●
――いつからか頭には、常に退廃的で陰鬱なピアノジャズが鳴り響いてる。
「さて、私は、消え去ってしまいたいのか」
けれど曖昧で全てをぼかす紫煙の中にありながら、この女のパッションピンクの髪だけは沈むことがない。
存在を主張する。
ジャバウォックは死んだ、なのに。
これ以上、自分が存在する意味があるとは思えないのに。
「…………」
ミストレス・バンダースナッチは瞼を僅かに振るわせる。傍目には煙が目に染みたかのように取られたかもしれない。
そんな風に他者のとらえ方で誰もが有り様を変じていく。広がる煙のように虚構が伝播して真実となる――それが、彼のやり方だったか。
「私には出来ない」
キセルから外れた唇は非道く疲れているようにも、拗ねているようにも、彼への憧れのようにも、聞こえる。案外、何も入っちゃいないのかも、しれない。
私すらわからないのだ。
生きるべきか、死ぬべきか。
わからなさすぎて思考を続けると億劫だ、ピアノの音も煩くなるし。
「ふぅ……」
女は肺腑にためこんだ紫煙で虚空を思う様穢した。
なにも全ての事柄を明白にする必要はない、曖昧模糊のモラトリアム。彼の跡を継いで無為に過ごすのが一番冴えてる、今はそれが一番色濃く私を染め上げてくれてる。
泥色の配管を伝い紫煙が辿り着いた先、年齢も性別も人生もなにもかもが一致しない唯一無二の誰か達が咆吼が空気を裂く。
スナーク達へと変えられていく誰か達。
「虚構より、味も素っ気もないけれど」
何しろ、彼らには――目的も大義も無く、理性も寿命も無く。善も悪も無く……枷や限界すら無い。
あるゆる本質を佚した虚ろなる怪物『スナーク』
あるように見せかけてない、と、本当になにもない――彼と私のやり方は違う。けれどこれは同じ。
――スナークはどこからでも生まれる。
「手は貸そう。だから勝手に生まれればいい」
私にはもう、どうでもいいことだから。
●
「どうでもいいって言うほど囚われてんだよ」
煙草を端に引っかけた比良坂・彷(冥酊・f32708)の口ぶりは、同病相憐れむといった素振りを隠しもしない。
「さて。とっとと本題に入るかね。骸の月が沈黙したら、オウガ・フォーミュラの『ミストレス・バンダースナッチ』の潜伏場所が晒されたんだ」
ニューヨークの地下に広がる「ダストブロンクス」に、彼女は潜んでいた。
「彼女が『スナーク』をばらまいてたの」
倒された猟書家やオブリビオンの中には彼女の造ったスナークも混ざっていた。それが単なる暇つぶし。
「目的? 恐らくただの暇つぶしだよ。どうこうしたいはない、復讐心すらきっとない……まぁもしかしたら」
紫煙の向こうで姿を掠める男は気が抜けたように口元をつりあげる。
「煙で自分の輪郭をボカしすぎて、何が本心かすらわかんなくなってんのかもね?」
さて、と概要説明に移る。
まず手をつけるべきなのは、猟兵の動きを察知して彼女が配した『スナーク』の撃破。
「スナークの元はダストブロンクス内に住むバイオモンスター達だよ」
バンダースナッチの紫煙で本質を消された彼らは猟兵達に容赦のない牙を剥く。
「大半は悪い奴じゃねェし、後味悪いのも嫌でしょ? 致命傷を与えないように、うまくやってよ。そうしたら、スペクターの体から『スナーク現象』が抜けて元に戻るからさ」
そこでご本尊と決戦となればいいが……そうは問屋が卸さない。
「彼女に協力する奴がいる。所謂“神”って奴。バンダースナッチをワープさせて逃がすけど、骸の月を黙らせた猟兵の前ではかくれんぼ遊びみたいなもんさ、すぐに追える」
当然、自己犠牲の精神でバンダースナッチを逃がし“神”が立ちはだかってくる。そいつも倒しきったなら、いよいよ彼女との決戦となる。
彷は煙草を落とすと革靴で躙った。即新しい1本を咥え取りながらふともらす、彼女の煙草は尽きないからこそ彼女自身を損じているんじゃなかろうか、と。
「終らせてやってよ。消化試合みたいに日々をいたずらに重ねる女を。自分を煙に巻いてしまった女をさ」
一縷野望
オープニングをご覧いただきありがとうございます
煙草のけむり、その先に
>執筆開始時期と受付について
オープニング公開時から受け付けています
ただ【作業は25日以降から】とさせていただきます
オーバーロード以外の方は送信時期によっては流れてしまいます。物理的に締め切るまでは再送歓迎です(ただし受理のお約束はできかねます)
>採用
作業開始時に手元にあるプレイングから選んで書かせていただきます
オーバーロードなしの方は4名までが目安
オーバーロードの方は基本全採用の予定です
(例外:主旨から著しく外れる、なんらかの事情で書きこなせない。今まで一度もないです)
>同行
2名様まででお願いします
【チーム名】を冒頭にお願いします
>概要
【1章目】
手加減なしで戦ってもクリア可能
ただし『スナーク』にされたバイオモンスターは死亡します
致命傷を与えぬよう工夫して戦っていただけると彼らを救うことができます
奇策歓迎
心情重視・戦闘重視、お好きなように
どうぞご自由に挑んでください
※2章目と3章目は、章前の断章やマスターコメントでお知らせします
それでは皆様のプレイングをお待ちしています
第1章 集団戦
『スペクター』
|
POW : 無音致命の一撃
【その時の状況に最適な暗器】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : 不可視化マント
自身に【生命力で駆動する姿を隠せる透明化マント】をまとい、高速移動と【自身の気配を掻き消す超音波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 無法の手管
技能名「【恐怖を与える・傷口をえぐる・恫喝・殺気】」の技能レベルを「自分のレベル×10」に変更して使用する。
イラスト:黒江モノ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
キアラ・ドルチェ
さて、『スナーク狩り』へ!
では…来て下さいネミの森の子犬たち!(555体の子犬召喚
はい、では5体ずつに分かれて! あ、そこのはぐれた子はこっちね?
では皆さんに①~⑤の名札付けますよ?
いいですか皆さん? 5体一組で行動、基本は①が右手、②が左手、③が右足、④が左足にとびかかりスナークの両手両足を押さえつけ、⑤があたまぶん殴って気絶させるのですっ!
もし1部隊で押さえつけるのが難しい場合は複数部隊で飛び掛かって下さい、その場合も①~④で押さえつけ、⑤があたま叩くのは一緒ですっ!
もしやられて欠けが出たら、他部隊と合流して下さいね? 欠けた状態で行動しないように
では散開っ、ゆけゆけ私のぬいぐるみ軍団っ♪
●
ニューヨークのコンクリートジャングルも女が吐き出す濁った紫煙も、みんなみんな生気という彩を抜いたガサガサの灰色をしている。
「よいしょっと……わっ」
森彩マントを翻し宙空から突然現れたキアラ・ドルチェ(ネミの白魔女・f11090)へ、黒づくめで全てを奪われた者達が爪を振り下ろす!
斬り裂かれた袖から覗く二の腕に傷が走った。けれど、キアラをより苦しめたのスペクターから注がれた“恐怖”だ。
「…………これは、そうですよね。みなさん、とても怖いですよね」
増幅される“恐怖”は彼らのもの。バンダースナッチはなにもないなんて嘯くが、そんなわけがあるものか。
猛攻を小刻みなステップで躱し、父から受け継いだ強く優しい心で恐怖を振り払う。
「待っていてくださいね、必ず元に戻しますから――では……来て下さいネミの森の子犬たち!」
杖の先からぽぽぽぽんっと、ふっかりもふもふの子犬たちがいーっぱいわき出て、道路一面に満ちた。
「はい、では5体ずつに分かれて! あ、そこのはぐれた子はこっちね?」
杖をくるり、ココアをかき混ぜるように回したら、子犬たちに①から⑤の札がぺったり。
たじろぐスペクターににっこりと微笑み手を振って「安心してね?」と伝え、森の子らへの指示開始。
「いいですか皆さん? 5体一組で行動、基本は①が右手、②が左手、③が右足、④が左足にとびかかりスナークの両手両足を押さえつけ、⑤があたまぶん殴って気絶させるのですっ!」
つぶらな瞳をキラキラさせてキアラの話を聞く子達が大半だが、中にはあくびをしたり転がって背中を擦る子がいたり、うん、犬だ。
「……注意事項は以上です。では散開っ、ゆけゆけ私のぬいぐるみ軍団っ♪」
わふーん!
死んだような灰色を背景にした黒の群れは、一瞬にしてもふもふわんこたちに埋め尽くされる。
指示通りに協力して自由を奪い、前足で、てちんっ★とぱんちぱんち。
愛らしい動作だが、彼らはれっきとしたユーベルコードで呼び出された存在だ。しっかり効いてスペクター達は目をまわす。
時に複数チームで協力して、反撃で仲間が消えても慌てず5になるように合流!
「はい、お疲れ様でした」
ピーッと笛で解散していくように子犬たちが去った後には、色鮮やかでかけがえのない日常を暮らしてきたバイオモンスター達。
無事救えたみんなを前に、キアラは三角帽子を傾けて年相応のあどけなさで破顔一笑。杖の小花がほころび嬉しさ添えた。
大成功
🔵🔵🔵
ジャスパー・ドゥルジー
「どうでもいいっていうほど」か
至言だねェ
俺も昔は――おっとうっかり爺むさい事云いそうになっちまったぜ
やだやだ、こちとら半年前に煙草の味を覚えたばっか
あんな風にセクシーに紫煙をくゆらすおネーさんに憧れる只の若造よ
ってなわけでさァ
逢わせてくれよ、あの女に
腕をナイフで傷付け
溢れる血を周囲へと飛ばす
透明化と超音波の二重の隠遁を仕込んでも
付着する血は避けられねえだろ
場所を割り出したら【ゲヘナの紅】でその血を燃やす
俺の傷の多さ、怒りの感情を糧に燃える炎だ
前者はともかく後者はコントロール可能な筈
命を燃やし尽くさねえように気を配るぜ
早く仕留めねえとあっちが寿命を削りすぎちまう
それはバイオモンスターのモンだぜ
●
(「どうでもいいっていうほど」か、至言だねェ)
気怠げでいて蠱惑的な面差しでキセルを唇に引っかける。それはもう堂に入っていて、半年前に煙草の味を憶えたばかりの青二才のジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)としては憧憬すら抱くわけで。
「……」
女はふぅっと細く紫煙を重ね、更に逃げ遅れた数名を漆黒のスペクターに仕立て上げて背を向けた。
「ちぇっ、まだ謁見には遠いってことかよ」
幼子めいた拗ね顔でジャスパーは黒爪の引っ掻きへ己の躰を差し出した。
ぎ、と音立てて、肋に薄くついた肉が刮がれて肺腑が暴かれる。
脇腹から駆け上がる3本の傷は別口、ドロドロと垂れる赤をなぞりあげて、甘えるように口元を緩めた。
――ああ、ああ、堪らない。
――痛くない躰は物足りなくて、こうされて漸く完成するように思えるんだ。
目の前で道化のように笑うジャスパーへ煽られたか、スペクター達の殺気が膨張する。それは更なる殺戮へと彼らを駆り立てた。
手を合わせ尖らせた爪は、先ほどの露わにされた肋の隙間をついて肺腑貫いた。ぐりぐりと抉られる度に息苦しくて酸素がまわらない、頭がオカシクなりそうだ!
彼らはジャスパーを傷つけると空間に融けるように姿をくらました。
「……はっ、はは、あっあぁー…………」
カシュカシュと空気の漏れる音は、既にdeadline。
なのに、震える手に握ったナイフは迷うことなくジャスパーの二の腕へと吸い込まれる。突き立て捻りこんで手前に、引く。
鮮やかなカーマインが散る。
痛みで霞む視界の中で、自らの血だけが鮮やかに引き立って見える。それは図らずも敵を見失わぬということ。
いきなり自刃しだした敵へたじろぐ気配に向けて、悪魔はやけに軽妙な所作でぱちり、と指を鳴らした。
するとどうだ、細やかに跳ねた血からじわりと炎が灯るではないか! 火は手の甲を伝い爪を灼いて、誰も彼もが腕を振り回し消そうと必死にもがく。
「大丈夫、死なねェよ……」
――敵からつけられた傷は深い、けれど、攻撃者への怒りは一切ない。差し引きすれば丁度良い……はず。
果たしてジャスパーの読み通りに、血潮を種に燃えだしたゲヘナの炎はスペクター達の戦意を奪うも、生命は絶対に侵さない強度にて抑えられた。
それでも。
「……早く仕留めねえとあっちが寿命を削りすぎちまう」
素早く膝蹴りや手刀を入れて、全員を気絶させていく。
「それはバイオモンスターのモンだぜ」
もうこれ以上は俺の痛みを奪わなくていい、頼むから――そう、優しい悪魔は願うのです。
大成功
🔵🔵🔵
レイニィ・レッド
面倒臭ェな
手加減なんてガラじゃないんですよ
物陰を渡りつつ
レインコートを翻し
奴さん達とやり合いましょう
今回は鋏は開きません
ほら
殺生を封じられた赤ずきんは殺しやすいですよ
まぁこのカッコですからね
煽らなくても目立ちますから
奴さん達も上手く標的にしてくれるでしょ
適度に惹きつけたらそれで充分
ああ、イイコト教えてあげましょう
『赤ずきんの雨』は地下にも降る
自分の雨を浴びれば勝手に無力化するでしょう
こんな場所で雨に当たらず自分と殺り合うなんざ無理ですからね
雨に何もかも奪われたアンタらなんて敵じゃないです
ほら
失せろよ
正しくねェものが
いつまでも雨の中に立ってんじゃねぇよ
●
キシキシと頭をかき混ぜるような音。それはレイニィ・レッド(Rainy red・f17810)がよく鋏でもって鳴らす類いのものなのだが、他所からだとこんなに疎ましいものなのか。
地下へと滑り降りて、面倒臭ェなと毒づく。
今回は、鋏での斬り開き解体及び奪命禁止。手加減なんてガラじゃないというのに。
迷路を歩き、極力多くの得物の視界に映りこめる場所を探す。
何事にも用意周到、必ず果たす。でなければ“噂”ではあり続けられない。
「ばぁ!」
手頃な場所で、突如レイニィは黒の前に鮮明なる赤を翻し現れた。
「ほら、殺生を封じられた赤ずきんは殺しやすいですよ」
台詞の最中ににじり寄る者、飛び跳ねて距離を詰める者……まぁ様々なやり口で、見事に赤ずきんへと引き寄せられてくる、まるで砂糖水に集る蟻だ。
さてさて、いつもは追いかける側なのだが今日は逆。バックステップのち背を向け走り出す。
「鬼さんこちらーですよ」
手を鳴らさずとも赤は目を惹き容易く誘える。
ダストブロンクスは、紫煙に取り憑かれた彼らの庭だ。全てを無くされたのに迷路図は染みついているのだろう。
天井の割れ目を潜り先回りを試みる者、真っ当に追う者と、いつの間にか上手く分担し赤ずきんを追い詰めていく。
――それこそが、血のように赤い男の狙いだ。
息が掛かる程の至近に現れたスナークが、零距離のナイフを葬り去ろうと突き刺してくる、とうとうシケた雨を赤に変える男の伝説は終わりを告げるのか!
……なぁんて。
不思議不思議、赤ずきんが触れてもいないのに、ナイフを取り落としたスナークは前のめりに倒れてしまったではないか!
「ああ、イイコト教えてあげましょう」
気圧が、狂う。
大気が急激に湿り気を纏い、重たく落ち着く。
俄雨は何処にでも――種明かしをすると、降ったから現れるのではなくて、現れたから突如雨が降るのだ。
じとじとと降り出した雨の中で、レイニィはレインコートのフードを引っ張り下ろした。
目の前では折り紙の手裏剣が萎れるように、そこいら中で武器どころか自重すら支えきれずに黒の奴らが伏していく。
この雨は、とてもとても重い。
「毒じゃあないですよ」
奪い取った筋力が無駄に満ちる指を、ポケットの中で鋏を操る時のように蠢かせ。
しとしとと肩に染みいる雨は、ますます勢いを増していく。
ざぁ、ざぁ、ざぁあぁああああ……。
雨で洗われるように、紫煙を失った彼らはそれぞれの彩を取り戻していく。
「雨に何もかも奪われたアンタらなんて敵じゃないです」
雷でも鳴りそうな激しい雨音の中でも、レイニィの声は明瞭に彼らの鼓膜を振るわせる。
「ほら、失せろよ」
赤ずきんがポケットから抜いた指は、やはり何も掴んじゃいない。
「正しくねェものが、いつまでも雨の中に立ってんじゃねぇよ」
この指に鋏が握られない内に、さぁ、はやく。
大成功
🔵🔵🔵
リューイン・ランサード
【竜鬼】
ジャバさんかあ…戦争時にシマドゥ島民創造して戦おうとしたら、襲ってきてくれなくて不戦勝だったんですよね~(遠い目)。
今回はひかるさんと一緒に頑張ります!
ひかるさんがバイオモンスターさん達のスナーク化を解除するまで護り抜く。
やたら怖そうな輩っぽい人達が出てきたけれど<汗>、ここは引けません。
震えそうになりながらも踏ん張って、UCにて【無法の手管】を相殺。
相手の攻撃はビームシールド盾受けと身体に張ったオーラ防御で防ぎ、ひかるさんへの攻撃は身体を張ってかばう。
数が多いと対応が大変なので、眠りの属性攻撃・全力魔法・高速詠唱・範囲攻撃で眠らせます。
後はひかるさんがスナーク化を解除する事を信じる。
荒谷・ひかる
【竜鬼】
リューさん、今回はジャバさんじゃなくてパンダさんがお相手ですよっ。
……あれ、違いましたっけ?
出てくる「スナーク」の正体が無辜の方々だというのでしたら
わたしのすべきことは、戦いではありません……皆さんを「治療」しますっ!
リューさんに守ってもらいながら【本気の草木の精霊さん】発動
自身とリューさんには草木の強化外骨格を作り出す種子を投与し強化
そして迫り来る『スナーク』たちには別の種子を撃ち込みます
「スナーク化」が煙によって為され、そして倒せば元に戻るのであれば
身体に吸収された煙の成分を排出すれば戻せると見ました
故に、煙の成分を果実に凝縮して切り離すことで「治療」します
●
蛍光色の鮮やかな女が呟く名前には覚えがある。
「ジャバさんかあ……戦争時にシマドゥ島民創造して戦おうとしたら、襲ってきてくれなくて不戦勝だったんですよね~」
リューイン・ランサード(乗り越える若龍・f13950)はいつも通りのおっとりとした物言い。隣を歩くは荒谷・ひかる(精霊寵姫・f07833)は、愛らしくむむぅと頬を膨らませた。
「リューさん、今回はジャバさんじゃなくてパンダさんがお相手ですよっ」
いつもの心地よい空気のままで、2人は濁ったニューヨークの片隅におりたっている。
「パンダさん、でしたっけ?」
「……あれ、違いましたっけ?」
「パ、バ? ええっと……あれ?」
どっちだっけと首を傾げる2人の視界を漆黒の群れが埋め尽くす。
ひゅっと背中を冷やす怯みに膝が折れそうだが、リューインはなけなしの勇気を振り絞り手の甲を翳して進みでた。
「ひかるさんに手出しはさせません……」
震える語尾を噛みしめる青年の手の甲が輝き、蒼を核とした赤い輝きが拡散する。
煌々としたビームシールドの護りの内側で、ひかるは高々て手のひらを掲げた。
てあて。
手のひらを宛がい患部をさする。医学的な処置は何もしなくとも痛みが和らぐ、とはよく聞く話。
しかし、ひかるのてあてにはちゃんと裏付けがある。
「──充ちよ、満ちよ、大地に満ちよ、花の楽園……」
生真面目な努力家の苦労性、そんな大地の精霊の力を今こそこの地に実らせるのだ!
「まずは、リューさんとわたしへお守りです」
とん、とん。
子供をあやすように優しい手つきで、ひかるは瑠璃の彼と紅石の己へ触れた。
宿った精霊の種子は即座に芽吹き、急所を守るように蔓を伸ばしていく。
「ありがとうございます……とッ!」
無論、敵が悠長に待つわけもない。鋭く磨いた黒を翻し、スナークが2人へと襲いかかる!
「僕がお相手します」
ひかるへと守護のオーラを配しつつ、残りを盾として集積し、弾く。
ガインッと耳障りな音をたてて敵が仰け反り、リューインの側では胸を守る草木が千切れ落ちた。身代わりに感謝する間もなく、左右から新たな切っ先が突き出される。
「……ッ」
いつもなら飛び退き躱し反撃をとるが、今回はそうはいかない。
(「ひかるさんを守る、そしてこの人達を傷つけるのも絶対にいけません」)
リューインは震える唇を切り結び瞼を下ろした。
そうして脳裏に描くのは、先ほど弾いた敵の攻撃――ユーベルコードだ。
――糸車に糸が巻き付いていく。それは注意深く見れば分るはずだ“巻き付けている”のではなくて“解かれているものが逆さ回しにされているのだ”と。
ひゅるり。
リューインを貫くはずだった黒の軌跡が歪曲し、ふわりと中身のない綿菓子のような軽さで弾かれた。
「?」
「……???」
爪を弾かれたスナーク達は小首を傾げる。おかしい、確かに捉えたはずなのに。
「ひかるさん、どうですか?」
「もう少し……パンダさんの煙の詳細が分ればすぐですっ」
「煙ですね、吐いてくれるといいんですが」
リューインは盾をひかるの方へと流し、口元で呪文を編む。
「眠ってください」
ユーベルコードを介入せぬ魔法だ、全てを鎮めることは難しいとわかってはいるが……。
くらり、と呪詛の影響で足下をふらつかせたひとりから、紫煙が僅かに漏れた。
「リューさんありがとうございます……これで、治療種子の完成、ですっ」
リューインが再び遡及させる前に、ひかるが種子を投げつけた。
爪で叩き落とされた種は地に落ちるも、すぐに蔓を伸ばしてスナークの足に絡み全身へと登っていく。
もがくのに意識が取られたならば、ひかるはすかさず銀糸靡かせ躍り出た。その手には今までとは違った大きめの種子が握られている。
「えいっ!」
と、勢いよく種を押しつけられたスナークは、一度だけ痙攣すると膝から崩れて倒れ伏す。
気絶した彼から紫煙が出て行くと、種も役目を終えたと言わんばかりにぽろりと剥がれ落ちた。
「これは戦いではありません……皆さんを『治療』しますっ!」
「みなさん、もう少しの辛抱です……よっ、と」
再び展開したビームシールドでひかるを庇い、リューインはテンポ良く敵の攻撃を“戻して”いく。
怯むのにあわせひかるが蒔いた種は即座に芽吹き、スナーク達を治療していく。息ピッタリの2人を前に、敵達は為すがまま。
もうもうと、彼らが倒れる度に抜け出た紫煙が場に満ちる。
「けほんっ、けほっ……うぅ……」
「ひかるさ……だいじょ、ごほっ」
「リューさんこそ、涙が出てますよ」
目に染みる、噎せると、2人が激しく咳き込む頃には、周囲のスナーク達はみんな元の姿を取り戻すのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヤーガリ・セサル
どこぞの魔術師曰く、化け物には化け物を、と言いますがね。あたしもこいつらも等しく元人間なのが皮肉な話です。
――殺しを重ねる前に、楽になれたら。あたしにはもう望めない話です。
だから、所詮この行動は自己満足。僧侶崩れの悪あがきです。
「結界術」でこっそり身を守りながら、血まみれの姿でふらふらと現れましょう。
あたしは生餌です。襲いたくなるような、ね。
血は血液パックを体にかけたもの。
そして儀式短剣で左手首をぐっさりと。
さあて、持ってくださいよ、この忌まわしい体。
「祈り」で聖句を唱えます。恐怖も殺気も恫喝も、祈っていれば少しはましに感じます。
「ターマイェン、ターマイェン、穢れた身なれど御身に祈ります。腐敗に侵された友を癒す力を御与え下さい」
UC:殉教者の赤で痛みの裁きを。倒れたものには癒しの血を。
えぐられたならば、血が流れる分、威力は増すでしょう。
……後は、どちらかが倒れるまでの、勝負です。
我ながら、馬鹿ですねぇ、本当に。
●
なんと言うのだろうか、突如現れた男の風体は、噛んでも噛んでも口が渇くだけで満たされないパンのようであった。
パサパサの灰髪、骨に纏わり付くような薄い肉は、貧困地域ならばよく見られる凡夫であろうが、禍々しさと玲瓏を共に持つ赤い瞳がその判断を突き返す。
飢え堕ちて悪魔に魂を売りながらもなお高潔さを孕む……後者は焦がれ手放せないだけだと、この男ヤーガリ・セサル(鼠喰らい・f36474)は煮詰めすぎた珈琲の顔で呟くかもしれない。
とにかくヤーガリは、ダストブロンクスを蓋する穴からわらわらとわき出るスペクターより明らかに異様である。
だが、全てを無にされたスペクターからすると、新鮮な血液を滴らせたこの男は唯の美味そうな餌だ。
(「さあて、持ってくださいよ、この忌まわしい体」)
何が忌まわしいかと問われれば、敵を寄せ付けるために己に振りかけた血液パックの血を全て舐め尽くしたくてしょうがない己の飢餓だ。
無意識に、斬り裂いた左手首からの血を口に宛がい腹に戻そうとして、びくりと引き攣りとまる。
甲にある焼印の痛みが彼をせいじょう(正常/清浄)へと引き戻したのだ。仄かに輝いて見える錯覚が、今の己の有様を叱咤するよう。
ああ、はやく、この醜い飢餓をを打ち消すぐらいに痛めつけて欲しい、その爪で牙でつま先で……。
果たして、スペクターはヤーガリの願いを聞き遂げた。
守護結界を突破し届いた爪は、細い腹を貫いてヤーガリの躰を軽々と持ち上げる。“あ”の形にひらいた口が腹の傷に近づきぞぶりと食らいついた。
「……ぅっ」
内臓に近い側へと喰い進んでいく女は只管に無心だ。
吊り上げられたヤーガリの肉をねだるように、背後から引っ掻く男も、垂れ下がる腕を折って喰らおうとする子供も、そこに悪意はない。
苦しげに喘ぎ、口をぱくぱくと死にかけ金魚のよう開閉するヤーガリの胸に去来するは大きな虚しさだ。
どこぞの魔術師曰く、化け物には化け物を――だが、己も彼らも等しく元人間なのが皮肉な話。
(「――殺しを重ねる前に、楽になれたら。あたしにはもう望めない話です」)
不意に、周囲に血花を散らすヤーガリの開いた口が、ヒュルリと鳴りあるだけの酸素を吸い込んだ。
直後、唇からはぼつりぼつりと渇いた声が句を紡ぎ出す。
「ターマイェン、ターマイェン、穢れた身なれど御身に祈ります。腐敗に侵された友を癒す力を御与え下さい……」
己の神へ祈る。
所詮この行動は自己満足。僧侶崩れの悪あがき、わかった上でも祈りを捧げれば、スペクターの与える恫喝の牙は抜け殺気は削げ落ちる、そんな気がする。
それを覆して余りある痛みが聖印を通じ注がれて、更なる血が零れるのだから、差し引きは0どころか負。だが祈り尽くし与えるのが神職の身上。
(「この痛みが、幾ばくかでもまだ、あたしを僧侶だと…………」)
思い上がりに蓋を失血で重たくなった瞼を閉じかけたその時、突然ヤーガリの身はコンクリートの上へと投げ出された。
『あぁ、ああ、あ……あ』
『うぅ……うーー…………』
ヤーガリを貫いていた女が苦しげに頭を抱えのたうつ。
背後でも子供と男が、彼らだけではない、ヤーガリを食らいつく順番待ちをしていた沢山のスペクター達が喉を掻きむしり口から泡を吹いて苦しみ喘いでいるではないか!
「……ああ、苦しいですよね、ごめんなさいね……」
すぐ終わりますからと言い置いて、再びヤーガリは聖句に喉を震わせる。左手首、腹、反対の腕に太もも肩、あらゆる場所についた傷から血を滲ませたままで。
「ターマイェン、ターマイェン……」
忍耐と献身の神はまだ、ヤーガリへ御技を使うことを赦されたもう。
阿鼻叫喚の様相を呈していたスペクター達1人1人の傍へと赴き、ヤーガリは左手首を絞って血を振る舞った。
血の赤で染まる度、彼らから苦痛が消えて安らかな眠りが訪れる。
方々の躰から抜ける紫煙を目にしながら、ヤーガリは歩みを止めず自らの血を絞り出し続ける、どれほどに飢え渇こうが。
未だ術に掛かっておらぬ敵からの攻撃も一切の無抵抗で受け入れて、ますます増えた傷からの流血を増やし、祈る。
やがて、苦悩の声が止んだと同時にヤーガリの祈りも途絶えた。
「――我ながら、馬鹿ですねぇ、本当に」
小枝が折れるように膝を突き倒れ伏す、元僧侶は誰も救いの手をさしのべない。
そう、スペクターは皆、彩りと己を取り戻した。
けれどヤーガリは、悍ましき吸血鬼であり鼠や蛙を統べる悪魔の虜の儘だ。
大成功
🔵🔵🔵
御鏡・幸四郎
果てのない靄の中で。
何かを掴もうとしてつかめない。
そのうち、掴もうとしていたものも曖昧になって。
何もかもが曖昧になって。
あなたにも始まりはあったのでしょう。
望みが、願いが。
あなたは、何を掴みたかったのですか。
バンダースナッチ。
彼女に関する思考は一旦ストップ。
まずは目の前の事態に対処します。
透明化の上に高速移動、気配まで消せるとは厄介ですね。
まあ、分は悪いですが策はあります。
どうせ見えないのなら、と布を巻いて目を隠し、
視覚を閉じて感覚を研ぎ澄まします。
自身の体に香料を詰めた小袋を貼りつけておき、
攻撃を受けた際に破れて匂いが移るようにします。
研ぎ澄まされた聴覚と嗅覚で敵の動きを読み、
攻撃を受け流します。
攻撃を躱しつつ雑霊をチャージ。
十分溜まったら、匂いをマーカーに雑霊弾雨を発射します。
雑霊弾は敵の至近距離で破裂。衝撃波で昏倒させます。
物語の中では、燻り狂えるバンダースナッチには近づくな、
と言われてましたね。
見失ったものに気づいた時、彼女もまたそうなってしまうのでしょうか…
●
バンダースナッチの茫洋とした眼に、御鏡・幸四郎(菓子職人は推理する・f35892)の胸には様々な感情が去来する。
自らを煙に巻いてしまったのは、隠したいものがあったからだろう。それは本当は掴みたいものだったのでは?
「あなたにも始まりはあったのでしょう」
――望み、願い。
返事がないのをわかった上で、白い布を手に幸四郎は問いかけ続ける。
「あなたは、何を掴みたかったのですか。バンダースナッチ」
「…………」
こんなに離れているのに、ふぅっと憂いたっぷりのため息は耳元でつかれたように鮮明だ。
既に己を奪われ煙だけを詰められた者どもがずらりと現れた。
ほぅっ……と、今度は幸四郎の唇が苦悩を交えたため息を吐き出す。
「この方達を助けなくてはなりませんね」
幸四郎の眼前、スナーク達は次々と黒くぼんやりとなり、やがては靄のように薄まり空間に溶け込んでしまった。
反射的に気配を目で追うも聞こえぬ音で隠される。やはり此度の戦いで視覚は邪魔になるか。
幸四郎は悠然たる心持ちで瞼を下ろした。その間に喰らった爪での斬りつけも意に介さずに白い布で瞳を覆い確りと固結び。
ほんの僅かに香るは粉末に砕いた麝香だ。
血が滴る二の腕はそのままに、息を吐いて視覚に割り振っていた感覚を、触覚聴覚その他へと割り振る。
「――……」
白。
白と、感ずれば、スナーク達の透明は黒なのだと、気づくことができた。
実際は、彼らが蠢かす空気の揺れ、それに乗る殺意がそのように見えているに過ぎない。
そもそもが、彼は“そこにはいない”“彼女は死者だ”と言われる姉と長年共にいた。骸の形に宿る“見えなき魂”を確りと感じ取ることが常だったのだ。
姿を隠しただけのスナーク達を見いだすのは、それよりも実は容易い。そう、気づいた。
がきり。
ガンナイフの切っ先とスナークの爪がぶつかり合う耳障りな音。ほぼ自動的に動いた右腕が薙ぎ払いを止めたのだ。ふわりとまた麝香が空間に足される。
よく見れば、幸四郎の躰には無数の小さな袋が結わえられている。この全てに麝香の粉が潜ませてあるのだ。
どさりと、ガンナイフで押し返された女が尻餅をつく音、そこに混ざり空気の微妙な狂いが背後に忍び寄っている。
(「上」)
膨張した殺気が通過していく少し先の未来を予測して、幸四郎は小袋を投げ斬らせ己は音もなくしゃがむ。
「失礼」
更に、後ろに足を蹴り出せば確かな蹴りごたえ。無論、靴裏にも敗れやすい麝香の小袋が仕込み済み。
(「空気がかき混ぜられるのは泡を食って体勢を立て直そうとしているから」)
視界を閉ざす前に憶えた数は八体。
だが増える可能性はあるから油断はしない、あくまで八は下限だ。
「――」
腰に下げた風水盤に指をなぞらせる。
麝香と空気と音と、それで作り上げた白の領域から瞬間意識を外し、霊媒の力宿す者のみが得られる感覚にて確認。
その間にも、腕や脚は自動的に反応し、スナークの攻撃を受け流し極力傷を負わぬよう防戦に徹する。
「……そろそろいいでしょう」
例えスナークが幾ら数を増やそうが関係ない。
フェアリーガンナーから神秘の仲介に最適な風水盤に持ち替えて、この地にて吹きだまっていた雑霊を呼び寄せる。
「彼らはあなたたちの仲間には出来ません。それはわかってくれていますよね……」
――悲しみも苦しみも悔しさも、全て私にぶつけてくれて構わないから、まだ生者の領域に戻れる彼らを救ってください。
幸四郎の願いに進んで応じる者、逆らいを霊媒の力で説き伏せられるもの、様々な雑霊が絡み合い天にあがる。
ざぁああああああああ……!
そんな雨音は、幸四郎だけが耳に出来る幽世のモノだ。雑霊は無数に千切れ雨となり、麝香の香りをつけたスナーク達へと降り注ぐ。
――術は成った。もはや此方の敗北はありえない。
指を掛けて目隠しをはがした先で、次々と弾ける雑霊の雨粒で体の自由を奪われるスナーク達。紫煙が抜ける程に濃くなる狼狽の表情は、彼らが中身を取り戻した証だ。
「すみません、苦痛を与えてしまって……けれど、もう大丈夫ですよ」
そう囁く幸四郎の胸中は再びあの退廃の女に占められる。
物語の中では、燻り狂えるバンダースナッチには近づくな、と言われていた。
「見失ったものに気づいた時、彼女もまたそうなってしまうのでしょうか……」
今より幸せかもしれないが、同時に止めなくてはならないことでもある。
大成功
🔵🔵🔵
大町・詩乃
何もかもどうでもいいならジャバウォックさんを偲んで山奥でひっそり暮らせばいいのに、何度も何度も争いを起こして人々に苦痛と危害を加え、今度はバイオモンスターさん達を弄ぶなんて許せません!
それにバンダースナッチさんに手を貸す神もいるとの事ですし、二重の意味で許せませんね!と激おこ。
バイオモンスターさん達を助けにダストブロンクスに入ります。
地の利は向こうにありますから、結界術で自分の周囲に防御結界を展開して注意しながら進みます。
第六感と幸運で奇襲に気付き、見切りとダンスで舞うように躱したり、オーラ防御を纏った天耀鏡で盾受けしたりします。
集団で来たら念動力・範囲攻撃でまとめて捕縛しますよ。
そしてUC:霊刃・禍断旋を使用。
自分達が本来持つ本質を消されるというのは呪いに他なりません。
故にUCを籠めた煌月のなぎ払い・範囲攻撃によって、スペクターさん達に巣食った『紫煙によるスナーク現象』という呪いのみを纏めて断ち斬り、元のバイオモンスターさん達に戻します。
最後の一人を救出するまで、これを繰り返しますよ。
●
深山幽谷にて斗酒隻鶏。
つくづく思うのだ。バンダースナッチには、この物々しい四字熟語をお見舞いしてやりたいと。
何もかもどうでもいいならジャバウォックを偲んで山奥でひっそり暮らせばいい。
だが、実際はどうだ。
大町・詩乃(阿斯訶備媛・f17458)が軸足を置いて過ごすこのヒーローズアースの人々へ、彼女は苦痛と危害を加え続けてきたではないか。
その行いは、悪に染めてやるという志向性がなかったにしても赦しがたい。
また、彼女に与して逃亡幇助する神の存在も、詩乃の気持ちを逆立てる。
それぞれの有り様に囚われながらも、人々の幸いを祈り手を貸すのが神というものではないのか。
「とにかく、バイオモンスターさん達を助けないと、です」
助け零しを危惧し、バンダースナッチを視認した皆とは逆へ足を向ける。絶対にただの1人だって取りこぼさない。
動きやすさ重視のジーンズルック、髪も後ろでしっかり束ね、マンホールの蓋を開けた。
むわりと閉じ込められた大気の臭いをものともせず、詩乃は鉄階段を用心深く降りたつ。
スニーカーの踏み心地は湿気で柔らかい。被るタイプの電灯をオンにして、いざ探索開始。
(「地の利は向こうにありますから、誘い出す形にはなりますが……喰らうのは危険ですね」)
気を引き締めて、方々からの音や空気の動きに神経を尖らせる。
ダストブロンクスはバイオモンスターらの居住区でもある。
広い交差路には寝袋や毛布、簡単な火器類が散らかっている。包み紙などゴミは散らかされているのもあれば、綺麗にまとめられている所もあり、主の性格が偲ばれた。
……。
き。
絹擦れのように微かな音を耳が拾う。
刹那、詩乃は飛び退き集積した守護の気を頭上へと翳した。
頭上のネジが弾け飛び歪曲した天井板が外れると、そのまま力強く下方へ叩きつけられた!
……危うく頭にキツい一撃を食らっていところだ、などとこの果敢なる女神が怯むわけがない。
既に、背後からの毛布をしゃがんで躱しくるりと足払い。2人のスナークが転がり、傍らには煌々燃え盛るガスコンロが激しい音をたてて落ちた。
「危ないです、下がってください」
神の詩乃もスナーク達も火ぐらいで死ぬことはないのだが、煌月の切っ先はコンロを一刀両断。
隙ありと、落ちた鉄板を持ち殴りかかるスナークをギリギリで躱す。その動きは流麗な舞、この地下にまるで不似合いな清浄さを伴った拍子だ。
壁に追い込まれても、詩乃の容はいつも通りの落ち着きと慈愛を映し出している。
「皆さんを助けに来ました。少しだけ我慢をしてくださいね」
神事の神楽。
籠もる空気を払うように、薙がれた切っ先は3人のスナークの胴を通過した。
だが、出血は、ない。
露わな口元はただただ呆気にとられたように開いている。
「……ッ?」
直後、はらりはらりと彼らを封じていた“漆黒の影”がはがれ落ちていく。それぞれの顔に現われたのは、色とりどりの個性を持つバイオモンスター本来の表情だ。
「……え?」
「どうなって……んだ?」
「あれ???」
老若男女三者三様、我を取り戻した元スナーク達から抜け出た紫煙は、か細くたち上りすぐにかき消えた。
「ご無事で良かったです。私は猟兵です。ごめんなさい、詳しく説明する時間がありません。あなた方は私が守ります、離れずついてきてください」
詩乃の説明に彼らは顔を見合わせるとバラバラに頷き大人しく従った。
道中、状況をある程度知った彼らは、スナークの襲撃ポイントとなりそうな箇所を教えてくれた。
「ありがとうございます」
彼らを連れて方々歩き回るのは得策ではない。であれば、わかりやすい場所で迎え撃つとしよう。
防御結界を3人へと分配し武器となる物が何もない中央へ固まってもらう。一方で詩乃は入り組む接続口へと歩を進める。
鉄音も気配も、憶えた。
――だから、逃さない。
「そこですね」
突如蹴り出された鉄板ごと上へと煌月を振り抜き、他所からの肉斬り包丁の一撃は天耀鏡が堰き止めた。
ふわり。
続けて、羽衣のように優しく身を和らげ半回転、避けると同時に懐刀の雷月にて腕を振り回し駆け込んでくる小柄なスナークをちょんと突いた。
「こんなに幼い子まで……!」
地響きめいたは東から。
「ごめんなさい、結界をこちらへ戻しますね」
詩乃はバイオモンスターに危険がないと判断し、結界を守護から捕縛に切り替える。即座にエイヤと気合い入れて放った、形はさながら投網だ。
東の集団が転び、気勢を削がれた気配がした。詩乃は即座に駆け込むと飛び上がり、煌月にての一刀両断――!
……やがて、無の気配が、止む。
バンダースナッチにて本質を消された呪いは、神の浄化にて綺麗に払われた。この周囲の取りこぼしはない。
詩乃は安堵に胸を撫で下ろすと、改めて皆を護衛し地上へと戻るのである。
大成功
🔵🔵🔵
ジャック・スペード
どうでもいい、か
その気持ちは多少わかる
彼女たちは、ヒトなのか
ならば、誰のいのちも奪わず
此の手で救って見せよう
其れが「ヒーロー」だからな
サイバーアイで相手のダメージ状況を解析しつつ
トドメを刺さぬよう気を付けながら戦おう
暗器による攻撃は
手套からシールドを展開して防ごうか
元よりヒトに捧げた此の身だ、覚悟はある
幾ら疵付いても構わない
損傷を激痛耐性で堪えながら立ち続け
麻痺の弾丸をリボルバーから乱れ撃ち
相手の体力を削りつつ、反撃の機をじっと伺おう
元々は戦闘兵器だからな
生憎、お前たちを優しくは扱えない
だが――
絶対にいのちは奪わない
敢えて相手が体勢を整えた瞬間に肉薄
其の儘、蹴りを入れるとしよう
一応、急所は避けるよう心掛けておく
手荒な真似をして済まないが
致命的な所には当たって居ない筈だ
効率は気にせず、人命優先で
一人ずつ確実に無力化して往こう
いまが「スナーク」であろうと関係ない
バイオモンスターたちもまた
俺にとっては護るべきヒトだ
余裕があれば
スナークが抜けた者を
流れ弾が飛んでこない所へ移動させておこうか
●
どうでもいい。
髪色だけがやけに目につく女の物言いに対し、ジャック・スペード(J♠️・f16475)多少ではあるが共感を抱く。
使い物にならぬと銀河に放逐されたあの時の自分と、ジャバウォックを失い投げ遣りになった彼女は、何処か通ずるものがあるのかもしれぬ。
だが、唇から外したJ-Spade-0011を大切に仕舞い、こうも思うのだ。恐らく彼女は、日替わりの紫煙を愉しむ余地がなくて、己とは違っている。
彼女の紫煙は闇雲にバイオモンスターを一律の“虚ろ”へと塗り替えている、そこに愉楽は、ない。
(「実は、怨みなどが籠められているのか――」)
現時点ではわからないし、辿ることも無駄に思える。それよりも、だ。
彼女らを、ヒトを、救わねばならぬ。無論、誰ひとりのいのちも奪わずに。
ヒーローは自動的に生まれるものではない、ましてや自称でなれるものでもない。涙を拭われたヒトが語ってくれるから、ヒーローはヒーローで在り続けられるのだ。
「……ぅぁ」
微かな呻きが地下水路に壁を伝い、反響。
現われたスナークは鉄板に爪を立て引きはがすと、不規則なステップで襲いかかってくる。
急襲に対するジャックは深海の底のように心乱さず、白の手套を翳した。生じる斥力が間に合わせの武器を退ける。
だが踏鞴を踏んだ彼女へは追い打たず、黒金のヒーローは半回転し鉄パイプで殴りかかる女の手首を掴み、いなした。
効率は非常に悪い。だがまかり間違って命を奪うわけにはいかない。故に、相手が体勢を立て直し武器を抱え直したら漸く肉薄して蹴打。その繰り返しだ。
体勢を崩した相手なら一撃死を与える御技だ、裏を返せば相手が確りと立っているのならば致命を回避できるということ。
「……ッ、ぐ」
腹に踵を喰らった女がもんどり打つ様子が電子の視界に映し出された。瞬時に電影ラインが彼女の損傷度を知らせてくる。
命に別状はない、だが気絶する程でもない。
バネ仕掛けめいた動きで女は再び鉄板を振りかぶる。
ブンッ!
強く揺さぶられた空気の音に呼応し、ジャックは咄嗟に頭部を庇った。殴打を退けた手のひらを通じて手首が軋む、衝撃は殺しきれなかった。
(「丁度の強さは実戦で憶えていくしかないか」)
意気自如として落ち着いているのは、只管にジャックが我慢強くて痛みを堪える性分だからだ。
そんな彼の視界が、不意に三段階ほど明度が落ちたように暗くなる。
――そう、加減をしすぎると囲まれる、このように。
然れど、それすら含み済み。否、むしろ最後の一人まで誘き出す腹づもり。長期戦も包囲される不利な戦いも、全て統べて覚悟の上だ。
マントを翻し振り返った向こう側にも黒の群れ。
統制など知ったことかと、一人目が爪でジャックの腹を掻く。彼女が着地したら回し蹴り。左隣の数名も巻き込み一気に吹き飛ばした。
「元々は戦闘兵器だからな。生憎、お前たちを優しくは扱えない」
だが――、
絶対にいのちは奪わない。
バイオモンスターだろうがなんら変わることはない、ジャックにとっては護るべきヒトだ。
其れがヒーローとしての、矜持。
「ッ」
無情に重ねられる殴打と引っ掻きを、赤色に染まった手套で弾き、手首を掴んでは引き倒す。
先ほど腹を蹴った女は、なにもかもを虚ろにされているせいか自らの傷を顧みぬようだ。命無理強いの接近戦、カウンターで蹴り飛ばすと……。
(「殺してしまう」)
肩口に爪の突きを受けいれたジャックは、女を引き抜き釣りあげると、寝袋と毛布が積まれた先へと放った。
誰かの住処を乱す無礼を心で詫びながら、荒くなる呼吸を整える。
「手荒な真似をして済まない」
ホルスターから抜かれた銀色の輝きが、隙間からの光を反射し仄かな輝きをもたらした。
スナーク達が潜んでいる気配が尽きた。つまり全員をこの場に連れ出すことができたということ。ならば、漸く弾丸の出番である。
傾けた静の構えから、苛烈なる連打。スナーク達は肩や脚から乱れ打ちとて急所は徹底して外す。
肉が弾ける音が閉鎖空間に響き合い、直後、女達は糸が切れたマリオネットの如く次々に倒れ伏した。
麻酔の弾丸、残る女達の足音を目印に、素早く籠め直したそれを即座に放つ。
人生は終わらせず、歪められた虚ろだけを祓う。
折り重なる女達から、ぼんやりとしたつかみ所のない煙が抜けていき、それぞれの彩を取り戻していく。
虚無の黒がなくなったのを確認したら、安堵と共に体中の傷が痛みを吹き出してくきた。
だが、あと一仕事。元スナーク達を担ぐと、出口に近い方へと運び出す。
サイバーアイの片隅には、やたら鮮やかで埋没不可なるあの髪色が引っかかっているのだ。
幸いにもバンダースナッチはジャックを眺めてくるだけで済んでいる。であれば、グリモア猟兵の述べた“神”が降臨する前にヒトを危険から遠ざけるのみ。
そう、第2幕の開幕ベルが鳴る前に……。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『アオユキ』
|
POW : 静殺与奪
【隠し持っているナイフの投擲】が命中した部位に【神経を殺す猛毒】を流し込み、部位を爆破、もしくはレベル秒間操作する(抵抗は可能)。
SPD : 跪け、愚者
レベルm半径内に【拷問鞭による激しい打撃】を放ち、命中した敵から【立ち向かう気力、意志】を奪う。範囲内が暗闇なら威力3倍。
WIZ : 藍雪乱舞
自身が装備する【拷問鞭】から【青褪める吹雪の嵐】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【凍傷】の状態異常を与える。
イラスト:houjoh
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠世母都・かんろ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
湿気た空気が蔓延るダストブロンクスの傍らから、1人の女がかき消えた。
虚ろの女が口元で吐いた煙が乱れたのは、予想外だったから。
けれども猟兵にとってこれは予知で知らされた予定調和。むしろバイオモンスター達が巻き込まれずに済むと安堵する者達もいるぐらい。
「……」
そのギャップを前に、女の平坦な双眸が少しだけ撓みを見せた。
――転移された先は、センターオブジアース。神々が住まう地球の中心地である。
赤色の紅蓮が燃え盛り、真白のバンダースナッチの頬に紅を飾る。突如の転移で目眩を起こした女は蹲りこめかみを押さえた。
ピアノジャズは相変わらず、けれど、別の音階に覆い隠されて結果として新しい曲に変わっている。
それは、そう――熱烈に求愛するような畳みかけるヴァイオリンの音色。
「……なんで、あなたが」
その名を呼ばれる前に“神”はふらつきながら立ち上がる女に腕を伸ばし抱き取った。
「私は常に貴女の役に立ちたいと考えていたのですけれどね」
切りそろえたパッションピンクの髪を指先で弄ぶ。バンダースナッチはされるが儘で、神は諦めたように瞼を翳らせ嘆息を零した。
「…………ミ♭」
抱かれながら女から口ずさまれるメロディは陰鬱で、嗚呼、終ぞ神には彼女を変えられなかったのだ。
「貴女が想う彼ごと全てをもらい受ける心算だったのですが」
「――私は」
篝火のように不死の怪物がくべられ燃え盛る、ただそれだけのあとは石畳の素っ気ない空間で、バンダースナッチは紫煙を口元から漏らす。
「私は、ジャバウォックを想って、いた……?」
指摘されて初めて知ったように瞬く女は、何処か幼子のようだ。
「どうやら敵に塩を送ってしまったようですね。私も飛んだお人好しだ」
神は苦く到底飲み干せない微苦笑を浮かべると、バンダースナッチから腕を放す。だが名残惜しさに負け再び二の腕に指を掛けようとした、その時、
「……ッ、もう嗅ぎつけられてしまいましたか」
猟兵達の足音を聞き、神は先ほどとは別の苦々しさで容を染めた。
「更に別の場所に転移します。バンダースナッチ、貴女は何処までも逃げてください」
「……終わらせては、いけない?」
「いけない」
終焉らないでと裏側に潜めて神は転送の陣を描く。
これが、最期の邂逅となる。
だから我儘だろうが願いを口にする。愛した女の未来ぐらい、夢見たっていいだろう――?
パッションピンクの髪が消え失せて、同時に神はスナークへと変じる。その姿は、己の考えによく似たある男のもの。
ヴィランを世に。その男の考えと、平穏を見ると壊したくなる神とは嗜好が非常に合っていて、だからこの姿を選んだ。
彼の――アオユキの本質をかき消して“神”たる自分が乗っ取った、それは彼女の吐き出す紫煙と同じやり口。
それが自分の精一杯かと、眼鏡の奥の瞳を伏せる。だがセンチメンタルな失恋に浸るのはここまでだ。
藍髪の軍人は顔を持ち上げると猟兵達へと対峙する。
「猟兵くん達、残念だがバンダースナッチはもうここにはいない。そしてキミたちは私が1人残らず始末する――小賢しい未来予知が正しいのもここまでだ! さぁ、掛かってくるが良い!」
******
【マスターより】
心情、戦闘、その他、お好きにどうぞ
戦場は戦うに問題のない広さで、巻き込まれる一般人はおりません
現時点から全てのプレイングの受け付けを開始しています
締め切りは20日(日)の朝8時30分まで
これ以降はシステム的に締め切るまでオーバーロードのみ受付ます
採用は1章目ご参加いただいた方は確定です
達成度のタイミングが合わず流れてしまった場合は再送いただけると助かります
2章目からの飛び入りは若干名、章人数が12名ぐらいが目安になりそうです
※16日夕方時点で来ている3名はサポートです
それではプレイングをお待ちしております
リューイン・ランサード
【竜鬼】
輩っぽい人の次はサドっぽい人が…、生理的に嫌なタイプが続くなあ。
僕、痛いの嫌なんです<汗>。
ぼやいても仕方ないので頑張ります。怖いけど。
吹雪の範囲攻撃なら炎で対抗します。
とUC:罪砕乃炎を使用し、自分とひかるさんを吹雪からかばうように全ての炎を一つに纏めてぶつけて防ぎます。
その他にもビームシールド盾受けとオーラ防御展開によって、ひかるさんの盾となる。
ひかるさんのUCが発動して吹雪を無効化すれば、一つに纏めた焔を分散し、逃げ場を無くすように包囲してから相手にぶつけます。
ここは神住まう場所なので竜脈使いで力吸収して強化。
更にそれぞれの手に持った剣に光の属性攻撃を籠めての2回攻撃で斬ります。
荒谷・ひかる
【竜鬼】
(ぼやく彼に「仕方ないですねぇ」と小さくため息つきつつ)
嫌でも苦手でも怖くても、リューさんはそんな弱気に負けないひとだって、わたし知ってますから。
大丈夫、わたしもいます。一緒に頑張りましょうっ!(鼓舞)
吹雪なら氷属性攻撃なので、氷属性の【精霊さんの加護】で吸収無効化できます
発動まではリューさんに時間を稼いで頂いて、発動したら立ち位置を交代
攻勢に転じる彼の盾となりつつ、並行して吸収した力で無数の氷柱弾を生成
彼の炎に続けて撃ち出して攻撃、物理的に磔にしつつ急激な温度変化で感覚を奪い、彼の追撃へ繋げます
これが……わたし達の愛の力ですっ!
(無意識で失恋した相手のメンタルを抉っていく)
●
丸めた鞭が解けて石畳を打つ。
びくりと耳を塞ぎ身を竦めるのはリューイン・ランサード(波濤踏破せし若龍・f13950)だ。
「! 輩っぽい人の次はサドっぽい人が……生理的に嫌なタイプが続くなあ。僕、痛いの嫌なんです」
蒼天の瞳がうるりとしているのに、荒谷・ひかる(精霊寵姫・f07833)はため息、口元は優しい苦笑いを形作る。
「仕方ないですねぇ」
でも、嫌でも苦手でも恐くても、リューインは自分を庇い戦う勇ましい魂を持つ人だと、ひかるはちゃんとわかっている。
むしろ、こうやって自分の弱さを零せるのは、ひかるへの信頼と正直さの現れだと好ましくすら思うのだ。
信頼関係を目の当たりにして、アオユキの姿を取った“神”は苦虫を噛みつぶす。
例えばだ、ここで先制をとり鞭を叩きつけ二人を氷漬けにしたとする。二人は互いを庇い抗うだろう。
――なんというか、それはとても惨めだ。
“神”はハッと吐き捨てるように息をつくと、構えを解いた。そうしてはやくしろと急かすように瞳を絞る。
「大丈夫、わたしもいます。一緒に頑張りましょうっ!」
「そうですね、ぼやいても仕方ないので頑張ります」
握り返し、毅然と胸をはり敵を睨み据えた。
漸くその気になったかと“神”がねめつけ返したら、ついっとリューインの視線がひかるへと逸れる。
「……怖いけど」
「そうですね。だから、はやく片付けてしまいましょう」
そう、女の子は強いのだ。
「さぁ、私からのプレゼントです。氷の中で二人で氷漬けとなるがよい!」
ひゅんっ、と拷問鞭が空間を千切る。すると、青より深く濃い、彼の髪色をした氷雪が一瞬で場に満ちた。
「……くッ、でも吹雪なら……鞭で打たれるより、恐くないです……ッ」
一面の藍色。ホワイトアウトならぬインディゴアウトで視界を奪われる。つないだ手だけが二人の存在の証明、だけれども。
「リューさん」
「はい、絶対に護りきりますから」
指を解く。
片手落ちの守護で持ちこたえられる程に敵は甘くはない。だから、リューインは守護の気を纏った両手を前方に翳し冥界へと潜る。
――罪人を焼霞する紅蓮の炎。赤々と盛る無数のそれを1つに結び、オーラシールドに纏わせ盾とする。
紅蓮の盾は、次々に吹き付ける吹雪へぶつかり、青年と少女の眼前の藍雪を融かして退けた。
「リューさんありがとうございます」
藍色の闇が紅蓮にて照らされた。
凍てつく痛みへの恐怖より、愛する彼の姿が輝き見失わずにいられること、それがひかるの心を勇気づける。
「わたしたちは絶対に負けません!」
「随分と図にのっているようですね」
更に吹雪が折り重なり、リューインの踵が石畳を削り取った。
「負けません……よ!」
気を吐いて、右の手のひらは下げた。斜め下に広がった紅蓮はひかるを暖かに覆い庇う。一方で、リューインの腕はとおに袖を失い、凍傷で赤くひび割れている。
「リューさん……」
「大丈夫、心配しないで」
少しだけ振り返り、信じてるよと、赤くなった鼻ではにかむように笑った。その微笑みがひかるの心に焔を灯し、一気に精霊へのリンクが進む。
「……もうこれ以上リューさんを傷つけさせません! 精霊さん、お願いします!」
“神”は、吹雪の向こうで輝く紅蓮が尽きたのに喉を鳴らした。だが直後、その考えが浅はかだったと、知る。
まずは、不意にあれほどに荒れ狂っていた吹雪が、消失した。
彼方で、二人の熱を庇っていた紅蓮が、ふわり、と勢いを増す。
果敢に前に進みでたのは、ずっと護られていた少女だ。
「防戦はここまでです、行きます!」
ひかるのかけ声に呼応し、幾つもの氷弾が螺旋を描き“神”へと迫る。咄嗟に反応ができず肩口に喰らった神は勢いに押され後ずさった。
「ぬぐ……ッ」
慌てて鞭を振るい藍雪を増すが、それを退けて今度は赤色の弾丸が飛来する。
「ここからが本番です、逃がしませんからね!」
紅蓮の焔は、リューインの手で無数の姿に爆ぜる。それらは“神”の周辺を焼き尽くし逃げ場を奪うのだ。
神ある場所に竜脈あり。
リューインは力を吸い寄せた2つの剣を構え力強く奔る。
ひかるはリューインの路を作るように、藍雪全てを吸収し即座に氷弾へと転換し射出する。
「このようなもの打ち消せばいいだけで……ぐっ」
紅蓮を抜けてきた氷弾が手首を捉え“神”の体を壁へと叩きつける。冷やされた部屋が仇となり、即座にそれは枷のように凍り付いた。
そこへ、リューインの上段からの斬りが繰り出される。動けぬ“神”はただの的だ。
「これが……わたし達の愛の力ですっ!」
袈裟に裂かれ血を吐く唇が、二人の若者への羨望と苦渋で歪み、下がった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジャスパー・ドゥルジー
UCで手にしたナイフを増やす
寿命を削らねえ為の初撃は自分に
あとは全部奴に叩き込んでやるぜ
立ち向かう意志を奪う鞭?
そうねェそんな痛そーな鞭で打たれたら「もう十分」って思っちまうかも?
当然満ち足りたって意味の方で!
でもそーも言ってらんねえのよ
俺にとっては、そしてきっと残念ながらバンダースナッチにとっても
あんたは只の通過点
ナイフで自傷した血があかあかと燃えて
鞭を強化する暗闇を消し去る
こんな痛み、生ぬるいくらいだぜ!
無理やり間合いに踏み込んで
ナイフの連撃を浴びせかける
安心しろよ
あんたもあの女も
行き着く先は同じだろうぜ
――ま、あの男もきっと同じだろうから
喜ばしいかどうかはあんた次第か
レイニィ・レッド
神サマ、ねぇ
アンタでも人間みたいに恋患いするンすね
ま、興味は全く無ェんですが
『赤ずきんの裁ち鋏』を鳴らす
自分はただ、邪魔するものを刻むだけだ
物陰を渡り
騙し討ちとフェイントを織り交ぜながら
その綺麗な顔ズタズタに刻んでやります
超高速にモノを言わせ
振るわれる鞭を躱してやりましょ
雨を躱すより簡単ですね
きっとこういうのの相手が得意な猟兵は他に居るでしょう
だから自分は斬ることだけに集中します
喋りたいような奴が居りゃ
代わりに攻撃を引き付けてやらねぇこともない
アンタに恨みは無ェですよ
ただ、あの煙にゃ縄張りを散々荒されてますから
逃がすわけにはいかねェ
邪魔だ
さっさと失せろ
●
羨望に荒れる“神”は、レイニィ・レッド(Rainy red・f17810)には随分と俗物に見えた。
「神サマ、ねぇ」
頬に当たる雨はみぞれに化けて、己が温度を下げたクセに“神”は肩を震わせる。
「アンタでも人間みたいに恋患いするンすね」
赤ずきんは、至近距離で、そのように囁いた。
“神”が容を持ち上げた時には、声の主はそこにはいない。石柱の影か、篝火の揺らめきに真っ赤なレインコートを融かしたか。
荒く篝火を鞭打てば、辺りは一気に暗闇に沈みこむ。
降るように訪れた闇は、通り魔にとっても神にとっても都合がいい。そんな中で、唯一不利になる男がいる。
手元が暗くなり、ジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)は鼻歌交じりに弄っていたナイフから目を離す。
暗がりに馴らすように少しだけ長く瞼を下ろした後で、現れた菖蒲の瞳は懐くように“神”の携える鞭へ。
しゅるり。
引き出されて床に落ちる流線に、熱々のパタータを頬ばるようにほっほっぅと唇尖らせてはしゃぐ。
「おっとっと」
憎たらしいと飛んできた鞭へはナイフを差し出し後ずさる。
「こっわいこわい。立ち向かう意志を奪う鞭だっけ? そうねェ……」
手にはまた新たなメスが握られている。ちょんと先っぽを突き、ふむり首を傾げて勿体つける。
「そんな痛そーな鞭で打たれたら「もう十分」って思っちまうかも? ……当然満ち足りたって意味の方で!」
「ならば味わいなさい、心ゆくまで」
再び鞭が虚空を震わせた。洞穴から放出される濁流に似た風切り音の中――やけに、明確に、
「ま、興味は全く無ェんですが」
なんて投げ捨てるような囁きと、金属が擦れるか細い音が、した。
直後、かみさまは顔を覆ってエビのように上体を丸めた。頬に深く一筋の傷、石畳にはどろりとした赤い水たまり。
「…………」
しゃきん、しゃきん。
鋏の開け閉めされる音は、何処?
“神”すら凌駕した速度を得たレイニィ・レッドを、誰も捉えることは叶わない。
「じゃーん」
ジャスパーは、手品師がしてみせるように、ナイフ、メス、太い針金に鋏、カッター……と、ありとあらゆる刃物を扇に広げ見せた。
「打ち据えられて満ち足りたんのもそそるけど、そーも言ってらんねえのよ」
指を閉じたら手に残るのはカッターナイフだけ。せり出した刃を左手首に突き立てれば膿むような熱。悦楽から逃れる為、短く舌を出し噛んだ。
「あんたは只の通過点」
手首から滲み出た血はあかあかと燃え盛り暗闇を削る。
忌々しげに歯がみする“神”の袖口が切れて、内側の手首に躊躇い傷にしては深い傷が穿たれた、またまたレイニィの仕業だ。
ジャスパーがお喋り鴉なら、自分は斬ることだけに集中できる。
「――鬼さん、こちらですよ」
なんて、わざと速度を落として横顔を見せつける。伸ばし持たれた鞭が首筋に触れる前に、雨を湿らせ離脱。
「こっち見てよ、ねェ……って、言いたいのはあんたか」
針金を自傷した同じ位置へ突き立ててやる。
「ほら、お揃い」
「巫山戯るな」
開いた口には、先ほど奪われコートのポケットに入っていたナイフを取り返し、突き刺して、
「あげる」
にぃと瞳を弓にして、まだ半分だよと口ずさみ、赤々と盛る手首を翳し握りこんだコンパスの針を瞳めがけて振り下ろす。
ひゅ。
“神”はジャスパーの手を阻むように鞭を踊らせた。
「……」
視認したレイニィが知らせるように足音たてて近づいてくるのに、ジャスパーは謝辞の笑みで手を揺らす。
(「喰らってやるとは、物好きもいたもんですね」)
床を蹴り篝火の台を蹴倒して跳躍するレイニィの眼下では、鞭打たれるジャスパーの姿がある。
「……ッ、こんな痛み、生ぬるいくらいだぜ!」
叩き落とされたコンパスには構わずに、五、六、七、八、九と、握りしめたナイフを増やし刺して肉を抉り取った。
「さっきも言ったけど、あんたは只の通過点。俺にとっても、そしてきっと残念ながらバンダースナッチにとっても」
図星を突かれたか、激高し鞭を振り回す“神”へ、ジャスパーはまだまだ喰らう気で唇を騒がしくさせるのだ。
「あんたもあの女も、行き着く先は同じだろうぜ」
そう言われたら、笑うのか、この“神”は。
でも、死にたがりを虐めたってつまらない。
「――ま、あの男もきっと同じだろうから。喜ばしいかどうかはあんた次第か」
「ッ! あの男なぞ、とうに地獄から巡って消え去っています。いいや、私がそうさせるッ!」
哀れな神だ。地獄の采配すら好きにできると縋ってる。
「どうにもこうにも、救いがたい病に罹っちまってるようで」
ぱちり。
鋏が合わさり埒外の鞭をあっさりと切り落とした。
くるり。
大道芸人が見せつけるように持ち手に指を入れて回す。そんな赤い風体の青年へ、鞭は再び質量を取り戻し襲いかかる。
ぱちり。
地に生えた草木を斬るよう容易く刻んでレイニィは片眉を持ち上げる。
「アンタに恨みは無ェですよ。ただ、あの煙にゃ縄張りを散々荒されてますから――」
「彼女を殺させはしません。例え通過点でも構わない、私の作った道を彼女が一歩でも進むのならば、既に私はそこに宿っているのです!」
必死に言い募る“神”を、ジャスパーはどこか愛おしむように見つめ、レイニィは堪えていた苛つきをここで露わにした。
「逃がすわけにはいかねェ」
お前もあの女も――全て鋏を濡らす雫に変える。
レイニィ・レッドは有言実行、まずひとつ目を果たす。
“神”の喉に鋏を刺しこみ言い捨てた。
「邪魔だ、さっさと失せろ」
と。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
キアラ・ドルチェ
恋とはどんなものかしら
愛とはどんなものかしら
「彼女を想うなら何故貴方は共に行かないのです?」
一緒に逃げて、彼女の心を掴んで、二人のしあわせになるのが
恋じゃないんですか? 愛じゃないんですか?
結局貴方は怖いだけなんじゃないんですか?
彼女に振り向いて貰えないのが。二人で共に終焉るのが
自分の心が満たされないのが。彼女の死すら見てしまい絶望するのが
「臆病風に吹かれただけなんじゃないですか?」
だから独りでここに立ってるんじゃないんですか?
「この…ヘタレ男!」
二人で戦えば私達相手でも勝てたかもなのに!
貴方の行動は自殺にしか見えないっ!
そんな相手に私達が負ける筈が…ないっ!
「ネミの森王の禁呪、神殺しの槍で果てなさいっ!」
倒したらちょっと泣いて、そして祈ってやります
独りよがりな私の恋や愛の観念の押し付けだろうけど、だからこそこいつがゆるせない! 納得いかない!
恋したなら、最後まで付きまとって振り向いて貰えるように頑張りなさいよ
愛したなら最後まで付きまとって守りなさいよ
そんな想いを載せて鎮魂の祈りを…
●
キアラ・ドルチェ(ネミの白魔女・f11090)は、姿こそ大人だが、中身はまだあどけない少女だ。
少女は夢想する。
――恋とはどんなものかしら。
――愛とはどんなものかしら。
一番身近な、若き父と母の姿が浮かんだ。
常に違いの意見を尊重しあい理解しようと模索する。そんな両親と、ひとりぼっちで対峙する彼は、明らかに違って見えた。
「彼女を想うなら何故貴方は共に行かないのです?」
キアラの質問は率直だ。であるが故に“神”の心を鋭く抉る。
「彼女がそれを望まないからです。私は彼女の幸せをまず第一に尊重する、己の熱情を押しつけるは愚の骨頂ですよ、お嬢さん」
猟兵達に重ねられた傷を止血し表面上だけは無事と取り繕う。そう、この“神”は、全てにおいて体裁を取り繕う、器の小さな男なのだ。
「一緒に逃げなければ、あなたと彼女の幸せな未来は訪れません」
彼が拷問鞭を扱く、ただそれだけでこの地の温度が一気に下がった。キアラは暖を取るために萌木色のマントを前で合わて縮こまる。
だが賢明さ宿すアクアマリンの双眸は、依然男を捕らえたままだ。
「彼女の心を掴んで、二人のしあわせになるのが、恋じゃないんですか? 愛じゃないんですか?」
そんな“言ってやりたいこと”の裏側で、音にせず高速で唱えるは禁呪。小出しにできない、だから今は藍色の吹雪にて頬を裂かれ熱を奪われるに甘んじる。
でも、燃え盛る激情が心をカッカッと滾らせて、空元気でもなく暑苦しいぐらい。
「……結局貴方は怖いだけなんじゃないんですか?」
「私が何を畏れているように見えるのかな?」
鞭が振り下ろされて石畳を打った。凜冽たる吹雪が更なる勢いを得て、娘めがけて吹き付ける。
「……ッ」
詰めていた息を吐き出したなら、ドルイドの杖-Fragment of Lerads-に絡む蔓が気遣うように揺れた。
そっと手のひらで撫であげると、芽吹きはキアラに命を注いでくれた。全てではないけれど、肌に触れる寸前の吹雪を融かしてくれる。
「……図星だから、言われるのが嫌だから、口を塞ごうとしてるんですね。貴方はやっぱり恐いのですね――彼女に振り向いて貰えないのが」
そんな風に、心が通じ合わぬままで、二人で共に終焉る。
キアラが告げたもしもは“神”がついて行ったならほぼ必ず訪れた筈の未来。
自らの心が満たされず、バンダースナッチの命が目の前で狩り取られるのを直視するなんてできない。
心が折れてしまうぐらいならと、この男は恰好をつけてここで捨て駒になることを選んだ。
「……だからなんだ。知った風な口を聞かないでいただこうか!」
戦況は己に有利だというのに、声は情けなく裏返った。凍てつき杖にしがみつくしかできぬ幼き魔女を前にして、彼は全くもって勝ちを確信できない。
キアラは霜が降りた唇で、白い息を吐いた。
呪文の詠唱が、完了した。
「臆病風に吹かれただけなんじゃないですか?」
でも、まだ言ってやりたいのだ。
「だから独りでここに立ってるんじゃないんですか?」
男は恐らくわかっている。
でも、キアラは幼さ故にそういった心の機微に気づかない。だから最後まで言い切る、それがどれほどに残酷だともわからずに。
「この……ヘタレ男!」
刹那、空間を満たす藍色の雪が、怯む。
キアラに吹き付けていた風は逆さま、雪は“神”へと還る。
「……ッ」
己のユーベルコードが産んだ雪だ、だから“神”の肉体に傷がつくことは、ない。
「二人で戦えば私達相手でも勝てたかもなのに!」
「そんなこと……ッ」
男は床を鞭で叩く。再び勢いを得た藍の雪の儘に石畳を蹴飛ばしてキアラへと走り込んくる彼は、泣き出しそうに顔をくしゃくしゃにしている。
「そんなことをしたら、彼女を危険に晒してしまうでしょう……?」
「だからその場で命を賭して守ればいいでしょう?」
正論に言葉を詰まらせて変わりに床を滅茶苦茶に打ち付け吹雪を増した。
「神を愚弄するのも大概にしなさい、私が貴様らに遅れを取るとでも……」
「貴方の行動は自殺にしか見えないっ!」
神は足を止めた。
その直後、ネミの森王の禁呪、神殺しの槍が神の躰を刺し貫く。
「そんな相手に私達が負ける筈が……ないっ!」
槍で叩き上げられる神を前にして、心優しき娘は泣いていた。嗚咽でしゃくり上げる様は幼子の泣き方だ。
キアラにとって目の前の男は、何処で対峙した所で倒すしかない相手である。それをわかった上で、男が己を粗末に扱ったのがゆるせないし納得がいかない。
恋や愛の観念の押しつけだろうと知るものか! 自分の心に蓋をせずぶつけることができるのを幼いというのなら、私はずっと子供でいい。
「恋したなら、最後まで付きまとって振り向いて貰えるように頑張りなさいよ! 愛したなら最後まで付きまとって守りなさいよ!!」
…………そしたら、あの、なにもないって虚ろな煙だけの彼女に新しい焔が宿ったかも、しれないのに。
大成功
🔵🔵🔵
大町・詩乃
愛ゆえに彼女に手を貸しましたか。
だから何をしても良い訳ではありません。
バイオモンスターさん達の暮らしが取り返しのつかない事になるところでした!
(相手の反応を見て)私と貴方では嗜好が真逆のようですね。
同じ神であっても互いを認め合えない。
悲しい事ですが、私も譲れません。
貴方を倒し、バンダースナッチさんも倒します。
それが嫌ならば全力で来なさい!
とUC:神性解放を発動し、正々堂々と戦いを挑みます。
空を自在に舞って、相手の鞭を見切り・空中戦・ダンスで華麗に躱したり、オーラ防御を纏った天耀鏡の盾受けで弾く。
返す刀で多重詠唱による光と雷の属性攻撃・全力魔法・高速詠唱で生み出した光雷の槍を放ってスナイパー能力で撃ち抜く。
第六感と読心術で相手がUCにて逆転を狙っている事に気付き、天耀鏡を詩乃を覆えるくらい大型化させて、投擲されたナイフを悉く弾く。
そのまま天耀鏡ごと接近。
2回攻撃の1回目で天耀鏡のシールドバッシュの吹き飛ばして態勢を崩させ、2回目で光の属性攻撃・神罰を籠めた煌月によるなぎ払いで斬ります!
●
大町・詩乃(阿斯訶備媛・f17458)は、阿斯訶備媛はこの地に暮らす人々全ての幸せを望む。
「愛ゆえに彼女に手を貸しましたか。だから何をしても良い訳ではありません」
重なる負傷で乱された髪を整え立ち上がるのを、詩乃は敢えて手を止めて待つ。
「バイオモンスターさん達の暮らしが取り返しのつかない事になるところでした!」
無辜である彼らが理不尽に命が奪われるなぞ、決して見過ごせない。バンダースナッチに悪意があろうがなかろうがその点において見過ごすことなどできないのだ。
「随分とご立派なお考えをお持ちのようですね」
揶揄するような物言い矮小にひねびた態度に柳眉が寄るのは一瞬のみ。
「……貴方の行いは、神という概念をその誇りを地に落とす行為です」
「ほうほう、貴女も“神”の一柱、だからそんなにお怒りでいらっしゃるのですね」
同類なのかとそそられた態度は上辺だ。詩乃は彼の胸元で銀色が僅かに閃いたのを見逃さない。
投げ放たれたナイフは煌月で叩き、神楽の足取りで半円描き、遅れてきた残りも全て若草色のオーラにて灼きおとす。
余りある神格の差を見せつけられて“神”はあからさまな不機嫌さを容に浮かべた。
「……私の力の源は、人々や世界を護りたいという想いです」
もはや地も宙も自在に駆け巡れる詩乃は、未だ石畳を踏みしめ、ひたりと男を見据えた。
「この世界に産声をあげたなら、永遠の眠りにつくまでの一生を笑顔で生きて欲しい……この願いは、祈られたから縋られたからと生じたものではありません」
言外に貴方はどうなのだと問われ“神”は不遜に顎を持ち上げた。眼鏡越しの鋭い瞳は虎視眈々と詩乃の隙を伺っている。
「私もバンダースナッチに「助けて」と縋られた訳ではありません。私がそうしたいから為しているのです」
「……愛する個人の為ならば、他が全て犠牲になっても構わない、そのように考えるのですか?」
「そもそもだ、乙女の姿持ちし神よ」
ここに来て自分の“神”としての考えを語る事になるとは思わなかった。だが、ここで語らねば他で吐く機会は二度と訪れぬだろう。
「この地にはだらしなく人が溢れすぎている」
鞭で石畳を打ち欠片を飛ばす。精密に正確に、この地は己の領域であり、物理法則なぞ無視をして思うが儘に全て操れる。
「……ッ」
手元を狙い来た欠片に怯むことなく前へ。出会い頭に投げられたナイフは、柔らかに床を蹴って舞い上がり躱した。
天女の如く優雅に、だが彼の肩を抉らんと煌月は迷いなく突き出されている。
「……ッ、話の途中だというのに随分とお転婆な女神ですね」
鞭で巻いてぐんっと堰き止められた煌月から、詩乃は一瞬だけ指を離し更に前へと跳躍する。
着地様、雷月にて背中を斬り裂いて、夥しい光と雷を彼へと注ぎこんだ。
暗闇に走る雷光は、昼を越えた目も眩むような輝きで、肉を焦す匂いを辺りへふりまく。
“神”は悲鳴をあげない。
だが、焦した背中と暫くは口を聞くのも儘ならぬ様子から、相当な損傷を負っているのは傍目にも明白だ。
かつり、と、踵が石畳を踏みしめ、ひとつだけの音を生んだ。
詩乃は“神”の真正面に立ち、取り戻した煌月を下げ構え、応えた。
「人の繁栄を『だらしない』と表現される時点で、私と貴方では嗜好が真逆であり、同じ神であっても互いを認め合えないのは明白です」
そもそも、話の途中に動くのは“神”の側なのだ。
今もまた、詩乃の話を突き返すように鞭を振り下ろしてバックステップで距離を取っている。
「“神”がただ一人に仕えてはならないとでも? ああ、随分と神とは窮屈なもの。まぁそんな不満を抱いたのは彼女に出会ってからですけれど」
産めよ殖えよの愚鈍なる者どもがのうのうと平和を貪る様は、成長の欠片もなくて――故に、ヴィランを世に放ち脅かす。そこから生まれる変化を求めた。
そう語る彼の一言も取りこぼさぬよう、詩乃は微動だにせずに耳を傾ける。
彼の神としての在り方を受け止めて憶えていけるのは、やはり神である自分だけだ。
「最初は利用させていただいているだけだったんですよ。けれどいつしか、彼女の変化だけを望むようになったのです。無論“幸せな”変化のみ」
銀色を翻し見せつけるブラフを見破って、詩乃は切っ先で鞭を斬り払った。
「何を哀しげな顔をしているのですか? 圧倒的に有利なのは貴女でしょうに……」
「……そうですね。譲れないことを悲しいと感じてしまいました」
自己犠牲も愛も“神”がバンダースナッチに寄せる全ては本物だ。
「ですが、成すべき事は変わりません。貴方を倒し、バンダースナッチさんも倒します」
この宣言に対して“神”はあるだけのナイフを詩乃に向けて射出した。
無論、詩乃はこの抵抗を予想していた。即座にオーラを与えた天耀鏡を拡大させて全てを阻む。
「防がれようが、1本でも刺さればいいのです」
その台詞の通り、床をつたい伸ばされた鞭が背後から詩乃の心臓めがけナイフを突き立てようとする。
だが詩乃の天駆は宙を飛ぶナイフの速度すら凌駕する。
「はぁああ!」
真っ向からの袈裟斬り。逆転為らずで上半身を朱に染めた男は悔しげに歯を鳴らした。
大成功
🔵🔵🔵
御鏡・幸四郎
愛した女性のために身を張る、ですか。
なんとも人間臭い神様ですが……好きですよ、そういうの。
報われない恋と知って尚、立ちはだかる貴方への餞です。
全力で、行きます。
見たところ拷問鞭が主武装のようですが、
他にもなにか隠し持っているでしょう。
隠し玉は追々炙り出すとして、まずは鞭を封じます。
ガンナイフで牽制射撃をしながらダッシュで接近。
鞭の間合いの内側に飛び込みます。
斬撃と零距離射撃を駆使して密着戦。
相手の攻撃を受け流しながら、UCでカウンターを狙います。
隙を突かれ距離を離されれば、
奥の手のナイフが飛んでくるでしょう。
ですが、このUCにはこんな応用も利きます。
投げられたナイフを刺さる直前で掴み、
勢いを殺さぬよう身を捻りながら投げ返します。
虚を突いた超高速のカウンター、躱せますか?
彼と同じわけではありませんが、失恋した想いはわかります。
十数年前に終わりを告げた恋の痛みを、懐かしく思い出します。
●
「……ぐっ、まだです。私がいる限り、バンダースナッチを追わせはしません」
ボタボタと滴り落ちる血を押し込むように“神”は己の胸元に手のひらを宛がい気を吐いた。
御鏡・幸四郎(菓子職人は推理する・f35892)の目の前にいる彼は、年格好は自分と変わらず。一人の女性へ情熱を傾ける様に至っては、なんと人間味のある神様だろうとすら感心する。
「愛した女性のために身を張る、ですか」
振りかざされた鞭の切っ先が、弾丸で弾け飛んだ。
神への共感を示しながらも、幸四郎は躊躇うことなくガンナイフのトリガーを引いた。鞭を追いかけ、弾く、何度も何度も。
「……好きですよ、そういうの」
わざとゆっくり銃口を“神”の心臓へと向ける。さぁ何をしてくるか、出方を伺う幸四郎の腹づもりを読んだか、“神”は薄く唇を歪めて鞭を腰へとさした。
「若者よ、私を愚かと笑いたいならば笑うがいい」
「いいえ、笑いなどしませんよ」
失恋の切なさやるせなさならば理解ができる。
無論、目の前の“神”と同じ状況ではない。かの人は――いいや、よそう。これは十数年前に終わりを告げた恋。懐旧こそ感じるも、ここで広げてひけらかす類いのものではない。
慎み深く、胸へと仕舞う。
そして、ふと想いもする。
ここに、姉がいなくてよかった、とも。
信頼で結ばれた姉弟を見せつける残酷さもさることながら、既に大切な人の花嫁となった姉を恋の負け戦で報われぬ“神”からの毒舌に晒したくはない。
「……報われない恋と知って尚、立ちはだかる貴方は強敵です……全力で、行きます」
それがせめてもの餞別だ。
直後、幸四郎は前置きなしに石畳を蹴った。怖ろしい速度で詰め寄ってくる若者を“神”は再び抜いた元通りの鞭で迎え撃つ。
弧を描き空間を切り取るしなやかな軌跡を前にしても幸四郎は足を止めずに懐へ飛び込む。
つっと、削られた頬から血が滲む。鞭は生き物のよう這い下がり、ガンナイフを握る手首に絡みついた。
「……ッ」
構えを取らせぬと“神”は手首を締め上げ己の方へと引きずり寄せる。
だが、幸四郎の容には余裕の笑みが浮かんでいた。
手首が引き寄せられる儘に更に肉薄し“神”の脇腹へ銃口がついた刹那、即座に引き金を引く。
焦げた匂いと共に後方へと散った肉、鞭が緩んだのを見逃さず、銃剣をねじ込み傷を深める。
「おおおおおおおおッ!」
吐血と共にあがる哮り、だが“神”もまた口元を三日月の形にする。
「フッ……愚かな、罠に掛かったとも知らず」
鞭とは逆の手元が銀色に煌めいた。
ああ、漸く隠し球をおびき出せた。
「…………」
幸四郎は音もなく身を沈めた。ガンナイフから指を離し、ナイフが握られた手首を素早く取る。
じりと薄い皮膚を斬られた人差し指と中指から感覚が失われた。なので無傷な薬指と小指を枷のように絡みつけて、後ろへと引く。
合気道などでみられる受け流し。敵の攻めの勢いを利用し、こちらの力はさほど必要ではない。
蹌踉けて無防備に晒された“神”の背中へは、渾身の肘打ちを叩き下ろす。
「ぐっ……」
だらしなく開いた“神”の唇は更なる血を吐いた。ユーベルコードの力はその身を著しく蝕む筈だ。
幸四郎は後ろへ流しすぐに指を離すと、石畳を転がるガンナイフを素早く拾う。
“神”の毒で言うことを効かぬ利き手ではなく、反対の手で構え即座に引き金を引いた。
……カンッ!
石に囲われた空間を、トライアングルのように清廉で澄み切った音が響き渡った。
弾丸を喰らい砕けたナイフがキラキラと落ちる。その横をかいくぐり近づく幸四郎。対する“神”は、痛みに呻きながらも幾つものナイフを投げてくる。
「数打てば当たる」
銃口を横薙ぎに、高速でトリガーを引き弾丸をばらまく。互いにどれかひとつでも当たればいいとの腹は同じ。
幸四郎は自分に向いた切っ先を全て打ち落とし再び疾走の速度をつりあげた。
後方では、構わなかったナイフが落ちる。その音を聞きながら、未だ転がる“神”へと飛びかかった。
荒い呼吸と共に最後のナイフが右目に向けて突き出される。銀色の輝きは幸四郎の瞳を穿つことなく、寸前で薬指と中指で挟まれ止められた。
すかさず、螺旋めいた動きで身を捻り“神”を投げ飛ばした。
「……ッ、かはっ!」
しこたまに石畳に叩きつけられた“神”は、今度は起き上がることはなかった。
幸四郎は徐々に感覚を取り戻す人差し指と中指を包み込み振り返る。
「あなたは、強かったです」
愛し人がいる方角へと歩き出す猟兵を止められない。立ち上がれぬ“神”は床を掻き悔しがるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
ジャック・スペード
愛されたことはあるが
愛したことはない
だから、彼女を逃す
彼の気持ちは分からない
対局だな
俺は人々の平穏を守りたい
だから、お前を斃して進もう
鞭か、此の身には脅威ではないが
ただの鞭では無いんだろうな
軌道を見切れば銃弾を乱射して
此方へしなる鞭を弾く
俺を動かすのは
電気でもオイルでも無く
ヒトから貰った此のこころ
守りたいという意思や
立ち向かう気力を失ったら
きっと俺は俺じゃなくなって仕舞う
此の身はどうなっても構わないが
此のこころだけは、手放せないな
敵の攻撃が緩んだ隙に
踵を三度鳴らして宙を駆け
敵へと肉薄しよう
我が身総てが引鉄也
口部パーツをレーザーガンに転じさせる
見ての通り、俺は異形だ
だから人間みたいな姿をした
どんな人間の形にもなれる
お前には少しばかり憧れる
そういえば、ヒトは
神に似せて造られたんだったな
生憎、俺は神が造り給うし仔では無いから
遠慮なくやらせてもらうぞ
零距離で光の弾丸を放ち
其の身を撃つ
どうせならーー
ヒトに似せられたかったものだな
そうしたら、お前の気持ちも
或いは愛という概念も
分かっただろうか
●
血だまりに沈み藻掻く“神”の前につま先を置いたのは、ジャック・スペード(J♠️・f16475)だ。
色めく怒り露わに垂れ流し、先ゆく猟兵に追いすがろうとするその姿は、もはや見栄も取り繕いもあったものではない。
愛とは、斯様なまでに痛烈に影響をもたらすのかと、愛されど此方からは愛したことのないジャックはその有様を黙って見据えるのみ。
「またか……バンダースナッチには、指ひとつ触れさせません……ッ」
「彼女を逃す、お前の気持ちは分からない」
正直に告げたなら、眼鏡の上の柳眉が持ち上がる。
彼は未だに真剣に、バンダースナッチの命をつなごうとしている。
諦めていない。
見返りなぞ与えてくれぬ女に執着し逃げ延びる為に全てをなげうつ、他の人間がどうなろうとも一切構わない。
「対局だな」
極まる違い。
ジャックはまず一番に人々の平穏を守り抜きたい。バンダースナッチの虚ろは、放置すればこれからも様々な人の涙を零させる。
だから、例え目の前の男が愛した女の盾となれず涙の中で死ぬのだとしても――。
「お前を斃して進もう」
「させません」
直後、倒れ伏した男から、1本とは到底思えぬ鞭がジャックに向けて放たれる。
叩き引き、叩く。
連打にて生み出された無数は、いっそ喰らいながら討ち取る方がやりやすい。なにしろ、堅牢なるこの身は裂ける肌もなし、故に痛み自体は脅威ではないと計上できる。
……できる、のだが。
(「ただの鞭では無いんだろうな」)
後ずさり上体を柳のように揺らし躱す。素早さでの幻惑を優先する為か、鞭の軌道自体は右から左と非常に規則的だ。
「そういえば、ヒトは神に似せて造られたんだったな。生憎、俺は神が造り給うし仔では無いから遠慮なくやらせてもらうぞ」
「……私が彼女を逃がす意味がわからぬのならば、首をつっこまなければいいでしょう」
膝立ちになり撓む軌跡が床から浮いた。
頭脳は明晰にして冷静に、視界のスクリーンは冷徹に数値が次々と計上されて最大効率を探り続けている。
「俺を動かすのは電気でもオイルでも無い」
確かに機構自体は人から離れている、恐らく目の前の神を名乗る男よりも。だがジャックは胸に手のひらを宛がうと、本来は搭載される筈もなかった“こころ”を誇らしげに唇にのせる。
「俺を動かすのは、ヒトから貰った此のこころ」
身を挺し救ったヒトは、様々な感情をジャックにくれる。
“ありがとう”――かつり。
“よかった”――かつり。
“嬉しい”――かつり。
全ては命が続く安堵からのもの。
「人々を守りたいという意思や、立ち向かう気力を失ったら、きっと俺は俺じゃなくなって仕舞う」
「ハッ!」
嘲るような笑いと共に立ち上がった“神”へと向けて、三度踵を鳴らしたジャックは跳躍する。
打ち出し済みの決して鞭が届かぬルート取りにて懐へ。一瞬の出来事であったのは“神”の表情が変わっていないことからもわかる。
そして、肉薄したジャックは戸惑いを憶える。嘲りと見えたが、窄められた瞳が纏うのは色濃い共感だ。
だが、既に全身引鉄と化すシークエンスは止まらない。折れた手首も、曲げた膝も、無機質に開いた口も、全てに銃口が換装されており、今にも火を噴く寸前だ。
――キィィイイイン……!
細く長いレーザーがまとまり、鼓膜破りの轟音として場を揺らした。
「…………ぐっ」
眩い光が晴れた先に現れた“神”は胸部の肉を殆ど弾き飛ばされいた。再び仰向けに沈む、僅かに宿した笑みは崩さぬままで。
「……わた、しと、……同じ、ではないですか……」
“神”は途切れ途切れの声でこう告げた――多数に殉じるか個人に殉じるかの差に過ぎない、と。
「…………見ての通り、俺は異形だ」
既に鞭は投げ出されていてもはや相手の反撃はありえない。
だが、ジャックの姿は相も変わらず全身砲台。こころは“ヒトからもらった”――つまり、もらわなければ鉄の塊に過ぎない。
だからか、人間みたいな姿をした、どんな人間の形にもなれる、目の前の男への憧れすら感じる。
だが、感傷に引きずられることなく、銃口は再び輝き光を宿した。斃さねば、この人々を脅かす存在に手を貸す者を、と。
「……ぬッ」
“神”はマントを翻し申し訳程度に防いだが、命の終焉ますます近づいている。血の塊を吐き出して、彼は再びジャックへと向き直る。
「あなたは、守りたいヒトとやらを危険に晒したくはない、違いますか?」
聞き取りやすくなった台詞に対し、ジャックも口だけは閉じて素直に頷いた。
「此の身はどうなっても構わない。其れで誰かの命が救えるのならば安いものだ」
銃口である手のひらが胸に置かれる。
「此のこころだけは、手放せないな」
「……ほら、そっくりではありませんか。私は己を顧みずに彼女を護りたい。共に行かなかったのは危険に晒さぬ為」
先に対峙した娘への返事を繰り返し“神”は突如跳ね起き襲いかかる。だが徒手空拳が通じる筈もなく、はらわた部分を貫かれ再び血だまりに沈んだ。
「…………」
銃口を仕舞いまだヒトに近い姿へと戻ったジャックは、血だまりで痙攣する男を見下ろす。
似ているとの指摘、それが産んだ戸惑い。
「すまない、やはり分らない」
神の気持ちも愛という概念も理解に届かぬと、諦観に俯く様はまるで数式の答えが見つからぬ生徒のようだ。
教師は――“神”はもうジャックへ教えをもたらしては、くれない。
大成功
🔵🔵🔵
ヤーガリ・セサル
いやいや本当にほれぼれするほどの惚れっぷりで。愛に生き愛に死す。人も神はそれは変わらないらしい。
生憎あたしは焦がれるほどの愛は……まあ、しているようなものですか。いまだその感情が許されるなら、ですが。
あなたは神の身でありながら神ならざるものに恋をする。
あたしは化け物の身でありながら、それでもわが君を結局は追い続ける。たとえそれが届かぬ思いでも。
ほんと、愛は不可解で、面倒で。まあ、命を懸けるにはちょうどいいもんですが。
とはいえ、逃げるミストレスは追わせてもらいますよ。ロマンティックでかたずけられる問題じゃないのでね。
「召喚術」で面白軍団――UC:影の精兵召喚。技能は多重詠唱を選択させていただきましょうか。
吹雪の瞬間がチャンスです。「集団戦術」で指揮を執りながら、九体を吹雪を囲むように配置。吹雪の中からこちらを見るのも骨でしょう。嵐が過ぎた瞬間に、増幅した地獄の業火を叩き込み――その間を縫って接近、「吸血」で腹を満たしましょうか。鼠喰らいにはもったいないご馳走ですがね、ええ。
●
はもや“神”からは第一印象の風流警抜さは完全に佚していた。
「……先へ行かせは、しません」
新たな猟兵の姿を認め壁を伝い立ち上がろうとする姿に、ヤーガリ・セサル(鼠喰らい・f36474)はまず感嘆し、美しくも不健康な切れ長の瞳をすぼめる。
「いやいや本当にほれぼれするほどの惚れっぷりで。愛に生き愛に死す。人も神はそれは変わらないらしい」
素直な賞賛に“神”はギロリと目を剥いただけであった。
「……本当に、眩くて素晴らしいと思っているのですよ。その献身を」
忍耐と献身の神に仕える……今ではそう口にするのも憚られるが……そのような身のヤーガリとしては、この行いは賞賛に値する。
眩しい輝きは濃い影を作る。
ヤーガリは焦がれるような“愛”を口にしようにも、まず己の堕ちた有様が浮かぶ。それは枷となり彼の首を締め上げて、様々な感情を潰してしまうのだ。
逡巡は、目の前の男へ最期の力を振り絞り立て直す暇を与えた。実際は、死に水を取る役回りを担うヤーガリのせめてもの気遣いでもある。
――どうか、思い残しのないように。
思い残しだらけでむざむざと現世を彷徨うあたしからの餞別です――。
「…………あなたは神の身でありながら神ならざるものに恋をする」
台詞の締めに僅かに息を吸えば、魔導書を押し当てた薄い胸が微かに膨らんだ。召喚はたった今、済んだ。だが、今暫くはあの騒がしい連中には引っ込んでいてもらおう。
「お前は……どう、なのだ……?」
定まらぬ視界めがけ“神”は鞭を振り下ろす。そして大仰な所作で腕を広げた。背後の抜け道を覆い隠しているつもりか。
一方のヤーガリは、吹き付ける雪に頬を削られるも下ぶくれになる血液すら巡らない。
「あたしは化け物の身でありながら、それでもわが君を結局は追い続ける」
届かぬ思いと知ってなお、希望を失うことが“できない”
僧侶として滅んだのならば己に意味などないと自死を何度試みたが、死から拒絶された。
だから、血液入手と称して誰かの役に立つ医者を名乗り、誰かの感謝の言葉にて干からびた心に水をもらう。
斯様に、ヤーガリは何処までいっても楽になることはできないのだ。
……目の前の“神”とバンダースナッチ、どちらに似ているかと言えば、圧倒的に後者。
けれど、救われる側になることは、どうしてもどうしても厭だ。
聖職者は、人を救ってこそだから。
「ほんと、愛は不可解で、面倒で。まあ、命を懸けるにはちょうどいいもんですが」
飛び出す絵本の賑やかさで、影絵の奴らが飛び出してきた。
『ナンダヨ、オマエナンダヨ』
『クレンノカ、アレ、オマエデモイイ』
「……まったく」
きいきぃぎゃあぎゃぁ、騒がしい一団に嘆息零し、ヤーガリは吹雪の周辺を指さし精兵を向かわせた。
詠唱を口元で丸めながら、先ほどまで“神”がいた位置を見据える。9つの方角より、ヤーガリの求める魔術の詠唱が無音にて紡がれる。
“神”と呼びかけようとして、ターマイェン以外を神と称するには抵抗を感じ、ヤーガリは一旦唇を閉ざした。
「恨みっこなしです」
再び口火を切ったその声は、先ほどのしわがれた囁くようなものとは打って変わって張りがある。
「……逃げるミストレスは追わせてもらいますよ。ロマンティックでかたずけられる問題じゃないのでね」
何しろ挑発なのだから!
「絶対に、それだけはさせるものか。私の全てを賭けてでも止めさせていただきます!」
荒れ狂う吹雪の中、明らかに膨れあがる殺気と何より喚く声が居場所を物語る。直後、ヤーガリが跳躍した石畳は叩き下ろされた鞭で深く抉られた。
「闇が恐れる焔を、その身に喰らいなさい」
一撃の下に屠られ兼ねぬ攻撃に内心肝を冷やしつつ、虚空にて眼下の男へと夥しい質量の火弾を見舞う。
「あなたの愛は、きっと虚っぽと自分を定めている彼女には、受け止めきれぬものなのでしょう……ッ」
すたり、と着地したヤーガリは、足首に鋭い痛みを感じた。全ての力を使い尽くした“神”が、憤りだけを込めた指で足を握りしめてきたのだ。
「……し、ません。追う足を……全て、へし折って…………」
「届かなくてもいいのですね。そうですか……あたしはまだまだです、あなたのように悟れはしない」
足は握らせたままでしゃがみ込み、痩せた指を“神”の顎の下にさしいれた。“神”はもはや為すがままだ、それでも容からは気概は失われては、いない。
高潔だと、心から思う。
――だから、いただきます。
普段は認めたくもない、あいた唇にぎらつく牙にて“神”の首筋を、喰らう。
ぎゃ、と一言鳴いた後で、屈辱に染め上がった“神”は、それでも殺さないでくれとは請わなかった。
「彼女を……バンダースナッチを、見逃してやってくれ…………」
これが遺言だ。
聞きはした、けれど決して叶えられぬ遺言へは決して頷かず、ヤーガリはただたださもしい鼠へと身を窶す。
ご馳走に目を輝かせて血肉を啜る、実際に先ほど大量に血を費やしたこともあり、神の体は極上の味わいで瑞々しく喉を通る。
だけれども、
だからこそ、
“神”の願いは叶わぬ、思わぬ外道と対峙した仕舞ったのが運の尽きと、諦められるように――ヤーガリはせいぜい下卑た鼠の自分を見せつけるのだ。
「ああ……あ、バンダースナッチ」
――に、げろ。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『ミストレス・バンダースナッチ』
|
POW : 紫煙の狙撃手
自身の装備武器を【紫煙のバレットXM500(対物狙撃銃)】に変え、【あらゆる障害物を貫く狙撃】能力と【紫煙に触れている対象の位置を捕捉する】能力を追加する。ただし強すぎる追加能力は寿命を削る。
SPD : 紫煙の格闘家
自身のオリキャラ「【紫煙の格闘家】」を具現化する。設定通りの能力を持つが、強さは自身の【周囲の戦場に満ちる紫煙の量】に比例する。
WIZ : 紫煙のスナークシールド
自身の【煙草】から【紫煙のスナークシールド】を放出し、戦場内全ての【敵が行う攻撃】を無力化する。ただし1日にレベル秒以上使用すると死ぬ。
イラスト:machi
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
水中をふわふわ漂う街は、なんだか海月のようだ。
透明の薄い隔たりは頼りなく、内側に宿る光も水に揺らいで儚い。
脳裏のヴァイオリンは、ピアノジャズを邪魔せぬよう裏側にまわった。でも残っている。
“神”が転移先に選んだ海中都市は、バンダースナッチが生き残る可能性をあげる最適の場所だ。
なにしろここは完全密閉領域であるドーム都市、紫煙が満ちるには最適過ぎる。
この場所を選んだ転移が、彼の……“神”の意志、いいや、遺志であることをバンダースナッチは理解する。
けれど、ジャバウォックは何も遺してくれなかった。
「道がなければ歩けない」
いっそ、紫煙が私を塗りつぶし乗っ取ってくれれば良かった。
そう、こんな風に。
ふうっと透明な天蓋に向けて煙りを吐いたなら、ゆるく広がるそれは辺りを歩く人達をスナークへと変えていく。
とにかく数を揃えないと。
ジャバウォックと恐らくは“神”を屠る猟兵達が相手なのだから、生半可な武力では通じない。
――ああ、私、生き残りたいのか。
「どう、なのだろう…………」
流し吐いた紫煙は、住民のスナーク化とは別に、彼女の内側にある暴力を具現化する。
先手必勝の射撃手、攻守に優れる格闘のプロ……全てを無に帰す隠し球は連発はできぬが。
「――」
伴奏のヴァイオリンが忽然と消えて、同時に猟兵達が現れた。
バンダースナッチは口上を述べることなく、彼らを出迎える。もう逃げる先はないし、逃がしてくれる誰かもいない。
誰も、いない。
……でも、私は、まだここにいる。
******
【マスターより】
心情、戦闘、その他、お好きにどうぞ
>受付期間
*オーバーロードなし
3/31 朝8時31分~ 4/2朝8時30分まで
*オーバーロードあり
現時点から、システム的に締め切るまで
(4/2朝以降も受け付けています)
>敵の攻撃、スナーク化した住民の増援
バンダースナッチのユーベルコード3種とは別に、スナークと化した住民が襲いかかってきます
外見と能力は1章目の『スペクター』です。使用ユーベルコードは、PCがバンダースナッチへの攻撃へ使用した能力に合わせたものになります
対処すればPCの負傷が抑えられるかもしれません
ただ、敢えて構わずにバンダースナッチに集中するのもありです
※住民はバンダースナッチを倒せば元に戻ります
以上です
プレイングをお待ちしております
リューイン・ランサード
【竜鬼】
(状況見て)一人じゃ勝つのは厳しいな、でも、ひかるさんがいるから負けません!
UCで生み出した1200本近い流水剣の複製の内、1000本を十倍サイズにして、自分達とバンダースナッチとの戦いにスナークが介入できないよう、自分達とバンダースナッチを閉じ込める壁と天井を形成。
更に結界術・高速詠唱で結界内部に入れないように。
残りの剣でバンダースナッチを包囲攻撃。
自身も双剣に光の属性攻撃を籠めての2回攻撃・怪力による二刀流で攻め、ひかるさんの銃撃と連携。
相手の攻撃は第六感・瞬間思考力で予測し、見切りで躱すかビームシールド盾受けで対応、オーラ防御も展開。
そして壁を形成していた剣の一部が背後から貫く。
荒谷・ひかる
【竜鬼】
(彼に頷き)
わたしも、一人ではどうしようもありません。
ですが、リューさんと二人でならきっと勝てますっ!
住民の対処はリューさんにお願いしつつ【水の精霊さん】発動
本来なら鉄砲水での攻撃ですが、今回は「水のシャワーで三次元的に空間を塗り潰す」目的で使用
真上へとわざと外した後優しく降り注ぐ水に殺傷能力は無く(攻撃ではない=無効化不発)
漂う煙は水により洗い流されその効力を失うでしょう
そして海中に漂うこの都市ならば、水の精霊さん達からの加護も強く得られるはずです
戦闘では後方から精霊銃の冷凍弾による援護射撃をし、敵本体や足元の凍結による攻撃支援を行います
総てを煙に巻くのも、これで最後ですっ!
●
押し寄せる黒の群れ。その壁の向こう側からは、絶え間なく曖昧な紫煙が折り重なっている。
「一人じゃ勝つのは厳しいな、近づくのすら無理かも」
「わたしも、一人ではどうしようもありません」
多数の住民がスナークにされた。彼らを傷つけず、バンダースナッチに手傷を負わせるには?
とてもとても難しい謎かけだと、リューイン・ランサード(波濤踏破せし若龍・f13950)と荒谷・ひかる(精霊寵姫・f07833)は同じように思う。
ひとりでは、絶対にとけない謎。
でも――。
「ひかるさんがいるから負けません!」
「リューさんと二人でならきっと勝てますっ!」
柔らかな春の日差しのように微笑みを分け合って、即座にリューインはひかるを庇うように一歩前へ。
この戦いの中、はじまりはいつもこの布陣。ひかるの精霊の力は絶大なるものだが如何せんコンタクトに時間が掛かる。
その間、彼女を護り、精霊の力が最大限に発揮出来るように奮戦するのがリューインの役目。
「本当に数が多いですも……だったら…………」
清冽な清水の輝き宿す剣を祈るように掲げ、精神を研ぎ澄ます。
すると、数えきれぬ程の剣が親を慕う子のように、掲げられた輝きに向けて集った。
「こちらも数で押します!」
千本の剣は幾何学の軌跡を残し浮上。まず落ちてきた一本が十倍の大きさとなりひかるとスナークの間に突き刺さる。
「……ッ?」
柵で阻まれたスナークがたじろぐのを皮切りに、次々と落下する剣が彼らを戦場から退ける。無論、傷つけぬようコントロールには細心の注意が払われている。
斯くして、海を遮る透明硝子の内側に青々と冴え渡る色でもう一枚のドームが築きあげられた。
「これでもう、皆さんが巻き込まれることはありません。あとは貴方を倒せば終わりです」
キセルから口を外したバンダースナッチは、明鏡止水なる若き男女を双眸に納めた。
「どうして、巻き込みたくないの? 彼らには――目的も大義も無く、理性も寿命も無く。善も悪も無く……枷や限界すら無い」
背後では、恫喝に吼えたけり殺気だったスナーク達が、剣の柵を突破せんと爪をがむしゃらにぶつけている。
ああ、これこそが矛盾している。
「バンダースナッチさん、あなたはそう言うけれど、彼らはこんなにも獰猛に“されて”います。実際は、貴方が煙を詰め込んで自分の思うが儘に操っているのではないですか?」
言い切ったリューインが瞼を下ろすと、柵剣の光が輝きを増し彼らの爪を弾いた。傷つけてはならない、そんな繊細な調整に青年の額を脂汗が伝う。
「……そう、なの。そう、かもしれない」
暖簾に腕押し。
ひかるはリューインの背中を優しく叩き「リューさん、取り合ってはいけません」と首を振った。
リューインの事は信じている。でも彼は優しい人、共感から精神に負荷が掛かることが心配だ。
「! ひかるさん、心配かけてごめんね」
気持ちを切り替えて、残した二百余りの剣をバンダースナッチへと流しこむ。
今までだって、生き残りたいと願われてもオブリビオンは全て骸の海に還してきた。今回もそれに違いはない。
「ふぅう……」
漆黒のドレスを翻し、身を引いた女は、気怠げに紫煙を吐き出した。刹那、手持ちのキセルも煙と化してドーム一面に驚く程の煙が充満する。
「……!」
スナークを阻む剣を含め、リューインが握る物以外の蒼光剣がこの場から消失した。
「…………」
再びなだれ込もうとするスナークへ向け、リューインは即座に柵剣を展開し留める。
「何度繰り返しても、変わりはしない」
バンダースナッチの切れ長の瞳が少し窄まった。再び形を成したキセルから唇が外れたのを、ひかるは目敏く見いだす。
「周囲は水です、ここは水の精霊さんの庭のようなもの!」
リューインの前に踏み出すと、攻撃の意志を見せつけるように眉毛を吊り上げ声を張った。
同時に、ひかるが掲げた両手からは、渦を巻く水が現れる。
「総てを煙に巻くのも、これで最後ですっ!」
渦を巻きたち上る水、バンダースナッチはスナークを阻むリューインの剣よりそちらの方が脅威度が高いと判断した。
――それこそが、ひかるの狙い。
「……だから、何をしても無駄」
ジャバウォックは死んだし、“神”もここには現れない。
私は放り投げられた儘で、なにもわからずただただスナークを生産し続けた。
無駄、なのに。
ぱしゃり!
スナークが呼び寄せた煙の盾を通過して、ひかるの招いた水は、剣で囲われた方々へ雨のように降り注ぐ。
「??? ユーベルコードが発動しない?」
自らの命が削られそこね水浸しになった腕やキセルを前に、女は瞳を瞬かせた。濡れそぼるパッションピンクの髪はひたりと頬にはりつき、急速に冷えた肩を思わず抱えて震える。
「まさか……ただの、水?」
「けれど、漂う煙は洗い流されたでしょう?」
ひかるの声と同時に、バンダースナッチの腹から蒼い剣が生えた。柵の振りをしていた剣が折れて、後ろから貫いたのだ。
そんな女の目の前で氷弾が弾ける。
「……ッ」
咄嗟にしゃがみ躱した所を、ぐんっと持ち上げられて薙ぎ払われ、更に背中を叩き斬られた。悲鳴をあげて転がった先、剣の柵が再び牙を剥く。
それを見据えるのは、バンダースナッチの血に染まる双剣を下げたリューインだ。
「もうあなたに勝ち目はありませんよ」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
レイニィ・レッド
さァ、問答といきましょう
アンタは、「正しい」か?
散々縄張りを荒してくれた礼です
今回はアンタのやり方に合わせて
『霧の都の赤ずきん』として
アンタをズタズタにしてやりましょ
海底都市を霧雨で満たす
紫煙に霧雨も加わりゃ視界は最悪
視認するのもやっとでしょ
そのまま息を潜め
物陰を渡りながらあの女を刻んでやります
雨は自分の一部です
雨の中に居る限り
アンタらの動きは手に取るように分かる
やれやれ
面倒臭ェ女ですね
遺されたら足掻いてみたらどうです
テメェが死んだらジャバウォックは誰の記憶で生きるんです
奴に頼ってばかりでテメェは奴に何もしねェんですか
無い物ねだりもいい加減にしろ
目的もなくヒトの縄張り荒らしてンじゃねェよ
●
天蓋から降りしきる水が、変わった。
降られて仕舞ったら不快で陰鬱な気分になる類いの俄雨。紫煙を擦過する不揃いな雨粒の彼方に、赤い塊がぼんやりとした輪郭で現れる。
「……さァ、問答といきましょう」
赤からの囁き声は、ザァザァという疎ましい雨音に潰されずバンダースナッチに届く。
「アンタは、「正しい」か?」
「……わたしが? なにを基準に?」
ぼんやりとした声は相変わらず意志薄弱。其処には悪意も害意もないとでも言いたげで、ますますレイニィの胸クソが悪くなる。
この女は、
悪を演じる気概も、ない。
己の有り様を振り返る素振りも、ない。
人任せにすれば、そりゃあとてもとても楽に“呼吸”してられるだろう。
「散々縄張りを荒してくれた礼です。今回はアンタのやり方に合わせて『霧の都の赤ずきん』として、アンタをズタズタにしてやりましょ」
加速度的に奪われる視界に目を眇め、バンダースナッチは口元から外したキセルを指先でまわす。
「わたしのやり方? ……逃げて隠れてって、こと?」
現れた格闘家を盾に女は耳を澄ませた。
背後に、ひたりとした足音。バンダースナッチが命じる前に格闘家は素早くそちらへ。
「……あ」
開けた前方へ、女は瞳を丸くし暗愚のようにぽかりと口をあいた。
目の前に、出遭ってはならぬ“Urban Legend”が佇んでいる。
雨音でいない者をいるように見せかけるなんて、赤ずきんにとっては朝飯前。
そう、雨さえ降っていれば自由自在、何でもござれ。
「虚空に煙りを詰め込むか雨を満たすかってそこですよ」
口上の頭で鋏を翻えし斬りかかる。
「うぅ!」
顔を覆う女の前に必死に駆け込んだ格闘家が、正拳突きで鋏を叩き逸らした。くるくると、刃は女の頬を掠め小さな傷をつけ落ちる。
そして、格闘家が現れた時点で赤ずきんはもういない。
「……」
ふぅっと心を落ち着けるように吐き出す煙を浴びて、拳にかすり傷を負った格闘家はガラクタ捨て場の方角へ、突撃。
「……ッ! 待って、いかないで」
“お前まで、わたしを置いていかないで”
彼方にいると判断したのは己なのに、ひとりにされて不安に駆られた。
――直後、女は赤い首輪をかけられる。
「やれやれ、面倒臭ェ女ですね」
開いた鋏にはべったりついた血を指でなぞり赤ずきんは肩を竦める。
女も格闘家も、赤ずきんにとってはただの獲物。目印をつけたが最後、逃れることは叶わない。
いきがけの駄賃で斬り裂いた格闘家は既に消失している。そして、のど笛を裂かれた女は立て直すまでしばしの時間を要す。
「遺されたら足掻いてみたらどうです」
「ハッ、ハァッァ……」
吸い口についた血を眺め女は瞼を震わせた。
「テメェが死んだらジャバウォックは誰の記憶で生きるんです」
「!」
息を打って見開かれた瞳へ握りこんだ鋏を刺し入れようとして、止める。
「奴に頼ってばかりでテメェは奴に何もしねェんですか」
大切なことに気がついたなんて貌へのサービスはここまでだ。
バネのように身を引いて、踵横に仕込んだ鋏で胸元を深く抉り払う。
「――ッ」
「無い物ねだりもいい加減にしろ。目的もなくヒトの縄張り荒らしてンじゃねェよ」
未練を持つ人間みたいな悲鳴をあげて転がる女へと吐き捨てる。
でも、今の女になら、縄張りを荒されてもちょっと腹立ちが軽いかもしれない。
「……ジャバウォック」
そう吐き出して雨泥を掴む女にだったら。
大成功
🔵🔵🔵
ヴィクトル・サリヴァン
どうにも生き辛そうだね。まあ失ってからの虚しさは何となくわかるけども。
恋も愛も失えば永遠の呪いのようなもので、残りは全てバッドエンドのエピローグって人もいる。
それでも他人に迷惑をかけるのは宜しくないのは当然だろう。
だから海の仲間たちの一員として、俺も少々加勢させて貰おうか。
スナーク化した住民の対処優先。
UCで空シャチ召喚、半数ほど合体させ格闘家の迎撃手伝わせ、残りはスナーク達をバンダースナッチ周囲の戦場に乱入させないよう手分けして時間稼ぎに向かわせる。殺さぬよう注意の上で。
水空両用、群で遊んだり狩りする空シャチ達の尾で吹き飛ばさせたりして足止め。マントによる透明化も反響定位で見抜ける筈だし。
俺自身は高速、多重詠唱で周囲の精霊に干渉して海水をドーム内に魔法で集め格闘家を包み込み動きを妨害、更に合体空シャチに思いっきり突っ込んで貰う。
もしドーム内に泳げる位水を集められたら水泳で格闘家を翻弄しつつバンダースナッチに奇襲、無酸素詠唱から電撃魔法で痺れさせ隙を作ろうかな。
※アドリブ絡み等お任せ
●
虚空に水の跳ねる音――。
俄の雨は去った、大気は湿り気を帯びてはいるもののそこに水の気配はない。
だが、空間を海のように自由に軽やかに、無数の白黒のほ乳類が尾を踊らせ舞い泳いでいる。
「どうにも生き辛そうだね」
その中で唯一二足歩行でコートを着込むヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)が、つぶらな視線を女に注ぐ。
「……」
無言で身を起こすバンダースナッチは、どこか幽霊めいた曖昧さを纏って立ち上がった。
「まあ失ってからの虚しさは何となくわかるけども」
「あなたも誰かを失った?」
問いかけには答えずに、こう続けた。
「恋も愛も失えば永遠の呪いのようなもので、残りは全てバッドエンドのエピローグって人もいる」
ヴィクトルの例示はとてもわかりやすい。
けれど、バンダースナッチは己をそれに当てはめる気にはどうしてかならなかった。
(「……私は一体どこから“どうでもよかった”んだろう」)
キセルを唇に宛がう。
この煙を吸って肺を汚し吐き出す、長くこうしていた習慣を為せば幾分か落ち着く。
……落ち着いて聞こえだしたピアノジャズに、バンダースナッチはほんの一匙分“しまった”と感じた。
あの赤ずきんに揺さぶられた心が止まった、けれど、揺さぶられていた時に響いていたのはこの曲じゃあなかった。
…………まぁいい。
肺を汚した煙を噴いて住民達を呼び寄せる。ずっと繰り返してきたことを今一度。
目の前の女が煙りに包まれた時点で、ヴィクトルは周囲を泳ぐ空シャチ達へ意識を向ける。
命令。
“スナーク化した住民の保護を最優先。極力傷を負わさぬように、戦場に入れるな。そして残りは共に戦え”
吊したボールを弾くように跳ねて進みでるのが約半数、残りはドーナツのわっかのように仲間達と円を描く。
「うー……」
「あぅ」
姿をくらました敵からの攻撃を水気で光る黒いボディで受け止めて、反響を追い尾びれでぺしり。
「うッ」
最前列で黒の女が姿を現わし尻餅をついた、背後も押されて次々と姿を現わし蹌踉ける。
「さて」
ドーナツの穴の中央で、ヴィクトルは拗らせきってしまった女へ再び視線を戻した。先ほどまでの大型ほ乳類の持つおおらかな優しさは影を潜め、無辜の民の被害を断じて赦さぬ猟兵の貌で。
「それでも他人に迷惑をかけるのは宜しくないのは当然だろう」
びったん。
尾びれで叩いた空シャチは、くらりと脳しんとうを起こし倒れたスナークへ心配げに鳴き声をあげる。
そのタイミングで無の空間から無数の傷がつけられた。
透明マントで姿をくらましたみえざる斬撃、仰け反る仲間を支えるように身をうねらせ泳ぎ来たシャチが、爪の残像を追って払いのける。
必死の攻防を背に、ヴィクトルは黒い指をつきつける。
「だから海の仲間たちの一員として、俺も少々加勢させて貰おうか」
ひゅんひゅんと風を切り、バンダースナッチの眼前で半数の空シャチが仲間へと乗っかっていく。すとんと落ちるように合体、その度に尾びれの腹側についた数字が数を増やすのだ。
57。
絵づらだけならば、相手がヒーローでこちらは合体シャチ怪人を繰り出すヴィランだ。
「ハァァッ!」
ドームの天井に届かんばかりの巨体のシャチに対し、煙を纏った格闘家の跳び蹴りが向かう。
「させないよ」
ヴィクトルは常に口元で練り上げていた詠唱を解き放つ。すると驚くべきことに、ドームの硝子を破かず水流が方々から集まってくるではないか!
潮の匂いが鼻を突く。
水流に押され格闘家はシャチに届く前に、落ちた。
「海に住まう精霊の力を借りたよ、さぁ、いけ」
巨体がしなやかに水を跳ね、立ち上がったばかりの格闘家をはね飛ばした。ヴィクトルは常に精霊との交信に意識を集中させて、巨大シャチの路を作る。
バンダースナッチは更に煙りを吹いて新たなる格闘家を生み出した。そうして彼を盾にしてステップ、建物の影へとしゃがみ込んだ。
ばしゃり!!!
飛沫という表現では追いつかない、水柱、いいや下からの滝だ。巨大シャチが跳ねる度にできる滝に周辺は埋め尽くされている。
格闘家は愚直に走り避けながら、巨大な黒へと回し蹴りからのアッパーカット。まるで格闘ゲームのように派手に殴りと蹴りを連ね、合体シャチを主から退けんと奮戦する。
合体シャチは天井に顎を向けるとぎらりと歯を見せ咆吼をあげ。
「おっと」
音波がドームの硝子を割らぬよう、ヴィクトルは水を内側に滑らせる。薄皮のように縁に広がる水の幕は、咆吼に震え崩れるように落ちる。
びしゃりびしゃり、周辺で奮戦する空シャチには恵みの水、だが敵には姿を知らせる忌々しい水だ。
空シャチたちはここが仕掛け時と、一気に彼らを外へと押し出しはじめる。
「…………うぅ」
水のたてる轟音に耳を塞ぎ、かきあげたパッションピンクの髪を掴む。呻き声をあげるバンダースナッチだが、突如、ガクンッと全身を痙攣させる。
「あ、ああ」
「俺が何もしないと思ってた? だとしたら油断もいいところだね」
――!
全身水浸しのところに浴びせられた電撃魔法。完全に虚を突かれた攻撃に戸惑ったままの女は、見事合体シャチの巨体の下敷きだ。
大成功
🔵🔵🔵
御鏡・幸四郎
なるほど、そうだったのですね。
愛しい人を失った時、その残滓に縋りたいのはわかります。
残した品に。遺した遺志に。
時間がその傷を癒し、立ち直っていくものですが、
貴女にその猶予を与えるわけには行きません。
スペクターの攻撃パターンはある程度把握しましたが、
紫煙の格闘家との波状攻撃は厄介です。
雑霊弾雨をチャージ出来れば抑え込めるのですが……
「……っ!」
隙を突かれ格闘家の一撃を喰らったところにスペクターが殺到。
あわやの瞬間、輝きを放つイグニッションカード。
目の前には、日本刀で攻撃を受ける骸骨。
「姉さん!」
使役ゴーストの任を解いたはずの姉が。
マヨイガで義兄の帰りを待つはずの姉が。
自分を護ろうと刀を振るっている。
疑問を飲み込み立ち上がる。
「奴の足止めを!」
格闘家を姉に任せチャージに集中。
威力は最小限でいい。当たれば動きを止められる。
「降り注げ!」
次々と動けなくなる敵中を姉と駆け、二人の斬撃で格闘家を煙に還す。
パブで酔い潰れるまでクダを巻くくらいならお付き合い出来たのですが。
さようなら、バンダースナッチ。
●
――どうして自分を置いて逝ってしまったのか。
そのやるせなさの感情へ、御鏡・幸四郎(菓子職人は推理する・f35892)は共感を寄せること吝かではない。
目の前の女の心が虚ろなのは全てを麻痺させた防衛反応ではとすら思う。
「残した品に遺した遺志に縋りたくて、スナークを量産した……そう思いますか?」
問いかけで一石投じてみる。
バンダースナッチは、獣の柵がなくなり詰めるスペクターに向けて煙を噴いた。
「“どうでもいい”けれど、私は繰り返し続けた」
やはり他人事のようにそう呟いて、傷の走る鼻をくすんと鳴らした。
「あなたも私を殺しにきた、と」
頷くかわりに銃把を強く握りガンナイフを構えた。落ち着いた大人の容には、申し訳なさの色が濃い。
「時間がその傷を癒し、立ち直っていくものですが、貴女にその猶予を与えるわけには行きません」
彼女の無為は無辜の人をスナークに変え毀損を意味する。それはどうしたって見逃すことは、できない。
(「とはいえ、どのように仕掛けるかは悩みどころですね」)
周辺で蠢くスナークは先ほども相手取ったので、手の内自体はわかっている。だが、今回は目の前に煙の格闘家がいる。
スナークと格闘家との波状攻撃は厄介だ。だが幸四郎にはそれを呑んだ上でバンダースナッチへ集中攻撃するという選択肢しかない。
腹を決め、幸四郎は床を蹴った。
突出した彼に吸い寄せられる黒の群れが、すぅっと姿を消していく。
「ッ」
いきなりの突き刺しを背に受けるも歯を食いしばり、構えたガンナイフのトリガーを引いた。
拳を握った格闘家が躊躇いなく弾道に身を晒しバンダースナッチを背に庇った。
「むぅん!」
がりん。
弾丸を握り擦り潰す音がしたかと思うと、瞬間移動めいた素早さで隣に来た奴から裏拳を胸に食らう。
「……ぐぅ」
強烈な強さだ。
煙は横顔でキセルを噴かす女から絶え間なく継ぎ足され、故に力を得た奴は漫画かゲームのようにデタラメな連打の大技を繰り出してくる。
それを下がり凌ぐ、だが後退はスナークらの虎穴に入るに等しい。
「……!」
あわや、方々から突き出された爪に全身串刺し――に、ならなかった。
そうならなかったことに一番戸惑い驚いたのは、幸四郎本人に他ならない。
――幸四郎が胸に納めていた大切な一片が、眩い輝きを放つ。
それは、ドームに満ちあふれる煙へ明らかなる反撃の意志を持つ、崇高なる光。
幸四郎の眼前に突然現れたセーラー襟が翻る。膝下の細かなひだスカートがふわりと靡き、肉の落ちた細い足を晒した。
容は、白。
白き、骸。
「……え…………ねえ、さん?」
その人が弟を庇うように広げた腕には無銘の刀が握られている。だが直後、鈍色は空間を断絶し、スペクターの爪を悉く弾き飛ばした。
一方で、すらりと伸ばした反対の手のひらが、反対側の空間を押す。
茫然自失の幸四郎だが、スペクターが蹌踉けた気配を拾い包囲から逃れた。
「姉さん!」
セーラー服を纏ったスケルトンは使役ゴーストの任を解いたはずの姉。
世界の変異、猟兵という概念。
それらが、姉と添い遂げた義兄を再び戦いへと向かわせたことは知っている。だが姉自身はマヨイガで夫の帰りを待っていた筈なのだ。
(「……ああ、そうか」)
幸四郎は、ふがいなさと嬉しさでぐしゃぐしゃになる顔を伏せた。
義兄が悲しみで打ちひしがれた妹の隣に戻ったように、姉もまた弟の窮地に矢も楯もたまらず駆けつけてくれたのだ。
愛情深き骸骨の夫婦が、10年の時をなにを話し過ごしていたか窺い知ることはできない。
けれど、2人にとっての弟妹は「幸せでいて欲しい。その為ならば心身を尽くし支えたい存在」――その共通項が夫婦のかすがいですらある。
「……はっ」
スナークを退け格闘家へ双眸を向ける姉へ幸四郎は我に返った。
「姉さん、奴の足止めを!」
もうスナークに囲まれる隙は見せぬとの誓いを心に浮かべたならば、姉は全てを理解ってくれる。
……かつての懐かしき“いつも通り”の戦場だ。
巨腕を振り上げる格闘家をかいくぐり、七ノ香は喉元へと果敢に斬りつける。そんな姉の姿を前にして幸四郎は雑霊とのリンクに神経を注いだ。
「降り注げ!」
素早く集積した雑霊に威力は求めず、極力広範囲に広がるようイメージして降らせた。加減は先の戦いで習得済みだ。
スナーク達が倒れるのを確認すもせずに、幸四郎は姉の元へと駆けた。
そして、姉めがけての回し蹴りは、素早く入り込みたくましくなった腕で堰き止める。同時に、至近からガンナイフの切っ先を胸につきたて足止め。直後、下からの姉の刃が、動けぬ格闘家を斬り払う。
あっけなく格闘家が消失した先には、唇を震わせるバンダースナッチが、いた。
あうんの呼吸で互いを庇い最大限の力が出せるよう攻撃をあわせる姉弟は、バンダースナッチに嫉妬と後悔を自覚させる。
自分は、ジャバウォックをこんな風に助けてやることが、できなかった……。
「パブで酔い潰れるまでクダを巻くくらいならお付き合い出来たのですが」
「見せつけられるのは、ごめん」
精一杯の憎まれ口で唇を歪めた女は、左右からの刃で切り刻まれた。
大成功
🔵🔵🔵
ヤーガリ・セサル
生きることを諦められるなら、楽なことはありません。
いくら諦めようとしても、死ぬ直前でやっぱり消えたくないと足掻いてしまうんです。悲しい話ですね。
とはいえ、あなたの手を取ってハッピーエンドに連れて行くことはできないですが。世の理的に。
お迎えに参りました、ミストレス。終幕の時間です。
あの“神”は「逃げろ」と言ってましたが、それはさせません。
楽になれるあなたを少しばかり、恨みますよ。
激痛耐性で耐えながら、銃弾をかいくぐり彼女の元へ。怪光線発射装置での目潰しを併用しながら、銃撃戦です。狙撃銃は懐に入られると弱い。血液パックを飲みながらひた走りますよ。UC:捕食者への変化を使用、銃が取り回しにくい超接近戦で戦いましょう。
沢山人を苦しめたあなたが楽になるのは業腹ですが、やっぱり最期は楽であってほしいというのは、あたしの甘さなんでしょうねぇ。
何かに焦がれて喪うというのは、辛いものですから。他人事じゃないんですよ。
荒っぽい食餌になるけれど、その肉で、血で、あなたを記憶します。
●
キ……。
キセルが痛々しい音を立てる。
姉弟愛を見せつけられた苛つきを消したくて知らず柄を握りすぎていた。
女はまたフラットに表情を落すと、キセルを小さく投げては握りと弄ぶ。
「ミストレス、はじめまして」
ヤーガリ・セサル(鼠喰らい・f36474)は深々と頭を垂れ名乗った。礼節の正しさは未だ抜けない。
「生きることを諦められるなら、楽なことはありません」
昏く淡い風体の中、紅眼だけは靄に潰されず煌々として女をじとりと見据える。
「いくら諦めようとしても、死ぬ直前でやっぱり消えたくないと足掻いてしまうんです。悲しい話です……ねッ」
虚空でくるくる巡るキセルの姿が変じたのをヤーガリは見逃さない。
咄嗟に身をかがめ鼠のように床を這いずった直後、けたたましい銃声の連打がドーム内を揺さぶった。
(「成程、煙を媒介に追いかけてくるのですか」)
紫煙を壁のように利用する跳弾の追尾は優秀だ。ヤーガリは回避を早々に諦めた。
「……ッ、流石は最後の敵ということですか」
闇色のガントレットを着弾地点に掲げ、直撃を阻む。至る所に改造を施した特別製だが、刺激で手の甲がしこたま痺れた。
「思ったより攻撃的ですね」
「大人しくしているのも癪だから」
それぐらいには感情を揺さぶられて仕舞ったのだ。
“ジャバウォック”を抱えている、だけど――鳴り響くジャズピアノは、ジャバウォックのパートが、ない。
「……」
銃をキセルに戻した。そうして幾ら吸っても糧にはならぬ優しい麻薬を女は喉に通す。
「ミストレス。残念ながら、あなたの手を取ってハッピーエンドに連れて行くことはできないですが。世の理的に」
ガントレットの手のひらを指しだして、ヤーガリは眉を下げた。そうして、女が再びキセルの真ん中を握るのを、少し待てと留める。
「お迎えに参りました、ミストレス。終幕の時間です」
告知は安寧の元で行われねばならない、あらゆる誤りなく相手に伝える為に。
「そう、終わらせてくれるというの?」
「あの“神”は「逃げろ」と言ってましたが、それはさせません」
はしりと掴まれたのはまだキセルの儘だった。
「彼も無茶を言う。どこに逃げろと?」
「逆に伺います。場所があれば、あなたは逃げるおつもりですか?」
女の瞳の端が引き攣った。
この女は“諦めた振りをしていた”のを直視したくないのだ。それを見抜くヤーガリはそれ以上触れずにおく。死の直前に後悔に塗れるだなんて余りに惨いから。
「あの“神”も随分と残酷なことを願ったものです。けれど、あなたが応える義務はありませんよ。ミストレス」
「だから抵抗するなと?」
握られた銃が無数の弾丸を撃ち出した。
弾丸の軌跡の癖は既にヤーガリの脳内にある。具体的には、濃密な煙が触れる部位を目指してくる。
腕を振り煙りをかき集め惹きつけたなら、手の甲を急所に翳し前進。床を蹴る足は勢いよく、体で紫煙を散らすように、疾走。
彼女の大体の位置を読み、手のひらから眩い光を放つ。すると、彼方よりくぐもる様な声と共に銃声が止む。絡め手は大当たり。
咥えていた血液パックの飲み残しを放り、背後に来ていたスペクターを足止めし、再び駆ける。射撃手に距離を与えては、ならない。
「……ッく」
再びはじまった銃撃にて肩の肉が千切られるも我慢強く堪える。急所の次に庇うのは機動性の脚、腕は片方だけあれば良い。
ちらりと漸く見えた、鮮やかパッションピンク。
そこ目掛けヤーガリは跳躍し、獣めいた動きで襲いかかる。
「しまっ……た」
喫驚と恐怖で瞳を見開く女を組み伏せて、ガントレットに包まれた手のひらを翳した。
「……楽になれるあなたを少しばかり、恨みますよ」
これもまた、ヤーガリの本心だ。
いつだって、もうこの辱めのような生を辞めたいと請うている。
恵みの日光も心身全てを擲ちたい程に信じた神聖もヤーガリが触れるのを拒む。いっそ完全に拒絶し灼き殺してくれればよいのに、此方へ“不快”という感情を与えるに留まる。
どうしようもない下賤に落ちて、どんなに心を清くしようとも這い上がることは叶わない。
それは、この女がどんなにジャバウォックを求めても相まみえないのと、同じ。
だから――。
「沢山人を苦しめたあなたが楽になるのは業腹ですが」
藻掻く女へ体重をかけて、血塗れで腱の切れた手を首に押しつけた。
「かッ……はっ」
「うぅぅ……けっこう、きつい、ですね……」
万力のように締め付ければ、己にも痛みが響いてくる。
はやく血肉で補わないと――という意地汚い焦燥を飲み下し、ヤーガリは精一杯に救いを与える聖職者の振りをする。
「……ッ、やっぱり最期は楽であってほしいというのは、あたしの甘さなんでしょうねぇ」
ガンッ、と、心臓めがけ思い切りガントレットに包まれた拳を叩きつけた。
ショックで四肢を跳ね上げた女の胸の上にヤーガリは頭を沈める。
「何かに焦がれて喪うというのは、辛いものですから。他人事じゃないんですよ」
だから、その肉で、血で、あなたを記憶します。
この世から去っても、一生忘れずに、います。
「や、やぁ……やめっ…………」
己の肉が食まれる音を聞きながら、バンダースナッチは震える手で握った銃のトリガーを何度も何度も引き続ける。
その度に己の命が零れ落ちていくのだとしても、食いちぎられたくはない。
「……どうしましょう、これは困りましたね」
彼女の形相に、唇を血で飾り頬を紅潮させたヤーガリは困ったように眉を下げる。
「あたしはあなたを苦しめたいわけではないんです」
まるで安らかな死(しゅうえん)とは逆の状況に、ヤーガリは嘆息と共に笑みを吐く。それは自嘲の色だけが塗されている。
認めたい、認めたくない。
認めて欲しい、でも無理だ。
己や他者がなんとほざこうが、このように醜い所行に身を窶し尚、ヤーガリ・セサルは、何処までも高潔で慈悲深い聖職者なのだ。
大成功
🔵🔵🔵
ジャック・スペード
随分と煙いな
あの「神」が抱く慕情は
どうやら本物だったらしい
厄介なことをしてくれた
あの神の気持ちも
言わんとしたことも
未だ上手く飲み込めてないが――
お前にいのちを捧げた男が
独り居たことだけは分かる
其れが敬意に値することも
祖国と主を失くした今
俺も多分、どうでも良いんだ
自分のいのちも行末も
だが、お前は報いるべきだろう
斃しに来た身でこんな事を言うのもなんだが
心から生きたいと願え
そして、本気で立ち向かって来い
何処までも寄り添えない俺が出来るのは
お前を斃すことだけだ
語り過ぎたような気もするな
スナークとされた住民たちが気の毒だ
早く解放してやろう
余り手加減は得意じゃないので
住民たちの攻撃は躱すに留める
俺の銃はヒトを撃つ為のものじゃ無いからな
どんなに傷を負おうとも
狙うはバンダースナッチのみ
俺も手加減無しで行くとしよう
バレットはBenediciteのシールドで防ぐ
盾すら射抜くなら1発位は受け止めようか
其れは生きたいと云う証、その物だろうから
俺からは、薔薇を送ろう
銀の弾丸を彼女の脚へ
手向けの大輪が咲くと良い
●
自分が吸う煙草は美味いのに、人が吐き出すものはそこまでと思えない事は儘ある。ジャック・スペード(J♠️・f16475)は充満する紫煙に、人の容ならば眉を寄せるといった素振りをして見せた。
ふらつく足取り、血に染まった上半身。だが女は明瞭な意識で未だに生きてそこにいた。
それは、あの“神”が命を賭して時間を稼いだからに他ならない。その時間で、ドームを煙で充し全てを手駒に変えてしまった。
人を護りたいジャックからすると、本当に厄介なことをしてくれたとしか言いようがない。幸いなのは、既に一度対処をしているので、負担は掛かるが死なせずに済ませる方策は頭に入っている点だ。
「次から次」
瞳だけで振り返るバンダースナッチからは投げ遣りさが色濃く滲む。
乱れた髪と体中の傷、特に出血新しい胸の上の深い傷、これらのせいで弾丸の一つも打ち込めば砕け散りそうに見える。
ジャックが言葉を継ぐ前に、バンダースナッチは横顔の儘で口火を切る。
「……ジャバウォックも同じ目に遭った?」
「恐らくは」
“神”が護った女が別の男の事を語ってもジャックにさしたる感傷は生じない。
護りたいのはあくまで自分の欲求だ。だから庇護対象が誰を愛し、此方へどのような感情を向けようが関係ない。
(「いや、憎まれるのは流石に心が傷むか」)
「彼も……“神”もこうやって倒した?」
「あの神は強かった」
同じ。
人ならざる己とどのような人にもなれる“神”が同じだという意図は未だ飲み込めていない。あの神の気持ちも言わんとしたことも、この戦いを終えてもわからぬ儘かもしれない。
漂う煙に瞳を向けて煙草の収まる懐を撫でてから、ジャックは声を発す。
「お前にいのちを捧げた男が独り居た。其の敬意をもって俺はここに立っている。斃しに来た身でこんな事を言うのもなんだが」
「誇れるようになれ、と?」
ふと、ジャックは気づく。
むしろ自分は“神”よりは目の前の女の方に似ているのではなかろうか、と。
「よすががあるから己。ならば中身とも言えるそれらを失してしまったら、か――そうだな、俺も多分、どうでも良いんだ。自分のいのちも行末も」
祖国と主を失くしたジャックのは今や“通りすがりのヒーロー”だ。助ける人々の元には所属しておらず、見返りだって求めない。それはつまり己がどうでも良いからだ。
これが“神”との相違点かと腑に落ちるには至らなかった。紫煙を貫いく弾丸がジャックの思考を止めたからだ。
直後、ジャックの手元から鮮やかな赤が散った。それを認めた女は、紫煙のバレットXM500の構えは解かずこう吐いた。
「この煙に触れている限り、お前が弾丸から逃れる術はない」
どうして撃ってやりたくなったのか? それは目の前の男を含め、猟兵らとの対話のせいだ。
「語り過ぎたか。スナークとされた住民たちをこれ以上待たせるのは俺も本意ではない」
――この女が生きたいと願っているのなら、やはり己とは似ていない。
その事実に、ジャックは慶びを感ず。
「既にあの男へ報いる気持ちでいるようで何よりだ」
だがジャックは無傷の手のひらを広げて見せつけた。黒い革靴が薔薇の花びらの化粧で刹那洒落る。
バンダースナッチは答える代わりに立て続けに引き金を引いた。煙を媒介にした精密な弾道は惹きつけねば相殺出来ない。
だが此方とて射撃手でもあるのだ、遅れはとるものか。
全てに銀弾を合わせて薔薇に変える。と、同時にジャックは勢いよく床を蹴って駆けだした。ぐんっと体の形に切れた煙は、即座に周囲から継ぎ足されまた靄がかる。
動きに呼応したかスペクターらが活性化する。
殺気を連れ翻る爪がスーツを破き硬い表層を引っ掻いた。だが躱す以外の対処はしない。手加減が不得手故だ。
ヒーローが人々を傷つけるわけにはいかない、絶対に――と、胸には確かなる意志がある。今の己を形作るとしたらこの矜持が軸だ。
「逃がさない」
血しぶきが飛び散る度に、バンダースナッチの弾丸が精密に襲い来る。
「そこまで生きる気概があるのは何よりだ。俺も手加減無しで行くとしよう」
黒革の手袋より浮かび上がる文様は盾となり、方々の弾丸を察知し弾く。無論、跳弾で他を傷つけぬよう軌道は計算済み。
床を叩く踵の速度があがる。追いすがるスペクターを振り千切り、目くらましの紫煙の中を疾走する黒き英雄。今度は此方が攻め手だ。
「――ッ!」
煙を切って眼前に現れたジャックへ向いたのは、怒気を孕んだ容。
「私は、生きたいわけじゃない」
だが、台詞に反して連続で打たれた弾丸はジャックの命を奪わんと、急所を正確に狙い来る。
此処で護ってはまた攻撃の機会を失うと、心の臓と額は盾に護らせDeus ex Makinaの銃口を女に向ける。相殺されぬ弾が肩を貫く中で、ジャックは引き金を5回引いた。
「……ッ」
XM500狙いと知り、女は即座に相殺。残る弾丸も床を滑り転がって躱した。
腕も肩口も、既に重ねた戦いで傷だらけだ。
だが、まだまだ足掻くつもりだこの女は、なんて生き穢い――本人は、気づいてないようだけれども。
「ふーっふーっ……」
しゃがみこみ獣めいた息をつく女は、パァッと目の前が艶やかに色づくのに喫驚する。
……何故? こんな戦場で、薔薇の花束を渡された?
「俺からは、薔薇を送ろう」
声は、前方に腹ばいになり片腕でDeus ex Makinを構えるジャックからだ。
銃口からは濃密な硝煙の香りが漂ってくる。紫煙とはまた違った煙たさだから、わかる。
「神でもなく、ましてやジャバウォックでもなくて済まないが。本気で立ち向かってきたお前への手向けだ」
膝下に食い込んだシルバーバレットが大輪の薔薇となり、傍らで咲いている。
………立とうとしたら痛みが赦してくれない。視界に帳が落ちて、支払った代償の命が血となりて口中から迸った。
大成功
🔵🔵🔵
ジャスパー・ドゥルジー
自分でも意外な感情が胸を過ぎった
既存の名前を当てはめンなら――「親近感」
俺もあんたの立場だったら似たような事しただろうなって
死んでなんかやれねえし
じゃあ生きられるかって言われたら
途を探す気力なんてモンもない
刃のひとつは命を削らない為に自分へ
残り全てをバンダースナッチに向ける
スナーク達の攻撃も格闘家の拳も【激痛耐性】でスルーだ
弾き返す手間さえ今はもどかしい
助けようと差し伸べられた手さえうまく掴めねえくらい
失ったモンがでかいなら
悪魔に出来る事なんざひとつだけさ
命を奪うだけ
あの男にしたように
そんで少しでも俺らを恨んで、憎んでくれたら
それが煙みてえに燻る女の最後の灯火になるなら
そのツラを拝めただけでもここに来た甲斐があるってモンだが
そうはしねェんだろうな、あの女は
わーってる
一度燃え尽きちまったモンは戻らねえよな
死後の世界なんざまー信じちゃいねえけど
あったらいいな、って今は思う
あいつらの為じゃなく、自分の為にさ
ワルなだけの悪魔ってのも疲れちまうもの
たまにゃァ聖者様らしい事云ってもいいっしょ
●
中央のビビッドレッドはよく見れば血でまだら模様。
足下に赤い薔薇を咲かせた女と視線を合わせるようにジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)はしゃがむ。
その瞳は花束の中にあるようでない色。語弊覚悟で言うならば禍々しいデタラメな鮮かさがちらつく紫。
「よぉ」
「……」
俯く女がじとりと横目で睨むのをジャスパーは肩を竦めて流す。
「道中、あんたに逢ったら何を言ってやろうかって考えてた。でも、逢ってしまうと案外感情はスッと決まっちまうんだな」
――親近感。
ジャスパーの胸はその一言で現せるし、彼自身は意外に思っている。
そうそのまま口にしたならば、女は花の群れから乱暴に足を引き抜いた。花は、らしくない金属が当たるような音たて砕け散った。
「あんたもわからないの?」
「いや」
「なら、違うじゃない」
深いため息と共に、女の視線は火の消えたキセルに注がれる。
「親近感って全部が全部一緒ってわけじゃねえよ」
まるで友達同士でコンビニ前でたむろするように、ジャスパーは女がマッチで火をつけ終えてから言葉を継いだ。
相手がなんかやってる時にぺちゃくちゃお喋りするの、気が引ける時ってあるだろ。そんな感じだ。
「俺もあんたの立場だったら似たような事しただろうなって」
「へぇ」
ぷかりと吹いた紫煙が女の力を増すのに、ジャスパーは構わずそのままにさせる。話し続けたかったのと、悪魔に抗うなら精一杯の力でって思うから。
そう、ジャスパーは何処か子供のように無垢な男だ。
「そんなに風に投げ出されたら、死んでなんかやれねえし……じゃあ生きられるかって言われたら、途を探す気力なんてモンもない」
「おかしな奴」
肺腑をしこたま穢した煙に紛れた声は少しだけ笑っているようだ。ジャスパーが伺い見ると、女は相変わらず淡々とした表情をしているわけだけど。
「助けようと差し伸べられた手さえうまく掴めねえくらい、失ったモンがでかかったんだろ」
「ずっと鳴ってるピアノが煩くって考えたくなかった」
そこまで言って、手を差し伸べてきたのは“神”か、と漸く気がついた。それぐらいに“神”はバンダースナッチの中に爪痕ひとつ遺せやしなかったのだ。
「けれど、猟兵達は色々なものを私に投げ込んできた」
――絆を見せつけた4人。
――生きづらそうと言う奴。
――死が救いと囁く奴。
――神の想いに報いて抗うのを喜んだ奴。
「私が“ジャバウォックを抱えている”と知らしめてきた赤い奴のお陰で、頭に流れる曲をちゃんと聴く気にはなった。だから……」
蹌踉けながらも立ち上がる女からは、毅然としたプライドの香りがする。
故にジャスパーも鈍色のナイフを取り出して、己の二の腕を薄く切った。これは生きる為の痛みだ。
ジャスパーはひとりぼっちじゃない、帰りを待つ人がいる。出来る限り長く寄り添いたいと願うからこそ、ユーベルコードなんぞに命をくれてやるつもりは、ない。
「やられっぱなしになる気はない」
だが動いたのはジャスパーが、先。
蛍光色の双眸が光の絲を引き、切っ先が翻る。
バンダースナッチは即座に霞みから格闘家を構築する。傀儡は出会い頭にジャスパーを蹴飛ばす。
ごん、と、芯をヤられた打撃音。
だがその痛みを楽しむこともせず、ジャスパーは黙々と踏み込み女の肩を深々と斬り裂いた。
臍の辺りまで下げたなら、そこから切り返し心臓へ。胸の膨らみで止まったナイフを手放し、新たなメスで目元を斬りつける。
「くっ!」
キセルを噛まし直撃は免れるも、女の眦からは血が伝った。
ジャスパーの襲撃は止まらない。盾にと割り込む格闘家を肘で押しやって、更に喉突きを狙う。
がづっ、と、格闘家は悪魔の頭のてっぺんに拳を振り下ろした。
「……ッ」
くらりとした目眩を堪えるも、狙いは喉から外れメスは肩甲骨に当り止まった。
「……キくなあ、ッ、悪魔に出来る事なんざひとつだけさ」
命を奪う。
「あの男にしたように」
「……ジャバウォックを手にかけたの?」
鋏で肌を2回斬り、血肉に舌を這わせた悪魔はわざと悪辣に歯を見せる。
「ああ、そうだ。殺した」
この戯れ言で恨みを深めてやれるのならば、俺は悪魔だ、幾らだって吐いてやる。
憎め、炎のように盛る感情が、燻り続けた彼女の最後の灯火たれと、願う――。
「…………そう」
「ああ」
白けたような空気にジャスパーは顔をくしゃっとさせる。泣き笑いの容で、やっぱそう簡単にはいかないかと胸の下に刺さっていたナイフを抜き取った。
「一度燃え尽きちまったモンは戻らねえよな」
けれどやはり、彼女は何処までも“神”ではなくてジャバウォックをだけを見つめている。
「死後の世界なんざまー信じちゃいねえけど……」
彼らにも地獄という安寧があるのなら、そこで再会できればいいなと思う。
「……うぅ」
軽い手応えで突き刺したナイフとメスで、女は糸が切れた人形のように突如崩れ落ちた。
激闘を示すように、格闘家の手足の猛攻を受けたジャスパーも青ざめた痣と割れた肉からの血に塗れている。
「ああ、そうだな。あったらいいな……あいつらの為じゃなく、自分の為にさ」
霞みに戻る格闘家の傍らで転がる女へ眼を向けた。紫に少し蛍光色を注いだそれは一旦閉じられてから笑みの形に曲がった。
だが悪魔として刃を振るうのは店じまい。体中の骨が砕かれこっちもそれどころじゃあないのだ。
「ああ、疲れた」
只管殴られるのを耐えるのも、ワルなだけの悪魔も。それでも倒れずにいるのは、最後まで恰好つけておきたいからだ。
「……なんか探す気力が沸いたようで、そりゃあ何よりだぜ」
もう遅いなんて自分に言ってやるなよと笑みかけて、頬のこけた灰色肌の男は「あなたの路行きに幸いを」なんて締めくくった。
興味の欠け落ちた顔をして、猟兵仲間のそれぞれを受け取っていた女へ、俺が残す爪痕は聖者がいいんだ。
大成功
🔵🔵🔵
キアラ・ドルチェ
【高速詠唱】【全力魔法】で茨の世界展開、バンダースナッチがスナークシールド使用前に捕縛し、彼女に向かい真の姿に変身しつつ全力ダッシュ!
こちらへ攻撃してくるスペクターへは【多重詠唱】で茨の世界を展開、全ての攻撃を無効化
寿命が削れる? そんな事今はどうでもいいっ! この気持ち叩きつけるまでは私止まれないっ!
「貴方も「神」もなっちゃいませんっ!」
生きたいなら足掻きなさい、為したい事があるなら全力で為しなさい
逆にどうでもいいなら何もしなければいいのに、何故貴方はここにいる?
「何もかも中途半端なんですっ!」私から見たら!
そして全力で平手打ち!
生きたいなら全力で生き抜きなさいよ!
死にたいなら全力で死に場所得なさいよ!
汚い言葉で御免ですけど…生き方にムカつきますっ!
母から聞いた銀誓館の敵たちは皆、生命を賭け学園と戦った
敵だけれど、そういう存在だから私は、どこかで敬意を持ててた
貴方も…全力で私達に向かい合いなさいよっ!(泣きつつ平手打ち連打
勝手な言い草だけど、子供の戯言かもだけど、私はそう想ったのっ!
大町・詩乃
真の姿にて。
天候操作で雨を降らし、海中都市に満ちる紫煙を洗い流しつつ条件満たしてUC:神域創造発動。
バンダースナッチ・スナークシールド・スナーク達に「止まりなさい。」と命じて(攻撃ではありません)、言葉を重ねる。
「生まれてきたのだから、生きてここにいたい。
それは生命が当然持つ想い。
だから、どうでもいいと言いながら、ダストブロンクスで懸命に生きるバイオモンスターさん達やこの海中都市で平和に暮らす人々を巻き込み、命の危険に晒した事は許せません。
それは生きる事への嘲笑です。
この期に及んでもまだどうでもいいのか、それともまだここにいたいのか、自分の裡から想いを絞り出しなさい!
単なる危険物を除去するのか、向き合って戦うのか、私も決めましょう。」と言って、バンダースナッチだけ行動解除。
彼女の攻撃は第六感で読んで、オーラ防御を纏った天耀鏡の盾受けで弾くか、見切りとダンスで舞うように躱す。
そして多重詠唱による光と雷の属性攻撃・全力魔法・神罰・高速詠唱で生み出した光輝く雷撃を神域効果で極大化して放ちます。
●
バンダースナッチの心を揺さぶり寄り添う言葉は、ジャスパーをはじめ仲間達からもたらされた。
故に大町・詩乃(阿斯訶備媛・f17458)はバンダースナッチに脅かされた人々の側に徹底して立つと決めた。
神は人々を守護する。
同時に災い起こすモノへの対処も時に行う。
「…………」
ドームの内側は変らず煙が次々重なりぼやけてはいるのだが、バンダースナッチ本人からは、随分と茫洋としたものが消え失せている。
彼女の頭に響くピアノは相変わらず陰鬱なジャズだし、サビはロクに流れない。それは変わりない。
だがきちりと向き合って聞けば、出だしの旋律は迫る悲哀が迫真だし、サビ前の囁きのピアノソロは一転してか細い。
かつては“神”を暗示するヴァイオリンも鳴っていたが、決して“伴奏”とはならなかった。それが今になると非道く“あんまりだ”に思えてきてる。
更には、サビのパートの音が聞き込む度にひとつずつ増えて、今や頭を痛める雑音とはほど遠いものとなっている。
「バンダースナッチさん」
女の瞳にまた輝きが灯ったのを詩乃は確りと確認した。
「……あんたは、そう、神」
彼女の吐く“神”という単語には千言万語を費やしても表現し得ない思いの綾が滲む。
その声を聞き、詩乃は、彼という“神”の自己犠牲と愛が少しは報われたのだと心が和らいだ。
バンダースナッチは短い髪をぱらりと弾いて、春色の羽衣を纏う詩乃へ向き直る。同じ薄紅なのに、水を吸った前者のそれはビビットで禍々しくて、後者は荘厳なる威圧を有している。
キセルを咥えた女は、半笑いを唇の端に浮かべる。
「神と言っても、随分とうるさいものね。うるさい……そう、あれやこれやと考えて、それを口に出す」
まるで人みたいだと暗の意図を受け取った詩乃は、丁度良い切っ掛けだと口火を切ろうとする。遮ったのは、耳に届いた爪の擦り合う音。
すうっと吸い込んだ大気はヤニ臭くてとても不健康な香り。それでも緩慢な中毒になるだけならば見過ごせるのだが――……。
「慈雨」
画然とした指示に天が呼応する。
突如降り出した優しい肌辺りの雨が“存在”を取り上げ隠す紫煙をかき消していく。
「雨か、本当に相性が最悪だ」
去来するは俄雨。水の精霊の力を借りた疑似雨だのに、散々な目に遭わされた。舌打ちのバンダースナッチは、悪あがきで煙りをスペクターめがけて吹き付ける。
獰猛なる咆吼が至るところであがる。飛びかかってくるスペクターを前にして、詩乃はバンダースナッチへの怒りを堪え、一言。
「――止まりなさい」
それでスナーク達は動きを止めた。バンダースナッチは即座に領域の支配権を奪う為にキセルをふりあげよう、と、した。
出来ない。
それどころか悔しさに奥歯を噛みしめることすら無理だ。そう、彼女もまた阿斯訶備媛の支配下に置かれてしまったのである。
だが動けたとしてもバンダースナッチに打つ手はない。
彼女が消せるのはあくまで攻撃だけ。所詮、場を神域と清める詩乃の行為を止められはしないのだ。
「スナークの皆さんは座ってください。爪で自分を傷つけないように気をつけて。そして私が赦すまで動いてはなりません」
この雨は人々から体温を奪わず疲弊もさせない。命を育み、気力体力を取り戻す慈愛の雨だ。
彼らは未だバンダースナッチの支配下にあるものの、穏やかな雰囲気を醸し出して大人しくしている。
その様子に阿斯訶備媛は、いつもの春の日差しめいたあたたかい微笑みを浮かべた。だがバンダースナッチを射貫く瞳は一転して鋭い。
「生まれてきたのだから、生きてここにいたい。それは生命が当然持つ想い」
棒立ちの女へ歩み寄り、眼前に。
「だから、どうでもいいと言いながら……」
後方で座る彼らを示し、容が怜悧な怒りに染まる儘に。
「ダストブロンクスで懸命に生きるバイオモンスターさん達やこの海中都市で平和に暮らす人々を巻き込み、命の危険に晒した事は許せません」
悪意すらない。空っぽの壺が手当たり次第に周囲を吸い込むように、バンダースナッチは彼らを踏みにじった。
悪意すらない。
だから『とてもいけないことをした』との指摘が必要だ。
「それは生きる事への嘲笑です」
物言いたげに身じろぐ女へだけ戒めを解き、だが先にこちらの言いたいことは伝えきる。
「この期に及んでもまだどうでもいいのか、それともまだここにいたいのか、自分の裡から想いを絞り出しなさい!」
もう、曖昧模糊に逃げることは赦さない。そんな厳しい眼差しを受けて、バンダースナッチはキセルを取り落とす。
――サビの音が5つ、連なった。けれど、私がこの先を聞いても良いのだろうか?
喪失からはじまった女は、此処に来て己の感情と向き合うことを、怯えている。
「もう!」
詩乃の柳眉がつり上がる背後から、あどけないリズムが響き渡った。キアラ・ドルチェ(ネミの白魔女・f11090)の声だ。
姿はまだない。詩乃の神域の向こう側、未だ支配から逃れられぬ黒が蠢く中に少女はいる。
「貴方も『神』もなっちゃいませんっ!」
直後、キアラの元より雄々しき緑の茨が生まれ、放射線状に広がった。少女の意志を繁栄し茨の先は丸い。だが蛇のようにのたうつそれらは、未だ動き続けるスペクター達を一人残らず絡め取る。
「……ッは、はぁ、はぁ……ッ」
茨の舞台、その中央に立つのは22歳とは思えぬとても幼い少女だ。
ブリリアントブルーの鮮やかなマントを翻し、身長より高いドルイドの杖-Fragment of Lerads-を握りしめての仁王立ち。
本当ならばまだ5歳にもならない、これがキアラの真の姿だ。
少女の顔色は青ざめ息が荒い。
この茨は非常に強力なユーベルコードだ。故に、維持するごとに少女の寿命を削ってしまう。
(「でも、そんな事今はどうでもいいっ!」)
あの分からず屋の“神”が守りたがった女は、やっぱり、こんな奴だった。幼かろうが失望と怒りをぶつけずにはいられない。
「キアラさん……」
詩乃からの心配には激しく首を振った。
「この気持ち叩きつけるまでは私止まれないっ!」
キアラの激しい心の爆発は、未だ虚ろにしがみつくバンダースナッチへのカンフル剤となるやもしれぬ。
「わかりました。後ろのみなさんは私が鎮めます。ですので、バンダースナッチはお任せしますね」
賽は既に投げ入れた。何より詩乃は人を守りたい、無論そこにキアラも含まれる。やりとりは何処でも聞けると、未練なくバンダースナッチに背を向けた。
「茨から解放されたら、止まりなさい」
阿斯訶備媛が歩を進める度に慈しみの雨は広範囲に降り注ぐ。スペクター達が大人しくなるのを見て、キアラは茨を解いた。
顔色は健康的なものに、だが怒りの形相はそのまま。
「バンダースナッチさん」
小さな手のひらがパッとひらかれると杖が消えた。
「生きたいなら足掻きなさい、為したい事があるなら全力で為しなさい」
こつりこつりと踵が鳴らし近づいてくる少女を前に、バンダースナッチは無言でキセルを拾う。
「!」
それが咥えられて「どうでもいい」と、煙に巻かれる前に。
「逆にどうでもいいなら何もしなければいいのに、何故貴方はここにいる?」
先ほど“神”と戦っていた時からのムカムカの理由を投げつけた。
守りたいと言いながら彼女を1人にした“神”は、キアラからすると言い訳を重ねて自己犠牲に逃げてるようにしか見えなかった。
「何もかも中途半端なんですっ! 私から見たら!」
ガンッと、強く踏み切ったなら石畳が削れる。鋭い軌跡で滑空する燕の如く、キアラは一気にバンダースナッチの眼前へと詰めよる。
パシッ!
伸び上がり、思い切り頬を張り飛ばす。
「……ッつぅ」
突然のことで対処できず、吸い口を噛み過ぎたバンダースナッチの前歯が折れた。項垂れる女めがけてもう一発。今度は石畳へと叩きつけるように。
「生きたいなら全力で生き抜きなさいよ!」
崩れた女が見せる眼差しは、ゆらゆら濁った死にかけ金魚。それにますます腹が立つ。女は“神”へはまだ淡い気持ちしかない、だが説明する暇を少女はくれやしない。
ほら、やっぱり“神”は間違っていた。ちゃんとついて行ってやれてたら、こうはならなかったかもしれない、こんな目はしなかったかもしれないんだ。
「死にたいなら全力で死に場所を得なさいよ!」
その潔さすらない。
一体、バンダースナッチが何をしたかったのか、本人がそれをわかっていないのが腹が立つ。
矜持も拘りも、誇りも……執着すら、ない。
「汚い言葉で御免ですけど……生き方にムカつきますっ!」
威嚇し唸る子猫のように荒々しい呼吸音をたてて、キアラは頭突きの勢いで顔を近づける。
「昔の話です。母から聞いた銀誓館の敵たちは皆、生命を賭け学園と戦った。敵だけれど、そういう存在だから私は、どこかで敬意を持ててた」
それぞれの譲れないものを胸にした死闘は、彼女が繰り返してきた無為の散蒔き。比べるべくもなく前者が輝いているとキアラは思う。
「貴方も……全力で私達に向かい合いなさいよっ!」
もう、ひとりぼっちで、こんなにボロボロじゃないの……。
キアラの頬を生ぬるい水が伝う。
癇癪を噛みしめて吐き出して、床に手をつき俯くバンダースナッチの肩へ頭へ当たる場所に手当たり次第の平手打ち。
「勝手な言い草だけど、子供の戯言かもだけど、私はそう想ったのっ! “神”も貴方もなっちゃいない!」
隠すことなく嗚咽を漏らすだだっ子へ、バンダースナッチはキセルを咥えようとして、やめた。
「…………そう、あなたは“神”にもこんな風にしたの?」
「……う、ひっくっ、ついて、行ってッ、守ればいいってッ、言ってやりました」
「……ついてきたって私はどうにもしてやれないのに?」
「感情はいつだって一方通行からはじまるんだから。勝手にわかったふりした“神”も、何もわかんない振りした貴方もっ……」
「――やだぁあああああ!」
感情の大爆発と同時に、キアラの姿が緑の樹木に変じた……ように、見えた。生じた茨はバンダースナッチへと襲いかかり絡みつく。今までにつけられた傷は反応する力をも奪い尽くしていたし、何よりバンダースナッチには逆らう気がなくなっていた。
“どうしてこのお話の登場人物の2人は報われなかったのだろう”
傍らに戻った詩乃は、泣きじゃくるキアラの肩を優しくさする。
動きを止めたスナーク達は今や次々と煙りから解放されていて……つまりは、もう勝敗は決しているということ。
「バンダースナッチさん、私の質問のお答え、今でしたらお聞きできそうですね」
詩乃は磔にされた女を振り仰ぐ。
パッションピンクの女だけが聞こえるジャズピアノ。
サビは、和音がズレてメロディラインはグチャグチャで聞けたものじゃぁない。投げ遣りな陰鬱さも孤独の悲しみも押し流したそれは。
慟哭。
どうにもならないことに目の前の少女は泣き喚いている。
そしてバンダースナッチも同じように、瞳から涙を降らせた。
「ジャバウォックを助けたかった。それが無理なら同じ戦場で共に死にたかった。どうして、どうして……私を遺していったの…………」
非道い。
そう呟いたきり、女は何も語らなくなった。
「そう、でしたか」
詩乃は最期の本音を受け止めた胸を撫でると、キアラに茨を解くように囁く。
「う……ううぅ、本当、莫迦だわ…………“神”のやらなかったことを、彼女がやりたかったなんて……! 何よ、それ……ッ!」
瞳をごしごし擦るキアラの目の前に落ちてきた女は、剥がれるように砕け散りこの世界から消失していくのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵