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ピスケスに花冠を

#サクラミラージュ #反魂ナイフ #宿敵撃破

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#サクラミラージュ
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#反魂ナイフ
#宿敵撃破


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●妹に会いたかった
 春の陽気、桜の甘い香りが鼻を擽る。
 さわさわと吹き抜けていく風が心地良い。
『……あはっ、本当に使っちゃったんだ♪』
 識らない魂の、声がする。
 妹は識らない形をその身に宿して嗤うんだ。
「スゥ、……本当にスゥなんだ」
 妹に話しかける男はさほど年の離れた様子のない兄だ。
 涙を浮かべて、ぎゅっと抱きしめる。
 冷たい骸がゆっくりと暖かさを帯びてくる。
「これからはずっと一緒だからな!にーちゃん、絶対一緒にいるからな!」
 からんからん、と兄の手から零れ落ちるモノ。
 それは――ナイフ。
『もういらないんだもんね。じゃあ、私が貰っておくね』
 ふふふと笑い、回収したのは妹だ。
『ありがとう。大切にするから。これからもずっと一緒だよ』
 この"兄"は実に幸福そうな顔を見せる未成年だ。
 妹の顔をして、"異なる魂は想う"。
 ああ、なんて――この人は直ぐにも壊したくなる顔をしているのだろう。

●逆巻く不穏の花びら
「ヒトは願う。幸せだッたヒトトキを」
 フィッダ・ヨクセム(停ノ幼獣・f18408)は視線を逸らす。
「未練を感じ嘆くヒトは、願う場合があるそうだな。"亡くなッたあのヒトにもう一度会いたい"と」
 サクラミラージュ、春の知らせ。
 バス停はそこに一つの事件を嗅ぎつけた。
「強く願ッた少年がいるんだが、そこに匿名で荷物を贈ッた誰かが居たらしい」
 荷物の中身はナイフとメモ。
「"愛しき人の遺骨にナイフを突き立てよ"、そう書いていたそうだ」
 当然ナイフは普通のナイフなどではない。
 影朧兵器『反魂ナイフ』。影朧を招く、危険な代物だった。
「少年はナイフを遺骨に突き立てて本当に"反魂の儀式"を成功させた。妹は還ッてきた」
 骸は知識も記憶も感情も、生前そっくりそのままで。少年は取り戻せた喜びを胸いっぱいに感じながら、死したはずの妹と共に日々を過ごしている。
「だが、死者なんて当然正しい姿で蘇るハズがないんだ。少年もジワジワと違和感を感じ始めているな、なにか違うのだ、と」
 時折狂気たっぷりの瞳で嗤う妹の顔を幻視する。
 彼女はそんな顔をするような子ではないのにと、記憶が否定してくるのに。
「アンタ気が付いたような顔をしているな。そうだ、妹に影朧の魂も取り憑いている」
 妹の魂は確かに戻ってきたのだろう。
 ナイフに誘われた強力な影朧の魂と融合するような歪な形を伴って。
「影朧の魂を祓えば当然、妹もまた再び骸に戻るだろう。……少年はそれでも妹を手放したくないから、少々説得が必要そうだけどな」
 大切に護るように、必ず傍に居るだろうから。
「そうそう。アンタはおまじないを信じるタイプ?俺様は結構信じるタイプだぜ」
 少年は、妹を伴って春のお祭りに出かけている。
 妹が蘇った事を隠し、誰にも見つからないようにこっそりと。
「とても大きい枝垂れ桜の群れが街外れの丘にあッてな。新生活やらが始まる時期に、願掛けを行うんだと」
 隣り合う大事な人と手を握り、リボンや紐を枝に結わえると"今年も縁が結べる"。
 そうすることで、想いが届く場合だって在る。
「本当に叶うかどうかは当人次第だが、願う想うは当人の自由だ」
 アンタたちも、何かあれば何かを誰かと願ってきたらイイんじゃねーか?
「反魂された魂に惹かれた低級の影朧達がモフモフ集まッて来てるみたいだから、ターゲットを見失うようなことはねーと思う。ま、モフモフをどう扱うかはアンタたちに任せるよ。影朧は影朧だが、どうも攻撃的……には俺様には見えねーけどな」
 フィッダなりの暖かさを示して、君たちを見送るだろう。


タテガミ
 こんにちは、タテガミです。
 サクラミラージュから春っぽいお話を。
 舞台は街から多少離れた丘。人はまばらでいたりいなかったり。
 枝垂れ桜がたくさんあって、ぶわあっと桜の花びらが舞っています。
 風が強い日のようです。

●一章:集団戦
 白いモフモフがそこら中に発生しています。
 大体標準サイズの兎がモフモフもそもそ草を食んでいるようです。
 オブリビオンもとい影朧であるため、世界への恨みは存在しますが、兎並知能のためにその辺に生えている緑に対して「春の新芽うめえ」が忙しいようなので、モフモフを楽しむことができます。
 駆除、追い払いたい人は誘導してから行うといいかもしれません。

●二章:日常
 温かい春の日常を過ごします。
 兄妹の姿が見えるので、説得を行う事ができます。
 OPにも説明を記載した通り、お祭りに参加する時間に充てる事もできます。
 両方を行うよりはどちらかに絞る事をオススメしますが、判断は参加をご検討をいただく皆様にお任せ致します。フラグメントは多少無視して居ても(タテガミが分かるようにして頂ければ)構いません。お友達やお供、恋人。ひとりで過ごす。お好きにどうぞ。

●三章:ボス戦
 櫻葉・那紀(さくらば・なき)。
 反魂ナイフに導かれ『反魂者』として妹の身体に潜んでいたもの。
 前の章で説得が行われていた場合は、妹の魂との融合が解ける可能性があります。説得が行われていなかった場合は、魂も身体も完全に乗っ取った上で戦闘が行われます。

●その他
 兄:15歳くらいの少年。親はおらず、妹だけが家族。
 名前は『星観・聡太(ほしみ・そうた)』。妹の事を『スゥ』と呼びます。
 妹:享年11歳くらいの少女。
 名前は『星観・鈴(ほしみ・すず)』。
 兄のことは『そーちゃん』と呼びます。お兄ちゃん好き。

●それ以外
 途中参加、途中だけ参加は大丈夫な気持ちでいます。
 全ての採用ができない場合があったり、少しゆっくりのあまり速くない運用を行う可能性もあったり。日常の相手に転送に協力したグリモア猟兵が必要ならば、プレイングにご記載をお願いします。プレイング募集期間や運用の状況はなるべくタグ(>MS雑記)からお知らせのつもりです。募集期間後は、サポートさんを採用することも視野に入れていますので、いろんな方面に、ご注意を。素敵なご縁がありますように。
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第1章 集団戦 『サクラモフウサギ』

POW   :    うさぎ(かわいい)
非戦闘行為に没頭している間、自身の【ことをかわいいと思った人は、良心 】が【咎めてしまうため戦いたくなくなる。よって】、外部からの攻撃を遮断し、生命維持も不要になる。
SPD   :    ムシャムシャ……
レベル×5本の【その辺の草を食べることで、うさぎ 】属性の【モフりたくなるオーラ】を放つ。
WIZ   :    もふもふ
【自身の姿 】を披露した指定の全対象に【このうさぎをモフりたいという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

鹿村・トーゴ
SPD

一応、頭では解ってんだ
影朧はこの世界のオブリビオン…でもなァ
パッと見た目さくら印のうさぎじゃん
(相棒の鸚鵡ユキエが対抗心からか羽冠と目を吊り上げてギャーっと怒り鳴き)
Σおいおい騒ぐなって
『デレデレしてるわね?
してねーよ、なんだよデレデレって
まー確かにふかふかで可愛いけどさ
『でも敵なのー
解ってるって
でもなんか草食うのに必死で…ホレさわっても同じてねーわ(おなかもふもふ(背中もふもふ(おでこももふもふ
あれ?なんで今日はオレこんなうさぎめちゃめちゃふかふかしたくなるん?
『可愛いなんて言うのも変ね?
だよな
いつもなら「美味そう」って思うもん(おなかもふもふ
『見た目より食べるとこ無いのに…


アドリブ可



●手触りの良い毛玉

 もっふりとしたまあるいフィルム。
 鼻をもぞもぞと動かすサクラモフウサギ。
 ――もちろん頭では解ってんだ、一応。
 鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)はその辺の草を喰む平和の塊を目下に留める。それは影朧。いつか何処かで傷ついた過去から発生した、不安定な存在。
「こんなに平和に食べてるけど、この世界のオブリビオン……」
 ――ぁああ、でもなァ!
「パッと見た感じからしたって、さくら印のあるうさぎじゃん?」
 もっふりとした毛並みで尻を向けたウサギが此方を振り向く。
 もぞもぞ、と鼻を引くつかせて、この草うめえぞ、となんだか満足気に見える。
 思わずモフりたくオーラ、とはこうも目に見えないところから発生してくるものなのか。トーゴの頬が思わず緩む中、肩に止まっていた相棒の鸚鵡ユキエがウサギに対して前傾にまじまじと見つめだす。
 暫くの無言。
 それから、対抗心がユキエの気分を逆撫でたのだろう。
 羽冠と目をキッ、と吊り上げてギャーっと大きな声を張り上げて叫びだす!
 怒号だ、とすぐにトーゴは気がついた。
「おいおい騒ぐなって!」
 怒号をぶつけられたウサギは、もぐもぐと草を喰む事を辞める様子がない。
 なんとまあ、マイペースなウサギだろうか。
『んもう!頬緩ませ過ぎよ、デレデレしてるわね?さては!』
 ワーっと騒ぐユキエの逆立てる羽を手で宥めながら、トーゴは返答する。
「いやしてねーよ。なんだよデレデレって」
 ――まー、確かにふかふかで可愛いけどさ?
『でも敵なのー!解ってる?』
 バサバサバサ今度は翼をバタバタさせるユキエの警告。
「解ってるって。でもなんか草食うのに必死で……」
 そっと手をウサギの背中へ。
 ぽすん、と触れて、だが逃げる様子もない。さわさわ、ナデナデ。
「……ホレさわっても同じてねーわ」
 背中からお腹の方へ手を伸ばしても、動じる様子は皆無。
 おでこの方に手を伸ばしてもふもふしても、耳付近を撫で回しても、ムシャムシャ食べ続ける底なしの貪欲さ。ウサギの食欲、恐るべし。
 春の新芽はどれほど美味しいというのだろう、野草、恐るべし。
「あれ?あれあれれ……なんで今日はオレこんなうさぎめちゃめちゃふかふかしたくなるん?」
 動じてこないのをいいことに、思う存分可愛がっているトーゴ。
 ネコなら爪を出してくるほどしつこく、噛まれても可笑しくないほど存分に楽しむだろう。
 なめらかな手触り。ずっと触っていたくなる上等な手触りだ。
『"可愛い"なんて言うのも変ね?』
「だよな」
『だってトーゴはいつもなら"美味そう"って……』
「言う所なんだけどなあ。今日は不思議とそう思ってねーなあ」
 モフモフとお腹を中心に撫でる手が止まらない。
 やめられない、とめられない。それがこのウサギの――オーラだというのか。
『見た目より食べるとこ無いのに……』
 穏やかな時間と、物騒な発言。
 同時に存在する桜吹雪の舞う丘で、暖かな時間が流れていく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

幽遠・那桜
【紫桜】
WIZ
はぅ、意気込んできましたし、お兄ちゃんにも頼るように声をかけたのですけど。
……はぁ。とりあえず目の前にうさぎがいるので、もふもふするのです……ほら、カイムお兄ちゃんも!
もふもふして、顔を埋めて深呼吸……すーーーはーーー。
そうだ、UCで植物の精霊さんや水の精霊さんにお声かけて、うさぎさんが好きそうな新芽をどんどん出しましょう(属性攻撃)。

……う。ちょっと、お姉ちゃんに会うとなると、刃物と血が……怖いのです。
「覚悟」はありますよ。でも、強くなったのは、ひとりじゃないから、ですね。

血は、繋がり……うん、そうだね。
お姉ちゃんは、私のたった一人の家族だったんだもん。ずっとずっと、守ろうとしてくれてた。

あのね、ナイフを止めるって言ってくれるの、とっても嬉しい。
でも、あのナイフを止めるのは、私じゃないと。
全力で、那紀お姉ちゃんにぶつかるから……お願いお兄ちゃん! 応援、してほしいな。
言いたいことも、ナイフを止めるのも、全部全力全開で行ってきたいのです!

ありがとう、カイムお兄ちゃん!


カイム・クローバー
【紫桜】
視界一面に桜の景色と桜の香り…と那桜にモフモフされているウサギ。
手渡されたウサギをとりあえず抱き上げて毛並みを触る。柔らかいモフモフ具合と血の通った生物の暖かい身体。ま、流石に顔を埋めるまでは出来ねぇけどよ?

穏やかな空気の中で那桜の表情の変化ぐらい分かる。
【覚悟】も決意もあるだろう。だが…それ以上に──心が強くなった。
血はやっぱ苦手か?
…血ってのはマイナスなイメージが多いモンだ。痛みや苦しみ…別れや死。
だが、血には『繋がり』という意味もある。家族の繋がり、姉妹の繋がり。きっとそれは家族を証明できる唯一の物だ。
これ以上誰かの繋がりを絶たせない為に…【覚悟】したんだろ?
ナイフは俺が止めてやる。必ず。那桜の元に向かわせないようにする。だから…在りのままを伝えて来い。
言葉を届かせられるのは…きっと那桜だけだ。

……そうかい。ハハッ、全力全開ね。
言うようになったモンだ。OK。それなら本気でぶつかって来い。
きっと出来る。んで、望む未来を掴まえて来な。強くなった那桜を見せてくれ。



●繋がりとは"視えぬ形そのもの"

 少女は胸を抑える。
 心地よい天候なのに、肩に力が妙に入っているのが解る。
「はぅう……」
 ゆっくり吐き出すのにも時間がかかる。そんな気がするのだ。
 幽遠・那桜(輪廻巡る霞桜・f27078)は自身の気分と、意気込みが妙に釣り合わないのは何故なのか、を自分に問う。
 ――いいえ、理由はなんとなく分かっているのですけど。
 だからこそ、義理の兄カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)に声を掛けた。春風と、桜吹雪。二人の足元に点々と鎮座する白い毛玉達は、呑気そうにムシャリムシャリと草を喰んでいる。
 ――影朧、ですよね。……うーん。
 もふもふとした毛玉は私は生き物です、と主張するのみで攻撃性の欠片もない。
 食べれば食べるほど、不思議なことにモフモフとした毛並みの手触りがとんでもなく湧き上がってくる。
 無遠慮に。無秩序に。
「……はあ。とりあえずモフモフするのです」
 思わずため息も出るだろう。
 此処へ来た理由、此処に起こるだろう予知。
 重要なことではある、のだが――なんだかサクラモフウサギから発せられるそれは、抗いがたいのだ。
「ほらカイムお兄ちゃんも!」
 視界一面に桜の景色、鼻をくすぐる甘い香り。
 思わず笑ってしまったのは、義妹の百面相もまた視界の一つの彩りとして飛び込んできたから。
 一羽をひょいと持ち上げて、義妹がずずっと差し出してくる。
 持ち上げられたウサギは喰み途中だったのか口がものすごいもぐもぐしていた。
「ああ」
 ウサギを受け取り、とりあえず胸元に抱き上げて、触る。
 もふ、と手触りは本当にいい。モフられる為に生きてる何かでは?とカイムでさえ疑ったほどだ。
 もう一羽のウサギを持ち上げた那桜は、もふもふと手元で柔らかさを確かめて。
 毛玉の胸にもふっ、と顔を大胆にも埋めた。
「……っすーーーはーーー」
 深呼吸は重要である。重要、なのである。
 若草の匂いをふんわりとその身に纏っていて、なんだかおかしな生き物だな、と那桜だって笑ってしまう。
「……ま、流石に顔を埋めるまでは」
 出来ない、もといやらないカイム。
 柔らかい手触りと、間違いなく血の通った生物の暖かい身体。
 これが自らモフられオーラを放つ"和ませる存在"だというのも、頷ける。
「そうだ!植物の精霊さーん、水の精霊さーん!」
 足元に視線を向けた那桜の期待に答えるように精霊輪舞の誘い(インヴィテーションエレメンティア)は発動する。
 呼びかけて、働きかけるのだ。
「ウサギさん達がたくさん食べられるように新芽をどんどんだしちゃいましょう!なのです!」
 好きそうなやつ!とざっくりとしたイメージで、周辺一帯に働きかければ、ゾゾゾ、と超速度で草はにょきにょき生え始める。
 急成長とは、この事だ。花咲なんとか、とか思い出すかもしれない。
「これで食べ放題なのですよ」
『……』
 ウサギはジタバタと暴れだして、アレたくさん食うんだぞ、とどれもが一斉にもがきだす。
 すると、那桜の表情がウサギを離した瞬間にわずかに陰る。
 重要なのはウサギとのふれあいは"とりあえず"と二人共思っていたことだ。
 ――表情の変化ぐらい、わかる。
「……う、ううん。ちょっと、お姉ちゃんと会うとなると、刃物と血が…………怖いのです」
 当然会うと成れば覚悟はあるのだ、この胸に。
「覚悟も決意もあるだろう?この穏やかさと聞いた話は別のハズ……」
「でも、強くなったのは、ひとりじゃないから、ですね」
 だが――それ以上に心が強くなったのだろう。
 気弱そうに歪んでいた表情が、強気そうにカイムを見上げる。
「血はやっぱ苦手か?」
 ふるふる頭を振って強がった那桜。
「………血ってのはマイナスなイメージが多いモンだ。痛みや苦しみ……別れや死」
 それから、と話す続きの合間に持っていたウサギをやっと離す。ぱたぱたと跳ぶように駆けていくウサギは本当に無いも怖いものがないような素振りだ。
「でも、血には"繋がり"という意味もあるだろ。家族の繋がり、姉妹の繋がり。きっとそれは家族を証明できる唯一の物だ」
 今はすでに亡くても。
 憶えているのなら、"在る"のだ此処(胸)に。
「血は、繋がり……うん、そうだね」
「だろ?」
「お姉ちゃんは、私のたった一人の家族だったんだもん。ずっとずっと、守ろうとしてくれてた」
 あの時の記憶は、嘘にならない。
 嘘ではない。過去にあった現実だ。
「これ以上誰かの繋がりを絶たせない為に……覚悟したんだろ?停めるって」
 拳を向けるカイムは、義妹へ道を示すだろう。
「ナイフは俺が止めてやる。必ず。那桜の元に向かわせないようにする。だから……在りのままを伝えて来い」
 ニッ、と笑ったカイムの顔は、いつも通りだった。
 那桜には少なくとも、そう見える。励まして、鼓舞している。
「あのね、……あのね、ナイフを止めるって言ってくれるの、とっても嬉しい」
 吐き出す息が、重いと思っていた気分が。
 少しずつ軽くなるような気がした。
「でも、あのナイフを止めるのは、私じゃないと……ダメ。全力で、那紀お姉ちゃんにぶつかるから…………お願いお兄ちゃん! 応援、してほしいな」
「言葉を届かせられるのは……きっと那桜だけだ。そうだろ?」
 応援だけでいいのか、という言葉に、強い言葉で那桜は返答するだろう。
「言いたいことも、ナイフを止めるのも、全部全力全開で行ってきたいのです!」
「……ハハッ、そうかい。全力全開ね」
 いい切った。このコが。
「言うようになったモンだ。OK、それなら本気でぶつかって来い」
「きっと出来る。んで、望む未来を捕まえて来な」
 そんでもって、強くなった那桜を見せてくれ。
 ――トーゼン、俺にも、な。
 話術の心得(トーク・マスター)の言葉に、包まれて。義兄の言葉を聞いてそこから奮いたてるなら、頑張れる――出来ると、俺が後押ししよう。
「ありがとう、カイムお兄ちゃん!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アカネ・リアーブル
もふ!

ああ、なんて愛らしい
膝をついて両手を広げてお出迎え
鼻をひくひくさせるモフをお膝の上にお乗せすれば
やわらかい毛並みとあたたかな重さに思わず頬も綻んで
ああ、なんてモフは愛らしいのでしょう

モフに囲まれて頬が緩みきったアカネに、ステラ(猫)が呆れ顔で膝に滑り込んで
膝のうさぎを追い出して日向ぼっこを始めます
ステラ、ヤキモチですか?
ツン、とおすまししてそっぽ向く姿も愛らしく
ステラのモフはうさぎ様のモフとはまた違った手触りで
大丈夫ですよステラ
どんなに他のモフをモフっても
アカネの一番はステラですから

吹き抜ける風に目を細めれば、枝垂れ桜から花びらが舞い散って
ウサギとステラと桜と春風
優しい時間を堪能致します



●一番星は譲らない

 見事な桜が満開で咲き誇っていた。空を見上げれば桜の雨。
 そして視界を足元に向ければ、雪のように留まる白が――否、もふもふがたちがそこら中でちょこんと座っている。
「わあ、見事なもふ!」
 アカネ・リアーブル(モフとダンスは世界を救う・f05355)が目をキラキラさせたのも仕方がない事だ。話しかけられたらしいと気が付いたサクラモフウサギの数体がアカネの方へ鼻面を向ける。
 所謂、流し目を炸裂させてくるのだ。
「ああ、なんて愛らしい……」
 鼻をふごふごと引くつかせるモフ。放っておけば、新芽を喰む仕事に容易く戻ってしまうのだろうが、アカネは手招く。
 膝をついて、両手を広げて――おいで、と。
 招かれていると気がついたウサギは迷わず膝上に訪れて、更に鼻をひくひくとさせる。警戒、興味、何もない。なんだこれ。ウサギの顔に感情らしきものはないが、ずっと鼻をひくつかせて何かを探っているらしい。確認が終わり、ぱちぱちと数回の瞬きを置いてアカネの膝の上にちょこんと収まったならば、今度は眺める対象をアカネに絞りじぃいと見つめだす。
「物珍しいですか?」
『……』
 ウサギからの返答はもちろん無い。
 だがモフりたいという感情と好奇心が、ウサギの背中に手を置かせた。
 やわらかい毛並みと、しっかりとした暖かさと重さ。
 野生の生き物にしては酷く呑気で。
 本来在るべき影朧としては、あまりに敵対する事を忘れている獣。
 こんな歪な生き物から得られる特徴は、よく知るウサギに紐づかれて思わず頬も緩むというもの。
「ああ、なんてモフは愛らしいのでしょう」
 俺も俺も、とぞろぞろウサギが集まってくるものだから、アカネの周囲は見事に毛玉だらけになる。
 桜吹雪と白い毛玉。ふふ、と思わず笑みは何度だって溢れる。
 春の陽気な暖かさと、穏やかな気持ち。
『ンン~……』
 頬が緩みきったアカネに声を掛けてくるシルバータビーの視線にぶつかった。
 呆れたような薄いため息を吐きながら、するりとアカネの膝の上に乗り上がり滑り込むように身を押し込む。ウサギを追い出して、ごろろと喉を鳴らして日向ぼっこの体制に入った。
「あの、ステラ?もしかしてヤキモチですか?」
 ツン、とおすまし顔でそっぽを向かれる。
 猫の対応としてそれは確かに普通だが、膝の上を占領してそれは愛らしいというものだ。ステラの背中に手を乗せれば、やはり日向に光を吸いまくったウサギのそれとは違う。
「大丈夫ですよステラ」
 背中を撫でて、頭を撫で、それから顎の下を軽く掻く。
「どんなに他のモフをもふもふしていても、アカネの一番はステラですから。……ね?」
 アカネの言葉にステラの前足がでしっ、と撫でていた手を叩く。
 ステラの反応は、"知ってる"とでもいいたげで。それから場所を追い出されたウサギと、周囲ではむはむ食事中だったウサギたちがぞろぞろと俺も撫でろと頭を差し出してくるものだから、アカネは手を差し伸べてしまう。モフモフの誘惑力が強いのだ。これは仕方がない。
 膝の上を独占したステラのため息は、風に紛れて溶ける。
 吹き抜ける風に目を細めれば、枝垂れ桜から花びらがひらりと舞い上がる。ウサギとステラと桜と春風、それから――優しいゆるやかな時間。
 暖かな時間に身を置くアカネは、思う存分沢山のモフを撫でながらなごむ時間を過ごすことだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

風見・ケイ
【🌖⭐️】
もうただのウサギだね……(膝に乗せる)
こんなことしても全然逃げないし
ウサギは背中を撫でられるのが好きというけど、桜模様が目印みたいだ
こっちも落ち着いちゃうな……でもこんなお花見もいいかもね

……やっぱり、会いたいって想うものなのかな

(警察時代から今まで、そう願う人に会うことは少なくなかった)
(彼らの気持ちを否定するつもりはないけど)
私は、ないよ……怖いんだ
あの人に逢ったら、きっと叱られるから
なんて、それだけじゃないけど、なんとなくね

(――冗談めかしたけど怖いのは本当で)
(叱られることよりも、……赦されてしまうことが、怖い)
夏報さんはあるの?

そっか……
今日の少年は、どうだったんだろうね


臥待・夏報
【🌖⭐️】
オブリビオンの端くれとしてこれはどうなのか(無防備な背中の桜模様を撫でる)
ウサギは仲間と集まって身を守る習性があるから、触れあってるほうが落ち着くらしいよ
夏報さんのことも仲間に見えてたりして

お話の中では、だいたい会いたがるものだよね
(UDCで働いていれば、嫌というほど『視』る話で)
(あまりにも『視』すぎたせいか……どうも実感のわかない話だ)
……風見くんは?
誰かに会いたいって思ったり、する?

僕は、どうだろうな
事件のことはよく覚えてないけど、あの子は生きてる気がしてるから
(そう願っているという訳でもなく)
(記憶が無いなりの、妙な確信がある)

でも
会うのが怖いっていうのは、ちょっとわかるよ



●悠き日々を視るならば

「オブリビオンの端くれとしてこれはこれで、どうなのかな」
 臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)はオブリビオン――であり影朧の鼻面に指を近づける。
 警戒心はある。しかし、攻撃性がない。
 鼻をフゴフゴとならして、これはなんだと匂いを確かめている不確かな生き物。
 多分ウサギ。サクラモフウサギというらしい。
 なんだか色んな場所で突然発生して、もふもふしているらしいという噂だ。
 桜模様の無防備な背中に手を当てて、しれっと撫でても逃げ出す様子は皆無。
「うん、これはもうただのウサギだね……」
 ウサギを一羽膝に乗せた風見・ケイ(星屑の夢・f14457)もまた、逃げ出さない影朧への認識を"ただのウサギ"に改める。
 突然化け物になったとしても、猟兵として脅威と思える要素は無さそうだ。
「こんなことしても全然逃げないし」
「ウサギはさあ、仲間と集まって身を守る習性があるから、触れ合ってるほうが落ち着くらしいよ」
 単独より集団のほうが好むんだよね、とは夏報さん豆知識である。
「そうだね。ウサギは背中を撫でられるのが好きというけど、この桜模様は目印みたいだ」
 まるで此処を撫でろ、とアピールしているかのよう。
 なんだこのうさぎ死ぬほどかわいいんじゃないか?
 保護欲みたいなふわふわの良心がどことなく咎めてくるから、なんか戦いたいとは思えない。
「全く、こっちも落ち着いちゃうなぁ……でも、こんなお花見もいいかもね」
「この集まり方……夏報さんのことも仲間に見えてたりして」
 そんなバカな、とは夏報も思う。だが陰の気配は類は友を、と言うものだ。
 さびしさに、あつまるいきものがうさぎなら、まあ納得も出来るのだが。
「ねえやっぱり、機会が巡ってきたら直感的に"会いたい"って想うものなのかな」
 ケイは桜の花びら混ざりの風の中でポツリと声を零す。
「お話の中では、大体会いたがるものだよね」
 相槌を返す夏報もふむ、と真面目な雰囲気に気持ちを寄せる。

 警察学校から今まで、出会いの別れの連続で。
 その中にも会いたいと願う人物は少なくなかった。
 機会が、奇跡が訪れるなら是非と大抵のものが言うのだ。
 それが例え代償を誰かに強いるものでも。
 それが例え非合法なものでも。
 彼らにも相応に想う感情が会ったはずだ。
 ケイだってそれを理解しているのだが――。

「……風見くんは?此処で聞くのは逃げ場を無くすような包囲してる気分にもなるんだけど、誰かに会いたいって思ったり、する?」
 UDCアースで働いていれば、嫌でも"視"える世界が在るはずだ。
 見たいものも、見たくないものも、自分で選べないものばかりに出会うハズ。
 ――あまりに"視"過ぎたせいか……どうも実感のわかない話だけど。
「私には、ないよ……怖いんだ」
 思い浮かぶ顔はある。
 再会できたとして、相手に何を言われるかの想像が耳を叩く。
「あの人に逢ったら、きっと叱られるんだ」
 無意識に撫で続けてしまう手触りの良い毛並み。
 時折ぶぅぶぅと不機嫌そうに鳴くのは、そろそろ離せという文句だろうか。
 モフモフされるのは見かけ以上にまんざらでも無さそうで。
 生命維持さえ不必要になっている毛玉は、非戦闘行為を存分に謳歌しているというのに。視えれうものが全てではないが……あえてウサギを撫で続けるケイに、次第に毛玉の苦情は小さくなっていく。
 "好きなだけ撫でろ"、そう語る背中のようにも思えた。
「……なんて、それだけじゃないけど、うん。なんとなくね」
 元警察官の肩書があるから、だけではない。
 怖いのは真実。ただ、冗談めかしてしまうのが今のケイだ。
 叱られることよりも、心が気にかけている事がある。
 ――……赦されてしまうことが、怖い。
「夏報さんはあるの?」
「僕は、……どうだろうな」
 サクラモフウサギを持ち上げて、プラプラ揺らす。
 行き場のない脚がプラプラ揺れて、じぃいと夏報を見つめてくる。
 ウサギの瞳には、何も映っていなかった。
 モフモフしろよ、ぶらさげるな、とはオーラ的なもので訴えかけて来ている気もする。これは何故こんな事をするのか、と野生のウサギがしそうな思考力で訴えているにすぎないだろう。
「事件のことはよく憶えてないけど、あの子は生きてる気がしてるからさ」
「そっか……」
 ありふれた冗談の中に隠したかったわけじゃない。
 そう願っている、という訳でもなく。
 記憶が無いなりの、妙な推理力――にも似た確信のようなものだ。
「でも、……いざって場面にであったら"会う"のが怖いっていうのは、ちょっとわかるよ。怖いと思う。僕でも、思うんだよ」
 桜吹雪の中に紛れてしまって今言った言葉を隠したいくらいだ。
 "じゃあね"と今日言うべきは、果たして誰だろう。
 誰になると言うのだろう。美化された記憶へ、だろうか。
 それは、――誰宛の?
「今日の少年は、――果たしてどうだったんだろうね」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクター・グレイン
「久しぶりの猟兵活動だ、肩慣らしには丁度いい。」
そう言い放つのはヴィクター。つい最近まで【ある事件】を追っていた為に猟兵活動を休止していたのだ。
「お前ら、久々のご馳走だ。残さず喰えよ。」
ヴィクターがそう言うと足元の影から4体と数十匹の『何か』が飛び出す。
影朧の夜咫鴉、オブリビオンの黒猟狼、オブリビオンマシンの闇人、UDCの深き湿り人、魔蟲軍隊の獅子蟲軍。
『ヒャッハー飯ダ!』(グルルル…)[……クウ…]《オレモ食ベル》{さてアタシらも頂こうかしらね}
あとは言わなくても分かるだろう。
辺りが血の海になった、それだけだ。



●誰かの意識から零れたら終わり

 コートの裾が風で揺れる。
 桜の花びらが舞い上がる。
「久しぶりの猟兵活動だ、肩慣らしには丁度いい」
 ヴィクター・グレイン(見張りを"見張る"者・f28558)は言い放つ。
 誰よりも影のように佇み、誰よりも、存在感を絶って――ただ、静かに。
 誰もが華を見上げている。だからこそヴィクターの暗躍に、目を光らせる者もない。春風の暖かさに笑い、明るい陽気な気配の中で歩いている。
 その裏側で、男はゆっくりと動き出す。
 つい最近まで"ある事件"を追っていた為に猟兵活動を休止していたのだ。
 だからこれは、肩慣らし。
 そのうち集まりから単独へ。
 集まる力さえ失って散り散りになって居なくなるだろう弱い影朧が、点々と当たりに居るのを目視する。
 背に桜の模様がある珍獣(サクラモフウサギ)。
 あれらの個体数がじわじわ減っていく事に、誰が気に留めるというのだろう。
「お前ら、久々のご馳走だ。遠慮はいらない。残さず喰えよ」
 ヴィクターがそういえば、足元の影から四体と数十匹の"何か"が飛び出す。
 影朧の夜咫鴉が羽撃き、声を荒らげて居なくなるのを感じる。
『ヒャッハー飯ダ!』
 オブリビオン"黒猟狼"が喉を鳴らして爪音を立てた。
 (グルルル……)
 現れた後、どこかへと駆けていく。
 次いでオブリビオンマシンの闇人がヴィクターによく似ていて、しかし異なるバケツ頭を見せながら現れる。
[……クウ……]
 意志だけで反応し、そして身を翻す。
《オレモ食ベル》
 声だけを響かせる誰よりも闇に溶け込むモノ、UDCの深き湿り人(ディーク)。
《オレモ食ベル》
 しかも何度も繰り返し、ヤるべきことに返答してくる始末。
 魔蟲軍隊の獅子蟲軍からも、楽しげな声があがった。
 {さてアタシらも頂こうかしらね。行きましょうか}
 どれもが闇に蠢く者共。
 魂の強度など関係ない。
 影を走り、存在を捉え喰らえ。終わらせろ。
 人知れず喰み、人知れず切り裂け。
「あとは言わなくても解るだろう」
 白の毛並みは誰かにモフられないモノから順番に血の海沈み、終わりの破片を血霧に溶かして消えていく。
 辺りは血にまみれた。しかし、傷ついた影朧が還っていった。
 事実はただ、それだけだ。
 この場に集まった逸れたウサギはヴィクターの影から現れた者たちが喰らい、壊し、消していく事だろう。
 人知れず、終わりゆくもまた――野生で留まる獣の終わりゆく路だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 日常 『その恋は結ばれるでしょう』

POW   :    お互いの手と手を握り合う。

SPD   :    リボンや紐などでしっかり結ぶ。

WIZ   :    手と手を離さないようにする。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●新年度のファンファーレ

「スゥ、どの木でもイイんだって。どれにする?」
 少年は妹の手を引いていた。
 妹に布をかぶせて、枝垂れ桜の隙間に入り込む。
 手を握り続けるのは、必ず護る"縁を繋ぎ続ける"願掛けのようなもの。
「じゃあ、そーちゃん。向こうの……いっぱい咲き誇っている樹がいいなあ」
 布の影になって、妹の顔は見えなかったが兄は二つ返事で了承を返す。
 顔を隠した"妹"の口角がニンマリと笑っているなどと、見えようはずもない。
 服の影に隠した『反魂ナイフ』はずっと彼女は隠し持っている。
 兄には内緒。"スゥ"としては大好きを演じて、嬉しそうに笑うに務める。
 ――これは、"私"だけの秘密なの。
「よし!じゃあ綺麗な赤のリボンをスゥの好きな所に結ばないとだな!」
 にーちゃん、これからもずっと護るから。
 ――でも、……スゥ。お前、何に楽しそうに嘲笑ってるんだ?
 桜吹雪に紛れる兄妹は、これからリボンを結ぼうとしているようだが、彼らよりも枝葉は高い。猟兵が手を貸すならば、枝に無事に結べるだろうが――この接触は一種の賭けだろう。
 君は死者を再び殺す手助けを申し出るか。
 今は見過ごし、兄の涙をただ視るか。春の暖かさとは異なる、重たい空気が――歪な刃がいずれ降りかかるだろうけれど。
ヴィクター・グレイン
「手伝おうか?」
そう言いながら背後から近付く。
気にするな、とは言いつつも妹から一切視線を逸らさずに。
暫くは見届けてやろう、だが『その時』が訪れた時は容赦なく叩き潰す。
周りにどう思われようとオレは絶対に"妥協はしない"からだ。
さぁ、どう動く?


鹿村・トーゴ
ただの兄妹の様で見過ごしたくなるよ
けど…
『…』
相棒のユキエは大人しく肩で沈黙

UCは桜に相応しい小鳥を
あちこちへ散り囀り兄妹を見守る

兄が枝に背を伸ばしてる所へ近付き明るく囃す
よー頑張れ兄ちゃん
可愛い彼女に良い所見せ…おや妹さんだったか、悪りィ悪りィ

オレは旅の流れ者なんだが…
へえ?これ縁結びの桜なんだねェ
オレも居たんだよー?所帯持って暮らしたかった子
郷の幼馴染みでな
でも郷で病があった
オレはあの子の、最期を看取った
夢に幻に見るほど好きだけど
実際死んだら人は思い出以外で現れちゃくれねーな

もし現れたら
真っ当なモノじゃない
…顔色悪いぜ兄ちゃん?
心当たりが在るなら
今、手を離せ
そいつは本当に
そんな顔をしたか?



●目を背けるな

 枝垂れ桜の隙間に、鹿村・トーゴは視線を揺らす。
『……』
 肩に停めたユキエは空気を読んで口を噤んだ。
 手を伸ばしている。
 二人よりも高いところにリボンを結びたいようなのだが、届く様子が見えない。
 "妹の秘密"がある以上知り合いには頼ることが出来ず、風に揺れる僅かなタイミングで捉えようと兄は頑張って手を伸ばしているのが見えるのだ。
 ただ惜しい。その手はぎりぎり届かない。
 枝がもう少し下向きに垂れていれば――。
 トーゴは軽く口笛を吹くように、戦闘力のないモノ達を呼び集める。
 鳥寄せ“沙謡鳥”(サヨドリ)――音真似の得意なメジロを桜の枝に停まらせて、じわじわと枝の向きを変えていく。
 春の歌、相応しい小鳥の囀りは兄妹達を見守って居てくれるだろう。
『もうちょっと……だからな、スゥ!』
「よー頑張れ兄ちゃん、あとちょっとだ」
 兄が枝に向けて、ギリギリまで手を伸ばす姿に明るく囃す声が一つ。
『……!そうだよそーちゃん、あとちょっと!』
「可愛い彼女に良い所見せ……」
『スゥは妹だよ!』
「おっとそうか、妹さんだったか、悪りィ悪りィ」
 当たり前の顔をして、同じ枝垂れ桜の下に立つトーゴ。
「手伝おうか」
 ざああ、と桜の枝の間なんて無かったように道なき道を突き抜けてきた誰か。
 彼は、寡黙ながら枝にがしっと手を伸ばした男だった。
 トーゴと殆ど同じくらいの背丈ながら、影を引く男である。
 沢山の桜の枝の間から、兄妹の背後より近づいていた、ヴィクター・グレイン。
 ぐぐ、っと二人の背丈まで枝を引いて、さあ結べと言わんばかりの仕草を見せる。
 気にするな、と言わんばかりの態度。
 男はどこまでも寡黙でそれ以上の言葉を発しない。
「大丈夫大丈夫、気のいい兄さんだよその人もな」
 雑見こそちょっと混ざるトーゴだが、ヴィクターが何をするために至近距離の間合いに踏み入ったかなど、明白だった。
 近くから見届ける。
 笑いに遠い鋭い視線を飛ばしながら、妹から視線を逸らさない。
 異常があるならば、見落とすまいと見張りは"見張り"を続けるに徹する。
 覗かせた顔が在るならば。それこそ、お前の終わりに等しい。
 静かな観察の瞳が、じいと無遠慮に向けられているのを兄は不審に思ったようで妹の手をぎゅっと掴み身を寄せさせる。
「オレは旅の流れ者なんだが……まあ、その人も同じってなー。今日此処で何が行われてるんだ?」
 今日という日の祭事を知らないと、明るい顔で言うトーゴに対して兄、星観・聡太(ほしみ・そうた)は不思議そうな顔をした。
『知らないで桜を見てるのか?今日は縁を結ぶ――星辰の並びが良いとされる日なんだ』
「ほー、星の並びか。縁起を担いでるもんなんだなー、そうかこれ、縁結びの桜なんだねェ」
 思わず目を丸くする。
 ――家族という縁とは他に何重にも結びたいと願ってるってやつか?
 ヴィクターは見た。違和感を取り払い、胸に抱える心配を繕うように――聡太の手元にはいくつものリボンが視える。
 一つではなく、複数箇所に点々といくつもリボンを結ぶ気なのだろう。
 誰かの手を借りて、それでも結んだ手のひらを離さないように一心に願いながら。
「オレもさあ、居たんだよー?所帯持ってくらしたかった子」
『お兄さんも、結ぶ?』
「いんや。郷の幼馴染みでな、でも郷で病があった」
 此処には居らず、トーゴは独り大地に立つ。
「オレは……あの子の、最期を看取ったよ」
『……へえ。お兄さんは、寂しくなかったの……?』
「夢に幻に見るほど好きだけどさ、実際死んだらもう遠いんだ」
 心の距離も、生者と死者の間にある境界線も。
 曖昧にはなるものではないが、簡単に手を伸ばせるものでもない。
「思い出以外で現れちゃくれねーなあ」
 実像を結び、この場に現れてくれるというのならリボンを手にトーゴだって結んだかもしれない。
 だが、――今するべきはそれではない。
「もし死者が現れたら、そいつは真っ当なモノじゃない。あの子が真っ当なモンじゃないなんて、やだね」
 聡太はトーゴから背けるように視線をずらした。若干震えるように妹の手を引いて、心配ないんだって思いたがる子供にしか見えない。
「……どうしたよ、顔色悪いぜ兄ちゃん?」

 ――"その時"が訪れたならば、これは亡骸に在らず。
 恨みのために身体を得て、世界にあだなす為に悪事に手を染める悪霊成りや。
 ――容赦なく、叩き潰すのみだ。
 周りからどう思われようと男は自身の見た物こそが正しいものだと信じ行動する。
 ――絶対に妥協しない。
「……さあ、どう動く?」

 妹の横顔がヴィクターの視線の先で薄っすら見えた。
 口角がつり上がっている――嘲笑っていた。
 子供特有の無邪気さではない。殺しに躊躇のない殺人鬼のような邪悪があった。
 ――狙っている。最悪のタイミングを。
 兄が準備した縁結びのリボンを結び終えた瞬間を狙い、"彼女に憑いた魂"はその幸せを必ず壊すために動くだろう。
 最高の幸せ気分が流れる様に崩壊する様は、そう簡単には――味わえないものだから。
「心当たりが在るなら今、その手を離すべきだと勧めるぜ?」
 オレらはそういうの、相応の手段で手を差し伸べるタイプだから。
「そいつは本当に、そんな貌をみせたのか?」
『……え』
 震える手を握る兄が妹の顔を見る。
 トーゴが、ヴィクターの視線が妹の方へ向いているのが気になった。
『そーちゃん、次の枝に結びにいこ♪』
 だが無邪気そうな様子で手を引いて、猟兵たちとは別の方向へ歩いていこうとする。連れて行こうとするのだ。それ以上知らないでいいよよ、と、誰かの思惑が働くように。年端もいかない彼女は、人様の話を遮って行動するタイプではないというのに――兄の違和感は、ひとつまた、胸のうちに刻まれる。

 チチチと鳴く囀りが、彼らの行方を逃さない。
 ずっと猟兵は"視ている"。
 見失ったりは――しないのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

臥待・夏報
【🌖⭐️】
(むう……しんみりした空気になってしまったな)
そうそう風見くん、お祭りだってさ
せっかくだから一緒に行こうよ
リボンや紐は用意しなくちゃいけないみたいだけど……それなら、ちょうどいいのがあるからさ

じゃーん!
(巾着絞りのラッピングが施された透明袋)
(ピンクのハートとホワイトの星型、小さなクランチチョコの詰め合わせ)
3月は忙しくって渡せなかったから……特別なチョコのお返し
ハートは苺のドライフルーツ、星は卵ボーロを使ってて
ええと……受け取って、くれるかな

ふふ、喜んでもらえて良かった
来年はちゃんと当日に用意できるよう頑張るよ
だから――このリボンを結ぼう
これから一年、ささやかな縁が続きますように


風見・ケイ
【🌖⭐️】
(消えていったうさぎに、少しさみしくなってしまって)
……枝垂れ桜に何かを結わう、縁結びのお祭りだったよね
うん……一緒に結びたいな
なにかあったかな……ハンカチはちょっと短いし
ん、なになに?

(驚いた顔のまま何度か瞬きして)
(動かせるようになった瞳は、夏報さんの顔とチョコを往復して)
――ッ、……やっと声が出せるよ
まだドキドキしてる
ハートと星がいっぱいでかわいいなあ
ありがとう……嬉しい
(顔も胸も熱くなったまま、治まりそうもなく)

私も頑張るね……だから、また来年も
……約束
(リボンを解いて、代わりにハンカチで軽く結んで)
はい、夏報さん……それと、お手をどうぞ
今年もまた、大切な縁が続きますように



●結んでそれから、繋ぎ続けていく

 抱っこしていた質量が、不意に軽くなって花びらのように散る。
 悲鳴もなく、慌てるでもない。それはそれて、不思議な光景を猟兵たちは目撃する。花のように儚く、そして居なくなった生き物たちはまたどこかで発生して、傷ついた魂を癒そうと出てくるのだろうか。
 あのうさぎたちは結局――腹を、気分を少しでも満たしたのだろうか。
 語らずの獣は、どこまでも猟兵へ言葉を返すような仕草を見せることはなかった。一羽、二羽と群れと呼ぶべき白い毛玉は纏めてふわああ、とその場を去っていく。
 まるで地面から空へ、幻想の白と桃の花びらが舞い上がるようだった。
 風見・ケイの手元からも臥待・夏報の傍からも例外なく消えていく。
 少しだけ、寂しい気持ちが二人を包む。
 無害な存在だったがあれは紛れもなく影朧。
 影朧は、影朧だけれども――。
 ――むう、……しんみりした空気だ。
 何も言わなくても解る。だって、夏報も同意できるから。
「ああ、そうだ風見くん、お祭りだってさ」
 この場所はモフモフうさぎふれあいの丘ではない。
 うさぎはあくまで、強い力を持った影朧に引き寄せられた副産物。
「……枝垂れ桜に何かを結わう、縁結びのお祭りだったよね」
 ひらりとリボンを持って、歩いて行く街の人を視界の隅に見かけた気がするケイ。
「せっかくだから一緒に行こうよ」
「うん、……一緒に結びたいな」
 お祭りに必要なのは結ぶためのリボンや紐、とケイが自分の落ち物を探る。
「なにか持ってたかな……結ぶもの。ハンカチだとちょっと短いよね」
「あ、ねえねえちょうどいいのがあるよ」
 用意しなくちゃいけないみたいだけど、と夏報は前置き一つを口に出して。
「ん、なになに」
「じゃーーーん!」
 ばーんと見せる夏報の最終兵器。
 巾着絞りのラッピングが施された透明な袋が風に揺れる。
 透明な袋の中で主張するピンクのハートとホワイトの星型。
「――!」
「小さいけどね、クランチチョコの詰め合わせなんだけど」
 驚いた顔で何度か瞬きするケイに、ぼそぼそとつい小声気味になってしまう夏報は説明を続ける。
「3月は忙しくって渡せなかったから今日は丁度いいかなって。……ほら、特別なチョコの、お返し」
 夏報の顔と、チョコへ視線は行ったり来たり。
 ケイの驚きは、それほどまでに衝撃が強かったのだ。
「――ッ、はあ……やっと声が出せるよ。驚いた」
 大きめに深呼吸。
 ――まだドキドキしてるんだけど。
「ハートと星がいっぱいで、かわいいなあ」
「ハートは苺のドライフルーツ、星は卵ボーロを使ってて。わりと拘りがある仕様なんだけどね。ええと……受け取って、くれるかな」
 受けとらない、なんて選択肢はケイにはなかった。
 顔も胸もぼおうと熱を上げたまま。ドキドキの熱は収まらない、けれど。
 でも今は、これでいい。だからこそ、まずは言葉で、彼女への返事を返そう。
「ありがとう……嬉しいよ」
 頬を掻くように手を自身の髪に絡ませて、少しでも落ち着こうと試みるが夏報には通じない。
「ふふ、喜んで貰えて良かった。夏報さんもこれは鼻が高い!」
 満足げにハニカンだ笑みを見せて、小さくガッツポーズを。
「来年はちゃーんと当日に用意できるように頑張るよ!」
 当然のように来年もいられるように当たり前を願う。
「私も頑張るね……だから、また来年も」
 一緒に特別な日を過ごせるように。
「だから――このリボンを枝に結ぼう?」
「じゃあ、このハンカチで袋の封をすれば、いいね」
 しゅるりと外して、二人で見上げる枝垂れ桜の華はどれもがふっくらと暖かく。
 太陽の日差しを桃色に照らして、笑うように揺れている。
 手を繋いで一緒に結ぼう。
「はい、夏報さん……それと、お手をどうぞ」
 手を差し出せば、握り返される手。
 二人は空いた手で互いにリボンの耳を引いて、枝にきゅっと固く結う。
 綺麗なリボン結びの完成だ。
「今年もまた、大切な縁が続きますように」
「これから一位年、ささやかな縁が続きますように」
 結われたリボンが、ひらひらと春風に大きく揺れた。
 簡単には外れることのない。なにしろ二人で結んだのだから。
 強い絆を祝福する枝垂れた幻朧桜が、枝葉を揺らして祝福するだろう――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アカネ・リアーブル
リボンは、結べましたか?

お二人に話しかけましょう
良き縁を結ぶのはとても素晴らしいこと
ですが、ほどけてしまった縁を結び直すのは
新しく結ぶよりも難しいのです
生死を分かった後ならば尚更

鈴様を失ってお寂しいのは分かります
親しい人を失うのは半身が引き裂かれる思いがするもの
ですがそれに向き合い、手放さなければなりません
ほどけた縁をそれでもと掴んでいては
聡太様の手は新しい縁を結ぶことができないのですから

今の鈴様から手を離してくださいませ
そして本当の鈴様を見つけてください
聡太様が諦めず強く願えば
影朧桜は迷える魂を転生へと導き
新しい縁として結んでくださることでしょう
そのために微力ながらアカネもお力をお貸しします



●想い出は壊れない

「リボン、上手く結べそうですか?」
 背伸びをして、枝へ手を伸ばす少年に向けて声をかける。
 別の場所でリボンを結んで居たのを、アカネ・リアーブルだって見かけていた。
 だからこそ、ちょうどよいタイミングで声を掛けたのだ。
 困っている瞬間。声を掛けられてもおかしくない状態を見計らって。
「こんにちは?」
 ふふ、と笑いかければ星観・聡太は少し後ろ手に妹・鈴を隠そうとする。
『……こんにちは』
「良き縁を結ぶ、そういう日なのだと聞きました。とても素晴らしいお話だと、暖かな気持ちになったものです」
 なんて言いながら、アカネは聡太が手を伸ばしていた枝を軽く捕まえて。
 視線が、手が届く当たりまで引き寄せる。
『縁はね、簡単には切れないんだよ。ずっと一緒にいる限りはね』
「そうでしょうとも。一度ほどけてしまえば、"縁"を結い直すのは――新しく結ぶよりも難しいものです」
 さあ、結ぶと良いでしょう。
 アカネはそんな微笑みを称えながら、しかし核心に近いギリギリを攻める。
「生死を分かった後ならば、尚更……」

『……!!』

 兄の硬直するように固まる。だが、いやそれよりも。
 真っ先に態度で露骨に反応したのは、鈴の方だった。
 キツく睨む視線をアカネに向けて、しかし顔を隠す布を払いのけようともしない。
 妹の態度が、変わった。
 殺意と、恨み節。そんなモノを全身に向けられている。
『スゥ?』
『そーちゃん、このひと……きらい。向こうに行こう?』
 ぐいぐいと兄の服を引っ張って、嫌だという我儘を言いながら、しかし殺意を止めようとしない小さな彼女。
「アカネも、不思議な縁を結んだ人々をこれまで視てきたつもりです。鈴様を、失った事がおありなのではないですか?」
 その方は、"本当に貴方の妹様"なのですか?
『どうして、……そう、思うの?』
「親しい人、一番身近な存在を失うのは、半身が引き裂かれる思いがするもの」
 胸を押さえて、我がことのように語る口ぶりに聡太は自然と惹きつけられるようだった。妹の言葉を聞き入れず、大人の話を聞こうとする姿勢を見せてくる。
「ですがそれに正しく向き合い、――手放さなければなりません」
 結び直す、結び続ける日に語るのはとても酷な話。
「ほどけた縁をそれでもと結び続けていては聡太様の手は、新しい縁を結ぶことが出来ないのですから」
『そーちゃん!』
 ぐい、と強く手を引っ張る鈴は頑なに移る。
 聡太でさえ、そう思った。何かを焦っている――もしくは、話しかけてきた年上の人たちに思う部分を感じるのか。
「聡太様、今の鈴様は……あなた様の知る方ですか?もし異なるのならば手を離してくださいませ」
 本当の鈴の手を握るべきだとアカネは諭す。
「別れて寂しい、悲しいと強く心が思うなら……幻朧桜は優しい対処をしてくれるのでしょう?」
 迷える魂は元の身体に宿り、元の生活をするべきだろうか?
 おまけを引き連れた今の姿を、妹は真実喜び続けられるだろうか?
「妹様。あなた様も、"兄に対して望むことはないのですか"?」
 猟兵の前から慌てて逃げようとする、殺意溢れたあなたではなく。
 押し込められた、本来の貴方へ。
『スゥはね、……そーちゃん、前を向いていて、欲しいよ』
 新しい縁を結ぶ為に、この手を離して、いいんだよ。
「そのために、微力ながらアカネもお力をお貸ししますから」
 揺れ動く少年心は難しい。
 アカネの前から、踵を返すように彼は妹の手を引いて逃げるように立ち去った。彼女の言葉を簡単に飲み込んでしまえば――親愛なる家族との別れ、そのカウントダウンが聞こえるような気がしたからだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カイム・クローバー
那桜とは別れて動く。彼女は【覚悟】を俺に示してる。後は俺が那桜の活躍、そして結果を見届けるだけだ。――手助けは必要ないかもしれないが、同時にこれは俺が請けた依頼でね。

俺の方から兄妹に接触する気は無い。少し離れた位置で桜の幹に背を預け、腕を組んで那桜の説得の様子を伺う。
妹の――星観・鈴の歪な笑みが見える。狂人のそれにも見えるし、過去からやって来る化物らしい、とも言える。
聡太の方も薄々は気付いてるんだろう。困惑の表情。ああ…そうだよな。
(舞う桜を見上げ)
こんな話、信じたくはないよな。

きっと俺達に出来るのは乗っ取られた鈴の魂を救ってやる事だけだ。
恨んでくれて構わないぜ。――悪役は慣れてるさ。



●依頼遂行中

 義妹と一度別れて、カイム・クローバーは一人時間を過ごす。
 ――彼女が見せた覚悟は、確かに俺に示された。
 活躍、行動。その結果。
 見届けるべきだと、カイム自身が答えを出しているから。
 先駆けは彼女こそが行うべき。納得して、一度身を引いている。
 ――本当に手助けは、必要ないかもしれない。
 誰と逢うのか、彼女だって分かっている。
 だからこそ、接触も、説得も一人で行うべきだとさえ、思う。
 ――でも同時にこれは俺が請けた依頼でね。
 護衛。待機。行く末を見届ける一つの誓い。
 ひとまずの、遠目からの様子見を。

 薄っすらと目を細め、義妹が歩いていった先を眺めながら思う。
 ――俺の方から、兄妹に接触する気は無い。
 だからこそ、この距離でいい。
 他の猟兵が放ったユーベルコードの鳥の声が囀り、木霊する"此処に居る"と監視している。何処に居るという座標の目印の声を頼りにしていれば、"標的"を見失うこともない。ならば、なにも問題ないはずだ。
 桜の幹に背を預け、一番間近で枝垂れ桜を見上げながら腕を組み、状況の公転まで様子見の姿勢をカイムは決して崩すつもりもなかった。
 ――妹の、星観・鈴の歪な笑みが見える。
 カイムの居場所からは全く隠されていない歪んだ笑みが、見えた。
 あれは隠し事がバレず作戦の遂行を期待する顔。悪い子供がする顔だ。
 考えている事が現在の状態と全く関係ないが、しかし順調だという時に見せる貌。
 ――どう視ても、狂人のそれ。
 ――死から戻ってきた幼子が兄に隠してする顔じゃない。
 過去からやってきた化物の方が多く、彼女の側面に出ているのだろう。
 縁を結び、これからを期待し夢を見れる最高の状態から自らの手で徹底的に"壊す"事にワクワクし期待するかのうよう。
 しあわせから不幸へ落とされるならば、人の心をエグいほどに磨り減るもの。
 一方兄、星観・聡太の方を見れば時折"違う"という顔をする。
 ――聡太の方も、薄々気がついているんだろう。
 ――本物の妹が行ってきた相槌や、仕草との誤差に困惑している。
 ――ああ、……そうだよな。
 ぶわああ、と逆巻く風がカイムの髪を、桜を舞い上げる。
 自然と空を見上げる形になって、声は呟くに下る。
「こんな話、信じたくないよな」
 隣に居る妹が"妹じゃないモノになっている"かもしれないなんて。
 幼心にも、兄妹の絆にも、どちらにせよ信じたくないという枷を嵌めてはずだ。

 きっと――とカイムは風の音を聞きながら思う。
 ――俺達に出来るコトとはすなわち。
 ――乗っ取られ影になり変わられそうな鈴の魂を救ってやること。
 救うことで、還らせる事になる。つらい別れが、もう一度引き起こるワケだ。
 兄からしたら、気分がいいモンとはいえないだろう、とカイムは頭をわずかにゆるりと揺らす。もう一度お別れを。大事な人相手なら、当然のことだ。
 何も想うなと言う方が、無理というもの。
「――恨んでくれて構わないぜ」
 必要以上の恨み節も、受付中。
 色んな仕事を請けてきたんだ――悪役は、慣れてるさ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

幽遠・那桜
……あ、接触する前に、最初に、お話しておきたい。
フィッダさん、フィッダさん。
あのね、つかまえるチャンス、くれて……ありがとう。
私、ちゃんと言ってくるから。
私の気持ちを。
行ってきます、です!

それを伝えたら、次は説得。
でも……好きな人を蘇らせたい気持ちなんて、痛いほど分かります。
どう、お話しましょう。

……お手伝い、しますよ。で、良いかな。落ち着いて話しかけるよ。
私は、幽遠那桜。
ねぇ、精霊さん、風の精霊さん。今は、今だけは、私に応えて。
UCで、自分に風属性攻撃……といっても、空中浮遊するためだけだけど。

……大切な人と、もう一度会いたい気持ち。大丈夫、私も分かるよ。
私も元の人に会えるなら、どれだけ嬉しいかわからない。
でも……でもね、全く同じ人にはならないと思うんだ。

……逃げないで。前を向こう。
前を向く為に時間はかかってもいい。でも、目を逸らさないで。
(それは、私自身にも言ってるような感じがするけど)

私はあなた達を助けたい。このまま、あなた達を不幸にしたくない。
しあわせ、一緒に探しましょう?



●あいにきたよ

 義兄から離れ、兄妹のもとへ意を決して――。
 ――……あ。
 その前に幽遠・那桜は見つける。当たり障りなく桜の中に紛れ込む、桜の花びらを頭に載せたバス停のヤドリガミの姿を。
「フィッダさん、フィッダさん!」
「ん?」
 呼ばれて、バス停の少年は顔を上げる。
 密かに祭りに参加するでもなく、桜の花びらにぼんやりと埋もれていた。
「最初に、お話しておきたくて!あのね、捕まえるチャンス、くれて……ありがとう、なのです、よ!」
「那桜と約束したからな。かくれんぼ中の相手を見つけるッて」
 鼻をふすふすと鳴らして、しかし満足気に言うフィッダ。
「……一緒に捕まえる事たァ出来ないけどさ」
 那桜にも頼れる人がいるようだから、俺様がいなくても大丈夫だろう。
 寂しげに笑う少年は、それでも良かったと応援の気持ちを笑顔に添えた。
「ううん、私、ちゃんと言ってくるから」
 大丈夫だよ、と那桜は想いを受け取って返答する。
「私の気持ちを、いーっぱい、言ってくるからね!」
「行ッて来い那桜、――その終点行きは、お前が決着つけてくるべきことなのさ」
「はい!行ってきます、です!」
 だから、今度こそ言葉を届けに行かなくちゃ。
 言葉は、相手に伝えられるんだ。
 ――だから次は、あの人へ説得を。

 ――でも、……好きな人を蘇らせたい気持ちなんて。
 胸が痛くなるほど、今になると分かるのだ。
 戻ってきてくるなら、那桜だって願いの言葉を口にするだろう。
 ――どう、お話しましょう。
 顔を上げた那桜の視線の先に、話を聞いていた兄妹の姿が見える。
 人目を気にするようにする兄の姿は、疑心暗鬼の様相さえ見て取れた。
「……手、届かないですか。お手伝い、しますよ」
 ――で、良いだろうか。
 極力落ち着いて話しかける事を徹底した。
 那桜の声に、星観・聡太が振り向く。彼はふと、目を丸くして答える。
『俺より小さなキミが、届くようには見えないけど』
「いいえ、こういうのは得意なのです。私は、幽遠・那桜――ねえ、精霊さん、風の精霊さん?」
 ――今は、今だけは私にどうか応えて欲しい。
 この場で花を揺らす精霊さんたち。
 どうかからかわないで、協力してほしいのです。
 手を広げた那桜の身体は精霊輪舞の誘い(インヴィテーションエレメンティア)によって、ふわり、と持ち上がる。
 風属性の力に手助けされて、空中浮遊のようにをふわりと浮かんだ霞桜の精は、聡太が手を伸ばしていた枝を掴む。
「ね?」
『わあ……!』
 本当に手を届かせた。聡太の歓心をあらわにした声と、彼の手元で揺れるリボン。
 それから、何も言わない妹・鈴の気配が実に歪な様子に映る。
「大切な人と……結ぶのですよね、この枝なら、高い場所に結ぶも同じなのですよ」
『……そんな高いところに結ばなくても良いんじゃない?そーちゃん』
『え?だってスゥが……』
『低いところだって良いんじゃない?どこだっておんなじよ!』
 鈴が猟兵に世話を焼かれるのを嫌がるように、兄の手を引く。
 此処もダメだ、向こうへ行こうよ、と。
 二人じゃなきゃいや。結ぶなら、二人がいいからと。
 誰にも視られない場所を選んで指出した。
「私はどちらでも構わないですけど……大切な人と、もう一度会いたい気持ち。大丈夫、私も分かるから」
『那桜ちゃん、私を殺したのにそういう言葉が言えるんだ。へー♪』
『……スゥ?』
「……"お姉ちゃん"。私も元の人に会えるなら、どれだけ嬉しいか分からないよ。でも、……でもね」
 全く同じ人が、同じ想いを持って戻ってくることは、無いと思うんだ。
 それは完璧に同一の存在ではない。別の人だよ。
 聡太が困惑した顔をしている。妹に対して、姉だというこの子は一体……。
「そろそろ、気がついて居るんでしょう?……逃げないで、前を向こう?」
 妹の中に"別人"がいるのだと。
 妹よりも色濃く顔をのぞかせる"影朧"の存在を認知して?
『……スゥは、でも、スゥは時々、顔を覗かせるんだよ』
「だとしても、です。前を向く為の時間は掛かっていい。でも、目を逸らしたらダメなのです」
 ――これは、私自身にも言えるような気がするけど。
「本当の子が、時々な事がおかしいのですよ。私はあなた達を助けたい」
 このまま、あなた達を不幸の縁を結んで居て欲しくない。
 喚ぶ原因になったものがナイフなら、絆は一度絶つほうが自然でも在る。
「しあわせ、一緒に探しましょう?」
 だから、その手を離して――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『闇に紛れる宵の刃『ナキ』』

POW   :    ねぇ、怖いでしょ?
【恨みと羨望と殺意】を籠めた【ナイフ】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【生きる意志や理由、理性】のみを攻撃する。
SPD   :    かくれんぼしよっか♪
戦場全体に、【暗闇の中、見えないナイフで攻撃される空間】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
WIZ   :    だから、死んでよ!
【自身を守護する死神】の霊を召喚する。これは【魂を削り取る鎌】や【意識を奪い恐怖と絶望を与える黒霧】で攻撃する能力を持つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は幽遠・那桜です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ナイフの矛先

 聡太は、悩み――妹へ視線を送る。
 それから桜を見上げ、猟兵たちを見る。
 桜の影に隠れていたってお見通し。此方を視ているのでしょう?
 他の猟兵たちも、聡太へ問いかけ声を掛けた――その手を離して、新しい縁を掴むのもいいだろう、と。
『にーちゃん、スゥにも悪いことをしていたのかな。ゴメンな……スゥ。ずっと居たいと願ったばかりに』
『……ううん、そーちゃんは、寂しかった、だけでしょう?』
 結ぼうとしていたリボンを強い風の中に放り投げ、放棄する。
 ひらりと風に流されていったリボンがどこかへ飛んでいく。
 結ぶ縁の記念物を、放棄する。
『……そう。そうなのね。じゃあ、私が全部全部斬ってあげちゃおうかしら♪』
 作戦は"兄"によって壊された。
 じゃあ、この体(妹)を完全に奪ってしまって、いいのよね。
『まずはそーちゃんから殺すね。そして、私は前より強くなったから、可愛いかわいい私の"妹"も、殺すね♪』
『手を貸そうとしたお人好しの皆さんも、みんな順番に』
 世界を恨む影朧の魂が、大事に持ち歩いていた反魂ナイフを手に、嗤う。
 鈴は手を離した兄さえ恨む。しあわせを最高に感じただろう時に壊すつもりだったのに。此処でリボンを結んで、縁を結んで温かい気持ちになった人みんな殺して、嗤うつもりだったのに。
 取り憑いた影朧の魂――櫻葉・那紀の側面が殺人鬼な気配が色濃く顔を覗かせる。
『最高で最悪の瞬間が、台無しじゃない?』

『……妹を、スゥを助けてくれますか?』
 聡太は、心を決めて戦う力を持った持った者へ願うだろう。
『そーちゃんのお願いを、聞いてくれますか?』
 何処からともなく聞こえる妹・鈴の声。
 彼女もまた、手助けを求めて、声を投げかける。
 猟兵の説得を受けた事で蘇った魂の歪な融合は解除され、魂を分離させることに成功したらしい。妹の魂は兄の為に還る事を望んでいて、兄は妹として見送るつもりで気持ちを固めた。

 蘇って、戻ってきた魂は二つ、ただし身体はひとつきり。
 最初の犠牲者として狙われるのは"聡太"。
 反魂ナイフ最初の狙いは、既に定められている。
 那紀を停めなければ、――誰もしあわせの道を歩けもしないだろう。
ヴィクター・グレイン
「お前ら!食った分働いてもらうぞ!」
そう言うといつの間に地面に潜ませていた三体の影が地上に顕現する。
それは対象を囲む様に三角形を描く。
『カカカッ、Khoiつもエサか?』
(グルルル…)
[ハカイ…スル]
ヴィクターをよく知らない者達からすれば、突然地面からオブリビオンが出ると勘違いするだろう。
「目には目を歯には歯を…だ。あの世に戻りな。」
三体の影から放たれる雷撃、鎌鼬、レーザーで塵も残さず討ち滅ぼす。

最後に残ったナイフを拾って一言。
「小僧、どこで手に入れた?」


アイクル・エフジェイコペン(サポート)
猫っぽい舌足らず口調にゃ。こんにゃ感じで、可能なら末尾だけじゃにゃくて途中にも入れてほしいにゃ。めんどいならいいけど。
ちなみに機嫌悪い時は「に゛ゃ」って濁点入る感じにゃ。

正直よくわかんにゃいけどなんとなく気に入らない顔してるからぶっ●すに゛ゃ。
パワーイズジャスティス。真正面から行っておもいっきり攻撃するのみにゃ。ユーベルコードは何使ってもいいにゃ。

基本はむちゃくちゃ猫かぶってかわいい子演じてるものだから、なるべくスマートに『せーとーはなれーりぃ(正統派なレディ?)』的な感じで戦おうとするけど、むちゃくちゃ怒ったら地が出てむちゃくちゃ口が悪くなる。
「ぶっ●おおおおおおす!●ぁぁぁぁぁぁっく!!」



●死を先に視ただろう?

『ねえ?怖いでしょ?』
 このナイフの鋭さを見て。死ぬのは。怖いでしょ。
 櫻葉・那紀は、嗤う。怖いなら怯えたらいいよ。
『そーちゃん、今から死ぬんだよ』
 妹・鈴ではない。完全に別の少女の顔が、ニタァと嗤う。
「あーあー、聞こにゃいに"ゃあ!」
 愛用の巨大斧を引っ提げて、アイクル・エフジェイコペン(クロスオーバー三代目・f36327)が鳴き散らす。
 ドワーフ故にバトルアックスは身長よりも断然大きい。
 しかしアイクルは力持ち。そんな事はお構いなしだ。
「何が怖いっていうに"ゃ!やかましいに"ゃ!」
 正直この場で何が起こっていて、これがどういう状況なのかを彼女は理解していないが、一方的に殺戮を行おうとしているのは分かった。
 むしろそれだけわかれば十分だと言わんばかりに、ユーベルコードを全力で、問答無用に開放する。アイクルの身長の二倍――枝垂れ桜の咲く丘がゴゴゴと盛り上がり、大地の巨人が立ち上がった。
 アースジャイアントの斧は、アイクルの何よりも巨大。
「――ぶっとばぁすにゃああああああ!!」
 パワーイズジャスティス。桜の花弁が散るように、儚く散るのも良いではないか。
 アイクルはそんな斧の振りおろし方で、那紀へと迫る。
 アースジャイアントはそんなアイクルの動きをトレースし、連撃のように攻撃を振り下ろす。
 聡太への攻撃を、そんな一人と一つに邪魔されて、ナイフの鋒は届かない。
『乱暴ね』
 恨みと羨望と殺意がごちゃ混ぜなナイフで巨大斧なんて、受けきれない。
 肉体ではなく精神を、生きる意志や理由、理性を斬るにも、アイクルの攻撃は攻撃一辺倒。真正面から思いっきり攻め立てて、攻め立て続ける。
「"せーとーはなれーりぃ"は、こんにゃところにいないのにゃああああ!!」
 当然猫を被った可愛い子を演じる自分のこと――ではない。
 アイクルにもわかったのだ。
 ナイフを持つ彼女は――なるべくスマートに魅せようとする殺人者なのだと。
「――っころぉおおおおおおおす!!」
 叫びまくる可愛い娘に翻弄されて、防戦一方を余儀なくされる。
 もう一人の猟兵が様子を見みているなんてことも――脇に置いて置かなければならないほどに。

 殺人鬼の足元がふらついた。
 猛攻の雨を掻い潜り、身を捩るだろうこの隙を待っていた。

「――お前ら!」
 ヴィクター・グレインは喚ぶ。
 自身の声に従う者共へ告ぐ。
「喰った分働いてもらうぞ!」
 ぞぞぞ、といつの間に地面に潜ませていた三体の影が駆けていく。
 疾走る音は風を咲くように迅速に。
 那紀を囲むように三角形を描き配置完了。
 地上へと顕現し、三者三様の反応を返してくる。
『カカカッ、Khoiつもエサか?』
 (グルルル……)
 夜咫鴉は誰よりも血気盛んに腹に響く声を垂れ流し、黒猟狼の唸り声は舌舐めずりする音と共に低く鳴る。
[ハカイ……スル]
 闇人からする声も、喰らった分の働きを此処に示さんとする意欲が合った。
『なぁに、これ……!?』
 流石の那紀も、この状況には混乱する。
 ナイフを構え、自身を守護する死神と共に三者を目視していても、これは影朧――いや、オブリビオンにしか見えない。
 ヴィクターをよく知らない者たちからすれば突然地面から、攻撃的な敵が追加されたように見えたはず。
 ――しかし、真実はその逆だ。
「それ以上前に出るな小僧」
 魂を削り取る鎌を持つ死神に、どの存在を攻撃させようか迷う那紀に対し、ヴィクターは何処までも冷静。
『え、でも……』
「目には目を、歯には歯を……という。さあ、あの世に戻りな」
 言葉少なにそれ以上を男は語らない。
 彼女は今や、攻撃的な殺人鬼。
 過去の残影、一般人の身体を借りて暴れる骸でしかないのだと。
 語らずとも当然事と、見送るべしと手を掲げる。
 三体の影から放たれる雷撃は、耳を劈く高音を。
 鎌鼬は怒涛の勢いで吹き荒れて、レーザーは身体そのものを高音で焼く。
 同時に受けてみろ、塵も残さず滅びるだけだ。
『これは、貴方の呪いの波動だっていうのよね。重くて、暗くて……』
 しっとりと侵食するような三種の呪物(アビス・オ・ブリビオン)。
「……簡単に滅びようとしないか」
 固執するのは、彼女の心に深く染み付いた――恨みや怒り。
 身体が焼けて、無くなろうと不安定な思いを"此処に"縛り付けて、反魂ナイフをただ握る。
「小僧、どこで手に入れた?」
 あのナイフの出どころは何処なのか。
 ヴィクターは問う。
 しかし、少年は頭を横に振る。
『……わからないよ。突然送られてきたんだ。でも、もしかしたら亡くした誰かが居る事を識る誰かじゃないかな』
 それを識るのは誰だというのか。
 謎が謎を喚ぶ反魂ナイフは鈍く呪いの黒煙を拭き上げる。
 その刃は、那紀の思う恐怖と絶望を絶つ。
 召喚した死神の刃と同等の重さを載せて――彼女は魂を、絶たんと嗤うのみ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鹿村・トーゴ
さてね
憑いた影朧も兄妹もみんなまだ子供ばっかりてのが哀しいねェ
けど兄ちゃん
あんたは間違った縁に気付いた
聡い子だね
祈ってな?妹や影朧の来世
それにあんたの幸先もな
縁結びには良い星巡りなんだろ

聡太を【かばい】正面から敵UCのナイフの動きを【追跡】し【野生の勘と武器受け】で弾き直の被弾を躱し
一撃受けても意思や理性より修業で体に叩き込まれた反応で【暗殺】しようと手裏剣を【念動力で投擲】し命中を狙いUCへ繋げる

恨みや殺意で生きる意思を殺ぐ、かあ。懐かしーけどねえ?
でもそんな凶刃、若い娘が握るもんじゃないねェ…

UCに追随(外れても)【忍び足】で駆けて接近
擦れ違い際にナイフの手、首、腿を斬り裂く

アドリブ可



●桜に願え

 ――さーて、どうしたもんかね。
 頭の後ろで手を組む鹿村・トーゴ。
「そっちのあんたは、きっと俺より幼いんだろ?」
 ナイフを片手に嗤う顔は、殺す事に恐怖を感じない存在のそれだ。
 殺した経験は、きっと一度や二度じゃない。
『どうかな。もしかして、死ぬかも、って思ったら怖くなったの?』
「全然?」
 トーゴはどこ吹く風。
 返答が勝ち誇る声。
 殺す、ともう心に決めた声だとも思う。
 ――それほどまでに、恨みは強いのか。
「あーあ。憑いた影朧の存在も、兄妹もみーんな子供ばっかりってのは、悲しいねぇ。そうは思わないか?」
 返答はない。だが、兄妹の年齢はトーゴより幼い。
 そしてきっと、取り憑いた存在もまた、トーゴより幼い。
「けどなあ、兄ちゃん聡い子だね」
 お前は気がついたのだろう。
 "違う"と。気づくのが遅ければ、桜の下で血溜まりを広げていたのはきっと少年の方だ。
 ナイフの狂気から目をそらさずに、しかし決して逃げてはいけない。
「後ろで祈ってな?妹や、あわよくば誘われ憑いた影朧の来世とやらを」
『……うん』
「それに、あんたの幸先もな?縁結びには良い星巡りなんだろ?」
 縁を結ぶ。新しい縁を紡ぐ。
 今日はその、祭事の日――。

『ねえ、話は終わった?じゃあ、もう殺していいかな♪』
 影朧――櫻葉・那紀の狙いは、どこまでも聡太に絞られる。
 此処で殺せれば、誰よりも絶望する存在。
「させねぇって!」
 聡太をかばい、対峙するトーゴは正面から恨みと羨望、それから重度の殺意が載ったナイフの煌めきを、クナイで受ける。
 動きを追跡し必ず先端を受けられるように勘を働けせて――構え、立ち向かう。
『どうしてよ。痛いのなんて一瞬よ?』
 那紀は自分の胸を触って、とんとん、と叩く。
 此処を壊せば、直ぐなんだから。
「被弾するだけでやべーってわかんだよ!」
『へえ♪じゃあ、痛がってみればいいんじゃない?』
 くす、と嗤う少女は素早く羅刹の予想を掻い潜り――ナイフはトーゴの腕を掠った。肉体は決して傷ついていない。
 だが、信念が、理性が傷つけられた、……ような、胸の疼き。
 一撃を受けてもトーゴは臨戦態勢を崩さなかった。
 むしろその逆、追い詰められたと身体は反応し、暗殺の術を――棒手裏剣に手を伸ばし、ぶん投げる。
 鋭く、疾く。
 素早く投げた手裏剣が、躱されたとしても構わなかった。
『ちょっと。何処に投げてる、の……!?』
 くい、と人差し指を曲げたトーゴの指の動きに合わせて、何かが動く気配。
「“降りて隠形呼ぶ細声の糸を辿れや爪月の”……追って貫け隠形鬼」
 念動力を込めて投擲された棒手裏剣が当たるなら、反撃の糸口はあるはずだから。
 毒を纏う幽鬼を構える地味ィな毒針に降ろし、惹きつけている。
 当たればお前の不利は以降にずっと約束される。
「恨みや殺意で生きる意思を殺ぐ、かあ。やるねえ、懐かしーけどねえ?」
『あら、全然余裕そう……』
「そんな凶刃、若い娘がおいそれと握るもんじゃないねェ……」
 那紀は躱すように逃げてみせたが、しかし――トーゴは諦めない。
 手裏剣に追従するように忍び足で駆けて、改めて接近。
「んで、殺す殺すと口に出していうのは半人前だな」
 勘付かれる前に、暗殺してやるくらいしないとな。
 すれ違いざまに、トーゴはナイフを持つ手と腿を傷つける。
『……ッ』
 チクリと痛みが、彼女を襲う。トーゴの攻撃は首には――思うように届かせきれなかったが、ダメージはじわじわと、その身に蓄積されていくだろう。
 毒から始まる悪寒と感じて震えると良い。

 お前の刃は誰にも届かず。
 この場の殺されるのは――唯一、自分だけなのだと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

臥待・夏報
【🌖⭐️】
(繋いだ手を引かれて)
か、かざみくん?
今日は大胆だな……(って、これで敵の気を引くためか)
もう……あんまり無茶はしないでね

手を繋いだまま背中合わせになって
こうして触れていれば少しは痛みも和らぐはず
たちの悪い攻撃だな……倒すことよりも、耐えきることが優先しなきゃ
風見くん、大丈夫?

(空いた左手のひらでナイフを受けて、掴む)
――僕は、だいじょうぶ
よく知ってる
生きる理由なんてなくたって……人は生きていけるし、死に損ったら死ねないことを

下らないな
僕がこの子と一緒にいるのは、自分が生きていくためじゃないよ
お前の言う幸せってのは他人と自分を比べるための物差しか?
だったら失せろ
僕らに……近寄るな!


風見・ケイ
【🌖⭐️】
名残惜しいけどここまでか
(影朧の気を惹くために、繋いだ手を見せつけて)
ほんとうに幸せな時間だった
(私へ意識を向けさせるために、大きな声で)

(UDC化している右腕で鎌を受け止める)
死神なら何度も相手したよ
望んだこともある……無駄だったけど

右手をかざし黒霧を吸い込めば
遠のく意識を激痛によって引き戻せる
その痛みも、左手と背中の温もりがあるから
――だいじょうぶ
まだ、この幸せを、手離せ、ない

(黒霧を吸い込んだままでは、夏報を狙うナイフまで対応できない)
夏報さん!
うん……私たちは、よく知ってる

吸い込んだ黒霧をお返しに吐き出して
限界が近いけどまだ立っていられる
繋いだままの手と、君の言葉のおかげで



●絶対離さないから

 痛みを受けて、それでも尚、娘は嗤う顔を向ける。
『この場で一番しあわせそうなのは、貴方達ね?』
 ナイフを向けるべきはきっとそうよ。
 手を繋いだ二人の猟兵へ、櫻葉・那紀は標的の照準をずらした。
 あの"兄"よりも、殺すべきモノを見つけたと。にたり、と嗤う。
「……名残惜しいけど、此処までだね」
 風見・ケイは"殺意"が向いた娘に向けて、臥待・夏報と手を繋いだ手を持ち上げて、見せつける。
「か、かざみくん?」
 ――今日は大胆だな……。
 引かれた手に驚いたが、ケイの顔は柔らかさと緊張を貼り付けている。
「うん。ほんとうにしあわせな時間だよ!」
 ――って、これ敵の注意を引こうとしたんだね。
『へえ、いいね。壊しがいがある♪逃げちゃダメだよ?』
「当然」
 ケイは自身へ意識を向けさせるために、大声を張った。
 効果的に那紀の殺意が向いたなら、緊張気味に手を強く握る。
「もう……あんまり無茶はしないでね」
 握り返して置いたけれど、そのことへの返事は風の向こうへ。

『じゃあ、先に死ぬといいんじゃない?』
 自身を守護する死神を那紀は身体に纏うように、予備寄せる。
 刃を持つ死神、視覚的にも実体化している化け物が、大きな大鎌を、狙えと言わんばかりに声を張り上げたケイへ。
 振り上げられ刃。振り下ろされた刃は――ガッ、と硬質気味な音に阻まれる。
 UDC化している右腕で鎌を受け止めて、ポツリと言葉を放る。
「死神なら何度も相手したよ。望んだこともある……無駄だったけど」
 魂をどんなに深く斬りつける刃でも、全てを溶かしきられたことはない。
 此処にケイが立つのだから、これまでどんな死神も、魂狩のしごとを行う事は叶わなかった。
『そう♪刃だけが死神だと思う?』
「な、に……」
 別のことが発生するのだと、改めて右手をかざした瞬間にもくもくと溢れるように湧いてくる黒煙を見た。
『それは絶望と恐怖を与えるもの。しあわせをいの一番で壊すもの』
 視界が揺らいだ。恐怖と絶望が内側を焼くような激痛が、一気に身体を駆けていく。
「……っ!」
 繋いだ手は、離さないまま――背中合わせになって夏報は背中に触れる。
 此処にずっといるのだと、ピタリと背中越しに体温を預けて。
 ――こうして触れていたら。
 ――少しは痛みも和らぐはず。
「性質(たち)の悪い攻撃だなあ……斃すことよりも、精神から殺るって?」
 倒すことよりも、優先するべきは耐えきることだ。
「風見くん、大丈夫?」
「――だいじょうぶ」
 暖かい。ケイが立ち直るには、十分な暖かさが背中に、手に、感じられる。
 痛みは現実で、繋いだままの左手と。
 ぬくもりがあるから、膝を折るまでには至らない。
 静かに発動する力、眠れぬ夜の鼓動(デザイア・アンド・ペイン)。
 落ち着いた瞳は輝きを得るだろう――治癒を夢に描くと良い。
『あれ?強いんだ。へえー』
 死神の向こうから、那紀がゆっくり歩いてくる。しぶとく耐えるケイの姿に、くすくすと少女らしからぬ殺人鬼の気配を上乗せていて。
 嗤う。笑う。嘲笑う。
 その状態なら、すぐに動くことは出来ないでしょう?
 誰もがそう、理解出来る狂気の瞳が、輝いていた。
『大変ね。護りたいものを背中に守ったつもり?しあわせの象徴なのかしら?』
 ケイが見たのは羨望と殺意の乗ったナイフを手に、背中に隠された夏報を狙っていたこと。
 ――黒煙を吸い込んだままでは!
 ――ナイフまで対処出来ない……。
「夏報さん!」
「――僕は、だいじょうぶ」
 夏報の空いた左手は、ナイフを受けて、掴んでいた。
 恐れずに、肉体よりも内側を怖さんとする狂気を、受けた。
 生きる理由や、理性に刃の鋭さが――届くような、薄ら寒さ。
『それでも生きたいんだ?死んでもいいじゃない。一緒に死ねば、向こうでも一緒かも知れないし』
 小さな子供の姿で、凶悪な威力でぐりぐりと腕を力任せに振るおうとする影朧。
 破滅の道も一人じゃなければ怖くないだろう?と誘う。
「よく知ってる」
 生きる理由なんてなくたって。
 生きる目標がなくたって。
「人は生きていけるよ」
 大事なものを喪っても。
 大事なものに疵付けられても。
「死に損ったら死ねないことも」
「うん……私達は、よく知ってる」
 識ってる。識り過ぎている。
 今を生きる自分たちが、亡者よりも寄っぽと知っているのだ。
「まだ、……この"しあわせ"を、手離せ、ない」
 吸い込んだ黒霧を、お返しとばかりの言葉を込めて恐怖も絶望もいっぺんに吐き出し――吹きかける。
 恐怖と絶望を、自分も浴びて意識を遠くに投げればいい。
 ――私の内側には"しあわせ"がいるんだから。
 痛みの炎に焚べてはやらない。
『……っ!……え、ええ?しあわせだから大丈夫って?』
 死神の黒煙を浴びせかけられて、意識を飛ばしかけた娘は次の策を言葉に乗せる。
 "じゃあ次の方法、どうしようかしら"。
 那紀は考える。傷つける方法は内側ではなく、外傷ただ一つに絞るのも良い。
「はぁ……下らないな、ほんとうに」
 ため息をつきたくもなる。
「僕がこの子と一緒にいるのは、自分が生きていくためじゃないよ」
「お前の言う"しあわせ"ってのは他人と自分を比べるための物差しか?」
「だったら失せろ」
 生理的嫌悪は此処に極まる。ふざけるな。
「僕らに……近寄るな!」
 少年と娼婦の二元論(アニマ・デンタータ)――夏報の絶叫は、身体ではなく心に届かせる。
 那紀の価値観を、声の限りに拒絶する!
 此処に桜が咲くように。風が桜の花びらを運ぶように。
 きみが考える世界そのものを、押し付ける権利なんてナイフでどんなに脅しても。
 ありはしないんだから。
 ――"僕らの世界"に入り込むな!
 こちらにやったことを、やり返す衝撃をきみにあたえよう。
 ほんの少しでも、気絶して、大人しくするんだな!

 ――限界は、近いけど、私はまだ、立っていられる。
 繋いだままの手。離れる事無く繋いだままの絆の印。
 ――君の言葉の、おかげで。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カイム・クローバー
――ああ、必ず願いを聞いてやる。必ず助けてやる。
その為に俺は此処に来た。果たすぜ、アンタら兄妹の願い。この仕事、便利屋Black Jackが引き受けた。

聡太の正面に立ち、魔剣で攻撃を凌ぐ。
一息付く間に那紀に声を掛ける。
…アンタ、勘違いしてるぜ。俺は別にお人好しってワケじゃない。只の善意で命を張るほど、人間出来ちゃいない。俺が此処に来た理由は二つ――アンタの妹の想いが見たかったから。それともう一つ。報酬が良かったからさ。
(左の掌に白明珠。UCに必要な【幸運】)

UCを発動させ、最も最適な幸運を創造する。
内容は妹、星観・鈴を朧げに見える姿で聡太の前に顕現させる。肉体は取られてるから触れ合えないが、互いに声を届かせる位はできる。
那紀を倒せば、ほんの一瞬だが触れ合う事も出来る……かもしれない。
15歳で親も居ない。視線だけ後ろに向けよう。
まだ子供だろ?泣いても構わねぇよ。――俺は笑わないさ。

さて。アンタのお望みの幸せをぶち壊す瞬間が来たワケだが。
(笑み)
俺を目の前にそれが出来るかどうか。やってみな?


幽遠・那桜
WIZ
うん、聡太さんも助けて、鈴さんもちゃんと還します。
そして、お姉ちゃんも。私、わがままですから。

強くなったのはお姉ちゃんだけじゃない。
真の姿を解放する!

『蝶凌彩扇』の「浄化」の風「属性攻撃」で魔を祓う嵐を死神へ向ける。
さらに『Peacemaker』で光「属性攻撃」。銃にして弾丸を撃ち放つよ。
目眩しにもなるからね。
別の世界で得た武器と、私の過去を知った上でお兄ちゃんになってくれた人から貰ったもの。

それと『結晶石』を媒介に「限界突破」した氷「属性攻撃の全力魔法」!
壁を作って、聡太さんへ向かう刃を止める!
過去はあれど、今を生きてると気付かせてくれた人から貰ったもの。

まだ攻撃するなら、真の姿を解除。
「激痛耐性」で私自身がナイフを受ける。
……お姉ちゃん、聞いて?
お姉ちゃんのこと、忘れてごめんなさい。
殺し続けることを止められなくてごめんなさい。
助けてくれていたのに、嫌ってごめんなさい。

ずっと、私のそばに居てくれて、ありがとう。

UC発動。次の生は幸せになるように。
那紀お姉ちゃん。ずーっと、大好き。



●二度咲き

 悲しそうな顔だ。辛そうな顔だ。
 カイム・クローバー。
「ああ、必ず願いを聞いてやる。必ず助けてやる」
『……ほんとう?』
「その為に俺は此処に来た。果たすぜ、アンタら兄妹の願い。この仕事、便利屋Black Jackが引き受けた」
 此処は願いと想いの交差点。
 何処へも行かず立ち止まったモノ達が集まっている。
 星観・聡太の正面に立ち、魔剣を即座にカイムは抜いた。
『嘘よ。此処でみんな死ぬの。ねえ、怖いんでしょう?』
 ふふふふ、と嘲笑う声はカイムの側にまで素早く駆け寄ってきていた。
 短いリーチ。だからこそ動きやすい。
 櫻葉・那紀は小柄さを活かして、邪魔をするように立ったカイムを先の攻撃相手へと選んだ。
「俺は別に。依頼人を疵付けさせやしないぜ?」
 肉体を疵付けない攻撃、とは聞いた。
 殺意が載った攻撃の衝撃に加わる"鋭さ"を胸に響かせる。
 壊れろ、壊してあげる。壊れて。ねえ。
 ねえ、どうする?人間は簡単に壊れるのよ。
 耐え忍んだって心臓が停まれば死んでしまうのよ。ねえ怖いでしょう?
 貴方もなにもできない。私の邪魔は誰にもさせない。
 知らない誰かの為に死ぬなんて、やめない?粗末しちゃだめよ。
 でもはいさようならでは逃さないから。
 背を向けたら必ず心臓を止めてあげる。ふふ。
 そのナイフは――カイムの意思や理性にまで入り込む狂った囁きを染み渡らせた。
 カイムが受け止めたナイフに対して魔剣の手を緩めたならば、実物のナイフは身体に徐々に食い込み沈んで往くだろう。
「はあ。……アンタの考えは理解したが、勘違いしてるぜ?」
 一息付く間に男は鋭く見返した。
「俺は別にお人好しってワケじゃない」
『じゃあなんで?知らない子でしょ、そーちゃんは』
「ああ?只の善意で命を張るほど、人間出来ちゃいない」
 命を張るなら、相応の理由がねえとな。
 カイムは口角を上げて笑った。爽やかで、それでいて納得を男は抱いていた。
『へえ、楽しそうね』
「俺が此処に来た理由は二つ――なあ、アンタ?」
 背中越しに男は語る。君へ、兄だと今も思う君へ。
「アンタの妹の想いが見たかったからだ。それともう一つ」
 ――報酬が良かったからさ。
 左の掌に白明珠――それは良い兆しを蓄積する不思議な硝子球。
 此処に奇跡を成そう。巡り紡ぐ幸いを(ギフ・フォルトゥナ)。
「――光を、此処に」
 内側の鱗粉が揺れ、キラキラと消費されていく。最も最適な幸運の創造の代償に、集められてきた幸せの兆しは光となって輝き溢れる。
「内容は、そうだな――」
 年端も行かぬ生者と死者の絆分の、奇跡を。
 カイムが創造したものは、カイムの背中越しに顕れる。
『……えっ』
 聡太の妹、星観・鈴を朧げに視える姿で出現せたのだ。
 鈴は当然驚いた。那紀もまた、目を丸くしている。
『スゥ……!』
 兄も妹も手を伸ばし、しかしその手は空を握る。身体は取られてるからふれあえない。でも、間違いなく妹は朧気な姿で兄の前に居る。
「互いの声を届かせるくらいなら出来るだろ」
 ――願わくば。
 那紀を倒した後に、どちらかの手がほんの一瞬だが、届いたならば。
 それは正真正銘奇跡なのかも、しれない。
 賭けてもいい。上手くいけば、いい酒が飲めるってもんだ。
『……でも、どうして』
「15歳、親も居ないって聞いた」
 カイムは視線だけを後ろに向ける。
「まだ子供だろ?こーいうときはなあ、泣いても構わねぇんだよ」
 妹に再び逢いたくてしかたがないくらい、お前は寂しかったんだろ。
 願い嘆いた分、叶った先――終わりの日を夢見なかったワケがない。
『そーちゃんは泣き虫だねえ』
『……スゥも、だろ』
 泣きじゃくる二人の子供。
 この時間を超えた時、片方は骸へ。片方は孤独の中へ戻っていくことになる。
 気が済むまで泣きな。心ゆくまで、一緒にいる奇跡の時間を過ごしながら。
「――俺は笑わないさ」
 心の整理は、誰にだって必要だから。
 妹の死を受け止める事。時間が解決するにもまだ生傷だろう。

「さて。アンタのお望みのしあわせは俺の背後に存在するわけだ」
 笑う。
 カイムは、自分を隔てた向こうに目標を作ったぞ、ともう一人の亡者へ語る。
「俺の目の間でそれが出来るかどうか。さあやってみな?」


●桜咲ク
「お姉ちゃん」
『あらあら。那桜ちゃんまで、割り込むの?』
 櫻葉・那紀は視線を滑らせる。
 あちらよりも、先に手を出すべき――。
「うん、割り込むよ。私、わがままですから」
 ゆるりと殺意を浴びながら幽遠・那桜が、目をわずかに伏せてくつくつと喉を鳴らして笑った。
 ――怖くないよ。お姉ちゃん。
「聡太さんも助けて、鈴さんもちゃんと還します」
 だから今はそのままで居させてあげたいんです。
 ――駄目だよ。私をちゃんと見て。
『那桜ちゃんには出来ないよ。私が先に壊すもの』
「お姉ちゃん……ようやくみーつけた、ですよ。もう壊そうとしなくて良いんです」
 那桜にとって彼女は識らずの誰かなどではない。
 "妹"の身体を奪った影朧は、確かに憶えている。
 名を喚ぶあなたはいつか闇に隠れ、どこかに潜んでいた那桜の実の姉。
 那紀は聡太と同じ歳にこの世を去っている――この世にしがみ付く影朧として影を落とす一員であった。
 享年15の生き様は、しあわせそうな子供を標的に殺す事が色濃く染み付いている。
 殺人鬼は二人いた。那紀の共犯者は"那桜"。姉を殺し、事件を停めたのも那桜だ。

「強くなったのはお姉ちゃんだけじゃないよ」
 私は強くなった、そう豪語するだけ那桜より小柄な身体で殺人に手慣れたナイフで手遊ぶ。
 こちらを殺そうとする姿を崩さないのなら――真の姿を解放する。
 ふわあ、と頭上に咲き誇る花冠。
 いつか、鋭い那紀のナイフによって斬り落とされた枝もまた元の姿を取り戻す――満開の霞桜だ。
 背が少し普段より大きくなり、髪の毛先は霞のように白を喰む。
『例えどんなに強くなっても那桜ちゃんは那桜ちゃん、でしょ』
 那紀よりも姿を大きくした那桜を見て、幻だと彼女は一蹴。
 反魂ナイフをびゅ、と音を立てて鋭く振るい。喚ばう死者の叫びを集めて、束ね、出現させる。
 其れは冥府の隙間より発生する死神。
 反魂ナイフに共鳴するように、出現する刃を持つ死神。
 いつか見た、あの日みた死神と――同じ。
『今度は手加減無しで両方斬り落とさないとだね♪』
「私は私。でも、……もう違うかもしれないよ。お姉ちゃん」
『違わないよ!可愛い可愛い、妹の事だもの。間違わないよ!』
 さあ逝けと、死神を疾走らせる。
 障害となるのなら先にその胸へ刃を突き立てよう。
 このナイフは――己の胸に突き立った包丁になんだか重なるような鋭さだ。
「どうかなぁ」
『抵抗は許さないよ。どうして言う事を聞かないの!……先にしあわせそうな向こうの人から始末してこようか』
 狙いを付けたのは、カイムと――それからその背後に隠された、聡太と霊体の鈴。
 見えた。視えるとも。だからこそ、那桜は言う。
「お姉ちゃんの話、聞いてるよ。でも、駄目なんだよ」
 首を振り、迫り来る死神へ向けて思い入れのある蝶凌彩扇にて、強くしかし優しい一陣の風を巻き起こす。
 明るいひだまりのような風。
 この丘に吹く風よりも浄化の力が込められた突風だ。
「その子にはもう、怯まないよ」
 意識を奪い恐怖と絶望を与える黒霧を纏った死神の魔を、祓う嵐は拭い去る。攻撃性を失わせてしまえば、召喚されたが誰も死へ誘え無いでくのぼうへ早変わり。
『じゃあどうするの?手詰まり?』
「こうするよ」
 普段は指輪。しかしその姿を今は換えて――この手に収まる精霊銃Peacemaker。
 此処で銃を撃つ。精霊が集まってくる――さあ放て、と教えてくれる。
 那桜が放つのは、たった一発。光の属性を大いに与えられた光の拡散弾。
 一発の光弾は、爆発的にエネルギーを溢れさせて万華鏡みたいにぶわああああと広がり目的目掛けて光の華を咲かせて飛んでく。
 光の雨を銃で放つ。大量の光は目くらましにも成るだろう。これで鎌も届くまい。
『なによっ、これ、知らない……!』
「これは別の世界で得た武器。私の過去を知った上でお兄ちゃんになってくれた人から貰ったもの」
 たいせつにしているもの。那桜はそう言葉に乗せる。
『那桜ちゃん。自分がしあわせだっていいたいの?私をこんな目に遭わせたのに?』
 胸を叩く。空虚な音がする――内側に動いているべき鼓動はないかもしれない。
 死人が、骸が『反魂ナイフ』を使ったことで蘇ったとしても、完全に蘇る事は不可能だ。
 那紀は憶えている。胸に突き立った包丁の冷たさを――。
『ちょっと!しあわせなら私のためにわたしのしあわせのために……可愛い妹なら、此処で死んでよ!』
 恨みは濃くなりすぎれば思想の根底から歪んでいく。
 那紀の目的が、殺すことだけに傾倒していく。
 那桜が死ねばいい。そう考えるが、銃を持った彼女がちらりと後方を見ていた事にも気がついている。
『あの人がそうなんでしょ!じゃあ、殺してあげる!あの時みたいに、那桜ちゃんが選んだから!』
 聡太の方ではない。狙いはカイムへ――駆けていく脚はとても化け物じみた速度だった。
「お姉ちゃん」
 ――話を聞いて。
 所持する青白く光り輝く結晶石を周囲に浮かべて、那桜は精霊たちに力強く働きかける。
 結晶石を媒介に力のリミッターを解除して増幅させる。
 誰かの流した涙の分。誰かが痛みを抱える悲しさの分、凍って轟け。遮蔽となって、進路を閉ざせ。
「精霊さんたちはお話、ちゃんと聞いてくれるんだよ」
 突き出したナイフが生身の存在を傷つける事は、叶わなかった。
 氷の壁を造り、進路を遮り――凶刃は氷に阻まれた。
『それも、知らない!那桜、それも知らないよ!』
「これは……過去はあれど、私は今を生きてるんだと気付かせてくれた人から貰ったもの」
 あまり遠くない枝垂れ桜の木々の何処か。
 隠れた紫髪の誰かがくしゃみした。
「お姉ちゃん。もうやめよう?その躰を手放して、もう、還ろう?」
『駄目よ。那桜ちゃんが別に大切なモノを作ったのなら、その人も壊しに行かないと』
 わたしが、しあわせに、なれない。
 しあわせないきかたをするいもうとの、しあわせをこわさなくちゃ、しあわせになれない。
 あったはずの成長した姿――真の姿解除を解除して、現在の桜の精である那桜はニコリと笑う。
 その刃は他の誰も疵付けられないのだと、手を差し出して。
 とてとてと、風の精霊にいたずらされながらも近づいていく。
『来るなら刺すよ!私は』
 那桜は、抱きしめる。"妹"の姿をした那紀は、小柄。
 すっぽりと収まるサイズであった。
「いいよ」
 肩口から背中に向けて、尖ったモノが突き刺さる痛み。
 ぐり、ぐりと突き立てた地点から奥へ底へ勧めていこうとする、冷たい刃の進行。
 ――……!本気、なんだね。
 ――ずっと、恨みを……。
 いくら激痛耐性があったとしても、服が赤く濡れていく様は想像できる。
 深い。ナイフが短めのものであったことは――幸運と呼ぶべきか。
「……お姉ちゃん、聞いて?」
 ぐりぐりと、痛みを倍増する突き刺し方をする。
 嗚咽が混じりそうに成るのを、耐える。
「お姉ちゃんのこと。転生して、出会った時忘れていてごめんなさい」
 謝罪。逃げてしまったあなたへ。届かなかった言葉を今、言葉のナイフに包んで還そう。
「あの日。あの日々。殺し続ける事を停められなくて、ごめんなさい」
 ずっと考えていた。これでいいのかなって。
 お姉ちゃんの停め方は、私が一番知ってるよ。
『違うでしょ。……那桜ちゃん、私が聞きたいのはそれじゃ』
「お姉ちゃん。私をずっと助けてくれていたでしょ。嫌ってごめんなさい」
 嫌った果ては、影朧の貴方にきっと空いた胸の孔に。
「……ずっと、私の傍にいてくれて、――ありがとう」
 お姉ちゃんは、お姉ちゃんだから。
 私はお姉ちゃんの、妹だから。
「──巡り巡る、さくら、さくら……」

 咲き誇れ、宵に招いて狂い咲く。
 儚く零れる夢のあと、言の葉紡ぐ、桜詩(さくらうた)。
 響き渡る春の音。誘え、詩へ。白き花よ、永遠に舞え……。

 那桜の髪の毛先が霞のように白く風に揺れる。
 骸の海へ、眠るべき魂を誘う詠唱の時間をたっぷりとった万象の術・桜還(バンショウノスベ・サクラカエシ)。
 那桜を起点に発生する万象属性の桜吹雪は、死人を、終わるべき骸を桜吹雪にひた隠す。
 桜吹雪の発生源、それは星観・鈴の躰そのものから発生しており、大量に吹き荒れるようにその躰を解していく。
 吹き荒れる桜に合わせて枝垂れ桜も枝葉を揺らす。
 夢のような白花弁。この場にあった縁紬に力を貸した桃色の花弁が混ざり合って飛んでいく――。
『あーあ。私の那桜ちゃんが識らない子になっていく……』
『やめてよ。私の妹が、知らない子だなんて』
 最期まで愛しい妹へ、大事な言葉を送らない姉がいたらしい。
 しかし、そんな言葉にも、那桜は笑って頷くばかり。
 今を新しく生きているからこそ、次の生はしあわせになるように桜の精は転生を願うだろう。
 躰の主へも。影朧として漂っていた痛みを抱えた魂にも。
「那紀お姉ちゃん。ずーっと、大好き!」




 ●エピローグ
 舞い散る桜の中で、兄妹の声がする。
『そーちゃん、あのね。最期にお願いがあるんだ』
 身体が先に消えていって、魂が少しの間、刹那の刻が流れる。
『なんだい、スゥ……』
 兄は泣くまいと、涙声にならないように胸を張る。
 最期の妹の頼み。ちゃんと叶えてやらなければ。
『そーちゃんの花冠。一番上手なの、飾って欲しいなあ……』
『わかった。約束するよ、いつでも一番きれいなの、飾るから』
 約束だよ。約束ね。
『前を向いて、生きる代わりに。スゥの事を忘れないから!』
『その言葉を聞けたら、十分だよ。大好き、おにーちゃん……』
 最期に鈴は兄に抱きついて溶け消えるように桜の花びらに混ざって消えていった。


『さあて……スゥの好きだった花冠を作ろうかな』
 兄のつぶやきに、猟兵は顔を見合わせる。
 桜の花冠。それはとても見ごたえのあるものになるだろう。
 墓前の華は無いけれど。
 最高傑作――"ピスケスに花冠"を贈るのならば、華の中でもとびきり綺麗で咲き誇ったモノを探さなければ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年04月25日
宿敵 『闇に紛れる宵の刃『ナキ』』 を撃破!


挿絵イラスト