルの紹介もあって、今日はワヰハン三人娘、今日のお勤め、帝都の平和は守ってきたよ!

ぼくも前回買った栴檀のお香、新しいのにしたいな。

挿枝袋や香袋も可愛くておすすめだよ!
エルは……藤の香りに、この猫の柄のとかどう?
咲花には、桜の香に桜柄も似合いそう!

栴檀は、花はとても良い香りがするんだ、例えるならバニラとかかな!
白檀の別名だけど、栴檀そのものは別物で、香木で使うのは白檀だね。

二人とも、気に入ってくれたみたいだし、今日は来て良かったね。


龍巳・咲花
◎【ワイハン】

鈴鹿殿のオススメのお店でござるかあ!
店名も良き名でござるし、わくわくでござるな!

もし問題があったら飛んで参る故、気軽に声を掛けて欲しいでござるよ!

挿枝袋というものもあるのでござるな
部屋にあったらお洒落でござるなあ(う~んと、色々な御香を見て)
桜の御香はこれでござるか?
おぉ確かに良い香りでござるな!
これは桜の香り袋として鞄に付ける用に買うでござるよ!
お部屋用の御香をお土産に買って帰りたいでござるな

鈴鹿殿は栴檀の御香が好みなのでござるか?
ちょっと拙者も聞いてみたいでござるなあ!
エル殿はそれにしたでござるか!
可愛い猫の入れ物に、藤の御香は少し甘い香りで大人の雰囲気がでそうでござるなあ!


エル・クーゴー
◎【ワイハン】



●鈴鹿についてく
お香――アロマセラピー店と解釈
躯体番号L-95、随伴します
当機は嗅覚センサに高い感度を発揮します


●入店
猫_及び_おばあちゃん店主を捕捉しました

初めまして
鈴鹿に咲花に当機、三人揃って、人呼んでワヰハンかしまし乙女
帝都の平和は私達が守ります
(おばあちゃん店主に訥々と挨拶)
(デブ猫型ドローン『マネギ』にもお店の猫へ挨拶させる)


●お香買うよ
鈴鹿チョイスの『藤の香』の検分を開始
抗酸化作用並びに鎮静・爽快効果を観測――

猫の柄?
当該品目を購入します
(猫すきなのでクイ気味に行く)


非常に有意義な探訪でした
やはり現地ハイカラさんはサクラミラージュにて最強
今後もケースに応じ召集下さい



●ワヰハンかしまし三人乙女、香の店にて華やぐ
「無事、収束しました。これより自由に行動可能と判断できます」
「さて、これからどうするでござる?」
「せっかく時間もあるし……帝都で遊ぶのもいいね」
 カフェーの騒動も無事収め、さてこの後はいかがするかとワヰハンの乙女達は顔を寄せる。空のお日様はまだ高く、ゆっくり帝都を楽しむもいいだろう風情。
 鈴鹿がふときょろりと辺りを確認し、ぽんと手を打った。
「そうだ!『薫草堂』もここから近いね。お香のお店で、色んな和香が置いてある猫とおばあちゃん店主のお店! おすすめのお店だよ」
「お香――アロマセラピー店と解釈」
「鈴鹿殿のオススメのお店でござるかあ! 店名も良き名でござるし、わくわくでござるな!」
「躯体番号L-95、随伴します。当機は嗅覚センサに高い感度を発揮します」」
 こっちこっち、と鈴鹿が先導するのに、わくわくとした軽い足取りでエルと咲花はついていく。程なくして見えた店の戸を鈴鹿が引いた。
「いらっしゃいませ」
 からりと開いた戸の向こうに一歩踏み入れば、ふわりと仄かな香の香りと、柔らかな年配の女性の声、ちりんと鳴る鈴の音に出迎えられた。店の奥から店主と飼い猫のキクが三人を迎えたのだ。
「猫_及び_おばあちゃん店主を捕捉しました」
 きらんとエルの視覚センサー輝いた気がした。彼女は軽く頭を下げて、店主とキクへと自己紹介を行う。
「初めまして。鈴鹿に咲花に当機、三人揃って、人呼んでワヰハンかしまし乙女。帝都の平和は私達が守ります」
 彼女の口上に合わせて丸々した猫型ドローンの『マネギ』も猫のキクへと顔を寄せ、ご挨拶。
「こんにちは! 今日はワヰハン三人娘、今日のお勤め、帝都の平和は守ってきたよ!」
「初めましてでござる! もし問題があったら飛んで参る故、気軽に声を掛けて欲しいでござるよ!」
 鈴鹿と咲花が合わせて胸を張り、今日の頑張りを誇り、力になると告げれば、三人娘の言葉に店主はほっこりと微笑んだ。
「あらあら、素敵なお嬢さん達。今日も頑張ったのねぇ、お疲れ様です。平和を守ってくれた上にお気遣いも、ありがとうねぇ」
 穏やかな店主とにゃあ、と挨拶をかわした猫の様相に三人娘は誇らしげな心地を覚えた。店主の礼も、誇らしさも彼女達の頑張りの結果というものである。
 にこにこと笑う店主に見守られながら、鈴鹿、咲花、エルは早速店内を見て回る。香道具に押し固めた香、線香、三角錐型の香。香り袋に紙に匂いを染めたもの。様々なお香に関する品々が並べられている。
 咲花とエルは目新しい品に顔を寄せ、どう使うかも確認しながら見分する。
「様々な品があります。香りごとに効能や効果が違い、興味深いものがあります」
「拙者は何にするか悩ましいでござる」
「挿枝袋や香袋も可愛くておすすめだよ!」
 香の香りを楽しむため、香りのしない造花をさす挿枝袋を鈴鹿は指差す。香を入れずに使うこともできる、ちょこんとした袋の佇まいは可愛らしく、咲花の目を惹いた。
「挿枝袋というものもあるのでござるな。部屋にあったらお洒落でござるなあ」
 もう一つの香袋は小さな袋に香りを染めた石や香木を入れたもので、部屋に飾るにも持ち歩きにも便利だ。箪笥に入れて服に香りを移すのもいいだろう。
 様々な柄の香袋に顔を寄せるエルと咲花。大人びた柄、可愛らしい柄、合わせる香りも選べるとあって、乙女心は揺れ動く。
 鈴鹿は悩める二人におすすめの香りを選んでいく。
「エルは……藤の香りはどうかな」
「鈴鹿チョイスの『藤の香』の検分を開始。抗酸化作用並びに鎮静・爽快効果を観測――」
 落ち着いた甘い香りにエルの顔が少し緩んだ。柔らかに香る藤の香りに、心も和らいでゆくようだ。
「袋はこの猫の柄のとかどう?」
 合わせる袋を選んだ鈴鹿がその言葉を言い終わらぬうちに、香りを楽しんでいたエルが勢い良く顔を上げて鈴鹿へと迫る。
「猫の柄? 当該品目を購入します」
 若干食い気味に、鈴鹿の指差す丸い猫の袋をエルは手に取った。エルが気に入った様子に鈴鹿の顔も綻ぶ。咲花も喜ぶエルの姿ににこにこしていた。
「エル殿はそれにしたでござるか! 可愛い猫の入れ物に、藤の御香は少し甘い香りで大人の雰囲気がでそうでござるなあ!」
「咲花には、桜の香に桜柄も似合いそう!」
「桜の御香はこれでござるか?」
 咲花も鈴鹿の進める、桜の花の形の香を手に取り軽く聞いてみる。ほんのりとした桜の香りに咲花の顔も柔らかく笑みを浮かべた。今日の思い出に繋がる桜花の香りは楽しい記憶に繋がってくれる。淡い桜の咲いた香袋も柔らかな風体で、持ち歩きにも良さそうだ。
「おぉ確かに良い香りでござるな! これは桜の香り袋として鞄に付ける用に買うでござるよ! お部屋用の御香をお土産に買って帰りたいでござるな」
「いいね! ぼくも前回買った栴檀のお香、新しいのにしたいな」
 前に購入した赤の雛罌粟に金の狐の香袋を取り出して、鈴鹿は栴檀の香を手に取った。
「鈴鹿殿は栴檀の御香が好みなのでござるか? ちょっと拙者も聞いてみたいでござるなあ!」
「栴檀は、花はとても良い香りがするんだ、例えるならバニラとかかな!」
「栴檀の検分を開始。洋菓子のような甘い香り確認しました」
 咲花とエルが鈴鹿の示す香を聞いてみると、確かに甘いお菓子のような香りが届く。洋菓子めいた香りはパテシエイルの鈴鹿によく似合っていた。
「白檀の別名だけど、栴檀そのものは別物で、香木で使うのは白檀だね」
 どこかエキゾチックな甘い香りの白檀の木。落ち着く香りは部屋でゆったりリラックスするのに向いた香りかもしれない。
 沈香に伽羅、桜に藤に、菊の花。ちょっと変わった花の香りや、材料を組み合わせて作るお香もあると鈴鹿は語り、その知識に咲花とエルは目を輝かせる。
 それからしばらく香の香りを聞いて確かめ、個人の気に入った香り袋や香料、他にお揃いの桜形の素焼きの香置きを購入して、三人娘は仲良く帰り道を辿る。
 今日の祭りやカフェー、お香の店の体験を楽しく話し、夕焼けの道をゆっくり歩いていく。
「非常に有意義な探訪でした。やはり現地ハイカラさんはサクラミラージュにて最強」
「二人とも、気に入ってくれたみたいだし、今日は来て良かったね」
「うむ! 帰ったら早速部屋にお香を置くでござる! また皆でこのように出かけたいでござるなぁ」
「同意します。当機も、今後もケースに応じ召集下さい」
 またの機会を楽しく期待して、一番星の輝く帝都の夕暮れに、三人娘の朗らかな声が響いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
【白蛇衆】◎
心情)展望塔ってなァ灯台とどォ違うンかね? ふぅン…なるほど。しっかしヒトは高いとこが好きよなァ。やっぱ重力っつゥだいたいの"いのち"が従わざるをえないモンに反抗できるからかね? ちがう? ひひ、ありがとよ旦那。俺ァ長く歩くンがつらいで、着くまで旦那の影に入れてもらわァ。旦那は見ての通りだが、坊も健脚だねェ。
行動)サテ展望塔についたら出てこよう。祭り終えてヒト沈めてもォ夜だろう。見えたかい坊よ? じゃァ悪ィことしようか。ピッと指先風切れば、その先は屋上に繋がってンのさ。イイ眺めだろ? サービスで硬い結界を下に張って。空を歩けるよにしよう。みンなおいでェ。祭り後のひと夢さ。


深山・鴇
【白蛇衆】◎
さて、それなら展望塔に行こうか
何せ帝都の夜景だ、相当綺麗だと思うよ
簡単に言えば灯台は船の目印だね、展望塔は景色を見る為の高い場所、かな
高い所というだけで楽しくなってきたりするものだからね
階段とエレベーターどっち…じゃあ階段で上れるところまで行こうか
逢真君は影に入って移動するかい?
体力お爺ちゃんだものな…

雲珠君は事務所を?それならほら(双眼鏡にお金を入れて笑う)
多分あっちの方だと思うんだが…見えたかい?

さて、無事に見えたらちょっと悪いことをしにいこうか
逢真君、特等席に案内してくれるかい?
この切れ目にも慣れたものさ

あっはっは、いい眺めじゃないか
展望塔の屋根の上、三人だけの特等席だよ


雨野・雲珠
【白蛇衆】◎

説得もうまくいって足取りまこと軽やか
息ひとつ乱さずとはいきませんが
てってけ階段を上ります
ふふ…俺は桜のくせに歩くのが上手と評判なんです

俺、あれ見たいです。双眼鏡!
あれ、何も見えない…と思ったら
コインの落ちる音と同時に開ける視界。
お金が必要なやつでしたか…!
ご厚意に甘えて事務所を探します。
大きな時計のついた百貨店の近く…あ、あそこ!

はっ…おなじみ神隠しの切れ目
きょろきょろしてからさっとくぐります
とうとう自分からくぐるようになってしまいました

…(おそるおそる)
……!(ちょっと跳ぶ)
わあ!ふふふ、すごいすごい!
振り返ってお二人ごと目に焼き付けます
これもきっと、忘れられない光景の一つになる



●白蛇衆は夜空を歩く
 三人の向かう先は鴇の一言で決まった。
「さて、それなら展望塔に行こうか」
 カフェーでの騒動も幕が下り、後は自由に過ごせば良いとのことで。ならば帝都の名所、展望塔から景色を一望してみんと、白蛇衆は足を向ける。
「逢真君は影に入って移動するかい?」
「おゥ、よろしく」
「体力お爺ちゃんだものな……」
「ひひ、ありがとよ旦那」
「雲珠君は大丈夫そうだね」
「はい、問題なく」
 悠々と歩く道すがら、高かった日も傾いてくる。それなりの距離を歩くということで、体力の少ない逢真は着くまで鴇の影の中。鴇と雲珠は健脚活かし、沈む夕日を背に受けた展望塔へと辿り着く。事件の前の騒動で収めたという心の軽さを表すかのように、足取りも軽やかだ。
 さて展望塔に入れば、上に行くための道として、大正も十数年を過ぎた頃に初めてできたエレベーターと階段がある。エレベーターは混んでいるが、階段は空いているようだ。
「階段とエレベーターどっち……」
「階段を登ってみたいです」
「じゃあ階段で上れるところまで行こうか」
 鴇と雲珠は階段で片やすたすた、片やてってけと軽い足取りで上を目指す。影の中の逢真はゆったり運ばれ、ふと気になることを呟いた。
「展望塔ってなァ灯台とどォ違うンかね?」
 どちらも高くて遠くを見渡せる。ランドマークタワーと言うことで目印にもなる。そんな逢真の疑問に鴇が答えた。
「簡単に言えば灯台は船の目印だね、展望塔は景色を見る為の高い場所、かな」
 塔の目的が違うのだ、と答えれば逢真は得心して言葉を続ける。
「ふぅン……なるほど。しっかしヒトは高いとこが好きよなァ。やっぱ重力っつゥだいたいの"いのち"が従わざるをえないモンに反抗できるからかね?」
 地面に縛り付ける強制力への反発かとかみさまが考えれば、人と桜の精は笑って首を振った。
「ちがう?」
「理由は色々あるだろうけど、反抗よりは上から下を眺めてみたい、という欲求が強いかもしれないね。後は電波塔とするのに高いほうがいいとか、目印にするのにいいとか、目的もあるけど」
「高い建物は目立ちますし、頭の上は案外広いものです」
「高い所というだけで楽しくなってきたりするものだからね」
「ふぅン。そういうものかねェ」
「はい。僕も高いところからの帝都の夜景、楽しみです!」
「何せ帝都の夜景だ、相当綺麗だと思うよ。そろそろ展望台かな」
 もうすぐ階段も終わりが近い。話しながら十数階を登りきろうという鴇と雨珠に逢真は感心していた。
「旦那は見ての通りだが、坊も健脚だねェ」
「ふふ……俺は桜のくせに歩くのが上手と評判なんです」
 多少息は上がれど胸を張って笑う余裕くらいは雨珠にもあった。かみさまの感心した声に誇らかに足を進め、雨珠は展望台への扉を開ける。期待に目を輝かせる雨珠に続いて鴇が、影から現れた逢真も展望台へと入っていく。
「わあ……!」
 雨珠の口から感嘆の音がこぼれ出る。後ろから見る鴇も逢真も見えた夜景に目を細めた。
 硝子張りの窓の向こうにはちょうど日も沈み行く帝都の夜景。瓦斯灯や電気の灯りがが夜闇を拓いて輝いて、まるで星空を地上に下ろしたよう。大正七百年余りの世の夜景はかくも美しいものだった。
「うん、綺麗だね。灯りが映えて見事なものだ」
「こうして見ると、ヒトの灯りってのはすごいものだねェ」
「はい! すごいです! あ、俺、あれ見たいです。双眼鏡! 事務所、見たいです!」
 雨珠は窓際に備えられた双眼鏡へと目を当てる。さてこれで遠くも近くの如く見えるのだ、とどきどきしながら覗いたわけだが、視界は暗い。瞬きしても変わらずだ。
「あれ、見えない……」
「雲珠君は事務所を? それならほら」
 鴇はコインを一つ、双眼鏡の受け口へと押し込んだ。ちゃりんと落ちる音と共に、パチリと暗い視界が開いていく。
「お金が必要なやつでしたか……!」
「ふふ。ほら、時間に限りもあるから探してご覧。多分あっちの方だと思うんだが……」
「はい、ありがとうございます。大きな時計のついた百貨店の近く……あ、あそこ!」
 明かりのついた百貨店の側の石造りの三階建ての建物。洒落た色硝子の窓目印の、雨珠の住まう福来探偵事務所である。
 己の住まうビルを上から望むその光景は、雨珠の心を沸き立たせた。楽しげな声でじっくり眺めるその背中を、逢真と鴇は優しげな視線で見守っていた。
 カシャン、と視界が閉じる音と共に雨珠の頭が上がる。双眼鏡の刻限が来たのだ。
「見えたかい坊よ?」
「見えたかい?」
「はい! しっかりくっきりと!」
 満足そうな雨珠に逢真と鴇は頷いて、それから少ぉし悪い笑みを浮かべた。
「さて、無事に見えたらちょっと悪いことをしにいこうか」
「悪いこと?」
「逢真君、特等席に案内してくれるかい?」
「あァ。じゃァ悪ィことしようか」
 逢真が何もない空間で指先をピッと風切り振り下ろす。途端に現れたるは其処と此処を繋ぐ切れ目。かみさまの誘う道ならぬ道だ。
「はっ……おなじみ神隠しの切れ目」
「んじゃ、行こうかね」
 逢真は飄々と、鴇は悠々と、雨珠はきょろきょろと。三者三様の態度でさっと切れ目を潜り抜ける。
「さて、到着っと」
「とうとう自分からくぐるようになってしまいました」
「この切れ目にも慣れたものさ」
 潜り抜けたそこは展望塔の屋上だった。普通ならば人の入らぬその場所は、もちろん展望台よりも高い位置。先程より空が近く地は遠い。より遠くまで帝都を見渡せる、一等上等な特等席だ。
「イイ眺めだろ?」
「あっはっは、いい眺めじゃないか」
「うわぁ、高い! すごいです!」
 かみさまの視点により近い高い場所からの眺め。灯りがより小さくなって、ますます星の海のよう。
 喜ぶ人に、桜の精に、逢真はもう一つサービスすることにした。ちょいと指先を下に振り下ろし、屋上の先の宙へと足を踏み出す。
「かみさま!?」
「みンなおいでェ。祭り後のひと夢さ」
 コンコン、と足踏みして硬い結界を鳴らして逢真は誘う。硬い結界を張ることで空を歩けるようにしたのだ。ひらりと悪戯な風が、ゆったり空を歩く逢真羽織る着物を翻していった。
「これはいいね。展望塔の屋根の上、三人だけの特等席だよ」
 鴇は煙草を吸いながら、あっさりと宙へと足を乗せてかみさまの後を追う。足の下には帝都の夜景、なんとも素晴らしい光景だ。ヒトの営みの光景をゆったりと目に映して歩く。
「……。……!」
 雨珠は最初はおそるおそる足を踏み出した。確かに硬い感触があって、ぴょんと一つ跳ねてみる。
「わあ! ふふふ、すごいすごい!」
 落ちることなく破れることなく、確かに透明な足場がそこにある。遮ることなく夜景を、夜空を楽しめるかみさまの技にはしゃいで軽く飛び跳ねた。
 雨珠は心の跳ねるままに、二人を追い抜き先にいく。それからくるりと振り返り、逢真と鴇が夜空の歩む姿を目に焼き付けた。人の生んだ夜空と神代から続く夜空の合間、宙の道行くかみさまとその信仰者。暖かくもどこか神聖な光景は雨珠には忘れられぬ光景の一つになるだろう。
 月が空の真ん中に行くまで続く、夜空の散歩。日付の変わる頃まで、白蛇衆は道行きを楽しむのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

杼糸・絡新婦
◎○
あ、そういえばあのお香のお店ここらやったな、
久しぶりに行ってみようか、サイギョウ。
店主さんも猫さんもお元気かいなあ。
【コミュ力】でお話しつつ、
お知り合いや、お客さんに學徒兵さんおるへんかなあ。
見かけたら、さっき手に入れた情報を渡しとこ。
まあ、ホンマに危ない人はきついお灸をすえられたやろうから、
当面大丈夫やろ。
世間話して、最近の流行りや出来事の【情報収集】しつつ、
のんびり楽しむ。



●繰るモノ、香の店でのんびりと
「あ、そういえばあのお香のお店ここらやったな、久しぶりに行ってみようか、サイギョウ」
 カフェーの騒動も落ち着いて、後はゆっくり過ごせばいい。そう告げられた絡新婦は、サイギョウと共に歩き出す。
 影朧絡みの事件で訪れた香を扱う店、「薫草堂」。そこの店主と猫のことを思い返し、軽い足取りで店へと向かう。
「店主さんも猫さんもお元気かいなあ」
 からりと引き戸を開いたならば、ふわりとかすかな香の香りに、柔らかな店主の声、猫の鈴の音が絡新婦を出迎えた。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは、おひさしぶりやなぁ」
「ああ、あのときの。狐のお連れさんもこんにちは」
 こてりと絡新婦がサイギョウを操り頭を動かせば、店主はたいそう嬉しげに微笑んだ。
「最近どないです? なんや変わったこととか、困りごととかあります? 猫さんもお元気で?」
「お気遣いありがとうねぇ。帝都は日々何やかんやと賑やかみたいやけど、うちは店も猫も変わりなく、程々に元気ですよ」
 足元にくるりとまとわりつく、菊の飾りをつけた猫を抱き上げて店主は最近のことを話す。店のこと、猫のこと、帝都のこと。流行りの建物や名所のこと、影朧桜の話になったところで、新しい客が来たようだ。
「おじゃまします! 桜學府の者です!」
「あら、いらっしゃい。いつも見回りありがとうねぇ」
 きびきびと挨拶をして入ってくるのは學徒兵のようだ。絡新婦は懐から先程カフェーで記したメモを取りだした。店主との会話が一つ落ち着いたところで声をかける。
「なぁなぁ、學徒兵さん」
「はい、何か御用でしょうか」
 軽く頭を下げた相手に絡新婦はメモを差し出した。
「さっきとあるカフェーで、ちょっとした集会あったの知ってるやろか」
「はい、簡易の連絡を受けています」
「これな、そこにおって、ちっと怪しげな主張をするもんらの容貌や特徴をまとめたものやね。桜學府で共有しておいてもらえるやろか」
 そういえば、學徒兵はニコリと笑って絡新婦に頭を下げた。
「情報提供、感謝いたします」
「まあ、ホンマに危ない人はきついお灸をすえられたやろうから、当面大丈夫やろうけど。一応なぁ」
 ついでに袂から出した飴をそえれば、まだ年若い學徒兵は笑顔をより明るくして受け取った。
「ありがとうございます!」
 後は何も問題なし。絡新婦は店主と話を楽しみ、そこに學徒兵も混じってのんびりとした時間を過ごすのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シビラ・レーヴェンス
露(f19223)
給仕服談義は続く。

…いや。終わったんじゃないのか?給仕服の論議は。
気が付いたら仕草がどうのこうのという話になっていた。
「…む? こうすればいいのか? 私は」
トレイ片手になにやらポーズを…この姿勢の意味はなんだ?
ふむ。一々ポーズをとるよう指示されるのは接客のためか。
なるほど。客に好感を持たせ店の売り上げの増加が目的か。
店の経営をするのも給仕をする者も大変だな。これは。
モエル?可燃物に着火しようとしている…ようでもないな。
「何が燃えるんだ? 危険ではないのか?」(ポーズ)
危険がないのにモエル?よくわからんな帝都は。

露は露で洋装の給仕姿のままで慣れたようにポーズをとって。
この子の順応性と交流能力にはつくづく感心させられるな。
私にはとても無いものだし恐らく得られないものだろう。
露は私と視線が合う度にいつもの笑顔で手を振ってくる。
…やれやれ。面倒だが一度だけでも手を振り返してやるか…。

いつのまにやら客が来店していたようで店が盛況になっていた。
しかたがないので私達も手伝うことに。


神坂・露
レーちゃん(f14377)
カフェーのお店でメイド服のお話がずっと続いてるわ。
服装のお話だけだったのがポーズ?のお話になっちゃって。
レーちゃんが言われるがまま姿勢を変えてるのが面白いわ。
だってだって。何時ものレーちゃんならしないもの。
レーちゃんって尤もらしい説明されると弱いみたい。覚えたわ。

暫くレーちゃんだけに指示が行ってたけどあたしもってなって。
「こう…かしら? えへへ♪」
このクラシックメイドってとっても可愛いわ。可愛いわ♪
今度レーちゃん家で着て紅茶とかお料理しちゃおうかしら。
その前にどこで売ってるんだろう。このメイド服って?
「え? 今度はくるって一回転? …こうかしら?」
ふわわっ…て長いスカートが舞うのが素敵だわ。
勢い付け過ぎると見えちゃうかもしれないわね。注意しないと♪
でもでも。楽しいわ~♪

いつの間にかお店がお客さんで一杯になっちゃっててたわね。
「え? あたし達もお手伝い? うん! するわ♪」
レーちゃんと注文聞いたりお料理は込んだり忙しくなっちゃって。
これはこれで楽しいわ♪えへへ♪



●シビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)  ※(過去採用=第1章・第2章)
露(f19223)

 何やら不穏な思想の者達も程よく改心し、落ち着きを取り戻したカフェー。その一角で給仕服談義は続いていた。先程までの和装洋装どちらがいいか、という談義はひとまず落ち着いたが、そのまま給仕服の仕草についての話に移り変わっていた。
 その渦中に巻き込まれたシビラは大変困惑していた。
「トレイを構えて、そう、そう!」
「……む? こうすればいいのか? 私は」
「うむ。それから少し首をかしげ。うむ、大変結構」
 指示されるままにシビラはポーズを取りながら、首を傾げた。何のための姿勢か、全くわからなかったからだ。
「……この姿勢の意味はなんだ?」
「それは昨今流行りの『萌える』ポーズです」
 書生風の男性がシビラの問に答えた。
「モエル?」
 可燃物があるが誰も火を出す様子はなく、燃えるという言葉にはそぐわない雰囲気にシビラは眉を寄せる。
「何が燃えるんだ? 危険ではないのか?」
「萌えますが危険はありません。これは言うなれば接客を捗らせるための仕草なのです」
「危険がないのにモエル? よくわからんな帝都は」
 微妙に言葉の意味が通じていないが、給仕服の袂を抑える仕草、エプロンを翻す仕草、楚々とした佇まいで飲食物を提供する仕草、客へと頭を下げる仕草などなど。全て接客を捗らせ、好感を持たせる仕草だと男性は語る。
「なるほど。客に好感を持たせ店の売り上げの増加が目的か。店の経営をするのも給仕をする者も大変だな。これは」
 また別のポーズを指示され、素直にその体勢を維持するシビラ。
 露は側でそれを面白く見守っていた。何せあのシビラが言われるがままにポーズを決めて見せるのだ。いつものシビラであれば絶対にしないであろう仕草でだ。
(レーちゃんって尤もらしい説明されると弱いみたい。覚えたわ)
 いつかシビラに何かをねだるとき、テクニックとして用いてみよう。露はそう思った。
 楽しく見守っていた露だったが、男性客から声をかけられる。
「おおい、そこの洋装の女給さん! 和装の女給さんと並んで、トレイを構えてくれんか」
「え? こう……かしら? えへへ♪」
 露はシビラと並んで軽やかにポーズを取る。シビラのどこか戸惑ったぎこちない仕草と、露の軽やかな慣れたような仕草が並ぶと給仕服の仕草談義はますます盛り上がるようだった。露の順応性と交流能力にはつくづく感心させられるシビラである。
(私にはとても無いものだし恐らく得られないものだろう)
 感心しながらひらりひらりとポーズを取る中、露は明るいいつもの笑顔で、シビラと目が合う度に手を振ってくる。
(……やれやれ。面倒だが一度だけでも手を振り返してやるか……)
 次に目があったとき、シビラが手を振り返すと、露の笑顔がより明るくなった。そこに新たな指示が飛ぶ。
「え? 今度はくるって一回転? ……こうかしら?」
 一層やる気になった露は、ひらりと軽やかに裾を翻し、にこにこと笑顔を振りまいてポーズを取る。くるくる回る度に広がる裾も、揺れるフリルもとても可愛く思えた。
(このクラシックメイドってとっても可愛いわ。可愛いわ♪ ふわわっ……て長いスカートが舞うのが素敵だわ)
 あまり翻すと下のペチコートが見えてしまうかもしれないので気をつけるが、それでも軽く広がる裾は楽しいものだ。シビラと一緒にポーズを取りながら露はふと考える。
 今度、シビラの家でこのメイド服を着用し、紅茶を入れたり料理をしてみたり、まさしくメイドらしい仕事をするのも楽しいかもしれない。どこで売っているかわからないが、まあ何とかなるだろう。クラシカルなヴィクトリア朝風メイド服を気にいった露は想像して、より笑顔になるのだった。

 白熱した談義も一息ついて、気づけばカフェーのホールは満員だった。辺りでは和装の女給が忙しく働いている。
「そこの貴方達、早く手伝って!」
「うん? 私達か」
「え? あたし達もお手伝い? うん! するわ♪」
 違和感なく溶け込める猟兵の特性か、カフェーの女給と勘違いされたシビラ達。シビラは戸惑っていたが、露が乗り気で指示を受けるのを見て、仕方なく手伝うことにする。
 注文の聞き取り、伝達、配膳、客が去ったあとのテーブルの片付け、新しいお客案内、それからまた注文を聞いて、と目が回るような忙しさ。それでも露は楽しげに、シビラも慣れぬ和装で何とか女給業務をこなしていく。
「案外忙しいな、カフェーの女給というものは」
「でもこれはこれで楽しいわ♪ えへへ♪」
 何とも新鮮な忙しさに露は笑顔になっている。シビラと一緒ならば、尚の事。シビラもそんな露の笑顔に、何だか心が軽くなるようだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年06月03日


挿絵イラスト