私だって輝きたい ~カラオケでストレス解消~
●私だって!
最初に断っておく。
これは予知であり、辿り着いてはいけない未来だ。
都内から電車で2時間、土地だけはある地方都市にその支部はあった。
傍目には、どこぞの会社の倉庫に偽装されたそれは、一歩踏み込めば近代的な障壁が幾重にも張り巡らされた物々しい作りをしている。
そこに、梵字や魔方陣、お札、その他、その手の漫画に出て来そうなありとあらゆる封印アイテムが百花繚乱そこいら中に張り巡らされている。
この支部の専用職員である花沢・ぼたんは、彼女だけが立ち入りを赦される地下へとおりていく。
古今東西の封印が張り巡らされた鉄格子の向こうにて、黄金の王は今日も挑戦的な眼差しで玉座に腰掛けくつろいでいた。
『ぼたん、待ちかねたぞ』
「王様、ご機嫌は如何ですか?」
ぼたんと呼ばれた女は、鉄格子に額を押しつける。かちゃり、と眼鏡が当たり擦れた。
『お前は今まで世に仕えた中で、一番賢い従者だ。願いを口にせよ。世がなんなりと叶えてやるぞ』
ふるふる、と頭を横にふってぼたんは虚勢の作り笑いを浮かべた。
「王様、今日もお話をしましょう。また古代エジプトのお話を聞かせて……」
『ぼたん、欲望は悪ではないぞ?』
「……ッ」
『兄弟で相争い地位を奪い合う、当たり前ではないか。強い方が勝つ。ぼたん、お前は余りに不遇な人生を歩まされておる。まぁお陰で世の側仕えとなれたのは初めての幸運である!』
「わた、し……」
毎日毎日こうして囁きかけてきた。パイの皮を重ねるように、女の中にで押し殺されていた“羨望”を育ててきた。
いつもは振り払い話を逸らすこの女の様子が今日は違うことに王は気づいている。
『さぁ、ぼたん。世の手を取るのだ』
この王は傲慢で決して解き放ってはならぬ邪神の一柱だ。
だが、結界で痛めつけられるのも厭わずに差し出してくれた手は、今まで生きてきた中で初めて向けられる自分の為だけの施しに見えた。
特別な、私だけ、私にだけ向けられた――。
「……! わ、私だって……私だって
……!!」
鉄格子ごしに指を組み合わせた刹那、ぼたんと王を中心に全ての結界が破砕する。
ここに『イネブ・ヘジの狂える王』は封印を解かれて顕現した。
●花沢ぼたんという彼女
花沢・ぼたん(25)は集団の中では埋没しがちな存在だ。
子供の頃からそうだった。
中流よりは贅沢が出来る家の三姉妹の真ん中として産まれ、美人の姉とのスポーツマンの妹に挟まれた凡人。
姉のさくらは大学のミスコンに入賞し今は地方局の看板アナウンサーとして一部では有名だし、
妹のあんずは小学校の頃からやっているバスケットボールで強豪校のエースだ。先日大学への推薦入学が確定した。
そんな中で、ふらっと高卒で父の声がけで就職した事務職。まぁ不景気な今時だ、仕事がある方がいい……そう言い聞かせていたら、そこはUDC組織の末端組織のひとつであった。
真面目で目立たないところが好まれたか、半年前にUDC組織に抜擢され支部職員となった。
給料は随分あがった。
秘密厳守も兼ねて宛がわれた一軒家はやや古いが冷暖房完備。なにより職場へ徒歩圏内で非常にありがたい。
…………力のある邪神のお世話は怖い、けど、ひとりで話し相手になっていればいいだけだから、以前の仕事より気は楽だ。
この支部は職員が少ないのもさることながら、交流を深めるイベントも一切無いのでマイペースに生活できるのもあっている。
●グリモアベースにて
「はい、UDC支部、人選しっぱーい!」
九泉・伽(Pray to my God・f11786)は、黒手袋の両手をお手上げって風情であげた。口元の煙草は火を入れたばかりで煌々と輝いている。
「大人しい目立たない人が欲望ないわけないでしょ。むしろ鬱屈してる分マズいんだってば……あー……」
てことで、と煙草を翳した先に電子画面が展開される。ピンが立っているのはとある地方都市のUDC支部だ。
「ここに勤めてる『花沢ぼたん』さんって職員さんがね、お世話してる邪神の封印を解いちゃう予知が視えたのよ」
彼女は悪くない、そう伽はハッキリと断言する。
「むしろ常に邪神からあれこれ囁かれてんだよ? おかしくならないわけがないよねぇ……」
更に続けて開いた画面にはだだっ広い駐車場のあるカラオケボックスが表示される。
「UDC支部にはちゃんと口利きしてあるから、この貸し切りカラオケボックスでぼたんさんのストレス解消したげて」
対話役ぼたんの私生活は全て監視されている、秘密の漏洩を警戒してのことだ。
それによると、どうやら彼女、自宅で1人カラオケを楽しむことが多い様子。またヲタク系カルチャーを扱う動画視聴も好むようだ。
「邪神の王様に引きずり出される前に、彼女の願いを聞き出してあげられるといいかもね」
難しいことを考えず、パッとカラオケを愉しんで彼女と友達になってくれればOK。発散することで彼女が封印を解く危険性はなくなる筈だ。
とはいえ、と伽は肩をすくめる。
「なにしろ邪神だしさー、一筋縄ではいかないよ。結局は現地で戦うことになると思うよ、俺は」
電脳画面が次々に消えて、四角いグリモアだけが仄かな光を放つ。
「まぁその時は対処よろしくね」
一縷野望
オープニングをご覧いただきありがとうございます。一縷野です
今回はオーソドックスな依頼構成で難しいことはないです
1章目のカラオケだけ愉しみに来てもらうのも歓迎です
章構成は
『カラオケ(NPCの悩みを聞き出す)/集団戦/ボス戦』です
戦闘は負傷描写多めか、普通かを選べます
【募集期間・人数】
3日午前8時31分~5日午前8時30分 まで受け付けています
※オーバーロードの方は受付前から送っていただいてOKです!
まずはオーバーロードなしの方を8名上限で採用し、オーバーロードの方は全て採用の予定です
オーバーロード以外の方:その日に手元にあるプレイングを書きためていくので、早いくいただいた方が採用率はやや高めです。ただ先着で採用確定ではないのでその点はご了承ください
【1章目】
リプレイはカラオケボックスの中からはじまります
(ぼたんを連れ出すプレイングは不要です)
カラオケボックス全体が貸し切ってあるので、個室も大部屋も好きに使えます
フードドリンクもお好きにどうぞ。未成年の飲酒喫煙はダメです
あと版権モノもダメです。採用できないor著しいマスタリングで文字数が減少となります、ご注意ください
※この章で戦闘は発生しません。警戒・戦闘プレイングは不要です
>できること
1.単純にカラオケを愉しむ
ぼたんに絡まずイベシナ感覚でのご参加も歓迎です
2.ぼたんと会話中心
ややぼっち系の凡庸な眼鏡女子です
内気ですが人との交流を実は欲しているので、心をほどいてくだされば色々と話してくれるでしょう。交流の難易度は易しめです
その他、ぼたんについてはオープニングをご覧いただければと思います
1のみの章クリアでも「ぼたんが戦闘に巻き込まれる」ことはないのでご安心ください
2の方は、話のもっていき方によっては「より後味のいい結果」になる可能性があります
>同行
各章3名様まででお願いします
プレイングの冒頭に【チーム名】でくくってください
【2章目/3章目】
それぞれUDC支部を舞台にした戦闘の予定です
詳細はそれぞれの章開始時にお知らせします
それではみなさまのプレイングをお待ちしています
第1章 日常
『深夜のカラオケボックス』
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POW : カラオケに来たんだから歌うしかないだろう、朝まで何曲歌えるかな。
SPD : もう眠いよ、コーヒー飲むか。ついでにドリンクバーで適当に混ぜたオリジナルドリンクを作って楽しもう。
WIZ : 軽いカードゲームやボードゲームを持ってきたよ、誰かやらない?
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ティオレンシア・シーディア
…人選失敗もそうだけど。いくら人手不足だからって、邪神の相手なんて精神耐圧試験にワンオペで放り込まれたらそりゃ早晩こうなるわよねぇ…
●絞殺起動、とにかく○コミュ力全開で仲良くならないとねぇ。
はぁい、こんにちはぁ。初めまして、よろしくお願いするわぁ。
…?ああ、声に関しては地声だから気にしないでねぇ?大丈夫よぉ、よく言われるから。
このタイプだと一気に踏み込むとその分退いちゃう子って多いし、まずは聞き役に徹して距離を詰めましょ。少しお酒入れたほうが口も軽くなるかしらぁ?あたし本職バーテンだから好みの銘柄見繕うのもカクテル作るのも自前でできるし。
…重要なのは「否定しない」こと。本人の「凡人」を否定しても意地になって逆効果だし、周囲を否定するなんてのは論外。…こういう子が一番嫌いなのは「周囲を妬む自分」なんだから。
…折角だし、あたしも何か歌おうかしらぁ?何か良さそうなのはー、と。
(この女、見た目に似合わぬ脳トロ極甘ロリボイスではあるが。実は得手とするのはゴシックロックやシンフォニックメタルである)
●
「あら、あたしが一番のりだと思ってたんだけど」
バックヤードにてティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は同僚がせっせと準備しているのを目にする。
浅黒い肌の彼の手際は、Barを取り仕切るティオレンシアから見ても確かなもの、おおかた同業者だろう。
(「……人選失敗もそうだけど。いくら人手不足だからって、邪神の相手なんて精神耐圧試験にワンオペで放り込まれたらそりゃ早晩こうなるわよねぇ……」)
ドアごしに部屋を伺うと、女性がひとり背筋を伸ばしてカチコチで座っている。
プチプラコスメの薄化粧、服装も量販店で揃えたものを身につけた、女子力頑張らない系女子。
こういうタイプは一気に踏み込むとその分退いちゃう子が多い――なんて、ティオレンシアお姉さん大当たりです!
「この後のみんなとの交流が上手くいくように、アイスブレイキング役を頑張りましょっと」
こんこんっとノックした後、ティオレンシアはドアをあけて入室。
「……ど、どうも」
首を竦めてぺこりと頭を下げた後、それじゃあ失礼かと立ち上がりぎくしゃくお辞儀。ティオレンシアは軽く手を振って柔和な笑声を響かせる。
「はぁい、こんにちはぁ。あたしはティオレンシアって言います。初めまして、よろしくお願いするわぁ」
瞠目して、おっとびっくりの口元は、見慣れた表情だ。
大人びた雰囲気に、砂糖を手加減なしに入れたミルクティめいたロリボイスのギャップが彼女の持ち味だ。
「……! すみません、あ……」
「……? ああ、声に関しては地声だから気にしないでねぇ? 大丈夫よぉ、よく言われるから」
「地声、可愛い」
言ってから口を押さえるのには「ふふ、ありがとう」なんて返した所で、頼んでおいたセットがバックヤードの彼から届いた。
ワゴン上には、ミルク、アルコールなしから軽めのリキュール類、各種ジュースと氷、シェイカーとマドラーもある。ちょっとしたカクテルBarだ。
「ふふ、あたし本職バーテンだから。ぼたんさんのお好みにあわせて作るわよ」
少しお酒を入れた方が話しやすくなるだろう、もちろん無理強いはしない。
チーズや乾き物のつまみをテーブルに置きながら問いかければ、色とりどりのリキュールに惹きつけられるぼたんと目が合った。
「! す、すみません。すごく色とりどりで綺麗だなぁって。1度姉に連れて行ってもらったことはあるんですけど、雰囲気に飲まれちゃって……」
「綺麗な色を見てるとわくわくするわよね」
なんて言いつつ、あっという間にチェリー・ブロッサム。自分用だけどデモストレーションの意味が大きい。
「すごい……私、カクテル何も知らなくて」
「Barはもっと気楽に遊びに来てくれていいのよ。ねぇ、ぼたんさん、好きな色ある? 蒼がお好きかしら? そのブローチ綺麗よね」
蝶をあしらったブローチが身を乗り出す度に羽ばたき揺れる。地味な彼女の精一杯のこだわりがみてとれた。
「え、作ってくださるんですか?」
「バーテンダーの腕の見せ所ですもの、喜んで♪」
蝶をちょんとつついて、ぼたんは初めて相好を崩した。
「じゃあ、この蝶のイメージで。酔っ払わないようにアルコールは控えめでお願いします」
「蒼ね。その蝶々さん素敵ね」
「……よかった。これ、今ハマってる動画配信者さんのイメージアイテムで……」
うんうんと頷いて、ブラーキュラソーの瓶を取る。
「良かったら、そのキャラクターを見せてくださるかしら? 折角だから、そのキャラクターのイメージで作ってみようかなぁって」
ビックリと瞳を丸くするぼたんはスマホを弄る。しばらくして、落ち着いたテノールボイスが溢れでて、慌ててボリュームぼたんをぎゅうっと押し込み。
「……そういうイメージカクテルを作ってくれるお店ならハードル低いのかなって思ってたんですけど、都内にいた頃は結局行きそびれてて……嬉しい、です」
はい、と見せられた3Dキャラクターは、蝶の模様が刺繍されたスーツを着込む蒼髪長髪のイケメンであった。
「へぇ、優しそうな目ね。良かったらもう一度声も聞かせて」
「! は、はい。えっと……」
『キミに似合うドレスを仕立てたい、今度、どう?』
「彼、超人気デザイナーさんって設定で、実際の動画もお洒落のこととかも詳しくて……でも、ゲームも好きで。リスナーも私みたいなタイプでも大丈夫そうで……」
嬉しそうに語る様をティオレンシアはにこにこと頷いて聞いた。
(「まずは仲良くなることが第一よね」)
悩み事にまで切り込むのは続くみんなにお任せして、気持ちを緩めて壁を取り払うことに集中だ。
「はい、完成よ。どうぞ」
紅い瞳にあわせたグレナデンシロップを注ぎ、蒼を消さないアブソリュートウォッカを合わせ上に。黒いコースターを敷いてすっと置く。
「! すごーーい、レンカくんだぁ! 写真撮って良いですか?」
「どうぞ。喜んでもらえて嬉しいわ。アルコールは少なくしてあるから、酔っ払っちゃう心配もないわよ」
嬉しそうに撮影をする様はすっかりリラックスしている。アイスブレイキングは大成功と言えよう。
この後、折角だしとティオレンシアが歌ったのは、脳トロ極甘ロリボイスとギャップありありのゴシックロックやシンフォニックメタルである。
……これがまた上手いんだ。
大成功
🔵🔵🔵
管木・ナユタ
個室で話す
お供はオレンジジュースとポップコーン
まずは自己紹介だな!
アタシ様は管木ナユタだ、よろしくな!
こんな外見だが、ぼたんより年上だぜ!
で、確認したいんだが
ぼたんは、姉や妹みたいに輝きたいのか?
輝いて、周囲に自分を見て欲しい?
分かるぜ
よーく分かる
ぼたんとアタシ様の人生は少し似てる
アタシ様はな
能力を誇示することでしか見てもらえなかった
けど、ぼたんはアタシ様とは違う
真面目にコツコツ働いて
邪神の話し相手なんていうとんでもないことをやり続けてる
工業用ダイヤモンドみたいなもんだ
なくてはならない、この世界の重要パーツだぜ
その上で、自分が輝ける方法を見つけるのも一つの道だ
なあ、ぼたんはこの先どうなりたい?
●
カートにBarセットをのせて下がるティオレンシアと選手交代、次に部屋に顔を出したのは管木・ナユタ(ミンチイーター・f36242)だ。
「あ……こんにちは」
中学生の見目に慌ててカクテルのグラスを遠ざける、その仕草にナユタはにぃと歯を見せた。
「こんな外見だが、ぼたんより年上だぜ! アタシ様は管木ナユタだ、よろしくな!」
でも持ち込んだのはオレンジジュースとポップコーン。身体年齢は14歳だからそこは遵守しておく。
……リラックスも手伝って、他愛もない話はすぐに膨らんだ。
ただ、そのとりとめのない中にも姉や妹への劣等感が見え隠れ――例えば「キャラクターBarなら楽しめそうだけど、お姉ちゃんには言い出せなくて」とか。
ナチュラルに自分を下に見るのが、自分が裡に隠すコンプレックスと呼応してちくちくする。
「……ぼたんは、姉や妹みたいに輝きたいのか? 輝いて、周囲に自分を見て欲しい?」
尊大なアタシ様口調、なのに後半はちょこっと弱々しい。打ち消すようにわざと音を立ててジュースを啜りあげた。
「どう、かな……そう、なのかな」
「ぼたんとアタシ様の人生は少し似てる」
もじもじと視線を逸らす様に、ナユタは隠しこんでいたコンプレックスに指を引っかけて晒す。
「アタシ様も見て欲しいってずっと思ってたんだ。だから力を誇示してばかりだった」
胸に手のひらを宛がい大きく頷いた。
ナユタは精鋭だ、“鋏角衆としては”
鋏角衆は土蜘蛛の出来損ない、最初から劣っていると周囲と自分が貼ったラベルを忌々しく思いながらも剥がさずにいた。
認めたくないのに認めてる。
諦めたくないのに遠慮してる。
「……な、似てるだろ? けど、ぼたんはアタシ様とはやっぱり違う。ぼたんはすごいんだ」
急に誉められて眼鏡の向こうの瞳がぱちくりと瞬いた。
「真面目にコツコツ働いて、邪神の話し相手なんていうとんでもないことをやり続けてる」
「そんな……お話を聞いているだけですよ?」
――常に甘言を囁かれ続けることへの過剰なストレスを、やはり自覚していない。
「思いやりがないだけど優しい言葉を聞き続けるのって、実はものすごく心を試されてるんだぜ。ぼたんが耐えてきてくれたから、この土地が護られてる」
かしゃんと奥歯で砕けたポップコーンの軽妙さは一瞬の幸せ。
ぼたんのすごさは、継続。
「工業用ダイヤモンドみたいなもんだ。なくてはならない、この世界の重要パーツだぜ」
「工業用ダイヤモンド……輝いても、いいもの、なんでしょうか?」
ああ、とナユタは請け負ってみせる。
「なあ、ぼたんはこの先どうなりたい?」
「…………まだ、わからない、です。あんちゃん(妹)もお姉ちゃんも、やりたいことを立派に見つけてるのに……」
「そうか。だったらぼたんはこれから何でも選べるんだな。既にかけがえのない行動が出来てるのに、その上で探せるなんて、本当にすごくぜ」
「! そ、そんな……えへへ、そうかな……」
ナユタは答えを出すことを決して急かさない。
それは毎日相手をしている邪神とは明らかに違い“ぼたんを第一に考えてくれている”
大成功
🔵🔵🔵
揺歌語・なびき
【コノなび】2
はじめまして、おれも職員なんだよ
実働班だから知らないよねぇ
ふわふわ笑ってさり気なく彼女の警戒解く【誘惑
距離は詰めすぎず
呼び方はなんでもいいよぉ
おれ達はぼたんちゃんって呼んでもいい?
ヒトカラってストレス発散できていいよね
おれも結構すきかなぁ(一曲披露
ふふ、ちょっと恥ずかしいね(割と上手
コノハさん歌わないの?
え…もしかしてうまくないの…?(純粋な問い
店長にもうまくないものがあるんだ…あっこわい
一人の趣味ってさ
他人を気にしなくていいし気楽だよね
比べられるのは疲れちゃうもん
ぼたんちゃん
んーん、ちょっと呼んでみた
綺麗な名前だなぁって思ってさ
おれ、きみとデュエットしたいなぁ
きみの歌がききたい
コノハ・ライゼ
【コノなび】2
あ~なびちゃんったらまたナンパして
にまにま笑いつつ紳士的にご挨拶
実はカラオケってした事なくって。今時変かしら?
でも歌を聞くのは嫌いじゃないのよ
あーあなびちゃんったら上手、腹立つーぅ
アタシ?絶っっ対歌わない……は?
ナニよ強くて美しいアタシにだって苦手なもの位あるのが世の理ってヤツじゃない!
ねぇ、ぼたんちゃん!
そうねぇ趣味だもの好きにするのが一番
でもソレで誰かの心を動かせたり、思いを語り合うのも悪くないと思うわ
アタシの料理で上機嫌になって愉しそうに語るお客の顔、見るの好きなのよね
ね、他に好きな事は?してみたい夢とかさ
そーゆーのって言葉に出した方が叶うのよ
例えば今の彼の望みみたいに、ネ
●
丁度話の区切りだしと、とナユタから他の人の所へと送り出された。
「ここに来てる人たちはみんな猟兵さんだから大丈夫って聞いたけどー……」
うろうろふらふら、見知らぬ部屋に飛び込むのはさすがに勇気がいるとためらっていたら、タイミング良く目の前のドアが開いた。
「あ、こんにちは。花沢ぼたんさんだよねぇ?」
人なつっこそうに瞳を細めて笑う揺歌語・なびき(春怨・f02050)に、ぼたんはぺこりと頭を下げる。
「良かったら一緒に歌おうよ」
深緑の憂いある眼差しのイケメンに誘われてドキドキ。
「ひゃ、ひゃい! 喜んで」
赤面しつつ思い切って飛び込んだ中には、物珍しげにリクエスト用タブレットを眺める眉目秀麗を絵に描いたような人がいる。
「あ~なびちゃんったらまたナンパして」
にんまりと笑ったらコノハ・ライゼ(空々・f03130)の雰囲気は一気に親しみやすいものになる。
まずは、はじめましてのご挨拶。
「呼び方はなんでもいいよぉ。おれ達はぼたんちゃんって呼んでもいい?」
「はい。えっとー……なびきさん、と、コノハさん、よろしくお願いします」
すっと自然に染まる頬が名前の花の儘、それがコノハの第一印象だ。こんな事を言ったら驚かせるだろうか?
「ぼたんちゃんって名前にぴったりよネ。ほっぺたのそのお色、可愛らしい♪」
でも言っちゃう。
「わ、わー……」
頬に手をあてあたふたするぼたんは、嬉しくて照れている。
「コノハさんの方が口説いてるし」
くつくつと笑うなびきは、ふわわんとした仕草で手を合わせる。
「おれも職員なんだよ、実働班だから知らないよねぇ」
急激に距離は詰めず、でも綿菓子のように柔らかな雰囲気で共通の話題を振って近づいていく。。
「はい。実働の方は色々大変だって噂には……」
「ううんううん、力仕事だし。ぼたんちゃんの方がすっごいストレスたまるよね」
大丈夫? と覗き込まれてぱちくりと瞳を瞬かせる。
先ほどナユタにも言われたが、あれはとても大変な仕事なのだろうか?
「アレを半年も相手してきたのってすごいと思うわ」
「というか、ワンオペはあり得ないよね」
「ね、ちゃんと改善要求あげてよ? なびちゃん」
あと歌も、と端末を回す。
「じゃあ一番ノリー」
慣れた手つきで入れた曲は街中でよく聞くイントロ、片手でリズムを刻みながら喉を震わせる。
「あーあなびちゃんったら上手、腹立つーぅ」
「コノハさんは歌わないんですか? カラオケした事ないって言ってましたけど」
「そうそう、歌ってよー。ワンマンショーは恥ずかしいって」
なびきが2人へとマイクを向けるのに、コノハはつんっと顔を逸らす。
「アタシ? 絶っっ対歌わない」
どキッパリ。
「え……もしかしてうまくないの……? 店長にもうまくないものがあるんだ……」
純粋な問いかけほど胸に刺さってしまう物である。
「……は?」
「あっこわい」
「ナニよ強くて美しいアタシにだって苦手なもの位あるのが世の理ってヤツじゃない! ねぇ、ぼたんちゃん!」
ハラハラと2人を見比べるぼたんへ、コノハとなびきの順でころころと屈託なく笑い出す。こんなのは日常のじゃれ合い、仲が良いからこそのやりとりだ。
「あはは! そうだ、店長って、コノハさんはお店されてるんですか?」
「そう、好きだから。趣味で好きにするのも確かに一番。でもソレで誰かの心を動かせたり、思いを語り合うのも悪くないのよ」
お客さんが上機嫌で愉しそうに語るのが一番のご褒美、なんて。
嬉しげに語るコノハが眩しい、でもそれは羨望というネガティブよりは、お店に行ってみたいというポジティブな憧れだ。
「そうやって人が関わるのもいいけど、1人の趣味もまたいいよね」
くるくると宙に指先で円を描く。惹きつけられるぼたんの眼はどこか猫のようだ。共に暮らす2匹と同居人のじゃれ合いが浮かんだ。
「他人を気にしなくていいし気楽だよね、比べられるのは疲れちゃうもん」
あの1人と2匹は思い思いに仲良く過ごしている。ぼたんの姉妹は多分違うんじゃないかな、となびきは気に掛かっている。
「はい。ぼたんちゃん、次は歌ってよ」
差し出されたマイクはスポットライトのようだ。
でも、ぼたんは受け取れずにいる。
歌うのはアニメやゲームや特撮のマイナー所ばかり。UDC組織に来る前は一般人に擬態する為に幾つか普通の曲も憶えたけれどー……。
(「それを歌うのって違う気がする、な」)
みんな、本気で向き合ってくれるから、そんな上辺の仮面なんて見せたくない。
「ぼたんちゃん、好きなのを歌っていいのよ。自由にしていいの」
――そっか。ひとりじゃなくても、誰かといても、我慢しなくていい関係もあるんだ。勿論ワガママはダメだけど。
コノハとなびきに勇気づけられて、ぼたんはマイクを受け取った。
「私、すっごくヲタクですよ。もう、その、引いちゃうぐらいかも……」
「あら、それがぼたんちゃんの“大好き”なんでしょ? だったら笑ったりダメって言う方がおかしいわ」
「そうそう――おれ、きみの歌がききたい」
おれの切実なるお願いは、きみにしか叶えられないんだよ。
「ありがとうございます、じゃーあ、これいれちゃお」
そう、はにかみ微笑むと名前の儘に薄紅の花ように可憐だ。だから思わず、なびきは何度も「ぼたんちゃん」と呼んでしまう。
呼ばれる度に照れる様子がますます愛らしくって、コノハは破顔一笑。
「ね、他に好きな事は? してみたい夢とかさ」
問いかけに瞠目するぼたんの背後からイントロが流れ出す。
「そーゆーのって言葉に出した方が叶うのよ――例えば今の彼の望みみたいに、ネ。でも今は歌って」
「はい……~♪」
アップテンポの歌い出し、食いつくように左手を振って熱く歌うのは女児向けアニメの主題歌だ。
元気いっぱい、シャウト目一杯!
のびのびと歌う様子から完全に心を許してくれたのだとわかる。
「……あ、これなら知ってるかも。次はきみとデュエットしたいなぁ」
「はい。それで、私のやりたい事、なんですけどー……歌った動画を投稿するのに憧れてるんです」
――この望みを口にするのは初めてだ。自分がそんなことをしても再生数が伸びずに終わるだろうなあと現実を直視するふりでやらずに諦めてた。
でも、口にしたら叶うと言ってくれたから、歌を聴きたいと言ってくれたから
「いいんじゃないかしら! ネ、なびちゃん」
「離れててもぼたんちゃんの歌が聴けるなんて、すっごく楽しみ。いつでも待ってるよ」
とんっと、またひとつ、背中を押してもらえた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
大町・詩乃
POW
連携歓迎です
カラオケは普通に歌えますから、ぼたんさんと遊んできますね。
(普段から年配の氏子さん達と演歌を熱唱したり、アルバイト巫女の若い子達と流行りの歌で盛り上がったりと、幅広く対応可。)
大阪のおばちゃん並の物怖じしない姿勢とコミュ力で、カラオケボックスで出会ったぼたんさんと気さくに会話。
「仕事や生活でストレスたまった時に思いっきり歌うのは良いですよね~。」
「他にも趣味があれば、もっと発散できますし。私はこれかな。」
とスマホで撮った神社周辺の地域猫ちゃん達の写真も見せて猫談義。
中には、友達の某グリモア猟兵のコスプレ写真(サンタガールとか女番長とか)もあるので、そちらでも興味を引けるかも。
備傘・剱
色々とため込んでる女性の話を…ねぇ…
聞くにも話すにも、円滑剤が必要って思うんだよ
って事で、貸し切ってるのなら、調理施設とか、使って問題あるまい
普通の食材でもできるだろう、調理開始発動!
人間、美味い酒と美味い飯を食べれば、自然と口も軽くなるもんだ
あ、酒がダメなら、ノンアルカクテルでも作るとしようか
なに、飲み屋飯なら、お手の物ってな
周りを見れば、すごい人ばかり、自分を押し殺さなきゃ生きていけない事もあるわな
ま、なんだ、全部吐き出せるとは思わんが、カラオケで大声出してすっきりして、飲んで食べて発散するのも、一つの手だと思うぞ
愚痴の一つも言わないと人生、やってられないしよ
アドリブ、絡み、好きにしてくれ
●
「こんにちは! ご一緒させてもらっていいですか?」
ゆるく結んだマフラーを解き、息を弾ませた大町・詩乃(阿斯訶備媛・f17458)が顔を出した。
「こんにちは。はじめまして、花沢ぼたんと言います」
沢山の猟兵が遊びにくると聞いていたので、ぼたんも一緒に過ごしていた2人と同じく歓迎の意を示し席を詰めた。
「はじめまして。私は大町詩乃です。カラオケって色々な年代の人と楽しめていいですよね」
年配の氏子さん達と演歌を熱唱したり、アルバイト巫女の若い子と流行歌で盛り上がったりと、この神様カラオケは普段から満喫している。
「私、結構ジャンル偏っているんですけど、いいですか?」
タッチペンで曲を見ている詩乃へ、ぼたんは控えめだが自己主張。今まで一緒に過ごしたみんなに勇気をもらったからここでは隠さず振る舞うことにした。
一般会社に勤めていた頃は、誰でも知っている流行歌も覚えてはいたが、好きなのは1人カラオケで熱唱するアニメやゲームの曲だ。
「はい、勿論ですよ。今日は新しい曲が聴けそうで、今から楽しみです」
「……えへへ。よかったです」
普段なら、こんなことを言い出せない。
でも、ここにくる人達はみんな優しいし相手を尊重してくれる。だから抑えていたことを言っても空気を壊すって怖がらなくてもいい。
さて、とワゴンを前に手を打ったのは、バックヤードの調理場で腕を振るっていた備傘・剱(絶路・f01759)だ。
コスパ重視カラオケボックスにありがちなレンジ調理のフード類もいいが、折角なら美味い物を食って楽しんで欲しい。だから一番乗りで訪れて、下ごしらえからはじめていた。なんの毎日開店前にしていることだし、これが彼の“楽しみ”でもある。
ポテトフライはジャガイモから切ったホクホク、おやつ感覚の生クリームフルーツサンドもちっちゃめサイズ。
その他、定番から流行り物まで飲み屋飯を少しずつ盛り付けたプレートは見目も鮮やかだ。
「最初から沢山ご飯だと女の子は気後れしちゃうものねぇ。さすがだわぁ」
黒髪閉じ目の猟兵が手をヒラヒラ。片付けは任せてとエプロンをつけて厨房に入ってくる。
「いいのか? 奥の調理器具はまだ使うから、他適当に洗っといてくれると助かるぜ」
ちょっとぐらいぼたんには声をかけてやりたかったから、助っ人は助かる。
酒は爽やか系の物を選んでのせて、ワゴンを押していざ出陣。
「~♪」
ぼたんさん、男性曲のキーの上げも淀みなく、非常に1人カラオケに慣れている様子。画面では特撮のオープニング映像がどかーん! と爆発で終わった。
「すごく元気が出る歌ですね!」
ぱちぱちぱち手を叩く詩乃に、きゅっと汗を拭って振り返るぼたんは生き生きしている。
「はい! これ、私の子供の頃の番組だからすっごく古いんですけどね。女の子が見るなって言われて、大人になってから観たんです」
「そうなんですね」
きっと悪い親ではないのだろう。ただ固定観念に囚われがちで、目立つ長女と三女の趣味に合わせさせた。
誰にも認めてもらえないと恨みに育ってしまう“寂しい”の欠片、抱える人達を詩乃は沢山みてきた。
「今、ぼたんさんが好きなものに触れられて良かったです」
「…………はい! そういう面ではひとり暮らしって気楽ですよね。大人になれて良かった」
ぼたんが座ったところでドアが開き、剱のワゴンが登場である。
「そろそろ腹も減った頃だろ? 好きなようにつまんでくれ」
次々とテーブルに置かれるプレートに、皆の瞳が輝いた。
「すごい! いつものカラオケご飯と全然違うー。写真撮っていいですか?」
「はは、いいぜ。でも熱いうちにつまんでくれよ」
騒然となる室内だが、今日は貸し切り。ドアを開け放してどれだけ盛り上がってもなんら構わない。
「俺にも腕を振るわせてくれよ。ノンアルコールのカクテルもできるぜ?」
シェイカーを手にする剱へ、フルーツサンドをつまんでもぐもぐのぼたんは振り返る。
「ええっと、それでしたらご飯が美味しくなるさっぱりしたのをお任せで」
「OKOK」
他の猟兵の好みも聞いて次々に用意していく。勿論、未成年はお酒NGで!
マドラーで琥珀色のノンアルカクテルをかき混ぜながら、剱は口火を切る。
「周りを見れば、すごい人ばかり、自分を押し殺さなきゃ生きていけない事もあるわな」
「……みんな、そんな感じなんでしょうか?」
「だからって我慢する事もねぇよ。愚痴の一つも言わないと人生、やってられないしよ」
「特に子供の頃に“好き”をわかってもらえないのって、寂しかったですよね」
使い終わったお皿を重ねつつ、詩乃も共感を示す。
「でも、ぼたんさんは、大人になった今、昔の寂しいを楽しみ直してるんですね。だから私も格好いい曲をお裾分けしてもらえました」
「へぇ、カラオケいいよな。ちゃんと気晴らしでスッキリ出来てんだ」
でも、この場で猟兵達が彼女に寄り添って漸くここまで解放されたのだから、普段はため込みがちな性格ではあるのだろう。
詩乃はスマホをちょんちょんと叩き、神社の石階段でごろーんってしている猫の写真を呼び出した。
「気晴らしが出来る趣味は沢山できるといいですね……私はこれかな」
「! か、可愛い……!」
今時珍しいたき火の周りに集まる猫団子。
地域猫のお世話担当のボランティアさんからお皿にのったカリカリをもらう猫ーず。
「この子がボスなんですよ。でも優しくてご飯をみんなが食べられるように譲ってくれたり」
神社の軒下に並ぶ猫トイレと猫ハウス(湯たんぽIN)
お外暮らしながら大切に過ごしている猫たちに、ぼたんはほっこりと笑った。
「あーと……ぼたんさん、こういうのお好きでしょうか?」
と、友人のグリモア猟兵のコスプレ写真も見せる。時節柄のサンタコス、女番長なんてのもある。
「わ、コスプレですね。メイクと服でこんなに変わるのすごいー」
ポテトをつまみ頭を寄せ合ってはしゃぐ様を前に、剱は安心する。これは再び裏方にまわるのが良さそうだ。
空いた皿やグラスを回収し、代わりに剱ジャエールをベースにしたノンアルカクテルを置いた。
「飲んで食べての発散なら任せてくれよ、今日は目一杯腕を振るわせてもらうぜ!」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
涼風・穹
人選失敗とは九泉は手厳しいねぇ…
表に出すかどうかは別にすれば欲望の無い人間なんてまずいないし邪神からすれば誰であろうと時間の問題でしかなかっただろう
寧ろ暫くは耐えられたのなら人選としてはそこまで間違いではなかった気はするな
……一応個人の見解として、一人カラオケと大勢でカラオケにいくのとはまったくの別物だと思うんだけど…
一人で歌えばストレス解消になっても見知らぬ誰かと一緒だと気疲れするという方もいるような気が…
まあ余計な事は考えるのはよそう
ついでに他の方の希望も聞いて食べ物と飲み物を注文して、と
取り合えず歌うか
選曲は昭和の男性シンガーが歌っている登場キャラの名前が歌詞に入っているような特撮やアニメの主題歌
最近の番組とは関係ないような歌はちょっとな
まあ曲単体でなら悪くないのかもしれないけど、番組内容どころかイメージとすら合っていないいかにもタイアップ前提みたいなのは主題歌としてはどうかと思う
やっぱり主題歌なら登場キャラクターや作品イメージを前面に押し出した熱く燃えるようなものが好みだな
●
「しかしなんだ、人選失敗とは九泉は手厳しいねぇ……」
バックヤードが覗けるカウンターに両腕を置いて、涼風・穹(人間の探索者・f02404)はうへぁと肩をすくめた。
ワンオペが問題過ぎたとキャンディボイスが返ってくるのに頷いて、身を起こす。
「寧ろ暫くは耐えられたのなら、人選としてはそこまで間違いではなかった気はするな」
表に出すかはともかく、誰しも欲望を持っている。邪神につけ込まれる要素がない人間なんていない。
一人でずっと相手をしているのなら、予知された“最悪の事態”に陥るのは時間の問題だ。
しかしなぁと、穹は貸し切り状態のカラオケボックス内をふらりふらりと歩く。
あくまで個人の見解だが、1人カラオケと大勢にカラオケにいくのはまったくの別物だと穹は思う。
見知らぬ誰かとの接触が気疲れになっていないかとの心配は、数分後には杞憂だったと胸を撫で下ろすことになるのだ。
「お疲れさん」
スタッフと見まごう仲間がワゴンを押して去って行った、あいたドアからは楽しげに笑い合う声が漏れてくる。
(「やれやれ、これは俺の方が入るのに緊張するんじゃないか」)
頭を掻いてどうもと入れば、機嫌良くマイクを振るぼたんに出迎えられた。
「はじめまして。こんにちは」
「涼風穹だ。飲み食いの注文の追加、なんかあるか?」
インターフォンを手にとって無難にアイスコーヒーをオーダーしつつ、粗方食い尽くされた食事に目を移す。
皆、良い具合にお腹が膨れているのか特に希望はでてこないので。
「あとは適当に頼む」
そう締めくくった。うまく持ってきてくれるに違いない。
すると、穹も好む、ぶっちゃけると1曲目で入れようとしていた特撮番組のオープニングが流れ出すではないか!
「すみません! すっごくオタクです……~OHOHOH!♪」
他の猟兵はというと、鳴り物や手拍子でぼたんを派手に盛り上げている。場はもうこれ以上ないぐらい暖まっているではないか。
ぼたんの歌はというと、所々音程が外れるが、本当にこの作品が好きという気持ちに溢れている。
恐らくヒトカラでは定番の曲なのだろう。この見知らぬ者達が集まる場で歌えている時点で、気晴らしはかなり成功と言えよう。
ならば、と穹も選曲のリミッターを完全に外すことにする。
時代はぼたんの産まれる前、サビではヒーローの名前が連呼される、オールド・ゴッドと慕われる男性歌手の曲をセレクト。
ぽちっと。
「……! これ、すっごく昔の」
「ああ、俺はこの頃の曲が好きなんだ……ヤァヤァ! トォトォオオオッッ!!!」
かけ声から入る。
お子様合唱団の悲鳴にも「諦めるな! 君を救いに行くぜ!」と勇ましく。もう遠慮なんか遙か彼方にぶん投げて、穹は3分23秒を見事に歌いきった。
ジャカジャン! とドラムでシンプルに終わるのもこの時代の良さだ。ふぅと息を吐いて席についたなら、ぼたんが感動に瞳を煌めかせている。
「やっぱりゴッド様ソングは男の人の方が格好良いですね。新しいのしか知らないんですけど……」
と、ぼたんがあげた曲すら25年前の物だ。
「古いの知ってるな」
なんて感心をする穹も御年19歳なのだが、それは言わないお約束。
「あの頃までは、ストーリーとオープニングがあってるのが多かったんだが、いつだったかな、番組内容どころかイメージとすら合っていないいかにもタイアップ前提みたいなのが増えてきてなぁ……」
曲調はお洒落で格好良いし、少し古めのアイドルグループに歌わせて主にお母様のハートをゲットするやり方も商業的に理解はできる、できるのだが……!
「やっぱり、主題歌は正義とか愛を全面に押し出して歌って欲しいですよね。愛は恋愛じゃなくてー……」
愛! と拳を握るぼたんは、もはや隠しもしないレベルでただのオタクだ。だが言っていることは完全に同意できるので、穹も大きく頷いた。
「やっぱり主題歌なら登場キャラクターや作品イメージを前面に押し出したものが熱く燃えるな」
こくこく、こくこく、頷きオモチャのトラみたいに何度も首を縦に振る。
「はい、そう思います! 古い曲は余り知らないので、良かったらいっぱい歌ってください!!」
ああ、これただのオタクのカラオケオフ会だ。
だが、こういう語り合いの息抜きは確かにヒトカラでは味わえない。仲間がいるからこその醍醐味。
場を存分に暖めてぼたんの心を開いてくれた仲間へ感謝しつつ、穹は穹にしか出来ない特撮オタクトークで思い切り盛り上がるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
飛砂・煉月
【彼岸桜】
ねね、千鶴ってカラオケの十八番とかってある?
おー、初めて
イイね、オレも青春分けて貰っちゃお♪
オレ、くっそ声デカイから大部屋でいーかな?
飲み物から頼んどこっか
千鶴ー、飲みたいもん教えて~
アイスココアok、シェアは大歓迎!
あとはポテトに合うものテキトーに頼んどくね
さーて、さくっと全員の注文済ませて
店員が来る前にマイク調整終わらせちゃお
あー、あー
よしよし、おっけい
あ、千鶴
次は耳塞いでて?
すぅっと息を吸い込んで全力の遠吠え
ハウリング確認は完璧!
よーし何歌う?
何となく覚えてる曲とか鼻歌で教えてくれたら探すぞ~
それ…多分コレじゃない?
おあ、千鶴、歌うめー!
心に余韻が残って、すげー好き
あっは、慣れたら楽しいだけになるよ
ん、オレの番な!
程好い音量で旋律とリズムを感じ
歌詞を唇から乗せて掴んで、抱くメロディ
盛り上がるロック
しっとりなバラード
部屋中に巡らせる音との一体感堪んね~
褒められたらもう上機嫌!
デュエット?
イイね、其れもカラオケの醍醐味じゃん!
紡ぐ音は綺麗にハモって
目配せすればへらりと笑うんだ
宵鍔・千鶴
【彼岸桜】
十八番?
俺実はカラオケ初めてだからさ
すげぇわくわくしてる
青春の1頁みたい
レンは普段から声よく通るし
思いっきり歌おう
大部屋賛成
飲み物はアイスココアにしよっかな
レン、ポテト大盛りでシェアしない?
あとはおすすめで
手馴れた様子のレンとカラオケ機械を興味深そうに眺め
えっ、耳を
塞いでもきみの遠吠えは力強く
びりびりきた
ココアを飲みながら
んー、歌か……
浮かぶのはよく聴いていた弾き語りのバラード
どこか背中を押して勇気付けてくれる曲
サビを何となく口遊めば
あ、解ってくれた?凄いなレン
メロディに合わせて、マイクを握り、息を吐いて唇開く
低音と高音を重ね、旋律を奏で
届けるように歌い上げよう
人前で歌ったの新鮮だったよ、
ちょっと照れくさいけどたのしーな、カラオケ
はい、次はレンの番!
しっとりから、流行りもの、アップテンポな曲も難なく歌いこなしてて
ひゅう、カッコイイ、レン
心にがんがん響いてくる
レン、次はデュエットやってみない?
きみの音域と俺の音域が重なればきっともっと気持ち良いだろ
ハモればレンと目配せして笑うんだ
●
隣の部屋が盛り上がっているのに、飛砂・煉月(f00719)は紅の双眸をきゅうと弓に曲げる。
「オレ、くっそ声デカイから大部屋独占しちゃったけど、あっちじゃ花沢さんも楽しめてるみたいだし、良かった良かった♪」
「そうだな、気晴らしが出来ているようで何よりだ。レンは普段から声よく通るし、折角だからこっちも思いっきり歌おう」
宵鍔・千鶴(赫雨徨花・f00683)の微笑みは控えめだが煉月と何処か似ている。
「飲み物から頼んどこっか、千鶴ー、飲みたいもん教えて~」
煉月はインターフォンを取ると、千鶴へと振り返る。
「……あぁ、そうだなー」
手にしたマラカスを傾け鳴る音に耳を遊ばせてそっと戻す。そうしてメニューを流し見。
「飲み物はアイスココアにしよっかな。レン、ポテト大盛りでシェアしない?」
「アイスココアok、シェアは大歓迎! あとは?」
「あとはおすすめで」
「りょーかいりょーかい」
サクサクと準備を進める煉月。手際の良さに感心して蒼を瞬かせる千鶴。様子は対照的だがどちらもワクワクで胸が一杯だ。
「ねね、千鶴ってカラオケの十八番とかってある?」
すぐにやってきた飲食物を受けとって並べる。メニューブックより遙かに美味しそうなポテトフライとカナッペやフライドチキン、給仕が猟兵仲間だと知ったのは後の話。
「豪華だなぁ。カラオケってこんなにすごいんだ」
「いや、ここはすげーレベルたっかいよ。全部手作りだもん」
「へぇ、そうなんだな。俺実はカラオケ初めてだからさ」
「おー、初めて」
だから十八番もこれから見つけるつもりと輝く瞳でリクエスト端末を突いてみたり。
新譜のボタンを触れたら、最近何処かで聞いた曲が流れ出す。改めてこういう新しいのも歌えるんだなぁと千鶴は妙に感心する。
「青春の1頁みたい」
「イイね、オレも青春分けて貰っちゃお♪」
スモークサーモンが綺麗に飾られたカナッペをひとつまみ、美味しいとふにゃり。そんな顔を見たら千鶴も食べずにいられない。
「食べて、歌って」
「そそ。その歌っての為にー……あーあー、よしよし、おっけい」
機械の側にしゃがみマイクテストマイクテスト。エコーの掛かった煉月の声が部屋に心地よく反響した。
いよいよか、と身を乗り出す千鶴に向けて、煉月は耳のあたりをちょんと触れる。
「あ、千鶴、次は耳塞いでて?」
「? えっ、耳を」
「おおぉーーーーーーん!」
わかったと塞いだ直後、煉月は超弩級の遠吠えをぶちかます。耳塞ぐ指がびりびりと震え片目を閉じる千鶴の口元はゆるく綻んでもいて。
「うん、ハウリング確認は完璧!」
「塞いでもきみの遠吠えは力強いな、びりびりきた」
顔を見合わせたらどちらから共なく吹きだしてしまう。準備万端、それではれっつカラオケ★
先に歌うのは煉月かなと思っていたが、それはお互い様のよう。
「よーし何歌う?」
なんて、端末を差し出してくるではないか。
「んー、歌か……」
ミルクの味がしっかりとするアイスココアを飲みながら、千鶴は記憶を探る。先ほどの新譜はちょっと聴いたという程度だから到底歌えないし……。
「そうだなー、よく聴いていた弾き語りのバラードはあるんだけど、曲名も歌手もわからなくてな」
「うんうん、何となく覚えてる曲とか鼻歌で教えてくれたら探すぞ~」
「そんなこともできるのか?」
喫驚し端末と煉月を見比べる千鶴へ、煉月は得意げに片目を閉じる。
「概ねはオレの記憶が仕事する予定、で、どんな曲?」
「確かー……サビは、ふふ~ん、ふん~♪」
濁りのないハミングは期待大。実際の歌を楽しみにしつつ、煉月は聞き覚えのあるメロディラインを反芻する。
「歌詞さ、もしかして……」
煉月の呟くキーワードに千鶴はぱっと容を輝かせる。
「あ、解ってくれた? 凄いなレン。どこか背中を押して勇気付けてくれる曲で好きなんだ。入ってるかな」
「ちょっと待ってなー、入ってる気がするぞー、最近のカラオケはなんでもあるから……」
歌詞検索から引っ張り出した曲画面。
「……多分コレじゃない?」
「! それだ」
千鶴がますます嬉しげになったのにミッション達成を確認しました! というわけで流れるようにリクエスト完了。
落ち着いたギターの前奏が流れだし、千鶴はマイクを握って立ち上がった。
真剣な眼差し。メロディの邪魔にならぬよう、鳴り物は控えて静聴の構えの煉月の前で、ふわりと吐息のような千鶴の第一声が奏でられた。
しっとりと揺れる歌声は高低を上手く絡めた聞きよい旋律、これでカラオケ初めてとは! 煉月は背もたれに身を預け、優しいバラードを心地よく味わう。
閉ざされた半生、小さな窓枠の世界から、今は広がり数々の彩りを咲かせてくれる友人たち。もちろん煉月も大切でかけがえのない一人だ。
(「いつか、この曲が彼の背中も押せるように――なんて、大げさすぎるか」)
でも願いは込める。友人の幸いを、後悔なき人生という旅路をどうか歩んで欲しい。
伸びやかな千鶴のラストフレーズ。後奏は先に途絶えるギターを追いかけるようにピアノが高く啼いて終わった。
「おあ、千鶴、歌うめー! 心に余韻が残って、すげー好き」
ぱちぱちぱちぱち。
手を叩く煉月は、今を全力で目一杯に生きる性分だ。だから惜しみない拍手と飾らない賞賛を。心がほんわりとあったかいのも、きっと興奮だけじゃないんだ。
「人前で歌ったの新鮮だったよ、ちょっと照れくさいけどたのしーな、カラオケ」
「あっは、慣れたら楽しいだけになるよ」
「はい、次はレンの番!」
「ん、オレの番な!」
はじめてのカラオケがもっともっと“楽しい”になりますように! こっちも目一杯に歌おう!
最初はキーボードのメロディアスな旋律から、今回もバラード合わせかと思いきや、突如暴れ出すドラム。進取果敢に端を持ち上げた唇を大きくあいての第一声。
「あ、この曲知ってる」
偶然にもさっき新譜で見聞きした曲だ。
アグレッシブで情緒的、煉月の唇に乗せられた歌詞がメロディの翼を得て部屋中に巡る。
全曲を知らなくて、いつか聴けたらと思っていたのがこんなにもはやく叶った。しかも煉月の歌声という特別で。
千鶴もいつしか両手で拳をつくり上下にゆらす、すっかり彼の曲の虜だ。
「ひゅう、カッコイイ、レン。心にがんがん響いてくる。絶対原曲よりいいやつだ」
「あ、ホントに? ふふ、嬉しいな~、原曲知ってたんだ?」
「サビだけな。だから聴けてすごく嬉しい。本当にカラオケってすごいな、癖になりそうだ」
「癖になっちゃおうぜ! これからも一杯歌いに来よう。オレならいつだって」
嬉しげに八重歯を見せてぷっくりとあがったポテトフライを囓る。チーズにラー油を忍ばせたディップがピッタリだ。
「千鶴、千鶴、また探すから、次の曲を口遊さんで」
「レン、次はデュエットやってみない?」
――きみの音域と俺の音域が重なればきっともっと気持ち良いだろ。
「デュエット? イイね、其れもカラオケの醍醐味じゃん!」
――並んで歩く、一緒に歌う、それぞれまったく違った二人だから心をつかみ合う歌になる筈。
「ん~、んん~ん♪ だったかな」
「あ、そうそう。で、んーーふふふふーん♪ だったらこの曲!」
曲探しのハミングからしてもうこんなに心が躍ってしまう。
流れ出す前奏に自然と混ざり合う二人の歌声。打ち合わせたわけでもないのに、サビの前に綺麗に別れ互いに懐くようにハモり合う。
「……ふふーん」
「うん、うん……」
零れる笑みに紅と蒼の瞳が結び合う。
どちにも、誇らしげで照れてもいて、それぞれの笑みがますます深まっていく。
相手の歌に聴き惚れて、よりよく響けと喉を震わせる。互いにそうだから、うたわれるのは透度の高い旋律。
バラードもアップテンポも刻みの難しい歌詞も難なくこなす煉月と、悠然とした曲調を中心に伸びやかに情感こめて歌う千鶴。
緩急、歌い方や好みだけじゃないそれぞれの生き方すら違う二人。
なのに、
だから、
この瞬間の“遊び”はそれぞれの心のページに大切に綴じられるのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ハイドラ・モリアーティ
2.
ハロー、お疲れサン
花沢ぼたんちゃんでしょ
俺?ああ、UDCメカニック。同僚だよ
ねえ、カラオケ何歌うの?
アー、俺ねえ、オオサカのニッポンバシに住んでた時あってさ
あの辺ってナード……オタクが多いっしょ。音楽とかもアニメとか、ゲームとかのが多くってさ。自然と覚えて聞いてたんだけど
あ!これ知ってるぜ。いいよね、歌うと気持ちいーの
カラオケ好き?
俺も歌うの好きなんだよ。昔さ、酒の席で唄ってお小遣い稼いでたくらいにゃァね
声が低いもンだから、男性ボーカルモノしか無理だけど
ね、ぼたんちゃん
最近、悩んでることとかある?
――うンにゃ。同僚として気になっただけよ
端的に言うと俺は「オタクに優しいギャル」役。
何か人気なんでしょ?知らねェけども。今何か不良がブームだし
基本的にこの子には共感して、一緒に楽しむことにする
トレンドのアニメソングは嫌いじゃないし
俺も『お姉様がた』が出来良すぎだし
家族の中じゃ仲間外れの毒親育ち
――酸いも甘いも金にする強欲な『ド汚い』女。
欲は悪だぜ。俺は知ってる
『悪い事』だから気持ちいいんだ
●
――みんな、とっても親切にしてくれる。こんな濃密な人付き合いの経験は初めてかも。
いつもいつも、姉や妹のオマケ扱い。言付けを預かってばかりで自分に向けられたものはなかった。
(「でも……そうやって、自分なんてって踏み出さなかったのは私だよね」)
人いきれに酔っ払ったように高揚した頬で、花沢ぼたんは部屋を出た。
楽しげに歌っている2人の男性の部屋は過ぎて、お花を摘みに。戻ろうとした所でガチャリと、手前のドアがあく。
「ハロー、お疲れサン。花沢ぼたんちゃんでしょ」
呼び寄せるように手のひらにぎにぎ、ハイドラ・モリアーティ(冥海より・f19307)がウインクで綴じた片目、ひらいたら月の色。まだ夜にははやいけど、だからかとても惹かれた。
「「よかったら一緒に……」」
重なる声に吹きだした。
こんな風にはじめましての人の元に飛び込めるのは、間違いなく今日のこの場があったからだ。
「……ハイドラさんも、UDCの方なんですね」
「ああ、UDCメカニック。同僚だよ」
親しみ深い美貌の彼女は『俺』と自称し、ころころと笑って色々なことを話してくれる。ぼたんもまたほわりと破顔。
「ねえ、カラオケ何歌うの? アー、俺ねえ、オオサカのニッポンバシに住んでた時あってさ……」
「ニッポンバシ? 日本橋でなくですか?」
「そそ。お上品な東京の日本橋でなく弾むの、ニッポンバシ」
とんとん、と、ハイドラはつまみ出した1本で机を叩く。藍色で包まれた煙草を挟み持ち口元に宛がう。吸い付けている人だけが醸し出せる煤けた退廃が屈託なさと上手い具合に混ざりあい、気安さをますます高める。
「あの辺ってナード……オタクが多いっしょ。音楽とかもアニメとか、ゲームとかのが多くってさ。自然と覚えて聞いてたんだけど」
火はつけないままでリクエスト端末を差し出す指先にぼたんはごくりと喉を鳴らした。
「……アニメ、イけますか?」
「うん、イけますね」
戯けて口まね、ぷはっとぼたんは吹きだした。指は端末を滑り、去年後期に流行ったボイスAIとコラボしたアニメの主題歌を呼び出している。
「あ! これ知ってるぜ。いいよね、歌うと気持ちいーの」
「そう、そうなんです! 私は手前の部分が好きで……」
ていっ、と入力するハイドラ。
「入れちゃった。歌ってよ、ぼたんちゃん」
「わわ、わぁ、はい!」
流れ出す前奏に押されて慌てて立ち上がると、すっかり開いた喉で浪々と歌い出す。女性らしいキーで歌いあげたのに続き、ハイドラはエンディングを入れた。
「声が低いもンだから、普段は男性ボーカルモノ、こういう風に――」
さすが酒の席でお小遣いを稼いでいたと言うだけあって、部屋を包む声は聞き応えがある。
「いいなぁ、すごいや、ハイドラさん。歌の勉強されたんですか?」
パチパチと惜しみない拍手と賞賛と、でも羨ましがる褒め方は自然と己に枷をかけている。
「ね、ぼたんちゃん。最近、悩んでることとかある?」
「そんな、今日はとっても愉しいですよ。だから悩みなんて……もしかして、暗い顔してましたか?」
「――うンにゃ。同僚として気になっただけよ」
また咥える煙草へ、ぼたんは火をする仕草をしてみせる。
「ここ、喫煙OKですし、私も大丈夫です。うん、私、だけは、大丈夫なんだー……」
蕩けた瞳で頬杖ついて、藍色に触れぬギリギリに指を伸ばす。
「妹のあんちゃんもお姉ちゃんも嫌いって、だからお父さんは禁煙しちゃったけど……吸ってる時のお膝は私だけのものだったんです」
「ふうん、お姉さんと妹さんがいるんだ? なんだかちょっとわかるな、俺も『お姉様がた』が出来良すぎだし」
お言葉に甘えて藍色に命を灯す。
くゆる煙が一筋虚空に糸を引くのをぼたんは愛おしげに追いかける。
「吸う?」
「吸ったことないんですよ」
「……試す前に諦めるより、やっちゃいなよ。ま、このご時世、煙草を勧めるのはホントよろしくないけど」
1本抜いてぼたんに手渡す。でも火は見せない。欲しいなら言ってご覧?
「悪い人だ。でも、選ばせてくれるんですね。そっか……」
火はいらない、でも、取り出したハンカチに藍色の1本を丁寧に包み込むと、宝物のようにポケットに収めた。
「私、選びたかったんです。きっと、ずっと……それと」
頬を伝う涙はたち上る煙草の香りに噎せたから。そんな言い訳を用意して、ハイドラは唇に煙草を引っかける。
「お父さん、あんちゃんとお姉ちゃんばっかり。私に仕事を宛がったのもすっごく適当だった」
「……憎い?」
ぼたんは驚く程真っ直ぐに頷いた。程度は怖ろしく違うが、ぼたんもまた毒親育ちには違いない。だからこれは作ったギャルじゃなくて素の共感。
無邪気に賞賛してくるのも、それがホントは苦しげなのも、パパがきっと大好きなんだろうなあっていうのも――愛し痛ましい。
「いいんだよ。憎いって、嫌いって思ったってさ。裏側に“好き”があるから辛いかもだけど――」
――母親の望む儘に100年踊った。
「でも、自分の気持ちを見ないフリだけは、ダーメ」
役目を果たして逃げ出した――何処までいったって、自分は“仲間外れ”だったんだ。
好きも嫌いもある。
裏があるから表は存在する。
世界を闊歩するハイドラは、感情の彩をも金にする強欲さを肯定するし、煙草だって美味い。
「ハハッ!」
ここで初めてハイドラは“彼女”の素の笑い方をしてみせた。
露悪的で、悪の気持ちよさに浸り、だけれどもぼたんを助けてやりたいとも率直に考えている。この子を邪神に取られるのはごめん被る。
「……あはは」
ぼたんは、明るさだけの笑い方じゃなくなった。
「うん、あんちゃんが嫌い。末っ子でワガママで、スポーツがすごいからお父さんを夢中にさせてる。お姉ちゃんはもっともっと大嫌い。なんでも一番。私、知ってるんだから。いつも私にマウント取って満足してるって。本当に嫌な人」
「でも好きなんだ?」
「うん。あとね、お父さんもお母さんからもそんなに愛されてないミソッカスだって、もうわかってるの」
でも、とハンカチを広げて再び姿を現わした煙草をつまみ上げる。
「世界の裏側をちょっと知ってて、アニメと特撮が大好きオタク――それは、私だけ」
今日知り合った猟兵の名を数え上げて想い出を語る。みんな、ぼたんを見てくれた、考えてくれた。
「あんちゃんとお姉ちゃんが持ってるものと今日を引き替えにするって言われても、絶対やーだ」
自分の気持ちを引っ張り出してくれたハイドラへ向き合って、今一度、破顔一笑。赤が綻ぶ、ぼたんが咲いた。
「次に実家に帰った時は我慢はしません。自分だけの愉しいを目一杯見つけて、自慢してやるんです」
火をつけない煙草をくわえてニィッと歯を見せるぼたんは、もはや邪神の誘いなんて欠片も憶えちゃいないだろう。
「それがいいやね」
それで、いい。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『廃墟渡り』
|
POW : 廃墟渡りは廃墟を作る
【廃物と残骸と遺物と過去の津波の様な奔流】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD : 廃墟渡りは廃墟に居る
戦場全体に、【居るだけで心身を苛み侵食する喪失の呪い】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
WIZ : 廃墟渡りは廃墟を孕む
【内に体積しているこの世全ての過去と喪失】から、対象の【戻りたい、還りたい、回帰したい】という願いを叶える【死毒の瘴気】を創造する。[死毒の瘴気]をうまく使わないと願いは叶わない。
イラスト:鹿人
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
●
「みなさん、今日はほんっっとにありがとうございました! 明後日までの三連休、最高のスタートでした!」
日が沈んだ所でタイムアップ。
駐車場でうぅんっとのびをするぼたんは、改めて猟兵全員へ向けて深々と頭をさげる。
「リアルで遊んで誰かとお喋りするのって、やっぱり大切なんですね! ……って、今日はいっぱい聞いてもらう側でしたけど」
己の気持ちに向き合って、姉と妹への確執を自覚した。両親、特に父への愛情の渇望も認めた。
家族を好きで愛されたいという欲望の裏にある嫌悪と憎しみ。これもまた彼女の欲望に相違ない。
よからぬ欲望を受け入れ誰かに吐き出して苦笑がちに昇華するのは、人間誰しも大なり小なりやっていること。
そういう意味では、よくある範疇に収まる女性でしかない。
「あ、タクシーが来ましたね」
名残惜しみながらもぼたんは組織のまわしたタクシーに吸い込まれて帰路につく。
さて、花沢ぼたんのリフレッシュが終わったとは言え、ワンオペ邪神管理は余りに過酷。三連休の内にUDC組織に話を通して――いや、それよりは。
それよりは?
誰もが思いつつも口にしない「いっそ邪神を力尽くで倒してしまえば……」という本音は、組織からの連絡で形になる。
――猟兵の皆さん、助けてください! 建物が急に朽ち果てて……。
ザァザァと雑音に潰される交信が、ふつりと途絶えた。
嫌な予感に囚われながら、猟兵達は「王様」の封印されたぼたんの勤務先へと急ぐ。
***************
【マスターより】
「王様」はぼたんの気持ちが離れたことを悟り、力尽くで封印をとこうとしています
2章目では、配下の討伐をお願いします
なお、断章で連絡が途絶えた職員の他数名が迷宮に囚われています。彼らは皆さんが2章目をクリアしたら無傷で帰ってきます
またぼたんは帰宅しているので、2章目と3章目の戦闘には巻き込まれません。
※それぞれの救出プレイングは不要です
敵は、廃墟迷宮の中で、PCさんの使用UCに対応したUCを使用しつつ、腰に下げた剣や手のひらの魔力で攻撃してきます
>リプレイについて
基本が【血塗れになる負傷描写ありの戦闘】です
負傷描写の度合いは【肉体欠損はなし】ぐらいですが、希望がある方はプレイングにその旨記載してください
WIZのUC選択いただいた方は【戻りたい、還りたい、回帰したい】世界とそれにまつわる心情リプレイも可能です。希望される方は冒頭に人文字「心」とお書きください
(心の文字がない場合はプレイングを見て判断しますが、大体が血塗れ戦闘になると思います)
>募集期間
2/13(日)朝8時31分~2/15(火)朝8時30分まで
※オーバーロードの方はこの断章が投稿された時点から受け付けてます
>採用人数
1章目にご参加いただいた方はオバロあるなし問わず採用します
ただし人数次第では再送となってしまうことご了承ください
2章目からご参加の方も歓迎です
オーバーロードの方は全採用
それ以外の方は一度の再送で書けそうな人数での採用とさせていただきます
(毎日夕方5時を目安に「継続参加ではないかつオーバーロード以外の採用可能人数」をタグでお知らせします)
>同行
2名様までで、冒頭に【チーム名】をお願いします。
以上です、みなさまのプレイングをお待ちしています!
備傘・剱
男の嫉妬程、情けないもんはないぜ?
…王ってぐらいだから、男だよな?
何でもいいが
さぁ、殺(や)ろうか
全兵装、完全起動、青龍撃、発動!
どっちが先に動かなくなるか、試してやろうじゃないか!
衝撃波、誘導弾、呪殺弾、水弾、斬撃波、ブレス攻撃、頭の上の一足りないのダイス攻撃を四方八方に打ち込みつつ、高速移動をしながら、爪で引き裂いて倒していこう
防御は結界術とオーラ防御を展開しておくが…
防御よりも、まずは、一匹でも減らす事が優先だ
女の子のコンプレックスに付け込んで、たぶらかす奴の部下だ
さぞ、粘着質な野郎たちだろうな
ストーカー邪神の下についたのが運の尽きって事で諦めてくれ
NGなし
アドリブ、絡み、好きにしてくれ
●
だだっ広い駐車場の奥に建つ倉庫は今や見る影もない。
青カビと赤カビが混ざり合った紫色に覆われて、生き物の様に脈動しているソレから辛うじて逃げおおせたのは一人。
UDCに通ずる警察の力を借りて、作業ツナギ姿の職員がこの場を封鎖。
スピーカーの割れた誘導指示を背中に、備傘・剱(絶路・f01759)をはじめ猟兵達は建物の中へと飛び込んでいく。
王と言うからには男なのだろう。そんな奴が嫉妬だなんだとほざくのは、器が小さくて情けないことこの上ない。
踏み込み、ねばねばとした床に剱はやっぱりなと鼻を鳴らした。
「女の子のコンプレックスに付け込んで、たぶらかす奴の部下だ、さぞ、粘着質な野郎たちだろうなとは思ったが……」
まさに予想通りだ。
側に居てと言わんばかりの出口のない迷宮。歩く度に脈打つ床は剱の膝まで絡みつき、心に仕舞った“喪失”へと手を伸ばしてくる。
内側へは来させない。
オーラで心を包むイメージを浮かべ、そのままOrthrusを握った腕を天蓋に掲げた。
「さぁ、殺(や)ろうか――全兵装、完全起動、青龍撃、発動!」
刹那、虚空が干からびる。
水気は口元と指に宿り、冴え冴えと輝く蒼の牙と爪付与する。野獣めいたバネで、男は迷宮の脈動を追い越し広げた腕で壁を削り駆け抜ける。
「おおおおおおお!」
叫ぶ主の烈火にも炙られず、頭上の妖怪は今日もぽいぽいと四方八方へダイスを投げつける。足りないから、欲しがる。その欲望が、剱へ奴らの“在処”を知らせるのだ。
剱の腕は奔るごとに赤く染まる。壁からの樫の剣で何度も何度も穿たれ肌の色の見えぬまでに斬り裂かれても構うものか。
「そこか!」
じりと床を焦がし踏みとどまる。
胸の前でクロスに収める両の爪には、潜み蠢いていた廃墟渡りが1体ずつ引っかかっている。
顎を掻かれた奴らはぐしゃりと互いの後頭部を凶器にしてぶつかり合い、首を千切りあった。
荒く息をつく剱は、すかさず錐もみに飛ぶ死体の足首を掴み壁へと叩きつけた。
ぽこり、と、後方に逃げるように脈打つ壁。突き出された剣をオーラ頼みで弾き、鉤爪の手のひらで敵の腕を掴んだ。きぃーと耳障りな高音をたてドブ緑のローブの奥で肉体が弾けた、これで3体目。
またまたダイスの音が変わった。
そちらへ振り向き誘うように腕を広げる剱。狙い通りに3本の剣が槍のように繰り出された。
――避けない! とにかく数を減らすのが肝要だ。
短く飛んで急所は外す。
腹を貫かれながらも、左右の腕は豪快に精密に攻撃者達の腕から頭部を薙ぐ。紫の液体をまき散らした奴らは、既に息絶えている。
大成功
🔵🔵🔵
管木・ナユタ
負傷控えめ希望
迷宮か
多分だが、天井はあるよな
津波みたいな奔流になって攻撃してくるらしいが
通路に詰まったら、敵にとっても話にならないしな
天井付近に隙間を作って流れてくるはずだ
そこでアタシ様は、その隙間に身を潜める!
背中から蜘蛛脚を生やして、天井に張り付いて奔流をやり過ごすぜ
奔流がある程度収まったら降りて、チェーンソー剣で敵の体を剥ぎ取る
人の姿に戻ってるなら、剣や魔力の攻撃に注意する
負傷したら激痛耐性だ
上手く剥いだら、早食いだ
【零號魔獣】。変身するぜ
奔流ごと敵を丸呑みできるような、巨大な口と胃袋を持ってる魔獣になる
敵を大食いし、捕食するぜ
廃物も残骸も遺物も過去も
全部全部、アタシ様が糧にしてやるぜ!
●
時同じくして迷宮に踏み込んだ管木・ナユタ(ミンチイーター・f36242)は、脈打つ踏み心地に片眉をあげた。
「ふぅん、迷宮かぁ……」
頬にあたる横髪が僅かに揺れた地点で迷いなく跳ねる。
ぺたり、と、天井を触る指は遺物の隙間に難なく入る。懸垂の要領で躰を持ち上げると、背中では細く繊細な脚が八本、蜉蝣の羽根めいた煌めきを生む。
蜘蛛の脚、土蜘蛛になれずとも持っているそれを躊躇なく利用して天井に張り付いた。
(「おいおい、アタシ様が侵入したってのに、随分と反応が遅いんじゃないか?」)
身を平たくかがめて毒づいた直後、通路全体が揺さぶられる。眼下にて、轟音を伴い来た濁流が次々と崩れる壁を巻き込みどんどん肥大化し周囲を浚っていった。
無秩序に無軌道に、この迷宮自体が廃墟渡りの群れで出来ているのだとしたら、仲間も挽きつぶすのもお構いなしだ。
確かにあんなものに巻き込まれたなら、到底無傷では済まないだろう。
ところで奴らはこの迷宮の主である、侵入者を前に無様は赦されない――そんな、辛うじて残った“理”の部分を見事ナユタにつかれてしまった。
詰まりを起こさぬようあけた隙間にて無傷で張り付いている。
奔流がたわみ天井側を床にしだした所で素早く着地、高速起動でギャリギャリと空気を削るチェーンソー剣を叩きつけた。
ぐちんぐちんっと、苦しげに弾み切れ端が床に落ち、ナユタの頬に跳ね返る。だがあくまで彼女は冷静に遺物の集団の絡みを見据えている。
(「きた」)
不意ににチェーンソー剣の手応えが軽くなる、と、同時に突き出された樫の剣。全て見切っていたナユタは後方へと飛び退り躱した。
「ああ、制服がダメになっちまったか」
裂かれたチェックの布地に舌打ち、まるでパンでも掴むよう握った欠片を口へと放り込む。
くちゃくちゃと咀嚼される度、ナユタの核が廃墟渡りを憶えていく。
“――奴がもっとも嫌がることはなんだ?”
答えは思考ではなく膨張する体躯が示す。
通路の大きさにまで開く口に即座に消化できる胃袋と、必殺にカスタマイズされた魔獣は咆吼をあげると突進。ばらけた廃墟渡りを皮切りに奔流を丸呑みしていく。
奔流は苦しみうねる。口中を灼き引っ掻きあらゆる遺物にて必死に抵抗するも、魔獣はお構いなしだ。
…………。
しん、と、やがて何も聞こえなくなった空間に、ミルクティ色の三つ編みが翻った。
「……ッ、ふぅ。ごちそうさん」
魔獣が解け満腹と腹をさするナユタが現れた。
廃物も残骸も異物も過去も全て腹の中。敵の抵抗が虫歯が疼くように疎ましかった以外は上出来との自己評価でプライドも満たす。
大成功
🔵🔵🔵
大町・詩乃
ぼたんさんは自力で立ち直れましたから、偽カウンセラーはお役御免ですね。
UC:神威発出を使用。
更に自分の周囲に結界術・浄化で瘴気対策を施して突入。
相手の奇襲は第六感と幸運で悟り、UC効果&見切りで躱したり、天耀鏡の盾受けやオーラ防御で防ぐ。
傷を負っても激痛耐性で耐えて前進。
【死毒の瘴気】に対しては、「神としての立場から人々を見守るだけでなく、猟兵としてやりたい事をやりたいように動けている。
私は今が一番楽しいです。
だから過去に戻りたいという気持ちはありません。」
と誘惑を一蹴。
「それではお仕置きです」と、UC効果&光の属性攻撃・神罰を籠めた煌月を振るってのなぎ払い・鎧無視攻撃で相手を倒して進みます。
●
大町・詩乃(阿斯訶備媛・f17458)が踏み込んだ先では、腐り紫の洞穴を背に襤褸を纏った人影が幾人も佇んでいた。
無機質な笑みの端からは一様に濁ったモヤが漏れて、彼らの姿を“過去”の構成物、人、他へとまやかす。
「……」
物憂げに瞼を伏すのは刹那、それこそ瞬きの間もない。
……もたらされた過去の再現度は精密、その点については感心はするも唯それだけだ。
「神としての立場から人々を見守るだけでなく、猟兵としてやりたい事をやりたいように動けている。私は今が一番楽しいです」
例えば神社での日々。
奉職は勿論のこと、地域猫のお世話をする人とお話したり、お参りにくる人の真剣に願う眼差しに心が引き締まったり、神主さんや巫女さん幅拾い年代の人と遊んだり。
例えば猟兵としての日々。
オブリビオンにより奪われる筈の命を必死に取り返したり、事件が見せる人の心の善し悪しに触れたり……。
「だから過去に戻りたいという気持ちはありません」
毅然とした宣言と共に現在(いま)がくれる綺羅が形を成す。綺羅は毒色の瘴気を照らし清浄なる空気へと勢いよく書き換える。
慌てた廃墟渡りが瘴気を重ねるが、無駄なこと。
「それではお仕置きです」
神として崇められた過去への回帰は一蹴した。だがそれを「詩乃の神性に瑕疵あり」と指摘するのは愚の骨頂だ。
「――ぼたんさんを拐かす偽カウンセラーはお役御免です」
邪なる神よ、其方の神性は如何ほどか。
今相対しているのは配下であるが、其方と同様として天秤に乗せるが良い――此は、慈悲である。
天秤はあっさりと詩乃側へ傾ききった。
同時に人影の動きが静止に近いスローモーションに陥る。波状的に襲いかかるつもりなのだろう、だが一切の攻撃を成せず煌月の露となるしかない。
「……とッ」
掲げた切っ先へ吸い込まれるように廃墟渡りが突き刺さってきた。詩乃の勘と読みが早回しすぎて、このような奇妙な剣戟となる。
くるり手首を返して巡らせた煌月が、銀色の軌跡にて廃棄物の権化を四方八方へと散らす。
「グ、ググググ……」
頼みの瘴気は一切効かず、肉体を毀損しようにも唖然とするしかない神性の落差のせいで叶わない。斯くして廃墟渡りの命脈は完全に尽き果てた。
「……ふぅ、漸く慣れてきたところなのですが」
ほぼ無傷の詩乃が煌月の構えを解いた周辺は、廃墟渡りは愚か遺棄物ごとかき消え、一部がUDCの冷たいコンクリートへと戻っていた。
全ての廃墟渡りを倒せば、邪神『王様』への路が開く、詩乃は力強くそう確信し、仲間の勝利を祈るのである。
大成功
🔵🔵🔵
飛砂・煉月
【彼岸桜】
何、欲しい物が手に入らなくて八つ当たり?
そりゃ心も離れるよな
器が小せーの、何のって
…ま、楽しかったのに水差されて、不機嫌なオレもオレか
嫌な臭い、気に入らない
理性のない残骸
――まるで、オレの末路みてぇじゃん
ハクを握りダッシュで駆けて
槍投げの瞬間には首の刻印も発動してる筈
無差別攻撃は第六感と合わせ見切り
被弾時の怯みは一瞬
オレは痛みに鈍いから彼岸の防御オーラは千鶴へ
傷を負い赫滴ればもう狼の狩りだ
白竜は赫狼に成り共に駆ける
雄叫び上げて
失くした赫は吸血で毟り取り
噫…美味しくねーの
王は何時も傲慢
だから嫌い
理由は其れで十分だけど
誰かの人生を唆す奴は、もっと嫌い
其処、退けよ
オレは王に用事があんだから
宵鍔・千鶴
【彼岸桜】
もうあの子は来ないよ
気付いたんだ、自分が求めた認めたくない弱さや
醜い欲望だとしても
折角のカラオケが台無しだし、ってのは本音
じわりと苛み歪んだ視界
何だ此れ、気持ち悪い
レンに触るな
急に不安になる、奪われるんじゃないかって
燿夜を持つ手に力を込めて、耳元が鈍く淡く光る
咲かせろ
破魔桜の守護のオーラを彼の元へ
敵の攻撃を見切りを使い
己へは防御より兎に角破壊を
血飛沫が視界に映っても眼は逸らさずに
迷い惑う途を連撃で切り裂いて
………来い……!!
黒い体躯の狼は
レンの赫狼の援護へ猛進する
傲慢だね、お前達も邪神も
あの少女を手中に収めようだなんて烏滸がましい
あの子の未来はあの子だけのもの
邪魔をするなら、刈り取る
●
まるで駄々をこねるガキだ。
駆け込んだ瞬間、濁った紫が醸し出す臭いに飛砂・煉月(渇望・f00719)は厭気を容に広げた。
「何、欲しい物が手に入らなくて八つ当たり? ……そりゃ心も離れるよな」
白銀の槍を首の後ろに通して手首をぶらり、ため息混じりに毒も出ようというもの。
「もうあの子は来ないよ」
穏便な物腰に見える宵鍔・千鶴(赫雨徨花・f00683)も眉根を寄せて瞳を尖らせる。
「気付いたんだ、自分が求めた認めたくない弱さや醜い欲望だとしても……」
呑み込まれぬように時に友人の手を借りて、受け入れて折り合いをつけていく、そう決意したぼたんはとても清々しい笑顔だった。
――!! ……ッ。
迷宮は抗弁するように激しく揺れた。徐々にぐちゃりにじりと粘液質な音が這い寄ってくる。
「器が小せーの、何のって……ま、楽しかったのに水差されて、不機嫌なオレもオレか」
「いいや、同意だよ。俺も折角のカラオケが台無しだし、ってのは本音だし」
友との日常にはしばしここでお別れ。でもまた逢おう、その為に。二人は同時に廃物を蹴り前へと奔る。
「ハク、征け」
一閃の銀光となりて腐り終焉った世界を斬り裂く龍。続く煉月の足も止まらない。いいや“渇望”が灼けて首裏より精神へと到達するから……止まれ、ない。
「レン」
千鶴の口をついてでるのは友の名だ。
酷く不安になる、いや、彼の戦い方についてではない。力は認め合っている、ならば、これは――?
前方、ハクが紫を縫い止めた手応えを得た直後、
「千鶴、くるぞ」
「ああ」
通路が満ちる、気圧が変わり耳から締め上げられるようだ。
彼方よりの奔流は、周囲の壁すら滅茶苦茶に巻き込み二人を呑み込まんと顎門をあいた。
ハクの軌跡と勘を頼りに煉月は壁を左に滑り避ける。方向は正解だ、だがそれでも奴らの欲望は容赦なく人狼やまいの彼を呑み込んでいく。
(「理性のない残骸――まるで、オレの末路みてぇじゃん」)
「レンに触るな……」
血染めの刃が翻った。
月冴えの輝きでもって遺物と煉月の心の淀みが斬り清められる。同時に、千鶴の耳元からの淡い光が煉月の元へふわり辿り着き、咲いた。
「……触るな。レンを奪わせるか、去れ」
絡みつく廃棄物で二の腕が裂けるのも厭わずに燿夜を振るう。
歪む視界から漏れ出し心に染みる悪しきモノ。それは悪寒を伴い千鶴の不安をいたぶるように煽る煽る。だが、刃の軌跡はあくまで端正、却って煉月を守る意思を強めるだけだ。
「千鶴……ッ?! 狩られる分際で、この野郎ぉッ!」
痛くはないんだと伝えても友は庇うのを止めぬだろう、そういう人だ。ならばと煉月は緋色の花を彼の元へと遣わせる。
さくら、と、ひがんばな。
散り急ぐのは同じ、死を飾るのも同じだ。然れど然れど、美しきそれらは時赦す限り咲き誇る、生きる花。二人、生きている。
――だからどうか、護ってくれ。友が決して膝をつかぬように。
二人の気持ちは双子のように同じだ。
「こっの……ッ!」
獰猛な狼の手は刃に等しい、死人花色の狼を連れて頬傷の赫を舐めとって煉月は渇望に身を任せる。
今の“渇望”はなんだ? この傲慢で腸の煮えくりかえるほどいけ好かない王に仕える此奴らの排除だ!
「助かるよ、レン」
眼前ギリギリまで惹きつけ斬りつける、千鶴の様相はまさに肉を切らせて骨を断つ。
触手めいた紫が再現するありとあらゆる業物に斬られ、千鶴の足下には朱い塊がまた落ちた。血、もある。だが、千鶴を護った彼岸花の勇姿が殆どだ。
奪われる不安は、煉月が吠え猛り果敢に戦う度に収まる。更に減じる方法もうひとつ。
赫に視界を遮られても構わず斬を見舞い、そうして漸く満ちたと口元が緩む。
「………来い
……!!」
漆黒の狼が遠吠えをあげ、しなやかに地を蹴った。そうして煉月のそばで紫を喰む赫狼に寄り添い肉を掻く。
「逃がさねぇ」
壁を蹴り宙空を螺旋で飛び交う煉月、その爪には抉りとられた濁り肉が纏わり付いている。
うねりが抗議を示し煉月に奔流を叩きつける、が、頭上に翳した指で掴まれ左右に引き裂かれて仕舞いだ。
額より滴る血潮が煉月の面差しを穢す、獣の舌がすくい取り不味いと毒づき。そんな獣の傍らで、桜がまたふわりふわりと咲いた。
「はは……綺麗だな、ほんと」
例え人より少ない寿命だとしても、こんなに綺麗な花が咲くのを見られるなんて、悪くないどころか上出来だ。
猛攻に溜まらぬと退き出したのを見過ごすわけがない。
一、
二、
三……、
と、千鶴は情けなく揺れる尾を斬り割り強引に斬り進む。
「あの子のように、レンと俺を飲み込めたと思ったか、やはりとんだ傲慢だね。お前達も主の邪神も。彼女を手中に収めようだなんて烏滸がましい」
つぷり。
通路を埋めるそれが千鶴の月冴えにて割られた、嗚呼、根元に到達した手応えだ。
「其処、退けよ。オレは王に用事があんだから」
割れた中で両腕を広げ煉月が引っ掻き下ろす。すると留め金が切れたカーテンのように紫が壁を滑り力なく落ちていく。
「王は何時も傲慢、だから嫌い……誰かの人生を唆す奴は、もっと嫌い」
伝言のように、とはいえ奴らには伝える力はみじんも残っちゃいないのだが。
「あの子の未来はあの子だけのもの」
「そうだ、その通りだ」
肩口に来たハクの喉を撫でる煉月の表情は屈託ない。千鶴は安堵に肩の力を抜くと燿夜を収める。その澄んだ音が終焉の合図だ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
コノハ・ライゼ
【コノなび】負傷歓迎
こぉんなトコで人手ケチるから……
でもま、盗み食いでなく堂々喰ってヨシって事よネェ?
あらお残しなんて
みくびらないで頂戴な
さ、前菜はどう頂こうかしらね
敵の動き見切り攻撃の隙を縫い只中へ
くーちゃんを囮に四方へ走らせ【紅顎】発動
振るう「柘榴」と「くーちゃん」も補食形態へと変え
範囲攻撃により流れ弾も気にせず周囲を一掃
ふふ、廃れたモノより美味しいデショ?
2回攻撃で傷口抉って
今度はなびちゃん巻き込まないよう生命力を頂いてくわ
お上品に頂いてちゃ職員サンが待ち草臥れちゃうし?
大体早く主菜喰って腹満たして
可愛いあの子(なびちゃんチラ見)に今日の事チク……お話ししないとだもの
うふふ、あー楽しみ♪
揺歌語・なびき
【コノなび】負傷度お任せ
やっぱり手が回んないのかなぁ
民間の会社はこういう時、労働組合っていうのがあるんだっけ?
平らげてもいいけど、メインもあるんだよぉ
食べ残しはよくないけどね
此方へ流れた奔流を己の知覚で回避【第六感、野生の勘
けど、多少あえて引っかかってもいい
というか、コノハさんの攻撃の流れ弾にわざと当たりに行こう
多少の痛みは平気だし【激痛耐性
必要なんだよね、これ
血を代償に邪神を呼びだす
ほら、食べ放題だ
存分に花弁をばら撒けばいい
不味かろうが、残さず喰えよ【鎧無視攻撃、捕食
ていうか店長の食べ方えぐくない?
わーやめてやめてあれ営業だから!!
実際チクられても本気にされたら誤解の解き方わかんないなぁ!?
●
「こぉんなトコで人手ケチるから……」
厭気たっぷり肩を竦めるコノハ・ライゼ(空々・f03130)を、小走りに前に回り込んだ揺歌語・なびき(春怨・f02050)が頭をかがめ見上げる。
「やっぱり手が回んないのかなぁ。民間の会社はこういう時、労働組合っていうのがあるんだっけ?」
「これを機に作ったら? なびちゃんが」
「えぇ?! おれがぁ?」
ふっふんと小気味よく口元をつりあげて「ぼたんちゃんのために」なぁんて。
「含みある言い方するし、もう」
悪友めいたじゃれ合いも、こんな場所じゃなければとても微笑ましいだろうに。生憎二人が歩くのは総てから見放された遺棄物の集合体なんて陰鬱な代物。
「でもま、盗み食いでなく堂々喰ってヨシって事よネェ?」
手にした双蒼が紫に煤けるようにお構いなし、戯けたコノハのウインクはいつも通りだし、
「平らげてもいいけど、メインもあるんだよぉ……食べ残しはよくないけどね」
ゆるゆるとした声音で腕を下げるなびきもやっぱり変わらない。
――彼らは何食わぬ顔で視線を交わし、直後あうんの呼吸で左右に散るのだ。
「あらお残しなんて……ッ」
コノハの影がたわみ狐を生みだした。くーちゃんは壁を駆け上り奔流の縁を遊ぶように疾走していく。反射的に奔流の動きも大きくなり、結果として螺旋の中央は間抜けながらんどう。
「見くびらないでよね」
即座に躍り込み逆手持ちの柘榴を奔流の皮膚へと突き立てた!
ゴォーーーー……!
悲鳴にも似た耳鳴り音を響かせて、樫の剣に廃棄された壊れ刃だのと古今東西の鋭利物が四方八方よりコノハへと襲いかかる。
「それぐらいで怯むとでも? 舐めないでもらいたいわね。前菜の分際で」
ますますねじ込まれた柘榴は、昏い紫に牙をたて鮮やかなヴァーミリオンを零し出す。
「あー……食べ残す気ないな、店長」
なます斬りされた遺棄物をよいしょと払いのけ、後ろに流れ来る僅かな赤色が頬につくのをぴとぴとと人差し指で弾く。
(「これだと、だめなんだよね」)
その間も、ふわりふわりとシャボン玉めいた柔らかさで上体を揺すり、奔流からの自由を確保。
不意に、突き出された刃にわざとつぷりと指を刺せば、膿むような熱が灯った。その指を噛んで、傷が走る側だけの瞳を閉ざす。
「くーちゃんも柘榴もこの味に飽きたそうよ、ほらッ」
無数の裂傷斬傷が刻まれた腕を天つくように振り上げて、爪をたてたら即座に振り下ろした。
「あ、ちょうどいいのが来た」
波立つ形のままに剥がされた欠片を避けず、なびきは敢えて腕を広げ出迎えた。抱き留めたなら、過去の怨嗟と共に胸元が抉られる。
だが、柘榴のように爆ぜた己の胸元と二の腕を前にしても、人狼は変わらず優しく穏やかにそして少しだけ気弱に笑っているだけ。
痛くはない。
嘘。
痛くはあるけど我慢は出来る。
「……もう、そういうことする!」
振り返り叱るように眉根を寄せるコノハもまた、右側の頬を己と敵の血で紅化粧のお互い様。
「あはは……でもさ、必要なんだよね、これ」
くすんだ深緑の髪にはたり、と桜が咲いた。
「おいで、おいで」
その花は、なびきの胸元の爆ぜ傷に咲く。更に云えば、木の幹も根も総てが桜彩をした、とても不思議で不可解で残虐な――じごく。
世界が、刹那、総て桜彩に染め上げられる。あぁ、くーちゃんとコノハを除いて、そこはちゃんと制御済み。
「ほら、食べ放題だ」
ゆるく翳されたなびきの指は血液を失いすぎて蝋のように白い、だが飽食桜の手綱は確りと握りしめている。
投網を操るように右手と左手をクロスすれば、10年早回ししたかの如く赫桜が枝を伸ばし、花を方々に散らして腐紫を貪りだした。
「あら、食いしん坊な桜に横取りされちゃう。困ったわね、くーちゃん」
むぅと頬を膨らますコノハの肩に乗ったくーちゃんが、すりすりと頭を擦る。愛らしい風景だが、その口元は柘榴に負けず劣らずまっかっか。
ひょいっと柘榴を虚空に飛ばし一回転、順手に持ち変えた。そうして桜から逃れんと蓋のように集積した遺棄物へ、突。
「やっぱりアタシに食べられたいのね」
柘榴に穿たれ間欠泉のように噴き出す鮮血、塞ぐ素振りで更に深く切っ先で躙る。
ドロドロに汚れる血が皮膚の上層部を佚した肌に染みこんでくる、そんなせめての抵抗が、コノハからするともはやいじましい。
「不味かろうが、残さず喰えよ……あ、ねぇ、店長。やっぱ美味しくないの?」
「この世でとても美味しいものがある場所を、なびちゃんは知ってるでしょ?」
ずしゃずしゃと刺して左右に切り開き、容近づけ舌で掬う。その間も両手の柘榴は桜と取り合い食い荒らす。
「美味しくないんだ……ていうか店長の食べ方えぐくない?」
「お上品に頂いてちゃ職員サンが待ち草臥れちゃうし?」
「それは確かにね」
食い残しを回収させるように枝をずらす。歪な形で拭われた僅かなお残しはくーちゃんの腹の中。
無限にすら思えた廃墟渡りの奔流は、今やすっかりと食べ尽くされて、クズすら残っていない。
――ぺったん。
冷たいリノリウムの床に着地したくーちゃんの足音が幕引きの合図だ。
「早く主菜喰って腹満たすとしましょうか」
くるりと振り返ったコノハにはとってもタチが悪い笑みが刻まれている。
「可愛いあの子に今日の事チク……お話ししないとだもの」
間。
「わーやめてやめてあれ営業だから!!」
わたわたわた!
先ほどまで邪神を束ねていた手のひらを必死に降って、あたふたと困り眉。
「うふふ、あー楽しみ♪」
弾むような足取りで進む背にやめてやめてと懇願哀願。
「実際チクられても本気にされたら誤解の解き方わかんないなぁ!?」
真っ直ぐすぎるあの子だから、そりゃあもう素直に受け止められて――あ、とっても不味いんじゃないか?
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
涼風・穹
心
何故か気が付くと猟兵としての力も無いころに戻って学生生活をしていました
多少の違和感はあるものの青春を謳歌していると猟兵になる切っ掛けとなったあの事件でUDCに殺されて…
また気が付くと猟兵になる前の別のタイミングで学生生活をしていてやっぱり最後は死ぬ、というのを繰り返し…
UDC絡みで殺される場合が多いですが普通(?)に事故死したり病死や誰かに殺されたりします
どのタイミングで殺される場合でも共通しているのはやたらと苦しんだり悪意の中で死んだりと毎回ろくでもない死に方をする事…
何度も繰り返しているうちに唐突に『廃墟渡りが町に溢れて被害が拡大、最後には王様が封印を解いて暴虐の限りを尽くす』という恐らく猟兵が負けるなり関わらなかったならそうなるであろう未来を予知します
そして気が付くと手には少し疎ましいけどつまらない未来を打ち砕く機会をくれるという意味では感謝すべきなのかもしれない俺のグリモアが青く煌いていて…
……いやもう本当にいい夢だったよ…
無言で廃墟渡りを『風牙』で一刀両断していた位には、な…
●
「……ぜ、聞いてんのかよ」
隣から肩を揺さぶられて涼風・穹(人間の探索者・f02404)は、我に返る。
「あぁ、なんだっけ?」
「だから、あの、ネットにあったさぁ……」
学校帰りのファーストフード店。いつもの悪友たちとバカ話に興じていた所でぼんやりしてしまったようだ。
身振り手振り大はしゃぎ『人が消える●▼_』を真向かいの奴が物々しく語る。
「嘘だよ、お前バカか」
リアリストのもう一人がにべもなくぶった切れば、言い返しにも熱が籠もるってもんで。
(「――俺は、なんて言ったんだっけ?」)
いつも通り笑ってちょっと煽ってみたり……そうだな、思慮深く止めたりはしないな。
好奇心はある方だと自負してるし、だから噂話を持ってきた奴の味方をするんじゃないかな。
や め ろ_______。
「だったら行こうぜ? 近いんだろ?」
ポテトを囓った俺が言ったのか、それとも友達か。そんなことはどうでもいい、もはや犯人捜しの時期は済んでる。
だって、ほら……。
話を持ち込んできたアイツは三つ目のドアに引きずり込まれてそれっきり。
ソイツの「許して許して」って繰り言が耳にこびりついて離れない。
何で来ちまったんだよっ煽ったお前のせいだって罵るリアリストの形相に、俺は……。
「ここは俺が、引きつける、から……ッ、お前は、逃げろ」
せめてもの罪滅ぼしのつもりだったのだろうか。けれど逃がした彼とも二度と逢えてはいない。もう逢えないと骨身には染みている、世界の裏側を知ってしまったから。
手に触れたものを投げつけて、走り走り、転んでまた走り……その扉をあけ、手に触れた風の牙こそが生還のフラグ。
「あ?」
阿呆のように立ちすくむ穹の前は突き当たりの壁だった。おかしい、ここで俺は偶然の助けを借りてアーティファクトを
…………。
背中越し、奴の顎門が開く。
漆黒の何処までも追い詰めてくる犬だったか、何処にでも居て何処にも居ない彼奴だったか、それともそれとも――
…………。
ああ、ああ、ああ、あ
・、。。、。。。。。。
「やめで……じにだぐ、な……」
ぶつん。
再び肩を叩かれて我に返ると、またあのファーストフードのシーンに戻る。
(「俺は……」)
今度は止める。絶対に行くんじゃないと。
――でも、また何故か、転がり込んでくるのだ、地球外恐怖との邂逅が。
あれだっけ、こうだっけ、これだっけ???
穹は、余りに沢山のUDCに関わってしまい、そもそもどれが本当の切っ掛けだったか認識できていないようだ。
穹の経験した事件を下敷きにリバイバル。そして必ずラストは友達と自分が無残な死体と成り果てる。
ぶつん。
ぶつん。
ぶつんぶつんぶつんぶつん、ぶつ――。
「俺は……普通の人生が、平穏が良かったんだぁあああああ!」
その咆吼は、グリモア猟兵として覚醒して“しまった”穹の本音の一つだ。
幕間の叫び、お客様の要望は必ず叶えますとでも言いたげに、次に目覚めた穹は白いシーツの上に転がされていた。
「…………ぁ」
起き上がろうとしたら全身が管につながれていてままならない。いや、そもそも目が見えない。
ぽたりぽたりと落ちる水滴と、機械の動作するサァァァという音が聴覚はまだ生きていると告げている。
「……時57分、ご臨終です」
聞き慣れた誰かが張り裂けるような泣き声をあげた。
……そうか、俺は死んだのか。
UDCに殺され続けて精神が摩耗しすぎたか、病での死の安らかさに心が和みすらした。
「違う、そうじゃない……!」
だから、だからこれはそうだ――予知だ。
穹の頬を仄青く照らす正方形が、穹の脳裏に直接働きかけてくる。
街が腐った紫色の蔓に覆われる。廃墟渡りが闊歩し悉く過去へと囚われる人々。中にはぼたんもいる、その背後では黄金の王様が腕を広げて自由を謳歌する。
奪われていく、人々の平穏が。
侵されていく、人々の日常が。
――みんながみんな、穹のようになっていく。
でも、みんながみんな猟兵になれるわけじゃあないから、死んでいく――。
アイツやコイツやソイツにどいつだ、友達みたいに命を踏みにじられていくんだ!!!
「おぉおお! させるかぁああッ!」
いつもなら髪色めいた凜烈さに満ちる穹の心が、そうやって「俺は揺らがない」と己に言い聞かせた防衛機制がごぉごぉと燃え盛る怒りの烈火に炙られなくなった。
「……」
この迷宮に穹が侵入してから、誰一人として声なんぞあげてはいなかった。
一生を何度も繰り返す無限をなすりつけてきたのは、廃墟渡りがもたらした呪いだ。
「いやもう本当にいい夢だったよ……」
その廃墟渡りは、穹があの日に手にした『風牙』にて一刀両断にされた。
もう、聞こえない。
あの放課後の笑い声も、友が命を踏み躙られて吐いた怨嗟も――もう、聞こえないんだ。
涼風穹は、猟兵の役目を果たすべく、崩れた迷宮を後にしてUDCである『王様』の元へと歩を進める。
大成功
🔵🔵🔵
ハイドラ・モリアーティ
心
――還りたい、とは、思ってる。
結局俺だって、母親のことを母親だと思ったままで
俺が、あの人のことを眺めてたハイテクノロジーなビーカーの中にいたころ
――あの人がまだ、俺に自分を重ねて夢を見ていた時に戻れたら、かけてやれる言葉があったのかな、と思うし
殴ってでも止められたのかなとか
「俺たち」なんかに、狂わされずに済んだのかな、とか
だって、結局あの人は、あの世界の中で唯一
……「人間(アリス)」だったじゃないか
過ぎた日を巻き戻せたらって、諦められないのは、やっぱり
母親を、母親として愛してるからだと思う
エグいことされたって、結局家族は家族だ
割り切れるようなら精神科も要らねぇし
いつも――どうしても、気にかかる
思ってもしょうがないことだって、わかってるけどな
いやァ、ぼたんちゃんの身の上話聞いてたらちょっと感化されちゃったよ
なんだこのシケた毒。塗り替えてやる
悪いが持病で「死ねない」もんでね
ジメジメしててウザいぜ、お前ら
俺の前から、音もなく失せな
あァ?そうさ、――八つ当たりだよ
●
少女だったのか女だったのか……とにかく“彼女”は、ある時狂気と狂乱と暴虐が積み重なる世界に連れてこられた。
それはハイドラ・モリアーティ(冥海より・f19307)が生じる前の話であり、連れてこられた母の心中を窺い知ることは叶わない。
ただ母の麗しき結晶を丹念に取りだし練り上げられた存在のハイドラは、まことに娘らしい母親への思慕を有していた。
“――還りたい、とは、思ってる”
どこまで?
シケた紫を浴びせられて肉が灼ける、だが抉れた肉は早回しのフィルムの如く柘榴から白磁へと再生されていく。
不老不死なんてヒーローめいた特性だ。だけど実際はナオラズノ病。脳みそに寄生する奴が生き穢くて常に過剰回復を起こしているだけだ。
ハイドラは心底落胆したという素振りで、投げ遣りな嘆息をついた。
「しかしまぁ、なんだって生ぬるいんだお前らは」
全身巡る血が良く起こす自家中毒にも劣る。痛みすら覚えていられない。そんなだから、ハイドラの過去回帰の再現は余りに中途半端な仕上がりだ。せいぜいが管巻くぐらいが関の山。
失望に奮起したか、紫の蠢きが腕を掲げあげた先に透明な筒の幻覚が現れた。筒の中でたゆたう己の現し身は、瞳をあくと懐くように仄りと笑んだ。
こぽり、とあがる気泡、命の芽生え。
“――俺(あいつ)は、何を言いたかったんだろう”
だが見上げているのは母ではなくてハイドラ。もうそこから矛盾で破綻を起こしてる、夢見心地にすらなれない欠陥品。
「は、本当さ、出来が悪いったらない」
吐き捨てたなら、更に筒がずらり数を揃えてそびえ立つ。
全く、どうすれば、出鱈目な勢いで己の複製を作り、化物にして遊んだ母を止めてやれたんだろうか? 言葉じゃダメか、やっぱり殴るべきだった。
でも、ハイドラが何をやったかというと、母の望む儘に物語を弄り、お気に召さないとそっぽを向かれたら時間の仕組みすら冒涜しやりなおして見せただけだ。
だけ。
のべで数えれば途方もない、でも認められる正史ほんの短い時間。そして娘として愛してくれた時間なんて――
…………。
「…………ああ、畜生め」
それでも、過ぎた日を巻き戻せたらって、諦められないのは、やっぱり――母親を、母親として愛してるから。
どんなにエグいことされたって、結局家族は家族だ
ぼたんから受け取った悩みに見事に感化されている。でも彼女に聞き役カウンセラーが必要だったように、母娘関係の拗れには医者(せんもんか)の処方がとても有功なのだ。
「……ジメジメしててウザいぜ、お前ら。俺の前から、音もなく失せな」
こちらにまでシケがまわる、だからこんなメランコリーに囚われてしまったって、廃墟渡りのせいにしてしまえ!
後ろ髪を掻き上げ晒した刻印に食わせるように人差し指と中指を伸ばした。すると指の中には煙草じゃなくてDosaが現れる。
幻の筒はうんざりする程に無数にある。
此奴らがみんなして母の都合にあわせて振る舞った。そんな“俺たち”に引きずられたとあっては、そりゃあ、ますますの狂気に陥りもするだろう。
粘つく床を蹴飛ばし革命の幕開けを。
翼のように広げた腕で刃を伸ばし並ぶ筒をたたき割る様に駆け抜ける。
筒が壊れる度に、中の“姉”達が、命となる前に上体を折り曲げて落ちては紫に腐って消失。
ああ、どいつもこいつも所詮は幻覚、レプリカですらない。みんな生まれて仕舞ったし、オウガとなりてハイドラを殺し続けたというのに。
あの人は、母は、壊れて欲しかったのかな……自分と同じように。でも、俺は壊れなかった。
どっちが、良かったんだよ……?
人の心は脆いのだ。
自分の力で立て直せるのだって限界がある。
そしてもう、あの人(母親)は――。
「…………ッ」
……だって、結局あの人は、あの世界の中で唯一の……“人間(アリス)”
そう、人の心は脆いのだ。
この論は百年を演じきったハイドラは強靱で人ではないと跳ね返ってくる。
さて、ハイドラは“娘”
毒親から逃れる特効薬で、新たな家族を作るなんてのもいい。
――愛しい人。
「なぁ、死海に黒いドレスを沈めたらどうなるか知ってるか?」
逆手の刃で壁を削りあげる。か細い傷の周囲がオガクズめいた欠片を散らした。
「白くなるんだ。花嫁さんにピッタリってわけだ」
嘘だ。
白は塩であり、その量があれば毒と同じ事が出来る。
ならば美しい時で時間を止めた複製は、オリジナルと同じ事が出来るのか。
“dosa”――投薬量はきちりとお守りください。
刃を収め振り返る。迷宮はありとあらゆる結合を解されて姿を保っていられず、震えて捩れて崩壊していく。
――果たしてあの人は迷宮から出たかったんだろうか?
もしそうなら、破壊に百年以上を要した世界より、遙かに脆くてこんなに短時間で崩れるチャチな迷宮にいたかったのかもしれない。
「あァ? そうさ――八つ当たりだよ」
ただただ只管に胸くそが悪い。
大成功
🔵🔵🔵
ティオレンシア・シーディア
※NGナシ・アドリブ掛け合い絡み大歓迎
あらまあ、随分と反応が早いじゃない。マーキングでもしてたのかしらぁ?
…だとしたらストーカー案件よねぇ、コレ。随分と器の小さい王様だこと。
速く動くものを無差別攻撃するんなら、ミッドナイトレースでカッ飛ばせば釣れるかしらぁ?●轢殺起動、○空中機動と悪路走破駆使して引きずり回しましょ。
ラド(車輪)と韋駄天印(迅速)で機動力を底上げ、ラグ(浄化)とエオロー(結界)で〇オーラ防御を展開…足が死んだら飲み込まれてアウトだし、ミッドナイトレースのほうに重点展開。…あたしのほうは最低限になりそうねぇ。仕方ない、なんとか〇見切って躱すしかないか。
あとは追っかけてくるやつらを片っ端から○鎧無視攻撃の流鏑馬とグレネードの〇投擲で蹴散らしてきましょうか。これでも動体○視力にはちょっと自信あるのよぉ?
怪我した分は応急処置だけして○気合いと激痛耐性で痩せ我慢ねぇ。
…両手が使えないとあたし戦力ガタ落ちするし。最低限、そこだけは守らないとねぇ…
●
「あらまあ、随分と反応が早いじゃない。マーキングでもしてたのかしらぁ?」
ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)の口元の笑みは、からかうように不均衡に歪む。
話し相手、いやそれ以上の思惑を寄せる娘の離反、つまり王様は袖にされましたとさ。
ぼこりぼこりと脈打つ床を躙るように片足に重心を傾けて、くつくつと肩を揺らす。
「ねぇ、何処かで聞いているんでしょう? 引きこもりの王様がまさかのストーカーだなんて、随分と器の小さい王様だこと」
喘ぐように足下がのたうつ瞬間、ひらりと飛び退いた。シックなリボンでまとめられた三つ編みが虚空で踊る。
しなやかな指がハンドルを握りしめ、懸垂の容量で逆さに張り付いたミッドナイトレースへと腰を沈める。
一方、ティオレンシアが立っていた場所で隆起した腐紫の棘柱は、波のようにうねり周囲を巻き込み巨大化していく。
串刺しを失敗した廃墟渡りは、主の叱責を浴びたように一度だけビリビリと痙攣する。
「ほら、やっぱり聞いてる。やだわぁ隠れて盗み聞きに配下への八つ当たりだなんて」
後半は物々しい排気音が被るが、蕩けるキャンディボイスはかき消えずに反響する。
吸い付くように背を倒しミッドナイトレースとシンクロする。全てを預けることでバイク型UFOの性能を本来あり得ざる境地にまで引き上げるのだ。
「ふふ、今日もご機嫌なようでなによりよ」
主への返礼は、人間を遙かに凌駕した動体視力の付与だ。どんなに速く飛ばしても、ティオレンシアの瞳は敵を見失うことがない――絶対に、外さない。
「いくわよぉ~!」
アクセルを噴かし滑るようにホットスタート。
ミッドナイトレースはその名の通り、深夜めいた洞の天井を青銅色の軌跡を刻み疾走する。
傍目には紫の群れを先導するように優雅、実際は必死に追いすがる攻撃的奔流の魔手を壁に床にとジグザグに振って荒々しく躱している。
ひゅうっと口笛めいた音と同時にティオレンシアの体が弾んだ。
ふくらはぎに纏いに来た遺棄物へは、指先でラグの印。ジュッと浄化で焦げて怯むのを思いっきり蹴飛ばしラグの角度に急激ターン。
「……ッつう」
融けて破かれたズボンの裾に眉を顰める。ふくらはぎから太ももにかけての裂傷が疼くが、ミッドナイトレースは傷ひとつない。
(「足が死んだら呑み込まれてアウトだし、それにもう動きは憶えたわよ」)
ぶわり。
四方に弾け騎手ごと呑み込まんとする濁流、だが、空打ち。既にそこに女とバイクは存在しない。
びしゃりと弾けた脇をすり抜ける機上で女はハンドルから手を離し立ち上がる。手にはアンダラ、まずはグレネード弾を即に投下。
着弾地点が激しく焦げて過去の残骸のネジや骨だのを吹き飛ばす。連続の着弾で削り取られた先には本来の施設の床が現れた。
「行くわよぉ!」
躊躇いなく穴へと突入しアクセルを踏み込む。
背に“現実”で腹側には蠢く“廃墟渡り”
一瀉千里の疾走で、ナイフを入れて皮から果肉を剥がすが如く現実から廃墟渡りを分離する。バイクは主の想いに呼応し、ますます速度をあげた。
仄りと三つ叉に輝く腕は疲れで知らずで、アンダラから矢を連射する。
悪路で暴れ馬のように弾もうが、的は吸い込まれるようにティオレンシアへ収束する、まるで自ら当りに来るようだ。
「次はそこよ」
狙いは廃墟渡りの絡み合う部分。
多々ある強固なる結びつきも、鋭く精密な鏃の前では子供の手つなぎ、脆い友情のようにぱらぱらと外れて落下していくのだ。
背中で併走する“現実”には仲間達が歩く様子がたまに現れては消える。未だ空間はグチャグチャだが、確実に廃墟渡りは潰され『王様』への王手へと近づいているようだ。
起動力と攻撃力を守り切る為、ルーンの守護は相変わらずミッドナイトレースと自分の腕に集中させている。
その代償に、ティオレンシアの足や脇腹からは血が伝い仄蒼の軌跡に色を添える。とはいえ、出血が派手な割りに痛みは高揚でかき消える程度、斬らせるのは極力浅くに留めている。
はじめの傷が一番痛いが、そこはもう散々に泥を啜りしたたかに生きた経験を生かし対処――つまりは、やせ我慢。
『ごぅ、こぉぉぉ……』
『おぅ、おうおぅうお……』
一方の廃墟渡りは、浮遊するミッドナイトレースの下でみっともなく剥がれ、人体単位にほぐされて落ちていく。
まさに蹴散らされた彼らは、地べたで腕を動かし仲間を求める。だが鏃で奪われた腕はつなぐこと叶わず、守護で灼かれた足も仲間と交わり合うことは二度と無理なのだ。
「ふぅ……」
前に垂れた三つ編みをひょいっと後ろへと流し、ヘラジカの守護で傷ひとつない両腕でアンダラを真っ直ぐに構えた。
紫電一閃! 矢は廃墟渡りの核を見事に貫き、不協和音の嗟歎と共に腐紫の迷宮は瞬く間に霧散した。
すたんっ、と冷たい廊下に降り立つ。
古今東西の封印が腐食し役目を成さない壁を横目にティオレンシアは肩を竦めた。
「じゃあストーカーの顔でも拝みに行きましょうか」
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『イネブ・ヘジの狂える王』
|
POW : アーマーンの大顎
自身の身体部位ひとつを【罪深き魂を喰らう鰐】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
SPD : カイトスの三魔槍
【メンカルの血槍】【ディフダの怨槍】【カファルジドマの戒槍】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ : ネクロポリスの狂嵐
【腐食の呪詛を含んだ極彩色の旋風】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
イラスト:えび
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
●
腐った紫、過去の残骸。
彼らが全て骸の海へと還されたなら、元の施設に戻った廊下に職員達が現れる。
彼らはみな猟兵に礼をすると、足手まといにならぬよう速やかに外へと出て行く。
そして待ちかねたように、キィキィと鉄の擦れる厭らしい音が耳を荒す。
猟兵らは職員の退路を背に庇いそれぞれ臨戦態勢をとる。
『まこと此処には無礼な気が満ちておるな』
そのオブリビオンは、鉄の門を過ぎてしずしずと歩み寄ってくる。
己の威光を自慢げにひけらかす黄金の虚飾か、裸か、どちらの王様も甲乙つけ難い。つまりはどちらも無様なのだ。
『お前達の命をひれ伏せさせた上で、世の傍仕えを返してもらうとしよう』
ああ、ああ、控えよと重々しく響く声のなんと愚昧で哀れなことか!
***************
【マスターより】
UDC職員も無事救出されました
巻き込まれる一般人はいないので、どうぞ存分に不埒な『王様』を叩きのめしてください
>リプレイについて
ラスボス戦闘です
流血や負傷描写はプレイングに合わせて映えるよう書かせていただく予定です
ただ特に希望がある方はプレイング冒頭に下記記号をどうぞ
・負傷描写大目:●
・控えめ:▲
他「こうして」とかあればなんなりとどうぞ
また、希望者がいらっしゃるのなら、ぼたんの今後を絡めたシーンも事後で書かせていただく予定です
戦闘との描写比率などについては後述します、そちらをご確認ください
>募集期間
2/27(日)朝8時31分~3/1(火)朝8時30分まで
※オーバーロードの方はこの断章が投稿された時点から受け付けてます
>採用人数
1章目にご参加いただいた方はオバロあるなし問わず採用します
ただし人数次第では再送となってしまうことご了承ください
それ以外の方は、オーバーロードの方のみを受け付けます
>同行
2名様までで、冒頭に【チーム名】をお願いします。
>事後描写について(希望者のみ)
今回の件で「この地区のUDCは」ワンオペを反省しぼたんの待遇は改善されます
(事後描写希望者0の場合が↑です)
その上で、他の仕事に誘ってみたり、一緒に遊びに行って事後報告しあったり……など、ポジティブな関わりをお好きに提案してください
複数の方で提案が矛盾する場合は、ぼたんはみなさんに感謝しつつどれかを選びます(MSがダイスを振ります)
※事後描写の希望者が0でも、今回みなさんからもらったお心遣いを胸にUDC職員として頑張って生きていきます
>各シーンり描写分量
【オーバーロードありの方】
戦闘シーンと事後シーンそれぞれをある程度の分量で書かせていただきます
勿論、戦闘特化でもOKです。その場合は「事後シーンがない代わりに戦闘シーンが大目」になります
【オーバーロードなしの方】
戦闘シーンか事後シーンどちらかに比重を置いた描写になります
割合はプレイングをみて決めますが、どちらかへ分量を寄せることをお勧めします
例)
・戦闘シーン普通、事後は一言や名前が出る手程度
・戦闘シーンさらっと、事後シーンの比重が高め
以上です、みなさまのプレイングをお待ちしています!
管木・ナユタ
▲
返さねーぜ、ぼたんはよ
なあ、UDC?
『王様』って呼んで欲しいのかもしれねーけど
お生憎様、お前なんか『UDC』で十分だ
アタシ様、知ってるぜ(世界知識、魔獣知識)
鰐は顎を閉じて噛む力は強いが、顎を開ける力は弱いんだ
だから、顎を固定しちまえばいいんだ!
まずはどの身体部位が鰐の頭になるか、よく観察するぜ
四肢のどれかか、自分の頭、と予想しとこう
攻撃が来たら後ろに跳躍して避けて
鰐が口を閉じたタイミングでイグニッションカードをかざし
【出番だ、凶!】
痺れ糸で鰐の口をぐるぐる巻きにしちまえ!
攻撃を封じたら、飛斬帽を投げて胴体狙いで攻撃
傷口をえぐるように、追撃を繰り返す
事後は……ちらっとぼたんに会ってから帰るか
●
「返さねーぜ、ぼたんはよ」
王のお喋り口へ、管木・ナユタ(ミンチイーター・f36242)は返し刃の台詞をねじ込んだ。
「なあ、UDC?」
『お前、王の前で僭上が過ぎるぞ』
「王? お生憎様、お前なんか『UDC』で十分だ」
あくまで王との自称を鼻でせせら笑い、切って捨てた。その間も、抜け目なく観察眼を配してあらゆる攻撃パターンを推察する。
失敗は決して赦されない。
――他の誰が「それも経験」と流してくれたって、あたし様自身が絶対に赦せないんだ。
『左様であるか』
ほぅと呆れたように息をつく王様の袖飾りがちりりと鳴る。宙に掲げられた指は何かを掴むように象られた。
(「単純に考えるならその手が顎だな、そして――」)
『であればその無礼、命をもって購え!!』
拡大調整が壊れたかの如く眼前に迫る鰐の顎、だがそこにミルクティのお下げの娘は、いない。
「やっぱりな! お前みたいな自信過剰な手合いは絡め手なんて使わない。頭を使うより力押しなんだよ」
そう嘯くナユタは、神様が閉ざされていた檻の中まで下がりカードを翳して立っている。
『自ら檻に入るとは殊勝……』
「来い、凶!」
はらり。
片目隠しのカードから指離し、落ちた位置に巨大な蜘蛛が顕現した。
「痺れ糸で鰐の口をぐるぐる巻きにしちまえ!」
相棒の蜘蛛童は顎を持ち上げると口から煌めきぬめる糸を射出する。
瞬く間に神に宿りし鰐がラッピング完了! 引きちぎらんと上下に動かすもぐちぐちと鈍い音が響くのみ。
『ぐぬぬ』
「アタシ様、知ってるぜ」
帽子をつまみ外した。
いつもの影がなくなりやや明るい視界の中で脂汗を流しもがく王様、なんて小気味が良い光景であることか。
「鰐は顎を閉じて噛む力は強いが、顎を開ける力は弱いんだ」
しゅ、とその視界を更に白い糸が遮った。
『ぐおっ!』
生じ始めていた右腕の顎を凶が先んじて封じたのだ。
「さすがアタシ様の相棒だぜ、ツーカーって奴だな」
なんて相棒を誉めるナユタの破顔は、いつもより少しばかりゆるくて親しげだ。
「さてUDC、お前はもう反撃できない」
ひゅ、とナユタは最小限の力で帽子を投げる。飛斬帽という奴は、相手に食い込み巡る度に傷を深める厄介な代物――だから、これで充分。戻れば何度でも投げつけて傷を増やしてやる。
大成功
🔵🔵🔵
備傘・剱
嫉妬王の癖に尊大に物語ってんじゃねぇよ
たった一人、納得させて従わせる事もできねぇ駄王が
オーラ防御、最大出力
ワイヤーワークスを投擲してロープワークで王を拘束
その隙にダッシュで近づいてグラップルで接近戦を仕掛ける
二回攻撃に鎧砕きと、鎧無視攻撃に呪殺弾・斬撃波・誘導弾・衝撃波の零距離射撃を叩き込む
防がれようが、念動力で縛り、結界術で動きを止め、そのまま、至近距離で黒魔弾を叩き込んでやる
たった一人の心も掌握できない王って、情けねぇよなぁ
裸の王様だって、もう少し、カリスマ性があるってなもんだ
躯の海に帰ったら、まずは、そっから勉強しなおせ
UDC職員達に、環境改善を言っておこう
アドリブ、絡み、好きにしてくれ
●
「嫉妬王の癖に尊大に物語ってんじゃねぇよ」
傲岸不遜な物言いに備傘・剱(絶路・f01759)は心底の軽蔑を浮かべ肩を竦める。
「たった一人、納得させて従わせる事もできねぇ駄王が」
『! 世を愚弄するな!』
激高。
変化した腕が撓り襲い来るのを縄跳びの要領で飛んで避け、剱は天井の梁へロープを放つ。
『上か、逃がすものか』
直後、梁が喰らわれ砕け鉄骨が降り注いだ。だが、瓦礫を容易くオーラで弾く剱は未だ地に足をついている。
「ロープが1本だけだと思うなよ」
こちらが本命、ワイヤーワークスで頑丈なロープを放ち王の胴体を絡め取る。素早く天井からのロープと結び解けぬ細工は流々。
そうして肉薄、まずは回し蹴り。
ぶんっ、とパンチングマシーンめいた動きで仰け反る所へすかさずOrthrusを刺しこむ。肌の内側を衝撃波が斬り裂き、隙間にたっぷり呪殺の黒が流し込まれた。
『ぐぉぅぉおおおッ! この愚民がぁあ!』
口から血泡を吐いての憤怒には、エレガントさは欠片も残っちゃいない。更に、王とあろうものが、ゴッ、と、勢いをつけた頭突きを繰り出したではないか!
「くっ!」
急所の頭部はオーラを集積して守ったが、金の飾りは細く鋭く突き刺さる。
「その飾り物はダテじゃないってことか、そうこなくっちゃな」
肩甲骨から肩を血で染め不敵に口元を歪めた。そのまま裏拳を鼻っ面に仕返しだ。
殴打の勢いで、再び王の体が向こう側へと押しやられた。
キリキリとロープが切れる音を耳にして、剱は一旦引くとOrthrusを眼前に構え気を籠める。
集中を起点に現れた結界の陣を王へと叩きつければ、ロープの千切れと同時にほんの僅かな硬直がもたらされる。
――だが、その一瞬があれば問題ない。
リノリウム焦し高速の踏み込みで再び肉薄、ふりあげられた王の顎の軌跡を弄り左手へ掌握、右の輝きは思い切り胸に突き立てた。
鼓膜破りの悲鳴をあげて、王の胸が漆黒に染め上がる。先ほどの呪殺弾より色濃く強くユーベルコードの力がUDCである王を否定し手ねじ伏せていく。
モノのようにどさりと落ちる王を前に、剱は詰めていた息を解いた。
「たった一人の心も掌握できない王って、情けねぇよなぁ……裸の王様だって、もう少し、カリスマ性があるってなもんだ」
歯がみし振るわれた腕をオーラ纏わした腕で掬いあげ、空いた脇に回し蹴り。
「躯の海に帰ったら、まずは、そっから勉強しなおせ」
大成功
🔵🔵🔵
宵鍔・千鶴
【彼岸桜】●
屈しないよ、俺たちは
ざわりと傍らから震える空気
きみの背を、黒く流れる髪を見遣れば
ああ、不思議だ よく似ている
俺の仕える鬼に
刻まれた刻印はレンの厭な痕?
それとも奮い立たせるもの?
俺は許せない
レンの在り方を変えてしまったものが
自由と意志を奪うお前らのような奴がいるから、俺は……
紅狼に呼応するように黒狼は吼える
レンと視線を交わして合図のように頷いて
血の匂い、赫が増える度に遠吠えは強く
駆け出す黒狼と共に引きつけるのは唯の囮
影から出づるは真の狼
行け……っ!レン!
どうかこの耀く月刃だけはきみの力になれるように
待ってるから
お前のいつもの温かい笑顔を
飛砂・煉月
【彼岸桜】●
首後の刻印、此れは痕だ
オレを人喰い狼にした
乾く、疼く、痕
…千鶴、キミに刻印は隠さない
解いた髪から覗く赫は彼岸
厭だよ
反吐が出る
クソったれ
でも元々あんたみたいなのを相手にする力だから
使わないとだろ、なあ…裸の王様?
笑う、嗤う
月の狼は流した赫で白竜を紅の狼へ染上げて
ねえ、キミの子もまた来てくれる?
なんて、言葉無く視線を千鶴に向けて
其の偽金の末路は赫だ
ダッシュで間合いを詰め
瞬間思考で導き出す狙いの最適解
黒狼の力宿す腕を振り下ろして
痛みに鈍くても痛くて
見切っても貫くんだろ?
だから返せと奪われた赫を吸血…違うな、喰い千切ってやる
最後は立ってる方の勝ち
願わくば
次キミへ見せる顔は陽の犬で有ります様
●
――渇いて渇いて血を欲し変わるのは、己かもしれぬ。
朱の紐でまとめた髪を解き飛砂・煉月(渇望・f00719)は首筋を見せつけるようにたくし上げる。
「……千鶴、キミに刻印は隠さない」
煌々と咲き誇る赫の刻印に、宵鍔・千鶴(赫雨徨花・f00683)顔色を変えぬよう己を律し、それでも細かな吐息を漏らす。
傍らの彼の醸し出す全てが、千鶴の仕える彼方の鬼に不思議とよく似ている。
同じ鬼を、浮かべてる。
「…………刻まれた刻印はレンの厭な痕?」
それとも、と続く希望の問いかけに、煉月は泣き笑いめいた矛盾を容に浮かべた。
「奮い立たせてくれてんのかなぁ。だとしたら隣に千鶴がいるからかも」
オレを人喰い狼にした悍ましい刻印。
「……レン」
千鶴は煉月の漏らす言葉の節々から窺い知る惨い過去を気取り、頬をひくりと引きつらせた。
「俺は許せない、レンの在り方を変えてしまったものが」
怒り。
千鶴という人は、己のことには揺らぎない傍目だが、友のためには心を燃やせる人だ。
「……ありがとうってのも変な話か」
王様へ先に嫌悪を示したのは塊然独処たる佇まいの千鶴から。
「レンから、全ての人々から、自由と意志を奪うお前らのような奴がいるから、俺は……」
許せない。
そして、屈しない。
『控えよ、自戒せよ、矮小なる民草』
王様が投擲した槍へ、千鶴は真っ向から向き合う。燿夜は未だ月へ帰らず地上(さやのなか)そう、今は雌伏の時。
それでも命の根元と刀を振るう腕は毀損させぬと身を捻り、首横から頬にかけてを切っ先に削らせた。
「ッ、おい、無茶しやがって」
「お互い様だろう?」
立て続け、王の腕が撓り猛獣の顎となりて襲い来るのに、煉月は進んで胸を差し出している。
此方も急所を確りと外し、だがかつての罪ごと喰まれ心身が荒む。
「クソったれ……ッでも元々あんたみたいなのを相手にする力だから、使わないとだろ、なあ……裸の王様?」
睥睨する王へ強気の嘲い。
直後、流れ落ちた赫が白竜に染みて紅色の狼へと変じさせた。
「ハク」
血と呪わしき力の受け皿――。
刻印が常に血を欲しひとたび染まったならばそれごと己が変じてしまう、その恐怖は常に傍らに。
獰猛な獣の瞳は、そんな煉月への気遣いに溢れている――煉月は煉月の儘で、と。
「くくっ」
作り嗤いが本物の笑みに、変わった。
「いけ、ハク! あの偽金を食らいつくせ」
そうして千鶴へと紅瞳を向ける。
――ねえ、キミの子もまた来てくれる? ハクのトモに、あの優しい子のそばに。
なんて。
ああ、と頬から首横に宛がう手のひらを真っ赤に染めて、千鶴は煉月と視線を結ぶ。
一瞬だけ擽ったそうに互いの容が緩んだ。
ひとりにしない。
禍々しき呪いを、隠し通したかった刻印を見せてくれた信頼には心から身を費やし応える所存。
千鶴がす、と床をさす。
既に招聘されていた黒狼が吼えると赫の軌跡を追い駆けだした。
そうして漸く抜かれた刃は月のように冴え冴えと輝き、桜花を散らす。
――どうかこの耀く月刃だけはきみの力になれるように。
きみの苦悩は計り知れない。
過去を辿れば、己がそうされたならどうなるかすら想像もつかない。
けれど……。
昼間の手放しの笑顔が、屈託のないふたりの歌声が、千鶴の脳裏に蘇る。
新しい愉しみを教えてくれた掛け替えのない友へ、することなんて決まり切っている。
狼がそうしたように、千鶴も煉月の隣へと強くリノリウムの床を蹴った。
『くぅぅ、獣めええ!』
前方、ハクが王様の喉元に食らいつき早速血花を咲かせた。
金のマントをはためかせ藻掻くは無様な王様は、左の蛇をハクの主へと喰らわせた。蛇の喉伝う欲は“渇き”そして“殺戮衝動”
鈍らされた痛覚を超えて響く負の衝撃に煉月は歯がみし、そのまま獣の爪を顔面に押しつける。
「返してもらうぜ、いいや」
……違うな、喰い千切ってやる。
こくりと鳴った喉の衝動の儘に、千鶴を突き刺した槍持つ右肩へぞぶりと牙をたてる。
まるで千切られた彼岸花の花弁のよう、王の噴き出す血をかいくぐり黒狼が闇影を広げた。
『その狼の仕掛け、既に世は悟っておる! 死ねぃ!』
二本の槍を招聘し、千鶴へと放つ。
「行け……っ! レン!」
宣告と同時、急激に滴りだした己の血に、千鶴は口元に弧を描いた。
まだ、まだ、さぁ、死なぬまでなら幾らでもこの血をさしだそう。だから友を守る矛となれ。
影の中、より獰猛でより巨大でより強い黒狼が吼え猛る。そう、紅狼を追従したのはただの囮。真の狼は顎をあいて槍ごと喰らいついた。金属の砕ける音と共に響く咀嚼音が耳を打つ中で、千鶴もまた踏み込み王様を袈裟に斬り裂いた。
『ぐおっ』
仰け反った胸を反対から引っ掻くのは煉月の爪だ。
「其の偽金の末路は赫だ」
(「ああ、やっぱ……月の狼、かな」)
せめて、願わくば――次キミへ見せる顔は陽の犬で有ります様、そう、祈る煉月は、己の傷に桜花が纏うのに瞬く。
「…………レン」
これ以上傷を重ねぬようにと望めば溢れる桜花の向こうで千鶴は首肯する。
「待ってるから。お前のいつもの温かい笑顔を」
それに、月は同じ。
耀く月刃を携えて大切な人の盾となり、千鶴もまた生きてきたのだ。
だから、月よ、月よ、俯かずとも良い。誇り、耀け――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
揺歌語・なびき
【コノなび】負傷描写お任せ
やだなぁ
無様な負け犬に礼儀なんて要らないでしょ
それとも、こっちがおまえをナメくさってるってわかった上で
深々とお辞儀でもしてほしい?
さぁさ、王様のお気に召すままに!【挑発、闘争心
コノハさんの準備のため
わざと前に出ておれを意識するよう王を煽る
一気に距離を詰めて爪の攻撃を続け【鎧無視攻撃、傷口をえぐる
入れ替わるように“ぼたんちゃん”の出番を作ろうね
えー、あんなまずそうなの食べないよ
どうせからっぽじゃないか
その三本の槍は邪魔だ
衝撃波を足場代わりに避けて跳んで、更に追撃を【足場習熟
己の勘をすべて使って回避していく【野生の勘、第六感
あ、店長も足場自由に使ってね
楽しいかもよ
撃破後、二人一緒にぼたんちゃんのところへ顔出し
UDC組織はお給料はいいけど
自分のやりたいことをやったほうがいいと思うよ
仕事なんてさ、そういうのでいいんだよ
きみが、すきな歌を歌い続けられるための仕事をしたらいい
あ、それいいと思うなぁ
店長はかなりお給料出してくれるよ
なんたって猟兵なんだもの
ごはんも美味しいしねぇ
コノハ・ライゼ
【コノなび】負傷描写お任せ
きたきた、御大層なナリしてンだからさぞ美味しいンでしょうねぇ?
喰らうからには楽しまないとネ
なびちゃんに隠れ敵の視界から外れ【彩儡】発動
ぼたんちゃんの姿借り飛び込むわ
大した意味も無い只の戯れよ
ケド自惚れちゃったヒトの末路ってのは、下剋上?謀反?とかで飾るのがお似合いでしょう
……ね、王様?
状況読み懐へ飛び込んで「グルマンの狂愛」で切りつける
噛み付きは見切り致命傷避けるケド
敢えて誘って喰らい付かせカウンター狙うのもイイわね
痛みは激痛耐性で凌ぎつ
反撃は深く丁寧に、傷口を抉って料理し生命を頂きましょう
従者に奪われるだなんて。お似合いですよ、王様
回復の隙を与えないつもりでなびちゃんとコッチの隙を補いあう
ちゃあんと残しといてネ?
足場も存分に使わせて貰って残さず喰らうわ
無事倒せたらぼたんちゃんに報告ついで
自分の店も教えておきたいわ
個室もあるし歌い放題よ~
ソレに割の良いバイトとかドウ、UDC絡みダケド
オレが『ダメ』なモノを喰わないか、時々監視報告するダケの簡単なお仕事……とかね?
大町・詩乃
オーバーロードで真の姿:アシカビヒメに(激おこです)。
『実るほど頭を垂れる稲穂かな』という美しい言葉がこの国にはあります。
私に劣る神性でありながら、その傲慢な物言い。
貴方の辞書には”謙虚”や”感謝”といった大切なものが欠落していますね!とUC発動(有利確定な神威発出は敢えて使わず真っ向勝負)。
【アーマーンの大顎】対策で口の中に天耀鏡を入れた後に大型化、口を大きく開かせて噛みつき出来ないように。
この方法で二つまで無力化。
それ以上の大顎は、結界術&高速詠唱による防御壁や第六感&見切りで回避や衝撃波による吹き飛ばしで対応。
UC(戦闘力増強)&神罰・多重詠唱による光と雷の属性攻撃・全力魔法・破魔・浄化・高速詠唱によって生み出した極大の光雷にて邪神を撃ち抜く!(貫通攻撃・鎧無視攻撃)
全て終わった後でぼたんさんと再会。
カラオケも良いですが、今回はショッピングにお誘い。
ぼたんさんに似合う服装をコーディネート(審美眼)してみますよ。
他に色々と遊んだ後、「ぼたんさんの幸せを祈っておりますね。」と笑顔で。
ティオレンシア・シーディア
あらあら、王様御自ら御出座しだなんて光栄だわぁ。…まあ、命令聞いてくれる使い走りはつい今さっききれいさっぱりお掃除されちゃったし。裸単騎じゃしょうがないわよねぇ。
腐食の呪詛かぁ…
あたしメインが実弾だし、今一相性よろしくないわねぇ。
それじゃ、纏めて祓っちゃいましょうか。
まずは孔雀明王印(退魔災祓)と風天印(風)で風と○呪詛耐性のオーラ防御を展開して●酖殺を起動。描くのはラグ(○浄化)にソーン(○破魔)、五大明王印(破邪顕正)烏枢沙摩明王印(汚穢焼滅)迦楼羅天印(悪鬼覆滅)etc。これだけ種類あればどれかは徹るでしょ。
呪詛さえどうにかしちゃえばあとはただの色付きの風。鉛玉叩き込むくらいならあたしでもできるわよぉ?
全部終わったら、ぼたんさんとお酒でも飲もうかしらねぇ。どこか飲みに行くんでも、なんならあたしが作るんでもいいけれど。
我慢するのやめたんだもの、現状に不満や愚痴の一つや二つや十や百あるでしょぉ?きちんと吐き出しちゃいなさいな。
…そう言えば。ご家族とちゃんとケンカ、できたのかしらぁ?
ハイドラ・モリアーティ
●
無礼も何も、お前が一番下品だ
何だそのファビュラスな輝き。一周回って見苦しいな、ラメ減らせ
つか民主主義だし。王様の居場所はこの小さな島国にゃァないよ
【CHEATNING】――あんまり使いたくない技だ
だから、全部「ギリギリ」な回避になるだろうな
致命傷は避けたい。復元に時間がかかるし、普通に痛いから
この俺の罪深い魂の味はどうだ? 王様
――『海の味』でもすンのか?
俺の目的はなァ
お前に二度と人間に手ェ出したくないって
思わせるほど
その傲慢な根性を叩き潰すことなンだよ
『死にたくなるまで』お前と殺し合ってやる
何度も甦れ、俺の魂を食って
何度でも殺してやるから
――なんでそこまでするかって?
俺は人間が
大好きだからな
ぼたんちゃんとは挨拶しとくよ
お疲れさんとか、仕事の今後の事とかさ
――必要なら、オオサカ支部とも連絡とってもいいし
いいぜ、オオサカ。トウキョウより色んなもん安いしさ
食べ物もうまいし。転勤したら?
まあ、もしこっちに来るんだったら連絡くれよ
始発まで酒呑んで、『悪いこと』しようぜ
遅れた反抗期の続きをさ
●イエロー・パロット
「あらあら、王様御自ら御出座しだなんて光栄だわぁ」
血濡れた王の眼前に顔を近づけて、ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は甘い声をころりと転がした。
『!』
音もなく気配もなく近づいてきた女へ警戒を跳ね上げ身を引く様に、うっそりと笑う。
「こんなにも簡単に謁見を赦してくださるのね……まあ、命令聞いてくれる使い走りはつい今さっききれいさっぱりお掃除されちゃったし」
ひらりと蝶のように翻る指、その真ん中三本が柔らかく組みあわさってぺたりと合わさる。
「裸単騎じゃしょうがないわよねぇ」
ぱっと解かれすぐに持ち上がる薬指と小指。一人遊びの指遊びを王はせせら笑う。
『お前なぞ、配下の手を借りずともこの風で滅ぼしてくれる』
ぱさり。
大仰な所作で翻し掲げた右手にて大気がかき混ぜられる。鼻につく腐臭は先ほどたんまりと廃墟渡りが連れていたモノとほぼ同じ。
「王様の耳はロバの耳、そ・れ・で……」
“王様の目は洞の節穴”
そう呟いた相変わらずティオレンシアの瞳は本心を伺わせぬ閉じ目、だが口元には狡猾さが宿る。
するとどうだ、ティオレンシアに覆い被さる筈だった腐食の風が刹那たじろいだではないか!
その暇にねじ込むようにさぁっと俄の霧雨。
「――」
聖なる雨に打たれるが儘、黒髪湿らせるティオレンシアは水に馴染み育つ茨の如く浄化と破魔のルーンを躰に帯びる。
王様の旋風が押し返してももう遅い。ティオレンシアを蝕む事はほぼ叶わない。
「わからなかったでしょう? 王様。物事ってねぇ、気づいた時には取り返しなんてつかないことが多いのよ?」
なんて軽口を叩きつつも、ティオレンシアは更に印を編み続ける。
五大明王印から、うすさま……指で輪をつくり、
「――オン・ガルダヤ・ソワカ」
五大明王印(破邪顕正)烏枢沙摩明王印(汚穢焼滅)迦楼羅天印(悪鬼覆滅)――事前の孔雀明王印もあわせ、この場を完膚なきまでに清浄なる空間に塗りつぶしきった。
「仏のご加護を知らないの? とんだ引きこもりの井の中の蛙であらせられるわねぇ」
極彩色を引きつれて、悠然と構えるはオブシディアン。黒金の銃口で狙いを定めた。
いつも笑うようりつり上がる唇がフラットに、ほんの僅か開いた眼を王様が確認する前に――暗転。
『ご……』
額に1粒の弾痕。更に5発、銃声は無慈悲に王様の脳みそを荒す。
淡々と銃弾を籠め直す間も、術者が舌を出して仰け反っていようが極彩色の風は確かに吹いている。
でも、ティオレンシアに言わせれば「こんなものはもはや色つきの風」だ。
「鉛玉叩き込むくらいならあたしでもできるわよぉ?」
さぁ、また6発、いきましょう――逝きましょう?
●阿斯訶備媛
王と嘯く邪“神”は、玉座にて銃弾を浴び膝を突く。
『……ッかはぁ! ……ぅ、世は滅びぬ! 貴様ら矮小な……』
それ以上、王様の愚かな唇は声を発することが出来なくなる。何か攻撃を受けたと言うわけではない。ただ アシカビヒメの――大町・詩乃(阿斯訶備媛・f17458)の天声と桜色の羽衣が鼻先を掠めただけだ。
「『実るほど頭を垂れる稲穂かな』という美しい言葉がこの国にはあります」
それは、この女神が胸に置き律する言葉でもある。驕り高ぶるだけの俗物に向け、誰が祈り捧げるというのか。
「私に劣る神性でありながら、その傲慢な物言い……」
双髻に結わえた黒髪を垂らし薄紅から若草の神衣を纏いし神は慈愛に満ちた双眸を彼へだけ尖らせる。
この男の神性なぞ、アシカビヒメどころか人にすら劣る。故に、先ほど発した神威であれば勝利は確定するのだが、敢えて、
「貴方の辞書には”謙虚”や”感謝”といった大切なものが欠落していますね」
真っ向からの神の力にて、屠る。
冷たく王から侵された周囲が瑞々しき若草で息を吹き返す。そんな噎せ返る青葉の中、アシカビヒメは無音で宙へ。
忠実なる従者は天耀鏡。神々しい輝きで黒ずんだ王の尊顔に容赦のない輝きを浴びせた。
『どちらが傲慢かは火を見るより明らかである! 世がお前の欺瞞を全て剥がしてくれる!』
恫喝は苦し紛れでしかない。
だが王様は精一杯の虚勢で、左右の腕を欲望喰らう蛇と換えアシカビヒメへと差し向けた。
「それが傲慢だと言うのです」
天耀鏡の輝きが交叉し、直後辺りから光が失われる。だが、憂うことはない、鏡は蛇の口を塞ぎ、繋がる王様を照らす役目に就いただけだ。
アシカビヒメの神性を真っ直ぐに注がれ拡大する鏡は、王様の腕を内側から照らす。
『かっ、ぐぅ……口ではそう言いながら、暴かれるのを恐れたか』
アシカビヒメの佳容が翳る。意を得たりと唇の端を持ち上げる王はただただ下品な俗物だ。
「私の中に満ちるのは、世界、そしてそこに生きる人々を一人一人護り良き人生を全うして欲しいという想いだけです」
想いに呼応した天耀鏡が力を増す、王様の右腕が裂けあがり千切れた。
『くそう……くそう……誰も彼も世の力を認めぬ……巫山戯るなぁ!』
嗚咽めいた怨嗟に応え、王様の脇から出来損なった造詣の腕が三本生えた。アシカビヒメは短く息を吐き、先読みで得た場所へ結界を寄せる。
「あなた自身が己を貶めているとまだ気づけないのですね」
果たして、到達した絡み合うまだらの蛇は、舞い翳された羽衣に触れただけで霧散する。
『ぐぉおお!』
同時に、がくんと仰け反る王様の背中で愚の象徴たる玉座が砕けた。それはただの瓦礫となりて王をしこたま痛めつけるのである。
●冥海より
「無礼も何も、お前が一番下品だ」
見下ろしてくるハイドラ・モリアーティ(冥海より・f19307)の容は不自然な影に隠されている。
「何だそのファビュラスな輝き。一周回って見苦しいな、ラメ減らせ」
化粧だって富豪の財産だって過ぎれば指をさされる笑いもの。
『そうか、そうか……! 世は未だ途方もなく神々しくあれるのかぁ!』
もはや、もはやだ。体裁なんぞ構っちゃいられぬ王様は両腕、更に生やしたものも含めて十近い蛇をハイドラへと嗾ける。
舌打ちが置かれ、霧散する。
同時に、蛇の首を狩るか、顎にナイフを押し込みなますに下ろすか、蹴飛ばしてへし折るか……そんな風に、ハイドラの手により全てが全て片付けられた。
『……あ?』
だが、もぎ取られた腕は何故かまたそこにある。
『ははは! 世は無敵か? そうかそうか、ここに来て漸く物理法則が世に追従できたか!』
「何だそのファビュラスな輝き。一周回って見苦しいな、ラメ減らせ――革命だ」
最後の単語は先ほどはなかった筈だ。
そして、突きつけられた革命の刃は血に汚れてはいなかった筈、だ?
「つか民主主義だし。王様の居場所はこの小さな島国にゃァないよ」
物わかりの悪い子供相手の教師のように肩を竦めてから、眉目秀麗が自慢の容に横向きの裂傷。
『くぅぅぅ』
咄嗟に伸ばした蛇はハイドラの肩甲骨そばを食いちぎる。。
「……チッ、惹きつけすぎたか」
遡りやり直せばどうしても歪みは生じてしまうもの。
“識っている経験が、なんの役にも立たない事(イレギュラー)だってあるのだ”
痛みに片目を眇める女から罪を奪う、形勢逆転の一手だというのに王様からは苦悩の唸りが漏れ出るのみ。
「この俺の罪深い魂の味はどうだ? 王様――『海の味』でもすンのか?」
『やめよ。世を、そこに連れて逝くのは……』
その海は、死の世界。骸を謳えば最近聞いたどこかのアレのフリだって出来てしまう。
だからか、王様は本能的な恐怖に震え真冬の海に投げ出されたかの如く、躰を痙攣させる。
「なんだい、もう傲慢は止めますってか?」
まだ、■回目だぜ?
「もう『死にたい』のか? 本当にはやいな。まだ大して殺し合ってないじゃないか」
王様の意志を無視してわき上がる蛇は喜色剥き出し、革命から手を離し身を投げてきた娘の柔肌に歯を立てる。
血肉を千切られ蝕むアレが修復しのイタチごっこ、何度死んだかわからぬ痛みに晒される娘は血の滴る唇でこう告げた。
「何度も甦れ、俺の魂を食って……何度でも殺してやるから……」
『もう良い、もう良いだろう!』
「駄目だね」
お前が“二度と人間に手ェ出したくない”って心から思わせるまでは、何度だって繰り返す。
そう、何度だって。
かつて百年ほど巻いたネジは愛する母の為、そして今は――大好きな人間の為だ。
●春怨/空々
『……あ、あぁ、あぅあああ
…………』
精神崩壊の手前にまで追い込まれ頭を掻きむしる王様を前にして、揺歌語・なびき(春怨・f02050)に去来するのは居たたまれなさだ。
「店長、これー……倒さないとだよねぇ?」
「あら、今更同情?」
シュッと肩を竦めるコノハ・ライゼ(空々・f03130)へ、なびきは滅相もないと頭をふる。
「やだなぁ、そゆんじゃないよ。無様な負け犬に礼儀も同情も要らないでしょ」
「でも、確かにこのナリじゃあ美味しくなさそうネ。なびちゃん“美味しくして”よ。喰らうからには楽しまないとネ?」
「えー、料理は店長の領分でしょー」
ぼやきつつ、なびきは王様の顎に指を引っかけ持ち上げた。
「王様さぁ、このままじゃあ首跳ねて終わっちゃうよ? いいの?」
煌々と輝く紅眼は、嘲りの余裕でお化粧済み。
「それとも、こっちがおまえをナメくさってるってわかった上で深々とお辞儀でもしてほしい? それぐらい隙だらけでないと、おれたち如きを殺せないのかな?」
なびきの爪から滴るように落ちる桜が渦巻き、鮮やかが喉を突く。あと少し力を掛ければ、迸る埒外の力にてこの邪神は滅んでしまうかもしれぬ。
“致し方あるまい、罪人として処せよ”
“可哀想に……”
“狂ってさえいなければ”
突きつけられた死の恐怖が、なびきの嘲笑が、かつての悔しさを蘇らせる――。
『……私を陥れた貴様らに呪いを! 私こそが正当なる王だ! イネブ・ヘジを、世を、統べるのだ!!』
桜花を散らし鯨の幻影が天井へと登り行く。飛び退くなびきの脇腹はディフダの怨槍にて紅蓮に爆ぜた。
『ははははは! やはり世以外は愚昧な凡夫よ! 油断しおって……“可哀想に”」
(「やっぱりねー、ちょっとぐらい勝たせてやんないと図に乗れないんだ」)
つまりわざと喰らってやったのだ。
野性的な勘を総動員すれば、全ての軌跡を見切り避けなんて真似は容易かったのだけれども!
(「あーあ、ひっどいわ。人が悪いったらないわネ」)
そんななびきの本心を見透かして、コノハは危うく吹き出しそうになる。いけないいけない、折角なびきに隠してもらっているのに。はやく準備を整えないと。
『世に勝てると夢見ておるのかぁ!』
「そうこなくっちゃ! さぁさ、王様のお気に召すままに!」
すっかりやる気になった王様が連射するカファルジドマの戒槍は、虚空を引っ掻き作った衝撃で相殺、4本の爪痕だけが質量を得て残った。
薄紅の流線を、なびきは自由自在に踏み飛ばし王様へと飛びかかる。
『!』
釘付けの視線は、前方で響くひび割れた音に一瞬逸れた。
なびきに合わせ、もはや闇となり部屋中に満ちたコノハが瓦礫を揺らし王様の集中を乱したのだ。
「王様、隙あり」
上から頭をもぐように引っ掻き。王様を飾る金の棒が折れて飛び散った。
『……ぐぅ、このぉ!』
だが槍を振りかざしたそこになびきはもういない。爪痕を蹴って宙返り、ついでに脇腹の血を弾き飛ばして居場所も幻惑しておく。コノハも面白がるように壁を叩いて尻馬に乗った。
桜花乱れ飛ぶ中で、数を増やしていく爪痕。そこを飛び跳ねるなびきはさながらじゃれ遊ぶ猫だ。
「あ、店長も足場自由に使ってね、楽しいかもよ」
直後、明後日の方向に飛んだ槍が何を貫くでなく無為に落ちる音。コノハは七割方染まった昏闇色の指を振り返す。
――さぁ、ところで。
これは、 は、誰?――。
“黒”
万物の彩を全て我が物としたら結局現れるのは影色の漆黒。
誰でもない が微笑む。
コノハになりかわった が漏らした笑声は娘、やや間延びしてころり転がるアルトヴォイス。
その声と、蠢く暗がりから響く軽い足音に、なびきは術が成ったのだと悟る。であれば出番交代のお時間だ。
「ほら、ますますいい男、だよッ」
サマーソルトキック、つま先蹴り上げ上を向いた王様の間抜け面は、爪傷だらけ。置き土産と肌を刮げて抉り取り、奈落の影へと去って行く。
「――王様、ご機嫌は如何ですか?」
入れ替わり現れたかつての従者つまりは花沢ぼたんを、辛うじて残る左目で捉え王は口元をだらしなく緩んだ。
『おお、おお、待ちかねたぞ。ぼたんよ。さぁ近こう寄れ。世がそなたの願いを叶えよう』
猟兵とはとかく人に甘い。これを手の内に抱けば、奴らめは此方を害することが出来なくなる腑抜けよ。
(「なんて思ってるのかしらネ? あーあ、浅いわ、すっごく」)
金に輝くフォークを隠し持ち、 ああ、ぼたんが歩み寄る。
気色悪く歪めた顔は目一杯の笑顔、やはり片腕だけを広げ迎える王様。そこへ身を委ねる娘をかき抱く腕は既に蛇と変じている。
『ぼたん。お前の罪深き欲望を見せてご覧なさい』
「きゃ! ……お、おうさまぁあ」
喫驚の悲鳴と共にファストファッションに身を包むぼたんの喉の下に蛇の牙が食い込んだ。
さて、溢れ出す血花は形勢逆転の合図だ。王様の喉元に、ぐじゅり、となまめく音をさせてフォークが突きたった。
『▲●××××――……ッ
!!!!』
この世の物とは思えぬ叫びは突如途絶える。だって、フォークに突き刺された食べ物が辿る道と言ったらそりゃもう、誰かのお口に入ることだもの。
「ふふふ、あーん……」
発声器官の部位を選り分けて、ぼたんの姿をした化生は下から喉仏に食らいつく。
咀嚼、同時に自分の胸に忍び込んだ失礼な蛇の首が握りつぶされて、ぽとりと床に落ちる。
「わ、わー、わー……店長、なんでぼたんちゃんに化けたの? 絵面が冒涜的だよぅ……」
ひどいやと大げさに目を覆うなびきだが、ヤケクソで飛んできたであろう槍を抜け目なく掴んで投げ返す。
「自惚れちゃったヒトの末路ってのは、下剋上? 謀反? とかで飾るのがお似合いだもの」
紅で汚れた頬を槍でマントを縫われ壁に張り付いた男へと寄せ、耳たぶを擽る。
「……ね、王様?」
真相は、大した意味も無い只の戯れ。コノハがそうしたかったから。
影に削られる命を補うように、コノハは一心に王様の身を啜りあげる。もはや敵が何も出来ぬでくの坊に成り果てたので、なびきは姿を現わし隣に並んだ。
「なぁに? お裾分けして欲しいワケ?」
「えー、こんなまずそうなの食べないよ」
――どうせからっぽじゃないか。
妙に的を射たなびきの物言いに、コノハははたりとフォークを動かすのを止める。手元には一欠片の骨だけが残るのみ。
「…………ま、そうだけどネ」
かりんっと飴を砕くように骨を奥歯で噛みしめて。
何もない虚ろを食べ尽くしただなんて後から言われたもんだから、今のコノハという存在は空腹を抱えているのだ、困ったことにいつも通り。
●とりあえずの幕引き
王様がこの世界から消え失せて仕舞った刹那、工場倉庫を模した建物は崩落した。
瓦礫を被り痛いだの埃っぽいだの文句混じりで見通した先は、ブルー。
UDCだか警察だかが、崩壊に巻き込まれぬようにと張り巡らしたブルーシートの向こう側から、野次馬達の無責任なは噂話が聞こえてくる。
「お疲れ様でした。こちらからお帰りください」
職員達に誘われ帰路につく猟兵達をぼたんが呼び止めた。
「ああ、あの、あのあの……手当、しなくて、大丈夫ですか?」
激戦で傷つき血だらけの者も多い。無事を示すように煉月が手をあげて、隣で千鶴も容を緩めた。
固唾を呑んで、それでも近づいてくるぼたんの前に進みでたのはナユタだ。
「あたし様達は無敵の猟兵様。これぐらいは平気だぜ」
元気でな、と、にぃと笑って別れを告げる横では、剱が端末を耳に当てている。
「あぁ、そうだ。現場は頑張ってくれてる。あんたらも人員を増員するのは大変かもわからんが、職員がつぶれちゃ意味がないだろ」
対応にあたる支部の更に上、望めば猟兵はUDC支部へのつなぎの1つや2つ手にするのは朝飯前だ。
「夜遅くですのに、ぼたんさん、来てくださったんですね」
「夜更かしは悪い子よ? なぁんて、ふふふ」
「詩乃さん、ティオレンシアさん……あの、王様は?」
頷く二人を前に結果を悟る。
「ぼたんちゃん、お疲れさん」
夜風に紫煙を散らしハイドラは手をひらり。
「あ、お疲れ様です。もう、わぁああ……って感じなんですけどぉ」
とはいえ、昨日までの勤務地は跡形もないし、唖然とするしかないのが現状の正直な所。
「こうやって一気にひっくり返っちゃうの、UDC支部あるあるなんだよね」
気遣うようにぼたんを覗き込むなびき。
「どうする? ――必要なら、オオサカ支部とも連絡とってもいいし」
ひょいと掲げた端末は、ハイドラがこれより帰り行く場所にすぐ繋がる。現在地は都内から約2時間の北関東、実家も都内だから離れるのは初めてだ。
「いいぜ、オオサカ。トウキョウより色んなもん安いしさ」
「噂には聞いてます。電車もすっごく安いって」
「むしろ都内は私鉄が高くって驚き。食べ物もうまいし。転勤したら?」
京都大阪神戸、ほぼ併走するのに電車代は二分の一以下とか、そんなデタラメがまかり通る街。
「確かに、ここからは転勤しないとでしょうネ。つぶれちゃったし」
食べ尽くしたシェフがふうっと建物だった場所に目を向ける。
「おれ、ぼたんちゃんの歌がすき。UDC組織はお給料はいいけど、自分のやりたいことをやったほうがいいと思うよ」
糊口を凌ぐ仕事なんて、そういうのでいい。限られた人生、好きをお口に詰め込んで生きていこうって、なびきはコノハに視線を向ける。
「じゃあうちにくる? おいしい食事とお部屋つき、お仕事は――オレが『ダメ』なモノを喰わないか、時々監視報告するダケの簡単なお仕事……とかね?」
茶化すように口元を傾がせるコノハの誘いもまた本気だ。お店の場所は昼のカラオケで伝え済み。
突然目の前に広がった選択肢に、ぼたんは鳩が豆鉄砲を食ったように愛らしく瞳を瞬かせる。
どのお誘いも、楽しそうでワクワクする。
ああこれは、きっと、最初から“持っている”姉妹達が辿り着くなんて絶対に無理な、自由で先の見えない可能性なんだ。
「ぼたんちゃんが好きに選ぶといいよ。おもしろそーだなって方をさ」
ハイドラは、名刺の裏側にさらりと一筆添えて、改めて連絡先を手渡す。
“始発まで酒呑んで、『悪いこと』しようぜ”
「あらあら、ぼたんちゃんモテモテね。みんな構いたくてしょうがないのねぇ」
かく言うティオレンシアも同じくだ。
一気に状況が変化して、沢山の手がさしのべられた。結果混乱しているぼたんへ、ちょっとした指針を示してやりたくて、わざわざ引き返してきたのだ。
「とりあえずもう少しおやすみをもらって、今後を考えるのがいいんじゃないかしら?」
「そうですね。組織に残るにしてもそうじゃないにしても、しばらくはバタバタして配置換えまでには手が回らなさそうですし」
ぼたんの冷えた手を取ると、安心させるように詩乃は包み込む。
「皆さんが仰っているように、ぼたんさんのお仕事がなくなるとか、ましてや不利になるなんてことはありませんよ」
させません、そう言い切る詩乃の表情は優しくて柔和なのだが、絶対に怒らせてはいけない人の持つオーラを纏っている。
「そうそう。むしろ、ぼたんちゃんは、邪神の相手をしてもきちっと精神保っていられるんだもの。すごいのよ?」
自信を持ってと背中を軽く叩き、ティオレンシアは「今度は一緒に飲みましょうね」と笑って手を振った。
「お疲れ様でした、ぼたんさん。また逢いましょう」
お辞儀する詩乃。漸く落ち着いてきたか、ぼたんは肩の力を緩めると頭をさげた。
「……はい。色々ありがとうございました! みなさん、またお逢いしましょう」
◇◇◇◇◇◇
●ふんわりと1ヶ月ぐらい後 ―お昼―
「お久しぶりです、詩乃さん!」
東京駅の新幹線の改札口で待っていたら、弾けるような声がした。
「お久しぶりですね。お元気そうで何よりです」
キャリーバッグを引く彼女の恰好は相変わらず垢抜けないが、表情はパッと鮮やか満開だ。
「先にホテルに荷物を預けちゃいますね」
「はい、そこからの1日はお任せください。バッチリとエスコートさせていただきますから」
えっへんと胸に手をあてる詩乃にぼたんはにっこり、歓迎がとてもとても嬉しい。
ランチの後は、若者お洒落のメッカ渋谷に移動。春めくディスプレイで見目も華やか。こういった所はUDCもヒーローズアースも変わらぬようだ。
「こういうお店って余り来たことなくて」
いつも無難にベージュや黒を選ぶという彼女へ桜色のスカラップ・ネックのトップスを宛がってみる。
「かわい過ぎませんか……」
「すごくお似合いですよ、ほら。蝶々のブローチも馴染みますよ、きっと」
壁鏡に映るぼたんはパッと満開の桜のように華やかだ。
「ぼたんさんの髪は明るくてふわっとしてますから、柔らかいお色が似合うと思いますよ」
いいですか? と断って束ねたゴムを外して肩に垂らしたら、一気にガーリーに。
「……わ、わぁ」
美人な姉ともスポーティな妹とも違うと引っ込んでいたお洒落心が首をもたげてくる。こういうフェミニンな恰好は実は姉妹の中でぼたんが一番似合うのだ。
「ふふ♪ コーディネートの見立てには自信があるんですよ」
巫女さんのお洒落相談にのったり、代わりに流行を教えてをもらったり、可愛いのアップデートは怠らない詩乃さんである。
「スカートは何をあわせましょうか……このトップスだと、スキニージーンズも似合いそうですね」
「え、ジーンズもイケちゃうんですか?」
お洒落、すごい。
隣を歩くのは、桜トップスにジーンズ、オマケでメイクもしてもらい、すっかり様変わり。
「春物を探してらっしゃる所で良かったです。荷物になってしまうことだけが気がかりだったので」
「……すみません、沢山プレゼントしてもらって」
「いいえ。着ていただいてすごく嬉しいです!」
照れくさそうに笑う彼女に手をあわせにっこり。
「じゃあ……ありがとうございます!」
申し訳なく思うより前向きなお礼を。すると詩乃はますます笑みを深くした。
「メイクもあんなに簡単で変わるんだぁって目から鱗ですよー」
「そうですね。私も勉強になりました」
一緒にお色直しした詩乃も、ふんわり桜色のチークが似合っている。お勧めコスメをちゃっかり買わされたけど、お揃いと嬉しそうなぼたんを見れば良かったと思うし、なんて。
●ふんわりと1ヶ月ぐらい後 ―夜の女子会―
「ぼたんさんの幸せを祈っておりますね」
「はい、詩乃さんもお気をつけて。また逢えると嬉しいです」
辺りが暗くなった所で駅で別れ、ぼたんはスマホに目を落とした。
ティオレンシアからのメッセージには、Barの名前とどの駅の何番出口から出て、まで細やかに書かれている。
「お待たせしちゃいましたか?」
「ううん。あたしも今来た所よぉ」
今日はカウンターのこちら側、お客さんモードのティオレンシアである。
「あら、可愛らしい」
「えへへ、詩乃さんに見立てていただいたんです」
胸で羽根を揺らす蒼蝶は相変わらず。
(「お昼はにこにこデートで楽しさバッチリ。なら、夜のお酒の領分で、現状の不満や愚痴を吐き出しちゃってもらいましょ」)
オーダー通しは同業者としてお手の物。悪酔いに陥らぬよう手回ししての飲み会スタート。
仕事環境は変わったが、余裕のあるスケジューリングと月の半分が旅行気分で出歩けるので大層充実しているとのこと。
なんて現状報告はさらりと済まし、2杯ほどお酒が入った所で、話題は家族関連へと移りゆく……。
「……へぇ、お姉ちゃんと喧嘩したのねぇ」
「はい、距離はあいちゃった感じですかねぇ」
なんて言いつつもぼたんの顔は幾分かスッキリしている。
「だってお姉ちゃん。外で逢ってくれないんですよ、あり得ないですよね」
地元じゃあちょっと名の売れたアナウンサー故か、他で見られたくないとかなんとか。失礼な話だ。
「お古の服をあげたの着なさいよって言うけどババ臭くなるんだもん、やだぁ」
「それ言ったのぉ?」
「言った、言いました。初めて!」
……直後、二人は顔を見合わせて笑いを弾けさせた。
「だったらお姉さんなんて?」
「面食らってました」
その流れで溜め込んでいた腹立ちもぶちまけてきた。親の歓心が向くのをこれ見よがしにひけらかすこと、等々。
「まぁそりゃ喧嘩になりますよね」
くいっとマティーニを煽り、紅潮させた頬でぼたんは膝に手を揃えて置いた。
「でもね、お姉ちゃんの本音もちょっと知れたんですよ。常に親から期待を掛けられて、息苦しい。あんたみたいなお気楽な奴に、私や杏の気持ちはわからないわよって」
無い物ねだり。
姉はそれに気づかず、でもぼたんは気づいたようで横顔の笑みは随分と落ち着いて見える。
「……気楽に見えてたんだなぁって。ただ親に構われてないだけなのに」
それは、親の顔を知らぬティオレンシアにとっては生じようのない葛藤だ。
「なら本当に気楽でいればいいんじゃないかしらぁ?」
ナチュラルウォーターだけが注がれたグラスにマドラーを沿わせる。右手にはバーデンに頼んで瓶ごともらったウイスキー。
二層になるように注いで差し出すはウイスキーフロート。
見事な手際と、琥珀と透明の綺麗な層にぼたんは瞳を輝かせた。
「いいのよ、無理に混ざり合わなくたって。ぼたんちゃんとご家族は別々だから上手くいく……そんな関係だってあるわ」
カクテル言葉は“楽しい関係”
「ぼたんちゃんは、親御さんの目を気にせずに、のびのびと好きな人や物に囲まれて過ごせばいいのよぉ」
「……! そうですね! 気楽なのは確かにありますあります」
明るくなる声は強がりじゃない。ぼたんはくりっとした目でウイスキーフロートへ視線を向ける。
「あー、これすごいなぁ、綺麗だなぁ。ストレートは濃いかなぁ、でも混ぜるの勿体ないなぁ」
「ふふ……お好きにどうぞ♪」
――どうか、あなたの人生も、お好きに。
●次の日 ―無国籍バルにて―
“……が目印。信号を前に見て、右だよ”
ガラガラと旅行鞄を引きずる音が心地よい朝の街に響く。
ホテルをチェックアウトしたぼたんはSNSでの道案内と風景を見比べ頷き進む。行き先はコノハのお店だ。
「わ、なんか、めっちゃ寂しい道に入っちゃったけど」
音声入力をオンにしていたからかそのまま発言されて、なびきから即レス。
“寂れてるけど道はあってるから、そのまま進んでね”
路地裏の隅っこ、小さな雑居ビルが建っている。
雑然とした中で、暖簾に引き戸の古風な居住まいは馴染む振りして確りとした自己主張。
取っ手を引いたら、なびきごと出て来た。
「おっとっと、わぁ、ぼたんちゃん、いらっしゃーい!」
「わぁ、す、すみません!」
「いいのヨ、ぼたんちゃん。なびちゃんったら、待ちきれないんだもの」
くすくすと葉掠れの笑いで厨房から出て来たコノハは、どうぞ、と、かぎ針編みのテーブルクロスの敷かれた特等席を示す。
カウンターもよく見える、笑顔の通る席に腰掛けて。荷物はなびきが早速部屋へと持って行ってくれた。
桜花を底に沈め桃のジュレが泳ぐ炭酸ウェルカムドリンクに、茶菓子はずんだ餡の団子と月餅。国籍色々、だが一本筋を通した味わいで悪い意味での雑然さはない。つまり、どれからどうつまんだって美味しいのだ。
「お部屋は好きに使っていいわヨ。足りない物があったら遠慮なく言ってネ」
「ありがとうございます!」
無国籍さは店内の造詣にも反映されている。
料理は何でもだす――ただし店主の気分次第。そして必ず美味しいのだ。
「そそ、店長はかなりお給料出してくれるよ。どんどん集っちゃお」
奥から降りてきたなびきの額をピンッと弾き、コノハはいーっだ。
「働く物食うべからず。はい、ニンニク剥いて頂戴」
「指に臭いがつくんだよね、これ」
「終わったらエビの皮むきネ」
「生臭さもプラスだよ……」
「猫ちゃん達のお土産に魚のほぐし身盛り合わせあげるから頑張るの」
カウンター向こうのテンポの良いやりとりを、ぼたんはにこにこと眺めている。
カラオケの時もそうだった、仲良しの二人。でも排他的な仲良しでは決してなくて……。
「猫ちゃん飼ってるんですか?」
「うん、可愛いよー。ふわふわのもこもこで、三毛と黒猫がいるんだ」
こんな風に自然と話に混ざれる。
(「あの子のことは黙っておいてあげましょ」)
なにより、ぼたんの眼差しは友情のそれだし、波乱はなし。意地悪コノハはつまんなぁいなんて言うけれど、真っ当なコノハはただただ微笑ましいと笑う。心の中の天使と悪魔的な、誰でも連れてる類いの揺れ動き。
「個室もあるし歌い放題よ~。なんだったら、ちょっとした撮影の機材を揃えるのだっていいわよ」
「いいんですか?! あ、私が使わない普段は貸しスタジオにしてしまうとかは? ……お店の雰囲気、壊れなかったらですけど」
「そんなんで壊れる柔な雰囲気じゃないわよ」
全てはコノハが作る。
気ままに思うが儘に、縛られる根底の鎖を時に踏みつけながら、彼は日々を征く。
「でもさ、本当にUDCの所属継続で良かった? 無理してない……?」
ぺりぺりとニンニクの皮を剥がすなびきは、蛍光の薄紅を瞬かせる。
我慢しがちな子なのは、最初に会った時から気に掛かっている。何処か自分に似た退きがち、本当は強い熱情を抱えていて、開放する場所を待っているような。
「ありがとうございます、なびきさん」
桃のジュレを掬い上げて口に落とす。そうして先ほどの“スタジオ代わり”の可能性を秘めた個室へ目を移した。
「私、今はすっごく欲張らせてもらってるんですよ。本当だったら、どちらか1つに絞った方がちゃんとできるかもーって思うんですけど……」
ぼたんが選んだのは『UDCオオサカ支部への所属』だった。
その上で、コノハの好意でここにも拠点を置かせてもらった。名目はコノハの監視、だけれども、なびきや他の猟兵の手を借りてレポートらしきものを月1で提出するのみ。
月1の数日間はここで過ごす、お店のみんなとお喋りして、歌って……殆どが英気を養う余暇。ちょこっとは夢を目指す頑張り。
「私、小さな頃に母に隠れて見た特撮……正義の味方が大好きでして。大人になったらあんな風に変身して、世界を裏側から守れるといいなぁって、実はこっそりと夢見てました」
猟兵に選ばれなかったぼたんは一般人。でも、世界の秘密を知っている正義の味方のお手伝いさんでもある。怖くないと言えば嘘になるけども、猟兵のみんなに支えてもらってるからか、楽しみの方が勝っている。
お口に人差し指で作ったバッテン。
「笑われるから言えませんでしたけどね、はは」
家族は勿論周囲にも明かせない夢(えそらごと)
でも分ってもらえなくてもいいやって、今では心から思っている。
ウイスキーフロートが別れているから綺麗なように、混ざらなくてもいい。だってもう巣立ったんだから。
「歌うのも好きです。動画配信も憧れちゃいます。全部やりたい……! でもいっぺんには無理なのはわかってます」
はい、と、ぼたんの前に置かれるのは、和三盆の桜花を小皿に連れたサンドウィッチ。ビタミンカラーのサニーレタスやベーコン、卵が、目に鮮やかに主張している。
「そろそろランチにしましょ」
ラテアート、もこっと膨らむ猫がふるり“ゆめ”とかいた看板を持っている。
「ぼたんちゃんの素敵な門出を祝って、ネ?」
「すごい! 綺麗です。写真撮って良いですか?」
映え! とはしゃぐぼたんには、詩乃に見立ててもらったフレアスカートのようにしなやかで甘い夢が一杯につまっているのだ。
(「おんなのこは、つよいな」)
ぱっと破顔するぼたんと、胸に浮かべるあの子の控えめな綾は全く違う。でもその強さには、いつだって感嘆させられる。
●更に次の日の夕方 ―新オオサカ駅―
新幹線、京都を超えたらもうすぐだ。
ぷしゅーと音たてひらいたドアから鞄を引いて降りてくる。殆どの荷物はコノハのくれた部屋においてきた、代わりに詰めた東京土産は随分軽い。
ゴロゴロと車輪を鳴らし、さて、と端末に目を落とす。
「えっと、乗り換えは~」
「ぼたんちゃん、お帰り」
「! ハイドラさん、迎えに来てくれたんですかぁ!」
はしゃぎながら駆けてくるのにはこちらにも足を速める、だってこれは絶対、
「……っと、ほら危ない」
転ぶ。
蹴躓いたのを支えたら、ふわっとヤニの香りがたち上る。これもすっかりお馴染み。
東京に比べ歩く速度は速いし、エスカレーターは右に寄る。聞こえてくるのは西の調べで、みんなワァワァとしゃべくっている。
2週間暮らして知った、オオサカはそんな街だ。
「ふう、ありがとうございます」
ちょっと照れて頬を擦ると、ぼたんは隣に並んで歩き出した。
柔らかなアップルグリーンのカーディガンに、メイクもより洗練されたものに変わった。
「色んな人に会ってきたんだね」
「あ、わかります? これは詩乃さんが見立ててくださって……」
お土産話を転がすぼたんは、なんだかすっごく女の子だ。
さて、そんな乙女ぼたんを今日も“悪いこと”に誘っちゃってもいいものか、なんて思っていたら、はい、包みを渡された。
「お土産かな? あけていい?」
「どうぞ。もしダメでしたら他の人にあげたりしてください」
現れたのはキエモノの煙草、どれもこれも余り見かけない海外のものがざっと5箱。
「新宿にめっちゃおっきな煙草のお店があってですね、珍しいのかなって……味はお店の人に聞いて、でも箱のデザインがいいなあっていうのも選んでみました」
色とりどり、当然口に合わないのもあるだろう。何より煙草は吸ったら消えてしまう、でも煙はハイドラに重なり香りを継ぎ足す。
常に身につける物より曖昧な距離のトモダチは、此方の反応を緊張して待っている。
「ありがと。早速吸わせてもらうよ」
大好きな人間のひとりを救えた。
それはハイドラの糧だ。継ぎ足せば曖昧な紫煙めいた彼女“だけの”影がほんの少し現世に濃くなる、多分。
――常に取り合い二つで一人。
チョコレートの香りが漂う箱から1本引き出して喫煙所で咥えて火をつけた。
良かったと胸を撫で下ろすぼたんもついてくる、何時ものように。
煙る先で黙々と煙草を吸い付けるオッサンたまにオネーサン達。その中でお洒落でおっとりとしたこの子は、ハイドラからは異質に見える。でも――。
「なんかやっぱりオオサカって肩の力が抜けますね~。人と人の距離が近くって……」
へんにゃりと目尻を下げる彼女は、最初のカラオケの時には見せてくれなかった、だらけた顔をいっぱいするようになっている。
女の子二人で飲んでたら、近づいてくるのは酒浸りの気の良いおっちゃんだ。道に迷ったらお節介なおばちゃんが高確率で話しかけてくれる。
だれも決して放っておいちゃくれない、それがオオサカ。
「近い方がいいんだ?」
支部だって若い女の子に馴れ馴れしくって、セクハラ排除キックなんてのを身につけないとやってられない。流石にオオサカ全般がそうだっていうのは乱暴がすぎるが。
「思いっきり、この街に染まってやるんです。両親と違っちゃいたい」
まだこうして引きずるのは、つまりは反抗期の尻尾が取れてないっていう証拠だ。
何時までもハイドラが母を愛しく思うように、ぼたんだってきっとそう。でも清濁飲み干して、自分の人生を歩くがよいさ。
何度もやりなおした自分と、一度切りしかない道を歩くぼたんと、黄昏色の光を受けて見せる影は同じ色。
「いいね。じゃあ今日はとっときのお店にご招待だ」
「ホントですか?! 楽しみです!」
いっぱい遊んで、いっぱい喰らって、この時を駆け抜けよう。
All's right with the world
-終-
大成功
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