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開演(作者 狂傭欲音
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#ヒーローズアース  #戦後  #イェーガームービー  #第一章開始:2/7日  #第ニ章開始:2/14日  #完結保証日:2/28日  #延期日程:3/3日  #終了予定日:3月中目途  #プレイング募集終了中 


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#ヒーローズアース
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#戦後
#イェーガームービー
#第一章開始:2/7日
#第ニ章開始:2/14日
#完結保証日:2/28日
#延期日程:3/3日
#終了予定日:3月中目途
#プレイング募集終了中


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●薄暗いシアター
 猟兵達が訪れた時には既にスクリーンには映写機の白々とした光が照らされこれから始まる物語を投影する準備が出来ていた。
 猟兵達が各々好きな席に着くと開演を知らせるブザーと共に予告と称される映像が流れ出す。
 始まりは無機質な一室だった。
 画面一杯に空虚な空間が映されていた。
 無音のままにただカメラが映像を録る際に発するノイズだけが聞こえながら画面はやがて少しずつ引かれていき、部屋全体の姿を映す。
 それは整然とあるいは雑多に並べられたマネキン達の姿。
 それは制服を着て、それは水着を着て、それは宇宙服を着こんで、それは中世の鎧を身に着けて、それは共通して鍵を持って立っていた。
 それらの数多の衣装に身を包むマネキンらが一頻り映されると画面はまた移り変わり部屋の中央の一点へとズームされる。
 一体のマネキンがディレクターズチェアに足を組んで座っている。
 そのマネキンはまるでこちらを覗き込むかの様に首を傾げている。
 それは他のマネキンと決定的に違う一点を持ってもいた。
 その顔はモザイクで覆われて貌として認識出来ないのだ。
 勘のいい者なら誰でもそれがオブリビオンであることに気づいた。
 そして声が響く…誰が喋っているのか?口元の動きが見えずともそれはこのマネキンの様なオブリビオンが発している声であることを本能的に理解することだろう。
「猟兵の皆様、初めましてわたくしの名はペルソナと申します」
「巷では私のことを虚構王とも称されることから『虚構王ペルソナ』そう名乗らせて頂いております」
「本日アナタ方にこの予告映像を送った理由、それは一つ」
「猟兵を主役にした映像作品を作ろうと思い立ったからに他ならない」
「私には強いこだわりがある」
「それは物語を紡ぐこと」
「あらゆるものを物語を紡ぐ舞台として取り込む…それが私の使命であり生き甲斐」
「アナタ方猟兵すらもそれは例外でなく…役者として起用したい」
「…もちろんアナタ方という存在は敵である、それは私も本能的に理解している」
「ですから猟兵には猟兵に相応しい舞台を整えようと思います」
 虚構王は指を弾き画面を暗転させ別の映像を映し出させる。
 そこには廃墟となったショッピングモールが映し出されている。
 そして色褪せた看板が、剥がれ落ちた壁が、ひび割れた窓が、順々にスライドされて移されていき、人影の集団を映す。
 それらは様々な装束に身を包んだマネキン達でどれも武装している。
 あるものはピエロ姿で斧を持ち、あるものは軍人の様な服装で身を包み小銃を手にして、あるものは中世の冒険者の様に剣を携え、あるものは異形の様な骨格をボロ布で隠して佇む。
「これらは私が配役したヴィラン達、アナタ方を殺しうる悪役だ」
「これらを使って猟兵としての素晴らしい力をお見せ下さい」
「この作品が猟兵の華々しい活躍で彩られるかそれとも猟兵の死によって彩られるか」
「私はどちらでも歓迎致します」
「アナタ方猟兵は私の依頼を断ることは出来ないでしょう?」
「アナタ方が来なければ私は“市井の人々”を“キャスティング”することになるでしょう」
「私が彼らをヒーローに変えましょう…それは“悲劇”と呼ぶシナリオになるかもしれませんが…“物語創りの為を想えば些細”なことです」
「さぁどうしますか?猟兵の皆様?“私は此処で待っておりますよ”」
 そう言い終えると、そのオブリビオンの予告映像は終わりを告げた。

●グリモアベース
 シアターの暗がりからポップコーンを齧る音がする。
「皆は映画は好きかなぁ~?」
 舌足らずな声が響く。
「依頼が入っているぞ猟兵達よ」
 同じ場所から明瞭な声が響く。
 それはコモフォ・グリードと呼ばれた一人のグリモア猟兵が発した言葉だった。
 彼女は一人で二人の多重人格者である。
「イェーガームービー社って知ってる~?簡単に言ってしまえば猟兵の活躍を記録して一般に放映してる会社なんだけどねぇ~」
 グリードがポップコーンを宙に投げそして口で受けながら説明する。
「そこに先ほど見せた映像形式のオブリビオンの予告状が届いたという訳だ」
 コモフォは咀嚼もせずにスラスラと説明する。
「でねぇ~それって面白いって思わない~?配給会社はねぇ~丁度いいからその映像が録られたらそのまま編集して映画にしようって話になったんだよねぇ~」
 グリードは面白可笑しいという様な口調で説明する。
「もちろん結末はオブリビオンの撃破で終わらせてもらう」
 コモフォが当然だなと釘を刺す様に言う。
「オブリビオンが送ってきた予告映像を予知で参照したが大まかな違いは無い様だ」
 コモフォがグリモア猟兵としての力で情報の精査が確かな事を保証する。
「虚構王ペルソナは自身のユーベルコードを用いてマネキン役者を用意してるみたいだねぇ~」
 グリードは着ぐるみやロボット、いずれにせよ大差ない存在だという風に言う。
「だからと言って侮るなよ、安全には配慮してくれ…万が一にも負けられては困る」
 コモフォは猟兵に実戦であることには違いないし汚名を残すなと言い含める。
「まぁこの世界には『マルチバース構想』もあるしねぇ~ヒーローズアースには無数の『平行世界』があるものとするって考え方だけど~」
 グリードが笑い含む様に言う。
「事実より記憶、猟兵達の気高き魂(スピリット)を後世に伝える事が大事だということでもある」
 コモフォが冷徹に言う。
「失敗したらねぇ~まあ、平行世界のお話だから…それで済ませられるってことだよぉ~」
 グリードがニヤリと笑う。
「ユーベルコードの使用は自前で考えることだ」
 コモフォが身の振り方を考える様に促す様に言う。
「オブリビオンは今は閉鎖されたショッピングモールの各区画に自身の配下や罠などの設備を用意している様だ」
 コモフォはさらに予知で見た詳細を詰めた説明を始める。
「見れば分かると思うけどねぇ~その区画は当時のショッピングモールが営業されていたのと同じくらいに綺麗になってるみたいだよぉ~」
「だから用いようと思えばショッピングモールにある類の商品やらを利用出来そうだねぇ~」
「フードコートなら食品とかも食べれそうだけど~それは用意された区画でだけでぇ~その範囲を出たら途端に造りの荒い偽物になるみたいだよぉ~」
「カメラに映らない行動は全て無意味だってことだろうねぇ~」
「でも逆に言えばカメラの範囲内ならちゃんと動作するし敵にもしっかり効果が利くみたいだねぇ~」
 それが虚構王ペルソナのユーベルコードによって整えられた舞台というギミックだろうとグリードは説明する。
「私なら銃砲店を要求するがな、連中の用意した武器で連中を討つ、痛快だろう?」
 皮肉気にコモフォは説明を返す。
 「用い方は猟兵次第、あのオブリビオンは素晴らしい物語が出来れば勝手に満足していく輩の様だ」
 コモフォは飽きれる様な物言いで説明する。
「現状分かっている範囲はこれくらいだ、まずは現地に飛んでショッピングモール内のオブリビオン配下を撃破、そうすればオブリビオンが待つ部屋への道が切り拓ける」
 コモフォが今回の依頼でやるべきことを端的に纏めて説明する。
「やるべき事は分かったな?それでは…後は頼んだ」
 コモフォが猟兵達への挨拶を済ませる。
「ふふっ映画撮影だと思って愉しんでねぇ~」
 集まった猟兵達はグリードの笑い声を聞きながら転移して行く。





第2章 ボス戦 『虚構王ペルソナ』

POW ●君、いい体してるね?
演説や説得を行い、同意した全ての対象(非戦闘員も含む)に、対象の戦闘力を増加する【配役と衣装】を与える。
SPD ●アーーーークッッッション!!
合計でレベル㎥までの、実物を模した偽物を作る。造りは荒いが【撮影セット】を作った場合のみ極めて精巧になる。
WIZ ●ブラーボ! ブラーボ!
【歓声】を聞いて共感した対象全てを治療する。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は襞黄・蜜です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 第二章
 ショッピングモールの奥深く。
 もはや一寸先も見えない闇の道を行く者。
 それは猟兵と呼ばれる。
 ようやっと歩き抜いた通路の先に。
 遠く漏れる光明は希望の灯台か絶望への誘蛾灯なのか。
 撮影中であることを示すカメラの赤いランプが誘導灯の様にぽつりぽつりと道の先に点在する。
 道標が捉え続けるのは何か?。
 猟兵の想いか力かあるいは演じられた正義か。
 この先へ行けば自ずと分かる。
 カメラ達が証人となって捉えてくれるだろう。
 辿り着いた行き止まり。
 加減なく電力を消費しているであろう光源のライトアップ。
 カメラには映らない死角となる辺り一面には血管の様に絡み合った撮影機材のスパゲティコード群。
 正面の壁面には大きく開かれた口内から覗く歯茎の様な角度でカメラが並べられて取り付けられている。
 口内に見立てられた様なカメラの壁面の正面、まるで喉奥へ通じる様な位置に扉が一つ存在する。
 その正面こそが『虚構王ペルソナ』 の居る最後の部屋へと繋がっているのだろう。
 他に入り口の類は無い。
 不意にその扉の頭上、その扉を口に見立てるならば位置的には目の位置。
 二つのプロジェクターが投影されて、虚構王ペルソナの姿を映し出される。
 その姿、光景は予告映像の時と全く変わらない。
「ブラーボ! ブラーボ!」
 開口一番に虚構王ペルソナは辿り着いた猟兵へ拍手と共に健闘を称える。
 猟兵が“歓声”を聞いて“共感”するならば“猟兵の傷”はまるで“存在しなかった”。
 そう虚構であったかの様に消え失せ、猟兵は体の疲労感さえも見失う。
 それを猟兵が、怪訝に思う、思わないにしろ虚構王ペルソナは語り出す。
「…アナタは私を訝しいと思うかもしれません」
「敵に与えるという行為は不自然と思うかもしれません」
「それは少し違います」
「私は物語の為に最良の品質を提供したいと思っている」
「主役と端役、どちらが重視されるべきか、分かりきった事でしょう?」
「主役なら主役らしいコンディションでなければ映えません」
「だからアナタが私の映画を完成させるまで何度でも私はアナタに与えましょう」
 そう言いながら虚構王ペルソナは自身の手元に小さなマネキン人形を出現させる。
 それは猟兵が戦ったマネキンに酷似した衣装を与えられていた。
 手の中でクルクルと廻るマネキン人形。
 虚構王ペルソナはもう片方の手から今度はまた違った衣装を出現させる。
 それら二つを一つに合わせるとマネキン人形もまたその衣装に適した姿へと変貌する。
「“配役と衣装”これは映画作りにおいてもっとも重要な要素の一つ」
「そしてそれを決めるのは監督次第」
「全ては私の掌の上で決められます」
「此処まで来れたアナタには十分に選ぶ権利があります」
「アナタが望む作品は何でしょうか?」
 そして虚構王ペルソナの背景が映される。
 無数に置かれたマネキン部屋。
 虚構王ペルソナが腕をさっと払う。
 すると払われた部屋の一室は真っ白な空間に為る。
 さらに数回、その動作を繰り返す。
 それは廃墟の病院に、それは海辺の浜辺に、それは宇宙の広がる月面に、それは夕暮れの中世の城に、為る。
 それは共通して一つの鍵穴を持った扉がモザイクの様に宙に存在した。
「人の数だけ物語が在る」
「素晴らしい…だからこそ私が紡ぐ価値が在る」
「アナタの物語を私が紡ぎ、そして一つの舞台に取り組みましょう」
「アナタは私の作品の中で永遠となるのです」
「…クライマックス撮影と参りましょうか」
「アナタが私の作品と為るのか、私がアナタの作品と為るのか」
「それでは…」
 “ACTION”
●REC最終テイク撮影開始。
御形・菘
『人々の記憶の中で、妾の活躍は永遠となる』
なるほどお主の望むモノは、妾とまったく同じなのかもしれんな

右手を上げ、指を鳴らし、スクリーン! カモン!
はーっはっはっは! 今日も元気かのう皆の衆よ!
此度、最強の邪神に挑むのは虚構の王!
妾にも、そして勇敢なる者にも、歓声を! 喝采を! 存分に浴びせてくれ!

皇帝、帝竜、魔王に略奪者、その他諸々! 
あらゆる世界で巨悪をボコる! この神殺しの左腕で、妾は常にそうしてきた!
お主もその一人に加えてやろう!
さあ、見る者すべてを心躍らせる、最高のバトルを繰り広げようではないか!

配役は決まっているが、衣装はお主に任せよう
魅せる術を心得たもの同士、そこは信頼しておるぞ?


●フィルムラベル:『邪神様』。

「『人々の記憶の中で、妾の活躍は永遠となる』」
 闇の中から声が響く。
「そしてお主の目的もまた作品の中で永遠となる」
 闇から進み来る者の眼光が爛々と怪しく現れる。
「なるほどお主の望むモノは妾とまったく同じなのかもしれんな」
 照明の光が半蛇身のシルエットを浮かび上がらせていく。
「確かにそうかもしれませんね」
「だからこそアナタは私の“映画”の元へ現れた」
 虚構王ペルソナは立ち振る舞いを変える事なく“邪神”を出迎える。
「お主も妾のファンと為るか?」
 邪神が問う。
「私にとってはアナタは演者だ」
「邪神を演じる…“蛇神”…御形・菘」
 虚構王ペルソナはその問いにそう答えた。
「そうか…同じ道は歩めぬか」
 残念そうに菘はペルソナを見る。
「この世界の大半は録るに足らない物語の連続に過ぎない」
「アナタも同じ“表現者”なら理解るはずだ」
「“我々が”手に取り挙げるからこそ際立つ…例えそれを悲劇として魅せ様とも」
 ペルソナは自身の手元で弄ぶ様に小さなマネキン人形を浮かせて菘に見せる。
「お主の信念を否定したくはない…しかしやはりお主とは根本が違えているのぅ」
「妾の配信に無辜の民の嘆きは存在せぬ」
 菘はそう返答する。
「大衆が、愚衆が、求めるのはカメラの中の虚構に過ぎない」
「それでもアナタが編集した動画、あるいは私が紡ぎ出す映画…」
「証明しましょう、どちらが優れているか…魅せ合うとしましょうか」
 虚構王ペルソナが自身のユーベルコードを展開する。
「はっはっは面白い!ならば魅せてみよ!」
「“配役”は決まっているがのぅ、衣装はお主に任せようではないか」
 “邪神様”は敢えて虚構王ペルソナのやり方で応じる。
 虚構王ペルソナが頭上にモザイクが掛かった扉を出現させる。
「この先、邪神を討つ者在り、それでも?」
 虚構王ペルソナが菘の眼前に扉を下ろし置く。
「魅せる術を心得たもの同士、そこは信頼しておるぞ?」
 挑発染みた提案さえも菘は受け入れ、邪神の風格でもって答えて魅せる。
「ならば私は紡ぎましょう、この舞台を、この映画を」
「…さぁどうぞ『邪神様』」
 それに応じ、菘が右手を上げ、指を鳴らす。
「スクリーン! カモン!」
 空中に無数のディスプレイが映り現れる。
 そこには邪神様の生配信視聴者達の歓声を挙げて見守る姿が在った。
「はーっはっはっは! 今日も元気かのう皆の衆よ!」
 いつもの調子で邪神様は視聴者達に挨拶する。
「此度、最強の邪神に挑むのは虚構の王!」
「あらゆる世界で巨悪をボコる! この神殺しの左腕で、妾は常にそうしてきた!」
「皇帝、帝竜、魔王に略奪者、その他諸々!お主もその一人に加えてやろう!」
 天地が指差す菘の目線を捉える。
「さあ、見る者すべてを心躍らせる、最高のバトルを繰り広げようではないか!」
「妾にも、そして勇敢なる者にも、歓声を! 喝采を! 存分に浴びせてくれ!」
 掴みは抜群、視聴者達が湧き上がる。
 それに合わせて虚構王ペルソナは扉を開く、そしてその先へと消え入る。
「妾も行くとしよう!」
 躊躇う事無く菘は扉の先へと飛び込んだ。

 菘が次に目を開けた時、そこは暗闇だった。
 いや、厳密にはそれは閉じられた空間であった。
 邪神様には似合わない空間だ。
 そう菘が思った瞬間には、既に彼女の左腕は手を打っていた。
 派手に宙を舞う棺の蓋。
 菘が居た場所、其処は棺桶の中であった。
 開かれた棺の中から辺りを見回す。
 松明に囲まれ、炎の灯りだけが辺りを照らす。
 それはピラミッド型祭壇の最上段。
 神殿か何かの様でもある。
 周りに居たのが略奪者然とした集団でなければ神々しさが際立ったろう。
 金銀財宝と明らかに身分不相応の装飾品を身に纏う形で持ち出そうとする集団。
 物騒なククリナイフを腰に下げ、手元の松明でより多くの財宝をと物色する。
 それらは皆一様に顔面をモザイクで覆われた存在であった。
 命名するならばモザイク略奪者とでも形容出来る存在。
「邪神様の祭壇に侵入者有りと、そういうシチュエーションかのぅ」
 状況を大まかに理解した菘が神殿の地に降り立つ。
 それと同時に副葬品の様に仕舞われていた天地が棺から飛び立つ。
 スクリーンもまた邪心様の姿を捉える。
 棺の中は王家の財宝といった豪華な副葬品が垣間見え。
 菘の衣装も古代の王女に相応しい装飾品と古びたミイラが纏う様な包帯が巻かれている。
 その菘の姿に気づいたモザイク略奪者達は松明の灯りを彼女に向けて一斉にナイフを抜いた。
「邪神様のお目覚めである!肩慣らしと興じてくれよう!」
 菘は邪神らしく仁王立ちで待ち構える。
 右から左から斬り掛かられても動じる事も無い。
 両手を使う必要も無い。
 何故なら菘は蛇体を持つ身。
 腰の一振りで猛烈な尾の一撃を振るえる。
 一度の動作で同時に二体の影が刎ねられた。
「何処からでも来るがいい」
 その余裕は確かなものがある。
 飛び道具でも無ければむしろ四方に開けた祭壇は尾の振り回しに最適な地の利が在った。
 だからこそ数だけに物を言わせたモザイク略奪者達の襲撃は尾を右に左に振るうだけであっけなく鎮圧出来てしまった。
「他愛ないの~まぁ良い次の演出に期待するとしよう」
 転げ落ちた様に辺りに散らばる影を後に、菘は祭壇を下りていく。
 一段、一段と下りる事に菘の身を纏う包帯が自然と解けてより妖艶な装束へと変わっていった。
 立ちふさがる重厚な二つ扉を両の手で押し開き、先を行く。

 石造りの空間が眼前に広がる。
 石柱が連なり廊下を形成している、中世の城作りの内装が見て取れた。
 壁に掛けられた松明の灯りは順々と遥か先まで広く一本道を通している。
 その先に佇む人影の集団。
 こつりこつりと菘の方へ向かってくる。
 軽装の革鎧装束、狩猟弓とナイフを持つ者が二人、標準的な鎧とヘルムを被った剣と盾を持つ者一人、ウィザードローブを身に纏い魔法触媒らしき杖を持つ者一人、冒険者服とクローク一枚を羽織り、半身と同じ程の巨大なグレートソードを担ぐ者一人。
 それらはいずれも皆一様に顔面をモザイクで覆われた存在であった。
 命名するならばそれぞれ順に狩人、盗賊、戦士、魔法使い、勇者、モザイクとでも形容出来る存在。
 これまでのマネキンとは一味違う雰囲気を空気感からして漂わせている。
「いよいよもってこの“邪神様”を討ちに来た様じゃの~さながら“勇者御一行様”…といった所であろう?」
 相手の配役を見抜き、菘の衣装もまた魔王然とした威光ある輝きを持ち始める。
 対峙する両者。
「何処からでも掛かって来るがよかろう」
 邪神らしく菘は両手を広げて先手を譲る。
 それを合図に勇者御一行は一斉に散開して菘の元へと襲い掛かる。
 狩人モザイクが走り距離を計りながら牽制の矢を放つ。
 菘は右へ左へその場でコブラ踊りの様な動きで矢を躱す。
 その回避の間に近接職のモザイク達が距離を詰めて走り寄る。
「ただ踊り魅せるだけではつまらんであろう?妾からも飛ばして行くぞ!」
 ベリーダンスの様に妖艶な舞踊を維持しながら菘が宣言して一回転。
 廻りきった瞬間に合わせて菘の影が蛇の形へと移り変わり飛び出していく。
 八元八凱門、邪神の黒きオーラが大蛇と成して勇者御一行に牙を剥く。
 前列で盾役を買って出た戦士モザイクが盾を抉られそのまま吹っ飛ばされる。
 しかし戦士モザイクのディフェンスで勇者モザイクは大蛇の軌道から抜け出し。
 同様に避け抜けた盗賊モザイクがすれ違いざまにダガーナイフを大蛇へ投げ刺す。
 ダガーナイフが大蛇の影元に刺さると同時に地面に引っ張られる様に大蛇そのものの動きが鈍る。
 それに呼応して魔法使いモザイクが杖を掲げて魔術を行使。
 ダガーナイフを起点とした魔方陣が現れ大蛇を地面の影へと縫い留める。
「なんと!妾の邪神オーラを止めるか!?」
 ただ連携が取れているだけでなく実力を伴うのは、それまでのマネキンよりも遥かに高度な手駒であるとまざまざと示す。
 菘がピクリと気を取られた刹那に狩人モザイクが抜け目なく弓を射る。
 だが菘の軟体は枝垂柳の様に反り、矢を避けて直ぐに元の体勢に戻る。
 元の体勢に戻る一瞬、跳ねる視界の中で菘の眼前を飛び越えた矢がコンクリートを削る銃弾の如く柱の支柱を削り飛ばすのが見て取れた。
「いや、いくら何でも今のはヤバいであろう!」
 狩人モザイクが本気で射る矢は十分にキマイラの肉体を射抜く威力を持ち得ている。
 例外は彼女の強靭なる左腕ではあるがそれ以外の部位に当たればキツイと菘は直感した。
 しかし防御に思考を割く間に勇者モザイクもまた大剣のリーチを生かして振りかぶって来る。
 菘は自身の蛇尾をスプリングの様に撥ねて一気にその場から飛び退く。
 大剣故に機動は遅いが威力は絶大、菘が避けた先の地面は勢いよく弾け飛ぶ様に抉り潰される。
「邪神を討つ者と評するだけあって中々やるではないか!…ならばこちらもテンションをアゲていくかのぅ!」
 それまで受けの姿勢であった菘が左腕を構える。
 勇者モザイクが軌道を修正しニ撃目の振り切りを菘へ向ける。
 それに合わせる様に菘もまた左腕を殴り向ける。
 当たれば一撃必殺のグレートソードに匹敵する左腕に勇者モザイクが咄嗟にそのまま斬るのでなく剣でもって払い避ける軌道へ修正する。
 真っ向からのぶつかり合いを避ける形を取ったにもかかわらず剣が受けた衝撃の余波だけで勇者モザイクが吹っ飛びその体で支柱の一本をへし折りながら倒れ込む。
 魔王級の腕力に匹敵する勇者モザイクでさえも本気を出した菘の左腕には敵わない。
 咄嗟に威力を殺す事に全力を掛けた必殺級の防御でなければ消し飛んでもおかしくない一撃であった。
 戦列に出来た空きを即座に埋めに戦士モザイクと盗賊モザイクが間に割り込みカバーに入る。
 最初の盾役を買って出た時に盾を失っていた戦士モザイクには防御力が不足していた。
 菘の視線が合うと同時に振り上げた尾の一撃が戦士モザイクの剣を搔い潜り的確に胴を打ち捉える。
 盾があれば致命傷は避けられたが無いのだから防ぎ様も無い。
 跪く様に地面に押しつぶされた戦士モザイクは剣を落とし、絶命した様子で動かなくなる。
 隙の隙を見出し抜く事だけに特化した機動で盗賊モザイクが宙を駆けて無理矢理に菘の元へ何かを投げ入れる。
 盗賊モザイクの地に足つかない攻勢を菘の左腕が薙ぎ払う。
 菘の左腕は投げ入れられた物ごと、盗賊モザイクの横っ腹を殴り飛ばしてしまう。
 壁にぶち当たりながらも収まらない勢いでそのまま地面を二度撥ねながら転がった後、盗賊モザイクはボロ屑の様に沈黙しピクリとも動かなくなった。
「むっ!これは毒粉か?…捨て身の覚悟で来るとはやるではないか」
 自身が廃れる事を覚悟し、例え防がれようとも確実に残せる手段を盗賊モザイクは遺して逝った。
 神経毒の類か、少し吸っただけで若干力が弱まる。
「しかし妾を止めるにはちと少ない!」
 力が弱まり始めるのなら弱まりきる前にゴリ押せば良いと力押しで菘が進む。
 魔法使いモザイクは菘の邪神オーラを押し留めるのに注力していて戦力にならない。
 狩人モザイクの連携前提の弓捌きは菘に防御に徹しさせるほどの阻止力が無く攻勢に出る余力を生ませてしまっている。
 残された遠距離職では菘の進撃は止められそうにない。
 菘は進む途中で戦士モザイクの落とした剣を尾で拾い上げて狩人モザイクに威圧感を迸らせながら投げつけた。
 投擲自体は少し勢いが無いが、天上天下唯我独尊之理、凄烈に作用する圧倒的な存在感に幻視する様に狩人モザイクは避ける事を優先する。
 作用の強烈さとは裏腹にステップ一つで避けられる投擲。
「甘いのぅ!お主らのやり方、忘れたか?」
 剣を避けた先には魔法使いモザイクの姿…最初から狙いはそちらで、菘は脅しの一喝で連携重視の輪から一瞬目を背けさせていた。
 前衛能力の無い魔法使いモザイクではただの剣の一振りが刺さっただけでも致命傷だった様で。
 胸元から刺さった剣を項垂れる様に見ながら魔法使いモザイクは手元の杖をカランと握力を失くし落とすとそのまま倒れ伏して動きを止める。
 それを防げなかった狩人モザイクは…覚悟を決めた様に弓を引く。
 相打ちでも当てれば確実に一撃となる一矢。
 しかしそれが放たれる事は無い。
 魔法使いモザイクの拘束から自由となった大蛇の影が驚くべき速さで狩人モザイクに齧り付きそのまま宙に放り投げた。
 狩人モザイクは地面に呆気なくぶつかると、だらりと関節さえも動かない形状となって息絶える。
「ふぅ、これでようやっと終いかのぅ?」
 体に回り出した毒に眩暈を覚える菘。
 思わず腰を落とす。
 次の瞬間、柱が斬り落とされて粉砕される。
「おわぁ!?」 
 さすがの邪神様でも肝を冷やして、床を這う様に滑り抜け出す。
 蛇体を持つおかげでその歩みに動作のロスが無い。
「そういえばまだ残っておったではないか!」
 切断された柱の陰から勇者モザイクが姿を見せる。
「しかし一騎打ちならば…」
 弱っていようと問題ないと言おうとした瞬間、咆哮が響き渡る。
「…この咆哮は」
 帝竜、それに酷似した竜が猛然と飛び込んで来る。
 正確に見捉えるとそれはモザイクで覆われ貌を無くした帝竜の様に見える。
 モザイク色の炎を吐き出しながら喰らいついてくる。
 モザイク帝竜と言うべき存在か?
 咄嗟に菘は自身の大蛇のオーラでモザイク色の炎を防ぎモザイク帝竜の首元に尻尾で巻き付き締め付ける。
 モザイク帝竜は暴れながら飛び回る。
 菘は振り落とされない様にそのままモザイク帝竜の首元を滑る様に這い上り騎乗する様にしがみ付く。
 振りほどけないとなるやそのままぐんぐん速度を上げて城壁を粉砕し、モザイク帝竜は空を駆ける。
「まったく無茶苦茶するのぅ、しかし嫌いではない!どうどう!」
 モザイク帝竜を暴れ馬を制する様に菘は完全に自身の蛇体でもって手綱としていた。
 そして拡がるのは、夕焼けに染まる空、真下には半壊した城跡、そして広大な大地には…埋め尽くす軍勢の姿。
「あれは…皇帝であるか?」
 何処か見覚えのある姿、しかしそれもまたモザイクに覆われて伺いしれない。
「妾を満足させようと至れり尽くせりであるのう」
 いよいよもって疲労も困憊、さらに邪神包囲網までもが極まった状況にありながら我らが邪神様は悠然と構えた。
 虚構王ペルソナが虚空に現れる。
「邪神の終わりとはいつもこうなるもの」
「アナタの編集の範囲で出来る事には限りがある」
「しかしオブリビオンと為ればいつでも其処に過去という永遠があるのです」
「アナタもその理に組み込んで差し上げましょう」
 虚構王ペルソナが指揮を執る様にカメラを録る様に合図の手を挙げる。
「…皆の歓声、応援、高評価ポイントや笑顔」
 菘が邪神様としてニヤリと笑い言う
「唯、映画を録るだけでは得られん永遠は確かに在る!」
 邪神様が天を指して言う
「『お主にも見えるであろう、聞こえるであろう? この感動を背負い、後押しされる限り、妾は最強無敵よ!』」
 その瞬間、虚構王を追いやる程の【生配信視聴者が映る無数の空中ディスプレイ】が空を覆いつくす。
 視聴者達はずっと邪神様と共に在った。
 肌で感じる視聴者達の熱量がスパチャとなって邪神様の元へと集う。
「これが生配信の強みよ」
 体の毒素が湧き上がる力に癒され、邪神様の装束が赤く神々しく光を帯びた赤スパチャの力に包まれていく。
「ならば!今すぐカットするまでだ!」
 視聴者達の生配信の熱量に圧された虚構王ペルソナが叫ぶ。
「生配信は止められん!!!!」
 菘の左腕の元にアーダーライトが現れ、それを菘は邪神様として掴み取る。
 ソーシャル・レーザー、視聴者のスパチャがそのままスーパーチャージエネルギーとなって充電されていく。
「アーーーークッッッション!!」
 虚構王ペルソナが足掻き、モザイク帝竜とモザイク勇者に指示を出す。
 いつの間にやらモザイク帝竜の尻尾に掴まっていたモザイク勇者がそのまま振られた尻尾によって投石器の様に菘の元に大剣を振り上げて飛んでくる。
「はーっはっはっは!しかーし!邪神様には追い付けんよ!」
 非常に頑丈なアーダーライトを鈍器代わりにモザイク勇者を殴り返して宙を舞う。
「『喝采よ、妾に降り注げ(エール・スクリーンズ)』」
 落ちながらアーダーライトの充電が完了を迎える。
 それを抑え込もうと、虚構王が、帝竜が、皇帝と軍勢が、一斉に邪神の元へ手を伸ばす。
「『邪神様のお通りだ』」
 眩い閃光がアーダーライトを通して世界を映す。
 虚構で彩られた世界が本来在るべき姿へと為っていく。
 塗り潰されていく世界、ぐるりぐるりと邪神様が、世界を廻す。

 世界に邪神様の光あれ!。

 彼女は高笑いとともに現れる!。
 『妾がいろんな世界で怪人どもをボコってみた』好評配信中!。

 暗がりに光が点る。
 シアターが歓声に包まれる中。
 一人のキマイラが席を立つ。
「まだまだ配信しなきゃならない世界は多いからの~」
 配信者は多忙だ。
 邪神様が“邪神様”として振る舞う限り、その全てが上映会に等しい。
 ふわりと撮影用ドローンが彼女の後を追う。
大成功 🔵🔵🔵

上野・修介
※改変歓迎
「『歓声』は不要だ。あの程度で消耗するほどヤワじゃない」

相手は正しく『舞台』の構築に長けている。
下手に乗せられれば抜け出すのは難しいだろう。

「舞台も演出もそちらの好きしろ。撮りたければ勝手に撮ればいい」
俺は自身の『役目』を果たすだけだ。

――恐れず、迷わず、侮らず
――為すべきことを定め、水鏡に入る

調息、脱力、戦場を観据える。
目付は遠くの山を観る様に『虚構王ペルソナ』を中心置きつつも広く、敵の数と配置、周囲の状況を把握

小細工無し。真っ向勝負。
最短を測り、最速で間合いを殺し、障害があるならば何であろうと拳で砕く。
そして『虚構王ペルソナ』に持てる渾身を叩き込む。

「推して参る」


●フィルムラベル:『拳は語らない』。

 音も無く、表情も無く、一人の男が闇の中から歩み出る。
「ブラーボ!…ブラーボ」
 独りの歓声と乾いた拍手が虚構に響き渡る。
「アナタという猟兵を招待して良かった、これ以上にない画が録れましたからね」
 対峙するのは虚構王ペルソナと上野・修介。
「『歓声』は不要だ。あの程度で消耗するほどヤワじゃない」
 態度に変化無く修介は言い放つ。
「ご謙遜なさらずともアナタは称賛に値する闘いぶりではないですか」
「アナタがその気になれば帝王にさえ成れる逸材」
「何なら私がプロデュースしてあげてもいい」
「その力を思うがままに振るえばいい、そうするだけで世界はアナタに跪く」
 虚構王ペルソナが熱心に身振り手振りで表しながら勧誘する。
「…興味が無いな」
 その素っ気ない返答には心の底からどうでもいいという興味の無さが見て取れる。
「本当に欲の無いお方だ」
 ペルソナは脈無しと見るとなんとも惜しいものだという態度で足組みを変え直している。
「ならば致し方ない、私のやり方でアナタを録り直すとしよう」
「私の作品を通してアナタを組み直して差し上げます」
「アナタに相応しい闘争の舞台を用意しましょう」
 虚構王ペルソナは頭上に扉を出現させ、修介の眼前に突き落とす。
「舞台も演出もそちらの好きしろ…撮りたければ勝手に撮ればいい」
 微動だにせず修介は佇んでいた。
「オブリビオンと猟兵…録るか獲られるか」
「どちらにせよ、最後に立つのは一人」
「これより先は、ギブアップ無しのデスマッチ、それでも?」
 行きますか?と虚構王ペルソナは挑発的に促す。
「俺は自身の『役目』を果たすだけだ」
 言葉数少なく、しかし確かな意思を持って修介は答える。
「ならばゴングを鳴らすとしましょう」
 蠢くモザイクが扉全体に広がりその先に広がる世界の門となる。
「最終ラウンドにはアナタの肉を断ち骨を断ちうる者在り」
「さぁ魅せて頂きましょうか私が紡ぐに相応しい闘いぶりを」
 虚構王ペルソナが扉の鍵穴に触れるとモザイクとなって消えていく…そして開かれる扉。

 相手は正しく『舞台』の構築に長けている。
 下手に乗せられれば抜け出すのは難しいだろう。
 それでも上野・修介という漢は先へ進む。
 漢に二言無く、背中は見せない。
 小細工無し。真っ向勝負。
 ――恐れず、迷わず、侮らず
 ――為すべきことを定め、水鏡に入る

 調息、脱力、戦場を観据える。
 目を開く、其処に広がる世界。
 真空、果ての無い闇、雪の様に柔らかい足触り、火薬の様な匂い…それこそが月の香り、月の匂い。
 此処は紛れもなく月面そのものと見える。
 これは虚構の世界かあるいは本当に転移してきたのか。
 招き入れた当人の姿を探す。
 遥か遠方に月の山々が連なるクレーターの中心点。
 虚構王ペルソナは来る前と同様に虚構王ペルソナディレクターズチェアに足を組んで座っている。
 その背後には青い地球の姿がまざまざと見えた。
 虚構の世界だからか、猟兵であるからか、不思議と息は続く。
 周囲の状況を把握し、敵の姿を探る。
 虚構王と修介のやり方は真逆だ。
 修介が小細工無しで挑もうと虚構王は必ず小細工を施す。
 録る事に執着する者と語らぬ者、水と油の様に相反する。
 天を仰ぐ様に宇宙を見上げる。
 キラリと光る反射を修介は見逃さない…やはり居た。
 猟兵として研ぎ澄まされた視力が月の軌道上に点在する隕石群を捉える。
 隕石群の中に紛れ込む様に人工的な衛星が隕石に擬態する形で修介の方を向いている。
 それは明らかに隕石型の衛星で、そしてカメラとして機能するレンズが見て取れる。
 距離こそ遠いけれども油断は一切出来ない。
 最短を測り、最速で間合いを殺し、障害があるならば何であろうと拳で砕く。
 やることはどんな場所であろうと変わらない。
 一流の闘士は環境に左右されず、己の武を留められる事は無い。
 月の重力の軽さが猟兵としての身体能力と相まって一歩跳ねるだけでビルの一つ二つは優に飛び越える脚力となる。
 しかし弾ませすぎれば月面を離れて宇宙の果てへと飛び出しかねない。
 慎重さと大胆さ、その両方を必要とする走法が必要であった。
「(水面を歩く様なものか)」
 体感だけで修介はいとも簡単に月面の重力に適応する。
 踏み起こした月のダストに包まれるよりも速く、ただ真っ直ぐに飛び跳ねる様に修介は走り続ける。
 月面に障害物など何もなく、このまま走り続ければものの数分で虚構王の元へと辿り着く。
 しかし修介の予想通りに邪魔が入る。
 音も無く、頭上から落ちてくる影。
 一歩前へ、フェイントを掛ける様に修介は飛び跳ねる軌道を手前で変える。
 修介は足を止めずに飛び跳ねる光景の中、横目に落下物を視認する。
 それは確かに隕石の一つに違いなかった。
 頭上から落下してきた隕石、ただの偶然なはずも無い。
 備える様に頭上に意識を向け、注視する。
 隕石型の衛星カメラ、それらの群の一部が移動してきている。
 だがそれだけではない事も修介の洞察力は見抜いていた。
 カメラはカメラでしかない、虚構王ペルソナならば撮影器具を破壊してまで利用はしない、カメラは録れなければ意味が無い。
 だからカメラそのものは突っ込んできていない。
 ならばカメラが必ず映すものがある。
 修介に当てる事を意図していたならその瞬間をズームするだろう。
 それぞれのカメラの角度を推測し、そして見つけ出す。
 隕石群の中に動く影、隕石の背面に隠れ、ほんの少ししか露出する事の無い影。
 また一つ落ちてくる隕石の一つ、その裏側から跳ねる影。
 それは間違いなく人影で、見覚えがあった。
 宇宙飛行士が着用する宇宙服。
 バイザーは真っ黒で顔は伺いしれないが…敵だ。
 あれが隕石を押し出し蹴り出し、修介の元へ落としている。
 対処する必要がある。
 それとも走り抜けるか?。
 修介はそのどちらも選択する。
 方法は単純明快、落ちてくる隕石に合わせて拳を振るい潰す。
 ただ少し工夫する、隕石の礫が飛び散る方向を宇宙服の元へと弾いたのだ。
 猟兵の力と無重力の加速力が加わり、礫はまるでスナイパーライフルの様な威力と射程力を伴いながら散弾の様に広がる徹甲弾となって進むのだ。
 つまり礫の三式弾といえるものが宇宙服の元へと降り注いだ。
 全身を貫く礫に押されて宙へと飛び出る宇宙服。
 飛び出る中身は臓物で無くモザイクの靄の様な何かであった。
 そのまま無重力の推進力によって何処か遠くへと消えていく宇宙服。
 命名するならばモザイク宇宙服とでも形容出来る存在。
 その一体を討った瞬間、辺りの隕石群が一斉に動き始める。
 正確にはそのどれもが隕石の背面に隠れていたモザイク宇宙服達に押され、修介の元へと狙いを定め始めたのだ。
 一つ二つでは済まない量ともなれば四方八方から飛んでくる。
 礫割りをするにも人間の構造上、物理的に死角が生まれてしまう。
 それをどうするのか?。
 修介は敢えて大きく跳ねた。
 宙に滞空する時間が長い程、隙も大きくなる、当然着地する瞬間は無防備になるだろう。
 モザイク宇宙服達は容赦なくその瞬間に合わせて隕石群を降らせる。
 だが修介のその動き自体が挑発と次の一歩を兼ねている。
 着地の瞬間に修介は渾身の脚力で跳ねた。
 月面のダスト、粉塵は無重力下ではとても簡単にそして大量に巻き上がりやすいという性質を備えている。
 だからその一瞬で新たなクレーターを生み出しかねない程の威力が伴えば、砂嵐の様な砂塵に覆われる。
 一転して視界不良となった月面へ修介は潜り込み、隕石群の衝突軌道に若干のズレを生じさせた。
 隕石群の落下コースを事前に予測してさえいれば、後は人一人逃れるスペースがあればいい。
 修介の頭の中には初撃で落ちてきた隕石の速度が瞬時に記憶されており、間合いを頭の中で既に見切りを付けていた。
 だからこそ隕石群の衝突のほとんどを最小限の軌道だけで誘導し、最短の方法で突破する事が出来る。
 瞬間的な二歩目の跳躍で自分が迎撃すべき隕石を一つに絞り、礫の弾丸を撃ち放つ。
 それも回避と共にさらに複数の隕石を蹴りながら移動を止めず、さらに弾丸の数を増やしながら進むのだ。
 波の様に広がった砂塵の中から一転してモザイク宇宙服の元へ隕石群が極少の弾丸へと姿を変えて戻って来る。
 足場も無く宙に浮かぶモザイク宇宙服にそれを避ける術は無く、次々と宇宙の藻屑となっていった。
 その間に修介は砂嵐を飛び出し、虚構王ペルソナの元にさらに近づく。
 移動を止めなかった事もあり、望遠鏡が必要な程に遠くに居た虚構王の姿が今は目とは鼻の先と、視認出来る距離にまで縮まっていた。

「推して参る」
 修介がそう短く発し拳を握り締めた姿勢で進む。

 調息、脱力、場を観据え。
「『拳は手を以て放つに非ず』」
 【脱力】【呼吸】【意地】がその拳を強化する。

「何故永遠を拒むんです?」
「全てを其処に遺せるのに?」
「何も残さない闘いに意味があるのですか?」
 虚構王ペルソナが上野・修介に、向かってくる拳に問いかける。
「俺の『役目』は『人々を助ける為』にある」
「この拳が誰かの不幸を無くせるのなら…俺の喧嘩は十分すぎる程に遺せている」
 
 そして『虚構王ペルソナ』に持てる渾身を叩き込む。
 拳の速度が加速度的に上昇し拳そのものを一種の質量弾の様に変えて突き進む。
 燃え上がる程に奮える拳が大気圏に突入する摩擦熱を生じさせる様に紅い炎風を伴う。
 炎拳というに相応しい一撃が虚構王ペルソナを打ち捉え。
 全てを燃やし尽くしていく。
 月は赤々と兎の目の様に紅く燃え上がる。
 …月に兎の影は無いけれど、一人の漢の生き様は確かに浮かび上がったのだ。
 調息、脱力、場を観据え。
 そうして上野・修介は目を閉じる。

 次に目を開いた時。
 ばらばらのマネキンが飛び散った廃墟の一室に修介は居た。
 足元には微量の灰が積もり、火薬あるいは月の匂いと呼ばれる匂いが鼻先に感じられた。
 …それがただの虚構だったのかは分からない。
 唯、修介の手元には一本のビデオテープが存在した。
「『吾が拳に名は要らず』」
 しかし修介はその場でビデオテープを握り潰し粉砕する。
 そして礼節を重んじるやり方でその場で目を閉じる。
 調息、脱力、場を観据え。
「これが俺の…俺なりのやり方です」
 其処には何も残らない。
 だが一人の漢の記憶に一つの栄華が刻まれた。
 …次なる闘いの場が彼を待っている。
 上野・修介は静かにその場を立ち去って行った。
大成功 🔵🔵🔵

アノルルイ・ブラエニオン
いいや、物語はこれで終演だ。虚構王

私はこれ以上お前の語る物語を望まない
理由はすでに述べたな?

一言で言えば、お前は語り手として三流だ
そして何より

物語が人を選ぶのではなく
人が物語を選ぶのだ
私達は現実を生きる存在なのだからな
お前はそこを間違えた

ゆえに私がこれから語るのは
『幻想を終わらせる幻想』だ

ヴィゾーヴニル…
とある神話において
その体から発される光により世界樹を照らすとされる光輝く鶏

光は闇に閉ざされた現実を映し出し
そこに幻想の存在する余地を無くさせる

物語の裏側に光を当てられ、『虚構』であることが明らかになったならば、もはや物語として意味をなさない

さらばだ。もう一度物語の作り方を学び直してから来い


●フィルムラベル:『幻想詩人』。

 闇を照らす華の様に美しい音色が響き渡る。
 その奏者の名はアノルルイ・ブラエニオン。

「素晴らしい音色だ、アナタを表現するに相応しい」
 聴者の名は虚構王ペルソナ。

「その美しき音色を私の元で弾くつもりはありませんか?」
「私の力添えがあればその音色をこの世界に響き渡らせる事が出来ます」
「悪い話では無いでしょう?」
「当ての無い旅路の果てを送り続けて来た吟遊詩人達」
「彼らもいつかは一つ所に落ち着き、伝道の歌と共に埋没していった」
「昔からそれが繰り返されてきた」
「虚しいとは思いませんか?」
「アナタもまたいずれは消費され過去の搾りかすになるだけだ」
「不条理でしょう?」
「もはや過去の事では無い…私達は過去を取り戻すのですよ」
「そうです我々が抗うのです…オブリビオンとしてね」
 虚構王ペルソナは語り諭す様にアノルルイへと話しかけた。
「ただ語り継ぐなどとは言わせない、私達が永遠となるべきだ」
「私が紡ぎましょう、失われた過去などではない、確かに存在する永遠として…」
 虚構王ペルソナの手元に一本のビデオテープが出現する。
「さぁアナタもまたこの世界の中にお入りなさい」
「アナタの歌でこの世界を埋め尽くしましょう!」
 両の手を広げて虚構王ペルソナは歓迎する様に迎え入れようとする。

 その言葉を聞き終えたアノルルイは答える。
「いいや、物語はこれで終演だ、虚構王」
「私はこれ以上お前の語る物語を望まない」
「一言で言えば、お前は語り手として三流だ」
「そして何より…」
「物語が人を選ぶのではなく、人が物語を選ぶのだ」
「私達は現実を生きる存在なのだからな」
「お前はそこを間違えた」
 アノルルイの言葉は虚構を看破する。

「……」
「新しき世界の語り手はこの私だ」
「アナタはこのテープの中で永遠と同じ歌を歌えば…いいのだよ!」
 本性を現した虚構王が本心を突き付ける。
「私は創造者だ!お前の紡ぐ物語など所詮は焼き映しだ」
「語り継ぐ?それでどれだけの視聴者を得られる?」
「私の映画であれば瞬く間だ!」
 虚構に響くペルソナの言葉。

「理由はすでに述べたな?」
「何度でも語り継ごう…」
「物語が人を選ぶのではなく、人が物語を選ぶのだ」
「お前は間違えた、虚構王」
「ゆえに私がこれから語るのは『幻想を終わらせる幻想』だ」
 アノルルイは言葉を繰り返し言い放つ。

「…ならば表現して魅せなさい」
「私を超える幻想を作り出せるのならね」
 虚構王ペルソナの貌が少しずつ膨張し、やがて辺りを包む。
 それは門となって扉となって世界の容を成す。
「これより先は、語り尽くせぬ幻想」
「それでもアナタは語り継げると言えるのか?」
 挑戦的にアノルルイへ指差し、挑発的に語る虚構王ペルソナ。

「もちろんさ、『だって私は吟遊詩人なのだから!』」
 涼しい顔で当然という風にアノルルイは即答する。

「ならばよろしい!さぁ幻想の演目を始めましょう」
 虚構王がモザイクと一体となり消えていく。

 アノルルイはポロロンと楽器を弾き、虚構王の世界へと足を踏み入れる。

 其処は出鱈目に歪んだ世界。
 木々がビルを覆い尽くし、ビルもまた木々の中から生え伸びている。
 現実に近しい都市群の様相を見せながら太古の侵食を受けている。
 人の姿無く、朽ち果て、しかし新しいまま、昨日が今日の様に在る。
 今さっきまで何の変哲も無かった世界を一秒の間に一億年を持って来た様な。
 明らかに過去と今に至る過程となる時間を伴わない世界。

「私が世界の過去になったのではない、私が過去を置いたのだ」
 虚構王ペルソナはディレクターズチェアに座ったまま宙に居る。
「いつまでも虚構に縋るつもりか?」
 アノルルイが虚構王ペルソナを見上げて問いかける。
「…縋る?いいやそれは違う、アナタらが虚構を求めるのですよ」
 虚構王が手を挙げる。
 すると大地が揺れて世界が地響きに吞まれ出す。
「なんの!」
 アノルルイがビルの蔦を掴み、前へ後ろへと勢いをつけて遠心力を生み出し、上に飛ばされる瞬間、そのまま上へ向かってジャンプする。
 アノルルイはエルフらしく木々の間を行く術に長けている。
 くるりと回って蔦と蔦とを交互に行き交い、上を目指す。
 世界そのものがアノルルイが上へ進む程にどんどん沈んでいく。
 しかし同時に、ビルが、木々が、破竹の勢いで伸び上がる。
 木々が割れればそこからビルが生まれ伸び、ビルが割れれば木の根が伝い伸びる。
 相互に作用しながら、歪な創造と破壊の連鎖が続く。

「ユグドラシルを覚えていますか?」
「全てを超越し一つとなる大樹」
「まさに渡しの創造」
「舞台の紡ぎ手である私が座するに相応しい」
 ペルソナが追い上って来るアノルルイの姿を俯瞰しながら話す。
「その傲慢さが三流を語ると気づけないのは、憐れだな」
 アノルルイがビルの頂上の一つに降り立ち言葉を投げ返す。
「私の世界の中で足掻くしかないアナタには到達出来ない高みなのですよ」
 ペルソナは物理的に上の立場に立ってアノルルイを見下そうとしている。
「地に足つかぬ脚本、宙ぶらりんの演出、まさに虚構王と、そう言いたいのか?」
 アノルルイが周囲の環境とペルソナの立ち位置の状況に沿って皮肉たっぷりに返す。
「吟遊詩人ならば“王”に平伏していればいい!」
 “虚構王”ペルソナが号令を掛けると、周囲の地形がさらにうねりを加え。
 木々が腕となってアノルルイに掴み掛る。
「私が歌うのは王の権威でなく、王の栄華、それも真に公明正大なる言葉だ」
「お前の様な紛い物の王に使える道義など万に一つもありえない」
 アノルルイは木々からなる大樹の拳を避けてそのままその大樹の腕を走り通る。
 蔦が鞭や縄の様に飛んでくれば、矢を振るい矢じりで引き裂き進む。
 そうして大樹からなる木々の妨害を逆に進路に変えた。
「ホー ヨー ヘー フム!」
 踊る様に駆け上がって、ついには虚構王の眼前に舞い降りる。
「この距離が相応しい!」
 アノルルイが幻想の旋律を奏でる吟遊詩人の歌が世界に流れ落ちる。

 ヴィゾーヴニル
 とある神話において
 その体から発される光により世界樹を照らすとされる光輝く鶏
 光は闇に閉ざされた現実を映し出し、そこに幻想の存在する余地を無くさせる

 物語の裏側に光を当てられ、『虚構』であることが明らかになったならば、
 もはや物語として意味をなさない

 アノルルイの旋律が幻想を形作り眩き光となる。
 雄鶏の輝く体に照らされた世界は砂に還る。
 眩き光に虚構王ペルソナは自身の貌を隠す。
 アノルルイはイチイの弓を引く。
「さらばだ…もう一度物語の作り方を学び直してから来い」
 消滅する虚構王ペルソナへの最後の手向けとしてアノルルイは一矢弾く。
「これがアナタの…吟遊詩人が紡ぐ幻想…リアライズ・ファンタジー」
 ペルソナの想いは、最後の言葉は虚しく潰え、しかし幻想を垣間見ていた。
 光が全てを包むと虚構もまた虚無として消え失せた。

 吟遊詩人が語るのは過去の栄華であっても、虚構ではない。
 過去を忘れぬ為の物語。
 過去を振り返るからこそ正しき明日へと踏みだせる。
 過去だけを振り返る者には永遠と明日が顧みられる事は無い。
 過去を見続ける事は過去の繰り返しでしかない。
 それこそが真の虚構。
 だからこそ吟遊詩人は語り紡いだ。
 正しき過去を、正しき明日を。
 彼らが語り継ぐ限り、忘れられる事は無い。
 人々の心の中で生き続ける。

 劇場では一人の吟遊詩人の歌が奏でられている。
 その歌に感銘を受けた者がまた一人口ずさむ。
 物語が人々の心打つ限り、その歌は生き続ける。
 生きた歌こそが彼そのものを伝道する生きた証となる。

 吟遊詩人は世界を巡る、歌と共に幻想を送り行く。
大成功 🔵🔵🔵

菊石・光
映像は持ち帰って主に見せる。
ペルソナよ、私は主の為に【シーンごとに異なる衣装を纏う】作品を望む。

主は服装に無頓着すぎる。本家当主として周囲の期待に沿った服でも、今は屋敷を出てるのだから、女の子の服装を意識してほしい。ましてや慕う男が居るのだろう、なおさらだ。
私情が入った。

まずは、主の敵に成る者を倒す事に専念しよう。(完成映像に期待しているぞ)

【戦闘】UCで、古の牙先輩の力を召喚。共に戦う。

征くぞ!震えるハートはキュンキュンだ!


●フィルムラベル:『ルクス(光)』。

「映像を受け取りに来たぞ、ペルソナよ」
 闇の中から一筋の光が照り返す。
 まるで『周囲の期待の眼差し』が一斉に光り見つめる様な瞳を幻視する様な視線。
 それは、大刀から発せられる『眼刺し(まなざし)』だった。
「お待ちしておりました“期待の超新星”…召喚獣『ルクス』」
 “眼光”に怯む様子無く迎えるのは虚構王ペルソナ。
「主も臣下も備家一同で私の活躍を期待している…分かるだろう」
 声の主“光”は早く試写会を開きたいという素振りで急く様にペルソナの元へと現れる。
 光の声色にもその様子にもペルソナに負けるという想定は全く無い。
 太刀が折れては意味が無い、不沈の刀は常勝無敗であって然るべき。
 だからこそ強者は唯、成果のみを求める。
「力の象徴、恐怖の象徴、両方を持ちながら…どちらにも溺れずに此処まで至るとは…素晴らしい!」
 大袈裟な拍手とどこか挑戦的な声色でペルソナが光を値踏みする様に見つめる。
「当然だ、私がそう簡単に折れては先陣に立つ意義が無いだろう」
「いざという時、当主の最後の砦として相応しい立ち振る舞いを見せられん様では主の顔に泥を塗る」
「それではいかんだろう?」
 主に仕える召喚獣として堂々と胸を張る光。
「いずれ主は嫁入りするだろう…その時に主の想い人の前で面目を欠かぬ様に私は常に心掛けているぞ」
「なるほどなるほど、ではアナタの主もさぞかしそれに相応しい佇まいであると?」
 光の矜持に横槍を入れる様にペルソナが口を出す。
「むっ…それは当然」
 急な物言いに一拍遅れて光が反論しようとする。
「犬は飼い主に似るとは言いますが…アナタもアナタの主も、実は粗忽者ではありませんか?」
「なんだと?」
 その言葉を肯定してしまう様に光は即座にムッとした表情が顔に出てしまう。
「衣装の着こなし一つ取っても人の在り方は見え変わりするもの」
「私はこれまで数多くの“配役と衣装”を与えてきました、だから分かります」
「深層心理は映し鏡、アナタが主だけを想う様にアナタの主も自分そのものに無頓着になってしまう」
「誰かの為に自分を犠牲にして本当に自分を魅せていると言えますか?」
「想い人に自分を意識させようと働きかけていますか?」
「子供の様に見られてはいませんか?」
「化粧は?服装は?意識は?女性らしさは?本当にありますか?」
 ペルソナが矢継ぎ早に畳み掛ける様に問う。
「…むー確かに主は服装に無頓着すぎる」
 思い当たる節が光の脳内に想起される。
「主も今は屋敷を出てるのだから、そろそろ女の子の服装を意識してほしい…」
「ましてや慕う男が居るのだ、なおさらだ…」
 光が当主への想いを次々とそそっかしく馳せる。
「そうですそれは、正しい衣装を、女性らしさを、演出出来ていないから…」
「主にアナタの活躍を魅せる為に此処へ来たのでしょう?」
「それならば私はアナタにピッタリの“配役と衣装”を与えられます、どうでしょう?私の舞台に紡がれてはみませんか?」
 熱弁を振るい光に売り込むペルソナの甘言。
「…そうだなペルソナよ、私は主の為に【シーンごとに異なる衣装を纏う】作品を望むぞ」
 若干丸め込まれる様に光は提案に乗る。
「ブラーボ! ブラーボ! そう来なくては!」
 虚構王が騒々しく了承する。
「さぁそうと決まれば早速撮影と行きましょう!」
 虚構王ペルソナが光を指差し、そしてそのまま指を素早くパチンと鳴らす。
 すると光の眼前にモザイクが立ち込め、扉を形作る。
「これより先は、目まぐるしい彩りの移り変わり」
「アナタに演じきれますか?“期待”しておりますよ…」
 そう言い置くと虚構王ペルソナが扉に吸い込まれる様に消えて行く。
「完成映像に期待しているぞ?」
 光もまた虚構王に張り合う様に言い放ちモザイク扉を臆せず開く。

「レディース&ジェントルメン!」
 劇場に響く虚構王ペルソナの声 
 此処は劇場。
 照明が今宵の主役を明るく照らす。
「主に忠誠を誓う彼女は果たして栄華を手にすることが出来るのか!」
「皆様、“乞うご期待”下さいませ!」
 無駄に重圧を与える様な前口上が劇場に響く。
 観客席に詰め掛けたマネキン達が拍手喝采で光を迎え入れる。
「…まずは、主の敵に成る者を倒す事に専念しよう」
 周囲を見渡しながら状況把握に努める光。
 気づけば光の衣装はゴシック調のドレスへ変わっている。
 それと同時に劇場の袖からマジシャンの様な衣装の一団が現れる。
 それは貌がモザイクで覆われ表情伺いしれない。
 命名するならばモザイクマジシャンとでも形容出来る存在。
 大袈裟な振舞いでナイフを手にして種も仕掛けも無いと示す様に見せびらかす。
「そんな得物で私と戦うつもりか?」
 光の太刀と斬り合うには不釣り合いなのは明白。
 しかしモザイクマジシャンは意に返さない様子で会釈する。
 光が太刀を構えようとする瞬間。
 頭上から?マークの箱がすっぽりと光を覆う様に落ちてくる。
 種無し手品をご覧入れましょうという素振りでモザイクマジシャンが?箱を囲み一斉にナイフを投げ刺す。
 種無しマジックならばただの処刑ショーに過ぎないが…。
 モザイクマジシャンが箱を取り払い中身を公開する。
 中身の無残な…者は居ない。
「期待に添えられず残念だな、私が沿うのは主の願いのみ」
 振り返ったモザイクマジシャンの一体の首が刎ねられる。
 それと同時に箱を開示したモザイクマジシャン達が手に取った箱がギチギチ・カタカタ音を出して逆刺しに跳ね返る。
 中身は『古(いにしえ)の牙(あぎと)』。
 精密な動作で主と瞬時に入れ替わり、中身を偽装したのだ。
「これぞ!マジック!どうぞ期待に応えて魅せた彼女に拍手喝采を!」
 想定通りという様に淀みないアナウンスとマネキン達の拍手が響き渡る。
「この程度では主を満足させられんぞ?」
 光がペルソナに呼びかける。
「もちろん!すぐに次の舞台に参りましょう!」
 幕がさっと視界を横切り世界を覆う。
 次に光が瞬きすると舞台は一瞬にして移り変わる。

 次なる舞台は和室の一室。
 光の衣装も姫様が着る様な豪華絢爛な着物。
「少し動きづらい…」
 自身の衣装を袖を引いて見る光。
 その背後を照らす行灯が襖の影を照らす。
 仁義無き一太刀が襖越しに光の背を辻斬る。
「その“眼差し”視えているぞ?」
 動じることなく光は太刀を背に回し必殺と斬り込まれた暗殺剣の一撃を受け止める。
 破れた襖より覗くのは丁髷結わいた侍の人影。
 貌は当然の如くモザイクに覆われている。
 命名するならばモザイク侍とでも形容出来る存在。
「私に斬り合いを持ちかけるとは…笑止千万だな」
 軽々と鍔迫り合った刀を払い刺客を切り伏せる。
 一人胴との別れを告げるや、四方八方の襖に影が立つ。
 東西南北を囲うモザイク侍が一斉に斬りかかる。
 一つ、二つ、三つ、四つ。
 流れる様な太刀筋が振袖を舞い踊らせが襖の影にモザイクを飛び散らせる。
 奔る影、光が襖を行き交い、切り伏せ行く。
 影が舞う、首刎ねる。
 繰り返し走る走る。
 襖が幾つも開かれ、その度、首が跳ぶ。
 光の太刀が縦横無尽に乱れ咲く。
「…他愛無し」
 ザシュザシュと音を置き去り、死屍累々。
 次は誰か!
 そう名乗り挙げる様に襖をバンバンと勢いよく光は開き進む。
「ならば一騎打ちと参りましょう!」
 虚構王の声が響いたと同時に開いた襖から眩き光が包むこむ。

 一転して和から洋。
 光の衣装がフラメンコ衣装に移り変わる。
「今度はなんだ?」
 認識するよりも速く飛び込んで来る影。
 それは闘牛、モザイクに覆われた頭部のモザイク闘牛。
「奇襲の連続でミスを誘発していてるのだろう?残念だが、私はノーミス志向だ」
 野生の勘が冴える、咄嗟に足元を切り払い、地面の裂け口から古の牙を溢れ出させて自身の足場にして空中へ跳び撥ねモザイク闘牛の突進を避ける。
「踊り子ならばご期待通りに舞い踊ろうか!」
 古の牙をムレータの様に形作り、モザイク闘牛を煽る様にタンゴを踊る。
 闘牛の性が挑発を免れずにモザイク闘牛は光の真正面へUターンして突っ込んでいった。
「『綻べ!万傷裂閃!』」
 モザイク闘牛の角が斬りかかる刹那、平面の古の牙をがスパイクシールドの様にハリセンボンが如くモザイク闘牛を刺し止める。
「ウェルカム!」
 古の牙が串刺し闘牛を断頭するに相応しい角度へと落とす。
 一刀両断の元に自身の身の丈よりも巨大な闘牛を切り伏せる。
 居合いがモザイク闘牛を真っ二つにして血しぶきの様なモザイクに光は包まれる。

 飛び散ったモザイクを拭い瞬く間に、気づけばまた劇場へ戻ってきた。
 アイドル衣装の様な軽快な衣装に早着替えしている事に体の動きやすさで光は察する。
 劇場に詰め掛けて居たマネキン達が光の周りを囲い込んで居る。
 虚構王は語る
「全ては虚構で在り真実で在る」
「信じたいと思われたものが真実となり、信じられなかったものが虚構となる」
「それがリアリティなのです」
「さてアナタにとってこの映画は真実だったでしょうか?」
 虚構王ペルソナが手元に一本のビデオテープを出現させる。
「あぁもちろんそうだろう」
 光は迷いなく答える。
「ペルソナよ、提案に乗ったのは、私の私情が入った…それは事実だ」
「だが忘れてはいない、私が主にとっての最後の砦であることを」
「そして言ったはずだ、主も臣下も備家一同で私の活躍を期待していると」
「この太刀は『周囲の期待の眼差し』が形を成した物」
「これはある種の“呪い”…だがそれは呪い在る限り、“力”もまた付き纏うという事だ」
「期待が募れば募る程に呪いもまた増す、私は常に背水の陣」
「圧倒的期待、それに私は応えられるからこそ、この『眼刺し』を持てるのだ」
「最初からそうだ、だからこの場で負けるはずもない」
「ペルソナよ、これが“期待を背負う者の力”…“トラウマ”だ」
「私に期待を投げかけていただろう?その『眼差し』を太刀もまた“視ていた”ぞ」
「だからこちらも『眼刺し』を与えよう…今度はそちらが期待を背負う番だ」
「『解き放たれた痛み』 を受けるがいい…」
 『眼刺し』が妖しき光を帯びる。
「征くぞ!震えるハートはキュンキュンだ!」
 舞台に幕引く様に決めた台詞をびしりと光が太刀振る舞う。
 『万傷裂閃』がマネキン達を内側から喰い破る様に一掃する。
 そして虚構王ペルソナの元へと開通した一本道。
 光が振るう『眼刺し』が真っ直ぐに虚構王ペルソナの心を貫く。
「この“呪い”は私にとっては…好ましい」
 貫かれながらも満足げにそう言い残すと虚構王はペルソナは消えていく。
 そんな存在は初めから存在しなかったかのように。
 残ったのは猟兵という存在。
 そしてその輝かしい活躍を残したビデオテープのみ。
 アナタが虚構を信じるのなら…この映画は真実だ。
 猟兵は一つの栄華を手に取り、帰路を急ぐ。
大成功 🔵🔵🔵