――ああ、ああ、可哀想に。
それでも、あんな仕打ちを受けて、こんな姿になってまで、きみは戻ってきてくれた。
ならば、僕たちの成すべきことはひとつだ。
――この大正の世を、終わらせるのだ。
僕らを引き裂いた、この時代を。
身分の違いで人の心を縛るなんて、そんなの時代遅れだってことを。
たとえそれが、果てなき戦乱の時代に続いていようとも。
きみとともに在れば、何も恐れることはないのだから。
僕らで世界に示してやろう。そのために――力を貸してくれ。
●
「外の世界を知った今、身分制度が窮屈なモンだって気持ちはわからなくもねえがな」
だが、やり方がちょっと乱暴すぎるな、と明・金時(アカシヤ・f36638)は溜息吐いて、頭を掻いた。
「聞いてくれ。サクラミラージュに将来訪れるはずだった『大いなる危機』を事前に察知できた。『グリモアエフェクト』を発動させてくれた、お前らのお陰だ」
ニカ、と笑って見せる金時だが、すぐに真剣な面差しへと戻って。
「帝都のエリート大學生達の間で、きな臭い秘密集会が開かれているらしいんだ。と言うのもそれがまた、幻朧戦線に賛同するような内容でな」
――幻朧戦線。
戦乱こそ人を進化させうるとして、暴力による大正の世の幕引きを目論む集団だ。一般人ではあるが危険思想の持ち主の集まりで、同胞の証として黒い鉄の首輪を揃えて着用している。
だが、金時が予知した集会に与する大學生たちの首に、幻朧戦線の証はなかった。今はまだ、だが。
「お前らには、集会に接触して、陰で糸引いてる影朧を、討ち果たしてもらいたいのよ」
幻朧戦線の首輪がないということは、集会の参加者や主催者が誰なのか、一目で特定するのが難しいということである。
そこでまず、猟兵たちには學生たちがたむろしている桜並木で彼らと接触し、集会の主催者の情報を得てほしいのだと金時は言う。
「どうも、主催者には影朧が傍についていて、そいつが過激思想を煽ってるみたいだな。ただ……影朧の姿はわかったが、主催者の顔と、どこにいるかまでは予知では判別しきれなかった」
ゆえに、足りない情報の収集は猟兵たちに一任されることになる。
「ただ、大方の予想はついたぜ。主催者は多分、ただ唆されてるだけじゃなくて……一人の女として、惚れてるのかもな。その影朧に」
きっと、道ならぬ恋だったのだろうと、金時は囁くような声で呟いた。
だが、そもそもその影朧が、実際に生前の主催者の想い人だったのか、それすら定かではないと言う。
「見えたのはな、雪の日に命を落とした女學生の怨念だ。それが雪と同化したまま影朧になっちまったらしい。思い当たる節が、主催者にはあったんだろうな。まあ何にしても、そいつは影朧になってまでも、人を恨み憎みながらもまだ、苦しみ続けてるのかもしれねえな」
だが、その企みを――恐らくは人々への復讐を、成し遂げさせるわけにはいかない。
彼女の凶行を止め、集会を瓦解させ、學生たちの目を覚まさせるのだ。
「とは言え、本人たちはよかれと思って集まってたんだろうからな。集会がなくなれば、戸惑う奴も、自分の道を見失う奴も出てくるだろう。お前らには世話をかけるが、そっちの方も話聞くなり、一緒に宴で飲み食いするなりして、前向かせてやってくれ」
そこまで、話して。
ああ、そうだ。と思い出したように、金時はふと、空を仰いだ。
「――今夜は、雪が降るらしいぜ」
絵琥れあ
お世話になっております、絵琥れあと申します。
ちょっとシリアスな雰囲気ですが、日常要素も多めです。
楽しむところは楽しんで、けれど任務もしっかりと。
流れと詳細は以下の通りになります。
第1章:日常『夜桜の宴』
第2章:ボス戦『悲哀ノ雪華』
第3章:日常『雪と桜』
第1章では、現場の近隣住民により提灯の光が灯された桜並木に向かっていただきます。
ここには集会の参加者もよく散策に訪れているとの情報があるようです。
運よく、或いは首尾よく接触できたら、主催者の情報を得られるよう、対話してみましょう。
第2章では、雪と同化した女學生の怨念である『悲哀ノ雪華』との対決が待っています。
但し、現時点では姿や能力のデータはあるものの、遭遇場所や状況などの詳細は判明していません。
見事第1章が成功しましたら、断章での描写という形で追加の情報をお伝えさせていただきます。
第3章では、第1章の桜並木に戻り、失意の學生たちを激励しつつ、皆様も楽しんできてください。
戦闘前の時点では出ていなかった、有志による屋台が並んでいますので、飲食も可能です。
また、きっとこの月最後になる雪が降るでしょう。
なお今回、第3章ではお声がけがあれば当方のグリモア猟兵たちが學生への対応を手伝ったり、花見雪見や屋台巡りに同行させていただきます。
(但しその内の一人、南天庵・琥珀は何やら物思いに耽っており、學生対応へのお役にはあまり立てないかもしれません)
第1章開始前に、断章を執筆予定です。
戦闘パートの地形などの追加情報も、断章での描写という形で公開させていただきます。
断章公開後、プレイング受付開始日をタグにて告知させていただきますので、ご縁がありましたらどうぞよろしくお願いいたします。
第1章 日常
『夜桜の宴』
|
POW : 花見に適した場所を確保する。
SPD : 周囲を散策しながら夜桜を楽しむ。
WIZ : 提灯の灯りを調整し、最も桜が美しく見える光量を模索する。
イラスト:雨月ユキ
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●春宵
澄み渡った春の星月夜。
その下には、桜並木がずっと続いている。
仄かな光に照らされた花は、まるで純白と見紛うほどに、透き通りながら煌めいていて。
雪のようだ、なんて果たして誰が言ったか。
人通りは、程々にある。
學生服を着込んだ者も、ちらほらと見受けられた。
その全てが、例の集会の参加者かどうかはわからない。が、話を聞いてみる価値はあるだろう。
神秘の光景を堪能しながらも、後に繋がる情報を集めるのだ。
――雪が、降り始める前に。
御園・桜花
UC「魂の歌劇」使用
幻朧桜を称える歌
流行歌
今上帝を称える歌を次々歌う
そして異界を匂わす歌も
全き世界はただ2つ
人が滅びし世界が3つ
大陸が全て沈んだ世界が2つ
日の本のみの世界がひとつ
中華を残す世界がひとつ
世界の型すら亡くした世界が数多
世界を保つ今上帝
此の地が太陽に飲まれるその日まで
是非とも今上帝の御代が続きますよう
今上帝よ永遠なれ
「歌には真実が含まれるものです。世界を滅ぼそうと企むのは、何方?」
妖艶に笑う
敵愾心をもって眺める者、批判を口にしている学生風に特に目星をつけ近付く
「無礼講の祭りの余興、気になる歌はございませんか?知っておれば歌いましょう」
●春望
御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は並木の花照らす提灯の光量を整えていた。
これから彼女が行うことを考えれば、まずは注目を集めないことには話にならないからだ。
眩しすぎないよう、けれど桜と、桜花自身の姿が春の宵に映えるように。そうして桜花は出来上がった舞台に立ち、深呼吸、ひとつ。
人々が足を止めて集まれば、彼らに優雅に一礼し。
「貴方がたの一時を、私に下さい。これより吟じますのは魂の歌劇、全き世界の物語――」
朗々と、歌い始めた。
澄んだ声が、花舞う星空に響き渡る。
流行歌から始まったそれは、やがて幻朧桜を称え、今上帝を称えるものへと。外なる世界の可能性を籠めながら。
全き世界はただふたつ、
人が滅びし世界がみっつ、
大陸が全て沈んだ世界がふたつ、
日の本のみの世界がひとつ、
中華を残す世界がひとつ、
世界の型すら亡くした世界が数多、
世界を保つ今上帝、
此の地が太陽に飲まれるその日まで、
是非とも今上帝の御代が続きますよう、
今上帝よ永遠なれ――♪
やがて疎らに拍手が起き、徐々に喝采へと変わりゆく。
しかし、それだけではないことを、桜花は予見していた。
「歌には真実が含まれるものです。世界を滅ぼそうと企むのは、何方?」
この世のものとは思えぬほどに艶やかに、桜花は笑む。
葉桜の色を宿した瞳が捉えたのは、険しい表情のまま黙りを決め込んでいる、學生風情の男。
桜花は、如何な理由であれ時代の打倒を目指す者であれば、幻朧桜と帝を賛美するような言論を見過ごすはずがないと考えたのだ。
故に敢えて、挑むように歌って見せた。その成果は、最早語るまでもない。
「無礼講の祭りの余興、気になる歌はございませんか? 知っておれば歌いましょう」
「……何でも、か」
「ええ、何でも」
リクエストの申し出を装い近づけば、男もまた挑戦的な視線を桜花にぶつけてくる。桜花は作戦の成功を確信した。
(「とは言え、慢心は禁物。慎重に、しかし大胆に立ち回り、翻弄し――もう少々、『口を滑らせて』いただくこととしましょう」)
しかしそのような胸中は表に出さず、あくまで素知らぬ顔で。桜花は、悠然と笑みを深めて見せた。
大成功
🔵🔵🔵
鹿村・トーゴ
この世界いつも桜に満ちてるけど
今ホントに春なんだな(霞む星月とその星座に)
オレもエンパイアじゃ身分低いし幻朧連中の気持ちも分からねー事もないが
争乱は物騒だ
黒短袖、たっつけ袴にとんびコート
立ち寄った田舎からの旅人風
相棒の鸚鵡ユキエは肩に止まったり桜木に止まったり気儘に
『夜でも明るいわね』
町の人が灯り点けてくれてんだって
固まって話す学生が居れば
ね、あんたらこの町の人?
オレは流れ者でねェ
今夜は花冷えだけど桜の灯りの仕立て、見事だよな
ちょっと案内してくれない?
話し掛け【情報収集】
断られたらあっさりと
そっかなんか用事ー?
学生さんだろー
オレも身分があれば学校行きたかったねェ、と話を振ってみるかな
アドリブ可
●春星
「この世界いつも桜に満ちてるけど、今ホントに春なんだな」
サクラミラージュは枯れることなき桜に包まれた世界だ。しかし季節の移ろいは、様々な場所から感じ取れる。夜空に煌めく星座もそのひとつだ。
鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)は霞む星々を仰ぎながら、まだ少し肌寒い世界に息を吐いた。
とんびコートを羽織っていても、今宵の風は身に沁みる。
(「オレもエンパイアじゃ身分低いし、幻朧連中の気持ちも分からねー事もないが」)
世界の在り方を変えたいという、その志は尊くとも。
辿り着く先は、このままでは。
(「争乱は物騒だ」)
やり方を間違えれば、待ち受けるのは悲劇ばかりだ。
この長閑な花の下も、無事では済むまい。
『夜でも明るいわね』
コートの下に黒短袖、たっつけ袴のその姿は、田舎から立ち寄った旅人を思わせる風情だ。
その傍ら、花の枝に、肩にと気儘に止まり、宵を巡り飛ぶのは相棒の白い鸚鵡。
ユキコ、と名を呼べば、赤い瞳がトーゴを見つめる。
「町の人が灯り点けてくれてんだって」
平穏、そのものだ。
だが、事情はどうあれ腹の底では転覆を目論む者たちが紛れていることも、事実。
「ね、あんたらこの町の人?」
身なりのよい學生の集まりを見つけて、声をかける。
彼らが目的の學生たちかは解らないが、何か情報を引き出せればと。
「オレは流れ者でねェ。今夜は花冷えだけど桜の灯りの仕立て、見事だよな」
「おお、貴殿もそう思われるか。よい時期に参られたな」
「ああ、よかったらちょっと案内してくれない?」
「うむ、構わない」
「今夜は例の……もないことだしな」
身分平等を胸中に掲げているとは言え、エリートと言うからには流れの者などとすげなくあしらわれることも想定に入れていたトーゴだが、その辺りは問題ないようだ。
それよりも今、気になるのは。
「例の? なんか用事ー?」
「ああいや、気にしないでくれ」
「そっか、学生さんだろー。オレも身分があれば学校行きたかったねェ」
「そうか、貴殿も……やはり身分を必要以上に重んじる風潮など、間違っている」
話をそれとなく誘導すれば、學生たちは少し熱くなってきた様子だ。
情報収集の心得があるトーゴは、もう一押しだと確かな手応えを感じていた。
大成功
🔵🔵🔵
フロース・ウェスペルティリオ(サポート)
やぁ、ウチはフロースと言うよ。よろしくねぇ。
美味しい物や綺麗な物があれば、喜んでお手伝いさせてもらいます。
そうでなくてもグリモア猟兵さんの頼みだもの、ちゃんと手を貸すよ。
◆行動スタンス
臨機応変に動くフォロー役
基本的に『情報収集』『世界知識』『第六感』等による観察や先読みを併用
ブラックタールらしく、液状体でこっそり移動したり、物理的な攻撃を液状化して逃れたり
『目立たない』『忍び足』『暗殺』で身を潜めやすい
◆戦闘スタイル
弓での『援護射撃』
特に「千里眼射ち」は『視力』で超遠距離や複数同時相手も可
『串刺し』『スナイパー』で貫通力アップ
近接攻撃は「シーブズ・ギャンビット」で素早さを活かしたダガーでの迎撃
●春苑
(「情報収集も兼ねてとは言え夜桜見物ができると聞いてきたけれど、これは見事なものだねぇ」)
その身に黒を纏いながらも、女性と見紛う優美さでゆるり散策を楽しむのはフロース・ウェスペルティリオ(蝙蝠花・f00244)だ。
晩冬と初春の間くらいの、まだ少し肌寒い時期だが、桜が雪のように白く、灯りを受けて煌めきながらふわりと咲き誇っている。
ここは温かい飲み物でも片手に、のんびりと過ごしたいところではあるが。
(「さて、ちゃんと頼まれた仕事もしないとね」)
そう、集会の情報収集。
第六感を研ぎ澄ませたフロースは、目的の學生たちが通りそうな場所に目星をつける。その付近の、比較的光を受けていない桜の木の裏側にするりと回ると、幹に背を預けつつ気配を消した。
頭上の花を楽しみつつも、聞き耳を立てていると鼓膜を震わせたのは。
「そう言えば、今日は稲神君は来ていないのか。次の集会は明日だろう」
「例の場所ではないか。きよ嬢とは、今でも隠れてしか会えぬようだから」
(「……おや?」)
早速、それらしい会話が聞こえてくる。
更に耳をそばだてると――どうやら当たりのようだ。しっかりと内容を頭に叩き込む。
(「ふむふむ。なるほど……さて、見つかる前に退散しようかな」)
フロースはそう判断すると、音もなくその身を液状に変じ、地を滑るように離脱する。
他の場所で情報を集めている仲間たちと合流し、擦り合わせ――欠けたパズルのピースを、嵌めるのだ。
成功
🔵🔵🔴
第2章 ボス戦
『悲哀ノ雪華』
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POW : 豪雪破壊衝動
自身の【負の感情】を代償に、【雪の怪物】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【代償が保つ限り、無限に増え続ける雪の力】で戦う。
SPD : 機会を伺ツテ…嗚呼、憎イ、憎イ…!
非戦闘行為に没頭している間、自身の【次回の戦闘攻撃力を高め続ける体】が【消えて、あらゆるものを通過し】、外部からの攻撃を遮断し、生命維持も不要になる。
WIZ : 愛呪ウ悲哀ノ雪華
【感情を爆発させて】から【呪いの吹雪】を放ち、【キスでしか治せない、物言わぬ雪像化の呪い】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:麦島
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ポーラリア・ベル」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●斑雪
ある華族の青年がいた。名を稲神英と言った。
彼は図書館へと足を運んだ折に、平民の少女と出逢い、恋に落ちる。
少女の名前はきよと言い、明朗快活ながらも向学心に溢れた少女だった。そんなところに英は惹かれた。
独学以外に学ぶ機会がなく、本を眺めてもそのほとんどが理解できず、途方に暮れる彼女に対し、英は教師役を買って出た。そこから親交が深まり、きよも英に想いを寄せるようになった。
やがてふたりは将来を約束した。身分の壁は立ちはだかったが、英は必ず一族を説得して見せる、それが叶わぬのなら家督を弟に譲り、稲神の名を捨てることすら厭わないとまで言い切った。
だが、その約束が果たされることは、なかった。
ある日突然、きよは英の前から忽然と姿を消した。
英のことを愛している。だからこそ、英に家を捨てさせ、自分のために苦労をさせることが耐えられない。自分は身を引く――と、書き置きを残して。
しかし、それは偽りであると英は容易く看破した。
きよに読み書きを教えていたのは、他でもない英だ。筆跡が違うと、見抜けぬわけがなかった。
英はやがて、いくつかの事実を突き止めた。
父が秘密裏にならず者を雇い、きよを脅して英から身を引かせようとしたこと。
しかし加減を間違えたならず者たちは、誤ってきよを半殺しにしてしまったこと。
そして事態の発覚を恐れた父とならず者たちによって、その身体は生きたまま、雪降る寒空の下、川へと捨てられたこと。
英は父を憎み、身分を憎み、終わりの見えぬ大正の世を憎んだ。
その翌年だ、影朧へと変じたきよが、英の元へ戻ってきたのは。
二人は再び手を取り合い、同じように身分制度に苦しむ同志を募り、大正の世を終わらせんとする幻朧戦線への同調を呼びかけ始めたのだ。
それが、一月前の、まだ地に雪の残る日のこと。
――猟兵たちは、土手から降りた橋の下にいた。
かつて、きよが捨てられた場所。今は、二人の逢瀬の場所。
「……? 何者だ」
すらりとした体躯の、端正な顔立ちの青年。學生服を身に纏い、育ちのよさを感じさせる彼は、間違いなく英その人だろう。
その背後に、少女を庇っている。彼女が、影朧と化した、きよだ。
きよと境遇の似た影朧が、その名を騙っている可能性も、なくはなかった。しかし集会の参加者であり、特に平素より英と親しかった學生たちは、口を揃えて言ったのだ。
彼女の姿は、失踪する以前のきよ嬢そのものだ、と。
さて、厄介なことになった。
英は間違いなく、影朧を庇うように動くだろう。
殺すわけにはいかない。だが、放置しておけばこちらが不利になるのは明白だ。
引き剥がそうとしても、英は抵抗するだろうし、影朧も阻止しようとするに違いない。
いっそ、戦いながら英を説得して、彼の心を影朧から離すことができれば。だが、どうやって?
「超弩級戦力の者か。だが、貴殿らにきよを引き渡すわけにはいかない……!」
英がその背に隠した刀を抜くと同時に、影朧を取り巻く吹雪が勢いを増した。
――猟兵の誰かが、ぽつりと呟く。
きよが変じた影朧は、雪の日に見舞われた悲劇により、心に生じた負の感情が雪と同化した、怨霊にも等しき存在。
だとすればこの影朧は、きよから生み出されたのだとしても――、
御園・桜花
「貴方の罪を、死した恋人に肩代わりさせるのは、あまりに卑劣ではありませんか?」
英見る
「貴方が今の貴方となる為に、貴方の一族が、どれだけの時間やお金、有償無償のものを与え続けたと思います?貴方が安易に一族を切り捨てると言い出したから、一族も安易にきよさんを切り捨てた。貴方達を阻んだのは、身分差ではありません。自分の価値をきちんと計り、きよさんを守り、与えられた有償無償を一族にきちんと返す算段を提示する。そうすればきよさんは死なずに済みました。貴方が全てを怠った。只夢を語る貴方の安易な行動が、全てを引き起こした。それを省みずまた安易な切捨てに走るから、優しいきよさんは転生すら選べない。自分の罪を認めず心を凍らせ人をまた殺そうとするから、優しいきよさんは貴方に寄り添い心を殺して人を殺めようとする。貴方の罪を優しいきよさんに肩代わりさせる。それが大和魂をもった正しいおのこですか。恥を知りなさい」
「転生を。貴方が送り出さねば、罪に塗れてきよさんが失われてしまいます。きよさんを助けて下さい、貴方が」
●吹雪
まっすぐに、見据える。
身分制度の崩壊を掲げて、世界を脅かす男の顔を見る。
「貴方の罪を、死した恋人に肩代わりさせるのは、あまりに卑劣ではありませんか?」
迷いなく、声震わせることなく、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は英に問うた。
英はその背に影朧を庇い、桜花の視線に自身のそれをぶつける。大義を疑ってはいない顔だ。
それが、桜花にはどうしても許し難かった。
ふわり、纏う花が広がるように弾ける。
「貴方が今の貴方となる為に、貴方の一族が、どれだけの時間やお金、有償無償のものを与え続けたと思います?」
家族は無条件に愛すべきもの、とは言い切れないことを、桜花とて理解している。
だが、英を産み育ててくれたその存在がなければ、今の英がなかったことは、揺るぎない事実だ。それすら、この男は見えていないのか。
「貴方が安易に一族を切り捨てると言い出したから、一族も安易にきよさんを切り捨てた」
言動には責任が伴う。その理を軽んじた、これはその報いに他ならないではないかと。
「貴方達を阻んだのは、身分差ではありません。自分の価値をきちんと計り、きよさんを守り、与えられた有償無償を一族にきちんと返す算段を提示する。そうすればきよさんは死なずに済みました」
それを怠ったから、夢を語るばかりで実現のために動かなかったから。
きよの死は、その答えなのだと。
「それを省みずまた安易な切り捨てに走るから、優しいきよさんは転生すら選べない。自分の罪を認めず心を凍らせ人をまた殺そうとするから、優しいきよさんは貴方に寄り添い心を殺して人を殺めようとする。貴方の罪を優しいきよさんに肩代わりさせる」
こんなことは、きよの本意ではないはずだ。
負の心は結果として、英が植えつけたものだ。
その上、無垢であったはずのきよにまで手を汚させようと言うのか。
「それが大和魂をもった正しいおのこですか。恥を知りなさい」
ぴしゃり、と。
英の言動は全て、実の伴わない理想論に過ぎない。
それを英が認めて、きよを解放しないことには何も始まらない。そう思えばこそ、桜花は厳しくも言葉を尽くして――、
「――貴殿に何が解る!!」
「!」
怒りに囚われた男が、吼えた。
きよと呼ばれた影朧がその腕に縋り、怒りに表情を歪め――凍てつく白銀の礫を桜花に差し向ける。
黙れ、と言わんばかりに口を氷に覆われかける。呪詛に対する耐性を高めていたため、辛うじて難は逃れたが。
確かに、英の掲げる大義は危うい理想論だ。
家を切り捨てようとしたのも事実。そして、きよを守るための努力も『足りなかった』のだろう。
だが、果たして本当に言葉だけで、座して状況が変わるのを、待っていただけだったのだろうか。
このような強行手段に走るほどには、良くも悪くも行動力はあるのだ。足りなかったかもしれない、間違っていたかもしれない。だがきっと、彼は己にできることは、全て尽くしたのだろう。
柄を握り締めたその手から滴る血が、それを物語っていた。
(「……彼が、きよさんを送り出さねば。罪に塗れてきよさんが失われてしまう。だと、言うのに」)
桜花の言葉が――きよの未来を想う心が、きよに全く届いていない、というわけではあるまい。時折彼女は、苦しげに眉をひそめているのだから。
だが、その前には英が変わらず立ちはだかっている。今度こそ、守るとでも言うように。
英の心が――動かない。
苦戦
🔵🔴🔴
ミュー・ティフィア(サポート)
困ってそうですね。少しお手伝いしましょうか?
口調 (私、あなた、呼び捨て、です、ます、でしょう、でしょうか?)
基本的に誰に対しても友好的です。
時々うん、と相槌をしたり、敬語はやや崩れちゃったりします。
好きなものは紅茶です。
余裕があったら飲みたいです。
なるべくなら助けられる人は助けます。
復興のお手伝いとかは積極的に頑張っちゃいます!
現地の人達との交流やケアもしていきたいです。
もちろんオブリビオンや悪人には容赦なしです!
相手次第では手加減するかもしれないですけど。
ユーベルコードやアイテムは何でも使います。
いかなる場合でも公序良俗に反する事には関わりません。
不明点や細かい部分はお任せします。
青原・理仁(サポート)
人間
年齢 17歳 男
黒い瞳 金髪
口調 男性的(俺、呼び捨て、だ、だぜ、だな、だよな?)
性格面:
やさぐれ、ぶっきらぼう
積極的な人助けはしないが、見捨てきれずに手を貸してしまう
戦闘:
武器は使わず、殴る・蹴る・投げるなど、技能「グラップル」「怪力」を生かしつつ徒手空拳で戦う
構え方は古武術風
雷属性への適性があり、魔力やら気やらを雷撃に変換し、放出したり徒手空拳の際に纏わせたりします
●淡雪
(「思い詰めてしまったんでしょうね……でも、このままにしておくわけにはいきません」)
あどけない容貌をきりりと引き締め、ミュー・ティフィア(絆の歌姫・f07712)は英たちの方へ、一歩進み出る。
言葉はなく、しかし何かあればすぐに彼女を守れる位置に青原・理仁(青天の雷霆・f03611)は立っていた。何だかんだで困っている者、敢えて危険に身を晒す者を放っておけない性質である。
「聞いてください。あなたたちがどれだけ苦しんだのか、私たちにはわかりません。でも、彼女が復讐を成し遂げてしまえば、きっと、彼女は彼女ではなくなってしまいます!」
ミューは英を見、次いできよを見、二人に呼びかける。
「何を……!」
「お前の惚れた女は、復讐しか見えなくなるような奴だったのかって話だよ」
「……っ……」
続く理仁の言葉に、刀を握る手が僅かに、揺らいだ。
あれだけの仕打ちを受けたのだ。きよが、復讐の念に囚われても誰が責められようか。
しかし――『きよ』という少女は今、本当に、復讐心に呑み込まれてしまっているのだろうか。
少なくとも目の前の影朧は、確かにそうだろう。だが、それが『きよ』の全てなのだろうか。
そのことは、ミューよりも、理仁よりも、英の方がよく理解しているはずだ。
「……きよ……僕は……」
迷っている。
理仁がそれを察したのと、同時。
「!」
ごう、と白く凍てつく風が吹く。
それは二人の言葉を遮らんと、その身を雪に閉じ込めてしまえと襲い来るが。
「――災厄の魔女より切り離されし、闇を照らす異端の篝火よ。八百万の光宿せし我との絆を以て此処に具現せよ!」
盾となるように、炎の結界が展開される。
描いたのはミューの喚びかけに応じてこの地に降り立った、燃えるような赤髪に金の瞳を煌めかせた、魔女のような出で立ちの女性。
彼女こそが火の精霊ルミエル、その招来。
吹雪は効かない。それを悟った影朧が、雪を纏った大柄な獣の如き怪異を喚び寄せるも。
「こいつは任されてやるよ」
ひらりと飛び出す理仁。
握り込んだのは黄水晶に似た、それでいてより色濃い雷電を帯びた石。
「よく見とけ、これが厳つ霊の一端だ」
理仁の身体にも、石から発せられた雷光が纏わりつく。やがてそれは理仁を呑み込み、一度収縮し、拡散し――その身を、元の身の丈を遥かに越えた雷の幻鳥へと変じた。
そのまま、雷を纏って理仁は雪の怪物に躍りかかる。正面からの一撃には防御体勢を取られるが、それでも徐々に影朧の元へ押し戻されつつある。
「きよ……!」
巻き込まれ、押し潰されそうになった影朧を英が庇う。だが、その瞳が揺らいでいるのをミューは確かに認めた。
(「言葉は届いている、はず……!」)
成功
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徳川・家光(サポート)
『将軍なんだから、戦わなきゃね』
『この家光、悪は決して許せぬ!』
『一か八か……嫌いな言葉じゃありません!』
サムライエンパイアの将軍ですが、普通の猟兵として描写していただけるとありがたいです。ユーベルコードは指定した物をどれでも使いますが、全般的な特徴として「悪事を許せない」直情的な傾向と、「負傷を厭わない」捨て身の戦法を得意とします。
嫁が何百人もいるので色仕掛けには反応しません。また、エンパイアの偉い人には会いません(話がややこしくなるので)。
よく使う武器は「大天狗正宗」「千子村正権現」「鎚曇斬剣」です。
普段の一人称は「僕」、真剣な時は「余」です。
あとはおまかせ。よろしくです!
●花曇
「大伽藍にて、お相手しましょう」
猟兵たちを薙ぎ払わんと現れた、白の獣が如き雪の怪を押し留めたのは、徳川・家光(江戸幕府将軍・f04430)の大伽藍。
鋼鉄の羅刹伽藍手を取り込み顕現したその姿は、まさに巨大な甲冑武者。
「な、何なのだあれは……!」
影朧を後ろ手に庇いながらも、英が驚愕の声を上げる。大伽藍の質量も然ることながら、その気魄に刀では決して太刀打ちできぬと文字通りに悟ったのだろう。向かってくる様子はない。
「聞こえますか」
「うっ」
機上の家光が呼びかければ、英がぎょっと硬直する。影朧もその腕に縋ったまま、様子を窺うのみで動くことはない。
「愛する者を失うことを思えば、その胸中は察するに余りあります」
サムライエンパイアの大奥には、家光の帰りを信じて待つ嫁たちが大勢いる。そもそも、本来ならもう帰らねばならない時間なのだ。心配をかけている、と思うとそれだけで心が痛む。
ならば彼女たちが失われでもしたら、この胸を苛む悲痛は如何ばかりか。想像すらしたくない。
だが、だからこそ放っておけなかったのだ。嫁たちには何か土産を買って急いで帰ると約束している。だから今は、伝えると決めたことを。
「憎悪に変じるほどの愛を受けた、彼女は幸せだったでしょう。苦しみの中で命を落としたとは言え、彼女は確かに幸せだったはずです。そんな彼女が、このようなことを望むと思っているのですか?」
「……っ! 知った風な口を……!」
英が歯噛みする。けれど反論の言葉が続かない。
きよを喪った悲しみ、苦しみは、英本人にしか解らない。だが、きよが果たして本当に、大正の世そのものの打倒を英に望むのか。その指摘は、英に疑問を抱かせるのに充分なものであった。
少しずつ、猟兵たちの言葉が、後悔と憎悪に囚われた英の心を、揺さぶる。
成功
🔵🔵🔴
ミロ・バンドール(サポート)
大人向けな依頼は不採用にしてください
口調はステシの基本通り
強がって一匹狼を気取った態度ですが、連携にはきちんと応え
最善の結果のために努力します
いわゆるツンデレ
基本的な戦闘スタイルは敵の力を削ぎ、次の味方の行動へ繋げるサポート役で
次いで重視する行動が敵の押さえです
技能の各種耐性(これは先制攻撃ボスにも適用)や
武具改造を活かし、戦場の状況に合わせたスタイルを模索します
保護対象には耐性技能を利用して盾になり
UCは誰かが望まない犠牲になるときは差し控える傾向
*備考
・精神攻撃にはとても弱い(ヘタレると寝言時の口調)
・ギャグ展開に巻き込まれやすい、弄られOK
※キャラぶれ気にしないので、お気軽に弄って下さい
●冴返
(「……ああ、嫌だな」)
ミロ・バンドール(ダンピールの咎人殺し・f10015)は未だ憎悪から抜け出せぬ英に対し、嫌悪と、親近感のようなものを同時に覚えていた。
忘れたはずの過去が疼いた。有り様は違うが、英の境遇は過去の自分と通じるものがあった。
振り払おうと頭を振っても、今の英の顔を見る度、影は付き纏う。だからだ、どうしたって英に影朧の手を振り払わせなければならないのは。
「これだけ、お前が知っている『きよ』とやらがこの時代を終わらせることを望んでいるのか、問われているのに、肯定も、否定もできないのか」
「答えるまでも……!!」
英は真っ向から、ミロの言葉に反抗する。だが、きよは確かに大正の世の打倒を望んでいると、言い切ることができずにいる。
ミロは影朧を見遣った。その姿は今や視認が難しいほど薄れている。その内、掻き消えたように見えなくなるのだろう。相手も猟兵たちの出方を窺っているようだ。
だがその分、伝えることを邪魔されない。
「即答できないことが答えだ。お前だって本当は、解っているんだろう」
『きよ』は。
ここにいる影朧は、本当は――、
「そんな、ことが……あるはずが……!!」
英が頭を押さえる。
葛藤している。もう一押しだ。
だが、その役目を担うのは、自分ではない、と思う。
自分にできることは、更に強く英を揺さぶる言葉を持った者に繋げることだ。
それが、今の彼にできる最善で、英ときよの心を憎悪から解放することも、ミロ自身がこの何とも言えぬ嫌悪感から解放されることも、信じて、託した。
「繋ぎは任されてやったぞ。次は、お前の番だ」
続く仲間の姿を、顧みる。彼なりの信頼を向けて。
成功
🔵🔵🔴
鹿村・トーゴ
身分違いの悲恋か
此の非は稲神どのの父上にある
跡取り息子を思っての事だが強引過ぎた様だねェ
生前のきよ嬢はあんたと添い遂げたかっただけと思うけど
稲神どの
今のきよ嬢の目的は何だろ?
生きながら殺された娘が蘇るのは
突き詰めて復讐じゃねーかな?
このままだと近く稲神当主の死体が見つかるんじゃない?次は取り巻き、で華族様
もちろんアンタも
>英
淡々と話しきよに疑惑を生じさせたい
布の猫目雲霧でその刀をいなす【武器受け】
>きよ
稲神どのが好きで還ってきたかい
殺してあの世に連れ帰る為?それとも現世で手助けを?
雪の怪物は手裏剣【投擲】
英に接近の際
猫目雲霧を念動で槍化
きよを雪ごと【カウンター/串刺し】→UCへ繋げる
アドリブ可
●早春
(「身分違いの悲恋か」)
手を尽くしても、報われない恋もある。
稲神家の当主、英の父――この非は彼にあると、鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)はすれ違った家族を思う。
(「跡取り息子を思っての事だが、強引過ぎた様だねェ」)
彼が息子のためにと動いた結果が、一人の少女の死を招いた。
そして息子は、家と時代を恨んでいる。
「生前のきよ嬢は、あんたと添い遂げたかっただけと思うけど」
ぽつり、呟く。
きっとただ、それだけだったのに。
「稲神どの、今のきよ嬢の目的は何だろ?」
「知れたこと……! この大正の世を、」
「生きながら殺された娘が蘇るのは、突き詰めて復讐じゃねーかな?」
言葉が、途切れる。
きよの最期を、英だって知っているのだから。
「このままだと近く稲神当主の死体が見つかるんじゃない? 次は取り巻き、で華族様」
そして、『人』を憎んだ彼女の恨みが及ぶのは。
「もちろん、アンタも」
「な……」
この影朧は、きよであって、きよではないのだ。
今際のきよの一側面。きよの負の感情『のみ』から生まれた、雪纏う怨霊。
「だ、まれ……黙れ……!」
迫る英の刃を、トーゴは猫柄の手拭いでひらりと往なす。だがその太刀筋も、今となっては鈍かった。
英も、無意識の内に感じていたのかもしれない。背に庇う女は、愛した少女その人では、ないのかもしれないと。
『――!!』
その時、きよが。
差し向けた雪の怪が、英ごと、その豪腕でトーゴを押し潰そうとして。
「あ」
理解が及ばず、凍りついた英をトーゴは転がして退避させると、腕を目掛けて放つ手裏剣で怯ませ動きを封じ。
(「解らなくなっちまったか」)
愛した男も。抱いた想いも。
悟ってしまったトーゴの手には、猫柄の槍。
「稲神どのが好きで還ってきたかい」
憎しみに呑まれても、愛は確かにあったのだと思いたい。
「殺してあの世に連れ帰る為? それとも現世で手助けを?」
その理由すら、彼女からは失われた。終わりにしよう。
盾となる白の怪異ごと、少女の影を貫く。そのまま。
「『降りて隠形呼ぶ細声の糸を辿れや爪月の』……追って貫け隠形鬼」
胸を刺し示した手裏剣の先に、呼子針を吸い込ませる。
見開かれた影朧の瞳から、禍々しい光が消え失せ――その身体は、雪へ変じ春の夜空に散った。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 日常
『雪と桜』
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POW : 美味しい食べ物、飲み物を楽しむ
SPD : 仲間たちとの愉快な雑談を楽しむ
WIZ : 幻想的な雪桜と澄んだ空気を楽しむ
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●風花
桜並木に戻った稲神英は、集会の解散を宣言した。
当然、同志たる學生たちからはどよめきが起こったが、『きよ』がもういないこと、英自身の決意が固いことから、強く彼を引き止めることのできる者はいなかった。
英は独り、學生たちの輪から抜けると、先程まできよから生まれた影朧のいた橋の方を見つめていた。
きよは、もういない。いなかったのだ、最初から。
その命が失われたあの日から、もう。
大正の世を終わらせたところで、きよは帰ってこない。どころか、英に待っていたのは孤独な破滅だろう。
誰よりもきよが、そんな末路を望むはずがないと、考えてみれば英にだって解ったはずだったのに。
静かにその頬を、透明な涙が伝った。
「……きよ……済まない……済まない……!」
彼が立ち直るには、時間がかかるかも知れない。
だが彼は、猟兵たちの導きを得て、踏み外す前に留まることができたのだ。
そして自らの意思で、集会を終わらせたのだ。きっともう、大丈夫だろう。
――さて、問題は残された同志たちの方だ。
彼らも身分制度に翻弄され、儘ならぬことがあったのだろう。ゆえに集会に、幻朧戦線に同調したのだ。
拠り所を失った彼らは、少なからず打ちひしがれている。後の禍根を断つためにも、彼らが前を向けるよう、少し声をかけてやった方がいいだろう。
もちろん、折角の夜桜だ。思うところのある者もいることだろうし、學生たちとの対話をまるきり忘れなければ、自身の時間に重きを置いてもいい。
丁度、屋台も出始めた。風流と美食は、気分を上向かせるには誂え向きだ。少々肌寒いが、目も冴えて夜を越すにはそれも悪くない。
――ああ、雪も降ってきた。
鹿村・トーゴ
稲神どのは集会を即解散か
潔い事だ
それに生真面目みたい
きよ嬢の事も身分を逆手にお妾にして傍に置く手もあったのにねェ
好いた娘を二度喪って堪えたろう
オレも身に覚えがあるし
そっとしとこ
>学生
さっきの学生さん達かい?
一緒に桜見物しよ
ま、そんなしょげなさんな
ヘタに革命や物騒な活動しなくても
それこそ兄さん達の身分なら政治や立場の偉い人になって
地道に世の中変えてけんじゃない?
色んな種族の転生にも寛容な世界だもん
オレだって羅刹だけどあんたらさっき普通に喋ってくれたしよ
身分の不都合だって何とか出来るって
だろ?
オレは旅の流れ者だから
サクラミラージュは大きな戦いも無い良い所と思うんだ
あんたらが護んなきゃねェ
アドリブ可
●花冷
(「稲神どのは集会を即解散か、潔い事だ」)
遠巻きにその背を見遣る鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)の眼差しは穏やかだ。
それは英より先に別離を経験し、それでも歩き始めた彼なりの理解だったのだろう。
(「きよ嬢の事も身分を逆手にお妾にして傍に置く手もあったのにねェ」)
だが、英はそれを良しとしなかった。
結果、危険思想に染まりかけてはいたが――根が生真面目ゆえに八方塞がりとなり、暴走してしまったのだろうとトーゴは思う。
戻れなくなる前に、止められてよかった、とも。
(「好いた娘を二度喪って堪えたろう。オレも身に覚えがあるし、そっとしとこ」)
声をかけ、未来を説くだけが優しさではないのだ。
一人で省み、考える時間が必要になることもある。
トーゴは静かに踵を返した。
――さて。
人通りのある並木に戻れば、明らかに気落ちした様子の學生たちがいる。
「さっきの学生さん達かい? 一緒に桜見物しよ」
「あ、ああ、貴殿は旅の……」
見れば、先程トーゴが声をかけた顔も混ざっている。
詳しい事情を知らず、また先の件でトーゴにある程度気を許していた彼らのお陰で、その輪にはすんなり溶け込めた。
「ま、そんなしょげなさんな。ヘタに革命や物騒な活動しなくても、それこそ兄さん達の身分なら政治や立場の偉い人になって、地道に世の中変えてけんじゃない?」
そう、彼らもまた暴走しかけていたが、世間にエリートと評される學生たちなのだ。影朧や幻朧戦線の力を借りずとも、未来を切り拓いてゆける可能性は、無限に広がっている。
「色んな種族の転生にも寛容な世界だもん、オレだって羅刹だけどあんたらさっき普通に喋ってくれたしよ」
「それは……」
に、と口角を上げるトーゴの言葉に、彼らは一様に、何やらはっとしたような表情を見せた。
「身分の不都合だって何とか出来るって。だろ?」
「……そうか……」
「そう、だな……」
彼らは安易で乱暴な方法に頼らずとも、世の中を変えていけるのだ。
「オレは旅の流れ者だから、サクラミラージュは大きな戦いも無い良い所と思うんだ」
大本を変える必要はないのだ。
その上で、変えるべき何かがあるのなら。
「あんたらが護んなきゃねェ」
彼らには、それができるのだから。
大成功
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御園・桜花
「寒くてお腹が減ったままでは名案も浮かびませんもの。まずは此方をどうぞ」
UC「花見御膳」
体力回復と鎮静効果のある甘酒を学生達に配布
胃袋から温める
「世界を善くしたいという考えは尊いですもの。此処で終わらせては勿体ないでしょう?」
「貴方達の善くしたいという想いは、身分差と影朧、何方に傾いていらっしゃいます?」
「身分差なら経済論から始まります。経済格差を無くせば、自ずと身分差が形骸化して無くなるからです。影朧なら、どうしたら今上帝の近侍に成れるか調べるところからでしょう」
「皆さんが間違えていることが一つあります。強き願い持つ死者は、誰でも影朧に成り得るのです。其は今上帝が居ようが居まいが変わらない、世界の真実です。超弩級戦力は誰でも其を知っています。但し此の世界では、大都市を手中に収め全ての生者の生殺与奪の権を握りその苦しみを恣にするような死者は現れません。何処か心の片隅に一欠片、転生の願いを持つ影朧しか現れない。今上帝の慈悲と幻朧桜の関わる御業なのでしょうが、其以上の真実は不明なのです」
●寒桜
雪舞う桜の木の下で、甘酒を振る舞うのは御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)だ。
桜花手製の甘酒は、店売りのものとは一味違う。
胃袋を温め、健康増進にも効果を発揮するのはもちろんのこと、神秘による体力回復と鎮静効果で心も身体も癒し、落ち着かせる。これも桜花のユーベルコヲド『花見御膳』の一端であればこそ。
「寒くてお腹が減ったままでは名案も浮かびませんもの。まずは此方をどうぞ」
それは先程までは過激思想に傾いていた、學生たちにも配られる。
いや寧ろ、そちらが本命だ。彼らが今後再び、世界を危険に晒す道に踏み入ってしまわないよう、導くために。
おずおずと受け取る彼らを前に、桜花はその名の通り、桜のように穏やかに、しかし儚いようなか細さで、微笑む。
「世界を善くしたいという考えは尊いですもの。此処で終わらせては勿体ないでしょう?」
「それは……」
「貴方達の善くしたいという想いは、身分差と影朧、何方に傾いていらっしゃいます?」
詳しい事情を彼らは知らないだろうが、グリモア猟兵から聞いた予知の内容から察するに、彼らもきよが、きよと呼ばれた存在が、影朧であることくらいは理解していたのだろう。
理解してなお、英に、彼が同調した幻朧戦線に与しようとしたのは、身分差に苦しんだ者だけでなく、辛い過去から生まれた影朧に同情したが故の者もいたのではないかと考え、そう切り出した。
「身分差なら経済論から始まります。経済格差を無くせば、自ずと身分差が形骸化して無くなるからです。影朧なら、どうしたら今上帝の近侍に成れるか調べるところからでしょう」
彼らには、学ぶ環境も、それをものにできるだけの能力もあるのだ。
長い道のりかもしれないが、苦しさに心挫けそうになるかもしれないが、それでも、誰かを傷つけ手を汚すことはなくなる。いつか堂々と胸を張って、理想のために邁進できる日が来る。
――その上で、伝えておきたかった。
「皆さんが間違えていることが一つあります。強き願い持つ死者は、誰でも影朧に成り得るのです。其は今上帝が居ようが居まいが変わらない、世界の真実です」
世界が変わっても、苦しむ者はいなくならない。
影朧と成り果て、彷徨う者もいなくならない。
「但し此の世界では、大都市を手中に収め全ての生者の生殺与奪の権を握り、その苦しみを恣にするような死者は現れません。何処か心の片隅に一欠片、転生の願いを持つ影朧しか現れない」
彼らは一様に、孤独で哀しい存在なのだ。
桜花はそれを、知っていてほしかった。
どれだけ癒しても、転生の輪に送り出しても、彼らは哀しみを湛えて今も、どこかに。それは桜の精であり、影朧たちの転生を何よりも願う彼女が今、伝えていくべきことだと思ったから。
「今上帝の慈悲と幻朧桜の関わる御業なのでしょうが、其以上の真実は不明なのです」
ぽつり、呟いて。
頬に触れる雪の、刹那の冷たさに、桜花はふと、顔を上げた。雪も桜も、光を受けて白く、夜の闇を抜き舞い踊る。
雪は、きよの涙だろうか。
それとも、祝福か。
――もしも、きよから生まれた影朧に、次があったのなら。
その時こそは、英は彼女を送り出すことができるだろうか。
どうか、そうであればいいと、桜花は祈らずにいられなかった。
大成功
🔵🔵🔵