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俺たちの戦いはこれからだ！

作者：らあめそまそ

●バンアレン帯ってなんだっけ
　サムライエンパイアにもバレンタインデーの風習はある。
　どうやら持ち込んだのは我らが徳川家光公らしい。いや、この言い方は正確ではないのかもしれない。家光公はあくまでよもやま話として、大奥のお嫁さんたちに異世界の祭りの事を話してあげただけなのだ。それをお嫁さんたちが実践するようになり、いつしか庶民の間にも広まったのだという。

「わたしはこれでも一応エンパイアの武人。家光公のことは尊敬申し上げてはいるのだ」
　珍しく、大豪傑・麗刃（23歳児・f01156）は荒れていた。
「だがねえ！バレンタインなど！バテレンの風習ではないか！そんなものは本当にエンパイアに必要あるのかね！？バテレンタインデーなど！！」

　念のため書いておくが、麗刃は普段こんなリア充死ね的な感じの事は決して言わない。たしかに彼女とか恋愛事とかにはまったく縁のない人間だが、そんな事は全然気にしていないような様子でゆるーく日常を送っている。
　ただ、年に数回、こんな風になってしまう時があるのである。そう、周囲がそういう話題で盛り上がっている時とか、特に……まあ、ある意味ではこれもバレンタインデーという日の、ひとつの楽しみ方なのだろう。

「だが、今日という日を暴れたいンデーとしてリア充死ね的な会話行動に終始してしまうのも、なんとなく芸がない」
　そして今年は、何やら思いついたらしい。
「なにせだ。今年がダメでも、来年もその次もあるではないか。バレンタインデーとか、あとその他もろもろのなんやかやが。どうせなら、この日を前向きな日にするために、次の戦いの準備にあてるというのはどうかね？」

　要するに、である。
　恋人いないなら作ればいい。今作れなければ、今後できるようにすればいい。そして次のバレンタインデーとかには……そういうことだ。

「ということで！」
　麗刃は集まった猟兵たちを、改めて見渡す。
「きみたちの中に恋人を持つ者がいるなら、どうすれば恋人ができるようになるのか、是非教えてはくれないだろうか？むろん、それを教わりたい者たちもどんどん集まってくほしいのだ！みんなで一緒にエンパイアの甘味でもつまみながら、存分に語り合おうではないか！！」

第1章 日常 『サムライエンパイアのバレンタイン』

POW   :    沢山の和菓子とお茶を買い込み、食べ比べを楽しむ SPD   :    エンパイアならではの甘味探しを楽しむ WIZ   :    甘い物をお供にして、エンパイアの美しい景色を楽しむ 👑5 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●濃い恋の話よ来い
「……これ、りょだしな（旅団シナリオ）だっけ？」
　今回参加したメンバーを見て、思わず大豪傑・麗刃はつぶやいた。ことごとく、麗刃の旅団の旅団員……
「あら、わたしは違うわよ」
　おっとそうだ。アリス・セカンドカラー（不可思議な腐敗のケイオト艶魔少女・f05202）は常連ではあるが旅団員じゃなかった。
「ま、男側の持ち込みですまんが、とりあえず、てきとーにつまんでほしいのだ」
　なにはともあれ、参加メンバーに麗刃が用意した、器に入れられた
濃茶が行きわたる。面々の目の前には、これまた麗刃が用意したサムライエンパイアの和菓子が並べられていた。ぶっちゃけ麗刃はお菓子要員として引っ張り出されたのである。
「わいのも食べてくれや！結構いけるで！」
　お菓子の中にはベビーカステラにチョコソースをかけた、たこ焼き型スイーツがあった。麗刃以外に唯一お菓子を持参した馬飼家・ヤング（テレビウムのちっさいおっちゃん・f12992）の持ち込みであった。
「いただきます！……ん、おいしいですねこれ！」
「本当に、カステラとチョコって結構合うんですね」
　勢いよくパクつく黒影・兵庫（不惑の尖兵・f17150）に、年長者らしく上品に甘味をいただく灘原・世理衣（自分自身の死者同士夫婦『世理衣と瀬利亥』・f35525）。そして。
「まったりとして」
　わかりやすいオマージュ的セリフとともに食べるのはアリス。
　以上４名が、今回の恋人作りたい講座の参加者であった。生徒役がヤング（と一応麗刃もここ）、講師役が兵庫、世理衣、アリスである。

　適度にみんなの血糖値が上昇したところで、いよいよ本題に入った。
「わいもアラフォーやというのに、今まで浮いた話の一つもあらへん」
　切り出したのは参加者の中では唯一の生徒役のヤングだった。ちなみに彼女イナイ歴は39年である。
「『面白い人』止まりで終わってもうてな」
「わかる、わかるのだ！その気持ち！」
　やはり面白い人（？）で止まってしまう麗刃が首を上下にぶんぶん振っていた。まあ麗刃の場合は他にもっと根本的な問題があるような気もするのだが。こちらの彼女イナイ歴は23年である。
「でもなあ、わいもわいなりに、モテの努力はしてきたんや！そして！」
　一度落ち込んだように頭を下げたヤング、頭を上げる。
「修行を重ね、この術を会得したんや！見さらせ！！」
「うおっ！まぶしっ！」

　……
　光の中から現れたのは、八頭身モデル体型のヤングだった。
　ただし顔はいつものテレビウムヘッドであった。そこに映ってる顔はたしかに美形で通るものではあったにせよ。

「……こ、これは……すごいですね」
　笑いをどうにかこらえる兵庫。
「……努力はされているのですね」
　文字通りの意味で、努力は認めようとはする世理衣。
「なかなかやるわね」
　たぶんヤングの期待とは別の意味で感心しているアリス。

「そやろ？すごいやろ？でもなあ、やっぱり『キモッ』って言われてまうねん！自分でもなんでやねん！ってツッコんでまうわ！」
　ヤング、講師の皆さんの反応を大阪芸人風らしくポジティブに捉えるも、それでも実際の反応がはかばかしくない事を嘆くのであった。そしてついには。
「どうすればええんやー！！ウワァァァァン！教えてえらいひと！！」

　……
　さて困った。講師陣の皆様、テレビウムの顔をクリアする方法を持っている人はそうはいない。そもテレビウムの恋愛模様ってどんな感じなんだろう。教えてえらい人と言いたいのはこっちだ、と言わんばかりである。
　とはいえ、みんな恋愛のやり方を教えに来た立場ってものもある。そして、人は結局、自分の持っている範囲内でしか勝負する事ができない。
　ということで。

「えっとですね……」
　まず話し始めたのは兵庫だった。
「まずはきっかけを作ることからですね！話しかけに行くとか難しいなら友人を通してとか！そこから徐々に親交を深めていけばやがて恋愛に発展するはずです！」
　いきなり恋人になろうとしても難しい。順を追って話を進めるのは、たしかに理にかなったやり方のように思えた。
「うーん、わいもそんな感じでやってるつもりなんやけどなあ」
「それは……うーん、もうちょっと時間をかければ」
（絶対友達どまりね）
　だがヤングは納得していない様子である。そして兵庫の『せんせー』である脳内の教導虫も、異を唱えた。その言い分も、あるいは一理あるものかもしれない。
「せんせーはちょっとお静かに」
「なんやて？」
「あ、すみません独り言ですよ」
『せんせー』への抗議を思わず口に出してしまった兵庫に、『せんせー』はさらに続ける。
（体験談を語ればいいじゃない。初対面なのに『愛してる』って言いながら土下座して交際を迫った、って）
（それ絶対特殊ケースですよ、参考になりませんって）
（現に作れているんだから間違ってないでしょ）
「……なかなか大胆な事やってたのだな兵庫くん」
「って！脳内読まないでください麗刃さん！」
「すまん、書いてあったものだから」

　……
　ロールプレイにおいて、内心に反応したり、設定のみをもとにまだ語られていない事を語ったりする（例えば自己紹介してないのに相手を名前で呼ぶ等）のは、むちゃくちゃ怒る人もいるのでやめた方が無難でしょう。状況次第ではありますが。

「私達はもっと特殊なケースですが」
　次に世理衣が手を上げた。
「って世理衣さんも読んだんですか俺の内心ッッッ」
「まあ、世理衣さんの事情は、存じ上げておりますのだ」

　ものすごく簡単に言えば、灘原・世理衣と、夫の灘原・瀬利亥は、同じ人間の魂と肉体のカップルである。たしかにむちゃくちゃ特殊すぎるケースではあった。なお、自分と同じ存在を目の当たりにした場合、むちゃくちゃ相性良くなるか、逆に殺し合う程に相性最悪になるかの極端な二択になる気がするので、前者でおさまったのは幸いと言えるのかもしれない。

「まー、おもしろそうやないか、どーんと語ってくれや！」
「いいのかしら、死者同士、女同士で、コウノトリが来そうに無い夫婦だから、一般とは異なる目線になるけど」
「実は女同士だったのか！？」
　実際に教わるヤングは前向きだったが、世理衣にはまだ逡巡があった。救いを求めるように夫の方を見ると、
『エンパイアの、甘味と、トレードだから良し』
　食べた分はしゃべるべきだ、との前向きなご意見。それを受け、世理衣の顔がぱあっと明るくなった。
「そうねダーリン、いっぱい食べていっぱいお喋りしましょう♪」

「仲良くてうらやましい夫婦やな」
「同感なのだ」
「俺もこんな風になれるかな」
「愛のカタチはいろいろあるけど決められたものじゃないわ」

「やっぱり相性かしらね、例えば」
　世理衣は大福を手に取った。丸いお餅の中にはエンパイア産の粒あんがぎっしり詰まっている。
「大福の中身がアンコならいいけど、ワサビは合わないわよね？」
　基本的には道理である……が、場合によってはそれもおいしいと思った者がこの場には３人ほどいたとか。美味しいとはちょっと違う意味ではあるのだが。
　ただし、重要なのは相性だけではない。世理衣は続ける。
「カップルを作ってくれる料理人がいないから素材同士で料理となる手間もあるけど、最高の料理になれたらすごく幸せよ♪」

　要するに、である。
　相性が良い人間同士がくっつくことは重要だ。だが、餅と餡子とただ組み合わせただけでは、大福にはならない。餡子を餅で包んでやるという工程が必要になるのだ。恋愛も一緒で、相性の良い人間同士であっても、ただ放置すれば勝手に恋愛関係になるわけではない。そこまでに至る過程もまた、重要なのである。

「うーん、でもわいはどちらかといえば、餡子よりワサビやしなあ」
　つぶやくヤング。実際この場にはワサビ派の方が多いかもしれない。
『ワサビは、寿司と合う』
　それに答えたのは瀬利亥だった。
『相性いい人、世界にいる』
「なるほど！世界は広いからな！きっとわいと相性ぴったりな相手がいるはずや！」
　希望が持てたとばかりに、ヤングは明るい顔になった。

　そんなヤングを見ながら、夫婦、小声で。
「まあ中には素材のままがいい、孤高との相性が抜群な人もいそうだけど」
『その人も夫婦も、人を嘲笑うのは、食べられない腐敗物』

　残念ながら、どうがんばっても、なかなかつらい人はいるらしい。
　だが、別に恋人作ったからえらいとか、独り身だからえらくないとか、そんな事は決してないのである。そんな事で人間の優劣は決まらないのだ。
　決して決まらないのだ！大切な事なので２回。

「相性抜群な相手が欲しいなら、作ればいいじゃない」
　とのたもうたのはアリス。
「え？どうやるんや？」
「決まってるじゃない、アイテムかユーベルコードよ」

　……
　いや、まあ、そうだけどさ！

「例えばこの子」
　アリスは、一匹の小さな白い虎を首根っこつかんで取り出した。ちなみに貰い物らしい。
「『白虎くん』っていうんだけど、これに化術とか肉体改造とか召喚術とか式神使いとかを使えばあら不思議、私好みの男の娘に♪」
「な、なんか、わいの考える方向とは、ちょい違う気もするな」
「だったらユーベルコードね。例えば複数召喚系ならハーレムとかイケるわ」
「いや、そういうことやなくて」
「プラチナちゃんと遊び……」
「ストップストップ」

　本当に複数召喚系のユーベルコードを使わんとする勢いのアリスを、麗刃はあわてて止めた。そしたらアリス、ユーベルコードは使わない代わりに。

「わかってるわよ、PC同士の恋愛の話でしょ？」

　とんでもない事をのたもうた。

「……ぴーしー？なんやそれは？」
「何でしょうそれは？」
「ダーリン、知ってる？」
『……わからない、ことに、しておく』
　みんなが理解できない中で、麗刃だけは例外だったようで。
「要は猟兵相手の恋愛ってことなのだ」
　翻訳めいた事を口にした。どうやら同系統の狂人系なだけに波長が合ったらしい。
「狂人は失礼ね、ちょっと妄想ぢからがたくましいだけよ」
　失礼しました。

「ともあれ、それがやりたいなら、それはもう背後が根回し頑張れとしか」
「背後？根回しって何や？」
　当然のように理解できないヤングに、麗刃が翻訳？する。
「……根本的には兵庫くんとか世理衣さんと言ってる事と同じと考えて間違いないのだ、たぶん」

　兵庫が、まずお友達から始めて徐々に仲を深めていけば良いと言ったように。世理衣が、相性のいい相手と知り合う事、そこから関係を進めていく事、どちらも重要と言った通り。結局は、うまい事やってどうにか恋人同士へとレベルアップするしかないのだろう。それは、プレイヤーとキャラクターという、猟兵にとっては何やらわけのわからない事情が絡んでいても、基本は一緒なのである。

「まー、そも兵庫くんの実体験からすれば根回しも何も関係ない気もするのだ」
「だから心読まないでくださいって！」

　なおアリス本人はというと。
「私は運用したシナリオで描写がんばったら出来たわ♪」
　誰の事だろう？アリスにはそれぽい特別フレンド何人かいるからちょっと判別つけづらいんだけど？麗刃は訝しんだ。
　ともあれ、これはこれで、関係を進めた結果、といえるのかもしれない。

「さて」
　おおかた用意した甘味は皆の腹の中におさまり、改めて麗刃はヤングに聞いた。
「多少は参考になった？」
「……人それぞれのやり方がある事は、理解でけた気はするわ」
　まあ、ちょっとサンプルは特殊すぎたかもしれない。だが、みんなの言い分に共通してる事は、たしかにあったような気はした。
「まずはわいの事を好きになってくれる人から探してみるわ！そっからは……まあ、がんばってみるわ！」
「その意気なのだ！」
「ヤングさんがんばってください！」
「応援してるわ！」
『……健闘を、祈っている』
「恋人同士になっちゃえ！」
　みんなに激励を受け、改めてヤングは闘志を燃やしていた。

　さて、次のなんかのお祭りまでに、今回の成果は出るのだろうか？
　それは全て天が決める事である。そうとでも思わなければやってられない。
　みんな。がんばれ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2022年02月17日