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シャルル・ミュゲの涙

#アックス&ウィザーズ #戦後

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#戦後


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●愛の花
 ちりちりと、涼やかな音色を奏でそうな愛らしい花。
 微かな香りを抱くその花は、かつて愛する人へと贈る花として伝わっていたという。
 それはどれ程前の御話かは分からない。かつての勇者の生きていた時代なのか、それよりずっとずっと前かもしれない。けれどもその御話は、今尚大切に語られている。

 愛らしい見目とは裏腹に、毒を孕んでいるとも言うけれど。
 やはり今日はこの白を抱いて。大切な人と共に踊り出そう。

●愛するキミへ
 淡いピンクから澄んだ新緑へと。
 街の色は移り変わり、すっかり初夏の彩と風に満ちている。
「春って早いですよね。……でも、まだまだ楽しいことはいっぱいありますよ!」
 ほんの少し汗ばむ気候もある日々だけれど、まだまだ夏には早い。春と夏の狭間の時期だからこそ美しいモノ――それは、伸び始めた淡い緑だとラナ・スピラエア(苺色の魔法・f06644)は楽しそうに語り出す。
 今回彼女が案内するのは、アックス&ウィザーズに神殿のある大きな街。白造りの神殿は街の最奥にそびえ立ち、辺りは美しい鈴蘭の花で満ちている。
 そして、その神殿に祀られているものは硝子で出来た鈴蘭の花。それは『聖遺物』と呼ばれる、自然の花では無く神が遺した強力なマジックアイテムだ。
 名を『プロミス・ミュゲ』と言うその花は、辺りの自然を美しくし、魔を払うと言われている街の人にとっては大切なもの。――だからだろうか、その遺物を狙う不届き者が現れてしまうのは。
「丁度今は、神様に祈りを捧げる鈴蘭をモチーフにしたお祭り中らしいです」
 だからこそ、不審者も入りやすかったのだろう。詳細は不明だが、祭りの中に人間に化けたオブリビオンが忍び込み、その聖遺物を狙っていることは確か。
 だから、今回はその街へと赴き。最終的には敵を倒し聖遺物を護って欲しいのだと、ラナは苺色の瞳に珍しく真剣さを宿し言葉を紡いだ。

 ――任務はあるけれど、まずはその街で開催されているお祭りを楽しむことになる。
 聖遺物によく似た花、鈴蘭のお祭りの為、並ぶ店も装飾も街は鈴蘭に満ちている。
 神殿の辺りに足を運べば、そこは一面の鈴蘭が咲き誇る。――そしてその鈴蘭は、ただの鈴蘭では無い。聖遺物の影響なのか、不思議なことに花は陽の当たる間は硝子のように固い花。しかし陽が沈めば、普通の花のように風に揺れるという。
「この鈴蘭の花が綺麗に見えるように、ということで。お祭りが行われるのは夜の間です。月光に照らされた一面の鈴蘭は、神秘的でとっても綺麗だと思いますよ」
 その花を摘み取っても構わない。夜の間ならば壊れることなく、問題無く手にすることが出来る。そのまま手元に置いておけば、硝子と花とを繰り返す永久に枯れぬ不思議な花を手に入るだろう。もしも片方の姿を楽しみたいのであれば、街の職人にお願いすれば花の姿を止めることが出来る。特に硝子の姿の鈴蘭を、アクセサリーなどに加工し、誰かへと贈るのが主流のようだ。
「そう、このお祭りで大切なのは、鈴蘭のお花を愛する人に贈ると云うお話です」
 ほんの少し頬を染め、はにかみながらラナはこの祭りの題材を言葉にした。
 それは古の話から今尚伝わる大切な行事。一人だけにこだわらずとも、『愛』を伝えたい相手ならば誰でも良い。かつては男性から女性へ贈るものだったらしいが、時代は移り変わりその辺りのラインは決められていない。
 街の中には花屋もかなり並んでおり、どこも美しい鈴蘭を扱っている。1つの鈴蘭にリボンを添えて、他の花と合わせて花束にして。各々の好きなカタチで愛する人へと、改めて愛を伝えるのも良いのではないか。勿論、摘み取った鈴蘭を贈るのも良いだろう。

 そして、ある程度の時間が経過すれば――オブリビオンは動き出すだろう。
「申し訳ないですけど、敵の情報がよく分からなくて。街の人……特に、様々な情報に詳しいシーフの方にお話が聞ければ、詳しいことも分かると思います」
 それは街の異変だったり、見たことも無い人物だったり。
 何が彼等に引っ掛かるかは分からないけれど、心強い味方となってくれることは確か。彼等は神殿で聖遺物を護っている為、そちらへと赴けば自然と情報は得られるだろう。
 早々敵も動き出しはしない。恐らく夜も深まり、人気が少なくなって来た辺りであろう。――だから、それまでは普通にお祭りを楽しんでも問題は無い筈だ。
 年に一度の街の人にとっての大切な日。
 一緒に楽しみながらも、しっかりと護って下さいとラナは微笑むと猟兵を送り出す。

 ちりちりと小さな音色は何だろう。
 まるで鈴の音のようなそれは、神秘的な色を宿しこの街を包み込む。
 ――愛しい、愛しいアナタへと。
 ――贈る言葉など、沢山はいらないのだ。
 ――だって、全てこの花が伝えてくれるから。


公塚杏
 こんにちは、公塚杏(きみづか・あんず)です。
 『アックス&ウィザーズ』でのお話をお届け致します。

●シナリオの流れ
 ・1章 日常(玻璃の草木)
 ・2章 ボス戦(『花鳥風月』花の魔女)

●1章について
 愛する人に鈴蘭を贈る、その習慣から広まったお祭り。
 街の中には鈴蘭をモチーフにした店の数々が並んでいます。
 花屋や雑貨、装飾品の他。喫茶でも鈴蘭モチーフの限定品が。
 ラングドシャで作った鈴蘭の装飾が可愛らしい、ミニパフェが特に人気です。

 街の最奥の神殿付近には鈴蘭が広がっています。
 この鈴蘭は少し特殊で、夜の間揺れる姿こそ普通の鈴蘭ですが、陽が出る頃には固くなり、硝子のようになります。
 摘み取っても光によって変化することに変わりはありませんが、この街の人はその変化を止める術を知っているようです。
 花の姿か、硝子の姿か含め、加工する物をお好きに考えて頂ければ。

 (1)雑貨を見る。
 (2)カフェを楽しむ。
 (3)神殿で鈴蘭を見る。
 (4)摘んだ鈴蘭を加工する。

 行動としては以上の4つのどれかからお選び下さい。
 シーフとの交流は必須ではありません。
 特に何も無くとも問題無く次章へと進みます。
 また、この街の鈴蘭には毒はありません。

●2章について
 花に憑りつかれた魔女。
 扱う魔法も花にまつわるもので、出会い頭に各々の武器を花や花びらへと変えます。
 基本は武器ですが、それ以外も可能です。何を、何の花に変えられるかご指定お願いします。戦闘が終われば全て元に戻ります。

●その他
 ・全体的にお遊びor心情シナリオです。
 ・同伴者がいる場合、プレイング内に【お相手の名前とID】を。グループの場合は【グループ名】をそれぞれお書きください。記載無い場合ご一緒出来ない可能性があります。
 ・2章は短期間・少人数でのご案内の予定です。
 ・受付や締め切り等の連絡は、マスターページにて随時行います。受付前に頂きましたプレイングは、基本的にはお返しさせて頂きますのでご注意下さい。

 以上。
 皆様のご参加、心よりお待ちしております。
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第1章 日常 『玻璃の草木』

POW   :    日用品作り

SPD   :    アクセ作り

WIZ   :    気障な台詞を呟く

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●プロミス・ミュゲの伝説
 ――永遠の愛を誓うよと。
 ――とある人物が愛しの女性へと贈ったのが、全ての始まりだという。

 温かな陽射しと流れる風は、春頃の優しいものとは少しだけ違う色をしている。
 肌を撫でる風は爽やかと云う言葉が相応しい心地で。緑と白に溢れた景色もまた、爽やかさを強く演出しているかのよう。
 今此の場は聖遺物によく似た花、鈴蘭のお祭りの最中。花を愛で、祀る日の為並ぶ店も装飾も、街は鈴蘭に満ちている。
 露店を見れば鈴蘭をモチーフにしたアクセサリーにティーカップ、髪飾りや小物入れなど。様々な商品が並ぶ他、飲食についても鈴蘭をモチーフにしている。
 鈴蘭のアイシングクッキーにマカロンと云ったお土産に出来そうな物の他、カフェに入ればチョコ細工で鈴蘭を飾ったケーキ等も食べられる。特に人気なのは、一際大きなカフェ『フェリチタ』で扱われるパフェ。砕いたクッキー、青林檎のゼリー、爽やかなヨーグルトソースにふわふわのスポンジを重ねたパフェの天辺を彩るのは、ラングドシャ製の鈴蘭の飾り。ソースの白と青林檎の黄緑が、見た目だけでも鈴蘭らしさを表している。
 街の奥へ奥へと歩めば、都会的な通りが切れたかと思えばそこに広がるのは一面の鈴蘭の花。月明かりが降り注ぐ中咲く様は、まるで神々しく輝いているかのようにも見える。
 ――この花は、硝子と生花を永遠に繰り返す不思議な鈴蘭の花。
 ――それは、永久に枯れぬ壊れそうな繊細な想いを表しているのかもしれない。

 さあ、愛を伝えよう。
 大切なアナタへ、ワタシの、愛を。
ロニーニャ・メテオライト
【心宿】(4)
鈴蘭のお祭り、なんて素敵なの!
小振りの鈴が連なる花、可愛らしくてとても好きなの。神秘的な神殿との組み合わせもまた綺麗ね。

花畑で硝子の鈴蘭をそっと摘んで町に持ち帰るわ。レイラさんの為に加工してもらってプレゼントを贈るの。

硝子の鈴蘭が連なるブックマーカーに加工して貰えるかしら?レイラさんは本が好きだからきっと喜んで貰えるわ。
最後の仕上げに、私の【祈り】を込めさせて。鈴蘭は【幸運】を送り合うとも言うもの!とびきり込めて祈るわ。

レイラさん、贈り物よ!
愛を込めて、そして幸運を祈って。
(そっと彼の髪に一輪の硝子の鈴蘭を差してから、ラッピングしてもらったブックマーカーを贈るわ)


レイラ・ピスキウム
【心宿】
なんて明媚な鈴蘭畑でしょう
ずっと眺めていたいけど
他の思い出も作ろうか
鈴蘭を加工する所はあちら?
お互い作る物は秘密です

僕は硝子の姿の鈴蘭を
夜には姿を変え
甘い香りを纏うのも乙でしょう
少し小さく出来れば十分
彼女のほそりとした指を飾れるくらいのサイズ、かな

手先だけは器用で良かった
ふふ。では、ロニーニャさん
目を閉じて?

彼女の左手をそっと取って
今作った“硝子の鈴蘭の指輪”を薬指へ

あなたは此処の鈴蘭のように至純すぎて
他に蝶が寄って来たらと心配になるんです
でもね、ここに幸福の形があれば
本来鈴蘭の持つ毒の代わりになってくれるかな

本物はいつか
きちんとした言葉で贈るけれど
“愛”は今贈っても一緒かな
愛してるよ




 深い深い夜空の下、白の神殿の元で咲き誇る鈴蘭の花は神秘的で美しく――その光景はため息が出る程だった。
 先程まで見ていた景色を思い出してロニーニャ・メテオライト(不老不死の星の子ども・f35195)はほう、と溜息を零す。元々小振りの鈴が連なる花が可愛らしくて好きだとは思っていたが、神秘的な神殿との組み合わせでその美しさが増していた。
「鈴蘭のお祭り、なんて素敵なの!」
 紡ぎながら笑う彼女を見れば、レイラ・ピスキウム(あの星の名で・f35748)の口許も自然と綻んでしまう。けれど、今日の2人のお目当てはこれだけではない。
「鈴蘭を加工する所はあちら?」
 街の中ほど、商店が並ぶエリアへと訪れれば店が並んでいて。掲げられた看板には『鈴蘭の花加工致します』と、どこを見ても書いてある。
 ――お互い作る物は秘密。
 だから、瞳を交わし頷き合うと。別々の店へと入って行く。

 ロニーニャが覗いた店先ではドワーフの老人が座っていた。
「硝子の鈴蘭が連なるブックマーカーに加工して貰えるかしら?」
 ちらりと鋭い銀色の瞳で見られたけれど、ロニーニャは臆することなく言葉を紡ぎ自身が摘んだ硝子鈴蘭を差し出した。老人は「おう」と短い言葉だけを零すとすぐに加工を始める。その工程は秘密らしいが、片隅で強い光が放たれた様子は恐らく魔法。
「出来たぞ」
「ありがとう。最後の仕上げに、私の祈りを込めさせて」
 差し出されたブックマーカーは星のような金色で、蔦の文様の先に咲き誇り揺れる鈴蘭が繊細ながらも美しい品だった。見た目に似合わぬ丁寧で上品な品にロニーニャは微笑むと、彼から品を受け取ると大切そうに祈りを捧げる。
 ――鈴蘭は、幸運を送り合うとも言うから。

 レイラが訪れた先に待っていたのは、小さなフェアリーの女性だった。透き通る銀色の翅を羽ばたかせる彼女に向け、レイラが語ったのは自身で作りたいと。
(「夜には姿を変え、甘い香りを纏うのも乙でしょう」)
 彼女の細い指を思い出し、その指に似合う物を考えながらレイラは真剣に手を動かす。誰に向けてか、聞いてはいないけれど店主は微笑ましげに笑いながら必要なところでは手を貸してくれた。――そうして、出来上がった小さな銀色を見て。
「手先だけは器用で良かった」
 ほっと安堵の息と共に大切そうにきゅっと掌で握った時――。 
「レイラさん、贈り物よ!」
 すぐ後ろから掛かる声に、レイラは驚いたように声を上げ振り返った。そこには、嬉しそうに笑みを浮かべながら佇むロニーニャの姿が。
 星のしるしを宿した瞳でじっと彼女を見ると、すぐにレイラは笑みを零す。互いの笑顔を瞳に映し合えば、また嬉しそうに笑みが零れてしまうのだ。
 そのまま彼女は一歩近づくと、彼に向けて手を伸ばす。彼女の細い手がレイラの紫色の柔らかな髪へ触れたかと思うと、そこには一輪の硝子の鈴蘭が咲いていた。
 そのまま彼女が彼の掌へと手渡した包みを開ければ、美しい鈴蘭のブックマーカーがレイラの瞳に飛び込んでくる。――本が好きなレイラのことを想い、ロニーニャがこれを考えてくれたのだと思えば満ちる嬉しさに心が震える。
「愛を込めて、そして幸運を祈って」
 優しい笑みと共に零される彼女の言葉もまた甘く愛おしく――ひとつ息を吐くとレイラは笑みを浮かべて。
「ふふ。では、ロニーニャさん。目を閉じて?」
 落ち着いた音で紡がれる言葉。素直にロニーニャは瞳を閉じると、レイラは彼女の左手をそうっとすくい細い指先へと銀色を飾る。
 ――それは、今作ったばかりの『硝子の鈴蘭の指輪』だ。
 瞳を開けたロニーニャの瞳に映る、美しき花に彼女はひとつ息を吸う。
「あなたは此処の鈴蘭のように至純すぎて、他に蝶が寄って来たらと心配になるんです」
 彼女の手を取ったまま、語るレイラの言葉は穏やかながらも甘美に感じられ。けれど真っ直ぐな想いに、ただ真っ直ぐとロニーニャは彼を見つめていた。
 心配だから、だからこそ証を添えたいのだ。
「でもね、ここに幸福の形があれば。本来鈴蘭の持つ毒の代わりになってくれるかな」
 左手の薬指に輝く指輪の意味は、深く考えなくとも特別だと分かる。――勿論、本物はいつかきちんとした言葉で贈るけれど。
(「“愛”は今贈っても一緒かな」)
 そのまま真っ直ぐに彼女を見てレイラは唇を開く。
 ――愛しているよ。
 初夏の風に乗り紡がれた言葉は、満ちる鈴蘭の香りが包み込んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻
4

鈴なる白い花々の可愛らしいことだ
愛するものに鈴蘭を、とは洒落た風習だね
噫、サヨ
違う神であれど心地良さを感じるよ
神斬達は──互いに交わす永遠(あい)を、示しあっているようだ
……サヨ、あちらばかりでなく私の方も見てほしい

恥ずかしい所までみられていたか……流石は私の巫女
鈴蘭の花言葉も良いものだね
毒が?こんなに可憐なのに…
倖が毒とは──そうだね
誰もが欲するとけぬ毒

玻璃へ変じる鈴蘭の神秘と枯れずうつろう姿にかの花言葉は違いない、と思うのだ
私からはきみに
永遠に愛をとどめた、硝子の鈴蘭の簪を
嬉しそうに咲うサヨに綻べば、私にもと与えられる鈴蘭の──愛おしいことだ

お揃いだね
ふたりでひとつ──違いないとも


誘名・櫻宵
🌸神櫻
4

小さな歓びが鈴なるような、かぁいい花々ね!
神殿…神であるカムイも心地いい場所なのかしら
イザナと神斬も二人並んでこの光景に喜んで居るようね
ほんに、微笑ましいこと

もちろん見てるわ?
無邪気に鈴蘭をつつくカムイはかぁいいなぁと思ってたところ!
こんなにかぁいい鈴蘭にも実は毒があるの
その毒は─幸せという甘い甘いとけぬ毒なのでしょう

光と共に硝子と変わるそれはまるで永久へ姿を変えたよう
永遠に愛をとどめたならば
朽ちることない倖を玻璃に込めてあなたに贈りたい
あら、カムイ?
連なる簪にしてくれるなんて、嬉しいわ
じゃあ私も…この鈴蘭はあなたの美しい赫を留める簪にするわ

ふたつでひとつ
ふたりでひとり──なんてね!




 夜風に揺れる、小さな小さな白き花。
「小さな歓びが鈴なるような、かぁいい花々ね!」
 一面に咲く花々を見て、誘名・櫻宵(咲樂咲麗・f02768)は嬉しそうに声を上げる。月光に照らされた白花は輝いているようで、白の神殿の袂に咲く姿がまた神々しく見える。
「愛するものに鈴蘭を、とは洒落た風習だね」
 今にも奏でそうな鈴なりの花を見て、朱赫七・カムイ(禍福ノ禍津・f30062)は瞳を細め穏やかに紡いだ。――そんな彼の姿を見て、ふと櫻宵は気になった。神である彼にとって、神殿のそびえる此の地は異教の地。文化も世界も違うこの場は、心地良いのかと。
 その問いにはカムイは迷った様子も無く、心地良さを感じると素直に紡ぐ。それならば良かったと、安堵の笑みを零し再び鈴蘭畑へと視線を移せば、イザナと神斬も並び立ち、互いに交わす永遠(あい)を示し合っている。
 その姿を微笑ましく櫻宵が見守りたい気持ちも分かるのだけれど――。
「……サヨ、あちらばかりでなく私の方も見てほしい」
 傍らの彼がこちらを見てくれないものだから、少し拗ねたようにカムイは紡いだ。彼の言葉に、優雅に振り返ると櫻宵は悪戯な笑みを浮かべる。
「もちろん見てるわ? 無邪気に鈴蘭をつつくカムイはかぁいいなぁと思ってたところ!」
 くすくすと零れる小鳥のような声。
 その声と、恥ずかしい所を見られてしまったことにカムイは頬を僅かに赤く染めていた。そんな彼のすぐ傍へと、櫻宵は並ぶようにしゃがむと鈴蘭へと手を伸ばす。長い爪でちょんっと触れれば揺れる姿は愛らしいけれど――一般的に鈴蘭には毒があるという。
 その言葉にカムイは驚いたように瞳を見開いた。こんなにも可憐で愛らしく、透き通る香りを放っているのに。
「その毒は――幸せという甘い甘いとけぬ毒なのでしょう」
 櫻宵の口許から零れる笑みの、何と美しく妖艶な事だろう。
 その笑みに一瞬見惚れながらも、カムイは櫻宵と鈴蘭を交互に見ると。
「倖が毒とは──そうだね」
 静かに、頷きを返していた。
 ――それはきっと、誰もが欲するとけぬ毒。
 毒と倖が混じる花は、一目見た時よりも魅力的に見えるのは何故だろう。その意外性にか、その裏のストーリーを感じるからかは分からない。けれど、この花が愛を伝える花なのは変わらない。
 そう、玻璃へと変ずる鈴蘭の。神秘と枯れずうつろう姿にかの花言葉は違いない、とカムイは想うのだ。
 今はただの鈴蘭である花をじっと見つめていれば、先に櫻宵が手を伸ばし鈴蘭を摘み取っていた。彼の細い手の中で、揺れる小さな鈴は愛らしく可憐で。互いの白さを引き立て合うかのように美しい。
 顔に寄せた鈴蘭の香りを嗅げば、そっと櫻宵の瞳が細められる。
 光と共に硝子と変わるそれは、まるで永遠へ姿を変えたようだと想う。
 ――永遠に、愛をとどめたならば。
(「朽ちることない倖を玻璃に込めてあなたに贈りたい」)
 湧き上がる想いは真っ直ぐで、傍らの彼への熱を感じる。
 その時、カムイも摘み取った鈴蘭を櫻宵の髪に寄せてみれば穏やかな笑みを浮かべた。
「私からはきみに。永遠に愛をとどめた、硝子の鈴蘭の簪を」
 きっと似合うよ、と添えた鈴蘭に本物を重ねてカムイは紡ぐ。此処は魔法の世界だけれど、きっと櫻宵に似合う物を仕立てて貰えるだろう。だって、カムイが彼に一等似合う物を考えるから。
 すぐ傍にカムイの顔。そして優しい手から伝わる熱と、彼の言葉に櫻宵の心はひとつ大きく跳ねた。彼の言葉は勿論嬉しい。だから――。
「じゃあ私も……この鈴蘭はあなたの美しい赫を留める簪にするわ」
 頬を染め、瞳を細め、幸せそうに笑んで手元の鈴蘭を揺らす櫻宵。月光に照らされた櫻宵のその笑みがあまりにも美しくて、カムイはひとつ息を飲んだ後静かに笑みを零す。
「お揃いだね」
「ふたつでひとつ。ふたりでひとり──なんてね!」
 くすくすと笑い合い、そのまま二人は簪を作る為に街へと並び歩いていく。
 ふたりでひとつ――違いないその言葉を、胸に宿しながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
❄花狼

街中に咲き誇る鈴蘭の可憐な花
硝子のように煌めく昼の姿も
自然のままの可憐な夜の姿も
どちらも得も言われぬ美しさね

そして愛する人に想いを伝え、魔を祓う神の加護……
「約束」の名を冠したこの花が、きっと二人の絆を固く守ってくれるわ

夜のうちに摘み取った鈴蘭の花を
ペアのペンダントに仕立ててもらって互いに贈りあいましょう

わたくしからヴォルフへ贈るのは、勝利と安全を祈願するお守り
戦闘の邪魔にならないように、つくりはシンプルに
だけど可憐な姿はそのままに
決して壊れぬ愛の絆を形にして

忘れないわ
忘れないで
互いの想いを胸に、永遠の愛を誓う

ありがとう、ヴォルフ
わたくしの想いはいつも、あなたの傍に


ヴォルフガング・エアレーザー
❄花狼

ああ、見事なまでに美しい
見ているだけで心洗われるようだ
この花に込められた聖なる力が、街と人々を守ってきたのだな

加工した硝子の鈴蘭の首飾りを互いに贈りあう……名案だ
俺からヘルガに贈るものは
陽光を浴びて煌めく繊細にして可憐なデザイン
お前の美しさを引き立てるように

ありがとう、ヘルガ
お前から贈られた首飾りを、そして鈴蘭を見るたびに、お前のことを思い出す
白く繊細な、それでいて命の息吹に溢れた姿は正にお前そのもの
お前がいれば俺は、どんな試練にも挫けずに戦える
この花の加護とお前の想いが、いつだって俺を守ってくれる

忘れるものか
手放すものか
お前への愛は永遠に

俺はこれからもお前を守り、共に歩むと誓おう




 街中に咲き誇る鈴蘭は見事なまでに咲き誇り――その儚げな見目が愛らしい。
 硝子のように煌めく昼の姿も。自然のままの可憐な夜の姿も。
「どちらも得も言われぬ美しさね」
 手元の先程摘み取った鈴蘭を揺らしながら、鈴のような声を零しながらヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)は穏やかに紡ぐ。
「ああ、見事なまでに美しい。見ているだけで心洗われるようだ」
 彼女の言葉に、その笑みに。ヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)は素直に頷きを返す。先程の花畑には立派な神殿があった。その場に祀られた聖遺物こそが、神なる力を宿しし大切なもの。その花に込められた力が、街と人々と守ってきたのだと――己も人を守る騎士である為、ついついそんなことを考えてしまう。
 辺りを見回す彼の姿に考えていることなどお見通しなのか、ヘルガはくすくすと楽しそうに笑うと手元の鈴蘭へと視線を落とす。
 煌めきと可憐さを抱く不思議な花。――そして、愛する人に想いを伝え、魔を祓う神の加護。『約束』の名を冠したこの花が、きっと2人の絆を固く守ってくれるから。
「ペアのペンダントに仕立ててもらって互いに贈りあいましょう」
「加工した硝子の鈴蘭の首飾りを互いに贈りあう……名案だ」
 穏やかな笑みのままじっと長身のヴォルフガングをヘルガが見上げ紡げば、彼は自身の摘み取った鈴蘭と、ヘルガの鈴蘭を交互に見た後頷きを返す。
 ――そのまま2人は街中の商店へと入って行く。『鈴蘭の花加工致します』の看板は何処の店にも立っていたけれど、店先に並ぶ装飾が好みに合う店を選んだ。
 店主と相談をしながら、相手への贈りたいイメージを伝えていけば。一瞬で出来上がり箱へと詰めて渡される。その見事な装飾にヘルガは嬉しそうに笑みを浮かべると――店を出て人目の付きにくい片隅で2人は装飾を交換する。
 ヘルガが作ったのは、鈴蘭の可憐さは残したまま、戦闘の邪魔にならないよう出来る限りシンプルなデザインにしたペンダント。その小さな花に込めた想いは、勝利と安全。
「決して壊れぬ愛の絆を形にして。忘れないわ、忘れないで」
 ――互いの想いを胸に、永遠の愛を誓う。
 長い睫毛で瞳を隠しながら、祈るように、願うように言葉を唇から零すヘルガ。
 彼女の真っ直ぐな想いに、彼女の真っ直ぐな言葉に。ヴォルフガングは心を震わせると、そうっと愛しいものに触れるような手付きでペンダントへと無骨な指を伸ばす。
「ありがとう、ヘルガ。お前から贈られた首飾りを、そして鈴蘭を見るたびに、お前のことを思い出す」
 零れる笑みは穏やかで、紡ぐ声色はどこまでも優しい色をしている。
 白く繊細な、それでいて命の息吹に溢れた姿は正にヘルガそのもののような気がして。何時だって君が、寄り添ってくれる気がする。
「お前がいれば俺は、どんな試練にも挫けずに戦える。この花の加護とお前の想いが、いつだって俺を守ってくれる」
 それは誓いのような強い言葉。
 彼女がいるだけで、湧き上がるような勇気がある。だからヴォルフガングは、前を向いて戦える。――そのまま彼は、強き意志を表すかのように握られた手を緩めると。己の用意したペンダントを彼女の細い首へとそうっと掛けた。
 白き彼女の胸元で輝くのは、繊細にして可憐なデザインの鈴蘭。今も美しく輝いてはいるが、陽光を浴びると一等綺麗に輝く代物だ。
「お前の美しさを引き立てるように」
 今でも十分に美しいけれど。この花を纏うことで、一層綺麗になったならと――そんな素直な想いが込められている飾りは何と温かいのだろう。ヘルガは笑みを浮かべながら、胸元の花を愛おしそうに触れている。
 そんな彼女の姿を見れば、ヴォルフガングの胸に湧き上がる想い。
 忘れるものか。
 手放すものか。
 お前への愛は永遠に――。
「俺はこれからもお前を守り、共に歩むと誓おう」
「ありがとう、ヴォルフ。わたくしの想いはいつも、あなたの傍に」
 彼の言葉に、ヘルガは頬を染めながら穏やかに笑む。
 少し冷たい風が、2人の熱を帯びた頬を冷やすように流れていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アウグスト・アルトナー
【アパラ(f13386)と】
(呼び方:アピィ)

(4)
まずは、月下で咲く鈴蘭の花々の下へ

「綺麗だね、アピィ」
「うん。この地の神様のご加護、だね」
「君とここに来られて、良かった」
微笑みかけて
鈴蘭を二本、丁寧に手折り持ち帰る

街に戻り日が昇ったら、職人さんに花を持参し、硝子の姿に留めてもらう
「よろしくお願いします」
「大切なぼくの妻に、贈るんです」

硝子の鈴蘭を、イヤリングに加工する
ゆらゆら揺れる可愛い硝子の花は、アピィの耳元をさりげなく飾ってくれるはず

まずは、もう一本の硝子の鈴蘭を、そのままアピィに渡す
「ぼくらの家に飾ろう。アピィが鉱石ランプのデザインを考える助けになればいいな」
「ふふ、やっぱりそう思ってた?」

イヤリングも渡す
「もちろん。着けてみて」
「うん。思った通り、よく似合ってる」
にこりと笑い

ラペルピンを受け取って
「ありがとう。ぼくも早速、着けてみるね」
燕尾服の襟元に留めれば、胸元に一輪の花が咲く
「嬉しいよ、アピィ」
互いを飾る、幸福の花を見て微笑む

「永遠の愛を誓うよ」
伝説と同じ台詞を口に出す


アパラ・ルッサタイン
【アウグスト(f23918)と】
(呼び方:グスト)

(4)


白い花に月明りの下、輝くよう
神の加護というのも納得してしまう美しさだね
あたしもだ
この景色にグストと共に居るってのは
何だか、とてもいい

花を踏まぬよう歩み
目に留まる、これをという一輪を摘む
ふむ、見た限りは普通の鈴蘭なのにねえ

街の職人殿へ
硝子の姿に留めて、更に加工して欲しいのだけど
ね、手伝わせてもらえない?
あたしも職人の端くれ
愛しい旦那さんへの贈り物
自分も手を入れたいの

枯れる事のない鈴蘭
いいね!あたし達の家にも来てもらおう
ふふ……実はさ
ランプの参考にならないかなって思っていたのだよね
グストにはお見通しだったようだ

これは……イヤリング?
なんて可愛らしいんだ
ね、つけてもいいかい

耳元でちゃらりと音が鳴る
…ありがとう
心も軽やかになるようだ

では、あたしからも
渡すのは鈴蘭のラペルピン
可愛すぎず、シックな装いにも合うように
ああ、勿論!
あなたの胸元で
この想いと共に咲き続けてくれるよう
「君を永遠に愛す」と
…よく、似合ってる

君の言葉を聞き
笑顔も咲いてしまうね




 月光に照らされ、揺れる白き花はまるで輝くよう。
 今にも涼やかな音色を奏でそうな儚くも愛らしい花々を、煌めく乳白色の瞳に映したアパラ・ルッサタイン(水灯り・f13386)はひとつ息を飲んだ。
「神の加護というのも納得してしまう美しさだね」
 息を小さく吐きながら、零す言葉は春と夏の狭間の風に乗り流れていく。その声を耳にしたアウグスト・アルトナー(黒夜の白翼・f23918)は、こくりと小さく頷いた。
「うん。この地の神様のご加護、だね。君とここに来られて、良かった」
 あまり変わらぬ表情の中の、穏やかな微笑みは君にだけ見せる特別な笑み。その微笑みと、耳に届く声が心地良くて。アパラは笑みと共に、頷きを返す。
「あたしもだ。この景色にグストと共に居るってのは、何だか、とてもいい」
 ふわりと吹く風はどこまでも優しくて、穏やかな心地にさせるのは気のせいか。そうっと白鈴を傷付けぬよう、花畑へと足を近付ければ彼等は目に留まった花を手に取った。
「ふむ、見た限りは普通の鈴蘭なのにねえ」
 手元で揺れる鈴花は白く繊細で美しい。鼻を近付ければ薫るグリーンな香りは、普通の生花とは何ら変わらない。
 そのまま2人は花畑から離れ、人の集う街の中へと戻り職人通りへと入っていく。
 数多の店が並ぶ中、2人が惹かれた店は同じ。美しい硝子鈴蘭の飾りのランタンが揺れる店だった。扉をくぐれば中は少しだけ薄暗く、数多の淡い光のランタンが照らすのは美しき硝子細工達。アクセサリーに彫刻や武器等の品々は美しく、職人の腕がよく分かる。
 ぐるりと辺りを見回す2人へと、「いらっしゃい」と声を掛けたのはエルフの青年だった。淡々と語る彼は愛想は無いようだけれど、気にした様子は無くアウグストは「よろしくお願いします」と声を掛ける。
 そのまま彼は鈴蘭を差し出すと、これをイヤリングに加工して欲しいのだと。
「大切なぼくの妻に、贈るんです」
 笑みを浮かべ、紡ぐ彼の言葉は甘さが混じっていて。店員は彼の言葉と、後ろで別の店員と話をする灯りを浴びて煌めくアパラの姿を見て、ひとつ頷きを返す。
 その間、アパラが語るのは黒髪のドワーフ。無骨な手は職人らしく、ついアパラの視線を引き寄せてしまう。そのまま彼女は硝子の姿に留めて、加工をして欲しいと告げれば彼は頷き何が欲しいのかと希望を問うた。
 踵を返し、奥で作業を始めようと彼はするが――。
「ね、手伝わせてもらえない?」
 その足を止めるように、声を掛けるアパラ。彼女も職人の端くれだ。愛しい旦那への贈り物だから、自分も手を入れたいと――語る彼女の言葉だけでなく、その眼差しは真っ直ぐで。少し考えた後、職人は頷き奥に入れと言葉を掛けてくれた。

 細工を施すのは驚くほど時間は掛からず、すぐに2人は店を出て人気の少ないベンチへと腰を下ろす。
 ふわりと風が吹けば鈴蘭の香りが運ばれてくるようで、心落ち着くのは気のせいでは無い。そのまま――傍らのアパラを見ると、アウグストは一輪の鈴蘭を差し出した。
 それはただの鈴蘭では無い。透き通り、キラキラと光に輝く姿は硝子製で。
「ぼくらの家に飾ろう。アピィが鉱石ランプのデザインを考える助けになればいいな」
 黒い瞳で真っ直ぐにアパラを見つめながら紡ぐアウグストの表情は柔らかい。彼が自分を想って、この花を贈ってくれたことも嬉しいけれど。
「ふふ……実はさ。ランプの参考にならないかなって思っていたのだよね」
 その想いが重なっていたことが嬉しくて。零れるような笑みと共に、アパラは「グストにはお見通しだった」と小さく紡いだ。
 彼女のその微笑みに嬉しそうに笑みを返しながら。――アウグストは更に鈴蘭のイヤリングをその手へと渡す。ちりりと揺れる小さな鈴の花。それはきっと、アピィの耳元をさりげなく飾ってくれると想ったのだ。
「なんて可愛らしいんだ。ね、つけてもいいかい」
 その儚く愛らしい花に嬉しそうに吐息を零し、彼の瞳を真っ直ぐに見て問い掛ければ。彼は頷きを返して彼女が耳を彩る様子を見守る。
 白き耳元に咲く、儚い花。 
「うん。思った通り、よく似合ってる」
「……ありがとう」
 小さな花だけれど、だからこそ愛らしく映るのだろう。笑みと共に零れた賛辞に礼を述べながら小首を傾げれば、アパラの耳元の鈴蘭がちゃらりと小さな音を奏でた。
(「心も軽やかになるようだ」)
 その音色に、彼の贈り物に。溢れるような想いを確かめるように、彼女は胸元に手を当てる。――そのまま、彼女は鈴蘭のラペルピンを彼へと差し出した。
 可愛すぎず、シックな装いにも合うように。職人と相談をしながら、己の手も入れ丁寧に作り上げたその鈴蘭細工は見事なもので。小さいながらも華やかにアウグストの襟元を彩ってくれることだろう。
「ありがとう。ぼくも早速、着けてみるね」
 嬉しそうに笑みを零し、慣れた手付きで胸元に花を咲かせるアウグスト。黒の燕尾服に咲く白色は美しく、アパラが思い描いた以上に似合っていて――。
「……よく、似合ってる」
 笑みと共に零れる言葉は、彼の耳をくすぐるように触れていく。
 ――あなたの胸元で、この想いと共に咲き続けてくれるよう。そんな祈りを込めたのだ。『君を永遠に愛す』と、そんな想いが伝わるように。
「嬉しいよ、アピィ」
 彼女の賛辞に素直な言葉を紡ぎ、そっと胸元の花を撫でるアウグスト。互いを飾る、幸福の花に嬉しさが込み上げてきて。視線を自身の襟元からアパラへと上げると、彼女の光に煌めく瞳を真っ直ぐに見つめながら、彼は唇を開いた。
「永遠の愛を誓うよ」
 それは、伝説と同じ愛の言葉。
 その言葉が、彼の眼差しが。あまりにも真っ直ぐにアパラの心へと溶け込んでくる。温かさに蕩けるような心地の中、彼女の顔には綻ぶような笑顔が咲いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーシー・ブルーベル
【月光】

すずらん!かわいくって好き!
ブルーベリーのお花に似てるって知ってから
少しキニナルお花だったの
もちろん、ゆぇパパが教えて下さったもの

手を繋いで鈴蘭のお花畑へ
とてもステキね、パパ!
ええ、夜風にゆれる音もキレイだわ
今もステキだけど
昼の一面ガラスのお花畑も見てみたくなっちゃうわ

あ、あのスズラン少し小さい
きちんとお花も開いているけれど…
そうなの、かわいいの!
ね、あなた
ルーシー達の所に来て下さる?
必要以上に傷つけないようにそっと摘む
あら、パパに選んだお花だって幸せよ?

街に戻ったら加工をお願いしましょう
ガラスドームの中に納めて
永遠に咲く硝子花がパパと共に在るように

パパ、はい!良かったらパパのお家に、どうかな
前に何もないって言ってたし
スズランを愛する人に贈るお祭りなのでしょう
なら、ルーシーはパパにお渡ししないと!

ルーシーにも?ありがとう!
花瓶もかわいい
花瓶に活けられたお花を見て
今日共に見た景色を思い出すわ
昼夜…2つの姿
でもどちらも優し気なお花
まるで誰かさんみたい
ナイショ!

愛しているわ
わたしのパパ


朧・ユェー
【月光】

えぇ、とても可愛いお花ですね
ブルーべリーのお花に似てるの覚えて下さったのですね
確かに気になりますよね

手を繋ぎ、鈴蘭の花畑に
ちりちりと綺麗な音が奏でる
今は音楽祭みたいですね
えぇ、ガラスの花畑は幻想的でとても素敵な風景でしょうね

おや?そうですね、でも小さくても美しいです
お花に話しかける彼女に優しく微笑んで
ルーシーちゃんに選んでもらえたお花は幸せですね
そっとその隣に咲いていた子を選んで
僕の選んだ子ですか?それは良かったですねと花に語って

ガラスドームの中に咲く小さな花
健気にでも元気に咲いた姿はまるで

おや?僕に下さるのですか?ありがとうねぇ
えぇ、僕の何も無い家の中で一番美しいでしょうね
ルーシーちゃん似たお花を見て元気になります

じゃ、僕も
ガラスのままで止めてもらおうと思ったのですが
昼、夜と姿を変える花も素敵なだなと思ったのでそのままの姿まま
一輪挿しの花瓶を手作りです
誰かとは誰でしょうかと首を傾げて

愛してます、可愛い僕の娘さん




 小さな鈴が生る白き花は、可愛くて好きだとルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)は瞳を輝かせる。
 その好きな理由は愛らしさだけでなく――。
「ブルーベリーのお花に似てるって知ってから、少しキニナルお花だったの」
 大好きな人を見上げて、そう語る彼女の瞳は輝いていて。真っ直ぐなその眼差しと、彼女の跳ねるような声に朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)は嬉しそうに金の瞳を細めた。
「ブルーべリーのお花に似てるの覚えて下さったのですね」
 そう、それはブルーベリーの花を咲かせたユェーが教えてくれたことだから。大好きな人に教えて貰ったことは忘れずに、確かに少女の心に刻まれている。小さな手と大きな手を繋いで、2人は月光の中の花畑へと辿り着いた。
 暗いから足元に気をつけてと、ユェーの掛けてくれる言葉が嬉しくて。その嬉しさを表すかのようにゆらゆらと揺らしていた手が、ピタリと止まったのは目の前の光景に見惚れてしまったから。差し込む月光は優しい色合いで、光に照らされた真白の花々は夜露を纏っているのか輝いているように見える。ふわりと吹いた春と夏の狭間の風はほんのりと冷たさを帯び、鈴蘭の香りを運んでくれた。
「とてもステキね、パパ!」
 ひとつ、息を飲んだ後。ルーシーの唇から上がる感嘆の声。ふわりと風により遊ぶ髪を空いた手で押さえながら、少女は傍らの父を見上げた。その声に反応するように、この世界を優しい光で照らすお月様に似た瞳は、鈴蘭からルーシーへと向けられる。
「ちりちりと綺麗な音が奏でる、今は音楽祭みたいですね」
 小さく小さく奏でられる音色は、夜の景色を更に幻想的な世界に彩っていて。ついつい瞳を閉じて耳を澄ませてしまう。
 ――夜風が揺れるその音色もとても綺麗だけれど。
「今もステキだけど、昼の一面ガラスのお花畑も見てみたくなっちゃうわ」
 月光の元の輝く白鈴蘭だけでなく、陽光を浴びた儚い花々の群れはどのような景色を見せてくれるのだろうか。きっととても綺麗なのだろうと、考えただけでワクワクする心地を隠せぬように、ルーシーは楽しげに声を弾ませた。その言葉にこくりと同意を示しならが、ユェーは彼女の語る景色を思い描く。
「えぇ、ガラスの花畑は幻想的でとても素敵な風景でしょうね」
 光に当たる花々の美しさ。
 奏でる音色はきっと今聞こえるものとは違うのだろう。 
「あ、あのスズラン少し小さい」
 鳴り響く音色に耳を澄ましていれば、ふと聞こえた少女の声にユェーは瞳を開ける。少女がじっと見ている足元へと視線を移せば、そこにはしっかりと花は開いているけれど、周りと比べれば一際小さな花が咲いていた。
「おや? そうですね、でも小さくても美しいです」
「そうなの、かわいいの!」
 不思議そうに声を零すユェーの言葉に、嬉しそうにルーシーは声を上げる。――小さな花に対して、父も同じように想ってくれたことが嬉しかったから。ルーシーは嬉しげな足取りでその小さな鈴蘭へと近付くと、しゃがんで手を伸ばす。
「ね、あなた。ルーシー達の所に来て下さる?」
 小首を傾げ問い掛ければ――ふわりと吹いた風に揺れる鈴蘭。その花が揺れる姿は、まるで頷いているようにも見えて。ルーシーは手を伸ばし、そうっと優しく摘みあげた。
「ルーシーちゃんに選んでもらえたお花は幸せですね」
 そんな心優しい彼女の姿に微笑みながら、ついユェーはそう零してしまう。そのまま彼女が摘み取った鈴蘭の横に咲く鈴蘭を摘めば、ルーシーから「あら」と声が零れた。
「パパが選んだお花だって幸せよ?」
 それは当たり前のように、きょとんとした眼差しで。
 純粋に零れるその言葉を耳にすれば、ユェーは瞳を瞬き一瞬だけルーシーと同じような表情を浮かべてしまう。けれども、少女の言葉は彼の心を温かくしてくれるものだったから。すぐに微笑むと、彼は手元の鈴蘭へと優しく語り掛ける。
 ――それは良かったですね、と。

 鈴蘭を手にした2人は、街へ戻ると小さな工房へと足を運んだ。数多の装飾を扱う店のようだけれど、ルーシーが望むのはガラスドーム。透き通る硝子容器の中、咲き誇る硝子の鈴蘭は健気で、けれども元気に咲く花はまるで――。
「パパ、はい! 良かったらパパのお家に、どうかな」
 ルーシーの手に抱かれたドームを見つめ耽っていれば、不意に少女から差し出されユェーは驚いたよう。
 前に何も無いと言っていたから。パパのお家に飾って欲しいと。――その真意の裏にあるのは、永久に咲く硝子花がパパと共に在るようにと、想う心は今は隠して。
「スズランを愛する人に贈るお祭りなのでしょう。なら、ルーシーはパパにお渡ししないと!」
 伝えたい想いはしっかりと言葉にして、真っ直ぐにルーシーはユェーを見る。
 その眼差しが、頬を仄かに染めた笑顔が。愛らしくて、大切で。ユェーはきゅっと唇を結んだ後、綻ぶように笑みを咲かせる。
「えぇ、僕の何も無い家の中で一番美しいでしょうね。ルーシーちゃん似たお花を見て元気になります」
 差し出されたガラスドームを落とさないように、そうっと受け止めながら彼はその花を見る。小さな小さな硝子鈴蘭は、成長するのだろうか。大切に飾り、日々の姿を眺めるのも良いだろう。愛しい娘を見ているようで、きっと温かな心地にしてくれる。
「じゃ、僕も」
 そのままユェーが差し出したのは、一輪挿しの花瓶。その花は今は生花の姿だけれど、朝になれば硝子花の姿へと変わる時を止めていない花。
「ガラスのままで止めてもらおうと思ったのですが、昼、夜と姿を変える花も素敵なだなと思ったのでそのままの姿まま」
 不思議な花を手元に置いておくのも良いだろう。今日の日の思い出にもなるから。
 優しい想いを込め差し出されたその花瓶は、誰でも無いユェーの手作りだという。スリムな花瓶はルーシーの手でもしっかりと持てるサイズで。零れる程の笑みでお礼を言いながら受け取れば、彼女は今日共に見た景色を思い出す。
「昼夜……2つの姿。でもどちらも優し気なお花。まるで誰かさんみたい」
 鈴蘭を見た後、その青い瞳はちらりとユェーを見る。その眼差しと彼女の言葉に「誰かとは誰でしょうか」とユェーが首を傾げれば、ルーシーはくすくすと小さな笑い声を零しながらナイショと語った。
 特別な加工をされていない、花の姿は古の伝承に基づくシンプルな贈り物。
 だからこそ、より今日の日の想いを伝えあえるのだろう。
「愛しているわ、わたしのパパ」
「愛してます、可愛い僕の娘さん」
 零れる言葉も想いも、互いに同じ。
 家族と云う確かな絆は、過ごした巡る季節の分だけ更に更に強くなっていくのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティル・レーヴェ
【花結】(4)

あなたに導かれる先
すべてが幸せだけれど
鈴蘭に重ね想い願ってくれる
そのことに胸は尚満ちる儘
鈴蘭とあなたを映す眸で笑み綻んで

……もぅ
またそんな風に言うのだから
届く言葉は面映ゆくも嬉しくて
白満ちる世界に混ざり熱る赤

愛しに贈る日なら妾からあなたへも
鈴花に奪われたあなたの視線
引き戻したいのも少しだけ我慢

――本当は
あなたに贈る鈴蘭は
あなただけの一輪
この身だけとも想うけど
朝に夜にと姿変える鈴花は
あなたの傍で姿を変える
妾を連想してくれる?

幸せ綴る執筆部屋で
物語紡ぐ折にも添うていさせて
そして
変わる姿眺めるを口実に
扉叩く回数も増やさせて、と
我儘な願い籠め
咲く花を柔く摘み
淡紫のリボンを結んで、あなたに

万年筆に飾るペンカフ通じ
あなたを……添うふたりを想えるのも幸せ
ペン先にあなたへの愛を乗せられるのも
だから
ええ、勿論よと向ける咲みは
あなたにだけの綻ぶ花

贈り物も籠る想いも勿論だけど
妾をあなたの“しあわせ”としてくれる
変わらぬ愛を注ぎ続けてくれる
それがいっとうの“しあわせ”なのだと
ねぇ、どうか知っていて


ライラック・エアルオウルズ
【花結】(4)

鈴蘭に想うは君ひとり
だからこそ、此度の祭
鈴花の溢れるそこへ
手をひいてゆきたくて
己映す眸に笑み返し

然し不思議――でもないが
連なる真白のなかでさえ
いっとう、きみが綺麗だね
赤が混ざれば、尚のこと

数多と花を贈ったけども
矢張り、鈴花は特別だなあ
傍に添い咲き綻ぶような
とびきりを知っているから
選ぶときには、まじと眺め

贈るひとつを摘みとれば
銀の茎葉を繊細に絡める
硝子咲くペンカフと変えよう
作家に馴染みある万年筆
それに僕を連想してくれたら
――なんて、我儘な夢見て
宛らふたりが添うように、と

僕の“しあわせ”へ
変わらぬ愛を贈らせて

贈り抱く間が唯々愛しく
願われるそれも嬉しくて
真白の花にやわく触れる
執筆部屋に鈴花が添うなら
君のことだけが裡を占めそう
先ず執筆するのは恋物語かも
ねえ君も、花飾る万年筆で
愛を綴ってくれるかい?

君の教えてくれる“しあわせ”は
僕にとっても、そうあるものだ
どうか、そのことも知っていて?
愛注ぐほど、増す“しあわせ”
いっそう、美しく綻びゆく君に
花の代弁も要さず、真直ぐと

――君を愛してる




 掌に伝わる熱は、例え世界が温かくなったとしても離れない特別な温もり。
 小さな白い手を引いて、作家である彼に導かれるまま。ティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)の大きな藤の瞳には視界いっぱいの鈴蘭の花景色が広がっていた。
 星空瞬く空に浮かぶ大きな月から、優しい光が注がれれば。夜露を帯びた白の花弁は輝いているかのように神々しく、春と夏の狭間の風が吹けばちりちりと微かな音色を奏でている。風に揺れる波打つ髪を押さえながら、運ばれる香は心落ち着く程親しんだもの。
 この手に引かれて歩む先は、どこだって幸せだけれど。この花を共に見ることが出来ることは、何よりも少女の胸を熱くさせ想いが満ちる。とくんと跳ねる心音を確かめるように胸元に手を当てて――ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)の姿を見上げ、ティルは柔く微笑んだ。
 月光に照らされた彼女の笑みをその瞳に捉えて、ライラックも笑みを返す。
 鈴蘭と云う言葉を聞いて、真っ先に浮かんだのは愛しい彼女の姿だった。――勿論、数多の楽しみを共有したいのだけれど。この日ばかりは、彼女こそが相応しいと思った。手を引きたいと思った。
 だって、この花は彼等にとっては特別な花だから。
「然し不思議――でもないが」
 交わる瞳はそのままで、先に唇を開いたのはライラック。鈴蘭の香に満ちた此の場で、柔らかな髪を躍らせ佇む彼女の姿は――。
「連なる真白のなかでさえ。いっとう、きみが綺麗だね」
「……もぅ。またそんな風に言うのだから」
 そうっと囁くように紡げば、彼の言葉にティルは白い頬を淡く染め上げる。白の世界に混ざるその赤を見れば、一等ライラックの心をくすぐってしまうのだ。
 愛しき人に花を贈るのは当然のこと。それはライラックとティルにとっても同じことで、今まで数多の花を贈ってきたけれど。やはり、2人にとって鈴花は特別。
 勿論、常に寄り添ってくれる鈴花こそが一番美しいのだけれど。だからこそ、彼女に似合うとびきりを贈りたくて。いつもは柔いライラックの瞳も、今日ばかりは真剣に咲き誇る鈴花へと送られる。
 そんなライラックの横顔を見て――その視線を引き戻したいとティルはこっそり思ってしまうけれど。きゅっと唇と掌を握り、並び花へと向き直る。
 今ばかりは我慢だと。そう想うのは、彼女も彼へと愛し日の贈り物をしたいから。
 ひとつ、ひとつ真剣な眼差しで花を探す2人。先に手を伸ばしたのはライラックの方で。微かな摘み取る音を奏でたかと思えば、一際白に輝く鈴花を手に取っていた。
「硝子咲くペンカフと変えよう」
 銀の茎葉を繊細に絡める、硝子咲くペンカフは万年筆へ添えるアクセサリー。作家に馴染みある品に添えるからこそ、いつだって『僕』を連想してくれたらと願うのだ。
 ――それは、ひそりと込めた我儘な夢だけれど。
「僕の“しあわせ”へ。変わらぬ愛を贈らせて」
 さながら2人が添うように、と言葉と共に込めた想いは彼女へは伝わっているだろうかと。少しの疑問が胸に湧き上がったその時、彼の言葉にティルは嬉しそうに微笑みを浮かべ頷きを返す。
 そのままティルは、自身が摘み取った1輪の鈴蘭を胸元に抱き俯いた。美しき花なのは分かっている。けれど、あなたに贈る鈴蘭は、あなただけの1輪は。この身だけと、ほんの少しのヤキモチのような気持ち。けれども、彼への想いを改めて伝えたいとも思うのだ。複雑な混ざり合う気持ちを表した、彼女の贈る花は――。
「朝に夜にと姿変える鈴花は、あなたの傍で姿を変える、妾を連想してくれる?」
 何も加工しない、そのままの鈴花。
 日中は儚い硝子花。陽が沈めば瑞々しく咲き誇る、永久に枯れぬ鈴蘭はころころと表情を変えるティルのようにも見えるだろう。
 物書きである彼が、幸せ綴る執筆部屋で。物語紡ぐ折にも、寄り添わせて欲しいのだ。すぐに傍に己の花を咲かせることで、少しでも自分を感じて欲しいと思うから。
 そして――。
「変わる姿眺めるを口実に、扉叩く回数も増やさせて、と」
 ――真っ直ぐな想いにほんの少しの我儘を添えて、ティルは薄紫のリボンを結び、ライラックへと鈴蘭の花を差し出した。
 彼女のその言葉が。彼女のその想いを込めた花を贈られたことが。嬉しくて、ライラックの唇が微かに震えた。そうっと優しく、大切そうに花を受け取って。零れる笑みは贈り合う間の愛おしさと、彼女の想いと願いが嬉しかったから。
 真白の花を優しく撫でれば、柔い感触はこの日の記憶に残る程に愛おしい。
「執筆部屋に鈴花が添うなら、君のことだけが裡を占めそう」
 帰って花を飾れば、先ず執筆するのは恋物語になるだろうか。彼女を想い、綴った物語はきっと優しく甘い御話になる筈だ。
 愛に咲く新たな物語に胸を躍らせながら、ライラックは静かに屈むと――彼女の耳元で、囁くようにこう紡ぐ。
「ねえ君も、花飾る万年筆で。愛を綴ってくれるかい?」
 耳元で紡がれた言葉は夜風の中消えてしまう程小さなもの。けれど添う声は確かにティルの耳をくすぐり、胸が温かさで満ち溢れる。
「あなたを……添うふたりを想えるのも幸せ」
 そう、それはしっかりと重なった想いだったから。
 そして、ティルにとってはそれだけでは無い。より身近に彼を感じながら、あなたへの愛を乗せられるのも幸せなのだ。
 だから――。
「ええ、勿論よ」
 そう、彼の言葉には花咲くように笑みを浮かべる。
 その微笑みは、他の誰でも無い。あなただけに綻ぶ花なのだ。
 咲き誇る笑みは、贈り物も籠る想いも勿論だけれど。妾をあなたの“しあわせ”としてくれる。変わらぬ愛を注ぎ続けてくれる。
 それがいっとうの“しあわせ”なのだと――。
「ねぇ、どうか知っていて」
 小首を傾げ、己の心を零す彼女。その言葉を真っ直ぐに受け止めれば、ライラックは握る手にほんの少しの力を込めて、真っ直ぐに藤の瞳へと視線を重ねる。
「君の教えてくれる“しあわせ”は、僕にとっても、そうあるものだ。どうか、そのことも知っていて?」
 その熱を確かめるように、ほんの少し手を掲げればまるで小さな手をすくうかのよう。
 愛注ぐほど、増す“しあわせ”は。
 いっそう、美しく綻びゆく君に。花の代弁も要さず、真直ぐと伝えよう。
 ――君を愛してる。
 再び耳元で紡がれる甘い言葉は、鈴蘭の香に満ちた記憶に残る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『『花鳥風月』花の魔女』

POW   :    フラワー・オブ・ライフ
レベル×5本の【自身(記憶や能力も同一)が発芽する、花】属性の【、接触地点に上記の効果を及ぼす、無数の種】を放つ。
SPD   :    世界で一つだけの花々
【接触地点で発芽し、自身になる無数の種】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    花鳥風月・生命開花
【接触した対象を自身に作り変える、無数の種】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアララギ・イチイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●花隠し
 夜も深まれば、集う人々はそれぞれ帰路へとつき人影が少なくなる。
 けれどその影はゼロでは無い。夜明けまでこの特別な日を楽しむ者も多いのであろう。深夜にしては人通りの多い路を進み、猟兵達は再び鈴蘭畑へとやって来た。
 月光に照らされる白鈴蘭は相変わらず美しく、神々しく輝いている。
 白造りの丁寧に手入れされている神殿と白と緑の景色は美しいが――その神殿へと入って行く、春色の人影を前に声を上げた者がいた。
『あれ、見つかっちゃったかな?』
 くるりと振り返る人影の正体は、まだ幼さ残る少女。
 春らしいピンクの髪に赤い瞳、髪色と似たピンクの装いを身に纏い、ところどころ咲くその花は生花なのだろう。風が吹けば薄い花弁がふわりと揺れ、鈴蘭の香とは違う香りが猟兵達の鼻をくすぐる。
『おかしいなー、この時間なら簡単にいけると思ったんだけど』
 小首を傾げながら紡ぐ彼女の声色は純粋無垢な色を宿す。けれども、彼女の紡ぐ言葉と、シーフ達に聞いていた情報との共通点を考えれば彼女が聖遺物であるプロミス・ミュゲを盗む不審者であることが分かる。
『それじゃあ、他の人に見つかる前にさくっと終わらせようか』
 悪びれた様子も無く笑みを零すと、彼女は猟兵へと大きな瞳を向ける。
『花は私の源。全ての花は、私の魔法の為にある!』
 蕾の杖を構え高らかに語る彼女。
 彼女が微笑んだかと思えば――猟兵達の武器や大切なもの。それらが一瞬で花へと姿を変えて、戦いの邪魔をしてくる。
 武器が無ければ、傷を付けることや呪文を唱えることが出来ない者もいるだろう。
 己の大切なモノが花へと変われば、その心が乱される者もいるだろう。――例えば、先程互いに贈り合った大切な宝物だったり。
 相手は花に憑かれ、花を自在に操る魔女。
 生きた者は花へと変えることは出来ないようだけれど――無機物ならば何でも、花へと変え愛でる厄介な人物である。
朱赫七・カムイ
⛩神櫻

サヨが
愛しい私の巫女が私へと捧げてくれた連なるさいわいの花々
銀朱の髪にゆれる鈴蘭が異なる花へと変じられる

噫、なんて事を!哀しくなって簪をそっと握り込む
サヨの愛を、想いを歪め穢すだなんて
これは私の宝物なのに
……赦さない

これは私のものだ
そなたの魔法の為にあるのではないのだ
サヨを傷つけることも触れることだって
一欠片でも私の桜を奪うことは約されない

再約ノ縁結

咲かせた花を散らせる
これは呪詛
これは神罰
花の魔女に咲かせられる花など無いのだ
咲く花などないと否定して
咲かずの厄呪をあげる

私の巫女を傷つけたのがいけないよ
凛と留めた永遠に他の者など踏み込ませない

取り返したならサヨの髪へまた
私の心を添えて咲かせる


誘名・櫻宵
🌸神櫻

髪を結びとめる鈴蘭が歌うたび
私のかぁいい神様の優しい愛を感じて胸が春の心地になる
私の花を奪うつもりなの?

そんな顔しないで、カムイ
カムイがくれた私への愛を、渡すわけがないでしょう?
あなたのために咲かされたなら取り戻すまで

いいえいいえ、私の花もカムイが私の為に咲かせた華も全てすべてが私のものよ
私を咲かせるものは愛しい神の愛と決まっているの

神様も許してくれないみたいだもの
花の魔女、次はあなたが咲きなさい

──喰華

私はね生きているものを桜に変えられるの
桜と変えて咲かせる神罰を衝撃波に宿しなぎ払う
命を喰らって枯らせてあげる
私の糧にお成りなさい

根こそぎ食らって咲かせて
償って
私に捧がれた愛を穢した罪を




 はらり――。
 銀朱から桜色の花弁が舞い落ちたかと思えば、朱赫七・カムイの結い上げた髪はさらさらと元の状態へと戻っていく。
 その髪へと触れてみれば、先程愛しい人より貰った鈴蘭の髪飾りが無くなっていた。
「噫、なんて事を!」
 美しき銀朱の髪に揺れていた筈の、鈴蘭の花。
 愛しいカムイの巫女が、私へと捧げてくれた連なるさいわいの花々。
 それが、巫女の愛を、想いを歪め穢すだなんて。
「これは私の宝物なのに……赦さない」
 ぎゅっと何も無くなった自身の髪を強く握り締めて、カムイはギリリと目の前の少女を睨みつける。――それは、いつもの穏やかな姿とはあまりにも違う彼の一面。
 そんな彼を見て巫女、誘名・櫻宵はそっと落ち着かせるようにその肩へと触れた。
「そんな顔しないで、カムイ。カムイがくれた私への愛を、渡すわけがないでしょう?」
 彼の顔に浮かぶ笑みは、カムイとは違い何時もと同じ優雅なもの。淡く染まる口許は穏やかな弧を描いている。
 そう、愛しき人に貰った鈴蘭の花飾り。
 揺れる度に歌う花は、カムイの優しい愛を感じて胸が春の心地になったものだ。それが、今や音色など奏でることの無い真紅の花弁へと変わり果てている。
「私の花を奪うつもりなの?」
 ――あなたのために咲かされたなら取り戻すまでだと、笑む櫻宵はどこか妖艶。
 櫻宵が真っ直ぐにそう語り、目の前の魔女を見遣る姿がどこか嬉しい。カムイは彼の温もりと、その言葉に少し冷静さを取り戻すと、桃色の魔女を見つめ唇を開く。
「これは私のものだ、そなたの魔法の為にあるのではないのだ」
 未だ無くなってしまったことが心許無いのか、何も無い髪へと触れながらカムイは先程とは違い冷静に言葉を紡ぐ。――けれど、その心に燃える想いは同じだけ。
『何を言っているの、どんな物よりもお花が一番。そしてお花は私のもの!』
 カムイの言葉に、魔女はただきょとんと首を傾げ告げる。その言葉はどこまでも純粋で、真っ直ぐで。間違い等無いと信じている言葉。
 そんな幼い子供の我儘のようなことを零す彼女に、櫻宵は笑みを浮かべると首を振る。
「いいえいいえ、私の花もカムイが私の為に咲かせた華も全てすべてが私のものよ」
 ――私を咲かせるものは愛しい神の愛と決まっているの。
『わかんない。……とりあえず、邪魔するヤツはみんな消えちゃえー!』
 唇を尖らせ、分かりやすく拗ねる魔女。そのまま彼女は杖をくるりと回すと種を放つ。その攻撃にすぐにカムイは櫻宵の前へと出ると、種を払い落してみせた。
「サヨを傷つけることも触れることだって、一欠片でも私の桜を奪うことは約されない」
 告げるカムイの言葉は真っ直ぐで。冷静な声色の裏に滲む怒りは、先程の激情とは少し違う。けれども、確かな感情を震わせている。
 彼のその言葉に。その大きな背に。櫻宵は温かなものを感じ、花のように笑むと。
「神様も許してくれないみたいだもの。花の魔女、次はあなたが咲きなさい」
 穏やかな口ぶりでそう紡ぐとともに、呪文を唱え魔女を襲う。すると魔女の腕に桜の花弁が咲き誇り、彼女は驚いたのか悲鳴を上げた。
「私はね生きているものを桜に変えられるの」
 口許に指先を当て紡ぐ櫻宵。衝撃波と共に散りゆく花弁は無機物だけを扱う彼女とは対照的なのか上なのか。
 優雅に、妖艶に笑む櫻宵の姿を見守りながら――ひとつ笑みを落とすと、カムイはどこか神秘的な出で立ちでただ紡ぐ。
 咲かせた花を散らせること。これは呪詛。これは神罰。
「花の魔女に咲かせられる花など無いのだ」
 否定と共に与える神罰は彼女の纏う花々を萎れさせ、彼女はただ己の桜だけを纏っている。その様子に悲鳴を上げる彼女は、確かに花を愛していたのだろうけど。
「償って。私に捧がれた愛を穢した罪を」
「私の巫女を傷つけたのがいけないよ」
 愛を穢した者への罰は重いもの。神と巫女の怒りを買えば、その身は散りゆくだけ。

 ――全てが終われば元に戻る筈だから。
 ――その時には再びその髪に、愛の花を添えてあげよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
❄花狼
花は全ての人の心を癒し慰めるもの
遍く世の全ての人々に恵み与えるもの
それにこのプロミス・ミュゲは、長きに渡り街の人々を見守ってきたもの
貴女一人に使い潰されて良いものではないわ

まして、相手がオブリビオンなら尚更、容赦は出来ません
骸の海へお帰りなさい

先程贈られた鈴蘭の首飾りを懐の奥に仕舞い守って
祈りと共に歌う【涙の日】
ヴォルフや仲間の猟兵、シーフの皆さんには癒しの光を
そして敵には神罰の光輝を
武器やアイテムを花に変える魔法でも
歌声を花に変えることなど出来はしない
心の奥底から湧き上がる感情を調べに乗せ
愛を紡ぎ、幸福を願い、義を貫く
これこそが、わたくしの最大の武器

この声は、想いは、誰にも奪わせないわ


ヴォルフガング・エアレーザー
❄花狼
確かに「花の魔女」を名乗るだけあり、その見目は春の花のように愛らしい
だが、全ての花を独り占めしようなどという欲深な性根は
凡そ花の奥ゆかしさとは程遠い

ましてこの鈴蘭の花は、街の人々を見守ってきた大切なものだ
ただ一人の欲望のために踏み躙らせはせん

先刻ヘルガから贈られた鈴蘭の首飾りを奪われぬよう懐に隠し
彼女の祈りに勇気を奮い立たせ立ち向かう
目立つ鉄塊剣の使用は避けバスタードソードを主武器に
敵の攻撃は野生の勘で極力見切り回避
万が一武器を奪われようとも、俺にはこの拳と胸に燃える炎がある
鎧砕きの力を込め魂の一撃
ヘルガの援護があれば、恐れるものは何もない!




 花々を纏い、屈託なく笑う少女。
 桃色と春色を纏う彼女の姿は、『花の魔女』と名乗るだけあり春花のように愛らしいと、素直にヴォルフガング・エアレーザーは想う。
 けれど――。
「全ての花を独り占めしようなどという欲深な性根は、凡そ花の奥ゆかしさとは程遠い」
 鋭い眼差しで、首を振りながら紡ぐ声色は淡々と。しかし、確かな強さ。
 彼女の傲慢さは魔女としての長き研究の果てなのか、それとも元からなのか。それは分からないが、今目の前の彼女の行動が褒められたもので無いことは確か。
「ましてこの鈴蘭の花は、街の人々を見守ってきた大切なものだ。ただ一人の欲望のために踏み躙らせはせん」
 街を守り、人々を守り、美しき鈴蘭の花を咲かせる聖遺物。本物の花で無いとしても、その花は確かにこの街の為に、そして街の人々に崇められてきた大切なモノ。きっと長き歴史で大切に語り継がれていただろうそれを、1人の我儘で奪うなど許されはしない。
 彼の言葉に、ヘルガ・リープフラウはこくりと静かに頷きを返す。
「貴女一人に使い潰されて良いものではないわ」
 花は全ての人の心を癒し、慰めるもの。
 遍く世の全ての人々に恵み与えるもの。
 それを独占しようなど、例え人の我儘であっても許されないのに。ましてやオブリビオンならば尚更、猟兵であるヘルガ達は容赦しない。
「骸の海へお帰りなさい」
 別れを告げるようなその言葉は、穏やかな笑みと共に紡がれる冷静なもの。そのまま彼女は深く息を吸うと――歌を、紡ぎ出した。
 透き通る天使の歌声はどこまでも響き渡り、夜の神殿中を震わせる。さわさわと揺れる辺りの鈴蘭は、まるで音色に合わせ揺れているかのよう。
 これが、ヘルガの武器だ。
 剣や杖に頼ることは無い。音色を奏でるのに、楽器は必要無い。己の身と喉さえあれば、その歌声が武器となり戦場を震わせる。物を花へと変える魔法を以てしても、歌声までは変えることは出来はしないから。
 心の奥底から湧き上がる感情を調べに乗せ。愛を紡ぎ、幸福を願い、義を貫く。
(「これこそが、わたくしの最大の武器」)
 その音色へと静かに耳を澄ませるよう、ヴォルフガングは青い瞳を閉じ身を委ねていたけれど。彼女の歌声に勇気づけられれば、その身が奮い立つのが分かる。
 一歩、踏み出す足取りに迷いは無い。
 鋭い眼差しで彼が捉えるのは桃色の少女のみ。杖を振るい、今にも反撃しようとする彼女へと彼は駆け出すと――剣を振るおうとする。
『見切った!』
 ぺろりと舌を舐め、魔女が杖を掲げれば。寸でのところでヴォルフガングの剣は純白の花弁へと変わりゆく。手の中で握る物が無くなった手は空を掴むが――そのまま彼はぎゅうっと握り締めると、その拳を以て魔女へと襲い掛かる。
 武器が奪われようとも構わない。
 ヴォルフガングにはこの拳と、胸に燃える炎があるから。
『ちょ、嘘でしょ……!』
 武器を奪われたのに、その勢いは劣るどころか加速していく。その姿に驚いたような声を上げた少女へと、ヴォルフガングは拳を振り下ろした。
 そう、迷いなど無いのだ。
 だって――。
「ヘルガの援護があれば、恐れるものは何もない!」
 拳で相手取った感触を感じながら、高らかに語るヴォルフガングの声が響き渡る。彼のその言葉が、愛が。嬉しくてヘルガは歌を紡ぎながらつい笑みを浮かべていた。
(「この声は、想いは、誰にも奪わせないわ」)
 そうっと瞳を伏せながら、祈るように手を組み彼女は心でそう想う。
 そんな彼等は武器の対策は出来ても、先程互いに贈り合った愛の花は胸元へと隠し、魔女に気付かれないようにと少しの不安があった。
 ――実際の戦いには関係無くとも、愛しき人から貰った物を変えられることは許せないから。それが例え、ほんのひと時だとしても。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朧・ユェー
【月光】

おや、ララちゃん
ララちゃんが花に

彼女にとって家族、いえ自分の分身の様な子が居なくなり
落ち込む彼女
でも泣かない様に我慢する姿に
頭を撫でながら
えぇ、大丈夫、大丈夫ですよ
ちゃんとララちゃんを戻しましょうね
僕の…ポッケから花びらが舞う
ああ、これは彼女から頂いたモノ
きっと肩叩き券か…
正直僕は物に執着する事はあまり無かった
でも、これは彼女から頂いた大事な宝物
ガラスドームの花を見つめて

モノを花にするのはとても素敵な事です
でも武器や大切なモノを花に変える事は迷惑行為
悪い子はお仕置きが必要ですねぇ
ふふっとにっこり笑って
ん?ルーシーちゃんどうしましたか?
えぇ、ありがとうねぇ
無事に取り戻しましょうね

嘘喰
その花は真実の花?それとも
嘘の花は食べてしまいましょう貴女ごと

どんな花にでも魔女にでも優しい子
でも悪い事は制裁しなくてはね?

真実の花だから美しく咲く
貴女の花は美しいですか?


ルーシー・ブルーベル
【月光】

あ!ララ!?
ララがお花に……!
どうしよう、ゆぇパパ
ララが

大事な片割れのヌイグルミの代わりに
はらりと落ちるワスレナグサの花
取り戻せばいいと分かっていても、
半身が居ないというのはこんなにも不安になるのね

パパの声と、やさしい手が
さざ波にゆれる心を落ち着かせてくれる
……うん
だいじょうぶ、……だいじょうぶよね
一輪挿しに行けられたスズランをぎゅうと抱きしめて
パパからこぼれた花びらは何のお花だろう
かたたきけん?
それって前に、ルーシーがお贈りした……?

今日も持っていて下さったのね
正直少し――どころじゃなく、うれしい
それにしてもパパ
にこにこされてるけど、もしかして
怒ってる?
な、なんでもないわ
パパのも、絶対に戻しましょうねっ

もえて、ふたいろ芥子
パパやルーシーに襲い来る種は燃やしてしまいましょう
種を燃やすって、少しだけ申し訳ない気がするけれど
魔女さんをふやす訳にはいかないものね

花は全て、あなたのものじゃない
花は全て、花のものよ
どこに、何のために咲くのかも




「あ! ララ!?」
 抱いていた水色兎がはらはらと青色の勿忘草の花弁へと姿を変え、ルーシー・ブルーベルは慌てたように名前を呼んだ。
 開いた左目を見開いて、そこに居た存在へとすがるように宙を掴む小さな手。けれど、その大切な友人が居た筈のそこには、美しい花弁がはらはらと舞うだけ。
「どうしよう、ゆぇパパ。ララが」
 震える声で、今にも泣き出しそうに大きな青い瞳を雫で滲ませて。縋るように少女が、傍らの大好きな父の裾を握り締める。取り戻せば良いとは分かっている。けれど、半身が居なくなったことにより、驚くほどの不安が少女の心を占めていく。
 ララは、ルーシーが初めて作ったぬいぐるみ。
 大切な人に作り方を教わった、最初で一番の親友。
 ――ルーシーの、片割れ。
 その大切さは、朧・ユェーも分かっている。だからこそ、今の彼女の心を自身の心では分からなくとも、不安を理解することは出来る。何より、不安そうなルーシーを見ればユェーの心がざわつくのも同じだった。
 それだけ、ユェーにとってもララは大切な子。
 それ程に大切な子が失われても、涙をぐっと堪えて。唇を結んでいる幼い少女。彼女の精一杯のいじらしさが、更にユェーの心を締め付けるようで。己を頼ってくれる小さなその子の頭へと、ユェーは大きな手を乗せ優しく撫でた。
「えぇ、大丈夫、大丈夫ですよ。ちゃんとララちゃんを戻しましょうね」
 ルーシーを見ての自身の心の乱れなど感じさせぬ程の、優しい声色で。温かなその手に包まれれば、段々とルーシーの身体の震えは止まっていく。さざ波のように、揺れる心を落ち着かせてくれる。
「…………うん。だいじょうぶ、…………だいじょうぶよね」
 瞳を閉じて、その温もりに身を預けるルーシー。暫しの時間を優しい温もりに包まれれば、段々と『今』が解るようになってきた。
 先程貰った一輪挿しの鈴蘭をぎゅうっと抱き締めれば、まだ大切なモノ全てが失われた訳では無いことが分かる。辺りを舞う勿忘草が、友を失った訳では無いのだと分かる。
 故に心に少しの余裕が出来た彼女は、ほんの少しの疑問を胸にした。
「パパ、その花びらは?」
 はらりとユェーのポケットから零れ落ちた、花弁に気付き彼女は瞳を瞬いた。その眼差しの先を視線で追い、ひらひらと零れ落ちゆく花弁を見て。ユェーはそっとポケットへと触れると、何かを理解し嗚呼……と呟いた。
「きっと肩叩き券か……」
「それって前に、ルーシーがお贈りした……?」
 彼の言葉に、パチパチと瞳を瞬いた後。すぐに嬉しそうに笑みを零すルーシー。
 それは今日も持っていてくれたことが嬉しいから。その嬉しさはじんわりと広がる少しの嬉しさでは無い、心が震え、先程の悲しい気持ちとは対照的に笑みが零れる程の嬉しさ。つい、零れるような笑顔で両頬を手で押さえるルーシー。
 彼女の笑みを見れば、改めてこれがルーシーに贈られたものなのだとユェーは想う。今まで、物に執着することはあまり無かったユェー。そんな彼が、愛しい仔から頂いた大事な宝物がこの花の元なのだ。
 ガラスドームの鈴蘭の花だって、彼女から貰った大切な物。
 こんなにも心を乱されるのはかつての自分では有り得なかっただろう。けれど、だからこそ分かることがある。人の感情を無視して、好き勝手に行動することの残酷さを。
「モノを花にするのはとても素敵な事です。でも武器や大切なモノを花に変える事は迷惑行為」
 目の前で杖をくるくると操る少女に向け、ユェーは静かな眼差しでそう語る。オブリビオンである彼女に年齢など関係無いのかもしれないが、見目だけで言えば彼女はユェーよりも随分と下のように見える。
 だから、だろうか。こんな言葉を零すのも。
「悪い子はお仕置きが必要ですねぇ」
 口許に指先を当てて、微笑むユェーの笑みはいつも通り。けれど眼鏡の奥の月瞳は一瞬の笑みも湛えずに、ただただ冷ややかなもので――そんな彼の姿を見て、ルーシーはひゅっと息を呑み瞳を瞬いた。
「ん? ルーシーちゃんどうしましたか?」
「な、なんでもないわ。パパのも、絶対に戻しましょうねっ」
 怒りを露わにした彼の姿に少し驚いてしまったけれど、自身を見つめるその眼差しはいつも通りの優しさで。何でもないとルーシーは首をぷるぷる振ると、小さな手を握り締めて魔女へと視線を向ける。
 そんな優しい彼女の言葉を聞いて――ユェーはありがとうねぇと笑みと共に、ぽんっと彼女の小さな頭へと優しく手を添えた。
『何よりも花が一番素敵でしょう? そして花は私のもの!』
 ユェーの先程の言葉を理解していないのか、ただ真っ直ぐに魔女はそう語る。そのまま蕾の杖を掲げれば、飛び出た輝く種が2人を襲おうとするが――ルーシーの生み出した蒼芥子色の炎が次々にその種を燃やし尽くし、ただの炭へと変えてゆく。
 元は種だったものに少しだけルーシーは申し訳なさそうに眉を下げるけれど。
(「魔女さんをふやす訳にはいかないものね」)
 今は戦いの最中なのだからと、ひとつ頷くと己の出来ることを務めようと前を見る。
 そんな、頼もしい彼女の姿に微笑むユェー。けれど負けじと更なる種を生み出す魔女へとおしおきをするように、彼は笑むと共に死の紋様を付与する。
「その花は真実の花? それとも」
 ――嘘の花は食べてしまいましょう貴女ごと。
 死への導きによる、無数の喰華に喰いつかれれば。少女は年相応の悲鳴を上げる。幼い見目は少しの罪悪感が湧くものもいるのであろう。彼女の扱う花は生き物である為、可哀想だと想う者もいるのであろう。――そう、ルーシーのように。
 どんな花にでも、魔女にでも優しい愛しい仔。悲鳴を上げる魔女を見つめる少女の姿をちらりと見た後、ユェーは小さく首を振った。
「でも悪い事は制裁しなくてはね?」
 それは、猟兵としてのけじめでもある。
 目の前の敵は世界を仇名す敵でもあるのだ。世界の為にも、今猟兵がやるべきことは悪を断つこと。だから――更なる喰華が少女の身を喰らっていくのを見守るだけ。
 花に魅せられ、花に憑かれた魔法使い。
 その始まりは何だったのだろう。もしかしたら我等と同じように、ただ純粋に綺麗だと思う感情からだったのかもしれない。けれど、今の彼女は歪んでしまった。
「花は全て、あなたのものじゃない。花は全て、花のものよ。どこに、何のために咲くのかも」
 その歪みを正すように、真っ直ぐにルーシーはそう語る。美しく咲く花は人の為に、ましてや個人の為に咲いてなどいないのだ。それが世界。それが自然。
「真実の花だから美しく咲く。貴女の花は美しいですか?」
 今尚苦痛に悲鳴を上げる彼女へと問い掛けるユェー。その問いに顔を上げた魔女の言葉は――勿論だと、己の魔法に対する誇りだけは見えるものだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アウグスト・アルトナー
【夜灯】

……ぼくの『大切な家族』が、花に
(※遺骨は無機物)

兄さんはシロツメクサの花
母さんはアヤメ
父さんはマリーゴールド

アピィ
ぼくは大丈夫だよ

これらそのものが「今も生きている家族」だって考えていた、以前のぼくなら、もっと動揺してたと思う
けど、今のぼくには、これらは、彼らを幸せにするという決意の象徴でしかない

だから大丈夫

……アピィのイヤリングも、花に
少しだけ、狼狽する

そうだね
お互い、とても大切なものだ
必ず取り戻そう

「愛しているよ」の一言で心臓が跳ね
感じた幸せによって、ふわりと『ココロオーラ』が具現化する
うん。ありがとう。ぼくも愛してる

花の種の防御はアピィに任せる
ぼくに攻撃を任せるという言葉には、一つ頷いて

ココロオーラを鈴蘭の花びらに変え
【鈴蘭の嵐】を吹かせ、敵を攻撃

花の魔女よ
ぼくの鈴蘭は、この地の鈴蘭ほど優しくありません
毒と、痛みをもたらす呪詛を持つ花びらです

全ての花は、私の魔法の為にあると
そう仰いましたね

あなたの思い通りにならない花もあるということですよ

ぼくらの大切なもの、返してもらいます


アパラ・ルッサタイン
【夜灯】

グスト!ご家族が……!
思わず駆け寄ってしまう
予想より確りとした応えに、少し安心したのもつかの間

つい今まで耳元で鳴っていた音が消える違和感
手を伸ばせば先程贈られたイヤリングは無く
代わりに菩提樹の花

……大丈夫だ、グスト
この花も、悪くはないけれどもね
あれが良いの
他ならぬグストが贈ってくれた、あれでなければ

取り返せば良いさ
イヤリングも、勿論グストの『ご家族』も
見え方が変わったとて、大切には変わりないだろう?
ああ、絶対に

ね、愛しているよ
そのグストの家族ならば
あたしにとって守るべきものだ
んふふ、知ってる

【秘色】にてアプサラスを呼ぶ

あの種は厄介だな
我々を水の壁で覆って防いでおくれ
種を水で包み捕らえてしまおう
着水した水中で姿を変えるかもしれないが
その時は即、凍りつかせて動きを止めよう

花だけでなく
あたしの夫に手を出そうなど
看過出来ぬし、ね?
代わりに攻撃はお任せするよ

正に花の魔女というお姿だけれど
ひとつ、間違っていると断言しよう
花は花自身が咲く為にあるのさ
あたしの花が咲く場所は、あなたの所ではないの




 はらり――手にした鉄籠の中では、3色の花弁が散っていく。
 シロツメクサ、アヤメ、マリーゴールド。それらは鉄籠の中で花弁の山を作り。手にした重みの無くなった鉄籠は、まるで空っぽになってしまったかのよう。
「グスト! ご家族が……!」
 その様子に瞳を見開き、息を呑むことしが出来ないアウグスト・アルトナーの元へと、アパラ・ルッサタインは慌てて駆け寄りその背へと手を添えた。
 大きな背は震えていないだろうか。冷えていないだろうか。その心配の元触れたけれど、彼は顔を上げるとそっとアパラに向け微笑んで見せる。
「アピィ、ぼくは大丈夫だよ」
 そっと彼女の手を取って、紡ぐ言葉は震えてはいない。
 花弁へと変わってしまった遺骨が、かつては『今も生きている家族』だとアウグストは考えていた。当時の彼ならば、もっと動揺していただろう。
 けれど――今のアウグストには、これらは、彼等を幸せにするという決意の象徴でしかない。だから大丈夫なのだと、彼は真っ直ぐにアパラを見てそう語る。
 その眼差しが、声が、予想していたよりもしっかりしたもので。アパラはほっと安堵の息を零すけれど。ふと、自身の耳元の重みが無くなったことに気付き指先を伸ばす。
 何も触れない。音もしない。
 ただ宙と髪に触れるだけの指先に、先程まで耳元で揺れていた先程贈られたイヤリングが無くなっていることに気付くと、アパラは小さく息を呑んだ。
「……アピィのイヤリングも、花に」
 代わりに掴んだ花びら――菩提樹の花をじっと見ていれば、アウグストから少しだけ狼狽した声が紡がれる。彼の言葉に、その視線に。アパラは返すと静かに笑む。
「……大丈夫だ、グスト」
 安心させるように。心を落ち着かせるように。
 紡ぐとともに指先に触れる柔らかな花弁も、悪くはないとアパラは想う。けれど、それはこの花そのものに対しての感想。これはあれの代わりにはならない。だって、他ならぬアウグストが贈ってくれたものだから。
 ならば――。
「取り返せば良いさ。イヤリングも、勿論グストの『ご家族』も」
 そう紡ぎ、桃花の魔女を見るアパラの眼差しと声は真っ直ぐで、戸惑いは無い。
 完全に無くなった訳では無いことが分かっているから。そして、必ず取り戻せるという確信があるから。だから彼女は強く在れる。
「見え方が変わったとて、大切には変わりないだろう?」
「そうだね。お互い、とても大切なものだ。必ず取り戻そう」
 魔女から視線をアウグストへと戻せば、彼はこくりと強く頷きを返した。黒と煌めく乳白色の瞳を交わせて、彼等は絶対にと頷き合うと杖と花弁だけになった鉄籠を構える。
『ふっふー、どう? 素敵でしょう?』
 花弁へと変えた魔女は満足そうに笑っている。彼女にとって、大切なモノを変えられた人の気持ちなど分からないのだろう。それはすっかり花に憑りつかれてしまった弊害なのか、元より彼女の性質かは分からない。けれど、屈託の無いその笑みだからこそ、彼等は伝えたいこともある。
 きゅっと優しい灯りを抱く杖を握り直し、アパラは少しだけ俯きながら唇を開く。
「ね、愛しているよ」
 紡がれた言葉はほんの僅かな小さな声。
 けれど、すぐ隣にいたアウグストの耳へはしっかりと届き、その囁きだけで彼の心臓はどくりと強く跳ねた。
「そのグストの家族ならば、あたしにとって守るべきものだ」
 どくり、どくり。
 早くなる鼓動を感じる。その温かな彼女の言葉が、彼女の想いが、嬉しくて。幸せを表す鼓動により、彼の『ココロオーラ』が具現化すれば。ひらひらと彼の辺りを花弁となり舞い散る。それは魔女に変えられた花弁とは違う、優しく温かな印象の幸せのカタチ。
「うん。ありがとう。ぼくも愛してる」
「んふふ、知ってる」
 言葉を交わし合えば自然と零れる笑み。
 幸せだから――大切なモノを奪われてこのまま終わる訳にはいかないのだ。
 ひらりとアウグストの周りを舞う淡桜が、宙を舞ったかと思えばそれは真白へと変わりゆく。くるくると吹き荒れれば、それは勢いよく花の魔女を包み込んだ。
「花の魔女よ。ぼくの鈴蘭は、この地の鈴蘭ほど優しくありません。毒と、痛みをもたらす呪詛を持つ花びらです」
 包み込まれれば四肢を蝕む感覚に、魔女は愛らしい顔を歪ませる。
『もう、もう! 綺麗な花なのに信じられないー!』
 大好きな花にその身を襲われた怒りが爆発したのか、彼女は叫ぶと無理矢理杖を振り下ろし、強い強い光を放つ。――すると彼女の元から輝く種が放たれていく。
 着弾すれば危ないと、本能でアパラは察した。煌めく瞳を細め、彼女は手にした鉱石ランプを揺らめかせると――そのランプから現れたのは、あらゆる水の術を操る悪魔アプサラス。彼はアパラの意志を汲み取ると、すぐに水の壁で2人を覆い放たれた種を受け止め無効化させてしまった。
「花だけでなく、あたしの夫に手を出そうなど。看過出来ぬし、ね?」
 水流の音の中、優雅に微笑むアパラ。彼女のその表情と、消えゆく水の壁を見守り魔女はぎりりと唇を噛み締めるけれど――追い打ちを掛けるアウグストの鈴蘭の花弁がその身を拘束すれば、苦しげな声を上げながらその場に膝をつく。
 地に落ちる花飾りの愛らしい魔女帽子。
 身体を支える蕾の杖。
「正に花の魔女というお姿だけれど。ひとつ、間違っていると断言しよう」
 魔女らしい彼女が膝をつき、息も絶え絶えな姿を見てアパラは言葉を紡ぐ。
 花に憑かれ、花を愛する彼女。
 全ての花は己の為に在るのだと、高らかに語る彼女。
「花は花自身が咲く為にあるのさ。あたしの花が咲く場所は、あなたの所ではないの」
 その存在を、意志を否定するようにアパラはそう告げる。
 花は、己の為に咲いている。その美しさに惹かれるのはむしろ人のほうなのだ。
 彼女の言葉にはアウグストも静かに頷きを返し、作り出した鈴蘭纏う少女を見下ろしながら、細めた眼差しで淡々と言葉を零す。
「全ての花は、私の魔法の為にあると。そう仰いましたね。あなたの思い通りにならない花もあるということですよ」
 ざわりと鈴蘭の花が吹き荒れる音が強くなる。もう彼女は痛みも、毒の回りも限界なのだということは顔色を見れば判る。だから、アウグストは最期に。
「ぼくらの大切なもの、返してもらいます」
 そう紡ぎ、彼が鉄籠を揺らせば。彼女を包む鈴蘭が増えその身が見えぬ程になり――気付けばそこには、何もかもが無くなっていた。
 全てが終われば花弁が舞い踊っていた場には元の大切なモノが戻り、いつも通りの姿へ。愛おしそうに指先で鈴蘭に触れながら、アパラはそっとアウグストへと微笑んだ。

 ――月光照らす鈴蘭の花が、そんな彼等を見守っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年05月15日


挿絵イラスト