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開演

#ヒーローズアース #戦後 #イェーガームービー #第一章開始:2/7日 #第ニ章開始:2/14日 #完結保証日:2/28日 #延期日程:3/3日 #終了予定日:3月中目途 #プレイング募集終了中

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#ヒーローズアース
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#戦後
#イェーガームービー
#第一章開始:2/7日
#第ニ章開始:2/14日
#完結保証日:2/28日
#延期日程:3/3日
#終了予定日:3月中目途
#プレイング募集終了中


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●薄暗いシアター
 猟兵達が訪れた時には既にスクリーンには映写機の白々とした光が照らされこれから始まる物語を投影する準備が出来ていた。
 猟兵達が各々好きな席に着くと開演を知らせるブザーと共に予告と称される映像が流れ出す。
 始まりは無機質な一室だった。
 画面一杯に空虚な空間が映されていた。
 無音のままにただカメラが映像を録る際に発するノイズだけが聞こえながら画面はやがて少しずつ引かれていき、部屋全体の姿を映す。
 それは整然とあるいは雑多に並べられたマネキン達の姿。
 それは制服を着て、それは水着を着て、それは宇宙服を着こんで、それは中世の鎧を身に着けて、それは共通して鍵を持って立っていた。
 それらの数多の衣装に身を包むマネキンらが一頻り映されると画面はまた移り変わり部屋の中央の一点へとズームされる。
 一体のマネキンがディレクターズチェアに足を組んで座っている。
 そのマネキンはまるでこちらを覗き込むかの様に首を傾げている。
 それは他のマネキンと決定的に違う一点を持ってもいた。
 その顔はモザイクで覆われて貌として認識出来ないのだ。
 勘のいい者なら誰でもそれがオブリビオンであることに気づいた。
 そして声が響く…誰が喋っているのか?口元の動きが見えずともそれはこのマネキンの様なオブリビオンが発している声であることを本能的に理解することだろう。
「猟兵の皆様、初めましてわたくしの名はペルソナと申します」
「巷では私のことを虚構王とも称されることから『虚構王ペルソナ』そう名乗らせて頂いております」
「本日アナタ方にこの予告映像を送った理由、それは一つ」
「猟兵を主役にした映像作品を作ろうと思い立ったからに他ならない」
「私には強いこだわりがある」
「それは物語を紡ぐこと」
「あらゆるものを物語を紡ぐ舞台として取り込む…それが私の使命であり生き甲斐」
「アナタ方猟兵すらもそれは例外でなく…役者として起用したい」
「…もちろんアナタ方という存在は敵である、それは私も本能的に理解している」
「ですから猟兵には猟兵に相応しい舞台を整えようと思います」
 虚構王は指を弾き画面を暗転させ別の映像を映し出させる。
 そこには廃墟となったショッピングモールが映し出されている。
 そして色褪せた看板が、剥がれ落ちた壁が、ひび割れた窓が、順々にスライドされて移されていき、人影の集団を映す。
 それらは様々な装束に身を包んだマネキン達でどれも武装している。
 あるものはピエロ姿で斧を持ち、あるものは軍人の様な服装で身を包み小銃を手にして、あるものは中世の冒険者の様に剣を携え、あるものは異形の様な骨格をボロ布で隠して佇む。
「これらは私が配役したヴィラン達、アナタ方を殺しうる悪役だ」
「これらを使って猟兵としての素晴らしい力をお見せ下さい」
「この作品が猟兵の華々しい活躍で彩られるかそれとも猟兵の死によって彩られるか」
「私はどちらでも歓迎致します」
「アナタ方猟兵は私の依頼を断ることは出来ないでしょう?」
「アナタ方が来なければ私は“市井の人々”を“キャスティング”することになるでしょう」
「私が彼らをヒーローに変えましょう…それは“悲劇”と呼ぶシナリオになるかもしれませんが…“物語創りの為を想えば些細”なことです」
「さぁどうしますか?猟兵の皆様?“私は此処で待っておりますよ”」
 そう言い終えると、そのオブリビオンの予告映像は終わりを告げた。

●グリモアベース
 シアターの暗がりからポップコーンを齧る音がする。
「皆は映画は好きかなぁ~?」
 舌足らずな声が響く。
「依頼が入っているぞ猟兵達よ」
 同じ場所から明瞭な声が響く。
 それはコモフォ・グリードと呼ばれた一人のグリモア猟兵が発した言葉だった。
 彼女は一人で二人の多重人格者である。
「イェーガームービー社って知ってる~?簡単に言ってしまえば猟兵の活躍を記録して一般に放映してる会社なんだけどねぇ~」
 グリードがポップコーンを宙に投げそして口で受けながら説明する。
「そこに先ほど見せた映像形式のオブリビオンの予告状が届いたという訳だ」
 コモフォは咀嚼もせずにスラスラと説明する。
「でねぇ~それって面白いって思わない~?配給会社はねぇ~丁度いいからその映像が録られたらそのまま編集して映画にしようって話になったんだよねぇ~」
 グリードは面白可笑しいという様な口調で説明する。
「もちろん結末はオブリビオンの撃破で終わらせてもらう」
 コモフォが当然だなと釘を刺す様に言う。
「オブリビオンが送ってきた予告映像を予知で参照したが大まかな違いは無い様だ」
 コモフォがグリモア猟兵としての力で情報の精査が確かな事を保証する。
「虚構王ペルソナは自身のユーベルコードを用いてマネキン役者を用意してるみたいだねぇ~」
 グリードは着ぐるみやロボット、いずれにせよ大差ない存在だという風に言う。
「だからと言って侮るなよ、安全には配慮してくれ…万が一にも負けられては困る」
 コモフォは猟兵に実戦であることには違いないし汚名を残すなと言い含める。
「まぁこの世界には『マルチバース構想』もあるしねぇ~ヒーローズアースには無数の『平行世界』があるものとするって考え方だけど~」
 グリードが笑い含む様に言う。
「事実より記憶、猟兵達の気高き魂(スピリット)を後世に伝える事が大事だということでもある」
 コモフォが冷徹に言う。
「失敗したらねぇ~まあ、平行世界のお話だから…それで済ませられるってことだよぉ~」
 グリードがニヤリと笑う。
「ユーベルコードの使用は自前で考えることだ」
 コモフォが身の振り方を考える様に促す様に言う。
「オブリビオンは今は閉鎖されたショッピングモールの各区画に自身の配下や罠などの設備を用意している様だ」
 コモフォはさらに予知で見た詳細を詰めた説明を始める。
「見れば分かると思うけどねぇ~その区画は当時のショッピングモールが営業されていたのと同じくらいに綺麗になってるみたいだよぉ~」
「だから用いようと思えばショッピングモールにある類の商品やらを利用出来そうだねぇ~」
「フードコートなら食品とかも食べれそうだけど~それは用意された区画でだけでぇ~その範囲を出たら途端に造りの荒い偽物になるみたいだよぉ~」
「カメラに映らない行動は全て無意味だってことだろうねぇ~」
「でも逆に言えばカメラの範囲内ならちゃんと動作するし敵にもしっかり効果が利くみたいだねぇ~」
 それが虚構王ペルソナのユーベルコードによって整えられた舞台というギミックだろうとグリードは説明する。
「私なら銃砲店を要求するがな、連中の用意した武器で連中を討つ、痛快だろう?」
 皮肉気にコモフォは説明を返す。
 「用い方は猟兵次第、あのオブリビオンは素晴らしい物語が出来れば勝手に満足していく輩の様だ」
 コモフォは飽きれる様な物言いで説明する。
「現状分かっている範囲はこれくらいだ、まずは現地に飛んでショッピングモール内のオブリビオン配下を撃破、そうすればオブリビオンが待つ部屋への道が切り拓ける」
 コモフォが今回の依頼でやるべきことを端的に纏めて説明する。
「やるべき事は分かったな?それでは…後は頼んだ」
 コモフォが猟兵達への挨拶を済ませる。
「ふふっ映画撮影だと思って愉しんでねぇ~」
 集まった猟兵達はグリードの笑い声を聞きながら転移して行く。


狂傭欲音
 初めまして新人マスターとして採用されました狂傭欲音です。
 右も左も前後不覚の身の上故にまずは完結を目指します。

 サポート優先にはしておりませんが場合によっては積極的にサポート採用が使われる予定です。

 今回のシナリオは2章構成、⛺第1章:冒険 👑7 👿第2章:ボス戦 👑11で完結する戦闘シナリオになります。

 基本的プレイング方針はフラグメントに沿うものです。

 より詳細な第二章のものとして含む行動指針としましては、
 POW 何もかも壊しながら猪突猛進に解決する。
 SPD 潜入映画さながらに最小限の戦闘で解決する。
 WIZ 舞台ギミックを考え出した上で活用して解決する。
 といった感じでしょうか。

 これは一例であり、ショッピングモールをどう活用して進むかが重要になるでしょう。
 第二章もボス戦である事を除けば重ね第一章と同様のギミックが使用可能です。

●ギミックについて
 ショッピングモールと検索して出てくる類の設備は大まかに存在するものと考えて構いません。
 ただし活用可能な設備は室内に設置されたカメラの範囲内のみであり、
 カメラに映らない行動を行う場合は、廃墟内で出没するマネキン兵との遭遇戦となるでしょう。
 カメラに映らない行動には、これといったプレイングボーナスが出ない事にも留意して下さい。
 ただしこれはプレイングを縛るものではなく、
 カメラに映らない事で起こせるアクションについて詳細な案があれば問題はありません。
 なおカメラに映ることを重視するといった類の記載がなくとも基本的にはカメラに録られている扱いになります。

 シナリオ面では問題はないと思いますが、
 筆記フォームにおけるシステム面での勝手の理解がまだ詳細に分からない状態になりますので、
 参加してくれるお客様には色々と不都合な点もあるかもしれません。
 その点についてはシステム面の詳細が分かる度に色々と更新される予定です。
 そのことに対して先に陳謝しておきます。
 それでも参加してくれるお優しい方々には深くお礼する次第です。

 その他、プレイングやマスター傾向等は私のマスターページにて記載する予定ですので、
 詳細を確認したい場合はお手数ですがそちらでご確認してもらえればと思います。

 此処まで確認して頂けた事に感謝します。
 それでは皆様、何卒よろしくお願いいたします。

 開演になります。
 どうぞごゆっくりとお愉しみ下さい。
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第1章 冒険 『ヴィランのアジト襲撃!』

POW   :    ヒーローのパワーで押し通る!

SPD   :    ヒーローのスピードで翻弄する!

WIZ   :    ヒーローの知恵で裏をかく!

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


第一章
 暗雲とした空は古びた廃墟の影を増す。
 今し方、転移してきた猟兵達は廃墟と化したショッピングモールの前に立っていた。
 その静けさに客で盛況していた頃であろう面影は無い。
 そう思われたが…入り口付近には分かりやすくライトアップがされている。
 そして店内からは零れる様な光が漏れる場所もある。
 営業当時の様な不必要な程の電力消費が成されているのだろう。
 だがしかしよくよくと見れば光の零れない場所はみすぼらしくボロボロのままだ。
 見掛けだけは整えられているということだろうか?。
 勘のいい猟兵ならばその範囲にはカメラが配置されていることに気づく。
 カメラ映りだけを配慮した輝かしさ。
 映画というもののある種の本質の様でもある。
 そして入り口付近へと歩み寄ればマネキン達が撮影現場はこちらですと案内する様な姿勢で一つ一つ置かれて道となっている。
 …少なくともこのマネキンは動きそうにない。
 しかし既に撮影は始まっている。
 輝かしく光るレッドカーペットを模された様な道のりとカメラの死角に乱雑に置かれた撮影機材のアンバランスさ。
 そして映像では分からない廃墟から漂う塵と埃臭さが猟兵達に虚構入り混じる世界への入り口であることを認識させた。
 躊躇う者、躊躇わず進む者、あるいは役者らしく演技する者。
 それは猟兵それぞれである。
 そうした猟兵の姿をカメラは録り続ける。
 あるいは割れた窓の端々から覗く…物言わぬマネキン達の影だけがその姿を見つめていた。 
●REC撮影開始。
菊石・光
自費制作映画に敵を招くとは酔狂なやつだ。遠慮がいらないなら倒して映像を回収しても良いのだろう?

ショッピングモールの映画セット当然有るゾンビパニックバージョン。私はこの区画の探索を進めよう。

UCで異形の心域守護者たちを呼ぶ。

彼らは積極的に壁や天井を這い回り、カメラ範囲内の僅かな凹凸まで詳細にマッピングしていく。

見た目はどうあれ優秀な守護者たちだ。

映像1フレームの中に何匹もの守護者が潜み蠢く。物陰から伸びる触覚・足・尾・舌。興味が有る方はぜひ探してみてほしい。私は嫌だが。

守護者たちの索敵により安全を確認した道を私は進もう。
途中の敵が、天井の亀裂から伸びるミミズっぽい守護者に絡め取られて闇に消える。



●カメラは捉えたそのトラウマを…それは小さな影から始まった。
 一人の猟兵が一足早くにショッピングモールの中へと歩んで行った。
 その煌びやかな入り口を歩いていけばその先には幾つかの区画に分かれている。
 ショッピングモールというだけあって通路(モール)は中央から吹き抜け構造となっており入り口から中に入るにつれて広々とした空間が開放感を演出する様に広がりを見せている。
「これが自費制作で賄われているなら大したものだ」
 辺りを見回しながら菊石・光(きくいし・るくす)が素直な感想を零す。
「もっともそこに敵を招くとは…酔狂なやつだ」
 彼女の背丈には些か大きすぎる大刀を光は自身の半身の様に担ぎ見る。
 それは光が使える主にとっての恐怖、力、その象徴であり、『周囲の期待の眼差し』が形を成した、言うなれば忌まわしき愛刀。
 それを主から預かるということが彼女の価値という物を砦の様に頑強に保証する。
 そしてそれほどの猟兵がこの場を預かるということがどれほどの意味を持つか?。
「遠慮がいらないなら…倒しても良いのだろう?」
 悪戯な微笑みを見せる光。
「忌まわしき期待に応えて見せよう、恐怖と力でもって…」
 映画作りに猟兵をキャスティングしたならば天地を揺らす騒乱となるのは自明の理である。
「そうだな…私はこの区画の探索を進めよう」
 大胆な事に光はこの大広間を真っ直ぐと進む事を決めた様だ。
「私の雄弁な活躍を収めた映像を回収し主への土産としよう」
 気の早い事に光は既に華々しい活躍を夢想しほくそ笑んでいる。
 しかしそれも自身の活躍を垣間見れば主の心も強く勇気づけられるだろうと思えばこそ、彼女の優しさからくるものだ。
「…さて敵は何処だろうか?」
 ショッピングモールの奥へ進むほど入り口ほどの光は無く薄暗さを感じさせる様になる。
 しかし点在するカメラの存在が撮影現場を離れてるということでもないと示す、これがこの区画の“映画セット”ということだろう。
「どれ視てみようか」
 彼女の持つ映し灯火が足元に光を当てる。
 そのランプは残滓に強い光で持って応える。
 あちらこちらに浮かび上がる足跡の痕跡、それはあのマネキン達の足跡と一致する。
「やはり居る…しかもこれだけ数が多いとなると一々斬って捨てるのも一苦労だ」
 光の思惑通りではあるが無策で最前線に立つのは愚策に他ならない。
 故に手を尽くし、ノーミスで倒し斬る、それに越したことはないのである。
「…となれば」
 脳裏に浮かんだのは異形の徒の姿。
「『主よ。今一時、臣下をお借りします。』」
 呼び出したのは、蠢く臣下、異形の臣下、『心域守護者(アストラルガーディアン)』。
 何匹もの守護者達がうねり這いずり這い回り道行く道へと行き渡る。
「(見た目はどうあれ優秀な守護者たちだ)」
これでもう少しばかり見た目が良ければということは胸中にしまい信頼する臣下の功を待つ。
 守護者達は積極的に壁や天井を這い回り、カメラ範囲内の僅かな凹凸まで詳細にマッピングしていく。
 暗闇の中であっても彼らには関係の無い事だ、むしろその冒涜的な姿を隠せるのだがら都合が良い。
 臆病者なら一目見れば恐れるであろうその姿、たとえそれが守護者と呼ばれても必要以上に見せびらかすものでもない心域に居るべき存在だ。
 それを彼らも理解しているかは別として、守護者達は物陰に沿う様ににゅるりにゅるりと潜み行く。
 しばらくすると先ほど見つけた足跡の行き着いたであろう場所に着く。
 何やら くちゃり くちゃり と音もする。 
 敵の死角を意識する様に守護者達は壁を登り天井へと張り付き注意深く触覚を伸ばす。
 その光景を映すカメラを確認する者からすれば恐れる箇所が多すぎて肝が冷える様な悍ましさ。
 どちらが怪物役か分かったものでない。
 だが悪役はどちらかは分かる光景もまたその先に示されてもいた。
「アアァァァ」「ゥエアアア」
 その呻き声をどう形容するかは人それぞれだろう。
 まるで暴徒の襲来でもあった様なマーケットの一角。
 店舗の入り口には所々バリケードが設置されていた形跡もある…無残にも破れてはいるが。
 その隙間から伺い知れたのは何かを齧る人影。
 それはよくよく見れば軍人の様な服装に身を包むマネキンだ。
 命名するならば軍人マネキンとでも形容出来る存在。
 しかしそのマネキンはまるで食い破られた様な跡が体のあちこちにある上、全身血塗れという装いである。
 しかし本当にマネキンだろうか?とそう思うほどにやけにリアルに感じられる…。
 そんなマネキンが何体もその店の中を徘徊し、呻き声まで発している。
 不気味という他になかったが、さらにそれの一群の一部は“食い散らかす”という行為までしていたのだ。
 食い散らかしているそれは…同じマネキン?の様だ。
 それには顔は無い様に見えるが…暗さもあるよく見えない、むしろ食い千切るそれを見なくていいのは幸いかもしれない。
 食い散らかされる役といった所か、その食い散らかされ役のマネキンは軍人マネキンと違ってそれぞれ私服の様だ。
 軍人マネキンは似た様なものなのに妙なリアリティは出すものだ。
 …本当にマネキンだろうか。
 そんな疑問を視聴者なら想起するかもしれないがそれは今重要な事ではなかった。
 シーン名として表すなら一般人を襲う軍人ゾンビ…そしてそれを襲う“蠢く異形”。
 天井の亀裂からミミズの様に伸びた守護者が軍人マネキンを音もなく瞬時に絡めとる。
 食い散らかす集団はそれに気づきもしない。
 そしてまた一体、闇に消える。
 その場に存在する軍人マネキンの数が少なくなるほどに守護者達の勢力は店の中にどんどん数を増やして侵入していく。
 軍人マネキンは軍人の様な装いとだけあって小銃を持つ者も居た。
 それが有効かどうかは分からないが少なくとも一発でも撃っていればその場に居る全ての軍人マネキンは気が付き食い散らかしの対象を守護者に変えた事だろう。
 しかしその映像の中にそんな光景は一度も無かった。
 そう一度も、ただ最後には闇だけが残り…その静寂さの中を歩む一つの足音が近づく音だけを捉えた。
 それは守護者たちの索敵により安全が確認された道を進んできた光その人であった。
 そして守護者達の“活躍”を録っていたカメラの前で光は止まりカメラに向かって話しかける。
 どうやら映画化に際しての映像編集の手間を省く為に先に口上を言っておこうということだろう。
「どうだったかな?守護者たちの活躍は?」
「映像1フレームの中に何匹もの守護者が潜み蠢いただろう」
「物陰から伸びる触覚・足・尾・舌…」
「興味が有る方はぜひ探してみてほしい…私は嫌だが」
 このシーンの確認はどうせ碌なものが映っていないだろうと光は御免蒙ると賢明な判断を下している。
「無論これからの私の活躍にも刮目して欲しい」
 乞うご期待、そういう笑みを残して光はさらに最奥の闇へと消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天堂・美亜
(ヒーローショーか何かかな?)
イベント広場で悪の戦闘員のような姿のマネキンに囲まれ交戦

「きゃっ!?」
剣で応戦しますが多勢に無勢
捌き切れず敵に胸元を引き裂かれ、撮影を思い出し羞恥で集中が乱れてからは嬲り者に
[弄られる姿を撮影するためかジワジワと長時間攻撃され続ける]
[衣服はボロボロ]

「やっ、何を……いやああぁぁ!!」
[倒れた私は敵に抱きかかえられ、殺到するカメラに晒されながら、胸を揉まれ、残る衣服を脱がされる]

「も……やめ……」
囚われのヒロイン役のようにセットの十字架に私を磔にし、敵は拷問を継続
容赦のない恥辱に泣き叫ぶ姿を延々と撮影され続けてしまいます

[背後]
美亜にとっては不本意な敗北です



●カメラは捉え続けた…恥辱のヒロイン撮影会を。
 一人の猟兵が辺りを伺い、おずおずと一歩、また一歩と踏みしめて行く。
 人の居ないショッピングモールというものはただただ広いだけでしかない。
 人で溢れていればそれはちょうど良い開放感なのだが…。
 残念ながらそこには今一人の猟兵しかいない。
 一人で居るというのは孤独でしかない。
 静寂の闇とアンバランスなマネキンの点在する不気味なショッピングモール。
 普通の感性では恐怖を抑えるのさえも一苦労する事だろう。
 それでも彼女は戦いに身を投じている。
 その名は天堂・美亜。
 オブリビオンから家族や大切な人達を護るため、そんな絵に描いた様な純真さが美亜を今この場に赴かせた。
 …なんと健気な事だろうか。
 此処へ猟兵達を招待したオブリビオンは巷で暴れる様な脅威では無い…今の所はだが。
 目に見えた脅威で無ければ後回しにしようと日和見主義者なら機会を伺うのが最善だと言うだろう。
 それでも美亜はわざわざオブリビオンが待ち構えるアジトへ向かうのだ。
 戦いというものは攻めに行く側よりも防衛に待ち構える側が遥かに優位だ。
 それも普通の場所では無い、オブリビオンのユーベルコードで彩られるアジト。
 はっきりいってそれだけで敬遠する者もいるだろう。
 それでも美亜は此処に来る事を選んだ、此処に招いたオブリビオンは猟兵が来なければどうするか?と暗に脅迫めいた予告をしている。
 心優しく、素直で真面目な彼女にとって見知らぬ誰かが不意に不幸に落とされるかもしれない…そういった脅威を見過ごす方が何よりも許せない。
 だから戦う。
 美亜は決して戦いは好きではない、そもそもの気質が戦い向きでもない。
 そうだ美亜程の若さであればこんな薄暗いショッピングモールでなく、同年代の若者らともっと愉快で最先端なショッピングモールでオシャレを楽しんでいたって…それが普通なのだ。
 それでも美亜は剣を取る事を選び、この廃墟を進むという事を選んだ。

 可憐な少女の戦いはどう迎えるのだろうか?
 ショッピングモールに点在するカメラ達は美亜の挙動を一挙手一投足録り続けている。

 ショッピングモールの奥へ奥へと進めば進むほど薄暗さは増していく。
 それでも美亜は先へ進む他に無い、例えそれが演出された道のりだと分かっていても…進む他に無いのだ。
 不安が少しずつ美亜の心を蝕んてゆく。
 暗闇の先が正解であるという保証が本当にあるのだろうか?。
 それを指し示してくれるのはあちらこちらに存在するカメラの存在だけだ。
 だから自然とカメラがある場所を歩む様になる。
 少なくともそれが在るということはそれを置いた存在がその先にいるはずだろうという見込みが持てる。
 そしてそれを保証するかの様にカメラのある方へ向かえば照明の光が少しずつ明るくなっていく。
 人間という生き物は本能的に光を求める生き物である。
 だから美亜がそれに安心感を覚えてしまっても仕方ないのだ。
 それが例え演出という名の罠であるとしてもだ…。
 薄暗い通路を抜けて明かる気な大広場に出ればそれまでの不安が一瞬緩んでしまう。
 警戒もそこそこに誘蛾灯に集う様に美亜はその場へ無意識のうちに早足となって躍り出る。
 その大広場はまさにイベント広場という様相で。
 あちこちに椅子やカメラが敷き詰められていて赤、青、黄色と色とりどりの風船で色彩よく飾られている。
 そしてもっとも目を引く中央部にはイベント用のステージが設営されている。
 青と白のチェッカー柄の背景に彩られた舞台は華やかで明るい印象を与える。
 …ただ異質なのはそのステージの背後には巨大な十字架が何本も突き刺さっていて、そこには何度も何度も叩きつけられ全身がひび割れた様な傷痕のあるマネキン達が磔にされているという点。
「(ヒーローショーか何かかな?)」
 その異様さを常識的な範疇で理解しようとした美亜は一般論的には正しい思考であったが…猟兵としては不適切な考え方でもあった。
 だからこそ反応が遅れた、こういった異質さの意図を瞬時に演出された戦場だと認識出来ない故の遅れ。
 ヒュンと風を切って美亜の目先の風船が割れた。
 そう割られた、そう反射的に認識出来た瞬間には次々と辺りの風船が割られて、バチンバチンと大きな破裂音を響かせ美亜の聴覚と意識を乱す。
「きゃっ!?」
 年頃の少女の様な悲鳴で思わず体を縮こまらせて思考さえも萎縮する。
 そこに止めを差す様にそこら中から突如として響き渡る奇声の連鎖。
「イィィィィイイイイィィ!!!!!!」
 とても正気の沙汰とは思えない声色に動揺した美亜は完全に初動を封じられてしまった。
 猟兵の戦いは埒外の世界、一瞬の判断で全てが左右される世界。
 美亜はこの時点で完全に負けていたのだ、あまりにも常識的な感性が戦意の牙を鈍らせてしまった。
 キョロキョロと慌てる視界がようやっと“悪役の姿”を捉えた。
 迷彩柄のベレー帽を被りその顔もまたモザイク柄で塗り潰された迷彩色の貌、服装もまた全身を覆う漆黒とそれに返り血の様な赤さが彩られた…まさに“戦闘員”という服装。
 命名するならば戦闘員マネキンとでも形容出来る存在。
 そして戦闘員マネキン達は皆一様に長くよくしなる一本鞭を手にしてピシピシと威圧的に鞭を打っていた。
美亜は半ば混乱紛れに近しい形ながら自身の剣を握り締めて構える。
「私が…私が戦わなくちゃ…!」
 がむしゃらな想いが体に現れて敵陣へ真っ直ぐに突き進ませる。
 それに応対する様に戦闘員マネキンの鞭が四方八方から飛び込んでくる。
 一撃を避け、二撃目も避け…掠る三撃目、腕を打つ鋭い四撃目、足を叩く様に打つ五撃目…。
 あまりにも無謀な突撃を連携の取れた狡猾な鞭捌きが一つ一つ矯正する様に美亜の肢体を打ち捉える。
「うぐっ…」
 脳内に響く刹那の痛みの残響の二重奏を前に果敢な進撃は否が応でも打ち止められる。
「(回避、回避しなきゃ、そう避けなきゃ…避けないと!)」
 そう美亜の思考が痛みによって誘導される。
 ヒュンヒュンと止まらない鞭の群れを攻撃を捨てて避け始める美亜。
 冷静であればそれだけではただ体力を消耗するだけだと気づくだろう攻撃の連鎖。
 ただその考えに至る暇さえない物量と連携技巧のハーモニーを前にすれば、誰でも窮するものだろう。
 そもそもこの常人離れした連撃を避けられている時点で美亜は曲がりなりにも猟兵であると証明している。 
 それでもやはり足りないのだ、此処は戦場で狩るか狩られるかの世界。
 だから美亜がステージの壇上に向かって追い込まれていると気づいた時にはもう遅すぎた。
 美亜が鞭の一撃を飛び避けてステージの上に降り立った瞬間、両サイドのステージ袖に隠れた戦闘員マネキンの息の合った鞭の両撃を受け見も取れずに受ける。
「あぁっ…!?」
 手に持っていた剣を取り落とし、拾おうとするもそれさえも鞭で弾き飛ばされてしまう。
 元々多勢に無勢だったのだ。
 じりじりと美亜を追い詰めていた戦闘員マネキン達がついに観客席の一帯に集まるとそこから一斉に鞭の雨を降らす。
 大広場からステージ上と避けられる範囲は一気に狭まり、一、ニ撃を避けるのが限度だった。
 そうして殺到する鞭の連打に美亜の衣服はボロボロになるまで打ち付けられる。
 不意に衣服としての強度を失った胸元が露わとなる。
「…!?」
 乙女の尊厳がそこにはあった。
 例え戦闘中であっても見せてはならない一線がある。
 それが余計な事まで思い起こさせる。
 カメラの視線が目に付いた。
 撮影を思い出した彼女を羞恥という雑念さえもが美亜の意識を阻害し支配する。
 残り僅かな集中力さえも乱れてからは、もはや捌き切れずにただ嬲り者の様に鞭を打たれ続ける…。
 …弄られる姿を撮影するためかジワジワと長時間に渡って攻撃され続け…そしてついに美亜は限界を迎えて倒れ伏す。
 …撮影はまだ終わってはいない、そう示す様に止めも刺さずに戦闘員マネキンは倒れた美亜を乱暴に抱き抱える。
「やっ、何を……いやああぁぁ!!」
 敵は美亜がどうすれば恥辱を感じるか理解する様に何処までも嫌らしく動く。
 戦闘員マネキンはわざわざ周囲のカメラを持ち出し美亜の元へ殺到する。
 美亜の柔らかな胸を戦闘員マネキン達の無機質な手が無遠慮に掴み掛かっていく。
 揉まれる様な感触に美亜が嫌悪感を露わにしようとその手は止まらない。
 そしてもはや無残な布切れとなった美亜の衣服を乱雑に引き裂き脱がされる。
 そこからは一方的な調教ショーの様相を示した。
「も……やめ……」
 戦闘員マネキンは裸体の美亜をセットの十字架に磔にし、囚われのヒロイン役のようにステージ上に飾る。
 …尊厳の何もかもを打ち捨てられた美亜はもはや猟兵でもなく、唯の少女でしかない。
 何度も何度も何度も何度も、容赦のない拷問鞭の連打を受けて少女は泣き叫ぶ。
 幼くも整った顔立ちと抜群のスタイルの良さを持つ美少女は…。
 虐げられて赤く染まる薔薇の様に彩られてもなお可憐で、その光景すらも芸術品の様に美しい。
 だからこそ、その姿は延々と撮影され続けて…見る者に絶望という名の一輪の花が咲くさまを愉しませてくれる。
 それは不本意な敗北だったろう…しかし少女の存在が無ければこの場に飾られたのは無辜な市民だったろう。
 それを示唆する様に、少女の隣に飾られていたマネキン達の周囲をよくよく見てみれば一般的な私服であったろうボロ布が端々に落とされていた。
 薄れる意識の中で、少女は想う。
「(本当に守れたのかな…)」
 意識を失った少女をマネキン達は表情無く取り囲み、闇の中へと連れ去る。
 後に残ったのは、無残に捨てられた衣服の切れ端と辺りに飛び散った血痕に血塗られたステージ。
 此処で何があったのか、説明はいらないだろう。
 だがカメラだけはそれを知っている。
 闇の奥へと消えた少女の末路…暗闇の先を映すレンズの先には果たして何が映るのか?。
 それはこの先を見た者だけが知る事だろう…。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

御形・菘
改変歓迎

はっはっは、妾、推参!
妾としてはやることは普段通りだのう
しかし、たまには用意されたカメラ、そしてバトルステージに乗るというのも新鮮で良いものよ
とゆーかむしろ、お主らは妾を満足させてくれるのか試してくれよう!

一斉に襲い掛かる脅威、それをド派手に迎撃する妾、さて最も映える場所はどこかのう?
狭所での順次迎撃も良いが、モールという立地を活かすならやはり大通路か
堂々と通路中央に陣取り、さあどこからでも掛かってくるがよい!

はーっはっはっは! 左腕の、尾の一撃によってド派手にブッ飛べ!
そして今この瞬間、カメラに映らん盤外戦術の類は一切無効化される!
邪神を討ち果たすのであれば、堂々と来るがよい!



●カメラは視聴した。
 動画タイトル:『妾が映画を録られてみた!邪心様討伐戦(妾が勝つぞ!)』。
 動画撮影生配信開始。

 暗雲の空、太陽射さぬ暗い影の日、そこに一つの影が降り立つ。
 ぬるりと影が伸びる、長く伸びた胴体の影、すらりと伸びた人影。
 異形のシルエットを持つそれはゆっくりと上体を高く起こし…。
 親指と人差し指を立てた、そして天を指差し…こう発する。
「はーっはっはっは!ショッピングモールに妾、推参!」
 それは一人の猟兵がショッピングモールの前にて一人口上を述べた瞬間だった。
 その顔はキマイラであれば誰もがピンと来たはず。
 キマイラの国民的スター、モグリでも無ければ彼女を一目見たはずだ。
 そう彼女の名は御形・菘(ごぎょう・すずな)。
 邪神様の通り名で有名な動画配信者である。
 そして当然、菘は独り言を言っている訳ではなく、頭上に浮かぶカメラマンに向かって口上を語り掛けているのである。
 それは、天地通眼、通称:天地と呼ばれる高性能AI内蔵の映像撮影用ドローンである。
 ふよふよと菘の隣で空中浮遊する天地、ただふよふよとしているのではなく、常に菘の姿勢に合わせて最適な角度を自動で調整しブレを最小限に抑えている。
 これのおかげで打ち寄せる波に体を合わせる様に菘の動きに合わせて視界を安定させ静止した動画画面となる。
 そのおかげで菘の配信は生配信であっても揺れる視界で酔う事のない三半規管に配慮したものとなっており生配信であっても問題がない。
 動画撮影の為に非常に高性能なドローンを使うという事が菘の動画映りに対する視聴者への動画配信意識が行き届いている。
 菘は指銃の様な手の形をとってドローンカメラに向かってポーズを取ると、今日の動画配信の趣旨を話し始める。
「今、妾の居るのはショッピングモールであるがの~今日の配信はショッピングじゃなく…さぁ何であるか皆の衆分かるかの?」
 クエスチョンという風にカメラに問いかけた後、一瞬溜めて勢いよく話す。
「なーーんと妾に映画撮影のオファーが届いての~~しかもオファー相手はオブリビオン!」
 上体を少し後ろに引いてすぐにカメラ前にアップで迫る菘、半蛇身特有のくねりを加えた体の動かし方である。
「まさしく猟兵でもある妾にもってこいの案件であるな、うむ!」
 うんうんと頷く菘は満更でもない様子。
「そして見給えよ、これこれ!光のカーペットってやつかのう~」
 見て見てという仕草で手招きしショッピングモールのライトアップをドローンカメラに撮影させる。
「いやぁ~妾もビップ扱いという事かの?演出を分かっとるの~」
 とVIP待遇であると言いたげにテンション上がるなぁ~という様子を示す菘。
「では行くとするかの」
 VIPならVIPらしくと気取った足取りで菘は歩く、その歩き姿をドローンカメラはくるりと周回しながら全周囲画面で見れる様に追従する。
 しゃなりしゃなりと人であれば見せる二本足の歩みの代わりに菘の蛇体が蛇行して動く。
 腰の動きと連動し菘のくびれの良さを強調する歩み方となり光のカーペットを行く役者として相応しい貫禄を見る者に与える。
 光のカーペットを抜けると道標となる様に置かれたマネキン達の姿が目に入る。
 ショッピングモールの入り口付近に置かれた道標となるマネキン達も菘の立ち振る舞いに心なしか見惚れている様な角度をしていると生配信の視聴者の中には錯覚する様に見える者も居たかもしれない。
「ほうほうこれが例のマネキンかの」
 静止したマネキンの一体をしゅるりしゅるりと蛇の胴体が取り囲みながら触れることなく観察する菘。
「事前の予告ではこれが動くとか…ふーむ本当かの~?」
 顎に手を当て観察するもこれといって変化はない。
「やはり舞台はこの奥深く、何事もそういうものよの~」
 するりとマネキンを避けて店内へと菘は入っていく。
 菘の背後のマネキンらはただ黙って彼女を見送る、影を暗くして。

 店内に進めば進むほど設置されたカメラが目に見えて数在る事が視認出来る様になってくる。
 一階から二階まで吹き抜けの構造になっている通路へとやって来てふと足を止める。
「ふぅむ、少し埃臭い事を除けば立派なモールじゃのう」
 菘は自身の背中に生える四対の羽を羽ばたかせて空気を多少なりともマシにしようとする。
 そして何かに気づく様に頭上を見上げる。
「それで隠れているつもりかのぅ~?臭いで分かるのぅ…曲者の臭いがのぅ」
 多少演技掛かった声色で呼びかける菘。
 そしてそれに答えるかのように二階からスッと立ち上がる様に姿を現す二体の影。
 どうやら手摺の腰壁部分にしゃがみ込む形で潜んで居た様だ。
 菘には何処が“編集点”となるのか手に取る様に分かる。
 何処に何を配置するのが“取れ高”になるか配信者目線の考え方が演出を理解している。
 伊達に“邪神様”として動画配信はやっていないのである。
「やはりおったか、ならさっさと下りてきて妾の相手をしたらどうかの?」
 早く来いと挑発的に誘う菘に応える様にその二体は彼女の眼前へと飛び降り立つ。
 それは冒険者が着る様な皮の鎧に身を包み、ショートソードを手にしたマネキン。
 命名するならば冒険者マネキンとでも形容出来る存在。
「ほう、お主ら…その恰好を見るに妾を邪神様と知っての出で立ちか?」
 冒険者マネキン達は無言でショートソードを構える。
「はっはっは…お主らはヴィランであるが、妾が“邪神”で“悪役”だと、だから妾を討伐する…“ヒーロー役”そう言いたいのであろう?」
 菘は演出の意図をつぶさに見抜いて指を指銃の様に立てて指摘する。
 その指摘に冒険者マネキン達はこれが答えだと言わんばかりに斬り掛かる。
「ならば“邪神様”として答えるのが道理というものであろう!」
 ショートソードの一振りをすんでのところで避けて、返し刀という様な形で菘は自身の蛇尾を鋭く振り抜き冒険者マネキンの胴を打ち貫く。
 キマイラの混合種とだけあってその筋力は凄まじく、細長く滑らかでありながらその蛇の尾は堅木の様な冒険者マネキンの胴をあっさりと両断する。
 胴体が二つに分かれて滑り転がる冒険者マネキンを前に後続の一体は一瞬止まるもすぐに構え直して斬り掛かる。
「それでは芸がないのぅ」
 と振り抜いた尾を素早く構え直して向かうもう一体に勢いよく刺し向ける。
 斬り掛かりの型では避ける間もなくもう一体もまた菘の尾によって貫かれ…数秒ぎこちなく人形の様にショートソードを振り上げようとするも、ぐたりと脱力する様に動かなくなる。
「これ!妾の尾に刺さったまま事切れるでない!」
 動かなくなった冒険者マネキンの体はそのまま堅木に尻尾を突っ込んだ様で当然ながらかなり邪魔であった、うんしょうんしょと手で菘は引き抜こうとする。
 その時、先ほど冒険者マネキンが飛び降りて来た片側のフロアからも。
 今までその瞬間を狙っていたのか、もう二対のペアマネキンが菘の背後を取る様に飛び降りてくる。
 背後からそれも宙からの上段斬りが菘を狙い落ちてくる。
 危うしか!邪神様!とそれを天地越しに後ろーと思わず視聴者は叫び見るだろう。
「はっはっは…なんての?」
 しかし菘はそれを読んでいたと言わんばかりに尾に刺さったマネキンをそのまま降ってきたマネキンへと遠心力を付けて抜く要領で放り投げてぶち当て壊す。
 さらに追撃と抜けた尾の勢いのままもう一方のマネキンをもぺしんと叩きつけて首を明後日の方向へと捻じ曲げ飛ばす。
「(今のはちょっと危なかった…)」
 内心では少し冷や汗を流しながらもクールな表情を保つ菘。
 生配信とだけあって天地の撮影する映像は今も流されている。
 不意打ち二連打を暴いて冷静に対処する、さすが邪神様、縮めてさすジャシという様な内容が菘の邪神様チャンネルフォームのチャット欄には書き込まれたりしてかなりの盛り上がりを見せ始めていた。
 それを見越してか菘は天地に向けて視聴者向けに言う。
「この先、ちまちまと狭い小道を行ってもあぁいった外道しかおらんだろう、それではつまらん」
「順次迎撃それよりやはり大通路大通り、通路中央にて待ち構え一斉にド派手に全て迎撃!どうじゃ映えるであろう?」
 本気(マジ)なのですか邪神様!視聴者も驚く大立ち回り宣言。
「とゆーかむしろそうでもなきゃ一々隠れてる連中を炙り出すのは妾メンドイ」 
 と本音交じりにもぶっちゃけながらその大胆さに視聴者も舌を巻く。
 あるいはさすがは邪神様!と視聴者の定着視聴が促されいよいよ生配信も盛況だ。

そして邪神様こと菘は宣言通りに大通路中央に潜みもせず堂々と姿を見せる。
菘は到着早々にため息を一息。
「妾相手にその手はお見通しである!」
 右腕をすぐ近くの壁面に向ける、するとめきりと音を立てて壁の裏に隠れていた冒険者マネキンが蛇の様な黒いオーラに咥えられて宙に浮き出させられる。
「今この瞬間より!カメラに映らん盤外戦術の類は一切無効化される!」
 そう宣言すると同時に宙に浮かぶ黒蛇のオーラに咥えられていた冒険者マネキンが勢いよく菘の眼前にて地面に叩きつけられ砕け落ちる。
 その瞬間周辺一帯に隠れ潜んでいた冒険者マネキンの群が一斉に姿を現す。
二階には弓持ちが一階には新たにメイスやナイフやらの武器を交えた冒険者マネキンが加わり列をなす。
「…邪神を討ち果たすという気概があるというのであれば…さぁどこからでも堂々と掛かって来るがよい!」
 天上天下唯我独尊之理というに相応しい存在感、周囲一帯をビリッと凄烈に作用するそれが冒険者マネキンの群の進撃を一瞬引き留める。
 その一瞬の隙を見逃すことなく先ほどから出していた八元八凱門の黒蛇の形をとるオーラを二階の弓持ちマネキンらにぶつける。
 噛みつき轢かれて迫り出され弓持ちマネキン達が次々と一階に落ちてきてひび割れて動かなくなっていく。
厄介な遠距離攻撃を持つ二階の冒険者マネキンが全滅してようやっと一階のマネキン達も突撃を開始する。
「私の左腕を味わせてくれよう!はーっはっはっは!」
 豪快な左腕の一撃によってちぎっては投げちぎっては投げ…これは比喩でもなんでもなくその通りの光景であった。
 もはや多勢で如何にかなる相手ではないのが誰の目にも明らかであった。
 邪神様フィーバー誰もがそう思った瞬間。
 …だが倒れ伏したはずの一体が悪足掻きの様に突如立ち上がる、仲間の残骸の中で死んだふりをして機会を伺っていたのか。
 冒険者マネキン達の屍を飛び越えてナイフの一撃が菘に刺さる…。
 あぁ邪神様!視聴者の誰もが目を覆い悲鳴を上げる。
「……」
 黙する菘。これで終わりなんてそんな、そんな…そう視聴者が思った瞬間。
「『当たり前に奇跡は起こる(ホープ・ウィッシュ・ミラクル)』」
 そう菘が呟きその皮を脱ぐ。
 蛇が脱皮するそれの様に菘は神々しい…いや邪神らしい肉体を露わにする。
「この腕は絶望を粉砕し希望を掴み取る…ド派手にブッ飛べ!」
 邪神を討ち果たせるなどという憐れなことに挑んだ冒険者マネキンは大通りを跨ぐほどの距離を吹っ飛び跡形もなく散った。
 これが邪神の力か…実は視聴者の力でもあった。
 スーパーパワーチャット、略してスパチャ、視聴者が配信者に自身のパワーを分け与える事で配信者の力を増大させるというシステム。
 菘の邪神様生配信の最中に加熱した視聴者達がコメントと一緒に投げていたのだ。
「(スパチャがなければ即死だったのぅ…)」
 実際油断していたのだが、ナイフ自体は菘の特注コスである蛇神闇装が引き受けており脱皮した様に見えたそれは衣装の一部で、今は下着状態の様なものである。
 菘自体は傷も受けていない、ではなぜ彼女が即死しかけたと思ったか…。
 それは下着の前掛けがナイフで剥がれて動画配信停止…アカウントBAN(禁止)されかけるという配信者の何よりの生命線が脅かされたからであった…。
「皆の衆の熱い想いが妾にそれを思い起こさせてくれなければあのまま(アカウント)が逝ってしまったかもしれなかったの~」
 スパチャによるブーストが掛からなければ…荒唐無稽かもしれないが、確かに“邪神様”は死んでいた…。
「感謝しとるよ皆の衆!」
 視聴者と邪神様の思惑に些か違いはあれど素直にそれを受け取った視聴者達は邪神復活!邪神復活!と喜んだのであった。

「ではこの後も、まだまだ動画撮影は続くから一旦撮影枠を録り直すからのぉ~枠移動よろしくの~」
 と録画データのアーカイブを移動する為に一旦天地の撮影は終了する旨を視聴者に伝える菘。
「それと『妾がいろんな世界で怪人どもをボコってみた』も好評配信中!それを見て待つが良い!」
 動画チャンネルの宣伝も無論欠かさない。
「後!妾の動画の高評価、イイね、フォローよろしく!」
 生配信の画面には配信動画の画面端に、必ず表示されてるデフォルメICミニミニ妾マークがチャンネル登録はこちらから!と表示されている。
「ちなみに、妾視点での戦闘の様子もアップ予定!その様子は是非サブチャンネルをご覧ください!」
 実は本人視点でも録っていた洒落た首輪に模した高性能マイク+アクションカメラである星囀謳歌を指し、さらに後々編集するであろう動画箇所に予め考慮して広告ボタンが表示されるであろう画面域にチェックチェックと指差しアピールもきっちりこなす。
 そうして一通り恒例の動画配信の締めを終える邪神様。
天地がアップロードを開始する間、辺りを見回す菘。
 菘はこの戦闘中あちらこちらに置かれた撮影機材を壊す事無く戦い抜いた。
 それが配信者としてのプロ意識か。
 どちらにせよ、オブリビオンのカメラは今もなお菘の撮影を続けている。
「妾としてはやることは普段通りだがのう…しかし、たまには用意されたカメラ、そしてバトルステージに乗るというのも新鮮で良いものよ」
 そう呟き菘は次の配信場所となるであろうさらに奥深くの暗闇の先へと向かう。
 邪神様の次の行方を知るのはチャンネル登録者となった視聴者だけである。
 チャンネル登録~陽気なメロディが静かなショッピングモールに響き渡った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

上野・修介
※改変歓迎
「……撮影、か」
正直、カメラに映るなんて柄じゃない。
だが放っておけば無関係な一般人に累が及ぶ可能性があるとなれば捨て置けない。

しかしながら、演技なんて以ての外。生憎パフォーマンスに使えるような派手な魔法の類もない。
出来ることは『動くこと』のみ。

「いつも通りか、行くか」

調息、脱力、場を観据え、周囲の地形状況、足場手摺として使えそうな場所とカメラ位置を確認。
得物:徒手格闘
UC:攻撃重視

こちらが『アクション』に臨む姿勢を示せば、相手方もそれに応じて動いて来るはず。
極力撮影範囲から出ない様に注意し、パルクールのような動きも混ぜつつ、襲ってくるマネキンを殲滅してながら進んでいく。



●カメラは見据えた、その名も無き拳を。
 目を閉じた一人の男がゆっくりと深く息を吸う。
 そして吐き出す息と共に余分な力を捨てる。
 開かれた瞳は真っ直ぐと眼前のショッピングモールを見上げた。
 その猟兵の名は上野・修介(うえの・しゅうすけ)。
 拳を握り、その手の力の入り加減を見る。
 今この場には戦いの為に訪れた。
 守るべき者の為に拳を奮いに来た。
 オブリビオンの予告状を看過せず自ら死地へと赴く。
 無関係な人々に奮われる暴力があるというのなら。
 例え可能性であろうと、放ってはおけない、そういう漢であった。
 歩んで行く行き先には眩しくライトアップされた入り口が見える。
 カメラがまるでチャレンジャーを捉えようという記者の様に所狭しに設置されている。
「……撮影、か」
 …柄じゃない、そう言いたげな視線の色が見て取れる。
 格闘技イベントの会場で選手が入場する様な華やかさがありながら、修介はそういった演出には気乗りしなかった、
 自分自身を特別視する気はない。
 チャンピオンの様に成りたいから鍛えているわけでもない。
 見る人が見れば一目で分かる鍛え上げられた肉体。
 それは鍛錬の為の鍛錬によって得たもの。
 唯、ストイックに肉体を磨き、技を磨き、心を磨く。
 純粋なる追求者。
 それが上野・修介という漢の在り方だった。
 そうして得た力が、常人より優れている。
 それならば力が無き人々の代わりに自分の力を使う。
 そういったことを自然と出来た、それを当然とも思った。
 だから自分は別に目立たなくてもいい、ただやれることをやっているだけだ。
 無償の奉仕、静かなる理念。
 修介は黙々とカメラに愛想を振ることもなく、ポーカーフェイスを貫き店内へと進む。

「…臭うな」
 それは単に埃臭いというのではなく、此処が見知ったアングラさを感じさせたからだ。
 彼には“喧嘩師”としての顔がある。
 自分は純粋な殴り合いに準ずる世界の人間で在るということを修介は冷徹に理解している。
 これまでに幾つもの鉄火場をくぐり抜けて来た。
 そして様々な場所を見て来た。
 だから理解出来る。
 此処は戦場だ。
 外面だけを取り繕った明るさは正道のみで示される、
 一歩、そう少しでも道を逸れれば容赦なく牙を向く。
 此処の明るさは誘蛾灯と変わらない。
 入り口の明るさとは対照的に薄暗くなっていく通路。
 複数の道筋であからさまに光の色合いを変えて誘う。
 まるで違法な地下闘技場の様な空気感だと修介は感じる。
 此処に来る者は客ではなく、見世物なのだ。
 カメラの死角に乱雑に置かれた撮影機材は、リングの中でしか人扱いされないダーティファイターの行く末を暗示しているかの様に。
 だからこそこういった場所には厳格なルールがある。
「……カメラ、か」
 あちらこちらに執拗なまで設置されたカメラの群は、まず間違いなくそのルールの一部だろう。
「柄じゃないとも言ってられないな」
 そう覚悟を決めてカメラと視線が合う。
「…悪いが演技なんて以ての外…だからいつも通りに行かせてもらう」
 カメラ映りを意識してもなおその表情に変化はなかった。
 歩みだした先には、怪しいネオンの光が見える。
 調息、脱力、場を観据え、入店前と同様に自身を整える。
 死地に向かう時も、危機へ向かう時も、この一連の所作は変わらない。
 全ての基本は基礎に通じる、達人はこれを良く分かっている。
 周囲の地形状況、足場、手摺として使えそうな場所、カメラの位置。
 それら全てを一瞬で見極める。
 これから起こるであろう戦いに常に気を配る。
 この一連の行いが時に生死を分けると知っている。
 そしてこれを継続して意識出来る人間だけが常に生き残り続ける。
 迷いはなかった。
 ネオンに彩られた区画へと足を踏み入れる。

 パッパパラパラパッパ~
 突如として辺りに軽妙なミュージックが流れ出す。
 周辺のスピーカーから流れているのだろうか。
 怪しげなネオンとの相乗効果もって不気味な印象に感じられる雰囲気だ。
「……」
 もっとも予め息を整えている修介にとっては鍛えられた心身を動じさせる程のものでもなかった。
 黙したまま周囲を伺う。
 陶器の木馬、アンティーク調の仮面、白塗りのピエロが大口を開けて笑うポスター。
 この区画の飾りつけはまるでサーカス小屋の様に装飾があちこちに飾られているのが見て取れた。
 そしてそれを証明する様に何処からともなくピエロの様なメイクと衣装で着飾ったマネキン達が現れる。
 命名するならばピエロマネキンとでも形容出来る存在。
 ピエロマネキン達はその場で行進する様な足踏みをしつつ両腕を左右に振りながら踊り歩いて来る。
 あっという間に修介の周りを取り囲み、ミュージックに合わせて踊りを継続している。
 修介は包囲されてもなお顔色一つ変えず静止し相手の動向を見に徹する。
 その態度を見てか、ピエロマネキンの一体が挨拶をする様に一歩前へと歩み寄る。
 さぁさぁこちらへ、そう促す様な身振り手振りで集団が動き出す。
 包囲を前に修介はその誘いに乗る様に歩き出す。
 つかず離れずの距離による牽制が水面下で言葉なく行われる様な歩みの交差。
 案内された場所は広場に設けられたサーカスイベントに用いられる様な特設ステージ。
 その一角だけはステージ上に設置された照明が眩しすぎるほどの光源で照らしている。
 壇上に上がりなよ、とそう言う様な手つきで来なよ、と言う素振りの手招き。
 修介はそれにも従い、静かに上がり、ステージ中央に促される。
 まるでピエロが観客席の子供を指名して芸を見せる様な手順。
 一体何を見せてくれるというのか。
 修介はただ目の前のピエロマネキンを見据える。
 修介の頬の傷の威圧感と視線の無表情さが相まってこれが普通のイベントなら指名したピエロでも思わず萎縮してしまう様な緊張感ある空気の色合い。
 しかしピエロマネキンは物怖じせずに挨拶口上を述べる様な立ち振る舞いを見せてお道化た動きを修介に披露している。
 周りのピエロマネキン達も観客席上の位置で半円上に広がり、拍手をして盛り上げる者、踊り続ける者、吹き戻し笛を吹く者とそれぞれピエロらしい振る舞いを続けている。
 変化の乏しい表情でそれを見続ける修介は何の感慨も無いという風にも見える。
 挨拶口上らしき振る舞いを言葉なくジェスチャーのみで示しパントマイムの様な無言劇を行い続けたピエロマネキン達。
 それがようやっと終わりを迎えたのか、不意に握手をしようと言う仕草を見せる壇上のピエロマネキン。
 それに応じるかのように修介もまた、手を差し伸べた。
 手と手が触れ合おうとした瞬間…。
 修介は素早くピエロマネキンの手首を捻り曲げ、そのまま投げ飛ばす。
 一瞬の腕力と流れる様な組む伏せの技巧の合わせ技が瞬時に行われ、ピエロマネキンも投げ飛ばされてもなお反応できない刹那の技であった。
 歪な形に曲がり叩き伏せられたピエロマネキンは一瞬の痙攣と共に手首から電流が迸る。
 それはよく見ればその掌には最初から電流を与える為の構造となっている、何を意図していたかは明らかだ。
「もういいだろう、茶番劇は…小細工を施すなら正面から掛かってこい」
 逃げはしない、そう体で示し、徒手格闘の構えを見せる。
 その瞬間ブツリとそれまで流れていた音楽が強制的に切られ、スピーカーのノイズを最後に沈黙する。
 そして全ての照明が一斉に落ちる。
 …辺りには静寂と闇だけが残る。
 心音一拍の間を置いて薄暗いネオンだけがもう一度光りを帯びる。
 再び光に照らされたピエロマネキン達は皆一様に斧を手にステージの壇上へと一斉に押し寄せていた。
 先ほどの陽気な振舞いの欠片など無く、明確な殺意を秘めながら、それでいて無機質な亡者の様に殺到している。
 先ほどまでこのステージだけは強い光源が照らされていた意味。
 人の目は暗闇に不慣れである。
 夜目に慣れるまでには光がかなりの時間離れている必要がある。
 それなのに一瞬にして暗闇となれば視認が追いつくことなどない。
 ましてや狡猾にもネオンの薄暗い明りだけは残されている。
 中途半端に残された光が暗闇への補正をさらに遅らせる。
 そしてそこに突撃する人影だけが認識出来る状況。
 普通の人間では恐慌状態に追い込まれ、なまじ対応出来ても目が相手の得物を認識出来ずに影となる。
 心理的に、肉体的に、双方を弱らす二重の罠。
 壇上に上がった一体のピエロマネキンが斧を振り上げ、修介の頭部へと勢いよく振り下ろす。
 辺りに脳髄が散らばるのか…。
 いいや散らばらない。
 斧の刃は修介の手の甲が堅牢に受け止めたからだ。
「『先生』がくれたグローブだ、ちゃちな刃は通さない」
 愛用の喧嘩用オープンフィンガーグローブの繊維が斧の刃を防ぐ。
 これはこのグローブがただ強固という訳でもなかった。
 刃を反らす技巧。
 刃というものは刃の芯で捉えなければ切り裂けない。
 だから刃の側面を衝く。
 一歩間違えれば自ら両断されに行くような危険な白羽取り。
 しかし敢えてこちらから受け止めに行く。
 刃の衝撃を相殺し刃の側面を打つ。
 刃は側面からの衝撃にさほど強い訳ではない。
 タイミングを合わせれば少量の力でも十分だ。
 調息、脱力、場を観据え、この繰り返し。
 既に位置関係は頭の中に入れていた。
 目が見えずとも間合いを把握していれば構わない。
 ひび割れた斧の刃を力を込めて押し返す。
 バリンと割れた刃が粉々に砕けて横薙ぎに散り散りに散らばる。
 打たれた刃の衝撃が持ち手を通してピエロマネキンの姿勢を崩す。
 その一瞬、ストレートで放たれた拳の一撃がピエロマネキンにクリーンヒット、観客席に殴り飛ばされて無様に動かなくなる。
 「アンタ達が見せてくれた“演技”の礼に俺も“アクション”で応えよう」
 パルクールの要領で自身の真上の照明に飛びつき、くるりと一回転してステージの屋根に飛び乗る。
 「(俺は派手な魔法の類などは持たない、だから出来ることは唯“動くこと”のみ)」
 ピエロマネキンの何体かが上を見上げて斧を投げる。
 それを見切り避けて群の中に突っ込む。
 斧を投げて手ぶらになったピエロマネキンを狙い据えて踏み潰す。
 すぐさま着地を狙って斬り掛かるピエロマネキンの一撃を避けてカウンターの拳。
 顔面から砕け落ちたそれを蹴り飛ばし後方に控える群に向けて巻き込み飛ばし時間を稼ぐ。
 さらに背後から斬り掛かるピエロマネキンに対して、踵だけを使った回転の姿勢反転。
 基礎の摺り足も極めれば即座の防御技巧となる。
 ジャブ、アッパー、ジャブ。
 斧を持つ手を潰し攻撃の手を防ぎ、顔面の視線を潰し回避の手を防ぎ、胴体を潰して、最後に確実に仕留めるコンボ打ち。
 また一体、力無く崩れ落ちる。
 ステージ上の狭さでは良い的にしかならない。
 だが、包囲されて抜ける事も出来ない。
 ならば、一瞬の隙を衝いて強硬に突破する。
 それも敢えてこちらに注目を与える事で攻撃の手をこちらから誘引する。
 先手を取れば、取られた方はその動きに対して必ず後手に回る。
 相手は応じなければならなくなる、それを利用する。
 左右にしか動けない場から、上という環境に登るだけで、手は左右上下と増やせる。
 群であっても同じ場に居なければそれは包囲足りえない。
 上下の概念は、相手の手を一瞬封じれた。
 そしてこちらに合わせて動いた者は無手となり、武器を失う。
 こちらは最初から徒手、それこそが最大の武器。
 一時的に得た優位は崩せても失って得た劣勢は覆らない。
 全ては最初から足場、手摺と確認していた時から想定していた事だった。
 既に活路は開いた。
 縦横無尽に動ける修介にとってショッピングモールという舞台は打ってつけの場で在った。
 苦し紛れに立ち上がったピエロマネキンの一体が突如大きく上体を反る。
 修介は本能的にそれが脅威であると感じる。
 同時に背後に残る二体が斬り掛かかり、立ち上がったもう一体が連携して掴み掛かって来る。
 背後の二体よりも先に正面の一体を見据え、こちらからも踏み込む。
 掴み掛る両手をそれぞれ関節を潰す形で殴り潰して押し退ける。
 そして後ろの一体からの斧の一撃をグローブで反らし、さらにジャブで押し退け隙を作る。
 そして振られた最後の一体の斧もまた捨て身で飛び込み、その手を握り潰して掴み止める。
 その一連の動作に辿り着いた時、上体を反ったピエロマネキンが急激な勢いで姿勢を戻すと同時に口部分から猛烈な勢いの火炎を吹き出す。
 もっとも近くに居た関節を潰されたピエロマネキンが直撃を受けてそのまま火炎に消し飛び。
 それでも止まらない勢いで押し退けられたピエロマネキンもまた半身を融解させながら吹き飛ぶ。
 迫る火炎に修介は咄嗟に目の前のピエロマネキンを踏み台に宙へと飛び退く。
 体勢を崩された上、その場に残されたピエロマネキンは当然、直撃を受けて消し炭となる。
 さすがの猟兵でもこの火力をまともに受けるのは危うい。
 だが、やることは変わらない。
 調息、脱力、場を観据え…。
 二撃目を撃つにも溜めが要るのは見て学習出来た。
 だから撃たせない。
 それでも拳がもう少しという一歩でピエロマネキンもまた溜めを完了して放とうとする。
「『――力は溜めず――息は止めず――意地は貫く』」
 『拳は手を以て放つに非ず』
  一撃に全てを掛けた攻撃一辺倒の拳は膂力を遥かに増して風圧さえも伴い放たれる。
 風拳というに相応しい一撃がピエロマネキンの放射を抑え込む様に顔面を貫き。
 そのまま飛び込む拳の二乗によって完全に顔面を粉砕する。
 それがマネキンで無ければ凄惨にその中身を散らしながら爆ぜたであろう一撃。
 ピエロマネキンは脳髄の代わりに顔面の亀裂や脆くなった関節の穴という穴から火炎を吹き出す。
 風圧によって内部に押し込められ逆流した火炎が内部を焼き尽くしとうとう溢れ出した。
 その場で焚火の様に燃えながらピエロマネキンは倒れ伏す。
 その炎の揺らめきが薄暗い室内に明かりを灯す。
 反射した炎の色が修介の瞳に映り込む。
 それは上野・修介という漢の静かな闘志を表す様に燃え上がり続けた。
 闘いは終わらない…“喧嘩相手”が居る限り、彼は進み続ける。
 闇の奥へと歩き出す漢の生き様を照らす様に炎は彼の背中を見送った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アノルルイ・ブラエニオン
残念ながら私は物語を紡ぐ側なのだがなぁ
まあ初めてではない、英雄として語られるのは

私はショッピングモールの
掃除用具売り場に向かう

まずは独白から始めよう
カメラに向かって
「私はアノルルイ、猟兵だ
今日はここを──

掃除しに来た

さて、突然だが諸君はシルキーという妖精をご存知だろうか」

シルキーは家事を手伝う妖精とされる
無論掃除も達者だ

UCを発動し召喚するのは彼女達だ
七人ぐらい居てもいいだろう!
売り物の掃除用具を使って隅々まで掃除し
ゴミを集めて貰うのだ
ゴミとは無論敵のことだぞ!
シルキーともなればモップやハタキの扱いは熟練の武術家の武技に匹敵するだろう
一ヶ所に掃き集めてゴミ箱にポイだ!



●カメラは語る、吟遊詩人の音色を。
「私はアノルルイ、猟兵だ」
 カメラに向かって独白を始める猟兵、アノルルイ・ブラエニオン。
「この世で不純な“ゴミ”と言えばキミなら何を想起するかな?」
「私なら“心無い語り手”を挙げよう」
「全ての物語には演者の魂あってこそ良作足りえる」
「それを上辺だけ取り繕って中身を軽んじる…」
「許せるだろうか…私は許せはしない」
「私は吟遊詩人として多くの人々の栄華を語ってきた」
「だからこそ言える事だ」
「物語とは人々の想いがあってこそ成り立つ」
「物語の為に人々が在るはずなど無いのだ!」
 アノルルイはオブリビオンが語った物語の在り方を真っ向から否定し吟遊詩人の矜持を語る。
「今日はここを──」
 カメラに映るショッピングモール。
「掃除しに来た」
 愛用の楽器を取り出すアノルルイの姿がカメラに映る。
「さて、突然だが諸君はシルキーという妖精をご存知だろうか」
「シルキーは家事を手伝う妖精とされる…無論掃除も達者だ」
「だからこそ“ゴミ掃除”には打ってつけの奏者と言えるだろう」
「『これより語るは……リアライズ・ファンタジー(吟遊詩人は幻想を紡ぐ)』」
 アノルルイは吟遊詩人らしく優美なる楽曲を奏でながらシルキーと言う幻想的な存在の物語を紡ぐ。
 するとアノルルイを取り巻く様に七人の貴婦人が彼の音色に惹かれる様に現れる。
「さぁ英雄の物語を奏でよう…悲劇のヒーローはいらない」
「…残念ながら私は物語を紡ぐ側なのだがなぁ、まあ初めてではない、英雄として語られるのは」
 そう虚構の物語が作られるぐらいならアノルルイという吟遊詩人は自ら英雄の座へと向かう。
 そういう男であった。
「だって私は吟遊詩人なのだから!」
 かくしてアノルルイ率いる七人の幻想貴婦人達の物語が奏でられる。

 ショッピングモールの店内カメラに映るアノルルイの姿。
「私が思うこの場の欺瞞、それはやはりこの鼻つまみならん環境」
「映り映えばかり気にして演者を労わらない空気感」
「故に名実共に掃除せねば」
「本来であれば相応に準備されてから呼ぶべきことだ」
 ショッピングモールの埃臭さを指摘するアノルルイ。
 それもそのはず、このショッピングモールは元々廃墟だ。
 オブリビオンのユーベルコードで着飾っただけの場。
 ならば自分らの手で本質そのものを綺麗にしよう、アノルルイはそう考える。
「シルキー達よ、麗しき貴婦人達よ、どうか手を貸してほしい」
 自らが召喚した彼女達に紳士的に振る舞うアノルルイ。
 七人のシルキー達は掃除売り場へと向かう。
「私達が代行するのだ、掃除用具ぐらいは用意してもらわねばな」
 そうオブリビオンに語り掛ける様にアノルルイは呟く。

 そうして辿り着いた掃除用具売り場。
 そこは掃除用具売り場というには不釣り合いな様相を見せていた。
 掃除用具に並ぶ様にあちらこちらの展示棚には絵画のレプリカが飾られ、その上から落書きの様にペンキで色が塗りたくられている。
 まるでこれこそが前衛芸術であり現代アートなのだ、そういう様に店内は汚されている。
 そして店内のあちこちに置かれたバケツの中には色を混ぜ込みまくった末に下品な黒に変色してしまった様な汚水らしきものが見て取れた。
「なんと汚らわしい場所だろう…」
 アノルルイは美の根底を理解しない輩の存在に嘆き憤りさえ感じる。
 それは何者の仕業か?それはすぐに分かった。
 バケツの汚水が、べちゃり、そう音を立てて独りでに倒れ込む。
 辺りに汚染色を巻き散らしながら汚水は這い上がる。
 それは人型の姿となり、冒険者の様な装束と武器をその身で形作る。
 べちゃり、べちゃりとそれらはアノルルイ達へと歩み寄る。
 命名するならば汚水の冒険者とでも形容出来る存在。
「なんと醜悪な姿…しかし掃除好きのシルキー達にとっては打ってつけとも言えよう」
 アノルルイは楽器を手に取る。
「さぁ美しき掃除人(スイーパー)達よ、その美技を魅せておくれ」
 アノルルイの美しい旋律に合わせシルキー達は踊る様に陣に就く。
 そしてそれぞれ手近な売り場のモップやハタキといった掃除用具をシルキー達は手に取り武具の様に構える。
 汚水で型取られた剣を槍を扱う様にモップの穂先で流す様に牽制し、棍棒の様に型取られた武器にはハタキで弾く様に受け止める。
 ただの掃除用具で対等に渡り合うそれはいずれも熟練の武術家の武技に匹敵する技巧である。
「まだまだこんなものではない」
 アノルルイの音色がさらに冴え渡る。
 するとシルキー達もアノルルイの音色に合わせて踊る様に陣を変え、掃除用具を扱う。
 アノルルイはただ音色を奏でている訳では無い。
 彼は指揮者なのである、戦場で兵士に指示を送る指揮官とアノルルイの旋律は大差ない。
 それはむしろ普通に指揮を送るよりも高度な技法だ。
 アノルルイと彼女らだけに通じる意思疎通。
 オーケストラは指揮者あっての楽団、楽器を弾けるだけの集団では調律の音色は生まれない。
 アノルルイの演奏に合わせることで初めてシルキー達の一流の武芸が一つの群として機能する。
 ばらばらに襲い掛かる汚水の群れではシルキー達の結束は揺るがない。
 アン・ドゥ・トロワ アン・ドゥ・トロワ
 一定のリズムがかちりと嵌り、汚水の冒険者達を抑え込み一か所へと追い込む。
「さぁ止めだ!」
 アノルルイの号令に合わせて円陣を組んで追い込んだシルキー達が一斉に汚水の冒険者達に掃除用具の突き刺しを見舞う。
 掻き乱され、形を維持出来なくなった汚水の冒険者達はたちまちただの汚水に成れ果て、その場に飛び散る。
 それを一滴も残さずモップで掬い取って元あったバケツへと叩き込むシルキー達。
「さぁ最後の仕上げ、出てきたまえ!美を解さぬ者よ」
 アノルルイが汚れた絵画の壁裏に投げ掛ける。
 すると隠れていた人影が姿を現す。
 芸術家らしさをみせる立派ではあるが作り物の付け髭、ちょこんと載せてるだけのベレー帽、薄汚れたスモック、手には汚水色に染まった刷毛を持つ。
 命名するならば似非者のペインターマネキンとでも形容出来る存在。
 ペインターマネキンは悪足掻きの様に刷毛を振り汚水を飛び散らせる。
 飛び散った汚水は宙で人型となり先ほどの汚水の冒険者の上半身となって形作った剣をアノルルイに振りかざす。
「ホー ヨー ヘー フム!」
 その剣捌きをステップで見切り避け、同時にそれはシルキー達への号令となってそれ以上の進撃を食い止める。
「私は吟遊詩人であると同時に射手でもあるのだ」
 そしてシルキー達が食い止めた一瞬でアノルルイはイチイの弓へと持ち替え、弓矢の連射を汚水の冒険者に叩き込む。
 原型を留めなくなるまで貫かれた汚水の冒険者がそのまま粘りのついた絵具の様に形を崩しながらペインターマネキンに降り注ぐ。
 全身汚水塗れになった挙句に弓矢の針山の様になったペインターマネキン。
「さぁお片付けとしよう!」
 シルキー達にアノルルイは号令を指す。
「一ヶ所に掃き集めてゴミ箱にポイだ!」
 ゴミはゴミ箱に。
 掃除用具売り物とだけあって人型でも入る大きさのゴミ箱が在る。
 そこにそれまでの汚水や汚れた絵画等と纏めてシルキー達の精密な動作で七連発の放り捨てが次々とペインターマネキンにぶち当たり。
 そのままゴミ箱へとペインターマネキンは突っ込まれて沈黙する。
整然とそれまでの汚れが無くなった掃除用具売り物。
「しかしまだまだ汚れはあるものだ」
「さぁ綺麗に、そして美しく、語り継いで行こう」
 アノルルイはそう言うと美し気な音色を奏でながら闇の中を紡ぎ歩んで行った。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『虚構王ペルソナ』

POW   :    君、いい体してるね?
演説や説得を行い、同意した全ての対象(非戦闘員も含む)に、対象の戦闘力を増加する【配役と衣装】を与える。
SPD   :    アーーーークッッッション!!
合計でレベル㎥までの、実物を模した偽物を作る。造りは荒いが【撮影セット】を作った場合のみ極めて精巧になる。
WIZ   :    ブラーボ! ブラーボ!
【歓声】を聞いて共感した対象全てを治療する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は襞黄・蜜です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 第二章
 ショッピングモールの奥深く。
 もはや一寸先も見えない闇の道を行く者。
 それは猟兵と呼ばれる。
 ようやっと歩き抜いた通路の先に。
 遠く漏れる光明は希望の灯台か絶望への誘蛾灯なのか。
 撮影中であることを示すカメラの赤いランプが誘導灯の様にぽつりぽつりと道の先に点在する。
 道標が捉え続けるのは何か?。
 猟兵の想いか力かあるいは演じられた正義か。
 この先へ行けば自ずと分かる。
 カメラ達が証人となって捉えてくれるだろう。
 辿り着いた行き止まり。
 加減なく電力を消費しているであろう光源のライトアップ。
 カメラには映らない死角となる辺り一面には血管の様に絡み合った撮影機材のスパゲティコード群。
 正面の壁面には大きく開かれた口内から覗く歯茎の様な角度でカメラが並べられて取り付けられている。
 口内に見立てられた様なカメラの壁面の正面、まるで喉奥へ通じる様な位置に扉が一つ存在する。
 その正面こそが『虚構王ペルソナ』 の居る最後の部屋へと繋がっているのだろう。
 他に入り口の類は無い。
 不意にその扉の頭上、その扉を口に見立てるならば位置的には目の位置。
 二つのプロジェクターが投影されて、虚構王ペルソナの姿を映し出される。
 その姿、光景は予告映像の時と全く変わらない。
「ブラーボ! ブラーボ!」
 開口一番に虚構王ペルソナは辿り着いた猟兵へ拍手と共に健闘を称える。
 猟兵が“歓声”を聞いて“共感”するならば“猟兵の傷”はまるで“存在しなかった”。
 そう虚構であったかの様に消え失せ、猟兵は体の疲労感さえも見失う。
 それを猟兵が、怪訝に思う、思わないにしろ虚構王ペルソナは語り出す。
「…アナタは私を訝しいと思うかもしれません」
「敵に与えるという行為は不自然と思うかもしれません」
「それは少し違います」
「私は物語の為に最良の品質を提供したいと思っている」
「主役と端役、どちらが重視されるべきか、分かりきった事でしょう?」
「主役なら主役らしいコンディションでなければ映えません」
「だからアナタが私の映画を完成させるまで何度でも私はアナタに与えましょう」
 そう言いながら虚構王ペルソナは自身の手元に小さなマネキン人形を出現させる。
 それは猟兵が戦ったマネキンに酷似した衣装を与えられていた。
 手の中でクルクルと廻るマネキン人形。
 虚構王ペルソナはもう片方の手から今度はまた違った衣装を出現させる。
 それら二つを一つに合わせるとマネキン人形もまたその衣装に適した姿へと変貌する。
「“配役と衣装”これは映画作りにおいてもっとも重要な要素の一つ」
「そしてそれを決めるのは監督次第」
「全ては私の掌の上で決められます」
「此処まで来れたアナタには十分に選ぶ権利があります」
「アナタが望む作品は何でしょうか?」
 そして虚構王ペルソナの背景が映される。
 無数に置かれたマネキン部屋。
 虚構王ペルソナが腕をさっと払う。
 すると払われた部屋の一室は真っ白な空間に為る。
 さらに数回、その動作を繰り返す。
 それは廃墟の病院に、それは海辺の浜辺に、それは宇宙の広がる月面に、それは夕暮れの中世の城に、為る。
 それは共通して一つの鍵穴を持った扉がモザイクの様に宙に存在した。
「人の数だけ物語が在る」
「素晴らしい…だからこそ私が紡ぐ価値が在る」
「アナタの物語を私が紡ぎ、そして一つの舞台に取り組みましょう」
「アナタは私の作品の中で永遠となるのです」
「…クライマックス撮影と参りましょうか」
「アナタが私の作品と為るのか、私がアナタの作品と為るのか」
「それでは…」
 “ACTION”
●REC最終テイク撮影開始。
御形・菘
『人々の記憶の中で、妾の活躍は永遠となる』
なるほどお主の望むモノは、妾とまったく同じなのかもしれんな

右手を上げ、指を鳴らし、スクリーン! カモン!
はーっはっはっは! 今日も元気かのう皆の衆よ!
此度、最強の邪神に挑むのは虚構の王!
妾にも、そして勇敢なる者にも、歓声を! 喝采を! 存分に浴びせてくれ!

皇帝、帝竜、魔王に略奪者、その他諸々! 
あらゆる世界で巨悪をボコる! この神殺しの左腕で、妾は常にそうしてきた!
お主もその一人に加えてやろう!
さあ、見る者すべてを心躍らせる、最高のバトルを繰り広げようではないか!

配役は決まっているが、衣装はお主に任せよう
魅せる術を心得たもの同士、そこは信頼しておるぞ?



●フィルムラベル:『邪神様』。

「『人々の記憶の中で、妾の活躍は永遠となる』」
 闇の中から声が響く。
「そしてお主の目的もまた作品の中で永遠となる」
 闇から進み来る者の眼光が爛々と怪しく現れる。
「なるほどお主の望むモノは妾とまったく同じなのかもしれんな」
 照明の光が半蛇身のシルエットを浮かび上がらせていく。
「確かにそうかもしれませんね」
「だからこそアナタは私の“映画”の元へ現れた」
 虚構王ペルソナは立ち振る舞いを変える事なく“邪神”を出迎える。
「お主も妾のファンと為るか?」
 邪神が問う。
「私にとってはアナタは演者だ」
「邪神を演じる…“蛇神”…御形・菘」
 虚構王ペルソナはその問いにそう答えた。
「そうか…同じ道は歩めぬか」
 残念そうに菘はペルソナを見る。
「この世界の大半は録るに足らない物語の連続に過ぎない」
「アナタも同じ“表現者”なら理解るはずだ」
「“我々が”手に取り挙げるからこそ際立つ…例えそれを悲劇として魅せ様とも」
 ペルソナは自身の手元で弄ぶ様に小さなマネキン人形を浮かせて菘に見せる。
「お主の信念を否定したくはない…しかしやはりお主とは根本が違えているのぅ」
「妾の配信に無辜の民の嘆きは存在せぬ」
 菘はそう返答する。
「大衆が、愚衆が、求めるのはカメラの中の虚構に過ぎない」
「それでもアナタが編集した動画、あるいは私が紡ぎ出す映画…」
「証明しましょう、どちらが優れているか…魅せ合うとしましょうか」
 虚構王ペルソナが自身のユーベルコードを展開する。
「はっはっは面白い!ならば魅せてみよ!」
「“配役”は決まっているがのぅ、衣装はお主に任せようではないか」
 “邪神様”は敢えて虚構王ペルソナのやり方で応じる。
 虚構王ペルソナが頭上にモザイクが掛かった扉を出現させる。
「この先、邪神を討つ者在り、それでも?」
 虚構王ペルソナが菘の眼前に扉を下ろし置く。
「魅せる術を心得たもの同士、そこは信頼しておるぞ?」
 挑発染みた提案さえも菘は受け入れ、邪神の風格でもって答えて魅せる。
「ならば私は紡ぎましょう、この舞台を、この映画を」
「…さぁどうぞ『邪神様』」
 それに応じ、菘が右手を上げ、指を鳴らす。
「スクリーン! カモン!」
 空中に無数のディスプレイが映り現れる。
 そこには邪神様の生配信視聴者達の歓声を挙げて見守る姿が在った。
「はーっはっはっは! 今日も元気かのう皆の衆よ!」
 いつもの調子で邪神様は視聴者達に挨拶する。
「此度、最強の邪神に挑むのは虚構の王!」
「あらゆる世界で巨悪をボコる! この神殺しの左腕で、妾は常にそうしてきた!」
「皇帝、帝竜、魔王に略奪者、その他諸々!お主もその一人に加えてやろう!」
 天地が指差す菘の目線を捉える。
「さあ、見る者すべてを心躍らせる、最高のバトルを繰り広げようではないか!」
「妾にも、そして勇敢なる者にも、歓声を! 喝采を! 存分に浴びせてくれ!」
 掴みは抜群、視聴者達が湧き上がる。
 それに合わせて虚構王ペルソナは扉を開く、そしてその先へと消え入る。
「妾も行くとしよう!」
 躊躇う事無く菘は扉の先へと飛び込んだ。

 菘が次に目を開けた時、そこは暗闇だった。
 いや、厳密にはそれは閉じられた空間であった。
 邪神様には似合わない空間だ。
 そう菘が思った瞬間には、既に彼女の左腕は手を打っていた。
 派手に宙を舞う棺の蓋。
 菘が居た場所、其処は棺桶の中であった。
 開かれた棺の中から辺りを見回す。
 松明に囲まれ、炎の灯りだけが辺りを照らす。
 それはピラミッド型祭壇の最上段。
 神殿か何かの様でもある。
 周りに居たのが略奪者然とした集団でなければ神々しさが際立ったろう。
 金銀財宝と明らかに身分不相応の装飾品を身に纏う形で持ち出そうとする集団。
 物騒なククリナイフを腰に下げ、手元の松明でより多くの財宝をと物色する。
 それらは皆一様に顔面をモザイクで覆われた存在であった。
 命名するならばモザイク略奪者とでも形容出来る存在。
「邪神様の祭壇に侵入者有りと、そういうシチュエーションかのぅ」
 状況を大まかに理解した菘が神殿の地に降り立つ。
 それと同時に副葬品の様に仕舞われていた天地が棺から飛び立つ。
 スクリーンもまた邪心様の姿を捉える。
 棺の中は王家の財宝といった豪華な副葬品が垣間見え。
 菘の衣装も古代の王女に相応しい装飾品と古びたミイラが纏う様な包帯が巻かれている。
 その菘の姿に気づいたモザイク略奪者達は松明の灯りを彼女に向けて一斉にナイフを抜いた。
「邪神様のお目覚めである!肩慣らしと興じてくれよう!」
 菘は邪神らしく仁王立ちで待ち構える。
 右から左から斬り掛かられても動じる事も無い。
 両手を使う必要も無い。
 何故なら菘は蛇体を持つ身。
 腰の一振りで猛烈な尾の一撃を振るえる。
 一度の動作で同時に二体の影が刎ねられた。
「何処からでも来るがいい」
 その余裕は確かなものがある。
 飛び道具でも無ければむしろ四方に開けた祭壇は尾の振り回しに最適な地の利が在った。
 だからこそ数だけに物を言わせたモザイク略奪者達の襲撃は尾を右に左に振るうだけであっけなく鎮圧出来てしまった。
「他愛ないの~まぁ良い次の演出に期待するとしよう」
 転げ落ちた様に辺りに散らばる影を後に、菘は祭壇を下りていく。
 一段、一段と下りる事に菘の身を纏う包帯が自然と解けてより妖艶な装束へと変わっていった。
 立ちふさがる重厚な二つ扉を両の手で押し開き、先を行く。

 石造りの空間が眼前に広がる。
 石柱が連なり廊下を形成している、中世の城作りの内装が見て取れた。
 壁に掛けられた松明の灯りは順々と遥か先まで広く一本道を通している。
 その先に佇む人影の集団。
 こつりこつりと菘の方へ向かってくる。
 軽装の革鎧装束、狩猟弓とナイフを持つ者が二人、標準的な鎧とヘルムを被った剣と盾を持つ者一人、ウィザードローブを身に纏い魔法触媒らしき杖を持つ者一人、冒険者服とクローク一枚を羽織り、半身と同じ程の巨大なグレートソードを担ぐ者一人。
 それらはいずれも皆一様に顔面をモザイクで覆われた存在であった。
 命名するならばそれぞれ順に狩人、盗賊、戦士、魔法使い、勇者、モザイクとでも形容出来る存在。
 これまでのマネキンとは一味違う雰囲気を空気感からして漂わせている。
「いよいよもってこの“邪神様”を討ちに来た様じゃの~さながら“勇者御一行様”…といった所であろう?」
 相手の配役を見抜き、菘の衣装もまた魔王然とした威光ある輝きを持ち始める。
 対峙する両者。
「何処からでも掛かって来るがよかろう」
 邪神らしく菘は両手を広げて先手を譲る。
 それを合図に勇者御一行は一斉に散開して菘の元へと襲い掛かる。
 狩人モザイクが走り距離を計りながら牽制の矢を放つ。
 菘は右へ左へその場でコブラ踊りの様な動きで矢を躱す。
 その回避の間に近接職のモザイク達が距離を詰めて走り寄る。
「ただ踊り魅せるだけではつまらんであろう?妾からも飛ばして行くぞ!」
 ベリーダンスの様に妖艶な舞踊を維持しながら菘が宣言して一回転。
 廻りきった瞬間に合わせて菘の影が蛇の形へと移り変わり飛び出していく。
 八元八凱門、邪神の黒きオーラが大蛇と成して勇者御一行に牙を剥く。
 前列で盾役を買って出た戦士モザイクが盾を抉られそのまま吹っ飛ばされる。
 しかし戦士モザイクのディフェンスで勇者モザイクは大蛇の軌道から抜け出し。
 同様に避け抜けた盗賊モザイクがすれ違いざまにダガーナイフを大蛇へ投げ刺す。
 ダガーナイフが大蛇の影元に刺さると同時に地面に引っ張られる様に大蛇そのものの動きが鈍る。
 それに呼応して魔法使いモザイクが杖を掲げて魔術を行使。
 ダガーナイフを起点とした魔方陣が現れ大蛇を地面の影へと縫い留める。
「なんと!妾の邪神オーラを止めるか!?」
 ただ連携が取れているだけでなく実力を伴うのは、それまでのマネキンよりも遥かに高度な手駒であるとまざまざと示す。
 菘がピクリと気を取られた刹那に狩人モザイクが抜け目なく弓を射る。
 だが菘の軟体は枝垂柳の様に反り、矢を避けて直ぐに元の体勢に戻る。
 元の体勢に戻る一瞬、跳ねる視界の中で菘の眼前を飛び越えた矢がコンクリートを削る銃弾の如く柱の支柱を削り飛ばすのが見て取れた。
「いや、いくら何でも今のはヤバいであろう!」
 狩人モザイクが本気で射る矢は十分にキマイラの肉体を射抜く威力を持ち得ている。
 例外は彼女の強靭なる左腕ではあるがそれ以外の部位に当たればキツイと菘は直感した。
 しかし防御に思考を割く間に勇者モザイクもまた大剣のリーチを生かして振りかぶって来る。
 菘は自身の蛇尾をスプリングの様に撥ねて一気にその場から飛び退く。
 大剣故に機動は遅いが威力は絶大、菘が避けた先の地面は勢いよく弾け飛ぶ様に抉り潰される。
「邪神を討つ者と評するだけあって中々やるではないか!…ならばこちらもテンションをアゲていくかのぅ!」
 それまで受けの姿勢であった菘が左腕を構える。
 勇者モザイクが軌道を修正しニ撃目の振り切りを菘へ向ける。
 それに合わせる様に菘もまた左腕を殴り向ける。
 当たれば一撃必殺のグレートソードに匹敵する左腕に勇者モザイクが咄嗟にそのまま斬るのでなく剣でもって払い避ける軌道へ修正する。
 真っ向からのぶつかり合いを避ける形を取ったにもかかわらず剣が受けた衝撃の余波だけで勇者モザイクが吹っ飛びその体で支柱の一本をへし折りながら倒れ込む。
 魔王級の腕力に匹敵する勇者モザイクでさえも本気を出した菘の左腕には敵わない。
 咄嗟に威力を殺す事に全力を掛けた必殺級の防御でなければ消し飛んでもおかしくない一撃であった。
 戦列に出来た空きを即座に埋めに戦士モザイクと盗賊モザイクが間に割り込みカバーに入る。
 最初の盾役を買って出た時に盾を失っていた戦士モザイクには防御力が不足していた。
 菘の視線が合うと同時に振り上げた尾の一撃が戦士モザイクの剣を搔い潜り的確に胴を打ち捉える。
 盾があれば致命傷は避けられたが無いのだから防ぎ様も無い。
 跪く様に地面に押しつぶされた戦士モザイクは剣を落とし、絶命した様子で動かなくなる。
 隙の隙を見出し抜く事だけに特化した機動で盗賊モザイクが宙を駆けて無理矢理に菘の元へ何かを投げ入れる。
 盗賊モザイクの地に足つかない攻勢を菘の左腕が薙ぎ払う。
 菘の左腕は投げ入れられた物ごと、盗賊モザイクの横っ腹を殴り飛ばしてしまう。
 壁にぶち当たりながらも収まらない勢いでそのまま地面を二度撥ねながら転がった後、盗賊モザイクはボロ屑の様に沈黙しピクリとも動かなくなった。
「むっ!これは毒粉か?…捨て身の覚悟で来るとはやるではないか」
 自身が廃れる事を覚悟し、例え防がれようとも確実に残せる手段を盗賊モザイクは遺して逝った。
 神経毒の類か、少し吸っただけで若干力が弱まる。
「しかし妾を止めるにはちと少ない!」
 力が弱まり始めるのなら弱まりきる前にゴリ押せば良いと力押しで菘が進む。
 魔法使いモザイクは菘の邪神オーラを押し留めるのに注力していて戦力にならない。
 狩人モザイクの連携前提の弓捌きは菘に防御に徹しさせるほどの阻止力が無く攻勢に出る余力を生ませてしまっている。
 残された遠距離職では菘の進撃は止められそうにない。
 菘は進む途中で戦士モザイクの落とした剣を尾で拾い上げて狩人モザイクに威圧感を迸らせながら投げつけた。
 投擲自体は少し勢いが無いが、天上天下唯我独尊之理、凄烈に作用する圧倒的な存在感に幻視する様に狩人モザイクは避ける事を優先する。
 作用の強烈さとは裏腹にステップ一つで避けられる投擲。
「甘いのぅ!お主らのやり方、忘れたか?」
 剣を避けた先には魔法使いモザイクの姿…最初から狙いはそちらで、菘は脅しの一喝で連携重視の輪から一瞬目を背けさせていた。
 前衛能力の無い魔法使いモザイクではただの剣の一振りが刺さっただけでも致命傷だった様で。
 胸元から刺さった剣を項垂れる様に見ながら魔法使いモザイクは手元の杖をカランと握力を失くし落とすとそのまま倒れ伏して動きを止める。
 それを防げなかった狩人モザイクは…覚悟を決めた様に弓を引く。
 相打ちでも当てれば確実に一撃となる一矢。
 しかしそれが放たれる事は無い。
 魔法使いモザイクの拘束から自由となった大蛇の影が驚くべき速さで狩人モザイクに齧り付きそのまま宙に放り投げた。
 狩人モザイクは地面に呆気なくぶつかると、だらりと関節さえも動かない形状となって息絶える。
「ふぅ、これでようやっと終いかのぅ?」
 体に回り出した毒に眩暈を覚える菘。
 思わず腰を落とす。
 次の瞬間、柱が斬り落とされて粉砕される。
「おわぁ!?」 
 さすがの邪神様でも肝を冷やして、床を這う様に滑り抜け出す。
 蛇体を持つおかげでその歩みに動作のロスが無い。
「そういえばまだ残っておったではないか!」
 切断された柱の陰から勇者モザイクが姿を見せる。
「しかし一騎打ちならば…」
 弱っていようと問題ないと言おうとした瞬間、咆哮が響き渡る。
「…この咆哮は」
 帝竜、それに酷似した竜が猛然と飛び込んで来る。
 正確に見捉えるとそれはモザイクで覆われ貌を無くした帝竜の様に見える。
 モザイク色の炎を吐き出しながら喰らいついてくる。
 モザイク帝竜と言うべき存在か?
 咄嗟に菘は自身の大蛇のオーラでモザイク色の炎を防ぎモザイク帝竜の首元に尻尾で巻き付き締め付ける。
 モザイク帝竜は暴れながら飛び回る。
 菘は振り落とされない様にそのままモザイク帝竜の首元を滑る様に這い上り騎乗する様にしがみ付く。
 振りほどけないとなるやそのままぐんぐん速度を上げて城壁を粉砕し、モザイク帝竜は空を駆ける。
「まったく無茶苦茶するのぅ、しかし嫌いではない!どうどう!」
 モザイク帝竜を暴れ馬を制する様に菘は完全に自身の蛇体でもって手綱としていた。
 そして拡がるのは、夕焼けに染まる空、真下には半壊した城跡、そして広大な大地には…埋め尽くす軍勢の姿。
「あれは…皇帝であるか?」
 何処か見覚えのある姿、しかしそれもまたモザイクに覆われて伺いしれない。
「妾を満足させようと至れり尽くせりであるのう」
 いよいよもって疲労も困憊、さらに邪神包囲網までもが極まった状況にありながら我らが邪神様は悠然と構えた。
 虚構王ペルソナが虚空に現れる。
「邪神の終わりとはいつもこうなるもの」
「アナタの編集の範囲で出来る事には限りがある」
「しかしオブリビオンと為ればいつでも其処に過去という永遠があるのです」
「アナタもその理に組み込んで差し上げましょう」
 虚構王ペルソナが指揮を執る様にカメラを録る様に合図の手を挙げる。
「…皆の歓声、応援、高評価ポイントや笑顔」
 菘が邪神様としてニヤリと笑い言う
「唯、映画を録るだけでは得られん永遠は確かに在る!」
 邪神様が天を指して言う
「『お主にも見えるであろう、聞こえるであろう? この感動を背負い、後押しされる限り、妾は最強無敵よ!』」
 その瞬間、虚構王を追いやる程の【生配信視聴者が映る無数の空中ディスプレイ】が空を覆いつくす。
 視聴者達はずっと邪神様と共に在った。
 肌で感じる視聴者達の熱量がスパチャとなって邪神様の元へと集う。
「これが生配信の強みよ」
 体の毒素が湧き上がる力に癒され、邪神様の装束が赤く神々しく光を帯びた赤スパチャの力に包まれていく。
「ならば!今すぐカットするまでだ!」
 視聴者達の生配信の熱量に圧された虚構王ペルソナが叫ぶ。
「生配信は止められん!!!!」
 菘の左腕の元にアーダーライトが現れ、それを菘は邪神様として掴み取る。
 ソーシャル・レーザー、視聴者のスパチャがそのままスーパーチャージエネルギーとなって充電されていく。
「アーーーークッッッション!!」
 虚構王ペルソナが足掻き、モザイク帝竜とモザイク勇者に指示を出す。
 いつの間にやらモザイク帝竜の尻尾に掴まっていたモザイク勇者がそのまま振られた尻尾によって投石器の様に菘の元に大剣を振り上げて飛んでくる。
「はーっはっはっは!しかーし!邪神様には追い付けんよ!」
 非常に頑丈なアーダーライトを鈍器代わりにモザイク勇者を殴り返して宙を舞う。
「『喝采よ、妾に降り注げ(エール・スクリーンズ)』」
 落ちながらアーダーライトの充電が完了を迎える。
 それを抑え込もうと、虚構王が、帝竜が、皇帝と軍勢が、一斉に邪神の元へ手を伸ばす。
「『邪神様のお通りだ』」
 眩い閃光がアーダーライトを通して世界を映す。
 虚構で彩られた世界が本来在るべき姿へと為っていく。
 塗り潰されていく世界、ぐるりぐるりと邪神様が、世界を廻す。

 世界に邪神様の光あれ!。

 彼女は高笑いとともに現れる!。
 『妾がいろんな世界で怪人どもをボコってみた』好評配信中!。

 暗がりに光が点る。
 シアターが歓声に包まれる中。
 一人のキマイラが席を立つ。
「まだまだ配信しなきゃならない世界は多いからの~」
 配信者は多忙だ。
 邪神様が“邪神様”として振る舞う限り、その全てが上映会に等しい。
 ふわりと撮影用ドローンが彼女の後を追う。

大成功 🔵​🔵​🔵​

上野・修介
※改変歓迎
「『歓声』は不要だ。あの程度で消耗するほどヤワじゃない」

相手は正しく『舞台』の構築に長けている。
下手に乗せられれば抜け出すのは難しいだろう。

「舞台も演出もそちらの好きしろ。撮りたければ勝手に撮ればいい」
俺は自身の『役目』を果たすだけだ。

――恐れず、迷わず、侮らず
――為すべきことを定め、水鏡に入る

調息、脱力、戦場を観据える。
目付は遠くの山を観る様に『虚構王ペルソナ』を中心置きつつも広く、敵の数と配置、周囲の状況を把握

小細工無し。真っ向勝負。
最短を測り、最速で間合いを殺し、障害があるならば何であろうと拳で砕く。
そして『虚構王ペルソナ』に持てる渾身を叩き込む。

「推して参る」



●フィルムラベル:『拳は語らない』。

 音も無く、表情も無く、一人の男が闇の中から歩み出る。
「ブラーボ!…ブラーボ」
 独りの歓声と乾いた拍手が虚構に響き渡る。
「アナタという猟兵を招待して良かった、これ以上にない画が録れましたからね」
 対峙するのは虚構王ペルソナと上野・修介。
「『歓声』は不要だ。あの程度で消耗するほどヤワじゃない」
 態度に変化無く修介は言い放つ。
「ご謙遜なさらずともアナタは称賛に値する闘いぶりではないですか」
「アナタがその気になれば帝王にさえ成れる逸材」
「何なら私がプロデュースしてあげてもいい」
「その力を思うがままに振るえばいい、そうするだけで世界はアナタに跪く」
 虚構王ペルソナが熱心に身振り手振りで表しながら勧誘する。
「…興味が無いな」
 その素っ気ない返答には心の底からどうでもいいという興味の無さが見て取れる。
「本当に欲の無いお方だ」
 ペルソナは脈無しと見るとなんとも惜しいものだという態度で足組みを変え直している。
「ならば致し方ない、私のやり方でアナタを録り直すとしよう」
「私の作品を通してアナタを組み直して差し上げます」
「アナタに相応しい闘争の舞台を用意しましょう」
 虚構王ペルソナは頭上に扉を出現させ、修介の眼前に突き落とす。
「舞台も演出もそちらの好きしろ…撮りたければ勝手に撮ればいい」
 微動だにせず修介は佇んでいた。
「オブリビオンと猟兵…録るか獲られるか」
「どちらにせよ、最後に立つのは一人」
「これより先は、ギブアップ無しのデスマッチ、それでも?」
 行きますか?と虚構王ペルソナは挑発的に促す。
「俺は自身の『役目』を果たすだけだ」
 言葉数少なく、しかし確かな意思を持って修介は答える。
「ならばゴングを鳴らすとしましょう」
 蠢くモザイクが扉全体に広がりその先に広がる世界の門となる。
「最終ラウンドにはアナタの肉を断ち骨を断ちうる者在り」
「さぁ魅せて頂きましょうか私が紡ぐに相応しい闘いぶりを」
 虚構王ペルソナが扉の鍵穴に触れるとモザイクとなって消えていく…そして開かれる扉。

 相手は正しく『舞台』の構築に長けている。
 下手に乗せられれば抜け出すのは難しいだろう。
 それでも上野・修介という漢は先へ進む。
 漢に二言無く、背中は見せない。
 小細工無し。真っ向勝負。
 ――恐れず、迷わず、侮らず
 ――為すべきことを定め、水鏡に入る

 調息、脱力、戦場を観据える。
 目を開く、其処に広がる世界。
 真空、果ての無い闇、雪の様に柔らかい足触り、火薬の様な匂い…それこそが月の香り、月の匂い。
 此処は紛れもなく月面そのものと見える。
 これは虚構の世界かあるいは本当に転移してきたのか。
 招き入れた当人の姿を探す。
 遥か遠方に月の山々が連なるクレーターの中心点。
 虚構王ペルソナは来る前と同様に虚構王ペルソナディレクターズチェアに足を組んで座っている。
 その背後には青い地球の姿がまざまざと見えた。
 虚構の世界だからか、猟兵であるからか、不思議と息は続く。
 周囲の状況を把握し、敵の姿を探る。
 虚構王と修介のやり方は真逆だ。
 修介が小細工無しで挑もうと虚構王は必ず小細工を施す。
 録る事に執着する者と語らぬ者、水と油の様に相反する。
 天を仰ぐ様に宇宙を見上げる。
 キラリと光る反射を修介は見逃さない…やはり居た。
 猟兵として研ぎ澄まされた視力が月の軌道上に点在する隕石群を捉える。
 隕石群の中に紛れ込む様に人工的な衛星が隕石に擬態する形で修介の方を向いている。
 それは明らかに隕石型の衛星で、そしてカメラとして機能するレンズが見て取れる。
 距離こそ遠いけれども油断は一切出来ない。
 最短を測り、最速で間合いを殺し、障害があるならば何であろうと拳で砕く。
 やることはどんな場所であろうと変わらない。
 一流の闘士は環境に左右されず、己の武を留められる事は無い。
 月の重力の軽さが猟兵としての身体能力と相まって一歩跳ねるだけでビルの一つ二つは優に飛び越える脚力となる。
 しかし弾ませすぎれば月面を離れて宇宙の果てへと飛び出しかねない。
 慎重さと大胆さ、その両方を必要とする走法が必要であった。
「(水面を歩く様なものか)」
 体感だけで修介はいとも簡単に月面の重力に適応する。
 踏み起こした月のダストに包まれるよりも速く、ただ真っ直ぐに飛び跳ねる様に修介は走り続ける。
 月面に障害物など何もなく、このまま走り続ければものの数分で虚構王の元へと辿り着く。
 しかし修介の予想通りに邪魔が入る。
 音も無く、頭上から落ちてくる影。
 一歩前へ、フェイントを掛ける様に修介は飛び跳ねる軌道を手前で変える。
 修介は足を止めずに飛び跳ねる光景の中、横目に落下物を視認する。
 それは確かに隕石の一つに違いなかった。
 頭上から落下してきた隕石、ただの偶然なはずも無い。
 備える様に頭上に意識を向け、注視する。
 隕石型の衛星カメラ、それらの群の一部が移動してきている。
 だがそれだけではない事も修介の洞察力は見抜いていた。
 カメラはカメラでしかない、虚構王ペルソナならば撮影器具を破壊してまで利用はしない、カメラは録れなければ意味が無い。
 だからカメラそのものは突っ込んできていない。
 ならばカメラが必ず映すものがある。
 修介に当てる事を意図していたならその瞬間をズームするだろう。
 それぞれのカメラの角度を推測し、そして見つけ出す。
 隕石群の中に動く影、隕石の背面に隠れ、ほんの少ししか露出する事の無い影。
 また一つ落ちてくる隕石の一つ、その裏側から跳ねる影。
 それは間違いなく人影で、見覚えがあった。
 宇宙飛行士が着用する宇宙服。
 バイザーは真っ黒で顔は伺いしれないが…敵だ。
 あれが隕石を押し出し蹴り出し、修介の元へ落としている。
 対処する必要がある。
 それとも走り抜けるか?。
 修介はそのどちらも選択する。
 方法は単純明快、落ちてくる隕石に合わせて拳を振るい潰す。
 ただ少し工夫する、隕石の礫が飛び散る方向を宇宙服の元へと弾いたのだ。
 猟兵の力と無重力の加速力が加わり、礫はまるでスナイパーライフルの様な威力と射程力を伴いながら散弾の様に広がる徹甲弾となって進むのだ。
 つまり礫の三式弾といえるものが宇宙服の元へと降り注いだ。
 全身を貫く礫に押されて宙へと飛び出る宇宙服。
 飛び出る中身は臓物で無くモザイクの靄の様な何かであった。
 そのまま無重力の推進力によって何処か遠くへと消えていく宇宙服。
 命名するならばモザイク宇宙服とでも形容出来る存在。
 その一体を討った瞬間、辺りの隕石群が一斉に動き始める。
 正確にはそのどれもが隕石の背面に隠れていたモザイク宇宙服達に押され、修介の元へと狙いを定め始めたのだ。
 一つ二つでは済まない量ともなれば四方八方から飛んでくる。
 礫割りをするにも人間の構造上、物理的に死角が生まれてしまう。
 それをどうするのか?。
 修介は敢えて大きく跳ねた。
 宙に滞空する時間が長い程、隙も大きくなる、当然着地する瞬間は無防備になるだろう。
 モザイク宇宙服達は容赦なくその瞬間に合わせて隕石群を降らせる。
 だが修介のその動き自体が挑発と次の一歩を兼ねている。
 着地の瞬間に修介は渾身の脚力で跳ねた。
 月面のダスト、粉塵は無重力下ではとても簡単にそして大量に巻き上がりやすいという性質を備えている。
 だからその一瞬で新たなクレーターを生み出しかねない程の威力が伴えば、砂嵐の様な砂塵に覆われる。
 一転して視界不良となった月面へ修介は潜り込み、隕石群の衝突軌道に若干のズレを生じさせた。
 隕石群の落下コースを事前に予測してさえいれば、後は人一人逃れるスペースがあればいい。
 修介の頭の中には初撃で落ちてきた隕石の速度が瞬時に記憶されており、間合いを頭の中で既に見切りを付けていた。
 だからこそ隕石群の衝突のほとんどを最小限の軌道だけで誘導し、最短の方法で突破する事が出来る。
 瞬間的な二歩目の跳躍で自分が迎撃すべき隕石を一つに絞り、礫の弾丸を撃ち放つ。
 それも回避と共にさらに複数の隕石を蹴りながら移動を止めず、さらに弾丸の数を増やしながら進むのだ。
 波の様に広がった砂塵の中から一転してモザイク宇宙服の元へ隕石群が極少の弾丸へと姿を変えて戻って来る。
 足場も無く宙に浮かぶモザイク宇宙服にそれを避ける術は無く、次々と宇宙の藻屑となっていった。
 その間に修介は砂嵐を飛び出し、虚構王ペルソナの元にさらに近づく。
 移動を止めなかった事もあり、望遠鏡が必要な程に遠くに居た虚構王の姿が今は目とは鼻の先と、視認出来る距離にまで縮まっていた。

「推して参る」
 修介がそう短く発し拳を握り締めた姿勢で進む。

 調息、脱力、場を観据え。
「『拳は手を以て放つに非ず』」
 【脱力】【呼吸】【意地】がその拳を強化する。

「何故永遠を拒むんです?」
「全てを其処に遺せるのに?」
「何も残さない闘いに意味があるのですか?」
 虚構王ペルソナが上野・修介に、向かってくる拳に問いかける。
「俺の『役目』は『人々を助ける為』にある」
「この拳が誰かの不幸を無くせるのなら…俺の喧嘩は十分すぎる程に遺せている」
 
 そして『虚構王ペルソナ』に持てる渾身を叩き込む。
 拳の速度が加速度的に上昇し拳そのものを一種の質量弾の様に変えて突き進む。
 燃え上がる程に奮える拳が大気圏に突入する摩擦熱を生じさせる様に紅い炎風を伴う。
 炎拳というに相応しい一撃が虚構王ペルソナを打ち捉え。
 全てを燃やし尽くしていく。
 月は赤々と兎の目の様に紅く燃え上がる。
 …月に兎の影は無いけれど、一人の漢の生き様は確かに浮かび上がったのだ。
 調息、脱力、場を観据え。
 そうして上野・修介は目を閉じる。

 次に目を開いた時。
 ばらばらのマネキンが飛び散った廃墟の一室に修介は居た。
 足元には微量の灰が積もり、火薬あるいは月の匂いと呼ばれる匂いが鼻先に感じられた。
 …それがただの虚構だったのかは分からない。
 唯、修介の手元には一本のビデオテープが存在した。
「『吾が拳に名は要らず』」
 しかし修介はその場でビデオテープを握り潰し粉砕する。
 そして礼節を重んじるやり方でその場で目を閉じる。
 調息、脱力、場を観据え。
「これが俺の…俺なりのやり方です」
 其処には何も残らない。
 だが一人の漢の記憶に一つの栄華が刻まれた。
 …次なる闘いの場が彼を待っている。
 上野・修介は静かにその場を立ち去って行った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アノルルイ・ブラエニオン
いいや、物語はこれで終演だ。虚構王

私はこれ以上お前の語る物語を望まない
理由はすでに述べたな?

一言で言えば、お前は語り手として三流だ
そして何より

物語が人を選ぶのではなく
人が物語を選ぶのだ
私達は現実を生きる存在なのだからな
お前はそこを間違えた

ゆえに私がこれから語るのは
『幻想を終わらせる幻想』だ

ヴィゾーヴニル…
とある神話において
その体から発される光により世界樹を照らすとされる光輝く鶏

光は闇に閉ざされた現実を映し出し
そこに幻想の存在する余地を無くさせる

物語の裏側に光を当てられ、『虚構』であることが明らかになったならば、もはや物語として意味をなさない

さらばだ。もう一度物語の作り方を学び直してから来い



●フィルムラベル:『幻想詩人』。

 闇を照らす華の様に美しい音色が響き渡る。
 その奏者の名はアノルルイ・ブラエニオン。

「素晴らしい音色だ、アナタを表現するに相応しい」
 聴者の名は虚構王ペルソナ。

「その美しき音色を私の元で弾くつもりはありませんか?」
「私の力添えがあればその音色をこの世界に響き渡らせる事が出来ます」
「悪い話では無いでしょう?」
「当ての無い旅路の果てを送り続けて来た吟遊詩人達」
「彼らもいつかは一つ所に落ち着き、伝道の歌と共に埋没していった」
「昔からそれが繰り返されてきた」
「虚しいとは思いませんか?」
「アナタもまたいずれは消費され過去の搾りかすになるだけだ」
「不条理でしょう?」
「もはや過去の事では無い…私達は過去を取り戻すのですよ」
「そうです我々が抗うのです…オブリビオンとしてね」
 虚構王ペルソナは語り諭す様にアノルルイへと話しかけた。
「ただ語り継ぐなどとは言わせない、私達が永遠となるべきだ」
「私が紡ぎましょう、失われた過去などではない、確かに存在する永遠として…」
 虚構王ペルソナの手元に一本のビデオテープが出現する。
「さぁアナタもまたこの世界の中にお入りなさい」
「アナタの歌でこの世界を埋め尽くしましょう!」
 両の手を広げて虚構王ペルソナは歓迎する様に迎え入れようとする。

 その言葉を聞き終えたアノルルイは答える。
「いいや、物語はこれで終演だ、虚構王」
「私はこれ以上お前の語る物語を望まない」
「一言で言えば、お前は語り手として三流だ」
「そして何より…」
「物語が人を選ぶのではなく、人が物語を選ぶのだ」
「私達は現実を生きる存在なのだからな」
「お前はそこを間違えた」
 アノルルイの言葉は虚構を看破する。

「……」
「新しき世界の語り手はこの私だ」
「アナタはこのテープの中で永遠と同じ歌を歌えば…いいのだよ!」
 本性を現した虚構王が本心を突き付ける。
「私は創造者だ!お前の紡ぐ物語など所詮は焼き映しだ」
「語り継ぐ?それでどれだけの視聴者を得られる?」
「私の映画であれば瞬く間だ!」
 虚構に響くペルソナの言葉。

「理由はすでに述べたな?」
「何度でも語り継ごう…」
「物語が人を選ぶのではなく、人が物語を選ぶのだ」
「お前は間違えた、虚構王」
「ゆえに私がこれから語るのは『幻想を終わらせる幻想』だ」
 アノルルイは言葉を繰り返し言い放つ。

「…ならば表現して魅せなさい」
「私を超える幻想を作り出せるのならね」
 虚構王ペルソナの貌が少しずつ膨張し、やがて辺りを包む。
 それは門となって扉となって世界の容を成す。
「これより先は、語り尽くせぬ幻想」
「それでもアナタは語り継げると言えるのか?」
 挑戦的にアノルルイへ指差し、挑発的に語る虚構王ペルソナ。

「もちろんさ、『だって私は吟遊詩人なのだから!』」
 涼しい顔で当然という風にアノルルイは即答する。

「ならばよろしい!さぁ幻想の演目を始めましょう」
 虚構王がモザイクと一体となり消えていく。

 アノルルイはポロロンと楽器を弾き、虚構王の世界へと足を踏み入れる。

 其処は出鱈目に歪んだ世界。
 木々がビルを覆い尽くし、ビルもまた木々の中から生え伸びている。
 現実に近しい都市群の様相を見せながら太古の侵食を受けている。
 人の姿無く、朽ち果て、しかし新しいまま、昨日が今日の様に在る。
 今さっきまで何の変哲も無かった世界を一秒の間に一億年を持って来た様な。
 明らかに過去と今に至る過程となる時間を伴わない世界。

「私が世界の過去になったのではない、私が過去を置いたのだ」
 虚構王ペルソナはディレクターズチェアに座ったまま宙に居る。
「いつまでも虚構に縋るつもりか?」
 アノルルイが虚構王ペルソナを見上げて問いかける。
「…縋る?いいやそれは違う、アナタらが虚構を求めるのですよ」
 虚構王が手を挙げる。
 すると大地が揺れて世界が地響きに吞まれ出す。
「なんの!」
 アノルルイがビルの蔦を掴み、前へ後ろへと勢いをつけて遠心力を生み出し、上に飛ばされる瞬間、そのまま上へ向かってジャンプする。
 アノルルイはエルフらしく木々の間を行く術に長けている。
 くるりと回って蔦と蔦とを交互に行き交い、上を目指す。
 世界そのものがアノルルイが上へ進む程にどんどん沈んでいく。
 しかし同時に、ビルが、木々が、破竹の勢いで伸び上がる。
 木々が割れればそこからビルが生まれ伸び、ビルが割れれば木の根が伝い伸びる。
 相互に作用しながら、歪な創造と破壊の連鎖が続く。

「ユグドラシルを覚えていますか?」
「全てを超越し一つとなる大樹」
「まさに渡しの創造」
「舞台の紡ぎ手である私が座するに相応しい」
 ペルソナが追い上って来るアノルルイの姿を俯瞰しながら話す。
「その傲慢さが三流を語ると気づけないのは、憐れだな」
 アノルルイがビルの頂上の一つに降り立ち言葉を投げ返す。
「私の世界の中で足掻くしかないアナタには到達出来ない高みなのですよ」
 ペルソナは物理的に上の立場に立ってアノルルイを見下そうとしている。
「地に足つかぬ脚本、宙ぶらりんの演出、まさに虚構王と、そう言いたいのか?」
 アノルルイが周囲の環境とペルソナの立ち位置の状況に沿って皮肉たっぷりに返す。
「吟遊詩人ならば“王”に平伏していればいい!」
 “虚構王”ペルソナが号令を掛けると、周囲の地形がさらにうねりを加え。
 木々が腕となってアノルルイに掴み掛る。
「私が歌うのは王の権威でなく、王の栄華、それも真に公明正大なる言葉だ」
「お前の様な紛い物の王に使える道義など万に一つもありえない」
 アノルルイは木々からなる大樹の拳を避けてそのままその大樹の腕を走り通る。
 蔦が鞭や縄の様に飛んでくれば、矢を振るい矢じりで引き裂き進む。
 そうして大樹からなる木々の妨害を逆に進路に変えた。
「ホー ヨー ヘー フム!」
 踊る様に駆け上がって、ついには虚構王の眼前に舞い降りる。
「この距離が相応しい!」
 アノルルイが幻想の旋律を奏でる吟遊詩人の歌が世界に流れ落ちる。

 ヴィゾーヴニル
 とある神話において
 その体から発される光により世界樹を照らすとされる光輝く鶏
 光は闇に閉ざされた現実を映し出し、そこに幻想の存在する余地を無くさせる

 物語の裏側に光を当てられ、『虚構』であることが明らかになったならば、
 もはや物語として意味をなさない

 アノルルイの旋律が幻想を形作り眩き光となる。
 雄鶏の輝く体に照らされた世界は砂に還る。
 眩き光に虚構王ペルソナは自身の貌を隠す。
 アノルルイはイチイの弓を引く。
「さらばだ…もう一度物語の作り方を学び直してから来い」
 消滅する虚構王ペルソナへの最後の手向けとしてアノルルイは一矢弾く。
「これがアナタの…吟遊詩人が紡ぐ幻想…リアライズ・ファンタジー」
 ペルソナの想いは、最後の言葉は虚しく潰え、しかし幻想を垣間見ていた。
 光が全てを包むと虚構もまた虚無として消え失せた。

 吟遊詩人が語るのは過去の栄華であっても、虚構ではない。
 過去を忘れぬ為の物語。
 過去を振り返るからこそ正しき明日へと踏みだせる。
 過去だけを振り返る者には永遠と明日が顧みられる事は無い。
 過去を見続ける事は過去の繰り返しでしかない。
 それこそが真の虚構。
 だからこそ吟遊詩人は語り紡いだ。
 正しき過去を、正しき明日を。
 彼らが語り継ぐ限り、忘れられる事は無い。
 人々の心の中で生き続ける。

 劇場では一人の吟遊詩人の歌が奏でられている。
 その歌に感銘を受けた者がまた一人口ずさむ。
 物語が人々の心打つ限り、その歌は生き続ける。
 生きた歌こそが彼そのものを伝道する生きた証となる。

 吟遊詩人は世界を巡る、歌と共に幻想を送り行く。

大成功 🔵​🔵​🔵​

菊石・光
映像は持ち帰って主に見せる。
ペルソナよ、私は主の為に【シーンごとに異なる衣装を纏う】作品を望む。

主は服装に無頓着すぎる。本家当主として周囲の期待に沿った服でも、今は屋敷を出てるのだから、女の子の服装を意識してほしい。ましてや慕う男が居るのだろう、なおさらだ。
私情が入った。

まずは、主の敵に成る者を倒す事に専念しよう。(完成映像に期待しているぞ)

【戦闘】UCで、古の牙先輩の力を召喚。共に戦う。

征くぞ!震えるハートはキュンキュンだ!



●フィルムラベル:『ルクス(光)』。

「映像を受け取りに来たぞ、ペルソナよ」
 闇の中から一筋の光が照り返す。
 まるで『周囲の期待の眼差し』が一斉に光り見つめる様な瞳を幻視する様な視線。
 それは、大刀から発せられる『眼刺し(まなざし)』だった。
「お待ちしておりました“期待の超新星”…召喚獣『ルクス』」
 “眼光”に怯む様子無く迎えるのは虚構王ペルソナ。
「主も臣下も備家一同で私の活躍を期待している…分かるだろう」
 声の主“光”は早く試写会を開きたいという素振りで急く様にペルソナの元へと現れる。
 光の声色にもその様子にもペルソナに負けるという想定は全く無い。
 太刀が折れては意味が無い、不沈の刀は常勝無敗であって然るべき。
 だからこそ強者は唯、成果のみを求める。
「力の象徴、恐怖の象徴、両方を持ちながら…どちらにも溺れずに此処まで至るとは…素晴らしい!」
 大袈裟な拍手とどこか挑戦的な声色でペルソナが光を値踏みする様に見つめる。
「当然だ、私がそう簡単に折れては先陣に立つ意義が無いだろう」
「いざという時、当主の最後の砦として相応しい立ち振る舞いを見せられん様では主の顔に泥を塗る」
「それではいかんだろう?」
 主に仕える召喚獣として堂々と胸を張る光。
「いずれ主は嫁入りするだろう…その時に主の想い人の前で面目を欠かぬ様に私は常に心掛けているぞ」
「なるほどなるほど、ではアナタの主もさぞかしそれに相応しい佇まいであると?」
 光の矜持に横槍を入れる様にペルソナが口を出す。
「むっ…それは当然」
 急な物言いに一拍遅れて光が反論しようとする。
「犬は飼い主に似るとは言いますが…アナタもアナタの主も、実は粗忽者ではありませんか?」
「なんだと?」
 その言葉を肯定してしまう様に光は即座にムッとした表情が顔に出てしまう。
「衣装の着こなし一つ取っても人の在り方は見え変わりするもの」
「私はこれまで数多くの“配役と衣装”を与えてきました、だから分かります」
「深層心理は映し鏡、アナタが主だけを想う様にアナタの主も自分そのものに無頓着になってしまう」
「誰かの為に自分を犠牲にして本当に自分を魅せていると言えますか?」
「想い人に自分を意識させようと働きかけていますか?」
「子供の様に見られてはいませんか?」
「化粧は?服装は?意識は?女性らしさは?本当にありますか?」
 ペルソナが矢継ぎ早に畳み掛ける様に問う。
「…むー確かに主は服装に無頓着すぎる」
 思い当たる節が光の脳内に想起される。
「主も今は屋敷を出てるのだから、そろそろ女の子の服装を意識してほしい…」
「ましてや慕う男が居るのだ、なおさらだ…」
 光が当主への想いを次々とそそっかしく馳せる。
「そうですそれは、正しい衣装を、女性らしさを、演出出来ていないから…」
「主にアナタの活躍を魅せる為に此処へ来たのでしょう?」
「それならば私はアナタにピッタリの“配役と衣装”を与えられます、どうでしょう?私の舞台に紡がれてはみませんか?」
 熱弁を振るい光に売り込むペルソナの甘言。
「…そうだなペルソナよ、私は主の為に【シーンごとに異なる衣装を纏う】作品を望むぞ」
 若干丸め込まれる様に光は提案に乗る。
「ブラーボ! ブラーボ! そう来なくては!」
 虚構王が騒々しく了承する。
「さぁそうと決まれば早速撮影と行きましょう!」
 虚構王ペルソナが光を指差し、そしてそのまま指を素早くパチンと鳴らす。
 すると光の眼前にモザイクが立ち込め、扉を形作る。
「これより先は、目まぐるしい彩りの移り変わり」
「アナタに演じきれますか?“期待”しておりますよ…」
 そう言い置くと虚構王ペルソナが扉に吸い込まれる様に消えて行く。
「完成映像に期待しているぞ?」
 光もまた虚構王に張り合う様に言い放ちモザイク扉を臆せず開く。

「レディース&ジェントルメン!」
 劇場に響く虚構王ペルソナの声 
 此処は劇場。
 照明が今宵の主役を明るく照らす。
「主に忠誠を誓う彼女は果たして栄華を手にすることが出来るのか!」
「皆様、“乞うご期待”下さいませ!」
 無駄に重圧を与える様な前口上が劇場に響く。
 観客席に詰め掛けたマネキン達が拍手喝采で光を迎え入れる。
「…まずは、主の敵に成る者を倒す事に専念しよう」
 周囲を見渡しながら状況把握に努める光。
 気づけば光の衣装はゴシック調のドレスへ変わっている。
 それと同時に劇場の袖からマジシャンの様な衣装の一団が現れる。
 それは貌がモザイクで覆われ表情伺いしれない。
 命名するならばモザイクマジシャンとでも形容出来る存在。
 大袈裟な振舞いでナイフを手にして種も仕掛けも無いと示す様に見せびらかす。
「そんな得物で私と戦うつもりか?」
 光の太刀と斬り合うには不釣り合いなのは明白。
 しかしモザイクマジシャンは意に返さない様子で会釈する。
 光が太刀を構えようとする瞬間。
 頭上から?マークの箱がすっぽりと光を覆う様に落ちてくる。
 種無し手品をご覧入れましょうという素振りでモザイクマジシャンが?箱を囲み一斉にナイフを投げ刺す。
 種無しマジックならばただの処刑ショーに過ぎないが…。
 モザイクマジシャンが箱を取り払い中身を公開する。
 中身の無残な…者は居ない。
「期待に添えられず残念だな、私が沿うのは主の願いのみ」
 振り返ったモザイクマジシャンの一体の首が刎ねられる。
 それと同時に箱を開示したモザイクマジシャン達が手に取った箱がギチギチ・カタカタ音を出して逆刺しに跳ね返る。
 中身は『古(いにしえ)の牙(あぎと)』。
 精密な動作で主と瞬時に入れ替わり、中身を偽装したのだ。
「これぞ!マジック!どうぞ期待に応えて魅せた彼女に拍手喝采を!」
 想定通りという様に淀みないアナウンスとマネキン達の拍手が響き渡る。
「この程度では主を満足させられんぞ?」
 光がペルソナに呼びかける。
「もちろん!すぐに次の舞台に参りましょう!」
 幕がさっと視界を横切り世界を覆う。
 次に光が瞬きすると舞台は一瞬にして移り変わる。

 次なる舞台は和室の一室。
 光の衣装も姫様が着る様な豪華絢爛な着物。
「少し動きづらい…」
 自身の衣装を袖を引いて見る光。
 その背後を照らす行灯が襖の影を照らす。
 仁義無き一太刀が襖越しに光の背を辻斬る。
「その“眼差し”視えているぞ?」
 動じることなく光は太刀を背に回し必殺と斬り込まれた暗殺剣の一撃を受け止める。
 破れた襖より覗くのは丁髷結わいた侍の人影。
 貌は当然の如くモザイクに覆われている。
 命名するならばモザイク侍とでも形容出来る存在。
「私に斬り合いを持ちかけるとは…笑止千万だな」
 軽々と鍔迫り合った刀を払い刺客を切り伏せる。
 一人胴との別れを告げるや、四方八方の襖に影が立つ。
 東西南北を囲うモザイク侍が一斉に斬りかかる。
 一つ、二つ、三つ、四つ。
 流れる様な太刀筋が振袖を舞い踊らせが襖の影にモザイクを飛び散らせる。
 奔る影、光が襖を行き交い、切り伏せ行く。
 影が舞う、首刎ねる。
 繰り返し走る走る。
 襖が幾つも開かれ、その度、首が跳ぶ。
 光の太刀が縦横無尽に乱れ咲く。
「…他愛無し」
 ザシュザシュと音を置き去り、死屍累々。
 次は誰か!
 そう名乗り挙げる様に襖をバンバンと勢いよく光は開き進む。
「ならば一騎打ちと参りましょう!」
 虚構王の声が響いたと同時に開いた襖から眩き光が包むこむ。

 一転して和から洋。
 光の衣装がフラメンコ衣装に移り変わる。
「今度はなんだ?」
 認識するよりも速く飛び込んで来る影。
 それは闘牛、モザイクに覆われた頭部のモザイク闘牛。
「奇襲の連続でミスを誘発していてるのだろう?残念だが、私はノーミス志向だ」
 野生の勘が冴える、咄嗟に足元を切り払い、地面の裂け口から古の牙を溢れ出させて自身の足場にして空中へ跳び撥ねモザイク闘牛の突進を避ける。
「踊り子ならばご期待通りに舞い踊ろうか!」
 古の牙をムレータの様に形作り、モザイク闘牛を煽る様にタンゴを踊る。
 闘牛の性が挑発を免れずにモザイク闘牛は光の真正面へUターンして突っ込んでいった。
「『綻べ!万傷裂閃!』」
 モザイク闘牛の角が斬りかかる刹那、平面の古の牙をがスパイクシールドの様にハリセンボンが如くモザイク闘牛を刺し止める。
「ウェルカム!」
 古の牙が串刺し闘牛を断頭するに相応しい角度へと落とす。
 一刀両断の元に自身の身の丈よりも巨大な闘牛を切り伏せる。
 居合いがモザイク闘牛を真っ二つにして血しぶきの様なモザイクに光は包まれる。

 飛び散ったモザイクを拭い瞬く間に、気づけばまた劇場へ戻ってきた。
 アイドル衣装の様な軽快な衣装に早着替えしている事に体の動きやすさで光は察する。
 劇場に詰め掛けて居たマネキン達が光の周りを囲い込んで居る。
 虚構王は語る
「全ては虚構で在り真実で在る」
「信じたいと思われたものが真実となり、信じられなかったものが虚構となる」
「それがリアリティなのです」
「さてアナタにとってこの映画は真実だったでしょうか?」
 虚構王ペルソナが手元に一本のビデオテープを出現させる。
「あぁもちろんそうだろう」
 光は迷いなく答える。
「ペルソナよ、提案に乗ったのは、私の私情が入った…それは事実だ」
「だが忘れてはいない、私が主にとっての最後の砦であることを」
「そして言ったはずだ、主も臣下も備家一同で私の活躍を期待していると」
「この太刀は『周囲の期待の眼差し』が形を成した物」
「これはある種の“呪い”…だがそれは呪い在る限り、“力”もまた付き纏うという事だ」
「期待が募れば募る程に呪いもまた増す、私は常に背水の陣」
「圧倒的期待、それに私は応えられるからこそ、この『眼刺し』を持てるのだ」
「最初からそうだ、だからこの場で負けるはずもない」
「ペルソナよ、これが“期待を背負う者の力”…“トラウマ”だ」
「私に期待を投げかけていただろう?その『眼差し』を太刀もまた“視ていた”ぞ」
「だからこちらも『眼刺し』を与えよう…今度はそちらが期待を背負う番だ」
「『解き放たれた痛み』 を受けるがいい…」
 『眼刺し』が妖しき光を帯びる。
「征くぞ!震えるハートはキュンキュンだ!」
 舞台に幕引く様に決めた台詞をびしりと光が太刀振る舞う。
 『万傷裂閃』がマネキン達を内側から喰い破る様に一掃する。
 そして虚構王ペルソナの元へと開通した一本道。
 光が振るう『眼刺し』が真っ直ぐに虚構王ペルソナの心を貫く。
「この“呪い”は私にとっては…好ましい」
 貫かれながらも満足げにそう言い残すと虚構王はペルソナは消えていく。
 そんな存在は初めから存在しなかったかのように。
 残ったのは猟兵という存在。
 そしてその輝かしい活躍を残したビデオテープのみ。
 アナタが虚構を信じるのなら…この映画は真実だ。
 猟兵は一つの栄華を手に取り、帰路を急ぐ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天堂・美亜
囚われた私は様々なセットで敗北し辱められる姿を撮影され続けています

「負け、ない……ああぁん!」
一つの舞台が終われば裸にされ、次の舞台が始まるまでボスに体を弄ばれ休むことができません
[ボスに抱かれ、いい体してると胸を揉みしだかれる]

ボスが新たな舞台を提案しますが、市井の人々を盾に取られては同意するしかありません

(諦めない。それに負けたら……)
戦闘力は増している、と自分を鼓舞し必死に戦います
[が、配役は「嬲り者にされるヒロイン」。敵もセットも美亜を弄ぶことに特化しており、弄られ、剥かれ、犯される]
何度も繰り返されたそれに怯えてしまいます
[露出が多かったり、身体のラインが分かる衣装]
も集中を乱します

「いやああああ!!」
[諦めず戦っても、弄られている間は唯の少女]

「お願い、休ませて……」
私が立ち上がれないときは、休憩と称して「囚われのヒロイン」に配役され、一方的に辱められ……

[諦めないがゆえに、ボスの作品として恥辱の限りを尽くされる]

[背後]
美亜が敵に屈しなければ改変歓迎、セットはお任せ



●フィルムラベル:『被虐のヒロイン』。

 悪夢。
 絶望的な夢。
 温かく迎え入れてくれる家族、優しく親切な友人達。
 消えていく、忘れられていく。
 恐怖、困惑、置いて行かれて、一人っきり闇の中。
 闇に沈んでいくのを必死に藻掻き続けた。
 叫んでも叫んでも、誰も助けてくれず、声が乾いて、心が枯れる。
 力尽き掛けた少女の躰、闇の奥底から無数の手が伸びてきて引きずり込もうとする。
 そんな夢。
 いやだ、いやだ、嫌だ…嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…。
「…嫌ぁっ!!」
 がくんっと、思い切り跳ねた頭が動かない手足に遮られ引き戻される。
 少女は裸体のまま全身を覆い隠す様に素肌に鎖が巻き付けられた姿で十字型の磔台に結び付けられる形で拘束されている。
 辛うじて動く首の可動域の範囲だけは見渡せる状況にある。
 もっとも見えるのは暗闇だけ。
 揺れる脳内が寸前の記憶を思い出し始めようとした時。
 目を咄嗟に瞑り背けてしまう程の光が点灯する。
 光が一点を集中する様に辺りを囲い照らしている。
 頭上から正面から側面から三方向からのスポットライト。
 光に目を慣らし見ようとすると。
 横合いから不意に飛び込んでくる声。
「おはようございます…“天堂・美亜”」
「お目覚めするとは…やはりアナタは芯がお強い」
「…それでこそ『被虐のヒロイン』に相応しい」
「映画はまだまだ続きますのでね…そう簡単に膝を折られては困る」
 声を掛けたのは惨憺たる映画の作り手、『虚構王ペルソナ』。
 此処は美亜とペルソナだけの劇場。
 何台ものカメラがまるで観客の様に客席を埋め尽くし配置されている。
 虚構の担い手として監督らしくペルソナは中央の席に座って居た。
 ペルソナは美亜が起きるのをずっと暗闇の中で見つめ録り続けていた。
 此処は?何所で?なぜ?どうして?。
 美亜の不安や混乱し纏まらない思考を代弁する様に虚構王ペルソナは話し出す。
「アナタを私が作品にして上げているのです」
「猟兵としてのアナタはあまりにも未熟だ」
「アナタは猟兵足り得ない…だから私がアナタに適した舞台を用意してあげましょう」
 それは一方的な宣言。
「っ!?…勝手な事を言わないで!」
 自身の価値を侮辱する様な虚構王の言葉に胸が締め付けられる様な苦い気持ちが美亜の心にじわりと広がり刺さる、だけれどもそれを受け入れたくない感情のまま反論する。
「反論出来る実力なんてアナタには無いでしょう?」
 嘲う声が美亜の耳元で響く。
 振り向けば何時の間にか美亜の隣に虚構王ペルソナの姿が在った。
 ペルソナの貌の無い顔はモザイクに覆われていて表情など分からない。
 なのにどうしてここまで視線を感じるのかと美亜は不思議と不快な感覚に捉われる。
「無様な姿を世界中に曝し出してあげましょうか?」
 ペルソナの視線を誘導する様な手付きが嫌が応にもカメラの存在を美亜に意識させた。
「それとも」
「それがお望みでしたか?」
 ペルソナのモザイクが蠢き、徐々に貌から零れ落ちる様に全体に溢れ出す。
 まるで奈落の底へと何処までも続く次元の穴が世界に侵食するかの様に逃げ場の無い美亜を囲い込む。
「見ず知らずの市井の人々の犠牲などアナタに関係あるのですか?」
「もう諦めてしまえばいいでしょう」
「アナタを求める世界は私が紡いであげます」
「それでもアナタは戦うのですか?」
 冷笑的な声色がしかしどこかで試す様な含みがある喋り方で響き渡る。
「…私は…諦めない、私は諦めたくないの!」
 絶望に包まれながらも美亜の芯は固く揺るがない。
「ならば戦い続け…力の限りをこのカメラに示して見せなさい」
 虚構の中で広がるモザイクが奈落の底へ誘う様に扉を形作る。
「私は戦い続けます…どう思われたって曲げたくない…護りたいから…護るために」
 美亜が信念を固めるのに応じて全身を覆い隠す鎖がより幾重にも巻き付いて装束の様に纏わりついた。
 その代わりに磔台から手足が解き放たれていく。
「さぁ魅せてもらいましょう、どこまで抗えますか、その心が保てるか」
「この先には、尊厳を打ち砕き、意思を塗り潰す、世界が在る」
「無様に曝しなさい、その生き様を…」
「猟兵足り得るならば…示しなさい」
 奈落のモザイク扉が開き、その先に虚構王ペルソナが溶ける様に飲み込まれて消えた。
「(諦めない…それに負けたら……)」
 最悪を懸念して、しかしそれでも後には引かず。
 その最後の想いを契機に鎖は完全に美亜と一体化した。
 それと同時に磔台から落ちる様にモザイク扉の先へと美亜が飛び込んで行く。

 美亜が次に気が付いた時にはショッピングモールの舞台の上に立っていた。
 ステージの背後に聳え立つ巨大な十字架が影を落としている。
 あの恥辱の撮影会が行われた忌まわしい場所。
 だが戻ってきたという認識よりも優先すべき気づきが先にあった、それは美亜の姿。
 全身が一体型のタイトなレザータイツで一目見るだけでスタイルラインが浮き彫りになるデザインのスーツとフルフェイスヘルメット構造のマスクが装着されていた。
 フルフェイスマスクは口元まで覆われた気密性の高い構造だが不思議と息辛さは無い。
 視界となるバイザー部分は真っ黒く覆われてはいるが視界不良も無く外の景色も明瞭に見える。
 その柔肌は明らかに滑らかでぴっちりとしたミニスカートの下から伸びたレザータイツの脚線越しにも美肌が垣間見える。
 それまでに受けた傷跡の痛みも感じられない。
「この衣装は…なんなの?」
 ぺたぺたとマスクを触る美亜。
 しかしマスクは外れず困惑が募る。
 そんな状況で美亜にとって聞き覚えのある悪寒の走る声が響く。
「イイィィ!!!!」
 美亜を散々に痛めつけたあの戦闘員マネキン達が一本鞭をしならせながら囲い集まって居た。
 美亜が若干気後れする様に気づきにじり動く。
 戦闘員マネキン達がまた同じことを繰り返そうとしている。
 美亜に緊張感が走る。
 危機感が脳内を駆け巡り、瞬時に使える手を探し思考する。
 そして気づく、自身の武器に。
 何時の間にか手元に握られていたフォースセイバーを構える。
 サイキックエナジーが放出されて光の剣を形成する。
「負けない…負けられないの!」
 美亜の叫びと共に戦闘員マネキン達もまた鞭を手に襲い掛かる。
 それは最初の戦いとまったく同じ様に見える戦闘の始まりであった。
 しかし美亜の戦いぶりは打って変わって圧倒的に見違える。
 瞬発力が段違いに強化され戦闘員マネキン達の鞭が届くより早く美亜は二体の戦闘員マネキンを一断ちの元に切り伏せる。
 美亜自身も内心では驚きを感じていた。
 まるで自分ではないかのような、変身を遂げたと感じた。
 そんな感慨を抱く間に切り伏せた戦闘員マネキンの合間を縫う様に鞭が飛び込んで来る。
 それを美亜は光の剣をかざす形で焼き切り防ぐ。
 戦法は変わらない、がむしゃらな突撃。
 ただ少し早く確実に動ける、それだけで全てを凌駕出来た。
 一つ二つ三つ…1・2・3と数える間に戦闘員マネキン達を次々に両断していく。
「この衣装のおかげなの…?」
 気が付いた時にはあれだけ苦戦した戦闘員マネキン達を軽々と切り倒していた。
「それが猟兵本来の力というものです」
 どこからともなく虚構からペルソナの声が響く。
「どういうことなの?…私に何かしたのね!?」
 美亜が虚構から響く声に向かって問い返す。
「アナタに私が与えたのです」
「言ったでしょう?私はアナタに適した舞台を与えられると」
「私に従えばその力を十二分にアナタは振るえる様になる」
「どうですか?これでもまだ私の紡ぐ力に疑問を持ちますか?」
 虚構王ペルソナの演説染みた語りが響く。
「私は別にそんな力を求めてなんて…」
 戸惑いが優先するのか美亜もまた強情に返す。
「…アナタは、思った以上に単純ではない様ですね」
「ならそんな配役は要りませんよね?」
 虚構王ペルソナが冷たくそう告げる。
 すると美亜の意思とは関係なく手足が締め付けられる様に内股に歪んだ姿勢に矯正されていく。
「あっ、何!?うっうぐっ」
 全身のレザータイツが圧縮する様に美亜の体に食い込む。
 それはもはや衣服を身に纏うというよりは衣装を張り付かせている様な姿形。
 レザータイツの光沢がラバースーツの光沢へと移り変わり。
 素肌に密着しているだけで生地一つ隔てた裸体が浮かび上がる。
 スーツそのものと一体化したと錯覚してしまう感覚に襲われる美亜。
 さらにマスクは圧迫する様に顔に張り付き収縮する。
 息を吐けば吐く息が内で籠り、まるで自身の半身と吐息を交換し合う様な循環。
 声を発し様とするだけでマスクが喉元に張り付いて反抗の意思を示す事もままならない。
 クラクラと眩暈を引き起こす程の密着感で体を動かせず、美亜は立ち尽くす。
「…それではヒロインとして、抵抗を続けてもらいましょうか」
「もっともこれから与える配役は“嬲り者にされるヒロイン”としてですが」
 虚構王ペルソナの宣告を合図に舞台が揺れ動く。
 地面のあちらこちらからモザイクが吹き上がり、細長く伸びて紐状の小突起を形成する。
 それは意思を持っている様な揺れ動きで美亜の元へ近づいている。
 命名するならばモザイク触手とでも形容出来る存在。
 弱弱しくもフォースセイバーを向かってくるモザイク触手に向けて前へと突き出す美亜。
 スーツの収縮は常に真綿で首を締められているのとなんら変わらない状態を作り出しており、美亜は意識を保つ事で本来なら精一杯という有様であった。 
「負け、ない……ああぁん!」
 美亜の急所がまるで指先で抓られる様にミチミチと圧縮するスーツによって先細り尖る。
 踏ん張りを砕く様に脈略無く与えられる刺激の強さに悲鳴を抑える事が出来ずに、美亜は握り締めようとしたフォースセイバーを零し落としてしまう。
 美亜が武器を落としたのに合わせてモザイク触手が鞭打つ様に触手を振り下ろす。
 受け身も取れずに肩先に落ちる触手の一撃に美亜は耐えられずにそのまま跪く様に崩れ落ちる。
 それでも立ち上がろうとする美亜。
 間髪入れずに美亜の背面に触手の追い打ちが叩き込まれ、遂には四つん這いになる形で倒れ込む。
 それでも触手の鞭打ちは止まらず、美亜の引き締まったお尻をスパンスパンと打ち捉える。
「あっ、ああっ!」
 触手がお尻を打つ度に美亜から立ち上がろうとする腕の力が失われて、無様に悲鳴を上げて地面に顔を伏せる事しか出来なくなる。
 そんな姿を間近に録ろうと、内視鏡のスコープの様な構造でカメラを取り込んだモザイク触手が周りに蠢きながら現れ美亜を包囲した。
 美亜が向けられるカメラの視線を睨み返すと、鞭打つ触手がさらに苛烈に打ちつけて強制的に叩き伏せられる。
 美亜は倒れ込んでもまだ歯を食いしばって反抗の意思を捨てない。
 体の自由を奪わるデメリットが大いに勝るものの虚構王が与えたスーツの性能自体は高い。
 それ故に、本来であれば耐えられなかったはずの猛打に未だに美亜は意識を保ち続けられている。
 戦闘力は増している、と自分を誤魔化し鼓舞し必死に足掻き戦う美亜。
 しかし立ち上がる余力さえ無くなり息を吸って吐くの繰り返し、飛び込んでくる鞭打ちに耐え続ける…何時の間にかそれが美亜にとっての唯一の抵抗となっていた。

 それはもはや一方的な凌辱。

 一体どれほどの時間が過ぎ去ったか思い出す事さえ拒絶的になっていく美亜の精神。
 永遠にも思える様な拷問に美亜の心の平衡が壊れてしまう。
 何度も繰り返されたそれに怯え慄き、呆然と覚醒を繰り返す意識。
 触手が美亜のマスクに絡みつき、そして勢いよく引き剝がす。
 その下にあったのは抵抗すら出来ず痙攣する彼女の素顔。
 血反吐に滲んだ涎をだらりと垂らして飲み込む事さえも出来なくなって開いた口が塞がらない。
 瞳からは意思の強さが消え失せてしまい、虚ろな目はぐるりと宙を向いて。
「あ゛っ、あ゛ぁ…」
 もはや鞭打たれても反射反応的な呻きを上げるだけ。
そうした姿に飽きたのか、モザイク触手がまるで壊れた玩具を扱う子供の様な乱雑さで美亜の頭を持ち上げ放り捨てる。
人形の様に軽々しく投げられた美亜は舞台に飾られた十字架をその身をもって破壊しながら退場させられる。
 巨大な十字架が倒壊すると共に舞台セットも引きずり込まれる様に地の底へと落ちていく。
 するとショッピングモールに開いた大穴に吸い込まれるように全てが虚構へと姿を変えていった。

 闇だけが広がった。
 暗闇の中を落ちて行った。
 純真無垢な魂が力無く漂い堕ちていく。
 受け入れてしまえば楽になれる。
 汚れてしまえば全てを忘れてしまえる。

 響き渡る嬌声に耳を傾ければいい。
 友人達が見せびらかす様に痴態を見せる。
 美亜が守ろうとした事を嘲笑う様に淫靡に耽る。
 日常の至る所に虚構が入り交じっていた。
 親しかった友人が優しかった家族が美亜に見せたことのない顔を見せて交じり続けている。
 此処で仲間外れなのは一体どちらだろうか?
「私は……私が仲間外れ…なの?」
 光が消えていく瞳が絶望の中で思い悩んだ。
 美亜が守りたかったものは本当は何なのか?
 彼らが満足するならそれでいいのではないか?
 温かく迎え入れてくれる家族、優しく親切な友人達。
 消えていく、忘れられていく。
 独りぼっちで居る。
 人を疑うなんてことは美亜の純真さには不釣り合いな事だ。
 だから受け入れて堕落する事も…矛盾しない。
 手を伸ばそうとした。

 そしてハッと気づく。
 美亜が受けてきた責め苦を負わされる人々の姿に。
 伸ばしかけた手は行き場なく思い留まる。
 “大切な人達を護りたい”。
 それが美亜という猟兵のルーツだった。
 どれだけ自分が辱められ痛めつけられても、それでも良かった。
 何故なら自分がどれだけ傷つこうとも大切な彼らが汚れる事はなかった。
 それがどれだけ陳腐な自己犠牲と言われようとも構わなかった。
 それは呪い、被虐の呪い、意思とは無関係、無自覚、不可視の呪い。
 美亜に架せられた呪い。
 分不相応に護ろうとするが故の呪い。
 その呪いは重く、想いが故に“諦める”という救いを遠ざける。
 美亜は呪われている、決して彼女が諦める事は無い。
 強固に頑固に猟兵として立ち上がらせた。
 消えかけた瞳に色が戻り、挫けかけた少女を猟兵へと引き戻す。

「本当に…アナタは諦めの悪い子だ」
 虚構から現れる声。
 常に美亜を見つめていたオブリビオンが声を挙げた。
「幸せな世界ですよ、アナタにとって相応しい世界だ」
「私だけが永遠とアナタをヒロインたらしめる世界を紡げる」
「そうでしょう!?」
 虚構の王が加虐心溢れる物言いで言い放つ。
 そして少女の尊厳をまるで認識しないかの様に無遠慮な手付きでペルソナが美亜の胸を鷲摑んだ。
「なっ…何を!」
 美亜が愕然としかし屹然とした視線をペルソナに向ける。
 その視線を意に返さずペルソナが美亜の胸を握る様に掴み続ける。
「いい素質を持っている、だがそれは活かされていない」
 空いた片手で美亜の頬を撫でる。
「顔もスタイルも…いい体してるね?」
 撫でた手がそのまま体の線をなぞり測る様に伝っていく。
「いや…」
 不快感から顔を背ける美亜。
「そうです、その表情」
 覗き込む様にペルソナの貌が美亜に迫る。
「…それがアナタに相応しい」
 なぞる手が下から上へと戻り進む。
「…だが足りない、足りない…そう足りないんですよ、足りない!!!!」
 首元まで伝わせた手が俊敏に美亜の頬を掴んでペルソナの顔に強制的に向き直させられる。
 豹変したペルソナが美亜の胸を一層強く握り締める。
「苦痛が、栄光が、悲劇が、栄華が、足りない」
 心を奪い取りたいと本気で想う様な羨望。
「足りない足りない足りない足りない足りない足りない…」
 完璧に仕立て上げたいという執着的な妄執が虚構を紡ぐ。
「私に屈しなさい、私だけがアナタを表現出来る…」
「…そうでしょう?」
 独善的な虚構が響き渡る。

 美亜は気高く視線で答えを返す。
「ッ!?……ぐぅうううううううううううう」
 思い通りにならない演者に監督は苦悶を示し憤る。
「いいでしょう!徹底的に行きましょう!壊して差し上げますよ!」
 癇癪を起して虚構を幻影を自らの手で打ち壊した虚構王は苛まれるままに世界を無作為に作り変える。
 その顔無き貌には明らかな美亜への囚われた狂想に支配されていた。
 美亜は抗いながらも成すが儘に虚構に飲み込まれていく。

 そうしてさざなみの音が微かに聞こえる場に美亜は漂着した。
 じゃりじゃりとした砂の感触に身を起こせばそこは砂浜。
 一面に広がる陽と青の照り返すビーチに美亜は居たのだ。
 勿論、美亜だけではない。
 朧げな輪郭がはっきりと覚醒して見据えれば忌まわしき存在達が目に見える。
 モザイクの触手がウネリ、卑劣な黒の彩、マネキン戦闘員達、そしてそれらを支配する虚構王の姿形。
「さぁ始めましょうか、ラストテイク、被虐のヒロイン凌辱ショーを…」
 無機質な虚構の響きが破滅的な色を表す。
 美亜は咄嗟に自身の武器を探る。
 しかし手元に武器は無い。
 それどころか自身の体を見れば、それはあまりにも心もとない装束。
 裸一貫に近しいビキニ、ほとんど布切れを羽織る様な水着姿。
 薄く極小の構造に二枚重ねにした所で秘部を隠すには付け焼刃でしかない様な面積。
 美亜はまるで下着を覆い隠す様に顔を赤らめ水着を手で覆い隠し縮まる。
「嫌よ!、こんな姿…いやぁ…」
 不本意な破廉恥さに辱められているという実感が強く支配して自身の肩を抱きしめる形で苦渋に満ちた表情を浮かべて泣き出しそうな顔でしゃがみ込む美亜。
「お似合いですよ!!アナタにはその姿がね!!」
 正気を失った様な気迫で虚構王が美亜を称えて嘲笑う。
「ですが!もっとお似合いの姿があるでしょう!?」
 虚構王はマネキン達にゆけとばかりに手仕草で示し美亜を襲わせる。
 醜悪な欲望が形成した様に美亜に覆い被さり、身体の自由を拘束せんとする。
 美亜は振り払い、徒手空拳に抵抗を試みるが無力に蹂躙されるばかり。
 モザイク触手が手足を縛り、マネキン戦闘員が美亜の肢体を嬲る。
 繰り返し繰り返し…。
 絶望は許されず、玩具の様に、壊そうと弄り回される。
 それでも美亜が折れる事は無い。
 頭の中がチカチカと点滅し、意識は暗転と覚醒とを行き交う。
 モザイク触手が喉奥に入り込み体内を蹂躙する。
 美亜が白目を向いていようがお構いなしに胃袋に触れて、だくだくと溜め込んだとろろの様に溢れ出る液を塗りたくる。
 腹が膨れて妊婦の様に有り様を示そうと解き放ち続ける。
 モザイクそのものでさえ制御出来ない情欲が無造作に産み出す事を止められなくしている。
 異常な熱気が美亜を甚振る。
 マネキン戦闘員が美亜の膨れ上がった腹を叩き出し、ゲロりと溜め込んだ液体を吐き飛ばす。
 その繰り返しで美亜を塗り替えようとしている。
 心身共にモザイク色にせんとその場の全てが色をぶちまける。
 美亜は全てを飲み込み続ける…。
 呪いに際限無く。

 呪いは嘲笑い続ける。
 クルクルと天に剣を形創る。
 罰する。
 諦める事は許さない。

 美亜が瞳の力を失い、委ね、凌辱のままに受け入れようとすると…貫く。
 引き裂く。
 触手が吹き飛び、マネキンの首を刎ねる。
 意識無く、朦朧とする美亜を呪いは正す。
 狼狽える虚構が狂乱し何かを叫んでいる。
 モザイクが包み込み美亜を海中へと引きずり込む。

 ごぷごぷと泡が噴き出し息を失う。
 暗転し振り回される。
 見慣れた凌辱の数々が美亜の瞳に映り込む。
 右に左に。
 犬の様に這い回り、下卑た笑みを浮かべて美亜を嘲笑った。
「…見ないで…見ないでよ…私をそんな目で!見ないでよぉ!」
 呪いが心から笑う貌の様に飛散し収束し、美亜のイメージに合わせる様にフォースセイバーの形へと形成されて現れる。
 美亜は躊躇わず手に取る。
 海中そのものが暗黒の貌へと変わり、無貌の空間が浮かび上がり、美亜を吸い込む。
 虚構へと誘う。
「私は!私は…ぁあ!!」
 湧き上がる激情に身を任せて剣を無作為に振り回す。
 虚構王の顔面が絶叫するかの様な大口を示して世界が割かれ割れる。
 美亜は半狂乱のままに虚構を打ち壊し続ける。
 世界は全ては虚構で在った。

 涙は乾いて、潮の跡をその柔肌に一筋描く。
 美亜が目を見開いて起きた時には、全てが何一つ残って居なかった。
 寂れた廃墟、劇場だった場所の観客椅子にぽつりと座っていた。
 困惑のままに戸惑う。
 全ては虚構。
 夢幻。
 ほっと一息…吐いて、よろよろと座席の縁に寄りかかり立ち上がる。
 何もかも…。
 嫌に重い体を引き摺り、歩き出す。
 美亜を猟兵を助けを求める人々は幾万と…。
 こんな所で立ち止まる時間は無い。
 ぽたり。
 落ちた雫。
 それは何処から墜ちた?
 言い知れぬ残り香を垂らす。

 一人の猟兵が劇場を後にする、それは終わらない舞台の…。

 開演。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2022年06月12日


挿絵イラスト