偽りの蓮にオリーブひとつ
●グリモアベース
「暗躍を続けていた風魔小太郎とドクター・オロチの居所がわかったわ」
そう言って、コルネリア・ツィヌア(人間の竜騎士・f00948)は、かつての戦争で使った図面を引っ張り出し、ある一箇所に印をつける。
「『メンフィス灼熱草原』を覚えているかしら。地下も含めた全域が、消える事のない黒い炎に覆われた死の草原」
言いながら地図にペンで黒々と印をつけ、コルネリアは続ける。
「その中心部に漆黒の『影の城』を発見出来たわ。そこで、大きな活動を開始しようとしてる。相手が行動を起こす前に、打って出て頂戴」
攻略は早ければ早いほど良い、という。
不意打ちが成功すれば、ドクター・オロチの完全撃破も叶うという。どうも『影の城』に、その復活の要となるものが現在保管されているようなのだ。
「フィールド・オブ・ナインの持ち帰りも許さない。千載一遇のチャンスというわけ」
そして、と続けたコルネリアが、頑丈な箱を地図の隣に置く。
「ドクター・オロチは、かつてエンパイア・ウォーで戦った織田信長同様、魔軍転生という能力を使い、自分以外の強者の力を上乗せする」
今回コルネリアが予知したオロチの『憑装』は――フィールド・オブ・ナインのひとり、デミウルゴス。
「オロチ配下の何人かも移植された、デミウルゴス・セルを、今回のふたりも所持しているわ。つまり、ストームブリンガーか、この『偽神細胞液』の投与を受けた存在でないと、ダメージが与えられない」
あらゆる攻撃と状態異常に耐性を持つ、防御特化の能力だ。それだけでも、相応の対処が必要になる。
「以前接種したことがある人にはわかると思うけど、偽神細胞の拒絶反応は強烈よ。最悪、命の危険も伴う。それを含めて、決断して欲しい」
頑丈な箱に手をかけ、コルネリアは続ける。
「注射に関しては、現状で考えうる限りの安全を期して、種族や職業に合わせて出来るように準備してあるわ」
選択肢は投げた。決断は、猟兵たちにある。
「前提は以上。あとは、風魔小太郎とドクター・オロチの現状と、能力」
まず、風魔小太郎は、オブリビオンを『面』にする能力によって、巨大なゾンビの大鴉へと姿を変えているという。
「元になるオブリビオンは、常に餓えていて、かつ、血液に神経毒が含まれる、という存在ね」
風魔小太郎が被った今、忍の頭脳も備えている。その前提で事に当たるのが良いだろう。
「血液の毒を用いた攻撃や、屍鴉の召喚を行うわ。影の城の、漆黒の暗がりという地形も相まって、強敵よ。気をつけて」
一方、ドクター・オロチの方を説明するにあたって、コルネリアは微妙になんともいえない顔をした。
「デミウルゴスを憑装した関係で、見た目や攻撃手段に、大分影響が出ているわ。ええとね……光り輝く、神聖な姿になってる」
顔面脳みそのクマさんフードが、どうすれば神聖になるのか。
「その、にじみ出るオーラとかね……神聖になっていて……あと、攻撃手段のひとつにもなってる」
任意の部位から生やす偽神水晶剣。
状態異常や行動制限にカウンター発動する聖なるオーラ。
指先で触れた相手への、強毒化した偽神細胞の侵食による内部破壊……。
努めて淡々と、使用能力を並べていたコルネリアが、ふと神妙な顔になる。
「……あと、精神状態ね。デミウルゴスが、何故か聞こえてくる人間の祈りの声に苦しんでいたのと同様、オロチもその状態にある」
力の制御がきかず、絶え間なく脳に注ぎ込まれる民衆の声が、ドクター・オロチを苛んでいる。
戦闘能力は苛烈の一言だが、半ば暴走状態といってもいい。
「……個人的な感想は差し控えるわね。大いに付け込む隙がある、とだけ覚えておいて」
そう言うが早いかコルネリアは頑丈な箱に向き直り、接種と転送の準備を開始した。
越行通
こんにちは。越行通(えつぎょう・とおる)です。
これまでの成功数の蓄積により、ドクター・オロチとの最終決戦が行われます。
そのうちのひとつをご案内します。
第一章、第二章共にボス戦となります。
また、OPにあります通り、風魔小太郎及びドクター・オロチは【デミウルゴス・セル】の能力を所持しています。
詳細は以下になります。
【デミウルゴス・セル】:あらゆる攻撃と状態異常に耐性を持つ。ただし、ストームブレイドや「偽神細胞液(激烈な拒絶反応あり)」を注射した猟兵の攻撃ではダメージを負う。
メタ的には、アポカリプス・ランページの戦争における対デミウルゴス戦でのルールと同様です。
注射したの明記があれば、注射や諸々の準備シーンは省略可です。
拒絶反応の詳細やPCさんの心構え・対処法などは、プレイングにあればプレイングに準じます。
更に共通事項として、この最終決戦シナリオが、成功本数が20本に達した日(達成日)で結果が変わります。
5月1日午前中まで:ドクター・オロチを完全撃破し、影の城からオロチが何度でも蘇っていた原因とみられる「コンクリ塊」を回収、猟兵達で保存します。
5月15日午前中まで:ドクター・オロチを撃退し、何も持ち帰らせません。
それ以降:ドクター・オロチは、すんでのところで残る3体のフィールド・オブ・ナインを発見します!そのうち2体を連れ帰り、1体をアポカリプスヘルに残していきます。
書けるキャパシティの範囲内で、出来る限り採用して書かせて頂きます。
時限トップや諸々、これまでにあった事柄が様々な角度から絡んできています。
その中で感じた自分だけの意志を、どうか全力でぶつけて下さい。
皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『ジャックレイヴン』
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POW : トキシックフェザー
【両翼】から【血液で汚れた無数の羽根】を放ち、【血液に含まれる神経毒】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD : オールモストデッド
【腐食、腐敗を促進させる毒ガス】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : デッドレイヴン
自身が【敵意】を感じると、レベル×1体の【屍鴉】が召喚される。屍鴉は敵意を与えた対象を追跡し、攻撃する。
イラスト:龍烏こう
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠鈴・月華」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
「ムシューーーーーーー!!!!!!、ムシュ、ムシュ~!!!!!!」
生命の営みが一切排された、黒い炎の平原に建つ影の城に、ドクター・オロチの悲鳴が木霊する。
『魔軍転生』による憑装によるものだと理解していた風魔小太郎は、特に駆けつけるでもなく城の入り口近くに佇み、来訪者を待ち受けている。
大きな動きに対し、猟兵たちは敏感だ。
オロチもまた、そろそろ突き止められる頃だと言っていた。その分析は、恐らく外れまい。
――ならば、迎え撃つまで。
城の内側へと彼らが足を踏み入れた時。強襲をしかける。
大鴉の屍を『面』として被った状態で、くらがりに身を潜めて、機を伺っている……。
ルドラ・ヴォルテクス
連携OK
『神経毒を検知』
毒か、それなら戦いようはいくらでもある。
POW【マハーカーラー】
破壊の目醒め、オブリビオンを破壊する力を解き放て、限界突破、リミッター解除、毒耐性を強化、不活性化する!
飛行するならば叩き落とすまで。
機構剣タービュランス起動!暴風を巻き起こせ!
空中での動きが出来ないなら、インシネイトPlusエレクトロキュート、雷撃砲で確実に削る。
トドメは着実にチャンドラー・エクリプスの斬撃で切り結ぶ、近づかれても、盾として使えばバッシュで体勢も崩せる。
オロチ、デミウルゴスの力に触れた報い、受けてもらうぞ。
四軒屋・綴
【アドリブ絡み歓迎】
……やはり慣れないな、拒絶反応とやらは。
頭痛に吐き気、『手足』まで痛む、複雑な思考は難しいか……
ならばシンプルに行こうウォオオ蒸・騎・構・築ッ!!防御力重視のヒーロー形態に変身ッ!勇蒸連結ジョウキングッ!只今発車いたしますッ!
神経毒かッ!効かないッ!!……と言いたいところだがな、今の状態で何が起こるかもわからない。
『ジョークコート』でホバー移動ッ!羽根を回避しつつ『ジョウキングバリア』で受け止め掴み取るッ!電脳魔術で解析し『パストスチーム』を防具改造ッ!解毒の効果を付加しこれで準備完了だッ!
毒がなければ貫く威力はあるまいッ!派手に目立つように武装の一斉発射で撃ち落とすッ!!
カツミ・イセ
僕の神様は言ったよ。『ドクター・オロチを許すな』と。
僕は神様から、知識をもらったからね。僕の神様の語気が強いのも納得してる。ていうか、僕も逃す気はないし。
そして、無茶するなともいわれてるけど。今回ばかりはするよ、偽神細胞液を打とう。
あああああ…こればっかりは苦しいさ。でもね、ここは下がるべきでもない。
UCを全て時限爆弾に。連鎖的に爆発できるようにもしてるよ。
水流燕刃刀で薙ぎ払ってもいこう…どんなに離れても、爆発続くところじゃ、避けるのも難しいだろう?
敵の攻撃は、どんなに毒素あろうとも神様の加護(肉体改造+治癒+医術)に水の聖印で治るから気にしないさ…!
サイモン・マーチバンク
互いに毒を食らえば毒々みたいな状況ですね
手段を選んでられないのならそうするまで
偽神細胞液、接種しますよ
拒絶反応は【激痛耐性】で少しでも我慢
鼻や口から血が出ますがそれは出来る限り拭っていきます
ああ、死にそうだ
けれど手と足に力を籠めて戦いましょう
『アノニマス』を装着し散布される毒に出来るだけ対処
呼吸が苦しい、けど毒よりマシだ
この状態で敵意は隠しきれない
だから……全部撃ち落とす!
『ラビットダッシュ』を構えUC発動
月の魔力を装備に付与し迫る敵を片っ端から撃ち抜きます
【スナイパー】の技術でぶれる狙いを補助
【クイックドロウ】で弾切れによる隙を出来るだけ軽減
屍はちゃんと土に還るべきです
風魔小太郎も勿論ですよ
月白・雪音
…偽神の細胞、異能無きこの身には余りに過ぎた物でしょう。
されどようやっと巡った、かのオブリビオンを討つ機会。
例え命を削る戦なれど、どうして逃すことが出来ましょうか。
偽神の細胞をその身に宿せば、苛まれるは獣の本能。
武の至りにて律すそれは膨れ上がり確かな殺意の声を以て精神を蝕み、
それでも抑えれば肉体の苦痛となって跳ね返り、握った拳は鋭く伸びる獣の爪が肉を貫く
されどUC発動、落ち着き技能の限界突破、無想の至りを以て殺戮の衝動、身の苦痛を激痛耐性も交え抑え込み業を練り、
暗視で闇を見通し野生の勘、見切りにて相手の攻撃を察知、
怪力、グラップル、地形破壊にて地面を踏み砕き、岩片を弾丸と為して広範囲を一掃
●
風魔小太郎とドクター・オロチの討伐にあたって、前提である偽神細胞の接種がある。
「互いに毒を食らえば毒々みたいな状況ですね」
デミウルゴス・セルに加え、神経毒を持つオブリビオンとして待ち受ける風魔小太郎。憑装による力の増大と正気を引き換えにしたドクター・オロチ。
手元に視線を落としたサイモン・マーチバンク(三月ウサギは月を打つ・f36286)は、毒の泥沼で戦うような現状をして、落とすような声でそう表現した。
「手段を選んでられないのならそうするまで」
覚悟を決めて、偽神細胞液の接種を受け入れる。
拒絶は劇的だった。
身体中が沸騰と冷却を繰り返すような、痛覚の起点もばらばらな痛み。
喉の奥からせりあがった血が、食いしばった口の端からごぼりと落ちる。震えながら押さえた手に、鼻から流れた血がべたりと貼りつく。
それでも、震えながら拳を握り、鼻の血や口元をむちゃくちゃに拭う。
両の手で出来うる限り拭って。血と荒い息の合間で、掠れた声で呟く。
「ああ、死にそうだ」
けれど。あるいは、だからこそ。痺れそうな手に力を込める。浮き上がりそうな足で、地を踏みしめる。
「僕の神様は言ったよ。『ドクター・オロチを許すな』と」
強い意志までも再現して、カツミ・イセ(神の子機たる人形・f31368)は『神様』の言葉を繰り返した。
「僕は神様から、知識をもらったからね。僕の神様の語気が強いのも納得してる。ていうか、僕も逃す気はないし」
――かつて、シルバーレイン世界で、ドクター・オロチとよく似た存在との戦いがあったという。
ドクター・オロチと違う点もいくつか挙げられるが、それ以上に、悪辣な策謀を愉しむ悪性や、生ける者と到底共存出来ない行動の共通点は、黒々とした感情と、危機感を呼び起こすには充分であるらしい。
「そして、無茶するなともいわれてるけど。今回ばかりはするよ」
決意を言葉として、カツミは偽神細胞液の接種を受け入れる。
生命自体と反発するような拒絶が、たちまち人形の身体を巡る。生きて動く為に存在する力すべてが、細胞と拒絶しあって牙をむく。
戦う為に完全に無効化してはならない。それもあって、彼女のようなある種の超越存在にも平等に作用する。
「あああああ……こればっかりは苦しいさ。でもね、ここは下がるべきでもない」
はあ、と深く深く息を吐き、背中の一箇所、身体の芯を流れる一筋の水、そこに流れる約束を思う。
――だって、まだ最初の一歩すら踏み出していない。
とぷり、と揺れる偽神細胞液を、月白・雪音(月輪氷華・f29413)はじっと見つめていた。
「……偽神の細胞、異能無きこの身には余りに過ぎた物でしょう」
キマイラに生まれながら、今に至るまで、彼女が行使するものは、鍛錬による体得がすべてだ。
未知に包まれた、異端も異端のこの液体の器として、己は充分などとは、彼女は言わない。
「されどようやっと巡った、かのオブリビオンを討つ機会」
頭を巡らせ、雪音は呟く。
すぐにでも飛び込めるよう、影の城の手前に立つ。黒々とそびえる城、その奥に在るものを思えば。
「例え命を削る戦なれど、どうして逃すことが出来ましょうか」
そうして、雪音の手が力を込め、偽神細胞液を体内へと押し込める――
身体中で、星の爆発が起きているような錯覚。
首をもたげる獣の本能。ただ、命の脅威に対し、荒れ狂う身体と精神の均衡を、律する。
ぅるぅぁ、ぁぁ、と。
ひどく遠く聞こえたのは、自分の声だ。
握った拳から、液体が滴り落ちる。錆のように香る血の匂いが、やけに近い。伸びた獣爪が肉を貫く感覚が鋭敏に脳に届き、今にもバランスを欠きそうになる。
「されど……弱きヒトが、至りし闘争の極地こそ……我が戦の粋なれば」
雪降る雪原。音のない。己だけが佇む。世界を感じ、己自身の呼吸を感じて、握った拳の在り処を常に己に問いかける。
荒れ狂う獣の呼吸に、深呼吸が混ざり込み、やがてゆっくりと、平素の呼吸を取り戻す。
己にあるのは、極限まで練り上げた、この身ひとつ。
鍛え抜いた身のこなしで、雪音が地を蹴り、一直線に影の城の中へと走る。
身に備わった野性の勘が、全力で敵の居場所を叫んでいる。血の跡もほぼ残らぬほどの速度で走る。平原の炎も影の城の闇も、それを留めることは出来ない――
●
「……やはり慣れないな、拒絶反応とやらは」
城内の闇に包まれ、明濁色に染まる思考の中で、四軒屋・綴(大騒動蒸煙活劇・f08164)が淡々と呟いた。
「慣れるようなものでもない。恐らく備えもあるだろうし、野暮だろうが……」
生命の始まりから『それ』を身に宿していたルドラ・ヴォルテクス(終末を破壊する剣“嵐闘雷武“・f25181)がかけようとした言葉は、途中で途切れる。
すべては伝わらずとも、綴はそれを受け、ゴーグル内での演算結果を宙に浮かべる。
「頭痛に吐き気、『手足』まで痛む、複雑な思考は難しいか……」
もしかしたらという希望的観測などのない、明確な事実に基づく計算結果であった。
しかし綴の言葉に悲壮な響きはなく、たちどころに電脳が展開されてゆく。
思考より行動。それを示すが如くかたちを成したのは――
「ならばシンプルに行こうウォオオ蒸・騎・構・築ッ!! 来たれマイボディッ!」
即座にルドラが2メートルほど引いた。そうして開いた隙間に、蒸気機関車を思わせる小豆色のボディが具現化され、その表面を覆うようにエネルギーフィールドが展開される。
「防御力重視のヒーロー形態に変身ッ! 勇蒸連結ジョウキングッ! 只今発車いたしますッ!」
「…………なるほど。具現化プログラムの時点で防御にリソースを全振り、物理的にも不可視のエネルギー面からも防御力を向上させる、か……」
目の前で起きた出来事を分析し、『手堅い』と結論づけたルドラは、速やかに思考を切り替えた。
彼の脳裏に、『神経毒を検知』というシグナルが届いたからだ。
「お出ましだ」
敵は近くに潜み、今にも毒を撒き散らそうとしていることになる。
そして、種が分かっていれば、戦いようはいくらでもある。
――彼らの視界全域に、黒く濡れた禍々しい羽根が舞う。
高い天井近くで翼を広げた大鴉が、先手を取るように血の毒に濡れた羽根を撒き散らしていた。
餓えて爛れたマスクの奥。冷え冷えとした、『風魔小太郎』の目。
それを真っ直ぐ見返して、ルドラが心臓から迸るような声を上げた。
「破壊の目醒め、オブリビオンを破壊する力を解き放て。限界突破、リミッター解除、毒耐性を強化、不活性化する!」
声はそのまま実行となり、ルドラが変容――あるいは、正しくなってゆく。
あらゆる武装に留まらず、思考のすべてが、オブリビオンを破壊する為に最適化してゆく。
一秒たりとも止まらず、変わり続けながら。
「飛行するならば叩き落とすまで。機構剣タービュランス起動! 暴風を巻き起こせ!」
彼の意を汲んだ剣が、その名のふさわしき暴風を纏い、舞い散る毒の羽根を散らし、空中に留まる大鴉をも翻弄する。
「インシネイト、エレクトロキュート!」
ばちばちを雷を孕むもうひとつの機構剣に接続されたシリンダーガンにより、暴風を割って雷撃が奔る。
容赦なく大鴉を打ち据えた雷撃に、足掻きのようにふたたび羽根が散らされる。
先ほどと違い、狙いも荒いそれに対し、反応を見せたのは綴の方だった。
「神経毒かッ! 効かないッ!! ……と言いたいところだがな、今の状態で何が起こるかもわからない」
腰部から白煙を噴出し、空中をホバー移動することで羽根を回避を続け、隙を見て手袋めいた『掌』を伸ばす。
渦巻く蒸気状の防壁が生み出され、その中に毒の羽根をしっかりと握りこむと、再び綴の中で演算と分析が行われる。
「解析完了ッ! パストスチームに解毒効果付与完了ッ! すべての準備は完了だッ!」
いよいよ動くことに躊躇いのなくなった綴が、背中に背負った武装の準備をしながら、ルドラへと声をかける。
「攻撃特化したくなったら、遠慮なく盾に使って欲しいッ!」
「気遣い、感謝する」
素早くその防御力を見て取ったルドラは、短く言葉を返し、再び雷と風を巻き起こした。
木の葉のように翻弄される、腐敗の大鴉。それを被った風魔小太郎は、状況を打破せんと、次の一手を起こす。
一度その身を丸め――ぶわりと、広大な城内の隅々までもを毒ガスで満たす。
『腐食と腐敗。生ける者の宿命』
喉のない大鴉が、しかし確かに声を届かせる。
暗がりにぼんやりと浮かぶ、廊下への道や階段の輪郭。それを、腐敗の毒が塗りつぶそうとする。
――そこに、純白の獣が、真っ直ぐ飛び込んできた。
●
野生の勘に従い進む雪音は、敏感に感じ取った『毒』を前に、異能ではなく、己自身の力で挑んだ。
闇をものともせずに通り抜け、毒の中心近くへと突き進み、全ての力を込めて一度跳躍する。
狙いは、大鴉ではなく、その下。
『城』である以上は、破壊できる物質で構成されている。であれば――
足が、鋭く床に突き刺さる。
鋭く散る破片の只中、構わず爪の伸びた手が床を『掴み』、地下へ地下へと深く抉り込む。
言葉にすると、行ったのはそれだけ。
だが、広間に響いた凄まじい音は、そのまま城の破壊を思わせた。
掴んで抉った床に引きずられるように、階段や廊下へと続く道が陥没する。
飛び散る破片は、毒ガスも通らないほどに大きく、分厚く。
そして、恐ろしいほど何気ない動きで持ち上げた『欠片』を、無造作に放り投げる。
大鴉を掠めて飛んだ『欠片』は、壁にぶつかっても勢いを止めず、大穴を開けて城外へと消えてゆく。
「――ガス濃度急速低下ッ! 時間にして3秒フラットッ!!」
「この拳は、未来を掴むためなれば」
念の為に耐毒を確認しながら称える綴に、雪音が会釈のような視線を向ける。
今の凄まじい地形変化の合間、続けて滑り込んできたカツミの手から次々と水流の手裏剣が放たれ、内側へと輪を描くようにそっと配置してゆく。
わずかに残る毒の名残は、脈々と流れる加護により、治癒されてゆく。
カツミが『設置』したものを理解したルドラが、再び機構の剣を構える――
『喜び、啄ばめ、屍の鴉』
ルドラの雷に屍肉を焼かれながら、大鴉が命じる。
黒い霧にも似た屍鴉が、そこかしこから召喚され、各々敵意の強さに応じて襲い掛かろうとする。
「――ふッ!」
すぐさま形を変えた羅睺の刃で屍鴉の群れを受け止め、その勢いを利用して押し返す。
可変の刃を自在に変え、屍鴉を退ける。
「これはきりがない。ちょうど、時限爆弾を敷いたから、それで追い込もう」
「それでも多いですね。デコイ出来ると思うんで、任せて、貰えませんか」
割り込んだのは、耐毒の為にガスマスクを装着し、荒い息をつきながら屍鴉に対処していたサイモンだった。
「敵意を条件に狙うなら、引きつけられます」
「では、防御と支援射撃は任せて貰おうッ!」
背部に搭載した武装をがちゃりと変形させ、サイモンの前に立ち塞がるようにして、一斉射撃を開始する。
敢えて派手な音を立て、指先から一度に百を超える弾丸を放ちつつ、石炭型榴弾が次々と投下され、周辺を蒸気と熱気が満たす。
「じゃあ、僕は大鴉を封じに行くよ」
そう言ってカツミはそっと地に手をつき、じわじわと床に水を這わせ、召喚した水流手裏剣を時限爆弾へと変形してゆく。
雪音は、やはり尋常でない速度で走り回り、はっしと捕まえた屍鴉を次々と放り投げている。
ルドラの引き起こす風が、広間にひとつの流れを作り、カツミの罠へと大鴉を誘ってゆく。
「俺も、兎の悪魔らしくやらせてもらいますよ」
脳裏に満月を思い浮かべる。
真珠のように丸く、水面にあってはゆらりゆらいで。
満ちて欠けて、裏側は真っ暗。この城と同じくらい、それとももっと? ――そんなことには、何の意味もない。
サイモンの手にした詠唱ライフルに、異質な魔力が重なってゆく。
――この状態で敵意は隠しきれない。
大なり小なり皆が持つ戦意、敵意を上回る、狂気の上乗せされた敵意。そう、隠せないなら、いっそのこと。
「だから……全部撃ち落とす!」
――それこそまさに狂気の沙汰。
猟兵たちの奮闘で数を減らしながら、それでも天井を埋める屍鴉を、全て撃ち落すと、本気で言って、行おうとしている。
サイモンの手にした詠唱ライフルから、次々と弾丸が放たれ、一度にまとめて屍鴉が墜ちる。
今、最も強い敵意を孕んだサイモンめがけて、屍鴉が集う。サイモンの弾丸と、綴の支援射撃が、それらを制圧する。
「屍はちゃんと土に還るべきです」
墜ちた屍を通り越して、大鴉を見据え、サイモンが告げる。
「風魔小太郎も勿論ですよ」
屍鴉の進路が一定と化した時、カツミが仕掛けた水の時限爆弾が、次々と破裂した。
水飛沫は高く跳ねて広がり、血潮の毒をも洗い流す。
「どんなに離れても、爆発続くところじゃ、避けるのも難しいだろう?」
まともに破裂した水の爆弾が大鴉に襲い掛かり、更に追い討つようにして清流のごとき燕刃刀が閃いて、大気に残った毒ごと、大鴉を薙ぎ払う。
そこに三度、振るわれたルドラの剣が風を起こし、とうとう大鴉が地に墜ちる。
その機を逃さず、雪音が拳を叩き込み、ルドラの羅睺の刃が刀剣の形となり、彼にとって最も鋭く正確な太刀筋を描く。
――最早、勝敗は決した。
だが、誰一人として油断なく、風魔小太郎の面が解け、塵芥と化すまで、手を休めることはなかった。
激闘の後の静寂。
荒い呼吸、蒸気を噴出す音、それぞれの表情で、天井の更に向こうを見る。
幾名かが上層からの甲高い悲鳴を聞き取った。先ほどの戦闘で大広間付近は崩れたものの、上層を目指すことに支障はない。
「オロチ、デミウルゴスの力に触れた報い、受けてもらうぞ」
断固たるルドラの言葉が、静かにその場に染み、その先に居るドクター・オロチの方へと響いていった。
大成功
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第2章 ボス戦
『ドクター・オロチwithデミウルゴス』
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POW : 偽神水晶剣
任意の部位から最大レベル枚の【偽神水晶剣(偽神細胞と融合した水晶剣)】を生やして攻撃する。枚数を増やすと攻撃対象数、減らすと威力が増加。
SPD : クルーエル・セイント
状態異常や行動制限を受けると自動的に【聖なる光のオーラ】が発動し、その効果を反射する。
WIZ : デミウルゴス・ポリューション
【指先】で触れた敵に、【強毒化した偽神細胞の侵食】による内部破壊ダメージを与える。
イラスト:みやこなぎ
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
――かみさま。いいこにしますから、どうか、おかあさんに、すとーむがくるまえのけしきをみせてあげてください。
――ようやく夜襲に怯えずに済む。そう思ったのに。いつだって突然なんだ。ああ、神様。せめて、この夜を耐える力を。神様。
――今日も少しずつ頑張りました。いつかは、いつかはきっと、何かがよくなる。そうですよね、神様。
神様。神様。神様……。
――――どうしてこたえてくれないの。
「ムシューーーーーーー!!!!!!、ムシュ、ムシュ~!!!!!!」
生命の営みが一切排された、黒い炎の平原に建つ影の城。
起死回生の一手を打つべく行動したドクター・オロチは――端的に言って、苦しんでいた。
憑装の影響を強く受けた今、その身は痛いほどの光輝を纏い、神聖と呼べる階梯まで姿を変えている。
理不尽に罰を下す為の、痛いほどの光。毒と輝きを増した水晶。おそろしいもの全てを倒し、世界を照らす。かくあれかしと望まれたがごとく。
その姿で、何かから逃れるように首を振り身を捩れば、神聖な光のオーラが、城内の漆黒を照らし、浮かび上がらせる。
「性格継いじゃうよりイヤだ!!! 信長は何やってんのどうしてたの!? 知るか知らないよボクにはボクの都合があるの~!!!!」
言葉こそかんしゃくを起こす子供だが、そうして暴れる度に振りまかれる得物とオーラ、致命的な偽神細胞の片鱗は、まともに食らえばどれも致命的だ。
だが、今のドクター・オロチは、ただただ強大な力に振り回されている。
時間と共に慣れるどころかますます正気を削られ、一番の武器であった悪辣な智恵と知識は見る影もない。
纏う光輝と神聖さが、その在り様を剥き出しにする。
それを見た猟兵たちがどう思うかは、それぞれの胸の内にある。
ただ、事実として。討伐という目的に於いては、この上ない好機であるだろう。
ルドラ・ヴォルテクス
●アドリブ連携OKです
策士策に溺れるか。
デミウルゴスの本質を見誤ったな。デミウルゴス細胞は無敵の守り、だが、それは救世の願いを甘受し続けねばならない苦しみ。
神の名と姿を妄りに触れた罪だ。
【鏖殺の殺戮舞踏】
リミッター解除、限界突破。
神を背負う覚悟なき傲慢な者へ終焉を。満足に使えない光を尻目にチャンドラー・エクリプスの双剣撃、暴風と衝撃波、雷撃の代わる代わる繰り出される演舞のような斬撃、不意に空を舞う投擲斧、その軌道に紛れて撃ち込まれたグレネードの流星、爆炎に包まれる中、視界の先に現れるのはヴァーハナ・ヴィマナの機首、騎乗突撃で吹き飛ばす。
デミウルゴスの強さはこんなものではなかったぞ……!
サイモン・マーチバンク
お互い退っ引きならない状況のようですがある意味好機ですね
先の戦いの疲労で拒絶反応も強まってます
ガスマスクを外して精一杯呼吸をしつつ戦いましょう
接近戦をする余裕はもうないです
再び『ラビットダッシュ』を構えて準備を
相手は身体から何か生やして戦う様子
ならひたすら撃つのみです……!
【激痛耐性】で拒絶反応を押さえつけ
【スナイパー】の技術で出来る限り冷静に
相手が水晶剣を生やす度にそこを狙って破壊していきましょう
相手が接近してきたら痛みを堪えて【ダッシュ】
呼吸だけは常に意識しろ
絶対に死にたくない
だから俺は死にそうになりながらも戦ってるんだ……!
水晶剣を壊し続け本体が見えたら、そちらも容赦なく撃ち抜きます
四軒屋・綴
【アドリブ絡み歓迎】
決して都合の良い強化ではなく、デメリットを加味した上での"最終手段"というわけか…
ならば真正面から轢き砕くッ!!
『スラッガメタル』を装備ッ!敵が剣ならば打ち合える方が良いだろうッ!ユーベルコードを展開しつつ突撃するッ!
……『疑心細胞液』というサンプルを取り込み、解析する時間も回数も十分に確保できた。
ならばユーベルコードの回復に併せ防具を改造、敵の『強毒化した偽神細胞液』に耐性を持たせるッ!
判断力が低下していればこのカラクリは見抜けまい、そして同じ行動を繰り返すだろう、再び触れようとする指先を掴み一本背負いを決めるッ!
「他人事ではないな、役割"マスク"に呑まれる等と……」
月白・雪音
未だ偽神の細胞は身を蝕み視界は赤く、肉体の激痛を以て跳ね返る精神の抑制は僅かでも気を緩めれば正気を失う。
…哀れなものです。力に呑まれ、己自身すらも見失おうとは。
或いはただ力のみを見、『彼』自身の在り様には目を向けようともせざるが故か。
UC発動、怪力、グラップル、残像を用いた高速格闘戦にて状況展開
身を蝕む毒も動きを縛る異能も無し、用いるはただ己が積み上げた武の業のみ
野生の勘、見切りで相手の動きと急所を見極めカウンター
無想の至りはそのままに極限まで業を練り、最大威力、最大威力を以て打ち抜く
…力とは『振るう』ものでなく『使う』もの。
力の在り様を学ばずして呑まれれば、待つのはただ滅びのみと知りなさい。
カツミ・イセ
偽神といえど、神を憑装するとは、そういうことだよ。ドクター・オロチ。
『そのまま苦しむがいい、ドクター・オロチ』…僕の神様、容赦ない。
さて、偽神細胞はまだ体内にあるから苦しいけど。そうも言ってられない。
今度はこっちの手数を増やすためのUCだ。…偽神細胞の影響でちょっとだけ濁ってる。
皆、水流燕刃刀展開。薙ぎ払っていこう。
僕はね、水の聖印効果で常に治癒をする。似姿たちは元々水で、潰されたとしても再生するし…斬られただけじゃ四散しないんだよ。
あなたの都合なんてしらない。ドクター・オロチ、あなたはここで終わるべきなんだよ…!
●
無作為に撒き散らされる光輝が、本来は漆黒に包まれた影の城内部をはっきりと照らしだしている。
それにより猟兵たちが足を踏み入れたのを見て取ったドクター・オロチが、がむしゃらに水晶剣の数を増減させながら、猟兵たちを振り向いた。
「ムシュ~!? 小太郎もう倒しちゃったの!? まだ全然、この、あああああもううるさいうるさいうるさああああい!!!!!」
かつて猛威を振るい、今も偽神細胞と融合し力を増した筈の水晶剣を、がむしゃらに空中へと振るう。
ずっと、そうしていたのだろう。ドクター・オロチの周りの床や壁には、散々に暴れたであろう痕跡が見て取れた。
「偽神といえど、神を憑装するとは、そういうことだよ。ドクター・オロチ」
己の神様の子機として、役割に忠実に権能を振るうカツミ・イセ(神の子機たる人形・f31368)が、そう告げた。
一拍置いて、うわぁ、と小さく漏らす。
「『そのまま苦しむがいい、ドクター・オロチ』……僕の神様、容赦ない」
「……哀れなものです。力に呑まれ、己自身すらも見失おうとは」
託宣であろうか、神の弁を代理するカツミの言葉に、静かに深呼吸と瞬きを繰り返していた月白・雪音(月輪氷華・f29413)が、雪のように静かな声で応じた。
その瞳は僅かに揺れながら、薄氷を見極めながら進むかのように、全身の力を込めて、真っ直ぐに立っている。
「或いはただ力のみを見、『彼』自身の在り様には目を向けようともせざるが故か」
フィールド・オブ・ナインとしてのデミウルゴスの力は、ドクター・オロチにとって有用だった。
だから、【デミウルゴス・セル】の恩恵と、更に『性格が引っ張られる』という認識だけで、憑装に挑んだ。
「……覚悟はあっても、前提を間違えたのだな」
「策士策に溺れるか。デミウルゴスの本質を見誤ったな」
性格に染まってしまうこと。その意味を『少し考えて』いれば、あるいは違ったのか。
思索する四軒屋・綴(大騒動蒸煙活劇・f08164)に、ルドラ・ヴォルテクス(終末を破壊する剣“嵐闘雷武“・f25181)が冷え冷えと言って、全身に力を巡らせる。
「デミウルゴス細胞は無敵の守り、だが、それは救世の願いを甘受し続けねばならない苦しみ」
……偽神細胞の拒絶反応は、よりいっそう烈しく猟兵たちを苛んでいる。
サイモン・マーチバンク(三月ウサギは月を打つ・f36286)は呼吸の為にガスマスクを毟り取り、酸素を取り入れる。生きる為のその行動が、更なる痛みを訴えても。
カツミは、身体を巡る水を泡立たせるような感覚を覚えながら、手の甲に掌を添えて再びの誓いを立てる。
雪音もまた、真っ赤に染まった視界の中で瞬きを繰り返し、肉体の激痛に精神の均衡を揺さぶられながら、己を律し続けている。
だが、それらの苦しみと、デミウルゴスを憑装したことで備わった苦しみには、決定的な違いがある。
「神の名と姿を妄りに触れた罪だ」
性格の代わりに齎されたのが、本質的な『罪』であると、ルドラは言った。
「ムシュ~~!!!?? バチが当たったって言いたいの!? バッカじゃないの!?」
「罰ではない。罪だ」
全身の武装隅々へと想いを行き渡らせ、ルドラは繰り返す。
「報いは、これから受けてもらう」
宣言と共に、ルドラに搭載されたあらゆる兵装が稼動を開始する。
「リミッター解除、限界突破。神を背負う覚悟なき傲慢な者へ終焉を」
――その心臓の在り処から押し出されるような声が、嵐の始まりを告げた。
弾かれたように雪音が走り出し、カツミが両手を広げて、ゆらめく水影を呼び寄せる。
「お互い退っ引きならない状況のようですが、ある意味好機ですね」
「見誤ったとはいえ、決して都合の良い強化ではなく、デメリットを加味した上での"最終手段"……ならば真正面から轢き砕くッ!!」
射撃姿勢を取ったサイモンの前で、綴が背部の機関車型装備を前後に展開、中心に当たる部分をがっしと掴んで、剛健な長柄武器として構えながら突進してゆく。
「……本当に轢きそうだな。俺は、接近戦は無理そうなんで、っと」
再び詠唱ライフルを構える動作は殊更丁寧で、重心をぶらさず姿勢を保つ為に幾度も深呼吸を必要とする。
「何か生やして攻撃してくるなら……ひたすら撃つのみです……!」
両手を広げたカツミの周辺に、続々と水が立ち上り、ヒトガタを形成してゆく。
「僕の神様から賜りし水の権能、その一つ。僕と似た者たちをここに」
詠唱通り、水で出来たヒトガタ――球体関節人形は、カツミとよく似ていた。
ただ、本来浄化をもたらす清水である筈が、わずかに濁っている。……偽神細胞の影響だ。
「これで、こっちの手数は段違い。皆、水流燕刃刀展開。薙ぎ払っていこう」
100を超える人形とカツミ本人の手から放たれた清流が、四方八方からドクター・オロチを取り囲み、襲い掛かる。
「ああああああもう!! だから、うるさい、うるさいよ!!!!」
水の殴打を受けるドクター・オロチの悲鳴と共に、闇雲に縒り合わされた水晶剣が宙を薙ぎ、カツミの似姿たちを切り捨てる。
そのまま返す刀で雪音へと刃を向けようとした時――先ほどまでと変わらぬ数の水流燕刃刀がドクター・オロチを取り巻き、動きを封じる。
「僕はね、水の聖印効果で常に治癒をする。似姿たちは元々水で、潰されたとしても再生するし……斬られただけじゃ四散しないんだよ」
カツミの種明かしを裏付けるように、水晶剣に斬られた筈の似姿たちは、既に再生を終えていた。その途上で、水に増した濁りもある程度排出されている。
そこに機を見た雪音が右手を伸ばし――しかし、瞬時に何かを察知したように、ドクター・オロチの腹部を蹴って後方へと跳躍する。
「ごぶッ!」
小さな声を挙げるドクター・オロチの身体から、光が迸る。
取り巻く水が跳ね返り、空中で音を立てて、似姿たちの手元の水とぶつかり合う。
即座に水の描く軌跡を変えて様子を見れば、光のオーラはでたらめな明滅を繰り返し、うう、と唸るオロチがどうにか体勢を立て直そうとしていた。
「自由自在ってわけでもないみたいだね……」
カツミが呟いたとき。光のオーラをものともせず、双剣へとかたちを変えた得物を手に、ルドラが肉薄する。
瞬く間に武装は持ち変えられ、ルドラの腕の一振りごとに、暴風が衝撃を伴ってオーラごとドクター・オロチを打ち、オーラから跳ね返るより早く雷撃が閃く。
舞踏のような、流れるような一連の動作がドクター・オロチを打ち据える中、ふとリズムを変えるように、斧状の光が空を舞い、ドクター・オロチを切り刻まんと迫る。
「徹底的にやるつもりだな。回り込むッ!」
「では、逆に備えます」
一連の動きを見た綴の分析に雪音が頷き、サイモンの視界を妨げぬよう、カツミの似姿たちの合間を縫ってふたりが走る。
その背後で、投擲斧の軌道に紛れて撃ち込まれたエネルギーグレネードが流星のように飛ぶ。受け止めようとした水晶剣がサイモンに撃たれて砕け、派手な爆炎を巻き起こす。
すべて後手後手に回り、辛うじて光のオーラだけで対処していたドクター・オロチは、見る。
ヴァーハナ・ヴィマナの機首。
――アポカリプスヘルの荒野も駆け抜ける騎体と一体となったルドラの、全力の突撃。
その突撃と衝撃は易々とドクター・オロチを貫き、跳ね飛ばして、はるか後方の壁面へと轟音と震動と共に叩き付けた。
ぱらり、と天井から落ちる欠片、城全てが揺れたような震動の中で、ルドラが鋭く吼える。
「デミウルゴスの強さはこんなものではなかったぞ……!」
ルドラの全ての武装、武威を浴びても未だ死ねず、しかしすぐには立ち上がることも出来ずに光を明滅させるドクター・オロチ。
まだ死んでいない。
身体の磨耗と経年劣化が急速に進む感覚を覚える。だが、それは、ルドラが止まる理由にはならない。
雪音と綴が接近しているのを見ながら、ルドラもまた、戦いへと身を躍らせる。
「……力とは『振るう』ものでなく『使う』もの」
ルドラとドクター・オロチの対照的な有様を見届けながら、雪音が自戒も込めた呟きを漏らす。
繰り返し心に思う。問う。握った拳の在り処は何処か。立ち上がると同時、闇雲に振るわれる水晶剣を見切り、時に剣の平を叩いて。
サイモンの射撃が、着実に水晶剣を砕き、数を減らしてゆく。
ドクター・オロチの動きが、僅かに変化する。こちらへ、手を、伸ばそうとしている――
「おおっとッ! 安・全・運・転ッ! ふんぬッ!!」
ハンマーで水晶剣をガシリと打ち合いながら、伸ばされた指先に、敢えて己自身を晒す。
それは、恐ろしい技の筈だった。だが、綴は、これで良いのだと言うように、雪音へと視線を向ける。
その姿勢は、確かに、安定している。
「あなたの都合なんてしらない。ドクター・オロチ、あなたはここで終わるべきなんだよ……!」
水晶剣を受け止め、新たに生えようとする数本をサイモンの弾丸が砕き、カツミと似姿たちによる水の檻の中、雪音は、握った拳を振り上げる。
「力の在り様を学ばずして呑まれれば、待つのはただ滅びのみと知りなさい」
――水晶の剣を、広げた素手で、受ける。
そのまま、掴み、へし折り、握りこんだ欠片で血が流れるのも厭わず、真っ直ぐ腕を伸ばす。
視野が急速に狭まる。極限まで練り上げた、ただ一度の拳の為の視野。ただ一点を目指し、受けた威力も体重も全てを乗せて、拳を突き出す。
抉るような拳の一撃が、ドクター・オロチの顔面――あるいは脳の中心近くを、深く、深く抉る。
勢いはそこに留まらず、再び、吹き飛ばされる。
念の為、射撃を止めたサイモンが、荒い呼吸のままに走る。
――呼吸だけは常に意識しろ。
ふらついて、きっと千鳥足で。
――絶対に死にたくない。
それでも、射撃に適した位置を、もう一度、もう一度。
――だから俺は死にそうになりながらも戦ってるんだ……!
床に転がるようにして、サイモンは、探る。
彼の離脱を見届けた綴が、オロチに接近する。
「ムシュムシュムシュムシュムシュ!!!! みちづれ! みちづれみちづれみちづれ!!!!」
闇雲に、ただ偽神細胞の共鳴を頼りに彷徨うオロチの手が、綴に触れる。
――やった。そう思えたのは、一瞬だけだった。
何という事もないという動きで綴がオロチの指を掴み、――視界がぐるりと宙を舞う。
オロチ自身にはわからない。己が一本背負いを決められた、などとは。
偽神細胞に関して、綴は、充分な時間と回数の解析を行った。
そして、ナノマシンによる回復時、先ほど一度食らったパターンから、強毒化した偽神細胞液への耐性を、既に得ていた。
つまり、一回はわざと食らった――
「判断力が低下していなければこのカラクリは見抜けたろうな」
完全に体勢が崩れた所に。サイモンのユーベルコードが、その最大威力を発揮する。
水晶剣をこれ以上ないほど破砕して、パーカーの後頭部部分を派手に抉り取る。
――混濁と共鳴。
最後のあがきで掴んでやろうとした指先は、自分の頭の中で自分を捕まえようとする無数の手と区別がつかない。
今まで何度も死んできたので、死がやってくるのはわかる。
でも、『次』の保証が――今の自分にはない!
ドクター・オロチは、絶叫した。
折れた偽神水晶剣の欠片の中に倒れ、外傷もさることながら、内部からぼろぼろと崩れる。
――最後の絶叫は、本来なら、一度きりのもの。
少なくとも、救済を求める人々には、一度きりのもの。
「他人事ではないな、役割"マスク"に呑まれる等と……」
綴が、誰にともなく、落とすように呟いた。
ドクター・オロチ。その死が、ここにひとつ、増える。
あらゆる思いも荒い呼吸も痛みも、今はただ、影の城に戻ったくらがりの中に吸い込まれていった。
大成功
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