租界。それはコンキスタドールによって征服されてしまった地域。
コンキスタドールの知識によって20世紀初頭レベルにまで文明が発展した一方で、ばらまかれた銃火器や阿片によって頽廃してしまった、コンキスタドールが周囲に与える影響が陰陽はっきりとついている場所でもある。
そのうちの一つ「香港租界」。
豪華な飯店や陽気な長屋がある一方で路地を一つ逸れれば未亡人が蘇った旦那のオブリビオンと経営する安宿や迷宮の如く鏡を並べる鏡屋が門戸を開き、賭場やダンスホールで華々しい者達が遊ぶ裏で阿片窟やごみ溜め場で落ちぶれた仙人が悪態をつきながら煙を吐く。
それはかつてこの地を支配していた者が戦争で死んだ今も変わらない。
その中央に鎮座する建造物、九龍城砦。
砦が砦としての役目を放棄した後、増築に増築を重ねた結果、地上数十階にも及ぶカオスで不気味な高層建築の集合体と化し、コンクリートの部屋や魔術的な結界が迷宮の如く積み上げられ、人間・羽衣人・瑞獣・僵尸・さらにはオブリビオンまでもが区別なく、渾然となって暮らす香港租界の象徴的存在である。
そんな場所で一旗あげようとする羅刹が一人。
「ここが九龍城砦……」
故郷の山々よりもはるかに歪で巨大な建造物を、羅刹は口を開けて見上げていた。
「いやいや、気圧されてちゃいかん! ウチはここで一旗あげて故郷に錦を飾るんや! 頑張るでー!」
しかし我に返って勢いよく首を横に振ると自分に気合を入れるがごとく、自分の胸の前で両手を握りしめる。
そしてその声で近くにあった持ち主に捨てられたボロボロの屋台は支柱が折って、潰れた。
「無知は時として罪になる、と言いますが此度のオブリビオンはまさにそれに該当する者です」
ルウ・アイゼルネ(滑り込む仲介役・f11945)はそう語りながらスライドショーを開始した。
画面に映し出された少女はかつて人界で大暴れし、現行犯で討伐された羅刹だという。
だがその故郷である仙界へ凶行の動機を調査しに向かったところ、出迎えた彼女の両親や知人友人は皆仰天したという。
なぜなら彼女は「ウチより強い奴に会いに行く!」と意気揚々と故郷を発ったのであって、人を害す気で出て行ったわけではなかったからだ。
「自分が人界ではすごく強いことを自覚せずに行動してしまった結果、無意識のうちに道行く人や建物を無差別に薙ぎ払う犯罪者となってしまい、認識がすれ違ったままその街の衛兵に討たれてしまった……それがこの事件の真相だと結論づけられております」
あの子は、言葉足らずで、加減が分からない、ただのドジな子で……でも決して、決して理由もなしに人様に手を出すような子ではないんです……。
涙ながらに語る母親の証言を記した書簡に目を通した司馬炎を始めとする高官達が鎮痛な面持ちで息を吐いたのは言うまでもない。
そんな、訳がわからないうちに死んだ彼女がオブリビオンとして蘇って香港租界・九龍城砦に現れたのだという。
「このままでは彼女は九龍城砦の住民達を事故的に殺し回り、彼らがまとう『九龍の霊気』を結果的に独占することで大いなる力を得てしまうでしょう。……そうなったら今度は誰にも止められなくなります」
そう断言したルウは正面を向き、集まった猟兵達に語りかけた。
「今回は彼女を止めるため、この九龍城砦でしばらく過ごしていただきます」
この「過ごす」は観光客として……ではなく「住民」としての話である。
九龍城砦では1人の住民として店で働いたり、彼らの衣装を借り受けて着たりなど街に馴染むことが出来ると「九龍の霊気」なる物を得ることが出来る。
戦争の時は編笠からの捕捉を避けるために使ったが、今回は自身の胆力の強化に用いたい……とルウは語る。
「ただ九龍城砦の民として認められるには一朝一夕では済みません。彼らは来た物を追い出しこそしませんが、好き好んで受け入れることもしません。問われなければ答えないし、与えられなければ返しもしません。ただ悪意を持って接すれば殺意を持って殴られるでしょう」
逆を返せば、良くも悪くも行動には何らかの対価を払ってくれる……という話だ。
「ですが、何の手がかりも無しに受け入れられて来い……というのは流石に無理があります。なのでこの城砦の大まかな区分けを説明させていただきます。聞いたことがある人は復習だと思ってください」
そう言いつつルウは差し棒を伸ばすと、スクリーンに当てて円を描き始めた。
「むやみやたらな増築を繰り返している九龍城砦は上か外へ行けば行くほどたびに設備が新しくなっていき、住んでいる方もそれなりの稼ぎがある者に限られていきます。故にその周囲には高級な物品や料理を提供する店屋が多く集まってます。逆に古くからある……下かつ中心に近いところは貧民窟となっています。ここにはイカサマが平然と横行する賭博場や中毒者が蔓延る阿片窟といった物が多く立ち並ぶ一方、電線やガス管水道などこの街を支えているインフラ設備の中核があります」
簡単にまとめると生活水準や治安は上や外に行けば行くほど上がり、下や内に行くほど下がっていく。
一方でインフラ設備は下に集中しており、ここが止まると一番復旧に時間がかかるのは外側の区画となる。
当然それらが混在している場所もあり、どこでどう過ごすか、どこが一番性に合っているかは猟兵達次第である。
「彼女はなぜ自分が討たれてしまったのか未だに理解していないはずです。それを自覚させなければ同じことの繰り返しとなるはず。どうか、不幸の連鎖を止めるためにお力をお貸しください」
平岡祐樹
お疲れ様です、平岡祐樹です。
第1章では「九龍の霊気」を身につけるため、九龍城砦で日常生活を送っていただきます。場所の一例はオープニング等に記載されてますが、言及のない店でもプレイング内で探せば見つかるかもしれません。
この章の参加者が1人でも霊気を身につければ、このシナリオに参加する猟兵全員が「この場所で霊気をまとうコツ」を得られます。
その場所に馴染むような行動をしたり、九龍城砦に馴染む服装で戦えば、第二章で対峙する、来たばかりで霊気を纏えていない羅刹を圧倒し、隙を生みやすくなりますのでご考慮ください。
第1章 日常
『九龍城砦の日常』
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POW : 怪しげな酒場や劇場で退廃的な享楽に耽る。
SPD : 盗品や偽造品の溢れる闇市場の取引に参加する。
WIZ : 労働者や不良少年のたまり場を訪れ、交流する。
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
メアリー・ベスレム
ふぅん……
ある意味とっても傲慢な子なのに
殺してもちっとも愉しくなさそう
だって、復讐のし甲斐がないんだもの
まあいいわ
メアリ、このお城の事は気に入ってるんだから
あら、ここの住民になるなんて簡単よ?
なるべく深い底の方
治安の悪~い下の方
無防備にお尻を揺らして【誘惑】しながら
迷い込んだ【|演技《フリ》】をして
あわれな|獲物《アリス》を装えば
向こうの方からお迎えが
アリスは二度と帰れない
これからずうっとここの|民《モノ》!
光も届かぬ最下層
倫理等なき最底辺
食い物にされて穢されて
いずれ涙も枯れ果てる
ここはそういう場所だもの
だけれどアリスはメアリ
時が来たなら復讐を!
……なんて、思っていたのだけれど?
メアリを襲おうとしたのはなんと【|九龍巧遇《知ってる顔》】で
前にもメアリを襲ったロクデナシ
その時ちょっと|復讐し《こらしめ》てやった仲
まあ、奇遇ね! と笑い掛ければ
相手もこれには驚いて謝る? 逃げる? そのまま襲う?
どれでもいいわ、ちょっと|協力《・・》して貰いましょう
もちろん、拒否権なんてあるわけないじゃない!
「ふぅん……ある意味とっても傲慢な子なのに殺してもちっとも愉しくなさそう。……だって、復讐のし甲斐がないんだもの」
どうせ倒すなら身の毛がよだつような極悪人でなければそそられないのか、メアリー・ベスレム(WONDERLAND L/REAPER・f24749)は心底つまらなさそうに机の上に指で渦を描きながら呟いた。
「……まあいいわ。メアリ、このお城の事は気に入ってるんだから」
しかし無邪気な破壊者に九龍城砦をめちゃくちゃにされるのは気に入らないようで、渋々と言った様子で椅子から立ち上がった。
何度も九龍城砦を訪れているメアリーは知っている。
「あら、ここの住民になるなんて簡単よ?」
向かうのは九龍城砦でもなるべく深い底の方、治安の悪い下の方。
無防備にお尻を揺らして誘惑しながら迷い込んだ|演技《フリ》をしてあわれな|獲物《アリス》を装えば。
「なあ嬢ちゃん、ちょいと俺とあそばねぇか?」
向こうの方からお迎えが。
九龍城砦の光も届かぬ最下層は倫理等なき最底辺。そこに迷い込んだ者は食い物にされて穢されていずれ涙も枯れ果てる。
ここはそういう場所。哀れなアリスは二度と帰れない。これからずうっとここの|民《モノ》!
だけれどアリスはメアリ。時が来たなら復讐を!
「……なんて、思っていたのだけれど? まあ、奇遇ね!」
かけられた声に応じて振り返り、声の主を確認したメアリーは気弱そうな雰囲気を捨て去ってにこやかな笑みを浮かべる。
「あー……あ? あ、ナンデモナイデス……」
メアリーの顔を認識した、オークのように肥え太った男は酒精で赤くなった顔を一瞬で青ざめさせて、しどろもどろになりながら踵を返そうとした。
しかし素面と酔っ払いとでは足捌きに大きな差がある。否、お互い素面であったとしてもメアリーから逃げ切ることは出来なかっただろう。
「ちょっと、久しぶりに会ったのにつれないじゃない?」
メアリーは男の横に並走すると逃げる先に左腕を伸ばして遮る。反射的に後退りしようとした男の首からは金属の刃の冷たい感触が伝わって来た。
「せっかくの再会だもの、旧交でもあたためましょ?」
左腕を払えば間違いなく自分の首が飛ぶと、男は観念したように肩を落としてため息をついた。
メアリに声をかけてきたのはなんと知ってる顔。
初めて会った時に煙草と阿片で臭くなった舌で舐めてきて、ちょっと|復讐し《こらしめ》てやった仲だった。
だが男の服装はあの時の上物の黒服ではなく、薄汚れたよれよれの布切れを繋ぎ合わせたその場しのぎの物だった。
「最悪だ……せっかく大勝ちした金使っていいヤクと酒と女をかっ喰らおうと思ってたのに……」
「その割にはすっかり落ちぶれてるじゃない? どうしたの?」
「服に使う金がもったいねぇだけだ。勝手に馘にすんじゃねぇ」
恨み言を吐かないところを見るに、どうやらあの賭場は今も残っているらしい。ただ大勝ちと酒の力ですっかり舞い上がっていた気分はなぜか地面に叩きつけられてしまったようだ。
「そうだ。今日|再会《あ》えたお祝いに、メアリが美味しいお店を教えてあげる」
そんな哀れな男の気持ちなんて全く気にせず、メアリーは男の手首をしっかり掴んで引きずるように連れて行く。
向かうは海鮮を取り扱う屋台が立ち並ぶ区域。見知った提灯を見つけたメアリーはその主に金を見せながら声をかけた。
「おじさん! 狗頭鰻2本ちょうだいな」
「はいよ」
しばし待てば串に刺さった出来立ての蒲焼きが運ばれてくる。
タレで口元が汚れることを厭わず齧り付いたメアリーは微動だにしない男を急かす。
「早く食べなさいな。温かいうちに食べるのが一番美味しいんだから」
「なぁ……アンタ何が目的だ」
「目的? どれでもいいわ、ちょっと|協力《・・》して貰いましょう」
お願いや希望ではなく決定事項のように話し始めるメアリーに、男は嫌な予感を覚える。
このまま蒲焼きもメアリーも何もかも放り出して家の布団に潜り込めば全て夢になってくれないかな、と思いながら男は口を震わせた。
「嫌だと言ったら……」
「もちろん、拒否権なんてあるわけないじゃない! 」
そう答えて、メアリーはタレで汚れた手で無骨な肉切り包丁を見せつけるように一回転させた。
大成功
🔵🔵🔵
キノ・コバルトリュフ
マーツータケ、キノコセラピーはいかがかな?
かぐわしいキノコは香りマツタケ、味シメジ!!
美味しそうなキノコ香りはみんなを元気にさせちゃうよ!
ナメコ!?なんだか、目が血走ってるね。
キノは食べても……おいしいけど食べちゃダメだからー。
コンキスタドールがもたらした薬物は阿片や煙草だけではない。中には蜂蜜や貯古齢糖と一緒に接種する「作法」がある物も存在する。
それを行った者は黄金の宮殿に|誘《いざな》われ、その豪華絢爛さに喜び泣き、不埒なことを犯せばそこを守る野獣や幻獣に襲われる。
そして帰ってきた者たちの中には体験した事柄について語り合う集まりを作る者もいた。
……そんな物があるとは露ほども知らなかったキノ・コバルトリュフ(|キノコつむり《🍄🍄🍄🍄🍄》の星霊術士・f39074)は突然話しかけてきた女性を前に目を白黒させた。
「ねぇあなた、もってるんでしょ? いくらで売ってくれる?」
「キノ?」
キノは九龍城砦を訪れていたのはあくまで星霊建築の勉強のため。
この九龍城砦を形成するほとんどの建物は編笠の治下では計画や設計図を提出する義務がなかったために、ラフなスケッチを元に作られたと見られている。故に本来合わせるはずの水平のラインや階数、各階の高さが全く違い、それによって微妙な隙間も生じている。
また納める経費の少なさから建てるためのコストも削減され、上等な建材も劣悪な建材もごちゃ混ぜに使われている。
故に生み出されたのがこのカオスな外観。
どこかが狂えば一瞬で崩れ去るであろう砂状の楼閣であるが、それが逆に魅力を生んでいた。
流石に自分が作るとなったらこんな場当たりな積み重ねはしないだろうが……それでも偶然が生んだ絶妙なバランス感覚や陰陽道を用いた気の流れは参考になった。
したがって、何かを売るために来たわけではない。
「んーと……キノには何を言われてるのか分からないかな……」
「何をもったいぶってんの! 出せと言われたら出しなさい!」
「ナメコ!?」
突然掴みかかってきた女性に驚いたキノの傘から胞子と芳しい香りが吹き出す。
それを正面から浴びた女性は昏倒し、騒ぎを聞いて駆けつけた者に引きずられるように回収されていった。
「嬢ちゃん、災難だったな。まあ、ああいうちょっとおかしい奴もいるのがココだ。慣れてくれや」
「キ、キノ……分かったよー」
驚きで速さを増す鼓動を手で押さえながらキノは煙草の匂いを口から漂わす男に問いかける。
「あの女の人はキノに何を求めてたのか、分かる?」
「嬢ちゃんの見た目から察するに多分幻覚茸だろうな。俺は身の丈に合わねぇ贅沢はしない主義だから手を出したことねぇけどよ、食ったらこの世のものとは思えないほどのお屋敷に行けるって話だ」
「うーん、キノは食べても……おいしいけど食べちゃダメだからー」
「はは、嬢ちゃんは色気より食い気か!」
食ったら、という言葉に反応して苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたキノに男は大笑いした。
成功
🔵🔵🔴
四王天・燦
《華組》
強さとは何だろう?
おふくろさんと会わせてやりてえな
件の羅刹に妙な感覚を覚えながらも香港租界に降りるぜ
シホの顔を覗いて頬を赤らめる
これってプレ・新婚生活だ
シホのしたいことを聞き不動産屋にあたーっく!
中層のちょい貧しい下町に物件買って開業医を興すぜ
あは、シホらしいお仕事だ
怪我人はフォックスファイア・拾式で治します
阿片患者は浄化の符術使いつつ生活指導しましょ…朝起きたら御狐体操しろ、ってな
シホと美人女医ふたりで駆けずり回るよ
患者がシホにちょっかいかける気配を見切らばカウンターで傷口に消毒薬を塗ってやるー
患者らと脳トレと称して麻雀打って地域コミュニティを構築したりもするよ…シホの麻雀力がえぐい!?
薬の入荷ルートを確立したり、アタシらが退職しても地域の拠所として診療所が維持されるよう医者の卵を探したり経営には力入れるぜ
求む美人女医!(どんな人が来てくれるかお任せ。お楽しみです)
診療所の閉店後、シホといちゃいちゃと夜を過ごすのはご愛敬
今日の晩御飯は油揚小籠包だ
こういう普通の生活も結構楽しいね
シホ・エーデルワイス
≪華組≫
そうね…少なくとも無暗に振り回すものでは無いと思います
自分の力を制御できず周囲を世界を敵に回してしまった…
他者との良き関係を築けられなかったという点に親近感があります
し、新婚生活…
ぽっと頬を紅潮させます
そ、そうね…
主に貧しい人達向けに医療を提供してみたいかな
燦と旅医者を装って街に入り
病人や怪我人を医術で手当てしながら救助活動しつつ
下町で開業できそうな場所を情報収集
治療代は金銭以外にも物資や荷運び手伝い等の労働力での支払いも可とし
住民に手伝ってもらいながら診療所を作る
なるべくUCを使わず薬や針に体操等の生活習慣への助言で治療しますが
重症者は【祝音】や【復世】を使用
一段落したら
医術に興味があり適正がありそうな人を見極め
私の医術を時間が許す限り教える
私達が去った後も
診療所が営業できるように後継者を育てます
麻雀はお金を賭けなければ良い交流になるでしょう
牌を混ぜる音は魔除けになるそうです♪あっロン!
閉店後は明日の準備をしてから燦といちゃいちゃして過ごします
そうね
結構忙しいけど充実しています
「強さとは何だろう?」
検診を終えた帰り道、隣を歩く四王天・燦(|月夜の翼《ルナ・ウォーカー》・f04448)からの突然の問いにシホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)は虚をつかれて視線を宙に彷徨わせた。
「そうね……少なくとも無暗に振り回すものでは無いと思います。……どうして急に?」
「んにゃ、ルウの話を聞いてて妙な感覚を覚えてさ」
他者との良き関係を築けられなかったという点で自分の力を制御できず周囲を世界を敵に回してしまった羅刹に親近感を抱いていたシホは、燦が抱いたのも同じような物なのだろうと1人で結論づけた。
「……おふくろさんと会わせてやりてえな」
娘の凶行と訃報を同時に聞き、泣き崩れたという羅刹の母親。ルウか洛陽の都に問い合わせれば今の所在を掴めることが出来るだろうか。
だが今は再びの望まぬ争いを未然に防ぐことが先決である。
そのために2人は違法に乱立した住宅街……ではなく、屋台や排気口から絶えず立ち昇る煙で少し燻んだ大通りを歩いていた。
下層の中でも特に混沌としたスラム街めいた場所なら適当にバラックでも建てて潜り込めるが、そんな治安の悪すぎる場所に短期間とはいえ住みたくはない。となると違法建築のメッカとはいえ、住むのに人を介す必要のある場所の方が多少なりとも安心できるという物だ。
ということで、不動産屋を示す看板が雑に掲げられて中が全く見えない、薬屋と酒屋の間にある小さな入口の前で2人は足を止めた。
「こちらですか……知らなかったら通り過ぎてしまいそうですね」
ルウから渡された地図に改めて目を通すシホの顔を不意に覗きこんだ燦が頬を赤らめさせた。
「……どうされました?」
「いや……これってプレ・新婚生活だなって」
燦の指摘にシホの頬もあっという間に赤くなり、まるで茹で蛸のようになる。
「し、新婚生活……」
「お嬢さん方、惚気話はよそでしてもらって。用があるならさっさと入りな」
それからしばらく黙りこくった2人を見かねたのか、少しだけ開かれた入口から細い目で睨みつける老年の男が1人。どうやらここの店主のようだ。
顎でさっさと入るように急かす老人に詫びつつその後を追うと、うなぎの寝所のような細い屋内の奥にあった卓の上に物件の情報が書かれた紙束が乱雑に括られて置かれていた。
「で? 何か譲れない条件とかあるのか?」
「シホはここで何がしたい?」
「そ、そうね……主に貧しい人達向けに医療を提供してみたいかな」
「あは、シホらしいお仕事だ」
不動産屋は2人の服装や荷物をさっと眺め、彼女達が旅の医者であることを察する。
「なるほど、落ち着きたいと思うには若すぎると思うが……まあいい。安い客がそこそこ来て広いところな。住居はもう借りたか宿屋住まいのつもりか?」
「いえ、出来れば同じ建物で」
「そうかい。じゃあこの中から選べ。ピンと来なかったら黙って返して帰りな」
そう言って老人は紙束の1つを引きずり出すと、埃を手で軽く払ってから手渡してきた。
九龍城砦に前触れもなく現れた流しの医者が中層の中でも貧しい下町に物件を買ったことはすぐに広まった。
下層とはいえあちこちで顔を売っていたこともあるが、治療代を金銭だけでなく物資や荷運び手伝い等の労働力での支払いも可としていたことも大きかっただろう。
まさしく医者の力だけでなく、周辺の住民の力を借りて作る診療所。そこには傷の大小を問わず様々な患者が訪れるようになった。
『御狐・燦の狐火をもって癒しとなせ。炎宿りてその身に更なる力を与えよ!』
体を優しく包み込む温かな炎が体についた切り傷を癒していく。同時に貼り付けていた浄化の符が軽く劣化したのを見て、燦は患者を睨みつけた。
「お前、サボってんだろ?」
「うぇっ……なんで見抜く」
「うるせぇ、見抜かれるような生活をしてるお前が悪りぃ。これに懲りたら阿片吸わんで朝起きたら絶対に御狐体操しろ?」
「どうしてやってるヤツまで分かんだよ……」
一方でシホはなるべくユーベルコードは使わず、出来る限り薬や針に体操等の生活習慣への助言による治療を行っていた。
流石に重症者相手には【祝音】や【復世】を使用していたが、その理由は後ろで必死にメモを取る青年や女性のためであった。
彼らは皆、医術に興味があるが性別の壁に阻まれたり学ぶ金が無かったりで諦めていたという希望者。その中から適正がありそうだと選別した人々だ。
この診療所の建物は借りるどころか買い取ったもので、上の物件が崩れて下敷きにならない限りは2人の好き勝手に出来る物件になった。
だが猟兵である以上シホも燦も四六時中いることは出来ない。
自分達がこの地を去った時に新しい物が何一つ生まれることなく自分達だけを頼りにしていた者だけが残される……ということを避けるためにシホは地域の拠所として診療所が維持されるよう、自分が施せる医術を時間が許す限り教えていた。
「今の患者さんのように大きな骨が折れている場合は添え木や杖を施すだけでなく、痛み止めの薬を出す必要があることもあります。分かりましたね?」
「はい、先生!」
そんな聖母のようなシホの尻をどさくさに紛れて触ろうとしていた不埒な輩の傷口に燦は容赦なく一際しみる消毒薬を塗りたくって悲鳴を上げさせた。
「あの四王天先生、今の患者さんの症状だとあの塗り薬よりも安価な物でも良かったと記憶してるのですが……」
「んー? あれは単に私の気分。明明も嫌な野郎が来たら大したことない傷でもこれを使ってやりな」
「わ、わかりました……」
「明明さん、分からなくていいですよ。燦も間違ったことを教えないの」
「べつにまちがってませんー」
また脳トレと称して患者と麻雀を打つ。金を賭けさえしなければ、麻雀は立派な交流ツールなのだ。
「牌を混ぜる音は魔除けになるそうです♪」
「お、よく知ってるな先生。でも」
「あっロン! チャンタドラ2で……裏は乗らず3900」
「……立直せずに四萬捨てて七萬単騎かよ」
「シホの麻雀力がえぐい!?」
シホの思わぬ特技に驚く一幕がありつつ、近くの雀荘にも足を運んで地域コミュニティを構築しようとしたところ、雀荘の常連の1人が漢方薬の卸売をやっていて薬の入荷ルートが思わぬ形で確立したのはラッキーだった。
「今日の晩御飯は油揚小籠包だ!」
診療時間が終わり、看板が下ろされると住居スペースである2階に灯が点る。
どれだけ忙しかろうと先に上がってきた方が料理をして待っているのが2人が決めたハウスルールだ。
「こういう普通の生活も結構楽しいね」
「そうね」
結構忙しいが充実している暮らしに、2人は食卓越しに顔を見合わせて笑い合う。
そしてしっかり食べ終わった後、見てる人がいないからといちゃいちゃと毎夜を過ごすのはご愛敬と言ったところだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『狂戦鬼『彩紅』』
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POW : 戦闘筋肉は裏切らない
【脳みそまで戦闘筋肉】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD : 究極の通常攻撃
【彼女にとってはごく普通な超速ダッシュ移動】で敵の間合いに踏み込み、【磨き抜かれたパンチやキックなどの通常攻撃】を放ちながら4回攻撃する。全て命中すると敵は死ぬ。
WIZ : ですとろーい!
【地形を変えてしまうほどの闘気大爆発】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
イラスト:えんご
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「四王天・燦」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「いやいや、気圧されてちゃいかん! ウチはここで一旗あげて故郷に錦を飾るんや! 頑張るでー!」
壁越しに響き渡ってきた自分自身に喝を入れる声が辺りを揺らす。
まるで地震かと思うほどの大声に誰も彼もそれが外から聞こえてきた声だと思わず「また元気な奴が入ってこようとしてるもんだ」と苦笑いを浮かべる。
その声の主が、下層の建物を全て薙ぎ倒して中層も上層もまとめて崩壊させる羅刹の形をした災害だとは誰1人……羅刹自身も想像すらしていなかった。
キノ・コバルトリュフ
エリンギ!今日は楽しくハイキング!!
シメジ、なんだか周りが騒がしいね。
でも、キノたちは気にしなーい。
キノ?スピちゃんどこに行ったのかな?
シイタケ、おいしいお菓子とか用意したのに。
帰ってきた、どこに行ってたの?
軽く運動でもしてきたのかな?
マイタケ、それじゃあ、いただきます。
「シメジ、なんだか周りが騒がしいね。でも、キノたちは気にしなーい」
そう歌うように呟きながら、キノはレンゲの上に置かれた包子に箸を入れた。
肉類に野菜、漬け物、小豆やゴマ、はたまたダンボール等、中に包む具の種類が多岐に渡る中華まんの原点の断面からは溢れんばかりの肉汁のスープが湧き上がってレンゲに溜まり、キノは口にする前に何度も念入りに息を吹きかけた。
そんな様子をキノコ笠の上から眺めていたスピカはふと視線を明後日の方に向かすとそのまま飛び降りてどこかに行ってしまった。
「キノ? スピちゃんどこに行くの?」
まだまだ食事中かつ会計が終わっていないキノはその後ろ姿を慌てて追いかけることが出来なかったが……普通の動物とは一線を画す星霊故に、そこまで心配することなく包子を口に運んで頬を綻ばせた。
その頃、キノが食事しているよりも下の階層では羅刹の行動に対する余波によって大混乱に陥っていた。
「女ぁ! 何してくれてんだ!」
「うわあああ、すいまへん!」
商売道具を壊されて激昂する男に慌てて羅刹は頭を下げるがその上下の動きによる風圧が男の体を軽々と吹き飛ばす。
吹き飛ばされた男は建物と建物の間に架けられた洗濯物を一通り巻き込んでから墜落した。
「ちょっとうちの服! たった2枚しかないんだよ!」
「一張羅なのに、明日の宴会どうしてくれるのよ!」
「あわわわわわ」
扉や窓から顔を出して怒鳴る女性達を前に羅刹の目がぐるぐると回り出す中、現場に降り立ったスピカは青い体を念動力で浮かしながら4本の脚で踊り出し、青い光をこぼし始めた。
その幻想的な風景に周囲の人々が罵声を吐くのを止めて釘付けになる中、真っ先に我に返った羅刹は叫んだ。
「と、とりあえず代わりの服を買ってくる! ちょっと待っててな!」
ダメにした分は代わりの物を用意すればいいと、短絡的に判断した羅刹は自分が動くことで更に被害が広がるという点に全く発想を飛ばすことなく、どこに服飾店があるかも分からないまま走り出す。
そしてその踏み出しによって生じた爆弾めいた闘気の波動によって、近くにあった看板は激しく揺れてから倒れた。
「あ、帰ってきた。どこに行ってたの?」
そのあまりの速さに一瞬でその後ろ姿を見失ったスピカは阿鼻叫喚に陥る街から撤退し、点心を引き続き味わっていたキノの元へ戻る。
「キノ? ちょっと元気がないみたいだね。そんなスピちゃんには、このカスタードクリームを授けよう♪」
キノの元に羅刹を連れて来ようとしていたスピカはその優しさに甘え、一口でクリーム入りの包子を頬張った。
成功
🔵🔵🔴
メアリー・ベスレム
……呆れた
ホントに自分の力をわかってないのね
|殺人鬼《メアリ》よりもよっぽどタチが悪いったら!
アレじゃ殺してもちっともつまらない
……だったらこういうのはどうかしら?
|協力者《・・・》に協力してもらい
【擺弄符】を貼らせて命令させる(もし変な命令をしたら後で殺してやるんだから!)
「アイツを倒せ」とそんな風
【屍身傀儡】でキョンシー化
さあさ、悪い僵尸を退治てみせなさい? と
口には出さず【挑発】し
敵の攻撃は【受け流し】
【功夫】の技で敢えて真っ向からの殴り合い!
あるいはわざと受けながら
【怪力】【捨て身の一撃】【カウンター】!
ホントは死ぬハズの一撃も
残念でした、今のメアリは既に|僵尸《死んでいるん》だもの!
「……呆れた、ホントに自分の力をわかってないのね」
走る羅刹の風圧で周囲の置物が吹き飛び、建物が揺れる。その様子を屋上から眺めていたメアリーは憤慨していた。
「|殺人鬼《メアリ》よりもよっぽどタチが悪いったら!」
その言葉に、連れ回されている男は胡散臭そうな目を向けた。大差ないだろう、と思っているのがミエミエである。
しかし寛大なメアリーはそれを咎めはせず、自分の大好きな街が壊されていることに苛立ち、指を噛んだ。しかし相手が意図を持って壊してない故に、メアリの闘争心にはなかなか火がつかない。
「アレじゃ殺してもちっともつまらない……だったらこういうのはどうかしら?」
メアリーは踏み台から降りると、嫌そうな表情を浮かべながら男に擺弄符の束を押し付けるように渡した。封神武侠界の住人たる男には、それが何を行うための物か説明されずとも分かった。
「これをアレに貼り付けて押さえつけろ、って!? 無茶言うな」
「違うわよ、メアリに貼るに決まってるでしょ!!」
メアリが渡したのは生者から魂を吸い出し、生きたまま屍体へと変えてしまう護符。そしてその屍体は術者の望むがままに動く。
それがたとえ、屍体となった者がやりたくないことであったとしても。
「あんな殺しがいの無い奴と戦うなんてメアリは嫌なの! でも戦わなきゃどうなるのかもわかるの。だからこれを使って無理矢理動かしなさい……ってどうして察せないのかしら?」
分かるかそんなん、とげんなりとした表情を浮かべながら男は束から1枚取り出した。
「もし変な命令をしたら後で殺してやるんだから!」
メアリに脊椎をへし折られかけたことのある男はその脅し文句が本気で言われている物なのだと思いながら、割と強めにメアリのおでこに叩きつけた。
貼り付けられた擺弄符に勅令が浮かび上がり、メアリの目から光が消える。
自らの意志を失い、主人の指示を待つだけの存在となったメアリに男は囁くように告げた。
『|羅刹《アイツ》を倒せ』
その瞬間メアリは柵を飛び越えて宙に飛び出し、着地による足の痺れを全く感じさせない動きですぐさま羅刹の元へ急行する。
服屋を探して右往左往する羅刹と違い、九龍城砦を我が庭のように把握しているメアリは最短ルートでその進路に割り込む。
突然現れたメアリを避けようと羅刹は右に左に動くが、意図的にその動きについてくるメアリに思わず声が出た。
「ちょっ、どいてーな!?」
メアリは苛立つ羅刹に向かって微笑みかけ、さあさ、悪い僵尸を退治てみせなさい? と口に出さず挑発する。
「ぐぅ……しゃーない! 何で邪魔されてるか分からへんけど通させてもらうわ!」
羅刹は男よりも察しがよく、その笑顔の意図が伝わったようで距離を取り直して拳法の構えを取り出した。
そして審判の合図を必要ともせず、2人は示し合わせたかのように動き出した。
功夫の技を用いて、敢えて真っ向からの殴り合いが繰り広げる。
基本は受け流すが、時にはわざと受けて擺弄符の力でタガが外れた怪力によるカウンターを喰らわせれば羅刹の口から呻き声が漏れる。
カウンターに繋げた物の中にはホントは内臓が砕け散って死ぬハズの一撃もあったが……残念でした、今のメアリは既に|僵尸《死んでいるん》だもの!
どれだけ壊れようと、限界というものを見失った回復力が何事もなかったかのようにメアリの全身を壊れたそばから治していく。しかし痛覚だけは壊れたまま、メアリはどんな傷を受けたのか把握も理解もせずに殴る蹴るを繰り返す。
「すげぇ……やっぱり外の奴はすげぇわ! こんなキマってても倒れへんなんて!」
どれだけ手応えのある一撃が入っても平然としているメアリに、羅刹は目を輝かせながら次はどの手を使おうか考えを巡らせた。
大成功
🔵🔵🔵
四王天・燦
《華組》
愛着湧いた診療所のため
宿縁を感じる彩紅を救うため頑張るよ
先ずは戦闘余波を防ぐべくシホと稲荷符を交わして結界術を行使する
一旗揚げたいんだろ?
|来吧《来い》!
グラップルによる柔術で抑え込む
攻撃は見切って受け流すけど骨折程度は覚悟の上
戦いが愉しく不敵に笑うぜ
闘気大爆発を九龍の霊気で強化したオーラ防御で突っ切る
闘気が散った隙は逃さない
気合と激痛耐性で体を動かし、神鳴による峰打ちで電撃属性攻撃とマヒ攻撃を叩き込む
シホの援護を受けながら殴り合い、精気循環符を貼り付けて力を奪って無力化して降伏勧告だ
結界内の惨状を見せつける
負傷も示す
常人なら死んでいる
力に振り回されちゃいけねえよ
彩紅の意志にもよるが式神使いによる式神化を試みる
九龍の霊気という力は彼女を殺さず生かす為に使いたい
循環符は焼いて過去の力は躯の海に還そう
オブリビオンという呪いを越えるべく『今』から鍛えなよ
優しいからって惚れるなよ
シホにも惚れちゃだめー!?
彩紅を彼女の母親に会わせたり、明明達に診療所を継いでもらったりと事後処理が大忙しだね
シホ・エーデルワイス
≪華組≫
燦の支援を最優先に行動
街の惨状を目にし
…彩紅さんの故郷は凄く頑丈なのかしら…
頭を上下した風圧だけで人が吹き飛ぶなんて…
力を抑制させないと…
困った人だと思う
明明さん達にお願いし街の人々を避難誘導してもらう
燦と一緒に『狐札』で彩紅さんの闘気で街が破壊されないよう
戦場を結界術で包む
更に燦の彩紅さんを無害化して新しい人生を送れるようにしたい祈りを
九龍の霊気も籠めて【輝喘】
真の姿になり
燦と連携し枷の鎖で彩紅さんに絡みついて
周囲の構造物と繋がり時間稼ぎ
落ち着いて周りをよく見て下さい
貴女の闘気で周囲の建物が崩れてしまっています
これでは一旗あげるどころか街を破壊し尽くしてしまいますよ
彩紅さん
貴女の力は人界では凄く強過ぎて
仙界にいる時の様に振る舞うと皆に迷惑をかけてしまうのです
戦後
負傷者を明明さん達と集団戦術と医術で手分けして救助活動
燦の骨折は【復世】
一通り落ち着いたら明明さん達に診療所を引継ぐ
医者が怪我や病を治すのではありません
患者が治ろうとするのをお手伝いするのが医者の役目なのを忘れないでね
「はい、どいたどいたー! 急患のお通りだよー!」
羅刹によって吹き飛ばされた男を載せた荷車が診療所に向かって走り出す。
応急処置をし終えたシホは荷車が角を曲がって見えなくなるまで見送ると、台風が過ぎ去った後のような惨状となった街並みに視線を向けた。
「……彩紅さんの故郷は凄く頑丈なのかしら……頭を上下した風圧だけで人が吹き飛ぶなんて……」
当事者たる羅刹の名前を呟き、心の底から困った人だとため息を吐く。
「まずは力を抑制させないと……」
だがどれだけ抑制しても九龍の霊気の力を借りようとも限界というものは存在する。最悪の事態を想定し、燦は診療所の職員総出で近隣の住民を全員避難させていた。
「四王天先生、この辺にもう人はいないはずです!」
「ご苦労! 明明達も診療所に戻っててくれ!」
ここから先は荒事に慣れた者の仕事だと職員達を下げたところで、先に羅刹と相対していたメアリーの体がまるでピンポン玉のように飛んでいくのが見えた。
恐らく両脚が浮いてしまった隙を突かれたのだろうか。ただ彼女の耐久力なら余裕で戻ってこれるはずだ。……ただ今回は引いてもらおう。
「愛着湧いた診療所はもちろんだけど……宿縁を感じる彩紅も救いたいんだよ」
戦闘の余波による崩落を防ぐべく燦はシホと稲荷符を交わして結界術を行使した。これで外槍が入ってくることは無くなった。
『生きとし生けるこの世界の皆様。この苦難を乗り越え、明日を迎える為にどうか力をお貸しください』
さらに困っている人の力となる奇跡が起きて欲しいという願いを込めれば、その代償だと言わんばかりにシホの首や四肢に黒い拘束具が取り付けられた。
そんな中、突然張られた結界に綻びか抜け道がないか、探しながら歩いてきた羅刹が2人に気づいた。
「あ、そこの別嬪さん! ウチここから出て服屋に行きたいんやけど……出口知っとる?」
「ああ、知ってるさ。この結界を張ったのはアタシ達だからな」
そう言って燦は一歩前に出て、困惑する羅刹に向けて上に向けた指先で小さく手招きした。
「一旗揚げたいんだろ? 来吧!」
来い、という意味の中国語と動作で挑戦状を叩きつけられたことを理解した羅刹は、これこそが九龍城砦の流儀なのだと誤解して両の脚に力を込める。
「そうか……そやったんやな。なら、ここでウチの全身全霊見せたるで!」
溜まりに溜まった闘気が暴発し、その爆風に乗った羅刹が一気に燦へ急接近する。
対する燦は九龍の霊気で強化したオーラ防御と柔術で抑え込みにかかった。
なるべく攻撃は見切って受け流す腹づもりであったが、抑え込みにかかるということは羅刹の得意な距離である接近戦に持ち込まざるを得ないということ。
押し込まれないように腕や腹に振るわれた拳や肘打ちによって、燦は感覚的に骨が複数本一気に折れたのを察した。
しかしそれも覚悟の上だ。戦いを愉しみ、気合で半ば強引に体を動かし、神鳴による峰打ちで羅刹の体を麻痺させにかかる。
持ち前の闘気を爆発させることで燦と同じように感覚を麻痺させていた羅刹であったが、九龍の霊気の有無によって先に音を上げることとなった。
そこへすかさず、シホは自分の身を縛る鎖を振り回して周囲の構造物と繋がりながら羅刹の体を拘束した。
「ちょっ……女と女の勝負に邪魔せんといてーな!」
「落ち着いて周りをよく見て下さい」
気を抜いたら最後、壁に叩きつけられてしまいそうな力に抗いながらシホは羅刹に語りかける。
「周り?」
見回した先にあったのは半壊した店の入り口や全壊した屋台、地面に落ちた衝撃で割れた酒瓶など……入った時には活気に溢れていた街が廃墟同然になっていた。
「貴女の闘気で周囲の建物が崩れてしまっています。これでは一旗あげるどころか街を破壊し尽くしてしまいますよ彩紅さん」
「ウチの、せい……?」
相手に自分が動いた結果何が起きてしまったのかを認識させること。それが彼女を討った衛兵に欠けていた考えだ。とはいえ、止められるかどうか分からない……否、どう足掻いても止められない暴走車めいた相手へ悠長に対話を試みる余裕なんて持てるわけがないので衛兵を責めることは出来ない。
「いや、結界で幻術を見せてるだけやろ! ウチをそんなんで動揺させようなんて———」
「アタシが常人ならとっくのとうに死んでいるよ」
間近から地を這うような声で囁く燦の声に視線を向けた羅刹は小さな悲鳴をあげる。
そこには剣を持っていない方の腕を幾重にもあらぬ方向へ曲げ、口から血を流しながらもこちらを睨みつける燦の姿があった。
「こんなぐちゃぐちゃに曲がった腕が幻覚かい?」
より分からしめるために激痛で疼く自分の片腕に羅刹の手をなぞらせる。
結果。どうしてここまで傷ついても立ち続けられるのか、という感想ではなく、どうしてこんなに傷ついてるのか、という疑問が羅刹の頭の中でひたすら廻り始めた。
「彩紅さん。貴女の力は人界では凄く強過ぎて、仙界にいる時の様に振る舞うと皆に迷惑をかけてしまうのです」
貴女だけでなく貴女の育った仙界自体が異常だったのだと、言葉遣いは優しくともシホは断言する。
仙界で師匠や兄弟子、兄姉と戦った時にお互い負わなかった重傷から羅刹が反射的に視線を離したところで、燦は刀を落とした手を自らの懐に突っ込んだ。
「力に振り回されちゃいけねえよ。『御狐・燦が命ず。符よ、此の者の力を奪い取れ!』」
動揺から闘気が散った隙を逃さず、叩きつけられた循環符が無色から目が眩むほどの金色に変貌していく。
これだけの輝きを得たら符は耐え切れずに自壊する。それに耐えられたのは九龍の霊気だけでなくシホの祈りも大きかった。
シホが祈ったのは九龍城砦に住む人々の平穏な生活に対してだけでは無い。燦の、彩紅を無害化して新しい人生を送れるようにという思いと、彩紅自身の故郷から離れて立派に独り立ちしたいという願いも込めていたのだ。
それだけの欲張りに対して、この程度の拘束で済むならば安い物だ。
「こっちはさぁ、彩紅を殺さず生かしたいんだよ」
体がどんどん軽くなり、力が抜けていく。しかしどこか心地よい感覚に困惑した面持ちで羅刹は再び燦に視線を向ける。射抜くような視線はいつの間にか、出来の悪い子を微笑ましく見守るような優しい物に変わっていた。
「優しいからって惚れるなよ。オブリビオンという呪いを越えるべく『今』から鍛え直しな」
そう告げて羅刹の力を根こそぎ吸い取った循環符を狐火で燃やし、入れ替わりに式神符を叩きつける。
「ふぇ?」
自分は死んでないと思い込んでいた羅刹は燦の行動を理解できないまま、符の中に吸われていった。
「封印完了ーっと……」
宙に舞った赤に黒の紋様が縁取られた符を掴んだ燦がそのまま倒れようとしたところをシホは自分の胸で受け止めた。
「まったく……無茶しすぎなんですから」
そう呆れたように呟きながら、シホは【復世】を発動させて痛みと安堵から気を失った燦の体を癒した。
羅刹の騒動でめちゃくちゃになった街や人の体が元通りの形を取り戻した頃、この区画に初めての診療所を作り、周辺の貧しい人々を助け、多くの弟子を外に送り出した女医師2人が別の場所に住む恵まれない人々を救うために旅立つと聞いて、診療所には大勢の人が詰めかけた。
「医者が怪我や病を治すのではありません。患者が治ろうとするのをお手伝いするのが医者の役目なのを忘れないでね」
滂沱の涙を流しながら感謝の花束を渡す明明を始めとする後継者達を一人一人シホは抱きしめ、教訓めいた言葉を送る。
そんな洒落たお別れは言えないから、と花束だけ受け取った燦がその様子を遠巻きに眺めていると懐から念話が聞こえてきた。
『シホはんカッコええなぁ……ウチが男やったら口説いてるところやわ……』
燦は黙って感想の出所である赤い符を取り出すと、まるで濡れた雑巾を絞るように捻った。
「シホにも惚れちゃだめー!?」
『いだだだだだだだだ!?』
羅刹の言葉が聞こえない故に突然燦が奇行に走ったかのようにしか見えず、困惑から涙を引っ込ませた住民達の中で、シホだけが控えめに噴き出していた。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2023年06月25日
宿敵
『狂戦鬼『彩紅』』
を撃破!
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