メルティ・タイム
●ダークセイヴァーのバレンタイン
薫りは豊かに。
口当たりは滑らかで、広がる温もりは優しいものに。
ミルクで丁寧にとろりと溶かして作られたチョコレートドリンク。それはそのままでも十分美味しいけれど、ステンドグラスの光と彩が降り注ぐそこで提供されるものには、一つ、決まりがある。
チョコレート。花や星、三日月。猫や狼などの生き物を象ったそれ。
マシュマロ。小さな枕めいたもの、チョコで顔が描かれ妖精や雪だるまのようなもの。
クリーム。ぴんと角が立つもの。雲のようにふわふわで、きめ細やかなもの。
いずれかをドリンクに加えたら、完全にとけるまでの間は言葉を紡いで良い。とけて見えなくなったら唇は閉じ、静寂の中で過ごす事。
その由縁はわからない。誰かの思いつきか、何か曰くがあったのかもしれない。だが人々はそれを繋ぎ続け、過ごしてきた。
友人と。夫婦と。恋人と。相棒と。一人で。記憶の中の誰かへ。言葉を綴りながら一杯を味わい、チョコレートの水面に浮かんでいたものがすっかり蕩けてひとつになったら、言葉の代わりに心を浮かべた視線や想いだけを添えていく――それが、ダークセイヴァーに在るとある教会でのバレンタイン。
●メルティ・タイム
「まあ、ダークセイヴァーでのバレンタインって『恋人の祭り』なんだけどね。俺みたいに、そういう人いないって人もいるでしょ? だから誰でも、どんな関係でものんびり過ごせそうなイイ感じのやつって需要あるかなと思って」
にこりと笑って、イェーイ、とVサイン。
そんなリオネル・エコーズ(燦歌・f04185)の傍らで、青いリングに包まれた星がくるくる回る。
「場所は教会だよ。立派な所で、特に壁のほとんどを埋めてるステンドグラスが半端なく綺麗なんだ。一見の価値メッチャクチャ有り」
そんな教会で提供されるチョコレートドリンクは、年に一度の祭りという事もあり、ちょっとした贅沢オプションがあるのだとか。
「チョコ、マシュマロ、クリームを足す前のアレンジも出来るんだ。そこを楽しんじゃうのもいいと思うよ」
ビターかスイート、純白か濃茶。
違う味わいのチョコレートの欠片を加えれば、味の層も美味しさも増すだろう。
ラム酒を数滴加えたなら、味と薫りがぐっと大人になるだろうか? ジンジャーシロップでほんのりと刺激を加え、体が温まるものにしてもいい。蜂蜜を少々加えた時もまた好評だという。
「他は何だろう……シナモンスティックとか? 俺はチョコかな」
チョコレートドリンク。
ささやかな贅沢オプション。
そして、蕩けてひとつになるまでの時間と、静寂。
一杯と共に過ごすひとときがいい思い出になったら嬉しいよ――オラトリオの青年は笑い、常闇に包まれし世界へと扉を開いていく。
東間
ダークセイヴァーでのバレンタインをお届け。
東間(あずま)です。
●受付期間
タグや個人ページトップ、ツイッター(https://twitter.com/azu_ma_tw)でお知らせ。プレイング送信前に一度ご確認下さい。
●出来る事
ステンドグラスが見事な教会で、チョコレートドリンクを味わうひとときを。
チョコやマシュマロ、クリームのいずれかが蕩けるまでのひとときメインでも、もうとけちゃったから黙って過ごすというものでも。
導入場面は無し。
ドリンクに加えるもの=教会から提供されるものはOPにある通り。
贅沢オプション用に持参したものを加えるのもOKです。
チョコとマシュマロの形はお好みのものをどうぞ。
アレンジするしない含め、お好きに楽しんで頂ければ幸いです。
プレイングでお声がけがありましたら、リオネル・エコーズもお邪魔致します。
●グループ参加:三人まで
プレイング冒頭に【グループ名】をお願いします。
送信タイミングは同日であれば別々で大丈夫です(【】は不要)
日付を跨ぎそうな時は翌8:31以降だと失効日が延びるので、出来ればそのタイミングでお願い致します。
オーバーロード利用が揃っていない=グループ内で失効日が発生した場合、その日届いたプレイング数によっては採用が難しくなる可能性があります。ご了承下さい。
以上です。皆様のご参加、お待ちしております。
第1章 日常
『ダークセイヴァーのバレンタイン』
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POW : 自力で素材を集め、手作りのお菓子を用意する
SPD : 木の実や春先の花を摘み、装飾品を作る
WIZ : 常闇の世界に光を見出す愛の歌を紡ぎ上げる
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
フリル・インレアン
ふわぁ、すごく素敵なステンドグラスですね。
アヒルさんも真剣に眺めてって、ちょっと真剣すぎませんか?
ふえ?ステンドグラスには何か秘密があるって、今日はバレンタインで来ているのでそういう謎解きはないはずですよ。
全然聞いてくれていませんね。
私は先にチョコレートドリンクをいただいてますね。
このマシュマロはなんだかアヒルさんにそっくりですね。
アヒルさんが話を聞いてくれないので、マシュマロさんが溶けきるまでお話を聞いてくださいね。
ふええ、アヒルさん何をするんですか?
私のマシュマロさんを返してください。
ふえ?アヒルさんそっくりなマシュマロさんはドロドロに溶かさせないって
話は聞こえてたんですね。
マグを満たすチョコレートドリンクの熱を抱えながら、フリル・インレアン(大きな帽子の物語はまだ終わらない・f19557)はそろそろと周りを見た。
「ふわぁ、すごく素敵なステンドグラスですね」
黒色に縁取られた硝子絵画は、常闇の世界という事を暫し忘れそうになる程。しかし隣りにちょこんと座るアヒルさんからの返事はない。アヒルさんはステンドグラスを真剣に眺めていて――。
「ちょっと真剣すぎませんか?」
『ガァ』
「ふえ? ステンドグラスには何か秘密があるって、今日はバレンタインで来ているのでそういう謎解きはないはずですよ」
『ガァ。……グワ? ……クワァ~、グワワ』
アヒルさんは全然聞いてくれなかった。ステンドグラスを見ながら推理を始めたのを見て、フリルは肩を竦めて手元のマグに視線を移す。
「じゃあ、私は先にチョコレートドリンクをいただいてますね」
早速マシュマロを摘んだフリルは、貰ったマシュマロと、まだステンドグラスを見つめているアヒルさんを見比べた。色。形。なんだか、なんだかこれは。
「アヒルさんにそっくりですね。アヒルさんが話を聞いてくれないので、マシュマロさんが溶けきるまでお話を聞いてくださいね」
それでは温かなチョコの海へどうぞと指を離した瞬間、マシュマロが消え、フリルは肩を跳ねさせた。しかし、名探偵の力を借りなくとも真相は既にズバッとお見通し。なぜならマシュマロ誘拐犯は目の前にいる。
「ふええ、アヒルさん何をするんですか? 私のマシュマロさんを返してください」
『ガァ!』
フリルのお願いにアヒルさんは首をブンブン、チョコ海へダイブ寸前だったマシュマロを両手もとい両翼で隠すように庇う。
『グワ、クワッ』
「ふえ? アヒルさんそっくりなマシュマロさんはドロドロに溶かさせないって……」
つまり。
それは。
「アヒルさん、話は聞いていたんですね」
『ガァ』
頷いたアヒルさんがぷいっと背を向ける。
この自分似マシュマロは渡さない! そんな後ろ姿にフリルは「ふええ」と口癖をこぼしながらもマシュマロ奪還方法を考え始め――手にしたマグからふわふわと昇る湯気が、一人と一羽の周りをチョコの香りで彩っていく。
大成功
🔵🔵🔵
灰神楽・綾
【不死蝶】
チョコにマシュマロにクリーム、きっとどれも
この世界では気楽にたくさん用意出来るものじゃない筈
それを自分達にも振る舞ってくれるだなんて
一口一口、大切に飲まなきゃなぁと思う
ドリンクに入れるアイテムはマシュマロ
チョコで猫のような顔が描かれていて可愛い
他の世界のカフェでもこういうの見たことあるね
あはは、梓のチョコドラゴン、どんどん溶けて
何だか面白い形になっていってるね
この世界では毎日を生き延びるだけでも大変なこと
それでも、こういうちょっとした贅沢や遊び心を
楽しむ気持ちが人々に残っているのが何だか嬉しい
マシュマロも完全に溶け、梓との会話も止まる
代わりに、何も言わずに隣の梓の肩に頭を預けてみた
乱獅子・梓
【不死蝶】
ドリンクに何を入れたものかと悩んで
ふと目に留まったのは、デフォルメされたドラゴン型のチョコ
おぉ、これはまさに俺の為に用意されたような…!
迷わずそのチョコを選んでドリンクにイン
溶けてくると何とも名状しがたき生き物になっていくな…
そうだな、毎日毎日死に怯えて
生きる為だけに生きる人生なんて悲しいことだ
今日みたいに、ささやかな幸せを感じられる催しが
これからもずっと続いていくことを願う
綾との会話が止まってしばらくして
肩に重みを感じたが、そのまま好きにさせてやる
今日はバレンタインだからな
何となくこう、何でも許してやろうって気持ちにもなる
…流石に隣から寝息が聞こえてきた時は黙って小突いてやったが
「お好きな物をどうぞ」
笑顔と共に示されたものは、チョコにマシュマロにクリームと見慣れたものばかり。
灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)はニッコリ笑って礼を言い、どれにしようかな、と楽しげに目を向ける。
しかし丸いレンズの奥にある瞳は、ささやかな贅沢達を真剣に映していた。
きっと、どれもこの世界では“ささやか”どころではないものだろう。気楽に沢山用意しているように見えて、見えない苦労や手間が、甘い香りの向こうに隠れている筈だ。
(「それを自分達にも振る舞ってくれるだなんて……一口一口、大切に飲まなきゃなぁ」)
そう思うからこそ綾は彼らの笑顔を曇らせない為に明るく振る舞い、その隣では乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)がドリンクに何を入れたものかと真剣に悩み――ハッと肩を震わせる。
「おぉ、これはまさに俺の為に用意されたような……!」
「そちらのドラゴンチョコになさいますか?」
「ああ! 綾は何にするんだ?」
「俺はこのマシュマロ。チョコで猫みたいな顔描かれていて可愛いよね」
そうして選んだささやかな贅沢を梓は迷わずドリンクへイン。綾も「いってらっしゃーい」と笑顔でポチャリと送り出す。一度とぷんと沈んだドラゴンチョコはすぐに浮かび上がり、猫マシュマロはチョコの水面をゆったり円を描きながら泳ぎ始めた。
「他の世界のカフェでもこういうの見たことあるね」
「ああ。パステルカラーのマシュマロも見たな」
「そうそ――って、はは」
ふいに笑い始めた綾に梓は怪訝そうな目を向ける。その様子に綾はまた笑い、見てみなよと梓の手元を指差した。
「梓のチョコドラゴン、どんどん溶けて何だか面白い形になっていってるね」
出逢った時はゆるかわ系ドラゴンだったチョコは現在進行系で変化中。その過程はまるで、限界まで作画にコストを振ったアニメーションのような滑らかさであり、朝を迎えた雪だるまのようでもあった。
「溶けてくると何とも名状しがたき生き物になっていくな……おい、そっちのマシュマロ猫も凄いことになっていないか?」
「え? あ、ほんとだ」
小さく吹き出して、それから笑って口をつける。豊かな香りと味わいが熱を伝えながら広がっていき、そこに重なった密やかな笑い声に目を向けると、地元民らしき若者が肩を震わせ互いのマグを指差しているのが見えた。彼らのマグの中でも、チョコかマシュマロかクリームが、面白おかしな事になっているのだろう。
「この世界では毎日を生き延びるだけでも大変なことだよね」
吸血鬼に支配され、異端の神々が跋扈する常闇の世界。ダークセイヴァーは、希望よりも悲哀と絶望が遥かに色濃い世界だ。それでも、と綾はふにゃふにゃになった猫マシュマロを見て、目を細める。
「こういうちょっとした贅沢や遊び心を楽しむ気持ちが人々に残っているのが、何だか嬉しいな」
「……そうだな、毎日毎日死に怯えて、生きる為だけに生きる人生なんて悲しいことだ」
美しいものを見て感動する。
美味しいものを食べて美味しいと喜ぶ。
おかしなものを見て、吹き出す、笑う。
そんな当たり前のものが、今、ここに在る。
ここはダークセイヴァーだが、完全に絶望と暗闇で凝り固まった世界ではないのだと。ほのかな明かりが灯るようだった。
「今日みたいに、ささやかな幸せを感じられる催しが、これからもずっと続いていけばいいな」
梓が願いを言葉にした瞬間、それを受け止めたかのように綾のマグに浮かんでいた猫マシュマロが完全に溶け、チョコと一つになる。二人の会話はそこで止まり、静寂だけが漂う事暫し。綾の頭が、梓の肩へと預けられた。
子供でも少女でもない、大人の男から預けられるそれは決して軽くないが、梓は綾の好きにさせた。すっかり消えてしまったドラゴンチョコを惜しみつつ、ゆっくりとドリンクを味わっていく。
(「今日はバレンタインだからな。何でも許してやろう」)
バレンタインだから以外の理由は特にない。何となく、というやつだ。
ただし、流石に自分の肩を枕代わりに寝られることは“何でも”の範囲外。
寝息が聞こえすかさず小突けば、夢の世界から引っ張り上げられた綾の口から「うっ」と小さな声。口パクで周りの迷惑にならないよう二人は何かを言い合い――ふは、と笑ってドリンクに口をつけた。
猫マシュマロとドラゴンチョコがすっかり蕩けたその味わいは、豊かな香りと――そして、ささやかな幸せが満ちていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
栗花落・澪
添えてもらうのは三日月のチョコレート
ステンドグラスの光で淡く照らされて
煌めくのは甘く蕩ける真白の海
小さな口から微笑と共に零れるのは
勿体ないなの一言
僕の恋人は甘いものが苦手だから
こんなに素敵で美味しいドリンクもしかめっ面の元になる
僕が誘えば断らない事もわかってるけど
彼の前では、きっと僕も素直になれないから
だから今日は一人でいい
だって彼は…いつだって傍にいてくれるから
左手薬指に収まった薔薇を象るダイヤの指輪
軽く触れるか触れないかの口づけを落として
ほんの少し照れたりして
この輝き越しに、ほんの少しでも届けばいいと
ステンドグラスを見上げ
祈るように目を閉じて
いつも、ありがとう
これからもよろしくね
――大好き
マグカップから甘く上品な香りが広がり、その源であるチョコレートは満月のような真白を湛えた真円。ステンドグラスの光で淡く照らされた真白には、その透き通った彩がうすらと映り、甘い海に色の煌めきを躍らせている。そこに添えてもらった三日月チョコレートも、ステンドグラスの加護を受けたように淡く染まって――。
「勿体ないな」
栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は、小さな唇から微笑みと共に一言こぼした。
ダークセイヴァーのバレンタインは恋人の祭り。けれど自分の恋人は甘いものが苦手だから、今自分が見つめ合っているチョコレートドリンク――澪にとっては、“こんなに素敵で美味しいドリンク”も、彼にとってはしかめっ面の元だ。
「僕が誘えば断らない事もわかってるけど……」
うーん、と想像してみる。
恋人と二人。彼の前にいる自分。そして――。
「きっと僕も素直になれないね」
くすりと笑みをこぼして、両手でマグを包み込む。
簡単に想像出来てしまうくらい、自分達は普段からこんな感じだ。だから今日は一人でいいんだと澪は蕩けていく三日月チョコレートに打ち明け――だって、と琥珀色の双眸に淡い煌めきを浮かべた。
「……いつだって傍にいてくれるから」
左手薬指に咲いて煌めく薔薇。華麗な姿を象ったダイヤの指輪に、澪は触れるか触れないかの口づけを落とした。その音は小鳥の足音よりも軽く、きっと誰にも聞こえてはいないだろうけれど――澪はほんの少しだけ頬を染め、左手を翳す。
澪は見上げた先、静かに色を降らすステンドグラスを見上げ、目を閉じた。
薔薇の輝き越しに、ほんの少しでも届けばいいな。
そんな祈りを宿した瞼の下に浮かぶのは――、
「いつも、ありがとう。これからもよろしくね」
――大好き
文字にすれば三文字。
音にしたなら、四つだけ。
けれど澪がその言葉を、想いを捧ぐのは彼一人。
家族。友達。仲間。大事な人が沢山いて、数え切れないくらいの好きがあって――けれど恋人に想う“大好き”は、他の人に抱くものとは違う一つだけの“好き”で満ちている。
その甘い音色に触れたのか。
真白の海に浮かぶ三日月がとろりと揺れて、静かに薫った。
大成功
🔵🔵🔵
呉羽・伊織
【閑】
ん、此処なら喧しい連中に絡まれるコトも無く、落ち着いて過ごせそーだろ
(祭騒ぎも悪かないが、こーいう空気を楽しむ時間と余裕もまた――)
――いや違うヨ?
そんな“あっ…(察し)”みたいな顔で言葉切らないでっ
今日はそーいう悲痛な沈黙を味わいに来たワケじゃ…現実逃避に来たワケじゃないヨ…??
(とか宣いつつ、やけに甘そうな一杯に、今にも儚く消えそうなハートチョコを浮かべてるのは偶々ダヨ)
嗚呼、誤解は解けてないのにチョコだけ溶ける…っ
(なんて馬鹿も此処までながら、冗談零す余裕が見えたなら、其こそが何よりの――
後はもう、言葉無くとも大丈夫そーだなと――溶けたチョコに代わり、静かに笑顔浮かべ、ほっと一息)
百鬼・景近
【閑】
静かに憩うには丁度良い空気、だね
(俺の様な者は少々場違い――否、折角の計らいを無下にする様な言動こそ場違いか、と思い直して)
…ところで、こんな日に何で俺に声を掛け…(あっ…)
何か…御免ね…?
俺からは、掛ける言葉も見つからなくて…
(余程ビターな対応を頂いたのかな…と、無言で伊織の手元眺め――色々思い当たりすぎた顔で
溶けかけハートが崩れて割れ気味な点には、触れずにおいた)
ほら、伊織もそろそろ静かにしないと
(自分はビターな一杯に、ふわりと消え行くクリームの雪花咲かせ)
大丈夫――解ってるよ、全部
(冗談も全て、楽しく過ごせる様にという計らいの内だと
微かに笑み零し――後は暫し、穏やかな時間に浸ろう)
足音。会話。椅子に座り直した時の、軋んだ音。
耳に届く音は全て控えめで、音が生まれた場所一つ一つに密やかな出来事が在るかのようだった。無邪気に楽しむ誰か、一人静かに過ごす誰か――居合わせた人々の気配も同じように教会内を満たし、百鬼・景近(化野・f10122)の唇が静かに、薄く、弧を描く。
「静かに憩うには丁度良い空気、だね」
「ん、此処なら喧しい連中に絡まれるコトも無く、落ち着いて過ごせそーだろ」
“喧しい連中”との祭り騒ぎも悪くないのだが、こういう空気を楽しむ時間と余裕もまた――。
にっと楽しげに笑った呉羽・伊織(翳・f03578)の口から、白い息がふんわりとこぼれ出て、ゆらりゆらりと昇っていった。
何気なくその行き先を見ていた景近は、それよりも薄い白色が追いかけるように昇り、周りの風景に溶けていくのを見る。
マグカップから立ち昇った熱の先に見えるものは、硝子と色が作り出すステンドグラスを抱いた教会だ。教会内は今日だけの空気だけでなく清廉さに満ち、そこに自分のような者は少々場違いでは――という考えを、景近はゆるりと振り払う。普段通りの明るく親しみ持てる笑みを浮かべている伊織の、折角の計らいを無下にするような言動こそ場違いだろう。
「……ところで、こんな日に何で俺に声を掛け……」
バレンタインデーがどういう日なのかくらいは知っている。
だからこそ景近は不思議に思い――。
(「あっ……」)
「!」
ほんの一瞬だけ景近は目を瞠った。しかし伊織はその一瞬を見逃さなかった。というよりも“見逃せなかった”し、景近が浮かべたものが何かをその一瞬で見抜いていた。
「――いや違うヨ?」
「……、」
「いや本当に違うから……! そんな“あっ…(察し)”みたいな顔で言葉切らないでっ」
伊織は周りの迷惑にならないよう、出来るだけ声のボリュームは落としつつも、伝えたい想いをみちみちに籠め景近へと訴える。
しかし悲しいかな。そっと伊織から外されていく景近の双眸には、相手を思いやり哀れむものがうっすらちらりと浮かんでいたのであった。
「何か……御免ね……? 俺からは、掛ける言葉も見つからなくて……」
伊織は、花の如き麗人や乙女ではなく同性である自分に声を掛けた。彼が溺愛している愛らしいひよこや、和む顔立ちをした亀を連れて過ごすでもなく。――という事は、だ。
(「余程ビターな対応を頂いたのかな……」)
「あの、景近サン? もしもし……?」
伊織からの声をBGMに景近は無言で伊織の手元、マグカップを持って右へ左へ上へ下へと落ち着かないそこを眺め――ひとつ、ふたつと、色々思い当たり過ぎたが故の表情を浮かべる。そして物凄く“思われている”とわかる表情に、伊織の顔も何やらしおしおになり始めていた。
違う。本当に違うのにっ。
「今日はそーいう悲痛な沈黙を味わいに来たワケじゃ……現実逃避に来たワケじゃないヨ……??」
純情をころころと遊ばれたり、面白おかしく弄られたり、今回こそは大丈夫だやったーと思ったらやっぱそうじゃないですかヤダー! という経験数は、過去を振り返って数えるのも放り投げたくなる程だけれど。
と訴えつつ、マグカップを満たすやけに甘そうな一杯に浮かべているものが、今の(誤解を含んだ)状況にぴったりの――それでいて、溶け出している事で今にも儚く消えそうなハートチョコなのは、偶々。偶々、だ。
「嗚呼、誤解は解けてないのにチョコだけ溶ける……っ」
そして色々は重なるもの。限界を迎えたらしいハートチョコに亀裂が入り、伊織の口から「アッ」と悲壮な声がこぼれ――しかし、馬鹿もここまで。ふ、とこぼれて聞こえた景近の笑みが重なった。
「ほら、伊織もそろそろ静かにしないと」
景近は伊織を見て、静かに笑む。両手で包むマグカップの中では、ビターな大地にふわり消えゆくクリームの雪花を咲いていた。
「大丈夫――解ってるよ、全部」
冗談も全て、楽しく過ごせる様にという計らいの内だと。
その言葉に、穏やかさに、安堵を覚えた。言葉無くとも大丈夫そーだな――その言葉は溶けたハート共に静寂の中に閉じ込め、代わりに静かな笑顔を浮かべれば、同じように微かな笑みが向けられて――チョコレート薫る静けさの中、穏やかなひとときだけが二人を包み込む。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
蘭・八重
【比華】
闇夜の佇む教会
美しい場所ね
中に入れば甘い香りが漂う
ふふっ、教会でバレンタインなんて素敵ね。なゆちゃん
ホットミルクなんて何年振りかしら?
子供の頃を思い出すわ
なゆちゃんは覚えてないかもしれないけど
母様のホットミルクチョコを貴女はいつも美味しそうに飲んでたわね
チョコにマシュマロ、クリーム?どれも美味しそうね
なゆちゃんはどれにする?
私はアネモネと薔薇の形のチョコを
ミルクに浮かべてゆっくりと溶け出す
ふふっ、私となゆちゃんが混ざってる様で嬉しいわ
口付け一口
美味しいわ
なゆちゃんはマシュマロね
あら、いいのかしら?一口頂くわ
えぇ私も貴女が居ないとつまらないわ
このホットチョコの様に貴女ととけあえるなら幸せ
蘭・七結
【比華】
嵌る硝子のうつくしいこと
ええ、あねさま
共に過ごす時間は何れもステキだけれど
今宵はいっそう、深いひと時となりそう
ホットチョコエレトをいただきましょう
あねさま、おいしい?
あなたが笑む様を見映したいの
わたしも、甘くて幸せよ
蕩かすものの全てが気に留まるけれど
わたしは薔薇のマシュマロにしましょう
やわい甘さが心を掴んで離さないの
あねさまも、ひと口如何かしら
蕩ける甘味を見届けながら
戯れに応えるように笑みを転がす
そうね、ステキだわ
わたしとあねさま。ふたつの猛毒
双方が交わるならば――なんて、
いたずらね、あねさま
あなたが居ない世界なぞつまらない
もう暫し、甘味の余韻に浸りながら
この見事な光景を楽しみましょう
他世界の光と比べれば薄暗く――しかし、この世界では確かに光であるそれを通したステンドグラスが、宿る色を映した光をあちこちに現している。
蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)と共に闇夜に佇む教会を訪れた蘭・八重(緋毒薔薇ノ魔女・f02896)は、薔薇色の目をそうっと細めた。
「美しい場所ね」
紅で彩った唇が微笑みと共に紡げば、黒一色の中に嵌る硝子の美しさを双眸に映していた七結もまた幽かに咲くような微笑みを浮かべた。
チョコレートドリンクは祭壇で振る舞われており、そこへ歩むまでの僅かな間も、漂う甘い香りが二人の歩みに合わせて見えぬ波を起こすようだった。それは、豊かに広がって波打つ二人の髪をも甘い香りで包んでいく。
「ふふっ、教会でバレンタインなんて素敵ね。なゆちゃん」
「ええ、あねさま。共に過ごす時間は何れもステキだけれど――今宵はいっそう、深いひと時となりそう」
美しい場所。冬の空気。バレンタイン。
温かなチョコレートドリンクは、そこにどんな彩を添えてくれるのか。
この先に待つひと時に想いを寄せながら二人はチョコレートドリンクを選び――ふふ、と八重の唇から柔らかな笑みがこぼれ落ちた。
「ホットミルクなんて何年振りかしら? 子供の頃を思い出すわ。なゆちゃんは覚えてないかもしれないけど……」
金環浮かぶ双眸に八重は優しく甘く微笑みかけ、母が振る舞ってくれたホットミルクチョコの事を語る。今よりもずっと前の思い出を紡げば、今両手で包んでいる温かさとよく似た温もりが心を満たしていった。
チョコ。マシュマロ。クリーム。
どれも美味しそうだと思うからこそ迷った八重だが、ミルクチョコレートのドリンクに、アネモネと薔薇を象ったチョコレートを連れて行く事にした。柔く甘い白色に咲いた二つの花は、浮かべてすぐに寄り添うように近づき、とろりと一緒に漂い始める。
「ふふっ、私となゆちゃんが混ざってる様で嬉しいわ」
七結の髪を飾る花と、八重のかんばせを飾る花。
二つの花は白色によく映え、そして互いをより鮮やかに魅せるよう。
八重の唇が白色へと寄せられ、一口味わう様を七結は静かに見つめていた。
「あねさま、おいしい?」
「美味しいわ」
注がれる視線が外れない事に八重はくすりと微笑んだ。
――なゆちゃんの視界を独り占めね。
その言葉で、七結の微笑がふわりと満開を迎えるように深まった。
――あなたが笑む様を見映したいの。
だから。
「あねさま。わたしも、甘くて幸せよ」
爪紅で彩った指先がマグカップの縁をつう、となぞる。その先、チョコレートドリンクの上でぷかぷかと在るものに、八重はにこりと咲った。
「なゆちゃんはマシュマロね。可愛い薔薇だわ」
「やわい甘さが心を掴んで離さないの。あねさまも、ひと口如何かしら」
「あら、いいのかしら?」
「ええ」
七結は八重のマグカップを預かり、こくりと頷いた。
蕩かすものの全てが七結の気に留まり、その中で今宵を彩るものとして選んだ薔薇。それが甘く浮かんで咲くホットチョコレエトが、そうっと八重の口付けを受ける。やわい甘さを湛えた白色は、七結の心を掴んだのと同じように八重の心もするりと囚える。ほう、と唇からこぼれた吐息はほのかに白く染まっていた。
「美味しいわ。ありがとう、なゆちゃん」
言葉を交わす間も、甘い花々は音を立てず静かに蕩けていく。七結はそれを見届けながら、ふいに笑みを転がせた。戯れに応えるような微笑に向いた薔薇色の眼差しに、七結はマグカップから伝う熱を閉じ込めるように、指先でその表面を撫でる。
「そうね、ステキだわ」
寄り添って咲くアネモネと薔薇。
分け合った、薔薇咲く白。
花から花へ視線が移る。
「わたしとあねさま。ふたつの猛毒。双方が交わるならば――」
なんて、
「いたずらね、あねさま」
「ふふ。ごめんなさい、なゆちゃん」
七結はふるりと首を振り、八重の肩に頭を預ける。
頬を撫でた夕日のような紅髪が心地良かった。
「いいの、あねさま。だって、あなたが居ない世界なぞつまらない」
「えぇ、私も貴女が居ないとつまらないわ。このホットチョコレートのように貴女ととけあえるなら幸せよ」
言葉と共にチョコレートが香る。それぞれの花はすっかり蕩けて――けれど、ひとつになるにはもう少しかかりそうだった。七結の瞳はゆるりとステンドグラスに向き、八重の瞳も共に向かっていく。
「うつくしいこと」
「本当ね、なゆちゃん」
チョコレートの香り。ステンドグラスの光と彩。
静かに広がり降る二つの中、薔薇とアネモネもとろりと揺れ、踊るように。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
陽向・理玖
【月風】
俺これにしよ
瑠碧が好きそうな愛らしい鳥の絵のマシュマロ選び
何かアレンジとかする?
去年のバレンタインはマシュマロをチョコで包んだ奴作ってくれて
ミルクで溶かして一緒に飲んだよな
あれからもう一年って早ぇ
ステンドグラスすっげぇ綺麗だな
腰かけ見回し
こういうとこで式挙げたら映えそうだ
瑠碧が絶対もっと綺麗に見える
森の小さな教会とかいいかなって思ってるんだけどな?
去年はまだ付き合ってもなかったのに
今はそんな事まで考えるようになったなんて
一寸不思議だな
いつでも結婚出来るぜ?
あ
マシュマロが溶け口を閉ざし
ドリンク口にし
少しだけ瑠碧を引き寄せ
話さなくても
チョコの甘さと
瑠碧の温もりが心地よくて
…幸せだ
優しく笑み
泉宮・瑠碧
【月風】
私は蜂蜜を少し
後は…私もマシュマロで、雪だるまを
…溶ける際に切なくなりそうで
はい、チョコボムでしたね
見ていると、昨年を思い出します
理玖の隣に腰を下ろし
ステンドグラスは、透かす光にも色が付いて綺麗です…
…式を、挙げる?
一拍後に意味を理解して真っ赤
光や雰囲気が綺麗ですからね…と
もごもご返して
理玖も、少年と形容した頃と今では…
随分、大人びましたよね
成長したなぁと思います
理玖が口を閉ざしたのを見て
自分のカップのマシュマロも溶けました
理玖に寄り添いながら、そっと一口
静かに黙って、隣に居て…
リビングで寛ぐのとはまた違う雰囲気でも
理玖の気配にほっとします
黙って一緒に居ても
沈黙も心地良い事が、幸せです
チョコレート。マシュマロ。クリーム。三つをじいっと見ていた陽向・理玖(夏疾風・f22773)がマシュマロを選んだ理由は簡単だった。
「俺これにしよ。瑠碧は何かアレンジとかする?」
潰してしまわないよう掌に載せたマシュマロには、愛らしい鳥の絵が描かれている。
(「瑠碧が好きそうなんだよな」)
どうだろ。どうだろ。喜ぶかな。
ちょっとばかり気になる心を隠しつつ話を振れば、マシュマロが載った手を見た泉宮・瑠碧(月白・f04280)の双眸に小さなキラキラが浮かび上がる。可愛い、とこぼれた呟きに交わした笑みが重なって――瑠碧は蜂蜜壺に目を向けた。
「私は蜂蜜を少し。後は……私もマシュマロで、雪だるまを」
溶ける際に切なくなりそうな予感もあるけれど。
ささやかな贅沢を選び、アレンジも加えて。そうして温かな熱を広げてくれるチョコレートドリンクで満たしたマグカップを落とさないよう、しっかり取っ手を握り締める。
仕切りがなく、横に長い木の椅子が整然と並ぶそこには、ぽつりぽつりと人がいた。どこに座ろうかと相談を交えながら、理玖はふと去年の事を思い出す。
「去年のバレンタインは、マシュマロをチョコで包んだ奴作ってくれて、ミルクで溶かして一緒に飲んだよな。あれからもう一年って早ぇ」
「はい、チョコボムでしたね。見ていると、昨年を思い出します」
今年はダークセイヴァーの教会でチョコレートドリンクを。
来年は――まだ見ぬ新しい世界だってある。予想出来ない楽しみを胸に二人は並んで腰を下ろした。そうすると、四方を彩るステンドグラスの存在感が静かに増し、視界いっぱいに降り注ぐ色彩と光が心にまで射し込んでくるようだった。
「ステンドグラスすっげぇ綺麗だな」
「透かす光にも色が付いて綺麗ですね……」
「こういうとこで式挙げたら映えそうだ。瑠碧が絶対もっと綺麗に見える」
「……式を、挙げる?」
理玖が言った事の意味を理解出来たのは、一拍後。瑠碧は白い頬だけでなく耳の先端まで真っ赤にし、両手で包むマグカップへと慌てて視線を移す。
「光や雰囲気が綺麗ですからね……」
もごもごと返す瑠碧の頭から、ぷしゅー、と湯気が現れそうな――けれどそうなっても瑠碧は可愛いだろうなと思いながら、理玖はだからだよと言ってマグカップに口をつける。
「だから、瑠碧が絶対もっと綺麗に見えると思うんだよな。……あ、森の小さな教会とかいいかなって思ってるんだけどな?」
そんな風に二人の未来を。結婚という事を、まだ付き合ってもいなかった去年は当然考えていなかった。だが今はそんな事まで考えるようになった自分に、理玖は素直に「一寸不思議だな」と言って笑う。
その横顔に現れている変化は、瑠碧の瞳へ静かに映っていた。
年齢だけ見れば今も少年と形容されるだろう。しかし、今の理玖はあの頃よりも――。
「随分、大人びましたよね。成長したなぁと思います」
「だろ? いつでも結婚出来るぜ?」
“結婚”の言葉で、引っ込んでいた熱が再び瑠碧の頬と耳をぽぽっと赤く染め――愛らしい鳥と雪だるまがチョコレートの海に蕩け、とぷんと消えた。
「あ」
その瞬間を見て、そして見送った理玖はドリンク口にすると、少しだけ瑠碧を引き寄せる。ぐっと近くなった距離に瑠碧は少しだけどきどきしながら、同じように口を閉ざしたまま寄り添った。
甘さを増したチョコレートドリンクを味わう。それだけの時間に、大切な人の温もりがチョコレートの甘さと共に重なる。その心地良さが理玖の中でゆっくり育っていった。
静かに黙って、隣に居て。リビングで二人一緒に寛ぐ時とはまた違う雰囲気は、瑠碧の中で少しだけソワソワするような――新鮮なものを生むけれど。理玖の気配に心はほっと温まり、優しく穏やかなものへとなっていく。
理玖は優しく笑み、瑠碧も柔らかな微笑みを返した。
黙って一緒に居ても、沈黙も心地良い。だから一緒に生きる未来を思えるくらい大切で――。
(「……幸せだ」)
(「幸せ、です」)
大成功
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