●人類の魔女
かつて、人類を導いた魔女が居た。
それは自らを魔女と称する女であり、相応の能力を持つ人間であった。
魔女は小さく貧しいながらもヴァンパイアによる支配を跳ねのける領地を作り、治めていた。
自身は災厄を招く者。だからこそ、誰よりも前に立ち、災厄を斬り裂き払う刃となるのだと――そう、言っていた。
しかし、魔女は死んだ。領地に広がった病に侵され、あまりに呆気なく命を散らした。
「――いいや、彼女は生きている」
凍てついた居城の最奥で、誰に言うでもなく、男が告げる。
月の光を浴びた男は、黒衣の中に真白を隠し、魔女の右手にあったはずの小さなナイフをその手に構え、凛と立つ。
常夜の世界の誰もが焦がれるような青空色を宿したその目は、片割れが月のような黄金色を過らせていて。
氷の鏡に映るその色に、男はうっそりと笑む。
「ほら、君は今も、ここにいる」
これは、きみのいろだろう。
魔女のつがいは、最愛の妻の生を主張しながら、その喪に服す。そんな矛盾に、気付かぬふりをして佇んでいるのであった。
●月下の氷狼
月光城に関する調査が進んだことは知る所だろう。さておき、未だ謎の多い月光城に居を構える存在が居ることも、確かなことで。
その城には、『囚われた』者達が居ることも、確かなことだ。
「城の主であるオブリビオンにとっては、捕えているという感覚はないようですが……実際、彼らから搾取される力で紋章が機能しているので、同じことでしょう」
グリモア猟兵が語るには、月光城の主たる青年は、城中を、そこに住まう者諸共氷漬けにしてしまったのだ。
そうする事で、城に蔓延る『病』が進行することはなくなるだろうと、そう言いながら。
「実際に彼らが何らかの病を患っているというわけではありません。彼が、過去に……妻と共に治めていた領地に広がった、治すことのできなかった病人達と、重ねているだけでしょう」
ゆえに、解放することに躊躇いは必要ない。
城中を氷漬けにしているのは、青年が放った白いコヨーテの幻影。
猛烈な吹雪を引き起こすそれは、あちらから攻撃してくる問う事は無く、手で払いのけるだけでも掻き消える、儚い淡雪のような存在だ。
だが、こちらが近づけば逃げ回る。視界の悪い中でそれを捕らえるのは、困難だろう。
「ですが、コヨーテを引き寄せるためのアイテムが存在します。それが、月光城の前に咲いている、白詰草の花です」
庭園と言うわけでもなく、ほぼ廃墟のようなその空間に、不思議と咲き誇っている白詰草の花。
それを摘み取り持っていけば、コヨーテが自ら寄ってくるのだと言う。
「勿論、簡単に摘める訳ではありません。配下であるオブリビオンが立ちはだかるでしょうから、まずはそれを、蹴散らしてください。そうしてコヨーテを払い、住民達の解放が成ったなら……魔女のつがいを、倒してください」
魔女のつがい。敢えてそう言った彼は、これは余談なんですけど、と独り言を零すように言葉を紡ぐ。
魔女を自称した女は、病に倒れ、死んだ。今わの際に見上げたつがいの顔が、あまりにも悲痛だったものだから、きっと、予感していたのだろう。
このひとは自分の後を追うだろう、と。
だから、託した。自身が払いきれなかった病と言う災厄を、男が代わりに払ってくれることを――そうやって、生きてくれることを願って。
「けれど、彼は死んだ。……いや、生まれ変わった。上層の玩具になることを拒み、魔女を継ぐ者として、再び立ち上がった」
その結果、人類に仇成す存在と成り果てたことを、果たして魔女は、喜ぶだろうか……なんて。そんな問いは、愚問だ。
彼は、彼の信念のままに、行動しているのだから。
「僕達がしてやれることは、骸の海に送り返して……眠らせてやることだけです」
里音
ダークセイヴァー。月光城での冒険です。
集団戦、冒険、ボス戦の三章仕立てとなります。
第一章、集団戦の戦場となる場所は、月光城の正門前。何故か白詰草の花が群生している花畑となります。
一面焼け野原になるようなことがなければ花は逞しく咲いておりますので、気にしなければ失敗するという事はありません。
第二章の冒険では吹雪の中、コヨーテの幻影を払いのける事で吹雪がやみ、住民が解放されます。
白詰草の花に引き寄せられてきますので、用意をお勧めします。
解放された後の住民に手当等は必要ないので、心情詰め詰めポイントの予定です。
第三章、ボス戦は凍り付いた広間での戦闘となります。
第二章、第三章において詳細な情報は断章にてお知らせする予定です。
プレイングはOP公開後からすぐに受付開始、基本的には最初に頂いた方のプレイング失効前夜を目途に締め切り予定。
別途締め切りのお知らせ等あればタグにてご連絡いたします。
皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 集団戦
『救われたかった者達』
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POW : あなたをぜったいにゆるさない
予め【相手への殺意を口にする】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD : 私達は何もしていないのに!
自身に【無念からなる怨念】をまとい、高速移動と【絶望の叫びによる衝撃波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 何も怖くなんてないわ
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【綺麗なお人形】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
イラスト:ぬる
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
羽々・一姫
彼の想いは理解できるし、
『氷漬け』というのも良いアイディアだとは思うわ。
それが『魔女』に対してしたことなら、だけれど。
もういない人への想いを暴走させて、
すべてを無差別に氷漬けにしてしまってはダメね。
それにしても一面の『白詰草』の花畑、ね。
この花は彼の想いなのかしら?
もしそうなら彼は解っているはずね。
解っていて、やっている。
ならば、解放してあげるのが慈悲というものではないかしら。
そして、あなた達も。
近づいてきた『救われたかった者達』には、
【血統覚醒】を使って『救って』あげましょう。
こんなやり方しかできないのは申し訳ないけれど、
彷徨い続けるよりはいいでしょう?
花は踏みつぶさないようにして戦うわね。
●
病に倒れた妻の代わりに。
彼女の残滓と共に生きる。
そんな男の気持ちは、理解できると羽々・一姫(Gatekeeper of Tartarus・f27342)は思う。
妻が脅かされたのが病である以上、氷漬けにして進行を止めると言うのも、良いアイディアだと言えるだろう。
――ただし、それが愛する者に対して行ったことで、あるならば。
「もういない人への想いを暴走させて、すべてを無差別に氷漬けにしてしまってはダメね」
それではただの化け物と何ら変わりない。オブリビオンと化すという事は即ちそういう事なのだろうかと、一姫は短く息を吐く。
そうして、その視線が周囲に広がる白を、眺めまわした。
かつて城門広場などと呼ばれただろう空間に、不自然に咲き誇る、一面の白詰草の花畑を。
「この花は彼の想いなのかしら? もしそうなら彼は解っているはずね」
その胸に抱くのは、『幸福』か『約束』か、はたまた――『復讐』か。
いずれにせよ、魔女と共に在った幸福を想い、魔女との約束を想い、魔女の居ない現状を、嘆いている。
そう、解っていて、彼はこの場に城主として存在しているのだ。
「ならば、解放してあげるのが慈悲というものではないかしら」
聳える城のどこに居るのやらと視線を上げた一姫の耳に、かさ、と草花を踏みしめる柔らかな足音が聞こえてくる。
ひとつ、ふたつ、たくさん。素足が群れてくるその音に、視線を降ろして薄らと瞳を細めた。
「そして、あなた達も」
天使のような輪を持ち、嘆き悲しむような仮面をつけた少女の群れ。
生きる者への羨望と無為に殺された嘆きを湛え、溢れさせた少女達は、口々にその殺意を紡ぎ出す。
「ころす、殺すわ。あなたを殺す。そうして、私達の所に落ちてくればいい」
「たくさんたくさん、苦しんで死ねばいい!」
呪詛じみた言葉を唱えれば唱えるほど、少女達の戦闘力は増強されるようだけれど、真っ直ぐなまでの憎悪は、その動きを単調にさせる。
群がってくる幾つものひび割れた爪から逃れるように一度後方に跳んだ一姫は、その瞳に真紅を灯す。
「こんなやり方しかできないのは申し訳ないけれど……」
た、と。柔らかに地を蹴った足は、即座に少女らの元に到達し、くるりと振るった大鎌が、一息に少女らの首を刎ねてその動きを止める。
倒れる仲間に一層の憎悪を過らせる彼女達を、『救う』には、これが一番手っ取り早い。
「彷徨い続けるよりはいいでしょう?」
軽やかに花畑を駆けるその足は、器用に花の咲く場所を避けて、石畳の地面を渡っていく。
その気遣いに応えるようにそよりと揺れた白詰草達の頭上で、また一つ、小さな命が『救われ』た。
大成功
🔵🔵🔵
フィッダ・ヨクセム
やッぱこの世界は寒ィなァ、苦手だわ
恨み殺意、どうぞ自由に投げかけてくれ
幸福そうな花の前でそういう事いうの似つかわしくねーと思うケド
極力炎は使わない、武器は青龍刀で行おう
お前たちは此処で停め置くべき客じャねえ(からバス停の出番はねえ)
UCで使うのは風属性
規定速度を超えて爆走させるぜ
俺様が囮を担当するが、どんな攻撃も必要以上防ぐつもりはねェな
俺の代わりは狗が突撃するがみえねー魔炎はお前しか燃やさない
その炎は特別性でね
俺様が狙ッたモンしか燃やさねーのよ
許さなくて、結構
狗が炎を吐き出そうとするなら問答無用で叩いて制止させる
本物の獣じャねーし消してしまえばいいだけだが
なーんか…独りで居るのは嫌なんだよな
●
ふるり、と。冷えた空気に体を震わせ、フィッダ・ヨクセム(停ノ幼獣・f18408)は眉をひそめた。
「やッぱこの世界は寒ィなァ、苦手だわ」
この世界の空気をこれほど冷たくさせているのは、常夜の支配者に弄ばれて殺された、少女達の存在も一因と言えるだろう。
だが、だからこそだと言うように真正面に立ち、フィッダは小首を傾げて見せた。
「恨み殺意、どうぞ自由に投げかけてくれ。幸福そうな花の前でそういう事いうの似つかわしくねーと思うケド」
じりじりと間合いを詰めてくる少女の群れは、嘆きの表情を宿す仮面の下で、明確な怒りを滾らせているようで。
ぶつぶつと小さなものから金切り声に近いものまで、多種多様の殺意がフィッダにぶつけられていた。
「ぜったいにゆるさない!」
「許してくれなくて結構だよ」
元より乞うつもりもないのだからと、すらり抜き払った青龍刀。
ささやかに咲く花の上に立つのだ。今日は炎を使わずにおこうと心に決めたフィッダは、己の本体であるバス停さえも、使わない。
「お前たちは此処で停め置くべき客じャねえ」
黄泉路を辿るお見送りならしてやらないこともないが、お行儀よく並んで留まるバス停は、ここには無いのだ。
代わりに呼び寄せるのは、風属性の魔術を籠めて作り上げた、巨大なハイエナ。
速度規定など丸っと無視して勢いよく駆け抜けるハイエナが突撃すれば、少女は途端に炎に包まれ、悲鳴を上げる。
けれど、捕まえられない勢いで爆走するハイエナへ立ち向かう事はせず、少女達は召喚者で確かな生者であるフィッダへ掴みかかり、爪を立て、ぎりぎりと細かい傷を与えてきた。
ちくりと刺すような痛みの繰り返しを、フィッダはさほど、気にしていない。痛いは痛いが、それでいいと言わんばかりに必要以上の防御を避けていた。
「そうしたッて、お前たちは満足しねーんだろうケド」
だからこれは、感傷ではない。
ハイエナの突撃がしっかりと命中するように、敢えて囮のように振舞っているだけだ。
少女達の間を駆け抜けるハイエナによって、炎があちらこちらに広がっていく。しかしそれは、決して、足元の鼻を燃やすことはしなかった。
「その炎は特別性でね。俺様が狙ッたモンしか燃やさねーのよ」
「ああ……また、またそうやって私達を……」
「言ッただろ。許さなくて、結構」
長く炎に晒される前にと刃を振るって命を摘み取ったフィッダは、傍らに戻ってきたハイエナがふるりと身を振るい、昂揚したようにその口元に炎の渦を過らせたのを見て、がつん、と柄で殴りつけた。
見境ぐらい持てと躾けるように告げたフィッダは、ふと、そうまでしてこの獣をこの場に留め置く必要などない事に気付く。
もう十分に炎は行き渡った。後は少女同士で燃え広がり、苦しむ前に止めを刺していくだけでいい。
――だけれど。
「なーんか……独りで居るのは嫌なんだよな」
嫌な予感と言うにはあまりに明確な胸のざわつき。
今はまだ、見ぬふりをしよう、と。振り切るように、フィッダは刃を振るうのであった。
大成功
🔵🔵🔵
山崎・圭一
ダークセイヴァーか…俺この世界来るの初めて
確かに陰気臭ェ。だからこそ目立つのか?あの白詰草
けど蝶の1匹もいやしねぇ。俺の命捕網ちょっと場違いじゃん
白詰草って花冠の定番だけどどうやって作ンだろな、アレ
まあいいや。早速一輪…
…なるほど。簡単に摘ましてくれねってな
平穏な花冠も嬢ちゃん達にゃ儚い夢か
煙草を1本咥えてライターで着火。此処で吸う煙草は美味くねぇ
UCで痺れながら眠っちまいな
痛みも苦しみも全部消し飛ばしてやるから
けど人形にはちっと効きづれーか?ならこれはどうよ
地面から湧いて貪れ!軍隊アリ白燐蟲の呪殺弾!
さて。一息付いたら一輪摘ましてもらおうか
白詰草も白燐蟲も「祝福」を招くものだろ?
●
ダークセイヴァーには、初めて訪れる。改まったように周囲を見渡した山崎・圭一(宇宙帰りの蟲使い・f35364)が、その世界に思う事は。
「確かに陰気臭ェ」
聞きかじった程度の認識にも合致する光景。
だからこそ、だろう。その中に咲く『花』が、異様に目立って見えるのは。
踏まぬように花の手前で足を止め、また、見渡す。これだけ花が咲いているというのに、蝶の一匹もいやしない。
花ばかりが広がる中では、虫取り網のような形状に設えている召喚士の杖『命捕網』も、やや場違いに見えそうだ。
「白詰草って花冠の定番だけどどうやって作ンだろな、アレ。まあいいや。早速一輪……」
これを摘んで持ち込めば、後の助けとなるらしいのだからと身を屈めた圭一だが、近づいてくる気配にちらと視線を上げて、姿勢を正す。
「……なるほど。簡単に摘ましてくれねってな」
花を摘もうとした矢先に現れるなんて、まるで番人のようだけれど。その華奢な素足は容赦なく花を踏みしだく。
勿体ないなと口元だけで呟いて、圭一はそこに煙草を咥えた。
ライターで火を灯し、ゆっくりと煙を吸う間も、仮面越しの殺意はびりびりと響いてくる。雰囲気と相まって、随分と煙草を不味くさせてくれたものだ。
物騒なものに塗れた彼女達にとって、足元の白詰草は――叶えられもしない『幸福』を唱える花など、ただの、雑草なのかもしれない。
「平穏な花冠も嬢ちゃん達にゃ儚い夢か」
ゆるりと立ち上る紫煙の向こうで、少女の影が増えるのを見つけた。
少女達と同じような体躯でありながら、はっきりと作り物であるとわかる、人形の少女達。
それらが少女達と同じように圭一に襲い掛かろうとするのを見て、薄ら、瞳を細める。
「そんなに深刻そうな顔しなくていいだろ」
大人しくしてろよ。囁きかけるような声と共に吐き出す煙草の煙は、合法阿片の混ざり物。浴びれば咽るに留まらず、現と夢の境を曖昧にするかのようなほの甘さを漂わせて。
揺らめきの中から現れた無数の蛾――蛾の形をとった白燐蟲が、少女らに飛びかかった。
短い悲鳴が度々上がるが、それは一瞬だけ。すぐさま少女らを蝕んだ麻痺毒が、その身の自由を奪い、次々と地に伏せさせていく。
「こいつで痺れながら眠っちまいな。痛みも苦しみも全部消し飛ばしてやるから」
圭一の言葉通り、倒れた彼女らに苦悶の様子は窺えない。だが、眠るように朽ちていく少女らと違い、人形達は阿片にも毒にも、苛まれている様子はなかった。
そうだろうな、とはやはり口元だけで。ならばと振るうのは、場違いに見えた『命捕網』。
呪殺弾と化した白燐蟲を放つその網によって放たれたのは、軍隊アリの群れ。
「地面から湧いて貪れ!」
ざぁ、と。花の根を避け、地の下を走る何かの気配。それが人形達の足元に到達するや、うぞり、這いあがり作り物の身体を食い破っていった。
少女らとは違って、声もない綺麗な綺麗なお人形達。縋るような手が空を切って、かしゃん、と音を立てて落ちれば、辺りには一時の静寂が戻ってくる。
ふぅ、と。今度は蟲を孕まない煙を吐き出して、圭一は一度頭を掻くと、気を取り直したように足元に屈みこむ。
指先伸ばして、最初に触れた一輪を丁寧に摘み取ると、戦場に残る白燐蟲の群れの前に、翳して。
「白詰草も白燐蟲も「祝福」を招くものだろ?」
弔いには足りぬかもしれないけれど。幸いあれと唱えて、圭一は蟲たちを引き連れて先へと進んだ。
大成功
🔵🔵🔵
紫・藍
藍ちゃんくんでっすよー!
お嬢さんたちが殺意を込めて絶対に許さないというのなら!
藍ちゃんくんは祈りを込めて全てを赦す歌をうたうのでっす!
恨みさえも妬みさえも殺意さえも赦す歌を!
お嬢さんたちの全てを出し切り、受け止め、癒やすお歌を歌うのでっす!
お嬢さんたちと合唱なのでっす!
恨みも、憎しみも、悲しみも、寂しさも。
全部全部、置いてっちゃえなのでっすよー!
おやすみなさいなのでっす、お嬢さんたち。
合唱、素敵だったのでっす!
白詰草はそっと優しく摘ませていただく藍ちゃんくんなのでっす。
住民の皆様も、魔女の番さんも。
もう少しだけお待ち下さいなのでっすよー?
藍ちゃんくんが参りますのっでー!
●
陰気さと、血生臭さと、吹雪に見舞われていると聞く城から溢れ出してくるような冷たさと。
そんな空気に包まれているその場所に、紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)の声は取り立てて明るく響いた。
「藍ちゃんくんでっすよー!」
自身の存在を主張するような名乗りに、少女達の仮面越しの殺意が一斉に向けられる。
しかし、藍はその悲し気な被り物の眼差しににっこりと笑みを向けるだけ。
「どうして笑ってるの」
「あなたもあいつらと同じなんだ」
「私達を苦しめる存在……許さない、絶対にゆるさない!」
思い込みから膨らむ憎悪にも、藍が怯むことはない。
笑顔を向けるのは、藍が込める祈りに悲しい嘆きなど必要ないから。
紡ぐ声音に、怒りも恐怖も、含まれるべきではないから。
「心を込めて歌うのでっす! あなたに届けと歌うのでっす! 藍ちゃんくんでっすよー!」
大きく吸った息を旋律に代えて紡ぎ出す。その声は、どこまでもどこまでも、優しい音色。
恨みも、妬みも、殺意も、全てを赦すための――けれど、どこでだって聞くことのできる歌だ。
そう、こんな、凄惨な空気を孕む世界でだって。
「さあさあ、お嬢さんたちも存分に全てを出し切るのでっす!」
許さないと唱えればいい。殺してやると叫べばいい。理不尽を嘆き、憤り、爪のひび割れたボロボロの手を振り上げて摘まみかかってくると良い。
縋るように、泣けばいい。
それでこそ、祈りの歌はあるべき音を紡ぎ出す合唱となるのだから。
「なんで、どうして、私達が……」
彼女達を脅かした過去は決して覆らないけれど、ひと時、この歌が沁みる瞬間くらいは、全部、置いて行けばいい。
掴みかかったはずの手のひらで、藍の服の裾をぎゅっと握り、膝を折って泣き崩れた少女。その顔に張り付いたような仮面が、涙と共に、剥がれ落ちた――ように、見えた。
「おやすみなさいなのでっす、お嬢さんたち。合唱、素敵だったのでっす!」
響き渡る歌声に癒されて、少女達は次々と胸中の怨嗟を解き放ち、倒れていく。
その身が溶けるように掻き消える瞬間、まるで城からの冷気を跳ねのけるように温かな風が、ざぁ、と音を立てて吹き抜けた。
藍色の髪が靡くのを抑え、満足気に音を結んだ藍は、とん、とん、と旋律の名残に乗るような足取りで白詰草の前に屈みこむと、そっと、その花を摘み取った。
「住民の皆様も、魔女の番さんも。もう少しだけお待ち下さいなのでっすよー? 藍ちゃんくんが参りますのっでー!」
くるり、指先で花を回して、踊る白にふくりと笑みこぼして。藍は、足取り軽く城へと向かうのであった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『ホワイトアウト』
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POW : 正面から立ち向かう
SPD : 強風をすり抜けて進む
WIZ : 吹雪を無効化する方法を考える
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●白に染まる
大きな城門を開け放った瞬間、溢れ出た冷気に身を竦めることだろう。
花が群生していた外とは違って、城の中は、どこもかしこも、氷に覆われていた。
その冷気の源を辿るように足を進めれば、次第に視界が悪くなる。暴れ狂う氷の粒が、視界を白く染め上げているのだ。
猟兵であるならば、強引に進むことも出来なくはないだろう。けれどそうする最中に人の影が幾つもちらつくのを見つけては……足を止めざるをえまい。
月光城の主が用いる紋章。その力を増幅させているのが、こうして囚われている者達なのだと、知っているから。
……それ以前の感情も、勿論あるのだろうけれど。
強烈な吹雪を呼んでいるのは、城内に放たれた幾つものコヨーテだ。
白銀の毛並みを持つ彼らは、吹雪に紛れながら遠巻きに猟兵達を見るばかりで、攻撃どころか、近づいてくる様子すら、無い。
けれど、不思議な事に。彼らは白詰草の花を持つ者の元に、自然と、歩み寄ってくる。
掌で払いのければ、すぐさま掻き消える幻影のコヨーテ。
――彼らの代わりに、黒い兎がどこかへ向かって駆けていくのを、見つけた。
同じ場所へ向かう兎の行く先は、すぐに思い当たる。城主の居る広間だ。
しかし、その兎を追うのは後だ。まずは、全てのコヨーテを払いのけ、氷に閉ざされた城を解放せねばならないのだから。
山崎・圭一
うぉーさっぶー!冷凍庫かよ。
この視界で保護色になってるコヨーテを探すのは至難だぜ
けど白詰草に寄って来るのは不思議だな
四葉のクローバーに憧れでもあるン?
まっ、寄ってこねーとなりゃ誘うしかねーなァ。払えばいいんだな?
白詰草を手にその場でじっとしておく
コヨーテが近付いて来たら、俺の方から敢えて離れて
なるだけコヨーテ達が群がるようにしてみるぜ
…にしても氷漬けとわな…
病って形で時間が進むのが怖ェのか。分からなくもねーけど
止まってたら始まりもしねーし終わりもしねーじゃん
月光城ならこのUCが相応しい。出て来い!アルテミシア!
冷気ごとコヨーテ達を花嵐で払い飛ばせ!
氷漬けが解けたらそのまま住民達を回復してやれ
●
吹きすさぶ氷の粒に見舞われる城内。立ち入った山崎・圭一は、先ほど見てきた春の気配漂う花畑から一気に極寒に引き戻されて、思わず自身の身を抱いて震えた。
「うぉーさっぶー! 冷凍庫かよ」
こんな場所に長居をしては、そりゃ凍り付きもするだろうと眉を顰めつつ、白く染まった周囲に視線を配ってみる。
この中にコヨーテが駆けまわっていると聞くが、白銀色をした生き物が白銀の幕の中に居たって見つけるのは至難であろう。
だがそれも、圭一が手にしている白詰草の花があれば、話は別だ。
指先で摘まめるほどの小さな花に、一体どんな思い入れがあって依ってくると言うのだろう。
「四葉のクローバーに憧れでもあるン?」
不思議そうに小首を傾げながら、圭一は寒さに耐えながらじっとその場で待っていた。
そうして待機していると、白の景色の中に、ゆらり、蠢く影が見えた。
徐々に近づいてくるそれは、確かにコヨーテだ。
本当にいた、とでも言うように僅かに目を丸くしてから、圭一はコヨーテの様子を窺いつつ、そっと距離を取った。
圭一が動けば、コヨーテは一度その場で止まりつつも、ゆっくりと歩み寄ってきてくれる。一定の距離を保ちながらそうして移動している内に、二匹、三匹と、コヨーテが群れ始めた。
「よしよし、素直ないい子達だな」
ある程度まとまった数になったところで、圭一は動きを止める。とことこと歩み寄ってくるコヨーテは、じっ、と白詰草の花を見上げているようで、本当に、攻撃もしてこなければ去っていく気配もない。
暫し見つめて、それから、変わらず白に塗れた周囲を、見渡してみた。
よく見ればうっすらと見える壁や柱は、見事に氷漬け。その中に、人の姿も見えるような見えないような――。
「病って形で時間が進むのが怖ェのか。分からなくもねーけど」
妻の最期を受け入れられない思いが、時を止めると言う発想に至ったと言うのなら。強引で極端ではあるが、理解できなくもない。
だが、止めてしまえば、その瞬間で停滞してしまう事も、圭一はよく、理解していた。
「止まってたら始まりもしねーし終わりもしねーじゃん」
氷漬けにして時を止めたって、その身は病に脅かされたまま。
時が動けば、結局は苦しんで、死ぬのだ。……もっとも、この城の住民達に限って言うなら、そう言った病とは無縁。ただ時を止められただけの彼らは、解放されるべきである。
「そろそろ、動かしてやるか。――出て来い! アルテミシア!」
月光を冠する城には、月の女神が相応しい。呼ぶ声に応じて全身から溢れるように現れたのは、春の若芽を思わせる、美しい翅を持った白燐蟲。
群れるそれらの翅がふわりと羽搏けば、周囲に散るのは細かな鱗粉。
「冷気ごとコヨーテ達を花嵐で払い飛ばせ!」
優しい香りのする鱗粉が、正しく花嵐の如く、吹き荒れる。
冬の気配を押しのけて春を伝えるような一陣の風は、決して攻撃手段ではないけれど。コヨーテたちは、抵抗することなく、掻き消えて行った。
ようやく温度を取り戻したような空気に息を吐いた圭一の眼前。白ばかりだった景色の中に、黒が、跳ねる。
跳ねる度に、足元に青い何か――目を凝らしてみれば花のように見える――を散らす、黒い兎を目で追って。
けれど一度瞳を伏せた圭一は、周囲を覆っていた氷が溶けるのを見やりながら、氷漬けの状態から解放された住民達にも鱗粉の癒しを齎していく。
あれを追うのは、一仕事を終えた後でも、十分だろうから。
大成功
🔵🔵🔵
フィッダ・ヨクセム
【停狐】
呆れるほど寒い色ばかり
魔女とやらはこれが理想の世界なわけ?
白詰草は詰んで来たがこれは魔女の野郎に突きつける用だ
人は凍らせて、白詰草は凍ッてない……理由があるモンなんだろう
嫌いだよ、寒いのも雪も、氷も
薄ら寒い言葉も、誰かのための自己犠牲をする人間も
……暖かい関係を結ぶ癖に痛みを遺す斬り合いをやめない
つかソウジ、てめェ顔見知りなの?
雪の獣相手に俺様は蹴散らして進み続けるだけだけど
停止なんて聞いてやらねェ
愛だの恋だの、終わッた形に盲目でいる奴を……見過ごしてはやらねよ
つがい。誓い……縛られるから、苦しいんだッつーんだよ
人類の敵になることより約束を優先するなんて
ヒトの想いの重さは、わかんねーわ
ソウジ・ブレィブス
【停狐】
フィッダ君、お花は嫌い?
こんなに元気に咲いていたのに
それとも、詰むのが嫌だったの?
白詰草の花に寄せられるコヨーテに、目を細めながら
キミ、寒いの苦手なんでしょう?
少しでも寒さを晴らして進めばいいのに
強引にでも進み続ければいいって寒さじゃないよ、これ
僕はこの子達になんだか懐かしさを感じるんだけどね
"魔女"とやらは優しいんでしょう
頑なで、頑固で、博愛で……不器用で
ハハ、僕は彼によく似た人を知っているだけさ
あとは少しキミの手助けをだね……ねえちょっと、聞いてる?
誰かのためには良い事さでも、これは良くないね
キミが此処に来たのは進む先のない道を
バス停として終点を、淡々と告げに来たからなんでしょう?
●
城を満たすその色は、静謐と言うよりは、どこまでも寒々しい。
そんな情景に瞳を細め、フィッダ・ヨクセムは呆れたように零す。
「魔女とやらはこれが理想の世界なわけ?」
「少なくともそう思ってる誰かはいる、かもねー?」
同意でもなく否定でもない曖昧な答えを返しながら、ソウジ・ブレィブス(天鳴空啼狐・f00212)はその横顔に怪訝さと同じくらいの不機嫌さが過っているのを見つける。
「フィッダ君、お花は嫌い? こんなに元気に咲いていたのに。それとも、詰むのが嫌だったの?」
傾げるようにして覗き込まれ、フィッダはちらとソウジの顔を見やってから、手の中の花に視線を落とす。
すぐ近くの城がこのざまだと言うのに、不思議と凍ることなく咲いていた白詰草の花。
「これは魔女の野郎に突きつける用だ。人は凍らせて、白詰草は凍ッてない……理由があるモンなんだろう」
だから、今ここで『消費』する気はないとばかりに、フィッダは吹雪の中を進んでいく。
肩を竦め、その後を続くソウジは、フィッダの持つ白詰草に寄せられるようにして現れるコヨーテたちを見やって、目を細める。
「キミ、寒いの苦手なんでしょう?」
この寒さを生む吹雪を呼んでいるのは、あのコヨーテ達だという事も、白詰草の花に寄ってくる彼らと追いかけっこをする必要もないという事も、知っているだろうに。
コヨーテを払えば、この寒さも紛れるだろうに。
「強引にでも進み続ければいいって寒さじゃないよ、これ」
「チッ」
「え、いま舌打ちされた?? ねえ??」
ソウジの苦言とも助言とも言えない言葉に振り返りながら、フィッダは変わらず不機嫌に似た表情をそこに宿し、いつの間にか足元にまで近づいてきていたコヨーテを見下ろした。
「嫌いだよ、寒いのも雪も、氷も……薄ら寒い言葉も、誰かのための自己犠牲をする人間も」
吐き捨てるような言葉。それが誰に向けたものかは、明白だ。
亡き妻のために、その遺志を継ぐために、男は文字通り全てを捨てたのだ。
まるで、その潔さこそ魔女たる証だと言わんばかりに。
「……暖かい関係を結ぶ癖に痛みを遺す斬り合いをやめない」
フィッダは『知って』いる。魔女の遺した言葉を。魔女に応えた男の末路を。
最愛の人を亡くしても、それでもなお生きて欲しいと願った魔女の残酷さも、最愛の人の望みを叶えるために魔女の愛した全てを捨てた男の狂気も。
だからこそ眉を顰めるばかりのフィッダに、ソウジはやはり、瞳を細めて微笑んだ。
「そうだね」
懐かしむように、コヨーテに手を伸ばし、頭を撫でるような所作で、ふわりとその幻影を払う。
真白なコヨーテが掻き消えれば、真っ黒な兎がパッと駆けていくのが見えて。つい、目で追っていた。
「僕はこの子達になんだか懐かしさを感じるんだけどね」
『魔女』とやらは、きっと優しいのだろう。
どこまでも優しくて、それゆえに頑なで、頑固で、博愛で……不器用なのだ。
愛した人が真っ直ぐだったから、その愛おしさをどこまでも貫くことを心に決めて――こうなったのだ。
「……つかソウジ、てめェ顔見知りなの?」
「ハハ、僕は彼によく似た人を知っているだけさ」
明言はせず、ただ笑って告げたソウジに、また、小さく舌を打つフィッダ。
そうして、足元に寄ってきたコヨーテをそのまま歩む足で掻き消して、進んでいく。
「あとは少しキミの手助けをだね……ねえちょっと、聞いてる?」
「聞いてねェ」
「聞いてよ! ていうか聞いてるじゃん!」
「停止なんて聞いてやらねェ。愛だの恋だの、終わッた形に盲目でいる奴を……見過ごしてはやらねーよ」
淡々と告げて進んでいくフィッダに、まったく、と溜息を零して付き添うソウジ。
コヨーテの数はいくらか減ったのだろう。もう殆ど、寒さはない。
氷漬けになっていた人々もその内自分で動ける程度に回復するだろうと横目にだけ見て、背を追っていたソウジは少し歩調を速めて隣に立つ。
「キミが此処に来たのは進む先のない道を、バス停として終点を、淡々と告げに来たからなんでしょう?」
その手伝いが必要なら、幾らでも。頼ってくれたって良いのにと言わんばかりの目を、フィッダは見ないようにして僅かに視線を背ける。
「つがい。誓い……縛られるから、苦しいんだッつーんだよ」
そんな繋がりなんてなければ、少なくともこんなことにはならなかっただろう。
――いや、なっていたかもしれない。契りがなくとも、通ずる思いがあったのなら。
そんな考えが過ったフィッダは、辟易するように嘆息する。
「人類の敵になることより約束を優先するなんて、ヒトの想いの重さは、わかんねーわ」
吐き出した息はまだ白くて。
ああ、寒いなと口をついて悪態が零れるのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
紫・藍
藍ちゃんくんでっすよー!
お助けライブ真っ最中の藍ちゃんくんはお触り厳禁なのでっしてー。
ファンの皆様、コヨーテの方々のお相手よろしくなのでっすよー?
なんとなくなのでっすがー。
番さんは自分が遺される側になるとは思っていなかったのではないでっしょかー。
自分よりもすごい魔女さんを。
戦場では我が身を盾にしてでも守りたかったであろう魔女さんを。
遺していく覚悟はしていて、どうすれば悲しませないで済むかとか、そういったことは沢山、沢山想像してしまっていたのに。
遺されたのは自分の方で。
こうなってしまったのではないでっしょかー。
藍ちゃんくんも、ええ。
長きを生きる神様の、恋人でっすので。
思うことはあるのでっすよー。
●
真白な世界に、変わらず快活な声が響く。
「藍ちゃんくんでっすよー!」
足取り軽く吹雪の中に進み出た藍は、白の中にちらと蠢く影や、薄らと見える人の姿を見て、ふむ、と唸る。
掌でぱぱっと払えると聞く吹雪を呼ぶコヨーテだが、生憎と今の藍はお助けライブ真っ最中。
お触り厳禁、握手タイムはライブの幕がきちんと下りた後だ。
「であるならばー、ファンの皆様、コヨーテの方々のお相手よろしくなのでっすよー? ファンの皆々様と一緒のお歌は山をも動かすのでっす!」
くるりと指先を回すようにして、藍は先ほど摘んできた白詰草の花を振る。
すると、その花に惹かれたように白銀色のコヨーテが足音もなく現れて――パッ、と。消える。
藍の近くに居るはずの、見えないスピリチュアルなファン達が放ったコールが、コヨーテを攻撃したのだ。
そうして一定の距離を保ちながら現れるコヨーテに対処をしてくれるファンを横目に見ていた藍は、ふと、白の中に黒い何かが跳ね飛んでいるのを、見つける。
黒い、兎だ。コヨーテと同じような幻影の類だろう。瞬きする間に儚く消える黒い背中は、どれもこれも、白の奥へと駆けていく。
導くようなその存在に、藍は瞳を細めて、小さく笑んだ。
「なんとなくなのでっすがー」
独り言のようでいながら、語り掛けるような。柔らかな声音で、藍は思うままを、呟いた。
「番さんは自分が遺される側になるとは思っていなかったのではないでっしょかー」
魔女のつがいは、あくまで、つがいで。彼にとっては魔女こそが、領地にあるべき存在だったのだろう。
そんな魔女を、我が身を盾にしてでも自分が守るのだと。そう、思っていたのではないか。
「遺していく覚悟はしていて、どうすれば悲しませないで済むかとか、そういったことは沢山、沢山想像してしまっていたのに」
だといういのに、遺されたのは自分の方で。だからこそ、こんな風になってしまったのではないだろうか。
彼は、どのように魔女に接してきていたのだろう。魔女と呼ばれる存在にとっての特別として、どう過ごしてきたのだろう。
語られない過去の話に想い馳せるのは詮無いことかもしれないけれど。
不思議と、藍には共感に似た確信があった。
「藍ちゃんくんも、ええ。長きを生きる神様の、恋人でっすので。思うことはあるのでっすよー」
――ねぇ?
いつの間にか、辺りを覆っていた吹雪は止み、コヨーテの代わりに、ちょこん、と黒兎が佇んでいて。
金色の瞳を持つ黒い兎に、藍は小首を傾げて見せた。
問うような言葉に、黒兎はぴこりと耳を動かしてから、踵を返す。
とーん、と。跳ねる足元に青い花弁を散らしながら城の奥へと消えるさまは、やはり、導きのようで。
「何を思っていたのかは、お会いしてみたらわかるかも、でっすねー?」
それこそが答えだと言っているように、見えたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『貧困街の魔女領主・ゼルガ』
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POW : 「刺し貫くことが救いと、……なるように」
自身の【逆手の果物ナイフ】が輝く間、【切り裂く場所を激しく出血させる血襖斬り】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
SPD : FREEZING WOLF
自身が装備する【白詰草で覆われたトンファー】から【氷魔法で氷塊を創り上げ、コヨーテの群れ】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【氷の中に閉じ込められる氷壁】の状態異常を与える。
WIZ : 指を飾る『幸満』に掛けて敵の排除を――誓おう
自身の【理性を、粛清で解決する魔女へと堕とす事】を代償に、1〜12体の【果物ナイフを装備した好戦的な黒兎と白狼】を召喚する。戦闘力は高いが、召喚数に応じた量の代償が必要。
イラスト:餅丸
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠フィッダ・ヨクセム」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●月喰みの孤狼
壁や柱に氷の痕が残る城の奥。開けた広間の崩れた玉座の前に、その人はいた。
『貧困街の魔女領主・ゼルガ』は、柔らかなベールを被るその顔を覆って、苦悶の声を上げている。
「どうして、どうして、さっきまで君は、ここに……!」
歪められた空色の瞳。その片割れは、満月のような黄金色に染まっている。
亡き妻と同じ色の瞳――それこそが、『月光城の主』が融合した、眼球と満月を合わせたような月の眼の紋章だ。
先ほどまでは、その紋章は確かに効力を発揮して、ゼルガに力を与えていた。
だが、城の氷漬けにされた者達を解放したことで、その効力は完全に消えている。
だからこそ、ゼルガは妻の……魔女の力を感じ取れなくなった事に、取り乱していたのだ。
「彼女は生きている。生きている、だから俺は、俺は彼女の遺志を継いで――」
生きている彼女の遺志を継ぐ。成立しない願いを口にしていたゼルガは、訪れた猟兵達を目にすれば、ふわりと、笑みを湛えた。
その手に握られた白詰草の花に、気が付いて。心を取り戻したように、柔らかに微笑むのだ。
「……あぁ、解っているとも。俺は、君だ」
何度でもやり直そう。
大丈夫。ふたりなら、上手くやれる。
言葉は通じる。そして、届く。それでも彼は決して止まることなどない。それこそが彼の矜持だから。
だからこそ、せめて。
――刺し貫くことが、救いとなりますように。
山崎・圭一
あの兎、さっき見かけた――見かけに反して危なかっしいな
離れて呪殺弾ぶちかまして、なるだけ数減らすか弱らすか
距離詰められたら『毒ナイフ』で応戦か蹴りでもかますか【功夫】
…良いのがあるじゃん?
天井目掛けて呪殺弾放射。シャンデリアでも落としてみる
敵の注意が逸れたところを『裁縫毒針』投擲
一撃でも当たればそれでいい。何せその針は蟲卵付き
魔女が生きてるだとか死んだとか、そこが問題じゃねぇ
病という災厄を払った先こそが、魔女の目指したゴールだろ?
お前…途中で道を間違えてンぜ?
そろそろだな。さぁ――“孵化”しろ
内側から蝕む毒と蟲はどうよ?まるで病だろ
遺志を継いだなら治してみせな。魔女の最期を思い出せよ
●
黒い兎がこちらへ来るのを見た。そう、その時に見かけた兎と、いま目の前に居る青年が従えている生き物の片割れは、同じに見えた。
見える、けれど……。
僅かな違和感に山崎・圭一が首を傾げていると、ぱ、と弾かれたように駆け出した二匹達が、襲い掛かってくる。
「っと……見かけに反して危なっかしいな」
真っ直ぐに駆けてくる黒兎は、口に果物ナイフを咥えており、素早い身のこなしで実に好戦的に斬りつけてくる。
一方、もう片割れの白い狼は、そのサポートを務めているかのようで。白狼に気を取られれば、すぐさま黒兎が死角に入り込んでくるような連携っぷりだった。
「――粛清を」
淡々とした言葉を吐き出すのは、二匹の召喚主であり月光城の主である『貧困街の魔女領主・ゼルガ』。
凛と見据えてくる眼差しには、先ほど白詰草を見付けた時に見せたような柔らかさのない、真っ直ぐなまでの敵意が籠っている。
そうやって、本来の己の理性を手放すことによって、駆ける二匹を維持しているのだから。きっと、彼は『魔女』には向いていないのだろう。
瞳を細めた圭一は、責め立ててくる二匹の片割れを思い切り蹴り飛ばし、たん、と大きく距離を取ると、呪殺弾で牽制しながらちらと広間の頭上を見上げた。
「……良いのがあるじゃん?」
朽ちた城に垂れ下がる、壊れかけのシャンデリア。
一発ぶち当てれば落ちてきてくれそうなそれ目がけて呪殺弾を放てば、目論見通り落ちてきたシャンデリアは、圭一とゼルガの間で、派手に音を立てて壊れる。
ついでに、飛び散る破片を躱すためか、付かず離れず支え合っていた二匹の距離も、開いた。
一瞬の隙を、見逃すことはしない。さっと距離を詰めた圭一がゼルガへ向けて放つのは、どこにでもある裁縫針。
けれど、どこにでもあるものじゃない、圭一自身の毒性を持つ血を付着させれば、実に簡単に調達できる、毒針だ。
無論、その一針が齎す毒で倒せるとは思っていない。けれどその一針が命中する事で、圭一のユーベルコードは成立するのだ。
チクリとした感覚に眉をひそめ、圭一を睨むゼルガ。その視線を真っ直ぐ見つめ返しながら、圭一は色の違う左右の瞳を見比べる。
『彼女』だと言った金色は、ナイフを咥えて駆けてくる黒兎の瞳とよく似た色。
「……なるほど? つまりあの黒兎は魔女の象徴ってわけだ」
「……そう。彼女は、守ると決めれば躊躇もなく、いつだって真っ直ぐ、災厄を払う人だった」
だった。そう、言えるのに。
いつまでも、認められない。魔女を反映させた黒兎を、白狼が支え続けるさまを、理性を殺してでも喚び続けずにはいられない。
だからこそ、彼は――。
「魔女が生きてるだとか死んだとか、そこが問題じゃねぇ。病という災厄を払った先こそが、魔女の目指したゴールだろ?」
彼女の遺志は、そうだったはずだ。病にかかってしまった者を、出来る事なら救ってほしい。
そうして、領地に平穏が戻ったなら、貴方の優しさで見守ってほしい。
そう、だったはずなのに。
「お前……途中で道を間違えてンぜ?」
怪訝な顔は、どこか、憐れむようでもあって。
それを向けられたゼルガは、空色の瞳を大きく見開いて、愕然とした顔をする。
オブリビオンと化した影響で忘れていたのか。それとも、初めから、それを理解するのを拒んだのか。
いずれにせよ、解らせてやるだけだ。
「そろそろだな。さぁ――“孵化”しろ」
命じる声に応じたように、ゼルガの中で何かが生まれる。それは、寄生蜂型の無数の白燐蟲だ。
孵化し、飛び立つために宿主の身体を食い破る蟲達に苛まれ、苦悶の声を上げた彼の元へ、圭一を執拗に狙っていた二匹が駆けつけた。
「内側から蝕む毒と蟲はどうよ? まるで病だろ。遺志を継いだなら治してみせな。魔女の最期を思い出せよ」
魔女の最期。そう聞いて思い起こせるのは、唯一つ。
駄目よ、と。窘めるように告げた彼女が浮かべた、穏やかな微笑みだけ。
「……俺は、君を継いだんだ」
ならば浮かべるのは、苦痛であってはいけないのだと微笑むゼルガに、圭一はまた、眉を寄せる。
二匹の獣を優しく撫でるその顔は、どう見たって、死を覚悟した装いをしていたのだから。
だとしたら。蟲が肉体を食い破る凄惨な最期に至る前に、彼の命を摘み取ってやってくれることを、期待するしかないだろう。
大成功
🔵🔵🔵
紫・藍
歌うのでっす。
ずっとずっと、ええ。
愛を歌うのです。
藍を歌うのです。
愛するヒトへの愛を。
愛するヒトと共に歌うのです。
神様を愛する藍ちゃんくんを謳うのでっす。
ただ愛を。ただ藍を。
愛の証たるこの姿で。
神様の愛に包まれて。
魔女の番さんが寿命か、自身への攻撃で力尽きるまで。
オーラ防御と生命の抱擁で耐えしのぐのです。
自分では決して止まれない彼が。
それでも止まれるとするのなら。
救いがあるとするのなら。
魔女さんが止めてくれる時なのです。
誰よりも前に立ち、災厄を斬り裂き払う刃。
ええ。番さんの言う通りなのです。
大事そうに持っているそのナイフ。
魔女さんの形見でっすよね。
だから、止めに来たのです。
番さんを討つのは、厄災を切り払う魔女さんの刃なのでっす。
オブリビオンなら寿命の踏み倒しができたとしても。
彼女が生きていると願う彼には。
彼女の遺志を継ぐという彼には。
そのどちらであっても、魔女さんが災厄を切り裂かない(味方を1回も攻撃しない)という選択肢はないのではないでっしょうかー。
それが愛でっすから。
ね、黒兎さん。
●
――善因善果が世の理なら藍因愛果だって理。藍を振り撒けば振り撒いた分だけ愛されるのは必然じゃあないかな。
……何て――。
『貧困街の魔女領主・ゼルガ』の前に立った紫・藍は、その身を華やかな衣装に纏った絢爛な真の姿をしていた。
そうして、藍がすることは。ここへ来るまでと何一つ、変わらない。
「歌うのでっす」
ずっと、ずっと。藍は、愛を歌い続けてきた。
藍を歌い続けてきた。
それを、傍らでずっと聞いて、共に歌ってくれている人がいる。
振り撒いた分だけ返されるのが必然、なんて言い訳をしながら、愛をうたってくれる、愛するヒトが。
そうやって歌う藍の姿は、愛の証たる姿。その姿は、愛を、藍を、歌う程に愛する神さまの愛に包まれていく。
負担や消耗を補填してくれる、生命の抱擁。柔らかな熱を感じながら、藍は真っ直ぐにゼルガと対峙ずる。
貴方にも、愛があるのでしょうと。物語る眼差しをぶつけながら。
「……ああ」
そうだとも。愛しているから、君を継ぎ、君を思い起こし、君を振舞う。
魔女の遺した果物ナイフを手にして、魔女と同じように、躊躇なく地を蹴って、肉薄するのだ。
迫る瞬間、ゼルガの果物ナイフが輝く。それによって齎される連撃は、明確に藍の急所を狙い、血が噴き出す個所を貫かんと振るわれる。
それを、藍は自身のオーラによる防御と、生命の抱擁で以て、耐えていた。
藍がゼルガに攻撃をくわえることはない。藍はただ、謳うのだ。
神様を愛する己を、謳い続けるために。
一方的な攻防。だが、藍はそれを凌ぎきれることを、信じて疑わなかった。
「もう、自分では止まれないのでっすね」
ゼルガは、気付いていないのだろうか。魔女を模したその黒に――愛する者に、血を浴びせようとしていることに。
もっとも、藍はしっかりと己を守っているため、血が噴き出すような事態には陥っていないのだけれど。
それでも、気付けないほどに前のめりになってしまっているのなら、それを止めるのは、藍の役目ではない。
「――ええ。番さんの言う通りなのです」
誰よりも前に立ち、災厄を斬り裂き払う刃。それは、今ゼルガが握りしめ、想いを籠めて振るっている果物ナイフに他ならないのだろう。
だからこそ、藍はその刃での攻撃を促し続けた。
「大事そうに持っているそのナイフ。魔女さんの形見でっすよね」
「ああ、そうだ。彼女の、生き様そのものだ」
「だから、止めに来たのです。番さんを討つのは、厄災を切り払う魔女さんの刃なのでっす」
真っ直ぐな言葉に、ゼルガが目を剥いたと同時、まるで導かれるように、ナイフの切っ先が己の腕を斬りつけた。
オブリビオンである以上、寿命なんてものは幾らでも踏み倒してしまえるだろう。ゆえに、ゼルガが唯一の味方である自分自身を攻撃する必要など、本当はないのだ。
当然、ゼルガにとってもそんなつもりはなかった。ただ前のめりに斬り裂き続ける事を、望んでいたのだ。
だからこそ瞠目し、戸惑いを湛えたゼルガは一度藍から距離を取り、血の溢れる己の腕とナイフを見比べて……それから、縋るように藍を見た。
にこり、と。微笑んだ藍は、ゆっくり、そんなゼルガに歩み寄る。
「魔女さんが生きていると願いますか」
ゆっくり、問いかける。
「それとも、魔女さんの遺志を継ぎますか」
どちらだって、同じだ。どちらだって、ゼルガが在りし日の魔女を忘れていないのならば、解るだろう。
「魔女さんの刃が、災厄を払うものなら」
――災厄と化した男を、斬らない道理はないのだから。
夫なのに? いいや、夫だからこそ、道を踏み外すことを、許容してはいけないのだ。
「それが愛でっすから」
ね、と振り返った藍の視界の端で、黒兎がちょこんと座っているのが見えた気がした。
導くように跳ねていた黒兎は、きっと、夫を案じる魔女の魂の表れなのだろう……などとは、美談が過ぎるだろうか。
どちらでもいい。その邂逅があろうとなかろうと、藍の思いは変わらず、想いも変わらない。
「さあ、番さん」
愛を、示しましょう。
促すように両手を広げた藍を、ゼルガはどことなく泣き出しそうな顔で見つめて。
「……ああ」
一度、果物ナイフを両手で祈るように握りしめてから、再び地を蹴った。
その身が何度刃に晒されても、踏み込むことこそ魔女の生き様だったのだと、藍に、語り続けるように。
大成功
🔵🔵🔵
ソウジ・ブレィブス
【停狐】
…ぜるがー、このコは君に聞きたいことがあるそうだよ
君が僕の知る従兄弟そのものか
他人の空似にか幻想かそれは重要じゃない
いいかい、領主だ魔女だというのなら他者の言葉は聞くものだよ
(本人が使わないなら、僕が代わりにバス停を借りておく)
(UC発動)停まれだよ、わかるよね
今の君はそれで合ってるの?
約束を違えてるとは想わない?
……異なる仕事をする事、僕は否定しないけどね
君の大切な人は今……ひとりぼっちなんじゃないの?
後を追ったんなら置き去りにしちゃダメでしょ
『魔女』はそういう人だった?
ハハ、冗談がキツイね
『あのひと』は、
『君』が傷つくことを好しとする人でもなかった筈でしょ
あの子(兎)なんだろうね
君の知ってる子?ふふ、此処は兎にも門扉は開け放たれてるんだね
切り裂きの猛攻を繰り出してくるなら
彼の本体を傷つけるわけにもいかないし蒼の鉤爪を手にして受けるよ
切り裂かれてしまっても僕は構わない
彼が言いたいことを言えるように、成り行きを見守りたいな
勇猛と勇気は違うし、約束の死守と遂行はまた違うと思うんだよ
フィッダ・ヨクセム
【停狐】
UCを発動して魔法陣を展開、魔女を強引にその場で縫い留める
代わりにソウジを怪力任せに魔女へぶん投げる
俺の得物は蒼い青龍刀だけだ
本体なら勝手に使え
お前の目に何が見える
この花だけ?これはお前のなに?
約束?想い出?
ならこの領地の人間はそれ以下でしかねえの?
……笑えねー
死者は生きるとも
想い出はてめェが生きる限り遺るとも
願いは呪いに変じて蝕むとも
だがてめェが災厄そのものになッたら誰がお前を"救う"
粛清だけを掲げて遺志の示すように指輪に誓い、俺を殺す?
誓い(ヨクセム)を名に持つ俺に誓いを見せつけるッて?
ふざけんな
誓いの片割れが何処に居るかッて聞いてんだ!
お前は…置き去りにしてるだろ!
ああ偽善者のような顔だ
お前が災厄なら滅ぼさんと動く俺様も魔女か?
この薙刀の本来の持ち主は『ゼルガ』と言うそうだ
お前の目の色と、これは同じ
博愛・優しい奴へ渡るんだろう
これはてめェを殺すてめェの刃だ
刺し貫いて、…救ッてやるわ
詰んできた白詰草は最期に献上しよう
しろはしあわせのいろ、なんだろ
最愛の黒と今度こそ一緒に居ろよ
●
その存在と対峙したソウジ・ブレィブスは、どことなく不思議な心地になった。
「……ぜるがー……」
初めから、思っていたけれど。やはり彼――『貧困街の魔女領主・ゼルガ』は、ソウジの知る存在と似ていると。
けれど、彼の境遇を聞き、ここへ至るまでに想像していたよりも、ずっと、ずっと、晴れやかな顔をしていた。
猟兵達との戦闘の名残だろうか。既に傷を負っており、時折、苦痛に耐えるような表情を見せるにも拘らず、だ。
思わず、眉を寄せて苦笑してしまう程に。
そんなソウジを、フィッダ・ヨクセムは問答無用で掴み、ぶん投げた。
矛先は、魔女を自称するゼルガの元へ。自らを起点とし放った魔法陣によって行動を操作した彼と、その只中に放り込まれたソウジは、互いに確かめるように視線を交わした。
「このコは君に聞きたいことがあるそうだよ」
ちらと振り返ったフィッダの顔は、憤りとも不愉快とも――不安にすら見えた。
そんな彼の投げかける言葉を、どうしても、聞いてほしい。
そう、この存在は、ソウジの因縁ではない。だからこそ、ソウジの知る従兄弟に瓜二つの彼が、従兄弟そのものか、他人の空似か、はたまたただの概念じみた幻想か……そんなことは、これっぽっちも重要ではないのだ。
「いいかい、領主だ魔女だというのなら他者の言葉は聞くものだよ」
君が見つめた『魔女』は、君が支えた『領主』は、そういていただろう?
問いかける声に、眼差しに、ゼルガは、頷いた。
素直なさまは、本当によく似ているものだと肩を竦めて、にっこり、笑顔を向ける。
その手には、フィッダが使わぬと置いたバス停――フィッダの本体――が代わりに握られており、それを指示して告げる言葉は、勿論――。
「停まれだよ、わかるよね」
笑顔が、攻撃を誘うように花咲いて。ゼルガの思考力を柔らかに削ぐ。
その心に、告げる言葉が真っ直ぐに響くように。
その分、攻撃の速度は大きく上がったはずだが、ゼルガの思考が言葉を聞くという方向に傾いているためか、フィッダの操作に抗ってまで動き出そうとする気配は、無かった。
お膳立てされたような状況に眉を寄せ、小さく溜息をついたフィッダは、摘んできた白詰草を掲げるように見せながら、ゼルガへと歩み寄る。
「お前の目に何が見える。この花だけ? これはお前のなに?」
問うような言葉でいながら、フィッダはその回答を求めていない。
「約束? 想い出? ならこの領地の人間はそれ以下でしかねえの?」
此処へ来るまでに見てきたものに憤りながら、ただ、問い質している。
「……笑えねー」
そう、言いながらも。フィッダは手の中の花を大切そうにしまい、代わりに蒼い青龍刀でもある薙刀をしっかりと手に握った。
明確に敵対する意識を滲ませながら、ひたすら、言葉をぶつけていく。
「死者は生きるとも。想い出はてめェが生きる限り遺るとも。願いは呪いに変じて蝕むとも」
記憶の中で生きる死者の言葉は、どこまでも美しく、だからこそ、強く重い。
力をなくしたとて、棘鞭の気配を滲ませる眼球の紋章は、雁字搦めに縛り付けられた呪いそのもののようにさえ、見えて。
それを『魔女』と――『君』と呼んだゼルガの言葉を思い起こし、強く、睨み据えるようにして視線を合わせる。
「だがてめェが災厄そのものになッたら誰がお前を"救う"」
災厄を払う魔女を自称しながら災厄と化した男を、誰が、払うのだ。
――魔女は、もういないのだから。
突き付けられる現実は、ゼルガの青い瞳を震わせた。
その瞳を伏せて、噛みしめるように唇を噛むゼルガは、決意するように顔を上げる。
「……それでも、俺は……止まれない」
「笑えねーッて言ッてるだろ!」
どこまで頑ななんだ。どこまで、誠実なんだ。
荒げた声と共に強く青龍刀を握りしめるフィッダは、その切っ先を突き付けて、吼える。
「粛清だけを掲げて遺志の示すように指輪に誓い、俺を殺す? 誓いを名に持つ俺に誓いを見せつけるッて?」
――ふざけんな。
誓いは、相手が居なければ成立しない。
約束も、思い出も、それを、白詰草に託すのも。そう願った『誰か』が居なければ、ただの空っぽなのだと、知らないはずは、無いだろう。
「誓いの片割れが何処に居るかッて聞いてんだ! お前は……置き去りにしてるだろ!」
突き付けた青龍刀を振り上げ、叩きつける。朽ちた城の床を抉る衝撃に、ゼルガは怯むこともなく、変わらず晴れやかな表情で、見据えていた。
そんな二人を交互に見て。最期には、止まれないと口走ったゼルガを、ソウジは訝るように見つめた。
「……今の君はそれで合ってるの?」
フィッダを見つめていたゼルガの視線がゆっくりと向けられるまでの間を置いて、問う。
「約束を違えてるとは想わない?」
「……言っただろう。俺は、止まれないと。……道を、違えた以上……『魔女』に払われる災厄で、あり続けなければ」
そうすれば、魔女の矜持は生き続けると言わんばかりで。
ソウジが感じた晴れやかさは、それだろう。今のゼルガは、道を違えたことを理解し、災厄でありながら魔女を遺す光明を見出したのだ。
ああ、まるで、偽善者のようだと。フィッダは胸中で吐き捨てる。
対しソウジは、向けている笑顔が曇りそうになるのを堪えて、噛みしめた唇を、また、とびきりの笑顔にしてやった。
「君の大切な人は今……ひとりぼっちなんじゃないの? 後を追ったんなら置き去りにしちゃダメでしょ」
フィッダと共に、二度、繰り返した言葉に。
ソウジはもう一つ、ソウジだからこそ告げられる言葉を添える。
「『魔女』はそういう人だった? ――ハハ、冗談がキツイね」
「彼女、は……」
「『あのひと』は、『君』が傷つくことを好しとする人でもなかった筈でしょ」
ねぇ、ほら。案じて見に来てるようだよ、と。ソウジが促す先に、ちょこん、と佇む黒兎。
とん、と跳ねれば飛び散る青い花は、きっと、見覚えがあるだろう。
「あの子、なんだろうね。君の知ってる子? ふふ、此処は兎にも門扉は開け放たれてるんだね」
近寄るでもなく、見守るように佇んでいる黒兎。
それは、ゼルガが召喚する好戦的な兎とは、似て非なるものだ。
思い起こす。『好戦的な』魔女の姿は、どのようにして発揮されたのか。
記憶をたどる。『魔女』を自称する彼女の根幹には、何があったか。
想い、出す。
「彼女、は……自らを疫病神と言った。そんなことはないと、告げるのは簡単で……だが、彼女は……」
それでいいと言った。
自身が疫病神で、災厄を招く存在ならば、自らそれを払えばいいのだと晴れやかに笑ったのだ。
そのためにならどれだけでも駆けられる。何を斬ることも厭わない。
護れたものも、守れなかったものも、全てを見届け、一晩限りの嘆きで洗い流し、顔を上げて前を――未来を見続ける金色の瞳を、愛していた。
「……こんな、奪うばかりの力は……彼女では、あり得ない……」
絞り出すような言葉に、フィッダは、ハッ、と鼻で笑う。
ようやく気付いたかと言わんばかりに、再び青龍刀を突き付けた。
「さッきまでの偽善者のような顔よりずッとマシだよ。お前が災厄なら滅ぼさんと動く俺様も魔女か?」
『魔女』の名はそんな安っぽいものだったか。
そんなはずがないだろうとゼルガを見据えたフィッダの顔は、先ほどまでよりよほど――晴れやかだ。
「この薙刀の本来の持ち主は『ゼルガ』と言うそうだ」
偶然だろうか。それとも、彼が『そう』だったのか。
――どちらでもいい。どちらにしたって、フィッダがその刃に託すことは、変わらない。
「お前の目の色と、これは同じ。博愛・優しい奴へ渡るんだろう」
どうして俺様の手元にあるんだか。肩を竦めながらも、狙いすますように、瞳を細めて。
「これはてめェを殺すてめェの刃だ。刺し貫いて、……救ッてやるわ」
斬るための、薙ぐための刃を、胸元に、強引に突き立てた。
肉を断ち切る感覚に、体内で蠢く何かが這う感覚が伝わって、僅かに眉を寄せたフィッダだが、構わず、力を込める。
抗うように、ゼルガはナイフを振りかざし、その瞳に残った理性的を代償として獣たちを呼び寄せようと、したけれど。
はらりと零れた白詰草を見つけて、静かに、その手を降ろした。
「……今の俺が災厄だと言うなら……それでいい。だが、君が魔女を名乗ることは、許さない」
魔女は、己で――彼女だ。
くるりと、ゼルガは握る柄を持ち替える。誰かを貫く順手ではなく、己を貫く逆手に。
そうやって持ってこそ、その遺品は、意味を成すことを思い出して。
無暗に誰かを斬りつける必要はない。このナイフは、輝かなくたって、いつだって真っ直ぐに貫くものを見定めていた。
「……遅く、なっただろうか……」
「……そんなことないよ。まだ、間に合うさ」
だって、勇猛と勇気は違うし、約束の死守と遂行はまた違うものだろうから。
ソウジが、浮かべていた笑みを閉ざす。よく、よぅく、考えて。そうして決めておくれと言うように。
思考力が戻ったゼルガは、刺し貫かれた胸部の熱と、そこからこぼれる生命に触れて、微笑んだ。
偽善的ではない、愛する人の傍で支えることを決めた、優しい青年の顔。
見つめれば、目が合って。
「……君の名は、なんだっただろう」
「――ヨクセム」
「……ああ、そうか……誓い、だったな……。すまない――ありがとう」
ぱっ、と。フィッダの眼前で赤い華が、飛沫をあげる。
それを浴びて、浴び切って。項垂れた肢体が崩れ落ちるのを見届けてから、フィッダは汚れぬように慎重に落ちた白花を拾い上げて、そっと、添えてやった。
「しろはしあわせのいろ、なんだろ。最愛の黒と今度こそ一緒に居ろよ」
餞の言葉に応えるように。駆け寄った黒兎がそっと彼の傍で丸くなり――断たれた因縁と共に、掻き消えるのであった。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2022年04月22日
宿敵
『貧困街の魔女領主・ゼルガ』
を撃破!
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