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胸いっぱいの絶望を

#ダークセイヴァー #月光城 #グリモアエフェクト #月の眼の紋章

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●目覚め
 気がつけば、其処に佇んでいた。
 誰も居なくなったかつての市街地は、死んだように崩れ落ち、そのまま、長い時間を常闇とぬるい風で削られていた。
 かつての在り様を思い返し、首を振り、そっと己の身体に手を当てる。
「空っぽ……」
 吸い込まれる声の、あまりの細さに、慄く。
 『月の眼の紋章』は未だに身の内に感じられる。だが、『人間』の不在を証明するように、力の多くを削がれている。
 鳥が、ふわりと飛び上がる。伸ばした手からひらひらと逃れる。嗚呼、と、潰れた声が出る。
 紋章によって力が満ちていたときですら、餓え続けていたのに。
「誰か」
 かつ、と音を立てて、たどたどしく歩き出す。
「誰か来て」
 ふらふらと、自動的に、歩みを進める。
 ここで待っていれば、誰かがやって来る。
 そうしたら、貰おう。いっぱいになるまで貰おう。匂いのない風が身体を通り抜けていく。その空白が辛い。辛くて渇いて、錆びそうな檻が鳴りやまない。
 だから、いっぱいにしなければ。

 針金で拵えた花のような、空っぽの少女が、滅びた市街地を歩いている。
 ――その眼差しは、餓えた獣に似ていた。

●グリモアベース
「今回お願いしたいのは、ダークセイヴァーの廃墟の探索と、強力な敵二体の撃破よ」
 グリモアベースにて、コルネリア・ツィヌア(人間の竜騎士・f00948)はそう切り出した。
「グリモアエフェクトのお陰で予知出来るようになった、『月光城だった廃墟』がまたひとつ、見つかったの。ダークセイヴァーの『月』に関して調べが進むかもしれないし、『大いなる危機』と予測されるほどのオブリビオンの芽は早々に摘んでおきたい」

 ダークセイヴァーが地下世界であることが判明したと共に、新たな謎が持ち上がった。そこに浮かぶ『月』は、一体、何なのか。
 調査するうちに浮かび上がった、『月光城』という城塞。それも、まだ、わからないことの方が多い。
 ただ、グリモアエフェクトによって、かつての月光城の廃墟に、大いなる危機が眠っていることが判明していた。

「これから向かって貰うのは、そのひとつ。まずは、地下墓所を経由して、旧市街地を目指して」
 地下墓所には特に仕掛けや罠といったものはない。
 ただ、かつての激しい戦闘の結果、無茶をすれば崩落の危険などはある。
 一切光のささない、淀んだ空気の中という環境が延々と続くのは、人によっては厳しいかもしれない。
「あとは、昔のまじないの残滓だとか、自我もないほど弱い死霊がうろついているくらいね。気になるなら祓ったり解呪したりしても良いし、そういったことをしなくても、突っ切ることは出来そうよ」
 どうするかは、現地を行く猟兵たち次第だ。
「そこを抜けて、旧市街地に出たら――即刻、かつての主がお出ましになるわ」

 かつてこの地にあった城主の名は、ヴェリオラというらしい。
 うつくしい少女の顔の他は、身体すべてが金属と金具で組み上げられた、ひとの輪郭をした檻で出来ている。

 まず前提として、月光城の城主が持つ『月の眼の紋章』と融合している。
 だが、人間が周囲に存在しない現在、その強化機能は『紋章から飛び出す棘鞭』のみに留まる。

 そして、元来の彼女が備えている力が、三種。
 虚空から突き出す鉄杭による攻撃と有利な戦場の作成、猟兵を捕らえる鳥籠の召喚の他、『触れられたくない過去や記憶』をこじ開ける力を全方位に放ち、放心させるという能力を持っている。
「鉄杭は外しても鳥籠として封鎖しに来るわ。物理的に何とか出来るものではあるけど、地形としては相手に有利なことは忘れないで」
 有利になるのは、相手の身体構造の問題だとコルネリアは補足する。刺さるところがなく、巧く鳥籠の一部になることすら出来る。
「捕獲する鳥籠の召喚は、相手がピンチになるほど数が増えるわね。あと、一度捕まったら、条件を満たさないと出られない錠がかかる」
 条件については、召喚した時の状況にもよるという。
「予想の範囲だけど、無抵抗とか武器を捨てるとかではなさそう。せっかく無力化した相手を出す意味がないから。そうすると」
 言葉を切り、しばし考えた末に、ぽつりと呟く。
「『渇いた』『空っぽ』『いっぱいになるまで』『満たして欲しい』……という意味のうわごとを言っているみたいだから、多分、何らかの理由で鳥籠がいっぱいになる……辺りが有力だと思う」
 いずれにせよ、なるべくなら捕まらないように頑張った方が良さそうではある。
「最後に、記憶をこじあける力は、そのままの通り。彼女が黒い紐に繋がれた鍵を取り出したら、それを中心に放って来るから、気をつけて」
 攻撃を許してしまえば、身体にも傷を負い、放心状態に陥る。前三つの能力と合わせれば、かなり致命的だ。
「ちなみに、あちら、地味に理性が飛んでるから。自分が死ぬか、踏み入った全員殺すかの二択よ。……それで、倒した瞬間に、次が来る」
 一度、深く息を吸ってから、コルネリアは続ける。
「撃破したら、そこから、もう一体のオブリビオンが出現する。――月光城とその周辺都市を襲撃した『外敵』と推定されるわ」
 そのオブリビオンは。なんらかの理由により、月の如く煌々と輝き、異形の身体部位を幾つも生やしたかたちで、出現するという。

「今回、出現する敵の名称は、『絶望の集合体』。過去へと消費された絶望の感情が骸の海より染み出したものよ」
 意思疎通の不可能な、現象に等しい存在。この土地の絶望に反応してか、その大きさはちょっとした建物ほどもある。
「偶然だけれど、攻撃手段はよく似ているわ。腕で攻撃して、外しても瘴気を撒いて場を有利にする。相手ごとに有効な泥人形を生み出す。虚ろな瞳で視認した対象に、多数の惨い死を疑似体験させる」
 そんな、元より手強い存在が、絶望という地の利と、異形の身体部位を備えている。
 だからこそ、いつかに先延ばしするより、今討つことが望ましい。
「ともあれ、そこまで行ったら、強力な個体との力勝負よ。その前提で、あなたたちひとりひとりが持つ手札で勝負して頂戴」
 健闘を祈ります、と、静かな声で締めくくった。


越行通
 こんにちは。越行通(えつぎょう・とおる)です。
 今回は、ダークセイヴァーの『月光城』に関する冒険となります。

 流れとしては、第一章は冒険。
 第二章、第三章はどちらもボス戦です。
 第一章以外は、ほぼ純戦です。概要は、概ねOPにある通りです。
 補足として、このシナリオにおける第二章ボスSPDの鳥籠の解錠条件は、『何らかの理由で鳥籠が一杯になること』です。

 どうか、自分らしい、自由なプレイングをかけて下さい。

 皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『光の届かない地下墓所』

POW   :    恐怖心を抑え込み探索する。

SPD   :    死者の眠りを妨げないように慎重に探索する。

WIZ   :    呪いや怨霊を祓いながら探索する。

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●断章
 ぽっかりと空いた暗闇の中に足を踏み入れると、そこは無数の棺が並べられた、広く長い空間だった。
 日が差さない地下。明かりを点すものもなく、年月の中で積もった砂と埃が宙を舞い、それでもその多くは暗闇に溶けるように広がっている。
 猟兵たちが入ったことで僅かに生まれた空気の流れに、微かな瘴気と呪いの残り香が混ざり、霧散する。
 素養のある者には、自我の消えかけた霊の痕跡が感じ取れたかもしれない。だが、それすらも、吹けば飛ぶような弱い気配しかない。
 すべて終わり果てた国へと続く地下は、永遠に静まりかえったまま、ゆっくりと時間の中に沈むのを待つばかりだった。
灰枝・祇園
こんにちは。お葬式に参りました。

棺に入られているのですね。素晴らしいことです。
葬儀をされているということですからね。
それでも、ちゃんと死んでいらっしゃらない方もいらっしゃいますね。
大鉈で魂ごと切り払ってまいりましょう。
さようなら。さようなら。おやすみなさい。

停滞した空気は良いものです。
それは死者に優しい。死者の安眠を保ってくれます。
罠などがないのは惜しいですね。これでは墓が荒らしやすいです。
のんびりとまいりましょう。出口は逃げません。




 静まり返った暗闇の中。不意に、白い顔が浮かび上がった。
 それは、質量を伴った、紛れもない人型だった。砂埃が舞い、人型の纏う衣服の黒、髪の黒を闇の中から浮かび上がらせる。
 黒の中でただひとつ白い貌は、穏やかに見える表情を形作って、告げた。
「こんにちは。お葬式に参りました」
 その声を聴いたものは、ここには居ない。

「棺に入られているのですね。素晴らしいことです。葬儀をされているということですからね」
 現れた、灰枝・祇園(喪主・f22953)はまず、地下墓所に並ぶ石棺をつぶさに観察した。
 簡素な石棺だった。同じ構造とつくりの棺が、一定の距離で並んでいる。長い時間の何処かで皹の入ったものも見受けられるが、これらが埋葬された時代には、概ね、出来る範囲で丁重に扱われただろう様子が窺える。
「それでも、ちゃんと死んでいらっしゃらない方もいらっしゃいますね」
 喜ばしい言葉の続きのまま、とても滑らかな、自然な動作で、祇園が片手に持った大鉈で、宙を割るように薙ぐ。
 仄かに浮かぶだけだった希薄な魂を包む怨念と瘴気が、両断されきるより早く、魂ごと消えてゆく。
「さようなら。さようなら。おやすみなさい」
 一歩を踏み出し、逆方向にもう一度。
 聴くもののない別れを、口ずさみながら。

「停滞した空気は良いものです。それは死者に優しい。死者の安眠を保ってくれます」
 地下墓所の長い静謐に、鉈を持たない手を胸に当て、祇園は話し続けている。
 その言葉通り、停滞した墓所を、白い顔と、時折閃く鉈だけが、最低限の動きで横切ってゆく。
「罠などがないのは惜しいですね。これでは墓が荒らしやすいです」
 石棺は箱に蓋をしただけのもの。通路は床材に多少の意匠がこらされたもの。棺の中に込められたのは、恐らく僅かな花だとか、そういったもの。
 だから罠は必要なかった。
 そして、そうした背景は、祇園にとっての望ましさとは、遠いところにある。
「のんびりとまいりましょう。出口は逃げません」
 暗闇よりも暗い喪服の人型が、そのようにして、墓所を歩いてゆく。
 多少生まれた空気の流れは、取り残されて再び沈静化し、僅かな魂の消えた通路は、再びの闇と静寂に落ちてゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シエナ・リーレイ
●アドリブ絡み可
こんにちは。とシエナは『お友達』候補に挨拶します。

楽しく歌いながら墓所を進むシエナ
彼女にとって墓所とは『お友達』候補に満ち溢れた素敵な場所
歌声と共に[呪詛]をばら撒けば棺から『お友達』が顔を覗かせます

城主さんってどんな人なのかな?とシエナは問い掛けます。

段々と賑やかになる行進する最中、自我の希薄な霊と出会えばシエナは霊の求める『お友達』の中へ招き入れ会話を始めます
それは自我を失っても存在を保てる程に強い想いを知る為の行動です

まともな対話が成立せずとも城主と言う名の『お友達』候補と仲良くなる為に必要な情報を得る足掛かりに出来ます

どんな人なのかな?とシエナは城主へ想いを馳せます。




 地下墓所に、歌声が広がってゆく。
 その歌声は少女の柔らかな声と、暗く重たく流れる瘴気を選んで掬い取るような響きを帯びていた。
「あなたもわたしの『お友達』になって!とシエナは特性のおまじないを『お友達』候補にかけます」
 歌声の最後、無邪気な声で告げたシエナ・リーレイ(取り扱い注意の年代物呪殺人形・f04107)の目の前で、ゆっくりと、棺の蓋が持ち上げられる。
「こんにちは。とシエナは『お友達』候補に挨拶します」
 他にも、シエナの歌声が届いた範囲の石棺ががたごとと動き、遠い昔に埋葬され、残った骨たちが、人を模したような形に組みあがってゆく。
 その光景を嬉しそうに眺めて――『お友達』候補に満ち溢れた、なんて素敵な場所なのかと――シエナは相好を崩し、屈託なく問いかける。
「城主さんってどんな人なのかな?とシエナは問い掛けます」
 紙芝居のように読み上げた言葉に、骨たちは沈黙している。そのうちいくつかが首を傾げるようなぎごちない動作をする。
 シエナは再び歩みを進める。とてもご機嫌な気持ちで、歌い続けながら。
 そんなシエナに、ごく当たり前のように骨たちが続いてゆく。長い年月の所為か、まともに手足が揃っていないものも多かったが、不思議につんのめるようなこともなく、シエナの『お友達』という認識に従っている。
「こんにちは。あなたも、『お友達』になって。どの子がいいですか。シエナは叶えてあげたくて、そう聞いてみます」
 棺の蓋から浮かび上がる、僅かな自我の残る霊魂を見て、シエナが明るい表情で手招く。
 ただ浮かび上がるだけだった魂が、差し出された『お友達』とシエナの声に呼ばれて、動き出す。
「城主さんってどんな人なのかな? あなたはどんな気持ちなのかな?」
 首尾よく『お友達』の中にやってきた魂に、シエナは呼びかける。
 魂はまるで言葉の使い方を忘れたように、たどたどしく、言葉を返す。

『じょうしゅ、めいれいだけ、ひと、しらない』
『しろはこわいところ』
『いつもたりない』
『たりなくてたりなくてとおくからもたくさんきた』
『きもち』
『おもいだせないけど、むかしはきもちをもっていた』
『どうして』
『どうして……』

 切れ切れの言葉に、シエナは耳を傾け、城主に思いを馳せる。
 手の中で、お人形に宿された希薄な魂が、弱まることからの抗いを見せるようになってゆく。

『どうしてわたしだったとおもった』
『わたしじゃなくてもよかったときいた』
『ここにいるみんなそうだってきいた』

『わたしたち、みんな、だれでもなくて、だれでもよかった』

『じょうしゅのめいれいはだれでもよかった』
『だれでもよかっただれでもよかっただれでもよかった』

『わたしは、だれ』

「お話してくれて、ありがとう」
 シエナは満足そうに『お友達』を抱きしめる。
 腕の中で濃度を増す囁きに耳を傾けながら。未だ輪郭が朧な城主の人となりに、思いを馳せて、微笑む。
 ――どんな人なのかな?
 ――とってもすてきな『お友達』候補でありますように!

大成功 🔵​🔵​🔵​

天日・叶恵(サポート)
私なりの、お狐さまの矜持としてささやかなお願いがあればついでで積極的に叶えたいです
例えば、探しものを見つけたり、忘れ物をこっそり届けたり、道をこっそり綺麗にしたり、といったものです
それ以外では、オブリビオン退治に必要であればできるだけ違法ではない範囲でお手伝いしたいと思いまーす

戦闘については、昔は銀誓館学園で能力者として戦っていたので心得はありますー
補助や妨害といった動きが得意ですねぇ
あとは、白燐蟲へ力を与えて体当たりしてもらったり…術扇で妖力を込めたマヒ効果の衝撃波を出したり、でしょうか?

他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも公序良俗に反する行為はしません。




 石棺が並ぶ長い道を、白くいくつもの光が、隅々まで柔らかく照らし出した。
 その光が浮かび、巡り、時折戻る籠を手にした天日・叶恵(小さな神社のお狐様・f35376)は、しばし黙って歩きながら周囲を見回していたが、やがて小さく眉を寄せて立ち止まった。
「わずかでもお力になれれば……と思ったんですけど」
 ふわふわと周囲を照らす白燐蟲の合間、漂ういくつもの霊魂を見つめて、叶恵は軽く眉を下げた。
 魂に残った願い事。もし叶えることは出来なくとも、せめて聴くことが出来れば、と、会話を試みてみたのだが。
「本当に、強い風ひとつで消えてしまいそうですねぇ……」
 僅かな自我を持つ魂は、ただ漂うばかりだ。望みは、と尋ねても、『望み』という概念すら通じていないようである。
 死者とはそういうものといえばそうだけれども。
「お狐さまとしては、放置したくないですねぇ」
 望みもないまま地下深く己を縫いとめている。そんな魂に、白燐蟲を寄り添わせる。
 ふわふわ、ふわふわと、白燐蟲が群れて寄り添い、地下墓所を照らし出す。どうしようもなく風化した時間が、剥き出しになる。
 つと、霊魂が、僅かに動きを変える。
 離れた蟲に、ほんの僅かずつ身を寄せるように。
 それは、やはり風に吹かれたか、灯篭の明かりに寄せられたか位の、僅かな意思ではあったけれど。
 叶恵は籠についた笛を口元に当てて、静かに鳴らす。
 籠に戻る白燐蟲に、たどたどしい飛び方でついてくる霊魂があった。あるいは、漂うままに、白燐蟲へと引き寄せられる霊魂があった。
 そんなささやかな意思が本当に見えなくなるまで、叶恵は笛を鳴らし、ほのかに地下墓所を照らしていた。

 天井近くまで昇った霊魂のひとつが、ふわりとその存在を消す。
 見える範囲の霊がそうして消えたのを見届けてから、叶恵はひとつ息をついた。
「天にも地にも希望がないから、残り続ける以外思いつかなかった……ということでしょうか」
 ダークセイヴァーにあっては、比較的安らげるように作られた場所だと、思う。
 だからこそ、留まってしまったのかもしれない。それも、もう、わからないことだけれど。

 白燐蟲を伴って、叶恵は歩みを進める。
 出口は、確実に、近づいている。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 ボス戦 『ヴェリオラ』

POW   :    嘘鳥の導き
【虚空から突き出す鉄杭】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を鉄杭が織り成す鳥籠で封鎖し】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD   :    狂わしき箱庭
戦場に、自分や仲間が取得した🔴と同数の【猟兵を捕らえる鳥籠】を召喚し、その【鳥籠につけた条件を満たさないと出られぬ錠】によって敵全員の戦闘力を減らす。
WIZ   :    空ろ
自身が装備する【どこに合うか分からない黒い紐に繋がれた鍵】から【触れられたくない過去や記憶をこじ開ける力】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【放心】の状態異常を与える。

イラスト:ち4

👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は奇鳥・カイトです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●終わった後の国
 墓所を出れば、そこは、かつての栄光を示すような、広大な市街地であった。
 あらゆる建物は崩れ落ち、時折吹き抜けるぬるい風が、波のように少しずつすべてを浚ってゆく。
 すべての営みが終わった後。ただ残り続けているだけの廃墟だった。

 不意に、静寂を切り裂いて、大量の茨が押し寄せる。
 周囲の地面、建物、全てに茨鞭が這い回り、猟兵たちを取り囲むように位置取り、狙いを定めてきている。
「誰かが、やっと、来た」
 その中心。まったく重さを感じさせない動きで、茨鞭の主が降り立った。
 人形めいた顔、夜に沈むような瞳の奥には、爛々とした餓えと狂気が覗いている。

「ここに来るみんな、誰でもみんな、私の空っぽに」

 ――かつての城主ヴェリオラ。
 誰もいない国にひとり、餓えと殺意を体現して、きいきいと風に檻を鳴らしていた。
御形・菘(サポート)
※語尾に「のじゃ」は不使用
はっはっは、妾、推っ参!
敵は決してディスらんよ、バトルを彩るもう一人の主役なのでな!
強さも信念も、その悪っぷりも誉める! だが妾の方が、もっとスゴくて強い!

バトルや行動は常に生中継+後で編集しての動画配信(視聴者が直視しては危ない系は除く!)
いかにカッコ良く魅せるか、見映えの良いアクションが最優先よ
とはいえ自身の不利は全く気にせんが、共にバトる仲間にまで不利を及ぼす行動はNGだぞ?

戦法は基本的に、テンションをアゲてボコる! 左腕とか尾で!
敵の攻撃は回避せず、受けて耐える! その方がカッコ良いからのう!
はーっはっはっは! さあ全力で来るがよい、妾も全力で応えよう!


シフィル・エルドラド(サポート)
『皆に元気を分け与えにやって来たよ!』 

ハイカラさんの勇者×国民的スタアの女の子。
 普段の口調:明るい(私、あなた、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)
 嬉しい時の口調:ハイテンション(あたし、あなた、~さん、ね、わ、~よ、~の?)

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。

元気一杯で天真爛漫な性格をしていて、ポジティブな思考の持ち主。
困っている人や危機に陥っている人は放ってはおけず
積極的に助ける主義です。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!




「はーっはっはっは! キマイラの一番星たる妾、ダークセイヴァーに推っ参!!」
 墓所の入り口から、完璧な角度と速度で飛び出した御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)の声に反応し、あらゆる方角から茨鞭と鉄杭が殺到する。
「おっと、最初から出し惜しみなしか! 良い、良いぞ!!」
 ビデオドローンから見て最高の角度で左手を振るい、腕を掠めた鉄杭を掴んで、茨鞭を巻き込み、引きちぎる。
 棘により滲んだ血をちろりと舐める。我ながら最高に全ての瞬間が決まっている、と、菘は更にテンションを上げ、その足を進める。
 次々に突き立つ鉄杭により、籠の鳥になりかけたそのタイミングで、墓所から飛び出した多数の光が、ちょうど菘を閉じ込めようとした最後の鉄杭の群れを打ち倒した。
「そうはさせない! 勇者シフィル、続くよ!」
「斯様な連携もバトルの華よ! ついてこれるかな、光の勇者!」
 聖なる弾丸を発射した機関銃から輝く聖剣に持ち替えたシフィル・エルドラド(ハイカラさんの勇者・f32945)の支援に、菘が口の端を吊り上げる。
 鉄杭の上をふわりと跳んで、紙一重で菘の左手をかわし、尾の一撃を鳥籠との同化でやり過ごしたヴェリオラは、二人めがけて地を這う茨鞭を放ち、動きを封じようとする。
「勇者シフィルの力を見せてあげるよ! その狙い、見切った!」
 神秘の霊感でヴェリオラの『足止め』という願いを看破したシフィルが、聖剣を大きく振るって茨鞭を断ち、構えた盾で茨鞭の流れを押し留める。
 再び降り注ぐ鉄杭を盾で弾き、弾かれた先で突き立った鉄杭の上に、ヴェリオラが逃れる。
「なるほど、攻撃と陣地作成の攻防一体か! 果てなく捕らえんとする、その強欲や良し!」
 呵呵大笑の見本のような豪快な笑いで鉄杭を左手で押しのけ、菘が笑みを深める。
「だが、強欲というなら、妾とて負けはせん!」
 菘の右手が、宙へと伸ばされ――ぱちん、と指を鳴らす。
 ただそれだけの動作で、天空に変化が起こる。
 ダークセイヴァーの暗い空に、突如として夥しい数の星が輝く。移動する。ここに落ちる為に、強く輝いて。
「見よ、妾の強欲。良かったのう、ブッ倒れるまで願い事の唱え放題であるぞ! さあ、お主の願いを言ってみよ!」
 間違いなく、数秒もしないうちに、この鉄杭と籠、そして自身を蹂躙するであろう、星の輝きを前に。
「いっぱいになりたい。――ぜんぶ殺して、貰って、いっぱいに、満ちたい」
 ヴェリオラは、願いと共に茨鞭を伸ばして、星を迎え撃った。それが、無謀な願い、無謀な試みであったとしても。
 自信に満ちた菘の存在感に夜の広大さを見た。着実に菘を助け、道を拓くシフィルに、星の輝きに等しい光を見た。
 一方で、ただ風に吹かれる空白を埋めるものは、際限なく溢れる、熱を求める願いしかない。
 ――尽きることのない願いは、ヴェリオラ自身のものだけではない。月の眼の紋章もまた、力を求めているのかもしれない。
 そんなことを、少しだけ、思う。
「華奢な外見に比べてその苛烈! ギャップがあって、実にエモいな!!」
「茨の方は任せて! 頑張って!」
 シフィルが放った槍が茨を突きぬけ、道を切り開く。少しでも菘を前へ、前へと、進ませるために。
 降り注ぐ星を背負って、菘が距離を詰めようと、走る。
 菘に襲い掛かる鉄杭、その右手側を盾で弾き、聖剣で両断して、シフィルが叫ぶ。
「絶対に、あなたの願い通りにはさせないから!」
 答えず、――あるいは答えられず。ただ、茨鞭を、鉄杭を、呼べるだけ呼び、叩きつける。星が、近くまで、迫っている。……。

 それは、長い死闘の、まだほんの始まり。


 尚、後日談として。
 旧い市街地での邪神様と光の勇者、鳥籠の少女の死闘は、生中継・動画共に、かなりの盛り上がりを見せたという噂である。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

シエナ・リーレイ
●アドリブ絡み可
あなたも沢山のお友達が欲しかったんだね!とシエナは理解します。

城主の零した言葉からその目的を察したシエナ
真相は兎も角、城主への親愛と好意を強めると勢いよく駆け出します

突如として溢れ出す記憶に放心しますが『お父様』が与えた役目を遂行する誇らしい記憶や初めての『お友達』との別れの瞬間という悲しいけれどそれ以上に自身を奮い立たせる記憶が殆どであった為に直に立ち直ります

そして、スカートの中から溢れ出した『お友達』で満たす事により鳥籠から出ると城主からの贈り物である鉄杭を[激痛耐性]と[怪力]任せにその身から引き抜くと城主を沢山の『お友達』と暮らせる世界へ誘う為に鉄杭を片手に迫ります




 鳥を伴った『城主』の姿を見て、その言葉を聴いたシエナ・リーレイ(取り扱い注意の年代物呪殺人形・f04107)は、道中ずっと考え続けていた、『どんな人なのか』という疑問の答えを得て、理解した。――彼女なりに。
「あなたも沢山のお友達が欲しかったんだね!とシエナは理解します」
 よりいっそう目を輝かせ、このダークセイヴァーでは普通とは言いがたい、親愛と好意に満ちた満面の笑みで勢いよく駆けてくるシエナを、ヴェリオラは、見る。
 その指先で黒い紐に繋がれた鍵が揺れる。そこからあふれ出した力に、駆け寄ろうとするシエナの足が、ぴたりと止まる。

 揺れる鍵がやけにはっきりと見える。かたかたと鳴る何かの音が急激に近づき、遠のいて、同時に、シエナの内側から、あらゆる記憶が溢れ出す。
「おとうさま」
 ぽつりと零れた声は、かつての記憶を繰り返している。
 その目と耳は、過去へと向けられている。そんな、放心状態のシエナを、ヴェリオラが召喚した鳥籠が閉じ込め、かたく錠を下ろす。
「まだ、一人目」
 呟きと共に鳥籠のシエナを見やり――目を見開く。
 先ほどまで確かに放心していたはずのシエナが、目を輝かせて、立ち上がっている。
「『お父様』が与えてくれた役目がちゃんと出来たこと、初めての『お友達』とのお別れを、シエナは思い出しました」
 淑女のようにスカートをたくし上げ、『お友達』である人形たちを、一斉に呼び寄せる。
 夥しい数の『お友達』はあっという間に鳥籠を埋め尽くし、からん、と呆気ない音を立てて、錠が外れ、籠の入り口からシエナと『お友達』が地に降りる。
 ――いっぱいに満ちた鳥籠。『お友達』という人形。
 ヴェリオラの夜色の瞳の奥に、羨望と嫉妬と殺意が浮かび、膨れ上がり、その意志は鳥の羽ばたきと共に、虚空から数多の鉄杭を呼ぶ。
 目を見開いたシエナの体に、そのうち数本が、深く突き刺さる。
 外れた杭のひとつに飛び乗ったヴェリオラが足に力を込め、より深く地を穿つ。
 地に刺さった鉄杭により、再び鳥籠に閉じ込められた格好になった、シエナを、見下ろせば。
「――プレゼント、ありがとう! そう、シエナは感謝します!」
 腕に深く刺さった鉄杭を容易く引き抜き、嘘も疑いもない目で、彼女は言った。
 硬い地面を穿つほど重く鋭い鉄杭を軽々と片手に持ち、鉄杭の上に立つヴェリオラへと、シエナが迫る。
「楽しい! 楽しい! 『お友達』になって! シエナは、そう、お願いして、一緒に遊びます!」
 その言葉に、ヴェリオラは再び、虚空から鳥籠を呼び寄せ、地上の鉄杭を軽々と飛んで、茨鞭でシエナの全身を叩こうとする。
 たのしい、うれしい、と笑うシエナに――ヴェリオラは、冷え冷えとした内に潜む溶岩のように、隠し切れない殺意を込めた言葉を贈る。
「たくさんの『お友達』ごと。わたしが、全部、貰う」
 そうしたらきっと、わたしがいっぱいに近づく。
 表情の乏しい、針金の花のような少女が、ここではじめてあるかなきかの微笑を浮かべた。

 ――『お友達』になって、と、人形は言った。
 ――『お友達』ごと、お前を全部寄こせと、鳥籠は答えた。

 どちらも譲らず、止まることもないふたつの主張が、廃墟の中でぶつかり合う。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニコリネ・ユーリカ(サポート)
あらあら、盛り上がってるわねぇ
お忙しい所、お邪魔しまーす!
新しい販路を求めてやってきた花屋です
宜しくお願いしまーす(ぺこりんこ)

~なの、~なのねぇ、~かしら? そっかぁ
時々語尾がユルくなる柔かい口調
商魂たくましく、がめつい

参考科白
んンッ、あなたって手強いのねぇ
えっあっヤダヤダ圧し潰……ギャー!
私も気合入れて働くわよー!
悪い子にはお仕置きしないとねぇ
さぁお尻出しなさい! 思いっきり叩いてあげる!

乗り物を召喚して切り抜けるサポート派
技能は「運転、操縦、運搬」を駆使します

広域では営業車『Floral Fallal』に乗り込みドリフト系UCを使用
狭域では魔法攻撃や『シャッター棒』をブンブンして戦います


ジェイソン・スカイフォール(サポート)
おもに「正当防衛」「衛生小隊」を使ってメイン参加者の援護を行います。

▼行動例

「下がってください!」
メイン参加者が不利な状況に登場し、かばう。ボス敵の相手を引き受け、味方が態勢を立て直すための機会をつくる。

「救護します!」
衛生小隊にボス敵の牽制を命じ、その隙に、負傷したメイン参加者を安全圏に撤退させ、応急手当を行う。必要に応じて「生まれながらの光」で治療する。




 無数の鉄杭と、壊れた鳥籠。その隙間から獲物を捕らえんとする茨鞭の森を、爽やかな芳香と凄まじいエンジン音と共に一台の車が通過してゆく。
 後を追って地に刺さる鉄杭の群れを振り切り、ブレーキ音を響かせながら横方向へとドリフト。そのままするりと茨鞭をかわして首の皮一枚の隙間に滑り込んだ。
「――キスすると思った? ノーズも触れさせないわよ!」
「お見事です」
 見事なハンドル捌きとアクセルブレーキの使い分けを披露するニコリネ・ユーリカ(花屋・f02123)に、しっかりと身体と得物の銃火器を固定した状態のジェイソン・スカイフォール(界境なきメディック・f05228)が素直な賛辞を送る。
 鉄杭も、茨も、鳥籠も。召喚から敵を追うまでの速度が巧くいかず、こうして二人を取り逃し続けている。
 その遅延は恐らくニコリネのもたらしたものと察したヴェリオラは、それでも鳥籠に閉ざされた迷路と茨の敷かれた道での足止めを試みていたのだが、その試みを運転技術と経験で補ったニコリネの前に、巧くいかずにいる。
 それでも、何もしないという選択肢は、理性と共に遥か遠くにくべられていたので。
「このままだと、逃げるだけじゃなくって、追いかけちゃうわよ」
 アクセルを踏み込んだニコリネ、再び銃火器を構え直すジェイソンに一撃を食らわせるべく、ヴェリオラは鉄杭の上を跳びながら、黒い紐の重みを指先で手繰り寄せた。

 何故こうなったのかは、二人とヴェリオラの接触前まで遡る。
 ニコリネ、ジェイソンは両名共に猟兵としては支援役であることを自負しており、その上で手札を突き合わせ、互いの長所が最も活きる可能性を考えたのだ。
「衛生兵の召喚は、ミイラ取りがミイラになりそうですね」
「そうねぇ。攻撃範囲が広いっていう話だったし、私の機動力で全力で回避し続けて……一周回って相手を追跡して追い詰めちゃいましょうか」
 名案、とばかりに指を立てたニコリネに、ジェイソンは驚いたように目を見開いた。
「私のハンドル捌きを信じてくれるかしら?」
「自信がおありなんですね。車も、大切にされていることが伝わってきます」
 信じます。と告げた声は、外見から想像するよりも、子供のような純粋で素朴なものだった。
 ニコリネは若干プレッシャーを感じた。これで『うっかり』したら目も当てられない。文句を言うよりとても心配しそうなタイプだ。
 だが一方で、このような純粋な信頼に見事応えたくなるのは、走り屋の性というものである。
「そっかぁ。それじゃあ、気合入れて運転しなきゃねぇ」
 だからニコリネはそうしてにっこり笑ったそのままの心持ちで、鉄と茨の迷宮を造られるより早く攻略し、ヴェリオラへと追いすがっているのだ。

「鍵を手にしました」
「OK」
 円環状に広げた銃口の隙間から偵察し、弾き落とした鉄杭の向こう側のヴェリオラの様子を素早く伝えるジェイソンに、ニコリネが短く応える。
 鍵が回る音が、二人の耳に、何もかもを超えて、はっきりと届く。
 ジェイソンが、茨鞭のひとつを手で掴んだ。
 ぶちり、という音を置き去りに茨はあっけなく千切れ、ジェイソンの手をいくつもの棘が貫く。
 ジェイソンの表情は動かない。ただ、空色の双眸の奥底には、紛れもない痛みがある。その痛みが、現実の棘の痛苦と、重なる。
「ニコリネさん」
 血のついていない方の手で、運転席のニコリネに呼びかけ、手を伸ばし、その指先から光を伸ばす。その指先と背中から、じわりと光が広がる。
 凍りついたように動かなかったニコリネが、はくりと一度息を吐いた後、凄まじい反射速度でハンドルを切り、ブレーキとアクセルを交互に踏み込む。
 迎え撃つように聳えた鳥籠。その扉をぎりぎりで避け、側面に車ごと体当たりを行い、ヴェリオラめがけて籠ごとぶつかってゆく。
 予想外の一撃を受けたヴェリオラが、鉄杭の足場から転げ落ち、その身体を造る金属がひしゃげる。
 左手はハンドルに添えたまま、右手にシャッター棒を構えて運転席から伸ばす。
 詠唱の合間、ジェイソンが放つ援護射撃が、ヴェリオラを地上に縫いとめる。
「さぁ、そろそろおいたはおしまいよ!」
 込められる全力を込めた魔術の矢が放たれ、細く細く絞られてから渦巻いて、ヴェリオラを形作る金属すべてを、魔力の塊が滅多打ちにした。


 『ヴェリオラ』の輪郭が、大部分、損なわれている。
 足を造るはがねの檻がねじれている。ひしゃげた腕は軽い身体も支えきれない。
 なのに、不意に、背中側が浮いた。
「――え」
 めき、という音を背中に聴いた。
 背中が、ひしゃげて、裂けている。そうして、そこから現れた何かに、引きずられるようにして、立っている。
 振り仰げば、いつか見た敵が、そこにいた。
「ああ」
 かつて城を攻め落としたものだった。
 それは、自分の内側から現れた。
 自分を覆ってもまだまだ足りないほどに大きなそれが、ずっと隠れていた。
 ――なら。
「もう、いっぱいだったのに」
 以前と同じく、吹き抜ける風の辛くて渇いてどうしようもない感覚に苛まれていた。
 このがらんどうは偽物なのに、そんな風に思うということは。
「もし、いっぱいに満たされるときが来ても。私は」
 そこで、声を出す機能が止まった。
 月のような煌々とした輝きの中で、『敵』へと向かって、逆さまに落ちてゆく鳥が見えた。

 ――羽化する蛹のように背中から割れ、破片ひとつも残さず、背中から出てきた存在へと吸い込まれていったヴェリオラに、ジェイソンはそっと歯を食いしばる。
 最期にその眼差しに過ぎった理解を、戦場を巡り役目を果たす中で、何度も、見たことがあった。
「ニコリネさん……治療を」
「……そうね。花を手向けるには、まだ早いわ」
 ニコリネが、まっすぐに頭を上げて『それ』を見据える。

 ――異形の手足を生やした、絶望という心の現象を。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『絶望の集合体』

POW   :    人の手により生み出され広がる絶望
【振り下ろされる腕】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【に絶望の感情を植え付ける瘴気を蔓延させる】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD   :    粘りつく身体はぬぐい切れない凄惨な過去
いま戦っている対象に有効な【泥のような身体から産み出される泥人形】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    過去はその瞳で何を見たのか
【虚ろな瞳を向け、目が合うこと】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【幾千という絶望な死を疑似体験させること】で攻撃する。

イラスト:井渡

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はフィーナ・ステラガーデンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●終わった先の今このときに
 『絶望の集合体』という名前の通り、それは骸の海から現れ、凝り固まった、ひとびとの絶望の感情だ。
 呼ばれても乞われてもいない。ただ溢れて染み出した。それだけだ。
 それがどういう経緯を辿って、かつてのヴェリオラの城を攻撃し、こうして今再誕を果たしているのかは、わからない。
 『絶望の集合体』は、ただただ存在し、オブリビオンとしての災厄を撒く。
 意思疎通しようにも意思はなく、絶望の色濃い場所を選んで、膨らみ、破壊を撒くだけである。

 かつてはヴェリオラが城主として存在した以上、その頃に生きていた人々の日々は、絶望的だったと考えられる。
 それをもたらしたヴェリオラは、一度倒された時に絶望し、二度目の死の中でもう一度絶望を感じた。
 この場所に横たわる絶望の大きさと強さは、いかほどになるのか。
 観測出来るのは猟兵だけ。
 そして、断ち切ることが出来るのも、最早、猟兵だけだ。
高階・茉莉(サポート)
『貴方も読書、いかがですか?』
 スペースノイドのウィザード×フォースナイトの女性です。
 普段の口調は「司書さん(私、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」、時々「眠い(私、キミ、ですぅ、ますぅ、でしょ~、でしょお?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。

読書と掃除が趣味で、おっとりとした性格の女性です。
戦闘では主に魔導書やロッドなど、魔法を使って戦う事が多いです。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!


ラハミーム・シャビィット(サポート)
 シャーマンズゴーストのUDCメカニック×戦場傭兵、25歳の男です。
口調は、掴みどころの無い変わり者(ボク、キミ、デス、マス、デショウ、デスカ?)

人と少しずれた感性を持っていて、面白そうならどんな事にも首を突っ込む、明るく優しい変わり者です。
戦闘時にはクランケヴァッフェや銃火器の扱いは勿論、近接格闘術のクラヴ・マガなどでド派手に暴れ回ります。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!


推葉・リア(サポート)
色んなゲームで推しキャラを育成して愛でるのが好きな妖狐

基本的に人がいいので命や心を大事に行動し相手の心に寄り添おうとする、例えそれが敵であっても(倒すときはしっかりと倒す)
あと結構関係のないことも考えたりもしたりもするがやるときはやる

各ゲームの推しキャラ達の召喚と狐火を使う戦闘スタイル
基本的には推しキャラ達が戦い自分は狐火での後衛攻撃やサポートに回ることが多い
状況によっては相手の属性や戦闘スタイル又は戦場に有利な推しキャラの選んで喚ぶ
推しキャラが動きやすいように自分を囮にすることも
推しキャラを呼ぶと不利又エログロ場面になりそうなら絶対に喚ばない自分だけで戦う

共闘OK
過剰なエログロNG




「さて、掴みどころがナイ、雲を掴むミタイ、という状態デスネ」
 荒れ果てた廃墟を覆い尽くすように、ありとあらゆる光景が混ざり合い、区別がつかない有様の『それ』を前にして、最初に行動を起こしたのはラハミーム・シャビィット(黄金に光り輝く慈悲の彗星・f30964)だった。
 頭上を見上げた姿勢のまま立つ周囲にぞろぞろと鼠のシルエットが集まり、『集合体』を目指して近づくごとに透明となってゆく。
「あの子たちは、UDCですか?」
「ハイ。偵察や潜入ならお任せデス。輪郭がわかれば、雲もつかめマス」
「背景スチルを攻撃するみたいで、ちょっとやり辛いわよね」
 四つ目の鼠を見送る高階・茉莉(秘密の司書さん・f01985)にラハミームが頷き返す傍ら、端末を手に眉を寄せたのは推葉・リア(推しに囲まれた色鮮やかな日々・f09767)だ。
 混ざり合う数多の光景に目をこらせば、黒々とした塊に並ぶ小さな光が窓と気がつき、窓の存在から建物という認識が生まれ、建物が崩れる『風景』が浮かび上がる。
 ひとつの風景を認識すれば、そこに混ざり合っているものも見えてくる。まるきり違う風景であるのに、建物が血の涙を流しているような錯覚すら覚えさせる。
「それでも、ちゃんと倒さないと。こんな……」
「ねずみさん!」
 『集合体』から、どぷりとあふれた泥が人型を形作り、その『掌』に、泥に塗れた何かが握られている。
 それが、透明化した状態で偵察を行っていたねずみの一匹と見て、茉莉が構えていた魔導書から水の魔術を放って泥を弾き、リアが端末に指を滑らせる。
 鼠たちを引き上げさせる代わり、素早く前に出たラハミームが、衝撃波で泥人形の群れを弾き飛ばす。
「ちょっと場所空けて! お願い、声に応えて、ここに来て……」
 更に駄目押しの狐火で焼いて拓いた空間に、リアの端末から現れた複数の人影が現れ、重なり、その輪郭をはっきりとさせ、存在を確かなものにしてゆく。
 ラハミームの死角を補うように立ち、泥人形を切り払って救出した鼠に、よく頑張ったね、と優しい労わりを見せた辺りで、リアの感情が爆発した。
「暗い夜の中での柔らかな笑顔から真剣な顔への切り替え……無理! 好き! 何度でも大好きになる!!」
「頼もしそうな方ですね」
「優しクしてくれテ、ありがトウございマス」
 おっとり笑った茉莉とマイペースなラハミームの言葉もあって、いきなりその場が和んだ。
「課金と鬼周回で上げられる能力全部MAX、最高にかっこいい私の推しは、どんな絶望の夜でも輝くんだから!」
 誇らしく笑ったリアが狐火を操って泥に対処する間に、ラハミームは鼠たちによって集めた情報を整頓する。
「わかりにくいケド、あの腕が瘴気を出すほうデス。あっちのアレとかアレとかは、『異形の身体部位』って言われてたほうダネ」
「それと『眼』への対処も必要でしたよね」
 ラハミームの言葉に、茉莉は一度眼を閉じてから、決意を込めて息を吐き出す。
「ちょっと、全力を出します。絶望を押し返すくらいに」
 茉莉の手に持った魔導書のページがひとりでに捲れ、ふわりと髪を押し上げる風に、無数の輝く文字列が混ざってゆく。
「幾千もの書物の知識よ、私の中に眠る書物の記録よ、目覚めなさい!」
 その目を開く。
 先ほどまでの、おっとりとした司書然とした茉莉の眼差しに何処か怜悧なものが混ざってゆく。
 彼女の魔力の上昇を感じたか。『集合体』のそこかしこで開いた虚ろな瞳が、彼女を、彼女達へと、視線を向けようとした。
「危ないデス、見てはいけマセン」
 一歩前に出たラハミームが地縛鎖をじゃらりと動かし、茉莉は咄嗟に眼鏡をずらした。
 リアの『推しキャラ』である『彼』がそんな二人をカバーすべく一歩前に出て盾を構え、その姿を見たリアがありったけの狐火をばら撒いて、目つぶしの代わりにする。
「……~あっぶな、危なかった! そういう所が大好き!!」
「! 泥人形が、また……!」
 眼鏡をかけなおした茉莉が、先ほどより遥かに速度と精度を増した魔法の水流を放つ。
 頭痛と全身の痺れも気にならない。――ねずみ相手とは形を変え、腕を長く長く伸ばして、後衛の要である茉莉とリアを捉えようとする泥人形を、優先的に遠ざける。
「ボクは先に目を全部潰しマス。腕はついでデ」
 分担しましょうと『推し』と手早く話し合い、鼠の偵察と鎖から読み取れる情報をもとに方尖柱型のハンマーを振るい、変形させ、うつろな瞳を次々と見つけ出し、叩き、あるいは鎖で視界を塞いでゆく。
 一方、茉莉もその周囲に多数の魔法陣と輝く文字を浮かべ、炎や水、雷などを重ねて、泥人形の変形より早く仕留めて地面に還してゆく。
 着実に『腕』を落としていった『推し』の周辺に、瘴気が湧き起こる。その瘴気に触れられた『推し』の表情が、抑えきれない小さな悲痛を帯びる。
 それを見たリアは、即座に呼び戻したい衝動に駆られながら、瘴気より強く守れとばかりに狐火を放つ。
「……――!」
 『推し』がリアの方を見て、微笑んだ。
 リアが息を呑む間に、リアの『推し』は得物を構え直し、絶望と、そこから伸びる無数の腕を見上げ、決して引くものかと毅然と頭を上げる。
 その気高さを応援する衝動が勝り、リアはよりいっそう声を張り上げた。
「もう、ほんとに、好き! 最高! すごく最高で最強なんだって、誰より私が知ってるから! あーもう、もう、大好き!!」
 応援の言葉と同時に迸る狐火と、リアの表情や潤んだ瞳に、茉莉がそっと口元を綻ばせた。そんな顔をするひとたちを見て、茉莉までもが幸せな気持ちになれることを、こんな戦場の只中でも思い出すから。
 熱烈な応援を受ける『推し』の死角を、恩返しのように守ったラハミームが、最低限の動きで出来うる限りの『瞳』を刈り取りながら、『推し』へと語りかける。
「希望を持つカラ、絶望が深くなル。逆もまた然りデス」

 ――キミは、希望で出来ているんデスネ。

 終わり果てた国の、絶望に覆われた空の下とは思えない、柔らかな何かがそこに芽吹いていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

シエナ・リーレイ
こんなにもわたしを強く想ってくれているのね!とシエナは喜びます。

目の前の『お友達』候補には意思がないとはいうけれど、それが抱く感情を知る事が出来ればシエナには十分です
加えて言えば城主とのお遊戯に伴う気分の高揚により怨念に突き動かされるているシエナには植え付けられた絶望を親愛や好意としか認識できません

溢れんばかりの親愛と好意を植え付けられたシエナはその身を【ユーベル】により巨大化させ始めます

もっともっとあなたの想いをわたしに注いでよ!とシエナは『お友達』候補に求めます。

巨大化をしたシエナは『お友達』候補と仲良くなる為に周辺被害を顧みる事無く遊び始めます




 『お友達』候補の多さに心を弾ませ、相対した城主との遊戯に身も心も高揚して満ち満ちた気持ちで、更に大きく大きく広がる存在を見上げていた。
「こんなにもわたしを強く想ってくれているのね! とシエナは喜びます」
 赤い瞳を見開いて、今日の素晴らしい出来事を更に上書きするような『よろこび』に、嬉しくてたまらないと、感極まった声を上げる。
 だってこんなに大きくて広くて。伸びてくる腕がたくさん、たくさん、自分へと向かって来る。そのいくつか潰れた『瞳』が、シエナをよく見たそうに目を凝らしている!
 その心が知りたくて。たくさん遊んだ手足は疲労を上回る力でいっぱいだった。
 振るわれるその腕を受け止めたかったけれど、握手できたのは一本だけ。近くに振り下ろされた腕からぶわりと広がったのは、目の前の『お友達』候補の想い。よりしっかり知りたくて、その只中に飛び込んだ。
「――ああ」
 もう誰が誰といった区別のない、ただ焼きついた絶望の欠片を、見る。
 悲しく握り締めた指先。嗄れた喉と届かない声。もしかしたら、と思う度に磨り減っていく心。諦めの後で、更に突き落とされて。
 生きていかなくてはいけなかった。
 忌まわしい過去ですら、慕わしく感じるほど、辛い未来しかないのに。
 ――未来ほど恐ろしいものはないのに。
「ああ、ああ」
 無数の、個をなくした欠片が囁いている。聞かせようとする意思ではない。囁くことは存在することだった。
 そうしてシエナに植えつけられてゆく感覚に。シエナは。
「シエナの気持ちも伝えなきゃ! とシエナは決めて、伝えます」
 嬉しくて嬉しくて堪らない、という笑みを浮かべた。
 その身体は芯からの怨念に満ち満ちて。
 その笑顔は、心からの親愛と好意を受け取った少女のようだった。
 ――シエナにとっては、本当に、そうだった。
「わたしはあなたの事を想うと巨大化しちゃう程大好きなんだよ!とシエナは『お友達』候補への気持ちを露わにします」
 手が伸びる。もっともっと手を繋ぐ為に。
 背が伸びる。もっともっと感情を聴く為に。
 足が伸びる。もっともっとその存在を腕に収める為に。
「もっともっとあなたの想いをわたしに注いでよ!とシエナは『お友達』候補に求めます」
 堪えきれない、我慢できない、と、『腕』という『腕』を掴み、引き寄せ、自分の腕の中におさめようとする。
 もっともっと遊びたい。腕を引きずって、絶望の空が傾き、揺れて、絵の具のように混ざる。
「遊びましょう、遊びましょう、もっと仲良くなりましょう! シエナは仲良くなりたくて、いっぱい遊びます!」
 大きくなったシエナの掌が、強く抱きしめようと、空を切りながら掴んだ『腕』や異形の手足を無邪気に握り締め、一緒に地に倒れこむ。
 先ほどからの戦闘に耐えかねた建物の残骸が、次々と破砕されてゆく。
 残骸の欠片、絶望の破片が、宙に巻き上げられる中。
 天まで届くほどに身も心も膨らませたシエナだけが、無邪気に笑っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

キャロル・キャロライン
この世界に生きる人達が抱いた絶望。
そして、この世界で死に至った人達が抱いた絶望。
それらが実体を伴うに至り、更なる絶望を撒き散らす。

そのような連鎖、ここで終わらせます。
貴方達のような存在に立ち向かうことこそ、この武具を纏う者の役目でしょうから。

オーラの翼を広げ、一気に接近。
振り下ろされる腕は見切って躱し、また、盾で受け流します。
瘴気をオーラで防ぎ、泥人形などを斬り払いながら敵の中枢へ。

中心部に到達できたなら、剣の力を解放。
巨大な結界を作り出し、人々から託された勇気の力をもって倒します。

UC取得:空中戦、ダッシュ。見切り、受け流し。オーラ防御、薙ぎ払い。リミッター解除。範囲攻撃、結界術




 度重なる戦闘に崩れかけ、いっそう混ざり合う風景が、地を這いながらも未だに空へと伸びようとしている。
 瘴気を伴って自動的に大きく広がろうとする。泥のような不定形の在り様は、世界の隅々までその内に抱いた絶望を染み渡らせる。
 異形の腕が宙を掻き、足を引きずり、引きずる尾の先は影に沈んでゆく。

 そうして、新しい絶望を求めるように広がる『それ』に相対する人影があった。
「この世界に生きる人達が抱いた絶望。そして、この世界で死に至った人達が抱いた絶望。それらが実体を伴うに至り、更なる絶望を撒き散らす」
 キャロル・キャロライン(蘇生者・f27877)が、真っ直ぐに絶望を見つめて、告げる。
 月の下にあっても輝く武具と、背に輝くオーラの翼。靡く髪の金と、瑠璃の瞳は、『光り輝くひと』の象徴のようなすがたかたちをしている。
「そのような連鎖、ここで終わらせます」
 宣告と共に、オーラの翼が花のように開かれる。
 一歩踏み出すような気軽さで、花のような翼を背負い、飛ぶ。泥の海を越え、伸ばされる腕を斬って捨て、あるいは盾で受け流す。
 周辺一帯に漂う瘴気が、その眼光の前に押され、全身に纏う覇気と光に、ひれ伏すように場を開ける。
 大きく肥大し続ける『集合体』を切り開き、その中心部を目指す。それを、とても簡単に、成し遂げてみせている。
「貴方達のような存在に立ち向かうことこそ、この武具を纏う者の役目でしょうから」
 その言葉を裏付けるように、手にした剣と盾が、内側から溢れるように光っている。
 ずるずると後退しながら、もがくように泥の身を蠢かせる『集合体』の風景に囲まれながら、キャロルはただただ中心部を目指している。
 身に刻まれた刻印がキャロルを全力以上に突き動かす。
 輝く剣。勇気で編まれた武具。どんな敵にも負けないという願いと祈りのようなそれから圧倒的な力が溢れ、場のあらゆるものを包み込む。
 言葉通り、役目に忠実に。キャロルは、剣を天にかざす。
 瘴気から溢れた絶望の断片、絶望の風景がその周辺を巡ってゆくのを、静かに、厳然とした決意でもって見つめる。

 おさない指に、熱い雫が落とされる。
 こんな世界に生まれてしまった、小さな命に、過去として消費された誰かが泣いた。
 自分のような過去ですら体験させたくない。それ以上の未来など想像もつかない。
 その涙は、絶望の一つとして、ここに呼び起こされたものだろう。
 涙は、更に流れる。おさない指を握る手が寂しく震え、堪えきれない嗚咽と共に頭を垂れる。
 悲しく寂しく泣くこともできないほど絶望しか想像できない。
 そのうえ。何よりとりわけむごいのは、この世界の苦しさをわかっていながら、腕に抱いた命を、手放せそうにないということだった。

 キャロルの剣の輝きが、頂点に達する。
 光り輝いて、宣告通り、全てを終わらせる一撃を、中心部に突き立てる。その剣の輝きが、絶望に呼応するよう、一層深まって。

 ――かつての誰かが抱きしめた腕に篭められた力は、絶望だろうか。
 それとも、勇気だったろうか。

 すべては光の前に溶け合い、圧倒的な光の前に過去のひとつへと還ってゆく。


 己の役目を正しく果たしたキャロルが、廃墟と化した市街地にひとり佇んでいる。
 勇気と光で編まれたその背中は、全てを断つ存在のそれだ。

 ――激しい戦闘の果て。ただでさえ廃墟であった旧市街地は、最早見る影もない。
 何十年もかけて削られてきた風景は、こうして、名残すら残さず消えてゆく。
 かつての城主の蘇りは成らず、更なる脅威も未然に断たれた。
 故に、この場所は、時間をかけて、もう何もない暗く荒れた大地へと戻っていくことだろう。

 かつてここには城があった。城主が居て、人々が居て、支配されて生き、あっけなく死んで姿を消した。
 キャロルが、踵を返す。
 このひとつ上の層には、未だに人が生きている。
 街が風化するほどの時間を経ても、かつてのこの場所のように支配されながら、生きて、死んで。
 それでも、この場所よりも、少しずつだが、先に進んでいる。

 猟兵たちによって、絶望の連鎖と未来の脅威がひとつ断たれた。そうしてその歩みが守られたことだけが、今言える確かな事実だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年06月28日


挿絵イラスト