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明媚が如く焚く

#ダークセイヴァー #常闇の燎原 #宿敵撃破

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#ダークセイヴァー
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#常闇の燎原
#宿敵撃破


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●醜くも美しい色を
 辺境探索の果ての探索は続いている。
 "常闇の燎原"を進み、誰かが何かを見つけるまで。
 誰かが手がかりを見つけるまで。
 猟兵たちが発見できた事実はただ、一つばかりの事象のみ。
 ――空は完全なる闇に覆われて――。
 ――大地は『黒い炎』に包まれた、恐るべき不毛の平原――であった。

「その炎を直視し続けてはならない」
 誰かがそう思い、誰もが視線をそらした。
「理不尽な絶望が、胸を押しつぶす気がする」
 誰もがそう思い、探索への興味意欲が損なわれた。
『黒い炎』が煽ってくるのは恐怖と絶望。
 長時間見つめては幻影として具現化した異端の断片が牙を向く。
「侵入者を拒んでいる」
 とある端正な顔立ちの男はその炎の向こうへ消えた。
 男を動かしたのは、『黒い炎』に魅了され精神を汚濁した好奇心。
「これまでみたモノと同じくらい――うつくしい」
 自分こそが手に入れるべきものだと信じ込むほど狂えるオブリビオン化した魔術師の男は、手を伸ばし歩いていった。
 しかし男は、ついぞ戻ってこなかったという。

●信じられるものはなにもない
「君は、"常闇の燎原"の向こう……暗い地域の探索に興味ある?」
 ソウジ・ブレィブス(天鳴空啼狐・f00212)は尋ねる。
「侵入者を拒む恐ろしい場所でも?君は此処にいるんだから、覚悟はあるって事だよね」
 じゃあいいかな、というソウジの表情はあまり明るくない。
「"常闇の燎原"を覆う黒い炎は、猟兵の訪れを感じて燃え上がるでしょう。そして、君達に"誰かの悲劇的な光景"を実体化させた幻影として魅せつけてくる」
 魅せられる幻影は、自分個人のものか、同行者のものかもしれない。
 もしくは、先に消えたという狂えるオブリビオンのものかもしれない。
 その絶望は、何色だろう。
 "美しいもの"を奪う盗人が、魂を奪い宝石化して収集する事件があった。
 少女や若い女性は勿論対象に含まれて、しかし男が美しいものだと思う存在の魂もまた、蒐集の餌食になったという。
 そんな――ダークセイヴァーで起こった事件を目撃するだろう。
「君達はきっと、錯覚に思考力が奪われてしまうんだよ。『自分はこの事件・悲劇の中でただ無力の一般人だった』ってね。猟兵の力の使い方だけ、上手く使いこなせなくなってしまうかも。力づくでは抜けられないかもしれない……けど、君が事件に巻き込まれた"一般人"ならどう行動するのかな」
 逃げ出したがる心をしっかり保って一般人なりに幻影に対処して欲しい、と言う。
 錯覚の影響は強い。
「君が君を見失わない事は、きっと猟兵である証だね」
「それから、……"無力な人々を恐怖と暴力で蹂躙しようとする敵の群れ"を見ると思うんだ。君達はその時点でも、"自分は無力な一般人だ"と思えてしまって身がすくんでしまうかもしれないね。……でも、君達は勇気あるヒトでしょう?立ち向かえない気持ちに、あらがったりはしないのかい?」
 じい、と視線を見返すソウジは君なら出来る、と信頼を預けているようだ。
「ずっと本来の自分を失ったまま、なんてことはきっとないからね。安心していいよ」
 幻影を振り払い、自分自身を取り戻すんだ。
 周囲に燃える黒い炎より君達の勇気が圧倒したら、きっと今の君に戻るはずだから。
「黒い炎の齎す幻影を振り払ったとき、行方を眩ませていた『狂えるオブリビオン』と出会うはず。両目のあるべき場所から黒い炎を噴出させた、理性を置き去りにした魔術師の男だよ」
 "恋盗人のドルフ"、過去にそう呼ばれた男は黒い炎に魅入られた。
「彼は理性を持たないけれど、同族殺しや紋章持ちにも匹敵する力を持った強敵だよ。……ただね、彼は炎に魅入られたことで『視聴嗅覚もない』のにも関わらず『恐怖や絶望の感情を感知』するんだよ。まるで、そういう"装置"みたいに」
 攻撃対象は"感情"を感知して、選ぶ性質。
 魅入られたモノの末路であるかのように、過去の面影を失っている。
「くらい、くらい絶望だらけの平原に、本当に向かう覚悟はあるかい?」


タテガミ
 こんにちは、タテガミです。
 ダークセイヴァーから、シナリオをご案内です。

●一章:冒険
 黒い炎のちからによって、猟兵たちは幻影に襲われます。
 黒い炎に覆われてる限り貴方はその事件に巻き込まれた『一般人』の一人だったと錯覚することでしょう。
 猟兵らしい力を振るえない状態です。これはぜつぼうのはじまり。
 状況に応じ、困難を突破してください。

 1:OPの通り、ボスオブリビオン事件の被害者だった。
 2:お連れ様の過去体験を一緒に幻影として見る(グループ参加のみ可能)。
 3:自分の過去体験を幻影としてみる(アドリブ連携前提での対応は出来ません)。
 どれかを冒頭に数字で書き込むか、プレイングで内容を指定して下さい。
 お連れ様の居ない連携プレイングは、採用できない場合があります。
 相当なことがない限りは、個別での返却。ご注意下さい。

●二章:集団戦
 見せ付けられる幻影を乗り越えると、今度は幻影の中から『恐怖と暴力の象徴』が現れます。猟兵は、一章と同じように『無力な一般人だ』と錯覚で惑わされます、が一章を乗り越えられた猟兵ならば、困難に立ち向かう勇気があるはず……『恐怖と暴力の象徴』を倒し続けるならば、炎の勢いが弱まり、本来の自分に戻ることが出来るはずです。
 集団敵の姿は、『これがわたしにとってのぼうりょくのしょうちょう』が存在する場合に限り錯覚パワーでそう見えていても構いません。
『別の存在に見える』場合の内容はプレイング内で指定するように、お願いします。
 ユーベルコードは、フラグメント情報に準じますので、幻影は、幻影だということをお忘れなく。指定がない場合は敵姿はフラグメント情報に準じます。

●三章:ボス戦
 黒い炎の幻影に打ち勝ったとき、現れます。
 OPに記載を行っていると思うので、ご確認下さい。

●その他
 途中参加、途中だけ参加は大丈夫な気持ちでいます。
 全ての採用ができない場合があったり、少しゆっくりのあまり速くない運用を行う可能性もあったり。プレイング募集期間や運用の状況はなるべくタグ(>MS雑記)からお知らせのつもりです。募集期間後は、サポートさんを採用することも視野に入れていますので、いろんな方面に、ご注意を。素敵なご縁がありますように。
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第1章 冒険 『異端の神の領域』

POW   :    出口を探す

SPD   :    出口を探す

WIZ   :    出口を探す

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●幻影のなかで『一般人』が出来ること

 黒い。闇のような他に染まることのない黒がどこまでも燃えている。
 目から飛び込んでくる視覚情報だというのに頭よりも耳が痛くなるくらい、その光景は燃えていた。異常な現象が誘う。心を揺さぶる、――追い込んでくる。
『黒い炎』を見れば見るほど、絶望に足を踏み入れる気分で胸が痛い。
 しかし、調査するためには向かわなければ。

 向き合わなければ、ならない。
 強い猟兵としてではなく――錯覚から発生する一般人と成り果てても。
 誰かが感じた『絶望』を。
 はたまた自分や仲間が感じた『絶望』を乗り越えて。
豊水・晶
アドリブや絡みなど自由にしていただいて大丈夫です。

目の前で奪われていく。美しいと評された者たち。理不尽に傲慢に一人の男に奪いつくされていく。私もその中に入っている?ここにいるのだ。きっとそうなのだろう。力も何もないただの女の身ではどうすることも出来ない現状に絶望する。
何もできない自分の無力感に絶望する。
次は自分なのだということに絶望する。

でも、奪われたくない。奪わせてなるものかと、心の奥から思いが湧き上がってくる。奪われる無力感も喪失感も知っている筈だ。考えろ抵抗しろ、絶望は後でもできるんだから。絶対に一矢報いてやる。



●掠奪許すまじ

 黒い炎がゆらりと揺れる度、燃える失われるそんな喪失感が胸を焼いた。めらりゆらりと燃えていて、音はなく。
 焼けると言っても火傷ではない。
 視覚から飛び込んでくる幻影が齎す、虚構の痛み――どこからともなく発生した恐怖心によく似た感情。
 豊水・晶(流れ揺蕩う水晶・f31057)の得たものは、それだ。
「――でも、何故そう思うのでしょう」
 目の前で奪われていく人々の悲鳴が耳に痛い。
 まるで"信仰されていた村"が襲撃されているようではないか。
 きゃあ、と叫ぶ悲鳴はどうも女や子供が多いような。
 格好いいと褒める声と、恐怖に怯えて逃げ惑う声が入り乱れる不思議な空間がそこには広がっていた。
『君はとても美しいんだ。自分でもそう、思っているんじゃないか?』
 悲鳴の終着点は、端正な顔立ちをした魔術師へ注がれているようだ。
 手に掲げた宝石がキラリ、と高価そうな色合いを帯びて輝く。
 男の背後でばたりと斃れている複数の女が居なければ、ただの宝石好きが自己陶酔しているようにも観えたものを。
 それは、理不尽な簒奪。
 声を掛けて、魅了に嵌めて――男は応じてしまった存在の魂を抜き取っていく。ひとつ、またひとつと宝石集めに勤しむように、声を掛けては斃れる人の数を増やしていく。
『次は、君だ』
 男がこちらを向いたような気がする。
 ――私も"美しい"と……?
「……此処に居るのですから、そうでしょうね」
 何故此処に居たのだろう。でも、居るのだから晶はあの男の餌食に選ばれる。納得はある、だが、それでも理不尽は拭えない。
「……でも、でも」
 "一般人"である晶に何が出来るだろう。
 ――私に抵抗、出来るのでしょうか。
 ――いいえ、いいえ。そんな事出来ない。
 絶望の街を見て、絶望は胸の内を蝕んでいく。
 ――力もないただの女の身でなにが出来るのでしょう。
 立ち向かう?魅了の魔術で絡められて、奪われた彼女たちと同じ末路をたどるに違いない。
 ――逃げる?今すぐならまだ……。
 間に合うかも知れないが、根本的解決にはならないことも解る。
 袋小路に追い込まれるような逃げ方をしたら一巻の終わりだ。
『でも?なにか言いたいことがあるのかな』
「ありますが、私は、彼女たちと同じ結末など迎えたくはありません!」
 声がきっと、振るえていた。そこまで明るさのないこの街で、輝かしい色を手に入れた貴方はきっと怖い人。
 ――逃げてはいけないでしょう。
 奪わせたくない。奪わせてなるものか、そんな気持ちさえ湧いてくる。
 あの手に掲げられた赤い宝石は、誰かの生きた証――。
『ではどうするのかな?談笑?構わないよ』
「……談笑で構わないのでしたらお付き合い致しますが」
 ――奪われていく無力感も喪失感も、胸を苦しめるだけ……。
 考えろ、抵抗しろ。最善の一手を見つけて絶望の輪の中から抜け出すのだ。強い心を維持できたならば――逃げ道は必ずある。
 ――絶対に彼女たちの分、一矢報いてやります……!
 まずは一般人なりに出来ることから、始めよう――振るえて逃げ出したくなる気持ちを勇気づけて、まっすぐに前を見据えて。

成功 🔵​🔵​🔴​

真多々来・センリ
3
炎と共に見えるのはアリスとしての始まりの記憶
まだ私の髪が茶色くて、両目とも青い瞳のままだった頃
訳のわからない世界に放り込まれて、悍ましい鬼達に追いかけられました
たくさんの人が何人も潰れて、真っ赤な肉の塊になって、食べられてしまって

其処での私はきっと、アリスとオウガ以外の存在を知らないままなのでしょう
逃げ道を教えてくれる声も、助けてくれる妖精の姿も知らない

ただ、逃げて
死にたくないと必死で逃げて
押し潰されそうな恐怖に狂ってしまいそうになるのに耐えながら、ずっと逃げ続けます

沢山のアリスを見捨てて
アリスだった肉を踏み越えて
血で、泥で、どんなに醜く汚れても

それでも、私は
いきたいんです

私が望む未来の先へ



●再来の絶望ゲーム

 黒い波、炎の群れを見つめる。
 それは即ち、錯覚が生む深淵の海へ進んで沈む明かりのない道行きが示される。ぼぼぼ、と広がる光景は記憶の色を鮮明に展開してく。
 これは此処にあった光景。そう錯覚してしまうほど、明確に。
 真多々来・センリ(手繰る者・f20118)が見たもの。
 それは――奇跡の少女が平凡な家庭の"普通の女の子"だった時のこと。
 今はピンク色の髪も、当時は茶色。今と同じように揺れていたけれど、色だけは違った。背丈だってもう少しだけ低くて、怖くて大きい存在に追いかけられた時はとても驚いて、逃げ出した。
 いつの間にか少し以前、『普通の女の子だったセンリ』は訳のわからない世界でただ、走っている。
 両目の色だって、青一色。
 どこにでもいる、普通の女の子だったのに――!
 普通とは違う曲がり角、そんなものだってなかった記憶の欠片が黒の炎に照らさす先から知らない世界へ転がり込んでしまった。
 ――此処はどこ?見たことない場所です……!?
 ずうん、と大きな影を落としながら現れた悍ましい鬼達は、人間たちを見つけるなりに口々に言っている。
『アリス!アリス!!よく来た、遊ぼう、楽しもう!』
 指し示す言葉が自分のことだと分かっても、センリには逃げることしか出来なかった。伸びてきた手が、手を握る優しさなんて持っていない。
 あんな怖い顔の存在が、武器を持った鬼達が優しいはずがない!
 ――これは、オウガ……!
 あの時は知らなかったこと。名称だけは、錯覚の隙間から溢れ落ちていた。猟兵ではなかったセンリがまた、あの日と同じように追われていて。
 それでも尚、ほんの少し違うこと。絶望を胸に、恐怖心に身体を煽られて尚、見ている視点が――僅かにずれている。
『俺はあっちのアリスにするぜ!』
『んじゃーこっちの、と見せかけてお前だ!』
 センリと同じく、複数の"アリス"が引き込まれた世界で、悲鳴が響く。大柄な鬼が走っていたあの子を手のひら一つで叩き伏せ、足をぐちゃりと叩き潰した。
『へっへっへ、つかまえたーいただきまぁあす!!』
 真っ赤に染まった生きるのを強制終了させられた肉塊を口に放って咀嚼する大きな鬼達。
 ケラケラ笑って、そして次の"アリス"を狙い始める。
 色んな場所で誰かが潰れる嫌な音が聞こえて、それから絶叫。
 デスゲームに招かれた"アリス"達は逃げ惑う。
 その一人に、センリがいる。
 ただ逃げて、怖くて、逃げて。
 下卑た笑いに耳を塞ぎたくなる思いで、足を励ましてただ逃げた。
 ――し、しにたくない……!
 アリスとオウガ、それ以外の存在を知らない。
 自分がアリスなら、他の子達は一体……等と考えている時間の猶予もありはしない。デスゲームに捕まったなら、食われて死ぬか游ばれて死ぬかのそれだけ。
 耳をふさいで隠れても、"逃げ道を教えてくれる声"も。
 助けてくれる妖精の姿だって、此処にはないのだ。
 この世界には希望がない。
 考えようとすれば最悪の事態ばかりが思い浮かぶ。
 絶望しか無い――ああ感情任せに叫びたい。
 しかし叫びだせば鬼達に見つかってしまう。だからセンリが出来たのは、ただ走って――逃げる事だけだった。たくさんアリスを見捨てて、背中越しに絶叫と悲鳴と助けを求める声を置き捨てて。
 ――だ、だめ。此処に居たら!
 たくさんのアリスだった無念の真新しい肉片を踏み越えて。
 ――私もいずれ、こうなってしまう……!!
 足に感じる感触に、ゴリゴリと恐怖に狂った方が良いのだと誘われもしたけれど、鬼達の声が聞こえる限り胸がどんなに暴れても奔ることをやめなかった。
 誰かの血で服を飾り、跳ねた泥で靴や身体を汚し。
 どんなに汚れても、"生きたい"願いを捨てなかった。
「それでも、私は――いきたいんです!」
 ――いきたい。いきたい……!
 残酷な未来などではないセンリが望む、未来への先へ向かうために。
 終わらないデスゲームの中でも、黒い炎に彩られた記憶に身を映した少女は駆けていく。一度経験した事は、錯覚した心が忘れていても『希望と一緒に行動したこと』を身体は憶えているのだ――。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

宵鍔・千鶴
2
【耀累】

守る術すら持たない
裡を巣食う怪物だって識らない自分
娘を奪われた無力な『父』

映る幻影、呼んでいる聲
居なくなった娘が拐われてゆく
俺を呼んでる
手を伸ばした先に残るのは
悲しいくらい綺麗な宝石
覆う黒炎

返せ、返せ返せ返せ
憎悪は剥き出しになって
憤り昂る気持ちは溢れ出る
手を握る温もりにはたと我に返り
……俺は何も出来なかった
でも、もう死なせない
泣くなよ、
指先で泪を掬って
もうこの一雫すら奴らに与えてはやらない

俺もこわい
でもお前を失う方が狂ってしまいそう
ああ、往こう、一緒に

決意に重ねた小さな強請り
引き寄せて其の身を確かめる様に横抱きに
菫は強くなったよ、大丈夫
あやすのは変わらずの声音
……俺だってもう怖くない


君影・菫

【耀累】

宿りの神で無いのなら
中身が幼いだけの巻き込まれた『娘』
架空の幻影に、堕ちる

くらい、さみしい
おとーさん、おとー…さん
たったひとりの家族を呼んでいた
けれど消える――ちがう、失くなる
こころは綺麗な宝石に
なみだは枯れ
からだは壊れた人形

宝石は裏で渡り
こころさえ帰れない
絶望に黒い炎がゆれる

一連を眺めていた
手を繋いだぬくもりには枯れた筈の泪がとめどなく
つよく握る
おとーさん…うち死んでた、よね?
ぽつり零して確かめるようにまた手を握る

こわいし、いっぱいわからん…けど
うち、逃げへん
だからおとーさんもいっしょに行こ
手をぐっと引く
すみれ色真っ直ぐに

…でもいっこだけ
だっこして、くれる?
そしたら、こわくないから



●こわくなんて

 近づいた途端、黒い炎が一気に燃え上がって覆われる。
 それ自体に恐怖を感じる点はなかった――ただ、炎の色事態が胸を締め付ける。思わず痛むような気配を感じて瞳を閉じた男。
 光景に対して、ほんの少しの好奇心の手を捕ってしまった幼子。
 未知に惑い逸れてしまうのはあっという間。
 此処を彩る幻影は、理不尽な絶望を好み押し付ける――。訪れた物を追い返す力にしては悪趣味な、静かな炎は無力な猟兵を歓迎するばかり。

 守る術すら持たない直接的な理不尽さへの訴えは宵鍔・千鶴(赫雨徨花・f00683)の裡に居るはずの巣食う怪物(もの)さえ忘却を作用させよう。
 幻覚だ。特別な力など無い。お前はただの一般人。
 どこにでも居る誰かの一人。
 どこにでも居る、娘を奪われた無力な『男(父)』。
 どうして?いつの間にか居ないんだ。
 どこだ、どこに居る……?
 一緒に訪れた筈の人影を探して、耳を澄まし"もしも"が頭に入り込むのを拒絶するように探し始めることだろう。

 宿りの神となった理由が猟兵なら、理由だって錯覚に塗りつぶされてしまう。本体である菫色宿す紫と金の簪――を父に預けていることだって、不思議な縁の幻覚で色を姿を変えられる。
 君影・菫(ゆびさき・f14101)の瞳から、はらはらと落ちるものは涙だろう。中身が幼いだけの『娘』にとっては架空の幻影など狂気に絶望を前に、色々が強すぎる。娘にとって一番の絶望、それは手をひかれるように迷い込むは黒い炎が闇の中――。
「ぁ、え、どこ?……おとーさん」
 くらい、さみしい。
 音がない。誰も居ない。
 知った顔も、恐いものも。いつのまにか、誰も居ない。
 菫はただ、ひとりでこわいところに迷い込んだ。
 こんなさみしいところで好奇心は手をのばすことさえ忘れてしまう。だってここにはだれもいない。なんにもない。
「おとーさん、おとー……さん」
 呼ぶ。喚ぶ。たったひとりの家族のことを。
 けれど、まぶたが重たくなる。
 呼吸をするのさえ、緩慢で……停まってしまいそう。
 消える、――ちがう、失くなるんだ。
 こころは綺麗な宝石となって、父の手に輝きを載せた。
 涙はすううと枯れ果てて。からだは壊れた人形のよう。
 倒れ込んだなら、どんどん声まで枯れていく。
「おとー、さん……」
 宝石の視点から、絶望の黒い炎が揺れるのを見る。
 帰れないのだ。もう。
 あえないのだもう。こころがさえ、かえれない。
 ひとりきり。どうして、どうして。

 瞳に映る幻影と闇が揺れる燎原――自分を呼んでいる声音。
 聞こえる、聞こえる。迷った娘が拐われゆくのに関わらず、千鶴を呼んでいる。
 聞こえる声へ手を伸ばして、救えたものは悲しいくらい綺麗な宝石。
 ぞぞぞ、と覆う黒い炎はこれが魅せたい絶望か?
 人形師が手からしても、斃れた娘は人形のようで。
 静かに瞳を閉じている。
「……返せ、返せ返せ返せ!」
 父の憎悪は表立ってむき出しになって現れるだろう。
 娘を返せと憤り、昂ぶる気持ちは溢れて、溢れて。
 声を返せ、娘を返せその思いは娘の手を握り締める。
「……!」
 はたと我にかえる。
 失った、無くした奪われた。では温かいのは何故だ。
「……俺はなにも出来なかった」
 繋いだ手を、千鶴がしていた事を見ていて息の仕方を思い出した。
 ほおう、と小さく。息を吐く。
 きゅっとつよく握って、瞬きをすれば枯れた筈の泪がとめどなく溢れてくる。
「おとーさん……うち死んでた、よね?」
 見たかった。会いたかった。
 目を離した。奪われてしまったと父は言葉を零すだろう。
「でも、もう死なせない」
 ぽつりと言葉を零して、確かめるようにぬくもりを求めて手をまた握る。
「泣くなよ」
 指で今流れ出した泪を掬い取って、居るからよく見るようにと娘の手を握り返してやれる。
 ――もうこの一雫すら奴らに与えてはやらない。
 幻影だろうが錯覚だろうが、何が相手だろうと譲らない。
 要領が悪めの父なれど、不慣れはいつか不慣れではなくなるように変えていける。
「だってこわいよ、こわい。いっぱいわからん……けど」

「俺もこわい」
 伝えよう、今の考えを。
 未知の恐怖。煽られる絶望感。
 ずっと周囲にあり続ける黒い炎が、無力さを訴えかけてくる。
 目をそらせる場所さえ見当たらないほどの黒、黒、黒。
「でもお前を失う方が」
 狂ってしまいそう。
「うち、逃げへんから」
 狂ってしまいそう。
「だからおとーさんもいっしょに、行こ」
 手をぐっと引く。
「ああ、往こう、一緒に」
 菫の足はもう、前に向けて歩いていけるって知っているから。
 娘は父の手を引く。行こうと声を気持ちを伝えるために。
 それからすみれ色真っ直ぐに見据えて。でも、と零す。
「……でも、いっこだけ」

「だっこして、くれる?」
 ――そしたら、こわくないから。
 お願いおとーさん。ぎゅっとして?
 決意が重なった小さな小さな強張りを、千鶴は確かに見て取って。
 娘を引き寄せてその身を確かめる様に横抱きに。
 ――うん、あたたかい。
「菫は強くなったよ、大丈夫」
 だいじょうぶ。さあ繰り返して。
 あやすのは変わらずの声音だ。
「……俺だって、もう怖くない」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ニーナ・アーベントロート
【赫】1
もう11年も昔
毎日楽しい話を沢山聞かせてくれた
優しい不思議なお兄さんに幼い恋をした
全部、あたしの魂を奪う為の罠だったけど

甘い誘いに乗せられる侭、森の奥へ
身体が動かなくなり意識も遠退く中
助けてくれたのは吸血鬼の母
あいつを追い掛けて、そのまま何処かへ消えちゃった
こんな事態になったのは
あたしが馬鹿で弱いから

…あれは、遠吠え?
『家族は近くにいる』って呼んでる
誰か(f04258)の声が聞こえた気がした
そうだ、まだあたしは動ける
守って貰った命がある
力と声を振り絞り
「おかーさん、行かないで」と
貴女がいればそれで十分だと引き留める
他の何者にもなれなくたって
貴女の娘として生きられるなら
それがあたしの望み


ロラン・ヒュッテンブレナー
【赫】【2】
かすかに感じるヒュッテンブレナーの魔力を追ってきたけど…、
あれはおねえちゃん(f03448)?

だれ、この男の人?
それに、見た事のない場所…
あの女の子は、おねえちゃん?
これってもしかして、おねえちゃんの、記憶?

おねえちゃんの気持ちが伝わってくる…
この感じ、知ってるかも…
(誰かを思い浮かべ)

これが、おねえちゃんの過去?
助けたいのに、なんで近寄れないの?
ぼくの声、聞こえない?
ぼくは登場人物じゃないから?
(姉に手を伸ばし)

…狼の手
そうだ、それでもぼくは「人狼」
変化と魅了の満月の魔力は、扱える
遠吠えに魔力を乗せておねえちゃんに届け!
『忘れないで、おねえちゃん。いつまでも家族は近くにいるよ』



●Don't forget

 それは、ニーナ・アーベントロート(赫の女王・f03448)の生きる時間から数えた11年前。
 つまり8歳の時間を過ごしていた幼いあの日の中にいた。
 楽しくて、胸の鼓動が押さえられなかったあの日。
 ニーナは楽しい話をたくさん聴かせてもらって、その度に瞳を輝かせて頬を緩ませた。見上げていたのは優しい不思議なお兄さん。
 ――もっと聞きたいな。
 ――明日も会えるかな。
 幼いニーナは幼い恋をして、毎日会える喜びに飽きもせず話の花を咲かせてきた。
『じゃあまた明日とっておきの話をしよう。明日は森で話をしようか』
「うん!」
 そんな話をしたのは、昨日のことだ。
 だからニーナが向かう先は森の奥。森の中で見上げて見えたあれは――赤い月の夜だった。
『もうそろそろ、良いだろうと思うんだ』
 不思議なお兄さんが何を言っているのか、ニーナには分からない。
『君に良いものを魅せるよ』
 甘い誘いに乗って、やってきたけれど魅せるって一体何を?
 疑問は尽きないけれど、男はしゃらりと綺麗な宝石郡をニーナに見せてきた。
「……わあ!」
 幼いニーナでも"綺麗だ"と思える輝きに目を奪われる。
『良いだろう?だから』
「……えっ」
『君の分も此処に加えようと思うんだ』
 十分に魅せられていたニーナは、愛しい親の声を遠くに聞いた。
『美しい、きみの形をほら見てごらん』
 男の魔術は完成していた。魅了している相手を対象に、一部分だけ抜き出す華麗なる早業。
 抜き出した部分を宝石実体化させて蒐集する。
 抜かれた場所からなくなるのは男にとって"一番美しい"もの。
 生き物にとって美しいのは"魂の形"という者もあるだろう。
 例に漏れず、美しいもの手に収めることを好み犯罪を重ねていく。
 自分で魅了した対象を相手にばかり行っていた手口から――"恋盗人"と彼が呼ばれるのはやや未来の話。
 手元にキラリと輝いた鮮血のように赤く彩られたクリムゾンレッドの――宝石。
 胸が軽くなった。
 自分の鼓動の音が、――期待とワクワクで高鳴っていた音が無くなった、ような。
 ひゅ、と息が詰まる。
 吸っても身体が上手く動いてくれない。
「あ、あれ……」
『ありがとうきみ。ニーナこれからも話をしよう』
 はつこいは、あっけなく"うばわれた"。
 叶うことも挫折することもなく、形そのものが、奪われた。
 ――甘くて優しいお誘いは、このため?
 ――あたし、……どうなるの?
 男はこつこつと森の奥へ去っていく。
 もう用事が済んだのだと、大事なものを抱えて居なくなる。
 心臓を奪われたニーナの意識が徐々に遠退いて行く――。
『ニーナ!』
 血相を変えた、胸が苦しくなる声が聞こえる。
 駆け寄って来たのは、吸血鬼の母ローザ。
 ――おかーさん、ごめんね……。
 あたしが馬鹿で、弱いから。
『愛しのニーナ。待っていて、……あなたには生きていて欲しいの』
 ニーナ、ごめんね。
 吸血鬼の母の姿が、禁断の魔術の展開で竜の姿へ変わってそのまま大きく羽撃いて飛び去ろうとしている。
 たとえ戻れなくなったとしても、母親は娘を助けたかった。
 それはもはや母としての衝動だったのだろう。
 優しい親だった彼女が吸血鬼でありながら、人のように生きたいと願っていた彼女が禁断の術に手を伸ばす程。
 ――こんな事態になったのは、あたしが馬鹿で、弱いからだ……。
「……おかーさん、いかないで」
 姿を変えてしまった母に、飛び去らないで。其処に居て、と娘は願う。
「いいの、……貴女がいればそれで十分だから」


 ヒュッテンブレナーの魔力の気配――。
 ただかすかに感じた気配に耳と尻尾をパタリと揺らして、ロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)は見つけた。
「あれはおねえちゃん?」
 見慣れているニーナの姿によく似ている子が見えた。
 しかしどこか違う……。
 ロランの傍を、男が何かを持って歩いていく。
 キラリと輝く赤い色。宝石だと思えたのは、とてもキラキラしていたからだ。
 誰かの想ったカタチと魂ごと相応の形に収めた歪の具現化。
 ロランには分からない。だが、それよりも気にかかる人がいる。
 見たことない場所だ。でも、それだって今は構わない。
「あの女の子が、おねえちゃんなら……これってもしかして、おねえちゃんの、記憶?」
 誰かの記憶、その実体化した幻影の中にロランは囚われていた。
 黒い炎に覆われて、見ている光景が"絶望"強い日の出来事だとするなら――。
 ――なんだろう、おねえちゃんの気持ちが、伝わってくる……。
 記憶は記憶の持ち主の想いが形作るもの。
 ニーナが想っていた日の出来事から自分の胸に疼くモノを感じた。
「……この感じ、知ってるかも…………」
 想ってほしい、想いたい気持ちの向かう先。
 ――うん、きっと、そうなの。
 目を一度伏せた時、思い浮かんだ顔がロランにもある。
「……それじゃあ、これがおねえちゃんの過去?」
 考えの殆どを口に出して言っているにも関わらず、ニーナには見えていないようだ。どうして、なんで?と手を伸ばそうとして、助ける手は届かない。
 不思議な壁が、進むも近づくも拒んでいる。
 どんなに歩いても走っても、見えてる光景は変わらないのに距離感が変わらない!
「なんで?どうして近寄れないの?」
 記憶の壁に拒まれて、不思議とニーナへ近づけない。歯がゆい、どうして!
「まさか、ぼくの声まで聞こえてない?……ぼくはこの記憶の登場人物じゃ、ないから?」
 どうして。どうして!
 姉に向かって、手をのばすロランの手が、視界に入る。
 ようやく、視界に入ったその腕は――狼の手。
「……そうだよ、それでもぼくは"人狼"だから」
 変化と魅了の満月の魔力は、扱える。
 遠吠えに魔力を載せて、お姉ちゃんに届かせる!
 "その日その場に、遠吠えが無かったとしても――声は距離を超えるから"


 うぉおおおおおおおん――!
 吠える声、遠吠え。
「おねえちゃん……忘れないで、おねえちゃん。いつまでも家族は近くにいるよ!」


 噎せ返るような喉を焼く感じを叱咤して、誰かの遠吠えを聞いたなら――ニーナの胸に音が戻って来る。
 無くなったはずの音(錯覚)が、不思議と。


 "家族は近くにいる"。教えるように、叫んでる。
 あれは、あれは遠吠えだ。聞こえる。聞こえてるんだ。


 此処に守って貰った命がある。
「これから他の何者にもなれなくたって貴女の娘として生きられるなら!」
 十分だから。此処に居て、おかーさん!
 娘の願いを聞きながら、ローザはニーナを抱きしめる。竜の姿になっても母は、母のまま。ぬくもりがあった――変わらない優しさが、あった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『オルトロス』

POW   :    くらいつく
自身の身体部位ひとつを【もうひとつ】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
SPD   :    ほえる
【悲痛な咆哮】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    なかまをよぶ
自身が戦闘で瀕死になると【影の中から万全な状態の同一個体】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●Don't be afraid

 黒い炎から、幻影から逃れる手段対策はそれぞれ異なるだろう。
 だから――今度は絶望が炎から滲み出してくる。暴力的な絶望の化身となって躍り出てくるだろう――あそこから、そこから、どこからでも。
 ずずずと身体を滑り込ませて一般人たる君達の前に出没する。
 絶望と幻覚の作用は恐ろしい。
 普段の猟兵ならば恐れない存在でも……その声から恐怖心を感じるのだから。

『こわい』
 溢れ出してくる敵はどれも、猟兵へ狙いをつけている!
 戦えるかどうか、ではない――戦わなくてはやられてしまうのだ――――。
 敵の数だけ燃える勢いが強い黒の炎。集まった敵の数を減らすことが出来たなら、心へ訴えかけてくる力もまた――弱まる、かもしれない。
豊水・晶
なんで…なんでここに!?

私の村を滅ぼして、まだ満足できないのですか?ただの村娘に何を望むというのです。

もうイヤです。たくさんです。守りきれないのも奪われるのも。

なら、戦うしかないじゃないですか!
無力でも特別でなくても、恐怖を押し殺して涙を堪え、勇気を振り絞って立ち向かう。
これ以上奪わせないために、今度こそ護り切るために!!

はぁぁあああああ!!
暫く徒手空拳で戦い続けます。

けどやっぱり、普通の村娘では限界があったようです。でも、まだです。まだ!!
そう思ったときいつの間にか両手には剣が握られていました。
都合がいい、これでまだ護れる!

敵の姿は一度生物を粉砕機に入れて作った蝗っぽい見た目です。
アドリブ◎



●護るべき場所

「……なんで」
 ――どうしてこんなところに!
 豊水・晶に渦巻いたもの、それは――動揺。
 村を滅ぼしたモノを憶えている。カタチも、姿も、憶えている。
 ヒトではない。勿論、悪夢が実体化して顕れているなら、
 ぞぞぞ、と立ち上がる大柄にも視える黒い炎が隅から隅まで咲けた口のように嘲笑う顔。異形なる完成体。
 炎を大きくなぐ様子は、破壊活動にそれによく似ていた。
 大声を上げて、怒号を放って。
 幻聴の悲鳴を耳に聞き、破壊の音を幻視する。
「生贄にほしいのですか」
 普通の村娘一人を捧げられて、しかしすぐまたやってきた。
 今度は晶の番。そう決まっていた、そうするしかなかった。
「……ただの村娘に何を望むというのです」
 ただ喰らって、壊して破滅に導く邪神に立ち向かうなんて無理だ。
 何人もの村人がその手に掛かった。
 村の荒廃も、彼が腹を満たさんがばかりに量を欲したから――。
「もうイヤです。たくさんなんですよ……!」
 耳を叩く悲鳴が、ずっと聞こえている。
 晶より先に、手に掴んだモノが壊れる前に離しなさいと叱りたい。
「守りきれないのも奪われるのも……!!」
『ではどうする?どちらもいやだというのなら、おまえがさきにほろびるか?』
 似たりと嘲笑う邪神の声は、どこまでも反響して響く。
 燃える炎のように逃げ場のない燻りを。
 ただの村娘には残酷な回答しか求めない。
「馬鹿も休み休みお言いなさい!」
 なら、求められる回答は不思議と一つだけだと想った。
「戦うしか無いじゃないですか!」
 無力でも特別ではなくても、この結末を嫌だと考える。
 馴染みある村の滅びの顛末を再び。そんなモノを誰が許せるだろう。
「……っ!」
 涙が頬を伝うようだった。
 恐怖に震え上がる心と足を無理に動かして、涙を拭うのも後回し。
 此処に示せ、君が"勇気"ある行動を――あの時と今、君が違うと言える"証明"を。
「はぁああああああああああ!!」
 どがぁあ、と気合が一つ。大きく大地を踏みしめて、徒手空拳で迫りくる恐怖の象徴をとにかく討つ。
 この両手には何もない。しかし、だか今はこれでいい。
『我は此処に。どこまでも此処に。邪神とは、そういうものなり』
 なかまをよぶように、邪神から伸びる影から同じ万全の個体が進み出る。手を伸ばし、晶を薙ぎ払うその手法を大いに真似て。
 あざ笑うように返してくる。
 どんなに倒しても、同じ顔で同じ存在であるように嗤いながら激しい怒髪で突き飛ばしてくる!
 圧倒的な力の差、敵わないと心が叫ぶ。
 ――っ、やっぱり、普通の村娘の私では……!
 そう想った時、不思議と空の手のひらには剣が握られている。
 いつのまにか、身体がそうするべきだと動いていたのだ。
「……でも、まだです!まだ!!」
 都合がいいと、両手に水晶の剣を振るい、こんどは気合一発切り捨ててやろう!
「護るんです。私は、私の守りたいものを!」
 敵の姿は炎が如く揺らめいていて、不安定では合った。だがどんなに影から真新しい自身を量産する邪神のそれであったとしても――。
 粉砕機に入れて作られたとても生物としては見てられない者からの再侵略を、安々許す晶ではなかった。
 己が角を削った剣、瑞玻璃剣がこの手にある限り。
 徐々に猟兵としての力と記憶をぐんぐんと浮上させていく――こんな幻影、有り得てはいけないのだから!

成功 🔵​🔵​🔴​

真多々来・センリ
もうどれくらい、肉の塊を踏み込えた?
いくつ、アリスの命を見捨ててきた?
死にたくなくて、沢山のものを捨ててきて、だからこそここまで来れて
けれど、ふと正気に返る

沢山の死を見送った私。生き延びてしまった私。
其処にはそれに足る理由があるの?

敵の姿がいつか自分を喰い掛けたオウガと重なり
お腹の傷が幻痛を訴え

いたい、こわい
こんなの、狂ってしまった方がマシ
けれど、このままでは私は囚われたままだと、知っている
理解していたから、この世界を直視できる

私が信じる未来へ、いきたいから

相手の咆哮をUCにて予測
直前にランタンを投げつけ、火の精霊の全力魔法で爆発をおこし

ごめんなさい、私はもう、怯えるだけのアリスじゃないんです



●奇跡を紡ぎ見据える先へ

 胸の鼓動はやけに大きく聞こえる。
 ――もうどれくらい、肉の塊を踏み込えた?
 幾つもあった。人数なんて数えている時間もなかった。とにかく沢山の人だったモノの上を真多々来・センリは踏み越えて進み続けた。
 ――いくつ、アリスの命を見捨ててきた?
 両手両足の指では到底足りない。
 アリスと呼ばれた存在が、巻き込まれた数だけいたのなら……楽しめる数だけ引き込まれて、デスゲームが開催されていたはずだから。
 数で現してはダメだ。
 センリが再び"その時のアリス"とである確率なんて――。
 見捨てた数、踏み越えた数に生唾さえ乾いた喉に焼け付いたように通らない。
 呼吸が浅くなって、どうにも息苦しい。
「……っ」
 沢山のものを捨ててきて、だからこそこの場所にたどり着いたはずだ。
 今だけはゆっくりと息をしよう――誰かが走ってくる音なんて、聞こえないから。
 ふと――正気が顔を覗き込んでくる。
 ――沢山の死を見送った私。
 ――生き延びてしまった私。
「其処には、それに足る理由があるの?」
 "アリス"はあの場に沢山いたのだから、誰か別の存在が生き延びていた――勝者となって逃げ遂せたかもしれない。
 その機会をセンリが奪って、手に入れていたとしたら……。
『うぅう、ううううううう』
 炎から溢れ出飛び出してくる追手の声は、いつしか這い寄るオウガの姿へ変わる。
 ああ下品な笑い声が、あの時聞いた声が耳に再び届くよう――。
『へ、へへへ……うまそうだなあぁ』
 じゅるりと舌舐めずる音もリアルで、逃げる場所だけ合って、隠れる場所のないこの場所で沢山のオウガに囲まれたセンリは"蠱毒(孤独)"であった。
 不幸なことに、ある一体と目が遭った。
 それは――デスゲーム中に、センリを捕らえ喰らうギリギリまでやってのけたオウガだ。
『うまそうじゃねえ、うめえんだよ!』
 笑い転げる声は、いいなああと羨ましがるオウガたちの嘆きを上乗せして衝撃波のようにセンリの身体を容赦なく叩く。
 オウガたちの井戸端会議(物理)に、勝手に同席させられているセンリは溜まったものじゃない。
 浴びた衝撃波の重さに、ずきり、と痛むお腹の幻痛の予感。
 その手が届かない逃げを見せ付けていたのに、いたい。
 どうしても、痛む気がして見が竦んでしまう。いたい。いたい。どうしても、いたい。
「ひっ……」
 ――いたい、こわい。いたい、いたい……!
 泣き出したい気持ちがいっぱいで。でも泣いても救いの手は訪れないのだとも予感が告げる。
 色の違う瞳が、センリの見えない間に光を讃えて睨みを利かす。
「……こんなの狂ってしまった方が、マシ!けれど」
『ん~?』
「このままでは私は囚われたままだと、知っていますから!」
 理解した。これは繰り返された"正真正銘絶望しかないデスゲーム"。
「私が信じる未来へ、いきたいから」
 過去は過去ごと還って貰っても宜しいでしょうか。
 ユーベルコード:gift(リンジンノシュクフク)の使い方だって思い出した、その前兆は輝く金の瞳が見据えた先に。
「可変的未来の輪に囚われたのは、私ではなく……あなたたちなのですよ!」
 放たれ続ける無差別の咆哮が放たれる前に、センリは此処と目星をつけてランタンを投げつける。
 ぶん、と激しく青い炎が燃えるランタンが"灯台"目指して颯爽と吹き抜ける――火の精霊が応えてくれた。
 瞬間的全力の発揮、その痕跡を"爆発"という効果に変えて。
 センリを囲ったオウガ達を一斉爆破に巻き込んで、吹き飛ばす。
 ほんとうはべつの姿の、べつのものだったかもしれない。
 爆風で真実綺麗なままの衣服や髪が無邪気に揺れた。
 黒い炎が記憶の隅に在った覚えないのだ、これは"センリの正しい記憶"とは些か異なる――絶望の炎が魅せる錯覚が為せる技。
「でも、ごめんなさい、ゲームはおしまい。終わっているのです」
 ――私はもう、怯えるだけの"アリス"じゃないんです。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニーナ・アーベントロート
【赫】
迫る影に追い立てられもたつく脚
…逃げ続けても、いつか追い付かれる
死に物狂いで解決策を考えてたら
いつの間にか傍にいたのは
魂結び合う「親子」のふたりと
不思議な懐かしさ覚える仔狼
大丈夫だよ、とその頭をひと撫でして

皆の力と想いを累ね合わせよう
左手をすみれ色の娘の右手に
各々手を繋いでひと塊になったなら
一斉に飛び込んで体当たり
両手が塞がっても、その分心強くて
ひとりの手よりもずっと遠くへ届くから

守ってくれた母のように
目の前で苦しむ人を守りたい
母と同じ血が自分の中には流れてる
内に眠る吸血鬼の力を呼び起こし立ち向かう

…やっと思い出せた
あたしの大切な家族、友達
猟兵としての記憶
そして、これからやるべきこと


君影・菫
【赫】
絆ぐ手、結ぶ魂
迫る絶望は怖くはない
でも斃す術は思いつかなくて走った

見つけたのは何処か見覚えのある――
…大切なものを見つけた心地
自然と黄昏色へ伸ばした右手
いこ、おとーさん
並んだなら真っ直ぐに走る

想いを累て
ゆび結ぶ
その先で勝つ
何度も、何度もぶつかって
思い出す

うちは――簪、宿りの神
ゆびさきは凡てを操るもの
おとーさん…ちぃは思い出した?
うちは思い出したよ、大切なもの全部
ニーナが大事な友達なことも

…唯のひとになって欠片が埋まる
理解できなかったひとの『怖い』が裡に灯った
親子で知れたのは不幸中の幸い
今は怖ないよ

でも終わりやない
ニーナの背はうちが押したる
ほな仕置きに行こ
親に伸ばした手は娘のまま
また絆いで


宵鍔・千鶴
【赫】

もう離さないと
出来ることはこの手を確りと
繋いだまま
無我夢中で駆ける
娘が見付けた先、
強い眼差し、黄昏が映る
安堵する、開き掛けた口は結んで
連ねて並ぶ、当たり前みたいな不思議な心地
『そうすること』が正しいのだと
ああ、行こう
地を蹴る脚は前へ
片手は大切なものを
片手は踏み出すための力を

負けないさ、
だって、俺は、……
菫を、大事な友達を
失わないために、此処に居る
忌むべき力だって、躊躇わずに使おう
思い出したよ
『マトモなヒト』に成りたかった俺
でもそれじゃ戦えない
今の俺に全て大事なもの
菫が隣に居てくれた
ニーナ、進んで
大丈夫、俺達がいる
もうこわくない

仕置は勿論
菫の手を取り変わらないものは其処に

ーーさあ、反撃だ


ロラン・ヒュッテンブレナー
【赫】
覚めたと思ったら、ぼくは、ただの子狼…
不思議と懐かしい感じのするおねえさん(f03448)の隣

嫌な気配と匂いを嗅ぎつけて、逃げようと袖を加えてグイグイ引っ張るよ
わぅわぅっ!『あれは、こわいよ』
大きな、光る首輪に光の鎖で縛られた狼(ロランの真の姿)

なんで、みんな戦おうとしてるの?
勝てないよ?
に、にげたい…
でも、置いて行けない…

『ぼうや、約束したでしょ?』
女性の声に導かれて、こわいけど、みんなと幻影の間に割り込んで威嚇するよ
やらせないよ
ローザママと約束したから
「おねえちゃん」を、守るんだ!
母竜の如き咆哮で、勇気を呼び覚ますの!

思い出したよ、ぼくが何者か
人の姿に戻って、微笑みかけるの



●絆ぐ

 迫る影に追い立てられて、いつの間にか炎の群れに誘い込まれてしまったような。逃げ続けても、ずずずと湧いてくる獣達は周囲に燃える炎と同質なのかもしれない。
 絶望を誘う遠吠えに。
 猟犬たちの獲物になってしまった現状を考えなければ――。
 恐い場所から醒めたはずなのに、黒い炎が敵意をむき出しにしてくる。
 鼻を鳴らし、不思議と懐かしい匂いを拾ってロラン・ヒュッテンブレナーは寄り添い佇んだ。
 ――おねえさんの隣に。
 光る首輪に光の鎖で縛られた大きな狼もまた、怯えたように唸り返す。
「わぅわうぅっ!」
 ――あれはみんなこわいものだよ!
 あっちはだめ、こっちにいこうと嫌な匂いを嗅ぎつけて袖を喰み、急いでと急かす。今すぐ駆け出せば逃げ出せるから。ぐいぐいと、急いでくれとニーナへアピールする。
 すぐ隣の仔狼が急かしてくる。早く逃げよう、こっちだ、と。
 引っ張られた勢いで足がもたつく、恐いと思う心が体の動きを遅くしていたのだ。
「大丈夫だよ」
 仔狼の頭をひと撫でして、ニーナ・アーベントロートは不思議な懐かしさに胸を温める。
 黒い炎に暖かさなんて一欠片もないけれど。
 懐かしさの欠片もありはしない。

 絆ぐ手、結ぶ魂。
 その手はとても温かくて、迫りくる絶望の群れも。
 視界にあふれる真っ黒炎の昂りも、君影・菫は怖くない。
 ――でも。
 実体化した黒い炎の尖兵がこわくはないけれど、ずずずと溢れる獣が喉を鳴らして飛んでくる。
 ――斃すなら、どうしたら……。
 思いつかず、親子は走る。まずはただ逃げよう。
 もう放したりしないしないように。
 ぎゅっ、と結ぶその手は温もりを伝える。
 ――出来ることは、この手を確りと繋いだままに。
 娘の手を繋いだまま、宵鍔・千鶴は無我夢中で駆ける。

 遠く悲痛な声で叫ぶ黒い炎のオルトロスの遠吠えが、衝撃波となって轟き炎を大きく煽る。
 声を聞いた炎から、ずずずと犬のような姿を増やして追いかけてくる。
 猟奇的な凶暴性。一般人こそ最大の獲物と知っている黒狗どもが、狙っている。
 おおん、おおんと嘆くような声色で。叫び蹴散らし、迷い込んだ者たちが無力であるうちに傷つけようと大声を張り上げた。

「……あ」
 遠目に菫が見つけたのは人影、それから仔狼。
 娘が見つけた先、黄昏色が千鶴の視界にも映る。
「――」
 不思議と安堵が胸にこみ上げた。
 菫も千鶴も何処か見覚えがあった。何かをいいかけた口を結んで、浅かった呼吸を深く息を吸うモノへ置き換える。
 心配要らない。なぜだかそう思うのだ。当たり前のように肩を並べて、当たり前の様に悪夢の様相を対峙するのがいいのだと。
 ――なんだろう、大切なものを見つけたみたい。
 菫の嬉しいような、ふわふわした気分。
 自然と黄昏色へ伸ばした右手が欲している。
「いこ、おとーさん」
 並んだからには、もう迷わず真っ直ぐに走ろう。連ねて並ぶ、不思議な体験にも思うのに安堵の気持ちはピタリと重なった。
 ――こうすることが、正しいのだろう。
「ああ、行こう」
 地を蹴る脚は前へ。前へ。
 父の片手は大切なものへ。
 そして空いた手には踏み出すための力を。
「襲いたいなるなら来るといい。その大きな口を更に大きく切り裂こう」
 オォオオオオオと一斉に轟く深淵の声音。
 身体を打つ鋭い風の乱舞。

「……くぅん」
 ――なんで?どうしてみんな戦おうとしているの?
 ――あんなにこわい存在に勝てないよ。
 ――かてないんだよ?食べられちゃうよ!
 ロランの脚が震える。
 身を伏せてたがる躰と、震え上がる魂が、恐ろしいモノを見たくないと怯えだすのがロランにも分かった。
 逃げたいと心が叫んでる。
 でも懐かしい匂いのする"おねえちゃん"も親子も逃げる様子がない。
 ――置いては、いけない……。
 一人だけならすぐにでも尻尾を丸めて逃げ出してしまえるのに!
 ぎりりと強く牙を喰む。
 見捨てられない。一人で逃げられない――でも、どうして――?

 並び立った人たちの、頼もしさは"こわくない"の証明だ。
 ニーナの左手をすみれ色の娘の右手と結び、逃げないと立ち並ぶ。
 みんなの力と思いを累ね合わせてひと塊になったなら、さあ始めよう。
「だってこわく、ないから!」
 一斉に飛び込んで、獰猛な獣目掛けて体当たり。
 がうがうと吠えたける衝撃波が三人仲良く身体を叩かれてしまうけれど、手と絆いだ親子の二人が諦めないから――負けない。
 ――両手が塞がっていても、その分心強いよ。
 ひとりぼっちの手よりも、ずっと遠くへ届く気持ちになれる。
 ――あたしにも、救うことが、出来るかな……?

 想いを累て、ゆび結ぶ。

 あの日あの時守ってくれたニーナの母のように。
『ぼうや、約束したでしょう?』
 ロランの頭にの中で聞こえてきたのは女性の声。
 逃げられない理由は、こわいけど奮い立たなければならない場面であると優しく示すよう。
 聞こえた声は、ローザの声。
 ――そうだよね、ローザママ。
 やらせない、と全員と獣たちその間にロランは身を滑り込ませて威嚇する。吠える声に負けじと怒号を散らして、威圧する。
 ――やらせないの。約束したからね。
「……"おねえちゃん"を守るんだ!」
 狼の咆哮は、炎より生まれた獣たちを上回る音として荒ぶり迸るだろう。満月の魔力を瞳に映し、鬨の声は狼から竜の声に重圧を載せた。
 母竜の如き咆哮をあげて、勇気を胸に呼び起こす。

 おもいだして。ここに立つ、みんなのことを!

「……思い出したよ、ぼくが何者か」
 咆哮の音撃で、けものたちを蹴散らしたロランは逃げなかった自分を鼓舞する。ユーベルコードの使い方を思い出したなら、どんなに"こわい"敵だって、――もう恐いとは思わない。
「ね、おねえちゃん」
 狼から人の姿へ。
 普段の姿でニコリと微笑みかけてニーナへ手を差し伸べた。
 かぞくも、ともだちも、ここに。いるからね。
 さあ、思い出して。怖がらずに戦おう。
 ――ぼくも一緒にいるの。

 咆哮によって蹴散らされ、火の勢いは弱まったように見えた。
 ぞぞぞと群れて立ち上がる獣達の実体はまだ戦いをやめそうにない。
 勝たなければ絶望の獣達が炎のように皆喰らって焼くだろう。
 目の前で苦しむ人を守りたいと、ニーナは願う。
 ――この体には、貴女とお同じ血が流れているんだもの。
 優しい人の子なんだから、"優しい事が出来る"はず。
 ――起きて。
 ――起きるなら、今なのよ。
 願いに反応するように、脈動する吸血鬼の力。
 繋がる為に、絆ぐ為に埋め込んだネットワークサーバーを高速処理させるなら、今この瞬間。
 黒い炎が絶望を押し付けてくるより疾く。
 所持する力が上回れ。巡れ、駆けろ、心音のように繋がりを響かせて。

「……いや。だめ」
 不思議な力が、何故だか使えてゆび泳がせる。
 それは獣たちに何度も、何度もぶつかって。
「負けないさ、だって、俺は、……」
 蘇るのはこれまでの千鶴が誇る力の理由。
 娘は――その術を思い出した。
「うちは――簪、宿りの神」
 娘は思い出す。ゆびさきは、凡てを操るもの。
 ヴィオラの戯。
 優雅で鋭利な菫色の簪の複製に、"心"を強く意識したならば。
 不思議な念動力は、菫の味方。
 威力が変わる。沢山の紫が、狡猾な獣たちを退ける。
「菫を、大事な友達を――失わないために、此処に居る」
 忌むべき力だって、躊躇わずに使おう。
 失わせようとする炎が生まれの黒き絶望の獣共よ。その牙を爪を、遠吠えをこれ以上振るうなら、――顎から下を削ぎ落とそうか。
「おとーさん……ちぃは思い出した?」
 こわくない。菫はふわりと微笑みかける。
「うちは思い出したよ、大切なもの全部」
「思い出したよ。"マトモなヒト"になりたかった俺を」
 ――でもそれじゃ戦えない。
 今の千鶴にはそれ以外のものだって、あるのだから。
「菫が隣に居てくれた」
「ニーナが大事な友達なことも、ちぃが傍に居ることも」
 皆知った顔だもの。こんなに集まって、なあにが恐いのだろうか。
 みんないる。みんなといる。
 ヤドリガミで有ることを忘れて、思い出が解けていた間の事も憶えている。理解できなかったひとの"怖い"が、裡に灯った。
「親子で"怖い"を識れたのは不幸中の幸い――ふ、ふふ。今は怖ないよ」
 その視界を隔ててみせよう。
 消せない炎が無いように、紫で彩ろう。
 視界を埋めて、黒い炎を見えないように隠してしまおう。


「……やっ、と思い出せた」
 頭の中が冴え渡る。
 霧が晴れたように、ひとりの仔は前を、隣を見るばかり。
 もう錯覚にとらわれてなんて、やらない。
「あたしの大切な家族、それから……友達」
 こうして皆で立つ意味が、戦う理由が"猟兵"であることを。
 噂に聞いた男のことを、ざわめく気持ちが抑えられないニーナにとって、一つだけ解ることならある。
 ――もう、する事は決まっているようなものだよね。
「でも終わりやない。ニーナの背はうちが押したる」
「ニーナ、進んで。迷わずにしっかりと」
 親子は語る、進むべきだと。
「記憶を取り戻したからには、あたしがこの後やるべきことは――だと」
「うんうん、ほな仕置きに行こ」
 親に伸ばした手は、やはり娘のまま。
 怖くない絆の印は、片手ずつで結んだままにしっかりと――絆いで。
「大丈夫、俺達がいる」
「もうこわくない」
 仕置は勿論、徹底的に。
 よくも奪ったな。良くも感情を塗り替えたな。
 忘却の海など炎の波ごと押し潰せ。
 菫の手を取り変わらないものは此処にある。

「奪われたモノを取り返そうか――さあ、反撃だ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『恋盗人のドルフ』

POW   :    「拒まれるほど欲しくなる」
全身を【魔法で構築した宝石のように輝く防壁】で覆い、自身が敵から受けた【負傷】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
SPD   :    「きみも此方へ」
【魅了】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【美しい少女たちの幻影】から、高命中力の【灼けるような痛みを伴うオーラ】を飛ばす。
WIZ   :    「仕置きの時間だ」
【指先】を向けた対象に、【自身の影から召喚した鴉の群れによる攻撃】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はニーナ・アーベントロートです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●Beautiful above all

『黒い炎』の荒ぶる様が、落ち着いて。
 実体化した黒い炎のけものたちを退けて。
「これほどまでにうつくしいものが、あるだろうか」
 さく、さくと足音と、独り言が聞こえてくる。
「……いいや、一番はやはり宝石だろうな」
 蒐集した中でも気に入ったモノを、魔術師は肌身は出さず持っている。
 たとえ、――その目が"美しいもの"を見て取るべき瞳を欠落させていても。
 音を聞く耳さえ機能を失っていても。その鼻が香りを拾うことがなくなっていても男はなんら困った様子がない。
「良い色だろう?いい形だろう?」
 差し上げないが、見て欲しい。
 口ぶりはそう告げていた。
 魔術師の勘――いつの間にか、複雑に心の臓に仕掛けたギミック。
 視聴嗅覚もないのにも関わらず、誰かの来訪、接近を自身の鼓動が感知した。
「恐怖や絶望の感情が、今この当たりに在っただろう?」
 だから宝物のことを告げたくなったのだ。
 此処に居るものは、きっと美しいものだから。絶望を増幅させるこの常闇の燎原で誰よりも明るい言葉で魅了する言葉を吐き続ける。

 猟兵たちは本来の自分を取り戻している。
 本来この場へ訪れたのは第三層を探す探索――狂ったオブリビオンを放置するのもありなのかもしれないが……。
 無視したことで、将来この男は誰かの障害なりかねない。向こうから足を伸ばし、出会ったのから――この場で還すべきだと誰もがそう理解するだろう。
館野・敬輔(サポート)
※アドリブ、他者連携、派手な負傷描写OK
※NG:恋愛、性的要素、敵との交渉を行う依頼

『吸血鬼をこの世界から駆逐する。例外なく骸の海に還れ!』

ダークセイヴァー出身の、青赤オッドアイの青年黒騎士です。
吸血鬼に家族と故郷を奪われたため、吸血鬼やオブリビオンに強い憎悪を抱いており、憎悪を以て敵を冷酷に斬り捨てます。

直情な性格ですので、黒剣1本だけで真正面から叩き潰す戦術を好みます。
ボス戦では積極的に他猟兵を庇ったり、衝撃波や投擲用ナイフで牽制したり、他者連携を意識した戦い方もします。

ユーベルコードは指定されたものをどれでも使用。
迷惑行為や公序良俗に反する行動は、依頼成功のためであっても行いません。


豊水・晶
貴方が……貴方が元凶ですか?

本当に…本当に、恐ろしかった。怖くて怖くて震えが止まらなくて、腰が引けて力が入らなくて……。
あの幻覚で持った感情は幻覚?それとも現実?二度と体験したくないと思う程度には辛い体験でした。
でも…それでも、と立ち上がれたのは、自身に譲れないものがあったから。たとえすべてを奪われそうになっても。たとえ恐怖と暴力に屈しようとしても。今度こそ大切なものを護り切る。それが、私が私である理由。誰にも奪わせない。誰にも折らせない。

その覚悟を今一度思い起こさせてくれたお礼です。私の水ですべてを押し流し、炎も過去もあなた自身も、きれいに洗い流して差し上げます。
UC発動
神罰・浄化・破魔付与



●邪さは敵である証明

「貴方が、……貴方が元凶ですか?」
 魔術師ドルフこそが、絶望や恐怖が押し寄せるように仕向けたのではないかと豊水・晶は疑う。個人が扱う代物としての規模を考えたなら、男もまた誘われた一人、なのかもしれない。
「それにしても、本当に、……本当に、恐ろしかった」
 幻影として見た光景を、晶は思うと胸が傷んだ。
 怖くて怖くて、震えが止まらなくなって。
 腰が引けて、力が上手くいれられなくなって――戦えなかった。
『その姿は、とても美しいじゃないか』
 瞳からも黒い炎を溢れさせるドルフに、晶の声は届いていない。
 だからこれは、彼が自分勝手に言葉を綴っているだけに過ぎない。
「あの幻覚で持った感情は、幻覚?それとも、現実?」
 再現された幻覚だとしても、あまりに悪夢のようだった。
「二度と体験したくない光景で、あまりに辛い……」
『ああ、いまのきみはとてもうつくしいね』
 手を伸ばし、魅了の言葉を吐く男。まくしたてるように、心を傾倒させる言葉の羅列を、並べ、晶の歓心を言葉の端々から引っ張るように言葉を転がす。これこそが、男の得意な手法――そこに他の猟兵をかばうように、男の一手を投擲ナイフを衝撃波で加速させた牽制で遮られた。
 カカカッ、と足元に突き立ったナイフに気を止める様子はない。
 見えていなければ、気を緩める部分さえないというのか。
「想いを伝えるのは、必要なことだろう……だが」
 館野・敬輔(人間の黒騎士・f14505)は地を蹴る。
 "黒い炎"を見つめすぎてもいけない。猟兵たちの活躍で、弱まっていたとしても、それは真実暗闇を引き寄せる。
「そちらは吸血鬼ではないようだけど、人を殺めた事はあるんだろう?」
 では例外なく、この世界から駆逐されるべき存在だ。
「返答は要らない。どうせ聞こえても居ないだろう」
『美しいものは、良いものだろう。そこにいるきみ達も、きっと美しいはずだ』
 両眼には映らないが、きっと、と魅了の言葉をいい添える。
『だから、きみも此方へどうだろう?歓迎しよう』
「お断りだ」
 直情な青年が手に握るは愛用の黒剣。
 魂を纏った黒剣で、男の"誘惑するような戯言"を切り捨てる。
「とっておきの剣技をみせてやるよ……模倣されるなんて、思わないだろ?」
 男が使おうとした力をそのまま、剣戟でコピーして発動。
 "魅了"の感情を与える――為には、視聴嗅覚が無いことが邪魔をする。
 鼓動の音の変化で環境を認識しているのなら――今は彼女が居るから、丁度いい。
「でも、こうしてわたしが立ち上がれたのは自身に譲れないものがあったから」
 水湧き出る水晶と、それを水源とする川の神。
 信仰が薄れても尚、それは変わらない晶の出自。
「すべてを奪われそうになっても、いえ、真実奪われていたのだとしても……こうして、這い上がれます」
 たとえ恐怖と暴力が、無力を押しつぶそうと働き、屈してしまおうとも。悪夢から目をそらすべきじゃない。立ち向かって、幻影を書き換える勢いで挑まなければ、ならないと晶は考える。
「大切なものを、今度は私が護り切ることも出来ましょう」
 それが"晶"が晶である理由。
 もう誰にも奪わせない、誰にも折らせない、強い想い。
『……ああ、いいね。それはとても美しいものだよ。貰えるかな』
 ひゅぅうう、と嫌な風が吹く。
 それは、ドルフが過去に大事なモノを奪った少女たちの幻影。心の臓に大きな孔を穿った正真正銘の、幻は奪われた熱量分の灼けるような痛みを伴うオーラをその身に宿してドルフへ向かって抱きついていく。
 数体の少女たちがしがみつけば、視聴嗅覚がない男は、逃げる隙を生み出す暇を持てない。
『良いじゃないか、きみたち……』
 痛覚はある。だから男は痛みに顔を歪めた。
「自分が奪ってきたモノ数、その腕に抱かれて灼ける想いを身に浴びるのはどんな気分なんだい」
 応えてくれなくて結構。
 どうせ、その耳に敬輔の言葉は届いていないだろうから。
「もっと欲しいなら、お望み通りに灼かれておくんだな」
 うつくしいものへ魅了の感情を抱くドルフにユーベルコード:魂魄剣・戦術模倣(コンパクケン・センジュツモホウ)を何度でも発動し、燃える業火に灼かれるかのうような熱さが男へ殺到する。
 ――好きなだけ灼かれるといい。
 ――それが貴様の、罪の温度だ。
「灼ける痛みを浴びてばかりは、……私の覚悟を今一度強く思い起こさせてくれたお礼です」
 敬輔と攻める役割を入れ替わり、後方に下がったのを見て発動するはユーベルコード:龗の激昂(オカミノゲッコウ)。
 手加減のない竜神が神罰だ。神々しいまでにきらめく激流。水晶が含まれていて、キラキラと輝いている。
 その両手から大量の激流が常闇の燎原に瀑布を作り上げて、押し流す。
 黒い炎も、オーラに灼かれるドルフごと。
「炎も過去もあなた自身も、きれいに洗い流して差し上げますよ」
 魅了の感情も冷めるでしょう?浄化と破魔の力の籠もったこの晶の水は、ドルフの足を停めて、その体に大量の激流で沈める。
 黒い炎が一時的に消えたが――水分さえ燃やすように、再び燃え上がってくる。
 この地に燃える炎は、男が由来ではないのだろう。
 ただ燃えて、ただそこにあって。
 災厄のように、誰かを狂わせる"黒い炎"なのだ――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

真多々来・センリ
美しい、なんて
馬鹿なことを言わないでください

こんなもの、残酷で、ただ悲しいだけですよ
あなたの持つ石ころも、私と一緒にいる「おともだち」も

UCにて呼び出す無数のぬいぐるみ達にて鴉の群れを迎え撃ち
どんなに啄まれようともこの子達は止まらない
私の恐怖が、あの炎に呑まれた貴方に向けられる限り、永遠に貴方を追い続けましょう


そして…私は否定します。貴方が魅入られたものの、全てを

あんな地獄のような世界なんて無い方がいい
どんなに平凡だと思えても、当たり前で、暖かな日常の方が良いに決まってる

変えてみせます。貴方が切望する感情を、貴方が待ち望む未来を
それが、あの絶望の過去を生き残ってしまった、私の理由なんですから!



●涅槃の向こうで語ればいい

「美しい、なんて……」
 真多々来・センリは聞こえた言葉に耳を疑う。
「馬鹿なことを言わないでください」
 心を落ち着つけて。恐怖や絶望を超えた、自分自身を自覚する。宝石を顔より上に掲げて眺める様子を見せた魔術師ドルフにセンリはただ、言葉として放つ。
「こんなもの、どこが美しいっていうんですか」
 胸元をぎゅっと、拳が握った。
 絶望に傷つく心の様子が美しい?
 恐怖を感じた心が、美しい宝石になる?
 ――それはオウガが"アリス"を捕まえて食らうのと、何が違いますか?
「残酷製で美しいものは、……ただ悲しいだけですよ」
 ――あなたの持つ石ころも、いつか誰かの成れの果て。
 ――"アリス"だったモノを握りつぶしたオウガ達と、何が違いますか?
 その両手は、宝物を抱えているように見えて、真実は其処にない。
 ――ただ他者の心臓を握り、だくだくと赤黒い血の滴る最中で陶酔しているだけでしょう?
「ほら、心の目で感じて下さい?私と一緒にいる"おともだち"の事も」
 ユーベルコード、リアライズ・バロックによって、センリが感じた猜疑心はふわりふわりとその姿を表す。この暗い炎で燃える燎原に、無数の沢山のセンリの"おともだち"――ぬいぐるみが。
『そこにだれかいるのかい?……いいや、いるね』
 ドルフの魔術を施された心臓は感知した。
 無数の絶望に似た、大気の震えを。
 手足が千切れたそれは、絶望を抱え――そして、綿がはみ出す彼らには、相応の苦労と苦難があるのだろう。
 ドルフはそれを、"人と同質の絶望や恐怖"だと思い、反応する。
 音は決して男に聞こえていないが、たくさん現れた小宝石予備軍に、ピッ、と指を向けて口角を上げた。
『数で黙らせようっていうのかい?いいね、仕掛けて来るなら相応に、仕置きの時間といこう』
 "おともだち"に向けた指の先へ目掛け光のないこの場所で、ドルフの足元からバサバサと黒い鴉の群れが舞い上がる。
 羽ばたくたびにカァと鳴き、影から顕れた群れは常闇の中で自由を描く黒い魔鳥と化す。飛び出した鴉が、闇に紛れて見えなくなる――!
「例え私に見えなくても、皆には、ちゃんと見えていますから……!」
 どしゅ、どしゅ、と"おともだち"が迎え撃つ音を背に、センリはリンと背を伸ばすだろう。
 みんながいるからこそ、今は気丈に。
「わかりますか、どんなに綿が溢れても。どんなに啄まれようとも、この子達は止まらない」
 ギャアギャアと魔鳥は鳴き叫ぶけれど、"おともだち"は何も言わず立ち向かう。
「私の恐怖が、あの炎に呑まれた貴方に向けられる限り、……永遠に貴方を追い詰めます」
 ――その在り方考えは、こわいもの。
 ――人である機能を欠落させた貴方は、"黒い炎"の化身のようなものです。
 ぼふぼふと、白い綿が飛ぶ――烏の群れに、ぬいぐるみたちの数が勝ち始める。
 まるでぬいぐるみ達の大行進。"アリス"の代わりに、進む追撃者たち。
『おかしいな、数が変わったような気がしないね……』
「そうでしょう……私は否定します。皆と一緒に。貴方が魅入られたものの、全てを」
 センリが見た光景は、普通の人なら誰もが悪夢だと思うはずだ。
 ――あんな地獄のような世界なんて無い方がいい。
 今も、アリスラビリンスが存在するように。
 実際のアリスにとっての地獄は存在しているけれど、――だからといって絶望を浴び続ける世界が美しいといえるのは、オブリビオンだけだ。
 悲鳴と絶叫と絶命と、人類側にはお望み通りの恐怖と絶望しか残らないのだから。
「理不尽なんて、ダメです。どんな平凡だと思えても、当たり前で、暖かな日常のほうが良いんですから!」
 どどどど、っと"おともだち"がドルフへ体当たりにぶつかっていく。沢山の鼓動、絶望の感情が集まったらもう何処に何人いるかをドルフは理解できない。
「変えてみせます。貴方が切望する感情を、貴方が待ち望む未来を」
 燃える炎を消すことが出来なくても、変えられるものはある。
「それが――あの絶望を、血の道を走って此処まで歩いてきた過去を持つ私の、理由なんですから!」
 生き残ってしまったあの過去から、此処へ。
 絶望の足跡は此処で、"おともだち"と一緒に黒い炎へ押し倒そう。その目だけが魅了に溺れているというのなら、その体ごと存分に絶望の味を味わうと良い!

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニーナ・アーベントロート
【赫】

久しぶりだね
あたしとおかーさんのこと、もう忘れてるかな
…なんか、悔しい
あの時のあんたに抱いてた怒り
今ぶつけても仕方ないじゃん
震える拳に覚悟を込めて

力を貸してね、おかーさん
お父さんも、知らせてくれてありがと
約束守ろうね…ロラン!
菫さん、千鶴くんにリュカくん
猟兵としてもあいつは野放しに出来ないから
必ず勝って一緒に帰ろう
見つめ返して、しっかり頷く

恋の炎はとうに消えたけど
あたしが憎しみに囚われなかったのは
皆に貰った幸せな絆と記憶が
今もあたしを生かしてるから
世界を越えて繋がった人たちが
背中を押してくれてる
…絶対に、負けられない!

UCで攻撃力を上昇させる
背に受ける遠吠えで自身を鼓舞し
限界突破したドラゴンランスで属性攻撃
第六感とオーラ防御で攻撃はかわす
…ロランなら大丈夫とは思うけど
あんまり無茶しすぎないようにね
宝石は傷つけないようにして、奪還を試みる

あたしの初恋のひと
あたしの仇
心の底から憎いけど
同じくらい愛してたよ
永遠に、さよなら

終わったなら、みんなに最高の笑顔を見せて
…ありがと、ただいま!


ロラン・ヒュッテンブレナー
【赫】

幻覚で見た人?
……おねえちゃん、大丈夫?
しっかりして、おねえちゃん
おねえちゃんには、ローザママが着いてる
パパも、あそこにいる
(ドルフが持っているヒュッテンブレナーの魔力を帯びた真紅の宝石を指さして)

そして、パパと、ローザママの想いを持ったぼくが、ここにいるから
○オーバーロードして真の姿、ステンドグラスの翼を背負った青年の人狼吸血鬼に変身、以後口調変化

義母さんとの約束は、必ず守るから
ねえさん、行こう!

『ろぉぉぉ!』
姉の呼びかけに遠吠えで応える(ニーナUCの詠唱)
【勇気】に呼応した桃の精からの加護である桃の闘気と、自身の魔力を混ぜて広域展開
姉を、仲間を守るヒュッテンブレナー式【結界術】を発動
【落ち着き】を齎す闘気の【狂気・呪詛耐性】の【オーラ防御】でみんなを守る
魅了からも、鴉からも
攻撃は、ぼくが受ける!

増える標的をドルフ一人に集中、破邪の槍を顕現
UCを【高速詠唱】
ねえさん!
ヒュッテンブレナーの魔術の源、ねえさんの心臓が、導いてくれるよ!
【全力魔術】を込めて槍を投擲!

義母さん、やったよ


君影・菫
【赫】

宝石に今抱くのは恐怖かもしれん
…うつくしい?
悪趣味とやや不機嫌そうに

ほんま、つまらんひと
ふうわり冷たい音を放ち
けれど視線は視線の先は足元のぬくもり
あゝ、ふたりとも着いてきてたん
うちらの家族――白稲荷狐の親子
ん、さっきまでうちら少し様子違ってたもんな
心配させてごめんとゆびさきで柔く撫ぜる

対峙する相手に興味は微塵も無くて
だから全力で友だちの背を押せる
憂いなく終わって欲しいと思う
…な、ちぃもそうよね?
だからニーナの言の葉に頷き
ん、いっしょに帰ろな

――琴狐、こっち
菫の花を額に咲かす子招いて
揃って想うはおとーさんといっしょにと
『絆をちからに』
絆を詠唱を紡ぐ――絆ノ導

なあ、キミの魅了は絆に入り込める?
隣の大切なひとに
守りたいこころに
親と共に駆けて開くは友だちを至らせる路
魂を宝石にされた幻影の名残から宝石は狙わず
本体だけ狙いに行こか
最後の贄はキミ
うちの大切な友だちの礎にでもなって

左様なら
本当の綺麗を知らない盗人はん
友だちの思い出になることだけ赦してあげる

お疲れさまとおかえりは
うちらの特権やけどな


宵鍔・千鶴
【赫】

……うつくしいか、その宝石が
惑わす魅了の言の葉
幻影に映った宝石が脳裏に灼きつくから

放つ殺気から意識は足元で寄り添う二匹の親子狐
……ずっと、お前達も傍に居てくれたんだな
見上げる狐達にもう大丈夫だと示すよう、菫と重ねてふわりと撫ぜる

魅了が在っても
俺は隣に、近くに、護りたい絆があることの方が大事
凡てを掌握なんて出来ないし
興味も無いから
だから、友達が納得がいくように
笑って帰れるためなら
俺はどんなこともする
娘へ静かに頷いて
ニーナへ、真っ直ぐ視線を送ろう

――桜狐、おいで
桜紋を額に咲かす親狐を呼んだなら愛おしい気持ちは重なる
何があっても、巡って俺達は繋がってるから
『絆をちからに』
子達と一緒に、紡ぐ、絆の詠唱を

宝石よりこんなにうつくしいものが溢れてる
其れは彼女たちも同じものだから
未来へ至る途を疾駆して
きみが進む場所へ切り拓く
お前は礎に成るんだ、彼女たちが強くなるための

凡て終えたら、たくさん褒めよう、頑張った、って
ーーお帰り、を云えるよ


リュカ・ラス
「遅くなって申し訳ありませんニーナ殿」
やっと、お手伝いに参りました。

「他の皆様は初めましてですね、お話はニーナ殿からたくさん聞いています、申し訳ありませんが後でゆっくりご挨拶させて下さい」
今は、あれを止めましょう、此処で。

詳しくは知りません、でもあれがニーナ殿にとってとてもよくない者である事は分かります。そして、ニーナ殿は私にとっても大切な友達です。
…あと何より、あの男は凄く嫌な感じがします。

UCはアストリアを呼びます。
私の力では全部は返せないかもしれないけど、少しでも皆様の盾になります。
攻撃は剣で【斬撃波】【見切り】【オーラ防御】

あの宝石の赤はニーナ殿の色なのですね、絶対、取り戻しましょう



●美しい輝きを手に

「……うつくしいか、その宝石が、いちばん」
 ――あれが惑わす魅了の言の葉。
「……うつくしい?」
 ――宝石が、ね。
 君影・菫が赤い宝石を見かけて、思ったことは"こわい"。
 逃げ出したくなるソレではない。今抱くものは、恐怖のソレだ。
 宵鍔・千鶴の脳裏に灼き付くようにチラついたのは、幻影に映った宝石のこと。
 ――ああ、あの幻影の始まりは、其処か。
 千鶴の殺意は身体中からぶわりと漏れ出るだろう。
 お前がやった。おまえがあれをつくりあげた。
 おまえが、おまえが――。
 冷たさは親子共々、同じくらいの激しさで。
 殺が強いか、冷ややかな温度が上か、くらいの拮抗だった。

 体験は記憶と経験に準ずるもの。
 "あれ"に連なる行為自体を、男は美しいと形容したのか?
 ――悪趣味やね。
 ヒトを弄ぶのに慣れ過ぎている狂気に手を染めた人間のすること。
 菫はやや不機嫌そうな視線を受けた。
「……ほんま、つまらんひと」
 ふうわり冷たい音が、耳を撫でていくだろう。
 この地に燃える炎など熱量には程遠い。
「……ん」
 視線は流れ、その先は足元へと映る。
 男よりも大事なものが其処へまとわりついて存在を知らせてくるのだ。
「あゝ、ふたりとも着いてきてたん」
「……ずっと、お前達も傍に居てくれたんだな」
 足元で寄り添う二匹の親子狐の姿を見て、上がりに上がった殺意は桜が咲くようにふわりと和らいだに違いない。
 心配そうな気配も、前足の控えめな当て方からちらほらと覗かせているような。
「ん、さっきまでうちら少し様子違ってたもんな」
 心配させてごめん、と指先で軽くその頭を柔く撫ぜる。
 見上げる狐達にもう大丈夫だと、千鶴もまたその頭をふわりと優しい手で撫ぜた。
 菫のほうも、敵である魔術師相手に興味を微塵も抱かなかった。
 対峙するべきは、自分じゃないと想うのだ。
 縁の紡ぐべき指先は――あっち。
 でもそれは、十分すぎる気持ちの傾け方を良しとした。
「全力で友だちの背を押せるから、これでええんよ」
 憂いなく、絆いだ糸の先へ思いを告げ直す機会を此処に作り上げよう。
「……な、ちぃもそうよね?」
「俺は隣に、近くに、護りたい絆があることの方が大事だ」
 凡(すべ)てを掌握なんて出来ない。
 自分周囲、それ以上。世界は広く、絆の数だけ仲間がいる。
 だが千鶴は想うのだ、――その凡てにこそ、興味がないと。
「友達が納得いく結果を得ること、それだけで良いんだ」
 笑って帰れるように、本来の力を思い出したからこそ出来る。
「……俺はどんなことでもする」
 父は娘へ静かに頷いている――。

「あれ、幻影で見た人?……おねえちゃん、大丈夫?」
 しっかりして、おねえちゃん。
 ロラン・ヒュッテンブレナーは、ただ、励ます。
「……久しぶりだね」
 今やニーナ・アーベントロートは、19歳。
 小さなお姫様は、一人の素敵な娘になっていた。
「あたしとおかーさんのこと、もう忘れてるかな」
 ――……なんか、悔しい。
「遅くなって申し訳ありません、ニーナ殿!」
 ぱたぱた、と遅れて駆けつけた小さな頭身。
 遅れて揺れる竜の尾と、琥珀の瞳に強い色を浮かべたリュカ・ラス(ドラゴニアンの剣豪・f04228)。
「やっと、お手伝いに参りました」
「!リュカくん!来てくれたんだ!」
 常闇が道の中、前へ前へと足を伸ばし此処までたどり着いたのだ。
 友人の、長年の想い人ありと聞けば、リュカとて黙っては居られなかったのだ。
「他の皆様は初めましてですね、お見知りおきを。お話はニーナ殿からたくさん聞いています」
 集まった顔ぶれに、話で聞いていた面影を見て、瞳を僅かに緩める。
 歓談が可能なら、優しい言葉が溢れていただろうに。
「……今は此処までの挨拶にて失礼を。後でゆっくりとご挨拶させてください!」
 ――今は、あれを止めましょう。
「此処で停めるんです。此処で因果の終わりを結ぶのです」

『きみだ。きみがいちばん、うつくしいとおもう』
「あの時のあんたに抱いてた怒り、……この胸の中の中身の空っぽさ」
 中に代わりが今は収まっている、その原因を作り出した恋盗人は、聞く耳さえ持たない。黒い炎が瞳で轟々と燃え、ニーナをその瞳に映し言葉を返す事も期待できないのだ。
 なんという皮肉。なんという再開。
「ちょっと……今ぶつけても仕方がないじゃん。突然鞍替えしないでよ」
 震える拳に覚悟を込めて、ぐっと握り込む。
 盗みを働いた眼の見えていない男を、殴っていいのはニーナだけ。
 恋心を奪った罪を償うべき耳に、音を響かせて良いのはニーナだけ。
 ほんの少しだけ大人びた香水を仮につけていたって、ドルフあんたには報せない。
「力を貸してね、おかーさん」
「おねえちゃんには、ローザママがついてる」
 ロランが幻影の中で見た姿。
 ローザはきっと、娘の背中を推してくれるはず。
「パパも、あそこにいる」
 指差す指先は、ドルフが持っている宝石の一つへ。
 溢れる魔力が、感じられたロランは言うのだ。
「ヒュッテンブレナーの魔力は、あの、真紅の宝石からなの……」
「お父さんも、知らせてくれてありがと」
「……うん。パパと、ローザママの想いを持ったぼくも、此処に居るから」
 二人と、それから自分が。
 ロランが付け足したのを聞いて、ニーナは少しだけ気分が落ち着いた。
 強い力が、ロランの姿を真の姿へと変えていく。
 ステンドグラスの翼を生やすように生じさせ、煌めかせて背負う青年の人狼吸血鬼としてこの地に立つ。
「義母さんとの約束は、必ず守るから――ねえさん、行こう!」
「約束守ろうね……ロラン!『ろぉぉぉ!』」
 武器に月光属性を与え、音響振動による物理防壁を張り、満月の魔力による魅了と変化の力でニーナは自分を強化する。
 選ぶならば攻撃力の上昇を。
 今このときに必要なものは、訣別のハートブレイク。
「菫さん、千鶴くんにリュカくん!」

「猟兵としてもあいつは野放しに出来ないから、必ず勝って一緒に帰ろう」
 仲間の視線をしっかり見つめ返して、決意を込めてしっかり頷く。
「成程、それは絶対取り戻すべきものでしょう」
 リュカの勇ましい返答。
 そして、ニーナへ、千鶴は真っ直ぐ視線を送る。
 だから、ニーナの言の葉に菫は素直に頷ける。
「ん、一緒に帰ろな」
「……ええ一緒に帰るためにはやはり、断ち切るために強くもう一度結ぶべきです。ですが……私は詳しくは知りません、でも、あれがニーナ殿にとってとてもよくない者である事は分かります。そして、ニーナ殿は私にとっても大切な友達です」
 友達の力になるために、此処へ来たのです。
「だから、縁を今一度強く結び、それから"さようなら"を伝えましょう」
 ――あとなにより、あの男はすごく嫌な感じがしますから。
 ――これっきりにしましょう。
 リュカ角の生え際辺りがウズウズと落ち着かない。
 なにか嫌な気配がする。誰にとっても嫌な事が起こりそうな予感。

●廻れ
「――琴狐、こっち」
 菫の花を額に咲かす狐白を招いて、喚ぶ。
 とと、っと跳ねる脚はとても軽く、揃って並ぶ揺らして笑う。
「――桜狐、おいで」
 桜紋を額に咲かす親狐、狐宵を喚んだなら愛おしい気持ちは一緒に重なる。祈り、巡り、廻るが絆。
 ――何があっても、巡り巡って、俺達は繋がっているから。
「「絆をちからに」」
 親が仔を連れ、魅せるは絆。今宵、菫の覚醒を――絆ノ道を此処に示そう。子達と一緒に絆ぐ、親と魅せるものは一重二重に結ばれた絆の形。
「なあ、キミの魅了は絆に入り込める?」
 隣の大切なひとに。
 うちが、琴狐が守りたいって望むこころに。
 親と同時、駆ける狐たちに乗った親子は魔術師を翻弄する。その機敏な動きに。目の見えない男は、標的を絞れずに、声を零すばかり。
「宝石よりこんなにうつくしいものが溢れてる」
 身の丈を大きくした狐たちと一緒の自分たち。
 未来へ至る途を一緒に疾駆して、魔術師を翻弄する親子と親仔。
「きみが進む場所へ切り拓く」
「友だちが話在るいうんよ、ちゃんと聞いて貰おか」
 魂を宝石にされた幻影の名残から、あの宝石を狙いたいとは思わない。
 男が大事にする"うつくしいもの"。
 即ち――誰かの抜き出され、形状を変えられた"心臓"。
 本体だけでいい。術の起点、縁の切れ目こそ、本人に返るべきだ。
「最期の贄は、キミ。うつくしいとええね?」
 ――大切な友だちの、礎になれるくらい"心"があるとええんやけど。
「さあ、お前は礎に成るんだ。もう十分蒐めて遊んだだろう――彼女たちがつよくなるために、終わりを悟れ」

『怯え、恐怖。どれかに少しでも屈した人がいるのかな……?』
 指が空中をさすらう。
 標的の場所を感じるように、自身の鼓動に問いかける。
「ああ、わかった。――息を僅かに切らした、きみ、だね?」
 ドルフの指は、リュカを指差した。
 瞬間――光源らしいものなど無いのに、ドルフの足元に人形以上に影が広がって夜の帳より黒い翼が飛び出してくる。
 影を広げ大量に召喚された鴉が、ぎゃあぎゃあと声を上げてリュカ目掛けて殺到する。その翼は夜を引き連れて、リュカを炎より黒い闇の向こうへ連れ去ろうとするだろう。
「……我が呼び声に応えよ、地の竜"アストリア"!」
 大地を司る賢竜が翼を大きく広げて、リュカの声を受けて飛ぶ。
「ええ、私とアストリアの力で、可能な範囲防ぎましょう!」
 リュカの呼びかけに応えたアストリアが形成する高純度の水晶の鏡に、べち、べちと鴉が激突してその翼を折る。
 敵と見間違えた彼らが壁にぶつかるように落ちるさまはまるで盲目の鳥。恋盗人ドルフと、状況は同じだろう。標的を見失い、鏡に惑わされては、この鳥たちは烏合の衆。
「少しでも、皆様の盾に成れておりましたら……」
 幸いです。
「『ろぉぉぉ!』」
 姉の呼びかけに応える遠吠えが聞こえるだろう。
 姉の意気込みに、勇気にで返答したロランに呼応する桃の精からの加護である闘気の奮起。
 魔符桃香――香り袋から、漂う優しい香りが身を包むよう。
 ロランは自分の魔力を流し込むように混ぜることでその効力を広域化させて、浄化の性質を広げる。姉を、仲間を守るヒュッテンブレナー式"結界術"として、二重に展開を開始しよう。
「落ち着きを齎すこの闘気の狂気と呪詛への隙を見せないこの、オーラ――突破できる?」
 ――魅了からも、鴉からも仲間はぼくが最前線で守るんだ!
 電脳魔術と流れる吸血鬼としての要素が、最適解を導き出す。
 はじき出されるは、姉が挑むべき最短ルートの算出。
「ただ漏れ出た影から顕れし端数は私の剣にて失礼しましょう」
 剣に載せた斬撃派、避けるような風の動きで鴉を見切り、仲間の力を借り受けて、オーラ防御をその剣に張り巡らせて強く切り込む――。
 一羽、二羽と無力化している今のうち。
「この力は私が引き受けます!」
「攻撃は、ぼくも受ける!」
 増える標的をドルフ一人に集中する。
「……それが、魅了する言葉?ふうん……」
 その耳はドルフの言葉を聞いた。
 綺麗な勧誘だとも、魂を揺さぶるものだともロランは欠片も思わなかったが――魅了に狼狽える事などなくとも全てを引き受けると視えるのだ。
 殺到するいつか心臓を奪われた犠牲者達の姿が。
 幻影は実像となって、攻撃の手をのばす。
 灼けつく痛みのオーラとなって亡くしたモノ大きさを"魅了"を受けたロランにも与えるために!
「……ぐっ」
今はまだ、力に返る刻(とき)じゃない。


「恋の炎はとうに消えたけど、あたしが憎しみに囚われなかったのは、皆に貰った幸せな絆と記憶が、此処にあるから」
 胸の中ではない。人差し指で示すのは頭。
 ニーナは"憶えている"と言う。
『拒まれるほど欲しくなるね、怯えたんだろう。恐怖を感じたんだろう?』
 ドルフは全身を自身が構築した魔術で構築した宝石のように輝く防壁で覆い、魅了する言葉を選び紡ぐ。
『いいじゃないか、そのままでいるといい。でも、拒むような音を感じるね』
「今もあたしを生かしているのは、絆と記憶なの。世界を超えて!繋がった人たちが!」
 こうして背中を押して、支えてくれる!
「……絶対に、負けられないんだから!」
 一世一代の大勝負、大舞台は此処から。

 背に受け続ける遠吠えに、ニーナは頼もしさと自分もやれると鼓舞して駆ける。
 限界突破したドラゴンランスを握り、周囲の属性を拡大して纏う。
 ロランのオーラを借り受けて、槍は強化された姿を魔術師に見せつける。ニーナの握りしめたドラゴンランスは、その性能の限界を超えさせている。今心臓代わりに機能するネットワークサーバに多少負荷を与えたって良い。
「此処でやらなくちゃ、いつやるっていうのよ」
『無駄な抵抗、というのはよくないね。きちんと評価として返すべきかな』
 ネットワークサーバの音は、ドルフの胸に響き聞こえたのだろう。
 誰かが、燃えるような意志で自分を見ている。
 もしくは何かをいっているのだと、経験則から判断した。
『きみは将来きっと誰もを魅了する女性になるだろうに、ああ、……その美しさ、頂けないかな』
 魅了の言葉を述べ、心に負荷を掛けるような攻撃を。
 重たい言葉を選べば選ぶほど、人の心は興味と関心という重りに縛られていく。
 影から飛び出した鴉の群れはドルフの闇に隠れた攻撃手段。
 それを仲間たちが打ち消すから、ニーナは息をゆっくり吐ける。
「あたしからはうつくしいものはもう奪ったでしょ!」
「これ以上何を奪おうっていうのよ!」
 ――……ロランなら大丈夫だとおもうけどね。
「……あんまり、無茶しすぎないようにね」
「……大丈夫だよ、ねえさん!」
 その痛みは心臓を奪われた少女たちの嘆き。
 恋心を、心臓ごと奪われた少女たちの怒り。
 向けるべきは術者ドルフこそ向けられるものだった。
 ――代わりに受けるべきは、……!
 ユーベルコードを高速で詠唱し、手にロランや仲間が受けていた分の蓄積ダメージを上乗せる。
 チャージ時間に応じ効果を発揮する殲滅結界【Lancia fa schifo】(ヒュッテンブレナーシキカワキノヤリ)。
 身に受けし傷。
 流れる雫に、乾く槍。
 我が敵を追い――悉く、喰らい疾く退けよ。
「標的は――ヒュッテンブレナーの魔術の源、ねえさんの心臓……導いてくれてるよ!」
「(――あの宝石の赤は、ニーナ殿の色なのですね)」
 チャージした時間に応じた蓄積を、破邪の槍は貫き通す。
 対象の力を吸収し、更に更にと威力を向上させる槍に、ロランの全力魔術を上乗せして貫通力さえ上げる。
 胸に響く狼の遠吠えと、神速が如く貫く一撃は魔術師の男の体を貫く。
 居抜き、捕らえ、姉が最期の一撃を放ち声を伝える瞬間を生んだ。

●ねえ?
「あたしの初恋のひと。おぼえてる?」
 覚えてない。わかってる。
 聞こえてない。わかってる。
 見えてないんだ……わかってる。
「あたしの仇なんだよ。ずっと、あたしの心を独占していて、楽しかった?」
 笑ってる。あたしの顔なんてみえてないのに。
 うつくしいものを心が感じて、それだけで楽しいんだ。当然のように奪って、あんたの心が満たされた?知らないよ、そんなの。
「……心の底から憎いけど言わなくちゃ、あたしの気持ちが晴れないよ」
『美しいものには、美しいと言おう。ああ、此処に居る凡て、きっと美しいんだ』
「……でもね。同じくらい、愛していたんだよ」
 周囲に感じるものに、声をあげるドルフに対してニーナが行ったこと。
 それは弟によって激しく穿たれた身体から、体の中央――"男が美しいと言う部分"に、ドラゴンランスを突き立てる。
 物理的なアタックなら、男に届くだろう。終わりを突きつけて、言葉を贈りながら女の煌めきを奪った分を贖うと良い。
「永遠に、さよなら……」
 ぐぐぐっ、と男の身体に突き刺さる槍が――美しい場所を破壊する。
 こほ、と吐血する音の代わりに炎が溢れ身体中が黒い炎に沈んでいく。

「――義母さん、やったよ」
 ロランが自身の拳を握る。自分の力が、姉の力を助けて、今度こそ言いたいことを伝えられただろうから。
「左様なら、――本当の綺麗を知らない盗人はん」
 ――友だちの思い出になることだけは、許してあげる。
 菫もまた、消えていくだけとなった男の残りに、奪うだけの存在感を見て取った。

 黒い炎の中に、溶け込むように男が消えて居なく成る。
 ああ、終わったんだ。胸が空く気持ちと、スッとした晴れやかな空気がやっと吸えた気がした。
 取り戻した宝石が、ニーナの手元で輝いた。
 ニーナの気分を映すようにキラリと一際"美しく"輝くだろう。
 元ある場所に戻れたならば、永い年月奪われていた燦めき事、相応の美しさが娘へ帰り咲くのだから。
 ――終わったんだね。
 みんなに最高の笑顔を見せて、この言葉を言わなくちゃ。
「……ありがと、ただいま!」

「おかえりとお疲れ様は、うちらの特権やけどな」
 凡て終わった。
 肩の荷が、ひとつ降りた気がした千鶴。
「頑張っていたよ、とても」
 褒める言葉にどれほど桜を綻ばせよう。
 頑張ったって、たくさんの花びらを揺らして構わないだろうか。
「――ああ、おかえり」
 取り戻した物の大きさは計り知れない。だからようやくホントの意味で云えるよ、その言葉を。


●物語は続く
 男の魔術によって、宝石化したそれは。
 解析すれば収まるべき場所に還れるものかもしれないが――この場でわかる事は"初めての恋が終わった"ことだけだ。

 さあこれより先は堂々と、明媚(めいび)が如く、轟々と滾るがいい。
 これまで瞳に映したことのない景色を、仲間や家族、大切な人と映して廻れ。常闇の中で、輝かしい色を確かめた猟兵達が進む路に――第三層の、上層に関する手がかりが見つかりますように。
 誰かが願ったとしても、皆と一緒であれば――出来る、かもしれない。
 さあ、みんなでいっしょに、前へ、未来へ、踏み出そう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年02月19日
宿敵 『恋盗人のドルフ』 を撃破!


挿絵イラスト